JP2014024131A - 高速断続切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】基体表面に、例えば、Al(CH3)3を反応ガス成分として含有する化学蒸着法で成膜された立方晶構造の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層(但し、X、Yは何れも原子比で、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005)からなる硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、該硬質被覆層は、基体表面の法線方向に対する結晶粒の{100}面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布において、2〜12度の範囲内の度数割合が度数全体の45%以上であり、さらに、該硬質被覆層の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、基体界面側ではΣ5の分布割合が10%以下、一方、被覆層表面側ではΣ5に最高ピークが存在し、かつ、Σ5の分布割合は30%以上である。
【選択図】 図3
Description
ただ、上記従来のTi−Al系の複合窒化物層を被覆形成した被覆工具は、比較的耐摩耗性に優れるものの、高速断続切削条件で用いた場合にチッピング等の異常損耗を発生しやすいことから、硬質被覆層の改善についての種々の提案がなされている。
ただ、上記特許文献1、2に示される被覆工具は、物理蒸着法により硬質被覆層を成膜するため、Alの含有割合Xを0.6以上にはできず、より一段と切削性能を向上させることが望まれている。
例えば、特許文献3には、TiCl4、AlCl3、NH3の混合反応ガス中で、650〜900℃の温度範囲において化学蒸着を行うことにより、Alの含有割合Xの値が0.65〜0.95である(Ti1−XAlX)N層を成膜できることが記載されているが、この文献では、この(Ti1−XAlX)N層の上にさらにAl2O3層を被覆し、これによって断熱効果を高めることを目的とするものであるから、Xの値を0.65〜0.95まで高めた(Ti1−XAlX)N層の形成によって、切削性能へ如何なる影響があるかという点についてまでの開示はない。
しかし、上記特許文献1,2に記載される被覆工具は、(Ti1−XAlX)N層からなる硬質被覆層が物理蒸着法で成膜され、膜中のAl含有量Xを高めることができないため、例えば、合金鋼の高速断続切削に供した場合には、耐チッピング性が十分であるとは言えない。
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合を示し、
(c)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲においてΣ5のΣN+1全体に占める分布割合が10%以下であり、また、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲において前記Σ5のΣN+1全体に占める分布割合が30%以上であり、かつ、前記Σ5に最高ピークが存在する構成原子共有格子点分布グラフを示すことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2)上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、Alの含有割合X(原子比)の値が0.55未満になると、高温硬さが不足し耐摩耗性が低下するようになり、一方、X(原子比)の値が0.95を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層自体の高温強度が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなることから、X(原子比)の値は、0.55以上0.95以下とすることが必要である。
また、上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の含有割合Y(原子比)が0.0005未満となると高硬度が得られなくなり、一方、Y(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下してくることから、Y(原子比)の値は、0.0005以上0.005以下と定めた。
なお、PVD法によって上記組成の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を成膜した場合には、結晶構造は六方晶であるが、本発明では、後記する化学蒸着法によって成膜していることから、立方晶構造を維持したままで上記組成の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を得ることができるので、皮膜硬さの低下はない。
この発明の上記(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、その縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線(断面研磨面における基体表面と垂直な方向)に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角(図1(a)、(b)参照)を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合となる傾斜角度数分布形態を示す場合に、上記TiとAlの複合炭窒化物層からなる硬質被覆層は、立方晶構造を維持したままで高硬度を有し、しかも、上記傾斜角度数分布形態によって靭性を向上させる。
したがって、このような被覆工具は、例えば、合金鋼の高速断続切削等に用いた場合であっても、チッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられ、しかも、すぐれた耐摩耗性を発揮する。
図4の(a)、(b)は、本発明被覆工具について作成した構成原子共有格子点分布グラフの一例を示し、(a)は、硬質被覆層の基体界面側について作成した構成原子共有格子点分布グラフ、また、(b)は、硬質被覆層の被覆層表面側について作成した構成原子共有格子点分布グラフを示す。
したがって、この発明の被覆工具は、基体界面側において安定粒界であるΣ5の分布割合が少なく、見掛け上、結晶粒径が微細な結晶組織となるため被覆層の密着性にすぐれ、また、被覆層表面側においては安定粒界であるΣ5の分布割合が高くなるため高温強度にすぐれることから、高熱発生を伴い、しかも、切刃に対して衝撃的な負荷が作用する合金鋼等の高速断続切削加工において、一段とすぐれた耐チッピング性を発揮し、チッピング、欠損、剥離等の異常損傷の発生もなく、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する。
≪第1段階≫
即ち、通常の化学蒸着法によって
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 1.5〜2.5%、 Al(CH3)3 3〜5%、
AlCl3 6〜10%、 NH3 10〜12%、
N2 9〜10%、 C2H4 0〜1%、
Ar 0〜10%、 残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜900 ℃、
反応雰囲気圧力: 2〜3 kPa、
という条件下で蒸着した後、
≪第2段階≫
反応ガス組成(容量%):
TiCl4 1.5〜2.5%、Al(CH3)3 0〜2%、
AlCl3 6〜10%、 NH3 13〜15%、
N2 9〜10%、 C2H4 0〜1%、
Ar 0〜10%、 残りH2、
反応雰囲気温度: 700〜900 ℃、
反応雰囲気圧力: 4〜5 kPa、
という条件下で蒸着することによって、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005(但し、X、Yは何れも原子比)を満足し、また、基体表面の法線方向に対して{100}面の法線がなす傾斜角を測定した傾斜角度数分布において、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する傾斜角度数分布の割合が45%以上であり、さらに、基体界面側におけるΣ5の分布割合が10%以下、被覆層表面側におけるΣ5の分布割合が30%以上である本発明の立方晶構造の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層からなる硬質被覆層を形成することができる。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、次のとおりである。
(a)上記工具基体Aおよびaを、アセトン中で超音波洗浄し、乾燥した状態で、アークイオンプレーティング装置内の回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部にそって装着し、また、カソード電極(蒸発源)として、所定組成のAl−Ti合金を配置し、
(b)まず、装置内を排気して10−2Pa以下の真空に保持しながら、ヒーターで装置内を500℃に加熱した後、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−1000Vの直流バイアス電圧を印加し、かつAl−Ti合金からなるカソード電極とアノード電極との間に200Aの電流を流してアーク放電を発生させ、装置内にAlおよびTiイオンを発生させ、もって工具基体表面をボンバード洗浄し、
(c)次に、装置内に反応ガスとして窒素ガスを導入して4Paの反応雰囲気とすると共に、前記回転テーブル上で自転しながら回転する工具基体に−50Vの直流バイアス電圧を印加し、かつ、上記Al−Ti合金からなるカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間に120Aの電流を流してアーク放電を発生させ、前記工具基体の表面に、表6に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成し、
参考例被覆工具9、10を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具1〜10の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{100}面の法線がなす傾斜角についての傾斜角度数分布における2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)を測定した。
また、基体界面側(即ち、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲)におけるΣN+1全体に占めるΣ5の分布割合(β)、被覆層表面側(即ち、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲)におけるΣN+1全体に占めるΣ5の分布割合(γ)を測定した。
硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Yについては、二次イオン質量分析(SIMS, Secondary‐Ion‐Mass‐Spectroscopy)により求めた。イオンビームを試料表面側から70μm×70μmの範囲に照射し、スパッタリング作用によって放出された成分について深さ方向の濃度測定を行った。平均Al含有割合X、平均C含有割合Yは深さ方向の平均値を示す。
なお、図3に、本発明被覆工具について測定した{100}面の傾斜角度数分布グラフの一例を示す。
被覆層表面側についても、同様に、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲の断面研磨面におけるΣ5の分布割合(γ)を求めた。
なお、図4(a)、(b)に、本発明被覆工具について測定した構成原子共有格子点分布グラフの一例を示す。
表5に、その結果を示す。
また、硬質被覆層の結晶構造についても、本発明被覆工具1〜10と同様にして、調査した。
表6に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCM440幅100mm、長さ400mmのブロック材
回転速度: 943 min−1、
切削速度: 370 m/min、
切り込み: 1.0 mm、
一刃送り量: 0.1 mm/刃、
切削時間: 8分、
表7に、上記切削試験の結果を示す。
なお、アークイオンプレーティングの条件は、実施例1に示される条件と同様の条件を用い、前記工具基体の表面に、表10に示される目標平均組成、目標平均層厚の(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)層を蒸着形成し、参考例被覆工具15を製造した。
ついで、上記の本発明被覆工具11〜15の硬質被覆層について、硬質被覆層の平均Al含有割合X、平均C含有割合Y、基体表面の法線方向に対する{100}面の法線がなす傾斜角が2〜12度の範囲内に存在する度数の割合(α)、基体界面側および被覆層表面側の構成原子共有格子点分布グラフにおいて、ΣN+1全体に占めるΣ5分布割合(β)、(γ)、結晶構造について、実施例1に示される方法と同様の方法を用い測定した。
表9に、その結果を示す。
表10に、その結果を示す。
被削材: JIS・SCM415(硬さ:HRC62)の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒、
切削速度: 240 m/min、
切り込み: 0.12mm、
送り: 0.12mm/rev、
切削時間: 4分、
表11に、上記切削試験の結果を示す。
これに対して、比較例被覆工具1〜8,11〜14、参考例被覆工具9,10,15については、いずれも、硬質被覆層にチッピング、欠損、剥離等の異常損傷が発生するばかりか、比較的短時間で使用寿命に至ることが明らかである。
Claims (2)
- 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、平均層厚1〜20μmの層厚で硬質被覆層が被覆された表面被覆切削工具であって、
(a)上記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された立方晶構造のTiとAlの複合炭窒化物層からなり、その平均組成を、
組成式:(Ti1−XAlX)(CYN1−Y)
で表した場合、Al含有割合XおよびC含有割合Y(但し、X、Yは何れも原子比)は、それぞれ、0.55≦X≦0.95、0.0005≦Y≦0.005を満足し、
(b)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、上記TiとAlの複合炭窒化物層の縦断面方向から解析した場合、基体表面の法線方向に対する前記結晶粒の結晶面である{100}面の法線がなす傾斜角を測定し、前記測定傾斜角のうち、法線方向に対して0〜45度の範囲内にある測定傾斜角を0.25度のピッチ毎に区分して各区分内に存在する度数を集計したとき、2〜12度の範囲内の傾斜角区分に最高ピークが存在すると共に、前記2〜12度の範囲内に存在する度数の合計が、傾斜角度数分布における度数全体の45%以上の割合を示し、
(c)上記TiとAlの複合炭窒化物層について、電界放出型走査電子顕微鏡を用い、縦断面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に電子線を照射して、基体表面の法線に対して、前記結晶粒の結晶面である(001)面および(011)面の法線がなす傾斜角を測定し、この場合前記結晶粒は、格子点にTi、Al、炭素および窒素からなる構成原子がそれぞれ存在するNaCl型面心立方晶の結晶構造を有し、この結果得られた測定傾斜角に基づいて、相互に隣接する結晶粒の界面で、前記構成原子のそれぞれが前記結晶粒相互間で1つの構成原子を共有する格子点(構成原子共有格子点)の分布を算出し、前記構成原子共有格子点間に構成原子を共有しない格子点がN個(NはNaCl型面心立方晶の結晶構造上2以上の偶数となる)存在する構成原子共有格子点形態をΣN+1で表した場合、個々のΣN+1がΣN+1全体(ただし、頻度の関係でNの上限値を28とする)に占める分布割合を示す構成原子共有格子点分布グラフにおいて、基体界面から被覆層内部に0.1〜0.5μmの範囲においてΣ5のΣN+1全体に占める分布割合が10%以下であり、また、被覆層表面から被覆層の平均層厚の50%に相当する範囲において前記Σ5のΣN+1全体に占める分布割合が30%以上であり、かつ、前記Σ5に最高ピークが存在する構成原子共有格子点分布グラフを示すことを特徴とする表面被覆切削工具。 - 上記硬質被覆層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする請求項1に記載の表面被覆切削工具。
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