JP2014045689A - 包埋組織からの核酸抽出方法、核酸抽出用キット、及び核酸抽出装置 - Google Patents

包埋組織からの核酸抽出方法、核酸抽出用キット、及び核酸抽出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】有害な有機溶媒を使用せずに包埋組織から迅速かつ簡便に、包埋剤の混入量が抑えられた核酸を抽出する方法、当該方法に用いられるキット、及び当該方法を用いた核酸抽出装置の提供。
【解決手段】水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織の表面の少なくとも一部を、当該包埋剤の溶融温度以上で、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液中に接触させて、当該包埋組織中の核酸を前記核酸抽出用水溶液に抽出する工程と、前記包埋組織を接触させた状態の前記核酸抽出用水溶液に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を添加する工程と、前記両工程の後、前記核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層を、前記疎水性成分と溶融した包埋剤とを含む疎水性液層から分離して回収する回収工程とを有する包埋組織からの核酸抽出方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、パラフィン等の水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織から、当該包埋剤と分離した状態で核酸を抽出する方法、当該方法に用いられるキット、及び当該方法に用いられる核酸抽出装置に関する。
固定は、生物試料を長期保存するための標準的な方法である。固定は通常、酸、アルコール、ケトン等のタンパク質に対して沈殿作用や架橋作用を有する化合物によって行う。固定された生体試料は、包埋された状態で長期間保存される。例えば、ホルムアルデヒドで固定された後にパラフィン包埋された(FFPE)試料は、特に病理検査において非常に重要である。一方で、ホルムアルデヒドによる固定方法には、架橋の効果により、FFPE試料からの核酸やタンパク質などの生体分子抽出が困難であるという問題がある。FFPE試料からの核酸等の生体分子を抽出するための迅速かつ信頼性のある方法は、臨床医療の研究に役立つ。
FFPE試料から核酸を抽出する際の前処理(脱パラフィン処理)として、キシレンを用いてパラフィンを除去する有機抽出法が古くから報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、当該方法は煩雑であり、かつキシレンは有害ガスを発生する猛毒性薬品であるため、特殊な取り扱いを要する。そこで近年、キシレン処理工程を含まない他の脱パラフィン方法の開発が進んでいる。
有機溶剤を使用せずに脱パラフィン処理を行う方法としては、例えば、特許文献1には、染色前のパラフィン切片をスライドガラスに乗せた状態で熱処理し、溶融したパラフィンを水やバッファー等で洗い流す方法が開示されている。また、特許文献2には、パラフィン切片を水溶液中で懸濁させ、得られた懸濁液を加熱して水性媒体と溶融したパラフィンとを分離した後、そのまま(すなわち、パラフィンが液状のまま)又はパラフィンを融点未満の温度に冷却して固化させた後に、上層の吸引等の物理的手段によって水性媒体を溶融したパラフィンから分離回収する方法が開示されている。
こうして脱パラフィン処理された後のホルマリン固定された組織からは、プロテアーゼ、リパーゼ、界面活性剤、アルカリ溶液等を用いることにより、核酸を放出させることができる(例えば、非特許文献2参照。)。
また、溶融させたパラフィンを含む状態から直接核酸を回収する方法も報告されている。例えば、非特許文献3には、FFPE試料の薄層切片(FFPE切片)3〜4枚を300μLのミネラルオイルに入れ、パラフィン溶解のために90℃で20分間熱処理を行い、得られた溶解液から市販の核酸精製キットを用いてDNAを精製したことが記載されている。当該文献では、得られたDNAに対してPCRやゲノタイピング試験等を行ったところ、FFPE切片作製からの年数に従ってPCRの効率は下がる傾向がみられたものの、27年前の試料からも比較的短い産物(191bp以下)の増幅は可能であった、と報告されている。また、非特許文献4には、FFPE切片を、アルカリ溶液又は界面活性剤溶液に浸漬させて、80〜120℃で20分間熱処理した後、得られた溶解液に対してフェノール/クロロホルム処理を行ってタンパク質を変性除去し、次いでイソプロパノール沈殿を行うことによってDNAを回収したことが記載されている。
脱パラフィン工程を核酸放出工程後に行う方法も報告されている。例えば、非特許文献5には、1〜1.5cmのFFPE切片を250μLのdigestion solution(TEバッファー、0.5% Tween(登録商標)20、0.1mg/mL プロテイナーゼK)に浸透させて一昼夜45℃で処理し、次いでプロテイナーゼKを熱処理(100℃、15〜30分間)により失活化させた後、パラフィンの破片を14,000rpm、2分間の遠心分離処理により沈澱させることによって上清を得、これをPCRに用いたことが記載されている。
その他、FFPE試料以外の検体からパラフィンを用いて核酸を精製する技術の報告もある。特許文献3には、細胞溶解液層と、これと相分離する有機層(パラフィンやオイル等の有機物質からなる層)とを含む二相系で、口腔内細胞或いは血液より核酸を精製する方法が開示されている。当該系内に、細胞と核酸を吸着する磁性ビーズとが投入されると、細胞溶解液層内で細胞から放出された核酸は磁気ビーズに吸着する。核酸を吸着させた磁気ビーズを、外部磁気の誘導より細胞溶解液層から有機層へ移動させることにより、細胞溶解液層に存在する反応阻害物質からも分離して核酸を精製できる。
特開2005−221511号公報 特開2008−43332号公報 米国特許第8017340号明細書
Woodall CJ,et.al.,"Journal of Clinical Pathology"(1993),vol.46,p.276−277. Campos PF,et.al.,"Methods in Molecular Biology"(2012),vol.840,p.81−85. Lin J,et.al.,"Analytical Biochemistry"(2009),vol.395(2),p.265−267. Shi SR,et.al.,"Histochemistry and Cell Biology"(2004),vol.122,p.211−218. Huijsmans CJJ,et.al.,"BMC Research Notes"(2010),vol.3,p.239−247. Okello JBA,et.al.,"Analytical Biochemistry"(2010),vol.400,p.110−117.
特許文献1〜2の方法のように、FFPE切片を水性媒体に懸濁させた後、熱処理により溶融させたパラフィンを除去する方法では、パラフィンは完全には除去できず、精製された核酸にはパラフィンが混入してしまう。非特許文献3の方法のように、溶融させたパラフィンを含む状態から核酸を回収した場合にも、多量のパラフィンが混入する。パラフィンが混入している核酸を分析に用いた場合には、分析方法によっては信頼できる結果が得られないおそれがある。また、マイクロ流路等の微細な構造を含む分析装置による分析では、固化したパラフィンによって流路が詰まってしまうという問題もある。
非特許文献4のように、包埋組織からDNAを抽出した後、フェノール/クロロホルム処理等を行ったり、非特許文献5のように、回収された核酸を解析に供する前にパラフィンを除去することにより、パラフィン混入量が抑えられた核酸が得られる。しかし、これらの方法は、核酸精製に長時間を要する上に、遠心分離処理が必須であり、簡便性に欠ける。
本発明は、有害な有機溶媒を使用せずに、パラフィンをはじめとする包埋剤に埋め込まれた生体試料から、迅速かつ簡便に、包埋剤の混入量が顕著に抑えられた核酸を抽出するための方法、当該方法に用いられるキット、及び当該方法を用いた核酸抽出装置を提供することを目的とする。
[1]本発明の第一の態様に係る包埋組織からの核酸抽出方法は、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織の表面の少なくとも一部を、当該包埋剤の溶融温度以上で、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液中に接触させることにより、当該包埋組織中の核酸を前記核酸抽出用水溶液に抽出する抽出工程と、
前記包埋組織を接触させた状態の前記核酸抽出用水溶液に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を添加する疎水性成分添加工程と、
前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層を、前記疎水性成分と溶融した包埋剤とを含む疎水性液層から分離して回収する回収工程と、
を有することを特徴とする。
[2]前記[1]の包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記抽出工程後に前記疎水性成分添加工程を行うことが好ましい。
[3]前記[1]又は[2]の包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記核酸抽出用水溶液は、界面活性剤及びタンパク質分解酵素を含むことが好ましい。
[4]前記[3]の包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記タンパク質分解酵素が、プロテイナーゼKであり、前記抽出工程を、前記包埋剤の溶融温度以上かつ65℃以下で行うことが好ましい。
[5]前記[3]又は[4]の包埋組織からの核酸抽出方法においては、さらに、前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記回収工程前に、前記水層を熱処理し、当該水層中に含まれているタンパク質分解酵素を失活させる失活工程を有することが好ましい。
[6]前記[1]又は[2]の包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記抽出工程を90〜100℃で行うことも好ましい。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかの包埋組織からの核酸抽出方法においては、さらに、前記回収工程により回収された水層を希釈する希釈工程を有することが好ましい。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかの包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記疎水性成分の融点は40℃以下であることが好ましい。
[9]前記[1]〜[7]のいずれかの包埋組織からの核酸抽出方法においては、前記疎水性成分はミネラルオイルであることが好ましい。
[10]本発明の第二の態様に係る核酸抽出用キットは、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液と、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分とを備え、
前記[1]〜[9]のいずれかの包埋組織からの核酸抽出方法によって、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織から核酸を抽出するために用いられることを特徴とする。
[11]本発明の第三の態様に係る核酸抽出装置は、 水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織が投入された抽出用反応容器が載置される抽出用反応容器収容部と、
前記抽出用反応容器収容部に載置された抽出用反応容器の温度調節を行う温度調節部と、
前記抽出用反応容器収容部に載置された抽出用反応容器に、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液を供給する核酸抽出用水溶液供給部と、
前記抽出用反応容器収容部に載置され、前記核酸抽出用水溶液が供給された抽出用反応容器に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を供給する疎水性成分供給部と、
前記抽出用反応容器収容部に載置され、前記疎水性成分が供給された抽出用反応容器から、前記包埋組織から抽出された核酸と前記核酸抽出用水溶液を含む核酸抽出液を分取する分取部と、
を備えることを特徴とする。
本発明に係る包埋組織からの核酸抽出方法により、パラフィン等の水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織から、包埋剤の混入を顕著に抑制しつつ、迅速かつ簡便に核酸を抽出することができる。当該方法によって得られた核酸は、包埋剤が除去されているため、マイクロ流路等を備える装置を用いた分析に供されたとしても、マイクロ流路の詰まりを起こすおそれが非常に小さい。特に、遠心分離処理等を要することなく、抽出された核酸から包埋剤を分離することが可能であるため、当該方法の実施により、包埋組織から核酸を抽出し、得られた核酸を分析するという一連の工程の全自動化を実現できる。
また、本発明に係るキットを用いることによって、本発明に係る包埋組織からの核酸抽出方法をより簡便に実施することができる。
さらに、本発明に係る核酸抽出装置を用いることによって、本発明に係る包埋組織からの核酸抽出方法による核酸抽出を自動的に行うことができる。
本発明に係る核酸抽出装置の一態様を示した図である。 実施例1において、調製された各核酸抽出液に含まれるDNAの濃度の測定結果を示した図である。 実施例1において、調製された各核酸抽出液に含まれるDNAの収量の測定結果を示した図である。 実施例1において、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸抽出液と、市販簡便キットによって得られた核酸抽出液の外観の写真である。 実施例2において、調製された各核酸抽出液に含まれるDNAの濃度の測定結果を示した図である。 実施例3において、調製された各核酸抽出液に含まれるDNAの濃度の測定結果を、用いた核酸抽出用水溶液中のプロテイナーゼK濃度ごとに示した図である。 実施例4において、ミネラルオイルの添加の有無及び添加時期の異なる試料1〜3の各核酸抽出液に含まれるDNAの濃度の測定結果を示した図である。 実施例5において、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸を用いてインベーダー(登録商標)プラス反応により遺伝子解析を実施した結果を示した図である。
[核酸抽出方法]
本発明の第一の態様に係る包埋組織からの核酸抽出方法(以下、「本発明に係る核酸抽出方法」)は、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織の表面の少なくとも一部を、当該包埋剤の溶融温度以上で、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液中に接触させることにより、当該包埋組織中の核酸を前記核酸抽出用水溶液に抽出する抽出工程と、前記包埋組織を接触させる前又は接触させた状態の前記核酸抽出用水溶液に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を添加する疎水性成分添加工程と、前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層(核酸抽出液)を、前記疎水性成分と溶融した包埋剤を含む疎水性液層から分離して回収する回収工程と、を有する。
本発明に係る核酸抽出方法では、抽出工程において、包埋組織からの核酸の抽出と包埋剤の溶融とを同時に行うため、包埋剤の溶融除去と核酸抽出とを独立して行う方法に比べて、工程数が少なく、より短時間で包埋組織から核酸を抽出することができる。
また、前記核酸抽出用水溶液に、包埋剤との親和性が高い液状の疎水性成分を添加することにより、包埋組織から抽出された核酸を含む核酸抽出用水溶液から、溶融した包埋剤を効率よく除去することができる。このため、本発明に係る核酸抽出方法により、包埋剤の混入量が顕著に低減された核酸を得ることができる。さらに、核酸抽出用水溶液と核酸を含む水層と、疎水性成分と包埋剤とを含む疎水性液層の二相に分離するため、水層のみを回収することによって簡便に包埋剤から核酸を分離回収することができる。
<包埋剤と包埋組織>
本発明に係る包埋剤は、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内のものである。当該性質を満たすものであれば特に限定されるものではなく、パラフィン、セロイジン、樹脂等の当該技術分野で一般的に用いられている包埋剤の中から適宜選択して用いることができる。市販されているものをそのまま用いてもよい。本発明に係る包埋剤としては、パラフィンが好ましく、溶融温度が40〜65℃の範囲内であるパラフィンがより好ましく、溶融温度が40〜50℃の範囲内であるパラフィンがさらに好ましい。ここで、包埋剤として用いるパラフィンは、パラフィンのみからなるものであってもよく、副成分として他の樹脂や各種添加剤を含むものであってもよい。
本発明に係る核酸抽出方法に供される包埋組織は、核酸を含むことが期待される生体試料を、包埋剤によって包埋したものである。当該生体試料としては、例えば、ヒトをはじめとする動物や植物から採取された組織片(組織塊)が挙げられ、病理標本であることが好ましい。生体試料は、細胞や組織中の生体成分の変性を防止するため、包埋前に固定されていることが好ましい。固定処理は、ホルマリン固定、アルコール固定等の公知の固定法の中から、生体試料の種類に応じて適宜選択して行う。本発明の優れた核酸抽出効果がより発揮されることから、本発明に係る核酸抽出方法に供される包埋組織は、ホルマリン固定後に包埋されたもの(FFPE試料)であることが好ましい。
生体試料の包埋方法は、用いる包埋剤に応じて常法により実施することができる。例えばパラフィンを包埋剤とする場合、エタノール等で脱水処理を行った後、キシレンやアルコール等を浸透させた後、液状のパラフィンを全体に浸透させた後に固化させることにより、生体試料からFFPE試料を調製することができる。
本発明に係る核酸抽出方法に供される包埋組織は、塊のようなある程度の厚みを有する形状であってもよいが、核酸抽出効率の点から、薄層切片であることが好ましい。薄層切片は、ミクロトーム等を用いて常法により作製できる。
<抽出工程>
本発明に係る核酸抽出方法では、まず、抽出工程として、包埋組織の表面の少なくとも一部を、当該包埋組織の作製に用いられた包埋剤の溶融温度以上で核酸抽出用水溶液中に接触させる。核酸抽出用水溶液と接触した表面から、包埋組織中の生体試料に含まれていた核酸が抽出される。この際、核酸抽出用水溶液の温度が包埋剤の溶融温度以上であるため、当該包埋組織の包埋剤も溶融する。包埋剤の溶融を同時に行うため、核酸抽出を効率よく行うことができる。
本発明において用いられる核酸抽出用水溶液は、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む。界面活性剤又はアルカリ性物質の少なくとも一方を含有することにより、包埋組織中の生体試料から、DNAやRNA等の核酸を、タンパク質等と分離した状態で核酸抽出用水溶液に抽出することができる。当該核酸抽出用水溶液は、界面活性剤とアルカリ性物質を共に含んでいてもよい。
核酸抽出用水溶液に含まれる界面活性剤は、生体試料から核酸を抽出する際に当該技術分野で一般的に使用されている界面活性剤から適宜選択して用いることができる。本発明において用いられる界面活性剤としては、SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)等のイオン性界面活性剤であってもよいが、非イオン性界面活性剤が好ましく、Triton(登録商標) X(Polyoxyethylene(10)Octylphenyl Ether)、Tween(登録商標) 20(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monolaurate)、Tween(登録商標) 40(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monopalmitate)、Tween(登録商標) 60(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monostearate)、Tween(登録商標) 80(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate)、Nonidet(登録商標) P−40(Polyoxyethylene(9)Octylphenyl Ether)、Brij(登録商標)35(Polyoxyethylene(23)Lauryl Ether)、Brij(登録商標)58(Polyoxyethylene(20)Cethyl Ether)、ジギトニン、又はサポニン等がより好ましく、Triton X、Tween 20、又はNonidet P−40がさらに好ましい。また、核酸抽出用水溶液に含まれる界面活性剤は、1種類のみであってもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
核酸抽出用水溶液が界面活性剤を含む場合、核酸抽出用水溶液中の界面活性剤の濃度は、核酸抽出効果が発揮される濃度であればよく、用いる界面活性剤の種類を考慮して適宜調整することができる。例えば、核酸抽出用水溶液中の界面活性剤の濃度を0.01容量%以上、好ましくは0.05容量%以上、より好ましくは0.1容量%以上とすることにより、充分な核酸抽出効果が期待できる。また、界面活性剤の濃度を10容量%以下、好ましくは5容量%以下、より好ましくは1容量%以下とすることにより、核酸抽出用水溶液の過剰な泡立ちが抑えられるため取扱い性が優れることに加えて、核酸が抽出された核酸抽出用水溶液(核酸抽出液)を、各種核酸分析に用いる際の界面活性剤の持ち込み量を抑えることができる。
核酸抽出用水溶液がアルカリ性物質を含む場合、核酸抽出用水溶液中のアルカリ性物質の濃度は、核酸抽出用水溶液を核酸抽出効果が発揮される程度に充分にアルカリ性にするような濃度であればよく、用いるアルカリ性物質の種類を考慮して適宜調整することができる。本発明においては、核酸抽出用水溶液のpHが11以上になるようにアルカリ性物質を含有させることが好ましく、pH12〜13になるように含有させることがより好ましい。
核酸抽出用水溶液に含まれるアルカリ性物質は、核酸抽出用水溶液に溶解可能であって、抽出された核酸に特段の影響を及ぼさないものであればよい。当該アルカリ性物質としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。
核酸抽出用水溶液は、溶媒に界面活性剤とアルカリ性物質の少なくとも一方を添加して混合することにより調製できる。当該溶媒は、脱イオン水や超純水等の水であってもよく、バッファーであってもよい。核酸抽出用水溶液がバッファーの場合、そのpHは抽出される核酸の種類(DNAかRNAか)や、抽出された核酸の分析方法等を考慮して適宜決定される。本発明においては、核酸抽出用水溶液が、pH5〜9のバッファーであることが好ましく、pH6.5〜8.5のバッファーであることが好ましい。抽出する核酸がDNAの場合には、特に、pH7.0〜8.5のバッファーであることが好ましい。当該バッファーは、核酸の抽出や精製、分析の際に当該技術分野で一般的に使用されているバッファーから適宜選択して用いることができる。当該バッファーとしては、具体的には、Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)−HClバッファー、リン酸バッファー等が挙げられる。
核酸抽出用水溶液は、界面活性剤やアルカリ性物質に加えてさらに、タンパク質分解酵素を含むことが好ましい。タンパク質分解酵素が共存することにより、包埋組織中の生体試料からより効率よく核酸を抽出することができる。当該タンパク質分解酵素としては、当該包埋組織の作製に用いられた包埋剤の溶融温度以上でタンパク質分解酵素活性が発揮される酵素であればよい。本発明においては、プロテイナーゼKを用いることが好ましい。
核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含む場合には、当該核酸抽出用水溶液は、界面活性剤を含み、pH5〜9であることが好ましい。核酸抽出用水溶液中のタンパク質分解酵素の濃度は、酵素活性の強度に応じて適宜調整される。例えば、核酸抽出用水溶液中のタンパク質分解酵素の濃度を0.05〜1.00mg/mLとすることにより、核酸抽出効率をより高めることができる。
核酸抽出用水溶液は、界面活性剤やアルカリ性物質に加えてさらに、核酸分解酵素に対する抑制作用を有する物質(核酸分解酵素抑制剤)を含んでいてもよい。核酸抽出用水溶液が核酸分解酵素抑制剤を含むことにより、抽出された核酸の分解を抑制し得る。核酸分解酵素抑制剤としては、キレート剤が好ましい。当該キレート剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等が挙げられる。EDTAを用いる場合、核酸抽出用水溶液中のEDTA濃度を0.1〜10mMとすることができる。
核酸抽出用水溶液は、界面活性剤やアルカリ性物質に加えてさらに、カオトロピック塩を含んでいてもよい。核酸抽出用水溶液がカオトロピック塩を含むことにより、核酸の抽出効率がより向上し得る。当該カオトロピック塩としては、グアニジン塩、ヨウ化ナトリウム、又は過塩素酸ナトリウム等が挙げられる。グアニジン塩としては、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン塩酸塩等が挙げられる。グアニジン塩を用いる場合、核酸抽出用水溶液中のグアニジン塩濃度を0.5〜6Mとすることができる。
なお、核酸抽出用水溶液は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、その他の物質を含んでいてもよい。
抽出工程において、包埋組織の表面に接触させる核酸抽出用水溶液の量は、包埋組織の体積や形状、核酸抽出反応に用いる容器(抽出用反応容器)の容量や形状等を考慮して適宜決定することができる。核酸抽出効率の点からは、包埋組織の表面全体が濡れている状態にできる量であることが好ましく、包埋組織を核酸抽出用水溶液中に浸漬させることができる量であることがより好ましい。例えば、1.5mL容の抽出用反応容器に、包埋組織の薄層切片を1〜5枚投入したものに、核酸抽出用水溶液を50〜500μL、好ましくは80〜200μL添加することができる。
包埋組織の表面全体が濡れている状態や、包埋組織の一部の表面のみが核酸抽出用水溶液に接触している状態で核酸抽出を行う場合には、予め調製した核酸抽出用水溶液を、抽出用反応容器内の包埋組織の表面に注入滴下することが好ましい。
一方で、包埋組織が核酸抽出用水溶液中に浸漬させた状態で核酸抽出を行う場合には、予め調製した核酸抽出用水溶液を抽出用反応容器に注入してもよく、包埋組織が投入された抽出用反応容器内に核酸抽出用水溶液の原料試薬を個別に添加して、当該容器内で核酸抽出用水溶液を調製してもよい。例えば、包埋組織が投入された抽出用反応容器内に、バッファーと界面活性剤(及び/又はアルカリ性物質)と必要に応じてその他の物質をそれぞれ個別に添加してもよい。また、核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含む場合には、包埋組織が投入された抽出用反応容器内に、タンパク質分解酵素以外の全ての原料試薬を添加した溶液を添加した後、適当量のバッファーに溶解させたタンパク質分解酵素溶液を添加してもよい。
包埋組織に核酸抽出用水溶液を接触させた後、ボルテックスミキサーによる撹拌処理や、ダウンス型ホモジナイザーによるホモジナイズを行うことも好ましい。これらの処理により、包埋組織が核酸抽出用水溶液中でより小片となり、核酸抽出用水溶液との接触面が増大する結果、核酸抽出効率がより高まる。
核酸抽出は、当該包埋組織の作製に用いられた包埋剤の溶融温度以上で行う。核酸抽出温度を包埋剤の溶融温度以上にすることによって、包埋組織から包埋剤が溶融し、包埋組織の深部からも効率よく核酸を抽出することができる。包埋剤の溶融がより速やかに行われるため、核酸抽出温度は、包埋剤の溶融温度よりも少なくとも2〜3℃高い温度とすることが好ましい。包埋組織に核酸抽出用水溶液を接触させた後に、加熱することによって当該溶融温度以上に調製してもよく、あらかじめ当該溶融温度以上に調整した核酸抽出用水溶液を包埋組織に接触させてもよい。
核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含む場合、核酸抽出温度は、包埋剤の溶融温度以上であり、かつ当該タンパク質分解酵素の酵素活性を奏する温度にする。この際、溶融温度がタンパク質分解酵素の至適温度よりも低い包埋剤であることが好ましい。例えば、タンパク質分解酵素としてプロテイナーゼKを用いる場合には、核酸抽出温度は、包埋剤の溶融温度以上であり、かつ65℃以下であることが好ましく、包埋剤の溶融温度よりも少なくとも2〜3℃高く、かつ65℃以下であることがより好ましい。
核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含まない場合、核酸抽出温度は、80〜100℃が好ましく、90℃〜100℃がより好ましく、95〜100℃がさらに好ましい。界面活性剤とアルカリ性物質の少なくとも一方を含む溶液中で、高温でインキュベートすることによって、包埋組織中の生体試料に含まれていた核酸が抽出される。
核酸抽出の時間は、包埋組織の体積や形状、核酸抽出用水溶液の組成、核酸抽出用水溶液と包埋組織の体積比、核酸抽出温度と包埋剤の溶融温度と差等を考慮し、適宜決定することができる。例えば、核酸抽出の時間は、所望の核酸抽出温度で1分間〜2時間とすることができ、5分間〜1時間とすることが好ましく、5〜45分間とすることがより好ましい。
<疎水性成分添加工程>
本発明に係る核酸抽出方法では、疎水性成分添加工程として、包埋組織を接触させた状態の核酸抽出用水溶液に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を添加する。これにより、抽出用反応容器内は、核酸抽出用水溶液を含む水層と、疎水性成分を含む疎水性液層の二相に分離する。包埋剤は、核酸抽出用水溶液よりも疎水性成分との親和性が高いため、包埋組織から溶融した包埋剤は疎水性液層に移行する。一方で、抽出された核酸は、水層に存在する。この二相分離により、遠心分離処理等を要することなく、抽出された核酸を、包埋剤から分離した状態で回収することができる。
当該疎水性成分は、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状であり、かつ水と二相分離する成分である。当該疎水性成分は、二相分離によって水層よりも上層になるものであってもよく、水層よりも下層になるものであってもよい。本発明においては、水層よりも上層になる疎水性成分であることが好ましい。水層が下層になることにより、水分の蒸発を防止することができる。当該疎水性成分としては、ミネラルオイル(流動パラフィン)、シリコンオイル等が挙げられ、ミネラルオイルが特に好適に用いられる。
疎水性成分の添加量は、主に核酸抽出用水溶液からなる水層と二相分離可能な量であればよく、核酸抽出用水溶液の量、抽出用反応容器の形状や容積等を考慮して適宜決定することができる。例えば、包埋組織に添加した核酸抽出用水溶液に対して、1/5倍量(容量)以上、好ましくは1/3倍量(容量)以上、より好ましくは1/3〜3倍量(容量)の疎水性成分を添加することができる。
疎水性成分の添加は、包埋組織に核酸抽出用水溶液を添加した後であり、かつ後述の回収工程前であれば、どの時点で行ってもよい。例えば、疎水性成分は、包埋組織に核酸抽出用水溶液を添加した後、核酸抽出温度に加熱する前に添加してもよく、核酸抽出温度まで加温した後、核酸抽出中に添加してもよく、核酸抽出終了後に添加してもよい。核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含む場合には、疎水性成分は、核酸抽出終了後に添加することが好ましい。核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含まない場合には、核酸抽出温度に加熱する前に添加することが好ましい。なお、疎水性成分を核酸抽出終了後の核酸抽出用水溶液に添加する場合には、当該核酸抽出用水溶液の温度が包埋剤の溶融温度以上の状態で疎水性成分を添加するか、疎水性成分添加後回収工程前に、当該核酸抽出用水溶液を包埋剤の溶融温度以上に加温することにより、疎水性成分の存在下で抽出用反応容器内の包埋剤全量を溶融させて疎水性液層に移行させる。
<失活工程>
核酸抽出用水溶液がタンパク質分解酵素を含む場合には、前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記回収工程前に、核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層(核酸抽出液)を熱処理し、当該水層中に含まれているタンパク質分解酵素を失活させることが好ましい。熱処理の温度や加熱時間は、失活させるタンパク質分解酵素の種類を考慮して適宜決定することができる。例えば、当該水層を、70〜100℃、好ましくは80〜100℃で、1〜30分間、好ましくは1〜10分間熱処理することにより、タンパク質分解酵素を失活させることできる。
<回収工程>
抽出工程及び疎水性成分添加工程の後、回収工程として、核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層を、疎水性成分と溶融した包埋剤とを含む疎水性液層から分離して回収する。当該回収工程を、用いた包埋組織中の包埋剤の融点以上の温度で行うことにより、溶融した包埋剤を確実に水層から分離できるが、室温で実施することもできる。溶融した包埋剤は、疎水性成分と混合した状態であり、室温程度にまで低下した場合でも、固化し難くなる。このため、当該回収工程を、室温程度の比較的低温で実施した場合でも、包埋剤が固化せず、包埋剤が除去された水層を回収することができる。
水層の回収方法は、二相分離した状態の一方の層を分離回収する際に通常用いられる方法の中から適宜選択して用いることができる。例えば、水層が下層の場合、抽出用反応容器の上方から上層である疎水性液層をピペット等で吸出し、水層のみを抽出用反応容器に残すことができる。また、抽出用反応容器から水層のみを吸出し、別の容器へ回収してもよい。
こうして回収された水層は、包埋組織から抽出された核酸が含まれているが、溶融した包埋剤はほとんど混入していない。このため、当該水層は、包埋されていない生体試料から抽出された核酸抽出液と同様に、各種核酸分析の分析試料とすることができる。特に、包埋剤の溶融温度以下(例えば、室温)としても、固化した包埋剤は混入していないため、当該水層を各種分析装置に用いた場合でも、問題が生じ難い。特に、詰まりを起こすおそれが非常に小さいため、マイクロ流路等の隘路を備える装置を用いた分析装置にも用いることができる。
回収された水層は、そのまま核酸分析の試料として用いてもよいが、希釈することにより、当該水層中の界面活性剤濃度やアルカリ性物質濃度を低減させた希釈液を、核酸分析の試料として用いることも好ましい。希釈は、水を用いて行ってもよく、以降の核酸分析に用いるバッファーを用いて行ってもよい。
また、回収された水層から、エタノール沈殿法、シリカを用いた固相精製法、塩化セシウム密度勾配超遠心法等の核酸精製法を用いて核酸を精製してもよい。
本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸抽出液(回収工程で回収された水層、当該水層の希釈液等。)は、いずれの核酸解析に供されてもよいが、特に遺伝子多型や遺伝子変異の解析に供されることが好ましく、SNP(一塩基多型)や一遺伝子変異の解析に供されることがより好ましい。
遺伝子解析をはじめとする核酸解析は、一般的に、解析対象の核酸を分析し、分析の結果に得られた情報を解析する。核酸分析は、主に、核酸の塩基配列をシークエンサー等で直接読む方法、特定の塩基配列からなる領域と特異的にハイブリダイズするプライマーを起点としたポリメラーゼ反応を利用する方法、又は特定の塩基配列からなる領域と特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法により行われる。本発明に係る核酸抽出方法によって抽出された核酸は、通常は多種多様な遺伝子の核酸を含むため、解析対象遺伝子は、プライマーとプローブの少なくとも一方を用いる方法によって分析することが好ましい。少なくともプライマーを用いる方法としては、例えば、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法、リアルタイムPCR法、TaqMan(登録商標)−PCR法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、SMAP(SMart Amplification Process)法、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、RCA(rolling circle amplification)法、及びこれらの改変方法等が挙げられる。また、プローブを用いる方法としては、例えば、Invader(登録商標)法、DNAマイクロアレイ等が挙げられる。これらの方法は、適宜組み合わせて用いてもよい。
本発明に係る核酸抽出方法では、包埋組織から核酸を回収するため、特に薄層切片から核酸を抽出した場合には、微量の核酸しか得られない場合がある。このため、プローブを用いた核酸増幅反応を利用した分析方法や、第一段階としてPCR等により核酸を増幅させ、第二段階として、第一段階で得られた増幅産物に対して核酸分析を行う方法が好ましい。前者としては、例えば、特定の遺伝子型に特異的なプライマーを用いて伸長反応を行うアレル特異的伸長法、TaqMan−PCR法等が挙げられる。後者としては、例えば、インベーダープラス法、PCR−RFLP(制限酵素断片長多型)法、PCR−SSCP(1本鎖高次構造多型)法等が挙げられる。中でも、解析対象の核酸の量が非常に微量の場合であっても、高感度かつ高精度に核酸解析を行うことが可能であるため、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸を、まずPCRによって増幅させた後、得られた増幅産物に対してインベーダー法を行うインベーダープラス法が好ましい。
以下に、インベーダープラス法により、特定の遺伝子(解析対象遺伝子)を検出し解析する方法の例を示すが、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸の核酸解析方法は、これに限定されるものではない。
まず、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸抽出液(回収工程で回収された水層)に、インベーダープラス反応液であるインベーダープラスバッファーと、解析対象遺伝子を検出するためのオリゴミックスと、エンザイムミックスとを混合した後に、変性処理(95℃、2分間加熱)することによりDNAの二重螺旋を一本鎖に融解させる。なお、オリゴミックスは、PCR用プライマー、DNAプローブ、インベイディングオリゴ、FRETカセットから成る。
次に、PCR(95℃、30秒間−66℃、25秒間)を35サイクル行うことにより、解析対象遺伝子に相当する部分の核酸の増幅反応を行った後、Taq(登録商標)ポリメラーゼの失活処理(99℃、30秒間加熱)を行い、PCRを停止させる。
最後にインベーダー(登録商標)法(61℃、30分間)を実施し、解析対象遺伝子に対応する核酸配列を有する領域に特異的にハイブリダイズしたDNAプローブを分解させる。次いで、当該分解反応により生成されたDNAの加熱プローブの5’−オリゴヌクレオチドが蛍光色素を持つFRETカセットと結合し、さらに当該FRETカセットが分解されて蛍光色素が当該FRETカセットから遊離して蛍光を発光するようになる。この蛍光を測定することにより、解析対象遺伝子を間接的に検出し測定できる。すなわち、蛍光シグナル強度が対応する解析対象遺伝子の検出量を示す。
インベーダー(登録商標)法により解離された蛍光色素の蛍光シグナル強度(例えば、蛍光色素がFAMの場合には、FAMの蛍光シグナル強度(励起波長:485nm、発光波長:535nm)は、蛍光測定装置で測定する。当該蛍光測定装置としては、例えば、ロシュ・アプライド・サイエンス社製の蛍光測定装置LightCycler480等が挙げられる。
[包埋組織からの核酸抽出用キット]
本発明に係る包埋組織からの核酸抽出用キット(以下、「本発明に係る核酸抽出用キット」)は、前記核酸抽出用水溶液と、前記疎水性成分とを備え、本発明に係る核酸抽出方法によって、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織から核酸を抽出するために用いられることを特徴とする。当該核酸抽出用キットを用いることによって、本発明に係る包埋組織からの核酸抽出方法をより簡便に実施することができる。
当該核酸抽出用キット中には、核酸抽出用水溶液をそのまま含ませてもよく、核酸抽出用水溶液の原料試薬をそれぞれ別個に備えさせてもよい。例えば、バッファーと界面活性剤とタンパク質分解酵素とキレート剤とをそれぞれ別個に備えていてもよく、界面活性剤とキレート剤とを含むバッファーと、タンパク質分解酵素とを備えていてもよい。
当該核酸抽出用キット中には、前記核酸抽出用水溶液と前記疎水性成分に加えて、その他の試薬や器具等を備えていてもよい。例えば、抽出用反応容器や、回収した水層を希釈するための希釈用溶液、核酸抽出用水溶液等を分注するための器具(例えば、ピペットやチップ等。)、当該核酸抽出用キットの使用説明書等を備えていてもよい。その他、抽出された核酸を解析する際に用いる試薬(例えば、反応用バッファー、ポリメラーゼ等の酵素、プライマー、プローブ等)を備えることもできる。
[核酸抽出装置]
本発明に係る核酸抽出方法は、遠心処理を必要とせず、少ない工程で、包埋剤の混入が顕著に低減された核酸抽出液を調製できる。このため、当該核酸抽出方法は全自動化が容易である。当該核酸抽出方法を実施する機能としては、反応容器の温度を調節する機能と、反応容器に核酸抽出用水溶液や疎水性成分を供給する機能と、得られた核酸抽出液を分取する機能が挙げられる。
図1に、本発明に係る核酸抽出装置の一態様を示す。核酸抽出装置1は、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織が投入された抽出用反応容器2が載置される抽出用反応容器収容部3と;前記抽出用反応容器収容部3に載置された抽出用反応容器2の温度調節を行う温度調節部4と;前記抽出用反応容器収容部3に載置された抽出用反応容器2に、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液を供給する核酸抽出用水溶液供給部5と;前記抽出用反応容器収容部3に載置され、前記核酸抽出用水溶液が供給された抽出用反応容器2に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を供給する疎水性成分供給部6と;前記抽出用反応容器収容部3に載置され、前記疎水性成分が供給された抽出用反応容器2から、前記包埋組織から抽出された核酸と前記核酸抽出用水溶液を含む核酸抽出液を分取する分取部7とを備える。
抽出用反応容器2は、液等の注入・排出をするための開口部が上面に設けられている容器であって、通常、核酸の精製や分析に用いられる耐熱性の反応容器の中から適宜選択して用いられる。なお、抽出用反応容器2は、上面の開口部を密閉する蓋が設けられていてもよい。0.5〜5mL容のプラスチックチューブであってもよく、8連チューブや12連チューブであってもよく、96ウェルプレートや384ウェルプレートであってもよい。抽出用反応容器収容部3は、上面から抽出用反応容器2を埋め込む1又は複数の凹部を有している。当該凹部の形状や当該凹部間の位置は、用いる抽出用反応容器2の容量や形状に応じて適宜調整される。また、温度調節部4によって抽出用反応容器2を加熱・冷却するため、熱伝導性の高い素材からなる。
温度調節部4は、抽出用反応容器収容部3に密着し、抽出用反応容器収容部3を介して抽出用反応容器2を加熱又は冷却することにより、当該抽出用反応容器2内の核酸抽出用水溶液の液温を調節する。温度調節部4は電熱ヒータやセラミックヒータ、レーザー、ハロゲンランプや、赤外線式、マイクロウェーブ式、温風式、誘導電気加熱(IH)式等の各種の加熱機等からなる加熱部と、加熱部の下方に設けられ、電動ファンやヒートシンク、冷風式冷却機等からなる冷却部とを有する。必要に応じて、ペルチェ素子を用いて加熱部及び冷却部を構成してもよい。
核酸抽出用水溶液供給部5は、核酸抽出用水溶液を収容する核酸抽出用水溶液収容部と、核酸抽出用水溶液収容部内の核酸抽出用水溶液を抽出用反応容器収容部3に載置された抽出用反応容器2に分注する分注部からなる。分注部は、核酸抽出用水溶液収容部から抽出用反応容器2の上面開口部までを連結するチューブであってもよく、先端に備えた分注チップを用いて液体を吸引、保持、及び吐出する電動ピペットであってもよい。
疎水性成分供給部6は、疎水性成分を収容する疎水性成分収容部と、疎水性成分収容部内の疎水性成分を抽出用反応容器収容部3に載置された抽出用反応容器2に分注する分注部からなる。分注部は、疎水性成分収容部から抽出用反応容器2の上面開口部までを連結するチューブであってもよく、先端に備えた分注チップを用いて液体を吸引、保持、及び吐出する電動ピペットであってもよい。
分取部7は、先端に備えた分注チップを用いて液体を吸引、保持、及び吐出する電動ピペットである。前記疎水性成分が供給された後の抽出用反応容器2内は、疎水性液層と水層の二相に分離している。分取部7は、その分注チップの先端開口部を抽出用反応容器2中の水層(核酸抽出液)に入れ、水層のみを吸引し、これを保持しながら当該抽出用反応容器2から当該分注チップを抜いた後、当該分注チップ内の核酸抽出液を、新たな容器に回収する。
分注部は、分取部の電動ピペットと兼ねることができる。例えば、まず、電動ピペットの先端に1の分注チップを装着し、核酸抽出用水溶液収容部に収容されている核酸抽出用水溶液を、当該分注チップ内に吸引した後、抽出用反応容器2に注入する。次いで、当該電動ピペットの先端に別の分注チップを装着し、疎水性成分収容部に収容されている疎水性成分を、当該分注チップ内に吸引した後、抽出用反応容器2に注入する。その後、さらに別の分注チップを装着し、抽出用反応容器2中の水層(核酸抽出液)を吸引し、回収する。
例えば、プロテイナーゼKを含む核酸抽出用水溶液と前記核酸抽出装置を用いて、FFPE試料から核酸を抽出する場合の一態様は以下のようになる。まず、FFPE試料を入れた抽出用反応容器2を、抽出用反応容器収容部3に載置し、当該抽出用反応容器2に、核酸抽出用水溶液供給部5から核酸抽出用水溶液を供給する。次いで、温度調節部4により、当該抽出用反応容器2内の液温を、パラフィンの溶融温度以上であり、かつ65℃以下の温度に一定時間保温することによって、FFPE試料から核酸を抽出する。その後、当該抽出用反応容器2に、疎水性成分供給部6から疎水性成分を供給した後、温度調節部4により、当該抽出用反応容器2内の液温を上げて当該抽出用反応容器2内のプロテイナーゼKを失活させる。最後に、温度調節部4により、当該抽出用反応容器2内の液温を、室温程度にまで冷却させた後、分取部7によって抽出用反応容器2内の下層(核酸抽出液)を分取する。
また、本発明に係る核酸抽出装置に、分析試料である核酸溶液を設置した後に自動的に核酸分析を行う機能を付加的することにより、包埋組織からの核酸抽出から核酸分析までの一連の工程を自動的に実施可能な装置とすることができる。例えば、図1に示す核酸抽出装置1に、核酸分析部と、分取部7により分取された核酸抽出液を当該核酸分析装置へ供給する機能を付加することにより、分取部7から回収された核酸抽出液中の核酸を、自動的に分析することができる。当該核酸分析部は、PCR、リアルタイムPCR、インベーダープラス反応等の反応を行う際に使用される分析装置と同様の構成とすることができる。例えば、核酸分析部には、反応用容器収容部、反応容器の温度調節部、反応用容器収容部に載置された反応用容器からの放出される蛍光を検知する発光検知部、及び検知した発光を記録する記録部を備えることができる。
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<FFPE組織サンプルからのDNA抽出効率の比較>
マウス大腸FFPE切片(約1cm×1mm×10μm)2枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.5% Tween20及び0.1mg/mL プロテイナーゼKを含むTEバッファー)に浸漬させ、その上にミネラルオイル100μL又は200μLを添加し、56℃で15分間加熱した。次いで、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収した。
対照として、同量のFFPE切片から、市販精製キット(製品名:QIA(登録商標)amp DNA FFPE Tissue Kit、Qiagen社製)又は市販簡便キット(製品名:QuickExtractキット、Epicentre社製)を用いて、それぞれのキットの取扱説明書に基づいて核酸抽出を行った。市販精製キット及び市販簡便キットでは、スピンカラムに吸着させた核酸を100μLで溶出し、これを核酸抽出液とした。
これらの方法で得られた核酸抽出液のDNA濃度をPicoGreen試薬(Invitrogen社)により測定した。測定結果を図2及び3に示す。図2は、核酸抽出液のDNA濃度(ng/μL)の測定結果であり、図3は、DNA濃度から算出されたDNA収量(μg)の測定結果である。図2及び3中、「1」は市販精製キットを用いた結果であり、「2」は市販簡便キットを用いた結果であり、「3」はミネラルオイル100μLを添加した場合の結果であり、「4」はミネラルオイル200μLを添加した場合の結果である。図2及び3に示すように、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸抽出液(図中、3及び4)に含まれるDNAの濃度及び収量は、市販精製キットや市販簡便キットを用いた場合と同等であった。
また、得られた核酸抽出液の外観を観察したところ、市販簡便キットで得られた抽出液(図4中、「1」)は、パラフィンが残留しているため白濁していた。これに対して、本発明に係る核酸抽出方法によって得られた核酸抽出液(図4中、「2」)は、添加したミネラルオイルの量にかかわらず、無色透明であり、核酸抽出液からパラフィンが完全に除去されていた。これらの結果から、本発明に係る核酸抽出方法により、包埋剤の混入量を抑えつつ、少ない工程数で包埋組織から核酸を抽出可能であることが明らかである。
[実施例2]
<界面活性剤の種類の影響>
マウス大腸FFPE切片(約1cm×1mm×10μm)2枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.1mg/mL プロテイナーゼKと、0.5%のTriton X100、0.5%のTween20、又は0.5%のNonidet P−40とを含むTEバッファー)に浸漬させ、その上にミネラルオイル200μLを添加し、56℃で15分間加熱した。次いで、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収した。
得られた核酸抽出液のDNA濃度をPicoGreen試薬(Invitrogen社)により測定した。測定結果を図5に示す。図5中、「1」はTriton X100を含む核酸抽出用水溶液を用いた場合の結果であり、「2」はTween20を含む核酸抽出用水溶液を用いた場合の結果であり、「3」はNonidet P−40を含む核酸抽出用水溶液を用いた場合の結果である。図5に示すように、核酸抽出用水溶液に含まれる界面活性剤の種類によってDNA抽出効率は多少影響を受けるものの、いずれも遺伝子検査の検体として充分な量のDNAを回収することができた。これらの結果から、本発明に係る核酸抽出方法により、包埋組織から効率よく核酸を抽出し得ることが明らかである。
[実施例3]
<プロテイナーゼKの濃度の影響>
核酸抽出用水溶液として、0.5%のTween20と、0.01〜1mg/mL プロテイナーゼKとを含むTEバッファーを用いた以外は、実施例2と同様にして、マウス大腸FFPE切片(約1cm×1mm×5μm)2枚から核酸抽出液(水溶層)を回収し、それらのDNA濃度を測定した。各プロテイナーゼK濃度について、それぞれ2サンプルずつ行った。測定結果を図6に示す。図6に示すように、プロテイナーゼKの濃度が0.01〜0.1mg/mLの範囲内では、プロテイナーゼKの濃度が高いほど、核酸抽出液中のDNA濃度は高くなり、0.1mg/mL以上では、プロテイナーゼKの濃度にかかわらず、核酸抽出液中のDNA濃度は同程度であった。プロテイナーゼKの濃度が高い場合でも、DNA濃度が低下する傾向は観察されなかったことから、プロテイナーゼKの過剰添加により抽出効率の阻害は生じないことがわかった。よって、これらのデータから、核酸抽出用水溶液がプロテイナーゼKを含む場合、最適プロテイナーゼK濃度は0.1mg/mL以上であると分かった。
[実施例4]
<ミネラルオイルの添加時期の影響>
ミネラルオイルを添加せずに得られた核酸抽出液と、ミネラルオイルを核酸抽出前に添加して得られた核酸抽出液と、ミネラルオイルを核酸抽出後に添加して得られた核酸抽出液とにおいて、DNA濃度を比較し、ミネラルオイルの添加時期による影響を調べた。
ヒトのFFPE切片(約1cm×1cm×5μm、US Biomax社製のHUCAT116)1枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.1mg/mL プロテイナーゼK及び0.5%のTriton X100を含むTEバッファー)に浸漬させ、ミネラルオイルを添加せずに56℃で15分間加熱した。次いで、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収し、これを試料1とした。
また、ヒトのFFPE切片(約1cm×1cm×5μm、US Biomax社製のHUCAT116)1枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.1mg/mL プロテイナーゼK及び0.5%のTriton X100を含むTEバッファー)に浸漬させ、その上にミネラルオイル200μLを添加し、56℃で15分間加熱した。次いで、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収し、これを試料2とした。
ヒトのFFPE切片(約1cm×1cm×5μm、US Biomax社製のHUCAT116)1枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.1mg/mL プロテイナーゼK及び0.5%のTriton X100を含むTEバッファー)に浸漬させ、56℃で15分間加熱した後に、ミネラルオイル200μLを添加した。次いで、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収し、これを試料3とした.
得られた核酸抽出液のDNA濃度をPicoGreen試薬(Invitrogen社)により測定した。測定結果を図7に示す。図7に示すように、ミネラルオイル無しの試料1(図7中、「1」)に比べて、ミネラルオイルを添加した試料2(図7中、「2」)及び3(図7中、「3」)は、DNA濃度が高く、ミネラルオイルを用いる本発明に係る核酸抽出方法によって、包埋組織から効率よく核酸が抽出できることが確認された。特に、ミネラルオイルを核酸抽出後に添加した試料3は、DNA濃度が非常に高く、プロテイナーゼKを含む核酸抽出液を用いる場合には、ミネラルオイルは核酸抽出後に添加するとより核酸抽出効率が高められることが分かった。
[実施例5]
<抽出された核酸の遺伝子解析サンプルとしての適性>
FFPE試料より核酸を抽出する方法の評価法として、得られた核酸抽出液の濃度測定の他に、純度や下流の核酸分析の成功率測定が行われている。例えば、非特許文献6では、FFPE試料より核酸を抽出する10手法の比較検証を行った結果、DNA回収率やRNA回収率などとPCR増幅効率は一致せず、目的に応じて抽出法の選択を行うのがよいという結論に至ったと報告されている。
そこで、本発明に係る核酸抽出方法により回収されたDNAが、遺伝子解析サンプルとして適するか、インベーダープラス法を用いてTCF4遺伝子を検出することにより、検証した。
(核酸抽出液の調製)
まず、ヒト大腸がん組織のFFPE切片(約5mm×5mm×5μm)1枚を、100μLの核酸抽出用水溶液(0.1mg/mL プロテイナーゼK及び0.5%のTriton X100を含むTEバッファー)に浸漬させ、56℃で15分間加熱した。その後、ミネラルオイル200μLを添加し、98℃で2分間処理してプロテイナーゼKを失活させた後、常温に戻して、核酸抽出液(水層)を回収した。
対照として、同量のFFPE切片から、実施例1で用いた市販精製キット及び市販簡便キットをそれぞれ用いて核酸抽出を行った。市販精製キット及び市販簡便キットでは、スピンカラムに吸着させた核酸を100μLで溶出し、これを核酸抽出液とした。
(インベーダープラス反応)
まず、反応容器に、前記でFFPE切片から抽出した核酸抽出液1μLと、PCR試薬(純水、バッファー、DNAポリメラーゼ、dNTP、プライマー1001及び1002)と、インベーダー試薬(純水、バッファー、クリベース酵素(Hologic社製)、インベイディングオリゴ1003、アレルプローブ1004、及びFRETカセット(Hologic社製))を添加し、10μLの反応液を調製した。反応に用いた合成オリゴDNA(1001〜1004)の塩基配列を表1に示す。
次に、蛍光測定装置LightCycler480(ロシュ・アプライド・サイエンス社製)を用いて、インベーダープラス反応を行った。反応条件は、変性(95℃、2分間)、PCR増幅[1サイクル当たり、(95℃、30秒間−66℃、25秒間)を35サイクル]、ポリメラーゼ失活化(99℃、30秒間)、インベーダー反応(61℃、30分間)を行い、TCF4遺伝子を検出した。コントロールとして、市販精製キット及び市販簡便キットを用いて精製したDNAを用いた以外は同様にしてインベーダープラス反応を行った。また、ネガティブコントロール(NC)として蒸留水を核酸抽出液の代わりに用いた。
図8に、各反応液の蛍光増幅曲線を示す。図8に示すように、本発明に係る核酸抽出法によって抽出されたDNAを鋳型とした場合の蛍光増幅曲線(図8中、「3」)は、市販精製キット(図8中、「1」)や市販簡便キット(図8中、「2」)により得られたDNAを鋳型とした場合とほぼ同様であり、TCF4遺伝子が検出できた。これらの結果から、本発明に係る核酸抽出法によって抽出されたDNAは、インベーダープラス法の分析試料として使用可能であることがわかった。
本発明に係る核酸抽出方法は、FFPE試料等の包埋組織から、包埋剤の混入を顕著に抑制しつつ、迅速かつ簡便に核酸を抽出することができるため、当該核酸抽出方法、並びに当該核酸抽出方法に用いられる本発明に係るキット及び核酸抽出装置は、包埋組織の核酸分析分野、特に臨床検査等の検体として用いられるFFPE試料からの核酸抽出に有用である。
1…核酸抽出装置、2…抽出用反応容器、3…抽出用反応容器収容部、4…温度調節部、5…核酸抽出用水溶液供給部、6…疎水性成分供給部、7…分取部。

Claims (11)

  1. 水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織の表面の少なくとも一部を、当該包埋剤の溶融温度以上で、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液中に接触させることにより、当該包埋組織中の核酸を前記核酸抽出用水溶液に抽出する抽出工程と、
    前記包埋組織を接触させた状態の前記核酸抽出用水溶液に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を添加する疎水性成分添加工程と、
    前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記核酸抽出用水溶液と抽出された核酸とを含む水層を、前記疎水性成分と溶融した包埋剤とを含む疎水性液層から分離して回収する回収工程と、
    を有することを特徴とする包埋組織からの核酸抽出方法。
  2. 前記抽出工程後に前記疎水性成分添加工程を行う、請求項1に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  3. 前記核酸抽出用水溶液が、界面活性剤及びタンパク質分解酵素を含む、請求項1又は2に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  4. 前記タンパク質分解酵素が、プロテイナーゼKであり、
    前記抽出工程を、前記包埋剤の溶融温度以上かつ65℃以下で行う、請求項3に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  5. さらに、
    前記抽出工程及び前記疎水性成分添加工程の後、前記回収工程前に、前記水層を熱処理し、当該水層中に含まれているタンパク質分解酵素を失活させる失活工程、
    を有する、請求項3又は4に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  6. 前記抽出工程を、90〜100℃で行う、請求項1又は2に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  7. さらに、
    前記回収工程により回収された水層を希釈する希釈工程、
    を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  8. 前記疎水性成分の融点が40℃以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  9. 前記疎水性成分が、ミネラルオイルである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の包埋組織からの核酸抽出方法。
  10. 界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液と、
    少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分と、
    を備え、請求項1〜9のいずれか一項に記載の包埋組織からの核酸抽出方法によって、水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織から核酸を抽出するために用いられることを特徴とする、包埋組織からの核酸抽出用キット。
  11. 水に不溶であり、かつ溶融温度が40〜90℃の範囲内である包埋剤によって包埋された包埋組織が投入された抽出用反応容器が載置される抽出用反応容器収容部と、
    前記抽出用反応容器収容部に載置された抽出用反応容器の温度調節を行う温度調節部と、
    前記抽出用反応容器収容部に載置された抽出用反応容器に、界面活性剤及びアルカリ性物質からなる群より選択される1種以上を含む核酸抽出用水溶液を供給する核酸抽出用水溶液供給部と、
    前記抽出用反応容器収容部に載置され、前記核酸抽出用水溶液が供給された抽出用反応容器に、少なくとも35〜100℃の範囲内で液状である疎水性成分を供給する疎水性成分供給部と、
    前記抽出用反応容器収容部に載置され、前記疎水性成分が供給された抽出用反応容器から、前記包埋組織から抽出された核酸と前記核酸抽出用水溶液を含む核酸抽出液を分取する分取部と、
    を備えることを特徴とする、核酸抽出装置。
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