本発明は、ラチェットレンチ、メガネレンチ等に使用される特定方向の回転を自在とし、その反対方向の回転を拘束し、締付けに使用するラチェット機構に関するもので、当該ラチェット機構によりボルト、ナットの供廻りを防止する機構を付加したラチェット機構付締付装置に関するものである。
例えば、ラチェット機構によりボルト、ナットを特定回転方向に締め付け、その反対方向の回動によって、ボルト、ナットの締め付け位置をそのままとして、ハンドルの回動ストロークを確保するという本願発明に近似する技術には、特許文献1及び特許文献2の技術がある。
特許文献1の技術の従来のラチェットレンチ100は、把持部であるハンドル101と、このハンドル101の両端部のそれぞれに設けられた2つのラチェット部102とを備えている。ラチェット部102は、係合部としてのソケット部103を回転自在に支持しており、ソケット部103の貫通穴の内周面にはナット等の締具と噛み合う複数のエッジが形成されている。また、ソケット部103の外周面には、方向切り替えレバー104の端部と噛み合う図示しないラチェットが内装されている。図中矢印方向への揺動が可能なこの方向切り替えレバー104は、ソケット部103の回転方向を一方向のみに規制するものであり、その揺動位置によって上記爪車との噛み合わせ方向を変化させることで、回転規制方向を変化させる。このような構成のラチェットレンチ100において、作業者は、ラチェット部102を軸にしてハンドル101を任意の角度で往復回転させるだけで、ナット等に係合せしめたソケット部103を締め付け方向或いは緩み方向にのみ回転させることができる。なお、この特許文献1の説明中の( )付の算用数字は、特許文献1の部品番号を示すものである。
これらソケットレンチを含むラチェットレンチの何れにおいても、ナット等の締具を締め付けるためには、ハンドルを持った腕を大きく回動する必要がある。仮締め作業時には締具を何回転もしなければならず、このような腕の動作を何度も繰り返すと作業効率が悪くなる。また、仮締め時におけるナット等の締具の摩擦抵抗は著しく弱いため、ハンドルが締付方向とは逆方向に回転すると、ラチェット機構が機能する前にナット等の締具も逆回転してしまう。仮締め時には、このような逆回転を回避すべく、ハンドルを往復回転ではなく一方向に回転させる必要があり、このことが仮締めの作業効率を、更に悪化させてしまう。これらの理由により、ナット等の締具の仮締めにおいては、ラチェットレンチやソケットレンチを用いずに、締具を指先だけで回転するのが一般的である。
しかしながら、ナット等の締具は、その形状が工具との係合を可能にする六角ボルト等の形状であり、指先に完全にフィットしない。また、回転軸付近の指先での回転作業が必ずしも容易ではない。そこで、特許文献1では、作業者に把持されるハンドルと、ボルト等の締具に係合する係合部と、前記係合部の回転方向を規制するラチェット部とを備え、前記ラチェット部を軸とする往復回転力が前記ハンドル部に付与されることにより、前記係合部を所定方向に回転させて前記締具を締め付けるラチェット式締付工具にあって、該ハンドル部を回転させずに固定的に把持した状態で、前記係合部に回転力を伝えるノブ部材を設けている。
また、特許文献2は、トルシア形高力ボルト頭部が隠れてしまうような態様であっても、ナットの供廻りを抑止しながらナットの一次締めを効率よく実行できるトルシア形高力ボルト一次締め用レンチを提供している。
即ち、トルシア形高力ボルトを一次締めするレンチにおいて、トルシア形高力ボルトに螺合するナットを回転させるランナー部と、ランナー部に回転力を伝えるハンドルと、トルシア形高力ボルトのピンテールに取り付けられてピンテールの回転を規制する押え部とを備え、前記押え部は、ランナー部に対して相対回転自在としたものである。
これらの構成により、押え部はトルシア形高力ボルトのピンテールに取り付けられてピンテールの回転を規制する。一方で、ハンドルがランナー部に回転力を伝え、ランナー部が回転してナットを締め付けるが、押え部は、ランナー部に対して相対回転自在であるため、ランナー部と共に回転してしまうことはなく、その結果として、ナットとトルシア形高力ボルトとの供廻りを抑止でき、ナットの一次締めを効率よく実行できる。
特開2001−347465
特開2010−179428
しかし、特許文献1の技術では、ハンドルを回転させることなく、固定的に把持した状態で、係合部に設けたグリップとしてのノブ部材に回転力を伝えるものであるから、そのノブ部材を回転させることによりボルトまたはナットが一体に回転するものである。
しかし、前記ノブ部材の回転は、前記ボルトまたは前記ナットの回転に相当し、前記ノブ部材の回転からハンドルの回転に移行するには、前記ノブ部材とハンドルの両方の回転を行う必要があり、単純に前記ノブ部材の回転から前記ハンドルの回転に移行することはできない。
また、特許文献2の技術では、トルシア形高力ボルトとしての供廻りの回転止めを行っているが、これは頭部のスリップ止めであり、一般的なボルト、ナットにはピンテールが存在していないから、汎用性の技術としては使用できない。
即ち、ボルト、ナットを締める際、特定方向の回動をラチェット機構によって締めと、その締めのストロークを確保する反対方向の回動を行う必要がある。しかし、ボルト、ナットを締めるストロークを確保する回動であっても、ラチェット機構は係合を解除する弾性力を受けながら、歯車を乗り越えなくてはならない。
その際に、ボルト、ナットを締める摩擦抵抗が小さいと、歯車を乗り越える摩擦力が大きくなり、ボルトまたはナットとハンドルとなる把持部本体との供廻りが生じ、ボルト、ナットの締め付けが困難となる。
そこで、本発明は、ハンドルとなる把持部本体とボルト頭部またはナットとの供廻りが生じ難く、前記ボルト頭部、前記ナットの締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることなく極めて普通の使用との間に違いが少ないラチェット機構付締付装置の提供を課題とするものである。
請求項1の発明にかかるラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体と、ナットまたはボルト頭部と嵌合し、前記ナットまたは前記ボルト頭部との相対回動を拘束する六角または十二角等の角孔を内部に形成し、その外周に歯車を形成すると共に、前記把持部本体の端部に回動自在に配設したラチェット歯車と、前記ラチェット歯車と噛み合い、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起を有し、前記係合突起の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替え自在な揺動レバーと、前記ラチェット歯車の角孔に挿入された前記ナット及び前記ボルトの軸方向の外面を押圧する前記ナットまたは前記ボルト頭部に軸方向の弾性力を加えるように前記把持部本体に取付けた弾性付与部を具備するものである。
ここで、上記把持部本体は、作業者の手によって把持されるレンチのレバーまたはハンドル部位であり、扱うナットまたはボルト頭部によってその長さが決定される。
また、上記ラチェット歯車は、前記把持部本体の一方または両方の端部に回動自在に配設され、その状態でナットまたはボルト頭部の挿入を受け入れ、前記ナットまたは前記ボルト頭部との相対回動を許容し、または拘束する前記ナットまたは前記ボルト頭部と嵌合する角孔を内部に形成し、かつ、外周に歯車を形成したものである。なお、角孔とはナットまたはボルト頭部との相対回動を拘束する四角、六角または十二角等の角を拘束できる孔であればよい。
そして、上記揺動レバーは、ラチェット歯車の歯と噛み合い、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起を有し、前記係合突起の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替えを自在としたものである。なお、上記ラチェット歯車と上記揺動レバーによってラチェット機構を構成している。
更に、上記弾性付与部は、ラチェット歯車の角孔に挿入されたナットまたはボルト頭部の軸方向の外面を押圧する前記把持部本体に対して直角方向の弾性力を加えるように取付けたものである。
請求項2の発明のラチェット機構付締付装置にかかる前記弾性付与部は、前記ナットまたは前記ボルトの軸方向に弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対しても回動自在に取り付けたものである。
ここで、上記弾性付与部は、前記ナット及び前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して回動自在としたものである。
請求項3の発明のラチェット機構付締付装置にかかる前記弾性付与部は、前記把持部本体に対して直角方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して略平行に進退自在としたものである。
ここで、上記弾性付与部は、把持部本体の長さ方向に対して直角方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して平行に進退自在としたものである。
請求項1のラチェット機構付締付装置において、把持部本体の端部に回動自在に配設した外周に歯車を形成したラチェット歯車は、揺動レバーによって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えが自在である。前記揺動レバーは弾性体の弾接により、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起の位置を決定し、前記ラチェット歯車の回転方向を決定している。前記ラチェット歯車の六角等の角孔にナットまたはボルト頭部を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体が把持され、前記ラチェット歯車の角孔はナットまたはボルト頭部を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車は係合突起に当接し、前記ラチェット歯車の回動を拘束すると把持部本体と一体となって回動する。即ち、前記把持部本体の回動によって、前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付け方向に回動させる。
また、前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付け方向に回動させる把持部本体に加えられた反対方向の回動は、前記ラチェット歯車の角孔は前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバーの位置は弾性体の弾接が前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起がその弾性によって退き、前記ラチェット歯車が前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、前記ナットまたは前記ボルト頭部は前記ラチェット歯車の角孔に嵌合した状態であり、前記ラチェット歯車の周囲に係合していた係合突起が、その弾性によって退き、把持部本体と前記ナットまたは前記ボルト頭部との連結が解かれる。
このとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。
しかし、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、または前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部と把持部本体との供廻りが生じ、前記把持部本体の操作のみでは前記ボルトとナットの締め付けが困難となる。
ところが、本発明においては、前記ラチェット歯車の六角状等の角孔に挿入された前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の一方の外面を押圧する前記ラチェット歯車の前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部を取付けている。この弾性付与部によって、前記把持部本体に取付けられた前記ラチェット歯車の角孔と前記ナットまたは前記ボルト頭部は、通常、前記把持部本体と前記ナットまたは前記ボルト頭部とが当接状態となっており、前記把持部本体は前記ナットまたは前記ボルト頭部とが広い面積で接触している。しかし、前記ラチェット歯車の前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の弾性力を加える弾性付与部は、前記ラチェット歯車の角孔が保持している前記ナットまたは前記ボルト頭部を押付ける外力を付与し、前記ナットまたは前記ボルト頭部は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向の接触摩擦抵抗が小さいときでも、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
また、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向に弾性力を加えるとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向に対して均一に弾性力を付与しているのではなく、部分的に付与しているので、部分的に高い確率で、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナットまたはボルトと把持部本体との供廻りが生じ難く、かつ、前記ボルト、前記ナットの締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
請求項2のラチェット機構付締付装置の前記弾性付与部は、前記ナット及び前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対して回動自在に取り付けたものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、前記ナットまたは前記ボルト頭部を前記ラチェット歯車の角孔に嵌めるとき、弾性力を受けて挿入し、嵌合状態とし、かつ、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部を前記ラチェット歯車の角孔との係合状態を決定できるから、前記弾性付与部の弾性力の大小を意識しないで使用することができる。
請求項3のラチェット機構付締付装置の前記弾性付与部は、前記ナット及び前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、必要に応じて進退させればよいから、ハンドルとなる把持部本体とボルト頭部またはナットとの供廻りが生じ難くしないときに違和感を感じない。また、使用の際には、前記ナットまたは前記ボルト頭部を嵌める前記ラチェット歯車の角孔の内部に侵入させれば、前記弾性付与部を使用した態様となる。
図1は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の要部断面図である。
図2は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の動作を説明する説明図で、(a)は右廻転で締付けまたはその解除を行う場合、(b)は左廻転で締付けまたはその解除を行う場合の事例である。
図3は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の一方の面から見た全体斜視図である。
図4は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の他方の面から見た全体斜視図である。
図5は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置のラチェット機構を省略した論理的説明を行う要部断面図である。
図6は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の他の事例のラチェット機構を省略した論理的説明を行う要部断面図である。
図7は本発明の実施の形態2のラチェット機構付締付装置の弾性付与部を示すもので、(a)は長さ方向に長くした一部断面を有する平面図で、(b)は正面図を示すものである。
図8は本発明の実施の形態3のラチェット機構付締付装置の全体を示す斜視図である。
図9は本発明の実施の形態4の弾性付与部の自由端部を異にするラチェット機構付締付装置の全体を示す斜視図である。
図10は本発明の実施の形態5のラチェット機構を省略したラチェット機構付締付装置の要部を示す要部断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。特に、中心から左右に同機能を有する実施の形態であるから、両者は同一記号、同一符号で表現している。
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について、図1乃至図6を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態のラチェット機構付締付装置であり、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1は、図3に示す表裏の2枚の板材11,12及びそれらに挟まれた芯材10から構成されている。
ラチェット歯車2は、把持部本体1の両端部の図1の表裏の2枚の板材11,12に対し、回動自在に配設されている。ラチェット歯車2には、ナット50またはボルト頭62を嵌合し、ナット50またはボルト頭62との相対回動を拘束する六角の角孔21を内部に形成し、その同心の外周に歯車22を形成している。
ラチェット歯車2の両側の面には、外周に歯車22の谷底以下の径で外周が同心円となっており、回転軸として機能する突出円23が形成されている。突出円23は図3の表裏の2枚の板材11,12に対し形成された嵌合孔15に嵌合している。この状態で、ラチェット歯車2の突出円23は嵌合孔15に嵌合した状態で右側方向Rに、また、左側方向Lにも回転自在となっている。
図示のラチェット歯車2には、その中心に六角の角孔21を形成している。この六角の角孔21は従来からある十二角の角孔21とすることもできる。本発明を実施する場合には、三角、四角、六角、十二角の何れのナット50またはボルト頭部62に対応する角孔でもよい。
作業者の手によって切り替え自在な揺動レバー4は、ラチェット歯車2の歯車22の歯と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有している。また、それらの係合突起41,42の位置を弾性体6の弾接で特定すべく、把持部本体1がナット50またはボルト頭部62を中心に左に回動する際に回動させる左回転操作部4Lと、把持部本体1がナット50またはボルト頭部62を中心に右に回動する際に回動させる右回転操作部4Rを有している。例えば、左回転操作部4Lを押圧することによりリベットからなる取付軸43を中心に回動し、係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。このとき、ボール5は弾性体としてのスプリング6によって揺動レバー4に弾接している。揺動レバー4の弾接位置は、揺動レバー4が突出した揺動レバー中心線44よりも右側の位置となっており、安定静止状態となっている。
また、弾性体としてのスプリング6は芯金10に形成された挿着孔13に装着されており、その端部には、ボール5が配設されている。したがって、ボール5は常に揺動レバー4側に弾性力が付与されているから、揺動レバー4との当接位置は揺動レバー4の取付軸43からの距離によって決定される。同時に、揺動レバー4はボール5を介して弾性体としてのスプリング6の弾性力を受けているから、揺動レバー中心線44よりも図2(a)の左側の位置にあるとき、右回転操作部4Rの押圧状態を保持する。また、左回転操作部4Lを押圧すると、取付軸43を中心に揺動レバー4が回動し、ボール5は揺動レバー中心線44を超えて揺動レバー中心線44よりも図2(b)の右側の位置となり、左回転操作部4Lの押圧状態を保持する。爾後、左回転操作部4Lを押圧すると、取付軸43を中心に揺動レバー4が回動し、ボール5は揺動レバー中心線44を超えて揺動レバー中心線44よりも図2(a)の左側の位置となり、左回転操作部4Lの押圧状態を保持し、ナット50またはボルト頭部62を左回動する。
図2(b)のように、揺動レバー4の係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起41と係合突起42との内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起41が徐々にその線接触の位置が右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
また、図2(a)に示すように、右回転操作部4Rを押圧することにより係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって右方向に回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の左方向に回動すると、係合突起42の内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起42が徐々にその線接触の位置が右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを左方向に回転自在となる。
把持部本体1の表裏の2枚の板材11,12及び芯材10は、両側にあるラチェット歯車2を回動自在に配設し、両側にある揺動レバー4を回動自在に配設し、それらをリベットからなる取付軸43及び2個の締付リベット14によって固着している。
これまでの説明は、公知のラチェット機構付締付装置としてのレンチの基本的な構成である。
本発明の実施の形態においては、図3乃至図6に示すように、本実施の形態のラチェット歯車2の六角、十二角等の何れかからなる角孔21に挿入されたナット50及びボルト60のボルト軸61方向のいずれか一方の外面を押圧するナット50またはボルト頭62にボルト軸61方向の弾性力を加えるように把持部本体1の締付リベット14に取付けた弾性体からなる弾性付与部70が配設されている。
弾性付与部70は、板材を略長方形状に打ち抜いた本体73は、一方は電気の端子のように板状に形成され、締付リベット14が挿通され軸支される固定部71と、他端はスプーン状に湾曲させた自由端部72とを有している。本実施の形態では、弾性付与部70を板材で加工しているが、線材で形成してもよいし、管材で形成してもよい。何れにせよ、ナット50またはボルト頭62の当接部分は、締付リベット14からナット50またはボルト頭62の当接部分間の弾性力が効率よくナット50またはボルト頭62に伝わればよい。また、ナット50またはボルト頭62の回動時に、その回動方向の動きを阻止しない構造のものであればよい。
ここで使用している2本の締付リベット14は、好ましくは、2段に直径が異なる形態としてなされたもので、大径部で固定部71を軸支し、小径部で2枚の板材11,12を芯材10に押圧するのが望ましい。2本の取付軸43については、本実施の形態では従来の構造と相違するものではない。
なお、本実施の形態の弾性付与部70は、締付リベット14によって1個のラチェット歯車2に対して表裏の2枚の板材11,12側にそれぞれ配設し、図3及び図4に示すように、2本の締付リベット14からなる固着手段によって表裏に弾性付与部70を計4個設けている。しかし、本発明を実施する場合には、片側のみに2個配設してもよいし、表裏に各1個づつ設けてもよい。
特に、本実施の形態では、回動のために締付リベット14で取付けた4個の弾性付与部70としたものであるが、片側の両者を一体化して、2個の締付リベット14で固定部71を指示し、両端をナット50またはボルト頭62の当接部分の自由端部72としてもよいし、それを両側の構造としてもよい。
この実施の形態では、弾性付与部70の自由端部72がナット50の面に弾接する場合は、ボルト60のボルト軸61の邪魔にならないように、ナット50の端面に当接するように配置される。なお、仮に、ボルト60の軸61の中心に自由端部72を配設したとしても、弾性付与部70を線材で形成すれば、それを避けるように左右に移動させることができる。また、このとき、弾性付与部70の自由端部72とナット50及びボルト60のボルト軸61とが所定の摩擦抵抗で接することになる。
この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、使用しないとき、締付リベット14を中心に回動させ、切欠案内部17に収まるようになっている。したがって、通常状態で、図3に示す状態及び図4に示す状態、更には、図3に示す一方の弾性付与部70の自由端部72を切欠案内部17に収まる形態となる。勿論、図4に示すように、4個の弾性付与部70の自由端部72を切欠案内部17に収まる形態となる場合もある。
このように構成された本実施の形態のラチェット機構付締付装置は、次のように作用する。
ラチェット機構を省略した図5に示すように、ボルト60のボルト軸61にナット50を螺合したことを前提に説明する。まず、ボルト60のボルト軸61には、所定の位置にナット50が螺合状態にあるとき、本実施の形態のラチェット機構付締付装置を使用する事例で説明する。
ナット50の外周に対し、そのボルト60のボルト軸61の方向にラチェット歯車2の六角の角孔21を嵌める。このとき、ボルト軸61の平行方向にラチェット歯車2の角孔21を嵌めるから、ボルト軸61方向に対して直角な方向に移動され、両者間の間隙が最大となり、ナット50に対し角孔21がスムーズに嵌められる。
ナット50に対する本実施の形態のラチェット機構付締付装置の角孔21の嵌めは、両者間の間隙が抵抗を少なくしてスムーズに嵌められる。弾性付与部70の自由端部72は、ナット50の端面に当接する。このとき、弾性付与部70の自由端部72の弾性に抗して把持部本体1を移動させるから、弾性付与部70の自由端部72の弾性力が把持部本体1の移動に伴い移動する。この感覚は手で感じ取られる。この状態でボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角にあると、弾性付与部70の自由端部72の弾性力で角孔21が移動してしまう。
しかし、ボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角に維持しようとすることは、無駄な力を必要とすることから、また、公知のスパナ、レンチ等の使用経験から、把持部本体1を角度αだけ上に移動するか、逆に、角度βだけ下に移動させ、ガタツキのない状態位置をホームポジションとする。このとき、ラチェット歯車2の角孔2aは、ナット50との間にガタツキがない状態であり、回動角度にもガタツキがなくなる。しかし、弾性付与部70の自由端部72の弾性力は付与された状態である。ここで、把持部本体1を右方向に回動すると、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、このように、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となっていると、その状態でナット50に対して逆方向の回転力を加えた場合、ボルト60のボルト軸61とナット50との間の螺合の摩擦抵抗が大きくなっているから、把持部本体1を回動しても、ナット50とボルト軸61は固定状態で、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の摩擦抵抗が小さいから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
故に、一方向の回転では、右回転操作部4Rを押圧することにより、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の内側が徐変しているから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
ラチェット機構を省略した図6は、他の使用状態の事例である。
図6に示すように、ナット50にボルト60のボルト軸61を螺合することを前提に説明する。まず、ボルト60のボルト軸61には、所定の位置までナット50が回動されその間に2枚の基材80を締付けるときに、本実施の形態のラチェット機構付締付装置を使用する事例である。
ボルト頭部62の外周に対し、そのボルト軸61の方向にラチェット歯車2の六角の角孔21の中心を嵌める。このとき、ボルト60のボルト軸61の方向にラチェット歯車2の角孔21を嵌めるから、ボルト軸61に対して直角な方向に移動され、両者間の間隙が最大となり、ボルト頭部61に対し角孔21がスムーズに嵌められる。
ボルト頭部62に対する本実施の形態のラチェット機構付締付装置の角孔21は、両者間の間隙が抵抗を少なくしてスムーズに嵌められる。弾性付与部70の自由端部72は、ボルト頭部62の端面に当接する。このとき、弾性付与部70の自由端部72の弾性に抗して、把持部本体1を移動させ、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を把持部本体1を移動させる手で感じ取る。この状態でボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角にあると、弾性付与部70の自由端部72の弾性力で角孔21が移動してしまう。
しかし、ボルト60の軸61に対して把持部本体1が直角に維持しようとすることは、無駄な力を必要とすることから、通常の公知のスパナ、レンチ等の使用者は、経験から図5に示すように、把持部本体1を角度αだけ上に移動するか、逆に、角度βだけ下に移動させる。このとき、ラチェット歯車2の角孔21は、ナット50との間にガタツキがない状態となる。このとき、弾性付与部10の自由端部12の弾性力は付与された状態である。ここで、把持部本体1を右方向に回動すると、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した抵抗となる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
このように、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となっていると、その状態でボルト頭部62に対して逆方向の回転力を加えると、把持部本体1を回動しても、ボルト頭部62の螺合の摩擦抵抗が大きくなっているから、把持部本体1を図示の右回転方向に回転すると、ボルト頭部62は固定した状態で、ラチェット歯車2の係合突起42の摩擦抵抗が小さいから、その取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
故に、一方向の回転では、右回転操作部4Rを押圧することにより係合突起4bがラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、摩擦抵抗が小さいことから、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
本実施の形態のラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持される把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62を収容し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する角孔21を内部に形成し、外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2の外周の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置をスプリング6からなる弾性体の弾接で特定すべく切り替え自在な揺動レバー4と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧するナット50及びボルト60の軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
したがって、把持部本体1の端部に回動自在に配設した外周に歯車22を形成したラチェット歯車2は、揺動レバー4によって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えられる。揺動レバー4はスプリング6からなる弾性体の弾接により、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42の位置を決定し、ラチェット歯車2の回転方向を決定している。ラチェット歯車2の六角等の角孔21にナット50またはボルト頭部62を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体1が把持され、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車2は係合突起41,42に当接し、ラチェット歯車2の回動を拘束すると把持部本体1と一体となって回動する。即ち、把持部本体1の回動によって、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる。
また、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる把持部本体1に加えられた反対方向の回動は、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバー4の位置はスプリング6からなる弾性体の弾接がナット50またはボルト頭部62を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起41,42がその弾性によって退き、ラチェット歯車2がナット50またはボルト頭部62を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、ナット50またはボルト頭部62はラチェット歯車2の角孔21に嵌合した状態であり、ラチェット歯車2の周囲に係合していた係合突起41,42が、その弾性によって退き、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62との連結が解かれる。
このとき、ナット50またはボルト頭部62が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。しかし、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、またはナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、ナット50またはボルト頭部62と把持部本体1との供廻りが生じ、把持部本体1の操作のみではボルト50とナット60の締め付けが困難となる。
ところが、本発明の実施の形態1においては、ラチェット歯車2の六角状の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の一方の外面を押圧するラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部70を取付けている。この弾性付与部70によって、把持部本体1に取付けられたラチェット歯車2の角孔21とナット50またはボルト頭部62は、通常、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62とが当接状態となっており、把持部本体1はナット50またはボルト頭部62とが広い面積で接触している。しかし、ラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加える弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21が保持しているナット50またはボルト頭部62を押付ける外力を付与し、ナット50またはボルト頭部62は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部70で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗、摩擦抵抗が小さいときでも、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
また、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62の軸方向に弾性力を加えるとき、ナット50またはボルト頭部62の軸方向に対して均一に弾性力を付与しているのではなく、部分的に付与しているので、部分的に高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナット50またはボルト60と把持部本体1との供廻りが生じ難く、かつ、ボルト60、ナット50の締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
上記実施の形態の弾性付与部70は、ナット50及びボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して回動自在に取り付けたものであるから、弾性付与部70の収納状態により、ナット50またはボルト頭部62をラチェット歯車2の角孔21に嵌めるとき、弾性力を受けて挿入し、嵌合状態とし、かつ、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62をラチェット歯車2の角孔21との係合状態を決定できるから、弾性付与部70の弾性力の大小を意識しないで使用することができる。
更に、この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、使用しないとき、締付リベット14を中心に回動させ、切欠案内部17に収まるようにしているから、通常格納状態で、図4に示す状態に両側を設定することができる。
また、この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、接触が線状またはスポットとなるからナット50またはボルト頭部62に加える断勢力が部分的に摩擦抵抗を大きくすることから、使いやすいラチェット機構付締付装置となる。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1は、図1の表裏の2枚の板材11,12及びそれらに挟まれた芯材10から構成されている。しかし、ナット50またはボルト頭部62に嵌める角孔21は同時に2箇所使用するものではないので、弾性付与部70の構成を単純化することができる。
図7はその例の本発明の実施の形態2のラチェット機構付締付装置の平面図(a)及び正面図(b)である。
全体が弾性体から形成された弾性付与部70は、板材からなるもので、2本の取付軸43と1本の締付リベット14の頭部によって本体部75の長穴75a、長穴75bを把持部本体1に保持している。この保持は、把持部本体1の長さ方向に沿って長穴75a、長穴75bの長さに沿って移動自在になっている。
弾性付与部70の両端は、スプーン状に湾曲させた自由端部76及び自由端部77となっている。この自由端部76及び自由端部77は、操作部78を図7の右に押すか、左に押すかによって自由端部76または自由端部77がナット50またはボルト頭部62の端面を弾性力で押圧する。この操作部78は板材からなる弾性付与部70を略U字状に湾曲させたものであるが、本発明を実施する場合には、本体部75に円孔を穿設し、そこに皿ネジ等を挿通させて皿ネジの頭部のフラットな面と本体部75の面とが面一になるようにし、その皿ネジのネジに取手を螺合したものでもよい。
このように構成した弾性付与部70は、ナット50及びボルト60のボルト軸61方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものである。
したがって、ナット50及びボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、使用に応じて進退させればよいから、使用しないときに違和感を感じることがない。また、使用の際には、ナット50またはボルト頭部62を嵌めるラチェット歯車2の角孔21の内部に侵入させれば、弾性付与部70を使用した態様となる。
よって、実施の形態1と同様の効果を奏する。
このように、本発明の実施の形態のラチェット機構付締付装置の弾性付与部70は、ナット50及びボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、必要に応じて進退させればよいから、使用しないときに違和感を感じない。また、使用の際には、ナット50またはボルト頭部62を嵌めるラチェット歯車2の角孔21の内部に侵入させれば、弾性付与部70を使用する形態となる。
本実施の形態のラチェット機構付締付装置においても、作業者の手によって把持される把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62を収容し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する角孔21を内部に形成し、外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2の外周の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置をスプリング6からなる弾性体の弾接で特定すべく切り替え自在な揺動レバー4と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧するナット50及びボルト60の軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
[実施の形態3]
実施の形態1では、ラチェット機構付締付装置として把持部本体1が直線状のもので説明したが、本発明を実施する場合には、実施の形態1または実施の形態2の弾性付与部70を図8のようにハンドルの両端に角度を付け、作業時に手がぶつからないように設計されたオフセット型ラチェットレンチにも使用できる。
図8に示す弾性付与部70は、実施の形態1で使用した弾性付与部70を用いたものである。
実施の形態1と重複するので、その仔細な説明を割愛するが、一方の弾性付与部70はく字状に折れた外側の凸側に、また、他方はく字状に折れた内側の凹側を渡るが、そもそも、弾性付与部70の本体73が大きく湾曲しているので、その湾曲内での接続となる。
[実施の形態4]
上記実施の形態の弾性付与部70の本体73に繋がった自由端部72、自由端部76または自由端部77は、何れも端部をスプーンの形状にしているが、図9に示すように、端部を二股にした音叉型の自由端部72a及び自由端部72bとすることができる。
ここで、弾性付与部70の端部の自由端部72、自由端部76または自由端部77のように単一でナット50またはボルト頭部62の端面に接触した方がよいか、2箇所で接触させた方が良いかを比較した。
発明者の実験によれば、ナット50またはボルト頭部62の外面とラチェット歯車2の角孔21の内面とのガタツキにより、1ヵ所のみに外力を加えた方が摩擦抵抗の大きい場合と、2ヵ所に外力を加えた場合が摩擦抵抗が大きい場合が存在した。更に、ナット50またはボルト頭部62の端面に均一に外力を加えると、摩擦抵抗があまり大きくならないことが確認された。したがって、ナット50またはボルト頭部62に当接する弾性付与部70の自由端部72、自由端部76または自由端部77は、1ヵ所または2ヵ所が望ましい。
したがって、図9に示すように、端部を二股にした音叉型の自由端部72a及び自由端部72bとすることができる。
[実施の形態5]
上記各実施の形態では、弾性付与部70が板材を所定の形状に切削して形成したものであるが、特定の太さの線材とすることができる。また、弾性体をコイルスプリングとすることもできる。図10の実施の形態がその例である。
キャップ90は、把持部本体1の表裏の板材11または板材12に端部を嵌め合う係止部91と、把持部本体1の表裏の板材11または板材12から起立させて係合させる係合片18と係合する係合凸部92を有している。そして、それらの係合状態でラチェット歯車2の角孔21に対向する位置にコイルスプリング93を設けている。このコイルスプリング93はキャップ90の開口よりも2〜6mm程度下方に突出している。コイルスプリング93の内径は、ボルト60のボルト軸61の径よりも大径に形成されている。
まず、ラチェット歯車2の角孔21にコイルスプリング93の下端を挿入し、そして、把持部本体1の板材11または板材12の端部側から係合凸部92を係合片18に係合させると同時に、係止部91を把持部本体1の板材11または板材12に端部を嵌めて取り付け状態とする。
ここで、ナット50またはボルト頭部62にラチェット歯車2の角孔21を嵌めて、把持部本体1をナット50またはボルト60の軸方向に変位させると、ナット50またはボルト頭62とガタツキのない接触状態となる。
即ち、本実施の形態5にかかるラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62と嵌合し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する六角の角孔21を内部に形成し、その外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する図10には図示しない係合突起(図1の41,42に相当)を有し、係合突起(図1の41,42に相当)の位置をスプリング6からなる弾性体(図1の6に相当)の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替え自在な揺動レバー(図1の4に相当)と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50及びボルト60の軸方向の外面を押圧するナット50またはボルト頭部62に軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
ラチェット機構付締付装置において、把持部本体1の端部に回動自在に配設した外周に歯車22を形成したラチェット歯車2は、揺動レバー4によって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えが自在である。揺動レバー4はスプリング6からなる弾性体の弾接により、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42の位置を決定し、ラチェット歯車2の回転方向を決定している。ラチェット歯車2の六角の角孔21にナット50またはボルト頭部62を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体1が把持され、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車2は係合突起41,42に当接し、ラチェット歯車2の回動を拘束し、把持部本体1と一体となって回動する。即ち、把持部本体1の回動によって、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる。
また、把持部本体1に加えられた反対方向の回動は、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバー4の位置はスプリング6からなる弾性体の弾接がナット50またはボルト頭部62を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起41,42がその弾性によって退き、ラチェット歯車2がナット50またはボルト頭部62を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、ナット50またはボルト頭部62はラチェット歯車2の角孔21に嵌合した状態であり、ラチェット歯車2の周囲に係合していた係合突起41,42が、その弾性によって退き、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62との連結が解かれる。
このときナット50またはボルト頭部62が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。しかし、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、またはナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、ナット50またはボルト頭部62と把持部本体1との供廻りが生じ、ボルト60とナット50の締め付けが困難となる。
ところが、上記実施の形態において、ラチェット歯車2の六角状の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の一方の外面を押圧するラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部70を取付けている。この弾性付与部70によって、把持部本体1に取付けられたラチェット歯車2の角孔21とナット50またはボルト頭部62は、通常、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62とが当接状態となっており、把持部本体1はナット50またはボルト頭部62と一体となっている。しかし、ラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加える弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21が保持しているナット50またはボルト頭部62を押付ける外力を付与し、ナット50またはボルト頭部62は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部70で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいときでも、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナット50またはボルト60と把持部本体1との供廻りが生じ難く、かつ、ボルト60、ナット50の締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
ここで、上記把持部本体1は、作業者の手によって把持されるハンドル部位であり、扱うナット50またはボルト頭部62によってその長さが決定される。
また、上記ラチェット歯車2は、把持部本体1の一方または両方の端部に回動自在に配設され、その状態でナット50またはボルト頭部60の挿入を受け入れ、ナット50またはボルト頭部60との相対回動を許容し、または拘束するナット50またはボルト頭部60に嵌合する角孔21を内部に形成し、かつ、外周に歯車を形成したものである。
そして、上記揺動レバー4は、ラチェット歯車2の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替えを自在としたものである。
更に、上記弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧する把持部本体1に対して直角方向の弾性力を加えるように取付けたものである。
上記自由端部72,72a,72bは、スプーン状としたものであるが、本発明を実施する場合には、断面V字状または断面U字状としたもの、単なる平板としたものでもよい。しかし、ナット50またはボルト頭部60の端面に接触する面積が少ない方が効果的である。
また、本実施の形態の弾性付与部70は、従来のラチェットレンチ、メガネレンチ等のレンチが有する2本の締付リベット14を使用するものであるから、従来からの仕様の変更が僅かである。
1 把持部本体
14 締付リベット
2 ラチェット歯車
21 角孔
4 揺動レバー
4L 左回転操作部
4R 右回転操作部
41,42 係合突起
5 ボール
6 スプリング
50 ナット
60 ボルト
61 軸
62 ボルト頭
70 弾性付与部
71 固定部
72,72a,72b 自由端部
本発明は、ラチェットレンチ、メガネレンチ等に使用される特定方向の回転を自在とし、その反対方向の回転を拘束し、締付けに使用するラチェット機構に関するもので、当該ラチェット機構によりボルト、ナットの供廻りを防止する機構を付加したラチェット機構付締付装置に関するものである。
例えば、ラチェット機構によりボルト、ナットを特定回転方向に締め付け、その反対方向の回動によって、ボルト、ナットの締め付け位置をそのままとして、ハンドルの回動ストロークを確保するという本願発明に近似する技術には、特許文献1及び特許文献2の技術がある。
特許文献1の技術の従来のラチェットレンチ100は、把持部であるハンドル101と、このハンドル101の両端部のそれぞれに設けられた2つのラチェット部102とを備えている。ラチェット部102は、係合部としてのソケット部103を回転自在に支持しており、ソケット部103の貫通穴の内周面にはナット等の締具と噛み合う複数のエッジが形成されている。また、ソケット部103の外周面には、方向切り替えレバー104の端部と噛み合う図示しないラチェットが内装されている。図中矢印方向への揺動が可能なこの方向切り替えレバー104は、ソケット部103の回転方向を一方向のみに規制するものであり、その揺動位置によって上記爪車との噛み合わせ方向を変化させることで、回転規制方向を変化させる。このような構成のラチェットレンチ100において、作業者は、ラチェット部102を軸にしてハンドル101を任意の角度で往復回転させるだけで、ナット等に係合せしめたソケット部103を締め付け方向或いは緩み方向にのみ回転させることができる。なお、この特許文献1の説明中の( )付の算用数字は、特許文献1の部品番号を示すものである。
これらソケットレンチを含むラチェットレンチの何れにおいても、ナット等の締具を締め付けるためには、ハンドルを持った腕を大きく回動する必要がある。仮締め作業時には締具を何回転もしなければならず、このような腕の動作を何度も繰り返すと作業効率が悪くなる。また、仮締め時におけるナット等の締具の摩擦抵抗は著しく弱いため、ハンドルが締付方向とは逆方向に回転すると、ラチェット機構が機能する前にナット等の締具も逆回転してしまう。仮締め時には、このような逆回転を回避すべく、ハンドルを往復回転ではなく一方向に回転させる必要があり、このことが仮締めの作業効率を、更に悪化させてしまう。これらの理由により、ナット等の締具の仮締めにおいては、ラチェットレンチやソケットレンチを用いずに、締具を指先だけで回転するのが一般的である。
しかしながら、ナット等の締具は、その形状が工具との係合を可能にする六角ボルト等の形状であり、指先に完全にフィットしない。また、回転軸付近の指先での回転作業が必ずしも容易ではない。そこで、特許文献1では、作業者に把持されるハンドルと、ボルト等の締具に係合する係合部と、前記係合部の回転方向を規制するラチェット部とを備え、前記ラチェット部を軸とする往復回転力が前記ハンドル部に付与されることにより、前記係合部を所定方向に回転させて前記締具を締め付けるラチェット式締付工具にあって、該ハンドル部を回転させずに固定的に把持した状態で、前記係合部に回転力を伝えるノブ部材を設けている。
また、特許文献2は、トルシア形高力ボルト頭部が隠れてしまうような態様であっても、ナットの供廻りを抑止しながらナットの一次締めを効率よく実行できるトルシア形高力ボルト一次締め用レンチを提供している。
即ち、トルシア形高力ボルトを一次締めするレンチにおいて、トルシア形高力ボルトに螺合するナットを回転させるランナー部と、ランナー部に回転力を伝えるハンドルと、トルシア形高力ボルトのピンテールに取り付けられてピンテールの回転を規制する押え部とを備え、前記押え部は、ランナー部に対して相対回転自在としたものである。
これらの構成により、押え部はトルシア形高力ボルトのピンテールに取り付けられてピンテールの回転を規制する。一方で、ハンドルがランナー部に回転力を伝え、ランナー部が回転してナットを締め付けるが、押え部は、ランナー部に対して相対回転自在であるため、ランナー部と共に回転してしまうことはなく、その結果として、ナットとトルシア形高力ボルトとの供廻りを抑止でき、ナットの一次締めを効率よく実行できる。
特開2001−347465
特開2010−179428
しかし、特許文献1の技術では、ハンドルを回転させることなく、固定的に把持した状態で、係合部に設けたグリップとしてのノブ部材に回転力を伝えるものであるから、そのノブ部材を回転させることによりボルトまたはナットが一体に回転するものである。
しかし、前記ノブ部材の回転は、前記ボルトまたは前記ナットの回転に相当し、前記ノブ部材の回転からハンドルの回転に移行するには、前記ノブ部材とハンドルの両方の回転を行う必要があり、単純に前記ノブ部材の回転から前記ハンドルの回転に移行することはできない。
また、特許文献2の技術では、トルシア形高力ボルトとしての供廻りの回転止めを行っているが、これは頭部のスリップ止めであり、一般的なボルト、ナットにはピンテールが存在していないから、汎用性の技術としては使用できない。
即ち、ボルト、ナットを締める際、特定方向の回動をラチェット機構によって締めと、その締めのストロークを確保する反対方向の回動を行う必要がある。しかし、ボルト、ナットを締めるストロークを確保する回動であっても、ラチェット機構は係合を解除する弾性力を受けながら、歯車を乗り越えなくてはならない。
その際に、ボルト、ナットを締める摩擦抵抗が小さいと、歯車を乗り越える摩擦力が大きくなり、ボルトまたはナットとハンドルとなる把持部本体との供廻りが生じ、ボルト、ナットの締め付けが困難となる。
そこで、本発明は、ハンドルとなる把持部本体とボルト頭部またはナットとの供廻りが生じ難く、前記ボルト頭部、前記ナットの締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることなく極めて普通の使用との間に違いが少ないラチェット機構付締付装置の提供を課題とするものである。
請求項1の発明にかかるラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体と、ナットまたはボルト頭部と嵌合し、前記ナットまたは前記ボルト頭部との相対回動を拘束する六角または十二角等の角孔を内部に形成し、その外周に歯車を形成すると共に、前記把持部本体の端部に回動自在に配設したラチェット歯車と、前記ラチェット歯車と噛み合い、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起を有し、前記係合突起の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替え自在な揺動レバーと、前記ラチェット歯車の角孔に挿入された前記ナット及び前記ボルトの軸方向の外面を押圧する前記ナットまたは前記ボルト頭部に軸方向の弾性力を加えるように前記把持部本体に取付けた弾性付与部を具備するものである。
ここで、上記把持部本体は、作業者の手によって把持されるレンチのレバーまたはハンドル部位であり、扱うナットまたはボルト頭部によってその長さが決定される。
また、上記ラチェット歯車は、前記把持部本体の一方または両方の端部に回動自在に配設され、その状態でナットまたはボルト頭部の挿入を受け入れ、前記ナットまたは前記ボルト頭部との相対回動を許容し、または拘束する前記ナットまたは前記ボルト頭部と嵌合する角孔を内部に形成し、かつ、外周に歯車を形成したものである。なお、角孔とはナットまたはボルト頭部との相対回動を拘束する四角、六角または十二角等の角を拘束できる孔であればよい。
そして、上記揺動レバーは、ラチェット歯車の歯と噛み合い、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起を有し、前記係合突起の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替えを自在としたものである。なお、上記ラチェット歯車と上記揺動レバーによってラチェット機構を構成している。
更に、上記弾性付与部は、ラチェット歯車の角孔に挿入されたナットまたはボルト頭部の軸方向の外面を押圧する前記把持部本体に対して直角方向の弾性力を加えるように取付けたものである。
請求項2の発明のラチェット機構付締付装置にかかる前記弾性付与部は、前記ナットまたは前記ボルトの軸方向に弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対しても回動自在に取り付けたものである。
ここで、上記弾性付与部は、前記ナットまたは前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して回動自在としたものである。
請求項3の発明のラチェット機構付締付装置にかかる前記弾性付与部は、前記把持部本体に対して直角方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して略平行に進退自在としたものである。
ここで、上記弾性付与部は、把持部本体の長さ方向に対して直角方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体に対して平行に進退自在としたものである。
請求項1のラチェット機構付締付装置において、把持部本体の端部に回動自在に配設した外周に歯車を形成したラチェット歯車は、揺動レバーによって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えが自在である。前記揺動レバーは弾性体の弾接により、前記ラチェット歯車の回動を拘束する係合突起の位置を決定し、前記ラチェット歯車の回転方向を決定している。前記ラチェット歯車の六角等の角孔にナットまたはボルト頭部を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体が把持され、前記ラチェット歯車の角孔はナットまたはボルト頭部を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車は係合突起に当接し、前記ラチェット歯車の回動を拘束すると把持部本体と一体となって回動する。即ち、前記把持部本体の回動によって、前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付け方向に回動させる。
また、前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付け方向に回動させる把持部本体に加えられた反対方向の回動は、前記ラチェット歯車の角孔は前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバーの位置は弾性体の弾接が前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起がその弾性によって退き、前記ラチェット歯車が前記ナットまたは前記ボルト頭部を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、前記ナットまたは前記ボルト頭部は前記ラチェット歯車の角孔に嵌合した状態であり、前記ラチェット歯車の周囲に係合していた係合突起が、その弾性によって退き、把持部本体と前記ナットまたは前記ボルト頭部との連結が解かれる。
このとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。
しかし、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、または前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部と把持部本体との供廻りが生じ、前記把持部本体の操作のみでは前記ボルトとナットの締め付けが困難となる。
ところが、本発明においては、前記ラチェット歯車の六角状等の角孔に挿入された前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の一方の外面を押圧する前記ラチェット歯車の前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部を取付けている。この弾性付与部によって、前記把持部本体に取付けられた前記ラチェット歯車の角孔と前記ナットまたは前記ボルト頭部は、通常、前記把持部本体と前記ナットまたは前記ボルト頭部とが当接状態となっており、前記把持部本体は前記ナットまたは前記ボルト頭部とが広い面積で接触している。しかし、前記ラチェット歯車の前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向の弾性力を加える弾性付与部は、前記ラチェット歯車の角孔が保持している前記ナットまたは前記ボルト頭部を押付ける外力を付与し、前記ナットまたは前記ボルト頭部は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動させて締め付ける方向の反対方向の接触摩擦抵抗が小さいときでも、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
また、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向に弾性力を加えるとき、前記ナットまたは前記ボルト頭部の軸方向に対して均一に弾性力を付与しているのではなく、部分的に付与しているので、部分的に高い確率で、前記ナットまたは前記ボルト頭部を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナットまたはボルトと把持部本体との供廻りが生じ難く、かつ、前記ボルト、前記ナットの締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
請求項2のラチェット機構付締付装置の前記弾性付与部は、前記ナットまたは前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対して回動自在に取り付けたものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、前記ナットまたは前記ボルト頭部を前記ラチェット歯車の角孔に嵌めるとき、弾性力を受けて挿入し、嵌合状態とし、かつ、前記弾性付与部が前記ナットまたは前記ボルト頭部を前記ラチェット歯車の角孔との係合状態を決定できるから、前記弾性付与部の弾性力の大小を意識しないで使用することができる。
請求項3のラチェット機構付締付装置の前記弾性付与部は、前記ナットまたは前記ボルトの軸方向の弾性力を加えると共に、前記把持部本体の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、必要に応じて進退させればよいから、ハンドルとなる把持部本体とボルト頭部またはナットとの供廻りが生じ難くしないときに違和感を感じない。また、使用の際には、前記ナットまたは前記ボルト頭部を嵌める前記ラチェット歯車の角孔の内部に侵入させれば、前記弾性付与部を使用した態様となる。
図1は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の要部断面図である。
図2は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の動作を説明する説明図で、(a)は右廻転で締付けまたはその解除を行う場合、(b)は左廻転で締付けまたはその解除を行う場合の事例である。
図3は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の一方の面から見た全体斜視図である。
図4は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の他方の面から見た全体斜視図である。
図5は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置のラチェット機構を省略した論理的説明を行う要部断面図である。
図6は本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置の他の事例のラチェット機構を省略した論理的説明を行う要部断面図である。
図7は本発明の実施の形態2のラチェット機構付締付装置の弾性付与部を示すもので、(a)は長さ方向に長くした一部断面を有する平面図で、(b)は正面図を示すものである。
図8は本発明の実施の形態3のラチェット機構付締付装置の全体を示す斜視図である。
図9は本発明の実施の形態4の弾性付与部の自由端部を異にするラチェット機構付締付装置の全体を示す斜視図である。
図10は本発明の実施の形態5のラチェット機構を省略したラチェット機構付締付装置の要部を示す要部断面図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。特に、中心から左右に同機能を有する実施の形態であるから、両者は同一記号、同一符号で表現している。
[実施の形態1]
まず、本発明の実施の形態1について、図1乃至図6を用いて説明する。
図1は本発明の実施の形態のラチェット機構付締付装置であり、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1は、図3に示す表裏の2枚の板材11,12及びそれらに挟まれた芯材10から構成されている。
ラチェット歯車2は、把持部本体1の両端部の図1の表裏の2枚の板材11,12に対し、回動自在に配設されている。ラチェット歯車2には、ナット50またはボルト頭62を嵌合し、ナット50またはボルト頭62との相対回動を拘束する六角の角孔21を内部に形成し、その同心の外周に歯車22を形成している。
ラチェット歯車2の両側の面には、外周に歯車22の谷底以下の径で外周が同心円となっており、回転軸として機能する突出円23が形成されている。突出円23は図3の表裏の2枚の板材11,12に対し形成された嵌合孔15に嵌合している。この状態で、ラチェット歯車2の突出円23は嵌合孔15に嵌合した状態で右側方向Rに、また、左側方向Lにも回転自在となっている。
図示のラチェット歯車2には、その中心に六角の角孔21を形成している。この六角の角孔21は従来からある十二角の角孔21とすることもできる。本発明を実施する場合には、三角、四角、六角、十二角の何れのナット50またはボルト頭部62に対応する角孔でもよい。
作業者の手によって切り替え自在な揺動レバー4は、ラチェット歯車2の歯車22の歯と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有している。また、それらの係合突起41,42の位置を弾性体6の弾接で特定すべく、把持部本体1がナット50またはボルト頭部62を中心に左に回動する際に回動させる左回転操作部4Lと、把持部本体1がナット50またはボルト頭部62を中心に右に回動する際に回動させる右回転操作部4Rを有している。例えば、左回転操作部4Lを押圧することによりリベットからなる取付軸43を中心に回動し、係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。このとき、ボール5は弾性体としてのスプリング6によって揺動レバー4に弾接している。揺動レバー4の弾接位置は、揺動レバー4が突出した揺動レバー中心線44よりも右側の位置となっており、安定静止状態となっている。
また、弾性体としてのスプリング6は芯金10に形成された挿着孔13に装着されており、その端部には、ボール5が配設されている。したがって、ボール5は常に揺動レバー4側に弾性力が付与されているから、揺動レバー4との当接位置は揺動レバー4の取付軸43からの距離によって決定される。同時に、揺動レバー4はボール5を介して弾性体としてのスプリング6の弾性力を受けているから、揺動レバー中心線44よりも図2(a)の左側の位置にあるとき、右回転操作部4Rの押圧状態を保持する。また、左回転操作部4Lを押圧すると、取付軸43を中心に揺動レバー4が回動し、ボール5は揺動レバー中心線44を超えて揺動レバー中心線44よりも図2(b)の右側の位置となり、左回転操作部4Lの押圧状態を保持する。爾後、左回転操作部4Lを押圧すると、取付軸43を中心に揺動レバー4が回動し、ボール5は揺動レバー中心線44を超えて揺動レバー中心線44よりも図2(a)の左側の位置となり、左回転操作部4Lの押圧状態を保持し、ナット50またはボルト頭部62を左回動する。
図2(b)のように、揺動レバー4の係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起41と係合突起42との内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起41が徐々にその線接触の位置が右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
また、図2(a)に示すように、右回転操作部4Rを押圧することにより係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって右方向に回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の左方向に回動すると、係合突起42の内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起42が徐々にその線接触の位置が右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを左方向に回転自在となる。
把持部本体1の表裏の2枚の板材11,12及び芯材10は、両側にあるラチェット歯車2を回動自在に配設し、両側にある揺動レバー4を回動自在に配設し、それらをリベットからなる取付軸43及び2個の締付リベット14によって固着している。
これまでの説明は、公知のラチェット機構付締付装置としてのレンチの基本的な構成である。
本発明の実施の形態においては、図3乃至図6に示すように、本実施の形態のラチェット歯車2の六角、十二角等の何れかからなる角孔21に挿入されたナット50及びボルト60のボルト軸61方向のいずれか一方の外面を押圧するナット50またはボルト頭62にボルト軸61方向の弾性力を加えるように把持部本体1の締付リベット14に取付けた弾性体からなる弾性付与部70が配設されている。
弾性付与部70は、板材を略長方形状に打ち抜いた本体73は、一方は電気の端子のように板状に形成され、締付リベット14が挿通され軸支される固定部71と、他端はスプーン状に湾曲させた自由端部72とを有している。本実施の形態では、弾性付与部70を板材で加工しているが、線材で形成してもよいし、管材で形成してもよい。何れにせよ、ナット50またはボルト頭62の当接部分は、締付リベット14からナット50またはボルト頭62の当接部分間の弾性力が効率よくナット50またはボルト頭62に伝わればよい。また、ナット50またはボルト頭62の回動時に、その回動方向の動きを阻止しない構造のものであればよい。
ここで使用している2本の締付リベット14は、好ましくは、2段に直径が異なる形態としてなされたもので、大径部で固定部71を軸支し、小径部で2枚の板材11,12を芯材10に押圧するのが望ましい。2本の取付軸43については、本実施の形態では従来の構造と相違するものではない。
なお、本実施の形態の弾性付与部70は、締付リベット14によって1個のラチェット歯車2に対して表裏の2枚の板材11,12側にそれぞれ配設し、図3及び図4に示すように、2本の締付リベット14からなる固着手段によって表裏に弾性付与部70を計4個設けている。しかし、本発明を実施する場合には、片側のみに2個配設してもよいし、表裏に各1個づつ設けてもよい。
特に、本実施の形態では、回動のために締付リベット14で取付けた4個の弾性付与部70としたものであるが、片側の両者を一体化して、2個の締付リベット14で固定部71を指示し、両端をナット50またはボルト頭62の当接部分の自由端部72としてもよいし、それを両側の構造としてもよい。
この実施の形態では、弾性付与部70の自由端部72がナット50の面に弾接する場合は、ボルト60のボルト軸61の邪魔にならないように、ナット50の端面に当接するように配置される。なお、仮に、ボルト60の軸61の中心に自由端部72を配設したとしても、弾性付与部70を線材で形成すれば、それを避けるように左右に移動させることができる。また、このとき、弾性付与部70の自由端部72とナット50及びボルト60のボルト軸61とが所定の摩擦抵抗で接することになる。
この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、使用しないとき、締付リベット14を中心に回動させ、切欠案内部17に収まるようになっている。したがって、通常状態で、図3に示す状態及び図4に示す状態、更には、図3に示す一方の弾性付与部70の自由端部72を切欠案内部17に収まる形態となる。勿論、図4に示すように、4個の弾性付与部70の自由端部72を切欠案内部17に収まる形態となる場合もある。
このように構成された本実施の形態のラチェット機構付締付装置は、次のように作用する。
ラチェット機構を省略した図5に示すように、ボルト60のボルト軸61にナット50を螺合したことを前提に説明する。まず、ボルト60のボルト軸61には、所定の位置にナット50が螺合状態にあるとき、本実施の形態のラチェット機構付締付装置を使用する事例で説明する。
ナット50の外周に対し、そのボルト60のボルト軸61の方向にラチェット歯車2の六角の角孔21を嵌める。このとき、ボルト軸61の平行方向にラチェット歯車2の角孔21を嵌めるから、ボルト軸61方向に対して直角な方向に移動され、両者間の間隙が最大となり、ナット50に対し角孔21がスムーズに嵌められる。
ナット50に対する本実施の形態のラチェット機構付締付装置の角孔21の嵌めは、両者間の間隙が抵抗を少なくしてスムーズに嵌められる。弾性付与部70の自由端部72は、ナット50の端面に当接する。このとき、弾性付与部70の自由端部72の弾性に抗して把持部本体1を移動させるから、弾性付与部70の自由端部72の弾性力が把持部本体1の移動に伴い移動する。この感覚は手で感じ取られる。この状態でボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角にあると、弾性付与部70の自由端部72の弾性力で角孔21が移動してしまう。
しかし、ボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角に維持しようとすることは、無駄な力を必要とすることから、また、公知のスパナ、レンチ等の使用経験から、把持部本体1を角度αだけ上に移動するか、逆に、角度βだけ下に移動させ、ガタツキのない状態位置をホームポジションとする。このとき、ラチェット歯車2の角孔2aは、ナット50との間にガタツキがない状態であり、回動角度にもガタツキがなくなる。しかし、弾性付与部70の自由端部72の弾性力は付与された状態である。ここで、把持部本体1を右方向に回動すると、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、このように、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となっていると、その状態でナット50に対して逆方向の回転力を加えた場合、ボルト60のボルト軸61とナット50との間の螺合の摩擦抵抗が大きくなっているから、把持部本体1を回動しても、ナット50とボルト軸61は固定状態で、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の摩擦抵抗が小さいから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
故に、一方向の回転では、右回転操作部4Rを押圧することにより、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の内側が徐変しているから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
ラチェット機構を省略した図6は、他の使用状態の事例である。
図6に示すように、ナット50にボルト60のボルト軸61を螺合することを前提に説明する。まず、ボルト60のボルト軸61には、所定の位置までナット50が回動されその間に2枚の基材80を締付けるときに、本実施の形態のラチェット機構付締付装置を使用する事例である。
ボルト頭部62の外周に対し、そのボルト軸61の方向にラチェット歯車2の六角の角孔21の中心を嵌める。このとき、ボルト60のボルト軸61の方向にラチェット歯車2の角孔21を嵌めるから、ボルト軸61に対して直角な方向に移動され、両者間の間隙が最大となり、ボルト頭部61に対し角孔21がスムーズに嵌められる。
ボルト頭部62に対する本実施の形態のラチェット機構付締付装置の角孔21は、両者間の間隙が抵抗を少なくしてスムーズに嵌められる。弾性付与部70の自由端部72は、ボルト頭部62の端面に当接する。このとき、弾性付与部70の自由端部72の弾性に抗して、把持部本体1を移動させ、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を把持部本体1を移動させる手で感じ取る。この状態でボルト60のボルト軸61に対して把持部本体1が直角にあると、弾性付与部70の自由端部72の弾性力で角孔21が移動してしまう。
しかし、ボルト60の軸61に対して把持部本体1が直角に維持しようとすることは、無駄な力を必要とすることから、通常の公知のスパナ、レンチ等の使用者は、経験から図5に示すように、把持部本体1を角度αだけ上に移動するか、逆に、角度βだけ下に移動させる。このとき、ラチェット歯車2の角孔21は、ナット50との間にガタツキがない状態となる。このとき、弾性付与部10の自由端部12の弾性力は付与された状態である。ここで、把持部本体1を右方向に回動すると、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した抵抗となる。仮に、遊び側フランク側に接触していたとしても、前記把持部本体の角穴が前記ナットまたは前記ボルト頭部と係止されているから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
このように、進み側フランクが通常の摩擦抵抗に対して、弾性付与部70の自由端部72の弾性力を付与した摩擦抵抗となっていると、その状態でボルト頭部62に対して逆方向の回転力を加えると、把持部本体1を回動しても、ボルト頭部62の螺合の摩擦抵抗が大きくなっているから、把持部本体1を図示の右回転方向に回転すると、ボルト頭部62は固定した状態で、ラチェット歯車2の係合突起42の摩擦抵抗が小さいから、その取付軸43を中心に右方向に回動し、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
故に、一方向の回転では、右回転操作部4Rを押圧することにより係合突起4bがラチェット歯車2の外周の歯車22に当接する。揺動レバー4の係合突起41がラチェット歯車2の外周の歯車22に当接している場合、ラチェット歯車2の回転は、係合突起42がラチェット歯車2の外周の歯車22に面で当接し、把持部本体1とラチェット歯車2とが一体となって回動する。しかし、ラチェット歯車2に対して把持部本体1と図示の右回転方向に回転すると、係合突起42の内側が徐変する略U字状に形成されているから、係合突起42が徐々にその取付軸43を中心に右方向に回動し、摩擦抵抗が小さいことから、ラチェット歯車2の周りを右方向に回転自在となる。
本実施の形態のラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持される把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62を収容し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する角孔21を内部に形成し、外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2の外周の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置をスプリング6からなる弾性体の弾接で特定すべく切り替え自在な揺動レバー4と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧するナット50またはボルト60の軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
したがって、把持部本体1の端部に回動自在に配設した外周に歯車22を形成したラチェット歯車2は、揺動レバー4によって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えられる。揺動レバー4はスプリング6からなる弾性体の弾接により、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42の位置を決定し、ラチェット歯車2の回転方向を決定している。ラチェット歯車2の六角等の角孔21にナット50またはボルト頭部62を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体1が把持され、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車2は係合突起41,42に当接し、ラチェット歯車2の回動を拘束すると把持部本体1と一体となって回動する。即ち、把持部本体1の回動によって、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる。
また、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる把持部本体1に加えられた反対方向の回動は、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバー4の位置はスプリング6からなる弾性体の弾接がナット50またはボルト頭部62を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起41,42がその弾性によって退き、ラチェット歯車2がナット50またはボルト頭部62を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、ナット50またはボルト頭部62はラチェット歯車2の角孔21に嵌合した状態であり、ラチェット歯車2の周囲に係合していた係合突起41,42が、その弾性によって退き、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62との連結が解かれる。
このとき、ナット50またはボルト頭部62が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。しかし、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、またはナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、ナット50またはボルト頭部62と把持部本体1との供廻りが生じ、把持部本体1の操作のみではボルト50とナット60の締め付けが困難となる。
ところが、本発明の実施の形態1においては、ラチェット歯車2の六角状の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の一方の外面を押圧するラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部70を取付けている。この弾性付与部70によって、把持部本体1に取付けられたラチェット歯車2の角孔21とナット50またはボルト頭部62は、通常、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62とが当接状態となっており、把持部本体1はナット50またはボルト頭部62とが広い面積で接触している。しかし、ラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加える弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21が保持しているナット50またはボルト頭部62を押付ける外力を付与し、ナット50またはボルト頭部62は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部70で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗、摩擦抵抗が小さいときでも、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
また、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62の軸方向に弾性力を加えるとき、ナット50またはボルト頭部62の軸方向に対して均一に弾性力を付与しているのではなく、部分的に付与しているので、部分的に高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナット50またはボルト60と把持部本体1との供廻りが生じ難く、かつ、ボルト60、ナット50の締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
上記実施の形態の弾性付与部70は、ナット50またはボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して回動自在に取り付けたものであるから、弾性付与部70の収納状態により、ナット50またはボルト頭部62をラチェット歯車2の角孔21に嵌めるとき、弾性力を受けて挿入し、嵌合状態とし、かつ、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62をラチェット歯車2の角孔21との係合状態を決定できるから、弾性付与部70の弾性力の大小を意識しないで使用することができる。
更に、この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、使用しないとき、締付リベット14を中心に回動させ、切欠案内部17に収まるようにしているから、通常格納状態で、図4に示す状態に両側を設定することができる。
また、この実施の形態の弾性付与部70の自由端部72は、接触が線状またはスポットとなるからナット50またはボルト頭部62に加える断勢力が部分的に摩擦抵抗を大きくすることから、使いやすいラチェット機構付締付装置となる。
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態1のラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1は、図1の表裏の2枚の板材11,12及びそれらに挟まれた芯材10から構成されている。しかし、ナット50またはボルト頭部62に嵌める角孔21は同時に2箇所使用するものではないので、弾性付与部70の構成を単純化することができる。
図7はその例の本発明の実施の形態2のラチェット機構付締付装置の平面図(a)及び正面図(b)である。
全体が弾性体から形成された弾性付与部70は、板材からなるもので、2本の取付軸43と1本の締付リベット14の頭部によって本体部75の長穴75a、長穴75bを把持部本体1に保持している。この保持は、把持部本体1の長さ方向に沿って長穴75a、長穴75bの長さに沿って移動自在になっている。
弾性付与部70の両端は、スプーン状に湾曲させた自由端部76及び自由端部77となっている。この自由端部76及び自由端部77は、操作部78を図7の右に押すか、左に押すかによって自由端部76または自由端部77がナット50またはボルト頭部62の端面を弾性力で押圧する。この操作部78は板材からなる弾性付与部70を略U字状に湾曲させたものであるが、本発明を実施する場合には、本体部75に円孔を穿設し、そこに皿ネジ等を挿通させて皿ネジの頭部のフラットな面と本体部75の面とが面一になるようにし、その皿ネジのネジに取手を螺合したものでもよい。
このように構成した弾性付与部70は、ナット50またはボルト60のボルト軸61方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものである。
したがって、ナット50またはボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、使用に応じて進退させればよいから、使用しないときに違和感を感じることがない。また、使用の際には、ナット50またはボルト頭部62を嵌めるラチェット歯車2の角孔21の内部に侵入させれば、弾性付与部70を使用した態様となる。
よって、実施の形態1と同様の効果を奏する。
このように、本発明の実施の形態のラチェット機構付締付装置の弾性付与部70は、ナット50またはボルト60の軸方向の弾性力を加えると共に、把持部本体1の長さ方向に対して平行に進退自在に取り付けたものであるから、必要に応じて進退させればよいから、使用しないときに違和感を感じない。また、使用の際には、ナット50またはボルト頭部62を嵌めるラチェット歯車2の角孔21の内部に侵入させれば、弾性付与部70を使用する形態となる。
本実施の形態のラチェット機構付締付装置においても、作業者の手によって把持される把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62を収容し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する角孔21を内部に形成し、外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2の外周の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置をスプリング6からなる弾性体の弾接で特定すべく切り替え自在な揺動レバー4と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧するナット50またはボルト60の軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
[実施の形態3]
実施の形態1では、ラチェット機構付締付装置として把持部本体1が直線状のもので説明したが、本発明を実施する場合には、実施の形態1または実施の形態2の弾性付与部70を図8のようにハンドルの両端に角度を付け、作業時に手がぶつからないように設計されたオフセット型ラチェットレンチにも使用できる。
図8に示す弾性付与部70は、実施の形態1で使用した弾性付与部70を用いたものである。
実施の形態1と重複するので、その仔細な説明を割愛するが、一方の弾性付与部70はく字状に折れた外側の凸側に、また、他方はく字状に折れた内側の凹側を渡るが、そもそも、弾性付与部70の本体73が大きく湾曲しているので、その湾曲内での接続となる。
[実施の形態4]
上記実施の形態の弾性付与部70の本体73に繋がった自由端部72、自由端部76または自由端部77は、何れも端部をスプーンの形状にしているが、図9に示すように、端部を二股にした音叉型の自由端部72a及び自由端部72bとすることができる。
ここで、弾性付与部70の端部の自由端部72、自由端部76または自由端部77のように単一でナット50またはボルト頭部62の端面に接触した方がよいか、2箇所で接触させた方が良いかを比較した。
発明者の実験によれば、ナット50またはボルト頭部62の外面とラチェット歯車2の角孔21の内面とのガタツキにより、1ヵ所のみに外力を加えた方が摩擦抵抗の大きい場合と、2ヵ所に外力を加えた場合が摩擦抵抗が大きい場合が存在した。更に、ナット50またはボルト頭部62の端面に均一に外力を加えると、摩擦抵抗があまり大きくならないことが確認された。したがって、ナット50またはボルト頭部62に当接する弾性付与部70の自由端部72、自由端部76または自由端部77は、1ヵ所または2ヵ所が望ましい。
したがって、図9に示すように、端部を二股にした音叉型の自由端部72a及び自由端部72bとすることができる。
[実施の形態5]
上記各実施の形態では、弾性付与部70が板材を所定の形状に切削して形成したものであるが、特定の太さの線材とすることができる。また、弾性体をコイルスプリングとすることもできる。図10の実施の形態がその例である。
キャップ90は、把持部本体1の表裏の板材11または板材12に端部を嵌め合う係止部91と、把持部本体1の表裏の板材11または板材12から起立させて係合させる係合片18と係合する係合凸部92を有している。そして、それらの係合状態でラチェット歯車2の角孔21に対向する位置にコイルスプリング93を設けている。このコイルスプリング93はキャップ90の開口よりも2〜6mm程度下方に突出している。コイルスプリング93の内径は、ボルト60のボルト軸61の径よりも大径に形成されている。
まず、ラチェット歯車2の角孔21にコイルスプリング93の下端を挿入し、そして、把持部本体1の板材11または板材12の端部側から係合凸部92を係合片18に係合させると同時に、係止部91を把持部本体1の板材11または板材12に端部を嵌めて取り付け状態とする。
ここで、ナット50またはボルト頭部62にラチェット歯車2の角孔21を嵌めて、把持部本体1をナット50またはボルト60の軸方向に変位させると、ナット50またはボルト頭62とガタツキのない接触状態となる。
即ち、本実施の形態5にかかるラチェット機構付締付装置は、作業者の手によって把持されるハンドルとなる把持部本体1と、ナット50またはボルト頭部62と嵌合し、ナット50またはボルト頭部62との相対回動を拘束する六角の角孔21を内部に形成し、その外周に歯車22を形成すると共に、把持部本体1の端部に回動自在に配設したラチェット歯車2と、ラチェット歯車2と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する図10には図示しない係合突起(図1の41,42に相当)を有し、係合突起(図1の41,42に相当)の位置をスプリング6からなる弾性体(図1の6に相当)の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替え自在な揺動レバー(図1の4に相当)と、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50及びボルト60の軸方向の外面を押圧するナット50またはボルト頭部62に軸方向の弾性力を加えるように把持部本体1に取付けた弾性付与部70を具備するものである。
ラチェット機構付締付装置において、把持部本体1の端部に回動自在に配設した外周に歯車22を形成したラチェット歯車2は、揺動レバー4によって作業者によって右方向の回転または左方向の回転に切り替えが自在である。揺動レバー4はスプリング6からなる弾性体の弾接により、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42の位置を決定し、ラチェット歯車2の回転方向を決定している。ラチェット歯車2の六角の角孔21にナット50またはボルト頭部62を嵌合させ、作業者の手によって把持部本体1が把持され、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を特定方向に回動させる。このとき、ラチェット歯車2は係合突起41,42に当接し、ラチェット歯車2の回動を拘束し、把持部本体1と一体となって回動する。即ち、把持部本体1の回動によって、ナット50またはボルト頭部62を締め付け方向に回動させる。
また、把持部本体1に加えられた反対方向の回動は、ラチェット歯車2の角孔21はナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の回転となる。このとき、作業者が設定した揺動レバー4の位置はスプリング6からなる弾性体の弾接がナット50またはボルト頭部62を締め付ける方向の回転以外は弾接していた係合突起41,42がその弾性によって退き、ラチェット歯車2がナット50またはボルト頭部62を締め付ける反対方向側に回動する。即ち、ナット50またはボルト頭部62はラチェット歯車2の角孔21に嵌合した状態であり、ラチェット歯車2の周囲に係合していた係合突起41,42が、その弾性によって退き、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62との連結が解かれる。
このときナット50またはボルト頭部62が所定の締付け状態にあり、両者間の摩擦抵抗が大きいときには、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向とその反対方向の回転はスムーズに行われる。しかし、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向のみの摩擦抵抗が小さいとき、またはナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の摩擦抵抗及び締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいとき、ナット50またはボルト頭部62と把持部本体1との供廻りが生じ、ボルト60とナット50の締め付けが困難となる。
ところが、上記実施の形態において、ラチェット歯車2の六角状の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の一方の外面を押圧するラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加えるように弾性付与部70を取付けている。この弾性付与部70によって、把持部本体1に取付けられたラチェット歯車2の角孔21とナット50またはボルト頭部62は、通常、把持部本体1とナット50またはボルト頭部62とが当接状態となっており、把持部本体1はナット50またはボルト頭部62と一体となっている。しかし、ラチェット歯車2のナット50またはボルト頭部62の軸方向の弾性力を加える弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21が保持しているナット50またはボルト頭部62を押付ける外力を付与し、ナット50またはボルト頭部62は、その雌ネジと雄ネジの関係において、締付け中は雄ネジの進みフランクに接しているが、弾性付与部70で付与した弾性力は、更にそれらの雄ネジの進みフランクの摩擦抵抗に弾性力を付与するものであるから、相手材との摩擦抵抗を高くすることができる。
したがって、ナット50またはボルト頭部62を回動させて締め付ける方向の反対方向の摩擦抵抗が小さいときでも、弾性付与部70がナット50またはボルト頭部62にその軸方向に弾性力を加えているから、高い確率で、ナット50またはボルト頭部62を回動する摩擦抵抗を大きくできる。
よって、締め付けようとするナット50またはボルト60と把持部本体1との供廻りが生じ難く、かつ、ボルト60、ナット50の締め付けの際の摩擦抵抗を格別大きく増大させることがないラチェット機構付締付装置とすることができる。
ここで、上記把持部本体1は、作業者の手によって把持されるハンドル部位であり、扱うナット50またはボルト頭部62によってその長さが決定される。
また、上記ラチェット歯車2は、把持部本体1の一方または両方の端部に回動自在に配設され、その状態でナット50またはボルト頭部60の挿入を受け入れ、ナット50またはボルト頭部60との相対回動を許容し、または拘束するナット50またはボルト頭部60に嵌合する角孔21を内部に形成し、かつ、外周に歯車を形成したものである。
そして、上記揺動レバー4は、ラチェット歯車2の歯22と噛み合い、ラチェット歯車2の回動を拘束する係合突起41,42を有し、係合突起41,42の位置を弾性体の弾接で特定すべく、作業者の手によって切り替えを自在としたものである。
更に、上記弾性付与部70は、ラチェット歯車2の角孔21に挿入されたナット50またはボルト頭部62の軸方向の外面を押圧する把持部本体1に対して直角方向の弾性力を加えるように取付けたものである。
上記自由端部72,72a,72bは、スプーン状としたものであるが、本発明を実施する場合には、断面V字状または断面U字状としたもの、単なる平板としたものでもよい。しかし、ナット50またはボルト頭部60の端面に接触する面積が少ない方が効果的である。
また、本実施の形態の弾性付与部70は、従来のラチェットレンチ、メガネレンチ等のレンチが有する2本の締付リベット14を使用するものであるから、従来からの仕様の変更が僅かである。
1 把持部本体
14 締付リベット
2 ラチェット歯車
21 角孔
4 揺動レバー
4L 左回転操作部
4R 右回転操作部
41,42 係合突起
5 ボール
6 スプリング
50 ナット
60 ボルト
61 軸
62 ボルト頭
70 弾性付与部
71 固定部
72,72a,72b 自由端部