以下に、第1の実施の形態について、図1から図5を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素に、一つ以上の他の表現の例を付すことがある。しかし、これは、他の表現が付されない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されない他の表現がされることを制限するものでもない。
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1を示す断面図である。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。なお、インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、例えば、記録媒体である記録紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う。インクジェットプリンタ1は、筐体10と、給紙カセット11と、排紙トレイ12と、保持ローラ(ドラム)13と、搬送装置14と、保持装置15と、画像形成装置16と、除電剥離装置17と、反転装置18と、クリーニング装置19とを備える。
給紙カセット11は、複数の記録紙Pを収容して、筐体10内に配置される。排紙トレイ12は、筐体10の上部にある。インクジェットプリンタ1によって画像形成がされた記録紙Pは、排紙トレイ12に排出される。
搬送装置14は、記録紙Pが搬送される経路に沿って配置された複数のガイドおよび複数の搬送ローラを有する。当該搬送ローラは、モータに駆動されて回転することで、記録紙Pを給紙カセット11から排紙トレイ12まで搬送する。
保持ローラ13は、導体によって形成された円筒状のフレームと、当該フレームの表面に形成された薄い絶縁層とを有する。前記フレームは接地(グランド接続)される。保持ローラ13は、その表面上に記録紙Pを保持した状態で回転することにより、記録紙Pを搬送する。
保持装置15は、搬送装置14によって給紙カセット11から搬出された記録紙Pを、保持ローラ13の表面(外周面)に吸着させて保持させる。保持装置15は、記録紙Pを保持ローラ13に対して押圧した後、帯電による静電気力で記録紙Pを保持ローラ13に吸着させる。
画像形成装置16は、保持装置15によって保持ローラ13の外面に保持された記録紙Pに、画像を形成する。画像形成装置16は、保持ローラ13の表面に面する複数のインクジェットヘッド21を有する。複数のインクジェットヘッド21は、例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの四色のインクを、それぞれ記録紙Pに吐出することで、画像を形成する。
除電剥離装置17は、画像が形成された記録紙Pを、除電することで、保持ローラ13から剥離する。除電剥離装置17は、電荷を供給して記録紙Pを除電し、記録紙Pと保持ローラ13との間に爪を挿入する。これにより、記録紙Pは保持ローラ13から剥離される。保持ローラ13から剥離された記録紙Pは、搬送装置14によって、排紙トレイ12または反転装置18に搬送される。
クリーニング装置19は、保持ローラ13を清浄する。クリーニング装置19は、保持ローラ13の回転方向において除電剥離装置17よりも下流にある。クリーニング装置19は、回転する保持ローラ13の表面にクリーニング部材19aを当接させ、回転する保持ローラ13の表面を洗浄する。
反転装置18は、保持ローラ13から剥離された記録紙Pの表裏面を反転させ、当該記録紙Pを再び保持ローラ13の表面上に供給する。反転装置18は、例えば記録紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って記録紙Pを搬送することにより、記録紙Pを反転させる。
図2は、画像形成装置16に含まれる一つのインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図3は、インクジェットヘッド21を示す平面図である。図4は、図3のF4−F4線に沿ってインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。なお、図2よび図3は、説明のために、本来は隠れる種々の要素を実線で示す。さらに、図面は概略的に実施形態のインクジェットプリンタ1を示すものであり、図面における各寸法は当該実施形態の説明と異なることがある。
図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド21と、インクタンク23と、制御部24とを備える。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100と圧力室構造体200と、インク供給部材300とを備える。圧力室構造体200は、基材の一例である。インク供給部材300は、第1のインク流路構造体301と、第2のインク流路構造体351とを有する。第1のインク流路構造体301は、第1の部材の一例である。第2のインク流路構造体351は、第2の部材の一例である。圧力室構造体200は、インク供給部材300に例えばエポキシ系接着剤で接着する。
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成される。図面に示すように、本明細書において説明の便宜のため、ノズルプレート100の長手方向をX方向、ノズルプレート100の短手方向をY方向、ノズルプレート100の厚さ方向をZ方向と定義する。X,Y,Z方向は互いに直交する。
ノズルプレート100は、圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスによって形成される。このため、ノズルプレート100は、圧力室構造体200に固着する。
ノズルプレート100に、インク吐出用の複数のノズル(オリフィス、インク吐出孔)101がある。ノズル101は、Z方向に延びる円形の孔である。ノズル101の直径は、例えば20μmである。なお、ノズル101の形状は円形に限らない。
圧力室構造体200は、例えばシリコンウエハによって矩形の板状に形成される。圧力室構造体200は、インクジェットヘッド21の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、シリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、平滑化されたものである。圧力室構造体200の厚さは、例えば525μmである。
なお、圧力室構造体200は、他の材料によって形成されても良い。例えば、炭化シリコン(SiC)ゲルマニウム基板のような他の半導体、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって、圧力室構造体200が形成されても良い。圧力室構造体200の材料は、例えば、ノズルプレート100の膨張係数との差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響を生じないものが選択される。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
図4に示すように、圧力室構造体200は、ノズルプレート100に面する第1端面200aと、第2端面200bと、複数の圧力室201とを有する。第1端面200aは、基体の一方の端部の一例である。第2端面200bは、基体の他方の端部の一例であり、第1端面200aの反対側にある。第1および第2端面200a,200bは、圧力室構造体200のZ方向の端面である。第1端面200aは平坦に形成され、ノズルプレート100に固着する。
圧力室201は、Z方向に延びる円形の孔である。圧力室201は、他の形状に形成されても良い。圧力室201の直径は、例えば200μmである。圧力室201は、圧力室構造体200の第1端面200aから第2端面200bに亘って設けられる。圧力室201は、第1端面200aに開口する。ノズルプレート100は、第1端面200aに開口する圧力室201を塞ぐ。圧力室201は、第2端面200bにも開口する。
複数の圧力室201は、複数のノズル101に対応して配置され、対応するノズル101と同一軸上にある。このため、圧力室201に、対応するノズル101が連通する。
次に、ノズルプレート100について説明する。図3および図4に示すように、ノズルプレート100は、上記の複数のノズル101と、複数のアクチュエータ102と、二つの共有電極端子部105と、共有電極106と、複数の配線電極端子部107と、複数の配線電極108と、振動板109と、保護膜(絶縁膜)113と、撥インク膜116とを有する。共有電極106は、第1の電極の一例である。配線電極108は、第2の電極の一例である。ノズル101は、重ねられた振動板109および保護膜113を貫通する。
振動板109は、圧力室構造体200の第1端面200aの上に、矩形の板状に形成される。振動板109の厚さは、例えば2μmである。振動板109の厚さは、概ね1μmから50μmの範囲にある。
振動板109の材料は、例えば絶縁性材料であるSiO2(酸化ケイ素)である。振動板109の材料はSiO2に限らず、例えば、SiN(窒化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)、またはDLC(Diamond Like Carbon)であっても良い。振動板109の材料の選定は、例えば、耐熱性、絶縁性、熱膨張係数、平滑性、およびインクに対する濡れ性を考慮する。振動板109の材料の絶縁性は、インクジェットヘッド21が導電率の高いインクを使用する場合に、アクチュエータ102が駆動したときのインク変質に影響し得る。
振動板109は、第1の面501と、第2の面502とを有する。第1の面501は、第1端面200aに固着するとともに圧力室201を塞ぐ。第2の面502は、第1の面501の反対側に位置する。アクチュエータ102と、共有電極106と、配線電極108とは、振動板109の第2の面502の上にある。
複数のアクチュエータ102は、複数の圧力室201および複数のノズル101に対応して配置される。アクチュエータ102は、ノズル101からインクを吐出させるための圧力を、圧力室201に発生させる。
図3に示すように、アクチュエータ102は、円環状に形成される。アクチュエータ102は、対応するノズル101と同一軸上にある。ノズル101は、アクチュエータ102の内側に位置する。
より高密度にノズル101を配置するために、ノズル101は千鳥状(互い違い)に配置される。言い換えると、X方向において複数のノズル101が直線状に並ぶ。Y方向において、二つの直線状のノズル101の列がある。X方向において、隣接するノズル101の中心間距離は、例えば340μmである。Y方向において、ノズル101の二つの列の配置間隔は、例えば240μmである。
図4に示すように、アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とをそれぞれ有する。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成された膜である。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、またはAlNのような種々の材料によって形成されても良い。
圧電体膜111は、円環状に形成される。圧電体膜111は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある。圧電体膜111は、ノズル101を囲む。圧電体膜111の外径は、例えば144μmである。圧電体膜111の内径は、例えば30μmである。
圧電体膜111の厚さは、例えば2μmである。圧電体膜111の厚さは、圧電特性と絶縁破壊電圧などによって決定される。圧電体膜111の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲である。
圧電体膜111は、配線電極108の電極部分108aと、共有電極106の電極部分106aとの間にある。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極108の電極部分108aと、共有電極106の電極部分106aとが重なる。
成膜された圧電体膜111は、その厚み方向(Z方向)に分極を発生させる。配線電極108および共有電極106の電極部分106a,108aは、当該分極の方向と同方向(Z方向)の電界を圧電体膜111に印加する。このとき、アクチュエータ102は電界方向と直交する方向(X,Y方向)に伸縮する。アクチュエータ102の伸縮により、振動板109が、ノズルプレート100の厚み方向(Z方向)に変形する。これにより、圧力室201内のインクに圧力変化が生じる。
アクチュエータ102に含まれる圧電体膜111の動作についてさらに説明する。圧電体膜111は膜厚に対して直交する方向(面内方向、X,Y方向)に収縮または伸張する。
圧電体膜111が収縮すると、圧電体膜111が結合された振動板109は、圧力室201の容積を増大させる方向へ湾曲する。この圧力室201を拡張する振動板109の湾曲は、圧力室201内に貯留されたインクに負圧力を発生させる。発生した負圧により、インクがインク供給部材300から圧力室201内に供給される。
圧電体膜111が伸張すると、圧電体膜111に結合された振動板109は、圧力室201の容積を減少させる方向へ湾曲する。この振動板109の圧力室201方向への湾曲は、圧力室201内に貯留されたインクに正圧力を発生させる。発生した正圧により、ノズル101からインク滴が吐出する。インクの吐出方向は、Z方向である。圧力室201の容積が増大または縮小するとき、ノズル101近傍の振動板109の一部は、圧電体膜111の変形によって、インクが吐出する方向に変形する。言い換えれば、インクを吐出させるアクチュエータ102はベンディングモードで動作する。
配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111よりも大きい円環状に形成され、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド21の外に向く側)にある。
電極部分108aの外径は、例えば148μmである。電極部分108aの内径は、例えば26μmである。このため、電極部分108aの内周部分は、ノズル101から離れる。
共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111よりも小さい円環状に形成され、振動板109の第2の面502にある。電極部分106aの外径は、例えば140μmである。電極部分106aの内径は、例えば34μmである。
絶縁膜112は、圧電体膜111が形成された領域の外側において、共有電極106と配線電極108との間に介在する。このため、共有電極106と配線電極108との間は、圧電体膜111または絶縁膜112によって隔てられる。絶縁膜112は、例えばSiO2によって形成される。絶縁膜112の材料は、他の絶縁性材料であっても良い。絶縁膜112の厚みは、例えば0.2μmである。
図2に示すように、制御部24は、例えばフレキシブルケーブルを介して、インクジェットヘッド21に接続される。制御部24は、例えば、インクジェットヘッド21を制御するICである。
配線電極端子部107は、配線電極108の端部にある。配線電極端子部107は、例えば上記フレキシブルケーブルを介して制御部24に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送する。
共有電極端子部105は、振動板109の第2の面502にある。共有電極端子部105は、共有電極106の端部にあり、例えばGND(グランド接地=0V)に接続される。
配線電極108は、対応するアクチュエータ102の圧電体膜111に個別に繋がり、アクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させる個別電極である。複数の配線電極108は、上記の電極部分108aと、配線部と、上記の配線電極端子部107とをそれぞれ有する。
配線電極108の配線部は、電極部分108aから配線電極端子部107に向かってY方向に延びる。配線電極108の電極部分108aは、ノズル101と同一軸上に位置する。電極部分108aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れる。
複数の配線電極108は、Pt(白金)の薄膜によって形成される。なお、配線電極108は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タンタル)、Mo(モリブデン)、またはAu(金)のような他の材料によって形成されても良い。配線電極108の厚さは、例えば0.5μmである。複数の配線電極108の膜厚は、概ね0.01μmから1μmである。
共有電極106は、複数の圧電体膜111に繋がる。共有電極106は、上記の複数の電極部分106aと、複数の配線部と、上記の二つの共有電極端子部105とを有する。
共有電極106の配線部は、電極部分106aから配線電極108の配線部の反対側に延びる。共有電極106の配線部は、図3に示すノズルプレート100のY方向端部で合体し、ノズルプレート100のX方向両端部に沿って延びる。電極部分106aは、ノズル101と同一軸上にある。共有電極端子部105は、ノズルプレート100のX方向両端にそれぞれある。
共有電極106は、Pt(白金)/Ti(チタン)薄膜によって形成される。共有電極106は、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、またはAuのような他の材料によって形成されても良い。共有電極106の厚さは、例えば0.5μmである。共有電極106の厚さは、概ね0.01μmから1μmである。
配線電極108および共有電極106のそれぞれの配線部の幅は、例えば80μmである。幾つかの配線電極108の配線部は、並んだ二つのアクチュエータ102の間を通る。
図4に示すように、保護膜113は、振動板109の第2の面502上にある。保護膜113は、例えば、絶縁性を有するポリイミドによって形成される。保護膜113はこれに限らず、樹脂、セラミックス、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材である。利用されるセラミックスは、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムなどの窒化物または酸化物である。利用される金属は、例えば、アルミ、SUS、またはチタンである。
保護膜113の材料は、振動板109の材料とヤング率が大きく異なる。材料のヤング率と板厚とは、板状の部材の変形量に影響する。一定の力がかかった場合、ヤング率が小さい程、そして板厚が薄い程、変形量が大きい。振動板109を形成するSiO2のヤング率は80.6GPa、保護膜113を形成するポリイミドのヤング率は4GPaである。振動板109と保護膜113とのヤング率の差は76.6GPaである。
保護膜113の厚さは、例えば4μmである。保護膜113の厚さは、概ね1μmから50μmの範囲にある。保護膜113は、振動板109の第2の面502と、共有電極106と、配線電極108と、圧電体膜111とを覆う。
撥インク膜116は、保護膜113の表面113aを覆う。撥インク膜116は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料によって形成される。なお、撥インク膜116は、フッ素含有系有機材料のような他の材料によって形成されても良い。撥インク膜116の厚さは、例えば1μmである。撥インク膜116は、共有電極端子部105および配線電極端子部107の周辺の保護膜113を覆わずに露出させる。
図2に示すように、第1のインク流路構造体301は、第1の固定面302と、第1のインク流路303と、複数の筒部304と、複数のスペーサ305と、を有する。第1の固定面302は、固定面の一例である。図4に示すように、第1のインク流路構造体301は、第2の固定面306をさらに有する。第2の固定面306は、第1の固定面302の反対側にある。
第1のインク流路構造体301は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。第1の固定面302は、圧力室構造体200の第2端面200bに、例えばエポキシ系接着剤で接着する。
第1のインク流路303は、第1の固定面302に設けられた溝である。第1のインク流路303は、X方向に延びる。第1のインク流路303は、全ての圧力室201を囲む。第1のインク流路303の深さは、例えば1mmである。
複数の筒部304は、第1のインク流路303の底面303aから突出する。第1のインク流路303の底面303aは、圧力室構造体200の第2端面200bに面する。
筒部304は、円筒形状に形成される。なお、筒部304はこれに限らず、例えば断面が多角形の筒状に形成されても良い。筒部304の内径は、例えば120μmである。筒部304の外形は、例えば160μmである。
複数の筒部304は、複数の圧力室201に対応して配置される。筒部304は、対応する圧力室201と同一軸上にある。図4に示すように、筒部304の一部は、対応する圧力室201の中にある。筒部304は、圧力室201の中央にある。
第2の固定面306から筒部304の先端304aまでの距離は、例えば4mmである。第1の固定面302から筒部304の先端304aまでの距離は、例えば475μmである。
筒部304の先端304aは、振動板109の第1の面501に面する。筒部304の先端304aから振動板109の第1の面501までの距離は、例えば50μmである。筒部304の先端304aから振動板109の第1の面501までの距離は、おおよそ50μmから100μmの範囲にある。
筒部304の内周面は、第1の接続口307を形成する。言い換えると、第1の接続口307は、筒部304の内側にある。第1の接続口307は、筒部304の先端304aから、第2の固定面306に亘って設けられる。第1の接続口307は、圧力室201に開口する。
図2に示すように、複数のスペーサ305は、二つの筒部304の列の間で、一列に並んで配置される。スペーサ305は、第1のインク流路303の底面303aから突出する。第1のインク流路303の底面303aからスペーサ305の先端までの距離は、例えば1mmであり、第1のインク流路303の深さと等しい。スペーサ305の先端は、圧力室構造体200の第2端面200bに当接する。
第1のインク流路303の一方の端部に、接続孔308がある。接続孔308は、第1のインク流路303の他の場所にあっても良い。接続孔308は、第1のインク流路303の底面303aから、第2の固定面306に亘って設けられる。
第2のインク流路構造体351は、第3の固定面352と、インク供給口353と、インク回収口354と、一対の第2のインク流路355とを有する。第2のインク流路構造体351は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。第3の固定面352は、第1のインク流路構造体301の第2の固定面306に、例えばエポキシ系接着剤で接着する。
第1および第2のインク流路構造体301,351の材料は、ステンレスに限定されない。第1および第2のインク流路構造体301,351はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
インク供給口353は、X方向における第2のインク流路構造体351の一方の端部にある。インク供給口353は、第2のインク流路構造体351の厚さ方向(Z方向)に延びる円形の孔である。インク供給口353は、第3の固定面352に開口する。第1のインク流路構造体301が、第3の固定面352に開口したインク供給口353を塞ぐ。
インク供給口353は、例えばチューブのような経路を通じて、インクタンク23に接続される。インクタンク23に収容されたインクは、例えば圧力制御によって、インク供給口353に供給される。
インク回収口354は、X方向における第2のインク流路構造体351の他方の端部にある。インク供給口353およびインク回収口354の配置は、第2のインク流路構造体351の両端に限らない。インク供給口353およびインク回収口354は、例えば、第2のインク流路構造体351の一方の端部に揃って位置したり、第2のインク流路構造体351の中央部に揃って位置したりしても良い。
インク回収口354は、第2のインク流路構造体351の厚さ方向(Z方向)に延びる円形の孔である。インク回収口354は、第3の固定面352に開口する。インク回収口354の直径は、インク供給口353の直径と等しくても良いし、異なっても良い。
インク回収口354は、第1のインク流路構造体301の接続孔308に対応して配置される。インク回収口354は、接続孔308に連通する。インク回収口354は、接続孔308を通じて第1のインク流路303に接続される。
インク回収口354は、例えばチューブのような経路を通じて、インクタンク23に接続される。第1のインク流路303に流入するインクは、例えば圧力制御によって、インク回収口354を通ってインクタンク23に回収される。
一対の第2のインク流路355は、第3の固定面352に設けられた溝である。一対の第2のインク流路355は、X方向に平行に延びている。第2のインク流路355の深さは、例えば1mmである。
第2のインク流路355の一方の端部は、インク供給口353に接続される。このため、インクタンク23からインク供給口353に供給されたインクは、一対の第2のインク流路355に流入する。
図5は、インク供給部材300を示す平面図である。図5において、複数の圧力室201が二点鎖線で示される。図5に示すように、一対の第2のインク流路355は、二列に並ぶ複数の筒部304に対応して配置される。一対の第2のインク流路355は、複数の筒部304の第1の接続口307に接続される。図4に示すように、第1の接続口307は、圧力室201を第2のインク流路355に接続する。
図4および図5に示すように、インク供給部材300は、複数の第2の接続口309を有する。第2の接続口309は、筒部304の外周面と、圧力室201の内周面とによって形成される。言い換えると、第2の接続口309は、筒部304の外周面と、圧力室201の内周面との間にある。
図5に示すように、第2の接続口309は、第1の接続口307を囲む。図4に示すように、第2の接続口309は、圧力室201に開口する。第2の接続口309は、圧力室201の外周部分にある。第2の接続口309は、第1のインク流路303に接続される。第2の接続口309は、圧力室201を第1のインク流路303に接続する。
第1の接続口307の面積は、第2の接続口309の面積と等しい。なお、第1および第2の接続口307,309の面積は、これに限らない。第1および第2の接続口307,309の各面積は、筒部304が圧力室201の中心軸からずれたとしても、変わらず一定である。
上述したように、筒部304の先端304aから、振動板109の第1の面501までの距離は50μmである。圧力室201の直径は、200μmである。圧力室201の直径は、圧力室201の幅である。筒部304の先端304aから振動板109の第1の面501までの距離は、圧力室201の幅よりも短い。なお、筒部304の先端304aから、振動板109の第1の面501までの距離が、圧力室201の平面方向(X,Y方向)の長さ以上であっても良い。
本実施形態において、圧力室201の幅は、XY平面における圧力室201の最も短い長さと定義される。例えば、圧力室201が長方形の孔である場合、当該長方形の短辺の長さが圧力室201の幅である。
インクタンク23のインクは、インク供給口353を通り、一対の第2のインク流路355に流入する。図4の矢印で示すように、一対の第2のインク流路355に供給されたインクは、第1の接続口307を通って、各圧力室201に流入する。言い換えると、第1の接続口307は、圧力室201にインクを供給する。
圧力室201にインクが充填され、ノズル101にインクのメニスカスが形成される。圧力室201のインクは、第2の接続口309から、第1のインク流路303に流出する。言い換えると、第2の接続口309は、圧力室201のインクを排出する。第1のインク流路303のインクは、接続孔308およびインク回収口354を通って、インクタンク23に回収される。
上記のように、インクジェットプリンタ1において、インクは、インクジェットヘッド21とインクタンク23との間で循環する。圧力室201において、インクは第1の接続口307から第2の接続口309へ常に流れている。このため、圧力室201のインクは絶えず入れ替えられる。なお、インクジェットプリンタ1は、圧力室201におけるインクの流れが層流となるように、インクの流速を制御する。
インク不吐出時(待機時)において、インクジェットプリンタ1は、ノズル101内にインクのメニスカスを保つように、循環するインクの圧力を制御する。説明のため、圧力室201内のノズル101近傍におけるインクの圧力をP1、第2のインク流路355におけるインクの圧力をP2、第1のインク流路303におけるインクの圧力をP3とする。インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド21におけるインクの圧力を、P2>P1>P3となるように制御する。また、当該制御は、圧力P1を、大気圧に対してやや負圧にする。
第1および第2の接続口307,309においてインクの流れに抵抗が生じるため、圧力室201と、第1のインク流路303と、第2のインク流路355とで圧力差が生じる。このため、インクジェットプリンタ1は、圧力室201内のインク圧力を、第1のインク流路303内より高く、第2のインク流路355内より低くする。
上記インクの圧力制御は、例えば、インクジェットヘッド21とインクタンク23との間のインク経路に圧力調整用のタンクを設け、ポンプや弁によって当該タンクの圧力を調整することで行われる。なお、インクの圧力制御の方法はこれに限らない。
上述のインクジェットヘッド21は、次のように印字(画像形成)を行う。図2に示すインクタンク23から、インクが第2のインク流路構造体351のインク供給口353に供給される。インクは、第2のインク流路355および第1の接続口307を通って、圧力室201に供給される。圧力室201に供給されたインクは、対応するノズル101内に供給され、ノズル101にメニスカスを形成する。インクジェットプリンタ1は、インク供給口353から供給されるインクを適切な負圧にし、ノズル101内のインクを漏れないようにノズル101内に保つ。
例えばユーザの操作により、制御部24に印字指示信号が入力される。印字指示を受けた制御部24は、配線電極108を介して、アクチュエータ102に信号を出力する。言い換えると、制御部24は、配線電極108の電極部分108aに駆動電圧を印加する。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向(Z方向)の電界が印加され、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向(X,Y方向)に伸縮する。
アクチュエータ102は、振動板109と保護膜113に挟まれる。このため、アクチュエータ102がX,Y方向に伸びた場合、振動板109に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。反対に、保護膜113に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。
アクチュエータ102がX,Y方向に縮んだ場合、振動板109に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。また、保護膜113に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。
保護膜113を形成するポリイミド膜は、振動板109を形成するSiO2膜よりヤング率が小さい。このため、同じ力に対して保護膜113の方が変形量は大きい。アクチュエータ102がX,Y方向に伸びた場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凸形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が縮小する(保護膜113が圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きいため)。
反対に、アクチュエータ102がX,Y方向に縮んだ場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凹形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が拡大する(保護膜113が圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きいため)。
振動板109が変形して圧力室201の容積が増減すると、圧力室201のインクに圧力変化が生じる。当該圧力変化によって、ノズル101内のインクが吐出する。
振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きい程、一定の電圧をアクチュエータ102に印加した際の振動板109の変形量が大きくなる。そのため、振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きいほど、より低い電圧でのインク吐出が可能となる。
振動板109と保護膜113との膜厚およびヤング率が同じ場合、アクチュエータ102に電圧印加しても、振動板109と保護膜113は正反対の方向に同じ量変形する力がかかる。このため、振動板109は変形しない。
なお、上述したように、材料のヤング率だけでなく、板厚も板材の変形量に影響する。そのため、振動板109と保護膜113の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの膜厚も考慮される。振動板109と保護膜113の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあれば、駆動させる電圧は高くなるが、インク吐出は可能である。
次に、インクジェットヘッド21の製造方法の一例について説明する。まず、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)の第1端面200aの全域に、振動板109を形成するSiO2膜を成膜する。当該SiO2膜は、CVD法によって成膜される。
次に、振動板109の第2の面502に、共有電極106を形成する金属膜を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiとPtとを順番に成膜する。Tiの膜厚は例えば0.45μm、Pt膜厚は例えば0.05μmである。なお、金属膜は、蒸着または鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
上記金属膜を成膜した後に、パターニングによって、共有電極106を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
共有電極106の電極部分106aの中心にノズル101が形成されるため、電極部分106aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。共有電極106をパターニングすることで、共有電極106の電極部分106a、配線部、および共有電極端子部105以外では、振動板109が露出する。
次に、共有電極106上に圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で成膜される。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は良好な圧電性能を得る。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、または水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。圧電体膜111を、エッチングによってパターニングする。
圧電体膜111の中心にノズル101が形成されるため、圧電体膜111と同心円の圧電体膜がない部分が形成される。圧電体膜111のない部分では、振動板109が露出する。圧電体膜111は、共有電極106の電極部分106aを覆う。
次に、圧電体膜111の一部と共有電極106の一部との上に、絶縁膜112を形成する。絶縁膜112は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜112は、成膜後にパターニングされる。パターニング加工バラツキによる不具合を抑制するため、絶縁膜112は圧電体膜111を一部のみ覆う。絶縁膜112は、圧電体膜111の変形量を阻害しないように圧電体膜111を覆う。
次に、振動板109、圧電体膜111、および絶縁膜112の上に、配線電極108を形成する金属膜を成膜する。当該金属膜は、スパッタリング法によって成膜される。金属膜は、真空蒸着または鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
上記金属膜をパターニングすることで、配線電極108を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
配線電極108の電極部分108aの中心にノズル101が形成されるため、配線電極108の電極部分108aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111を覆う。
次に、振動板109のSiO2膜をパターニングし、ノズル101の一部を形成する。パターニングは、SiO2膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のSiO2膜をエッチングによって除去することで行う。
エッチングマスクは、感光性レジストを振動板109の上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像し、ポストベークを行って形成される。
次に、振動板109の第2の面502の上に、保護膜113がスピンコーティング法によって成膜される。保護膜113は、例えば、CVD、真空蒸着、または鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
次に、保護膜113をパターニングすることによって、ノズル101を形成する。振動板109に設けられた複数のノズル101の一部に連通する複数の孔を保護膜113に設けることで、ノズル101が形成される。さらに、パターニングによって、共有電極端子部105と、配線電極端子部107とを露出させる。
例えば、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜する。ベークによって熱重合と溶剤除去を行って当該溶液を焼成成形する。その後、ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のポリイミド膜をエッチングによって除去することで、パターニングがなされる。エッチングマスクは、感光性レジストをポリイミド膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像し、ポストベークを行って形成される。
次に、保護膜113の上にカバーテープを貼り付ける。カバーテープは、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。圧力室201は、パターニングによって形成される。
シリコンウエハである圧力室構造体200上にエッチングマスクを作り、シリコン基板専用のいわゆる垂直深堀ドライエッチングを用いて、エッチングマスク以外のシリコンウエハを除去する。これにより、圧力室201が形成される。
上記エッチングに用いられるSF6ガスは、振動板109のSiO2膜や保護膜113のポリイミド膜に対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板109で止まる。
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、またはプラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法であっても良い。絶縁膜、電極膜、圧電体膜などの材料によって、エッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
次に、第1のインク流路構造体301に第2のインク流路構造体351を接着し、インク供給部材300を形成する。圧力室構造体200に、インク供給部材300を接着する。このとき、筒部304が対応する圧力室201に挿入される。圧力室構造体200にインク供給部材300を貼り付けることで、複数の第2の接続口309が形成される。
次に、保護膜113にカバーテープを貼り付け、共有電極端子部105と配線電極端子部107とを覆う。カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜113から容易に脱着可能である。カバーテープは、共有電極端子部105および配線電極端子部107に、ゴミや、後述する撥インク膜116が付着することを防止する。
次に、保護膜113上に撥インク膜116を形成する。撥インク膜116は、保護膜113上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、インク供給口353およびインク回収口354より陽圧空気を注入する。これにより、第1および第2のインク流路303,355と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101内壁に撥インク膜材料が付着することが抑制される。撥インク膜116が形成された後、カバーテープを保護膜113から剥がす。
上記工程によって、インクジェットヘッド21が製造される。インクジェットヘッド21は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。配線電極端子部107に、例えばフレキシブルケーブルを介して制御部24が接続される。さらに、インク供給口353およびインク回収口354が、インクタンク23に接続される。
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、第1の接続口307から圧力室201にインクが供給され、第2の接続口309から圧力室201のインクが排出される。圧力室201のインクは、常に入れ替えられる。これにより、圧力室201に気泡が発生したとしても、気泡がインクとともに第2の接続口309から排出されるため、気泡によるインクの不吐出を抑制できる。
さらに、インクが圧力室201内を留まらずに流れることで、ノズル101近傍のインクも絶えず入れ替わる。これにより、ノズル101内のインクの溶媒が乾燥することで顔料が凝集し、顔料の凝集物がノズル101を閉塞する、ということを抑制できる。
このように、気泡および凝集した顔料によるインクの不吐出が抑制されるため、圧力室201内のインクを入れ替えるようなメンテナンスが不要となる。したがって、インクジェットプリンタ1の運転効率が向上し、メンテナンス費用が低減できる。
また、圧力室201に新しいインクが常に供給されることにより、圧力室201内のインク温度を一定に保つことができる。すなわち、インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100の変形によって発生した熱によるインクの温度上昇を抑制する。これにより、温度変化によるインクの特性変化を抑制できる。
第2の接続口309は、第1の接続口307を囲む。圧力室201に供給されたインクは、第1の接続口307から放射状に広がって第2の接続口309に流れる。このため、圧力室201内のインクの流れの速度分布(ばらつき)が小さくなる。したがって、圧力室201内のどこに気泡が発生しても、圧力室201における気泡の滞留時間を短縮でき、気泡を早く第2のインク流路355へ排出できる。
上述したように、圧力室201のノズル101近傍におけるインクの圧力P1は、大気圧に対してやや負圧で、且つP2>P1>P3となるように制御される。第1および第2の接続口307,309の各面積は互いに等しい。このため、圧力室201におけるインクの圧力制御が容易になり、インクの不吐出を抑制できる。
詳しく説明すると、例えば、第1の接続口307の面積が第2の接続口309の面積よりも小さい場合、圧力室201内のインクは第1のインク流路303へ引き込まれ易い。これにより、インクのメニスカスの位置が、ノズル101から圧力室201内まで後退する。
反対に、第2の接続口309の面積が第1の接続口307の面積よりも小さい場合、圧力室201内のインク圧力が高くなる。これにより、インクのメニスカスの位置が、ノズル101の外まで前進する。
上記のように第1および第2の接続口307,309の各面積が異なる場合、圧電体膜111により生じる圧力室201内の圧力変化が小さくなる。このため、ノズル101からインクを吐出させる圧力変化が生じず、インクの不吐出が生じるおそれがある。しかし、第1の実施形態のように、第1および第2の接続口307,309の各面積が互いに等しいならば、インクの不吐出を抑制できる。
筒部304の内周面が第1の接続口307を形成し、筒部304の外周面と圧力室201の内周面とが第2の接続口309を形成する。このため、圧力室構造体200と第1のインク流路構造体301との貼り合わせの位置がずれたとしても、第1の接続口307の面積と第2の接続口309の面積とが等しいままである。したがって、圧力室構造体200と第1のインク流路構造体301との貼り合わせの位置の公差を大きく取ることができる。さらに、インクジェットヘッド21の歩留まりが向上する。
筒部304の先端304aから振動板109の第1の面501までの距離が、圧力室201の幅よりも短い。このため、厚さ方向(Z方向)における圧力室201内でのインク流れの速度分布(ばらつき)が抑制される。これにより、圧力室201内のどこに気泡が発生しても、圧力室201における気泡の滞留時間を短縮でき、気泡を早く第2のインク流路355へ排出できる。したがって、圧力室201中に気泡が留まることを抑制でき、インクの不吐出を抑制できる。
筒部304が圧力室201の中にある。このため、圧力室構造体200の厚さが大きかったとしても、厚さ方向(Z方向)における圧力室201内でのインク流れの速度分布(ばらつき)が抑制される。
詳しく述べると、本実施形態において、圧力室201のZ方向の長さ(525μm)は、圧力室201の直径(200μm)よりも長い。しかし、圧力室201の中に筒部304があることで、筒部304の先端304aと振動板109の第1の面501との間の距離が短くなる(50μm)。このため、厚さ方向(Z方向)における圧力室201内でのインク流れの速度のばらつきが小さくなる。したがって、圧力室構造体200を薄くする必要がなくなり、インクジェットヘッド21を容易に製造できる。
第1のインク流路303にあるスペーサ305は、圧力室構造体200の第2端面200bに当接する。これにより、第1のインク流路構造体301が撓んで第1のインク流路303の面積が変化することを抑制できる。さらに、第1のインク流路構造体301が撓んで筒部304の先端304aと振動板109の第1の面501との間の距離が変化することを抑制できる。
インク供給部材300は、第1のインク流路303および筒部304を有する第1のインク流路構造体301と、第2のインク流路355を有する第2のインク流路構造体351とによって形成される。このように、簡単な形状の二つの部材によってインク供給部材300を作ることができる。したがって、インクジェットヘッド21の部品点数の増加を抑制し、インクジェットヘッド21を容易に製造することができる。
次に、図6を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する複数の実施形態において、第1の実施形態のインクジェットプリンタ1と同様の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
図6は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図6に示すように、第2の実施の形態において、保護膜113のみがノズル101を有し、振動板109はノズル101を有しない。振動板109は、複数のノズル外開口601を有する。
ノズル外開口601の直径は、例えば26μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。ノズル外開口601は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある円形の孔である。ノズル外開口601は、圧力室201に連通する。
保護膜113は、ノズル外開口601の内周面を覆う。ノズル外開口601の内周面を覆う保護膜113の内周面が、ノズル101の一部を形成する。ノズル101は、ノズル外開口601の内側にある。
第2の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は保護膜113に形成され、振動板109に形成されない。これにより、振動板109に設けられたノズル101の一部と、保護膜113に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状が不均一になることを抑制でき、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
次に、図7を参照して、第3の実施の形態について説明する。図7は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図7に示すように、第3の実施の形態において、振動板109のみがノズル101を有し、保護膜113はノズル101を有しない。保護膜113は、複数の開口部605を有する。
開口部605の直径は、例えば30μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。開口部605は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある円形の孔である。開口部605は、ノズル101に連通する。
撥インク膜116が、開口部605の内周面を覆う。開口部605の内周面を覆う撥インク膜116の内周面の直径は、例えば26μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。撥インク膜116は、ノズル101を囲む振動板109の第2の面502の一部を覆わずに露出させる。
第3の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は振動板109に形成され、保護膜113に形成されない。これにより、振動板109に設けられたノズル101の一部と、保護膜113に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状が不均一になることを抑制でき、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
次に、図8および図9を参照して、第4の実施の形態について説明する。図8は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図9は、第4の実施形態のインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図8に示すように、第4の実施形態のノズル101は、第1の実施形態と異なり、アクチュエータ102の外に配置される。
圧力室201の円形断面の中心から離れた位置に、対応するノズル101の中心がある。圧力室201は、対応するアクチュエータ102およびノズル101を囲む。このため、ノズル101は、圧力室201に連通する。
アクチュエータ102は、円形状に形成され、対応するノズル101とは異なる位置にある。アクチュエータ102の中心は圧力室201の円形断面の中心から離れた位置にある。なお、アクチュエータ102は、圧力室201と同一軸上にあっても良い。
第4の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101がアクチュエータ102と異なる位置にある。このため、アクチュエータ102の共有電極106、圧電体膜111、および配線電極108の中心に、ノズル101を形成するための円形パターニングが不要になる。これにより、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
次に、図10および図11を参照して、第5の実施の形態について説明する。図10は、第5の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図11は、第5の実施形態のインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。
図10に示すように、インク供給部材300は、第3のインク流路構造体390をさらに有する。第3のインク流路構造体390は、矩形の板状に形成され、圧力室構造体200と第1のインク流路構造体301との間に介在する。
第3のインク流路構造体390は、例えばステンレスによって形成される。図11に示すように、第3のインク流路構造体390は、圧力室構造体200の第2端面200bと、第1のインク流路構造体301の第1の固定面302とに、例えばエポキシ系接着剤で接着する。第3のインク流路構造体390は、第1のインク流路303を覆う。スペーサ305は、第3のインク流路構造体390に当接する。
第3のインク流路構造体390の材料は、ステンレスに限定されない。第3のインク流路構造体390はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
第3のインク流路構造体390は、複数の外筒部391を有する。外筒部391は、円筒形状に形成される。複数の外筒部391は、複数の圧力室201と複数の筒部304とに対応して配置される。外筒部391は、圧力室構造体200に向かって突出する。
外筒部391の外径は、例えば200μmであり、圧力室201の内径と等しい。外筒部391は、圧力室201の中にある。外筒部391の外周面は、圧力室201の内周面と密接する。
外筒部391の内径は、筒部304の外径よりも大きい。筒部304の一部は、外筒部391の中にある。外筒部391の内周面と、筒部304の外周面とが、第2の接続口309を形成する。
外筒部391の先端391aと、振動板109の第1の面501との間の距離は、例えば50μmである。外筒部391の先端391aは、筒部304の先端304aと同一平面上にある。
第5の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、圧力室201のインクが第2の接続口309から排出され易くなる。このため、圧力室201内のどこに気泡が発生しても、圧力室201における気泡の滞留時間を短縮でき、気泡を早く第2のインク流路355へ排出できる。したがって、圧力室201中に気泡が留まることを抑制でき、インクの不吐出を抑制できる。
以上述べた少なくとも一つのインクジェットヘッドによれば、第1の接続口を第2の接続口が囲み、第1および第2の接続口のいずれか一方から圧力室にインクが供給され、いずれか他方から圧力室のインクが排出される。これにより、インクの不吐出を抑制できる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上記実施形態では、第1の接続口307から圧力室201にインクが供給され、第2の接続口309から圧力室201のインクが排出される。しかし、第1の接続口307から圧力室201のインクが排出され、第2の接続口309から圧力室201にインクが供給されても良い。この場合、インク供給口353が第1のインク流路303に接続され、インク回収口354が第2のインク流路355に接続される。
さらに、上記の実施形態では、圧力室構造体200の上に振動板109が作成される。しかし、振動板109を圧力室構造体200の上に作成する代わりに、圧力室構造体200の一部を振動板として利用しても良い。例えば、圧力室構造体200の第1端面200aにアクチュエータ102を形成し、第2端面200bから圧力室201に相当する位置に圧力室構造体200を貫通しない穴を形成する。圧力室構造体200の第1端面200a側には薄い層が残り、この部分が振動板として動作する。
また、インクジェットヘッド21は、各圧力室201を塞ぐ複数の振動板109を有しても良い。当該複数の振動板109は、圧力室構造体200の第1端面200aに、例えば接着剤によって固定されても良い。