JP2014122449A - 拡幅ストランドの製造方法 - Google Patents

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誠 大坪
Keino Osawa
敬乃 大澤
Takeshi Oki
武 大木
Katsuyuki Hagiwara
克之 萩原
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Abstract

【課題】拡幅ストランドの製造方法において、高速処理条件下においても安定して生産可能な拡幅ストランドの製造方法を提供する。
【解決手段】補強繊維ストランド1が糸道規制機構、拡幅機構、ガイド機構を順に通過し、糸道規制機構から拡幅機構間の距離であるストランド渡し距離Lが、拡幅前の補強繊維ストランド幅の20倍以下の条件を満たす拡幅ストランドの製造方法。さらには、拡幅機構のストランド接触部位が凸部形状であること、ガイド機構のストランド接触部位が複数の凹凸を有する形状であること、糸道規制機構の前に収束機構が存在することが好ましい。また、補強繊維が炭素繊維であることや、拡幅前の補強繊維ストランドの幅が1mm〜300mmであること、糸道規制機構、拡幅機構またはガイド機構が、ロールまたはピン形状であることが好ましい。
【選択図】図1

Description

本発明は拡幅ストランドの製造方法に関し、さらに詳しくは繊維強化複合材料に最適な補強繊維ストランドが拡幅されてなる拡幅ストランドの製造方法に関する。
従来、補強繊維ストランドを拡幅する方法としては、水流や高圧空気流を補強繊維ストランドに当てて構成繊維を幅方向へ散ける方法や、空気中あるいは液体中で超音波等によりストランドに振動を与えて広げる方法、あるいは補強繊維ストランドと拡幅治具との接触により補強繊維ストランドを延し広げる方法などが知られている。
例えば水流や高圧空気流を作用させる方法としては、特許文献1や特許文献2などがある。しかし、流体に水などを使用すると拡幅後の乾燥工程に大きなエネルギーを必要とし、吸引高圧空気流を使用する場合、多錘化や高速化などのスケールアップに伴って多大な付帯設備を要するという問題があった。
その点、特許文献3〜5のように補強繊維ストランドに振動を与えて広げる方法は比較的小型の装置で実施可能である。しかしこのように振動する治具を用いた方法では、一定のライン速度を越えると振動数が不足し、十分なストランド幅を得られないという問題があった。
そのため工業的には、拡幅治具との接触による方法が、設備投資が比較的少なく効率的な生産が可能であるといわれており、例えば特許文献6では、表面が凸曲面の曲面バーと凹曲面の曲面バーを用いることにより均一で十分に拡幅された補強繊維ストランドを得る方法が開示されている。
しかし工程上では補強繊維ストランドの張力に変動が生じやすく、拡幅が不均一になるという問題があった。
特開昭57−77342号公報 特開平11−172562号公報 特開昭56−43435号公報 特開平1−282362号公報 特開2007−313697号公報 特開平3−146736号公報
本発明の目的は、補強繊維ストランドが拡幅されてなる拡幅ストランドの製造方法において、高速処理条件下においても安定して生産可能な拡幅ストランドの製造方法を提供することにある。
本発明の拡幅ストランドの製造方法は、補強繊維ストランドが糸道規制機構、拡幅機構、ガイド機構を順に通過し、糸道規制機構から拡幅機構間の距離であるストランド渡し距離Lが下記不等式(1)を満たすことを特徴とする。
L≦20×W (1)
L:糸道規制機構から拡幅機構間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の補強繊維ストランド幅(mm)
さらには、拡幅機構のストランド接触部位が凸部形状であること、ガイド機構のストランド接触部位が複数の凹凸を有する形状であること、補強繊維ストランドが糸道規制機構を通過する前に収束機構を通過することが好ましい。
また、補強繊維が炭素繊維であることや、拡幅前の補強繊維ストランドの幅が1mm〜300mmであること、糸道規制機構、拡幅機構またはガイド機構が、ロールまたはピン形状であることが好ましい。
本発明によれば、拡幅ストランドの製造方法において、高速処理の条件下においても、安定して生産可能な拡幅ストランドの製造方法が提供される。
糸道規制機構として、ニップ機構(ニップロール)を用いた場合の、本発明の一構成例である。 拡幅機構(凸治具)の断面図。 拡幅機構(凸治具)が、横方向に複数並んだ図。 収束機構(凹治具)の断面図。 収束機構(凹治具)が、横方向に複数並んだ図。 拡幅ストランドの製造後に、カット工程を組み合わせた例。 リング状のガイドの一種であるリングガイドの形態を示す模式図。 リング状のガイドの一種であるスネイルガイドの形態を示す模式図。
本発明は、補強繊維ストランドが拡幅されてなる拡幅ストランドの製造方法に関するものである。本発明の拡幅ストランドの製造方法は、補強繊維ストランドが、糸道規制機構、拡幅機構、及びガイド機構を順に通過し、糸道規制機構から拡幅機構間の距離であるストランド渡し距離Lが下記不等式(1)を満たす拡幅ストランドの製造方法である。
L≦20×W (1)
L:糸道規制機構から拡幅機構間のストランドの渡し距離(mm)
W:拡幅前の補強繊維ストランド幅(mm)
ここで糸道規制機構とは、補強繊維ストランドの進行方向に対する幅方向のブレを規制する機構を有するものであり、詳細は後述するが、例えば図1の1.のようにニップ機構(ニップロール)を使用したものを挙げることができる。
また、拡幅機構としては、補強繊維ストランドの幅を広げることができれば特に制限はないが、一つの凸部を有する治具であることが好ましく、図2にあるような一つのゆるやかな凸部を有する治具であることがより好ましい。すなわち拡幅治具としてはいわゆる和太鼓形状や樽形状の治具(以下、凸治具)であることが好ましい。このような治具は図3のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応することができ、多錘化して工業的に大量生産する際に特に有用である。
そして本発明の製造方法では、糸道規制機構から拡幅機構間のストランドの渡し距離Lは小さいことが好ましく、少なくとも拡幅前の補強繊維ストランドの幅Wの20倍以下の距離であることが必要である。
さてこのような本発明の拡幅ストランドの製造方法に用いられる補強繊維としては、繊維強化複合材料に用いることが可能な高強度繊維であれば補強繊維の種類について特に限定は無いが、無機系繊維としては炭素繊維、ガラス繊維、玄武岩繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維などが、有機系繊維としては芳香族ポリアミド繊維、PBO繊維、高強度ポリエチレン繊維、天然繊維などを好ましく挙げることができる。なかでも本発明の製造方法を適用するにあたっては、強度はあるが脆くて拡幅しがたい炭素繊維に用いた場合により効果的である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができるが、特に、PANを原料としたPAN系炭素繊維であることが、工業規模における生産性及び機械的特性に優れており特に最適である。
補強繊維のストランド引張強度としては、600MPa〜12GPaであることが好ましく、特には3000〜10000MPaの範囲であることが好ましい。また、補強繊維のストランド引張弾性率としては、100〜1000GPaであることが好ましく、特には200〜500GPaであることが好ましい。
補強繊維の直径としては用途により1μm〜30μmの幅広い範囲を用いることができ、特には3〜10μmの範囲であることが、マトリクスへの補強効果が高く好ましい。
本発明で用いられる補強繊維からなる補強繊維ストランド(単に「ストランド」と称する場合がある。)とは、複数の補強繊維の単繊維(フィラメント)が集合し束となったものである。束を構成する単繊維の本数としては1000本〜10万本の単繊維から構成された繊維束(ストランド)であることが、本発明の拡幅効果がより明確となり好ましい。さらにはストランドとしては、束を構成する単繊維の本数が6000本〜5万本の範囲であることが好ましい。ストランドを構成する単繊維の本数が少なすぎる場合には、本発明の拡幅効果が少なくなる傾向にある。ストランドの総繊度としては30tex〜50万texであることが好ましく、特には200〜4000texであることが好ましい。
またこのような補強繊維ストランドの拡幅前の幅Wとしては、1mm〜300mmの範囲であることが好ましく、2〜90mm、特には5〜40mmの範囲が最適である。また、これらの補強繊維ストランドは製造当初から補強繊維からなる束を構成していても良いし、複数本のストランドを集めて一つのストランドとし、一度に処理することも可能である。そしてストランドを複数用いる場合には、本発明の拡幅工程に多錘で別々に供給することも好ましい。本発明の製造方法においては、投入するストランドの本数および幅に応じて、各機構に用いられる治具を軸方向に延長、または結合する事により、容易に対応することが出来る。
なお本発明の製造方法に用いられる補強繊維ストランドの形状としては扁平であることが好ましく、長方形、円形および楕円形であることが好ましい。拡幅前の補強繊維ストランドの厚さとしては0.01〜20mmの範囲であることが好ましく、特には0.02〜10mmの厚さであることが好ましい。この厚さは、ノギスやマイクロメーターを用いて測定することができる。拡幅前の補強繊維ストランドは通常サイジング剤によって収束されており、そのような補強繊維ストランドであれば、厚さも容易に測定できる。またそれが困難な場合には、ストランドを樹脂に埋めて切断断面を顕微鏡等で観察すれば、補強繊維ストランドの形状やその厚みを測定することができる。
また、本発明に用いられる補強繊維ストランドは、あらかじめサイジング剤が付着されていることが好ましい。サイジング剤の付着量としては、繊維100質量部に対し、0質量部超過〜10質量部以下であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。またサイジング剤としては、後に補強繊維ストランドが補強する対象となるマトリクス樹脂と同じ樹脂系のサイジング剤であることが好ましい。本発明の製造方法では、このようなサイジング剤が付着した開繊しにくい補強繊維ストランドも、高速処理が可能である。
本発明の拡幅ストランドの製造方法では、上記のような補強繊維ストランドを先に述べたように、ストランドの幅方向への動きを規制する糸道規制機構、ストランドを拡幅する拡幅機構、ストランドの糸道を安定化させるガイド機構を順に通過させる。そして本発明の製造方法では、糸道規制機構から拡幅機構間のストランドの渡し距離Lが下記不等式(1)を満たすような位置関係で配置されていることが重要である。
L≦20×W (1)
L:糸道規制機構から拡幅機構間のストランド渡し距離(mm)
W:拡幅前の補強繊維ストランド幅(mm)
つまり本発明の製造方法では、糸道規制機構から拡幅機構間のストランドの渡し距離Lは小さいことが好ましく、少なくとも拡幅前の補強繊維ストランドの幅Wの20倍以下の距離であることが必要である。距離Lは、補強繊維ストランドの幅Wの5倍以下であることがより好ましく、特には2倍以下であることが好ましい。距離Lの下限値としては、例えば糸道規制機構と拡幅機構が一体化している場合など、実質的に0mmであってもよい。
このような本発明の拡幅ストランドの製造方法では、拡幅機構においてストランドの幅を広げるためにストランドに対して幅方向(X方向)の分力が加えられるが、この時、例えば図1において+X方向、−X方向の分力が、拡幅に十分な大きさであることもさることながら、両者のバランスが取れていることが理想的であり、これによってストランドが拡幅されるからである。仮に+X方向が極端に大きい場合は、ストランド全体が+X方向に偏ってしまい、ストランドが均一かつ十分に拡幅されない傾向がある。
拡幅機構は、ストランドに対し+X、−X双方向に分力を加える機能を有することが好ましい。この時、ストランドに対して両分力をバランスよく加えるためには、補強繊維ストランドが拡幅機構の中心を走行するよう、拡幅機構へのストランド入射位置及び角度を制御し、ストランド幅方向の糸道を規制することが好ましい。
拡幅機構へのストランド入射位置としては、(i)ストランド中心が拡幅機構上の中心(X=0)の位置を走行すること、(ii)中心(X=0)の軸とストランドの入射方向とでなす角度(ストランド入射角度)が0度であること、が理想的である。しかし、実際には補強繊維ストランドの拡幅処理を、工業的に高速かつ連続的に行う場合、上記(i)、(ii)を常時、継続して満足することは困難である。
そこで本発明では、ストランド全体が+X方向に偏った場合、糸道を修正するために−X方向に力(軌道修正力)を加わるように、拡幅機構上でストランド全体が+X方向に偏ったとしても、ガイド機構1がストランド幅方向の糸道ズレに対して支点として作用することで、X方向の糸道規制機構2上のストランドに−X方向の反力を生じさせ、この反力を軌道修正力として利用している。ここで−X方向の反力はストランドの繊維軸方向に作用させているストランドの引き取りテンションのX方向分力であるので、ストランドの幅方向に対する糸道規制機構1と拡幅機構2の位置関係が上記不等式(1)を満足することが必要である。逆に不等式(1)を満足しないような位置関係で配置された場合は、ストランドに作用する−X方向の反力が不十分となり軌道修正が起こらず、拡幅後のストランド幅が安定した均一な拡幅ストランドを得ることができないのである。
すなわち本発明においては、糸道規制機構1からストランド拡幅機構2間のストランドの渡し距離Lを小さくすることにより、ストランドの引き取りテンションのX方向分力を大きくするために、距離Lがストランドの幅Wの20倍以下であることを必要とする。さらにはLがWの5倍以下であることが、特には2倍以下であることが好ましい。
本発明においてはこのような構成をとることにより、ストランドの糸道が多少ズレた場合でも、実用的な範囲に軌道が修正されるのである。従来から軌道修正の方法としては、センサー等で糸道のズレを検知してフィードバック制御を行う方法などがあるが、本発明の方法では、このような設備的に大掛かりなものは不要となり、特に多錘化して工業的に安定生産する上で効果的である。
このような本発明に用いられるストランド幅方向の糸道規制機構としては、ストランドの進行方向に対して直交する方向の糸道を安定化させる機能を有すれば特に限定はしないが、前述のように、図1に示すようなニップロール、溝付きローラーなどのローラーによる糸道規制機構、図7および図8に示すようなリング状ガイド、櫛形ガイドなどのガイドによる糸道規制機構、吸引による糸道規制機構などが例示される。
糸道規制機構としてローラーによる糸道規制機構を用いる場合、ストランドの把持効果が高く、糸道がより安定しやすいニップロールによる糸道規制機構を用いることが好ましい。糸道規制機構に好ましく用いられるニップロールとしては、補強繊維ストランドを上下から加圧してストランド幅方向の糸道のブレを抑制するものであり、上記不等式(1)を満足する配置で設置されているものである。
この時のニップ圧力は、ストランド幅方向の糸道規制が十分になされれば特に限定はないが、ストランドの引き取りテンションによって適正な範囲は異なり、概ね、ストランド幅当たりで0.5N/cm〜100N/cmの範囲であることが好ましい。0.5N/cm未満ではニップ圧力が小さすぎてストランド幅方向の糸道規制が不十分になりやすい傾向があり、一方、100N/cmを越える場合は、設備が大掛かりになりやすく、工業的に生産する上での効率が低下しやすい傾向がある。
また、ニップロールの材質もストランドを十分に押さえつけることができれば特に限定はなく、例えば、金属、セラミック、ゴム、プラスチックなどが例示できるが、形状追従性が高いゴム製ニップロールが好ましく、後述するように、ストランドのサイジング剤によってはこの工程にて加熱することが有効であり、その場合には加熱温度に対する耐熱性を有するフッ素ゴム、シリコンゴムなどを用いることが好ましい。
糸道規制機構として溝付きローラーを用いる場合、補強繊維ストランドの幅の1.0〜3.0倍、より好ましくは1.2〜2.0倍の幅の溝を有する溝付きローラーであると、補強繊維ストランドの形状変化を抑え、糸道を安定させることができるため好ましい。
糸道規制機構としてガイドによる糸道規制機構を用いる場合、リング状ガイドによる糸道規制機構を用いると、幅方向だけでなく高さ方向に対しても糸道が安定するため好ましい。糸道規制機構に好ましく用いられるリング状ガイドとしては、リング内に繊維束を通すことでストランド幅方向の糸道が規制できれば特に限定はない。リングの内径は原糸ストランド幅と同等もしくは小さいことが好ましく、ストランド幅により適宜調整すればよいが、1〜40mmが好ましく、5〜15mmがより好ましい。リング内径が過度に小さい場合は、リング通過時に繊維束に撚りが入ったり、繊維束が幅方向に折れたたまれたりしやすくなる傾向がある。リング内径が過度に大きい場合は、糸道規制効果が不十分となり拡幅後の補強繊維のストランド幅が安定しにくくなる傾向がある。
また、リング状ガイドとしては、図7のようにリングが完全に閉じたもの(リングガイド)や、図8のように繊維束の導入がしやすいようにリングが一部開放してあるもの(スネイルガイド)などがあげられる。
糸道規制機構に好ましく用いられる吸引機構としては、ストランドを吸引によってストランドの幅方向の糸道が規制できれば特に制限はない。吸引風速としては、1〜40m/sが好ましく、5〜30m/sがより好ましい。吸引部は走行するストランドを安定的に規制するために網状の多孔物が配されていてもよい。
本発明で用いる拡幅機構は、ストランドの幅を広げることができ、ストランド幅方向の糸道規制機構からの渡し距離Lが上記不等式(1)を満たすような配置が取れるものであれば特に限定はしないが、多錘化して工業的に生産することを考慮すると図2のような一つのゆるやかな凸部を有する治具であることが好ましい。本発明で用いる拡幅機構としては、拡幅機構のストランド接触部位が凸部形状であることが好ましく、このような形状を有する拡幅機構(拡幅治具)としてはいわゆる和太鼓形状や樽形状の治具(以下、凸治具)であることが好ましい。このような治具は図3のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応できる。
このような拡幅治具としては、ロールやピンなどの形状でも良いし、固定した治具の繊維束(ストランド)が通過する面に、単に凸部を有するものでも良い。ロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、最大部の直径としては5〜900mmであることが好ましく、さらには10〜90mmであることが好ましい。
また糸道上に凸部を有するのであればその断面形状は特には問わないが、抱き角や糸道の自由度が高い点からは、治具の断面形状は円形であることが好ましい。拡幅治具と補強繊維ストランドの接触角である抱き角としては1〜350°の範囲であることが好ましい。この抱き角は治具間の距離や高さを変更することにより容易に調整することが可能である。
凸部は、治具の中央に近い程大径になっており、いわゆる和太鼓形状に加工されているため、中央部と端部では径が異なる。補強繊維ストランドは糸道上において、その行路長が短くなるようなルートで走行する傾向がある。したがって、凸治具において径が大きい中央部を走行する繊維は行路長が長くなるため、ストランドを構成する繊維は幅方向に広がり、行路長が短くなるルートを走行しやすい傾向があり、この効果によりストランドの拡幅がなされる。一方で、ストランド幅が拡幅すると、繊維はストランドの進行方向に対し角度をもったルートを走行することになり、この角度が大き過ぎると行路長が長くなる傾向がある。したがって、ストランドを構成する繊維は両者のバランスが取れた最も行路長が短くなるルートを走行することになる。
凸部は円弧状であることも好ましく、その場合の曲率半径Rは、R=10mm〜900mmが好ましく、さらにはR=10mm〜500mmの範囲であることがより好ましい。拡幅治具の曲率半径が小さすぎると拡幅状態が不均一になりやすく、曲率半径が大きすぎると拡幅が不十分になる傾向に有る。
拡幅治具の有効幅を設定することにより、補強繊維ストランドの拡幅後のストランド幅を調整することが可能である。さらには有効幅を規定したフラットバーやピン、ロール等の治具を用いることにより、より品質の安定した補強繊維ストランドを得ることが可能となる。また、本発明の製造方法においては、補強繊維ストランドが拡幅機構またはガイド機構を通過した後に、例えば、規制幅を設定したピンガイドや溝付きローラーなどの糸幅規制治具を通過させることも好ましい。糸幅規制治具を用いることで、補強繊維ストランドの拡幅後のストランド幅を調整し、また拡幅後の補強繊維ストランドに生じた目隙を低減することができる。
本発明に用いられる拡幅治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高いストランドを用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。
上述の通り、凸治具を用いた場合には中央を走行する繊維は行路長が長くなるため、拡幅後の補強繊維ストランドはストランド中央部の厚みが薄くなり易い傾向にある。これに対して本発明では、ストランド幅方向の糸道規制機構からストランド拡幅機構間のストランドの渡し距離Lを小さくすることで、中央部の繊維が過度に幅方向に逃げることが抑制され、安定的に均一な厚みと幅を有する拡幅ストランドが得られる。
本発明では、補強繊維ストランドが拡幅機構の後にガイド機構を通過することを必須としており、このガイド機構は、糸道がズレたときの軌道修正を行うために下流側の支点として働く。ガイド機構が下流側の視点として効率よく作用するためには、拡幅機構からガイド機構間のストランドの渡し距離が拡幅前の補強繊維ストランドの幅の200倍以下の距離であることが好ましく、100倍以下であることがより好ましく、特には20倍以下であることが好ましい。
ガイド機構としては、下流側の支点として作用できれば特に限定されないが、例えば、フラットバーやピン、ロール等の治具などがあげられる。図7および図8に示すようなリング状ガイド、櫛形ガイドなどのガイド、溝付きローラーや図4のようにロールやピンなどのストランドが通過する面に一つの凹部を有する治具を用いることもできる。中でも、ガイド機構のストランド接触部位が複数の凹凸を有する形状であることが好ましく、特には、ガイド機構としてX方向に凹凸を有する固定された凹凸治具を用いることが好ましい。ガイド機構として凹凸治具を用いることで、ストランドを構成する繊維がより走行状態が安定しやすい凹部を走行しやすいため、簡易な機構でも十分に下流側の支点として機能する。また、治具の長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応できる。さらには凹凸治具を用いると、後の工程においても拡幅状態をより均一に保持することが可能となる。また、凹凸治具を用いた場合には、ストランドの進行方向に対する直交方向(X方向)にストランドの粗密斑が発生するよう配置された凹凸が存在するため、これにより補強繊維ストランドを小繊維束に分繊する効果がある。
このような分繊された補強繊維ストランドは、補強繊維ストランドに樹脂を含浸した後、樹脂を固化させ任意の長さにカットして得られる補強繊維ペレットや、補強繊維ストランドを任意の繊維長にカットし、分散させて製造されるランダムマットに、特に好ましく用いられる。補強繊維ペレットやランダムマットの製造にあたっては、工程途中において補強繊維ストランド全体の幅と厚さが安定していることが特に重要であるからである。
従来、連続繊維である補強繊維ストランドを拡幅して拡幅ストランドとして繊維補強材に用いる場合には、ストランドを目透きなく均一に保つことが重視されてきた。補強繊維ストランドの使用方法としてはそのままマトリクス樹脂中に含浸させる方法が主流だったからである。そのため、分繊作用を有する凹凸治具の使用は一般的に避けられてきた。複合材料中のストランドの存在率が高い部分と低い部分とでマトリクス樹脂の補強効果が異なり、欠点となると考えられてきたためである。しかし上記の補強繊維ペレットやランダムマットとして使用する場合には、ストランドの幅方向における局所的な厚さ変動は何ら問題とはならない。特に拡幅後のストランドをカットしてランダムマットとして用いる場合、マットのムラを軽減させるためには、逆に積極的にストランドを分繊し、小繊維束の本数を増加させることが効果的である。そのため、ストランドの分繊作用を有する凹凸治具は、ガイド機構として、特に好ましく用いることができる。
凹凸治具としては、その凹凸による高低差がストランド厚さの0.01〜10倍程度の高さであることが好ましい。ストランドの厚さより凹凸の高低差が小さい場合には糸道の安定と共に、ストランドの幅方向の局所的な厚さ変動も押さえることができる。一方ストランドの厚さよりも凹凸の高低差が大きい場合には糸道のより高い安定化を得ることができる。凹凸による高低差は0.01〜20mmが好ましく、さらには0.05〜5mmが最適である。
このような凹凸治具としては、ロールやピンなどの形状でも良いし、固定した治具のストランドが通過する面に凹凸を形成したものでも良い。ロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、その直径としては5〜900mmであることが好ましく、10〜200mmであることがより好ましく、さらには10〜90mmであることが特に好ましい。
凹凸の各凸部のピッチとしては0.1〜10mmの間隔であることが好ましく、さらには、5mm以下であることが好ましい。また、凸部のピッチは、拡幅前の補強繊維ストランドの幅に対して1/2以下の間隔であることが好ましく、より好ましくは1/5以下、1/10以下のピッチ間隔であることが特に好ましい。
凹凸治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高いストランドを用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。またその表面は目的により、鏡面加工を施しても梨地処理等を施しても良い。
また、補強繊維ストランドがストランド幅方向の糸道規制機構を通過する前にあらかじめ一度別の収束機構を通過することも好ましい。収束機構をあらかじめ通過することにより上述の(i)の条件、「ストランド中心が拡幅機構上のX=0の位置を走行すること」を高い基準で満足し、ストランドがより安定した糸道を通過するため、最終的に安定した拡幅後のストランド幅を有する拡幅ストランドが得やすくなる。
このような本発明の前工程に用いる収束機構としては特に限定はしないが、例えば、多錘化して工業的に生産することを考慮するとストランド接触部位が一つの凹部を有することが好ましく、図4のようにロールやピンなどのストランドが通過する面に凹部を有する治具(凹治具)などがあげられる。このような治具は図5のように長尺方向に連結させることで、容易に多錘化に対応できる。収束機構の機能としては、上述のロールやピンなどの円筒形の形状を取る場合には、最大部の直径としては5〜900mmであることが好ましく、さらには10〜90mmであることが好ましい。
凹治具としては、糸道上に凹部を有するのであればその断面形状は特には問わないが、抱き角や糸道の自由度が高い点からは、治具の断面形状は円形であることが好ましい。抱き角としては1〜350°の範囲であることが好ましい。この抱き角は治具間の距離や高さを変更することにより容易に調整することが可能である。
凹治具の凹部は、治具の中央程小径になっており、いわゆる小鼓形状に加工されている。凹部は円弧状であることも好ましく、その場合の曲率半径Rは、R=10mm〜900mmが好ましく、さらにはR=10mm〜500mmの範囲であることがより好ましい。Rが小さすぎると繊維束が収束されすぎてしまい、逆に大きすぎると位置決め効果が劣る傾向となる。
本発明に用いられる収束治具を形成する材質は特に限定しないが、ステンレス、鉄、銅等の金属や、ガラスやアルミナ、ジルコニア等のセラミックスが好ましい。金属には梨地加工や磨き加工、クロムメッキ等の表面処理、セラミックスにはフッ素樹脂等の合成樹脂をコーティングしておくこともできる。もっとも好ましくは、ステンレス鋼にハードクロムメッキ加工を施したものである。特に炭素繊維のように剛性が高いストランドを用いる場合、擦過による治具の耐摩耗性を向上させるために特に好ましい。
本発明に好ましく用いられる収束機構、ストランド幅方向の糸道規制機構、拡幅機構、ガイド機構などは、さらに端部に「つば」などで繊維束が通過する範囲を規制することで、これらの治具に有効幅を設定し、補強繊維ストランドの拡幅後の幅を調整することが可能である。
また本発明に用いられる収束機構、ストランド幅方向の糸道規制機構、拡幅機構、ガイド機構などには、超音波振動等の振動や、加熱・冷却を与える事が好ましい。補強繊維ストランドの拡幅性の向上及び糸道のブレ抑制を図ることが可能となる。上述のように補強繊維ストランドにはマトリクス材料との接着向上やストランドの収束性を高める目的で各種サイジング剤を付与することが好ましい。振動・加熱・冷却などによってこのサイジング剤の収束力を低減することで、サイジング剤が付与された補強繊維ストランドであっても、比較的小さな張力でも効果的に拡幅を行うことができるようになる。ただし、サイジング剤の収束力が大きすぎると、所望のストランド幅に拡幅するために大きな張力が必要となる場合がある。特に、サイジング剤が熱可塑性成分を含む場合には、収束機構、ストランド幅方向の糸道規制機構、拡幅機構、ガイド機構などをサイジング剤の軟化温度以上、分解温度未満に加熱することが好ましく、工程途中におけるサイジング剤の収束力を一時的に低下させることができ、生産性が向上する。治具の加熱温度としては、ストランド自体の熱特性、ストランドと各機構の接触時間、サイジング剤の成分によっても異なるが、一般的には50〜300℃が好ましく、70〜250℃がより好ましい。
本発明の製造方法では、補強繊維ストランドがストランド幅方向の糸道規制機構、ストランド拡幅機構、ガイド機構に接触しながら順に走行するが、接触長、接触時間、糸道、治具とストランドの摩擦係数、等を適宜調整する事によって、張力や拡幅状態を適宜最適化する事ができる。
一般には本発明の製造方法のライン速度としては1〜500m/分の範囲が好ましく、特には2〜90m/分の範囲であることが好ましい。また、処理する前の補強繊維ストランドにかける張力としては0.1N〜100Nの範囲が好ましく、1.0N以上であることが最適である。
このような本発明の製造方法にて得られた補強繊維拡幅ストランドをマトリクス樹脂と組み合わせ、例えば、射出成形、プレス成形、フィラメントワインディング成形、樹脂トランスファー成形、オートクレーブ成形など、公知の成形手段・成形方法により繊維強化複合材料が得られる。本発明の製造方法にて得られた拡幅ストランドは、例えば、かかる拡幅ストランドを一方向に引き揃え、もしくは織編物や不織布、多軸織物、組物等に成形した補強繊維材料、補強繊維ストランドを任意の繊維長に切断したチョップドストランドとして、特に好ましくは、樹脂含浸ストランドや補強繊維ペレット、あるいはランダムマットとして、最終的には繊維強化複合材料に特に好適に用いることができる。例えば拡幅された補強繊維ストランドを、熱可塑性樹脂などに含浸した後、樹脂を固化させ任意の長さに切断することにより補強繊維ペレットとすることができる。
マトリクス樹脂としては、特に制限はなく、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂が用いられる。マトリクス樹脂として用いられる熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂、およびその共重合体やブレンド物であるポリオレフィン系樹脂、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド12等の脂肪族ポリアミド系樹脂、酸成分として芳香族成分を有する半芳香族ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)やポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)等の芳香族ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂(ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ABS樹脂等)、あるいは、ポリ乳酸系などの脂肪族ポリエステル系樹脂などを挙げることができる。なかでも好ましくはポリカーボネート系樹脂や脂肪族ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく挙げられる。
マトリクス樹脂として用いられる熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。中でも、耐熱性、弾性率、耐薬品性に優れたエポキシ樹脂やビニルエステル樹脂が、特に好ましい。これらの熱硬化性樹脂には、硬化剤、硬化促進剤以外に、通常用いられる着色剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。複合材料中に占める樹脂組成物の含有率は、10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%、更に好ましくは25〜45質量%である。
本発明の製造方法によって得られる拡幅ストランドは十分に拡幅されており、樹脂が容易に含浸されるため、これらを用いた複合材料は高い物性を得ることができる。
また、本発明の製造方法によって得られる拡幅ストランドは、特に、任意の繊維長の補強繊維(補強繊維ストランドおよび、または補強繊維単繊維)をランダム配向させた疑似等方性の不織布基材であるランダムマットの製造に用いる補強繊維ストランドとして好ましく使用することができ、例えば次のような工程を経ることにより得られるランダムマット及びそれを使用した繊維強化複合材料に使用することで特に高い効果を発揮することができる(図6)。
1.(カット)拡幅された補強繊維ストランド(拡幅ストランド)をカットする工程、
2.(分割)カットされた補強繊維ストランドを管内に導入し、空気を補強繊維ストランドに吹き付ける事により、補強繊維ストランドを分割させる工程、
3.(繊維散布)分割させた各補強繊維ストランドを拡散させる工程(同時に、繊維状又はパウダー状のマトリクス樹脂とともに吸引し、拡散された補強繊維とマトリクス樹脂を同時に散布する塗布工程とすることもできる)、
4.(定着)拡散・散布された補強繊維にマトリクス樹脂を定着させ、ランダムマットを得る工程。
5.(プレス)得られたランダムマットをプレス成形する工程。
本発明の製造方法にて得られた拡幅ストランドは、繊維束が十分に開繊されているため、カット工程後の分割工程にて特に品質の高い分割した補強繊維ストランドを得ることができる。
かかるランダムマットに使用するマトリクス樹脂としては、特に制限はないが、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。また、4の工程にて得られたランダムマットを複数枚重ねてプレス成形することで、所望の厚さを有する繊維強化複合材料を得ることができる。プレス成形の方法および条件にはとくに制限はないが、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、熱可塑性樹脂の融点以上、分解温度以下の条件にて熱プレスすることが好ましい。プレスの圧力およびプレス時間も適宜選択できる。また、ランダムマットに用いる樹脂は上記の3の工程と同時に塗布してもいいし、繊維散布したマットの上に、樹脂フィルムや溶融した樹脂を重ねて次の4の定着工程を行ってもよい。
ランダムマットに用いるマトリクス樹脂の存在量は、補強繊維100質量部に対し、50〜1000質量部であることが好ましい。より好ましくは、補強繊維100質量部に対し、マトリクス樹脂100〜600質量部、更に好ましくは、補強繊維100質量部に対し、マトリクス樹脂150〜300質量部である。
ランダムマットに用いる熱可塑性樹脂の種類としては例えば塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド46樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ボリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などの 単量体、共重合体、及びそれら2種以上の混合体が好ましく挙げられる。この中でも、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが望ましい。
また本発明の拡幅ストランドを用いて最終的に得られる繊維強化複合材料中には、本発明の目的を損なわない範囲で、本発明の拡幅ストランドに用いた補強繊維以外に、他のガラス繊維等の無機繊維や有機繊維等の各種繊維状または非繊維状フィラー、難燃剤、耐UV剤、顔料、離型剤、軟化剤、可塑剤、界面活性剤の添加剤を含んでいてもよい。
ランダムマットを用いて、繊維強化複合材料である成形品を得る方法としては、特に限定はしないが、プレス成形、熱成形が好ましい。かかる成形工程は、上記ランダムマットの製造工程における5のプレス成型工程において、直接最終成形品の形状に成形するものであってもよいし、5のプレス成型工程において、例えば板状など取り扱いやすい形状に予備成形した繊維強化複合材料を、プレス成形もしくは熱成形など任意の成形方法により最終成形品の形状に成形するものであってもよい。
具体的には、金型内にランダムマットあるいは予備成形した繊維強化複合材料を配置し、融点以上あるいはガラス転移点以上(マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には硬化温度以上)まで昇温しつつ、プレス成形を行い、次いで金型を融点未満あるいはガラス転移温度未満まで冷却する、いわゆるホットプレスにより好ましく成形品を得る事ができる。
また、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、ランダムマットあるいは予備成形した繊維強化複合材料を融点以上あるいはガラス転移点以上まで加熱し、これを得ようとする成形体の形状に合わせ単独または複数枚重ね、融点未満あるいはガラス転移点未満に保持した金型内に投入し、加圧した後、冷却する、いわゆるコールドプレスにても好ましく成形品を得る事ができる。
このような本発明で得られる拡幅ストランドを用いた繊維強化複合材料は、樹脂の含浸が十分に行われるため、高い物性と高効率の加工性を有する経済効率の高い複合材料となり、機械物性に優れ、そのばらつきも小さい。そのため、スポーツ用途、レジャー用途、一般産業用途、航空・宇宙用途、自動車用途など、様々な用途に広く適用できるものとなる。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。また、拡幅ストランドの製造には下記の治具を用いた。
(収束機構)
・凹治具
図4に示された形状の凹型の収束治具を用いた。材質はハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼であり、糸道の有効幅が40mm、一つの凹部が存在し、凹部曲率の半径Rが100mm、収束治具の最大部直径Φが90mmであった。
(糸道規制機構)
・ニップローラー
押付側ローラーと受け側ローラーの2つのローラーからなるニップローラーを糸道規制機構として用いた。
押付側ローラーは、金属製のシャフトの表面をフッ素ゴムで覆った外径Φが50mmの駆動ローラーであり、エアシリンダにて可動でき、受け側ローラーに任意の圧力で押し付けられる。
一方、受け側ローラーは、ハードクロムメッキ処理されたステンレス鋼製の外径Φ50mmのローラーであり、両端のシャフト部にベアリングが設置されており、押付側ローラーに追従し回転できる。
・リングガイド
図7に示された形状の治具を用いた。材質はハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼であり、リングの内径は10mmであった。
(拡幅機構)
・凸治具
図2に示された形状の凸型の拡幅治具を用いた。材質はハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼であり、糸道の有効幅が20mm、一つの凸部が存在し、凸部曲率の半径Rが100mm、拡幅治具の直径Φが90mmであった。
(ガイド機構)
・凹凸治具
ハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の直径Φ90mmの円筒形の治具を用いた。かかる治具の糸道の有効幅は40mmである。治具の側面には複数の凹凸が形成されており、凸部側面の角度θは80°、凸部頂点の半径Rが0.05mm、凹部底部の半径Rが0.2mm、直径が90mm、凸部の頂点間隔が1mm、凸部の高さ(凹凸の高低差)が0.6mmであった。
・フラットバー
側面に凹凸の形成されていない、ハードクロムメッキ処理を施したステンレス鋼製の直径Φ90mmの円筒形の治具を用いた。
複合材料の製造および物性の評価は以下に示す方法で行った。
(補強繊維ストランドの幅の測定)
補強繊維ストランドの幅を、ノギスを用いて、繊維束の長さ方向1m置きに計10点測定し、その平均を補強繊維ストランドの幅とした。
(ランダムマットの製造)
補強繊維ストランドを、ロータリーカッターを用い繊維長20mmにカットした。カットされたストランドをSUS304製の二重管中に導入し、150m/secの圧縮空気を吹き付けることによりストランドを分割させた。さらに引き続き、ストランドを拡散させると同時に、マトリクス樹脂としてポリアミド樹脂(PA6パウダー、ユニチカ株式会社製 A1030FP)を供給し、繊維と樹脂を同時に散布した後、繊維にポリアミド樹脂を定着させランダムマットを作成した。
(成形板の製造方法)
350mm×300mmの大きさに裁断した上記ランダムマットを、成形後の厚みが5mmになるように積層し、260℃に加熱したプレス機を用いて4MPaの圧力で3分間熱プレスして、繊維強化複合材料成形板を得た。
(引張強度測定)
上記の製造方法により得られた繊維強化複合材料成形板を用いて、JIS K7164に従い、幅45mm、長さ215mm(つかみ具間の長さ115mm、測定部での幅25mm)のダンベル型の試験片を作製し、試験速度10mm/minで引張試験を実施した。同様の試験を10回繰り返し、その標準偏差を引張強度のバラツキ度合の指標として求めた。
[実施例1]
補強繊維ストランドとして、東邦テナックス株式会社製の炭素繊維束 テナックス(登録商標)(平均直径7μm、フィラメント本数24000本、繊度1600tex、引張強度4000MPa)を用い、ポリアミド樹脂系樹脂(軟化点90℃)を主剤とするサイジング剤にて、幅10mm、厚み0.15mmの偏平状態に集束させたストランド(サイジング剤付着量1.0wt%)を用意した。
このストランドが上記の凹治具(収束機構)、ニップローラー(糸道規制機構)、凸治具(拡幅機構)、凹凸治具(ガイド機構)を順に、ラインスピード40m/分、拡幅前張力(凹治具直前)平均6.9N(ロードセル式デジタルテンションメーターにて測定)の条件にて、連続的に給糸体から搬送される条件にて処理を行い、ストランド幅が18mmに拡幅された補強繊維ストランド(拡幅ストランド)を得た。尚、この時、ニップローラーのニップ点−凸治具間の渡し距離L=180mm、凸治具−凹凸治具間の渡し距離は200mmであった。また、凹治具、ニップローラーの受け側ローラー、凸治具はピン形状(円柱形)で、側面から棒ヒータ―(Φ12mm)が挿入されており各治具の温度を120℃とした。また、凹治具、受け側ニップローラー、凸治具、凹凸治具の中心部は直線に配置されており凹治具、各ピンの中心距離は200mmであった。
拡幅処理直後の張力は15Nであり、均一に繊維が分繊され、拡幅後のストランド幅は18mm、厚みは0.11mmであり、2時間連続運転したが、時間が経過しても拡幅後のストランド幅に変化は見られなかった。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。また、かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は18と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
[実施例2]
凹治具、受け側ニップローラー、凸治具の中心距離を150mmに変更し、Lの値を130mmとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は18Nであり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は20mm、厚みは0.09mmのストランド幅の安定した補強繊維ストランド(拡幅ストランド)が得られた。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は13と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
[実施例3]
凹治具、受け側ニップローラー、凸治具の中心距離を100mmに変更し、Lの値を70mmとした以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均18Nであり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は20mm、厚みは0.09mmのストランド幅の安定した補強繊維ストランド(拡幅ストランド)が得られた。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は11と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
[実施例4]
ガイド機構として凹凸治具の代わりにフラットバーを用いた以外は、実施例1と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均18Nであり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は17mm、厚みは0.11mmのストランド幅の安定した補強繊維ストランド(拡幅ストランド)が得られた。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は24と、実施例1と比較するとやや大きくなったものの、十分に均一な形状と物性を有する成形板を得ることができた。
[比較例1]
実施例1において、ストランド幅方向の糸道規制機構を使用していないこと以外は同様の方法で製造した。しかし、糸道が不安定で、凹治具通過後の原糸が、凸治具の中央を走行せず、安定した拡幅効果を得られなかった。糸道がズレる為に目的のストランド幅を得られず、処理後の厚みも0.14mmと未拡幅のものとあまり変化の無いものだった。
引き続き得られた補強繊維ストランドをカットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したものの、拡幅処理を行わない補強繊維ストランドと同等の物性の物しか得られなかった。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は40と大きく、強度のばらつきが大きく、不均一な成形板であった。
[比較例2]
実施例1において、各治具の中心距離を250mmとし、ニップローラー−凸治具間の渡し距離L=240mm(補強繊維ストランド幅の24倍)としたこと以外は同様の方法で処理を行った。
結果、一時的には15mm程度まで拡幅するものの、糸道がズレて凸治具への入射角度が安定せず一定のストランド幅を有する拡幅ストランドは得られなかった。引き続き得られた補強繊維ストランドをカットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したものの、拡幅処理を行わない補強繊維ストランドと同等の物性の物しか得られなかった。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は31と大きく、強度のばらつきが大きく、不均一な成形板であった。
[実施例5]
補強繊維ストランドとして、東邦テナックス株式会社製の炭素繊維 テナックス(登録商標)(平均直径7μm、フィラメント本数24000本、繊度1600tex、引張強度4000MPa)を用い、ポリアミド樹脂系樹脂(軟化点90℃)を主剤とするサイジング剤にて、幅10mm、厚み0.15mmの偏平状態に集束させたストランド(サイジング剤付着量1.0wt%)を用意した。
このストランドが、上記の凹治具(収束機構)、リングガイド(糸道規制機構)、凸治具(拡幅機構)、凹凸治具(ガイド機構)を順に、ラインスピード40m/分、拡幅前張力6.9Nの条件にて、連続的に給糸体から搬送される条件にて処理を行い、幅17mmに拡幅された補強繊維ストランド(拡幅ストランド)を得た。尚、この時、リングガイド−凸治具間の渡し距離L=180mmであった。また、凹治具、凸治具はピン形状(円柱形)で、側面から棒ヒータ―(Φ12mm)が挿入されており各治具の温度を120℃とした。また、凹治具、凸治具、ガイド治具の中心部は直線に配置されており、リングガイドはリングを通る補強繊維の糸道が、凸治具の頂点と同じ高さになるように配置した。
拡幅処理直後の張力は14Nであり、均一に繊維が分繊され、拡幅後のストランド幅は17mm、厚みは0.10mmであり、2時間連続運転したが、時間が経過しても拡幅後のストランド幅に変化は見られなかった。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は19と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な成形板を得ることができた。
[実施例6]
リングガイド−凸治具間の渡し距離Lを50mmとした以外は、実施例5と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均15Nであり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は18mm、厚みは0.09mmのストランド幅の安定した補強繊維ストランド(拡幅ストランド)が得られた。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は17と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な成形板を得ることができた。
[実施例7]
リングガイド−凸治具間の渡し距離Lを10mmとした以外は、実施例5と同様に処理を行った。拡幅後の張力は平均15Nであり、均一に繊維が分散され、拡幅後のストランド幅は19mm、厚みは0.08mmのストランド幅の安定した補強繊維ストランド(拡幅ストランド)が得られた。
引き続き得られた補強繊維ストランドを、カットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したところ、優れた物性のランダムマットが得られた。かかるランダムマットを成形した。得られた繊維強化複合材料成形板の表面は全体的に樹脂が行きわたっており、樹脂未含浸部分も見られなかった。かかる繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は14と小さく、強度のばらつきの小さな、均一な成形板を得ることができた。
[比較例3]
リングガイド−凸治具間の渡し距離Lを250mm(補強繊維ストランド幅の25倍)とした以外は、実施例5と同様に処理を行った。
結果、一時的には15mm程度まで拡幅するものの、糸道がズレて凸治具への入射角度が安定せず一定のストランド幅を有する拡幅ストランドは得られなかった。引き続き得られた補強繊維ストランドをカットし、繊維と樹脂からなるランダムマットに加工したものの、拡幅処理を行わない補強繊維ストランドと同等の物性の物しか得られなかった。かかるランダムマットを成形し得られた繊維強化複合材料成形板の引張強度の標準偏差は35と大きく、強度のばらつきが大きく、不均一な成形板であった。
1.ストランド幅方向の糸道規制機構
2.拡幅機構
3.ガイド機構
4.補強繊維ストランド
5.凸治具へ入射時のストランド引き取りテンション
6.軌道修正力となるストランド引き取りテンションの反力
7.ゴムローラー
8.ロータリーカッター

Claims (7)

  1. 補強繊維ストランドが糸道規制機構、拡幅機構、及びガイド機構を順に通過し、糸道規制機構から拡幅機構間の距離であるストランド渡し距離Lが下記不等式(1)を満たすことを特徴とする拡幅ストランドの製造方法。
    L≦20×W (1)
    L:糸道規制機構から拡幅機構間のストランド渡し距離(mm)
    W:拡幅前の補強繊維ストランド幅(mm)
  2. 拡幅機構のストランド接触部位が凸部形状である請求項1記載の拡幅ストランドの製造方法。
  3. ガイド機構のストランド接触部位が複数の凹凸を有する形状である請求項1または2に記載の拡幅ストランドの製造方法。
  4. 補強繊維ストランドが糸道規制機構を通過する前に収束機構を通過する請求項1〜3のいずれか1項記載の拡幅ストランドの製造方法。
  5. 糸道規制機構、拡幅機構またはガイド機構が、ロールまたはピン形状である請求項1〜4のいずれか1項記載の拡幅ストランドの製造方法。
  6. 拡幅前の補強繊維ストランドの幅が1mm〜300mmである請求項1〜5のいずれか1項記載の拡幅ストランドの製造方法。
  7. 補強繊維が炭素繊維である請求項1〜6のいずれか1項記載の拡幅ストランドの製造方法。
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