JP2014124120A - 忌避剤候補物質のスクリーニング方法 - Google Patents

忌避剤候補物質のスクリーニング方法 Download PDF

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Yasuhiko Takahashi
康彦 高橋
Kazumasa Akita
一雅 秋田
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Abstract

【課題】忌避剤候補物質のスクリーニング方法、該方法に利用可能な細胞等を提供すること。
【解決手段】忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、特定の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入され当該嗅覚受容体を発現する形質転換細胞又はその細胞膜画分と、被験物質とを接触させ、前記嗅覚受容体の活性又はそれと相関する指標値を測定する第一工程と、(2)工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、当該嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第二工程とを含む方法 等。
【選択図】なし

Description

本発明は、忌避剤候補物質のスクリーニング方法等に関する。
昆虫は様々な匂い物質を認識して行動反応を生じる。昆虫の嗅覚器には嗅神経細胞が存在しており、個々の嗅神経細胞には嗅覚受容体が発現している。匂い物質と嗅覚受容体が結合することにより、嗅神経細胞が活性化され、匂いのシグナルがより高次の神経回路へと送られる。
昆虫の行動を制御する活性を有する匂い物質は、その作用により、誘引剤、忌避剤、または繁殖撹乱剤等としての利用が期待される。このような物質を見出す方法として、例えば、被験物質を被験昆虫に施用し被験昆虫の行動変化を観察することにより被験物質の作用を評価する方法が用いられてきた。当該方法は、被験昆虫の飼育及び管理や、被験物質施用後の被験昆虫の行動変化の観察に多大な手間と時間を要し、多数の被験物質の網羅的な試験が困難であった。
昆虫の行動を制御する活性を有する物質を見出すために、多数の被験物質を迅速に試験する方法等の開発が望まれている。
本発明は、特定の嗅覚受容体を利用する忌避剤候補物質のスクリーニング方法、並びに、該スクリーニング方法で使用され得る、嗅覚受容体、当該嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチド及び当該ポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなる形質転換細胞等を提供する。
即ち、本発明は、
1.忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
(1)以下の嗅覚受容体からなる群:
(A1)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
(A2)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
(A3)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
から選ばれる1以上の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入され当該嗅覚受容体を発現する形質転換細胞又はその細胞膜画分と、被験物質とを接触させ、前記嗅覚受容体の活性又はそれと相関する指標値を測定する第一工程と、
(2)工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、当該嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第二工程と
を含む方法(以下、本発明スクリーニング方法と記すこともある。);
2.嗅覚受容体が、3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-ol(以下、Linaloolと記すこともある。)により活性化される嗅覚受容体である前項1に記載のスクリーニング方法;
3.形質転換細胞が、培養細胞を宿主細胞とする形質転換細胞である前項1に記載のスクリーニング方法;
4.形質転換細胞が、嗅覚受容体共受容体をコードするポリヌクレオチドがさらに導入され当該嗅覚受容体共受容体と上記嗅覚受容体とを発現する形質転換細胞である前項1から3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法;
5.嗅覚受容体共受容体が、以下の嗅覚受容体共受容体からなる群:
(C1)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体、
(C2)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、嗅覚受容体と共役して陽イオンを細胞内へ流入させる能力を有する嗅覚受容体共受容体、及び
(C3)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体のオーソログ;
から選ばれる嗅覚受容体共受容体である前項4に記載のスクリーニング方法;
6.工程(2)における対照が:
(a)被験物質を接触させていない前記形質転換細胞もしくはその細胞膜画分における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値、又は
(b)前記嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞もしくはその細胞膜画分における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値、
である前項1から4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法;
7.工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、上記形質転換細胞における上記嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値である前項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法;
8.嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値が、細胞内カルシウム量、細胞膜電位又は細胞内cAMP量である前項7に記載のスクリーニング方法;
9.工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分へのGTPの結合量である前項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法;
10.工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と標識リガンドおよび被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分への標識リガンドの結合量である前項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法;
11.被験物質の忌避効果を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、前項1に記載の嗅覚受容体を機能可能な形で発現する細胞の使用;
12.被験物質の忌避効果を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、前項1に記載の嗅覚受容体またはそれをコードするポリヌクレオチドの使用;
13.以下の嗅覚受容体からなる群から選ばれる嗅覚受容体:
(B1)配列番号15、19または23のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
(B2)配列番号15で示されるアミノ酸配列において1もしくは5個のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B3)配列番号15で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B4)配列番号19で示されるアミノ酸配列において1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B5)配列番号19で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B6)配列番号23で示されるアミノ酸配列において1個以上17個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
(B7)配列番号23で示されるアミノ酸配列と97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
14.3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-olにより活性化される嗅覚受容体である前項13記載の嗅覚受容体;
15.前項13又は14に記載の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチド;
16.配列番号16、20または24のいずれかで示される塩基配列を有する前項15記載のポリヌクレオチド;
17.前項15又は16記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド;
18.前項15から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドと、宿主細胞において機能可能なプロモーターとが機能可能な形で連結されてなるポリヌクレオチド;
19.前項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター;
20.宿主細胞内で複製可能なベクターに、前項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを組込む工程を有するベクターの製造方法;
21.前項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなる形質転換細胞;
22.前項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は前項19に記載のベクターを宿主細胞に導入する工程を有する形質転換細胞の製造方法;及び
23.前項15又は16記載のポリヌクレオチドが導入され当該ポリヌクレオチドにコードされる嗅覚受容体を発現する形質転換細胞を培養し、産生された嗅覚受容体を回収する工程を有する嗅覚受容体の製造方法;
等を提供する。
本発明により、特定の嗅覚受容体を利用する忌避剤候補物質のスクリーニング方法、並びに、該スクリーニング方法で使用され得る、嗅覚受容体、当該嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチド及び当該ポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなる形質転換細胞等が提供可能となる。
図1は、実施例3において、形質転換細胞とLinaloolとを接触させた場合の膜電位変化の程度を示す図である。
昆虫の嗅覚受容体(odorant receptor)は、7回膜貫通構造を有する膜受容体であり、匂い物質等のリガンドにより活性化されると、細胞内シグナル伝達を活性化させ、三量体Gタンパク質を介してcAMP量を増加させる。嗅覚受容体は嗅覚受容体共受容体(odorant receptor co-receptor)とヘテロ複合体を形成し、ナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオンを細胞内に流入させる活性を示す。
本発明スクリーニング方法は、忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
(1)以下の嗅覚受容体からなる群:
(A1)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
(A2)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
(A3)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
から選ばれる1以上の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入され当該嗅覚受容体を発現する形質転換細胞又はその細胞膜画分と、被験物質とを接触させ、前記嗅覚受容体の活性又はそれと相関する指標値を測定する第一工程と、
(2)工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、当該嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第二工程と
を含む方法である。
本発明スクリーニング方法で使用される形質転換細胞は、以下の嗅覚受容体からなる群A:
(A1)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
(A2)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
(A3)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
から選ばれる1以上の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入され当該嗅覚受容体を発現する形質転換細胞である。
上記群Aから選ばれる嗅覚受容体としては、より具体的には、以下の群B:
(B1)配列番号15、19または23のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
(B2)配列番号15で示されるアミノ酸配列において1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B3)配列番号15で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B4)配列番号19で示されるアミノ酸配列において1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B5)配列番号19で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
(B6)配列番号23で示されるアミノ酸配列において1個以上17個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
(B7)配列番号23で示されるアミノ酸配列と97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
から選ばれる嗅覚受容体を挙げることができる。
上記の群A及びBに示される嗅覚受容体は、例えば3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-olにより活性化され、細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を発揮する。
上記の群A及びBに示される嗅覚受容体のアミノ酸配列において、群Aの(A1)に示される嗅覚受容体のアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記群Aの(A1)で示される蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を嗅覚受容体が発揮することのできる範囲内の数であれば良い。上記群Aの(A2)における「複数のアミノ酸」としては、例えば、2、3、4、5、6、7、10、15、20、25、30、35、もしくは40個のアミノ酸が挙げられる。上記群Bの(B2)及び(B4)における「欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸」の数としては、好ましくは1もしくは2個が挙げられる。また、上記B群の(B6)における「欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸」の数としては、例えば、2、3、4、5、6、7、10もしくは15個が挙げられ、好ましくは1もしくは2個が挙げられる。
アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への保存的置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換(以下、総じてアミノ酸の改変と記すこともある。)を人為的に行う手法としては、例えば、上記群Aの(A1)で示される嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対して部位特異的変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法が挙げられる。ここで部位特異的変異導入法としては、例えば、アンバー変異を利用する方法(ギャップド・デュプレックス法、Nucleic Acids Res.,12,9441-9456(1984))、変異導入用プライマーを用いたPCRによる方法等が挙げられる。
アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、上記群Aの(A1)で示される嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対してランダムに変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法も挙げられる。ここでランダムに変異を導入する手法としては、例えば、上記のアミノ酸配列のいずれかをコードするポリヌクレオチドを鋳型とし、それぞれのポリヌクレオチドの全長を増幅できるようなプライマー対を用い、基質に用いるdATP、dTTP、dGTP、dCTPの各々の添加濃度を通常とは変化させた反応条件や、或いはポリメラーゼの反応を促進させるMg2+の濃度を通常よりも増加させた反応条件でPCRを行う方法等が挙げられる。このようなPCRの手法としては、例えば、Method in Molecular Biology, (31), 1994, 97-112 に記載される方法があげられる。また、WO0009682号公報に記載される方法をあげることもできる。
「配列同一性」とは、2つの塩基配列又は2つのアミノ酸配列間の同一性をいう。前記「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列の最適なアラインメントにおいては、付加又は欠失(例えばギャップ等)を許容してもよい。このような配列同一性は、例えば、FASTA[Pearson & Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA,4, 2444-2448(1988)]、BLAST[Altschulら、Journal of Molecular Biology, 215, 403-410(1990)]、CLUSTAL W[Thompson,Higgins&Gibson, Nucleic Acid Research, 22, 4673-4680(1994a)]等のプログラムを用いて相同性解析を行いアラインメントを作成することによって算出することができる。上記のプログラムは、例えば、DNA Data Bank of Japan[国立遺伝学研究所 生命情報・DDBJ研究センター (Center for Information Biology and DNA Data Bank of Japan ;CIB/DDBJ)内で運営される国際DNAデータバンク]のホームページ等において、一般的に利用可能である。また、配列同一性は市販の配列解析ソフトウェアを用いて求めることもできる。具体的には例えば、GENETYX-WIN Ver.5(ソフトウェア開発株式会社製)」を用い、Lipman-Pearson法[Lipman, D. J. and Pearson, W.R., Science, 227, 1435-1441,(1985)]により相同性解析を行ってアラインメントを作成することにより算出することができる。
上記群Aの(A3)に記載の「90%以上の配列同一性」としては、例えば90、95、98、または99%以上の配列同一性が挙げられる。上記群Bの(B7)に記載の「97%以上の配列同一性」としては、例えば98または99%以上の配列同一性が挙げられる。
配列番号17で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号XP_319861で示されるアミノ酸配列である。配列番号17で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号18で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号XM_319861で示される塩基配列である。
配列番号21で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号XP_316697で示されるアミノ酸配列である。配列番号21で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号22で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号XM_316697で示される塩基配列である。
配列番号25で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号XP_321006で示されるアミノ酸配列である。配列番号25で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号26で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号XM_321006で示される塩基配列である。
配列番号27で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号XP_321005で示されるアミノ酸配列である。配列番号27で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号28で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号XM_321005で示される塩基配列である。
配列番号29で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号XP_312289で示されるアミノ酸配列である。配列番号29で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号30で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号XM_312289で示される塩基配列である。
本形質転換細胞には、嗅覚受容体共受容体をコードするポリヌクレオチドがさらに導入されていてもよい。かかる嗅覚受容体共受容体としては、例えば、群C:
(C1)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体;
(C2)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、嗅覚受容体と共役して陽イオンを細胞内へ流入させる能力を有する嗅覚受容体共受容体;及び
(C3)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体のオーソログ;
から選ばれる嗅覚受容体共受容体を挙げることができる。
上記の群Cに示される嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列において、群Cの(C1)に示される嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列との間に認められることのある相違は、一部のアミノ酸の欠失、置換、付加等である。これらには、例えば、上記群Cの(C1)で示される蛋白質が細胞内で受けるプロセシングによる欠失が含まれる。また、該蛋白質が由来する生物の種差や個体差等により天然に生じる遺伝子変異や、部位特異的変異導入法、ランダム変異導入法、突然変異処理等によって人為的に導入される遺伝子変異等により生じるアミノ酸の欠失、置換、付加等が含まれる。
かかる欠失、置換、付加等を受けるアミノ酸の数は、嗅覚受容体と共役して陽イオンを細胞内へ流入させる能力を嗅覚受容体共受容体が発揮することのできる範囲内の数であれば良い。アミノ酸の置換としては、例えば、疎水性、電荷、pK、立体構造上における特徴等の類似したアミノ酸への保存的置換をあげることができる。このような置換としては、具体的には例えば、(1)グリシン、アラニン;(2)バリン、イソロイシン、ロイシン;(3)アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、(4)セリン、スレオニン;(5)リジン、アルギニン;(6)フェニルアラニン、チロシン等のグループ内での置換が挙げられる。
かかるアミノ酸の欠失、付加若しくは置換を人為的に行う手法としては、例えば、上記群Cの(C1)で示される嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対して部位特異的変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法が挙げられる。
アミノ酸の改変を人為的に行う手法としては、例えば、上記群Cの(C1)で示される嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドに対してランダムに変異導入を施し、その後このポリヌクレオチドを常法により発現させる手法も挙げられる。
上記群Cの(C2)に記載の「70%以上の配列同一性」としては、例えば、70、75、80、85、90、95、98、または99%以上の配列同一性が挙げられる。
上記群Cの(C3)に記載の「配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体のオーソログ」としては、例えば、ガンビエハマダラカ及びショウジョウバエ以外の昆虫由来の嗅覚受容体共受容体が挙げられる。
配列番号1で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号AAR14938で示されるアミノ酸配列であり、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)由来の嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列である。配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号2で示される塩基配列や、NCBIデータベースにおいて登録番号AY363725で示される塩基配列を挙げることができる。
配列番号3で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースにおいて登録番号NP_524235で示されるアミノ酸配列であり、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)由来の嗅覚受容体共受容体のアミノ酸配列である。配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、配列番号4で示される塩基配列を挙げることができ、該塩基配列はNCBIデータベースにおいて登録番号NM_079511で示される塩基配列である。
上記群Aおよび群Bに示される嗅覚受容体、並びに、上記群Cに示される嗅覚受容体共受容体は、例えば、これら受容体又は共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを用いて後述の方法に従い調製することができる。上記群Aおよび群Bに示される嗅覚受容体がリガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力、並びに、上記群Cに示される嗅覚受容体共受容体が嗅覚受容体と共役して陽イオンを細胞内へ流入させる能力は、後述の方法に準じて測定することができる。
上記群Aおよび群Bに示される嗅覚受容体(以下、本嗅覚受容体と記すこともある。)のアミノ酸配列をそれぞれコードするポリヌクレオチド、並びに、上記群Cに示される嗅覚受容体共受容体(以下、本共受容体と記すこともある。)のアミノ酸配列をそれぞれコードするポリヌクレオチドは、例えば、ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)やショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)等の目的とする昆虫の組織から、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) 等に記載される遺伝子工学的方法に準じて取得することができる。
ガンビエハマダラカ等のハマダラカは、例えば、Malaria Research and Reference Reagent Resource Center等から入手可能である。
cDNAライブラリーを作製するためには、まず、ガンビエハマダラカやショウジョウバエ等の目的とする昆虫の組織由来の全RNAを調製する。
具体的には例えば、目的とする昆虫の頭部等の組織を塩酸グアニジンやグアニジンチオシアネート等のタンパク質変性剤を含む溶液中で粉砕し、さらに当該粉砕物にフェノール、クロロホルム等を加えることによりタンパク質を変性させる。変性タンパク質を遠心分離により除去した後、回収された上清画分から塩酸グアニジン/フェノール法、SDS−フェノール法、グアニジンチオシアネート/CsCl法等の方法により全RNAを抽出する。尚、これらの方法に基づいた市販のキットとしては、例えば、TRIzol試薬(インビトロジェン社)、Isogen(ニッポンジーン社製)等が挙げられる。
得られた全RNAを鋳型としてオリゴdTプライマーをRNAのポリA配列にアニールさせ、逆転写酵素により一本鎖cDNAを合成する。更に一本鎖cDNAを鋳型とし、かつ大腸菌RNaseHを用いてRNA鎖にニックとギャップを入れることにより得られるRNA断片をプライマーとして大腸菌のDNAポリメラーゼIを用いて二本鎖のcDNAを合成することもできる。得られたcDNAは、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿等の通常の方法により精製、回収する。尚、これらの方法に基づいた市販のキットとしては、例えば、cDNA合成システムプラス(アマシャムバイオサイエンス社製)やSuperScript Choice System(インビトロジェン社製)等が挙げられる。
得られた二本鎖cDNAを、例えば、プラスミドpUC118やファージλgt10等のベクターとリガーゼとを用いて連結することによりcDNAライブラリーを作製することができる。
ゲノムDNAライブラリーを作製するためには、ガンビエハマダラカやショウジョウバエ等の目的とする昆虫の組織片から、例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) 等に記載される通常の方法に準じてゲノムDNAを調製する。
例えば、試料が頭部の場合には、抽出緩衝液[10mM Tris-HCl (pH8.0), 0.1 mM EDTA (pH8.0), 20μ g/ml, 0.5%SDS]を組織重量に対し10倍量(v/w)加え粉砕し、さらにProteinaseKを最終濃度100μl/ml になるように加え混合する。この混合物を50℃で3時間保温した後、フェノール/クロロホルム等を加えることによりタンパク質を変性させる。変性タンパク質を遠心分離等により除去した後、回収された上清画分にエタノールを添加しゲノムDNAを沈殿させ回収する。得られたゲノムDNAをλgt10等のベクターとリガーゼを用いて連結することによりゲノムDNAライブラリーを得ることができる。
目的とする昆虫のRNA、cDNAライブラリー、ゲノムDNA又はゲノムDNAライブラリー等が市販されている場合は、それらを利用してもよい。
上記のような一本鎖又は二本鎖cDNA、又は、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーから、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30のいずれかで示される塩基配列の部分塩基配列又は当該部分塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR反応や、上記cDNAライブラリーやゲノムDNAライブラリーから、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30のいずれかで示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド又は当該塩基配列の部分塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドを取得することができる。
PCRに用いられるプライマーとしては、例えば、約15塩基から約50塩基程度の長さのオリゴヌクレオチドであって、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30のいずれかで示される塩基配列の5’側の翻訳開始点から始まる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30のいずれかで示される塩基配列の3’側の翻訳終了点から始まる塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。PCRは、例えば、KOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いて、95℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで68℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル行う。このようなPCRで増幅されたDNA断片を、必要に応じて低融点アガロース電気泳動等に供して精製した後、エタノール沈殿により回収することにより、精製し回収することができる。
ハイブリダイゼーション法に用いられるプローブとしては、例えば、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30のいずれかで示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は、当該ポリヌクレオチドの部分塩基配列を有するポリヌクレオチド等が挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、6×SSC(0.9M塩化ナトリウム、0.09Mクエン酸ナトリウム)、5×デンハルト溶液(0.1(w/v)フィコール400、0.1(w/v)ポリビニルピロリドン、0.1(w/v)BSA)、0.5(w/v)SDS及び100μg/ml変性サケ精子DNA存在下に、65℃で保温し、次いで1×SSC(0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5(w/v)SDS存在下に、室温で15分間の保温を2回行い、さらに0.1×SSC(0.015M 塩化ナトリウム、0.0015Mクエン酸ナトリウム)及び0.5(w/v)SDS存在下に、68℃で30分間保温する条件等を挙げることができる。また、例えば、5xSSC、50mMHEPES pH7.0、10xデンハルト溶液及び20μg/ml変性サケ精子DNA存在下に65℃にて保温し、次いで2xSSC中で室温にて30分間の保温を行い、さらに0.1xSSC中で65℃にて40分間の保温を2回行う条件を挙げることもできる。
本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号16、18、20、22、24、26、28または30で示される塩基配列に基づいて、例えばホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M.et al., Nature, 310, 105, 1984)等の通常の方法に準じて、核酸の化学合成を行うことにより調製することもできる。本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチドも、同様に調製することができる。
上記のような一本鎖又は二本鎖cDNA、又は、cDNAライブラリー若しくはゲノムDNAライブラリーから、配列番号2又は4で示される塩基配列の部分塩基配列又は当該部分塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるPCR反応や、上記cDNAライブラリーやゲノムDNAライブラリーから、配列番号2又は4で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド又は当該塩基配列の部分塩基配列を有するポリヌクレオチドをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを取得することができる。
PCRに用いられるプライマーとしては、例えば、約15塩基から約50塩基程度の長さのオリゴヌクレオチドであって、配列番号2又は4で示される塩基配列の5’側の翻訳開始点から始まる塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、及び、配列番号2又は4で示される塩基配列の3’側の翻訳終了点から始まる塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。具体的には、フォワードプライマーとしては、例えば、配列番号7又は9で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。また、リバースプライマーとしては、例えば、配列番号8又は10で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。PCRは、例えば、KOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いて、95℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで68℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを40サイクル行う。このようなPCRで増幅されたDNA断片を、必要に応じて低融点アガロース電気泳動等に供して精製した後、エタノール沈殿により回収することにより、精製し回収することができる。
ハイブリダイゼーション法に用いられるプローブとしては、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は、当該ポリヌクレオチドの部分塩基配列を有するポリヌクレオチド等が挙げられる。ハイブリダイゼーションの条件としては、例えば、上述の条件を挙げることができる。
本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号2又は4で示される塩基配列に基づいて、例えばホスファイト・トリエステル法(Hunkapiller, M.et al., Nature, 310, 105, 1984)等の通常の方法に準じて、核酸の化学合成を行うことにより調製することもできる。
このようにして得られた本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、及び、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、例えば、Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A laboratory Manual 3rd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001) 等に記載された遺伝子工学的方法に準じてベクターにクローニングすることができる。具体的には例えば、TAクローニングキット(Invitrogen社)やpBluescriptII(Stratagene社)等の市販のプラスミドベクターを用いてクローニングすることができる。
得られたポリヌクレオチドの塩基配列は、Maxam Gilbert法(例えば、Maxam, A. M. & W. Gilbert, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 560, 1977等に記載される)やSanger法(例えば、Sanger, F. & A. R. Coulson, J. Mol. Biol., 94, 441, 1975, Sanger, F. & Nicklen & A. R. Coulson, Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 74, 5463, 1977等に記載される)に準じて確認することができる。ABI社製モデル377等の自動DNAシークエンサーを用いる場合には、対応するDNAシークエンスキット、例えば、ABI社製Big Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit等を用いることができる。
本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、及び、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドが導入される宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で連結されてもよい。ここで、「機能可能な形で連結させる」とは、前記ポリヌクレオチドが導入される宿主細胞において、プロモーターの制御下に前記ポリヌクレオチドが発現されるように、該プロモーターと前記ポリヌクレオチドとを結合させることを意味する。
宿主細胞で機能可能なプロモーターとしては、導入される宿主細胞内でプロモーター活性を示すポリヌクレオチドをあげることができる。例えば、宿主細胞が大腸菌である場合には、大腸菌のラクトースオペロンのプロモーター(lacP)、トリプトファンオペロンのプロモーター(trpP)、アルギニンオペロンのプロモーター(argP)、ガラクトースオペロンのプロモーター(galP)、tacプロモーター、T7プロモーター、T3プロモーター、λファージのプロモーター(λ-pL、λ-pR)等をあげることができる。宿主細胞が出芽酵母である場合にはADH1プロモーターなどをあげることができる。宿主細胞が動物細胞や分裂酵母である場合には、例えば、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期又は後期プロモーター、マウス乳頭腫ウイルス(MMTV)プロモーター等をあげることができる。宿主細胞が昆虫細胞である場合には、ポリヘドリン遺伝子のプロモーターやp10遺伝子のプロモーター等のバキュロウイルス由来のプロモーターを挙げることができる。
本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、及び、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドが導入される宿主細胞において利用可能なベクター、例えば、宿主細胞中で複製可能な遺伝情報を含み、自立的に増殖でき、宿主細胞からの単離、精製が可能であり、検出可能なマーカーをもつベクターに、通常の遺伝子工学的手法に準じて組み込まれてもよい。ここで、本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、及び、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドが導入される宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で連結されていてもよい。
上記ベクターとしては、具体的には大腸菌を宿主細胞とする場合、例えばプラスミドpUC119(宝酒造社製)や、ファージミドpBluescriptII(Stratagene社製)等を上げることができる。出芽酵母を宿主細胞とする場合は、プラスミドpGBT9、pGAD424、pACT2(Clontech社製)などをあげることができる。哺乳類動物細胞を宿主細胞とする場合はpRc/RSV、pRc/CMV(Invitrogen社製)等のプラスミド、ウシパピローマウイルスプラスミドpBPV(アマシャムファルマシアバイオテク社製)もしくはEBウイルスプラスミドpCEP4(Invitrogen社製)等のウイルス由来の自律複製起点を含むベクター、ワクシニアウイルス等のウイルスなどをあげることができる。昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスやpVL1392,pVL1393(Pharmingen社製)等のトランスファーベクターをあげることができる。
宿主細胞において機能するプロモーターをあらかじめ保有するベクターを使用する場合には、ベクター保有のプロモーターと発現させようとするポリヌクレオチドとが機能可能な形で連結するように、該プロモーターの下流に前記ポリヌクレオチドを挿入する。宿主細胞において機能するプロモーターをあらかじめ保有するベクターとしては、例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合には、pBR322、pUC12、pUC119、pBluescript等、バチルス属細菌を宿主細胞とする場合には、pUB110、pC194等、酵母を宿主細胞とする場合には、Yip5、Yep24等、昆虫細胞を宿主細胞とする場合には、AcNPV等、動物細胞を宿主細胞とする場合には、pUC18、pcDNA3.1、pcDNA6.2、p3XFLAG-CMV10等の公知のプラスミドを挙げることができる。
本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入することにより、本形質転換細胞が得られる。ここで、本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で連結されていてもよく、ベクターに組み込まれていてもよい。
宿主細胞としては、例えば、Escherichia coli K12等の大腸菌、Bacillus subtilis MI114等のバチルス属細菌、Saccharomyces cerevisiae AH22等の酵母、Spodoptera frugiperda 由来の Sf細胞系もしくはTrichoplusia ni由来のHighFive細胞系等の昆虫細胞、COS7細胞等の動物細胞等を挙げることができる。好ましくは、哺乳動物由来の培養細胞、具体的には、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等を挙げることができる。
本形質転換細胞としては、本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとが宿主細胞に導入された形質転換細胞を挙げることもできる。ここで、本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞において機能可能なプロモーターと機能可能な形で連結されていてもよく、ベクターに組み込まれていてもよい。本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとは、同一のベクターに組み込まれていてもよく、それぞれ別のベクターに組み込まれていてもよい。
上記のポリヌクレオチドやベクターを宿主細胞へ導入する方法としては、宿主細胞に応じた通常の導入方法を適用することができる。例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合は、J.Sambrook,E.F.Frisch,T.Maniatis著;モレキュラー クローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールドスプリング ハーバーラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)発行、1989年等に記載される塩化カルシウム法やエレクトロポレーション法等の通常の方法を用いることができる。また、哺乳類動物細胞又は昆虫類動物細胞を宿主細胞とする場合は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、又はリポフェクション法等の一般的な遺伝子導入法に準じて前記細胞に導入することができる。酵母を宿主細胞とする場合は、例えばリチウム法を基にしたYeast transformation kit(Clontech社製)などを用いて導入することができる。
本形質転換細胞を選抜するには、例えば、本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドや本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと同時にマーカー遺伝子を宿主細胞へ導入し、マーカー遺伝子の性質に応じた方法で細胞を培養する。マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子である場合には、例えば、該薬剤を添加した培地を用いて、上記ポリヌクレオチドが導入された宿主細胞を培養する。薬剤耐性付与遺伝子と選抜薬剤の組み合わせとしては、例えば、ネオマイシン耐性付与遺伝子とネオマイシンとの組み合わせ、ハイグロマイシン耐性付与遺伝子とハイグロマイシンとの組み合わせ、ブラストサイジンS耐性付与遺伝子とブラストサイジンSとの組み合わせなどをあげることができる。マーカー遺伝子が宿主細胞の栄養要求性を相補する遺伝子である場合には、例えば、該栄養素を含まない最少培地を用いて、上記ポリヌクレオチドが導入された細胞を培養する。
本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドや本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に導入されてなる本形質転換細胞を取得するには、例えば、上記ポリヌクレオチドとマーカー遺伝子を有するベクターとを制限酵素等で消化することにより直鎖状にした後、これらを前述の方法で宿主細胞へ導入して該細胞を通常数週間培養し、導入されたマーカー遺伝子の発現を指標にして目的とする形質転換細胞を選抜し取得する。また、例えば、上記のような選抜薬剤に対する耐性付与遺伝子と上記ポリヌクレオチドとを含有するベクターを前述の方法で宿主細胞に導入し、該細胞を選抜薬剤が添加された培地で数週間以上継代培養して、コロニー状に生き残った選抜薬剤耐性クローンを純化培養することにより、上記ポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に導入されてなる本形質転換細胞を選抜し取得することもできる。導入された上記ポリヌクレオチドが宿主細胞の染色体に組み込まれたことを確認するには、例えば、当該細胞のゲノムDNAを通常の遺伝子工学的方法に準じて調製し、調製されたゲノムDNAから、導入されたポリヌクレオチドの部分塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーに用いるPCRや、導入されたポリヌクレオチドをプローブに用いるサザンハイブリダイゼーション等の方法を利用して、上記ポリヌクレオチドの存在を検出する。
本嗅覚受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドと本共受容体のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとが宿主細胞に導入された形質転換細胞としては、例えば、被験物質としてLinaloolを当該形質転換細胞に接触させた場合の嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値が、被験物質を接触させていない場合の前記指標値よりも、より高い形質転換細胞を好ましく選抜することもできる。
本形質転換細胞において、本嗅覚受容体や本共受容体を発現させるには、例えば、本形質転換細胞を培養液の中で培養する。
本形質転換細胞の培養条件は、本形質転換細胞の種類に応じた条件を適宜選択する。
例えば、本形質転換細胞が微生物である場合には、微生物の培養に通常使用される液体培地又は平板培地を用いて培養する。培養温度は、微生物の生育可能温度内から選ぶことができ、例えば、約15℃から約40℃を挙げることができる。培地のpHも、微生物の生育可能範囲から選ぶことができ、例えば、約6から約8の培地pHで培養するのが一般的である。培養時間は、培養条件により異なるが、通常、約1日間から約5日間である。温度シフト型やIPTG誘導型等の誘導型の発現プラスミドを用いる場合には、誘導時間は1日間以内が好ましく、通常数時間程度である。
本形質転換細胞が昆虫細胞の場合には、昆虫細胞の種類に応じて適した培養条件とする。例えば、FBS及びYeastlateを含むGrace's medium等の昆虫細胞用培地を用いて培養する。培養温度は、約25℃から約35℃を挙げることができる。培地のpHも、昆虫細胞の生育可能範囲から選ぶことができ、例えば、約6から約8を挙げることができる。培養時間は、その他の培養条件により異なるが、通常、約1日間から約5日間である。Baculovirus等のウイルスを含む形質転換細胞の場合は、培養時間は細胞質効果が現れて細胞が死滅する前まで、例えば約3日間から約7日間とするのが好ましい。
本形質転換細胞が哺乳動物細胞の場合には、哺乳動物細胞の種類に応じて適した培養条件とする。例えば、FBSを添加したDMEM培地(ニッスイ社製等)を用いて5%CO存在下、数日毎に新しい培地に交換しながら培養する。哺乳動物細胞がコンフルエントになるまで増殖したら、例えば、トリプシン溶液を加えて個々の細胞に分散させ、得られた細胞の懸濁液を数倍に希釈して新しいシャーレに播種し継代を続ける。培養温度は、約36℃から約38℃を挙げることができる。培地のpHも、哺乳動物細胞の生育可能範囲から選ぶことができ、例えば、約6から約8を挙げることができる。培養時間は、培養条件により異なるが、通常、約2日間から約5日間である。
本形質転換細胞において、本嗅覚受容体コードするポリヌクレオチドや本共受容体コードするポリヌクレオチドが発現していることを確認する方法として、例えば、通常の遺伝子工学的方法を用いて前記ポリヌクレオチドの転写産物を検出する方法を挙げることができる。具体的には、RT-PCRまたはリアルタイムPCRにより、本嗅覚受容体または本共受容体をコードするmRNAを検出する方法を挙げることができる。また、通常のタンパク質工学的方法を用いて前記ポリヌクレオチドの翻訳産物を検出する方法を挙げることもできる。具体的には、本形質転換細胞から調製されたタンパク質抽出液を、本嗅覚受容体または本共受容体を認識する抗体を用いてウエスタンブロット分析する方法を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法において「被験物質」としては、特に限定は無く、例えば、抗体を含むタンパク質、ペプチド、ヌクレオチド、アミン、糖質もしくは脂質等の非ペプチド性化合物、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等を挙げることができる。被験物質の形態としては、特に限定は無く、固体、液体、基剤との混合物、縣濁液又は溶液等を挙げることができる。縣濁液若しくは溶液とする場合、通常、水、pH緩衝液、メチルセルロース溶液、生理食塩水、有機溶媒水溶液等が用いられる。有機溶媒としては、エタノールやジメチルスルホキシドを挙げることができる。
被験物質の接触量、接触回数及び接触時間は、例えば、本形質転換細胞に重篤な影響を及ぼさない範囲内から選ぶことができる。
本嗅覚受容体は、昆虫に対して忌避効果を示すことが知られている3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-ol[Journal of Vector Ecology, 34 (1): 2-8, 2009]によって活性化される。よって、例えば、本嗅覚受容体を活性化する能力を有する被験物質は忌避剤の候補物質として期待される。
本発明スクリーニング方法の工程(1)における「接触」は、当業者に汎用されている方法で実施することができる。被験物質を本形質転換細胞に接触させる場合、その接触方法には特に限定はなく、例えば、本形質転換細胞を含む培養液・寒天培地等の中に、約0.001mMから約1mM程度の濃度となるように被験物質を添加する。被験物質を本形質転換細胞の細胞膜画分に接触させる場合、その接触方法には特に限定はなく、例えば、本形質転換細胞の細胞膜画分を含む溶液等の中に、約0.001mMから約10mM程度の濃度となるように被験物質を添加する。
本発明スクリーニング方法工程(1)及び(2)における「嗅覚受容体の活性又はそれと相関する指標値」としては、例えば、後述する、嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値、細胞膜画分へのGTPの結合量又は細胞膜画分への標識リガンドの結合量等を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法の工程(2)における対照としては、例えば、被験物質を接触させていない本形質転換細胞において工程(1)と同様に測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を挙げることができる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞において工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値とを比較する。ここで「被験物質を接触させていない本形質転換細胞」としては、例えば、溶媒のみを接触させた本形質転換細胞を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法の工程(2)における対照としては、例えば、本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞に被験物質を接触させて工程(1)と同様に測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を挙げることもできる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞において工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値とを比較する。ここで「本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞」としては、例えば、本共受容体のみを発現させた形質転換細胞を挙げることができる。
かかる対照とする嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値は、被験物質を接触させた本形質転換細胞における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値と工程(1)において併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
本発明スクリーニング方法の工程(2)において、例えば、被験物質と接触させた本形質転換細胞における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値の測定値が、上述の陰性対照とする指標値の測定値よりも高ければ、当該被験物質が、前記本形質転換細胞が発現する本嗅覚受容体を活性化させる効果を有することを意味し、当該被験物質を忌避剤候補物質として選択することができる。
本発明スクリーニング方法としては、例えば、
工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、上記形質転換細胞における上記嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値である本発明スクリーニング方法;すなわち、
忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質と、本形質転換細胞とを接触させ、当該形質転換細胞における嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を測定する第一工程と、
(2)工程(1)で測定された細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、前記形質転換細胞における細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第二工程と
を含む方法(以下、本発明スクリーニング方法1と記すこともある。)を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法1の工程(1)及び(2)における「細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値」としては、当業者に汎用されている指標値を用いることができる。例えば、細胞内カルシウム濃度、膜電位、細胞内cAMP量等を指標値として用いることができる。「細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を測定する」方法としては、当業者に汎用されている検出方法等を用いることができる。例えば、通常の生化学的手法、分子生物学的手法、または電気生理学的手法等を用いて細胞内カルシウム濃度、膜電位、または細胞内cAMP量を分析する。多数の被験物質について細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を機械的に効率よく測定する方法としては、後述のような細胞内カルシウム濃度の測定方法を好ましく挙げることができる。
「細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値」の測定として、例えば、通常の細胞内カルシウム濃度の測定方法を利用して、被験物質により引き起こされる細胞内カルシウムイオン濃度の一過性の上昇を検出する。
細胞内カルシウム濃度の測定方法として、カルシウム感受性蛍光指示薬を用いる方法が挙げられる。カルシウム感受性蛍光指示薬としては、例えばfura−2、fluo−3、fluo−4などが使用できる。これらの指示薬は細胞内に取り込まれた後、遊離のカルシウムイオンとの相互作用により蛍光強度が増大する。したがって、指示薬を含有する細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇は直接、蛍光強度の増大として現れる。具体的には本形質転換細胞を、カルシウム感受性蛍光指示薬を含む緩衝溶液中で1時間程度培養してカルシウム感受性蛍光指示薬を細胞内に取り込ませる。次いで本形質転換細胞を被検物質と接触させ、カルシウム感受性蛍光指示薬に由来する蛍光の強度を測定する。
細胞内カルシウム濃度を測定する別の方法としてはカルシウム結合性タンパク質を利用する方法が挙げられる。カルシウム結合性タンパク質としてはAequorinなどが使用できる。Aequorinはカルシウムイオンと結合すると活性化されてセレンテラジンなどの基質を酸化して発光する。したがって、Aequorinを発現する細胞の細胞内カルシウムイオン濃度の上昇は直接、発光量の増大として現れる。
これらの細胞内カルシウム濃度測定法を、本形質転換細胞に作用する化合物の評価に利用するために、例えば、本形質転換細胞にさらにAequorinを発現させてもよい。Aequorinを本形質転換細胞で発現させるには当分野で公知の任意の方法を用いることができる。Aequorin発現プラスミド、本嗅覚受容体発現プラスミド、及び本共受容体発現プラスミドを同時に細胞に導入することも可能である。Aequorin、本嗅覚受容体及び本共受容体の発現には、プラスミドのほかにこれらのタンパク質をコードする塩基配列を含有するウイルスベクターやこれらのタンパク質をコードするmRNAを利用することもできる。具体的にはAequorinを発現させた本形質転換細胞をセレンテラジンなどのAequorinの基質を含む緩衝溶液中で1時間から12時間程度培養してセレンテラジンなどのAequorinの基質を細胞内に取り込ませる。次いでAequorinを発現している本形質転換細胞を被検物質と接触させ、Aequorinに由来する発光の強度を測定する。
上記の蛍光強度または発光量の測定は、例えば、CCDカメラ、ルミノメーター、または、任意の他の好適な光学システムを使用して行うことができる。利用可能な市販の光学システムとしては、例えば、FlexStation 3やFLIPR(モレキュラーデバイス社製)、FDSS7000(浜松ホトニクス社製)、FDSS/μCELL(浜松ホトニクス社製)などが挙げられる。
例えば、上記のようにして細胞内カルシウム濃度に相関する蛍光強度または発光量を測定し、同様に、陰性対照における蛍光強度または発光量も測定する。陰性対照における蛍光強度または発光量を100%とし、被験物質を接触させた本形質転換細胞で検出された蛍光強度または発光量のパーセンテージを算出する。被験物質を接触させた本形質転換細胞において検出された蛍光強度または発光量の前記パーセンテージが、例えば120%以上、好ましくは150%以上、更に好ましくは200%以上になる被験物質を工程(2)において忌避剤候補物質として選択する。
「細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値」の測定として、例えば、通常の膜電位変化の検出方法を利用して、被験物質により引き起こされる膜電位の一過性の変化を検出する。
膜電位の変化を検出する方法としては、膜電位感受性色素を使用する方法が挙げられる。膜電位感受性色素としては、例えばFLIPR Membrane Potential Assay Kit(モレキュラーデバイス社製)やDiSBAC4(3)(インビトロジェン社製)などが使用できる。これらの膜電位感受性色素は細胞に取り込まれた後、細胞の膜電位変化に応じて蛍光強度を変化させることから、膜電位感受性色素を取り込んだ細胞の膜電位変化は蛍光強度の変化として現れる。具体的には本形質転換細胞を膜電位感受性色素を含む緩衝溶液中で1時間程度培養して膜電位感受性色素を細胞内に取り込ませる。次いで本形質転換細胞を被検物質と接触させ、膜電位感受性色素に由来する蛍光の強度を測定する。
上記の蛍光強度の測定は、例えば、CCDカメラ、ルミノメーター、または、任意の他の好適な光学システムを使用して行うことができる。利用可能な市販の光学システムとしては、例えば、FlexStation 3やFLIPR(モレキュラーデバイス社製)、FDSS7000(浜松ホトニクス社製)、FDSS/μCELL(浜松ホトニクス社製)などが挙げられる。
例えば、上記のようにして細胞内膜電位に相関する蛍光強度を測定し、同様に、陰性対照における蛍光強度も測定する。陰性対照における蛍光強度変化よりも、被験物質を接触させた本形質転換細胞において検出された蛍光強度変化が大きくなる被験物質を工程(2)においてにおいて忌避剤候補物質として選択する。
「細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値」の測定として、例えば、細胞内cAMP濃度の測定方法を利用して、被験物質により引き起こされる細胞内cAMP濃度の一過性の上昇を検出する。
細胞内cAMP濃度の測定方法として、抗cAMP抗体を利用してcAMPを検出する方法を挙げることができる。当該方法には、例えばHitHunter(DiscoveRx社製)やcAMP dynamic 2 kit(Cisbio Bioassays社製)などの市販のcAMP定量キットを使用することもできる。
細胞内cAMP濃度を測定する別の方法としては、GloSensor(Promega社登録商標)などのレポータータンパク質を利用する方法が挙げられる。GloSensorは、遺伝子改変により、ホタルルシフェラーゼの内部にcAMP結合タンパク質の一部が挿入されたバイオセンサータンパク質である。GloSensorにcAMPが結合すると、GloSensorの構造が変化して発光量が増加する。したがって、GloSensorを発現する細胞の細胞内cAMP濃度の上昇は、発光量の増大として現れる。この細胞内cAMP濃度測定法を、本形質転換細胞に作用する化合物の評価に利用するために、例えば、GloSensorを発現する形質転換細胞をあらかじめ作製し、この形質転換細胞に、本嗅覚受容体発現プラスミド及び本共受容体発現プラスミドを導入して、本形質転換細胞を作製してもよい。又は、本嗅覚受容体発現プラスミド及び本共受容体発現プラスミドが導入された本形質転換細胞に、さらにGloSensorを発現させてもよい。GloSensorを細胞で発現させるには、当分野で公知の任意の方法を用いることができる。GloSensor発現プラスミド、本嗅覚受容体発現プラスミド、及び本共受容体発現プラスミドを同時に細胞に導入することも可能である。GloSensor、本嗅覚受容体及び本共受容体の発現には、プラスミドのほかにこれらのタンパク質をコードする塩基配列を含有するウイルスベクターやこれらのタンパク質をコードするmRNAを利用することもできる。具体的にはGloSensorを発現させた本形質転換細胞をGloSensor cAMP reagent(プロメガ社製)を含む緩衝溶液中で2時間程度培養して、GloSensor cAMP reagent(プロメガ社製)を細胞内に取り込ませる。次いでGloSensorを発現している本形質転換細胞を被検物質と接触させ、GloSensorに由来する発光の強度を測定する。
上記のようにして細胞内cAMP濃度を測定する場合の本形質転換細胞には、Gタンパク質をさらに発現させてもよい。本形質転換細胞において発現させるGタンパク質としては、例えば、アデニル酸シクラーゼを活性化するタイプのGタンパク質のαサブユニットを挙げることができ、より具体的には、本形質転換細胞の宿主細胞と同種または近縁種の生物由来のGαsタンパク質を挙げることができる。かかるGタンパク質を細胞で発現させるには、当分野で公知の任意の方法を用いることができる。
上記の発光量の測定は、例えば、CCDカメラ、ルミノメーター、または、任意の他の好適な光学システムを使用して行うことができる。利用可能な市販の光学システムとしては、例えば、EnVision(パーキンエルマー社製)、FlexStation 3やFLIPR(モレキュラーデバイス社製)、FDSS7000(浜松ホトニクス社製)、FDSS/μCELL(浜松ホトニクス社製)などが挙げられる。
例えば、上記のようにして細胞内cAMP濃度をcAMP定量キットを用いて定量し、同様に、陰性対照におけるcAMP量も定量する。陰性対照におけるcAMP量を100%とし、被験物質を接触させた本形質転換細胞でのcAMP量のパーセンテージを算出する。被験物質を接触させた本形質転換細胞において検出されたcAMP量の前記パーセンテージが、例えば120%以上、好ましくは150%以上、更に好ましくは200%以上になる被験物質を、工程(2)において忌避剤候補物質として選択する。
また例えば、上記のようにして細胞内cAMP濃度に相関する発光量を測定し、同様に、陰性対照における発光量も測定する。陰性対照における発光量を100%とし、被験物質を接触させた本形質転換細胞で検出された発光量のパーセンテージを算出する。被験物質を接触させた本形質転換細胞において検出された発光量の前記パーセンテージが、例えば120%以上、好ましくは150%以上、更に好ましくは200%以上になる被験物質を、工程(2)において忌避剤候補物質として選択する。
本発明スクリーニング方法1の工程(2)における対照としては、例えば、被験物質を接触させていない本形質転換細胞において工程(1)と同様に測定された細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を挙げることができる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞において工程(1)で測定された細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値とを比較する。ここで「被験物質を接触させていない本形質転換細胞」とは、例えば、溶媒のみを接触させた本形質転換細胞を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法1の工程(2)における対照としては、例えば、本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞に被験物質を接触させて工程(1)と同様に測定された細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値を挙げることもできる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞において工程(1)で測定された細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値とを比較する。ここで「本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞」としては、例えば、本共受容体のみを発現させた形質転換細胞を挙げることができる。
かかる対照とする細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値は、被験物質を接触させた本形質転換細胞における細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値と工程(1)において併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
本発明スクリーニング方法1の工程(2)において、例えば、被験物質と接触させた本形質転換細胞における細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値の測定値が、上述の陰性対照とする指標値の測定値よりも高ければ、当該被験物質が、前記本形質転換細胞が発現する本嗅覚受容体を活性化させる効果を有することを意味し、当該被験物質を忌避剤候補物質として選択することができる。
一般的に、GPCRを発現する細胞がGPCRを活性化する被験物質により刺激されると、G-タンパク質αサブユニットにGTPが結合する。この現象はGPCR及びG-タンパク質を発現する細胞の膜画分でも観察される。従って、細胞膜画分へのGTP結合量を増大させる被験物質をGPCRの活性化物質として選択することができる。即ち、本嗅覚受容体のGPCRとしての機能を指標に本嗅覚受容体を活性化する物質を選択することができる。
本発明スクリーニング方法としては、例えば、
工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分へのGTPの結合量である本発明スクリーニング方法;すなわち、
忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
(1)被験物質と、本形質転換細胞の細胞膜画分とを接触させ、当該細胞膜画分へのGTPの結合量を測定する第一工程と、
(2)工程(1)で測定されたGTPの結合量を、対照と比較して、前記細胞膜画分へのGTPの結合量を変動させる被験物質を選択する第二工程と
を含む方法(以下、本発明スクリーニング方法2と記すこともある。)を挙げることができるである。
本発明スクリーニング方法2の工程(1)及び(2)における「細胞膜画分へのGTPの結合量」を評価する方法としては、当業者に汎用されている公知の方法を用いることができる。例えば、通常G-タンパク質αサブユニットに結合したGTPはGDPに分解される。従って、G-タンパク質への結合能はあるがGTPアーゼにより分解されないようなGTPアナログを用いて、このGTPアナログのG-タンパク質への結合量を測定することができる。このようなGTPアナログとしては、例えばGTPγS、GppNHp等が挙げられる。また、GTPアナログの細胞膜画分への結合量を測定するにあたっては、例えばGTPアナログを放射標識しておき、細胞膜画分に標識GTPアナログを添加して一定時間インキュベートした後、細胞膜画分の放射活性を測定すればよい。
具体的には例えば、本形質転換細胞の細胞膜画分と放射標識したGTPアナログを含む溶液へ被験物質を添加し一定時間インキュベートした後、細胞膜画分の放射活性を液体シンチレーションカウンター等で測定する。細胞膜画分を調製する方法は、それ自体公知の通常用いられる方法に従い行うことができる。対照におけるGTPの結合量を100%とし、被検物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分で測定されたGTPの結合量をパーセンテージで算出する。工程(2)においては、被験物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分において測定されたGTPの結合量が、例えば110%以上、好ましくは125%以上、更に好ましくは150%以上になる被験物質を、忌避剤候補物質として選択する。
本発明スクリーニング方法2の工程(2)における対照としては、例えば、被験物質を接触させていない本形質転換細胞の細胞膜画分において工程(1)と同様に測定されたGTPの結合量を挙げることができる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分において工程(1)で測定されたGTPの結合量とを比較する。ここで「被験物質を接触させていない本形質転換細胞の細胞膜画分」としては、例えば、溶媒のみを接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法2の工程(2)における対照としては、例えば、本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞に被験物質を接触させて工程(1)と同様に測定された細胞膜画分におけるGTPの結合量を挙げることもできる。即ち、当該陰性対照と、被験物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分において工程(1)で測定されたGTPの結合量を比較する。ここで「本嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞」としては、例えば、本共受容体のみを発現させた形質転換細胞を挙げることができる。
かかる対照とするGTPの結合量は、被験物質を接触させた本形質転換細胞におけるGTPの結合量と工程(1)において併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
本発明スクリーニング方法2の工程(2)において、例えば、被験物質と接触させた本形質転換細胞におけるGTPの結合量の測定値が、上述の陰性対照とする指標値の測定値よりも高ければ、当該被験物質が、前記本形質転換細胞が発現する本嗅覚受容体を活性化させる効果を有することを意味し、当該被験物質を忌避剤候補物質として選択することができる。
本形質転換細胞から調製された細胞膜画分に、標識されたリガンドが結合している状態において、これに被験物質を共存させると、被験物質と標識リガンドとの競合から、両者の本嗅覚受容体への親和性に応じて、標識リガンドが細胞膜画分から遊離し、細胞膜画分に結合した標識リガンドの量が減少する。従って、細胞膜へ結合している標識リガンドの量を測定することにより、被験物質の本嗅覚受容体への結合能を算定することができる。このようにして求められた本嗅覚受容体への結合能を指標として、本嗅覚受容体を活性化する物質の候補を選択することができる。
本発明スクリーニング方法としては、例えば、
工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と標識リガンドおよび被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分への標識リガンドの結合量である本発明スクリーニング方法;すなわち、
忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
(1)標識リガンドおよび被験物質と、本形質転換細胞の細胞膜画分とを接触させ、当該細胞膜画分への標識リガンドの結合量を測定する第二工程と、
(2)工程(1)で測定された標識リガンドの結合量を、対照と比較して、前記細胞膜画分への標識リガンドの結合量を変動させる被験物質を選択する第二工程と
を含む方法(以下、本発明スクリーニング方法3と記すこともある。)を挙げることができる。
本発明スクリーニング方法3の工程(1)及び(2)における「細胞膜画分への標識リガンドの結合量」を評価する方法としては、当業者に汎用されている公知の方法を用いることができる。例えば、標識リガンドの細胞膜画分への結合量を測定するにあたっては、細胞膜画分の放射活性を液体シンチレーションカウンター等で測定する。標識リガンドとしては、例えば、トリチウム標識されたリガンド等を用いることができる。
具体的には例えば、本形質転換細胞の細胞膜画分と放射標識リガンドを含む溶液へ溶媒のみを添加して一定時間インキュベートした後、細胞膜画分の放射活性を液体シンチレーションカウンター等で測定し、放射標識リガンドの細胞膜画分への総結合量を測定する。同様に、本形質転換細胞の細胞膜画分と放射標識リガンドを含む溶液へ大過剰の非放射標識リガンドを添加して一定時間インキュベートした後、細胞膜画分の放射活性を測定し、放射標識リガンドの細胞膜画分への非特異的結合量を測定する。ここで大過剰とは、標識リガンドに対して例えば100倍以上の量のことをいう。本形質転換細胞の細胞膜画分への放射標識リガンドの特異的結合量は、上記の総結合量から非特異的結合量を引いた値として算定する。
同様に、本形質転換細胞の細胞膜画分と放射標識リガンドを含む溶液へ被験物質を添加して一定時間インキュベートした後、細胞膜画分の放射活性を液体シンチレーションカウンター等で測定する。被験物質が本形質転換細胞の細胞膜画分への結合能を有する場合には、得られる放射標識リガンドの細胞膜画分への結合量は、上記で測定した放射標識リガンドの細胞膜画分への総結合量より小さくなる。このようにして本形質転換細胞の細胞膜画分に対する被験物質の結合能を調べることができる。
放射標識リガンドの細胞膜画分への総結合量を100%とし、放射標識リガンドの細胞膜画分への非特異的結合量を0%とし、被験物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分で測定された放射標識リガンドの結合量をパーセンテージで算出する。工程(2)においては、被験物質を接触させた本形質転換細胞の細胞膜画分において測定された放射標識リガンドの結合量が、例えば90%以下、好ましくは75%以下、更に好ましくは50%以下になる被験物質を、本嗅覚受容体への結合能を有する物質とし、本嗅覚受容体を活性化する物質の候補として選択する。
上述の本発明のスクリーニング方法において、被験物質の代わりに「対照物質」となり得るポジティブコントロール又はネガティブコントロールを用いてスクリーニングを実施することもできる。
ここで、「ポジティブコントロール」としては、本嗅覚受容体に作用しその下流の細胞内シグナル伝達量を増大させる効果を有する任意の物質が挙げられ、具体的にはLinaloolが挙げられる。「ネガティブコントロール」としては、被験物質溶液に含まれる溶媒、または、バックグランドとなる試験系溶液等が挙げられる。
「対照物質」をネガティブコントロールとする場合、被験物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」が、対照物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」よりも大きければ、当該被験物質は「本嗅覚受容体を活性化する効果」を有すると評価する。一方、被験物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」が、対照物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」と同程度若しくは小さければ、当該被験物質は「本嗅覚受容体を活性化する効果」を有さないと評価することができる。
対照物質をポジティブコントロールとする場合、被験物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」と、対照物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」とを比較することにより、被験物質が有する「本嗅覚受容体を活性化する効果」の大小を評価する。
このようにして、本嗅覚受容体を活性化する効果を有する被験物質を選択することができる。本発明のスクリーニング方法によれば、被験物質を被験昆虫に施用し被験昆虫の行動変化を観察する方法に比べて、多数の被験物質の短時間での試験が可能となる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1(発現プラスミドの作製)
(1)本共受容体の発現プラスミド
(1-1)ハマダラカ由来本共受容体の発現プラスミド
ガンビエハマダラカ(Anopheles gambiae)Kisum系統またはG3系統の頭部を液体窒素で凍結させた後、TRIzol(インビトロジェン社製)を加えて液体窒素存在下で乳鉢と乳棒を用いて破砕した。得られた破砕物から、TRIzol試薬に添付の説明書に従いRNAを抽出した。抽出されたRNAを、RNA精製キット(RNeasy Mini Kit; QIAGEN社製)を用い、当該キットに添付された説明書に従って精製した。得られたTotal RNAを鋳型にし、Super Script III逆転写酵素(インビトロジェン社製)を添加し、55℃で50分間、次いで75℃で15分間保温することにより逆転写反応を行い、cDNAを得た。得られたcDNA2μlを鋳型に用い、10μMのフォワードプライマーAgOR7-5’(5’−caccatgcaagtccagccgaccaagtacgtcggcct;配列番号7)、10μMのリバースプライマーAgOR7-3’(5’−ttacttcagctgcaccagcaccatgaagt;配列番号8)及びKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約1.4kbのDNAを回収した。回収されたDNAをpENTR/D−TOPOベクター(インビトロジェン社製)へクローニングし、pENTR-AgOR7と名付けたプラスミドを得た。4μlのpENTR-AgOR7、1μlのpcDNA6.2V5-DEST及び2μlのLRクロナーゼII(インビトロジェン社製)を混合し室温で1時間保持した。得られた混合物を大腸菌へ導入しクローニングすることにより、pcDNA6.2-AgOR7と名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA6.2-AgOR7の塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号2で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号2で示される塩基配列は配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする。
(1-2)ショウジョウバエ由来本共受容体の発現プラスミド
ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)成虫RNA(TAKARA社製)を鋳型に用いて、Super Script III逆転写酵素(インビトロジェン社製)を添加し、55℃で50分間、次いで75℃で15分間保温することにより逆転写反応を行い、cDNAを得た。得られたcDNA2μlを鋳型に用い、10μMのフォワードプライマーDmOR83b-5’(5’−caccatgacaacctcgatgcagccgagcaagt;配列番号9)、10μMのリバースプライマーDmOR83b-3’(5’−ttacttgagctgcaccagcaccataaagt;配列番号10)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約1.5kbのDNAを回収した。回収されたDNAをpENTR/D−TOPOベクター(インビトロジェン社製)へクローニングし、pENTR-DmOR83bと名付けたプラスミドを得た。4μlのpENTR-DmOR83b、1μlのpcDNA6.2V5-DEST及び2μlのLRクロナーゼII(インビトロジェン社製)を混合し室温で1時間保持した。得られた混合物を大腸菌へ導入しクローニングすることにより、pcDNA6.2-DmOR83bと名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA6.2-DmOR83bの塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号4で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号4で示される塩基配列は配列番号3で示されるアミノ酸配列をコードする。
(2)本嗅覚受容体発現プラスミド
(2-1)
実施例1で調製したハマダラカKisum系統頭部由来のcDNA2μlを鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR29-5’(5’−caccatgaagctattccagattgacgatcc;配列番号31)、10μMのリバースプライマーAgOR29-3’(5’−ttaaaacacatttttcagtaccaaataaaa;配列番号32)及びKOD Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約1.2kbのDNAを回収してこれをインサートDNAとした。回収されたDNAをpENTR/D−TOPOベクター(インビトロジェン社製)へクローニングし、pENTR-AgOR29と名付けたプラスミドを得た。4μlのpENTR-AgOR29、1μlのpcDNA6.2V5-DEST及び2μlのLRクロナーゼII(インビトロジェン社製)を混合し室温で1時間保持した。得られた混合物を大腸菌へ導入しクローニングすることにより、pcDNA6.2-AgOR29と名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA6.2-AgOR29の塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号16で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号16で示される塩基配列は配列番号15で示されるアミノ酸配列をコードする。
(2-2)
実施例1(1-1)で調製されたハマダラカKisum系統頭部由来のcDNA2μlを鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR48-1-5’(5’−caccatggtaaaccttttcgcccggacgcc;配列番号33)、10μMのリバースプライマーAgOR48-1-3’(5’−ttagaacatttccttcatgatcatgtagta;配列番号34)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物を鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR48-2-5’(5’−tggaattctgcagatcaccatggtaaaccttttcgcccggacgcc;配列番号35)、10μMのリバースプライマーAgOR48-2-3’(5’−gccactgtgctggatttagaacatttccttcatgatcatgtagta;配列番号36)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。2回目のPCRで得られたPCR産物を、EcoRVで消化されたpcDNA3.1(インビトロジェン社製)に、In-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA社製)を使用して連結した後、大腸菌へ導入してクローニングすることにより、pcDNA3.1-AgOR48と名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA3.1-AgOR48の塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号20で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号20で示される塩基配列は配列番号19で示されるアミノ酸配列をコードする。
(2-3)
実施例1(1-1)で調製されたハマダラカKisum系統頭部由来のcDNA2μlを鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR76-1-5’(5’−caccatgaccgtagtgcaccgcatcgtta;配列番号37)、10μMのリバースプライマーAgOR76-1-3’(5’−ctacgttgccatattggccataaacatcat;配列番号38)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物を鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR76-2-5’(5’−tggaattctgcagatcaccatgaccgtagtgcaccgcatcgtta;配列番号39)、10μMのリバースプライマーAgOR76-2-3’(5’−gccactgtgctggatctacgttgccatattggccataaacatcat;配列番号40)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。2回目のPCRで得られたPCR産物を、EcoRVで消化されたpcDNA3.1(インビトロジェン社製)に、In-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA社製)を使用して連結した後、大腸菌へ導入してクローニングすることにより、pcDNA3.1-AgOR75/76fと名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA3.1-AgOR75/76fの塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号24で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号24で示される塩基配列は配列番号23で示されるアミノ酸配列をコードする。
(2-4)
実施例1(1-1)で調製されたハマダラカKisum系統頭部由来のcDNA2μlを鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR39-1-5’(5’−atggtgtcgtttggtgctgcagcttc;配列番号41)、10μMのリバースプライマーAgOR39-1-3’(5’−ttacaaaaaggacttcatcagtgtgatgt;配列番号42)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物を鋳型に用いて、10μMのフォワードプライマーAgOR39-2-5’(5’−tggaattctgcagatatggtgtcgtttggtgctgcagcttc;配列番号43)、10μMのリバースプライマーAgOR39-2-3’(5’−gccactgtgctggatttacaaaaaggacttcatcagtgtgatgt;配列番号44)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。2回目のPCRで得られたPCR産物を、EcoRVで消化されたpcDNA3.1(インビトロジェン社製)に、In-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA社製)を使用して連結した後、大腸菌へ導入してクローニングすることにより、pcDNA3.1-AgOR39と名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA3.1-AgOR39の塩基配列をDNAシーケンサーを用いて解析したところ、配列番号30で示される塩基配列を含有することが判った。配列番号30で示される塩基配列は配列番号29で示されるアミノ酸配列をコードする。
(3)Aequorin発現プラスミド
Aequorinをコードする配列番号6で示される塩基配列がpMD19ベクターにクローニングされたプラスミドであるpMD19-AEQの100ngを鋳型に用い、10μMのフォワードプライマーAEQ-5’(5’−caccatgacaagcaaacaatactc;配列番号11)、10μMのリバースプライマーAEQ-3’(5’−ttaggggacagctccaccgtag;配列番号12)及びKOD Plus neo DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約600bpのDNAを回収した。回収されたDNAをpENTR/D−TOPOベクター(インビトロジェン社製)へクローニングし、pENTR-AEQと名付けたプラスミドを得た。配列番号6で示される塩基配列は配列番号5で示されるアミノ酸配列をコードする。4μlのpENTR-AEQ、1μlのpcDNA6.2V5-DEST及び2μlのLRクロナーゼII(インビトロジェン社製)を混合し室温で1時間保持した。得られた混合物を大腸菌へ導入しクローニングすることにより、pcDNA6.2-AEQと名付けたプラスミドを得た。プラスミドpcDNA6.2-AEQの100ngを鋳型に用い、10μMのフォワードプライマーIn-Fusion AEQ-5’(5’−gtggcggccgctcgaggccaccatgacaagcaaacaatactc;配列番号13)、10μMのリバースプライマーIn-Fusion AEQ-3’(5’−gccctctagactcgagttaggggacagctccaccgtag;配列番号14)及びKOD neo Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約600bpのDNAを回収してこれをインサートDNA1とした。pcDNA3.1(インビトロジェン社製)をXhoIで消化したものをベクターとして用い、これに前記インサートDNA1をIn-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA社製)を用いて連結した後、大腸菌へ導入しクローニングすることによりpcDNA3.1-AEQと名付けたプラスミドを得た。pcDNA3.1-AEQの100ngを鋳型に用い、10μMのフォワードプライマーIn-Fusion AEQ-5’(5’−gtggcggccgctcgaggccaccatgacaagcaaacaatactc;配列番号13)、10μMのリバースプライマーIn-Fusion AEQ-3’(5’−gccctctagactcgagttaggggacagctccaccgtag;配列番号14)及びKOD neo Plus DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動した後、当該ゲル上で検出された約600bpのDNAを回収してこれをインサートDNA2とした。pcDNA3.1(hygro)(インビトロジェン社製)をXhoIで消化したものをベクターとして用い、これに前記インサートDNA2をIn-Fusion HD Cloning Kit(TAKARA社製)を用いて連結した後、大腸菌へ導入しクローニングすることによりpcDNA3.1(hygro)-AEQと名付けたプラスミドを得た。
実施例2(発現プラスミドの細胞への導入)
(1)
293FT細胞(Invitrogen社から購入)を10cmシャーレに3×106cells/シャーレで播種し、10%FBSを含むDMEM培地(ナカライテスク社製)中で、37℃、5%CO条件下にて約24時間培養した。実施例1(1-1)で得られたハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7の3μgと、実施例1(2)で得られた本嗅覚受容体発現プラスミドのいずれかの3μgとを、12.5μlのPlus試薬及び31.25μlのリポフェクトアミンLTX(インビトロジェン社製)と混合し、30分間保持した後、前記細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション4時間後に96Wellプレートに8×10cells/Wellで播種し、10%FBSを含むDMEM培地(ナカライテスク社製)中で、37℃、5%CO条件下にて約24時間培養し、ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞を得た。
(2)
293FT細胞(Invitrogen社から購入)を10cmシャーレに3×106cells/シャーレで播種し、10%FBSを含むDMEM培地(ナカライテスク社製)中で、37℃、5%CO条件下にて約24時間培養した。実施例1(1-1)で得られたハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7の3μgと、実施例1(2)に記載の本嗅覚受容体発現プラスミドのいずれかの3μgと、実施例1(3)で得られたAequorin発現プラスミドpcDNA3.1(hygro)-AEQの8μgとを、12.5μlのPlus試薬及び31.25μlのリポフェクトアミンLTX(インビトロジェン社製)と混合し、30分間保持した後、前記細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション4時間後に96Wellプレートに8×10cells/Wellで播種し、10%FBSを含むDMEM培地(ナカライテスク社製)中で、37℃、5%CO条件下にて約24時間培養し、ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞を得た。
(3)
本嗅覚受容体発現プラスミドに替えてpcDNA3.1を用いた以外は、実施例2(2)と同様にして、pcDNA3.1とハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドとAequorin発現プラスミドが導入され本嗅覚受容体発現プラスミドが導入されていない対照細胞を得た。
(4)
ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドに替えて実施例1(1-2)で得られたショウジョウバエ由来本共受容体発現プラスミドpcDNA6.2-DmOR83bを用い、本嗅覚受容体発現プラスミドとしてpcDNA6.2-AgOR29を用い、実施例2(2)と同様にして、ショウジョウバエ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞を得る。
実施例3(本発明スクリーニング方法)
実施例2(1)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29とが導入された本形質転換細胞」にFLIPR Membrane Potential Assay Kit (Molecular devices社製)のマニュアルに従い、培養液と等量の膜電位感受性色素を含むLoading Bufferを添加し、さらに30分間、37℃、5%CO条件下で培養した。次いで被験物質として100μMのLinaloolをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の蛍光強度を測定した。結果を図1に示す。被験物質を添加した細胞における蛍光強度は、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した細胞での蛍光強度を0とした場合の相対値として示した。その結果、ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとが導入された上記本形質転換細胞において、Linaloolと接触させた場合に、対照よりも強い蛍光強度が観察された。発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29にコードされる、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する本嗅覚受容体がLinaloolによって活性化され、細胞内シグナル伝達量を増加させることが示された。
実施例4(本発明スクリーニング方法)
実施例2(2)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」の培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)及び0.3%のBSAを含むHanks-HEPES (20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置した。次いで被験物質として1mMのLinaloolをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の発光量を測定した。被験物質を添加した細胞の発光量を、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した細胞での発光量を100とした場合の相対値として算出した。その結果、「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」を1mMのLinaloolと接触させた場合の発光量は872であった。発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29にコードされる、配列番号15で示されるアミノ酸配列を有する本嗅覚受容体が、Linaloolによって活性化され、細胞内シグナル伝達量を増加させることが示された。
実施例2(3)で得られた「対照細胞」の培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)及び0.3%のBSAを含むHanks-HEPES (20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置した。次いで被験物質として1mMのLinaloolをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の発光量を測定した。被験物質を添加した細胞の発光量は、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した細胞での発光量を100とした場合の相対値として算出した。その結果、「対照細胞」をLinaloolと接触させた場合の発光量は90であった。
実施例5(本発明スクリーニング方法)
実施例2(4)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-DmOR83bと発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」の培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)及び0.3%のBSAを含むHanks-HEPES(20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置する。次いで、被験物質として1mMのLinaloolをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の発光量を測定する。被験物質を添加した細胞の発光量は、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した場合の発光量を100とした場合の相対値として算出する。
実施例6(本発明スクリーニング方法)
実施例2(2)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR48とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」、「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR75/76fとAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」及び「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR39とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」の培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)及び0.3%のBSAを含むHanks-HEPES (20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置した。次いで被験物質として1mMのLinaloolをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中にそれぞれ添加するとともに、細胞の発光量を測定した。被験物質を添加した細胞の発光量は対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した場合の発光量を100とした場合の相対値として算出した。その結果、ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとが導入された上記本形質転換細胞においてそれぞれLinaloolと接触させた場合に、対照よりも多い発光量が検出された。上記本形質転換細胞に導入されたそれぞれの発現プラスミドにコードされる、配列番号19、23又は29で示されるアミノ酸配列を有する本嗅覚受容体が、Linaloolによって活性化され、細胞内シグナル伝達量を増加させることが示された。
実施例7(本発明スクリーニング方法)
実施例2(2)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR29とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」、「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR48とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」、「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR75/76fとAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」又は「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR39とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」と、実施例2(3)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現ベクターpcDNA3.1とAequorin発現プラスミドとが導入された対照細胞」のそれぞれの培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)及び0.3%のBSAを含むHanks-HEPES (20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置する。次いで、被験物質を前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の発光量を測定する。被験物質を添加した細胞の発光量は、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した場合の発光量を100とした場合の相対値として算出する。得られる結果から、上記本形質転換細胞に導入された発現プラスミドにコードされる本嗅覚受容体を活性化し細胞内シグナル伝達量を増加させる被験物質を選抜する。
実施例8(本発明スクリーニング方法)
実施例2(2)で得られた「発現プラスミドpcDNA6.2-AgOR7と発現プラスミドpcDNA3.1-AgOR48とAequorin発現プラスミドとが導入された本形質転換細胞」の培養液を除去してAssay buffer(0.5 μM セレンテラジンh(プロメガ社製)および0.3%のBSAを含むHanks-HEPES (20 mM pH 7.4))に置換し、さらに4時間、室温で静置した。次いで被験物質として1mMのDecanoic acidをFlexstation3(Molecular devices社製)を用いて前記細胞の培養液中に添加するとともに、細胞の発光量を測定した。被験物質を添加した細胞の発光量は、対照物質としてジメチルスルホキシドを添加した場合の発光量を100とした場合の相対値として算出した。その結果、ハマダラカ由来本共受容体発現プラスミドと本嗅覚受容体発現プラスミドとが導入された上記本形質転換細胞において、Decanoic acidと接触させた場合に、対照よりも多い発光量が検出された。Decanoic acidが、上記本形質転換細胞に導入された発現プラスミドにコードされる、配列番号19で示されるアミノ酸配列を有する本嗅覚受容体を活性化し細胞内シグナル伝達量を増加させる物質であることが示された。
本発明により、特定の嗅覚受容体を利用する忌避剤候補物質のスクリーニング方法、並びに、該スクリーニング方法で使用され得る、嗅覚受容体、当該嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチド及び当該ポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなる形質転換細胞等が提供可能となる。
[配列表フリ−テキスト]
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号9
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号10
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号11
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号12
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号31
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号32
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号33
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号34
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号35
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号36
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号37
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号38
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号39
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号40
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号41
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号42
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号43
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号44
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー

Claims (23)

  1. 忌避剤候補物質のスクリーニング方法であって、
    (1)以下の嗅覚受容体からなる群:
    (A1)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
    (A2)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
    (A3)配列番号15、17、19、21、23、25、27または29のいずれかで示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体;
    から選ばれる1以上の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入され当該嗅覚受容体を発現する形質転換細胞又はその細胞膜画分と、被験物質とを接触させ、前記嗅覚受容体の活性又はそれと相関する指標値を測定する第一工程と、
    (2)工程(1)で測定された嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、当該嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第二工程と
    を含む方法。
  2. 嗅覚受容体が、3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-olにより活性化される嗅覚受容体である請求項1に記載のスクリーニング方法。
  3. 形質転換細胞が、培養細胞を宿主細胞とする形質転換細胞である請求項1に記載のスクリーニング方法。
  4. 形質転換細胞が、嗅覚受容体共受容体をコードするポリヌクレオチドがさらに導入され当該嗅覚受容体共受容体と上記嗅覚受容体とを発現する形質転換細胞である請求項1から3のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  5. 嗅覚受容体共受容体が、以下の嗅覚受容体共受容体からなる群:
    (C1)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体、
    (C2)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、嗅覚受容体と共役して陽イオンを細胞内へ流入させる能力を有する嗅覚受容体共受容体、及び
    (C3)配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体共受容体のオーソログ;
    から選ばれる嗅覚受容体共受容体である請求項4に記載のスクリーニング方法。
  6. 工程(2)における対照が:
    (a)被験物質を接触させていない前記形質転換細胞もしくはその細胞膜画分における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値、又は
    (b)前記嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチドが導入されていない細胞もしくはその細胞膜画分における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値、
    である請求項1から4のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  7. 工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、上記形質転換細胞における上記嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値である請求項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  8. 嗅覚受容体からの細胞内シグナル伝達量又はそれと相関する指標値が、細胞内カルシウム量、細胞膜電位又は細胞内cAMP量である請求項7に記載のスクリーニング方法。
  9. 工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分へのGTPの結合量である請求項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  10. 工程(1)における被験物質との接触が、上記形質転換細胞の細胞膜画分と標識リガンドおよび被験物質との接触であり、工程(1)及び(2)における嗅覚受容体活性又はそれと相関する指標値が、前記細胞膜画分への標識リガンドの結合量である請求項1から6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
  11. 被験物質の忌避効果を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、請求項1に記載の嗅覚受容体を機能可能な形で発現する細胞の使用。
  12. 被験物質の忌避効果を評価するための指標を提供する研究ツールとしての、請求項1に記載の嗅覚受容体またはそれをコードするポリヌクレオチドの使用。
  13. 以下の嗅覚受容体からなる群から選ばれる嗅覚受容体:
    (B1)配列番号15、19または23のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する嗅覚受容体、
    (B2)配列番号15で示されるアミノ酸配列において1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
    (B3)配列番号15で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
    (B4)配列番号19で示されるアミノ酸配列において1個以上5個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
    (B5)配列番号19で示されるアミノ酸配列と99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、
    (B6)配列番号23で示されるアミノ酸配列において1個以上17個以下のアミノ酸が欠失、付加もしくは置換されたアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体、及び
    (B7)配列番号23で示されるアミノ酸配列と97%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、リガンドに依存して細胞内シグナル伝達を活性化させる能力を有する嗅覚受容体。
  14. 3,7-Dimethylocta-1,6-dien-3-olにより活性化される嗅覚受容体である請求項13記載の嗅覚受容体。
  15. 請求項13又は14に記載の嗅覚受容体をコードするポリヌクレオチド。
  16. 配列番号16、20または23のいずれかで示される塩基配列を有する請求項15記載のポリヌクレオチド。
  17. 請求項15又は16記載のポリヌクレオチドの塩基配列に対し相補的な塩基配列を有するポリヌクレオチド。
  18. 請求項15から17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドと、宿主細胞において機能可能なプロモーターとが機能可能な形で連結されてなるポリヌクレオチド。
  19. 請求項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
  20. 宿主細胞内で複製可能なベクターに、請求項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを組込む工程を有するベクターの製造方法。
  21. 請求項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されてなる形質転換細胞。
  22. 請求項15から18のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項19に記載のベクターを宿主細胞に導入する工程を有する形質転換細胞の製造方法。
  23. 請求項15又は16記載のポリヌクレオチドが導入され当該ポリヌクレオチドにコードされる嗅覚受容体を発現する形質転換細胞を培養し、産生された嗅覚受容体を回収する工程を有する嗅覚受容体の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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KR101816102B1 (ko) * 2015-11-02 2018-01-08 국민대학교산학협력단 미각 수용체를 이용한 살충제 또는 기피제의 스크리닝 방법

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