[エポキシ樹脂]
本発明のエポキシ樹脂は、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂である。
式(1)中、Rは、n個の水酸基を有する有機化合物からn個の水酸基を除いた残基(n価の基)を示す。nは、1〜100の整数を示す。中でも、nとしては、1〜80が好ましく、より好ましくは1〜40、さらに好ましくは1〜15である。
上記n個の水酸基を有する有機化合物としては、公知乃至慣用の化合物を使用することができ、特に限定されないが、例えば、アルコール類、フェノール類などが挙げられる。上記アルコール類としては、一価のアルコールを使用することもできるし、多価アルコールを使用することもできる。上記アルコール類としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールなどの脂肪族アルコール;ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ネオペンチルグリコールエステル、シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノール)、トリメチルエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールSなどの多価アルコールなどが挙げられる。上記フェノール類としては、具体的には、例えば、フェノール、クレゾール、カテコール、ピロガロール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビスフェノールS、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂などが挙げられる。さらにその他、n個の水酸基を有する有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル部分加水分解物、デンプン、アクリルポリオール樹脂、スチレン−アリルアルコール共重合樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリカプロラクトンポリオール樹脂、ポリプロピレンポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネートポリオール類、水酸基を有するポリブタジエン、セルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系ポリマーなどが挙げられる。また、n個の水酸基を有する有機化合物は、その骨格中に不飽和二重結合を有するものであってもよく、具体例としては、例えば、アリルアルコール、3−シクロヘキセンメタノールなどが挙げられる。
式(1)中、Yは、水素原子又は下記式(a1)で表される基(一価の基)を示す。但し、式(1)におけるYの少なくとも1つは、式(a1)で表される基である。即ち、式(1)で表されるエポキシ樹脂は、Yとして、少なくとも式(a1)で表される基を有する。
式(a1)中、R’は一価の有機基(炭素原子を少なくとも有する一価の基)を示す。上記一価の有機基としては、特に限定されないが、置換又は無置換の炭化水素基、置換又は無置換の複素環式基、これらの基の1以上と1以上の連結基とが結合した基などが挙げられる。
上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した基などが挙げられる。上記脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソオクチル基、デシル基、ドデシル基などのC1-20アルキル基(好ましくはC1-10アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基)などが挙げられる。上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、1−ペンテニル基、2−ペンテニル基、3−ペンテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基などのC2-20アルケニル基(好ましくはC2-10アルケニル基、さらに好ましくはC2-4アルケニル基)などが挙げられる。上記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基などのC2-20アルキニル基(好ましくはC2-10アルキニル基、さらに好ましくはC2-4アルキニル基)などが挙げられる。
上記脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基などのC3-12のシクロアルキル基;シクロヘキセニル基などのC3-12のシクロアルケニル基;ビシクロヘプタニル基、ビシクロヘプテニル基などのC4-15の架橋環式炭化水素基などが挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のC6-14アリール基(特に、C6-10アリール基)などが挙げられる。
また、上記炭化水素基としては、例えば、シクロへキシルメチル基、メチルシクロヘキシル基などの脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した基;ベンジル基、フェネチル基等のC7-18アラルキル基(特に、C7-10アラルキル基)、シンナミル基等のC6-10アリール−C2-6アルケニル基、トリル基等のC1-4アルキル置換アリール基、スチリル基等のC2-4アルケニル置換アリール基などの脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した基などが挙げられる。
上記複素環式基としては、例えば、ピリジル基、フリル基、チエニル基などが挙げられる。また、上記複素環式基としては、2以上の複素環式基が直接結合した基なども挙げられる。
上記一価の有機基における上記炭化水素基や複素環式基が有していてもよい置換基としては、例えば、炭素数0〜20(より好ましくは炭素数0〜10)の置換基などが挙げられる。上記置換基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシ基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブチルオキシ基等のアルコキシ基(好ましくはC1-6アルコキシ基、より好ましくはC1-4アルコキシ基);アリルオキシ基等のアルケニルオキシ基(好ましくはC2-6アルケニルオキシ基、より好ましくはC2-4アルケニルオキシ基);フェノキシ基、トリルオキシ基、ナフチルオキシ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールオキシ基(好ましくはC6-14アリールオキシ基);ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基等のアラルキルオキシ基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ基);アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基(好ましくはC1-12アシルオキシ基);メルカプト基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基(好ましくはC1-6アルキルチオ基、より好ましくはC1-4アルキルチオ基);アリルチオ基等のアルケニルチオ基(好ましくはC2-6アルケニルチオ基、より好ましくはC2-4アルケニルチオ基);フェニルチオ基、トリルチオ基、ナフチルチオ基等の、芳香環にC1-4アルキル基、C2-4アルケニル基、ハロゲン原子、C1-4アルコキシ基等の置換基を有していてもよいアリールチオ基(好ましくはC6-14アリールチオ基);ベンジルチオ基、フェネチルチオ基等のアラルキルチオ基(好ましくはC7-18アラルキルチオ基);カルボキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基(好ましくはC1-6アルコキシ−カルボニル基);フェノキシカルボニル基、トリルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のアリールオキシカルボニル基(好ましくはC6-14アリールオキシ−カルボニル基);ベンジルオキシカルボニル基等のアラルキルオキシカルボニル基(好ましくはC7-18アラルキルオキシ−カルボニル基);アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等のモノ又はジアルキルアミノ基(好ましくはモノ又はジ−C1-6アルキルアミノ基);アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等のアシルアミノ基(好ましくはC1-11アシルアミノ基);エチルオキセタニルオキシ基等のオキセタニル基含有基;アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等のアシル基;オキソ基;これらの2以上が必要に応じてC1-6アルキレン基を介して結合した基などが挙げられる。
上記一価の有機基としては、例えば、1以上の炭化水素基と1以上の連結基[1以上の原子を有する二価の基;例えば、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、−NRa−(Raは、水素原子、水酸基、又はアルキル基を示す)、イミド結合、これらの2以上が結合した基など]とが結合した基なども挙げられる。また、上記一価の有機基は、上記炭化水素基の1以上と上記複素環式基の1以上とが、直接及び/又は1以上の連結基を介して結合した基であってもよい。
中でも、上記式(a1)中のR’としては、置換又は無置換の炭化水素基(例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基など)、−NHR”(R”は置換又は無置換の炭化水素基;例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基など)が好ましい。
なお、nが2以上の整数の場合、式(1)における複数のYは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
式(1)で表されるエポキシ樹脂におけるYの全量(100モル%)に対する、式(a1)で表される基の割合は、特に限定されないが、20モル%以上(例えば、20〜100モル%)が好ましく、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上である。上記割合が20モル%未満であると、硬化物の吸水性が高くなり過ぎ、電気特性が悪化する場合がある。なお、上記割合は、例えば、1H−NMRスペクトル測定や、水酸基価測定などにより算出することができる。
式(1)中、mは、0〜100の整数を示す。なお、nが2以上の整数の場合、式(1)における複数のmは同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、式(1)におけるmの和(総和)は、1〜100の整数である。
式(1)中、Xは、式中に示されるシクロヘキサン環上の置換基であり、下記式(b1)〜(b3)で表される基のいずれかを示す。上記シクロヘキサン環上のXの結合位置は特に限定されないが、通常、酸素原子と結合するシクロヘキサン環の2つの炭素原子の位置を1位、2位とした場合、4位又は5位の炭素原子である。また、式(1)で表されるエポキシ樹脂が複数のシクロヘキサン環を有する場合、それぞれのシクロヘキサン環におけるXの結合位置は同一であってもよいし、異なっていてもよい。但し、式(1)におけるXの少なくとも1つは、式(b1)で表される基(エポキシ基)である。即ち、本発明のエポキシ樹脂は、分子内に少なくとも1つのエポキシ基を有する。なお、本発明のエポキシ樹脂が2以上のXを有する場合、複数のXは同一であってもよいし、異なっていてもよい。
式(b3)中、RZは、水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、置換若しくは無置換のアルキルカルボニル基、又は置換若しくは無置換のアリールカルボニル基を示す。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基などの炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基などが挙げられる。上記アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基、n−プロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、n−ブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、s−ブチルカルボニル基、t−ブチルカルボニル基などのアルキルカルボニル基などが挙げられる。上記アリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、ナフトイル基などが挙げられる。上述のアルキル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基が有していてもよい置換基としては、上述の一価の有機基(式(a1)におけるR’)において例示した置換基と同様のものが挙げられる。
なお、本発明のエポキシ樹脂は、式(1)で表されるエポキシ樹脂の1種より構成されるものであってもよいし、式(1)で表されるエポキシ樹脂の2種以上により構成されるもの(混合物)であってもよい。
式(1)で表されるエポキシ樹脂におけるXの全量(100モル%)に対する、式(b1)で表される基(エポキシ基)の割合は、特に限定されないが、40モル%以上(例えば、40〜100モル%)が好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。上記割合が40モル%未満であると、硬化物の耐熱性や機械特性などが不十分となる場合がある。なお、上記割合は、例えば、1H−NMRスペクトル測定や、オキシラン酸素濃度測定などにより算出することができる。
本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、30〜1000が好ましく、より好ましくは50〜500である。エポキシ当量が30未満であると、硬化物が脆くなってしまう場合がある。一方、エポキシ当量が1000を超えると、硬化物の機械強度や耐熱性が不十分となる場合がある。なお、エポキシ当量は、例えば、JIS K7236に準じて測定することができる。
本発明のエポキシ樹脂のオキシラン酸素濃度は、特に限定されないが、2〜30%が好ましく、より好ましくは5〜15%である。オキシラン酸素濃度が2%未満であると、硬化物の機械強度や耐熱性が不十分となる場合がある。一方、オキシラン酸素濃度が30%を超えると、硬化物が脆くなってしまう場合がある。なお、オキシラン酸素濃度は、例えば、ASTM−D1652法(臭化水素酸法)に準じて測定することができる。
本発明のエポキシ樹脂の軟化点は、特に限定されないが、150℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。軟化点が150℃を超えると、取り扱いが困難となる場合がある。なお、軟化点は、例えば、JIS K7234に準じて測定することができる。
本発明のエポキシ樹脂の水酸基価は、特に限定されないが、50mgKOH/g以下(例えば、0〜50mgKOH/g)が好ましく、より好ましくは30mgKOH/g以下、さらに好ましくは20mKOH/g以下、用途によっては10mgKOH/g以下が好ましい。水酸基価が50mgKOH/gを超えると、硬化物の吸水性が高くなり過ぎ、電気特性が悪化する場合がある。なお、水酸基価は、例えば、JIS K0070に記載の方法に準拠して測定することができる。
本発明のエポキシ樹脂の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量は、特に限定されないが、100〜100000が好ましく、より好ましくは500〜10000である。重量平均分子量が100未満であると、硬化物の機械強度や耐熱性が不十分となる場合がある。一方、重量平均分子量が100000を超えると、他の成分との相容性が低下する場合がある。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定できる。
<本発明のエポキシ樹脂の製造方法>
本発明のエポキシ樹脂は、例えば、下記式(2)で表される化合物(不飽和化合物)を、エポキシ化剤と反応させる工程(「エポキシ化工程」と称する場合がある)を必須の工程として含む方法(「本発明のエポキシ樹脂の製造方法」と称する場合がある)により、製造できる。
式(2)で表される化合物は、式(1)で表されるエポキシ樹脂の前駆体にあたる。即ち、式(2)中のR、n、Y、及びmは、式(1)におけるものと同じである。
[エポキシ化工程]
式(2)で表される化合物は、特に限定されないが、例えば、n個の水酸基を有する有機化合物を開始剤として4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させて後述の式(3)で表される化合物を得、さらにその後、当該化合物が有する末端の水酸基の一部又は全部を変性して、当該水酸基における水素原子を式(a1)で表される基に変換することによって得られる化合物である。式(2)で表される化合物は、より具体的には、後述の不飽和化合物生成工程に記載の方法に準じて製造することができる。なお、式(2)で表される化合物は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
上記エポキシ化剤としては、公知乃至慣用のエポキシ化剤を使用することができ、特に限定されないが、例えば、過酸化水素や、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、トリフルオロ過酢酸などの有機過酸などが挙げられる。中でも、過酢酸は工業的に安価に入手可能であり、かつ安定度も高いため、好ましい。なお、エポキシ化剤は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
式(2)で表される化合物をエポキシ化剤により反応(エポキシ化反応)させる際には、公知乃至慣用の触媒を使用することもできる。上記触媒としては、例えば、炭酸ナトリウムなどのアルカリや、硫酸などの酸などが挙げられる。
上記反応(エポキシ化反応)は、使用する装置や原料の物性に応じて、溶媒使用の有無を決定したり、反応温度を調整して行うことができる。
上記反応を進行させる際の温度(反応温度)は、使用するエポキシ化剤の反応性によって適宜定めることができ、特に限定されないが、例えば、エポキシ化剤として過酢酸を使用する場合には、0〜70℃とすることが好ましい。反応温度が0℃未満の場合には、反応の進行が遅くなり過ぎる場合があり、一方、反応温度が70℃を超えると、過酢酸の分解が起きやすくなる場合がある。
上記反応においては、原料の粘度低下やエポキシ化剤の希釈による安定化などを目的として、溶媒を使用することができる。エポキシ化剤として過酢酸を使用する場合には、例えば、溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチルなどのエステル;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトンなどを使用することができる。
上記反応における式(2)で表される化合物が有する不飽和基(ビニル基)に対するエポキシ化剤の使用量(仕込みモル比)は、本発明のエポキシ樹脂に不飽和基をどれだけ残存させたいかなどの目的に応じて適宜調節することができ、特に限定されない。本発明のエポキシ樹脂として、エポキシ基が多いエポキシ樹脂(例えば、Xの全量に対する式(b1)で表される基の割合が60モル%以上であるエポキシ樹脂)の取得を目的とする場合には、エポキシ化剤を不飽和基に対して、等モル又はそれ以上使用することが好ましい。但し、経済的な観点及び次に述べる副反応の問題からは、不飽和基に対してエポキシ化剤を2倍モルを超えて使用することは通常不利である。例えば、エポキシ化剤として過酢酸を使用する場合には、不飽和基に対して、1〜1.5倍モルの使用量とすることが好ましい。
上記エポキシ化工程により、式(2)で表される化合物の不飽和基(ビニル基)の一部又は全部がエポキシ化され、式(b1)で表される基に変換されることにより、式(1)で表されるエポキシ樹脂(本発明のエポキシ樹脂)が生成する。なお、本発明のエポキシ樹脂における式(b3)で表される基は、例えば、式(2)で表される化合物の不飽和基と有機過酸の反応により生成する有機酸(例えば、酢酸)や、系中に存在する水、アルコールなどが、式(b1)で表される基と反応(副反応)することなどにより生成する。なお、本発明のエポキシ樹脂における式(b1)〜(b3)で表される基の割合(比)は、例えば、エポキシ化剤の種類、エポキシ化剤の使用量(エポキシ化剤と不飽和基のモル比)、反応条件などにより適宜調整できる。
本発明のエポキシ樹脂の製造方法は、上述のエポキシ化工程以外の工程を含んでいてもよい。上記エポキシ化工程以外の工程としては、例えば、生成させた本発明のエポキシ樹脂を精製・単離する工程、式(2)で表される化合物を生成させる工程(「不飽和化合物生成工程」と称する場合がある)などが挙げられる。なお、本発明のエポキシ樹脂を精製・単離する方法としては、特に限定されず、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの公知乃至慣用の方法を利用できる。
[不飽和化合物生成工程]
本発明のエポキシ樹脂の製造方法における不飽和化合物生成工程としては、例えば、下記の工程(i)及び工程(ii)を少なくとも含む工程、又は、工程(ii)を少なくとも含む工程などが挙げられる。
工程(i):n個の水酸基を有する有機化合物を開始剤にして、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させて、下記式(3)で表される化合物(不飽和化合物)を生成させる工程
工程(ii):下記式(3)で表される化合物の末端の水酸基の一部又は全部を変性(末端変性)し、該水酸基における水素原子を式(a1)で表される基に変換し、式(2)で表される化合物を生成させる工程
式(3)で表される化合物は、式(2)で表される化合物の前駆体にあたる。即ち、式(3)中のR、m、及びnは、式(2)(即ち、式(1)も同様)におけるものと同じである。
(工程(i))
工程(i)において使用されるn個の水酸基を有する有機化合物としては、上述の有機化合物を使用できる。n個の水酸基を有する有機化合物は、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドの開環重合の開始剤として使用される。より具体的には、n個の水酸基を有する有機化合物が有する水酸基(活性水素)を出発点として4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドの開環重合が進行する。従って、n個の水酸基を有する有機化合物からn個の水酸基を除いた残基は、開始剤切片として式(3)で表される化合物中に残存する(式(3)におけるR)。
工程(i)において使用される4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドは、公知乃至慣用の方法により製造でき、特に限定されないが、例えば、ブタジエンの2量化反応によって得られる4−ビニルシクロヘキセンを、過酢酸などの酸化剤(エポキシ化剤)を使用して部分エポキシ化することによって得られる。また、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドとしては、市販品を使用することもできる。
工程(i)において、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させる際には、触媒を使用することが好ましい。上記触媒としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ピペラジンなどのアミン類、ピリジン類、イミダゾール類などの有機塩基;ギ酸、酢酸、プロピオン酸などの有機酸;硫酸、塩酸などの無機酸;ナトリウムメチラートなどのアルカリ金属類のアルコラート類;水酸化カリウム、水酸ナトリウムなどのアルカリ類;BF3、ZnCl2、AlCl3、SnCl4などのルイス酸又はそのコンプレックス類;トリエチルアルミニウム、ジエチル亜鉛などの有機金属化合物などが挙げられる。なお、触媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させる際の上記触媒の使用量は、特に限定されないが、出発原料(n個の水酸基を有する有機化合物及び4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシド)100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量部である。
4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させる際の温度(反応温度)は、特に限定されないが、−70〜200℃が好ましく、より好ましくは−30〜100℃である。なお、反応時間は、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドの転化率などに応じて適宜調整することができる。
4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドの開環重合は、溶媒中で進行させることもできる。当該溶媒としては、活性水素を有するものを使用することはできない。即ち、溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ジエチルエーテルなどのエーテル;ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素;酢酸エチルなどのエステルなどを使用できる。なお、溶媒は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
上述のように、工程(i)において、n個の水酸基を有する有機化合物を開始剤として4−ビニルシクロヘキセン−1−オキシドを開環重合させることにより、式(3)で表される化合物が生成する。上記不飽和化合物生成工程は、さらに、生成した式(3)で表される化合物を精製・単離する工程を含んでいてもよい。なお、式(3)で表される化合物を精製・単離する手段としては、特に限定されず、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの公知乃至慣用の方法を利用できる。
工程(i)は、より具体的には、例えば、特昭60−161973号公報に記載の方法に従って実施することができる。
(工程(ii))
工程(ii)において使用される式(3)で表される化合物としては、例えば、上記工程(i)において得られたものを使用することもできるし、特に、不飽和化合物生成工程が工程(i)を含まない場合には、市販品を使用することもできる。なお、式(3)で表される化合物は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
工程(ii)においては、式(3)で表される化合物の末端の水酸基の一部又は全部を変性(末端変性)して、当該水酸基における水素原子を式(a1)で表される基に変換し、式(2)で表される化合物を生成させる。上記変性のために使用する反応物(変性剤)としては、式(3)で表される化合物の末端の水酸基における水素原子を式(a1)で表される基に変換可能なものを使用することができ、特に限定されないが、例えば、脂肪族カルボン酸[例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シクロヘキサンカルボン酸など]、芳香族カルボン酸[例えば、安息香酸など]などのカルボン酸又はその誘導体[酸無水物(例えば、無水酢酸など)、カルボン酸エステル、酸ハロゲン化物など];脂肪族イソシアネート化合物[例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、アクリロイルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネートなど]、芳香族イソシアネート化合物[例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、エチルフェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネート、クロロフェニルイソシアネート、ニトロフェニルイソシアネートなど]などのイソシアネート化合物などが挙げられる。なお、変性剤は1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。例えば、変性剤として、カルボン酸又はその誘導体を使用した場合には、末端の水酸基のエステル化により、式(a1)におけるR’が置換又は無置換の炭化水素基(例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基など)である式(2)で表される化合物を得ることができる。また、例えば、変性剤として、イソシアネート化合物を使用した場合には、末端の水酸基のウレタン化により、式(a1)におけるR’が−NHR”(R”は置換又は無置換の炭化水素基;例えば、置換又は無置換のアルキル基、置換又は無置換のアリール基など)である式(2)で表される化合物を得ることができる。
式(3)で表される化合物の末端の水酸基の一部又は全部を変性する際の反応温度等の条件は、変性剤の種類や使用量、変性させる水酸基の割合などにより異なり、特に限定されず、公知乃至慣用の反応条件を採用することができる。例えば、変性剤として酸無水物(例えば、無水酢酸)を使用した場合には、上記反応温度は、30〜200℃が好ましく、より好ましくは40〜150℃である。また、反応時間は、末端変性の反応率などに応じて適宜調整することができる。
上述のように、工程(ii)において、式(2)で表される化合物が生成する。上記不飽和化合物生成工程は、さらに、生成した式(2)で表される化合物を精製・単離する工程を含んでいてもよい。なお、式(2)で表される化合物を精製・単離する手段としては、特に限定されず、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段などの公知乃至慣用の方法を利用できる。
本発明のエポキシ樹脂(式(1)で表されるエポキシ樹脂)は、エポキシ樹脂が使用される各種用途に適用することができ、その用途は特に限定されないが、例えば、接着剤;塗料;インク;電気絶縁材、積層板、半導体素子の封止材などの各種電気電子材料;レジスト、透明基材、透明シート、透明フィルム、光学素子、光学レンズ、光学部材、光造形、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池基板、光導波路、導光板、ホログラフィックメモリ、光半導体素子の封止材などの各種光学材料;シーラント、構造材などの各種構造材料などが挙げられる。本発明のエポキシ樹脂は、特に、低吸水性や高耐水性であることが要求される電気・電子製品や、電気・電子部品などの用途(これら製品や部品において使用される接着剤、塗料、インクなども含まれる)に好ましく好ましく使用することができる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
トリメチロールプロパン134g(1モル)、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキサイド1863g(15モル)、及びBF3エーテラート31gを60℃で混合し、ガスクロマトグラフィー分析で4−ビニルシクロヘキセン−1−オキサイドの転化率が98%以上になるまで反応させ、反応生成物(3a)を得た。
上記で得られた反応生成物(3a)550gと無水酢酸101gを110℃で混合し、系中に存在する無水酢酸の量が1%未満になるまで反応させて末端変性し、反応生成物(2a)を得た。上記で得られた反応生成物(2a)の水酸基価を測定したところ、14.0mgKOH/gであり、反応生成物(3a)が有する水酸基末端の約83%が変性されていることが確認できた。
上記で得られた反応生成物(2a)575gと過酢酸370gの反応を1700gの酢酸エチル中で行い(反応温度60〜65℃、反応時間6時間)、その後、120℃で脱溶剤することで、粘稠な透明液体(120℃)である反応生成物(1a)を得た。得られた反応生成物(1a)のエポキシ当量は177.3であり、軟化点は59.0℃であった。反応生成物(1a)の1H−NMRスペクトルのチャートを図1に示す。
比較例1
トリメチロールプロパン134g(1モル)、4−ビニルシクロヘキセン−1−オキサイド1863g(15モル)、及びBF3エーテラート31gを60℃で混合し、ガスクロマトグラフィー分析で4−ビニルシクロヘキセン−1−オキサイドの転化率が98%以上になるまで反応させた。得られた反応生成物の水酸基価を測定したところ、79.3mgKOH/gであった。
上記で得られた反応生成物573gと過酢酸387gの反応を1400gの酢酸エチル中で行い(反応温度60〜65℃、反応時間6時間)、その後、120℃で脱溶剤することで、粘稠な透明液体(120℃)である反応生成物を得た。過酢酸によるエポキシ化後の反応生成物のエポキシ当量は165.5であり、軟化点は72.0℃であった。当該反応生成物の1H−NMRスペクトルのチャートを図2に示す。