JP2014016159A - アルツハイマー病の発症を予測する方法 - Google Patents

アルツハイマー病の発症を予測する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 アルツハイマー病の発症を予測するための簡便な方法を提供すること。
【解決手段】 アルツハイマー病モデルマウスと野生型マウスとの間で存在量が有意に異なる代謝物の同定を試みた結果、(±)17,18-ジヒドロキシ-エイコサ-5Z,8Z,11Z,14Z-テトラエン酸(17,18-DiHETE)及び(±)19,20-ジヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸(19,20-DiHDoPE)がアルツハイマー病モデルマウスの脳及び血漿において有意に高いレベルで存在していることを見出した。17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出することにより、アルツハイマー病の発症を予測することが可能であることを見出した。
【選択図】 なし

Description

本発明は、(±)17,18-ジヒドロキシ-エイコサ-5Z,8Z,11Z,14Z-テトラエン酸(17,18-DiHETE)及び(±)19,20-ジヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸(19,20-DiHDoPE)の少なくも一つを指標としたアルツハイマー病の発症を予測する方法に関する。
アルツハイマー病(AD)は、記憶障害、失語、徘徊などの症状が現れる進行性の病気であり、家族をも巻き込む深刻な疾患となるケースが多い(非特許文献1)。現在約100万の患者がおり、高齢人口比率の高まりと共に増加し、2030年には200万に達するとされる。その発症にはアミロイドβ蛋白(Aβ:βアミロイド)の重合による神経細胞の変性、及びタウ蛋白(Tau)の線維化による神経原線維変化が関与するとされているものの、明らかではない(非特許文献1)。現行のAD治療薬は、ある一定期間進行を遅らせるタイプのものであり、根本的な治療薬はない。また診断法としては、画像診断や問診があるが、人間ドック等で用いることができる簡便な診断法はない(非特許文献1)。
一方、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEは、チトクロームP450により、それぞれエイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)がエポキシド化されて17,18-エポキシエイコサテトラエン酸(17,18-EEQ)及び19,20-エポキシドコサペンタエン酸(19,20-EDP)が生成された後、さらにエポキシドヒドラーゼ(EH)による加水分解を受け、生成されることが知られている(非特許文献2)。中間代謝物である17,18-EEQ及び19,20-EDPは、ラット胎児培養心筋細胞においてCa2+誘発性の自発拍動率の増加を抑制し、抗不整脈効果を示す生理活性物質であると報告されている(非特許文献2)。また、肺においては、炎症時に17,18-EEQがペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARγ)を介して抗炎症作用を発揮するとの報告がある(非特許文献3)。しかし、17,18-EEQ及び19,20-EDPの脳における機能は不明であった。17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEは17,18-EEQ及び19,20-EDPの安定代謝物と考えられるが、その生理学的機能は未解明であった。
Cummings JL., N Engl J Med., 2004, 351(1):56-67 Arnold C. et al., J Biol Chem. 2010; 285(43):32720-32733 Morin C. et al., Am J Respir Cell Mol Biol. 2010;43(5):564-575
本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アルツハイマー病の発症を予測するための簡便な方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく、アルツハイマー病モデルマウスと野生型マウスとの間で有意にレベルが異なる代謝物の同定を試みた。その結果、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEがアルツハイマー病モデルマウスの脳及び血漿において有意に高いレベルで存在していることを見出した。これら代謝物のレベルの差異は、特にアルツハイマー病発症前の段階において顕著に認められた。これら事実から、本発明者は、血漿などの生体試料における17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出することにより、アルツハイマー病の発症を予測することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、分離された生体試料における17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出することを特徴とする、アルツハイマー病の発症を予測する方法を提供するものである。また、本発明は、抗17,18-DiHETE抗体又は抗19,20-DiHDoPE抗体を有効成分とする、上記方法に用いるための薬剤を提供するものである。
本発明により、血漿などの生体試料を用いて、簡便にアルツハイマー病の早期診断を行うことが可能となった。
コントロールマウス及びAPP/Tauマウスの脳における(A)17,18-DiHETE及び(B)19,20-DiHDoPEのレベルの変化を示すグラフである。 コントロールマウス及びAPP/Tauマウスの血漿における(A)17,18-DiHETE及び(B)19,20-DiHDoPEのレベルの変化を示すグラフである。
<アルツハイマー病の発症を予測する方法>
本発明は、分離された生体試料における17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出することを特徴とする、アルツハイマー病の発症を予測する方法を提供する。
本発明において「生体試料」とは、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出する際の対象となる生体由来の体液、組織等であり、「分離された」とは、生体から体液、組織等を摘出することによって、当該体液、組織等が、その由来の生体と完全に隔離されている状態をいう。生体試料の摘出の方法は特に限定されることなく、公知の方法を用いることができる。本発明に用いられる生体試料としては、例えば、血液やその特定の画分(例えば、血漿、血清)、脳脊髄液、尿、唾液が挙げられる。また、「生体」としては、アルツハイマー病の発症の危険性を診断したい任意の者が対象となる。
本発明におけるアルツハイマー病の発症の予測方法は、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの少なくも一つを検出するものであり、これらのいずれか一つを検出してもよいが、双方を検出してもよい。本発明における17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの検出には、公知の手法を用いることができる。
−液体クロマトグラフ−質量分析(LC-MS)−
17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの検出のための好ましい手法の一つの態様は、LC-MSである。この方法においては、生体試料に含まれる成分を液体クロマトフラフィー(LC)で分離した後、質量分析(MS)を行う。
LC-MSに供する試料の調製は、例えば、以下のように行うことができる。生体試料として体液(例えば、血液、血漿、血清など)を用いる場合には、まず、メタノールで希釈する。一方、生体試料として組織を用いる場合には、まず、メタノール中で破砕する。次いで、中性条件でBligh & Dyer法(Bligh EG, Dyer WJ, Can J Biochem Physiol., 1959, 37(8):911-917)により脂溶性代謝物を抽出し、下層及び上層を分取する。酸化脂肪酸を含む上層を、さらにOasis HLB Vac RC cartridge(Waters, Milford, MA, USA)を用いて固相抽出を行い、ギ酸メチル画分を分取し、これをLC-MSに供する。後述する内部標準法により定量を行う場合には、LC-MSに供する試料には、試料調製時に内部標準物質(例えば、重水素体で標識したロイコトリエンB4)を添加する。
本発明におけるLC-MSとしては、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEを検出し得る限り、ポンプ、カラム、イオン源、検出器など装置の種類に制限はない。LC-MSにおけるLCとしては、より高速で高分離能の分析が可能な超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)が好ましく、また、MSとしては、質量分析計をタンデムに搭載した装置を利用して詳細かつ高い感度での分析が可能な、タンデム型質量分析(MS/MS)が好ましい。
生体試料中に含まれる17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの定量は、LC-MSにより得られるクロマトグラムのピークの面積を基に行うことができる。例えば、内部標準法においては、LC-MSにより得られるクロマトグラムにおける、これら物質のそれぞれのピークの面積値を算出し、それを内部標準物質のピークの面積値で割り、面積値の比を得る。これを検量線に適用することにより、これら物質の濃度を算出することができる。検量線は、濃度が既知の標準物質(17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPE)を含む標準試料に内部標準物質を添加して、生体試料と同様な手法(例えば、上記のBligh & Dyer法及び固相抽出)で調製した後、LC-MSを行うことにより得られる、標準物質のピーク面積比と標準物質の濃度との関係から導くことができる。
この濃度が、対照の生体試料(例えば、健常な生体由来の試料)における濃度と比較して、有意に高い場合には、被検体はアルツハイマー病発症の危険性があると判定される。
−免疫学的手法−
17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEの検出のための好ましい手法の他の態様は、これら物質に対する抗体を利用する方法(免疫学的手法)である。この方法では、生体試料に抗17,18-DiHETE抗体又は抗19,20-DiHDoPE抗体を接触させ、抗原抗体反応により、生体試料に含まれる17,18-DiHETE又は19,20-DiHDoPEを検出する。本発明の免疫学的手法としては、酵素結合免疫吸着法(ELISA)などの酵素免疫測定法(EIA)、放射性同位元素免疫測定法(RIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、免疫クロマトグラフィ法、凝集法などの公知の方法を用いることができる。
免疫学的手法に用いる「抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。
17,18-DiHETE又は19,20-DiHDoPEを、抗体を作製するための抗原として利用する場合には、キャリアー蛋白質と結合させることが好ましい。キャリアー蛋白質としては、例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)のほか、ウシ血清アルブミン(BSA)やウサギ血清アルブミン(RSA)など他の哺乳動物の血清アルブミン、卵白アルブミン(OVA)、ミオグロビン、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)などを用いることができるが、これらに限定されることはない。
17,18-DiHETE又は19,20-DiHDoPEとキャリア蛋白質との結合は、一般的な架橋剤を用いて、常法に従って行うことができる。17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEには、その分子中にカルボキシル基が存在するため、該カルボキシル基とキャリア蛋白質のアミノ基との間でペプチド結合を形成させることができる。架橋剤としては、例えば、マレイミドベンゾイルオキシスクシンイミド、1-エチル-3-(3-メチルアミノプロピル)カルボジイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、グルタルアルデヒドなどを用いることができる。こうして調製された抗原は、免疫応答を増強させるために、適当なアジュバントと混合することができる。
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、例えば、抗原で免疫動物を免疫し、その抗血清から、常法(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって精製することにより、取得することができる。一方、モノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法や組換えDNA法などの公知の方法によって作製することができる。
本発明においては、免疫学的手法の種類に応じて、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。当該標識を検出することにより、標的物質に結合した抗体量を直接測定することが可能である。標識物質としては、抗体に結合することができ、かつ、検出できるものであれば特に制限はない。標識物質としては、例えば、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、放射性物質、及び金コロイドなどが挙げられる。
さらに、標識物質を結合させた抗体を用いて、標的物質に結合した抗体量を直接測定する方法以外に、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法などの間接的検出方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、標的物質に対する抗体(一次抗体)に特異的な結合性を示す抗体である。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
また、本発明においては、免疫学的手法の種類に応じて、固相化された抗体を使用することができる。
本発明における免疫学的手法の測定原理としては、競合法と非競合法のいずれを利用することもできるが、17,18-DiHETEや19,20-DiHDoPEといった低分子抗原の測定においては、競合法が好ましい。競合法のうち直接競合法(例えば、直接競合ELISA)では、試料中の抗原を抗体と反応させる際に、標識物質が結合された抗原(標識抗原)と競合させ、抗体と結合する標識抗原の量が測定される。この方法では抗体に結合する標識抗原量は、試料中の抗原濃度とは逆転した比率となって検出される。一方、間接競合法(例えば、間接競合ELISA)では、固相化された抗原と試料中の抗原とを競合させ、固相化された抗原に結合した抗体を検出する。抗体の検出は、標識物質を結合させた二次抗体などを利用して検出することができる。この方法では固相化された抗原に結合する抗体量が、試料中の抗原濃度とは逆転した比率となって検出される。競合法においては、既知の濃度の標準物質(例えば、抗原)を利用した測定で予め検量線を作製しておけば、これに被検試料での検出結果を適用することにより、試料中に含まれる抗原の濃度を算出することができる。
免疫学的手法を利用して生体試料に含まれる17,18-DiHETE又は19,20-DiHDoPEを検出した結果、対照の生体試料(例えば、健常な生体由来の試料)と比較して、有意に高い濃度の17,18-DiHETE又は19,20-DiHDoPEが検出された場合には、被検体はアルツハイマー病発症の危険性があると判定される。
<アルツハイマー病の発症を予測するための薬剤>
上記の免疫学的手法に用いる抗17,18-DiHETE抗体又は抗19,20-DiHDoPE抗体は、アルツハイマー病の発症を予測するための薬剤(検査薬)となる。従って、本発明は、抗17,18-DiHETE抗体又は抗19,20-DiHDoPE抗体を有効成分とするアルツハイマー病の発症を予測するための薬剤(検査薬)を提供する。本発明の検査薬に用いる抗体は、上記した通り、標識したものであってもよい。本発明の検査薬は、抗体成分の他、組成物として許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩、標識化合物、二次抗体などが挙げられる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはアジ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
また、免疫学的手法の種類に応じて、上記本発明の検査薬の他、標識の検出に必要な基質、標識された若しくはされていない抗原(17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPE)、ポジティブコントロールやネガティブコントロール、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を組み合わせることができ、検査用キットとすることもできる。また、標識されていない抗体を抗体標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインAなど)を標識化したものを組み合わせることができる。また、免疫クロマトグラフィにおいては、テストラインに上記本発明の抗体を利用したデバイスを用いることができる。本発明の検査用キットには、さらに、当該キットの使用説明書を含めることができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ADモデルマウスとして、Sweden型(K670N, M671L)の変異体ヒトAPP及びP301L変異体ヒトTauを発現するトランスジェニックマウス(以下、「APP/Tau」マウスと略する)(Lewis J. et al., Science, 2001; 293 (5534): 1487-1491)を、コントロールマウスとしては、APP野生型とTau野生型の各マウスを交配させたマウス(以下、「コントロールマウス」と略する)を用いた。4、10、15カ月齢の両マウスから右脳及び血漿を採取し、試料とした。脳試料は、15か月齢のAPP/Tauマウスを除き各群5匹から採取し、15か月齢のAPP/Tauマウスのみ3匹から採取した。血漿試料は15か月齢のコントロールマウス及びAPP/Tauマウスを除き各群5匹から採取し、15か月齢のコントロールマウスは4匹から、15か月齢のAPP/Tauマウスは3匹から採取した。
組織をメタノール中で破砕、若しくは血漿をメタノールで希釈後、内部標準物質存在下、中性条件でBligh & Dyer法(Bligh EG, Dyer WJ, Can J Biochem Physiol. 1959; 37(8):911-917)により脂溶性代謝物を抽出し、下層及び上層を分取した。酸化脂肪酸を含む上層は、さらにOasis HLB Vac RC cartridge(Waters, Milford, MA, USA)を用いて固相抽出を行い、ギ酸メチル画分を分取し、サンプルとした。内部標準物質として重水素体で標識したロイコトリエンB4(LTB4-d4, Cayman Chemical Company, Ann Arbor, MI, USA)を用いた。
高速液体クロマトグラフ−三連四重極リニアイオントラップ型質量分析計(UPLC-MS/MS)を用いたネガティブイオンモードでの多重反応モニタリング(MRM)法にて脂肪酸代謝物を測定した。なお、高速液体クロマトグラフにはACQUITY UPLC(Waters社)を、三連四重極リニアイオントラップ型質量分析計にはAB SCIEX(Framingham, MA, USA)QTRAP5500を用いた。
UPLCによる分離は以下の条件で行った。カラムは、BEH C18(Waters社;1.7μm, 1.0x150mm)を用い、移動相は溶媒A)「0.1%酢酸水」、溶媒B)「アセトニトリル:メタノール=4:1」とした。溶出条件は、「0〜5分, 27→50% 溶媒B, 流速50μl/分」、「5〜35分, 50→80% 溶媒B, 流速50μl/分」、「35〜40分, 80→100% 溶媒B, 流速50→100μl/分」とした。QTRAP5500の条件は、「カーテンガス:10psi, 衝突ガス:6, イオン源温度:350℃、イオン源ガス1:30psi、イオン源ガス2:40psi、イオン源電圧:-4500V、Entrance Potential:-10V」とした。
5Z,8Z,11Z,14Z,17Z-エイコサテトラエン酸(EPA)、4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z-ドコサヘキサエン酸(DHA)、(±)17,18-ジヒドロキシ-エイコサ-5Z,8Z,11Z,14Z-テトラエン酸(17,18-DiHETE)、及び(±)19,20-ジヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸(19,20-DiHDoPE)の標準品は、Cayman Chemical Companyより購入した。
それぞれの化合物の定量に用いたQTRAP5500のQ1及びQ3のm/z値、Declustering Potential(DP)、Collision energy(CE)、Collision Cell Exit Potential(CXP)は、EPAが301.2Da(Q1)及び257.2Da(Q3)、-150V(DP)、-15V(CE)、-24V(CXP)、DHAが327.2Da(Q1)及び283.2Da(Q3)、-150V(DP)、-15V(CE)、-18V(CXP)、17,18-DiHETEが335.2Da(Q1)及び247.2Da(Q3)、-100V(DP)、-20V(CE)、-23V(CXP)、19,20-DiHDoPEが361.2Da(Q1)及び273.2Da(Q3)-100V(DP)、-20V(CE)、-17V(CXP)、内部標準物質として用いたLTB4-d4が339.2Da(Q1)及び197.1Da(Q3)、-100V(DP)、-20V(CE)、-25V(CXP)とした。
各代謝物ピークの面積値をLTB4-d4ピークの面積値で補正後、APP/Tauマウスとコントロールマウス間で比較し、Mann-Whiteney U検定で、p<0.05を有意とした。
まず脳組織を対象に解析した結果、アルツハイマー病発症前の4カ月齢のAPP/Tauマウスにおいて、同月齢のコントロールマウスと比較して17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEのレベルが、それぞれ2.1倍(p<0.01、図1A)及び1.7倍(p<0.01、図1B)に増加した。一方、発症前期の10カ月齢及び発症後期の15か月齢のAPP/Tauマウスにおける両代謝物のレベルは、同月齢のコントロールマウスと比較して有意差はなかった(図1)。17,18-DiHETEは、EPAよりエポキシド体の中間代謝物を介して、ジヒドロキシ体の本代謝物に代謝される。一方、19,20-DiHDoPEは、DHAから、同様にエポキシド体の中間代謝物を介して、ジヒドロキシ体の本代謝物に代謝される。それぞれの代謝物の出発物質であるEPA及びDHAのレベルはAPP/Tauマウスとコントロールマウスの間でいずれの月齢においても有意な差は認められなかった。また、中間代謝物であるエポキシド体の17(18)-エポキシ-5Z,8Z,11Z,14Z-エイコサテトラエン酸(17,18-EEQ)及び19(20)-エポキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸(19,20-EDP)は、検出限界以下であった。
一方、血漿においては、アルツハイマー病発症前の4カ月齢のAPP/Tauマウスにおける17,18-DiHETEのレベルが同月齢のコントロールマウスと比較して、2.1倍(p<0.01)に増加した(図2A)。また、19,20-DiHDoPEのレベルは、アルツハイマー病発症前の4カ月齢、発症前期の10カ月齢、発症後期の15カ月齢のAPP/Tauマウスで、同月齢のコントロールマウスと比較して1.7倍(4カ月齢、p<0.05)、1.4倍(10カ月齢、p<0.05)、1.8倍(15カ月齢、p=0.0571)に増加した(図2B)。一方、それぞれの出発物質であるEPA及びDHA、さらに中間代謝物である17,18-EEQ及び19,20-EDPの血漿中のレベルは、APP/Tauマウスと同月齢のコントロールマウスの間でいずれの月齢においても差がなかった。
アルツハイマー病の発症機序の詳細は未だ不明な点が多いものの、ヒトアルツハイマー病の脳の特徴として、Aβから構成される老人班の沈着、及び線維化タウ蛋白による神経原線維変化が認められる。本実施例により、アルツハイマー病発症前の4カ月齢のAPP/Tauマウスの脳において、同月齢のコントロールマウスと比較して17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEレベルの有意な増加が認められた。さらに、APP/Tauマウス血漿中における17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEのレベルは、脳と同様に、コントロールマウスと比較して、発症前である4カ月齢において有意に増加した。両代謝物の脳内における変化が、血漿中でも同様に認められ、さらに発症前から変動が見られることから、17,18-DiHETE及び19,20-DiHDoPEは、アルツハイマー病の発症を予測するバイオマーカーであることが示された。
本発明によれば、アルツハイマー病の発症の予測を簡便に行うことが可能となる。従って、本発明は、主として医療分野への利用が可能である。

Claims (2)

  1. 分離された生体試料における(±)17,18-ジヒドロキシ-エイコサ-5Z,8Z,11Z,14Z-テトラエン酸及び(±)19,20-ジヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸の少なくも一つを検出することを特徴とする、アルツハイマー病の発症を予測する方法。
  2. (±)17,18-ジヒドロキシ-エイコサ-5Z,8Z,11Z,14Z-テトラエン酸に結合する抗体又は(±)19,20-ジヒドロキシ-4Z,7Z,10Z,13Z,16Z-ドコサペンタエン酸に結合する抗体を有効成分とする、請求項1に記載の方法に用いるための薬剤。
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