JP2014050581A - 抗補体活性材料および医療用具 - Google Patents

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Abstract

【課題】血小板や凝固系の活性化を抑制しつつ、補体系の活性化を抑制しうる抗補体活性材料の提供。
【解決手段】75〜25モル%のダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む抗補体活性材料。
【選択図】なし

Description

本発明は、抗補体活性材料および当該抗補体活性材料で被覆した医療用具に関する。
医療用具の表面が血液と接触したとき、血小板、凝固、補体などの活性化が生じうる。血小板の粘着活性化や凝固系の活性化は血栓形成の原因となる。また、補体系の活性化は炎症反応等を引き起こす。このため、これらの活性化を低減させる表面処理、いわゆる血液適合性ポリマーコーティングの開発が進められている。すなわち、医療用具は、血液の成分や血漿成分の変化を低減しもしくは引き起こすことなく、または、医療用具を形成する材料自身の実質的な変化を伴うことなく、継続して血液との接触を保持することのできる血液適合性が求められる。
例えば、血小板の粘着活性化や凝固系の活性化を抑制する方法として、ポリエチレングリコール鎖を側鎖に有するポリマー、両性イオンポリマー、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)などで医療用具の表面を処理(被覆)する方法が知られている。しかしこれらのポリマーで被覆された表面は、補体系の活性化抑制に関しては不十分であった。
補体系とは免疫反応を媒介する血中タンパク質の一群であり、補体の成分はC1〜C9で表される。補体系は抗体が体内に侵入してきた細菌などの微生物(抗原)に結合する際に活性化して、抗原の細胞膜を破壊するなどして生体防御に働く(古典経路)。また、酵母の細胞壁の多糖やグラム陰性細菌の細胞壁のリポ多糖のような特定の構造をもった異物に対しては抗体がなくても活性化して攻撃する(副経路)。さらに、抗体を介さない別の活性化経路として、血清中のマンノース結合レクチンというたんぱく質は細菌などの異物の表面の糖鎖を認識して結合し、異物を排除する経路もある(レクチン経路)。これらの経路は開始ステップにおいては異なって進行するが、C3レベルにおいて集束し、標的細胞の攻撃を生じる同一の最終構成要素を共有することとなる。このような経路において補体タンパクが活性化すると細胞膜を攻撃し破壊する膜攻撃複合体が生成し、この膜攻撃複合体は血管内皮を直接障害したり、赤血球の細胞膜を攻撃して溶血を引き起こしたりする。また、活性化した補体タンパクは白血球を刺激して炎症応答を増大させる。その結果、生体内で制御が不可能な炎症反応が起き、結果として血管透過性の亢進による組織浮腫の発生、多臓器不全といった重篤な状態に至る。よって、医療用具と血液とが接触した際に補体の活性化を低減・抑制する医療用具の表面処理が医療現場から強く求められている。
補体系の活性化を抑制する表面処理方法として、例えば、補体系の活性化抑制タンパク質であるファクターH(ファクターH)を固定した表面が報告されている(特許文献1)。
特表2006−510396号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、血液からファクターHを抽出する、または、類似構造のペプチドを合成する等によってファクターHを調製し、当該ファクターHを医療用具の表面に固定し、かつ、その生理活性を維持した状態を持続させる必要があることから、製品化(商業化)には課題が多い。
そこで本発明は、血小板や凝固系の活性化を抑制しつつ、簡便な方法で補体系の活性化を抑制しうる抗補体活性材料を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題を改善するために鋭意検討を行った結果、スルホン酸基を分子内に有するモノマーと、下記式(1)で表されるモノマーとの共重合ポリマーにより上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の一形態によれば、75〜25モル%の下記式(1):
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む抗補体活性材料が提供される。
本発明によれば、血小板や凝固系の活性化を抑制しつつ、血液と接触した際にファクターHの調製や固定化などの処理を必要とすることない簡便な方法で補体系の活性化を抑制しうる抗補体活性材料が得られる。
(A)は実施例1(AMPS:DAAM=1:1.5)および実施例2(AMPS:DAAM=1:1.8)ならびに比較例1(PMEA)で得たコート層へのファクターHの吸着を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す電気泳動写真であり、(B)は実施例1および2ならびに比較例1で得たコート層へのC3dの吸着を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す電気泳動写真である。
本発明の一形態によれば、75〜25モル%の下記式(1):
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)(以下、単に「繰り返し単位(A)」とも称する)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)(以下、単に「繰り返し単位(B)」とも称する)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む抗補体活性材料が提供される。
本発明者等は、上記形態の共重合体が血液と接触した際に血液中に存在しているファクターHを積極的に吸着することができることを見出した。すなわち、本形態の抗補体活性材料(共重合体)は、上記繰り返し単位(B)のスルホン酸基を介して、イオン的相互作用によりファクターHの塩基性アミノ酸残基と特異的に結合しうる。ファクターHは補体系の活性化抑制タンパク質である。この吸着したファクターHにより補体系の活性化を抑制する表面が構築される。
したがって、本形態の共重合体は、特許文献1のようなファクターHの調製や固定化などの処理を必要とすることなく、血液中に存在するファクターHを利用して補体系の活性化を抑制することができる。すなわち、血液中に存在するファクターHが上記共重合体の上記繰り返し単位(B)のスルホン酸基に、特異的に吸着し、固定化される。このように固定化されたファクターHを利用して補体活性化の抑制反応が生じ、補体の活性化を抑制しうる。
すなわち、本発明の抗補体活性材料は血液と接触することにより、その表面のスルホン酸基に血液中のファクターHが自然に吸着するため、抗補体活性材料および/または抗補体活性材料を含むコート層を有する医療用具を生体内(血液中)で用いる際に、ファクターHを予め固定化させる必要はない。ただし、血液中に存在するファクターHを利用することに加えてまたは代えて、ファクターH等の補体系の活性化抑制タンパク質を抗補体活性材料および/または抗補体活性材料を含むコート層の表面に予め吸着(固定化)させてももちろんよい。特に、本形態の抗補体活性材料は、ファクターHに加えてまたは代えて、例えば、ファクターH様タンパク質1(FHL−1)、ファクターH関連タンパク質(FHR−3、FHR−4)、C4結合タンパク質(C4bp)、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)、メンブランコファクタープロテイン(MCP)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、補体酵素の天然痘阻害剤(SPICE)等の補体系の活性化抑制タンパク質を吸着しうる。したがって、ファクターHに加えてまたは代えてこれらの補体系の活性化抑制タンパク質の少なくとも一つを用いることで、補体の活性化を抑制することができる。すなわち、本発明の一実施形態において、抗補体活性材料はファクターH、ファクターH様タンパク質1(FHL−1)、ファクターH関連タンパク質(FHR−3、FHR−4)、C4結合タンパク質(C4bp)、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)、メンブランコファクタープロテイン(MCP)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、および補体酵素の天然痘阻害剤(SPICE)からなる群より選択される少なくとも1つの補体系の活性化抑制タンパク質をさらに含む。ただし、ファクターHは血液の天然成分であり、副作用を引き起こす可能性が低いという観点から、上記補体系の活性化抑制タンパク質の中でもファクターHを用いることが好ましい。
上記ファクターH等の補体系の活性化抑制タンパク質を抗補体活性材料に固定化する方法としては、血液等から分離されたファクターH等の補体系の活性化抑制タンパク質を混合する方法等が挙げられる。
さらに、本発明者らは、本形態の抗補体活性材料が、補体系の活性化を抑制することに加えて、血小板の粘着活性および凝血活性を抑制しうることを見出した。したがって、本形態の抗補体活性化材料によれば、血小板および凝固系の活性化(血小板の粘着活性および凝血活性)を抑制しつつ補体系の活性化の抑制が可能となるため、抗血栓性と抗補体活性との両立が可能となる。
これに加えて、本形態の抗補体活性材料は、加熱を必要とせず、一回の操作でかつ簡便かつ穏和なコートプロセスにより、医療用具を構成する様々なプラスチックや金属の表面に安定(血液と接触しても溶出しない、斑なくコート層を形成できる)かつ均一なコート層を形成しうるという利点も有する。
なお、本発明において、抗補体活性材料とは、補体系の活性化を抑制する材料をいう。補体の成分はC1〜C9で表され、補体系はC1、C4、C2、C3、C5、C6、C7、C8、C9の順に連鎖的に活性化される。補体システムは古典経路、複経路、およびレクチン経路の3つの経路を有し、これらの経路は開始ステップにおいては異なって進行するが、C3レベルにおいて集束し、標的細胞の攻撃を生じる同一の最終構成要素を共有することとなる。本発明において、「補体系の活性化を抑制する」とはこれらの少なくとも1つの経路を介して補体系が活性化されることを抑制することを意味し、いずれの経路での活性化が抑制されても構わない。ただし、上述のように本発明の抗補体活性材料は、血液と接触した際に、血液中に存在する補体系の活性化抑制タンパク質であるファクターHを吸着する。ファクターHはより詳細には補体活性化副経路の主要な抑制因子であり、C3(HO)やC3bと結合するためのファクターBと競合してC3(HO)やC3bとファクターBとの結合を阻害したり解離させたりする。ファクターHが結合したC3(HO)やC3bはファクターI(プロテアーゼ)によってC3bの不活性型C3bi(iC3bとも呼ばれる)へ分解され、C3biはさらにC3cとC3dgに分解され、蛋白分解酵素によりC3dgはさらにC3dとC3gとに分解される。また、ファクターHはC1複合体と干渉するとの報告もある。したがって、ファクターHは補体の古典経路を阻害する可能性がある。すなわち、本発明の抗補体活性材料は、主に副経路および古典経路に基づく補体の活性化の抑制に寄与しうる。
本発明においては補体の活性化抑制の指標として後述する実施例に記載の方法で測定したC3a値を用い、当該C3a値が、2,000ng/ml以下、好ましくは1,500ng/ml以下、より好ましくは1,000ng/ml以下であることを「抗補体活性」という。C3aは補体成分であるC3が活性化されて分解して産生される生成物であり、C3a値が小さいほど補体の活性化が抑制されていることを示す。これに加えて、後述する実施例に記載の方法で測定したsC5b9値が150ng/ml以下であることが好ましく、より好ましくは100ng/ml以下、さらに好ましくは50ng/ml以下である。sC5b9は補体活性経路の最終産物である可溶性後期複合体であり、sC5b9値が小さいほど、補体の活性化が抑制されていることを示す。
本発明において、血小板の活性化を抑制するとは、血小板の粘着を抑制することを意味する。血小板の粘着抑制の指標としては、後述する実施例に記載の方法で測定した血小板維持率を用い、該血小板維持率が好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。これに加えて、血小板の活性化抑制の指標として後述する実施例に記載の方法で測定したβ−トロンボグロブリン(β−TG)値を用い、当該B−TG値が、好ましくは10,00ng/ml以下、より好ましくは600ng/ml以下、さらに好ましくは400ng/ml以下である。β−トロンボグロブリン(β−TG)は血小板のα顆粒に存在する血小板固有のタンパク質であり、血小板の活性化に伴い循環血中に放出されるため、in vivoでの血小板活性化の指標とされる。血中β−トロンボグロブリンの上昇は血小板放出反応の進行を意味し、β−TG値が小さいほど血小板の活性化反応が生じていない、すなわち、血小板の活性化が抑制されていることを示す。
本発明において、凝固系の活性化の抑制(抗凝血活性)の指標として後述する実施例に記載の方法で測定したプロトロンビンフラグメント1+2(PF1+2)を用い、当該PF1+2値が好ましくは300ng/ml以下、より好ましくは250ng/ml以下、さらに好ましくは200ng/ml以下である。プロトロンビンフラグメント1+2(PF1+2)は血液凝固反応において生じる凝固系の分子マーカーであり、PF1+2値が小さいほど凝固系の活性化が抑制されていることを示す。
上記一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基である。繰り返し単位(A)を形成するモノマーであるダイアセトン(メタ)アクリルアミドは常温架橋性を示す。すなわち、上記一般式(1)中のカルボニル基は穏和な条件で架橋剤との間に共有結合を形成しうる。このため、繰り返し単位(A)を有する重合体を含む抗補体活性材料は、加熱などを必要とせず、基材自体の物性を損なうことのない穏和な条件で、簡便に、基材表面に固定化しうる。
は、好ましくは、血小板や凝固系の活性化抑制の観点から、水素原子である。すなわち、繰り返し単位(A)はダイアセトンアクリルアミド(DAAM)由来であることが好ましい。
繰り返し単位(B)を形成するスルホン酸基を分子内に有するモノマー(以下、「モノマー(b)」とも称する)としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、スルホプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらのモノマー(b)中のスルホン酸基(−SOH)、硫酸基(−SOH)は、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオンと塩を形成して存在していてもよい。上記モノマー(b)は1種単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。
上記モノマー(b)は水溶性または水膨潤性を有するため、様々な水系溶媒、有機溶媒に可溶であり、さらに耐滅菌性に優れる。これにより、水系溶媒下では、モノマー(b)由来の構造を有する抗補体活性材料が基材表面で膨潤して水系溶媒との界面(最外層)を形成し、効果的に抗補体活性および抗血栓性を発現することができる。したがって、上記モノマー(b)由来の繰り返し単位(B)を有する共重合体は優れた抗補体活性および抗血栓性を発揮しうる。
上記モノマー(b)は、補体系の活性化抑制及び血小板や凝固系の活性化抑制の点から、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、スチレンスルホン酸、またはそれらの塩が好ましく、補体系の活性化及び血小板や凝固系の活性化を顕著に抑制しうる2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸もしくはスチレンスルホン酸、またはその塩がより好ましい。すなわち、繰り返し単位(B)は下記式(2):
ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、もしくは、下記式(3):
で示されるスチレンスルホン酸、またはその塩由来の繰り返し単位を含むことが好ましい。さらに好ましくは、繰り返し単位(B)は上記式(2)で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸またはその塩由来の繰り返し単位を含む。なお、上記式(2)において、Rは、好ましくは、血小板や凝固系の活性化抑制の観点から、水素原子である。
上記モノマー(b)における塩としては、無機陽イオンの塩または有機陽イオンの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましく、中でも、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩がより好ましい。有機陽イオンの塩としては、アンモニウム塩が好ましい。
本発明に係る共重合体において、共重合体を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、繰り返し単位(A)は75〜25モル%であり、かつ、繰り返し単位(B)は25〜75モル%であり、この際、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である。すなわち、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(以下、単に「モル比」とも称する)が75:25〜25:75である。
繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)が25:75未満である場合(Aの比率が25モル%未満の場合)には、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)が少ないために、基材表面を被覆する場合に架橋が不十分となり、安定なコート層を形成することができない。一方、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)が75:25を超える(Aの比率が75モル%を超える場合)ポリマーは繰り返し単位(B)の占める割合が少なく、補体系の活性化抑制及び血小板や凝固系の活性化抑制を発現しないため好ましくない。
このような点から、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(B)のモル組成比(A:B)は、30:70〜70:30が好ましい。このような繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)から形成される共重合体において、繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の組成を上記特定の範囲とすることで、簡便なコートプロセスにより優れた補体系の活性化抑制及び血小板や凝固系の活性化抑制と優れたコート性との両立を図ることができる。特に抗凝血活性を考慮すると30:70〜50:50がより好ましい。
本発明に係る共重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。本発明に係る共重合体の構造も特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。ただし、基材への被覆後の膜強度(架橋構造の強度)の向上という観点からは、架橋点の分散しているランダム共重合体の方が望ましい。
本発明に係る共重合体の重量平均分子量は、溶解性の点から、好ましくは10,000〜10,000,000である。そして、共重合体の重量平均分子量は、コート液の調製のしやすさの点から、より好ましくは1,000,000〜10,000,000である。本発明において、「重量平均分子量」は、ポリエチレンオキサイド、または、プルランを標準物質とするゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定した値を採用するものとする。
本発明に係る共重合体の製造方法は特に制限されない。通常、上記繰り返し単位(A)に対応するモノマーであるダイアセトン(メタ)アクリルアミドと、上記繰り返し単位(B)に対応する上記モノマー(b)の一種または二種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌・加熱することにより共重合させる方法が使用される。
モノマーの重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、レドックス系重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t−ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物などの酸化剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせた系が挙げられる。重合開始剤の配合量は、上記モノマー(ダイアセトン(メタ)アクリルアミドとモノマー(b)との合計量=100モル%)に対して、0.0001〜1モル%が好ましい。
共重合の際の重合温度は分子量の制御の点から、30℃〜100℃とするのが好ましい。重合時間は通常30分〜24時間である。重合溶媒としては、水、アルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒であることが好ましく、特に好ましくは水である。これらは1種単独で用いても良いし2種以上を併用しても良い。重合溶媒中のモノマー濃度(固形分濃度)は、通常10〜90重量%であり、好ましくは15〜80重量%であり、より好ましくは20〜80重量%である。なお、重合溶媒に対するモノマー濃度は、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドおよびモノマー(b)の総重量の濃度を指す。
さらに、共重合の際に、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、およびその他の添加剤を、適宜使用してもよい。
共重合後の共重合体は、再沈澱法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することが好ましい。
本発明の抗補体活性材料は、医療用具を構成する基材の表面に被覆(固定)され、基材を被覆するコート層(表面改質層)として好適に使用することができる。すなわち、本発明の他の一形態によれば、基材と、前記基材表面を被覆する、上記抗補体活性材料を含むコート層と、を有する医療用具が提供される。上記抗補体活性材料を含むコート層は、医療用具に血小板や凝固系の活性化抑制効果を付与しつつ、優れた補体系の活性化抑制効果を付与しうる。
上述のように、上記抗補体活性材料は血液と接触した際に血液中に存在しているファクターH等を特異的に吸着し、コート層の表面に抗補体活性を付与する。したがって、抗補体活性材料を含むコート層を有する医療用具を生体内(血液中)で用いる際に、ファクターHをコート層の表面に予め固定化させる必要はなく、血液と接触することにより、自然にファクターHを表面に有するコート層が得られる。ただし、血液中に存在するファクターHを利用することに加えてまたは代えて、ファクターH等の補体系の活性化抑制タンパク質をコート層の表面に予め吸着(固定化)させてももちろんよい。すなわち、本形態の医療用具は、コート層の表面にファクターH、ファクターH様タンパク質1(FHL−1)、ファクターH関連タンパク質(FHR−3、FHR−4)、C4結合タンパク質(C4bp)、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)、メンブランコファクタープロテイン(MCP)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、および補体酵素の天然痘阻害剤(SPICE)からなる群より選択される少なくとも1つを有する。補体系の活性化抑制タンパク質をコート層表面に予め固定化する方法としては、例えば、補体系の活性化抑制タンパク質を含まない抗補体活性材料で基材表面を被覆してコート層を形成した後に、コート層の表面を血液に接触させてコート層の表面にファクターHを吸着(固定化)する方法が挙げられる。
なお、「被覆」とは、基材の表面全体が抗補体活性材料により完全に覆われている形態のみならず、基材の表面の一部のみが抗補体活性材料により覆われている形態、すなわち、基材の表面の一部のみに抗補体活性材料が付着した形態をも含むものとする。
抗補体活性材料を基材の表面に被覆(固定)する方法は、特に制限されないが、例えば、抗補体活性材料と架橋剤との反応生成物を基材表面に被覆することにより、抗補体活性材料を基材表面に固定する方法が挙げられる。すなわち、コート層は、前記抗補体活性材料と架橋剤との反応生成物で形成され得る。これにより、反応生成物(架橋物)が基材表面で不溶化して強固に固定化されうる。
使用しうる架橋剤としては、抗補体活性材料におけるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)中のカルボニル基と反応して共有結合を形成しうるものであれば特に制限されないが、一分子内に少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物であることが好ましい。すなわち、コート層が、上記抗補体活性材料と一分子あたり少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物との反応生成物で形成されていることが好ましい。ヒドラジン残基は、穏和な条件、特に常温での反応によりカルボニル基との間に共有結合を形成させて、基材自体が本来要求されている物性を損なうことなく、抗補体活性材料を強固に基材表面に固定化することが可能となる。またこのような反応では、プロトン供与性の溶媒も用いることができ、反応時の作業域の厳密な水分管理等を行う必要もない。
ヒドラジド化合物としては、例えば、アジピン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジド、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントインなどが挙げられる。この他、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを重合後にヒドラジン残基を有するように処理した重合体もしくは共重合体、または、モノマーの時点でヒドラジン残基を有するように予め処理したモノマーの重合体或いは共重合体なども挙げられる。このうち、水への溶解性の点でアジピン酸ジヒドラジドが好ましい。
ヒドラジド化合物と抗補体活性材料との架橋反応は、上述のように常温で進行し、通常触媒の添加は不要であるが、必要に応じて、硫酸亜鉛、硫酸マンガン、硫酸コバルト等の水溶性金属塩等の添加や加熱乾燥を行うことにより促進されうる。加熱乾燥を行う場合の加熱温度は基材の物性を劣化させないという点から40〜150℃であることが好ましく、40〜60℃であることがより好ましい。
これらの架橋剤は、上記共重合体100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは10〜100重量部となる比率で適用することが望ましい。
基材表面に抗補体活性材料と架橋剤との反応生成物を被覆させる際の被覆方法は特に制限されない。例えば、抗補体活性材料および/または架橋剤を含有する溶液(コート溶液)を基材表面に塗布した後、該抗補体活性材料と該架橋剤とを反応させる方法が好ましい。これにより、基材の表面でこれらの反応生成物(架橋物)が不溶化することにより、基材の表面に抗補体活性材料が強固に固定化されうる。また、架橋剤が基材表面と抗補体活性材料とのバインダーとなるため良好な耐溶出性、耐剥離性等を得ることができる。
具体的には、(1)抗補体活性材料および架橋剤を含有する溶液を基材表面に塗布した後、該抗補体活性材料と該架橋剤とを反応させる方法、または、(2)抗補体活性材料を有する溶液を基材表面に塗布した後、架橋剤を有する溶液を基材表面に塗布して該抗補体活性材料と該架橋剤とを反応させる方法、または、(3)架橋剤を有する溶液を基材表面に塗布した後、抗補体活性材料を有する溶液を基材表面に塗布して該抗補体活性材料と該架橋剤とを反応させる方法が挙げられる。好ましくは、一回の操作でかつ簡便なコートプロセスによりコート層の形成が可能である点で、上記(1)の方法である。
抗補体活性材料や架橋剤を含有する溶液の基材表面への塗布方法は特に限定されず、ディップコーティング、噴霧、スピンコーティング、滴下、ドクターブレード、刷毛塗り、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート等が挙げられる。
抗補体活性材料および/または架橋剤を溶解する溶媒としては、特に制限されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒、水、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ベンゼン等の非プロトン供与性の有機溶媒が例示できる。上記溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ただし、抗補体活性材料の含有溶液と架橋剤の含有溶液とを別々に調製する場合(上記(2)または(3)の場合)には、抗補体活性材料を強固に基材表面に固定化するために、抗補体活性材料を溶解させる溶媒として、基材を膨潤させる溶媒を選択することが好ましい。これにより、抗補体活性材料が基材の内部に含浸され、強固に固定化される。一方、架橋剤を溶解させる溶媒としては、基材をあまり膨潤させない溶媒を用いることが好ましい。
また、コート溶液に第三成分として界面活性剤等の可溶化剤や有機溶媒に可溶化させるための脂溶化剤等を添加しても良い。
通常、抗補体活性材料および/または架橋剤を含有する溶液(コート溶液)を基材表面に塗布した後、常温で乾燥させることにより抗補体活性材料と架橋剤とが反応し、これらの反応生成物を基材表面に被覆することができる。ただし、基材と抗補体活性材料との接着性を向上させる上で、塗布後の基材に熱を加え乾燥させてもよい。
上記方法の他、抗補体活性材料を溶媒に溶解することにより得られる溶液(抗補体活性材料の含有溶液)を基材表面に塗布した後、溶媒を除去することによって抗補体活性材料を基材表面に固定してもよい。
抗補体活性材料を固定化しうる基材の材質や形状は特に限定されない。材質としては、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニルやそれらの共重合体などの各種高分子材料、金属、セラミック、カーボン、およびこれらの複合材料等が例示できる。また、基材の形態としては、上記のような材料を単独で用いた成型体に限定されず、ブレンド成型物、アロイ化成型物、多層化成形物なども使用可能である。ただし、溶媒で基材を膨潤させて抗補体活性材料を強固に固定化したい場合、少なくとも基材表面に存在させる材料としては、上記高分子材料が溶媒により良好に膨潤し得るため好ましい。また、好ましくは、基材表面に架橋剤を介して効果的に抗補体活性材料を固定化する上で、基材全体もしくは基材表面にプロトン供与性基が導入されているものが好ましい。基材の形状としては、シート状、チューブ状等の多様な形状が使用可能である。
抗補体活性材料が固定化された本発明の医療用具は、血液または生体組織と接触して使用されるものであり、例えば、体内埋入型の人工器官や治療用具(インプラント)、体外循環型の人工臓器類、カテーテル、ガイドワイヤー等を例示できる。具体的には、血管や管腔内へ挿入または置換される人工血管、ステントや、人工心膜等の埋入型医療用具;人工心臓システム、人工肺システム、人工腎臓システム、人工肝臓システム、免疫調節システム等の人工臓器システム;留置針;IVHカテーテル、薬液投与用カテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテル及びダイレーターもしくはイントロデューサー等の血管内に挿入ないし留置されるカテーテル、または、これらのカテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット等;が例示できる。特に、大量の血液と接する人工肺システムとして好適に使用される。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、ポリマーの重量平均分子量は、GPC(装置:SHODEX社 GPCシステム;標準物質:プルラン)を用いて測定した。また、下記において、特記しない限り、室温は、25±5℃を意味する。
〔ポリマーコーティング材料の合成〕
[合成例1 AMPS:DAAM 1:1.5の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 8.9g(43mmol)とダイアセトンアクリルアミド(DAAM) 11g(65mmol)とを純水 100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSおよびDAAMの総モル量に対して0.5モル%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
重合液をアセトンへ滴下したところ、白い沈殿物が生成した。デカンテーションの後、沈殿物を回収、メタノールに溶解させた。アセトンに再沈殿させた後、デカンテーションを行い、吸引ろ過により、沈殿物を回収した。減圧乾燥を行い、残留している溶媒を除去した。これにより、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は2,000,000であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=1:1.5(モル比)であった。
[合成例2 AMPS:DAAM 1:1.8の合成]
2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸(AMPS) 7.9g(38mmol)とダイアセトンアクリルアミド(DAAM) 11.7g(69mmol)とを純水 100mLに溶解し、四つ口フラスコに入れて50℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、過硫酸カリウム(KPS) 0.146g(AMPSおよびDAAMの総モル量に対して0.5モル%)と亜硫酸ナトリウム 0.068g(KPSと等モル)とを水2mLに溶解して窒素パージした溶液を添加し、50℃で5時間撹拌させて重合した。
重合液をアセトンへ滴下したところ、白い沈殿物が生成した。デカンテーションの後、沈殿物を回収、メタノールに溶解させた。アセトンに再沈殿させた後、デカンテーションを行い、吸引ろ過により、沈殿物を回収した。減圧乾燥を行い、残留している溶媒を除去した。これにより、AMPS由来の繰り返し単位およびDAAM由来の繰り返し単位から構成される固体ポリマー(ランダム共重合体)を得た。
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は1,800,000であった。また、固体ポリマーのAMPSおよびDAAMの組成を中和滴定で測定したところ、AMPS:DAAM=1:1.8(モル比)であった。
[比較合成例1:PMEAの合成]
メトキシエチルアクリレート(MEA) 30g(0.231mol)をトルエン 115gに溶解し、四つ口フラスコに入れて80℃のオイルバス中で1時間窒素バブリングした。その後、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 0.03gをトルエン5gに溶解して窒素パージした溶液を添加し、80℃で5時間攪拌させて重合した。
重合液をヘキサンへ滴下したところ、白色の粘ちょう物を得た。デカンテーションの後、沈殿物をメタノールに溶解させ、ヘキサンに再沈殿させた。粘ちょう物を回収し、減圧乾燥を行い、溶媒を除去した。これにより、水あめ状の固体ポリマー(PMEA)を回収した。
得られた固体ポリマーの重量平均分子量は90,000であった。
〔人工肺モジュールへのコーティング〕
[実施例1 AMPS:DAAM=1:1.5]
(1)コート溶液の調製
水とメタノールとの体積比が1:1の混合溶媒に合成例1で得たポリマー(AMPS:DAAM=1:1.5(モル比))を溶解し、1重量%のポリマー溶液を調製した。この溶液に架橋剤としてのアジピン酸ジヒドラジドをポリマー重量に対して等重量を添加し、室温にて攪拌し、無色澄明なコート溶液を得た。
(2)コート層の形成
人工肺(テルモ株式会社製)の血液インポートおよびアウトポートに約50cm長の塩化ビニルチューブを接続した。血液インポートから、上記で調製したコート溶液を落差充填し、人工肺の血液流路内を充満させた。60秒間静置した後、血液アウトポートからコート溶液を除去した。その後、血液アウトポートから40L/分の流量で空気を12時間以上流し、乾燥した。これにより人工肺の血液流路の内表面にAMPS:DAAM=1:1.5の共重合ポリマーのコート層を形成した。EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌を行ったものを、血液循環評価に供した。
[実施例2 AMPS:DAAM=1:1.8]
(1)コート溶液の調製
水とメタノールとの体積比が1:1の混合溶媒に合成例2で得たポリマー(AMPS:DAAM=1:1.8(モル比))を溶解し、1重量%のポリマー溶液を調製した。この溶液に架橋剤としてアジピン酸ジヒドラジドをポリマー重量に対して等重量を添加し、室温にて攪拌し、無色澄明なコート溶液を得た。
(2)コート層の形成
人工肺(テルモ株式会社製)の血液インポートおよびアウトポートに約50cm長の塩化ビニルチューブを接続した。血液インポートから、上記で調製したコート溶液を落差充填し、人工肺の血液流路内を充満させた。60秒間静置した後、血液アウトポートからコート溶液を除去した。その後、血液アウトポートから40L/分の流量で空気を12時間以上流し、乾燥した。これにより人工肺の血液流路の内表面にAMPS:DAAM=1:1.8の共重合ポリマーのコート層を形成した。EOG滅菌を行ったものを、血液循環評価に供した。
[比較例1 PMEA]
(1)コート溶液の調製
水とエタノールとメタノールとの体積比が6:3:1の混合溶媒に比較合成例1で得たPMEAを溶解し0.1重量%のポリマー溶液を調製した。
(2)コート層の形成
人工肺(テルモ株式会社製)の血液インポートおよびアウトポートに約50cm長の塩化ビニルチューブを接続した。血液インポートから、上記で調製したコート溶液を落差充填し、人工肺の血液流路内を充満させた。60秒間静置した後、血液アウトポートからコート溶液を除去した。その後、血液アウトポートから40L/分の流量で空気を12時間以上流し、乾燥した。これにより人工肺の血液流路の内表面にPMEAのコート層を形成した。EOG滅菌を行ったものを、血液循環評価に供した。
[評価]
1.血液循環評価
血液回路、実施例1および2ならびに比較例1で得た人工肺モジュール、およびローラーポンプからなる循環回路を組んだ。血液回路および人工肺モジュール内に生理食塩水を400ml充填し、血液回路および人工肺モジュール内の空気抜きを行った。室温にて1時間以上、生理食塩水を循環させた。生理食塩水を200ml除去し、次いでヒト血液を循環回路内に200ml充填した。血液中のヘパリン濃度は、2.4u/mlに調整した。
これとは別に、生理食塩水5mlとヒト血液5mlとを試験管内で混合し、ヘパリン濃度を2.4u/mlに調製したものを循環前血とした。
循環前血および循環180分後に循環回路からサンプリングした血液を用いて、下記のパラメータを測定した。
(1)血小板数の維持率
循環前血および循環180分後にサンプリングした血液について、血球数測定装置(シスメックス)を用いて血小板数を測定した。循環前血中の血小板数に対するサンプリング血中の血小板数の割合から維持率を算出した。結果を下記表1に示す。
(式1)
(血小板維持率)=(循環180分後のサンプリング血中の血小板数)/(循環前血中の血小板数)×100
(2)β−TG(血小板の活性化指標)
循環180分後にサンプリングした血液について、株式会社エスアールエル社指定の専用試験管に血液を2.7ml添加し、15分間以上、氷冷した後、3000rpmで30分間遠心分離を行い、血漿を0.4ml回収した。EIA法にてβ―TG値を測定した。結果を下記表1に示す。
(3)プロトロンビンフラグメント1+2(凝固系の活性化指標)
循環180分後にサンプリングした血液について、株式会社エスアールエル社指定の専用試験管に血液を1.8ml添加し、3000rpmで10分間遠心分離を行い、血漿を0.4ml回収した。EIA法で血液中の凝固系活性化指標としてプロトロンビンフラグメント1+2値を測定した。結果を下記表1に示す。
(4)C3a(補体系の活性化指標)
EDTA2Na入り真空採血管(ベノジェクトII真空採血管、テルモ株式会社製)に循環180分後にサンプリングした血液1.0mlを添加し、3000rpmで10分間遠心分離を行い血漿を0.3ml回収した。C3aキット(Human C3a ELISA、BD社製)を用いてC3a値を測定した。結果を下記表1に示す。
(5)sC5b9(補体系の活性化指標)
EDTA2Na入り真空採血管(ベノジェクトII真空採血管、テルモ株式会社製)に循環180分後にサンプリングした血液1.0mlを添加し、3000rpmで10分間遠心分離を行い血漿を0.3ml回収した。sC5b9キット(MicroVue SC5b−9 Plus EIA Kit)を用いてsC5b9値を測定した。結果を下記表1に示す。
[結果]
上記表1から、AMPS−DAAM共重合体をコートした場合(実施例1および2)と従来の抗補体活性材料であるPMEAをコートした場合(比較例1)とでは、血小板維持率や血小板の活性化の程度(β−TG)が同等であった。一方、凝固系の活性化の程度(PF1+2)は、AMPS−DAAM共重合体をコートした場合(実施例1および2)の方がPMEAをコートした場合(比較例1)に比べて小さかった。さらに、補体系の活性化の程度(C3a、sC5b9)はAMPS−DAAM共重合体をコートした場合(実施例1および2)の方がPMEAをコートした場合(比較例1)に比べて顕著に小さかった。
以上の結果から、本願発明に係るAMPS−DAAM共重合体は、従来の抗補体活性材料であるPMEAと同等以上の血小板や凝固系の活性化の抑制効果を有しつつ、従来の抗補体活性材料であるPMEAに比べて補体系の活性化の抑制効果に有意に優れることが確認される。
2.吸着タンパク質の分析
上記1.血液循環評価の後に、実施例1および2ならびに比較例1で得た人工肺モジュールに吸着しているタンパク質をSDSアクリルアミドゲル電気泳動法を用いて分離し、ウェスタンブロット法によって目的タンパク質(ファクターH、C3d)の検出を行った。具体的な手順は下記の通りである。
(1)タンパク質抽出
上記1.血液循環評価の後に、実施例1および2ならびに比較例1で得た人工肺モジュールをそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(−)で循環洗浄・分解し、適当な長さに切断後50ml容量のプラスチックチューブに入れ、1重量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および1重量% Triton X−100(登録商標)を含むPBS(−)溶液を添加して超音波処理を行った。
(2)タンパク質定量
超音波処理後のPBS(−)溶液について、BCA Protein Assay Reagent Kit(Thermo Fisher Scientific株式会社)を用いて単位面積当たりのタンパク質定量を行った。結果を下記表2に示す。
(3)タンパク質濃縮
上記(1)で得た超音波処理後のタンパク質溶液を3時間以上氷冷し、4℃ 3000rpmで5分間遠心分離を行い、SDSを沈殿させた。上清を回収し、3倍体積量の冷却アセトンを加え、−20℃で2時間以上冷却した。4℃ 12000xgで5分間遠心分離してタンパク質を回収し、1重量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および1重量% Triton X−100(登録商標)を含むPBS(−)溶液を添加して懸濁した。
(4)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(Laemmil法)
アクリルアミドゲルを泳動槽にセットし、泳動バッファーを注いだ。各ウェルに上記で得たタンパク質サンプルと分子量マーカーとを塗布し、200V 20mA/枚で通電した。
(5)ウェスタンブロット
PVDF膜、濾紙、および電気泳動後のゲルをブロッティング溶液に浸漬し、振盪した。ブロッティング装置に濾紙、ゲル、およびPVDF膜を重ね、1mA/cm、20Vで1時間通電を行い、PVDF膜に転写した。転写後、PVDF膜をブロッキング溶液に浸し振盪し、洗浄後一次抗体反応を行った。一次抗体反応が終了した膜を洗浄し、二次抗体反応を行った。反応終了後の膜を洗浄し、目的タンパク質の化学発光を高感度冷却CCDカメラを用いて検出した。洗浄液としては1%(v/v)Tween20を含むPBS(−)溶液を用い、ブロッティング液としては192mM グリシン、25mM トリス塩基、および20%(v/v)メタノールを含む水溶液を用い、ファクターHの検出において一次抗体としてはAnti−Factor H(Abcam社製)を、二次抗体としてはAnti−Rabbit IgG HRP−Linked(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用い、C3dの検出において一次抗体としてはAnti−C3d(Acris社製)を、二次抗体としてはAnti−mouse IgG HRP−Linked(GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を用いた。
結果を図1に示す。図1(A)は実施例1(AMPS:DAAM=1:1.5)および実施例2(AMPS:DAAM=1:1.8)ならびに比較例1(PMEA)で得たコート層へのファクターHの吸着を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す電気泳動写真であり、図1(B)は実施例1および2ならびに比較例1で得たコート層へのC3dの吸着を、ウェスタンブロットにより評価した結果を示す電気泳動写真である。
図1(A)から、実施例1および2で得たAMPS−DAAM共重合体のコート層表面にファクターHが吸着していることを確認した。一方、比較例1で得たPMEAのコート層表面へのファクターHの吸着は確認されなかった。
また、図1(B)から、実施例1および2で得たAMPS−DAAM共重合体のコート層表面には、補体活性化経路(副経路)のファクターHを介した抑制経路の産物であるC3dの吸着が確認され、AMPS−DAAM共重合体が補体系の活性化を抑制することが示された。一方、C3dは比較例1で得たPMEAのコート層表面には認められなかった。
以上の結果から、本願発明に係るAMPS−DAAM共重合体のコート層は、血液と接触した際にファクターHの調製や固定化などの処理を必要とすることなく、血液中に存在する補体系の活性化抑制タンパク質であるファクターHを吸着すること、さらにはファクターHを介して補体系の活性化を抑制できることが確認された。

Claims (8)

  1. 75〜25モル%の下記式(1):
    ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
    で示されるダイアセトン(メタ)アクリルアミド由来の繰り返し単位(A)、ならびに、25〜75モル%の2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、硫酸ビニル、硫酸アリル、スチレンスルホン酸、スルホエチル(メタ)アクリレート、およびスルホプロピル(メタ)アクリレートよりなる群から選択される少なくとも1つのスルホン酸基を分子内に有するモノマーまたはその塩由来の繰り返し単位(B)[繰り返し単位(A)および繰り返し単位(B)の合計量は100モル%である]から構成される共重合体を含む抗補体活性材料。
  2. 前記繰り返し単位(B)は下記式(2):
    ただし、Rは、水素原子またはメチル基である、
    で示される2−(メタ)アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸またはその塩由来の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の抗補体活性材料。
  3. 前記式(1)中、Rは水素原子であり、前記式(2)中、Rは水素原子である、請求項2に記載の抗補体活性材料。
  4. ファクターH、ファクターH様タンパク質1(FHL−1)、ファクターH関連タンパク質(FHR−3、FHR−4)、C4結合タンパク質(C4bp)、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)、メンブランコファクタープロテイン(MCP)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、および補体酵素の天然痘阻害剤(SPICE)からなる群より選択される少なくとも1つをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗補体活性材料。
  5. 基材と、
    前記基材表面を被覆する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗補体活性材料を含むコート層と、を有する医療用具。
  6. 前記コート層の表面にファクターH、ファクターH様タンパク質1(FHL−1)、ファクターH関連タンパク質(FHR−3、FHR−4)、C4結合タンパク質(C4bp)、補体受容体1(CR1)、崩壊促進因子(DAF)、メンブランコファクタープロテイン(MCP)、ワクシニアウイルス補体制御タンパク質(VCP)、および補体酵素の天然痘阻害剤(SPICE)からなる群より選択される少なくとも1つを有する、請求項5に記載の医療用具。
  7. 前記コート層が、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗補体活性材料と架橋剤との反応生成物で形成されている請求項5または6に記載の医療用具。
  8. 前記架橋剤が、一分子あたり少なくとも2個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物である請求項7に記載の医療用具。
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