JP2014112036A - 酸洗液の迅速分析装置および迅速分析方法ならびに酸洗処理設備および酸洗液の制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】金属板の酸洗処理に用いられる酸洗液中の不溶性成分濃度および酸濃度について、正確な分析値を迅速に得ることのできる分析装置および分析方法を提供する。また前記分析装置を利用する酸洗処理設備および製品欠陥を抑制できる酸洗液の制御方法を提供する。
【解決手段】赤外領域および/または近赤外領域の光が酸洗液を通過したときの吸光度を測定することのできる分光分析器と、前記分光分析器が発する光および前記酸洗液を透過した光を伝送する伝達手段(光ファイバー)と、前記酸洗液をその内部に保有でき、前記光を通過させることができる測定セルと、前記分光分析器によって取得された吸光度データを用いて不溶性成分濃度と酸濃度を求めることができる演算機とを備えることを特徴とする酸洗液の迅速分析装置および前記迅速分析装置を利用する分析方法、ならびに前記迅速分析装置を備える酸洗処理設備により解決される。
【選択図】図1
【解決手段】赤外領域および/または近赤外領域の光が酸洗液を通過したときの吸光度を測定することのできる分光分析器と、前記分光分析器が発する光および前記酸洗液を透過した光を伝送する伝達手段(光ファイバー)と、前記酸洗液をその内部に保有でき、前記光を通過させることができる測定セルと、前記分光分析器によって取得された吸光度データを用いて不溶性成分濃度と酸濃度を求めることができる演算機とを備えることを特徴とする酸洗液の迅速分析装置および前記迅速分析装置を利用する分析方法、ならびに前記迅速分析装置を備える酸洗処理設備により解決される。
【選択図】図1
Description
本発明は、金属板、とりわけ鋼板の酸洗処理設備における酸洗液の迅速分析装置および迅速分析方法、ならびにこれを利用する酸洗処理設備および酸洗液の制御方法に関する。
従来、ステンレス鋼帯をはじめとする鋼板を製造する際には、熱間圧延や焼鈍処理等を経ることによって、鋼板の表面に金属酸化物を主成分とするスケールが生成する。これが後処理で不具合を生じ、鋼板製品の品質に悪影響を及ぼす。すなわち製品欠陥が発生するので、鋼板を、硫酸、硝酸、弗酸等を含有する酸洗液を張った酸洗槽に通過、浸漬させながら、鋼板に対する脱スケール処理が施される。
一般に、この処理は、酸洗液の脱スケール処理の能力、すなわち酸洗能力は酸洗液の酸濃度に依存する。また、酸洗する鋼板の量が増加するのにともない、酸洗液に含有されている酸が消費され、鋼板表面より鉄イオンやクロムイオン等の金属イオンが溶出する。酸洗液中の酸濃度は、その金属イオンの溶出とともに減少するので、酸洗した鋼板の量に応じて酸洗液の酸洗能力は低下する。酸洗後の鋼板表面を所定品位に保持するためには酸洗液中の酸濃度を適正な範囲、望ましくは一定に維持(制御)することが肝要である。
そこで酸洗槽内の酸洗液の酸洗能力の低下を防ぎ、一定水準の酸洗能力を維持するために、従来から酸洗槽内の酸洗液の酸濃度を調整するための設備が設けられており、酸濃度が低いときは酸を投入し、酸濃度が高いときは給水することで調整するとともに、これらに一部の酸洗液を抜出して廃酸等として廃棄するという排酸手段を組合せることで、酸洗液の酸濃度と量(容積)を適正な範囲に保つように操業されている。
すなわち図3に酸洗処理設備の一例の概略図を示すが、鋼板3は、酸洗槽1の上流側に設置されたピンチロール(ここでは図示していない)で酸洗槽1内に導かれて浸漬ロール10aおよび10bにより酸洗液31中に浸漬され、鋼板3の表面スケール(ここでは図示していない)が酸洗除去された後、酸洗槽1の下流側に設置された水切りロール(ここでは図示していない)で引上げられ、第2酸洗槽あるいは水洗槽(双方とも図示していない)に搬送される。
酸洗槽1には濃度が調整された酸洗液33が供給され、酸洗液31は酸洗槽1の底部付近に設けられた酸洗液排出口から弁36を開くことで排出される。なお酸洗液31の排出は定期的および/または必要に応じて行われている。また酸洗液33の供給は、図示していないが、通常は供給状態を良好とするため、酸洗槽1の側面に複数個設けられた酸洗液供給口から供給される。
排出弁36の操作により酸洗槽1から排出された酸洗液31は、酸洗液循環槽6に移送されて、スケールが酸洗液との反応により鋼板から除去されて生成したスラッジ35を酸洗液循環槽6底部に沈殿させ、底部より排出弁63と積算流量計64を通して除去されてスラッジ・廃酸槽7へ送られる。スラッジ35が除去された上澄み液である酸洗液34は酸洗液循環槽6で酸供給配管41および水供給配管42により新たな酸や水が加えられて酸濃度が調整され、酸洗液循環槽6から供給ポンプ62により再度酸洗槽1へ送られる。
図3の酸洗処理設備においては、酸濃度の分析器8は従来技術によるものであり、たとえば化学的湿式分析の中和滴定装置で分析に30分以上の時間を要するが、これにより酸洗液34の酸濃度を定期的に分析し、この分析結果にもとづいて酸洗液循環槽6に酸が追加される。また酸洗液の量(容積)、すなわち酸洗液循環槽6の液面を一定に保つために、液面計61の信号にもとづいてスラッジの排出とともに、排酸や給水等を実施している。
上述の一例のような酸洗処理設備において定期的に酸洗液31を抜出し、酸洗液との反応によりスケールが鋼板から除去されて不溶性成分に変換したものであるスラッジを酸洗液循環槽6で沈降・除去しているので大きな問題とはならない。しかしながら、とりわけバッチ式の酸洗槽等においては、鋼板の酸洗にともない酸洗槽中に不溶性成分であるスラッジが残存し、蓄積してさらには液中に拡散する。したがって、酸洗槽中に不溶性成分のスラッジが多量に存在すると、酸洗槽を通過する鋼板に対してスラッジが反意図的に付着したり、付着したまま浸漬ロール(図3では10bに相当する)を通過することで挟まれて鋼板に押し傷等が発生し、製品欠陥の原因となる。これらを回避するために、実際の工場操業においては、酸洗槽中の不溶性成分の量が多くなる、すなわち不溶性成分濃度が高くなると、酸洗槽中あるいは酸洗液循環槽中の不溶性成分を回収したり、酸洗槽中の酸洗液自体を交換すること等で対処している。このとき、酸洗槽中の不溶性成分の回収または酸洗液の交換等は、工場の操業担当者の経験より、もしくは製品欠陥が発生したときに行われることが多い。
そこで、安定した酸洗処理を実施し、製品欠陥を抑制するためには、酸洗液中の酸濃度と不溶性成分濃度を迅速に測定し、酸洗液の性状を一定、あるいは所定の範囲内に制御することが望ましい。
酸洗処理設備での酸洗槽における、酸濃度の迅速測定方法としては特許文献1のような近赤外領域の光を用いた方法が知られている。すなわち光透過検出用のフローセル中に測定対象の混酸(酸洗液)を導入し、データ処理装置のマイクロプロセッサにより、A/D変換器でデジタル信号に変換された受光素子の混酸の透過光強度信号から各波長の光が吸収された度合いである吸光度をそれぞれ演算するとともに、演算した各波長の光の吸光度と多変量解析法により予め求めた検量線にもとづいて混酸中の酸の濃度を演算する方法である。
またスラッジの量を事前に予測する方法として特許文献2のような方法が知られている。すなわち特許文献2で開示された従来技術では、ステンレス鋼の焼鈍酸洗設備のスラッジ堆積による鋼板への干渉、スラッジ排出のためのライン停止等の問題点を解消した新規な酸洗処理設備および酸洗方法を提供することを目的として、予め鋼板の鋼種および走行速度等からバッチあたりの基準酸洗処理量と基準排出量を定めて基準酸洗処理量記憶手段と基準排出量記憶手段に記憶し、各基準値と積算酸洗処理量および積算排出量を処理量比較手段および排出量比較手段で比較し、比較値が所定値に達したときに排出バルブと供給ポンプを制御してスラッジを含んだ酸洗液の酸洗液循環槽への排出と供給とを行っている。
一方で、酸洗槽中の酸洗液の酸濃度および容積の制御方法としては、特許文献3に記載されている技術が開示されている。すなわち酸洗槽および酸洗槽と別個に設置した酸洗液循環槽を用いて酸洗槽の酸濃度を制御する鋼板の酸洗処理設備の酸濃度制御方法であって、酸濃度の分析値が目標の設定範囲を外れたときは予め求めた排酸量、給酸量、給水量にもとづき排酸、給酸、給水を行う鋼板の酸洗処理設備の酸濃度制御方法、および酸濃度の分析値が目標の下限値より低いときは給酸のみを行い、目標の上限値より高いときは給水のみを行うことを原則とし、給酸のみの場合または給水のみの場合、結果として酸洗液循環槽内の酸洗液の液面が上限レベルを超えることが予測される場合にのみ排酸と給酸の両者または排酸と給水の両者を行う鋼板の酸洗処理設備の酸濃度制御方法である。
しかしながら、特許文献1により開示された先行技術においては、酸洗液中の不溶性成分量が多くなる、すなわち不溶性成分濃度が高くなると、近赤外の吸収スペクトルに悪影響を及ぼすため、酸洗液の酸濃度について正確な分析値が得られなくなるという問題があった。とりわけ鋼板の酸洗処理においては、スラッジ等の不溶性成分の発生量が多いため、その問題が顕著となる場合が多かった。
また特許文献2で開示された従来技術では、生産計画の変更や突発的な変更等による鋼種の変更や走行速度の変更がある場合は、正しいスラッジの量の推定ができなくなり、この酸洗処理設備が機能しなくなるという問題があった。
さらに特許文献3で開示された技術では、酸洗液の迅速分析技術がないため、サンプリングから分析結果がでるまでの時間、すなわち応答時間が30分以上もかかっていたので、酸洗液の酸濃度や容積の変動が比較的大きくなるという問題があった。しかも、酸洗液循環槽内の酸洗液の液面と酸濃度を同時に満足するように給酸・給水等を行うことは難しく、酸濃度の制御を優先させるため、どうしても給酸、排酸、給水の頻度が多く、酸原単位が増加して経済性および排酸処理等の環境面で好ましくないという側面もあった。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するべくなされたもので、鋼板を連続的に処理する酸洗槽において、酸洗液中に不溶性成分が多量に存在していても、不溶性成分濃度と酸濃度とを同時に迅速分析できる分析装置および分析方法を提供するものであり、また、これを利用する酸洗処理設備、および酸洗能力が安定して不溶性成分濃度が低い、製品欠陥を抑制できる酸洗液の制御方法を提供するものである。
本発明者らは、従来技術の赤外領域および/または近赤外領域の光を用いた分析方法では、酸洗液中に不溶性成分が多量に存在すると、酸濃度が正確に測定できないことから、すなわち不溶性成分濃度と酸濃度との同時分析は不可能であることから、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明をなすに至った。
上記課題を解決するための手段は次の通りである。
第1の発明は、測定対象である酸洗液をその内部に保有でき、赤外領域および/または近赤外領域の光を通過させることができる測定セルと、赤外領域および/または近赤外領域の光を発光でき、前記光が酸洗液を通過したときの吸光度を測定することのできる分光分析器と、前記分光分析器が発する前記光を前記測定セルまで伝送することができ、かつ前記酸洗液を保有する前記測定セルを通過した前記光を前記分光分析器まで伝送することができる伝達手段と、前記分光分析器によって取得された吸光度データを用いて不溶性成分濃度と酸濃度を求めることができる演算機とを有することを特徴とする酸洗液の迅速分析装置である。
第2の発明は、前記迅速分析装置を用い、10000〜8000cm−1領域の波数の光を利用して酸洗液中の不溶性成分濃度を求めることを特徴とする迅速分析方法である。
第3の発明は、第2の発明において、8000〜4000cm−1領域の波数の光の吸光度測定によって得られた吸光度を多変量解析することにより酸洗液中の酸濃度を求めることを特徴とする酸洗液の迅速分析方法である。
第4の発明は、前記迅速分析装置を備えることを特徴とする金属板の酸洗処理設備である。
第5の発明は、前記金属板の酸洗処理設備において、前記迅速分析装置から出力される酸洗液中の酸濃度と、酸洗液の液面計の値にもとづいて、酸および水を供給し、酸洗液の酸濃度に関する所定値および容積に関する所定値に保つことを特徴とする酸洗液の制御方法である。
本発明の分析装置および分析方法によれば、酸洗液中に不溶性成分が多量に存在していても、赤外領域および/または近赤外領域の光を用いて不溶性成分濃度と酸濃度とを同時、かつ迅速に分析することができるという効果が得られる。また、これを利用する酸洗処理設備によって製品欠陥のきわめてすくない鋼板等の金属板を製造できるという効果が得られる。さらに本発明の酸洗液の制御方法によれば、酸洗液の性状、すなわち不溶性成分量と酸濃度を所定値に制御することが可能となるという効果も得られる。
以下、本発明の実施形態について詳述する。
図1は本発明の実施形態に係る鋼板の酸洗処理設備の一部である酸洗槽およびその周辺機器の概略図である。鋼板3は、酸洗槽1内の酸洗液31および酸洗槽2内の酸洗液32に通過、浸漬され、鋼板の表面に存在するスケール(ここでは図示していない)を、硫酸、硝酸、弗酸等を含有する酸洗液によって化学的に処理し、鋼板から除去される。なお、必要に応じて第3槽(ここでは図示していない)等に通板される場合や、第1槽のみの場合もある。図中、5は迅速分析装置であり、測定セル51,52、光の伝達手段53,54、分光分析器55、および演算機56等から構成される。
ここで、酸洗槽1や酸洗槽2内の酸洗液31、32を迅速分析装置5の測定セル51、52によってサンプリングし、分光分析器55を用いて赤外領域および/または近赤外領域の光の吸収された度合い(吸光度)を測定する。測定領域は波数11000〜4000cm−1の範囲が好適である。なお測定セル51、52の位置は、とくに限定されないが、不溶性成分を含むため不均質になりやすい酸洗液を長距離搬送するには測定セルの構成が複雑になるので、酸洗槽1や酸洗槽2等の近傍に設けるほうが好ましい。また測定セル51、52のタイプとしてはバッチタイプ、フロータイプ等を採用でき、そこへ酸洗液を移送してくることによって赤外領域および/または近赤外領域の光の吸光度を測定できる。加えて、酸洗液の入替えさえ問題なければ連通管のようなタイプのものでも構わないほか、光ファイバーおよび/またはミラー等により構成・一体化された光の照射部と受光部、すなわちプローブのようなタイプのものを酸洗液に直接浸漬させてもよい。この場合、光の照射部と受光部の間が上記測定セルの内部に相当する。
さらに分光分析器55や演算機56の位置も限定されるわけではないが、温度・雰囲気等の周辺環境がよくない酸洗槽1や酸洗槽2の近傍よりは環境が安定している分析室4等に設置するほうが分析精度を向上させることができるので、好ましい。これらの場合、たとえば数m〜数百m離れた分析室4にある分光分析器55からの光の伝達手段53、54としては光ファイバーが好適であり、これらにより赤外領域および/または近赤外領域の光が測定セル51、52まで伝送され、測定セル51、52中の酸洗液を通過させて一部吸収された光が再び伝達手段53、54により前記分光分析器55まで伝送されて赤外領域および/または近赤外領域の光の吸光度を測定できる。このとき、赤外領域および/または近赤外領域の光の波長を逐次変化させて吸光度を測定すると、横軸が波長(波数で表示する場合もある)で、縦軸が吸光度である吸収スペクトルが得られる。なお測定セル51、52と分光分析器55が隣接する場合等は、光の伝達手段53、54としては、ミラー等の組合せを用いることもできる。
ここで、連続して酸洗処理する鋼板3の量が増える、すなわち連続酸洗処理時間が長くなるのにともない、酸洗液中に不溶性成分が増加するため、赤外領域および/または近赤外領域の吸光度あるいは吸収スペクトルへの悪影響が生じる。不溶性成分濃度は、赤外領域および/または近赤外領域の光の吸収が存在しない領域、すなわち酸濃度に影響されず不溶性成分のみに影響される領域の吸光度あるいは吸収スペクトルを用いて求める。迅速分析装置5により、予め不溶性成分濃度が既知の試料と不溶性成分が存在しない試料の特定の波数における吸光度、あるいは、特定の波数における吸光度を含む吸収スペクトルを測定し、分光分析器55に付設してある演算機56を用い、前記波数における吸光度と不溶性成分濃度の関係の検量線を作成し、記憶しておく。
そして不溶性成分濃度が未知の試料を測定し、検量線を作成した波数(前記特定の波数)での吸光度を求め、演算機56に記憶させておいた、この検量線を用いて未知試料の不溶性成分濃度を求める。これに利用する波数は、ノイズが小さく、酸濃度の影響を受けない10000〜8000cm−1領域の波数であれば、何れの波数を選んでも特段構わない。すなわち、この赤外領域および/または近赤外領域の吸光度あるいは吸収スペクトルを、赤外領域および/または近赤外領域の光の分光分析器55によって測定後、予め取得しておいた検量線や、必要に応じて多変量解析を用い、不溶性成分濃度に変換する。多変量解析は、たとえば酸成分により6900cm−1近傍に存在する水のOH伸縮の第1倍音部のスペクトルに歪が生じるが、この歪量を解析することで行う。なお多変量解析に際しても、上記演算機56を用いることができるし、別個に演算機を設けてもよい。
一方、上記不溶性成分の悪影響を取除いて、酸濃度の正確な分析値を得るため、酸洗液中に不溶性成分が存在しない場合と、存在する場合の10個以上のデータからなる吸光度データ群または吸収スペクトルを予め測定しておき、演算機56により各波数において両者の比を求め、演算機56に記憶しておく。このときの不溶性成分の濃度に関しては、実際の酸洗液で想定される濃度変動の範囲内で、補間(内挿)できるように数点測定しておくことが好ましい。
そして不溶性成分が存在する場合、演算機56を用いて、その吸光度データ群または吸収スペクトルに予め求め、記憶しておいた比で割ることで、不溶性成分の悪影響を取除いた、不溶性成分が存在しない状態に相当する吸光度データ群または吸収スペクトルに変換する。すなわち補正した吸収スペクトルを得る。ここで用いる光の波長はとくに限定されないが、8000〜4000cm−1の領域にあるものが好ましい。8000cm−1超えでは酸濃度による吸光度への影響が小さく、4000cm−1未満では酸洗液中に存在するほかの物質による吸収が大きすぎて酸の影響を検出することが困難になる。そこで、この不溶性成分の悪影響がない状態に変換された吸光度データ群または吸収スペクトルに対して多変量解析により酸濃度を求める。このときの多変量解析は、たとえば、予め赤外領域および/または近赤外領域の光の吸光度を用いる分析と化学分析による分析値の相関が良好になる波数範囲を求めておき、その波数範囲に対して解析することで実施する。なお、このときの多変量解析に際しても、上記演算機56を用いることができるし、別個に設けた演算機を用いてもよい。ここで、従来技術のように比較的時間がかかる中和滴定をするわけではなく、赤外領域および/または近赤外領域の光の利用による吸光度データ群または吸収スペクトル測定と多変量解析は最短1分での実行が可能なため、分析時間(応答時間)を非常に短くすることができる。
以上により、不溶性成分濃度と酸濃度とが未知の酸洗液試料に対して赤外領域および/または近赤外領域で吸光度データ群または吸収スペクトルを測定し、その吸光度データ群または吸収スペクトルから、従来は同時に求めることができなかった不溶性成分濃度と酸濃度とを正確かつ迅速に求めることができるようになる。
次に、本発明による迅速分析方法を用いた鋼板の好適な酸洗処理の一例について述べる。すなわち、一般に、鋼板の製造工場においては、工場の操業担当者が鋼板上に不溶性成分であるスラッジ等が付着して生じる製品欠陥の発生に関する不溶性成分濃度の閾値を把握しているので、酸洗槽中の不溶性成分濃度の閾値を予め設定しておく。そして、上述した分析装置および分析方法により酸洗槽中の不溶性成分濃度を監視し、不溶性成分濃度がその閾値に近づいたら酸洗液の全量を入替えたり、あるいは不溶性成分濃度をその閾値以下の一定値を保つように酸洗液を部分的に入替えたりする等によって製品欠陥の発生を大幅に抑制できる。
さらに以下には、本発明による鋼板の酸洗処理設備および酸洗槽中の酸洗液の制御方法に関して説明する。
図2は本発明に係わる鋼板の酸洗処理設備の酸洗槽1および周辺機器類の概略図である。本発明による上記迅速分析装置5を備えていることが特徴である。
鋼板3は、酸洗槽1内に通板され、表面に存在するスケール(ここでは図示していない)が化学的に溶解されて鋼板上から除去される。ここには明示していないが、必要に応じて第2槽、第3槽といった複数の酸洗槽内に通板されることもある。
酸洗槽1には濃度調整されている酸洗液33が供給され、酸洗液31は酸洗槽1の底部に設けられた酸洗液排出口から排出される(図示していない)。また酸洗液33の供給は、図示していないが、通常、酸洗槽1の側面に複数個設けられた酸洗液供給口から供給されることが酸洗液に濃度勾配が生じないという点で好ましい。
図2で、酸洗液31は排出弁36の操作により酸洗槽1から排出されて、酸洗液循環槽6に集められ、酸洗液中に懸濁しているスラッジ35を酸洗液循環槽6底部に沈殿させ、底部より排出弁63を通して除去される。酸洗液循環槽6における酸洗液の保存量(所定値)は酸洗槽1のサイズを考慮して決めるが、一般的には容積で数十m3前後である。なお酸洗液31の排出は定期的に行われているので、酸洗槽1にスラッジ等の不溶性成分が蓄積することがない。スラッジ35を除去した上澄み液である酸洗液34は、測定セル51および光伝達手段(光ファイバー)53や、図示していないが分光分析器55・演算機56を備えている迅速分析装置5を用いて分析し、その結果にもとづいて酸洗液循環槽6で酸供給配管41および水供給配管42により新たな酸や水が加えられて酸濃度が調整され、酸洗液循環槽6から供給ポンプ62により再度酸洗槽1へ送られる。ここで、本発明による上記迅速分析装置5から最短1分ごとに分析結果が出力されるので、酸濃度を所定値となるように微調整でき、安定した性状の酸洗液に制御できる。なお、酸濃度の所定値は通常数質量%〜数十質量%の範囲で、鋼種や操業条件等により適宜決める。
以下に、本発明の実施例について述べ、本発明の一端をより具体的に説明する。
図1に示すような構成を有する酸洗処理設備において、酸洗液の不溶性成分濃度および酸濃度を分析した。
酸洗槽1の近傍に設置してある測定セル51に、酸洗液31を取込み、光の伝達手段(光ファイバー)53を介して酸洗液31の吸光度を、分光分析器55・演算機56等を備えている迅速分析装置5によって測定した。なお本実施例においては、酸洗液31の不溶性成分濃度および酸濃度は、赤外分光法のうち近年発展の著しい近赤外領域の光を利用する近赤外分光法によって分析した。吸光度は、波長が0.9〜2.5μm(波数が11000〜4000cm−1)の領域で測定し、近赤外領域の吸収スペクトルを得た。この吸収スペクトルを用いて不溶性成分濃度および酸濃度を求めた。ここで、不溶性成分としてはFeF3およびFe2O3、酸としてはHNO3とHFの混酸である。なお以下に述べる分析結果は1分間で得られた。
分析の詳しい手順としては、まず不溶性成分濃度が0質量%、0.25質量%、0.50質量%、0.75質量%、1.00質量%の濃度が既知の酸洗液標準試料を用意し、それぞれの試料に対して近赤外領域の光の吸収スペクトルを測定した。測定結果を図4に示す。つぎに、それらの吸収スペクトルに対して、各波数での不溶性成分濃度が0質量%に対する比(0.25〜1.00質量%酸洗液標準試料の吸光度/0質量%酸洗液標準試料の吸光度)を算出し(図5)、さらに波数が10000cm−1での吸光度と不溶性成分濃度の検量線を作成した。図6に結果を示す。
そこで、不溶性成分濃度および酸濃度が未知の酸洗液試料の吸収スペクトル測定を行った。そのスペクトルを図7に示す。まず不溶性成分濃度は以下のように求めた。未知試料の波数10000cm−1における吸光度を求め、図6に示す不溶性成分濃度と波数が10000cm−1における吸光度の関係の検量線を用いて、吸光度を不溶性成分濃度に変換した。その結果、不溶性成分濃度は0.45質量%と求まった。一方、不溶性成分を濾過により回収して、その質量を秤量し、すなわち重量法により不溶性成分濃度を分析したところ0.43質量%であり、よい一致を示した。
つぎに不溶性成分濃度0質量%に対応する補正スペクトルの導出を行う。求めた不溶性成分濃度(0.45質量%)に対しての不溶性成分濃度0質量%試料の吸光度に対する比を求めた。その結果を図8に示す。このとき、図5に示したスペクトル比は不溶性成分濃度が0質量%、0.25質量%、0.50質量%、0.75質量%、および1.00質量%と離散的な値しか持っていないので、各波数での中間値に対する吸収スペクトル比は補間(内挿)することで求めた。そして、図7の補正をするまえの実測の吸収スペクトルを、波数ごとに、図8に示す不溶性成分濃度(0.45質量%)に対する濃度0質量%吸光度の比で割ることにより、不溶性成分濃度が0質量%に相当する補正後の吸収スペクトルを得た。この補正後の吸収スペクトルを図9に示す。この図9の補正後の吸収スペクトルに対して、微分処理によりノイズの影響を除去し、さらに予め赤外領域および/または近赤外領域の光の吸光度を用いる分析と化学的湿式分析による分析値の相関が良好になるよう求めておいた波数範囲(本実施例では7200〜5350cm−1)のスペクトルを用いて多変量解析を行い、酸濃度を求めたところ、23.5質量%であった。一方で、この試料について中和滴定を用いる化学的湿式分析により酸濃度を求めたところ、23.7質量%であり、誤差範囲内であると理解された。
以上より、不溶性成分濃度と酸濃度が未知の酸洗液試料に対して吸収スペクトルを測定し、その吸収スペクトルから従来は同時に求めることができなかった不溶性成分濃度と酸濃度を正確、かつ迅速に求めることができるようになった。また酸洗槽2の酸洗液32についても、酸洗槽2の近傍に設置してある測定セル52、光の伝達手段(光ファイバー)54、分光分析器55、および演算機56によって同様に分析できる。
実施例1と同様に、複数の鋼板を用い、連続的に通板している間はスラッジ(不溶性成分)を抜出さないような操業を行うというバッチ式の酸洗処理設備を有する鋼板製造工場において、鋼板の酸洗処理を進めるとともに、酸洗槽中の酸洗液を随時サンプリングし、上記迅速分析装置によって不溶性成分量を求めた。分析結果の一例を図10に示す。また図10には、この酸洗槽で、鋼板上に不溶性成分が付着して生じる製品欠陥の発生に関する従来技術の重量法による不溶性成分量の分析で決めた経験的な閾値を示す。
本実施例においては、通板時間が17Hrまでは製品欠陥の発生は認められなかったが、18Hrを超えると認められるようになった。また通板時間が19〜22Hrでは、製品欠陥の発生が顕著に増えた。
本実施例によれば、不溶性成分量を随時測定してその推移を管理することで、製品欠陥の発生を大幅に抑制できる。
図2に示す鋼板の酸洗処理設備において、鋼板3を酸洗処理しながら、酸洗液循環槽6における酸洗液の酸濃度および容積の制御を行った。なお、この酸洗処理設備においては、必要に応じて、すなわち酸洗液循環槽6の底部に堆積したスラッジ35を検尺して、弁63によって抜出している。
液面計61によって酸洗液循環槽6が保有している酸洗液の容積(量)を求め、目標の酸洗液の容積との差を算出し、投入に必要な酸および水の容積を求めた。同時に、酸洗液循環槽6の近傍に設置してある測定セル51に酸洗液循環槽6の酸洗液を取込み、本発明による迅速分析装置5を利用して酸洗液の酸濃度を分析した。そして、得られた酸濃度をもとに、目標の酸濃度となるように酸と水の割合を算出し、それぞれの供給量を求めて酸供給配管41および水供給配管42、弁43と45、ならびに積算流量計44と46を利用して供給した。なお分析および調整は3分ごとに行った。
図11(a)および図12(a)には、それぞれ酸濃度と酸洗液の容積の推移を示す。
また比較例として、従来技術による分析を30分ごとに行った以外は、得られた分析結果にもとづき実施例3と同様な調整を行った。図11(b)および図12(b)には、それぞれ酸濃度および酸洗液の容積の推移を示す。
以上示したように、本発明例によるほうが酸洗液の酸濃度および容積の変動が小さいことは明らかである。したがって、本発明例よれば、酸洗液の酸濃度と容積を安定して制御できることがわかる。
1 第1酸洗槽
2 第2酸洗槽
3 鋼板
4 分析室
5 迅速分析装置
6 酸洗液循環槽
7 スラッジ・廃酸槽
8 従来技術による酸濃度分析器
10 浸漬ロール(鋼板受入れ側10a、鋼板払出し側10b)
31 酸洗液
32 酸洗液
33 酸洗液(酸濃度調整後)
34 酸洗液(酸洗循環槽中)
35 スラッジ
36 弁
37 流量計
41 酸供給配管
42 水供給配管
43 弁
44 積算流量計
45 弁
46 積算流量計
51 測定セル(第1酸洗槽用)
52 測定セル(第2酸洗槽用)
53 第1酸洗槽用の伝達手段(光ファイバー)
54 第2酸洗槽用の伝達手段(光ファイバー)
55 分光分析器
56 演算機
61 液面計
62 供給ポンプ
63 弁
64 積算流量計
81 弁
2 第2酸洗槽
3 鋼板
4 分析室
5 迅速分析装置
6 酸洗液循環槽
7 スラッジ・廃酸槽
8 従来技術による酸濃度分析器
10 浸漬ロール(鋼板受入れ側10a、鋼板払出し側10b)
31 酸洗液
32 酸洗液
33 酸洗液(酸濃度調整後)
34 酸洗液(酸洗循環槽中)
35 スラッジ
36 弁
37 流量計
41 酸供給配管
42 水供給配管
43 弁
44 積算流量計
45 弁
46 積算流量計
51 測定セル(第1酸洗槽用)
52 測定セル(第2酸洗槽用)
53 第1酸洗槽用の伝達手段(光ファイバー)
54 第2酸洗槽用の伝達手段(光ファイバー)
55 分光分析器
56 演算機
61 液面計
62 供給ポンプ
63 弁
64 積算流量計
81 弁
Claims (5)
- 測定対象である酸洗液をその内部に保有でき、赤外領域および/または近赤外領域の光を通過させることができる測定セルと、
赤外領域および/または近赤外領域の光を発光でき、前記光が酸洗液を通過したときの吸光度を測定することができる分光分析器と、
前記分光分析器が発する光を前記測定セルまで伝送することができ、かつ酸洗液を保有する前記測定セルを通過した光を前記分光分析器まで伝送することができる伝達手段と、
前記分光分析器によって取得された吸光度データを用いて不溶性成分濃度と酸濃度を求めることができる演算機と、
を有することを特徴とする酸洗液の迅速分析装置。 - 請求項1記載の酸洗液の迅速分析装置を用い、10000〜8000cm−1領域の波数の光を利用して酸洗液の吸光度測定を行って酸洗液中の不溶性成分濃度を求めることを特徴とする酸洗液の迅速分析方法。
- 8000〜4000cm−1領域の波数の光の吸光度測定によって得られた吸光度を多変量解析することにより酸洗液中の酸濃度を求めることを特徴とする請求項2に記載の酸洗液の迅速分析方法。
- 酸洗槽と、該酸洗槽内の酸洗液水位を測定する液面計と、請求項1記載の酸洗液の迅速分析装置と、を備えることを特徴とする金属板の酸洗処理設備。
- 請求項4記載の金属板の酸洗処理設備において、前記酸洗液の迅速分析装置から出力される酸洗液の酸濃度と前記液面計の測定値にもとづいて、酸および水を前記酸洗槽に供給し、酸洗液の酸濃度および容積を所定値に保つことを特徴とする酸洗液の制御方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2012265882A JP2014112036A (ja) | 2012-12-05 | 2012-12-05 | 酸洗液の迅速分析装置および迅速分析方法ならびに酸洗処理設備および酸洗液の制御方法 |
Applications Claiming Priority (1)
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JP2014112036A true JP2014112036A (ja) | 2014-06-19 |
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ID=51169265
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN104766130A (zh) * | 2014-12-31 | 2015-07-08 | 中冶南方工程技术有限公司 | 一种多卷冷轧酸洗带钢优化生产排序的方法 |
-
2012
- 2012-12-05 JP JP2012265882A patent/JP2014112036A/ja active Pending
Cited By (1)
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CN104766130A (zh) * | 2014-12-31 | 2015-07-08 | 中冶南方工程技术有限公司 | 一种多卷冷轧酸洗带钢优化生产排序的方法 |
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