JP2014526528A - 乾癬の治療におけるエルシニア属外部タンパク質M(YopM) - Google Patents

乾癬の治療におけるエルシニア属外部タンパク質M(YopM) Download PDF

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Abstract

本発明は、皮膚投与、皮内投与、または皮下投与による乾癬の予防および/または治療における、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)の使用に関する。特に、本発明は、プラーク乾癬、滴状乾癬、逆乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、乾癬性関節炎の治療におけるYopMの使用に関する。

Description

1.発明の分野
本発明は、皮膚投与、皮内投与、または皮下投与による乾癬の予防および/または治療における、エルシニア属(Yersinia)外部タンパク質M(YopM)の使用に関する。
2.背景技術
YopMタンパク質は、2個のアミノ末端ヘリックスと、それに続く20個前後の様々な数のアミノ酸ロイシンリッチリピート(LRR)モチーフ(異なるエルシニア属の株の間で12〜20個のLRR)からなり、馬蹄形のタンパク質を形成する。タンパク質間相互作用に関係するLRRが、YopMのほとんどを構成する(図1)。
α-トロンビンおよびα1-アンチトリプシンなどの血清タンパク質とのタンパク質間相互作用(Hines et al., 2000;Heusipp et al., 2006)、ならびに2種の細胞質キナーゼ、RSK1およびPRK2に関するYopMの足場機能(McDonald et al., 2003)を除いて、感染中のYopMの分子機能は、わずかにしか理解されていない。
Y. エンテロコリチカ(Y. enterocolitica)およびY. ペスティス(Y. pestis)のyopM変異体は、感染したマウスにおいて全身感染を確立することができない(Trulzsch et al., 2004;Kerschen et al., 2004)という事実から、YopMは、感染中の完全な毒性および自然免疫に対する抵抗性のために重要であることが示されている(Leung et al., 1990)。興味深いことに、Kerschenらは、Y. ペスティスのYopMがナチュラルキラー(NK)細胞の全体的な枯渇を引き起こすことを示した(Kerschen et al., 2004)。このNK細胞の枯渇と関連して、感染したマウスの脾臓/肝臓組織、および同様にそれらの組織から単離したマクロファージ/NK細胞は、TNF-α、IFN-γ、IL-1β、IL-12、IL-15、IL-15Rα、およびIL-18を含むいくつかの炎症誘発性サイトカインの発現の減少を示した。
YopMがどのようにして炎症誘発性サイトカインのシグナル伝達経路を妨げるかは、単なる推測であり、調査されていない。具体的には、YopMが、局所的に送達され、細菌と宿主細胞との接触に依存して移行されるタンパク質として、どのように宿主応答に全体的な効果を有し得るかは、捉えどころがないままである(Kerschen et al., 2004)。
Y. エンテロコリチカ感染のモデルに従うと、YopMは、T3SSを通して宿主細胞の細胞質中に移行する。しかしながら、他の研究によって、急性期タンパク質α1-アンチトリプシンに対する結合、および血清タンパク質α-トロンビンに対するYopMの結合のような、YopMの細胞外でのさらなる役割も示唆されており、これは、マウスの感染後のYopMに対する液性免疫応答により支持されている(Benner et al., 1999、Heusipp et al., 2006;Huck et al. 1998)。さらに、インビトロでの感染中のYopMの無極性分泌(7%)が、ChengおよびSchneewindにより述べられている(Cheng & Schneewind, 2000)。
国際公開公報第2009/115531号の特許出願は、T3SSによる宿主細胞の細胞質中へのエフェクタータンパク質の直接送達とは独立している、YopMのさらなる送達機能を報告している。特に、国際公開公報第2009/115531号は、追加の因子を必要とせずに、細胞膜を自己貫通することができ、かつ細胞サイトゾル中に組み込むことができるエルシニア属外部タンパク質M(YopM)、YopM断片、またはYopM変異体を開示している。該開示において、この機能を使用して、膜を横切って細胞のサイトゾルへ積み荷分子を送達することが記されている。さらに、国際公開公報第2009/115531号は、ひとたびYopMが細胞サイトゾル中に組み込まれると、サイトカイン、特に炎症誘発性サイトカインを効率的に下方制御できることを開示している。
乾癬は、人口のおよそ2〜3%に影響を及ぼす、最も一般的な免疫介在性慢性炎症性皮膚障害の1つである。乾癬は、すべての人種、年齢群、および両方の性別に影響を及ぼす、不治の一生続く皮膚状態と考えられている。乾癬の病原論は複雑であり、明瞭には理解されていない。進行中の研究により、免疫T細胞が、この疾患の発生に主要な役割を果たしているようであることが示されている。当該細胞は、TNF-α、IFN-α、および他の炎症誘発性サイトカインを放出し、血管拡張、白血球遊走、およびケラチノサイトの活性化をもたらす。これがさらに、樹状細胞を活性化し、続いて炎症をもたらす。
乾癬は、別個の特徴を有する様々な形態で現れる。典型的には、個体は、1度に1つのタイプの乾癬のみを有する。
当該疾患の最も一般的な形態は、プラーク乾癬(尋常性乾癬)である。乾癬を有する人の約80%が、このタイプを有する。プラーク乾癬は、銀白色の鱗屑により覆われた、隆起した炎症性の赤色病変を特徴とする。プラーク乾癬は、典型的には、肘、膝、頭皮、および背下部の表面に見出される。
滴状乾癬は、小児期または若い成人期に始まることが多い形態の乾癬である。この形態の乾癬は、皮膚上の小さな赤色の個々の斑点として現れる。滴状病変は通常、体幹および肢の表面に現れる。これらの斑点は、通常、プラーク病変ほど厚くはない。
滴状乾癬は、きわめて突然に起きることが多い。上気道感染症、連鎖球菌の咽頭感染症(連鎖球菌性咽頭炎)、扁桃炎、ストレス、および皮膚への外傷を含む様々な状態によって、滴状乾癬が発症し得る。
逆乾癬は、腋窩、鼠径部、乳房の下において、ならびに生殖器および臀部の周りの他の皮膚のひだにおいて見出される。このタイプの乾癬は、平滑でありかつ光沢のある明赤色の病変として現れる。逆乾癬は、その位置が皮膚のひだおよび敏感な領域中にあるために、摩擦および発汗に由来する刺激にさらされる。逆乾癬は、過体重の人々および深い皮膚のひだを有する人々において、より厄介であり得る。
膿疱性乾癬は、主として成人において見られ、赤色の皮膚により囲まれた非感染性の膿汁(白血球からなる)の白色水疱を特徴とする。膿疱性乾癬は、手および足などの身体の特定の領域に局在化し得るか、または身体の大部分を覆い得る。膿疱性乾癬は、皮膚の発赤で始まり、続いて膿疱および落屑が形成される。
乾癬性紅皮症は、身体表面の大部分に影響を及ぼす、特に炎症性の形態の乾癬である。皮膚の発赤および脱落に、重度のかゆみおよび疼痛、心拍の増加、ならびに体温の変動が伴うことが多い。
乾癬性紅皮症は、タンパク質および体液の消失を引き起こし、重症疾病をもたらし得る。この症状は、感染症、肺炎、およびうっ血性心不全も起こす可能性がある。
いくつかの薬物が乾癬の治療に使用されている。乾癬を治療するために最も一般的に処方される4種の全身性薬剤は、メトトレキサート、シクロスポリン、アシトレチン、およびヒドロキシカルバミドである。メトトレキサート、シクロスポリン、およびヒドロキシカルバミドはすべて、免疫系を抑制することにより働き、他方、アシトレチンは、ビタミンA由来の治療剤である。
この主として皮膚の疾患を治療するために現在利用可能であるすべての薬物の共通の不利点(それらの副作用を除いて)は、それらが全身に与えられた場合にのみ有効であるが、局部に投与された場合は、吸収性が乏しいため、たいてい無効であることである。
全身性薬剤は、体全体に影響を及ぼす処方薬である。乾癬および乾癬性関節炎を治療するために利用可能である全身治療は、有意な短期および長期の副作用を伴う。乾癬の除去または改善の有益性は、これらの副作用のリスクとのバランスをとらなければならない。
従って、患者の良好な服用遵守および低減した副作用を有する、乾癬の予防および/または治療において有用である有効な治療剤が必要である。
本明細書において使用される場合、「a」、「an」、および「the」という単数形は、文脈上、別途明記されない限り、複数への言及を含むことに留意されたい。従って、例えば、「試薬(a reagent)」への言及は、1つまたは複数のそのような異なる試薬を含み、「方法(the method)」への言及は、改変されてもよく、または本明細書において記載される方法と置換されてもよい、当業者に公知の同等の段階および方法への言及を含む。別途記載がない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」という用語は、当該一連の要素におけるあらゆる要素に言及するように理解されるべきである。少なくとも1つとは、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、または5つ、またはさらに多くを含む。当業者は、日常的に過ぎない実験法を用いて、本明細書において記載される発明の具体的な態様に対する多くの同等物を認識するか、または確認できるであろう。そのような同等物は、本発明に包含されることが意図される。本明細書および添付の特許請求の範囲を通して、文脈が別途要求しない限り、「comprise(含む)」という単語、ならびに「comprises(含む)」および「comprising(含む)」などの語尾変化は、述べられる完全体もしくは段階、または完全体もしくは段階の群の包含を含意するが、任意の他の完全体もしくは段階、または完全体もしくは段階の群の排除を含意しないように理解されるであろう。
いくつかの文書が、本明細書の本文を通して引用される。本明細書において引用される文書の各々(すべての特許、特許出願、科学的刊行物、製造業者の仕様書、指示書などを含む)は、上記であろうと下記であろうと、全体として参照により本明細書に組み入れられる。本明細書におけるいずれも、本発明が、先行発明の効によるそのような開示に先立つ権利を与えられないことを承認するものと解釈されるべきではない。
3.発明の説明
本発明者らは、驚くべきことに、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)が、皮膚経路、皮内経路、または皮下経路を介して投与されたときに、乾癬を予防および/または治療することを見出した。さらにより驚くべきことに、本発明者らは、皮膚経路、皮内経路、または皮下経路の投与は、腹腔内経路と比較して改善された、乾癬の予防方法および/または治療方法を提供することを見出した。興味深いことに、皮下処置とは対照的に、皮膚表面に投与したYopMは全身分布に入らず、主に表皮、真皮、および皮下組織に留まり、局所リンパ節において見出すことができなかった。皮下注射したYopMは局所リンパ節においても見出されたため、YopMによる皮膚表面の治療は、望ましくない副作用を回避するために明らかに有利であり、かつ好都合である。従って、皮膚投与経路は、本発明の好ましい投与経路である。
エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、皮膚経路、皮内経路、または皮下経路を介して投与されたときに、乾癬により影響を受けた患者においてこの疾患を治療できることが見出された。それに関して「患者」は、例えば、マウス、ラット、ネコ、イヌ、類人猿、およびヒトなどの哺乳動物を含み、ヒトが好ましい。
特に、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、プラーク乾癬、滴状乾癬、逆乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、乾癬性関節炎を治療することができる。
本発明の1つの局面において、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、以下の種:エルシニア・エンテロコリチカ、エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)、またはエルシニア・ペスティスのYopMから選択される。
YopMは、乾癬を予防および/または治療するために有効な用量にて投与される。皮膚投与のための用量は、1μg/cm2〜20mg/cm2、好ましくは1μg/cm2〜20μg/cm2にわたり、より好ましくは約2μg/cm2である。
本発明の「エルシニア属外部タンパク質M(YopM)」という用語は、エルシニア属外部タンパク質Mに関する。この用語は、エルシニア属外部タンパク質Mの完全長アミノ酸配列、そのYopM断片およびYopM変異体を含む。この用語は、Boland A, et al. EMBO J. 1996 Oct 1 ;15(19):5191-201;Cornelis GR. J. Bacterid. 1998 Nov;180(21):5495-504;Skrzypek, E., Cowan, C. and Straley, S.C. (1998) Mol. Microbiol. 30: 1051-1065;McDonald, C, Vacratis, P.O., Bliska, J. B. and Dixon, J. E. (2003) J.Biol.Chem 278: 18514-18523;Skrzypek E, Myers-Morales T, Whiteheart SW, Straley SC. Infect. Immun. 2003 Feb; 71(2):937-47;Kerschen, E.J., Cohen, D.A., Kaplan, A.M. and Stranley, S.C. (2004) Infect. Immun. 72: 4589-4602;Heusipp, G., Spekker, K., Brast, S., Falker, S. and Schmidt, M.A. (2006) Microbiol. 152: 1327-1335;Kloss E, Barrick D. Protein Sci. 2009 Sep;18(9):1948-60;McCoy et al. Infect Immun. 2010 Jun;78(6):2584-98;McPhee JB et al. Infect Immun. 2010 Aug;78(8):3529-39;Ruter C et al. J Cell Sci. 2010 Jul 1;123(Pt 13):2190-8;Hentschke M et al. PloS One. 2010 Oct 5;5(10). pii: e13165およびVieux EF et al. Biophys Chem. 2011 Nov;159(1):152-61において記載されるような;または、当業者に公知である任意の生物学的データベース、例えば、Genbankデータベースから導き出せるエルシニア属外部タンパク質Mを含む。
好ましい態様において、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、YopMをコードする病原性プラスミドを天然に含むエルシニア属の株のエルシニア属外部タンパク質Mである。「YopMをコードする病原性プラスミド」という用語は、例えば、エルシニア・エンテロコリチカ、エルシニア・シュードツベルクローシス、およびエルシニア・ペスティスに存在することが記載されているようなプラスミドpYVまたはpCD1に関する(Cornelis et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev. 62:1315-1352(1998))。
さらなる好ましい態様において、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、以下の種:エルシニア・エンテロコリチカ、エルシニア・シュードツベルクローシス、およびエルシニア・ペスティスから選択されるエルシニア属の外部タンパク質Mである。より好ましくは、エルシニア属外部タンパク質M(YopM)は、エルシニア・エンテロコリチカ8081 v、血清型O:8から選択されるエルシニア属外部タンパク質Mである。
本発明のさらなる態様において、YopM断片が、乾癬の予防および治療において使用される。本発明の文脈において、「YopM断片」という用語は、当該断片が、YopM完全長タンパク質の治療的活性を有する断片であることを意味する。「治療的活性を有する」という用語は、当該断片が、YopM完全長アミノ酸配列タンパク質の上述の治療的活性を有すること、すなわち、本発明の断片が、乾癬を予防および/または治療する能力を有することを意味する。従って、本発明の「YopM断片」は、乾癬を予防および/または治療する完全長YopMタンパク質の特性を保持するYopM断片である。特に、本発明のYopM断片は、下記の実施例の第5.2項で使用されたマウスモデルにおいて乾癬を治療することができる。特定の態様において、当該断片は、YopM完全長タンパク質の「免疫調節ドメイン」を保持するかもしくは含むかもしくはそれからなるか、または、当該断片は、YopM完全長タンパク質の「免疫調節ドメイン」の一部を保持するかもしくは含むかもしくはそれからなる。「YopMの免疫調節ドメイン」は、YopMの少なくとも1個のロイシンリッチリピート(LRR)、すなわち20個までのLRRのうち1、2、3、4、5、6、7、または8個のLRRを含む。1つの態様において、YopM断片はまた、標的細胞のサイトゾル中へ、および/または核へ、および/または核中への移行を可能にするYopM完全長タンパク質の特性を保持してもよい。標的細胞のサイトゾル中および/または核中へのYopM断片の移行は、YopMの断片が、移行を可能にするYopM完全長タンパク質のドメインまたはドメインの一部を保持する場合に、可能となり得る。あるいは、移行機能は、エルシニア属にとって異種である「細胞貫通ペプチド」(CCP)により行われ得る。好ましくは、本発明のYopM断片は、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の細胞に分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する細胞に分布することができる。特に、本発明のYopM断片は、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の細胞の中の少なくとも1種に分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する細胞の中の少なくとも1種に分布することができ、「分布する」という用語は、本発明のYopM断片が、細胞のサイトゾルに入ることができること、ならびに、任意で該細胞の核に到達することができることおよび/または任意で該細胞の核に入ることができること、を意味する。表皮、真皮、および/もしくは皮下組織の細胞、ならびに/または、乾癬の予防および/もしくは治療のための標的細胞は、例えば、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞、ケラチノサイト、Tヘルパー細胞、Tサプレッサー細胞、Tキラー細胞、Tメモリー細胞、B細胞、マクロファージ、肥満細胞、または局所免疫系の任意の他の細胞である。従って、好ましくは、本発明のYopM断片は、乾癬を予防および/もしくは治療するために、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の標的細胞の少なくとも1つに分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する標的細胞の少なくとも1つに分布することができる。さらに、本発明のYopM断片は、少なくとも1つのサイトカインを下方制御することができる。サイトカインの一覧表を下記で開示する。特に、本発明の断片は、TNFαを下方制御することができる。本発明の「YopM断片」は、少なくとも100アミノ酸の対応するYopM完全長タンパク質の断片であり、より好ましくは少なくとも150アミノ酸の、より好ましくは少なくとも150〜300アミノ酸の断片である。
本発明のさらなる態様において、YopM変異体が、乾癬の予防および/または治療において使用される。本発明の文脈において、「YopM変異体」という用語は、当該変異体が、治療的活性を有する完全長YopMタンパク質の変異体またはその断片であることを含み、好ましくは、この用語は、当該変異体が、完全長YopMタンパク質またはその断片の治療的活性を有することを意味する。本発明の変異体は、乾癬を予防および/または治療する能力を有することが想定される。従って、本発明の「YopM変異体」は、乾癬を予防および/または治療する完全長YopMタンパク質の特性を保持するYopM変異体である。特定の態様において、この変異体は、YopM完全長タンパク質の「免疫調節ドメイン」を保持するかもしくは含むかもしくはそれからなるか、または、当該変異体は、YopM完全長タンパク質の「免疫調節ドメイン」の一部を保持するかもしくは含むかもしくはそれからなる。「YopMの免疫調節ドメイン」は、YopMの少なくとも1個のロイシンリッチリピート(LRR)、すなわち20個までのLRRのうち1、2、3、4、5、6、7、または8個のLRRを含む。さらなるLRRの追加も想定される。該免疫調節ドメインの変異体および断片が同様に想定される。特定の態様において、YopM変異体はまた、標的細胞のサイトゾルおよび/または核中への移行を可能にする完全長YopMタンパク質の特性を保持してもよい。標的細胞のサイトゾル中へのYopM変異体の移行は、YopMの変異体が、移行を可能にするタンパク質の特性を保持する場合に、可能となり得る。あるいは、移行機能は、エルシニア属にとって異種である「細胞貫通ペプチド」(CCP)により行われ得る。そのような変異体は、活性に対してほとんど効果を有さないように、当技術分野において公知である一般規則に従って選択される欠失、挿入、逆位、反復、および置換を含んでもよい。例えば、表現型がサイレントであるアミノ酸置換を作製する方法に関する手引きが、Bowie et al., (Science 247: 1306-1310 (1990))において提供され、その中で筆者らは、アミノ酸配列を変更する許容度を研究するために2つの主な戦略があることを示している。好ましくは、本発明のYopM変異体は、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の細胞に分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する細胞に分布することができる。特に、本発明のYopM変異体は、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の細胞の中の少なくとも1種に分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する細胞に分布することができ、「分布する」という用語は、本発明のYopM変異体が、細胞のサイトゾルに入ることができること、ならびに、任意で該細胞の核に到達することができることおよび/または任意で該細胞の核に入ることができること、を意味する。表皮、真皮、および/もしくは皮下組織の細胞は、例えば、メラノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞、ケラチノサイト、Tヘルパー細胞、Tサプレッサー細胞、Tキラー細胞、Tメモリー細胞、B細胞、マクロファージ、肥満細胞、または局所免疫系の任意の他の細胞である。従って、本発明のYopM変異体は、乾癬を予防および/もしくは治療するために、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織の標的細胞の少なくとも1つに分布することができ、かつ/または、表皮および/もしくは真皮および/もしくは皮下組織に存在する標的細胞の少なくとも1つに分布することができる。さらに、本発明のYopM変異体は、少なくとも1つのサイトカインを下方制御することができる。サイトカインの一覧表を下記で開示する。特に、本発明の変異体は、TNFαを下方制御することができる。「YopM変異体」という用語は、参照により本明細書に組み入れられる特許出願である国際公開公報第2009/115531号において定義されるような「YopM変異体」を含む。
本発明はまた、より低い程度の同一性を有するが、本明細書における上記のようなYopMタンパク質、断片、および変異体により行われる同じ機能の1つまたは複数を行うのに十分な類似性を有するYopMポリペプチドも包含する。
従って、さらなる態様において、本明細書において記載される完全長YopM、YopM断片、またはYopM変異体は、追加の因子を必要とせずに、細胞膜を自己貫通することができ、かつ細胞サイトゾル中に組み込むことができ、サイトカインを下方制御することができ、すなわち、本発明の化合物は、本態様において、YopMの免疫調節ドメイン、特に、少なくとも1個のロイシンリッチリピート(LRR)、すなわち20個までのLRRのうち1、2、3、4、5、6、7、または8個のLRRを含む。さらなるLRRの追加も想定される。
「サイトカイン」という用語は、正常状態または病理学的状態のいずれかの下で、個々の細胞および組織の機能的活性を調節し、かつ、細胞間の相互作用を直接媒介して、細胞外環境において起こる過程を制御する、液性制御物質として作用する可溶性タンパク質およびペプチドに関する。この用語は当業者に公知であり、例えば、Tato, CM.およびCua, D.J. (Cell 132: 900;Cell 132: 500、Cell 132: 324、(2008))またはCytokines & Cells Online Pathfinder Encyclopaedia (http://www.copewith- cytokines.de)に由来し得るような、Th1 Tヘルパー細胞により産生される1型サイトカイン、Th2 Tヘルパー細胞により産生される2型サイトカイン、インターロイキン、ケモカイン、またはインターフェロン、例えば、IL-1 ra(アンタゴニスト)、CNTF、LIF、OSM、Epo、G-CSF、GH、PRL、IP10、I309、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、IL2、IL3、IL4、IL5、IL6、IL7、IL8、IL9、IL10、IL11、IL12(p35 + p40)、IL13、IL14、IL15、IL16、IL17 A-F、IL18、IL19、IL20、IL21、IL22、IL23(p19 + p40)、IL24、IL25、IL26、IL27(p28 - EBI3)、IL28A、IL28B、IL29、IL30、IL31、IL32、IL33、IL35(p35 - EBI3)、LT-α、LT-β、LIGHT、TWEAK、APRIL、BAFF、TL1A、GITRL、OX40L、CD40L、FASL、CD27L、CD30L、4-1 BBL、TRAIL、RANK、GM-CSF、M-CSF、SCF、IL1-α、IL1-β、aFGF、bFGF、int-2、KGF、EGF、TGF-α、TGF-β、TNF-α、TNF-β、ベタセルリン、SCDGF、アンフィレギュリン、またはHB-EGFを包含する。「炎症誘発性サイトカイン」も企図される。「炎症誘発性サイトカイン」という用語は、炎症を支持する免疫制御サイトカインを意味する。典型的には、炎症誘発性サイトカインは、IL-1-α、IL-1-β、IL-6、およびTNF-αを含む。これらの炎症誘発性サイトカインは、初期の応答を主に担っている。他の炎症誘発性媒介物質は、LIF、IFN-γ、IFN-α、OSM、CNTF、TGF-β、GM-CSF、TWEAK、IL-11、IL-12、IL-15、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-8、IL-16、IL-22、IL-23、IL-31、およびIL-32を含む(Tato, CM. & Cua, DJ. Cell 132:900;Cell 132:500、Cell 132, 324 (2008))。これらの炎症誘発性サイトカインは、内因性発熱物質として作用し得(IL-1、IL-6、TNF-α)、マクロファージおよび間葉細胞(繊維芽細胞、上皮および内皮細胞を含む)の両方による二次的媒介物質および炎症誘発性サイトカインの合成を上方制御し得、急性期タンパク質の産生を刺激し得、または炎症性細胞を誘引し得る。好ましくは、「炎症誘発性サイトカイン」という用語は、TNF-α、IL-15、IFN-γ、IFN-α、IL-1-β、IL-8、IL-16、およびIL-22に関する。
「下方制御する(downregulates)」または「下方制御する(downregulating)」という用語は、発現される遺伝子、例えばサイトカイン遺伝子のmRNAレベル、および/またはそのようなmRNAにより発現されるタンパク質レベルが、本明細書において記載されるYopMの存在下で低減されることを意味する。本発明のYopMの文脈におけるmRNAおよび/またはそのmRNAにより発現されるタンパク質の下方制御は、当業者に公知である方法により試験および決定され得る。
本発明の文脈において「皮膚上投与」(e.c.)とも呼ばれることもある「皮膚投与」という用語は、局所(局部)効果または全身効果のいずれかに好適な薬物剤形の皮膚上への直接の投与を意味する。本発明によると、皮膚投与が好ましい。皮膚局部投与が、同様に好ましい。皮膚投与は、好ましくは、例えば、12時間毎、すなわち12時間後、24時間後、36時間後、48時間後、60時間後などのように一定の間隔で繰り返される。好ましい態様において、皮膚投与は、24時間毎に繰り返される(すなわち、毎日投与)。
皮膚投与に好適な任意の薬学的組成物が本発明に包含される。好適な薬学的組成物は、例えば、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、ペースト剤、軟膏剤、貼付剤、噴霧剤、液剤である。クリーム剤は、油と水との混合物である半固体乳剤である。クリーム剤は、2つのタイプ:連続相において分散された油の小さな液滴から構成される水中油型(O/W)クリーム剤と、連続油性相において分散された水の小さな液滴から構成される油中水型(W/O)クリーム剤に分類され、どちらのタイプも本発明の範囲に具体的に含まれる。クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、および軟膏剤が好ましい。前述の薬学的組成物は、好ましい態様において、セテアリルアルコール、鉱物油、グリセロール、ジメチコーン、セテアリル硫酸ナトリウム、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、および水酸化ナトリウムを含む。
皮下投与に好適な任意の薬学的組成物が本発明に包含される。好適な薬学的組成物は、例えば、皮下注射用の液剤である。当該液剤は、例えば、有効用量の本発明のYopMを送達する、あらかじめ充填された多用量ペンにて投与されてもよい。
皮内投与に好適な任意の薬学的組成物が本発明に包含される。皮内投与に好適な薬学的組成物は、当技術分野において公知である。
さらなる非限定的な剤形の例は、分散液、懸濁液などの皮膚投与または皮内投与または皮下投与に好適な液体剤形(例えば、水性または非水性液体懸濁液、水中油型乳剤、または油中水型乳剤)、液剤、患者への皮内投与または皮下投与に好適な液体剤形を含む。
本発明のさらなる態様において、本発明の活性成分は、それを組み込んだ、小胞、バイオポリマー、リポソーム、ナノ粒子、ミクロスフェア、ミセル、またはウイルスなどの媒体により送達されてもよい。生分解性の針もまた、皮内投与または皮下投与を介したYopM活性成分の送達のために使用することができる。
薬学的組成物を、個々の単一の単位剤形の調製において使用することができる。本発明の薬学的組成物および剤形は、1つまたは複数の担体、賦形剤、または希釈剤をさらに含み得る。
本発明の組成物、形状、および剤形のタイプは、典型的には、その用途に応じて異なるであろう。例えば、乾癬疾患の急性治療において使用される剤形は、同じ疾患の慢性治療において使用される剤形よりも多い量の活性成分を含有してもよい。
薬学的製剤はまた、遅延放出製剤または制御放出製剤であり得る。本発明のYopMは、当業者に周知である遅延放出手段もしくは制御放出手段または送達装置により投与することができる。
本開示は、参照により本明細書に組み入れられる添付の図面と共に、最も良好に理解され得る。さらに、本発明およびその多くの利点のより良好な理解は、例として与えられ、かつ開示を限定するようには意図されない、以下の実施例から得ることができる。
4.図面
YopMのドメイン構成および機能領域を開示する。T3SSに必要なIII型分泌(S)および移行(T)シグナル[N末端残基aa 34-40(S)およびaa 40-100 (T)、(Ghosh 2004)]。NLS、核局在化シグナル。NLS-I:3個のN末端LRRおよびNLS-II:YopMの32個のC末端残基。血清タンパク質α-トロンビンおよびα1-アンチトリプシンとの相互作用は、LRRドメイン中の保存された残基に依存し、タンパク質のLRR含有領域の特異的ドメインには依存しないようである。この図は、3種の病原性エルシニア属すべてに由来するYopMの解析から得られた情報を記載する。 組み換えYopMの精製を指す。図2a)は、YopMの単離および精製後のSDS-PAGE解析である。タンパク質を、12.5% SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、その後、銀染色を行った。レーンM:「See Blue Plus2」タンパク質ラダー、RE:粗抽出物、W:洗浄I、レーンE2〜5:溶出画分2〜5。図2b)は、カブトガニ血球抽出成分毒素センサーアッセイによるYopM溶出画分中のLPS含量を示す。 イミキモド(IMQ)誘導性乾癬マウスモデルに対するYopMの効果を示す。TLR7/8リガンドでありかつ強力な免疫活性化物質であるイミキモド(5% Aldara Creme Sachets b〜f)を、マウスの背中の皮膚(Balb/c)に対して毎日、局部投与すると、乾癬が誘導されかつ悪化する(図3b))。図3c)は、48時間毎のPBS中の100μgのYopMのi.p.後のマウスで得られた結果を指し、図3e)は、YopM含有クリーム剤で処置したマウス(およそ30μgのYopMを含有する200 mgクリーム剤を塗布したマウス)で得られた結果を示し;図3f)は、皮下注射(48時間毎のPBS中の25μgのs.c.)によりYopMで処置したマウスで得られた結果を示す。図3a)は陰性対照(未処置のマウス)であり、図4d)はプラセボ対照(YopMを含まない200 mgクリーム剤)である。 表皮の増殖および異常な分化に対するYopMの有益な効果を決定するための、汎サイトケラチン抗体(緑色)を用いて染色した背中の皮膚組織切片(5μm)の乾癬および非乾癬表皮の組織学的解析を指す。核をDraq5(青色)で染色した。図4a)は陰性対照を指し;図4b)はIMQ-陽性対照を指し;図4c)はYopMの腹腔内注射を指し;図4d)はプラセボを指し、図4e)はYopMの塗布を指し、図4f)はYopMの皮下注射を指す。写真は共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影した。倍率40×。 IMQにより誘導されたCD4+ T細胞からなる表皮浸潤物の量を決定するための、CD4+(緑色)およびIL17(赤色)抗体を用いて染色した背中の皮膚組織切片(5μm)の乾癬および非乾癬表皮の組織学的解析を示し、背中の皮膚組織切片(5μm)の表皮を、CD4+(緑色)およびIL17(赤色)抗体を用いて染色した。核をDraq5(青色)で染色した。図5a)は陰性対照を指し;図5b)はIMQ-陽性対照を指し;図5c)はYopMの腹腔内注射を指し;図5d)はYopMの塗布を指す。写真は共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影した。倍率40×。 投与から48時間後の表皮および真皮におけるYopMの分布。皮膚組織試料のYopM特異的免疫染色(緑色)。YopMの塗布:表皮(a)、真皮(b);YopMの腹腔内注射:表皮(c)、真皮(d);YopMの皮下注射:表皮(e)、真皮(f);陰性対照:表皮(g)、真皮(h)。アクチンをTexas Redファロイジン(赤色)で染色した。DNAをDraq5(青色)で染色した。写真は共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影した。倍率40×。 投与から48時間後の表皮および真皮におけるYopMの分布。皮膚組織試料のYopM特異的免疫染色(緑色)。未処置のIMQ-皮膚:表皮(a)、真皮(d)、皮下組織(g)、および局所リンパ節(j)。YopMの皮膚上投与:表皮(b)、真皮(e)、皮下組織(h)、および局所リンパ節(k)。YopMの皮下注射:表皮(c)、真皮(f)、皮下組織(i)、および局所リンパ節(l)。アクチンをTexas Redファロイジン(赤色)で染色した。DNAをDraq5(青色)で染色した。写真は共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影した。倍率40×。 乳頭腫症に対するYopMの効果。IMQ処置は、細長い真皮乳頭により分離された乳頭間隆起の規則的かつ対称性の伸長を誘導する(乳頭腫症)。様々な処置レジメン後のマウスの背中の皮膚のH&E染色。線は、乳頭間隆起の規則的かつ対称性の伸長および細長い真皮乳頭を示す。(a)健康な皮膚;(b)未処置のIMQ-皮膚;(c)プラセボ対照;(d)YopMの皮膚上投与;(e)12.5μg YopMの皮下注射;(f)(e)100μg YopMの皮下注射。写真は光学顕微鏡で撮影した。倍率40×。
5.実施例
YopMが乾癬の治療のための免疫調節物質として機能的であり得るか否かを調査するために、マウスのイミキモド(IMQ)誘導性乾癬モデルを利用した。本モデルでは、剃毛したマウスの背中の皮膚に対して、TLR7/8リガンドでありかつ強力な免疫活性化物質であるイミキモド(IMQ)を毎日、局部投与すると、乾癬様状態が誘導されかつ悪化する(Van der Fits L, et al. (2009) Imiquimod-induced psoriasis-like skin inflammation in mice is mediated via the IL-23/IL-17 axis. J. Immunol. 182: 5836-5845)。従って、本モデルは、乾癬様皮膚炎における病原機構の解析に役立ち得る。NestleおよびNickoloff(Nestle, F. O., and B. J. Nickoloff. (2006) Animal models of psoriasis: a brief update. J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol. 20(Suppl. 2): 24-27)は、理想的な乾癬モデルについていくつかの基準を定義した:1)ケラチノサイトの過剰増殖および異常分化に基づく表皮の変化;2)乳頭腫症;3)T細胞、DC、および好中球を含む炎症性細胞の存在;4)T細胞の機能的な役割;ならびに 5)異常な血管分布。イミキモド誘導性の乾癬様皮膚モデルは、これらの基準を満たすため、乾癬様皮膚炎における病原機構の解析に役立ち得る(Van der Fits L, et al. (2009) Imiquimod-induced psoriasis-like skin inflammation in mice is mediated via the IL-23/IL-17 axis. J. Immunol. 182: 5836-5845)。このため、本発明者らは、YopMを、特異的なクリーム剤の成分として皮膚上(e.c.)に投与するか、または皮下(s.c.)注射(48時間毎)により投与するかのいずれかにより、イミキモド誘導性乾癬を患うマウスの群に2週間の期間にわたって投与した。さらに、別の乾癬マウス群を、YopMの腹腔内注射(i.p.)により処置した。
5.1 大腸菌(E. coli)BL21における組み換えYopMの発現および精製
組み換えYopM(rYopM)の発現のために、C末端の6×Hisタグのコード配列も提供するpET24b(+)発現ベクターを選択した。タンパク質精製を、非変性条件下でのニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)金属親和性クロマトグラフィーにより行った。精製後、最も純度が高い画分をプールして、PBSまたは二回蒸留水(H2O bidest.)中で透析した。タンパク質溶液を透析チューブ(孔サイズ:6〜10 kDa)にアプライし、2 lのPBSまたは二回蒸留水中4℃で穏やかに撹拌しながら一晩、透析した。透析後、タンパク質を、遠心フィルターを用いて500×g、4℃で濃縮した。発現および精製した組み換えタンパク質を、ビシンコニン酸(BCA)アッセイを用いて定量した(Smith et al., 1985)。精製の成功を、SDS-PAGE解析により確認した。タンパク質を、12.5% SDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、その後、銀染色を行った(図1aに例示した)。さらに、組み換えYopMの溶出画分中のLPS含量を、カブトガニ血球抽出成分毒素センサーアッセイにより決定した(図1bに例示した、およそ0.33 EU/mg)。
5.2 イミキモド(IMQ)誘導性マウス乾癬モデルに対するYopMの効果
イミキモドにより誘導された乾癬様状態と関連した炎症に対する、局部投与(塗布およびs.c.)ならびに腹腔内投与したrYopMの影響(図2)を調査した。
TLR7/8リガンドでありかつ強力な免疫活性化物質であるイミキモド(IMQ)(5% Aldara Creme Sachets)を、マウスの背中の皮膚(Balb/c)に毎日、皮膚上(e.c.)に局部投与すると、乾癬が誘導されかつ悪化する。IMQにより乾癬皮膚を誘導後、IMQで処置したBalb/cマウス中へのYopM(PBS中)の注射(i.p.およびs.c.)を、48時間毎に行った。さらに、YopM(二回蒸留水中)を、クリーム剤において乳化した(1 gのクリーム剤当たり150μgのYopM)。該クリーム剤は、セテアリルアルコール、鉱物油、グリセロール、ジメチコーン、セテアリル硫酸ナトリウム、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、および水酸化ナトリウムを含有した。マウスに、200 mgのYopM含有クリーム剤(およそ30μgのYopM)を48時間毎に塗布した。
IMQにより誘導された表皮の増殖、異常な分化、CD4+ T細胞からなる表皮浸潤物、および乳頭腫症に対するYopMの有益な効果を測定するために、本発明者らは、乾癬様皮膚状態の発生を視覚的に検査した。マウスの背中の皮膚の写真を、2週間後に撮影した(図3)。
さらに、処置したマウスの背中の皮膚から採取した生検材料の凍結切片について、YopMに対する抗体を使用した免疫組織化学染色(図6)を行った。特に、投与から48時間後の表皮および真皮におけるYopMの分布を決定した。YopMの塗布:表皮(a)、真皮(b);YopMの腹腔内注射:表皮(c)、真皮(d);YopMの皮下注射:表皮(e)、真皮(f);陰性対照:表皮(g)、真皮(h)。アクチンをTexas Redファロイジン(赤色)で染色した。DNAをDraq5(青色)で染色した。
ケラチノサイトを特定するため、ならびに表皮の増殖および異常な分化に対するYopMの有益な効果を決定するために、汎サイトケラチン抗体(緑色)を用いて、背中の皮膚組織の乾癬および非乾癬表皮のさらなる組織学的解析を行った(図4)。背中の皮膚組織切片(5μm)の表皮を、汎サイトケラチン抗体(緑色)を用いて染色した。核をDraq5(青色)で染色した。図4a)は陰性対照であり;図4b)はIMQ-陽性対照であり;図4c)はYopMの腹腔内注射であり;図4d)はプラセボを指し、図4e)はYopMの塗布であり、図4f)はYopMの皮下注射を指す。
IMQにより誘導されたCD4+ T細胞からなる表皮浸潤物の量を決定するために、処置したマウスの背中の皮膚組織切片の乾癬および非乾癬表皮のさらなる追加的な組織学的解析を行った(図5)。背中の皮膚組織切片(5μm)の表皮を、CD4+(緑色)およびIL17(赤色)抗体を用いて染色した。核をDraq5(青色)で染色した。図5a)は陰性対照であり;図5b)はIMQ-陽性対照を指し;図5c)はYopMの腹腔内注射を指し、および図5d)はYopMの塗布を指す。
その結果、クリーム剤として皮膚上に(e.c.)投与したときに皮膚障壁を横切るYopMの「自己送達」能力が確認され(図6a)、b))、明白な炎症性反応の著しい減衰が既に示されていた(図3e)、4e)、5d))。YopMを皮下注射したマウスの群においては疾患症候の抑制も見出されたが(図3f)、4f)、6e)、および6f))、腹腔内注射したマウスにおいては表現型の有意な変化が観察されなかった(図3c)、4c)、5c)、6c)、および6d))。興味深いことに、皮下処置したマウスとは対照的に、皮膚上に投与したYopMは、全身分布に入らず、主に表皮、真皮、および皮下組織に留まり、局所リンパ節において見出すことができなかった。皮下注射したYopMは局所リンパ節においても見出されたため、YopMでの皮膚上の処置は、望ましくない副作用を回避するために明らかに有利であり、かつ好都合である。
これらの結果は、マウス乾癬モデルの乾癬様状態の低減について、腹腔内投与と比べて皮膚(e.c.およびs.c.)投与において、対照と比べてYopM含有製剤またはrYopMを直接投与した場合の優れた効果を、明らかに実証するものである。本発明者らは、マウス乾癬モデルにおけるYopMの皮膚投与の後に、ケラチノサイトの過剰増殖、乳頭腫症の欠如、および炎症性T細胞の枯渇に基づく、有害な表皮変化を、ほぼ何も観察しなかった。

Claims (5)

  1. 皮膚投与、皮内投与、または皮下投与によるヒト対象の乾癬の予防および/または治療において使用するための、エルシニア属(Yersinia)外部タンパク質M(YopM)。
  2. 前記乾癬が、プラーク乾癬、滴状乾癬、逆乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症、乾癬性関節炎である、請求項1記載のエルシニア属外部タンパク質M(YopM)。
  3. 以下の種:エルシニア・エンテロコリチカ(Yersinia enterocolitica)、エルシニア・シュードツベルクローシス(Yersinia pseudotuberculosis)、またはエルシニア・ペスティス(Yersinia pestis)のYopMから選択される、請求項1または2記載のエルシニア属外部タンパク質M(YopM)。
  4. 前記投与が皮膚投与である、請求項1〜3のいずれか一項記載のエルシニア属外部タンパク質M(YopM)。
  5. 前記投与が皮膚投与であり、かつエルシニア属外部タンパク質M(YopM)がクリーム剤、ローション剤、ゲル剤、または軟膏剤として提供される、請求項1〜4のいずれか一項記載のエルシニア属外部タンパク質M(YopM)。
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