しかしながら、これらの技術はいずれもこれらの圧縮コイルばねが捻り特性を発揮して高い制振効果を得るための効果的な位置又はその数で配置されてはいるものの、圧縮コイルばね部品単体へのストレスが大きく、特に大小圧縮コイルばねの固定構造においては高速回転による遠心力や動力伝達軸に対して平行および垂直方向の振動力などの負荷が大きく、耐劣化性や機能継続性に課題を有している。また、圧縮コイルばねの座屈破損および固定構造からの脱落は圧縮コイルばねの形状が小さくなるほどリスクが大きくなる。
換言すれば、圧縮コイルばね、特に形状の小さな圧縮コイルばねは、リテーナプレートBとリテーナプレートAとの間隔の伸長に対しては脱落のリスクが大きい。またダンパー動力伝達軸に近い中心部ほど振動伸縮によってリテーナプレートA、リテーナプレートBの間隔が一定以上乖離しやすくなるため、小さな圧縮コイルばねが収容部から脱落する危険は各段に大きい。
これらの問題を回避するために、現状ではリテーナプレートBとリテーナプレートAは複数のリベットで溶接固定されており、強固に両プレートを嵌合固定させている。両プレートの外周面ではリブ嵌合する構造を有し、リテーナプレートBとリテーナプレートAの一体としての回転運動を保持させている。同時に動力伝達軸の軸方向に働く振動に対しても一体として挙動し両プレート相互を開閉させる外力をリベット固定により抑制している。
しかし、ダンパーの内部は相対回転可能である出力側回転部材のハブプレートやフローティングイコライザを内包する構造であるため、リテーナプレートBとリテーナプレートAとの間を固定する上記固定用リベットの位置及びリベット数は著しく制約を受ける。
このように形状の小さな圧縮コイルばねの近傍に関しては特にリテーナプレートBとリテーナプレートAの間隔の膨張・拡張に対して防止しにくい構造となるため、小さな圧縮コイルばねの脱落のリスクはより大きくなるというダンパー機能維持のための構造に起因する回避できない課題を抱えている。
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、ロングトラベル化による捻り振動低減装置の高い制振効果と高い許容トルクとを長期に保つための品質を確保するため工夫されたトルクコンバータの捻り振動低減装置ダンパーを提供することを目的とするものである。
かかる課題を解決するために、本願発明では、次の構成を採用する。
すなわち、本発明の捻り振動低減装置は、略円形の二つの入力側回転部材と、前記入力側回転部材の間に挟まれ同心状にかつ正逆転方向に相対回転可能に内包配置された略円形の出力側回転部材と、前記入力側回転部材及び前記出力側回転部材の軸心よりも半径方向略中央部において円周方向に略等間隔に形成され、かつ両者の相対回転方向両端部をばね受け部とする小型ばね収容部と、前記入力側回転部材及び前記出力側回転部材の該小型ばね収容部よりも外周部において円周方向に略等間隔に形成され、かつ両者の相対回転方向両端部をばね受け部とする大型ばね収容部と、該収容部に入る複数の小型ばね及び大型ばねとを備える捻り振動低減装置であって、前記二つの入力側回転部材の一方の小型ばね収容部の中央軸心側に突起部が設けられ、他方に該突起部と嵌合するための開口部が設けられ、両者が嵌合接合して構成されることを特徴とする捻り振動低減装置である。
入力側回転部材は、エンジンの動力伝達軸と伝動装置の入力軸との間にあって、入力側のトルクを与える部材をいい、たとえばリテーナプレートB及びリテーナプレートAによって実現されている。材質・形状に特に制限はないが、回転による振動に耐えうる一定以上の剛性を有する材料、回転運動に適合するような平面視略円形の形状によってなるのが望ましい。
出力側回転部材は、入力側からのトルクが伝達される出力側の部材をいい、たとえばハブプレートによって実現されている。材質・形状に特に制限はないが、回転による振動に耐えうる一定以上の剛性を有する材料、回転運動に適合するような平面視略円形の形状によってなるのが望ましい。入力側回転部材と出力側回転部材とは相対回転可能に配設されている。
小型・大型ばねを形成するものである圧縮コイルばね(トーションスプリング)の設定位置である弾性体収容部とは、入力側回転部材及び出力側回転部材が相対回転の動きをする際にこれに連動して弾性変形が行われる圧縮コイルばねが収容される機能を持ち、こうした圧縮コイルばねが接する当接部を両端部に備えているのが好ましい。具体的には、たとえば、リテーナプレートA、リテーナプレートBとハブプレートとに切欠き部を設定することで圧縮コイルばね収容部としたもの等によって実現されている。
圧縮コイルばねは、固有の弾性係数を有し、上記トルクによる回転運動に連動して弾性変形をなす弾性体をいい、たとえばバネ、樹脂素材による特定形状部材等によって実現されるが、好適にはばねを採用するのがよく、高剛性の金属製圧縮ばねが最も望ましい。本発明においては具体的にトーションスプリングを採用するものとして説明する。
上記圧縮コイルばねは、入力側回転部材及び出力側回転部材が相対回転の動きをする際にこの回転に係る円周方向に沿って連接されることで直列配置されるか、或いは間に部材を挟んで間接的に連接されるように配置される態様を含んでいる。また円周方向に沿って大小圧縮コイルばねの並列配置もしくは同軸配置(一方のばねの内装空間に他方のばねを略同軸的に内包させる配置)も含んでいる。
中間回転部材とは、入力側回転部材及び出力側回転部材の中間に所在して、緩衝的機能を担い、具体的には、出力側回転部材(ハブプレート)の外周側にこれと同心状に配置されるリング状のフローティングイコライザとして実現されている。
本発明の一実施態様である捻り振動低減装置は、上記二つの入力側回転部材を嵌合する突起部の形状が凸形構造であり、該凸形構造の下部高さ寸法が該二つの入力側回転部材の略空間間隔寸法であり、該凸形構造の上部において該二つの入力側回転部材を嵌合溶接して構成されることを特徴とする捻り振動低減装置である。
つまり本発明に係る捻り振動低減装置ダンパーは、略円形の入力側回転部材であるリテーナプレートBとリテーナプレートA、そしてそれらに挟まれ内包する相対回転可能な略円形の出力部材であるハブプレートと、同じく入力回転部材に内包されハブプレートの回転を受けて緩衝する大小の圧縮コイルばねとを備える捻り振動低減装置ダンパーであり、小さな圧縮コイルばねは動力伝達軸中心からの半径方向略中央部に円周方向略等間隔に内包配置され、大きな圧縮コイルばねは小さな圧縮コイルばねの外周に同様円周方向略等間隔に内包配置される。そして、入力側部材であるリテーナプレートBの半径方向略中央部でかつ小さな圧縮コイルばね受け部の中央近傍でかつ動力伝達軸の軸心側に設けた凸形構造をした突起(リブ)によってリテーナプレートAと嵌合接合することを特徴とする。
本発明に係る凸形構造をしたリブ(「凸形構造リブ」とも称す。)14は、リテーナプレートBを切り欠くことによりリテーナプレートAと対向する位置に垂直に形成され、リテーナプレートAにはリブ凸形構造の上部(幅の狭い上部突起部)を嵌合する嵌合用開口部を有することにより嵌合接合される。逆に、凸形構造リブはリテーナプレートA側に形成されリテーナプレートBに嵌合される逆の構造であってもよい。接合方法は溶接が好ましいが限定はしない。
この凸形構造をしたリブの下部(幅の広い下部台座部)の高さ寸法は、リテーナプレートBとリテーナプレートAの嵌合一体化における両者の空間間隔寸法を規定し、その間隔を維持するための支柱として機能するのに十分なものとする。つまり両プレート間の必要空間幅寸法であることを要する。また該寸法は、リテーナプレートBとドライプレート(例えば、本発明の一実施形態である図1においてはリテーナプレートB2とドライプレート1。以下同。)との間にあり相対回転するハブプレート(例えば、本発明の一実施形態である図1においてはハブプレート3。以下同。)の有効な回転機能を確保するための寸法であり、後述するようにハブプレート、一体化したリテーナプレートB及びドライプレートの相対回転による摩擦抵抗を回避するための微小クリアランス構造を考慮された寸法である。
本発明に係る凸形構造リブは、リテーナプレートBの半径方向略中央部でかつ小さい圧縮コイルばね近傍に設けられたことにより、リテーナプレートBとドライプレートの動力伝達軸方向に働く振動力によるリテーナプレートBとドライプレートの間隔の膨張収縮を防ぎ、一定の間隔を強制的に保つことにより、圧縮コイルばねの脱落を防止する。特に、半径方向略中央部にあり小さいため脱落しやすいばねの脱落防止に効果を発揮する。
また、この凸形構造リブの下部の位置は、ハブプレートの回転運動を受けて収縮する小さな圧縮コイルばねの両端からの収縮限度において、ハブプレートと凸形構造リブの下部が接触しない位置までを確保できる円周方向での設定位置であることを要する。このことは逆にいうと、小さな圧縮コイルばねの近傍でかつばね中央部近傍がハブプレートの回転による接触を受けない最適な位置であり、ここに凸形構造リブを配置することが最も好ましいといえる。本発明はこの位置寸法自体を規定する必要があるものではない。
リテーナプレートAとリテーナプレートBの嵌合固定は、リテーナプレートBの外周縁部に曲折形成された嵌合用リブによる外周部嵌合溶接固定と、凸形構造リブの嵌合溶接固定によって強固に成される。それぞれの嵌合リブの数に制限はないが、円周に対して略等分間隔であり、凸形構造リブの設営個数は、小さな圧縮コイルばねの数と等しいことが好ましい。
本発明により、リテーナプレートBとリテーナプレートAが一定の空間間隔を維持しながら強固に嵌合されるため、圧縮コイルばね収容部の微小クリアランス構造空間が維持され、圧縮コイルばねの損傷、座屈、脱落等のリスクが軽減され、捻り振動低減装置ダンパーの長期品質維持につながる。
特に、小さい圧縮コイルばねの脱落防止のためには最適な位置であり効果がある。またリテーナプレートBとリテーナプレートAの外周縁部嵌合に比較して、凸形構造リブ嵌合位置が小さな圧縮コイルばねの略中央部かつ軸心方向側にあるからこそ、動力伝達軸の軸方向の振動外力が大きく作用する軸心近傍の該両プレートの膨潤収縮を効果的に防止することができる。
また、同様に、リテーナプレートBとリテーナプレートAが一定の空間間隔を維持しながら強固に嵌合されるため、ハブプレートやフローティングイコライザとの微小クリアランス構造である空間が維持され、捻り振動低減のためのスムースな回転が維持継続でき長期品質維持につながる。
つまり本発明である凸形構造リブによる固定は、小さな圧縮コイルばねの脱落を効果的に防止する目的とともに、ダンパー軸心部近傍で大きくなる該両プレートの振動による膨張収縮を抑止することを兼ね備え、それによってダンパー全体の長期機能品質を維持するという特別な相乗効果を発揮しているといえる。
次に本発明は、ダンパー製造工程における効果も大きい。従来はリテーナプレートBとリテーナプレートA嵌合のために多数のリベット固定方法を用いていたが、リベット数削減による部品削除、製造工程におけるリベット嵌合挿入工程の削減など、製造コスト削減の大きな効果が生ずる。凸形構造リブは、従来工程のリテーナプレートB打ち抜きプレス工程で同時形成が可能である。また、リテーナプレートBとリテーナプレートAとの合わせ嵌合工程で用いてきた製造用位置決めのための位置ガイドピンとしての機能を凸形構造リブが代替することも可能である。
以上本発明に係る工夫された捻り振動低減装置ダンパーによれば、捻り振動低減装置の高い制振効果と高い許容トルクとを長期にわたり保と信頼性品質を確保することができるため、エンジン、自動車産業等で大いなる利用可能性を有している。
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では、本発明の目的の達成のために説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
図1は本発明に係る捻り振動低減装置ダンパー(以下、単に「ダンパー」という。)を示す図である。図1A〜図7は該ダンパーの具体的な実施の形態を示す図であり、特に図1Aはダンパーの各部材の連結構造を展開して斜視図で示している。図1AのリテーナプレートB2の方向がエンジン側であり、リテーナプレートA1の方向がトランスミッション側の出力方向である。動力伝達軸の図は省略している。
図2は、ダンパー100の組み立てられた状態を示す図であり、リテーナプレートA1のみを浮かせて見た斜視図をトランスミッション側から示している。図3は、図2におけるトーションスプリング(2段目)6の部分を中心に拡大して示す斜視図である。リテーナプレートA1側から見た斜視図で、リテーナプレートA1の線図のみを透かせて描いている。
図4は、リテーナプレートB2をトランスミション側から見たものであり、トーションスプリング(1段目)5及びトッションスプリング(2段目)6を各々はさみ固定するためのトーションスプリング(1段目)収容部9及びトーションスプリング(2段目)収容部10の開口構造を斜視図で示している。同様に図6は、リテーナプレートA1をトランスミション側から見たものであり、トーションスプリング(1段目)5及びトッションスプリング(2段目)6を各々はさみ固定するためのトーションスプリング(1段目)収容部9及びトーションスプリング(2段目)収容部10の開口構造を斜視図で示している。
図1は、図1Aに示したダンパーの組み立てられた状態をリテーナプレートA1側から見た詳細の正面図(図1中の(1))である。図1中の(2)はリテーナプレートA1を除いた内部構造詳細を示す、A−A線に沿った切断面を矢印の方向から見た場合の断面図である。
以下、図1、図1Aに示すダンパーの各構成部材名を例示して説明する。ダンパーは、動力伝達軸に対する捻り振動制御が目的であるために、動力伝達軸の軸方向に対しては、ハブプレート3およびフローティングイコライザ4はリテーナプレートB2及びリテーナプレートA1に対して相対回転を可能にさせるために回転自由度を有する一定の微小クリアランス構造(微小空間余裕(遊び))が必要であり、該動力伝達軸方向において圧接固定が成されない構造となっている。
また、リテーナプレートB2及びリテーナプレートA1の間に構成され、ハブプレート3の受け部を緩衝する圧縮コイルばね(トーションスプリング)の収容部もバネ伸縮のための空間自由度を有する一定の微小クリアランス構造であり、これはリテーナプレートB2及びリテーナプレートA1の切り欠かれた収容部(トーションスプリング1段目2段目収容部9、10)によって外周固定される構造を形成することで実現する。
つまり、動力伝達軸中心から半径外周方向に働く遠心力による負荷と、それとは垂直方向になる動力伝達軸の軸方向に働く振動力による負荷の両方に対して耐性を備える圧縮コイルばねの強度と固定位置を保つ圧縮コイルばね外周固定方法が構造上必要となる。これは圧縮コイルばねの座屈、破損、脱落を防止するために重要である。
そのため、たとえばリテーナプレートB2の圧縮コイルばね収容部の円周内側外側には圧縮コイルばね固定用の円弧状突起部(カバー部12、図4、図6参照)を設けてばねの脱落を回避しながらばね伸縮のための微小クリアランス構造を確保している。
しかしながら、動力伝達軸の軸方向に働く振動に対しては、この作用はリテーナプレートB2とリテーナプレートA1との間隔を伸縮させる方向に働くため、この間隔が開く微細な膨張・拡張に対しては圧縮コイルばねの固定構造は非常に脆弱である。つまり圧縮コイルばね自体の振動破損や脱落のリスクが大きくなる。前述のようにハブプレート3およびフローティングイコライザ4はリテーナプレートB及びリテーナプレートAに対して相対回転を可能にさせるために回転自由度を有する一定の微小クリアランス構造が必要であることから、動力伝達軸方向への振動、微細な膨張収縮に対しては脆弱な構造であり、このことは圧縮コイルばねの固定構造においても同様となるからである。
このように、圧縮コイルばねへの負荷は構造上大きく破損のリスクが大きい。特に形状の小さな圧縮コイルばねに関しては、リテーナプレートB2とリテーナプレートA1との間隔の拡張に対しては脱落のリスクが大きい。またダンパー動力伝達軸に近い中心部ほど振動伸縮によってリテーナプレートA1、リテーナプレートB2の間隔が一定以上乖離しやすくなるため、小さな圧縮コイルばねが収容部から脱落する危険は各段に大きい。
これらの問題を回避するために、これまではリテーナプレートB2とリテーナプレートA1は複数のリベットで溶接固定されており、強固に両プレートを嵌合固定させていた。両プレートの外周面ではリブ嵌合する構造を有し、リテーナプレートBとリテーナプレートAの一体としての回転運動を保持させている。同時に動力伝達軸の軸方向に働く振動に対しても一体として挙動し両プレート相互を開閉させる外力をリベット固定により抑制している。
しかし、ダンパーの内部は相対回転可能である出力側回転部材のハブプレート3やフローティングイコライザ4を内包する構造であるため、リテーナプレートB2とリテーナプレートA1との間を固定する上記固定用リベットの位置及びリベット数は著しく制約を受ける。特にダンパー円周軸心側に設置される形状の小さな圧縮コイルばねに関しては、出力回転部材であるハブプレート3自体の部品面積及びその回転スペースを確保するために、ハブプレート3をはさみこむ構造となるリテーナプレートB2とリテーナプレートA1を一体固定する固定用リベットの位置及び数は限定され制限が極めて大きい。
そこで、本願発明においては、図1Aに示すように、ダンパーにおける入力側回転部材として機能するリテーナプレートB2が複数のリベット8によってハブスプライン7に連結され、エンジンの出力軸に相当する動力伝達軸(図は省略)に連結し、エンジン出力を受けて入力側として機能している。同じく出力側回転部材として機能するハブプレート3がトランスミッション側への動力伝達軸(図は省略)に対して結合されている。つまり、図1A、図2に示すように、本願の一実施形態に係るダンパーは、ハブプレート3と、その外周側に配置されたフローティングイコライザ4と、これらを挟んで対向配置されたリテーナプレートA1とリテーナプレートB2とを備えて構成されている。
同じく図1A,図2に示すように、ハブプレート3、リテーナプレートB2およびリテーナプレートA1の三者の円周方向において、その四等分位置にそれぞれに二つ一組とする圧縮コイルばね(以下、「トーションスプリング(1段目)」5という。)が4組収容・配置されている。また同様に、二つ一組とするそれぞれのトーションスプリング(1段目)5の中央位置でかつ動力伝達軸側に近い位置に、トーションスプリング(1段目)5より全長および直径の短いトーションスプリング(2段目)6が、円周方向において各90度略四等分位置で4個収容・配置されている。なお、図面上で、円周の等分位置に配置された構成要素は、同一として、符号の付与を省略する。また、各構成要素の詳細は後述する。
上記フローティングイコライザ4とハブプレート3とは相対回転可能であり、リテーナプレートA1はこれらのフローティングイコライザ4とハブプレート3に対して相対回転可能である。リテーナプレートA1とリテーナプレートB2とは後述するように凸形構造リブ14(図3)と外周嵌合リブ11(図4)によって一体的に溶接結合されていて相対回転不能となっている。なおリブ結合方法については溶接に限定されるものではない。
これにより、円周方向の四箇所に配置された各一対のトーションスプリング(1段目)5、及び4箇所に配置されたトーションスプリング(2段目)6を弾性部材とする本発明の捻り振動低減装置ダンパーにおいて、リテーナプレートA1とリテーナプレートB2とが入力側回転部材として一体機能し、ハブプレート3が同じく出力側回転部材として機能することになる。同時にフローティングイコライザ4が中間部材として機能することになる。
このように構成されたダンパーの作用・動作を説明する。図1Aに示すように、共に入力側回転部材として機能するリテーナプレートA1とリテーナプレートB2とが相対回転不能であって、それらのリテーナプレートA1とリテーナプレートB2との間に出力側回転部材として機能するハブプレート3が相対回転可能に配置されていて、それらの入力側回転部材と出力側回転部材との間に二つで一組とする合計4組のトーションスプリング(1段目)5と4つのトーションスプリング(2段目)6がフローティングイコライザ4とともに内包されている。
そのため、回転時には、トーションスプリング(1段目)5が圧縮変形され、次にトーションスプリング(2段目)6が共に圧縮変形されながら、エンジン側からリテーナプレートA1に入力される回転トルクをハブプレート3へと伝達し、そのハブプレート3からトランスミッション側へと伝達することになる。このように、回転において、トーションスプリング(1段目)5とトーションスプリング(2段目)6の持つ弾性係数の違いによって、緩衝された圧縮変形をもって回転トルク伝達過程での捻り振動が吸収または低減されることになる。
さらに、入力側・出力側回転部材同士が正転方向に相対回転した場合だけでなく、入力側・出力側回転部材同士が逆転方向に相対回転した場合にも、左右対称構造を有することにより共に同じ回転トルク特性を実現することができる。このように、トーションスプリング(1段目)5とトーションスプリング(2段目)6の弾性係数の違いを生かすことで、捻り振動低減に関する機能を実効化することができる。
ここで、リテーナプレートA1とともに入力側回転部材として機能することになるリテーナプレートB2は、図1A、図2に示すようにリテーナプレートA1と略同心・略同径の円環状のプレートであって、図4に示すように外周縁部に嵌合用リブ11が曲折形成されていて、リテーナプレートA1と嵌合溶接固定されている。
図4、図6に示すように、リテーナプレートB2とリテーナプレートA1には同様にその円周方向の四箇所に、トーションスプリング(1段目)収容部9である開口部を有し、トーションスプリング(1段目)5を円周方向で囲うように開口部にはカバー部12が膨出形成されている。これにより外周を囲まれたトーションスプリング(1段目)5は、動力伝達軸方向の振動力や高速回転からの遠心力による脱落や座屈破損を防止する構造となっている。またトーションスプリング(1段目)5は、二つ一組の中間でフローティングイコライザ4を受け、両端部でハブプレート3を受けて機能することになる。
また同様に図4、図6に示すように、リテーナプレートB2とリテーナプレートA1にはトーションスプリング(1段目)収容部9の中央位置でかつ軸心側円周方向の四箇所に、トーションスプリング(2段目)収容部10である開口部を有している。図5に拡大図で示すように、リテーナプレートB2におけるトーションスプリング(2段目)収容部10は、円周方向でトーションスプリング(2段目)6を囲うように開口部にはカバー部13が膨出形成されている。図7に拡大図で示すように、リテーナプレートA1におけるトーションスプリング(2段目)収容部10は、開口幅をトーションスプリング(2段目)6の直径より狭くしてあり、膨出したカバー部はない。これらの両プレートにより外周を囲まれたトーションスプリング(2段目)6は、動力伝達軸方向に働く振動力や高速回転からの遠心力による脱落や座屈破損を防止する固定構造となっている。またトーションスプリング(2段目)6は、両端部でハブプレート3を受けて緩衝機能することになる。
次に本発明の一実施形態に係る構造部分について説明する。図5に示すように、リテーナプレートB2のトーションスプリング(2段目)収容部10の中央部でかつ動力伝達軸側である円周方向に、リテーナプレートA1との嵌合溶接用の凸形構造リブ14が垂直に立設形成されている。この凸形構造リブ14は、円周方向に略凸形構造を有し、凸形構造の上部(幅の狭い上部突起部)が、図7に示すリテーナプレートA1のリブ嵌合用開口部15と嵌合し溶接固定される構造をとっている。
凸形構造リブ14の凸形構造下部(幅の広い下部台座部)の高さ寸法は、トーションスプリング(2段目)6の脱落を防止するために囲い固定されるのに十分な寸法で、かつリテーナプレートB2とドライプレート1との間の必要空間寸法であることを要する。また該寸法は、リテーナプレートB2とドライプレート1との間にあり相対回転するハブプレート3の有効な回転機能を確保するために十分な寸法であり、後述するようにハブプレート3と一体化したリテーナプレートB2及びドライプレート1との相対回転による摩擦抵抗を回避するための微小クリアランス構造を考慮した場合に十分な寸法とする。
また、この凸形構造リブ14の凸形構造部下部の横幅寸法は、ハブプレート3の回転運動を受けてトーションスプリング(2段目)6の両端からの収縮限度において、ハブプレート3と凸形構造リブ14の接触が及ばない位置までを確保する横幅寸法であることを要する。
図7に示すように、リテーナプレートA1には図5に示す上記凸形構造リブ14の凸形構造上部と嵌合するリブ嵌合用開口部15が形成されている。もちろんリテーナプレートB2の凸形構造リブ14と略同位置に略同数形成され、この凸形構造リブ14との嵌合溶接固定によって、リテーナプレートA1とリテーナプレートB2は強固に接合されることになる。ただし接合方法は溶接に限定するものではない。
前述したようにリテーナプレートA1とリテーナプレートB2の嵌合固定は、リテーナプレートB2の外周縁部に曲折形成された嵌合用リブ11による外周部嵌合溶接固定と、図5と図7に示すリテーナプレートB2に形成された凸形構造リブ14とリテーナプレートA1のリブ嵌合用開口部15との4箇所の嵌合溶接固定によって強固に成される。
図4と図6で示すように円周方向で囲うように膨出形成されたカバー部12によって囲われ保持固定されているトーションスプリング(1段目)5に比較して、径および長さ共に小さなトーションスプリング(2段目)6の保持固定においては、図7のようにリテーナプレートA1側にはトーションスプリング(2段目)6を囲う膨出形成されたカバー部もなく、保持固定機能としてはトーションスプリング(1段目)5の場合の方が強固であるといえる。膨出形成されたカバー部を設けないのは、リテーナプレートA1のトランスミッション側面には、膨出形成されたカバー部の飛び出し構造を避けたいというダンパー全体としての構造上の理由があるからである。
また、ダンパーには、高速回転時に遠心力や動力伝達軸に対して略平行方向(軸方向)又は略垂直方向への振動、その他様々な外力が負荷としてかかる。それらの負荷外力のなかで、動力伝達軸の軸方向に働く振動は、嵌合接合で一体化されたリテーナプレートB2及びリテーナプレートA1に対しては、その両プレートの間隔を伸縮させる方向に働く。
一方、前述のようにハブプレート3およびフローティングイコライザ4はリテーナプレートB2及びリテーナプレートA1に対して相対回転が可能な構造であることが必要であるため、摩擦を回避するために一定の微小クリアランス構造が動力伝達軸方向に必要である。この観点に立つと、リテーナプレートB2とリテーナプレートA1によってハブプレート3及びフローティングイコライザ4を強固に囲うことによって内部の微小クリアランス構造を確保しなければならない。
つまり動力伝達軸方向の振動、微細な膨張収縮に対してはリテーナプレートB2とリテーナプレートA1とで囲われただけの構造では脆弱であり、従来は、リテーナプレートB2の外周嵌合用リブ11による外周嵌合固定と、円周軸心側は限られたスペースにのみ配置できる小数のリベットとによって固定していた。
特に、動力伝達軸方向に働く外力によるリテーナプレートB2とリテーナプレートA1との間隔を広げ、ハブプクラッチ3を内包する両プレート内部空間を膨ませる方向に働く外力は原理上動力伝達軸近傍部分ほど強く、外周の嵌合用リブ11固定に比較して数本のリベット固定では非常に脆弱であった。それに加え、リベット固定の位置及び数も円周外側から動力伝達軸心に近くなるほどハブプレート3自体の部品面積および回転可能スペースの確保を考慮する必要があるため、リベット固定位置がほとんど限定され、充分な数でのリベット固定がむずかしい状況にあった。
また、トーションスプリング(2段目)6は、トーションスプリング(1段目)5に比較して上記のごとく固定が脆弱である動力伝達軸芯に近接した部分に位置し、形状が小さいことにより特にリテーナプレートB2とリテーナプレートA1との間隔の乖離、膨らみに対しては脱落のリスクが格段に大きい。
このような技術的課題に対して、本発明であるリテーナプレートB2のトーションスプリング(2段目)収容部10の中央部かつ動力伝達軸心側の円周方向に凸形構造リブ14を垂直に設け、リテーナプレートA1との嵌合溶接を行う技術は、上述の課題を解消し得る本願独自の技術であるといえる。
凸形構造リブ14は、円周方向に略凸形構造を有し、凸形構造の上部が、図7に示すリテーナプレートA1のリブ嵌合用開口部15と嵌合し溶接固定される構造をとっているため、凸形構造の下部の高さ寸法によりリテーナプレートA1とリテーナプレートB2との間の安定した空間間隔寸法を強固に確保できる。
トーションスプリング(2段目)6の極めて近傍で、リテーナプレートA1及びリテーナプレートB2が凸形構造リブ14により嵌合溶接されるため、動力伝達軸方向に働く振動等外力によるリテーナプレートA1とリテーナプレートB2との間隔を膨張収縮させる作用を制止しトーションスプリング(2段目)6の破損脱落を効果的に防ぐ。また、そのための格好の位置に配置されるものであるといえる。
これによりトーションスプリングの品質確保及び捻り振動防止装置ダンパーの品質確保、ロングドライブによる長期耐性確保に大きく貢献できる。
ダンパー製造工程におけるメリットも大きい。すなわち、従来リベットを多数用いて固定していた製造工程におけるリベット部品数の削減や各リベット挿入工程、各リベット固定工程などの工数の削減という製造コスト削減効果が大きい。
また、製造工程においては、従来はリテーナプレートA1とリテーナプレートB2を重ね合わせる工程において位置合わせのために治具である機械用支柱ピンを立てて、リテーナプレートA1及びリテーナプレートB2に予め設けられた支柱ピン用ガイド穴に該機械用支柱ピンを通すことによって両プレートを重ね合わせていた。しかし、本発明であるリテーナプレートB2とリテーナプレートA1との嵌合溶接を行うための凸形構造リブ14は、製造工程における両部材の重ね位置合わせ用のガイドピンとしても機能させることが可能である。
ここで、上記の実施の形態は一実施例にすぎず、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形あるいは改良が可能であることは言うまでもない。また、本発明が二次的製造物に組み込まれた場合でも、本発明を用いて生産される装置、方法、システムが、その二次的製造物に登載されて商品化された場合であっても、本発明の価値は何ら減ずるものではない。