このように、従来の永久磁石同期回転機は、低速域において不足する誘起電圧をステータ電力で補う必要があったり、高速域において高くなり過ぎる誘起電圧を抑えるためにステータ電力で弱め界磁する必要があった。特に、高速域において弱め界磁制御に要するステータ電力はトルクの発生に寄与しないものであり、従来の永久磁石同期回転機の回転数に対する損失特性を示す図23からも把握できるように、このステータ電力が大きいほど効率が低下する。なお、図23では、トルクを相対的に細い実線で示し、出力を相対的に太い実線で示し、鉄損を点線で示し、ステータ銅損を相対的に細い1点鎖線で示し、総損を相対的に太い1点鎖線で示している。
このような問題点の主要因は、ロータに永久磁石を付帯させた回転機において永久磁石の磁束を調整することができないことにある。
そこで、誘起電圧が高くなるように永久磁石の数量を増やすことによって低速域でも誘起電圧の不足分をステータ電力で補う必要のない回転機を構成することが考えられる。しかしながら、永久磁石を増量すればその分だけコストが増加するとともに、高速域では高い誘起電圧を抑えるためにやはり弱め界磁を行う必要があり、トルクに寄与しないステータ電力がより一層増大してしまう。そして、トルクに寄与しないステータ電力の増加に伴い、ステータ銅損が増加するとともに、弱め界磁によって高い誘起電圧を抑えながらロータを回転させることで鉄損も増加し、作動効率の低下を招来するという問題が生じる。
また、コストを削減するとともに、高速域で弱め界磁を行わなくてもよいように永久磁石の数量を減らした場合には、低速域における誘起電圧の不足量が増大し、誘起電圧を補うステータ電力も増大してしまうという問題が生じる。
ところで、特開2006−047250号公報には、回転軸の径方向において磁気ギャップを介してロータに対向するステータの両端(軸方向両端)に界磁巻線を設け、各界磁巻線に流す電流の方向を変更することでステータ巻線に鎖交する磁束量(磁束鎖交数)を調整できるように構成された回転機が開示されている。
具体的に、上記公報に開示されているインナー可動型の回転機は、回転軸の軸方向に並ぶロータコア同士の間に永久磁石をN極とS極が回転軸の軸方向に向かい合う姿勢で配置するとともに、各ロータコアの内周側領域(反ステータ側領域)と、ステータの反ロータ側領域(外周側領域)及びこの外周側領域に一体的に連続し且つ軸方向にロータコアに対向する領域(ロータコア対向領域)をそれぞれ塊状コアによって構成したものである。
そして、軸方向において対向するロータコアとステータのロータ対向領域との間に、ロータとステータとの磁気ギャップよりも大きいギャップが形成されており、界磁巻線に電流を流していない状態では、永久磁石の磁束が、永久磁石のN極、一方のロータコアの内周側領域(塊状コア)、一方のロータコアの外周側領域(突極部:非塊状コア)、ロータとステータとの磁気ギャップ、ステータの内周側領域(非塊状コア)、ステータの外周側領域(塊状コア)、ステータの内周側領域(非塊状コア)、ロータとステータとの磁気ギャップ、他方のロータコアの外周側領域(突極部:非塊状コア)、他方のロータコアの内周軸側領域(塊状コア)、永久磁石のS極をこの順路で流れる。
また、ステータの両端に設けた各界磁巻線に界磁弱め方向の電流を流した場合には、永久磁石の磁束は、界磁巻線の起磁力に誘導されることによってロータとステータとの磁気ギャップに流れ難くなり、永久磁石のN極、一方のロータコアの内周側領域(塊状コア)、一方のロータコアとステータのロータ対向領域とのギャップ、ステータのロータ対向領域(塊状コア)、ステータの外周側領域(塊状コア)、ステータのロータ対向領域(塊状コア)、他方のロータコアとロータ対向領域とのギャップ、他方のロータコアの内周側領域(塊状コア)、永久磁石のS極をこの順路で流れる。すなわち、永久磁石の磁束は、ロータとステータとの磁気ギャップを流れず(ステータ巻線に鎖交せず)、塊状コアで構成した領域を通って短絡されることになり、界磁弱めと同等の効果を得ることができる。
一方、各界磁巻線に界磁強め方向の電流を流した場合には、各界磁巻線の起磁力は永久磁石の起磁力とは逆方向に与えられ、永久磁石の磁束は、永久磁石のN極、一方のロータコアの内周側領域(塊状コア)、一方のロータコアの外周側領域(突極部:非塊状コア)、ロータとステータとの磁気ギャップ、ステータの内周側領域(非塊状コア)、ステータの外周側領域(塊状コア)、ステータの内周側領域(非塊状コア)、ロータとステータとの磁気ギャップ、他方のロータコアの外周側領域(突極部:非塊状コア)、他方のロータコアの内周側領域(塊状コア)、永久磁石のS極をこの順路で流れる。すなわち、永久磁石の磁束は、各界磁巻線に電流を流していない状態と同じ流れになり、ステータ巻線に鎖交する。そして、界磁巻線によって発生する磁束もまたステータ巻線に鎖交し、界磁巻線に流す電流を調整することでステータ巻線への磁束鎖交数を増加でき、トルクを増大させることができる。
このような回転機であれば、上述したように各界磁巻線に流す電流の方向を変更して界磁弱め制御又は界磁強め制御を実行することで、ステータ巻線に鎖交する磁束量(磁束鎖交数)を調整できる点で従来の永久磁石同期回転機と比較して有利である。
しかしながら、ロータ及びステータの各所定領域を、永久磁石の磁束がステータ巻線に鎖交しないように迂回させるバイパスとして機能させるために塊状コアで構成しなければならない点、ステータの両端にそれぞれ界磁巻線を配置しなければならない点については、さらなる構造簡素化の余地があるといえる。
また、回転領域(運転領域)の変動に伴って界磁巻線に流す電流の方向を切り替え、磁束を変化させて界磁弱め制御又は界磁強め制御を適切に実行しなければならないこの種の界磁巻線形同期回転機では、電流の2乗に比例する界磁巻線の銅損(界磁銅損)が、界磁強め制御時のみならず、界磁弱め制御時でも増加するため、この界磁銅損の増加が効率を低下させる要因になっている。
本発明は、このような検討結果に基づき、永久磁石の大幅な増量を回避しつつ、ステータ巻線に鎖交する磁束量を調整することができ、低速・高トルクの状態から高速・低トルクの状態に亘る広範な運転領域に対応する何れの回転領域でも高い効率を実現可能な回転機を提供することを主たる目的とするものである。
すなわち本発明は、ステータ極及びステータ巻線を有するステータと、ステータと同軸上に配置され且つステータとの間に磁気ギャップを形成するロータと、ロータをステータに対して回転可能に支持するロータ支持部材とを備えた回転機に関するものである。ここで、「ステータ極」の数は、ロータの極数、相数、係数に基づいて決定される。
そして、本発明に係る回転機は、ロータとして、対をなす第1ロータコア及び第2ロータコアと、永久磁石列と、磁性リングと、界磁巻線とを備えたものを適用している点、ロータ支持部材を磁性体で構成している点、界磁巻線に電流を流していない状態において各永久磁石、各ロータコア、磁性リング、及びロータ支持部材を通って短絡する永久磁石列の磁束を、界磁巻線に所定方向の電流を流すことで生じる界磁巻線の磁束とともにステータ巻線に鎖交する磁束に変化可能に構成している点、これらの点に以下に述べるような特徴を有するものである。
本発明に係る回転機は、回転軸の径方向においてロータをステータの内周側に配置したインナー可動型、及び回転軸の径方向においてロータをステータの外周側に配置したアウター可動型の何れをも包含するものであり、以下に本願発明の技術的特徴について具体的に説明する。
ロータを構成する第1ロータコア及び第2ロータコアは、何れもリング状のヨーク及びヨークからステータに向かって突出し且つ周方向に等ピッチで複数設けた突極部を有する磁性体である。そして、本発明の回転機では、これら第1ロータコア及び第2ロータコアを相互に周方向に1極ピッチ分ずらした状態で回転軸の軸方向に離間して配置している。なお、1極ピッチ分は、一回転360度を各ロータコアの突極部の数(第1ロータコアの突極部及び第2ロータコアの突極部の総数ではない)で除した値に相当する。
また、永久磁石列は、第1ロータコアのヨークとロータ支持部材との間に配置され且つヨークに対向するヨーク対向面とロータ支持部材に対向するロータ支持部材対向面に相対応する異なった極性を持たせた第1永久磁石と、第2ロータコアのヨークとロータ支持部材との間に配置され且つヨーク対向面とロータ支持部材対向面の各極性が第1永久磁石の極性と異なる第2永久磁石とを回転軸の軸方向に沿って並べたものである。
磁性リングは、第1ロータコアと第2ロータコアの間であって且つ第1永久磁石及び第2永久磁石に跨がる位置に配置したものであり、界磁巻線は、第1ロータコアと第2ロータコアの間であって且つ磁性リングのうちステータ側の周面に巻回したものである。
また、磁性体で構成したロータ支持部材の一例としては、インナー可動型であれば回転軸(シャフト)を挙げることができ、アウター可動型であれば例えばロータの外周に配置されるフレームを挙げることができる。
このような各部材から構成した本発明の回転機では、界磁巻線に電流を流していない状態(界磁巻線非励磁状態)であれば、永久磁石列の磁束は、例えば第1永久磁石のヨーク対向面がN極である場合にこの第1永久磁石のヨーク対向面を始点として捉えると、第1永久磁石のヨーク対向面、第1ロータコアのヨーク、磁性リング、第2ロータコアのヨーク、第2永久磁石のヨーク対向面、第2永久磁石のロータ支持部材対向面、磁性体であるロータ支持部材、第1永久磁石のロータ支持部材対向面、第1永久磁石のヨーク対向面をこの順で流れる。すなわち、界磁巻線の起磁力がゼロの場合には、永久磁石列の磁束がステータ巻線に鎖交しない。言い換えれば、ステータ巻線に界磁磁束(モータが回転する際に発生する磁界である界磁の磁束)が流れない。
一方、界磁巻線に所定方向の電流を流した場合、界磁巻線の磁束は、例えば界磁巻線をステータ側の周面に配置している磁性リングを流れる。この磁性リングを流れる界磁巻線の磁束の向きが、界磁巻線非励磁状態において磁性リングを流れる永久磁石列の磁束の向きと反対になる方向(永久磁石列の磁束とぶつかる方向)の電流を界磁巻線に流す。界磁巻線非励磁状態における永久磁石列の磁束の流れが上述した流れである場合、界磁巻線に所定方向の電流を流すことで生じる界磁巻線の磁束は、磁性リングを第2ロータコアのヨーク側から第1ロータコアのヨークに向かって流れる磁束であり、磁性リングを起点として捉えると、磁性リング、第1ロータコアのヨーク、第1ロータコアの突極部、第1ロータコアの突極部とステータ極の磁気ギャップ、ステータ極、ステータ極と第2ロータコアの突極部の磁気ギャップ、第2ロータコアの突極部、第2ロータコアのヨーク、磁性リングをこの順で流れる。そして、界磁巻線に流す電流量を調節して界磁巻線の起磁力の大きさを調節することができ、界磁巻線の起磁力によって生じる磁束が永久磁石列の磁束よりも大きければ、磁性リングを流れようとする永久磁石の磁束は、界磁巻線の磁束にぶつかって磁性リングを流れず、界磁巻線の磁束に誘導されてロータコアの突極部とステータ極との隙間である磁気ギャップを流れる。その結果、界磁巻線の磁束の流れが上述した流れである場合、界磁巻線の磁束に誘導される永久磁石の磁束は、磁性リングを流れず、界磁巻線の磁束とともに、第1ロータコアのヨーク、第1ロータコアの突極部、第1ロータコアの突極部とステータ極の磁気ギャップ、ステータ極、ステータ極と第2ロータコアの突極部の磁気ギャップ、第2ロータコアの突極部、第2ロータコアのヨークをこの順で流れ、第2ロータコアから第2永久磁石、磁性体であるロータ支持部材、第1永久磁石を流れて第1ロータコアのヨークに至る。
このように、本発明に係る回転機は、界磁巻線に所定方向の電流を流していない状態であればステータ巻線に界磁磁束が鎖交していない状態を確保することができる。したがって、本発明に係る回転機では、界磁巻線に所定方向の電流を流していない状態において誘起電圧が発生せず、安全な状態を確保することができる。また、界磁巻線に所定方向の電流を流した場合には、永久磁石列の磁束と界磁巻線の磁束をステータ巻線に鎖交させる(永久磁石列の磁束を界磁巻線の磁束とともにステータ巻線に鎖交する界磁磁束に変化させる)ことができ、誘起電圧を発生させてロータを回転させることができる。
そして、本発明の回転機であれば、要求される回転数(出力)やトルクに応じて界磁巻線に流す電流量を調節することで、ステータ巻線に鎖交する磁束量(永久磁石列の磁束に界磁巻線の磁束を重畳した磁束量であり、永久磁石列の磁束と界磁巻線の磁束の総和である磁束量)を増減することができる。この際、永久磁石列の界磁を弱める弱め界磁は不要であるため、永久磁石列を構成する永久磁石の減磁現象を防止することができるとともに、弱め界磁制御と強め界磁制御を選択して行う態様と比較して、界磁巻線に流す電流方向は一定方向のみであるため、界磁巻線に流す電流方向を切り替える処理が不要である。そして、弱め界磁制御時に要する「トルクに寄与しないステータ電力」が不要となり、界磁巻線の銅損(界磁銅損)の減少を実現できる。
さらに、本発明の回転機は、ステータに対してロータを回転可能に支持するロータ支持部材を磁性体にし、このロータ支持部材と、回転軸の軸方向に並ぶ第1ロータコア、磁性リング及び第2ロータコアの間に、永久磁石列を回転軸の径方向に挟むように配置することで、永久磁石列の磁束を磁気短絡させており、ステータの一部を永久磁石の磁束が流れるバイパスとして機能させる構成と比較して短い磁路を実現することができるとともに、バイパス機能を発揮させるためにステータの所定領域を他の領域よりも抵抗を低くして磁束が流れ易くする特殊な構造にする処理も不要であり、構造の簡素化の点においても有利である。
このような本発明に係る回転機であれば、界磁巻線の起磁力がゼロの場合にはステータ巻線に鎖交しない永久磁石の磁束を、界磁巻線に電流を流すことで界磁巻線の磁束に重畳させて、ステータ巻線に鎖交する磁束(界磁磁束)に変化させることが可能であり、且つ永久磁石の大幅な増量を回避しつつ、低速・高トルクの状態から高速・低トルクの状態に亘る広範な運転領域に対応する何れの回転領域でも高い効率を実現することができる。
本発明によれば、永久磁石列及び界磁巻線をロータに配置し、界磁巻線非励磁状態では磁性リング及び磁性体のロータ支持部材によってステータ巻線に鎖交しないように磁気短絡させた永久磁石列の磁束を、界磁巻線に所定方向の電流を流すことで界磁巻線の磁束とともにステータ巻線に鎖交する磁束(界磁磁束)に変化可能に構成しているため、永久磁石の大幅な増量を回避しつつ、広範な運転領域に対応する何れの回転領域でも高効率で作動する回転機を提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る回転機Xは、例えば図示しない電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の駆動モータとして適用可能なものである。
回転機Xは、図1乃至図3に示すように、ステータ1と、ステータ1と同軸上に配置され且つステータ1との間に磁気ギャップを形成するロータ2と、ロータ2をステータ1に対して回転可能に支持するロータ支持部材3とを備えたものである。本実施形態に係る回転機Xは、ロータ2をステータ1よりも回転軸Wの径方向C内側に配置したインナー可動型の回転機である。
ステータ1は、リング状のステータコア11と、ステータコア11からロータ2側に向かって突出し且つ周方向Bに等角ピッチで配列された複数のステータティース12(本発明のステータ極に相当)と、周方向Bに隣り合うステータティース12同士の間に形成されるスロットに配置したステータ巻線13とを有するものである。本実施形態の回転機Xは、ステータ1の外周面を被覆する円筒状の磁性フレーム(図示省略)を備えている。本実施形態では、磁性フレームの内周面とステータ1の外周面(ステータコア11の外周面)の隙間がゼロ又は略ゼロとなるように磁性フレームの内径及びステータコア11の外径を設定している。
ロータ2は、図1乃至図4に示すように、対となる磁性体の第1ロータコア4及び第2ロータコア5と、永久磁石列6と、磁性リング7と、界磁巻線8とを備えている。
第1ロータコア4及び第2ロータコア5は同一形状であり、それぞれリング状のヨーク41,ヨーク51と、各ヨーク41,51のそれぞれからステータ1側に向かって突出し且つ周方向Bに等角ピッチで複数設けた突極部42,突極部52を有するものである。そして、本実施形態では、図4に示すように、これら第1ロータコア4及び第2ロータコア5を周方向Bに互いに1極ピッチ分ずらした状態でシャフト3の軸方向Aに並べて配置している。図4に示す各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)はそれぞれ4つの突極部42,突極部52を有するものであり、これらロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)を周方向Bに互いに90度(一回転360を4で除した値)ずらした状態で回転軸Wの軸方向A(以下、単に「軸方向A」と称する場合がある)に並べて配置している。ここで、本実施形態の回転機Xは、軸方向Aに所定距離離間して並ぶ第1ロータコア4と第2ロータコア5との間に磁性リング7を介在させている。
ここで、本実施形態の回転機Xでは、ステータ1とロータ2の間、より具体的にはステータ1のステータティース12と各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5の突極部42,突極部52)の間に、回転軸Wの周方向Bに周回する磁気ギャップを形成している。
また、本実施形態ではロータ支持部材として、ロータ2の回転軸Wそのものとして機能する磁性体のシャフト3を適用している。すなわち、シャフト3及びロータ2は一体回転可能に構成されている。本実施形態では、図1及び図3に示すように、シャフト3のうち径方向Cにおいてロータ2及びステータ1と重なり得る領域を他の領域よりも外径が大きい大径部31に設定し、この大径部31のうちシャフト3の軸方向A一端部には径方向C外側に突出する鍔部32を形成している。
永久磁石列6は、回転軸W(シャフト3)の軸方向Aに並べて配置した第1永久磁石61及び第2永久磁石62を用いて構成したものである。本実施形態では、第1ロータコア4のヨーク41とシャフト3(具体的にはシャフト3の大径部31)との間に第1永久磁石61を配置するとともに、第2ロータコア5のヨーク51とシャフト3(具体的にはシャフト3の大径部31)との間に第2永久磁石62を配置している。本実施形態の回転機Xでは、何れもリング状をなす第1永久磁石61及び第2永久磁石62の外径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の内径(具体的にはヨーク41,ヨーク51の内径)よりも僅かに大きい値に設定し、第1永久磁石61及び第2永久磁石62の内径をシャフト3のうち大径部31の外径よりも僅かに小さい値に設定している。
第1永久磁石61は、ヨーク41に対向するヨーク対向面61aとシャフト3に対向するシャフト対向面61b(本発明のロータ支持部材対向面に相当)に相対応する異なった極性を持たせたものであり、本実施形態では、例えばヨーク対向面61aをN極、シャフト対向面61bをS極に着磁した第1永久磁石61を適用している。また、第2永久磁石62は、ヨーク対向面62aとシャフト対向面62bの各極性が第1永久磁石61の極性と異なるように着磁した(つまり、ヨーク対向面62aをS極、シャフト対向面62bをN極に着磁した)ものである。
本実施形態の回転機Xは、シャフト3の大径部31のうち、シャフト3の軸方向Aに沿って上述の鍔部32側から第1永久磁石61及び第2永久磁石62をこの順番に配置している。つまり、第1永久磁石61及び第2永久磁石62をこの順にシャフト3の大径部31のうち鍔部32を設けていない側の端部から大径部31を外嵌するように挿入することで、上述した配置条件及び着磁条件を満たす永久磁石列6を実現している。第1永久磁石61及び第2永久磁石62はシャフト3の軸方向Aに隙間無く並んだ状態で配置される。そして、このような構成をなす永久磁石列6はシャフト3と一体回転可能である。
また、本実施形態に係る回転機Xは、第1ロータコア4と第2ロータコア5の間に磁性リング7を配置している。具体的に、この磁性リング7は、第1ロータコア4のヨーク41と第2ロータコア5のヨーク51の間であって且つシャフト3の軸方向Aに沿って第1永久磁石61及び第2永久磁石62を跨ぐ位置に配置したものである。本実施形態の回転機Xでは、磁性リング7の内径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の内径(具体的にはヨーク41,ヨーク51の内径)と同一または略同一に設定し、磁性リング7の外径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)のヨーク41,ヨーク51の外径と同一または略同一に設定している。また、磁性リング7の厚み自体は、各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)の厚みよりも薄い。
本実施形態の磁性リング7は、これら永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)を上述した順でシャフト3の大径部31に外嵌させた後に、第1ロータコア4及び第2ロータコア5と同様に永久磁石列6を外嵌するように挿入することで、第1ロータコア4のヨーク41と第2ロータコア5のヨーク51の間に配置することができる。具体的には、第1ロータコア4、磁性リング7、第2ロータコア5の順にシャフト3の大径部31のうち鍔部32を設けていない側の端部から大径部31を外嵌するように挿入すると、第1ロータコア4が鍔部32に当接してそれ以上の挿入動作が規制され、この第1ロータコア4に続いて磁性リング7及び第2ロータコア5をシャフト3の軸方向Aに隙間無く並べて配置することができる。この磁性リング7は、各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)に挟持された状態で各ロータコア4,5及び永久磁石列6とともにシャフト3と一体回転可能である。
本実施形態に係る回転機Xは、磁性リング7のうちステータ1側の周面、すなわちインナー可動型の回転機Xであれば磁性リング7の外周面に、界磁巻線8を巻回している。界磁巻線8は、図1乃至図4に示すように、回転軸Wの径方向Cにおいて磁性リング7と重なり、回転軸Wの軸方向Aにおいて第1ロータコア4と第2ロータコア5に挟まれる位置に配置される。本実施形態では、界磁巻線8のうち径方向Cにおいて最も内側の領域を磁性リング7の外周面に接触させ、界磁巻線8のうち径方向Cにおいて最も外側の領域を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の突極部42(突極部42,突極部52)の先端面(外周面)よりもステータ1から離間した位置に設定している。なお、図2では、説明の便宜上、回転軸W回りに周回する界磁巻線8に共通のパターンを付している。
そして、本実施形態に係る回転機Xは、シャフト3の軸方向Aに沿った永久磁石列6の幅寸法と、第1ロータコア4、磁性リング7及び第2ロータコア5の並び方向(軸方向A)における幅寸法の総和が同一または略同一になるように設定している。すなわち、本実施形態では、各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の軸方向Aに沿った幅寸法を各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)の幅寸法よりも小さく設定している。
ここで、図4に示すように、シャフト3に永久磁石列6、ロータ2、磁性リング7及び界磁巻線8を組み付けたユニットは、ステータ1に対して回転可能な部材のみを組み付けたものであることからロータユニットUと捉えることができる。そして、このロータユニットUは、ステータ1の径方向C内側に挿通され、ステータティース12との間に形成される磁気ギャップを介してステータ1に対してシャフト3の軸心回りに回転自在に設けられる。
次に、このような構成を有する本実施形態に係る回転機Xの動作及び作用について説明する。
本実施形態の回転機Xにおいて、磁性リング7を周回する位置に設けた界磁巻線8に電流が流れていない場合(界磁巻線非励磁状態)、永久磁石列6の磁束(以下では「磁石磁束」と称する場合がある)は、図5及び図6に点線で示すように、例えば第1永久磁石61のヨーク対向面61a(N極)を始点として捉えると、この第1永久磁石61のヨーク対向面61a、第1ロータコア4のヨーク41、磁性リング7、第2ロータコア5のヨーク51、第2永久磁石62のヨーク対向面62a(S極)、第2永久磁石62のシャフト対向面62b(N極)、シャフト3、第1永久磁石61のシャフト対向面61b(S極)、第1永久磁石61のヨーク対向面61a(N極)を流れる。すなわち、永久磁石列6の磁束の経路(磁路)は、常に全体の磁気抵抗が最も小さくなる磁路が必然的に選ばれるため、界磁巻線非励磁状態における磁石磁束は、ロータ2とステータ1の磁気ギャップを避けて流れることになる。したがって、界磁巻線非励磁状態では永久磁石列6の磁束がステータ巻線13に鎖交することはない。特に、本実施形態では、各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)及び各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)を回転軸Wの径方向Cに流れる永久磁石列6の磁束が、第1ロータコア4と第2ロータコア5の間に配置した磁性リング7、及び磁性体であるシャフト3では軸方向Aに流れるように設定し、永久磁石列6の磁束を短絡させている。この界磁巻線非励磁状態における永久磁石列6の磁束を以下では「非励磁状態磁石磁束」と称す。このように、非励磁状態磁石磁束はロータ2内におさまり、ステータ巻線13に鎖交しない。したがって、誘起電圧が発生せず、安全な状態であるといえる。なお、永久磁石列6の磁束量は常に一定である。
一方、本実施形態の回転機Xにおいて、界磁巻線8に所定方向の電流を流した場合(界磁巻線励磁状態)、具体的には、図7及び図8に示すように、磁性リング7における界磁巻線8の磁束(同図において二点鎖線で示す磁束であり、以下では「界磁巻線磁束」と称する場合がある)の向きが非励磁状態磁石磁束の向きと反対になる方向の電流を界磁巻線8に流した場合、界磁巻線磁束は、例えば第1ロータコア4のヨーク41を始点として捉えると、この第1ロータコア4のヨーク41、第1ロータコア4の突極部42、磁気ギャップ、ステータティース12、ステータコア11、ステータティース12、磁気ギャップ、第2ロータコア5の突極部52、第2ロータコア5のヨーク51、磁性リング7、第1ロータコア4のヨーク41を流れる。そして、界磁巻線8の起磁力の大きさに依存する界磁巻線8の磁束量(界磁電力の大きさに依存する界磁巻線8の磁束量)が永久磁石列6の磁束量よりも大きい場合に、上述した非励磁状態磁石磁束のうち、第1ロータコア4のヨーク41から磁性リング7を経て第2ロータコア5のヨーク51に向かう永久磁石列6の磁束が、界磁巻線8の磁束によって誘導されて、第1ロータコア4のヨーク41から磁性リング7及び第2ロータコア5のヨーク51に向かわずに、界磁巻線8の磁束と同一方向、つまり、第1ロータコア4のヨーク41、第1ロータコア4の突極部42、磁気ギャップ、ステータティース12、ステータコア11、ステータティース12、磁気ギャップ、第2ロータコア5の突極部52、第2ロータコア5のヨーク51へと流れる磁束(以下では「励磁状態磁石磁束」と称す)となる。この励磁状態磁石磁束は、第2ロータコア5のヨーク51から、第2永久磁石62のヨーク対向面62a(S極)、第2永久磁石62のシャフト対向面62b(N極)、シャフト3、第1永久磁石61のシャフト対向面61b(S極)、第1永久磁石61のヨーク対向面61a(N極)へと流れる。
そして、本実施形態に係る回転機Xにおいて、このような励磁状態磁石磁束が、界磁巻線8の磁束とともにステータ巻線13に鎖交することによって、誘起電圧を発生させてロータ2を回転させることができる。さらに、本実施形態に係る回転機Xは、要求される回転数(出力)やトルクに応じて界磁巻線8に流す電流量(界磁電力)を調節することで、ステータ巻線13に鎖交する磁束量(永久磁石列6の磁束と界磁巻線8の磁束の総和である磁束量)を増減することができる。
したがって、このような回転機Xを電気自動車やハイブリッド車の駆動モータとして適用した場合、回転機Xの回転数に対する誘起電圧、界磁電力、ステータ電力の特性を示す図9からも把握できるように、始動時を含む低速域では、ステータ1のコイル(ステータ巻線13)に通電するとともに、界磁巻線8に所定方向の電流を流して非励磁状態から界磁巻線励磁状態に切り替えることで励磁されたロータ2が回転駆動する。なお、図9では、トルクを相対的に細い実線で示し、出力を相対的に太い実線で示し、誘起電圧を点線(実際の誘起電圧を相対的に太い点線、界磁制御を行わない場合の誘起電圧を相対的に細い点線)で示し、界磁電力を2点鎖線で示し、ステータ電力を1点鎖線で示している。
本実施形態に係る回転機Xは、大トルクが要求される低速域において、界磁巻線8に流す電流量を上げる(界磁電力を大きくする)ことによって、その界磁電力に応じた大きい界磁巻線8の磁束と、この界磁巻線8の磁束に誘導される永久磁石列6の磁束をステータ巻線13に鎖交させることができ、ステータ1巻線に鎖交する磁束量を増大させる(磁束密度を高める)ことができる。したがって、例えばステータ巻線13に流す電流を大きくすることに依らずとも、界磁巻線8に所定方向の電流を流す界磁制御を行うことで大トルクを得ることができ、界磁制御を行わない場合に比べて誘起電圧を高くすることができる。図9には、比較対象として界磁制御を行わない場合の誘起電圧を実際の誘起電圧を示す点線よりも細い点線で示している。
また、本実施形態の回転機Xは、中速域において、界磁巻線励磁状態で運転しつつ、低速域時よりも界磁電力を少なくすることで誘起電圧を一定に保ち、トルクを必要としない領域に到達した時点で界磁電力をさらに少なくすることでステータ巻線13に鎖交する磁束量を低速域よりも減少させて、ステータ1における磁束密度を抑えることができる。そして、本実施形態の回転機Xにおける回転数に対する鉄損、界磁巻線8の銅損、ステータ1の銅損の特性(損失特性)を示す図10に示すように、ステータ1の磁束密度を抑えることによって、鉄損を低減することができる。なお、図10では、トルクを相対的に細い実線で示し、出力を相対的に太い実線で示し、鉄損を点線で示し、ステータ銅損を相対的に細い1点鎖線で示し、界磁銅損(界磁巻線8の銅損)を2点鎖線で示し、総損を相対的に太い1点鎖線で示している。
また、本実施形態に係る回転機Xは、高速域では、図9に示すように、界磁電力をゼロに近付けることで、リラクタンストルクのみで回転させる。すなわち、界磁電力をゼロに近付けることによって、界磁巻線8の磁束量がゼロに近付き、ステータ巻線13に鎖交する磁束量が中速域よりも減少し、ステータ1における磁束密度をさらに抑えることができる。また、図10に示すように、界磁電力をゼロに近付けることで低速域や中速域と比較して界磁巻線8の銅損も減少するとともに、高速域では磁束密度の低減に伴って鉄損を低減できることから、本実施形態に係る回転機Xでは、高速回転領域で誘起電圧が低い(磁束密度が低い)ため、鉄損を低減することができる。
このような各部材から構成した本実施形態に係る回転機Xは、界磁巻線非励磁状態において永久磁石列6の磁束がステータ巻線13に鎖交しないように構成しているため、この界磁巻線非励磁状態では誘起電圧が発生せず、安全な状態を確保することができ、制御機器(電源、インバータなど)が停止したときには自ずと誘起電圧が発生しない状態を確保することができ、制御機器の破損防止に役立つ。また、本実施形態の回転機Xでは、界磁巻線8に一方向の電流を流した場合に、磁気ギャップを介してステータ1とロータ2との間を流れる界磁巻線8の磁束に誘導されて永久磁石列6の磁束をステータ1に流すことができ、誘起電圧を発生させてロータ2を回転させることができ、要求される回転数(出力)やトルクに応じて界磁巻線8に流す電流量を調節することで、ステータ巻線13に鎖交する磁束量を増減することができる。この際、永久磁石列6の界磁を弱める弱め界磁は不要であるため、永久磁石列6を構成する永久磁石の減磁現象を防止することができる。そして、本実施形態に係る回転機Xは、弱め界磁制御実行時に生じ得る界磁銅損の発生を防止・抑制することができ、弱め界磁制御と強め界磁制御を選択して行う態様と比較して、界磁巻線8に流す電流方向は一定方向のみであるため、界磁巻線8に流す電流方向を切り替える処理が不要であり、高速域において、弱め界磁制御であれば必要な「トルクに寄与しないステータ電力」が不要となり、ステータ銅損を低減させることができる。
さらに、本実施形態の回転機Xは、ステータ1に対してロータ2を回転可能に支持するロータ支持部材3であるシャフト3を磁性体にし、このシャフト3と、軸方向Aに並ぶ第1ロータコア4、磁性リング7及び第2ロータコア5の間に、永久磁石列6を回転軸Wの径方向Cに挟むように配置することで、永久磁石列6の磁束を短絡させており、ステータ1の一部を永久磁石の磁束がステータ1とロータ2との磁気ギャップを回避して流れるバイパスとして機能させる構成と比較して、短い磁路を実現することができるとともに、バイパス機能を発揮させるためにステータ1の所定領域を他の領域よりも抵抗を低くして磁束が流れ易くする特殊な構造にする処理も不要であり、構造の簡素化の点においても有利である。
このように、本実施形態の回転機Xであれば、第1ロータコア4及び第2ロータコア5の構造及び配置に加えて、一対の永久磁石の組み合わせ及び配置、さらには界磁巻線8及び磁性リング7の配置を上述の各条件に合致させることで、界磁巻線8の起磁力がゼロの場合にはステータ巻線13に鎖交しない永久磁石列6の磁束を、界磁巻線8に電流を流すことで界磁巻線8の磁束に重畳させて、ステータ巻線13に鎖交する磁束(界磁磁束)に変えることが可能であり、永久磁石の大幅な増量を回避しつつ、低速・高トルクの状態から高速・低トルクの状態に亘る広範な運転領域に対応する何れの回転領域でも高い効率を実現できる。
次に、上記実施形態とは異なる実施形態(第2実施形態と称する場合がある)を、図面を参照して説明する。なお、上記実施形態と第2実施形態の説明において符号は重複(共通)しているが、各符号はそれぞれの実施形態に関連付けて付した符号であり、共通の符号であっても、その符号が表す部材や部分が各実施形態で共通しているということではない。
第2実施形態に係る回転機Xは、例えば図示しない電気自動車やハイブリッド車の駆動モータ、或いは産業機器や大型風力発電装置に適用可能なものである。
回転機Xは、図11乃至図13に示すように、ステータ1と、ステータ1と同軸上に配置され且つステータ1との間に磁気ギャップを形成するロータ2と、ロータ2をステータ1に対して回転可能に支持するロータ支持部材3とを備えたものである。本実施形態に係る回転機Xは、ロータ2をステータ1よりも回転軸Wの径方向C外側に配置したアウター可動型の回転機である。
ステータ1は、円柱状のステータコア11と、ステータコア11からロータ2側に向かって突出し且つ周方向Bに等角ピッチで配列された複数のステータティース12(本発明のステータ極)と、周方向Bに隣り合うステータティース12同士の間に形成されるスロットに配置したステータ巻線13とを有するものである。
ロータ2は、図11乃至図14に示すように、対となる磁性体の第1ロータコア4及び第2ロータコア5と、永久磁石列6と、磁性リング7と、界磁巻線8とを備えている。
第1ロータコア4及び第2ロータコア5は同一形状であり、それぞれリング状のヨーク41,ヨーク51と、各ヨーク41,51のそれぞれからステータ1側に向かって突出し且つ周方向Bに等角ピッチで複数設けた突極部42,突極部52を有するものである。そして、本実施形態では、図14に示すように、これら第1ロータコア4及び第2ロータコア5を周方向Bに互いに1極ピッチ分ずらした状態で回転軸Wの軸方向Aに並べて配置している。図14に示す各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)はそれぞれ8つの突極部42,突極部52を有するものであり、これらロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)を周方向Bに互いに45度(一回転360を8で除した値)ずらした状態で回転軸Wの軸方向A(以下、単に「軸方向A」と称する場合がある)に並べて配置している。ここで、本実施形態の回転機Xは、軸方向Aに所定距離離間して並ぶ第1ロータコア4と第2ロータコア5との間に磁性リング7を介在させている。
ここで、本実施形態の回転機Xでは、ステータ1とロータ2の間、より具体的にはステータ1のステータティース12と各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5の突極部42,突極部52)の間に、回転軸Wの周方向Bに周回する磁気ギャップを形成している。
また、本実施形態ではロータ支持部材として、ロータ2の外周面を被覆する円筒状の磁性フレーム3を適用している。この磁性フレーム3はロータ2と一体回転可能に構成されている。本実施形態では、磁性フレーム3の内周面とロータ2の外周面(永久磁石61,62の外周面)の隙間がゼロ又は略ゼロとなるように磁性フレーム3の内径及び各永久磁石61,62の外径を設定している。
永久磁石列6は、回転軸Wの軸方向Aに並べて配置した第1永久磁石61及び第2永久磁石62を用いて構成したものである。本実施形態では、第1ロータコア4のヨーク41と磁性フレーム3との間に第1永久磁石61を配置するとともに、第2ロータコア5のヨーク51と磁性フレーム3との間に第2永久磁石62を配置している。本実施形態の回転機Xでは、何れもリング状をなす第1永久磁石61及び第2永久磁石62の外径を磁性フレーム3の内径よりも僅かに小さい値に設定し、第1永久磁石61及び第2永久磁石62の内径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の外径(具体的にはヨーク41,ヨーク51の外径)よりも僅かに大きい値に設定している。
第1永久磁石61は、ヨーク41に対向するヨーク対向面61aと磁性フレーム3に対向するフレーム対向面61b(本発明のロータ支持部材対向面に相当)に相対応する異なった極性を持たせたものであり、本実施形態では、例えばヨーク対向面61aをS極、フレーム対向面61bをN極に着磁した第1永久磁石61を適用している。また、第2永久磁石62は、ヨーク対向面62aとフレーム対向面62bの各極性が第1永久磁石61の極性と異なるように着磁した(つまり、ヨーク対向面62aをN極、フレーム対向面62bをS極に着磁した)ものである。本実施形態の回転機Xは、回転軸Wの軸方向Aに沿って第1永久磁石61及び第2永久磁石62を隙間無く順番に並べて配置している。このような構成をなす永久磁石列6は、各ロータコア4,5と一体回転可能である。
また、本実施形態に係る回転機Xは、第1ロータコア4と第2ロータコア5の間に磁性リング7を配置している。具体的に、この磁性リング7は、第1ロータコア4のヨーク41と第2ロータコア5のヨーク51の間であって且つ回転軸Wの軸方向Aに沿って第1永久磁石61及び第2永久磁石62を跨ぐ位置に配置したものである。本実施形態の回転機Xでは、磁性リング7の外径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の外径(具体的にはヨーク41,ヨーク51の外径)と同一または略同一に設定し、磁性リング7の内径を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)のヨーク41,ヨーク51の内径と同一または略同一に設定している。また、磁性リング7の厚み自体は、各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)の厚みよりも薄い。
本実施形態では、第1ロータコア4、磁性リング7及び第2ロータコア5を回転軸Wの軸方向Aに隙間無く並べて配置し、第1ロータコア4と第2ロータコア5の間に挟持した磁性リング7を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)と一体回転可能に構成している。
本実施形態に係る回転機Xは、磁性リング7のうちステータ1側の周面、すなわちアウター可動型の回転機Xであれば磁性リング7の内周面に、界磁巻線8を巻回している。界磁巻線8は、図11乃至図14に示すように、回転軸Wの径方向Cにおいて磁性リング7と重なり、回転軸Wの軸方向Aにおいて第1ロータコア4と第2ロータコア5に挟まれる位置に配置される。本実施形態では、界磁巻線8のうち径方向Cにおいて最も外側の領域を磁性リング7の内周面に接触させ、界磁巻線8のうち径方向Cにおいて最も内側の領域を各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の突極部42(突極部42,突極部52)の先端面(内周面)と同一または突極部42の先端面よりも若干ステータ1から離間した位置に設定している。なお、図12では、説明の便宜上、回転軸W回りに周回する界磁巻線8に共通のパターンを付している。
そして、本実施形態に係る回転機Xは、回転軸Wの軸方向Aに沿った永久磁石列6の幅寸法と、第1ロータコア4、磁性リング7及び第2ロータコア5の並び方向(軸方向A)における幅寸法の総和が同一または略同一になるように設定している。すなわち、本実施形態では、各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)の軸方向Aに沿った幅寸法を各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)の幅寸法よりも小さく設定している。
ここで、図14に示すように、磁性フレーム3の内側領域に永久磁石列6、ロータ2、磁性リング7及び界磁巻線8を組み付けたユニットは、ステータ1に対して回転可能な部材のみを組み付けたものであることからロータユニットUと捉えることができる。そして、このロータユニットUは、ステータ1の径方向C外側に挿通され、ステータティース12との間に形成される磁気ギャップを介してステータ1に対して回転軸Wの軸心回りに回転自在に設けられる。
次に、このような構成を有する本実施形態に係る回転機Xの動作及び作用について説明する。
本実施形態の回転機Xにおいて、磁性リング7を周回する位置に設けた界磁巻線8に電流が流れていない場合(界磁巻線非励磁状態)、永久磁石列6の磁束(以下では「磁石磁束」と称する場合がある)は、図15及び図16に点線で示すように、第1永久磁石61のフレーム対向面61b(N極)を始点として捉えると、この第1永久磁石61のフレーム対向面61b、フレーム3、第2永久磁石62のフレーム対向面62b(S極)、第2永久磁石62のヨーク対向面62b(N極)、第2ロータコア5のヨーク51、磁性リング7、第1ロータコア4のヨーク41、第1永久磁石61のヨーク対向面61a(S極)、第1永久磁石61のフレーム対向面61b(N極)を流れる。すなわち、界磁巻線非励磁状態における磁石磁束は、ロータ2とステータ1の磁気ギャップを避けて流れることになる。したがって、界磁巻線非励磁状態では永久磁石列6の磁束がステータ巻線13に鎖交することはない。特に、本実施形態では、各永久磁石(第1永久磁石61,第2永久磁石62)及び各ロータコア(第1ロータコア4,第2ロータコア5)を回転軸Wの径方向Cに流れる永久磁石列6の磁束が、第1ロータコア4と第2ロータコア5の間に配置した磁性リング7、及び磁性体であるフレーム3では軸方向Aに流れるように設定し、永久磁石列6の磁束を短絡させている。この界磁巻線非励磁状態における永久磁石列6の磁束を以下では「非励磁状態磁石磁束」と称す。このように、非励磁状態磁石磁束はロータ2内におさまり、ステータ巻線13に鎖交しない。したがって、誘起電圧が発生せず、安全な状態であるといえる。なお、永久磁石列6の磁束量は常に一定である。
一方、本実施形態の回転機Xにおいて、界磁巻線8に所定方向の電流を流した場合(界磁巻線励磁状態)、具体的には、図17及び図18に示すように、磁性リング7における界磁巻線8の磁束(同図において二点鎖線で示す磁束であり、以下では「界磁巻線磁束」と称する場合がある)の向きが非励磁状態磁石磁束の向きと反対になる方向の電流を界磁巻線8に流した場合、界磁巻線磁束は、例えば第1ロータコア4のヨーク41を始点として捉えると、この第1ロータコア4のヨーク41、磁性リング7、第2ロータコア5のヨーク51、第2ロータコア5の突極部52、磁気ギャップ、ステータティース12、ステータコア11、ステータティース12、磁気ギャップ、第1ロータコア4の突極部42、第1ロータコア4のヨーク41を流れる。そして、界磁巻線8の起磁力の大きさに依存する磁束量(界磁電力の大きさに依存する界磁巻線8の磁束量)が永久磁石列6の磁束量よりも大きい場合に、上述した非励磁状態磁石磁束のうち、第2ロータコア5のヨーク51から磁性リング7を経て第1ロータコア4のヨーク41に向かう永久磁石列6の磁束が、界磁巻線8の磁束によって誘導されて、第2ロータコア5のヨーク51から磁性リング7及び第1ロータコア4のヨーク41に向かわずに、界磁巻線8の磁束と同一方向、つまり、第2ロータコア5のヨーク51、第2ロータコア5の突極部52、磁気ギャップ、ステータティース12、ステータコア11、ステータティース12、磁気ギャップ、第1ロータコア4の突極部42、第1ロータコア4のヨーク41へと流れる磁束(以下では「励磁状態磁石磁束」と称す)となる。この励磁状態磁石磁束は、第1ロータコア4のヨーク41から、第1永久磁石61のヨーク対向面61a(S極)、第1永久磁石61のフレーム対向面61b(N極)、第2永久磁石62のフレーム対向面62b(S極)、第2永久磁石62のヨーク対向面62a(N極)へと流れる。
そして、本実施形態に係る回転機Xにおいて、このような励磁状態磁石磁束が、界磁巻線8の磁束とともにステータ巻線13に鎖交することによって、誘起電圧を発生させてロータ2を回転させることができる。さらに、本実施形態に係る回転機Xは、要求される回転数(出力)やトルクに応じて界磁巻線8に流す電流量を調節することで、ステータ巻線13に鎖交する磁束量(永久磁石列6の磁束と界磁巻線8の磁束の総和である磁束量)を増減することができる。
したがって、このような回転機Xを電気自動車やハイブリッド車の駆動モータとして適用した場合、回転機Xの回転数に対する誘起電圧、界磁電力、ステータ電力の特性を示す図19からも把握できるように、始動時を含む低速域では、ステータ1のコイル(ステータ巻線13)に通電するとともに、界磁巻線8に所定方向の電流を流して非励磁状態から界磁巻線励磁状態に切り替えることで励磁されたロータ2が回転駆動する。なお、図19では、トルクを相対的に細い実線で示し、出力を相対的に太い実線で示し、誘起電圧を点線で示し、界磁電力を2点鎖線で示し、ステータ電力を1点鎖線で示している。
本実施形態に係る回転機Xは、大トルクが要求される低速域において、界磁巻線8に流す電流量を上げる(界磁電力を大きくする)ことによって、その界磁電力に応じた大きい界磁巻線8の磁束と、この界磁巻線8の磁束に誘導される永久磁石列6の磁束をステータ巻線13に鎖交させることができ、ステータ1巻線に鎖交する磁束量を増大させる(磁束密度を高める)ことができる。したがって、例えばステータ巻線13に流す電流を大きくすることに依らずとも、界磁巻線8に所定方向の電流を流す界磁制御を行うことで大トルクを得ることができ、界磁制御を行わない場合に比べて誘起電圧を高くすることができる。図19には、比較対象として界磁制御を行わない場合の誘起電圧を実際の誘起電圧を示す点線よりも細い点線で示している。
また、本実施形態の回転機Xは、中速域では、界磁巻線励磁状態で運転しつつ、低速域運転時よりも界磁電力を少なくすることで誘起電圧を一定に保ち、トルクを必要としない領域に到達した時点で界磁電力をさらに少なくすることでステータ巻線13に鎖交する磁束量が低速域よりも減少し、ステータ1における磁束密度を抑えることができる。そして、本実施形態の回転機Xにおける回転数に対する鉄損、界磁巻線8の銅損、ステータ1の銅損の特性(損失特性)を示す図20に示すように、ステータ1の磁束密度を抑えることによって、鉄損を低減することができる。なお、図20では、トルクを相対的に細い実線で示し、出力を相対的に太い実線で示し、鉄損を点線で示し、ステータ銅損を相対的に細い1点鎖線で示し、界磁銅損(界磁巻線8の銅損)を2点鎖線で示し、総損を相対的に太い1点鎖線で示している。
また、本実施形態に係る回転機Xは、高速域では、図19に示すように、界磁電力をゼロに近付けることで、リラクタンストルクのみで回転させる。すなわち、界磁電力をゼロに近付けることによって、界磁巻線8の磁束量がゼロに近付き、ステータ巻線13に鎖交する磁束量が中速域よりも減少し、ステータ1における磁束密度をさらに抑えることができる。また、図20に示すように、界磁電力をゼロに近付けることで低速域や中速域と比較して界磁巻線8の銅損も減少するとともに、高速域では磁束密度の低減に伴って鉄損を低減できることから、本実施形態に係る回転機Xでは、高速回転領域で誘起電圧が低い(磁束密度が低い)ため、鉄損を低減することができる。
このような各部材から構成した本実施形態に係る回転機Xは、界磁巻線非励磁状態において永久磁石列6の磁束がステータ巻線13に鎖交しないように構成しているため、この界磁巻線非励磁状態では誘起電圧が発生せず、安全な状態を確保することができ、制御機器(電源、インバータなど)が停止したときには自ずと誘起電圧が発生しない状態を確保することができ、制御機器の破損防止に役立つ。また、本実施形態の回転機Xでは、界磁巻線8に一方向の電流を流した場合に、磁気ギャップを介してステータ1とロータ2との間を流れる界磁巻線8の磁束に誘導されて永久磁石列6の磁束をステータ1に流すことができ、誘起電圧を発生させてロータ2を回転させることができ、要求される回転数(出力)やトルクに応じて界磁巻線8に流す電流量を調節することで、ステータ巻線13に鎖交する磁束量(永久磁石列6の磁束と界磁巻線8の磁束の総和である磁束量)を増減することができる。この際、永久磁石列6の界磁を弱める(永久磁石列6の磁束を打ち消す)弱め界磁は不要であるため、永久磁石列6を構成する永久磁石の減磁現象を防止することができるとともに、弱め界磁制御実行時に生じ得る界磁銅損の発生を防止・抑制することができ、弱め界磁制御と強め界磁制御を選択して行う態様と比較して、界磁巻線8に流す電流方向は一定方向のみであるため、界磁巻線8に流す電流方向を切り替える処理が不要であり、高速域において、弱め界磁制御であれば必要な「トルクに寄与しないステータ電力」が不要となり、ステータ銅損を低減させることができる。
さらに、本実施形態の回転機Xは、ステータ1に対してロータ2を回転可能に支持するロータ支持部材3であるフレーム3を磁性体にし、このフレーム3と、軸方向Aに並ぶ第1ロータコア4、磁性リング7及び第2ロータコア5の間に、永久磁石列6を回転軸Wの径方向Cに挟むように配置することで、永久磁石列6の磁束を短絡させており、ステータ1の一部を永久磁石の磁束が流れるバイパスとして機能させる構成と比較して短い磁路を実現することができるとともに、バイパス機能を発揮させるためにステータ1の所定領域を他の領域よりも抵抗を低くして磁束が流れ易くする特殊な構造にする処理も不要であり、構造の簡素化の点においても有利である。
このように、本実施形態の回転機Xであれば、ロータ2を構成する第1ロータコア4及び第2ロータコア5の構造及び配置に加えて、一対の永久磁石の組み合わせ及び配置、さらには界磁巻線8及び磁性リング7の配置を上述の各条件に合致させることで、界磁巻線8の起磁力がゼロの場合にはステータ巻線13に鎖交しない永久磁石列6の磁束を、界磁巻線8に電流を流すことで界磁巻線8の磁束に重畳させて、ステータ巻線13に鎖交する磁束(界磁磁束)に変えることが可能であり、永久磁石の大幅な増量を回避しつつ、低速・高トルクの状態から高速・低トルクの状態に亘る広範な運転領域に対応する何れの回転領域でも高効率化を実現できる。
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した各実施形態の回転機を、電気自動車やハイブリッド車等の車両用駆動モータ以外の用途、例示すれば、或いはハイブリッド車や電気自動車などに搭載されるモータの負荷試験を行う試験装置の負荷装置や、VSCF(Variable Speed Constant Frequencyの略で可変速・定周波定電圧電源装置)、風力発電機、大型発電機、スタータジェネレータ(航空機)或いは建設機械向け旋回用電動機等、速度や出力変動が激しい各種負荷装置、発電機や電動機として用いることができる。
また、各ロータコアは、磁性を有する板状部材を積層して形成した積層体であってもよいし、全体として1つのブロックである塊状体であってもよい。各ロータコアの突極部の数や回転軸の周方向に隣り合う突極部同士のピッチは適宜変更することができる。
磁性リングは、磁束が流れ易いように全体として1つの塊状体であることが好ましいが、磁束の流れを阻害しない条件下であれば積層体にしてもよい。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。