JP2014065039A - 製鋼用レードルの予熱方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐火物を内装する製鋼用レードルを受鋼前に予熱するに際して、加熱効率を約20%から約80%に向上させてCO2削減を図る。
【解決手段】レードルを断熱カバーで密閉して内部に抵抗発熱体を設け、容量に対応した大出力で耐火物を放射加熱する。出力に対応した発熱体表面積を設定し、発熱体を1600℃以上とし、耐火物表面を1250℃以上に予熱する。熱排ガスなしと断熱性と大出力とにより熱損比率が小さくなり高加熱効率が得られる。高速加熱によりアーク溶解炉サイクルと同時間内で予熱されるので安価な夜間電力のみで運転可能となる。
【選択図】 図1

Description

本発明は製鋼用のレードルを受鋼前に予熱する方法に関している。
製鋼用のレードルは有底円筒状の鉄皮容器に断熱材を内張りし、さらその内側に耐火物が内張りされて構成されている。耐火物施工後は受鋼時に爆発や沸騰が起こることを避けるため乾燥される。さらに溶鋼による耐火物の熱衝撃を和らげるため壁面が約1000℃以上となるよう充分予熱される。予熱温度が低いと受鋼時の溶鋼の冷却が過大になって品質管理上好ましくないこと、壁面・底面に地金が固まり付いて種々の事故を誘発すること等作業上の問題が頻発する。
一度受鋼したレードルでは次の受鋼までの時間が短いと残熱が大きいので予熱は短時間で済まされたり省略されることがある。予熱作業にはバーナーが使用される。予熱の程度は工場により異なるが予熱温度が高いほど以後の溶鋼処理が安定し、且つ溶鋼の過剰な事前昇温を避けることができる。
特許文献1にはレードルの高温予熱の効果が説明されている。耐火物表面温度を従来行われていない1200℃以上に、且つ耐火物内温度勾配が直線的になるよう充分に予熱、望ましくは溶鋼と同一温度まで予熱することにより溶鋼の冷却が格段に低減する。その結果出鋼温度を下げることができ、1)省エネルギーが得られること、2)精錬温度を低位に誘導して脱酸水準が向上すること等が記載されている。
近年屑鉄を原料とする電炉業界ではコスト低減を目的に、電気炉の熔解能力(kW)を強化して操業時間を短縮し、単価の安い夜間電力のみを使用するいわゆる夜間専業方式の操業がなされている。この場合、昼間で冷えたレードルは夜間の始業に当たり充分予熱しなければならない。回分式で出鋼される溶鋼を連続して連続鋳造するには通常2,3台のレードルが循環使用される。従って毎日2,3台を予熱しなければならない。これは夜間専業方式の不利な一面である。
レ−ドル予熱における問題は燃料消費の無駄が大きいことである。加熱効率(=所定蓄熱量/消費熱量)を実測すると約15%であり極めて低い。その原因は以下である。
1)バーナーは大量の熱排ガスを発生するので本来加熱効率が低い。
2)耐火物は伝熱性が低く鋼材のように急速に昇温せず長時間を要し排熱が増加する。
3)被加熱物の構造に問題がある。加熱炉のように効率を考慮した構造ではなく単純なバケツ状であるから火炎が効果的に流れず多くが瞬時に吹き出る。
4)同様に被加熱物の大きな熱容量に対して相応のバーナー出力(kcal/h)が必要だが、燃焼空間容積が相対的に大きくないので火炎の吹き出しが多くなる。
5)底面の昇温が遅れ無駄が増加する。
6)耐火物表面が1200℃を越えて上昇してくると火炎との温度差が小さくなり伝熱性が低下して無駄が増加する。
加熱効率を改善するため排熱を回収し燃焼空気を予熱する蓄熱式バーナー、通称リジェネバーナーが普及している。この場合バーナー自体の効率は改善されるがそれでもレードル予熱における効率は25%を越えられない。
特許文献2にはレードルを断熱カバーにより密閉し、内部空間でアークを発生させてレードルを予熱する方法が開示されている。当方法を理想的に実施すると加熱効率の大幅向上が期待されるが定量的説明が無く、又今日でも応用されていない。
アーク加熱にしろ抵抗加熱にしろ熱排ガスの無い電気加熱が予熱に全く使用されていない理由を検討すると、
1)電気加熱炉の加熱効率は必ずしも良くないことが経験的に知られていること、
2)電気料金が燃料と比較して割高であること、夜間電力を使用しようとしても夜間操業前に予熱が必要で上手く行かないこと、
3)高温予熱に適切な設備が開発されていないこと等が挙げられる。
予熱において省エネルギーを図るには上記3点の問題を解決しなければならない。
第1の問題の加熱効率について検討する。種々の電気加熱炉の加熱効率を調査すると回分式、連続式によらず高々約40%である。その原因は、被加熱物への伝熱は壁面からの放射のみで大きくない(火炎よりも劣る)ため必然的に炉体が大きくなって放熱が増加すること、開口部があること、炉体昇温に大きな熱量を要すること、その結果被加熱物に必要な熱量に対して炉温維持に必要な熱量が肥大しているからである。
加熱効率に関するレードルと電気加熱炉の上記の比較は正確ではない。後者の炉体昇温分に対して加熱効率を比較すべきである。当該部分の加熱効率を見るとさらに低位になっている。その原因は、生産能率(t/h)を基準に設定される加熱能力(kW)に対して炉体熱容量が既述の理由で過大になっており、準備の昇温に長時間(通常数時間)を要して、その間の無駄熱が増加するからである。
この事実から炉体の加熱効率(レードルの予熱の効率に相当)を向上させるには、加熱能力(kW)を思い切って『大出力』とし、短時間で昇温すれば良いというヒントが得られる。熱精算から加熱効率80%は不可能ではなさそうである。
第2のエネルギー単価について検討する。大口需要家についてMcal当たりのエネルギー単価を比較すると、LNGは約60円、灯油は約80円に対して、電力は昼夜連続の場合約140円だが夜間専業では約70円になる。それぞれ大差が無くなる。従って予熱装置も夜間専業に組み込むことができれば競争可能となる。
この場合の問題は、夜間時間帯開始と同時にアーク溶解炉が稼働開始する。約1時間後に出鋼となるがそれまでにレードル予熱が完了していなければならない。従来のように予熱に数時間をかけることはできない。溶解時間以内が必要条件となる。ここから従来以上数倍の実効加熱能力が必要となる。これは第1の問題の解決策『大出力』と整合する。
第3の問題即ち実用し得る電気による高温予熱装置の開発とその経済性である。
第1案として既述のアーク加熱方式では、充分な出力と熱源の高温化に関しては合格であるが、アークの点火と制御、昇降機構、気密性、ホットスポットの分散、電極棒からの放熱、ガスの噴出等設備・作業上の問題が大きく且つ多い。実施されない理由が解る。
第2案として抵抗加熱方式では、参考事例として超高温ヒーター(Mo化合物を使用した発熱体で通称カンタルヒーター)が有力である。耐用上限は1700℃、炉内温度1600℃以下、単位出力は最大20kWが市販されている。 必要本数・必要設置スペース・ヒーター単価及び耐久性・耐破損性等を考慮すると実用は設備費用上及び消耗費上とても困難と判明した。同様にSiCを発熱体とした場合、炉の使用上限温度は1100℃で同様に本目的には不十分である。当着想を実現するには高温且つ高出力熱源を具備するコンパクトで耐久性があり、消耗が少ない低廉な設備の開発が不可欠となる。
種々の抵抗発熱体の中でアーク炉用の黒鉛電極棒が意外に低廉・強固で且つ2000℃以上にも耐え、酸化消耗のみが問題と解った。当問題の対策をとりさらに発熱体の構造等工夫次第では応用可能との見通しを得た。
公開特許公報2004−115823 公開特許公報昭52−143923
以上述べたように、溶解炉から溶鋼をレードルに移送するに当たり、該レードルの耐火物は事前に充分予熱することが必要であり、予熱温度が高いほど省エネルギーと品質に有利である。予熱手段にはバーナーが使用されているが予熱しにくい構造と性質のため加熱効率は15〜25%と極めて低く無駄が多い。本発明は当該予熱の高温化と省エネルギーを目的とする。該目的達成のため実用性の高い方法と設備によって加熱効率を80%以上、加熱温度1200℃以上とすることを解決すべき課題とする。
当課題を達成するため、1)効率強化の第1条件として熱排ガスの少ない電気加熱方式を採用する、2)第2条件として無効熱比率を下げるため且つエネルギー単価の有利な夜間専業(溶解炉作業時間内で予熱)とするため加熱装置の実効出力を従来の数倍に強化する、3)第3条件として無効熱を削減するよう内外対流の抑制と断熱強化を講ずる。
他方設備・作業面として、1200℃を越える高温予熱に有利で且つ耐久性のある高温熱源として抵抗発熱体の材質と構造及び使用環境に工夫を加える。
第1の発明は、直立する有底円筒状の製鋼用レードルを受鋼前に上方開口部を耐火断熱性のカバーで覆って予熱する方法において、該カバーを貫通して抵抗発熱体を内部空間に配置してレードル耐火物表面を放射加熱するに当たり、該加熱装置の出力P(kW)を該レードルの容量W(t)に対して下記(1)式に基づいて設定し、該発熱体の表面積A(m2)を発熱体の設定温度T(℃)に対して下記(2)式に基づいて設定することを特徴とする製鋼用レードルの予熱方法である。
P≧170×W2/3 −−−−−(1)
A≧P/(1.7T−2400) −−−−−(2)
第2の発明は、抵抗発熱体の材質を黒鉛とし、該抵抗発熱体の温度を1600℃以上とし、カバーによる覆いを密閉状にして内部を非酸化性又は還元性雰囲気とすることを特徴とする第1発明に記載した製鋼用レードルの予熱方法である。
第3の発明は、レードル耐火物表面温度を溶鋼温度以下で且つ溶鋼温度下方300℃以内に加熱することを特徴とする第1発明又は第2発明に記載した製鋼用レードルの予熱方法である。
第4発明は、加熱時間を溶解炉の1サイクルの時間内に制限することを特徴とする第1発明又は第2発明又は第3発明に記載した製鋼用レードルの予熱方法である。
述語の定義は以下とする。
1) 耐火断熱性カバーとは、発熱体の発熱部や耐火物から外部への断熱だけではなく発熱体基部から漏出する熱に対しても断熱機能を持つ図1中の5の保温箱を含む。
2) 加熱装置の出力Pとは、電源から発熱体に導入される電力である。
3) レードル容量Wとは、収容量の設計値である。
4) 発熱体の表面積とは、発熱部の表面積であり発熱体の基部(断面積が発熱部の数倍で発熱しない)のそれを除く。
5) 密閉状とは、対流で内外に空気が循環しない程度であり、雰囲気が維持される程度とする。
6) 耐火物表面温度とは壁面及び底面を対象とし、表面から内部に向かって直線的温度勾配を持つ状態での温度とする。加熱中は表皮の昇温が先行していて直線的でない。加熱を停止すると数分で勾配が直線的になる。測定方法としては通電停止1分後の値とする。
1) レードルの予熱に対して加熱効率(=耐火物への蓄熱量/消費熱量)は下記理由により従来の数倍となる80%以上が得られ省エネルギーに寄与する。
a: 電気抵抗加熱を採用するので熱排ガスが無く入熱の大部分が耐火物へ移行する。
b: 耐火断熱性の密閉状カバーにより漏出熱は主に耐火物通過分となり低減される。
c: 加熱の実効出力が従来の数倍に強化され短時間で処理されるので漏出熱比率が低 下する。
2) 高温予熱が下記理由により可能になって一層の省エネルギーが得られる。
a: 発熱体は大きな実効出力を持つこと、該出力が効果的に耐火物へ移行するよう発熱体は充分な表面積を持つこと、耐火物表面温度が1200℃を越えても伝熱性を保持する1600℃以上の高温発熱体を持つことから1300℃以上望ましくは溶鋼温度約1600℃まで予熱可能となる。
b: 高温予熱により溶鋼の冷却が小さくなり、それに起因して出鋼温度が下げられて省エネルギー、又は低温出鋼再加熱方式では再加熱量の低減により省エネルギーが可能となる。これは加熱効率が溶解炉では約60%、レードル再加熱では約40%、本発明の方法では約80%であることから帰結される。
3) 高温予熱の他の効果として精錬温度が低位へ誘導され脱酸水準が向上する。
4) コスト面では、実効加熱出力が大幅増強され予熱時間は溶解炉と同期させることができるので夜間電力が使用でき、電力単価が約半減する。黒鉛発熱体の酸化消耗は雰囲気制御により0.01kg/kWh以下に削減されコスト負担は大きくない。
5) 設備は数千kWの電源と発熱体1式と断熱カバーと昇降機構から成り、比較的簡素で高価ではなく、採算上の問題は容易に解決される。
6)夜間電力は主に原子力発電から供給されるのでCO2 削減に寄与する。
本願発明のレードル予熱方法を実施する第1の設備例の概略図である。 本願発明のレードル予熱方法を実施する第2の設備例の概略図である。 放射伝熱量に及ぼす発熱体温度と壁面温度との関係を示す。 本願発明の高温予熱による溶鋼温度挙動の改善例を示す。
図1に従って装置と作業方法を説明する。製鋼用レードル1は外皮が鉄皮2であり、その内側には耐火断熱材3が、さらに内側には耐火物4が重層されて構成されている。
加熱装置5は、レードルの上方開口部を密閉する耐火断熱性のカバー6と、該カバー6を貫通してレードル内部空間に配置される抵抗発熱体7と、該発熱体7に通電する単相電源8と、通電を制御する制御器(図示せず)と、該カバー6の昇降手段(図示せず)と、発熱体7の基部9からの漏熱を防止する断熱箱10から成る。発熱体7は偶数の黒鉛棒で構成され、その下端では黒鉛、上端では導体でそれぞれが単相直列結線になるよう接続される。
夜間操業の始業に当たり、レードルの耐火物は昼間で約200℃以下に冷却されている。受鋼前に該カバー6を該レードル1に上置して通電し、耐火物表面温度を約1000℃以上、望ましくは1300℃〜1500℃に、約1時間以内で急速予熱する。
急速予熱するため加熱装置の出力P(kW)は必要充分な大きさにしなければならない。
出力P(=電圧×電流、kW)はレードル容量W(t)に関係した(1)式に基づいて決定される。
P≧170×W2/3 −−−−−(1)
上記の式の下限の出力であれば、例えば30トンのレードルの場合、出力1700kWで、加熱効率80%で、耐火物を平均200℃から表面約1000℃(平均約800℃)に1時間で昇温することができ作業上支障のない従来の水準に達する。
抵抗発熱体から耐火物への伝熱は大部分が放射に依存するので発熱体の表面積に比例する。必要出力と上記の伝熱量は均衡しなければならない。従って上記出力を支える表面積A(m2)は出力P(kW)と発熱体の温度T(℃)に関係して(2)式に基づいて決定される。
A≧P/(1.7T−2400) −−−−−(2)
上記の式の下限の表面積であれば、例えば30トンのレードルの場合、出力1700kW、発熱体の設定温度1700℃(又は2000℃)に対して必要表面積Aは3.4m2(又は1.7m2 )となる。
上記式に示されるように温度(T)が高いほど表面積(A)の削減(ひいては発熱体の質量削減)に有利でる。適性範囲として1600℃以上とする。1600℃未満では必要表面積が過大で設備費・消耗費とも不都合になる。
このような高温に耐える発熱体としては金属系では無理で化合物系に限定される。Mo化合物(商品名カンタルヒーター)と黒鉛しか見当たらない。前者では細径1m長のU型ユニットが市販されているが単位出力は数kWしかなく、且つ高価で且つ脆弱であるため本発明の目的にはとても応用することはできない。
本発明では黒鉛と特定する。他の理由として低単価であること、強度、衝撃、熱応力に優れることである。発熱体の材質を黒鉛とする場合の問題は、500℃以上で使用すると酸化消耗することである。従って雰囲気を非酸化性又は還元性にする必要があり、当然本発明に組み込まれる。当業者には特に困難ではない。
耐用上限とし2300℃の事例があるが本目的に対する問題は明確ではない。
回路と発熱体の構造・寸法は以下の関係式で結ばれ、必要本数が算出される。電流値を30kA以下に制限すると電気設備上の問題は概ね解決され、実用に耐える発熱体直径が得られる。
I=√(P/R) −−−−−(3)
E=I×R −−−−−(4)
R=μ×n×L/S −−−−−(5)
S=π/4×d2 −−−−−(6)
A=n×π×d×L −−−−−(7)
ここでI:電流(A)、P:出力(kW)、R:抵抗(Ω)、E:電圧(V)、μ:黒鉛抵抗率(Ωm)、n:発熱体本数、L:発熱部長さ(m)、S:発熱体断面積(m2)、d:発熱体直径(m)、A:発熱体表面積(m2
以上は主に装置の内容であるが次ぎに操業方法について説明する。
本発明の加熱装置は夜間操業開始時に溶解炉と同時に稼働させる。通電に先立ち造滓材の石灰の一部と炭材をレードル底部に装入する。通電により発熱体が急速に昇温する。2000℃に維持するよう電圧を制御する。炭材が燃焼して雰囲気は非酸化性に移行する。レードル耐火物は前日操業の残熱約200℃から加熱され同時に石灰も加熱される。石灰からCO2ガスが発生し、炭材と反応してCOガスに改質され、還元性雰囲気が形成され黒鉛の酸化消耗が抑制される。
予熱とともに耐火物表面温度は上昇し内部は傾斜状の分布になる。経験的に表面温度が1000℃以上になると作業上の不都合は無くなる。耐火物平均温度は約800℃になる。表面温度が約1300℃近辺になると付着スラグの一部が溶解し底部に流れ落ちる。装入した石灰は該スラグを固着させノズルや通気プラグを損傷させない機能も持つ。受鋼直前まで通電し、停止後直ちに受鋼する。通電時間は溶解炉とほぼ同一で約1時間である。
当該予熱時間において従来以上に予熱を強化すると受鋼後の溶鋼の冷却が減少する。その結果出鋼温度を下げる、又は受鋼後の再加熱量を少なくすることが可能になる。
次ぎに以上述べた装置と作業方法の要点の根拠を説明する。
必要出力Pを算出する(1)式の根拠に対して:
耐火物厚さは容量に関わらずほぼ一定であるから予熱すべき耐火物量はレードル内面積に比例、即ち容量の2/3乗に比例、従って必要出力は(1)式の構造になる。次ぎに比例係数は容量30トンのレードルにおいて作業上支障のない水準の実績値を基に熱精算を加えて決定した。
抵抗発熱体の必要表面積Aを算出する(2)の根拠は以下である。
発熱体の出力Pは放射伝熱量P’(kcal/h )と均衡し、下記ステファン・ボルツマン式に依存する。
P’=4.9εA(θh4−θw4)×10-8
ε:放射率、A:表面積(m2)、θh:発熱体温度(K)、θw:壁面温度(K)
ここでθwを1200℃とし、
θhが1700℃の場合は、P(kW)≒ 500×A
θhが2000℃の場合は、P(kW)≒1000×A となる。
この間はほぼ直線に近似することができるので発熱体温度Tと出力と表面積の関係を(2)式で近似させた。
図3には放射伝熱量に及ぼす発熱体温度と壁面温度の影響を示す。
加熱効率80%以上の根拠について説明する。消費熱量は有効分として耐火物への蓄熱と無効分としての熱損に分かれる。
熱損は、密閉状であるからカバーを含め耐火断熱壁を貫通する熱流束Q’と、密閉とは言え避けられない通気分Q"と、発熱体昇温分Qhと、カバー蓄熱分Qcから成る。Qh,Qcはほぼ定数であるがQ’、Q”は予熱時間に比例して増加する。従って定性的には出力が小さく予熱時間が長くなるほど加熱効率が低下することが解る。
定量化へ向けて試算する。貫通熱流束Q’は鉄皮温度の実測から算出される。30トンのレードルでは、Q’は約80Mcal/h以下、Q”はその数分の1、発熱体分Qhは約60Mcal,カバー蓄熱分Qcは約70Mcalで、1時間で処理する場合、出力1700kWに対して約270kW、約16%が無駄となっている。なお石灰昇温分はいずれ投入しなければならない有効熱である。加熱効率80%は充分可能であることが解る。
次ぎに高温予熱の効果の定量的裏付けを先行事例(特許文献1)に沿って説明する。
図3はレードルの予熱温度を種々変えた場合の受鋼後の溶鋼の冷却挙動を示す。比較例として従来の約1000℃加熱に対して本発明の1250℃加熱により、造滓材をレードルに投入する場合(本発明3)、投入しない場合(本発明2)、でもその後の溶鋼の冷却に有利であることが解る。本発明1の1550℃に予熱できれば計算上溶鋼の冷却は無視できる程度となる。
予熱強化が熱経済上いかに有利かを説明する。アーク式溶解炉の昇温加熱効率は約60%、レードル内溶鋼のアーク式再加熱の効率は約40%とされる。他方本発明のレードル耐火物の加熱効率は約80%である。溶鋼の直接昇温よりも容器の事前の昇温且つ効果的昇温による溶鋼冷却の低減の方が有利であることが解る。
以上から予熱装置の出力をより大きくし、耐火物をより高温に予熱し、受鋼後の溶鋼の冷却を小さくして全体で電力消費を削減することがより望ましい。
予熱強化により出鋼温度を下げ、精錬温度を下げることは、レードル精練の主目的である脱酸に対しても有利である。なぜなら脱酸温度が低いほど平衡酸素量が低下し、脱酸が進行し易くなるからである。他に耐火物耐久にも有利である。
発熱体について検討する。黒鉛を使用する場合、問題は抵抗率(Ωm)が他の化合物系発熱体に比較して桁違いに小さいことである。そのため所定出力を得るには電流値を極端に大きくするか、発熱体断面積を小さくして必要抵抗値を確保しなければならない。
電流値が10万アンペア程度になると導体断面積が過大になってアーク溶解炉と同様の構造になり設備費用上無理となる。
他方発熱体断面積を小さくする方法は既述の必要表面積に反するだけでなく、強度・耐久性や消耗による交換頻度からも好ましくない。解決案として発熱体を薄板状にする等は耐久面から不適切である。
発明者は実用に耐えるよう発熱体を太径棒状に構成し、発熱体断面積Sと必要表面積Aが整合する条件を種々試算した結果、発熱体を図1に示す構造にすることによって解決した。即ち発熱体7を偶数本懸垂させて必要表面積を確保し、それぞれを単相直列結線にすることにより回路抵抗を増加させ、電流値を許容範囲に抑制することができた。
出力と許容電流値によっては図2に示すように発熱体を3本にして星形結線(図2中の25)とし、3相電源29を使用することもできる。
雰囲気形成用の炭材として各種炭材屑、コークス、木炭、廃木材、廃油等を使用することができる。
容量30トンのレードルの予熱に対してどのように適用するか説明する。鉄皮寸法は外径2.05m×高さ3.5m、耐火物は内径1.6m×高さ2.8m×厚さ0.15m、断熱材厚さ0.04m、耐火物壁面の表面積は約18m2である。
必要出力Pは(1)式に基づき最少1700kWとなる。発熱体の必要表面積Aは(2)式の基づき常用2000℃として1.7m2となる。発熱体の実効長さは内壁高さの約70%として2.0mとする。発熱体の直径dを0.067mとし、本数nを4とすると所定表面積Aと合致する。次ぎに抵抗値Rは黒鉛の抵抗率μを6×10-6Ωmとし、4本を直列結線すると0.014Ωとなる。電流値Iは11kAとなり、電圧値は155Vとなる。電気設備として無理のない設計値である。
容量90トンでは以下になる。出力は最少3400kWとなるがより高温に予熱するため4000kWとする。発熱体は常用2000℃とし、発熱体表面積は4.0m2となる。発熱体の実効長さは内壁高さの約70%として2.8mとする。発熱体の直径dを0.11mとし、本数nを4とすると所定表面積4.0m2と合致する。次ぎに抵抗値Rは4本を直列結線すると約0.007Ωとなる。電流値Iは24kAとなり、電圧は167Vとなる。約1時間で耐火物表面を1200℃以上に予熱することができる。
本願発明は、既存の製鋼工場のレードル整備場に設置されているバーナーに容易に且つ採算良く代替させることができる。
1: 製鋼用レードル 2:鉄皮 3:耐火断熱材 4:耐火物 5:抵抗加熱装置 6:耐火断熱カバー 7:発熱体発熱部 8:単相電源 9:発熱体基部 10:保温箱 25:星形結線部 29:3相電源
製鋼用のレードルは有底円筒状の鉄皮容器に断熱材を内張りし、さらその内側に耐火物が内張りされて構成されている。耐火物施工後は受鋼時に爆発や沸騰が起こることを避けるため乾燥される。さらに溶鋼による耐火物の熱衝撃を和らげるため壁面が約1000℃以上となるよう充分予熱される。予熱温度が低いと受鋼時の溶鋼の冷却が過大になって品質管理上好ましくないこと、壁面・底面に地金が固まり付いて種々の事故を誘発すること等作業上の問題が頻発する。
第2のエネルギー単価について検討する。大口需要家についてMcal当たりのエネルギー単価を比較すると、LNGは約円、灯油は約円に対して、電力は昼夜連続の場合約14円だが夜間専業では約円になる。それぞれ大差が無くなる。従って予熱装置も夜間専業に組み込むことができれば競争可能となる。
第1の発明は、直立する有底円筒状の製鋼用レードルを受鋼前に上方開口部を耐火断熱性のカバーで覆って予熱する方法において、加熱装置としてカバーに設けた抵抗発熱体を内部空間に配置してレードル耐火物表面を放射加熱するに当たり、該加熱装置の出力P(kW)をレードルの容量W(t)に対して下記(1)式に基づいて設定し、該発熱体の表面積A(m2)を該発熱体の温度T(℃)に対して下記(2)式に基づいて設定することを特徴とする製鋼用レードルの予熱方法である。
P≧170×W2/3 −−−−−(1)
A≧P/(1.7T−2400) −−−−−(2)
上記式に示されるように温度(T)が高いほど表面積(A)の削減(ひいては発熱体の質量削減)に有利でる。適性範囲として1600℃以上とする。1600℃未満では必要表面積が過大で設備費・消耗費とも不都合になる。
回路と発熱体の構造・寸法は以下の関係式で結ばれ、必要本数が算出される。電流値を30kA以下に制限すると電気設備上の問題は概ね解決され、実用に耐える発熱体直径が得られる。
I=√(P/R) −−−−−(3)
E=I×R −−−−−(4)
R=μ×n×L/S −−−−−(5)
S=π/4×d2 −−−−−(6)
A=n×π×d×L −−−−−(7)
ここで記号の意味とその単位は以下である。I:電流(A)、P:出力(kW)、R:抵抗(Ω)、E:電圧(V)、μ:黒鉛抵抗率(Ωm)、n:発熱体本数、L:発熱部長さ(m)、S:発熱体断面積(m2)、d:発熱体直径(m)、A:発熱体表面積(m 2
次ぎに高温予熱の効果の定量的裏付けを先行事例(特許文献1)に沿って説明する。
はレードルの予熱温度を種々変えた場合の受鋼後の溶鋼の冷却挙動を示す。比較例として従来の約1000℃加熱に対して本発明の1250℃加熱により、造滓材をレードルに投入する場合(本発明3)、投入しない場合(本発明2)、でもその後の溶鋼の冷却に有利であることが解る。本発明1の1550℃に予熱できれば計算上溶鋼の冷却は無視できる程度となる。

Claims (4)

  1. 直立する有底円筒状の製鋼用レードルを受鋼前に上方開口部を耐火断熱性のカバーで覆って予熱する方法において、該カバーを貫通して抵抗発熱体を内部空間に配置してレードル耐火物表面を放射加熱するに当たり、該加熱装置の出力P(kW)を該レードルの容量W(t)に対して下記(1)式に基づいて設定し、該発熱体の表面積を該発熱体の温度T(℃)に対して下記(2)式に基づいて設定することを特徴とする製鋼用レードルの予熱方法。
    P≧170×W2/3 −−−−−(1)
    A≧P/(1.7T−2400) −−−−−(2)
  2. 抵抗発熱体の材質を黒鉛とし、該抵抗発熱体の温度を1600℃以上とし、カバーによる覆いを密閉状とし、内部を非酸化性又は還元性雰囲気とすることを特徴とする請求項1に記載した製鋼用レードルの予熱方法。
  3. レードル耐火物表面温度を溶鋼温度以下で且つ溶鋼温度下方300℃以内に加熱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した製鋼用レードルの予熱方法。
  4. 加熱時間を溶解炉の1サイクルの時間内に制限することを特徴とする請求項1又は請求項2又は請求項3に記載した製鋼用レードルの予熱方法。
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