以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
(変速機の概要)
図1は、本実施形態における自動車用の変速機1の概略を示す図である。エンジンEの駆動力を駆動輪に伝達する本実施形態の変速機1は、ミッションケースに保持されたベアリングbに回転自在に軸支され、互いに平行に配されたメインシャフト2およびカウンタシャフト3を備えている。メインシャフト2は、発進クラッチ4を介してエンジンEのクランクシャフトに接続されており、発進クラッチ4を介して伝達されるエンジンEの駆動力によって回転する入力シャフトとして機能する。
メインシャフト2には、メインギヤ10が複数(本実施形態では6つ)装着されている。メインシャフト2に設けられるメインギヤ10の数は特に限定されるものではないが、ここでは、説明の都合上、6つのメインギヤ10を、それぞれ、1速メインギヤ11、2速メインギヤ12、3速メインギヤ13、4速メインギヤ14、5速メインギヤ15、6速メインギヤ16として説明する。メインシャフト2と、1速メインギヤ11、2速メインギヤ12、3速メインギヤ13、4速メインギヤ14との間には、それぞれ後述する低速段緩衝機構100(第2緩衝機構)が設けられている。
詳しくは後述するが、低速段緩衝機構100は、メインシャフト2に生じるトルクが予め設定された設定トルク未満である場合に、当該メインシャフト2とメインギヤ10とを一体回転させ、メインシャフト2に生じるトルクが設定トルク以上になると、当該メインシャフト2とメインギヤ10とを相対回転させるものである。なお、5速メインギヤ15および6速メインギヤ16は、低速段緩衝機構100を有しておらず、いずれもメインシャフト2に対して相対回転自在に装着されている。
また、カウンタシャフト3には、カウンタギヤ20が複数(本実施形態では6つ)装着されている。ここでは、説明の都合上、6つのカウンタギヤ20を、それぞれ、1速カウンタギヤ21、2速カウンタギヤ22、3速カウンタギヤ23、4速カウンタギヤ24、5速カウンタギヤ25、6速カウンタギヤ26として説明する。カウンタシャフト3は、第1カウンタシャフト3aと、この第1カウンタシャフト3aと同軸上に配された第2カウンタシャフト3bと、で構成されており、これら第1カウンタシャフト3aおよび第2カウンタシャフト3bが、後述する高速段緩衝機構200(第3緩衝機構)を介して接続されている。
詳しくは後述するが、高速段緩衝機構200は、カウンタシャフト3に生じるトルクが予め設定された設定トルク未満である場合に、当該カウンタシャフト3の一端側(第1カウンタシャフト3a)と他端側(第2カウンタシャフト3b)とを一体回転させる。一方、高速段緩衝機構200は、カウンタシャフト3に生じるトルクが予め設定された設定トルク以上になると、当該カウンタシャフト3の一端側(第1カウンタシャフト3a)と他端側(第2カウンタシャフト3b)とを相対回転させるものである。
本実施形態では、1速カウンタギヤ21、2速カウンタギヤ22、3速カウンタギヤ23、4速カウンタギヤ24は、第1カウンタシャフト3aに相対回転自在に装着され、5速カウンタギヤ25および6速カウンタギヤ26は、第2カウンタシャフト3bに一体回転するように固定されている。
そして、1速カウンタギヤ21は1速メインギヤ11に噛合しており、これら1速メインギヤ11および1速カウンタギヤ21によって、メインシャフト2およびカウンタシャフト3間で動力伝達を行う第1歯車列31を構成している。同様に、2速メインギヤ12および2速カウンタギヤ22によって第2歯車列32が構成され、3速メインギヤ13および3速カウンタギヤ23によって第3歯車列33が構成され、4速メインギヤ14および4速カウンタギヤ24によって第4歯車列34が構成され、5速メインギヤ15および5速カウンタギヤ25によって第5歯車列35が構成され、6速メインギヤ16および6速カウンタギヤ26によって第6歯車列36が構成されている。
これら第1歯車列31〜第6歯車列36は、各メインギヤ11〜16および各カウンタギヤ21〜26のギヤ比を異にしており、本実施形態では、第1歯車列31が最も低速段側となり、第6歯車列36が最も高速段側となっている。
また、メインシャフト2およびカウンタシャフト3には、動力伝達経路を切り換えるセレクタ機構50が複数設けられている。なお、各セレクタ機構50は、いずれも同一の構成であるが、メインシャフト2に設けられた場合と、カウンタシャフト3に設けられた場合とで、動力伝達の態様が異なる。したがって、以下では、カウンタシャフト3において、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22間に配されたセレクタ機構50をセレクタ機構50aとし、3速カウンタギヤ23および4速カウンタギヤ24間に配されたセレクタ機構50をセレクタ機構50bとし、メインシャフト2において、5速メインギヤ15および6速メインギヤ16間に配されたセレクタ機構50をセレクタ機構50cとして説明する。
セレクタ機構50a、50bは、カウンタシャフト3に設けられ、当該カウンタシャフト3に対して1速カウンタギヤ21〜4速カウンタギヤ24のいずれかを一体回転させる動力伝達状態、もしくは、当該カウンタシャフト3に対して1速カウンタギヤ21〜4速カウンタギヤ24を相対回転させる切り離し状態(ニュートラル状態)のいずれかを選択可能である。また、セレクタ機構50cは、メインシャフト2に設けられ、当該メインシャフト2に対して5速メインギヤ15および6速メインギヤ16のいずれかを一体回転させる動力伝達状態、もしくは、当該メインシャフト2に対して5速メインギヤ15および6速メインギヤ16を相対回転させる切り離し状態のいずれかを選択可能である。
例えば、動力伝達経路として第1歯車列31が選択されている場合、セレクタ機構50aは、カウンタシャフト3に対して1速カウンタギヤ21を一体回転させるとともに、カウンタシャフト3に対して2速カウンタギヤ22を相対回転させる。このとき、セレクタ機構50b、50cは、第2歯車列32〜第6歯車列36を切り離し状態としている。したがって、この場合には、第1歯車列31を介して、メインシャフト2およびカウンタシャフト3間で動力伝達がなされることとなる。
このように、セレクタ機構50によって、ギヤ比を異にする第1歯車列31〜第6歯車列36を切り換えることにより、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと動力を変速して伝達することが可能となる。このことからも明らかなように、カウンタシャフト3は、エンジンEから駆動輪への動力伝達経路において、メインシャフト2よりも下流側に位置し、出力シャフトとして機能することとなる。
そして、変速機1は、カウンタシャフト3よりもさらにエンジンEから駆動輪への動力伝達経路の下流側に位置する第1アウトプットシャフト(アウトプットシャフト)5および第2アウトプットシャフト6を備えている。第1アウトプットシャフト5は、後述する駆動緩衝機構(第1緩衝機構)300を介してカウンタシャフト3に接続されており、第2アウトプットシャフト6は駆動輪に接続されている。
詳しくは後述するが、駆動緩衝機構300は、カウンタシャフト3に生じるトルクが予め設定されたリミットトルク未満である場合に、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5とを一体回転させ、リミットトルク以上になると、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5とを相対回転させる。したがって、カウンタシャフト3から第1アウトプットシャフト5への動力伝達において、駆動緩衝機構300で設定されたリミットトルク以上のトルク伝達がなされることはなく、常に、リミットトルク未満のトルク伝達がなされることとなる。
そして、第1アウトプットシャフト5にはギヤ5aが固定されており、第2アウトプットシャフト6には、ギヤ5aに噛合するギヤ6aが固定されている。したがって、エンジンEの駆動力は、発進クラッチ4→メインシャフト2→第1歯車列31〜第6歯車列36→カウンタシャフト3→駆動緩衝機構300→第1アウトプットシャフト5→第2アウトプットシャフト6を介して矢印の順に駆動輪に伝達されることとなる。
なお、図1において、符号41〜44は、第1〜4回転数検出センサを示している。具体的には、第1回転数検出センサ41は発進クラッチ4の回転数を検出し、第2回転数検出センサ42はメインシャフト2の回転数を検出し、第3回転数検出センサ43はカウンタシャフト3の回転数を検出し、第4回転数検出センサ44は第1アウトプットシャフト5の回転数を検出している。また、図1において、符号45は、トルクセンサ(トルク検出手段)を示している。トルクセンサ45は、第1アウトプットシャフト5のトルクを検出している。これら第1回転数検出センサ41〜第4回転数検出センサ44、トルクセンサ45の検出信号は、変速時の制御に用いられるが、その詳細については後述する。
次に、上記したセレクタ機構50、低速段緩衝機構100、高速段緩衝機構200、駆動緩衝機構300の構成について詳細に説明する。
(セレクタ機構50の構成)
図2は、セレクタ機構50を部分的に示す斜視図であり、図3は、図2のIII−III線断面図である。セレクタ機構50は、メインシャフト2またはカウンタシャフト3に固定され、図2および図3に示すように、これらメインシャフト2またはカウンタシャフト3と一体回転する略円筒状のハブ51を備えている。このハブ51の外周面には、キー溝、より詳細には、第1キー溝51aおよび第2キー溝51bが当該ハブ51の周方向に、交互に、かつ、等間隔で複数形成されている。ここでは、第1キー溝51aおよび第2キー溝51bがそれぞれ6つずつ形成されているが、これら第1キー溝51aおよび第2キー溝51bの数は特に限定されるものではない。
第1キー溝51aおよび第2キー溝51bは、メインシャフト2またはカウンタシャフト3の軸方向に沿って形成されている。これら第1キー溝51aおよび第2キー溝51bは、いずれもハブ51の外周面から中心側、すなわち、開口側から底部側に向かうにつれて、幅(ハブ51の周方向の幅)が徐々に広くなる寸法形状となっている。そして、第1キー溝51aには第1キー52が保持され、第2キー溝51bには第2キー53が保持されている。第1キー52および第2キー53は、いずれもメインシャフト2またはカウンタシャフト3の軸方向に移動自在に、かつ、ハブ51と一体回転するように、それぞれ第1キー溝51aおよび第2キー溝51bに保持されている。
図4は、図2の分解図である。図4に示すように、第1キー52にはリング係合溝52aが形成されており、第2キー53にはリング係合溝53aが形成されている。第1キー52に形成されるリング係合溝52aは、第1キー52が第1キー溝51aに完全に収容された状態で、ハブ51の一端近傍に位置し、第2キー53に形成されるリング係合溝53aは、第2キー53が第2キー溝51bに完全に収容された状態で、ハブ51の他端近傍に位置する。
また、セレクタ機構50は、第1スリーブリング54および第2スリーブリング55を備えている。第1スリーブリング54は、その内周面から当該第1スリーブリング54の中心側に突出する係合片54aを複数有しており、第2スリーブリング55は、その内周面から当該第2スリーブリング55の中心側に突出する係合片55aを複数有している。第1スリーブリング54の係合片54aは、第1キー52のリング係合溝52aと係合可能に構成されており、第1キー52と同数、かつ、周方向に等間隔で配置されている。同様に、第2スリーブリング55の係合片55aは、第2キー53のリング係合溝53aと係合可能に構成されており、第2キー53と同数、かつ、周方向に等間隔で配置されている。
図5は、セレクタ機構50の組み付け過程を示す図である。ハブ51に第1キー52、第2キー53、第1スリーブリング54、第2スリーブリング55を組み付ける際には、まず、ハブ51の第1キー溝51aに第1キー52を収容するとともに、ハブ51の第2キー溝51bに第2キー53を収容する。このとき、第1キー52は、リング係合溝52aが第1キー溝51aから軸方向に突出するように配置しておき、第2キー53は、リング係合溝53aが第2キー溝51bから軸方向に突出するように配置しておく。そして、第1キー52に第1スリーブリング54を挿通させた後、当該第1スリーブリング54を周方向に回転させて、係合片54aを第1キー52のリング係合溝52aに係合させる。同様に、第2キー53に第2スリーブリング55を挿通させた後、当該第2スリーブリング55を周方向に回転させて、係合片55aを第2キー53のリング係合溝53aに係合させる。
この状態で第1キー52および第2キー53を軸方向に移動させて、これら第1キー52および第2キー53を、ハブ51の第1キー溝51aおよび第2キー溝51b内に完全に収容すれば、組み付けが完了して図2に示す状態となる。この状態では、第1スリーブリング54の係合片54aは、ハブ51の第1キー溝51aにも係合しており、第2スリーブリング55の係合片55aは、ハブ51の第2キー溝51bにも係合している。したがって、ハブ51、第1キー52、第2キー53、第1スリーブリング54、第2スリーブリング55は一体回転するとともに、第1スリーブリング54と第1キー52とが一体となって軸方向に移動可能となり、第2スリーブリング55と第2キー53とが一体となって軸方向に移動可能となる。
なお、本実施形態では、第1スリーブリング54と第1キー52とが別体で構成され、第2スリーブリング55と第2キー53とが別体で構成されていることとしたが、第1スリーブリング54および第1キー52、第2スリーブリング55および第2キー53は、それぞれ一体成形されていてもよい。いずれにしても、第1スリーブリング54および第1キー52が一体となって回転および軸方向に移動し、第2スリーブリング55および第2キー53が一体となって回転および軸方向に移動すればよい。
図6は、セレクタ機構50の分解斜視図であり、図7は、セレクタ機構50の組み付け状態を示す斜視図である。上記したように、セレクタ機構50は、メインシャフト2およびカウンタシャフト3にそれぞれ設けられており、メインシャフト2とカウンタシャフト3との間の動力伝達経路を、第1歯車列31〜第6歯車列36のいずれかに切り換える。動力伝達経路の切り換え、すなわち、変速は、第1キー52および第2キー53を軸方向に移動させることで行われる。この第1キー52および第2キー53の移動は、第1スリーブリング54および第2スリーブリング55を介して行われる。
セレクタ機構50は、第1スリーブリング54を軸方向に移動させる第1シフトフォーク56と、第2スリーブリング55を軸方向に移動させる第2シフトフォーク57と、を備えている。第1シフトフォーク56には連係溝56aが形成されており、この連係溝56aに、第1スリーブリング54が約半周に亘って回転自在に収容される。同様に、第2シフトフォーク57には連係溝57aが形成されており、この連係溝57aに、第2スリーブリング55が約半周に亘って回転自在に収容される。
したがって、第1シフトフォーク56を、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に沿って移動させると、第1スリーブリング54および第1キー52が回転状態を維持したまま軸方向に移動する。同様に、第2シフトフォーク57を、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に沿って移動させると、第2スリーブリング55および第2キー53が回転状態を維持したまま軸方向に移動することとなる。
そして、第1シフトフォーク56には、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に移動する第1ロッド58が固定されており、第2シフトフォーク57には、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に移動する第2ロッド59が固定されている。第1ロッド58および第2ロッド59には、それぞれ、後述する電子制御ユニットECU(制御手段)の制御によって作動するアクチュエータが接続されている。したがって、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御すると、このアクチュエータの作動に伴って、第1キー52および第2キー53が、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に移動することとなる。
上記のようにして、第1キー52および第2キー53が軸方向に移動した状態では、これら第1キー52および第2キー53の端部が、メインギヤ10またはカウンタギヤ20に係合し、第1キー52または第2キー53を介した動力伝達が実現される。上記したとおり、本実施形態においては、セレクタ機構50aが、カウンタシャフト3において第1歯車列31と第2歯車列32との間に配置され、セレクタ機構50bがカウンタシャフト3において第3歯車列33と第4歯車列34との間に配置され、セレクタ機構50cがメインシャフト2において第5歯車列35と第6歯車列36との間に配置される。以下では、カウンタシャフト3において、第1歯車列31を構成する1速カウンタギヤ21と、第2歯車列32を構成する2速カウンタギヤ22との間に配置されるセレクタ機構50aについて説明する。
図6に示すように、1速カウンタギヤ21における2速カウンタギヤ22との対向面には、第1キー52の端部に係合するドグ21aが突設されている。1速カウンタギヤ21のドグ21aは、第1キー52と同数設けられており、1速カウンタギヤ21の周方向に等間隔で配置されている。なお、図6および図7では視認できないが、2速カウンタギヤ22における1速カウンタギヤ21との対向面には、第2キー53の端部に係合するドグ22aが突設されている。このドグ22aは、上記のドグ21aと同一形状をなしており、第2キー53と同数設けられ、2速カウンタギヤ22の周方向に等間隔で配置されている。
図8は、第1キー52、第2キー53およびドグ21a、22aを説明する図である。1速カウンタギヤ21のドグ21aは、図8(b)に示すように、1速カウンタギヤ21の回転方向前方側に位置するリーディング面21afと、回転方向後方側に位置するトレーリング面21arと、を備えている。ドグ21aは、1速カウンタギヤ21の回転方向の幅が、1速カウンタギヤ21側よりも2速カウンタギヤ22側の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。
また、2速カウンタギヤ22のドグ22aは、2速カウンタギヤ22の回転方向前方側に位置するリーディング面22afと、2速カウンタギヤ22の回転方向後方側に位置するトレーリング面22arと、を備えている。このドグ22aは、2速カウンタギヤ22の回転方向の幅が、2速カウンタギヤ22側よりも1速カウンタギヤ21側の方が広い、すなわち、先端幅広の形状となっている。
そして、第1キー52は、1速カウンタギヤ21側の端部に、ドグ21aのリーディング面21afに係合可能なリーディング爪52fを備え、また、2速カウンタギヤ22側の端部に、ドグ22aのトレーリング面22arに係合可能なトレーリング爪52rを備えている。リーディング爪52fは、リーディング面21afに面接触状態で係合し、トレーリング爪52rは、トレーリング面22arに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
一方、第2キー53は、1速カウンタギヤ21側の端部に、ドグ21aのトレーリング面21arに係合可能なトレーリング爪53rを備え、また、2速カウンタギヤ22側の端部に、ドグ22aのリーディング面22afに係合可能なリーディング爪53fを備えている。トレーリング爪53rは、トレーリング面21arに面接触状態で係合し、リーディング爪53fは、リーディング面22afに面接触状態で係合するように、テーパ状に形成されている。
そして、図8(a)に示すように、ハブ51は、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22の対向面間に配されており、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御していない場合には、第1キー52および第2キー53がいずれもハブ51の中心にある中間位置に保持される。第1キー52および第2キー53は、ハブ51の中間位置において、いずれもドグ21a、22aと非係合状態となっており、これによってセレクタ機構50aは切り離し状態となる。このように、セレクタ機構50aが切り離し状態にある場合には、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22と、ハブ51すなわちカウンタシャフト3とが相対回転することとなる。
図9は、1速カウンタギヤ21を介した動力伝達状態を説明する図である。図9(a)に示すように、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御して、第1ロッド58および第2ロッド59を1速カウンタギヤ21側にシフトすると、第1キー52および第2キー53が上記の中間位置よりも1速カウンタギヤ21側に移動する。ここで、メインシャフト2に装着された1速メインギヤ11および2速メインギヤ12は、メインシャフト2と一体回転している(図1参照)。
一方で、1速メインギヤ11に常時噛合する1速カウンタギヤ21および2速メインギヤ12に常時噛合する2速カウンタギヤ22は、カウンタシャフト3に相対回転自在に装着されている。したがって、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22は、メインシャフト2と一体となって回転するとともに、カウンタシャフト3に対して相対回転することとなる。
そして、第1キー52および第2キー53が1速カウンタギヤ21側に移動しており、かつ、エンジンEによる車両の加速時には、図9(b)に示すように、1速カウンタギヤ21のドグ21aにおけるリーディング面21afと、第1キー52のリーディング爪52fとが係合する。これにより、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと動力が伝達している状態(1速加速状態)となる。なお、このとき、第2キー53とドグ21aとは非係合状態に維持されている。以下において、「加速」とは、エンジンEの駆動力によって車両が加速する状態をいうものであり、例えば、坂を下るときに、自重によって車両が加速する状態をいうものではない。
また、エンジンE側の回転モーメントによる車両の減速(所謂、エンジンブレーキ)時には、図9(c)に示すように、1速カウンタギヤ21のドグ21aにおけるトレーリング面21arと、第2キー53のトレーリング爪53rとが係合し、これによって、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと、駆動輪側の慣性力を抑える力が伝達している状態(1速減速状態)となる。なお、このとき、第1キー52とドグ21aとは非係合状態に維持されている。以下において、「減速」とは、エンジンブレーキによる車両の減速状態をいうものであり、例えば、坂を上るときに車両が減速する状態をいうものではない。
図10は、2速カウンタギヤ22を介した動力伝達状態を説明する図である。図10(a)に示すように、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御して、第1ロッド58および第2ロッド59を2速カウンタギヤ22側にシフトすると、第1キー52および第2キー53が上記の中間位置よりも2速カウンタギヤ22側に移動する。そして、車両の加速時には、図10(b)に示すように、2速カウンタギヤ22のドグ22aにおけるリーディング面22afと、第2キー53のリーディング爪53fとが係合し、これによって、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(2速加速状態)となる。
なお、このとき、第1キー52とドグ22aとは非係合状態に維持されている。また、車両の減速時には、図10(c)に示すように、2速カウンタギヤ22のドグ22aにおけるトレーリング面22arと、第1キー52のトレーリング爪52rとが係合し、これによって、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(2速減速状態)となる。なお、このとき、第2キー53とドグ22aとは非係合状態に維持されている。
このように、セレクタ機構50aによれば、メインシャフト2と一体となって回転する1速カウンタギヤ21または2速カウンタギヤ22に、第1キー52および第2キー53を飛び込ませることで、エンジンEの駆動力を、メインシャフト2からカウンタシャフト3へと伝達することができる。なお、セレクタ機構50bは、セレクタ機構50aと同様に、カウンタシャフト3に設けられているため、動力伝達の態様は上記の説明と同じである。一方、セレクタ機構50cは、メインシャフト2に設けられているため、動力伝達の態様が上記と異なる。以下に、メインシャフト2に設けられるセレクタ機構50cについて説明する。
図11は、セレクタ機構50cの第1キー52、第2キー53およびドグ15a、16aを説明する図である。なお、セレクタ機構50cは、5速メインギヤ15および6速メインギヤ16の間に配されており、5速メインギヤ15の側面には、上記のドグ21aと同一形状のドグ15aが突設され、6速メインギヤ16の側面には、上記のドグ22aと同一形状のドグ16aが突設されている。ただし、図11(a)に示すように、5速メインギヤ15および6速メインギヤ16は、メインシャフト2に相対回転自在に装着されており、また、セレクタ機構50cのハブ51は、メインシャフト2に固定されている。したがって、セレクタ機構50cにおいては、第1キー52および第2キー53が、図11(b)に示す矢印方向に回転することとなる。
図12は、5速メインギヤ15を介した動力伝達状態を説明する図である。図12(a)に示すように、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御して、第1ロッド58および第2ロッド59を5速メインギヤ15側にシフトすると、第1キー52および第2キー53が上記の中間位置よりも5速メインギヤ15側に移動する。ここで、セレクタ機構50cのハブ51は、メインシャフト2と一体回転している。一方で、5速メインギヤ15は5速カウンタギヤ25に常時噛合しており、6速メインギヤ16は6速カウンタギヤ26に常時噛合している。したがって、第1キー52および第2キー53は、5速メインギヤ15および6速メインギヤ16に対して相対回転することとなる。
そして、第1キー52および第2キー53が5速メインギヤ15側に移動しており、かつ、車両の加速時には、図12(b)に示すように、5速メインギヤ15のドグ15aにおけるリーディング面15afと、第1キー52のリーディング爪52fとが係合する。これにより、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(5速加速状態)となる。なお、このとき、第2キー53とドグ15aとは非係合状態に維持されている。また、車両の減速時には、図12(c)に示すように、5速メインギヤ15のドグ15aにおけるトレーリング面15arと、第2キー53のトレーリング爪53rとが係合し、これによって、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(5速減速状態)となる。なお、このとき、第1キー52とドグ15aとは非係合状態に維持されている。
図13は、6速メインギヤ16を介した動力伝達状態を説明する図である。図13(a)に示すように、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御して、第1ロッド58および第2ロッド59を6速メインギヤ16側にシフトすると、第1キー52および第2キー53が上記の中間位置よりも6速メインギヤ16側に移動する。そして、車両の加速時には、図13(b)に示すように、6速メインギヤ16のドグ16aにおけるリーディング面16afと、第2キー53のリーディング爪53fとが係合し、これによって、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(6速加速状態)となる。
なお、このとき、第1キー52とドグ16aとは非係合状態に維持されている。また、車両の減速時には、図13(c)に示すように、6速メインギヤ16のドグ16aにおけるトレーリング面16arと、第1キー52のトレーリング爪52rとが係合し、これによって、メインシャフト2とカウンタシャフト3とが動力伝達状態(6速減速状態)となる。なお、このとき、第2キー53とドグ16aとは非係合状態に維持されている。
以上のように、本実施形態のセレクタ機構50によれば、電子制御ユニットECUがアクチュエータを制御することにより、メインシャフト2とカウンタシャフト3との動力伝達経路を、第1歯車列31〜第6歯車列36のいずれかに切り換えることができる。
なお、詳細な説明は後述するが、例えば、上記のように1速や2速に変速する際には、第1キー52および第2キー53と、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22との間に差回転が生じている。本実施形態の変速機1では、セレクタ機構50により、第1キー52および第2キー53と、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22との間に差回転が生じたままの状態で、第1キー52を1速カウンタギヤ21に飛び込ませたり、第2キー53を2速カウンタギヤ22に飛び込ませたりする。
そのため、第1キー52が1速カウンタギヤ21のドグ21aに係合したり、第2キー53が2速カウンタギヤ22のドグ22aに係合したりすると、双方が係合した瞬間に、トルクが瞬間的に跳ね上がって元に戻るといったトルク変動(以下、「スパイクトルク」と称する)が生じる。このように、変速の際にスパイクトルクが生じると、衝撃音や騒音が生じたり、各シャフト2、3、5、6に捩じれが生じ、駆動輪やミッションケースに振動が生じたりする。本実施形態では、こうした変速時に生じるスパイクトルクを、上記の低速段緩衝機構100、高速段緩衝機構200、駆動緩衝機構300で吸収、緩衝し、騒音や振動等を低減する。
(低速段緩衝機構100の構成)
図14は、低速段緩衝機構100の概略断面図である。本実施形態の低速段緩衝機構100は、隣り合う2つのメインギヤ10それぞれに備えられる低速段緩衝機構100が一体的に構成されている。ここでは、メインシャフト2に装着された1速メインギヤ11および2速メインギヤ12に設けられた低速段緩衝機構100について説明するが、3速メインギヤ13および4速メインギヤ14に設けられる低速段緩衝機構100も同様の構成となっている。
図14に示すように、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12は、メインシャフト2の軸方向に互いに離間した状態で、当該メインシャフト2に対して相対回転自在に装着されている。1速メインギヤ11は、2速メインギヤ12との対向面から突出する円筒状の円筒部11aが一体成形されており、この円筒部11aの外周面に、第1カップリング部材101が固定されている。第1カップリング部材101は、薄板円形状の平面部101aを備えており、この平面部101aの中心に、1速メインギヤ11の円筒部11aが挿通、固定される貫通孔101bが形成されている。また、平面部101aには、2速メインギヤ12側に隆起する円筒状の環状突起部101cが一体成形されている。
そして、平面部101aの外周縁、すなわち、環状突起部101cよりも径方向外方には、メインシャフト2の径方向に窪む保持溝101dが形成されている。この保持溝101dは、平面部101aの周方向に等間隔で複数形成されており、この保持溝101dによって、環状の中間リング102が保持されている。中間リング102は、メインシャフト2の軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、1速メインギヤ11側の側面から突出し、第1カップリング部材101の保持溝101dに挿通される保持片102aが、周方向に等間隔で複数形成されている。
つまり、中間リング102は、その保持片102aが、第1カップリング部材101の保持溝101dに嵌合されることで保持されており、この保持溝101dと保持片102aとによって、第1カップリング部材101と中間リング102とが一体回転することとなる。なお、中間リング102は、1速メインギヤ11側の側面から、2速メインギヤ12側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、中間リング102の内周面および外周面が、メインシャフト2の軸方向に対し傾斜する関係を維持している。
また、メインシャフト2には、当該メインシャフト2と一体回転する第1ハブ103がスプライン係合されている。この第1ハブ103は、メインシャフト2にスプライン係合される係合部103aが形成された薄板円形状の第1ハブ本体103bと、この第1ハブ本体103bから第1カップリング部材101側に突出する環状の突出部103cと、を備えている。突出部103cは、中間リング102よりも径方向外方に位置しており、中間リング102の外周面に接触している。
さらに、第1ハブ本体103bには、メインシャフト2の軸方向に貫通する保持孔103dが形成されている。この保持孔103dは、第1ハブ本体103bの周方向に等間隔で複数形成されており、この保持孔103dによって、環状のインナーリング104が保持されている。インナーリング104は、中間リング102と同様に、メインシャフト2の軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、2速メインギヤ12側の側面から突出し、第1ハブ本体103bの保持孔103dに挿通される保持片104aが、周方向に等間隔で複数形成されている。つまり、インナーリング104は、その保持片104aが、第1ハブ本体103bの保持孔103dに挿通されることで保持されており、この保持孔103dと保持片104aとによって、第1ハブ103とインナーリング104とが一体回転することとなる。
なお、インナーリング104は、1速メインギヤ11側の側面から、2速メインギヤ12側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、中間リング102の内周面に密着する寸法関係を維持している。そして、第1ハブ103をメインシャフト2に組み付けた状態では、第1ハブ103の突出部103cと、第1カップリング部材101の環状突起部101cとの間に、中間リング102およびインナーリング104が圧接状態で挟持されることとなる。
一方、2速メインギヤ12とメインシャフト2との間には、軸部材111がメインシャフト2と一体回転可能に設けられている。この軸部材111は、メインシャフト2が挿通される挿通孔111aが形成された軸本体部111bを備えており、この挿通孔111aにメインシャフト2が挿通された状態で、軸本体部111bがメインシャフト2にスプライン係合されている。軸本体部111bは、その軸方向の基端側(図14中右側)にフランジ部111cが一体成形されており、このフランジ部111c側が、先端側(図14中左側)よりも大径となっている。
そして、2速メインギヤ12は、軸本体部111bの大径部の外周面に相対回転自在に装着されている。また、2速メインギヤ12は、1速メインギヤ11との対向面から突出する円筒状の円筒部12aを備えるとともに、この円筒部12aよりも径方向外方に保持穴12bが形成されている。この保持穴12bは、1速メインギヤ11との対向面の周方向に等間隔で複数形成されており、この保持穴12bによって、環状の中間リング112が保持されている。
中間リング112は、メインシャフト2の軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、2速メインギヤ12側の側面から突出し、2速メインギヤ12の保持穴12bに嵌入される保持片112aが、周方向に等間隔で複数形成されている。つまり、中間リング112は、その保持片112aが、2速メインギヤ12の保持穴12bに嵌入されることで保持されており、この保持穴12bと保持片112aとによって、2速メインギヤ12と中間リング112とが一体回転することとなる。なお、中間リング112は、2速メインギヤ12側の側面から、1速メインギヤ11側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、中間リング112の内周面および外周面が、メインシャフト2の軸方向に対し傾斜する関係を維持している。
また、軸部材111の小径部には、当該軸部材111と一体回転する第2ハブ113がスプライン係合されている。この第2ハブ113は、軸部材111にスプライン係合される係合部113aが形成された薄板円形状の第2ハブ本体113bと、この第2ハブ本体113bから2速メインギヤ12側に突出する環状の突出部113cと、を備えている。突出部113cは、中間リング112よりも径方向外方に位置しており、中間リング112の外周面に接触している。
さらに、第2ハブ本体113bには、メインシャフト2の軸方向に貫通する保持孔113dが形成されている。この保持孔113dは、第2ハブ本体113bの周方向に等間隔で複数形成されており、この保持孔113dによって、環状のインナーリング114が保持されている。インナーリング114は、中間リング112と同様に、メインシャフト2の軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、1速メインギヤ11側の側面から突出し、第2ハブ本体113bの保持孔113dに挿通される保持片114aが、周方向に等間隔で複数形成されている。つまり、インナーリング114は、その保持片114aが、第2ハブ本体113bの保持孔113dに挿通されることで保持されており、この保持孔113dと保持片114aとによって、第2ハブ113とインナーリング114とが一体回転することとなる。
なお、インナーリング114は、2速メインギヤ12側の側面から、1速メインギヤ11側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、中間リング112の内周面に密着する寸法関係を維持している。そして、第2ハブ113を軸部材111に組み付けた状態では、第2ハブ113の突出部113cと、2速メインギヤ12の円筒部12aとの間に、中間リング112およびインナーリング114が圧接状態で挟持されることとなる。
そして、第1ハブ103と第2ハブ113との間にはリテーナ120が挟持されている。このリテーナ120には、第1ハブ103との対向面に環状突起120aが形成されており、また、第2ハブ113との対向面に環状突起120bが形成されている。そして、環状突起120aの外周には、円錐バネからなる弾性部材121が係止されており、また、環状突起120bの外周には、円錐バネからなる弾性部材122が係止されている。弾性部材121は、リテーナ120と第1ハブ103との間に介在されており、これら双方がメインシャフト2の軸方向に離反する弾性力を作用させている。同様に、弾性部材122は、リテーナ120と第2ハブ113との間に介在されており、これら双方がメインシャフト2の軸方向に離反する弾性力を作用させている。
次に、上記の構成からなる1速メインギヤ11、2速メインギヤ12および低速段緩衝機構100の組み付け工程について説明する。メインシャフト2は、軸方向に間隔を隔てて複数個所に段部が形成されており、1速メインギヤ11が装着される一端側(図14中左側)が、2速メインギヤ12が装着される他端側(図14中右側)よりも大径に構成されている。そして、まず、メインシャフト2にワッシャ123を挿通させるとともに、1速メインギヤ11、第1カップリング部材101、中間リング102を順次組み付ける。その後、インナーリング104を、中間リング102と第1カップリング部材101の環状突起部101cとの間に挟持させ、第1ハブ103をメインシャフト2にスプライン係合させる。
そして、メインシャフト2に、弾性部材121、122が係止されたリテーナ120を挿通させ、2速メインギヤ12、軸部材111、中間リング112、第2ハブ113、インナーリング114をアセンブリ化してメインシャフト2にスプライン係合させる。このようにして、全ての部品を組み付けたら、最後に、ナット等からなる固定部材124を、2速メインギヤ12側からメインシャフト2に締結させる。これにより、固定部材124と、ワッシャ123が当接するメインシャフト2の段部との間に、各部品が組み付け状態に維持されることとなる。
この組み付け状態では、弾性部材121の弾性力によって、第1ハブ103の突出部103cと中間リング102の外周面、中間リング102の内周面とインナーリング104の外周面、インナーリング104の内周面と第1カップリング部材101の環状突起部101cがそれぞれ圧接状態となる。同様に、弾性部材122の弾性力によって、第2ハブ113の突出部113cと中間リング112の外周面、中間リング112の内周面とインナーリング114の外周面、インナーリング114の内周面と2速メインギヤ12の円筒部12aがそれぞれ圧接状態となる。
このように、本実施形態の低速段緩衝機構100によれば、メインシャフト2の径方向に3つの摩擦面が積層して形成され、各摩擦面に、各弾性部材121、122によって、常に、セット荷重が発生することとなる。このセット荷重は、所謂、クラッチトルクを発生させることとなり、このクラッチトルクによって、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12がメインシャフト2と一体回転することとなる。なお、このクラッチトルクは、弾性部材121、122のセット荷重を調整することで適宜設定することができるが、車両の通常走行状態では、低速段緩衝機構100は動力伝達部材として機能しなければならない。したがって、低速段緩衝機構100のクラッチトルクとして設定される設定トルクは、通常走行状態において各摩擦面が滑ることのないように、想定される入力トルクに対して、余裕をもって上回るトルク値にする必要がある。
そして、入力トルクが、低速段緩衝機構100の設定トルク以上となった場合には、各摩擦面が互いに滑ることで、メインシャフト2と1速メインギヤ11および2速メインギヤ12が相対回転する。このように、メインシャフト2に対して1速メインギヤ11および2速メインギヤ12が相対回転することにより、スパイクトルクが生じた場合に、その一部を吸収して衝撃を緩衝するので、騒音や振動を抑制することが可能となる。
しかも、本実施形態の変速機1によれば、メインシャフト2およびカウンタシャフト3の軸方向に隣り合う第1歯車列31および第2歯車列32、すなわち、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12の間に、それぞれの低速段緩衝機構100が設けられている。そして、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12に設けられた低速段緩衝機構100は、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12を動力伝達状態または切り離し状態にするセレクタ機構50aと、軸方向の位置を一致させている。つまり、低速段緩衝機構100は、第1歯車列31および第2歯車列32の間という、そもそもセレクタ機構50aを配するスペースを確保することで必ず生じてしまう空きスペースに設けられるため、低速段緩衝機構100を設けても、変速機1全体が大型化することはない。
また、従来のように、緩衝機構をギヤの内部に組み込むと、ギヤの肉厚が薄くなって剛性が低下し、ギヤの噛み合い精度が悪化して噛み合い音が増大するといった問題や、特に径が小さいギヤについては、小型の緩衝機構しか組み込むことができず、十分な緩衝機能を確保することができないといった問題がある。上記の低速段緩衝機構100によれば、従来の緩衝機構を設けた場合と比べても、特に変速機1全体が大型化することもなく、従来の緩衝機構以上の剛性や緩衝機能を確保することが可能となる。なお、ここでは、1速メインギヤ11および2速メインギヤ12に低速段緩衝機構100を設けた場合について説明したが、3速メインギヤ13および4速メインギヤ14に低速段緩衝機構100を設ける場合も上記と同様である。
(高速段緩衝機構200の構成)
図15は、高速段緩衝機構200の概略断面図である。本実施形態の高速段緩衝機構200は、所謂、コーンクラッチタイプの緩衝機構で構成されており、カウンタシャフト3、より詳細には、第1カウンタシャフト3aと第2カウンタシャフト3bとの間に設けられている。この高速段緩衝機構200も、低速段緩衝機構100と同様に、スパイクトルクが生じた場合に、その一部を吸収して衝撃を緩衝するものであるが、この高速段緩衝機構200は、主に、第5歯車列35および第6歯車列36の間の変速時に生じるスパイクトルクを吸収する。
図15に示すように、カウンタシャフト3は、互いに同軸上に配された第1カウンタシャフト3aおよび第2カウンタシャフト3bに分割されており、これら第1カウンタシャフト3aおよび第2カウンタシャフト3bが、高速段緩衝機構200によって接続されている。高速段緩衝機構200は、第1カウンタシャフト3aの端部に装着されるリテーナ210およびハブ211を備えている。リテーナ210は、薄板円形状の部材で構成され、組み付け状態では、第1カウンタシャフト3aの段部と、ハブ211との間に挟持されている。
ハブ211は、第1カウンタシャフト3aにスプライン係合される係合部211aが形成された薄板円形状のハブ本体211bと、このハブ本体211bから第2カウンタシャフト3b側に突出する環状の突出部211cと、を備えている。ハブ本体211bには、第1カウンタシャフト3aの軸方向に貫通する保持孔211dが形成されている。この保持孔211dは、ハブ本体211bの周方向に等間隔で複数形成されており、この保持孔211dによって、環状のインナーリング212が保持されている。
インナーリング212は、第1カウンタシャフト3aの軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、第1カウンタシャフト3a側の側面から突出し、ハブ211の保持孔211dに挿通される保持片212aが、周方向に等間隔で複数形成されている。つまり、インナーリング212は、その保持片212aが、ハブ本体211bの保持孔211dに挿通されることで保持されており、この保持孔211dと保持片212aとによって、ハブ211とインナーリング212とが一体回転することとなる。なお、インナーリング212は、第2カウンタシャフト3b側の側面から、第1カウンタシャフト3a側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、インナーリング212の内周面および外周面が、第1カウンタシャフト3aの軸方向に対し傾斜する関係を維持している。
また、高速段緩衝機構200は、第2カウンタシャフト3bの端部にスプライン係合されるカップリング220を備えている。このカップリング220は、円筒状の本体部220aと、この本体部220aの第1カウンタシャフト3a側の先端に設けられた環状突起部220bと、本体部220aの外周面から第2カウンタシャフト3bの径方向に隆起する環状のフランジ部220cと、本体部220aの内周面からその中心側に向かって隆起する突片220dと、が一体成形されている。
また、フランジ部220cには、第2カウンタシャフト3bの径方向に窪む保持溝220eが形成されている。この保持溝220eは、カップリング220の周方向に等間隔で複数形成されており、この保持溝220eによって、環状の中間リング221が保持されている。中間リング221は、インナーリング212と同様に、第2カウンタシャフト3bの軸方向に所定の長さを有するリング状の部材であり、第2カウンタシャフト3b側の側面から突出し、カップリング220の保持溝220eに挿通される保持片221aが、周方向に等間隔で複数形成されている。つまり、中間リング221は、その保持片221aが、カップリング220の保持溝220eに挿通されることで保持されており、この保持溝220eと保持片221aとによって、カップリング220と中間リング221とが一体回転することとなる。
なお、中間リング221は、第2カウンタシャフト3b側の側面から、第1カウンタシャフト3a側の側面に向かうにしたがって、徐々に小径となるように形成されており、インナーリング212の外周面に密着する寸法関係を維持している。そして、カップリング220を第2カウンタシャフト3bに組み付けた状態では、カップリング220の環状突起部220bと、ハブ211の突出部211cとの間に、中間リング221およびインナーリング212が圧接状態で挟持されることとなる。
そして、リテーナ210とハブ211との間には、円錐バネからなる弾性部材222が介在されており、リテーナ210およびハブ211がカウンタシャフト3の軸方向に離反する弾性力を作用させている。
次に、上記の構成からなる高速段緩衝機構200の組み付け工程について説明する。高速段緩衝機構200を組み付ける際には、まず、第1カウンタシャフト3aをリテーナ210に挿通させる。そして、弾性部材222をリテーナ210に係止させた状態で、第1カウンタシャフト3aの端部にハブ211をスプライン係合させる。その後、ハブ211にインナーリング212を保持させた状態で、インナーリング212と突出部211cとの間に中間リング221を挟持させるように、カップリング220を組み付ける。そして、ワッシャ223を介してナット等からなる固定部材224を、第1カウンタシャフト3aの端部に締結する。
これにより、固定部材224と、リテーナ210が当接する第1カウンタシャフト3aの段部との間に、各部品が組み付け状態に維持されることとなる。そして、最後に、カップリング220に第2カウンタシャフト3bをスプライン係合させることで、高速段緩衝機構200の組み付けが完了する。
この組み付け状態では、弾性部材222の弾性力によって、ハブ211の突出部211cと中間リング221の外周面、中間リング221の内周面とインナーリング212の外周面、インナーリング212の内周面とカップリング220の環状突起部220bがそれぞれ圧接状態となる。
このように、本実施形態の高速段緩衝機構200によれば、低速段緩衝機構100と同様に、カウンタシャフト3の径方向に3つの摩擦面が積層して形成され、各摩擦面に、弾性部材222によって、常に、セット荷重が発生することとなる。このセット荷重は、所謂、クラッチトルクを発生させることとなり、このクラッチトルクによって、第1カウンタシャフト3aおよび第2カウンタシャフト3bが一体回転することとなる。
なお、このクラッチトルクは、弾性部材222のセット荷重を調整することで適宜設定することができるが、車両の通常走行状態では、高速段緩衝機構200は動力伝達部材として機能しなければならない。したがって、高速段緩衝機構200のクラッチトルクとして設定される設定トルクは、通常走行状態において各摩擦面が滑ることのないように、想定される入力トルクに対して、余裕をもって上回るトルク値にする必要がある。
そして、入力トルクが、高速段緩衝機構200の設定トルク以上となった場合には、各摩擦面が互いに滑ることで、第1カウンタシャフト3aと第2カウンタシャフト3bとが相対回転する。このように、第1カウンタシャフト3aと第2カウンタシャフト3bとが相対回転することにより、第5歯車列35または第6歯車列36への変速時にスパイクトルクが生じたとしても、その一部を吸収して衝撃を緩衝するので、騒音や振動を抑制することが可能となる。
また、上記の高速段緩衝機構200によれば、第5歯車列35および第6歯車列36の双方に対して緩衝機能が発揮される。換言すれば、第5歯車列35および第6歯車列36で、高速段緩衝機構200を共用している。したがって、第5歯車列35および第6歯車列36それぞれが個々に緩衝機構を備える場合よりも、全体を小型化することができる。なお、高速段緩衝機構200は、複数の歯車列で共用することが可能であるが、複数の歯車列で共用した場合には緩衝効果が低下する。したがって、上記の構成からなる高速段緩衝機構200は、ギヤのステップ比が小さくなり、生じるスパイクトルクも比較的小さくなる高速段側に適用することが望ましい。
以上のように、本実施形態では、相対的に低速段側(第1歯車列31〜第4歯車列34)での変速時に生じるスパイクトルクを低速段緩衝機構100で吸収し、相対的に高速段側(第5歯車列35および第6歯車列36)での変速時に生じるスパイクトルクを高速段緩衝機構200で吸収する。ただし、低速段緩衝機構100および高速段緩衝機構200の配置はこれに限定されるものではなく、適宜設計変更が可能であることは言うまでもない。したがって、例えば、1速メインギヤ11〜6速メインギヤ16の全てに、上記の低速段緩衝機構100を設けることとしてもよいし、低速段緩衝機構100を設けることなく、高速段緩衝機構200のみを設けることとしてもよい。
また、本実施形態においては、高速段緩衝機構200を出力シャフトとなるカウンタシャフト3に設けているが、入力シャフトとなるメインシャフト2に設けてもよい。この場合、メインシャフト2は、カウンタシャフト3と同様に、同軸上に配された2以上のシャフトに分割するとともに、この分割された2つのシャフトを接続するように高速段緩衝機構200を設けることとなる。いずれにしても、高速段緩衝機構200は、メインシャフト2およびカウンタシャフト3のいずれか一方または双方に設けることができる。
ただし、緩衝機能を発揮するためには、高速段緩衝機構200を、エンジンEから駆動輪までの動力伝達経路の途中に設けなければならない。したがって、メインシャフト2に高速段緩衝機構200を設ける場合には、少なくとも1つの歯車列よりもエンジンE側(6速メインギヤ16よりもエンジンE側)に高速段緩衝機構200を設ける必要がある。また、カウンタシャフト3においても、少なくとも1つの歯車列よりも駆動輪側(6速カウンタギヤ26よりも駆動輪側)に高速段緩衝機構200が設けられていれば、その配置は特に限定されるものではない。
なお、上記したとおり、低速段緩衝機構100および高速段緩衝機構200の設定トルクは、想定される入力トルク、すなわち、エンジンEの最大出力トルクを上回るトルク値に設定される。そして、変速時に生じるスパイクトルクは、低速段緩衝機構100および高速段緩衝機構200の設定トルクよりも大きなものであるが、低速段緩衝機構100および高速段緩衝機構200によって、スパイクトルクは設定トルクまでカットされる。しかしながら、変速前の低トルクから、エンジンEの最大出力トルク以上の設定トルクまで、トルクが瞬間的に変動することに変わりはなく、このトルク変動によって、動力伝達経路や車両に振動を生じさせてしまう。本実施形態の変速機1は、このトルク変動を駆動緩衝機構300が吸収、緩衝することで、騒音や振動をさらに抑制し、乗員の乗り心地を向上することができる。以下に、駆動緩衝機構300の構成について説明する。
(駆動緩衝機構300の構成)
図16は、駆動緩衝機構300の概略断面図である。本実施形態の駆動緩衝機構300は、所謂、摩擦クラッチタイプの緩衝機構で構成されており、カウンタシャフト3(第1カウンタシャフト3a)と、第1アウトプットシャフト5との間に設けられている。図16に示すように、駆動緩衝機構300は、第1カウンタシャフト3aの端部にスプライン係合されるハブ301と、このハブ301の外周に固定された薄板円形状のインナープレート302と、を備えている。インナープレート302は、第1カウンタシャフト3aの軸方向に複数、間隔を維持して配置されている。
また、第1アウトプットシャフト5の端部には、アウターケース303が固定されており、このアウターケース303の内周面に、薄板円形状のアウタープレート304が固定されている。このアウタープレート304は、第1カウンタシャフト3aの軸方向に複数、間隔を維持して配置されており、上記のインナープレート302とアウタープレート304とが、第1カウンタシャフト3aの軸方向に交互に積層するように構成されている。
さらに、第1カウンタシャフト3aには、プレッシャプレート305が装着されている。このプレッシャプレート305は、第1カウンタシャフト3aと一体回転可能であり、かつ、第1カウンタシャフト3aに対して軸方向に移動可能にスプライン係合されている。また、駆動緩衝機構300は、第1カウンタシャフト3aが挿通される円筒状の伝達部材306を備えており、この伝達部材306の内周面にベアリングbの外輪が固定され、プレッシャプレート305の外周面にベアリングbの内輪が固定されている。このとき、ベアリングbは、ストッパ307により、プレッシャプレート305および伝達部材306に対する軸方向の移動が規制されている。したがって、プレッシャプレート305と伝達部材306とは、ベアリングbによって相対回転するとともに、軸方向に一体となって移動することとなる。
なお、伝達部材306の一端にはフランジ部306aが形成されており、このフランジ部306aにレリーズフォーク308が係止されている。詳細な説明は省略するが、このレリーズフォーク308には、電子制御ユニットECUによって制御される不図示のアクチュエータが接続されている。そして、電子制御ユニットECUがアクチュエータを作動させると、レリーズフォーク308が第1カウンタシャフト3aの軸方向に移動し、これに伴って伝達部材306、ベアリングb、プレッシャプレート305が一体となって軸方向に移動することとなる。
また、プレッシャプレート305には、インナープレート302およびアウタープレート304に対向する位置に押圧面305aが設けられており、この押圧面305aを、最も第1カウンタシャフト3a側に配置されたアウタープレート304に面接触させている。そして、アウターケース303の内周面には固定片309が固定されており、この固定片309と、プレッシャプレート305との間に、圧縮コイルバネからなる弾性部材310が介在されている。この弾性部材310は、プレッシャプレート305を第1アウトプットシャフト5側に付勢する付勢力を常時作用させており、この弾性部材310の付勢力によって、インナープレート302およびアウタープレート304間にリミットトルク(クラッチトルク)が発生することとなる。
したがって、駆動緩衝機構300は、第1カウンタシャフト3aに生じるトルクがリミットトルク未満である場合に、第1カウンタシャフト3aと第1アウトプットシャフト5とを一体回転させ、リミットトルク以上になると、第1カウンタシャフト3aと第1アウトプットシャフト5とを相対回転させることとなる。なお、駆動緩衝機構300はリミットトルクを変更可能に構成されている。具体的には、電子制御ユニットECUの制御によってレリーズフォーク308が移動すると、これと一体となってプレッシャプレート305の押圧面305aが移動する。これにより、インナープレート302とアウタープレート304との間の圧力が変化し、その結果、リミットトルクが変更されることとなる。
次に、動力伝達経路の切り換え、すなわち、変速時における電子制御ユニットECUの制御と、それに伴うセレクタ機構50の動作態様について説明する。
(電子制御ユニットECUの制御)
図17は、変速機1の制御系統を説明するブロック図である。この図に示すように、本実施形態の変速機1は、動力伝達経路の切り換え制御を行う電子制御ユニットECUを備えている。この電子制御ユニットECUには、エンジンEのトルクや回転数等、エンジンEの状態を検出するエンジン検出部46が接続されており、電子制御ユニットECUにエンジンEの状態が入力されている。また、電子制御ユニットECUには、運転席に設けられたシフトレバーSLのシフト操作を検出するセンサが接続されており、シフトレバーSLによる動力伝達経路の切り換え信号が電子制御ユニットECUに入力される。
また、電子制御ユニットECUには、上記の第1回転数検出センサ41〜第4回転数検出センサ44が接続されており、これら各センサ41〜44から、それぞれ、発進クラッチ4の回転数、メインシャフト2の回転数、カウンタシャフト3の回転数、第1アウトプットシャフト5の回転数が入力される。さらに、変速機1には、トルクセンサ45が設けられており、第1アウトプットシャフト5に生じるトルク値が電子制御ユニットECUに入力される。
そして、電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLおよび第1回転数検出センサ41〜第4回転数検出センサ44から入力された各検出信号に基づいて、エンジンE、発進クラッチ4、セレクタ機構50a、50b、50c、駆動緩衝機構300を制御する。なお、ここでは理解を容易にするため、電子制御ユニットECUの制御対象を、発進クラッチ4、セレクタ機構50a、50b、50c、駆動緩衝機構300として説明するが、実際には、電子制御ユニットECUは、これら各機構に設けられたアクチュエータを制御することとなる。
なお、電子制御ユニットECUによる動力伝達経路の切り換え制御(変速制御)は、さまざまな状況でなされるが、ここでは、加速時アップシフト、減速時ダウンシフト、加速時ダウンシフト、減速時アップシフトについて、それぞれ個別に説明する。加速時アップシフトとは、車両の加速時において、相対的に低速段側から高速段側に切り換えるものであり、減速時ダウンシフトとは、車両の減速時において、相対的に高速段側から低速段側に切り換えるものである。
また、加速時ダウンシフトとは、車両の加速時において、相対的に高速段側から低速段側に切り換えるものであり、減速時アップシフトとは、車両の減速時において、相対的に低速段側から高速段側に切り換えるものである。以下に、1速および2速の間で、加速時アップシフト、減速時ダウンシフト、加速時ダウンシフト、減速時アップシフトを行う際の電子制御ユニットECUの制御、および、それに伴うセレクタ機構50の動作態様について説明する。
(加速時アップシフト)
図18は、1速から2速への加速時アップシフト制御を説明するフローチャートであり、図19は、加速時アップシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第1の図であり、図20は、加速時アップシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第2の図である。電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLより1速から2速への切り換え信号が入力されると、トルクセンサ45から入力される検出信号等に基づき、車両の走行状態を確認し、加速状態であると判定した場合に、図18に示す加速時アップシフト制御を実行する。
(ステップS1)
電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLから切り換え信号が入力されると、その時点においてトルクセンサ45によって検出されている伝達トルクtを特定する。
なお、このとき、車両は1速の加速状態であるため、セレクタ機構50aは、図19(a1)および図19(a2)に示す状態となっている。具体的には、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57は、いずれも1速カウンタギヤ21側にシフトされている。このとき、1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22の回転方向は、図19(a2)の矢印方向となっている。したがって、1速カウンタギヤ21のドグ21aのリーディング面21afと、第1キー52のリーディング爪52fとが係合され、1速カウンタギヤ21から、ハブ51すなわちカウンタシャフト3へと動力伝達がなされている。ただし、この1速の加速状態では、第2キー53は1速カウンタギヤ21側に移動しているものの、1速カウンタギヤ21のドグ21aとは非係合状態となっている。
(ステップS2)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtが、ステップS1で特定した伝達トルクtに、予め設定されたトルク値t1を加算したトルクとなるようにアクチュエータを制御する。なお、このトルク値t1は、変速時における伝達トルクの変動を生じさせ、車両の振動等の要因となる。そのため、トルク値t1は、極力小さく設定することが好ましいが、一方では、スリップが発生することがないように配慮しなければならない。そのため、トルク値t1は、変速機1の制御精度等を考慮したうえで、車両試験等により経験的に設定することが望ましい。
また、ここでは、電子制御ユニットECUが、動力伝達経路の切り換え信号が入力されたときに、トルクセンサ45によって検出された検出トルクから、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを算出することとした。しかしながら、電子制御ユニットECUは、例えば、動力伝達経路の切り換え信号が入力されたときのエンジンEの推定トルクからリミットトルクLtを算出することも可能である。いずれにしても、動力伝達経路の切り換え信号の入力により、電子制御ユニットECUが、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを可変すればよく、リミットトルクLtの算出方法等は特に限定されるものではない。
(ステップS3)
次に、電子制御ユニットECUは、第1回転数検出センサ41および第2回転数検出センサ42によって、発進クラッチ4のスリップが検出されるまで、当該発進クラッチ4のクラッチトルクを低下させる。これは、スパイクトルクが生じた際に、フライホイールが設けられるエンジンEのクランクシャフトと、メインシャフト2およびカウンタシャフト3とを相対回転させるためである。これにより、動力伝達経路の切り換え時に、メインシャフト2およびカウンタシャフト3に対して、フライホイールに生じる極めて大きな慣性力が作用しなくなり、低速段緩衝機構100や高速段緩衝機構200で吸収すべきエネルギーを小さくすることができる。
(ステップS4)
次に、電子制御ユニットECUは、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57をニュートラル位置(中間位置)にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。ただし、このとき、図19(a2)に示すように、第2キー53は、ドグ21aと非係合状態であるためニュートラル位置に移動可能であるが、第1キー52は、1速カウンタギヤ21のドグ21aに係合しているため、ニュートラル位置に移動することができない。したがって、ここでは、図19(b1)および図19(b2)に示すように、第1キー52とドグ21aとの係合状態が維持されたまま、すなわち、第1キー52と1速カウンタギヤ21との動力伝達状態が維持されたまま、第2キー53がニュートラル位置に移動することとなる。
(ステップS5)
次に、電子制御ユニットECUは、アップシフト可能な状態であるかを判定し、アップシフト可能であると判定した場合にはステップS7に処理を移し、アップシフト不可能であると判定した場合にはステップS6に処理を移す。なお、アップシフト可能な状態とは、第2キー53のリーディング爪53fが、2速カウンタギヤ22のドグ22aのリーディング面22afに係合可能な加速状態であり、アップシフト不可能な状態とは、例えば、急な下り坂や減速状態など、第2キー53のリーディング爪53fが、2速カウンタギヤ22のドグ22aのリーディング面22afに係合できない状態である。
(ステップS6)
ステップS5においてアップシフト不可能な状態であると判定した場合には、電子制御ユニットECUは、シフト中断処理を行い、当該加速時アップシフト制御を終了する。
(ステップS7)
ステップS5においてアップシフト可能な状態であると判定した場合には、電子制御ユニットECUは、第2シフトフォーク57を2速カウンタギヤ22側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
このとき、図20(a2)に示すように、1速カウンタギヤ21と2速カウンタギヤ22との間には差回転が生じており、第1キー52および第2キー53に対して、2速カウンタギヤ22は矢印方向に回転している。したがって、この状態で第2キー53が2速カウンタギヤ22側に移動すると、第2キー53のリーディング爪53fと、2速カウンタギヤ22のドグ22aのリーディング面22afとが係合する。このように、第2キー53が2速カウンタギヤ22のドグ22aに係合すると、1速カウンタギヤ21と第1キー52とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が瞬間的に2速側に切り換わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。
この動力伝達経路の切り換え時には、互いに差回転がある第2キー53と2速カウンタギヤ22とが係合するため、スパイクトルクが生じることとなるが、このスパイクトルクは、上記の低速段緩衝機構100により、その設定トルクまでカットされる。また、ステップS3において、発進クラッチ4がスリップ状態に制御されており、メインシャフト2およびカウンタシャフト3に対して、フライホイールに生じる極めて大きな慣性力が作用していない。したがって、低速段緩衝機構100で吸収すべきエネルギーは小さなものとなっている。
さらに、カウンタシャフト3と駆動輪(第1アウトプットシャフト5)との間に設けられた駆動緩衝機構300は、そのリミットトルクLtが、動力伝達経路の切り換え前の伝達トルクt+トルク値t1に制御されている。したがって、動力伝達経路の切り換え前後で駆動輪に伝達されるトルク変動はトルク値t1のみとなり、変速機1の動力伝達経路や車両の振動が大きく低減されることとなる。
シフトレバーSLより1速から2速への切り換え信号が入力され、当該加速時アップシフト制御が開始されてから、アクチュエータ制御ステップS7を完了するまでの間、電子制御ユニットECUは、エンジンEの出力トルク、発進クラッチ4のクラッチトルクを一定に保ち、加速状態を維持するように制御している。
(ステップS8)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジン回転数が、次段(ここでは2速)における設定範囲内となるようにエンジンEを制御する。ここでは、エンジンEを制御して、エンジン回転数を引き下げることとなる。
(ステップS9)
次に、電子制御ユニットECUは、第1シフトフォーク56を2速カウンタギヤ22側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。なお、図20(a1)および図20(a2)に示すように、第2キー53と、2速カウンタギヤ22のドグ22aとが係合すると、メインシャフト2の回転数が低下する。これにより、第1キー52および第2キー53に対する1速カウンタギヤ21の相対回転方向が図とは逆方向となり、第1キー52と1速カウンタギヤ21のドグ21aとの係合が解除される。したがって、第1キー52は、図20(b1)および図20(b2)に示すように、2速カウンタギヤ22側に移動し、これによって1速から2速への加速時アップシフトが完了することとなる。
(ステップS10)
次に、電子制御ユニットECUは、第3回転数検出センサ43および第4回転数検出センサ44から入力される回転数が一致するか、すなわち、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5とが一体回転しているかを検出する。そして、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5との一体回転が検出されると、ステップS11に処理を移す。
(ステップS11)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを初期の締結状態に復帰させるようにアクチュエータを制御する。
(ステップS12)
次に、電子制御ユニットECUは、発進クラッチ4のクラッチトルクを初期の締結状態に復帰させるように制御し、当該加速時アップシフト制御が終了となる。
(減速時ダウンシフト)
図21は、2速から1速への減速時ダウンシフト制御を説明するフローチャートであり、図22は、減速時ダウンシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第1の図であり、図23は、減速時ダウンシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第2の図である。電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLより2速から1速への切り換え信号が入力されると、トルクセンサ45から入力される検出信号等に基づき、車両の走行状態を確認し、減速状態であると判定した場合に、図21に示す減速時ダウンシフト制御を実行する。
(ステップS101)
電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLから切り換え信号が入力されると、その時点においてトルクセンサ45によって検出されている伝達トルクtを特定する。
なお、このとき、車両は2速の減速状態であるため、セレクタ機構50aは、図22(a1)および図22(a2)に示す状態となっている。具体的には、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57は、いずれも2速カウンタギヤ22側にシフトされている。このとき、第1キー52および第2キー53から見た2速カウンタギヤ22および1速カウンタギヤ21の回転方向は、図22(a2)の矢印方向となっている。したがって、2速カウンタギヤ22のドグ22aのトレーリング面22arと、第1キー52のトレーリング爪52rとが係合され、第1キー52を介した動力伝達がなされている。ただし、この2速の減速状態では、第2キー53は2速カウンタギヤ22側に移動しているものの、2速カウンタギヤ22のドグ22aとは非係合状態となっている。
(ステップS102)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtが、ステップS101で特定した伝達トルクtに、予め設定されたトルク値t1を加算したトルクとなるようにアクチュエータを制御する。
(ステップS103)
次に、電子制御ユニットECUは、第1回転数検出センサ41および第2回転数検出センサ42によって、発進クラッチ4のスリップが検出されるまで、当該発進クラッチ4のクラッチトルクを低下させる。
(ステップS104)
次に、電子制御ユニットECUは、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57をニュートラル位置(中間位置)にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。ただし、このとき、図22(a2)に示すように、第2キー53は、ドグ22aと非係合状態であるためニュートラル位置に移動可能であるが、第1キー52は、2速カウンタギヤ22のドグ22aに係合しているため、ニュートラル位置に移動することができない。したがって、ここでは、図22(b1)および図22(b2)に示すように、第1キー52とドグ22aとの係合状態が維持されたまま、すなわち、第1キー52と2速カウンタギヤ22との動力伝達状態が維持されたまま、第2キー53がニュートラル位置に移動することとなる。
(ステップS105)
次に、電子制御ユニットECUは、ダウンシフト可能な状態であるかを判定し、ダウンシフト可能であると判定した場合にはステップS107に処理を移し、ダウンシフト不可能であると判定した場合にはステップS106に処理を移す。なお、ダウンシフト可能な状態とは、第2キー53のトレーリング爪53rが、1速カウンタギヤ21のドグ21aのトレーリング面21arに係合可能な減速状態であり、ダウンシフト不可能な状態とは、例えば、急な上り坂や加速状態など、第2キー53のトレーリング爪53rが、1速カウンタギヤ21の21aのトレーリング面21arに係合できない状態である。
(ステップS106)
ステップS105においてダウンシフト不可能な状態であると判定した場合には、電子制御ユニットECUは、シフト中断処理を行い、当該減速時ダウンシフト制御を終了する。
(ステップS107)
ステップS105においてダウンシフト可能な状態であると判定した場合には、電子制御ユニットECUは、第2シフトフォーク57を1速カウンタギヤ21側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
このとき、図23(a2)に示すように、1速カウンタギヤ21と2速カウンタギヤ22との間には差回転が生じており、第1キー52および第2キー53に対して、1速カウンタギヤ21は矢印方向に回転している。したがって、この状態で第2キー53が1速カウンタギヤ21側に移動すると、第2キー53のトレーリング爪53rと、1速カウンタギヤ21のドグ21aのトレーリング面21arとが係合する。このように、第2キー53が1速カウンタギヤ21のドグ21aに係合すると、2速カウンタギヤ22と第1キー52とが動力伝達状態を維持したまま、動力伝達経路が瞬間的に1速側に切り換わるため、トルク切れを生じることなく変速がなされることとなる。なお、この動力伝達経路の切り換え時においても、上記の加速時アップシフトと同様に、スパイクトルクが生じることとなるが、このスパイクトルクは、上記の低速段緩衝機構100および駆動緩衝機構300によってカットされる。
シフトレバーSLより2速から1速への切り換え信号が入力され、当該減速時ダウンシフト制御が開始されてから、アクチュエータ制御ステップS107を完了するまでの間、電子制御ユニットECUは、エンジンEの出力トルク、発進クラッチ4のクラッチトルクを一定に保ち、減速状態を維持するように制御している。
(ステップS108)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジン回転数が、次段(ここでは1速)における設定範囲内となるようにエンジンEを制御する。ここでは、エンジンEを制御して、エンジン回転数を引き上げることとなる。
(ステップS109)
次に、電子制御ユニットECUは、第1シフトフォーク56を1速カウンタギヤ21側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。なお、図23(a1)および図23(a2)に示すように、第2キー53と、1速カウンタギヤ21のドグ21aとが係合すると、メインシャフト2の回転数が上昇する。これにより、第1キー52および第2キー53に対する2速カウンタギヤ22の相対回転方向が図とは逆方向となり、第1キー52と2速カウンタギヤ22のドグ22aとの係合が解除される。したがって、第1キー52は、図23(b1)および図23(b2)に示すように、1速カウンタギヤ21側に移動し、これによって2速から1速への減速時ダウンシフトが完了することとなる。
(ステップS110)
次に、電子制御ユニットECUは、第3回転数検出センサ43および第4回転数検出センサ44から入力される回転数が一致するか、すなわち、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5とが一体回転しているかを検出する。そして、カウンタシャフト3と第1アウトプットシャフト5との一体回転が検出されると、ステップS111に処理を移す。
(ステップS111)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを初期の締結状態に復帰させるようにアクチュエータを制御する。
(ステップS112)
次に、電子制御ユニットECUは、発進クラッチ4のクラッチトルクを初期の締結状態に復帰させるように制御し、当該減速時ダウンシフト制御が終了となる。
(加速時ダウンシフト)
図24は、2速から1速への加速時ダウンシフト制御を説明するフローチャートであり、図25は、加速時ダウンシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第1の図であり、図26は、加速時ダウンシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第2の図である。電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLより2速から1速への切り換え信号が入力されると、トルクセンサ45から入力される検出信号等に基づき、車両の走行状態を確認し、加速状態であると判定した場合に、図24に示す加速時ダウンシフト制御を実行する。
(ステップS201)
電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLから切り換え信号が入力されると、駆動緩衝機構300を制御して、カウンタシャフト3を第1アウトプットシャフト5から解放する(完全解放)。
なお、このとき、車両は2速の加速状態であるため、セレクタ機構50aは、図25(a1)および図25(a2)に示す状態となっている。具体的には、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57は、いずれも2速カウンタギヤ22側にシフトされている。このとき、第1キー52および第2キー53から見た2速カウンタギヤ22および1速カウンタギヤ21の回転方向は、図25(a2)の矢印方向となっている。したがって、2速カウンタギヤ22のドグ22aのリーディング面22afと、第2キー53のリーディング爪53fとが係合され、第2キー53を介した動力伝達がなされている。ただし、この2速の加速状態では、第1キー52は2速カウンタギヤ22側に移動しているものの、2速カウンタギヤ22のドグ22aとは非係合状態となっている。
(ステップS202)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジンEを制御して、次段(ここでは1速)における設定範囲内に向けて、エンジン回転数の調整処理を開始する。ここでは、エンジンEを制御して、エンジン回転数を引き上げることとなる。
(ステップS203)
次に、電子制御ユニットECUは、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57をニュートラル位置(中間位置)にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
なお、図25(a2)に示すように、2速の加速状態では、通常、第1キー52は、ドグ22aと非係合状態であるためニュートラル位置に移動可能であるが、第2キー53は、2速カウンタギヤ22のドグ22aに係合しているため、ニュートラル位置に移動することができない。しかしながら、この加速時ダウンシフト制御においては、ステップS201において、予め駆動緩衝機構300が完全解放の状態になっている。そのため、ドグ22aのリーディング面22afと、第2キー53のリーディング爪53fとの係合は既に解除されているか、仮に係合していたとしても、その係合力は弱いものとなっている。したがって、ここでは、図25(b1)および図25(b2)に示すように、第1キー52および第2キー53がニュートラル位置に移動することとなる。
(ステップS204)
次に、電子制御ユニットECUは、第2シフトフォーク57を1速カウンタギヤ21側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
このとき、図26(a2)に示すように、直前まで2速の加速状態で回転していた第1キー52および第2キー53に対して、1速カウンタギヤ21は1速であって回転速度が相対的に遅いため、矢印方向に相対回転している。したがって、第2キー53が1速カウンタギヤ21側に移動すると、第1キー53のトレーリング爪53rと、1速カウンタギヤ21のドグ21aのトレーリング面21arとが係合する。なお、この動力伝達経路の切り換え時においても、上記の加速時アップシフトと同様に、スパイクトルクが生じることとなるが、このスパイクトルクは、上記の低速段緩衝機構100および駆動緩衝機構300によってカットされる。特に、駆動緩衝機構300は、完全解放の状態になっているため、駆動輪側へのスパイクトルクの伝達を完全に遮断することが可能となる。
(ステップS205)
次に、電子制御ユニットECUは、第1シフトフォーク56を1速カウンタギヤ21側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。これにより、第1キー52は、1速カウンタギヤ21側に移動する。
(ステップS206)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジン回転数の調整処理が完了しているか否かを判定する。エンジン回転数の調整処理が完了していない場合、完了するまで待機する。エンジン回転数の調整処理が完了している場合、ステップS207に処理を移す。
(ステップS207)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを徐々に上昇させ、スリップ締結状態となるようにアクチュエータを制御する。そして、駆動輪側の抵抗力が徐々に伝達され、第1キー52および第2キー53側の回転速度が低下する。こうして、第1キー52および第2キー53側の回転速度に対し、1速カウンタギヤ21の回転速度が上回ると、図26(b1)および図26(b2)に示すように、第1キー52のリーディング爪52fと、1速カウンタギヤ21のドグ21aのリーディング面21afとが係合する。これによって2速から1速への加速時ダウンシフトが完了することとなる。
(ステップS208)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtをさらに上昇させ、完全締結状態となるようにアクチュエータを制御し、当該加速時ダウンシフト制御が終了となる。
(減速時アップシフト)
図27は、1速から2速への減速時アップシフト制御を説明するフローチャートであり、図28は、減速時アップシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第1の図であり、図29は、減速時アップシフトによるセレクタ機構50aの状態を説明する第2の図である。電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLより1速から2速への切り換え信号が入力されると、トルクセンサ45から入力される検出信号等に基づき、車両の走行状態を確認し、減速状態であると判定した場合に、図27に示す減速時アップシフト制御を実行する。
(ステップS301)
電子制御ユニットECUは、シフトレバーSLから切り換え信号が入力されると、駆動緩衝機構300を制御して、カウンタシャフト3を第1アウトプットシャフト5から解放する。
なお、このとき、車両は1速の減速状態であるため、セレクタ機構50aは、図28(a1)および図28(a2)に示す状態となっている。具体的には、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57は、いずれも1速カウンタギヤ21側にシフトされている。このとき、第1キー52および第2キー53から見た1速カウンタギヤ21および2速カウンタギヤ22の回転方向は、図28(a2)の矢印方向となっている。したがって、1速カウンタギヤ21のドグ21aのトレーリング面21arと、第2キー53のトレーリング爪53rとが係合され、第2キー53を介した動力伝達がなされている。ただし、この1速の減速状態では、第1キー52は1速カウンタギヤ21側に移動しているものの、1速カウンタギヤ21のドグ21aとは非係合状態となっている。
(ステップS302)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジンEを制御して、次段(ここでは2速)における設定範囲内に向けて、エンジン回転数の調整処理を開始する。ここでは、エンジンEを制御して、エンジン回転数を引き下げることとなる。
(ステップS303)
次に、電子制御ユニットECUは、セレクタ機構50aの第1シフトフォーク56および第2シフトフォーク57をニュートラル位置(中間位置)にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
なお、図28(a2)に示すように、1速の減速状態では、通常、第1キー52は、ドグ21aと非係合状態であるためニュートラル位置に移動可能であるが、第2キー53は、1速カウンタギヤ21のドグ21aに係合しているため、ニュートラル位置に移動することができない。しかしながら、この減速時アップシフト制御においては、ステップS301において、予め駆動緩衝機構300が完全解放の状態になっている。そのため、ドグ21aのトレーリング面21arと、第2キー53のトレーリング爪53rとの係合は既に解除されているか、仮に係合していたとしても、その係合力は弱いものとなっている。したがって、ここでは、図28(b1)および図28(b2)に示すように、第1キー52および第2キー53がニュートラル位置に移動することとなる。
(ステップS304)
次に、電子制御ユニットECUは、第2シフトフォーク57を2速カウンタギヤ22側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。
このとき、図29(a2)に示すように、直前まで1速の減速状態で回転していた第1キー52および第2キー53に対して、2速カウンタギヤ22は2速であって回転速度が相対的に速いため、矢印方向に相対回転している。したがって、第2キー53が2速カウンタギヤ22側に移動すると、第2キー53のトレーリング爪53fと、2速カウンタギヤ22のドグ22aのリーディング面22afとが係合する。なお、この動力伝達経路の切り換え時においても、上記の加速時アップシフトと同様に、スパイクトルクが生じることとなるが、このスパイクトルクは、上記の低速段緩衝機構100および駆動緩衝機構300によってカットされる。特に、駆動緩衝機構300は、完全解放の状態になっているため、駆動輪側へのスパイクトルクの伝達を完全に遮断することが可能となる。
(ステップS305)
次に、電子制御ユニットECUは、第1シフトフォーク56を2速カウンタギヤ22側にシフトさせるように、アクチュエータを制御する。これにより、第1キー52は、2速カウンタギヤ22側に移動する。
(ステップS306)
次に、電子制御ユニットECUは、エンジン回転数の調整処理が完了しているか否かを判定する。エンジン回転数の調整処理が完了していない場合、完了するまで待機する。エンジン回転数の調整処理が完了している場合、ステップS307に処理を移す。
(ステップS307)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtを徐々に上昇させ、スリップ締結状態となるようにアクチュエータを制御する。そして、駆動輪側の慣性力が徐々に伝達され、第1キー52および第2キー53側の回転速度が上昇する。こうして、第1キー52および第2キー53側の回転速度に対し、2速カウンタギヤ22の回転速度が下回ると、図29(b1)および図29(b2)に示すように、第1キー52のトレーリング爪52rと、2速カウンタギヤ22のドグ22aのトレーリング面22arとが係合する。これによって1速から2速への減速時アップシフトが完了することとなる。
(ステップS308)
次に、電子制御ユニットECUは、駆動緩衝機構300のリミットトルクLtをさらに上昇させ、完全締結状態となるようにアクチュエータを制御し、当該加速時ダウンシフト制御が終了となる。
上記の制御により、加速時および減速時におけるアップシフトおよびダウンシフトのいずれにおいても、変速時に生じるスパイクトルクの緩衝機能が向上し、乗り心地を向上することができる。なお、ここでは、1速と2速との間で行われる変速制御について説明したが、3速と4速、および、5速と6速との間で行われる変速制御も上記と同様にして行われることとなる。
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した各実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。例えば、セレクタ機構50、低速段緩衝機構100、高速段緩衝機構200は、メインシャフト2およびカウンタシャフト3のいずれに配置することも可能である。また、上記実施形態では、セレクタ機構50として、トルク切れを生じることなく変速が可能な構成について説明したが、本発明のセレクタ機構の構成はこれに限定されるものではなく、従来公知のセレクタ機構にも適用することができる。
なお、上記実施形態においては、メインシャフト2が入力シャフトとして機能し、カウンタシャフト3が出力シャフトとして機能する。本発明にかかる第1シャフトを入力シャフトとした場合には、上記実施形態のメインシャフト2が本発明の第1シャフトに相当し、カウンタシャフト3が本発明の第2シャフトに相当する。この場合、メインギヤ10が本発明の第1ギヤに相当し、カウンタギヤ20が本発明の第2ギヤに相当することとなる。一方、これとは逆に、本発明にかかる第1シャフトを出力シャフトとした場合には、上記実施形態のカウンタシャフト3が本発明の第1シャフトに相当し、メインシャフト2が本発明の第2シャフトに相当する。この場合、カウンタギヤ20が本発明の第1ギヤに相当し、メインギヤ10が本発明の第2ギヤに相当することとなる。