本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極の間に、発光層を含む有機層が挟持された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該有機層を構成する少なくとも一層に、前記一般式(1)で表される有機金属錯体が含有されていることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項11までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記一般式(1)において、Mに配位している少なくとも一つの配位子の構造が、他の配位子の構造とは異なることが好ましい。また、前記一般式(1)において、環A、環B及び環Cが共にベンゼン環を表すことが好ましい。
さらに、本発明においては、前記一般式(1)において、Mがイリジウムを表すことが好ましい。また前記一般式(1)で表される有機金属錯体が、前記一般式(2)で表されるイリジウム錯体であることが好ましい。前記一般式(2)において、Yが単結合を表すことが好ましい。さらに、前記一般式(2)において、Xが酸素原子を表すことが好ましい。また、前記mが1を表すことが好ましい。
さらに、本発明の有機EL素子が白色に発光することが好ましい。
本発明の有機EL素子は、表示装置及び照明装置に好適に具備され得る。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
《一般式(1)で表される有機金属錯体》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は陽極と陰極の間に、発光層を含む有機層が挟持された有機エレクトロルミネッセンス素子であって、該有機層を構成する少なくとも一層に、下記一般式(1)で表される有機金属錯体が含有されている。好ましくは、有機層のうち発光層に、下記一般式(1)で表されるイリジウム錯体化合物が有機EL素子材料として含有されて構成されているものである。本発明において、有機層とは、有機物を含有する層をいう。
本発明の有機EL素子に、有機EL素子材料として含有される有機金属錯体について説明する。本発明に係る有機金属錯体は下記一般式(1)で表される。
一般式(1)において、環A、環B及び環Cは、5員若しくは6員の、芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。
一般式(1)において、環A、環B及び環Cで表される5員又は6員の芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環が挙げられる。
一般式(1)において、環A、環B及び環Cで表される5員又は6員の芳香族複素環としては、例えば、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環等が挙げられる。
好ましくは環A、環B及び環Cが共にベンゼン環である。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR4は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素環基である。更に好ましくは、アルキル基である。
naは0〜2の整数を表す。nbは0〜3の整数を表す。ncは0〜4の整数を表す。
R1〜R3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。好ましくは、アルキル基、芳香族炭化水素環基である。R1とR3が共に水素原子を表すことはない。すなわち、R1とR3のうち少なくとも一方は、水素原子以外の上記置換基を表す。
R1とR3のうち少なくとも一方が水素原子以外の置換基となることで、置換基の立体的効果により、基底状態と励起状態における環Aの動きが小さくなり、更には結合が弱いと予想されるC−N結合部分が保護され、結果として一般式(1)で表される金属錯体の熱的安定性、及び、電気的安定性が高まるために、該金属錯体を有機EL素子に含有させることで、有機EL素子の発光効率、発光寿命が向上したと予想される。
また、R1とR3のうち少なくとも一方が水素原子以外の置換基となることで、環Aを介した金属錯体間での分子間相互作用が抑制され、昇華性も向上したと考えられる。特に高分子量の金属錯体において蒸着法を用いる場合、昇華性が良いことが金属錯体の分解を抑制し、均一で速やかな蒸着が可能になると考えられる。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、1−エチル−プロピル基、2−メチルヘキシル基、ペンチル基、アダマンチル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4で表される芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基としては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環から導出される1価の基が挙げられる。
芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環、アンスラアントレン環等が挙げられる。
芳香族複素環としては、例えば、シロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、チエノチオフェン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わったものを表す)、ジベンゾシロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環やジベンゾフラン環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わった環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環、ジチエノベンゼン環等が挙げられる。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4で表される非芳香族炭化水素環基としては、例えば、シクロアルカン(例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等)、シクロアルカンから導出される1価の基等が挙げられる。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4で表される非芳香族複素環基としては、例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε−カプロラクトン環、ε−カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン−1,1−ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、オキサントレン環、チオキサンテン環、フェノキサチイン環から導出される1価の基等が挙げられる。
一般式(1)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4で表されるこれらの芳香族炭化水素環、芳香族複素環、非芳香族炭化水素環及び非芳香族複素環は、置換基を有していてもよい。
更にRa、Rb又はRcが複数個存在する場合、当該置換基同士が互いに結合して環を形成してもよく、RaとR4、RbとR3が互いに結合して環を形成しても良い。ただし、R1とR2が互いに結合して環を形成することはない。
一般式(1)において、X及びYはそれぞれ単結合、CR5R6、NR7、O、S又はSiR8R9を表し、X及びYが共に単結合となる場合はない。R5、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、好ましくはアルキル基又は芳香族炭化水素環基である。
一般式(1)において、R5、R6、R7、R8及びR9で表されるアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基としては、前述のRa、Rb、Rc及びR1〜R4で表されるアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基の例として挙げたものが挙げられる。好ましくは、アルキル基又は芳香族炭化水素環基であり、アルキル基として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基又はn−ブチル基であり、芳香族炭化水素環基として好ましくは、ベンゼン環基であり、更に置換基を有していても良い。
一般式(1)において、Yが単結合であることが好ましく、また、Xが酸素原子を表すことが好ましい。
一般式(1)において、LはMに配位したモノアニオン性の二座配位子を表わす。Mは原子番号40以上、かつ元素周期表における8〜10族の遷移金属原子を表すが、Mとして好ましくは、Ir、Pt又はOsであり、最も好ましくはIrである。
一般式(1)において、mは、1〜3の整数を表す。nは0〜2の整数を表す。但し、m+nは、2又は3である。
Mに配位している少なくとも一つの配位子の構造が、他の配位子の構造とは異なることが好ましい。より好ましくは、m=1、n=2の場合である。
《一般式(2)で表される有機金属錯体》
上述の一般式(1)で表される有機金属錯体は、下記一般式(2)で表されるイリジウム錯体であることが好ましい。
一般式(2)において、Ra、Rb、Rc及びR1〜R4は、一般式(1)におけるRa、Rb、Rc及びR1〜R4と同義である。
一般式(2)において、Ra′、Rb′、Rd′、Rf及びRgは、それぞれ独立に、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、シリル基、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、好ましくは、アルキル基又は芳香族炭化水素環基であり、更に好ましくはアルキル基である。更に置換基を有していても良い。
一般式(2)において、Ra、Ra′、Rb、Rb′、Rc、Rd′、Rf、Rg及びR1〜R4で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、1−エチル−プロピル基、2−メチルヘキシル基、ペンチル基、アダマンチル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。更に好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基である。
一般式(2)において、Ra、Ra′、Rb、Rb′、Rc、Rd′、Rf、Rg及びR1〜R4で表される芳香族炭化水素環基及び芳香族複素環基としては、芳香族炭化水素環及び芳香族複素環から導出される1価の基が挙げられる。
芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、ビフェニル環、ビフェニレン環、ナフタレン環、アズレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環、クリセン環、ナフタセン環、トリフェニレン環、o−テルフェニル環、m−テルフェニル環、p−テルフェニル環、アセナフテン環、コロネン環、フルオレン環、フルオラントレン環、ナフタセン環、ペンタセン環、ペリレン環、ペンタフェン環、ピセン環、ピレン環、ピラントレン環アンスラアントレン環等が挙げられる。
芳香族複素環としては、例えば、シロール環、フラン環、チオフェン環、オキサゾール環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、オキサジアゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズオキサゾール環、キノキサリン環、キナゾリン環、フタラジン環、チエノチオフェン環、カルバゾール環、アザカルバゾール環(カルバゾール環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わったものを表す)、ジベンゾシロール環、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環、ベンゾチオフェン環やジベンゾフラン環を構成する炭素原子の任意の一つ以上が窒素原子で置き換わった環、ベンゾジフラン環、ベンゾジチオフェン環、アクリジン環、ベンゾキノリン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、サイクラジン環、キンドリン環、テペニジン環、キニンドリン環、トリフェノジチアジン環、トリフェノジオキサジン環、フェナントラジン環、アントラジン環、ペリミジン環、ナフトフラン環、ナフトチオフェン環、ナフトジフラン環、ナフトジチオフェン環、アントラフラン環、アントラジフラン環、アントラチオフェン環、アントラジチオフェン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、ジベンゾカルバゾール環、インドロカルバゾール環ジチエノベンゼン環等が挙げられる。
一般式(2)において、Ra、Ra′、Rb、Rb′、Rc、Rd′、Rf、Rg及びR1〜R4で表される非芳香族炭化水素環基としては、例えば、シクロアルカン(例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環等)、シクロアルカンから導出される1価の基が挙げられる。
一般式(2)において、Ra、Ra′、Rb、Rb′、Rc、Rd′、Rf、Rg及びR1〜R4で表される非芳香族複素環基としては、例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε−カプロラクトン環、ε−カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3−ジオキサン環、1,4−ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン−1,1−ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]−オクタン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、オキサントレン環、チオキサンテン環、フェノキサチイン環から導出される1価の基等が挙げられる。
一般式(2)において、Ra、Ra′、Rb、Rb′、Rc、Rd′、Rf、Rg、及び、R1〜R4で表されるこれらの環は、置換基を有していてもよい。
更にRa、Ra′、Rb、Rb′、Rc、が複数個存在する場合、当該置換基同士が互いに結合して環を形成してもよく、RbとR3、RaとR4、Ra′とRf、Ra′とRgが互いに結合して環を形成しても良い。ただし、R1とR2、若しくは、Rd′同士が互いに結合して環を形成することはない。
naは0〜2の整数を表す。nbは0〜3の整数を表す。ncは0〜4の整数を表す。na′は0〜3の整数を表す。nb′は0〜4の整数を表す。nd′は0〜2の整数を表わす。
一般式(2)において、X及びYはそれぞれ単結合、CR5R6、NR7、O、S又はSiR8R9を表わし、X及びYが共に単結合となる場合はない。R5、R6、R7、R8及びR9は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基又は非芳香族複素環基を表し、好ましくはアルキル基又は芳香族炭化水素環基である。
一般式(2)において、Yが単結合であることが好ましい。また、Xが酸素原子を表すことが好ましい。
一般式(2)において、m、nは1又は2を表し、m+nは3である。好ましくは、m=1、n=2の場合である。
以下に、一般式(1)及び一般式(2)で表される有機金属錯体の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
≪合成例≫
以下に、一般式(1)で表される化合物の合成例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。上記した具体例のうちDP−1の合成方法を例にとって以下に説明する。
DP−1は以下のスキームに従って合成できる。
100ml四つ口フラスコに中間体A1.65g、2−エトキシエタノール13ml、水3mlを入れ、窒素吹き込み管、温度計、コンデンサーを付けて油浴スターラー上にセットした。これに、0.55gのIrCl3・3H2Oを添加し、窒素気流下、内温135℃付近で6時間煮沸還流して反応終了とした。
反応終了後室温まで冷却した後メタノールを加え、析出した固体を濾取した。得られた個体をメタノールで良く洗浄して乾燥し、中間体Bを1.12g(77.0%)得た。
50ml四つ口フラスコに、1.00gの中間体B、0.86gの中間体C、0.30gのトリフルオロ酢酸銀、酢酸フェニル20mlを入れ、窒素吹き込み管、温度計、空冷管を付けて油浴スターラー上にセットした。窒素気流化内温150℃付近で8時間加熱撹拌して反応終了とした。
反応終了後、室温まで冷却し、メタノールを加え分散後結晶を濾取し、1.06gの粗結晶が得られた。
結晶をカラムクロマトグラフィー(展開溶媒テトラヒドロフラン/ヘプタン)で精製後、得られた結晶をテトラヒドロフラン及び酢酸エチルの混合溶媒で加熱懸濁後、濾過し、DP−1を0.93g(66.6%)得た。化合物DP−1の構造はマススペクトル及び1H−NMRで確認した。
MASS spectrum(ESI):m/z=1235[M+]
1H−NMR(THF−d8、400MHz): δ6.40−7.94(28H、m)、δ2.64−3.48(7H、m)、δ1.19−1.87、(42H、m)
本発明に係る一般式(1)で表される有機金属錯体及び一般式(2)で表される有機金属錯体は発光ドーパントとして、用いられることが好ましい。
また発光ドーパントとして後述する公知のリン光ドーパントや蛍光ドーパントを併用することができる。
《有機EL素子の構成層》
本発明の有機EL素子の構成層について説明する。本発明の有機EL素子において、陽極と陰極との間に挟持される各種有機層の層構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。本発明において、有機層とは、有機物を含有する層をいう。
(i)陽極/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層ユニット/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vii)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層ユニット/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
なお、阻止層としては正孔阻止層の他に、電子阻止層を用いることもできる。
発光層ユニット(以下、適宜、単に発光層という)は、発光層一層でもよく、複数の発光層からなるものであってもよい。更に、発光層ユニットは複数の発光層の間に非発光性の中間層を有していてもよく、該中間層が電荷発生層であるようなマルチフォトンユニット構成であってもよい。この場合、電荷発生層としては、ITO(インジウム・錫酸化物)、IZO(インジウム・亜鉛酸化物)、ZnO2、TiN、ZrN、HfN、TiOx、VOx、CuI、InN、GaN、CuAlO2、CuGaO2、SrCu2O2、LaB6、RuO2等の導電性無機化合物層や、Au/Bi2O3等の二層膜や、SnO2/Ag/SnO2、ZnO/Ag/ZnO、Bi2O3/Au/Bi2O3、TiO2/TiN/TiO2、TiO2/ZrN/TiO2等の多層膜、またC60等のフラーレン類、オリゴチオフェン等の導電性有機物層、金属フタロシアニン類、無金属フタロシアニン類、金属ポルフィリン類、無金属ポルフィリン類等の導電性有機化合物層等が挙げられる。
本発明の有機EL素子における発光層としては白色発光層であることが好ましく、これらを用いた照明装置あるいは表示装置であることが好ましい。すなわち、有機EL素子は白色に発光することが好ましい。
本発明の有機EL素子を構成する各層について以下説明する。
《発光層》
発光層は、それぞれ陰極又は電子輸送層、及び陽極又は正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり、発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。
発光層の層厚の総和は特に制限はないが、膜の均質性や、発光時に不必要な高電圧を印加することを防止し、かつ、駆動電流に対する発光色の安定性向上の観点から、好ましくは2nm〜5μmの範囲に調整され、更に好ましくは2〜200nmの範囲に調整され、特に好ましくは5〜100nmの範囲に調整される。
発光層の作製には、後述する発光ドーパントやホスト化合物を用いて、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett法))等を挙げることができる。)等により成膜して形成することができる。なお、本発明に係る有機金属錯体を発光層の材料として用いる場合、ウェットプロセスにて成膜することが好ましい。
本発明の有機EL素子の発光層には、発光性ドーパント(リン光発光性ドーパントや蛍光発光性ドーパント等)と、ホスト化合物とを含有することが好ましい。
《発光性ドーパント》
発光性ドーパント(発光ドーパントともいう)について説明する。発光性ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパントともいう)、リン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光発光性化合物ともいう)を用いることができる。
《リン光発光性ドーパント》
本発明に用いることができるリン光発光性ドーパント(リン光ドーパントともいう。)について説明する。
本発明に用いることができるリン光ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物である。具体的には室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、リン光量子収率が、25℃において0.01以上の化合物であると定義されるが、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
上記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できるが、本発明に用いることができるリン光ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
リン光ドーパントの発光は原理としては二種挙げられ、一つはキャリアが輸送されるホスト化合物上でキャリアの再結合が起こって発光性ホスト化合物の励起状態が生成し、このエネルギーをリン光ドーパントに移動させることでリン光ドーパントからの発光を得るというエネルギー移動型である。もう一つはリン光ドーパントがキャリアトラップとなり、リン光ドーパント上でキャリアの再結合が起こり、リン光ドーパント化合物からの発光が得られるというキャリアトラップ型である。いずれの場合においても、リン光ドーパントの励起状態のエネルギーはホスト化合物の励起状態のエネルギーよりも低いことが条件である。
《蛍光ドーパント(蛍光性化合物ともいう)》
蛍光ドーパントとしては、クマリン系色素、ピラン系色素、シアニン系色素、クロコニウム系色素、スクアリウム系色素、オキソベンツアントラセン系色素、フルオレセイン系色素、ローダミン系色素、ピリリウム系色素、ペリレン系色素、スチルベン系色素、ポリチオフェン系色素、又は希土類錯体系蛍光体等や、レーザー色素に代表される蛍光量子収率が高い化合物が挙げられる。
《従来公知のドーパントとの併用》
また、本発明に用いることができる発光ドーパントは、複数種の化合物を併用して用いてもよく、構造の異なるリン光ドーパント同士の組み合わせや、リン光ドーパントと蛍光ドーパントを組み合わせて用いてもよい。
ここで、発光ドーパントとして、本発明に係る一般式(1)又は(2)で表される有機金属錯体と併用して用いてもよい従来公知の発光ドーパントの具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
《ホスト化合物》
本発明においてホスト化合物(発光ホストともいう。)は、発光層に含有される化合物の内で、その層中での構成質量比率が20%以上であり、かつ室温(25℃)においてリン光発光のリン光量子収率が、0.1未満の化合物と定義される。好ましくはリン光量子収率が0.01未満である。また、発光層に含有される化合物の内で、その層中での質量比が50%以上であることが好ましい。
本発明に用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、又は、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
本発明に用いることができる公知のホスト化合物としては正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高Tg(ガラス転移温度)である化合物が好ましい。
また、本発明においては、従来公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、前記リン光ドーパントとして用いられる本発明の金属錯体及び/又は従来公知の化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
また、本発明に用いられるホスト化合物としては、低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(重合性ホスト化合物)でもよく、このような化合物を一種又は複数種用いても良い。
公知のホスト化合物の具体例としては、以下の文献に記載の化合物が挙げられる。
特開2001−257076号公報、同2002−308855号公報、同2001−313179号公報、同2002−319491号公報、同2001−357977号公報、同2002−334786号公報、同2002−8860号公報、同2002−334787号公報、同2002−15871号公報、同2002−334788号公報、同2002−43056号公報、同2002−334789号公報、同2002−75645号公報、同2002−338579号公報、同2002−105445号公報、同2002−343568号公報、同2002−141173号公報、同2002−352957号公報、同2002−203683号公報、同2002−363227号公報、同2002−231453号公報、同2003−3165号公報、同2002−234888号公報、同2003−27048号公報、同2002−255934号公報、同2002−260861号公報、同2002−280183号公報、同2002−299060号公報、同2002−302516号公報、同2002−305083号公報、同2002−305084号公報、同2002−308837号公報等。
以下、本発明の有機EL素子の発光層のホスト化合物として用いられる具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
更に、本発明の有機EL素子の発光層のホスト化合物として特に好ましいものは、下記一般式(B)又は一般式(E)で表される化合物である。
一般式(B)及び(E)中、XaはO又はSを表し、Xb、Xc、Xd及びXeは、各々水素原子、置換基又は下記一般式(C)で表される基を表し、Xb、Xc、Xd及びXeのうち少なくとも一つは下記一般式(C)で表される基を表し、下記一般式(C)で表される基のうち少なくとも一つはArがカルバゾリル基を表す。
一般式(C)
Ar−(L4)n−*
一般式(C)中、L4は芳香族炭化水素環又は芳香族複素環から導出される2価の連結基を表す。nは0〜3の整数を表し、nが2以上の場合、複数のL4は同じでも異なっていてもよい。*は一般式(B)又は(E)との連結部位を表す。Arは下記一般式(D)で表される基を表す。
一般式(D)中、XfはN(R″)、O又はSを表し、E1〜E8はC(R″1)又はNを表し、R″及びR″1は水素原子、置換基又は一般式(C)におけるL4との連結部位を表す。*は一般式(C)におけるL4との連結部位を表す。
上記一般式(B)で表される化合物においては、好ましくは、Xb、Xc、Xd及びXeのうち少なくとも二つが一般式(C)で表され、より好ましくはXcが一般式(C)で表されかつ一般式(C)のArが置換基を有していてもよいカルバゾリル基を表す。
以下に、本発明の有機EL素子の発光層のホスト化合物として好ましく用いられる一般式(B)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
また、本発明の有機EL素子の発光層のホスト化合物として、下記一般式(B′)で表される化合物も、特に好ましく用いられる。
一般式(B′)中、XaはO又はSを表し、Xb及びXcは、各々置換基又は上記した一般式(C)で表される基を表す。
Xb及びXcのうち少なくとも一つは上記した一般式(C)で表される基を表し、該一般式(C)で表される基のうち少なくとも一つはArがカルバゾリル基を表す。
上記一般式(B′)で表される化合物においては、好ましくは、一般式(C)のArが置換基を有していてもよいカルバゾリル基を表し、より好ましくは、一般式(C)のArが置換基を有していてもよく、かつN位で一般式(C)におけるL4と連結したカルバゾリル基を表す。
本発明の有機EL素子の発光層のホスト化合物として好ましく用いられる一般式(B′)で表される化合物は、具体的には、先にホスト化合物として用いられる具体例として挙げた、OC−9、OC−11、OC−12、OC−14、OC−18、OC−29、OC−30、OC−31、OC−32が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
《電子輸送層》
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層若しくは複数層を設けることができる。電子輸送層は陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよく、電子輸送層の構成材料としては従来公知の化合物の中から任意のものを選択し併用することも可能である。
電子輸送層に用いられる従来公知の材料(以下、電子輸送材料という)の例としては、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレン等の多環芳香族炭化水素、複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、カルボリン誘導体、又は、該カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の炭素原子の少なくとも一つが窒素原子で置換されている環構造を有する誘導体、ヘキサアザトリフェニレン誘導体等が挙げられる。
更に、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引性基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も電子輸送材料として用いることができる。
これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、8−キノリノール誘導体の金属錯体、例えば、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)、トリス(5,7−ジクロロ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5,7−ジブロモ−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、トリス(5−メチル−8−キノリノール)アルミニウム、ビス(8−キノリノール)亜鉛(Znq)等、及びこれらの金属錯体の中心金属がIn、Mg、Cu、Ca、Sn、Ga又はPbに置き替わった金属錯体も電子輸送材料として用いることができる。
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも電子輸送材料として用いることができる。
また、n型−Si、n型−SiC等の無機半導体も電子輸送材料として用いることができる。
電子輸送層は電子輸送材料を、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいい、例えば、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア・ブロジェット(Langmuir Blodgett法)等を挙げることができる。))等により、薄膜化することにより形成することが好ましい。
電子輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5〜5000nm程度、好ましくは5〜200nmである。この電子輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
また、金属錯体やハロゲン化金属など金属化合物等のn型ドーパントをドープして用いてもよい。
以下、本発明の有機EL素子の電子輸送層の形成に好ましく用いられる従来公知の化合物(電子輸送材料)の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
《陰極》
一方、陰極としては仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、層厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陰極に上記金属を1〜20nmの層厚で作製した後に、後述する陽極の説明で挙げる導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
《注入層:正孔注入層(陽極バッファー層)、電子注入層(陰極バッファー層)》
注入層は必要に応じて設ける層であり、正孔注入層と電子注入層がある。注入層は、上記の層構成に示すように陽極と正孔輸送層との間や、陰極と電子輸送層との間に存在させてもよい。あるいは、陽極と発光層との間や、陰極と発光層との間に存在させてもよい。
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123頁〜166頁)に詳細に記載されており、正孔注入層(陽極バッファー層)と電子注入層(陰極バッファー層)とがある。
陽極バッファー層(正孔注入層)は、特開平9−45479号公報、同9−260062号公報、同8−288069号公報等にもその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニンバッファー層、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなヘキサアザトリフェニレン誘導体バッファー層、酸化バナジウムに代表される酸化物バッファー層、アモルファスカーボンバッファー層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子バッファー層、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム錯体等に代表されるオルトメタル化錯体層等が挙げられる。
陰極バッファー層(電子注入層)は、特開平6−325871号公報、同9−17574号公報、同10−74586号公報等にもその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属バッファー層、フッ化リチウム、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属化合物バッファー層、フッ化マグネシウム、フッ化セシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物バッファー層、酸化アルミニウムに代表される酸化物バッファー層等が挙げられる。上記バッファー層(注入層)はごく薄い膜であることが望ましく、素材にもよるがその層厚は0.1nm〜5μmの範囲が好ましい。
《阻止層:正孔阻止層、電子阻止層》
阻止層は、上記の如く有機化合物薄膜の基本構成層の他に必要に応じて設けられるものである。例えば、特開平11−204258号公報、同11−204359号公報、及び「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の237頁等に記載されている正孔阻止(ホールブロック)層がある。
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有し、電子を輸送する機能を有しつつ正孔を輸送する能力が著しく小さい正孔阻止材料からなり、電子を輸送しつつ正孔を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、前述する電子輸送層の構成を必要に応じて、正孔阻止層として用いることができる。
本発明の有機EL素子の正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられていることが好ましい。
正孔阻止層には、前述のホスト化合物として挙げた、カルバゾール誘導体、カルボリン誘導体、ジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン環を構成する炭素原子のいずれか一つが窒素原子で置き換わったものを示す)を含有することが好ましい。
また、本発明においては、複数の発光色の異なる複数の発光層を有する場合、その発光極大波長が最も短波にある発光層(最短波層)が、全発光層中、最も陽極に近いことが好ましい。そしてこのような場合、該最短波層と、この最短波層の次に陽極に近い発光層との間に正孔阻止層を追加して設けることが好ましい。更には、この位置に設けられる正孔阻止層に含有される化合物の50質量%以上が、前記最短波発光層のホスト化合物に対しそのイオン化ポテンシャルが0.3eV以上大きいことが好ましい。
イオン化ポテンシャルは化合物のHOMO(最高占有軌道)レベルにある電子を真空準位に放出するのに必要なエネルギーで定義され、例えば下記に示すような方法により求めることができる。
(1)米国Gaussian社製の分子軌道計算用ソフトウェアであるGaussian98(Gaussian98、Revision A.11.4,M.J.Frisch,et al,Gaussian,Inc.,Pittsburgh PA,2002.)を用い、キーワードとしてB3LYP/6−31G*を用いて構造最適化を行うことにより算出した値(eV単位換算値)として求めることができる。この計算値が有効な背景には、この手法で求めた計算値と実験値の相関が高いためである。
(2)イオン化ポテンシャルは光電子分光法で直接測定する方法により求めることもできる。例えば、理研計器社製の低エネルギー電子分光装置「Model AC−1」を用いて、あるいは紫外光電子分光として知られている方法を好適に用いることができる。
一方、電子阻止層とは広い意味では正孔輸送層の機能を有し、正孔を輸送する機能を有しつつ電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、後述する正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に用いることができる正孔阻止層、電子輸送層の層厚としては、好ましくは3〜100nmであり、更に好ましくは5〜30nmである。
《正孔輸送層》
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送層は単層又は複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
また、特表2003−519432号公報や特開2006−135145号公報等に記載されているようなアザトリフェニレン誘導体も同様に正孔輸送材料として用いることができる。
正孔輸送材料としては上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノフェニル;N,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−〔1,1′−ビフェニル〕−4,4′−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N′,N′−テトラ−p−トリル−4,4′−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N′−ジフェニル−N,N′−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4′−ジアミノビフェニル;N,N,N′,N′−テトラフェニル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル;4,4′−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4′−〔4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル〕スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4′−N,N−ジフェニルアミノスチルベン;N−フェニルカルバゾール、更には米国特許第5,061,569号明細書に記載されている2個の縮合芳香族環を分子内に有するもの、例えば、4,4′−ビス〔N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ〕ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが三つスターバースト型に連結された4,4′,4″−トリス〔N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(MTDATA)等が挙げられる。
更にこれらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
また、p型−Si、p型−SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
また、特開平11−251067号公報、J.Huang et.al.著文献(Applied Physics Letters 80(2002),p.139)に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られることからこれらの材料を用いることが好ましい。
正孔輸送層は上記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。
正孔輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm〜5μm程度、好ましくは5〜200nmである。この正孔輸送層は上記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であってもよい。
また、不純物をドープしたp性の高い正孔輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4−297076号公報、特開2000−196140号公報、同2001−102175号公報の各公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
本発明においては、このようなp性の高い正孔輸送層を用いることが、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
《陽極》
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としては、Au等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。
また、IDIXO(In2O3−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度を余り必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。
あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に層厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
《支持基板》
本発明の有機EL素子に用いることのできる支持基板(以下、基板ともいう。)としては、ガラス、プラスチック等の種類には特に限定はなく、また透明であっても不透明であってもよい。支持基板側から光を取り出す場合には、支持基板は透明であることが好ましい。好ましく用いられる透明な支持基板としては、ガラス、石英、透明樹脂フィルムを挙げることができる。特に好ましい支持基板は、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能な樹脂フィルムである。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、アートン(商品名JSR社製)あるいはアペル(商品名三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等を挙げられる。
樹脂フィルムの表面には、無機物、有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜が形成されていてもよく、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のバリアー性フィルムであることが好ましく、更には、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、10−3cm3/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、10−5g/(m2・24h)以下の高バリアー性フィルムであることが好ましい。
バリアー膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
バリアー膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができるが、特開2004−68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが特に好ましい。
不透明な支持基板としては、例えば、アルミ、ステンレス等の金属板、フィルムや不透明樹脂基板、セラミック製の基板等が挙げられる。
本発明の有機EL素子の発光の室温における外部取り出し量子効率は、1%以上であることが好ましく、5%以上であるとより好ましい。
ここで、外部取り出し量子効率(%)=有機EL素子外部に発光した光子数/有機EL素子に流した電子数×100である。
また、カラーフィルター等の色相改良フィルター等を併用しても、有機EL素子からの発光色を蛍光体を用いて多色へ変換する色変換フィルターを併用してもよい。色変換フィルターを用いる場合においては、有機EL素子の発光のλmaxは480nm以下が好ましい。
《有機EL素子の作製方法》
有機EL素子の作製方法の一例として、陽極/正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)/陰極からなる素子の作製方法について説明する。
まず、適当な基板上に所望の電極物質、例えば、陽極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは10〜200nmの層厚になるように形成させ、陽極を作製する。
次に、この上に素子材料である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等の有機化合物を含有する薄膜を形成させる。
薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、湿式法(ウェットプロセスともいう)等により成膜して形成することができる。
湿式法としては、スピンコート法、キャスト法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット法、印刷法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法等があるが、精密な薄膜が形成可能で、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、インクジェット法、スプレーコート法などのロール・ツー・ロール方式適性の高い方法が好ましい。また、層ごとに異なる成膜法を適用してもよい。
本発明に用いることができる有機EL材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素環類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができる。
また、分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
これらの層の形成後、その上に陰極用物質からなる薄膜を1μm以下、好ましくは50〜200nmの範囲の層厚になるように形成させ、陰極を設けることにより所望の有機EL素子が得られる。
また、順序を逆にして、陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に作製することも可能である。
本発明の有機EL素子の作製は、1回の真空引きで一貫して正孔注入層から陰極まで作製するのが好ましいが、途中で取り出して異なる成膜法を施しても構わない。その際、作業を乾燥不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
《封止》
本発明に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されておればよく、凹板状でも平板状でもよい。また透明性、電気絶縁性は特に問わない。
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。
また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等から形成されたものを挙げることができる。
金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
本発明においては、素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。
更には、ポリマーフィルムは、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3cm3/(m2・24h・atm)以下、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された、水蒸気透過度(25±0.5℃、相対湿度(90±2)%RH)が、1×10−3g/(m2・24h)以下のものであることが好ましい。
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。
接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2−シアノアクリル酸エステル等の湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
なお、有機EL素子が熱処理により劣化する場合があるので、室温から80℃までに接着硬化できるものが好ましい。また、前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいてもよい。封止部分への接着剤の塗布は市販のディスペンサーを使ってもよいし、スクリーン印刷のように印刷してもよい。
また、有機層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に該電極と有機層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であればよく、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。
更に、該膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体やフッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば、過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
《保護膜、保護板》
有機層を挟み支持基板と対向する側の前記封止膜、あるいは前記封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために保護膜、あるいは保護板を設けてもよい。特に封止が前記封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、前記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
《光取り出し》
有機EL素子は空気よりも屈折率の高い(屈折率が1.7〜2.1程度)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15%から20%程度の光しか取り出せないことが一般的にいわれている。これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極ないし発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極ないし発光層を導波し、結果として光が素子側面方向に逃げるためである。
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(米国特許第4,774,435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(特開昭63−314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(特開平1−220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(特開昭62−172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(特開2001−202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11−283751号公報)等がある。
本発明においては、これらの方法を本発明の有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率な平坦層を導入する方法、あるいは基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
本発明はこれらの手段を組み合わせることにより、更に高輝度あるいは耐久性に優れた素子を得ることができる。
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど外部への取り出し効率が高くなる。
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマー等が挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5〜1.7程度であるので、低屈折率層は屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。また、更に1.35以下であることが好ましい。
また、低屈折率媒質の厚さは媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む層厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
全反射を起こす界面若しくはいずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は回折格子が1次の回折や2次の回折といったいわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間若しくは、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
回折格子を導入する位置としては前述のとおり、いずれかの層間若しくは媒質中(透明基板内や透明電極内)でもよいが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が望ましい。
このとき、回折格子の周期は媒質中の光の波長の約1/2〜3倍程度が好ましい。
回折格子の配列は正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状等、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
《集光シート》
本発明の有機EL素子は基板の光取り出し側に、例えば、マイクロレンズアレイ状の構造を設けるように加工したり、あるいはいわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば、素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
マイクロレンズアレイの例としては、基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10μm〜100μmが好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
集光シートとしては、例えば、液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして、例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)等を用いることができる。
プリズムシートの形状としては、例えば、基板に頂角90度、ピッチ50μmの三角形状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であってもよい。
また、発光素子からの光放射角を制御するために、光拡散板・フィルムを集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)等を用いることができる。
《用途》
本発明の有機EL素子は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。発光光源として、例えば、照明装置(家庭用照明、車内照明)、時計や液晶用バックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるがこれに限定するものではないが、特に液晶表示装置のバックライト、照明用光源としての用途に有効に用いることができる。
本発明の有機EL素子においては、必要に応じ成膜時にメタルマスクやインクジェットプリンティング法等でパターニングを施してもよい。パターニングする場合は、電極のみをパターニングしてもよいし、電極と発光層をパターニングしてもよいし、素子全層をパターニングしてもよく、素子の作製においては、従来公知の方法を用いることができる。
本発明の有機EL素子や本発明に係る化合物の発光する色は、「新編色彩科学ハンドブック」(日本色彩学会編、東京大学出版会、1985)の108頁の図4.16において、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタオプティクス(株)製)で測定した結果をCIE色度座標に当てはめたときの色で決定される。
また、本発明の有機EL素子が白色素子の場合には、白色とは、2度視野角正面輝度を上記方法により測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がx=0.33±0.07、y=0.33±0.1の領域内にあることをいう。
《表示装置》
本発明の表示装置について説明する。本発明の表示装置は、本発明の有機EL素子を具備したものである。本発明の表示装置は単色でも多色でもよいが、ここでは多色表示装置について説明する。
多色表示装置の場合は発光層形成時のみシャドーマスクを設け、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で膜を形成できる。
発光層のみパターニングを行う場合、その方法に限定はないが、好ましくは蒸着法、インクジェット法、スピンコート法、印刷法である。
表示装置に具備される有機EL素子の構成は、必要に応じて上記の有機EL素子の構成例の中から選択される。
また、有機EL素子の製造方法は、上記の本発明の有機EL素子の製造の一態様に示したとおりである。
このようにして得られた多色表示装置に直流電圧を印加する場合には、陽極を+、陰極を−の極性として電圧2V〜40V程度を印加すると発光が観測できる。また、逆の極性で電圧を印加しても電流は流れずに発光は全く生じない。更に交流電圧を印加する場合には、陽極が+、陰極が−の状態になったときのみ発光する。なお、印加する交流の波形は任意でよい。
多色表示装置は、表示デバイス、ディスプレイ、各種発光光源として用いることができる。表示デバイス、ディスプレイにおいて、青、赤、緑発光の三種の有機EL素子を用いることによりフルカラーの表示が可能となる。
表示デバイス、ディスプレイとしては、テレビ、パソコン、モバイル機器、AV機器、文字放送表示、自動車内の情報表示等が挙げられる。特に静止画像や動画像を再生する表示装置として使用してもよく、動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。
発光光源としては家庭用照明、車内照明、時計や液晶用のバックライト、看板広告、信号機、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
以下、本発明の有機EL素子を有する表示装置の一例を図面に基づいて説明する。
図1は有機EL素子から構成される表示装置の一例を示した模式図である。有機EL素子の発光により画像情報の表示を行う、例えば、携帯電話等のディスプレイの模式図である。
ディスプレイ1は複数の画素を有する表示部A、画像情報に基づいて表示部Aの画像走査を行う制御部B等からなる。制御部Bは表示部Aと電気的に接続され、複数の画素それぞれに外部からの画像情報に基づいて走査信号と画像データ信号を送り、走査信号により走査線毎の画素が画像データ信号に応じて順次発光して画像走査を行って画像情報を表示部Aに表示する。
図2は表示部Aの模式図である。
表示部Aは基板上に、複数の走査線5及びデータ線6を含む配線部と複数の画素3等とを有する。表示部Aの主要な部材の説明を以下に行う。
図2においては、画素3の発光した光が白矢印方向(下方向)へ取り出される場合を示している。配線部の走査線5及び複数のデータ線6はそれぞれ導電材料からなり、走査線5とデータ線6は格子状に直交して、直交する位置で画素3に接続している(詳細は図示していない)。
画素3は走査線5から走査信号が印加されると、データ線6から画像データ信号を受け取り、受け取った画像データに応じて発光する。発光の色が赤領域の画素、緑領域の画素、青領域の画素を適宜同一基板上に並置することによって、フルカラー表示が可能となる。
次に、画素の発光プロセスを説明する。図3は画素の回路を示す模式図である。
画素は有機EL素子10、スイッチングトランジスタ11、駆動トランジスタ12、コンデンサー13等を備えている。複数の画素に有機EL素子10として、赤色、緑色、青色発光の有機EL素子を用い、これらを同一基板上に並置することでフルカラー表示を行うことができる。
図3において、制御部Bからデータ線6を介してスイッチングトランジスタ11のドレインに画像データ信号が印加される。そして、制御部Bから走査線5を介してスイッチングトランジスタ11のゲートに走査信号が印加されると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオンし、ドレインに印加された画像データ信号がコンデンサー13と駆動トランジスタ12のゲートに伝達される。
画像データ信号の伝達により、コンデンサー13が画像データ信号の電位に応じて充電されるとともに、駆動トランジスタ12の駆動がオンする。駆動トランジスタ12は、ドレインが電源ライン7に接続され、ソースが有機EL素子10の電極に接続されており、ゲートに印加された画像データ信号の電位に応じて電源ライン7から有機EL素子10に電流が供給される。
制御部Bの順次走査により走査信号が次の走査線5に移ると、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフする。しかし、スイッチングトランジスタ11の駆動がオフしてもコンデンサー13は充電された画像データ信号の電位を保持するので、駆動トランジスタ12の駆動はオン状態が保たれて、次の走査信号の印加が行われるまで有機EL素子10の発光が継続する。順次走査により次に走査信号が印加されたとき、走査信号に同期した次の画像データ信号の電位に応じて駆動トランジスタ12が駆動して有機EL素子10が発光する。
即ち、有機EL素子10の発光は、複数の画素それぞれの有機EL素子10に対して、アクティブ素子であるスイッチングトランジスタ11と駆動トランジスタ12を設けて、複数の画素3それぞれの有機EL素子10の発光を行っている。このような発光方法をアクティブマトリクス方式と呼んでいる。
ここで、有機EL素子10の発光は複数の階調電位を持つ多値の画像データ信号による複数の階調の発光でもよいし、2値の画像データ信号による所定の発光量のオン、オフでもよい。また、コンデンサー13の電位の保持は次の走査信号の印加まで継続して保持してもよいし、次の走査信号が印加される直前に放電させてもよい。
本発明においては、上述したアクティブマトリクス方式に限らず、走査信号が走査されたときのみデータ信号に応じて有機EL素子を発光させるパッシブマトリクス方式の発光駆動でもよい。
図4はパッシブマトリクス方式による表示装置の模式図である。図4において、複数の走査線5と複数の画像データ線6が画素3を挟んで対向して格子状に設けられている。
順次走査により走査線5の走査信号が印加されたとき、印加された走査線5に接続している画素3が画像データ信号に応じて発光する。
パッシブマトリクス方式では画素3にアクティブ素子が無く、製造コストの低減が計れる。
《照明装置》
本発明の照明装置について説明する。本発明の照明装置は本発明の有機EL素子を具備したものである。
本発明の有機EL素子に共振器構造を持たせた有機EL素子として用いてもよく、このような共振器構造を有した有機EL素子の使用目的としては、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられるが、これらに限定されない。また、レーザー発振をさせることにより上記用途に使用してもよい。
また、本発明の有機EL素子は照明用や露光光源のような一種のランプとして使用してもよいし、画像を投影するタイプのプロジェクション装置や、静止画像や動画像を直接視認するタイプの表示装置(ディスプレイ)として使用してもよい。
動画再生用の表示装置として使用する場合の駆動方式は、単純マトリクス(パッシブマトリクス)方式でもアクティブマトリクス方式でもどちらでもよい。又は、異なる発光色を有する本発明の有機EL素子を二種以上使用することにより、フルカラー表示装置を作製することが可能である。
また、本発明の有機EL材料は照明装置として、実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。複数の発光材料により複数の発光色を同時に発光させて混色により白色発光を得る。複数の発光色の組み合わせとしては、赤色、緑色、青色の3原色の三つの発光極大波長を含有させたものでもよいし、青色と黄色、青緑と橙色等の補色の関係を利用した二つの発光極大波長を含有したものでもよい。
また複数の発光色を得るための発光材料の組み合わせは、複数のリン光又は蛍光で発光する材料を複数組み合わせたもの、蛍光又はリン光で発光する発光材料と、発光材料からの光を励起光として発光する色素材料との組み合わせたもののいずれでもよいが、本発明に係る白色有機EL素子においては、発光ドーパントを複数組み合わせ混合するだけでよい。
発光層、正孔輸送層あるいは電子輸送層等の形成時のみマスクを設け、マスクにより塗り分ける等単純に配置するだけでよく、他層は共通であるのでマスク等のパターニングは不要であり、一面に蒸着法、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等で例えば電極膜を形成でき、生産性も向上する。
この方法によれば、複数色の発光素子をアレー状に並列配置した白色有機EL装置と異なり、素子自体が発光白色である。
発光層に用いる発光材料としては特に制限はなく、例えば、液晶表示素子におけるバックライトであれば、CF(カラーフィルター)特性に対応した波長範囲に適合するように、本発明に係る金属錯体、また公知の発光材料の中から任意のものを選択して組み合わせて白色化すればよい。
《本発明の照明装置の一態様》
本発明の有機EL素子を具備した、本発明の照明装置の一態様について説明する。
本発明の有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封止用基板として用いて、周囲にシール材として、エポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラックストラックLC0629B)を適用し、これを陰極上に重ねて透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して、硬化させて、封止し、図5、図6に示すような照明装置を形成することができる。
図5は、照明装置の概略図を示し、本発明の有機EL素子101はガラスカバー102で覆われている(なお、ガラスカバーでの封止作業は、有機EL素子101を大気に接触させることなく窒素雰囲気下のグローブボックス(純度99.999%以上の高純度窒素ガスの雰囲気下)で行った。)。
図6は、照明装置の断面図を示し、図6において、105は陰極、106は有機EL層、107は透明電極付きガラス基板を示す。なお、ガラスカバー102(図5参照)内には窒素ガス108が充填され、捕水剤109が設けられている。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
以下に説明する実施例で用いられる化合物の構造を以下に示す。
(実施例1)
≪有機EL素子1−1の作製≫
100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上に、陽極としてITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製、NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、H.C.スタルク社製、CLEVIO P VP AI 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用い、3000rpm、30秒の条件でスピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚20nmの第1正孔輸送層を設けた。
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートに正孔輸送材料としてα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにホスト化合物としてOC−30を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに電子輸送材料としてET−8を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに発光ドーパントとして比較化合物Aを100mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板上に蒸着し、層厚20nmの第2正孔輸送層を設けた。
更に、ホスト化合物としてOC−30と発光ドーパントとして比較化合物Aの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒、0.006nm/秒で前記第2正孔注入層上に共蒸着して層厚40nmの発光層を設けた。
更に、ET−8が入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層上に蒸着して層厚30nmの電子輸送層を設けた。
なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
引き続き、フッ化リチウムを蒸着して層厚0.5nmの陰極バッファー層を形成し、更にアルミニウムを蒸着して層厚110nmの陰極を形成し、有機EL素子1−1を作製した。
≪有機EL素子1−2〜1−27の作製≫
有機EL素子1−1の作製において、発光層におけるホスト化合物及び発光ドーパントを表1に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子1−2〜1−27を作製した。
≪有機EL素子1−1〜1−27の評価≫
得られた有機EL素子1−1〜1−27を評価するに際しては、作製後の各有機EL素子の非発光面をガラスケースで覆い、厚さ300μmのガラス基板を封使用基板として用いて、周囲にシール剤としてエポキシ系光硬化型接着剤(東亞合成社製ラクストラックLC0629B)を適用し、これを上記陰極上に重ねて前記透明支持基板と密着させ、ガラス基板側からUV光を照射して硬化させて封止し、図5及び図6に示すような照明装置を作製して評価した。
このようにして作製した各サンプルについて以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
次いで、下記評価を行った。
(発光効率)
有機EL素子を24℃、2.5mA/cm2の定電流条件下による点灯を行い、点灯開始直後の発光輝度(L)[cd/m2]を測定することにより、外部取り出し量子効率(η)を算出して、発光効率の尺度とした。
ここで、発光輝度の測定は、分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタオプティクス製)を用いて行い、外部取り出し量子効率は有機EL素子1−1を100とする相対値で表した。
(半減寿命)
各有機EL素子を初期輝度1000cd/m2を与える電流で定電流駆動して、初期輝度の1/2(500cd/m2)になる時間を求め、これを半減寿命の尺度とした。なお、半減寿命は有機EL素子1−1を100とする相対値で表した。
(経時安定性)
有機EL素子を60℃で24時間保存後、保存前後における各電力効率を求め、各々の電力効率比を下式に従って求め、これを経時安定性の尺度とした。
経時安定性(%)=(保存後の電力効率/保存前の電力効率)×100
なお、電力効率は分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタセンシング社製)を用いて、各有機EL素子の正面輝度及び輝度角度依存性を測定し、正面輝度1000cd/m2における電力効率を求めた。
(昇華性)
有機EL素子1−1〜1−18のそれぞれについて、同じ蒸着ボート(モリブデン製抵抗加熱ボート)を用い同じ構成の素子を5素子ずつ作製した(例えば、有機EL素子1−1、1−1b、1−1c、1−1d及び1−1e)。
それぞれ1回目に作製した素子(例えば、有機EL素子1−1)と5回目に作製した素子(例えば、有機EL素子1−1e)のそれぞれについて上記と同様の方法で半減寿命を測定し、下式にしたがって半減寿命の低下を求めた。
半減寿命の低下(%)=(5回目作製素子の半減寿命/1回目作製素子の半減寿命)×100
表1から明らかなとおり、本発明の有機EL素子1−3〜1−27は、比較例の有機EL素子1−1、1−2に対して、各々高い発光効率及び長寿命を示し、更には経時安定性にも優れる等、素子としての特性が向上していることが分かる。更には、比較例の有機EL素子1−1、1−2は1回目に作製された素子に対して、5回目に作製された素子の半減寿命の低下が大きいのに対して、本発明の有機EL素子1−3〜1−27は1回目に作製された素子と5回目に作製された素子との半減寿命の低下が抑制され、本発明の有機EL素子に用いられている発光ドーパントは昇華性に優れていることが分かる。
(実施例2)
≪有機EL素子2−1の作製≫
100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(AvanStrate株式会社製、NA−45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
この透明支持基板上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS、Bayer株式会社製、Baytron P Al 4083)を純水で70%に希釈した溶液を用い、3000rpm、30秒の条件でスピンコート法により薄膜を形成した後、200℃にて1時間乾燥し、層厚30nmの第1正孔輸送層を設けた。
この第1正孔輸送層上に、正孔輸送材料Poly(N,N′−ビス(4−ブチルフェニル)−N,N′−ビス(フェニル))ベンジジン(American Dye Source株式会社製、ADS−254)のクロロベンゼン溶液を用い、スピンコート法により薄膜を形成した。150℃で1時間加熱乾燥し、層厚40nmの第2正孔輸送層を設けた。
この第2正孔輸送層上に、ホスト化合物としてのOC−11及び発光ドーパントとしての比較化合物Aの酢酸ブチル溶液を用い、スピンコート法により薄膜を形成し、120℃で1時間加熱乾燥し、層厚30nmの発光層を設けた。
発光層上に、電子輸送材料としてのET−11の1−ブタノール溶液を用い、スピンコート法により薄膜を形成し、層厚20nmの電子輸送層を設けた。この基板を、真空蒸着装置に取り付け、真空層を4×10−4Paまで減圧した。次いで、フッ化リチウムを蒸着して層厚1.0nmの電子注入層を形成し、更にアルミニウムを蒸着して層厚110nmの陰極を形成し、有機EL素子2−1を作製した。
≪有機EL素子2−2〜2−18の作製≫
有機EL素子2−1の作製において、発光層におけるホスト及び発光ドーパントを表2に示す化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子2−2〜2−18を作製した。
≪有機EL素子2−1〜2−18の評価≫
得られた有機EL素子2−1〜2−18を評価するに際しては、当該有機EL素子を実施例1の有機EL素子1−1〜1−27と同様に封止し、図5及び図6に示すような照明装置を作製して評価した。
このようにして作製した各サンプルに対し、実施例1と同様に、発光効率、半減寿命及び経時安定性について評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、表2における発光効率、及び半減寿命の測定結果は、有機EL素子2−1の測定値を100とする相対値で表した。
表2から明らかなとおり、本発明の有機EL素子2−3〜2−18は、比較例の有機EL素子2−1、2−2に対して、高い発光効率及び長寿命を示し、更には経時安定性にも優れる等、素子としての特性が向上していることが分かる。
(実施例3)
≪有機EL素子3−1の作製≫
100mm×100mm×1.1mmのガラス基板上に、陽極としてITO(インジウムチンオキシド)を100nm成膜した基板(NHテクノグラス社製、NA45)にパターニングを行った後、このITO透明電極を設けた透明支持基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。
この透明支持基板を市販の真空蒸着装置の基板ホルダーに固定し、一方、モリブデン製抵抗加熱ボートに正孔輸送材料としてα−NPDを200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにホスト化合物としてOC−11を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに電子輸送材料としてET−11を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに発光ドーパントとして比較化合物Aを100mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートに発光ドーパントとしてD−10を100mg入れ、真空蒸着装置に取り付けた。
次いで真空槽を4×10−4Paまで減圧した後、α−NPDの入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で透明支持基板上に蒸着し、層厚20nmの正孔輸送層を設けた。
更に、ホスト化合物としてOC−11と発光ドーパントとして比較化合物A及びD−1の入った前記加熱ボートに通電して加熱し、OC−11、比較化合物A、D−1の蒸着速度がそれぞれ100:5:0.6になるように調節し、前記正孔輸送層上に蒸着して層厚30nmの発光層を設けた。
更に、ET−11が入った前記加熱ボートに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で前記発光層上に蒸着して層厚30nmの電子輸送層を設けた。
なお、蒸着時の基板温度は室温であった。
引き続き、フッ化リチウムを蒸着して層厚0.5nmの陰極バッファー層を形成し、更にアルミニウムを蒸着して層厚110nmの陰極を形成し、有機EL素子3−1を作製した。作製した有機EL素子3−1に通電したところ、ほぼ白色の光が得られ、照明装置として使用できることが分かった。
≪有機EL素子3−2〜3−7の作製≫
有機EL素子3−1の作製において、発光層における発光ドーパントを表3に記載の化合物に変えた以外は同様にして有機EL素子3−2〜3−7を作製した。
≪有機EL素子3−1〜3−7の評価≫
得られた有機EL素子3−1〜3−7を評価するに際しては、当該有機EL素子を実施例1の有機EL素子1−1〜1−18と同様に封止し、図5及び図6に示すような照明装置を作製して評価した。
このようにして作製した各サンプルに対し、実施例1と同様に、発光効率、半減寿命及び経時安定性についての評価と、さらに熱安定性について評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、表3における発光効率、半減寿命、及び熱安定性の測定結果は、有機EL素子3−1の測定値を100とする相対値で表した。なお、熱安定性は以下の方法で評価した。
(熱安定性)
有機EL素子を60℃で24時間保存後、保存前後における各電力効率を求め、各々の電力効率比を下式に従って求め、これを経時安定性の尺度とした。
経時安定性(%)=(保存後の電力効率/保存前の電力効率)×100
(色度の測定)
有機EL素子3−1〜3−7の各試料について、その発光色を分光放射輝度計CS−1000(コニカミノルタオプティクス(株)製)を用い、2度視野角正面輝度を測定した際に、1000cd/m2でのCIE1931表色系における色度がx=0.33±0.07、y=0.33±0.1の領域内にあり、白色光であることを確認した。
表3から明らかなとおり、本発明の有機EL素子3−3〜3−7は、比較例の有機EL素子3−1〜3−2に対して、高い発光効率及び長寿命を示し、更には経時安定性にも優れる等、素子としての特性が向上していることが分かる。更には、本発明の有機EL素子に用いられている発光ドーパントは熱安定性に優れていることが分かる。
(実施例4)
図7は有機ELフルカラー表示装置の概略構成図を示す。ガラス基板201上に、陽極としてITO透明電極202を100nm成膜した基板(NH テクノグラス社製 NA45)に100μmのピッチでパターニングを行った後(図7(a)参照)、このガラス基板201上であってITO透明電極202間に非感光性ポリイミドの隔壁203(幅20μm、厚さ2.0μm)をフォトリソグラフィーで形成した(図7(b)参照)。
ITO電極202上であって隔壁203同士の間に下記組成の正孔注入層組成物を、インクジェットヘッド(エプソン社製:MJ800C)を用いて吐出注入し、紫外光を200秒照射し、60℃、10分間の乾燥処理により、層厚40nmの正孔注入層204を設けた(図7(c)参照)。
この正孔注入層204上に、各々下記組成の青色発光層組成物、緑色発光層組成物、赤色発光層組成物を同様にインクジェットヘッドを使用して吐出注入し、60℃、10分間の乾燥処理し、各色の発光層205B、205G、205Rを設けた(図7(d)参照)。
(正孔注入層組成物)
正孔輸送材料7(化合物7) 20質量部
シクロヘキシルベンゼン 50質量部
イソプロピルビフェニル 50質量部
(青色発光層組成物)
ホスト材料2 0.70質量部
DP−11 0.04質量部
シクロヘキシルベンゼン 50質量部
イソプロピルビフェニル 50質量部
(緑色発光層組成物)
ホスト材料2 0.70質量部
D−1 0.04質量部
シクロヘキシルベンゼン 50質量部
イソプロピルビフェニル 50質量部
(赤色発光層組成物)
ホスト材料2 0.70質量部
D−10 0.04質量部
シクロヘキシルベンゼン 50質量部
イソプロピルビフェニル 50質量部
次に、各発色層205B、205G及び205Rを覆うように電子輸送層を蒸着して層厚20nmの電子輸送層(図示略)を設け、更にフッ化リチウムを蒸着して層厚0.6nmの陰極バッファー層(図示略)を設け、Alを蒸着して層厚130nmの陰極206を設けて有機EL素子を作製した(図7(e)参照)。
作製した有機EL素子はそれぞれ電極に電圧を印加することにより、青色、緑色及び赤色の発色を示し、フルカラー表示装置として利用できることが分かった。