JP2014176308A - マイクロアレイ、その製造方法、及びその用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のマイクロアレイは、複数本の中空糸から構成される中空糸束の該中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質とが充填されてなるものである。
【選択図】なし
Description
しかしながら、従来の細胞マイクロアレイは、スポット方式やジェットプリンティング方式(非特許文献2〜4)によって製造されていたため、細胞の接着領域及び非接着領域のマイクロパターンの作製が非常に煩雑であったり、該パターンの作製自体が困難であるという課題があった。
また、細胞の接着領域のマイクロパターンを用いた評価においては、薬剤の徐放制御が必要となるが、スポット方式やジェットプリンティング方式による作製方法では、薬剤徐放制御のための生分解性高分子を使用する際に、該高分子の溶剤となる溶媒が必要となる。そのため、作製された細胞マイクロアレイにおいては、アレイ上に残存した上記溶媒が、細胞に不必要な影響を与えてしまい、薬剤に対する評価を正確に行うことができないため、薬物徐放制御の材料(生分解性高分子等)を使用することが実質的に不可能であった。
(1)複数本の中空糸から構成される中空糸束の該中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質とが充填されてなる、マイクロアレイ。
ここで、上記中空糸束は、それを固定化し得る物質により固定化されていてもよい。
上記(1)のマイクロアレイは、例えば、細胞への化合物徐放用マイクロアレイとして用いることができ、より具体的には、細胞マイクロアレイとして用いることもできる。
上記(1)のマイクロアレイにおいて、中空糸としては、例えば、前記マイクロアレイに接触させる細胞との親和性が低いものが挙げられ、具体的には、例えば、テフロン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリプロピレン樹脂及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなるものが挙げられる。
上記(1)のマイクロアレイにおいて、細胞に作用させる化合物としては、例えば、薬剤が挙げられ、詳しくは、医療、創薬、診断への応用が可能な薬剤が挙げられる。
上記(1)のマイクロアレイにおいて、化合物を徐放し得る物質としては、例えば、生分解性高分子が挙げられ、具体的には、例えば、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカボネート、ジオキサノン、エチレングリコール及びε-カプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が重合してなる重合体又は共重合体を含むものが挙げられる。
上記(1)のマイクロアレイとしては、例えば、前記化合物を徐放し得る物質が、前記細胞に作用させる化合物を含有する粒子を形成し、該粒子は、生体適合性ゲルと共に、中空糸内に充填されてなるものが挙げられる。ここで、該粒子の粒子径は、例えば、100nm〜100μmである。また、該生体適合性ゲルとしては、例えば、中空糸内に充填される前はゾル又は液体であり、中空糸内に充填された後にゲル化するものが挙げられ、具体的には、例えば、コラーゲンゲル、架橋ゼラチンゲル及びポリアクリルアミド系ゲルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むものが挙げられる。
上記(1)のマイクロアレイにおいて、中空糸内に充填される物質としては、例えば、マイクロアレイに接触させる細胞との親和性が高いものが挙げられる。
上記(1)のマイクロアレイとしては、例えば、中空糸内に充填された物質の表面を疎水化又はコーティングしたものが挙げられ、該コーティングは、例えば、細胞外マトリクスタンパク質によるものが挙げられる。ここで、細胞外マトリクスタンパク質としては、例えば、フィブロネクチン及び/又はコラーゲンが挙げられる。
(2)上記(1)のマイクロアレイに細胞を接触させることを含む、該細胞への化合物の影響を評価する方法。
(3)上記(1)のマイクロアレイにプライマリー細胞を接触させることを含む、該細胞の由来元の生物における化合物感受性を評価する方法。
(4)下記工程を含む、マイクロアレイの製造方法。
(a)複数本の中空糸を、中空糸の各糸軸が同一方向となるように3次元に配列し、その配列を固定することにより、中空糸束を作製する工程(ここで、当該工程において、上記配列の固定は、該配列を固定化し得る物質によりなされていてもよい。)、
(b)中空糸束の作製前又は後に、中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質とを充填するか、又は、前記化合物と該化合物を徐放し得る物質と生体適合性ゲルとを充填する工程、並びに
(c)前記(a)及び(b)の工程後に得られた中空糸束を、中空糸の長手方向に交叉する方向で所望の厚みに切断する工程。
上記(4)のマイクロアレイの製造方法は、例えば、細胞への化合物徐放用マイクロアレイの製造方法に適用することができ、より具体的には、細胞マイクロアレイの製造方法に適用することもできる。
また、本発明のマイクロアレイを用いれば、例えば、生体に近い(生体を模倣した)2次元的又は3次元的な環境下(条件下)で、機能評価の対象となる様々な化合物(細胞刺激因子)に対する細胞の応答を直接的かつ網羅的に検出することが可能となる。
以上のことから、本発明は、斬新性やチャレンジ性に富み、細胞を、ゲノミクス、プロテオミクス及びメタボロミクスなど様々な角度で解析できる技術基盤の開発につながるものと期待でき、将来的に応用展開の範囲が非常に広いものと考えられる。
なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
1.本発明の概要
これまで、患者由来の細胞の薬剤応答やその作用機序を、直接的かつ網羅的に検出する細胞機能解析に対応する細胞チップ技術の開発については、幾つかの報告(前掲 非特許文献3及び6)はあるものの、ほとんど開発は進んでいないのが現状である。その原因として、マイクロ空間内における薬剤やタンパク質などの化合物分子の徐放性の制御と、マイクロ空間内における細胞の運動の制御が、非常に難しいことが挙げられる(前掲 非特許文献7及び8)。一部の報告があるものの(前掲 非特許文献4)、現状、細胞チップ上で徐放性の制御が可能なのは、化学的物性が均一である核酸に限られる。ペプチドや小分子の化学的物性(親疎水性、電荷など)は大きく異なることが多いため、異なる化合物をアレイ状にチップに配置した場合、各々の化合物の徐放性を制御することは極めて困難であった。
ところで、「中空糸配列体」をDNAマイクロアレイチップに応用する報告は行われているものの(前掲 非特許文献5、特許文献2)、当該「中空糸配列体」の技術は、本来ペプチドや核酸といった分子量1000以上の生体高分子を固定する用途を主体として製造条件が開発されていたため、当該技術が、細胞への化合物徐放用のマイクロアレイに応用されることはこれまで無く、むしろ当該技術をそのように応用しようとはしないのが、当業者の通常の認識であった。
本発明に係るマイクロアレイ、及びその製造方法等は、このようにして見出されたものである。
2.マイクロアレイ及びその製造方法
本発明に係るマイクロアレイ(以下、「本発明のマイクロアレイ」と称することがある。)は、前述のとおり、複数本の中空糸から構成される中空糸束の該中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質と、さらには場合により生体適合性ゲルとが、充填されていることを特徴とする、マイクロアレイである。ここで、上記中空糸束は、それを固定化し得る物質により固定化されていることが好ましい。前述のとおり、本発明のマイクロアレイは、例えば、細胞への化合物徐放用マイクロアレイとして用いることができ、より具体的には、細胞マイクロアレイとして用いることもできる
なお、上記(i)の充填態様の場合は、前記徐放物質は、中空糸の材質と前記化合物の耐熱温度以下の温度で溶解し、中空糸への充填が可能なものであればよい。
ここで、生体適合性ゲルとしては、コラーゲンゲル、ゼラチン架橋ゲル、アクリルアミド系ゲル等が挙げられるが、生体適合性を有し且つ細胞が該ゲル内に浸潤できるものであれば、特に制限されない。
(a)複数本の中空糸を、中空糸の各糸軸が同一方向となるように3次元に配列し、その配列を固定することにより、中空糸束を作製する工程、
(b)中空糸束の作製前又は後に、中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質(徐放物質)とを充填するか、又は、前記化合物と徐放物質と生体適合性ゲルとを充填する工程、並びに
(c)前記(a)及び(b)の工程後に得られた中空糸束を、中空糸の長手方向に交叉する方向で所望の厚みに切断する工程。
上記(a)工程においては、上記配列の固定は、該配列を固定化し得る物質により行うことが好ましい。
上記(b)工程において、「細胞に作用させる化合物と徐放物質とを充填する」とは、具体的には、前述した(i)の充填態様を意味することが好ましく、他方、「前記化合物と徐放物質と生体適合性ゲルとを充填する」とは、具体的には、前述した(ii)の充填態様を意味することが好ましい。
3.本発明のマイクロアレイの用途
本発明は、前述した本発明のマイクロアレイに細胞を接触(接着を含む)させることを含む、該細胞への化合物の影響を評価する方法を提供することができる。
当該方法においては、本発明のマイクロアレイに搭載した、細胞への作用効果が既知の又は未知の化合物(薬剤等)が、アレイに接触させた1種又は複数の細胞に対してどのような作用を有するかを、該接触後の当該細胞の状態を観察することにより評価することができる。ここで、当該方法において、マイクロアレイへの細胞の接触の態様としては、限定はされないが、例えば、当該マイクロアレイ上に細胞を播種して培養する態様や、予め適当な培養容器内で播種及び培養した細胞に当該マイクロアレイを接触させる態様などが挙げられる。当該方法は、例えば、前記アレイに搭載した薬物がどの細胞にどのような影響を与えるかを評価する、薬剤評価に好適である。
当該方法においては、本発明のマイクロアレイに既知化合物(細胞への一般的な作用効果が既知の化合物)を複数種搭載し、このアレイに、化合物感受性を評価したい生物由来の細胞を接触させ、どの化合物について細胞が感受性を示すかを、接触後の各細胞の状態を観察することにより評価することができる。ここで、当該方法において、マイクロアレイへの細胞の接触の態様としては、限定はされないが、例えば、当該マイクロアレイ上に細胞を播種して培養する態様や、予め適当な培養容器内で播種及び培養した細胞に当該マイクロアレイを接触させる態様などが挙げられる。この評価により、用いた細胞の由来元の生物における化合物(薬物等)感受性を評価することができ、いわゆるコンパニオン診断を行うことも可能である。当該方法は、例えば、遺伝子評価や細胞評価のように、所望の細胞がどのような特性・性質を有するものであるかを評価する方法に好適である。
4種の生分解性ポリマーについて、これらのポリマー上への細胞接着性、細胞毒性を評価した。当該4種の生分解性ポリマーは、(1)DL乳酸-グリコール酸共重合体:DLG-50-10(PLGA50:50)(多木化学製Lot: DLG-1001, DL-LA/GA=51/49, Mn=5,770, Mw=9,460, Mw/Mn=1.6)、(2)L乳酸-グリコール酸共重合体:LG-60-5、(多木化学製Lot: S-240901, L-LA:GA=58:42, Mn: 2900, Mw: 5500, Mw/Mn=1.9)、(3)DL乳酸-グリコール酸共重合体:DLG80-10、(多木化学製Lot: S-240904, DL-LA:GA=80:20, Mn=8,500, Mw=11,500, Mw/Mn=1.35)、(4)L乳酸-グリコール酸共重合体:LG-60-30、(多木化学製Lot: S-240903, L-LA:GA=60:40, Mn=19,500, Mw=29,500, Mw/Mn=1.5)を使用した。これら生分解性ポリマーを120°Cで溶解し、細胞培養用35mmポリスチレンディッシュに10μl滴下した。ディッシュを室温に静置し、滴下ポリマーがディッシュ上で固着するのを確認後、子宮頸がん由来のヒト癌細胞(HeLa Cell)をディッシュ当たり5 x 105 個播種し、細胞培養用インキュベーター内で37°Cで静置した。培養開始から2時間後及び16時間後での細胞位相差像、明視野像を取得し、細胞の接着性、及び細胞毒性を評価した(図3)。その結果、生分解が最も速いLG-60-5(図3B)では、2時間後の時点でポリマーが分解し、白濁が生じ、細胞の検出が困難となった。わずかに検出できる細胞に対する毒性は低く、生存していることが分かった。16時間後ではポリマーが分解して白濁し、透過光による細胞の検出は不可能となった。次に、生分解性の速いDLG50-10では、2時間後の時点で、細胞はポリマー上で生存しているが、細胞仮足の伸展が見られず、接着は困難であることが分かった。さらに16時間後ではポリマーの分解が進み、位相差像による細胞の検出が困難となった。一方、分解が比較的遅いDLG80-10では、2時間後における細胞の仮足の伸展は、通常のディッシュ上の細胞に比べて悪いものの、16時間後では、十分に仮足の伸展が見られ、多くの細胞に対する毒性が少なく、死細胞が見られなかった。分解が最も遅い、LG60-30では、2時間後においてもディッシュ上の細胞と比較して遜色ない接着仮足が見られ、16時間後では細胞が仮足を伸ばし、細胞毒性が無いことが分かった。DLG-50-10とLG-60-5については、生分解性が速すぎて、ポリマーが白濁し、位相差像による細胞状態の評価が困難であるため、培養開始後24時間後の細胞を以下の方法により改めて評価した。生細胞をCalcein-AMで染色し、緑色、死細胞をPI(ヨウ化プロピジウム)で染色し赤色の蛍光を示すよう染色した後、反射像を取得し、細胞毒性を評価した(図4)。その結果、両ポリマー上の細胞の多くは生存しており、死細胞は少なく、ポリマーから細胞が受ける細胞毒性は非常に低いことが分かった。一方、細胞のポリマーへの接着性は悪く、細胞が円形になっていることが分かった。以上の結果より、中空糸細胞マイクロアレイチップに用いる生分解性ポリマーとしては、細胞接着を促進する疎水的な表面や適切な分解速度を持つポリマーを選択する必要があり、本実施例の結果からは、DLG80-10やLG-60-30などが適切な生分解性ポリマーであることが分かった。
PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の中空糸に上記4種の生分解性ポリマーの充填を試みた。なお、当該中空糸としては、AWG18-LW(PTFE, ZEUS社製, Lot: 04587857-3, 内径1.07mm x 外径1.37mm)又はAWG24-LW(PTFE, ZEUS, Lot: 20543029-1, 内径0.56mm x 外径0.86mm)を用いた。
3%コラーゲン溶液に培地およびコラーゲンゲル再構成用緩衝液を加え、これを上記実施例2と同様の手法で中空糸内に充填した。30分静置することで中空糸内のコラーゲンをゲル化させた。ゲル化の詳細プロトコルは、新田ゼラチン株式会社が提供するプロトコル(Cellmatrix TypeI-A、新田ゼラチン社)に従った。
中空糸、又はコラーゲンゲルを充填したPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の中空糸(AWG18-LW (PTFE, ZEUS社製, Lot: 04587857-3), 内径1.07mm x 外径1.37mm)を、アルミニウム製又は3Dプリンタ(丸紅Dimension 3Dプリンタ)により作製したABS製のモルド(金型)に配列させた(図6上段真ん中)。PDMS(ジメチルポリシロキサン、信越シリコーン社製KE-1300T)に1/10量の重合開始剤(信越シリコーン社製、CAT-1300)を加え、これをモルドに注ぎ、60°Cのインキュベータ内で1時間重合・固化させ、中空糸を配列させた(図6下段右)。これをカミソリで所望の厚みに切断し、金太郎飴の様に大量にチップ状のマイクロアレイを作製した。作製したマイクロアレイは、35mm細胞用ディッシュに設置し、細胞及び培地を注いで使用した(図6下段左)。当該マイクロアレイは、細胞への化合物徐放用マイクロアレイとして用いることができるものである。
生分解性ポリマーであるDLG50-10とDLG-80-10の2種類について検討を行った。両ポリマーは共に平均分子量約10,000であるが、乳酸とグリコール酸との混合比が異なり、DLG-80-10の方が、分解が遅い。ここでは、結果が良好だったDLG-80-10を用いた結果のみ示した(図7)。8本のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の中空糸(AWG18-LW (PTFE, ZEUS社製, Lot: 04587857-3), 内径1.07mm x 外径1.37mm)に、実施例2の手順に従い、DLG-80-10を充填した。また、1本のPTFE製中空糸には40μmの濃度になるようにCalcein-AM(3',6'- Di(O-acetyl)- 4',5'- bis [N,N- bis (carboxymethyl) aminomethyl] fluorescein, tetraacetoxymethyl ester, Invitrogen社製)を添加したDLG-80-10を充填した。これら合計9本の中空糸を、3Dプリンタ(丸紅Dimension3Dプリンタ)により作製したABS製のモルド(金型)に3 x 3で配列(中心にはCalcein-AMを充填した中空糸を配列し、その周りに残りの8本を配列)させた。実施例4の手順に従い、PDMSをモルドに注いで固化し、これを所望の厚みにスライスすることで、チップ状のマイクロアレイを作製し、これを35mm細胞培養ディッシュに設置した(図7上)。当該マイクロアレイは、細胞への化合物徐放用マイクロアレイとして用いることができるものである。1x 106個のヒト子宮頸がん由来細胞(HeLa)を4 mlの細胞培養用培地(DMEM + 10% FBS)に懸濁し、マイクロアレイ上に播種した。37°Cの細胞培養用インキュベータ内で24時間培養し、マイクロアレイ上の細胞の状態を観察するため、顕微鏡による位相差像、蛍光像を取得した(図7下)。マイクロアレイ上のすべての中空糸上に細胞が接着していること確認した。また、細胞状態は良く、ほとんど細胞死が見られないことも確認した(図7下段左)。中央に配置した中空糸に充填されている生分解性ポリマー(DLG-80-10)にはCalcein-AMが含まれており、ポリマーの分解に従ってCalcein-AMが徐放されるようにした。徐放されたCalcein-AMは、カルセインの4つのカルボキシル基をアセトキシメチルエステル化(AM化)したものであり、細胞膜透過性を示し、細胞に取り込まれる化合物である。Calcein-AMは、細胞のエステラーゼにより加水分解されることでカルセインとなり、蛍光を示し、細胞透過性を失う。よって、細胞の蛍光を測定することにより、(1)徐放されたカルセインが細胞に取り込まれるかどうか、(2)カルセインを含む中空糸上に接着した細胞にのみ取り込まれるかを、確認することができる。本実施例では、中央の中空糸上の細胞にのみモデル薬剤が特異的に取り込まれたことが確認された。よって、細胞に所望の化合物を徐放することができるという(より具体的には、細胞マイクロアレイとして用いることができるという)、本発明のマイクロアレイの有効性を確認することができた。
本実施例では、予めディッシュに播種しておいた細胞に、実施例5と同様の方法により作製したチップ状のマイクロアレイを接触させ、薬剤を細胞に作用させた。2.7x 105個のヒト子宮頸がん由来細胞(HeLa)を4 mlの細胞培養用培地(DMEM + 10% FBS)に懸濁し、35mmの細胞用ディッシュに播種し、6時間培養後(細胞が当該ディッシュの底面に接着した後)、この上部にマイクロアレイを接触させた。37°Cの細胞培養用インキュベータ内で18時間培養後、細胞に接触させていたマイクロアレイを取り除き、その後、細胞の状態を観察するため、顕微鏡による位相差像、蛍光像を取得した(図8A)。本実施例でも、実施例5と同様に、中央の中空糸上の細胞(中央の中空糸に接触させた細胞)にのみモデル薬剤が特異的に取り込まれたことが確認でき、細胞状態は良く、ほとんど死細胞が見られなかった(図8B)。よって、本実施例からも、細胞に所望の化合物を徐放することができるという、本発明のマイクロアレイの有効性を確認することができた。
Claims (17)
- 複数本の中空糸から構成される中空糸束の該中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質とが充填されてなる、マイクロアレイ。
- 前記マイクロアレイが、細胞への化合物徐放用マイクロアレイである、請求項1記載のマイクロアレイ。
- 中空糸が、前記マイクロアレイに接触させる細胞との親和性が低いものである、請求項1又は2記載のマイクロアレイ。
- 中空糸が、テフロン、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエーテルケトン、ポリプロピレン樹脂及びガラスからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでなるものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 前記細胞に作用させる化合物が、医療、創薬、診断への応用が可能な薬剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 前記化合物を徐放し得る物質が、生分解性高分子である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 生分解性高分子が、ラクチド、グリコリド、トリメチレンカボネート、ジオキサノン、エチレングリコール及びε-カプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が重合してなる重合体又は共重合体を含む、請求項6記載のマイクロアレイ。
- 前記化合物を徐放し得る物質が、前記細胞に作用させる化合物を含有する粒子を形成し、該粒子は、生体適合性ゲルと共に、中空糸内に充填されてなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 前記粒子の粒子径が、100nm〜100μmである、請求項8記載のマイクロアレイ。
- 生体適合性ゲルが、コラーゲンゲル、架橋ゼラチンゲル及びポリアクリルアミド系ゲルからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項7〜9のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 中空糸内に充填された物質が、前記マイクロアレイに接触させる細胞との親和性が高いものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 中空糸内に充填された物質の表面を疎水化又はコーティングしたものである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロアレイ。
- 前記コーティングが、細胞外マトリクスタンパク質によるものである、請求項12記載のマイクロアレイ。
- 細胞外マトリクスタンパク質が、フィブロネクチン及び/又はコラーゲンである、請求項13記載のマイクロアレイ。
- 請求項1〜14のいずれか1項に記載のマイクロアレイに細胞を接触させることを含む、該細胞への化合物の影響を評価する方法。
- 請求項1〜14のいずれか1項に記載のマイクロアレイにプライマリー細胞を接触させることを含む、該細胞の由来元の生物における化合物感受性を評価する方法。
- 下記工程を含む、マイクロアレイの製造方法。
(a)複数本の中空糸を、中空糸の各糸軸が同一方向となるように3次元に配列し、その配列を固定することにより、中空糸束を作製する工程、
(b)中空糸束の作製前又は後に、中空糸内に、細胞に作用させる化合物と該化合物を徐放し得る物質とを充填するか、又は、前記化合物と該化合物を徐放し得る物質と生体適合性ゲルとを充填する工程、並びに
(c)前記(a)及び(b)の工程後に得られた中空糸束を、中空糸の長手方向に交叉する方向で所望の厚みに切断する工程。
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