JP2014077642A - 鋼材のhic感受性の評価方法およびそれを用いた耐hic性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】鋼材のHIC感受性の評価方法およびそれを利用した耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼材の中心偏析部を含む領域について、Mn濃度を分析しマッピングする。マッピング分析結果から、Mnが母材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、Mn偏析スポットの長径DLと、該Mn偏析スポットの平均Mn濃度CMnSPと鋼材のMn濃度C0との比(Mn偏析度)CMnSP/C0、とをもとめ、DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、かかるMn偏析スポットが鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりに存在する個数で1個以下である場合を、耐HIC性に優れる鋼材であると評価する。
【選択図】図1
【解決手段】鋼材の中心偏析部を含む領域について、Mn濃度を分析しマッピングする。マッピング分析結果から、Mnが母材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、Mn偏析スポットの長径DLと、該Mn偏析スポットの平均Mn濃度CMnSPと鋼材のMn濃度C0との比(Mn偏析度)CMnSP/C0、とをもとめ、DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、かかるMn偏析スポットが鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりに存在する個数で1個以下である場合を、耐HIC性に優れる鋼材であると評価する。
【選択図】図1
Description
本発明は、鋼材の耐水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking:HIC)性向上に係り、とくに、鋼材のHIC感受性の評価方法に関する。なお、ここでいう「鋼材」には、厚鋼板、熱延鋼板が含まれる。
連続鋳造鋳片(以下、単に「鋳片」ともいう)を素材とする鋼材では、連続鋳造時に鋳片中心部に形成される偏析(中心偏析)が、鋼材の品質に大きな悪影響を及ぼすことが知られている。特に、硫化水素が多く含まれる原油、天然ガス等の輸送用ラインパイプでは、表面から鋼中に水素が侵入しやすいため、水素誘起割れ(Hydrogen Induced Cracking:HIC)が多発して問題となってきた。鋼材の中心偏析部には、延伸したMnS、酸化物等の介在物などが多数、存在しており、侵入した水素が集積しやすく、中心偏析部での水素誘起割れが多発しやすい。このため、従来から、中心偏析を軽減することが要望されてきた。
当初は、中心部におけるMnの偏析を抑制したり、あるいは例えば、特許文献1に記載されるように、Sを0.001%以下に低減し、さらにCaを添加してMnSの形態を制御した鋳片とし、さらに該鋳片に、加熱、圧延、冷却を適正に調整して、HICを抑制しようする技術が提案されている。しかし、これらだけでは、HICの発生を完全には防止できず、更なる検討が行われてきた。
例えば、特許文献2には、中心偏析が低減され、マクロ的な中央偏析が除かれたのちにも、Mnのスポット的な偏析部が存在し、ここを起点に水素誘起割れ(HIC)が発生する場合があることが記載されている。このようなMnのスポット的な偏析部は、群状のMnSが存在し、Pの偏析が認められ、Ca処理が有効に作用していない領域であり、Mnのスポット的な偏析部の大きさを400μm未満、偏析部のP濃度を0.035%未満、かつ有効Ca比を1.7以上とすれば、HICの発生が回避できるとしている。また、特許文献3には、連続鋳造時の2次冷却の比水量を適正量に制限し、中心偏析部のNb、Mn含有量を抑制し、Mn偏析度(偏析部の最大Mn含有量/平均Mn含有量)を1.4以下、かつNb偏析度(偏析部の最大Nb含有量/平均Nb含有量)を4.0以下に調整した熱延鋼板が提案されている。
しかし、特許文献2、3に記載された技術では、各元素の偏析度の測定方法についての記載がなく、また偏析部の形態やその判定方法についての記載もなく、具体的にHICの発生を回避するうえで、明瞭でないという問題がある。
また、特許文献4には、連続鋳造における最終凝固時の軽圧下と、熱間圧延終了後の水冷を調整することにより、最大Mn偏析度:2.0以下、Nb偏析度:4.0以下、Ti偏析度:4.0以下に制限したうえで、S/Ca:0.5以下を満足するようにCa処理を施した耐水素誘起割れ性に優れた高強度ラインパイプ用鋼板が提案されている。しかし、特許文献4に記載された技術では、偏析部における各元素の偏析度は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー、Electron Probe Micro Analyzer)によって測定した値を用いるとしているが、偏析部の形態やその判定方法についてまでの言及はなく、不明瞭のままである。
また、特許文献4には、連続鋳造における最終凝固時の軽圧下と、熱間圧延終了後の水冷を調整することにより、最大Mn偏析度:2.0以下、Nb偏析度:4.0以下、Ti偏析度:4.0以下に制限したうえで、S/Ca:0.5以下を満足するようにCa処理を施した耐水素誘起割れ性に優れた高強度ラインパイプ用鋼板が提案されている。しかし、特許文献4に記載された技術では、偏析部における各元素の偏析度は、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー、Electron Probe Micro Analyzer)によって測定した値を用いるとしているが、偏析部の形態やその判定方法についてまでの言及はなく、不明瞭のままである。
中心偏析を評価する方法としては、従来から、例えば、スライス法、ドリル法、マクロ腐食法、Hプリント法など、いくつかの方法が開発され、使用されている。
スライス法では、鋳片や厚鋼板を厚さ方向に順次スライスしていき、そのスライスして採取した切粉の成分を分析し、厚さ方向の濃度分布を得る。また、ドリル法では、鋳片の縦断面からマクロプリントを採取して中心偏析領域を特定し、この中心偏析領域上の多数の分析点から、ドリルで切粉サンプルを採取し、この切粉を分析する。
スライス法では、鋳片や厚鋼板を厚さ方向に順次スライスしていき、そのスライスして採取した切粉の成分を分析し、厚さ方向の濃度分布を得る。また、ドリル法では、鋳片の縦断面からマクロプリントを採取して中心偏析領域を特定し、この中心偏析領域上の多数の分析点から、ドリルで切粉サンプルを採取し、この切粉を分析する。
また、マクロ腐食法は、鋳片の切断面を研磨して、偏析部をピクリン酸等の腐食液により腐食させてからインク等を染み込ませた後、一旦、表面のインクを拭き取り、腐食部に残ったインクをセロハン紙等に写し取り、偏析の発生状況を可視化する方法である。また、Hプリント法は、鋳片の切断面を研磨、腐食し、腐食後に写し取ったプリントから中心偏析部の最大偏析粒径等を測定する方法である。
一般に、鋳片の中心偏析は、鋳片のC断面全体、すなわち、鋳造方向に垂直な断面全体についてみると、厚さ方向および幅方向で均一であるとはいえない。そのため、鋳片や厚鋼板の偏析を調べるためには、C断面の広い領域に亘って評価する必要がある。
このような観点から上記した各方法を検討すると、スライス法は、試料調整・分析に時間がかかるため、結果が出るまでに長時間を要するうえ、鋳片や厚鋼板等の中心偏析評価をC断面全体に亘って行うと、分析コストが高騰するという問題がある。また、この方法では、スライスした切粉を分析するため、厚さ方向の平均としての分析値しか得られない。そのため、スライス法は、従来から、一部領域の評価にのみ用いられる程度であった。
このような観点から上記した各方法を検討すると、スライス法は、試料調整・分析に時間がかかるため、結果が出るまでに長時間を要するうえ、鋳片や厚鋼板等の中心偏析評価をC断面全体に亘って行うと、分析コストが高騰するという問題がある。また、この方法では、スライスした切粉を分析するため、厚さ方向の平均としての分析値しか得られない。そのため、スライス法は、従来から、一部領域の評価にのみ用いられる程度であった。
また、ドリル法は、スライス法に比較して、迅速性には優れるが、切粉の採取領域がスライス法に比較し、さらに狭くなるため、全体的な評価ができにくいという問題があった。
また、マクロ腐食法は、迅速性の観点から上記した2つの方法と比較すると、優位であるといえる。しかし、マクロ腐食法は、目視による判定となるため、非定量的な評価しか得られないという問題がある。また、Hプリント法は、定量的ではあるが、評価に熟練を要し、しかも長時間を要するため、分析コストが高くなるという問題がある。
また、マクロ腐食法は、迅速性の観点から上記した2つの方法と比較すると、優位であるといえる。しかし、マクロ腐食法は、目視による判定となるため、非定量的な評価しか得られないという問題がある。また、Hプリント法は、定量的ではあるが、評価に熟練を要し、しかも長時間を要するため、分析コストが高くなるという問題がある。
また、上記した方法とは別に、中心偏析を評価する方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献5には、連鋳鋳片の軸心部の硬度を測定し、その硬度の測定値の平均値、最大値、最大値と最小値との差の中の1種以上から連鋳鋳片の中心偏析度を把握する、簡便な連鋳鋳片中心偏析評価方法が記載されている。
また、特許文献6には、中心偏析部を含む領域の濃度マッピング分析を行って、指標元素の濃度が所定の閾値濃度以上である面積を求め、その面積をもって中心偏析を評価する、連続鋳造鋳片および厚鋼板の中心偏析を評価する方法が記載されている。特許文献6に記載された方法では、濃度マッピング分析を、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー、Electron Probe Micro Analyzer)、発光分光分析およびSEM−EDXのいずれかを用いて行うことが好ましいとしている。
また、特許文献6には、中心偏析部を含む領域の濃度マッピング分析を行って、指標元素の濃度が所定の閾値濃度以上である面積を求め、その面積をもって中心偏析を評価する、連続鋳造鋳片および厚鋼板の中心偏析を評価する方法が記載されている。特許文献6に記載された方法では、濃度マッピング分析を、EPMA(電子プローブマイクロアナライザー、Electron Probe Micro Analyzer)、発光分光分析およびSEM−EDXのいずれかを用いて行うことが好ましいとしている。
特許文献5、特許文献6に記載された方法によれば、偏析部の存在および偏析度は評価することができるが、しかし、特許文献5、6には、偏析度とHICの発生との関連についてまでの言及はない。またさらに、特許文献5に記載された方法では、腐食によって中心偏析部の領域を特定し、その中心偏析部の硬さを測定して評価している。このため、腐食作業が必要であること、鋳片全幅を評価する場合には、偏析部のすべての硬さを測定する必要があること等から、非常に時間がかかり、迅速性に劣るという問題がある。さらに、硬さは、鋳片の成分組成や組織等と関連があるため、それらが異なる場合には、特許文献5に記載された方法では、直接評価することができない。そのため、様々な種類の鋳片について中心偏析を評価するには、測定条件を細かく分けて決めておかなければならないという問題があった。
また、特許文献6に記載された方法によれば、連続鋳造鋳片や厚板等の中心偏析を、定量的かつ高精度で、しかも広い領域を迅速に評価することができるが、しかし、HIC発生との相関が明瞭ではない。このため、割れ発生率と偏析度について、過大もしくは過小評価する可能性があるという問題がある。
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、鋼材のHIC感受性の評価方法およびそれを利用した耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、このような従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、鋼材のHIC感受性の評価方法およびそれを利用した耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、まず、厚鋼板中心部の合金元素濃度マッピングを行い、HICとの相関性について調査した。その結果、ある特定元素を指標元素とし、その指標元素の濃度が、偏析により当該厚鋼板の平均含有量(母材濃度)より高い特定濃度以上でかつ特定の大きさ以上を有する領域を偏析スポットと定義し、該偏析スポットの数が幅方向の単位長さ当たり一定数以上となる場合にHICが発生していることを突き止めた。しかも、偏析スポットのうち、割れが発生しているのは、偏析度((偏析スポット部における指標元素濃度)/(母材の指標元素濃度))が一定値以上に高くなっている箇所であることも見出した。そして、使用する指標元素としてMnが適当であり、Mnを用いた偏析スポットの形態を指標とすることにより、HIC感受性とよい相関があることを知見した。Mnを用いた偏析スポットの形態を指標として偏析形態を評価し、該偏析形態評価からHIC発生の危険度を判定できることも知見した。
具体的には、割れ(HIC)は、鋼板の幅方向断面(圧延方向に垂直な方向の断面(C断面))で楕円に近似した形状で存在し、Mnの偏析度が1.3以上の連続領域であるMn偏析スポットで、該偏析スポットのMn偏析度とその長径との積が一定値(0.8)以上である箇所に発生していることを見出した。この理由については、現在のところ明確になっていないが、本発明者らは、偏析スポットのMn偏析度が高い箇所ほど、母材との成分差が高くなり強度差が大きくなり、さらにMn偏析度とその長径との積が0.8以上となる箇所ほど、割れ感受性が高くなるためと考えている。
また、スラブ(鋼素材)についてMn濃度の分析を行ってマッピングしても、Mnの偏析度が1.3以上の連続領域であるMn偏析スポットのうち、該偏析スポットのMn偏析度とその長径との積が0.8以上となるMn偏析スポットが単位長さ当たりで一定数以上存在する場合には、厚鋼板としたのちに割れ(HIC)が発生することを見出し、鋼素材においても、Mnを用いた偏析スポットの形態を指標とすることにより、厚鋼板におけるHIC感受性と強い相関があることを知見した。なお、偏析スポットのMn偏析度とその長径との積が0.8未満であれば、HIC発生の危険性は低くなることも知見している。
本発明はかかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)鋼材のHIC感受性を評価するに当たり、前記鋼材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である場合を、耐HIC性に優れる鋼材であると評価することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(2)(1)において、前記鋼材が鋳片である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(3)(1)において、前記鋼材が鋼板である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記鋼材が、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(6)鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記鋼素材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットの数が鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりで1個以下である鋼材を、耐HIC性に優れた厚鋼板とすることのできる鋼素材として、ラインパイプ用厚鋼板向けとすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(7)(6)において、前記鋼素材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(8)(6)または(7)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(9)鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記厚鋼板を、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する厚鋼板とし、前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記厚鋼板のMn濃度(C0)PL の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、とを求め、該Mn偏析スポットの長径(DL)PL(mm)とMn偏析度(CMnSP)PL/(C0)PLとの積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが厚鋼板幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である厚鋼板を、耐HIC性に優れた厚鋼板と評価し、ラインパイプ向け厚鋼板とすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(10)(9)において、前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とするラインパイプ用厚鋼板の製造方法。
(11)(9)または(10)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(12)(6)から(11)のいずれかに記載された製造方法で製造された厚鋼板であって、厚鋼板における中心偏析部を含む領域に存在する、Mnが該厚鋼板のMn濃度の1.3倍以上に濃化した連続領域であるMn偏析スポットのうち、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットが、鋼板幅方向の100mm当たりで1個以下であることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板。
(1)鋼材のHIC感受性を評価するに当たり、前記鋼材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である場合を、耐HIC性に優れる鋼材であると評価することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(2)(1)において、前記鋼材が鋳片である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(3)(1)において、前記鋼材が鋼板である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記鋼材が、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
(6)鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記鋼素材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットの数が鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりで1個以下である鋼材を、耐HIC性に優れた厚鋼板とすることのできる鋼素材として、ラインパイプ用厚鋼板向けとすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(7)(6)において、前記鋼素材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(8)(6)または(7)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(9)鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記厚鋼板を、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する厚鋼板とし、前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記厚鋼板のMn濃度(C0)PL の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、とを求め、該Mn偏析スポットの長径(DL)PL(mm)とMn偏析度(CMnSP)PL/(C0)PLとの積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが厚鋼板幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である厚鋼板を、耐HIC性に優れた厚鋼板と評価し、ラインパイプ向け厚鋼板とすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(10)(9)において、前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とするラインパイプ用厚鋼板の製造方法。
(11)(9)または(10)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とするラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
(12)(6)から(11)のいずれかに記載された製造方法で製造された厚鋼板であって、厚鋼板における中心偏析部を含む領域に存在する、Mnが該厚鋼板のMn濃度の1.3倍以上に濃化した連続領域であるMn偏析スポットのうち、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットが、鋼板幅方向の100mm当たりで1個以下であることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板。
本発明によれば、対象とする鋼材の耐HIC性を定量的に精度高く評価でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、鋼素材あるいは厚鋼板のHICの危険度を評価することにより、ラインパイプ用として好適な、耐HIC性に優れた高強度厚鋼板を容易に製造できるという効果もある。
まず、鋼材のHIC感受性を評価する方法について説明する。
対象とする鋼材の中心偏析部を含む領域について、指標元素としてMnを選択し、Mn濃度を分析しマッピングする。指標元素としては、C、Mn、P、S、Nb、Mo等が考えられるが、本発明で対象とするラインパイプ用鋼材では、Mn以外は含有量が0.1%以下である場合がほとんどであるため、所望の分析精度を確保することが困難となる。このため、本発明では指標元素としてMnを選択した。本発明で対象とするラインパイプ用鋼材では、Mnは通常1.0%程度含有されるため、短時間で精度の高い分析が可能となる。なお、マッピングの測定は、鋼材の幅方向に100mm以上あれば、統計的にも十分である。
対象とする鋼材の中心偏析部を含む領域について、指標元素としてMnを選択し、Mn濃度を分析しマッピングする。指標元素としては、C、Mn、P、S、Nb、Mo等が考えられるが、本発明で対象とするラインパイプ用鋼材では、Mn以外は含有量が0.1%以下である場合がほとんどであるため、所望の分析精度を確保することが困難となる。このため、本発明では指標元素としてMnを選択した。本発明で対象とするラインパイプ用鋼材では、Mnは通常1.0%程度含有されるため、短時間で精度の高い分析が可能となる。なお、マッピングの測定は、鋼材の幅方向に100mm以上あれば、統計的にも十分である。
Mn濃度の分析は、鋼材の中心偏析部を含む領域とし、分析結果をマッピングする。なお、鋼材の中心偏析部を含む領域とは、鋳片の場合には、鋳造方向に垂直な断面の肉厚方向中心位置を中心に厚さ方向に±5mmの領域とする。また、鋼材が厚鋼板の場合には、圧延により中心偏析部が板厚方向に潰されているため、評価時間短縮のため、鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とする。
Mn濃度のマッピング分析には、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)、発光分光分析、および走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)や波長分散型X線分光装置(WDS)のいずれもが好適である。なお、これ以外の分析方法でも、空間分解能が厚鋼板での分析時には10μm以下、鋼素材(鋳片)分析時には100μm以下で、組成の定量精度として、Mnであれば0.05%程度の精度を確保可能な分析手段であれば、使用しても何ら問題はない。
なお、マッピング分析の条件については、Mn偏析スポット内のMn濃度およびMn偏析スポットの大きさ(長径)を評価できれば、特に限定する必要はない。ただし、対象とするMn偏析スポットの大きさは、小さいものではその短軸側で、鋼素材(鋳片)では500μm、鋼板では50μm程度である。そのため、Mn偏析スポットの大きさとその内部の平均Mn濃度を評価するためには、マッピング分析手段は、Mn偏析スポットの大きさの1/5程度である100μmおよび10μm程度の分解能を有することが必要となる。そのため、EPMA等の分析では、電子プローブのビーム直径を鋼素材(鋳片)を対象とする場合には100μm以下、厚鋼板を対象とする場合には10μm以下として、そのビーム直径の幅をステップ幅としてMn濃度マッピングを行うことが好ましい。
得られたMn濃度のマッピングからMn偏析スポットの形態を評価する。図1に、厚鋼板でのMn濃度のマッピング分析結果から把握したMn偏析スポットの一例を模式的に示す。
Mn偏析スポットとは、指標元素であるMnの濃度が、偏析により鋼材の平均Mn含有量(鋼材のMn濃度)C0より高く濃化し、かつその濃化状態が連続した連続領域をいい、とくに本発明でいう「Mn偏析スポット」とは、Mnが偏析により、鋼材のMn平均含有量(鋼材のMn濃度)C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をいうものとする。なお、Mn偏析濃度が、1.3C0未満では、厚鋼板としたのちにも、HICの発生が認められない。
Mn偏析スポットとは、指標元素であるMnの濃度が、偏析により鋼材の平均Mn含有量(鋼材のMn濃度)C0より高く濃化し、かつその濃化状態が連続した連続領域をいい、とくに本発明でいう「Mn偏析スポット」とは、Mnが偏析により、鋼材のMn平均含有量(鋼材のMn濃度)C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をいうものとする。なお、Mn偏析濃度が、1.3C0未満では、厚鋼板としたのちにも、HICの発生が認められない。
そして、このMn偏析スポットの各々について、Mn濃度マッピング分析結果から、各Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPを算出し、CMnSPと鋼材のMn含有量(鋼材のMn濃度)C0との比CMnSP/C0を算出する。また、Mn濃度マッピング分析結果における各Mn偏析スポットの形状から、楕円近似してその長径DL(mm)を算出する。得られたCMnSP/C0とDLとを用いて、それらの積を各Mn偏析スポットについて算出する。
つぎに、得られたMn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、このようなMn偏析スポットの数を、鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりで測定する。Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットが、鋼材の幅方向100mmあたりで1個以下であれば、当該鋼材は、耐HIC性に優れる鋼材であると評価し、当該鋼材は、ラインパイプ用厚鋼板向けとする。
一方、DLとCMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの数が鋼材の幅方向100mmあたりで1個を超えると、当該鋼材は耐HIC性が低下し、割れ(HIC)が発生しやすくなると評価し、当該鋼材は、ラインパイプ用以外の用途向けとする。なお、Mn偏析スポットのMn偏析度とその長径との積が0.8未満であれば、HIC発生の危険性は低くなる。
なお、鋼材が厚鋼板である場合には、分析対象を厚鋼板とし、Mnマッピング分析で得られる、CMnSP/C0は(CMnSP)PL/(C0)PLと、DLは(DL)PLと表記し、(CMnSP)PL/C0と(DL)PLとの積が0.8mm以下である厚鋼板は、ラインパイプ向け厚鋼板とする。それ以外の厚鋼板はラインパイプ向け以外の用途に振向けることになる。
本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法では、ラインパイプ用として対象とする鋼材は、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、あるいはさらに、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材とすることが好ましい。
本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法では、ラインパイプ用として対象とする鋼材は、質量%で、C:0.03〜0.07%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.010%以下、S:0.001%以下、Al:0.07%以下、Ti:0.005〜0.02%、Nb:0.005〜0.07%、N:0.008%以下、Ca:0.0005〜0.005%、O:0.005%以下を含み、あるいはさらに、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼材とすることが好ましい。
以下に、組成限定理由について説明する。以下、組成における質量%は単に%で記す。
C:0.03〜0.07%
Cは、鋼材強度の向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.03%以上の含有を必要とする。0.03%未満では十分な強度が確保できない。一方、0.07%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Cは0.03〜0.07%の範囲に限定した。
C:0.03〜0.07%
Cは、鋼材強度の向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.03%以上の含有を必要とする。0.03%未満では十分な強度が確保できない。一方、0.07%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Cは0.03〜0.07%の範囲に限定した。
Si:0.01〜0.5%
Siは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。0.01%未満では、脱酸効果が十分でない。一方、0.5%を超える含有は、靭性や溶接性を低下させる。このため、Siは0.01〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.04〜0.4%である。
Siは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。0.01%未満では、脱酸効果が十分でない。一方、0.5%を超える含有は、靭性や溶接性を低下させる。このため、Siは0.01〜0.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.04〜0.4%である。
Mn:1.0〜1.8%
Mnは、強度増加、靭性向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには1.0%以上の含有を必要とする。1.0%未満では、所望の強度増加を確保できない。一方、1.8%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Mnは1.0〜1.8%の範囲に限定した。
P:0.010%以下
Pは、偏析傾向が強く、中央偏析を著しく助長し、耐HIC性を低下させる。このため、Pはできるだけ低減することが望ましいが、0.010%程度までは許容できる。このため、Pは0.010%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
Mnは、強度増加、靭性向上に寄与する元素である。このような効果を得るためには1.0%以上の含有を必要とする。1.0%未満では、所望の強度増加を確保できない。一方、1.8%を超えて含有すると、靭性が低下する。このため、Mnは1.0〜1.8%の範囲に限定した。
P:0.010%以下
Pは、偏析傾向が強く、中央偏析を著しく助長し、耐HIC性を低下させる。このため、Pはできるだけ低減することが望ましいが、0.010%程度までは許容できる。このため、Pは0.010%以下に限定した。なお、好ましくは0.005%以下である。
S:0.001%以下
Sは、鋼中では延伸したMnSとして中心偏析部に存在し、HIC感受性を高めるため、できるだけ低減することが望ましいが、0.001%程度までは許容できる。このためSは0.001%以下に限定した。
Al:0.07%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましいが、0.07%を超えて含有すると、介在物量が増加し鋼の清浄度が低下し、HICの起点となる介在物が増加する。このため、Alは0.07%以下に限定した。なお好ましくは、0.01〜0.05%である。
Sは、鋼中では延伸したMnSとして中心偏析部に存在し、HIC感受性を高めるため、できるだけ低減することが望ましいが、0.001%程度までは許容できる。このためSは0.001%以下に限定した。
Al:0.07%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素である。このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましいが、0.07%を超えて含有すると、介在物量が増加し鋼の清浄度が低下し、HICの起点となる介在物が増加する。このため、Alは0.07%以下に限定した。なお好ましくは、0.01〜0.05%である。
Ti:O.005〜0.02%
Tiは、TiNを形成し、そのピニング効果により、スラブ加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制し、母材靭性を向上させる作用を有する。このような効果を得るためには0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.02%を超える含有は、粗大なTi系析出物が生成し、HICの起点になり、耐HIC性が低下する。このため、Tiは0.005〜0.02%の範囲に限定した。なお好ましくは、0.009〜0.015%である。
Tiは、TiNを形成し、そのピニング効果により、スラブ加熱時のオーステナイト粒粗大化を抑制し、母材靭性を向上させる作用を有する。このような効果を得るためには0.005%以上の含有を必要とする。一方、0.02%を超える含有は、粗大なTi系析出物が生成し、HICの起点になり、耐HIC性が低下する。このため、Tiは0.005〜0.02%の範囲に限定した。なお好ましくは、0.009〜0.015%である。
Nb:0.0O5〜0.07%
Nbは、組織の微細粒化に寄与し、靭性を向上させる作用を有する。また、Nbは、析出物を形成し、析出強化による強度上昇に寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。0.005%未満では効果が不足する。一方、0.07%を超える含有は、粗大なNb系析出物の形成を促進するため、粗大な析出物がHICの起点となり、耐HIC性が低下する。このため、Nbは0.005〜0.07%に限定した。なお、Nbは、HIC危険度(HIC感受性)増加への寄与が大きい場合もあり、0.05%以下とすることが好ましい。
Nbは、組織の微細粒化に寄与し、靭性を向上させる作用を有する。また、Nbは、析出物を形成し、析出強化による強度上昇に寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上の含有を必要とする。0.005%未満では効果が不足する。一方、0.07%を超える含有は、粗大なNb系析出物の形成を促進するため、粗大な析出物がHICの起点となり、耐HIC性が低下する。このため、Nbは0.005〜0.07%に限定した。なお、Nbは、HIC危険度(HIC感受性)増加への寄与が大きい場合もあり、0.05%以下とすることが好ましい。
N:0.008%以下
Nは、不可避的不純物であるが、0.008%を超える多量の含有は、HICの起点となる粗大なTi−Nb系析出物を形成する。このため、Nは0.008%以下に限定した。
Ca:0.0005〜0.005%
Caは、硫化物系介在物の形態を制御して耐HIC性を向上させる。このような効果を得るためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.005%を超えて含有すると、効果が飽和するとともに、逆に清浄度を低下させてHICの起点となる介在物を形成する。このため、Caは0.0005〜0.005%の範囲に限定した。
Nは、不可避的不純物であるが、0.008%を超える多量の含有は、HICの起点となる粗大なTi−Nb系析出物を形成する。このため、Nは0.008%以下に限定した。
Ca:0.0005〜0.005%
Caは、硫化物系介在物の形態を制御して耐HIC性を向上させる。このような効果を得るためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.005%を超えて含有すると、効果が飽和するとともに、逆に清浄度を低下させてHICの起点となる介在物を形成する。このため、Caは0.0005〜0.005%の範囲に限定した。
O:0.005%以下
O(酸素)は、不可避的不純物であるが、粗大で耐HIC性に悪影響を与える酸化物系介在物の生成を抑制するため、Oはできるだけ低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Oは0.005%以下に限定した。
上記した成分が本発明の基本の成分であるが、上記した成分に加えてさらに、選択元素として必要に応じて、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を選択して含有してもよい。
O(酸素)は、不可避的不純物であるが、粗大で耐HIC性に悪影響を与える酸化物系介在物の生成を抑制するため、Oはできるだけ低減することが望ましいが、0.005%までは許容できる。このため、Oは0.005%以下に限定した。
上記した成分が本発明の基本の成分であるが、上記した成分に加えてさらに、選択元素として必要に応じて、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を選択して含有してもよい。
Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも、鋼の焼入れ性向上を介して、鋼板の強度、靱性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cuは、鋼の焼入性向上を介して強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、鋼板靱性の低下が生じる。このため、含有する場合には、Cuは0.5%以下に限定することが好ましい。
Cu、Ni、Cr、Mo、Vはいずれも、鋼の焼入れ性向上を介して、鋼板の強度、靱性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cuは、鋼の焼入性向上を介して強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましいが、0.5%を超える含有は、鋼板靱性の低下が生じる。このため、含有する場合には、Cuは0.5%以下に限定することが好ましい。
Niは、鋼の焼入性向上を介して強度増加に寄与するとともに、多量に含有しても靱性劣化を生じないため、強靭化に有効に寄与する元素である。このような効果を得るためには0.02%以上含有することが望ましい。一方、Niは高価な元素であるため、含有する場合には、Niは1%以下に限定することが好ましい。
Crは、Mnと同様に、低C域でも十分な強度を得るために有効に作用する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とするが、0.5%を超える過剰な含有は溶接性が低下する場合がある。このため、含有する場合は、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。
Crは、Mnと同様に、低C域でも十分な強度を得るために有効に作用する。このような効果を得るためには、0.1%以上の含有を必要とするが、0.5%を超える過剰な含有は溶接性が低下する場合がある。このため、含有する場合は、Crは0.5%以下に限定することが好ましい。
Moは、焼入性を向上させ、強度を増加させる元素であり、MA生成やベイナイト相を強化することで強度上昇に寄与する。このような効果を得るためには、0.02%以上含有することが望ましい。一方、0.5%を超える過剰な含有は、溶接熱影響部靭性の低下を招く。このため、含有する場合には、Moは0.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.3%以下である。
Vは、焼入性を高め、強度上昇に寄与する。このような効果を得るためには、0.005%以上含有する必要があるが、0.1%を超えて多量に含有すると、溶接熱影響部の靭性が劣化する。このため、含有する場合には、Vは0.1%以下に限定することが好ましい。
上記した成分以外に、たとえば、強度、靱性改善の観点から、Mg:0.02%以下、および/または、REM(希土類金属):0.02%以下、および/または、B:0.003%以下を含有しても良い。
上記した成分以外に、たとえば、強度、靱性改善の観点から、Mg:0.02%以下、および/または、REM(希土類金属):0.02%以下、および/または、B:0.003%以下を含有しても良い。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
従来から、鋼素材(スラブ)を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板としている。
本発明では、上記した組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の鋳造方法で鋳片(鋼素材:スラブ)としたのち、上記したように鋼材のHIC感受性の評価方法を用いて、鋼素材(鋼材)のHIC感受性を評価し、耐HIC性に優れた厚鋼板とすることのできる鋼素材のみを、ラインパイプ用厚鋼板向けとして、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、耐HIC性に優れた高強度厚鋼板を製造することができる。
従来から、鋼素材(スラブ)を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板としている。
本発明では、上記した組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の鋳造方法で鋳片(鋼素材:スラブ)としたのち、上記したように鋼材のHIC感受性の評価方法を用いて、鋼素材(鋼材)のHIC感受性を評価し、耐HIC性に優れた厚鋼板とすることのできる鋼素材のみを、ラインパイプ用厚鋼板向けとして、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、耐HIC性に優れた高強度厚鋼板を製造することができる。
上記した組成の鋳片(鋼素材)を、好ましくは1000〜1200℃に加熱し、920℃以下の温度域で累積圧下率:70%以上の熱間圧延を施し、800℃以上の温度で圧延を終了する制御圧延とし、あるいはさらに、圧延終了後、500℃までの平均冷却速度で10℃/s以上40℃/s以下で、400〜550℃の冷却停止温度まで冷却し、あるいはさらに誘導加熱装置で550〜680℃の温度範囲に再加熱する製造工程で厚鋼板とすることが好ましい。これにより、引張強さ:550MPa以上で、試験温度:−10℃でのシャルピー衝撃試験で200J以上の吸収エネルギーを確保でき、ラインパイプ用として好適な、高靭性高強度の厚鋼板とすることができる。上記した条件を外れる工程では、所望の高強度と高靭性を確保することができない。
さらに、上記した高強度厚鋼板の好ましい製造方法を適用して厚鋼板としたのち、得られた厚鋼板に本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法を適用し、厚鋼板のHIC感受性を評価し、耐HIC性に優れた厚鋼板と評価された厚鋼板のみを、ラインパイプ向け厚鋼板とする。これにより、耐サワー性能に優れた高強度ラインパイプの製造が可能な、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板が容易に製造できる。
以下、実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片(鋼素材:スラブ)(肉厚:250mm)とした。なお、鋳造速度は、1.2 m/minとし、凝固末期に鋳片に圧下を加えて鋳片(スラブ)の膨らみの発生を抑制した。なお、鋼No,Jでは、偏析スポットの形態比較のために、通常の約1.3倍の鋳造速度(1.6m/min)で鋳造し、また、鋼No.Kでは、単位質量当たりの冷却水量を1.5倍(160 L/kg)とし、さらに鋼No.Lでは、凝固末期に鋳片に圧下を付与せずに凝固させた。
なお、一部の鋼素材(スラブ)については、本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法にしたがって、肉厚中心位置近傍のMn濃度のマッピング分析を行い、Mn偏析スポットの形態評価を行った。得られた鋼素材(スラブ)から、図2に示すように、鋳造方向に直交する断面(C断面)を測定面とし、Mn偏析濃度測定用試験片(長さ200mm)を複数個採取した。採取した試験片の鋳造方向に直交する断面(C断面)を研磨して、板厚中心位置を中心に±5.0mmでスラブ幅中心位置を中心に幅方向に±100mmの範囲についてEPMAを用いて、Mn濃度を分析し、マッピングを実施し、Mn濃度分布を得た。なお、マッピングは、加速電圧25kVとし、直径0.1mmの電子プローブを用いた。
得られたMn濃度分布から、各鋼素材のMn含有量(母材Mn濃度)C0の1.3倍を示すMn偏析スポットを抽出し、その数を求めた。そして、抽出されたMn偏析スポットそれぞれについて、そのMn偏析スポットの大きさとそのMn偏析スポット内の平均Mn濃度を測定した。なお、Mn偏析スポットの大きさは、Mn偏析スポットの形態を楕円近似して求めた長径DLで代表させた。また、得られたMn偏析スポットの平均Mn濃度CMnSPと当該鋼素材のMn含有量(母材Mn濃度)C0と比、CMnSP/C0を算出し、該偏析スポットのMn偏析度とした。
抽出された各Mn偏析スポットについて、得られた各Mn偏析スポットの長径DLとMn偏析度CMnSP/C0との積を算出し、測定長さ範囲(200mm)で、0.8を超えるMn偏析スポットの数を求めた。Mn偏析スポットの長径DLとMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8を超えるMn偏析スポットの数が単位長さ100mm当たりで1個以下である場合を耐HIC性に優れると評価し、○とし、一方、1個を超える場合を、耐HIC性が低下していると評価し、×とした。
抽出された各Mn偏析スポットについて、得られた各Mn偏析スポットの長径DLとMn偏析度CMnSP/C0との積を算出し、測定長さ範囲(200mm)で、0.8を超えるMn偏析スポットの数を求めた。Mn偏析スポットの長径DLとMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8を超えるMn偏析スポットの数が単位長さ100mm当たりで1個以下である場合を耐HIC性に優れると評価し、○とし、一方、1個を超える場合を、耐HIC性が低下していると評価し、×とした。
ついで、得られた鋼素材(スラブ)を、表2に示すように、1030〜1100℃に加熱し、圧延終了温度:800〜890℃とする熱間圧延を施した。圧延終了後、780〜860℃から急速水冷却を表2に示すほぼ15〜30℃/sの冷却速度で、冷却停止温度:530〜400℃まで冷却し、表2に示す板厚:25〜35mmの厚鋼板とした。なお、一部の厚鋼板には、誘導加熱装置により、表2に示す580〜680℃の範囲の加熱温度に再加熱する再加熱処理を施した。
得られた厚鋼板について、本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法にしたがって、板厚中心位置近傍のMn濃度のマッピング分析を行い、Mn偏析スポットの形態評価を行った。なお、一部の厚鋼板では鋼素材段階でMn偏析スポットの形態評価を行ったものは、厚鋼板でのMn偏析スポットの形態評価は行わなかった。
得られた厚鋼板から、図2に示すように板厚中央位置を含み、幅方向1/2位置を含むようにMn偏析濃度測定用試験片を採取した。この試験片の圧延方向に直交する断面(C断面)を研磨して、板厚中心位置を中心に±0.75mmで厚鋼板幅中心位置を中心に幅方向に±100mmの範囲についてEPMAを用いて、Mn濃度を分析し、マッピングを実施し、Mn濃度分布を得た。なお、マッピングは、加速電圧を25kVとし、0.010mm径の電子プローブを用いた。
得られた厚鋼板から、図2に示すように板厚中央位置を含み、幅方向1/2位置を含むようにMn偏析濃度測定用試験片を採取した。この試験片の圧延方向に直交する断面(C断面)を研磨して、板厚中心位置を中心に±0.75mmで厚鋼板幅中心位置を中心に幅方向に±100mmの範囲についてEPMAを用いて、Mn濃度を分析し、マッピングを実施し、Mn濃度分布を得た。なお、マッピングは、加速電圧を25kVとし、0.010mm径の電子プローブを用いた。
得られたMn濃度分布から、各厚鋼板のMn含有量(母材Mn濃度)(C0)PLの1.3倍を示すMn偏析スポットを抽出し、その数を求めた。そして、抽出されたMn偏析スポットそれぞれについて、そのMn偏析スポットの大きさとそのMn偏析スポット内の平均Mn濃度を測定した。なお、Mn偏析スポットの大きさは、Mn偏析スポットの形態を楕円近似して求めた長径(DL)PLで代表させた。また、得られたMn偏析スポットの平均Mn濃度(CMnSP)PLと当該鋼素材のMn含有量(母材Mn濃度)(C0)PLと比、(CMnSP)PL/(C0)PLを算出し、該偏析スポットのMn偏析度とした。
抽出された各Mn偏析スポットについて、得られた各Mn偏析スポットの長径(DL)PLとMn偏析度(CMnSP)PL/(C0)PLとの積を算出し、測定長さ範囲(200mm)で、0.8を超えるMn偏析スポットの数を求めた。Mn偏析スポットの長径(DL)PLとMn偏析度(CMnSP)PL/(C0)PLとの積が0.8を超えるMn偏析スポットの数が単位長さ100mm当たりで1個以下である場合を耐HIC性に優れると評価し、○とし、一方、1個を超える場合を、耐HIC性が低下していると評価し、×とした。
得られた結果を表3に示す。
また、得られた厚鋼板から、試験片を採取し、引張試験、衝撃試験、HIC試験を実施し、各厚鋼板の強度靭性、耐HIC性を評価した。試験方法は次のとおりとした。
(1)引張試験
得られた厚鋼板の幅方向中央位置から、API−5Lの規定に準拠して、引張方向が圧延方向に直角方向となるように、全厚引張試験片を採取し、引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS)を評価した。
(2)衝撃試験
得られた厚鋼板の幅方向中央部で、板厚方向1/4T位置から、長さ方向が圧延方向に直角方向となるようにVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:−10℃で、シャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーvE-10(J)を求め、靭性を評価した。
(3)HIC試験
図2に示すように、得られた厚鋼板の幅方向板中央位置(W/2部)で、板厚中央部を含むように3個ずつ、HIC試験片(大きさ:板厚全厚×幅20mm×長さ100mm)を採取した。得られたHIC試験片を、NACE TM0284に準拠して、A規格液中(100%H2S、pH3〜4)に96h浸漬するHIC試験を実施した。浸漬後、試験片の割れ面積率(CAR%)を超音波探傷法で測定した。得られた各試験片のCARを求め、各々の値が4.0%以下で、かつ3つの平均値をもとめ、2.0%以下である場合を耐HIC性が良好であるとした。
また、得られた厚鋼板から、試験片を採取し、引張試験、衝撃試験、HIC試験を実施し、各厚鋼板の強度靭性、耐HIC性を評価した。試験方法は次のとおりとした。
(1)引張試験
得られた厚鋼板の幅方向中央位置から、API−5Lの規定に準拠して、引張方向が圧延方向に直角方向となるように、全厚引張試験片を採取し、引張試験を実施し、引張特性(引張強さTS)を評価した。
(2)衝撃試験
得られた厚鋼板の幅方向中央部で、板厚方向1/4T位置から、長さ方向が圧延方向に直角方向となるようにVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠してシャルピー衝撃試験を実施し、試験温度:−10℃で、シャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーvE-10(J)を求め、靭性を評価した。
(3)HIC試験
図2に示すように、得られた厚鋼板の幅方向板中央位置(W/2部)で、板厚中央部を含むように3個ずつ、HIC試験片(大きさ:板厚全厚×幅20mm×長さ100mm)を採取した。得られたHIC試験片を、NACE TM0284に準拠して、A規格液中(100%H2S、pH3〜4)に96h浸漬するHIC試験を実施した。浸漬後、試験片の割れ面積率(CAR%)を超音波探傷法で測定した。得られた各試験片のCARを求め、各々の値が4.0%以下で、かつ3つの平均値をもとめ、2.0%以下である場合を耐HIC性が良好であるとした。
得られた結果を表3に併記する。
本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法で耐HIC性に優れると評価された鋳片および厚鋼板(本発明例)はいずれも、厚鋼板におけるHIC試験で耐HIC性が良好であることが確認されている。なお、厚鋼板の組成が本発明範囲を外れる比較例(鋼板No.8、No.9)は、鋼材のHIC感受性の評価方法では耐HIC性に優れる(○)と評価されたが、所望の強度(TS:550MPa以上)または所望の靭性(vE-10:200J以上)を確保できていない。一方、本発明の鋼材のHIC感受性の評価方法で耐HIC性が低下していると評価された鋳片および厚鋼板(比較例)はいずれも、HIC試験で割れ面積率(CAR%)の平均値が2.0%を超えて、耐HIC性が低下していることが確認されている。
このように、本発明によれば、鋼材の中心偏析部を含む領域でMn濃度のマッピングを実施し、Mn偏析スポットを定量的かつ高精度で評価することにより、鋼材のHIC発生の危険度を精度高く評価することが可能となり、ラインパイプ向け高強度厚鋼板の製造が容易になることがわかる。
Claims (12)
- 鋼材のHIC感受性を評価するに当たり、前記鋼材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である場合を、耐HIC性に優れる鋼材であると評価することを特徴とする鋼材のHIC感受性の評価方法。
- 前記鋼材が鋳片である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材のHIC感受性の評価方法。
- 前記鋼材が鋼板である場合には、前記鋼材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼材のHIC感受性の評価方法。
- 前記鋼材が、質量%で、
C:0.03〜0.07%、 Si:0.01〜0.5%、
Mn:1.0〜1.8%、 P:0.010%以下、
S:0.001%以下、 Al:0.07%以下、
Ti:0.005〜0.02%、 Nb:0.005〜0.07%、
N:0.008%以下、 Ca:0.0005〜0.005%、
O:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鋼材のHIC感受性の評価方法。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載の鋼材のHIC感受性の評価方法。
- 鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記鋼素材を、質量%で、
C:0.03〜0.07%、 Si:0.01〜0.5%、
Mn:1.0〜1.8%、 P:0.010%以下、
S:0.001%以下、 Al:0.07%以下、
Ti:0.005〜0.02%、 Nb:0.005〜0.07%、
N:0.008%以下、 Ca:0.0005〜0.005%、
O:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
前記鋼素材の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記鋼材のMn濃度C0の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径DLと該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度CMnSPと前記鋼材のMn濃度C0との比CMnSP/C0、とをもとめ、該Mn偏析スポットの長径DL(mm)とMn偏析度CMnSP/C0との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットの数が鋼材幅方向の単位長さ100mm当たりで1個以下である鋼材を、耐HIC性に優れた厚鋼板とすることのできる鋼素材として、ラインパイプ用厚鋼板向けとすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。 - 前記鋼素材の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±5mmの領域とすることを特徴とする請求項6に記載のラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項6または7に記載のラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
- 鋼素材を、熱間圧延し、あるいはさらに急速冷却、あるいはさらに再加熱処理して、厚鋼板とするにあたり、前記厚鋼板を、質量%で、
C:0.03〜0.07%、 Si:0.01〜0.5%、
Mn:1.0〜1.8%、 P:0.010%以下、
S:0.001%以下、 Al:0.07%以下、
Ti:0.005〜0.02%、 Nb:0.005〜0.07%、
N:0.008%以下、 Ca:0.0005〜0.005%、
O:0.005%以下
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する厚鋼板とし、
前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域についてMn濃度を分析しマッピングして、該分析して得られたMn濃度が前記厚鋼板のMn濃度(C0)PL の1.3倍以上に濃化した連続領域をMn偏析スポットとし、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、とを求め、該Mn偏析スポットの長径(DL)PL(mm)とMn偏析度(CMnSP)PL/(C0)PLとの積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットの分布を求め、該Mn偏析スポットが厚鋼板幅方向の単位長さ100mm当たりの数で1個以下である厚鋼板を、耐HIC性に優れた厚鋼板と評価し、ラインパイプ向け厚鋼板とすることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。 - 前記厚鋼板の中心偏析部を含む領域を鋳造方向に垂直な断面の板厚方向中心位置を中心に、厚さ方向に±0.5mmの領域とすることを特徴とする請求項9に記載のラインパイプ用厚鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:1%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項9または10に記載のラインパイプ用高強度厚鋼板の製造方法。
- 請求項6〜11のいずれかに記載された製造方法で製造された厚鋼板であって、厚鋼板における中心偏析部を含む領域に存在する、Mnが該厚鋼板のMn濃度の1.3倍以上に濃化した連続領域であるMn偏析スポットのうち、該Mn偏析スポットの楕円近似で得られた長径(DL)PLと、該Mn偏析スポットにおける平均Mn濃度(CMnSP)PLと前記厚鋼板のMn濃度(C0)PLとの比(CMnSP)PL/(C0)PL、との積が0.8(mm)を超えるMn偏析スポットが、鋼板幅方向の100mm当たりで1個以下であることを特徴とする、引張強さTS:550MPa以上を有し、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度厚鋼板。
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