以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について説明する。
図1は、本発明の実施例に係る建設機械用油圧システムが搭載されるショベルの構成例を示す図である。図1において、建設機械としてのショベル1は、クローラ式の下部走行体2の上に、旋回機構を介して、上部旋回体3をX軸周りに旋回自在に搭載している。
また、上部旋回体3は、前方中央部に掘削アタッチメントを備える。掘削アタッチメントは、ブーム4、アーム5、及びバケット6を含み、且つ、油圧アクチュエータとしてのブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9を含む。
図2は、本発明の実施例に係る建設機械用油圧システムの回路図である。建設機械用油圧システム100は、エンジン、電動モータ等の駆動源によって駆動される油圧ポンプ10L、10R(以下では、集合的に「油圧ポンプ10」と称する場合もある。左右一対で構成される他の構成要素についても同様である。)を有する。油圧ポンプ10Lは、一回転当たりの吐出量(cc/rev)を可変とする可変容量型ポンプである。また、油圧ポンプ10Lは、流量制御弁11L、12L、13L、及び15Lを連通するセンターバイパス管路30Lを経て作動油タンク22まで作動油を循環させる。同様に、油圧ポンプ10Rは、流量制御弁12R、13R、14R、及び15Rを連通するセンターバイパス管路30Rを経て作動油タンク22まで作動油を循環させる。
流量制御弁11Lは、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を走行用油圧モータ42Lに供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
流量制御弁12Lは、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を旋回用油圧モータ44に供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁12Rは、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油を走行用油圧モータ42Rに供給するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。
流量制御弁13L、13Rはそれぞれ、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油をブームシリンダ7へ供給し、また、ブームシリンダ7内の作動油を作動油タンク22へ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁13Rは、操作装置としてのブーム操作レバーが操作された場合に、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油をブームシリンダ7に供給するスプール弁である。また、流量制御弁13Lは、ブーム操作レバーが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油を追加的にブームシリンダ7に供給するスプール弁である。
流量制御弁14Rは、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油をバケットシリンダ9へ供給し、また、バケットシリンダ9内の作動油を作動油タンク22へ排出するためのスプール弁である。
また、流量制御弁15L、15Rはそれぞれ、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油をアームシリンダ8へ供給し、また、アームシリンダ8内の作動油を作動油タンク22へ排出するために作動油の流れを切り換えるスプール弁である。流量制御弁15Lは、操作装置としてのアーム操作レバーが操作された場合に、油圧ポンプ10Lが吐出する作動油をアームシリンダ8に供給するスプール弁である。また、流量制御弁15Rは、アーム操作レバーが所定のレバー操作量以上で操作された場合に、油圧ポンプ10Rが吐出する作動油を追加的にアームシリンダ8に供給するスプール弁である。
センターバイパス管路30L、30Rは、それぞれ、最も下流にある流量制御弁15L、15Rと作動油タンク22との間にネガコン絞り20L、20Rを備える。ネガコン絞り20L、20Rは、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油の流れを制限することにより、ネガコン絞り20L、20Rの上流でネガコン圧を発生させる。
圧力センサS1、S2は、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生したネガコン圧を検出し、検出した値を電気的なネガコン圧信号としてコントローラ54に対して出力する。圧力センサS3、S4は、油圧ポンプ10L、10Rの吐出圧を検出し、検出した値を電気的な吐出圧信号としてコントローラ54に対して出力する。
コントローラ54は、油圧システム100を制御する機能要素であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、NVRAM(Non Volatile RAM)等を備えたコンピュータである。
本実施例では、コントローラ54は、アーム操作レバー、ブーム操作レバー等の各種操作装置を操作した場合に発生するパイロット圧を測定するレバー操作量検出部としてのパイロット圧センサの出力に基づいて各種操作装置のレバー操作量を電気的に検出する。但し、レバー操作量検出部は、各種操作レバーの傾きを検出する傾きセンサ等、パイロット圧センサ以外のセンサを用いて構成されてもよい。
そして、コントローラ54は、各種操作装置のレバー操作量に応じて電磁弁55等を動作させる各種機能要素に対応するプログラムをROMに記憶しながら、各種機能要素に対応する処理をCPUに実行させる。
電磁弁55L、55Rは、コントローラ54が出力する指令に応じて動作する弁である。本実施例では、電磁弁55L、55Rは、コントローラ54が出力する電流指令に応じてコントロールポンプ52からネガコン制御部61L、61Rの受圧室612L、612Rに導入される制御圧を調整する電磁減圧弁である。
ポンプレギュレータ40Lは、油圧ポンプ10Lの吐出量を制御する駆動機構であり、主に、傾転アクチュエータ41L、スプール弁機構60L、ネガコン制御部61L、及び、フィードバックレバー62Lを含む。
傾転アクチュエータ41Lは、油圧ポンプ10Lのポンプ容量を変化させるための斜板(ヨーク)を傾転駆動する機能要素である。具体的には、傾転アクチュエータ41Lは、一端に大径受圧部PR1を有すると共に他端に小径受圧部PR2を有する作動ピストン410Lと、大径受圧部PR1に対応する受圧室411Lと、小径受圧部PR2に対応する受圧室412Lとを含む。受圧室411Lにはスプール弁600Lを介して油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入され、或いは、受圧室411Lからスプール弁600Lを介して作動油が排出される。また、受圧室412Lには油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入される。作動ピストン410Lは、受圧室411Lに作動油が導入されて受圧室412L側に変位すると油圧ポンプ10Lの斜板(ヨーク)を小流量側に傾転駆動する。また、作動ピストン410Lは、受圧室411Lから作動油が排出されて受圧室411L側に変位すると油圧ポンプ10Lの斜板(ヨーク)を大流量側に傾転駆動する。
スプール弁機構60Lは、傾転アクチュエータ41Lに作動油の給排を行うための機能要素であり、スプール弁600L及びばね601Lを含む。スプール弁600Lは、油圧ポンプ10Lの吐出圧が導入される第一ポート、作動油タンク22に連通する第二ポート、及び受圧室411Lに連通する出力ポートを有する。また、スプール弁600Lは、第一ポートと出力ポートとを連通する第一位置、第二ポートと出力ポートとを連通する第二位置、又は第一ポート及び第二ポートの何れをも出力ポートに連通しない中立位置に選択的に切り換えられる。ばね601Lは、スプール弁600Lを第二位置に変位させる方向に作用する力を付与する。
ネガコン制御部61Lは、ネガコン制御時にスプール弁600Lを変位させるための機能要素である。具体的には、ネガコン制御部61Lは、サーボピストン610L、ばね611L、及び受圧室612Lを含む。サーボピストン610Lは、電磁弁55Lが生成する制御圧に応じて、スプール弁600Lを第一位置に変位させる方向に移動する。ばね611Lは、電磁弁55Lが生成する制御圧に抗して、サーボピストン610Lを復帰させる方向に作用する力を付与する。受圧室612Lは、サーボピストン610Lに設けられた受圧部PR3に対応し、コントロールポンプ52から電磁弁55Lを通じて作動油が導入される。
フィードバックレバー62Lは、傾転アクチュエータ41Lの変位をスプール弁600Lにフィードバックするためのリンク機構である。具体的には、フィードバックレバー62Lは、作動ピストン410Lが移動したときにその移動量を物理的にスプール弁600Lにフィードバックしてスプール弁600Lを中立位置に復帰させるようにする。
なお、上述の説明は、ポンプレギュレータ40Lに関するものであるが、ポンプレギュレータ40Rに対しても同様に適用される。
以上の構成により、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン制御部61L、61Rに導入される制御圧が大きいほど油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を減少させる。また、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン制御部61L、61Rに導入される制御圧が小さいほど油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を増大させる。
なお、図2は、ショベル1における油圧アクチュエータが何れも利用されていない状態を示す。以下、この状態を「待機モード」と称する。待機モードでは、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、センターバイパス管路30L、30Rを通ってネガコン絞り20L、20Rに至り、ネガコン絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧を増大させる。
その結果、ポンプレギュレータ40L、40Rは、ネガコン圧信号に基づいてコントローラ54が生成する指令に応じて、スプール弁600L、600Rを第一位置に変位させる。スプール弁600L、600Rは、傾転アクチュエータ41L、41Rを駆動して、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を減少させる。その結果、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油がセンターバイパス管路30L、30Rを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)が抑制される。
一方、ショベル1における何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、油圧ポンプ10L、10Rが吐出する作動油は、その油圧アクチュエータに対応する流量制御弁を介してその油圧アクチュエータに流れ込む。そのため、ネガティブコントロール絞り20L、20Rに至る量は減少或いは消滅し、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧は低下する。
その結果、ポンプレギュレータ40L、40Rは、油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を増大させ、各油圧アクチュエータに十分な作動油を循環させ、各アクチュエータの駆動を確かなものとする。
上述のような構成により、油圧システム100は、待機モードにおいては、無駄なエネルギー消費を抑制できる。油圧ポンプ10L、10Rの吐出する作動油がセンターバイパス管路30L、30Rで発生させるポンピングロスを抑制できるためである。また、油圧システム100は、各種油圧アクチュエータを作動させる場合には、油圧ポンプ10L、10Rから必要十分な作動油を各種油圧アクチュエータに供給できる。
なお、図2は、図の明瞭化のため、油圧ポンプ10L、10Rの吸収馬力が駆動源の出力馬力を超えることがないよう油圧ポンプ10L、10Rの吐出量を吐出圧に応じて制御する全馬力制御に関する構成を省略している。
次に、図3を参照しながら、ネガコン圧(Pn)に応じて油圧アクチュエータの動作速度(v)が決まるまでの制御(以下、「油圧アクチュエータ速度制御」とする。)の流れについて説明する。なお、図3は、油圧アクチュエータ速度制御の流れを示すブロック線図であり、図中の破線で囲まれた部分がネガコン制御に関する部分を表す。また、図3の油圧アクチュエータ速度制御は、センターバイパス管路30L上のネガコン絞り20Lで発生するネガコン圧に関するものであるが、センターバイパス管路30R上のネガコン絞り20Rで発生するネガコン圧についても同様に適用される。
最初に、ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)を表す電気信号としてのネガコン圧信号は、コントローラ54に入力される。コントローラ54は、電磁弁55Lに対する電流指令(Is)をネガコン圧(Pn)に基づいて決定する。電磁弁55Lは、電流指令(Is)に応じた制御圧(Ps)をネガコン制御部61Lの受圧室612Lで発生させる。なお、図3では、電流指令(Is)の決定に関するブロックが省略されている。
その後、ネガコン制御部61Lは、スプール弁機構60L及び傾転アクチュエータ41Lを介して油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を制御圧(Ps)に応じた量に調整する。図3は、制御圧(Ps)が1次遅れを表す演算要素E1を介して油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)に変換される様子を表す。
その後、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)の変化は、センターバイパス管路30L内の作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。図3は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)が圧縮ボリュームを表す演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される様子を表す。なお、演算要素E2において、K、V、sはそれぞれ、体積弾性率、体積、ラプラス演算子を表す。
その後、ポンプ10Lが吐出する吐出圧(Pd)を有する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する流量制御弁のP−T絞りを通る。図3は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)からネガコン圧(Pn')を差し引いた圧力が流量制御弁のP−T絞りを表す演算要素E3を介してブリード流量(Qb)に変換される様子を表す。なお、演算要素E3において、c、A、ρ、Δpはそれぞれ、流量係数、開口面積、密度、圧力変化を表す。この場合、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)はP−T絞りの上流側の圧力を表し、ネガコン圧(Pn')はP−T絞りの下流側の圧力を表す。また、ブリード流量(Qb)は、流量制御弁のP−T絞りを通過する作動油の流量を表す。
また、流量制御弁の下流側にあるネガコン圧(Pn')を有する作動油は、ネガコン絞り20Lを通って作動油タンク22に排出される。図3は、ネガコン圧(Pn')がネガコン絞り20Lを表す演算要素E4を介して排出流量(Qe)に変換される様子を表す。この場合、排出流量(Qe)は、ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量を表す。
なお、ネガコン絞り20Lにおける流量(Qb−Qe)の変化は、作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。図3は、流量(Qb−Qe)が圧縮ボリュームを表す演算要素E5を介してネガコン圧(Pn')に変換される様子を表す。なお、ここで得られたネガコン圧(Pn')は、コントローラ54にフィードバックされる。ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)と、コントローラ54が電磁弁55Lに対して出力する電流指令(Is)に応じて演算されるネガコン圧(Pn')が等しくなるようにして制御を安定化させるためである。
その後、センターバイパス管路30Lを流れる作動油の流量は、一部が油圧アクチュエータに流れることによって変化する。そのため、センターバイパス管路30Lを流れる作動油の流量(Qd−Qb)の変化は、作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせる。図3は、流量(Qd−Qb)が圧縮ボリュームを表す演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される様子を表す。
また、ポンプ10Lが吐出する吐出圧(Pd)を有する作動油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する流量制御弁のP−C絞りを通る。図3は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)から油圧アクチュエータ圧(Pact)を差し引いた圧力が流量制御弁のP−C絞りを表す演算要素E6を介して油圧アクチュエータ流量(Qact)に変換される様子を表す。この場合、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)はP−C絞りの上流側の圧力を表し、油圧アクチュエータ圧(Pact)はP−C絞りの下流側の圧力を表す。また、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、流量制御弁のP−C絞りを通過する作動油の流量を表す。なお、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、演算要素E2にフィードバックされる。油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)からブリード流量(Qb)と油圧アクチュエータ流量(Qact)とを差し引いた流量の作動油の圧縮によって生成されるためである。
その後、油圧アクチュエータ流量(Qact)の変化は、油圧アクチュエータ内の作動油の体積変化に起因する圧力を生じさせ、さらに、油圧アクチュエータを動かす力を発生させる。図3は、油圧アクチュエータ流量(Qact)が圧縮ボリュームを表す演算要素E7を介して油圧アクチュエータ圧(Pact)に変換され、さらに、油圧アクチュエータの受圧面積を表す演算要素E8を介して力に変換される様子を表す。
その後、油圧アクチュエータで発生させた力と外力(Fe)との合力に応じて油圧アクチュエータの動きが決定される。図3は、その合力が演算要素E9を介して油圧アクチュエータの動作速度(v)に変換される様子を表す。なお、演算要素E9において、M、sはそれぞれ、質量、ラプラス演算子を表す。
また、演算要素E7が出力する油圧アクチュエータ圧(Pact)は、演算要素E6にフィードバックされる。油圧アクチュエータ流量(Qact)は、油圧ポンプ10Lの吐出圧(Pd)と油圧アクチュエータ圧(Pact)との間の差圧によって生成されるためである。
同様に、演算要素E9が出力する油圧アクチュエータの動作速度(v)は、油圧アクチュエータの受圧面積を表す演算要素E10を介して油圧アクチュエータ流量(Qact')に変換された上で、演算要素E7にフィードバックされる。
以上、油圧アクチュエータ速度制御の流れを説明したが、ここで再び、ブリード流量(Qb)及び油圧アクチュエータ流量(Qact)の詳細について説明する。
図4は、図2と同じ回路図であり、図中の太丸RAは、油圧ポンプ10Lに関するブリードラインと油圧アクチュエータラインとの分流ポイントを表す。また、図中の太い実線は、油圧ポンプ10Lに関するブリードラインを表し、図中の太い点線は、油圧ポンプ10Lに関する油圧アクチュエータラインを表す。
上述の通り、ブリード流量(Qb)は、流量制御弁のP−T絞りを通過する作動油の流量を表し、本実施例では、ブリードラインを流れる作動油の流量を表す。
また、油圧アクチュエータ流量(Qact)は、流量制御弁のP−C絞りを通過する作動油の流量を表し、本実施例では、油圧アクチュエータラインを流れる作動油の流量を表す。
この場合、図3の演算要素E3における開口面積Aは、直列に接続された流量制御弁11L、12L、13L、15LのそれぞれにおけるP−T絞りの等価開口面積Aeに相当する。等価開口面積Aeは、以下の式(1)で表される。なお、Aiは、各流量制御弁のP−T絞りの開口面積を表し、nは、流量制御弁の数(本実施例では4つ)を表す。
流量係数を考慮した場合、図3の演算要素E3におけるcAは、cA
eに相当し、以下の式(2)で表される。なお、C
iは、各流量制御弁の流量係数を表す。
なお、式(1)及び式(2)で表す関係は、図3の演算要素E3、すなわち、ブリードラインを構成する各流量制御弁のP−T絞りに関するものである。しかしながら、式(1)及び式(2)で表す関係は、図3の演算要素E6、すなわち、油圧アクチュエータラインを構成する各流量制御弁のP−C絞りに関しても同様に適用される。
次に、図5及び図6を参照しながら、電気的ネガコン制御と油圧的ネガコン制御との違いについて説明する。なお、図5は、ネガコン制御の流れを示すブロック線図であり、図6は、図5のネガコン制御における伝達関数の周波数特性を示すボード線図である。
図5(A)は、図3の破線で囲まれたネガコン制御に関する部分に対応するブロック線図であり、電気的ネガコン制御の流れを示す。また、図5(B)は、比較対象として、油圧的ネガコン制御の流れを示す。なお、図5では、説明の明瞭化のため、ネガコン圧の動特性を無視し、演算要素E4を省略している。
電気的ネガコン制御では、図5(A)に示すように、ネガコン圧センサS1で検出されたネガコン圧(Pn)がコントローラ54に入力されると、コントローラ54は、電磁弁55Lに対する電流指令(Is)を生成する。電流指令(Is)は、電流アンプ53により増幅されて電磁弁55Lに入力される。電磁弁55Lは、電流指令(Is)に応じた制御圧(Ps)を用いてポンプレギュレータ40Lを制御し、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を制御する。
また、吐出量(Qd)は、油圧アクチュエータ流量(Qact)が差し引かれた後、演算要素E2を介して吐出圧(Pd)に変換される。そして、吐出圧(Pd)は、演算要素E3を介してブリード流量(Qb)に変換され、さらに、演算要素E5を介してネガコン圧(Pn')に変換された後、コントローラ54にフィードバックされる。
一方、油圧的ネガコン制御では、図5(B)に示すように、ネガコン圧(Pn)が圧力のまま制御圧としてポンプレギュレータ40Lに供給される。すなわち、ポンプレギュレータ40Lは、ネガコン圧に応じて油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を受動的に制御する。そのため、油圧的ネガコン制御では、電気的ネガコン制御におけるコントローラ54、電流アンプ53、及び電磁弁55Lが省略されている。
ここで、図6のボード線図を参照する。図6(A)及び図6(B)のボード線図は何れも、上段にゲイン線図を配し、下段に位相線図を配する。
図6(A)は、電気的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)及び位相の推移を実線C1で表し、油圧的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)及び位相の推移を破線C2で表す。
また、図6(B)は、実線C1の推移に加え、電気的ネガコン制御における周波数に対するゲイン(振幅比)を2倍にしたときの推移を一点鎖線C3で表し、5倍にしたときの推移を二点鎖線C4で表す。なお、本実施例では、ゲインの増加は、コントローラ54が電磁弁55Lに対して出力する電流指令(Is)の値を増大させることによって実現される。
図6(A)に示すように、電気的ネガコン制御におけるゲイン余裕は、油圧的ネガコン制御におけるゲイン余裕よりも小さく、制御安定性が低下していることがわかる。すなわち、油圧的ネガコン制御に比べ、電気的ネガコン制御ではハンチングが発生し易いことがわかる。これは、電気的ネガコン制御におけるコントローラ、電磁弁等の存在による応答性の低下に起因する。
また、図6(B)に示すように、電気的ネガコン制御におけるゲイン余裕は、ゲインを増加させるにつれて低下していくことがわかる。すなわち、ゲインを増加させるにつれてハンチングが発生し易くなることがわかる。
次に、図7を参照しながら、電気的ネガコン制御を構成する各要素のゲイン(入出力比)について説明する。なお、図7は、電気的ネガコン制御を構成する各要素の入力と出力の関係を示す図である。
具体的には、図7(A)は、ネガコン絞り20Lにおける、入力としての排出流量(Qe)と、出力としてのネガコン圧(Pn)との関係を示す。ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量である排出流量(Qe)とネガコン圧(Pn)との関係は、以下の式(3)又は式(4)で表される。なお、cは、流量係数を表し、Aは、ネガコン絞り20Lの開口面積を表し、ρは、作動油の密度を表す。
このように、ネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)は、2次曲線(非線形)となる。その結果、図7(A)に示すように、ネガコン圧(Pn)が高い程、ゲイン(入出力比)も高くなる。
また、図7(B)は、コントローラ54における、入力としてのネガコン圧(Pn)と、出力としての電流指令(Is)との関係を示す。なお、コントローラ54の入力としてのネガコン圧(Pn)は、ネガコン圧センサS1が出力する電気信号であり、コントローラ54の出力としての電流指令(Is)は、電磁弁55Lに対して出力される電気信号である。
また、図7(C)は、電磁弁55Lにおける、入力としての電流指令(Is)と、出力としての制御圧(Ps)との関係を示す。なお、電磁弁55Lの入力としての電流指令(Is)は、コントローラ54が出力する電気信号であり、電磁弁55Lの出力としての制御圧(Ps)は、ネガコン制御部61Lの受圧室612Lで発生する圧力である。
また、図7(D)は、ポンプレギュレータ40Lを含む油圧ポンプ10Lにおける、入力としての制御圧(Ps)と、出力としての吐出量(Qd)との関係を示す。なお、油圧ポンプ10Lの入力としての制御圧(Ps)は、コントロールポンプ52が吐出する作動油を利用して電磁弁55Lが発生させる圧力である。
また、コントローラ54、電磁弁55L、及び油圧ポンプ10Lにおけるゲイン(入出力比)は、図7(A)に示すネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)と異なり、図7(B)〜図7(D)に示すように一定である。
したがって、電気的ネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)は、ネガコン絞り20Lのゲイン(入出力比)を反映して非線形となり、ネガコン圧(Pn)が高い程、ゲイン(入出力比)も高くなる。なお、電気的ネガコン制御全体としての入力は、ネガコン絞り20Lを通過する作動油の流量である排出流量(Qe)であり、電気的ネガコン制御全体としての出力は、油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)である。
電気的ネガコン制御は、ネガコン圧(Pn)が低ければ油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を増大させ、ネガコン圧(Pn)が高ければ油圧ポンプ10Lの吐出量(Qd)を減少させる。また、ハンチングが生じ易いのは、油圧アクチュエータを低速で微操作する場合、すなわち、ネガコン圧(Pn)が高い場合であり、電気的ネガコン制御全体としてのゲイン(入出力比)が高い状態のときである。
以上の関係から、個々の制御対象の応答性を向上させることによって、電気的ネガコン制御の安定性の向上を図ることが考えられる。ハンチングの生じ易さは、油圧システム100の電子制御化に伴う応答性の低下に起因するためである。なお、油圧システム100における制御対象は、電流アンプ53、電磁弁55、及び油圧ポンプ10を含む。
そこで、コントローラ54は、電流アンプ53、電磁弁55、及び油圧ポンプ10のうちの少なくとも1つの出力、望ましくは、少なくとも2つの出力に関するフィードバックループを形成することによって、電気的ネガコン制御の安定性を向上させる。電気的ネガコン制御における他の構成要素と異なり、コントローラ54は、自由な設定が可能なためである。また、フィードバックループを多段構成とすることによって、電気的ネガコン制御の安定性をさらに向上させることができるためである。
次に、図8を参照して、コントローラ54の動作について説明する。なお、図8は、コントローラ54の動作の流れを示すブロック線図である。
図8に示すように、コントローラ54は、主に、参照テーブルTB1、TB2、TB3、減算器SU1、SU2、SU3、及び、フィードバック演算要素E11、E12、E13を含む。また、参照テーブルTB1、TB2、TB3は、ROM、NVRAM等に予め登録されている。
参照テーブルTB1は、ネガコン圧(Pn)とポンプ流量(Qp')との対応関係を表す参照テーブルである。なお、ポンプ流量(Qp')は、油圧ポンプ10の1回転当たりの吐出量(押し退け容積)であり、油圧ポンプ10が出力する制御量としてのポンプ流量(Qp)に関する操作量(指令値)である。また、本実施例では、ポンプ流量(Qp)は、油圧ポンプ10の斜板の傾転角を検出する傾転角センサ(図示せず。)の出力に基づいて導き出される。なお、油圧ポンプ10の斜板の傾転角はポンプ流量(Qp)と一対一に対応する。また、ポンプ流量(Qp)は、油圧ポンプ10の吐出量(Qd)を検出する流量センサ等の他のセンサの出力に基づいて導き出されてもよい。なお、油圧ポンプ10の吐出量(Qd)は、ポンプ流量(Qp)にポンプ回転数を乗じた値である。
減算器SU1は、ポンプ流量(Qp')と油圧ポンプ10の出力であるポンプ流量(Qp)との差分を導き出す演算器である。なお、油圧ポンプ10は、制御圧(Ps)を入力とし且つポンプ流量(Qp)を出力とする1次遅れ要素としての演算要素E1で表される。
フィードバック演算要素E11は、ポンプ流量(Qp')のフィードバック制御を行う演算要素である。本実施例では、フィードバック演算要素E11は、PID制御器であり、ポンプ流量(Qp')とポンプ流量(Qp)とを一致させるようにポンプ流量(Qp')を調整する。
参照テーブルTB2は、ポンプ流量(Qp')と制御圧(Ps')との対応関係を表す参照テーブルである。なお、制御圧(Ps')は、電磁弁55が出力する制御量としての制御圧(Ps)に関する操作量(指令値)である。
減算器SU2は、制御圧(Ps')と電磁弁55の出力である制御圧(Ps)との差分を導き出す演算器である。なお、電磁弁55は、電流指令(Is)を入力とし且つ制御圧(Ps)を出力とする2次遅れ要素で表される。また、本実施例では、制御圧(Ps)は、ネガコン制御部61の受圧室612に導入される制御圧を検出する制御圧センサ(図示せず。)の出力に基づいて導き出される。
フィードバック演算要素E12は、制御圧(Ps')のフィードバック制御を行う演算要素である。本実施例では、フィードバック演算要素E12は、PID制御器であり、制御圧(Ps')と制御圧(Ps)とを一致させるように制御圧(Ps')を調整する。
参照テーブルTB3は、制御圧(Ps')と電流指令(Is')との対応関係を表す参照テーブルである。なお、電流指令(Is')は、電流アンプ53が出力する制御量としての電流指令(Is)に関する操作量(指令値)である。
減算器SU3は、電流指令(Is')と電流アンプ53の出力である電流指令(Is)との差分を導き出す演算器である。なお、電流アンプ53は、電流指令(Is')を入力とし且つ電流指令(Is)を出力とする2次遅れ要素で表される。また、本実施例では、電流指令(Is)は、電流アンプ53の下流に設置される電流センサ(図示せず。)の出力に基づいて導き出される。
フィードバック演算要素E13は、電流指令(Is')のフィードバック制御を行う演算要素である。本実施例では、フィードバック演算要素E13は、PID制御器であり、電流指令(Is')と電流指令(Is)とを一致させるように電流指令(Is')を調整する。
なお、上述の実施例では、コントローラ54は、電流アンプ53、電磁弁55、及び油圧ポンプ10の3つの出力に関するフィードバックループを形成する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、コントローラ54は、電流アンプ53、電磁弁55、及び油圧ポンプ10のうちの何れか1つの出力に関するフィードバックループを形成してもよい。また、コントローラ54は、電流アンプ53及び電磁弁55の2つの出力に関するフィードバックループを形成してもよく、電流アンプ53及び油圧ポンプ10の2つの出力に関するフィードバックループを形成してもよく、電磁弁55及び油圧ポンプ10の2つの出力に関するフィードバックループを形成してもよい。
また、ポンプ流量(Qp)の制御範囲は、通常、油圧ポンプ10の仕様で決まる。これは、ポンプ流量(Qp)が、油圧ポンプ10の流量制限機構、コントローラ54の流量制限機能等の飽和要素による飽和特性を有することを意味する。そのため、PID制御器等のフィードバック演算要素を何らの制限もなくそのまま利用すると、流量制限がかかる制御範囲において電気的ネガコン制御が不安定となるおそれがある。そこで、コントローラ54は、アンチワインドアップ機能を備えるようにしてもよい。
また、電磁弁55及び油圧ポンプ10(ポンプレギュレータ40)の応答性は、作動油の粘度が高くなるにつれて低下する傾向にある。そのため、コントローラ54は、作動油温に応じて、PID制御器等のフィードバック演算要素の設定パラメータを変更してもよい。作動油温が低下すると作動油の粘度が高くなると推定できるためである。なお、フィードバック演算要素の設定パラメータは、例えば、比例ゲイン、微分ゲイン、積分ゲイン、微分時間、積分時間等を含む。
次に、図9を参照して、3つの制御対象(電流アンプ53、電磁弁55、及び油圧ポンプ10)に関するフィードバックループによる効果について説明する。なお、図9は、ネガコン圧センサS1で検出されるネガコン圧(Pn)から、P−T絞りの下流側の圧力として算出されるネガコン圧(Pn')(図3参照。)までのオープンループを想定した場合の伝達関数の周波数特性のシミュレーション結果を示すボード線図である。また、図9(A)は、3つのフィードバックループを形成しない場合のボード線図を表し、図9(B)は、3つのフィードバックループを形成する場合のボード線図を表す。なお、図9(A)及び図9(B)のボード線図は何れも、上段にゲイン線図を配し、下段に位相線図を配する。また、実線で示す推移は、ネガコン圧が高い(レバー操作量が小さい)場合の推移を表し、破線で示す推移は、ネガコン圧が低い(レバー操作量が大きい)場合の推移を表す。
図9(A)を参照すると、ネガコン圧が高い場合、位相が−180[度]の点でゲインが0[dB]付近にあり、ゲイン余裕が0[dB](位相余裕が0[度])であることが分かる。これは、レバー操作量が小さい場合、ネガコン制御が不安定であり、ハンチングを誘発し易い状態になっていることを示している。なお、位相が−180[度]の点でゲインが−10[dB]〜−20[dB]の場合、すなわち、ゲイン余裕が−10[dB]〜−20[dB]の場合(位相余裕が40[度]〜60[度]の場合)に、ネガコン制御は安定とされる。
一方、図9(B)を参照すると、ネガコン圧が高い場合であっても、位相が−180[度]の点でゲインが−10[dB]付近にあることが分かる。これは、レバー操作量が小さい場合であっても、ネガコン制御が安定しており、ハンチングを誘発し難い状態になっていることを示している。
また、ネガコン制御の速応性は、ボード線図上で0[dB]を横切る周波数の値によって評価されるが、ネガコン圧が低い場合には、図9(A)及び図9(B)の双方においてF1[Hz]付近となっており、同等の速応性が確保できていることが分かる。
このように、コントローラ54は、3つの制御対象に関するフィードバックループを形成することによって、ネガコン圧(Pn)が高い場合に電気的ネガコン制御の安定性を向上させ、ハンチングの発生を抑制或いは防止できる。また、コントローラ54は、ネガコン圧(Pn)が低い場合には、電気的ネガコン制御の安定性が過度に高められてしまうのを抑制することで、電気的ネガコン制御の速応性の低下を抑制できる。
また、コントローラ54は、作動油の粘度が高い場合と作動油の粘度が低い場合とでPID制御器の設定パラメータを変えながら、電流指令(Is)を出力する。具体的には、コントローラ54は、作動油温が低い場合における各フィードバックループのゲインを、作動油温が高い場合における各フィードバックループのゲインより大きくする。その結果、コントローラ54は、作動油の粘度が高い場合に電気的ネガコン制御の安定性を向上させ、ハンチングの発生を抑制或いは防止できる。また、コントローラ54は、作動油の粘度が低い場合には、電気的ネガコン制御の安定性が過度に高められてしまうのを抑制することで、電気的ネガコン制御の速応性の低下を抑制できる。
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
例えば、上述の実施例において、コントローラ54は、作動油温に応じてPID制御器の設定パラメータを変更する。しかしながら、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、コントローラ54は、外気温に応じてPID制御器の設定パラメータを変更してもよく、作動油温及び外気温に応じてPID制御器の設定パラメータを変更してもよい。作動油温センサの設置位置によっては、検出された作動油温が、電気的ネガコン制御に影響する作動油の粘度を適切に反映していない場合があるためである。