JP2014043405A - 脳疾患治療剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、血漿から脳脊髄液への移行が促進された抗原結合分子、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を脳組織液から消失させるための当該抗原に結合する抗原結合分子の使用、および当該抗原結合分子を含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を創作した。また、本発明は、当該抗原結合分子または当該抗原結合分子を含む医薬組成物の血漿から脳脊髄液への移行が促進されていることを見出した。さらに、本発明は、当該抗原結合分子が当該抗原に起因する脳疾患の治療に有用であり、従来の抗原結合分子に比して優れた特性を有することを見出すことに成功した。
【選択図】なし

Description

本発明は、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子に関する。また、本発明は、当該抗原結合分子を含む医薬組成物、特に脳疾患治療剤の製造方法に関する。さらに、本発明は、当該抗原結合分子を投与する工程を含む脳疾患の治療方法に関する。
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が自己免疫疾患、炎症性疾患および癌等の治療薬として開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。一方、抗体を脳疾患治療に応用しようとする研究も行われている。例えば、アルツハイマー病の原因分子と考えられるアミロイドβに対する中和抗体を投与することによって、アミロイドβの沈着を抑制し、アルツハイマー病の進行を抑制できることがマウスで示されており(非特許文献3)、現在、アミロイドβに対する抗体分子が複数臨床開発中である。
このように抗体は脳疾患治療薬としても有用であると考えられているが、IgG抗体は脳血液関門を効率的に透過することができず脳への移行性が極めて低いことが知られている。実際、脳(脳脊髄液)中の抗体濃度は血漿中濃度の約0.2%(500分の1)であると報告されている(非特許文献4)。このことは、同じ濃度の抗原が血漿中に存在する場合と比較して、抗原が脳中に存在する場合は約500倍の投与量が必要となる。そのため、抗体を脳疾患治療薬として使用することを考えた場合、極めて大きな投与量が必要となり、大きな課題となっている。
血液脳関門(BBB)と呼ばれる脳の血管は、身体の末梢部で見出される血管に比べて特殊である。BBBを形成する内皮細胞(endothelial cells(EC))と、星状膠細胞(astrocyte)、周皮細胞(pericyte)及びニューロン等の神経細胞との密接な付着(apposition)が、前記の不透過性に寄与する表現型特性を誘導する。BBBを含むEC間の密着結合が傍細胞輸送を制限する一方で、飲小胞(pinocytotic vesicle)およびfenestra(血管内皮細胞の膜小孔に存在する大きな間隙)の欠如は非特異的な経細胞(transcellular)輸送を制限する。これらの要因の組合せにより、血液から脳への分子流出を500ダルトン未満の分子に制限すると共に、脂溶性である分子に制限する。したがって、所望の薬理学的特性を有する薬物が偶発的に血管を自由に通るサイズ及び親油性特質(lipophilicity)を備えるような状況を除いてほとんどの場合、輸送ビヒクルとして、大量の輸送表面積(ヒト脳の毛細血管400マイルで21m2を超える)の血流を用いることはできない。このような制限のために、全ての小分子の薬剤の98%超がBBBを透過しないことが推測されている。また、BBBによって与えられる物理的障壁に加えて、p-糖タンパク質(MDR1)等の排出輸送体及び多剤耐性関連タンパク質ファミリ(MRP)の構成員は、小さくて脂溶性の小分子の脳への取り込みをさらに制限する方向に働いている。一方、小分子の薬剤のほか、抗体等のタンパク質薬および遺伝子治療薬のほぼ100%がBBBを透過しないことが推測されている。
前記の抗体の脳移行性の低さを解決するために、抗体の脳移行性を向上させるための様々な研究が行われている。脳血液関門に発現しているインスリンレセプターやトランスフェリンレセプター等のトランスサイトーシスレセプターを利用することで、IgG抗体の脳移行を向上させる方法が報告されているが(非特許文献5)、これらの方法はいずれも抗体の脳移行性を大幅に向上させるものではなく、また複雑な抗体分子を必要とするため、これらの方法を用いた脳疾患治療薬の開発にはまだ課題があった。
FcRnは抗体のサルベージレセプターとして知られ、非特異的に細胞へ取り込まれた抗体をエンドソームから血漿中にリサイクルする機能およびIgG抗体をトランスサイトーシスする機能を有する(非特許文献6)。通常のIgG抗体は中性条件下ではFcRnに結合せず、エンドソーム内の酸性条件下で初めてFcRnに結合する。FcRnに結合したIgG抗体は細胞表面にリサイクルされ、細胞表面の中性条件下において抗体はFcRnから解離し、血漿中へリサイクルされる。IgG抗体はこのFcRnのリサイクル機構によって、長い血漿中半減期を有することが分っている。また、FcRnはIgG抗体のトランスサイトーシスにも関与していることが知られており、母体から胎盤を通して胎児にIgG抗体を移行させる働きをしている(非特許文献7)。さらには、小腸から小腸粘膜を通して血流にIgG抗体を移行させること(非特許文献8)、肺胞から肺胞粘膜を通して血流にIgG抗体を移行させること(非特許文献9)等、様々なFcRnのトランスサイトーシス作用が報告されている。
このため、血流から脳中への移行においてもFcRnがトランスサイトーシスにより、IgG抗体の移行を促進させる作用があるかどうか検証するために、FcRnの及ぼすIgG抗体の脳への移行が調べられた(非特許文献10)。その結果、正常マウスとFcRn欠損マウスにおいて、血漿中IgG抗体濃度と脳中IgG抗体濃度を測定した結果、FcRn欠損マウスにおけるIgG抗体の脳移行率は正常マウスと同等であったことから、FcRnはIgG抗体の脳移行に関与していないことが示された。そのため、これまでFcRnが媒介するトランスサイトーシスによって治療抗体であるIgG抗体の脳中への移行性を積極的に向上させ、脳疾患治療の効果を増強する方法は報告されてこなかった。
WO2009/131702
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本発明は、このような情況に鑑みて為されたものであり、その目的は、血漿から脳脊髄液への移行が促進された抗原結合分子の使用、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を脳組織液から消失させるための当該抗原に結合する抗原結合分子の使用、および当該抗原結合分子を含む医薬組成物を提供することにある。また、併せて、当該医薬組成物の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意研究を進めたところ、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を創作した。また、本発明者らは、当該抗原結合分子または当該抗原結合分子を含む医薬組成物の血漿から脳脊髄液への移行が促進されていることを見出した。当該抗原結合分子は、FcRnを介したリサイクリングの過程でいったん結合した抗原を消失する機能を有することから、当該抗原結合分子を投与することを含む当該抗原に起因する脳疾患の治療に有用であること、および当該抗原に起因する脳疾患の治療のための医薬の製造において当該抗原結合分子が有用である。また、本発明者らは、当該医薬品の製造方法を創作して本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下を提供するものである。
〔1〕脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の、脳疾患を治療するための使用、
〔2〕前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性がカルシウムイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインである、〔1〕に記載の使用、
〔3〕前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件下での結合活性が前記抗原に対する高カルシウムイオン濃度の条件下での結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔2〕に記載の使用、
〔4〕前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性がpHの条件によって変化する抗原結合ドメインである、〔1〕に記載の使用、
〔5〕前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対するpH酸性域の条件下での結合活性がpH中性域の条件下での結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、〔4〕に記載の使用、
〔6〕前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、〔1〕から〔5〕のいずれかに記載の使用、
〔7〕pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体のFc領域である、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の使用、
〔8〕前記Fc領域が、配列番号:14、15、16または17のいずれかに含まれるFc領域である、〔7〕に記載の使用、
〔9〕前記Fc領域が、pH酸性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:14、15、16または17のいずれかに含まれるFc領域のFcRnに対する結合活性より増強されているFc領域である、〔7〕に記載の使用、
〔10〕前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17のいずれかに含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である、〔9〕に記載の使用、
〔11〕前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか、
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか、
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸を含む、〔10〕に記載の使用、
〔12〕前記pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体のFc領域である、〔1〕から〔11〕のいずれかに記載の使用、
〔13〕前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である、〔12〕に記載の使用、
〔14〕前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸を含む、〔13〕に記載の使用、
〔15〕前記Fc領域が、FcγR結合活性が低いまたは低減されたFc領域である、〔12〕から〔14〕に記載の使用、
〔16〕前記pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体の可変領域である、〔1〕から〔11〕のいずれかに記載の使用、
〔17〕前記抗原結合分子がさらにFcγR結合ドメインを含む、〔1〕から〔16〕のいずれかに記載の使用、
〔18〕前記FcγR結合ドメインが抗体のFc領域である、〔17〕に記載の使用、
〔19〕前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域を含む、〔18〕に記載の使用、
〔20〕前記抗原結合分子がさらに補体結合ドメインを含む、〔1〕から〔17〕のいずれかに記載の使用、
〔21〕前記補体結合ドメインが抗体のFc領域である、〔20〕に記載の使用、
〔22〕前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域の補体に対する結合活性よりも補体に対する結合活性が高い補体結合改変Fc領域を含む、〔21〕に記載の使用、
〔23〕前記FcγR結合ドメインが抗体の可変領域である、〔17〕に記載の使用、
〔24〕前記補体結合ドメインが抗体の可変領域である、〔20〕に記載の使用、
〔25〕pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体の可変領域である、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の使用、
〔26〕前記抗原結合分子が抗体である、〔1〕から〔24〕のいずれかに記載の使用、
〔27〕〔1〕から〔26〕のいずれかに記載の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程を含む、脳疾患治療剤の製造方法。
本発明において、「脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の脳疾患を治療するための使用」と、「脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を投与することを含む脳疾患を治療する方法」、「脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を含む脳疾患治療剤」、「脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の、脳疾患治療剤の製造における使用」、および「脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子を使用する工程を含む、脳疾患治療剤を製造するためのプロセス」とは互いに同義に用いられる。
ノーマルマウスにおけるFv4-hIgG1、Fv4-hF22およびFv4-hF1の血漿中濃度推移を示す図である。 ノーマルマウスにおけるFv4-hIgG1、Fv4-hF22およびFv4-hF1の脳中濃度推移を示す図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIaに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIa (R)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIa (H)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIbに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、ヒトFcγRIIIa (F)に対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIIbに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIIIに対して結合することを示した図である。 ヒトFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F157が、マウスFcγRIVに対して結合することを示した図である。 マウスFcRnに結合した状態のFv4-IgG1-F20が、マウスFcγRI、マウスFcγRIIb、マウスFcγRIII、マウスFcγRIVに対して結合することを示した図である。 マウスFcRnに結合した状態のmPM1-mIgG1-mF3が、マウスFcγRIIbおよびマウスFcγRIIIに対して結合することを示した図である。 一分子のpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有するFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRからなる四者複合体の形成の模式図を表す。 pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制性FcγRに対する選択的な結合活性を有するFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 FcRn結合ドメインを構成する二つのポリペプチドの一方のみpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、もう一方はpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有しないFc領域と二分子のFcRn、一分子のFcγRとの作用を表す模式図である。 横軸は各PD variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸は各PD variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値を表す図である。各PD variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体であるIL6R-F652/IL6R-L(IL6R-F652は配列番号:50で規定された、EUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変Fcを含む抗体重鎖)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を各PD variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値とした。図中のF652というプロットはIL6R-F652/IL6R-Lの値を示す。 縦軸はP238D改変を有さないGpH7-B3(配列番号:52)/GpL16-k0に各改変を導入した改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、横軸はP238D改変を有するIL6R-F652(配列番号:50)/IL6R-Lに各改変を導入した改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値を示す図である。なお、各改変体のFcγRIIbに対する結合量の値を、改変導入前の抗体のFcγRIIbに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を相対的な結合活性の値とした。ここで、P238Dを有さないGpH7-B3/GpL16-k0に導入した場合、P238Dを有するIL6R-F652/IL6R-Lに導入した場合共にFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮した改変は領域Aに含まれ、P238Dを有さないGpH7-B3/GpL16-k0に導入した場合にはFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮するが、P238Dを有するIL6R-F652/IL6R-Lに導入した場合にはFcγRIIbに対する結合増強効果を発揮しない改変は領域Bに含まれる。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造を表す図である。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造とを、FcγRIIb細胞外領域ならびにFc CH2ドメインAに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせた図を表す。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造について、Fc CH2ドメインAならびにFc CH2ドメインB単独同士でCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせをおこない、P238D付近の詳細構造を比較した図を表す。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造において、Fc CH2ドメインAのEUナンバリングで表される237位のGlyの主鎖とFcγRIIbの160位のTyrとの間に水素結合が認められることを示す図である。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造において、Fc CH2ドメインBのEUナンバリングで表される270位のAspとFcγRIIbの131番目のArgとの間に静電的な相互作用が認められることを示す図である。 横軸は各2B variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸は各2B variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ示す図である。各2B variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProをAspに置換した改変Fc) の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値を各2B variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値とした。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造においてFc Chain AのEUナンバリングで表される233位のGluとFcγRIIb細胞外領域におけるその周辺残基を表す図である。 Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造においてFc Chain AのEUナンバリングで表される330位のAlaとFcγRIIb細胞外領域におけるその周辺残基を表す図である。 Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体および、Fc(WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造を、Fc Chain Bに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせ、Fc Chain BのEUナンバリングで表される271位のProの構造を示した図である。 X線結晶構造解析によって決定されたFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体の図である。Fc部分CH2ドメイン、CH3ドメインのそれぞれについて、向かって左側をドメインA、右側をドメインBとした。 X線結晶構造解析によって決定されたFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体の構造とFc (WT)/FcγRIIa細胞外領域複合体の構造(PDB code:3RY6)を、Fc部分CH2ドメインAにおいてCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせをおこない、比較したものである。図中太線で描画されたものがFc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体であり、細線で描画されたものがFc (WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の構造である。なお、Fc (WT)/FcγRIIa細胞外領域複合体の構造においては、Fc部分CH2ドメインAのみを描画してある。 Fc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造において、FcγRIIbの160番目Tyrと主鎖部分において水素結合を形成するFc部分CH2ドメインAのEUナンバリングで表わされる237位のAsp付近の構造の詳細を示したものである。 Fc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造において、FcγRIIbの160番目のTyrと主鎖部分で水素結合を形成するFc部分CH2ドメインAのEUナンバリングで表わされる237位のAsp側鎖周囲のアミノ酸残基の構造を示した図である。 参考実施例4において示されたFc (P238D)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造とFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造を、Fc部分CH2ドメインBにおいてCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせをおこない、EUナンバリングで表わされる266位から271位のループ周辺で比較した図である。本ループ中、Fc (P208)はFc (P238D)と比較し、EUナンバリングで表わされる268位にH268Dの改変を、EUナンバリングで表わされる271位にP271Gの改変を持つ。 Fc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造において、Fc部分CH2ドメインBのSer239周辺の構造を、X線結晶構造解析によって得られた2Fo-Fc係数とする電子密度とともに示した図である。 X線結晶構造解析によって決定されたFc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体の立体構造とFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造を、Cα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせをおこない、比較した図である。 Fc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体のX線結晶構造とFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造を、Fc部分CH2ドメインAのEUナンバリングで表わされる237位のAsp付近において、X線結晶構造解析によって得られた2Fo-Fc係数とする電子密度とともに比較した図である。 Fc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体のX線結晶構造とFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造を、Fc部分CH2ドメインBのEUナンバリングで表わされる237位のAsp付近において、X線結晶構造解析によって得られた2Fo-Fc係数とする電子密度とともに比較した図である。 G1dとG4dの定常領域の配列を比較した図である。図中、太枠で囲んだアミノ酸は、G1dとG4dで異なるアミノ酸残基となっている部位を示す。
以下の定義および詳細な説明は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
アミノ酸
本明細書において、たとえば、Ala/A、Leu/L、Arg/R、Lys/K、Asn/N、Met/M、Asp/D、Phe/F、Cys/C、Pro/P、Gln/Q、Ser/S、Glu/E、Thr/T、Gly/G、Trp/W、His/H、Tyr/Y、Ile/I、Val/Vと表されるように、アミノ酸は1文字コードまたは3文字コード、またはその両方で表記されている。
アミノ酸の改変
抗原結合分子のアミノ酸配列中のアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。また、アミノ酸の改変を表す表現として、特定の位置を表す数字の前後に改変前と改変後のアミノ酸の1文字コードを用いた表現が適宜使用され得る。例えば、抗体定常領域に含まれるFc領域にアミノ酸の置換を加える際に用いられるP238Dという改変は、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換を表す。すなわち、数字はEUナンバリングで表されるアミノ酸の位置を表し、その前に記載されるアミノ酸の一文字コードは置換前のアミノ酸、そのあとに記載されるアミノ酸の1文字コードは置換後のアミノ酸を表す。
本明細書において、アミノ酸の改変部位を表す際に用いられる「および/または」の用語の意義は、「および」と「または」が適宜組み合わされたあらゆる組合せを含む。具体的には、例えば「33位、55位、および/または96位のアミノ酸が置換されている」とは以下のアミノ酸の改変のバリエーションが含まれる;
(a) 33位、(b) 55位、(c) 96位、(d) 33位および55位、(e) 33位および96位、(f) 55位および96位、(g) 33位および55位および96位。
抗原
本明細書において「抗原」は抗原結合ドメインが結合するエピトープを含む限りその構造は特定の構造に限定されない。別の意味では、抗原は無機物でもあり得るし有機物でもあり得る。抗原としては下記のような分子;17-IA、4-1BB、4Dc、6-ケト-PGF1a、8-イソ-PGF2a、8-オキソ-dG、A1 アデノシン受容体、A33、ACE、ACE-2、アクチビン、アクチビンA、アクチビンAB、アクチビンB、アクチビンC、アクチビンRIA、アクチビンRIA ALK-2、アクチビンRIB ALK-4、アクチビンRIIA、アクチビンRIIB、ADAM、ADAM10、ADAM12、ADAM15、ADAM17/TACE、ADAM8、ADAM9、ADAMTS、ADAMTS4、ADAMTS5、アドレシン、aFGF、ALCAM、ALK、ALK-1、ALK-7、アルファ-1-アンチトリプシン、アルファ−V/ベータ-1アンタゴニスト、ANG、Ang、APAF-1、APE、APJ、APP、APRIL、AR、ARC、ART、アルテミン、抗Id、ASPARTIC、心房性ナトリウム利尿因子、av/b3インテグリン、Axl、b2M、B7-1、B7-2、B7-H、B-リンパ球刺激因子(BlyS)、BACE、BACE-1、Bad、BAFF、BAFF-R、Bag-1、BAK、Bax、BCA-1、BCAM、Bcl、BCMA、BDNF、b-ECGF、bFGF、BID、Bik、BIM、BLC、BL-CAM、BLK、BMP、BMP-2 BMP-2a、BMP-3 オステオゲニン(Osteogenin)、BMP-4 BMP-2b、BMP-5、BMP-6 Vgr-1、BMP-7(OP-1)、BMP-8(BMP-8a、OP-2)、BMPR、BMPR-IA(ALK-3)、BMPR-IB(ALK-6)、BRK-2、RPK-1、BMPR-II(BRK-3)、BMP、b-NGF、BOK、ボンベシン、骨由来神経栄養因子、BPDE、BPDE-DNA、BTC、補体因子3(C3)、C3a、C4、C5、C5a、C10、CA125、CAD-8、カルシトニン、cAMP、癌胎児性抗原(CEA)、癌関連抗原、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC/DPPI、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンH、カテプシンL、カテプシンO、カテプシンS、カテプシンV、カテプシンX/Z/P、CBL、CCI、CCK2、CCL、CCL1、CCL11、CCL12、CCL13、CCL14、CCL15、CCL16、CCL17、CCL18、CCL19、CCL2、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CCL3、CCL4、CCL5、CCL6、CCL7、CCL8、CCL9/10、CCR、CCR1、CCR10、CCR10、CCR2、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CD1、CD2、CD3、CD3E、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD25、CD27L、CD28、CD29、CD30、CD30L、CD32、CD33(p67タンパク質)、CD34、CD38、CD40、CD40L、CD44、CD45、CD46、CD49a、CD52、CD54、CD55、CD56、CD61、CD64、CD66e、CD74、CD80(B7-1)、CD89、CD95、CD123、CD137、CD138、CD140a、CD146、CD147、CD148、CD152、CD164、CEACAM5、CFTR、cGMP、CINC、ボツリヌス菌毒素、ウェルシュ菌毒素、CKb8-1、CLC、CMV、CMV UL、CNTF、CNTN-1、COX、C-Ret、CRG-2、CT-1、CTACK、CTGF、CTLA-4、CX3CL1、CX3CR1、CXCL、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCR、CXCR1、CXCR2、CXCR3、CXCR4、CXCR5、CXCR6、サイトケラチン腫瘍関連抗原、DAN、DCC、DcR3、DC-SIGN、補体制御因子(Decay accelerating factor)、des(1-3)-IGF-I(脳IGF-1)、Dhh、ジゴキシン、DNAM-1、Dnase、Dpp、DPPIV/CD26、Dtk、ECAD、EDA、EDA-A1、EDA-A2、EDAR、EGF、EGFR(ErbB-1)、EMA、EMMPRIN、ENA、エンドセリン受容体、エンケファリナーゼ、eNOS、Eot、エオタキシン1、EpCAM、エフリンB2/EphB4、EPO、ERCC、E-セレクチン、ET-1、ファクターIIa、ファクターVII、ファクターVIIIc、ファクターIX、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)、Fas、FcR1、FEN-1、フェリチン、FGF、FGF-19、FGF-2、FGF3、FGF-8、FGFR、FGFR-3、フィブリン、FL、FLIP、Flt-3、Flt-4、卵胞刺激ホルモン、フラクタルカイン、FZD1、FZD2、FZD3、FZD4、FZD5、FZD6、FZD7、FZD8、FZD9、FZD10、G250、Gas6、GCP-2、GCSF、GD2、GD3、GDF、GDF-1、GDF-3(Vgr-2)、GDF-5(BMP-14、CDMP-1)、GDF-6(BMP-13、CDMP-2)、GDF-7(BMP-12、CDMP-3)、GDF-8(ミオスタチン)、GDF-9、GDF-15(MIC-1)、GDNF、GDNF、GFAP、GFRa-1、GFR-アルファ1、GFR-アルファ2、GFR-アルファ3、GITR、グルカゴン、Glut4、糖タンパク質IIb/IIIa(GPIIb/IIIa)、GM-CSF、gp130、gp72、GRO、成長ホルモン放出因子、ハプテン(NP-capまたはNIP-cap)、HB-EGF、HCC、HCMV gBエンベロープ糖タンパク質、HCMV gHエンベロープ糖タンパク質、HCMV UL、造血成長因子(HGF)、Hep B gp120、ヘパラナーゼ、Her2、Her2/neu(ErbB-2)、Her3(ErbB-3)、Her4(ErbB-4)、単純ヘルペスウイルス(HSV) gB糖タンパク質、HSV gD糖タンパク質、HGFA、高分子量黒色腫関連抗原(HMW-MAA)、HIV gp120、HIV IIIB gp 120 V3ループ、HLA、HLA-DR、HM1.24、HMFG PEM、HRG、Hrk、ヒト心臓ミオシン、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、ヒト成長ホルモン(HGH)、HVEM、I-309、IAP、ICAM、ICAM-1、ICAM-3、ICE、ICOS、IFNg、Ig、IgA受容体、IgE、IGF、IGF結合タンパク質、IGF-1R、IGFBP、IGF-I、IGF-II、IL、IL-1、IL-1R、IL-2、IL-2R、IL-4、IL-4R、IL-5、IL-5R、IL-6、IL-6R、IL-8、IL-9、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-18、IL-18R、IL-23、インターフェロン(INF)-アルファ、INF-ベータ、INF-ガンマ、インヒビン、iNOS、インスリンA鎖、インスリンB鎖、インスリン様増殖因子1、インテグリンアルファ2、インテグリンアルファ3、インテグリンアルファ4、インテグリンアルファ4/ベータ1、インテグリンアルファ4/ベータ7、インテグリンアルファ5(アルファV)、インテグリンアルファ5/ベータ1、インテグリンアルファ5/ベータ3、インテグリンアルファ6、インテグリンベータ1、インテグリンベータ2、インターフェロンガンマ、IP-10、I-TAC、JE、カリクレイン2、カリクレイン5、カリクレイン6、カリクレイン11、カリクレイン12、カリクレイン14、カリクレイン15、カリクレインL1、カリクレインL2、カリクレインL3、カリクレインL4、KC、KDR、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、ラミニン5、LAMP、LAP、LAP(TGF-1)、潜在的TGF-1、潜在的TGF-1 bp1、LBP、LDGF、LECT2、レフティ、ルイス−Y抗原、ルイス−Y関連抗原、LFA-1、LFA-3、Lfo、LIF、LIGHT、リポタンパク質、LIX、LKN、Lptn、L-セレクチン、LT-a、LT-b、LTB4、LTBP-1、肺表面、黄体形成ホルモン、リンホトキシンベータ受容体、Mac-1、MAdCAM、MAG、MAP2、MARC、MCAM、MCAM、MCK-2、MCP、M-CSF、MDC、Mer、METALLOPROTEASES、MGDF受容体、MGMT、MHC(HLA-DR)、MIF、MIG、MIP、MIP-1-アルファ、MK、MMAC1、MMP、MMP-1、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13、MMP-14、MMP-15、MMP-2、MMP-24、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MPIF、Mpo、MSK、MSP、ムチン(Muc1)、MUC18、ミュラー管抑制物質、Mug、MuSK、NAIP、NAP、NCAD、N-Cアドヘリン、NCA 90、NCAM、NCAM、ネプリライシン、ニューロトロフィン-3、-4、または-6、ニュールツリン、神経成長因子(NGF)、NGFR、NGF−ベータ、nNOS、NO、NOS、Npn、NRG-3、NT、NTN、OB、OGG1、OPG、OPN、OSM、OX40L、OX40R、p150、p95、PADPr、副甲状腺ホルモン、PARC、PARP、PBR、PBSF、PCAD、P-カドヘリン、PCNA、PDGF、PDGF、PDK-1、PECAM、PEM、PF4、PGE、PGF、PGI2、PGJ2、PIN、PLA2、胎盤性アルカリホスファターゼ(PLAP)、PlGF、PLP、PP14、プロインスリン、プロレラキシン、プロテインC、PS、PSA、PSCA、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、PTEN、PTHrp、Ptk、PTN、R51、RANK、RANKL、RANTES、RANTES、レラキシンA鎖、レラキシンB鎖、レニン、呼吸器多核体ウイルス(RSV)F、RSV Fgp、Ret、リウマイド因子、RLIP76、RPA2、RSK、S100、SCF/KL、SDF-1、SERINE、血清アルブミン、sFRP-3、Shh、SIGIRR、SK-1、SLAM、SLPI、SMAC、SMDF、SMOH、SOD、SPARC、Stat、STEAP、STEAP-II、TACE、TACI、TAG-72(腫瘍関連糖タンパク質−72)、TARC、TCA-3、T細胞受容体(例えば、T細胞受容体アルファ/ベータ)、TdT、TECK、TEM1、TEM5、TEM7、TEM8、TERT、睾丸PLAP様アルカリホスファターゼ、TfR、TGF、TGF-アルファ、TGF-ベータ、TGF-ベータ Pan Specific、TGF-ベータRI(ALK-5)、TGF-ベータRII、TGF-ベータRIIb、TGF-ベータRIII、TGF-ベータ1、TGF-ベータ2、TGF-ベータ3、TGF-ベータ4、TGF-ベータ5、トロンビン、胸腺Ck-1、甲状腺刺激ホルモン、Tie、TIMP、TIQ、組織因子、TMEFF2、Tmpo、TMPRSS2、TNF、TNF-アルファ、TNF-アルファベータ、TNF-ベータ2、TNFc、TNF-RI、TNF-RII、TNFRSF10A(TRAIL R1 Apo-2、DR4)、TNFRSF10B(TRAIL R2 DR5、KILLER、TRICK-2A、TRICK-B)、TNFRSF10C(TRAIL R3 DcR1、LIT、TRID)、TNFRSF10D(TRAIL R4 DcR2、TRUNDD)、TNFRSF11A(RANK ODF R、TRANCE R)、TNFRSF11B(OPG OCIF、TR1)、TNFRSF12(TWEAK R FN14)、TNFRSF13B(TACI)、TNFRSF13C(BAFF R)、TNFRSF14(HVEM ATAR、HveA、LIGHT R、TR2)、TNFRSF16(NGFR p75NTR)、TNFRSF17(BCMA)、TNFRSF18(GITR AITR)、TNFRSF19(TROY TAJ、TRADE)、TNFRSF19L(RELT)、TNFRSF1A(TNF RI CD120a、p55-60)、TNFRSF1B(TNF RII CD120b、p75-80)、TNFRSF26(TNFRH3)、TNFRSF3(LTbR TNF RIII、TNFC R)、TNFRSF4(OX40 ACT35、TXGP1 R)、TNFRSF5(CD40 p50)、TNFRSF6(Fas Apo-1、APT1、CD95)、TNFRSF6B(DcR3 M68、TR6)、TNFRSF7(CD27)、TNFRSF8(CD30)、TNFRSF9(4-1BB CD137、ILA)、TNFRSF21(DR6)、TNFRSF22(DcTRAIL R2 TNFRH2)、TNFRST23(DcTRAIL R1 TNFRH1)、TNFRSF25(DR3 Apo-3、LARD、TR-3、TRAMP、WSL-1)、TNFSF10(TRAIL Apo-2リガンド、TL2)、TNFSF11(TRANCE/RANKリガンド ODF、OPGリガンド)、TNFSF12(TWEAK Apo-3リガンド、DR3リガンド)、TNFSF13(APRIL TALL2)、TNFSF13B(BAFF BLYS、TALL1、THANK、TNFSF20)、TNFSF14(LIGHT HVEMリガンド、LTg)、TNFSF15(TL1A/VEGI)、TNFSF18(GITRリガンド AITRリガンド、TL6)、TNFSF1A(TNF-a コネクチン(Conectin)、DIF、TNFSF2)、TNFSF1B(TNF-b LTa、TNFSF1)、TNFSF3(LTb TNFC、p33)、TNFSF4(OX40リガンド gp34、TXGP1)、TNFSF5(CD40リガンド CD154、gp39、HIGM1、IMD3、TRAP)、TNFSF6(Fasリガンド Apo-1リガンド、APT1リガンド)、TNFSF7(CD27リガンド CD70)、TNFSF8(CD30リガンド CD153)、TNFSF9(4-1BBリガンド CD137リガンド)、TP-1、t-PA、Tpo、TRAIL、TRAIL R、TRAIL-R1、TRAIL-R2、TRANCE、トランスフェリン受容体、TRF、Trk、TROP-2、TSG、TSLP、腫瘍関連抗原CA125、腫瘍関連抗原発現ルイスY関連炭水化物、TWEAK、TXB2、Ung、uPAR、uPAR-1、ウロキナーゼ、VCAM、VCAM-1、VECAD、VE-Cadherin、VE-cadherin-2、VEFGR-1(flt-1)、VEGF、VEGFR、VEGFR-3(flt-4)、VEGI、VIM、ウイルス抗原、VLA、VLA-1、VLA-4、VNRインテグリン、フォン・ヴィレブランド因子、WIF-1、WNT1、WNT2、WNT2B/13、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、WNT16、XCL1、XCL2、XCR1、XCR1、XEDAR、XIAP、XPD、HMGB1、IgA、Aβ、CD81, CD97, CD98, DDR1, DKK1, EREG、Hsp90, IL-17/IL-17R、IL-20/IL-20R、酸化LDL, PCSK9, prekallikrein , RON, TMEM16F、SOD1, Chromogranin A, Chromogranin B、tau, VAP1、高分子キニノーゲン、IL-31、IL-31R、Nav1.1、Nav1.2、Nav1.3、Nav1.4、Nav1.5、Nav1.6、Nav1.7、Nav1.8、Nav1.9、EPCR、C1, C1q, C1r, C1s, C2, C2a, C2b, C3, C3a, C3b, C4, C4a, C4b, C5, C5a, C5b, C6, C7, C8, C9, factor B, factor D, factor H, properdin、sclerostin、fibrinogen, fibrin, prothrombin, thrombin, 組織因子, factor V, factor Va, factor VII, factor VIIa, factor VIII, factor VIIIa, factor IX, factor IXa, factor X, factor Xa, factor XI, factor XIa, factor XII, factor XIIa, factor XIII, factor XIIIa, TFPI, antithrombin III, EPCR, トロンボモデュリン、TAPI, tPA, plasminogen, plasmin, PAI-1, PAI-2、GPC3、Syndecan-1、Syndecan-2、Syndecan-3、Syndecan-4、LPA、S1Pならびにホルモンおよび成長因子のための受容体が例示され得る。
上記の抗原の例示には受容体も記載されるが、これらの受容体が神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液(これらは併せて脳組織液という)の中に可溶型で存在する場合、本発明の抗原結合分子と複合体を形成することが可能であるため、上記に挙げた受容体が可溶型で神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に存在する限り、本発明の抗原結合分子が結合して本発明の抗原結合分子が結合する可溶型抗原として使用され得る。そのような可溶型受容体の非限定な一態様として、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6Rである、配列番号:1で表されるIL-6Rポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質が例示され得る。
神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に可溶型で存在する抗原の非限定な一態様として、Amyloid β、Tau、ABri、ADan、APP、Apolipoprotein AI、Apolipoprotein AII、Apolipoprotein AIV、Cystatin、FUS、Gelsolin、GFAP、Gm1 ganglioside、Gm2 ganglioside、Prion protein、Huntingtin, PolyQ、Serpins、SOD、TDP43、Transthyretin、α-Synuclein、Ubiquitine、Glc-Cer、IL-6/IL-6R、TNFalpha、BAFF/BLyS/TNFSF13B、IL-1 beta、BACE1、GAG、Substance P、NK1、major basic protein、eosinophilic cationic protein、eosinophilic peroxidase、IL-4、IL-5、NPY、VEGF/VEGFR、RGMa、Matrix metalloproteinases、CCK/CCKR等が挙げられる。
また、前記の抗原のうち、受容体として存在する抗原も本発明の脳疾患治療剤に含まれる抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインが結合する抗原として、当該脳疾患治療剤の治療標的とされ得る。そのような抗原の非限定な一態様として、星状細胞腫、毛様細胞性星状細胞腫、胚芽異形成性神経上皮腫瘍(DNT)、乏突起膠腫、上衣(細胞)腫(ependymoma)多形性膠芽腫(GBMF)、混合性神経膠腫、乏突起星細胞腫、髄芽(細胞)腫、網膜芽腫(RB)、神経芽細胞腫、胚細胞腫、奇形腫、神経節膠腫、神経節細胞腫、中枢性神経節細胞腫(central gangliocytoma)、未分化神経外胚葉性腫瘍(原始神経外胚葉腫瘍)(PNET、例えば、髄芽(細胞)腫、髄様上皮腫、神経芽細胞腫、網膜芽腫(RB)、(脳室)上衣芽細胞腫)、松果体実質細胞由来の腫瘍(tumors of the pineal parenchyma)(例えば、松果体細胞腫、松果体芽細胞腫)、上衣細胞系腫瘍(ependymal cell tumors)脈絡叢の腫瘍(choroid plexus tumors)、発生原起不明の神経上皮性腫瘍星芽腫(Neuroepithelial tumors of uncertain origin)(例えば、脳神経膠腫症(神経膠腫症)(gliomatosis cerebri)、星状芽細胞腫)、glioblastomaグリア芽腫(膠芽細胞腫)等の原発性脳腫瘍を形成する腫瘍細胞に発現する癌抗原が挙げられ得る。そのような癌抗原の非限定な一態様として、NLGN4X(X連鎖性のニューロリジン4)、SLCO1C1(溶質キャリア有機アニオントランスポーターファミリー、メンバー 1C1)、BCAN(ブレビカン)、CHI3L1(キチナーゼ3様タンパク質1)、CLIP2(CAP-Gly domain-containing linker protein 2)、DTNA(ジストロブレビンα)、EGFR(上皮細胞増殖因子(赤芽球性白血病バイアル腫瘍遺伝子ホモログ、アビアン))、 FABP7(脂肪酸結合タンパク質)、GFAP(グリア線維性酸性タンパク質)、GPR56(Gタンパク質共役受容体 56)、GRIA4(グルタミン酸受容体、イオンチャネル型、AMPA4)、 IGF2BP3(インスリン様成長因子2 mRNA結合タンパク質3)、(皮質下嚢胞を伴う巨脳症性白質脳症の原因分子である)MLC1(別名KIAA0027)、NES(ネスチン)、NR2E1(核受容体サブファミリー2、グループE、メンバー1)、NRCAM(ニューロン細胞接着分子)、PDPN(ポドプラニン)、TNC(テネイシン)、CSPG4(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)、BIRC5/Survivin(サービビン)、DDR1(ジスコイジンドメイン受容体ファミリーメンバー1)、ARP-2(アンジオポエチン関連タンパク質2、別名ANGPTL2)、SPARC(システインに富む酸性分泌タンパク質)、HGFR(肝細胞成長因子受容体、別名c-MET)、CD44、TSPAN3(テトラスパニン3)、VIPR-2(脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド受容体2)、PTN(プレイオトロフィン)、OPN(オステオポンチン)、PTPζ(受容体型プロテインチロシンホスファターゼ ζ)等が例示される。
さらに、当該脳疾患治療剤の治療標的とされ得る抗原の非限定な一態様として、卵巣癌の標的抗原(WO2000/036107、WO2000/055173、WO2001/092581、WO2002/004952、WO2002/006317、WO2002/039885)、大腸癌の標的抗原(WO2000/036107、WO2000/055351、WO2001/096388、WO2001/096390)、乳癌の標的抗原(WO2000/060076、WO2000/061753、WO2000/055173、WO2001/090152、WO2001/079286、WO2003/013431)、肺癌の標的抗原(WO2000/060077、WO2000/061612、WO2000/055180、WO2001/000828、WO2002/004514、WO2002/000174、WO2002/057741、WO2002/047534、WO2002/002623、WO2001/072295、WO2003/086175、WO2005/013899)、前立腺癌の標的抗原(WO2000/032752、WO2000/061746、WO2001/007476、WO2001/012811、WO2000/055174、WO2001/051633、WO2001/073032、WO2002/089747)、膵臓癌の標的抗原(WO2000/055320)、中皮腫の標的抗原(WO2001/062920)、子宮癌の標的抗原(WO2002/004952)、精巣癌の標的抗原(WO2002/078526)、血液癌の標的抗原(WO2003/077836)等で開示される細胞表面に発現する癌抗原が例示される。
当該脳疾患治療剤の治療標的とされ得る抗原の別の表現として、汎癌腫抗原(PerezおよびWalker(J. Immunol. (1990) 142, 3662-3667)、Bumal(Hybridoma (1988) 7 (4), 407-415))、卵巣癌抗原(CA125)(Yuら(Cancer Res. (1991) 51 (2), 468-475))、前立腺酸性ホスフェート(Tailorら(Nucl. Acids Res. (1990) 18 (16), 4928))、前立腺特異的抗原(HenttuおよびVihko(Biochem. Biophys. Res. Comm. (1989) 160 (2), 903-910)、Israeliら(Cancer Res. (1993) 53, 227-230))、黒色腫関連抗原p97(Estinら(J. Natl. Cancer Instit. (1986) 81 (6) 445-446))、黒色腫抗原gp75(Vijayasardahlら(J. Exp. Med. (1990) 171 (4), 1375-1380))、高分子量黒色腫抗原(HMW-MAA)(Nataliら(Cancer (1987) 59 55-63)、Mittelmanら(J. Clin. Invest. (1990) 86, 2136-2144))、前立腺特異的膜抗原、癌胎児性抗原(CEA)(Foonら(Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. (1994) 13, 294))、多形性上皮ムチン抗原、ヒト乳脂肪小球抗原、結直腸腫瘍関連抗原(例えばCEA、TAG-72(Yokataら(Cancer Res. 1992) 52, 3402-3408))、C017-lA(Ragnhammarら(Int. J. Cancer (1993) 53, 751-758)、GICA 19-9(Herlynら(J. Clin. Immunol. (1982) 2, 135))、CTA-1およびLEA)、バーキットリンパ腫抗原-38.13、CD19(Ghetieら(Blood (1994) 83, 1329-1336))、ヒトB-リンパ腫抗原-CD20(Reffら(Blood (1994) 83, 435-445))、CD33(Sgourosら(J. Nucl. Med. (1993) 34, 422-430))、黒色腫特異的抗原(例えばガングリオシドGD2(Salehら(J. Immunol. (1993) 151, 3390-3398))、ガングリオシドGD3(Shitaraら(Cancer Immunol. Immunother. (1993) 36, 373-380))、ガングリオシドGM2(Livingstonら(J. Clin. Oncol. (1994) 12, 1036-1044))、ガングリオシドGM3(Hoonら(Cancer Res. (1993) 53, 5244-5250))、腫瘍特異的移植型細胞表面抗原(TSTA)(例えばDNA腫瘍ウイルスのT抗原およびRNA腫瘍ウイルスのエンベロープ抗原を始めとするウイルス誘発腫瘍抗原など)、腫瘍胎児抗原-アルファフェトプロテイン(例えば結腸のCEA)、膀胱腫瘍胎児抗原(Hellstromら(Cancer. Res. (1985) 45, 2210-2188))、分化抗原(例えばヒト肺癌抗原L6、L20(Hellstromら(Cancer Res. (1986) 46, 3917- 3923)))、線維肉腫の抗原、ヒト白血病T細胞抗原-Gp37(Bhattacharya-Chatterjeeら(J. Immunol. (1988) 141, 1398-1403))、新生糖タンパク質、スフィンゴリピド、乳癌抗原(例えばEGFR(上皮成長因子受容体))、HER2抗原(pl85HER2)、多形上皮ムチン(PEM)(Hilkensら(Trends in Biol. Chem. Sci. (1992) 17, 359))、悪性ヒトリンパ球抗原-APO-1(Bernhardら(Science (1989) 245, 301-304))、分化抗原(Feizi(Nature (1985) 314, 53-57))(例えば胎児赤血球および初期内胚葉中のI抗原)、胃腺癌中のI(Ma)、乳房上皮中のM18およびM39、骨髄細胞中のSSEA-1、結直腸癌中のVEP8、VEP9、Myl、VIM-D5およびD156-22、TRA-1-85(血液型H)、結腸腺癌中のC14、肺腺癌中のF3、胃癌中のAH6、胚性癌細胞中のYハプテンであるLeY、TL5(血液型A)、A431細胞中のEGF受容体、膵癌中のElシリーズ(血液型B)、胚性癌細胞中のFC10.2、胃腺癌抗原・腺癌中のCO-514(血液型Lea)、腺癌中のNS-10、CO-43(血液型Leb)、G49、EGF受容体、結腸腺癌中のMH2(血液型ALeb/Ley)、結腸癌・胃癌ムチン中の19.9、骨髄細胞中のT5A7、黒色腫中のR24、胚性癌細胞中の4.2、GD3、Dl.1、OFA-1、GM2、OFA-2、GD2、およびMl:22:25:8、ならびに4〜8細胞胚中のSSEA-3およびSSEA-4等もまた例示され得る。
エピトープ
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示される抗原結合分子中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識する抗原結合分子中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8ないし約10個、6ないし20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
エピトープに結合する抗原結合ドメインの構造はパラトープと呼ばれる。エピトープとパラトープの間に作用する、水素結合、静電気力、ファンデルワールス力、疎水結合等によりエピトープとパラトープは安定して結合する。このエピトープとパラトープの間の結合力はアフィニティー(affinity)と呼ばれる。複数のエピトープと複数のパラトープが結合するときの結合力の総和はアビディティ(avidity)と呼ばれる。複数のパラトープを含む(すなわち多価の)抗体等が複数のエピトープに結合する際には、結合力(affinity)が相加的または相乗的に働くため、アビディティはアフィニティーよりも高くなる。
結合活性
下記にIL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、IL-6R以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、IL-6R分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、IL-6RのcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が評価され得る。あるいは、IL-6R発現細胞に対する当該抗原結合分子の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該抗原結合分子の結合活性が明らかにされ得る。
また、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、IL-6Rを発現する細胞が調製される。IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子がIL-6R発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する一方で、当該抗原結合分子が固定化されたIL-6Rの細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して実質的に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトIL-6R発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ちIL-6R発現細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価され得る。
ELISAフォーマットにおいて、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、IL-6R発現細胞を固定化したELISAプレートに被験ポリペプチド会合体を加え、細胞に結合した被験抗原結合分子が、被験抗原結合分子を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験抗原結合分子の希釈系列を作成し、IL-6R発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、IL-6R発現細胞に対する被験抗原結合分子の結合活性が比較され得る。
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験抗原結合分子の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCantoTM II
FACSAriaTM
FACSArrayTM
FACSVantageTM SE
FACSCaliburTM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
例えば、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、IL-6Rを発現する細胞と反応させた被験抗原結合分子を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験抗原結合分子を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該抗原結合分子が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験抗原結合分子の結合量によって表される被験抗原結合分子の結合活性が測定され得る。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が、ある抗原結合分子とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。抗原結合分子間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたIL-6Rタンパク質が、候補となる競合抗原結合分子の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験抗原結合分子が添加される。ウェル中のIL-6Rタンパク質に結合した被験抗原結合分子の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合抗原結合分子の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合抗原結合分子の親和性が大きくなればなる程、被験抗原結合分子のIL-6Rタンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
IL-6Rタンパク質を介してウェルに結合した被験抗原結合分子の量は、予め抗原結合分子を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識された抗原結合分子は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。抗原結合分子は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
候補の競合抗原結合分子会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合抗原結合分子が、IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20-50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験抗原結合分子は競合抗原結合分子と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合する抗原結合分子である。
IL-6Rに対する抗原結合ドメインを含む被験抗原結合分子が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者の抗原結合分子の結合活性を比較することによって評価され得る。
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験抗原結合分子及び対照抗原結合分子の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検抗原結合分子と対照抗原結合分子を流下させた後に溶出液中に溶出される抗原結合分子を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
また、同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子とがエピトープを共有することは、次の方法で評価され得る。まず、IL-6Rを発現する細胞とエピトープに変異が導入されたIL-6Rを発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験抗原結合分子と対照抗原結合分子の結合活性を測定することができる。
本方法において、例えば「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異IL-6Rを発現する細胞に対して結合した被験抗原結合分子と対照抗原結合分子が、標識抗体で染色される。次いで細胞の蛍光強度が検出される。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、抗原結合分子の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
解析によって得られる被験抗原結合分子の変異IL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異IL-6R分子ΔGeo-Mean値)を、被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異IL-6R発現細胞及びIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験抗原結合分子の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調製されることが特に好ましい。予めIL-6R中のエピトープを認識していることが確認された抗原結合分子が、対照抗原結合分子として利用される。
被験抗原結合分子の変異IL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験抗原結合分子のIL-6R発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異IL-6R発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User's Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験抗原結合分子と対照抗原結合分子のエピトープは同一であると評価され得る。
抗原結合ドメイン
本明細書において、「抗原結合ドメイン」は目的とする抗原に結合するかぎりどのような構造のドメインも使用され得る。そのようなドメインの例として、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域、生体内に存在する細胞膜タンパクであるAvimerに含まれる35アミノ酸程度のAドメインと呼ばれるモジュール(国際公開WO2004/044011、WO2005/040229)、細胞膜に発現する糖たんぱく質であるfibronectin中のタンパク質に結合するドメインである10Fn3ドメインを含むAdnectin(国際公開WO2002/032925)、ProteinAの58アミノ酸からなる3つのヘリックスの束(bundle)を構成するIgG結合ドメインをscaffoldとするAffibody(国際公開WO1995/001937)、33アミノ酸残基を含むターンと2つの逆並行ヘリックスおよびループのサブユニットが繰り返し積み重なった構造を有するアンキリン反復(ankyrin repeat:AR)の分子表面に露出する領域であるDARPins(Designed Ankyrin Repeat proteins)(国際公開WO2002/020565)、好中球ゲラチナーゼ結合リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL))等のリポカリン分子において高度に保存された8つの逆並行ストランドが中央方向にねじれたバレル構造の片側を支える4つのループ領域であるAnticalin等(国際公開WO2003/029462)、ヤツメウナギ、ヌタウナギなど無顎類の獲得免疫システムとしてイムノグロブリンの構造を有さない可変性リンパ球受容体(variable lymphocyte receptor(VLR))のロイシン残基に富んだリピート(leucine-rich-repeat(LRR))モジュールが繰り返し積み重なった馬てい形の構造の内部の並行型シート構造のくぼんだ領域(国際公開WO2008/016854)が好適に挙げられる。本発明の抗原結合ドメインの好適な例として、抗体の重鎖および軽鎖の可変領域を含む抗原結合ドメインが挙げられる。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは、本発明の抗原結合分子における抗原結合ドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。
特異的
本発明によって提供される抗原結合分子の抗原に対する結合に関して「特異的」とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては実質的に結合しない状態をいう。ここで、実質的に結合しないとは、前記の結合活性の項で記載されるように、当該相手方の分子に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性を当該相手方の分子以外の分子に対して示すことをいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有する抗原結合分子は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
中和活性
本発明の非限定な一態様では、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを含み、当該抗原に対する中和活性を有する抗原結合分子の当該脳疾患を治療するための使用が提供される。一般的に、中和活性とは、ウイルスや毒素など、細胞に対して生物学的活性を有するリガンドの当該生物学的活性を阻害する活性をいう。即ち、中和活性を有する物質とは、当該リガンド又は当該リガンドが結合するレセプターに結合し、当該リガンドとレセプターの結合を阻害する物質をさす。中和活性によりリガンドとの結合を阻止されたレセプターは、当該レセプターを通じた生物学的活性を発揮することができなくなる。抗原結合分子が抗体である場合、このような中和活性を有する抗体は一般に中和抗体と呼ばれる。ある被検物質の中和活性は、リガンドの存在下における生物学的活性をその被検物質の存在又は非存在下の条件の間で比較することにより測定され得る。
例えば、IL-6レセプターの主要なリガンドとして考えられているものは配列番号:2で表されるIL-6が好適に挙げられる。そのアミノ末端が細胞外ドメインを形成するI型膜タンパク質であるIL-6レセプターは、IL-6によって二量体化が誘導されたgp130レセプターとともにヘテロ四量体を形成する(Heinrichら(Biochem. J. (1998) 334, 297-314))。当該ヘテロ四量体の形成によって、gp130レセプターに会合しているJakが活性化される。Jakは自己リン酸化とレセプターのリン酸化を行う。受容体及びJakのリン酸化部位は、Stat3のようなSH2を持つStatファミリーに属する分子や、MAPキナーゼ、PI3/Akt、そのほかのSH2を持つタンパク質やアダプターに対して、結合部位の役割を果たす。次に、gp130レセプターに結合したStatが、Jakによってリン酸化される。リン酸化されたStatは二量体を形成して核内に移行し、標的遺伝子の転写を調節する。JakまたはStatは他のクラスのレセプターを介してシグナルカスケードに関与することもできる。脱制御されたIL-6のシグナルカスケードは、自己免疫疾患の病態や炎症、多発性骨髄腫や前立腺癌などの癌で観察される。癌遺伝子として作用し得るStat3は、多くの癌において恒常的に活性化している。前立腺癌と多発性骨髄腫では、IL-6レセプターからのシグナルカスケードと、上皮成長因子受容体 (EGFR) ファミリーメンバーからのシグナルカスケードとの間にクロストークがある(Ishikawaら(J. Clin. Exp. Hematopathol. (2006) 46 (2), 55-66))。
こうした細胞内のシグナルカスケードは細胞種毎に異なるため、目的とする標的細胞毎に適宜標的分子を設定することができ、上記の因子に限定されるものではない。生体内シグナルの活性化を測定することにより、中和活性を評価することができる。また、生体内シグナルカスケードの下流に存在する標的遺伝子に対する転写誘導作用を指標として、生体内シグナルの活性化を検出することもできる。標的遺伝子の転写活性の変化は、レポーターアッセイの原理によって検出することができる。具体的には、標的遺伝子の転写因子又はプロモーター領域の下流にGFP(Green Fluorescence Protein)やルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子を配し、そのレポーター活性を測定することにより、転写活性の変化をレポーター活性として測定することができる。生体内シグナルの活性化の測定キットは市販のものを適宜使用することができる(例えば、Mercury Pathway Profiling Luciferase System(Clontech)等)。
更に、通常は細胞増殖を促進する方向に働くシグナルカスケードに作用するEGFレセプターファミリー等のレセプターリガンドの中和活性を測定する方法として、標的とする細胞の増殖活性を測定することによって、抗原結合分子の中和活性を評価することができる。例えば、例えばHB-EGF等その増殖がEGFファミリーの成長因子によって促進される細胞の増殖に対する、抗HB-EGF抗体の中和活性に基づく抑制効果を評価又は測定する方法として、以下の方法が好適に使用される。試験管内において当該細胞増殖抑制活性を評価又は測定する方法としては、培地中に添加した[3H]ラベルしたチミジンの生細胞による取り込みをDNA複製能力の指標として測定する方法が用いられる。より簡便な方法としてトリパンブルー等の色素を細胞外に排除する能力を顕微鏡下で計測する色素排除法や、MTT法が用いられる。後者は、生細胞がテトラゾリウム塩であるMTT(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyl tetrazolium bromide)を青色のホルマザン産物へ転換する能力を有することを利用している。より具体的には、被検細胞の培養液にリガンドと共に被検抗体を添加して一定時間を経過した後に、MTT溶液を培養液に加えて一定時間静置することによりMTTを細胞に取り込ませる。その結果、黄色の化合物であるMTTが細胞内のミトコンドリア内のコハク酸脱水素酵素により青色の化合物に変換される。この青色生成物を溶解し呈色させた後にその吸光度を測定することにより生細胞数の指標とするものである。MTT以外に、MTS、XTT、WST-1、WST-8等の試薬も市販されており(nacalai tesqueなど)好適に使用することができる。活性の測定に際しては、対照抗体として抗HB-EGF抗体と同一のアイソタイプを有する抗体で当該細胞増殖抑制活性を有しない結合抗体を、抗HB-EGF抗体と同様に使用して、抗HB-EGF抗体が対照抗体よりも強い細胞増殖抑制活性を示すことにより活性を判定することができる。
活性を評価するための細胞として、例えば、その増殖がHB-EGFによって促進される細胞である、卵巣癌細胞であるRMG-1細胞株や、ヒトEGFRの細胞外ドメインとマウスG-CSF受容体の細胞内ドメインをインフレームで融合した融合タンパク質であるhEGFR/mG-CSFRをコードする遺伝子を発現する様に結合したベクターによって形質転換されたマウスBa/F3細胞等も好適に使用され得る。このように、当業者は、活性を評価するための細胞を適宜選択することによって前記の細胞増殖活性の測定に使用することが可能である。
ADCC活性またはCDP活性
本発明の非限定な一態様では、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を発現する細胞に対する細胞傷害活性を有する抗原結合分子の当該脳疾患を治療するための使用が提供される。本発明において細胞傷害活性とは、例えば、抗体のFc領域に含まれるFcγレセプター(FcγR)結合ドメインに、免疫細胞に発現するFcγRを介して結合した免疫細胞が、当該抗原を発現する標的細胞に対して傷害を与える抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity:ADCC)活性、および抗体のFc領域に含まれる補体結合ドメインに結合した補体と免疫細胞に発現する補体受容体を介して結合した免疫細胞が、当該抗原または当該抗原を発現する標的細胞を貪食する補体依存性貪食(complement-dependent phagocytosis:CDP)活性等が挙げられる。脳組織において、こうした機能を発揮し得る免疫細胞として、インテグリン、FcγRIおよびFcγRIII等のFcγR、またはCR3等の補体受容体を発現するミクログリア細胞が挙げられる。本発明の抗原結合分子がミクログリアによるADCC活性、またはCDP活性を誘導するか否かは公知の方法により測定され得る(例えば、Pathobiology (1991) 59 (4), 254-258、またはJ. Neuroscience (2004) 24 (44), 9838-9846)。
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242 に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。特にヒトIgG1の配列としては、EUナンバリングで表される356-358位のアミノ酸配列がDELであってもEEMであってもよい。また、ヒトIgκ(Kappa)定常領域とヒトIgλ (Lambda)定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、IL-6Rに結合する抗体(抗IL-6R抗体)を作製する方法が例示される。IL-6R以外の抗原に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
抗IL-6R抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗IL-6R抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。なお本願発明のモノクローナル抗体には、「ヒト化抗体」や「キメラ抗体」が含まれる。
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、IL-6Rタンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗IL-6R抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、配列番号:3にそのヌクレオチド配列が開示されたIL-6R遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用される配列番号:1で表されるIL-6Rタンパク質が取得され得る。すなわち、IL-6Rをコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のヒトIL-6Rタンパク質が公知の方法で精製される。培養上清中から可溶型のIL-6Rを取得するためには、例えば、Mullbergら(J. Immunol. (1994) 152 (10), 4958-4968)によって記載されているような可溶型IL-6Rである、配列番号:1で表されるIL-6Rポリペプチド配列のうち、1から357番目のアミノ酸からなるタンパク質が、配列番号:1で表されるIL-6Rタンパク質の代わりに発現される。また、精製した天然のIL-6Rタンパク質もまた同様に感作抗原として使用され得る。
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製IL-6Rタンパク質が使用できる。IL-6Rの部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、当該部分ペプチドはヒトIL-6Rのアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、IL-6R遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてIL-6Rタンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるIL-6Rペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:1のアミノ酸配列において20-357番目のアミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
また、IL-6Rタンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook, J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるIL-6Rの取得方法及びそれを用いた免疫方法は、国際公開WO2003/000883、WO2004/022754、WO2006/006693等にも具体的に記載されている。
当該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
−IL-6Rのような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
−免疫抗原を精製する必要が無い
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、IL-6Rタンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。IL-6RをコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、IL-6Rを認識する抗体の作製は国際公開WO2003/104453に記載された方法を用いても作製され得る。
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるIL-6Rに結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、IL-6Rに結合するモノクローナル抗体は、細胞表面に発現したIL-6Rに結合することができる。このようなモノクローナル抗体は、たとえば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずIL-6Rを発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、IL-6Rを強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面のIL-6Rに対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、IL-6R強制発現細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、IL-6Rモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
あるいは固定化したIL-6R発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理にもとづいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにIL-6R発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、当該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur. J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
たとえば、抗IL-6R抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗IL-6R抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5'-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、当該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5'-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5'-RACE cDNAライブラリが得られる。5'-RACE cDNAライブラリの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
得られた5'-RACE cDNAライブラリを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5' RACE cDNAライブラリ作製キットに付属するプライマーが利用される。
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、IL-6Rに対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばIL-6Rに対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のIL-6Rへの結合は、特異的であることがさらに好ましい。IL-6Rに結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をIL-6R発現細胞に接触させる工程、
(2)IL-6R発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)IL-6R発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
抗体とIL-6R発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とIL-6R発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにIL-6R発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
目的とする抗IL-6R抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗IL-6R抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域をコードするDNAを保持した発現ベクターの5'側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
抗IL-6Rモノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:4)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗IL-6R抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO 1994/011523を参照のこと)。
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合ドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO(Chinese hamster ovary cell line)、COS(Monkey kidney cell line)、ミエローマ(Sp2/O、NS0等)、BHK (baby hamster kidney cell line)、Hela、Vero、HEK293(human embryonic kidney cell line with sheared adenovirus (Ad)5 DNA)、Freestyle293、PER.C6 cell (human embryonic retinal cell line transformed with the Adenovirus Type 5 (Ad5) E1A and E1B genes)など(Current Protocols in Protein Science (May, 2001, Unit 5.9, Table 5.9.1))
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
−酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces )属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
−糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus )属
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli )、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
本明細書において記載される抗原結合分子がヒトに投与される場合、当該抗原結合分子における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
本明細書において記載される抗原結合分子における抗原結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。当該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、当該組換え細胞を培養し、当該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、当該ヒト化抗体が当該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP239400、国際公開WO1996/002576参照)。
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Cancer Res., (1993) 53, 851-856)。
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
さらに、ヒト抗体ライブラリを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
また、抗体遺伝子を取得する方法としてBernasconiら(Science (2002) 298, 2199-2202)または国際公開WO2008/081008に記載のようなB細胞クローニング(それぞれの抗体のコード配列の同定およびクローニング、その単離、およびそれぞれの抗体(特に、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4)の作製のための発現ベクター構築のための使用等)の手法が、上記のほか適宜使用され得る。
EUナンバリングおよびKabatナンバリング
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
イオン濃度の条件
金属イオン濃度の条件
本発明の一つの態様では、イオン濃度とは金属イオン濃度のことをいう。「金属イオン」とは、水素を除くアルカリ金属および銅族等の第I族、アルカリ土類金属および亜鉛族等の第II族、ホウ素を除く第III族、炭素とケイ素を除く第IV族、鉄族および白金族等の第VIII族、V、VIおよびVII族の各A亜族に属する元素と、アンチモン、ビスマス、ポロニウム等の金属元素のイオンをいう。金属原子は原子価電子を放出して陽イオンになる性質を有しており、これをイオン化傾向という。イオン化傾向の大きい金属は、化学的に活性に富むとされる。
本発明で好適な金属イオンの例としてカルシウムイオンが挙げられる。カルシウムイオンは多くの生命現象の調節に関与しており、骨格筋、平滑筋および心筋等の筋肉の収縮、白血球の運動および貪食等の活性化、血小板の変形および分泌等の活性化、リンパ球の活性化、ヒスタミンの分泌等の肥満細胞の活性化、カテコールアミンα受容体やアセチルコリン受容体を介する細胞の応答、エキソサイトーシス、ニューロン終末からの伝達物質の放出、ニューロンの軸策流等にカルシウムイオンが関与している。細胞内のカルシウムイオン受容体として、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフも数多く知られている。例えば 、カドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインがよく知られている。
本発明においては、金属イオンがカルシウムイオンの場合には、カルシウムイオン濃度の条件として低カルシウムイオン濃度の条件と高カルシウムイオン濃度の条件が挙げられる。本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性がカルシウムイオン濃度の条件によって変化するとは、低カルシウムイオン濃度と高カルシウムイオン濃度の条件の違いによって抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性が変化することをいう。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性よりも低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性の方が高い場合もまた例示される。
本明細書において、高カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には100μMから10 mMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、200μMから5 mMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では400μMから3 mMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では200μMから2 mMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに400μMから1 mMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の血漿中(血中)でのカルシウムイオン濃度に近い500μMから2.5 mMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本明細書において、低カルシウムイオン濃度とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適には0.1μMから30μMの間から選択される濃度であり得る。また、別の態様では、0.2μMから20μMの間から選択される濃度でもあり得る。また、異なる態様では0.5μMから10μMの間から選択される濃度でもあり得るし、ほかの態様では1μMから5μMの間から選択される濃度でもあり得る。さらに2μMから4μMの間から選択される濃度でもあり得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近い1μMから5μMの間から選択される濃度が好適に挙げられる。
本発明において、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性より低いとは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の0.1μMから30μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、100μMから10 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の0.5μMから10μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、200μMから5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性が、生体内の血漿中のカルシウムイオン濃度における抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子の1μMから5μMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性が、500μMから2.5 mMの間から選択されるカルシウムイオン濃度での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
金属イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性よりも高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記分子の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、低カルシウムイオン濃度および高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性が低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性より低い」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合活性が高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「低カルシウムイオン濃度の条件下における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度の条件下における抗原に対する結合活性より低下させる」を「低カルシウムイオン濃度条件下における抗原結合活性を高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原に対する結合活性を測定する際のカルシウムイオン濃度以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原に対する結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原に対する結合活性を評価することが可能である。
本発明の抗原結合分子において、低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、低カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性と高カルシウムイオン濃度条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と高カルシウムイオン濃度の条件におけるKDの比であるKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値が40以上である。KD (Ca 3μM)/KD (Ca 2 mM)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
抗原に対する結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はKD(解離定数)を用いることが可能であるが、抗原が膜型抗原の場合は見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)を用いることが可能である。KD(解離定数)、および、見かけのKD(見かけの解離定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等を用いることが可能である。
また、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の低カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性と高カルシウム濃度の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する低カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)と高カルシウム濃度の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(低カルシウム濃度の条件)/kd(高カルシウム濃度の条件)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なるカルシウムイオン濃度における抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、カルシウム濃度以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である低カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性が、高カルシウムイオン濃度の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子のスクリーニング方法としてWO2012/073992等(例えば段落0200−0213)に記載された方法が例示され得る。
ライブラリ
ある一態様によれば、本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子は、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。イオン濃度の例としては金属イオン濃度や水素イオン濃度が好適に挙げられる。
本明細書において「ライブラリ」とは複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチド、もしくはこれらの配列をコードする核酸、ポリヌクレオチドをいう。ライブラリ中に含まれる複数の抗原結合分子または抗原結合分子を含む複数の融合ポリペプチドの配列は単一の配列ではなく、互いに配列の異なる抗原結合分子または抗原結合分子を含む融合ポリペプチドである。
本明細書においては、互いに配列の異なる複数の抗原結合分子という記載における「互いに配列の異なる」との用語は、ライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なることを意味する。すなわち、ライブラリ中における互いに異なる配列の数は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数が反映され、「ライブラリサイズ」と指称される場合もある。通常のファージディスプレイライブラリでは106から1012であり、リボゾームディスプレイ法等の公知の技術を適用することによってライブラリサイズを1014まで拡大することが可能である。しかしながら、ファージライブラリのパンニング選択時に使用されるファージ粒子の実際の数は、通常、ライブラリサイズよりも10ないし10,000倍大きい。この過剰倍数は、「ライブラリ当量数」とも呼ばれるが、同じアミノ酸配列を有する個々のクローンが10ないし10,000存在し得ることを表す。よって本発明における「互いに配列の異なる」との用語はライブラリ当量数が除外されたライブラリ中の個々の抗原結合分子の配列が相互に異なること、より具体的には互いに配列の異なる抗原結合分子が106から1014分子、好ましくは107から1012分子、さらに好ましくは108から1011、特に好ましくは108から1010存在することを意味する。
また、本発明における、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「複数の」との用語は、例えば本発明の抗原結合分子、融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子、ベクターまたはウイルスは、通常、その物質の2つ以上の種類の集合を指す。例えば、ある2つ以上の物質が特定の形質に関して互いに異なるならば、その物質には2種類以上が存在することを表す。例としては、アミノ酸配列中の特定のアミノ酸位置で観察される変異体アミノ酸が挙げられ得る。例えば、フレキシブル残基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上の抗原結合分子がある場合、本発明の抗原結合分子は複数個存在する。他の例では、フレキシブル残基をコードする塩基以外、または表面に露出した非常に多様なアミノ酸位置の特定の変異体アミノ酸をコードする塩基以外は実質的に同じ、好ましくは同一の配列である本発明の2つ以上のポリヌクレオチド分子があるならば、本発明におけるポリヌクレオチド分子は複数個存在する。
さらに、本発明における、複数の抗原結合分子から主としてなるライブラリという記載における「から主としてなる」との用語は、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の数が反映される。具体的には、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中に少なくとも104分子存在することが好ましい。また、より好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも105分子存在するライブラリから取得され得る。さらに好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも106分子存在するライブラリから取得され得る。特に好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも107分子存在するライブラリから取得され得る。また、好ましくは、本発明の抗原結合ドメインはそのような結合活性を示す抗原結合分子が少なくとも108分子存在するライブラリから取得され得る。別の表現では、ライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数のうち、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が異なっている抗原結合分子の割合としても好適に表現され得る。具体的には、本発明の抗原結合ドメインは、そのような結合活性を示す抗原結合分子がライブラリ中の配列の異なる独立クローンの数の0.1%から80%、好ましくは0.5%から60%、より好ましくは1%から40%、さらに好ましくは2%から20%、特に好ましくは4%から10% 含まれるライブラリから取得され得る。融合ポリペプチド、ポリヌクレオチド分子またはベクターの場合も、上記と同様、分子の数や分子全体における割合で表現され得る。また、ウイルスの場合も、上記と同様、ウイルス個体の数や個体全体における割合で表現され得る。
カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、金属イオンがカルシウムイオン濃度である場合には、あらかじめ存在している抗原結合ドメインまたは抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体またはライブラリ、これらの抗体やライブラリにカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体またはライブラリ(カルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)または非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所にカルシウムをキレート可能なアミノ酸(例えばアスパラギン酸やグルタミン酸)または非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
前記のようにイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸の例として、例えば、金属イオンがカルシウムイオンである場合には、カルシウム結合モチーフを形成するアミノ酸であれば、その種類は問わない。カルシウム結合モチーフは、当業者に周知であり、詳細に記載されている(例えばSpringerら(Cell (2000) 102, 275-277)、KawasakiおよびKretsinger(Protein Prof. (1995) 2, 305-490)、Moncriefら(J. Mol. Evol. (1990) 30, 522-562)、Chauvauxら(Biochem. J. (1990) 265, 261-265)、BairochおよびCox(FEBS Lett. (1990) 269, 454-456)、Davis(New Biol. (1990) 2, 410-419)、Schaeferら(Genomics (1995) 25, 638〜643)、Economouら(EMBO J. (1990) 9, 349-354)、Wurzburgら(Structure. (2006) 14, 6, 1049-1058))。すなわち、ASGPR, CD23、MBR、DC-SIGN等のC型レクチン等の任意の公知のカルシウム結合モチーフが、本発明の抗原結合分子に含まれ得る。このようなカルシウム結合モチーフの好適な例として、上記のほかには配列番号:5に記載される抗原結合ドメインに含まれるカルシウム結合モチーフも挙げられ得る。
また、本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインのカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する結合活性を変化させるアミノ酸の例として、金属キレート作用を有するアミノ酸も好適に用いられる得る。金属キレート作用を有するアミノ酸の例として、例えばセリン(Ser(S))、スレオニン(Thr(T))、アスパラギン(Asn(N))、グルタミン(Gln(Q))、アスパラギン酸(Asp(D))およびグルタミン酸(Glu(E))等が好適に挙げられる。
前記のアミノ酸が含まれる抗原結合ドメインの位置は特定の位置に限定されず、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる限り、抗原結合ドメインを形成する重鎖可変領域または軽鎖可変領域中のいずれの位置でもあり得る。非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が重鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、非限定な別の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が重鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が軽鎖の抗原結合ドメインに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。また、非限定な別の一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸が軽鎖のCDR1のKabatナンバリングで表される30位、31位および/または32位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、別の非限定な一態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの非限定な一態様では、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2のKabatナンバリングで表される50位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリが提供される。
さらに別の態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。そのほかの態様では、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3のKabatナンバリングで表される92位に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
また、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が、前記に記載された軽鎖のCDR1、CDR2およびCDR3から選択される2つまたは3つのCDRに含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから本発明の異なる態様として取得され得る。さらに、本発明の抗原結合ドメインは、当該アミノ酸残基が軽鎖のKabatナンバリングで表される30位、31位、32位、50位および/または92位のいずれかひとつ以上に含まれている互いに配列の異なる抗原結合分子から主としてなるライブラリから取得され得る。
特に好適な実施形態では、抗原結合分子の軽鎖および/または重鎖可変領域のフレームワーク配列は、ヒトの生殖細胞系フレームワーク配列を有していることが望ましい。したがって、本発明の一態様においてフレームワーク配列が完全にヒトの配列であるならば、ヒトに投与(例えば疾病の治療)された場合、本発明の抗原結合分子は免疫原性反応を殆どあるいは全く引き起こさないと考えられる。上記の意味から、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む 」とは、本発明におけるフレームワーク配列の一部が、いずれかのヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の一部と同一であることを意味する。例えば、本発明の抗原結合分子の重鎖FR2の配列が複数の異なるヒトの生殖細胞系フレームワーク配列の重鎖FR2配列が組み合わされた配列である場合も、本発明における「生殖細胞系列の配列を含む」抗原結合分子である。
フレームワークの例としては、例えばV-Base(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/)等のウェブサイトに含まれている、現在知られている完全にヒト型のフレームワーク領域の配列が好適に挙げられる。 これらのフレームワーク領域の配列が本発明の抗原結合分子に含まれる生殖細胞系列の配列として適宜使用され得る。生殖細胞系列の配列はその類似性にもとづいて分類され得る(Tomlinsonら(J. Mol. Biol. (1992) 227, 776-798)WilliamsおよびWinter(Eur. J. Immunol. (1993) 23, 1456-1461)およびCoxら(Nat. Genetics (1994) 7, 162-168))。 7つのサブグループに分類されるVκ、10のサブグループに分類されるVλ、7つのサブグループに分類されるVHから好適な生殖細胞系列の配列が適宜選択され得る。
完全にヒト型のVH配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVH1サブグループ(例えば、VH1-2、VH1-3、VH1-8、VH1-18、VH1-24、VH1-45、VH1-46、VH1-58、VH1-69)、VH2サブグループ(例えば、VH2-5、VH2-26、VH2-70)、VH3サブグループ(VH3-7、VH3-9、VH3-11、VH3-13、VH3-15、VH3-16、VH3-20、VH3-21、VH3-23、VH3-30、VH3-33、VH3-35、VH3-38、VH3-43、VH3-48、VH3-49、VH3-53、VH3-64、VH3-66、VH3-72、VH3-73、VH3-74)、VH4サブグループ(VH4-4、VH4-28、VH4-31、VH4-34、VH4-39、VH4-59、VH4-61)、VH5サブグループ(VH5-51)、VH6サブグループ(VH6-1)、VH7サブグループ(VH7-4、VH7-81)のVH配列等が好適に挙げられる。これらは公知文献(Matsudaら(J. Exp. Med. (1998) 188, 1973-1975))等にも記載されており、当業者はこれらの配列情報をもとに本発明の抗原結合分子を適宜設計することが可能である。これら以外の完全にヒト型のフレームワークまたはフレームワークの準領域も好適に使用され得る。
完全にヒト型のVκ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVk1サブグループに分類されるA20、A30、L1、L4、L5、L8、L9、L11、L12、L14、L15、L18、L19、L22、L23、L24、O2、O4、O8、O12、O14、O18、Vk2サブグループに分類されるA1、A2、A3、A5、A7、A17、A18、A19、A23、O1、O11、Vk3サブグループに分類されるA11、A27、L2、L6、L10、L16、L20、L25、Vk4サブグループに分類されるB3、Vk5サブグループに分類されるB2(本明細書においてはVk5-2とも指称される))、Vk6サブグループに分類されるA10、A14、A26等(Kawasakiら(Eur. J. Immunol. (2001) 31, 1017-1028)、SchableおよびZachau(Biol. Chem. Hoppe Seyler (1993) 374, 1001-1022)およびBrensing-Kuppersら(Gene (1997) 191, 173-181))が好適に挙げられる。
完全にヒト型のVλ配列は、下記のみに限定されるものではないが、例えばVL1サブグループに分類されるV1-2、V1-3、V1-4、V1-5、V1-7、V1-9、V1-11、V1-13、V1-16、V1-17、V1-18、V1-19、V1-20、V1-22、VL1サブグループに分類されるV2-1、V2-6、V2-7、V2-8、V2-11、V2-13、V2-14、V2-15、V2-17、V2-19、VL3サブグループに分類されるV3-2、V3-3、V3-4、VL4サブグループに分類されるV4-1、V4-2、V4-3、V4-4、V4-6、VL5サブグループに分類されるV5-1、V5-2、V5-4、V5-6等(Kawasakiら(Genome Res. (1997) 7, 250-261))が好適に挙げられる。
通常これらのフレームワーク配列は一またはそれ以上のアミノ酸残基の相違により互いに異なっている。これらのフレームワーク配列は本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用され得る。本発明における「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」と共に使用される完全にヒト型のフレームワークの例としては、これだけに限定されるわけではないが、ほかにもKOL、NEWM、REI、EU、TUR、TEI、LAY、POM等が挙げられる(例えば、前記のKabatら (1991)およびWuら(J. Exp. Med. (1970) 132, 211-250))。
本発明は特定の理論に拘束されるものではないが、生殖細胞系の配列の使用がほとんどの個人において有害な免疫反応を排除すると期待されている一つの理由は、以下の通りであると考えられている。通常の免疫反応中に生じる親和性成熟ステップの結果、免疫グロブリンの可変領域に体細胞の突然変異が頻繁に生じる。これらの突然変異は主にその配列が超可変的であるCDRの周辺に生じるが、フレームワーク領域の残基にも影響を及ぼす。これらのフレームワークの突然変異は生殖細胞系の遺伝子には存在せず、また患者の免疫原性になる可能性は少ない。一方、通常のヒトの集団は生殖細胞系の遺伝子によって発現されるフレームワーク配列の大多数にさらされており、免疫寛容の結果、これらの生殖細胞系のフレームワークは患者において免疫原性が低いあるいは非免疫原性であると予想される。免疫寛容の可能性を最大にするため、可変領域をコード化する遺伝子が普通に存在する機能的な生殖細胞系遺伝子の集合から選択され得る。
本発明の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸が前記の可変領域配列の配列、重鎖可変領域または軽鎖可変領域の配列、もしくはCDR配列またはフレームワーク配列に含まれる抗原結合分子を作製するために部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。
例えば、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:5(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記のカルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が予め含まれているフレームワーク配列として選択された軽鎖可変領域の配列に、当該アミノ酸残基以外の残基として多様なアミノ酸が含まれるように設計することも可能である。本発明においてそのような残基は、フレキシブル残基と指称される。本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:5(Vk5-2)に記載された軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
Figure 2014043405
Figure 2014043405
本明細書においては、フレキシブル残基とは、公知のかつ/または天然抗体または抗原結合ドメインのアミノ酸配列を比較した場合に、その位置で提示されるいくつかの異なるアミノ酸を持つ軽鎖および重鎖可変領域上のアミノ酸が非常に多様である位置に存在するアミノ酸残基のバリエーションをいう。非常に多様である位置は一般的にCDR領域に存在する。一態様では、公知のかつ/または天然抗体の非常に多様な位置を決定する際には、Kabat, Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institute of Health Bethesda Md.) (1987年および1991年)が提供するデータが有効である。また、インターネット上の複数のデータベース(http://vbase.mrc-cpe.cam.ac.uk/、http://www.bioinf.org.uk/abs/index.html)では収集された多数のヒト軽鎖および重鎖の配列とその配置が提供されており、これらの配列とその配置の情報は本発明における非常に多様な位置の決定に有用である。本発明によると、アミノ酸がある位置で好ましくは約2から約20、好ましくは約3から約19、好ましくは約4から約18、好ましくは5から17、好ましくは6から16、好ましくは7から15、好ましくは8から14、好ましくは9から13、好ましくは10から12個の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有する場合は、その位置は非常に多様といえる。いくつかの実施形態では、あるアミノ酸位置は、好ましくは少なくとも約2、好ましくは少なくとも約4、好ましくは少なくとも約6、好ましくは少なくとも約8、好ましくは約10、好ましくは約12の可能な異なるアミノ酸残基の多様性を有し得る。
また、前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:6(Vk1)、配列番号:7(Vk2)、配列番号:8(Vk3)、配列番号:9(Vk4)等の生殖細胞系列の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された軽鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のEUナンバリングで表される30位、31位、および/または32位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される92位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。また、複数個のカルシウムイオン結合部位を有し、分子進化上共通の起源から由来したと考えられるトロポニンC、カルモジュリン、パルブアルブミン、ミオシン軽鎖等が知られており、その結合モチーフが含まれるように軽鎖CDR1、CDR2および/またはCDR3を設計することも可能である。例えば、上記の目的でカドヘリンドメイン、カルモジュリンに含まれるEFハンド、Protein kinase Cに含まれるC2ドメイン、血液凝固タンパク質FactorIXに含まれるGlaドメイン、アシアログライコプロテインレセプターやマンノース結合レセプターに含まれるC型レクチン、LDL受容体に含まれるAドメイン、アネキシン、トロンボスポンジン3型ドメインおよびEGF様ドメインが適宜使用され得る。
前記のイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表1または表2に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定な一態様では、ゲノムDNA におけるV 遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J.Mol.Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J.Appl.Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput.Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ.Mol.Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。本発明で記載されるナイーブ配列を含むアミノ酸配列とは、このようなナイーブライブラリから取得されるアミノ酸配列をいう。
本発明の一つの態様では、「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域と、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせることによって本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリから、本発明の抗原結合ドメインが取得され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、配列番号:10(6RL#9-IgG1)または配列番号:11(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。また、ランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域の代わりに、生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域の中から適宜選択することによって作製され得る。例えば、配列番号:10(6RL#9-IgG1)または配列番号:11(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列と生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が予め含まれているフレームワーク配列として選択された重鎖可変領域の配列に、フレキシブル残基が含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、配列番号:10(6RL#9-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位、96位および/または100a位以外のCDR3のアミノ酸残基が挙げられる。または配列番号:11(6KC4-1#85-IgG1)に記載された重鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、重鎖CDR1およびCDR2の全てのアミノ酸残基のほか重鎖CDR3の95位および/または101位以外 のCDR3のアミノ酸残基もまた挙げられる。
また、前記の「イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせることによっても、複数の互いに配列の異なる抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。このような非限定的な例として、イオン濃度がカルシウムイオン濃度である場合には、例えば、重鎖可変領域の特定の残基が、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基に置換された重鎖可変領域配列とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせたライブラリが好適に挙げられる。当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として重鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として重鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。当該アミノ酸残基が重鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、重鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される95位、96位、100a位および/または101位のアミノ酸が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、カルシウム結合モチーフを形成し、および/または、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基が導入された重鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された軽鎖可変領域または生殖細胞系列の配列を有する軽鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該重鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。また、イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基以外の重鎖可変領域のCDR1、CDR2および/またはCDR3のアミノ酸配列としてランダム化可変領域ライブラリも好適に使用され得る。軽鎖可変領域として生殖細胞系列の配列が用いられる場合には、例えば、配列番号:6(Vk1)、配列番号:7(Vk2)、配列番号:8(Vk3)、配列番号:9(Vk4)等の生殖細胞系列の配列が非限定な例として挙げられ得る。
前記の、カルシウムイオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸としては、カルシウム結合モチーフを形成する限り、いずれのアミノ酸も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸としては具体的に電子供与性を有するアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、セリン、スレオニン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸が好適に例示される。
水素イオン濃度の条件
また、本発明の一つの態様では、イオン濃度の条件とは水素イオン濃度の条件またはpHの条件をいう。本発明で、プロトンすなわち水素原子の原子核の濃度の条件は、水素指数(pH)の条件とも同義に取り扱われる。水溶液中の水素イオンの活動量をaH+で表すと、pHは-log10aH+と定義される。水溶液中のイオン強度が(例えば10-3より)低ければ、aH+は水素イオン強度にほぼ等しい。例えば25℃、1気圧における水のイオン積はKw=aH+aOH=10-14であるため、純水ではaH+=aOH=10-7である。この場合のpH=7が中性であり、pHが7より小さい水溶液は酸性、pHが7より大きい水溶液はアルカリ性である。
本発明においては、イオン濃度の条件としてpHの条件が用いられる場合には、pHの条件として高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件が挙げられる。本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性がpHの条件によって結合活性が変化するとは、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)と低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件の違いによって抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインの抗原に対する結合活性が変化することをいう。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合が挙げられる。また、pH中性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性よりもpH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合分子の結合活性の方が高い場合もまた挙げられる。
本明細書において、pH中性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH6.7からpH10.0の間から選択され得る。また、別の態様では、pH6.7からpH9.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH7.0からpH9.0の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH7.0からpH8.0の間から選択され得る。特に生体内の血漿中(血中)でのpHに近いpH7.4が好適に挙げられる。
本明細書において、pH酸性域とはとくに一義的な数値に限定されるわけではないが、好適にはpH4.0からpH6.5の間から選択され得る。また、別の態様では、pH4.5からpH6.5の間から選択され得る。また、異なる態様ではpH5.0からpH6.5の間から選択され得るし、ほかの態様ではpH5.5からpH6.5の間から選択され得る。特に生体内の早期エンドソーム内でのイオン化カルシウム濃度に近いpH5.8が好適に挙げられる。
本発明において、高水素イオン濃度または低pH(pH酸性域)の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pH(pH中性域)の条件下における抗原に対する結合活性より低いとは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のpH4.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH10.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。好ましくは、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のpH4.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH6.7からpH9.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味し、より好ましくは、抗原結合分子のpH5.0からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH9.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。また、好ましくは抗原結合分子のpH5.5からpH6.5の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性が、pH7.0からpH8.0の間から選択されるpHでの抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHにおける抗原結合活性が、生体内の血漿中のpHにおける抗原結合活性より弱いことを意味し、具体的には、抗原結合分子のpH5.8での抗原に対する結合活性が、pH7.4での抗原に対する結合活性より弱いことを意味する。
pHの条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性が変化しているか否かは、例えば前記の結合活性の項で記載されたような公知の測定方法を使用することによって決定され得る。例えば、当該測定方法に際して異なるpHの条件下での結合活性が測定される。例えば、pH酸性域の条件下における抗原に対する抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性よりもpH中性域の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記の結合活性の方が高く変化することを確認するためには、pH酸性域およびpH中性域の条件下における抗原に対する前記ドメインまたは前記分子の結合活性が比較される。
さらに本発明において、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低い」という表現は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性よりも高いと表現することもできる。なお本発明においては、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低い」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合能よりも弱い」と記載する場合もあり、また、「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性より低下させる」を「高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合能よりも弱くする」と記載する場合もある。
抗原に対する結合活性を測定する際の水素イオン濃度またはpH以外の条件は、当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、HEPESバッファー、37℃の条件において測定することが可能である。例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定することが可能である。抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子と抗原との結合活性の測定は、抗原が可溶型抗原である場合は、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子を固定化したチップへ、抗原をアナライトとして流すことで可溶型抗原への結合活性を評価することが可能であり、抗原が膜型抗原である場合は、抗原を固定化したチップへ、抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子をアナライトとして流すことで膜型抗原への結合活性を評価することが可能である。 本発明の抗原結合分子において、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性よりも弱い限り、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件下における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件下における抗原に対する結合活性の比は特に限定されないが、好ましくは抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるKD(Dissociation constant:解離定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるKDの比であるKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が2以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が10以上であり、さらに好ましくはKD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値が40以上である。KD (pH5.8)/KD (pH7.4)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術において作製可能な限り、400、1000、10000等、いかなる値でもよい。
また、本発明の抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性の比を示す他の指標として、例えば、解離速度定数であるkd(Dissociation rate constant:解離速度定数)もまた好適に用いられ得る。結合活性の比を示す指標としてKD(解離定数)の代わりにkd(解離速度定数)を用いる場合、抗原に対する高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件におけるkd(解離速度定数)と低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件におけるkd(解離速度定数)の比であるkd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値は、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは5以上であり、さらに好ましくは10以上であり、より好ましくは30以上である。Kd(pH酸性域の条件における)/kd(pH中性域の条件における)の値の上限は特に限定されず、当業者の技術常識において作製可能な限り、50、100、200等、いかなる値でもよい。
抗原結合活性の値として、抗原が可溶型抗原の場合はkd(解離速度定数)を用いることが可能であり、抗原が膜型抗原の場合は見かけのkd(Apparent dissociation rate constant:見かけの解離速度定数)を用いることが可能である。kd(解離速度定数)、および、見かけのkd(見かけの解離速度定数)は、当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、フローサイトメーター等を用いることが可能である。なお本発明において、異なる水素イオン濃度すなわちpHにおける抗原結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の抗原に対する結合活性を測定する際は、水素イオン濃度すなわちpH以外の条件は同一とすることが好ましい。
例えば、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子のスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(b) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原結合活性を得る工程、
(c) pH酸性域の条件における抗原結合活性が、pH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を選択する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(c)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH中性域の条件における抗原結合ドメインまたは抗原結合分子もしくはそれらのライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(c) 前記工程(b)で解離した抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を単離する工程。
また、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(d)を含む抗原結合ドメインまたは抗原結合分子若しくはそれらのライブラリのスクリーニングによって取得され得る。
(a) pH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合しない抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程、
(c) 前記工程(b)で選択された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(c)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを接触させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件でカラムから溶出する工程、
(c) 前記工程(b)で溶出された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) 抗原を固定したカラムにpH酸性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを通過させる工程、
(b) 前記工程(a)でカラムに結合せずに溶出した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を回収する工程、
(c) 前記工程(b)で回収された抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH中性域の条件で抗原に結合させる工程、
(d) 前記工程(c)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
さらに、本発明が提供する一つの態様である高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性が、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子は、以下の工程(a)〜(d)を含むスクリーニング方法によって取得され得る。
(a) pH中性域の条件で抗原結合ドメイン又は抗原結合分子のライブラリを抗原に接触させる工程、
(b) 前記工程(a)で抗原に結合した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する工程、
(c) 前記工程(b)で取得した抗原結合ドメイン又は抗原結合分子をpH酸性域の条件に置く工程、
(d) 前記工程(c)で抗原結合活性が、前記工程(b)で選択した基準より弱い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を単離する工程。
なお、前記の工程は2回以上繰り返されてもよい。従って、本発明によって、上述のスクリーニング方法において、(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程を2回以上繰り返す工程をさらに含むスクリーニング方法によって取得されたpH酸性域の条件における抗原に対する結合活性がpH中性域の条件における抗原に対する結合活性より低い抗原結合ドメインまたは抗原結合分子が提供される。(a)〜(c)あるいは(a)〜(d)の工程が繰り返される回数は特に限定されないが、通常10回以内である。
本発明のスクリーニング方法において、高水素イオン濃度条件または低pHすなわちpH酸性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが4.0〜6.5の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとして、pHが4.5〜6.6の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが5.0〜6.5の間の抗原結合活性、さらにpHが5.5〜6.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の早期エンドソーム内のpHが挙げられ、具体的にはpH5.8における抗原結合活性を挙げることができる。また、低水素イオン濃度条件または高pHすなわちpH中性域における抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、pHが6.7〜10の間の抗原結合活性であれば特に限定されないが、好ましいpHとしてpHが6.7〜9.5の間の抗原結合活性を挙げることができる。別の好ましいpHとして、pHが7.0〜9.5の間の抗原結合活性、さらにpHが7.0〜8.0の間の抗原結合活性を挙げることができる。より好ましいpHとして、生体内の血漿中でのpHを挙げることができ、具体的にはpHが7.4における抗原結合活性を挙げることができる。
抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は当業者に公知の方法により測定することが可能であり、イオン化カルシウム濃度以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメイン又は抗原結合分子の抗原結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度定数)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度定数)等として評価することが可能である。これらは当業者公知の方法で測定することが可能であり、例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、FACS等を用いることが可能である。
本発明において、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程は、高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性が低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性より低い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を選択する工程と同じ意味である。
低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い限り、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性と高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の差は特に限定されないが、好ましくは低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性の2倍以上であり、さらに好ましくは10倍以上であり、より好ましくは40倍以上である。
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメイン又は抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、あらかじめ存在している抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体又はライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異を導入した抗体又はライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)又は非天然アミノ酸変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である。
動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗原結合ドメインまたは抗原結合分子から、低水素イオン濃度または高pHすなわちpH中性域の条件における抗原結合活性が高水素イオン濃度または低pHすなわちpH酸性域の条件における抗原結合活性より高い抗原結合ドメイン又は抗原結合分子を取得する方法として、例えば、国際公開WO2009/125825で記載されるような抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中のアミノ酸の少なくとも一つが、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸変異に置換されているもしくは抗原結合ドメインまたは抗原結合分子中に、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入されている抗原結合分子または抗原結合分子が好適に挙げられる。
側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異が導入される位置は特に限定されず、置換または挿入前と比較してpH酸性域における抗原結合活性がpH中性域における抗原結合活性より弱くなる(KD(pH酸性域)/KD(pH中性域)の値が大きくなる、又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなる)限り、如何なる部位でもよい。例えば、抗原結合分子が抗体の場合には、抗体の可変領域やCDRなどが好適に挙げられる。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸に置換されるアミノ酸の数、又は挿入されるアミノ酸の数は当業者が適宜決定することができ、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である1つのアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上の複数のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸によって置換され得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0である2つ以上のアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸が挿入され得る。又、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入以外に、他のアミノ酸の欠失、付加、挿入および/または置換などが同時に行われ得る。側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換又は側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の挿入は、当業者の公知のアラニンscanningのアラニンをヒスチジン等に置き換えたヒスチジン等scanning等の方法によってランダムに行われ得るし、側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換または挿入の変異がランダムに導入された抗原結合ドメインまたは抗体の中から、変異前と比較してKD(pH酸性域)/KD(pH中性域)又はkd(pH酸性域)/kd(pH中性域)の値が大きくなった抗原結合分子が選択され得る。
前記のようにその側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異が行われ、かつpH酸性域での抗原結合活性がpH中性域での抗原結合活性よりも低い抗原結合分子の好ましい例として、例えば、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異後のpH中性域での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への変異前のpH中性域での抗原結合活性と同等である抗原結合分子が好適に挙げられる。本発明において、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子と同等の抗原結合活性を有するとは、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前の抗原結合分子の抗原結合活性を100%とした場合に、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後の抗原結合分子の抗原結合活性が少なくとも10%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であることをいう。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異後のpH7.4での抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異前のpH7.4での抗原結合活性より高くなってもよい。その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸への置換または挿入により抗原結合分子の抗原結合活性が低くなった場合には、抗原結合分子中の1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入などによって、抗原結合活性が、その側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入前の抗原結合活性と同等にされ得る。本発明においては、そのような側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の置換又は挿入後に1又は複数のアミノ酸の置換、欠失、付加及び/又は挿入を行うことによって結合活性が同等となった抗原結合分子も含まれる。
水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸
前記のスクリーニング方法によってスクリーニングされる本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子はどのように調製されてもよく、例えば、イオン濃度の条件が水素イオン濃度の条件もしくはpHの条件である場合には、あらかじめ存在している抗原結合ドメインまたは抗原結合分子、あらかじめ存在しているライブラリ(ファージライブラリ等)、動物への免疫から得られたハイブリドーマや免疫動物からのB細胞から作製された抗体またはライブラリ、これらの抗体やライブラリに側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入した抗体またはライブラリ(側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の含有率を高くしたライブラリや特定箇所に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸(例えばヒスチジンやグルタミン酸)や非天然アミノ酸の変異を導入したライブラリ等)などを用いることが可能である 。
本発明の一つの態様として、「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせることによっても、本発明の複数の互いに配列の異なる抗原結合ドメインまたは抗原結合分子を含むライブラリが作製され得る。
当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基が例示される。ほかにも、当該アミノ酸残基の非限定な例として軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基が例示される。また、当該アミノ酸残基の非限定な別の例として軽鎖のCDR3に含まれるアミノ酸残基もまた例示される。
前記のように、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR1に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR1中のKabatナンバリングで表される24位、27位、28位、31位、32位および/または34位のアミノ酸残基が挙げられる。また、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR2に含まれるアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR2中のKabatナンバリングで表される50位、51位、52位、53位、54位、55位および/または56位のアミノ酸残基が挙げられる。さらに、当該アミノ酸残基が軽鎖のCDR3に含まれアミノ酸残基の非限定な例として、軽鎖可変領域のCDR3中のKabatナンバリングで表される89位、90位、91位、92位、93位、94位および/または95A位のアミノ酸残基が挙げられる。また、これらのアミノ酸残基が、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性が変化する限り、これらのアミノ酸残基が単独で含まれ得るし、これらのアミノ酸が二つ以上組み合わされて含まれ得る。
前記の「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合分子の結合活性を変化させる少なくとも一つのアミノ酸残基」が導入された軽鎖可変領域とランダム化可変領域配列ライブラリとして作製された重鎖可変領域とを組み合わせる場合でも、前記と同様に、フレキシブル残基が当該軽鎖可変領域の配列に含まれるように設計することも可能である。本発明の抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の抗原に対する結合活性が、水素イオン濃度の条件によって変化する限り、当該フレキシブル残基の数および位置は特定の態様に限定されることはない。すなわち、重鎖および/または軽鎖のCDR配列および/またはFR配列に一つまたはそれ以上のフレキシブル残基が含まれ得る。例えば、軽鎖可変領域配列に導入されるフレキシブル残基の非限定的な例として、表3または表4に記載されたアミノ酸残基が挙げられる。また、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基やフレキシブル残基以外の軽鎖可変領域のアミノ酸配列としては、非限定な例としてVk1(配列番号:6)、Vk2(配列番号:7)、Vk3(配列番号:8)、Vk4(配列番号:9)等の生殖細胞系列の配列が好適に使用され得る。
Figure 2014043405
Figure 2014043405
前記の、水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインまたは抗原結合分子の結合活性を変化させるアミノ酸残基としては、いずれのアミノ酸残基も好適に使用され得るが、そのようなアミノ酸残基としては、具体的に側鎖のpKaが4.0-8.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンまたはグルタミン酸等の天然のアミノ酸のほか、ヒスチジンアナログ(US2009/0035836)もしくはm-NO2-Tyr(pKa 7.45)、3,5-Br2-Tyr(pKa 7.21)または3,5-I2-Tyr(pKa 7.38)等の非天然のアミノ酸(Bioorg. Med. Chem. (2003) 11 (17), 3761-3768が好適に例示される。また、当該アミノ酸残基の特に好適な例としては、側鎖のpKaが6.0-7.0であるアミノ酸が挙げられる。こうした電子供与性を有するアミノ酸としては、ヒスチジンが好適に例示される。
抗原結合ドメインのアミノ酸の改変のためには、部位特異的変異誘発法(Kunkelら(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82, 488-492))やOverlap extension PCR等の公知の方法が適宜採用され得る。また、天然のアミノ酸以外のアミノ酸に置換するアミノ酸の改変方法として、複数の公知の方法もまた採用され得る(Annu. Rev. Biophys. Biomol. Struct. (2006) 35, 225-249、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2003) 100 (11), 6353-6357)。例えば、終止コドンの1つであるUAGコドン(アンバーコドン)の相補的アンバーサプレッサーtRNAに非天然アミノ酸が結合されたtRNAが含まれる無細胞翻訳系システム(Clover Direct(Protein Express))等も好適に用いられる。
組み合わされる重鎖可変領域の例として、ランダム化可変領域ライブラリが好適に挙げられる。ランダム化可変領域ライブラリの作製方法は公知の方法が適宜組み合わされる。本発明の非限定な一態様では、特定の抗原で免疫された動物、感染症患者やワクチン接種して血中抗体価が上昇したヒト、癌患者、自己免疫疾患のリンパ球由来の抗体遺伝子をもとに構築された免疫ライブラリが、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。
また、本発明の非限定な一態様では、前記と同様に、ゲノムDNAにおけるV遺伝子や再構築され機能的なV遺伝子のCDR配列が、適当な長さのコドンセットをコードする配列を含む合成オリゴヌクレオチドセットで置換された合成ライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして好適に使用され得る。この場合、重鎖のCDR3の遺伝子配列の多様性が観察されることから、CDR3の配列のみを置換することもまた可能である。抗原結合分子の可変領域においてアミノ酸の多様性を生み出す基準は、抗原結合分子の表面に露出した位置のアミノ酸残基に多様性を持たせることである。表面に露出した位置とは、抗原結合分子の構造、構造アンサンブル、および/またはモデル化された構造にもとづいて、表面に露出が可能、かつ/または抗原との接触が可能と判断される位置のことをいうが、一般的にはそのCDRである。好ましくは、表面に露出した位置は、InsightIIプログラム(Accelrys)のようなコンピュータプログラムを用いて、抗原結合分子の3次元モデルからの座標を使って決定される。表面に露出した位置は、当技術分野で公知のアルゴリズム(例えば、LeeおよびRichards(J. Mol. Biol. (1971) 55, 379-400)、Connolly(J. Appl. Cryst. (1983) 16, 548-558))を使用して決定され得る。表面に露出した位置の決定は、タンパク質モデリングに適したソフトウェアおよび抗体から得られる三次元構造情報を使って行われ得る。このような目的のために利用できるソフトウェアとして、SYBYL生体高分子モジュールソフトウェア(Tripos Associates)が好適に挙げられる。一般的に、また好ましくは、アルゴリズムがユーザーの入力サイズパラメータを必要とする場合は、計算において使われるプローブの「サイズ」は半径約1.4オングストローム以下に設定される。さらに、パーソナルコンピュータ用のソフトウェアを使用した表面に露出した領域およびエリアの決定法が、Pacios(Comput. Chem. (1994) 18 (4), 377-386およびJ. Mol. Model. (1995) 1, 46-53)に記載されている。
さらに、本発明の非限定な一態様では、健常人のリンパ球由来の抗体遺伝子から構築され、そのレパートリーにバイアスを含まない抗体配列であるナイーブ配列からなるナイーブライブラリもまた、ランダム化可変領域ライブラリとして特に好適に使用され得る(Gejimaら(Human Antibodies (2002) 11,121-129)およびCardosoら(Scand. J. Immunol. (2000) 51, 337-344))。
FcRn
免疫グロブリンスーパーファミリーに属するFcγレセプターと異なり、FcRn特にヒトFcRnは構造的には主要組織不適合性複合体(MHC)クラスIのポリペプチドに構造的に類似しクラスIのMHC分子と22から29%の配列同一性を有する(Ghetieら,Immunol. Today (1997) 18 (12), 592-598)。FcRnは、可溶性βまたは軽鎖(β2マイクログロブリン)と複合体化された膜貫通αまたは重鎖よりなるヘテロダイマーとして発現される。MHCのように、FcRnのα鎖は3つの細胞外ドメイン(α1、α2、α3)よりなり、短い細胞質ドメインはタンパク質を細胞表面に繋留する。α1およびα2ドメインが抗体のFc領域中のFcRn結合ドメインと相互作用する(Raghavanら(Immunity (1994) 1, 303-315)。
FcRnは、哺乳動物の母性胎盤または卵黄嚢で発現され、それは母親から胎児へのIgGの移動に関与する。加えてFcRnが発現するげっ歯類新生児の小腸では、FcRnが摂取された初乳または乳から母性IgGの刷子縁上皮を横切る移動に関与する。FcRnは多数の種にわたって多数の他の組織、並びに種々の内皮細胞系において発現している。それはヒト成人血管内皮、筋肉血管系、および肝臓洞様毛細血管でも発現される。FcRnは、IgGに結合し、それを血清にリサイクルすることによって、IgGの血漿中濃度を維持する役割を演じていると考えられている。FcRnのIgG分子への結合は、通常、厳格にpHに依存的であり、最適結合は7.0未満のpH酸性域において認められる。
配列番号:12で表されたシグナル配列を含むポリペプチドを前駆体とするヒトFcRnは、生体内で(配列番号:13にシグナル配列を含むそのポリペプチドが記載されている)ヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体を形成する。後に参考実施例で示されるように、β2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnが通常の組換え発現手法を用いることによって製造される。このようなβ2-ミクログロブリンと複合体を形成している可溶型ヒトFcRnに対する本発明のFcRn結合ドメインの結合活性が評価され得る。本発明において、特に記載のない場合は、ヒトFcRnは本発明のFcRn結合ドメインに結合し得る形態であるものを指し、例としてヒトFcRnとヒトβ2-ミクログロブリンとの複合体が挙げられる。
FcRn、特にヒトFcRnに対するFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性
本発明により提供される抗原結合分子に含まれるFcRn結合ドメインのFcRn、特にヒトFcRnに対する結合活性は、前記結合活性の項で述べられているように、当業者に公知の方法により測定することが可能であり、pH以外の条件については当業者が適宜決定することが可能である。抗原結合ドメインまたは当該ドメイン含む抗原結合分子とヒトFcRnとの結合活性は、KD(Dissociation constant:解離定数)、見かけのKD(Apparent dissociation constant:見かけの解離定数)、解離速度であるkd(Dissociation rate:解離速度)、又は見かけのkd(Apparent dissociation:見かけの解離速度)等として評価され得る。これらは当業者公知の方法で測定され得る。例えばBiacore(GE healthcare)、スキャッチャードプロット、フローサイトメーター等が使用され得る。
本発明のFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のヒトFcRnに対する結合活性を測定する際のpH以外の条件は当業者が適宜選択することが可能であり、特に限定されない。例えば、国際公開WO2009/125825に記載されているようにMESバッファー、37℃の条件において測定され得る。また、本発明のFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子のヒトFcRnに対する結合活性の測定は当業者公知の方法により行うことが可能であり、例えば、Biacore(GE Healthcare)などを用いて測定され得る。本発明のFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcRnの結合活性の測定は、FcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子あるいはヒトFcRnを固定化したチップへ、それぞれヒトFcRnあるいはFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子をアナライトとして流すことによって評価され得る。
本発明において、本発明の抗原結合分子または当該分子に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。本発明の抗原結合分子または当該分子に含まれるFcRn結合ドメインとFcRnとの結合活性を有する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。pH中性域とは、好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。pH7.4でのヒトFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcRnとの結合アフィニティが低いためにその結合アフィニティを評価することが難しい場合には、pH7.4の代わりにpH7.0を用いることができる。測定条件に使用される温度として、ヒトFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcRnとの結合アフィニティは、10℃〜50℃の任意の温度で評価してもよい。好ましくは、ヒトFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcRnとの結合アフィニティを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、ヒトFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcRnとの結合アフィニティを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
FcRn結合ドメイン
本発明の抗原結合分子は、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む。FcRn結合ドメインは、抗原結合分子がpH酸性域においてFcRnに対する結合活性を有していれば特に限定されず、また、直接または間接的にFcRnに対して結合活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、例えば、直接的にFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとして、例えばIgG型免疫グロブリンのFc領域、アルブミン、アルブミンドメイン3、Christiansonら(mAbs (2012) 4 (2), 208-216)等で記載される抗FcRn抗体、WO2007/098420等で記載される抗FcRnペプチド、抗FcRn足場(Scaffold)分子等、あるいは間接的にFcRnに対する結合活性を有するIgGやアルブミンに結合する分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめpH酸性域においてFcRnに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインがpH酸性域においてFcRnに対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中のFcRn結合ドメインを形成するアミノ酸を改変してFcRnに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめpH酸性域においてFcRnに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、pH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を高めてもよい。FcRn結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。
Fc領域
Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216位のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。そのようなFc領域の非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域が例示される。
pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン
前記のように、本発明の非限定な一態様においては、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとしてヒトIgG型免疫グロブリンのFc領域が使用される。当該ドメインとして、あらかじめpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有しているFc領域であればそのまま用いられ得るが、そのようなFc領域として、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。また、Fc領域のpH酸性域の条件下におけるFcRnに対する結合活性がない若しくは弱い場合には、当該Fc領域中のアミノ酸を改変することによって所望のFcRnに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。また、Fc領域中のアミノ酸を改変することによってpH酸性域の条件下でFcRnに対する所望の結合活性を有する、または増強されたFc領域も好適に取得され得る。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。例えば、前記「FcRn、特にヒトFcRnに対するFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性」の項で記載された方法によって、そのようなアミノ酸改変が見出され得る。
そのような改変の非限定な一態様として、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を増強するFc領域の改変を下記に例示する。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域(出発Fc領域)としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定な一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで表されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
他のアミノ酸への改変は、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、もしくは酸性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。本発明の抗原結合分子が、FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、国際公開WO1997/034631に記載されているように、EUナンバリングで表される252位、254位、256位、309位、311位、315位、433位、および/または434位ならびにこれらのアミノ酸に組み合わせる253位、310位、435位、および/または426位のアミノ酸が挙げられる。国際公開WO2000/042072に記載されるように、EUナンバリングで表される238位、252位、253位、254位、255位、256位、265位、272位、286位、288位、303位、305位、307位、309位、311位、312位、317位、340位、356位、360位、362位、376位、378位、380位、382位、386位、388位、400位、413位、415位、424位、433位、434位、435位、436位、439位および/または447位のアミノ酸が好適に挙げられる。同様に、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2002/060919に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、254位、255位、256位、308位、309位、311位、312位、385位、386位、387位、389位、428位、433位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。さらに、そのような改変が可能なアミノ酸として、国際公開WO2004/092219に記載されているように、EUナンバリングで表される250位、314位および428位のアミノ酸も挙げられる。加えて、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2006/020114に記載されているように、238位、244位、245位、249位、252位、256位、257位、258位、260位、262位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、307位、311位、312位、316位、317位、318位、332位、339位、341位、343位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、423位、427位、430位、431位、434位、436位、438位、440位、および/または442位のアミノ酸も好適に挙げられる。また、そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば国際公開WO2010/045193に記載されているように、EUナンバリングで表される251位、252位、307位、308位、378位、428位、430位、434位および/または436位のアミノ酸も好適に挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH酸性域の条件下におけるFcRnに対する結合が増強される。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
251位のアミノ酸がArgまたはLeuのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、またはThrのいずれか、
308位のアミノ酸がIleまたはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がPro、
311位のアミノ酸がGlu、Leu、またはSerのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはAspのいずれか、
314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか
433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
434位のアミノ酸がHis、Phe、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Lys、Met、またはThrのいずれか、
の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、308位のアミノ酸がIle、309位のアミノ酸がPro、および/または311位のアミノ酸がGluを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がLeu、312位のアミノ酸がAla、および/または314位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がIleまたはThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がGlu、Leu、またはSer、312位のアミノ酸がAla、および/または314位のアミノ酸がAlaまたはLeuを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、308位のアミノ酸がThr、309位のアミノ酸がPro、311位のアミノ酸がSer、312位のアミノ酸がAsp、および/または314位のアミノ酸がLeuを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、251位のアミノ酸がLeu、252位のアミノ酸がTyr、254位のアミノ酸がSer、またはThr、255位のアミノ酸がArg、および/または256位のアミノ酸がGluを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか、433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、434位のアミノ酸がHis、Phe、またはTyrのいずれか、および/または436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Lys、Met、またはThrのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、428位のアミノ酸がHisまたはMet、および/または434位のアミノ酸がHisまたはMetを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、385位のアミノ酸がArg、386位のアミノ酸がThr、387位のアミノ酸がArg、および/または389位のアミノ酸がProを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、385位のアミノ酸がAsp、386位のアミノ酸がProおよび/または389位のアミノ酸がSerを含む改変であり得る。
さらに、FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれか、
の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所のアミノ酸が改変され得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、250位のアミノ酸がGln、および/または428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、250位のアミノ酸がGlu、および/または428位のアミノ酸がLeuまたはPheのいずれかを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
251位のアミノ酸がAspまたはGluのいずれか、
252位のアミノ酸がTyr、
307位のアミノ酸がGln、
308位のアミノ酸がPro、
378位のアミノ酸がVal、
380位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がLeu、
430位のアミノ酸がAla、またはLysのいずれか、
434位のアミノ酸がAla、His、Ser、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がIle、
の群から選択される少なくとも二つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、二箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、三箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、307位のアミノ酸がGln、および434位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、252位のアミノ酸がTyr、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、378位のアミノ酸がVal、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。当該改変の別の異なる非限定な一態様は、428位のアミノ酸がLeu、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の異なる非限定な一態様は、434位のアミノ酸がAla、および436位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。さらに、当該改変のもう一つの非限定な一態様は、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がTyrを含む改変であり得る。さらに、当該改変の別のもう一つの非限定な一態様は、307位のアミノ酸がGln、および436位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、307位のアミノ酸がGln、380位のアミノ酸がAla、および434位のアミノ酸がSerのいずれかを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、307位のアミノ酸がGln、380位のアミノ酸がAla、および434位のアミノ酸がAlaを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、252位のアミノ酸がTyr、308位のアミノ酸がPro、および434位のアミノ酸がTyrを含む改変であり得る。当該改変の異なる非限定な一態様は、251位のアミノ酸がAsp、307位のアミノ酸がGln、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様では、EUナンバリングで表される、
238位のアミノ酸がLeu、
244位のアミノ酸がLeu、
245位のアミノ酸がArg、
249位のアミノ酸がPro、
252位のアミノ酸がTyr、
256位のアミノ酸がPro、
257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、
260位のアミノ酸がSer、
262位のアミノ酸がLeu、
270位のアミノ酸がLys、
272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsn、
286位のアミノ酸がPhe、
288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
293位のアミノ酸がVal、
307位のアミノ酸がAla、Glu、またはMetのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Ile、Lys、Leu、Met、Val、またはTrpのいずれか、
312位のアミノ酸がPro、
316位のアミノ酸がLys、
317位のアミノ酸がPro、
318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
341位のアミノ酸がPro、
343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
375位のアミノ酸がArg、
376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
377位のアミノ酸がLys、
378位のアミノ酸がAsp、またはAsnのいずれか、
380位のアミノ酸がAsn、Ser、またはThrのいずれか、
382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
423位のアミノ酸がAsn、
427位のアミノ酸がAsn、
430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
434位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Trp、またはTyrのいずれか、
436位のアミノ酸がIle、Leu、、またはThrのいずれか、
438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
440位のアミノ酸がLys、もしくは、
442位のアミノ酸がLys、
の群から選択される少なくとも二つ以上のアミノ酸の改変が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、二箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、三箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
FcRn結合ドメインとしてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変の非限定な一態様は、EUナンバリングで表される、257位のアミノ酸がIle、および311位のアミノ酸がIleを含む改変であり得る。また、当該改変の別の非限定な一態様は、257位のアミノ酸がIle、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。また、当該改変のさらに別の非限定な一態様は、376位のアミノ酸がVal、および434位のアミノ酸がHisを含む改変であり得る。
pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン
本発明の抗原結合分子は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む。FcRn結合ドメインは、抗原結合分子がpH中性域においてFcRnに対する結合活性を有していれば特に限定されず、また、直接または間接的にFcRnに対して結合活性を有するドメインであってもよい。そのようなドメインとしては、例えば、直接的にFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとして、例えばWO2011/122011等で記載されるIgG型免疫グロブリンのFc領域、Christiansonら(mAbs (2012) 4 (2), 208-216)等で記載される抗FcRn抗体、WO2007/098420等で記載される抗FcRnペプチド、抗FcRn足場(Scaffold)分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめpH中性域においてFcRnに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインがpH中性域においてFcRnに対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中のFcRn結合ドメインを形成するアミノ酸を改変してFcRnに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめpH中性域においてFcRnに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、pH中性域におけるFcRnに対する結合活性を高めてもよい。FcRn結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH中性域におけるFcRnに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。
例えば、直接的にFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとして、Christiansonら(mAbs (2012) 4 (2), 208-216)等で記載される抗FcRn抗体の可変領域が好適に使用される。当該可変領域のFcRnに対する結合活性がpH非依存的である場合には、本発明の抗原結合分子に含まれるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインの両機能は、一つの抗FcRn抗体の可変領域の機能で達成され得る。また、当該可変領域のFcRnに対する結合活性がpH依存的な抗原結合ドメインは、前記の「水素イオン濃度の条件」または「水素イオン濃度の条件によって抗原に対する抗原結合ドメインの結合活性を変化させるアミノ酸」の項で記載された方法に準じて取得することが可能である。
前記のように、一般的にIgG抗体はFcRnに結合することで長い血漿中滞留性を有することが知られているが、IgGとFcRnの結合は酸性条件下(pH6.0)においてのみ認められ、中性条件下(pH7.4)においてほとんど結合は認められない。よって、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとして、Fc領域を用いる場合には、当該Fc領域中のアミノ酸を改変することによってpH中性域の条件下でFcRnに対する所望の結合活性を有する、または増強されたFc領域が好適に取得される。そのような所望の結合活性をもたらすFc領域のアミノ酸改変は、アミノ酸改変前と改変後のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を比較することによって見出され得る。例えば、前記「FcRn、特にヒトFcRnに対するFcRn結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子の結合活性」の項で記載された方法によって、そのようなアミノ酸改変が見出され得る。
そのような改変の非限定な一態様として、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を増強するFc領域の改変を下記に例示する。出発Fc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。他のアミノ酸への改変は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有する、もしくは中性域の条件下でヒトFcRnに対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のサブクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、国際公開WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定な一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで表されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 20μMまたはそれより強いFc領域、より好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 2.0μMまたはそれより強いFc領域、さらにより好ましい態様においては、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性がKD 0.5μMまたはそれより強いFc領域、を含む抗原結合分子がスクリーニングされ得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えば、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、または配列番号:17でそれぞれ表されるIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4等のヒトIgG、およびそれらの改変体のFc領域が挙げられる。
抗原結合分子が、ヒトFcRn結合領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリング221位〜225位、227位、228位、230位、232位、233位〜241位、243位〜252位、254位〜260位、262位〜272位、274位、276位、278位〜289位、291位〜312位、315位〜320位、324位、325位、327位〜339位、341位、343位、345位、360位、362位、370位、375位〜378位、380位、382位、385位〜387位、389位、396位、414位、416位、423位、424位、426位〜438位、440位および442位の位置のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合が増強される。
本発明に使用するために、これらの改変のうち、pH中性域においてもヒトFcRnに対する結合を増強する改変が適宜選択される。特に好ましいFc領域改変体のアミノ酸として、例えばEUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位および436位のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸を他のアミノ酸に置換することによって、抗原結合分子に含まれるFc領域のpH中性域におけるヒトFcRnに対する結合活性を増強することができる。
特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される
237位のアミノ酸がMet、
248位のアミノ酸がIle、
250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
254位のアミノ酸がThr、
255位のアミノ酸がGlu、
256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
258位のアミノ酸がHis、
265位のアミノ酸がAla、
286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
289位のアミノ酸がHis、
297位のアミノ酸がAla、
303位のアミノ酸がAla、
305位のアミノ酸がAla、
307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
317位のアミノ酸がAla、
332位のアミノ酸がVal、
334位のアミノ酸がLeu、
360位のアミノ酸がHis、
376位のアミノ酸がAla、
380位のアミノ酸がAla、
382位のアミノ酸がAla、
384位のアミノ酸がAla、
385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
386位のアミノ酸がPro、
387位のアミノ酸がGlu、
389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
424位のアミノ酸がAla、
428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
433位のアミノ酸がLys、
434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。これらのアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表5−1〜5−33に示すアミノ酸の改変が挙げられる。
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Fcγレセプター
Fcγレセプターとは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得るレセプターをいい、実質的にFcγレセプター遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(FcγRIV、CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγレセプターの好適な例としてはヒトFcγRI(CD64)、FcγRIIa(CD32)、FcγRIIb(CD32)、FcγRIIIa(CD16)及び/又はFcγRIIIb(CD16)が挙げられる。FcγRIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:18(NM_000566.3)及び19(NP_000557.1)に、FcγRIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:20(BC020823.1)及び21(AAH20823.1)に、FcγRIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:22(BC146678.1)及び23(AAI46679.1)に、FcγRIIIaのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:24(BC033678.1)及び25(AAH33678.1)に、及びFcγRIIIbのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:26(BC128562.1)及び27(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)は、IgGのFc部分と結合するα鎖と細胞内に活性化シグナルを伝達するITAMを有する共通γ鎖が会合する。一方、アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32)の自身の細胞質ドメインにはITAMが含まれている。これらのレセプターは、マクロファージやマスト細胞、抗原提示細胞等の多くの免疫細胞に発現している。これらのレセプターがIgGのFc部分に結合することによって伝達される活性化シグナルによって、マクロファージの貪食能や炎症性サイトカインの産生、マスト細胞の脱顆粒、抗原提示細胞の機能亢進が促進される。上記のように活性化シグナルを伝達する能力を有するFcγレセプターは、本発明においても活性型Fcγレセプターと呼ばれる。
脳組織内のホメオパシーに関与するミクログリア細胞は、炎症性、感染性または病態生理学的な刺激(stimuli)に対して、運動性、細胞の形状、貪食機能、サイトカイン、ケモカイン、活性酸素種およびプロスタグランジン代謝物の放出、ならびに自然免疫または適応免疫の機能分子を発現する。こうした分子にはtoll様受容体(TLR)、主要組織適合性複合体(MHC)II分子、Fcγレセプターおよび補体複合体が含まれる。当該刺激に応答してミクログリア細胞は休止状態から活性化状態にトランスフォームする。
ミクログリア細胞は、活性型FcRであるFcγRIIIa(CD16)、FcγRIIa(CD32)およびFcγRIa(CD64)を発現し(Peressら(Clin. Immunol. Immunopathol. (1989) 53 268-280))、 対応するIgGのサブタイプを介して抗原を貪食することが知られている。さらに多発性硬化症病巣のような神経変性を示す脳の領域では、ミクログリアに発現するFcRの発現が上昇しており(Ulvestadら(J. Neurological. Sci. (1994) 121 (2), 125-131))、IgGによってオプソニン化された抗原から周辺の組織を保護するFcRの役割が示唆されている(Peressら(Clin. Immunol. Immunopathol. (1989) 53 268-280))。なお、「オプソニン化」とは、生体にとって異物である抗原にオプソニンが結合して当該抗原を貪食細胞により摂取することができるようにすることをいう。貪食細胞および抗原に結合して当該抗原が貪食作用を受けやすくする血清因子をオプソニンと呼び、その例として抗体または補体が例示される。また、ミクログリアがアミロイドβのクリアランスに寄与することによってアルツハイマー病においてFcRが、アミロイドβの分解に役割を果たすことが示されている(Bardら(Nat. Medicine (2000) 6 (8), 916-919))。本発明の抗原結合分子に含まれるFcγR結合ドメインは、ミクログリア細胞に発現するこうした活性型FcRであるFcγRIIIa(CD16)、FcγRIIa(CD32)およびFcγRIa(CD64)に結合するFcγR結合ドメインが好適に使用され得る。
Fcγレセプターに対する結合活性
本発明の抗原結合分子に含まれるFcγR結合ドメインのFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性は、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたFcγR結合ドメインを含む抗原結合分子が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγレセプターが結合される。競合する改変FcγR結合ドメインを有する抗原結合分子の非存在下では、野生型FcγR結合ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない改変FcγR結合ドメインを含む抗原結合分子は、野生型FcγR結合ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプター間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等の抗原結合分子をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。FcγレセプターをGSTでタグ化する方法としては、FcγレセプターをコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子が作用可能に連結されたベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウエアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
本発明の抗原結合分子に含まれるFcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとの結合活性を測定するpHの条件はpH酸性域またはpH中性域の条件が適宜使用され得る。本発明のFcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとの結合活性を測定する条件としてのpH中性域とは、通常pH6.7〜pH10.0を意味する。好ましくはpH7.0〜pH8.0の任意のpH値によって示される範囲であり、好ましくはpH7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、および8.0から選択され、特に好ましくは生体内の血漿中(血中)のpHに近いpH7.4である。本発明において、本発明のFcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとの結合活性を有する条件としてのpH酸性域とは、通常pH4.0〜pH6.5を意味する。好ましくはpH5.5〜pH6.5を意味し、特に好ましくは、生体内の早期エンドソーム内のpHに近いpH5.8〜pH6.0を意味する。測定条件に使用される温度として、FcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とヒトFcγレセプターとの結合アフィニティは、10℃〜50℃の任意の温度で評価され得る。好ましくは、FcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとの結合アフィニティを決定するために、15℃〜40℃の温度が使用される。より好ましくは、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、および35℃のいずれか1つのような20℃から35℃までの任意の温度も同様に、FcγR結合ドメインまたは当該ドメインを含む抗原結合分子とFcγレセプターとの結合アフィニティを決定するために使用される。25℃という温度は本発明の態様の非限定な一例である。
FcγR結合ドメイン
本発明の抗原結合分子は、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインに加えてFcγR結合ドメインを含むことも可能である。FcγR結合ドメインとしては、例えば、IgG型免疫グロブリンのFc領域、抗FcγR抗体、抗FcγR足場(Scaffold)分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめFcγRに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインがFcγRに対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中のFcγR結合ドメインを形成するアミノ酸を改変してFcγRに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめFcγRに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、FcγRに対する結合活性を高めてもよい。FcγR結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後のFcγRに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。例えば、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとしてIgG型抗体のFc領域が使用される場合には、FcγR結合ドメインとして当該Fc領域に含まれるFcγR結合ドメインが使用され得る。
そのようなFcγR結合ドメインの非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域に含まれるFcγR結合ドメインが例示される。また、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で例示される天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域も使用され得る。
本明細書において、Fc領域のヒトFcγレセプターに対する結合活性がFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性がこれらのヒトFcγレセプターに対する天然型ヒトIgGのFc領域の結合活性よりも高いとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするヒトIgGのFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較して被検Fc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性が、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう。
Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性がFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも高いFc領域は、天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。ここでいう天然型Fc領域とは、EUナンバリング297位の糖鎖がフコース結合型の複合型糖鎖である天然型Fc領域を指す。Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性が、天然型Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性より高いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域においてヒトFcγレセプターに結合することができる限り、いずれのFc領域も出発ドメインとして使用され得る。出発Fc領域の例としては、ヒトIgG抗体のFc領域、すなわちEUナンバリング297位の糖鎖がフコース結合型の複合型糖鎖である天然型のFc領域が好適に挙げられる。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のIgG抗体のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域の好適な例として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が好適に使用され得る。これらのFc領域の構造を、配列番号:14(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、16(RefSeq登録番号CAA27268.1)、17(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載した。また、ある特定のアイソタイプの抗体を出発Fc領域として改変されたFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を含む抗原結合分子を対照として用いることによって、当該改変Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
他のアミノ酸への改変は、pH中性域におけるFcγレセプターに対する結合活性を有する、もしくは中性域におけるFcγレセプター結合に対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域におけるFcγレセプターに対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。pH中性域の条件下でのFcγレセプターに対する結合活性を増強するためのアミノ酸改変としては、例えばWO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260およびWO2006/023403などにおいて報告されている。
そのような改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される221位、222位、223位、224位、225位、227位、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、246位、247位、249位、250位、251位、254位、255位、256位、258位、260位、262位、263位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、270位、271位、272位、273位、274位、275位、276位、278位、279位、280位、281位、282位、283位、284位、285位、286位、288位、290位、291位、292位、293位、294位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、301位、302位、303位、304位、305位、311位、313位、315位、317位、318位、320位、322位、323位、324位、325位、326位、327位、328位、329位、330位、331位、332位、333位、334位、335位、336位、337位、339位、376位、377位、378位、379位、380位、382位、385位、392位、396位、421位、427位、428位、429位、434位、436位および440位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域におけるFcγレセプターに対する結合が増強される。
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
221位のアミノ酸がLysまたはTyrのいずれか、
222位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
223位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはLysのいずれか、
224位のアミノ酸がPhe、Trp、GluまたはTyrのいずれか、
225位のアミノ酸がGlu、LysまたはTrpのいずれか、
227位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
228位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
230位のアミノ酸がAla、Glu、GlyまたはTyrのいずれか、
231位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
232位のアミノ酸がGlu、Gly、LysまたはTyrのいずれか、
233位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
234位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
235位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
236位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
238位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
239位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
240位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
241位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
243位のアミノ酸がLeu、Glu、Leu、Gln、Arg、TrpまたはTyrのいずれか、
244位のアミノ酸がHis、
245位のアミノ酸がAla、
246位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
247位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
249位のアミノ酸がGlu、His、GlnまたはTyrのいずれか、
250位のアミノ酸がGluまたはGlnのいずれか、
251位のアミノ酸がPhe、
254位のアミノ酸がPhe、MetまたはTyrのいずれか、
255位のアミノ酸がGlu、LeuまたはTyrのいずれか、
256位のアミノ酸がAla、MetまたはProのいずれか、
258位のアミノ酸がAsp、Glu、His、SerまたはTyrのいずれか、
260位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
262位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、IleまたはThrのいずれか、
263位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
264位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
265位のアミノ酸がAla、Leu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
266位のアミノ酸がAla、Ile、MetまたはThrのいずれか、
267位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
269位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
270位のアミノ酸がGlu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
271位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
273位のアミノ酸がPheまたはIleのいずれか、
274位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
275位のアミノ酸がLeuまたはTrpのいずれか、
276位のアミノ酸が、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
278位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
279位のアミノ酸がAla、
280位のアミノ酸がAla、Gly、His、Lys、Leu、Pro、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
281位のアミノ酸がAsp、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
282位のアミノ酸がGlu、Gly、Lys、ProまたはTyrのいずれか、
283位のアミノ酸がAla、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、ArgまたはTyrのいずれか、
284位のアミノ酸がAsp、Glu、Leu、Asn、ThrまたはTyrのいずれか、
285位のアミノ酸がAsp、Glu、Lys、Gln、TrpまたはTyrのいずれか、
286位のアミノ酸がGlu、Gly、ProまたはTyrのいずれか、
288位のアミノ酸がAsn、Asp、GluまたはTyrのいずれか、
290位のアミノ酸がAsp、Gly、His、Leu、Asn、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、291位のアミノ酸がAsp、Glu、Gly、His、Ile、GlnまたはThrのいずれか、
292位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、ThrまたはTyrのいずれか、
293位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
294位のアミノ酸がPhe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、ThrまたはValのいずれか、
297位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
298位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、His、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
299位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、ValまたはTrpのいずれか、
301位のアミノ酸がAsp、Glu、HisまたはTyrのいずれか、
302位のアミノ酸がIle、
303位のアミノ酸がAsp、GlyまたはTyrのいずれか、
304位のアミノ酸がAsp、His、Leu、AsnまたはThrのいずれか、
305位のアミノ酸がGlu、Ile、ThrまたはTyrのいずれか、
311位のアミノ酸がAla、Asp、Asn、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
313位のアミノ酸がPhe、
315位のアミノ酸がLeu、
317位のアミノ酸がGluまたはGln、
318位のアミノ酸がHis、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
320位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Asn、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
322位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Pro、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
323位のアミノ酸がIle、
324位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
325位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
326位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
327位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
328位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
329位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
330位のアミノ酸がCys、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
331位のアミノ酸がAsp、Phe、His、Ile、Leu、Met、Gln、Arg、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
332位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
333位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはTyrのいずれか、
334位のアミノ酸がAla、Glu、Phe、Ile、Leu、ProまたはThrのいずれか、
335位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、His、Ile、Leu、Met、Asn、Pro、Arg、Ser、Val、TrpまたはTyrのいずれか、
336位のアミノ酸がGlu、LysまたはTyrのいずれか、
337位のアミノ酸がGlu、HisまたはAsnのいずれか、
339位のアミノ酸がAsp、Phe、Gly、Ile、Lys、Met、Asn、Gln、Arg、SerまたはThrのいずれか、
376位のアミノ酸がAlaまたはValのいずれか、
377位のアミノ酸がGlyまたはLysのいずれか、
378位のアミノ酸がAsp、
379位のアミノ酸がAsn、
380位のアミノ酸がAla、AsnまたはSerのいずれか、
382位のアミノ酸がAlaまたはIleのいずれか、
385位のアミノ酸がGlu、
392位のアミノ酸がThr、
396位のアミノ酸がLeu、
421位のアミノ酸がLys、
427位のアミノ酸がAsn、
428位のアミノ酸がPheまたはLeuのいずれか、
429位のアミノ酸がMet、
434位のアミノ酸がTrp、
436位のアミノ酸がIle、
440位のアミノ酸がGly、His、Ile、LeuまたはTyrのいずれか、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。二箇所以上のアミノ酸の改変の組合せとしては、例えば表6(表6−1〜表6−3)に記載されるような組合せが挙げられる。
Figure 2014043405
Figure 2014043405
Figure 2014043405
糖鎖が修飾されたFc領域
本発明が提供する抗原結合分子に含まれる「Fc領域のFcγレセプターに対する結合活性がFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも高いFc領域」として、Fc領域に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾されたFc領域も使用され得る。抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基を除去すると、FcγRIIIaに対する親和性が増強されることが知られている(Satohら(Expert Opin. Biol. Ther. (2006) 6 (11), 1161-1173))。よって、当該Fc領域を含む抗原結合分子は、本発明の医薬組成物に含まれる抗原結合分子としても有用である。抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基が除去された抗体としては、例えば、次のような抗体;
グリコシル化が修飾された抗体(国際公開WO1999/054342等)、
糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(国際公開WO2000/061739、WO2002/031140、WO2006/067913等)、
より具体的には、抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基が除去された抗体の異なる非限定の一態様として、糖鎖に付加するフコースが欠損した抗体(国際公開WO2000/061739、WO2002/031140、WO2006/067913等)を作製するために、糖鎖修飾を受けるポリペプチドの糖鎖構造を形成する活性が改変された結果、糖鎖にフコースを付加する能力が低い宿主細胞が作製される。当該宿主細胞において所望の抗体遺伝子を発現することによって、当該宿主細胞の培養液からその糖鎖中のフコースが欠損した当該抗体が回収され得る。ポリペプチドの糖鎖構造を形成する活性として、フコシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.152)、フコーストランスポーター(SLC35C1)、GMD(GDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ)(EC 4.2.1.47)、Fx(GDP-ケト-6-デオキシマンノース3,5-エピメラーゼ,4-レダクターゼ)(EC 1.1.1.271)、およびGFPP(GDP-β-L-フコースピロフォスフォリラーゼ)(EC 2.7.7.30)からなる群から選択される酵素またはトランスポーターの活性が非限定の好適な例として挙げられ得る。これらの酵素またはトランスポーターは、その活性を発揮することができれば必ずしもその構造は特定されない。本明細書においては、これらの活性を発揮することが可能なタンパク質を機能性タンパク質という。これらの活性を改変する方法の非限定の一態様として、これらの活性の欠失が挙げられる。これらの活性が欠失した宿主細胞を作製するために、これらの機能性タンパク質の遺伝子を機能不能に破壊する方法等公知の方法が適宜採用され得る(国際公開WO2000/061739、WO2002/031140、WO2006/067913等)。そのような活性が欠失した宿主細胞は、CHO細胞、BHK細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、YO骨髄腫細胞、P3X63マウス骨髄腫細胞、PER細胞、PER.C6細胞、HEK293細胞、またはハイブリドーマ細胞等に内在性であるこれらの機能性タンパク質の遺伝子を機能不能に破壊する方法等によって作製され得る。
バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体(国際公開WO2002/079255等)が公知である。非限定な一態様では、バイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体を作製するために、GnTIII(β-1,4-マンノシル-グリコプロテイン,4-β-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ)(EC 2.4.1.144)活性またはGalT(β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ)(EC 2.4.1.38)活性を有する機能性タンパク質をコードする遺伝子を発現する宿主細胞が作製される。別の非限定の好適な一態様では、前記の機能性タンパク質に加えて、ヒトManII(マンノシダーゼII)(3.2.1.114)活性を有する機能性タンパク質をコードする遺伝子、GnTI(β-1,2-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI)(EC 2.4.1.94)活性を有する機能性タンパク質をコードする遺伝子、GnTII(β-1,2-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼII)(EC 2.4.1.143)活性を有する機能性タンパク質をコードする遺伝子、ManI(マンノシダーゼ)(EC 3.2.1.113)活性を有する機能性タンパク質をコードする遺伝子、およびα-1,6-フコシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.68)と共発現する宿主細胞が作製される(国際公開WO2004/065540)。
前記のような糖鎖にフコースを付加する能力が低い宿主細胞、およびバイセクティングGlcNAc構造を含む糖鎖を形成する活性を有する宿主細胞に抗体遺伝子を含む発現ベクターを形質導入することによって、抗体Fc領域に結合するN -グリコシド結合複合型糖鎖還元末端のN -アセチルグルコサミンからフコース残基が除去された抗体、およびバイセクティングGlcNAcを有する糖鎖を有する抗体がそれぞれ作製され得る。これらの抗体の製造方法は本発明のFc領域に結合した糖鎖の組成がフコース欠損糖鎖を結合したFc領域の割合が高くなるように、またはバイセクティングN-アセチルグルコサミンが付加したFc領域の割合が高くなるように修飾された改変Fc領域を含む抗原結合分子の製造方法にも適用することが可能である。こうした製造方法によって作製された本発明の抗原結合分子に含まれるFc領域に結合した糖鎖の組成は、前記の「Fcγレセプター(FcγR)結合改変Fc領域」で記載された方法によって確認され得る。
補体レセプター
補体レセプターとは、単核球、好中級、好酸球、好塩基球、B細胞、T細胞、NK細胞等の赤血球、および血小板等の免疫細胞に発現する補体系を形成する補体タンパク質リガンドのいずれかに結合することが可能なレセプターをいい、リガンドとレセプターとの結合によって当該レセプターを発現する免疫細胞の化学誘因(chemoattraction)、脱顆粒、貪食の促進、免疫複合体の除去、免疫複合体に結合したC3bのプロセッシング、B細胞の増殖、代替経路の活性化、NOの生成、活性酸素代謝物の生成、貪食、白血球遊走(leucocyte migration)、血小板凝集等の機能が発揮される(Leslieら(eLS (2009) 1-8))。補体系は、約30のタンパク質の集まりから構成され、免疫系の主要なエフェクター機構の一つである。補体カスケードは、基本的に古典経路(classical pathway)または代替経路(alterenative pathway)のいずれか一方を介して活性化される。いずれの経路を介した活性化であっても、C3転換酵素の生成をもたらす。この酵素は、上記カスケードの中心的な酵素複合体である。C3転換酵素は、血清C3を切断してC3aとC3bとに分け、後者は活性部位に共有結合してC3転移酵素(増幅ループ)をさらに生成する。活性化産物であるC3b(および古典経路を介してのみ生成されるC4bも同様)ならびにその分解産物は、重要なオプソニンであり、免疫結合体の輸送および可溶化を促進させることに関与する。C3/C4活性化産物および免疫系の種々の細胞上にあるそのレセプターもまた、細胞性免疫反応の調節にとって重要である。ミクログリア細胞の細胞膜には補体レセプターであるC5aR、CR3、CR4、およびC1qRpが、星状膠細胞(astrocyte)にはC5aR、およびCR2が発現することが知られている(Leslieら(eLS (2009) 1-8))。
本発明の抗原結合分子に含まれる補体結合ドメインの補体成分に対する結合活性は、前記の「Fcγレセプターに対する結合活性」の項で説明した、FACS、ELISAフォーマット、ALPHAスクリーンまたは表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等による方法に準じて測定することが可能である。BIACORE法等による測定方法の非限定な一例としてWO2011/091078に例示される方法が使用される。
補体結合ドメイン
本発明の抗原結合分子は、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインに加えて補体結合ドメインを含むことも可能である。当該ドメインが結合する補体としては、補体カスケードを形成するポリペプチドであればいずれの補体成分も使用され得るが、好ましい補体としては、オプソニンの結合に関与するC1q、C1rまたはC1sの補体成分が好適に挙げられる。補体結合ドメインとしては、例えば、IgG型免疫グロブリンのFc領域、抗補体抗体、、抗補体足場(Scaffold)分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめ補体に対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインが補体に対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中の補体結合ドメインを形成するアミノ酸を改変して補体に対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめ補体に対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、補体に対する結合活性を高めてもよい。補体結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後の補体に対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。例えば、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとしてIgG型抗体のFc領域が使用される場合には、FcγR結合ドメインとして当該Fc領域に含まれる補体結合ドメインが使用され得る。
そのような補体結合ドメインの非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域に含まれる補体結合ドメインが例示される。また、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で例示される天然型ヒトIgGのFc領域の補体に対する結合活性よりも補体に対する結合活性が高い補体結合改変Fc領域も使用され得る。
本明細書において、Fc領域の補体に対する結合活性がこれらの補体に対する天然型ヒトIgGのFc領域の結合活性よりも高いとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするヒトIgGのFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較して被検Fc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性が、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう。
Fc領域の補体に対する結合活性が補体に対する天然型Fc領域の結合活性よりも高いFc領域は、天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。ここでいう天然型Fc領域とは、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域を指す。Fc領域の補体に対する結合活性が、天然型Fc領域の補体に対する結合活性より高いか否かは、前記の「補体レセプター」の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
本発明において、Fc領域の「アミノ酸の改変」または「アミノ酸改変」とは、出発Fc領域のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列に改変することを含む。出発Fc領域の修飾改変体がpH中性域において補体に結合することができる限り、いずれのFc領域も出発ドメインとして使用され得る。また、既に改変が加えられたFc領域を出発Fc領域としてさらなる改変が加えられたFc領域も本発明のFc領域として好適に使用され得る。出発Fc領域とは、ポリペプチドそのもの、出発Fc領域を含む組成物、または出発Fc領域をコードするアミノ酸配列を意味し得る。出発Fc領域には、抗体の項で概説された組換えによって産生された公知のIgG抗体のFc領域が含まれ得る。出発Fc領域の起源は、限定されないが非ヒト動物の任意の生物またはヒトから取得され得る。好ましくは、任意の生物としては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、アレチネズミ、ネコ、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、および非ヒト霊長類から選択される生物が好適に挙げられる。別の態様において、出発Fc領域はまた、カニクイザル、マーモセット、アカゲザル、チンパンジー、またはヒトから取得され得る。好ましくは、出発Fc領域は、ヒトIgG1から取得され得るが、IgGの特定のクラスに限定されるものでもない。このことは、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc領域を出発Fc領域として適宜用いることができることを意味する。同様に、本明細書において、前記の任意の生物からのIgGの任意のクラスまたはサブクラスのFc領域を、好ましくは出発Fc領域として用いることができることを意味する。天然に存在するIgGのバリアントまたは操作された型の例は、公知の文献(Curr. Opin. Biotechnol. (2009) 20 (6), 685-91、Curr. Opin. Immunol. (2008) 20 (4), 460-470、Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4), 195-202、WO2009/086320、WO2008/092117、WO2007/041635、およびWO2006/105338)に記載されるがそれらに限定されない。
改変の例としては一以上の変異、例えば、出発Fc領域のアミノ酸とは異なるアミノ酸残基に置換された変異、あるいは出発Fc領域のアミノ酸に対して一以上のアミノ酸残基の挿入または出発Fc領域のアミノ酸から一以上のアミノ酸の欠失等が含まれる。好ましくは、改変後のFc領域のアミノ酸配列には、天然に生じないFc領域の少なくとも部分を含むアミノ酸配列を含む。そのような変種は必然的に出発Fc領域と100%未満の配列同一性または類似性を有する。好ましい実施形態において、変種は出発Fc領域のアミノ酸配列と約75%〜100%未満のアミノ酸配列同一性または類似性、より好ましくは約80%〜100%未満、より好ましくは約85%〜100%未満の、より好ましくは約90%〜100%未満、最も好ましくは約95%〜100%未満の同一性または類似性のアミノ酸配列を有する。本発明の非限定の一態様において、出発Fc領域および本発明の改変されたFc領域の間には少なくとも1つのアミノ酸の差がある。出発Fc領域と改変Fc領域のアミノ酸の違いは、特に前述のEUナンバリングで特定されるアミノ酸残基の位置の特定されたアミノ酸の違いによっても好適に特定可能である。
本発明の抗原結合分子に含まれるpH中性域における補体に対する結合活性を有するFc領域はいかなる方法によっても取得され得るが、具体的には、出発Fc領域として用いられるヒトIgG型免疫グロブリンのアミノ酸の改変によってpH中性域における補体に対する結合活性を有するFc領域が取得され得る。改変のための好ましいIgG型免疫グロブリンのFc領域としては、例えばヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が挙げられる。ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域の好適な例として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4、およびそれらの改変体)のFc領域が好適に使用され得る。これらのFc領域の構造を、配列番号:14(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、16(RefSeq登録番号CAA27268.1)、17(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載した。また、ある特定のアイソタイプの抗体を出発Fc領域として改変されたFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を含む抗原結合分子を対照として用いることによって、当該改変Fc領域を含む抗原結合分子による補体に対する結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、補体に対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
他のアミノ酸への改変は、pH中性域における補体に対する結合活性を有する、もしくは中性域における補体結合に対する結合活性を高められるかぎり、いかなる位置のアミノ酸も改変され得る。抗原結合分子が、ヒトFc領域としてヒトIgG1のFc領域を含んでいる場合、pH中性域における補体に対する結合が、ヒトIgG1の出発Fc領域の結合活性より増強する効果をもたらす改変が含まれていることが好ましい。pH中性域の条件下での補体に対する結合活性を改変するためのアミノ酸としては、例えばDuncanら(Nature (1988) 332, 738-740)、Taoら(J. Exp. Med.(1993) 178, 661-667)、Brekkeら(Eur. J. Immunol. (1994) 24, 2542-2547)、Xuら(Immunol. (1993) 150, 152A)、 WO1994/029351、WO2000/ 042072およびWO2011/091078等において報告されているC1qに対する結合活性が改変されたFc領域のアミノ酸が例示される。
そのようなC1qに対する結合活性が増強される改変が可能なアミノ酸として、例えば、EUナンバリングで表される231位から238位、318位から337位から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸が挙げられる。当該アミノ酸の非限定な一例として235位、237位、267位、268位、276位、318位、320位、322位、324位、327位、331位、および333位の群から選択される少なくともひとつ以上のアミノ酸が挙げられる。これらのアミノ酸の改変によって、IgG型免疫グロブリンのFc領域のpH中性域における補体に対する結合が増強される。
本発明に使用するために、特に好ましい改変としては、例えば、Fc領域のEUナンバリングで表される;
267位のアミノ酸がGlu、
268位のアミノ酸がPheまたはTyrのいずれか、
276位のアミノ酸がArg、
324位のアミノ酸がThr、
327位のアミノ酸がGly、
331位のアミノ酸がPro、もしくは
333位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、SerまたはValのいずれか、
が挙げられる。また、改変されるアミノ酸の数は特に限定されず、一箇所のみのアミノ酸が改変され得るし、これらが任意に組み合わせられた二箇所以上のアミノ酸が改変され得る。
脳疾患に固有に脳組織内に存在する可溶型抗原に対して結合する本発明の抗原結合分子の脳疾患を治療するための使用
本発明では、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に可溶型で存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の脳疾患を治療するための使用が提供される。前記のようなFcRn欠損マウスを用いた検討によって、BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnが、血中から脳中へのIgG抗体の移行に関与していないことが示されていた従来技術(非特許文献10)に反して、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子が、当該結合活性を有しないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子と比較して、血中から脳中への移行が増強されていることが見出された。さらに、驚くべきことに、前記ドメインに加えて、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、およびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子が、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中の当該抗原濃度を低減する。
WO2011/122011において開示された抗原結合分子の一つである、中性pHにおけるFcRnに対する結合活性を有し、pH依存的に抗原に対して結合する抗原結合分子の投与によって、血漿中に可溶型で存在する当該抗原が血漿中から速やかに消失することが示されている。考えられ得る理論のうちの一つの理論によれば、こうした消失は以下のように説明され得る。中性条件下におけるFcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗原結合抗体が、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞膜上にFcRnを発現している細胞の中へと速やかに取り込まれる。ここで、pH依存的抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性のエンドソームの中で、pH依存的結合能により抗体から解離する。抗体から解離した可溶型抗原は、その後リソソームへと移行し、タンパク質分解活性による分解を受ける。一方、可溶型抗原を解離した抗体は、酸性のエンドソームの中で、すなわちpH酸性条件下おいてFcRnに結合した後、細胞膜上へとリサイクルされ、再び血漿中に放出される。このようにリサイクルされてフリーとなった抗体は、他の可溶型抗原へと再度結合することができる。このようなFcRnを介した細胞内への取り込み、可溶型抗原の解離と分解、抗体のリサイクル、といったサイクルを繰り返すことによって、このような中性条件下でのFcRnに対する結合活性を有するpH依存的抗原結合抗体は、大量の可溶型抗原をリソソームへと移行させて血漿中総抗原濃度を低下させることができる。
特定の理論に拘束されるものではないが、WO2011/122011において開示された発明を参照することによって、本発明の抗原結合分子が有する神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中の当該抗原濃度を低減する機能は以下のように説明することも可能である。BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。脳脊髄液中に放出された本発明の抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する可溶型抗原に結合した後に、例えば脳血管内皮細胞、脈絡叢等の細胞膜上にFcRnを発現している細胞の中へと速やかに取り込まれる。ここで、pH依存的抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性のエンドソームの中で、pH依存的結合能により抗体から解離する。抗体から解離した可溶型抗原は、その後リソソームへと移行し、タンパク質分解活性による分解を受ける。一方、可溶型抗原を解離した抗体は、酸性のエンドソームの中で、すなわちpH酸性条件下おいてFcRnに結合した後、細胞膜上へとリサイクルされ、再び血漿中または脳脊髄液中に放出される。
本発明の脳疾患を治療するための使用に用いられる抗原結合分子の非限定な一態様では、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に可溶型で存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインに加えて、Fcγレセプター(FcγR)結合ドメインを含む抗原結合分子も好適に用いられる。脳組織内の免疫機能を担うミクログリア細胞は、その活性化に伴いFcγRを発現することが知られている。そのようなFcγR結合ドメインとしては、例えば、IgG型免疫グロブリンのFc領域、抗FcγR抗体、、抗FcγR足場(Scaffold)分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめFcγRに対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインがFcγRに対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中のFcγR結合ドメインを形成するアミノ酸を改変してFcγRに対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめFcγRに対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、FcγRに対する結合活性を高めてもよい。FcγR結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後のFcγRに対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。例えば、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとしてIgG型抗体のFc領域が使用される場合には、FcγR結合ドメインとしても当該Fc領域が使用され得る。
特定の理論に拘束されるものではないが、WO2011/122011において開示された発明を参照することによって、本発明の抗原結合分子が有する神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中の当該抗原濃度を低減する機能は以下のように説明することも可能である。BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。脳脊髄液中に放出された本発明の抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する可溶型抗原に結合した後に、例えばミクログリア細胞等の細胞膜上にFcγRを発現している細胞に貪食される。ここで、本発明の抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、リソソームにおいてタンパク質分解活性による分解を受ける。
本発明の脳疾患を治療するための使用に用いられる抗原結合分子の非限定な一態様では、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に可溶型で存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインに加えて、補体結合ドメインを含む抗原結合分子も好適に用いられる。脳組織内の免疫機能を担うミクログリア細胞は、その活性化に伴い補体レセプターを発現することが知られている。そのような補体結合ドメインとしては、例えば、IgG型免疫グロブリンのFc領域、抗補体抗体、、抗補体足場(Scaffold)分子等が好適に挙げられる。当該ドメインは、あらかじめ補体に対する結合活性を有しているドメインであればそのまま好適に使用され得る。当該ドメインが補体に対する結合活性がないまたは弱い場合には、抗原結合分子中の補体結合ドメインを形成するアミノ酸を改変して補体に対する結合活性を付与することが可能である。また、あらかじめ補体に対する結合活性を有しているドメイン中のアミノ酸を改変して、補体に対する結合活性を高めてもよい。補体結合ドメインのアミノ酸の改変は、アミノ酸改変前と改変後の補体に対する結合活性を比較することによって目的の改変を見出すことが可能である。例えば、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインとしてIgG型抗体のFc領域が使用される場合には、補体結合ドメインとしても当該Fc領域が使用され得る。
特定の理論に拘束されるものではないが、WO2011/122011において開示された発明を参照することによって、本発明の抗原結合分子が有する神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中の当該抗原濃度を低減する機能は以下のように説明することも可能である。BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。脳脊髄液中に放出された本発明の抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する可溶型抗原に結合した後に、例えばミクログリア細胞等の細胞膜上に補体レセプターを発現している細胞に貪食される。ここで、本発明の抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、リソソームにおいてタンパク質分解活性による分解を受ける。
またBBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。脳脊髄液中に放出された本発明の抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する可溶型抗原に結合した後に、例えばBBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。ここで、本発明の抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下で抗原結合ドメインから解離した後、リソソームにおいてタンパク質分解活性による分解を受ける。
二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体
FcRnとIgG抗体との結晶学的研究によって、FcRn-IgG複合体は、二分子のFcRnに対して一分子のIgGから構成され、IgGのFc領域の両側に位置するCH2およびCH3ドメインの接触面付近において、二分子の結合が起こると考えられている(Burmeisterら(Nature (1994) 372, 336-343)。一方、後述する参考実施例1において確認されたように、抗体のFc領域が二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含む複合体を形成できることが明らかとなった(図14)。このヘテロ複合体の形成は、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子の性質について解析を進めた結果明らかとなった現象である。
本発明は特定の原理に拘束されるわけではないが、抗原結合分子に含まれるFc領域と二分子のFcRnおよび一分子の活性型Fcγレセプターの四者を含むヘテロ複合体の形成によって、抗原結合分子が生体内に投与されたときの抗原結合分子の当該生体内における薬物動態(血漿中滞留性)、および、投与された抗原結合分子に対する免疫応答(免疫原性)に対して以下のような影響がもたらされることも考えられる。抗原結合分子が細胞上でこのような四者複合体を形成することは、当該細胞に対する親和性を向上させ、さらに細胞内ドメインを会合化させることにより内在化シグナルを増強させ、細胞への取り込みが促進されることが示唆される。結果として、細胞の細胞膜上で上記の四者複合体を形成することにより、抗原結合分子に対する細胞への取り込みが促進されことによって抗原結合分子の脳脊髄液中の滞留性が悪化する可能性もある。また、同様にして、免疫応答が誘起される(増悪する)可能性がある。
そのため、このような四者複合体を形成する能力が低下した抗原結合分子が生体に投与された場合、当該抗原結合分子の血漿中滞留性が向上し、当該生体による免疫応答の誘起が抑制されると考えられ得る。このような抗原提示細胞を含む免疫細胞上における当該複合体の形成を阻害する抗原結合分子の好ましい様態として、以下の三種類が挙げられ得る。
(様態1) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域を含む抗原結合分子
様態1の抗原結合分子は、二分子のFcRnに結合することによって三者複合体を形成するが、活性型FcγRを含めた複合体は形成しない(図15)活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域は、前記のように天然型Fc領域のアミノ酸を改変することによって作製され得る。改変Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性が、天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いか否かは、前記の結合活性の項で記載された方法を用いて適宜実施され得る。
活性型Fcγレセプターとしては、FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)が好適に挙げられる。
本明細書において、Fc領域改変体の活性型Fcγレセプターに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも低いとは、Fc領域改変体のFcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性が、これらのヒトFcγレセプターに対する天然型Fc領域の結合活性よりも低いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、対照とする天然型Fc領域を含む抗原結合分子の結合活性に比較してFc領域改変体を含む抗原結合分子の結合活性が、95%以下、好ましくは90%以下、85%以下、80%以下、75%以下、特に好ましくは70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。天然型Fc領域としては、出発Fc領域も使用され得るし、野生型抗体の異なるアイソタイプのFc領域も使用され得る。
また、天然型の活性型FcγRに対する結合活性とは、ヒトIgG1のFcγレセプターに対する結合活性であることが好ましく、Fcγレセプターに対する結合活性を低減させるには上記改変以外にも、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4にアイソタイプを変更することでも達成し得る。また、Fcγレセプターに対する結合活性を低下させるのは上記改変以外にも、Fcγレセプターに対する結合活性を有するFc領域を含む抗原結合分子を大腸菌等の糖鎖を付加しない宿主で発現させることによっても得ることができる。
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:14(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、16(RefSeq登録番号CAA27268.1)、17(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、活性型FcγRに対する結合活性が天然型Fc領域の活性型FcγRに対する結合活性より低いFc領域の例として、
前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される234、235、236、237、238、239、270、297、298、325、328、および329のいずれかひとつ以上のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられるが、Fc領域の改変は上記改変に限定されず、例えばCurrent Opinion in Biotechnology (2009) 20 (6), 685-691に記載されている脱糖鎖 (N297A, N297Q)、IgG1-L234A/L235A、IgG1-A325A/A330S/P331S、IgG1-C226S/C229S、IgG1-C226S/C229S/E233P/L234V/L235A、IgG1-L234F/L235E/P331S、IgG1-S267E/L328F、IgG2-V234A/G237A、IgG2-H268Q/V309L/A330S/A331S、IgG4-L235A/G237A/E318A、IgG4-L236E等の改変、および、WO 2008/092117に記載されているG236R/L328R、L235G/G236R、N325A/L328R、N325LL328R等の改変、および、EUナンバリング233位、234位、235位、237位におけるアミノ酸の挿入、WO 2000/042072に記載されている個所の改変であってもよい。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であって;
234位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、ThrまたはTrpのいずれか、
235位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、ValまたはArgのいずれか、
236位のアミノ酸をArg、Asn、Gln、His、Leu、Lys、Met、Phe、ProまたはTyrのいずれか、
237位のアミノ酸をAla、Asn、Asp、Gln、Glu、His、Ile、Leu、Lys、Met、Pro、Ser、Thr、Val、TyrまたはArgのいずれか、
238位のアミノ酸をAla、Asn、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Lys、Thr、TrpまたはArgのいずれか、
239位のアミノ酸をGln、His、Lys、Phe、Pro、Trp、TyrまたはArgのいずれか、
265位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
266位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Lys、Phe、Pro、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
267位のアミノ酸をArg、His、Lys、Phe、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
269位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
270位のアミノ酸をAla、Arg、Asn、Gln、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
271位のアミノ酸をArg、His、Phe、Ser、Thr、TrpまたはTyrのいずれか、
295位のアミノ酸をArg、Asn、Asp、Gly、His、Phe、Ser、TrpまたはTyrのいずれか、
296位のアミノ酸をArg、Gly、LysまたはProのいずれか、
297位のアミノ酸をAla、
298位のアミノ酸をArg、Gly、Lys、Pro、TrpまたはTyrのいずれか、
300位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
324位のアミノ酸をLysまたはProのいずれか、
325位のアミノ酸をAla、Arg、Gly、His、Ile、Lys、Phe、Pro、Thr、TrpTyr、もしくはValのいずれか、
327位のアミノ酸をArg、Gln、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Ser、Thr、Trp、TyrまたはValのいずれか、
328位のアミノ酸をArg、Asn、Gly、His、LysまたはProのいずれか、
329位のアミノ酸をAsn、Asp、Gln、Glu、Gly、His、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Ser、Thr、Trp、Tyr、ValまたはArgのいずれか、
330位のアミノ酸をProまたはSerのいずれか、
331位のアミノ酸をArg、GlyまたはLysのいずれか、もしくは
332位のアミノ酸をArg、LysまたはProのいずれか、
のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
(様態2) pH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いFc領域を含む抗原結合分子
様態2の抗原結合分子は、二分子のFcRnと一分子の抑制型FcγRに結合することによってこれら四者を含む複合体を形成し得る。しかしながら、一分子の抗原結合分子は一分子のFcγRとしか結合できないため、一分子の抗原結合分子は抑制型FcγRに結合した状態で他の活性型FcγRに結合することはできない(図16)。さらに、抑制型FcγRに結合した状態で細胞内へと取り込まれた抗原結合分子は、細胞膜上へとリサイクルされ、細胞内での分解を回避することが報告されている(Immunity (2005) 23, 503-514)。すなわち、抑制型FcγRに対する選択的結合活性を有する抗原結合分子は、免疫応答の原因となる活性型FcγRおよび二分子のFcRnを含めたヘテロ複合体を形成することができないと考えられる。
活性型Fcγレセプターとしては、FcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64)、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)が好適に挙げられる。また、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)が抑制型Fcγレセプターの好適な例として挙げられる。
本明細書において、抑制型FcγRに対する結合活性が活性型Fcγレセプターに対する結合活性よりも高いとは、Fc領域改変体のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性よりも高いことをいう。例えば、上記の解析方法にもとづいて、Fc領域改変体を含む抗原結合分子のFcγRIIbに対する結合活性が、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIIa及び/又はFcγRIIIbのいずれかのヒトFcγレセプターに対する結合活性の、105%以上、好ましくは110%以上、120%以上、130%以上、140%以上、特に好ましくは150%以上、160%以上、170%以上、180%以上、190%以上、200%%以上、250%以上、300%以上、350%以上、400%以上、450%以上、500%以上、750%以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上の結合活性を示すことをいう
FcγRIIbに対する結合活性が、FcγRIa、FcγRIIa(アロタイプR131およびH131を含む)およびFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)よりもすべて高いことがもっとも好ましい。FcγRIa は天然型IgG1に対するアフィニティが極めて高いことから、生体内においては大量の内因性IgG1によって結合が飽和されていると考えられるため、FcγRIIbに対する結合活性はFcγRIIaおよびFcγRIIIaよりも高く、FcγRIaよりは低くても当該複合体の形成阻害は可能であると考えられる。
対照とするFc領域を含む抗原結合分子としては、IgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:14(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、16(RefSeq登録番号CAA27268.1)、17(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域を含む抗原結合分子を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプのIgGモノクローナル抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該Fc領域を含む抗原結合分子によるFcγレセプターに対する結合活性の効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が高いことが検証されたFc領域を含む抗原結合分子が適宜選択される。
本発明の非限定の一態様では、抑制型FcγRに対する選択的な結合活性を有するFc領域の例として、前記Fc領域のアミノ酸のうちEUナンバリングで表される238または328のアミノ酸が天然型Fc領域と異なるアミノ酸に改変されているFc領域が好適に挙げられる。また、抑制型Fcγレセプターに対する選択的な結合活性を有するFc領域として、US 2009/0136485に記載されているFc領域あるいは改変も適宜選択することができる。
また本発明の非限定の一態様では、前記Fc領域のEUナンバリングで表されるアミノ酸であってEUナンバリングで表される238のアミノ酸がAsp、または328のアミノ酸がGluのいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
さらに本発明の非限定の一態様では、EUナンバリングで表される238位のProのAspへの置換、およびEUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がPhe、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がVal、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGly、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGln、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される239位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される267位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTrp、EUナンバリングで表される234位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される237位のアミノ酸がTyr、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がLys、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がArg、EUナンバリングで表される233位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される268位のアミノ酸がGlu、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がSer、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がThr、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がIle、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がLeu、EUナンバリングで表される323位のアミノ酸がMet、EUナンバリングで表される296位のアミノ酸がAsp、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAla、EUナンバリングで表される326位のアミノ酸がAsn、EUナンバリングで表される330位のアミノ酸がMet、のいずれかひとつ以上に改変されているFc領域が好適に挙げられる。
本発明の抗原結合分子に含まれる選択的FcγR結合ドメインの別の非限定な一態様として、ヒトIgG1(配列番号:14)、IgG2(配列番号:15)、IgG3(配列番号:16)、またはIgG4(配列番号:17)で表されるFc領域に含まれるFcγR結合ドメインが改変されたFc領域が例示される。当該改変Fc領域の作製方法として、前記のアミノ酸改変の項で記載された方法が例示される。そのような改変Fc領域の例として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、およびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるFc領域が例示される。ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAsp、およびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるFc領域および当該Fc領域を含む抗原結合分子は、FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa、および/またはFcγRIIcよりも、FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2に対する結合活性が高い。
本発明は、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAspおよびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるFc領域に対して、前記アミノ酸の改変の項で説明された態様等により、さらに別の少なくとも一つのFc領域に対する改変を加えることが可能である。また、これらの改変に加え、更に付加的な改変を含むことができる。付加的な改変は、たとえば、アミノ酸の置換、欠損、あるいは修飾のいずれか、あるいはそれらの組み合わせから選択することができる。例えば、活性型Fcγレセプター(FcγRIa、FcγRIb、FcγRIc、アロタイプV158を含むFcγRIIIa、アロタイプF158を含むFcγRIIIa、アロタイプFcγRIIIb-NA1を含むFcγRIIIb、アロタイプFcγRIIIb-NA2を含むFcγRIIIb、アロタイプH131を含むFcγRIIa、アロタイプR131を含むFcγRIIa)に対する結合活性を維持あるいは低減する改変を加えることが可能である。抑制型Fcγレセプター(FcγRIIb-1および/またはFcγRIIb-2)に対する結合活性を増強し、かつFcγRIIa(H型)およびFcγRIIa(R型)に対する結合活性を維持あるいは低減する改変を加えることが可能である。そのような改変を加えることにより、FcγRIIaよりもFcγRIIbに対する結合選択性が向上する。
選択的FcγR結合ドメインを含む改変Fc領域の例として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のEUナンバリングで表される238位のアミノ酸がAspおよびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるFc領域の、EUナンバリングで表される233位、234位、237位、264位、265位、266位、267位、268位、269位、272位、296位、326位、327位、330位、331位、332位、333位、396位のいずれかひとつ以上が置換された改変Fc領域が非限定な一態様として例示される。
また選択的FcγR結合ドメインを含む改変Fc領域の非限定な一態様として、ヒトIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)の238位のアミノ酸がAspおよびEUナンバリングで表される271位のアミノ酸がGlyであるFc領域の、EUナンバリングで表される、
233位のアミノ酸がAsp、
234位のアミノ酸がTyr、
237位のアミノ酸がAsp、
264位のアミノ酸がIle、
265位のアミノ酸がGlu、
266位のアミノ酸がPhe、Met、またはLeuのいずれか、
267位のアミノ酸がAla、Glu、Gly、またはGlnのいずれか、
268位のアミノ酸がAsp、またはGluのいずれか、
269位のアミノ酸がAsp、
272位のアミノ酸がAsp、Phe、Ile、Met、Asn、またはGlnのいずれか
296位のアミノ酸がAsp、
326位のアミノ酸がAla、またはAspのいずれか、
327位のアミノ酸がGly、
330位のアミノ酸がLys、またはArgのいずれか、
331位のアミノ酸がSer、
332位のアミノ酸がThr、
333位のアミノ酸がThr、Lys、またはArgのいずれか、
396位のアミノ酸がAsp、Glu、Phe、Ile、Lys、Leu、Met、Gln、Arg、またはTyrのいずれか、
のいずれかひとつ以上である改変Fc領域が例示される。
前記の、さらに別の少なくとも一つのFc領域に対する改変、更に付加的な改変を含むFc領域の非限定な一態様として、表7−1〜表7−5に記載されたFc領域が例示され得る。
Figure 2014043405
表7−2は表7−1の続きの表である。
Figure 2014043405
表7−3は表7−2の続きの表である。
Figure 2014043405
表7−4は表7−3の続きの表である。
Figure 2014043405
表7−5は表7−4の続きの表である。
Figure 2014043405
(様態3) Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域を含む抗原結合分子
様態3の抗原結合分子は、一分子のFcRnと一分子のFcγRに結合することによって三者複合体を形成しうるが、二分子のFcRnと一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体は形成しない(図17)。本様態3の抗原結合分子に含まれる、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方がpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合活性を有し、他方のポリペプチドがpH中性域の条件下でのFcRnに対する結合能活性を有しないFc領域として、二重特異性抗体(bispecific抗体)を起源とするFc領域も適宜使用され得る。二重特異性抗体とは、異なる抗原に対して特異性を有する二種類の抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。こうした二重特異性抗体の作製方法の非限定な一態様は後述される二重特異性抗体とその作製方法の項で例示される。
脳疾患に固有に脳組織内に存在する受容体型抗原に対して結合する本発明の抗原結合分子の脳疾患を治療するための使用
本発明では、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液の中に存在する疾患をもたらす細胞表面に存在する受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の脳疾患を治療するための使用が提供される。前記のようなFcRn欠損マウスを用いた検討によって、BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnが、血中から脳中へのIgG抗体の移行に関与していないことが示されていた従来技術(非特許文献10)に反して、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子が、当該結合活性を有しないFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子と比較して、血中から脳中への移行が増強されていることが見出された。さらに、前記ドメインに加えて、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、およびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインに加えて、FcγR結合ドメインまたは補体レセプター結合ドメインを含む抗原結合分子が、神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中に存在する疾患をもたらす細胞表面に存在する受容体型抗原を低減する機能を奏する。
WO2011/122011において開示された抗原結合分子の一つである、中性pHにおけるFcRnに対する結合活性を有し、pH依存的に抗原に対して結合する抗原結合分子の投与によって、血漿中に可溶型で存在する当該抗原が血漿中から速やかに消失することが示されている。考えられ得る理論のうちの一つの理論によれば、こうした消失は以下のように説明され得る。中性条件下におけるFcRnに対する結合が増強されたpH依存的抗原結合抗体が、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞膜上にFcRnを発現している細胞の中へと速やかに取り込まれる。ここで、pH依存的抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性のエンドソームの中で、pH依存的結合能により抗体から解離する。抗体から解離した可溶型抗原は、その後リソソームへと移行し、タンパク質分解活性による分解を受ける。一方、可溶型抗原を解離した抗体は、酸性のエンドソームの中で、すなわちpH酸性条件下おいてFcRnに結合した後、細胞膜上へとリサイクルされ、再び血漿中に放出される。このようにリサイクルされてフリーとなった抗体は、他の可溶型抗原へと再度結合することができる。このようなFcRnを介した細胞内への取り込み、可溶型抗原の解離と分解、抗体のリサイクル、といったサイクルを繰り返すことによって、このような中性条件下でのFcRnに対する結合活性を有するpH依存的抗原結合抗体は、大量の可溶型抗原をリソソームへと移行させて血漿中総抗原濃度を低下させることができる。
特定の理論に拘束されるものではないが、WO2011/122011において開示された発明を参照することによって、本発明の抗原結合分子が有する神経細胞をとりまく間質液(組織間液、細胞外液)もしくは脳脊髄液または髄液中に存在する疾患をもたらす細胞表面に存在する受容体型抗原を低減する機能は以下のように説明することも可能である。BBBを形成する内皮細胞に発現するFcRnにpH中性域の条件下で結合した本発明のpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子は、当該内皮細胞に取り込まれた後に、酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む本発明の抗原結合分子は酸性エンドソーム内の環境であるpH酸性域の条件下でFcRnに結合した後に細胞膜上へとリサイクルされ血漿中または脳脊髄液中に放出される。
本発明の抗原結合分子が補体結合ドメインを含む場合、脳脊髄液中に放出された当該抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する細胞表面に存在する受容体型抗原に結合する。当該抗原結合分子中に含まれるFcγR結合ドメインに対してFcγRを介して結合したミクログリアまたは星状膠細胞等の脳組織に存在する貪食細胞によって抗原とともに貪食され、貪食された抗原は細胞内リソゾーム中でプロテアーゼ等の分解を受ける。また、本発明の抗原結合分子が補体結合ドメインを含む場合、脳脊髄液中に放出された当該抗原結合分子は脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する細胞表面に存在する受容体型抗原に結合する。当該抗原結合分子中に含まれる補体結合ドメインに結合した補体に対して補体レセプターを介して結合したミクログリアまたは星状膠細胞等の脳組織に存在する貪食細胞によって抗原とともに貪食され、貪食された抗原が細胞内リソゾーム中でプロテアーゼ等の分解を受ける。
抗原結合分子
本発明において、抗原結合分子は、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含むを含む分子を表す最も広義な意味として使用されており、具体的には、それらが抗原に対する結合活性を示す限り、様々な分子型が含まれる。例えば、当該抗原結合ドメインがpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインと結合した分子の例として、抗体が挙げられる。抗体には、単一のモノクローナル抗体(アゴニストおよびアンタゴニスト抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体等が含まれ得る。また抗体の断片として使用される場合としては、抗原結合ドメインおよび抗原結合断片(例えば、Fab、F(ab')2、scFvおよびFv)が好適に挙げられ得る。既存の安定なα/βバレルタンパク質構造等の立体構造が scaffold(土台)として用いられ、その一部分の構造のみが抗原結合ドメインの構築のためにライブラリ化されたスキャフォールド分子も、本発明の抗原結合分子に含まれ得る 。
本発明の抗原結合分子は、FcRnに対する結合ならびにFcγレセプターおよび/または補体レセプターに対する結合を媒介するFc領域の少なくとも部分を含むことができる。例えば、非限定な一態様において、抗原結合分子は抗体またはFc融合タンパク質であり得る。融合タンパク質とは、天然ではそれが自然に連結しない第二のアミノ酸配列を有するポリペプチドに連結された第一のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含むキメラポリペプチドをいう。例えば、融合タンパク質は、Fc領域の少なくとも部分(例えば、FcRnに対する結合を付与するFc領域の部分やFcγレセプターに対する結合を付与するFc領域、補体に対する結合を付与するFc領域の部分)からなるアミノ酸配列、および、例えばレセプターのリガンド結合ドメインまたはリガンドのレセプター結合ドメインからなるアミノ酸配列を含む非免疫グロブリンポリペプチド、を含むことができる。アミノ酸配列は、一緒に融合タンパク質に運ばれる別々のタンパク質に存在できるか、あるいはそれらは通常は同一タンパク質に存在できるが、融合ポリペプチド中の新しい再編成に入れられる。融合タンパク質は、例えば、化学合成によって、またはペプチド領域が所望の関係でコードされたポリヌクレオチドを作成し、それを発現する遺伝子組換えの手法によって作製され得る。
本発明の抗原結合ドメイン、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン等の各ドメインはポリペプチド結合によって直接連結され得るし、リンカーを介して連結され得る。リンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering (1996) 9 (3), 299-305)に開示されるリンカー等が使用され得るが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:28)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:29)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:30)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:31)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:32)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:33)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:34)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:35)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:30))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:31))n
[nは1以上の整数である]等が好適に挙げられる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
各ドメインを連結するリンカーが複数用いられる場合には、全て同種のリンカーが用いられ得るし、異種のリンカーも用いられ得る。 また、上記記載で例示されるリンカーのほか、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
各ドメインをペプチド結合で連結するために、当該ドメインをコードするポリヌクレオチドがインフレームで連結される。ポリヌクレオチドをインフレームで連結する方法としては、制限断片のライゲーションやフュージョンPCR、オーバーラップPCR等の手法が公知であり、本発明の抗原結合分子の作製にも適宜これらの方法が単独または組合せで使用され得る。本発明では、用語「連結され」、「融合され」、「連結」または「融合」は相互交換的に用いられる。これらの用語は、上記の化学結合手段または組換え手法を含めた全ての手段によって、二以上のポリペプチド等のエレメントまたは成分を一つの構造を形成するように連結することをいう。インフレームで連結するとは、二以上のドメイン、エレメントまたは成分がポリペプチドである場合に、当該ポリペプチドの正しい読み取り枠を維持するように連続したより長い読み取り枠を形成するための二以上の読取り枠の単位の連結をいう。二分子のFabが抗原結合ドメインとして用いられた場合、当該抗原結合ドメインとpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインがリンカーを介することなくペプチド結合によってインフレームで連結された本発明の抗原結合分子である抗体は、本願の好適な抗原結合分子として使用され得る。以下に、抗体の構造を含む本発明の抗原結合分子の非限定な複数の態様が例示される。
(1)脳疾患に特異的に脳組織内において可溶型で存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびに、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含むFc領域を含む抗体
(1−1)可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する二つの可変領域を含むF(ab')2とpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−2)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcRnに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であるF(ab')2とpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−3)可変領域を少なくとも二つ含む抗体断片の一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がpH中性域および酸性域でのFcRnに対する結合活性を有する可変領域を含む抗体断片
上記の(1−1)および(1−2)の構造を含む抗体の場合、当該Fc領域にFcγR結合活性および/または補体結合活性が低いまたは低減された改変が加えられたFc領域も好適に使用され得る。そのようなFc領域として公知の改変が適宜単独でまたは組み合わされて加えられる(WO2007/024249、WO2007/021841、WO2006/031370、WO2000/042072、WO2004/029207、WO2004/099249、WO2006/105338、WO2007/041635、WO2008/092117、WO2005/070963、WO2006/020114、WO2006/116260、WO2006/023403、Duncanら(Nature (1988) 332, 738-740)、Taoら(J. Exp. Med.(1993) 178, 661-667)、Brekkeら(Eur. J. Immunol. (1994) 24, 2542-2547)、Xuら(Immunol. (1993) 150, 152A)、 WO1994/029351、WO2000/ 042072およびWO2011/091078)。
本明細書において、FcγR結合活性が低いまたは低減されたとは、例えば、上記の結合活性の項に記載された方法に基づいて、対照とするFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の競合活性に比較して被験Fc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の競合活性が、50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。
対照とするFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子としては、FcγR結合活性が低いまたは低減された改変が加えられる前のFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子が適宜使用され得る。例えば、そのような改変が加えられる前のFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子の非限定な一態様として、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体のFc領域または当該Fc領域を含む抗原結合分子が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:14(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、15(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、16(RefSeq登録番号CAA27268.1)、17(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域の改変体を有する抗原結合分子を被験物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプの抗体のFc領域を有する抗原結合分子を対照として用いることによって、当該改変体が有する改変によるFcγレセプターへの結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγレセプターに対する結合活性が低下していることが検証されたFc領域の改変体を含む抗原結合分子が適宜作製される。
このような変異体の例としては、EUナンバリング表される231位から238位の欠失(WO 2009/011941)、C226S(226位のCysのSerへの置換を表し、以下同様の表記の場合も数字はEUナンバリングで表されるアミノ酸の位置を表し、その前に記載されるアミノ酸の一文字記号は置換前のアミノ酸、そのあとに記載されるアミノ酸の一文字記号は置換後のアミノ酸を表す)、C229S、P238S、C220S(J.Rheumatol (2007) 34, 11)、C226S、C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1), 47-54)、C226S、C229S、E233P、L234V、L235A(Blood (2007) 109, 1185-1192)等の改変体が公知である。
すなわち、特定のアイソタイプの抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングで表される220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位が置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。Fc領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体を起源とするFc領域が適宜利用され得るが、IgG1抗体を起源とするFc領域が好適に利用される。
例えば、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか;
(a)L234F、L235E、P331S、
(b)C226S、C229S、P238S、
(c)C226S、C229S、
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
の改変を有するFc領域、又は、231位から238位のアミノ酸配列が欠失したFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
また、IgG2抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか;
(e)H268Q、V309L、A330S、P331S
(f)V234A
(g)G237A
(h)V234A、G237A
(i)A235E、G237A
(j)V234A、A235E、G237A
の改変を有するFc領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
また、IgG3抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか;
(k)F241A
(l)D265A
(m)V264A
の改変を有するFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
また、IgG4抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか;
(n)L235A、G237A、E318A
(o)L235E
(p)F234A、L235A
の改変を有するFc領域を有する抗原結合分子も適宜使用され得る。
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域のEUナンバリングで表される233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、331位のアミノ酸が、対応するIgG2またはIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されているFc領域を有する抗原結合分子が挙げられる。
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域のEUナンバリングで表される234位、235位、297位のアミノ酸が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234位、235位、297位のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域のEUナンバリングで表される265位のアミノ酸が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有する抗原結合分子が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有する抗原結合分子が特に好ましい。
さらに、下記のような抗体の構造を含む本発明の抗原結合分子の非限定な複数の態様も例示される。
(1−4)可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する二つの可変領域を含むF(ab')2とFcγRに対する結合活性ならびにpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−5)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcRnに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であるF(ab')2と FcγRに対する結合活性ならびにpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−6)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcγRに対する結合活性を有する可変領域であるF(ab')2とpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−7)可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する二つの可変領域を含むF(ab')2とC1q等の補体に対する結合活性ならびにpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−8)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcRnに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であるF(ab')2とC1q等の補体に対する結合活性ならびにpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(1−9)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、可溶型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がC1q等の補体に対する結合活性を有する可変領域であるF(ab')2とpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2)脳疾患をもたらす細胞表面に存在する受容体型で存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびに、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含むFc領域を含む抗体
(2−1)受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する二つの可変領域を含むF(ab')2とFcγRに対する結合活性ならびにpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2−2)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcRnに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であるF(ab')2と FcγRに対する結合活性ならびにpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2−3)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcγRに対する結合活性を有する可変領域であるF(ab')2とpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2−4)受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する二つの可変領域を含むF(ab')2とC1q等の補体に対する結合活性ならびにpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2−5)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がFcRnに対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であるF(ab')2とC1q等の補体に対する結合活性ならびにpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
(2−6)F(ab')2を形成する可変領域のうち一方の可変領域が、受容体型抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する可変領域であり、もう一方の可変領域がC1q等の補体に対する結合活性を有する可変領域であるF(ab')2とpH中性域および酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFc領域を含む抗体
二重特異性抗体とその作製方法
前記の(1−2)、(1−5)、(1−8)、(2−2)、(2−5)の構造を含む抗体の調製方法の一態様として、二重特異性抗体の作製方法が適用され得る。二重特異性抗体とは、異なるエピトープに対して特異的に結合する二種類の可変領域を含む抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが可能である(Milsteinら(Nature (1983) 305, 537-540)。
二重特異性抗体を前記の抗体の項で記載されたような組換え手法を用いて製造する場合、目的の二種の可変領域を含む重鎖をコードする遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させる方法が採用され得る。しかしながら、こうした共発現させる方法における重鎖の組合せを考慮するだけでも、(i) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖と第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖が一対となった重鎖の組合せ、(ii) 第一のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せ、(iii) 第二のエピトープに結合する可変領域を含む重鎖のみが一対となった重鎖の組合せが、2:1:1の分子数の割合で存在する混合物となる。これら三種類の重鎖の組合せの混合物から目的の重鎖の組合せを含む抗原結合分子を精製することは困難である。
こうした組換え手法を用いて二重特異性抗体を製造する際に、重鎖を構成するCH3ドメインに適当なアミノ酸置換の改変を加えることによってヘテロな組合せの重鎖を含む二重特異性抗体が優先的に分泌され得る。具体的には、一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方の重鎖のCH3ドメインに存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することによって、突起が空隙内に配置され得るようにして異種の重鎖形成の促進および同種の重鎖形成の阻害を引き起こす方法である(WO1996/027011、Ridgwayら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchantら(Nat. Biotech. (1998) 16, 677-681))。
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、重鎖の会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、重鎖内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有する重鎖の会合が阻害され、配列の異なる二つの重鎖が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。このような方法も二重特異性抗体を製造する際に、採用され得る。
本発明の非限定な一態様における抗原結合分子に含まれるFc領域としては、上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を形成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される349のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がTrpであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がCys、366のアミノ酸がSerに、368のアミノ酸がAlaに、407のアミノ酸がValであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
そのほかの本発明の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAspであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。上記態様では、409のアミノ酸はAspに代えてGlu、399のアミノ酸はLysに代えてArgでもあり得る。また、399のアミノ酸のLysに加えて360のアミノ酸としてAsp又は392のアミノ酸としてAspも好適に追加され得る。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明のさらに別の非限定な一態様におけるFc領域としては、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチドが好適に用いられる。
本発明の別の非限定な一態様におけるFc領域としては、これらが組み合わされた以下の態様のいずれか;
(i) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えてAspであってもよく、EUナンバリングで表される370のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
(ii) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される439のアミノ酸のGluに代えて360のアミノ酸のAsp、EUナンバリングで表される392のアミノ酸のAsp又は439のアミノ酸のAspであってもよい)、
(iii) Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される409のアミノ酸がAsp、370のアミノ酸がGlu、439のアミノ酸がGluであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される399のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLys、356のアミノ酸がLysであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、EUナンバリングで表される370のアミノ酸をGluに置換しなくてもよく、更に、370のアミノ酸をGluに置換しない上で、439のアミノ酸のGluに代えてAsp又は439のアミノ酸のGluに代えて392のアミノ酸のAspであってもよい)、
が好適に用いられる。
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
さらに、本発明の別の非限定な一態様において、Fc領域を形成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される356のアミノ酸がLys、357のアミノ酸がLysであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングで表される370のアミノ酸がGlu、435のアミノ酸がArg、439のアミノ酸がGluであることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
また、上記の異種の重鎖の会合技術のほか、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する軽鎖を、各々、第一のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖、および第二のエピトープに結合する可変領域を形成する重鎖に会合させる異種の軽鎖の会合技術として知られるCrossMab技術(Scaeferら(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. (2011) 108, 11187-11192))も、本発明が提供する抗原結合分子を作製するために使用され得る。
薬物動態の改善
本発明において、本発明の抗原結合分子の「脳疾患を治療するための使用」とは、本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインが結合する抗原が脳疾患に特異的に脳組織内において可溶型で存在する抗原である場合、「当該抗原を脳組織液から消失させるための使用」と表現することも可能である。または、本発明の抗原結合分子を投与することを含む「当該抗原を脳組織液から消失させる方法」と表現することも可能である。また、本発明の抗原結合分子に含まれる抗原結合ドメインが結合する抗原が脳疾患をもたらす細胞表面に存在する受容体型で存在する抗原である場合も、「当該抗原を脳組織液から消失させるための使用」と表現することも可能である。また、本発明の抗原結合分子を投与することを含む「当該抗原を脳組織液から消失させる方法」と表現することも可能である。
本発明において、「脳組織液中抗原消失能」とは、抗原結合分子が生体内に投与された、あるいは、抗原結合分子の脳組織液への分泌が生じた際に、脳組織液中に存在する抗原を脳組織液中から消失させる能力のことをいう。従って、本発明において、「抗原結合分子の脳組織液中抗原消失能が増加する」とは、抗原結合分子を投与した際に、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、pH中性域または酸性域におけるFcRnに対する結合活性が損なわれたFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、を投与したときと比較して、脳組織液中から抗原が消失する速さが速くなっていればよい。抗原結合分子の脳組織液中抗原消失能が増加したか否かは、例えば、可溶型抗原と抗原結合分子とを生体内または脳室内に投与し、投与後の可溶型抗原の脳組織液中濃度を測定することにより判断することが可能である。本発明の抗原結合分子の、pH酸性域における抗原に対する結合活性をpH中性域における抗原に対する結合活性より低下させる(または、低カルシウムイオン濃度における抗原に対する結合活性を高カルシウムイオン濃度における抗原に対する結合活性より低下させる)等によりイオン濃度によって抗原に対する結合活性が変化した抗原結合分子と可溶型抗原を投与した後の脳組織液中の可溶型抗原の濃度が低下している場合には、抗原結合分子の脳組織液中抗原消失能が増加したと判断することができる。可溶型抗原は、脳組織液中において抗原結合分子に結合している抗原であっても、または抗原結合分子が結合していない抗原であってもよく、その濃度はそれぞれ「脳組織液中抗原結合分子結合抗原濃度」および「脳組織液中抗原結合分子非結合抗原濃度」として決定することができる(後者は「脳組織液中遊離抗原濃度」と同義である)。「脳組織液中総抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「脳組織液中遊離抗原濃度」を意味することから、可溶型抗原濃度は「脳組織液中総抗原濃度」として決定することができる。「脳組織液中総抗原濃度」または「脳組織液中遊離抗原濃度」を測定する様々な方法が、本明細書において以下に記載するように当技術分野において周知である。
本発明において、「薬物動態の向上」、「薬物動態の改善」、および「優れた薬物動態」は、「脳組織液中(脳脊髄液中)滞留性の向上」、「脳組織液中(脳脊髄液中)滞留性の改善」、「優れた脳組織液中(脳脊髄液中)滞留性」、「脳組織液中(脳脊髄液中)滞留性を長くする」と言い換えることが可能であり、これらの語句は同じ意味で使用される。
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子がヒト、またはマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌなどの非ヒト動物に投与されてから、脳組織液中から消失するまで(例えば、細胞内で分解される等して抗原結合分子が脳組織液中に戻ることが不可能な状態になるまで)の時間が長くなることのみならず、抗原結合分子が投与されてから分解されて消失するまでの間に抗原に結合可能な状態(例えば、抗原結合分子が抗原に結合していない状態)で脳組織液中に滞留する時間が長くなることも含む。天然型Fc領域を有するヒトIgGは、非ヒト動物由来のFcRnに結合することができる。例えば、天然型Fc領域を有するヒトIgGはヒトFcRnよりマウスFcRnに強く結合することができることから(Int. Immunol. (2001) 13 (12), 1551-1559)、本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、好ましくはマウスを用いて投与を行うことができる。別の例として、本来のFcRn遺伝子が破壊されており、ヒトFcRn遺伝子に関するトランスジーンを有して発現するマウス(Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)もまた、以下に記載する本発明の抗原結合分子の特性を確認する目的で、投与を行うために用いることができる。具体的には、「薬物動態が改善する」とはまた、抗原に結合していない抗原結合分子(抗原非結合型抗原結合分子)が分解されて消失するまでの時間が長くなることを含む。抗原結合分子が脳組織液中に存在していても、その抗原結合分子にすでに抗原が結合している場合は、その抗原結合分子は新たな抗原に結合できない。そのため抗原結合分子が抗原に結合していない時間が長くなれば、新たな抗原に結合できる時間が長くなり(新たな抗原に結合できる機会が多くなり)、生体内で抗原が抗原結合分子に結合していない時間を減少させることができ、抗原が抗原結合分子に結合している時間を長くすることが可能となる。抗原結合分子の投与によって脳組織液中からの抗原の消失を加速することができれば、抗原非結合型抗原結合分子の脳組織液中濃度が増加し、また、抗原が抗原結合分子に結合している時間が長くなる。つまり、本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善」とは、抗原非結合型抗原結合分子のいずれかの薬物動態パラメーターの改善(脳組織液中半減期の増加、平均脳組織液中滞留時間の増加、脳組織液中クリアランスの低下のいずれか)、あるいは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間の延長、あるいは、抗原結合分子による脳組織液中からの抗原の消失が加速されること、を含む。抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の脳組織液中半減期、平均脳組織液中滞留時間、脳組織液中クリアランス等のいずれかのパラメーターを測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子あるいは抗原非結合型抗原結合分子の脳組織液中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、脳組織液中半減期が長くなった又は平均脳組織液中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。抗原に結合していない抗原結合分子の脳組織液中濃度の測定は当業者公知の方法で実施することが可能であり、例えば、Clin. Pharmacol. (2008) 48 (4), 406-417において測定されている方法を用いることができる。
本発明において「薬物動態が改善する」とは、抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたことも含む。抗原結合分子投与後に抗原が抗原結合分子に結合している時間が延長されたか否かは、遊離抗原の脳組織液中濃度を測定し、遊離抗原の脳組織液中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合が上昇してくるまでの時間により判断することが可能である。
抗原結合分子に結合していない遊離抗原の脳組織液中濃度、あるいは、総抗原濃度に対する遊離抗原濃度の割合は当業者公知の方法で決定され得る。例えば、Pharm. Res. (2006) 23 (1), 95-103において使用されている方法を用いて決定され得る。また、抗原が何らかの機能を生体内で示す場合、抗原が抗原の機能を中和する抗原結合分子(アンタゴニスト分子)と結合しているかどうかは、その抗原の機能が中和されているかどうかで評価することも可能である。抗原の機能が中和されているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。抗原が抗原の機能を活性化する抗原結合分子(アゴニスト分子)と結合しているかどうかは、抗原の機能を反映する何らかの生体内マーカーを測定することによって評価され得る。
遊離抗原の脳組織液中濃度の測定、脳組織液中の総抗原量に対する脳組織液中の遊離抗原量の割合の測定、生体内マーカーの測定などの測定は特に限定されないが、抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後に行われることが好ましい。本発明において抗原結合分子が投与されてから一定時間が経過した後とは、特に限定されず、投与された抗原結合分子の性質等により当業者が適時決定することが可能であり、例えば抗原結合分子を投与してから1日経過後、抗原結合分子を投与してから3日経過後、抗原結合分子を投与してから7日経過後、抗原結合分子を投与してから14日経過後、抗原結合分子を投与してから28日経過後などが挙げられる。本発明において、「脳組織液中抗原濃度」とは、抗原結合分子結合抗原と抗原結合分子非結合抗原とを合計した濃度である「脳組織液中総抗原濃度」、または抗原結合分子非結合抗原濃度である「脳組織液中遊離抗原濃度」のいずれも含まれる概念である。
脳組織液中総抗原濃度は、抗原結合分子として、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、または、pH中性域または酸性気におけるFcRnに対する結合活性が損なわれたFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、または本発明の抗原結合分子を投与しない場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により、2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減し得る。
抗原/抗原結合分子モル比は、以下に示す通りに算出され得る:
A値=各時点での抗原のモル濃度
B値=各時点での抗原結合分子のモル濃度
C値=各時点での抗原結合分子のモル濃度あたりの抗原のモル濃度(抗原/抗原結合分子モル比)
C=A/B。
C値がより小さい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより高いことを示し、C値がより大きい場合は、抗原結合分子あたりの抗原消失効率がより低いことを示す。
抗原/抗原結合分子モル比は、上記のように算出され得る。
抗原/抗原結合分子モル比は、抗原結合分子として、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、pH中性域または酸性域におけるFcRnに対する結合活性が損なわれたFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、を投与した場合と比較して、本発明の抗原結合分子の投与により2倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1,000倍またはそれ以上低減しうる。
本発明において、本発明の抗原結合分子と比較する参照抗原結合分子として、本発明で開示される免疫複合体を形成することができない抗原結合分子、抗原に対する結合活性がイオン濃度非依存的である抗原結合ドメインを含む抗原結合分子、もしくは、pH中性域または酸性域におけるFcRnに対する結合活性が損なわれたFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子、が用いられる。
脳組織液中から細胞内への本発明の抗原結合分子の取込みにFcRnが介在する経路が利用される場合の脳組織液中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories, Methods Mol. Biol. (2010) 602, 93-104)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、ヒトFcRnトランスジェニックマウス系統32または系統276(Jackson Laboratories)に抗原結合分子を当該マウスに単に注射することによって評価することもできる。同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の脳組織液中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子をマウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。脳組織液中総抗原濃度、脳組織液中遊離抗原濃度、および脳組織液中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
脳組織液中から細胞内への本発明の抗原結合分子の取込みにFcγRまたは補体が介在する経路が利用される場合の脳組織液中総抗原濃度または抗原/抗体モル比の減少は、抗原結合分子がマウスカウンターパート抗原と交差反応しない場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)を用い、抗原抗体同時注射モデルまたは定常状態抗原注入モデルのいずれかによって評価することもできる。抗原結合分子がマウスカウンターパートと交差反応する場合は、通常用いられるC57BL/6Jマウス(Charles River Japan)に抗原結合分子を当該マウスに単に注射することによって評価することもできる。
同時注射モデルでは、抗原結合分子と抗原の混合物をマウスに投与する。定常状態抗原注入モデルでは、一定の脳組織液中抗原濃度を達成するためにマウスに抗原溶液を充填した注入ポンプを埋め込んで、次に抗原結合分子を当該マウスに注射する。試験抗原結合分子を同じ用量で投与する。脳組織液中総抗原濃度、脳組織液中遊離抗原濃度、および脳組織液中抗原結合分子濃度を、当業者公知の方法を用いて適切な時点で測定する。
投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に脳組織液中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の長期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、長期間の脳組織液中抗原濃度が、抗原結合分子の投与2日後、4日後、7日後、14日後、28日後、56日後、または84日後に脳組織液中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。本発明に記載の抗原結合分子によって脳組織液中抗原濃度または抗原/抗原結合分子モル比の減少が達成されるか否かは、先に記載した任意の1つまたは複数の時点でその減少を評価することにより決定され得る。
投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に、脳組織液中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定して、本発明の短期効果を評価することができる。言い換えれば、本発明の抗原結合分子の特性を評価する目的で、短期間の脳組織液中抗原濃度が、抗原結合分子の投与15分後、1時間後、2時間後、4時間後、8時間後、12時間後、または24時間後に脳組織液中の総抗原濃度または遊離抗原濃度および抗原/抗原結合分子モル比を測定することによって決定される。
本発明の抗原結合分子の投与経路は、皮内注射、静脈内注射、硝子体内注射、皮下注射、腹腔内注射、非経口注射、筋肉内注射、および脳質内注射から選択することができる。
本発明においては、ヒトにおける抗原結合分子の薬物動態が改善することが好ましい。ヒトでの脳組織液中滞留性を測定することが困難である場合には、マウス(例えば、正常マウス、ヒト抗原発現トランスジェニックマウス、ヒトFcRn発現トランスジェニックマウス、等)またはサル(例えば、カニクイザルなど)での脳組織液中滞留性をもとに、ヒトでの脳組織液中滞留性を予測することができる。
本発明における「抗原結合分子の薬物動態の改善、脳組織液中滞留性の向上」とは抗原結合分子を生体に投与した際のいずれかの薬物動態パラメーターが改善されていること(脳組織液中半減期の増加、平均脳組織液中滞留時間の増加、脳組織液中クリアランスの低下、バイオアベイラビリティのいずれか)、あるいは、投与後の適切な時間における抗原結合分子の脳組織液中濃度が向上していることを意味する。抗原結合分子の脳組織液中半減期、平均脳組織液中滞留時間、脳組織液中クリアランス、バイオアベイラビリティ等のいずれかのパラメーター(ファーマコキネティクス 演習による理解(南山堂))を測定することにより判断することが可能である。例えば、抗原結合分子をマウス(ノーマルマウスおよびヒトFcRnトランスジェニックマウス)、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ヒトなどに投与した場合、抗原結合分子の脳組織液中濃度を測定し、各パラメーターを算出し、脳組織液中半減期が長くなった又は平均脳組織液中滞留時間が長くなった場合等には、抗原結合分子の薬物動態が改善したといえる。これらのパラメーターは当業者に公知の方法により測定することが可能であり、例えば、薬物動態解析ソフトWinNonlin(Pharsight)を用いて、付属の手順書に従いノンコンパートメント(Noncompartmental)解析することによって適宜評価することができる。
図3は、既存の中和抗体に比べて中性pHにおけるFcRnへの結合を増強したpH依存的抗原結合抗体の投与により、血漿中から可溶型抗原が消失するメカニズムを表している。pH依存的抗原結合能をもたない既存の中和抗体は、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞との非特異的な相互作用により緩やかに取りこまれる。細胞内へと取り込まれた中和抗体と可溶型抗原の複合体は、酸性のエンドソームへと移行し、FcRnによって血漿中へとリサイクルされる。一方、中性条件下におけるFcRnへの結合を増強したpH依存的抗原結合抗体は、血漿中で可溶型抗原に結合した後、細胞膜上にFcRnを発現している細胞の中へと速やかに取り込まれる。ここで、pH依存的抗原結合抗体に結合した可溶型抗原は、酸性のエンドソームの中で、pH依存的結合能により抗体から解離する。抗体から解離した可溶型抗原は、その後リソソームへと移行し、タンパク質分解活性による分解を受ける。一方、可溶型抗原を解離した抗体は、FcRnによって細胞膜上へとリサイクルされ、再び血漿中に放出される。このようにリサイクルされてフリーとなった抗体は、他の可溶型抗原へと再度結合することができる。このようなFcRnを介した細胞内への取り込み、可溶型抗原の解離と分解、抗体のリサイクル、といったサイクルを繰り返すことによって、このような中性条件下でのFcRn結合を増強したpH依存的抗原結合抗体は、大量の可溶型抗原をリソソームへと移行させて血漿中総抗原濃度を低下させることができる。FcRnはBBB
抗原結合分子の製造方法
本発明は、また以下の工程(a)〜(i)を含む、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) 脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子による当該抗原の脳組織液からの消失を評価する工程、
(g) 前記工程(f)で当該抗原の脳組織液からの消失が確認された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(h) 前記工程(g)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
本発明は、また以下の工程(a)〜(i)を含む、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) 脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインならびにFcγR結合ドメインをコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子による当該抗原の脳組織液からの消失を評価する工程、
(g) 前記工程(f)で当該抗原の脳組織液からの消失が確認された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(h) 前記工程(g)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
本発明は、また以下の工程(a)〜(i)を含む、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原を消失する機能を有する抗原結合分子の製造方法;
(a) 脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインを得る工程、
(b) 前記工程(a)で選択された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を得る工程、
(c) 前記工程(b)で得られた遺伝子を、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインならびに補体結合ドメインをコードする遺伝子と作動可能に連結する工程、
(d) 前記工程(c)で作動可能に連結された遺伝子を含む宿主細胞を培養する工程、
(e) 前記工程(d)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
(f) 前記工程(e)で得られた抗原結合分子による当該抗原の脳組織液からの消失を評価する工程、
(g) 前記工程(f)で当該抗原の脳組織液からの消失が確認された抗原結合ドメインをコードする遺伝子を含むベクターを含む宿主細胞を培養する工程、
(h) 前記工程(g)で得られた培養液から抗原結合分子を単離する工程、
を提供する。
本発明の非限定な一態様では、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドが適切な発現ベクターに挿入される。例えば、抗原結合ドメインが抗体の可変領域である場合には、当該可変領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入された制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗原結合分子の遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗原結合分子の可変領域をコードするcDNAを適切な発現ベクターに挿入することによって、本発明の抗原結合分子の発現ベクターが取得され得る。
前記のように取得された抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドは、前記の「pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン」および「pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン」の項にそれぞれ記載される、pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードする遺伝子と作動可能に連結される。連結に際して、直接インフレームで連結することもできるし、各ドメインをコードするポリヌクレオチドがリンカーを介してインフレームで連結され得る。また、上記の各ドメインに加えて、前記の「FcγR結合ドメイン」の項に記載されるFcγR結合ドメインをコードする遺伝子と作動可能に連結される。
本発明の抗原結合分子として抗体が使用される場合は、上記の「pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードする遺伝子」として抗体のFc領域をコードするポリヌクレオチドが適宜使用され得る。当該ポリヌクレオチドを改変して「pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性」および/または「pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性」が適宜改変されたFc領域も使用され得る。このような改変の非限定な態様は、前記の「pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン」および「pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメイン」の項にそれぞれ例示されている。
また、本発明の抗原結合分子として抗体が使用される場合において、上記の「pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインをコードする遺伝子」として抗体のFc領域をコードするポリヌクレオチドが使用されるときは、当該Fc領域に含まれるFcγR結合ドメインおよび/または補体結合ドメインも適宜使用され得る。当該ポリヌクレオチドを改変して「FcγRに対する結合活性」および/または「補体に対する結合活性」が適宜改変されたFc領域も使用され得る。このような改変の非限定な態様は、前記の「FcγRに対する結合活性」および「補体結合ドメイン」の項にそれぞれ例示されている。
所望の抗原結合分子を製造するために、抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが制御配列に作動可能に連結された態様で発現ベクターに組み込まれる。制御配列とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗原結合分子が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に連結され得る。例えばシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:4)を有するペプチドが使用されるが、これ以外にも適したシグナル配列が連結され得る。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、所望の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドを発現する組換え細胞が取得され得る。当該組換え細胞から、本発明の抗原結合分子を製造する方法は、前記の抗体の項で記載した方法に準じて製造され得る。
核酸に関して「作動可能に連結した」は、その核酸が他の核酸配列と機能的な関係にあることを意味する。例えば、プレシーケンス(presequence)または分泌リーダーのDNAは、あるポリペプチドの分泌に関わっている前駆体タンパク質として発現する場合は、そのポリペプチドのDNAと作動可能的に結合している。プロモーターまたはエンハンサーは、それがあるコード配列の転写に影響する場合はその配列と作動可能に連結している。または、リボソーム結合部は、それが翻訳を容易にする位置にある場合は作動可能にコード配列と連結している。通常、「作動可能に連結した」は、結合したDNA配列が連続しており、分泌リーダーの場合は連続して読取り枠内にあることを意味する。しかし、エンハンサーは連続する必要はない。連結は適切な制限部位でライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが、従来の慣行に従って使用される。また前記のOverlap Extension PCRの手法によっても連結された核酸が作製され得る。
本発明の非限定な一態様において、前記のように選択された条件によって抗原に対する結合活性が変化する抗原結合分子分子をコードするポリヌクレオチドが単離された後に、当該ポリヌクレオチドの改変体が適切な発現ベクターに挿入される。このような改変体の一つとして、ランダム化可変領域ライブラリとして、合成ライブラリや非ヒト動物を起源として作製された免疫ライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチド配列がヒト化された改変体が好適に挙げられる。ヒト化された抗原結合分子の改変体の作製方法は、前記のヒト化抗体の作製方法と同様の方法が採用され得る。
また、改変体のその他の態様として、ランダム化可変領域ライブラリとして合成ライブラリやナイーブライブラリを用いることによってスクリーニングされた本発明の抗原結合分子の抗原に対する結合親和性の増強(アフィニティ成熟化)をもたらすような改変が、単離されたポリヌクレオチド配列に施された改変体が好適に挙げられる。そのような改変体はCDRの変異誘導(Yangら(J. Mol. Biol. (1995) 254, 392-403))、鎖シャッフリング(Marksら(Bio/Technology (1992) 10, 779-783))、E.coliの変異誘発株の使用(Lowら(J. Mol. Biol. (1996) 250, 359-368))、DNAシャッフリング(Pattenら(Curr. Opin. Biotechnol. (1997) 8, 724-733))、ファージディスプレイ(Thompsonら(J. Mol. Biol. (1996) 256, 77-88))および有性PCR(sexual PCR)(Clameriら(Nature (1998) 391, 288-291))を含む種々のアフィニティー成熟化の公知の手順によって取得され得る。
前記のようなアミノ酸の変異が加えられたFc領域の改変体をコードするポリヌクレオチドと、前記のように選択された条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドとがインフレームで連結された重鎖を有する抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドも、本発明の改変体の一態様として作製される。
本発明によって、Fc領域をコードするポリヌクレオチドとインフレームで連結されたイオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法が提供される。また、ベクター中に予め作動可能に連結されたFc領域をコードするポリヌクレオチドと、イオン濃度の条件によって結合活性が変化する抗原結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収することを含む抗原結合分子の製造方法もまた提供される。
本発明の「抗原結合分子の製造方法」において、当該抗原結合分子による当該抗原の脳組織液からの消失を評価する方法として、公知の方法が採用され得る。適切な月齢のマウス等の非ヒト動物の群それぞれに、本発明の抗原結合分子が投与される。投与方法は、後述される「医薬組成物」の項で記載されるように、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物として、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、頭蓋内注射等により全身または局部的に投与され得る。全身投与の場合には本発明の医薬組成物に含まれる抗原結合分子のBBB透過活性(すなわち全身用途から局所への移行活性)も加味された当該抗原の脳組織液からの消失が評価され得るのに対して、頭蓋内投与では移行活性が除かれた当該抗原の脳組織液からの消失が評価される。
脳組織液からの消失を評価するために、例えば脳脊髄液中に存在する脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原の濃度を本発明の抗原結合分子を含む脳疾患治療剤の投与後経時的に測定することが可能である。脳脊髄液中の抗原の定量方法は、例えば、Fassbenderら(Proc. Natl. Acad. Sci. (2001) 98, 5856-5861)、またはBestら(J. Pharm. Exp. Therap. (2005) 313, 902-908)等に記載されているアミロイドβの濃度の測定方法に準じて、脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原の濃度を測定することが可能である。
当該濃度を測定するために、NMR(核磁気共鳴)又は質量分析(MS)などの分光法;SELDI(-TOF)、MALDI(-TOF)、1Dゲルベース分析、2Dゲルベース分析、液体クロマトグラフィー(例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)又は低圧液体クロマトグラフィー(LPLC))、薄層クロマトグラフィー、及びLC-MSベースの技術等が使用され得る。適切なLCMS技術を挙げると、ICAT(登録商標)(Applied Biosystems)又はiTRAQ(登録商標)(Applied Biosystems)が例示され得る。また、遊離GPC3が適切な酵素でさらに消化された遊離GPC3のさらなる断片を検出する方法も適宜採用され得る。さらに当該抗原濃度の測定は、直接的または間接的な検出方法によって実施され得る。すなわち当該抗原は、酵素、結合、受容体もしくは輸送タンパク質、抗体、ペプチド、アプタマーもしくはオリゴヌクレオチド、または当該抗原を特異的に結合させることができる任意の合成化学的な受容体もしくは化合物等の、リガンドまたはリガンド類との相互作用を介して、直接的または間接的に検出され得る。当該リガンドは、発光標識、蛍光標識または放射性標識、および/または親和性タグなどの検出可能な標識で修飾され得る。そのような例として、免疫学的方法が例示され得る。
好適な測定方法として、当該抗原に存在するエピトープに結合する抗体を使用する免疫学的方法が例示され得る。この免疫学的方法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA、EIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、発光免疫測定法(LIA)、酵素抗体法、蛍光抗体法、イムノクロマトグラフィー法、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法等が挙げられる。また、こうした免疫学的方法における測定は、手動操作の手技で行われ得るし、分析装置等の装置を用いても行われ得る。本発明における免疫学的方法は、例えばサンドイッチ法等の公知の方法に従い行うことができる。例えば、担体に固相化された第一の抗体と、生物学的試料及び標識物質によって修飾されている第二の抗体を、同時または順に反応させる。上記の反応によって、担体に固相化された第一の抗体、当該抗原および標識物質によって修飾されている第二の抗体の複合体が形成され、この複合体に含まれる第二の抗体に連結された標識物質を定量することによって、生物学的試料中に含まれる当該抗原の量(濃度)を測定することができる。
例えば、酵素免疫測定法の場合は、第一の抗体が固相化されたマイクロプレート、系列的に希釈された生物学的試料、HRP等の酵素によって修飾された第二の抗体、洗浄バッファー、およびHRP等の酵素による反応を受ける基質が含まれる溶液が好適に用いられる。非限定な測定の一態様では、第二の抗体を修飾する酵素に、その至適条件下で基質を反応させ、その酵素反応生成物の量が光学的方法等により測定され得る。また、蛍光免疫測定法の場合には、第一の抗体が固相化された光導波路、系列的に希釈された生物学的試料、蛍光物質によって修飾された第二の抗体、洗浄バッファーが好適に用いられ得る。非限定な測定の一態様では、第二の抗体を修飾する蛍光物質に照射された励起光によって、その蛍光物質が発する蛍光強度が測定され得る。
さらに放射免疫測定法の場合には、放射性物質による放射線量が測定される。また、発光免疫測定法の場合には、発光反応系による発光量が測定される。また、免疫比濁法、ラテックス比濁法、ラテックス凝集反応測定法等の場合には、エンドポイント法またはレート法により透過光や散乱光が測定される。また、イムノクロマトグラフィー法などを目視により測定する場合には、テストライン上に現れる標識物質の色が目視的に測定される。なお、この目視的に測定する代わりに、分析装置等の機器が適宜使用され得る。
医薬組成物
本発明は、本発明の抗原結合分子、または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を含む医薬組成物も提供する。本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子はその投与により通常の抗原結合分子と比較して脳組織液中の抗原濃度を低下させる作用が高い上に、投与された生体による免疫応答や当該生体中の薬物動態等が改変されていることから医薬組成物として有用である。本発明の医薬組成物には医薬的に許容される担体が含まれ得る。
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤をいう。
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法を用いて製剤化され得る。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用され得る。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化され得る。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定される。
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施にしたがって処方され得る。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適切な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)が併用され得る。
油性液としてはゴマ油、大豆油が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールも併用され得る。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合され得る。調製された注射液は通常、適切なアンプルに充填される。
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物が投与される。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、頭蓋内注射などにより全身または局部的に投与され得る。
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択され得る。抗原結合分子を含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲に設定され得る。または、例えば、患者あたり0.001〜100000 mgの投与量が設定され得るが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
また本発明は、少なくとも本発明の抗原結合分子を含む、本発明の方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を有効成分として含有する、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための薬剤に関する。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子を対象(患者、被験者、等)へ投与する工程を含む、疾患の治療方法に関する。疾患の非限定な一例として、癌、または炎症性疾患が挙げられる。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための薬剤の製造における使用に関する。
また本発明は、本発明の抗原結合分子もしくは本発明の製造方法により製造された抗原結合分子の、血漿中の二以上の抗原結合単位および二以上の抗原結合分子を含む複合体の血漿から消失させるための使用に関する。
また本発明は、本発明の方法に使用するための、本発明の抗原結合分子または本発明の製造方法により製造された抗原結合分子に関する。
なお、本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれるアミノ酸は翻訳後に修飾(例えば、N末端のグルタミンのピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾は当業者によく知られた修飾である)を受ける場合もあるが、そのようにアミノ酸が翻訳後修飾された場合であっても当然のことながら本発明で記載されているアミノ酸配列に含まれる。
なお本明細書において引用されたすべての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
〔実施例1〕ノーマルマウスを用いた中性域FcRn結合増強IgG抗体の脳移行性評価
(1−1)中性域FcRn結合増強IgG抗体の調製
Fv4-IgG1(重鎖配列番号:36、軽鎖配列番号:37)に対して、表8に示すFc領域に中性域におけるFcRn結合を増強するアミノ酸置換が導入されたFv4-hF22(重鎖配列番号:38、軽鎖配列番号:39)およびFv4-hF1(重鎖配列番号:40、軽鎖配列番号:41)をコードするDNA配列が動物発現用プラスミドに当該業者公知の方法で組み込まれた。抗体は以下の方法を用いて発現された。FreeStyle 293 Expression Medium培地(Invitrogen)に1.33 x 106/mLの細胞密度で懸濁され6well plateの各ウェルへ3 mLずつ播種されたヒト胎児腎細胞由来FreeStyle 293-F株(Invitrogen)に、リポフェクション法により調製されたプラスミドが導入された。CO2インキュベーター(37℃、8%CO2, 90 rpm)で4日間培養された培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(Amersham Biosciences)を用いて当業者公知の方法で抗体が精製された。精製された抗体の濃度は、分光光度計を用いた280 nmでの吸光度の測定値からPACE法により算出された吸光係数を用いて算出された(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
(1−2)中性域FcRn結合増強IgG抗体のマウスFcRnへの結合の評価
調製された抗体のマウスFcRnに対するアフィニティが以下に示す方法で測定された。Biacore T100(GE Healthcare)を用いて、マウスFcRnと抗体との結合が速度論的に解析された。Sensor chip CM4(GE Healthcare)上にアミンカップリング法でprotein L(ACTIGEN)を適当量固定化し、そこへ目的の抗体をキャプチャーさせた。次に、FcRn希釈液とブランクであるランニングバッファーをインジェクトし、センサーチップ上にキャプチャーさせた抗体にヒトFcRnを相互作用させた。ランニングバッファーには50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.0を用い、FcRnの希釈にもそれぞれのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Glycine-HCl, pH1.5が用いられた。測定は全て25℃で実施された。測定で得られたセンサーグラムから算出された、カイネティクスパラメーターである結合速度定数 ka(1/Ms)、および解離速度定数 kd(1/s)をもとに各抗体のヒトFcRnに対する KD(M)(アフィニティ) が算出された。各パラメーターの算出にはBiacore T100 Evaluation Software(GE Healthcare)が用いられた。Fv4-IgG1、Fv4-hF22およびFv4-hF1のマウスFcRnに対する中性条件下(pH7.0)におけるアフィニティを表8に示した。hF22およびhF1のマウスFcRnへの中性条件下におけるアフィニティはIgG1と比較してそれぞれ約4.5倍、24.7倍、向上していることが確認された。
Figure 2014043405
(1−3)ノーマルマウスを用いた脳移行性評価試験方法
ノーマルマウス(C57BL/6J mouse、Charles River Japan)にFv4-IgG1、Fv4-hF22およびFv4-hF1が5mg/kgの用量で尾静脈に10 mL/kgで単回投与された。
(1−3−1)血液サンプルの採取
血液サンプルは以下のとおり採取された。検体が尾静脈内に投与された後28日目に脳が採材される個体から、抗体の投与後5分、7時間、4日、7日、14日、28日の時点で採血された。
頸静脈もしくは背中足静脈からへパリンが被覆された採血器具(vacutainer)に採血された。また、脳採取日には、ペントバルビタール麻酔下で、心臓から採血された。採取された血液を直ちに4℃、15,000 rpmで15分間遠心分離することによって、血漿が得られた。分離された血漿は、測定を実施するまで-20℃以下に設定された冷凍庫に保存された。
(1−3−2)血漿中検体濃度の測定
マウス血漿中の検体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)が各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSoup(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。血漿中濃度として0.08、0.04、 0.02、0.01、0.005、0.0025、0.00125μg/mLの検体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス血漿測定試料が調製された。これらの検量線試料および血漿測定試料100μLが分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間保温(incubation)された。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と25℃で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)と25℃で1時間反応させた。その後、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で停止された後、マイクロプレートリーダーにて反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける血漿中抗体濃度推移を図1に示した。
(1−3−3)脳の採取
脳は以下のとおり採取された。ペントバルビタールナトリウム70 mg/kgが腹腔内に投与され、その全身麻酔の導入が確認されたC57BL/6J雄性マウスが、開胸された。心突部から穿刺されたダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS) が充填されたシリンジに接続された静脈留置針(外套針)が大動脈に留置された。直ちに、切開された右心耳から、シリンジポンプにて PBS 60 mLを流速15 mL/分で送液することによって灌流された。右心耳から流れ出る液体が透明になったのが確認された後に、速やかに当該マウスから脳が採取された。小脳を除去した後に大脳が半球に分割された。このうちカミソリを用いて軽く刻まれた後に2mLチューブ中で液体窒素にて急速凍結された半球が、ホモジネート(homogenate)が調製されるまで-80℃の冷凍庫で保管された。
(1−3−4)脳組織のホモジネートの作製
脳組織のホモジネートは以下のとおり作製された。予め調製されたNo-detergent buffer(25 mM Tris-HCl (pH 7.6)(Wako))、150 mM NaCl)と、2xRIPA buffer(25 mM Tris-HCl (pH 7.6)(Wako))、150 mM NaCl、2% NP-40、2% sodium deoxycholate、0.2% SDS)の各々に、実験直前に1 vol%のprotease inhibitor(Thermo scientific, Halt protease inhibitor cocktail)が加えられ氷冷された。以下の操作は特に断りがない限り、氷冷して行われた。その重量が測定された刻んだ脳組織に、333 mg/mLとなるようにNo-detergent bufferが添加された各チューブに一つずつアルミナボール(直径5 mm)が投入された。4℃の低温にてミキサーミル(MM300・Retsch)を用いて、20 Hzで5分間振動させた。4℃、3000 gで2分間遠心分離された内容物の混合物が、150μLずつ新しいチューブに添加された。更に350μLずつNo-detergent bufferが添加された各チューブに一つずつアルミナボール(直径5 mm)が投入された。4℃の低温にてミキサーミル(MM300・Retsch)を用いて、20 Hzで5分間振動させた。2xRIPA bufferが500μLずつ添加された各チューブが、4℃で1時間転倒混和された。4℃、14000 gで20分間遠心分離された上清が移された新しいチューブは、ホモジネート中の抗体濃度の測定に用いるまで-80℃の冷凍庫で保存された。
(1−3−5)脳ホモジネート中の抗体濃度の測定
マウス脳ホモジネート中の検体濃度はELISA法にて測定された。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody (SIGMA) をNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)に分注し、4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成された。脳ホモジネート中濃度として16、8、 4、2、1、0.5、0.25 ng/mLの検体を含む検量線試料と20倍以上希釈されたマウス脳ホモジナイズサンプル測定試料が調製された。これらの検量線試料および脳ホモジネート測定試料100μLが各ウェルに分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間保温された。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と25℃で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)と25℃で1時間反応させた。その後、TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が、1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で停止された後、マイクロプレートリーダーにて反応液の450 nmの吸光度が測定された。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出された。この方法で測定された静脈内投与後のノーマルマウスにおける脳中抗体濃度推移を図2に示した。
(1−4)ノーマルマウスを用いた脳移行性評価試験の結果
図1に各抗体の血漿中抗体濃度推移を示した。また、図2に各抗体の脳中抗体濃度推移を示した。また、これらの濃度推移から、解析ソフトウェアWinNonlin versions 5.1を用いて、脳中AUC(血中濃度−時間曲線下面積(area under the concentration-time curve))および血漿中AUCが算出された。表9に、各抗体の脳移行率の指標となる脳中AUC/血漿中AUC×100(%)の値を示した。これらの結果から、中性(pH7.0)条件下におけるマウスFcRnへの結合を24.7倍増強し、KD 150 nMを有するFv4-hF1は、Fv4-hIgG1と比較して、脳中AUC/血漿中AUC×100が12.7倍向上したことから、中性(pH7.0)条件下におけるFcRnの結合を増強することによって、IgG抗体の脳移行性を向上できることが示された。
Figure 2014043405
〔実施例2〕ノーマルマウスを用いたIgG抗体の脳脊髄液中の抗原濃度に及ぼす影響の評価
(2−1)中性条件下におけるFcRnへの結合を増強したpH依存的結合抗体を用いた血漿中からの抗原の除去
抗体一分子あたりが中和できる抗原量はアフィニティに依存し、アフィニティを強くすることで少ない抗体量で抗原を中和することが可能であり、さらに抗原に共有結合的に結合し、アフィニティを無限大にすることができれば一分子の抗体で一分子の抗原(二価の場合は二抗原)を中和することが可能である。しかしながら、これまでの方法では一分子の抗体は、一分子の抗原(二価の場合は二抗原)に結合することが限界であったが、最近、抗原に対してpH依存的に結合する抗体を用いることで、一分子の抗体が複数分子の抗原に結合することが可能であることが報告された(WO 2009/125825)。pH依存的抗原結合抗体は、抗原に対して血漿中の中性条件下においては強く結合し、エンドソーム内の酸性条件下において抗原を解離する。さらに抗原を解離した後に抗体がFcRnによって血漿中にリサイクルされると再び抗原に結合することが可能であるため、一つのpH依存的抗原結合抗体で複数の抗原に繰り返し結合することが可能となる。
さらに、pH依存的抗原結合抗体に対して、中性条件下(pH7.4)におけるFcRn結合を増強することによって、抗原に繰り返し結合できる効果、および、抗原の血漿中からの消失を促進する効果をさらに向上させ、抗体を投与することによって血漿中からの抗原の消失を除去することが可能であることが報告された(WO 2011/122011)。通常のIgG抗体からなるpH依存的結合抗体は、中性条件下においてFcRnに対してほとんど結合が認められないため、抗体と抗原の複合体は非特異的に細胞内に取り込まれ、その後、エンドソーム内で抗原を解離することで抗原の消失を加速する。抗体と抗原の複合体が非特異的に取り込まれるのではなく、中性条件下におけるFcRnへの結合を増強することで、pH依存的結合抗体の抗原消失効果をさらに加速することが出来ている。
(2−2)中性条件下におけるFcRnへの結合を増強したpH依存的結合抗体を用いた脳脊髄液中からの抗原の除去
FcRn欠損マウスにおいては抗体の血漿中滞留性が大幅に低下することから、FcRnが抗体の血漿中滞留性に重要な役割を果たしていることが明らかであり、このFcRnに対する中性条件下における結合を増強したpH依存的結合抗体を用いることで血漿中から抗原を除去することが可能であることはすでに報告されている(WO 2011/122011)。しかしながら、FcRn欠損マウスにおいてはIgG抗体の脳移行性は、正常マウスと差が無いことから(非特許文献10)、脳脊髄液中におけるIgG抗体に対するFcRnの役割は不明であった。そのため、中性条件下におけるFcRn結合を増強したpH依存的結合抗体を用いることで、脳脊髄液中の抗原を除去できるかは不明であった。実施例1においてFcRnへの中性における結合を増強することで、脳内への移行(トランスサイトーシス)を増大出来ることが示されたことから、脳内にFcRnがトランスサイトーシス機能を発揮していることが確認された。そのため、このFcRnのトランスサイトーシス機能を用いることで、脳脊髄液中の抗原を血漿中と同様に除去することが出来ることが示唆された。
そこで、本実施例において、中性条件下におけるFcRn結合を増強したpH依存的結合抗体が、脳脊髄液中において抗原の消失を加速できるかどうかを検証した。
(2−3)ノーマルマウスを用いた脳脊髄液への抗体抗原同時投与試験の方法
(2−3−1)被検物質及び抗原の投与
脳組織における抗原の除去を観察するために、被検物質(抗体)及び抗原が脳室内または静脈内に投与される。マウスの脳室内への被験物質および抗原を含む薬液の投与の方法として、(1)インジェクションカニューレを刺入して当該薬液を注入する、(2)あらかじめ留置しておいたガイドカニューレに、インジェクションカニューレを挿入して当該薬液を注入する、(3)当該薬液を充填した浸透圧ポンプを接続した脳室内投与用カニューレを埋め込む、の上記のいずれかの方法が用いられる。静脈内投与の場合は尾静脈から当該薬液が投与される。
(2−3−2)脳脊髄液(CSF)の採取
麻酔下で、後頭部正中切開が行われたマウスの後頭骨一環椎間の硬膜が露出される。硬膜表面および周囲組織を充分止血した後、当該硬膜に加えられた小切開部にガラスチューブを接触させる。毛細管現象を利用して血液の混入のない髄液が採取される。
(2−3−3)脳脊髄液(CSF)中の抗体濃度の測定
マウス脳脊髄液中の検体濃度がELISA法にて測定される。まず、Anti-Human IgG(γ-chain specific) F(ab')2 Fragment of Antibody(SIGMA)が各ウェルに分注されたNunc-Immuno Plate, MaxiSorp(Nalge nunc International)を4℃で1晩静置することによってAnti-Human IgG固相化プレートが作成される。脳脊髄液中濃度として0.08、0.04、 0.02、0.01、0.005、0.0025、0.00125μg/mLの検体を含む検量線試料と100倍以上希釈されたマウス脳脊髄液測定試料が調製される。これらの検量線試料および脳脊髄液測定試料100μLが分注されたAnti-Human IgG固相化プレートが25℃で1時間保温される。その後Biotinylated Anti-human IL-6 R Antibody(R&D)と25℃で1時間反応させ、さらにStreptavidin-PolyHRP80(Stereospecific Detection Technologies)と25℃で1時間反応させた。TMB One Component HRP Microwell Substrate(BioFX Laboratories)を基質として用いた発色反応が1N-Sulfuric acid(Showa Chemical)で反応停止された後、マイクロプレートリーダーにて反応液の450 nmの吸光度が測定される。マウス血漿中濃度は検量線の吸光度から解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出される。
(2−3−4)脳脊髄液(CSF)中の抗原(可溶型ヒトIL-6レセプター)濃度の測定
マウスの脳脊髄液中のhsIL-6R濃度は電気化学発光法にて測定される。脳髄液中の濃度として12.5、6.25、3.125、1.561、0.781、0.390、0.195 ng/mLに調製されるhsIL-6R検量線試料および50倍以上希釈したマウス脳髄液測定試料を調製される。これらの試料にSULFO-TAG NHS Ester(Meso Scale Discovery)でルテニウム化したMonoclonal Anti-human IL-6R Antibody(R&D)およびBiotinylated Anti-human IL-6 R Antibody (R&D)を混合し4℃で1晩反応させる。その際のAssay bufferには可溶型ヒトIL-6レセプターに対して大過剰のトシリズマブが含まれており、サンプル中のほぼ全てのhsIL-6Rが検体から乖離し、トシリズマブとの複合体として存在する状態とすることを目的とした。その後、反応液はMA400 PR Streptavidin Plate(Meso Scale Discovery)に分注される。さらに反応液を25℃で1時間反応させた後、洗浄後の各ウェルに、Read Buffer T(×4)(Meso Scale Discovery)が分注される。ただちに反応液の吸光度がSECTOR PR 400 reader(Meso Scale Discovery)で測定される。hSIL-6R濃度は検量線のレスポンスから解析ソフトウェアSOFTmax PRO(Molecular Devices)を用いて算出される。
〔参考実施例1〕Fc領域を有する抗原結合分子のFcRnとFcγRに対する結合実験
(1−1)Biacoreを用いたFcRnとFcγRに対する同時結合の評価
Biacore T100又はT200(GE Healthcare)を用いて、ヒト又はマウスFcRnとヒト又はマウスFcγRsとが抗原結合分子に同時に結合するかが評価された。Sensor chip CM4 (GE Healthcare) 上にアミンカップリング法によって固定化されたヒト又はマウスFcRnに、被験対象の抗原結合分子をキャプチャーさせた。次に、ヒト又はマウスFcγRsの希釈液とブランクとして使用されたランニングバッファーが注入され、センサーチップ上のFcRnに結合した抗原結合分子にヒト又はマウスFcγRsを相互作用させた。ランニングバッファーとして50 mmol/L sodium phosphate、150 mmol/L NaCl、0.05% (w/v) Tween20、pH7.4が用いられ、FcγRsの希釈にもこのバッファーが使用された。センサーチップの再生には10 mmol/L Trsi-HCl、pH9.5が用いられた。結合の測定は全て25℃で実施された。
(1−2)ヒトIgG、ヒトFcRn、ヒトFcγRあるいはマウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でヒトFcRnに対する結合能を有する抗体である、VH3-IgG1-F157(配列番号:55)とVL3-CK(配列番号:42) を含むFv4-IgG1-F157が、ヒトFcRnに結合するのと同時に、各種ヒトFcγRまたは各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。その結果、Fv4-IgG1-F157が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)に対して結合できることが示された(図3、4、5、6、7)。また、Fv4-IgG1-F157は同様に、ヒトFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対しても結合できることが示された。(図8、9、10、11)
以上のことから、pH中性域の条件下におけるヒトFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体が、 ヒトFcRnに結合するのと同時に、ヒトFcγRIa、FcγRIIa(R)、FcγRIIa(H)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F)やマウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIV等の各種ヒトFcγRおよび各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。
(1−3)ヒトIgG、マウスFcRn、マウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合活性を有する抗体であるVH3-IgG1-F20(配列番号:43)とVL3-CK(配列番号:42)を含むFv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。その結果、Fv4-IgG1-F20が、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRI、FcγRIIb、FcγRIII、FcγRIVに対して結合できることが示された(図12)。
(1−4)マウスIgG、マウスFcRn、マウスFcγRの同時結合実験
pH中性域における条件下でマウスFcRnに対する結合能を有する抗体であるmPM1H-mIgG1-mF3(配列番号:44)とmPM1L-mk1(配列番号:45)を含むmPM1-mIgG1-mF3が、マウスFcRnに結合するのと同時に、各種マウスFcγRに結合するか否かが評価された。その結果、mPM1-mIgG1-mF3は、マウスFcRnに結合するのと同時に、マウスFcγRIIbおよびFcγRIIIに対して結合できることが示された(図13)。マウスFcγRIおよびIVに対して結合が確認されなかった結果は、マウスIgG1抗体はマウスFcγRIおよびIVに対して結合能を持たないとの報告(J. Immunol. (2011) 187 (4), 1754-1763))から判断すると、妥当な結果であると考えられる。
これらのことから、pH中性域の条件下におけるマウスFcRnに対する結合活性を有するヒト抗体およびマウス抗体は、マウスFcRnに結合するのと同時に各種マウスFcγRに対しても結合できることが示された。以上のことから、ヒトおよびマウスIgGのFc領域にはFcRnへの結合領域とFcγRへの結合領域が存在するが、それらは互いに干渉することはなく、一分子のFcと二分子のFcRn、一分子のFcγRの四者を含むヘテロ複合体を形成することが可能であることが示された。
〔参考実施例2〕中性pHにおけるヒトFcRnに対する結合アフィニティが増大した様々な抗体Fc改変体の作製とその評価
pH中性域におけるヒトFcRnに対する結合アフィニティを増大させることを目的として、様々な変異がVH3-IgG1(配列番号:46)に導入され、評価がなされた。作製された重鎖と軽鎖であるL (WT)-CK(配列番号:47)とを各々含む改変体(IgG1-F1からIgG1-F1379)が、実施例(1−1)に記載された方法に準じて発現および精製された。これらの抗体とヒトFcRnとの結合が、参考実施例1に記載される方法に準じて解析された。すなわち、Biacoreを用いた中性条件下(pH7.0)におけるヒトFcRnに対する改変体の結合活性を表5−1〜5−33に示した。
〔参考実施例3〕P238D 改変に加えてhinge部分の改変を導入した改変体のFcγRIIbに対する結合の網羅的解析
ヒト天然型IgG1に対してEUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたFcに対し、さらにFcγRIIbへの結合を上げると天然型抗体の解析から予測される他の改変を組み合わせても、期待される組合せ効果は得られなかった。そこで、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変Fcに対して網羅的改変を導入することによって、さらにFcγRIIbへの結合を増強する改変体を見出すことが試みられた。抗体H鎖として用いられたIL6R-G1d(配列番号:48)のEUナンバリングで表される252位のMetをTyrに置換する改変、EUナンバリングで表される434位のAsnをTyrに置換する改変が導入されたIL6R-F11(配列番号:49)が作製された。さらに、IL6R-F11に対してEUナンバリングで表される238位のProをAspに置換する改変が導入されたIL6R-F652(配列番号:50)が作製された。L6R-F652に対し、EUナンバリングで表される238位の残基の近傍の領域(EUナンバリングで表される234位から237位、239位)が元のアミノ酸とシステインを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された抗体H鎖配列を含む発現プラスミドがそれぞれ調製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が共通して用いられた。これらの改変体が実施例(1−1)と同様の方法により発現、精製された。これらのFc変異体はPD variantと呼ばれる。参考実施例1と同様の方法により各PD variantのFcγRIIa R型およびFcγRIIbに対する相互作用が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果を表す図が作成された。各PD variantの各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変であるIL6R-F652/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各PD variantの各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された。横軸に各PD variantのFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸に各PD variantのFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ表示した(図18)。
その結果、11種類の改変体のFcγRIIbに対する結合が、当該各改変導入前の抗体と比較して増強し、FcγRIIa R型に対する結合を維持または増強する効果があることが見出された。これらの11種類の改変体のFcγRIIbおよびFcγRIIa Rに対する結合活性をまとめた結果を表10に示した。なお、表中の配列番号は評価した改変体のH鎖の配列番号を、また、改変とはIL6R-F11(配列番号:49)に対して導入した改変を表す。
Figure 2014043405
P238Dが導入された改変体に対して前記の11種類の改変が、さらに組み合わされて導入された改変体の相対的なFcγRIIbに対する結合活性の値、およびP238Dを含まないFcに当該改変が導入された改変体の相対的なFcγRIIbに対する結合活性の値を図19に示した。これら11種類の改変は、P238D改変に更に導入すると、導入前に比べてFcγRIIbに対する結合量が増強していた。一方、G237F、G237W、およびS239Dを除く8種類の改変がP238Dを含まない改変体に導入された場合、FcγRIIbに対する結合を低減する効果を示していた(データ示さず)。 この結果から、天然型IgG1に対して導入した改変の効果にもとづいてP238D改変が含まれる改変体に対して同改変を組み合わせて導入したときの効果を予測するのは困難であることが明らかとなった。また、いいかえれば今回見出された8種類の改変は、P238D改変が含まれる改変体に対して同改変を組み合わせて導入する本検討を行わなければ見出すことが不可能な改変である。
表10に示した改変体のFcγRIa、FcγRIIaR、FcγRIIaH、FcγRIIb、FcγRIIIaVに対するKD値を参考実施例1と同様の方法で測定した結果を表11に示した。なお、表中の配列番号は評価された改変体のH鎖の配列番号を、また、改変とはIL6R-F11(配列番号:49)に対して導入された改変を表す。ただし、IL6R-F11を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD(IIaR)/KD(IIb)およびKD(IIaH)/KD(IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD(IIb)/改変体のKD(IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表11に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-F11(配列番号:49)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表11のうち灰色で塗りつぶされたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表11に示されたように、いずれの改変体もIL6R-F11と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は1.9倍から5.0倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-F11/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はいずれも0.7であるため、表11のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が0.7から5.0であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれと比較してほぼ同等か、それよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性が向上していることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-F11と比較して親和性が低下していた。
Figure 2014043405
〔参考実施例4〕P238Dを含むFcとFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析
先の参考実施例3に示した通り、P238Dを含むFcに対して、FcγRIIbとの結合活性を向上する、あるいはFcγRIIbへの選択性を向上させると天然型IgG1抗体の解析から予測された改変を導入しても、FcγRIIbに対する結合活性が減弱してしまうことが明らかとなり、この原因としてFcとFcγRIIbとの相互作用界面の構造がP238Dを導入することで変化していることが考えられた。そこで、この現象の原因を追及するためP238Dの変異をもつIgG1のFc(以下、Fc(P238D)と呼ぶ)とFcγRIIb細胞外領域との複合体の立体構造をX線結晶構造解析により明らかにし、天然型 IgG1のFc(以下、Fc (WT)と呼ぶ)とFcγRIIb細胞外領域との複合体との立体構造を対比することによって、これらの結合様式が比較された。なお、FcとFcγR細胞外領域との複合体の立体構造に関する複数の報告がすでにあり、Fc (WT) / FcγRIIIb細胞外領域複合体(Nature (2000) 400, 267-273、J. Biol. Chem. (2011) 276, 16469-16477)、Fc (WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2011) 108, 12669-126674)、およびFc (WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体(J. Immunol. (2011) 187, 3208-3217)の立体構造が解析されている。これまでにFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造は解析されていないが、Fc(WT)との複合体の立体構造が既知であるFcγRIIaとFcγRIIbでは細胞外領域においてアミノ酸配列の93%が一致し、非常に高い相同性を有していることから、Fc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造はFc (WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造からモデリングにより推定された。
Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体についてはX線結晶構造解析により分解能2.6Åで立体構造を決定した。その解析結果の構造を図20に示した。2つのFc CH2ドメインの間にFcγRIIb細胞外領域が挟まれるように結合しており、これまで解析されたFc (WT)とFcγRIIIa、FcγRIIIb、FcγRIIaの各細胞外領域との複合体の立体構造と類似していた。次に詳細な比較のため、Fc(P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造とFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造とを、FcγRIIb細胞外領域ならびにFc CH2ドメインAに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせた(図21)。その際、Fc CH2ドメインB同士の重なりの程度は良好でなく、この部分に立体構造的な違いがあることが明らかとなった。さらにFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造ならびにFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造を使い、抽出されたFcγRIIb細胞外領域とFc CH2ドメインBとの間でその距離が3.7Å以下の原子ペアを比較することによって、FcγRIIbとFc (WT) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用とFcγRIIbとFc (P238D) CH2ドメインBとの間の原子間相互作用が比較された。表12に示すとおり、Fc (P238D)とFc (WT)では、Fc CH2ドメインBとFcγRIIbとの間の原子間相互作用は一致していなかった。
Figure 2014043405
さらにFc CH2ドメインAならびにFc CH2ドメインB単独同士でCα原子間距離をもとにした最小二乗法によって、Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造とFc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造の重合せをおこなうことによって、P238D付近の詳細構造が比較された。Fc (P238D)の変異導入位置であるEUナンバリングで表される238位のアミノ酸残基の位置がFc (WT)とは変化することにともない、ヒンジ領域から続く238位のアミノ酸残基の近辺のループ構造がFc (P238D)とFc (WT)では変化していることがわかる(図22)。もともとFc (WT)においてはEUナンバリングで表される238位のProはFcの内側にあり、238位の周囲の残基と疎水性コアを形成している。ところが、EUナンバリングで表される238位のProが、電荷をもち非常に親水的なAspに変化した場合、変化したAsp残基がそのまま疎水性コアに存在することは脱溶媒和の点でエネルギー的に不利となる。そこでFc (P238D)ではこのエネルギー的な不利を解消するため、EUナンバリングで表される238位のアミノ酸残基が溶媒側に配向する形に変化し、238位のアミノ酸残基付近のループ構造の変化をもたらしたと考えられる。さらに、このループはS-S結合で架橋されたヒンジ領域から距離的に遠くないことから、その構造変化が局所的な変化にとどまらず、Fc CH2ドメインAとドメインBの相対的な配置にも影響し、その結果、FcγRIIbとFc CH2ドメインBとの間の原子間相互作用に違いをもたらしたと推察される。このためP238D改変を既に有するFcに、天然型IgGにおいてFcγRIIbに対する選択性、結合活性を向上させる改変を組み合わせても予測される効果が得られなかったと考えられる。
また、P238Dの導入による構造変化の結果、Fc CH2ドメインAにおいては、変異が導入されたP238Dに隣接するEUナンバリングで表される237位のGlyの主鎖とFcγRIIbの160位のTyrとの間に水素結合が認められる(図23)。このTyr160に相当する残基はFcγRIIaではPheであり、FcγRIIaとの結合の場合ではこの水素結合は形成されない。160位のアミノ酸は、Fcとの相互作用界面におけるFcγRIIaとFcγRIIbの間の数少ない違いの一つであることを併せて考慮すると、FcγRIIbに特有となるこの水素結合の有無が、Fc (P238D)のFcγRIIbに対する結合活性の向上と、FcγRIIaに対する結合活性の低減を招き、選択性向上の原因になったと推測される。また、Fc CH2ドメインBについてはEUナンバリングで表される270位のAspとFcγRIIbの131位のArgとの間に静電的な相互作用が認められる(図24)。FcγRIIaのアロタイプの一つであるFcγRIIa H型では、FcγRIIbの131位のArgに対応する残基がHisであり、この静電相互作用は形成できない。このことからFcγRIIa R型と比較してFcγRIIa H型ではFc (P238D)に対する結合活性が低減している理由が説明可能である。このようなX線結晶構造解析の結果に基づく考察から、P238Dの導入によるその付近のループ構造の変化とそれに伴うドメイン配置の相対的な変化が天然型IgGとFcγRとの結合ではみられない新たな相互作用が形成され、P238D改変体のFcγRIIbに対する選択的な結合プロファイルにつながっている可能性があることが明らかとなった。
[Fc(P238D)の発現精製]
P238D改変を含むFcの調製は以下のように行われた。まず、hIL6R-IgG1-v1(配列番号:53)のEUナンバリングで表される220位のCysをSerに置換し、EUナンバリングで表される236位のGluからそのC末端をPCRによってクローニングした遺伝子配列Fc (P238D)を参考実施例(1−1)に記載された方法と同様な方法で発現ベクターの作製、発現、精製が行われた。なお、EUナンバリングで表される220位のCysは通常のIgG1においては、L鎖のCysとdisulfide bondを形成しているが、Fcのみを調製する場合にはL鎖を共発現させないことから、不要なdisulfide bond形成を回避するために当該Cys残基はSerに置換された。
[FcγRIIb細胞外領域の発現精製]
FcγRIIb細胞外領域は、公知のタンパク質の調製方法に準じて調製された。
[Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の精製]
結晶化に使用するため得られたFcγRIIb細胞外領域サンプル 2 mgに対し、glutathione S-transferaseとの融合蛋白として大腸菌により発現精製したEndo F1 (Protein Science (1996) 5, 2617-2622) 0.29 mgを加え、0.1M Bis-Tris pH6.5のBuffer条件で、室温にて3日間静置することにより、FcγRIIb細胞外領域のAsnに直接結合したN-acetylglucosamine以外のN型糖鎖が切断された。次に5000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された糖鎖切断処理が施されたFcγRIIb細胞外領域サンプルが、20mM HEPS pH7.5, 0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)により精製された。さらに得られた糖鎖切断FcγRIIb細胞外領域画分にFc (P238D)をモル比でFcγRIIb細胞外領域のほうが若干過剰となるよう混合された。10000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された前記混合液を20 mM HEPS pH7.5、0.05M NaClで平衡化したゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)を用いて精製することによって、Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のサンプルが得られた。
[Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶化]
10000MWCOの限外ろ過膜 により約10 mg/mlまで濃縮された前記のFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の試料を用いて、シッティングドロップ蒸気拡散法により当該複合体が結晶化された。結晶化にはHydra II Plus One (MATRIX)を用い、100 mM Bis-Tris pH6.5、17% PEG3350、0.2 M Ammonium acetate、および2.7%(w/v) D-Galactoseのリザーバー溶液に対し、リザーバー溶液:結晶化サンプルを0.2μl:0.2μlで混合して結晶化ドロップを作成した。シールされた当該結晶化ドロップを20℃に静置することによって、薄い板状の結晶が得られた。
[Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶からのX線回折データの測定]
得られたFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の単結晶一つが100 mM Bis-Tris pH6.5、20% PEG3350、Ammonium acetate、2.7% (w/v) D-Galactose、Ethylene glycol 22.5%(v/v) の溶液に浸漬された。微小なナイロンループ付きのピンを用いて溶液ごとすくいとられた単結晶を液体窒素中で凍結させた。高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーBL-1Aにて当該結晶のX線回折データが測定された。なお、測定中は常に-178℃の窒素気流中に置くことによって凍結状態を維持し、ビームラインに備え付けられたCCDディテクタQuantum 270(ADSC)によって、結晶を0.8°ずつ回転させながらトータル225枚のX線回折画像が収集された。得られた回折画像からの格子定数の決定、回折斑点の指数付け、ならびに回折データの処理には、プログラムXia2(CCP4 Software Suite)、XDS Package(Walfgang Kabsch)ならびにScala(CCP4 Software Suite)を用い、最終的に分解能2.46Åまでの当該結晶の回折強度データが得られた。本結晶は、空間群P21に属し、格子定数a=48.85Å、b=76.01Å、c=115.09Å、α=90°、β=100.70°、γ=90°であった。
[Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造解析]
Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造決定は、プログラムPhaser(CCP4 Software Suite)を用いた分子置換法によりおこなわれた。得られた結晶格子の大きさとFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の分子量から非対称単位中の複合体の数は一個と予想された。Fc (WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖239-340番ならびにB鎖239-340番のアミノ酸残基部分を別座標として取り出し、それぞれFc CH2ドメインの探索用モデルと設定した。同じくPDB code:3SGJの構造座標から、A鎖341-444番とB鎖341-443番のアミノ酸残基部分を一つの座標として取り出し、Fc CH3ドメインの探索用モデルと設定した。最後にFcγRIIb細胞外領域の結晶構造であるPDB code:2FCBの構造座標からA鎖6-178番のアミノ酸残基部分を取り出しFcγRIIb細胞外領域の探索用モデルと設定した。Fc CH3ドメイン、FcγRIIb細胞外領域、Fc CH2ドメインの順番に各探索用モデルの結晶格子内での向きと位置を、回転関数および並進関数から決定し、Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造の初期モデルが得られた。得られた初期モデルに対し2つのFc CH2ドメイン、2つのFc CH3ドメインならびにFcγRIIb細胞外領域を動かす剛体精密化をおこなったところ、この時点で25-3.0Åの回折強度データに対し、結晶学的信頼度因子R値は40.4%、Free R値は41.9%となった。さらにプログラムRefmac5(CCP4 Software Suite)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcならびにモデルから計算された位相をもとに算出された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップを見ながらのモデル修正をプログラムCoot(Paul Emsley)でおこなった。これらの作業を繰り返すことによってモデルの精密化がおこなわれた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込み、精密化をおこなうことによって、最終的に分解能25-2.6Åの24291個の回折強度データを用い、4846個の非水素原子を含むモデルに対し、結晶学的信頼度因子R値は23.7%、Free R値は27.6%となった。
[Fc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造作成]
Fc (WT) / FcγRIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3RY6の構造座標をベースに、プログラムDisovery Studio 3.1(Accelrys)のBuild Mutants機能を使い、FcγRIIbのアミノ酸配列と一致するように構造座標中のFcγRIIaに変異が導入された。その際、Optimization LevelをHigh、Cut Radiusを4.5とし、5つのモデルを発生させ、その中から最もエネルギースコアが良いものを採用し、Fc (WT) / FcγRIIb細胞外領域複合体のモデル構造と設定した。
〔参考実施例5〕結晶構造に基づいて改変箇所を決定したFc改変体のFcγRに対する結合の解析
参考実施例4で得られたFc (P238D)とFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析の結果に基づき、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変FcにおいてFcγRIIbとの相互作用に影響を与えることが予測される部位(EUナンバリングで表される233位、240位、241位、263位、265位、266位、267位、268位、271位、273位、295位、296位、298位、300位、323位、325位、326位、327位、328位、330位、332位、334位の残基)に対して網羅的な改変が導入された改変体を構築することによって、P238D 改変に加えてさらにFcγRIIbとの結合を増強する改変の組合せを得ることが可能であるか検討された。
IL6R-G1d(配列番号:48)に対し、EUナンバリングで表される439位のLysがGluに置換されたIL6R-B3(配列番号:54)が作製された。次に、IL6R-B3の、EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたIL6R-BF648が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が共通に用いられた。参考実施例14と同様の方法に従い発現させたこれらの抗体の改変体が精製された。参考実施例15の方法によって各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対するこれら抗体改変体の結合が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果を表す図が作成された。各改変体の各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換された改変であるIL6R-BF648/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各改変体の各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された。横軸に各改変体のFcγRIIbに対する相対的な結合活性の値、縦軸に各改変体のFcγRIIa R型に対する相対的な結合活性の値をそれぞれ表示した(図25)。
その結果、図25に示すように、全改変中24種類の改変体は、改変導入前の抗体と比較してFcγRIIbに対する結合が維持または増強していることが見出された。これらの改変体のそれぞれのFcγRに対する結合が表13に示した。なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入された改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。
Figure 2014043405
表13に示した改変体のFcγRIa, FcγRIIaR, FcγRIIaH, FcγRIIb, FcγRIIIa V型に対するKD値を参考実施例3の方法で測定した結果を表14にまとめた。表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD (IIaR)/KD (IIb)およびKD (IIaH)/KD (IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表14に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-B3(配列番号:54)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表14のうち灰色で塗りつぶしたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Figure 2014043405
表14から、いずれの改変体もIL6R-B3と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は2.1倍から9.7倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はそれぞれ0.3、0.2であるため、表14のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が4.6から34.0であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性を向上させていることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-B3と比較して親和性が低下していた。
得られた組合せ改変体のうち、有望なものについて、結晶構造からその効果の要因が考察された。図26にはFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造を示した。この中で、左側に位置するH鎖をFc Chain A、右側に位置するH鎖をFc Chain Bとする。ここでFc Chain AにおけるEUナンバリングで表される233位の部位は、FcγRIIbの113位のLysの近傍に位置することが分かる。ただし、本結晶構造においては、E233の側鎖はその電子密度がうまく観察されておらず、かなり運動性の高い状態にある。従ってEUナンバリングで表される233位のGluをAspに置換する改変は、側鎖が1炭素分短くなることによって側鎖の自由度が小さくなり、その結果、FcγRIIbの113位のLysとの相互作用形成時のエントロピーロスが低減され、結果、結合自由エネルギーの向上に寄与しているものと推測される。
図27には同じくFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体の構造のうち、EUナンバリングで表される330位の部位近傍の環境を示した。この図から、Fc (P238D) のFc Chain AのEUナンバリングで表される330位の部位周辺はFcγRIIbの85位のSer、86位のGlu、163位のLysなどから構成される親水的な環境であることが分かる。従って、EUナンバリングで表される330位のAlaをLys、あるいはArgに置換する改変は、FcγRIIbの85位のSer、ないし86位のGluとの相互作用強化に寄与しているものと推測される。
図28にはFc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体および、Fc (WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造を、Fc Chain Bに対しCα原子間距離をもとにした最小二乗法により重ね合わせ、EUナンバリングで表される271位のProの構造を示した。これら二つの構造は、良く一致するが、EUナンバリングで表される271位のProの部位においては異なる立体構造となっている。また、Fc (P238D) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造においては、この周辺の電子密度が弱いことを考え合わせると、Fc (P238D)/FcγRIIbにおいては、EUナンバリングで表される271位がProであることで、構造上、大きな負荷がかかっており、それによってこのループ構造が最適な構造をとり得ていない可能性が示唆された。従って、EUナンバリングで表される271位のProをGlyに置換する改変は、このループ構造に柔軟性を与え、FcγRIIbと相互作用するうえで最適な構造をとらせる際のエネルギー的な障害を軽減することで、結合増強に寄与しているものと推測される。
〔参考実施例6〕P238Dと組み合わせることによりFcγRIIbへの結合を増強する改変の組合せ効果の検証
参考実施例3および5において得られた改変の中で、FcγRIIbへの結合を増強する効果もしくはFcγRIIbへの結合を維持し、他のFcγRへの結合を抑制する効果がみられた改変同士を組み合わせることによる効果が検証された。
参考実施例5の方法と同様に、表10および13から選択された特に優れた改変が、抗体H鎖IL6R-BF648に対して導入された。抗体L鎖として共通してIL6R-Lが用いられ、参考実施例(1−1)と同様の方法に従い発現した抗体が精製された。参考実施例15と同様の方法により各FcγR(FcγRIa、 FcγRIIa H型、FcγRIIa R型、FcγRIIb、FcγRIIIa V型)に対する結合が網羅的に評価された。
以下の方法に従って、それぞれのFcγRとの相互作用解析結果について相対的結合活性が算出された。各改変体の各FcγRに対する結合量の値を、コントロールとした改変導入前の抗体(EUナンバリングで表される238位のProがAspに置換されたIL6R-BF648/IL6R-L)の各FcγRに対する結合量の値で割り、さらに100倍した値が各改変体の各FcγRに対する相対的な結合活性の値として表された(表15)。なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。
Figure 2014043405
表15−2は表15−1の続きの表である。
Figure 2014043405
表15に示した改変体のFcγRIa, FcγRIIaR, FcγRIIaH, FcγRIIb, FcγRIIIa V型に対するKD値を参考実施例14の方法で測定した結果を表16−1および16−2にまとめた。表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入した改変を表す。ただし、IL6R-B3を作製する際の鋳型としたIL6R-G1d/IL6R-Lについては、*として示した。また、表中のKD (IIaR)/KD (IIb)およびKD (IIaH)/KD (IIb)はそれぞれ、各改変体のFcγRIIaRに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値、各改変体のFcγRIIaHに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を示す。親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、親ポリペプチドのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で割った値を指す。これらに加えて、各改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値を表16−1および16−2に示した。ここで親ポリペプチドとは、IL6R-B3(配列番号:54)をH鎖に持つ改変体のことを指す。なお、表16−1および16−2のうち灰色で塗りつぶしたセルは、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたたため、
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表16−1および16−2から、いずれの改変体もIL6R-B3と比較してFcγRIIbに対する親和性が向上し、その向上の幅は3.0倍から99.0倍であった。各改変体のFcγRIIaRに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比、および各改変体のFcγRIIaHに対するKD値/各改変体のFcγRIIbに対するKD値の比は、FcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性に対する相対的なFcγRIIbに対する結合活性を表す。つまり、この値は各改変体のFcγRIIbへの結合選択性の高さを示した値であり、この値が大きければ大きいほどFcγRIIbに対して結合選択性が高い。親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIaRに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比、およびFcγRIIaHに対するKD値/FcγRIIbに対するKD値の比はそれぞれ0.3、0.2であるため、表16−1および16−2のいずれの改変体も親ポリペプチドよりもFcγRIIbへの結合選択性が向上していた。改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値/親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方のKD値が1以上であるとは、その改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合が親ポリペプチドのFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合と同等であるか、より低減していることを意味する。今回得られた改変体ではこの値が0.7から29.9であったため、今回得られた改変体のFcγRIIaRおよびFcγRIIaHに対する結合活性のうち強い方の結合は親ポリペプチドのそれと比較してほぼ同等か、それよりも低減していたといえる。これらの結果から、今回得られた改変体では親ポリペプチドと比べて、FcγRIIa R型およびH型への結合活性を維持または低減しつつ、FcγRIIbへの結合活性を増強しており、FcγRIIbへの選択性を向上させていることが明らかとなった。また、FcγRIaおよびFcγRIIIaVに対しては、いずれの改変体もIL6R-B3と比較して親和性が低下していた。
Figure 2014043405
表16−2は表16−1の続きの表である。
Figure 2014043405
〔参考実施例7〕FcγRIIbへの結合が増強された改変体の作製
FcγRIIbへの結合を増強する際に、他の活性型FcγRに対する結合を可能な限り抑制したうえで、FcγRIIbへの結合を増強することが好ましい。そこで、FcγRIIbへの結合を増強する、または選択性を向上する効果がある改変同士を組み合わせ、さらにFcγRIIbへの結合が増強されまたは選択性が向上した改変体が作製された。具体的には、FcγRIIbへの結合の増強、選択性の向上において優れた効果を示すP238Dの改変を基礎とし、参考実施例3、参考実施例5、参考実施例6においてP238Dの改変と組み合わせることで効果が見られた改変同士がさらに組み合わされた。
IL6R-G1d(配列番号:48)、IL6R-B3(配列番号:54)のFc領域に、参考実施例3、参考実施例5、参考実施例6においてP238D(238位のProのAspへの置換を表し、同様の表記の場合も数字はEUナンバリングで表されるアミノ酸の位置を表し、その前に記載されるアミノ酸の一文字記号は置換前のアミノ酸、そのあとに記載されるアミノ酸の一文字記号は置換後のアミノ酸を表す)の改変と組み合わせて効果が認められた改変である、E233D、L234Y、G237D、S267Q、H268D、P271G、Y296D、K326D、K326A、A330R、A330Kを組み合わせた改変体が作製された。抗体L鎖としてIL6R-L(配列番号:51)を用いて、参考実施例14の方法に従い、これらの改変体を重鎖に含む抗体が発現、精製された。参考実施例15の方法により各改変体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV)に対する結合が評価された。
各改変体の各FcγRに対するKDを表17に示した。なお、改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入した改変を示した。ただし各改変体を作製する際の鋳型としたIL6R-B3/IL6R-Lは*として示した。表中の「KD (IIaR)/KD (IIb)」とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを各改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。「親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)」は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。また、「親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)」は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγR IIaRに対するKD値を各改変体のFcγR IIaRに対するKD値で除した値を指す。なお、表17中灰色で塗りつぶされたセル中の数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Figure 2014043405
ヒト天然型IgG1の配列を含むIL6R-G1d/IL6R-LにK439Eの改変が導入されたIL6R-B3/IL6R-Lの各FcγRに対する結合を1とした場合に、IL6R-G1d/IL6R-L のFcγRIaへの結合が1.3倍、FcγRIIaRへの結合が1.1倍、FcγRIIaHへの結合が1.1倍、FcγRIIbへの結合が1.2倍、FcγRIIIaVへの結合が0.9倍であり、IL6R-G1d/IL6R-LとIL6R-B3/IL6R-Lのこれら全てのFcγRに対する結合は同等であった。従って各改変体の各FcγRへの結合を当該改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lと比較することは、各改変体の各FcγRへの結合をヒト天然型IgG1の配列を含むIL6R-G1d/IL6R-Lの各FcγRへの結合と比較することと同等であると考えられる。そこでこれ以降の実施例においては各改変体の各FcγRへの結合活性を当該改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lの各FcγRへのと比較することとした。表17から、改変導入前のIL6R-B3と比較していずれの改変体のFcγRIIbへの結合活性も向上しており、最も低かったIL6R-BF648/IL6R-Lの結合活性が2.6倍、最も高かったIL6R-BP230/IL6R-Lの結合活性は147.6倍向上していた。また、選択性を示すKD (IIaR)/KD (IIb)の数値は、最も低かったIL6R-BP234/IL6R-Lで10.0、最も高かったIL6R-BP231/IL6R-Lで32.2となり、いずれの改変体の当該数値も改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lの0.3と比較して選択性が向上していた。なお、いずれの改変体も、FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIIaVへの結合活性は改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lのそれよりも低かった。
〔参考実施例8〕FcγRIIbに対する結合を増強したFc領域 とFcγRIIb細胞外領域との複合体およびFcγRIIaR細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析
参考実施例7において最もFcγRIIbへの結合が増強された改変体IL6R-BP230/IL6R-LのFcγRIIbへの結合は、改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lと比較して約150倍に増強され、FcγRIIaRへの結合も1.9倍程度に抑えられている。従ってIL6R-BP230/IL6R-LはFcγRIIbへの結合、選択性共に優れた改変体であるが、可能な限りFcγRIIaRへの結合を抑制したうえでFcγRIIbへの結合がさらに増強されたより好ましい改変体を作製する可能性が模索された。
参考実施例4の図24に示したように、P238Dの改変を含むFc領域では、CH2ドメインBのEUナンバリング270位で表されるAspとFcγRIIbの131番目のArgとの間で強固な静電相互作用が形成されるが、この131番目のアミノ酸残基がFcγRIIIaおよびFcγRIIaHではHisであるのに対し、FcγRIIaRではFcγRIIbと同じArgである。その結果、FcγRIIaRとFcγRIIbとの間で131番目のアミノ酸残基とCH2ドメインBのEUナンバリング270位で表されるAspとの相互作用に差が生じないことが、Fc領域のFcγRIIbへの結合と FcγRIIaRへの結合の選択性が出にくい要因となっていると考えられた。
一方で、FcγRIIaとFcγRIIb細胞外領域のアミノ酸配列は、その93%が同一で非常に高い相同性を有している。天然型IgG1のFc領域(以下Fc (WT))とFcγRIIaRの細胞外領域複合体の結晶構造(J. Imunol. (2011) 187, 3208-3217)の分析によると、両者の相互作用の界面付近においては、FcγRIIaRとFcγRIIbとの間でわずか3アミノ酸(Gln127、Leu132、Phe160)の違いしか見いだせておらず、Fc領域のFcγRIIbへの結合と FcγRIIaRへの結合の選択性の改善には相当な困難が予想された。
そのため、Fc領域のさらなるFcγRIIbに対する結合活性の増強とFc領域のFcγRIIbに対する結合とFcγRIIaRへの結合の選択性の向上を図るために、FcγRIIbに対する結合が増強されたFc領域とFcγRIIb細胞外領域との複合体の立体構造だけではなく、FcγRIIbに対する結合を増強したFc領域とFcγRIIaR細胞外領域との複合体の立体構造が併せて解析され、当該Fc領域とFcγRIIbとの相互作用と当該Fc領域とFcγRIIaRとの相互作用の微妙な差異が明らかになることが重要と考えられた。そこで、最初にIL6R-BP230/IL6R-Lの作製において基礎となった改変体であって参考実施例6において作製されたIL6R-BP208/IL6R-L のFc領域からK439Eの改変が除かれたFc (P208) とFcγRIIb細胞外領域、またはFcγRIIaR細胞外領域との複合体のX線結晶構造が解析された。
(8−1)Fc(P208)とFcγRIIb細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析
[Fc (P208) の発現精製]
Fc (P208)は以下のように調製された。まず、IL6R-BP208の、EUナンバリングで表される439位のGluを天然型ヒトIgG1の配列であるLysにしたIL6R-P208が作製された。次にEUナンバリングで表される220位のCysがSerに置換された改変体をコードするDNAを鋳型として、EUナンバリングで表される216位のGluからそのC末端がPCRによってクローニングされた遺伝子配列Fc (P208)がクローニングされた。参考実施例14に記載の方法にしたがって発現ベクターの作製、発現、精製を行った。なお、通常のIgG1のEUナンバリングで表される220位のCysは、L鎖に存在するCysとジスルフィド結合を形成しているが、Fc領域のみを調製する場合、L鎖を共発現させないため、不要なdisulfide bond形成を回避するために当該220位のCysはSerに置換された。
[FcγRIIb細胞外領域の発現精製]
FcγRIIb細胞外領域は、参考実施例15の方法にしたがって調製された。
[Fc (P208) FcγRIIb細胞外領域複合体の精製]
glutathione S-transferaseとの融合蛋白として大腸菌内で発現されたEndo F1(Protein Science (1996) 5, 2617-2622)の精製産物0.15 mgが加えられた、結晶化のために得られた1.5 mgのFcγRIIb細胞外領域サンプルを、0.1M Bis-Tris pH6.5のバッファー中で、室温にて3日間静置することにより、当該FcγRIIb細胞外領域サンプル中のN型糖鎖がAsnに直接結合したN-acetylglucosamineを残して切断された。次に5000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された前記の糖鎖切断処理が施されたFcγRIIb細胞外領域サンプルは、20mM HEPES pH7.5, 0.1M NaClで平衡化されたゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)によって精製された。さらに、Fc (P208) がモル比でFcγRIIb細胞外領域のほうが若干過剰となるよう加えられた、前記の糖鎖切断FcγRIIb細胞外領域の精製画分は、10000MWCOの限外ろ過膜により濃縮され、その後、25mM HEPES pH7.5, 0.1M NaClで平衡化されたゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)により精製された。前記のように得られた精製画分が、Fc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体のサンプルとして以後の検討に使用された。
[Fc (P208)/FcγRIIb複合体細胞外領域複合体の結晶化]
10000MWCOの限外ろ過膜 により約10 mg/mlまで濃縮されたFc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体のサンプルは、ハンギングドロップ蒸気拡散法によりSeeding法を併用して結晶化された。結晶化にはVDXmプレート(Hampton Research)を用い、0.1M Bis-Tris pH6.5、19%(w/v) PEG3350、0.2 M Potassium Phosphate dibasicのリザーバー溶液に対し、リザーバー溶液:結晶化サンプル=0.85μl:0.85μlで混合して作成された結晶化ドロップに、同様な条件で得られた同複合体の結晶をSeed Bead(Hampton Research)を用いて砕いた種結晶溶液から作成した希釈溶液0.15μlを添加し、リザーバーの入ったウェルに密閉、20℃に静置することにより、板状の結晶が得られた。
[Fc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体結晶からのX線回折データの測定]
前記のように得られたFc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体の単結晶の一つを0.1M Bis-Tris pH6.5、24% (w/v) PEG3350、0.2 M Potassium Phosphate dibasic、20% (v/v) Ethylene glycolの溶液に浸した後、微小なナイロンループ付きのピンで溶液ごとすくいとり、液体窒素中で凍結させた当該単結晶からのX線回折データは、Spring-8のBL32XUにて測定された。なお、測定中、常に-178℃の窒素気流中に置くことで凍結状態が維持され、ビームライン備え付けのCCDディテクタMX-225HE(RAYONIX)により、当該単結晶を0.6°ずつ回転させながら計300枚の当該単結晶のX線回折画像が収集された。得られた回折画像からの格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理には、プログラムXia2(J. Appl. Cryst. (2010) 43, 186-190)、XDS Package(Acta Cryst. (2010) D66, 125-132)およびScala(Acta Cryst. (2006) D62, 72-82)を用い、最終的に分解能2.81Åまでの当該単結晶の回折強度データが得られた。本結晶は、空間群C2221に属し、格子定数a=156.69Å、b=260.17Å、c=56.85Å、α=90°、β=90°、γ=90°であった。
[Fc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体のX線結晶構造解析]
Fc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体の構造は、プログラムPhaser(J. Appl. Cryst. (2007) 40, 658-674)を用いた分子置換法により決定された。得られた結晶格子の大きさとFc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体の分子量から非対称単位中の複合体の数は一個と予想された。Fc (WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造であるPDB code:3SGJの構造座標から別座標として取り出された、A鎖239-340番ならびにB鎖239-340番のアミノ酸残基部分が、Fc領域のCH2ドメインの探索用モデルとして使用された。同じくPDB code:3SGJの構造座標から一つの座標として取り出された、A鎖341-444番とB鎖341-443番のアミノ酸残基部分がFc領域のCH3ドメインの探索用モデルとして使用された。最後にFcγRIIb細胞外領域の結晶構造であるPDB code:2FCB の構造座標から取り出されたA鎖6-178番のアミノ酸残基部分がFc (P208) の探索用モデルとして使用された。Fc領域のCH3ドメイン、FcγRIIb細胞外領域、Fc領域のCH2ドメインの各探索用モデルの結晶格子内での向きと位置を、回転関数および並進関数から決定しようとしたところ、CH2ドメインの一つの位置がうまく決定されなかった。そこで残りの三つの部分から計算された位相をもとに計算された電子密度マップから、Fc (WT) / FcγRIIIa細胞外領域複合体の結晶構造を参考にしながら最後のCH2ドメインAの位置が決定され、Fc (P208) / FcγRIIb細胞外領域複合体結晶構造の初期モデルが得られた。得られた初期モデルに対し二つのFc領域のCH2ドメイン、二つのFc領域のCH3ドメインおよびFcγRIIb細胞外領域を動かす剛体精密化をおこなったところ、剛体精密化が行われた時点で25-3.0Åの回折強度データを用いた構造モデルの結晶学的信頼度因子R値は42.6%、Free R値は43.7%となった。さらにプログラムREFMAC5(Acta Cryst. (2011) D67, 355-367)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foと構造モデルから計算された構造因子Fc領域および構造モデルから計算された位相をもとに算出された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをみながら、構造モデルをプログラムCoot(Acta Cryst. (2010) D66, 486-501)を用いて修正する作業を繰り返すことで構造モデルの精密化が行われた。さらに2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子を構造モデルに組み込み、精密化を行うことで、最終的に分解能25-2.81Åの27259個の回折強度データを用いた、4786個の非水素原子を含む構造モデルの、結晶学的信頼度因子R値は24.5%、Free R値は28.2%となった。
構造解析の結果、Fc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体の立体構造を分解能2.81Åで決定された。その解析の結果、取得された構造を図29に示した。2つのFc領域のCH2ドメインの間にFcγRIIbの細胞外領域が挟まれるように結合しており、これまで解析された天然型IgGのFcであるFc (WT)とFcγRIIIa(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2011) 108, 12669-126674)、FcγRIIIb(Nature (2000) 400, 267-273、J. Biol. Chem. (2011) 276, 16469-16477)、およびFcγRIIa(J. Immunol. (2011) 187 (6), 3208-3217)の各細胞外領域との複合体の立体構造と類似していた。
細部をみると、Fc (P208) /FcγRIIb細胞外領域の複合体では、G237DならびにP238Dの改変の導入の影響により、Fc (WT)/FcγRIIaR細胞外領域の複合体と比較して、Fc領域のCH2ドメインAのヒンジ領域から続くEUナンバリングで表される233位から239位のループ構造が変化していた(図30)。この結果、Fc (P208) のEUナンバリングで表される237位のAspの主鎖とFcγRIIbの160番目のTyr側鎖との間に強固な水素結合の形成が認められた(図31)。この160番目のアミノ酸残基はFcγRIIaHおよびFcγRIIaRともにPheであり、水素結合の形成は不可能なことから、本水素結合はFc (P208)のFcγRIIbに対する結合活性の向上ならびにFcγRIIaに対する結合活性の低減というFc (P208)のFcγRIIbへの結合とFcγRIIaへの結合の選択性の獲得に重要な寄与をしているとも考えられる。
一方で、Fc (P208)のEUナンバリングで表される237位のAspの側鎖自体はFcγRIIbとの結合に際してとくに目立った相互作用は形成しておらず、Fc領域内部のほかの残基との相互作用もみられなかった。このEUナンバリングで表される237位のAspの周囲には、Fc領域内のEUナンバリングで表される332位のIle、333位のGlu、334位のLysが近傍に位置していた(図32)。これらの部位のアミノ酸残基を親水性残基に置換することによってFc (P208)のEUナンバリングで表される237位のAsp側鎖と相互作用を形成させ、ループ構造を安定化できれば、当該Fc領域とFcγRIIbの160番目のTyrとの水素結合形成にともなうエントロピー的なエネルギー損失を軽減することにつながり、結合自由エネルギーの増加、つまり結合活性の向上につながる可能性も考えられた。
参考実施例4において示されたP238Dの改変を含むFc (P238D)とFcγRIIb細胞外領域の複合体のX線結晶構造とFc (P208)とFcγRIIb細胞外領域の複合体のX線結晶構造を比較すると、Fc (P208)はFc (P238D)と比較し、新たに5個の変異を含んでおり、その多くは側鎖レベルの変化にとどまる。ただし、Fc領域のCH2ドメインBにおいてはEUナンバリングで表される271位のProをGlyへと改変したことで、主鎖レベルでの位置変化がみられるとともに、併せてEUナンバリングで表される266-270位のループの構造変化がおきていた(図33)。参考実施例5に示したように、Fc (P238D)のEUナンバリングで表される270位のAspがFcγRIIbの131番目のArgと強固な静電相互作用を形成する際に、このEUナンバリングで表される271位のPro部分に立体化学的なストレスがかかっている可能性が示唆された。今回EUナンバリングで表される271位のアミノ酸のGlyへの改変によりみられた構造変化は、改変前のProにたまっていた構造的なひずみが解消された結果と考えられ、その解消分がFcγRIIbとの結合自由エネルギーの改善、つまり結合活性の向上につながったと推察され得る。
さらにこのEUナンバリングで表される266-271位のループの構造変化に起因して、EUナンバリングで表される292位のArgが二状態をとりつつ構造変化をおこしていることが確認された。その際、このEUナンバリングで表される292位のArgとFc (P208)における改変残基の一つであるEUナンバリングで表される268位のAspとで形成される静電相互作用(図33)が、本ループ構造の安定化に寄与している可能性が考えられた。本ループ中のEUナンバリングで表される270位のAspとFcγRIIbの131番目のArgとで形成される静電相互作用が、Fc (P208)とFcγRIIbの結合活性に大きく寄与していることから、当該ループ構造を結合時のコンフォメーションに安定化させることで、結合にともなうエントロピー的なエネルギー損失が軽減され、本改変が結合自由エネルギーの増加つまり結合活性の向上につながった可能性がある。
また、本構造解析結果をもとに、さらなる活性向上を目指した改変の可能性が精査され、改変導入部位の候補のひとつとしてEUナンバリングで表される239位のSerが見出された。図34に示すとおり、FcγRIIbの117番目のLysが構造的にみてもっとも自然な形で伸びる方向にこのCH2ドメインBのEUナンバリングで表される239位のSerが位置している。ただ、今回の解析ではFcγRIIbの117番目のLysの電子密度は観察されていないことから、一定の構造はとっておらず、現状ではFc (P208)との相互作用へのこのLys117の関与は限定的であるとも考えられる。このCH2ドメインBのEUナンバリングで表される239位のSerを、負電荷を有するAspまたはGluへと改変した場合、正電荷をもつFcγRIIbの117番目のLysとの間に静電相互作用が期待でき、その結果としてFcγRIIへの結合活性の向上が期待された。
一方、CH2ドメインAにおけるEUナンバリングで表される239位のSerの構造をみると、本アミノ酸側鎖は、EUナンバリングで表される236位のGlyの主鎖と水素結合を形成し、ヒンジ領域から続き、FcγRIIbの160番目のTyrの側鎖と水素結合を形成するEUナンバリングで表される237位のAspを含む233位から239位にかけてのループ構造を安定化させていると考えられた(図31)。当該ループ構造を結合時のコンフォメーションに安定化させることは、結合にともなうエントロピー的なエネルギー損失を軽減し、結果として結合自由エネルギーの増加つまり結合活性の向上につながる。一方、このCH2ドメインAにおけるEUナンバリングで表される239位のSerをAspまたはGluへと改変した場合、EUナンバリングで表される236位のGlyの主鎖との水素結合が失われ、ループ構造の不安定化につながる可能性もあり得る。さらにすぐ近くに存在するEUナンバリングで表される265位のAspとの静電反発をも招く可能性があり、さらなるループ構造の不安定化が起きるとも考えられた。この不安定化された分のエネルギーは、FcγRIIbとの結合自由エネルギーの減少に働くため、結果として結合活性の低下を招くことにもなり得る。
(8−2)Fc(P208)とFcγRIIaR細胞外領域との複合体のX線結晶構造解析
[FcγRIIaR細胞外領域の発現精製]
FcγRIIaR細胞外領域は、参考実施例15の方法にしたがって調製された。
[Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体の精製]
S-transferaseとの融合蛋白として大腸菌内で発現されたEndo F1(Protein Science (1996) 5, 2617-2622)の精製産物0.15 mg、20μlの5 U/ml 濃度のEndo F2(QA-bio)および20μlの5 U/ml 濃度のEndo F3(QA-bio)が加えられた、1.5 mgの精製されたFcγRIIa Rの細胞外領域サンプルを、0.1M Na Acetate pH4.5のバッファー中で、室温にて9日間静置の後、さらに、0.07 mgの前記Endo F1、7.5μl の前記Endo F2および7.5μl の前記Endo F3の追加後3日間静置することにより、当該FcγRIIa R細胞外領域サンプル中のN型糖鎖がAsnに直接結合したN-acetylglucosamineを残して切断された。次に10000MWCOの限外ろ過膜により濃縮された前記の糖鎖切断処理が施されたFcγRIIaR細胞外領域サンプルは、25 mM HEPES pH7、0.1M NaClで平衡化されたゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)によって精製された。さらに、Fc (P208) をモル比でFcγRIIaR細胞外領域のほうが若干過剰となるよう加えられた、前記の糖鎖切断FcγRIIaR細胞外領域の精製画分は、10000MWCOの限外ろ過膜による濃縮後、25mM HEPES pH7、0.1M NaClで平衡化されたゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200 10/300)により精製された。前記のように得られた精製画分が、Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体のサンプルとして以後の検討に使用された。
[Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体の結晶化]
10000MWCOの限外ろ過膜 により約10 mg/mlまで濃縮されたFc (P208)/FcγRIIa R型細胞外領域複合体のサンプルは、シッテイングドロップ蒸気拡散法にて結晶化された。0.1 M Bis-Tris pH7.5、26% (w/v) PEG3350、0.2 M Ammonium Sulfaeのリザーバー溶液に対し、リザーバー溶液:結晶化サンプル=0.8μl:1.0μlで混合して作成された結晶化ドロップを、シールで密閉して20℃に静置することにより、板状の結晶が得られた。
[Fc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体結晶からのX線回折データの測定]
前記のように得られたFc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体の単結晶の一つを0.1 M Bis-Tris pH7.5、27.5% (w/v) PEG3350、0.2 M Ammonium Sulfate、20% (v/v) Glycerolの溶液に浸した後、微小なナイロンループ付きのピンで溶液ごとすくいとり、液体窒素中で凍結させた当該単結晶中からのX線回折データは、高エネルギー加速器研究機構の放射光施設フォトンファクトリーBL-17Aにて測定された。なお、測定中、常に-178℃の窒素気流中に置くことで凍結状態が維持され、ビームライン備え付けのCCDディテクタQuantum 315r(ADSC)により、当該単結晶を0.6°ずつ回転させながら計225枚の当該単結晶のX線回折画像が収集された。得られた回折画像からの格子定数の決定、回折斑点の指数付け、および回折データの処理には、プログラムXia2(J. Appl. Cryst. (2010) 43, 186-190)、XDS Package(Acta Cryst. (2010) D66, 125-132)およびScala(Acta Cryst. (2006) D62, 72-82)を用い、最終的に分解能2.87Åまでの回折強度データが得られた。本結晶は、空間群C2221に属し、格子定数a=154.31Å、b=257.61Å、c=56.19Å、α=90°、β=90°、γ=90°であった。
[Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体のX線結晶構造解析]
Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体の構造は、プログラムPhaser(J. Appl. Cryst. (2007) 40, 658-674)を用いた分子置換法により決定された。得られた結晶格子の大きさとFc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体の分子量から非対称単位中の複合体の数は一個と予想された。実施例(8−1)で得られたFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体の結晶構造を探索用モデルとして用いて、Fc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体の結晶格子内での向きと位置が、回転関数および並進関数から決定された。さらに得られた初期構造モデルに対し、二つのFc領域のCH2ドメイン、二つのFc領域のCH3ドメインおよびFcγRIIaR細胞外領域を独立に動かす剛体精密化をおこなったところ、剛体精密化が終了した時点で25-3.0Åの回折強度データを用いた構造モデルの結晶学的信頼度因子R値は38.4%、Free R値は30.0%となった。さらにプログラムREFMAC5(Acta Cryst. (2011) D67, 355-367)を用いた構造精密化と、実験的に決定された構造因子Foとモデルから計算された構造因子Fcならびにモデルから計算された位相をもとに算出された2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをみながら当該構造モデルをプログラムCoot(Acta Cryst. (2010) D66, 486-501)を用いて修正する作業を繰り返すことで構造モデルの精密化が行われた。最後に2Fo-Fc、Fo-Fcを係数とする電子密度マップをもとに水分子をモデルに組み込み、精密化をおこなうことで、最終的に分解能25-2.87Åの24838個の回折強度データを用いた、4758個の非水素原子を含む構造モデルの、結晶学的信頼度因子R値は26.3%、Free R値は38.0%となった。
構造解析の結果、Fc (P208)/FcγRIIaR細胞外領域複合体の立体構造が分解能2.87Åで決定された。Fc (P208)/FcγRIIaR型細胞外領域複合体の結晶構造を、参考実施例(8−1)に示したFc (P208)/FcγRIIb細胞外領域複合体との結晶構造と比較したところ、両Fcγレセプター間の非常に高いアミノ酸同一性を反映し、全体構造から把握されるレベルでは、ほとんど差異は見られなかった(図35)。
しかし、電子密度レベルで構造を詳細にみるとFc領域のFcγRIIbへの結合とFcγRIIaRへの結合の選択性の改善をもたらす可能性のある差異が見出された。FcγRIIaRの160番目のアミノ酸残基はTyrではなくPheであり、図36に示したとおり、P238Dの改変を含むFc領域とFcγRIIbとの結合に際して存在したFc領域CH2ドメインAのEUナンバリングで表される237位のアミノ酸残基の主鎖とFcγRIIbの160番目Tyrとの間の水素結合は、P238D改変を含むFc領域とFcγRIIbとの結合では形成されないと考えられる。この水素結合の不形成がP238Dの改変が導入されたFc領域のFcγRIIbへの結合とFcγRIIaRへの結合の選択性改善の主要因と考えられるが、さらに電子密度レベルで比較してみると、当該Fc領域とFcγRIIbとの複合体ではEUナンバリングで表される235位のLeu、およびEUナンバリングで表される234位のLeuの側鎖の電子密度が明確に確認可能であるのに対し、当該Fc領域とFcγRIIaRとの複合体ではこれら側鎖の電子密度が明確ではなく、EUナンバリングで表わされる237位近辺のループが、この付近でのFcgRIIaRとの相互作用の低下にともない、ゆらいでいると考えられた。一方、当該Fc領域のCH2ドメインBの同じ領域の構造を比較すると(図37)、当該Fc領域とFcγRIIbとの複合体構造ではEUナンバリングで表される237位のAspまでの電子密度が確認できるのに対し、当該Fc領域とFcγRIIaRとの複合体では、EUナンバリングで表される237位のAspより手前の3残基、すなわちEUナンバリングで表される234位のLeu程度まで電子密度を確認することが可能であり、FcγRIIbへの結合と比較し、より広い領域を使って相互作用を形成していると考えられた。以上から、当該Fc領域とFcγRIIbとの結合では、EUナンバリングで表される234位から238位の領域におけるFc領域のCH2ドメインA側の寄与が、当該Fc領域とFcγRIIaRとの結合では、EUナンバリングで表される234位から238位の領域におけるFc領域のCH2ドメインB側の寄与が大きい 可能性が示唆された。
〔参考実施例9〕結晶構造に基づいて改変箇所を決定したFc改変体
参考実施例8においてFcγRIIbへの結合が増強された改変体(P208)のドメインB内で、P271G改変の導入にともなう周囲の構造変化の結果として、EUナンバリングで表される268位のAspが、EUナンバリングで表される292位のArgと静電相互作用していることが示唆された(図33)。この相互作用形成がEUナンバリングで表される266位から271位のループ構造の安定化に働き、結果としてFcγRIIbへの結合増強に寄与した可能性が考えられた。そこで、当該改変体のEUナンバリングで表される268位のAspをGluに置換することによって、前記の静電相互作用が強化され、当該改変体のループ構造をさらに安定化させることで、FcγRIIbへの結合増強が可能か否かが検討された。また図32に示したとおり、FcγRIIbのEUナンバリングで表される160位のTyrは、P208のドメインAのEUナンバリングで表される237位のAspの主鎖と相互作用している。一方、EUナンバリングで表される237位のAspの側鎖は、分子内のEUナンバリングで表される332位のIle、333位のGlu、334位のLysの近傍に位置しているが特に目立った相互作用は形成していない。そこで、これらの部位を親水性アミノ酸残基に置換することでEUナンバリングで表される237位のAspの側鎖との相互作用を強めて、EUナンバリングで表される266位から271位のループ構造を安定化することで、FcγRIIbの160番目のTyrとの相互作用が増強されるか否かが、併せて検証された。
参考実施例7において作製されたIL6R-BP230/IL6R-Lの、H268E、I332T、I332S、I332E、I332K、E333K、E333R、E333S、E333T、K334S、K334T、K334Eの改変がそれぞれ導入された改変体が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い発現した、前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcgRIIb、FcgRIIIaV)に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。
各改変体の各FcγRに対するKDを表18に示した。なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入された改変を示した。ただしIL6R-BP230を作製する際の鋳型として用いられたIL6R-B3/IL6R-Lは*として示した。また、表中の親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。また、親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγR IIaRに対するKD値を各改変体のFcγR IIaRに対するKD値で除した値を指す。KD (IIaR)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。なお、表18のうち灰色で塗りつぶされたセルの数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Figure 2014043405
IL6R-BP230/IL6R-Lに対してH268Eの改変が導入されたIL6R-BP264/IL6R-L、E333Kの改変が導入されたIL6R-BP465/IL6R-L、E333Rの改変が導入されたIL6R-BP466/IL6R-L、E333Tの改変が導入されたIL6R-BP470のFcγRIIbへの結合活性、およびFcγRIIbの選択性は、IL6R-BP230/IL6R-Lのそれと比較して共に向上していた。またI332Tの改変が導入されたIL6R-BP391/IL6R-LのFcγRIIbの選択性は、IL6R-BP230/IL6R-Lと比較して低下するものの、FcγRIIbへの結合活性が向上していた。
〔参考実施例10〕EUナンバリングで表される271位の周辺のアミノ酸残基への改変の網羅的導入
Fc (P208)とFcγRIIbの構造とFc (P238D)/FcγRIIbの構造の比較において最も違いがみられるのは、Fc領域のCH2ドメインBのEUナンバリングで表される271位の近傍の構造である(図32)。参考実施例4に示したようにFc (P238D)ではEUナンバリングで表される270位のAspがFcγRIIbの131番目のArgと強固な静電相互作用を形成する際に、EUナンバリングで表される271位のPro部分に立体化学的なストレスがかかっている可能性が示唆された。Fc (P208)/FcγRIIbの構造においては、EUナンバリングで表される271位のProのGlyへの置換により、この構造的なひずみを解消するよう主鎖レベルでの位置変化がおきており、その結果EUナンバリングで表される271位の近傍のループ構造が大きく変化したと考えられる。この変化した271位の近傍の構造をさらに安定化させることができれば、FcγRIIbの131番目のArgとの静電相互作用を形成結合にともなうエントロピー的なエネルギー損失をさらに軽減できる可能性も考えられた。そこで、EUナンバリングで表される271位の周辺のアミノ酸残基に対する改変を網羅的に導入することにより、Fc領域のFcγRIIbに対する結合の増強あるいは選択性の向上を示す改変が探索された。
改変を網羅的に導入する鋳型として、IL6R-B3(配列番号:54に対して、E233D、G237D、P238D、H268E、P271Gの改変が導入されたIL6R-BP267が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い発現した、前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcgRIIb、FcgRIIIaV)に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。IL6R-BP267のEUナンバリングで表される264位、265位、266位、267位、269位、272位のアミノ酸が置換前のアミノ酸とCysを除く18種類のアミノ酸にそれぞれ置換された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い発現した、前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。参考実施例2の方法により精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV))に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。得られた改変体の中から、改変を導入する前のIL6R-BP267/IL6R-LのFcγRIIbへの結合またはFcγIIbの選択性と比較してFcγRIIbへの結合が増強された改変体、あるいはFcγRIIbへの選択性が向上した改変体を表19に示した。
Figure 2014043405
各改変体の各FcγRに対するKDを表19に示した。なお、表中の改変とは、鋳型としたIL6R-BP267に対して導入された改変を示した。ただしIL6R-B3を作製する際の鋳型として用いられたIL6R-B3/IL6R-Lは*として示した。また、表中の親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。また、親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγR IIaRに対するKD値を各改変体のFcγR IIaRに対するKD値で除した値を指す。KD (IIaR)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。なお、表19中灰色で塗りつぶされたセル中の数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表19に示された改変体のFcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIIaVへの結合活性はいずれも、IL6R-B3/IL6R-Lのそれと比較して維持または減少していた。また、IL6R-BP267/IL6R-Lに対してそれぞれS267A、V264I、E269D、S267E、V266F、S267G、V266Mの改変が加えられた改変体のFcγRIIbへの結合活性は、改変を加える前のIL6R-BP267/IL6R-Lのそれと比較して増強されていた。また、IL6R-BP267/IL6R-Lに対してそれぞれS267A、S267G、E272M、E272Q、D265E、E272D、E272N、V266L、E272I、E272Fの改変が加えられた改変体のKD (IIaR)/KD (IIb)の値は、改変を加える前のIL6R-BP267/IL6R-Lのそれと比較して増加しており、S267A、S267G、E272M、E272Q、D265E、E272D、E272N、V266L、E272I、E272Fの改変がFcγRIIbへの選択性を向上させる効果を示すことが明らかとなった。
〔参考実施例11〕CH3領域への改変の導入によるFcγRIIbへの結合増強
EUナンバリングで表される396位のProをLeuに置換する改変はFcγRIIbへの結合を増強することが報告されている(Cancer Res. (2007) 67, 8882-8890)。EUナンバリングで表される396位のアミノ酸はFcγRとの相互作用には直接関与しない部位であるが、抗体の構造を変化させることでFcγRとの相互作用に影響を与えるとも考えられる。そこで、Fc領域のEUナンバリングで表される396位のアミノ酸に改変を網羅的に導入することにより、Fc慮域のFcγRIIbへの結合あるいは選択性が向上するか否かが検証された。
改変を網羅的に導する鋳型として、IL6R-B3(配列番号:54)に対して、E233D、G237D、P238D、S267A、H268E、P271G、A330Rの改変が導入されたIL6R-BP423が作製された。、IL6R-BP423のEUナンバリングで表される396位のアミノ酸が置換前のアミノ酸とシステインを除く18種類のアミノ酸に置換された改変体が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い、発現した前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV)に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。得られた改変体の各FcγRへの結合を表20に示した。
Figure 2014043405
なお、表中の「IL6R-BP423に加えた改変」とは、鋳型としたIL6R-BP423に対して導入された改変を示した。ただし、IL6R-BP423を作製する際の鋳型として用いられたIL6R-B3/IL6R-Lは*として示した。また、表中の親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。また、親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcgR IIaRに対するKD値を各改変体のFcγR IIaRに対するKD値で除した値を指す。KD (IIaR)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。なお、表20中灰色で塗りつぶされたセル中の数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
表20の結果より、IL6R-BP423/IL6R-Lに対してP396Mの改変が導入されたIL6R-BP456/IL6R-L、P396Lの改変導入されたIL6R-BP455/IL6R-L、P396Yの改変が導入されたIL6R-BP464/IL6R-L、P396Fの改変が導入されたIL6R-BP450/IL6R-L、P396Dの改変が導入されたIL6R-BP448/IL6R-L、P396Qの改変が導入されたIL6R-BP458/IL6R-L、P396Iの改変が導入されたIL6R-BP453/IL6R-L、P396Eの改変が導入されたIL6R-BP449/IL6R-L、P396Kの改変が導入されたIL6R-BP454/IL6R-L、P396Rの改変が導入されたIL6R-BP459/IL6R-LのFcγRIIbへの結合活性は、いずれも改変を導入する前のIL6R-BP423/IL6R-Lのそれと比較して向上していた。また、IL6R-BP423/IL6R-Lに対してP396Mの改変が導入されたIL6R-BP456/IL6R-LのKD (IIaR)/KD (IIb)の値は、改変が導入する前のIL6R-BP423/IL6R-Lのそれと比較して大きく、FcγRIIbへの選択性が向上していた。表20中で作製された改変体はいずれもFcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIIaVへの結合活性は親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-Lのそれよりも低かった。
〔参考実施例12〕サブクラス配列の利用によるFcγRIIbへの結合が増強された改変体の作製
ヒトIgGに存在するサブクラスによって、FcγRへの結合プロファイルが異なる。IgG1とIgG4の各FcγRへの結合活性の違いを、FcγRIIbへの結合活性の増強、および/または選択性の向上に利用できるか否かが検証された。はじめに、IgG1とIgG4の各FcγRへの結合活性が解析された。抗体H鎖としては、ヒトIgG4 のEUナンバリングで表される228位のSerがProに置換され、C末端のGlyおよびLysが除去されたFc領域であるG4dを含むIL6R-G4d(配列番号:56)が抗体H鎖として作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い発現した、IL6R-Lの軽鎖とIL6R-G1d/IL6R-LまたはIL6R-G4d/IL6R-Lを含む抗体が精製された。精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV)に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。得られた改変体の各FcgRへの結合を表21にまとめた。
Figure 2014043405
IL6R-G4d/IL6R-LのFcγRIIbへの結合は、IL6R-G1d/IL6R-Lのそれと比較して1.5倍強いのに対して、IL6R-G4d/IL6R-LのFcγRIIaRへの結合は、IL6R-G1d/IL6R-Lのそれと比較して2.2倍弱いことが示された。また、IL6R-G4d/IL6R-L のFcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIIaVへの結合活性は、IL6R-G1d/IL6R-Lのそれと比較して弱かった。以上の結果から、IL6R-G4dのFcgRIIbへの結合活性、選択性共に、IL6R-G1dと比較して好ましい性質を有していることが明らかとなった。
図38はG1dとG4dのCH1からC末端までの配列(EUナンバリングで表される118位から445位)の比較を示したアラインメントである。図38中の太枠で囲まれたアミノ酸はG1dとG4dで異なるアミノ酸残基であることを示している。これらの異なるアミノ酸の中から、FcγRとの相互作用に関与すると予想される部位をいくつか選択し、FcγRIIbへの結合活性、選択性の観点で共に好ましい性質を付与するG4dの配列中の少なくとも一つ以上のアミノ酸残基をFcγRIIbへの結合が増強された改変体に移植することで、更なるFcγRIIbへの結合のさらなる増強、および/または選択性のさらなる向上が可能であるか否かが検証された。
具体的には、IL6R-BP230に対して、A327Gの改変が導入されたIL6R-BP473、A330Sの改変が導入されたIL6R-BP472、P331Sの改変が導入されたIL6R-BP471、A330SおよびP331Sの改変が導入されたIL6R-BP474、A327GおよびA330Sの改変が導入されたIL6R-BP475、A327G、A330S、およびP331Sの改変が導入されたIL6R-BP476、A327GおよびP331Sの改変が導入されたIL6R-BP477が作製された。またIL6R-BP230のEUナンバリングで表される118位のAlaから225位のThrまでのアミノ酸がEUナンバリングで表される118位のAlaから222位のProまでからなるG4dの配列のアミノ酸に置換されたIL6R-BP478が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い、前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。参考実施例14の方法により精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV)に対する結合が参考実施例15の方法により評価された。
各改変体の各FcγRに対するKDを表22に示した。なお、表中の、「親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)」は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。表中の「IL6R-BP230に加えた改変」とはIL6R-BP230に対して導入された改変を示した。ただし、IL6R-BP230を作製する際の鋳型としたIL6R-B3/IL6R-Lは*1として示した。また、IL6R-BP230のEUナンバリングで表される118位のAlaから225位のThrまでが、EUナンバリングで表される118位のAlaから222位のProまでからなるG4dの配列に置換されたIL6R-BP478は*2として示した。「親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)」は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγR IIaRに対するKD値を当該改変体のFcγR IIaRに対するKD値で除した値を指す。KD (IIaR)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。なお、表22において灰色で塗りつぶされたセル中の数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Figure 2014043405
表22に記載された改変体のうち、A327Gの改変が導入されたIL6R-BP473/IL6R-LのFcγRIIbへの結合はIL6R-BP230/IL6R-Lのそれと比較して1.2倍増強されていた。また、IL6R-BP230のEUナンバリングで表される118位のAlaから225位のThrまでのアミノ酸が、EUナンバリングで表される118位のAlaから222位のProまでからなるG4dの配列のアミノ酸に置換されたIL6R-BP478/IL6R-LのFcγRIIbへの結合は、IL6R-BP230/IL6R-Lのそれと比較して1.1倍増強し、IL6R-BP478/IL6R-L FcγRIIaRへの結合は、IL6R-BP230/IL6R-Lのそれと比較して0.9倍低減していた。いずれの改変体のFcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIIaVへの結合活性は、親ポリペプチドであるIL6R-B3/IL6R-Lのそれよりも低かった。
〔参考実施例13〕FcγRIIbへの結合の増強、選択性の向上をもたらす改変の組合せの検討
参考実施例12までの実施例においてFcγRIIbへの結合の増強あるいは選択性の向上の面で、効果がみられた改変のさらなる組合せが検討された。具体的には、IL6R-B3(配列番号:54)に対してこれまでの検討の中でFcγRIIbへの結合の増強、および/または選択性の向上をもたらした改変の組合せが導入された。また比較対照として既存のFcγRIIbへの結合を増強する改変(Seungら(Mol. Immunol. (2008) 45, 3926-3933))である、S267E、およびL328Fの改変がIL6R-B3に導入されたIL6R-BP253が作製された。抗体L鎖としてはIL6R-L(配列番号:51)が用いられた。参考実施例14の方法に従い発現した、前記の重鎖の改変体とIL6R-Lの軽鎖を含む抗体が精製された。精製された抗体の各FcγR(FcγRIa、FcγRIIaH、FcγRIIaR、FcγRIIb、FcγRIIIaV)に対する結合が、参考実施例15の方法によって評価された。
各改変体の各FcγRに対するKDを表23に示した。なお、表中の改変とはIL6R-B3(配列番号:54)に対して導入された改変を示した。ただし各改変体を作製する際の鋳型としたIL6R-B3/IL6R-Lは*として示した。親ポリペプチドのKD (IIb)/改変ポリペプチドのKD (IIb)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγRIIbに対するKD値を各改変体のFcγRIIbに対するKD値で除した値を指す。また、親ポリペプチドのKD (IIaR)/改変ポリペプチドのKD (IIaR)は、IL6R-B3/IL6R-LのFcγR IIaRに対するKD値を当該改変体のFcγR IIaRに対するKDで除した値を指す。KD (IIaR)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaRに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIaRと比較してFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。またKD (IIaH)/KD (IIb)とは、各改変体のFcγRIIaHに対するKDを当該改変体のFcγRIIbに対するKDで除した値であり、この値が大きいほどFcγRIIaHと比較してFcγRIIbへの選択性が高いことを示す。なお、表23において灰色で塗りつぶされたセル中の数値は、FcγRのIgGに対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、参考実施例15に記載された
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
の式を利用して算出した値である。
Figure 2014043405
表23に記載された改変体のうち、FcγRIIbへの結合を増強する既存の改変が加えられたIL6R-BP253/IL6R-LのFcγRIIbおよびFcγRIIaRに対する結合活性は、改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lのそれと比較して、それぞれ277倍、および529倍増強された。また、IL6R-BP253/IL6R-LのFcγRIaへの結合活性もIL6R-B3/IL6R-Lのそれよりも増強されていた。一方、IL6R-BP253/IL6R-LのFcγRIIaHおよびFcγRIIIaVへの結合はIL6R-B3/IL6R-Lのそれと比較して減弱していた。その他の改変体のうち、IL6R-BP436/IL6R-LとIL6R-BP438/IL6R-LのFcγRIaへの結合が、改変導入前のIL6R-B3/IL6R-Lのそれと比較してわずかに増強されたが、それ以外の改変体のFcγRIaへの結合はいずれも減弱していた。また、いずれの改変体のFcγRIIaH、およびFcγRIIIaVへの結合は、IL6R-B3/IL6R-Lのそれと比較して減弱していた。
IL6R-BP489/IL6R-L、IL6R-BP487/IL6R-L、IL6R-BP499/IL6R-L、 IL6R-BP498/IL6R-L、 IL6R-BP503/IL6R-L、 IL6R-BP488/IL6R-L、 IL6R-BP490/IL6R-L、 IL6R-BP445/IL6R-L、 IL6R-BP507/IL6R-L、 IL6R-491/IL6R-L、 IL6R-BP506/IL6R-L、 IL6R-BP511/IL6R-L、 IL6R-BP502/IL6R-L、 IL6R-BP510/IL6R-L、 IL6R-BP497/IL6R-L、 IL6R-BP436/IL6R-L、 IL6R-BP423/IL6R-L、 IL6R-BP440/IL6R-L、 IL6R-BP429/IL6R-L、 IL6R-BP438/IL6R-L、 IL6R-BP426/IL6R-L、 IL6R-BP437/IL6R-L、 IL6R-BP439/IL6R-L、 IL6R-BP494/IL6R-L、 IL6R-BP425/IL6R-L、 IL6R-BP495/IL6R-LのFcγRIIbへの結合は、FcγRIIbへの結合を増強する既存の改変が加えられたIL6R-BP253/IL6R-Lのぞれと比較して上回った。これらの中でFcγRIIbへの結合が最も低かったIL6R-BP495/IL6R-Lから、最も高かったIL6R-BP489/IL6R-Lまでの増強の幅は、IL6R-B3/IL6R-Lの結合を1とした場合に321倍から3100倍までであった。
KD (IIaR)/KD (IIb)の値は、最も低かったIL6R-BP479/IL6R-Lで16.1、最も高かったIL6R-BP493/IL6R-Lで52.1であり、いずれの改変体もIL6R-BP253/IL6R-Lの0.2と比較して高かった。またKD (IIaH)/KD (IIb)の値は、最も低かったIL6R-BP480/IL6R-Lで107.7、最も高かったIL6R-BP426/IL6R-Lで8362であり、いずれの改変体もIL6R-BP253/IL6R-Lの107.1と比較して高かった。これらの結果から、表23に示された改変体のFcγRIIbに対する結合活性は、いずれも既存のFcγRIIbに対する結合を増強する改変が加えられた改変体と比較して増強されていた。さらに、表23に示された改変体のFcγRIIbに対する結合がFcγR IIaRおよびFcγR IIaHのいずれを問わずFcγRIIaに対する結合よりも高い選択性も向上していた。
〔参考実施例14〕抗体の発現ベクターの作製および抗体の発現と精製
抗体の可変領域のH鎖およびL鎖の塩基配列をコードする全長の遺伝子の合成は、Assemble PCR等を用いて、当業者公知の方法で作製した。アミノ酸置換の導入はPCR等を用いて当業者公知の方法で行った。得られたプラスミド断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、H鎖発現ベクターおよびL鎖発現ベクターを作製した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen社)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体の発現を行った。得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)、または0.45μmフィルターMILLEX(R)-GV(Millipore)を通して培養上清を得た。得られた培養上清から、rProtein A Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)またはProtein G Sepharose 4 Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体を精製した。精製抗体濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて抗体濃度を算出した(Protein Science (1995); 4, 2411-2423)。
〔参考実施例15〕FcγRの調製方法および改変抗体とFcγRとの相互作用解析方法
FcγRの細胞外ドメインを以下の方法で調製した。まずFcγRの細胞外ドメインの遺伝子の合成を当業者公知の方法で実施した。その際、各FcγRの配列はNCBIに登録されている情報に基づき作製した。具体的には、FcγRIについてはNCBIのアクセッション番号NM_000566.3(バージョン番号NM_000566.3)の配列、FcγRIIaについてはNCBIのアクセッション番号NM_001136219.1(バージョン番号NM_001136219.1)の配列、FcγRIIbについてはNCBIのアクセッション番号NM_004001.3(バージョン番号NM_004001.3)の配列、FcγRIIIaについてはNCBIのアクセッション番号NM_001127593.1(バージョン番号NM_001127593.1)の配列、FcγRIIIbについてはNCBIのアクセッション番号NM_000570.3(バージョン番号NM_000570.3)の配列に基づいて作製し、C末端にHisタグを付加した。またFcγRIIa、FcγRIIIa、FcγRIIIbは多型が存在することが知られているが、FcγRIIaの多型部位はWarmerdamら(J. Exp. Med. (1990) 172, 19-25)、FcγRIIIaの多型部位はWuら(J. Clin. Invest. (1997) 100 (5), 1059-1070)、FcγRIIIbの多型部位はOryら(J. Clin. Invest. (1989) 84, 1688-1691)を参考にして作製した。
得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターをヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、目的タンパク質を発現させた。なお、結晶構造解析用に用いたFcγRIIbについては、終濃度10 μg/mLのKifunesine存在下で目的タンパク質を発現させ、FcγRIIbに付加される糖鎖が高マンノース型になるようにした。培養し、得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターを通して培養上清を得た。得られた培養上清は原則として次の4ステップで精製した。第1ステップは陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(SP Sepharose FF)、第2ステップはHisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)、第3ステップはゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex200)、第4ステップは無菌ろ過、を実施した。ただし、FcγRIについては、第1ステップにQ sepharose FFを用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを実施した。精製したタンパク質については分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて精製タンパク質の濃度を算出した(Protein Science (1995) 4, 2411-2423)。
Biacore T100(GEヘルスケア)、Biacore T200(GEヘルスケア)、Biacore A100、Biacore 4000を用いて、各改変抗体と上記で調製したFcγレセプターとの相互作用解析を行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+(GEヘルスケア)を用い、測定温度は25℃とした。Series S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア)またはSeries S sensor Chip CM4(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法により抗原ペプチド、ProteinA(Thermo Scientific)、Protein A/G(Thermo Scientific)、Protein L(ACTIGENまたはBioVision)を固定化したチップ、あるいはSeries S Sensor Chip SA(certified)(GEヘルスケア)に対して予めビオチン化しておいた抗原ペプチドを相互作用させ、固定化したチップを用いた。
これらのセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したFcγレセプターを相互作用させ、抗体に対する結合量を測定し、抗体間で比較した。ただし、Fcγレセプターの結合量はキャプチャーした抗体の量に依存するため、各抗体のキャプチャー量でFcγレセプターの結合量を除した補正値で比較した。また、10 mM glycine-HCl、pH1.5を反応させることで、センサーチップにキャプチャーした抗体を洗浄し、センサーチップを再生して繰り返し用いた。
また、各改変抗体のFcγRに対するKD値を算出するため速度論的な解析は以下の方法にしたがって実施した。まず、上記のセンサーチップに目的の抗体をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したFcγレセプターを相互作用させ、得られたセンサーグラムに対してBiacore Evaluation Softwareにより測定結果を1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (mol/L) を算出した。
また、各改変抗体とFcγRとの相互作用が微弱で、上記の速度論的な解析では正しく解析できないと判断された場合、その相互作用についてはBiacore T100 Software Handbook BR1006-48 Edition AEに記載の以下の1:1結合モデル式を利用してKDを算出した。
1:1 binding modelで相互作用する分子のBiacore上での挙動は以下の式6によって表わすことができる。
〔式6〕
Req =C x Rmax / (KD + C) + RI
Req: a plot of steady state binding levels against analyte concentration
C: concentration
RI: bulk refractive index contribution in the sample
Rmax: analyte binding capacity of the surface
この式を変形すると、KDは以下の式5のように表わすことができる。
〔式5〕
KD =C x Rmax / (Req - RI) - C
この式にRmax、RI、Cの値を代入することで、KDを算出することが可能である。RI、Cについては測定結果のセンサーグラム、測定条件から値を求めることができる。Rmaxの算出については、以下の方法にしたがった。その測定回に同時に評価した比較対象となる相互作用が十分強い抗体について、上記の1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxの値を、比較対象となる抗体のセンサーチップへのキャプチャー量で除し、評価したい改変抗体のキャプチャー量で乗じて得られた値をRmaxとした。

Claims (27)

  1. 脳疾患に固有に脳組織内に存在する抗原に対する結合活性がイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメイン、ならびにpH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインを含む抗原結合分子の、脳疾患を治療するための使用。
  2. 前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性がカルシウムイオン濃度の条件によって変化する抗原結合ドメインである、請求項1に記載の使用。
  3. 前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する低カルシウムイオン濃度の条件下での結合活性が前記抗原に対する高カルシウムイオン濃度の条件下での結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、請求項2に記載の使用。
  4. 前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対する結合活性がpHの条件によって変化する抗原結合ドメインである、請求項1に記載の使用。
  5. 前記抗原結合ドメインが、前記抗原に対するpH酸性域の条件下での結合活性がpH中性域の条件下での結合活性よりも低いように結合活性が変化する抗原結合ドメインである、請求項4に記載の使用。
  6. 前記抗原結合ドメインが抗体の可変領域である、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
  7. pH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体のFc領域である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
  8. 前記Fc領域が、配列番号:14、15、16または17のいずれかに含まれるFc領域である、請求項7に記載の使用。
  9. 前記Fc領域が、pH酸性域の条件下でのFcRnに対する結合活性が、配列番号:14、15、16または17のいずれかに含まれるFc領域のFcRnに対する結合活性より増強されているFc領域である、請求項7に記載の使用。
  10. 前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17のいずれかに含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される238位、244位、245位、249位、250位、251位、252位、253位、254位、255位、256位、257位、258位、260位、262位、265位、270位、272位、279位、283位、285位、286位、288位、293位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、316位、317位、318位、332位、339位、340位、341位、343位、356位、360位、362位、375位、376位、377位、378位、380位、382位、385位、386位、387位、388位、389位、400位、413位、415位、423位、424位、427位、428位、430位、431位、433位、434位、435位、436位、438位、439位、440位、442位または447位の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である、請求項9に記載の使用。
  11. 前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
    238位のアミノ酸がLeu、
    244位のアミノ酸がLeu、
    245位のアミノ酸がArg、
    249位のアミノ酸がPro、
    250位のアミノ酸がGlnまたはGluのいずれか、もしくは
    251位のアミノ酸がArg、Asp、Glu、またはLeuのいずれか、
    252位のアミノ酸がPhe、Ser、Thr、またはTyrのいずれか、
    254位のアミノ酸がSerまたはThrのいずれか、
    255位のアミノ酸がArg、Gly、Ile、またはLeuのいずれか、
    256位のアミノ酸がAla、Arg、Asn、Asp、Gln、Glu、Pro、またはThrのいずれか、
    257位のアミノ酸がAla、Ile、Met、Asn、Ser、またはValのいずれか、
    258位のアミノ酸がAsp、
    260位のアミノ酸がSer、
    262位のアミノ酸がLeu、
    270位のアミノ酸がLys、
    272位のアミノ酸がLeu、またはArgのいずれか、
    279位のアミノ酸がAla、Asp、Gly、His、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
    283位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Thr、Trp、またはTyrのいずれか、
    285位のアミノ酸がAsn、
    286位のアミノ酸がPhe、
    288位のアミノ酸がAsn、またはProのいずれか、
    293位のアミノ酸がVal、
    307位のアミノ酸がAla、Glu、Gln、またはMetのいずれか、
    311位のアミノ酸がAla、Glu、Ile、Lys、Leu、Met、Ser 、Val、またはTrpのいずれか、
    309位のアミノ酸がPro、
    312位のアミノ酸がAla、Asp、またはProのいずれか、
    314位のアミノ酸がAlaまたはLeuのいずれか、
    316位のアミノ酸がLys、
    317位のアミノ酸がPro、
    318位のアミノ酸がAsn、またはThrのいずれか、
    332位のアミノ酸がPhe、His、Lys、Leu、Met、Arg、Ser、またはTrpのいずれか、
    339位のアミノ酸がAsn、Thr、またはTrpのいずれか、
    341位のアミノ酸がPro、
    343位のアミノ酸がGlu、His、Lys、Gln、Arg、Thr、またはTyrのいずれか、
    375位のアミノ酸がArg、
    376位のアミノ酸がGly、Ile、Met、Pro、Thr、またはValのいずれか、
    377位のアミノ酸がLys、
    378位のアミノ酸がAsp、Asn、またはValのいずれか、
    380位のアミノ酸がAla、Asn、Ser、またはThrのいずれか、
    382位のアミノ酸がPhe、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    385位のアミノ酸がAla、Arg、Asp、Gly、His、Lys、Ser、またはThrのいずれか、
    386位のアミノ酸がArg、Asp、Ile、Lys、Met、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
    387位のアミノ酸がAla、Arg、His、Pro、Ser、またはThrのいずれか、
    389位のアミノ酸がAsn、Pro、またはSerのいずれか、
    423位のアミノ酸がAsn、
    427位のアミノ酸がAsn、
    428位のアミノ酸がLeu、Met、Phe、Ser、またはThrのいずれか、
    430位のアミノ酸がAla、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Gln、Arg、Ser、Thr、Val、またはTyrのいずれか、
    431位のアミノ酸がHis、またはAsnのいずれか、
    433位のアミノ酸がArg、Gln、His、Ile、Lys、Pro、またはSerのいずれか、
    434位のアミノ酸がAla、Gly、His、Phe、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、
    436位のアミノ酸がArg、Asn、His、Ile、Leu、Lys、Met、またはThrのいずれか、
    438位のアミノ酸がLys、Leu、Thr、またはTrpのいずれか、
    440位のアミノ酸がLys、もしくは、
    442位のアミノ酸がLys、308位のアミノ酸がIle、Pro、またはThrのいずれか、
    の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸を含む、請求項10に記載の使用。
  12. 前記pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体のFc領域である、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
  13. 前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される237位、248位、250位、252位、254位、255位、256位、257位、258位、265位、286位、289位、297位、298位、303位、305位、307位、308位、309位、311位、312位、314位、315位、317位、332位、334位、360位、376位、380位、382位、384位、385位、386位、387位、389位、424位、428位、433位、434位または436位の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸が置換されているFc領域である、請求項12に記載の使用。
  14. 前記Fc領域が、配列番号:14、15、16、または17に含まれるFc領域のアミノ酸配列のうち、EUナンバリングで表される;
    237位のアミノ酸がMet、
    248位のアミノ酸がIle、
    250位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Met、Gln、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    252位のアミノ酸がPhe、Trp、またはTyrのいずれか、
    254位のアミノ酸がThr、
    255位のアミノ酸がGlu、
    256位のアミノ酸がAsp、Asn、Glu、またはGlnのいずれか、
    257位のアミノ酸がAla、Gly、Ile、Leu、Met、Asn、Ser、Thr、またはValのいずれか、
    258位のアミノ酸がHis、
    265位のアミノ酸がAla、
    286位のアミノ酸がAlaまたはGluのいずれか、
    289位のアミノ酸がHis、
    297位のアミノ酸がAla、
    303位のアミノ酸がAla、
    305位のアミノ酸がAla、
    307位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Met、Asn、Pro、Gln、Arg、Ser、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    308位のアミノ酸がAla、Phe、Ile、Leu、Met、Pro、Gln、またはThrのいずれか、
    309位のアミノ酸がAla、Asp、Glu、Pro、またはArgのいずれか、
    311位のアミノ酸がAla、His、またはIleのいずれか、
    312位のアミノ酸がAlaまたはHisのいずれか、
    314位のアミノ酸がLysまたはArgのいずれか、
    315位のアミノ酸がAla、AspまたはHisのいずれか、
    317位のアミノ酸がAla、
    332位のアミノ酸がVal、
    334位のアミノ酸がLeu、
    360位のアミノ酸がHis、
    376位のアミノ酸がAla、
    380位のアミノ酸がAla、
    382位のアミノ酸がAla、
    384位のアミノ酸がAla、
    385位のアミノ酸がAspまたはHisのいずれか、
    386位のアミノ酸がPro、
    387位のアミノ酸がGlu、
    389位のアミノ酸がAlaまたはSerのいずれか、
    424位のアミノ酸がAla、
    428位のアミノ酸がAla、Asp、Phe、Gly、His、Ile、Lys、Leu、Asn、Pro、Gln、Ser、Thr、Val、Trp、またはTyrのいずれか、
    433位のアミノ酸がLys、
    434位のアミノ酸がAla、Phe、His、Ser、Trp、またはTyrのいずれか、もしくは
    436位のアミノ酸がHis 、Ile、Leu、Phe、Thr、またはVal、
    の群から選択される少なくとも一つ以上のアミノ酸を含む、請求項13に記載の使用。
  15. 前記Fc領域が、FcγR結合活性が低いまたは低減されたFc領域である、請求項12から14に記載の使用。
  16. 前記pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体の可変領域である、請求項1から11のいずれか一項に記載の使用。
  17. 前記抗原結合分子がさらにFcγR結合ドメインを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の使用。
  18. 前記FcγR結合ドメインが抗体のFc領域である、請求項17に記載の使用。
  19. 前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域のFcγレセプターに対する結合活性よりもFcγレセプターに対する結合活性が高いFcγR結合改変Fc領域を含む、請求項18に記載の使用。
  20. 前記抗原結合分子がさらに補体結合ドメインを含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の使用。
  21. 前記補体結合ドメインが抗体のFc領域である、請求項18に記載の使用。
  22. 前記Fc領域が、天然型ヒトIgGのFc領域の補体に対する結合活性よりも補体に対する結合活性が高い補体結合改変Fc領域を含む、請求項21に記載の使用。
  23. 前記FcγR結合ドメインが抗体の可変領域である、請求項17に記載の使用。
  24. 前記補体結合ドメインが抗体の可変領域である、請求項20に記載の使用。
  25. pH中性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインおよびpH酸性域の条件下でFcRnに対する結合活性を有するFcRn結合ドメインが、抗体の可変領域である、請求項1から6のいずれか一項に記載の使用。
  26. 前記抗原結合分子が抗体である、請求項1から24のいずれか一項に記載の使用。
  27. 請求項1から26のいずれか一項に記載の抗原結合分子をコードするポリヌクレオチドが作用可能に連結されたベクターが導入された細胞の培養液から抗原結合分子を回収する工程を含む、脳疾患治療剤の製造方法。
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