以下、本発明の車両用回転電機を適用した一実施形態の車両用発電機について、図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本実施形態の車両用発電機1は、2つの固定子巻線(電機子巻線)2、3、界磁巻線4、2つの整流器モジュール群5、6、発電制御装置7を含んで構成されている。2つの整流器モジュール群5、6がスイッチング部に対応する。
一方の固定子巻線2は、多相巻線(例えばX相巻線、Y相巻線、Z相巻線からなる三相巻線)であって、固定子鉄心(図示せず)に巻装されている。同様に、他方の固定子巻線3は、多相巻線(例えばU相巻線、V相巻線、W相巻線からなる三相巻線)であって、上述した固定子鉄心に、固定子巻線2に対して電気角で30度ずらした位置に巻装されている。本実施形態では、これら2つの固定子巻線2、3と固定子鉄心によって固定子が構成されている。
界磁巻線4は、固定子鉄心の内周側に対向配置された界磁極(図示せず)に巻装されて回転子を構成している。励磁電流を流すことにより、界磁極が磁化される。界磁極が磁化されたときに発生する回転磁界によって固定子巻線2、3が交流電圧を発生する。
一方の整流器モジュール群5は、一方の固定子巻線2に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線2に誘起される交流電流を直流電流に変換する。この整流器モジュール群5は、固定子巻線2の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)の整流器モジュール5X、5Y、5Zを備えている。整流器モジュール5Xは、固定子巻線2に含まれるX相巻線に接続されている。整流器モジュール5Yは、固定子巻線2に含まれるY相巻線に接続されている。整流器モジュール5Zは、固定子巻線2に含まれるZ相巻線に接続されている。
他方の整流器モジュール群6は、他方の固定子巻線3に接続されており、全体で三相全波整流回路(ブリッジ回路)が構成され、固定子巻線3に誘起される交流電流を直流電流に変換する。この整流器モジュール群6は、固定子巻線3の相数に対応する数(三相巻線の場合には3個)の整流器モジュール6U、6V、6Wを備えている。整流器モジュール6Uは、固定子巻線3に含まれるU相巻線に接続されている。整流器モジュール6Vは、固定子巻線3に含まれるV相巻線に接続されている。整流器モジュール6Wは、固定子巻線3に含まれるW相巻線に接続されている。
発電制御装置7は、F端子を介して接続された界磁巻線4に流す励磁電流を制御する励磁制御回路であって、励磁電流を調整することにより車両用発電機1の出力電圧(各整流器モジュールの出力電圧)VB が調整電圧Vreg になるように制御する。例えば、発電制御装置7は、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも高くなったときに界磁巻線4への励磁電流の供給を停止し、出力電圧VB が調整電圧Vreg よりも低くなったときに界磁巻線4に励磁電流の供給を行うことにより、出力電圧VB が調整電圧Vreg になるように制御する。また、発電制御装置7は、通信端子Lおよび通信線を介してECU8(外部制御装置)と接続されており、ECU8との間で双方向のシリアル通信(例えば、LIN(Local Interconnect Network)プロトコルを用いたLIN通信)を行い、通信メッセージを送信あるいは受信する。
本実施形態の車両用発電機1はこのような構成を有しており、次に、整流器モジュール5X等の詳細について説明する。各整流器モジュール5Xは、他の整流器モジュール5Y、5Z、6U、6V、6Wと同じ構成を有している。
図2に示すように、整流器モジュール5Xは、2つのMOSトランジスタ50、51、制御回路54を備えている。MOSトランジスタ50は、ソースが固定子巻線2のX相巻線に接続され、ドレインが充電線12を介して電気負荷10やバッテリ9の正極端子に接続された上アーム(ハイサイド側)のスイッチング素子である。MOSトランジスタ51は、ドレインがX相巻線に接続され、ソースがバッテリ9の負極端子(アース)に接続された下アーム(ローサイド側)のスイッチング素子である。これら2つのMOSトランジスタ50、51からなる直列回路がバッテリ9の正極端子と負極端子の間に配置され、これら2つのMOSトランジスタ50、51の接続点(P端子)にX相巻線が接続されている。また、MOSトランジスタ50、51のそれぞれのソース・ドレイン間にはダイオードが並列接続されている。このダイオードはMOSトランジスタ50、51の寄生ダイオード(ボディダイオード)によって実現されるが、別部品としてのダイオードをさらに並列接続するようにしてもよい。なお、上アームおよび下アームの少なくとも一方を、MOSトランジスタ以外のスイッチング素子を用いて構成するようにしてもよい。
図3に示すように、制御回路54は、制御部100、電源160、出力電圧検出部110、上MOS VDS検出部120、下MOS VDS検出部130、温度検出部150、ドライバ170、172を備えている。
電源160は、発電制御装置7から界磁巻線4に励磁電流が供給されるタイミングで動作を開始し、制御回路54に含まれる各素子に動作電圧を供給するとともに、励磁電流の供給が停止されたときに動作電圧の供給を停止する。この電源160の起動、停止は、制御部100からの指示に応じて行われる。
ドライバ170は、出力端子(G1)がハイサイド側のMOSトランジスタ50のゲートに接続されており、MOSトランジスタ50をオンオフする駆動信号を生成する。同様に、ドライバ172は、出力端子(G2)がローサイド側のMOSトランジスタ51のゲートに接続されており、MOSトランジスタ51をオンオフする駆動信号を生成する。
出力電圧検出部110は、例えば差動増幅器とその出力をデジタルデータに変換するアナログ−デジタル変換器によって構成されており、車両用発電機1(あるいは整流器モジュール5X)の出力端子(B端子)の電圧に対応するデータを出力する。なお、アナログ−デジタル変換器は、制御部100側に設けるようにしてもよい。
上MOS VDS検出部120は、ハイサイド側のMOSトランジスタ50のドレイン・ソース間電圧VDSを検出し、検出したドレイン・ソース間電圧VDSを所定のしきい値と比較してその大小に応じた信号を出力する。
図4において、横軸はドレイン側の出力電圧VB を基準としたドレイン・ソース間電圧VDSを示している。また、縦軸は上MOS VDS検出部120から出力される信号の電圧レベルを示している。図4に示すように、相電圧VP が高くなって出力電圧VB よりも0.3V以上高くなるとVDSが0.3V以上になるため、上MOS VDS検出部120の出力信号がローレベル(0V)からハイレベル(5V)に変化する。その後、相電圧VP が出力電圧VB よりも1.0V以上低くなるとVDSが−1.0V以下になるため、上MOS VDS検出部120の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。
上述した出力電圧VB よりも0.3V高い値V10(図7)が、第1のしきい値に対応している。この第1のしきい値は、ダイオード通電期間の開始時点を確実に検出するためのものであり、出力電圧VB と同じかそれよりも大きく(高く)、望ましくは出力電圧VB にオン時のMOSトランジスタ50のドレイン・ソース間電圧VDSを加算した値よりも高く、出力電圧VB にMOSトランジスタ50と並列接続されたダイオードの順方向電圧VF(電圧降下)を加算した値と同じかそれよりも低い値に設定されている。また、上述した出力電圧VB よりも1.0V低い値V20(図7)が第2のしきい値に対応している。この第2のしきい値は、ダイオード通電期間の終了時点を確実に検出するためのものであり、出力電圧VB よりも小さい(低い)値に設定されている。相電圧VP が第1のしきい値に達した後に第2のしきい値に達するまでを上アームの「オン期間」としている。このオン期間が特許請求の範囲における「通電期間」に対応する。なお、このオン期間は、MOSトランジスタ50がオフ状態のときに実際にダイオードに通電される「ダイオード通電期間」とは開始時点と終了時点がずれているが、本実施形態の同期制御はこのオン期間に基づいて行われる。
下MOS VDS検出部130は、ローサイド側のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを検出し、検出したドレイン・ソース間電圧VDSを所定のしきい値と比較してその大小に応じた信号を出力する。図5において、横軸はドレイン側のバッテリ負極端子電圧であるグランド端子電圧VGND を基準としたドレイン・ソース間電圧VDSを示している。また、縦軸は下MOS VDS検出部130から出力される信号の電圧レベルを示している。図5に示すように、相電圧VP が低くなってグランド電圧VGND よりも0.3V以上低くなるとVDSが−0.3V以下になるため、下MOS VDS検出部130の出力信号がローレベル(0V)からハイレベル(5V)に変化する。その後、相電圧VP がグランド電圧VGND よりも1.0V以上高くなるとVDSが1.0V以上になるため、下MOS VDS検出部130の出力信号がハイレベルからローレベルに変化する。
上述したグランド電圧VGND よりも0.3V低い値V11(図7)が、第1のしきい値に対応している。この第1のしきい値は、ダイオード通電期間の開始時点を確実に検出するためのものであり、グランド電圧VGND と同じかそれよりも小さく(低く)、望ましくはグランド電圧VGND からオン時のMOSトランジスタ51のドレイン・ソース間電圧VDSを減算した値よりも低く、グランド電圧VGND からMOSトランジスタ51と並列接続されたダイオードの順方向電圧VF(電圧降下)を減算した値と同じかそれよりも高い値に設定されている。また、上述した出力電圧VB よりも1.0V高い値V21(図7)が第2のしきい値に対応している。この第2のしきい値は、ダイオード通電期間の終了時点を確実に検出するためのものであり、グランド電圧VGND よりも大きい(高い)値に設定されている。相電圧VP が第1のしきい値に達した後に第2のしきい値に達するまでを下アームの「オン期間」としている。このオン期間が特許請求の範囲における「通電期間」に対応する。なお、このオン期間は、MOSトランジスタ51がオフ状態のときに実際にダイオードに通電される「ダイオード通電期間」とは開始時点と終了時点がずれているが、本実施形態の同期整流はこのオン期間に基づいて行われる。
温度検出部150は、例えばMOSトランジスタ50、51や制御部100の近傍に配置されたダイオードとその順方向電圧をデジタルデータに変換するアナログ−デジタル変換器を含んで構成されている。例えば感温ダイオードの順方向電圧は温度依存性を有するため、この順方向電圧に基づいて、MOSトランジスタ50、51等の近傍の温度を検出することができる。なお、このアナログ−デジタル変換器あるいは温度検出部150全体を、制御部100内に設けるようにしてもよい。
制御部100は、同期整流動作を開始するタイミングの判定、同期整流を実施するためのMOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングの設定、このオン/オフタイミングの設定に対応したドライバ170、172の駆動、ロードダンプ保護動作移行タイミングの判定および保護動作の実施などを行う。
図6に示すように、制御部100は、回転数演算部101、同期制御開始判定部102、上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104、目標電気角設定部105、上MOS・TFB時間演算部106、上MOSオフタイミング演算部107、下MOS・TFB時間演算部108、下MOSオフタイミング演算部109、ロードダンプ判定部111、電源起動・停止判定部112を備えている。これらの各構成は、例えばメモリ等に記憶された所定の動作プログラムを、クロック発生回路によって生成したクロック信号に同期して読み込んでCPUで実行することにより実現される。各構成の具体的な動作内容については後述する。
上述した上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104が「オンタイミング設定部」に、上MOSオフタイミング演算部107、下MOSオフタイミング演算部109が「オフタイミング設定部」に、ドライバ170、172が「スイッチング素子駆動部」にそれぞれ対応する。
本実施形態の整流器モジュール5X等はこのような構成を有しており、次にその動作を説明する。
(1)電源起動・停止判定
電源起動・停止判定部112は、P端子に接続されており、整流器モジュール5Xが接続された固定子巻線2のX相の相電圧(ピーク電圧)が所定値(例えば5V)を超えたことを検出したときに、電源160に起動を指示する。また、電源起動・停止判定部112は、この相電圧が所定値(5V)以下になった状態が所定時間(例えば1秒)継続したときに電源160に停止を指示する。このようにして車両用発電機1の発電時のみ整流器モジュール5X等を動作させており、発電せずに停止している場合に、必要最小限の回路しか動作させないため、暗電流を低減し、バッテリ上がりを防止することができる。
(2)同期制御動作
同期制御の動作タイミングを示す図7において、「上アーム・オン期間」は上MOS VDS検出部120の出力信号を、「上MOSオン期間」はハイサイド側のMOSトランジスタ50のオン/オフタイミングを、「下アーム・オン期間」は下MOS VDS検出部130の出力信号を、「下MOSオン期間」はローサイド側のMOSトランジスタ51のオン/オフタイミングをそれぞれ示している。また、TFB1 、TFB2 、目標電気角、ΔTについては後述する。
上MOSオンタイミング判定部103は、上MOS VDS検出部120の出力信号(上アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号のローレベルからハイレベルへの立ち上がりをハイサイド側のMOSトランジスタ50のオンタイミングとして判定し、ドライバ170に指示を送る。ドライバ170は、この指示に応じてMOSトランジスタ50をオンする。
上MOSオフタイミング演算部107は、下MOS VDS検出部130の出力信号(下アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号が前回(直前に)ハイレベルからローレベルへ立ち下がったタイミングから所定時間経過後をMOSトランジスタ50のオフタイミングとして判定し、ドライバ170に指示を送る。ドライバ170は、この指示に応じてMOSトランジスタ50をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、次の上アーム・オン期間の終了時点(上MOS VDS検出部120の出力信号が次回ハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
この目標電気角は、MOSトランジスタ50を常時オフしてダイオードを通して整流を行う場合を考えたときに、このダイオード整流における通電期間の終了時点よりもMOSトランジスタ50のオフタイミングが遅くならないようにするためのマージンであり、目標電気角設定部105によって設定される。目標電気角設定部105は、回転数演算部101によって演算された回転数に基づいて目標電気角を設定する。この目標電気角は、低回転領域および高回転領域において大きな値が、その中間領域において小さな値が設定される。回転数に応じた目標電気角の設定内容については後述する。
なお、回転数演算部101は、下MOS VDS検出部130の出力信号の立ち上がり周期あるいは立ち下がり周期に基づいて回転数を演算している。下MOS VDS検出部130の出力信号を用いることにより、車両用発電機1の出力電圧VB の変動に関係なく、安定した回転数検出が可能になる。
同様に、下MOSオンタイミング判定部104は、下MOS VDS検出部130の出力信号(下アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号のローレベルからハイレベルへの立ち上がりをローサイド側のMOSトランジスタ51のオンタイミングとして判定し、ドライバ172に指示を送る。ドライバ172は、この指示に応じてMOSトランジスタ51をオンする。
下MOSオフタイミング演算部109は、上MOS VDS検出部120の出力信号(上アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号が前回(直前に)ハイレベルからローレベルに立ち下がったタイミングから所定時間経過後をMOSトランジスタ51のオフタイミングとして判定し、ドライバ172に指示を送る。ドライバ172は、この指示に応じてMOSトランジスタ51をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、次の下アーム・オン期間の終了時点(下MOS VDS検出部130の出力信号が次回ハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
この目標電気角は、MOSトランジスタ51を常時オフしてダイオードを通して整流を行う場合を考えたときに、このダイオード整流における通電期間の終了時点よりもMOSトランジスタ51のオフタイミングが遅くならないようにするためのマージンであり、目標電気角設定部105によって設定される。
ところで、実際には、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の終了時点は、MOSトランジスタ50、51をオフする時点ではわかっていないため、上MOSオフタイミング演算部107や下MOSオフタイミング演算部109は、半周期前の情報をフィードバックすることにより、MOSトランジスタ50やMOSトランジスタ51のオフタイミングの設定精度を上げている。
具体的には、ハイサイド側のMOSトランジスタ50のオフタイミングは以下のようにして設定される。下MOS・TFB時間演算部108は、半周期前にローサイド側のMOSトランジスタ51をオフしてから前回の下アーム・オン期間の終了時点までの時間(オフ後電気角)TFB2 (図7)を演算し、上MOSオフタイミング演算部107は、このTFB2 から目標電気角を差し引いた差分ΔTを求める。回転等が安定していればTFB2 と目標電気角とが等しくなってΔT=0となるはずである。この場合は、上MOSオフタイミング演算部107は、半周期前の下アーム・オン期間の終了時点から時間の計測を開始し、1周期前の上アーム・オン期間の終了時点から前回下MOSトランジスタ51をオフするまでの時間(この時間を「下MOSオフ時間」と称する)が経過した時点を、MOSトランジスタ50の次のオフタイミングとすればよい。しかし、実際には、(A)車両の加減速に伴う回転変動、(B)エンジン回転の脈動、(C)電気負荷の変動、(D)所定のプログラムをCPUで実行して制御部100を実現する場合の動作クロック周期の変動、(E)ドライバ170、172にMOSトランジスタ50、51をオフする指示を出してから実際にオフされるまでのターンオフ遅れ、などに伴ってΔTが0にならないことが多い。
そこで、上MOSオフタイミング演算部107は、下MOSオフ時間をΔTに基づいて補正して、MOSトランジスタ50のオフタイミングを決定している。具体的には、設定したい上MOSオフ時間(半周期前の下アーム・オン期間の終了時点から次にMOSトランジスタ50をオフするまでの時間)をToff(N)、半周期前の下MOSオフ時間をToff(N−1)、前回下MOSトランジスタ51をオフした際に求めたTFB2(N−1)から目標電気角α0を差し引いた差分をΔT(N−1)、補正係数をkとすると、これらの間には以下の式が成立する。
Toff(N)=Toff(N−1)+k×(TFB2(N−1)−α0)
=Toff(N−1)+k×ΔT(N−1)
なお、上述した例では、上MOSオフ時間Toff(N)を求める際に、下アームに対応する半周期前の下MOSオフ時間Toff(N−1)と差分ΔT(N−1)とを用いたが、同じ上アームに対応する1周期前のこれらの値を用いるようにしてもよい。この場合の式を以下に示す。
Toff(N)=Toff(N−2)+k×(TFB1(N−2)−α0)
=Toff(N−2)+k×ΔT(N−2)
同様に、ローサイド側のMOSトランジスタ51のオフタイミングは以下のようにして設定される。上MOS・TFB時間演算部106は、半周期前にハイサイド側のMOSトランジスタ50をオフしてから前回の上アーム・オン期間の終了時点までの時間(オフ後電気角)TFB1 (図7)を演算し、下MOSオフタイミング演算部109は、このTFB1 から目標電気角を差し引いた差分ΔTを求める。回転等が安定していればTFB1 と目標電気角とが等しくなってΔT=0となるはずである。この場合は、下MOSオフタイミング演算部109は、半周期前の上アーム・オン期間の終了時点から時間の計測を開始し、1周期前の下アーム・オン期間の終了時点から前回上MOSトランジスタ50をオフするまでの時間(上MOSオフ時間)が経過した時点を、MOSトランジスタ51の次のオフタイミングとすればよい。しかし、実際には、上述した理由からΔTが0にならないことが多い。
そこで、下MOSオフタイミング演算部109は、上MOSオフ時間をΔTに基づいて補正して、MOSトランジスタ51のオフタイミングを決定している。具体的には、設定したい下MOSオフ時間(半周期前の上アーム・オン期間の終了時点から次にMOSトランジスタ51をオフするまでの時間)をToff(M)、半周期前の上MOSオフ時間をToff(M−1)、前回上MOSトランジスタ50をオフした際に求めたTFB1(M−1)から目標電気角α0を差し引いた差分をΔT(M−1)、補正係数をkとすると、これらの間には以下の式が成立する。
Toff(M)=Toff(M−1)+k×(TFB1(M−1)−α0)
=Toff(M−1)+k×ΔT(M−1)
なお、上述した例では、下MOSオフ時間Toff(M)を求める際に、上アームに対応する半周期前の上MOSオフ時間Toff(M−1)と差分ΔT(M−1)とを用いたが、同じ下アームに対応する1周期前のこれらの値を用いるようにしてもよい。この場合の式を以下に示す。
Toff(M)=Toff(M−2)+k×(TFB2(M−2)−α0)
=Toff(M−2)+k×ΔT(M−2)
このようにして、ダイオード整流を行う場合と同じ周期で、ハイサイド側のMOSトランジスタ50とローサイド側のMOSトランジスタ51が交互にオンされ、MOSトランジスタ50、51を用いた低損失の整流動作が行われる。
また、上述した差分ΔT用いて前回の上MOSオフ時間Toff(M−1)および下MOSオフ時間Toff(N−1)に対する補正を行うことにより、回転変動、電圧変更などでオフタイミングが目標に対してずれる場合に、そのずれを補正することが可能となる。また、上述した補正係数kは、固定値(1あるいはその他の値)としてもよいが、TFB2(N−1)がα0よりも小さい場合やTFB1(M−1)がα0よりも小さい場合に1〜2の間の値に設定するようにしてもよい。車両の一定の加速が続く場合、加速分のずれが常に発生することになるが、補正係数を1倍から2倍の間に設定することにより、目標電気角とオフ後電気角との間のずれを減少させることができる。
(3)目標電気角の設定手法
次に、目標電気角の設定手法について説明する。目標電気角は、回転数に応じた値が設定される。それは、MOSトランジスタ50、51をオフするタイミングが上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の終了時点よりも遅くならないように同期制御を行うために必要な目標電気角の値(最小値)が回転数に依存するからである。具体的には、上述した上MOSオフタイミング演算部107や下MOSオフタイミング演算部109におけるオフタイミングの設定動作について説明したように、(A)車両の加減速に伴う回転変動、(B)エンジン回転の脈動、(C)電気負荷の変動、(D)所定のプログラムをCPUで実行して制御部100を実現する場合の動作クロック周期の変動、(E)ドライバ170、172にMOSトランジスタ50、51をオフする指示を出してから実際にオフされるまでのターンオフ遅れ、などに伴ってΔTが0にならないのと同じ理由で、必要な目標電気角の値を回転数に応じて変化させている。
上記のAのケースに対応する図8において、横軸は車両用発電機1の回転数を、縦軸は車両用発電機1の回転数が1秒間で2000rpmから16000rpmまで上昇する回転変動が生じたときに上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の長さがどの程度変動したかを表す電気角をそれぞれ示している。なお、図8において実線で示す特性は回転子が8極の場合に、点線で示す特性は回転子が6極の場合に対応している。
図8に示すように、回転数が低いほど電気角で表したオン期間変動の程度が大きくなり、回転数が高いほど電気角で表したオン期間変動の程度が小さくなる。この特性を反映させると、低回転域になるほど目標電気角を大きな値に設定し、高回転域になるほど目標電気角を小さな値に設定する必要があるといえる。
上記のBのケースに対応する図9において、横軸は車両用発電機1の回転数を、縦軸はプーリ比を2.5として上述したエンジン回転の変動が生じたときに上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の長さがどの程度変動したかを表す電気角をそれぞれ示している。なお、図9において実線で示す特性は回転子が8極の場合に、点線で示す特性は回転子が6極の場合に対応している。
図9に示すように、回転数が低いほど電気角で表したオン期間変動の程度が大きくなり、回転数が高いほど電気角で表したオン期間変動の程度が小さくなる。この特性を反映させると、低回転域になるほど目標電気角を大きな値に設定し、高回転域になるほど目標電気角を小さな値に設定する必要があるといえる。
上記のCのケースに対応する図10において、横軸は車両用発電機1の回転数を、縦軸は50Aの電気負荷10が切断されて出力電圧VB が13.5V〜14.0Vに変更したときに上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の長さがどの程度変動したかを表す電気角をそれぞれ示している。なお、図10において実線で示す特性は回転子が8極の場合に、点線で示す特性は回転子が6極の場合に対応している。
図10に示すように、回転数が低いほど電気角で表したオン期間変動の程度が大きくなり、回転数が高いほど電気角で表したオン期間変動の程度が小さくなる。この特性を反映させると、低回転域になるほど目標電気角を大きな値に設定し、高回転域になるほど目標電気角を小さな値に設定する必要があるといえる。
上記のEのケースに対応する図11において、横軸は車両用発電機1の回転数を、縦軸はドライバ170、172のそれぞれにオフする指示を行ってから実際にオフされるまでのターンオフ遅れを15μ秒としたときに上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の長さがどの程度変動したかを表す電気角をそれぞれ示している。なお、図11において実線で示す特性は回転子が8極の場合に、点線で示す特性は回転子が6極の場合に対応している。
図11に示すように、回転数が低いほど電気角で表したオン期間変動の程度が小さくなり、回転数が高いほど電気角で表したオン期間変動の程度が大きくなる。この特性を反映させると、低回転域になるほど目標電気角を小さな値に設定し、高回転域になるほど目標電気角を大きな値に設定する必要があるといえる。
また、上記以外では、クロック周期の変動を考慮する必要がある(上記のDのケースに対応する)。例えば、2MHzのシステムクロックを使用する場合にその精度が±β%、すなわちβ%の変動があるものとすると、上アーム・オン期間と下アーム・オン期間の長さの変動は、高回転域ほど大きくなり、低回転域ほど小さくなる。これは、クロックの精度は回転数に関係なく一定であるが、相電圧VP の電気角1周期分の時間は高回転域になるほど短くなるため、オン期間に占めるクロック変動分の相対的な割合が大きくなるからである。この特性を反映させると、低回転域になるほど目標電気角を小さな値に設定し、高回転域になるほど目標電気角を大きな値に設定する必要があるといえる。
上述したAからEのケースに対応する各種の要因の組合せを想定した電気角の変動の様子を示す図12において、横軸は車両用発電機1の回転数を、縦軸は各種の要因に対応した電気角変動の累積値をそれぞれ示している。なお、図12に示す特性Sは回転子が8極の場合の電気角変動の累積値である。
図12に示すように、AからEのケースに対応する各種の要因を組み合わせると、低速回転域と高速回転域において電気角変動の程度が大きくなり、中速回転域において電気角変動の程度が小さくなることがわかる。目標電気角設定部105は、この特性を反映させて、すなわち、低速回転域と高速回転域において目標電気角の値を大きく、中速回転域において目標電気角の値を小さく設定する。図12においてP、Qで示された2種類の特性は、このようにして設定された目標電気角を示している。一方のPで示された目標電気角は、回転数に応じて値が連続的に変化するようにしたものである。この場合には、回転数に応じて目標電気角の最小値を設定することが可能となる。また、他方のQで示された目標電気角は、回転数に応じて値が階段状に変化するようにしてものである。この場合には、例えば回転数に応じて変化する複数の値をテーブルの形式で記憶しておけばよいため、目標電気角の可変設定に必要な構成を簡略化することができる。
本実施形態の車両用発電機1では、目標電気角の値を回転数に応じて可変設定することにより、MOSトランジスタ50、51がオフされてからダイオードに電流が流れる期間を確保するとともにこの期間を短くすることができるため、ダイオード整流によって生じる損失を低減し、発電効率の向上を図ることが可能となる。特に、低速回転域および高速回転域では目標電気角の値を大きく、中速回転域では目標回転角の値を小さく設定することにより、目標電気角の適切な値を回転数毎に設定することができ、損失低減および発電効率の向上を各回転域で実現することができる。
また、目標電気角を連続的に変化させることにより、回転数等に応じて目標電気角の最小値を設定することが可能となり、損失を最小限に抑えて発電効率を最大とすることができる。また、目標電気角を階段状に可変することにより、目標電気角の可変設定に必要な構成を簡略化することができる。
ところで、上述した実施形態では、目標電気角の値を回転数に応じて可変設定したが、さらに温度や出力電流を回転数と組み合わせて目標電気角の値を設定するようにしてもよい。
例えば、一般に、クロック発生器が発生するクロックの周期は温度が高くなるほど変動が大きくなる。このクロック発生器が整流器モジュール5X等に内蔵されている場合を考えると、温度検出部150によって検出される温度はこのクロック発生器の温度と一致すると考えることができる。目標電気角設定部105は、温度検出部150によって検出された温度が高く、かつ、回転数に対して目標電気角が増加しているときに目標電気角を大きな値に設定し、温度が低いほど目標電気角を小さな値に設定する。温度による影響を加味することにより、さらに目標電気角の適切な値を設定することができ、さらなる損失低減および発電効率向上が可能となる。
また、一般に、出力電流が多いほど相電圧VP の上昇および下降が急峻になり、反対に出力電流が少ないほど相電圧VP の上昇および下降がなだらかになる。上述したように、上アーム・オン期間が終了する時点と実際にMOSトランジスタ50と並列なダイオードに流れる電流が停止するタイミングとはずれており、このずれの程度は、相電圧VP の変化がなだらかになる小出力時の方が顕著になる。目標電気角設定部105は、出力電流が少ないほど目標電気角を大きな値に設定し、出力電流が多いほど目標電気角を小さな値に設定する。出力電流変化による影響を加味することにより、さらに目標電気角の適切な値を設定することができ、さらなる損失低減および発電効率向上が可能となる。なお、出力電流の大小は、発電制御装置7のF端子から界磁巻線4に供給されるPWM信号のオンデューティを監視することにより判定することができる。あるいは、出力電流の大小は、例えば図2に示すMOSトランジスタ51のソースとバッテリ9の負極端子(アース)との間に電流検出用抵抗を挿入し、この電流検出用抵抗の両端電圧に基づいて判定するようにしてもよい。図13に示す構成は、図2に示した整流器モジュール5Xに対して、電流検出用抵抗55を追加したものである。図14に示す構成は、図3に示した制御回路54に対して出力電流検出部152を追加したものである。この出力電流検出部152は、電流検出用抵抗55の両端電圧に基づいて出力電流を検出する。なお、この場合には、整流器モジュール5XのMOSトランジスタ51を流れる電流値に基づいて出力電流の大小を判定することになるが、代わりに、充電線12あるいは出力端子に流れる電流値を電流センサを用いて直接検出して出力電流の大小を判定するようにしてもよい。
このように、本実施形態の車両用発電機1では、MOSトランジスタ50、51のオフタイミングの設定をオンタイミングと分離して行うことにより、例えば起電圧が低い場合や波形自体が歪んでいる場合(Δ−Y結線の電機子巻線を用いた場合)などでオンタイミングのずれが発生した場合であっても安定したオフタイミングの設定を行うことができる。
上MOSオフタイミング演算部107、下MOSオフタイミング演算部109のそれぞれは、オフタイミングの設定対象とは反対側のアームのMOSトランジスタ51、50に対応して、直前に相巻線の相電圧が第2のしきい値に達した時点から経過時間の計測を開始している。このように直前のオフタイミングに近い時点を基準とすることにより、迅速なフィードバック制御による誤差の少ないオフタイミングの設定が可能となる。
また、第1のしきい値は、上アームについては第2のしきい値よりも大きく、下アームについては第2のしきい値よりも小さい値に設定されている。このように、第1および第2のしきい値の間にヒステリシスを持たせることにより、上アーム・オン期間および下アーム・オン期間を確実に設けることができる。
また、第1のしきい値は、上アームについては出力電圧VB と同じかそれよりも大きく、下アームについてはグランド電圧VGND と同じかそれよりも小さい値に設定されている。これにより、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間が始まったことを確実に検出することができる。
また、第1のしきい値は、上アームについては出力電圧VB にダイオードの電圧降下を加算した値と同じかそれよりも小さい値であり、下アームについてはグランド電圧VGND にダイオードの電圧降下を減算した値と同じかそれよりも大きい値に設定されている。MOSトランジスタ50、51にダイオードが並列接続される場合に、発生する相電圧は、ダイオードの電圧降下でクランプされた状態になるため、このような第1のしきい値を用いることにより、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間が確実に始まったことを確実に検出することができる。
また、第2のしきい値は、上アームについては出力電圧VB よりも小さく、下アームについてはグランド電圧VGND よりも大きい値に設定されている。これにより、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の終了を確実に検出することができる。
(オフタイミング設定の変形例)
ところで、上述した説明では、上アームのMOSトランジスタ50のオフタイミングを設定する際に、下アームに対応する下アーム・オン期間や下MOSオフ時間を用いた。同様に、下アームのMOSトランジスタ51のオフタイミングを設定する際に、上アームに対応する上アーム・オン期間や上MOSオフ時間を用いた。すなわち、一方のアームのMOSトランジスタのオフタイミングを設定する際に、他方のアームに対応する情報を用いたが、各アームのMOSトランジスタのオフタイミングの設定を、同じアームに対応する情報のみの用いて行うようにしてもよい。この場合の具体的な動作を以下に示す。
上MOSオフタイミング演算部107は、上MOS VDS検出部120の出力信号(上アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号が前回(直前に)ハイレベルからローレベルへ立ち下がったタイミングから所定時間経過後をMOSトランジスタ50のオフタイミングとして判定し、ドライバ170に指示を送る。ドライバ170は、この指示に応じてMOSトランジスタ50をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、次の上アーム・オン期間の終了時点(上MOS VDS検出部120の出力信号が次回ハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
同様に、下MOSオフタイミング演算部109は、下MOS VDS検出部130の出力信号(下アーム・オン期間)を監視しており、この出力信号が前回(直前に)ハイレベルからローレベルに立ち下がったタイミングから所定時間経過後をMOSトランジスタ51のオフタイミングとして判定し、ドライバ172に指示を送る。ドライバ172は、この指示に応じてMOSトランジスタ51をオフする。
このオフタイミングを決定する所定時間は、次の下アーム・オン期間の終了時点(下MOS VDS検出部130の出力信号が次回ハイレベルからローレベルに立ち下がる時点)よりも「目標電気角」だけ早くなるように、その都度可変設定される。
ところで、実際には、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の終了時点は、MOSトランジスタ50、51をオフする時点ではわかっていないため、上MOSオフタイミング演算部107や下MOSオフタイミング演算部109は、1周期前の情報をフィードバックすることにより、MOSトランジスタ50やMOSトランジスタ51のオフタイミングの設定精度を上げている。
具体的には、ハイサイド側のMOSトランジスタ50のオフタイミングは以下のようにして設定される。上MOS・TFB時間演算部106は、1周期前にハイサイド側のMOSトランジスタ50をオフしてから前回の上アーム・オン期間の終了時点までの時間(オフ後電気角)TFB1 (図15)を演算し、上MOSオフタイミング演算部107は、このTFB1 から目標電気角を差し引いた差分ΔTを求める。回転等が安定していればTFB1 と目標電気角とが等しくなってΔT=0となるはずである。この場合は、上MOSオフタイミング演算部107は、1周期前の上アーム・オン期間の終了時点から時間の計測を開始し、2周期前の上アーム・オン期間の終了時点から前回上MOSトランジスタ50をオフするまでの時間(この時間を「上MOSオフ時間」と称する)が経過した時点を、MOSトランジスタ50の次のオフタイミングとすればよい。しかし、実際には、上述した理由からΔTが0にならないことが多い。
そこで、上MOSオフタイミング演算部107は、上MOSオフ時間をΔTに基づいて補正して、MOSトランジスタ50のオフタイミングを決定している。具体的には、設定したい上MOSオフ時間(1周期前の上アーム・オン期間の終了時点から次にMOSトランジスタ50をオフするまでの時間)をToff(n)、1周期前の上MOSオフ時間をToff(n−1)、前回上MOSトランジスタ50をオフした際に求めたTFB1(n−1)から目標電気角α0を差し引いた差分をΔT(n−1)、補正係数をkとすると、これらの間には以下の式が成立する。
Toff(n)=Toff(n−1)+k×(TFB2(n−1)−α0)
=Toff(n−1)+k×ΔT(n−1)
同様に、ローサイド側のMOSトランジスタ51のオフタイミングは以下のようにして設定される。下MOS・TFB時間演算部108は、1周期前にローサイド側のMOSトランジスタ51をオフしてから前回の下アーム・オン期間の終了時点までの時間(オフ後電気角)TFB2 (図15)を演算し、下MOSオフタイミング演算部109は、このTFB2 から目標電気角を差し引いた差分ΔTを求める。回転等が安定していればTFB2 と目標電気角とが等しくなってΔT=0となるはずである。この場合は、下MOSオフタイミング演算部109は、1周期前の下アーム・オン期間の終了時点から時間の計測を開始し、2周期前の下アーム・オン期間の終了時点から前回下MOSトランジスタ51をオフするまでの時間(この時間を「下MOSオフ時間」と称する)が経過した時点を、MOSトランジスタ51の次のオフタイミングとすればよい。しかし、実際には、上述した理由からΔTが0にならないことが多い。
そこで、下MOSオフタイミング演算部109は、下MOSオフ時間をΔTに基づいて補正して、MOSトランジスタ51のオフタイミングを決定している。具体的には、設定したい下MOSオフ時間(1周期前の下アーム・オン期間の終了時点から次にMOSトランジスタ51をオフするまでの時間)をToff(m)、1周期前の下MOSオフ時間をToff(m−1)、前回下MOSトランジスタ51をオフした際に求めたTFB2(m−1)から目標電気角α0を差し引いた差分をΔT(m−1)、補正係数をkとすると、これらの間には以下の式が成立する。
Toff(m)=Toff(m−1)+k×(TFB2(m−1)−α0)
=Toff(m−1)+k×ΔT(m−1)
このようにして、ダイオード整流を行う場合と同じ周期で、ハイサイド側のMOSトランジスタ50とローサイド側のMOSトランジスタ51が交互にオンされ、MOSトランジスタ50、51を用いた低損失の整流動作が行われる。
また、上述した差分ΔT用いて前回の上MOSオフ時間Toff(n−1)および下MOSオフ時間Toff(m−1)に対する補正を行うことにより、回転変動、電圧変更などでオフタイミングが目標に対してずれる場合に、そのずれを補正することが可能となる。また、上述した補正係数kは、固定値(1あるいはその他の値)としてもよいが、TFB1(n−1)がα0よりも小さい場合やTFB2(m−1)がα0よりも小さい場合に1〜2の間の値に設定するようにしてもよい。
この変形例では、オフタイミングの設定対象となるMOSトランジスタ50あるいは51自身に対応して相電圧が第2のしきい値に達した時点を基準としているため、異常発生時にハイサイド側の通電期間(上アーム・オン期間)とローサイド側の通電期間(下アーム・オン期間)が大幅に異なるような場合であっても、正常動作可能なMOSトランジスタ50あるいは51のオフタイミングの設定を継続することが可能になり、ダイオード整流に移行した場合に比べて低損失を維持して発熱による故障リスクを低減することができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々の変形実施が可能である。例えば、目標電気角設定部105は、通電期間(上アーム・オン期間、下アーム・オン期間)が終わるタイミングよりもMOSトランジスタ50、51をオフするタイミングの方が遅くなる頻度が増加したときに、目標電気角の値を大きくするようにしてもよい。これにより、何らかの原因により通電期間よりもMOSトランジスタ50、51をオフするタイミングが遅れた状態が頻繁に発生する場合であっても、速やかに、通電期間が終わる前にMOSトランジスタ50、51をオフするように制御内容を変更することが可能になる。
また、上述した実施形態では、低速回転域および高速回転域では目標電気角の値を大きく、中速回転域では目標回転角の値を小さく設定する場合について説明したが、低速回転域と中速回転域との関係に着目して、あるいは、中速回転域と高速回転域との関係に着目して目標電気角の可変設定を行うようにしてもよい。
具体的には、回転数を低速回転域、中速回転域、高速回転域に分けたときに、目標電気角設定部105は、回転数演算部101によって演算された回転数が低速回転域では目標電気角の値を大きく、中速回転域では目標回転角の値を小さく設定する。これにより、中速回転域までの範囲で目標電気角の適切な値を回転数毎に設定することができ、損失低減および発電効率の向上を中速回転域までの範囲で実現することができる。この場合には高速回転域での目標電気角は、上述した実施形態(図12)と同様に回転数上昇に伴って大きくしてもよいが一定としてもよい。
あるいは、回転数を低速回転域、中速回転域、高速回転域に分けたときに、目標電気角設定部105は、回転数演算部101によって演算された回転数が高速回転域では目標電気角の値を大きく、中速回転域では目標回転角の値を小さく設定することが望ましい。これにより、中速回転域以上の範囲で目標電気角の適切な値を回転数毎に設定することができ、損失低減および発電効率の向上を中速回転域以上の範囲で実現することができる。この場合には低速回転域での目標電気角は、上述した実施形態(図12)と同様に回転数低下に伴って大きくしてもよいが一定としてもよい。
また、上述した実施形態では、2つの固定子巻線2、3と2つの整流器モジュール群5、6を備えるようにしたが、一方の固定子巻線2と一方の整流器モジュール群5を備える車両用発電機についても本発明を適用することができる。
また、上述した実施形態では、各整流器モジュール5X等を用いて整流動作(発電動作)を行う場合について説明したが、MOSトランジスタ50、51のオン/オフタイミングを変更することにより、バッテリ9から印加される直流電流を交流電流に変換して固定子巻線2、3に供給して電動動作を行わせる車両用回転電機に本発明を適用することができる。
また、上述した実施形態では、2つの整流器モジュール群5、6のそれぞれに3つの整流器モジュールを含ませるようにしたが、整流器モジュールの数は3以外であってもよい。
また、上述した実施形態では、相電圧が第1のしきい値に達したときに、すなわち、上アーム・オン期間の開始タイミングに合わせてMOSトランジスタ50をオンし、下アーム・オン期間の開始タイミングに合わせてMOSトランジスタ51をオンしている。しかし、これらの開始タイミングと異なるタイミングでMOSトランジスタ50、51をオンするようにしてもよい。すなわち、上MOSオンタイミング判定部103、下MOSオンタイミング判定部104のそれぞれは相電圧が第3のしきい値に達した時点を検出してMOSトランジスタ50あるいは51のオンタイミングを設定するようにしてもよい。この場合に、第3のしきい値は、上アームについては第1のしきい値以上であり、下アームについては第1のしきい値以下に設定される。これにより、MOSトランジスタ50、51のオンタイミングを容易かつ確実に設定することが可能となる。また、上アーム・オン期間や下アーム・オン期間の開始後にMOSトランジスタ50、51をオンすることができ、相電圧が低い時点でMOSトランジスタ50、51をオンすることを防止することができる。なお、上述した実施形態のように、この第3のしきい値を第1のしきい値と同じにすることにより、電圧検出用の素子や回路を減らすことができる。