JP2014100100A - クエン酸特異的蛍光センサータンパク質及びこれを用いるクエン酸の測定方法 - Google Patents

クエン酸特異的蛍光センサータンパク質及びこれを用いるクエン酸の測定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】連続的又は経時的に測定することができ、かつ、生体内の特定の細胞又は細胞内オルガネラの内部のクエン酸濃度を非破壊的に測定することができる、クエン酸検出剤を提供する。
【解決手段】クエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、アミノ末端側からカルボキシル末端側へ順に、第1のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列と、蛍光タンパク質のアミノ酸配列と、第2のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列とを含む。第1のクエン酸結合ポリペプチドと第2のクエン酸結合ポリペプチドとは、特定のアミノ酸配列からなるセンサーヒスチジンキナーゼCitAの細胞周辺腔ドメインのペプチド結合が切断されて得られる2個のポリペプチドである。前記蛍光タンパク質は、環状異性化蛍光タンパク質である。クエン酸検出剤は、前記センサータンパク質と、これを発現する形質転換体とを含む。
【選択図】なし

Description

本発明は、クエン酸検出剤とクエン酸の測定方法とに関し、具体的には、クエン酸濃度に依存して蛍光特性が変化する蛍光センサータンパク質、及び/又は、該センサータンパク質が発現可能に導入された形質転換体を含むクエン酸検出剤と、該クエン酸測定剤を用いるクエン酸の測定方法とに関する。
クエン酸は、飲食品の酸味料をはじめ、各種の産業で用途がある。クエン酸は生化学的にトリカルボン酸回路における主要な中間体である。多種類の成分を含むサンプル中におけるクエン酸濃度を測定することは、産業利用の上でも生化学的にも意義が大きい。
従来のクエン酸測定方法には、クエン酸リアーゼ等の酵素反応で生成するNADを吸光度で測定する方法(非特許文献1)と、0−アミノチオフェノールのような化合物とクエン酸との特異的な反応生成物を蛍光強度で測定する方法(特許文献1)と、ルテニウム錯体の共存下でのクエン酸の酸化反応生成物を化学発光で測定する方法(特許文献2)とが含まれる。これらの方法は、いずれも、クエン酸を直接検出するのではなく、クエン酸から出発する化学反応の生成物を通じて間接的に検出するため、操作が煩雑なうえ、クエン酸を連続的又は経時的に測定することができない。また、これらの方法では、生体内の特定の細胞又は細胞内オルガネラの内部のクエン酸濃度を非破壊的に測定することができない。
特公昭55−31898号公報 特開2005−249675号公報
Gruber,W.及びMoellering,H.、Anal. Biochem.、17:369(1966)
そこで、クエン酸を直接検出して連続的又は経時的に測定することができ、かつ、生体内の特定の細胞又は細胞内オルガネラの内部のクエン酸濃度を非破壊的に測定することができる、クエン酸検出剤と、該クエン酸検出剤を用いるクエン酸測定方法とを開発する必要がある。
本発明はクエン酸特異的蛍光センサータンパク質を提供する。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、アミノ末端側からカルボキシル末端側へ順に、第1のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列と、蛍光タンパク質のアミノ酸配列と、第2のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列とを含む。第1のクエン酸結合ポリペプチドと第2のクエン酸結合ポリペプチドとは、配列番号1に列挙されるアミノ酸配列からなるセンサーヒスチジンキナーゼCitAの細胞周辺腔ドメインのペプチド結合が第54番目又は第55番目のアミノ酸残基と次のアミノ酸残基との間で切断されて得られる2個のポリペプチドのうち、それぞれ、アミノ末端側ポリペプチドと、カルボキシル末端側ポリペプチドとである。前記蛍光タンパク質は、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列からなる環状異性化蛍光タンパク質(circularly permuted green fluorescent protein、以下、「cpFP」という。)である。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質のアミノ酸配列において、第1のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列と前記蛍光タンパク質のアミノ酸配列との間には第1のリンカーのアミノ酸配列が挿入され、前記蛍光タンパク質のアミノ酸配列と第2のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列との間には第2のリンカーのアミノ酸配列が挿入される場合がある。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、(1)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、(2)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、(3)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列と78%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、(4)配列番号5又は6に列挙されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を示すポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、(5)配列番号5又は6に列挙されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下で雑種形成するポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、(6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択される少なくとも1種類のタンパク質を含む場合がある。
本発明は、本発明のいずれかのクエン酸特異的蛍光センサータンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを提供する。
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
本発明は、本発明の発現ベクターが発現可能に導入された形質転換体を提供する。
本発明は、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質、及び/又は、本発明の形質転換体を含むクエン酸検出剤を提供する。
本発明は、クエン酸濃度の測定方法を提供する。本発明のクエン酸濃度の測定方法は、(1)本発明のクエン酸検出剤を被検サンプルに接触させるステップと、(2)クエン酸濃度に依存する変化を示す第1の励起波長での蛍光特性と、クエン酸濃度に依存する変化を示さないか、あるいは、第1の励起波長でのクエン酸濃度に依存する蛍光特性の変化とは異なる蛍光特性の変化を示す第2の励起波長での蛍光特性とを測定するステップとを含む。
本明細書において「クエン酸検出剤」とは、クエン酸の存在の有無、及び/又は、クエン酸の濃度を決定することができる組成物をいう。
本明細書において「クエン酸特異的蛍光センサー」とは、クエン酸の濃度に依存して蛍光特性が変化する物質をいう。本発明の「クエン酸特異的蛍光センサータンパク質」とは、クエン酸の濃度に依存して蛍光特性が変化するタンパク質をいう。本発明の「クエン酸特異的蛍光センサー活性」とは、クエン酸の濃度に依存して蛍光特性が変化する活性をいう。ここで蛍光特性には、蛍光強度、励起スペクトル及び/又は発光スペクトルを含むが、これらに限定されない。
以下の実施例に詳しく説明されるとおり、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質のうち、CF98(配列番号3に列挙されるアミノ酸配列、配列番号5に列挙されるヌクレオチド配列)は、525nmの発光波長での蛍光強度を測定するとき、470−510nmの範囲の励起波長での蛍光強度はクエン酸の濃度が高くなるに伴って強くなり、400−420nmの範囲の励起波長での蛍光強度はクエン酸の濃度が高くなるに伴って弱くなる。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質のうち、CF99(配列番号4に列挙されるアミノ酸配列、配列番号6に列挙されるヌクレオチド配列)は、525nmの発光波長での蛍光強度を測定するとき、470−510nmの範囲の励起波長での蛍光強度はクエン酸の濃度が高くなるに伴って弱くなり、400−415nmの範囲の励起波長での蛍光強度はクエン酸の濃度が高くなるに伴って強くなり、420−430nmの範囲の励起波長での蛍光強度はクエン酸の濃度に関係なく一定である。CF98及びCF99の励起波長と蛍光強度との関係は、540nmの発光波長で測定しても同じ傾向を示した。
本発明の第1及び第2のクエン酸結合ポリペプチドは、クエン酸と結合するタンパク質ドメインのペプチド結合が1カ所で切断されて得られる。本発明では、クエン酸と結合する前記タンパク質ドメインとして、クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)の膜タンパク質である、センサーヒスチジンキナーゼCitA(CITA_KLEPN、Uniprotアクセッション番号:P52687)の細胞周辺腔ドメイン(全長547残基のうち第45番目から第176番目までのアミノ酸配列、配列番号1、以下、「CitAP」という。Kaspar,S.ら、Molecular Microbiology、33:858(1999))が用いられる。本明細書では、クエン酸特異的蛍光センサータンパク質はCFN(Nは97から105までの整数)と命名される。ここでCFNの一次構造は、前記CitAPのポリペプチドが第N番目のアミノ酸残基と第N+1番目のアミノ酸残基との間のペプチド結合が切断されて得られたアミノ末端側の第1のクエン酸結合ポリペプチドと、カルボキシル末端側の第2のクエン酸結合ポリペプチドとの間に、第1のリンカーペプチドと、以下に説明するcpFPと、第2のリンカーペプチドとがこの順でアミノ末端側からカルボキシル末端側に並ぶように挿入される。なお、前記第N番目のアミノ酸残基は、CitAタンパク質の全長のアミノ末端残基を第1番目として表記したものであり、配列番号1に列挙されるCitPAポリペプチドのアミノ酸配列のアミノ末端を第1番目とすると、第N−44番目のアミノ酸残基に相当する。CF98のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号3及び5に列挙される。CF99のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列は、それぞれ、配列番号4及び6に列挙される。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質において、第1のリンカーペプチドのアミノ酸配列は「Ser−Ala−Gly」であり、第2のリンカーペプチドのアミノ酸配列は「Gly−Thr」である。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質に含まれる、環状異性化蛍光タンパク質(circularly permuted fluorescent protein、以下、「cpFP」という。)は、緑蛍光タンパク質(GFP)変異体のβ−can構造内に、ポリペプチドの2つの部分が中央部位の周りにフリップする環状異性化(circular permutation)を許容する可能性がある部位が存在するとの発見(Baird, G.S.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、96:11241(1999))に基づいて設計されたGFPの改変体で、他のポリペプチドとの融合タンパク質の状態で、該他のポリペプチドと別の分子との相互作用の情報を蛍光特性の変化に変換することができる(Nagai,T.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、98:3197(2001))。本発明のcpFPは、6個の点突然変異(F46L、T66G、V68L、S72A、H148D及びT203F)を有するGFPポリペプチドの第144番目のアミノ酸残基と第145番目のアミノ酸残基との間のペプチド結合が切断され、第145番目からカルボキシル末端の第238番目のアミノ酸残基までのポリペプチドに続けて、配列番号7に列挙されるアミノ酸配列(Val−Asp−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Thr−Gly)からなるリンカーを介して、前記6個の点突然変異を有するGFPの第2番目から144番目までのポリペプチドが連結された構造を有する。本発明のcpFPのアミノ酸配列は配列番号2に列挙される。
本明細書において「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」とは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合で連結した化合物である。「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、メチル基を含むアルキル基、リン酸基、糖鎖、及び/又は、エステル結合その他の共有結合による修飾を含む場合がある。また、「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」は、金属イオン、補酵素、アロステリックリガンドその他の原子、イオン、原子団か、他の「タンパク質」、「ペプチド」、「オリゴペプチド」又は「ポリペプチド」か、糖、脂質、核酸等の生体高分子か、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニル、ポリエステルその他の合成高分子かを共有結合又は非共有結合により結合又は会合している場合がある。
染色体DNAの調製、目的遺伝子の増幅、電気泳動、染色等は定法に従って行うことができる。例えば、Sambrook、J.及びRussell、D.W.、Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)を参照せよ。
本明細書においてヌクレオチド配列の相同性は、問合せ(クエリー)のヌクレオチド配列と、比較対象(サブジェクト)のヌクレオチド配列との間でヌクレオチド配列が一致する部分が最も多くなるように整列させて、ヌクレオチド配列が一致する部分のヌクレオチドの数を問合せ(クエリー)のヌクレオチド配列のヌクレオチドの総数で割った商の百分率で表される。同様に、本明細書においてアミノ酸配列の相同性は、問合せ(クエリー)のアミノ酸配列と、比較対象(サブジェクト)のアミノ酸配列との間で配列が一致するアミノ酸残基の数が最も多くなるように整列させて、アミノ酸配列が一致する部分のアミノ酸残基の数の合計を問合せ(クエリー)のアミノ酸配列のアミノ酸残基の総数で割った商の百分率で表される。前記ヌクレオチド配列及びアミノ酸配列の相同性は、当業者に周知の配列整列プログラムCLUSTALWを使用することにより算出することができる。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列からなるタンパク質との相同性が、78%以上、80%以上、90%以上、又は、95%以上の場合がある。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、配列番号5又は6に列挙されるアミノ酸配列からなるタンパク質との相同性が、80%以上、90%以上、又は、95%以上の場合がある。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、前記Molecular Cloning A Laboratory Manual 3rd Editionに説明されるサザンブロット法で以下の実験条件で行うことをいう。比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドをアガロース電気泳動によりバンドを形成させた上で毛管現象又は電気泳動によりニトロセルロースフィルターその他の固相に不動化する。6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液で前洗浄する。所望のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを放射性同位元素その他の標識物質で標識したプローブと、前記固相に不動化された比較対象のポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーション反応を6× SSC及び0.2% SDSからなる溶液中で65°C、終夜行う。その後前記固相を1× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄し、0.2× SSC及び0.1% SDSからなる溶液中で65°C、各30分ずつ2回洗浄する。最後に前記固相に残存するプローブの量を前記標識物質の定量により決定する。本明細書において「ストリンジェントな条件」でハイブリダイゼーションをするとは、比較対象のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した固相に残存するプローブの量が、所望のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを不動化した陽性対照実験の固相に残存するプローブの量の少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%以上であることをいう。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、そのアミノ酸配列をエンコードするヌクレオチド配列を有するDNAを、無生物発現系か、宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系かで発現させることにより産生される。前記宿主生物は、大腸菌、枯草菌等のような原核生物と、酵母、菌類、植物、動物等のような真核生物とを含む。宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系は、細胞や組織のような生物の一部か、生物の個体全体かの場合がある。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、無生物発現系又は宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系の他の成分が混在する状態で、本発明のクエン酸濃度の測定方法に使用される場合がある。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質を前記宿主生物及び発現ベクターを使用する発現系で発現させる場合には、前記タンパク質を発現する宿主生物すなわち形質転換体が生きた状態で本発明のクエン酸濃度の測定方法に用いられる場合がある。その場合には、生物体内でのクエン酸濃度を非破壊的に、かつ、連続的に測定することができる。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、精製された状態で本発明のクエン酸濃度の測定方法に使用されてもよい。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質の検出、分離、精製及び保存は当業者に周知な方法で実施される。
本明細書において「ベクター」とは、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み、宿主生物へ導入することにより、前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質を前記宿主生物において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子であり、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミド等を含むがこれらに限定されない。好ましくは、前記ベクターはプラスミドの場合がある。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み、宿主生物へ導入するのに用いるベクターは、例えば、pETベクターシステム(Novagen、メルク株式会社)と、pPICZベクター(Invitrogen、ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社)と、pCMV−HA及びpCMV−Myc(Clontech、タカラバイオ株式会社)とを含むが、これらに限定されない。本明細書において「発現ベクター」とは、制限酵素、DNA連結酵素等を使用する当業者に周知の遺伝子工学手法を用いて、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドと、いずれかのベクターとを連結することによって作製される、前記タンパク質を宿主生物で発現可能なベクターである。
本明細書において「形質転換体」とは、前記発現ベクターが導入され、前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質を発現することができるようになった生物である。本発明の形質転換体は、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質が、細胞の特定のオルガネラに局在するか、あるいは、細胞内に均一に分布する場合がある。本発明の形質転換体が多細胞生物個体のとき、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、特定の細胞タイプ、組織、器官又は臓器に局在するように発現される場合がある。本発明の形質転換体は、クエン酸の膜透過、生成及び/又は分解に関与する他の遺伝子産物、例えば、クエン酸輸送体タンパク質を、構成的に、あるいは、誘導可能に発現する場合がある。
本明細書において「宿主生物」とは、形質転換体の作製において、前記発現ベクターが導入される生物である。前記宿主生物は、大腸菌、枯草菌等のような原核生物と、酵母、菌類、植物、動物等のような真核生物とを含む。
前記形質転換体は、前記発現ベクターをいずれかの適切な宿主生物に導入することにより作製される。発現ベクターの導入は、電気刺激で細胞膜に空隙を作るエレクトロポレーション法、カルシウムイオン処理と併せて行うヒートショック法等を含む当業者に周知のさまざまな手法により実施される場合がある。
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、遺伝子組換え技術を利用して形質転換体が生きている状態で体外に放出される場合がある。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、同一の形質転換体で他のタンパク質と共発現される場合がある。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、別々の形質転換体で発現する場合がある。前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質の発現が強制されるとき、形質転換体が増殖する間は、所望の機能を有するタンパク質の発現は抑制され、形質転換体が十分に増殖した後、発現が人工的に誘導されることが好ましい。かかる発現の誘導及び抑制は、大腸菌ラクトースオペロンの発現制御システムとイソプロピルチオ−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)とを含むが、これらに限定されない、当業者に周知ないずれかの発現制御システム及び誘導物質を用いて達成される場合がある。
本明細書において「融合タンパク質」とは、特異的結合タグペプチドと、クエン酸特異的蛍光センサータンパク質のアミノ末端又はカルボキシル末端とが連結した融合タンパク質をいう。前記特異的結合タグペプチドは、前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質を調製する際に、発現したタンパク質の検出、分離又は精製をより容易に行うことを可能にするために、他のタンパク質、多糖類、糖脂質、核酸及びこれらの誘導体、樹脂等と特異的に結合するポリペプチドか、形質転換体内で前記クエン酸特異的蛍光センサータンパク質が発現するとき、形質転換体内で局在するように、細胞膜、核その他の細胞内オルガネラのレセプターと特異的に結合するポリペプチドかである。特異的結合タグと結合するリガンドは、水溶液中に溶解した遊離状態の場合も固体支持体に不動化される場合もある。そこで、融合タンパク質は固体支持体に不動化されたリガンドに特異的に結合するため、発現系の他の成分を洗浄除去することができる。その後、遊離状態のリガンドを添加したり、pH、イオン強度その他の条件を変えたりすることにより、固体支持体から前記融合タンパク質を分離して回収することができる。特異的結合タグは、Hisタグ、mycタグ、HAタグ、インテインタグ、MBP、GSTその他これらに類するポリペプチドと、細胞外分泌シグナルペプチド、核移行シグナルペプチドその他の細胞内オルガネラ特異的局在に関与するペプチドとが含まれるが、これらに限定されない。特異的結合タグは、融合タンパク質が、クエン酸特異的蛍光センサー活性を保持することを条件としていかなるアミノ酸配列を有してもかまわない。
本発明のクエン酸検出剤は、本発明のいずれかのクエン酸特異的蛍光センサータンパク質と、該クエン酸特異的蛍光センサータンパク質をエンコードするポリヌクレオチドの含む発現ベクターが発現可能に導入された形質転換体とからなるグループから選択される少なくとも1つを含む。本発明のクエン酸検出剤は、被検サンプルを含む溶液中に溶解されて被検サンプルに接触される場合がある。あるいは、本発明のクエン酸検出剤は、固相に固定されて被検サンプルに接触される場合がある。本発明のクエン酸検出剤の蛍光特性は、蛍光分光光度計、顕微蛍光分光光度計、蛍光顕微鏡画像解析装置その他の蛍光測定装置を用いて検出される。
以下の実施例で詳しく説明するとおり、本発明のクエン酸検出剤は、第1の励起波長ではクエン酸濃度に依存する蛍光特性の変化を示すが、第2の励起波長ではクエン酸濃度に依存する蛍光特性の変化を示さない場合があり、あるいは、第1の励起波長での蛍光特性の変化とは異なる蛍光特性の変化を第2の励起波長で示す場合がある。本発明のクエン酸検出剤によるクエン酸濃度の測定方法では、本発明のクエン酸検出剤の第1の励起波長での蛍光特性と、第2の励起波長での蛍光特性との定量値に基づく関数から得られるパラメーター値を、既知濃度のクエン酸についてプロットして得られる検量線を用意するステップと、被検サンプルに接触されたときのパラメーター値を前記検量線を参照して、前記被検サンプルにおけるクエン酸濃度を決定するステップとを含む場合がある。本発明のクエン酸検出剤の第1の励起波長での蛍光特性と、第2の励起波長での蛍光特性との定量値に基づく関数は、本発明のクエン酸検出剤の第1の励起波長での蛍光特性の定量値を、第2の励起波長での蛍光特性の定量値で除算して得られる比の場合がある。以下の実施例では、前記蛍光特性の定量値として、蛍光強度が用いられる。第1の励起波長での蛍光特性の定量値を得る作業と、第2の励起波長での蛍光特性の定量値を得る作業とは、ともに短時間で実行できるので、本発明のクエン酸濃度の測定方法によると、連続的又は経時的にクエン酸濃度を測定することができる。また、本発明のクエン酸検出剤の第1の励起波長での蛍光特性と、第2の励起波長での蛍光特性との定量値に基づく関数が、本発明のクエン酸検出剤の第1の励起波長での蛍光特性の定量値を、第2の励起波長での蛍光特性の定量値で除算して得られる商又はその逆数の場合には、本発明のクエン酸検出剤の量に依存せずにクエン酸濃度を測定することができる。
本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98の励起スペクトル(測定波長525nm)のクエン酸濃度による変化を示すグラフ。 本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98の励起スペクトル(測定波長540nm)のクエン酸濃度による変化を示すグラフ。 本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF99の励起スペクトル(測定波長525nm)のクエン酸濃度による変化を示すグラフ。 本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF99の励起スペクトル(測定波長540nm)のクエン酸濃度による変化を示すグラフ。 本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98の蛍光特性関数パラメーターとクエン酸濃度との関係を示すグラフ。 本発明の実施例のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF99の蛍光特性関数パラメーターとクエン酸濃度との関係を示すグラフ。 クエン酸輸送体タンパク質CitTと本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とが共発現された大腸菌の蛍光顕微鏡画像。 クエン酸輸送体タンパク質CitTと本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とが共発現された大腸菌にクエン酸を添加した後の蛍光強度の経時的変化を示すグラフ。
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
1.クエン酸特異的蛍光センサータンパク質発現ベクターの構築
1.1 材料
大腸菌JM109株と、BL21(DE3)株とが、それぞれ、発現ベクター構築用宿主と、組換えタンパク質産生用宿主として用いられた。本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質に使用するクエン酸結合タンパク質であるセンサーヒスチジンキナーゼCitAの遺伝子はグラム陰性桿菌クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)NBRC13541株から取得された。クレブシエラ・ニューモニエ菌は独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手された。本発明の実施例で用いるクエン酸輸送体タンパク質CitTは大腸菌W3110株から取得された。これらの細菌の培養にはLB培地が使用され、必要に応じて適切な抗生物質(100μg/mLアンピシリン)が添加された。遺伝子操作に用いるPCRプライマーPr1ないしPr32は以下の表1に示される。Pr1ないしPr32のヌクレオチド配列は、それぞれ、配列表では配列番号8ないし配列番号39に列挙される。
1.2 クエン酸結合タンパク質センサーヒスチジンキナーゼCitAの細胞周辺腔ドメインの遺伝子クローニング
本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質に使用するクエン酸結合タンパク質として、クレブシエラ・ニューモニエ菌のセンサーヒスチジンキナーゼCitAの細胞周辺腔ドメインが選択された。CitA細胞周辺腔ドメインは、全長アミノ酸残基547個のCitAタンパク質の第45番目から176番目までのアミノ酸残基の部分である。CitA細胞周辺腔ドメインをエンコードするDNAは、クレブシエラ・ニューモニエ菌NBRC13541株の染色体DNA抽出物から、表1に列挙されたPr1及びPr2プライマーを用いるPCR法で増幅された。得られた増幅断片はpET−21d(+)ベクター(Novagen、メルク株式会社)のNco I及びXho I部位に挿入され、プラスミドpECitAPが得られた。
1.3 cpFPの作成
緑蛍光タンパク質の野生型のS65T変異体(EGFP)をエンコードするプラスミドpBEGFP−FのDNAを鋳型として、表1に列挙されたPr3及びPr4プライマーにより、EGFPの第145番目から第238番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドをエンコードするDNA断片Aが増幅された。また、Pr5及びPr6プライマーにより、EGFPの第2番目から第144番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドをエンコードするDNA断片Bが増幅された。つぎに、DNA断片A及びDNA断片Bの混合物を鋳型として、Pr3及びPr6プライマーにより、cpFPをエンコードするDNA断片Cが増幅された。DNA断片CはpUC19のPst I及びKnp I部位に挿入された。さらに、Pr7ないしPr12のプライマーを用いて、F46L、T65G、V68L、S72A、H148D及びT203F(アミノ酸残基の番号はGFP野生型タンパク質のアミノ末端を第1番目の残基とする。)の突然変異がDNA断片Cに導入され、DNA断片C−muが得られた。
1.4 CitAPとcpFPとの融合タンパク質の作成
CitAPの第97番目から第105番目までのアミノ酸残基は、クエン酸との結合の際に最も大きい構造変化を示す可動性領域である。そこで、CitAPの第N番目のアミノ酸残基と、第N+1番目のアミノ酸残基との間にcpFGが挿入される融合タンパク質CFN(Nは97から105までの整数)が作成された。まず、第1のリンカー(Ser−Ala−Gly)と、cpFPと、第2のリンカー(Gly−Thr)とが連結されたポリペプチドをエンコードするDNA断片Dが、点突然変異が導入されたcpFPのDNA断片C−muを鋳型として、Pr13及びPr14プライマーを用いてPCR増幅された。つぎに、CP97、CP98、・・・、P105の第1のクエン酸結合ポリペプチドをエンコードするDNA断片は、Pr1プライマーと、それぞれ、Pr15、Pr17、・・・、Pr31との対を用いてPCR増幅された。CP97、CP98、・・・、CP105の第2のクエン酸結合ポリペプチドをエンコードするDNA断片は、Pr2プライマーと、それぞれ、Pr16、Pr18、・・・、Pr32との対を用いてPCR増幅された。そして、CP97、CP98、・・・、CP105のそれぞれについて、第1のクエン酸結合ポリペプチドをエンコードするDNA断片と、DNA断片C−muと、第2のクエン酸結合ポリペプチドをエンコードするDNA断片との混合物を鋳型として、Pr1及びPr2を用いて、CitAPとcpFPとの融合タンパク質をエンコードするDNA断片がPCR増幅により得られた。これらのDNA断片はpET−21d(+)のNco I及びXho I部位に挿入され、発現ベクターpECF97、pECF98、・・・、pECF105が得られた。
1.5 CitAPとcpFPとの融合タンパク質の遺伝子発現
発現ベクターpECF97、pECF98、・・・、pECF105は大腸菌BL21(DE3)株に形質転換され、CF97、CF98、・・・、CF105のそれぞれとHisタグとの融合タンパク質として発現された。これらの形質転換された大腸菌は、100μg/mLのアンピシリンが添加されたLB培地3mL中で37°C、160rpm、8時間振盪培養され、前培養液が得られた。この前培養液50μLは、バッフル付き500mL三角フラスコ中の前記アンピシリン添加LB培地50mLに稙菌され、37°C、120rpm、3時間振盪培養された。その後、イソプロピルチオ−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)が終濃度0.1mg/mLとなるように添加され、25°C、120rpm、18時間振盪培養され、組換えタンパク質が産生された。培養終了後の大腸菌は遠心分離で回収され、50mMのNaHPO−NaHPOバッファー(pH7.0)で2回洗菌された。前記大腸菌は超音波破砕機(UD−201、株式会社トミー精工)により破砕され、得られた細胞破砕液は、遠心分離(15,000×g、4°C、30分)され、上清が無細胞抽出液とされた。
1.6 CFNのHisタグ融合タンパク質の精製
前記大腸菌無細胞抽出液は、TNI5バッファー(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mL NaCl及び5mM イミダゾール)で平衡化されたHisTrapHTカラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)に供された。その後カラム容量の5倍量のTNI5バッファーが前記カラムに通液されてカラムがリンスされた。CFNのHisタグ融合タンパク質はTNI500バッファー(20mM Tris−HCl(pH7.9)、500mL NaCl及び500mM イミダゾール)で溶出された。CFNのHisタグ融合タンパク質は、さらに、セファデックスG−25(PD−10カラム、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)を用いたゲル濾過により、50mMのNaHPO−NaHPOバッファー(pH7.0)にバッファーが置換された。精製されたCFNのHisタグ融合タンパク質の定量には、クーマジータンパク質アッセイ試薬(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)が用いられた。
2.クエン酸特異的蛍光センサータンパク質のin vitroでの特徴付け
2.1 材料及び方法
精製されたCFNは、50mMのNaHPO−NaHPOバッファー(pH7.0)中で、蛍光分光光度計(FP−6200、日本分光株式会社)で励起スペクトルが測定され、クエン酸濃度による蛍光特性の変化が調べられた。測定条件は、励起波長範囲:350−512nm、発光波長525nm又は540nm、スペクトルバンド幅5nm、応答性:中、波長走査速度:2000nm/分、利得:中。
2.2 結果
CFNの精製タンパク質のうち、CF97、CF99、CF100、CF102、CF103、CF104及びCF105は、クエン酸濃度の上昇とともに蛍光強度が減少した。これに対しCF98及びCF101は、クエン酸濃度の上昇とともに蛍光強度が増大した。そこで、CFNタンパク質はいずれもクエン酸特異的蛍光センサータンパク質であることが示された。CFNタンパク質のうち、CF98及びCF99は他のCFNタンパク質よりもクエン酸濃度依存的な蛍光強度の変化が顕著であった。そこで、以下では、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質の典型例として、CF98及びCF99について詳細に蛍光特性が調べられた。
図1A、図1B、図2A及び図2Bは、それぞれ、CF98及びCF99の励起スペクトルのクエン酸濃度による変化を示すグラフである。図1A及び図2Aの横軸は励起波長であり、縦軸は525nmでの蛍光強度である。図1B及び図2Bの横軸は励起波長であり、縦軸は540nmでの蛍光強度である。図1A及び図1Bに示すとおり、CF98はクエン酸濃度依存的に蛍光強度が増大した。詳細に励起スペクトルを検証するとCF98は、413nmと503nmの2つのピークを示し、クエン酸濃度の上昇とともに413nmにおける蛍光強度が減少し、503nmにおける蛍光強度が増大した。一方図2A及び図2Bに示すとおり、CF99はクエン酸濃度依存的に蛍光強度が減少した。さらにCF99においても、励起スペクトルを検証すると413nmと503nmの2つのピークを示し、クエン酸濃度の上昇とともに413nmにおける蛍光強度が増大し、503nmにおける蛍光強度が減少した。図3及び図4は、それぞれCF98及びCF99の蛍光特性関数パラメーターとクエン酸濃度との関係を示すグラフである。図3での前記蛍光特性関数パラメーターは、励起波長504nmでの蛍光強度(測定波長525nm)の実測値を励起波長413nmでの蛍光強度(測定波長525nm)の実測値で除算した商である。図4での前記蛍光特性関数パラメーターは、励起波長413nmでの蛍光強度(測定波長525nm)の実測値を励起波長504nmでの蛍光強度(測定波長525nm)の実測値で除算した商である。図3及び4の横軸はクエン酸の濃度で、縦軸は前記蛍光特性関数パラメーターの計測値である。図3及び図4に示すとおり、この2つのピークにおける蛍光強度の比を用いることで、クエン酸特異的蛍光センサータンパク質の濃度に依存せずにクエン酸の濃度を決定することが可能であった。また、クエン酸の添加による蛍光強度変化は迅速であり、本実施例での使用機器では1ミリ秒以下の瞬時に変化することを確認した。
cpFPを利用する従来のバイオセンサータンパク質では、被検物質と特異的に結合するタンパク質が単独で応答する被検物質の濃度範囲と、当該特異的結合タンパク質とcpFPとが融合されたバイオセンサータンパク質が応答する被検物質の濃度範囲とはほぼ一致する。例えば、Nagai、T.ら(Proc.Natl.Acad.Sci.、98:3197(2001))の報告によると、カルモジュリンと、カルモジュリンがcpFPに融合されたCa2+イオンのインジケータータンパク質とが応答するCa2+イオンの濃度範囲はともに1μM前後であった。また、Belousov、V.V.ら(Nature Methods、3:281(2006)の報告によると、大腸菌由来のH感受性タンパク質OxyRと、この断片とcpFPとが融合されたH特異的インジケータータンパク質の応答濃度範囲は、OxyRのH応答濃度範囲(A▲Aの上に補助記号リング(○)▼slund、F.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.、96:6161(1999))とほぼ同一である。これに対し、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98及びCF99は、0.1mMから10mMまでの濃度範囲で応答する。Kaspar、S.ら(Molecular Microbiology、33:858(1999))によると、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質に用いられたクエン酸結合タンパク質CitAPのクエン酸との解離定数KdはpH7、25°Cで5.5μMと報告された。これに対し、CF98及びCF99のクエン酸との解離定数Kdは、それぞれ図3及び4から数mMと考えられる。このように、クエン酸結合タンパク質と、その融合タンパク質のバイオセンサーとで応答クエン酸濃度が1000倍も変化することは予想外であった。
また、0.1mMから10mMまでの濃度範囲はさまざまな細胞における細胞内クエン酸濃度に対応する。例えば、LAGUNAS、R.及びGANCEDO、C.(Eur. J. Biochem. 137, 479 (1983))によると、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の細胞内クエン酸濃度は、嫌気的条件か好気的条件か、増殖状態か静止状態かによって異なるが、0.21mMから5.2mMの範囲内である。Bennett、B.D.ら(Nat Chem Biol. 5:593 (2009))によると、大腸菌K12株の細胞内クエン酸濃度は、グルコース、グリセロール及び酢酸を炭素源とする培養条件下で、それぞれ、1.96、2.32及び21.9mMである。そこで、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98及びCF99は細胞内クエン酸濃度の非侵襲的検出に適する。
TCA回路周辺の有機酸の添加によって蛍光強度が変化するかどうかについて検討された。表2のとおり、クエン酸以外の有機酸によってCF98およびCF99の蛍光強度が顕著に変化することは認められなかった。そこで、CF98及びCF99はクエン酸に特異的な蛍光センサータンパク質であることが示された。
3.クエン酸特異的蛍光センサータンパク質のin vivoでの特徴付け
3.1 材料及び方法
CitTをエンコードするDNA断片は大腸菌W3110株の染色体DNA抽出物を鋳型としてPCR増幅により得られた。前記DNA断片は、pRSFDuet−1(Novagen、メルク株式会社)のNde I及びMfe I部位に挿入され、発現ベクターpRCITTが得られた。pRCITTか、その空ベクターのpRSFDuet−1かがpECF98とともに大腸菌BL21(DE3)株に導入された形質転換体が作成された。クエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とクエン酸輸送体CitTとが共発現する大腸菌の培養液に2.5mMのクエン酸を添加したときの蛍光を、CF98のみが発現する大腸菌の蛍光と比較された。
3.2 結果
図5Aは、クエン酸輸送体タンパク質CitTと本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とが共発現された大腸菌のクエン酸添加前に撮影された蛍光顕微鏡画像である。スケールは10μmである。大腸菌の菌体全体が均一に蛍光を発していた。図5Bは、クエン酸輸送体タンパク質CitTと本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とが共発現された大腸菌に、0.025mM、0.25mM及び2.5mMのクエン酸を添加したときの蛍光強度の経時変化を示すグラフである。陰性対照として、CitTの発現ベクターpRCITTのかわりに空ベクターpRSFDuet−1がpECF98とともに形質転換され、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98のみが発現された大腸菌に2.5mMのクエン酸を添加したときの蛍光強度の経時変化が調べられた。縦軸は蛍光強度で、横軸は測定開始後の経過時間(単位:秒)で、矢印はクエン酸が添加された時刻を表す。蛍光測定開始から25秒後にクエン酸が添加された。クエン酸輸送体タンパク質CitTと本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質CF98とが共発現された大腸菌では、クエン酸の添加後に蛍光強度が増大した。蛍光強度は添加されたクエン酸の濃度が高いほど強かった。CF98のみが発現する大腸菌では蛍光強度の変化はほとんど認められなかった。図5A及び図5Bは、ともに、励起波長は485nm、発光波長は535nmであった。なお、pH蛍光指示剤のSNARF−5Fを用いて、クエン酸の添加により大腸菌菌体内のpHは変化しないことが確認された。したがって、本発明のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質は、生体細胞内のクエン酸濃度を非破壊的に、経時的に測定することができる。

Claims (8)

  1. アミノ末端側からカルボキシル末端側へ順に、
    第1のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列と、蛍光タンパク質のアミノ酸配列と、第2のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列とを含み、
    第1のクエン酸結合ポリペプチドと第2のクエン酸結合ポリペプチドとは、配列番号1に列挙されるアミノ酸配列からなるセンサーヒスチジンキナーゼCitAの細胞周辺腔ドメインのペプチド結合が第54番目又は第55番目のアミノ酸残基と次のアミノ酸残基との間で切断されて得られる2個のポリペプチドのうち、それぞれ、アミノ末端側ポリペプチドと、カルボキシル末端側ポリペプチドとであり、前記蛍光タンパク質は、配列番号2に列挙されるアミノ酸配列からなる環状異性化蛍光タンパク質である、
    クエン酸特異的蛍光センサータンパク質。
  2. 第1のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列と前記蛍光タンパク質のアミノ酸配列との間には第1のリンカーのアミノ酸配列が挿入され、前記蛍光タンパク質のアミノ酸配列と第2のクエン酸結合ポリペプチドのアミノ酸配列との間には第2のリンカーのアミノ酸配列が挿入される、請求項1に記載のクエン酸特異的蛍光センサータンパク質。
  3. (1)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列からなるタンパク質と、
    (2)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列に1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、
    (3)配列番号3又は4に列挙されるアミノ酸配列と78%以上の相同性を示すアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、
    (4)配列番号5又は6に列挙されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の相同性を示すポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、
    (5)配列番号5又は6に列挙されるヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下で雑種形成するポリヌクレオチドによってエンコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、クエン酸特異的蛍光センサー活性を有するタンパク質と、
    (6)特異的結合タグペプチドが前記(1)ないし(5)のいずれかのタンパク質に連結した、融合タンパク質とからなるグループから選択される少なくとも1種類のタンパク質を含む、クエン酸特異的蛍光センサータンパク質。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1つのクエン酸特異的蛍光センサータンパク質をエンコードするポリヌクレオチド。
  5. 請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
  6. 請求項5に記載の発現ベクターが発現可能に導入された形質転換体。
  7. 請求項1ないし3のいずれか1つのクエン酸特異的蛍光センサータンパク質、及び/又は、請求項5に記載の形質転換体を含む、クエン酸検出剤。
  8. (1)請求項7に記載の形質転換体を含むクエン酸検出剤を被検サンプルに接触させるステップと、
    (2)クエン酸濃度に依存する変化を示す第1の励起波長での蛍光特性と、クエン酸濃度に依存する変化を示さないか、あるいは、第1の励起波長でのクエン酸濃度に依存する蛍光特性の変化とは異なる蛍光特性の変化を示す第2の励起波長での蛍光特性とを測定するステップとを含む、クエン酸濃度の測定方法。
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