JP2014111591A - 有機成分を全く含まない、無機化合物の木材保存剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 木材又は発泡ウレタン材に対する塗料の本塗装に先立って前記木材又は前記発泡ウレタン材に対する下塗装として塗布する木材保存剤である。リチウムシリケートを含む主剤と、ソディウムシリケートを含む副剤を備えた無機化合物の木材保存剤である。リチウムシリケートとソディウムシリケートの割合が、85/15から50/50の範囲であれば防蟻効果、防腐効果を発揮することができる。
【選択図】図1
Description
最近の住宅は省エネの観点から高気密・高断熱化処理が施されており、使用木材に結露が生じやすい環境であり、十分な乾燥ができない状態が継続されてしまうことも多い。また、近年、地球温暖化傾向が顕著となり、集中豪雨がもたらす水害により木造家屋の基礎部分が覆水してしまう床下浸水などが発生する可能性も高くなってきた。ここで、腐朽菌は自然界のどこにでも存在する菌であるため、木造家屋の木材に結露が生じて水分で覆われてしまったり、木造家屋の基礎部分が雨などで覆水してしまったりすると、腐朽菌やカビが繁殖してしまい、深刻な被害を受けることがあり得る。その後自然乾燥しても一度水分で覆われた木材は十分には乾燥することは難しく、腐朽菌による腐蝕被害、カビによる美観の劣化や疾病の発生のリスクを免れることはできない。
シロアリは高温多湿を好むが、生命力が強く、日本、アジア、南北アメリカ、ヨーロッパをはじめ、熱帯から亜寒帯まで広く分布することが知られている。シロアリの食物はセルロース質の木材であり、特に木造家屋の木材も被害に逢いやすい。一度シロアリの食害にあった木材は内部が食い荒らされ、構造的強度が低下し、木造家屋が崩壊する場合もあり得る。
現在、市場にある防蟻剤、防腐剤、防カビ剤の殆どは有機系製剤である。有機系製剤とは、その成分のほとんどが有機材料から成るものである。
近年様々な防蟻剤、防腐剤、防カビ剤が開発されてきたが、いわゆる有機系が多いものであり、有効成分である防蟻剤、防腐剤、防カビ剤を有機溶剤に溶解させたものが主流を占めている。有機溶剤としては、例えば沸点が200℃以上で有効成分や補助成分に対する溶解力が十分であり、低臭性で人畜に対する安全性が高く環境汚染の少ないものから選ばれる。例えば、蒸留範囲が290〜305℃のフェニルキシリルエタンなどの高沸点芳香族系有機溶剤などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
現在、市場で流通している無機系の防腐剤、防蟻剤として、成分のすべてが無機成分からなる塗料はほとんど存在しない。その理由は、防蟻剤、防腐剤、防カビ剤中の無機成分は伸縮に乏しいため、無機成分のみで木材保存塗料を作製した場合、塗料膜の伸縮に追随性が無く、塗料膜が剥離してしまうからである。そこで、追随性を補完するために成分の一部に有機系素材を配合しているのが実情である。つまり、成分の一部に有機系素材を含む木材保存塗料であり、成分のすべてが無機系素材からなる木材保存塗料はまだ開発されていない。
リチウム化合物として、リチウムシリケート、酸化リチウム、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムのいずれかまたはそれらの組み合わせであっても良い。
なお、前記ナトリウム化合物として、ソディウムシリケート、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムのいずれかまたはそれらの組み合わせであっても良い。
まず、リチウム化合物としてはリチウムシリケートを主成分とする化合物であり、ナトリウム化合物としてはソディウムシリケートを主成分とする化合物である場合について述べる。
発明者らは長年の防蟻剤開発、防腐剤開発、防カビ剤開発の試行錯誤と実験を通じて、人体にとっては安全と思われる無機化合物の中から防蟻性、防腐性、防カビ性を備えた成分を検証してきた結果、酸化リチウムにある程度の防蟻効果、防腐効果、防カビ効果が有ることが検証できた。
[表1]の結果から判断すると、リチウムシリケート原液は、注入処理を行なった上に耐候操作を行なえば、JIS試験を合格する防蟻性、防腐性、防カビ性を発揮できる物質であることが分かる。即ち、市販のリチウムシリケートには、希釈倍率を考慮しない場合、注入処理では良好な防蟻性、防腐性、防カビ性効果があることが分かった。
しかし、発明者らは、リチウムシリケートは希釈してしまうと、その防腐性、防蟻性が小さくなってしまうことに気付いた。リチウムシリケートを希釈した場合の防蟻性、防腐性、防カビ性について調べた結果を[表2]に示す。
試験は京都大学生存圏研究所居住圏環境共生分野において行った。試験方法はφ55のろ紙をシャーレに置きリチウムシリケート溶液を0.4ml滴下し、イエシロアリの職アリ30頭を投入し、死虫数をカウントする。試験回数は各3回行った。[表2]中、値は全て平均値である。リチウムシリケート希釈液はリチウムシリケート原液を10倍希釈したものを用いた。
主剤のリチウムシリケートと副剤のソディウムシリケートの割合については、90:10から50:50の範囲に配合することが好ましい。
製剤の一例としては、主剤のリチウムシリケートと副剤のソディウムシリケートの割合は、75:25の比率に配合したものとする。
また、製剤における酸化リチウムまたは酸化ソディウムの配合が2.5モルから7.5モル、二酸化ケイ素の配合が1.0モルから4.0モルの範囲の配合となるように調製することが好ましい。
なお、調製した製剤の防腐性、防蟻性の効果確認については実施例などにおいて詳述する。
上記では、リチウム化合物としてリチウムシリケートを用い、ナトリウム化合物としてソディウムシリケートを用いたものを説明したが、シリケート化合物を用いずに、リチウム化合物として、酸化リチウム、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムのいずれかまたはそれらの組み合わせとし、ナトリウム化合物として、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムのいずれかまたはそれらの組み合わせとすることができる。
また、製剤成分におけるSiO2成分の働きの一つとして、塗布対象物への接着性があるが、他の物質であっても接着性を与えるものであればSiO2に代えて用いることができる。例えば、アモルファス酸化チタンを配合することができる。
本発明の木材保存剤は、シロアリに対する防蟻性、腐朽菌に対する防腐性、カビに対する防カビ性が確保されるとともに、無機系化合物のみからなる製剤であるため木材又は発泡ウレタン材表面への定着性や、表面下への含浸性が十分に確保することができる。また、本発明にかかる無機系化合物からなる木材保存剤によれば、従来の有機系木材保存剤のように蒸散するという問題が発生せず、環境に対して有害物質を放出することもない。
本発明の無機系の木材保存剤は、リチウムシリケートを含む主剤と、ソディウムシリケートを含む副剤を必須成分として含有する。
リチウムシリケートとは、アモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であり、ソディウムシリケートとは、アモルファスシリカと酸化ナトリウムとの化合物である。
主剤であるアモルファスシリカと酸化リチウムとの化合物であるリチウムシリケートとして、無水珪酸(SiO2)と酸化リチウム(Li2O)とを所定条件下で混合反応させてシリケート結合させたものが好適に用いられる。リチウムシリケートは、リチウムと二酸化ケイ素が、Si−O−Liの結合を示すもので、この状態での二酸化ケイ素はアモルファスシリカであって、固形物を含むものではない。
製剤としては、塗布性や膜硬度を考慮すると、使用するリチウムシリケートの濃度は重量比15〜25wt%程度でモル比(SiO2/Li2O)が2〜7.5の範囲のものが特に好ましい。この実施例において特に表示がない場合、モル比(SiO2/Li2O)は2.77とする。
リチウムシリケートは、無機物質でありながらもある程度の接着性がある。また、pHは11前後とアルカリ性を示す。
副剤であるソディウムシリケート(ケイ酸ナトリウム)は多様な用途で広く用いられている化合物である。ソディウムシリケートは一般にNa2O・nSiO2・mH2Oの分子式で表され、Na2OとSiO2のモル比である係数nによって、ソディウムシリケートの物性と用途が異なる。一般にはモル比n=0.5〜4.0の範囲である。モル比nが1以下のものは結晶性珪酸ソーダと呼ばれ、モル比nが1以上の物は非結晶性である。このモル比を連続的に変化させることが可能で、水溶液あるいは結晶粉末として存在する。この実施例では、特に表示がない場合はモル比3.23のものを例に説明する。
本発明者は、主剤であるリチウムシリケート、副剤であるソディウムシリケートがそれぞれ防蟻性、防腐性、防カビ性の効能を持つことを、実験を通じて確かめたが、さらにその配合割合についても研究を重ねてきた結果、好ましい主剤と副剤の配合割合について知見を得た。
まず、防蟻性を確認するためのシロアリ濾紙試験について述べる。
試験用の製剤として、主剤であるリチウムシリケート、副剤であるソディウムシリケートの割合を様々に調整した製剤を用意した。ここでは、以下の[表3]に示す製剤1、製剤2、製剤4の3パターンを用意した。
なお、比較対象として非イオン水を0.4ml滴下塗布した濾紙(CONTROL)を入れたシャーレも作成した。全てのシャーレにイエシロアリの職蟻もしくは擬職蟻を30頭投入し、シャーレの蓋をした上で、全てのシャーレを予め非イオン水を浸み込ませた脱脂綿を底部に敷いた容器にいれ、温度28℃±2℃、相対湿度60%以上のシロアリ飼育室に置き、時間経過と死中率を調べた。実験は21日間にわたって行われ、シロアリによる濾紙の食害を観察した。実験は京都大学生存圏研究所居住圏環境共生分野において行った。実験は3回にわたって行った。
図1は実験開始から7日経過した状態を示している。図2は実験開始から15日経過した状態を示している。図3は実験開始から21日経過した状態を示している。
各実験において個体差の影響を小さくするため、各製剤とも3つの試験区分を用意して行った。各図において、3つの試験区分それぞれの結果を上から並べて示している。
まず、図1を見て7日経過時点での結果を考察する。
まず、無施用のControlのシャーレを見ると、シロアリは全数生存しており、濾紙の食害も多く見られている。つまり、実験環境で7日経過後した状態において、防蟻剤などが施用されない限りシロアリが元気に生存する環境が保たれていることが確認できる。
この結果から、製剤1は7日経過後において多数のシロアリが死亡していることより十分に高い殺蟻性が認められる。食害についても少なく高い防蟻性が発揮されているが、濾紙の周縁は少し食害されてしまうことが分かった。
この結果から、製剤2においても7日経過時点でシロアリが少し死んでいるため、殺蟻性が認められる。しかし、死虫率は製剤1に比べて低下しており、製剤1に比べて同等とまでは言えず殺蟻性は低下していると言える。食害については、コントロールに比べて食害が少なく防蟻性が認められるが、周縁部分は食害されていることから製剤1の防蟻性よりは低下していることが分かった。
この結果から、製剤3は7日経過後において多数のシロアリが死亡していることから十分に高い殺蟻性が認められる。死虫率も製剤1に比べて若干高くなっており、製剤1よりも殺蟻性が向上していることが確認できる。食害については、周縁部分も含めて濾紙の食害はほとんどなく、もっとも高い防蟻性が発揮されていることが分かった。
この結果から、製剤4においても7日経過時点でシロアリが少し死んでいるため、殺蟻性が認められる。しかし、死虫率は製剤1に比べて低下しており、製剤1に比べて殺蟻性は低下していると言える。食害については、コントロールに比べて食害が少なく防蟻性が認められるが、周縁部分は食害されていることから製剤1の防蟻性よりは低下していることが分かった。
まず、無施用のControlのシャーレを見ると、シロアリは全数生存しており、濾紙の食害も多く見られている。つまり、実験環境で15日経過後した状態においても、防蟻剤などが施用されない限りシロアリが元気に生存する環境が保たれていることが確認できる。
この結果から、製剤1の殺蟻性は15日経過しても十分に維持されており、十分に高い殺蟻性が認められる。また、製剤1の防蟻性も15日経過しても維持されていることが分かった。
この結果から、製剤2の殺蟻性は15日経過しても十分に維持されており、十分な殺蟻性が認められる。しかし、生存頭数は製剤1よりも多いため、製剤1の殺蟻性よりも若干低くなっている。製剤1の防蟻性も15日経過しても維持されていることが分かった。
この結果から、製剤3の殺蟻性は、15日経過しても十分に維持されており、十分な殺蟻性が認められる。さらにその殺蟻性は、製剤の中で死亡頭数がもっとも多いため、もっとも高い殺蟻性が発揮されていることが分かる。食害についてもほとんどなく、もっとも優れた防蟻性が発揮されていることが分かった。
この結果から、製剤4の殺蟻性は15日経過しても維持されており、殺蟻性が認められる。しかし、生存頭数は製剤1、2、3よりも多いため、製剤の中でもっとも殺蟻性が低い。また、食害がコントロールに比べて少ないため、防蟻性は15日経過しても維持されていると言えるが、食害が製剤1、2、3に比べて多く、防蟻性は製剤の中でもっとも低いことが分かった。
まず、無施用のControlのシャーレを見ると、シロアリは全数生存しており、濾紙の食害も多く見られている。つまり、実験環境で21日経過後した状態においても、防蟻剤などが施用されない限りシロアリが元気に生存する環境が保たれていることが確認できる。
この結果から、製剤1の殺蟻性は21日経過しても十分に維持されており、十分に高い殺蟻性が認められる。また、製剤1の防蟻性も21日経過しても維持されていることが分かった。
この結果から、死虫率は製剤1に比べて低いが、シロアリを殺蟻する効果があることが確認できる。製剤2の殺蟻性は21日経過しても十分に維持されており、高い殺蟻性が認められる。また、製剤2の防蟻性も21日経過しても維持されていることが分かった。
この結果から、製剤3の殺蟻性は、21日経過しても十分に維持されており、十分な殺蟻性が認められる。さらにその殺蟻性は、製剤の中で死亡頭数がもっとも多いため、もっとも高い殺蟻性が発揮されていることが分かる。食害についてもほとんどなく、もっとも優れた防蟻性が発揮されていることが分かった。
この結果から、製剤4の殺蟻性は21日経過しても維持されており、殺蟻性が認められる。しかし、生存頭数は製剤1、2、3よりも多いため、製剤の中でもっとも殺蟻性が低い。また、食害がコントロールに比べて少ないため、防蟻性は21日経過しても維持されていると言えるが、食害が製剤1、2、3に比べて多く、防蟻性は製剤の中でもっとも低いことが分かった。
また、リチウムシリケートとソディウムシリケートとの配合割合については、製剤1、製剤2、製剤3、製剤4の順に、[100/0]、[85/15]、[75/25]、[65/35]であるところ、殺蟻性・防蟻性の高さは、製剤3、製剤1、製剤2、製剤4、コントロールの順である。つまり、リチウムシリケートとソディウムシリケートの割合は、[100/0](製剤1)から[65/35](製剤4)の前後の範囲であれば、殺蟻性・防蟻性が発揮でき、さらに、リチウムシリケートとソディウムシリケートの割合が[75/25](製剤3)の前後の範囲であれば特に高い防蟻効果が得られることが分かった。
主剤であるリチウムシリケートを構成する酸化リチウムは、その一部が溶液中で水酸化リチウム溶液となったり、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸リチウムに変化して沈殿したりすることが理論上有り得る。しかし、溶液中の酸化リチウムの含有量がごく少量のため、水酸化リチウムや炭酸リチウムへ変化してしまう量も多くないと考えられる。なお、上記の変化により水酸化リチウム、炭酸リチウムが生成したとしても、上記実験で確認したように、リチウムシリケートを含む主剤とソディウムシリケートを含む副剤を備えた無機化合物の木材保存剤における殺蟻効果・防蟻効果について大きな支障を来たすことはないことが分かった。
ちなみに、再掲すると、製剤1は、リチウムシリケートのみでソディウムシリケートを含まない製剤、製剤2は、リチウムシリケート85%、ソディウムシリケート15%を含む製剤、製剤3は、リチウムシリケート75%、ソディウムシリケート25%を含む製剤、製剤4は、リチウムシリケート65%、ソディウムシリケート35%を含む製剤である。
図4(a)は、製剤1(Li2O/SiO2:Na2O/SiO2 100:0)の1倍希釈溶液、5倍希釈溶液、10倍希釈溶液の試験結果後の濾紙の食害状況を示す図である。図4(b)はシロアリの死虫率を示している。
図4に示すように、希釈率が大きくなるにつれ、食害も大きくなり、死虫率も下がってゆく。ここで、10倍希釈になると3週間後の死虫率は20%前後であり、その後も死虫率は上がらないように見受けられる。つまり、製剤1では希釈率が大きくなると防蟻性、殺蟻性が十分には得られないおそれがあることが分かる。
図5に示すように、希釈率が大きくなるにつれ、食害も大きくなり、死虫率も下がってゆく。ここで、10倍希釈になっても3週間後の死虫率は80%程度、4週間後の死虫率は100%である。つまり、製剤2では希釈率が大きくなっても防蟻性、殺蟻性が十分に得られるものであることが分かる。
図6に示すように、希釈率が大きくなるにつれ、食害も大きくなり、死虫率も下がってゆく。ここで、10倍希釈になっても3週間後の死虫率は100%近くである。つまり、製剤3では希釈率が大きくなっても防蟻性、殺蟻性が十分に得られるものであることが分かる。製剤2よりも製剤3の方が防蟻性、殺蟻性が大きいことも分かる。
図7に示すように、希釈率が大きくなるにつれ、食害も大きくなり、死虫率も下がってゆく。ここで、10倍希釈になっても4週間後の死虫率は50%近く、その後も徐々に死虫率が上がって行くことが分かる。つまり、製剤4では希釈率が大きくなっても防蟻性、殺蟻性が十分に得られるものであることが分かる。ただし、製剤3や製剤2に比べて防蟻性、殺蟻性が少し下がっていることが分かる。
製造において、原料確保の容易性、製造工程の容易性などを考えると、原料として流通量が多いリチウムシリケートとソディウムシリケートと用意し、それらを混合させて製剤を得る製法があるが、他の製法として水酸化リチウムに水酸化ナトリウムを加え、粒子径の小さなシリカゲルまたはコロイダルシリカまたはアモルファスシリカをそれぞれ所定の配合率で混合することにより製造する製法もあり得る。
(試験製剤)
試験に用いる木材保存剤として、配合濃度を変えた試験製剤を作製し、また、その製剤の希釈率を3パターン用意し、培地混釈法により防腐性能の評価試験を行った。
試験用の製剤は、主剤であるリチウムシリケート、副剤であるソディウムシリケートの割合を様々に調整した製剤を用意した。ここでは、以下の[表4]に示す製剤1、製剤3、製剤5の3パターンを用意した。
培地はグルコース1%、ペプトン0.3%、麦芽抽出物1.5%、寒天1.6%のものを作製した。
試験に用いた腐朽菌の菌種は以下の2種類である。
オオウズラタケ(褐色腐朽菌、Tyromyces palustris、TYP.と略)
カワラタケ (白色腐朽菌、Coriolus versicolor、COV.と略)
実験方法は以下の方法で行った。
図8は培地を利用した腐朽試験の試験方法を説明する図である。
まず、あらかじめ殺菌処理した直径13mmの濾紙に、製剤1、製剤3、製剤5に関するそれぞれの希釈倍率1倍、5倍、10倍の溶液0.2ml滴下したものを用意する。なお、比較対象実験としてあらかじめ殺菌処理し、非イオン水を0.2ml滴下塗布した濾紙(Control)も用意した。なお、これらの作業は、全てクリーンベンチ内で行った。
シャーレには裏面に種菌の中心通る2本の線を引いて、菌糸の成長を目視しやすいようにした。シャーレは上皿と下皿がはめ込み式のものを使用する。
実験は京都大学生存圏研究所において行った。
まず、無施用の濾紙(Control)の結果を見る。
図9は無施用の濾紙(Control)に関するカワラタケ(COV)の腐朽試験の結果、および、無施用の濾紙(Control)に関するオオウズラタケ(TYP)の腐朽試験の結果を示す図である。上段はカワラタケ(COV)の腐朽試験の結果、下段はオオウズラタケ(TYP)の腐朽試験の結果を示している。
図9に示すように、カワラタケ(COV)の試験結果、オオウズラタケ(TYP)の試験結果のいずれも腐朽菌が繁殖してシャーレの全面を覆っており、濾紙の中にも菌が繁殖していることが分かる。このように、この実験環境において、腐朽菌が繁殖する環境が保たれていることが確認できる。
図10は製剤1に関するカワラタケ(COV)の腐朽試験の結果を示す図、図11は製剤1に関するオオウズラタケ(TYP)の腐朽試験の結果を示す図である。
各図において、上段は製剤1を希釈倍率1倍にて濾紙に施用した場合の結果、中段は製剤1を希釈倍率5倍にて濾紙に施用した場合の結果、下段は製剤1を希釈倍率10倍にて濾紙に施用した場合の結果を示している。
図10に示すように、カワラタケ(COV)に対しては、希釈倍率1倍ではほとんど繁殖させないほど防腐効果を発揮している。希釈倍率5倍でも濾紙に対して繁殖を防御する防腐効果を発揮している。希釈倍率10倍のものについては、写真では濾紙上にも菌が到達しているように見えるが、実際には濾紙の中には菌は繁殖しておらず、希釈倍率10倍でも防腐効果がみられる。
図12は製剤3に関するカワラタケ(COV)の腐朽試験の結果を示す図、図11は製剤3に関するオオウズラタケ(TYP)の腐朽試験の結果を示す図である。
各図において、図10、図11同様、上段は製剤1を希釈倍率1倍にて濾紙に施用した場合の結果、中段は製剤1を希釈倍率5倍にて濾紙に施用した場合の結果、下段は製剤1を希釈倍率10倍にて濾紙に施用した場合の結果を示している。
製剤3は、カワラタケ(COV)に対しては、図12に示すように、希釈倍率1倍ではほとんど繁殖させないほど防腐効果を発揮している。希釈倍率5倍でも濾紙に対して繁殖を防御する防腐効果を発揮している。希釈倍率10倍であっても写真では違いが分かりにくいが、実際には濾紙の中には菌は繁殖しておらず防腐効果がみられる。
図14は製剤5に関するカワラタケ(COV)の腐朽試験の結果を示す図、図15は製剤5に関するオオウズラタケ(TYP)の腐朽試験の結果を示す図である。
各図において、図10、図11同様、上段は製剤1を希釈倍率1倍にて濾紙に施用した場合の結果、中段は製剤1を希釈倍率5倍にて濾紙に施用した場合の結果、下段は製剤1を希釈倍率10倍にて濾紙に施用した場合の結果を示している。
また、リチウムシリケートとソディウムシリケートとの配合割合については、製剤1、製剤3、製剤5の順に、[100/0]、[75/25]、[50/50]であるところ、防腐性の高さは、製剤3、製剤1、製剤5、コントロールの順であることが分かった。つまり、リチウムシリケートとソディウムシリケートの割合は、[100/0](製剤1)から[50/50](製剤4)の前後の範囲であれば、防腐性が発揮でき、さらに、リチウムシリケートとソディウムシリケートの割合が[75/25](製剤3)の前後の範囲であれば特に高い防腐性が得られることが分かった。つまり、リチウムシリケート75%、ソディウムシリケート25%の前後の配合割合の製剤であればもっとも防腐効果が高く発揮されることが分かった。
(試験製剤)
試験に用いる木材保存剤として、配合濃度を変えた試験製剤を作製し、また、その製剤の希釈率を4パターン用意し、木材表面に施用することにより防カビ性能の評価試験を行った。
試験用の製剤は、主剤であるリチウムシリケート、副剤であるソディウムシリケートの割合を様々に調整した製剤を用意した。ここでは、以下の[表5]に示す製剤1、製剤3、製剤5の4パターンを用意した。
製剤1から製剤4とも希釈パターンは、希釈倍率1倍の溶液を用意した。
20mm(W)?20mm(D)?10mm(H)の杉材
(試験片への塗布)
200g/m2換算で製剤の刷毛塗りを行った。
製剤1を塗布したものは試験片1、製剤2を塗布したものは試験片2、製剤3を塗布したものは試験片3、製剤4を塗布したものは試験片4とする。
主容器の底部に脱脂綿を敷き、非イオン水を脱脂綿がつかるぐらいまで非イオン水を入れて各試験片を設置する(図16(a))。
2日間にわたり主容器の蓋を開けたままにし、空気中のカビ菌が各試験片に落下したと考えられる期間を経た後、主容器の蓋を閉めて主容器内の相対湿度を上げる(80〜90%)。
(試験期間)
6カ月
試験片1から4の上には、接合菌門のクモノスカビ(白色)が、試験片上に落下した箇所に見られるが、軽く布片で拭き取るか、クーラーの冷風が短時間当たると消滅することから内部まで菌糸が進入して定着するには至っておらず、表面上に存在するだけである。また、黒色の長短カビ菌糸が一時的に見られたが、観察期間中に消えてしまったことからそれも菌糸が進入して定着するには至らなかったことが分かる。また、胞子のうは観察されなかった(図16(b))。
一方、コントロールでは、黒色の菌糸が多く見られ(図16(c))、胞子のうも多数見られる(図16(d))。
この実験結果から、本発明の製剤を塗布した木材は、コントロールに比べて明らかに防カビ効果が認められることが分かる。表面上に付着したカビも木材内部にまで菌糸が伸びず、木材の劣化が防止できたことが分かる。
図17は木材保存剤の施用手順の流れを示すフローチャートである。
本発明にかかる木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させる下塗り工程である(図17ステップS1)。塗布の方法は特に限定されないが、製剤の希釈液で充填した貯留タンクに木材を浸漬させる方法でも良く、また、木材に対して製剤を噴霧しても良く、刷毛などで塗っても良い。
下塗り工程の後に木材保存剤を乾燥させる工程である(図17ステップS2)。乾燥に要する時間は特に限定されないが、木材の状態や外気の湿度や温度によって条件が変わる。乾燥時間については本塗装用の塗料が塗装の前提とする木材の状態に落ち着けば良い。
乾燥工程の後に本塗装用の塗料を用いて本塗装を行う工程である(図17ステップS3)。本塗装に用いる塗料は特に限定されず、有機系塗料であっても無機系塗料であっても良い。有機系塗料は対候性が大きくないため蒸散や分解などが進み、経年劣化しやすく、一般的には、アクリル系塗料で5年程度、フッ素系塗料でも15年程度しか効果が持続しないと言われているが、下地塗装として本発明の木材保存剤を用いて木材の改質を行っている場合、木材そのものに腐朽は進まず、表面の塗料の経年劣化が進んでくれば、表面の塗料のみ塗り直せば良く、木材自体の保存は長期にわたり可能となる。
つまり、本発明の木材保存剤はいわゆる本塗装用の塗料ではなく、本塗装に先立って木材や発泡ウレタン材の下塗装用の下塗り剤として使用することが効果的である。
Claims (13)
- リチウム化合物とナトリウム化合物を配合した無機化合物の木材保存剤。
- 前記リチウム化合物がリチウムシリケートを主成分とする化合物であり、前記ナトリウム化合物がソディウムシリケートを主成分とする化合物である請求項1に記載の無機化合物の木材保存剤。
- 前記リチウムシリケートと前記ソディウムシリケートの割合が、85:15から50:50の範囲である請求項2に記載の無機化合物の木材保存剤。
- 前記リチウムシリケートと前記ソディウムシリケートの割合が75:25に調製されている請求項2に記載の無機化合物の木材保存剤。
- リチウム化合物と、ナトリウム化合物と、シリカゲルまたはアモルファスシリカを配合した無機化合物の木材保存剤。
- 前記リチウム化合物が、酸化リチウム、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムのいずれかまたはそれらの組み合わせを包含するものである請求項5に記載の無機化合物の木材保存剤。
- 前記ナトリウム化合物が、ソディウムシリケート、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムのいずれかまたはそれらの組み合わせを包含するものである請求項5または6に記載の無機化合物の木材保存剤。
- 前記製剤成分におけるSiO2成分に代えてアモルファス酸化チタンを配合した請求項1乃至7のいずれか1項に記載の無機化合物の木材保存剤。
- 四級アンモニュウム化合物またはパーフルオロアルキル化合物の有機化合物の成分を一部に配合し、即効性を持たせた表面剤を備え、
前記無機化合物の成分を下剤として前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させて防蟻性、防腐性、防カビ性の永続性を付与し、
前記表面剤を前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布して防蟻性、防腐性、防カビ性の即効性を付与したことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の無機化合物の木材保存剤。 - 請求項1乃至9のいずれかに記載の木材保存剤を施用した木材。
- 請求項1乃至9のいずれかに記載の木材保存剤を施用した木造家屋。
- 請求項1乃至9のいずれかに記載の木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させて防腐性および防蟻性の永続性を付与せしめることを特徴とする木材保存方法。
- 請求項9に記載の木材保存剤を木材又は発泡ウレタン材の表面に塗布および内部に含浸させて防腐性および防蟻性の永続性を付与せしめ、請求項8に記載の表面剤を前記木材又は前記発泡ウレタン材の表面に塗布して防蟻性、防腐性、防カビ性の即効性を付与せしめることを特徴とする木材保存方法。
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