T. reesei M44、M81、M84、M109、M110、M131、M132、M133、M134、およびM124株での平均グリコシル化の中性N−グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
T. reesei M44、M81、M84、M109、M110、M131、M132、M133、M134、およびM124株での平均グリコシル化の中性N−グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
モノリン酸化Man7Gn2のフラグメンテーション分析を示す図である。モノリン酸化Man7Gn2の一構造例のみを示す。
T. reesei M44、M81、M84、M109、M110、M131、M132、M133、M134、およびM124株の酸性グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
T. reesei M44、M81、M84、M109、M110、M131、M132、M133、M134、およびM124株の酸性グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
発酵槽中で131.4時間培養(流加培養)したT. reesei M44株の中性(a)および酸性(b)N−グリカンプロファイルを示す図である。
発酵槽中で131.4時間培養(流加培養)したT. reesei M44株の中性(a)および酸性(b)N−グリカンプロファイルを示す図である。
T. reesei培地の中性(a)および酸性(b)N−グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
T. reesei培地の中性(a)および酸性(b)N−グリカン質量分析プロファイルを示す図である。
T. reesei M44の分泌タンパク質のメンブランブロットを示す図である。
発酵槽中で培養したT. reesei M44のタンパク質バンドを分析した一例を示す図である。タンパク質のグリコシル化は、T. reeseiでの平均グリコシル化と有意差がなかった。スペクトルは、小さなベースラインシグナルに焦点を合わせたので、スペクトルの大きなシグナルは他のシグナルに比べて定量的でなかった。
alg3プローブを用いた親株由来DNAおよびAlg3ノックアウト株由来DNAのサザンブロットを示す図である。
予測された制限生成物のサイズを有するpTTv38構築物断片の制限酵素マップを示す図である。
EcoRI+PvuI(E+P)またはKpnI+NheI(K+N)で消化した親株およびAlg3ノックアウト株由来ゲノムDNAのサザンブロットを示す図である。対照DNAは、NotIで消化したpTTv38プラスミドDNAであった。AmdSプローブを用いてブロットをプローブした。
中性N−グリカンのMALDI分析を示す図である。図Aに、親株M124を示す。図Bに、Alg3ノックアウト4Aを示す。四角印は、N−アセチルグルコサミンを表し、表示したグルコース1個以外、丸印はマンノースを表す。
中性N−グリカンのMALDI分析を示す図である。図Aに、親株M124を示す。図Bに、Alg3ノックアウト4Aを示す。四角印は、N−アセチルグルコサミンを表し、表示したグルコース1個以外、丸印はマンノースを表す。
4A Alg3ノックアウト株由来Man3Gn2のフラグメンテーション分析を示す図である。
Alg3ノックアウト株4A(図A)および親株M124(図B)由来Hex5Gn2のフラグメンテーション分析を示す図である。枠で囲ったシグナルは、Alg3ノックアウト株由来アイソマーとしてのみ存在する。
Alg3ノックアウト株4A(図A)および親株M124(図B)由来Hex5Gn2のフラグメンテーション分析を示す図である。枠で囲ったシグナルは、Alg3ノックアウト株由来アイソマーとしてのみ存在する。
α−マンノシダーゼ消化後のAlg3ノックアウト株4A由来中性N−グリカンを示す図である。
液体クロマトグラフィーによるAlg3ノックアウト株由来の2種の主グリカン分離を示す図である。
Hex3HexNAc2画分(図A)およびHex6HexNAc2画分(図B)のプロトンNMRスペクトルを示す図である。クリオプローブを備えるVarian Unity INOVA 600MHzスペクトロメーターを使用して、40℃でスペクトルを収集した。
Hex3HexNAc2画分(図A)およびHex6HexNAc2画分(図B)のプロトンNMRスペクトルを示す図である。クリオプローブを備えるVarian Unity INOVA 600MHzスペクトロメーターを使用して、40℃でスペクトルを収集した。
親株M124(図A)およびAlg3ノックアウト株4A(B)の酸性画分を示す図である。2個のリン酸ユニットを有するN−グリカンに星印を付ける。
親株M124(図A)およびAlg3ノックアウト株4A(B)の酸性画分を示す図である。2個のリン酸ユニットを有するN−グリカンに星印を付ける。
フラスコ中で5日間培養したT. reesei Alg3ノックアウト株4Aの上清由来中性N−グリカンを示す図である。
発酵槽中で10日間培養したT. reesei Alg3ノックアウト株4Aの上清由来中性N−グリカンを示す図である。
GnTI反応混合物のMALDIスペクトルを示す図である。GnTIは、54%のアクセプターを、追加的なHexNAcを有する生成物に変換した。
GnTIIの発現のウエスタンブロット分析を示す図である。12%SDS−PAGEゲルに試料を泳動させ、ニトロセルロースメンブラン上にブロッティングした。マウスα−HISモノクローナル抗体を用いてメンブラン上からヒスチジンタグ付きGnTIIを検出した。左側に示した数字は、分子量マーカータンパク質のサイズ(kDa)である。
GnTII反応混合物のMALDIスペクトルを示す図である。83%のアクセプター(m/z913.340)が生成物に変換された(m/z1136.433)。
GnTI/GnTII融合タンパク質について観測されたGnTI活性を示す図である。
alg3ローカスへのターゲティングにより得られたGnTI/GnTII T. reeseiトランスフォーマント中に存在するN−グリカンを示す図である。
GnTII/GnTI融合タンパク質の酵素活性試験から精製された反応混合物のMALDIスペクトルを示す図である。
β1−2,3,4,6−N−アセチルグルコサミニダーゼ反応混合物のスペクトルを示す図である。
β1−4GalT反応混合物のMALDIスペクトルを示す図である。
3(A)、5(B)および7(CおよびD)日目のT. reesei M127 pTTv110トランスフォーマント(alg3ローカス中にgntII/I)の上清タンパク質から観測されたN−グリカンの図である。クローン17Aは7日目に最大のG0を製造した。(E)7日間振盪フラスコ中で培養したT. reesei M127株GnTII/Iトランスフォーマントクローン17A由来の上清タンパク質の中性N−グリカンの質量スペクトル。星印を付けたシグナルは、培地起源である。
3(A)、5(B)および7(CおよびD)日目のT. reesei M127 pTTv110トランスフォーマント(alg3ローカス中にgntII/I)の上清タンパク質から観測されたN−グリカンの図である。クローン17Aは7日目に最大のG0を製造した。(E)7日間振盪フラスコ中で培養したT. reesei M127株GnTII/Iトランスフォーマントクローン17A由来の上清タンパク質の中性N−グリカンの質量スペクトル。星印を付けたシグナルは、培地起源である。
3(A)、5(B)および7(CおよびD)日目のT. reesei M127 pTTv110トランスフォーマント(alg3ローカス中にgntII/I)の上清タンパク質から観測されたN−グリカンの図である。クローン17Aは7日目に最大のG0を製造した。(E)7日間振盪フラスコ中で培養したT. reesei M127株GnTII/Iトランスフォーマントクローン17A由来の上清タンパク質の中性N−グリカンの質量スペクトル。星印を付けたシグナルは、培地起源である。
3(A)、5(B)および7(CおよびD)日目のT. reesei M127 pTTv110トランスフォーマント(alg3ローカス中にgntII/I)の上清タンパク質から観測されたN−グリカンの図である。クローン17Aは7日目に最大のG0を製造した。(E)7日間振盪フラスコ中で培養したT. reesei M127株GnTII/Iトランスフォーマントクローン17A由来の上清タンパク質の中性N−グリカンの質量スペクトル。星印を付けたシグナルは、培地起源である。
3(A)、5(B)および7(CおよびD)日目のT. reesei M127 pTTv110トランスフォーマント(alg3ローカス中にgntII/I)の上清タンパク質から観測されたN−グリカンの図である。クローン17Aは7日目に最大のG0を製造した。(E)7日間振盪フラスコ中で培養したT. reesei M127株GnTII/Iトランスフォーマントクローン17A由来の上清タンパク質の中性N−グリカンの質量スペクトル。星印を付けたシグナルは、培地起源である。
どちらもダイズトリプシン阻害剤存在下で培養したT. reesei M202 GnTII/Iトランスフォーマントクローン(A)9A−1および(B)31A−1に由来のリツキシマブの中性N−グリカン、および振盪フラスコ中でダイズトリプシン阻害剤存在下にて5日間培養した(C)T. reesei M202株GnTII/Iトランスフォーマントクローン9A−1から精製したリツキシマブの中性N−グリカンの質量スペクトルを示す図である。
どちらもダイズトリプシン阻害剤存在下で培養したT. reesei M202 GnTII/Iトランスフォーマントクローン(A)9A−1および(B)31A−1に由来のリツキシマブの中性N−グリカン、および振盪フラスコ中でダイズトリプシン阻害剤存在下にて5日間培養した(C)T. reesei M202株GnTII/Iトランスフォーマントクローン9A−1から精製したリツキシマブの中性N−グリカンの質量スペクトルを示す図である。
どちらもダイズトリプシン阻害剤存在下で培養したT. reesei M202 GnTII/Iトランスフォーマントクローン(A)9A−1および(B)31A−1に由来のリツキシマブの中性N−グリカン、および振盪フラスコ中でダイズトリプシン阻害剤存在下にて5日間培養した(C)T. reesei M202株GnTII/Iトランスフォーマントクローン9A−1から精製したリツキシマブの中性N−グリカンの質量スペクトルを示す図である。
スペーサーが改変されたGnTII/GnTI融合体の反応混合物のMALDIスペクトルを示す図である。図(A)に、3×G4Sスペーサーで改変されたGnTII/GnTIの反応混合物を示す。アクセプターの36%が、2個の追加的なHexNAcを有する生成物に変換された。図(B)に、2×G4Sスペーサーで改変されたGnTII/GnTIの反応混合物を示す。アクセプターの38%が2個の追加的なHexNAcを有する生成物に変換された。GnTI生成物Hex3HexNAc2の[M+Na]+シグナルについてのm/zの計算値(m/z計算値933.318)は、どちらのスペクトルからも検出されなかった。それは、全てのGnTI生成物がHex3HexNAc3に直接変換されたからであった(m/z計算値1136.318)。
GnTII/Iスペーサー変異体細胞ペレット(A)、および上清(B)のウエスタンブロットを示す図である。レーン1:GnTII陽性対照、2:GY3偽株、3:GY7−2野生型GnTII/I、4:GY32−5 3×G4Sスペーサー、5:GY32−9 3×G4Sスペーサー、6:GY33−7 2×G4Sスペーサー、7:GY33−8 2×G4Sスペーサー、8:GY49−3 CBHIスペーサーおよび9:GY50−10 EGIVスペーサー。
GnTII/Iスペーサー変異体細胞ペレット(A)、および上清(B)のウエスタンブロットを示す図である。レーン1:GnTII陽性対照、2:GY3偽株、3:GY7−2野生型GnTII/I、4:GY32−5 3×G4Sスペーサー、5:GY32−9 3×G4Sスペーサー、6:GY33−7 2×G4Sスペーサー、7:GY33−8 2×G4Sスペーサー、8:GY49−3 CBHIスペーサーおよび9:GY50−10 EGIVスペーサー。
プロテアーゼ阻害剤存在下で3日(A)の発現期および4日(B)の発現期後に発現した、上清由来の野生型GnTII/Iおよびスペーサー変異体のGnT活性を示す図である。x軸は、試料の正体を示し(wt=野生型、_1、_2=スペーサー変異体の該当クローン)、y軸は、形成した生成物のパーセンテージを示す(GnTI反応生成物とGnTII反応生成物を合計した)。
プロテアーゼ阻害剤存在下で3日(A)の発現期および4日(B)の発現期後に発現した、上清由来の野生型GnTII/Iおよびスペーサー変異体のGnT活性を示す図である。x軸は、試料の正体を示し(wt=野生型、_1、_2=スペーサー変異体の該当クローン)、y軸は、形成した生成物のパーセンテージを示す(GnTI反応生成物とGnTII反応生成物を合計した)。
上清、細胞および溶解液中のGnTII/I融合タンパク質(野生型スペーサーを有する)のGnT活性を示す図である。GnTI生成物とGnTII生成物を合計した。
(A)上清、(B)細胞、および(C)溶解液中のGnTII/I野生型およびスペーサー変異体のGnT活性を示す図である。
(A)上清、(B)細胞、および(C)溶解液中のGnTII/I野生型およびスペーサー変異体のGnT活性を示す図である。
(A)上清、(B)細胞、および(C)溶解液中のGnTII/I野生型およびスペーサー変異体のGnT活性を示す図である。
5日目の親株M124およびGnT1トランスフォーマントの中性N−グリカンのスペクトル例を示す図である。Gn付加を有するシグナル(m/z1460)に矢印を付ける。(pTTv11はcbh1プロモーターを有し、pTTv13はgpdAプロモーターを有する)。
3日目および5日目の4個の陽性GNT1トランスフォーマント中のMan5およびGn1Man5の量を示す図である。内部較正物質(Hex2HexNAc4、2pmol)に対して定量を行った。
親M124株およびGnT1トランスフォーマントのリン酸化N−グリカンのスペクトル例を内部較正物質(NeuAcHex4HexNAc2、0.5pmol)と共に示す図である。GnT1生成物に矢印を付ける。
5日目の異なるGnTII株/クローンの中性N−グリカンの図である。図(A)にpTTv140クローンを示す。図(B)にpTTv142クローンを示す。図(C)にpTTv143クローンを示す。図(D)にpTTv141クローンを示す。
5日目の異なるGnTII株/クローンの中性N−グリカンの図である。図(A)にpTTv140クローンを示す。図(B)にpTTv142クローンを示す。図(C)にpTTv143クローンを示す。図(D)にpTTv141クローンを示す。
5日目の異なるGnTII株/クローンの中性N−グリカンの図である。図(A)にpTTv140クローンを示す。図(B)にpTTv142クローンを示す。図(C)にpTTv143クローンを示す。図(D)にpTTv141クローンを示す。
5日目の異なるGnTII株/クローンの中性N−グリカンの図である。図(A)にpTTv140クローンを示す。図(B)にpTTv142クローンを示す。図(C)にpTTv143クローンを示す。図(D)にpTTv141クローンを示す。
3、5、および7日目の異なるGnTII株/クローンおよび親株M198の中性N−グリカンの一例を示す図である。図(A)にクローン1−117Aを示す。図(B)にクローン3−11Aを示す。図(C)にクローン30Aを示す。図(D)に親株M198を示す。
3、5、および7日目の異なるGnTII株/クローンおよび親株M198の中性N−グリカンの一例を示す図である。図(A)にクローン1−117Aを示す。図(B)にクローン3−11Aを示す。図(C)にクローン30Aを示す。図(D)に親株M198を示す。
3、5、および7日目の異なるGnTII株/クローンおよび親株M198の中性N−グリカンの一例を示す図である。図(A)にクローン1−117Aを示す。図(B)にクローン3−11Aを示す。図(C)にクローン30Aを示す。図(D)に親株M198を示す。
3、5、および7日目の異なるGnTII株/クローンおよび親株M198の中性N−グリカンの一例を示す図である。図(A)にクローン1−117Aを示す。図(B)にクローン3−11Aを示す。図(C)にクローン30Aを示す。図(D)に親株M198を示す。
T. reeseiM198株およびGnTIIクローン3−17Aのタンパク質が分離されたメンブランを示す図である。50kDAタンパク質に矢印を付ける。
親株M198(A)およびGnTIIクローン3−17A(B)の総分泌タンパク質と個別の分泌タンパク質(一つまたは複数)を対比した柱状図である。
親株M198(A)およびGnTIIクローン3−17A(B)の総分泌タンパク質と個別の分泌タンパク質(一つまたは複数)を対比した柱状図である。
発酵槽培養した3〜7日目のGnTII M329株、および5日目のM329株の振盪フラスコ培養物の柱状図である。
T. reesei ALG3およびALG3ホモログの複数アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
T. reesei ALG3およびALG3ホモログの複数アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
T. reesei ALG3およびALG3ホモログの複数アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
詳細な説明
本発明は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するリコンビナントタンパク質であって、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)の転移を触媒し、かつ末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒するリコンビナントタンパク質であって、少なくとも2種の異なる酵素由来の触媒ドメインを含有するリコンビナントタンパク質に関する。
いくつかの態様では、本発明のリコンビナントタンパク質は、2個の触媒ドメインを含み、ここで、一方の触媒ドメインはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GnTI)活性を有し(例えば末端Manα3残基と反応する)、他方の触媒ドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GnTII)活性を有する(例えば末端Manα6残基と反応する)。
いくつかの態様では、本発明のリコンビナントタンパク質は、本質的に連続的に起こる反応を触媒する。例えば、本発明のリコンビナントタンパク質は、最初にアクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのGlcNAcの転移を触媒し、次に末端Manα6残基へのGlcNAcの転移を触媒する場合がある。一態様では、本質的に連続的な反応は、逆の順序の2反応の少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍、または少なくとも100倍効果的である。ある態様では、連続反応は、GlcNAcが末端Manα3残基にまだ転移されていないならば、本質的にまたは絶対的にGlcNAcが末端Manα6残基に転移できないことを意味する。特定の一態様では、アクセプター性グリカンは、GlcNAcβ2Manα3枝を含有する。
いくつかの態様では、リコンビナントタンパク質は、場合により分枝アクセプター性グリカン中のManα3およびManα6残基の両方と特異的に反応するが、他のManα構造と、例えばManαベンジルおよび/またはManαSer/Thr−ペプチドを有するManα単糖コンジュゲートと実質的または絶対的に反応しない。実質的でない反応性は、好ましくは、末端Manα3およびManα6残基を有するアクセプター性グリカンの0.1mM反応濃度の場合のVmaxの10%未満、8%未満、6%未満、4%未満、2%未満、1%未満、または0.1%未満である。特定の一態様では、リコンビナントタンパク質は、アクセプター性グリカンの末端Manα3(好ましくはGnTI反応として)および末端Manα6残基(好ましくはGnTII反応として)と実質的に類似の反応性を有する。好ましくは、どちらの触媒活性も、同条件下で反応効率が他方の触媒活性の10倍、5倍、3倍または2倍以下である。
特定の一態様では、末端Manα3およびManα6へのGlcNAcの転移は、Man3グリカンの少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも70%、少なくとも90%、または少なくとも95%が、2個の末端GlcNAcを有するグリカンに変換されることを引き起こす。反応有効性は、本明細書開示の実施例に記載のようにin vitroまたはin vivoアッセイにより測定することができる。GlcNAc転移反応の有効性は、本質的に実施例に記載されたように、アクセプターが0.1mM濃度およびドナーが飽和濃度での最大反応速度Vmaxとして測定することができる。特定の一態様では、反応の有効性は、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドに結合したMan3アクセプター性グリカンを用いて測定される。
本開示は、さらに、複合N−グリカンを製造する方法であって、ホスト細胞を提供するステップ、ここで、ホスト細胞は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含有する融合タンパク質をコードする核酸を含有する、そして融合タンパク質が発現されるようにホスト細胞を培養するステップを含む、方法に関し、ここで、融合タンパク質は、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンの転移および末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒して複合N−グリカンを製造する。
本発明は、また、野生型糸状菌細胞における発現レベルに比べて低下した発現レベルのalg3遺伝子を有する糸状菌細胞に関し、ここで、糸状菌細胞は、本発明のリコンビナントタンパク質を含有する。
定義
本明細書に使用するような「リコンビナントタンパク質」は、リコンビナント核酸から生成した任意のタンパク質を表す。本明細書に使用するような「リコンビナント核酸」は、少なくとも以下の一つが当てはまる核酸ポリマーを表す:(a)核酸配列は所与のホスト細胞と異質である(すなわちその細胞から自然に見出されない);(b)配列は、所与のホスト細胞から自然に見出されうるが、不自然な(例えば予想よりも多い)量で存在するか、または天然発現レベルよりも多いもしくは少ないレベルで発現され;あるいは(c)核酸配列は、自然界で相互に同じ関係で見出されない2個以上の部分配列を含む。例えば、事例(c)に関して、リコンビナント核酸配列は、新しい機能性核酸を作製するために配列された無関係な遺伝子由来の2個以上の配列を有する。別の例では、リコンビナント核酸配列は、自然には相互に隣接して見出されないプロモーター配列および遺伝子コード配列を含有する。
本明細書に使用するような「N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性」は、N−アセチルグルコサミニル残基(GlcNAc)をアクセプター性グリカンに転移する酵素の活性を表す。典型的には、この活性を有する酵素は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(GlcNAcトランスフェラーゼ)である。ある態様では、GlcNAcトランスフェラーゼは真核生物性である。ある態様では、GlcNAcトランスフェラーゼは、GlcNAc残基の1位から末端マンノース残基にβ−結合を形成する哺乳動物酵素である。ある態様では、GlcNAcトランスフェラーゼは、β2−結合GlcNAc残基(一つまたは複数)をグリカンの、特にN結合型グリカンの、末端マンノース残基2位に転移するβ2−N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼである。ある態様では、β2−GlcNAcトランスフェラーゼは、GnTI活性およびGnTII活性を有する酵素である。GnTI活性は、Manα3枝にGlcNAc残基を転移する。Manα3枝は、Man3GlcNAc2またはMan3またはMan5GlcNAc2またはMan5などの、N結合型グリカンコア構造のManα3(R−Manα6)Manβ枝でありうる。GnTI酵素は、哺乳動物酵素、植物酵素、または低級真核生物酵素でありうる。GnTII活性は、N結合型グリカンコア構造のManα6(GlcNAcβ2Manα3)Manβ枝などのManα6枝にGlcNAc残基を転移する。そのようなManα6枝の一例は、GlcNAc1Man3GlcNAc2である。
本明細書に使用するような「N−アセチルグルコサミン」は、N−アセチルグルコサミン残基(GlcNAc)を表す。GlcNAcは、グリカン構造の部分でありうる。アミン基は2位にあり、D−配置を有し、残基としてピラノース構造を有する。または、それは、2−アセトアミド−2−デオキシ−D−グルコピラノース(D−GlcpNAc)と称されることもある。GlcNAcは、また、遊離還元単糖でありうる(すなわちグリカンの部分ではない)。
本明細書に使用するような「Man」は、マンノース残基を表す。「末端Manα3」または「末端Manα6」は、非還元末端の末端残基が別の一つまたは複数の単糖残基により置換されていないマンノースを表す。
本明細書に使用するような「グリカン」は、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、脂質または還元末端コンジュゲートなどの担体に結合することができるオリゴ糖鎖を表す。ある態様では、本発明は、アスパラギン残基(Asn)の側鎖アミド性窒素にN結合により−Asn−Xxx−Ser/Thr−(ここで、XxxはPro以外の任意のアミノ酸残基である)などのポリペプチド性Nグリコシル化部位にコンジュゲーションしたN結合型グリカンに関する。本発明は、さらに、真核細胞小胞体におけるN結合型グリカンの前駆体である、ドリコールホスホオリゴ糖(Dol−P−P−OS)前駆体脂質構造の部分としてのグリカンに関する場合がある。前駆体オリゴ糖は、それらの還元末端からドリコール脂質上の2個のリン酸残基に結合している。例えば、α3−マンノシルトランスフェラーゼAlg3は、N−グリカンのDol−P−P−オリゴ糖前駆体を改変する。一般に、本明細書記載のグリカン構造は、非還元残基が一つまたは複数の他の単糖残基によって改変されていない末端グリカン構造である。
本明細書に使用するような「糖タンパク質」は、グリカンに結合したペプチドまたはポリペプチドを表す。グリカンは、共翻訳修飾または翻訳後修飾でペプチドまたはポリペプチドに結合されうる。
本明細書に使用するような「糖脂質」は、グリカンに結合している脂質を表し、糖脂質にはグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、およびグリコシルホスファチジルイノシトールが含まれる。
本開示にわたり使用するような糖脂質および糖質という命名法は、本質的に、IUPAC−IUB生化学命名法委員会による勧告に従う(例えばCarbohydrate Res. 1998, 312, 167; Carbohydrate Res. 1997, 297, 1; Eur. J. Biochem. 1998, 257, 29)。Gal(ガラクトース)、Glc(グルコース)、GlcNAc(N−アセチルグルコサミン)、GalNAc(N−アセチルガラクトサミン)、Man(マンノース)、およびNeu5AcはD−配置であり、FucはL−配置であり、全ての単糖ユニットはピラノース形態であることが仮定される(D−Galp、D−Glcp、D−GlcpNAc、D−GalpNAc、D−Manp、L−Fucp、D−Neup5Ac)。アミン基は、天然ガラクトースおよびグルコサミンについて定義された通り、GalNAcまたはGlcNAcの2位にある。グリコシド結合は、一部は短い方の命名で、一部は長い方の命名で示され、シアル酸SA/Neu5X残基の結合α3およびα6は、それぞれα2−3およびα2−6と同じことを意味し、ヘキソース単糖残基についてα1−3、α1−6、β1−2、β1−3、β1−4、およびβ1−6は、それぞれα3、α6、β2、β3、β4、およびβ6と短縮することができる。ラクトサミンは、II型N−アセチルラクトサミン、Galβ4GlcNAc、および/またはI型N−アセチルラクトサミンを表す。Galβ3GlcNAcおよびシアル酸(SA)は、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、またはNeu5Xの誘導体を含む任意の他の天然シアル酸を表す。シアル酸は、NeuNXまたはNeu5Xと呼ばれる(ここで、好ましくは、XはAcまたはGcである)。場合により、Neu5Ac/Gc/XはNeuNAc/NeuNGc/NeuNXと呼ばれうる。
本発明のリコンビナントタンパク質
本明細書における発明は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するリコンビナントタンパク質であって、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒し、かつ末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒するリコンビナントタンパク質に関する。本発明のリコンビナントタンパク質には、非限定的に、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有する完全長タンパク質、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質フラグメント、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有する触媒ドメイン、およびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ活性を有する融合タンパク質が含まれうる。本発明の単一のリコンビナントタンパク質は、N−アセチルグルコサミンの両方の転移を触媒する能力を有する。末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンの転移は、末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移の前または後に起こりうる。または、転移は同時に起こりうる。
アクセプター性グリカンは、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドなどの分子に結合している場合がある。ある態様では、アミノ酸はアスパラギン残基である。アスパラギン残基は、側鎖アミドからのアミノグリコシド結合(生物学的哺乳動物ポリペプチドN−グリカン結合構造)の場合があり、ジペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドなどのペプチド鎖の部分の場合がある。グリカンは、還元末端誘導体、例えば還元性GlcNAcまたはManのN、O、またはC結合型誘導体、好ましくはグリコシド誘導体、例えばアミノ酸、アルキル、ヘテロアルキル、アシル、アルキルオキシ、アリール、アリールアルキル、およびヘテロアリールアルキルの群より選択される、あるグリカン結合型構造を有するスペーサーまたは末端有機残基などでありうる。スペーサーは、さらに、多価担体または固相に結合している場合がある。ある態様では、アルキル含有構造には、メチル、エチル、プロピル、およびC4−C26アルキル、グリセロ脂質、リン脂質、ドリコール−リン脂質およびセラミドなどの脂質、ならびに誘導体が含まれる。還元末端は、また、第二級アミン結合または誘導体構造への還元アミノ化により誘導体化することができる。ある担体には、(ポリ)ペプチド、多糖、例えばデキストラン、セルロース、アミロースもしくはグリコサミノグリカンなどの生体高分子またはオリゴマー、ならびにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(例えばナイロンもしくはポリスチレン)、ポリアクリルアミド、およびポリ乳酸を含めたプラスチック、PAMAM、StarburstもしくはStarfishデンドリマーなどのデンドリマー、またはポリリシンおよびポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキルグリコールなどの他の有機ポリマーまたはオリゴマーが含まれる。固相には、マイクロタイターウェル、シリカ粒子、ガラス、金属(鋼、金、および銀が含まれる)、ポリスチレンまたは樹脂ビーズ、ポリ乳酸ビーズ、多糖ビーズまたは有機スペーサー含有磁気ビーズなどのポリマービーズが含まれうる。
ある態様では、アクセプター性グリカンは、異種ポリペプチドに結合している。本明細書に使用するような「ペプチド」および「ポリペプチド」は、複数の連続重合アミノ酸残基を含むアミノ酸配列である。本発明のために典型的には、ペプチドは、最大50個のアミノ酸残基を含む分子であり、ポリペプチドは、50個よりも多いアミノ酸残基を含む。ペプチドまたはポリペプチドは、改変アミノ酸残基、コドンによってコードされない天然アミノ酸残基、および非天然アミノ酸残基を含みうる。本明細書に使用するような「タンパク質」は、任意のサイズのペプチドまたはポリペプチドを表しうる。「異種ポリペプチド」という用語は、所与のホスト細胞中に自然には見出されず、所与のホスト細胞に内因性でないポリペプチドを表す。ある態様では、異種ポリペプチドは、治療用タンパク質である。治療用タンパク質には、例えば、モノクローナル抗体、エリスロポイエチン、インターフェロン、成長ホルモン、酵素、または凝固因子が含まれうる。例えば、アクセプター性グリカンは、リツキシマブなどの治療用タンパク質に結合している場合がある。
アクセプター性グリカン
ある態様では、アクセプター性グリカンの構造は、以下の構造[R1]yManα3([R2]zManα6)Man{β4GlcNAc(Fucαx)n[β4GlcNAc]m}q(式中、q、y、z、nおよびmは、0または1であり;xは、随意のフコース残基の結合位置3または6であり;R1はGlcNAc、好ましくはGlcNAcβ2であり;R2は分枝構造Manα3(Manα6)である)を有し、但し、zが1の場合、yは0であり、zが0の場合、yは0または1である。()は、存在または不在のいずれかである規則的N−グリカンコア構造中の枝を定義する。[]および{}は、直鎖配列中に存在または不在のいずれかであるグリカン構造の一部を定義する。zが0でyが0の場合、その構造はMan3グリカンであり、zが0でありyが1である場合、その構造はGlcNAcMan3グリカンである。yが0でありzが1である場合、グリカンはMan5グリカンである。アクセプター性グリカンは、好ましくは還元末端GlcNAcからAsn残基にβ−グリコシド結合している場合がある。一態様では、アクセプター性グリカンは、ポリペプチド結合型N−グリカン(式中、mおよびqは1である)であり、アクセプター構造は、[R1]yManα3([R2]zManα6)Manβ4GlcNAc(Fucαx)nβ4GlcNAcの誘導体を含有する。場合による誘導体には、GlcNAcまたはキシロースなどの単糖残基による置換が含まれる。
アクセプター性グリカンは、Man3、GlcNAcMan3、またはMan5でありうる。ある態様では、アクセプター性グリカンは、Man3またはGlcNAcMan3である。Man3は、Manα3またはManα6残基の少なくとも一方を含むトリマンノシルグリカンであり、好ましくはManα3(Manα6)Manなどの分枝オリゴ糖である。他の特定のMan3オリゴ糖は、Manα3(Manα6)Manβ、Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAc、およびポリペプチド結合型Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4GlcNAcである。加えて、ホスト細胞に応じて、グリカンは、Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucαx)nGlcNAc[式中、xは3または6であり、nは0または1であり、これは、Man3GlcNAc2(n=0)およびMan3GlcNAc2Fuc(n=1)のように末端マンノース構造および還元末端組成を示す単糖組成式によっても表現される]のように、Manβおよび/またはGlcNAc残基にFuc、XylまたはGlcNAcを含有しうる。ある態様、特にポリペプチド結合構造を有する態様では、Man3構造はManα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucα6)nGlcNAcである。ある態様では、ポリペプチド結合型GlcNAcMan3構造は、GlcNAcβ2Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucα6)nGlcNAc[単糖組成式GlcNAcMan3GlcNAc2(n=0)およびGlcNAcMan3GlcNAc2Fuc(n=1)によっても表現される]である。ある態様では、ポリペプチド結合型Man5構造は、Manα3{Manα3(Manα6)Manα6}Manβ4GlcNAcβ4(Fucα6)nGlcNAcである[式中、{}および()は枝を示し、nは0または1であり、これは、単糖組成式Man5GlcNAc2(n=0)およびMan5GlcNAc2Fuc(n=1)によっても表現される]。
したがって、あるMan3グリカンは、次式:Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAc(Fucαx)nβ4GlcNAc[式中、nは0または1であって、分子の部分の存在または不在を示し、xは3または6であり、()は構造中の枝を定義する]による構造を有する。アクセプター性グリカンがMan3である本発明の態様では、リコンビナントタンパク質は、Man3の末端Manα3およびManα6へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒する結果、GlcNAc2Man3、GlcNAcβ2Manα3(GlcNAcβ2Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucαx)nGlcNAc[式中、nは0または1であり、これは、単糖組成式GlcNAc2Man3GlcNAc2(n=0)およびGlcNAc2Man3GlcNAc2Fuc(n=1)によっても表現される]が生じる。
アクセプター性グリカンがMan5である本発明の態様では、リコンビナントタンパク質は、Man5の末端Manα3へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒する。2個のマンノースが(例えばマンノシダーゼIIにより)GlcNAcMan5から除去されてGlcNAcMan3が形成した後に、リコンビナントタンパク質が末端Manα6へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒する結果、GlcNAc2Man3[構造GlcNAcβ2Manα3(GlcNAcβ2Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucαx)nGlcNAc(式中、nは0または1である)を有し、抗体に結合している場合はG0とも呼ばれる]が生じる。
N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ触媒ドメインを含有する融合タンパク質
ある態様では、本発明のリコンビナントタンパク質は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含有する融合タンパク質である。「融合タンパク質」という用語は、異種アミノ酸に結合したタンパク質またはポリペプチドを含有する任意のタンパク質またはポリペプチドを表す。
N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GlcNAc−TI;GnTI;EC2.4.1.101)は、反応UDP−N−アセチル−D−グルコサミン+3−(α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R⇔UDP+3−(2−(N−アセチル−β−D−グルコサミニル)−α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R(式中、Rは、グリカン性アクセプターにおけるN結合型オリゴ糖の残りを表す)を触媒する。N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、この反応を触媒することができる、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素の任意の部分である。様々な生物由来のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素についてのアミノ酸配列は、配列番号1〜19に列挙されている。追加的なGnTI酵素は、CAZyデータベース中のグリコシルトランスフェラーゼファミリー13に列挙されている(cazy.org/GT13_all)。酵素的に特徴づけられた種には、A. thaliana AAR78757.1(米国特許第6,653,459号)、C. elegans AAD03023.1(Chen S. et al J. Biol.Chem 1999;274(1):288-97)、D. melanogaster AAF57454.1(Sarkar & Schachter Biol Chem. 2001 Feb;382(2):209-17);C. griseus AAC52872.1(Puthalakath H. et al J. Biol.Chem 1996 271(44):27818-22);H. sapiens AAA52563.1(Kumar R. et al Proc Natl Acad Sci U S A. 1990 Dec;87(24):9948-52);M. auratus AAD04130.1(Opat As et al Biochem J. 1998 Dec 15;336 (Pt 3):593-8)、(非活性化突然変異体の一例を含む)、ウサギ、O. cuniculus AAA31493.1(Sarkar M et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Jan 1;88(1):234-8)が含まれる。特徴づけられた活性酵素の追加的な例は、cazy.org/GT13_characterizedに見出すことができる。ウサギGnTI触媒ドメインの3D構造は、Unligil UM et al. EMBO J. 2000 Oct 16;19(20):5269-80にX線結晶学により規定された。GnTIについてのProtein Data Bank(PDB)構造は、1FO8、1FO9、1FOA、2AM3、2AM4、2AM5、および2APCである。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素(配列番号1)、またはその変異体に由来する。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、配列番号1のアミノ酸残基84〜445と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一の配列を含有する。いくつかの態様では、より短い配列を触媒ドメインとして使用することができる(例えば、ヒト酵素のアミノ酸残基105〜445またはウサギ酵素のアミノ酸残基107〜447;Sarkar et al. (1998) Glycoconjugate J 15:193-197)。GnTI触媒ドメインとして使用することができる追加的な配列には、ヒト酵素の約30〜445番アミノ酸のアミノ酸残基またはヒト酵素のアミノ酸残基30〜105から開始し約445番アミノ酸まで連続する任意のC末端ステムドメイン、あるいは別のGnTIまたはその触媒活性変異体もしくは突然変異体の対応する相同配列が含まれる。触媒ドメインは、ステムドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞質ドメインの全てまたは部分などの、酵素のN末端部分を含みうる。
本明細書に使用するような「細胞質」は、細胞の細胞質と相互作用するタンパク質の部分を表すために使用される。
N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GlcNAc−TII;GnTII;EC2.4.1.143)は、反応UDP−N−アセチル−D−グルコサミン+6−(α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R⇔UDP+6−(2−(N−アセチル−β−D−グルコサミニル)−α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R(式中、Rは、グリカン性アクセプターにおけるN結合型オリゴ糖の残りを表す)を触媒する。N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、この反応を触媒することができる、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素の任意の部分である。様々な生物由来のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素についてのアミノ酸配列を、配列番号20〜33に列挙する。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素(配列番号20)に由来する。追加的なGnTII種は、CAZyデータベース中のグリコシルトランスフェラーゼファミリー16に列挙されている(cazy.org/GT16_all)。酵素的に特徴づけられた種には、カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)、ドロソフィラ・メラノガスター(D. melanogaster)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、ラツス・ノルベギグス(Rattus norvegigus)、スス・スクロファ(Sus scrofa)のGnTIIが含まれる(cazy.org/GT16_characterized)。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、配列番号21のアミノ酸残基約30〜約447と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一の配列を含有する。触媒ドメインは、ステムドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞質ドメインの全てまたは部分などの、酵素のN末端部分を含みうる。
ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインに対してN末端側である。他の態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインのN末端側である。「N末端側」という用語は、参照アミノ酸残基セットに比べて、遊離アミン基(−NH2)を有するアミノ酸で終結したポリペプチド末端付近のアミノ酸残基セットの位置づけを表す。
スペーサー
本発明のある態様では、リコンビナントタンパク質は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインとN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインの間にスペーサーを含有する。「スペーサー」という用語は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインとN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを分離している連続アミノ酸であって、それによりスペーサーが触媒ドメインの酵素機能に影響を及ぼさない、任意の配列の任意のいくつかの連続アミノ酸を表す。典型的には、スペーサーは、少なくとも5、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、少なくとも40、または少なくとも50アミノ酸長である。ある態様では、スペーサーは、ステムドメイン由来の配列を含有する。「ステムドメイン」は、グリコシルトランスフェラーゼまたはグリコシルヒドロラーゼなどのネイティブな酵素の膜貫通ドメインに隣接して位置するタンパク質ドメインまたはそのフラグメントであって、場合によりその酵素をER/ゴルジ体にターゲティングするかまたはER/ゴルジ体でのその酵素の貯留を支援するタンパク質ドメインまたはそのフラグメントを表す。ステムドメインは、一般に、第1のアミノ酸で開始し、疎水性膜貫通ドメインが続き、触媒ドメインで終止する。例示的なステムドメインには、非限定的に、ヒトGnTIのステムドメイン、ヒトGnTIIについてのアミノ酸残基約30〜約83もしくは約30〜約105、またはT. reesei KRE2についてのアミノ酸残基約26〜約106もしくは約26〜約83が含まれる。スペーサーがステムドメイン由来の配列を含有するある態様では、スペーサーは、ヒトGnTI配列のアミノ酸30〜83番(配列番号34)を含む。他の態様では、スペーサーは、配列番号35〜38に列挙する任意の配列を含みうる。
適切なスペーサーのさらなる例には、非限定的に、フレキシブルスペーサー3×G4S(配列番号118)、フレキシブルスペーサー2×G4S(配列番号120)、T. reesei CBHIについてのスペーサー(配列番号122);およびT. reesei EGIVセルラーゼについてのスペーサー(配列番号124)が含まれる。
ある態様では、スペーサーの長さは、GnT1のステムドメインの長さとほぼ同じである。ある態様では、長さは、アミノ酸残基約74個±アミノ酸約37個である。例えば、スペーサーの長さは、アミノ酸約30個〜アミノ酸約110個、またはアミノ酸約35個〜アミノ酸約100個、または本明細書記載の実施例に例示するように、アミノ酸±2、3、4、または5個である。一態様では、スペーサー長は、GnT1の切断型ステムドメインに対応し、例えば、アミノ酸25〜アミノ酸104番から、またはアミノ酸30番からアミノ酸101番の間から開始し、GnT1ステムドメイン終止部までである。ある態様では、スペーサーは、ヒトGnT1のステムドメインの一部を含む場合があり、それは、アミノ酸70番からアミノ酸87番の間(配列番号34での番号付けによる)、またはアミノ酸76番からアミノ酸104番の間に位置するアミノ酸から開始し、またはアミノ酸30、35、40、45、50、60、70、73、74、75、76、80、83、84、85、86、87、100、101、102、103、または104番から開始し、ヒトGnT1ステムドメインの終末部まででありうる。他の態様では、スペーサーは、異種スペーサーペプチドを含む場合があり、それには、真菌スペーサーペプチドおよび/または反復オリゴマースペーサーペプチドが含まれうる。
典型的には、スペーサーは、特異的コンフォメーションを有さない伸長ペプチドであり、高い柔軟性(例えば、GlyおよびAla)、親水性(例えば、SerおよびThr)を可能にするアミノ酸残基、および場合によりコンフォメーションを阻止するためのProを含有する。スペーサーは、グリコシル化されている場合がある。ある態様では、スペーサーは、真菌O−マンノシル化を含めて、O−グリコシル化されている。ある態様では、スペーサーは、タンパク質ドメインを自然に分離するスペーサーなどの、内因性真菌、糸状菌、またはトリコデルマ属(Trichoderma)のスペーサーペプチドである。スペーサーは、糸状菌(例えばT. reesei)などの真菌の分泌酵素もしくはセルロース分解性酵素、そのフラグメント、またはそのスペーサーの多量体、および/またはそのフラグメントもしくはその突然変異アナログもしくは等価物から得ることができる。天然真菌スペーサーは、二量体性またはオリゴマー性のプロリンおよび/もしくはグリシンおよび/もしくはセリンおよび/もしくはトレオニン、ならびに/またはSer、Thr、Gly、ProもしくはAlaまたはその任意の組み合わせより選択される複数のアミノ酸残基を含有しうる。ある態様では、スペーサーは、Ser、Thr、Gly、ProまたはAlaより選択される1〜10または1〜5個のアミノ酸残基、および場合によりマイナス荷電残基GluもしくはAspまたはプラス荷電残基LysもしくはArgより選択される荷電アミノ酸残基を有するモノマーを含有する反復オリゴマーである。ある態様では、荷電残基はマイナス荷電している。ある態様では、モノマーは、二量体もしくはオリゴマー性アミノ酸残基、ならびに/またはSer、Thr、Gly、ProおよびAlaより選択される複数の単一アミノ酸残基を含有する。ある態様では、オリゴマーは、グリシンの二量体またはオリゴマーと、Ser、Thr、Gly、ProおよびAlaより選択される単一残基とのモノマーを含有する。ある態様では、単一の残基はSerまたはThrである。ある態様では、残基はSerである。ある態様では、反復スペーサーの配列は、{(Yyy)nXxx}mである[式中、nは2〜10であり、mは2〜10であり、XxxおよびYyyは、Ser、Thr、Gly、ProおよびAlaより選択され、但し、XxxおよびYyyは、同じアミノ酸残基ではない]。ある態様では、反復スペーサーは{(Gly)nXxx}mである[式中、nは2〜10であり、mは2〜10であり、Xxxは、Ser、Thr、Gly、ProおよびAlaより選択される]。ある態様では、XxxはSerまたはThrである。ある態様では、XxxはSerである。
ターゲティングペプチド
ある態様では、本発明のリコンビナントタンパク質は、触媒ドメインに結合したターゲティングペプチドを含む。本明細書に使用するような「結合した」という用語は、ポリペプチドの場合は2個のアミノ酸残基ポリマー、またはポリヌクレオチドの場合は2個のヌクレオチドポリマーが、相互に直接隣り合うようにカップリングされているか、または同じポリペプチドもしくはポリヌクレオチド内であるが介在性のアミノ酸残基もしくはヌクレオチドにより分離されているかのいずれかであることを意味する。本明細書に使用するような「ターゲティングペプチド」は、ホスト細胞内の小胞体(ER)またはゴルジ装置(Golgi)にリコンビナントタンパク質を局在化することができるリコンビナントタンパク質の任意の数の連続アミノ酸残基を表す。ターゲティングペプチドは、触媒ドメインに対してN末端側またはC末端側でありうる。ある態様では、ターゲティングペプチドは、触媒ドメインに対してN末端側である。ある態様では、ターゲティングペプチドは、ERまたはゴルジ成分(Golgi component)への、例えばマンノシダーゼII酵素への結合を提供する。他の態様では、ターゲティングペプチドは、ERまたはゴルジ膜への直接結合を提供する。
ターゲティングペプチドの成分は、普通はERまたはゴルジ装置にある任意の酵素に由来しうる。そのような酵素には、マンノシダーゼ、マンノシルトランスフェラーゼ、グリコシルトランスフェラーゼ、2型ゴルジタンパク質、ならびにMNN2、MNN4、MNN6、MNN9、MNN10、MNS1、KRE2、VAN1、およびOCH1酵素が含まれる。そのような酵素は、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クリソスポリウムス属(Chrysosporium)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フィロバシジウム属(Filobasidium)、フザリウム属(Fusarium)、ジベレラ属(Gibberella)、ヒュミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフソラ属(Myceliophthora)、ミロセシウム属(Myrothecium)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)、ピロミセス属(Piromyces)、シゾフィラム属(Schizophyllum)、タラロミセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、およびトリコデルマ属(Trichoderma)種などの酵母または真菌種に由来しうる。そのような酵素についての配列は、GenBank配列データベースから見出すことができる。
ある態様では、ターゲティングペプチドは、リコンビナントタンパク質の触媒ドメインの一つと同じ酵素および生物に由来する。例えば、リコンビナントタンパク質がヒトGnTII触媒ドメインを含む場合、リコンビナントタンパク質のターゲティングペプチドはヒトGnTII酵素に由来する。他の態様では、ターゲティングペプチドは、リコンビナントタンパク質触媒ドメインとは異なる酵素および/または生物に由来しうる。
本発明のターゲティングリコンビナントタンパク質に使用することができる、ERまたはゴルジへのタンパク質のターゲティングに使用するための様々なターゲティングペプチドの例には:ガラクトシルトランスフェラーゼに融合したKre2/Mnt1 N末端ペプチド(Schwientek, JBC 1996, 3398)、酵母細胞のERにマンノシダーゼを局在化してMan5を製造するためのHDEL(Chiba, JBC 1998, 26298-304; Callewaert, FEBS Lett 2001, 173-178)、GnTI触媒ドメインに融合したOCH1ターゲティングペプチド(Yoshida et al, Glycobiology 1999, 53-8)、α2−マンノシダーゼに融合した酵母Mns1 N末端ペプチド(Martinet et al, Biotech Lett 1998, 1171)、GnTIまたはβ4GalTの触媒ドメインに結合したKre2のN末端部分(Vervecken, Appl. Environ Microb 2004, 2639-46)、WildtおよびGerngross(Nature Rev Biotech 2005, 119)に総説された様々なアプローチ、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)での完全長GnTI(Kalsner et al, Glycocon. J 1995, 360-370)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)での完全長GnTI(Kasajima et al, Biosci Biotech Biochem 2006, 2662-8)、アスペルギルス属(Aspergillus)においてC. elegans GnTIに融合した酵母Sec12局在化構造の部分(Kainz et al 2008)、アスペルギルス属(Aspergillus)においてヒトGnTIに融合した酵母Mnn9のN末端部分(Kainz et al 2008)、ヒトGnTIに融合したアスペルギルス属(Aspergillus) Mnn10のN末端部分(Kainz et al, Appl. Environ Microb 2008, 1076-86)、およびT. reeseiでの完全長ヒトGnTI(Maras et al, FEBS Lett 1999, 365-70)が含まれる。
ある態様では、ターゲティングペプチドは、配列番号115または配列番号116のアミノ酸配列を有するKre2/Mnt1(すなわちKre2)ターゲティングペプチドである。
ターゲティングペプチドのために使用することができる配列のさらなる例には、下表1に列挙する配列が含まれる。
ホスト細胞におけるグリコシル化経路内のタンパク質を発現させること(ここで、タンパク質の一つが、特徴づけられていない配列を唯一のターゲティングペプチドとして含有する)およびグリカン生合成の細胞質局在化を考慮して、生成したグリカンを測定すること(例えばSchwientek JBC 1996 3398のように)によって、またはターゲティングペプチドと融合した蛍光レポータータンパク質を発現させること、および免疫蛍光によりゴルジでのタンパク質局在化を分析することによって、またはゴルジの細胞質膜を分画することおよびタンパク質の局在化を測定することによって、特徴づけられていない配列をターゲティングペプチドとしての使用について試験することができる。
ターゲティングペプチドは、ステムドメインを含みうる。ある態様では、ステムドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。とりわけある態様では、ステムドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素由来のステムドメインに対応する配列は、配列番号34である。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素由来のステムドメインに対応する配列は、配列番号20の残基30〜85である。
ターゲティングペプチドは、膜貫通ドメインを含みうる。「膜貫通ドメイン」は、膜内で三次元構造として熱力学的に安定な任意のアミノ酸残基配列を表す。ターゲティングペプチドがステムドメインも含む態様では、膜貫通ドメインはステムドメインに対してN末端側である。ある態様では、膜貫通ドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。特にある態様では、膜貫通ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素由来の膜貫通ドメインに対応する配列は、配列番号1の残基7〜29である。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素由来の膜貫通ドメインに対応する配列は、配列番号20の残基10〜29である。
ターゲティングペプチドは、細胞質ドメインを含みうる。「細胞質ドメイン」という用語は、細胞質環境内で三次元構造として熱力学的に安定なアミノ酸配列を表す。ターゲティングペプチドがステムドメインも含む態様では、細胞質ドメインはステムドメインに対してN末端側である。ターゲティングペプチドが膜貫通ドメインも含む態様では、細胞質ドメインは、膜貫通ドメインに対してN末端側である。ある態様では、細胞質ドメインは、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。特にある態様では、細胞質ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素またはヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素に由来する。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素由来の細胞質ドメインに対応する配列は、配列番号1の残基1〜6である。ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素由来の細胞質ドメインに対応する配列は、配列番号20の残基1〜9である。
ある態様では、リコンビナントタンパク質は、触媒ドメインの間にヒトGnTIステムドメイン配列を含有するスペーサー配列と共に、ヒトGnTI触媒ドメインに対してN末端側にヒトGnTII触媒ドメインを含有する。この態様では、リコンビナントタンパク質は、また、ヒトGnTII由来の細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、およびステムドメインと共に、GnTII触媒ドメインに対してN末端側にターゲティングペプチドを含む。この態様におけるリコンビナントタンパク質の配列は、配列番号95と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一であり、この態様のリコンビナントタンパク質をコードする、ありうるcDNAの配列は、配列番号96である。
他の態様では、リコンビナントタンパク質は、スペーサー配列と共に、ヒトGnTI触媒ドメインに対してN末端側にヒトGnTII触媒ドメインを含有する。スペーサー配列には、非限定的に、配列番号118、120、122、または124に少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一の配列が含まれうる。この態様では、リコンビナントタンパク質は、また、ヒトGnTII由来の細胞質ドメイン、膜貫通ドメイン、およびステムドメインと共に、GnTII触媒ドメインに対してN末端側にターゲティングペプチドを含む。したがって、ある態様では、リコンビナントタンパク質の配列は、配列番号119、121、123、および125より選択される配列に、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一である。ある態様では、配列番号119のリコンビナントタンパク質をコードする、ありうるcDNAの配列は、配列番号141である。他の態様では、配列番号121のリコンビナントタンパク質をコードする、ありうるcDNAの配列は、配列番号139である。なお他の態様では、配列番号123のリコンビナントタンパク質をコードする、ありうるcDNAの配列は、配列番号143である。さらなる態様では、配列番号125のリコンビナントタンパク質をコードする、ありうるcDNAの配列は、配列番号145である。
本発明のリコンビナントタンパク質の製造
本発明の別の局面には、本発明のリコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドが含まれる。本明細書に使用するような用語「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」、「核酸の配列」およびその変形は、DNAおよびRNAで見られるように塩基対形成および塩基スタッキングを可能にする配置で核酸塩基を含有することを条件として、ポリデオキシリボヌクレオチド(2−デオキシ−D−リボースを含有する)、ポリリボヌクレオチド(D−リボースを含有する)、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドである任意の他のタイプのポリヌクレオチド、および非ヌクレオチド骨格を含有する他のポリマーの一般名である。したがって、これらの用語には、既知のタイプの核酸配列改変、例えば、アナログによる一つまたは複数の天然ヌクレオチドの置換;ヌクレオチド間改変、例えば、非荷電結合を用いた改変(例えば、ホスホン酸メチル、ホスホトリエステル、ホスホロアミデート、カルバメートなど)、マイナス荷電結合を用いた改変(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、およびプラス荷電結合を用いた改変(例えば、アミノアルキルホスホロアミデート、アミノアルキルホスホトリエステル);例えばタンパク質などのペンダント部分を含有する改変(ヌクレアーゼ、毒素、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リシンなどを含む);インターカレーターを用いた改変(例えば、アクリジン、ソラレンなど);およびキレート剤を含有する改変(例えば、金属、放射性金属、ホウ素、酸化金属など)が含まれる。本明細書に使用するような、ヌクレオチドおよびポリヌクレオチドについての記号は、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochem. 9:4022, 1970)によって推奨される記号である。
単離されたポリヌクレオチドの配列は、例えば直接化学合成またはクローニングなどの、当業者に公知の任意の適切な方法によって調製される。直接化学合成のために、核酸ポリマーの形成は、典型的には、伸長途中のヌクレオチド鎖の末端5’−ヒドロキシル基への、3’−ブロックおよび5’−ブロックされたヌクレオチドモノマーの連続付加を伴い、ここで、各付加は、添加されたモノマー(典型的には、ホスホトリエステル、ホスホラミダイトなどのリン誘導体である)の3’位に対する伸長途中の鎖の末端5’−ヒドロキシル基の求核攻撃によって果たされる。そのような方法は、当業者に公知であり、関連する文書および文献に記載されている[例えば、Matteucci et al., (1980) Tetrahedron Lett 21:719-722;米国特許第4,500,707号;同第5,436,327号;および同第5,700,637号]。加えて、所望の配列は、適切な制限酵素を使用してDNAを開裂させること、ゲル電気泳動法を用いてフラグメントを分離すること、およびその後に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR;例えば米国特許第4,683,195号)の利用などの、当業者に公知の技法によりゲルから所望の核酸配列を回収することによって、天然供給源から単離することができる。
本発明の各ポリヌクレオチドは、発現ベクターに組み込むことができる。「発現ベクター」または「ベクター」は、ホスト細胞にトランスダクション、トランスフォーメーション、または感染することによって、その細胞にネイティブなもの以外の、またはその細胞にネイティブではない方法で、核酸および/またはタンパク質をその細胞に発現させる、化合物および/または組成物を表す。「発現ベクター」は、ホスト細胞により発現されるべき核酸配列(通常RNAまたはDNA)を含有する。場合により、発現ベクターは、また、ウイルス、リポソーム、タンパク質コーティングなどの、ホスト細胞への核酸の移行を達成することを助ける物質を含む。本発明での使用に考えられている発現ベクターには、核酸配列を任意のある種のまたは必要な作動エレメントと一緒に挿入できる発現ベクターが含まれる。さらに、発現ベクターは、ホスト細胞に導入されてその中で複製できる発現ベクターでなければならない。ある種の発現ベクターは、プラスミドであって、特に、文書により十分に立証された制限部位を有し、特にある種のまたは核酸配列の転写に必要な作動エレメントを含有するプラスミドである。そのようなプラスミドおよび他の発現ベクターは、当業者に周知である。
個別のポリヌクレオチドの組み込みは、例えば、発現ベクター、例えばプラスミド中の特定部位を切断するための制限酵素(BamHI、EcoRI、HhaI、XhoI、XmaIなど)の使用を含む公知の方法により達成することができる。制限酵素は、1本鎖末端を生成し、その1本鎖末端は、切断された発現ベクターの末端に対して配列が相補的な終端を有するまたは有するように合成されたポリヌクレオチドにアニーリングすることができる。アニーリングは、適切な酵素、例えばDNAリガーゼを使用して行われる。当業者に理解されているように、多くの場合、発現ベクターおよび所望のポリヌクレオチドの両方を同じ制限酵素で切断することによって、発現ベクターの末端とポリヌクレオチドの末端が相互に相補的であることが保証される。加えて、DNAリンカーを使用して、発現ベクターへの核酸配列の結合を容易にすることができる。
当業者に公知の方法(例えば、米国特許第4,683,195号)を利用することによって、一連の個別のポリヌクレオチドを組み合わせることもできる。
例えば、所望のポリヌクレオチドのそれぞれを最初に別々のPCRで産生することができる。その後、PCR生成物の末端が相補的配列を含有するような特異的プライマーを設計する。PCR生成物を混合し、変性させ、再アニーリングすると、その3’末端でマッチする配列を有する鎖が重複し、相互に対するプライマーとして作用することができる。DNAポリメラーゼによるこの重複の伸長により、最初の配列が一緒に「スプライシング」された分子が生成する。このように、一連の個別のポリヌクレオチドを一緒に「スプライシング」し、続いて、ホスト細胞に同時にトランスダクションすることができる。したがって、複数のポリヌクレオチドのそれぞれの発現が果たされる。
個別のポリヌクレオチド、または「スプライシングされた」ポリヌクレオチドは、次に発現ベクターに組み込まれる。本発明は、ポリヌクレオチドを発現ベクターに組み込む過程に関して限定されない。当業者は、発現ベクターにポリヌクレオチドを組み込むために必要なステップを熟知している。典型的な発現ベクターは、一つまたは複数の調節領域が先行する所望のポリヌクレオチドをリボソーム結合部位と共に含有し、リボソーム結合部位は、例えば、3〜9ヌクレオチド長のヌクレオチド配列であって、エシェリキア・コリ(E. coli)において開始コドンの3〜11ヌクレオチド上流に位置する。Shine and Dalgarno (1975) Nature 254(5495):34-38およびSteitz (1979) Biological Regulation and Development (ed. Goldberger, R. F.), 1:349-399 (Plenum, New York)を参照されたい。
本明細書に使用するような「作動可能に連結された」という用語は、制御配列がポリペプチドの発現を指令するように、その制御配列がDNA配列のコード配列またはポリヌクレオチドのコード配列に対して適切な位置に位置付けられる配置を表す。
調節領域には、例えばプロモーターおよびオペレーターを含有する領域が含まれる。プロモーターは、ポリペプチドをコードする所望のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド部分に作動可能に連結されることにより、RNAポリメラーゼ酵素を介して、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド部分の転写を開始する。オペレーターは、プロモーターに隣接する核酸配列であって、リプレッサータンパク質が結合できるタンパク質結合ドメインを含有する。リプレッサータンパク質の不在下で、転写はプロモーターを介して開始する。存在下では、オペレーターのタンパク質結合ドメインに特異的なリプレッサータンパク質は、オペレーターに結合することによって転写を阻害する。このように、使用される特定の調節領域および対応するリプレッサータンパク質の有無に基づいて、転写制御が達成される。例には、ラクトースプロモーター(Ladリプレッサータンパク質は、ラクトースと接触するとコンフォメーションを変化することで、Ladリプレッサータンパク質がオペレーターに結合することを阻止する)およびトリプトファンプロモーター(トリプトファンと複合体を形成しているとき、TrpRリプレッサータンパク質はオペレーターと結合するコンフォメーションを有し;トリプトファン不在下ではTrpRリプレッサータンパク質はオペレーターに結合しないコンフォメーションを有する)が含まれる。別の例は、tacプロモーターである(de Boer et al., (1983) Proc Natl Acad Sci USA 80(1):21-25参照)。当業者に理解されているように、これらの調節領域および他の調節領域を本発明に使用することができ、本発明はこの点に限定されない。
本発明のリコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドに連結するための特定のプロモーターの例には、以下の遺伝子由来のプロモーターが含まれる:gpdA、cbh1、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)TAKAアミラーゼ、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)アスパラギン酸プロテイナーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)中性α−アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)酸安定性α−アミラーゼ、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)グルコアミラーゼ(glaA)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)glaA、リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)リパーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)アルカリプロテアーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)トリオースリン酸イソメラーゼ、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)アセトアミダーゼ、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)アセトアミダーゼ、フザリウム・オキシスポルム(Fusarium oxysporum)トリプシン様プロテアーゼ、真菌エンドα−L−アラビナーゼ(abnA)、真菌α−L−アラビノフラノシダーゼA(abfA)、真菌α−L−アラビノフラノシダーゼB(abfB)、真菌キシラナーゼ(xlnA)、真菌フィターゼ、真菌ATP−シンテターゼ、真菌サブユニット9(oliC)、真菌トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、真菌アルコールデヒドロゲナーゼ(adhA)、真菌α−アミラーゼ(amy)、真菌アミログルコシダーゼ(glaA)、真菌アセトアミダーゼ(amdS)、真菌グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、酵母ラクターゼ、酵母3−ホスホグリセリン酸キナーゼ、酵母トリオースリン酸イソメラーゼ、細菌α−アミラーゼ、細菌Spo2、およびSSO。ある態様では、本発明のリコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドは、構成的プロモーターに作動可能に連結されている。他の態様では、本発明のリコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドは、誘導性プロモーターに作動可能に連結されている。特定の好ましい態様では、誘導性プロモーターはcbh1遺伝子に由来する。
所望の配列を組み込むために任意の適切な発現ベクターを使用することができるものの、容易に利用可能な発現ベクターには、非限定的に:pSClOl、pBR322、pBBRlMCS−3、pUR、pEX、pMRlOO、pCR4、pBAD24、pUC19などのプラスミド;Ml3ファージおよびλファージなどのバクテリオファージが含まれる。もちろん、そのような発現ベクターは、特定のホスト細胞だけに適切でありうる。しかし、当業者は、任意の特定の発現ベクターが任意の所与のホスト細胞に適するかどうかを日常的な実験作業により容易に判定することができる。例えば、発現ベクターをホスト細胞に導入し、次に生存率およびそのベクターに含有される配列の発現についてそのホスト細胞をモニターすることができる。加えて、発現ベクターおよび任意の特定のホスト細胞に対するその適合性について記載している関連文書および文献を参照することができる。
本発明の別の局面には、本発明のリコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを含有するホスト細胞が含まれる。本明細書に使用するような「ホスト細胞」は、リコンビナントDNAまたはRNAの挿入によりトランスフォーメーションできる、生きた生物学的細胞を表す。そのようなリコンビナントDNAまたはRNAは、発現ベクター中にありうる。したがって、本明細書記載のホスト細胞は、原核生物(例えば、真正細菌界の生物)または真核細胞でありうる。当業者によって理解されているように、原核細胞は膜結合型の核を欠如しており、一方で真核細胞は膜結合型の核を有する。ある態様では、本発明のリコンビナントタンパク質の製造のために使用されるホスト細胞は、酵母または糸状菌などの真菌細胞である。他の態様では、ホスト細胞は哺乳動物細胞である。そのような細胞は、ヒト性または非ヒト性でありうる。
本発明の別の局面には、本発明のリコンビナントタンパク質を製造する方法が含まれる。その方法は、リコンビナントタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドをホスト細胞に導入するステップ、およびリコンビナントタンパク質が発現されるようにホスト細胞を培養するステップを含む。その方法は、ホスト細胞からリコンビナントタンパク質を精製するステップも含みうる。
本発明のリコンビナントタンパク質を製造する方法は、ホスト細胞中への本発明のリコンビナントポリヌクレオチドを含有する発現ベクターの導入または移行を含みうる。ホスト細胞中に発現ベクターを移行させるためのそのような方法は、当業者に周知である。例えば、エシェリキア・コリ(E. coli)に発現ベクターをトランスフォーメーションするための一方法は、発現ベクターがカルシウム沈殿を経て導入される塩化カルシウム処理を伴う。他の塩、例えばリン酸カルシウムも、類似の手順により使用されうる。加えて、エレクトロポレーション(すなわち、核酸配列への細胞透過性を増加させる電流の適用)を使用してホスト細胞にトランスフェクションすることができる。同様に、核酸配列のマイクロインジェクションは、ホスト細胞にトランスフェクションする能力を提供する。複合脂質、リポソーム、およびデンドリマーなどの他の手段も採用してもよい。当業者は、これらの方法または他の方法を使用して、ホスト細胞に所望の配列をトランスフェクションすることができる。
ベクターは、自律的複製ベクター、すなわち染色体外実体として存在し、その複製が染色体の複製に依存しないベクター、例えば、プラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、または人工染色体でありうる。ベクターは、自己複製を保証するための任意の手段を含有しうる。または、ベクターは、ホストに導入されたときにゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体(一つまたは複数)と一緒に複製されるベクターでありうる。さらに、単一のベクターもしくはプラスミド、またはホストのゲノムに導入されるべき総DNAを一緒になって含有する2種以上のベクターまたはプラスミド、またはトランスポゾンを使用することができる。
ベクターは、トランスフォーメーションされたホストの容易な選択を許す一つまたは複数の選択マーカーを含有しうる。選択マーカーは、その生成物が、例えば生命破壊またはウイルス耐性、重金属耐性、原栄養性から栄養要求株までなどを提供する遺伝子である。細菌細胞の選択は、amp、gpt、neo、およびhyg遺伝子などの遺伝子により付与された微生物耐性に基づきうる。
酵母ホストのために適切なマーカーは、例えば、ADE2、HIS3、LEU2、LYS2、MET3、TRP1、およびURA3である。糸状菌ホストに使用するための選択マーカーには、非限定的に、amdS(アセトアミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、bar(ホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼ)、hph(ヒグロマイシンホスホトランスフェラーゼ)、niaD(硝酸還元酵素)、pyrG(オロチジン5’−リン酸デカルボキシラーゼ)、sC(硫酸アデニルトランスフェラーゼ)、およびtrpC(アントラニル酸シンターゼ)、ならびにその等価物が含まれる。アスペルギルス属(Aspergillus)に使用するためのいくつかは、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)またはアスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)のamdSおよびpyrG遺伝子ならびにストレプトマイセス・ハイグロスコピクス(Streptomyces hygroscopicus)のbar遺伝子である。トリコデルマ属(Trichoderma)に使用するためのいくつかは、bar、pyr4、およびamdSである。
ベクターは、ホストのゲノムへのベクター組み込み、またはそのゲノムと無関係な細胞中でのベクターの自律的複製を許すエレメント(一つまたは複数)を含有しうる。
ベクターは、ホストのゲノムへの組み込みのために、遺伝子配列に依存する場合があり、または相同もしくは非相同組み換えによるゲノムへのベクターの組み込みのために、ベクターの任意の他のエレメントに依存する場合がある。または、ベクターは、相同組み換えによるホストゲノムへの組み込みを指令するために、追加的なヌクレオチド配列を含有しうる。追加的なヌクレオチド配列は、ベクターが染色体(一つまたは複数)中の正確な位置(一つまたは複数)でホストゲノムに組み込みできるようにする。組み込みエレメントは、正確な位置での組み込みの見込みを増加させるために、100〜10,000塩基対、好ましくは400〜10,000塩基対、最も好ましくは800〜10,000塩基対などの十分な数の核酸を含有する場合があり、それらは、相同組み換えの確率を高めるために、対応するターゲット配列と高度に相同である。組み込みエレメントは、ホストのゲノム中のターゲティング配列と相同な任意の配列でありうる。さらに、組み込みエレメントは、非コードまたはコードヌクレオチド配列でありうる。他方で、ベクターを、非相同組み換えによりホストのゲノムに組み込んでもよい。
自律的複製のために、ベクターは、さらに、そのベクターが問題となるホスト中で自律的複製できるようにする複製起点を含みうる。複製起点は、細胞内で機能する、自律的複製を仲介する任意のプラスミドレプリケーターでありうる。「複製起点」または「プラスミドレプリケーター」という用語は、本明細書において、プラスミドまたはベクターがin vivo複製できるようにする配列として定義される。酵母ホストに使用するための複製起点の例は、2ミクロン複製起点、ARS1、ARS4、ARS1とCEN3の組み合わせ、およびARS4とCEN6の組み合わせである。糸状菌細胞において有用な複製起点の例は、AMA1およびANS1(Gems et al., 1991; Cullen et al., 1987;国際公開公報第00/24883号)である。AMA1遺伝子の単離およびその遺伝子を含むプラスミドまたはベクターの構築は、国際公開公報第00/24883号に開示された方法に従って達成することができる。
他のホストについて、トランスフォーメーション手順は、例えばクリベロマイセス属(Kluyveromyces)についてJeremiah D. Read, et al., Applied and Environmental Microbiology, Aug. 2007, p. 5088-5096に、ザイモモナス属(Zymomonas)についてOsvaldo Delgado, et al., FEMS Microbiology Letters 132, 1995, 23-26に、ピキア・スチピチス(Pichia stipitis)について米国特許第7,501,275号に、クロストリジウム属(Clostridium)について国際公開公報第2008/040387号に見出すことができる。
1コピーよりも多い遺伝子をホストに挿入して遺伝子生成物の生成を増加させることができる。遺伝子のコピー数の増加は、遺伝子の少なくとも1個の追加的なコピーをホストゲノムに組み込むことにより、または増幅可能な選択マーカー遺伝子をヌクレオチド配列と一緒に入れることにより得ることができ、その際、選択マーカー遺伝子の増幅コピーを含有する細胞、すなわち遺伝子の追加的なコピーを含有する細胞を、適切な選択剤の存在下で培養することにより選択することができる。
上記エレメントをライゲーションして本発明のリコンビナント発現ベクターを構築するために使用される手順は、当業者に周知である(例えば、Sambrook et al., 1989、上記参照)。
ホスト細胞に少なくとも一つの発現ベクターがトランスフォーメーションされる。発現ベクターを一つだけ使用する場合(中間体の添加なし)、ベクターは、必要な核酸配列の全てを含有する。
ホスト細胞に発現ベクターをトランスフォーメーションしたら、ホスト細胞を成長させる。本発明の方法は、細胞中でリコンビナント核酸が発現されるようにホスト細胞を培養することを含みうる。微生物ホストについて、このプロセスは、細胞を適切な培地中で培養することを必要とする。典型的には、細胞は適切な培地中で35℃にて成長される。本発明におけるある種の成長培地には、例えば、Luria-Bertani(LB)ブロス、Sabouraudデキストロース(SD)ブロスまたは酵母培地(YM)ブロスなどの一般的な市販の調製済み培地が含まれる。他の限定成長培地または合成成長培地も使用することができ、特定のホスト細胞の成長に適切な培地は、微生物学または発酵科学の技術者に公知であろう。成長に適切な温度範囲および他の条件は、当技術分野において公知である(例えば、Bailey and Ollis 1986参照)。
ホスト細胞から本発明のリコンビナントタンパク質を精製するための方法は、当技術分野において周知である(E. L. V. Harris and S. Angel, Eds. (1989) Protein Purification Methods: A Practical Approach, IRL Press, Oxford, England参照)。そのような方法には、非限定的に、分取用ディスクゲル電気泳動、等電点電気泳動、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、ゲル濾過、イオン交換および分配クロマトグラフィー、ならびに向流分配、ならびにその組み合わせが含まれる。ある態様では、リコンビナントタンパク質は、精製を容易にするために追加的な配列タグを有する。そのようなマーカーには、エピトープタグおよびタンパク質タグが含まれる。エピトープタグの非限定的な例には、c−myc、ヘマグルチニン(HA)、ポリヒスチジン(6×−HIS)、GLU−GLU、およびDYKDDDDK(FLAG)(配列番号117)エピトープタグが含まれる。エピトープタグは、いくつかの確立された方法によりペプチドに付加することができる。エピトープタグのDNA配列は、オリゴヌクレオチドとして、またはPCR増幅に使用されるプライマーにより、リコンビナントタンパク質コード配列に挿入することができる。代替として、ペプチドコード配列は、エピトープタグとの融合体を生み出す特異的ベクター;例えばpRSETベクター(Invitrogen Corp., San Diego, Calif.)にクローニングすることができる。タンパク質タグの非限定的な例には、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、およびマルトース結合タンパク質(MBP)が含まれる。タンパク質タグは、いくつかの周知の方法によりペプチドまたはポリペプチドに結合される。一アプローチでは、ポリペプチドまたはペプチドのコード配列は、ポリペプチドまたはペプチドと、関心がもたれるタンパク質タグとの間の融合体を生み出すベクターにクローニングすることができる。適切なベクターには、非限定的に、例示的なプラスミドpGEX(Amersham Pharmacia Biotech, Inc., Piscataway、N.J.)、pEGFP(CLONTECH Laboratories, Inc., Palo Alto, Calif.)、およびpMAL(商標)(New England BioLabs, Inc., Beverly, Mass.)が含まれる。発現に続いて、適切な固相マトリックスを用いたクロマトグラフィーにより、ホスト細胞の粗溶解液からエピトープタグまたはタンパク質タグの付いたポリペプチドまたはペプチドを精製することができる。いくつかの場合では、精製に続いてエピトープタグまたはタンパク質タグを除去する(すなわちプロテアーゼ切断による)ことが好ましい場合がある。
複合グリカンを製造する方法
本発明の別の局面には、ホスト細胞を提供するステップ(ここで、ホスト細胞は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する)および融合タンパク質が発現されるようにホスト細胞を培養するステップ(ここで、融合タンパク質は、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンおよび末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒して複合N−グリカンを製造する)を含む、複合N−グリカンを製造する方法が含まれる。ある態様では、この局面には、トリコデルマ属(Trichoderma)細胞においてヒト様N−グリカンを製造する方法が含まれる。
本明細書に使用するような、「複合N−グリカン」という用語は、末端GlcNAc2Man3構造を含むN−グリカンを表す。
複合N−グリカンには、式[GlcNAcβ2]zManα3([GlcNAcβ2]wManα6)Man{β4GlcNAcβ(Fucαx)n[4GlcNAc]m}p(式中、n、m、およびpは、0または1であり、分子の部分の存在または不在を示すが、但し、mが0の場合、nは0であり(フコースは、GlcNAcに結合した枝である)、xは3または6であり、()は構造中の枝を定義し、[]は直鎖配列中に存在するかまたは不在のグリカン構造の一部を定義し、zおよびwは0または1である)を有する任意のグリカンが含まれる。好ましくは、wおよびzは1である。ある態様では、複合N−グリカンには、
GlcNAcβ2Manα3(GlcNAcβ2Manα6)Manβ4GlcNAcβ4GlcNAc、
GlcNAcβ2Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4GlcNAc、
GlcNAcβ2Manα3(GlcNAcβ2Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucα6)GlcNAc、
GlcNAcβ2Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4(Fucα6)GlcNAc、および
Manα3(Manα6)Manβ4GlcNAcβ4GlcNAc
が含まれる。ある態様では、複合N−グリカンは、真菌非フコシル化GlcNAcMan3、GlcNAc2Man3、および/またはMan3である。
ある態様では、複合N−グリカンを製造する方法は、異なるグリカンの混合物を産生する。複合N−グリカンは、そのようなグリカン混合物の少なくとも1%、少なくとも3%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも50%、または少なくとも75%以上を構成しうる。
アクセプター性グリカン、したがって複合N−グリカンは、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドなどの分子に結合している場合がある。ある態様では、アミノ酸誘導体は、アスパラギン残基である。アスパラギン残基は、側鎖アミドからのアミノグリコシド結合(生物学的哺乳動物ポリペプチドN−グリカン結合構造)の場合があり、ジペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドなどのペプチド鎖の部分の場合がある。グリカンは、還元末端誘導体、例えば還元性GlcNAcまたはManのN、O、またはC結合型誘導体、好ましくはグリコシド誘導体、アミノ酸、アルキル、ヘテロアルキル、アシル、アルキルオキシ、アリール、アリールアルキル、およびヘテロアリールアルキルの群より選択される、あるグリカン結合型構造を有するスペーサーまたは末端有機残基などでありうる。スペーサーは、さらに、多価担体または固相に結合している場合がある。ある態様では、アルキル含有構造には、メチル、エチル、プロピル、およびC4−C26アルキル、グリセロ脂質、リン脂質、ドリコール−リン脂質およびセラミドなどの脂質、ならびに誘導体が含まれる。還元末端は、また、第二級アミン結合または誘導体構造への還元アミノ化により誘導体化することができる。ある担体には、例えば(ポリ)ペプチド、多糖、例えばデキストラン、セルロース、アミロース、またはグリコサミノグリカンなどの生体高分子またはオリゴマー、ならびにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(例えばナイロンまたはポリスチレン)、ポリアクリルアミド、およびポリ乳酸を含めたプラスチック、PAMAM、StarburstまたはStarfishデンドリマーなどのデンドリマー、またはポリリシンおよびポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキルグリコールなどの他の有機ポリマーまたはオリゴマーが含まれる。固相には、マイクロタイターウェル、シリカ粒子、ガラス、金属(鋼、金および銀が含まれる)、ポリスチレンまたは樹脂ビーズ、ポリ乳酸ビーズ、多糖ビーズまたは有機スペーサー含有磁気ビーズなどのポリマービーズが含まれうる。
ある態様では、アクセプター性グリカンは、異種ポリペプチドに結合している。ある態様では、異種ポリペプチドは、治療用タンパク質である。治療用タンパク質には、モノクローナル抗体、エリスロポエチン、インターフェロン、成長ホルモン、酵素、または凝固因子が含まれる場合があり、治療用タンパク質は、ヒトまたは動物の処置に有用でありうる。例えば、アクセプター性グリカンは、リツキシマブなどの治療用タンパク質に結合している場合がある。
アクセプター性グリカンは、「本発明のリコンビナントタンパク質」という標題の節に記載された任意のアクセプター性グリカンでありうる。
ある態様では、アクセプター性グリカンは、Man5でありうる。そのような態様では、ランダム組み込みを用いて、またはMan5グリコシル化に影響しないことが知られている公知の部位へのターゲット組み込みによって、Man5発現性T. reesei株にGnTII/GnTI融合酵素をトランスフォーメーションする。GlcNAcMan5を生成する株を選択する。選択された株に、さらに、Man5構造を切断することができるマンノシダーゼII型マンノシダーゼの触媒ドメインをトランスフォーメーションする。ある態様では、マンノシダーゼII型酵素はグリコシドヒドロラーゼファミリー38(cazy.org/GH38_all.html)に属する。特徴づけられた酵素には、cazy.org/GH38_characterized.htmlに列挙された酵素が含まれる。特に有用な酵素は、サブファミリーα−マンノシダーゼII(Man2A1;ManA2)の酵素のような、糖タンパク質を切断するゴルジ型酵素である。そのような酵素の例には、ヒト酵素AAC50302、ドロソフィラ・メラノガスター(D. melanogaster)酵素(Van den Elsen J.M. et al (2001) EMBO J. 20: 3008-3017)、PDB参照名1HTYに従う3D構造を有する酵素、およびPDBにおいて触媒ドメインで参照された他の酵素が含まれる。細胞質での発現のために、マンノシダーゼの触媒ドメインは、典型的にはN末端ターゲティングペプチドと融合されるか、または動物もしくは植物マンノシダーゼII酵素の内因性動物もしくは植物ゴルジ体ターゲティング構造と共に発現される。マンノシダーゼII型マンノシダーゼの触媒ドメインをトランスフォーメーション後に、GlcNAc2Man3を効率的に製造している株を選択する。
ホスト細胞
複合N−グリカンを製造する方法は、ホスト細胞を提供する第1のステップを含む。核酸配列をトランスフォーメーション後に生存性を維持する限り、任意の原核または真核ホスト細胞を本発明に使用することができる。好ましくは、ホスト細胞は、必要な核酸配列のトランスダクション、その後のリコンビナントタンパク質の発現、または生じた中間体によって不利に影響されない。適切な真核細胞には、非限定的に、真菌、植物、昆虫または哺乳動物細胞が含まれる。
ある態様では、ホストは真菌株である。本明細書に使用するような「真菌」には、門嚢菌門(Ascomycota)、担子菌門(Basidiomycota)、ツボカビ門(Chytridiomycota)、および接合菌門(Zygomycota)(Hawksworth et al., In, Ainsworth and Bisby's Dictionary of The Fungi, 8th edition, 1995, CAB International, University Press, Cambridge, UKにより定義されている)ならびに卵菌(Oomycota)(Hawksworth et al., 1995、上記、171ページに引用されている)ならびに全ての栄養胞子形成菌(Hawksworth et al., 1995、上記)が含まれる。
特定の態様では、真菌ホストは酵母株である。本明細書に使用するような「酵母」には、子嚢菌酵母(Endomycetales)、担子菌酵母、および不完全菌に属する酵母(Blastomycetes)が含まれる。酵母の分類が将来変わるおそれがあるので、本発明のために、酵母をBiology and Activities of Yeast(Skinner, F. A., Passmore, S. M., and Davenport, R. R., eds, Soc. App. Bacteriol. Symposium Series No. 9, 1980)に記載されているように定義するものとする。
ある態様では、酵母ホストは、カンジダ属(Candida)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クリヴェロマイセス属(Kluyveromyces)、ピキア属(Pichia)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、またはヤロウイア属(Yarrowia)株である。
ある態様では、酵母ホストは、サッカロミセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)、クリベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、シゾサッカロミセス属(Schizosaccharomyces)、またはヤロウイア属(Yarrowia)である。
別の特定の態様では、真菌ホスト細胞は糸状菌株である。「糸状菌」には、全ての糸状形態の亜門EumycotaおよびOomycota(Hawksworth et al., 1995、上記によって定義されている)が含まれる。糸状菌は、一般に、キチン、セルロース、グルカン、キトサン、マンナン、および他の複合多糖から構成される菌糸体壁によって特徴づけられる。栄養成長は菌糸の伸長によるものであり、炭素異化は偏性好気性である。対照的に、サッカロミセス・セルビジエ(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母による栄養成長は、単細胞性葉状体の出芽によるものであり、炭素異化は発酵によるものでありうる。
糸状菌ホスト細胞は、例えば、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、フザリウム属(Fusarium)、ヒュミコラ属(Humicola)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフソラ属(Myceliophthora)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、スキタリジウム属(Scytalidium)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、またはトリコデルマ属(Trichoderma)株でありうる。
ある態様では、糸状菌ホスト細胞は、トリコデルマ属種(Trichoderma sp.)、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クリソスポリウムス属(Chrysosporium)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、フザリウム属(Fusarium)、ジベレラ属(Gibberella)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフソラ属(Myceliophthora)、ミロセシウム属(Myrothecium)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)、ピロミセス属(Piromyces)、シゾフィラム属(Schizophyllum)、タラロミセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、またはトリポクラジウム属(Tolypocladium)株である。
ある態様では、ホスト細胞は哺乳動物細胞である。そのような細胞は、ヒトまたは非ヒト細胞でありうる。
他のある態様では、ホスト細胞は、原核性であり、ある態様では、その原核生物は、エシェリキア・コリ(E. coli)、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)、クロストリジウム種(Clostridium sp.)、クロストリジウム・フィトフェルメンタス(Clostridium phytofermentans)、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム・ベイジェリンキイ(Clostridium beijerinckii)、クロストリジウム・アセトブチリカム(モーレラ・サーモアセティカ)(Clostridium acetobutylicum(Moorella thermoacetica))、サーモアナエロバクテリウム・サッカロリティカム(Thermoanaerobacterium saccharolyticum)、またはクレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)である。他の態様では、原核ホスト細胞は、カルボキシドセラカルボキシドセラ種(Carboxydocella sp.)、コルネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)、エンテロバクテリアセエ科(Enterobacteriaceae)、エルウィニア・クリサンテミ(Erwinia chrysanthemi)、ラクトバチルス種(Lactobacillus sp.)、ペディオコッカス・アシヂラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ロドシュードモナス・カプスラタ(Rhodopseudomonas capsulata)、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ビブリオ・ファーニシイ(Vibrio furnissii)、ビブリオ・ファーニシイM1(Vibrio furnissii M1)、カルディセルロシルブター・サッカロリティカス(Caldicellulosiruptor saccharolyticus)、またはザントモナス・カンペストリス(Xanthomonas campestris)である。他の態様では、ホスト細胞はシアノバクテリアである。細菌ホスト細胞の追加的な例には、非限定的に、エシェリキア属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、アゾトバクター属(Azotobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、バチルス属(Bacillus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、シゲラ属(Shigella)、リゾビア属(Rhizobia)、ビトレシラ属(Vitreoscilla)、シネココックス属(Synechococcus)、シネコシスティス属(Synechocystis)、およびパラコッカス属(Paracoccus)分類網に割当てられる種が含まれる。
複合N−グリカンを製造するための本発明の方法において、その方法は、融合タンパク質が発現されるようにホスト細胞を培養するステップを含む。微生物ホストについて、このプロセスは、細胞を適切な培地中で培養することを必要とする。典型的には、細胞は適切な培地中で35℃で成長される。本発明におけるある成長培地には、例えば、Luria-Bertani(LB)ブロス、Sabouraudデキストロース(SD)ブロスまたは酵母培地(YM)ブロスなどの一般的な市販の調製済み培地が含まれる。他の限定成長培地または合成成長培地も使用することができ、特定のホスト細胞の成長に適切な培地は、微生物学または発酵科学の技術者に公知である。成長に適切な温度範囲および他の条件は、当技術分野において公知である(例えば、Bailey and Ollis 1986参照)。ある態様では、細胞培養物のpHは3.5から7.5の間、4.0から7.0の間、4.5から6.5の間、5から5.5の間、または5.5である。
複合N−グリカンを製造する方法に使用されるホスト細胞は、「発明のリコンビナントタンパク質」という標題の節に記載された任意の本発明のリコンビナントタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する。ある態様では、ホスト細胞は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有し、ここで、融合タンパク質は、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンおよび末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒して複合N−グリカンを製造する。
ある態様では、ホスト細胞は、UDP−GlcNAcトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含有する。UDP−GlcNAcトランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、ホスト細胞に内因性(すなわち、自然に存在する)であってもよく、またはそのポリヌクレオチドは、ホスト細胞に異種であってもよい。
ある態様では、ホスト細胞は、α−1,2−マンノシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する。α−1,2−マンノシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、ホスト細胞に内因性であってもよく、またはそのポリヌクレオチドは、ホスト細胞に異種であってもよい。これらのポリヌクレオチドは、効率的なエキソ−α−2−マンノシダーゼ切断をされずにゴルジ体からERに移行した高マンノースグリカンを発現しているホスト細胞に特に有用である。α−1,2−マンノシダーゼは、グリコシドヒドロラーゼファミリー47(cazy.org/GH47_all.html)に属するマンノシダーゼI型酵素でありうる。ある態様では、α−1,2−マンノシダーゼは、cazy.org/GH47_characterized.htmlに列挙された酵素である。特に、α−1,2−マンノシダーゼは、ER性α−マンノシダーゼI EC3.2.1.113酵素サブファミリー中の酵素などの、糖タンパク質を切断するER型酵素でありうる。そのような酵素の例には、ヒトα−2−マンノシダーゼ1B(AAC26169)、哺乳動物ERマンノシダーゼの組み合わせ、またはα−1,2−マンノシダーゼ(MDS1)などの糸状菌酵素が含まれる(T. reesei AAF34579;Maras M et al J Biotech. 77, 2000, 255)。細胞質発現のために、マンノシダーゼの触媒ドメインは、典型的には、HDEL、KDEL、またはERタンパク質もしくは初期ゴルジ体タンパク質の部分などのターゲティングペプチドと融合されるか、あるいは動物または植物マンノシダーゼI酵素の内因性ERターゲティング構造と共に発現される。
ある態様では、ホスト細胞は、ガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する。ガラクトシルトランスフェラーゼは、末端N−アセチルグルコサミニル残基にβ−結合型ガラクトシル残基を転移する。ある態様では、ガラクトシルトランスフェラーゼはβ−4−ガラクトシルトランスフェラーゼである。一般に、β−4−ガラクトシルトランスフェラーゼは、CAZyグリコシルトランスフェラーゼファミリー7に属し(cazy.org/GT7_all.html)、これには、N−アセチルラクトサミンシンターゼ(EC2.4.1.90)としても知られている、β−N−アセチルグルコサミニル−グリコペプチドβ−1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.38)が含まれる。有用なサブファミリーには、β4−GalT1、β4−GalT−II、−III、−IV、−V、および−VI、例えば哺乳動物もしくはヒトβ4−GalTIもしくはβ4GalT−II、−III、−IV、−V、および−VI、またはその任意の組み合わせが含まれる。β4−GalT1、β4−GalTII、またはβ4−GalTIIIは、特に、GlcNAcMan3、GlcNAc2Man3、またはGlcNAcMan5などのN−グリカン上の末端GlcNAcβ2構造のガラクトシル化にとって有用である(Guo S. et al. Glycobiology 2001, 11:813-20)。触媒領域の三次元構造が公知であり(例えば(2006) J.Mol.Biol. 357: 1619-1633)、その構造は、PDBデータベース中にコード2FYDで描写されている。CAZyデータベースは、ある種の酵素の例を含んでいる。特徴づけられた酵素もまた、cazy.org/GT7_characterized.htmlのCAZyデータベース中に列挙されている。有用なβ4GalT酵素の例には、β4GalT1、例えばウシBos taurus酵素AAA30534.1(Shaper N.L. et al Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83 (6), 1573-1577 (1986))、ヒト酵素(Guo S. et al. Glycobiology 2001, 11:813-20)、およびMus musculus酵素AAA37297(Shaper, N.L. et al. 1998 J. Biol. Chem. 263 (21), 10420-10428);β4GalTII酵素、例えばヒトβ4GalTII BAA75819.1、チャイニーズハムスターCricetulus griseus AAM77195、Mus musculus酵素BAA34385、およびニホンメダカOryzias latipes BAH36754;ならびにβ4GalTIII酵素、例えばヒトβ4GalTIII BAA75820.1、チャイニーズハムスターCricetulus griseus AAM77196およびMus musculus酵素AAF22221が含まれる。
ガラクトシルトランスフェラーゼは、ホスト細胞の細胞質中に発現されうる。Schwientek J.Biol. Chem 1996 3398に記載されたKre2ペプチドなどの異種ターゲティングペプチドを使用することができる。ガラクトシルトランスフェラーゼの発現のために使用することができるプロモーターには、gpdなどの構成的プロモーター、ゴルジ体またはERでN−グリカンを合成する内因性グリコシル化酵素およびマンノシルトランスフェラーゼなどのグリコシルトランスフェラーゼのプロモーター、ならびにcbh1プロモーターなどの高収量内因性タンパク質の誘導性プロモーターが含まれる。
ホスト細胞がガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明のある態様では、ホスト細胞は、UDP−Galおよび/またはUDP−Galトランスポーターをコードするポリヌクレオチドも含有する。ホスト細胞がガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明のある態様では、ホスト細胞を培養する場合にグルコースの代わりにラクトースを炭素源として使用してもよい。培地は、pH4.5から7.0の間または5.0から6.5の間でありうる。ホスト細胞が、ガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドおよびUDP−Galおよび/またはUDP−Galトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明のある態様では、Mn2+、Ca2+またはMg2+などの二価陽イオンが細胞培養培地に添加される場合がある。
ある態様では、ホスト細胞は、シアリルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する。シアリルトランスフェラーゼは、Neu5Acなどのα3−またはα6−結合型シアル酸をガラクトシル化複合グリカンの末端Galに転移する。適切なシアリルトランスフェラーゼの例は、グリコシル化タンパク質ファミリー29(cazy.org/GT29.html)から見出すことができる。有用なα3−またはα6−シアリルトランスフェラーゼには、特定のサブファミリーST6Gal−Iを有するβ−ガラクトシドα−2,6−シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.1)、およびβ−ガラクトシドα−2,3−シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.4)との交差反応性がありうるN−アセチルラクトサミニドα−2,3−シアリルトランスフェラーゼ(EC2.4.99.6)が含まれる。有用なサブタイプのα3−シアリルトランスフェラーゼには、ST3Gal−IIIおよびST3Gal−IVが含まれる。これらのうち、ある酵素学的に特徴づけられた種は、グリコシル化酵素のCAZyデータベースに特徴づけられたように列挙されている(cazy.org/GT29_characterized.html)。α3−またはα6−結合型シアリルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドは、ホスト細胞に内因性であってもよく、またはホスト細胞に異種であってもよい。ホスト細胞でのシアリル化は、特に真菌、植物、線虫/寄生虫、または昆虫細胞における、CMP−Neu5AcなどのドナーCMP−シアル酸を合成する酵素の発現を必要としうる。
ホスト細胞は、増加または低下した活性レベルの様々な内因性酵素を有しうる。低下した活性レベルは、阻害剤、抗体などを用いて内因性酵素の活性を阻害することにより提供されうる。ある態様では、ホスト細胞は、様々な内因性酵素の活性を増加または低下するやり方で遺伝的に改変される。「遺伝的に改変」は、ポリペプチドを増加したレベルで、低下したレベルで、または突然変異した形態で発現する原核または真核ホスト細胞を生み出すために使用される任意のリコンビナントDNAまたはRNA法を表す。言い換えると、リコンビナントポリヌクレオチド分子がホスト細胞にトランスフェクション、トランスフォーメーション、またはトランスダクションされ、その結果、所望のタンパク質の発現を変更するように、その細胞は変更されている。
遺伝子発現、遺伝子の機能、または遺伝子生成物(すなわち、遺伝子によってコードされるタンパク質)の機能低下を生じる遺伝的改変は、遺伝子発現の不活性化(完全または部分的)、欠失、中断、遮断、サイレンシング、またはダウンレギュレーション、または減弱と呼ぶことができる。例えば、遺伝子によりコードされるタンパク質の機能低下を生じる、そのような遺伝子における遺伝的改変は、遺伝子の完全欠失(すなわち、その遺伝子が存在しないことにより、タンパク質が存在しない)、タンパク質の不完全な翻訳もしくは無翻訳を生じる(例えば、タンパク質が発現されない)遺伝子突然変異、またはタンパク質の自然機能を低下させるもしくは打ち消す遺伝子突然変異(例えば、酵素活性もしくは作用が減少もしくは消失したタンパク質が発現される)の結果でありうる。より具体的には、本明細書に論じされたタンパク質の作用を減少させることへの参照は、一般に、タンパク質の発現および/または機能性(生物学的活性)の低下を生じる、問題となるホスト細胞における任意の遺伝的改変を表し、それには、タンパク質の活性低下(触媒作用減少)、タンパク質の阻害または分解の増加、およびタンパク質の発現の低下または消失が含まれる。例えば、本発明のタンパク質の作用または活性は、タンパク質の生成を遮断もしくは低下させること、タンパク質の作用を低下させること、またはタンパク質の作用を阻害することによって減少させることができる。これらの改変のいくつかの組み合わせも可能である。タンパク質の生成を遮断または低下させることは、そのタンパク質をコードする遺伝子を、成長培地中に誘導化合物の存在を必要とするプロモーターのコントロール下に置くことを含みうる。誘導因子が培地から枯渇するように条件を確立することによって、タンパク質をコードする遺伝子の発現(したがって、タンパク質合成)を止めることができよう。タンパク質の作用を遮断または低下させることは、また、米国特許第4,743,546号に記載の技法に類似した切り出し技法のアプローチを使用することを含む場合がある。このアプローチを使用するために、関心がもたれるタンパク質をコードする遺伝子が特異的遺伝子配列の間にクローニングされ、ゲノムからの遺伝子の特異的でコントロールされた切り出しが可能になる。切り出しは、例えば、米国特許第4,743,546号のように培養物の培養温度の変化によって、または何か他の物理学的もしくは栄養学的シグナルによって促進することができよう。
一般に、本発明によると、突然変異タンパク質または改変タンパク質の所与の特徴(例えば酵素活性)における増加または減少は、同じ生物から(同じ起源または親配列から)得られた野生型(すなわち正常な未改変)タンパク質の同じ特徴に関して起こり、その特徴は、同じまたは等価の条件下で測定または達成される。同様に、遺伝的に改変されたホスト細胞の特徴(例えば、タンパク質の発現および/もしくは生物学的活性、または生成物の生成)における増加または減少は、同種の、好ましくは同株の、野生型ホスト細胞の同じ特徴に関して、同じまたは等価の条件下で起こる。そのような条件には、タンパク質の活性(例えば、発現もしくは生物学的活性)またはホスト細胞の他の特徴が測定されるアッセイ条件または培養条件(例えば培地組成、温度、pHなど)、および使用されるアッセイの種類、評価されるホスト細胞などが含まれる。上述のように、等価の条件は、類似であるが、必ずしも同一ではなく(例えば、条件における幾分の保守的変化を許容することができる)、同条件下で行われた比較に比べて、細胞成長または酵素発現または生物学的活性に及ぼす作用を実質的には変化しない条件(例えば培養条件)である。
好ましくは、所与のタンパク質(例えば酵素)の活性を増加または減少させる遺伝的改変を有する、遺伝的に改変されたホスト細胞は、それぞれ、野生型ホスト細胞における野生型タンパク質の活性に比べて、タンパク質の活性または作用(例えば、発現、生成および/または生物学的機能)の少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%、より好ましくは少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約25%、より好ましくは少なくとも約30%、より好ましくは少なくとも約35%、より好ましくは少なくとも約40%、より好ましくは少なくとも約45%、より好ましくは少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約55%、より好ましくは 少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約65%、より好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約75%、より好ましくは少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%、または5%から100%の間の全整数での任意のパーセンテージ(例えば、6%、7%、8%など)の増加または減少を有する。単離された改変核酸分子またはタンパク質を単離された野生型核酸分子またはタンパク質と直接比較する場合(例えば、in vitroとin vivoの比較を行う場合)、同じ差異が確実である。
本発明の別の局面では、所与のタンパク質(例えば酵素)の活性を増加または減少させる遺伝的改変を有する、遺伝的に改変されたホスト細胞は、それぞれ、野生型ホスト細胞における野生型タンパク質の活性に比べて、タンパク質の活性または作用(例えば、発現、生成および/または生物学的活性)の少なくとも約2倍、より好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、より好ましくは約20倍、より好ましくは少なくとも約30倍、より好ましくは少なくとも約40倍、より好ましくは少なくとも約50倍、より好ましくは少なくとも約75倍、より好ましくは少なくとも約100倍、より好ましくは少なくとも約125倍、より好ましくは少なくとも約150倍、または少なくとも約2倍から始まる任意の全整数変化分(例えば、3倍、4倍、5倍、6倍など)の増加または減少を有する。
ある態様では、ホスト細胞は、野生型ホスト細胞における活性レベルに比べて、低下した活性レベルのドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼを有する。ドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.130)は、α−D−マンノシル残基をドリキル−リン酸D−マンノースから膜脂質結合型オリゴ糖に転移する。典型的には、ドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼ酵素は、alg3遺伝子によってコードされる。ある態様では、ホスト細胞は、野生型ホスト細胞における発現レベルに比べて低下した発現レベルのalg3遺伝子を有する。ある態様では、alg3遺伝子は、ホスト細胞から欠失されている。
ある態様では、ホスト細胞は、野生型ホスト細胞における活性レベルに比べて低下した活性レベルのα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼを有する。α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.232)は、α−D−マンノシル残基をGDP−マンノースからタンパク質結合型オリゴ糖に転移し、ゴルジ装置でα−(1→6)−D−マンノシル−D−マンノース結合を引き起こす伸長を形成する。典型的には、α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ酵素は、och1遺伝子によってコードされる。ある態様では、ホスト細胞は、野生型ホスト細胞における発現レベルに比べて低下した発現レベルのoch1遺伝子を有する。ある態様では、och1遺伝子はホスト細胞から欠失されている。
ある態様では、ホスト細胞は、低下したレベルのプロテアーゼ活性を有する。ある態様では、様々なプロテアーゼをコードする遺伝子が、ホスト細胞から欠失されている。これらの遺伝子には、例えば、pep1(アスペルギルス属(Aspergillus)でのpepA)などのプロテアーゼおよびセロビオヒドロラーゼ1(cbh1)などのセルロース分解酵素をコードする遺伝子が含まれる。
ある態様では、ホスト細胞は、相同組み換えの効率を高めるために、低下した活性レベルの非相同末端結合(NHEJ)関連タンパク質を有しうる。ある態様では、これらのタンパク質をコードする遺伝子は、ホスト細胞から欠失されている。遺伝子およびそれらのホモログには、非限定的に、例えばNinomiyaら(2004)、Ishibashiら(2006)、Villalbaら(2008)、およびMizutaniら(2008)に記載されているようなKu70、Ku80、Lig4、Rad50、Xrs2、Sir4、Lifl、またはNeilが含まれる。
複合N−グリカンを製造する方法のある態様では、ホスト細胞は、野生型トリコデルマ属(Trichoderma)細胞における活性レベルに比べて低下した活性レベルのドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼを有するトリコデルマ属(Trichoderma)細胞である。
複合N−グリカンを製造する方法の他のある態様では、ホスト細胞は、野生型酵母細胞における活性レベルに比べて低下した活性レベルのドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼおよび低下した活性レベルのα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼを有する酵母細胞であって、さらに、α−1,2−マンノシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含む酵母細胞である。
複合N−グリカンをin vitro製造する方法
別の局面では、本発明は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含む融合タンパク質、アクセプター性グリカン、ならびにN−アセチルグルコサミンドナーを一緒に緩衝液中でインキュベーションするステップを含む、複合N−グリカンを製造する方法を提供し、ここで、融合タンパク質は、アクセプター性グリカンの末端Manα3残基へのN−アセチルグルコサミンの転移および末端Manα6残基へのN−アセチルグルコサミンの転移を触媒して複合N−グリカンを製造する。ある態様では、アクセプター性グリカンは、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドに結合している。ある態様では、アクセプター性グリカンは、異種ポリペプチドに結合している。ある態様では、アクセプター性グリカンはMan3である。ある態様では、N−アセチルグルコサミンドナーは、UDP−GlcNAcトランスポーターである。典型的には、緩衝液は、Mn2+、Ca2+、またはMg2+などの二価陽イオンを濃度1μM〜100mM、100μM〜50mM、または0.1mM〜25mMの濃度で含有する。N−アセチルグルコサミン性ドナーは、典型的には、アクセプター性グリカン上の反応性アクセプター部位に関して1.1〜100倍過剰などのモル過剰で使用される。アクセプター性グリカンの濃度は、典型的には、1μMから100mM、100μMから50mM、または1から25mMの間である。アクセプター性グリカンがポリペプチドに結合している場合、分子量がより高くなることから、その濃度範囲は典型的には下限にある。反応成分の濃度は、緩衝液中のそれらの溶解度に基づき調整することができる。酵素活性の量(ユニット)は、妥当な反応時間内に効率的な反応が可能になるように調整することができる。妥当な反応時間は、典型的には数分〜数日である。ある態様では、反応時間は、約0.5時間〜1日または1〜6時間であろう。
有用な緩衝液には、約5〜8.5、5.5.〜8.0、または6.0および7.5のpH範囲のTRIS、HEPES、MOPSなどの、融合タンパク質に適切な緩衝液が含まれる。典型的には、TRIS、HEPES、またはMOPS緩衝液の濃度は、pHを維持するために調整された、5から150mMの間、10から100mMの間、または10から60mMの間であろう。反応は、10〜200mMのNaClなどの塩および/または酵素を安定化するがグリコシル化できないタンパク質(例えば、純粋な非グリコシル化アルブミンまたはアクセプター性グリカン不含アルブミン)を添加することによって最適化することができる。特定の一態様では、in vitro反応は、細胞培養培地中で行われるように調整される。反応速度を低下させるために、リン酸緩衝液を使用してもよい。
Man3GlcNAc2グリカンを製造するための細胞および方法
別の局面では、本発明は、alg3突然変異およびMan3GlcNAc2を含有する糸状菌細胞を提供し、ここで、Man3GlcNAc2には、細胞によって分泌される中性N−グリカンの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%(mol%)が含まれる。中性N−グリカンは、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドに結合している場合がある。alg3遺伝子は、点突然変異またはalg3遺伝子全体の欠失などの、当技術分野で公知の任意の手段により突然変異誘発することができる。好ましくは、alg3タンパク質の機能は、alg3突然変異により低下または消失している。糸状菌細胞は、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クリソスポリウムス属(Chrysosporium)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、 フザリウム属(Fusarium)、ジベレラ属(Gibberella)、ヒュミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフソラ属(Myceliophthora)、ミロセシウム属(Myrothecium)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)、ピロミセス属(Piromyces)、シゾフィラム属(Schizophyllum)、スキタリジウム属(Scytalidium)、タラロミセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、またはトリコデルマ属(Trichoderma)細胞でありうる。ある態様では、糸状菌細胞はT. reesei細胞である。ある態様では、糸状菌細胞は、さらに、任意の本発明のリコンビナントタンパク質をコードする一つまたは複数のポリヌクレオチドを含有する。例えば、糸状菌細胞は、さらに、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインをコードする第1のポリヌクレオチドおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインをコードする第2のポリヌクレオチドを含有しうる。または、糸状菌細胞は、さらに、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有しうる。
なお別の局面では、本発明は、ホスト細胞においてMan3GlcNAc2グリカンを製造する方法であって、野生型ホスト細胞における活性レベルに比べて低下した活性レベルのマンノシルトランスフェラーゼを有するホスト細胞を提供するステップ、およびホスト細胞を培養してMan3GlcNAc2グリカンを製造するステップを含む方法を提供し、ここで、Man3GlcNAc2グリカンは、ホスト細胞により分泌される中性N−グリカンの少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または100%(mol%)を構成する。
Man3GlcNAc2グリカンは、アミノ酸、ペプチド、またはポリペプチドなどの分子に結合している場合がある。ある態様では、アミノ酸はアスパラギン残基である。アスパラギン残基は、側鎖アミドからアミノグリコシド結合している場合があり(生物学的哺乳動物タンパク質N−グリカン結合構造)、ジペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチドなどのペプチド鎖の部分でありうる。グリカンは、還元末端誘導体、例えば還元性GlcNAcまたはManのN、O、またはC結合型誘導体、好ましくはグリコシド誘導体、アミノ酸、アルキル、ヘテロアルキル、アシル、アルキルオキシ、アリール、アリールアルキル、およびヘテロアリールアルキルの群より選択される、あるグリカン結合型構造を有するスペーサーまたは末端有機残基などでありうる。スペーサーは、さらに、多価担体または固相に結合している場合がある。ある態様では、アルキル含有構造には、メチル、エチル、プロピル、およびC4−C26アルキル、グリセロ脂質、リン脂質、ドリコール−リン脂質およびセラミドなどの脂質ならびに誘導体が含まれる。還元末端は、また、第二級アミン結合または誘導体構造への還元的アミノ化により誘導体化することができる。特定の担体には、(ポリ)ペプチド、多糖、例えばデキストラン、セルロース、アミロース、またはグリコサミノグリカンなどの生体高分子またはオリゴマー、ならびにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド(例えば、ナイロンもしくはポリスチレン)、ポリアクリルアミド、およびポリ乳酸を含めたプラスチック、PAMAM、StarburstもしくはStarfishデンドリマーなどのデンドリマー、またはポリリシン、およびポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキルグリコールなどの他の有機ポリマーまたはオリゴマーが含まれる。固相には、マイクロタイターウェル、シリカ粒子、ガラス、金属(鋼、金および銀が含まれる)、ポリマービーズ、例えばポリスチレンまたは樹脂ビーズ、ポリ乳酸ビーズ、多糖ビーズまたは有機スペーサー含有磁気ビーズが含まれうる。
ある態様では、Man3GlcNAc2グリカンは、異種ポリペプチドに結合している。ある態様では、異種ポリペプチドは、治療用タンパク質である。治療用タンパク質には、モノクローナル抗体、エリスロポイエチン、インターフェロン、成長ホルモン、酵素、または凝固因子が含まれる場合があり、治療用タンパク質は、ヒトまたは動物の処置に有用でありうる。例えば、Man3GlcNAc2グリカンは、リツキシマブなどの治療用タンパク質に結合している場合がある。典型的には、Man3GlcNAc2グリカンは、さらに改変されて複合グリカンになる。そのような改変は、ホスト細胞においてin vivoで、またはin vitro法により行われうる。
ある態様では、マンノシルトランスフェラーゼは、ドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼである。典型的には、ドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼ酵素は、alg3遺伝子によりコードされる。ある態様では、ホスト細胞は、野生型ホスト細胞における発現レベルに比べて低下した発現レベルのalg3遺伝子を有する。ある態様では、alg3遺伝子は、ホスト細胞から欠失されている。配列番号97および98は、それぞれ、T. reeseiにおけるalg3遺伝子の核酸配列およびアミノ酸配列を提供する。
ある態様では、ホスト細胞におけるα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼの活性レベルは、野生型ホスト細胞における活性レベルに比べて低下していない。典型的には、α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ酵素は、och1遺伝子によりコードされる。ある態様では、ホスト細胞は、α−1,2−マンノシダーゼをコードする内因性ポリヌクレオチドを含有する。
ある態様では、ホスト細胞はトリコデルマ属(Trichoderma)細胞であり、ある態様では、ホスト細胞はトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)細胞である。
発明の糸状菌細胞
さらなる一局面では、本発明は、野生型糸状菌細胞におけるalg3遺伝子の発現レベルに比べて低下した発現レベルの本発明のalg3遺伝子を有する糸状菌細胞を提供し、ここで、その糸状菌細胞は、「発明のリコンビナントタンパク質」という標題の節に記載されたような任意の本発明のリコンビナントタンパク質も含有する。例えばある態様では、糸状菌細胞は、さらに、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する。融合タンパク質の発現は、ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターによってコントロールされうる。プロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターでありうる。ある好ましい態様では、プロモーターは、cbh1誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターである。
別の局面では、本発明は、野生型糸状菌細胞におけるalg3遺伝子の発現レベルに比べて低下した発現レベルの本発明のalg3遺伝子を有する糸状菌細胞を提供し、ここで、糸状菌細胞は、また、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインをコードする第1のポリヌクレオチドおよびリコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインをコードする第2のポリヌクレオチドを含有する。そのような態様では、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインの発現は、第1のポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターによりコントロールされ、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインの発現は、第2のポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターによりコントロールされる。プロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターでありうる。特定の好ましい態様では、プロモーターは、cbh1誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターである。
他の態様では、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインおよびリコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインが別々のポリペプチドとして発現されるように、単一のポリヌクレオチドが、それらのドメインの両方をコードしうる。そのような態様では、ポリヌクレオチドは、ポリヌクレオチドからの各触媒ドメインの別々の翻訳を可能にする配列内リボソーム進入部位を含有しうる。そのような態様では、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインの発現は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインをコードするポリヌクレオチドの部分に作動可能に連結されたプロモーターによってコントロールされ、リコンビナントN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインの発現は、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインをコードするポリヌクレオチドの部分に作動可能に連結されたプロモーターによってコントロールされる。プロモーターは、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターでありうる。ある好ましい態様では、プロモーターは、cbh1誘導性プロモーターなどの誘導性プロモーターである。
本明細書に開示するようなN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI(GlcNAc−TI;GnTI;EC2.4.1.101)は、反応UDP−N−アセチル−D−グルコサミン+3−(α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R⇔UDP+3−(2−(N−アセチル−β−D−グルコサミニル)−α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−Rを触媒する(式中、Rは、グリカンアクセプター中のN−結合型オリゴ糖の残りを表す)。N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、この反応を触媒することができるN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素の任意の部分である。様々な生物由来のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素についてのアミノ酸配列を、配列番号1〜19に列挙する。追加的なGnTI酵素は、CAZyデータベースのグリコシルトランスフェラーゼファミリー13(cazy.org/GT13_all)に列挙されている。酵素的に特徴づけられた種には、アラビドプシス・タリアナ(A. thaliana)AAR78757.1(米国特許第6,653,459号)、カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)AAD03023.1(Chen S. et al J. Biol.Chem 1999;274(1):288-97)、ドロソフィラ・メラノガスター(D. melanogaster)AAF57454.1(Sarkar & Schachter Biol Chem. 2001 Feb;382(2):209-17);クリセツルス・グリセウス(C. griseus)AAC52872.1(Puthalakath H. et al J. Biol.Chem 1996 271(44):27818-22);ホモ・サピエンス(H. sapiens)AAA52563.1(Kumar R. et al Proc Natl Acad Sci U S A. 1990 Dec;87(24):9948-52);メラノクロミス・アウラツス(M. auratus)AAD04130.1(Opat As et al Biochem J. 1998 Dec 15;336 (Pt 3):593-8)(非活性化突然変異体の一例を含む)、ウサギ、オリクトラグス・クニクルス(O. cuniculus)AAA31493.1(Sarkar M et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1991 Jan 1;88(1):234-8)が含まれる。特徴づけられた活性酵素の追加的な例は、cazy.org/GT13_characterizedに見出すことができる。ウサギGnTI触媒ドメインの3D構造は、Unligil UM et al. EMBO J. 2000 Oct 16;19(20):5269-80にX線結晶学によって規定された。GnTIについてのProtein Data Bank(PDB)構造は、1FO8、1FO9、1FOA、2AM3、2AM4、2AM5、および2APCである。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI酵素(配列番号1)、またはその変異体に由来する。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインは、配列番号1のアミノ酸残基84〜445と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一の配列を含有する。いくつかの態様では、より短い配列を触媒ドメインとして使用することができる(例えば、ヒト酵素のアミノ酸残基105〜445またはウサギ酵素のアミノ酸残基107〜447;Sarkar et al. (1998) Glycoconjugate J 15:193-197)。GnTI触媒ドメインとして使用することができる追加的な配列には、ヒト酵素のアミノ酸約30〜445番のアミノ酸残基またはヒト酵素のアミノ酸残基30〜105から開始しアミノ酸約445番まで連続する任意のC末端ステムドメイン、あるいは別のGnTIまたはその触媒活性変異体もしくは突然変異体の対応する相同配列が含まれる。触媒ドメインは、ステムドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞質ドメインの全てまたは部分などの、酵素のN末端部分を含みうる。
本明細書に開示するようなN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII(GlcNAc−TII;GnTII;EC2.4.1.143)は、反応UDP−N−アセチル−D−グルコサミン+6−(α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−R⇔UDP+6−(2−(N−アセチル−β−D−グルコサミニル)−α−D−マンノシル)−β−D−マンノシル−Rを触媒する(式中、Rは、グリカンアクセプター中のN−結合型オリゴ糖の残りを表す)。N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、この反応を触媒することができるN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素の任意の部分である。様々な生物由来のN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素についてのアミノ酸配列を、配列番号20〜33に列挙する。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、ヒトN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII酵素(配列番号20)、またはその変異体に由来する。追加的なGnTII種は、CAZyデータベースのグリコシルトランスフェラーゼファミリー16に列挙されている(cazy.org/GT16_all)。酵素的に特徴づけられた種には、カエノラブディティス・エレガンス(C. elegans)、ドロソフィラ・メラノガスター(D. melanogaster)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、ラツス・ノルベギグス(Rattus norvegigus)、スス・スクロファ(Sus scrofa)(cazy.org/GT16_characterized)のGnTIIが含まれる。ある態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、配列番号21の約30〜約447番アミノ酸残基と少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%同一の配列を含有する。触媒ドメインは、ステムドメイン、膜貫通ドメイン、または細胞質ドメインの全てまたは部分などの酵素のN末端部分を含みうる。
糸状菌細胞が本発明の融合タンパク質を含有する態様では、融合タンパク質は、さらに、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI触媒ドメインとN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインの間にスペーサーを含有しうる。「スペーサー」という標題の節に記載されたような本発明の任意のスペーサーを使用することができる。ある好ましい態様では、スペーサーは、EGIVスペーサー、2×G4Sスペーサー、3×G4Sスペーサー、またはCBHIスペーサーである。他の態様では、スペーサーは、ステムドメイン由来の配列を含有する。
ER/ゴルジ体に発現させるために、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIおよび/またはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、典型的にはターゲティングペプチドと、またはERタンパク質もしくは初期ゴルジタンパク質の一部と融合されるか、あるいは動物または植物N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ酵素の内因性ERターゲティング構造と共に発現される。ある好ましい態様では、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIおよび/またはN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII触媒ドメインは、「ターゲティングペプチド」という標題の節に記載されたような本発明の任意のターゲティングペプチドを含有する。好ましくは、ターゲティングペプチドは、触媒ドメインのN末端に結合している。いくつかの態様では、ターゲティングペプチドは、「ターゲティングペプチド」という標題の節に記載されたような本発明の任意のステムドメインを含有する。ある好ましい態様では、ターゲティングペプチドはKre2ターゲティングペプチドである。他の態様では、ターゲティングペプチドは、さらに、ステムドメインのN末端に結合した膜貫通ドメインまたはステムドメインのN末端に結合した細胞質ドメインを含有する。ターゲティングペプチドがさらに膜貫通ドメインを含有する態様では、ターゲティングペプチドは、さらに、膜貫通ドメインのN末端に結合した細胞質ドメインを含有しうる。
本発明のalg3遺伝子の発現レベルは、非限定的にalg3遺伝子を突然変異誘発することを含めた、当技術分野で公知の任意の適切な方法により低下させることができる。alg3は、例えば、点突然変異またはalg3遺伝子全体の欠失によって突然変異誘発することができる。好ましくは、alg3タンパク質の機能は、alg3の突然変異により低下または消失している。alg3遺伝子は、ドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルα−1,3−マンノシルトランスフェラーゼをコードする。本明細書に開示されたように、本発明のドリキル−P−Man:Man(5)GlcNAc(2)−PP−ドリキルマンノシルトランスフェラーゼは、α−D−マンノシル残基をドリキルリン酸D−マンノースから膜脂質結合型オリゴ糖に転移する。
ある態様では、糸状菌細胞は、UDP−GlcNAcトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含有しうる。UDP−GlcNAcトランスポーターをコードするポリヌクレオチドは、糸状菌細胞に内因性の(すなわち自然に存在する)場合があり、または糸状菌細胞に異種の場合がある。
他の態様では、糸状菌細胞は、また、「ホスト細胞」という標題の節に記載されたような、本発明のα−1,2−マンノシダーゼをコードするポリヌクレオチドを含有しうる。α−1,2−マンノシダーゼをコードするポリヌクレオチドは、糸状菌細胞に内因性の場合があり、または糸状菌細胞に異種の場合がある。これらのポリヌクレオチドは、特に、効率的なエキソ−α−2−マンノシダーゼ切断をされずにゴルジ体からERに移行した高マンノース性グリカンを発現している糸状菌細胞に有用である。細胞質発現のために、マンノシダーゼの触媒ドメインは、典型的には、HDEL、KDEL、またはERタンパク質もしくは初期ゴルジタンパク質の部分などのターゲティングペプチドと融合されるか、あるいは動物または植物マンノシダーゼI酵素の内因性ERターゲティング構造と共に発現される。
さらなる態様では、糸状菌細胞は、また、「ホスト細胞」という標題の節に記載されたような、本発明のガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有しうる。ガラクトシルトランスフェラーゼは、β−結合型ガラクトシル残基を末端N−アセチルグルコサミニル残基に転移する。ある態様では、ガラクトシルトランスフェラーゼはβ−4−ガラクトシルトランスフェラーゼである。ガラクトシルトランスフェラーゼは、糸状菌の細胞質中に発現されうる。Schwientek J.Biol. Chem 1996 3398に記載されたKre2ペプチドのような異種ターゲティングペプチドを使用してもよい。ガラクトシルトランスフェラーゼの発現のために使用することができるプロモーターには、gpdなどの構成的プロモーター、ゴルジ体またはERでN−グリカンを合成する内因性グリコシル化酵素およびマンノシルトランスフェラーゼなどのグリコシルトランスフェラーゼのプロモーター、ならびにcbh1プロモーターなどの高収量内因性タンパク質の誘導性プロモーターが含まれる。ホスト細胞がガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明の態様では、ホスト細胞は、また、UDP−Galおよび/またはUDP−Galトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含有する。糸状菌細胞がガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明のある態様では、糸状菌細胞を培養する場合にグルコースの代わりにラクトースを炭素源として使用してもよい。培地は、pH4.5から7.0の間または5.0から6.5の間でありうる。糸状菌細胞が、ガラクトシルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドおよびUDP−Galおよび/またはUDP−Galトランスポーターをコードするポリヌクレオチドを含有する本発明のある態様では、Mn2+、Ca2+またはMg2+などの二価陽イオンが細胞培養培地に添加される場合がある。
他の態様では、糸状菌細胞は、また、「ホスト細胞」という標題の節に記載されたような、本発明のシアリルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含有しうる。シアリルトランスフェラーゼは、Neu5Acなどのα3−またはα6−結合型シアル酸をガラクトシル化複合グリカンの末端Galに転移する。α3−またはα6−結合型シアリルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドは、糸状菌細胞に内因性の場合があり、または糸状菌細胞に異種の場合がある。糸状菌細胞でのシアリル化は、特に真菌、植物、線虫/寄生虫、または昆虫細胞での、CMP−Neu5AcなどのドナーCMP−シアル酸を合成する酵素の発現を必要としうる。
追加的に、糸状菌細胞は、増加または低下した活性レベルの様々な追加的な内因性酵素を有しうる。低下した活性レベルは、阻害剤、抗体などを用いて内因性酵素の活性を阻害することにより提供されうる。ある態様では、糸状菌細胞は、一つまたは複数の内因性酵素の活性を増加または低下するやり方で遺伝的に改変される。糸状菌細胞を遺伝的に改変して一つまたは複数の内因性酵素の活性を増加または低下させる方法は、当技術分野において周知であり、それには、非限定的に、「ホスト細胞」という標題の節に記載の方法が含まれる。ある態様では、糸状菌細胞は、野生型糸状菌細胞における活性レベルに比べて低下した活性レベルのα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼを有する。ゴルジ装置でのα−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.232)は、伸長を開始するα−D−マンノシル残基をGDP−マンノースからタンパク質結合型N−グリカンオリゴ糖に転移して、α−(1→6)−D−マンノシル−D−マンノース結合を形成する。典型的には、α−1,6−マンノシルトランスフェラーゼ酵素は、och1遺伝子によってコードされる。ある態様では、糸状菌細胞は、野生型糸状菌細胞における発現レベルに比べて低下した発現レベルのoch1遺伝子を有する。ある態様では、och1遺伝子は、糸状菌細胞から欠失されている。
糸状菌細胞は、例えば、アクレモニウム属(Acremonium)、アスペルギルス属(Aspergillus)、アウレオバシジウム属(Aureobasidium)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、クリソスポリウムス属(Chrysosporium)、クリソスポリウム・ラクノウェンス(Chrysosporium lucknowense)、フィリバシジウム属(Filibasidium)、フザリウム属(Fusarium)、ジベレラ属(Gibberella)、ヒュミコラ属(Humicola)、マグナポルテ属(Magnaporthe)、ムコール属(Mucor)、ミセリオフソラ属(Myceliophthora)、ミロセシウム属(Myrothecium)、ネオカリマスティクス属(Neocallimastix)、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペシロミセス属(Paecilomyces)、ペニシリウム属(Penicillium)、ピロミセス属(Piromyces)、シゾフィラム属(Schizophyllum)、スキタリジウム属(Scytalidium)、タラロミセス属(Talaromyces)、サーモアスカス属(Thermoascus)、チエラビア属(Thielavia)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)、またはトリコデルマ属(Trichoderma)細胞でありうる。ある態様では、糸状菌細胞はT. reesei細胞である。
発明の方法により製造された複合N−グリカンを含有する薬学的組成物
別の局面では、本発明は、薬学的に許容されうる担体と一緒に製剤化された、本発明の方法により製造された異種分子に結合した一つまたは複数の複合N−グリカンを含有する組成物、例えば薬学的組成物を提供する。本発明の薬学的組成物は、また、併用療法で、すなわち他の薬剤と組み合わせて投与することができる。例えば、併用療法は、本発明による異種分子に結合した複合N−グリカンを、少なくとも一つの他の治療剤と共に含みうる。
本明細書に使用するような、「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合性の、任意および全ての溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などが含まれる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適する。投与経路に応じて、活性化合物、すなわち本発明による異種分子に結合した複合N−グリカンは、その化合物を不活性化するおそれのある酸の作用および他の自然条件からその化合物を保護するための材料でコーティングされる場合がある。
本発明の薬学的組成物は、一つまたは複数の薬学的に許容されうる塩を含みうる。「薬学的に許容されうる塩」は、親化合物の所望の生物学的活性を保持する塩であって、望まれない毒性学的作用を全く与えない塩を表す(例えば、Berge, S.M., et al. (1977) J. Pharm. Sci. 66:1-19参照)。そのような塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が含まれる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの無毒の無機酸から、ならびに脂肪族モノカルボン酸およびジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族スルホン酸および芳香族スルホン酸などの無毒の有機酸から得られるものが含まれる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属から、ならびにN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの無毒の有機アミンから得られるものが含まれる。
本発明の薬学的組成物には、また、薬学的に許容されうる抗酸化剤が含まれうる。薬学的に許容される抗酸化剤の例には:(1)アスコルビン酸、システイン塩酸塩、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤;(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、α−トコフェロールなどの油溶性抗酸化剤;および(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が含まれる。
本発明の薬学的組成物に採用されうる、適切な水性および非水性担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、およびその適切な混合物、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが含まれる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティング物質の使用により、分散物の場合は必要な粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。
これらの組成物は、また、保存料、湿潤剤、乳化剤および分散剤などの佐剤を含有しうる。微生物の存在の防止は、滅菌手順により、および様々な抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノールソルビン酸などを入れることにより保証することができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張化剤を組成物に入れることも望ましい場合がある。加えて、注射用薬学的剤形の持続吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を入れることによって引き起すことができる。
薬学的に許容される担体には、無菌水溶液または無菌分散物、および無菌注射液または無菌注射用分散物の即時調製用の無菌粉末が含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質および薬剤の使用は、当技術分野において公知である。任意の従来の媒質または薬剤が活性化合物と不適合性である場合を除き、本発明の薬学的組成物にそれを使用することが考えられている。補充的な活性化合物も組成物に混ぜ込むことができる。
治療用組成物は、典型的には製造および保存の条件で無菌および安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、または高い薬物濃度に適した他の秩序化構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体プロピレングリコールなど)、およびその適切な混合物を含有する溶媒または分散媒でありうる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散物の場合は必要な粒子径の維持により、および界面活性剤の使用により維持することができる。多くの場合、等張化剤を、例えば、糖、マンニトール、ソルビトールなどのポリアルコール、塩化ナトリウムを、組成物に入れることが望ましい。注射用組成物の持続吸収は、組成物にモノステアリン酸塩およびゼラチンなどの吸収遅延剤を入れることにより引き起こされうる。
無菌注射液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙した成分の一つまたは組み合わせと共に適切な溶媒中で混ぜ合わせ、続いてマイクロ濾過滅菌することにより調製することができる。一般に、分散物は、基本分散媒および上に列挙した成分からの必要な他の成分を含有する無菌ビヒクル中に活性化合物を混ぜ合わせることにより調製される。無菌注射液調製用の無菌粉末の場合、ある調製方法は、活性成分に加えて任意の追加的な所望の成分の粉末を、予め濾過滅菌されたその溶液から回収する、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)である。
1回投与剤形を製造するために担体物質と組み合わせることができる活性成分の量は、処置される対象および特定の投与様式に応じて変動する。1回投与剤形を製造するために担体物質と組み合わせることができる活性成分の量は、一般に、治療効果を生じる組成物の量である。一般に、この量は、薬学的に許容される担体と活性成分を合計した100%のうち、約0.01%〜約99%、好ましくは約0.1%〜約70%、最も好ましくは約1%〜約30%に及ぶ。
投薬計画は、最適な所望の応答(例えば治療応答)を提供するように調整される。例えば、単回ボーラス投与を行ってもよく、経時的に数回の分割投与を行ってもよく、または治療状況の緊急性によって示されるように用量を比例的に減少または増加させてもよい。投与の容易さおよび薬用量の均一性のために、非経口組成物をユニット投薬剤形で製剤化することが特に好都合である。本明細書に使用するようなユニット投薬剤形は、処置される対象のためのユニット投薬量として適切な、物理的に別個のユニットを表し、各ユニットは、必要な薬学的担体と共同して所望の治療効果を生じるように計算された、所定量の活性化合物を含有する。本発明のユニット投薬形態についての規格は、(a)活性化合物の独特の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b)個体での感受性を取り扱うための、そのような活性化合物を配合する技術に固有の制限によって決定され、それらに直接依存する。
異種分子に結合した複合N−グリカンの投与のために、特に、異種分子が抗体である場合、薬用量は、ホストの体重に対して約0.0001〜100mg/kg、より通常には0.01〜5mg/kgに及ぶ。例えば、薬用量は、0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、または1〜10mg/kgの範囲内でありうる。例示的な処置方式は、1週間1回、隔週1回、3週間に1回、4週間に1回、1ヶ月1回、3ヶ月に1回または3〜6ヶ月に1回の投与を必要とする。異種抗体に結合した複合N−グリカンのための特定の投薬方式には、1mg/kg体重または3mg/kg体重の静脈内投与が含まれ、抗体は、以下の投薬スケジュールの一つを用いて与えられる:(i)4週間毎の投薬を6回、次に3ヶ月毎;(ii)3週間毎;(iii)3mg/kg体重を1回、続いて3週間毎に1mg/kg体重。
または、本発明による異種分子に結合した複合N−グリカンは、徐放製剤として投与することができ、その場合、より回数の少ない投与が必要とされる。薬用量および回数は、患者での投与された物質の半減期に応じて変動する。一般に、ヒト抗体が最長の半減期を示し、ヒト化抗体、キメラ抗体、および非ヒト抗体がそれに続く。投与の投薬量および回数は、その処置が予防的であるか治療的であるかに応じて変動しうる。予防的適用では、比較的低い薬用量が比較的数少ない合間で長期間投与される。一部の患者は、余命の間、処置を受け続ける。治療応用では、疾患の進行が減速または終了するまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高用量が必要な場合がある。その後、患者に予防的方式を投与することができる。
本発明の薬学的組成物中の活性成分の実際の薬用量レベルは、患者に毒性を有さずに、特定の患者、組成物、および投与様式に関して所望の治療応答を達成するために有効な活性成分の量を得るために変動させることができる。選択された薬用量レベルは、採用された本発明の特定の組成物、またはそのエステル、塩もしくはアミドの活性、投与経路、投与時間、採用される特定の化合物の排泄速度、処置期間、採用された特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または材料、処置される患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康状態および病歴などの、医学分野で周知の要因を含めた多様な薬物動態要因に依存する。
本発明の免疫グロブリンの「治療有効薬用量」は、好ましくは、疾患症状の重症度の減少、無症状期の回数および期間の増加、または病苦による障害もしくは不能の予防を生じる。例えば、腫瘍の処置について「治療有効薬用量」は、好ましくは、未処置の対象に比べて、細胞の成長または腫瘍の成長を少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、なおより好ましくは少なくとも約60%、いっそうより好ましくは少なくとも約80%阻害する。化合物が腫瘍の成長を阻害する能力は、ヒト腫瘍における有効性を予測する動物モデル系で評価することができる。または、組成物のこの性質は、化合物が、当業者に公知のアッセイによりそのような阻害をin vitro阻害する能力を検討することによって評価することができる。治療用化合物の治療有効量は、腫瘍径を減少させるか、またはさもないと対象における症状を改善しうる。当業者は、対象のサイズ、対象の症状の重症度、および選択された特定の組成物または投与経路のような要因に基づき、そのような量を決定することができよう。
本発明の組成物は、当技術分野において公知の多様な一つまたは複数の方法を用いて、一つまたは複数の投与経路を介して投与することができる。当業者に理解されるように、投与経路および/または投与様式は、所望の結果に応じて変動する。本発明の結合部分のためのある種の投与経路には、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄または他の非経口投与経路、例えば注射または注入によるものが含まれる。本明細書に使用するような「非経口投与」という語句は、経腸投与および局所投与以外の投与様式、通常は注射によるものを意味し、それには、非限定的に、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節包内、眼窩内、心腔内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、クモ膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内の注射および注入が含まれる。
または、本発明による異種分子に結合した複合N−グリカンは、局所、上皮または粘膜投与経路、例えば、鼻腔内、経口、経膣、直腸、舌下または局所などの非腸管外(nonparenteral)経路を介して投与することができる。
活性化合物は、植込剤、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化デリバリーシステムを含めた徐放製剤などの、化合物を迅速放出から保護する担体を用いて調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの、生分解性の生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤を調製するための多数の方法が特許を得ているか、または一般に当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Drug Delivery Systems, J.R. Robinson, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978を参照されたい。
治療用組成物は、当技術分野において公知の医療用具を用いて投与することができる。例えば、ある態様では、本発明の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号;同第5,383,851号;同第5,312,335号;同第5,064,413号;同第4,941,880号;同第4,790,824号;または同第4,596,556号に開示された用具などの、無針皮下注射用具を用いて投与することができる。本発明に有用な周知の植込剤およびモジュールの例には:米国特許第4,487,603号(この特許は、コントロールされた速度で薬物(medication)を分配するための植込み可能なマイクロ注入ポンプを開示している);米国特許第4,486,194号(これは、皮膚を経由して医薬を投与するための治療用具を開示している);米国特許第4,447,233号(これは、正確な注入速度で薬物を送達するための薬物注入ポンプを開示している);米国特許第4,447,224号(これは、連続薬物デリバリーのための変流量の植込み可能な注入装置を開示している);米国特許第4,439,196号(これは、多チャンバー区画を有する浸透圧薬物デリバリーシステムを開示している);および米国特許第4,475,196号(これは、浸透圧薬物デリバリーシステムを開示している)が含まれる。
ある態様では、本発明による異種分子に結合した複合N−グリカンの使用は、治療用抗体で処置されうる任意の疾患の処置のためである。
本発明をそのいくつかの具体的な態様と一緒に説明したが、前述の説明は、本発明の範囲を例示するつもりであって、限定するつもりではないことを理解されたい。本発明の範囲内の他の局面、利点、および改変は、本発明が属する技術分野の専門家に明らかであろう。
本発明を説明したが、主題発明を限定としてではなく、例証として例示するために以下の実施例を提供する。
実施例
実施例1 − 糖鎖工学のためのホスト株の選択
本実施例の目的は、糖鎖工学のために最適なT. reesei株を同定することであった。最適な株は、多量のMan5N−グリカンおよび少量の酸性グリカンを製造する。
試料
M44(VTT−D−00775;Selinheimo et al., FEBS J. 2006, 273(18): 4322-35)、M81、M84、M109、M110、M131、M132、M133、M134およびM124(M44のmus53欠失株)を含めた様々なT. reesei株を分析した。10株のそれぞれを振盪フラスコ培養で成長させた。試料を3日、5日、および7日の異なる3時点で採取した。上清(分泌タンパク質)および細胞ペレットの両方を収集し、グリカン分析を行うまで−20℃で凍結保存した。
表示された時点からの分泌タンパク質からN−グリカンを単離し、続いてマトリックス支援レーザー脱離/イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)グリカンプロファイリングを行った。5日の時点からの細胞ペレットをN−グリカンプロファイリングに供した。合計80個の試料(中性および酸性上清画分各30個、および中性および酸性ペレット画分各10個)を分析に供した。
振盪フラスコ培養と発酵槽培養の間のグリカンプロファイルの差を判断するために、M44株も回分培養および流加発酵槽培養に供した。グリカン分析のために、異なる3時点からの試料を、合計12個の試料について分析した(6個の中性画分および6個の酸性画分)。対照として培地を分析した。
質量分析法
Bruker Ultraflex TOF/TOF装置(Bruker Daltonics, Germany)でMALDI−TOF質量分析を行った。中性N−グリカンは、陽イオンリフレクターモードで[M+Na]+イオンとして検出し、酸性N−グリカンは、陰イオンリニアモードで[M−H] −イオンとして検出した。中性N−グリカン成分の相対的モル存在量は、スペクトルの相対シグナル強度に基づき割当てた。提示されたグリカンプロファイル中の発生したグリカンシグナルを100%に基準化し、試料間の比較を可能にした。
タンパク質特異的グリコシル化法
発酵槽培養した試料からのタンパク質をSDS−PAGEで分離し、PVDFメンブランにブロッティングした。関心がもたれるタンパク質バンドを切出し、PNGase Fを用いた酵素的放出によりN−グリカンを遊離させた。
T. reesei株の中性N−グリカンプロファイル
所望のMan5構造は、図1に示した質量スペクトルのm/z値1257.4に[M+Na]+シグナルとして観測することができる。分析されたT. reesei株の中性グリコームは、主要な中性グリカン種としてMan5またはMan8のいずれかを有することが見出された(表2のH5N2およびH8N2)。
中性N−グリカン画分中にいくつかの酸性N−グリカンが観測された。これは、リン酸化グリカンの特異的性質、例えばホスホジエステル構造の存在、またはこの研究に使用された実験条件下の中性画分への酸性種の漏出につながりうるホスホグリカンの他の性質が原因であるおそれがあった。対応する構造をチェックするために、関心がもたれるシグナルをMS/MS分析に供した。グリカンの質量分析フラグメンテーションは、Bruker Ultraflex TOF/TOFをMS/MS分析モードで使用して行った(図2)。グリカンが完全メチル化(permethylate)されなかったので、MS/MSデータに基づく最終的な構造決定を得ることはできなかった。
T. reesei株の酸性N−グリカンプロファイル
糖鎖工学目的には、最少量の酸性N−グリカンを有する株を有することが有用であった。したがって、スクリーニングのために使用された株から酸性N−グリカンプロファイルを分析した。分析された株の酸性N−グリカンスペクトルを図3および下表3に示す。
発酵槽培養したM44株からのN−グリカンプロファイル
異なる培養条件がM44株のグリカンプロファイルに変化を引き起こしうるかどうかを見出すために、M44株を発酵槽中で培養した。発酵槽中で培養した試料(回分培養;41時間10分、88時間45分および112時間50分、および流加培養;45時間50分、131時間40分および217時間20分)についてN−グリカン分析を行い、振盪フラスコ培養のN−グリカンと比較した。発酵槽中で培養したT. reesei M44株の分泌タンパク質の中性および酸性N−グリカンを図4に示す。フラスコ培養と発酵槽培養の間のN−グリカンのパーセンテージの比較を下表4に示す。
振盪フラスコ培養の培地のN−グリカン分析
対照実験として、T. reeseiの培地(真菌との接触なし)を分析した。図5aに、中性N−グリカンの分析を示すが、その分析でN−グリカンは観測されなかった。ヘキソースオリゴマーの小さなシグナル(最もありそうなことには、培地に使用された植物材料に由来する)が、ベースラインの上に認識できた。図5b(酸性グリカン)では、N−グリカンに対応するシグナルは観測されなかった。
分泌タンパク質のN−グリコシル化
個別の分泌タンパク質の間のグリコシル化に変動があるかどうかをチェックするために、発酵培養上清からの試料をSDS−PAGEで分離し、PVDFメンブランにブロッティングした。次に、選択されたバンドのN−グリカンを、メンブラン上の酵素放出を用いて取り外した。結果を図6および7に示す。
結論:中性グリカン
本研究の目的は、最高量のMan5 N−グリカンおよび最低量の酸性グリカンを有する、糖鎖工学用のT. reesei株を同定することであった。質量分析での主ピークとしてMan5を有する株は、より高い内因性α−1,2−マンノシダーゼ活性を有しうる。T. reeseiのN−グリコシル化に関する背景情報に基づき、Man5に関して有望な構造は、Manα3[Manα3(Manα6)Manα6]Manβ4GlcNAcβ4GlcNAcである(Salovuori et al. 1987; Stals et al. Glycobiology 14, 2004, page 725)。
いくつかの株は、主な中性グリコフォームとしてH8N2を含有した。文献に基づくと、このグリコフォームは、Glcα3Manα2Manα2Man5構造である可能性が最も高かった(Stals et al. Glycobiology 14, 2004, page 725)。これらの株でのグルコシダーゼ欠乏が、より小さなグリコフォームへのグリカンのトリミングを阻止している可能性がある。
いくつかの株では、中性スペクトル中に酸性N−グリカンが観測された。この状況は、酸性N−グリカンの比率がより高いこと、または酸性グリカンから中性グリカンを分離する際に中性画分中に特異的構造が漏出したことが原因であるおそれがあった。
株のグリカンプロファイルは、振盪フラスコよりも発酵槽中で培養したときの方が糖鎖工学にとって少しだけ好都合であった。発酵槽培養された試料からの個別のタンパク質のグリコシル化は、平均的グリコシル化と有意差がなかった。分析された全タンパク質は、主グリコフォームとしてMan5を含有した。この観測は、全ての分泌タンパク質が類似のグリカンプロセッシングを受けることを示唆した。したがって、大部分の分泌タンパク質がT. reeseiホスト細胞によって同様にグリコシル化されたように見えた。哺乳動物細胞の場合、このことは必ずしも当てはまらない。
酸性グリカン
末端リン酸残基は抗体などの標準的な治療用タンパク質に存在しないことから、一般に、N−グリカンのリン酸化は、糖鎖工学のために望ましくない。この決まりのいくつかの例外は、リソソームグリコシル化貯蔵障害のために使用される少数の専門タンパク質である。N−グリカンのリン酸化は、真菌においてタンパク質特異的でありうる。動物では、マンノースリン酸化が、保存されたリソソームターゲティングシグナルである。
今日まで、T. reesei N−グリカンの硫酸化の報告はなかった。したがって、本報告において言及される酸性構造は、リン酸化グリカンが有望であった。
リン酸化は、フラスコ培養の場合のようにT. reeseiを低pH値で培養したときの方がよく見られるが、これは、低pHストレスおよび菌糸体破損と関係する可能性がある(Stals et al., 2004, Glycobiology 14:713-724)。この研究では、フラスコ培養試料と発酵槽培養試料の間に明らかな差が観測された。酸性N−グリカンが振盪フラスコ培養試料から観測され、その全てがリン酸化N−グリカンであった。発酵槽試料中の酸性N−グリカンの量は、検出限界未満であったおそれがあるか、またはより高いpHのせいでグリカンの有意なリン酸化がなかったおそれがある。中性グリカン種と酸性グリカン種の間でイオン化効率が異なることから、この研究に使用した方法でN−グリカン全量に対する酸性N−グリカンの比率を検証できなかった。
リン酸化レベルを決定するために、回分培養および流加発酵槽中で培養されたT. reeseiの分泌タンパク質10μgから、N−グリカナーゼによりN−グリカンを放出させた。Bradfordに基づく方法を使用して、標準としてBSAを用いてタンパク質濃度を測定した。1pmolの標準分子NeuAcHex4HexNAc2を酸性N−グリカンに添加してからMALDI−TOF分析を行った。培養物のpHを低下させた場合、主グリコフォームの量(発酵槽についてHex7HexNAc2Pおよびフラスコ培養についてHex6−8HexNAc2P)は、回分培養の分泌タンパク質に対して0.9pmol/10μg, 、流加培養の分泌タンパク質に対して0.6pmol/10μg、およびフラスコ培養の分泌タンパク質に対して160pmol/10μgであった。中性N−グリカン試料に添加した標準グリカンHex2HexNAc4 10pmolを使用して、中性N−グリカンの量を測定し、その後MALDI−TOF分析を行った。主グリコフォームHex5HexNAc2の量は、回分培養および流加培養の分泌タンパク質に対して87pmol/10μgであり、フラスコ培養の分泌タンパク質に対して145pmol/10μgであった。したがって、N−グリカン全量に対する酸性N−グリカンの比率は、回分培養で1%、流加培養で0.7%、およびフラスコ培養で52%であった。定量は、MALDI−TOFのデータを用いたシグナル強度の比較のみに基づいた。
N−グリカンは、また、酸性画分の方が大型であった。これは、1個のヘキソースユニットを伴うリンがグリカン骨格に結合されるホスホマンノシル化反応が原因であったおそれがある。いくつかの二リン酸化構造が酸性スペクトルに認められた。この説明は、以前に公表された、T. reeseiに見出されたリン酸化グリカンに関するデータと一致する(Stals et al. 2004, Glycobiology 14:725-737)。発酵槽中で培養したとき、酸性N−グリカンの比率は、非常に低く、検出限界未満であった。
T. reesei培地のN−グリカンスペクトルからは、T. reeseiのN-グリコームに植物材料含有培地由来のグリカンが混入していることが明らかにならなかった。
結論として、異なるT. reesei株のN−グリカン分析は、M44、M109、M131、M132およびM124株における主グリコフォームがMan5またはManα3[Manα3(Manα6)Manα6]Manβ4GlcNAcβ4GlcNAcであることを明らかにした。Man5生成株における副成分としてのH8N2を含めて、グルコースが存在する可能性が考えられた。2株(M109およびM131)は、H7N2よりも大量のH8N2を含有した。豊富なH8N2は、グルコシダーゼの部分的欠乏を示した可能性がある。
M44株は、リン酸化グリカンをほとんど含有しなかった。中性グリカン画分からm/z1521およびm/z1683でのシグナルとして観測された漏出性酸性グリカンは、M131、M109、M132およびM124株からの試料で観測され、それは、より高いリン酸化レベルおよび潜在的ホスホジエステル構造の存在を示した。
本研究の目的は、Man5Gn2構造の最大生成および酸性(リン酸化)N−グリカンの低レベル生成を有する株を見出すことであった。最良の株は、pHコントロールした振盪フラスコ培養条件下で80%を超えるMan5を有した。最良の株は、また、二リン酸化グリカン生成および/またはより大型のリン酸化構造の生成が低下していた(表3参照)。
実施例2 − Alg3欠損Trichoderma株の産生
ベクターの構築および株の産生
ALG3マンノシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子をTrichoderma reeseiゲノム配列から同定した。alg3遺伝子の1000bpの5’および3’フランキング領域フラグメントの間にアセトアミダーゼ選択マーカーを挿入するために破壊構築物を設計した。フランキング領域フラグメントをPCRにより増幅し、Saccharomyces cerevisiaeでの相同組み換えクローニングにより構築物を作製した。消化により破壊カセットをその骨格ベクターから放出させ、T. reesei M124株にトランスフォーメーションした。トランスフォーマントをアセトアミダーゼ培地で選択し、その構築物の5’フランキング領域フラグメント外側のフォワードプライマーおよびAmdS選択マーカー内部のリバースプライマーを用いたPCRによりスクリーニングした。
トランスフォーマントのスクリーニング
62個のスクリーニング済みトランスフォーマントのうち58個から、alg3ローカスへの構築物の組み込みに予想されたサイズのPCR生成物が得られた。9個のPCR陽性トランスフォーマントを単一胞子培養により精製して単核クローンにし、それらから胞子懸濁液を調製した。これらの9個のクローンを、破壊カセットが正しく組み込まれたかについて、サザンハイブリダイゼーションにより分析した。親株および9個のクローンからのEcoRI消化ゲノムDNAを、標準ハイブリダイゼーション条件下でalg3プローブとハイブリダイゼーションした。プローブは、任意のクローン由来のDNAとではなく、親株由来のDNAとハイブリダイゼーションし、alg3欠失が成功したことを示した(図8)。
AmdSプローブを用いたサザンハイブリダイゼーションによりさらなる分析を行った。AmdS遺伝子を欠失カセット中に入れ、その遺伝子は、親株由来のDNAからでなく、トランスフォーマント由来のDNAから検出可能であると予測された。親株M124および9個のトランスフォーマントのゲノムDNAをEcoRI+PvuI(E+P)およびKpnI+NheI(K+N)で消化した。alg3−AmdS欠失カセットを有するNotI消化プラスミドを陽性対照として使用した。プローブは、陽性対照由来の予想される約2.7kbフラグメント(AmdS)を認識したが、親株とハイブリダイゼーションしなかった。全てのトランスフォーマントから、予想されたシグナルが得られ(E+Pについて1.6+2.8kbおよびK+Nについて1.7+3.4kb、図9Bに矢印で示す)、欠失カセットの正しい組み込みを示した。クローン11Aおよび15Aは、いくつかの追加的なフラグメントのハイブリダイゼーションも示したが、これは、ゲノムへの欠失カセットの非特異的組み込みを示唆している(図9B)。
N−グリカンの分析論
5個の異なるAlg3ノックアウト株(4A、5A、6A、10Aおよび16A)ならびに親株M124の振盪フラスコ培養物をN−グリカンについて分析した。3、5、7、および9日の時点から試料を収集した。全ての培養物を二つ組で成長させた。
ランダムに選択したノックアウト株(4A)からの分泌タンパク質のタンパク質濃度を、全ての時点から、ブラッドフォードに基づくアッセイを用いてBSA標準曲線と対比させて測定した。最高タンパク質濃度は5日目に検出された。したがって、全部で5個のノックアウト株について5日目の試料をN−グリカン分析のために使用した。二つ組の培養物を含む全試料を三つ組みで分析した。N−グリカン分析のために10μgを使用した。中性および酸性N−グリカンの両方をMALDI−TOFにより分析した。
親株M124での主グリコフォームはMan5Gn2であった。全てのAlg3ノックアウト株において、主グリコフォームはMan3であった(図10)。親株M124からMan3は見出されなかった。異なるAlg3ノックアウト株で、Man3の量は、pH低下させた振盪フラスコ培養物中に49.7%から55.2%の間となった。Hex6Gn2は親株で増加した。観測された中性N−グリカンシグナルのパーセンテージとしてのシグナル強度を下表5に示す。
各グリコフォームの種々のアイソマーが存在することは、MALDI−MS分析では観測できないので、さらなるタンデム質量分析研究を行った。最初に、Man3およびHex5Gn2構造を検討した。Man3について、Man3構造が分枝であるか直鎖であるかが問われた。この分析のために、これらの両構造を含有する試料を完全メチル化し、Bruker Ultraflex III TOF/TOF装置を製造業者の説明書に従って使用して質量分析フラグメンテーションにより分析した(図11および12)。
次に、Hex6Gn2構造の非還元末端上のヘキソースユニットがマンノースであるかグルコースであるかを判定した。全てのノックアウト株および親株にα−マンノシダーゼ消化を行った(図13)。骨格からα−マンノースを切断し、β−マンノースを無影響のまま残すナタマメ−マンノシダーゼを使用した。生じた構造はMan1Gn2と予想された。
MALDIでの低分子量領域効果のせいで、Man1GlcNAc2グリカンの相対強度は幾分低下していたおそれがあり、このことは、Hex6の相対量のわずかな増加を説明した。α−マンノシダーゼ消化後に、Man3およびMan4グリコフォームは消失した。Man2構造は観測されなかった。しかし、Hex6(m/z1419)は消化されず(表6)、構造の非還元末端にグルコースユニットがあったことを示した。いくらかの難消化性Hex5も存在したが、これは、おそらくHex6の立体障害されたMan6枝が除去される弱い反応により生成したものと思われる。
Alg3ノックアウト株から見出された種々の構造の最終分析のために、Alg3ノックアウト株4Aに大規模PNGase F消化を行った。2種の主グリカンをHPLCで精製し(図14)、NMRにより分析した(図15)。
図15Aに示したデータに基づき、Hex3HexNAc2種は、Manα1−3(Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcとして明確に同定された。Manα3およびManα6のH−1ユニットは、それぞれ5.105および4.914ppmで共鳴した。Manβ4のH−2ユニットは4.245ppmで観測された。このシグナルは、隣接するManα3−OH置換が原因で非常に特徴的であった。コアGlcNAcユニットのN−アセチル基のCH3シグナルは、2.038および2.075で観測された。これらの値は、Sugabaseデータベース(www.boc.chem.uu.nl/sugabase/sugabase.html)におけるこの五糖について報告された値とよく一致した。さらに、商業的に製造されたManα1−3(Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAc(Glycoseparations, Inc.)について同一実験条件でプロトン−NMRスペクトルを測定し、ほぼ同一の化学シフトが得られた。
Hex6HexNAc2成分のNMRスペクトルを図15Bに示す。このデータは、この成分が八糖Glcα1−3Manα1−2Manα1−2Manα1−3(Manα1−6)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAcを表すことを意味する。グルコースユニットの存在は、典型的なαGlcの2.4Hzカップリングを示す5.255シグナルから明らかであった。全てのManシグナルは、典型的にはエカトリアルH−2配置が原因の<1Hzカップリングを示している。Sugabaseデータに比べて小さな差が観測されたが(表7)、これは、このNMR測定に使用された温度が異なることに起因する可能性がある(40℃に対して26℃)。
最終的に、ランダムに選択されたノックアウト株4AのN−グリカンプロファイルを種々の時点で分析した(3、5、7および9日目)。振盪フラスコ培養のpHは開始時点で4.8であり、終了時点で2.6であった。二つ組の培養物の各時点から三つ組みの試料を分析した。二つ組の両方で、pH低下のせいでMan3Gn2シグナルの相対量が成長時間の関数として減少したことが観測された。しかし、Hex6Gn2シグナルの量は、成長時間の関数として増加した(表8)。
クローン4A(5日目)でのMan3のパーセンテージに関するこれら二つの分析(表4および7)の間の差異に注目した。この差異は、分析手順の差異によるおそれがあった。凍結解凍サイクル(1回または複数)後に、異種培地タンパク質調製物のいくぶんの不安定性が観測されたが、これは、グリカンおよび/またはタンパク質の分解が、比較的大型のグリカンの量の低下を招いたことが原因の可能性があった。表5でのデータ取得は、追加的な凍結解凍サイクルを含んだ。
MALDIによって酸性N−グリカン画分も分析した(図16)。親株M124での種々の酸性化合物の存在度は、全Alg3ノックアウト株と異なり、ノックアウト株の間では酸性画分は非常に類似しているように見えた。
親株における3種の主グリカンはH6N2P1、H7N2P1およびH8N2P1であった。Alg3ノックアウトでは、サイズがより小さなグリカンに移行してH5N2P1、H6N2P1およびH4N2P1であった。追加的に、二リン酸化グリカンは親株の方が豊富であった。これは、リン酸化マンノースをグリカンに結合させる特定の酵素にふさわしい基質が欠如していることが原因であった可能性がある。リン酸化マンノースは、他のマンノース残基によりさらに伸長することができる。リン酸化は、発酵条件下で生成した親M124株のグリカン中に実質的には存在しなかった。
発酵槽成長試料と振盪フラスコ成長試料との比較
一つのAlg3ノックアウト株(トランスフォーマント4A)を、ラクトース−穀粒粕(spent grain)エキス培地を用いた回分発酵で成長させた。培地は、20g/l穀粒粕エキスを有する60g/lラクトースであって、植菌後体積は7リットル(発酵槽の運転bio01616)であった。他の培地成分は、KH2PO4および(NH4)2SO4であった。培養pHは5.5から5.8の間にコントロールした。運転の経過中にバイオマスおよび培養上清を採取し、−20℃で保存した。起こりうるRNA分析のために菌糸体試料も収集し、直ちに液体窒素中で凍結させ、−70℃に移した。これらの発酵の全経過から収集した試料をN−グリカン組成について分析した。トランスフォーマント4Aの発酵槽の運転bio01616)について、および振盪フラスコ培養からの5日目の試料について、N−グリカンの分析を実施した(図17および18)。振盪フラスコ培養での主シグナルはMan3(59%)であった。発酵槽培養では、主シグナルはMan3(85%)であり、Hex6の比率は8%に減少した。
結論
Alg3ノックアウトは、予想されるMan3グリコフォームを50%以上製造することに成功した。Manα3(Manα6)Manβ−の所望の分枝構造を、フラグメンテーション質量分析およびNMR法により検証した。
Alg3ノックアウトの他の生成物には、Man4(マンノース含有副生成物)、Hex5(図13に示すHex6の分解生成物)および2番目に大きな成分であったHex6が含まれた。Hex6成分は、マンノシダーゼ耐性およびGlcα3Man末端を含むという特異的NMRシグナルにより、末端Glcを含有することが特徴づけられた。グリカン構造は、末端Glcの量を低下するための方法によりさらに最適化することができると考えられたが、そのことは、末端Glcは、分子のManα6アーム上にマンノースを欠如するグリカンへのグルコシダーゼIIの効力を最適以下にする見込みがあった。発酵条件のさらなる最適化で、末端Glcの量が低下する可能性がある。
このデータから、Aspergillus(Kainz et al., Appl Environ Microb. 2008 1076-86)およびP. pastoris(Davidson et al., Glycobiology 2004, 399-407)でのAlg3ノックアウトについての初期のデータよりも、T. reeseiのAlg3ノックアウトの方が、良好なグリコシル化の結果が示された。KainzらおよびDavidsonらの研究では、類似またはより高いHex6対応生成物レベルが報告された。それらの研究は、α2−マンノース、OCH1生成物およびびより大きなサイズに伴う追加的な問題、ならびにP. pastoris生成された細胞型特異的グリカンも報告した。結論として、T. reesei Alg3ノックアウトのN−グリカン分析は、ノックアウト株での主グリコフォームが、哺乳動物型N−グリカンの効率的な産生のために望まれる出発点である、Man3Gn2であることを明らかにした。
実施例3 − 個別のGnTIおよびGnTII酵素の精製および活性
ヒトGnTIおよびGnTII(N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIおよびN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII)のアクセプター特異性および活性を研究するために、それらの酵素をPichia pastorisにおいて可溶性分泌タンパク質として発現させた。
P. Pastorisでの製造のためのGnTI構築物の産生
ヒトGnTI(P26572)配列を完全長配列として得て、Trichoderma reesei overs過剰発現ベクターにサブクローニングした。酵素学的研究用にPichia pastorisで分泌型タンパク質を生成させるために、ヒトGnTIの可溶性部分をコードするタンパク質コード配列(CDS)をpBLARG−SX発現ベクターにクローニングした。クローニング手順の際に、Hisタグをコードする配列をフレームの5’末端に付加して切断型タンパク質のN末端にタグを得た。配列を配列解析により検証した。生じたベクターpTTg5を線状化し、エレクトロポレーションによりP. pastoris GY190細胞にトランスフォーメーションし、GY4株を回収した。Arg+トランスフォーマントを釣り上げ、PCRによりスクリーニングした。組み込まれたプラスミドを含有するGY4クローンをタンパク質発現について試験した。
可溶性GnTIの発現および精製
最初に、可溶性GnTIを発現しているP. pastoris GY4株をBMGY培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、100mMリン酸カリウム(pH6.0)、1.34%酵母ニトロゲンベース、4×10〜5%ビオチン、1%グリセロール)中で+30℃にて振盪しながらOD600が2〜6になるまで一晩成長させた。次に、遠心分離により細胞を採集し、OD600が1になるようにBMMY培地(BMGYと同様であるが、1%グリセロールの代わりに0.5%メタノールを有する)中に再懸濁した。培養物をバッフル付きフラスコ中に入れ、+16℃の振盪恒温槽に戻した。100%メタノールを終濃度0.5%になるように24時間毎に添加し、誘導を維持した。発現培養試料1mlを誘導の0、24、48、および72時間後に採取し、細胞ペレットおよび上清の両方を分析のために保存した。誘導の3日後に、培養物全体からの細胞を遠心分離により採集し、上清を収集し、GnTIのさらなる精製に供した。
活性アッセイのための粗GnTI試料の調製
可溶性His−タグ付きGnTIを含有するPichia pastoris細胞培養物を、濃縮および緩衝液交換により活性アッセイ用に処理した。簡潔には、MeOHを用いた誘導の3日後に、50ml Falconチューブ(Eppendorf 5810R、3220rcf、+4℃で5分間)中で細胞をペレットにし、上清を収集することによって、振盪フラスコ培養からP. pastoris上清40mlを採集した。次に、Millipore Amicon Ultracel 30Kコンセントレーターを用いた連続遠心分離(Eppendorf 5810Rまたは同等物、3220rcf、+4℃で10分間)により上清を<2.5mlに濃縮した。濃縮物の体積を100mM MES(pH6.1)で2.5mlに調整した。PD−10ゲル濾過カラム(GE Healthcare 17-0851-01)を用いて濃縮物を緩衝液交換に供した。最初にカラムを100mM MES(pH6.1)で平衡化し、次に試料(2.5ml)を添加し、流出液を捨て、MES緩衝液2.25mlで溶離液を収集した。最後に、溶離液500μlをMillipore Biomax 30Kコンセントレーター(Eppendorf 5417、12,000rcf、+4℃で5分間)で100μlに濃縮し、活性アッセイに直接使用した。
GnTI酵素の活性アッセイ
Manα1−6(Manα1−3)Manβ1−4GlcNAc(Man3Gn)を、GnTI活性アッセイでのGnTIに対するアクセプターとして使用した。GnTI反応は、0.1mMアクセプター性Man3GlcNAc、20mM UDP−GlcNAc、50mM GlcNAc、100mM MnCl2、0.5%BSAおよび8μl GnTIを100mM MES(pH6.1)中に含有する反応混合物を総体積10μlで室温にて一晩インキュベーションすることにより実施した。反応物を100℃で5分間インキュベーションすることにより反応を停止した。
GnTI活性アッセイに平行して、粗酵素調製物中にありうるHexNAc’ase活性を確認した。GlcNAcβ1−2Manα1−6(GlcNAcβ1−2Manα1−3)Manβ1−4GlcNAcβ1−4GlcNAc−Asn(=Gn2Man3Gn2−Asn)をHexNAc’aseに対する基質として使用した。Man3GnおよびUDP−GlcNAcの代わりに100pmolのGn2Man3Gn2−Asnを添加した以外は、GnTIと同様に反応を実施した。HexNAc’ase活性は検出されなかった。
HyperSep 96ウェル真空マニフォールド(Thermo Scientific)を用いたHypersep C18(100mg、Thermo Scientific、カタログ番号:60300-428)およびHypercarb(10mg/96ウェルプレート/1パッケージ、カタログ番号60302-606)連続クロマトグラフィーにより、反応混合物をMALDI分析用に精製した。Hypersep C18は、EtOH 300μlおよびMQ水 300μlを用いて調製し、次に収集プレートを下に入れ、試料をロードし、MQ水 50μlで溶離した。HypercarbをMeOH 300μlおよびMQ水 300μlを用いて調製した。Hypersep C18からの溶離液をロードし、0.5M NH4Ac 150μlで塩類を除去し、MQ水2×300μlでウェルを洗浄した。GnTI反応生成物を25%ACN 150μlで溶離し、HexNAc’ase反応生成物を25%ACNおよび0.05%TFAで溶離した。試料をSpeedvac中で乾燥させた。
マトリックス支援レーザー脱離イオン化時間飛行型(MALDI−TOF)質量分析(MS)をBruker Ultraflex TOF/TOF装置(Bruker Daltonics, Germany)で行った。アクセプター糖および生成物をポジティブイオンリフレクターモードで[M+Na]+イオンとして検出した。Hex3HexNAc1およびHex3HexNAc2の[M+Na]+シグナルについての計算されたm/z値は、それぞれ733.238および933.318であった。アクセプターと生成物のパーセント比は、Hex3HexNAc1およびHex3HexNAc2に対応するシグナルから計算した(図19)。
P. pastorisでの製造用のGnTII構築物の産生
それぞれKpnIおよびEcoRI制限部位を含有するプライマーGP3およびGP13を用いて、ヒトGnTIIをコードするヌクレオチド配列をPCR増幅した。EcoRI/KpnI消化したPCRフラグメントを、同様に消化したpBLARG−SXクローニングベクターにライゲーションした。配列を検証後に、最終構築物をP. pastoris GS190株にトランスフォーメーションしてGY22株を得た。陽性酵母トランスフォーマントをPCRによりスクリーニングした。2種のクローン(その一方だけを図20に示す)を、+16℃および+30℃におけるメタノール誘導性AOX1プロモーターのコントロール下でのGnTII発現について検討した。
可溶性GnTIIの発現
ウエスタンブロット分析によると(図20)、P. pastoris GY22株は可溶性リコンビナントGnTII酵素を生成した。GnTIIは、計算分子量49049.0Daおよび2個の推定上のN−グリコシル化部位を有する。リコンビナントGnTIIは+16℃で培地中に分泌された(レーン9)。+30℃で成長させると、リコンビナントGnTIIは細胞内に拘束された(レーン4)。
可溶性GnTIIの活性アッセイ
GnTIについて上記のように、可溶性Hisタグ付きGnTIIを含有するP. pastoris細胞培養物を活性アッセイ用に処理した。細胞培養物を遠心分離し、上清を採集および濃縮し、100mM MES(pH6.1)に緩衝液交換を行い、生じた試料をさらに濃縮してから活性試験を行った。
活性アッセイは、GnTIと同様に実施した。GnMan3GnをGnTIIアクセプターとして使用した。
100mM MES(pH6.1)中に0.1mMアクセプター性GnMan3Gn、20mM UDP−GlcNAc、50mM GlcNAc、100mM MnCl2、0.5%BSA、およびGnTIIの存在下でGnTIIの反応を実施した。MALDI−TOF MS分析のための反応混合物の精製は、GnTIについて上記のように、真空マニフォールド上の96ウェルプレートでのHypersep C18およびHypercarb連続クロマトグラフィーにより行った。
Bruker Ultraflex TOF/TOF装置(Bruker Daltonics、Germany)でMALDI−TOF MSを行った。アクセプター性糖および生成物をポジティブイオンリフレクターモードで[M+Na]+イオンとして検出した。反応終了時の生成物とアクセプターの比をそれらのシグナル強度から計算した(GnMan3Gnアクセプターおよび1個のGlcNAcが付加された生成物の[M+Na]+シグナルについての計算m/z値は、それぞれ933.318および1136.397である)。
GnTIIを生成しているP. pastorisの培養を繰り返し、上清からのGnTII濃縮物(60×)を調製し、その活性を上記方法により測定した。2.5時間、5時間、および一晩経過時点の試料のMALDIスペクトルは、アクセプターの80%、83%、および82%がそれぞれ生成物に変換されたことを示した。2.5時間で最大に近い反応に到達した。
加えて、粗GnTII試料を調製し、粗GnTI試料について上記のように、活性アッセイを実施した。反応混合物を一晩インキュベーションし、精製し、MALDI分析に供した。MALDIスペクトルは、GnTII活性を明らかにした(図21)。HexNAc’ase活性は粗GnTII試料から検出されなかった。
上記GnTII活性アッセイに使用するためのGnTIIアクセプターを合成するために使用した方法は以下の通りであった。上記のようにP. pastoris培養液からGnTI試料を調製した。このGnTI試料は、高いGnTI活性を示したので、それを約40nmolのMan3GnからGnMan3Gnへの変換に使用することができた。0.5mM Man3Gn、20mM UDP−GlcNAc、50mM GlcNAc、100mM MnCl2、0.5%BSA、およびGnTI試料の存在下で反応を実施した。反応混合物を室温で3日間インキュベーションした。約1%の試料をHypercarbクロマトグラフィーによる精製およびMALDI分析に供した。MALDIスペクトルによると、GnTIの反応は、ほぼ全てのMan3GnアクセプターをGnMan3Gn生成物に変換した。2.8%のアクセプターだけが変換されなかった。
実施例4 − GnTI/GnTII融合タンパク質
GnTI/GnTII発現構築物の産生
フレーム内融合部位(天然AleI制限部位を含有し、終止コドンが除去され、GnTII配列と重複したGnTI由来短鎖配列)を含有する5’末端65塩基長融合プライマーと、SpeIまたはNdeI制限部位のいずれかを含有する、GntIIに相同な3’末端プライマーとを用いて、1313bpのGnTIIフラグメントを増幅することにより、リコンビナントGnTI/II融合タンパク質を構築した。この融合部位は、cbh1プロモーターのコントロール下の野生型GnTIを有する(AleI/NdeIを用いてクローニング)、またはgpdプロモーターのコントロール下の野生型GnTIを有する(AleI/SpeIを用いてクローニング)T. reesei過剰発現ベクターに融合フラグメントを直接クローニングすることを可能にした。高忠実度Phusionポリメラーゼ(Finnzymes)ならびに標準的な増幅およびクローニング手順を使用した。発現ベクターから直接配列決定することにより配列を検証した。生じたベクターを使用して、T. reeseiでの膜貫通タンパク質として融合体を発現させた。
融合タンパク質の機能性に関してより多くの情報を得るために、融合GnTI/IIタンパク質を、P. pastorisでの可溶性タンパク質としても発現させた。酵素研究用のタンパク質を生成するために、タンパク質の可溶性部分をコードするGnTI/II融合体のCDSをpBLARG−SX発現ベクターにクローニングした。クローニング手順の際に、Hisタグをコードする配列をフレームの5’末端に付加して、切断型タンパク質のN末端にタグを得た。配列解析により配列を検証した。生じたベクターを線状にし、エレクトロポレーションによりP. pastoris GS190株にトランスフォーメーションしてGY6株を回収した。Arg+トランスフォーマントを釣上げ、PCRによりスクリーニングした。組み込みされたプラスミドを含有するP. pastorisクローンをタンパク質発現について試験した。
P. pastorisにおいて生成した可溶性GnTI/IIの精製
P. pastorisでの発現および精製手順は、リコンビナントGnTIタンパク質を用いて上記のように実施した。
GnTI/II融合タンパク質の酵素活性試験
活性アッセイは、アクセプターとしてMan3Gnオリゴ糖およびUDP−GlcNAcドナーを用いて、GnTIアッセイについて上記のように実施した。反応生成物をMALDI−TOF質量分析により分析した。GnTI/GnTII融合タンパク質についてGnTI活性だけが観測された(図22)。
ランダム組み込みによるGnTI/GnTII構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション
gpdAプロモーターを有するキメラヒトGnTI/GnTIIプラスミドをランダム組み込みでT. reesei M124株に共トランスフォーメーションした。アセトアミダーゼマーカー遺伝子を含有するプラスミドの共トランスフォーメーションにより選択を行った。PCR陽性トランスフォーマント20個を精製して単核クローンにし、振盪フラスコ培養で成長させ、グリカン分析に供した。全てのトランスフォーマントおよび親株M124を、4%ラクトースおよび2%穀粒粕エキスを補充したTrichoderma最少培地(TrMM)(pH4.8)中で培養した。上清および菌糸体試料を3、5、および7日目に収集し、分析まで凍結保存した。加えて、対照として、T. reeseiにGnTI構築物をランダム組み込みによりトランスフォーメーションした。
ランダム組み込みにより得られたT. reesei GnTI/GnTII株のグリカン分析
T. reesei M124株GnTI/GnTIIトランスフォーマントからの異なる3時点(3、5および7日目)の異なる20個のクローンからの試料を分析した。対照について、二つの親M124株からの試料を分析した。SDS変性なしのN−グリカナーゼ反応を、上清タンパク質5μgに関して三つ組みにして96ウェルプレートで行った。上清のタンパク質濃度は、標準としてBSAを使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(Bio-Rad Quick Start Bradford Protein Assay)により測定した。中性および酸性N−グリカンの両方をMALDI−TOF MSにより分析した。任意の時点の任意のクローンでのGnTI/GnTII構築物を用いて、およびgpdAプロモーターを有するGnTIトランスフォーマントのクローンにおいて、Go生成物は検出されなかった。
ターゲット組み込みによるGnTI/GnTII構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション
キメラGnTI/GnTII配列を、アセトアミダーゼマーカー遺伝子ならびにalg3ローカス組み込み用の5’−および3’−フランキング配列部位を含有するベクターであるpTTv38骨格にサブクローニングした。そのベクターを消化されたフラグメントとしてT. reesei M124株にトランスフォーメーションした。このトランスフォーメーションから、alg3ローカスへの正しい組み込みを示すPCRフラグメントをもたらす18個のPCR陽性トランスフォーマントが検出された。1回の胞子精製後に、これらのトランスフォーマントを振盪フラスコ中で培養し、下記のように分析した。
alg3ローカスへのターゲティングにより得られたT. reesei GnTI/GnTII株のグリカン分析
Δalg3T. reesei GnTI/GnTIIトランスフォーマントの異なる3時点(3、5および7日目)での10個の異なるクローンの上清試料を得た。2種類の異なる培地組成でクローンを振盪フラスコ中で培養しておいた。2%穀粒粕エキス、4%ラクトース、およびフタル酸K緩衝剤を有するTrMM(pH5.5)を全てのクローンについて使用し、平行して2%穀粒粕エキス、4%ラクトース、1%カザミノ酸、およびフタル酸K緩衝剤を有するTrMM(pH5.5)を5個のクローンについて使用した。培養を7日間、5日間は+28℃で、ならびに6および7日目は+24℃で継続した。
N−グリカン分析は、上清タンパク質5μgについて三つ組みにして、96ウェルプレート中で行った。3、5、および7日目から試料を分析した。上清のタンパク質濃度は、標準としてBSAを使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(Bio-Rad Quick Start Bradford Protein Assay)により測定した。中性および酸性N−グリカンの両方をMALDI−TOF MSにより分析した。
検出可能な量のグリコフォームG0が各クローンから見出された。クローン201Aが最大量を含有し、Gn2Man3が1.2%であった(図23および表9)。加えて、この特定のクローンではHex6の量が最低であった。1%カザミノ酸を有する第2の培地は、G0/GlcNAcβ2Manα3(GlcNAcβ2Manα6)Manβ4GlcNAcβ4GlcNAcβの余分な生成をまったく示さなかった。3および7日目の試料の結果は、5日目の試料についての結果と本質的に同じであった。
実施例5 − GnTII/GnTI融合タンパク質
GnTII/GnTI発現構築物の作製
PCR重複技法を適用することによりGnTII/GnTI融合発現構築物を産生した。融合部位に50bpのフレーム内重複を含有するプライマーを用いて、融合フラグメントをGnTIIおよびGnTIテンプレートから別々に増幅した。フラグメントをアガロースゲルから精製し、標準的な手順により融合構築物の増幅用のPCRテンプレートとして使用した。融合構築物を、ApaI/SpeI制限部位を有するベクターにクローニングした。生じた構築物を配列分析により検証した。P. pastorisにおいてターゲットタンパク質のN末端にHisタグを有する可溶型GnTII/GnTIを発現させるためにベクターを産生した。このベクターは、GnTI/II融合構築物について上記したものと類似の方法で産生した。
P. pastorisにおいて生成した可溶性GnTII/GnTIの精製
P. pastorisにおける発現および精製手順を、リコンビナントGnTIタンパク質について上記したように実施した。
GnTII/GnTI融合タンパク質の酵素活性試験
GnTIについて上記したように、Man3Gnオリゴ糖をアクセプターとして使用して、活性アッセイを実施した。GnTII/GnTI反応からの精製反応混合物のMALDIスペクトルは、2個のGlcNAcβ残基がアクセプターに転移したことを示した(図24)。
β−N−アセチルグルコサミニダーゼによる特徴づけ
GnTII/GnTI活性反応において形成した混合物をStreptococcus pneumoniae由来β1−2,3,4,6−N−アセチルグルコサミニダーゼで処理した。転移したβ−結合型GlcNAc残基の両方が切断されたことを判定するためにMALDI MS分析を用いた(図25)。
β1−4GalTによるガラクトシル化
GnTII/GnTI活性反応で形成した混合物を牛乳由来β1−4GalTで処理した。β1−4GalTは、生成混合物中の末端GlcNAc残基をガラクトシル化すると予想される。β1−4GalT反応混合物のMALDIスペクトルによると、両方の生成物はガラクトシル化されていた。2個のガラクトースがGn2Man3Gn生成物に転移しており、これは、GlcNAc残基が別々のマンノース枝に結合していることを示した(図26)。
ランダム組み込みによるGnTII/GnTI構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション
キメラGnTII/GnTI配列を設計し、gpdAプロモーターを含有するベクターにクローニングした。プラスミド配列の検証後、それをヒグロマイシンマーカー遺伝子と共にT. reesei M124株に共トランスフォーメーションした。13個のPCR陽性トランスフォーマントを同定した。全ての陽性トランスフォーマントおよび親株M124を、4%ラクトースおよび2%穀粒粕エキスを補充したTrMM(pH4.8)中で培養した。加えて、4%ラクトース、2%穀粒粕エキス、および1%カザミノ酸を補充し、100mM PIPPS(ピペラジン1,4ビス2プロパンスルホン酸)で緩衝化したTrMM(pH5.5)中で7個のトランスフォーマントおよび親株を培養した。株の成長速度をモニターするためにpH測定を用いた。上清および菌糸体試料を3、5、および7日目に収集し、凍結保存し、グリカン構造について分析した。cbh1プロモーターを含有するプラスミドにGnTII/GnTI配列もクローニングした。加えて、対照としてランダム組み込みによりT. reeseiにGnTI構築物をトランスフォーメーションした。
ランダム組み込みにより得られたT. reesei GnTII/GnTI株のグリカン分析
2種の異なる培地中で培養したT. reesei M124株GnTII/GnTIトランスフォーマントおよび親M124株の156個の上清試料を分析した。第1の培地は、2%穀粒粕エキスおよび4%ラクトースを補充したTrMM(pH4.8)であり、第2の培地は、2%穀粒粕エキス、4%ラクトース、100mM PIPPS、および1%カザミノ酸を補充したTrMM(pH5.5)であった。両方の種類の培地中で細胞を3、5および7日間成長させた。
SDS変性なしのN−グリカナーゼ反応は、3および5日の時点の試料の上清タンパク質5μgについて三つ組みにして96ウェルプレートで実施した。上清のタンパク質濃度は、標準としてBSAを使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(Bio Rad Quick Start Bradford Protein Assay)により測定した。中性および酸性N−グリカンの両方をMALDI−TOF MSにより分析した。
3および5日の時点のいずれのクローンにも、予想されるGnTII/GnTI生成物の徴候を見ることができなかった。加えて、ランダム組み込みにより産生した、gpdAプロモーターを有するGnTIおよびGnTI/IIトランスフォーマントから生成物は観測されなかった。
ターゲット組み込みによるGnTII/GnTI構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション
cbh1プロモーターのコントロール下のキメラGnTII/GnTI配列をpyr4遺伝子ループアウトマーカーと一緒に有するベクターを構築し、ターゲット組み込みのためにバックボーンベクターのalg3フランキング領域フラグメントの間にサブクローニングした。PmeI消化した発現カセットをT. reesei M127株(M124のpyr4−株)にトランスフォーメーションした。プレート選択後に、クローンをPCRでスクリーニングし、単一胞子を介して精製した。グリカン分析用の材料を得るために、既述のように振盪フラスコ培養を行った。M127トランスフォーメーションでのalg3ローカスへの正しい組み込みを示す5個のPCR陽性トランスフォーマントを、40g/lラクトース、20g/l穀粒粕エキス、および100mM PIPPSを補充したTrMM(pH5.5)を含有する体積300mlの培地中で+28℃にて7日間培養した。細菌の混入を避けるために、植菌時に100mg/lアンピシリンをフラスコに添加した。グリカン分析用の試料を3、5および7日目に収集した。
alg3ローカスへのターゲティングにより得られたT. reesei GnTII/GnTI株のグリカン分析
T. reesei M124株(対照)、M127 GnTII/GnTIトランスフォーマントの5個の異なるクローンの上清試料、および対照培地試料を、上清タンパク質5μgについて三つ組みにして96ウェルプレートで調製した。上清のタンパク質濃度を、標準としてBSAを使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(Bio-Rad Quick Start Bradford Protein Assay)により測定した。PNGase Fの反応を既述のように行ったが、SDS変性は行わなかった。放出されたN−グリカンを、最初にHypersep C−18を用いて、次にHypersep Hypercarb(どちらもThermo Scientific製)を用いて精製し、その際、中性および酸性グリカンを分離した。両方の精製を96ウェル形式で行った。中性N−グリカンをMALDI−TOF MSにより分析した。
T. reesei M127 GnTII/GnTIトランスフォーマント由来の中性N−グリカンの比率を、pyr4陽性である以外はM127株と同じであるM124株からの比率と比較した。5個のGnTII/GnTIトランスフォーマントのうち4個は、全ての時点(3、5および7日目)で主グリコフォームとしてG0を生成した。クローン46AだけがG0陰性であった(図27)。各クローンでのMan3Gnの比率は全ての時点で小さかったが、Hex6の比率はまだ極めて大きかった。7日目に、クローン17Aは他のクローンに比べて最も多いG0および最も少ないHex6を生成した(図27)。振盪フラスコ条件で5日目にGnTII/GnTIトランスフォーマントの4個のクローンが約40%のグリコフォームG0を生成した(図27)。pHコントロールした発酵条件は、alg3ノックアウトでのG0生成物の量を増加させ、Hex6の量を減少させる可能性がある。
培地試料中で、一連の植物型N−グリカンが観測されたが、G0に対応するシグナルは観測されなかった。
ターゲット組み込みによるGnTII/GnTI構築物を用いたリツキシマブ生成T. reeseiのトランスフォーメーション
「ターゲット組み込みによるGnTII/GnTI構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション」という標題の節に記載の発現カセットを、T. reesei M279株(M202のpyr4−株)にトランスフォーメーションした。M124からpep1プロテアーゼを欠失させること、およびリツキシマブ重鎖および軽鎖を導入すること(Kex2切断部位を有する)によりM202を得た。プレート選択後に、クローンをPCRでスクリーニングし、単一胞子を介して精製した。グリカン分析用の材料を得るために、「ターゲット組み込みによるGnTII/GnTI構築物を用いたT. reeseiのトランスフォーメーション」という標題の節に記載の振盪フラスコ培養を行い、加えて、一部の培地に0.3mg/mlダイズトリプシン阻害剤(SBTI)および1%カザミノ酸を補充した。SBTIを最初は植菌時に、次に3〜6日目に毎日添加した。PMSFおよびペプスタチンAを凍結前に全ての試料に添加した。
alg3ローカスへのターゲティングにより得られたリツキシマブ生成T. reesei GnTII/GnTI株のグリカン分析
SBTI存在下の5日目の上清試料ならびにSBTI不在下の5および7日目の試料から、プロテインGアフィニティークロマトグラフィーでリツキシマブを精製した。変性タンパク質約10μgについてPNGase F反応を行った。放出されたN−グリカンを最初にHypersep C-18で、次にHypersep Hypercarb(どちらもThermo Scientific製)で精製し、そこで中性および酸性グリカンを分離した。精製ステップは96ウェル形式で行った。中性および酸性N−グリカンをMALDI−TOF MSにより分析した。2個のGnTII/GnTIトランスフォーマントクローン、9A−1および31A−1は、G0グリコフォームをそれぞれ約30%および約24%生成した。しかし、適度な量のHex6およびGnMan3もなお観測された(図28)。他のクローンからのリツキシマブは、ほとんどまたは全くG0を含有しなかった。
スペーサーの最適化
GnTII/GnTI融合タンパク質について一連のスペーサー改変を構築した。これらの変異体をPichiaで生成させ、酵素の安定性および活性についてin vitroで検討した。
GnTII/GnTI融合タンパク質をクローニングするための材料および方法をここに記載する。T45配列をPCR重複戦略を用いて二つの部分に分けて増幅した。最初にGP13 5’プライマーおよびGP93 3’プライマーを用いてフラグメントを増幅し、GP92 5’プライマーおよびGP2 3’プライマーを用いて第2のフラグメントを増幅した。Phusion高忠実度PCRポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて、供給業者により提供された標準条件下で増幅を実施した。サイクリング条件は以下の通りであった:最初に98℃で30秒間変性、98℃で5秒間変性、65℃で30秒間アニーリング、72℃で45秒間伸長を20回繰り返し、最後に72℃で20分間伸長。生じたPCR生成物をFermentas GeneJETゲル抽出キットでアガロースゲルから精製した。重複する改変配列を有するこれらのフラグメントを、プライマーなしの標準条件で同じ反応混合物中に混ぜ合わせた。10回のアニーリング/伸長サイクルを以下のように実施した:最初に98℃で30秒間変性、98℃で5秒間変性、65℃で30秒間アニーリング、72℃で45秒間伸長を10回繰返し、最後に72℃で20分間伸長。プライマーGP13(5’)およびGP2(3’)を添加し、サイクリングを上記のように20増幅サイクル継続した。増幅されたT45フラグメントをFermentas GeneJET PCR精製キットで精製し、EcoRI/KpnI(New England Biolabs)で標準プロトコールにより消化し、EcoRI/KpnI消化した酵母発現ベクターpBLARG−SXにクローニングした。生じたベクターを、プライマー3’AOX、5’AOX、GP9、GP37、GP38およびGP122を用いて配列決定した。配列は正しいことが分かった。
この、生じたプラスミドを、3×G4Sスペーサー改変用のテンプレートとして使用した。T46配列のクローニングを、T45に関して上記のように行った。GP13 5’プライマーおよびGP95 3’プライマーを最初のフラグメント合成のために使用し、GP94 5’プライマーおよびGP2 3’プライマーを第2のフラグメント合成のために使用した。フラグメントを混ぜ合わせ、プライマーGP13(5’)およびGP2(3’)を増幅のために添加した。増幅されたフラグメントT46を次にEcoRI/KpnIで消化し、酵母発現ベクターpBLARG−SXにクローニングした。生じたベクターを、上記プライマーを用いて配列決定し、配列は正しいことが分かった。
セルラーゼ関連天然スペーサーを類似のPCR重複法で構築した。CBHI関連スペーサーに関して、第1のフラグメントを、GP13 5’プライマーおよびGP107 3’プライマーを用いて増幅した。第2のフラグメントをGP108 5’プライマーおよびGP2 3’プライマーを用いて増幅した(表11)。EGIV関連スペーサーに関して、第1のフラグメントをGP13 5’プライマーおよびGP109 3’プライマーを用いて増幅した。第2のフラグメントを、GP110 5’プライマーおよびGP2 3’プライマーを用いて増幅した(表11)。どちらの場合も、PCR生成物をアガロースゲルから精製し、混ぜ合わせ、次のPCR反応のためのテンプレートとして使用して配列T50およびT51を増幅した。次に、T50およびT51 PCR生成物をEcoRI/KpnIで消化し、酵母発現ベクターpBLARG−SXにクローニングした。
全てのPCR増幅は、高忠実度Phusionポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて行った。プライマー(表11)は、MWG Operonから取り寄せた。配列決定は、ヘルシンキ大学バイオテクノロジー研究所DNA配列決定研究室(DNA Sequencing Laboratory of the Institute of Biotechnology, University of Helsinki)が商業サービスとして行った。
スペーサー改変された(3×G4Sおよび2×G4S)GnTII/GnTI融合酵素を、実施例3でのGnTIについて記載したものと類似の方法で濃縮および緩衝液交換により活性アッセイ用に処理した。活性アッセイを、Man3Gnアクセプターを用いて実施し、反応混合物をGnTI活性アッセイに記載したように精製した。MALDI分析もGnTI反応混合物に関して記載したように行ったが、加えてGnTII生成物Hex3HexNAc3の形成を追跡した。Hex3HexNAc3の[M+Na]+シグナルについての計算m/z値は1136.318であった(図29)。
スペーサー変異体
GnTII/Iスペーサー変異体をGnTII/I融合タンパク質の野生型スペーサー配列から改変した。改変されたスペーサーを表12に列挙する。全部で4個のスペーサー変異体株(GY32、GY33、GY49、およびGY50)、野生型GnTII/I融合株(GY7−2)、および偽(mock)株(GY3)を、プロテアーゼ阻害剤存在下で+16℃で発現させた。株をBMGY培地60mlに+30℃、220rpmで一晩(o/n)植菌した。一晩培養物をペレットにし、細胞をBMMY培地60ml中に再懸濁した。MeOH誘導の開始と同時に、およびその後は1日1回、プロテアーゼ阻害剤である1mM EDTA、1.5μMペプスタチンA(Sigma)および完全EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤1個(Roche)を培養液に添加した。3日目および4日目に試料25mlを培養液から採取し、濃縮チューブ(Millipore)を使用して上清試料を濃縮し、PD−10カラムで緩衝液を100mM MES(pH6.1)に交換し、最終的に50倍濃縮した。野生型の細胞ペレット(3番目)以外、細胞ペレットを1×PBS 500μl中に再懸濁し、野生型の細胞ペレットは、100mM MES(pH6.1)および完全(EDTA不含)阻害剤カクテル500μl中に再懸濁した。
3×G4Sスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号119に示す。3×G4Sスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のヌクレオチド配列を配列番号141に示す。2×G4Sスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号121に示す。2×G4Sスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のヌクレオチド配列を配列番号139に示す。CBHIスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号123に示す。CBHIスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のヌクレオチド配列を配列番号143に示す。EGIVスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号125に示す。EGIVスペーサーを含有するGnTII/GnTI融合タンパク質のヌクレオチド配列を配列番号145に示す。
遠心分離を繰返すことおよび完全(EDTA不含)阻害剤カクテルを有する100mM MES(pH6.1)中に細胞を再懸濁することにより、細胞懸濁物試料200μlを洗浄した。洗浄した細胞試料200μlを採取すること、ガラスビーズ50μlおよびトリトンX−100 2μlを添加すること、ならびにビーズ攪拌器中に6分間入れることによって細胞溶解液を調製した。50倍濃縮したP. pastoris培養上清、細胞試料および細胞溶解液のGnTI活性アッセイを上記のように行った。
3日目からの細胞ペレットおよび50倍濃縮培養上清のウエスタンブロット分析を図30に示す。CBHIスペーサー変異体(GY49)は、上清からではなく、細胞ペレット試料から強いシグナルを発した。EGIVスペーサー変異体(GY50)を上清から検出し、かすかなシグナルだけが得られた。上清試料からのかすかなシグナルは、野生型GnTII/I融合株(GY7−2)ならびに2×G4Sスペーサー変異株GY33−7およびGY33−8でも得られた(図30)。
次に、スペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質の活性を、野生型スペーサーを含有するGnTII/I融合タンパク質の活性と比較した。
上清中の融合GnTII/Iの活性。GnTI基質Man3Gnを提供すると、反応生成物GnMan3Gnは、融合タンパク質のGnTII活性についてのアクセプターとして作用した。3日および4日の発現期の後に、活性アッセイ用の試料を採取した。図31に、野生型スペーサーまたはスペーサー変異体のいずれかを含有するGnTII/I融合タンパク質の培養物の活性アッセイの結果を示す。試料の培養は、阻害剤(1.5μMペプスタチンA、1mM EDTA、1錠/50mlの完全EDTA不含プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤)の存在下で行った。分かり易くするために、GnTIおよびGnTIIの反応生成物を一緒に添加した。全ての活性アッセイ試料は、GnTI生成物GnMan3Gnを少量(<5%)だけ含有し、GnTIIがGnMan3GnをGn2Man3Gnに活発に変換したことを示した。
全部で4個のスペーサー変異体がGnT活性を示したものの、クローン間および培養日数間で幾分変動があった。2×G4S(クローン_1)、3×G4S(クローン_1およびクローン_2)、またはEGIVスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、野生型スペーサーを有する酵素よりも高い活性を示した(図31)。CBHIスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、野生型スペーサーを有する酵素に匹敵する活性を示した(図31)。2×G4S変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質(クローン_2)は、野生型スペーサーを有する酵素よりも低い活性を有した(図31)。4日目の試料は、3日目の試料よりも高い活性を有したが、例外として、3×G4Sスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質(クローン_1およびクローン_2)は3日目の方が高い活性を示した(図31)。EGIVスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、4日目に最高の活性を有した(図31)。
細胞および細胞溶解物中の融合GnTII/I活性。野生型スペーサーを有するGnTII/I融合タンパク質を含有する細胞からの細胞試料、細胞溶解物試料、および上清試料の活性アッセイは、細胞溶解物試料が最高の活性を含有したことを示した(図32)。2番目に高い活性は、細胞表面上にあり、最低の活性は、上清試料に見られた(図32)。したがって、大部分のGnTII/I融合タンパク質が細胞中または細胞表面上に局在し、少量だけが分泌されたと思われる。
野生型スペーサーまたはスペーサー変異体のいずれかを有するGnTII/I融合タンパク質を含有する細胞のGnT活性を図33に示す。完全EDTA不含阻害剤カクテルを有する100mM MES(pH6.1)500μl中に細胞を、およびPBS 500μl中にスペーサー変異体を再懸濁し、活性試験用の細胞および溶解物を、上記のように調製した。
図33に示すように、スペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、上清よりも細胞中の方がずっと高いGnTII/I活性を有した。溶解物中で、酵素は、不活性に見えた。この活性の欠如は、放出されたプロテアーゼの作用が原因と考えられる。CBHIスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、細胞および溶解物の方が高い活性を示したが(図33)、これは、細胞ペレット試料の方が高いシグナルを示したウエスタンブロット分析に関係する(図30)。
考察。上清において、2×G4Sおよび3×G4Sスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、野生型スペーサーを含有するGnTII/I融合タンパク質よりも高い活性を有し、一方でCBHIスペーサー変異体は、野生型スペーサーを含有するGnTII/I融合タンパク質に匹敵する活性を有した。その上、EGIVスペーサー変異体を含有するGnTII/I融合タンパク質は、最高のGnT活性を示した。3日目の試料のウエスタンブロット分析は、4日目の活性の結果と幾分相関を有した。ウエスタンブロット分析は、野生型、2×G4SおよびEGIVの両クローンの上清試料でかすかなバンドを示した。活性は以下の順序で検出された:EGIV>2×G4S(クローン_1)>3×G4S(クローン_2)>3×G4S(クローン_1)≧CBHI=野生型=2×G4S(クローン_2)。
野生型スペーサーを含有するGnTII/I融合タンパク質の上清、細胞、および細胞溶解物試料中のGnTII/I融合タンパク質活性の決定は、大部分の活性が細胞内に関連し、より少ない量が分泌されることを示した。このことは、ウエスタンブロット分析において、なぜ上清画分よりも細胞画分の方にずっと良好なHisタグ付きGnTII/Iシグナルが認められたかを説明すると考えられる。
完全EDTA不含阻害剤錠剤によるセリンおよびシステインプロテアーゼの、EDTAによるメタロプロテイナーゼの、ならびにペプスタチンAによるアスパラギン酸プロテアーゼの阻害は、GnTII/I融合タンパク質の収率を改善した。セリンプロテアーゼ阻害剤の使用に関するこの観測は、P. pastorisの培地中のセリン型プロテアーゼ活性がPMSFで完全に阻害されたことを示したSalaminら(Appl. Environ. Microbiol., 76 (2010) 4269-4276)の研究に一致する。加えて、Vadら(J. Biotechnol. 116 (2005) 251-260)は、P. pastorisにおいて10mM EDTAの存在下で、Saccharomyces cerevisiaeタンパク質であるジスルフィドイソメラーゼの共発現と組み合わせて、インタクトなヒト副甲状腺ホルモンが300mg/lを超える高い生成を示したことを報告した。
4個のスペーサー変異体のそれぞれを含有する全てのGnTII/I融合タンパク質がGnTII/I活性を有し、2×G4SおよびEGIVスペーサー変異体を有する酵素の活性が、野生型スペーサーを含有するGnTII/I融合タンパク質よりも高い活性を有した。
実施例6 − アクセプター性グリカンとしてのMan5への融合タンパク質の使用
Man5型N−グリコシル化を有するリツキシマブ発現T. reesei株の構築
ネイティブなリツキシマブ配列はコドンが調和している。合成されたリツキシマブ軽鎖および重鎖を含有する原型プラスミドを産生した。抗体鎖およびCBHI融合タンパク質は、40ヌクレオチド重複配列を有するように設計し、酵母相同組み換えを用いたクローニングを可能にするために、重鎖についての発現ベクターpHHO1(アセトアミダーゼ選択マーカーcbh1がcbh1ローカスへの組み込み用に隣接する)または軽鎖についてのpHHO2(ヒグロマイシン選択マーカーegl1がegl1ローカスへの組み込み用に隣接する)も同じく設計する。
得られた遺伝子プラスミドをE. coliにトランスフォーメーションする。DNAを調製し、合成遺伝子を消化し、プラスミド骨格から単離する。発現ベクターを、CBHI融合タンパク質および重鎖または軽鎖のいずれかを有するT. reesei発現ベクターを用いた酵母相同組み換えにより、発現ベクターを構築する。組み換えされたプラスミドを酵母からレスキューし、E. coliにトランスフォーメーションする。PCRスクリーニング後に、正しいクローンを単離し、配列決定する。発現カセットフラグメントを消化し、プラスミド骨格から単離し、重鎖構築物について約10.2kbのフラグメントおよび軽鎖構築物について10.8kbフラグメントが生じる。重鎖および軽鎖フラグメントをT. reesei M124株に共トランスフォーメーションする。ヒグロマイシン耐性および単独窒素源としてアセトアミドで成長する能力についてトランスフォーマントを選択する。連続する2回のラウンドで二重選択培地上にトランスフォーマントを画線し、ゲノムへの発現構築物の組み込みについてPCRにより試験する。
リツキシマブ抗体を発現しているT. reesei株へのGnTII/Iタンデム酵素およびマンノシダーゼIIの導入
リコンビナントGnTII/IをM124などのMan5産生株に導入することに加え、GnTII/Iがアクセプター分子としてGlcNAcMan3を利用することができるようにGlcNAcMan5グリカン構造から2個のマンノースを除去するために、マンノシダーゼII活性がさらに必要である。
上記の方法を本質的に用いて、上述の実施例に記載されたGnTII/I発現カセットを、例えばT. reeseiのcbh2ローカスにターゲティングすることができる。次に、GnTII/I融合タンパク質用のGlcNAcMan3アクセプター分子を産生するために、上記トランスフォーメーション法を用いて、マンノシダーゼII活性をその株に導入する。
マンノシダーゼ発現を推進するためのプロモーターを有する所望のマンノシダーゼ含有発現カセットを設計することにより、マンノシダーゼII活性をリツキシマブ抗体発現M124株に導入する。有用なプロモーターは、gpdAまたはcbh1由来である。マンノシダーゼII活性は、ランダム組み込みに続く、最も適切な発現レベルを有する株のスクリーニングによりトランスフォーメーションすることができる。発現カセットを、専売の選択マーカー遺伝子と連結するか、または選択マーカーを、別々の発現カセットとして共トランスフォーメーションする。トランスフォーメーションは、上記方法にしたがって行う。
マンノシダーゼII融合構築物を、T. reeseiの細胞質ドメイン、膜貫通ドメインおよびステムドメイン、またはKRE2ターゲティングペプチドから得て、ヒトマンノシダーゼIIのN末端アミノ酸欠失にフレーム内結合することができる。コードされた融合タンパク質は、そのマンノシダーゼ触媒ドメイン活性を保持しながら、KRE2ターゲティングペプチド配列によりER/ゴルジ体に局在し、GlcNAcMan5GlcNAc2をGlcNAcMan3GlcNAc2に加水分解することができる。ある態様では、完全長ヒトマンノシダーゼIIは、M124で発現させることができる。
KRE2ターゲティングペプチドは、KRE2のアミノ酸約1〜約106番または約1〜約83番を含む。
Kre2 aa1〜106
MASTNARYVRYLLIAFFTILVFYFVSNSKYEGVDLNKGTFTAPDSTKTTPKPPATGDAKDFPLALTPNDPGFNDLVGIAPGPRMNATFVTLARNSDVWDIARSIRQ(配列番号115)
Kre2 aa1〜83
MASTNARYVRYLLIAFFTILVFYFVSNSKYEGVDLNKGTFTAPDSTKTTPKPPATGDAKDFPLALTPNDPGFNDLVGIAPGPR(配列番号116)
Trichodermaに上記マンノシダーゼII構築物をトランスフォーメーション後、Trichoderma株を選択し、2回の連続するラウンドで選択培地上に画線し、ゲノムへの発現構築物の組み込みについてPCRにより試験する。次に、Man5生成性で、GnTII/I融合タンパク質、マンノシダーゼII、およびリツキシマブ抗体を発現する、選択されたTrichoderma株トランスフォーマントを振盪フラスコ中または培養槽条件で培養し、上記のようにグリカン含量について分析した。
実施例7 − T. reeseiにおけるGnTIおよびGnTIIの発現
ランダム組み込みによるGnTI構築物を用いたT. reesei M124のトランスフォーメーション
コドン最適化されたヒトGntIをT. reesei M124株にトランスフォーメーションした。GntI遺伝子を二つの異なるプロモーターのコントロール下のベクターにクローニングした:(1)cbh1遺伝子の誘導性プロモーター;および(2)gpdA遺伝子の構成的発現されたプロモーター。二つのプロモーターのいずれかの下でGntIを含有するベクターを、それぞれアセトアミダーゼ遺伝子またはヒグロマイシン耐性マーカー遺伝子のいずれかを含有するプラスミドと共にT. reesei M124株に共トランスフォーメーションした。
gpdAプロモーター下およびアセトアミド選択下のGntIを有する34個のトランスフォーマントをPCRによりスクリーニングし、全てがGntI陽性であった。cbh1プロモーター下およびアセトアミド選択下のGntIを有するトランスフォーマントについて、26個中19個がGntI構築物についてPCR陽性であった。加えて、初回のDNA抽出は、cbh1プロモーター下およびヒグロマイシン選択下のGntIを有する5株について行った。これらの株の全てがPCR陽性であった。25個のgpdAプロモータートランスフォーマントおよび全てのcbh1プロモータートランスフォーマント(14+5)を単核クローンに精製し、胞子懸濁物を調製した。
初回分析目的のために、23個のgpdAプロモータートランスフォーマントおよび19個のcbh1プロモータートランスフォーマント(14個はアセトアミドから、5個はヒグロマイシン選択から成長した)、ならびに親株M124を、2%穀粒粕エキスおよび4%ラクトースを補充したTrichoderma最少培地50mlを有する250ml振盪フラスコ中で培養した。株の成長をpH測定によりモニターした。試料(上清および菌糸体)を3、5、および7日目に収集し、グリカン構造分析のために使用するまで凍結保存した。
ランダム組み込みにより得られたT. reesei GnTI株のグリカン分析
全ての上清試料のタンパク質濃度を、標準としてBSAを使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(BioRad Quickstart Bradford Protein Assay)により測定した。N−グリカン分析に供された試料の分泌タンパク質含量を5μgまたは10μgに調整した。上清タンパク質5μgについて96ウェルプレート、または上清タンパク質10μgについて1.5mlチューブのいずれかで、N−グリカン分析を行った。全てのN−グリカン分析を三つ組みで行った。中性および酸性N−グリカンの両方をMALDI−TOF MSで分析した。
4個のGnT1トランスフォーマント(3および5日目)において生成されたGnT1生成物Gn1Hex5の量および同じく生成した酸性N−グリカンの量のより正確な測定を行うために、MALDIスペクトルに公知のグリカンを添加した。中性および酸性N−グリカンについて、1177Daの質量値の2pmol/スペクトルの内部較正剤Hex2HexNAc4および1362Daの質量値の0.5pmolのモノシアリル化Hex4HexNAc2をそれぞれ使用した。分析を三つ組みで行った。
いずれのgpdAプロモータートランスフォーマントからもGnT1生成物は観測されなかった。しかし、8個のcbhIプロモータートランスフォーマント(5個はヒグロマイシン選択され、3個はアセトアミド選択されたもの)がGnT1生成物Gn1Man5を生成した(図34および35、ならびに表13)。
GnT1生成物Gn1Man6P1、Gn1Man7P1、およびGn1Man8P1も、全ての陽性トランスフォーマントのリン酸化N−グリカン中に見出された。リン酸化N−グリカンの量は、GnT1トランスフォーマントで増加し、プロファイルはより大きなN−グリカンに偏り、Man7P1またはMan8P1が最も強いシグナルを有した(親M124ではMan6P1)(図36)。
8個のGnTIトランスフォーマントがGn1Man5構造を生成した。Gn1Man5はクローン39で最も存在度が高かった。しかし、2番目に高いレベルのGn1Man5を生成したが、高い比率のMan5およびGn1Man5を有したクローン8が最良のクローンであると思われた(図35)。cbhIプロモーターのコントロール下でGnTIを含有するクローン8をM198株と名付け、分析継続のために選択した。
ターゲット組み込みによるGnTII構築物を用いたT. reesei M198株のトランスフォーメーション
5個のGnTII保有ベクターを生み出した(表14)。2個のベクターがGNTII中にネイティブな哺乳動物ゴルジ体ターゲティングペプチドを含有した。残りの3個のベクターでは、哺乳動物ターゲティングペプチドがT. reesei MNT1(α−1,2−マンノシルトランスフェラーゼ)ターゲティングペプチドに置き換えられていた。全部で5個のベクターがcbh1プロモーターまたはgpdAプロモーターのいずれかおよびpyr4ループアウトマーカーを含有した。追加的に、全部で5個のベクターが、alg3ローカスに組み込むようにターゲティングされ、したがってalg3遺伝子を欠失していた。cbh1プロモーター下のMNT1/GnTII構築物のうち、2個の異なる大きさのGnTII配列欠失を試験した。
pTTv144ベクターを除くこれらのベクターを、最良のpy4陰性GnTI生成株M198(M319)にPmeIフラグメントとしてトランスフォーメーションした。トランスフォーマントを精製して単核クローンにし、PCRをスクリーニングした。次に、両端に正しい組み込みを示しているクローンを分析継続のために選択した。
産生したGNTII発現株の成長特性を研究するために、大量の振盪フラスコ培養物を調製した。振盪フラスコ培養物を2回の別々の回分培養で調製した。最初の回分培養物はpTTv140、pTTv142、およびpTTv143を含有した。2回目の回分培養物はpTTv141を含有した。親株M198を対照株として使用した。40g/lラクトース、20g/l穀粒粕エキス、および100mM PIPPSを補充したTrMM培地(pH5.5)中で細胞を成長させた。構築物1個あたり5個のトランスフォーマントを培養した。pTTv140、pTTv142、およびpTTv143培養物を3、5、7、および9日目にサンプリングした。pTTv141培養物を3、5、7、および10日目にサンプリングした。各試料のpHおよび細胞乾燥重量を測定し、培養上清試料をグリカン構造分析のために使用した。
T. reesei M198株のalg3ローカスにGnTIIをターゲティングすることにより得られたT. reesei株のグリカン分析
pTTv140ベクター(ネイティブなターゲティングペプチドおよびcbhIプロモーターを含有)、pTTv142ベクター(MNT1ターゲティングペプチド、GNTIIの74aa N末端欠失、およびcbhIプロモーターを含有)、pTTv143ベクター(MNT1ターゲティングペプチド、GNTIIの110aa N末端欠失、およびcbhIプロモーターを含有)、およびpTTv141ベクター(ターゲティングペプチドおよびgpdAプロモーターを含有)を含有する5個の異なるクローンを分析した。
5日目の試料については三つ組みで、3および7日目の試料については二つ組で、上清タンパク質5μgについて96ウェルプレートを用いてN−グリカン分析を準備した。上清のタンパク質濃度を、BSAを標準として使用してブラッドフォードに基づくアッセイ(BioRad Quickstart Bradford Protein Assay)により測定した。PNGase F反応は既述のように行った。放出されたN−グリカンを最初にHypersep C−18 100mgで、次にHypersep Hypercarb 10mg(どちらもThermo Scientific製)で精製し、そこで中性および酸性グリカンを分離した。両方の精製を96ウェル形式で行った。中性N−グリカンをMALDI−TOF MSにより分析した。
GnTIIをトランスフォーメーションされた4個の異なる株のN−グリカンを分析した。
クローン
1−117A、pTTv140ベクターをトランスフォーメーションされたことにより、ネイティブなターゲティングペプチドおよびcbhIプロモーターを含有し、約40%のG0および約13%のHex6を生成した(図37A)。pTTv143ベクターをトランスフォーメーションされたことにより、MNT1ターゲティングペプチド、GnTIIの110aa N末端末端欠失、およびcbhIプロモーターを含有するクローンは、約10%のG0を生成した(図37C)。gbdAプロモーターを含有したクローン3Bは、約28%のG0および約19%のHex6を生成した(図37D)。
pTTv140、pTTv141、およびpTTv142ベクターを含有する代表的なクローンのグリコシル化パターンも、時間の関数として安定であることが示された(図38)。
タンパク質の特異的グリコシル化
グリコシル化におけるタンパク質特異的変化を分析するために、pTTv142ベクター含有クローン3−17Aおよび親株M198由来の試料をSDS−PAGEで分離し、PVDFメンブランにブロッティングした。関心がもたれるタンパク質バンド(M198のバンド4本および3−17Aクローンの4本)を切り出し、PNGase Fを用いたメンブラン上酵素放出でN−グリカンを遊離させた(図39)。
剥離および精製した中性N−グリカンを、MALDI−TOF MSを用いて分析した。総分泌タンパク質のグリコシル化パターンは、M198親株の分離された50kDaタンパク質に類似していた(図40)。最小サイズのタンパク質バンドはグリコシル化されていなかった。
GnTIIクローン3−17Aでは、典型的でないシグナルの大部分が消失し、それらのシグナルが培地起源であることが確認された。追加的に、クローン3−17Aのグリコシル化パターンは、総分泌タンパク質のグリカンパターンと異なった(図40B)。クローン3−17AからのG0の量は、約35〜36%であった(図40B)。
GnTII株の発酵槽培養
GnTII 1−117A M329株(pTTv140ベクターを含有する)の発酵培養は、TrMM(pH5.5)+2%穀粒粕エキス+6%ラクトース+0.5%KH2PO4+0.5%(NH4)2SO4中で+28℃(pH5.5)にて行った。3日目に採取した試料に関して、上記「タンパク質特異的グリコシル化」の節に記載の分泌タンパク質5μgについて三組みでN−グリカン分析を行った。3日目にG0の量は約48%であり、Hex6の量は約19%であった(図41)。
実施例8 − T. reesei ALG3ホモログ
ランダム組み込みによるGnTI構築物を用いたT. reesei M124のトランスフォーメーション
他の生物からT. reesei ALG3ホモログを同定した。これらのホモログは、T. reesei以外の糸状菌細胞用のALG3欠失構築物を設計するために使用することができる。ALG3ホモログを表15に列挙する。T. reesei ALG3およびALG3ホモログの複数のアミノ酸配列アライメントを図42に示す。
実施例9 − GnTII/GnTI融合タンパク質変異体
GnTII/GnTI発現構築物の産生
誘導性プロモーターcbh1のコントロール下であり、4個のスペーサー変異体のうち1個を含有するリコンビナントGnTI/II融合タンパク質を、実施例4および5に記載するように構築した。4個のスペーサー変異体は、2×G4Sスペーサー、3×G4Sスペーサー、CBHIスペーサー、およびEGIVスペーサーである。
簡潔には、融合部位で50bpフレーム内重複を含有するプライマーを用いて、GnTIIおよびGnTIテンプレートから融合フラグメントを別々に増幅する。フラグメントをアガロースゲルから精製し、標準的な手順により融合構築物の増幅用のPCRテンプレートとして使用する。融合構築物を、誘導性プロモーターcbh1のコントロール下でApaI/SpeI制限部位を有するベクターにクローニングする。追加的に、GNTIIドメイン中のネイティブな哺乳動物GolgiターゲティングペプチドをT. reesei MNT1(α−1,2−マンノシルトランスフェラーゼ)ターゲティングペプチドによって置き換えた。
融合タンパク質に2×G4Sスペーサー変異体を導入するために、PCR重複戦略を用いてT45配列を二つの部分に分けて増幅する。最初に、AKT1−6−1 5’プライマー(GGTACCGGGCCCACTGCGCATCATGCGCTTCCGAATCTACAAGCG(配列番号146))およびGP93 3’プライマーを用いてフラグメントを増幅し、GP92 5’プライマーおよびAKT1−6−4 3’プライマー(GGCGCGCCACTAGTCTAATTCCAGCTGGGATCATAGCC(配列番号147))を用いて第2のフラグメントを増幅する。Phusion高忠実度PCRポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて、供給業者によって提供される標準条件下で増幅を実施する。サイクリング条件は実施例5に記載する通りである。生じたPCR生成物をアガロースゲルから精製し、重複する改変配列を有するフラグメントを、プライマーを有さない標準条件と同じ反応混合物中に混ぜ合わす。10回のアニーリング/伸長サイクルは実施例5に記載するように実施する。プライマーAKT1−6−1(5’)およびAKT1−6−4(3’)を添加し、実施例5に記載するようにサイクルを20増幅サイクルにわたり継続する。次に、増幅したT45フラグメントを精製し、ApaI/SpeI(New England Biolabs)で標準プロトコールにしたがって消化し、Trichoderma reesei発現ベクターにクローニングする。次に、クローニングされたフラグメントを、適切なプライマーセットを用いた配列決定により検証し、産生した配列を、2×G4Sプロモーターおよびalg3ターゲティングを有するT. reesei発現ベクターの構築のために使用する。
生じたプラスミドを、3×G4Sスペーサー改変用のテンプレートとして使用する。T46配列のクローニングは、T45に関して上記したように行う。AKT1−6−1 5’プライマーおよびGP95 3’プライマーを第1のフラグメント合成のために使用し、GP94 5’プライマーおよびAKT1−6−4 3’プライマーを第2のフラグメント合成のために使用する。フラグメントを混ぜ合わせ、プライマーAKT1−6−1(5’)およびAKT1−6−4(3’)を増幅のために添加する。次に、増幅したフラグメントT46をApaI/SpeIで消化し、Trichoderma reesei発現ベクターにクローニングする。次に、クローニングされたフラグメントを、適切なプライマーセットを用いた配列決定により検証し、産生した配列を、3×G4Sプロモーターおよびalg3ターゲティングを有するT. reesei発現ベクターの構築のために使用する。
CBHIおよびEGIVスペーサーを、類似のPCR重複法で構築する。CBHIスペーサーについて、第1のフラグメントは、AKT1−6−1 5’プライマーおよびGP107 3’プライマーを用いて増幅する。第2のフラグメントは、GP108 5’プライマーおよびAKT1−6−4 3’プライマーを用いて増幅する(表11)。EGIVスペーサーについて、第1のフラグメントは、AKT1−6−1 5’プライマーおよびGP109 3’プライマーを用いて増幅する。第2のフラグメントは、GP110 5’プライマーおよびAKT1−6−4 3’プライマーを用いて増幅する(表11)。両方の場合、PCR生成物をアガロースゲルから精製し、混ぜ合わせ、次のPCR反応用のテンプレートとして使用して、配列T50およびT51を増幅する。次に、T50およびT51のPCR生成物をApaI/SpeIで消化し、Trichoderma reesei発現ベクターにクローニングする。次に、クローニングされたフラグメントを、適切なプライマーセットを用いた配列決定により検証し、産生した配列を、CBHIまたはEGIVプロモーターのいずれかおよびalg3ターゲティングを有するT. reesei発現ベクターの構築のために使用する。
全てのPCR増幅は、高忠実度Phusionポリメラーゼ(Finnzymes)を用いて行う。プライマー(表11)はMWG Operonから取寄せる。配列決定は、ヘルシンキ大学バイオテクノロジー研究所DNA配列決定研究室が商業サービスとして行う。
スペーサー変異(2×G4S、3×G4S、CBHI、およびEGIV)を有する既述のキメラGnTII/GnTI配列を有するTrichoderma reesei発現ベクターを、cbh1プロモーターのコントロール下でpyr4遺伝子ループアウトマーカーと共にサブクローニングし、次に、骨格へのターゲット組み込みのためのalg3フランキング領域フラグメントを構築する。発現カセットをT. reesei M279株(M202のpyr4−株)にトランスフォーメーションする。プレート選択後に、クローンをPCRでスクリーニングし、単一胞子を介して精製する。グリカン分析用の材料を得るために、既述の振盪フラスコ培養を行う。
リツキシマブ抗体発現性T. reesei株へのGnTII/I融合タンパク質変異体の導入
リコンビナントGnTII/I融合タンパク質変異体を、実施例5に記載のリツキシマブ発現性T. reesei M279株に導入する。
簡潔には、cbh1プロモーターのコントロール下でのGnTII/GnTI融合タンパク質、MNTIターゲティングペプチド、pyr4ループアウトマーカー、および4個のスペーサー変異体のうち1個を有するベクターを、それぞれターゲット組み込みのために骨格ベクター中のalg3フランキング領域フラグメントの間にサブクローニングすることで、alg3遺伝子を欠失させる。PmeI消化された発現カセットをT. reesei M279株(pyr4−株)にトランスフォーメーションする。プレート選択後、クローンをPCRでスクリーニングし、単一胞子を介して精製する。
alg3ローカスへのターゲティングにより得られたリツキシマブ産生T. reesei GnTII/GnTI変異体株のグリカン分析
グリカン分析用の材料を得るために、実施例5に記載の振盪フラスコ培養を行い、加えて一部の培地に0.3mg/mlダイズトリプシン阻害剤(SBTI)および1%カザミノ酸を補充する。SBTIを最初に植菌時に、次に3〜6日目に毎日添加する。PMSFおよびペプスタチンAを全ての試料に添加してから凍結する。
リツキシマブは、SBTIを有する5日目の上清試料ならびにSBTIを有さない5および7日目の試料からプロテインGアフィニティークロマトグラフィーで精製する。PNGase Fの反応を変性タンパク質約10μgについて行う。放出されたN−グリカンを最初にHypersep C−18で、次にHypersep Hypercarb(両方ともThermo Scientific製)で精製し、その際、中性および酸性グリカンを分離する。精製ステップを96ウェル形式で行う。中性および酸性N−グリカンをMALDI−TOF MSにより分析して、リツキシマブ抗体上のG0グリコフォームの存在について試験する。