JP2019140985A - 細胞分散方法および細胞分散装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の課題は、細胞凝集塊を単一細胞に分散させるための細胞分散装置および細胞分散方法を提供することである。【解決手段】本発明によって、細胞凝集塊を単一の細胞に分散することができる。本発明に係る装置は、細胞凝集塊を含む処理液を収納する円筒形状の槽と、前記槽の内側に、前記槽と同軸で回転可能に取り付けられる円筒部材と、を備えており、前記円筒部材を回転させることによって前記処理液を円筒部材の周りで回転させて細胞凝集塊を単一の細胞に分散することができる。【選択図】図3

Description

本発明は、細胞分散方法および細胞分散装置に関する。特に本発明は、細胞が凝集した細胞凝集塊を個々の細胞に効率よく分散することができる細胞分散方法および細胞分散装置に関しており、創薬、薬学、医学、生物等の分野において有用である。
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は生体のあらゆる組織・臓器の細胞へと分化し得ることから、近年、研究開発が盛んに行われている。これらの多能性幹細胞は、細胞治療の新たな細胞供給源となり得ることから、臨床応用への期待が高まっている。しかし、多能性幹細胞はあらゆる組織の細胞への分化能を有しているがために、未分化な状態を維持しつつ、大量に増幅培養させることが難しく、従来の培養法とは異なる培養法が必要であったところ、特許文献1〜2には、シェアストレスに非常に敏感なヒト由来のES/iPS細胞であっても、効率的に培養することができる細胞用装置が記載されている。
ところで、特許文献1〜2の方法をはじめ、細胞を得る方法には種々のものが存在しているが、多くの場合、得られる細胞は、複数の細胞同士が凝集した細胞凝集塊(組織片)を形成する。これを再生医療や安全性薬理試験等に利用するにあたっては、細胞凝集塊を個々の細胞に分散する必要があり、例えば特許文献3〜4には、細胞を分散する技術が提案されている。
特許第5958861号公報 特許第5959024号公報 特開平4−232834号公報 特開2012−24061号公報
一般に、細胞凝集塊などを単細胞に分散させるには、トリプシンやコラゲナーゼなどの酵素液に細胞凝集塊などを浸漬し、一定温度で保温しながらピペッティングなどの物理的な操作を行って細胞を分散させる。酵素は細胞凝集塊の外側から浸透していくため、細胞は外側から徐々に剥がれ落ちていくが、細胞凝集塊や組織体の内部に届くまでには時間がかかるため、物理的操作によって細胞の分散を促進するのである。
ところが、ピペッティングなどの操作においては、酵素によって剥がれ落ちた細胞がピペッティングによって器壁に衝突するなどして破壊され、回収量や回収率が低下することがある。また、ピペッティングなどの実験操作は実験者による個人差が出やすく、操作の標準化が困難である。
また、特許文献3〜4には、細胞分散させるための機械装置が提案されているが、特許文献3の技術は、特許文献4で指摘されているように細胞分散効率が悪く、特許文献4の技術は、機構が複雑化するという問題点がある。
このような状況に鑑み、本発明は、細胞が凝集した細胞凝集塊を個々の細胞に効率よく分散することができる細胞分散方法および細胞分散装置に関する。
上記課題について本発明者が鋭意検討したところ、固定された槽内で回転体を回転させることによって槽内の液体に含まれる細胞の凝集体が効率よく分散することを見出し、本発明を完成させるに至った。
これに限定されるものではないが、本発明は下記の態様を包含する。
(1) 細胞凝集塊を単一の細胞に分散する装置であって、細胞凝集塊を含む処理液を収納する円筒形状の槽と、前記槽の内側に、前記槽と同軸で回転可能に取り付けられる回転部材と、を備え、前記回転部材を回転させることによって、前記槽内を周回する処理液を、テイラー渦流の状態で周回させて細胞凝集塊を単一の細胞に分散する、上記装置。
(2) 前記処理液が、細胞凝集塊分解酵素を含む、(1)に記載の細胞分散装置。
(3) 円筒部材を回転させるためのスターラーをさらに備える、(1)または(2)に記載の細胞分散装置。
(4) 前記回転部材は円筒形となっている、(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞分散装置。
(5)細胞凝集塊を単一の細胞に分散する方法であって、細胞凝集塊を含む処理液を収納する円筒形状の槽において、前記槽の内側面に沿って前記処理液を周回させることによって前記細胞凝集塊を単一の細胞に分散することを含む、上記方法。
(6) 前記槽の内側に同軸で回転可能に取り付けられる円筒部材が回転することによって、周回する処理液をテイラー渦流の状態にすることを含む、(5)に記載の方法。
(7) 前記細胞凝集塊が、多能性幹細胞を含んでなる、(5)または(6)に記載の方法。
本発明によれば、細胞が凝集した細胞凝集塊(組織片)を効率良く分散することができる。一般に、細胞凝集塊や組織体を分散して単細胞を得るには一定のせん断力を必要とするが、細胞にかかるストレスが過大になると細胞の生存率が低下することもある。本発明においては、液体に含まれる細胞凝集塊に適切なせん断力が定常的に与えられるため、細胞が効率良く分散するものと考えられる。
本発明に係る装置においては、固定槽内の回転体が回転した時に生じる液体のせん断力は、槽内のどの箇所でも一定になる。そのため、槽内に局所的なせん断力の強弱も存在しない理想的な液流を得ることができる。また、固定槽及び回転体には細胞が衝突するような構造が存在しないので、細胞凝集塊及び分散後の単一細胞が衝突によって損傷することを防止することができる。
上述したように、細胞凝集塊や組織片を試験管内で単細胞へ分散させる際、従来は、ピペッティングによる液の出し入れによってせん断力を与えていたが、この作業には個人差があり、標準化して手順書に記載することが難しい。また、作業者は無意識にピペットの先端を器壁に当てたり必要以上に高速で出し入れしたりすることによって、細胞が破壊されてしまうことがある。それに対して、本発明に係る装置によれば、個人差や細胞の破壊作用も少なく、一定のせん断力を負荷して、均質な単細胞の細胞懸濁液を効率的に得ることができる。特に、再生医療等製品の製造工程においては、得られる細胞の収量を向上させることができるため、製造効率を改善して大幅にコストを削減することが期待できる。
円筒状の固定槽内に設置した回転体を回転させると、表面の摩擦抵抗によって内壁面と回転体表面の間隙にある液体には回転方向に平行な層流(クエット流)が生じる。さらに回転数を徐々に大きくすると層流から渦流へ液流が遷移し、平行だった液流が複雑な渦流(テイラー渦流)となる。本発明によって細胞が効率的に分散される理由の詳細は完全には明らかでなく、本発明はこの推論に拘束されるものではないが、本発明においては、適度な物理的ストレスが細胞凝集塊にかかることによって細胞凝集塊が効率的に分散するものと考えられる。
図1は、実験において用いた細胞分散装置を示すものである。 図2は、実験1で分散処理したiPS細胞の回収量を示すグラフである(縦軸:細胞数)。 図3は、実験1で処理した培養液を顕微鏡観察した写真である。 図4は、実験2(1)の実験結果を示すグラフである。 図5は、実験2(1)の実験結果を示すグラフである。 図6は、実験2(2)の実験結果を示すグラフである。 図7は、実験2(3)の実験結果を示すグラフである(左:心筋トロポニンT心筋細胞と核の写真、右:心筋細胞数)。 図8は、実験2(4)の実験結果を示すグラフである。 図9は、実験2(5)の実験結果を示すグラフである。
本発明に係る細胞分散装置は、固定槽とその内部に回転自在に設置される回転部材を備える。本発明の一つの態様においては、回転部材は円筒形をなす円筒状部材であり、固定槽内壁面と円筒状部材外壁面の間隙、円筒状部材の回転数、液体の物性などが、液体の流れを決定する重要な要素となる。
本発明の一つの態様において、本発明に係る装置は、円筒形状の固定槽と、固定槽に着脱可能な蓋部と、蓋部に設けられた支柱と、支柱に回転可能に取り付けられた円筒状部材(固定槽と同軸で回転可能な回転部材)とを有して構成される。
また、本発明においては、円筒状部材を回転させるためのスターラーを備えていてもよい。スターラーの駆動手段の一例としては、磁性体(永久磁石等)を用いて円筒状部材を回転させることが好ましい。
固定槽には、細胞が凝集した細胞凝集塊を含む液体が入れられる。本発明に係る装置において、細胞凝集塊を含む液体が接触する部材(固定槽、円筒状部材、蓋部、支柱)は、液体成分に不活性で細胞毒性を有さず、且つ、滅菌(除染、除菌又は無菌ともいう。)処理に対して耐性を有する材料で形成されることが好ましい。このような材料としては、例えば、ガラス、合成樹脂、ステンレス鋼などが挙げられる。ここで、固定槽の容量、形状などは、液体の量や円筒状部材に応じて適宜決定される。また、固定槽の底面中央には凸部が設けられていてもよい。これにより、固定槽の底面中央で処理液が淀む現象を防止することができる。固定槽の内容量(容量)は特に限定されないが、好ましい態様において、例えば20〜1000mlとすることができ、30〜800ml、40〜600ml、50〜400mlとしてもよい。固定槽の容量は、一回の処理で要求される液量に基づいて決定することも可能である。
円筒状部材を回転自在に設置するための支柱は、蓋部に固定されて、固定槽の中心軸線に沿って配置される。そして、円筒状部材は、支柱に、回転可能に取り付けられる。これにより、円筒状部材が、固定槽と同軸で回転可能となる。ただし変形例として、支柱は、固定槽底部の内面の中央に直立して設けることも可能である。このとき、支柱は、培養槽底部の内面への固定部が下方向に拡径の円錐状に形成された円錐状とすることが好ましい。このような形状とすると、円筒状部材の回転による底部中心近傍の液流の淀みが少なくなり、固定槽の底部において細胞凝集塊が沈殿しにくくすることができる。また、支柱の高さは特に制限されず、例えば、支柱を高くして円筒状部材を比較的上部で支持する構造にしてもよいし、支柱を低くして円筒状部材を比較的底部に近い位置で支持する構造にしてもよい。なお、支柱を固定槽に固定する方法としては、特に制限されないが、ビスなどの固定具で螺着などの方法で固定したり、接着剤(例えば、シリコンゴム系接着剤)などで接着などの方法で固定したりすることでき、一体成形によって固定槽と支柱を一体とすることもできる。
一つの態様において本発明に係る装置は円筒状部材を備えているが、円筒状部材は、細胞凝集塊を含む液体に不活性で、且つ、耐性を有する材料で形成されることが好ましく、例えば合成樹脂、ステンレス鋼などが挙げられる。円筒状部材は、例えば円筒状の合成樹脂ブロックに、円筒の中心軸線に沿って伸びる、支柱が挿入される穴(貫通しない凹部)を備える構成とすることができる。そして、円筒状部材は、支柱に対して回転可能に取り付けられることにより、固定槽に対して回転することが可能になる。また、円筒状部材は、回転機構によって回転力を付与するための磁石を備えた構成とすることも可能である。なお、本発明に係る装置(固定槽、蓋部、支柱、回転部材)は、使い捨てとすることもできる。
本発明の装置に用いられる素材としては、光透過性(透明性)を有する樹脂が好ましい。ポリマーの種類は特に制限されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等が好適であり、中でもポリカーボネート、ポリスチレンが特に好適である。特に固定槽は、光透過性とすることで処理状態を視認することができるようになる。
本発明に係る装置で処理される細胞は限定されるものではなく、例えば、動物、昆虫、植物等の細胞を挙げることができる。動物細胞の由来として、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、ヌードマウス、マウス、モルモット、ブタ、ヒツジ、チャイニーズハムスター、ウシ、マーモセット、アフリカミドリザル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。特に本発明に係る装置では、多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞など)、神経幹細胞等の幹細胞といった、これまでの方法では分散効率が悪いとされてきた細胞への適用が可能である。本発明に係る装置で処理される細胞の取得方法は特に限られるものではなく、あらゆる方法で取得された細胞に適用することが可能で、培養由来の細胞凝集塊のほか、生体由来の組織片(切片)を単一細胞に分散する処理に用いることも可能である。また、装置の設計や運転条件を適合させることにより、シェアストレスに弱い細胞による細胞凝集塊や、逆に、強固に凝集している細胞凝集塊など、細胞凝集塊(組織片)の性質に合わせた処理が可能になる。
本発明においては、細胞凝集塊を含む処理液に酵素を添加してもよい。本発明においては、物理的な作用によって細胞凝集塊を分散させるが、酵素を併せて用いることによってより効率的に細胞凝集塊を分散することができる。使用する酵素は特に制限されないが、好ましい態様において、トリプシン、プロテアーゼ、コラゲナーゼなどを挙げることができる。また、本発明に係る処理液には、さらにEDTAなどのキレート剤を添加してもよい。酵素やキレート剤の添加量および濃度は、適宜調整すればよく、細胞凝集塊が大きく、ほぐれにくい場合は酵素の添加量を多くしたり濃度を濃くしたりすることができる。
処理時間や処理温度などの条件は特に制限されず、適宜設定すればよい。処理時間については、例えば、5秒〜60分間とすることができ、好ましい態様において、10秒〜50分間や30秒〜40分間、さらには1分間〜30分間としてもよい。なお、処理時間は、細胞種類や回転速度に応じて適宜設定することができる。処理温度は、好ましい態様において0〜70℃であり、5〜50℃や10〜40℃とすることも好ましい。装置の回転速度などは、ピペットなどを用いて分散させる際に用いる酵素液の濃度と液量をもとに、処理時間を同じにした場合に、ピペットを用いて分散させた際の細胞回収量と同等かそれ以上となるように定めることができる。
また、一つの態様において本発明は、細胞を分散させる方法である。本発明に係る細胞分散方法は、細胞凝集塊を含む液体を固定槽内に入れ、固定槽内の円筒状部材を回転させて固定槽と円筒状部材の間に液流を生じさせて細胞凝集塊を分散させることを含む。本発明によれば、簡便かつ効率良く、細胞凝集塊を均一に分散させることができる。
固定槽内の液流
本発明に係る装置においては、固定槽内に設置した回転部材(円筒状部材)を回転させると、表面の摩擦抵抗によって固定槽壁面と回転体表面の間隙にある液体には回転方向に平行な層流(クエット流)が生じる。さらに回転数を徐々に大きくすると層流から渦流へ液流が遷移し、平行だった液流が複雑な渦流(テイラー渦流)となる。
円筒状の内壁を有する固定槽(円筒半径:r0)と円筒状部材(円筒半径:ri)は、同軸かつ所定の間隙(r0−ri)を有して回転自在に組み立てられる。好ましい態様において、本発明に係る装置は、固定槽と円筒状部材との間隙は、例えば、0.1〜100mmであり、より好ましくは1〜50mm、さらに好ましくは2〜40mm、よりさらに好ましくは3〜30mmである。このような範囲内であると、効率よく液体を流動させることができる。
(供給口、排出口)
本発明に係る装置には、流体を供給するための供給口や流体を排出するための排出口を設けてもよい。供給口や排出口はそれぞれ複数設けられていてもよい。また、供給口や排出口は蓋部に設けてもよいし、固定槽の壁面などに設けてもよい。
ただし、固定槽は、壁面に供給口や排出口を供えない態様とすることも可能である。固定槽の内壁面を円筒(凹凸を有しない円筒)とすることで、処理中に、細胞凝集塊及び分散された細胞が衝突によるダメージを受ける確率を減らすことができる。
(回転機構)
本発明に係る装置は、固定槽内部の円筒状部材を、軸を中心に相対的に回転させる回転機構を有していてもよい。好ましい態様において、磁力を利用して円柱を回転させる回転機構であることが好ましい。この場合、円筒状部材に金属や磁石を設けておくことが好ましい。
(表面粗さ)
本発明に係る装置において、固定槽の内壁表面及び円筒状部材表面の表面粗さRaは前記間隙(r0−ri)の1/10以下であることが好ましく、5nm〜1mmがより好ましく、10nm〜100μmがさらに好ましい。このような範囲であると、円筒状部材の回転エネルギーを効率よく液体に加えることができるとともに、表面粗さによる細胞凝集塊や分散された細胞へのダメージを小さくすることができる。
(液流)
本発明においては、円筒状の固定槽と円筒状部材により形成される同心円筒状の空間に、細胞凝集塊を含む液体を入れ、円筒状部材を角速度ωで回転させる。一般に、回転速度が低速であると、層流であるクエット流が発生し、さらに回転速度を高速にすると、層流テイラー渦流が発生する。
ここで、テイラー渦流が発生する際の具体的な関係式を示す。テイラー数は、一般に、下記式のTaのように定義される。
Ta={riω(r0−ri)/ν}{(r0−ri)/ri}0.5=Re{(r0−ri)/ri}0.5
[式中、ω:角速度、Re:レイノルズ数、ri:円筒状部材の半径、r0:固定槽の半径、ν:流体の動粘度]
本発明において固定槽内の液流は、乱流支配ではなく、層流支配であることが好ましい。ここで、レイノルズ数(Re)は、rωd/νで表されるものであり、数値が小さいと層流支配となりやすい。
Re=riωd/ν
[ri:円柱の半径、ω:回転角速度、d:間隙幅の平均値(ro−ri)、ν:動粘性係数]
また、テイラー渦流が発生する臨界テイラー数Tacは以下のように示される。この臨界テイラー数Tacは、η=ri/r0によって決定される。本発明では、円筒状部材による液体の流動効率を考慮すると、ηは0.5以上とすることが好ましく、この場合、Tacは50近傍(40から70程度)の値となることから、Tacを50と近似することができる。ここで、ωcはテイラー渦流が発生する角速度、Recは臨界レイノルズ数、riは円柱2の半径、r0は円筒1の半径、νは流体の動粘度である。
Tac={riωc(r0−ri)/ν}{(r0−ri)/ri}0.5=Rec{(r0−ri)/ri}0.5と示される。
上述の各式から、テイラー数Ta、臨界テイラー数Tac、レイノルズ数Re、臨界レイノルズ数Rec、角速度ω及びテイラー渦流が発生する角速度ωcの関係は、下記のようになる。
Ta/Tac=Re/Rec=ω/ωc
テイラー渦流は、1≦Ta/Tac=Re/Rec=ω/ωc<25の範囲で発生しやすい。Ta/Tacが1未満であればテイラー渦流が発生せず、25以上であれば乱流が発生しやすい。
そして、本発明においては、細胞凝集塊を含む液体に、乱流が発生しない条件で細胞凝集塊の分散処理を行うことが好ましく、かつ、細胞凝集塊を含む液体にテイラー渦流が発生する条件で、細胞凝集塊の分散処理を行うことが好ましい。液体にテイラー渦流を発生させることにより、液体に含まれる細胞凝集塊に大きなせん断力を作用させることができるとともに、処理中に細胞凝集塊(分散した細胞)に損傷が発生する確率を小さくすることができるため、細胞凝集塊の処理効率(回収効率や回収量)を高めることができる。詳しくは、テイラー渦流を発生させることによって、液体は、周回方向への移動だけではなく、高さ方向や円筒の径方向へも移動する(螺旋軌道を描きながら周回する)。この複雑に移動する液体が、細胞凝集塊に、大きなせん断力を作用させて、細胞凝集塊を効率よく分散させる。一方、テイラー渦流では液体は複雑な動きをするものの、乱流と異なり、一定の規則性を持って移動する。そのため、液体に含まれる細胞凝集塊(分散された細胞)がお互いに衝突する確率を小さくすることができるとともに、局所的に大きな(細胞を損傷するような)せん断力が発生することも防止することができる。以上のことから、テイラー渦流を利用することにより、細胞凝集塊の分散効率を高めることができるとともに、細胞が損傷する可能性を小さくすることが可能になる。さらに、本発明を、内面が円筒形となっている固定槽や、外面が円筒形となっている円筒形状を利用することにより、特に液体の移動方向に、細胞凝集塊に衝突する機構的な要素が少なくなり、細胞凝集塊にダメージを与えないように細胞凝集塊の分散処理を行うことができる。
なお、本発明においては、細胞凝集塊を含む液体にテイラー渦流が発生するように、装置の形状や運転条件を設定することができる。細胞の種類や凝集の状況が異なると、分散に必要なせん断力や、最適な液体成分(添加成分の種類や量)、処理時間が異なるため、最適なデバイスの形状や回転速度や処理時間が変わってくる。上記の式を利用すれば、例えば液体の動粘度の情報と、デバイスの形状に関する情報から、回転数の設定条件を絞り込むことができるため、分散処理の条件設定が容易になる。あるいは、一回の処理での要求処理量や、必要なせん断力の情報に基づいて、デバイスの設計を行うことも可能であり、同条件でのスケールアップ要請に対応する設計も可能になる。特に、内面が円筒形となっている固定槽や、外面が円筒形となっている円筒形状を利用することにより、上記の理論式への当てはめが容易になる。
ただし、本発明をせん断力に弱い細胞種に適用する場合には、テイラー渦流が発生しない条件で、細胞の分散処理を行うことも可能である。
なお、本発明においては、処理中に、液体が空気をかみこまないように(液体が気泡を巻き込まないように)、液体の量、または、装置の形状を調整することができる。具体的には、固定槽に液体と円筒状部材を設けたときに(運転前に)、液面が円筒状部材の上面を越えないように、液体の処理量を調整してもよい。あるいは、円筒状部材を回転させて細胞凝集塊の分散処理を行う際に、液面が円筒状部材の上面を越えないように、液体の処理量および回転数を調整してもよい。これにより、液体に空気がかみこむ確率を低減することができ、細胞凝集塊に損傷を与える確率を低減することができる。あるいはまた、固定槽(固定槽と円筒状部材の隙間)を、液体で満たすように、液体を注入することも可能である。例えば蓋部に、空気を通すが液体を通さない部材(バルブやフィルターなど)と、液体の注入口を設け、液体を注入しながら固定槽内の空気を抜くことで、固定槽を液体で満たすことができる。これによると、処理中に、液体が空気をかみこむことを防止することができる。この場合、固定槽を横に倒した状態で、細胞の分散処理を行うことも可能である。
なお、本発明においては、固定槽は、液体の状況を計測する各種センサーを有する構成とすることもできる。ただしこの場合、センサーは、大きな凹凸を構成しない部材を利用したもの(蛍光パッチを利用したpHセンサー/DOセンサーや、槽外から計測可能な温度センサーなど)を適用することができる。これにより、液流を管理しつつ、分散処理中の液体の状態を計測することができるので、処理条件の的確性判断や、細胞の品質管理を行うことができる。なお、蛍光パッチを利用する場合、蛍光パッチを設ける位置は液流に与える影響が小さくなるように設定することが好ましく、例えば固定槽の底部近傍(底面や、底面と側面との境界、側面の底面近傍)に設けることができる。
本発明において、細胞凝集塊を含む液体の処理時間は特に制限されないが、細胞種類などによって調整することが可能で、例えば、100秒以上とすることが好ましい。
本発明によって細胞が効率的に分散される理由の詳細は完全には明らかでなく、本発明はこの推論に拘束されるものではないが、本発明においては、適度な物理的ストレスが細胞にかかることによって細胞が効率的に分散するものと考えられる。
以下、具体的な実験例を示しつつ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の具体的な実験例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
実験1:誘導多能性幹細胞の細胞分散
(1)細胞凝集塊
足場材(iMatrix、ニッピ)を用いて6ウェルプレート上に生育した誘導多能性幹細胞(iPS細胞、Ff-i14:京都大学)を培地(StemFit AK03N、味の素)で維持培養した。
iPS細胞培養用シングルユース100mLバイオリアクター(以下、100mLリアクター、エイブル)に、100mLのStemFit AK03Nと終濃度10μMに調整したY27632(和光純薬製ROCK阻害剤)を入れ、37 ℃、pH7.2、溶存酸素濃度(DO)40%(大気飽和)に予め調整した。新鮮なiPS細胞を6ウェルプレートから回収し、予め調整した100mLリアクターに2.0×10/mLの密度で播種した。播種後、100mLリアクターを、37 ℃、pH7.2、DO=40%(大気飽和)の条件に維持し、40rpmで攪拌しながら培養した。培養1日目で培養液の一部を採取し、細胞凝集塊が生育していることを確認した。培養2日目に細胞凝集塊を含む培養液全量を遠沈管に回収し、190Gで1分間遠心分離して上清を取り除いた。新鮮かつ37℃に保温した同量のStemFit AK03Nで細胞凝集塊を再懸濁して100mLバイオリアクターに再投入し、37 ℃、pH7.2、DO=40%(大気飽和)、40rpmの条件で培養を継続した。同じ操作を培養3日目に繰り返し、4日間培養を継続した後、iPS細胞の細胞凝集塊を得た。
(2)細胞分散装置
実験に使用した装置の外観写真を図1に示す。図1に示したように、筒状のハウジング(透明樹脂製、材質:ポリカーボネート、内径:約38mm)の内側に円筒状部材が同心円上に設けられており、円筒状部材(半透明樹脂製、材質:ポリプロピレン)は筒状のハウジングの内側に回転自在に取り付けられ、上部の蓋部材によって密閉することが可能である(容量:約20ml)。細胞処理装置の内側に設けられる円筒状の回転部材(シリンダー)については、外径(外直径)が22mm、25mm、28mmの3種を用意し、以下の実験で使用した。
ここで、装置の内側に回転自在に取り付けられる円筒状部材にはマグネットが埋め込まれており、装置をマグネティックスターラー上に載置することによって、装置内部の円筒状部材を回転させることができる。
(3)細胞凝集塊の分散
培養4日目の細胞凝集塊を含む培養液を、均等に25mLずつ遠沈管に分注した。遠沈管を190Gで3分間遠心分離して上清を取り除き、等量のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、ナカライテスク社)で懸濁し、再度190Gで3分間遠心分離した。遠心分離後再度上清を取り除き、酵素液(プロテアーゼ、TrypLE Select、Gibco社)を添加した。酵素液は、0.5mMのEDTAを含むPBSで2倍に希釈した酵素液(10μMのY27632を含有、以下、0.5×TrypLE Selectという)を12.5mL添加した。
細胞分散装置を使用しない場合(用手法やマニュアル法ともいう)は、遠沈管を37℃で5分間保温したのち、ピペッターを用いて処理液を勢いよく出し入れすること(以下、ピペッティングという)により細胞凝集塊を分散した。ピペッターはDrummond Scientific Company社製ピペット・エイド(10mL)を使用した。再度37℃で5分間保温した後、ピペッティングによる細胞凝集塊の分散を、凝集塊が目視で見えなくなるまで繰り返した。条件を揃えるため、10mLピペットを用いて自動ピペッターの吸引・排出の速度設定を最大に合わせ、遠沈管の底部にピペットの先端を当て、液の出し入れを5回繰り返した後、酵素を用いて5分間処理し、均一な単細胞の懸濁液を得た(これを2回繰り返す場合は、液の出し入れが10回、酵素処理が10分間となる)。
細胞分散装置を使用する場合(以下、デバイス法ともいう)は、0.5×TrypLE Selectに懸濁した細胞凝集塊を細胞分散装置に入れ、加湿炭酸ガスインキュベーター内に設置したマグネティックスターラー(MD-200、ヤマト科学)に載置し、室温において、1200rpmで円筒状部材を回転させて処理液をテイラー渦流の状態にし、約5分間酵素処理を行った。
なお、1000rpm〜1500rpmの条件におけるせん断方向の流速度とせん断応力は、事前に行った粒子イメージ流速計測(Particle Image Velocimetry:PIV)の結果から以下のように算出された。なお、粒子イメージ流速計測では、比重1.101g/mL、粘性3.72cPの液体を利用した。
(流速度)
・シリンダー外径22mm: 0.392〜0.491 m/s
・シリンダー外径25mm: 0.331〜0.623 m/s
・シリンダー外径28mm: 0.750〜0.751 m/s
(せん断応力)
・シリンダー外径22mm: 87.6〜121.5Pa
・シリンダー外径25mm: 88.4〜162.6Pa
・シリンダー外径28mm: 301.5〜302.2Pa
分散処理後の細胞懸濁液は、処理後すぐに、終濃度10μMのY27632を含む等量のStemFit AK03Nを添加してセルストレーナー(Corning社、メッシュサイズ:40μm)でろ過し、190Gで3分間遠心分離した。遠心分離後、上清を取り除き、終濃度10μMのY27632を含むStemFit AK03Nに懸濁させた。
(4)分散処理後の分析
上記(3)で得られた処理液について、一部をPBSで適宜希釈してトリパンブルーで染色し、顕微鏡下で血球計算板にて生細胞数を目視にてカウントした。結果を図2に示すが、シリンダーの外径が小さくなると回収効率がやや低くなる傾向が見られたものの、マニュアル法と同程度の回収効率となった。
図3に示すように、分散処理前の細胞凝集塊は、直径約100〜300μmの球体であったが、分散処理によって、細胞凝集塊が少なくなったことが確認された。すなわち、本発明に係る細胞分散装置を用いた場合には、シリンダーの外径が小さくなると細胞凝集塊が残りやすい傾向が見られた。
(5)分散処理した単細胞の再生育
上記(3)で得られた単細胞(iPS細胞)について、その増殖能を確認した。具体的には、上記(3)で得られた細胞懸濁液を上記(1)と同条件で100mLバイオリアクターに再播種したところ、4日間の培養で同程度の生育を示した。すなわち、本発明の細胞分散装置によって単細胞まで分散されたiPS細胞は、本来の増殖能を維持していることが確認された。
実験2:心筋細胞の細胞分散
(1)心筋細胞の細胞凝集塊の分散
一般に、ヒトiPS細胞は、分化誘導により様々な細胞への分化が可能であり、これらの細胞は再生医療や安全性薬理試験等への使用が想定されている。3次元浮遊攪拌懸濁培養などによる分化誘導は、未分化増幅同様に細胞凝集塊形成を伴うため、分化誘導後の細胞凝集塊の効率的な分散は、目的細胞の効率的な回収や収量の確保に不可欠である。
そこで本実験では、3次元浮遊培養環境下に、時期特異的に増殖因子および低分子化合物を添加することでヒトiPS細胞から心筋細胞へと分化誘導し、得られた心筋細胞の細胞凝集塊について、実験1と同様に分散実験を行った。具体的には、iPS細胞(Ff-i14、京都大学)から分化誘導した心筋細胞の細胞凝集塊について、実験1に記載した分散装置を用いて単細胞への分散実験を行った。分化誘導後14日目の細胞凝集塊(心筋細胞の細胞塊)を使用して、実験を実施した。
100mL vesselで心筋細胞に分化誘導された細胞凝集塊(100mL分)を、各条件20mLずつ使用した。使用する細胞凝集塊をコニカルチューブ(50mL容、Corning社)に移し、室温にて、190Gで1分間遠心処理した。上清を吸引除去し、20mLのPBS(ナカライテスク)で再懸濁後、再度、室温にて、190Gで1分間遠心処理した。上清を吸引除去し、0.05%TE (0.25% trypsin/EDTAをPBS(-)で5倍に希釈)12.5mlを添加し再懸濁した。
(マニュアル法による細胞分散:Manual) 上記酵素と細胞凝集塊が入った50mLのコニカルチューブを、37℃の恒温槽に入れ10分間静置した(2分おきにピペットで攪拌)。10分後、恒温槽より取り出し、クリーンベンチ内で、10mLピペット(falcon)を使用して、細胞凝集塊が肉眼で見えなくなるまでピペッティングを繰り返した。
(デバイス法による細胞分散:Device) 上記酵素(0.05% TE 12.5mL)と細胞凝集塊を細胞分散装置(回転部材の外径:28mm)に入れ、37℃ CO2インキュベーター内で、1000rpm, 1500rpm, 2000rpmの回転数で10分間攪拌した。いずれの条件でも、装置内を周回する処理液はテイラー渦流の状態となる。
上記の細胞分散後の処理液(マニュアル法およびデバイス法)に対して、12.5mLの10%FBS DMEM(sigma社)を添加し、室温にて、190Gで3分間遠心処理した。上清を吸引除去した後、15mLの10%FBS DMEMで再懸濁し、40μmのストレーナーに通した後の細胞浮遊液について、細胞数を計測した。
結果を図4〜5に示すが、本発明によって、心筋細胞の細胞凝集塊を分散できることが確認できた。特に、シリンダー外径が28mmの細胞分散装置を用いて、1500rpmでヒトiPS細胞由来細胞凝集塊をタンパク分解酵素とともに処理することにより、マニュアル法と同等の細胞数の回収が可能となった。
図4(棒グラフ)のデータ
・1000rpm: 2.6×10cells
・1500rpm: 3.3×10cells
・2000rpm: 2.9×10cells
・手作業: 2.5×10cells
図5(棒グラフ)のデータ
・Manual: 3.4×10cells ± 1.3×10cells
・Device: 3.7×10cells ± 1.3×10cells
(2)
上記(1)によって、細胞分散装置を用いて細胞凝集塊を分散することで、手作業と同等の収量が得られることが明らかとなった。一般に、分化誘導後の心筋細胞の細胞凝集塊は、心筋細胞のみで構成されるものではない(心筋細胞の純度が100%ではない)ため、回収された細胞中の目的細胞の割合の評価が不可欠である。そこで、デバイス法およびマニュアル法で分散された細胞について、そこに含まれる心筋細胞の割合をフローサイトメーターで評価した。
具体的には、回収した細胞(1.0×10cells)を4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗心筋トロポニンマウスモノクローナル抗体(ThermoFisher Scientific社、MS295-P1 clone 13-11)を用いて染色した後、Cy3標識抗マウス抗体で染色し、FACSにて心筋純度を測定した。対照(isotype control)には、マウスIgG1抗体(DAKO社、X0931)を使用し、FACSには、MofloXDP(ベックマンコールター社)を使用した。
結果を図6に示すが、(1)で分散された細胞中には、いずれも、心筋トロポニンT陽性の心筋細胞が約90%含まれており、両手法間でその割合に差は認められなかった。すなわち、細胞分散装置を用いた分散によっても、手作業による分散と同等に目的細胞である心筋細胞の回収が可能であることが明らかとなった。
図6(棒グラフ)のデータ
・Manual: 88.7±3.0%
・Device: 93.0±1.6%
(3)
細胞分散装置によって回収された心筋細胞が、手作業によって回収された心筋細胞と同様に培養可能であるかについて確認した。すなわち、細胞凝集塊の分散は、細胞に対する物理的ストレスを伴うため、過度のストレスが細胞へ障害をきたすことが懸念されることから、回収後の細胞の培養後の評価が不可欠である。そこで、細胞分散装置と手作業によって回収された心筋細胞を同期間培養し、培養後の心筋細胞数を評価した。
各条件で回収した細胞を24ウェルプレート(Falcon社)に播種した(1.0×10cells/well、培地:10%FBS DMEM)。播種後2〜3日後に4%パラホルムアルデヒドを使用して固定し、抗心筋トロポニンTラビットポリクローナル抗体(Abcam社)を用いて染色した後に、FITC標識抗ラビット抗体で染色した。核は、Hoechst 33258(Invitrogen社)を使用して染色した。
染色した細胞について、ImageXpress(Molecular Device社)を用いて各ウェル内の画像を取得し(49視野を20倍レンズで撮像)、MetaXpressおよびAcuity Softwear(いずれもMolecular Device社)を用いて各ウェル内の心筋トロポニンT陽性細胞数を計測した。
結果を図7に示すが、デバイス法とマニュアル法で、心筋細胞数には差を認めなかった。すなわち、細胞分散装置を用いた新たな細胞凝集塊分散手法は、目的細胞である心筋細胞へ影響少なく回収され、結果手作業による回収手法と同様に心筋細胞が状態良く維持培養されたことが示唆された。
図7(棒グラフ)のデータ
・Manual: 13690±2475 cells
・Device: 13356±2734 cells
(4)
一般に、心筋細胞への分化誘導後の細胞凝集塊には、未分化のiPS細胞がわずかに残存する。そこで細胞分散装置と手作業によって回収された単一細胞について、未分化iPS細胞の残存割合をフローサイトメーターにより評価した。
回収した細胞(1.0×10cells)を、4%パラホルムアルデヒドを使用して固定し、FITC標識抗Tra-1 60マウスモノクローナル抗体(BD社、560380)を用いて染色し、残存している未分化iPS細胞をFACSで測定した。対照(isotype control)には、FITC標識マウスIgMκ抗体(555583)を使用した。FACS解析機器としてはMofloXDP(ベックマンコールター社)を使用した。
結果を図8に示すが、Tra-1 60陽性の未分化iPS細胞は、いずれの方法で回収された細胞にも検出されなかった。対照(Isotype control)での陽性割合が1%以下となるように設定したところ、Tra-1 60陽性細胞は0.2%未満であり、検出限界以下となった。すなわち、細胞分散装置による心筋分化誘導後細胞凝集塊の分散は、未分化iPS細胞の残存比率には影響せずに細胞の回収を可能にすることが明らかとなった。
図8(棒グラフ)のデータ
・Manual: Tra-1 60, 0.13±0.03; isotype, 1.00±0.01
・Device: Tra-1 60, 0.18±0.10; isotype, 0.99±0.01
(5)
上述したようにフローサイトメーターによる評価では、細胞分散装置および手作業による心筋分化誘導後細胞凝集塊分散後の細胞中にTra-1 60陽性の未分化iPS細胞は検出されなかったが、より鋭敏な指標であるLin28のmRNA発現よってiPS細胞の残存を評価した。
回収した細胞を6ウェルプレート(Corning社)に播種(1ウェルあたり4×10個、培地:10%FBS DMEM)。培養開始後1日後と4日後にRNA Protect Cell Regent(Qiagen社)を用いて細胞回収し、Rneasy mini kit(Qiagen社)を用いてtotal RNAを回収した。最初のサンプル(Day0のサンプル)は、回収直後の細胞から上記と同様にしてtotal RNAを回収した。
TaqMan(商標)Fast Advenced Master Mix(Applied Biosystems社)を用いて定量的RT-PCRを行った。
結果を図9に示すが、両手法ともに回収直後の細胞においてLin28の発現が認められ、その発現レベルは両手法間で差は認めなかった。
一方で、回収された細胞を培養し、4日目のLin28の発現レベルを比較すると、手作業によって回収された細胞に比して、細胞分散装置で回収された細胞ではLin28の発現レベルが有意に低値であった。このことは、細胞分散装置を用いて回収された細胞中の残存iPS細胞の増殖が抑制されたことを示唆するものである。ヒト多能性幹細胞は、単一状態では細胞死に至りやすいことが広く知られている。手作業による分散では、分散レベルにバラツキが生じやすいため、残存する未分化iPSが細胞凝集塊中に残存して細胞死を免れ、培養後に再増殖するのに対し、細胞分散装置による回収では、より均一に分散が可能であるために、単一細胞状態となった残存iPS細胞の生存・再増殖が困難であることが、本結果に影響しているものと考えられる。
図9(棒グラフ)のデータ
(Day 0) Manual: 0.032±0.023; Device: 0.013±0.010
(Day 1) Manual: 0.024±0.017; Device: 0.015±0.007
(Day 4) Manual: 0.076±0.036; Device: 0.028±0.007

Claims (7)

  1. 細胞凝集塊を単一の細胞に分散する装置であって、
    細胞凝集塊を含む処理液を収納する円筒形状の槽と、
    前記槽の内側に、前記槽と同軸で回転可能に取り付けられる回転部材と、
    を備え、前記回転部材を回転させることによって、前記槽内を周回する処理液を、テイラー渦流の状態で周回させて細胞凝集塊を単一の細胞に分散する、上記装置。
  2. 前記処理液が、細胞凝集塊分解酵素を含む、請求項1に記載の細胞分散装置。
  3. 回転部材を回転させるためのスターラーをさらに備える、請求項1または2に記載の細胞分散装置。
  4. 前記回転部材は円筒形となっている、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞分散装置。
  5. 細胞凝集塊を単一の細胞に分散する方法であって、
    細胞凝集塊を含む処理液を収納する円筒形状の槽において、前記槽の内側面に沿って前記処理液を周回させることによって前記細胞凝集塊を単一の細胞に分散することを含む、上記方法。
  6. 前記槽の内側に同軸で回転可能に取り付けられる回転部材が回転することによって、周回する処理液をテイラー渦流の状態にすることを含む、請求項5に記載の方法。
  7. 前記細胞凝集塊が、多能性幹細胞を含んでなる、請求項5または6に記載の方法。
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