以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
[車両1000の構成]
図1は、本実施の形態に係る温度調節装置が適用される車両1000の構成を示す概略図である。本実施の形態に係る車両1000は、電動機であるモータジェネレータ300と、モータジェネレータ300を駆動するためのインバータなどを含むPCU(Power Control Unit)700と、走行用の電池400とを含む。
車両1000は、燃料電池車や電気自動車であっても良く、また内燃機関であるエンジンさらに含んで構成されエンジンとモータジェネレータとを動力源とするハイブリッド車両であっても良い。この場合エンジンは、ガソリンエンジンであってもよいし、ディーゼルエンジンであってもよい。
モータジェネレータ300は、車両1000を駆動する駆動力を発生させる。モータジェネレータ300は、車両1000のエンジンルーム内またはホイール内に設けられている。モータジェネレータ300は、パワーケーブルを介してPCU700と電気的に接続されている。PCU700は、パワーケーブル600を介して電池400と電気的に接続されている。
PCU700には、PCU700を冷却するための冷却器30が取り付けられている。また電池400には、電池400の温度を調節する熱交換器110が取り付けられている。冷却器30および熱交換器110には、後に詳細に説明する蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷媒が循環される。車両が水平面に駐車した時には、冷却器30よりも熱交換器110が上方に配置されている。
PCU700は、常時冷却が必要であるのに対して、電池400は、低温時には昇温する必要があり、高温時には冷却する必要がある。本実施の形態では、電池400を昇温するために効率が良い冷媒経路を形成する。この電池400の昇温のための冷媒経路とその制御については、基本的な冷凍サイクル10の構成を説明した後に図6以降で説明することにする。
[蒸気圧縮式冷凍サイクル10の基本構成]
図2は、本実施の形態の温度調節装置100が組み込まれている蒸気圧縮式冷凍サイクル10の構成を示す模式図である。図2に示す蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、車両の車内の冷房を行なうための空調装置として車両1000に搭載されている。蒸気圧縮式冷凍サイクル10を用いた冷房は、たとえば、冷房を行なうためのスイッチがオンされた場合、または、自動的に車両の室内の温度を設定温度にするように調整する自動制御モードが選択されており、かつ、車室内の温度が設定温度よりも高い場合に行なわれる。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12と、主コンデンサとしての熱交換器14と、副コンデンサとしての熱交換器15と、エバポレータとしての熱交換器18とを含む。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、さらに、気液分離器40と、レシーバ46と、ポンプ48と、液溜31と、PCU700を冷却する冷却器30と、電池400の昇温および冷却を行なう熱交換器110とを含む。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、さらに、減圧器の一例としての膨張弁16と、流量調整弁38と、四方弁50,60と、冷媒通路21〜29,34〜37とを含む。
四方弁50は、熱交換器14から気液分離器40を経由して冷却器30へ向かう冷媒の流れと、熱交換器14から気液分離器40を経由して膨張弁16へ向かう冷媒の流れと、を切替え可能に配置されている。
四方弁50には冷媒通路34が接続されている。冷媒通路34は、気液分離器40と四方弁50とを連通している。四方弁50は、冷媒通路22、気液分離器40および冷媒通路34を介して、熱交換器14の出口側と接続されている。熱交換器14で凝縮し気液分離器40で気液分離された冷媒液は、冷媒通路34を経由して四方弁50へ流入する。冷媒通路34が接続される四方弁50の接続口を、図2に示すように、接続口Aと称する。
なお、本明細書中において「接続」とは、何らの部材も介在せずに直接接続された場合と、何らかの部材を介在して間接的に接続された場合との双方を含む概念である。
四方弁50にはさらに冷媒通路35が接続されている。冷媒通路35は、四方弁50と冷却器30の手前の液溜31とを連通している。四方弁50は、冷媒通路35を介して液溜31の入口側と接続されている。四方弁50から流出した冷媒は、冷媒通路35を経由して液溜31へ至る。冷媒通路35が接続される四方弁50の接続口を、図2に示すように、接続口Bと称する。
四方弁50にはさらに冷媒通路26が接続されている。冷媒通路26は、四方弁50と熱交換器110とを連通している。熱交換器110から流出した冷媒は、冷媒通路26を介して四方弁50へ至る。冷媒通路26が接続される四方弁50の接続口を図2に示すように、接続口Cと称する。
四方弁50にはさらに冷媒通路27が接続されている。冷媒通路27は、四方弁50と膨張弁16とを連通している。四方弁50は、冷媒通路27を介して膨張弁16の入口側と接続されている。四方弁50から流出した冷媒は、冷媒通路27を経由して膨張弁16へ至る。冷媒通路27が接続される四方弁50の接続口を、図2に示すように、接続口Dと称する。
四方弁50は、接続口A−Bが連通し、接続口C−Dが連通する第1状態と、接続口A−Dが連通し、接続口B−Cが連通する第2状態とに制御信号CS2によって切替可能である。第1状態は、熱交換器110および冷却器30に圧縮機12を用いて冷媒を流通させるコンプレッサモードに対応する状態である。第2状態は、熱交換器110および冷却器30に、ポンプ48または自然循環によって、冷媒を流通させる非コンプレッサモードに対応する状態である。
四方弁60は、冷却器30から熱交換器15へ向かう冷媒の流れと、冷却器30から熱交換器110へ向かう冷媒の流れとを切り替え可能に配置されている。
四方弁60には冷媒通路36が接続されている。冷媒通路36は、冷却器30と四方弁60とを連通している。冷却器30で吸熱した冷媒は、冷媒通路36を経由して四方弁60へ流入する。冷媒通路36が接続される四方弁60の接続口を、図2に示すように、接続口Hと称する。
四方弁60には冷媒通路23が接続されている。冷媒通路23は、四方弁60と熱交換器15とを連通している。四方弁60は、冷媒通路23を介して熱交換器15の入口側と接続されている。四方弁60から流出した冷媒は、冷媒通路23を経由して熱交換器15へ至る。冷媒通路23が接続される四方弁60の接続口を、図2に示すように、接続口Eと称する。
四方弁60には、冷媒通路25が接続されている。冷媒通路25は、四方弁50と熱交換器15の出口側の冷媒通路24とをレシーバ46およびポンプ48を介して連通している。熱交換器15から流出した冷媒は、冷媒通路24,25を介して四方弁60へ至る。冷媒通路25が接続される四方弁60の接続口を図2に示すように、接続口Fと称する。
四方弁60には冷媒通路37が接続されている。冷媒通路37は、四方弁60と熱交換器110とを連通している。四方弁60は、冷媒通路37を介して熱交換器110の入口側と接続されている。四方弁60から流出した冷媒は、冷媒通路37を経由して熱交換器110へ至る。冷媒通路37が接続される四方弁60の接続口を、図2に示すように、接続口Gと称する。
四方弁60は、接続口E−Hが連通し、接続口F−Gが連通する第3状態と、接続口F−Eが連通し、接続口G−Hが連通する第4状態とに制御信号CS3によって切替可能である。第3状態は、熱交換器110の冷媒経路に熱交換器15を組み入れるコンデンサモードに対応する状態である。第4状態は、熱交換器110の冷媒経路から熱交換器15を切り離すコンデンサバイパスモードに対応する状態である。
[コンプレッサモードかつコンデンサモード]
図3は、図2の四方弁50をコンプレッサモードに対応する状態とし、四方弁60をコンデンサモードに対応する状態に設定した図である。この状態では、圧縮機12によって冷媒が各熱交換器や冷却器に流通させられる。図3を参照して、各構成要素のより詳細な説明と動作の説明を行なう。
圧縮機12は、車両に搭載されたモータまたはエンジンを動力源として作動し、冷媒ガスを断熱的に圧縮して過熱状態冷媒ガスとする。圧縮機12は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の作動時に熱交換器18から流通する冷媒を吸入圧縮して、高温高圧の気相冷媒を吐出し、蒸気圧縮式冷凍サイクル10に冷媒を循環させる。
熱交換器14,15は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器14,15の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンとを含む。熱交換器14,15は、圧縮機12において圧縮された気相冷媒を、外部媒体へ等圧的に放熱させて冷媒液とする。冷却風は、車両の走行によって発生する自然の通風によって熱交換器14,15に供給されてもよい。または冷却風は、コンデンサファンもしくはエンジン冷却用のラジエータファンなどの、モータからの駆動力を受けて回転し空気の流れを発生させる外気供給用ファンの強制通風によって、熱交換器14,15に供給されてもよい。
膨張弁16は、高圧の液相冷媒を小さな孔から噴射させることにより膨張させて、低温・低圧の霧状冷媒に変化させる。膨張弁16は、熱交換器14,15によって凝縮された冷媒液を減圧して、気液混合状態の湿り蒸気とする。膨張弁16は、温度式膨張弁であってもよく、電気式の膨張弁であってもよい。なお、冷媒液を減圧するための減圧器は、絞り膨張する膨張弁16に限られず、毛細管であってもよい。
熱交換器18は、冷媒を流通するチューブと、チューブ内を流通する冷媒と熱交換器18の周囲の空気との間で熱交換するためのフィンとを含む。チューブ内には、膨張弁16によって減圧された湿り蒸気状態の冷媒が流通する。熱交換器18は、チューブ内を流通する霧状冷媒が蒸発(気化)して冷媒ガスとなる際の気化熱を、熱交換器18に接触するように導入された周囲の空調用空気から吸収する。
冷媒通路21は、圧縮機12と熱交換器14とを接続し、圧縮機12の出口から熱交換器14の入口へ冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路22,23は、熱交換器14と熱交換器15とを接続し、熱交換器14の出口から熱交換器15の入口へ冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路24,25,37,26,27は、熱交換器15と膨張弁16とを接続し、熱交換器15の出口から膨張弁16の入口へ冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路28は、膨張弁16と熱交換器18とを接続し、膨張弁16の出口から熱交換器18の入口へ冷媒を流通させるための通路である。冷媒通路29は、熱交換器18と圧縮機12とを接続し、熱交換器18の出口から圧縮機12の入口へ冷媒を流通させるための通路である。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、圧縮機12、熱交換器14,15、膨張弁16および熱交換器18が、冷媒通路21〜25,37,26〜29によって直列に接続されて構成されている。なお、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の冷媒としては、たとえば二酸化炭素、プロパンやイソブタンなどの炭化水素、アンモニア、フロン類または水などを用いることができる。
気液分離器40は、熱交換器14と熱交換器15との間の冷媒通路22と冷媒通路23との間に配置される。熱交換器14で凝縮された冷媒は、熱交換器14の出口側において、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気の状態にある。気液分離器40は、熱交換器14から流出し気液分離器40へ流入する冷媒を気相冷媒と液相冷媒とに分離する。気液分離器40は、気液二相状態の冷媒を液体状の冷媒液とガス状の冷媒蒸気とに分離して、一時的に蓄える。
気液分離器40には、冷媒通路22,23と、冷媒通路34とが連結されている。熱交換器14から流出した冷媒は、冷媒通路22を通って気液分離器40へ供給される。気液分離された冷媒液は、冷媒通路23,34を経由して、気液分離器40の外部へ流出する。冷媒通路23,34の端部は、気液分離器40内に液相の冷媒が溜められる冷媒液貯留部に接続されており、冷媒液が気液分離器40から流出するための通路を形成している。
気液分離器40の内部では、冷媒液が下側、冷媒蒸気が上側に溜まる。気液分離器40から冷媒液を導出する冷媒通路23,34の端部は、気液分離器40の底部に連結されている。気液分離器40の天井側に冷媒蒸気が溜められ、冷媒通路23,34を経由して気液分離器40の底側から冷媒液のみが気液分離器40の外部へ送り出される。これにより、気液分離器40は、気相冷媒と液相冷媒との分離を確実に行なうことができる。
レシーバ46は、熱交換器15と膨張弁16との間の冷媒の経路上に配置される。気液分離器40から流出した冷媒蒸気は、熱交換器15において周囲に放熱し冷却されることによって凝縮する。この凝縮した冷媒が、冷媒通路24を経由して、レシーバ46へ流入する。レシーバ46は、負荷に応じて冷媒を膨張弁16に供給できるように、熱交換器15で液化された冷媒液を、その内部に一時的に蓄えている。レシーバ46は、熱交換器15によって凝縮された液状の冷媒を貯留する蓄液器としての機能を有し、液相冷媒のみを膨張弁16に向けて流出させる。
レシーバ46の内部には、液相冷媒である冷媒液と、気相冷媒である冷媒蒸気とが蓄蔵されている。冷媒液はレシーバ46の底部側に貯留されており、冷媒蒸気はレシーバ46の天井部側に溜められている。レシーバ46には、冷媒通路24,25が接続されている。冷媒は、冷媒通路24を通ってレシーバ46へ供給される。冷媒通路25の端部は、レシーバ46の下部空間に接続されている。ポンプ48および冷媒通路25を経由してレシーバ46の底側から冷媒液のみがレシーバ46の外部へ送り出される。
レシーバ46から送り出される冷媒液が流通する冷媒通路25をレシーバ46の下部空間に接続すれば、冷媒中に空気が含まれていても当該空気がレシーバ46内の上部空間に残り、レシーバ46を利用して空気を冷媒から除去できる。これにより、空気が熱交換器14,15,18における冷媒の熱交換を妨げることを回避できるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の性能低下を防止することができる。
レシーバ46の内部に、液体の冷媒を濾過するストレーナと、冷媒中に含まれる水分を除去する乾燥剤とを配置し、冷媒はストレーナと乾燥剤との積層構造を経由してレシーバ46の上部空間から下部空間へ落下する構成としてもよい。レシーバ46内に乾燥剤を設けることにより、冷凍サイクル内の水分を除去でき、かつ、レシーバ46内にストレーナを設けることにより、膨張弁16の上流側で異物が除去されて膨張弁16の詰まりを防ぐことができるので、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の性能低下を防止することができる。
ポンプ48は、レシーバ46の出口側の、冷媒液が流れる冷媒通路25に配置されるが、レシーバ46の内部に配置されてもよい。ポンプ48は、レシーバ46に貯留された液状の冷媒を移送する。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10は、気液分離器40と熱交換器15の入口側とを接続する、並列に接続された二つの冷媒の経路を備える。気液分離器40から熱交換器15へ向かって流れる冷媒の経路は、冷媒通路23を含む。冷媒通路23は、気液分離器40で分離された液相冷媒が流れるための通路である。気液分離器40から導出された冷媒液は、熱交換器15において周囲に放熱し冷却される。
気液分離器40から熱交換器15へ向かって流れる冷媒の経路はまた、気液分離器40と冷却器30とを接続する冷媒通路34,35と、冷却器30と、冷却器30と冷媒通路23とを接続する冷媒通路36とを含む。冷媒通路34,35は、冷却器30よりも上流側(気液分離器40に近接する側)の冷媒の経路であり、冷媒通路34,35を経由して、気液分離器40から冷却器30へ冷媒液が流れる。冷媒通路36は、冷却器30よりも下流側(熱交換器15に近接する側)の冷媒の経路であり、冷却器30を通過した冷媒は、冷媒通路36,23を順に経由して、熱交換器15へ流れる。
冷却器30は、気液分離器40と熱交換器15との間に並列に接続された複数の通路のうちの、一方に設けられている。冷却器30は、電気自動車に搭載される電気機器であるEV(Electric Vehicle)機器と、冷媒が内部を流通する冷却器とを含んでいる。EV機器は、発熱源の一例である。EV機器は、電力の授受によって発熱する電気機器を含んでいる。電気機器は、たとえば、直流電力を交流電力に変換するためのインバータ、回転電機であるモータジェネレータ、蓄電装置であるバッテリの電圧を昇圧させるための昇圧コンバータ、バッテリの電圧を降圧するためのDC/DCコンバータなどの、少なくともいずれか一つを含んでいる。EV機器の一例として、図3にはインバータおよび昇圧コンバータを含むPCU700が示されている。以下EV機器の代表としてPCU700を示して説明するが、冷却器30の冷却対象は他のEV機器であっても良い。冷却器30の入口側にある液溜31は冷媒通路35に接続され、冷却器30の出口側は冷媒通路36に接続されている。
気液分離器40の内部には、飽和液状態の冷媒液が貯留されている。気液分離器40は、その内部に液状の冷媒である冷媒液を一時的に貯留する蓄液器として機能している。気液分離器40内に所定量の冷媒液が溜められることにより、負荷変動時にも気液分離器40から冷却器30へ流れる冷媒の流量を維持できる。気液分離器40が液だめ機能を有し、負荷変動に対するバッファとなり負荷変動を吸収できるので、PCU700の冷却性能を安定させることができる。
気液分離器40と熱交換器15との間に並列に接続された冷媒の経路のうち、冷却器30を経由しない方の経路を構成する冷媒通路23には、流量調整弁38が設けられている。流量調整弁38は、その弁開度を変動させ、冷媒通路23を流れる冷媒の圧力損失を増減させる。これにより、流量調整弁38は、冷却器30を経由することなく冷媒通路23を経由して気液分離器40から熱交換器15へ直接流れる冷媒の流量と、冷却器を含むEV機器の冷却系を流れる冷媒の流量と、を任意に調節する。流量調整弁38は、開度調整が可能な仕様の弁であり、たとえば電動弁であってもよい。図3では、流量調整弁38が制御信号CS4に基づいて開度が決定される電動弁である例が示される。
流量調整弁38の弁開度を大きくすれば、気液分離器40から流出する冷媒のうち、冷媒通路23を経由して熱交換器15へ直接流れる流量が大きくなり、冷媒通路34,35を経由して冷却器30へ流れPCU700を冷却する冷媒の流量が小さくなる。そのためPCU700の冷却能力が低下する。流量調整弁38の弁開度を小さくすれば、気液分離器40から冷媒通路23を経由して熱交換器15へ直接流れる流量が小さくなり、冷却器30へ流れPCU700を冷却する冷媒の流量が大きくなる。そのためPCU700の冷却能力が向上する。
流量調整弁38を使用して、PCU700に流れる冷媒の量を増減し、PCU700の冷却能力を最適に調節できるので、PCU700の過熱および過冷却を確実に防止することができる。加えて、PCU700の冷却系の冷媒の流通に係る圧力損失および冷媒を循環させるための圧縮機12の消費電力を、確実に低減することができる。
レシーバ46から四方弁50へ至る冷媒の経路中には、車両1000に搭載された蓄電池である電池400の温度を調節するための、温度調節装置100が組み込まれている。温度調節装置100は、熱交換器15から膨張弁16へ向けて流れる冷媒の経路上に設けられている。電池400は、リチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池などの二次電池である。電池400は、電力の授受によって発熱する。電池400は、温度調節装置100によって温度を調節される対象物の一例である。
温度調節装置100は、熱交換器110を備えている。熱交換器110は、その内部を冷媒が流れるように形成されており、内部を流れる冷媒と電池400との熱交換を行なう。熱交換器110の一方の端部は、冷媒通路37に接続されている。熱交換器110の他方の端部は、冷媒通路26に接続されている。
レシーバ46の出口から四方弁50へ向かって流れる冷媒が流通する経路は、熱交換器110よりも上流側(レシーバ46に近接する側)の冷媒通路25,37と、熱交換器110と、熱交換器110よりも下流側(四方弁50に近接する側)の冷媒通路26とを含む。冷媒通路25,37は、レシーバ46から熱交換器110に冷媒を流通させるための経路であり、冷媒通路25,37を経由して、レシーバ46から熱交換器110へ冷媒液が流れる。冷媒通路26は、熱交換器110から四方弁50に冷媒を流通させるための経路であり、熱交換器110を通過した冷媒は、冷媒通路26を経由して、四方弁50へ流れる。
熱交換器110において電池400と熱交換した冷媒は、冷媒通路26を経由して四方弁50へ流入する。四方弁50の接続口Cは、冷媒通路26、熱交換器110、冷媒通路37、四方弁60、および冷媒通路25を介して、レシーバ46の出口側と接続されている。
熱交換器110を流れる冷媒の温度が電池400の温度よりも低いとき、温度調節装置100へ流通し熱交換器110を経由して流れる冷媒は、電池400から熱を奪って、電池400を冷却する。温度調節装置100において、熱交換器110内を流通する冷媒と、電池400とが熱交換を行なうことにより、電池400は冷却され、冷媒は加熱される。
熱交換器110は、電池400と冷媒との間で熱交換が可能な構造を有している。熱交換器110は、たとえば、電池400の筐体に熱交換器110の外周面が直接接触するように設けられている。熱交換器110は、電池400の筐体と隣接する部分を有している。当該部分において、熱交換器110内を流通する冷媒と、電池400との間で、熱交換が可能となる。
電池400は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の熱交換器15から膨張弁16に至る冷媒の経路の一部を形成する熱交換器110の外周面に直接接続されて、冷却される。熱交換器110の外部に電池400が配置されるので、熱交換器110の内部を流通する冷媒の流れに電池400が干渉することはない。そのため、蒸気圧縮式冷凍サイクル10の圧力損失は増大しないので、圧縮機12の動力を増大させることなく、電池400を冷却することができる。
代替的には、電池400と熱交換器110との間に介在して、任意の公知の伝熱装置が配置されてもよい。この場合電池400は、熱交換器110の外周面に伝熱装置を介して接続され、電池400から熱交換器110へ伝熱装置を経由して熱伝達することにより、冷却される。伝熱装置として、たとえばウィック式などのヒートパイプを使用することができる。電池400をヒートパイプの加熱部とし熱交換器110をヒートパイプの冷却部とすることで、熱交換器110と電池400との間の熱伝達効率が高められるので、電池400の冷却効率を向上できる。
伝熱装置によって電池400から熱交換器110へ確実に熱伝達することができるので、電池400と熱交換器110との間に距離があってもよく、電池400に熱交換器110を接触させるための経路を複雑に配置する必要がない。その結果、電池400の配置が制限されることがなく、電池400の配置の自由度を向上することができる。
冷媒は、圧縮機12と熱交換器14,15と膨張弁16と熱交換器18とが冷媒通路21〜29および37によって順次接続された冷媒循環流路を通って、蒸気圧縮式冷凍サイクル10内を循環する。冷媒はまた、熱交換器14の出口の冷媒通路22から気液分離器40を経由して冷媒通路34,35へ流れ、冷却器30へ流入してPCU700を冷却し、冷却器30から冷媒通路36を経由して熱交換器15の入口側の冷媒通路23へ戻る。圧縮機12の起動中の、圧縮機12から吐出された冷媒が熱交換器14を介して冷却器30へ流れるときの経路、すなわち冷媒通路21,22、冷媒通路34〜36および冷媒通路23〜25,37,26〜29は、第一通路を形成する。
冷媒が第一通路を経由して流れ発熱源を冷却するときの、冷媒の状態について説明する。圧縮機12に吸入された冷媒は、圧縮機12において等比エントロピー線に沿って断熱圧縮される。圧縮するに従って冷媒の圧力と温度とが上昇し、冷媒は、圧縮機12の出口において高温高圧の過熱度の大きい過熱蒸気になる。
圧縮機12において断熱圧縮された冷媒は、熱交換器14へと流れ、熱交換器14において冷却される。圧縮機12から吐出された高圧の気相冷媒は、熱交換器14における外気との熱交換によって周囲に放熱し、凝縮(液化)する。熱交換器14へ入った冷媒蒸気は、熱交換器14において等圧のまま過熱蒸気から乾き飽和蒸気になり、凝縮潜熱を放出し徐々に液化して、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液混合状態の湿り蒸気になる。
熱交換器14で完全に液化しない程度まで冷やされた気液二相状態の冷媒は、気液分離器40において、飽和蒸気状態の冷媒蒸気と飽和液状態の冷媒液とに気液分離される。気液分離された冷媒のうち、飽和液状態の冷媒液が、冷媒通路34,35を経由して冷却器30へ流れる。冷却器30へ流通する冷媒は、PCU700と冷媒との温度差に応じて、PCU700から熱を奪って、PCU700を冷却する。冷却器30において、飽和液状態の液冷媒に熱を放出することで、PCU700が冷却される。PCU700との熱交換により、冷媒が加熱され、冷媒の乾き度が増大する。冷媒は、PCU700から潜熱を受け取って一部気化することにより、冷却器30の出口において、飽和液と飽和蒸気とが混合した気液二相状態の湿り蒸気となる。
冷却器30から流出した冷媒は、冷媒通路36,23を経由して、熱交換器15に流入する。冷媒の湿り蒸気は、熱交換器15において周囲に放熱し外気と熱交換して冷却されることにより再度凝縮され、冷媒の全部が凝縮すると飽和液になり、さらに顕熱を放出して飽和温度以下にまで過冷却された過冷却液になる。熱交換器15で冷媒を過冷却液にするのは、その後の膨張弁16での減圧量、冷媒流量および冷房能力の制御を容易にするためである。
熱交換器15で過冷却液まで冷却された冷媒は、冷媒通路24を経由してレシーバ46へ流入し、レシーバ46の内部に過冷却液状態の冷媒が蓄積される。レシーバ46から流出した冷媒液は、冷媒通路25,37を経由して熱交換器110に流入する。温度調節装置100は、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環して車両の室内の空調に用いられる冷媒を利用して、電池400を冷却する。熱交換器110において冷媒と電池400とが熱交換することで、電池400が冷却され、冷媒は加熱されてその過冷却度が小さくなる。
その後冷媒液は、冷媒通路26,27を経由して、膨張弁16に流入する。膨張弁16において、冷媒は絞り膨張され、比エンタルピーは変化せず温度と圧力とが低下して、低温低圧の気液混合状態の湿り蒸気となる。
膨張弁16によって減圧された湿り蒸気状態の冷媒は、冷媒通路28を経由して熱交換器18へ流入する。冷媒は、熱交換器18のチューブ内を流通する際に、フィンを経由して車両の室内の空気の熱を蒸発潜熱として吸収することによって、等圧のまま蒸発し、低圧高温ガスとなる。全ての冷媒が乾き飽和蒸気になると、さらに顕熱を吸収して冷媒蒸気は温度上昇し、過熱蒸気となる。
熱交換器18は、その内部を流通する霧状冷媒が気化することによって、熱交換器18に接触するように導入された空調用空気の熱を吸収する。熱交換器18は、冷媒が蒸発する際の気化熱を、空調用空気から吸収する。熱交換器18において冷媒に吸熱され温度が低下した空調用空気が車両の室内に供給されることによって、車両の室内の冷房が行なわれる。熱交換器18を経由して蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒と、空調用空気との熱交換によって、空調用空気の温度が調節される。その後冷媒は、冷媒通路29を経由して圧縮機12に吸入される。
冷媒はこのようなサイクルに従って、圧縮、凝縮、絞り膨張、蒸発の状態変化を連続的に繰返す。なお、上述した蒸気圧縮式冷凍サイクルの説明では、理論冷凍サイクルについて説明しているが、実際の蒸気圧縮式冷凍サイクル10では、圧縮機12における損失、冷媒の圧力損失および熱損失を考慮する必要があるのは勿論である。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の運転中に、冷媒は、空調用空気を冷却して車室内の冷房を行なうとともに、熱交換器110へ流通し電池400と熱交換することで電池400を冷却する。温度調節装置100は、車室内の空調用の蒸気圧縮式冷凍サイクル10を利用して、車両に搭載された電池400を冷却する。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10を循環する冷媒を用いて電池400の冷却が行なわれるので、電池400の冷却のために必要な構成を低減でき、装置構成を単純化できる。そのため、温度調節装置100のコストを低減することができる。熱交換器110の上流側に設けられたレシーバ46が液だめ機能を有し液冷媒のバッファとなるので、電池400の冷却能力を安定させることができ、冷却性能低下を防止することができる。
蒸気圧縮式冷凍サイクル10の通常運転中には、図3に示すように四方弁50を第一状態に設定し、流量調整弁38の開度を適宜調整することにより、必要な量の冷媒を冷却器30に供給してEV機器の冷却能力を確保し、かつ、冷媒を熱交換器110に供給して電池400を冷却することができる。さらに、熱交換器18で空調用空気を冷却することにより、車両の車内の冷房能力を確保できる。
[非コンプレッサモードかつコンデンサモード]
図4は、図3の状態から四方弁50を切り替えて非コンプレッサモードにした状態を示す図である。
外気温が非常に高く車両を走行させていない状態において、蒸気圧縮式冷凍サイクル10を起動し圧縮機12を運転すると、圧縮機12出口における冷媒の圧力が高くなり、冷媒の飽和温度が高くなり、そのため熱交換器110を通過する冷媒の温度も高くなり、電池400の冷却能力が不足する虞がある。この場合、図4に示すように四方弁50を第二状態に切り替えるとともに、流量調整弁38を全閉にすれば、熱交換器15の出口側から四方弁50を経由して冷却器30へつながる経路が形成され、四方弁50を経由して熱交換器110と熱交換器15との間に冷媒を循環させる閉じられた環状の経路を形成することができる。このときの冷媒が流れる経路、すなわち冷媒通路23〜25,37,26,35,36は、第二通路を形成する。
この環状の経路を経由して、圧縮機12を経由することなく、熱交換器15と熱交換器110との間に冷媒を循環させることができる。冷媒は、電池400およびPCU700を冷却するとき、電池400およびPCU700からの熱伝達により加熱される。熱交換器110および冷却器30において加熱された冷媒は、熱交換器15へ流れ、熱交換器15において、車両の走行風、または、外気供給用ファンからの通風により、冷却される。熱交換器15で液化した冷媒液は、レシーバ46に貯められ、熱交換器110および冷却器30へ供給される。熱交換器110、冷却器30および熱交換器15を経由する環状の経路によって、電池400およびPCU700を加熱部とし熱交換器15を冷却部とする、ヒートパイプが形成される。
図5は、電池400およびPCU700を加熱部とし熱交換器15を冷却部とするヒートパイプを簡略化して示した図である。図5は、車両が水平面に配置された場合に、熱交換器15,110および冷却器30の上下方向の配置関係も示している。すなわち、これらの要素は、上から熱交換器15、熱交換器110、冷却器30の順に配置されている。
図4、図5を参照して、熱交換器110、冷却器30および熱交換器15を接続している第二通路を冷媒が循環して、ヒートパイプを用いて電池400およびPCU700を冷却するときの冷媒の状態について説明する。
冷媒は、熱交換器15において、熱交換器15のチューブ内を流通する際に周囲に放熱し冷却されることによって、凝縮(液化)する。熱交換器15における外気との熱交換によって、冷媒の温度は低下し冷媒は液化する。冷媒は、熱交換器15において凝縮潜熱を放出し等圧のまま徐々に液化して気液混合状態の湿り蒸気になる。気液二相状態の冷媒は、冷媒通路25を経由してレシーバ46へ流れ、レシーバ46において、飽和蒸気状態の冷媒蒸気と飽和液状態の冷媒液とに気液分離される。
レシーバ46から流出する飽和液状態の冷媒が、冷媒通路25,37を経由して熱交換器110へ流れ、電池400を冷却する。熱交換器110において、液冷媒に熱を放出することで、電池400が冷却される。電池400との熱交換により、冷媒が加熱され、等圧のまま徐々に蒸発して、冷媒の乾き度が増大する。
その後冷媒は、冷媒通路26、四方弁50および冷媒通路35を経由して冷却器30へ流れ、PCU700を冷却する。冷却器30において、液冷媒に熱を放出することで、PCU700が冷却される。PCU700との熱交換により、冷媒が加熱されて蒸発し、冷媒の乾き度がさらに増大する。典型的には、冷却器30において、全ての冷媒が乾き飽和蒸気になるまで冷媒とPCU700との熱交換が行なわれる。PCU700との熱交換により一部または全部が気化された冷媒は、冷却器30から流出して冷媒通路36,23を順に経由して、熱交換器15へ戻る。
酷暑時のアイドル状態においては、四方弁50を切り替えるとともに流量調整弁38を全閉にすることにより、圧縮機12、熱交換器14、膨張弁16および熱交換器18を経由するエアコンサイクルと、熱交換器110、冷却器30、熱交換器15およびレシーバ46を経由する電池400の冷却サイクルとを分離する。これにより、室内の冷房能力を確保することができる。このとき、熱交換器15を凝縮器、熱交換器110および冷却器30を蒸発器とするループ式のヒートパイプが作動することによって、電池400を冷却する冷媒の温度を低く保つことができる。したがって、電池400の冷却能力の不足を回避でき、電池400を確実に冷却できる。
電池400の冷却のために圧縮機12の動力は必要なく、省動力でPCU700を冷却可能であるので、圧縮機12の消費動力を低減でき、省電費化を達成することができる。加えて、圧縮機12を長寿命化できるので圧縮機12の信頼性を向上することができる。レシーバ46が液だめ機能を有し液冷媒のバッファとなるので、熱交換器110へ流れる液冷媒の流量を確保でき、電池400の冷却能力を安定させることができる。
冷媒の循環はポンプ48を駆動させて行ってもよい。しかし、ポンプ48として停止状態でも冷媒を流通可能な構成のものを採用すれば、図1、図5に示したように、冷却器30よりも熱交換器110を上方に配置し、熱交換器15を熱交換器110よりも上方に配置することによって自然循環サイクルが形成される。すなわち、冷却器30で温められ気化した冷媒が冷媒通路36,23内を上昇して熱交換器15に至り、熱交換器15で冷却され、液化した冷媒は重力の作用によって、順に冷媒通路24,25,37を通って熱交換器110に至り、熱交換器110で低温状態の電池400によって冷却された冷媒が冷媒通路26,35を下降して液溜31に至る。冷却器30の出口側に気化した冷媒を集めるために、図5に示すように冷却器30の出口側が入口側よりも高くなるように冷却器30を配置することが好ましい。なお、ポンプ48を駆動させて冷媒を循環させる場合には、熱交換器15の配置は図5に示した配置に限られない。
[電池昇温モードでの非コンデンサモード]
図6は、図4に示した構成において、四方弁60をさらに非コンデンサモードに切替えた状態を示した図である。このような状態は、極低温環境下で電池も低温になっている場合に設定される状態である。始動時や走行時には電池を使用するが、低温度の電池は十分な性能が発揮できず、事前に温度を上昇させる必要がある。そこで、EV機器(PCU700など)の発熱を利用して、冷媒を用いて電池400を昇温させる。
図7は、PCU700を加熱部とし電池400の熱交換器110を冷却部とするヒートパイプを簡略化して示した図である。図4、図5を参照して、熱交換器110、冷却器30および熱交換器15を接続している第二通路を冷媒が循環して、ヒートパイプを用いて電池400およびPCU700を冷却するときの冷媒の状態について説明する。
バッテリを短時間で昇温させるには、電気的ヒータを通電させる方法などが北欧などでは一般的である。しかし電動車両には、電気的ヒータを設けなくても発熱源としてPCU700が搭載されている。省エネルギーの観点からもPCU700の発熱損失を電池400の昇温に利用することが好ましい。
発熱源であるPCU700と昇温対象部品である電池400とをなるべく短い経路で結ぶ方が好ましい。そこで、図6の四方弁50の接続口B−Cを連通させた状態とし、四方弁60の接続口G−Hを連通させた状態とすることによって、熱交換器110と冷却器30とを直結させた温度調節装置100を実現する。
図1、図7に示したように、冷却器30よりも熱交換器110を上方に配置することによって自然循環サイクルが形成される。すなわち、冷却器30で温められ気化した冷媒が冷媒通路36,37内を上昇して熱交換器110に至り、熱交換器110で低温状態の電池400によって冷却され液化した冷媒が冷媒通路26,35を下降して液溜31に至る。
しかし、図7に示した熱交換器15を熱交換器110および冷却器30から切り離したループでのバッテリの昇温を効率よく行なうためには、このループ内に液状態の冷媒が豊富に抱え込まれていることが好ましい。このため、四方弁60を切替えるタイミングが重要となる。
図8、図9は、車両始動時および車両停止時に四方弁60を切替える制御を説明するためのフローチャートである。以下では、液状態の冷媒を液溜31に溜める説明の便宜のために、車両停止時の制御から説明する。
図8を参照して、制御装置70は、処理が開始されると、ステップS20において、車両の制御システムが起動しているか否かを判断する。制御装置70は、操作部74から車両のシステム停止指令(Ready OFF指令)が与えられると、ステップS20において「NO」と判断し、処理をステップS21に進める。
制御装置70は、ステップS21において熱交換器15(副コンデンサ)が熱交換器110および冷却器30に接続されているか否かを判断する。ステップS21において、熱交換器15が接続されていなかった場合には、制御装置70は、ステップS22において四方弁60を操作して熱交換器15を接続した状態とする。なお、ステップS21において、熱交換器15が接続されていた場合には、この状態を維持するのでステップS22の処理は実行されない。この場合、四方弁60の状態は図4および図5に示した状態となる。すなわち、接続口F−Gが連通し、接続口H−Eが連通した状態となるので、温度調節装置100に熱交換器15が組み込まれた状態となる。
車両が停車後には、外気温および電池が低温である場合、冷却系の冷媒は、放熱しやすい熱交換器15(副コンデンサ)で冷却されて液滴となり、重力によって下方に落ちる。
続いて、ステップS23において検査項目の確認が行なわれる。検査項目は、適切な量の冷媒が液溜31に回収されたか否かを判断するための検査項目である。検査項目についてはいくつか考えられる。車両が停車して時間が経過して冷媒が下方に落ちたことを示す条件を検査項目とする。たとえば、副コンデンサ側のレシーバ46に設けられた液面センサ78によってレシーバ46内の冷媒の液面を確認したり、外気温Toutと熱交換器15(副コンデンサ)内部の冷媒温度Trの差が十分に小さくなったことを確認したりしてもよい。
具体的には、以下の6つの条件のうち少なくとも1つを確認するものであればよい。
条件1) 副コンデンサ側のレシーバ46の液面センサ78で検出された液面高さHrがしきい値Hro以下である(Hr−Hro≦0が成立)。なお、液溜31に液面センサを設けて液面高さがしきい値以上となったことを検出しても良い。
条件2) 副コンデンサ側のレシーバ46に回収された冷媒の質量Mrがしきい値Mro以下である(Mr−Mro≦0が成立)。なお、この場合には、レシーバ46に質量センサを設けて質量Mrを検出する。
条件3) 副コンデンサ内部について、冷媒温度Trがしきい値Tro以下である(Tr−Tro≦0が成立)。なお、この場合には、冷媒温度Trを温度センサで検出する一方、外気温Toutを他の温度センサで検出して外気温Toutに基づいてしきい値Troを決定する。
条件4) 副コンデンサ内部について、内圧Prが下限しきい値Pro以下である(Pr−Pro≦0が成立)。この場合には、圧力センサで内圧Prを検出する。
条件5) 四方弁60の接続口F−G間を通過する流量Grが下限しきい値Gro以下である(Gr−Gro≦0が成立)。この場合には、流量センサを接続口Fまたは接続口G付近に設けて流量Grを検出する。
条件6) 車両停止から所定時間が経過したことを確認する。上から熱交換器15、熱交換器110、液溜31の順に配置されているので、所定時間経過後には、液溜31に冷媒液が溜められる。所定時間は、冷媒が冷却され液滴が落ち切るのに十分な時間に実験的に定められる。
ステップS23では、制御装置70が対応する各種センサから計測値を取得する。そして、ステップS24において条件1〜条件6の少なくともいずれか1つの切替条件が満たされたか否かが判断される。ステップS24において切替条件が満たされない場合にはステップS23に処理が戻り、切替条件が成立するまで四方弁は熱交換器15を冷却器30に接続した状態を保つ。
ステップS24において切替条件が満たされた場合にはステップS25に処理が進む。ステップS25では、四方弁60で熱交換器15を冷却器30から分離した状態とする。この場合、四方弁60の状態は図6および図7に示した状態となる。すなわち、接続口F−Eが連通し、接続口H−Gが連通した状態となるので、温度調節装置100から熱交換器15が切り離された状態となる。これにより、PCU700から冷却器30で吸熱した冷媒を電池400を昇温させるために熱交換器110に送る最短の冷媒流通経路が形成される。
ステップS25において、四方弁60の切替が行なわれた後には、ステップS26に処理が進み、このフローチャートの処理は終了し、次回の車両の起動指令を待つ。
このように四方弁60の切替を行なえば、冷媒が下方に落ち切ってから弁を切り替えることができるので、熱交換器15側に冷媒を残すことがなくなり、起動時に効率がよい電池400の昇温が可能となる。
次に車両の起動時および車両の起動している場合について説明する。ステップS20において、車両の制御システムが起動している状態または、制御システムを起動する指令が入力された場合には、図9のA1部からステップS30に処理が進められる。
ステップS30では、制御装置70は、熱交換器15(副コンデンサ)が熱交換器110および冷却器30から切離されているか否かを判断する。ステップS30において、熱交換器15が切離されていなかった場合には、ステップS31において、熱交換器15を温度調節装置100から四方弁60で切り離す処理が行なわれた後に、ステップS32に処理が進められる。この処理によって、図6、図7で示した状態の冷媒循環経路が形成される。一方、ステップS30において、四方弁60で既に熱交換器15が温度調節装置100から切り離されている状態であれば、その状態が維持され、ステップS31が実行されずに直接ステップS32に処理が進められる。
ステップS32では、外気センサ72で計測された外気温度Toutが制御装置70に取り込まれる。さらにステップS33において外気温度Toutが外気低温しきい値ToutLより高いか否かが判断される。
ステップS33において、Tout>ToutLが成立した場合には、ステップS34に処理が進められ、成立しない場合にはステップS38に処理が進められる。
ステップS34では、温度センサ76で計測された電池温度Tbが制御装置70に取り込まれる。そして、ステップS35において電池温度Tbが電池低温しきい値TbL以上であるか否かが判断される。
ステップS35において、Tb≧TbLが成立した場合には、ステップS36に処理が進められ、成立しない場合にはA2部を経由して図8のステップS20に処理が進められる。
ステップS36では、制御装置70は、熱交換器15(副コンデンサ)が熱交換器110および冷却器30に接続されているか否かを判断する。ステップS36において、熱交換器15が接続されていなかった場合には、制御装置70は、ステップS37において四方弁60で熱交換器15を温度調節装置100に組み入れ、電池400を冷却可能とし、その後A2部を経由して図8のステップS20に処理を進める。なお、ステップS36において、熱交換器15が接続されていた場合には、この状態を維持するのでステップS37は実行されずに、A2部を経由して図8のステップS20に処理が進められる。
一方、ステップS33からステップS38に処理が進められた場合、ステップS38では、外気温度Toutが外気低温しきい値ToutL以下であるか否かが判断される。なお、頻繁な四方弁60の切替を避けるために、ステップS33で適用した外気低温しきい値ToutLと異なるしきい値をステップS38で採用してもよい。
ステップS38において、Tout≦ToutLが成立した場合には、ステップS39に処理が進められ、成立しない場合にはA2部を経由して図8のステップS20に処理が進められる。
ステップS39では、温度センサ76で計測された電池温度Tbが制御装置70に取り込まれる。そして、ステップS40において電池温度Tbが電池低温しきい値TbLより低いか否かが判断される。
ステップS40において、Tb<TbLが成立した場合には、ステップS41に処理が進められ、成立しない場合にはA2部を経由して図8のステップS20に処理が進められる。
ステップS40でYESと判断された場合には、電池400を昇温する必要があるため、四方弁60で熱交換器15を温度調節装置100から分離し、電池400をPCU700の発熱を利用して早期に昇温可能とする。このため、ステップS41において、制御装置70は、熱交換器15(副コンデンサ)が温度調節装置100から切離されているか否かを判断する。ステップS41において、熱交換器15が切離されていなかった場合には、制御装置70は、ステップS42において四方弁60を操作して熱交換器15を温度調節装置100から切離し、その後A2部を経由して図8のステップS20に処理を進める。なお、ステップS41において、熱交換器15が切離されていた場合には、この状態を維持するのでステップS42は実行されずに、A2部を経由して図8のステップS20に処理が進められる。
PCU700はほぼ常時冷却が必要であるのに対して、電池400は、低温時には昇温が必要であり、高温時には冷却が必要である。そこで以上説明したように周囲温度および電池の温度に基づいて冷媒経路を切替えて、PCU700の発熱を電池400の昇温に利用し、電池400が高温になったらPCU700とともに冷却することができるようにした。
その際に、電池400の早期昇温を実現させるために、始動時に図7に示したような冷却器30と熱交換器110のショートサーキット接続とすることによって、熱交換器110を凝縮機、冷却器30を放熱機とする自然循環のヒートパイプサイクルを実現した。
冷媒液が鉛直方向最下点の冷却器30にあることによって、始動時の冷却能力が補償される。好ましくは、冷却液が下方に落ち切ったかどうかを判断して四方弁60を切替えてショートサーキット接続に変更することが望ましいが、四方弁60の切替時は判断が完了した時以降であれば、次回に系の発熱が開始されるまでの間であればいずれの時点でもよい。
最後に再び図を参照して、本願実施の形態について総括する。図2を参照して、この発明は、要約すると、モータを駆動するPCU700と、PCU700に電力を供給するための電池400とを含む電動車両の温度調節装置100であって、電池400と冷媒との間で熱交換するための熱交換器110と、PCU700を冷媒で冷却するための冷却器30と、熱交換器110と冷却器30との間で冷媒を循環させる第1冷媒通路(26,35〜37)と、コンデンサ(熱交換器15)と、コンデンサ(熱交換器15)に冷媒を通過させるための第2冷媒通路(23〜25)と、第1冷媒通路と第2冷媒通路との関係を、第2冷媒通路を第1冷媒通路から切り離した第1状態(図6、図7)と、第2冷媒通路を第1冷媒通路の一部に組み入れるように第2冷媒通路を第1冷媒通路に接続する第2状態(図4、図5)との間で切替える切替部(四方弁60)と、切替部を制御する制御装置70とを備える。熱交換器110は、電動車両が水平面に配置された状態において、冷却器30よりも高い位置に配置される。コンデンサ(熱交換器15)は、電動車両が水平面に配置された状態において、熱交換器110よりも高い位置に配置される。制御装置70は、切替部が第2状態に設定されている場合に電動車両の運転停止指令が入力されたときには、図8に示すように、冷媒がコンデンサ(熱交換器15)側の第2冷媒通路から冷却器30側の第1冷媒通路に移動したことを示す所定条件が成立した後に(図8のステップS24でYES)切替部を第2状態から第1状態に切替える。
好ましくは、図9に示すように、制御装置70は、電動車両の運転中において、外気温度Toutが第1しきい値ToutLよりも高くかつ電池400の温度Tbが第2しきい値TbLよりも高い場合には、切替部を第2状態に設定し、外気温度Toutが第1しきい値ToutLよりも低くかつ電池400の温度Tbが第2しきい値TbLよりも低い場合には、切替部を第1状態に設定する。
好ましくは、切替部は、第1冷媒通路のいずれかの接続位置に設けられ、第1状態において第1冷媒通路の接続位置(接続口G−H間)を連通させ、第2状態において接続位置に第2冷媒通路を挿入する四方弁60である。なお、四方弁60に代えて熱交換器15をバイパスさせるバイパス通路と切換え弁を設けてもよい。
好ましくは、所定条件は、電動車両の運転停止指令が入力された後に所定時間が経過したという条件を含む。
好ましくは、温度調節装置100は、第1冷媒通路に配置される冷媒貯留部(液溜31)をさらに備える。所定条件は、冷媒貯留部に所定量の冷媒が収容されたという条件を含む。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。