従来の光伝送システムでは、光ファイバを伝搬することにより減衰した信号を再生するために、光信号を電気信号に変換し、ディジタル信号を識別した後に光信号を再生する識別再生光中継器が用いられていた。しかしながら、この識別再生光中継器では、光信号を電気信号に変換する電子部品の応答速度に制限があることや、伝送する信号のスピードが速くなると消費電力が大きくなるなどの問題があった。
この問題を解決する光増幅手段として、エルビウムやプラセオジム等の希土類元素を添加した光ファイバに励起光を入射して信号光を増幅するファイバレーザ増幅器や半導体レーザ増幅器がある。このようなファイバレーザ増幅器や半導体レーザ増幅器は、信号光を光のままで増幅することができるため、識別再生光中継器で問題になっていた電気的な処理速度の制限が存在しない。加えて、機器構成も比較的単純である利点を有する。
しかしながら、これらのレーザ増幅器は、劣化した信号光波形を整形する機能を有していない。また、これらのレーザ増幅器においては、不可避的かつランダムに発生する自然放出光が信号成分とは全く無関係に混入されるため、信号光のS/N比が増幅前後で少なくとも3dB低下する。これらは、ディジタル信号伝送時における伝送符号誤り率の上昇につながり、伝送品質を低下させる要因になっている。
このような従来のレーザ増幅器の限界を打開する手段として、位相感応光増幅器(Phase Sensitive Amplifier:PSA)が検討されている。この位相感応光増幅器は、伝送ファイバの分散の影響による劣化した信号光波形や位相信号を整形する機能を有する。また、信号とは無関係の直交位相をもった自然放出光を抑圧することができ、同相の自然放出光も最小限で済むために、増幅前後で信号光のS/Nを劣化させず同一に保つことが原理的に可能である。
図1は、従来の位相感応光増幅器の基本的な構成を示す。図1に示されるように、PSA100は、光パラメトリック増幅を用いた位相感応光増幅部101と、励起光源102と、励起光位相制御部103と、第1及び第2の光分岐部104−1及び104−2とを備える。図1に示されるように、PSA100に入力された信号光110は、光分岐部104−1で2分岐されて、一方は位相感応光増幅部101に入射し、他方は励起光源102に入射する。励起光源102から出射した励起光111は、励起光位相制御部103を介して位相が調整されて、位相感応光増幅部101に入射する。位相感応光増幅部101は、入力した信号光110及び励起光111に基づいて出力信号光112を出力する。
位相感応光増幅部101は、入射した信号光110の位相と励起光111の位相とが一致すると信号光110を増幅し、両者の位相が90度ずれた直交位相関係になると信号光110を減衰する特性を有している。この特性を利用して増幅利得が最大となるように励起光111−信号光110間の位相を一致させると、信号光110と直交位相の自然放出光が発生せず、また同相の成分に関しても信号光110が有する雑音以上に過剰な自然放出光が発生しないため、つまりS/N比を劣化させずに信号光110の増幅が可能になる。
このような信号光110と励起光111の位相同期を達成するために、励起光位相制御部103は、第1の光分岐部104−1で分岐された信号光110の位相と同期するように励起光111の位相を制御する。加えて、励起光位相制御部103は、第2の光分岐部104−2で分岐された出力信号光112の一部を狭帯域の検出器で検波し、出力信号光112の増幅利得が最大となるように励起光111の位相を制御する。その結果、位相感応光増幅部102では、上記の原理に基づいてS/N比の劣化がない光増幅が実現される。
なお、励起光位相制御部103は、励起光源102の出力側で励起光111の位相を制御する構成の他に、励起光源102の位相を直接制御する構成としてもよい。また、信号光110を発生する信号光用光源が位相感応光増幅部101の近くに配置されている場合は、信号光用光源の一部を分岐して励起光111として用いることもできる。
しかしながら、上述した従来技術では、以下に述べるような問題点がある。上述のパラメトリック増幅を行う非線形光学媒質としては、非特許文献1に示されるように周期分極反転LiNbO3(PPLN)導波路に代表される二次非線形光学材料を用いる方法と、非特許文献2に示されるように石英ガラスファイバに代表される三次非線形光学材料を用いる方法とがある。
図2は、非特許文献1等に開示されているPPLN導波路を用いた従来のPSAの構成を例示する。図2に示されるPSA200は、エルビウム添加ファイバレーザ増幅器(EDFA)201と、第1及び第2の二次非線形光学素子202及び204と、第1及び第2の光分岐部203−1及び203−2と、位相変調器205と、PZTによる光ファイバ伸長器206と偏波保持ファイバ207と、光検出器208と、位相同期ループ(PLL)回路209とを備える。第1の二次非線形光学素子202は、第1の空間光学系211と、第1のPPLN導波路212と、第2の空間光学系213と、第1のダイクロイックミラー214とを備え、第2の二次非線形光学素子204は、第3の空間光学系215と、第2のPPLN導波路216と、第4の空間光学系217と、第2のダイクロイックミラー218と、第3のダイクロイックミラー219とを備える。
第1の空間光学系211は、第1の二次非線形光学素子202の入力ポートから入力された光を第1のPPLN導波路212に結合する。第2の空間光学系213は、第1のPPLN導波路212から出力された光を第1のダイクロイックミラー214を介して第1の二次非線形光学素子202の出力ポートに結合する。第3の空間光学系215は、第2の二次非線形光学素子204の入力ポートから入力された光を第2のダイクロイックミラー218を介して第2のPPLN導波路216に結合する。第4の空間光学系217は、第2のPPLN導波路216から出力された光を第3のダイクロイックミラー219を介して第2の二次非線形光学素子204の出力ポートに結合する。
図2に示される例では、PSA200に入射した信号光250は、光分岐部203−1によって分岐されて、一方は第2の二次非線形光学素子204に入射し、他方は励起基本波光251として位相変調器205及び光ファイバ伸長器206を介して位相制御されてEDFA201に入射する。光通信に用いられる微弱なレーザ光から非線形光学効果を得るのに十分なパワーを得るために、EDFA201は、入射した励起基本波光251を増幅し、増幅した励起基本波光251は第1の二次非線形光学素子202−1に入射する。第1の二次非線形光学素子202−1では、入射した励起基本波光251から第二高調波(以下、SH光)252が発生し、当該発生したSH光252は偏波保持ファイバ207を介して第2の二次非線形光学素子204に入射する。第2の二次非線形光学素子204では、入射した信号光250とSH光252とで縮退パラメトリック増幅を行うことで位相感応増幅を行い、出力信号光253を出力する。
PSAにおいては、信号と位相の合った光のみを増幅するために、上述のように信号光と励起光の位相が一致もしくはπラジアンだけずれている必要がある。すなわち、二次非線形光学効果を用いる場合は、SH光に相当する波長である励起光の位相φ2ωsと信号光の位相φωsとが、下記(式1)の関係を満たすことが必要となる。
Δφ=1/2φ2ωs−φωs=nπ(ただし、nは整数) (式1)
図3は、従来の二次非線形光学効果を利用したPSAにおける、入力信号光−励起光間の位相差Δφと利得(dB)との関係を示すグラフである。図3に示されるように、Δφが−π、0、またはπのときに、利得が最大となっていることがわかる。
図2に示した構成においては、信号光250と励起基本波光251とを位相同期させるために、位相変調器205を用いて微弱なパイロット信号により位相変調を励起基本波光251に施した後、出力信号光253の一部を分岐して検出器208で検波する。このパイロット信号成分は、図3に示される位相差Δφが最小の位相同期が取れている状態で最小となるので、パイロット信号が最小、つまり増幅出力信号が最大となるように、PLL209を用いて光ファイバ伸長器206にフィードバックを行う。それにより、励起基本波光251の位相を制御して信号光250と励起基本波光251との位相同期を達成することができる。
上記のPPLNを非線形光学媒質として用い、信号光250とSH光252を第2の二次非線形光学素子204に入射して縮退パラメトリック増幅を行う構成においては、一旦SH光252を発生してからパラメトリック増幅を行う際に、例えばダイクロイックミラー206−1及び206−2の特性を用いて基本波の成分を取り除くことにより、SH光252と信号光250のみを第2の二次非線形光学素子204のようなパラメトリック増幅媒質に入射することができる。そのため、EDFA201が発生する自然放出光の混入による雑音が防げるので、低雑音な光増幅が可能になる。
上述のように、PPLNを非線形光学媒質として用い、SH光252を用いて信号光250を励起する構成とすることで、EDFA201が発生する雑音の影響を受けることなく低雑音な位相感応増幅を行うことができ、また直交位相成分を減衰させる特性を活かして、位相雑音を低減させることができる。
しかしながら、図3に示すように、従来の構成法では、直交する位相成分を減衰させる特性を有しているため、通常の強度変調信号や二値の位相変調を用いるBPSKやDPSK等の変調信号の増幅に用いることができるものの、さらに多値の変調フォーマットであるQPSK(4値)や8PSK等の信号を増幅することができない。
一方で、石英ガラスファイバを非線形光学媒質として用いた場合、非特許文献2等に開示されているように、QPSK等の信号を位相感応増幅し、位相再生増幅が可能な構成をとり得ることが知られている。図4は、四値の位相変調であるQPSKの位相再生増幅を行っている石英ガラスファイバを用いたPSAを例示する。
図4には、第1及び第2のEDFA401及び408と、第1の励起光源402と、第1乃至第5の光合分波器403−1〜403−5と、第1の光ファイバ404と、分波器405と、光サーキュレータ406と、半導体レーザからなる第2の励起光源407と、第2の光ファイバ409と、バンドパスフィルタ410と、PLL回路412と、PZTによる光ファイバ伸長器413とを備えたPSA400が示されている。
図4に示される例では、PSA400に入力された信号光415は第1のEDFA401で増幅された後に、第1の光合分波器403−1に入射する。第1の励起光源402で発生する第1の励起光414は、第2の光合分波器403−2によって分岐されて、一方が第1の光合分波器403−1に入射し、他方は第3の光合分波器403−3に入射する。第1の光合分波器403−1に入射した第1の励起光414の一部と当該増幅された信号は、第1の光合分波器403−1で合波された後、第1の光ファイバ404に入射する。
図5(a)は第1の光ファイバ404中における周波数配置を示す。第1の光合分波器403−1で合波された信号が第1の光ファイバ404に入射すると、図5(a)中に示されるように、第1の光ファイバ404中の四光波混合(以下、FWM)により、複数の信号群が生成される。この過程を以下に詳しく述べる。
第1の光ファイバ404においては、まず信号光415を励起光とした縮退FWMにより、第1の励起光414が第1のアイドラ光416に変換される。次に、第1のアイドラ光416を励起光とした縮退FWMにより信号光415が第2のアイドラ光417に変換される。次に、第2のアイドラ光417を励起光とした縮退FWMにより第1のアイドラ光416が第3のアイドラ光418に変換される。
このように、副次的なFWMにより第1の光ファイバ404において順次複数のアイドラ光416〜418が発生するのは、第1の光ファイバ404の零分散波長が長さ方向に分布していることによる。すなわち、縮退FWMにおいては通常、励起光として働く波長において第1の光ファイバ404の零分散波長となることにより、FWM過程の位相整合が取れ、波長変換が行われる。
しかしながら、光ファイバの構造は長さ方向に完全に均一ではないため、零分散波長が長さ方向に変化するのが一般的である。そのため、上記のように、複数のアイドラ光416〜418の波長がそれぞれ励起光として働く波長となり、副次的なFWMをもたらしている。このとき、各FWM過程における位相整合条件から、各過程で発生するアイドラ光416〜418の位相は、下記(式2)〜(式4)で与えられる。
φi1=2φs−φp1 (式2)
φi2=2φi1−φs=3φs−2φp1 (式3)
φi3=2φi2−φi1=4φs−3φp1 (式4)
ここで、φsは信号光415の位相、φp1は第1の励起光414の位相、φi1は第1のアイドラ光416の位相、φi2は第2のアイドラ光417の位相、φi3は第3のアイドラ光418の位相を表している。
今、第1の励起光414の位相が一定であると仮定して(式4)に注目すると、第3のアイドラ光418の位相は信号光415の位相が4倍されていることが分かる。従って、QPSKのようなπ/2の整数倍の位相のみを取る信号では、第3のアイドラ光418の位相が一定となり、QPSK信号から搬送波の位相が抽出できることが分かる。
図4に説明を戻す。第1の光ファイバ404で生成された各信号は、分波器405によって波長ごとに方路が決められ、第3のアイドラ光418は光サーキュレータ406に入射し、光サーキュレータ406において第2の励起光源407から出力されるレーザに注入同期され、残留する強度変調成分が取り除かれて第2の励起光419として出力される。
第1の励起光414及び第2の励起光419は第3の光合分波器403−3で合波され、EDFA408で増幅された後、分波器405から出力された信号光415及び第2のアイドラ光417と第4の光合分波器403−4で合波され、第2の光ファイバ409に入射される。第2の光ファイバ409中では、FWMによる位相感応増幅が行われる。このとき、第2の光ファイバ409に入射された4つの光の位相に着目すると、下記(式5)及び(式6)が成立していることが分かる。
φp2=φi3=4φs−3φp1 (式5)
φp1+φp2=φs+φi2=4φs−2φp1 (式6)
ここで、φp2は第2の励起光419の位相である。(式6)から分かるように、第1の励起光414と第2の励起光419の位相の総和と、信号光415と第2のアイドラ光417の位相の総和とが一致することになる。従って、第2の光ファイバ409中の4つの入力光の間で位相整合条件が満たされる。
図5(b)は、第2の光ファイバ409中における周波数配置を示す。図5(b)に示されるように、第1の励起光414と第2の励起光415のエネルギーが信号光415と第2のアイドラ光417に変換されて、光パラメトリック増幅が行われる。このとき、(式6)は信号の位相がπ/2の整数倍の場合のみに成り立つため、QPSKの信号を入射した場合、4つの位相状態の信号のみが位相感応増幅されることになり、QPSK信号の位相再生増幅が達成される。
実際の増幅動作では、光ファイバ部品の伸び縮みによって光位相が変動するために、第2の光ファイバ409の出力から増幅された信号光だけをバンドパスフィルタ410によって取り出し、その一部を第5の光合分波器403−5と光検出器410によって検出し、PLL回路412を介してPZTからなる光ファイバ伸長器413にフィードバックすることにより、信号−励起光間の位相を安定させ、位相感応増幅を達成している。
しかしながら、上記の光ファイバを非線形光学媒質として用いた構成では、図5(a)及び図5(b)中の周波数配置からも分かるように、微弱な信号と同じ波長域に強度の強い励起光が2つも存在し、さらにそれらの励起光は光ファイバ増幅器で増幅されているため、光ファイバ増幅器の発生する自然放出光が信号波長に混入してしまうことが避けられない。さらには、十分な利得を得るためには光ファイバの長さが数100m以上と長く、実用性に欠けること、さらには強度の強いCWの励起光を光ファイバ中に入射すると、誘導ブリュリアン散乱による後方散乱により一定以上の光パワーが入射できなくなるために、励起光の線幅を広げるためにあえて位相変調を加える、あるいは光ファイバに加える張力をあえて分布させることにより誘導ブリュリアン散乱の敷値を下げるなどの余分な機構が必要となり、それらによる新たな雑音が発生したり、構成が複雑になるといった問題があった。
本発明の目的は、上記のような従来技術の問題を鑑みて、QPSK等の多値位相変調の位相感応増幅が可能で、かつ従来よりも小型、低雑音、構成が簡潔な位相再生型光増幅器を提供することにある。
二次非線形光学効果を用いた光混合によって信号光を増幅する光増幅装置であって、第1の励起光を発生する第1の光源と、入力した信号光及び前記第1の励起光を増幅して出力する第1の光ファイバレーザ増幅器と、前記第1の光ファイバレーザ増幅器によって増幅されて出力された前記信号光及び前記第1の励起光を入力し、第二高調波を発生する第1の二次非線形光学素子であって、複数の波長において擬似位相整合を満たす、第1の二次非線形光学素子と、前記第1の二次非線形光学素子の出力から特定の波長を分離することにより前記第1の二次非線形光学素子の出力を二分岐する分波器と、前記分波器の一方の出力に注入同期が可能なレーザを出力する第2の励起光源と、前記分波器の一方の出力を、前記第2の励起光源から出力されたレーザに注入同期して第2の励起光を出力する光サーキュレータと、前記第1の励起光と前記第2の励起光とを増幅して出力する第2の光ファイバレーザ増幅器と、前記第2の光ファイバレーザ増幅器によって増幅されて出力された前記第1の励起光及び前記第2の励起光を入力し、前記第1の励起光と前記第2の励起光との和周波光を発生する第2の二次非線形光学素子と、前記分波器の他方の出力と前記和周波光とを入射して、非縮退パラメトリック増幅を行う第3の二次非線形光学素子とを備えたことを特徴とする。
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係る光増幅装置は、二次非線形光学効果を用いた光混合によってM種類の値を取る多値位相変調された信号光を増幅する光増幅装置であって、周波数ωpを有する第1の励起光を発生する第1の光源と、入力した周波数ωsを有する信号光及び前記第1の励起光を増幅して出力する第1の光ファイバレーザ増幅器と、前記第1の光ファイバレーザ増幅器によって増幅されて出力された前記信号光及び前記第1の励起光を入力し、第二高調波を発生する第1の二次非線形光学素子であって、複数の波長において擬似位相整合を満たす、第1の二次非線形光学素子と、前記第1の二次非線形光学素子の出力から、Mωs−(M−1)ωpの周波数を有するアイドラ光と、(M−1)ωs−(M−2)ωpの周波数を有するアイドラ光及び前記信号光とを分離することにより、前記Mωs−(M−1)ωpの周波数を有するアイドラ光を一方の出力ポートから出力し、前記(M−1)ωs−(M−2)ωpの周波数を有するアイドラ光及び前記信号光を他方の出力ポートから出力する分波器と、前記分波器の前記一方の出力ポートからの出力に注入同期が可能なレーザを出力する第2の励起光源と、前記分波器の前記一方の出力ポートからの出力を、前記第2の励起光源から出力されたレーザに注入同期して第2の励起光を出力する光サーキュレータと、前記第1の励起光と前記第2の励起光とを増幅して出力する第2の光ファイバレーザ増幅器と、前記第2の光ファイバレーザ増幅器によって増幅されて出力された前記第1の励起光及び前記第2の励起光を入力し、前記第1の励起光と前記第2の励起光との和周波光を発生する第2の二次非線形光学素子と、前記分波器の前記他方の出力ポートからの出力と前記和周波光とを入射して、非縮退パラメトリック増幅を行う第3の二次非線形光学素子とを備えたことを特徴とする。
本発明の請求項2に係る光増幅装置は、本発明の請求項1に係る光増幅装置であって、前記第1の二次非線形光学素子は、周期分極反転構造を有するLiNbO3からなる光導波路であり、前記周期分極反転構造は、分極反転周期よりも長い周期で空間的な位相変調あるいは周期変調が施されており、前記第1の二次非線形光学素子は、少なくとも、ωs、2ωs−ωpの周波数に擬似位相整合波長が一致しており、QPSK信号を増幅することを特徴とする。
本発明の請求項3に係る光増幅装置は、本発明の請求項1に係る光増幅装置であって、前記第1の二次非線形光学素子は周期分極反転構造を有するLiNbO3からなる光導波路であって、前記周期分極反転構造には分極反転周期よりも長い周期で空間的な位相変調あるいは周期変調が施されており、前記第1の二次非線形光学素子は、少なくとも、ωs、2ωs−ωp、4ωs−3ωpの周波数に擬似位相整合波長が一致しており、8PSK信号を増幅することを特徴とする。
本発明によれば、大幅な波長変換効率の低下を招くことなく、位相感応増幅に必要な信号光に位相同期した励起光と、アイドラ光の発生を行うことができ、その結果QPSK等の多値の変調フォーマット信号の位相感応増幅が可能であり、かつ励起光を一旦SH光の波長に変換してから信号光と合波してパラメトリック増幅を行うために励起光の分離が容易であり、内部で用いる光ファイバ増幅器の発生する自然放出光が混入することによるSN比の劣化を抑制することができ低雑音な増幅が可能になる。さらに、第1の二次非線形光学素子の設計を適切に行うことにより効率を落とすことなく8PSKなどのさらに多値の変調フォーマットに対応させることが可能になる。また、従来の光ファイバを用いた位相感応増幅器に比べて誘導ブリュリアン散乱などの問題がないため、構成が簡潔になり、素子長も数cm程度の非線形媒質で済むので全体としてコンパクトな位相感応増幅器を構成することができる。
この結果、光ファイバ通信において伝送光ファイバ中の非線形効果等で位相雑音が増大した信号を本発明による位相感応増幅器で増幅することにより、SN比の劣化を抑えた光増幅が可能になるとともに位相情報を再生しながら増幅できるので、位相雑音を低減して中継増幅を行うことができる。
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(実施例1)
本実施例1に係る光増幅装置では、QPSK信号から搬送波を抽出し、その搬送波に位相同期した励起光を生成して、PPLN導波路を用いたPSAを構成した。図6は、本発明の実施例1に係る光増幅装置の構成を示す。図6には、第1及び第2のEDFA601及び608と、第1及び第2の励起光源602及び607と、第1乃至第4の光合分波器603−1〜603−4と、第1乃至第3の二次非線形光学素子604、610及び611と、分波器605と、第1及び第2のバンドパスフィルタ609及び612と、光検出器613と、PLL回路614と、PZTによる光ファイバ伸長器615と、偏光保持光ファイバ616とを備えた光増幅装置600が示されている。第1の二次非線形光学素子604は、第1の空間光学系621と、第1のPPLN導波路622と、第2の空間光学系623と、第1のダイクロイックミラー624とを備える。第2の二次非線形光学素子610は、第3の空間光学系625と、第2のPPLN導波路626と、第4の空間光学系627と、第2のダイクロイックミラー628とを備える。第3の二次非線形光学素子611は、第5の空間光学系629と、第3のPPLN導波路630と、第6の空間光学系631と、第3のダイクロイックミラー632、第4のダイクロイックミラー633とを備える。
第1の空間光学系621は、第1の二次非線形光学素子604の入力ポートから入力された光を第1のPPLN導波路622に結合する。第2の空間光学系623は、第1のPPLN導波路622から出力された光を第1のダイクロイックミラー624を介して第1の二次非線形光学素子604の出力ポートに結合する。第3の空間光学系625は、第2の二次非線形光学素子610の入力ポートから入力された光を第2のPPLN導波路626に結合する。第4の空間光学系627は、第2のPPLN導波路626から出力された光を第2のダイクロイックミラー628を介して第2の二次非線形光学素子610の出力ポートに結合する。第5の空間光学系629は、第3の二次非線形光学素子611の入力ポートから入力された光を第3のダイクロイックミラー632を介して第3のPPLN導波路630に結合する。第6の空間光学系631は、第3のPPLN導波路630から出力された光を第4のダイクロイックミラー632を介して第3の二次非線形光学素子611の出力ポートに結合する。
図6に示される例では、光増幅装置600に入射した、1.55μm帯でQPSK変調された信号光652は、第1の光合分波器603−1に入射する。第1の励起光源602で発生する第1の励起光651は、第2の光合分波器603−2によって分岐されて、一方が第1の光合分波器603−1に入射し、他方は第3の光合分波器603−3に入射する。第1の光合分波器603−1に入射した第1の励起光651の一部及び信号光652は、第1の光合分波器603−1で合波された後、第1のEDFA601に入射して増幅されて、第1の二次非線形光学素子604に入射する。
ここで、搬送波の消失したQPSK信号からコンパクトなPPLN導波路を用いて搬送波を抽出するために、第1の二次非線形光学素子604には、1.55μm帯で周波数間隔が100GHzで3つの擬似位相整合波長を有する第1のPPLN導波路622が作製されている。
第1のPPLN導波路622の作製方法を以下に例示する。まず、Znを添加したLiNbO3上に周期が17μmでかつ位相変調周期が16.5mmの空間的な位相変調を施した周期的な電極を形成した。次に、電界印加法により上記の電極パターンに応じた分極反転グレーティングをZn:LiNbO3中に形成した。次に、この周期分極反転構造を有するZn:LiNbO3基板をクラッドとなるLiTaO3上に直接接合を行い、500℃で熱処理を行うことにより両基板を強固に接合した。次に、コア層を研磨により5μm程度まで薄膜化し、ドライエッチングプロセスを用いてリッジ型の光導波路を形成した。導波路の長さは、上記の周期的な位相変調周期の3倍である49.5mmとした。この導波路はペルチェ素子により温調が可能で、1.55μm帯の偏波保持ファイバで光の入出力が可能なモジュールとした。
ここで、第1のPPLN導波路622中での波長変換プロセスについて説明する。図7(a)は、第1のPPLN導波路622中の周波数配置と位相整合特性を示す。図7(a)に示されるように、第1のPPLN導波路622の3つの位相整合ピークのうち最も低周波側のピークを信号光652の周波数と一致させる。そして、第1の励起光651は、信号光652よりも100GHzだけ低周波に離調するように波長を設定する。以上のような条件において、第1のPPLN導波路622中では、まず信号光652がSH光に変換され、そのSH光を励起光とする差周波発生(DFG)により第1の励起光651が第1のアイドラ光653に変換される。変換された第1のアイドラ光653の周波数は第1のPPLN導波路622の2番目の位相整合波長に一致するため、第1のアイドラ光653はSH光に変換され、そのSH光を励起光として信号光652が第2のアイドラ光654へ変換される。第2のアイドラ光654の周波数は第1のPPLN導波路622の3番目の位相整合波長に一致するために、第2のアイドラ光654はSH光に変換され、そのSH光を励起光として第1のアイドラ光653が第3のアイドラ光655へ変換される。このとき、第1乃至第3のアイドラ光653〜655の位相は次式のように与えられる。
φi1=2φs−φp1 (式7)
φi2=2φi1−φs=3φs−2φp1 (式8)
φi3=2φi2−φi1=4φs−3φp1 (式9)
ここで、φsは信号光652の位相、φp1は第1の励起光651の位相、φi1は第1のアイドラ光653の位相、φi2は第2のアイドラ光654の位相、φi3は第3のアイドラ光655の位相を表している。
今、第1の励起光651の位相が一定であると仮定して(式9)に注目すると、第3のアイドラ光655の位相は信号光652の位相の4倍であることが分かる。従って、QPSKのようなπ/2の整数倍の位相のみを取る信号では、第3のアイドラ光655の位相は一定となり、QPSK信号から搬送波の位相が抽出できることが分かる。
図8は、第1のPPLN導波路622の出力の光スペクトルを示す。図8に示されるように、波長1550.1nmの10Gbit/sQPSK信号光652と100GHzだけ低周波の波長1550.9nmの第1の励起光651とを第1のPPLN導波路622に入射した結果、順次複数のアイドラ光が発生し、第3のアイドラ光655ではQPSK変調によるサイドバンドがキャンセルし搬送波は抽出できることが確認できた。
なお、本実施例1では、第1のPPLN導波路622が3つの位相整合波長を有するとしたが、同様に効果を得るために第1のPPLN導波路622の位相整合波長を低周波側から2つとしても良い。この場合、第2のアイドラ光654は励起光としては働かなくなるが、第1のアイドラ光653のSH光を励起光として第1の励起光651がDFGにより変換されると、図8中の第3のアイドラ光655と同一の周波数に以下の位相を有するアイドラ光が発生する。
φi3’=2φi1−φp1=4φs−3φp1 (式10)
(式9)と(式10)とを比べると明らかなように両者の位相は同一であり、3番目の位相整合ピークは必ずしも必須ではないことが分かる。従って、本実施例1と同様の効果を得るためには、第1のPPLN導波路622の擬似位相整合の波長が、第1の励起光651の周波数ωpと信号光652の周波数ωsに対して、少なくとも、ωs、2ωs−ωpの周波数に一致していれば良い。
また、本実施例1では、3つ目の位相整合ピークがある場合には、第3のアイドラ光655は正確には上記の2種類の波長変換過程が重なることにより発生していることになる。改めて(式9)と(式10)に着目すると、第3のアイドラ光655の位相は信号光652の位相の4倍であることが分かる。従って、QPSKのようなπ/2の整数倍の位相のみを取る信号では、第3のアイドラ光655の位相は一定となり、QPSK信号から搬送波の位相が抽出できることが分かる。このように本実施例1では、僅か50mm弱の第1のPPLN導波路622を用いてQPSK信号の搬送波位相を抽出することができる。
再び図6を参照すると、第1のPPLN導波路622を有する第1の二次非線形光学素子604の出力は、分波器605により波長ごとに分離されて二分岐され、信号光652及び第2のアイドラ光654は第3の二次非線形光学素子611に入射し、第3のアイドラ光655は光サーキュレータ606に入射する。第3のアイドラ光655は光サーキュレータ606において第2の励起光源607(半導体レーザ)から出力されるレーザに注入同期され、残留する強度変調成分が取り除かれて第2の励起光656として出力される。第1の励起光651及び第2の励起光656は第3の光合分波器603−3で合波され、第2のEDFA608で増幅された後、第1の励起光651及び第2の励起光656のみを透過するバンドパスフィルタ609により過剰な自然放出光を除去したのちに、第2の二次非線形光学素子610の第2のPPLN導波路626に入射される。
第2のPPLN導波路626の作製方法は第1のPPLN導波路622の作製方法とほぼ同様だが、第2のPPLN導波路626は周期17μmの分極反転構造に位相変調は加えられていない。従って、第二高調波発生(SHG)で評価したときの位相整合波長は、図7(b)に示される第2の二次非線形光学素子610の第2のPPLN導波路626中の周波数配置のように、第1のアイドラ光653の波長に一致する。第1の励起光651及び第2の励起光656は、この位相整合波長からともに200GHzだけ互いに逆方向に周波数が離れている。従って、第1の励起光651及び第2の励起光656の和周波発生の位相整合条件を満足することになり、第2のPPLN導波路626により第1のアイドラ光653のSH光に相当する波長に和周波光657として波長変換が行われる。このとき、和周波光657の位相φsFは下記(式11)で与えられる。ここで、φp2は第2の励起光656の位相を示す。
φsF=φp1+φp2=−2φp1 (式11)
この和周波光657は、第2の二次非線形光学素子610中に内蔵された第2のダイクロイックミラー628により、第1の励起光651及び第2の励起光656と分離された後に、0.78μm帯の偏波保持光ファイバ616を介して第3の二次非線形光学素子611の第3のPPLN導波路630に入射する。
一方で、分波器605で分離されて第3の二次非線形光学素子611に入射した信号光652及び第2のアイドラ光654も、第3のダイクロイックミラー632を介して第3のPPLN導波路630に入射する。第3のPPLN導波路630は第2のPPLN導波路626と同等の特性を有しており、従ってその位相整合波長は第2のPPLN導波路626とほぼ同じであり、両者の位相整合波長は適切な温度調整により一致させるように設定されている。
図7(c)は、第3のPPLN導波路630中の周波数配置を示す。図7(c)に示されるように、和周波光657の周波数は1.55μm帯における第3のPPLN導波路630の位相整合波長のSH光に相当する。従って、和周波光657と信号光652、第2のアイドラ光654の間では位相整合条件が満たされており、信号光652の位相と第2のアイドラ光654の位相との総和を計算すると、下記の(式12)のように表される。
φs+φi2=4φs−2φp1 (式12)
(式12)を(式11)と比較すると、両者は信号の位相がπ/2の整数倍のときのみ一致するため、QPSK信号を位相感応増幅することができることが分かる。
図9は、本実施例1に係る光増幅装置600で増幅された信号光652及び第2のアイドラ光654の光スペクトルを示す。従来の光ファイバを用いたPSAと異なり、図9に示されるように1.55μm帯には強度の強い励起光が存在せず、また励起光の発生に用いるEDFAが発生する自然放出光も混入しないために、高いSN比を保ちながら位相感応増幅を行うことが出来ることが確認できる。
実際の増幅動作においては、各光学部品を接続する光ファイバの伸び縮みによる光路長の変動による位相変動の影響を抑圧するために、本実施例1では第3のPPLN導波路630の出力から増幅された信号光だけをバンドパスフィルタ612を用いて取り出し、さらにその一部を第4の光合分波器603−4を用いて分岐し、光検出器613で検出したのちに、PLL回路614を介して位相変調器・PZTからなる光ファイバ伸長器615にフィードバックを行い、安定的な動作を実現している。
なお、本発明では、従来の光ファイバを用いた位相感応増幅器とは異なり、誘導ブルリアン散乱を避けるための位相変調等の機構は必要とせず、非線形媒質も高々50mm程度の導波路で済むために、全体としてコンパクトな位相感応増幅器を構成することができる。図10は、本実施例1に係る位相感応型の光増幅装置600に、意図的に位相雑音を付加したQPSK信号を入力したときの入力信号と出力信号のコンスタレーションマップに示す。図10に示されるように、実施例1に係る位相感応光増幅装置600では、信号の位相がπ/2の整数倍の場合にのみ増幅が行われるために、入力信号で観測される位相雑音を低減することが可能であり、位相再生型の増幅が行われていることが分かる。
なお、本実施例1では、信号光652よりも低周波数側に配置したが、この配置は逆の順番に配置しても全く同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、本実施例1と同様の効果は、第1のPPLN導波路622の分極反転周期をチャープさせて位相整合波長を分布させることで広帯域化することでも実現できるが、その場合、励起光として用いない波長にまで位相整合帯域が分配されるため、全体として必要な波長における変換効率が低下してしまう。本実施例1で示したように、周期分極反転構造を適切に設計して必要な波長のみに周期的に位相整合ピークが配置される構成を取ることにより、効率良く波長変換と搬送波抽出を行うことができる。
(実施例2)
以下、本発明の実施例2に係る光増幅装置について説明する。図11は、本発明の実施例2に係る光増幅装置1100を示す。実施例1では、2つないし3つの位相整合波長を有するPPLN導波路を用いてQPSK信号の位相再生増幅を行ったが、本実施例2では、さらに多値の信号フォーマットである8PSK信号に対応するようにPPLN導波路を構成した。本実施例2に係る光増幅装置1100は、8値の位相を取る変調信号からいかにして搬送波を抽出するかという点に特徴を有する。
図11には、第1及び第2のEDFA1101及び1108と、第1及び第2の励起光源1102及び1107と、第1乃至第4の光合分波器1103−1〜1103−4と、第1乃至第3の二次非線形光学素子1104、1110及び1111と、分波器1105と、第1及び第2のバンドパスフィルタ1109及び1112と、光検出器1113と、PLL回路1114と、PZTによる光ファイバ伸長器1115と、偏光保持光ファイバ1116とを備えた光増幅装置1100が示されている。第1の二次非線形光学素子1104は、第1の空間光学系1121と、第1のPPLN導波路1122と、第2の空間光学系1123と、第1のダイクロイックミラー1124とを備える。第2の二次非線形光学素子1110は、第3の空間光学系1125と、第2のPPLN導波路1126と、第4の空間光学系1127と、第2のダイクロイックミラー1128とを備える。第3の二次非線形光学素子1111は、第5の空間光学系1129と、第3のPPLN導波路1130と、第6の空間光学系1131と、第3のダイクロイックミラー1132、第4のダイクロイックミラー1133とを備える。図11に示されるように、実施例2に係る光増幅装置1100の全体構成は、図6で示される実施例1に係る光増幅装置600の構成とほぼ同様であるため、特に注記しない限り同様の機能を有するものとして、その詳細な記述は省略する。実施例2に係る、搬送波抽出に用いる第1のPPLN導波路1122を利用した光増幅装置1100の詳細を説明する。
図11に示されるように、信号光1152及び第1の励起光1151は、EDFA1101で増幅された後に、複数の位相整合波長を有する第1のPPLN導波路1122に入射する。信号光1152及び第1の励起光1151は、100GHzだけ低周波側に離調して設定されている。第1のPPLN導波路1122は、信号光波長と、100GHz高周波側に離れた波長と、300GHz高周波側に離れた波長との3つの波長において位相整合ピークがあるように設計されている。この第1のPPLN導波路1122は、周期が16.92μmでかつ位相変調周期が16.5mmの空間的な位相変調を施してある。
第1のPPLN導波路1122中での波長変換プロセスについて説明する。図12(a)は、実施例2に係る光増幅装置に関する、第1の二次非線形光学素子1104の第1のPPLN導波路1122中での光の位相整合特性を示し、図2(b)は第1のPPLN導波路1122中での光の周波数配置を示す。本実施例2では、図12(a)に示されるような不等間隔の3つのピークを得るために、図13に示すような、位相変調周期が16.5mmの非対称な位相変調を周期分極反転構造に付与して、このような位相整合曲線を実現している。図12(b)に示される位相整合波長、信号光1152、及び第1の励起光1151の波長を配置すると、以下に述べるような波長変換プロセスが順次発生することになる。
以上のような条件において、第1のPPLN導波路1122中では、まず信号光1152がSH光に変換され、そのSH光を励起光とする差周波発生(DFG)により第1の励起光1151が第1のアイドラ光1153に変換される。変換された第1のアイドラ光1153の周波数は、第1のPPLN導波路1122の2番目の位相整合波長に一致するため、第1のアイドラ光1153はSH光に変換され、そのSH光を励起光として信号光1152が第2のアイドラ光1154へ変換される。さらに、第1のアイドラ光1153のSH光を励起光として第1の励起光1151がDFGにより変換されると、第3のアイドラ光1155が発生する。変換された第1のアイドラ光1153の周波数は、第1のPPLN導波路1122の2番目の位相整合波長に一致するため、第3のアイドラ光1155はSH光に変換され、そのSH光を励起光として、第2のアイドラ光1154は第4のアイドラ光1156へ、第1のアイドラ光53は第5のアイドラ光1157へ、信号光1152は第6のアイドラ光1158へ、第1の励起光1151は第7のアイドラ光1159へそれぞれ変換される。このとき、第1のアイドラ光1153、第3のアイドラ光1155、第6のアイドラ光1158、及び第7のアイドラ光1159の位相に着目すると、これらのアイドラ光の位相は、以下の(式13)〜(式16)で表される。
φi1=2φs−φp1 (式13)
φi3=2φi2−φp1=4φs−3φp1 (式14)
φi6=2φi3−φs=7φs−6φp1 (式15)
φi7=2φi3−φp1=8φs−7φp1 (式16)
ここで、φi6は第6のアイドラ光1158の位相を示し、φi7は第7のアイドラ光1159の位相を示す。このように、3つの位相整合波長を設定するだけで、順次第1から第7までのアイドラ光1153〜1159を生成することができる。すなわち、第1のPPLN導波路622の擬似位相整合波長が、第1の励起光1151の周波数ωpと信号光1152の周波数ωsとに対して、少なくとも、ωs、2ωs−ωp、4ωs−3ωpの周波数に一致していれば良い。
(式16)で示される第7のアイドラ光1159の位相に注目すると、信号光1152の位相が8倍されているために、8PSKのπ/4の整数倍の位相のみを取る信号に対しては第7のアイドラ光1159の位相が一定となり、搬送波が抽出できることが分かる。
再び図11を参照すると、実際の位相変調信号は強度変化を伴うので、第1の二次非線形光学素子1104の出力は分波器1105で分波されて二分岐され、信号光1152及び第6のアイドラ光1158は第3の二次非線形光学素子1111に入射し、第7のアイドラ光1159は光サーキュレータ1106に入射する。第7のアイドラ光1159は光サーキュレータ1106において第2の励起光源1107(半導体レーザ)から出力されるレーザに注入同期され、残留する強度変調成分が取り除かれて第2の励起光1160として出力される。第1の励起光1151及び第2の励起光1160は第3の光合分波器1103−3で合波され、第2のEDFA1108で増幅された後、第1の励起光1151及び第2の励起光1160のみを透過するバンドパスフィルタ1109により過剰な自然放出光を除去したのちに、第2の二次非線形光学素子1110の第2のPPLN導波路1126に入射される。第2のPPLN導波路1126では、第1の励起光1151及び第2の励起光1160により和周波発生がなされ、それにより信号波位相に同期した和周波光1161を生成することができる。
なお、このときの第2のPPLN導波路1126の位相整合波長は、図12で示される第3のアイドラ光1155と一致するように設計しておくことが必要となる。これにより、第1の励起光1151、第2の励起光1160、及び位相整合波長の離調はともに400GHzとなり、和周波発生の位相整合条件を満たすことになる。このときの和周波光の位相φsFは、下記の(式17)で与えられる。
φsF=φp1+φp2=−6φp1 (式17)
この和周波光1161は、第2の二次非線形光学素子1110中に内蔵された第2のダイクロイックミラー1128により、第1の励起光1151及び第2の励起光1160と分離された後に、0.78μm帯の偏波保持光ファイバ1116を介して第3の二次非線形光学素子1111の第3のPPLN導波路1130に入射する。
一方で、分波器1105で分離されて第3の二次非線形光学素子1111に入射した信号光1152及び第6のアイドラ光1158も、第3のダイクロイックミラー1132を介して第3のPPLN導波路1130に入射する。
信号光1152、第6のアイドラ光1158、及び和周波光1161が第3のPPLN導波路1130に入射すると、以下に述べるように位相感応型の増幅が可能になる。信号光1151の位相と第6のアイドラ光1158の位相との和は、下記の(式18)で与えられる。
φs+φi6=8φs−6φp1 (式18)
(式18)を(式17)と比較すると、両者は信号の位相がπ/4の整数倍のときのみ一致するため、8PSKの信号を位相感応増幅することができることが分かる。本実施例2による位相感応増幅器に意図的に位相雑音を付加したQPSK信号を入力したときの入力信号と出力信号のコンスタレーションマップを図14に示す。図14に示されるように、本実施例2では、信号の位相がπ/4の整数倍の場合にのみ増幅が行われるために、入力信号で観測される位相雑音を低減することが可能であり、位相再生型の増幅が行われていることが分かる。
このように、8PSKのようなさらに多値の信号フォーマットであっても、第1のPPLN導波路の設計を変更するだけで、大幅な波長変換効率の低下を招くことなく、位相感応増幅に必要な信号光に位相同期した励起光と、アイドラ光の発生を行うことができる。また、第1の実施例と同様に励起光を光ファイバ増幅器で増幅したとしても、一旦和周波光に変換してから第3のPPLN導波路に入射してパラメトリック増幅を行うため、光ファイバ増幅器の発生する自然放出光に埋もれることなく、微弱な信号光をSN比の劣化を起こすことなく、位相再生増幅を実現することができる。
なお、本実施例では、信号光よりも低周波数側に配置したが、この配置は逆の順番に配置しても全く同様の効果が得られることは言うまでもない。
ここで、本発明の構成を、M(Mは4以上の整数)種類の値を取る多値位相変調された信号光を増幅する光増幅器に適用する場合には、分波器を、第1の二次非線形光学素子の出力から、Mωs−(M−1)ωpの周波数を有するアイドラ光と、(M−1)ωs−(M−2)ωpの周波数を有するアイドラ光及び信号光とを分離することにより、Mωs−(M−1)ωpの周波数を有するアイドラ光を光サーキュレータに接続された一方の出力ポートから出力し、(M−1)ωs−(M−2)ωpの周波数を有するアイドラ光及び信号光を第3の二次非線形光学素子に接続された他方の出力ポートから出力するように構成するとよい。