JP2014161254A - イヌのiPS細胞の作製方法 - Google Patents

イヌのiPS細胞の作製方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2014161254A
JP2014161254A JP2013033588A JP2013033588A JP2014161254A JP 2014161254 A JP2014161254 A JP 2014161254A JP 2013033588 A JP2013033588 A JP 2013033588A JP 2013033588 A JP2013033588 A JP 2013033588A JP 2014161254 A JP2014161254 A JP 2014161254A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cells
canine
cell
culture
platelets
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2013033588A
Other languages
English (en)
Inventor
Toshio Inaba
俊夫 稲葉
Toshiya Nishimura
俊哉 西村
Shingo Hatoya
晋吾 鳩谷
Kikuya Sugiura
喜久弥 杉浦
Mitsuru Kuwamura
充 桑村
Joji Yamate
丈至 山手
Takeshi Izawa
武史 井澤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Osaka University NUC
Osaka Prefecture University PUC
Original Assignee
Osaka University NUC
Osaka Prefecture University PUC
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Osaka University NUC, Osaka Prefecture University PUC filed Critical Osaka University NUC
Priority to JP2013033588A priority Critical patent/JP2014161254A/ja
Publication of JP2014161254A publication Critical patent/JP2014161254A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

【課題】阻害剤を用いず、数少ない導入遺伝子数でマウス型のイヌiPS細胞を作製する方法を提供する。
【解決手段】イヌの体細胞、例えば胎子線維芽細胞に次の4つの遺伝子:OCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCを、レンチウイルスを用いて導入し、好ましくは3.6×10程度の高濃度のフィーダー細胞、20%のKSR、hLIF、hbFGFの存在下で培養してイヌiPS細胞を得る。このイヌiPS細胞から胚様体、三胚葉が得られ、血小板が分化誘導される。
【選択図】図11

Description

本発明は、イヌのiPS細胞の作製方法に関する。
現代社会において、イヌは伴侶動物・盲導イヌ等の介助動物としてヒトの健康や福祉に利用されつつある。また30年以上前から実験動物として利用されており、医学・薬学・生物学における分野でその重要性が益々増大しつつある。イヌはマウスやラットなどの小型の実験動物に比べ、大型の実験動物であり、寿命も長いことから、比較的多量の薬物や生物製剤の投与が可能であり、長期間にわたるモニターにも適している。また、ヒトと同様の環境で生活していることからもヒトの疾患モデル動物としてより重宝されてきた。現在では、イヌの全ゲノム配列が解明され、58%以上の遺伝子疾患がヒトと同様であることが報告されている。また、イヌはヒトと共通の癌を自然発症し、その生物学的、組織学的特徴が似ていることから、再生医療で最も問題とされている腫瘍化の疾患モデルとしても非常に有用であると考えられている。
例えば、血小板減少症はイヌとヒトで共通の疾患であり、点状出血や鼻出血などを主徴として、血小板数の減少を生じる疾患である。本症は自己免疫疾患や血小板の機能異常などが原因で起こる。近年では、医療の高度化により悪性腫瘍に対する抗がん剤や放射線治療において、骨髄の造血抑制による血小板減少症もしばしば問題となる。本症の治療法として新鮮血小板の輸血があるが、ドナー確保の難しさ、ウイルス感染の危険性、血小板製剤の保存期間の短いことなどから、長期間を要する治療法としては問題があり、新たな治療法が求められている。
近年、ヒトにおいて血小板減少症に対する治療法として、再生医療の応用による新たな治療法の可能性が注目されている。すなわち、マウスの誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS細胞(人工多能性幹細胞))が樹立されたことにより(非特許文献1、特許文献1)、これまでの人工組織・臓器による再生医療から、細胞移植による再生医療が主眼となってきている。iPS細胞は胚性幹細胞(ES細胞)で特徴的に発現している4つの遺伝子OCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCを体細胞に組み込み、成体の細胞を若返らせる(初期化あるいはリプログラミングと呼ぶ)ことによって作製されたもので、ES細胞と同様に無限の自己複製能と多分化能を有している。最近では、ヒトを含めたいくつかの動物種でiPS細胞が樹立されており(非特許文献2〜6)、神経細胞、血液細胞など様々の細胞への分化誘導が報告されている(7〜11)。しかしながら、iPS細胞の臨床応用にはまだ至っておらず、その背景にはヒトの再生医療において安全性や有効性を検証するための適切な疾患モデル動物がいないことが挙げられる。
iPS細胞の作製方法には、遺伝子導入にレトロウイルス(非特許文献12)やレンチウイルスを用いるもの(非特許文献13)などがあり、その培地への添加血清としてFBS(非特許文献12)やKSRを用いるもの(非特許文献14)などがある。また、フィーダー細胞であるMEFの濃度を変えることによりES細胞の未分化状態を維持できたという報告もあり(非特許文献15)、多能性幹細胞の作製法・維持法は動物種によって異なっている。
iPS細胞はその未分化状態の違いによって、多分化能に差が生じることが知られている(非特許文献16)。最近、未分化状態が低い、いわゆる「部分的にリプログラミングされたiPS細胞」が移植治療での問題となっている。このような細胞が移植された組織内に残存することで、癌化のリスクを上げる可能性があると考えられている。iPS細胞などの多能性幹細胞の未分化状態を決める指標として、未分化遺伝子、コロニーの形態などが示唆されており、ヒトと同様に扁平コロニー形成能をもつものをヒト型、マウスと同様に立体コロニー形成能をもつものをマウス型といい、より未分化状態の高いマウス型のiPS細胞の作製が望まれている。
イヌiPS細胞の作製は、例えば非特許文献17〜21に報告されている。非特許文献17や18ではレトロウイルスが使用されている一方で、その他の報告ではすべてレンチウイルスが使用されている。しかしながら、これらの非特許文献で作製されたイヌiPS細胞はそのほとんどが、ヒトiPS細胞と同様に扁平なコロニーであり、より未分化なマウスiPS細胞に類似した立体的なコロニー形成能をもつものも報告されてはいるが(非特許文献21)、導入する遺伝子数が多く、各阻害剤を培地に添加しなければその形態は維持できない(非特許文献21)。そして、導入遺伝子数が多ければ腫瘍化のリスクも増大し、阻害剤は一時的に未分化能を高めているだけと言われている。これらのことから、こうした阻害剤を用いず、できるだけ導入遺伝子数を少なくしてマウス型のイヌiPS細胞を作製することが重要と考えられる。
ところで、医療現場で使用されている血小板製剤は、生体から採取した血液から血小板を分離することで得られる。しかし、その保存期間は約1週間と短く、また室温で保存しなければその機能が損なわれることから、安定して血小板を得る方法の開発が求められている。このことから、より安定して継続的に血小板を得る方法として、in vitroで血小板の前駆細胞から血小板へ分化・誘導する方法の開発が進められている。すなわち、血小板の前駆細胞の細胞源として骨髄や臍帯血、あるいは末梢血から分離されるCD34陽性の造血幹細胞が注目され(非特許文献22〜24)、造血幹細胞をthrombopoietin(TPO)添加培地で培養することで、巨核球および血小板へ分化誘導できることが示されている(非特許文献25)。しかしながら、生体から分離できるCD34陽性細胞の数は非常に少なく、また、in vitroでの増殖も困難なことから、大量のCD34陽性細胞を得る方法の開発が必要となっている。
一方、ヒトES細胞やヒトiPS細胞から、それぞれ嚢状構造物(ES-sac, iPS-sac)を経ることにより、血小板に分化誘導できることが報告されている(非特許文献26、27)。これらの報告に従えば、in vitroで大量の造血幹細胞、巨核球、血小板などを分化誘導できると言える。しかしながら、現在iPS細胞から血小板への分化誘導はヒトでしか報告されておらず、イヌでの分化誘導の報告は見当たらない。
国際公開 WO2007/069666号
Yamanaka S. et al., Cell. 2006 126:663-76 Yamanaka S. et al., Cell. 2007 131:861-72 Liu H. et al., Cell Stem Cell., 2008, 3:587-90 Liskovykh MA. et al., Tsitologiia., 1981 53:939-45 Esteban MA., et al., J Biol Chem., 2009, 284:17634-40 Honda A. et al., J Biol Chem., 2010, 285:31362-9 Roy NS. et al., Nat Med., 2006, 12:1259-1268 Laflamme MA. et al., Am J Pathol., 2005, 167:663-671 Dimos JT., et al., Science, 2008, 321:1218-21 Narazaki G. et al., Circulation, 2008, 118:498-506 Niwa A, et al., J Cell Physiol., 2009, 221:367-77 Takahashi K. et al., Cell, 2006, 2126:663-76 Sommer CA. et al., Stem Cells, 2009, 27:543-9 Takahashi K. et al., Cell, 2007, 131:861-72 Honda A. et al., Reprod Biomed Online, 2008, 17:706-15 Ramos-Mejia V. et al., Nature 1987, 292:154-156 Shimada H. et al., Mol Reprod Dev., 2010, 77:2 Koh et al., Growth Requirements and Chromosomal Instability of Induced Pluripotent Stem Cells Generated from Adult Canine Fibroblasts,[online], 1012 Nov. 28, Stem Cells Dev., インターネット<URL: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=Growth+requirements+and+chromosomal+instability+of+induced+pluripotent+stem+cells+generated+from+adult+canine+fibroblasts.> Luo J. et al., Stem Cells Dev., 2011, 20:1669-78 Lee AS. et al., J Biol Chem., 2011, 286:32697-704 Whitworth DJ. et al, 2012,Stem Cells Dev., 21:2288-97 Guerriero R. et al., Blood, 1995, 86:3725-36 Debili N. et al., Blood, 1995, 86:2516-25 Hagiwara T. et al., Exp Hematol, 1998, 26:228-35 Choi ES. Et al., Blood, 1995, 85:402-13 Takayama N. et al., Blood, 2008, 111:5298-306 Takayama N. et al., J Exp Med., 2010, 207:2817-30
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明は阻害剤を用いず、数少ない導入遺伝子でマウス型のイヌiPS細胞を作製する方法を提供することを課題とする。また、iPS細胞から血小板を分化誘導する方法を提供することも課題とする。
本発明の方法は、イヌの体細胞からiPS細胞を作製する方法であって、次の4つの遺伝子:OCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCを体細胞に導入する工程を有する方法である。
本発明によると、イヌの体細胞からマウス型のイヌiPS細胞を作製することができる。また、この細胞を分化誘導すればイヌの血小板その他イヌの幹細胞、体細胞がin vitroで大量に製造される。
図1はレトロウイルスを用いて遺伝子導入することで出現したコロニーを示す画像である。 図2はレンチウイルスを用いて遺伝子導入することで出現したコロニーを示す画像である。 図3はレンチウイルスを用いて遺伝子導入することで出現した立体コロニーのALP染色による画像である。 図4はレンチウイルスを用いて遺伝子導入しKSRを添加することで培養して得られたイヌiPS細胞の免疫染色による画像である。AはNanog、BはStage Specific Embryonic Antigen 4(SSEA4)、CはTumor Rejection Antigen 1-60(TRA1-60)に対する染色画像である。 図5は胚様体のcDNAの増幅に用いたプライマーの塩基配列を示す図である。(A)はイヌDESMIN遺伝子配列をもとに作製したプライマーの塩基配列、(B)はイヌOCT3/4遺伝子配列をもとに作製したプライマーの塩基配列である。 図6はイヌiPS細胞の内因性遺伝子の発現を示す画像である。ciPSCはイヌ人工多能性幹細胞、CEFはネガティブコントールであるイヌ胎子線維芽細胞を示す。それぞれ上からREX1, OCT3/4, NANOG, β-ACTINに対する各染色画像である。 図7はRT-PCRによるイヌiPS細胞の外因性遺伝子の発現を示す画像である。P5は第5代のiPS細胞、P17は第17代のiPS細胞、CEFはネガティブコントールであるイヌ胎子線維芽細胞を示す。それぞれ上からhOCT3/4, hSOX2, hKLF4, hC-MYC, β-ACTINの画像である。 図8は浮遊培養することで得られた胚様体と胚様体を接着培養することで得られた細胞の免疫染色による画像である。Aは胚様体の画像、BはClass III β-tublin(Tuj1)、CはDesmin、DはSox17に対する染色画像である。 図9はRT-PCRにより胚様体から得られた細胞の遺伝子発現を示す画像である。EBsは胚様体から得られた細胞、ciPSCはネガティブコントロールであるイヌ人工多能性幹細胞を示す。それぞれ上からTUJ1, DESMIN及びAFPに対する染色画像である。 図10はイヌiPS細胞(第16代)の染色体画像である。 図11はOP9細胞との共培養2日でのイヌiPS細胞の分化コロニーを示す画像である。矢印は浮遊細胞を示す。 図12Aは培養13日に出現した嚢状構造物を示す画像、同Bは嚢状構造物の辺縁から放出される大型円形細胞を示す画像である。 図13は培養上清中の浮遊細胞の光学顕微鏡観察による画像及びギムザ染色による画像である。Aは培養2日の巨核球様細胞、Bは培養34日の巨核球様細胞、Cは造血幹細胞様の細胞、Dは前血小板様の細胞を示す。 図14は培養上清中の細胞におけるCD34分子の発現及びCD41/61分子の発現を示す図である。 図15は培養上清中にみられた巨核球のフローサイトメトリーによるDNA量を示す図である。 図16はフローサイトメトリーによる成イヌ末梢血中及び培養上清中の血小板様粒子の形状を示す図である。Aは末梢血中の血小板様粒子を、Bは培養34日の血小板様粒子を示す。 図17は成イヌ末梢血および培養上清から分離した粒子のCD41/61分子の発現を示す図である。Aは末梢血から分離したCD41/61分子を発現した粒子、Bは培養34日の上清から分離したCD41/61分子を発現した粒子を示す。 図18は培養上清中の血小板数を示すグラフである。 図19は培養34日における分離血小板のフィブリノゲンとの結合能を示す図である。上はThrombinとEDTAを添加した場合を、下はADPとEDTAを添加した場合を示す。 図20は電子顕微鏡による分離血小板の構造を示す画像である。左は末梢血中から分離した血小板を、右は培養上清中から分離した血小板を示す。
本発明の方法は、イヌの体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作製する方法であって、次の4つの遺伝子:OCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCを体細胞に導入する工程を有する。iPS細胞とは、ES細胞に近い性質を有する細胞であり、より具体的には、未分化であってかつ多能性及び増殖を有する細胞を意味するが、これに限定されることなく、体細胞の核が初期化された状態のあらゆる細胞を含む意味で用いられ、特許文献1や非特許文献1に開示された人工多能性幹細胞と同義である。
人工多能性幹細胞では、導入された4つの遺伝子が発現することによって、核の初期化が行われる。従って、これらの4つの遺伝子のうち、1又は複数の遺伝子が既に発現されている体細胞から人工多能性幹細胞を作製する場合には、発現されていない遺伝子のみを導入し、発現させてもよい。
人工多能性幹細胞を作製するに用いられるイヌの体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を利用できる。例えば、胎子期の体細胞(胎子線維芽細胞など)のほか、成熟した体細胞を用いることができる。
4つの遺伝子は公知である。4つの遺伝子の由来は問われないが、本発明では、ヒト由来又はマウス由来の遺伝子が好ましい。また、4つの遺伝子は異なる由来の遺伝子を組み合わせてもよいが、同じ由来の遺伝子を組み合わせるのが望ましい。
4つの遺伝子の導入方法も特に限定されず、公知の方法が用いられる。例えば、体細胞及び人工多能性幹細胞が増殖可能な培地に4つの遺伝子を添加して培養する方法、4つの遺伝子を発現可能な遺伝子を含むベクターを体細胞に導入する方法が例示される。ベクターを導入する方法も公知であり、例えばレトロウイルスやレンチウイルスなどのウイルスを導入する方法が例示される。本発明ではいずれの方法でもよいが、ドーム型のコロニーであるマウス型のiPS細胞を高い確率(収率)で得られる点からは、レンチウイルスを用いて4つの遺伝子を導入するのが好ましい。
4つの遺伝子が導入された細胞はフィーダー細胞と血清成分の存在下で培養される。フィーダー細胞の存在下でES細胞やiPS細胞を培養することも公知であり、これらの方法が用いられる。フィーダー細胞の由来も限定されるものではないが、マウスのフィーダー細胞が好ましく用いられる。フィーダー細胞数は任意に定められる。フィーダー細胞数は、35mmディッシュを用いた場合、例えば35mmディッシュ1枚当たり、少なくとも0.1×10個以上であり、0.4×10個以上であり、1.0×10個以上であり、1.5×10個以上であり、2.0×10個以上であり、3.0×10個以上である。後述するように、阻害剤の含まれていない培地を用いて、マウス型のiPS細胞を作製する場合には、高濃度のフィーダー細胞を用いるのが好ましく、少なくとも1.5×10個以上、望ましくは3.0×10個以上のフィーダー細胞の存在下で培養するのが好ましい。その上限は、任意に設定できるが、フィーダー細胞の濃度を高くすると、増殖が抑えられる傾向になる。具体的には、多くとも1.0×10であり、7.0×10個であり、6.0×10個であり、好ましくは5.0×10である。
本発明の製造方法では、血清成分としてFSB(ウシ胎子血清)ではなくKSR(KnockOut Serum Replacement:ノックアウト血清代替物)のみが用いられる。KSRも公知であり、ライフテクノロジージャパン社から市販されているものが使用される。KSRの使用濃度も適宜当業者が決定できるが、マウス型のiPS細胞作製のためには高濃度で用いるのが好ましく、少なくとも15%以上、好ましくは20%以上のKSRの存在下で培養する。また、その上限は、任意に設定できるが、多くとも50%であり、40%であり、好ましくは30%である。
4つの遺伝子が導入された細胞の培養は、前記フィーダー細胞及びKSRの他に、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor: LIF)および塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor, bFGF)の存在下において行われる。これらの濃度も適宜当業者が決定できる。LIFの濃度は10〜10,000U/mlであり、好ましくは100〜5000U/mlであり、望ましくは500〜2000U/mlである。bFGFの濃度は0.1〜100ng/mlであり、好ましくは1〜50ng/mlであり、望ましくは2〜10ng/mlである。
本発明では、4つの遺伝子が導入された細胞の培養は、前記フィーダー細胞、KSR、LIF及びbFGFの存在下において行われ、その他の添加因子である阻害剤や抑制剤の非存在下で行われる。すなわち、マウス型のイヌiPS細胞は、好ましくは2.0×10個以上、より好ましくは3.0×10個以上のフィーダー細胞と、好ましくは20%以上のKSRと、500〜2000U/mlのLIFと、2〜10ng/mlのbFGFの存在下で4つの遺伝子が導入された細胞を培養することで効率的に作製される。なお、本発明において、「添加因子」という用語は当業者に通常理解される意味で用いられ、iPS細胞を作製するに必要とされる特別な因子(例えば、FGF2やMAP2K1抑制因子、GSK3β抑制因子、MEK抑制因子、TGF-β拮抗剤など)を意味し、一般的な細胞の増殖や維持に通常用いられる成分(例えば、ペニシリンやストレプトマイシンなど)は、本明細書における「添加因子」には含まれない。また、細胞培養のための培地は、iPS細胞の作製に用いられる培地であればよく、公知の培地、例えば、市販されているDMEM/F-12(SIGMA社製)が使用できる。
作製されたイヌiPS細胞は、未分化マーカーであるALP、Nanog、TRA-1-60、SSEA4染色陽性を示し、NANOG、OCT3/4およびREX1遺伝子の発現が確認される。そして、少なくとも20継代以上、さらには25継代以上マウス型のコロニーを保持しながら培養できる。また、導入されたOCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCの全ての遺伝子は17継代以降でその発現がほとんど抑制された。作製されるiPS細胞は、ES細胞に特異的なマーカーであり、ES細胞に比べて分化が進んだ着床後胚の後期エピブラストから樹立された細胞(Epiblast stem cells、EpiSC)などの幹細胞では発現しておらず、未分化状態の指標となり得るREX1遺伝子を発現していたことから、既報のイヌiPS細胞よりも未分化状態の高いiPS細胞であると言える。
作製されたイヌiPS細胞は、ヒトiPS細胞やES細胞と同様に、種々の体細胞、例えば神経細胞や心筋細胞、血球細胞などへの分化機能を有しており、分化誘導させることで中枢神経や末梢神経、皮膚や血液、心臓や肺、肝臓などの各種臓器を作製できる。
分化させる方法も公知であり、レチノイン酸、EGFなどの増殖因子、グルココルチコイドなどで処理する方法が例示される。例えば、造血幹細胞に分化させるには、当該細胞を、VEGFなどの分化促進因子の存在下で、OP9細胞と共培養する。
以下、以下の実施例に基づいて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されないのは言うまでもない。
〔イヌiPS細胞株の作製〕
まず、遺伝子導入にレトロウイルスとレンチウイルスの2通りの方法を用い、添加因子をFBSとKSRに分け、さらに、フィーダー細胞であるMEFの濃度を変え、より未分化なイヌiPS細胞株の作製を試みた。なお、以下において、試薬の濃度は全て最終濃度である。
(材料と方法)
1.供試動物
実験にはICRマウス(Slc:ICR、日本SLC社製、浜松)を用いた。
2.マウス胎子線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)の作製
1)MEFの培養
MEFの作製のために、妊娠14.5日齢のICRマウス2匹を頸椎脱臼し、直ちに子宮から胎子を取り出した。取り出した胎子をダルベッコCa2+、Mg2+不含リン酸緩衝生理食塩水(D-PBS(−))で洗浄し、胎子に付着している血液を除去した。顕微鏡下で胎子の頭および内臓を取り除いた後、18G注射針をつけた注射器に胎子を入れ、培養液で浸した培養ディッシュに注射針の先端から胎子を押し出した。これを数回繰り返すことで、胎子を細断した。培養液はDulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)(SIGMA社製、St. Louis、MO)に10%ウシ胎子血清(FBS、PAA Laboratories GmbH 社製、Ontario、Canada)、2mM L-glutamine(SIGMA社製)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(SIGMA社製)を添加したものを使用した。100mm組織培養用ディッシュ(IWAKI社製、東京)に上記の培養液10mlを用いて、37℃、5%CO2下で培養した。この初代培養細胞は増殖後、継代を行い、3代以内の継代細胞を実験に使用した。
2)MEFのマイトマイシンC処理および凍結保存
ディッシュ一面に増殖したMEFに、10μg/mlマイトマイシン注用(協和発酵工業社製、東京)を添加し、37℃、5%CO2下で2.5時間培養した。その後、D-PBS(−)5mlで細胞を洗浄し、0.25%トリプシン-EDTA溶液(SIGMA社製)で細胞を回収し、セルバンカー(日本全薬工業株式会社製、福島)を用いて−80℃で凍結保存した。凍結細胞は実験前に37℃で解凍し、0.1%ゼラチン(SIGMA社製)で処置した35mm組織培養用ディッシュ(IWAKI社製)に1枚当たり、細胞数が1.5×105あるいは3.6×105個となるように調節した。MEFは使用する1日前に準備し、さらに準備後3日以内のものを使用した。
3.293FT細胞の培養と凍結保存
293FT cell line(Invitrogen社製)を用いた。培養液はDMEMに10%FBS、2mM L-glutamine、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、0.1mM MEM NEAA(GIBCO社製)、1mM sodium pyruvate(SIGMA社製)、500μg/ml geneticin(Invitrogen社製、培養初日および遺伝子導入時は除去)を添加したものを使用した。100mm組織培養用ディッシュに上記の培養液10mlを用いて、細胞数が2×106個の濃度で、37℃、5%CO2下で培養した。この培養細胞は増殖後、0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて回収し、4代以内の継代細胞を実験に使用した。凍結培地には293FT細胞培地に10%dimethyl sulfoxide(SIGMA社製)を添加したものを用い、−80℃で凍結保存した。
4.Plat-E細胞の培養と凍結保存
Platinum-E Retroviral Packaging Cell Line, Ecotropic(Cell Biolabs社製、San Diego、CA)を用いた。培養液はDMEMに10%FBS、1μg/ml puromycin(SIGMA社製)、1μg/ml blasticidin S hydrochloride(フナコシ社製、東京)、50IU/mlペニシリン−50μg/mlストレプトマイシン混合溶液を添加したものを使用した。100mm組織培養用ディッシュに上記の培養液10mlを用いて、細胞数が2×106個の濃度で、37℃、5%CO2下で培養した。この培養細胞は増殖後、0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて回収し、4代以内の継代細胞を用いて実験に使用した。凍結培地にはセルバンカーを用い、−80℃で凍結保存した。
5.大腸菌DH5α株へのプラスミドの導入
大腸菌DH5α株にCMV-hOCT3/4、CMV-hC-MYC、CMV-KLF4、CMV-SOX2プラスミド(RIKEN提供、筑波)をヒートショック法によって導入した。導入後、線画培養にて一晩培養し、さらに一晩液体培養したのち、菌液と同量の50%glycerolを加えて30分間氷冷し、液体窒素中に保存した。
6.プラスミドの分離
大腸菌DH5α株発現ベクターであるpLenti6/Ub/mSlc7a1、pMXs-KLF4、pMXs-OCT3/4、 pMXs-C-MYC、およびpMXs-SOX2(以上、Addgene社製、Cambridge、MA)を用いた。また、作製した大腸菌DH5α株発現ベクターであるCMV-hOCT3/4、CMV-hC-MYC、CMV-KLF4、CMV-SOX2を用いた。
1)大腸菌の線画培養
超純水に1%tryptone、1%塩化ナトリウム、0.5%Extract Yeast Dried(以上、Nacalai Tesque社製)、1.5%agar粉末(和光純薬工業社製、大阪)を添加した培地を用いて、LBプレートを作製した。そのプレートに、白金耳を用いて大腸菌を塗布し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。
2)大腸菌の液体培養
培養液は超純水に1.2%tryptone、2.4%Extract Yeast Dried、0.4%glycerol、0.017M KH2PO4、0.072M K2HPO4(以上、Nacalai Tesque社製)を添加したものを使用した。一晩培養した大腸菌のシングルコロニーを滅菌爪楊枝で拾い上げ、50mg/mlアンピシリン(Nacalai Tesque社製)含有の上記の培養液1.5ml中で、バイオシェーカー(BR-21UM型、タイテック社製、大阪)を用いて37℃、160回/分の振動下で一晩培養した。
3)プラスミドの抽出及び凍結保存
Quick Gene SP kit Plasmid II(富士フイルム社製、東京)を用いて、各プラスミドの抽出を行った。次に分光光度計(ジャスコ V-530型、日本分光社製、東京)を用いて、各濃度を測定し、−20℃で凍結保存した。
7.イヌ胎子線維芽細胞(CEF)への遺伝子の導入
7.1レトロウイルスによる遺伝子導入
1)293FT細胞の準備
293FT細胞を100 mm組織培養用ディッシュに、上記の293FT細胞培養液を用いて、1ディッシュ当たりの細胞数が2×106個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。
2)293FT細胞への遺伝子導入およびウイルス液の作製
Virapower packaging mix(pLP1, pLP2およびpLP/VSVG)、Vivid Colors(商品名) pLenti6.2-GW/EmGFP(以上、Invitrogen社製)およびpLenti6/Ub/mSlc7a1を、Lipofectamin 2000(Invitrogen社製)を用いたリポフェクタミン法により、準備しておいた293FT細胞に導入した。24時間後培地交換を行い、さらに24時間後、0.45μm cellulose acetate filter (Whatman社製、Kent、ME)を用いてウイルス液を回収し、−80℃で凍結保存した。
3)CEFの準備とレンチウイルスの感染
培養液はDMEMに10%FBS、2mM L-glutamine、100IU/mlペニシリン−100μg/mlストレプトマイシン混合溶液を添加したものを使用した。CEFを60mm組織培養用ディッシュ(IWAKI社製)に、1ディッシュ当たりの細胞数が2.85×105個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。ディッシュ一面に増殖したCEFに、上記のウイルス液に8μg/mlポリブレン(Nacalai Tesque社製)を添加したものを加えた。24時間後培地交換を行い、さらに12時間後0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて継代し、6well組織培養用ディッシュに1well当たりの細胞数が1×105個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。なおgreen fluorescence protein (GFP)陽性細胞を指標として、ウイルス感染を確認した。
4)Plat-E細胞の準備
Plat-E細胞を60mm組織培養用ディッシュに、Plat-E細胞培養液を用いて、1ディッシュ当たりの細胞数が1.25×106個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。
5)Plat-E細胞への遺伝子導入およびウイルス液の作製
pMXs-KLF4、pMXs-OCT3/4、 pMXs-C-MYC、 pMXs-SOX2、pMX-GFP Retroviral Vector(Cell Biolabs社製)をFugene 6 transfection reagent(Roche社製、Schweiz、Switzerland)を用いて、準備しておいたPlat-E細胞に導入した。24時間後培地交換を行い、さらに24時間後ウイルス液を回収した。
6)レンチウイルス感染済みCEFへのレトロウイルスの感染
準備しておいたレンチウイルス感染済みCEFに、上記のウイルス液に8μg/ml ポリブレンを添加したものを加え、37℃、5%CO2下で一晩培養した。翌日、Plat-E培養培地(blasticidin−)に全量培地交換し、ウイルスを除去した。以後、この培地を用いて感染6日まで2日に1回培地交換を行った。
7.2 レンチウイルスを用いた遺伝子導入
1)293FT細胞の準備(7.1の1)に同じ)
2)293FT細胞への遺伝子導入およびウイルス液の作製
Virapower packaging mix(pLP1, pLP2およびpLP/VSVG)、CMV-hOCT3/4、CMV-hC-MYC、CMV-KLF4、CMV-SOX2を、Lipofectamin 2000を用いたリポフェクタミン法により、準備しておいた293FT細胞に導入した。24時間後に培地交換を行い、さらに24時間後、0.45マイクロμm cellulose acetate filterを用いてウイルス液を回収し、−80℃で凍結保存した。
3)イヌ胎子線維芽細胞(CEF)の準備とレンチウイルスの感染
7.1の3)のウイルス液を上記のものに替え、同様の方法でレンチウイルスを感染させた。なおレンチウイルスベクターに組み込まれている改変green fluorescence protein (GFP)陽性細胞(Venus)を指標として、ウイルス感染を確認した。翌日、Plat-E培養培地(blasticidin−)にて全量培地交換し、ウイルスを除去した。以後、この培地を用いて感染6日まで2日に1回培地交換を行った。
8.感染済みCEFのMEF細胞への再播種
CEFにレトロウイルスまたはレンチウイルスを感染させて6日後、準備しておいたマイトマイシン処理済みMEF細胞に感染済みCEFを、CEF培養液を用いて、1つの35mm組織培養用ディッシュ当たりの細胞数が2〜3×104個となるように播種し、37℃、5%CO2下で培養した。翌日よりDulbecco's Modified Eagle Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham(DMEM/F-12)(SIGMA社製)に20%KSR(GIBCO社製)またはFBS、2mM L-glutamine、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、0.1mM NEAA、1.14μM 2-mercapto ethanol(SIGMA社製)、4ng/ml basic fibroblast growth factor(bFGF、Peprotech Rocky Hill, NJ)、1000U/ml leukemia inhibitory factor(LIF、和光純薬工業社製)を添加した培地に交換し、その後毎日培地交換を行った。bFGFとLIFは培地交換ごとに添加した。
9.イヌiPS細胞培養用MEFの濃度および培地条件の検討
イヌiPS細胞の培養に最適なMEF濃度を調べるために、35mm組織培養用ディッシュに1ディッシュ当たりのMEF細胞数を低濃度(1.5×105個)、あるいは高濃度(3.6×105個)になるように播種した。また、培地に添加する試薬として、KSRを添加する群、あるいはFBSを添加する群に分けて検討した。
10.イヌiPS細胞の継代
再播種して8〜12日後、ガラスピペットの細い先端をバーナーで熱し、45度に曲げたセルナイフを用いて物理的にコロニーを分割し、MEFコートした新たな35mm組織培養用ディッシュに播種した。以後、2〜3日間隔で同様に継代した。
11.特性解析
1)ALP活性
得られた細胞における未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を調べた。なお、ALP活性はStemgent Alkaline Phosphatase Staining Kit II(Stemgent社製)を用いて酵素染色した後に判定した。
2)未分化マーカーの免疫染色
得られた細胞における未分化マーカーの発現について免疫染色を行った。すなわち、得られた細胞を4%パラホルムアルデヒドで室温、5分間固定した。D-PBS(−)で洗浄し、D-PBS(−)にTween20(Nacalai Tesque社製)を加えて作製した0.05%PBST溶液(Invitrogen社製)中に、室温、5分間浸した。さらにD-PBS(−)に0.1%ウシ血清アルブミン(BSA、albumin fraction V powder bovine、SIGMA社製)を添加したもの(0.1%BSA/PBS)で洗浄後、10%BSAで30分間のブロッキングを行った。その後、一次抗体としてヤギ抗NANOGポリクロナール抗体(Abcam社製、Cambridge、MA)、マウス抗TRA-1-60モノクロナール抗体(TRA-1-60、Abcam社製)、マウス抗SSEA4モノクロナール抗体(NG1938439、Millipore社製、Billerica、MA)をそれぞれ1,000倍希釈したものを加えて、4℃で一晩培養した。
0.1%BSA/PBSで洗浄後、二次抗体を使用した。二次抗体はNANOGに対してはPE 標識ロバ抗ヤギIgG抗体(NOVUS社製 Littleton, CO)を、TRA-1-60に対してはAlexa 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Invitrogen社製)を、SSEA4に対してはCy3標識ヤギ抗マウスIgM抗体(Chemicon社製)をそれぞれ1,000倍に希釈して使用した。30〜60分間染色後、ProLong Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen社製)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon Clsi型、ニコン社製、東京)にて観察した。
12.RT-PCRによる外因性および内因性未分化マーカーの解析
1)total RNAの抽出
イヌiPS細胞コロニーを継代操作と同様にして回収し、RNeasy(登録商標) Micro Kit(QIAGEN社製、東京)を用いてtotal RNAの抽出を行った。抽出したRNAは260 nmの吸光度から濃度を算出し、実験に使用するまで-80℃で保存した。
2)オリゴヌクレオチドプライマー
外因性遺伝子であるhuman OCT3/4、KLF4、C-MYC、SOX2はHondaら(J Biol Chem. 285:31362-9)が報告したプライマーを使用した。内因性遺伝子であるcanine OCT3/4、はすでに明らかになっているイヌの塩基配列(OCT3/4:Accession:XM_538830.1)を基に設計した(図5)。NANOGはLeeら(J Biol Chem. 286:32697-704)が報告したプライマーを、canine REX1はVaagsら(Stem Cells. 27:329-40)が報告したプライマーを使用した。ネガティブコントロールにはCEFを、およびポジティブコントロールには導入ベクターを使用した。
3)Reverse-Transcription(RT)
抽出したtotal RNAから逆転写反応により、cDNAの合成を行った。すなわち、total RNA 0.1μgにつき、5×RNA PCR Buffer(TOYOBO社製、大阪)4μl、2.0mM dNTP Mixture(TOYOBO社製)5μl、50μM Random 9mers(TAKARA社製、大津)1μl、および100U/μl ReverTra Ace(TOYOBO社製)1μlを加え、ジエチルピロカーボネート(DEPC)処理水で総量20μlとした。その後、My CyclerTM(バイオ・ラッドラボラトリーズ社製、東京)を用いて、30℃ 10分、42℃ 30分、および99℃ 5分の温度条件で反応させた。反応後、実験に使用するまで-30℃で保存した。
4)Polymerase Chain Reaction(PCR)
上記cDNA溶液2μlにつき、10×Buffer for blend taq(TOYOBO社製)2.5μl、2.0mM dNTP Mixture 2.5μl、外因性および内因性未分化マーカーの50pmol/μl senceおよびantisenceプライマー各0.5μl、および2.5U/μl Blend Taq(商品名、TOYOBO社製)0.25μlを加え、滅菌蒸留水で総量25μlとした。その後、My CyclerTMを用いて、94℃で2分間加温後、94℃ 30秒、62℃ 30秒、72℃ 90秒の温度条件で45サイクル行った後、72℃ 2分間加温した。反応後、それぞれのPCR反応液を、エチジウムブロマイドを加えた2.0%アガロースゲルで、Mupid(登録商標)-2X(ADVANCE社製、東京)を用いて、100V 20分間電気泳動し、そのゲルをPRINTGRAPH(商品名、AE-6911型、アトー社製、東京)で撮影した。
13.免疫染色によるin vitroでの分化能の評価
1)胚様体の形成
イヌiPS細胞を10.の継代操作と同様に処理し、4〜6日間浮遊培養を行った。なお、培養液はイヌiPS細胞培養に用いた培地からbFGFとLIFを除いたものを使用した。形成した胚様体は、0.1%ゼラチンコートした35mm組織培養用ディッシュで、同様の培地を用いて約2〜3週間接着培養を行った。
2)胚様体の免疫染色
前記11の2)と同様の方法で免疫染色を行った。なお、一次抗体にはマウス抗class 3β-tubulin(Tuj1)モノクロナール抗体(JBC1780755、Millipore社製)、マウス抗Sox17モノクロナール抗体(3B10、Abcam社製)を1,000倍希釈で、ウサギ抗Desminポリクロナール抗体(Abcam社製)を800倍希釈で使用した。二次抗体はSox17およびTuj1に対してはAlexa 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Invitrogen社製)を、Desminに対してはAlexa 546標識ヤギ抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社製)をそれぞれ1,000倍に希釈して使用した。
14.RT-PCRによるin vitroでの分化能の評価
前記12の1)と同様の方法で胚様体からtotal RNAを回収した。回収したRNAから逆転写反応でcDNAを作製してPCRを行った後、2.0%アガロースゲルで、100V 20分間電気泳動し、そのゲルをPRINTGRAPH(商品名)で撮影した。オリゴヌクレオチドプライマーにはalpha-fetoprotein(AFP)、DesminおよびTuj1を使用した。Desminのプライマーは、すでに明らかになっているイヌの塩基配列(Desmin:Accession:NM_001012394.1)を基に設計した(図1)。AFPおよびTuj1はHayesら(Stem Cells. 26:465-73)が報告したプライマーを使用した。
15.核型分析
イヌiPS細胞コロニーを分割せずに、0.1%ゼラチンコートした35 mm組織培養ディッシュに継代した。翌日、10μl/mlコルセミド(GIBCO社製)を加えて37℃、5%CO2下で2時間反応させた。その後、PBS(−)で一回洗浄し、0.25%トリプシン-EDTA溶液で処理した後、4℃、1,000×g、5分間遠心して細胞を回収した。回収した細胞に、37℃であらかじめ加温した0.075M KCL 2mlを加え、37℃、15分間静置した。その後、酢酸(SIGMA社製)と100%エタノール(SIGMA社製)を1:3の割合で混合して作製したカルノア固定液2mlを最初は1滴ずつよくなじむように混ぜ、遠心後、上清を除去した。再び、カルノア固定液4mlを加えて撹拌し、遠心後に上清を除去した。さらにカルノア固定液4mlを加えて撹拌した後に遠心し、上清を0.5mlほど残して除去した。撹拌後、43℃に設定した恒温槽上に置いたスライドガラスに高さ50cm以上から細胞懸濁液を数滴滴下した。恒温槽上で1分間静置して自然乾燥した後、簡易ヘマカラーキット(Merk chemicals社製、Darmstad、Germany)を用いてギムザ染色し、光学顕微鏡下で観察した。
(結果)
1.iPS細胞の分離
1)レトロウイルス導入群
CEFにレトロウイルスを用いて4遺伝子の導入を行い、MEF細胞と共培養することで、共培養5日後に初代コロニーが出現した(図1)。コロニーの形態は扁平型で、7〜9回継代培養を行うことができた。継代間隔は3〜6日であった。
2)レンチウイルス導入群
CEFにレンチウイルスを用いて4遺伝子の導入を行い、MEF細胞と共培養することで、共培養2日後に初代コロニーが出現した。コロニーの形態は扁平型と立体型の二つが出現し、それぞれ25〜28回継代培養を行うことができた(図2)。継代間隔は2〜3日であった。
2.遺伝子導入方法・培養条件の検討
出現コロニー数および可能継代数について、導入遺伝子、MEF濃度、培地に添加する試薬を比較検討した。その結果、レトロウイルスによる導入ではP9まで継代できたが、一方、レンチウウイルスによる導入では少なくともP28まで継代できた。レンチウウイルスによる導入において、MEF濃度は高濃度(3.6×105)の方が低濃度(1.5×105)に比べて出現コロニー数は多かった。また、KSR添加群の方が出現コロニー数は多く、FBS添加群の方が長く継代できた(表1)。
3.特性解析
得られた細胞の特性を解析するために未分化マーカーの発現を調べた。その結果、すべてのコロニーがALP活性の陽性を示し、そのうちレンチウイルスで遺伝子導入し、KSR添加培地で培養したコロニーは強陽性を示した(図3)。また、ALP染色で強陽性を示したコロニーを、免疫染色およびRT-PCRでさらに詳しく調べた結果、免疫染色ではNanog、TRA-1-60、およびSSEA4に陽性であり(図4)、RT-PCRでは内因性未分化マーカーであるNANOG、OCT3/4およびREX1遺伝子の発現がみられ(図6)、P17で外因性のOCT3/4およびSOX2遺伝子の発現抑制(図7)がみられた。
4.分化能の評価
レンチウイルスで遺伝子を導入して得られたイヌiPS細胞を4〜6日間浮遊培養すると胚様体を形成した。さらに形成した胚様体を接着培養すると、様々な種類の細胞へと分化した。これらの分化細胞は免疫染色で外胚葉マーカーであるTuj1、中胚葉マーカーであるDesmin、内胚葉マーカーであるSox17に陽性であった(図8)。またRT-PCRにより遺伝子発現を調べたところ、TUJ1、DESMIN、 内胚葉マーカーであるAFPの遺伝子発現がみられた(図9)。
5.核型分析
簡易ヘマカラーキットでの染色後、顕微鏡で観察した結果、常染色体が2n=78で観察され、性染色体がXY型で観察された(図10)。
6.まとめ
上記のように、遺伝子導入方法としてレンチウイルスベクターを用い、添加血清としてKSRを添加し、フィーダー濃度を高くすることで、立体型のコロニー形成能をもつイヌiPS様細胞株が得られた。当該細胞株は多分化能を有し、長期間継代可能であり、正常な核型を示した。また、ES細胞特異的なマーカーであり、ES細胞に比べて分化が進んだ着床後胚の後期エピブラストから樹立された細胞(Epiblast stem cells、EpiSC)などの幹細胞では発現しておらず、未分化状態の指標となり得るREX1遺伝子(Chou YF et al., Cell. 135:449-61、Tesar PJ at al., Nature. 448:196-9)を発現していたことから、既報の成績よりも未分化状態の高いiPS細胞が得られたと言える。
FBSとKSR添加の影響を比較検討したところ、コロニー作製効率はFBS添加に比べてKSRを添加した培地の方が良いことが分かった。また、FBS添加培地では、ほとんどが扁平なコロニーであり、一方、KSR添加培地では扁平と立体の二種類のコロニーが出現した。さらに、KSRを用いると出現コロニー数が飛躍的に上がり、未分化状態の高いコロニーができた。これに関して、KSR添加培地で出現したコロニーには扁平型と立体型の両方が存在し、どちらもある程度の継代数までは進むが、立体型のコロニーのみがALP染色で強陽性を示していたことから、KSRを用いた培地はヒト型、マウス型のコロニーの増殖を阻害するような因子を含んではいないが、よりマウス型に適した培地であると言える。
iPS細胞とMEFを高濃度と低濃度に分けて比較検討した結果、MEFの高濃度で効率的にコロニーが出現し、より長く継代できた。
次に実施例1で作製したレンチウイルスで遺伝子を導入したイヌiPS細胞から血小板へ分化誘導し、その形態的構造や機能について解析を行った。
(材料と方法)
1.OP9細胞の培養
OP9細胞(RIKEN提供)を使用した。培養液はMEM-α Glutamax(GIBCO社製)に1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、および15%FBSを添加したものを使用した。100mm組織培養用ディッシュに上記の培養液10mlを用いて、細胞数が5×105個の濃度で、37℃、5%CO2下で培養した。この培養細胞は増殖後、0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて回収し、20代まで継代した細胞を実験に使用した。凍結培地にはセルバンカーを用い、−80℃で凍結保存した。
2.OP9細胞のマイトマイシンC処理および凍結保存
実施例1の2の1)と同様の方法で、OP9細胞をマイトマイシンC処理して凍結保存した。凍結細胞は実験前に37℃で解凍し、0.1%ゼラチンで処置した35mm組織培養用ディッシュに、1枚当たりの細胞数が2×105個となるように調節した。OP9細胞は使用する1日前に準備し、さらに準備後3日以内のものを使用した。
3.イヌiPS細胞のOP9細胞上への播種
準備しておいたマイトマイシン処理済みOP9細胞に、継代操作と同様にして分割したイヌiPS細胞コロニーを約15個播種した。培地はES細胞分化培地(Iscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM)、SIGMA社製)に15%FBS、ITS液体培地サプリメント(100×)(SIGMA社製)、2mM L-glutamine、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、0.45mM 2-mercapto ethanol、50μg/ml アスコルビン酸(和光純薬工業社製)に20ng/mlイヌvascular endothelial growth factor(VEGF)(R&D systems社製、Abingdon、OX)を添加したものを使用した。その後、培養14〜15日に0.25%トリプシン-EDTA溶液で細胞を回収し、準備しておいたOP9細胞上に培養細胞35mm組織培養の1ディッシュから3つのディッシュに再播種した。培地はES細胞分化培地にヒトthrombopoietin(TPO)(SIGMA社製)、イヌstem cell factor(SCF、R&D systems社製)、およびheparin(和光純薬工業社製)を添加したものを使用した。培地交換は隔日で行い。播種後38日まで培養した。
4.浮遊細胞の回収とギムザ染色
培地交換ごとに上記の分化誘導培地の浮遊細胞を回収し、サイトスピン(Shandon Cytospin 4、Thermo Scientific社製、Runcorn、England)によりスライドガラスに付着させ、簡易ヘマカラーキットを用いてギムザ染色を行い、光学顕微鏡による形態観察を行った。
5.フローサイトメトリーによる細胞表面マーカーの解析
イヌiPS細胞から分化誘導した細胞を蛍光免疫染色し、フローサイトメトリー(FCM)を行った。あらかじめ、2μg/mlマウス抗CD41/61モノクロナール抗体(CO.35E4、AbD serotec社製、Oxford、OX)と20μg/ml Alexa 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体を遮光して室温で5分間反応させ、さらに、20μg/mlマウスIgG抗体(SIGMA社製)を加え、遮光して室温で5分間反応させた(蛍光抗体液)。回収した浮遊細胞をFCN液(D-PBS(−)に2%FBSと1mg/ml sodium azideを添加したもの)に希釈し、準備しておいた蛍光抗体液を加えて30分氷上で反応させた。染色後の反応性をフローサイトメーター(FACSCaliburTM、Becton Dickinson社製、Rancho Cucamonga、CA)を用いて測定した。その後、付属のソフトウェア(Cell Quest)を用いて表面マーカーの発現強度を求めた。
2μg/mlビオチン化マウス抗イヌCD34抗体(BD pharmingenTM社製、Franklin Lakes、NJ)を10μg/ml PerCP Streptavidin(BD pharmingen社製)と混合し、氷上30分間反応させた。その後、上記と同様に浮遊細胞と反応させ、発現強度を求めた。
6.巨核球のDNA量測定
浮遊細胞を回収後、細胞数5×104〜5×105に調節しD-PBS(−)で希釈した。遠心分離後、上清を除去しFCN液で沈渣を希釈した。希釈液に50μg/ml プロピジウムイオイド(PI、SIGMA社製)と20μg/ml RNase(SIGMA社製)を加え、37℃、暗下で30分間静置した。その後、フローサイトメーターで測定し、発現強度を求めた。
7.免疫染色
OP9細胞上の分化誘導細胞を免疫染色した。一次抗体に2μg/mlマウス抗CD41/61モノクロナール抗体を二次抗体には20μg/ml Alexa 488標識ヤギ抗マウスIgG抗体を使用した。前述と同様にして固定、透過処理、およびブロッキングを行い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。
8.末梢血から血小板の分離
ビーグル成イヌの撓側皮静脈から、10ml注射器を用いて末梢血を約5ml採血した。採取した血液を5mlのD-PBS(−)に浮遊させ、20mlのリンパ球分離液(Nacalai Tesque社製)に重層した後、20℃、2,000rpm、35分間の条件で遠心した。遠心分離後、リンパ球分離液上の単核球および血小板層を回収した。
9.フローサイトメーターによる血小板の検出
回収した浮遊細胞および末梢血から分離した単核球および血小板層をD-PBS(―)で希釈し、200×gで20分間遠心分離し、有核細胞を沈殿させた。上清を回収後、3,500rpmで7分間遠心し、上清を除去後に血小板沈渣を回収した。この沈渣をFCN液で希釈し、前記方法5の蛍光抗体液を加え、フローサイトメーターで測定し、発現強度を求めた。
10.血小板の機能解析
上清を回収後、10%クエン酸―デキストロース溶液(SIGMA社製)を添加し、同様の方法で血小板を分離した。分離後、2μMのプロスタグランジンE1(SIGMA社製)、2U/mlのapyrase(SIGMA社製)を加え3,500rpm、10分間遠心した。上清を除去し、沈渣をFCN液で希釈後、40μMのアデノシン5'−二リン酸ナトリウム塩(ADP)、5mM EDTA(SIGMA社製)または4U/ml thrombin(SIGMA社製)を加えたのち100μg/ml FITC-Dog fibrinogen(antibodies社製、Atlanta、GA)を加え、37℃で10分間静置した。その後、フローサイトメーターで測定し、発現強度を求めた。
11.血小板の電子顕微鏡による形態観察
前記方法5と同様にして血小板のみを分離後、分離血小板を2.5%グルタールアルデヒドにて浸漬固定し(室温、一晩)、1%四酸化オスミウム液による後固定(室温、数時間)を2〜3時間行った後、エタノールで脱水、プロピレンオキサイドで置換し、エポキシ樹脂に包埋した。エポン包埋したサンプルからウルトラミクロトームにて90nmの超薄切片を作製後、酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛にて二重電子染色し、透過型電子顕微鏡(H-7500:日立製作所)を用いて観察した。
(結果)
1.イヌiPS細胞コロニーのOP細胞上での分化
イヌiPS細胞コロニーを継代操作と同様の方法で分割し、造血サイトカインを産生するOP9細胞と共培養した。培地にはVEGFを添加した。培養2日には、iPS細胞とは異なり、大きく広がった扁平なコロニーを形成し(図11)、コロニー中央部から上清中に浮遊細胞を放出した。培養12日頃から、ヒトで報告されているような嚢状構造物が出現し、その辺縁から大型、円形の造血幹細胞様の細胞が出現した(図12)。
培養15日に培養細胞をOP9上に再播種し、巨核球の成熟と血小板の放出を促すために、添加因子をVEGFからTPO、SCF、およびヘパリンに替えて培養した。TPOは低濃度(10ng/ml)で使用した。培養24日に、巨核球から血小板を放出する過程でみられる前血小板様構造をした細胞を光学顕微鏡下で確認した(図13)。
2.浮遊細胞のギムザ染色とCD34陽性細胞および巨核球への分化
浮遊細胞をギムザ染色し、形態観察を行った。その後、光学顕微鏡で観察すると、造血幹細胞様の細胞や巨核球と同様の多核構造を示す細胞が観察された(図13)。また、造血幹細胞の表面抗原であるCD34、巨核球および血小板の表面抗原であるCD41/61を標的とする抗体を用いてフローサイトメーターで発現を観察したところ、CD34抗体陽性細胞および巨核球と同様の細胞サイズ(SSC)で、細胞内顆粒構造(FSC)を示す、CD41/61抗体陽性細胞がそれぞれ確認された(図14)。
3.巨核球のDNA量の測定
核酸との結合で発光するPIを用いることで巨核球のDNA量を測定した。フローサイトメーターで発現を測定した結果、8N以上のDNA量をもつ巨核球が検出された(図15)。
4.血小板の検出
浮遊細胞中から血小板様粒子のみを分離し、CD41/61抗体を用いてフローサイトメーターでその発現を測定した。培養2日から、成イヌ末梢血中の血小板と同様のSSCおよびFSCを有し、CD41/61抗体陽性の血小板様粒子を検出した(図16、図17)。粒子の放出には培養6日、12日および34日の3つのピークがみられ、培養38日まで放出が確認された(図18)。
5.作製血小板様粒子の機能活性
浮遊細胞中から分離した血小板様粒子を含んだ溶液に、血小板を活性化させ、凝集を促す因子であるADP、thrombinならびに血小板の凝集を妨げる因子であるEDTAを加え、そこにfibrinogenを加えることで、fibrinogenとの結合能を調べた。その結果、図19に示したとおり、ADP、thrombinともにEDTA群に比べ、fibrinogenへの結合能が上昇していた。
6.血小板様粒子の電子顕微鏡による形態および構造の観察
分離した血小板様粒子の形態および構造を電子顕微鏡にて観察した。イヌiPS細胞由来血小板様粒子は、成イヌ末梢血中から分離した血小板とほぼ同様の大きさを示し、血小板に特有の構造であるα顆粒および微小管構造を有していた(図20)。
7.まとめ
上記のように、イヌiPS細胞をOP9細胞と共培養し、TPOなどの因子を添加した培地を用いて分化誘導した結果、巨核球および血小板に特異的な分子を発現し、末梢血と同様のside-scatter(SSC)とforward-scatter(FSC)をもつイヌiPS細胞由来血小板が作製された。作製された血小板はADPやthrombinなどの血小板活性化因子に反応し、フィブリノゲンと結合したことから機能的であると言える。また、OP9細胞は造血サイトカインを産生し、効率よく幹細胞を血球細胞へ分化誘導することが報告されていることから(Nakano T. et al., Science. 265:1098-101、Palacios R. et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 92:7530-4)、ヒトiPS細胞からの血小板の分化誘導に用いられている。上記のように、作製されたイヌiPS細胞においても同様に分化誘導できたことから、OP9細胞はイヌ血小板の分化誘導にも適していると判断される。
また、血液細胞のもととなるCD34抗体陽性の造血幹細胞および巨核球/血小板抗体陽性の巨核球がイヌiPS細胞から分化誘導されただけでなく得られた巨核球は核数が8N以上を示していた。巨核球はその成熟度によって核数が増え、成イヌ血中の巨核球は8N〜64Nほどの核数であることから、今回得られた巨核球は成熟していると言える。
次に、イヌiPS細胞を培地にVEGFを添加して培養した結果、培養12日から嚢状構造物が出現し、その辺縁から造血幹細胞様の細胞が放出された。この構造物は、ヒトES細胞から血小板への分化誘導の過程でみられるES-sacと類似した構造をもっていた。ヒトES-sacは、発生過程における卵黄嚢と同様の構造を有する。ヒトES-sacはVEGFの刺激により嚢内で造血幹細胞を作るが、マウスES細胞から血小板への分化誘導の過程ではES-sacは出現せず、イヌにおいては、マウスよりもヒトに近い分化過程を経てiPS細胞から血小板が分化誘導されることが示唆された。上記血小板の分化過程は、ヒトの分化過程とよく似ていることから、イヌで得られた知見をヒトiPS細胞の分化誘導法に応用することは可能と思われる。
イヌiPS細胞をOP9細胞と共培養してから2日ごとに、上清中に放出された浮遊細胞および血小板を回収し、その形態および数量を測定した結果、培養2日から、播種したコロニーの中心部の細胞が浮遊し、ギムザ染色で未成熟な巨核球系細胞がみられ、第一の血小板放出のピークがみられた。しかし、造血幹細胞は確認されなかった。その後、培養10日頃には嚢状構造物の辺縁から造血幹細胞様の細胞と巨核球系細胞がみられ、第二の血小板放出のピークがみられた。嚢状構造物を分離してOP9上に再播種すると、多数の造血幹細胞と多核の成熟した巨核球系細胞がみられ、培養34日に第三のピークがみられた。これは、Mullerらが提唱した造血幹細胞の放出モデル(Muller AM. Et al., Immunity. 1:291-301)やNakanoら(Nakano T. et al,. Science. 272:722-4)が提唱した(i)一次造血による前駆細胞からの一次赤血球の放出(ii)、自己複製能のない多能性前駆細胞からの二次赤血球の放出(iii)、および自己複製を行う多能性前駆細胞からの二次赤血球の放出という3つの放出ピークを持つ赤血球の放出形態と類似している可能性がある。また、赤血球と巨核球は共通の前駆細胞から分化誘導されることを併せて考えると、巨核球が赤血球と同じ放出過程をたどることが示唆され、イヌiPS細胞から血小板が正しく分化誘導されたと言える。上記で認められた血小板の3つの放出ピークは、これまでの報告に比べ、発生過程における血小板への分化をより忠実に再現されてしていると言える。
分化誘導で得られた血小板の形態・構造を電子顕微鏡で調べた結果、血小板の凝集能にかかわるα顆粒や微小管構造を持っていることが証明された。α顆粒内にはフィブリノゲンや血小板活性化因子などが含まれており、微小管は血小板の活性化による形態変化に関わっていることが知られている。上記のようにイヌiPS細胞から誘導血小板は、成イヌ血中から得られる血小板と同様の構造を持っていることから、生体内においても成イヌ血中の血小板と同様の機能を発揮すると考えられる。
本発明によるとイヌの体細胞から未分化でかつ種々の体細胞に分化可能なイヌiPSが効率よく作製される。

Claims (6)

  1. イヌの体細胞から、ドーム型の人工多能性幹細胞を作製する方法であって、次の4つの遺伝子:OCT3/4、SOX2、KLF4、およびC-MYCを体細胞に導入する工程と、前記4つの遺伝子を導入した細胞を、高濃度のフィーダー細胞及び血清成分としてFSBではなくKSRのみの存在下で培養する工程を含む方法。
  2. 前記4つの遺伝子を導入した細胞をフィーダー細胞とKSRの存在下で培養する工程は、LIFとbFGFの存在下で、かつ、他の添加因子の非存在下で培養する工程である請求項1に記載の方法。
  3. 2.0×10個/35mmディシュ以上のフィーダー細胞の存在下で培養する請求項1又は2に記載の方法。
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載の方法で得られた人工多能性幹細胞を分化誘導してイヌの体細胞を作製する方法。
  5. 血小板に分化誘導する請求項4に記載の方法。
  6. VEGFの存在下で、OP9細胞と共培養する請求項5に記載の方法。
JP2013033588A 2013-02-22 2013-02-22 イヌのiPS細胞の作製方法 Pending JP2014161254A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013033588A JP2014161254A (ja) 2013-02-22 2013-02-22 イヌのiPS細胞の作製方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2013033588A JP2014161254A (ja) 2013-02-22 2013-02-22 イヌのiPS細胞の作製方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2014161254A true JP2014161254A (ja) 2014-09-08

Family

ID=51612513

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2013033588A Pending JP2014161254A (ja) 2013-02-22 2013-02-22 イヌのiPS細胞の作製方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2014161254A (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2016204298A1 (ja) * 2015-06-19 2016-12-22 公立大学法人大阪府立大学 イヌiPS細胞の作製方法
WO2018189877A1 (ja) * 2017-04-14 2018-10-18 株式会社日立ハイテクノロジーズ 荷電粒子線装置および細胞評価方法

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2016204298A1 (ja) * 2015-06-19 2016-12-22 公立大学法人大阪府立大学 イヌiPS細胞の作製方法
WO2018189877A1 (ja) * 2017-04-14 2018-10-18 株式会社日立ハイテクノロジーズ 荷電粒子線装置および細胞評価方法
JPWO2018189877A1 (ja) * 2017-04-14 2020-02-20 株式会社日立ハイテクノロジーズ 荷電粒子線装置および細胞評価方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6937821B2 (ja) 生体組織から単離できる多能性幹細胞
JP6865199B2 (ja) リプログラミングt細胞および造血細胞
US20210017494A1 (en) Methods for directed differentiation of pluripotent stem cells to immune cells
EP2336303B1 (en) NKT CELL-DERIVED iPS CELLS AND NKT CELLS DERIVED THEREFROM
JP2018531025A6 (ja) 多能性幹細胞の免疫細胞への分化を誘導する方法
Pulecio et al. Conversion of human fibroblasts into monocyte-like progenitor cells
JP5751548B2 (ja) イヌiPS細胞及びその製造方法
WO2016204298A1 (ja) イヌiPS細胞の作製方法
JP6854461B2 (ja) ウイルスベクター、iPS細胞の作製方法およびコンストラクト
JP2014161254A (ja) イヌのiPS細胞の作製方法
JP2021048875A (ja) 膵内分泌細胞の製造方法、及び分化転換剤
JP2019170393A (ja) iPS細胞の作製方法
JP2017216981A (ja) イヌ人工誘導胚体外内胚葉細胞様株の作製方法
JPWO2006085482A1 (ja) 造血幹細胞の自己複製因子及び増幅方法