以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1(A)は、実施形態に係る回転式圧縮機(1)の縦断面図、図1(B)は、圧縮機構の部分拡大断面図である。この圧縮機(1)は、蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて作動流体である冷媒を圧縮する圧縮行程を行うものである。図示するように、この圧縮機(1)は、縦長円筒状のケーシング(10)と、このケーシング(10)内に配置された圧縮機構(20)と駆動機構(モータ)(30)とを備えている。上記圧縮機構(20)は、ケーシング(10)内の下方の位置に配置され、上記駆動機構(30)はケーシング(10)内の上方の位置に配置されている。上記駆動機構(30)は、圧縮機構(20)を駆動するための電動機により構成されている。
上記ケーシング(10)は、縦長の円筒状で上下両端が開口した胴部(11)と、この胴部(11)の上部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下部開口を閉塞するように該胴部(11)に固定された下部鏡板(13)とから構成されている。上記ケーシング(10)の下端部には、潤滑油(冷凍機油)を貯留するための油溜まり(14)が形成されている。油溜まり(14)の油面(15)は、圧縮機構(20)の下部が潤滑油に浸かる程度の高さに設定されている。
上記ケーシング(10)の胴部(11)の下部には、上記圧縮機構(20)と対応する位置に吸入管(16)が設けられている。また、上記ケーシング(10)の上部鏡板(12)には、そのほぼ中心位置に、ケーシング(10)の軸方向の中心線に沿うように吐出管(17)が設けられている。そして、この圧縮機(1)は、圧縮機構(20)から吐出された高圧ガスをケーシング(10)内の空間を介して該ケーシング(10)外へ吐出する高圧ドーム式の圧縮機(1)として構成されている。
上記電動機(30)は、ステータ(31)とロータ(32)とを有している。ステータ(31)は、電磁鋼板を積層することにより円筒状に形成されたステータコア(31a)と、該ステータコア(31a)に巻き付けられたコイル(31b)とから構成されている。このステータ(31)は、ステータコア(31a)の外周面が、ケーシング(10)の胴部(11)における上記圧縮機構(20)の上方位置において、上記胴部(11)に溶接や焼き嵌めによって固定されている。上記ロータ(32)は、電磁鋼板を積層することにより形成されたロータコア(32a)と、該ロータコア(32a)に装着された永久磁石(32b)とから構成されている。このロータ(32)は、その外周面とステータ(31)の内周面との間に均一で微細なラジアルギャップ(図ではギャップを誇張して表している)が形成されるように、ステータ(31)の内周側に配置されている。
上記ロータ(32)には、その内周面に駆動軸(33)(クランク軸)が固定されている。この駆動軸(33)は、主軸部(33a)と、この主軸部(33a)の軸方向中間部分の下方寄りに形成された偏心部(33b)とから構成されている。この偏心部(33b)は、主軸部(33a)よりも大径であって、その中心が主軸部(33a)の中心から偏心している。
上記圧縮機構(20)は、ピストン偏心回転式の圧縮機構の一種であるブレードと揺動ピストン一体型圧縮機構(20)により構成されている。図2は、圧縮機(1)の要部縦断面拡大図であり、主として圧縮機構(20)の縦断面構造を示し、図3(A),図3(B)は、圧縮機構(20)を平面的に見た内部構造を示している。この圧縮機構(20)は、図示するように、シリンダ室(25)を有するシリンダ(21)と、このシリンダ室(25)の内部で、該シリンダ室(25)の内周面に沿って偏心回転運動をすることが可能に構成された揺動ピストン(26)とを有している。
上記シリンダ(21)は、上記ケーシング(10)の胴部(11)に固定されるほぼ環状のシリンダ本体(22)と、このシリンダ本体(22)に対して図2の上面に固定されるフロントヘッド(23)と、シリンダ本体(22)に対して図2の下面に固定されるリアヘッド(24)とを有している。フロントヘッド(23)はシリンダ本体(22)の上面にボルトなどの締結部材により固定され、リアヘッド(24)はシリンダ本体(22)の下面にボルトなどの締結部材により固定されている。そして、このシリンダ本体(22)とフロントヘッド(23)とリアヘッド(24)の間に区画された空間が、上記シリンダ室(25)になっている。
上記シリンダ室(25)の内部には、上記駆動軸(33)の偏心部(33b)が位置している。また、この偏心部(33b)には揺動ピストン(26)が装着されている。揺動ピストン(26)は、該偏心部(33b)の外周に摺動自在に嵌合している。上記フロントヘッド(23)とリアヘッド(24)には、駆動軸(33)の主軸部(33a)を回転可能に支持する軸受け部(23a,24a)が形成されている。また、揺動ピストン(26)は、上記駆動軸(33)が回転するときに、該揺動ピストン(26)の外周面がシリンダ室(25)の内周面に油膜を介して実質的に接するように構成されている。
上記揺動ピストン(26)は、上記駆動軸(33)の偏心部(33b)に嵌合する環状の揺動ピストン本体部(26a)と、この揺動ピストン本体部(26a)から径方向外方へ突出するブレード(26b)とが一体的に形成されたものである。上記シリンダ本体(22)には、上記ブレード(26b)を揺動可能に保持する揺動ブッシュ(27)が設けられている。この揺動ブッシュ(27)は、断面がほぼ半円形でシリンダ本体(22)と同程度の厚さを有する一対の部材であって、シリンダ本体(22)に形成されているブッシュ保持凹部(22a)に、平坦面同士が対向する状態で保持されている。そして、一対の揺動ブッシュ(27)の平坦面同士の間にブレード溝(27a)が形成され、このブレード溝(27a)に揺動ピストン(26)のブレード(26b)が摺動自在に保持されている。なお、ブッシュ保持凹部(22a)に対して径方向の外側には背圧室が形成されている。
以上の構成により、上記圧縮機構(20)は、駆動軸(33)が回転すると、揺動ブッシュ(27)が揺動するとともに、揺動ブッシュ(27)のブレード溝(27a)の中をブレード(26b)が進退して、シリンダ室(25)の中で揺動ピストン(26)がシリンダ室(25)の内周面に沿って旋回運動をする。このように、上記圧縮機構(20)は、偏心部(33b)を有する駆動軸(33)が回転することによって、ブレード(26b)が揺動しながら揺動ピストン(26)がシリンダ(21)内で旋回運動をする上述のブレードと揺動ピストン一体型の圧縮機構(20)により構成されている。
上記シリンダ(21)のシリンダ本体(22)には吸入ポート(21a)が形成され、この吸入ポート(21a)には上記吸入管(16)が接続されている。また、上記シリンダ(21)のフロントヘッド(23)には吐出ポート(21b)が形成され、この吐出ポート(21b)は下面側が上記シリンダ室(25)に開口し、シリンダ室(25)とケーシング(10)内の空間とに連通している。また、吐出ポート(21b)の上面には、リード弁である吐出弁(28a)と、吐出弁のリフト量を規制するための弁押さえ(28b)が設けられている。上記フロントヘッド(23)の上面には、吐出ポート(21b)を覆うように吐出カバー(29)(吐出マフラ)が装着されている。この吐出カバー(29)には、その内周側端部とフロントヘッド(23)の軸受け部(23a)との間に吐出凹部(29a)が形成されている。
図1〜図3に示すように、吐出ポート(21b)は、シリンダ(21)の中心に対して径方向外方側となる部分がシリンダ室(25)の内周面よりも径方向外側に突出する位置に配置されている。また、吐出ポート(21b)の全体をシリンダ室(25)と連通させるために、シリンダ本体(22)には切り欠き部(22b)が形成されている。吐出過程が完了して吐出弁(28a)が閉じられると、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)で区画される空間の中には、圧縮機構(20)からガスが吐出されずに残存する空間となる死容積(45)(図1(B)参照)が形成される。
上記駆動軸(33)の下端部には、上記油溜まり(14)に浸漬される給油ポンプ(34)が設けられている。そして、上記駆動軸(33)には、該駆動軸(33)の中心に沿って上記給油ポンプ(34)から上方へ伸びる給油通路(35)が図2に示すように形成されている。この給油通路(35)は、偏心部(33b)の上下両側の位置で駆動軸(33)の径方向へ伸びる軸受け部給油路(36)を介して、軸受け部(23a、24a)と駆動軸(33)との摺動面へ潤滑油を供給するようになっている。
上記給油通路(35)は、駆動軸(33)の下端から上方へ向かって、該駆動軸(33)の中心を通って形成されている。この給油通路(35)は、駆動軸(33)の下端から偏心部(33b)の若干上方までの領域に形成された大径の給油路(35a)と、この給油路(35a)の上端からフロントヘッド(23)の上端よりも少し上方の位置までの領域に形成された小径のガス抜き通路(35b)とから構成されている。ガス抜き通路(35b)の上端にはガス抜き孔(35c)が形成され、このガス抜き孔(35c)は駆動軸(33)を半径方向に貫通している。
この圧縮機(1)は、上記ケーシング(10)内に設けられている油溜まり(14)から上記吐出ポート(21b)へ吐出過程中に潤滑油を供給する油供給機構(40)を備えている。
上記油供給機構(40)は、上記駆動軸(33)の給油通路(35)を利用して構成されている。油供給機構(40)は、上記偏心部(33b)の上下方向のほぼ中央で該偏心部(33b)の径方向へ開口する径方向給油孔(41a)と、駆動軸(33)の偏心部(33b)の外周面を軸方向へのびる軸方向スリット(41b)を含んでいる。偏心部(33b)には、上記軸方向スリット(41b)と連通するように環状溝(42)(凹部)が形成されている。この環状溝(42)は、偏心部(33b)の軸方向両端部に形成されている。なお、上記環状溝(42)は、偏心部(33b)と揺動ピストン(26)の摺動面へ潤滑油を供給するためのものである。
また、この圧縮機構(20)の油供給機構(40)は、上記シリンダ室(25)の内壁面に形成された油貯留凹部(43)を含んでいる。この油貯留凹部(43)は、リアヘッド(24)におけるシリンダ室(25)の内面側に、上記油溜まり(14)からシリンダ室(25)へ導入される潤滑油を一時的に貯留してから上記吐出ポート(21b)に供給するように形成されている。このように、この圧縮機構(20)のシリンダ(21)内には、上記吐出ポート(21b)から離れた位置に油貯留凹部(43)が形成されている。この油貯留凹部(43)は、円形のくぼみにより形成されている。
圧縮機構(20)の動作中には、ケーシング(10)の油溜まり(14)から偏心部(33b)と揺動ピストン(26)の間の摺動面に潤滑油が導入される。この潤滑油は、一旦、油貯留凹部(43)に溜められる。このように油貯留凹部(43)に潤滑油が入っている状態で揺動ピストン(26)がシリンダ室(25)の内面に沿って旋回運動をすると、圧縮過程から吐出過程が進んでシリンダ室(25)の容積が小さくなるに連れて、油貯留凹部(43)の潤滑油が該油貯留凹部(43)から押し出されて吐出ポート(21b)へ向かい、やがて吐出ポート(21b)内へ流入する。そして、吐出過程の途中から吐出過程の終了までの間に、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の空間内に存在する死容積(45)内に潤滑油が入っている状態になる。したがって、次の圧縮過程が開始されるときに死容積(45)からシリンダ室(25)に潤滑油が吸入されるので、高圧冷媒の再膨張はほとんど起こらず、それに起因する脈動も低減される。したがって、圧縮機の振動や騒音が低減される。
次に、図4を用いて、油貯留凹部(43)を形成するのに好ましい位置について説明する。
図4は、(A)→(B)→(C)→(D)→(E)→(F)→(G)→(H)→(A)の順にピストンが旋回している状態を示す圧縮機構(20)の断面図であり、揺動ピストン(26)が順に45°ずつ回転した状態を示している。また、揺動ピストン(46)が上死点にある図4(A)の位置を便宜上の基準とし、その角度を0°(360°)としている。
上記油貯留凹部(43)は、上記シリンダ室(25)の軸方向端面において揺動ピストン(26)で開閉される位置に形成されている。具体的には、油貯留凹部(43)は、吸入ポート(21a)が閉じ切られる図4(B)のタイミングで揺動ピストン(26)の端面から開放され、吐出過程が開始される直前の図4(E)のタイミングで揺動ピストン(26)の端面に覆われ、吐出過程中の図4(G)のタイミングで上記クランク軸(33)と揺動ピストン(26)の摺動面と連通する位置に形成されている。
油貯留凹部(43)の位置をこのように特定すると、吐出過程が開始される直前の図4(E)のタイミングで油貯留凹部(43)がピストン(26)の端面に覆われる一方、油貯留凹部(43)は、図4(G)の吐出過程中に上記クランク軸(33)とピストン(26)の摺動面と連通する。そして、油貯留凹部(43)に潤滑油が溜められ、その潤滑油が、吸入ポート(21a)が閉じ切られるタイミングでシリンダ室(25)に放出される。この潤滑油は、圧縮過程が開始した後、吐出過程の開始から吐出過程の終了までの間に、上記死容積(45)に溜められる。したがって圧縮機構(20)の次の圧縮過程開始時には、その時点で死容積(45)に入っている潤滑油が低圧のシリンダ室(25)へ導入される。
このように、吸入ポート(21a)が閉じ切られるタイミングでシリンダ室(25)に放出される潤滑油が、吐出過程が終了するまでの間に吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の空間に存在する死容積(45)に溜まり、次の圧縮過程開始時には、吐出過程終了時点で死容積(45)に入っている潤滑油が低圧のシリンダ室(25)へ導入される。潤滑油は実質的に膨脹しないので、高圧ガスの再膨張による脈動を抑えることが可能となる。
なお、上記油貯留凹部(43)は、具体的には、
凹部径<(ピストン外径−ピストン内径)/2
半径位置=(ピストン外径+ピストン内径)/4
角度範囲=190°〜310°
の条件を満たす位置に形成される。
本実施形態では、上記吐出ポート(21b)に導入される潤滑油が上記死容積(45)を満たす量よりも少なくなるように、上記油貯留凹部(43)の容積が定められている。特に、油貯留凹部(43)の容積は、上記死容積(45)から圧縮開始時のシリンダ室(25)に吸入される潤滑油の量が、圧縮過程中にシリンダ室(25)で潤滑油を圧縮する動作が生じる量よりも少なくなるように定められている。ここで、死容積(45)には、油貯留凹部(43)からだけでなく、シリンダ室(25)の内部や軸受けの潤滑部からも潤滑油が導入される。そこで、本実施形態では、油貯留凹部(43)からの潤滑油とシリンダ室(25)や軸受けの摺動部からの潤滑油の合計が上記死容積(45)を満たす量よりも少なくなって油圧縮が生じないように、上記油貯留凹部(43)の容積が定められている。
具体的には、本実施形態において、上記油貯留凹部(43)の容積をΔVとし、上記シリンダ室(25)の容積をVccとすると、ΔV/Vcc≦0.0021の関係が満たされている。また、好ましくは、ΔV/Vcc≧0.0008の関係が満たされている。さらに、上記吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の空間内に存在する死容積(45)をVdeadとすると、ΔV/Vdead≧0.1282の関係が満たされている。
−運転動作−
次に、この回転式圧縮機(1)の運転動作について説明する。
上記電動機(30)を起動するとロータ(32)が回転し、その回転が駆動軸(33)に伝達される。そして、駆動軸(33)が回転すると、シリンダ(21)内で揺動ピストン(26)がシリンダ室(25)の内周面に沿って旋回運動を行う。このことにより、シリンダ室(25)の容積が縮小と拡大を繰り返す。そして、シリンダ室(25)の容積が拡大するときに吸入ポート(21a)からシリンダ室(25)へ冷媒が吸入され、シリンダ室(25)の容積が縮小するときに冷媒が圧縮されて吐出ポート(21b)からケーシング(10)内へ吐出される。
シリンダ室(25)から吐出された高圧冷媒はケーシング(10)内に充満する。ケーシング(10)内に充満した高圧冷媒は吐出管(17)から流出し、冷媒回路を循環する際に凝縮行程、膨張行程、及び蒸発行程を経た後、再び圧縮機(1)に吸入されて圧縮行程が行われる。以上のようにして冷媒が冷媒回路を循環することにより、蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
上記圧縮機構(20)の動作中は、給油ポンプ(34)によって油溜まり(14)から吸い上げられた潤滑油が軸受け部(23a,24a)へ給油され、駆動軸(33)と軸受け部(23a,24a)の間の摺動抵抗が大きくなるのが抑えられるとともに、偏心部(33b)と揺動ピストン(26)の間にも供給されてその間の摺動抵抗が大きくなるのが抑えられる。また、給油ポンプ(34)によって汲み上げられた潤滑油は、クランク軸(33)と揺動ピストン(26)の摺動面からシリンダ室(25)に流入して一旦は油貯留凹部(43)に溜められた後、吐出過程の途中から吐出過程の終了までの間に、上記死容積(45)へ供給される。
一般に、圧縮機構(20)における1サイクルの動作は、吸入過程、圧縮過程、及び吐出過程から構成されている。ここで、吐出過程が終了するときに、揺動ピストン(26)は、ほぼ図3(A)に示す上死点付近の位置の少し手前の位置となり、このとき、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)は吐出弁(28a)と揺動ピストン(26)によって閉じられている。したがって、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の中は密閉された空間となって高圧冷媒が残存し、高圧冷媒を吐出しきれない死容積(45)となる。したがって、そのままでは、次に圧縮過程が開始されたときに、死容積(45)の高圧冷媒が低圧のシリンダ室(25)の内部へ流入して再膨張し、脈動が生じることになる。
一方、本実施形態では、上記吐出過程の途中から吐出過程の終了までの間に、上記死容積(45)に高圧の潤滑油を供給するようにしている。このことにより、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の空間に残存するガスの量が潤滑油の容積分だけ少なくなる。死容積(45)に潤滑油が入っていると、次の圧縮過程が始まるときに死容積(45)から低圧のシリンダ室(25)へ潤滑油が流入する。その際に、潤滑油は冷媒ガスとは違って実質的に膨張しない。したがって、再膨張による脈動を抑えられる。
また、次の圧縮過程が始まるときに、死容積(45)から圧縮開始時の低圧のシリンダ室(25)へ潤滑油が流入するが、本実施形態では油貯留凹部(43)の容積を上記のように定めているので、圧縮過程が進んでも油圧縮が生じるのを抑えられる。
−実施形態の効果−
以上説明したように、この実施形態によれば、上記吐出過程の途中から吐出過程の終了までの間に、吐出ポート(21b)と切り欠き部(22b)の空間に存在する死容積(45)に高圧の潤滑油を供給するようにしているので、高圧冷媒の再膨張による圧縮機構(20)の脈動を抑えることができる。したがって、上記再膨張により発生する振動や騒音を低減することができる。そして、死容積(45)に残る高圧ガスの再膨張によって振動や騒音が発生するのを、給油通路(35)と油貯留凹部(43)を利用して死容積(45)に潤滑油を供給する簡単な構成で実現できる。
また、死容積(45)に潤滑油が間欠的に供給されるので、死容積(45)内に潤滑油が溜まりすぎることがない。死容積(45)に潤滑油が溜まりすぎると冷媒吐出動作の妨げになるおそれがあるが、この実施形態では冷媒が死容積(45)に間欠的にしか入らないので、そのような問題は生じない。しかも、吐出過程の途中から吐出過程の終了までの間に死容積(45)へ潤滑油を供給するようにしているので、潤滑油の供給量が安定する。
そして、本実施形態によれば、油貯留凹部(43)の容積ΔVを上述のように設定したことにより、シリンダ室(25)において再膨張による脈動を抑えられることに加えて、圧縮過程が進んでも油圧縮が生じないようにしている。したがって、圧縮機(1)の能力が低下しないし、駆動機構(30)であるモータへの入力も増加しないので、圧縮機(1)の効率が低下するのを防止できる。
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
例えば、上記実施形態では、ピストンとブレードが一体になった揺動ピストン型の圧縮機に本発明を適用した例であるが、本発明は、ピストンとブレードが別部品で構成されるローリングピストン型の圧縮機であっても適用可能である。
また、上記実施形態では、油貯留凹部(43)の容積を、上記死容積(45)から圧縮開始時のシリンダ室(25)に吸入される潤滑油の量が、圧縮過程中にシリンダ室(25)で潤滑油を圧縮する動作が生じる量よりも少なくなるように定めているが、本発明では、上記死容積(45)に導入される潤滑油が該死容積(45)を満たす量よりも少なくなるように油貯留凹部(43)の容積を定めておけばよく、そうすれば、圧縮過程中に潤滑油が圧縮動作の抵抗になるのを抑えられるから、圧縮機効率が低下するのを防止できる。
また、以上説明した実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
なお、以下に、シリンダ(25)の容積や油貯留凹部(43)の容積等を特定した実施例を説明するが、この実施例で説明するシリンダ(25)の容積や油貯留凹部(43)の容積等の値は、圧縮開始時のシリンダ室に導入される潤滑油に起因して圧縮機効率が低下しない限り、適宜変更することが可能である。
図5は、実施例1〜6の圧縮機(1)の騒音低減率と圧縮機効率を示す表である。なお、図の「ポート仕様」は油貯留凹部(43)のサイズのことである。
まず、実施例1〜6の圧縮機の仕様について説明する。実施例1〜6の圧縮機(1)は、それぞれ、シリンダ容積Vccが9.1cm3 で、 死容積Vdead(吐出過程完了時に吐出ポート(21b)とシリンダ本体(22)の切り欠き部(22b)からガスが吐出されずに残存する容積)が0.116cm3 である。
実施例1〜6の圧縮機(1)の油貯留凹部(43)は、直径を一定にして深さを変化させ、その容積ΔV(cm3)を図5の表に示す値に設定した。また、実施例1〜6ではシリンダ容積Vcc(cm3)と死容積Vdead(cm3)をすべて同じにしているから、各実施例におけるシリンダ容積Vccと死容積Vdeadの比率ξは0.0127ですべて同じである。各実施例における油貯留凹部(43)の容積ΔVとシリンダ容積Vccの比率ΔV/Vcc、及び油貯留凹部(43)の容積ΔVと死容積Vdeadの比率ΔV/Vdeadは、表5に示す通りの値である。
実施例1では油貯留凹部(43)を形成していないので、騒音低減率が0%であり、実施例2〜6では油貯留凹部(43)から死容積(45)に導入した潤滑油がシリンダ室(25)へ供給されるので、実施例1よりも高い騒音低減効果が得られる。また、実施例1の圧縮機効率ηを100%とすると、実施例2〜6では、シリンダ室(25)へ潤滑油が導入される分だけ実施例1より圧縮機効率ηが低下しているが、効率低下はわずかである。
図5の表に示した実施例1〜6は、特定のシリンダ容積Vcc(9.1cm3 )を有する圧縮機(1)において油貯留凹部(43)の容積ΔVを変化させた例を示し、図6の表では機種Bに対応している。この図6は、上記の機種Bと、それとは異なる仕様の機種A,Cにおおけるシリンダ容積Vccや死容積Vdeadを示す表である。図6の機種Aは、機種Bとシリンダ容積Vccは異なるが死容積Vdeadは同じ例であり、機種Cは、機種Bとシリンダ容積Vccも死容積Vdeadも異なる例である。
また、図7は、シリンダ容積Vccが異なる圧縮機(1)のポート仕様(油貯留凹部(43)の仕様)を示す表であり、例aは図5の実施例4に対応している。例bは、図6に示す機種Aのシリンダ容積Vcc(7.8cm3 )を有する圧縮機(1)において、図5の実施例4と同じポート仕様に設定した例で、比率ΔV/Vccが実施例6と同じになっている。
図8は実施例1〜6の圧縮機効率を示すグラフ、図9は実施例1〜6の騒音低減率を示すグラフである。
図8に示すように、圧縮機効率は、実施例1を100%とすると、ΔV/Vccが0.0021以上に設定されている実施例2〜5では、97%よりも大きな値が得られている。一方、ΔV/Vccが0.0021を越えると圧縮機効率が急激に低下し、実施例6では約93.8%になっている。実施例6で圧縮機効率が急激に低下しているのは、油貯留凹部(43)の容積が大きいため、シリンダ室(25)や軸受け部から死容積(45)に供給される潤滑油の量と、油貯留凹部(43)から死容積(45)に供給される潤滑油の量を合計した量が多くなり、それだけの潤滑油が圧縮開始時のシリンダ室(25)に導入されると圧縮動作の抵抗になる(潤滑油を圧縮しようとする油圧縮になる)からで、圧縮機(1)の能力が低下するとともに駆動機構(30)への入力が増加するためと考えられる。また、圧縮開始時の低圧のシリンダ室(25)に高圧の潤滑油が導入されると、冷媒が加熱される(吸入過熱がつく)のも効率低下の原因と考えられる。
図9に関しては、ΔV/Vdeadがゼロよりも大きければ、つまり油貯留凹部(43)を形成しさえすれば、油貯留凹部(43)から上記死容積(45)を介して潤滑油が圧縮開始時のシリンダ室(25)に供給されるので、潤滑油をシリンダ室(25)に導入しない場合と比べて騒音が低減されることが分かる。また、ΔV/Vccが0.0008の実施例2では騒音低減率は約4.8%とやや低めであるが、ΔV/Vccが0.016(ΔV/Vdeadが0.1282)以上になる実施例3〜6では、7%前後の高い騒音低減率が「得られている。
以上のことから、油貯留凹部(43)の容積ΔVとシリンダ室(25)の容積Vccの比率ΔV/Vccを、ΔV/Vcc≦0.0021にすると、油貯留凹部(43)から上記死容積(45)を介して圧縮過程開始時のシリンダ室(25)に導入される潤滑油の圧縮動作が起こらないから、十分な圧縮機効率が得られることが分かる。また、油貯留凹部(43)を形成しているので、油貯留凹部(43)を形成しない場合よりも騒音を低減することができることは言うまでもない。
また、図5から、上記の比率ΔV/Vccを、ΔV/Vcc≧0.0008に設定すると、高い騒音低減効果を得られることが分かる。さらに、図5及び図9から、比率ΔV/Vdeadを、ΔV/Vdead≧0.1282に設定すると、特に高い騒音低減効果を得られることが分かる。
以上のように、油貯留凹部(43)の容積ΔVを実施例2〜5のように設定すると、シリンダ室(25)において再膨張による脈動を抑えられることに加えて、圧縮過程が進んでも油圧縮が生じない。したがって、圧縮機(1)の能力が低下しないし、駆動機構(30)であるモータへの入力も増加しないので、圧縮機(1)の効率が低下するのを確実に防止できる。
以上の実施例は、死容積Vdeadが、フロントヘッド(23)に形成された吐出ポート(21b)と、シリンダ本体(22)に形成された切り欠き部(22b)とを含む圧縮機に関するものであるが、本発明は上記に限らず、シリンダ本体(22)に切り欠き部を有しない圧縮機や、シリンダ本体(22)に吐出ポート(21b)を備えた圧縮機等にも適用可能である。また、図10に示すように、揺動ピストン本体部(26a)の外周面におけるブレード(26b)と連接する部分の吐出側に切り欠き部(26c)を形成し、この切り欠き部(26c)と吐出ポート(21b)の空間に死容積(45)が存在するタイプの圧縮機にも適用可能である。