JP2014231631A - 容器用鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】樹脂密着性および耐変色性に優れる容器用鋼板を提供する。【解決手段】鋼板および上記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、上記錫めっき層付き鋼板の上記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、上記皮膜は、Zrを有し、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が15mg/m2超40mg/m2以下であり、上記皮膜は、球状シリカの態様でSiを有し、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が10〜60mg/m2であり、上記皮膜の厚さX(単位:nm)と、上記球状シリカの平均粒子径Y(単位:nm)とが、1.0?Y≰X≰10.0?Yの関係を満たす、容器用鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、容器用鋼板に関する。
容器用鋼板(缶用表面処理鋼板)としては、従来から「ぶりき」と称される錫めっき鋼板が広く用いられている。このような錫めっき鋼板では、通常、重クロム酸などの6価のクロム化合物を含有する水溶液中に鋼板を浸漬する、または、この溶液中で電解処理を行うなどのクロメート処理によって、錫めっき表面にクロメート皮膜が形成される。
しかしながら、昨今の環境問題を踏まえて、Crの使用を規制する動きが各分野で進行しており、容器用鋼板においてもクロメート処理に替わる処理技術がいくつか提案されている。
例えば、特許文献1の[請求項1]には、「鋼板表面上又は鋼板表面に形成した鉄および錫(Sn)を含む合金層上に、金属錫を連続的又は断続的に有するめっき鋼板であって、該めっき鋼板上に、P量として0.5〜5.0mg/m2のりん酸塩層、さらに該りん酸塩層上に、Zrの酸化物及び/又はZrの水酸化物をZr量として2〜15mg/m2、並びにSiの酸化物及び/又はSiの水酸化物をSi量として2〜15mg/m2含み、かつ前記Zr量及び前記Si量の合計が5〜30mg/m2であるシリカ−ジルコニア処理層を有することを特徴とする缶用めっき鋼板」が開示されている。
また、特許文献1には、処理浴に添加するケイ素化合物として「けいフッ化アンモニウム」が記載され([0033])、このような処理浴を用いて形成される処理層においては、「Zrの酸化物、水酸化物の形状は粒状」であり、「Siの酸化物、水酸化物の形状は層状」であることが記載されている([0021]、[0022])。
特開2010−242182号公報
近年、消費者の美観に関する要求の高まりによって、容器用鋼板に求められる種々の特性について、より一層の向上が求められている。
本発明者らは、特許文献1に開示された容器用鋼板(缶用めっき鋼板)について、さらに検討を行なった。その結果、特許文献1に記載のように「けいフッ化アンモニウム」を含む処理液を用いて「Siの酸化物、水酸化物の形状」が「層状」である皮膜を形成した場合においては、PETフィルム等の樹脂をラミネートした後にレトルト処理を行なった際に、樹脂であるフィルムに対する密着性(以下「樹脂密着性」ともいう)が不十分となる場合があることが分かった。
また、本発明者らは、ラミネート後の容器用鋼板を所定条件下でトマトジュースに浸漬すると、樹脂であるフィルムが変色する場合があり、変色に対する耐性(以下「耐変色性」ともいう)に劣ることが分かった。このとき、本発明者らは、この変色が、めっき層に含まれる錫(Sn)の酸化によるものであることを見出した。
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、樹脂密着性および耐変色性に優れる容器用鋼板を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行なった結果、容器用鋼板の皮膜が、Zrおよび球状シリカを特定量で含有し、さらに、皮膜の厚さと球状シリカの平均粒子径とが特定の関係を満たすことにより、樹脂密着性および耐変色性がいずれも良好となることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)を提供する。
(1)鋼板および上記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、上記錫めっき層付き鋼板の上記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、上記皮膜は、Zrを有し、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が15mg/m2超40mg/m2以下であり、上記皮膜は、球状シリカを含有し、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が10〜60mg/m2であり、上記皮膜の厚さX(単位:nm)と、上記球状シリカの平均粒子径Y(単位:nm)とが、1.0×Y≦X≦10.0×Yの関係を満たす、容器用鋼板。
(2)上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が15mg/m2超である、上記(1)に記載の容器用鋼板。
(3)上記錫めっき層付き鋼板と上記皮膜との間に、上記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量が0.01mg/m2以上5.00mg/m2未満であるリン含有層を有する、上記(1)または(2)に記載の容器用鋼板。
(4)上記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の容器用鋼板。
本発明によれば、樹脂密着性および耐変色性に優れる容器用鋼板を提供できる。
180度ピール試験を説明する模式図である。
〔容器用鋼板〕
本発明の容器用鋼板は、錫めっき層付き鋼板と、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する。そして、この皮膜が、Zrおよび球状シリカを特定量で含有し、さらに、皮膜の厚さと球状シリカの平均粒子径とが特定の関係を満たすことにより、樹脂密着性および耐変色性に優れる。
上記効果が得られるメカニズムは明らかではないが、例えば、連続皮膜として析出するZr化合物によって皮膜の表面に凹凸が形成されることで樹脂(フィルム)と皮膜との密着性が良好となる;さらに皮膜が球状シリカを含むことで皮膜の凹凸が増えて密着性の効果が向上する;樹脂と皮膜との界面において高温下での水分の拡散が抑制されることで錫めっき層におけるSnの酸化が抑制される;等の理由が考えられる。
また、皮膜が薄過ぎると上記凹凸が平坦化され、厚すぎると皮膜そのものの凝集破壊により、皮膜強度が弱くなって上記効果が低減するが、本発明においては皮膜が適切な厚さとなるため、上記効果が優れるものと考えられる。
なお、上記メカニズムは推測であり、上記メカニズム以外であっても本発明の範囲内であるとする。
以下に、錫めっき層付き鋼板、および、皮膜の具体的な態様について詳述する。まず、錫めっき層付き鋼板の態様について詳述する。
<錫めっき層付き鋼板>
錫めっき層付き鋼板は、鋼板および鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する。以下に、鋼板および錫めっき層の態様について詳述する。
(鋼板)
錫めっき層付き鋼板中の鋼板の種類は特に限定されるものではなく、通常、容器材料として使用される鋼板(例えば、低炭素鋼板、極低炭素鋼板)を用いることができる。この鋼板の製造方法、材質なども特に限定されるものではなく、通常の鋼片製造工程から熱間圧延、酸洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延等の工程を経て製造される。
鋼板は、必要に応じて、その表面にニッケル(Ni)含有層を形成したものを用い、該Ni含有層上に錫めっき層を形成してもよい。Ni含有層を有する鋼板を用いて錫めっきを施すことにより、島状Snを含む錫めっき層を形成することでき、溶接性が向上する。
Ni含有層としてはニッケルが含まれていればよく、例えば、Niめっき層、Ni−Fe合金層などが挙げられる。
鋼板にNi含有層を付与する方法は特に限定されず、例えば、公知の電気めっきなどの方法が挙げられる。また、Ni含有層としてNi−Fe合金層を付与する場合、電気めっきなどにより鋼板表面上にNi付与後、焼鈍することにより、Ni拡散層を配位させ、Ni−Fe合金層を形成できる。
Ni含有層中のNi量は特に限定されず、片面当たりの金属Ni換算量として50〜2000mg/m2が好ましい。上記範囲内であれば、耐硫化黒変性により優れ、コスト面でも有利となる。
(錫めっき層)
錫めっき層付き鋼板は、鋼板表面上に錫めっき層を有する。該錫めっき層は鋼板の少なくとも片面に設けられていればよく、両面に設けられていてもよい。
錫めっき層中における鋼板片面当たりのSn付着量は、0.1〜15.0g/m2が好ましい。Sn付着量が上記範囲内であれば、容器用鋼板の外観特性と耐食性に優れる。なかでも、これらの特性がより優れる点で、0.2〜15.0g/m2が好ましく、加工性がより優れる点で、1.0〜15.0g/m2がさらに好ましい。
なお、Sn付着量は、電量法または蛍光X線により表面分析して測定できる。蛍光X線の場合、金属Sn量既知のSn付着量サンプルを用いて、金属Sn量に関する検量線をあらかじめ特定しておき、同検量線を用いて相対的に金属Sn量を特定する。
錫めっき層は、鋼板表面上の少なくとも一部を覆う層であり、連続層であってもよいし、不連続の島状であってもよい。
錫めっき層としては、錫をめっきして得られる錫めっき層、または、錫めっき後通電加熱などにより錫を加熱溶融させ、錫めっき最下層(錫めっき/地鉄界面)にFe−Sn合金層が一部形成した錫めっき層も含む。
また、錫めっき層としては、Ni含有層を表面に有する鋼板に対して錫めっきを行い、さらに通電加熱などにより錫を加熱溶融させ、錫めっき最下層(錫めっき/地鉄界面)にFe−Sn−Ni合金、Fe−Sn合金層などが一部形成した錫めっき層も含む。
錫めっき層の製造方法としては、周知の方法(例えば、電気めっき法や溶融したSnに浸漬してめっきする方法)が挙げられる。
例えば、フェノールスルフォン酸錫めっき浴、メタンスルフォン酸錫めっき浴、またはハロゲン系錫めっき浴を用い、片面あたり付着量が所定量(例えば、2.8g/m2)となるように鋼板表面にSnを電気めっきした後、Snの融点(231.9℃)以上の温度でリフロー処理を行って、錫単体のめっき層の最下層にFe−Sn合金層を形成した錫めっき層を製造できる。リフロー処理は省略した場合、錫単体のめっき層を製造できる。
また、鋼板がその表面上にNi含有層を有する場合、Ni含有層上に錫めっき層を形成させ、リフロー処理を行うと、錫単体のめっき層の最下層(錫めっき/鋼板界面)にFe−Sn−Ni合金層、Fe−Sn合金層などが形成される。
<皮膜>
次に、上述した錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に配置される皮膜について説明する。
まず、皮膜は、その成分として、Zr(ジルコニウム元素)を有し、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量(以下、「Zr付着量」ともいう)が15mg/m2超40mg/m2以下である。
上記Zr付着量が15mg/m2以下または40mg/m2超である場合は、樹脂密着性および耐変色性が劣るが、15mg/m2超40mg/m2以下であれば樹脂密着性および耐変色性に優れる。これらの特性がより優れるという理由から、18〜35mg/m2が好ましく、20〜30mg/m2がより好ましい。
皮膜中のZr(ジルコニウム元素)は、各種のZr化合物として含まれ、その種類は特に限定されないが、その形状は球状ではなく層状(連続皮膜)である。
その一方で、皮膜は、球状シリカの態様でSi(ケイ素元素)を有する。すなわち、組成式SiO2で表されるシリカには、不定形な形状のものと球状のものとが存在するが、本発明において、皮膜に含まれるSiは、球状シリカである。
本発明においては、後述する処理液中のSi成分として、球状シリカが分散したコロイダルシリカを用いることで、この球状シリカが形状を維持したまま皮膜中に含まれるものと考えられる。なお、皮膜中のZr化合物が層状である理由は明らかではないが、Zr化合物は電解により鋼板表面近傍のpHが上昇することにより析出するので、鋼板表面近傍から溶液内部へのZr化合物の濃度勾配による析出量に差が生じるためと考えられる。
本発明の容器用鋼板は、層状のZr化合物中に球状シリカが存在する皮膜を有することで、皮膜表面に凹凸が形成されて、上述したような効果が得られると考えられる。
なお、皮膜に含まれるZr化合物が層状(連続皮膜)であること、および、シリカが球状であることは、例えば、皮膜の断面を収束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察することにより確認できる。
また、皮膜は、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量(以下、「Si付着量」ともいう)が10〜60mg/m2である。
上記Si付着量が10mg/m2未満または60mg/m2超である場合は、樹脂密着性が劣るが、10〜60mg/m2であれば樹脂密着性に優れる。この特性がより優れるという理由から、15mg/m2超60mg/m2以下が好ましく、25〜50mg/m2がより好ましい。
そして、本発明においては、皮膜の厚さX(単位:nm)と、皮膜が含む球状シリカの平均粒子径Y(単位:nm)とが、1.0×Y≦X≦10.0×Yの関係を満たす。
1.0×Y>Xである場合、つまり、皮膜の厚さ(X)が球状シリカの平均粒子径(Y)よりも薄い場合には、皮膜表面の凹凸が平坦化されて、凹凸による樹脂密着性等の効果が十分に得られない。
また、X>10.0×Yの場合、つまり、皮膜の厚さ(X)が球状シリカの平均粒子径(Y)の10.0倍を超える場合には、皮膜が厚くなりすぎて皮膜そのものの凝集破壊により、樹脂密着性等の効果は十分に得られない。
しかしながら、1.0×Y≦X≦10.0×Yの関係を満たす場合には、皮膜の厚さ(X)が適切な範囲となり、樹脂密着性等の効果が良好となる。
このとき、上記効果がより優れるという理由から、皮膜の厚さXと球状シリカの平均粒子径Yとは、2.0×Y≦X≦9.0×Yの関係を満たすのが好ましく、4.0×Y≦X≦7.0×Yの関係を満たすのがより好ましい。
皮膜の厚さ(X)は、例えば、皮膜の断面を収束イオンビーム(FIB)加工により露出させ、透過型電子顕微鏡(TEM)観察による断面プロファイルから測定できる。
本発明においては、球状シリカの径を除く、Zr化合物による層状の連続皮膜の厚さの平均値を、皮膜の厚さ(X)とした。
このような皮膜の厚さ(X)としては、10〜200nmが好ましく、20〜80nmがより好ましい。
また、皮膜に含まれる球状シリカの平均粒子径(Y)は、使用されるコロイダルシリカの種類にもよるが、5〜50nmが好ましく、10〜45nmがより好ましく、15〜40nmがさらに好ましい。
なお、平均粒子径(Y)は、皮膜の厚さ(X)を測定する場合と同様に、TEM観察によって実測してもよい。または、後述するように、処理液に含まれるコロイダルシリカ中の球状シリカの平均粒子径を、皮膜が含有する球状シリカの平均粒子径(Y)とみなすことができるから、コロイダルシリカ中の球状シリカの平均粒子径を、そのまま採用してもよい。
また、皮膜は、より優れた樹脂密着性および耐変色性が得られるという理由から、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのF換算の付着量(以下、「F付着量」ともいう)が、0.2mg/m2未満であるのが好ましい。0.1mg/m2未満がより好ましく、0.07mg/m2未満がさらに好ましく、0.05mg/m2未満が特に好ましく、皮膜がF(フッ素元素)を実質的に含有しない態様が最も好ましい。
上述したZr付着量およびSi付着量は、蛍光X線による表面分析により測定できる。
また、F付着量は、XPS分析により皮膜の最表面におけるZrとFとの原子比を測定し、上記の蛍光X線による表面分析で測定したZr付着量を基に算出できる。
また、皮膜中に、カルボニル基(C=O)を含むこと、すなわち、皮膜の赤外線吸収(IR)スペクトルにおいて波数1550〜1800cm-1の範囲にカルボニル基(C=O)に由来する吸収ピークを示すことが好ましい。皮膜中のカルボニル基は、後述する処理液に含まれるオキシ酢酸ジルコニウム〔ZrO(CH3COO)2〕に由来するものと考えられる。
皮膜中に含まれるカルボニル基によって、皮膜表面の親水性が低下することで水分の拡散が抑制されると考えられる。さらに、カルボニル基の存在によって樹脂フィルム、特にポリエステル系フィルムとの相溶性が向上し、その結果密着性が向上すると考えられる。
なお、赤外線吸収(IR)スペクトルの測定条件は、例えば以下のものが挙げられる。
・装置: Varian製 FTS−3100
・測定方法: ATR/GEプリズム
・分解能: 4cm-1
・積算回数: 32回
<リン含有層>
本発明の容器用鋼板は、上述した錫めっき層付き鋼板と、上述した皮膜との間に、P(リン元素)を含有するリン含有層を有するのが好ましく、具体的には、錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量(以下、「P付着量」ともいう)が、0.01mg/m2以上、5.00mg/m2未満であるリン含有層を有するのが好ましい。
このようなリン含有層を有することで、本発明の容器用鋼板における錫めっき層の酸化が抑制されて、耐変色性がより優れる。本発明において、リン含有層は上述した皮膜に覆われるため、PETフィルム等の樹脂に対する密着性が劣ることがなく、樹脂密着性も良好となる。
そして、本発明の容器用鋼板の耐変色性がさらに優れるという理由から、リン含有層のP付着量は、0.1〜5.0mg/m2が好ましく、0.5〜3.0mg/m2がより好ましい。
リン含有層のP付着量は、蛍光X線による表面分析により測定できる。
なお、本発明において、リン含有層と上述した皮膜とは、必ずしも完全な2層状態になっていなくてもよく、例えばリン含有層の一部が皮膜に含まれていてもよい。その場合、上記P付着量としては、リン含有層を皮膜と区別せずに、両者が一体化した層(膜)におけるP付着量を測定すればよい。
〔容器用鋼板の製造方法、処理液〕
上述した本発明の容器用鋼板を製造する方法としては、特に限定されないが、後述する処理液(以下、「本発明の処理液」ともいう)中に錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、本発明の処理液中に浸漬した錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施すことにより、上述した皮膜を形成する皮膜形成工程を少なくとも備える方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)が好ましい。
以下、本発明の製造方法について説明を行い、この説明の中で、併せて本発明の処理液についても説明する。
<皮膜形成工程>
皮膜形成工程は、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面上に、上述した皮膜を形成する工程であって、後述する本発明の処理液中に錫めっき層付き鋼板を浸漬する(浸漬処理)、または、浸漬した鋼板に陰極電解処理を施す工程である。陰極電解処理は、浸漬処理よりも、より高速に、均一な皮膜を得ることができるという理由から好ましい。なお、陰極電解処理と陽極電解処理とを交互に行う交番電解を実施してもよい。
以下に、使用される本発明の処理液、陰極電解処理の条件などについて詳述する。
(本発明の処理液)
本発明の処理液は、上記皮膜にZr(ジルコニウム元素)を供給するZr供給源としてZr成分(Zr化合物)を含有する。
本発明の処理液が含有するZr成分としては、例えば、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、六フッ化ジルコン酸カリウム、六フッ化ジルコン酸ナトリウム、フッ化ジルコン水素酸等が挙げられるが、処理液のpH変動に対して沈殿が発生せず、安定的であるという理由から、オキシ酢酸ジルコニウムが好ましい。
オキシ酢酸ジルコニウム〔ZrO(CH3COO)2〕は、酢酸ジルコニルとも呼ばれる。本発明の処理液がオキシ酢酸ジルコニウムを含有することで、形成される皮膜はカルボニル基を有すると考えられる。また、六フッ化ジルコン酸カリウムや六フッ化ジルコン酸ナトリウム等のフッ素系のZr成分が不使用となるため、皮膜中のF付着量が低減される。なお、皮膜中におけるカルボニル基の存在およびF付着量低減の効果については、上述したとおりである。
本発明の処理液におけるZr成分の含有量は、1〜10g/Lが好ましく、3〜8g/Lがより好ましい。
また、本発明の処理液におけるZr成分を、Zr(IV)に換算した場合の含有量(以下「Zr(IV)量」ともいう)は、0.4〜4g/Lが好ましく、1.2〜3.2g/Lがより好ましい。
本発明の処理液は、上記Zr成分のほか、さらに、Si成分を含有するが、このSi成分としては、上述した皮膜に球状シリカを含ませる観点から、コロイダルシリカを含有するのが好ましい。
ここで、コロイダルシリカとは、SiO2を基本単位とする球状シリカが水等の分散媒に分散した分散系である。分散媒の量は特に限定されないが、通常、コロイダルシリカ中の固形分量としては、例えば20〜30質量%が挙げられる。
本発明に用いるコロイダルシリカに含まれる球状シリカの平均粒子径は、5〜50nmが好ましく、10〜45nmがより好ましく、15〜40nmがさらに好ましい。平均粒子径がこの範囲であれば、樹脂密着性がより優れる。
平均粒子径はBET法(吸着法による比表面積から換算)により測定できる。また、電子顕微鏡写真から実測した平均値で代用することも可能である。
なお、コロイダルシリカ中の球状シリカは、その形状を維持したまま上述した皮膜に含まれる。このため、本発明の処理液で使用するコロイダルシリカ中の球状シリカの平均粒子径を、皮膜が含有する球状シリカの平均粒子径(Y)とみなすことができる。
本発明の処理液におけるSi成分の含有量としては、コロイダルシリカの場合、1.0〜6.0g/Lが好ましく、2.0〜5.0g/Lがより好ましい。
また、本発明の処理液におけるSi成分(コロイダルシリカ)を、Si(IV)に換算した場合の含有量(以下「Si(IV)量」ともいう)は、0.1〜0.6g/Lが好ましく、0.2〜0.5g/Lがより好ましい。
なお、本発明の処理液中の溶媒としては、通常水が使用されるが、有機溶媒を併用してもよい。
本発明の処理液のpHは、特に限定されないが、pH2.0〜5.0が好ましい。該範囲内であれば、処理時間を短くでき、かつ、処理液の安定性に優れる。
pHの調整には公知の酸成分(例えば、リン酸、硫酸)・アルカリ成分(例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア水)を使用できる。
本発明の処理液には、必要に応じて、ラウリル硫酸ナトリウム、アセチレングリコールなどの界面活性剤が含まれていてもよい。また、付着挙動の経時的な安定性の観点から、処理液には、ピロリン酸塩などの縮合リン酸塩が含まれていてもよい。
再び皮膜形成工程の説明に戻る。皮膜形成行程において、処理を実施する際の処理液の液温は、皮膜の形成効率、組織の均一性により優れ、かつ、低コストの点から、20〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
皮膜形成工程において、陰極電解処理を実施する際の電解電流密度は、形成される皮膜の樹脂密着性および耐変色性がより優れるという理由から、低電流密度であることが好ましく、より具体的には、0.05〜7.0A/dm2が好ましく、1.0〜2.0A/dm2がより好ましい。本発明の処理液を用いることにより、低電流密度での皮膜の形成が可能となる。
このとき、陰極電解処理の通電時間は、付着量低下がより抑制されて安定的に皮膜の形成ができ、形成された皮膜の特性低下がより抑制される点から、0.1〜5秒が好ましく、0.3〜2秒がより好ましい。
また、陰極電解処理の際の電気量密度は、0.20〜3.50C/dm2が好ましく、0.40〜2.00C/dm2がより好ましい。
なお、陰極電解処理の後、必要に応じて、未反応物を除去するため、得られた鋼板の水洗処理および/または乾燥を行ってもよい。なお、乾燥の際の温度および方式については特に限定されず、例えば、通常のドライヤーや電気炉乾燥方式が適用できる。
なお、乾燥処理の際の温度としては、100℃以下が好ましい。上記範囲内であれば、皮膜の酸化を抑制でき、皮膜組成の安定性が保たれる。なお、下限は特に限定されないが、通常室温程度である。
<前処理工程>
本発明の製造方法は、上述した皮膜形成工程の前に、以下に説明する前処理工程を備えていてもよい。
前処理工程は、アルカリ性水溶液(特に、炭酸ナトリウム水溶液)中で錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施す工程である。
通常、錫めっき層の作製時にその表面は酸化されて、錫酸化物が形成される。該鋼板に対して、陰極電解処理を施すことにより、不要な錫酸化物を除去して、錫酸化物量を調整できる。
前処理工程の陰極電解処理の際に使用される溶液としては、アルカリ性水溶液(例えば、炭酸ナトリウム水溶液)が挙げられる。アルカリ性水溶液中のアルカリ成分(例えば、炭酸ナトリウム)の濃度は特に限定されないが、錫酸化物の除去がより効率的に進行する点から、5〜15g/Lが好ましく、8〜12g/Lがより好ましい。
陰極電解処理の際のアルカリ性水溶液の液温は特に限定されないが、40〜60℃が好ましい。陰極電解処理の電解条件(電流密度、電解時間)は、適宜調整される。なお、陰極電解処理の後に、必要に応じて、水洗処理を施してもよい。
また、本発明の製造方法が備える前処理工程は、上記工程に限定されず、例えば、リン供給源を含む溶液中に、錫めっき層付き鋼板を浸漬する、または、浸漬した錫めっき層付き鋼板に陰極電解処理を施す工程であってもよい。
このような前処理工程を経ることにより、錫めっき層付き鋼板の錫めっき層側の表面には、上述したリン含有層が形成される。その後、リン含有層が形成された錫めっき層付き鋼板は、上述した皮膜形成工程を経ることで、皮膜が形成される。
ここで、前処理工程に使用される溶液に含まれるP供給源としては、例えば、リン酸(オルトリン酸)、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸マグネシウム、第1リン酸カルシウムなどのリン酸および/またはその塩が挙げられ、その含有量は、錫酸化物の除去がより効率的に進行する点、および所望の上記P付着量を得るという点から、1.0〜20.0g/Lが好ましく、8.0〜12.0g/Lがより好ましい。
リン含有層を形成する前処理工程において、浸漬または陰極電解処理の際の液温は特に限定されないが40〜60℃が好ましい。また、陰極電解処理の電解条件は適宜調整されるが、例えば、陰極電解処理を実施する際の電解電流密度は、所望の上記P付着量を得るという点から、0.05〜15.0A/dm2が好ましく、1.0〜12.0A/dm2がより好ましい。
このとき、陰極電解処理の通電時間は、特に限定されないが、0.1〜10.0秒が好ましく、0.3〜7.0秒がより好ましい。
短時間で所望の上記P付着量を得るためには陰極電解処理を行うことが好ましい。
なお、浸漬または陰極電解処理の後に、必要に応じて、水洗処理を施してもよい。
本発明の製造方法によって得られた本発明の容器用鋼板は、DI缶、食缶、飲料缶など種々の容器の製造に使用される。
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<錫めっき層付き鋼板の製造>
以下の方法によって、錫めっき層付き鋼板を製造した。
まず、板厚0.22mmの鋼板(T4原板)を電解脱脂し、ワット浴を用いて第3表に示す片面当たりのNi付着量でニッケルめっき層を両面に形成後、10vol.%H2+90vol.%N2雰囲気中にて700℃で焼鈍してニッケルめっきを拡散浸透させることによりFe−Ni合金層(Ni含有層)(第3表にNi付着量を示す)を両面に形成した。
引き続き、上記表層にNi含有層を有する鋼板を、錫めっき浴を用い、第3表中に示す片面当たりのSn付着量でSn層を両面に形成後、Snの融点以上でリフロー処理を施し、錫めっき層をT4原板の両面に形成した。
<皮膜の形成>
浴温50℃、10g/Lの炭酸ナトリウム水溶液中または10g/Lのリン酸水溶液中に錫めっき層付き鋼板を浸漬し、第2表に示す条件にて、陰極電解処理を行った(前処理工程)。
その後、得られた鋼板を水洗し、pHを2.6に調整した第1表に示す組成の処理液(溶媒:水)を用い、第2表に示す浴温、電解条件(電流密度、通電時間、電気量密度)で陰極電解処理を施した。その後、得られた鋼板を水洗して、ブロアを用いて室温で乾燥を行い、皮膜を両面に形成した(皮膜形成工程)。
なお、第1表に示すコロイダルシリカとしては、日産化学工業社製のスノーテックスOXS(平均粒子径:6nm)、スノーテックスOS(平均粒子径:10nm)、スノーテックスO(平均粒子径:15nm)、スノーテックスO−40(平均粒子径:25nm)、スノーテックスOL(平均粒子径:45nm)を用いた。
作製した鋼板に対して、以下の方法で、樹脂密着性および耐変色性を評価した。各成分量、および、評価結果を第3表にまとめて示す。
リン含有層のP付着量、ならびに、皮膜のZr付着量およびSi付着量は、上述の方法により測定した。
なお、リン含有層を形成しなかった場合には、第3表のP付着量に「−」を記載した。
皮膜厚さ(X)は、上述したようにして、集束イオンビーム(FIB)加工により皮膜断面を露出させた薄膜サンプルを作製し、このサンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)観察による断面プロファイルをもとに測定した。
このとき、あらかじめSEM観察を行ない、評価部位の位置を決め、保護皮膜を形成させたうえで、Gaイオンを用いたFIBにより断面加工を行なって、約0.1μmの薄膜としてTEM観察を行なった。
なお、FIB装置としてはSII−NT社製のSMI−3050MS2を用い、TEMとしては日本電子社製のJFM−2010Fを用いた。
なお、皮膜の厚さ(X)を測定しなかった場合には、第3表中には「−」を記載した。
また、皮膜中に含まれる球状シリカの平均粒子径(第3表では「シリカ粒子径(Y)」と表記)については、処理液中のSi成分であるコロイダルシリカに含まれる球状シリカの平均粒子径を記載した。
なお、処理液中のSi成分としてコロイダルシリカを使用しなかった場合には、シリカ粒子径(Y)に「−」を記載した。
<樹脂密着性>
作製した容器用鋼板の両面に、厚さ25μm、共重合比12mol%のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタラートフィルムをラミネートして、ラミネート鋼板を作製した。ラミネートは、210℃に加熱した鋼板とフィルムを一対のゴムロールで挟んでフィルムを鋼板に融着させ、ゴムロール通過後1sec以内に水冷して行った。このとき、鋼板の送り速度は40m/min、ゴムロールのニップ長は17mmであった。ここで、ニップ長とは、ゴムロールと鋼板が接する部分の搬送方向の長さのことである。そして、作製したラミネート鋼板について、次の樹脂密着性の評価を行った。
樹脂密着性の評価は、温度150℃、相対湿度100%のレトルト雰囲気における180度ピール試験により行った。180度ピール試験とは、図1(a)に示すようなフィルム2を残して鋼板1の一部3を切り取った試験片(サイズ:30mm×100mm)を用い、図1(b)に示すように、試験片の一端に重り4(100g)を付けてフィルム2側に180度折り返して30min間放置して行うフィルム剥離試験のことである。そして、図1(c)に示す剥離長5を測定し、次のように樹脂密着性を評価し、◎または○であれば樹脂密着性が良好であるとした。
◎:剥離長が10mm未満
○:剥離長が10mm以上15mm未満
△:剥離長が15mm以上50mm未満
×:剥離長が50mm以上
<耐変色性>
作製した容器用鋼板の両面に、樹脂密着性を評価したときと同様にしてラミネートし、ラミネート鋼板を作製した。市販のトマトジュースを入れたビーカーに、ラミネート鋼板の試験片(サイズ:50mm×100mm)を入れ、55℃の恒温槽に20日間放置する試験を行った。気相部(トマトジュースに浸かっていない部分)の変色を評価した。
試験前後のラミネート鋼板のL値、a値、b値をスガ試験機製カラーメーターSM−Tで測定し、試験前後の色差(ΔE)を以下のように計算して求めた。
ΔE=((L試験前−L試験後)2+(a試験前−a試験後)2+(b試験前−b試験後)20.5
その結果、次のように耐変色性を評価し、◎または○であれば耐変色性が良好であるとした。
◎:色差が2未満
○:色差が2以上、7未満
△:色差が7以上、15未満
×:色差が15以上
上記第1〜3表に示す結果から明らかなように、本発明例はいずれも樹脂密着性および耐変色性に優れることが確認された。
これに対して、Zr付着量が15mg/m2以下または40mg/m2超であって、皮膜の厚さ(X)が皮膜中の球状シリカの平均粒子径(Y)よりも薄いまたは平均粒子径(Y)の10.0倍を超える比較例1および2は、樹脂密着性が劣っていた。
また、処理液中のSi成分としてコロイダルシリカを使用せずに、ケイフッ化アンモニウムを用いた比較例3〜16は、樹脂密着性が劣っていた。なお、比較例3〜16については、FIBによる断面加工後のTEM観察の結果、皮膜中に球状シリカは確認されず、層状のSi酸化物および/または水酸化物が確認された。
1 容器用鋼板
2 フィルム
3 鋼板の切り取った部位
4 重り
5 剥離長

Claims (4)

  1. 鋼板および前記鋼板の表面の少なくとも一部を覆う錫めっき層を有する錫めっき層付き鋼板と、前記錫めっき層付き鋼板の前記錫めっき層側の表面上に配置された皮膜とを有する容器用鋼板であって、
    前記皮膜は、Zrを有し、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのZr換算の付着量が15mg/m2超40mg/m2以下であり、
    前記皮膜は、球状シリカを含有し、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が10〜60mg/m2であり、
    前記皮膜の厚さX(単位:nm)と、前記球状シリカの平均粒子径Y(単位:nm)とが、1.0×Y≦X≦10.0×Yの関係を満たす、容器用鋼板。
  2. 前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのSi換算の付着量が15mg/m2超である、請求項1に記載の容器用鋼板。
  3. 前記錫めっき層付き鋼板と前記皮膜との間に、前記錫めっき層付き鋼板の片面あたりのP換算の付着量が0.01mg/m2以上5.00mg/m2未満であるリン含有層を有する、請求項1または2に記載の容器用鋼板。
  4. 前記錫めっき層付き鋼板が、表面にニッケル含有層を有する鋼板を用いて形成された、請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器用鋼板。
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