一般に、エンジンの回転軸と発電機の回転軸のような2軸を同一軸上に結合してトルク伝達を行う場合、両軸芯を完全に一致させることが困難であるため、軸芯の誤差(偏心、偏角、偏位)を吸収する機能を持つ軸結合装置が用いられる。このような軸結合装置の方式は各種あるが、両軸間の偏心、偏角、偏位の誤差を吸収し、かつ高トルクを伝達する為の軸結合装置の実現は大変難しい。
例えば、特許文献1の板ばねのたわみを利用した板ばね式カップリング(軸結合装置)がある。これは第1軸結合部材と第2軸結合部材との間に中間部材を挟んで2枚の板バネを配置した構成となっている。このような構成により、2枚の板ばねがたわみ変形して両軸間の偏心、偏角、偏位の誤差を吸収しながらトルク伝達を行っている。
しかしながら、板ばねのたわみ変形は少ないため、両軸間の偏心、偏角、偏位の許容誤差を小さくする必要があり、実用に際して両軸の設定を大変精密に行わなければならない。また、長期間の経年使用によって両軸間の偏心や偏角の誤差が大きくなると板バネの取り付け部に応力集中が起こって取り付け部が破断してしまう恐れがある。
構成がより簡単な軸結合装置としてはコイルばねによる軸結合装置が知られており、両軸間の偏心や偏角の誤差吸収に優れているが、高トルクの動力を伝達することが難しい。特許文献2で開示されるのは、コイルばねの代わりにアコーデオン状の金属ベローズを用い、偏心、偏角、偏位の吸収のみならず、回転方向のガタつきや回転むらが少なく比較的高トルクを伝達することが可能となることを企図した技術思想である。
しかし、コイルばねのコイル部分の剛性を強くした方法であるため、コイルばねによる軸継ぎ手と同様にスリット結合部分にねじれ応力が掛かる為、高トルク伝達時には上記結合部分に応力集中が起こって破断する恐れがある。また偏心、偏角、偏位の吸収範囲を拡大するためには上記ベローズ部分を長くする必要があり、両軸間に十分なスペースを確保できない場合には、上記軸結合装置を採用することは困難となる。
エンジンと発電機を結合するための軸結合装置のように、非常に高トルクの動力を伝達する場合は、両軸間の偏心、偏角、偏位による回転のガタつきや回転むらを生ずると軸結合装置の一部に応力集中が起こり破断する恐れがある。そのため、エンジン軸と発電機軸の偏心、偏角、偏位の相対変位をできる限り吸収し、ガタつき無く高トルクの動力を伝達できる軸結合装置の実現が本願の課題である。
さらに、スペースファクターを良くするために、両軸をできる限り短い距離で結合できる軸結合装置の実現も本願の課題である。
上記のような各課題を解決するために、本発明に係る軸結合装置は、(請求項1の如く、)第1軸より第2軸、或いは第2軸から第1軸に回転トルクを伝達する軸継ぎ手において、第1軸取り付け部材と第2軸取り付け部材との間を複数の、軸回転方向に剛性を有し変曲点をもつ断面を有する弾性結合体により結合する。ここで「変曲点をもつ断面」には、波形屈曲断面も含まれる。
また、(請求項2の如く、)第1軸と第2軸との間に中間部材を設け、第1軸と中間部材、中間部材と第2軸、のそれぞれの間を複数の軸回転方向に剛性を有する弾性結合体によって結合する。
(請求項3)では、(請求項1もしくは請求項2の)軸結合装置において、両軸取り付け部材、及び中間部材を軸方向に剛性を有する奇数個の弾性結合体によって結合する。
さらに、(請求項4の如く、)(請求項2の)軸結合装置において第1軸取り付け部材からの弾性結合体と第2軸からの弾性結合体を、中間部材の異なる位置に取り付ける。
また、(請求項5の如く、)(請求項1乃至請求項4の)軸結合装置において、軸回転方向に剛性を有する弾性結合体として金属平板あるいは合成樹脂平板を用いる。
また、(請求項6の如く、)(請求項1乃至請求項4の)軸結合装置において、軸回転方向に剛性を有する弾性結合体として複数の屈曲金属平板あるいは複数の合成樹脂平板を用いる。
以上、説明したように、本発明に係る軸結合装置においては、弾性結合体を用いることにより結合すべき第1軸と第2軸の偏心、偏角、偏位の相対変位をできる限り吸収し、該結合体は軸回転方向に剛性を有するため、高トルクの動力を伝達ことが可能となる。
また、請求項2の如く、第1軸と第2軸との間に中間部材を介在させた構造によれば、弾性部材に係るひずみ応力をさらに分散できるため耐久力が向上する。
同様に第1軸と第2軸の結合部材を奇数個にすることにより、より一層ひずみ応力を分散することができ耐久力が向上する。
更に、大変薄型に構成できるためスペースファクターが向上し、第1軸と第2軸との間隔を非常に短く結合することが可能となる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
図1は、本発明の一実施形態に係る軸結合装置1の全体構成を示す概略図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図、(d)はA−A´断面図である。結合すべき第1軸を取り付ける第1軸取り付け部材2は、複数の弾性結合体4によって第2軸を取り付ける取り付け部材3に結合されており、5は第1軸挿入孔、6は第2軸挿入孔である。弾性結合体4は、第1,2軸中心を中心として通常角度等配分に配置され、図1の例では7個の弾性結合体を7/360度毎に配置している。
図2は、本発明の他の一実施形態に係る軸結合装置の全体構成を示す概略図であり、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は側面図である。第1軸取り付け部材22と中間部材25を図1と同じ結合部材4で結合し、中間部材24の反対側と第2軸取り付け部材23とを結合する。このように構成した場合は、各結合部材にかかるストレスが分散されるため、第1軸と第2軸の偏心、偏角がある場合の結合部材の耐久力を向上させることができる。
図3は、図1、図2の軸結合装置1,21に用いる弾性結合体4の一実施例であり、(a)はその斜視図、(b)は断面図である。波型に屈曲された金属平板または合成樹脂平板で構成され、複数の取り付け穴31によって第1軸取り付け部材2と第2軸取り付け部材3に取り付けられる。すなわち、弾性結合体4はその屈曲部によってA方向に弾性特性を有する。また、平板構成のため軸回転方向であるB方向に剛性特性を有し、例えば第1軸からの高トルクの動力を損失なく第2軸に伝達することができる。
図4は、弾性結合体の他の一実施形態としての弾性結合体41を表した図である。(a)はその斜視図、(b)は断面図である。波型に屈曲された金属平板または合成樹脂平板2枚を重ねて構成している。このように構成した場合は、図2に示す弾性結合体より平板厚さを薄くできるため、屈曲部製作が容易となり、さらに複雑なる断面形状とすることもできる。
図5は、弾性結合体の別の一実施形態としての弾性結合体51を表した図である。(a)はその斜視図、(b)は断面図である。断面を弓型に湾曲した金属平板または合成樹脂平板2枚を重ねて構成している。このように構成した場合も図3に示した結合部材41と同様な効果を有する。以上、上記の図3、図4、図5の如く軸回転方向に剛性特性を有する弾性結合体はいろいろな構成が考えられるが、これらはすべて本発明の発明思想に含まれるものである。
図6は、第1軸と第2軸に偏角θがある場合において、本発明の軸結合装置の偏角によるひずみ応力吸収作用を説明する図であり、(a)は平面図、(b)はA−A´断面図である。図6では、後述する奇数7個の弾性結合体4−1乃至4−7によって第1軸取り付け部材と第2軸取り付け部材とが結合されている。
偏心によるひずみ応力によって図6の上部、弾性結合体4−1には引張力がかかり、4−2,4−7、4−3、4−6、4−4,4−5と順に圧縮力に代わっていく。もちろん同時に各弾性結合体には回転方向にせん断力が加わる。このように、4−1乃至4−7の弾性結合体の1つに応力集中が起こることなく、偏角によって生ずる両軸間のひずみ応力は、圧縮力、引張力、せん断力として各弾性結合体に分散吸収される。
図7は、第1軸と第2軸に偏心tがある場合において、本発明の軸結合装置の偏心によるひずみ応力吸収作用を説明する図である。この場合も、両軸間に偏心がある場合と同様、弾性結合体4−1には圧縮力がかかり、4−2,4−7、4−3、4−6、4−4,4−5と順に引張力に代わっていく。4−1乃至4−7の弾性結合体の1つに応力集中が起こることなく、偏心によって生ずる両軸間のひずみ応力は、圧縮力、引張力、せん断力として各弾性結合体に分散吸収される。
もちろん、両軸間に偏角、偏心が同時にある場合もほぼ同様にしてひずみ応力を吸収することができる。さらに、両軸間に変位がある(軸間距離の変化)場合は、4−1乃至4−7の弾性結合体に一様に引張力あるいは圧縮力が働いて、偏位を吸収する。
図8は、第1軸取り付け部材と第2軸取り付け部材とを結合する結合材の配置についての説明図である。(a)は、6個(偶数個)の弾性結合体4を60度毎に配置した例で、(b)は7個(奇数個)の弾性結合体4を7/360度毎に配置した例である。
図8(a)の如く、6個の弾性結合体4を角度等配分配置した場合(偶数の弾性結合体で結合した場合)は、弾性結合体4−1と4−4は結合軸中心を挟んで対称となるように、結合軸中心を挟んで2つの弾性結合体が対称の位置に配置されることとなる。たとえば、図6や図7のような偏角や偏心によりひずみ応力が大きくなる場合、両軸中心の対称位置にある2つの弾性結合体には引張力と圧縮力は逆作用ではあるものの、ほぼ同じ大きさの応力がかかることとなる。すなわち、偏角や偏心がある場合において状況によってはひずみ応力が最も大きい弾性結合体が2個存在することとなる。
一方、図8(b)のごとく、奇数の弾性結合体を角度等配分で配置すれば結合軸中心に対称位置となる弾性結合体は存在しない。図8(b)に示されるのは7個の弾性結合体4−1乃至4−7で両軸を結合した例で、たとえば、4−1にもっとも大きなひずみ応力がかかった場合、対称位置には弾性結合体が存在せず、4−1にかかるような大きなひずみ応力は4−4と4−5に分散される。
かくのごとく、両軸間を結合する弾性結合体を奇数とすることによりひずみ応力を分散することができ、軸結合装置の耐久力を向上させることができる。
図9は、図3による弾性結合部材4の変形例を示しているもので、金属平板あるいは合成樹脂平板に切り欠き部9−aや貫通孔9−bを設けることにより該平板へのひずみ応力を比較的容易に分散調整することができる。
図10は、本発明による軸結合装置1をエンジンと発電機の高トルク伝達に用いた実際の試作例を示す図である。エンジン102は、そのクランクシャフト103を第2軸取り付け部材2に直に取り付け、第1軸取り付け部材3の軸挿入孔5に発電機軸105を挿入した場合である。かくのごとく、本発明に依る軸結合装置を用いれば、エンジンと発電機との軸間距離を1〜2cmまで近づけて結合することができる。
なお、本発明は上述した形態に限定されることなく、同じ技術思想の範囲で様々な拡張、置換、代替、縮小等が可能である。たとえば上記の弾性結合体を構成する素材として金属平板、合成樹脂平板を採用する場合を例にとって説明したが、これら以外の素材形状であってもよく、要は一定の剛性を備えるものであれば採用可能であり、これらは全て本願の技術思想に内包される。