JP2014127286A - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】透明樹脂フィルム基材を用い、ガスバリアー層の亀裂等に起因するダークスポットの発生が抑制され、発光寿命に優れたフレキシブルな有機EL素子を提供する。
【解決手段】可撓性を有する透明樹脂フィルム基材と、透明樹脂フィルム基材の上に設けられたガスバリアー層と、金属細線構造を有する導電性金属層と導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層がガスバリアー層の上に積層されてなる第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、第一電極と第二電極との間に少なくとも発光層を含む複数の有機層とを備え、ガスバリアー層は、炭素、ケイ素及び酸素を含有し、層厚方向で組成が連続的に変化し、前記炭素分布曲線が極値を有し、炭素原子比率の最大と最小の極値の差が5at%以上であり、全層厚の90%以上の領域でケイ素が二番目の含有量であることを特徴とする有機EL素子。
【選択図】図1

Description

本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。特に、組成が層厚方向で連続的に変化するガスバリアー性フィルムと、金属細線構造と導電性ポリマーからなる透明電極とを具備した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)の実用化に向けた研究が活発に行われてきており、特に最近では、軽量化、大型化という要求に加え、高い長期信頼性(耐久性ともいう。)や形状の自由度が高いこと、曲面表示が可能であること等の要求が加わり、重くて割れやすく、大面積化が困難なガラス基材に代わって、フレキシブルな基材を備えた有機エレクトロルミネッセンス素子の要望が高まってきている。
フレキシブル化においては、基材としては、樹脂フィルムや金属フォイル等を用いることができるが、有機エレクトロニクス素子自身は、水や酸素等に弱い特性であるため、樹脂フィルムを用いる場合には、水や酸素等の侵入を遮断するため、樹脂フィルム上にガスバリアー性の高い層として、ガスバリアー層の設置が必要となる。
このようなガスバリアー層として、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、あるいは酸化アルミニウムなどの無機酸化物からなる薄膜を樹脂フィルム基材上に成膜して形成する様々な方法が提案されている。
例えば、無機酸化物からなるガスバリアー層を樹脂フィルム基材上に成膜する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(以下、PVDと略記する。)や、減圧化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法等の化学気相成長法(以下、CVDと略記する。)が知られている。
このような成膜方法を用いたガスバリアー性の高いフィルムとして、例えば、特許文献1にはセラミック系の無機バリアー膜とポリマー膜とを交互に積層したフィルムが開示されている。また、特許文献2には、傾斜組成のガスバリアー層を有し、コーティング材料の組成をその厚さ方向で実質的に連続的に変化させる技術が開示されている。
また、特許文献3には、ガスバリアー層としてケイ素、酸素及び炭素を含有し、層厚方向におけるケイ素原子比率、酸素原子比率及び炭素原子比率が特定の関係にあるガスバリアー層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子が開示されている。
一方、従来の有機EL素子の透明電極としては、酸化インジウムスズ(ITO;Indium Tin Oxide)膜を真空蒸着法やスパッタリング法で基材上に製膜したITO透明電極が主に使用されている。しかしながら、ITO透明電極は、低抵抗化するために非常に高い温度の熱処理が必要であるため、上記したように樹脂フィルムを基材として用いたフレキシブル有機EL素子に適用することは困難である。
そこで、有機EL素子の電極として、樹脂フィルム上に容易に形成することができ、しかも低抵抗な透明電極として、パターン状に形成された金属細線に導電性ポリマー等の透明導電膜を積層し、電流の面均一性と高い導電性を併せ持つ透明導電フィルムが開発されている(例えば、特許文献4参照)。
このような金属細線と導電性ポリマーを積層した透明電極を、樹脂フィルム基材の上に形成することで、フレキシブル有機EL素子を形成できるものと考えられる。しかしながら、金属細線を形成する際にもある程度の焼成処理が必要であり、当該焼成処理により基材上に形成されたガスバリアー層に亀裂等が発生するという問題がある。金属細線の焼成処理を低温で行うと、金属細線に水分や溶媒が残留し、透明電極の高抵抗化や素子の発光寿命の低下等、別の問題が生じる。
特表2002−532850号公報 特表2005−537963号公報 特開2012−084306号公報 特開2005−302508号公報
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、透明樹脂フィルム基材を用い、ガスバリアー層の亀裂等に起因するダークスポットの発生が抑制され、発光寿命に優れたフレキシブルな有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程で、透明樹脂フィルム基材上に、特定の元素分布プロファイルを有するガスバリアー層を形成し、その上に、金属細線構造を有する導電性金属層と導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層とが積層されてなる電極を設けることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.可撓性を有する透明樹脂フィルム基材と、
前記透明樹脂フィルム基材の上に設けられ、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有するガスバリアー層と、
パターン状に形成された金属細線構造を有する導電性金属層と、導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層と、が前記ガスバリアー層の上に積層されてなる第一電極と、
前記第一電極に対向する第二電極と、
前記第一電極と前記第二電極との間に、少なくとも発光層を含む複数の有機層と、を備え、
前記ガスバリアー層は、X線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づき、当該ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する、ケイ素原子の量の比率(「ケイ素原子比率(at%)」という。)、酸素原子の量の比率(「酸素原子比率(at%)という。」)及び炭素原子の量の比率(「炭素原子比率(at%)という。」)との関係を示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、下記条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(1)前記ガスバリアー層は、層厚方向で組成が連続的に変化し、前記炭素分布曲線が極値を有する。
(2)前記炭素原子比率の最大の極値と最小の極値との差が、5at%以上である。
(3)前記ガスバリアー層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の原子比率(at%)が、下記式(A)又は(B)で表される序列の大小関係を有する。
式(A)
(炭素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(酸素原子比率)
式(B)
(酸素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(炭素原子比率)
2.前記ガスバリアー層と前記第一電極の間に、ポリシラザン層を更に備えることを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
3.前記導電性金属層が、金属粒子を含有するインクが前記ガスバリアー層上に塗布された後、100℃以上の温度で焼成されて形成されていることを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
4.前記ポリシラザン層が、真空紫外光が照射されて改質処理がなされていることを特徴とする第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
5.前記導電性金属層が、銀を含有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
6.前記透明樹脂フィルム基材が、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンナフタレートフィルムであることを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
本発明の上記手段により、透明樹脂フィルム基材を用い、ガスバリアー層の亀裂等に起因するダークスポットの発生が抑制され、発光寿命に優れたフレキシブルな有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
すなわち、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、透明樹脂フィルム基材上に、特定の元素分布プロファイルを有するガスバリアー層を備え、その上に、金属細線構造を有する導電性金属層と導電性ポリマー層とからなる第一電極を更に備えていることにより、導電性金属層の形成時に焼成処理が施されても、ガスバリアー層が透明樹脂フィルム基材の伸縮ストレスを効果的に吸収することができる。このため、ガスバリアー層の亀裂等の発生を効率的に抑制することができ、その結果、特に、高温高湿環境下で長期間にわたり保存した際にも、ガスバリアー層の亀裂等に起因するダークスポットの発生が抑制される。
また、ガスバリアー層の亀裂等の発生を抑制できるため、十分な焼成温度で導電性金属層を形成することができ、これにより、導電性金属層から水分や溶媒を効率的に除去することができ、発光寿命に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を実現することができたものと推測している。
本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例を示す断面図 本発明に係るガスバリアー層の形成に用いることのできる磁場を有するローラー間放電プラズマCVD装置を用いたガスバリアー層の形成方法の一例を示す概略図 本発明に係るガスバリアー層のケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線の一例を示すグラフ 比較例のガスバリアー層のケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線の一例を示すグラフ
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、可撓性を有する透明樹脂フィルム基材と、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有するガスバリアー層と、パターン状に形成された金属細線構造を有する導電性金属層と導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層とを積層してなる第一電極と、第一電極に対向する第二電極と、第一電極と第二電極との間に、少なくとも発光層を含む複数の有機層とを備え、ガスバリアー層は、X線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づき、当該ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する、ケイ素原子の量の比率(「ケイ素原子比率(at%)」という。)、酸素原子の量の比率(「酸素原子比率(at%)」という。)及び炭素原子の量の比率(「炭素原子比率(at%)」という。)との関係を示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、下記条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項6までの請求項に共通する技術的特徴である。
本発明においては、ガスバリアー層と第一電極との間に、ポリシラザン層を有することが好ましい。これにより、第一電極の成膜性が向上するので、ガスバリアー層表面の凸凹に起因するダークスポットの発生を抑制できる。
また、本発明においては、導電性金属層は、金属粒子を含有するインクがガスバリアー層上に塗布された後、100℃以上の温度で焼成されて形成されていることが好ましい。これにより、導電性金属層が十分な焼成温度で焼成処理されて、導電性金属層から水分や溶媒を効率的に除去することができる。よって、素子の駆動電圧を低減することができるとともに、発光寿命を長寿命化することができる。更に、導電性金属層を高温焼成してもガスバリアー層に亀裂等が発生せず、ダークスポットの発生をより効果的に抑制することができる。
また、本発明においては、ポリシラザン層は、真空紫外光が照射されて改質処理がなされていることが好ましく、これにより、ポリシラザン層の緻密性を向上させることができる。
また、本発明においては、導電性金属層は、銀を含有することが好ましく、これにより、導電性を向上させることができる。
また、本発明においては、透明樹脂フィルム基材は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンナフタレートフィルムであることが好ましい。これにより、素子の製造コストを低減させることができ、十分なフレキシブル性を付与することができる。
なお、本発明でいう「ガスバリアー性」とは、JIS K 7129−1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(温度:60±0.5℃、相対湿度(RH):90±2%)が3×10−3g/m・24h以下であり、JIS K 7126−1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が1×10−3ml/m・24h・atm以下であることを意味する。
また、本発明でいう「透明」とは、JIS K 7361−1:1997(樹脂透明材料の全光線透過率の試験方法)に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率が70%以上であることをいう。
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をするが、本実施形態は以下の内容に何ら制限されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することが可能である。なお、本発明において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
《有機エレクトロルミネッセンス素子の構造》
図1に、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の構成の一例を示す。
図1において、有機EL素子10は、透明樹脂フィルム基材1と、透明樹脂フィルム基材1の一方の面上に、層厚方向に特定の元素プロファイルを有する本発明に係るガスバリアー層2が形成されて、ガスバリアー性フィルムFを構成している。本発明に係るガスバリアー層2上には、金属細線構造を有する導電性金属層と、該導電性金属層上に、π共役系導電性ポリマーとポリ陰イオン(以下、ポリアニオンともいう。)とを有する導電性ポリマーを含有する導電性ポリマー層と、を有する第一電極3が形成されている。そして、第一電極3上には、少なくとも発光層を含む有機層ユニット4を有し、有機層ユニット4上に、第二電極5が配置されている。更に、第二電極5を覆う状態で封止部材6が配置され、封止部材6により有機EL素子10が封止されている。
図1で例示した有機EL素子10は、対向する第一電極3と第二電極5によって、少なくとも発光層を含む有機層ユニット4を挟持する構成である。また、有機EL素子10は、有機層ユニット4からの光を、透明樹脂フィルム基材1側から取り出す、いわゆるボトムエミッション型の構成例として示してある。
《透明樹脂フィルム基材》
透明樹脂フィルム基材(以下、単に、樹脂基材、フィルム基材、又は基材ともいう。)を構成する樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド、ポリイミド、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)等を挙げることができる。
中でも、透明性、耐熱性、取り扱い易さ、強度及びコストの観点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルホン、ポリカーボネートが好ましく、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート又は二軸延伸ポリエチレンナフタレートがより好ましい。
本発明に係る透明樹脂フィルム基材の層厚としては、1〜1000μmの範囲内が好ましく、更には10〜100μmの範囲内であることが好ましい。
透明樹脂フィルム基材の表面には、当該透明樹脂フィルム基材の上に形成されるガスバリアー層との接着性を向上させる観点から、表面処理が施されていても良いし、易接着層が設けられていても良い。表面処理や易接着層については、従来公知の技術を適用することができる。
表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
易接着層の形成材料としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。易接着層は単層でも良いが、接着性を向上させるためには二層以上の構成にしても良い。
《ガスバリアー層》
本発明に係るガスバリアー層は、前記透明樹脂フィルム基材の少なくとも一方の面側に形成される。
本発明に係るガスバリアー層は、X線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づき、当該ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する、ケイ素原子の量の比率(「ケイ素原子比率(at%)」という。)、酸素原子の量の比率(「酸素原子比率(at%)」という。)及び炭素原子の量の比率(「炭素原子比率(at%)」という。)との関係を示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線において、下記条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする。
(1)前記ガスバリアー層は、層厚方向で組成が連続的に変化し、前記炭素分布曲線が少なくとも一つの極値を有する。
(2)前記炭素原子比率の最大の極値と最小の極値との差が5at%以上である。
(3)前記ガスバリアー層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の原子比率(at%)が、下記式(A)又は(B)で表される序列の大小関係を有する。
式(A)
(炭素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(酸素原子比率)
式(B)
(酸素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(炭素原子比率)
本発明においては、ケイ素、酸素及び炭素を含有し、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線として上記条件(1)〜(3)で規定する全てを満たすガスバリアー層を少なくとも一層有していれば良い。また、樹脂フィルム基材上には、本発明の目的効果を損なわない範囲で、上記条件(1)〜(3)の少なくとも一つの条件を満たさない他の構成層を有していても良い。また、本発明に係るガスバリアー層は、構成元素として、ケイ素、酸素及び炭素の他に、窒素やアルミニウムを更に含有していても良い。
ガスバリアー層が、本発明で規定する上記条件(1)〜(3)の全てを満たさない場合は、第一電極の金属細線を焼成する過程において、十分な低抵抗率が得られ且つ素子の発光寿命に悪影響を及ぼす溶媒を除去可能な温度条件で焼成すると、後述する保存性評価及び熱衝撃評価において、ダークスポットが多数発生することがわかった。
これは、透明樹脂フィルム基材のガラス転移温度以上の加熱を行ったことで、樹脂フィルム基材が伸縮し、それに伴ってガスバリアー層に亀裂が入ったものと推定している。
上記条件(1)〜(3)を全て満たす本発明のガスバリアー層は、上述の焼成過程において必要な温度条件で焼成し、樹脂フィルム基材の伸縮が多少生じた場合でもガスバリアー層の亀裂が入らず保存性が良好であり、焼成温度の範囲を広げることが可能となる。
本発明に係る上記条件(3)において、本発明で規定する式(A)及び式(B)を満たす領域が、ガスバリアー層の全層厚の90%以上であることを特徴とするが、好ましくは95%以上であり、特に好ましくは100%である。
また、本発明に係るガスバリアー層は、上記条件(1)において、炭素分布曲線が少なくとも一つの極値を有することを特徴としている。更に、本発明に係るガスバリアー層では、前記炭素分布曲線が二つ以上の極値を有することがより好ましく、三つ以上の極値を有することが特に好ましい。また、少なくとも三つの極値を有する場合において、前記炭素分布曲線の隣接する極値間の層厚方向における距離が200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
なお、本発明でいう極値とは、ガスバリアー層の層厚方向において、表層面からの距離に対する元素の原子比率(at%)の極大値(凸パターン)又は極小値(凹パターン)のことをいう。
本発明でいう極大値とは、ガスバリアー層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比率の値(at%)が増加から減少に変わる点であって、且つその点の元素の原子比率の値(at%)よりも、該点からガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置における元素の原子比率の値が3at%以上減少する点のことをいう。
また、本発明でいう極小値とは、ガスバリアー層の表面からの距離を変化させた場合に元素の原子比率の値(at%)が減少から増加に変わる点であり、且つその点の元素の原子比率の値(at%)よりも、該点からガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離を更に20nm変化させた位置の元素の原子比率の値が3at%以上増加する点のことをいう。
また、本発明に係るガスバリアー層は、上記条件(2)で規定するように、前記炭素分布曲線における炭素原子比率の最大の極値と最小の極値との差が5at%以上であることを特徴とする。
また、このような特性を備えたガスバリアー層においては、炭素の原子比率の最大の極値と最小の極値との差が6at%以上であることが好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。
(1)酸素分布曲線、極値
本発明に係るガスバリアー層においては、前記ガスバリアー層の酸素分布曲線が少なくとも一つの極値を有することが好ましく、少なくとも二つの極値を有することがより好ましく、少なくとも三つの極値を有することが特に好ましい。前記酸素分布曲線が極値を有する場合には、後述する評価でのダークスポット耐性が向上する傾向にある。また、このように少なくとも三つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線の有する一つの極値及び該極値に隣接する他の極値における前記ガスバリアー層の層厚方向における前記ガスバリアー層の表面からの距離の差の絶対値が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
(2)酸素分布曲線及びケイ素分布曲線における最大の極値と最小の極値との差
また、本発明に係るガスバリアー層においては、ガスバリアー層の前記酸素分布曲線における酸素の原子比率(at%)の最大の極値と最小の極値との差が5at%以上であることが好ましく、6at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記最大値及び最小値の差が5at%以上であれば、後述する評価でのダークスポット耐性が向上する傾向にある。
本発明においては、前記ガスバリアー層のケイ素分布曲線において、ケイ素の原子比率の最大の極値と最小の極値との差が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。前記最大の極値と最小の極値との差が5at%未満であれば、後述する評価でのダークスポット耐性が向上する傾向にある。
(3)酸素炭素分布曲線における最大の極値と最小の極値との差
また、本発明に係るガスバリアー層においては、ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離とケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する酸素原子及び炭素原子の合計量の比率(酸素及び炭素の原子比率、at%)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、酸素炭素分布曲線における酸素及び炭素の原子比率の合計(at%)の最大の極値と最小値の極値の差が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることが特に好ましい。上記最大の極値と最小の極値との差が5at%未満であれば、後述する評価でのダークスポット耐性が向上する傾向にある。
(4)元素分布曲線の作成
以上により説明した本発明に係るガスバリアー層のケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる元素分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比率(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は、層厚方向におけるガスバリアー層の表層から層厚方向に向かっての距離におおむね相関することから、「ガスバリアー層の層厚方向におけるガスバリアー層の表面からの距離」は、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出することができる。
また、このようなXPSデプスプロファイル測定に際して採用するスパッタ法としては、エッチングイオン種としてアルゴン(Ar)を用いた希ガスイオンスパッタ法を採用し、そのエッチング速度(エッチングレート)を0.05nm/sec(SiO熱酸化膜換算値)とすることが好ましい。
また、本発明に係るガスバリアー層は、その表面の全領域において、特性にバラツキがなく均一で且つ優れたガスバリアー性を備えたガスバリアー層を形成するという観点から、ガスバリアー層が膜面方向(ガスバリアー層の表面に平行な方向)において、その組成が実質的に一様(均一)であることが好ましい。
本発明に係るガスバリアー層において、膜面方向において、その組成が実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定によりガスバリアー層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線及び前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比率の最大の極値と最小の極値との差が、互いに同じであるか若しくは5at%以内の差であることをいう。
更に、本発明においては、前記炭素分布曲線は、実質的に層厚方向で連続的に変化していることが好ましい。本発明において、炭素分布曲線が実質的に連続的に変化しているとは、炭素分布曲線における炭素の原子比率が不連続に変化する部分を含まないことを意味する。具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比率(c、単位:at%)との関係において、下記式(F1)で表される条件を満たすことをいう。
式(F1)
−1.0≦(dc/dx)≦1.0
本発明においては、透明樹脂フィルム基材上に上記条件(1)〜(3)の全てを満たすガスバリアー層を少なくとも一層備えることが必要であるが、上記条件(1)〜(3)の全てを満たすガスバリアー層を複数層備えていても良い。更に、本発明で規定する上記構成からなるガスバリアー層を二層以上備える場合には、複数のガスバリアー層の構成材料は同一であっても良く、異なっていても良い。また、このようなガスバリアー層を二層以上備える場合には、ガスバリアー層は、透明樹脂フィルム基材の一方面側に二層以上形成されていても良く、透明樹脂フィルム基材の両方の面側に、それぞれ形成されていても良い。
ガスバリアー層のケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素の原子比率、酸素の原子比率及び炭素の原子比率が、条件(3)で規定する式(A)で表される条件を満たす場合には、本発明に係るガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率(at%)は、25〜45at%の範囲内であることが好ましく、30〜40at%の範囲内であることがより好ましい。また、本発明に係るガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率(at%)は、33〜67at%の範囲内であることが好ましく、45〜67at%の範囲内であることがより好ましい。更に、本発明に係るガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率(at%)は、3〜33at%の範囲内であることが好ましく、3〜25at%の範囲内であることがより好ましい。
また、ガスバリアー層のケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線及び前記炭素分布曲線の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素の原子比率、酸素の原子比率及び炭素の原子比率が、条件(3)で規定する式(B)で表される条件を満たす場合には、本発明に係るガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率(at%)は、25〜45at%の範囲内であることが好ましく、30〜40at%の範囲内であることがより好ましい。また、本発明に係るガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率(at%)は、1〜33at%の範囲内であることが好ましく、10〜27at%の範囲内であることがより好ましい。更に、前記ガスバリアー層中におけるケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率(at%)は、33〜66at%の範囲内であることが好ましく、40〜57at%の範囲内であることがより好ましい。
また、前記ガスバリアー層の層厚は、5〜3000nmの範囲であることが好ましく、10〜2000nmの範囲であることより好ましく、100〜1000nmの範囲であることが特に好ましい。
また、本発明に係るガスバリアー層の形成方法としては、特に制限はないが、プラズマ化学気相成長法により形成される層であることが好ましい。このようなプラズマ化学気相成長法により形成されるガスバリアー層としては、フィルム基材を前記一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマ化学気相成長法により形成される層であることがより好ましい。
このような一対の成膜ローラー間に放電する際には、一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。更に、このようなプラズマ化学気相成長法に用いる成膜ガスとしては有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。また、本発明においては、前記ガスバリアー層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
(5)成膜装置
本発明に係るガスバリアー層を透明樹脂フィルム基材上に形成させる方法としては、ガスバリアー性の観点から、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD)を採用することが好ましい。なお、当該プラズマ化学気相成長法は、ペニング放電プラズマ方式のプラズマ化学気相成長法であっても良い。
また、前記プラズマ化学気相成長法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させる方法を適用することができるが、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに、透明樹脂フィルム基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。更には、有機ケイ素化合物を含む原料ガスと酸素ガスとを用いて、磁場を有するローラー間に放電空間を有する放電プラズマ化学気相成長法により形成する方法が好ましい。
このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材上にガスバリアー層を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材上にも同時にガスバリアー層を成膜することが可能となって効率良く薄膜を製造できるばかりか、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造のガスバリアー層を成膜できるので、前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率良く、本発明で規定する上記条件(1)〜(3)の全てを満たすガスバリアー層を形成することができる。
また、生産性の観点から、ロールツーロール方式で、長尺のロール状の透明樹脂フィルム基材を用い、その表面上に前記ガスバリアー層を形成する方法が好ましい。また、このようなプラズマ化学気相成長法によりガスバリアー層を形成することが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、且つ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図2に示す製造装置を用いた場合には、プラズマ化学気相成長法を利用しながらロールツーロール方式で製造することも可能となる。
以下、図2を参照しながら、本発明に係るガスバリアー層の形成方法について、より詳細に説明する。
図2は、本発明に係るガスバリアー層の形成において好適に用いることができる磁場を有するローラー間放電プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
図2に示す磁場を有するローラー間放電プラズマCVD装置(以下、プラズマCVD装置ともいう。)は、主には、送り出しローラー11と、搬送ローラー21、22、23及び24と、成膜ローラー31及び32と、成膜ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、成膜ローラー31及び32の内部に設置された磁場発生装置61及び62と、巻取りローラー71とを備えている。また、このようなプラズマCVD製造装置においては、少なくとも成膜ローラー31及び32と、成膜ガス供給管41と、プラズマ発生用電源51と、磁場発生装置61及び62とが、図示を省略した真空チャンバー内に配置されている。更に、このようなプラズマCVD製造装置において、真空チャンバー(不図示)は、真空ポンプ(不図示)に接続されており、この真空ポンプにより真空チャンバー内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
このようなプラズマCVD製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31と成膜ローラー32)が一対の対向電極として機能することが可能となるように、各成膜ローラーがそれぞれプラズマ発生用電源51に接続されている。一対の成膜ローラー(成膜ローラー31と成膜ローラー32)に、プラズマ発生用電源51より電力を供給することにより、成膜ローラー31と成膜ローラー32との間の空間に放電することが可能となり、これにより成膜ローラー31と成膜ローラー32との間の空間(放電空間ともいう。)にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ローラー31と成膜ローラー32を電極として利用することになるため、電極として利用可能な材質や設計を適宜変更すれば良い。また、このようなプラズマCVD製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。
また、成膜ローラー31及び成膜ローラー32の内部には、成膜ローラーが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置61及び62がそれぞれ設けられていることが特徴である。
更に、成膜ローラー31及び成膜ローラー32としては、適宜公知のローラーを用いることができる。成膜ローラー31及び32としては、より効率良く薄膜を形成することができる観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、成膜ローラー31及び32の直径としては、放電条件、チャンバーのスペース等の観点から、直径が100〜1000mmφの範囲、特に100〜700mmφの範囲が好ましい。直径が100mmφ以上であれば、プラズマ放電空間が小さくなることがないため生産性の劣化もなく、短時間でプラズマ放電の全熱量がフィルムにかかることを回避でき、残留応力が大きくなりにくく好ましい。一方、直径が1000mmφ以下であれば、プラズマ放電空間の均一性等も含めて装置設計上、実用性を保持することができるため好ましい。
また、このようなプラズマCVD製造装置に用いる送り出しローラー11及び搬送ローラー21、22、23及び24としては、公知のローラーを適宜選択して用いることができる。また、巻取りローラー71としても、ガスバリアー層を形成した透明樹脂フィルム基材1を巻き取ることが可能なものであれば良く、特に制限されず、適宜公知のローラーを用いることができる。
成膜ガス供給管41としては、原料ガス等の成膜ガスを所定の速度で供給又は排出することが可能なものを適宜用いることができる。更に、プラズマ発生用電源51としては、従来公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源51は、これに接続された成膜ローラー31と成膜ローラー32に電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率良くプラズマCVD法を実施することが可能となることから、一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源51としては、より効率良くプラズマCVD法を実施することが可能となることから、印加電力を0.1〜10kWの範囲とすることができ、且つ交流の周波数を0.05〜500kHzの範囲とすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置61及び62としては、適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。
図2に示すようなプラズマCVD装置を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、磁場発生装置の強度、真空チャンバー内の圧力、成膜ローラーの直径、及び透明樹脂フィルム基材の搬送速度を適宜調整することにより、本発明に係るガスバリアー層を形成することができる。すなわち、図2に示すプラズマCVD装置を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバー内に供給しつつ、一対の成膜ローラー(成膜ローラー31及び32)間に、磁場を発生させながらプラズマ放電を行うことにより、成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ローラー31上の透明樹脂フィルム基材1の表面上及び成膜ローラー32上の透明樹脂フィルム基材1の表面上に、本発明に係るガスバリアー層がプラズマCVD法により形成される。なお、このような成膜に際しては、透明樹脂フィルム基材1が送り出しローラー11や成膜ローラー31等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスにより透明樹脂フィルム基材1の表面上に前記ガスバリアー層が形成される。
(5.1)原料ガス
本発明に係るガスバリアー層の形成に用いられる成膜ガスを構成する原料ガスは、形成するガスバリアー層の材質に応じて適宜選択することができるが、少なくともケイ素を含有する有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。
本発明に適用可能な有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、成膜での取り扱い及び得られるガスバリアー層のガスバリアー性等の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、これらの有機ケイ素化合物は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
また、成膜ガスとしては、原料ガスの他に反応ガスを用いても良い。このような反応ガスとしては、原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
前記成膜ガスにおいては、原料ガスを真空チャンバー内に供給するため、必要に応じて、キャリアガスを用いても良い。更に、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いても良い。このようなキャリアガス及び放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガスや水素ガス、窒素ガスを用いることができる。
成膜ガスが、原料ガスと反応ガスとを含有する場合には、原料ガスと反応ガスとの比率を、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎてしまうと、上記条件(1)〜(3)の全てを満たす薄膜が得られなくなってしまう。また、成膜ガスが有機ケイ素化合物と酸素とを含有する場合には、酸素量としては、成膜ガス中の有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
以下、代表例として、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物、HMDSOともいう、(CHSiO)と、反応ガスである酸素(O)の系について説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン((CHSiO)と、反応ガスである酸素(O)とを含有する成膜ガスを、プラズマCVD法により反応させてケイ素−酸素系(Si)の薄膜を形成する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)で示される反応が起こり、二酸化ケイ素SiOからなる薄膜が形成される。
反応式(1)
(CHSiO+12O→6CO+9HO+2SiO
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対し、酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまうため、原料のガス流量比を理論比である完全反応の原料比以下の流量に制御して、非完全反応を遂行させる。すなわち、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なく設定する必要がある。
なお、実際のプラズマCVD装置のチャンバー内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスである酸素は、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる。例えば、CVD法により完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上とする場合もある。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下の量であることが好ましく、より好ましくは10倍以下の量である。このような比率でヘキサメチルジシロキサン及び酸素を供給することにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子がガスバリアー層中に取り込まれ、所望の元素組成プロファイルからなるガスバリアー層を形成することが可能となり、得られるガスバリアー性フィルムに優れたガスバリアー性及び屈曲耐性を付与することができる。なお、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)が少なすぎると、酸化されなかった炭素原子や水素原子がガスバリアー層中に過剰に取り込まれることになる。この場合、ガスバリアー層の透明性が低下して、ガスバリアー性フィルムは、電子デバイス、例えば、有機ELデバイスや有機薄膜太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板には利用できなくなってしまう。このような観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
(5.2)真空度
真空チャンバー内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、おおむね0.5〜100Paの範囲内とすることが好ましい。
(5.3)ローラー成膜
図2に示すようなプラズマCVD装置等を用いたプラズマCVD法においては、成膜ローラー31及び32間に放電するために、プラズマ発生用電源51に接続された電極ドラム(図2においては、成膜ローラー31及び32に設置されている。)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり、一概に規定することはできないが、おおむね0.1〜10kWの範囲内とすることが好ましい。このような範囲の印加電力であれば、パーティクル(不正粒子)の発生も見られず、成膜時に発生する熱量も制御範囲内であるため、成膜時の基材表面温度の上昇による、透明樹脂フィルム基材の熱変形、熱による性能劣化や成膜時の皺の発生も防止することができる。また、熱で透明樹脂フィルム基材が溶けて、裸の成膜ローラー間に大電流の放電が発生することによる成膜ローラーの損傷等を防止することができる。
透明樹脂フィルム基材1の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバー内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲内とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲内とすることがより好ましい。ライン速度が前記範囲内であれば、樹脂基材の熱に起因する皺も発生し難く、形成されるガスバリアー層の厚さも十分に制御可能となる。
《ポリシラザン層》
本発明に係る有機EL素子は、ガスバリアー層と第一電極との間に、ポリシラザン層を更に備えていても良い。
(1)ポリシラザン層の形成
ポリシラザン層は、ポリシラザンと、溶剤と、必要に応じて触媒、とを含むポリシラザン層形成用塗布液を公知の湿式塗布方法により基材上に塗布し、当該溶剤を蒸発させて除去することによって基材上に形成される。
ポリシラザン層形成用塗布液を基材上に塗布する方法としては、従来公知の適切な湿式塗布方法が採用され得る。具体例としては、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。
ポリシラザン層形成用塗布液を塗布する厚さとしては、目的に応じて適宜設定され得る。例えば、当該塗布液の乾燥後の層厚が10〜10000nm程度であることが好ましく、50〜1000nm程度であることがより好ましい。ポリシラザン層の層厚が10nm以上であれば十分なバリアー性を得ることができ、10μm以下であれば、ポリシラザン層形成時に安定した塗布性を得ることができ且つ高い光線透過性を実現できる。
本発明に係る有機EL素子において、ポリシラザン層中におけるポリシラザンの含有率としては、ポリシラザン層の全質量を100%としたとき、10質量%以上99質量以下であることが好ましく、40質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上95質量%以下であることが特に好ましい。
ポリシラザン層形成用塗布液に含有されるポリシラザンとしては、ケイ素−窒素結合を有するポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等の結合を有するSiO、Si及び両方の中間固溶体SiO等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
また、溶剤中におけるポリシラザンの割合は、一般的には、ポリシラザン1〜80質量%、好ましくは5〜50質量%、特に好ましくは10〜40質量%である。
本発明に係るポリシラザンとしては、下記一般式(I)で表される構造を有する化合物が好ましい。
一般式(I)
−(SiR−NR
上記一般式(I)において、R、R及びRは、互いに同一であっても異なっていても良く、それぞれ独立に、水素原子、置換又は未置換のアルキル基、アリール基、ビニル基又は(トリアルコキシシリル)アルキル基を表し、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、ビニル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基及び3−(トリメトキシシリルプロピル)基からなる群から選択される基である。
ここで、一般式(I)において、nは整数であり、nは、一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる。
ポリシラザン層の形成に用いるポリシラザン層形成用塗布液には、ポリシラザンとともに触媒を含有することが好ましい。本発明に適用可能な触媒としては、塩基性触媒が好ましく、特に、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、3−モルホリノプロピルアミン又はN−複素環式化合物が好ましい。また、市販品も用いることができ、例えば、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のアクアミカ NAX120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140等が挙げられる。添加する触媒の濃度としては、ポリシラザンを基準としたとき、通常0.1〜10モル%、好ましくは0.5〜7モル%の範囲である。
なお、上記した一般式(I)で表される構造を有するポリシラザンにおいて、好ましい態様の一つは、R、R及びRの全てが水素原子を表すパーヒドロポリシラザンである。
また、本発明に係るポリシラザンとしては、下記一般式(II)で表される構造を有する化合物が好ましい。
一般式(II)
−(SiR−NR−(SiR−NR
上記一般式(II)において、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、アリール基、ビニル基、又は(トリアルコキシシリル)アルキル基を表す。
一般式(II)において、n及びpは整数であり、n及びpは、一般式(II)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる。
上記一般式(II)で表される構造を有するポリシラザンにおいて、特に好ましいものは、R、R及びRが、各々水素原子を表し、R、R及びRが、各々メチル基を表す化合物や、R、R及びRが、各々水素原子を表し、R及びRが、各々メチル基を表し、Rが、ビニル基を表す化合物や、R、R、R及びRが、各々水素原子を表し、R及びRが各々メチル基を表す化合物である。
更には、本発明に係るポリシラザンとしては、下記一般式(III)で表される構造を有する化合物が好ましい。
一般式(III)
−(SiR−NR−(SiR−NR−(SiR−NR
上記一般式(III)において、R、R、R、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、アリール基、ビニル基、又は(トリアルコキシシリル)アルキル基を表す。
一般式(III)において、n、p及びqは各々整数であり、n、p及びqは、一般式(III)で表される構造を有するポリシラザンが150〜150,000g/モルの数平均分子量を有するように定められる。
上記一般式(III)で表される構造を有するポリシラザンにおいて、特に好ましいものは、R、R及びRが、各々水素原子を表し、R、R、R及びRが、各々メチル基を表し、Rが、(トリエトキシシリル)プロピル基を表し、Rが、アルキル基又は水素原子を表す化合物である。そのSiと結合する水素原子部分の一部がアルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより下地である基材との接着性が改善され、且つ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より(平均)層厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択して良く、混合して使用することもできる。
パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6及び8員環を中心とする環構造が存在した構造と推定されている。その分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)で、液体又は固体の物質があり、その状態は分子量により異なる。これらは有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン含有塗布液として使用することができる。
低温でセラミック化するポリシラザン化合物の別の例としては、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
ポリシラザン層形成用塗布液の溶剤としては、特に、水及び反応性基(例えば、ヒドロキシ基、あるいはアミン基等)を含まず、ポリシラザンに対して不活性の有機系溶剤が好ましく、非プロトン性の溶剤が好適である。
ポリシラザン層形成用塗布液に適用可能な溶剤としては、非プロトン性溶剤(例えば、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン炭化水素等)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、モノ−及びポリアルキレングリコールジアルキルエーテル(ジグライム類))、又はこれらの溶剤の混合物を挙げることができる。
本発明に係るポリシラザン層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。
例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類(例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等)、天然樹脂(例えば、ゴム、ロジン樹脂等)、合成樹脂(例えば、重合樹脂等)、縮合樹脂(例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル若しくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネート若しくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等)である。
このように構成されるポリシラザン層形成用塗布液を用いることにより、亀裂及び孔が生じることなく、ガスに対する高いバリアー作用を有する緻密なガラス様のポリシラザン層を形成することができる。
(2)ポリシラザン層の改質処理
本発明に係る有機EL素子が備えていても良いポリシラザン層は、上記説明したポリシラザン層をシリカ転化して、xが1.2以上、2.0以下であるSiOとすることが好ましい。
ガスバリアー層上に上記ポリシラザン層形成用塗布液を塗布してポリシラザン層を形成した後、当該ポリシラザン層に400nm以下の紫外光を照射、好ましくは、波長が180nm未満の真空紫外光(VUV)を照射することにより、当該ポリシラザン層を改質することができる。
水分が取り除かれたポリシラザン層は、紫外光の照射による処理で改質する。紫外線(紫外光と同義)によって生成されるオゾンや活性酸素原子は高い酸化能力を有しており、低温で高い緻密性と絶縁性を有する酸化ケイ素膜又は酸化窒化ケイ素膜を形成することが可能である。なお、紫外光照射は、塗膜形成後であればいずれの時点で実施しても有効である。
この紫外光照射により、ポリシラザン層のSi−H、N−H結合の切断と、Si−O結合の生成が起こり、シリカ等のセラミックスに転化するが、この転化の度合はIR測定によって、以下に定義する式(1)により、半定量的に評価することができる。
式(1)
SiO/SiN比=転化後のSiO吸光度/転化後のSiN吸光度
ここで、SiO吸光度は約1160cm−1、SiN吸光度は約840cm−1の特性吸収より算出する。SiO/SiN比が大きいほどシリカ組成に近いセラミックスへの転化が進んでいることを示す。
本発明において、セラミックスへの転化度合の指標となるSiO/SiN比は0.3以上、好ましくは0.5以上とすることが好ましい。0.3未満では期待するガスバリアー性が得られないことがあるため好ましくない。
本発明に係るシリカ転化率(SiOにおけるx)の測定方法としては、例えば、XPS法を用いて測定することができる。
ポリシラザン層中の金属酸化物(SiO)の組成は、XPS表面分析装置を用いて、原子組成比を測定することで測定できる。また、ポリシラザン層を切断して切断面をXPS表面分析装置で原子組成比を測定することでも測定することができる。
《第一電極》
本発明に係る有機EL素子の第一電極は、パターン状に形成された金属細線構造を有する導電性金属層と、導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層が、上記したガスバリアー層の上に積層されて構成されている。金属細線構造を有する導電性金属層が高い導電性を有し、導電性ポリマー層が電流の面均一性及び電極表面の平滑性を向上させるので、第一電極は透明性及び導電性に優れ、長寿命となっている。しかも、このように構成される第一電極は、有機EL素子の大面積化にも対応可能である。
本発明に係る有機EL素子の第一電極の全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、分光光度計等を用いた公知の方法に従って測定することができる。
本発明において、第一電極の電気抵抗値としては、大面積の有機EL素子に用いるためには、表面比抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、20Ω/□以下であることがより好ましい。表面比抵抗は、例えば、JIS K6911、ASTM D257、等に準拠して測定することができ、また市販の表面抵抗率計を用いて簡便に測定することができる。
(1)導電性金属層
本発明に係る有機EL素子の第一電極は、ガスバリアー層の上にパターン状に形成された金属細線構造を有する導電性金属層を備えている。
導電性金属層は、線状の金属が集合した構造であり、金属グリッドがパターン化された構造、金属ナノワイヤーが集合した構造が挙げられる。
本発明に係る第一電極の導電性金属層としては、金属グリッドパターンである構造又は金属ナノワイヤーが集合した構造のいずれか一方であっても良いし、両方を含む構造であっても良い。
(1.1)金属グリッドパターン
金属グリッドパターンの金属材料としては、金属単体でも合金でも良く、単層でも多層でも良いが、導電性の観点から銀を用いるのが好ましい。
金属グリッドパターンの形状は特に制限はなく、例えば、ストライプ状、格子状、又はランダムな網目構造であっても良いが、開口率は透明性の観点から80%以上であることが好ましい。
開口率とは、金属グリッドパターンをなす細線のない部分が全体に占める割合であり、例えば、線幅100μm、線間隔1mmのストライプ状グリッドパターンの開口率は、およそ90%である。
金属グリッドパターンの線幅は、導電性及び透過率の面から、10〜200μmが好ましい。
金属グリッドパターンの細線の高さ(導電性金属層の厚さ)は、導電性、電流リーク防止、細線分布均一性等の観点から、0.1〜10μmが好ましい。
金属グリッドパターンを形成する方法としては、特に制限はなく、従来公知な方法が利用できる。例えば、金属微粒子を含有するインクを、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の公知の印刷法により所望の形状に印刷する方法によって形成できる。
別の方法としては、ガスバリアー層全面に金属層を形成し、公知のフォトリソ法によって形成する方法や、メッキ可能な触媒インクを所望の形状に印刷した後にメッキ処理する方法、更に別の方法としては、銀塩写真技術を応用した方法も利用できる。
銀塩写真技術を応用した方法については、例えば、特開2009−140750号公報の段落番号0076−0112及び実施例を参考にして実施できる。
ランダムな網目構造としては、例えば、特表2005−530005号公報に記載のような、金属微粒子を含有する液を塗布乾燥することにより、自発的に導電性微粒子の無秩序な網目構造を形成する方法を利用できる。
(1.2)金属ナノワイヤー
本発明において、金属ナノワイヤーとは、金属元素を主要な構成要素とする、原子スケールからnmサイズの直径を有する線状構造体のことをいう。
金属ナノワイヤーとしては、一つの金属ナノワイヤーで長い導電パスを形成するために、平均長さが3μm以上であることが好ましく、更には3〜500μmであることが好ましく、特に3〜300μmであることが好ましい。
併せて、長さの相対標準偏差は40%以下であることが好ましい。また、平均短径には特に制限はないが、透明性の観点からは小さいことが好ましく、一方で、導電性の観点からは大きい方が好ましい。
本発明においては、金属ナノワイヤーの平均短径として10〜300nmが好ましく、30〜200nmであることがより好ましい。併せて、短径の相対標準偏差は20%以下であることが好ましい。
金属ナノワイヤーが集合した金属細線において、金属ナノワイヤーは相互に接触していることが好ましく、更にメッシュ状に接触していることが好ましい。
金属ナノワイヤーを相互に接触、又はメッシュ状に接触させた導電性金属層は、金属ナノワイヤーを含む分散液を、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の液相成膜法を用いて塗布、乾燥して膜形成すれば容易に得ることができる。
金属ナノワイヤーの目付け量は5〜500mg/mであることが好ましく、10〜200mg/mであることがより好ましい。金属ナノワイヤーの目付け量を5mg/m以上とすることで、金属ナノワイヤー同士の接触状態が良好となり導電性が向上し、500mg/m以下とすることで、金属ナノワイヤーにより遮光される部分が減少し透明性が向上する。
金属ナノワイヤーの製造手段には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。また、具体的な製造方法にも特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。
例えば、銀ナノワイヤーの製造方法としては、Adv.Mater.,2002,14,833〜837、Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745等を参考にすることができる。銀ナノワイヤーの製造方法は、水溶液中で簡便に銀ナノワイヤーを製造することができ、また銀の導電率は金属中で最大であることから、本発明に係る金属ナノワイヤーの製造方法として好ましく適用することができる。
(2)導電性ポリマー層
本発明に係る有機EL素子の第一電極は、上記導電性金属層の上に積層された導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層を備えている。これにより、電極面全体で均一な導電性を得ることができ、更に導電性金属層上の凹凸を平滑化して、素子の電流リークを抑制できる。
導電性ポリマー層には、導電性ポリマーが含有されており、当該導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを有してなる。導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒とポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に形成することができる。
(2.1)π共役系導電性高分子
本発明に用いられるπ共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類等の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。中でも、導電性、透明性、安定性等の観点からポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましく、ポリエチレンジオキシチオフェンであることが最も好ましい。
π共役系導電性高分子の形成に用いられる前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
(2.2)ポリ陰イオン
本発明に用いられるポリ陰イオンは、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステル、又はこれらの共重合体であって、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるものである。
このポリ陰イオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。また、ポリ陰イオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリ陰イオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であれば良いが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。更に、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリ陰イオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であっても良いし、二種以上の共重合体であっても良い。
また、ポリ陰イオンは、化合物内に更にF(フッ素原子)を有するポリ陰イオンであっても良い。具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
ポリ陰イオンがスルホン酸を有する化合物である場合、後述する水酸基含有非導電性ポリマーとしてのポリマー(A)の縮合による架橋反応を促進するため、好ましい。
更に、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリ陰イオンは、水酸基含有非導電性ポリマーとしてのポリマー(A)との相溶性が高く、また、形成される導電性ポリマー層の導電性をより高くできる。
ポリ陰イオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
ポリ陰イオンの製造方法としては、例えば、酸を用いてアニオン基を有さないポリマーにアニオン基を直接導入する方法、アニオン基を有さないポリマーをスルホ化剤によりスルホン酸化する方法、アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法が挙げられる。
アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法としては、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤及び/又は重合触媒の存在下で、酸化重合又はラジカル重合によって製造する方法が挙げられる。具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させて、一定温度に保ち、当該溶媒中に、あらかじめ溶媒に所定量の酸化剤及び/又は重合触媒を溶解した溶液を添加し、所定時間で反応させる。当該反応により得られたポリマーは溶媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させても良い。
アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤、酸化触媒及び溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
得られたポリマーがポリ陰イオン塩である場合には、ポリ陰イオン酸に変質させることが好ましい。アニオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられ、これらの中でも、作業が容易な点から限外ろ過法が好ましい。
導電性ポリマー層に含まれるπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンの比率は、「π共役系導電性高分子」:「ポリ陰イオン」の質量比で1:1〜20が好ましい。導電性、分散性の観点からより好ましくは1:2〜10の範囲である。
π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーをポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合して、本発明に係る導電性ポリマーを得る際に使用される酸化剤は、例えばJ.Am.Soc.,85、454(1963)に記載されるピロールの酸化重合に適する、いずれかの酸化剤である。実用上の理由から、安価で取り扱い易い酸化剤、例えば、鉄(III)塩(例えば、FeCl、Fe(ClO、有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩等)、過酸化水素、重クロム酸カリウム、過硫酸アルカリ(例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等)、アンモニウム、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム又は銅塩(例えば、四フッ化ホウ酸銅等)を用いることが好ましい。加えて、酸化剤として随時触媒量の金属イオン(例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン又はバナジウムイオン)の存在下における空気及び酸素も使用することができる。中でも、過硫酸塩、並びに有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の使用が腐食性でないため好ましい。
有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の例としては、炭素数1〜20のアルカノールの硫酸半エステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸;炭素数1〜20のアルキルスルホン酸、例えばメタン又はドデカンスルホン酸;脂肪族炭素数1〜20のカルボン酸、例えば2−エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸及びパーフルオロオクタノン酸;脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸並びに殊に芳香族の、随時炭素数1〜20のアルキル置換されたスルホン酸、例えばベンゼセンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸のFe(III)塩が挙げられる。
このような導電性ポリマーとしては、市販の材料も好ましく利用できる。例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)が、H.C.Starck社からCleviosシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PSSの483095、560596として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。本発明においては、こうした材料も好ましく用いることができる。
導電性ポリマーには、第2ドーパントとして水溶性有機化合物が含有されていても良い。
本発明で用いることができる水溶性有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、水酸基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物等が挙げられる。前記水酸基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、等が挙げられる。前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらは、一種単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良いが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
(2.3)ポリマー(A)
導電性ポリマー層には、下記ポリマー(A)が含有されていることが好ましい。
ポリマー(A)は下記式(a1)、(a2)及び(a3)で表される重合単位(繰り返し単位、モノマー)の少なくとも一つを単位重合として有するポリマーである。
Figure 2014127286
式(a1)〜(a3)中、X〜Xは、水素原子又はメチル基を表し、R〜Rは、炭素数5以下のアルキレン基を表す。ポリマー(A)の全重合単位に占める式(a1)の重合単位の割合(モル%)をl、ポリマー(A)の全重合単位に占める式(a2)の重合単位の割合(モル%)をm、ポリマー(A)の全重合単位に占める式(a3)の重合単位の割合(モル%)をnとしたとき、50≦l+m+n≦100であり、かつ0≦l≦100、0≦m≦100、0≦n≦100である。
更に、ポリマー(A)は、上記式(a1)、(a2)又は(a3)で表される単独のモノマーから形成されたホモポリマーであっても良い。
また、ポリマー(A)においては、他のモノマー成分が共重合されていても良いが、親水性の高いモノマー成分であることがより好ましい。
また、ポリマー(A)は数平均分子量において、分子量1000以下の含有量が0〜5質量%以下であることが好ましい。低分子成分が少ないことで、素子の保存性や、導電性金属層に対して垂直方向に電荷をやりとりする際の、層に対して垂直方向に障壁があるような挙動をより低下させることができる。
このポリマー(A)の数平均分子量において、分子量1000以下の含有量が0〜5質量%以下とする方法としては、再沈殿法、分取GPCに、リビング重合による単分散のポリマーを合成等により、低分子量成分を除去する、又は低分子量成分の生成を抑制する方法を用いることができる。再沈殿法は、ポリマーが溶解可能な溶媒へ溶解し、ポリマーを溶解した溶媒より溶解性の低い溶媒中へ滴下することにより、ポリマーを析出させ、モノマー、触媒、オリゴマー等の低分子量成分を除去する方法である。また、分取GPCは、例えばリサイクル分取GPCLC−9100(日本分析工業社製)、ポリスチレンゲルカラムで、ポリマーを溶解した溶液をカラムに通すことにより分子量で分けることができ、所望の低分子量成分を除去することができる方法である。リビング重合は、開始種の生成が経時で変化せず、また停止反応等の副反応が少なく、分子量の揃ったポリマーが得られる。分子量はモノマーの添加量により調整できるため、例えば分子量を2万のポリマーを合成すれば、低分子量体の生成を抑制することができる。生産適性から、再沈殿法、リビング重合が好ましい。
本発明に係るポリマー(A)の数平均分子量、分子量分布の測定は、一般的に知られているゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により行うことができる。使用する溶媒は、ポリマー(A)が溶解すれば特に制限はなく、THF、DMF又はCHClが好ましく、THF又はDMFがより好ましく、DMFが更に好ましい。また、測定温度も特に制限はないが40℃が好ましい。
本発明に係るポリマー(A)の数平均分子量は3000〜2000000の範囲内が好ましく、4000〜500000の範囲内がより好ましく、5000〜100000の範囲内が更に好ましい。
本発明に係るポリマー(A)の分子量分布は1.01〜1.30が好ましく、より好ましくは1.01〜1.25である。分子量分布は(重量平均分子量/数平均分子量)の比で表す。
分子量1000以下の含有量は、GPCにより得られた分布において、分子量1000以下の面積を積算し、分布全体の面積で割ることで割合を換算した。
リビングラジカル重合溶剤は、反応条件化で不活性であり、モノマー、生成するポリマーを溶解できれば特に制限はないが、アルコール系溶媒と水の混合溶媒が好ましい。リビングラジカル重合温度は、使用する開始剤によって異なるが、一般に−10〜250℃、好ましくは0〜200℃、より好ましくは10〜100℃で実施される。
(2.4)導電性ポリマー層の形成
導電性ポリマー層は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを有する導電性ポリマーからなり、これらを分散した導電性ポリマー層形成用塗布液を、導電性金属層上に塗布、乾燥して形成される。なお、この塗布液には、上記ポリマー(A)を更に含有することが好ましい。また、導電性ポリマー層は、導電性金属層を完全に被覆しても良いし、一部を被覆しても良い。
導電性ポリマー形成用塗布液の塗布は、前述のグラビア印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷方法に加えて、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、インクジェット法等の塗布法を用いることができる。
導電性ポリマー層は、前記のポリマー(A)を含むことで、導電性ポリマーの導電性が増強され、高い導電性を得ることができる。また、導電性ポリマー層は、導電性金属層上に積層され、導電性金属層を平滑化する機能を有するが、高い透明性を有するポリマー(A)が含有されることにより、導電性ポリマー層の透明性と平滑性をともに向上させることができる。
導電性ポリマー層にポリマー(A)が含有される場合、導電性ポリマーとポリマー(A)の比率は、透明性と導電性の面から、導電性ポリマーを100質量部とした時、ポリマー(A)が30〜900質量部であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましい。
導電性ポリマー層を形成する方法としては、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含んでなる導電性ポリマーと水系溶媒とを少なくとも含んでなる導電性ポリマー層形成用塗布液を、液相製膜法で塗布、乾燥することで形成することが好ましい。
導電性ポリマー層にポリマー(A)が含有される場合、導電性ポリマーとポリマー(A)を含んでなる導電性ポリマー層形成用塗布液中の固形分の濃度は0.5〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることが、液の停滞安定性、塗布膜の平滑性や、リーク防止効果の発現の視点で、より好ましい。
導電性ポリマー層の塗布乾燥層厚は、30〜2000nmであることが好ましい。導電性の点から、100nm以上であることがより好ましく、対向電極との電極間電流リーク防止性を高める点から、200nm以上であることが更に好ましい。また、透過率を高める点から、1000nm以下であることがより好ましい。
導電性ポリマー層を塗布した後、適宜乾燥処理を施すことができる。乾燥処理の条件として特に制限はないが、基材が損傷しない範囲の温度で乾燥処理することが好ましい。例えば、80〜120℃で10秒から10分の乾燥処理をすることができる。本発明において、乾燥終了後、更に高周波マイクロ波加熱を行うことで、導電性ポリマーとポリマー(A)の脱水縮合による架橋反応を促進、完了させることができる。これにより高い膜強度が得られ、電極の洗浄耐性、溶媒耐性が著しく向上し、更に素子性能が向上する。特に、有機EL素子においては、駆動電圧の低減、寿命の向上といった効果が得られる。
本発明において、酸触媒を用いて導電性ポリマーとポリマー(A)の架橋反応を促進、完了させることができる。酸触媒としては、塩酸、硫酸や硫酸アンモニウムを用いることができる。また導電性ポリマーにドーパントとして用いるポリアニオンにおいて、スルホ基含有ポリアニオンを使用することで、ドーパントと触媒を兼用することができる。また、酸触媒を使用することで、マイクロ波の処理時間の短縮にもつながり、好ましい。
本発明において、導電性ポリマー形成用塗布液は、導電層の導電性、透明性、平滑性を同時に満たす範囲において、更に他の透明な非導電性ポリマーや添加剤やポリマー(A)の架橋剤を含有しても良い。
透明な非導電性ポリマーとしては、天然高分子樹脂又は合成高分子樹脂から広く選択して使用することができ、水溶性高分子又は水性高分子エマルジョンが特に好ましい。
水溶性高分子としては、天然高分子のデンプン、ゼラチン、寒天等、半合成高分子のヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、合成高分子のポリビニルアルコール、ポリアクリル酸系高分子、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン等を使用することができる。水性高分子エマルションとしては、アクリル系樹脂(アクリルシリコン変性樹脂、フッ素変性アクリル樹脂、ウレタン変性アクリル樹脂、エポキシ変性アクリル樹脂等)、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂等を使用することができる。
また、合成高分子樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン等)や、熱・光・電子線・放射線で硬化する透明硬化性樹脂(例えば、メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケート等のシリコン樹脂等)を使用することができる。
添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤や硫化防止剤等の安定剤、界面活性剤、溶解促進剤、重合禁止剤、染料や顔料等の着色剤等が挙げられる。更に、塗布性等の作業性を高める観点から、溶媒(例えば、水や、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、ケトン類、エステル類、エーテル類、アミド類、炭化水素類等の有機溶媒)を含んでいても良い。
ポリマー(A)の架橋剤としては、例えば、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、メラミン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤等を単独又は複数併用して用いることができる。
更に、導電性ポリマー層には、マイクロ波吸収剤を添加することもできる。これにより、更に短時間で効率的にマイクロ波処理を行うことができる。マイクロ波吸収剤は、照射する周波数帯のマイクロ波吸収する物質であれば任意であるが、ポリマー導電層を塗布乾燥により形成する際に揮発して導電性高分子層から消失しない程度に高沸点であるものが好ましい。具体的には、スルホラン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン、3,4−ジブロモスルホラン、ジビニルスルホン、ジプロピルスルホン、ジブチルスルホン、ジブチルスルホキシド、4,4−ジオキソ−1,4−オキサチアン、3,4−ジクロロチオフェン1,1−ジオキシド、エチルメチルスルホン、2−ヒドロキシエチルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、3−メチルスルホラン、メチルスルホニルアセトニトリル、メチル(メチルスルフィニル)メチルスルフィド、メタンスルホニル酢酸メチル、3−スルホレン−3−カルボン酸メチル、等のスルホン化合物、スルホキシド化合物が好ましく用いることができる。特に好ましくはスルホラン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
(2.4)マイクロ波
本発明に係る有機EL素子の第一電極を形成する際に、当該第一電極に対し、周波数10〜60GHzのマイクロ波照射を施して加熱処理を行うこととしても良い。
マイクロ波照射により、導電性ポリマーとポリマー(A)の脱水縮合反応により生じた水やマイクロ波吸収剤の誘電損失を利用して、導電性ポリマー層を加熱し、溶媒除去及び脱水縮合反応を促進、完了することができる。これにより、基材やガスバリアー層を低温状態に維持しつつ、導電性ポリマー層を選択的に加熱することが可能となり、基材やガスバリアー層に損傷を与えることなく、導電性ポリマー層の加熱が可能となる。
照射するマイクロ波の周波数が10GHz以上の場合は、マイクロ波を導電性金属層に照射しても、アーク放電現象は生じず、導電性ポリマー層を均一に加熱することができる。また10GHz以上のマイクロ波では、金属自体も加熱されるため、導電性金属層の導電性も向上させることができる。
均一加熱のためには、周波数は高いほど良いが、安定して高出力のマイクロ波を発生させるためには60GHz以下とすることが好ましい。特に、水を効率良く加熱するには、水の誘電損失が最大となる20〜30GHzで行うことがより好ましい。
マイクロ波による加熱は、電波出力、照射時間等の条件を適宜定めることができる。電波出力は、0.01〜10kW、好ましくは0.1〜5kWの範囲である。また、照射時間は、1〜3600秒の範囲内、好ましくは2〜1800秒の範囲内である。
マイクロ波装置としては、例えば、富士電波工業株式会社製の電磁波加熱焼結装置(FMW−10−28、発信周波数28GHz、電波出力〜10kW)等が使用できる。
また、マイクロ波を照射して加熱する際に、必要に応じて基材の裏面(導電性金属層及び導電性ポリマー層を形成しない側)に鉄、ステンレス、銅等の熱伝導性の良い金属板、ガラス等の無機板等を設置して、基材にかかる熱を放熱させることが可能な放熱板等を設けておくことができる。
《有機EL素子》
本発明に係る有機EL素子は、陽極として第一電極と、陰極として第二電極と、第一電極と第二電極の間に配置され、両電極間に電圧が印加されることにより発光する発光層を含む有機層とを備えるものである。
有機層は、通常、発光に直接関与する発光層のほか、例えば、キャリア(正孔及び電子)の注入層、阻止層及び輸送層等の各種有機層を備えている。
有機層の好ましい積層例は以下のとおりである。なお、以下の(1)〜(6)において、通常は、先に記載された層が陽極側に設けられ、以下、記載の順番で陰極側に積層される。
(1)発光層/電子輸送層
(2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層
(3)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層
(4)正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層(陰極バッファー層)(5)正孔注入層(陽極バッファー層)/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層
(6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層
以下、各有機層の構成を説明するが、各種有機層の具体的な材料等は公知の材料等を適用することが可能であるため、その説明を省略する。
《発光層》
発光層は、第一電極から直接、又は正孔輸送層等を介して注入される正孔と、第二電極から直接、又は電子輸送層等を介して注入される電子とが再結合することにより、発光する層である。なお、発光する部分は、発光層の内部であっても良いし、発光層とそれに隣接する層との間の界面であっても良い。
発光層は、ホスト化合物(ホスト材料)と、発光材料(発光ドーパント化合物)とを含む有機発光性材料で形成することが好ましい。発光材料の発光波長や含有させる発光材料の種類等を適宜調整することにより、任意の発光色を得ることができる。また、発光層をこのように構成することにより、発光層中の発光材料において発光させることができる。
発光層の層厚の総和は、例えば、所望の発光特性等に応じて適宜設定することができる。例えば、発光層の均質性、発光時における不必要な高電圧の印加の防止、及び駆動電流に対する発光色の安定性向上等の観点から、発光層の層厚の総和は、1nm以上200nm以下とすることが好ましい。特に、低駆動電圧の観点からは、発光層の層厚の総和は、30nm以下とすることが好ましい。
発光層に含まれるホスト化合物としては、室温(25℃)におけるリン光発光のリン光量子収率として、0.1以下である化合物が好ましく、0.01以下の化合物がより好ましい。また、発光層中のホスト化合物の体積比は、発光層に含まれる各種化合物うち、50%以上とすることが好ましい。
発光層に含まれる発光材料としては、例えば、リン光発光材料(リン光性化合物、リン光発光性化合物)、蛍光発光材料等を用いることができる。なお、一つの発光層には、一種類の発光材料を含有させても良いし、発光極大波長が互いに異なる複数種の発光材料を含有させても良い。複数種の発光材料を用いることにより、発光波長の異なる複数の光を混合させて発光させることができ、これにより、任意の発光色の光を得ることができる。具体的には、例えば、青色発光材料、緑色発光材料及び赤色発光材料(三種類の発光材料)を発光層に含有させることにより、白色光を得ることができる。
《注入層(正孔注入層、電子注入層)》
注入層は、駆動電圧の低下や発光輝度の向上を図るための層である。注入層は、通常は、電極及び発光層の間に設けられる。注入層は、通常は二つに大別される。即ち、注入層は、正孔(キャリア)を注入する正孔注入層と、電子(キャリア)を注入する電子注入層とに大別される。正孔注入層(陽極バッファー層)は、第一電極と、発光層又は正孔輸送層との間に設けられる。また、電子注入層(陰極バッファー層)は、第二電極と、発光層又は電子輸送層との間に設けられる。
《阻止層(正孔阻止層、電子阻止層)》
阻止層は、キャリア(正孔、電子)の輸送を阻止するための層である。阻止層は、通常は二つに大別される。即ち、阻止層は、正孔(キャリア)の輸送を阻止する正孔阻止層と、電子(キャリア)の輸送を阻止する電子阻止層とに大別される。
正孔阻止層は、広い意味で、後述する電子輸送層の機能(電子輸送機能)を有する層である。正孔阻止層は、電子輸送機能を有しつつ、正孔の輸送能力が小さい材料で形成される。このような正孔阻止層が設けられることにより、発光層に対する正孔及び電子間の注入バランスを好適なものにすることができる。また、これにより、電子と正孔との再結合確率を向上させることができる。
なお、正孔阻止層としては、必要に応じて、後述する電子輸送層の構成が同様に適用可能である。更に、正孔阻止層が設けられる場合、正孔阻止層は、発光層に隣接して設けられることが好ましい。
一方、電子阻止層は、広い意味で、後述する正孔輸送層の機能(正孔輸送機能)を有する層である。電子阻止層は、正孔輸送機能を有しつつ、電子の輸送能力が小さい材料で形成される。このような電子阻止層が設けられることにより、発光層に対する正孔及び電子間の注入バランスを好適なものにすることができる。また、これにより、電子と正孔との再結合確率を向上させることができる。
なお、電子阻止層としては、必要に応じて、後述する正孔輸送層の構成が同様に適用可能である。
阻止層の層厚は特に制限されないが、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上であり、また、好ましくは100nm以下、より好ましくは30nm以下である。
《輸送層(正孔輸送層、電子輸送層)》
輸送層は、キャリア(正孔及び電子)を輸送する層である。輸送層は、通常は二つに大別される。即ち、輸送層は、正孔(キャリア)を輸送する正孔輸送層と、電子(キャリア)を輸送する電子輸送層とに大別される。
正孔輸送層は、第一電極から供給された正孔を発光層に輸送(注入)する層である。正孔輸送層は、第一電極又は正孔注入層と発光層との間に設けられる。また、正孔輸送層は、第二電極側からの電子の流入を阻止する障壁としても作用する。それゆえ、正孔輸送層という用語は、広い意味で、正孔注入層及び/又は電子阻止層を含む意味で用いられることもある。なお、正孔輸送層は、一層だけ設けても良いし、複数層設けても良い。
電子輸送層は、第二電極から供給された電子を発光層に輸送(注入)する層である。電子輸送層は、第二電極又は電子注入層と発光層との間に設けられる。また、電子輸送層は、第一電極からの正孔の流入を阻止する障壁としても作用する。それゆえ、電子輸送層という用語は、広い意味で、電子注入層及び/又は正孔阻止層を含む意味で用いられることもある。なお、電子輸送層は、一層だけ設けても良いし、複数層設けても良い。
電子輸送層(電子輸送層を一層構造とする場合には当該電子輸送層、電子輸送層を複数設ける場合には最も発光層側に位置する電子輸送層)に用いられる電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねることがある)は、特に制限されない。ただし、電子輸送層に用いられる電子材料は、通常は、第一電極より注入された電子を発光層に伝達(輸送)する機能を有する材料を適用可能である。
《第二電極》
第二電極は、発光層に電子を供給(注入)する電極膜である。第二電極を構成する材料は特に制限されないが、通常は、仕事関数の小さい(4eV以下)材料、例えば、金属(電子注入性金属)、合金、電気伝導性化合物、及びこれらの混合物等の電極材料で形成される。
有機EL素子において、第二電極側から光を取り出す場合、第二電極は、第一電極と同様に、光透過性を有する電極材料で形成可能である。この場合、例えば1nm以上20nm以下の層厚になるように陰極形成用電極材料からなる金属膜を形成した後、この金属膜上に、第一電極で用いられる導電性透明材料からなる膜を形成することにより、透明又は半透明の第二電極を形成することができる。
《封止部材》
封止部材は、外気から有機EL素子等を保護するものである。封止部材の具体的な構成は特に制限されない。ただし、封止部材として可撓性材料を使用する場合には、封止部材は、樹脂層とガスバリアー性を有する層とが積層されてなることが好ましい。
封止部材として可撓性材料を用いる場合、封止部材の厚さは、特に制限されないものの、製造時の取り扱い性、引張強さやガスバリアー性を有する層の耐ストレスクラッキング性等を考慮すると、10μm以上300μm以下が好ましい。なお、ここでいう封止部材の厚さは、マイクロメーターを使用して測定可能であり、封止部材の縦方向(図1における紙面に垂直な方向)及び幅方向(図1における紙面横方向)で各10箇所を測定した平均値とする。
封止部材に適用可能な可撓性部材は特に制限されない。具体的には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、延伸ナイロン(ONy)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)等の各種包装用フィルムに使用されている熱可塑性樹脂フィルム材料等が挙げられる。これらは一種が単独で用いられても良く、二種以上が任意の比率及び組み合わせで用いられても良い。
また、これらの熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じ、異種フィルムと共押出しにより作製した多層フィルム、延伸角度を変えて貼り合せて作製した多層フィルム等も使用可能である。更に、所望の物性を得るために、使用するフィルムの密度、分子量分布を組合せて作製することも可能である。
封止部材を構成する、ガスバリアー性を有する層としては、特に制限は無いが、例えば、無機蒸着膜、金属箔が挙げられる。無機蒸着膜としては、薄膜ハンドブック879頁〜901頁(日本学術振興会)、真空技術ハンドブック502頁〜509頁、612頁、810頁(日刊工業新聞社)、真空ハンドブック増訂版132頁〜134頁(ULVAC 日本真空技術K.K)に記載されているような無機蒸着膜が挙げられる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
[実施例1]
《有機EL素子101の作製》
1.基材
基材として、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚さ:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を用いた。
基材の易接着面に、UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTARZ7501(JSR株式会社製)を塗布乾燥後の層厚が4μmになる条件で、ワイヤーバーで塗布した。80℃で3分乾燥した後、空気雰囲気下にて高圧水銀ランプを使用して1.0J/cmの照射を行って硬化し、下地層を形成した。
このときの下地層の表面粗さを表す最大断面高さRt(p)は16nmであった。なお、表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡 AFM:Digital Instruments社製)を用い、30μmの区間内を多数回測定し、凹凸の振幅の平均の粗さから求めた。
2.ガスバリアー層(A)の形成
図2に示すような、コベルコ社製プラズマCVDロールコーターW35シリーズ装置に上記基材を装着して、下記成膜条件(プラズマCVD条件)にて、基材上にガスバリアー層(A)を、層厚300nmとなる条件で成膜した。
(プラズマCVD条件)
原料ガス(ヘキサメチルジシロキサン;HMDSO)の供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)
酸素ガス(O)の供給量:500sccm
真空チャンバー内の真空度:3Pa
プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
プラズマ発生用電源の周波数:70kHz
基材の搬送速度:0.8m/min
形成したガスバリアー層(A)について、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、ガスバリアー層(A)の層厚方向の表面からの距離における、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を得た。
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
エッチングレート(SiO熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形
こうして評価した各元素データをもとに、ガスバリアー層(A)の表面からの距離を横軸に、炭素分布曲線A、ケイ素分布曲線B、酸素分布曲線C及び酸素炭素分布曲線Dをそれぞれ図3に示した。この結果からも明らかなように、得られた炭素分布曲線Aが複数の明確な極値を有していること、炭素の原子比の最大値及び最小値の差が5at%以上であること、並びに、ガスバリアー層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素の原子比率、酸素の原子比率及び炭素の原子比率が、前記式(A)で示された条件を満たしていることが確認された。
3.第1電極の形成
上記ガスバリアー層(A)が形成された基材を50mm角に切り出したものに、銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、50μm幅、1mm間隔の格子状パターンで金属細線の印刷を行った。パターンを印刷するエリアの面積は18mm平方とした。印刷機は東海商事株式会社製スクリーン小型厚膜半自動印刷機STF−150Eを用いた。スクリーン版は320×320mm枠、スクリーンメッシュ#730カレンダー仕上げ、乳剤厚3μmのものを用いた。
その後、金属細線印刷後の基材を、電気炉を用いて150℃で5分間焼成し、導電性金属層を形成した。導電性金属層の金属細線のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは0.7μmで、金属細線上の中心線に沿って測定した平均粗さRaは0.01μmであった。
導電性金属層が形成された基材の上に、下記組成の導電性ポリマー層形成用塗布液をウェット層厚10μmになるようにアプリケーターでパターン塗布した。パターンのエリアは、導電性金属層を覆う位置で20mm平方とした。
その後、循環式恒温槽を用いて90℃で5分間乾燥させた。
(導電性ポリマー層形成用塗布液の組成)
導電性ポリマー分散液(Clevios PH750;Heraeus社製、固形分1.7質量%):17.6g
水溶性樹脂1(ポリヒドロキシエチルアクリレート水溶液、固形分20質量%に調整):0.17g
水溶性樹脂2(ポリエチレンオキサイド水溶液、固形分20質量%に調整)3.32g
ジメチルスルホキシド:1.0g
4.有機層の形成
第一電極が形成された基材を市販の真空蒸着装置内にセットし、真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に最適の量で充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製又はタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
次いで、以下の手順で有機層(正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層)を設けた。
まず、真空蒸着装置内を真空度1×10−4Paまで減圧した後、下記α−NPDの入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で第一電極上に蒸着し、層厚30nmの正孔輸送層を設けた。
下記Ir−1が13質量%、下記Ir−14が3.7質量%の濃度になるように、Ir−1、Ir−14及び下記化合物1−7の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒で正孔輸送層上に共蒸着し、発光極大波長が622nmで、層厚10nmの緑赤色リン光発光層を形成した。
次いで、下記E−66が10質量%になるように、E−66及び化合物1−7の入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、それぞれ蒸着速度0.1nm/秒で緑赤リン光発光層上に共蒸着し、発光極大波長が471nmで、層厚15nmの青色リン光発光層を形成した。
その後、下記M−1を青色リン光発光層上に蒸着し、層厚5nmの正孔阻止層を形成し、更に、CsFを層厚比で10%になるようにM−1と正孔阻止層上に共蒸着し、層厚45nmの電子輸送層を形成した。
各有機層形成に用いた化合物を下記に示す。
Figure 2014127286
5.第二電極の形成
形成した電子輸送層の上に、第一電極を陽極とした陽極外部取り出し端子を形成するとともに、陰極形成用材料としてAlを5×10−4Paの真空下にて15mm×15mmでマスク蒸着し、層厚100nmの陰極を形成した。
6.封止
更に、第一電極及び第二電極の外部取り出し端子が形成できるように、端部を除き第一電極の周囲に接着剤を塗り、ポリエチレンテレフタレートを基材としAlを厚さ300nmで蒸着した可撓性封止部材を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させ封止膜を形成し、発光エリア15mm×15mmの有機EL素子101を作製した。
《有機EL素子102の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を125℃とし、それ以外は、有機EL素子101と同様の方法で、有機EL素子102を作製した。
《有機EL素子103の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を100℃とし、それ以外は、有機EL素子101と同様の方法で、有機EL素子103を作製した。
《有機EL素子104の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を90℃とし、それ以外は、有機EL素子101と同様の方法で、有機EL素子104を作製した。
[実施例2]
《有機EL素子105の作製》
有機EL素子101の作製において、ガスバリアー層(A)と第一電極との間に、下記に示す方法でポリシラザン層を形成し、それ以外は同様の方法で、有機EL素子105を作製した。
パーヒドロポリシラザン(アクアミカ NN120−10、無触媒タイプ、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)製)の10質量%ジブチルエーテル溶液を、ポリシラザン層形成用塗布液とした。
上記ポリシラザン層形成用塗布液を、ワイヤレスバーにて、乾燥後の(平均)層厚が300nmとなるように塗布し、温度85℃、湿度55%RHの雰囲気下で1分間処理して乾燥させ、更に温度25℃、湿度10%RH(露点温度−8℃)の雰囲気下に10分間保持し、除湿処理を行って、ポリシラザン層を形成した。
次いで、上記形成したポリシラザン層に対し、下記の紫外線照射装置を用いて、露点温度が−8℃以下の条件下で、真空紫外光を照射し、改質処理(シリカ転化処理)を実施した。
(紫外線照射装置)
装置:株式会社 エム・ディ・コム製エキシマ照射装置MODEL:MECL−M−1−200
照射波長:172nm
ランプ封入ガス:Xe
ポリシラザン層が形成された基材を、上記紫外線照射装置の稼動ステージ上に固定し、以下の改質処理条件でポリシラザン層の改質処理を行った。
(改質処理条件)
エキシマランプ光強度:130mW/cm(172nm)
試料と光源の距離:1mm
ステージ加熱温度:70℃
照射装置内の酸素濃度:1.0%
エキシマランプ照射時間:5秒
《有機EL素子106の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を125℃とし、それ以外は、有機EL素子105と同様の方法で、有機EL素子106を作製した。
《有機EL素子107の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を100℃とし、それ以外は、有機EL素子105と同様の方法で、有機EL素子107を作製した。
《有機EL素子108の作製》
金属細線の印刷後における焼成温度を90℃とし、それ以外は、有機EL素子105と同様の方法で、有機EL素子108を作製した。
[比較例1]
《有機EL素子201の作製》
有機EL素子101の作製において、ガスバリアー層(A)を、下記のガスバリアー層(B)に変更した以外は同様にして、有機EL素子201を作製した。
(ガスバリアー層(B)の形成)
シリコンターゲットを用い、酸素含有ガス雰囲気中で、有機EL素子101の作製に用いたものと同様の下地層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム上に、反応スパッタ法により酸化ケイ素から構成されるガスバリアー層(B)を形成した。得られたガスバリアー層(B)の層厚は300nmであった。
得られたガスバリアー層(B)について、前記ガスバリアー層(A)について行ったXPSデプスプロファイル測定を同様に行い、ガスバリアー層(B)の層厚方向の表面からの距離における、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線を得た。得られたケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び酸素炭素分布曲線と、原子比とエッチング時間の関係とともに、原子比とガスバリアー層の表面からの距離(nm)との関係を併せて示すグラフを図4に示す。図4に示す結果からも明らかなように、得られた炭素分布曲線は極値を有しておらず、本発明で規定する条件(1)及び(2)からは外れるものであった。
《有機EL素子202の作製》
有機EL素子102の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(B)に変更した以外は同様にして、有機EL素子202を作製した。
《有機EL素子203の作製》
有機EL素子103の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(B)に変更した以外は同様にして、有機EL素子203を作製した。
《有機EL素子204の作製》
有機EL素子104の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(B)に変更した以外は同様にして、有機EL素子204を作製した。
[比較例2]
《有機EL素子301の作製》
有機EL素子101の作製において、ガスバリアー層(A)を、下記のガスバリアー層(C)に変更した以外は同様にして、有機EL素子301を作製した。
(ガスバリアー層(C)の形成)
特開平7−178860号公報の実施例3に記載されている製膜方法に従って、有機EL素子101の作製に用いたものと同様の下地層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ガスバリアー層(C)を形成した。すなわち、蒸着源として、5mm程度の大きさの粒子状のSiO(純度99.7%)を用い、EB(Electron Beam)加熱蒸着法で、上記基材上に酸化ケイ素系(SiO)ガスバリアー薄膜の形成を行った。基材送り速度を100m/min、印加電力5kWとし、層厚80nmのガスバリアー層(C)を作製した。
次いで、反応ガスとして、プロピレンガスを用い、更に炭素置換を進めるためにチルローラー付近に設置した電極に高周波電圧を加え、プロピレンガスをプラズマ状態とした。流量を変化させるとともに励起用の電圧1kVを中心に振幅500Vで、sinカーブで変化させた。このようにして得られたガスバリアー層(C)について、炭素置換量と厚さ方向の変化は、ESCA装置を用いて測定した。測定条件としては、Mg−Kα線を光源とし、出力8kV×30mA、真空度5×10−6Pa一定とした。
得られたガスバリアー層(C)の厚さ方向の炭素分布の幅は1.0〜2.8at%の範囲であり、最大の極値と最小の極値との差が5at%未満であり、本発明で規定する条件(2)からは外れるものであった。
《有機EL素子302の作製》
有機EL素子102の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(C)に変更した以外は同様にして、有機EL素子302を作製した。
《有機EL素子303の作製》
有機EL素子103の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(C)に変更した以外は同様にして、有機EL素子303を作製した。
《有機EL素子304の作製》
有機EL素子104の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(C)に変更した以外は同様にして、有機EL素子304を作製した。
[比較例3]
《有機EL素子401の作製》
有機EL素子101の作製において、ガスバリアー層(A)を、下記のガスバリアー層(D)に変更した以外は同様にして、有機EL素子401を作製した。
(ガスバリアー層(D)の形成)
特表2005−537963号公報に記載のガスバリアー層の形成方法であるPE−CVD(Plasma-Enhanced CVD)法を用いて、有機EL素子101の作製に用いたのと同様の下地層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム上に、層厚約300nmの傾斜組成のガスバリアー層(D)を形成した。
シラン(最大流量約500sccm/min)、アンモニア(最大流量約60sccm/min)及びプロピレンオキシド(最大流量約500sccm/min)を用いて、ケイ素、炭素、酸素及び窒素からなる傾斜コーティングを作製した。反応体ガスの速度は蒸着中、コーティングの組成がその厚さ方向で連続的に変化するように変化させた。RF電極に供給した出力は、プラズマをプロピレンオキシドから発生させたときは100W、シランとアンモニアの混合物を反応器に供給したときは200Wであった。反応器内の真空レベルは26.6Paとし、平均温度は約55℃であった。以上のようにして形成したガスバリアー層(D)の層厚方向におけるケイ素分布、酸素分布及び窒素分布を、前記ガスバリアー層(A)について行ったXPSデプスプロファイル測定と同様にして、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線及び窒素分布曲線を得た。
得られた分布曲線プロファイルを解析した結果、特表2005−537963号公報に記載されている図4と同様の元素分布プロファイルであり、炭素含有量が最大となる領域と、ケイ素含有量が最大値となる領域が交互に存在する元素プロファイルであり、ガスバリアー層におけるケイ素原子の比率が、本発明の条件(3)で規定する式(A)又は式(B)を満たす領域は、90%未満であった。
《有機EL素子402の作製》
有機EL素子102の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(D)に変更した以外は同様にして、有機EL素子402を作製した。
《有機EL素子403の作製》
有機EL素子103の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(D)に変更した以外は同様にして、有機EL素子403を作製した。
《有機EL素子404の作製》
有機EL素子104の作製において、ガスバリアー層(A)を、上記のガスバリアー層(D)に変更した以外は同様にして、有機EL素子404を作製した。
《有機EL素子の評価》
上記したように作製した各有機EL素子について下記の評価を行った。評価結果を表1に示す。
(1)駆動電圧の評価
50mA/cmの電流条件による発光を行い、その時の電圧を測定し有機EL素子の駆動電圧とした。
(2)高温高湿耐性の評価
85℃、85%RHの環境下で500時間の加熱処理を行った後、発光画像を確認し、ダークスポット(DS)の発生を確認し、下記の基準で評価した。
◎:DSの発生なく問題無し
○:微小DSが僅かに発生するが、目視では視認できないレベル
×:DSが発生
(3)熱衝撃耐性の評価
85℃30分/−40℃30分の熱衝撃試験を500サイクル実施した後、発光画像を確認しダークスポット(DS)の発生状況を下記の基準で評価した。
◎:DSの発生なく問題無し
○:微小DSが僅かに発生するが、目視では視認できないレベル
×:DSが発生
(4)発光寿命の評価
23℃、50%RHの環境下で、10mA/cmの定電流条件による連続発光を行い、分光放射輝度計CS−2000(コニカミノルタオプティクス社製)を用いて、初期輝度の半分の輝度になるのに要する時間(半減期:τ1/2)を測定した。なお、発光寿命の評価は、有機EL素子101の半減期(時間)を100とする相対値で表示した。数値が大きいほど、発光寿命が長いことを表す。
Figure 2014127286
表1の結果から明らかなように、ガスバリアー層の層厚方向におけるケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、本発明で規定する条件(1)〜(3)の全てを満たす有機EL素子101〜108は、導電性金属層の焼成温度を高温としても、ダークスポットを発生させることなく、発光の長寿命化及び駆動電圧の低下を達成することができている。また、高温高湿保存後及び熱衝撃試験後においてもダークスポットの発生がなく、本発明に係る有機EL素子は、高温高湿耐性及び熱衝撃耐性に優れていることが示されている。
また、本発明に係る有機EL素子においては、ポリシラザン層を有することで、高温高湿耐性、熱衝撃耐性及び発光寿命が向上することが示されている。
また、本発明に係る有機EL素子においては、金属細線の焼成温度を100℃以上とすることで、素子の各性能が向上することが示されている。
一方で、ガスバリアー層の層厚方向におけるケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、本発明で規定する条件(1)〜(3)のいずれかを満たさない有機EL素子201〜204、301〜304、401〜404は、導電性金属層の焼成温度を高温とすることで、ダークスポットの発生が顕著になっている。
また、導電性金属層の焼成温度が低温のものは、高温高湿保存後のダークスポットの発生はそれなりに抑制されているものの、駆動電圧の上昇、低寿命化、熱衝撃試験後のダークスポットの顕著な発生を引き起こしており、本発明の優位性を証明する結果となった。
1 透明樹脂フィルム基材
2 ガスバリアー層
3 第1電極
4 有機層ユニット
5 第2電極
6 封止部材
7 対向フィルム
11 送り出しローラー
21、22、23、24 搬送ローラー
31、32 成膜ローラー
41 ガス供給管
51 プラズマ発生用電源
61、62 磁場発生装置
71 巻取りローラー
A 炭素分布曲線
B ケイ素分布曲線
C 酸素分布曲線
D 酸素炭素分布曲線
F ガスバリアー性フィルム
EL 有機EL素子

Claims (6)

  1. 可撓性を有する透明樹脂フィルム基材と、
    前記透明樹脂フィルム基材の上に設けられ、炭素原子、ケイ素原子及び酸素原子を含有するガスバリアー層と、
    パターン状に形成された金属細線構造を有する導電性金属層と、導電性ポリマーからなる導電性ポリマー層と、が前記ガスバリアー層の上に積層されてなる第一電極と、
    前記第一電極に対向する第二電極と、
    前記第一電極と前記第二電極との間に、少なくとも発光層を含む複数の有機層と、を備え、
    前記ガスバリアー層は、X線光電子分光法による深さ方向の元素分布測定に基づき、当該ガスバリアー層の層厚方向における表面からの距離と、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する、ケイ素原子の量の比率(「ケイ素原子比率(at%)」という。)、酸素原子の量の比率(「酸素原子比率(at%)という。」)及び炭素原子の量の比率(「炭素原子比率(at%)という。」)との関係を示すケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線が、下記条件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
    (1)前記ガスバリアー層は、層厚方向で組成が連続的に変化し、前記炭素分布曲線が極値を有する。
    (2)前記炭素原子比率の最大の極値と最小の極値との差が、5at%以上である。
    (3)前記ガスバリアー層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の原子比率(at%)が、下記式(A)又は(B)で表される序列の大小関係を有する。
    式(A)
    (炭素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(酸素原子比率)
    式(B)
    (酸素原子比率)<(ケイ素原子比率)<(炭素原子比率)
  2. 前記ガスバリアー層と前記第一電極の間に、ポリシラザン層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  3. 前記導電性金属層が、金属粒子を含有するインクが前記ガスバリアー層上に塗布された後、100℃以上の温度で焼成されて形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  4. 前記ポリシラザン層が、真空紫外光が照射されて改質処理がなされていることを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  5. 前記導電性金属層が、銀を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  6. 前記透明樹脂フィルム基材が、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリエチレンナフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
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