JP2014084535A - 染色機能を増強した天然タンパク質繊維製品及びその製造方法 - Google Patents

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益裕 塚田
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Abstract

【課題】優れた転写捺染染色機能を有し、転写紙を介して容易に転写捺染染色することができる天然タンパク質繊維製品の提供。
【解決手段】天然タンパク質繊維製品に、リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体、1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物、あるいはフッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を含むグラフトモノマーを用いてグラフト加工を施す、あるいはスチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合物、またはポリエチレングリコールジメタアクリレートのいずれかを含むグラフトモノマーを用いてグラフト加工を施すことにより得られる。グラフト加工率が30%であると転写捺染染色処理の前後における絹糸の強度・伸度は未加工試料と大差はなく、中程度の耐光性を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は、グラフト加工した天然タンパク質繊維製品を転写捺染染色法で染色する際の
染色機能を増強した天然タンパク質繊維製品とその製造方法に関するものである。
昆虫由来の絹タンパク質繊維製品(通称は、絹糸と呼ぶこともある)は感性に富み、吸湿性と染色性、手触り、さらに風合い感に優れた天然素材である。絹タンパク質繊維製品は、直接染料、含金属性染料、金属媒染染料、硫化染料、塩基性染料、反応性染料等の広範な染料での染色が良好で鮮明な色相に染色できる。絹タンパク質繊維製品が優れた染色性を示すのは、絹タンパク質には染料の吸着座席となる塩基性基、酸性基、水酸基、無極性基が含まれ、染料との親和性が良く、染料が単に繊維表面に染着するのみでなく、繊維内部にまで浸透して均一に染色できるからである。
染料には多種類の天然染料及び合成染料が知られているが、工業的に重要なものの大部分は合成染料である。合成染料は、化学組成的に単一な構造の染料であり、安価にしかも多量に生産されている。また合成染料を用いる染色は、染色条件が同一であれば、毎回同一の色調に染色でき、好みによっては原色やけばけばしく彩度の高い色調も容易に発色させることが可能である。
染料には多種・多様な種類があるがColour Index に登録される染顔料で最も多いのは酸性染料、直接染料、油溶性染料・顔料、分散染料の順である。我が国における染料生産量では、分散染料が断然に多いのが現状である。
染色方法としては、染料を溶解した染色浴を用い加熱昇温しながら染色する手法の一つに「浸染」が一般的である。浸染の工程には、ランニングコストがかかり、相当量の投資コストがかかるという今後改善すべき課題がある。加えて、浸染の工程では染料を含む多量の染色廃液が多量に排出するため環境保全・資源保護の視点から解決すべき課題があった。
上記の問題が無く水媒体を使用しない染色法として、染料を昇華させて染色する気相染色が提案された。その代表が分散系の染料を使用する転写捺染染色である。
転写捺染染色は昇華転写捺染ともいわれ、分散染料が塗布した転写紙を加熱して転写紙の分散染料を昇華し繊維内に拡散させて染色する技法である。転写捺染染色法によると分散染料で描かれた図案をプリントした転写紙を繊維製品に当て、アイロン等で高温に保ち圧着加熱する簡単な方法で転写紙中の染料を織物の上に移し変えることが可能となる。この染色方法は、ナイロン等の合成繊維には好ましく用いられているが、動物繊維である絹繊維製品への染色には不向きである。転写捺染染色を絹タンパク質繊維製品に応用すると絹タンパク質繊維製品の有する機能が転写捺染染色には向かないため良好に染色でき無いという問題がある。
転写捺染染色の特徴は次の通りである。染料が昇華し繊維の分子構造に入り込み染着できるため転写捺染染色は、余分な排水を出さず環境に優しい、転写紙にプリントした柄をそのまま生地に転写できるため柄に制約がない。さらにラニングコストが比較的にかからず、捺染紙を使用するため被染色物の形を選ばない、通常の染色技法よりも発色がよく、生地と結合するため水にも強というさまざまな利点がある。
本発明は、絹タンパク質繊維製品をグラフト加工し試料表面を改質し、転写捺染機能を増強させることが可能な素材およびその製造方法に関するものである。
本願発明で使用する転写紙には分散染料が塗布されており、転写捺染染色過程で加熱処理により転写紙の分散染料が昇華し繊維内に拡散して着色できる。分散染料は、浸染あるいは熱転写捺染染色において、上述のとおりナイロン等の合成繊維を染色するには極めて好都合であるが、動物繊維である絹繊維製品への染色には適合しない。
転写捺染染色に不向きな絹繊維製品に対して安易で効率的で、かつ色鮮やかに染色できる転写捺染染色の開発が可能となれば、絹繊維製品の需要は高まるはずである。
グラフト加工は、絹繊維製品に新たな機能を付与するための改質技術として従来から行われている。従来グラフト加工に用いられるグラフトモノマーには多くのものがあるが、メタクリルアミドあるいは2-ハイドロキシエチルメタクリレート等の親水性ビニル系モノマーが最もよく知られている。
グラフト加工した絹繊維製品に転写捺染染色する技術としては、スチレンでグラフト加工し、加工率が30%の絹繊維製品を転写捺染染料で染色する技術が公開されている(特許文献1)。また、スチレン1部とポリオキシエチレン ソルビタンモノパリミテート1部の混合グラフトモノマーでグラフト加工し、加工率が60.5%の絹繊維製品を転写捺染染料で染色する技術が公開されている(特許文献2)。
また、スチレンでグラフト加工し、あるいはスチレンと他のビニルモノマー(アクリルアミド、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等)とを含むグラフトモノマー複合薬剤でグラフト加工した絹繊維製品を転写捺染染料で染色する技術が公開されている(特許文献3)。
ポリエチレングリコールジメタアクリレート(PEDGMAと略記する)でグラフト加工した絹繊維製品の風合い特性に影響を及ぼす力学的挙動を解析した結果が公開されている(非特許文献1)。
本来、分散染料を用いた転写紙による転写捺染染色に不向きな絹繊維製品を疎水性のスチレンのビニル化合物でグラフト加工しその転写捺染性を改善した例が知られている。公知の技術に対して、絹繊維製品を無水酢酸に溶解したジメチルホルムアミド溶媒中で絹繊維製品をアセチル化反応させることで転写捺染性を改善した例が公開(非特許文献2)されたが、ポリエステルへの転写捺染性に比べると堅牢度性能は十分でなく更なる化学加工の技術の開発が望まれている。
また、スチレングラフト加工した絹繊維製品を水/ブタノール溶媒中で前処理し、4−ジメチルアミノアゾベンゼンに対する染色性の変化を比較する技術が公示され、スチレングラフトポリマー部分に対する分散染料の染着速度が大となることが認められた(非特許文献3)。
特開昭50−101677号公報 特開昭51−35787号公報 特開昭53−106883号公報
Masuhiro Tsukada, Hiroshi Katoh, MitsuoYokozawa, Hiraki Urashima, Giuliano Freddi,Mechanical properties of silkfabrics graft-copolymerized with polyethylene glycol di(metha)acrylate, J. Seric. Sci. Japn,63 (6), 464-474 (1994) 塩崎英樹、岩間春男、上坪正和、絹繊維の乾式転写捺染、繊維、第31巻、3号、109-114, 1979 加古武、片山明、黒木宣彦、スチレングラフト絹繊維の染色性に関する研究X 分散染料に対する水/ブタノール処理スチレングラフト絹繊維の染色性、日蚕雑、49(4), 319-323 (1980)
従来、絹繊維製品を染色するには、染料を溶解した染色浴を加熱昇温して染色する技法「浸染」が採用されている。浸染工程では、染色浴の温度を維持するための装置が必要であり、鮮明な色調に染色するには相当長い染色時間を要することが一般的である。浸染では、染料を含む多量の汚染水が排出するため環境保全・資源保護の視点から問題視されている。
例えば、直接染料で絹タンパク質繊維製品を染色するために用いられる酸性浴染法では、染色浴に中性塩を投入し、中性浴染法、酢酸アンモニウムを投入する方法が採用され、染色廃液にはこうした試薬や染料を多く含む廃液が多量に排出される。そのため、環境保全・資源保護の視点からは問題点として指摘された。更に、紺や黒等の染料に多く使用されるクロム染料あるいは酸化染料は、環境公害の問題を引き起こした経過があり、環境保護、環境保全の視点から現在では殆ど用いられていない。
例えば、草木染では、媒染剤にクロムや銅が使われるため染色廃液の処理については十分留意する必要があった。また、染色浴には、促染剤、均染剤、柔軟剤等の染色助剤が含まれるため染色残液の処理には注意を払うことが重要であった。
従って、染色のためのラニングコストを低減することが可能で、染色が容易、染料の消費量が少なくても鮮明な色調に染めることが可能な染色方法が強く望まれてきた。さらに、染色工程で特殊な技能と知識を必要としない技術者でも天然タンパク質繊維を容易に染色するための技術開発が必要である。
転写捺染染色法は、これらの課題を解決する方法として有力な方法と考えられる。しかしながら、分散染料を使用する転写捺染染色法は、絹繊維製品等の天然タンパク質繊維への染色には適合しないという問題があり、転写捺染染色に不向きな天然タンパク質繊維に対しても色鮮やかに染色できる転写捺染染色法を開発することができれば、これらのタンパク質繊維製品の需要を増大させる上できわめて有効である。
本願発明者らは、天然タンパク質繊維製品に本来備わっていない熱転写捺染機能を増強するための基礎研究を鋭意進めてきたところ、リン酸基を含むビニル化合物、1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物、フッ素系のビニル化合物で繊維製品をグラフト加工すると、天然タンパク質繊維にこれらのビニル化合物が繊維内で重合し、その結果、天然タンパク質繊維製品の表面機能を修飾し優れた転写捺染性を付与することが可能となること、さらに、グラフト加工した天然タンパク質繊維製品が、中程度の耐光性を有し、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、かつ表面状態も変わらず、優れた転写捺染性が発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明に係るグラフト加工では、以下の(1)〜(4)のビニル化合物が利用できる。
(1)リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体
リン酸基を含むビニル化合物が天然タンパク質繊維のグラフトモノマーとして好適に使用できる。リン酸基を含むビニル化合物としては、商品名ホスマーM、ホスマーCL,ホスマーPE、ホスマーMH(ユニケミカル株式会社製:ホスマーは登録商標)として知られる化合物(ホスマーはアシッド・ホスホキシ・メタアクリレートの総称)が好ましく利用できる。
(2)1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物
1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物としては、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、ならびにメタクリル酸2−プロポキシエチルが使用できる。三菱レイヨン株式会社 化成品事業部のアクリルエステルカタログによると上記化学物の商品名はそれぞれアクリルエステルMT、アクリルエステルET、アクリルエステルHPである。
(3)フッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物
フッ素鎖を側鎖に持つビニル化合物としては、下記の化合物が使用できる。いずれも、大阪有機化学工業株式会社製である。フッ素鎖長が短いものから、長いものになるにつれて該当するビニル化合物の化学名としては、2,2,2-トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,2,3-テトラフルオロプロピルメタアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2,3-テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルアクリレートが例示できる。なお、これら5種類のフッ素鎖を側鎖に持つビニル化合物は、大阪有機化学工業で販売しており、商品名としては、フルオロアルキル基を有する単官能(メタ)アクリレート化合物として各種のビスコートがあり、例えば、3FE, 3FM,
4FE, 5FE, 8FE, 8FM,13FE, 17FE 等と略記される。なお、FM、およびFEと記された上記化合物は、フッ素鎖を側鎖に持つビニル化合物のメタクリレートならびにアクリレートを意味する。
(4)スチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合ビニル化合物
本発明に係るグラフト加工には、スチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合物、あるいはポリエチレングリコールジメタアクリレート(PEDGMA)をグラフトモノマーとして使用することができる。
上記、(1)〜(4)のビニル化合物であるグラフトモノマーを用いて繊維製品をグラフト加工すると、加工後も加工前と同等の機械的特性を保持し、しかも優れた転写捺染染色機能を増強させた繊維製品が得られる。グラフトモノマーが繊維内にビニル化合物が入り込んで重合するグラフト加工後も、重合したグラフトモノマーによる析出物が試料表面に現れることはなく、試料表面は未加工時と同様に平滑である。
(グラフト加工率)
グラフト加工率は加工前後の繊維製品の水を含まない絶乾重量の変化から測定できる。試料の絶乾重量は恒温乾燥機を使用し105℃で2時間乾燥し、試料重量を測定するとよい。未加工未処理の試料重量、グラフト加工後の試料重量を基にして、次式によりグラフト加工率を求めた。W、Wはそれぞれ加工前試料の乾燥重量、加工後試料の乾燥重量である。
グラフト加工率(%)=(W1−W0)/W0×100
(熱転写捺染染色)
試料(繊維製品)の表面に転写捺染印紙をのせ、綿50%とポリエステル50%とから製造された「あて布」を試料の表面と裏面にはさみ、あて布の上から160℃に調節したアイロン(National社製 業務用スチームアイロン NI-650P)で4分間加熱することにより転写捺染染色を行った。
(色測定)
転写捺染法で染色した絹繊維製品の染色程度はコニカミノルタ製CONICA MINOLTA SPECTROPHOTOMETERで評価した。染色評価はL値、a値、b値系計測に加えてΔL値、Δa値、Δb値によって行った。ΔL値、Δa値、Δb値を各5回ずつ測定し、平均値を測定結果とした。
グラフト加工していない試料(絹繊維製品)を基準色のControlとして採用した。Δは基準色と測定値の各値の差を表す。例えば、b値が基準試料で−2、転写捺染染色加工試料で−5であるとΔb値は−3となる。
(試料表面染着濃度)
K/S値は表面染着濃度に対応する物理量であり、試料表面の色の濃さを表す。色は反射されている色調が見えているものである。今回、転写捺染染色に用いた転写紙の染料に基づく最大吸収ピークは560-570 nmである。この波長に対応する吸収ピーク値からK/Sを測定した。
今回使用した青色の分散染料による吸光度が最大になる570nmの反射率R(%)を求めた後、繊維表面の染料濃度(K/S)をクベルカ・ムンクが提唱した次式により計算し評価した。
K/S=(1-R)2/2R
ただし、Rは染料分子の最大吸収波長における反射率(%)、K/Sは表面染着濃度である。L、a、b系計測におけるLは明度、a、bは色合い指数である。
K/Sは染料の最大吸収波長に対応した値であるが、実際に染色した試料のK/Sの最大値は、K/Sのピーク位置と最大吸収波長とが一致する。今回使用した転写捺染染料に基づく最大吸収波長は560-570nmであった。絹繊維製品の黄変褐色も反映できると考えられることから、K/SとLABを併用して測定し考察することにした。
本発明に係り、グラフト加工により転写捺染性機能を増強することができる素材としては、家蚕あるいは野蚕由来の絹タンパク質繊維製品、羊毛繊維(毛織物ともいう)、ケラチン繊維、コラーゲン繊維を例示することできる。
転写紙としては、分散染料で描かれた柄であれば種類を問わず利用できる。転写紙としては、市販されているもの、たとえば、日本サブリスタテッィク社、日本サーモブリンテックス社等で製紙されているものでも良い。また、水不溶性の分散染料であってもよいし、あるいは水不溶性のアソイック染料でもよい。転写シートとしては、紙、フィルムなどにこれら該当する染料を印刷したものでもよい。あるいは、分散染料を用いて手描により作った絵柄を転写紙として利用することも可能である。
日本における絹繊維製品の消費分野は主に和服用が中心であった。最近では絹繊維製品の特性や風合いに似せた化学繊維も製造されているが、以前は高級な反物はすべて絹繊維製品であった。
本発明での転写捺染染色機能を増強した絹繊維製品は、ビニル化合物でグラフト加工を施した後も、繊維表面を化学的に損傷することが無く、転写捺染染色後においても絹繊維製品の機械的な劣化は無く、しかも中程度の耐光性を持ち、優れた転写捺染染色機能を有している。また、転写捺染染色は、転写紙を介して分散染料で描いた図案を絹繊製品にあて高温・高圧下に晒すことで染料が昇華し繊維に入り込み染色が可能となるため、浸染とは違って環境汚染の原因になる有害物を含有する染色廃液が出ないため、環境保全・資源保護の視点からも理想的な染色方法である。また、通常の浸染よりも発色性がよく、生地と結合するため水にも強く堅牢度も高いというさまざまな利点がある。
転写捺染染色による濃染機能を増強した繊維製品は、伝統的な高級衣料用の和服生地、女性インナー、子供服生地、ベビー服生地、水着、ストッキングや靴、バッグ、インテリア、またスポーツユニフォームなどの素材として利用できる。また、生活雑貨、家具やインテリア用の素材としても広く利用できる。
本発明における転写捺染染色機能を増強した天然タンパク質繊維製品は、前処理としてのグラフト加工を行っても繊維製品が化学的に損傷せず、耐光性は中程度であったが、優れた転写捺染染色機能を有し、転写紙を用いて容易に染色することができる。また、浸染とは異なり染色時に染色廃液等の有害物を排出することがなく環境保全を図ることができ、種々用途に利用できる繊維製品を提供することができる。
グラフト加工し転写捺染染色した絹繊維製品の写真である。未加工処理試料(a)、PEGDMA加工試料(b)、St加工試料(c)、St/PEGDMA加工試料(d)
以下、本発明に係る転写捺染性を増強した繊維製品とその製造方法について説明する。
本発明に係る転写捺染機能を増強した繊維製品は、下記の4種類のビニル化合物をグラフトモノマーとしてグラフト加工することにより製造することができる。
(1)リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体
(2)1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物、
(3)フッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物
(4)スチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合物あるいはポリエチレングリコールジメタアクリレート。
以下の実施例では、家蚕絹繊維製品、柞蚕絹繊維製品、羊毛繊維(毛織物)にグラフト
加工し、グラフト加工した試料について、各種絹繊維製品の理化学的特性及び生化学的特性を明らかにするため、以下の項目の試験を行った。
(試料)
グラフト加工対象区として、(a)家蚕絹繊維製品に関しては、家蚕絹繊維製品の羽二重(財団法人日本規格協会製、JIS L0803準拠)を使用した。この絹繊維製品羽二重を構成する経糸及び緯糸の太さは、それぞれ2.3tex×3、2.3tex×4であり、経糸及び緯糸の密度は、264、190(本/cm)である。ここで2.3tex×3とは、2.3texという太さの絹繊維3本に対して撚りをかけた糸を使用した織物であることを意味する。この羽二重の重量は60g/m2であった。(b)柞蚕繊維製品としては、柞蚕絹繊維製品から製造した柞蚕織物を用いた(以下、柞蚕繊維製品と略記する)。(c)羊毛に関しては、毛織物(財団法人 日本規格協会JIS L0803準拠)を用いた。
(グラフト加工)
グラフト加工率は加工前後の繊維製品の重量変化から試算した。そのためグラフト加工前後の試料重量を測定する必要がある。測定時には、乾燥機により105℃で2時間乾燥し、試料重量を測定する。
2g/lの非イオン界面活性剤ノイゲンHC(第一工業製薬製:ノイゲンは登録商標)水溶液にグラフトモノマーを溶解する。水不溶性のモノマーは、非イオン海面活性剤で水溶液に乳化する。各モノマーと重合開始剤として2.5%の過硫酸アンモニウム(APS)(和光製薬製)を添加し、試料を十分に浸しグラフト加工を行う。加工時の温度は25℃から85℃まで昇温の後、各々の所定の時間で加工する。加工後は30分以上水洗いし、2g/lの非イオン界面活性剤ノイゲンHC水溶液で75℃、30分洗浄し、再び水洗いを30分以上行い1日自然乾燥する。その後、乾燥機で105℃、90分乾燥後、乾燥重量を測定した。
未加工未処理の試料重量、グラフト加工後の試料重量を基にして、次式に従ってグラフト加工率を求めた。W、Wはそれぞれ加工前試料の乾燥重量、加工後試料の乾燥重量。
グラフト加工率(%)=(W1−W0)/W0×100
(機械的特性)
グラフト加工した絹繊維の機械的性質(強度及び伸度)は、島津製インストロン(オートグラフ AGS-5D)により測定し、引っ張り切断時の強度と切断するまでの伸度を評価した。試料長は50mm、引っ張り速度を2mm/minとし、測定回数を5とした。試料の切断強度(g/d)はデニール当たりの切断強度を意味する。
(熱特性測定)
示差走査型熱量測定をDSC装置(リガク社製、DSC8230型)を用いてグラフト加工した試料の熱挙動を測定した。試料重量、昇温速度、及び測定温度範囲は、それぞれ、2.4mg、15℃/min、及び室温〜360℃であった。窒素気流中で測定した。
(転写捺染染色による絹繊維製品の染色)
青色系分散染料の転写紙は、バーデイシエ染料化学品社(株式会社)のセリトンファースブルーFFRで着色してあり、セリトンブアーストブルー FFRを用いて試料転写捺染染色を行った。転写捺染染色は、試料(2cm ×2cm)の表面と裏面にあて布をはさみ、あて布の上から160℃のアイロンをで4分間押圧することで実施した。
(屈折率測定)
屈折率の測定にはオリンパス製の偏光顕微鏡を用い、ベッケ法により繊維方向の屈折率(nI)と、繊維軸に対して直角方向の屈折率(nII)とを測定した。両屈折率の差を試料の複屈折率(△n)とし、また(nI+2nII)/3で求まる値を平均的屈折率(niso)として示す。なお、(nI-nII)で求められる値を△nと記載した。
複屈折率と平均的屈折率は、それぞれ試料分子の分子配向度と結晶化度に符合する物理量である。
(耐光性、摩耗性評価)
耐光試験は、JIS L0842-1971に準拠して行った。摩擦試験は、JIS L0849-1971に準拠して行った。
(実施例1)
リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体によるグラフト加工の実施例として、ユニケミカル株式会社製における商品登録名のホスマーM、ホスマーMH、ホスマーPP、ホスマーCLをグラフトモノマーとして絹繊維製品にグラフト加工を行った。表1に、使用したホスマーの特性値をユニケミカル株式会社カタログから引用する。
グラフト加工用のホスマー濃度はいずれも120%owf。浴比は1:30に設定した。重合開始剤としては3%owf過硫酸アンモニウム(APS)を使用した。所定量のホスマーと2g/L非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC:ノイゲンは登録商標)を含むグラフト加工水溶液に、希薄蟻酸溶液を加えてpHを3に調整した。グラフト加工水溶液に試料を浸漬し、温度25℃から85℃まで40分かけて昇温させ、85℃で90分間温度を保持することでグラフト加工を行った。加工後は試料を30分以上水洗いし、2g/lの非イオン界面活性剤ノイゲン(登録商標)HC水溶液で75℃、30分洗浄し、再び、水洗いを30分以上行い乾燥した。その後、乾燥機で105℃、90分乾燥後、乾燥重量を測定した。
表2に、ホスマー(登録商標)M、MH、PP、CLを用い、モノマー濃度を変えながら家蚕絹繊維製品にグラフト加工した際の加工率を示す。
表2から次のことがわかる。グラフトモノマーの濃度が増加するとそれに伴いグラフト加工率が増大する。ホスマーM、ホスマーPPを用いて絹繊維製品にグラフト加工するとホスマーMHを用いたグラフト加工よりもグラフト加工率が大きな値となった。
上記3種類のモノマーを用いてグラフト加工した絹繊維製品を、前述した青色の分散染料の転写紙を使用して転写捺染染色を行い、絹繊維製品の染着状態を分光測色により評価した。表3に、グラフト加工した絹繊維製品の加工率と転写捺染染色による染着量・ΔK/Sの測定結果を示す。
表3に示すように、ホスマーPPでグラフト加工しグラフト加工率が21.4%の絹繊維製品の転写捺染染色による染着率は、他のホスマー(M、MH、CL)を用いてグラフト加工した絹繊維製品よりも大きな値となり、染色状態が良好となったことを意味する。
(実施例2)
1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物であるメタクリル酸2-メトキシエチル(MT)とメタクリル酸2-エトキシエチル(ET)をグラフトモノマーとして絹繊維製品にグラフト加工を行った。
使用したグラフトモノマーは三菱レイヨン株式会社より購入し、商品名がそれぞれアクリルエステルMT、アクリルエステルETおよびアクリルエステルHPと呼称されるビニル化合物を用いた。
グラフト加工条件は次の通りであった。グラフトモノマーMTとET濃度は60%owf、浴比を1:30に設定した。所定濃度のグラフトモノマーMTあるいはET、重合開始剤としての3%owf過硫酸アンモニウム(APS)を含むグラフト水溶液に2g/L 非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC:ノイゲンは登録商標)を加えた後、希薄蟻酸溶液を用いグラフト水溶液のpHを3に調整し、絹繊維製品にグラフト加工を施した。グラフト加工系に試料を浸漬し、温度25℃から85℃まで40分かけて昇温させ、85℃で90分間温度を保持することでグラフト加工を行った。
表4にグラフトモノマーMTとETとを用い異なるグラフトモノマー濃度でグラフト加工した試料の加工率を示す。
表4から次のことがわかる。グラフトモノマー濃度が増加すると絹繊維製品の加工率は増加する。グラフト加工率はモノマー濃度を変えることで制御できる。
次に、異なるグラフト加工率を持つ絹繊維製品を構成する絹糸の繊維径(μm)、強度(g/d)、伸度(%)、光学特性を測定した。表5にこれらの測定結果を集約する。複屈折率(Δn)と平均的屈折率(niso)は試料分子の分子配向度と結晶化度に関係する。表5において、たとえば、MT-20ET-19とは、MTあるいはETを用いてグラフト加工し、加工率がMT-20とは、MTを用いてグラフト加工し、加工率が20%の絹繊維を意味する。
表5から次のことがわかる。グラフト加工率が40-50%以下であると加工率が増すにつれて絹繊維構製品を構成する絹糸のサイズは増加した。MTでグラフト加工した絹繊維製品は強度が若干低下する傾向がある。但し絹フィブロイン分子の配向度に符合するΔnは加工率が増加すると逆に低下し分子配向性はやや低下する傾向があるものの、加工率50%程度ではΔn値の低下度合いは微少である。試料の結晶化度に符合するnisoの値の変化は見られず、絹繊維構造の結晶化度変化はグラフト加工後に見られないことがわかった。
グラフト加工を行った絹繊維製品の熱挙動をDSC測定により評価した。得られた結果を表6に示す。
表6において、DSC-D℃とは、DSC測定によって求まるグラフト加工絹繊維製品の熱分解温度、TG325℃、TG460℃とは、TG測定によって求まる熱重量測定曲線において加熱温度325℃と460℃における試料重量損失割合である。すなわち、TG325℃、TG460℃で大きな値ほど試料の熱分解量が大きいことを意味する。
表6から次のことがわかる。MT-37およびET-32の測定値からも明らかなとおりグラフト加工率が30%程度以内であると絹繊維製品の熱分解程度の特性値は未加工試料よりは若干減少するか、その低下の程度は極微少である。
次に、ETとMTでグラフト加工した絹繊維製品に熱転写捺染染色を施し、染着程度を意味するK/Sの値を求めた。すなわち、所定濃度のフォスマーMあるいはCL、ならびに重合開始剤としての3%owf過硫酸アンモニウム(APS)と、2g/L 非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC)を含むグラフト溶液に希薄蟻酸溶液を加えpHを3に調整し85℃でグラフト加工を施した。なお、浴比は1:30に設定した。表7に、グラフト加工におけるグラフトモノマー濃度とグラフト加工率との関係を示す。
グラフト加工を施した絹繊維製品を転写捺染染色し、その染着程度を意味するK/S値と加工率との関係を求めた。表8に両者の関係を示す。なお表8中、NTとは未測定であることを意味する。
(耐光性と摩擦堅牢度の評価)
上記、表8に記載したMTを用いてグラフト加工しグラフト加工率が20%の絹繊維製品、及びETを用いてグラフト加工しグラフト加工率が32%の絹繊維製品について転写捺染染色した絹繊維製品の耐光性はいずれも中程度の3、摩擦堅牢度は良好ではなく2であった。
グラフトモノマーMTとETを用いてグラフト加工した絹繊維製品を、青色系分散染料の転写紙を使用して転写捺染染色し、グラフト加工率が異なる場合の染色量を分光測色により評価した。
分光測色は分光測色計を用いて行った。基準色を未処理未加工試料とした。グラフト加工絹繊維製品を転写捺染染色した。染色程度を評価するためΔL値、Δa値、Δb値を求めた。各値を5回ずつ測定し、平均値を求めた。
なお色測定手法として、L、a、b系計測に加えてΔL、Δa、Δb値を設定することにした。CIELAB表色系ではL値は白度を表示し、a値が+では赤色、−では緑色を表示し、一方、b値が+で大きいほど黄色、−で大きいほど青色となる。
ΔL、Δa、Δb値の測定についてはΔb値を代表してその意義を説明する。色測定をするとき、最初に基準色を設定する必要がある。基準色を設定した後、被染色試料を計測しこれを測定値とする。Δは基準色と測定値の各値の差を表す。たとえば、b値が基準試料で−2、転写捺染染色加工試料で−5であるとΔb値は−3となる。
K/Sは染料の最大吸収波長に対応した値である。実際に染色した試料のK/Sの最大値は、K/Sのピーク位置と最大吸収波長とが一致した。
表9はMTを用いてグラフト加工し異なるグラフト加工率を持ち転写捺染染色を施した絹繊維製品の測定結果、表10はETを用いてグラフト加工し異なるグラフト加工率を持ち転写捺染染色を施した絹繊維製品の測定結果を示す。
表9と表10から次のことがわかる。MTとETによりグラフト加工を行った絹繊維製品を転写捺染した試料で加工率がほぼ同一のものを比較すると、ETでグラフト加工した絹繊維製品の方が染着率が高く、すなわち良く染色することが確認された。また、グラフト加工率が増加するとMT、ETによるグラフト加工ともに、転写捺染による染着率が増加した。
この傾向を具体的な値から判断することにする。ETでグラフト加工した絹繊維製品を青色系の分散染料で転写捺染した場合、グラフト加工率が増加するとΔbは減少し、ΔLは低下する傾向が見られ、Δaには大きな変化は見られなかった。また、ΔK/S値はグラフト加工率が増大するとともに増加した。
ほぼ同一のグラフト加工率の場合、ETでグラフト加工した絹繊維製品のΔK/S値は、MTでグラフト加工した絹繊維製品よりも高い値となった。青みに対応するΔb値についてもETでグラフト加工し転写捺染染色を行うと青みが強くなった。
上記、表9に記載したMTを用いてグラフト加工しグラフト加工率が26%の絹繊維製品、び表10に記載したETを用いてグラフト加工しグラフト加工率が27%の絹繊維製品を構成する緯糸を抜きだし、緯糸を解し繊度が110 デニールの絹繊維を準備し、切断時の強度と伸度を求めた。
なお、対象区として未加工未処理の絹繊維製品から抜き出した緯糸から同様に110 デニールの絹繊維の強度と伸度を求めた。得られた結果を表11に示す。
表11でMT-26、ET-27は、MTあるいはETでグラフト加工し、グラフト加工率がそれぞれ26%、27%である絹繊維を意味する。
表11から次のことがわかる。MTあるいはETを用いてグラフト加工した絹繊維の切断強度と伸度は、対象区の切断強度と伸度と大差が認められない。MT、ETでグラフト加工しても加工率が30%程度以内であれば絹繊維の機械的な特性には大きな差が認められない。
(実施例3)
家蚕由来の絹繊維製品とは別に、野蚕である柞蚕由来の絹繊維製品と、羊毛の毛織物を対象に、1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物によりグラフト加工を施した。グラフトモノマーの濃度とグラフト加工率との関係について調べた。得られた結果を表12に示す。
なお、グラフトモノマーは、グラフトモノマーMT、ETである。グラフト加工条件は、実施例2と同様である。表12で、たとえばT-MTとは柞蚕の繊維製品をMTでグラフト加工したもの、W-ETとは毛織物をETでグラフト加工したものを意味する。
表12から明らかなように、グラフトモノマーとしてMTあるいはETを用いたグラフトモノマーは、実施例2に記載した家蚕絹繊維製品と同様に、柞蚕繊維製品及び毛織物へのグラフト加工に使用でき、モノマー濃度が高いほどグラフト加工率が増加することが確かめられた。
(実施例4)
フッソ鎖を持つビニル化合物を用いて絹繊維製品にグラフト加工を施した。使用したグラフトモノマーは大阪有機化学工業株式会社製であり、疎水性のフッ素鎖の長さが異なる。
グラフト加工の条件は次の通りである。上記フッソ鎖を持つビニル化合物の濃度は120%owf、浴比は1:30。重合開始剤としては3%owfの過硫酸アンモニウム(APS)を用いた。グラフトモノマーはホスマーMとCLを使用し、2g/L 非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC:ノイゲンは登録商標)を含むグラフト溶液に希薄蟻酸溶液を加えpHを3に調整した。85℃で90分グラフト加工を施した。
大阪有機化学工業で販売しており、フッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物の商品名・ビスコース(3FE、4FE、5FE、13FE、17FE)により絹繊維製品をグラフト加工した際のモノマー濃度と加工率との関係を調べた。得られた結果を表13に示す。
表13から次のことがわかる。長いフッ素鎖の側鎖を有するビニルモノマーを用いてグラフト加工するとグラフト加工率は次第に減少する傾向がある。特にフッ素鎖長が13以上となると加工率は目立って低下する。
(実施例5)
フッソ鎖を持つビニル化合物のグラフトモノマー(3FE、4FE、3FM、8FM)を用いて絹繊維製品にグラフト加工を施した。
すなわち、グラフトモノマー濃度は120%owf、浴比を1:30に設定した。重合開始剤としての3%owf過硫酸アンモニウム(APS)と、所定濃度のグラフトモノマーを含み、2g/L 非イオン界面活性剤(第一工業製薬製・ノイゲンHC)を含むグラフト溶液に希薄蟻酸溶液を加えpHを3に調整した。85℃で30、45、60および90分グラフト加工を施し、異なるグラフト加工率の絹繊維製品を製造した。3FE、4FE、3FE、8FMの4種類のグラフトモノマーでグラフト加工し、異なるグラフト加工率を有する絹繊維製品を製造した後、転写捺染染色を施した。
グラフト加工した絹繊維製品の染色度合いの色測定としては、L、a、b系計測に加えてΔL、Δa、Δb値を測定した。更に、染着程度に対するK/S値を求めた。試料の染着挙動を測定した結果を表14、表15に示す。
表14、15から次のことがわかる。いずれのグラフトモノマーでグラフト加工した場合でも、グラフト加工率が増加すると染着率が向上する。ほぼ同一のグラフト加工率で比較すると、グラフトモノマー4FEでグラフト加工した絹繊維製品のΔK/Sは、他のグラフトモノマー使用時より大きな値を示し、すなわち、良く染色することが確認された。
表9、10と表14、15とを比較すると、同一のグラフト加工率であれば、青色系分散染料を用いた転写捺染による染着効果は、ET>MT>FEの順になる。
さらに、表3、表9および表14と表15の結果から明らかとなったことは次の通りである。
3種類のビニル化合物で絹繊維製品をグラフト加工し、グラフト加工によりグラフト化合物が試料繊維内部に入り込んで重合し、グラフト加工後もグラフト加工用モノマーの重合物に基づく付着物や析出物は認められない。グラフト加工後、続いて転写捺染染色を施しても、未加工試料の機械的特性と同様の特性を保持し、中程度の耐光性を呈し、転写捺染染色機能が増強した絹繊維製品が製造できる。
(実施例6)
3FE、4FE、3FMの3種類のグラフトモノマーでグラフト加工した絹繊維製品を転写捺染染色した。それら試料の染色特性は表14と表15に記載したが、染色性に及ぼす要因が複雑であるため測定値を分析するのが複雑である。そこで表14と表15からグラフトモノマー、グラフト加工率とK/S値との関係を抜き出し表16、表17、表18に掲げた。
先ず、3FEを用いてグラフト加工し異なるグラフト加工率を持つ絹繊維製品のK/Sを求めたものが表16である。
4FEを用いてグラフト加工し異なるグラフト加工率を持つ絹繊維製品のK/Sを求めたものが表17である。
3FMを用いてグラフト加工し異なるグラフト加工率を持つ絹繊維製品のK/Sを求めたものが表18である。
表16、表17および表18から次のことがわかる。3FE及び3FMによるグラフト加工で加工率が3〜4%の試料におけるK/S値は3FMでグラフト加工した絹繊維製品の転写捺染染色染色性が若干優れている。4FEを用いたグラフト加工では高い値のグラフト加工率試料が得られ、高グラフト加工率(55%)の絹繊維製品は極めて優れた転写捺染染色性を呈した。
(実施例7)
フッソ鎖を持つビニル化合物として3FEと17FEをグラフトモノマーとし、家蚕絹繊維製品、柞蚕絹繊維製品、羊毛にグラフト加工を施し、それら試料の加工率を調べた。表19にモノマー濃度と加工率との関係を示す。
表19で、例えば、B−3FE、T−3FE、W−3FEは、グラフトモノマー3FEを用いて家蚕の絹繊維製品、柞蚕繊維製品、羊毛繊維製品にグラフト加工した試料であることを示す。
表20に、3FE、8FE、17FEをグラフトモノマーとして家蚕絹繊維製品、羊毛をグラフト加工して加工率を調べた結果を示す。表20で、たとえば、B-3FE、W-3FEとは、家蚕の絹繊維製品、羊毛の繊維製品を同一のグラフトモノマー3FEでグラフト加工した場合のグラフト加工率を意味する。
(実施例8)
スチレン(St)とポリエチレングリコールジメタクリレート (新中村化学工業株式会社製、Polyethyleneglycol 200 Dimethacrylate:PEGDMAと略記する)とを複合したモノマーで絹繊維製品へのグラフト加工を行った。
スチレン(St)とポリエチレングリコールジメタアクリレート(PEGDMA)とを複合したモノマーの混合割合を重量混合比で20:1となるよう秤量したグラフトモノマーを用いて絹繊維製品にグラフト加工を行った。
スチレンあるいはPEGDMAを単独に使用する場合は、25%owfのグラフトモノマーを使用し、スチレン(St)とポリエチレングリコールジメタアクリレート(PEGDMA)とを複合したモノマー(St/PEGDMA)については40% owfとした。スチレンは和光純薬工業株式会社製、ポリエチレングリコールジメタアクリレートは新中村化学工業株式会社製の製品を使用した。
グラフト加工は、上記記載のモノマー濃度を秤量し、グラフトモノマー、2.5% (owf)の過硫酸ナトリウム、12%の非イオン海面活性剤を含む水溶液をpH3に調整した後、絹繊維製品へグラフト加工を行った。
オーバーマイヤー型染色試験器(密閉型)により常温から80℃まで20分間で昇温した後、40分間、同温度を保持して染色した。反応終了後、水洗し、ノイゲン(1cc/l)(ノイゲンは登録商標)を添加した混合溶液中、70℃、20分間洗浄した。水洗い後風乾してから標準状態(20℃、65%RH)で調湿させて加工絹繊維製品を作製した。
かくしてSt、St/PEGDMA、PEGDMAを用いてグラフト加工した絹繊維製品のグラフト加工率はそれぞれ、19、26.4、12%であった。これら試料を転写捺染染色法で染色し、試料表面の染着量であるΔK/Sを求めた。得られた結果を表21に示す。
St、St/PEGDMA、PEGDMAをグラフトモノマーを用いて絹繊維製品をグラフト加工し、青色系分散染料の転写紙を使用して転写捺染染色を行った。なお、転写捺染染色は、試料(2cm ×2cm)の表面と裏面にあて布を挟み、あて布の上から160℃のアイロンをで4分間押圧することで実施した。
図1は、左上(a):未加工処理試料、右上(b):PEGDMA加工試料(加工率12%)、左下(c):St加工試料(加工率19%)、右下(d):St/PEGDMA加工試料(加工率26.4%)の各試料につい
て転写捺染染色した試料の写真画像である。未加工処理試料(a)については、ほとんど転写捺染染色ができなかった。図1の結果と表20とを併せて考察すると、St加工試料(c)とSt/PEGDMA加工試料(d)については、良好に染色できるが、St/PEGDMA加工試料のΔK/S値は、St加工試料よりも遙かに優れた染色性を呈した。図1からも明らかなように、PEGDMA加工試料(b)は、試料(c)、(d)と比べると、転写捺染性は不良であった。
スチレンでグラフト加工し、加工率が30%の絹繊維製品を転写捺染染料で染色することで転写捺染染色機能が増強する(特許文献1)ことは、前述したとおりであるが、スチレンとPEGDMAとを含む複合モノマーでグラフト加工した絹繊維製品の転写捺染染色機能はスチレン単独あるいはPEGDMA単独でグラフト加工した絹繊維製品よりも遙かに優れた染色性を示しており、ここに本願発明の進歩性を認めることができる。

Claims (11)

  1. グラフト加工で転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  2. 前記グラフト加工により素材表面を改質したことを特徴とする請求項1記載の天然タンパク質繊維製品。
  3. 前記グラフト加工用のモノマーが、リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体、1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物、またはフッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1または2記載の転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  4. 前記グラフト加工用のモノマーが、スチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合物、またはポリエチレングリコールジメタアクリレートのいずれかであることを特徴とする請求項1または2記載の転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  5. 前記リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体が、ユニケミカル株式会社製:商品名ホスマーM、ホスマーCL、ホスマーPE、またはホスマーMH(ホスマーは登録商標)のいずれかであることを特徴とする請求項3記載の転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  6. 前記1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物が、メタクリル酸2-メトキシエチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、またはメタクリル酸2−プロポキシエチルのいずれかであることを特徴とする請求項3記載の転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  7. 前記フッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物が、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2,3-テトラフルオロプロピルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルメタアクリレート、2,2,2,3-テトラフルオロプロピルメタアクリレート、または1H,1H,5H-オクタフルオロペンチルアクリレートのいずれかであることを特徴とする請求項3記載の転写捺染機能性を増強した天然タンパク質繊維製品。
  8. グラフト加工率が10〜50%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の天然タンパク質繊維製品。
  9. 天然タンパク質繊維製品を、グラフト加工用のモノマーを用いるグラフト加工により素材表面を改質し、天然タンパク質繊維の転写捺染機能性を増強することを特徴とする天然タンパク質繊維製品の製造方法。
  10. 前記グラフト加工用のモノマーとして、リン酸基を含むアクリル酸誘導体またはメタアクリル酸誘導体、1価の官能基であるアルコキシ基を持つビニル化合物、またはフッ素鎖を側鎖に有するビニル化合物から選ばれる少なくとも一種の化合物を用いることを特徴とする請求項9記載の天然タンパク質繊維製品の製造方法。
  11. 前記グラフト加工用のモノマーとして、スチレンとポリエチレングリコールジメタアクリレートとの混合物、またはポリエチレングリコールジメタアクリレートのいずれかを用いることを特徴とする請求項9記載の天然タンパク質繊維製品の製造方法。
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