JP2014014360A - キシロースを高温で発酵する方法 - Google Patents

キシロースを高温で発酵する方法 Download PDF

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Abstract

【課題】再生可能なバイオマスを有用物質に変換してエネルギー源や工業原料として用いる技術を提供すること。
【解決手段】キシルロキナーゼを組換え導入しおよび/またはアルドースレダクターゼを欠損させた酵母であって、該酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%である、酵母、およびキシロースおよび/またはキシロースを含む糖からエタノールを生産する方法であって、該方法は、該キシロースおよび/またはキシロースを含む糖を含む原料に、この酵母接触させる工程を包含する、方法が本発明により提供される。
【選択図】なし

Description

本発明は、概してエタノール発酵の分野の発明であり、より詳細には、キシロースを高温で発酵し、エタノールを簡便に大量に生産する方法、ならびにそれらに関連する技術、酵母等に関する。
近年、石油資源に替わり再生可能なバイオマスを有用物質に変換してエネルギー源や工業原料として用いる技術が検討されるようになってきている。バイオマスを原料として微生物の発酵により生産されるエタノールは、石油資源の消費を抑え、大気中の二酸化炭素の増加を抑制するという観点から代替原料として期待されている。バイオマス、とりわけ食料とは競合しない原料として、リグノセルロースを主体とする草本類や木本類などの利用が考えられている。
リグノセルロースに含まれる主要な糖は、セルロースを構成するグルコースと、ヘミセルロースを構成するキシロースである。リグノセルロースを化学的あるいは酵素的に分解することにより単糖を主として含む糖化組成物が得られる。リグノセルロースからエタノールを工業的に製造するために、こうした糖化組成物中に含まれる糖を効率的に利用し、高収量でエタノール発酵できる微生物およびエタノール製造方法が求められている。
Saccharomyces cerevisiae等のエタノール発酵能力の高い酵母は、一般に、グルコース、フルクトース、ガラクトースを利用することができるが、キシロースを利用できない。したがって、リグノセルロースを原料として高効率に発酵するためには、こうした酵母がキシロースを利用可能となるように改変することが求められている。
酵母がキシロースを利用するには、キシロース代謝経路が必要である(図1)。キシロース代謝経路としては、キシロースレダクターゼ(XR)およびキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)を用いた経路と、キシロースイソメラーゼ(XI)を用いた経路が考えられる。現在までに遺伝子組換え技術を用いてこれらの代謝経路を酵母に導入することにより、酵母にキシロース利用能を付与することが行われている(特許文献1、非特許文献1〜3)。
XR、XDHを利用した経路では、XRおよびXDHが必要とする補酵素の種類が異なることから、外来遺伝子を過剰発現させることによって補酵素のバランスがとれず、キシロースの代謝がキシリトールで止まってしまい、エタノール収率が上がらない問題がある(非特許文献4,5)。他方、XIを導入する系では、酵母で十分な活性を発現可能であるXIはごく小数であり、嫌気性の真菌(カビ)であるPiromyces sp. E2由来のXI(特許文献2)、細菌であるBacteroides thetaiotaomicron由来のXI(特許文献3)、シロアリ原生生物由来のXI(特許文献4)等に限定されている。しかも、宿主酵母の染色体に多コピーのXI遺伝子を挿入しなければ十分な活性が得られず、特に工業的な製造工程においては、このような多コピーの外来遺伝子を持つ遺伝子組換え体の性質を安定して維持することは困難であると考えられる。
キシロースを発酵するために上述の組換え体を用いる他に、自然界から単離してきたキシロース発酵能を有するPichia stipitisやCandida shehatae等の酵母を利用する報告もある(非特許文献6)。しかしながら、これらの酵母はキシロースの代謝に酸素を必要とし、酸素存在下では培養液中に基質となる糖が無くなるとエタノールを消費してしまうことから、通気条件等の煩雑な制御を行わない限り、エタノール収率の低下が起こる。
また、Saccharomyces cerevisiae等のキシロースを利用できない酵母でも、キシロースが異性化されたキシルロースは発酵できることが知られている。そこで、キシロースイソメラーゼ酵素(グルコースイソメラーゼ酵素)を培養液中に添加することにより、イソメラーゼ酵素によってキシロースがキシルロースに変換され、生成したキシルロースを酵母に発酵させる同時異性化発酵法も検討されている(図1)(非特許文献7)。
リグノセルロースに含まれる多糖を酵母が利用できるようにするためには、酵素や酸を用いて単糖あるいは二糖にまで分解(糖化)する必要がある。このうち、酵素による糖化は、穏和な圧力・温度で反応が行えること、硫酸等の化学薬品を大量に使用する必要が無く環境負荷が低いこと、生成糖の過分解が起こらず収率が高いこと等の利点がある。
また、酵素による糖化と微生物による発酵を同時に行う並行複発酵と呼ばれる発酵方法があり、高濃度のエタノールを生産するのに適した方法とされている。並行複発酵の利点としては、生成糖による酵素反応の阻害(生成物阻害)を回避できることや、発酵液中に高濃度の糖が蓄積せず酵母への浸透圧ストレスが少ないことが挙げられる。しかし、糖化酵素の反応に最適な温度(50℃程度)と酵母の発酵に最適な温度(30℃程度)との差が大きいことが並行複発酵を行う上での問題となっている。したがって、両者の温度差を少なくすることが並行複発酵の効率化に重要であり、その解決策の一つとして高温発酵の技術が求められている。
これまでに、40℃以上の高温でも生育が良好なKluyveromyces marxianusやKluyveromyces fragilisを用いて、42℃や45℃の並行複発酵でグルコースが高収率で発酵されることが報告されている(非特許文献8,9)。しかしながら、キシロースを40℃以上の培養温度において高収率で発酵できている報告はこれまでない。例えば、40℃以上の高温でも生育可能でありキシロースを利用できる酵母としてKluyveromyces sp. IIPE453やHansenula polymorphaが報告されているが、これらの酵母はエタノール生成能が低い。Kluyveromyces sp. IIPE453では、副産物であるキシリトールの蓄積量が多く、エタノール収率は理論収率の7%であった(非特許文献10)。Hansenula polymorpha 356株は最も発酵能が高い37℃においてもキシロースからのエタノール収率は理論収率の24%であり、40℃でのキシロースからのエタノール収率は10%まで低下することが示されている(非特許文献11)。Hansenula polymorphaについては、遺伝子組換えによりピルビン酸デカルボキシラーゼや熱ショックタンパク質を過剰発現させたり、トレハロース蓄積量を増加させたりすることによって、エタノール生産量の増加に効果があると報告されている。しかしながら、文献中で示されているエタノール収率は5%程度と低い(非特許文献12および13)。
特開2009−148277公報 特表2005−514951公報 特表2006−525029公報 特開2011−147445公報 特開2011−4730公報
Chu, B. C.et al., Biotechnology Advances, Vol.25, pp.425−441 (2007) Jeffries, T. W.、Current opinion in Biotechnology, Vol.17, pp.320−326 (2006) Jeffries, T. W.et al., Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.63, pp.495−509 (2004) Bruinenberg, P. M.et al., European Journal of Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.18, pp.287−292 (1983) Koetter, P.et al., Applied Microbiology and Biotechnology, Vol.38, pp.776−783 (1993) Toivola, A.et al., Applied and Environmental Microbiology Vol.47 pp.1221−1223 (1984) Lastick, S. M.et al., Applied Microbiology and Biotechnology Vol.30 pp.574−579 (1989) Ballesteros, I.et al., Applied Biochemistry and Biotechnology, Vol.28/29, pp.307−315 (1991) Krishna, S. H.et al., Bioresource Technology Vol.77 pp.193−196 (2001) Kumar, S.et al., Journal of Industrial Microbiology and Biotechnology Vol.36 pp.1483−1489 (2009) Ryabova, O.B.et al., FEMS Yeast Research Vol.4 pp.157−164 (2003) Ishchuk, O.P.et al., FEMS Yeast Research Vol.8 pp.1164−1174 (2008) Ishchuk, O.P.et al., Biotechnology and Bioengineering Vol.104 pp.911−919 (2009)
本発明は、以下を提供する。
1つの局面では、本発明はキシルロキナーゼを組換え導入しおよび/またはアルドースレダクターゼを欠損させた酵母であって、該酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%である、酵母を提供する。
1つの実施形態では、本発明の酵母はCandida属、Saccharomyces属、Pichia属、Kluyveromyces属、またはHansenula属の酵母である。
別の実施形態では、本発明の酵母はCandida glabrata、Saccharomyces cerevisiae、Pichia anomala、Saccharomyces martiniae、Kluyveromyces marxianus、Kluyveromyces fragilis、またはHansenula polymorphaである。
好ましい実施形態では、本発明の酵母はCandida glabrataまたはSaccharomyces cerevisiaeである。
好ましい実施形態では、本発明の酵母はCandida glabrataである。
好ましい実施形態では、本発明の酵母はSaccharomyces cerevisiaeである。
別の実施形態では、本発明の酵母はキシルロース資化能を有する。
別の実施形態では、前記40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも50%である。
別の実施形態では、前記40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも75%である。
別の実施形態では、前記40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも80%である。
別の実施形態では、本発明の酵母はリグノセルロース利用能を有する、請求項1に記載の酵母である。
別の実施形態では、前記リグノセルロース利用能は、リグノセルロースを原料としてエタノールを生成する能力である。
別の実施形態では、本発明の酵母はキシルロキナーゼを高発現させ、かつ、アルドースレダクターゼを欠損させたものである。
別の実施形態では、本発明の酵母はCandida glabrataであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている。
別の実施形態では、前記キシルロキナーゼは前記酵母と同種または異種である。
別の実施形態では、本発明の酵母は、Candida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(配列番号29)である。
別の実施形態では、本発明の酵母は、Candida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(配列番号29)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている。
別の実施形態では、本発明の酵母は、Candida glabrata 3163 dgXK1(受託番号 NITE P−1357)、Candida glabrata 3163−CgXK(受託番号 NITE P−1358)、Candida glabrata 3163 Δgre3−35(受託番号 NITE P−1359)またはCandida glabrata NFRI3163(受託番号 NITE P−1360)で寄託された系統である。
別の実施形態では、本発明のSaccharomyces cerevisiaeであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている。
別の実施形態では、本発明のキシルロキナーゼは前記酵母と同種または異種である。
別の実施形態では、本発明の酵母がSaccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(配列番号37)である。
別の実施形態では、本発明の酵母がSaccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(配列番号37)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている。
別の実施形態では、本発明の酵母はSaccharomyces cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617)、Saccharomyces cerevisiae St10−ScXK(受託番号 NITE P−01618)、Saccharomyces cerevisiae St10−1−1(受託番号 NITE P−01620)またはSaccharomyces cerevisiae St10 Δgre3−2(受託番号 NITE P−01619)で寄託された系統である。
別の局面では、本発明は、キシロースおよび/またはキシロースを含む糖からエタノールを生産する方法であって、該方法は、該キシロースおよび/またはキシロースを含む糖を含む原料に、本発明の酵母を接触させる工程を包含する、方法を提供する。この酵母は、本発明の酵母が有しうる任意の実施形態を採用してもよい。
1つの実施形態では、前記接触は、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で行われる。
別の実施形態では、前記原料はリグノセルロースを含み、前記接触は40℃以上で行われる。
別の実施形態では、前記接触は、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で行われる。
別の実施形態では、前記原料は稲わらを含み、前記接触は40℃以上で行われる。
別の実施形態では、前記接触工程の前に、前記原料をアルカリ処理する工程をさらに包含する。
別の実施形態では、前記アルカリ処理は水酸化カルシウムによる。
別の局面では、本発明は、Candida glabrataに相同組換えを起こして相同組換えCandida glabrataを生産する方法であって、該方法は、相同組換えの対象となる遺伝子の約45%以上の長さの相同部分を両端に有する相同組換え用遺伝子構築物と、Candida glabrataとを、相同組換えを起こす条件下に供する工程を包含する、方法を提供する。
1つの実施形態では、前記遺伝子はGRE3であり、前記約45%以上の長さは0.45kb以上である。
別の実施形態では、前記相同組換えCandida glabrataの相同組換えの対象となる遺伝子が破壊される。
これらの上記特徴は、適用可能である場合、複数が組み合わされうることが理解される。
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
リグノセルロースを原料とした燃料用エタノールの実用的な生産が可能となった。40℃において、理論収率の25%以上、好ましい実施形態では、理論収率の75%以上、理論収率の80%以上の収率でキシロースからエタノールを生産する酵母および方法が提供される。
図1は、微生物におけるキシロースの代謝系および同時異性化発酵法を示す模式図である。 図2は、実施例2において行った本発明の菌株の40℃におけるエタノール耐性の比較を示す。左のパネルから、0%(w/v)エタノール、5%(w/v)エタノール、7.5%(w/v)エタノールを含む寒天培地上に2種の菌株の菌液を滴下し、40℃で静置培養を行った結果である。上列はCandida glabrata NFRI3163株を示し、下列はSaccharomyces cerevisiae ATCC24860株を示す。左から10の4乗、10の5乗、10の6乗、10の7乗、10の8乗CFU(Colony Forming Unit)の菌体を含む菌体懸濁液を滴下した。 図3−1は実施例3において行ったキシロース代謝系を有する遺伝子組換え酵母を作製するためのベクター(pYPGE15L)を構築する方法の概略を示した図である。 図3−2は実施例3において行ったキシロース代謝系を有する遺伝子組換え酵母を作製するためのベクター(pYPGE15L−XR、pYPGE15L−XDH、YPGE15L−XK)を構築する方法の概略を示した図である。 図3−3は実施例3において行ったキシロース代謝系を有する遺伝子組換え酵母を作製するためのベクター(pAUR−XRXDHXK)を構築する方法の概略を示した図である。 図4は、キシロース代謝系を有するSaccharomyces cerevisiaeおよびCandida glabrataの遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地のエタノール発酵を示す図である。XR、XDHおよびXKを導入しキシロース発酵能を有する遺伝子組換え体を5%(w/v)グルコースおよび2%(w/v)キシロースを含むYP培地で培養し、エタノール発酵を行った結果である。上列はS. cerevisiaeを示し、下列はC. glabrataの結果を示す。左のパネルから30℃、35℃、37℃、40℃での原料および生成物の各成分(黒丸:グルコース、黒四角:キシロース、白丸:エタノール、白四角:キシリトール、白三角:グリセロール)の濃度(g/L)を示す。 図5は、実施例5で製造した酵母での外来遺伝子発現用ベクターであるpRS406−PGKpCYCtの概略図を示す。 図6は、実施例5で製造したCandida glabrataのキシルロキナーゼ導入用ベクターpRS406−CgXKの概略図を示す。 図7は、実施例7で製造したSaccharomyces cerevisiaeのキシルロキナーゼ導入用ベクターpRS406−XKの概略図を示す。 図8は、実施例8の相同組換えによるCandida glabrata染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子の破壊を示す模式図および遺伝子破壊を確認したPCRの結果を示す図である。上パネルでは、相同組換えのスキームおよび非相同末端結合の模式図を示す。下パネルでは、相同組換え条件に供した47株のうち、3つの代表株のアルドースレダクターゼ(CgGRE3)についてのPCRの結果を示す。レーン1および2の#17および#35が相同組換えを起こしていることが判明した。 図9は、実施例8で製造したCandida glabrataのアルドースレダクターゼ遺伝子(CgGRE3)をクローニングしたベクターpBS−CgGRE3の概略図を示す。 図10は、実施例8で製造したCandida glabrata染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子破壊用ベクターpBS−CgGRE3―URA3の概略図を示す。 図11は、実施例11の遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵の結果を示す。Y軸は糖およびエタノールの生成量(%(w/v))を示し、X軸が時間(時間)を示す。原料および生成物の各成分(グルコース、キシロース、エタノール、キシリトール)の濃度(%(w/v))を示す。黒丸はグルコース、黒四角はキシロース、白丸はエタノール、白四角はキシリトールを示す。 図12は、実施例12の並行複発酵と同時異性化発酵との組み合わせでの結果を示す。Y軸は糖およびエタノールの生成量(%(w/v))を示し、X軸が時間(時間)を示す。左が30℃、右が40℃での結果である。原料および生成物の各成分(黒丸:グルコース、黒四角:キシロース、白丸:エタノール、白四角:キシリトール)の濃度(%(w/v))を示す。 図13は、実施例16において行った2種類の抗生物質耐性遺伝子を利用して、2本の相同染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子(GRE3)を両方とも破壊した手法の模式図を示す。St10−1−1では、GRE3のホモ接合体であり、ゼオシン感受性でかつG418感受性であり、St10 GRE3::ZEOとなると(中央)、一方のGRE3がゼオシン耐性遺伝子(ZEO)に置換され、ゼオシン耐性となる。最後にSt10 Δgre3−2になるともう一方のGRE3がG418耐性遺伝子(KAN)に置き換わり、G418に対しても耐性になる(右)。 図14は、実施例19において行った遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵の結果を示す。Y軸は糖およびエタノールの生成量(%(w/v))を示し、X軸が時間(時間)を示す。上段はSt10−1−1を用いた結果を示し、下段はSt10 dgXK1を用いた結果を示す。左が30℃、右が40℃の結果である。原料および生成物の各成分(黒丸:グルコース、黒四角:キシロース、白丸:エタノール、白四角:キシリトール)の濃度(%(w/v))を示す。 図15は、実施例20において行った並行複発酵と同時異性化発酵との組み合わせによる稲わらからのエタノール生産の結果を示す。Y軸は糖およびエタノールの生成量(%(w/v))を示し、X軸が時間(時間)を示す。左が30℃、右が40℃の結果である。原料および生成物の各成分(黒丸:グルコース、黒四角:キシロース、白丸:エタノール、白四角:キシリトール)の濃度(%(w/v))を示す。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。定義された用語は、特に言及しない限り、その変化形、対応する他の品詞においても同様の定義が適用されることが理解される。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(用語の定義)
本明細書において、必要に応じて、以下の略語を用いる。
S.: Saccharomyces
S. cerevisiae: Saccharomyces cerevisiae
C. : Candida
C. glabrata: Candida glabrata
XR: キシロースレダクターゼ(Xylose Reductase)
XDH: キシリトールデヒドロゲナーゼ(Xylitol Dehydrogenase)
XK: キシルロキナーゼ(Xylulokinase)
PGK1p: Phoshoglycerate kinase 1遺伝子プロモーター
CYC1t: Iso−1−cytochrome c遺伝子ターミネーター
PCR: ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
U: Unit(単位)
以下に本明細書において用いられる各用語の意味を説明する。各用語は本明細書中、統一した意味で使用し、単独で用いられる場合も、または他の用語と組み合わされて用いられる場合も、同一の意味で用いられる。
本明細書において、「酵母」とは、広義に解釈され、少なくとも部分的に単純な単細胞で構成されている栄養体(葉状体)を,正常な成長条件でもつ菌類の総称であり、本発明では、例えば、Candida属、Saccharomyces属、Pichia属、Kluyveromyces属、またはHansenula属を含み、より詳細な例としては、Candida glabrata、Saccharomyces cerevisiae、Pichia anomala、Saccharomyces martiniae、Kluyveromyces marxianus、Kluyveromyces
fragilis、またはHansenula polymorphaなどが挙げられ、以下の微生物学的特徴を有する菌株をいう。
・糖を代謝しエタノール発酵を行うものであること。
・好ましくは、糖が代謝される際に、乳酸発酵よりもエタノール発酵が優先されるものであること。
なお、40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率(キシロースをエタノール発酵する収率)が少なくとも25%である酵母は、従来報告がないため、本発明は、このような酵母を提供するという意味で画期的である。
本明細書において「同時異性化発酵能」とは、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)添加によるキシロースの発酵能をいう。同時異性化発酵法は、キシロースイソメラーゼ酵素(グルコースイソメラーゼ酵素)を培養液中に添加することにより、イソメラーゼ酵素によってキシロースがキシルロースに変換され、生成したキシルロースを酵母に発酵させる方法をいう(Lastick, S.M. et al., Applied Microbiology and Biotechnology Vol.30 pp.574−579 (1989)(非特許文献7)を参照)。
本明細書において40℃における「キシロース同時異性化発酵収率」とは、40℃で同時異性化発酵法を行ったときのエタノールの発酵収率を言う。本明細書では、格別に言及しない限り収率の定義は、「2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵した場合のエタノール収率」を基準として用いる。発酵収率の考え方には、(1)基質として加えた量に対するエタノール生成量の割合(存在する基質からどれくらいエタノールを作ることができるか)<対添加基質量>、および(2)酵母が消費した基質に対するエタノール生成量の割合(使用した基質のうち、どれだけをエタノールに変えることができるか)<対消費基質量>があり、いずれも使用されている。エタノールを生産する場合は、基質を利用する能力も重要になることから、文献では(1)の収率を使用されることも多いため、(1)を使う方が実態に即していると言えることから汎用されており、本明細書においては、特に言及しない限り、比較の観点から(1)を使用する。なお、この場合、加えた基質を全て使い切れば(1)の収率と(2)の収率は等しくなるが、基質を全て使い切れない場合は、(1)の収率は(2)の収率よりも低くなり、特に高濃度の基質を用いたデータを比較する際には、(1)同士もしくは(2)同士の収率を比較することが重要である。なお、本明細書では、(2)を用いる場合は、たとえば、2%(w/v)キシロース添加を基準として用いうるが、他のデータとの比較において例えば6%(w/v)キシロースを使用する場合で用いられうる。
例えば、特定の菌株としては、Candida glabrata 3163 dgXK1(受託番号NITE P−1357)Candida glabrata 3163−CgXK(受託番号NITE P−1358)、Candida glabrata 3163 Δgre3−35(受託番号NITE P−1359)、Candida glabrata NFRI 3163(受託番号 NITE P−1360)、Saccharomyces cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617)、Saccharomyces cerevisiae St10−ScXK(受託番号 NITE P−01618)、Saccharomyces cerevisiae St10−1−1(受託番号 NITE P−01620)またはSaccharomyces cerevisiae St10 Δgre3−2(受託番号 NITE P−01619)で寄託された系統である酵母が挙げられる。いずれも、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE;千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)の特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託されている。
本明細書において「キシルロース資化能」とは、微生物について、キシルロースを炭素源として自身の増殖に使用することが可能であることをいう。また、「キシルロース発酵能」とは、微生物がキシルロースを原料としてエタノールを生産することが可能であることをいう。さらに、「キシルロース利用能」とは、キシルロースを炭素源として使用することが可能であることをいい、キシルロース資化能やキシルロース発酵能を包含する。
本明細書において「リグノセルロース利用能」とは、ある微生物について、リグノセルロースを炭素源として使用することが可能であることをいう。このようなリグノセルロース利用能は、リグノセルロースを原料としてエタノールを生成する能力を包含する。
本明細書において「野生株」は、ある菌株について、変異を加えておらず、外来の(非自己の)遺伝子を導入していないものをさし、「天然株」とも称される。したがって、本明細書において「外来」(foreign)とは、野生株にせよ実験室株にせよ、「外から入れた」すなわち、「非自己」あるいは「従来もっていない」という意味で用いられる。外来遺伝子は、同種または異種でありうる。例えば、キシルロキナーゼについて言及する場合、「外来」とは、そのキシルロキナーゼをコードする遺伝子を外から入れるという事項を指す。例えば、野生型の代表例としてはC. glabrata NFRI 3163(NITE受託番号 P−1360)、Saccharomyces cerevisiae St10−1−1(受託番号 NITE P−01620)が挙げられる。また、本明細書において「実験室株」とは、加工されているものをさし、外来遺伝子を有していないものも包含する。エタノール発酵に直接あるいは間接的に関与する外来遺伝子を包含していない実験室株は、エタノール発酵能に関しては、野生株と同等と考えてよい。このような外来遺伝子を包含していない実験室株としては、S. cerevisiae InvSc1を代表例として挙げることができる。
したがって、本明細書において「高発現」とは、ある遺伝子(例えば、キシルロキナーゼ)について言及する場合、加工前の状態に比べて発現が増えていることをいい、同種または異種のその遺伝子を外から入れる(例えば、外来のキシルロキナーゼを組換え導入する)か、および/または、内在する同じ遺伝子の発現を増強することなどによって、達成されうる。1つの実施形態では、遺伝子組換えに用いたキシルロキナーゼ遺伝子は、それぞれ自身のキシルロキナーゼ遺伝子、すなわち、C. glabrataにはC. glabrataの由来のキシルロキナーゼ遺伝子を、S. cerevisiaeにはS.
cerevisiae由来のキシルロキナーゼ遺伝子を導入することができる。別の実施形態では、他の生物種由来の遺伝子であっても、機能的に発現すれば同様の効果があると考えられることから、同様に導入することができる。必要に応じて、単にキシルロキナーゼ遺伝子だけではなく、酵母細胞内で発現に必要なプロモーターも付加することにより発現を増強することができる。従って、キシルロキナーゼについて、高発現は、好ましい実施形態では、同種または異種のキシルロキナーゼが、酵母細胞内で発現するように遺伝子組換えにより導入されたものということができる。
本明細書において遺伝子の「組換え導入」は、任意の方法によって達成することができることが理解される。酵母細胞内に組換え導入された外来遺伝子は、染色体への組み込み、あるいは、自律的複製によって酵母細胞内に保持されうる。酵母細胞の染色体への外来遺伝子の組み込みは、相同性のあるDNAの間で起こる相同組換え、または、相同性に関係なく起こる非相同末端結合によって達成することができる。通常、S. cerevisiae等において外来遺伝子の相同組換えにより宿主細胞の染色体上の遺伝子破壊を行う場合、遺伝子組換えに使うDNA断片をPCRによって簡便に調製する方法が主流である。この場合、外来遺伝子増幅用のPCRプライマーの5’−末端に、40〜50塩基の相同組換えのターゲット部位の配列を付加したプライマーを合成し、PCRを行うことにより、外来遺伝子の外側に相同組換えに必要な配列が付加したDNA断片を得ることができる。他方、C. glabrataでは非相同末端結合が優勢のため、40〜50塩基の相同配列では相同組換えは殆ど起こらない。
本明細書において遺伝子の「欠損」は、その遺伝子を物理的に存在しなくさせるかまたは機能を低減または消失させることによって、その遺伝子が最終的に実現する目的が100%達成されないことをいう。好ましくは、そのような「欠損」は、目的とする遺伝子が実質的にまったく機能しないか、物理的に存在しないようにさせる。したがって、本明細書においてある遺伝子(例えば、アルドースレダクターゼ)について「欠損させる」とは、その遺伝子について野生株または適切な場合実験室株よりも低いかまたはないレベルで機能をさせることをいう。
本明細書において、「増殖(活性)」(growth (activity))とは、微生物について言及する場合、その微生物の個体・細胞などが数を増すこと、あるいはその活性をいう。
40℃においてキシロース同時異性化発酵収率が高い酵母は、特に、40℃においてキシロース同時異性化発酵収率が20%より高い酵母は、従来の選抜法では取得が不可能または困難であった。しかし、実施例等において例示される本明細書に記載の選抜法の手順に従えば40℃で高エタノール変換効率な酵母すなわち、40℃においてキシロース同時異性化発酵収率が高い酵母を、当業者は容易に取得することができる。したがって、少なくとも本明細書において実証された各菌株と同属の酵母であれば、同様にして他の種でも、40℃においてキシロース同時異性化発酵収率が高い株を取得することができることが理解される。すなわち、本明細書に記載されるような(1)40℃でキシルロース発酵能の高い酵母株の選抜を行い、(2)外来のキシルロキナーゼを導入し、そして(3)内在性アルドースレダクターゼを欠損させるという3ステップで「同時異性化法により、40℃でキシロースを高収率でエタノールに変換する酵母」を得ることができることが当業者に理解される。なお、キシルロキナーゼの導入とアルドースレダクターゼの欠損により、キシロース発酵能を元の株より高めることはできるものの、本発明の実施例において示されるような40℃という発酵温度でC. glabrata、S. cerevisiaeのようなきわめて高い収率(例えば、限定を意図するものではないが、70%を超えるようなもの)は、(2)および(3)では事実上実現できなかったというべきである。また、従来技術では、キシルロースが高価なため、スクリーニングには用いにくかったと考えられる。本発明では、実施例において例示するように、キシロースイソメラーゼによりキシロースをキシルロースに変換し、キシロースとキシルロースの混合物とした後、カラムクロマトグラフィーによりキシルロースの純品を容易に調製できたことと、多量の基質を必要とする一次スクリーニングにおいてはキシルロースとキシロースの混合物を使用し、基質が比較的少量で済む二次スクリーニングにおいてキシルロースの純品を使用することによって、大規模なスクリーニングを可能にした側面もある。
本明細書において「キシルロキナーゼ」とは、必要に応じてATPの存在下でキシルロースをキシルロース−5−ホスフェートに変換する能力を有する酵素をいう。キシルロースはD体であってもL体であってもよいが、微生物に通常見られるキシロースの代謝経路ではD体が見出される。
本明細書において「アルドースレダクターゼ」とは、アルドース(アルデヒド基(−CHO)を有する単糖類;例えば、キシロース等)を還元する酵素をいう。キシロースを還元する酵素はキシロースレダクターゼといい、アルドースレダクターゼに包含される。
本明細書において「キシロースイソメラーゼ」はキシロースをキシルロースに変換(異性化)させる酵素をいう。キシロース、キシルロースは、D体であってもL体であってもよいが、天然や微生物に通常見られるキシロースの代謝経路ではD体が見出される。また、通常微生物が有するキシロースイソメラーゼは、グルコースを異性化する能力も有することから、「グルコースイソメラーゼ」とも称され、その場合、「グルコースイソメラーゼ」は、キシロースイソメラーゼと本明細書において同義で用いられうる。
本明細書において「リグノセルロース」とは、本質的にリグニンとセルロース、ヘミセルロースの結合した物質であり、植物の細胞壁にみられる。リグノセルロースは地球上で最も多量に存在する有機物で,構造性多糖のセルロースおよびヘミセルロース,芳香族化合物の重合体のリグニンから構成される。リグノセルロースは作物の茎葉の主成分であり、作物個体・組織・細胞を堅固にして、外界の物理的ストレス,病原菌の侵入から作物体を守るなど、その正常な生育に欠かせない役割を果たしている。リグノセルロース系原料としては、大きく木質系原料と草本系原料に分けられる。また、これらの他に、海藻、水草などがリグノセルロース系原料に準じるものとして本発明の対象原料となる。木質系原料としては、針葉樹、広葉樹、裸子植物等の幹、枝、葉、実などを挙げることができる。しかし、一般に、木質系バイオマス原料と比較して、草本系バイオマス原料の方が木化の程度が低く、前処理条件を穏和に設定できるため、本発明のバイオマス原料としては、草本を用いることが好ましい。草本系バイオマス原料としては、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、エリアンサス、ススキ、エンバク、牧草、単子葉類の雑草の地上部全体を用いることができる。
本明細書において「同種」とは、微生物またはそれが有する遺伝子等について、基準となる種と同じ種に由来することをいう。同種には、同系および自己が包含される。
本明細書において「異種」とは、微生物またはそれが有する遺伝子等について、基準となる種と異なる種に由来することをいう。
本明細書において「キシロースを含む糖」とは、キシロースを成分として含む任意の糖をいう。
本明細書において「接触」とは、発酵反応や酵素反応が生じるように原料と発酵体や触媒体(例えば、微生物、酵素等)とが相互作用する距離にあることをいう。
本明細書において「アルカリ処理」とは、アルカリで目的物を処理することをいう。
本明細書において「相同組換えを起こす条件」とは、相同組換えを起こす条件であれば、どのような条件でもよく、当業者は当該分野で公知の技術に従い設定することができる。
本明細書において「遺伝子が破壊」とは、遺伝子が本来持っている機能を有しなくなるように改変されることをいう。物理的に存在しなくなることのほか、遺伝子の一部が欠損、付加または置換されることによって、本来持っている機能を失うことも包含される。
(好ましい実施形態)
本発明の好ましい実施形態を、以下に掲げる。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでない。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
(高キシロース同時異性化発酵収率酵母)
1つの局面において、本発明は、高キシロース同時異性化発酵収率酵母を提供する。特に、本発明は、キシルロキナーゼを組換え導入しおよび/またはアルドースレダクターゼを欠損させた酵母であって、該酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%である、酵母を提供する。好ましくは、本発明の酵母は、キシルロキナーゼを高発現させ、かつ、アルドースレダクターゼを欠損させたものである。リグノセルロースからエタノールを生産するためには、リグノセルロースを化学的あるいは酵素的に分解し酵母が利用できる糖を生成することが必要である。酵素糖化法は、化学的な糖化法と比べ、穏和な圧力・温度で糖化できること、硫酸等の化学薬品を大量に使用する必要が無く環境負荷が低いこと、生成糖の過分解が起こらず収率が高いなどの利点がある。さらに酵素による糖化反応と酵母等の微生物による発酵を同時に行う並行複発酵は、生成糖による酵素反応の阻害(生成物阻害)の問題を回避できることから、糖化効率の向上が期待され、リグノセルロースからエタノールを生産するための優れた方法の1つと考えられる。しかしながら、糖化酵素の反応に最適な温度(50℃程度)と酵母の発酵に最適な温度(30℃程度)の間の差が大きいことが課題であり、両者の温度差を少なくすることが、並行複発酵の効率化に重要であると考えられる。したがって、40℃以上でのキシロース同時異性化発酵収率が高いことは本発明にとって極めて重要である。
S. cerevisiaeを遺伝子組換えによりキシロース発酵能を付与した株では、40℃以上の高温でエタノール発酵能を調べた報告は見当たらない。本発明者らが従来の方法によって作製した遺伝子組換えS. cerevisiaeの40℃でのキシロース発酵能を調べたところ、実施例3に示すように、40℃ではエタノール発酵能が低下し、特にキシロースの利用能が著しく低下していた。
同時異性化発酵では、酵母のキシルロースを利用する能力が重要になってくる。S. cerevisiaeの中でもキシルロースの発酵能が優れる株として単離されたATCC24860株においても、35℃での同時異性化発酵によるキシロースからのエタノール収率は30%であり、S. cerevisiaeにとってより過酷な生育条件である40℃ではさらに収率が低下すると考えられる(非特許文献7)。なお、この文献では、本明細書の条件でのエタノール収率は測定されていない。
以上のように、40℃以上の発酵温度で理論収率の25%を超える収率でキシロースをエタノール発酵する酵母や酵母を用いたエタノール製造法は報告されていない。また、「2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて40℃で72時間発酵した場合のエタノール収率」でみると、25%以上の収率のものの報告はなされていない。したがって、酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が25%以上のものを提供することにはきわめて重要な意義がある。
本発明の酵母は、特に特定の属ないし種に限定されるものではないが、好ましい属としては、Candida属、Saccharomyces属、Pichia属、Kluyveromyces属、またはHansenula属の酵母を挙げることができる。
好ましい実施形態では、本発明の酵母は、前記酵母がCandida glabrata、Saccharomyces cerevisiae、Pichia anomala、Saccharomyces martiniae、Kluyveromyces marxianus、Kluyveromyces fragilisまたはHansenula polymorphaである。理論に束縛されることを望まないが、Candida glabrata、Saccharomyces cerevisiaeの種において、本明細書で酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率の上昇が見られており、その他の酵母種においても40℃以上でエタノール産生をする株を含むことが知られるものであることから、Candida種、Saccharomyces種等と同様の操作が可能であると考えられるからである。
特に好ましい実施形態では本発明の酵母は、Candida glabrata、Saccharomyces cerevisiaeであり、Candida glabrataおよびSaccharomyces cerevisiaeのいずれも同等の操作が可能であることが判明している。理論に束縛されることを望まないが、Candida glabrata、Saccharomyces cerevisiaeの種において、本明細書で酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率の上昇が見られたからであり、加えて、本発明においてCandida glabrataは、40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%、あるいは、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%以上という従来では予想もつかなかったほどの高収率を得ることができたからである。また、本発明においてSaccharomyces cerevisiaeにおいては、40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%、あるいは、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%以上、さらに好ましくは少なくとも80%以上という従来では予想もつかなかったほどの高収率を得ることができたからである。
1つの実施形態では、本発明の酵母に導入されうるキシルロキナーゼはその酵母と同種または異種でありうる。同種のものは、その酵母において機能する蓋然性が高いことから、好ましく用いられるがそれに限定されず、異種のものであってもその酵母で機能するものであれば、利用することができ、特定の特性(至適条件等)を有するキシルロキナーゼを導入する場合は異種のものを用いることが好ましいこともありうる。好ましい実施形態では、本発明の酵母はCandida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(核酸配列は配列番号28、アミノ酸配列は配列番号29)である。より好ましい実施形態では、本発明の酵母は、Candida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(核酸配列は配列番号28、アミノ酸配列は配列番号29)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている。あるいは、別の好ましい実施形態では、本発明の酵母はSaccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(核酸配列は配列番号36、アミノ酸配列は配列番号37)である。より好ましい実施形態では、本発明の酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(核酸配列は配列番号36、アミノ酸配列は配列番号37)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている。
1つの実施形態では、本発明の酵母はキシルロース資化能を有する。キシルロース資化能を有することにより、ペントースリン酸経路を利用してエタノールを生産することができる。
特定の実施形態では、本発明の酵母は、40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%であることが好ましい。さらに好ましい実施形態では、本発明の酵母は、40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%である。
1つの実施形態では、本発明の酵母はリグノセルロース利用能を有する。リグノセルロースは地球上でもっとも豊富にある有機物であり、草本系植物等にも大量に存在することから、これを利用してエタノール(バイオエタノール)を生産することができることは、エネルギー資源という観点で極めて有用である。
1つの実施形態では、本発明の酵母が有しうるリグノセルロース利用能は、リグノセルロースを原料としてエタノールを生成する能力である。
1つの具体的な実施形態では、本発明の酵母は、Candida glabrataであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている。
1つの具体的な実施形態では、本発明の酵母は、Saccharomyces cerevisiaeであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている。
1つの具体的な実施形態では、前記キシルロキナーゼは前記酵母と同種または異種である。
1つの特定の実施形態では、本発明の酵母は、受託番号 NITE P−1357、NITE P−1358、NITE P−1359またはNITE P−1360、受託番号 NITE P−01617、受託番号 NITE P−01618、受託番号 NITE P−01619、受託番号 NITE P−01620で寄託された系統またはそれと同一の特性を有する系統、あるいはこれらの子孫株、またはこれらに由来する系統である。
(エタノール生産方法)
別の局面において、本発明は、キシロースおよび/またはキシロースを含む糖からエタノールを生産する方法であって、該方法は、該キシロースおよび/またはキシロースを含む糖を含む原料に、本発明の酵母を接触させる工程を包含する、方法を提供する。ここで使用されうる酵母としては、本発明の酵母であればどのようなものを用いてもよく、上記(高キシロース同時異性化発酵収率酵母)の項目において例示される任意の実施形態を使用することができることが理解される。
1つの実施形態では、本発明の方法において、キシロースおよび/またはキシロースを含む糖を含む原料に、本発明の酵母を接触させる工程は、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で行われうる。このようなキシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在によって、同時異性化発酵が効率よく行うことができる。
1つの実施形態では、本発明において用いられる原料は、リグノセルロースを含む。そして、1つのさらに好ましい実施形態では、本発明において用いられる原料は、リグノセルロースを含み、接触は40℃以上で行われる。理論に束縛されることを望まないが、高温が好ましいのは、糖化酵素の反応に最適な温度が50℃程度と比較的高く、30℃等40℃未満であれば十分な糖化反応が起こらず、収率に多大な悪影響が出てしまうからである。好ましくは、本発明において用いられる原料は、リグノセルロースを含み、接触はキシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で40℃以上で行われる。使用されるキシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)は、どのようなものでもよいが、40℃以上でより効率よく異性化を行うものを使用することが有利である。そのようなキシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)としては、Sweetzyme(商標)IT Extra(Novozymes A/S)を挙げることができる。1つの具体的な実施形態では、リグノセルロースの原料としては、リグノセルロース系バイオマス原料である植物体の地上部(例えば、稲、麦、トウモロコシ、サトウキビ、ソルガム、エリアンサス、ススキ、エンバク、牧草、単子葉類の雑草のうちの1以上からのものを含めることができるがこれに限定されない)を粉砕したものを用いることができる。リグノセルロースの原料としては、非可食部分であっても可食部分であってもよいが、非可食部分が食料生産との競合を避け人類との共存という意味で好ましい。具体的には、コーンエタノール製造時に圃場に蓄積するトウモロコシ茎葉(コーンストーバー)、サトウキビ搾汁後に得られるバガス、主要穀物生産時に副生される稲わら、麦わら、もみ殻、そしていわゆる資源作物としてのスイートソルガムやエリアンサス、ススキ、エンバク、牧草類、イネ科植物の植物体地上部全体など、が挙げられる。これらリグノセルロース系バイオマス原料は、易分解性糖質を含有するものを含むものである。これらのうち、特に稲わらやサトウキビバガスでは、澱粉やショ糖(スクロース)などの易分解性糖質を回収しつつ、セルロースやヘミセルロースの糖化性を向上するような前処理技術を施すことが有利でありうるため、本発明の実施においても必要に応じてこのような前処理を行ってもよいが、本発明はこれに限定されずこのような前処理技術を含めなくてもよいことが理解される。
1つの具体的な実施例では、本発明で用いられる原料は、稲わら、バガス、スイートソルガム、エリアンサス、ススキ、エンバクを含むがこれらに限定されない。
1つの実施形態では、リグニンの分解を促すため、アントラキノン、分子状酸素等の酸化剤を添加することが有効であるため、必要に応じてこのような酸化剤を添加してもよい。
1つの実施形態では、原料を粉砕して用いることができる。本発明における原料の最適な粉砕度については、原料の形状、含水率、粉砕特性等に応じて異なる。例えば、稲わらを試料としてスラリーを調製した場合、アルカリ処理の効果は、脱穀後の長いものや数センチメートル程度に裁断されたものでも見出されるが、数ミリメートルから数百マイクロメートル程度の平均粒径またはそれ以下まで粉砕された試料では、薬液の浸透性や基質の表面積が向上し、前処理後の糖化効率が上昇する。粉砕時の熱による原料の損耗や基質の被覆が起こらない限り、細かく粉砕する程反応効率は向上すると考えられるが、原料に応じて、糖化効率、粉砕コストとハンドリング性を考慮した最適化を行う必要がある。
1つの実施形態では、本発明の方法において接触工程の前に、原料をアルカリ処理する工程をさらに包含することが有利でありうるが、これに限定されない。アルカリ処理は例えば、特許文献5を参照することができ、この文献は参考として本明細書中で必要に応じてその全部を援用する。アルカリ処理は、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム等により行うことができる。ある具体的な実施形態では、原料、水酸化カルシウムおよび水を含むスラリーを調製してアルカリ処理を行い、その後二酸化炭素を通気することおよび/又は加圧することによって、中和しpHを5〜7に低下させることによってアルカリ処理を実現することができるがこれに限定されない。1つの実施形態では、アルカリ処理は、80〜180℃で10分〜3時間行うことができるがこれに限定されない。1つの実施形態では、アルカリ処理は、0℃〜50℃で3日以上行うことができるがこれに限定されない。別の実施形態では、原料を粉砕した後、当該原料、水酸化カルシウムおよび水を含むスラリーを調製してアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理を行う際には、まず、使用される原料に対して水を加えて、その後に水酸化カルシウムまたはその水懸濁物を混合する方法や、逆に、水酸化カルシウムの粉末を加えた後に水や水蒸気を加える方法、水酸化カルシウムの添加を数段階に分けて行う方法、使用される原料中の水分を利用して、水酸化カルシウムのみを添加して混合する方法など、様々な反応混合物の調整方法が存在する。また、原料への水や試薬の浸透性を向上するため、界面活性剤を添加する方法や、減圧下において気泡を除く方法、加圧下において気泡を縮小させて液の浸透を促す方法、などが考えられる。この処理に用いる水酸化カルシウムの添加比としては、使用される原料の乾重量に対して2〜80%の添加が可能で、望ましくは10〜40%の添加で行うことができる。その際、前処理反応系の水分含量は、使用される原料に対して1〜40倍への調整が可能で、望ましくは3〜20倍の調整を行うことができる。また、原料が有する水分を利用し、前記水分含量とすることも可能である。さらに、使用される原料の粉砕度を上げることにより、水の添加量を減らすことも可能である。このアルカリ処理により、ヘミセルロースのアセチル基やフェルロイル基などのエステルやリグニン分子内のエステルが加水分解されることにより、酵素糖化性が向上するとともに、リグニンやシリカの一部が可溶化すると考えられている。その際に、ヘミセルロースの一部も遊離・可溶化するが、セルロースやヘミセルロースの大部分は固形分として原料中に残存し、酵素糖化の基質となる。
1つの実施形態では、アルカリ処理を行う場合は、中和前もしくは中和後に、スラリーの固形分を磨砕する工程を含んでいてもよいがこれに限定されない。理論に束縛されることを望まないが、例えば、アルカリ処理によってバイオマスが軟化するとともに機械的強度が減少し、後段の粉砕処理のエネルギー効率が高まることが期待できる。1つの実施形態において、本発明でアルカリ処理を行うと中和後に、塩と前処理したバイオマス原料との分離(固液分離や洗浄)を行う必要がないことから、数百マイクロメートル以下の小さい粒径の試料を用いてもロスがなく、ハンドリング性も低下しにくい。このことは、アルカリ処理を併用した場合の利点である。また、石臼などで磨り潰すグラインダー等を用いて、粉砕原料を磨砕しながらアルカリ液を浸透させる方法により、アルカリ処理の効率の向上が期待される。
1つの実施形態では、本発明の方法は、得られた中間体(例えば、スラリー)にデンプン、β−(1→3),(1→4)−グルカン、セルロース、キシラン、および、これらの部分分解物、のうちの少なくとも1種類以上を糖化する酵素を添加した後、二酸化炭素を必要に応じて通気および/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないように酵素糖化反応を行うことができる。このような酵素糖化反応において、前記糖化酵素に加えてさらにエタノール発酵微生物を添加し、酵素糖化反応とエタノール発酵とを並行複発酵で行うことができる。糖化酵素としては、セルラーゼ製剤、ヘミセルラーゼ製剤、β−グルコシダーゼ製剤を用いることができるが、具体的には、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ、イソアミラーゼ、α−グルコシダーゼ、リケナーゼ、セロビオハイドロラーゼ、エンドグルカナーゼ、β−グルコシダーゼ、セロビオースデヒドロゲナーゼ、キシラナーゼ、α−L−アラビノフラノシダーゼ、β−D−キシロシダーゼ、α−グルクロニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、アセチルキシランエステラーゼ、フェルロイルエステラーゼ、β−マンナナーゼ、β−D−マンノシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、キシログルカナーゼ、ガラクタナーゼ、アラビナナーゼ、ペクチナーゼ、ペクチンメチルエステラーゼ、ペクチンアセチルエステラーゼ等を用いることができる。
本発明の方法では、酵母に原料または原料から変化した中間体を接触させる際に、二酸化炭素を必要に応じて通気および/又は加圧しながらpHの上昇が起こらないようにエタノール発酵させることができる。具体的な方法は、アルカリ処理後の溶液中に二酸化炭素を直接通気(例えば、バブリング、炭酸水の添加、上部からの吹きつけ等)する方法、密閉容器を用いて二酸化炭素で加圧する(陽圧にする)方法、を挙げることができる。また、さらに攪拌、振盪、低温・高圧処理などを行うことにより、二酸化炭素の溶解をより効率的にすることもできる。また、これらの方法を組み合わせて行うこともできる。アルカリ処理は、希硫酸等での処理より好ましいが、本発明はアルカリ処理を用いることに限定するものではない。稲わらでも希硫酸処理法も使えるが、このアルカリ処理法の特徴は、発酵液のpHが中性を維持することにある。理論に束縛されることを望まないが、同時異性化発酵では、グルコースイソメラーゼの反応に適したpHは中性であるのに対して、発酵液のpHは酸性になることが多いことから(発酵過程で有機酸が生じるため)、本発明の同時異性化発酵はこの水酸化カルシウム等によるアルカリ処理法との組み合わせに適していると考えられる。通常、S. cerevisiaeの野生株の場合は、他の文献にあるように35℃付近が最適と考えられ、40℃以上では生育が不調であることから、エタノール生成には、あまり好ましくないとされていた。また、並行複発酵と同時異性化発酵とを行うことは、こと、40℃以上での条件でみると、従来報告がなかった。それは、使用する微生物が、40℃以上では実用上使用できるレベルでエタノール発酵しないことから、仮に他の条件で40℃以上が好ましいとしても実現できなかったからである。
(Candida glabrataの相同組換え)
1つの局面において、本発明は、Candida glabrataに相同組換えを起こして相同組換えCandida glabrataを生産する方法であって、該方法は、相同組換えの対象となる遺伝子の約45%以上の長さの相同部分を両端に有する相同組換え用遺伝子構築物と、Candida glabrataとを、相同組換えを起こす条件下に供する工程を包含する、方法を提供する。
1つの実施形態では、相同組換えの対象となる遺伝子はGRE3であり、前記約45%以上の長さは0.45kb以上である。そして、1つの実施形態では、相同組換えCandida glabrataの相同組換えの対象となる遺伝子が破壊される。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
以下の実施例で用いた生物の取り扱いは、農業・食品産業技術総合研究機構において規定される基準を遵守した。
(実施例1:40℃でキシルロースを高収率で発酵する酵母の選抜)
約1400株の酵母株から、キシルロース資化能に基づいて一次スクリーニングを行い、キシルロース資化能の高い株を選抜し、さらにこれらのキシルロース資化株よりキシルロース発酵能の高い株を二次スクリーニングにより選抜した。得られたキシルロース高発酵酵母株について、高温耐性やエタノール耐性を確認し、40℃においてキシルロースからのエタノール生産能が高い株であるCandida glabrata NFRI3163(NITE受託番号 P−1360)を取得した。
以下にその手順を示す。
(キシルロースの調製)
スクリーニングに必要となるD−キシルロース(以下、キシルロースと略す)は、Olssonらの方法(Olsson, L., Enzyme and Microbial Technology, vo1.16,pp.388−394(1994))に基づき調製した。以下に概略を示す。140gのキシロースを200mLの水に溶かし、8gの固定化グルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、350U/g)を加え、60℃で1日反応させた。ここで、グルコースイソメラーゼの酵素活性1U(Unit)とは、標準的な分析条件下で、初速度1μmol/分でグルコ-スをフルクト-スへと変換する酵素量を表す。濾過によりグルコースイソメラーゼを除いた後、ロータリーエバポレーター(岩城硝子、モデルREN−1)により、液量が約120mLになるまで50℃で濃縮した。この濃縮液に120mLの無水エタノールを加え、4℃で1週間静置し、未反応のキシロースを析出させた。析出したキシロースを濾過により取り除いた後、ロータリーエバポレーターにより濾液からエタノールを50℃で留去させた。
次に、反応液中に生成したキシルロースをカラムクロマトグラフィーにより精製した。あらかじめ1M 亜硫酸水素ナトリウム水溶液で処理することによって、カウンターイオンを亜硫酸型に置換した250gの陰イオン交換樹脂(Dowex 1 X8、100−200メッシュ)を、内径2.5cm×長さ50cmのカラムに充填した。蒸留水を移動相に用い、流速1mL/分で溶出し、7mLずつフラクションを分取した。各フラクションに含まれるキシルロースおよびキシロースの量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により解析した。HPLC装置(島津製作所)は、送液ポンプ(モデルLC−20AT)、デガッサー(モデルDGU−20A3)、オートサンプラー(モデルSIL−20AC)、カラムオーブン(モデルCTO−20A)、示唆屈折率検出器(モデルRID−10A)、システムコントローラー(モデルCBM−20A)から構成され、解析ソフトにはLC Solution(島津製作所)を用いた。配位子交換クロマトグラフィー用カラム(Shodex SC1011、内径8.0mm×長さ150mm)を用いて、カラム温度75℃で、移動相に超純水を用いて流速0.6mL/分で分析を行った。また、カラムの保護のためにSC−Gガードカラム(Shodex)を用いた。キシルロースの純度の高いフラクションを集め、ロータリーエバポレーターを使用して55℃で濃縮し、純度99%のキシルロースを約30g得た。発明者の知見では、本実施例のような規模でキシルロース発酵酵母のスクリーニングを行った例は知られていない。
(キシルロース資化能に基づいた一次スクリーニング)
96穴の丸底型マイクロタイタープレート(CORNING、モデル3799)の各ウエルに100μLのYPD培地(10g/L Yeast Extract(Difco)、20g/L Polypepton(日本製薬)、20g/L グルコース)を添加し、滅菌した爪楊枝を用いて、各ウエルに酵母株を植菌した。各マイクロタイタープレートには、農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所が保有する酵母(1枚のプレートに95株ずつ)と、コントロールとしてS. cerevisiae ATCC24860株を植菌した。30℃で24時間静置培養した後、この培養液の一部(約1.2μL)を48ピン・コピープレートレプリケーター(トッケン)を用いて、1%(w/v)キシロース及び1%(w/v)キシルロースを含むYNB培地(6.7g/L Yeast Nitrogen Base without amino acids(Difco))100μLを各ウエルに入れた96穴の丸底型マイクロタイタープレート(CORNING、モデル3799)に植菌した。30℃で24時間、静置培養後、マイクロプレートリーダー(BioTek、モデルElx800)を用いて、630nmの波長の吸光度を測定し、培養液中の菌体濃度を求めた。コントロール株であるATCC24860よりも菌体濃度が高いものをキシルロース資化能の高い株として選抜した。
(キシルロース発酵能に基づいた二次スクリーニング)
96穴の丸底型マイクロタイタープレート(CORNING、モデル3799)の各ウエルに100μLのYPD培地を添加し、滅菌した爪楊枝を用いて、各ウエルに酵母株を植菌した。各マイクロタイタープレートには、前項の方法によって選抜したキシルロース資化能の高い酵母株と、コントロールとしてS. cerevisiae ATCC24860株を植菌した。30℃で24時間静置培養した後、この培養液の一部(30μL)を2%(w/v)キシルロースを含むYNB培地400μLを各ウエルに添加した96穴の深型マイクロタイタープレート(Matrix、Screenmates DeepWell plate)に植菌した。ウエルをシリコン製マット(Matrix、Screenmates CapMat)で覆い、ビニールテープを用いてマイクロタイタープレートとマットを強固に密着させた。30℃で72時間、振とう培養(毎分200回転)した後、遠心分離機(トミー精工、モデルSUPREMA25、スイングローターTS−36N)を用いて3,100xgで10分間遠心することにより、菌体と培養上清を分離した。290μLの培養上清を96穴のマイクロタイタープレート(Nunc、モデル267245)に移し、シリコン製マット(Axygen、Axymat AM−2ML−RD)で覆った後、HPLCにより、糖およびエタノール濃度を定量解析した。先に記載のHPLC装置にイオン排除クロマトグラフィー用カラム(BioRad、Aminex Fermentation Monitoring Column)を接続し、移動相に0.005M 硫酸を用いて、流速0.6ml/分、カラム温度50℃で分析を行った。また、カラムの保護のためにCation−H Cartridge(BioRad)も接続した。コントロール株であるS. cerevisiae ATCC24860と同程度のエタノールが検出された株をキシルロース発酵能の高い株として選抜した。
次に、キシルロース発酵能の高かった選抜酵母株について、Kurtzmanらの方法(Kurtzman, C.P. et al., Antonie Van Leeuwenhoek Vol.73 pp.331−371 (1998))に従い、リボソームDNAの塩基配列を解析することにより種の同定を行った。NL−1プライマーおよびNL−4プライマーを用いて、酵母菌体懸濁液から26SリボソームDNAのD1/D2領域(約600塩基)を増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
NL−1:5’−gcatatcaataagcggaggaaaag−3’(配列番号1)
NL−4:5’−ggtccgtgtttcaagacgg−3’(配列番号2)
PCRはKOD FX polymerase(東洋紡ライフサインス)を使用し、94℃4分+[98℃10秒、52℃30秒、68℃1分]×30サイクルの条件で行った。得られた0.6kbのDNA断片をシリカメンブレンカラム(GEヘルスケア、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit)を用いて精製した後、BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を使用したサイクルシークエンス法によりシークエンス反応を行い、ABI PRISM310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を用いて塩基配列を解読した。解読した塩基配列の相同性をBLAST(Basic Local Alignment Search Tool(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi))プログラムを用いて解析し、種の同定を行った。なお、本明細書中の実施例におけるPCRおよびサイクルシークエンスはすべてVeritiサーマルサイクラー装置(Applied Biosystems)を用いて行った。
(40℃においてキシルロース発酵能の高い株の選抜方法)
96穴の丸底型マイクロタイタープレート(CORNING、モデル3799)の各ウエルに100μLのYPD培地を添加し、滅菌した爪楊枝を用いて、各ウエルに酵母株を植菌した。このマイクロタイタープレートには、前述の方法によって選抜したキシルロース発酵能の高い酵母株と、コントロール株であるS. cerevisiae ATCC24860を植菌した。30℃で24時間静置培養した後、この培養液の一部(30μL)を2%(w/v)キシルロースを含むYNB培地400μLを各ウエルに添加した96穴の深型マイクロタイタープレート(Matrix、Screenmates DeepWell plate)に植菌した。ウエルをシリコン製マット(Matrix、Screenmates CapMat)で覆い、ビニールテープを用いてマイクロタイタープレートとマットを強固に密着させた。40℃で72時間、振とう培養(毎分200回転)した後、遠心分離機(トミー精工、モデルSUPREMA25、スイングローターTS−36N)を用いて3,100xgで10分間遠心することにより、菌体と培養上清を分離した。290μLの培養上清を96穴のマイクロタイタープレート(Nunc、モデル267245)に移し、シリコン製マット(Axygen、Axymat AM−2ML−RD)で覆った後、HPLCにより、前述の条件で糖及びエタノール濃度を定量解析した。最も高い濃度のエタノールが検出されたCandida glabrata NFRI3163をキシルロースの高温発酵能を有している株として選抜した。
以下の表に、得られた40℃でのキシルロース発酵能の高い酵母株、スクリーニング時に生産したエタノール濃度およびリボソームDNAの塩基配列に基づき決定した種名を示す。
(実施例2 40℃におけるエタノール耐性の比較)
本実施例において、実施例1において得られたC. glabrata NFRI3163及びコントロール株であるS. cerevisiae ATCC24860について、以下の条件で培養を行った。10の8乗、10の7乗、10の6乗、10の5乗、10の4乗CFU(Colony Forming Unit)の菌体を含む菌体懸濁液5μLをそれぞれエタノール濃度の異なる3種類(0、5%(w/v)、7.5%(w/v)エタノール)のYPD寒天培地(10g/L Yeast Extract(Difco)、20g/L Polypepton(日本製薬)、20g/L グルコース、20g/L BactoAgar(Difco))に滴下し、40℃で3日間静置培養を行った。寒天培地上のコロニーの大きさを目視で確認し、エタノール耐性を比較した。
結果を図2に示す。その結果、NFRI3163は、ATCC24860よりも、40℃においてエタノール存在下でも良好な生育を示した。
(実施例3 キシロース代謝系を有するSaccharomyces cerevisiaeおよびCandida glabrataの遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地のエタノール発酵)
公知の方法と同様に、XR遺伝子、XDH遺伝子およびXK遺伝子を導入することによって作製したキシロース発酵能を有する遺伝子組換え酵母を5%(w/v)グルコースおよび2%(w/v)キシロースを含むYP培地(10g/L Yeast Extract(Difco)、20g/L Polypepton(日本製薬))で培養し、エタノール発酵を行った。以下に、XR遺伝子、XDH遺伝子およびXK遺伝子の導入手順を示すとともに、図3に導入のためのベクターの構築法の概略を図示した。なお、本明細書で使用した制限酵素は、タカラバイオ、東洋紡ライフサイエンス、New England Biolabs、いずれかの製品である。
(pYPGE15Lの構築方法)
酵母の発現用ベクターpYPGE15の遺伝子発現能力を向上させるため、当該ベクターに含まれる0.27kb長のホスホグリセリン酸キナーゼ1遺伝子プロモーター(PGK1p)をより上流領域を含む0.75kb長のPGK1pに置換した。まず、pYPGE15を制限酵素BstXIで消化し、生じた粘着末端をT4 DNA Polymerase(タカラバイオ DNA Blunting Kit)を用いて平滑化した。その後、制限酵素XbaIで消化し、元々pYPGE15に存在した0.27kb長のPGK1pの大部分の領域を除去した。次に、Saccharomyces cerevisiae InvSc1(Invitrogen)のゲノムDNAを鋳型に、PGKp−SmaIプライマー及びPGKp−XbaI−asプライマーを用いてPCRにより、0.75kb長のPGK1pを増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
PGKp−SmaI:5’−gctctagacccgggagatattataacatctgcataatag−3’(配列番号3)
PGKp−XbaI−as:5’−gccgccgtctagatgttttatatttgttgtaaaaagtag−3’(配列番号4)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymerase(Stratagene)を使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られた0.75kbのDNA断片を制限酵素XbaIおよびSmaIで消化し、上述の処理を行ったpYPGE15とQuick Ligation Kit(New England Biolabs)を用いて連結し、大腸菌DH5αコンピテントセル(東洋紡ライフサイエンス)を形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kit(GEヘルスケア)を用いて0.75kb長のPGK1pを含有するベクターを調製し、pYPGE15Lと命名した。
(XR遺伝子、XDH遺伝子およびXK遺伝子のクローニング方法)
まず、Pichia stipitis NBRC10063のゲノムDNAを鋳型にして、XR−XbaIプライマーおよびXR−KpnIプライマーを用いてXR遺伝子(0.96kb)をPCR増幅により単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
XR−XbaI:5’−gggtctagaatgccttctattaagttgaactctgg−3’(配列番号5)
XR−KpnI:5’−ggggtaccttagacgaagataggaatcttgtc−3’(配列番号6)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素XbaIおよびKpnIで消化した後、XbaIおよびKpnIで消化したpYPGE15LにQuick Ligation Kitを用いて連結した。連結物で大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kitを用いてXRがクローニングされたpYPGE15L−XRを調製した。
次に、P. stipitis NBRC10063のゲノムDNAを鋳型にして、XDH−XbaIプライマーおよびXDH−XhoIプライマーを用いてXDH遺伝子(1.1kb)をPCR増幅により単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
XDH−XbaI:5’−ggctctagaatgactgctaacccttccttggtg−3’(配列番号7)
XDH−XhoI:5’−ccgctcgagttactcagggccgtcaatgag−3’(配列番号8)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、58℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素XbaIおよびXhoIで消化し、XbaIおよびXhoIで消化したpYPGE15LにQuick Ligation Kitを用いて連結した。連結物で大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kitを用いてXDHがクローニングされたpYPGE15L−XDHを調製した。
さらに、S. cerevisiae InvSc1のゲノムDNAを鋳型にして、XK−XbaIプライマーおよびXK−XhoIプライマーを用いてXK遺伝子(1.8kb)をPCR増幅により単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
XK−XbaI:5’−ggctctagaatgttgtgttcagtaattcagagacag−3’(配列番号9)
XK−XhoI:5’−ccgctcgagttagatgagagtcttttccag−3’(配列番号10)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃30秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素XbaIおよびXhoIで消化し、XbaIおよびXhoIで消化したpYPGE15LにQuick Ligation Kitを用いて連結した。連結物で大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kitを用いてXKがクローニングされたpYPGE15L−XKを調製した。
(XR−XDH−XK共発現ベクターの構築方法)
まず、pYPGE15L−XKを鋳型にして、PGKp−SphIプライマーおよびCYCt−SbfIプライマーを用いてPGK1プロモーター、XK遺伝子、CYC1ターミネーターから成るPGK1p−XK−CYC1t遺伝子カセット(2.9kb)をPCR増幅により単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
PGKp−SphI:5’−gaccgcatgccacagatattataacatctgcataatag−3’(配列番号11)
CYCt−SbfI:5’−agcccctgcaggaagctttgcaaattaaagccttcg−3’(配列番号12)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、56℃20秒、72℃45秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素SphIおよびSbfIで消化し、SphIおよびSbfIで消化したpAUR101(タカラバイオ;配列番号38)にQuick Ligation Kitを用いて連結した。連結物で大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kitを用いてXK発現用ベクターであるpAUR−XK(配列番号39)を調製した。
次に、pYPGE15L−XDHを鋳型にして、PGKp−SbfIプライマーおよびCYCt−SalIプライマーを用いてPGK1プロモーター、XDH遺伝子、CYC1ターミネーターから成るPGK1p−XDH−CYC1t遺伝子カセット(2.2kb)をPCR増幅により単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
PGKp−SbfI:5’−gcccctgcaggagatattataacatctgcataatag−3’(配列番号13)
CYCt−SalI:5’−agccgtcgacaagctttgcaaattaaagccttcg−3’(配列番号14)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃45秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素SbfIおよびSalIで消化し、SbfIおよびSalIで消化したpAUR―XKにQuick Ligation Kitを用いて連結した。連結物で大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep Mini Spin Kitを用いてXDH及びXK共発現用ベクターであるpAUR−XDHXKを調製した。
さらに、pYPGE15L−XRを鋳型にして、PGKp−SmaIプライマー(配列番号3)およびCYCt−SacIプライマーを用いてPGK1プロモーター、XR遺伝子、CYC1ターミネーターから成るPGK1p−XR−CYC1t遺伝子カセット(2.1kb)をPCR増幅により単離した。CYCt−SacIプライマーの配列を以下に示す。
CYCt−SacI:5’−ggcgagctcaagctttgcaaattaaagccttcg−3’(配列番号15)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃45秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素SmaIおよびSacIで消化した。pAUR―XDHXKをSmaIで消化後、SacIで部分消化し、11.8kbのDNA断片を調製した。これとPGK1p−XR−CYC1tをQuick Ligation Kitを用いて連結し、大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン耐性を獲得した大腸菌よりillustra plasmidPrep
Mini Spin Kitを用いてXR、XDH及びXK共発現用ベクターであるpAUR−XRXDHXKを調製した。
(XR遺伝子、XDH遺伝子およびXK遺伝子の酵母への導入方法)
酵母の形質転換はElbleによる酢酸リチウム法(Elble R, BioTechniques, Vol.13, pp.18−20 (1992))に基づいて行った。以下に手順を示す。YPD培地で1日培養したS. cerevisiae NBRC0224およびC. glabrata NFRI3163をそれぞれ1mLの培養液から遠心分離により集菌し、各々1mLの滅菌水で洗浄後、再度集菌した。S. cerevisiaeの形質転換用には、1μgのpAUR−XRXDHXKを制限酵素BsiWIで消化し、C. glabrataの形質転換用には、5μgのpAUR−XRXDHXKを制限酵素SphIで消化した。これらの直鎖状ベクターをシリカメンブレンカラム(GEヘルスケア illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit)を用いて精製した後、10μLの滅菌水で溶出し、10μLのキャリアーDNA(ニシン精子DNA、100μg)と混合した。これに500μLのPLATE溶液[40%(w/v)ポリエチレングリコール#4000(ナカライテスク)、0.1M 酢酸リチウム、10mM Tris−HCl(pH 7.5),1mM EDTA]を加え混合した溶液で、前述の酵母菌体を懸濁した。室温で1日静置後、遠心分離により集菌し、200μLの滅菌水で菌体を懸濁した。この菌体懸濁液を100μLずつ、2枚のYPD−AbA寒天培地(10g/L Yeast Extract(Difco)、20g/L Polypepton(日本製薬)、20g/L グルコース、0.5μg/mL オーレオバシジンA(タカラバイオ)、20g/L バクトアガー(Difco))に塗布した。30℃で3日間静置培養し、オーレオバシジンA耐性を示したコロニーを単離することにより、XR−XDH−XK系を導入したS. cerevisiaeおよびC. glabrataを取得し、 それぞれS. cerevisiae XR−XDH−XKおよびC. glabrata XR−XDH−XKと命名した。
(遺伝子組換え酵母によるグルコース・キシロース混合培地のエタノール発酵)
上記により製造した遺伝子組換え酵母のエタノール発酵収率を以下の手順により測定した。S. cerevisiae XR−XDH−XKおよびC. glabrata XR−XDH−XKをそれぞれ、30℃でYPD培地を用いて好気的に一晩種培養した後、波長600nmにおける吸光度(OD600)を測定し、種培養液の菌体濃度を求めた。菌体濃度は、OD600=1の場合、0.3g(乾燥重量)/Lに相当するものとして計算した。種培養液を遠心分離により集菌し、菌体を滅菌水で洗浄した後、容量10mLのガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入った5%(w/v)グルコースおよび2%(w/v)キシロースを含有する7mLのYP培地に、初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lとなるように添加した。バイアルをゴム栓(日電理化硝子、液状用ブチルゴム(大))および穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封した。恒温回転式浸とう培養器(タイテック、モデルBR−22FP・MR)を用いて、30℃、35℃、37℃および40℃の各温度で、200rpmで振とう培養を行った。注射針(テルモ、20G×70)を用いて経時的にサンプリングを行い、採取した発酵液から遠心分離によって酵母菌体を除いた後、HPLCによって、発酵液に含まれるエタノール及び糖類の定量分析を行った。HPLCには、前述の島津製作所製装置に配位子交換クロマトグラフィー用カラム(Shodex SP0810)を接続して使用した。移動相に水を用いて、流速0.6ml/分、カラム温度80℃で分析を行った。また、カラムの保護のために脱塩カートリッジ(BioRad)とガードカラム(Shodex SP−G)をSP0810カラムの前に連結した。得られたクロマトグラムについてLC Solution解析ソフトウエア(島津製作所)を使用してサンプルと標準品の保持時間およびピーク面積を比較することにより発酵液中のエタノールおよび糖類の定性および定量分析を行った。
その結果を図4に示す。S. cerevisiae XR−XDH−XK、C. glabrata XR−XDH−XKともグルコースの利用能は40℃でも維持されていた。一方、キシロースの利用能については、S. cerevisiae XR−XDH−XKでは35℃まで、C. glabrata XR−XDH−XKでは37℃までは、比較的高い利用能を維持していたものの、それぞれ37℃、40℃に発酵温度が上がると著しい低下が見られた。以上により、従来の方法に基づいて製造した組換え酵母では、酵母の種類を問わず、40℃においてキシロース発酵を行うことが困難であることを確認した。
(実施例4 Candida glabrataおよびSaccharomyces cerevisiaeを用いたキシロースの同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含むYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra,35U)を加えた培地を用いて、Candida glabrataおよびSaccharomyces cerevisiaeの非遺伝子組換え体について、同時異性化発酵能を解析した。以下に簡単な手順を示す。
(同時異性化発酵の手順)
C. glabrata NFRI3163およびS. cerevisiae InvSc1をそれぞれ、30℃でYPD培地を用いて好気的に一晩種培養した後、OD600を測定し、種培養液の菌体濃度を求めた。菌体濃度は、OD600=1の場合、0.3g(乾燥重量)/Lに相当するものとして計算した。種培養液を遠心分離により集菌し、菌体を滅菌水で洗浄した後、容量10mLのガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入った2%(w/v)キシロースを含有する5mLのYP培地に、初発菌体濃度が0.3g(乾燥重量)/Lとなるように添加した。さらに35Uのグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra)を加えた後、バイアルをゴム栓(日電理化硝子、液状用ブチルゴム(大))および穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封した。恒温回転式浸とう培養器(タイテック、モデルBR−22FP・MR)を用いて、30℃および40℃で、200rpmで振とう培養を行った。注射針(テルモ、20G×70)を用いてサンプリングを行い、採取した発酵液から遠心分離によって酵母菌体を除いた後、HPLCによって、発酵液に含まれるエタノール及び糖類の定量分析を行った。HPLCには、前述の島津製作所製装置に、配位子交換クロマトグラフィー用カラム(Shodex SP0810)を接続して使用した。移動相に水を用いて、流速0.6ml/分、カラム温度80℃で分析を行った。また、カラムの保護のために脱塩カートリッジ(BioRad)とガードカラム(Shodex SP−G)をSP0810カラムの前に連結した。得られたクロマトグラムについてLC Solution解析ソフトウエアを使用して発酵液中のエタノールおよび糖類の定性および定量分析を行った。
以下の表に72時間発酵時の結果を示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率に対する百分率で示す。なお、1gのキシロースから0.51gのエタノールの生成を理論収率とした。
その結果、C. glabrata NFRI3163は、40℃においてS. cerevisiae InvSc1よりも高いエタノール収率を示し、且つ40℃でも30℃と同等の発酵能を示した。ただし、副産物であるキシリトールの蓄積は、発酵温度にかかわらず、C. glabrata NFRI3163の方が、S. cerevisiae InvSc1よりも多かった。
(実施例5 Candida glabrata NFRI3163にキシルロキナーゼを高発現させた株の作製)
本実施例では、同時異性化発酵によるキシロース発酵能のさらなる改善を目的として、C. glabrataのキシルロキナーゼ遺伝子を遺伝子組換えにより上記C. glabrata NFRI3163株に導入し、キシルロキナーゼの高発現により同時異性化発酵の収率を向上させた。以下にそのプロトコールを示す。
(キシルロキナーゼ導入用ベクターの構築方法)
まず、S. cerevisiae由来のPGK1pプロモーターとCYC1tターミネーターおよびウラシル要求性マーカー遺伝子(URA3)を含有する酵母発現用ベクターを以下の手順で構築した。PGK1pを得るために、前出のpAUR−XKプラスミド(配列番号39)を鋳型にしてPGKp−1SプライマーとPGKp−1Aプライマーを用いてPCRを行った。プライマーの配列を以下に示す。
PGKp−1S:5’−gaccgagctccacagatattataacatctgcataatag−3’(配列番号16)
PGKp−1A:5’−gccgccgtctagatgttttatatttgttgtaaaaagtag−3’(配列番号17)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素SacIおよびXbaIで消化し、pRS406ベクターのSacIおよびXbaIサイトにクローニングした。CYC1t(0.2kb)は、p424GPDベクターをKpnIおよびXhoIで消化することにより得た。このDNA断片を、PGK1pをクローニングしたpRS406のKpnIおよびXhoIサイトにクローニングし、pRS406−PGKpCYCtを作製した。製造したベクターpRS406−PGKpCYCtの概略図を図5に示す。
次に、GenBank DNAデータベースに登録されていたC. glabrata
CBS138の染色体DNA塩基配列(アクセス番号:CR380953)の中から、S. cerevisiaeのキシルロキナーゼ遺伝子と相同性を示す遺伝子(CgXK)を見出した。この配列情報を基にCgXK−1SプライマーとCgXK−2Aプライマーを合成し、C. glabrata NFRI3163のゲノムDNAを鋳型に用いてPCR増幅によりCgXKを単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
CgXK−1S:5’−cgaattccacaatgcaaggcgaaggttattac−3’(配列番号18)
CgXK−2A:5’−ccgctcgagttactttaactcttcttctaatttgctc−3’(配列番号19)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃30秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られた1.8kbのDNA断片を制限酵素EcoRIおよびXhoIで消化した後、pRS406−PGKpCYCtのEcoRIおよびXhoIサイトにクローニングし、pRS406−CgXKを作製した。製造したベクターpRS406−CgXKの概略図を図6に示す(CgXKの核酸配列は配列番号28でありアミノ酸配列は配列番号29である。pRS406ベクターの配列は配列番号30である。pRS406−CgXKベクターの配列は配列番号31である。)。
(C. glabrata NFRI3163のウラシル要求性変異株の単離)
C. glabrata NFRI3163の抗生物質の添加を必要としない形質転換を行うために、ウラシル要求性変異株の単離を行った。ウラシル要求性変異株の単離はBoekeらの方法(Boeke JD,et al., Molecular and General Genetics,Vol.197, pp.345−346)に基づいて行った。以下に簡単な手順を示す。
C. glabrata NFRI3163をYPD培地で30℃、1日培養後、1mLの培養液から遠心分離によって集菌し、1mLの滅菌水で2回洗浄した。菌体を再度1mLの滅菌水に懸濁後、100μLずつ5−FOA寒天培地[6.7g/L Yeast Nitrogen Base without Amino acids(Difco)、0.77g/L CSM−Ura(Sunrise Science)、20g/L グルコース、50mg/L ウラシル、1g/L 5−フルオロオロト酸(ナカライテスク)、20g/L Bactoagar(Difco)]に塗布し、30℃で4日間静置培養した。5−FOA寒天培地上に生育してきたコロニーを、SC寒天培地[6.7g/L Yeast Nitrogen Base without Amino acids、0.79g/L CSM(Sunrise Science)、20g/L グルコース、20g/L Bactoagar]およびSC−Ura寒天培地[6.7g/L Yeast Nitrogen Base without Amino acids、0.77g/L CSM―Ura、20g/L グルコース、20g/L Bactoagar]にそれぞれ植菌し、30℃で2日間静置培養した後、SCで生育し、SC−Uraでは生育しない株をウラシル要求性変異株として選抜し、C. glabrata 3163 ura012と命名した。
(CgXKのC. glabrataへの導入)
5μgのpRS406−CgXKを制限酵素SacIで直鎖状にした後、3163 ura012株をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換した。SC−Ura寒天培地上で生育してきたコロニーを単離し、得られた形質転換株をCandida glabrata 3163−CgXK<NITE受託番号:P−1358>と命名し、以下の実施例で用いた。
(実施例6 キシルロキナーゼ遺伝子を高発現させたCandida glabrataによるキシロースの同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、実施例5で作製したキシルロキナーゼを高発現させたC. glabrata 3163−CgXKを初発菌体濃度が0.3g(乾燥重量)/Lとなるよう添加し、72時間同時異性化発酵を行った。発酵液に含まれるエタノールおよび糖類をHPLCにより測定し、キシロース消費量、エタノール収率およびキシリトール蓄積量を求めた。同時異性化発酵およびHPLCによる解析は、実施例4と同様に行った。結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
その結果、Candida glabrata 3163−CgXKは、30℃、40℃ともに高いキシロース消費量およびエタノール収率を示した。親株であるNFRI3163株に比べ、発酵温度30℃において2.4倍、40℃において2.2倍、エタノール収率が向上し、40℃でも理論収率の70%を超える高いエタノール収率を示した。一方、40℃におけるキシリトール蓄積量はNFRI3163よりも高くなっていた。
(実施例7 キシルロキナーゼを高発現させたSaccharomyces cerevisiaeによるキシロースの同時異性化発酵)
また、S. cerevisiae InvSc1(Invitrogenから入手可能)にキシルロキナーゼを高発現させた株(InvSc1−ScXK6)を作製し、これについても同時異性化発酵のデータを取得した。以下に手順を示す。
(キシルロキナーゼを高発現するS. cerevisiaeの作製方法)
pAUR−XK(配列番号39)を鋳型にして、SXK−1SプライマーおよびSXK−1Aプライマーを用いてXK遺伝子をPCR増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
ScXK−1S:5’−ccatcgatcacaatgttgtgttcagtaattcagag−3’(配列番号20)
ScXK−1A:5’−ccgctcgagttagatgagagtcttttcc−3’(配列番号21)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃30秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られた1.8kbのDNA断片を制限酵素ClaIおよびXhoIで消化した後、pRS406−PGKpCYCtのClaIおよびXhoIサイトにクローニングし、pRS406−XKを作製した。製造したベクターpRS406−XKの概略図を図7に示す。
2μgのpRS406−XKを制限酵素SbfIで直鎖状にした後、S. cerevisiae InvSc1をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換した。SC−Ura寒天培地上で生育してきたコロニーを単離し、得られた形質転換株をS. cerevisiae InvSc1−ScXKと命名した。
(キシルロキナーゼを高発現させたS. cerevisiaeによる同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、S. cerevisiae InvSc1−ScXKを初発菌体濃度が0.3g(乾燥重量)/Lとなるよう添加し、72時間および150時間同時異性化発酵を行った。発酵液に含まれるエタノールおよび糖類をHPLCにより測定し、キシロース消費量、エタノール収率およびキシリトール蓄積量を求めた。同時異性化発酵およびHPLCによる解析は、実施例4と同様に行った。結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて、表4は72時間発酵したときの、表5は150時間発酵したときの、エタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
S. cerevisiaeでもキシルロキナーゼの高発現によって同時異性化発酵におけるキシロース消費量の増加およびエタノール収率の向上効果が得られた。キシルロキナーゼを高発現させたInvSc1−ScXKは、親株であるInvSc1株に比べ、72時間発酵時のエタノール収率は、30℃で2.6倍、40℃で3.2倍、150時間発酵時のエタノール収率は30℃で2.0倍、40℃で4.2倍、向上した。このように、酵母の種類に関わらず、キシロース発酵能(キシロースをエタノールに変換する能力)の向上に対して、発酵温度30℃においてだけでなく、40℃においても、キシルロキナーゼの高発現の効果があることが確認された。しかしながら、S. cerevisiaeでは40℃におけるエタノール収率は40%程度に留まった。すなわち、実施例6で達成されたような40℃において70%を超える高いエタノール収率を得るには、単にキシルロキナーゼを高発現させれば良い訳ではなく、40℃で高いキシルロース発酵能(キシルロースをエタノールに変換する能力)を有する酵母株を宿主として使用することが必要であることが確認された。C. glabrataが40℃において高いキシルロース発酵能を有することはこれまで報告されておらず、したがって、C. glabrata NFRI3163にキシルロキナーゼを高発現させることにより40℃において顕著に高いキシロース同時異性化発酵能が得られることは予測できなかったものである。
(実施例8 相同組換えによるCandida glabrata染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子の破壊)
C. glabrataはS. cerevisiaeと異なり、通常、非相同末端結合により外来遺伝子の染色体への挿入が起こるが、相同部分を0.45塩基対と長くとることにより、相同組換えを起こすことができた。具体的には以下のとおりに行った。その模式図は、図8上パネルに示している。図8上パネルでは、相同組換えのスキームおよび非相同末端結合の模式図を示している。以下に行った手順の概要を示す。
(アルドースレダクターゼ遺伝子破壊用DNA断片の調製方法)
GenBank DNAデータベースに登録されていたC. glabrata CBS138の染色体DNA塩基配列(アクセス番号:CR380955)の中から、S. cerevisiaeのアルドースレダクターゼ遺伝子(GRE3)と相同性を示す遺伝子(CgGRE3)を見出した。この配列情報を基にCgGRE3−1SプライマーとCgGRE3−1Aプライマーを合成し、C. glabrata NFRI3163のゲノムDNAを鋳型に用いてPCR増幅によりCgGRE3をコードするDNA断片(1.0kb)を単離した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
CgGRE3−1S:5’−GGCGGATCCATGTCTAGTGTTGTTACTTTGAACAATGG−3’(配列番号22)
CgGRE3−1A:5’−CCGCTCGAGTTAAGCAAAGATTGGGAACTTACCATC−3’(配列番号23)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、58℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素BamHIおよびXhoIで消化した後、BamHIとXhoIで消化したpBluescript II KS(+)ベクター(Stratagene)にクローニングし、pBS−CgGRE3と命名した。図9に模式図を示す。
次に、S. cerevisiaeのURA3遺伝子およびURA3プロモーターを、pRS406ベクターを鋳型に、ScURA3−1SプライマーおよびScURA3−1Aプライマーを用いて、PCRによって増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
ScURA3−1S:5’−CCATCGATTAAGATTCGGTAATCTCCGAACAGAAGG−3’(配列番号24)
ScURA3−1A:5’−CCATCGATTAATTAGTTTTGCTGGCCGCATCTTC−3’(配列番号25)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、56℃20秒、72℃15秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。得られたDNA断片を制限酵素ClaIで消化した。pBS−CgGRE3をClaIで消化し、セルフライゲーションを防ぐためにAntarctic Phospahtase(New England Biolabs)を使用して脱リン酸化処理を行った後、URA3およびURA3プロモーターを挿入し、pBS−CgGRE3−URA3を作製した。図10に模式図を示す。pBS−CgGRE3−URA3を鋳型に、CgGRE3−2SプライマーとCgGRE3−2Aプライマーを用いてPCRを行い、CgGRE3の5’−末端から0.45kbの位置にURA3およびURA3プロモーターが挿入されたDNA断片(2.0kb)を増幅した。使用したプライマーの配列を以下に示す。
CgGRE3−2S:5’−ATGTCTAGTGTTGTTACTTTGAACAATGG−3’(配列番号26)
CgGRE3−2A:5’−TTAAGCAAAGATTGGGAACTTACCATC−3’(配列番号27)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、50℃20秒、72℃30秒]×30サイクル+72℃3分の条件で行った。
(アルドースレダクターゼ遺伝子が欠損したC. glabrata株の作製方法)
前項で得られた2.0kbのDNA断片を用いて、C. glabrata 3163 ura012株をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換した。SC−Ura寒天培地上で生育してきたコロニーの中から、相同組換えを起こした組換え体をコロニーPCRにより選抜し、C. glabrataのアルドースレダクターゼ(CgGRE3)破壊株を取得した。コロニーPCRは、以下の条件で行った。
プライマーにはCgGRE3−2S(配列番号26)とCgGRE3−2A(配列番号27)を用いて、耐熱性DNAポリメラーゼにはMightyAmp Ver.2 Polymerase(タカラバイオ)を使用した。SC−Ura寒天培地上に生育してきたコロニーをPCR反応液に懸濁し、98℃2分+[98℃10秒、50℃15秒、68℃2分]×30サイクルの条件でPCRを行った。反応終了後、反応液の一部を0.8%(w/v)アガロースゲル(タカラバイオ、アガロースLO3)で電気泳動し、PCR産物のサイズを解析した。
その結果を図8下パネルに示す。下パネルで示すように、コロニーPCRに供した47コロニーのうち、レーン1および2のコロニー#17およびコロニー#35が相同組換えを起こしていることが判明した。レーン3は非相同末端結合を起こしたコロニー#19の、レーン4は親株である3163 ura012株のPCRの結果を参考に示す。コロニー#35をC. glabrata 3163 Δgre3−35<NITE受託番号 P−1359>と命名し、以下の実施例に使用した。
(実施例9 アルドースレダクターゼ破壊株によるキシロースの同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、実施例8で作製したアルドースレダクターゼ遺伝子を破壊したCandida glabrata 3163 Δgre3−35を用いて、72時間同時異性化発酵を行った。
その結果、C. glabrata 3163 Δgre3−35は、30℃、40℃ともに、キシリトールの蓄積量が著しく減少した。キシリトール/エタノール比は、元のNFRI3163株に比べ、30℃において21分の1に、40℃において9分の1に減少した。また、キシロース消費量は親株と同等であるにもかかわらず、エタノール収率がNFRI3163株よりも増加しており、キシリトールの生成抑制がエタノール収率の向上に有効であることを確認した。結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
(実施例10 キシルロキナーゼ高発現とアルドースレダクターゼ欠損を組み合わせた遺伝子組換え体によるキシロースの同時異性化発酵)
本実施例では、キシルロキナーゼを高発現させ、アルドースレダクターゼを欠損させたCandida glabrata 3163 dgXK1<NITE受託番号 P−1357>を用いてキシロースの同時異性化発酵を行った。C. glabrata 3163 dgXK1の作製は以下のとおりに行った。
(作製手順)
実施例5に記載の方法と同様に5−フルオロオロト酸耐性を利用したスクリーニング方法により、C. glabrata 3163 Δgre3−35株についてウラシル要求性変異株を取得し、3163 Δgre3−35 ura05と命名した。実施例5で作製したpRS−CgXKを制限酵素SacIで消化した後、Elbleの酢酸リチウム法により、3163 Δgre3−35 ura05を形質転換した。SC−Ura寒天培地上で生育したコロニーを単離し、C. glabrata 3163 dgXK1を取得した。
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、72時間同時異性化発酵を行った。その結果を表7に示す。C. glabrata 3163 dgXK1は、30℃、40℃ともに高いエタノール収率と低いキシリトール蓄積を示した。エタノール収率は元のNFRI3163株に比べ、30℃において2.6倍、40℃において2.3倍に向上した。また、キシリトール/エタノール比は、30℃において84分の1、40℃において12分の1であった。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
好ましい実施形態としてのCandida glabrataはキシルロキナーゼを高発現させることにより40℃におけるキシロースの同時異性化発酵において70%を超えるエタノール収率を得られたが、キシリトールの蓄積量が多く、エタノール収率の低下を招いていると考えられた。そこで、さらに好ましい実施形態を作製するために相同組換えによりC. glabrata NFRI3163の染色体上に存在するアルドースレダクターゼをコードする遺伝子を欠損させることにより、同時異性化発酵の過程でキシロースからキシリトールが生成されることを抑制した。
以上の改良により、40℃において、理論収率の75%以上の収率でのキシロースからのエタノールの生産を達成することができた。
実施例3で示したように、従来の方法でもキシルロキナーゼを遺伝子組換えにより酵母で高発現させているものの、40℃でキシロースを効率的に発酵することはできなかった。したがって、キシルロキナーゼの高発現が40℃という高温におけるキシロース発酵能の向上に有効であることは予測されていなかった。また、アルドースレダクターゼの欠損により、40℃という高温でのキシロース発酵能が上昇することも予測されていなかった。そして、40℃でキシルロース発酵能が高い株に対して、キシルロキナーゼ活性の増強およびアルドースレダクターゼの欠損を行うことによって、得られた本実施例で証明された効果は、これまで報告されていなかったような高いキシロース発酵能である。本実施例のように同時異性化発酵に用いるために、キシルロキナーゼの高発現やアルドースレダクターゼの欠損をさせた報告はなく、両改良が40℃という高温で同時異性化発酵においても同様の効果を起こすことは予測されていなかった。
したがって、本発明の高温でのキシロース同時異性化発酵収率向上の効果は、顕著なものと評価することができる。
また、40℃で発酵する酵母の報告はあるものの、本発明で作製された、特に、C. glabrataのような菌株ほどのキシロース発酵能は報告がなく、キシロース発酵能を絶対値としてみた場合でも本発明は顕著な効果を奏するというべきである。
(実施例11 遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵)
稲わらのグルコースおよびキシロースの含有比を模して5%(w/v)グルコースおよび2%(w/v)キシロースを加えた5mLのYP培地に、グルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、 35U)を添加し、初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/LとなるようにCandida glabrata 3163 dgXK1を植菌して、同時異性化発酵を行った。
結果を図11に示す。C. glabrata 3163 dgXK1は、30℃、40℃ともに高いエタノール収率と低いキシリトール蓄積を示した。特に40℃においては、発酵72時間で理論収率の92%に相当する非常に高い収率でエタノールを生産した。また、グルコースイソメラーゼによって、グルコースはフルクトースに変換されるが、本株はグルコースだけでなくフルクトースも問題無くエタノール発酵することを確認した。72時間培養時のエタノール発酵の結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて表示された基質を72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率に対する百分率で示す。
以上の実験から、本発明では、グルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵も効率よく行うことができることが示された。
(実施例12:並行複発酵と同時異性化発酵との組み合わせによる稲わらからのエタ
ノール生産)
本実施例では、作製したCandida glabrata 3163 dgXK1の有するバイオマス原料からのエタノール発酵能を示すために、稲わらを用いて30℃および40℃において同時異性化発酵を組み合わせた並行複発酵によるエタノール生産を行った。以下に実験方法を示す。
(稲わらの前処理方法)
徳安らの方法(特許文献5)に従い行った。乾燥稲わら(2010年度茨城県産コシヒカリ)をコーワカッター(新興和産業、モデルSU−16)で約13mmに切断後、ハンマーミル刃を装填したマルチミル(グローエンジニアリング、モデルRD−15)で約0.5mmに粉砕した。その後、グラインダー(ウエスト、モデルMPW−G008)をクリアランス0.5mmに設定して更に粉砕した。この粉砕稲わら(500mg)と水酸化カルシウム(100mg)を容量10mLのガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入れよく混合した後、3.33mLの蒸留水を加え、ガラスバイアルをゴム栓(日電理化硝子、液状用ブチルゴム(大))および穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封し、120℃で1時間加熱処理を行った。室温まで冷却した後、注射針(テルモ、20G×70)を使用してバイアル内の空気を二酸化炭素ガスに置換し、さらに、二酸化炭素ガスを1.5気圧に加圧しながら約5mL注入した。一晩、室温に放置し、稲わら前処理物を完成させた。
(同時異性化発酵を組み合わせた並行複発酵方法)
稲わら前処理物の入ったバイアルを一旦開封し、グルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を添加した後、バイアルを再び密封し、二酸化炭素ガスを1.5気圧に加圧しながら約5mL注入した。セルラーゼ製剤(Novozymes、Cellclast 1.5L、1.1mg)、β−グルコシダーゼ製剤(Novozymes、Novozyme 188、0.28mg)およびヘミセルラーゼ製剤(Novozymes、Ultraflo L、0.45mg)を注射針(テルモ、20G×70)で添加した。YPD培地で一晩好気的に培養したC. glabrata 3163 dgXK1を遠心分離で集菌し、滅菌水で洗浄した後、初発菌体濃度が1.5g(乾燥重量)/Lとなるよう、稲わら前処理物および酵素の入ったバイアルに注射針(テルモ、20G×70)で添加した。酵母を加えたバイアルを30℃および40℃に設定した恒温器内に設置した転倒回転型撹拌器(ATR、Rotamix)に取り付け、50RPMで回転させながら発酵を行った。注射針(テルモ、20G×70)を用いて経時的にサンプリングを行い、採取した発酵液から遠心分離によって酵母菌体および稲わら残渣を除き、続いて限外ろ過(ポール、ナノセップ遠心ろ過デバイス、10K)により上清から糖化酵素を除去した後、HPLCによって発酵液に含まれるエタノール及び糖類の定量分析を行った。HPLCによる解析は、実施例4に記載の方法により行った。
データを、以下の表および図12に示す。表中の数値は120時間発酵時の結果を示す。
以上のように、稲わら前処理物も40℃で並行複発酵可能であり、理論収率(稲わら中に含まれる全ての糖がエタノールに変換された場合)の75%でエタノール発酵されたことを確認した。40℃で並行複発酵と同時異性化発酵を組み合わせて行った例はこれまでになく、まさに、本発明において初めて達成された例であるといえる。
(実施例13:基質キシロース濃度および初発菌体濃度の変動の影響)
本実施例では、基質キシロース濃度および初発菌体濃度を変更したときの影響を確認する実験を行った。実験手順は以下のとおりである。
2%(w/v)もしくは6%(w/v)キシロースを含有する5mLのYP培地を発酵用培地とした。YPD培地で一晩、好気的に種培養した酵母(C. glabrata 3163 dgXK1およびS. cerevisiae InvSc1)を遠心分離により集菌した後、菌体を滅菌水で洗浄し、発酵試験に用いる酵母菌体とした。
上記発酵用培地5mLを10mL容量のガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入れ、そこに0.3g(乾燥重量)/L、2g(乾燥重量)/Lもしくは6g(乾燥重量)/Lとなるよう酵母菌体を加えた。さらにグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra)を2%(w/v)キシロースを含む培地には35U、6%(w/v)キシロースを含む培地には105U加えた後、バイアルを液状用ブチルゴム(大)と穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封し、40℃で同時異性化発酵を行った。発酵液に含まれるエタノールおよび糖類を高速液体クロマトグラフィーにより測定し、エタノール収率およびキシリトール蓄積量を求めた。同時異性化発酵およびHPLCによる解析は、実施例4と同様に行った。
以下の表に72時間発酵における結果を示す。
C. glabrata 3163 dgXK1の40℃でのキシロース同時異性化発酵において、初発菌体濃度を増やすことにより、エタノール収率の向上が確認された。一方、キシリトールの蓄積量の増加はほとんど無かった。6%(w/v)という高濃度のキシロースに対しても、初発菌体濃度を2g(乾燥重量)/Lに増やすことにより、70%以上のエタノール収率を確保していた。一方、S. cerevisiae InvSc1においても、初発菌体濃度を増やすことによりエタノール収率の向上が見られたが、キシロース濃度にかかわらず、初発菌体濃度6g(乾燥重量)/Lを用いても本発明により製造したC. glabrata 3163 dgXK1の初発菌体濃度6g(乾燥重量)/Lの場合はもとより、0.3g(乾燥重量)/Lの場合のエタノール収率も上回ることはできなかった。このことは、C. glabrata 3163 dgXK1の40℃でのキシロース同時異性化発酵において顕著に優れた性能を有していることを示している。
初発菌体濃度を増やせばエタノール収率は向上するが、より多くの酵母菌体を調製するために種培養の量も増やさなければならない。初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lは、発酵液の1/10量程度の種培養で済むため、現実的な条件である。また、並行複発酵では、発酵終了後の発酵液の中にバイオマスの残渣が存在するため、発酵液から酵母をバイオマス残渣と分けて回収し、再利用することは困難である。したがって出来るだけ少ない酵母量で発酵を行えることが並行複発酵を経済的に行うための重要な特徴のひとつであるところ、本発明では、比較的少ない種培養でも効率よく並行複発酵行うことができた点も留意すべきであることが理解される。
(実施例14 40℃においてキシルロース発酵能の高いSaccharomyces cerevisiaeを用いたキシロースの同時異性化発酵)
実施例1に記載の方法で、農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所が保有する酵母株の中から40℃においてキシルロース発酵能が高いSaccharomyces cerevisiae株としてSt10−1−1<受託番号 NITE P−01620>を単離した。S. cerevisiae St10−1−1の同時異性化発酵能について、2%(w/v)キシロースを含むYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra,35U)を加えた培地を用いて解析した。以下に手順を示す。
(同時異性化発酵の手順)
S. cerevisiae St10−1−1を、30℃でYPD培地を用いて好気的に一晩種培養した後、OD600を測定し、種培養液の菌体濃度を求めた。菌体濃度は、OD600=1の場合、0.4g(乾燥重量)/Lに相当するものとして計算した。種培養液を遠心分離により集菌し、菌体を滅菌水で洗浄した後、容量10mLのガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入った2%(w/v)キシロースを含有する5mLのYP培地に、初発菌体濃度が0.3g(乾燥重量)/Lとなるように添加した。さらに35Uのグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra)を加えた後、バイアルをゴム栓(日電理化硝子、液状用ブチルゴム(大))および穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封した。恒温回転式浸とう培養器(タイテック、モデルBR−22FP・MR)を用いて、30℃および40℃で、200rpmで振とう培養を行った。注射針(テルモ、20G×70)を用いてサンプリングを行い、採取した発酵液から遠心分離によって酵母菌体を除いた後、HPLCによって、発酵液に含まれるエタノール及び糖類の定量分析を行った。HPLCには、前述の島津製作所製装置に、配位子交換クロマトグラフィー用カラム(バイオラッド、Aminex HPX−87H)を接続して使用した。移動相に水を用いて、流速0.6ml/分、カラム温度50℃で分析を行った。また、カラムの保護のためにガードカラム(Shodex SH−G)をHPX−87Hカラムの前に連結した。得られたクロマトグラムについてLC Solution解析ソフトウエアを使用して発酵液中のエタノールおよび糖類の定性および定量分析を行った。
以下の表に72時間発酵時の結果を示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率に対する百分率で示す。なお、1gのキシロースから0.51gのエタノールの生成を理論収率とした。
その結果、S. cerevisiae St10−1−1は、40℃において発酵能が低下することなく、むしろ30℃よりも高いエタノール収率を示した。
(実施例15 キシルロキナーゼを高発現させた40℃においてキシルロース発酵能の高いSaccharomyces cerevisiaeを用いたキシロースの同時異性化発酵)
本実施例では、S. cerevisiaeのキシルロキナーゼ遺伝子を遺伝子組換えにより上記S. cerevisiae St10−1−1株に導入し、キシルロキナーゼの高発現により同時異性化発酵の収率を向上させた。以下にそのプロトコールを示す。
(キシルロキナーゼを高発現株の作製)
実施例3で作成したpAUR−XK(配列番号39)を制限酵素BsiWIで直鎖状にした後、S. cerevisiae St10−1−1をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換した。YPD−AbA寒天培地上で生育してきたコロニーを単離し、得られた形質転換株をS. cerevisiae St10−ScXK<受託番号 NITE P−01618>と命名した。
(同時異性化発酵の手順)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、S. cerevisiae St10−ScXK(受託番号 NITE P−01618)を初発菌体濃度が0.3g(乾燥重量)/Lとなるよう添加し、72時間同時異性化発酵を行った。発酵液に含まれるエタノールおよび糖類をHPLCにより測定し、キシロース消費量、エタノール収率およびキシリトール蓄積量を求めた。同時異性化発酵およびHPLCによる解析は、実施例14と同様に行った。結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて、72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
その結果、S. cerevisiae St10−ScXKは、30℃、40℃ともに高いキシロース消費量およびエタノール収率を示した。親株であるSt10−1−1株に比べ、発酵温度30℃において2.4倍、40℃において1.9倍、エタノール収率が向上し、40℃でも理論収率の75%を超える高いエタノール収率を示した。
S. cerevisiaeでもキシルロキナーゼの高発現によって同時異性化発酵におけるキシロース消費量の増加およびエタノール収率の向上効果が得られることは、すでに実施例7で示しているが、この時の40℃におけるエタノール収率は40%程度に留まった。すなわち、本実施例で達成されたような40℃において75%を超える高いエタノール収率を得るには、単にキシルロキナーゼを高発現させれば良い訳ではなく、40℃で高いキシルロース発酵能(キシルロースをエタノールに変換する能力)を有する酵母株を宿主として使用することが必要であることがここでも確認された。一般にS. cerevisiaeの発酵に適した温度は30℃〜35℃とされており、S. cerevisiaeにキシルロキナーゼを高発現させることにより40℃において顕著に高いキシロース同時異性化発酵能が得られることは予測できなかったものである。
(実施例16 相同組換えによるSaccharomyces cerevisiae染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子の破壊)
相同組換えに基づく外来遺伝子の染色体への挿入によって、Saccharomyces cerevisiaeの内在性アルドースレダクターゼ遺伝子(GRE3)の破壊を行った。S. cerevisiae St10−1−1は二倍体であるため、図13に示したように、2種類の抗生物質耐性遺伝子を利用して、2本の相同染色体上のGRE3遺伝子を両方とも破壊した。以下に行った手順の概要を示す。
(1本の染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子が欠損したS. cerevisiae株の作製方法)
GenBank DNAデータベースに登録されていたS. cerevisiae S288cの染色体DNA塩基配列(アクセス番号:BK006934)の中から、アルドースレダクターゼ遺伝子(GRE3)およびその近傍の配列情報を得た。GRE3遺伝子5’―上流領域の40塩基に対する相同配列とpPICZ Bプラスミド(インビトロジェン)上のTEF1プロモーターの20塩基に対する相同配列とを連結したGRE3ZEOR−1Sプライマー、およびGRE3遺伝子3’―下流領域の40塩基に対する相同配列とpPICZ Bプラスミド上のCYC1ターミネーターの20塩基に対する相同配列とを連結したGRE3ZEOR−1Aプライマーを合成した。これらのプライマーを用いてpPICZ Bプラスミドを鋳型にPCR増幅することにより、ゼオシン耐性遺伝子(ZEO)発現カセット(TEF1プロモーター―ZEO―CYC1ターミネーターの融合遺伝子)の両端に、GRE3遺伝子の5’―および3’―近傍領域の相同配列が40塩基ずつ付加されたDNA断片を得た。使用したプライマーの配列を以下に示す。下線部分がGRE3遺伝子の近傍領域に対する相同配列である。
GRE3ZEOR−1S:5’−ATAGTTGTCAGTGCAATCCTTCAAGACGATTGGGAAAATAAGTGAGACCTTCGTTTGTGC−3’(配列番号32)
GRE3ZEOR−1A:5’−ATGTAAAAATTTATACACATATACAGCATCGGAATGAGGGATTAAAGCCTTCGAGCGTCC−3’(配列番号33)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃30秒]×10サイクル+[95℃20秒、65℃20秒、72℃30秒]×20サイクル+72℃3分の条件で行った。
PCRにより得られたDNA断片を用いてS. cerevisiae St10−1−1株をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換し、50 mg/L ゼオシン(インビトロジェン)を含むYPD寒天培地上で生育したコロニーを単離し、S. cerevisiae St10 GRE3::ZEOを取得した。
(2本の染色体上のアルドースレダクターゼ遺伝子が欠損したS. cerevisiae株の作製方法)
次に、GRE3遺伝子5’―上流領域の40塩基に対する相同配列とp427―TEFプラスミド(デュアルシステムズ・バイオテック)上のTEF1プロモーターの20塩基に対する相同配列とを連結したGRE3KANR−1Sプライマーおよび、GRE3遺伝子3’―下流領域の40塩基に対する相同配列とp427―TEFプラスミド上のTEF1ターミネーターの20塩基に対する相同配列とを連結したGRE3KANR−1Aプライマーを合成した。これらのプライマーを用いてp427―TEFプラスミドを鋳型にPCR増幅することにより、G418耐性遺伝子(KAN)発現カセット(TEF1プロモーター―KAN―TEF1ターミネーターの融合遺伝子)の両端に、GRE3遺伝子の5’―および3’―近傍領域の相同配列が40塩基ずつ付加されたDNA断片を得た。使用したプライマーの配列を以下に示す。下線部分がGRE3遺伝子の近傍領域に対する相同配列である。なお、KAN遺伝子がすでにZEO遺伝子が挿入されている側の染色体と相同組換えを起こさないようにするため、KAN発現カセットの両端には、ZEO発現カセットの両端に付加したものよりも内側のGRE3近傍領域に対する相同配列を付加した。
GRE3KANR−1S:5’−GTAATATAAATCGTAAAGGAAAATTGGAAATTTTTTAAAGCCCAGAATACCCTCCTTGAC−3’
(配列番号34)
GRE3KANR−1A:5’−TTGTTCATATCGTCGTTGAGTATGGATTTTACTGGCTGGAGGATGGCGGCGTTAGTATCG−3’(配列番号35)
PCRはPfuUltra II fusion HS DNA Polymeraseを使用して、95℃2分+[95℃20秒、55℃20秒、72℃30秒]×10サイクル+[95℃20秒、65℃20秒、72℃30秒]×20サイクル+72℃3分の条件で行った。
PCRにより得られたDNA断片を用いてS. cerevisiae St10 GRE3::ZEO株をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換し、200 mg/L G418(カルバイオケム)を含むYPD寒天培地上で生育したコロニーを単離し、S. cerevisiae St10 Δgre3−2<受託番号 NITE P−01619>と命名した。さらに、St10 Δgre3−2が、50 mg/L ゼオシンおよび200 mg/L G418を含むYPD寒天培地上でも生育し、両抗生物質に耐性を有していることも確認した。
(実施例17 アルドースレダクターゼ破壊株によるキシロースの同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、実施例16で作製したアルドースレダクターゼ遺伝子を破壊したSaccharomyces cerevisiae St10 Δgre3−2を用いて、72時間同時異性化発酵を行った。
その結果、S. cerevisiae St10 Δgre3−2は、30℃ではキシリトールの蓄積量に変化は無かったが、40℃においてキシリトールの蓄積量が減少した。キシリトール/エタノール比は、親株であるSt10−1−1に比べ、40℃において19%減少した。結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
(実施例18 キシルロキナーゼ高発現とアルドースレダクターゼ欠損を組み合わせた遺伝子組換え体によるキシロースの同時異性化発酵)
本実施例では、キシルロキナーゼを高発現させ、アルドースレダクターゼを欠損させたSaccharomyces cerevisiae St10 dgXK1<NITE受託番号 P−01617>を用いてキシロースの同時異性化発酵を行った。S. cerevisiae St10 dgXK1の作製は以下のとおりに行った。
(作製手順)
実施例15に記載の方法と同様にpAUR−XK(配列番号39)を制限酵素BsiWIで直鎖状にした後、S. cerevisiae St10 Δgre3−2(受託番号 NITE P−01619)をElbleによる酢酸リチウム法により形質転換した。YPD−AbA寒天培地上で生育してきたコロニーを単離し、得られた形質転換株をS. cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617)と命名した。
(同時異性化発酵)
2%(w/v)キシロースを含む5mLのYP培地にグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、35U)を加え、72時間同時異性化発酵を行った。その結果を表14に示す。S. cerevisiae St10 dgXK1は、30℃、40℃ともに高いエタノール収率と低いキシリトール蓄積を示した。特にエタノール収率は、40℃でも80%以上と非常に高い値を維持していた。親株であるSt10−1−1との比較では、エタノール収率は、30℃において2.5倍、40℃において2.0倍に向上した。また、キシリトール/エタノール比は、30℃において5.3分の1、40℃において3.3分の1であった。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、2%(w/v)キシロースを基質として初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率(0.51g/g)に対する百分率で示す。
(実施例19 遺伝子組換え体によるグルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵)
稲わらのグルコースおよびキシロースの含有比を模して5%(w/v)グルコースおよび2%(w/v)キシロースを加えた5mLのYP培地に、グルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra、 35U)を添加し、初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/LとなるようにSaccharomyces cerevisiae St10−1−1あるいはSt10 dgXK1を植菌して、同時異性化発酵を行った。
結果を図14に示す。S. cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617)は、30℃、40℃ともに親株であるSt10−1−1よりも高いエタノール収率と低いキシリトール蓄積を示した。特に40℃においては、発酵72時間で理論収率の88%に相当する非常に高い収率でエタノールを生産した。72時間培養時のエタノール発酵の結果を以下の表に示す。表中のエタノール収率は、添加基質量に対する収率であり、初発菌体濃度0.3g(乾燥重量)/Lを用いて表示された基質を72時間発酵したときのエタノール収率を理論収率に対する百分率で示す。
以上の実験から、本発明では、グルコース・キシロース混合培地の同時異性化発酵も効率よく行うことができることが示された。
(実施例20:並行複発酵と同時異性化発酵との組み合わせによる稲わらからのエタノール生産)
本実施例では、作製したSaccharomyces cerevisiae St10 dgXK1の有するバイオマス原料からのエタノール発酵能を示すために、稲わらを用いて30℃および40℃において同時異性化発酵を組み合わせた並行複発酵によるエタノール生産を行った。稲わらの前処理方法および同時異性化発酵を組み合わせた並行複発酵方法は、使用菌株を除き実施例12に記載した通りである。また、HPLCによる発酵液に含まれるエタノール及び糖類の定量分析は、実施例14に記載の方法により行った。
データを、以下の表および図15に示す。表中の数値は120時間発酵時の結果を示す。
以上のように、稲わら前処理物も40℃で並行複発酵可能であり、理論収率(稲わら中に含まれる全ての糖がエタノールに変換された場合)の71%でエタノール発酵されたことを確認した。
(実施例21:基質キシロース濃度および初発菌体濃度の変動の影響)
本実施例では、基質キシロース濃度および初発菌体濃度を変更したときの影響を確認する実験を行った。実験手順は以下のとおりである。
2%(w/v)もしくは6%(w/v)キシロースを含有する5mLのYP培地を発酵用培地とした。YPD培地で一晩、好気的に種培養した酵母(Saccharomyces cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617))を遠心分離により集菌した後、菌体を滅菌水で洗浄し、発酵試験に用いる酵母菌体とした。
上記発酵用培地5mLを10mL容量のガラスバイアル(日電理化硝子、SVG−10)に入れ、そこに0.3g(乾燥重量)/L、2g(乾燥重量)/Lもしくは6g(乾燥重量)/Lとなるよう酵母菌体を加えた。さらにグルコースイソメラーゼ(Novozymes、Sweetzyme IT Extra)を2%(w/v)キシロースを含む培地には35U、6%(w/v)キシロースを含む培地には105U加えた後、バイアルを液状用ブチルゴム(大)と穴あきキャップ(日電理化硝子)にて密封し、40℃で同時異性化発酵を行った。発酵液に含まれるエタノールおよび糖類を高速液体クロマトグラフィーにより測定し、エタノール収率およびキシリトール蓄積量を求めた。同時異性化発酵およびHPLCによる解析は、実施例14と同様に行った。
以下の表に72時間発酵における結果を示す。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明はリグノセルロースを原料とした燃料用エタノールの生産に利用できるものである。グルコースイソメラーゼは中性域で活性が高いため、発酵液が中性であることが望ましく、例えば、特許文献5に記載のアルカリで前処理した稲わら等のバイオマスからのエタノール製造に利用することが可能である。
配列番号1:NL−1プライマーの核酸配列
配列番号2:NL−4プライマーの核酸配列
配列番号3:PGKp−SmaIプライマーの核酸配列
配列番号4:PGKp−XbaI−asプライマーの核酸配列
配列番号5:XR−XbaIプライマーの核酸配列
配列番号6:XR−KpnIプライマーの核酸配列
配列番号7:XDH−XbaIプライマーの核酸配列
配列番号8:XDH−XhoIプライマーの核酸配列
配列番号9:XK−XbaIプライマーの核酸配列
配列番号10:XK−XhoIプライマーの核酸配列
配列番号11:PGKp−SphIプライマーの核酸配列
配列番号12:CYCt−SbfIプライマーの核酸配列
配列番号13:PGKp−SbfIプライマーの核酸配列
配列番号14:CYCt−SalIプライマーの核酸配列
配列番号15:CYCt−SacIプライマーの核酸配列
配列番号16:PGKp−1Sプライマーの核酸配列
配列番号17:PGKp−1Aプライマーの核酸配列
配列番号18:CgXK−1Sプライマーの核酸配列
配列番号19:CgXK−2Aプライマーの核酸配列
配列番号20:ScXK−1Sプライマーの核酸配列
配列番号21:ScXK−1Aプライマーの核酸配列
配列番号22:CgGRE3−1Sプライマーの核酸配列
配列番号23:CgGRE3−1Aプライマーの核酸配列
配列番号24:ScURA3−1Sプライマーの核酸配列
配列番号25:ScURA3−1Aプライマーの核酸配列
配列番号26:CgGRE3−2Sプライマーの核酸配列
配列番号27:CgGRE3−2Aプライマーの核酸配列
配列番号28:CgXKの核酸配列
配列番号29:CgXKのアミノ酸配列
配列番号30:pRS406ベクターの核酸配列
配列番号31:pRS406−CgXKベクターの核酸配列
配列番号32 GRE3ZEOR−1Sの核酸配列
配列番号33 GRE3ZEOR−1Aの核酸配列
配列番号34 GRE3KANR−1Sの核酸配列
配列番号35 GRE3KANR−1Aの核酸配列
配列番号36:ScXKの核酸配列
配列番号37:ScXKのアミノ酸配列
配列番号38:pAUR101ベクターの核酸配列
配列番号39:pAUR−XKベクターの核酸配列
NITE P−1357
NITE P−1358
NITE P−1359
NITE P−1360
NITE P−01617
NITE P−01618
NITE P−01619
NITE P−01620

Claims (30)

  1. キシルロキナーゼを組換え導入しおよび/またはアルドースレダクターゼを欠損させた酵母であって、該酵母の40℃におけるキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも25%である、酵母。
  2. 前記酵母がCandida属、Saccharomyces属、Pichia属、Kluyveromyces属、またはHansenula属の酵母である、請求項1に記載の酵母。
  3. 前記酵母がCandida glabrata、Saccharomyces cerevisiae、Pichia anomala、Saccharomyces martiniae、Kluyveromyces marxianus、Kluyveromyces fragilis、またはHansenula polymorphaである、請求項1または2に記載の酵母。
  4. 前記酵母がCandida glabrataまたはSaccharomyces cerevisiaeである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酵母。
  5. キシルロース資化能を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酵母。
  6. 前記40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも50%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酵母。
  7. 前記40℃でのキシロース同時異性化発酵収率が少なくとも75%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の酵母。
  8. リグノセルロース利用能を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の酵母。
  9. 前記リグノセルロース利用能は、リグノセルロースを原料としてエタノールを生成する能力である、請求項8に記載の酵母。
  10. キシルロキナーゼを高発現させ、かつ、アルドースレダクターゼを欠損させた、請求項1〜9のいずれか1項に記載の酵母。
  11. 前記酵母がCandida glabrataであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載の酵母。
  12. 前記キシルロキナーゼは前記酵母と同種または異種である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の酵母。
  13. 前記酵母がCandida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(配列番号29)である、請求項12に記載の酵母。
  14. 前記酵母がCandida glabrataであり、前記キシルロキナーゼはCgXK(配列番号29)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている、請求項12または13に記載の酵母。
  15. Candida glabrata 3163 dgXK1(受託番号 NITE P−1357)、Candida glabrata 3163−CgXK(受託番号 NITE P−1358)、Candida glabrata 3163 Δgre3−35(受託番号 NITE P−1359)またはC. glabrata NFRI 3163(NITE受託番号 P−1360)で寄託された系統である酵母。
  16. 前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeであり、前記アルドースレダクターゼは相同組換えにより破壊されている、請求項1〜10のいずれか1項に記載の酵母。
  17. 前記キシルロキナーゼは前記酵母と同種または異種である、請求項1〜10または16のいずれか1項に記載の酵母。
  18. 前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(配列番号37)である、請求項17に記載の酵母。
  19. 前記酵母がSaccharomyces cerevisiaeであり、前記キシルロキナーゼはScXK(配列番号37)であり、前記アルドースレダクターゼは破壊されている、請求項17または18に記載の酵母。
  20. Saccharomyces cerevisiae St10 dgXK1(受託番号 NITE P−01617)、Saccharomyces cerevisiae St10−ScXK(受託番号 NITE P−01618)、Saccharomyces cerevisiae St10−1−1(受託番号 NITE P−01620)、またはSaccharomyces cerevisiae St10 Δgre3−2(受託番号 NITE P−01619)で寄託された系統である酵母。
  21. キシロースおよび/またはキシロースを含む糖からエタノールを生産する方法であって、該方法は、該キシロースおよび/またはキシロースを含む糖を含む原料に、請求項1〜20のいずれか1項に記載の酵母を接触させる工程を包含する、方法。
  22. 前記接触は、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で行われる、請求項21に記載の方法。
  23. 前記原料はリグノセルロースを含み、前記接触は40℃以上で行われる、請求項21に記載の方法。
  24. 前記接触は、キシロースイソメラーゼ(グルコースイソメラーゼ)の存在下で行われる、請求項23に記載の方法。
  25. 前記原料は稲わらを含み、前記接触は40℃以上で行われる、請求項21〜24のいずれか1項に記載の方法。
  26. 前記接触工程の前に、前記原料をアルカリ処理する工程をさらに包含する、請求項21〜25のいずれか1項に記載の方法。
  27. 前記アルカリ処理は水酸化カルシウムによる、請求項26に記載の方法。
  28. Candida glabrataに相同組換えを起こして相同組換えCandida glabrataを生産する方法であって、該方法は、相同組換えの対象となる遺伝子の約45%以上の長さの相同部分を両端に有する相同組換え用遺伝子構築物と、Candida glabrataとを、相同組換えを起こす条件下に供する工程を包含する、方法。
  29. 前記遺伝子はGRE3であり、前記約45%以上の長さは0.45kb以上である、請求項28に記載の方法。
  30. 前記相同組換えCandida glabrataの相同組換えの対象となる遺伝子が破壊される、請求項28または29に記載の方法。
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