(第一の実施の形態)
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
第一の実施の形態では、情報画線群にインテグラルフォトグラフィ方式の画線構成を用いた場合の構成について説明する。インテグラルフォトグラフィとは、特殊な立体画像の撮像方法であり、これによって作られた画像は、動画効果や立体効果に優れるという特徴を有する。
図1に、本発明における動画模様印刷物(1)を示す。図1(a)は、動画模様印刷物(1)の正面図であり、図1(b)に示すのは、動画模様印刷物(1)のAA´ラインにおける断面図である。動画模様印刷物(1)は、基材(2)の上に、動画模様(3)が形成されて成る。基材(2)は動画模様(3)を形成することができれば、紙、プラスティック及び金属等を用いることができ、その材質は問わない。動画模様(3)は、基材(2)と異なる色彩を有している必要があるが、基材(2)と異なる色で、かつ、透明以外の色彩であれば何色でも良く、色彩の制約はない。また、基材(2)の大きさについても、特に制限はない。
本発明の動画模様(3)の構成の概要を図2に示す。動画模様(3)は、第三の画像(4)、第二の画像(5)及び第一の画像(6)が重ね合わさって成る。図3に第三の画像(4)、第二の画像(5)及び第一の画像(6)の積層順序を示す。第三の画像(4)の上に第二の画像(5)が重なり、第二の画像(5)の上に第一の画像(6)が重なる層構造となっている。
まず、第三の画像(4)について具体的に説明する。図4に示す第三の画像(4)は、有色画線(7)が規則的に複数配置されることで形成された有色画線群を備えて成る。なお、図中において有色画線(7)を横縞の線が複数配列されているように示されているが、これは他の線と区別するためのパターンであり、実際には単純な一本の線である(以下、他の画線も同様とする。)本明細書における規則的に配置されるとは、同じ画線幅、同じピッチ及び同じ方向に配置されることを指す。すなわち、第三の画像(4)は、特定の画線幅(W1)の有色画線(7)が特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された有色画線群を備えて成る。拡散反射光下において、有色画線(7)は、基材(2)と異なる色で、かつ、透明でない第三の色相を有する。第三の画像(4)の中には、有色画線以外の画像も構成し得るが、第一の実施の形態において、第三の画像(4)の中には、有色画線群のみが存在するため、本例においては、第三の画像(4)と有色画線群は同じである。
次に、第二の画像(5)について具体的に説明する。図5に示す第二の画像(5)は、盛り上がりを有する蒲鉾形状の蒲鉾状画線(8)が規則的に複数配置されることで形成された蒲鉾状画線群を有する。すなわち、特定の画線幅(W2)の蒲鉾状画線(8)が、特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された蒲鉾状画線群を有する。また、蒲鉾状画線(8)は、拡散反射光下において透明又は半透明であって、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を有し、正反射光下で第三の色相と異なる第二の色相の反射光を発する。第二の画像(5)の中には、蒲鉾状画線群以外の画像も構成し得るが、第一の実施の形態において、第二の画像(5)の中には蒲鉾状画線群のみが存在するため、本例においては第二の画像(5)と蒲鉾状画線群は同じである。なお、本発明でいう蒲鉾状画線(8)の形状は、蒲鉾形立体のみならず、半円形状又は半楕円形状等の半円立方体の形状も含まれる。
本発明における「明暗フリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の明度が変化する性質を指し、「カラーフリップフロップ性」とは、物質に光が入射した場合に、物質の色相が変わる性質を指す。明暗フリップフロップ性を備えた、印刷で用いるインキとしては、金色や銀色等のメタリック系の金属インキや、グロスタイプの着色インキがある。一般的に艶があると感じられる物質は、明暗フリップフロップ性を備える。例えば、銀インキは、光を強く反射しない拡散反射光下では、暗い灰色にしか見えないが、光を強く反射する正反射光下では、より淡い灰色又は白色に見える。このように、「明暗フリップフロップ性」を有するインキは、正反射光下で明度が変化する。
一方のカラーフリップフロップ性を備えた印刷で用いるインキとしては、パールインキや液晶インキ、OVI、CSI(Color Shifting Ink)等が存在する。多くのインキは物体色を有するが、虹彩色パールインキは無色透明である。例えば、赤色の虹彩色パールインキは、拡散反射光下では無色透明だが、正反射光下では赤色の干渉色を発する。このように、「カラーフリップフロップ性」を備えたインキは、正反射光下で色相が変化する。
続いて、第一の画像(6)について具体的に説明する。図6に示す第一の画像(6)は、情報画線(9)が規則的に複数配置されることで形成された情報画線群を有する。すなわち、画線幅(W3)の情報画線(9)が、特定のピッチ(P1)で第一の方向(図中S1方向)に連続して複数配置されることで形成された情報画線群を備えて成る。拡散反射光下において、情報画線(9)は、第一の色相を有する。第一の画像(6)の中には、情報画線群以外の画像も構成し得るが、第一の実施の形態において、第一の画像(6)の中には情報画線群のみが存在するため、本例において第一の画像(6)と情報画線群は同じである。
第一の実施の形態における情報画線(9)とは、図7の拡大図に示すように、動画模様として出現させようと意図する画像を基画像(10)(本例では、桜の花びら)とし、基画像(10)の特定の位置に対して決められた特定の大きさのフレームを当てはめて、フレーム内に収まった基画像(10)だけを取り出し、取り出した画像を第一の方向(図中S1方向)に特定の縮率で圧縮して形成したものである。例えば、ある情報画線(9i)の、基画像(10)に対して配置したフレーム(11i)の位置は、隣合う情報画線(9i-1)が基画像(10)に対して配置したフレーム(11i-1)の位置とピッチ(P1)分だけS1方向にずれており、結果として、取り出した基画像(10)は、ピッチ(P1)分だけS1方向にずれた画像となる。以上の手法で作製した情報画線(9i)が、隣り合う情報画線(9i-1)からピッチ(P1)分だけS1方向にのみずらして配置されて成る。すなわち、ピッチ(P1)で隣りあった情報画線同士では、基画像(10)をとり出した画像がピッチ(P1)分だけずれて成り、隣り合った情報画線(9)であってもそれぞれの形状はわずかずつ異なる。この情報画線(9)の具体的な構造と作製方法については、特開2011−126028号公報に基づく。本構成を用いて形成した情報画線群(6)は、正反射光下の動画効果に優れるという特徴を有する。なお、図7に示す情報画線群(6d)は、説明のために本来の情報画線群(6d)の特定の画線幅(W3)や特定のピッチ(P1)を大きくして構造の特徴を容易に把握しやすくデフォルメしたものであり、実際の情報画線群(6)の画像とは異なる。
以上の構成の第三の画像(4)、第二の画像(5)及び第一の画像(6)を図3に示す順序で重ね合わせる。このとき、必要となる三つの画像の重ね合わせの位置関係について説明する。まず、基材(2)に最初に形成される第三の画像(4)と第二の画像(5)の重ね合わせに関しては、特に制約はない。第三の画像(4)と第一の画像(6)の重ね合わせに関しては、第三の画像(4)の有色画線(7)と第一の画像(6)の情報画線(9)とが、一部で重なり合わない領域を有する必要がある。言い変えれば、有色画線(7)と有色画線(7)との間の、有色画線(7)のない非画線領域に第一の画像の情報画線(9)の一部が重なっている必要がある。その場合、非画線領域と情報画線(9)の間に第二の画像(5)の蒲鉾状画線(8)があっても良く、なくても良い。この条件が満たされない場合には、拡散反射光下で基画像(10)に近似した情報画像A(10A)が出現しないため、避けなければならない。また、第二の画像(5)と第一の画像(6)の重ね合わせに関しては、第二の画像(5)が備える蒲鉾状画線(8)と第一の画像(6)の情報画線(9)とが、少なくとも一部で重なり合う領域を有する必要がある。この条件が満たされない場合には、正反射光下で基画像(10)に近似した情報画像B(10B)が出現しないため、避けなければならない。以上のような適切な位置関係で三つの画像が積層された場合、以下に説明する効果が生じる。
第1の実施の形態における動画模様印刷物(1)の効果について図8を用いて説明する。図8(a)に示すように、本発明の動画模様印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合、基画像(10)に近似した画像である情報画像A(10A)が視認される。拡散反射光下での情報画像A(10A)の色は、第一の色相及び第三の色相で表され、動画模様(3)のその他の領域は第三の色相となる。拡散反射光下では、動画模様(3)中のいかなる画像も動いては見えない。
図8(b)に示すように、本発明の動画模様印刷物(1)を正反射光下で観察した場合、情報画像A(10A)は、不可視か、不可視に近くなるとともに、基画像(10)に近似した画像である情報画像B(10B)が出現する。正反射光下では、情報画像B(10B)は第一の色相で、その他の動画模様(3)の領域は、第二の色相で視認される。拡散反射光下で出現する情報画像A(10A)とは異なり、情報画像B(10B)の色相には第二の色相はほとんど反映されず、第一の色相が主体的となる。なお、情報画像A(10A)と情報画像B(10B)は、いずれも基画像(10)に近似した画像ではあるが、完全に同一の画像というわけではない。この二つの画像(10A及び10B)の具体的な違いについては後述する。図8(c)に示すように、正反射光下で角度を変化させて観察した場合には、情報画像B(10B)の位置がS1方向に平行に移動する。すなわち、動画模様(3)の中を情報画像B(10B)が動いて観察される。
以上の効果が生じる原理について説明する。まず、拡散反射光下において、情報画線群(6)がそのまま視認されるのではなく、基画像(10)に近似した画像である情報画像A(10A)が視認される。拡散反射光下において第二の画像(5)の蒲鉾状画線(8)は、正反射光を発しないため、透明又は半透明であり、完全に不可視か、ほぼ不可視である。一方の第三の画像(4)と第一の画像(6)は、それぞれ着色されて成るため、拡散反射光下では可視化されている。ただし、第三の画像(4)の有色画線(7)と第一の画像(6)の情報画線(9)は、それぞれ同じピッチで配置され、かつ、目視可能な濃度に着色されて成るために拡散反射光下ではこの二つの画線が干渉する。この二つの画線が干渉して生じる現象について、図9(a)を用いて以下に説明する。
図9(a)の下の図は、有色画線(7)と情報画線(9)が重なった構造を示す図である。情報画線(9)は、有色画線(7)と比較して淡い反射濃度で形成されるために、有色画線(7)の上に情報画線(9)が重なった領域(9A)の濃度は、印刷面積の増加が伴わない減法混色となり、もとの有色画線(7)の反射濃度から大きく変化しない。その一方、有色画線(7)と隣り合う有色画線(7)の間に存在する非画線部に情報画線(9)が重なった領域(9B)は、着色された印刷面積自体が増加するため、その領域(9B)の反射濃度は、情報画線(9)の反射濃度分がそのまま増加した反射濃度となり、相対的に反射濃度が大きく増加する。有色画線(7)の上に情報画線(9)が重なった領域(9A)は、反射濃度の増加が相対的に低く、非画線部の上に情報画線(9)が重なった領域(9B)は、反射濃度の増加が相対的に高くなるため、情報画線(9)の一部が、有色画線(7)の有無によってサンプリングされ、反射濃度の高低として現れる。有色画線(7)は、特定のピッチ(P1)の周期をもって第一の方向に配置されて成ることから、サンプリングされて現れる画像は、情報画線群(6)をピッチ(P1)の周期で第一の方向に周期的にサンプリングした画像となる。情報画線群(6)は、基画像(10)を第一の方向に特定の縮率で圧縮した情報画線(9)をピッチ(P1)で規則的に配置して構成した画像であるから、特定の幅(有色画線(7)と有色画線(7)間の非画線部の幅がこれにあたる)によってピッチ(P1)でサンプリングした場合には、基画像(10)に近似した画像が出現する。以上の原理によって拡散反射光下で出現する基画像(10)に近似した画像を、本明細書では情報画像A(10A)とする。情報画像A(10A)は、有色画線(7)と有色画線(7)間の非画線部の幅が狭くなればなるほどサンプリングされる領域が限定されるため、基画像(10)により近似した形状として可視化される。
また、拡散反射光下において、出現する情報画像A(10A)のうち、情報画線(9)が有色画線(7)と重なり合った領域(9A)は、第三の色相と第一の色相が重なり合うため、二つの色相を減法混色した合成色となり、出現する情報画像A(10A)のうち、情報画線(9)と有色画線(7)が重ならなかった領域(9B)は、第一の色相となる。動画模様(3)のそれ以外の領域は、第三の色相となる。なお、基材(2)の色が白以外の場合には、それぞれの色相に基材の色相を減法混色した合成色となる。以上のように、拡散反射光下では、着色された二つの画線である、すなわち、有色画線(7)と情報画線(9)が干渉することで、情報画像A(10A)が可視化される。
続いて、正反射光下において、基画像(10)に近似した画像である情報画像B(10B)が視認される原理について説明する。正反射光下において第二の画像(5)の蒲鉾状画線(8)は、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有するために、第二の色相を有する強い正反射光を発する。この強い正反射光によって、第二の画像(5)の下にある第三の画像(4)の中の細かな画線の有無や色相は、判別することができなくなる。このため、拡散反射光下で生じていた有色画線(7)と情報画線(9)が干渉する現象は失われる。正反射光下では、第二の色相を発する蒲鉾状画線(8)と、蒲鉾状画線(8)の画線表面に重ねられた第一の色相の情報画線(9)とが干渉する。この二つの画線が干渉して生じる現象について、図9(b)を用いて以下に説明する。
図9(b)の下の図は、蒲鉾状画線(8)と情報画線(9)が重なった構造に、光が入射した状況を示す図である。正反射光下では、蒲鉾状画線(8)が第二の色相で可視化し、その下の有色画線(7)が不可視となるため、その画線表面に重ねられた第一の色相を有する情報画線(9)が、色相の違いによってコントラストを得て可視化される。蒲鉾状画線(8)は、その名のとおりに蒲鉾状の盛り上がりを有するために、光が入射したとしても蒲鉾状画線(8)の画線表面全体が正反射して第二の色相で可視化するわけではない。可視化するのは、蒲鉾状画線(8)の画線表面のうちの、入射する光と直交した画線表面の一部の領域(8S)のみであり、この入射光と直交した領域(8S)のみが第二の色相で可視される。蒲鉾状画線(8)は、全て同じ形状であることから、この入射光と直交した領域(8S)は、ピッチ(P1)で配置された、それぞれの蒲鉾状画線(8)の同じ位置に発生するため、結果としてピッチ(P1)の間隔で、第二の色相により光を強く正反射する領域が生まれる。また、蒲鉾状画線(8)の画線表面には情報画線(9)が重ねられており、蒲鉾状画線(8)がピッチ(P1)で光を強く正反射すると、蒲鉾状画線(8)の画線表面に重ねられた情報画線(9)の中でも、入射光と直交した領域(8S)の中に存在した情報画線の一部(9D)は、強く可視化される一方で、入射光と直交した領域(8S)以外に存在した情報画線の一部(9C)は、可視化されない現象が生まれ、結果として情報画線(9)がピッチ(P1)でサンプリングされ、第二の色相と第一の色相の違いによって、基画像(10)に近似した画像が可視化される。正反射光下で出現する基画像(10)に近似した画像を、本明細書では情報画像B(10B)とする。情報画像B(10B)は、蒲鉾状画線(8)の入射光と直交した領域(8S)が狭くなればなるほどサンプリングされる領域が限定されるため、基画像(10)により近似した形状として可視化される。
正反射光下においては、情報画像B(10B)は、第一の色相で、動画模様(3)のそれ以外の領域は、第二の色相で可視化される。以上のように、正反射光下では、正反射光下でも視認される二つの画線である、すなわち、蒲鉾状画線(8)と情報画線(9)が干渉することで、情報画像B(10B)が可視化される。
なお、拡散反射光下で出現した情報画像A(10A)と、正反射光下で出現した情報画像B(10B)とは、情報画線群(6)の一部をサンプリングすることによって出現する画像であり、同じく基画像(10)に近似した画像であるが、厳密には、情報画線群(6)をサンプリングする位置が異なっており、また、サンプリングする幅も異なるために、似ていても完全に同じ画像とはならない。
また、出現した情報画像B(10B)が動画模様(3)の中で動いて見える原理について説明する。情報画像B(10B)は、入射する光と直交した画線表面の一部の領域(8S)に重ねられた位置の情報画線(9D)をサンプリングして可視化された画像であることから、光の入射角度が変わったり、入射する光に対する動画模様印刷物(1)の角度が変わることで、入射する光と直交した画線表面の一部の領域(8S)の位置も画線表面上で第一の方向と平行な方向に移動する。仮に、A側の方向に光源が移動したとすると、入射する光と直交した画線表面の一部の領域(8S)もA側に移動し、B側の方向に光源が移動したとすると、入射する光と直交した画線表面の一部の領域(8S)もB側に移動する。蒲鉾状画線(8)の画線表面上に重ねられた情報画線(9)は、第一の方向に基画像(10)を圧縮して形成した画像であるため、それぞれの情報画線(9)の中には、基画像(10)を第一の方向に移動させた画像情報が含まれている。そのため、正反射光下で観察する角度を変えることで、蒲鉾状画線(8)の画線表面の光と直交した領域(8S)の位置が変化し、サンプリングされる情報画線(9)の位置が変化することによって、可視化される情報画像B(10B)の位相が変化し、情報画像B(10B)が動いているように見える。以上の原理によって動画模様(3)の中を情報画像B(10B)が動いているように見える。加えて、これに付随する効果として、右眼で動画模様(3)を見た場合と、左眼で動画模様(3)を見た場合には、観察角度の違いから動画模様(3)中に出現する情報画像B(10B)の第一の方向の位相が異なって観察されるために、両眼視差に起因する立体感が生じる。第一の実施の形態の例では、情報画像B(10B)は、動画模様(3)が実際にある位置よりも手前に存在するように見える。
以上が本発明の動画模様印刷物(1)の効果が生じる原理である。すなわち、拡散反射光下では、第三の画像(4)の有色画線(7)と第一の画像(6)の情報画線(9)とが干渉することで情報画像A(10A)が可視化され、正反射光下では、第二の画像(5)の蒲鉾状画線(8)と、第一の画像(6)の情報画線(9)とが干渉することで情報画像B(10B)が可視化される。また、入射する光の角度が変わることによって蒲鉾状画線(8)の光を強く反射する画線表面が移動し、それに伴って情報画線(9)から情報画像B(10B)の位置が変化した画像がサンプリングされることで情報画像B(10B)が動いて見える。
第一の実施の形態において、正反射光下で出現する情報画像B(10B)が一種類の画像から成る例で説明したが、複数の異なる画像とすることもできる。情報画線群(6)の具体的な構成については、特開2011−126028号公報に記載の様々な構成を用いることができる。
なお、本明細書中でいう正反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と略等しい角度に強い反射光が生じる現象を指し、拡散反射とは、物質にある入射角度で光が入射した場合に、入射した光の角度と異なる角度に弱い反射光が生じる現象を指す。例えば、虹彩色パールインキを例とすると、拡散反射の状態では無色透明に見えるが、正反射した状態では特定の干渉色を発する。正反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と略等しい反射角度に視点をおいて観察する状態を指し、拡散反射光下で観察するとは、印刷物に入射した光の角度と大きく異なる角度で観察する状態を指す。
第一の実施の形態の動画模様印刷物(1)において、第三の画像(4)、第二の画像(5)及び第一の画像(6)のそれぞれの画線の配置ピッチ及び配置方向は、同じである必要がある。すなわち、いずれの画線も全て同じピッチ(P1)で、かつ、全て同じ第一の方向(図中S1方向)に連続して配置される。なお、各画線の幅(W1)、(W2)及び(W3)は同じであっても、異なっていても良いが、いずれもピッチ(P1)の2分の1以上の値である必要がある。特に、有色画線の幅(W1)については、ピッチ(P1)の3分の2以上の値であることが望ましい。これらの値を満たさない場合、拡散反射光下で出現する情報画像A(10A)及び正反射光下で出現する情報画像B(10B)がともに不明瞭な画像となるため、好ましくない。
(第二の実施の形態)
また、本発明の動画模様印刷物の動画模様(3´´)は、第三の画像を用いずに構成することもできる。図10は、第二の画像(5´´)と第一の画像(6´´)の二つの画像のみを用いて動画模様(3´´)を形成した例である。この場合、第二の画像(5´´)の蒲鉾状画線(図示せず)は、透明や半透明ではなく、かつ、明暗フリップフロップ性又はカラーフリップフロップ性を有する必要がある。具体的には、拡散反射光下では第三の色相の実体色を有し、正反射光下では第二の色相を発する特性を有する必要がある。 このように第三の画像を用いない構成で本発明の動画模様(3´´)を形成する場合、第二の画像(5´´)と第一の画像(6´´)の重なり合いの位置関係については、蒲鉾状画線と蒲鉾状画線の間の少なくとも情報画線が配された領域を有する必要があり、かつ、蒲鉾状画線と情報画線が少なくとも一部で重なり合って形成される必要がある。
このような二つの画像で形成する場合でも、拡散反射光下では、第二の画像(5´´)の蒲鉾状画線の実体色と、第一の画像(6´´)の情報画線(図示せず)とが干渉することで、情報画像A(図示せず)が可視化され、正反射光下では第二の画像(5´´)の蒲鉾状画線から生じる反射光と、第一の画像(6´)の情報画線とが干渉することで、情報画像B(図示せず)が可視化される。また、入射する光の角度が変わることによって蒲鉾状画線の光を強く反射する画線表面が移動し、それに伴って情報画線から情報画像Bの位置が変化した画像がサンプリングされることで情報画像Bが動いて見える効果が生じ、加えて、両眼視差に基づく遠近感も同時に生じる。このような構成の動画模様印刷物は、作製が容易であって、コストを低く抑えられるという特徴を有する。
以上のように、本発明の動画模様印刷物において用い得る構成は、これまで説明した実施の形態に記載の例に限定されるものではなく、その他様々な構成を用い得る。
本発明の動画模様印刷物(1)において、第三の色相と第二の色相、第一の色相(二種類以上の情報画線を備える場合には、第四の色相や情報画線に含まれるそれ以外の色相等も第一の色相と同じ条件となる。)については、第二の色相と第一の色相とが補色か、それに近い関係で大きく異なる色相であることが望ましい。第三の色相と第二の色相の関係及び第三の色相と第一の色相の関係については、特に制約はない。ただし、第三の色相と第一の色相が大きく異なる場合、動画効果は低下する傾向にあるため、動画効果を優先する場合には、第三の色相と第一の色相は近い色相とすることが望ましい。
また、動画模様印刷物(1)が、有色画線(7)を備えた第三の画像(4)を含む場合、第二の画像(5)は拡散反射光下では透明又は半透明である必要がある。ここでいう半透明とは、下地の画像が読み取れる程度に透けて見える透過性を有することとする。下地を完全に隠蔽する場合には、本発明の動画模様印刷物(1)は形成し得ない。また、動画模様印刷物(1)が、有色画線(7)を備えた第三の画像(4)を含まず、第二の画像(5)及び第一の画像(6)の二つの画像で形成される場合には、第二の画像(5)は拡散反射光下で第三の色相の実体色を有する必要がある。
第三の画像(4)の有色画線(7)の濃さは、第一の画像(6)の情報画線(9)よりも反射濃度が高くなければならない。より望ましくは、有色画線(7)の反射濃度は、情報画線(9)の反射濃度の少なくとも2倍以上あることが望ましい。有色画線(7)を備えない場合、同様に、第二の画像(5)の拡散反射光下の実体色の反射濃度が情報画線(9)の反射濃度よりも高く、少なくとも2倍以上あることが望ましい。第一の画像(6)が濃い場合には、拡散反射光下で出現する情報画像A(10A)が不明瞭な画像となるとともに、正反射光下で出現する情報画像B(10B)の動画効果も不十分になることから避けなければならない。また、情報画線(9)は、拡散反射光下でも正反射光下でも、少なくとも目視される程度の反射濃度を有する必要がある。
本明細書中でいう「基画像(10)に近似した」画像とは、観察者がその画像を観察した場合に、その画像が表す有意情報が、基画像(10)が表す有意情報と同じであると判断される程度に基画像(10)に似ている画像を指すこととする。例を挙げると、図11に示すように、「桜の花びら」を基画像(10)として作製した情報画線群(6)を観察した場合、「桜の花びら」を表していると判断することは困難である。その一方、情報画像A(10A)及び情報画像B(10B)については、一見して「桜の花びら」を表していると判断することができる。このため、本明細書中において情報画線群(6)は、基画像(10)に近似した画像とはいえず、情報画像A(10A)及び情報画像B(10B)は、基画像(10)に近似した画像であるといえる。
本発明における「色彩」とは、色相、彩度及び明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、本明細書でいう反射濃度とは、印刷の分野で一般に用いられている入射光に対する反射光の比率を指し、反射濃度計を用いて計測する反射濃度のCMYK色成分のうちの最も値の高い色成分の反射濃度を指すこととする。
本発明における第二の画像(5)の蒲鉾状画線(8)には、盛り上がり高さが必須であることから、印刷画線に盛り上がりを形成可能な印刷方式で印刷することが望ましい。すなわち、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成しても良い。容易に視認される程度の視認性を確保するためには、画線の盛り上がり高さは2μm以上必要である。盛り上がり高さの上限は特にないが、堅ろう性や流通適性を考慮すると1mm以下に留めることが望ましい。また、実施の形態のように、印刷で直接画線の盛り上がりを形成するのではなく、エンボス加工や透き入れによって基材上に凹凸構造を形成して、その上に印刷被膜を形成したり、フィルムを貼付して第二の画像(5)としても良い。
また、蒲鉾状画線(8)に高いカラーフリップフロップ性を付与したい場合には、蒲鉾状画線(8)の表面にカラーフリップフロップ性を有する顔料が揃って配向していることが望ましい。このような状態は、一般にリーフィングと呼ばれ、優れたリーフィング効果を得る方法としては、例えば、特開2001−106937号公報に記載の技術のように、顔料に撥水及び撥油性を付与する方法がある。この方法を用いた場合には、蒲鉾状画線(8)が正反射光下で発する第二の色相を有する反射光をより強くすることができ、第二の色相と第一の色相との色差をより拡大させることができるため、正反射光下の情報画像B(10B)の視認性を大きく向上させることができる。特に、第二の画像(5)と第一の画像(6)の二つの画像のみで動画模様印刷物(1)を形成する形態では、蒲鉾状画線(8)は、拡散反射光下でも第三の色相の実体色を有し、かつ正反射光下で第二の色相の反射光を発する必要があるため、より高いカラーフリップフロップ性を有することが望ましい。前述のようなリーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料を単一のインキ中に配合した場合、単一のインキで印刷したにも関わらず、リーフィング効果を有する機能性顔料と着色顔料が蒲鉾状画線(8)の上層と下層に別々の層構造を形成するため、あたかも着色インキ層と機能性顔料層を別々のインキで印刷した場合と同等の、極めて高いカラーフリップフロップ性を発揮するため特に有効である。
本発明における第三の画像(4)及び第一の画像(6)は、特に盛り上がりは必須ではなく、平坦な構造で良い。すなわち、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷及びスクリ−ン印刷等で形成しても良く、インクジェットプリンタ及びレーザープリンタ等で形成しても問題ない。印刷やそれに準じる方法で形成する場合、第三の画像(4)及び第一の画像(6)は、物体色を有する一般的な着色インキ又はメタリックインキ等のあらゆるインキまでが含まれるため、色彩選択の自由度は極めて高い。なお、正反射時に出現する模様となる第一の画像(6)中の各情報画線(9)には、蒲鉾状画線(8)のような明暗フリップフロップ性やカラーフリップフロップ性は必須ではないが、これらの性質を備えていても問題ない。
本発明における画線とは、印刷画像を形成する最小単位である印刷網点を特定の方向に一定の距離連続して配置したものであり、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線又はこれらの形状の組み合せたものをいう。
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作製した動画模様印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
図12に動画模様印刷物(1−1)を示す。図12(a)は、動画模様印刷物(1−1)の正面図であり、図12(b)は、動画模様印刷物(1−1)のAA´ラインにおける断面図である。動画模様印刷物(1−1)は、基材(2−1)の上に、動画模様(3−1)が形成されて成る。基材(2−1)は、一般的な白色コート紙(エスプリコートFM 日本製紙製)を用いた。
本発明の動画模様(3−1)の構成の概要を図13に示す。動画模様(3−1)は、第三の画像(4−1)、第二の画像(5−1)及び第一の画像(6−1)が重ね合わさって成る。第三の画像(4−1)、第二の画像(5−1)及び第一の画像(6−1)の積層順序は、図14に示すように、第三の画像(4−1)の上に第二の画像(5−1)を重ね、第二の画像(5−1)の上に第一の画像(6−1)を重ねた層構造とした。
図15に示す第三の画像(4−1)は、画線幅0.35mmの有色画線(7−1)がピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置された有色画線群を備えて成る。また、図16に示すのは、第二の画像(5−1)であり、画線幅0.3mmの蒲鉾状画線(8−1)がピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置して構成を有する。
図17に示すのは、第一の画像(6−1)であり、第一の画像(6−1)は、画線幅0.38mmの情報画線(9−1)が、ピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置されることで形成された情報画線群を備えて成る。それぞれの情報画線(9−1)は、図7に示した桜の画像を基画像(10)とし、特定の位置において基画像(10)をS1方向に3cmの大きさで取り出し、この取り出した画像をS1方向に0.38mm幅に圧縮して形成したものである。この情報画線の具体的な構造と作製方法については特開2011−126028号公報に基づく。
以上の構成の三つの画像を基材(2−1)上に形成する。まず、基材(2−1)上に第三の画像(4−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。第三の画像(4−1)の形成にあたっては、一般的なプロセス印刷用の赤色のオフセットインキを使用した。続いて、第三の画像(4−1)の上に第二の画像(5−1)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。第二の画像(5−1)は、表1に示すUVスクリーンインキを用いた。本インキは、拡散反射光下では半透明であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。最後に、第二の画像(5−1)の上に第一の画像(6−1)をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。第一の画像(6−1)の形成にあたっては、淡い桃色のオフセットインキを使用した。本実施例において、第三の色相は赤であり、第二の色相は緑であり、第一の色相は淡い桃である。また、蒲鉾状画線(8−1)の盛り上がり高さは約12μmであった。
三つの画像の重なり合いの位置関係については、図9に示した位置関係になるようにそれぞれの画像を重ね合わせた。
以上の構成で形成した実施例1の動画模様印刷物(1−1)の効果について、図18を用いて説明する。本発明の動画模様印刷物(1−1)を拡散反射光下で観察した場合、図18(a)に示すように、情報画像A(10A−1)が、淡い桃色と、淡い桃色と赤色の合成色で観察され、動画模様(3−1)のその他の領域は、赤色で観察された。図18(b)に示すように、本発明の動画模様印刷物(1−1)を正反射光下で観察した場合、情報画像B(10B−1)が淡い桃色で出現し、その他の印刷画像領域(3−1)は、緑色で視認された。続いて、図18(c)に示すように、正反射光下において本発明の動画模様印刷物(1−1)を、図18(b)に示した観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って情報画像B(10B−1)の位置が変化して観察された。また、正反射光下で出現した情報画像B(10B−1)は、動画模様印刷物(1−1)自体よりも近くにあるように観察することができた。
以上のように、拡散反射光下では、情報画像A(10A−1)が視認され、正反射光下で情報画像B(10B−1)が視認され、また、「桜の花びら」の画像は、観察角度を変えることで、遠近感を伴って動いているように観察された。
続いて、本実施例では、第三の画像を省略し、第二の画像(5−2)と第一の画像(6−2)の二つの画像によって動画模様印刷物を形成した例を説明する。
本発明の動画模様(3−2)の構成の概要を図19に示す。動画模様(3−2)は、第二の画像(5−2)及び第一の画像(6−2)が重ね合わさって成る。積層順序は、第二の画像(5−2)の上に第一の画像(6−2)を重ねた層構造となる。
第二の画像(5−2)の画線構成に関しては、実施例1と同じであり、図16に示すように画線幅0.3mmの蒲鉾状画線がピッチ0.4mmでS1方向に連続して配置した構成を有する。また、第一の画像(6−2)の画線構成に関しても実施例1と同じであり、図17に示すように、第一の画像(6−2)は、画線幅0.38mmの情報画線が、ピッチ0.4mmでS1方向に連続して複数配置されることで形成された情報画線群を備えて成る。
以上の構成の二つの画像を基材上に形成する。まず、基材上に第二の画像(5−2)をUV乾燥方式のスクリーン印刷方式で印刷した。第二の画像(5−2)は、表2に示すUVスクリーンインキを用いた。表2の虹彩色パール顔料には、特開2001−106937号公報に記載の撥水及び撥油性を付与した顔料を用いた。本インキは、拡散反射光下では赤色であり、正反射光下では緑色の干渉色を発する。最後に、第二の画像(5−2)の上に第一の画像をUV乾燥方式のオフセット印刷方式で印刷した。第一の画像(6−2)の形成にあたっては、淡い桃色のオフセットインキを使用した。本実施例において、第三の色相は赤であり、第二の色相は緑であり、第一の色相は淡い桃色である。また、蒲鉾状画線の盛り上がり高さは約12μmであった。
三つの画像の重なり合いの位置関係については、図9に示した位置関係になるようにそれぞれの画像を重ね合わせた。
以上の構成で形成した実施例2の動画模様印刷物(1−1)の効果について、図18を用いて説明する。本発明の動画模様印刷物を拡散反射光下で観察した場合、図18(a)に示すように、情報画像A(10A−1)が、淡い桃色と、赤色と淡い桃色の合成色で観察され、動画模様(3−2)のその他の領域は、赤色で観察された。図18(b)に示すように、本発明の動画模様印刷物(1−1)を正反射光下で観察した場合、情報画像B(10B−1)が淡い桃色で出現し、その他の印刷画像領域(3−2)は、緑色で視認された。続いて、図18(c)に示すように、正反射光下において本発明の動画模様印刷物(1−1)を、図18(b)に示した観察角度からわずかに異なる角度で観察した場合、角度の変化に伴って情報画像B(10B−1)の位置が変化して観察された。また、正反射光下で出現した情報画像B(10B−1)は、動画模様印刷物(1−1)自体よりも近くにあるように観察することができた。
以上のように、二層構造で作製した動画模様印刷物であっても、三層構造の動画模様印刷物(1−1)と同様に、拡散反射光下では情報画像A(10A−1)が視認され、正反射光下で情報画像B(10B−1)が視認され、また、「桜の花びら」の画像は、観察角度を変えることで、遠近感を伴って動いているように観察された。