JP2014012702A - 虚血障害の治療方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】細胞アポトーシスを抑制する方法、虚血障害を治療する方法、ならびに/または、虚血障害および/もしくは組織損傷に関連する細胞アポトーシスを治療する方法の提供。
【解決手段】ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を、アポトーシス細胞のアポトーシスを阻害するのに有効な量で、前記被験体の虚血組織のSDF−1受容体を発現する前記アポトーシス細胞に投与する。
【選択図】なし

Description

本発明は、虚血に関連する障害および/または組織損傷を治療する組成物ならびに方法に関する。
虚血とは、血流が身体の局所各部で完全に妨げられたり大幅に減少したりする結果、酸素欠乏を生じ、基質の供給および代謝産物の蓄積が減少する状態である。虚血の程度は、血管閉塞の進行度、その期間、それに対する組織の感受性、および側副血管の発達の程度に左右されるが、通常、虚血に陥った臓器または組織では機能不全が生じ、長期の虚血は、患部組織の委縮、変性、アポトーシス、および壊死を引き起こす。
虚血性の脳血管障害の発症機序は、血栓性、塞栓性、血行力学性という3タイプに分類される。しかしこれら3つのタイプのいずれも、主要な病理学的状態は脳虚血であり、その重篤度および期間により脳組織損傷の程度が定義される。重篤な虚血部位では、神経細胞と内皮細胞に急激に不可逆性の損傷が起こり、壊死に起因する典型的な梗塞巣が形成される。虚血周辺部では、血流がある程度低下し、神経細胞の機能が一時停止するが、その生存能力は失われず、また、側副血管を通して血行が再開したとき、残存する脳血管系がその機能を回復することができる。
冠状動脈が冒され心筋虚血が生じる疾病である虚血性心疾患では、虚血性心筋細胞損傷の程度が、冠状動脈狭窄の時間が長引くにつれ、可逆性細胞損傷から不可逆性細胞損傷に進行する。
本発明は、細胞アポトーシスを抑制する方法、虚血障害を治療する方法、ならびに/または、虚血障害および/もしくは組織損傷に関連する細胞アポトーシスを治療する方法に関する。虚血障害の例としては、末梢血管障害、肺塞栓、静脈血栓症、心筋梗塞、一過性脳乏血発作、不安定狭心症、大脳血管虚血、可逆性虚血性神経症候、虚血腎疾病、または脳卒中障害が挙げられる。虚血障害はさらに医原的に誘導された虚血障害も含み得る。
本方法は、SDF−1受容体を発現またはアップレギュレートするアポトーシス細胞へ、SDF−1を局所的に投与することを含むことができる。アポトーシス細胞は、治療を受けている被験体に移植する細胞、および/または治療中の虚血組織のアポトーシス細胞を含み得る。本発明の1つの態様では、SDF−1受容体は、細胞障害、虚血障害、および/または組織損傷の結果発現し得る。本発明の別の態様では、SDF−1受容体はCXCR4および/またはCXCR7を含み得る。SDF−1は、細胞のアポトーシスを抑制および/もしくは阻害し、さらに/または細胞のAktリン酸化を増加させるような有効な量で投与することができる。SDF−1はまた、虚血組織中の血管新生を促進し、そのうえ/またはCXCR4および/もしくはCXCR7を発現している幹細胞を虚血組織に動員するのに有効な量で、虚血組織に局所的に投与することができる。
本発明の1つの態様では、SDF−1は、アポトーシス細胞、アポトーシス細胞もしくは虚血組織に輸送される生体適合性を有する細胞、または治療中の虚血組織もしくは損傷組織の細胞から、SDF−1を発現させることにより、局所的に投与することができる。SDF−1はまた、虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることもできる。SDF−1は、前述の細胞のいずれかを、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち1つを用い、SDF−1を発現させるように遺伝的に改変することにより、発現させることができる。さらに、SDF−1は、前述の細胞からのSDF−1のアップレギュレーションを促進する薬剤をこの細胞に投与することにより、この細胞から発現させることもできる。また、SDF−1は、医薬組成物の形態で提供し治療中の組織に送達することにより、アポトーシス細胞または虚血組織へ局所的に投与することもできる。
本発明は、さらに、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を、被験体の虚血組織に、その組織の細胞のアポトーシスを阻害するのに有効な量で投与することと、MCP−3を、虚血組織に、細胞および/または前駆細胞を動員するのに有効な量で投与することとを組み合わせることにより、被験体の虚血障害を治療する方法にも関する。
SDF−1は、治療中の組織にSDF−1を含有する医薬組成物を送達すること、および/または、治療中の組織においてSDF−1を発現させることにより、投与することができる。SDF−1は、治療中の組織において、治療中の虚血組織と生体適合性を有する細胞から発現させることができる。SDF−1はまた、虚血組織の細胞または虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることもできる。SDF−1は、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、SDF−1を発現するように細胞を遺伝的に改変することにより、治療中の組織の細胞から発現させることができる。
MCP−3は、治療中の組織にMCP−3を含有する医薬組成物を送達すること、または、治療中の組織においてMCP−3を発現させることにより、投与することができる。MCP−3は、治療中の組織において、治療中の虚血組織と生体適合性を有する細胞から発現させることができる。
MCP−3はまた、虚血組織の細胞または虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることもできる。MCP−3は、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、MCP−3を発現するよう細胞を遺伝的に改変することにより、治療中の組織の細胞から発現させることができる。
本発明の別の態様では、SDF−1を発現する細胞はMCP−3も発現することができる。SDF−1およびMCP−3を発現している細胞には、SDF−1およびMCP−3を発現しているバイシストロニックな発現構築物をトランスフェクトすることができる。
本発明は、さらに、虚血障害を治療するための医薬組成物に関する。この医薬組成物は、治療上有効な量のSDF−1およびMCP−3を含有する。本発明の1つの態様では、この医薬組成物は、虚血組織の細胞からSDF−1およびMCP−3を発現させるため、少なくとも1つの発現ベクターを含み得る。この少なくとも1つのベクターは、SDF−1を発現させるためのDNAおよびMCP−3を発現させるためのDNAを含有するバイシストロニックベクターを含み得る。本発明の別の態様では、この医薬組成物は、この虚血組織に投与された場合その虚血組織でSDF−1および/またはMCP−3を発現し、その虚血組織と生体適合性を有する、少なくとも1種の細胞を含有することができる。
本発明のさらに別の態様は、哺乳動物被験体の虚血障害を治療する方法に関する。この方法では、SDF−1およびMCP−3は、虚血組織および/または虚血組織の近隣の部分に局所的に投与することができる。SDF−1およびMCP−3を虚血組織中に供給しながら、虚血組織の末梢血中の幹細胞の濃度(または数)を、第一の濃度から第2の濃度に高めることができる。
本発明の1つの態様では、末梢血中の幹細胞ならびに/もしくは前駆細胞の数は、幹細胞ならびに/もしくは前駆細胞を末梢血に注入することにより、および/または治療中の哺乳動物被験体へ、幹細胞を動脈注入または静脈注入することにより、増加させることができる。本発明に従って注入(inject)または注入(infuse)することができる特定のタイプの幹細胞の1例としては、自家の間葉系幹細胞(MSC)が挙げられる。注入(inject)または注入(infuse)が可能な前駆細胞の一例としては、自家、同系、または同種異系の骨髄由来多能性成体前駆細胞(MAPC)が挙げられる。
〔関連文献とのクロスリファレンス〕
本出願は、2007年3月30日付けで出願した米国仮出願第60/921,044号に基づく優先権を主張する。この文献の主題を本明細書に援用する。
本発明のさらなる特徴は、添付の図面を参照し、以下の本発明の説明を読むことにより、本発明が関係する技術分野の当業者に明らかになる。
図1は次を示す: a.)コントロールおよびSDF−1を発現しているMSCのウェスタンブロット。b.)コントロールMSCにおけるCXCR4の蛍光抗体染色。c.)血清を含まないDMEMで、12穴ウェルプレートを用い、プレートあたり、1万個のコントロール細胞およびSDF−1を発現しているMSCを別々にプレーティングした。1、6、24時間後に、培地100μLを得て、その培地中のSDF−1レベルを、ELISA(R&Dシステムズ)を用いて定量化した。等量の細胞数は、実験終了時に細胞層当たりの総タンパク質量を定量化することにより、確認した。データは、全培地1ml当たりのSDF−1のピコグラムとして示す。実験は3回繰り返して行った。データは中間値±標準偏差で示す。d.)コントロールおよびSDF−1を発現しているMSC中の、Aktおよびリン酸化Aktのウエスタンブロット解析。10%SDS−PAGEゲル上で全細胞タンパク質50μgを分離してウエスタンブロットを行った。 図2は次を示す: a.) 無血清培地(1%FBS)にて低酸素性条件(0.1%の酸素)下で培養72時間後における、MSC、またはSDF−1を発現している細胞の培養物中の、アネキシンV陽性細胞の代表的なFACS解析。b.)LAD結紮24時間後に、200万個のコントロール細胞(左)またはSDF‐1を発現しているMSC(右)を投与したラットにおける、LAD結紮96時間後の、梗塞域中のBrdU(FITC、緑)の代表的な免疫蛍光染色。c.)LAD結紮4日後および5週間後の、梗塞域内の1平方ミリメートル当たりのMSC数。動物には、LAD結紮24時間後にコントロール細胞200万個またはSDF−1を発現しているMSCを投与した。BrdUの免疫蛍光染色後、1平方ミリメートル当たりのMSCを定量化した。どちらが治療群かに関しては盲検化されていた独立した2人の観察者が、左心室中央部から得られた、5つの異なる切開(合計50のフィールド)からの10のランダムフィールドにおける梗塞域中のBrdU陽性の核数を定量化した。データは中間値+標準偏差を表わす。コントロールMSCの注入と比較して、*はp<0.01を示す。 図3は次を示す: a.)LAD結紮12から72時間後の梗塞境界域中における、CXCR4(アレクサ・フルオル488、緑)およびトロポニンI(アレクサ・フルオル594,赤)の代表的な免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像。b.)およびc.)(左)心筋ミオシン(アレクサ・フルオル594,赤)、(中央)TUNEL(アレクサ・フルオル488,緑)、ならびに(右)LAD結紮96時間後で注入72時間後の動物からの、b.コントロールおよびc.SDF−1を発現しているMSCとの重ね合わせ。これらの代表的な免疫蛍光染色の共焦点顕微鏡画像。矢印は、一連の各写真における同じ核を示す。d.)AMIの24時間後に、コントロールまたはSDF−1を過剰発現しているMSCを投与した動物における、LAD結紮96時間後の梗塞境界域中のTUNEL陽性核数。どちらが治療群かに関しては盲検化されていた独立した2人の観察者が、左心室中央部から得られた、5つの異なる切片(合計5000核)からの4〜5個の細胞の1000核中のTUNEL陽性の核数を定量化した。データはTUNEL陽性細胞の平均百分率±標準偏差を示す。*は、コントロールMSCの注入と比較した、p<0.0001を示す。e.)AMIの24時間後に生理食塩水またはコントロールまたはSDF−1を過剰発現しているMSCを投与した動物における、LAD結紮5時間後の梗塞域内の心筋ミオシンが陽性である面積別割合。どちらが治療群かについて盲検化された観察者によって、NIH Imageを使いたグレースケール値に基づき、画像を分割することにより、心筋ミオシン陽性面積別割合を求めた。動物当たり5切片を定量化した。データは平均値±標準偏差を示す。生食水の注入と比較して、&はp<0.01を、*はp<0.0001を示す。f.)生理食塩水、コントロール、またはSDF−1を過剰発現しているMSCを投与した動物から、AMI5週間後に得た、心筋ミオシン(FITC、緑)染色された代表的な切片である。 図4で、a.)は心機能を、およびb.)は左心室の大きさを示す。それぞれ、短縮率、および左室拡張末期径(LVEDD)という心エコーパラメーターにより定量化したものである。生理食塩水(菱形、n=7)、[SDF-1 support of ischemic myodarium, Zhang et al,23 or]100万個の心繊維芽細胞(三角形、n=5)、コントロールMSC(白の正方形、n=6)またはSDF−1を過剰発現しているMSC(塗りつぶした円、n=8)を投与した動物において、LAD結紮2週間および5週間後に、断層およびMモード心エコー検査を基準値で行なった。生理食塩水および心繊維芽細胞を投与された動物については、データは平均値±標準偏差を示す。MSCを投与した動物については、個体データポイントを表しており、この群の中間は横線で表わす。&および*は、それぞれ生理生食水注入群と比較して、p<0.01およびp<0.0001を表す。 図5は、AMI5週間後における、AMI1日後に200万個のコントロールまたはSDF−1を発現しているMSCを注入した組織から得た、代表的な画像を示す。a)平滑筋細胞α−アクチン(Cy3、赤)コントロール(左)またはSDF−1を発現している(右)MSCおよび細胞核(DAPI、青)を投与した動物からの免疫蛍光染色である。b.)SDF−1を発現しているMSCを投与した動物からの、α‐アクチン(Cy3、赤)、細胞核(DAPI、青)、およびb.BrdU(FITC、緑)、およびc.)コネキシン45(アレクサ・フルオル488(緑))についての免疫蛍光染色の共焦点画像である。d.)cの免疫蛍光検染色の低倍率での共焦点画像である。 図6は、AMI5週間後における、AMI1日後にコントロールまたはSDF−1を発現しているGFP陽性MSC200万個を注入した組織からの、代表的な画像を示す。動物にはすべて、細胞移植翌日から、14日間にわたり1日2回BrdUを投与した。a. PBSまたはコントロールを投与した動物からの心筋ミオシン(赤)、BrdU(緑)および細胞核(DAPI、青)についての、梗塞境界域中の免疫蛍光染色の共焦点画像。右列の画像は、低倍率で重ね合わせた部分を高倍率で示した画像である。 図7は、急性MI後に、一過性に心筋にホーミングしているMSCを示す。BrdU標識された200万個のMSCを、LAD結紮1日または14日後に、尾静脈から注入した。1平方ミリメートル当たりのBrdU陽性細胞数を、MSC注入3日後に免疫組織化学により定量化した。データは群あたりn=5で、平均値±標準偏差を示す。 図8は、MCP−3がMSCホーミング因子候補であることを示す。(a)は、LAD結紮後に心筋に発現しているケモカイン(イタリック、薄いグレー、左側)、およびMSCにより発現し、心繊維芽細胞によっては発現しなかったケモカイン受容体(アンダーライン、濃い灰色の円、右側)を同定するアレイ解析の方法と発見事項を模式的に示す図である。目的とする一致したケモカインとケモカイン受容体とのペアは、オープンエリア中のそのエリアにより表わされる重なった部分に示されている。(b)は、第6および第20継代のMSC、心繊維芽細胞および脾臓細胞(ポジティブコントロール)中に同定されたケモカイン受容体のPCR産物(40サイクル)の代表的なアガロースゲルである。ローディングコントロールとしてGAPDHを用いた。PCR研究は、ひとつの受容体ターゲットごとに、細胞のタイプごと/継代あたり、少なくとも5つのサンプルで繰り返した。 図9は、MCP−3がMSCの走化性をin vitroで引き起こすことを示す図である。in vitroの走化性アッセイで、MSCは、濃度依存的に、MCP−3に反応して遊走した。データは平均値±標準偏差を示す。MCP−3の各濃度あたりn=10。 図10は、MCP−3の発現が、心筋へのin vivoでのMSCホーミングを引き起こすことを示す。LAD結紮1か月後、100万個のコントロール(D)またはMCP−3を発現している(■)心繊維芽細胞(CF)を、梗塞境界域に移植した。3日後に、動物に生理食塩水を1回(単回注入)または6回(複数回注入)投与した[20 Schenk et al]。12日間で、100万個のBrdU標識MSCのMCP−3およびMSCホーミング[SC-06-0293/R1]。単回注入した動物は、MSC注入の1週間後に屠殺した。また、複数回注入した動物はMSC注入1カ月後(LAD結紮10週間後)に屠殺した。(a)BrdUに対する抗体を用いて、免疫蛍光法により、1平方ミリメートル当たりの各治療群中の移植MSC数を定量化した。データは平均値±標準偏差を表わす。各群の動物数はn=7〜10。(b)BrdU(緑色、中心の画像)の染色および核(DAPI、青、一番左側の画像)の対比染色後の、梗塞域の代表的な顕微鏡写真。右は、BrdUと核とを重ね合わせた画像である。対になるコントロール心繊維芽細胞注入群と比較して、*はp<0.05、#はp<0.001。 図11は、MSC注入と組み合わせてMCP−3を発現させることにより、心機能およびリモデリングが改善されることを示す図である。LAD1か月後に心機能(短縮率(%)、a、c)および左室拡張末期径(LVEDD、b、d)を、心エコー検査(o、□)により定量化した。心エコー検査後、100万個のコントロール細胞またはMCP−3を発現する心繊維芽細胞(■)を、梗塞境界域に移植した。心繊維芽細胞注入3日後より、動物に、100万個のBrdU標識MSC(a,b)または生理食塩水(c,d)6回分の初回を投与した。引き続12日間にわたって1日おきに連続投与した。心繊維芽細胞移植6週間後(LAD結紮の10週間後、●、■)、心エコー検査を再び行った。データは個々の動物を示す。実線は、各群の中間値を示す。心筋梗塞1か月後に測定した基準値と比較して、*はp<0.05、#はp<0.001、各群n=1〜10。 図12は、MSCの注入と組み合わせたMCPの発現が心室リモデリングおよび筋線維芽細胞の動員を引き起こすことを示す図である。MSCの連続注入後、LAD結紮4週間後に、(a)MCPを発現する心繊維芽細胞または(b)コントロール心繊維芽細胞を投与した動物における、[21 Schenk et al] MCP−3およびMSCホーミングの代表的な顕微鏡写真[SC-06-0293/R1]。マッソントリクローム染色した、左心室中央部の断面図。1群当たり5匹の動物における、(c)コラーゲン原繊維を含んでいる心室の面積別割合または(d)コラーゲン原繊維が存在した心内膜周径の割合を定量化した。データは平均値±標準偏差を表わす、各群n=5,*p<0.05。(e)MCP−3を発現する心繊維芽細胞または(f)コントロール心繊維芽細胞の移植後、MSCを連続して注入した動物の梗塞境界域中の筋繊維芽細胞の代表的な共焦点顕微鏡写真。ビメンチン(緑)を認識する抗体による免疫蛍光検査法を用い、LAD結紮10週間後に組織を染色した。核はDAPI(青)で対比染色し、心筋細胞を心室ミオシン重鎖(赤)を認識する抗体により同定した。
特に定義しない限り、本明細書中で使用する専門用語はすべて、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。分子生物学用語の一般に理解されている定義は、例えばRieger et al., Glossary of Genetics: Classical and Molecular, 5th edition, Springer−Verlag: New York, 1991;およびLewin, Genes V, Oxford University Press: New York, 1994などにおいて見出すことができる。
従来の分子生物学技術に関わる方法は本明細書中に記述している。このような技術は当技術分野で一般的に既知であり、A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1−3, ed. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989;およびCurrent Protocols in Molecular Biology, ed. Ausubel et al., Greene Publishing and Wiley−Interscience, New York, 1992 (定期的に改定)などの方法論集に、詳細に記述されている。核酸の化学合成方法については、例えば、Beaucage and Carruthers, Tetra. Letts. 22:1859−1862, 1981や、Matteucci et al., J. Am. Chem. Soc. 103:3185, 1981などに論じられている。核酸の化学合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチドシンセサイザーによって行なうことができる。免疫学的方法(抗原特異性抗体の調製、免疫沈降、およびイムノブロッティング等)については、Current Protocols in Immunology, ed. Coligan et al., John Wiley & Sons, New York, 1991;およびMethods of Immunological Analysis, ed. Masseyeff et al., John Wiley & Sons, New York, 1992などに記載されている。また、従来の遺伝子導入法および遺伝子治療法を、本発明での使用に合わせて改変することができる。例えば、Gene Therapy: Principles and Applications, ed. T. Blackenstein, Springer Verlag, 1999; Gene Therapy Protocols (Methods in Molecular Medicine), ed. P. D. Robbins, Humana Press, 1997;およびRetro−vectors for Human Gene Therapy, ed. C. P. Hodgson, Springer Verlag, 1996などを参照されたい。
本発明は、細胞アポトーシスを抑制する方法、虚血障害を治療する方法、ならびに/または虚血障害および/もしくは組織損傷に関連する細胞アポトーシスを治療する方法に関する。本方法は、SDF−1受容体を発現またはアップレギュレートしているアポトーシス細胞(例えば内皮細胞、造血細胞など)にそのアポトーシス細胞のアポトーシスを抑制するのに有効な一定量のストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を局所的に投与すること(または局所的に送達すること)を含むことができる。アポトーシス細胞とは、損傷または虚血の結果としてアポトーシスを起こしている細胞、ならびに/または損傷もしくは虚血の結果としてアポトーシスを起こす可能性がある細胞を意味する。SDF−1受容体は、細胞損傷、虚血障害、および/もしくは組織損傷に先立ち、ならびに/またはその結果として発現し得る。SDF−1受容体の例としては、CXCR4および/またはCXCR7が挙げられる。
SDF−1受容体を発現する細胞、または虚血障害および/または組織損傷の結果アップレギュレートしたSDF−1受容体をもつ細胞へ、SDF−1を持続的かつ局所的に投与することで、細胞のAktリン酸化が増加し、その結果、今度は細胞のアポトーシスが抑制できることが見出された。さらに、虚血組織へSDF−1を長期的かつ局所的に投与することにより、治療されている組織へ、CXCR4および/またはCXCR7を発現する幹細胞および/または前駆細胞が動員され、その結果、虚血組織の血管再生を促進することができる。
本発明に係る細胞アポトーシスとしては、細胞障害、虚血または組織損傷に起因する細胞アポトーシス、のほか、細胞移植、組織移植(および/または細胞治療)などの医学的処置に起因する細胞アポトーシスが挙げられる。細胞アポトーシスおよびSDF−1受容体の発現またはアップレギュレーションを引き起こし、本発明の方法によって治療することができる虚血障害、および/または組織損傷の例としては、末梢血管障害、肺塞栓、静脈血栓症、心筋梗塞、一過性脳乏血発作、不安定狭心症、大脳血管虚血、可逆性虚血性神経症候、虚血腎疾病、または脳卒中障害が挙げられる。
虚血障害はさらに医原的に誘導される虚血障害を含み得る。医原性虚血障害は、例えば、血管形成術、心臓外科、肺臓手術、脊椎手術、脳外科手術、血管手術、腹部手術、腎臓手術、または器官移植手術などを受ける患者が原因となり得る。器官移植としては、心臓、肺、膵臓、腎臓、または肝臓の移植手術が挙げられる。
本出願は前に挙げた虚血障害に限定されず、それ以外の虚血障害および組織損傷も、細胞アポトーシスを引き起こすものであれば、本発明の組成物および方法によって治療することができると理解される。
本発明の方法および組成物によって治療される哺乳動物被験体の例としては、ヒト、ラット、マウス、猫、犬、ヤギ、羊、馬、猿、類人猿、ウサギ、牛、などのあらゆる哺乳動物が挙げられる。哺乳動物被験体としては、成体、幼若動物および新生児を含む任意の成長段階を含み得る。哺乳動物被験体は、さらに胎児の発達段階を含み得る。
一実施例において、SDF−1は、虚血障害および/または組織損傷の結果としてアポトーシスを起こす哺乳動物組織の細胞へ投与されてもよい。虚血障害または組織損傷が発症すると直ちに、虚血組織中の細胞、または虚血組織の末梢周囲もしくは周縁の細胞が、SDF−1の発現をアップレギュレートすることが明らかにされた。約24時間後には、細胞によるSDF−1の発現は減少する。本発明のSDF−1は、虚血組織の細胞によるSDF−1のダウンレギュレーションが起こり始めた後に(おおよそ、SDF−1のダウンレギュレーション開始数日後、数週間後、または数カ月後)、アポトーシス細胞に投与することができる。SDF−1を当該細胞に投与する期間は、おおよそ、虚血障害または組織損傷の直後から、虚血障害または組織損傷の発症数日後、数週間後、または数カ月後であってもよい。
別の実施例では、SDF−1は、治療中の被験体への細胞もしくは組織の移植または投与の前に、その細胞もしくは組織へ投与することができる。移植される細胞または組織へSDF−1を投与することにより、移植された細胞または組織のアポトーシスを抑制し、その細胞または組織の長期間の生存を促進することが可能となる。本発明の1つの態様では、SDF−1は、培地中のSDF−1を細胞または組織に供給することにより、移植用の細胞または組織へ投与することができる。例えば、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、さらに、SDF−1受容体を発現するその他の幹細胞および/または前駆細胞を、治療的用途のための移植より前に、SDF−1と共に培地で培養することができる。治療を受けている被験体に投与または移植された時、細胞が生存率を高めるように、SDF−1は、培養幹細胞および/または前駆細胞の生存を促進することができる。別の態様では、SDF−1は、細胞または組織の潜在的なアポトーシスを抑制するため、移植用の細胞または組織と共移植することができる。
本発明に係るSDF−1は、天然の哺乳動物SDF−1のアミノ酸配列に実質的に類似するアミノ酸配列を持つことができる。ヒト、マウス、およびラットなどのさまざまな異なる哺乳動物SDF−1タンパク質のアミノ酸配列が知られている。ヒトSDF−1とラットSDF−1のアミノ酸配列同一性は約92%である。SDF−1には、SDF−1アルファおよびSDF−1ベータという2つのアイソフォームが存在し得るが、本明細書中では、特に識別しない限り、両者をSDF−1と呼ぶ。
過剰発現されるSDF−1は配列番号1と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。過剰発現されるSDF−1はまた、前述の哺乳動物SDF−1タンパク質のうちの1つに実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。例えば、過剰発現されるSDF−1は、配列番号2に実質的に類似のアミノ酸配列を有することができる。配列番号2は、実質的に配列番号1を含む、ヒトSDF−1のアミノ酸配列であり、GenBankアクセッション番号NP954637により識別される。過剰発現されるSDF−1はまた、配列番号3と実質的に同一のアミノ酸配列を有することができる。配列番号3もまた、実質的に配列番号2を含み、ラットSDFのアミノ酸配列を含んでおり、GenBankアクセッション番号AAF01066により識別される。
本発明に係るSDF−1はまた、例えば、哺乳動物のSDF−1の断片、類似体、および誘導体等の、哺乳動物SDF−1の変異体であってもよい。このような変異体の例としては、例えば、天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体によってコードされるポリペプチド(すなわち、天然哺乳動物SDF−1ポリペプチドをコードする天然核酸)、天然SDF−1遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然SDF−1遺伝子のホモログまたはオーソログによってコードされるポリペプチド、および、天然SDF−1遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチド、が挙げられる。
SDF−1変異体は、1個以上のアミノ酸において、天然SDF−1ポリペプチドとは異なるペプチド配列を有する。このような変異体のペプチド配列は、SDF−1の1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または、置換を有してもよい。アミノ酸の挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。変異SDF−1は、天然SDF−1の機能活性を実質的に維持している。好ましいSDF−1ポリペプチド変異体は、サイレント(silent)な、または保存的な変化を有する本発明の範囲内の核酸分子を発現させることにより、作製することができる。
SDF−1ポリペプチドの、1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応する断片は、本発明の範囲内である。単離されたSDF−1のペプチジル部位は、このようなペプチドをコードする核酸の対応する断片から組換え技術によって作製したペプチドをスクリーニングすることにより、得ることができる。例えば、本発明のSDF−1ポリペプチドは、所望の長さの断片に任意に分割してもよく、その際、断片をオーバーラップさせなくてもよいが、所望の長さのオーバーラップする断片に分割することが好ましい。この断片は、組換え技術によって作製して、天然SDF−1ポリペプチドのアゴニストとして機能し得るペプチジル断片を同定するために試験することができる。
SDF−1ポリペプチド変異体はまた、組換え型のSDF−1ポリペプチドを含んでもよい。SDF−1ポリペプチドに加え、本発明における好ましい組換え型ポリペプチドは、哺乳動物のSDF−1をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも約70%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
SDF−1ポリペプチド変異体は、天然SDF−1ポリペプチドの機能活性を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含み得る。その他のSDF−1ポリペプチド変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因する、タンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。例えば、SDF−1はS−SDF−1(S4V)などのMMP−2開裂に耐性をもつSDF−1が挙げられる。これに関しては、Circulation,2007,1006に記載されている。ペプチドのアミノ酸配列が変化した結果、天然SDF−1ポリペプチドの1つまたは複数の機能活性をもつ変異体が生じるかどうかということは、天然SDF−1ポリペプチドの機能活性について変異体を試験することにより容易に明らかにすることができる。
SDF−1タンパク質をコードするSDF−1核酸は、天然または非天然の核酸でもよく、RNAの形態またはDNAの形態(例えばcDNA、ゲノムDNA、および合成DNA)でもよい。DNAは二本鎖でも一本鎖でもよく、一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。SDF−1をコードする核酸コード配列は、配列番号4および配列番号5に示される塩基配列などの、SDF−1遺伝子の塩基配列に実質的に類似していてもよい。配列番号4および配列番号5は、それぞれ、ヒトSDF−1およびラットSDF−1のための核酸配列を含み、GenBankアクセッション番号NM199168およびGenBankアクセッション番号AF189724の核酸酸配列に実質的に類似する。SDF−1のための核酸コード配列は、さらに遺伝暗号の重複または縮重の結果として、配列番号1、配列番号2、および配列番号3と同じポリペプチドをコードする異なるコード配列であってもよい。
本発明の範囲内でSDF−1をコードする他の核酸分子は、例えば、天然SDF−1タンパク質の断片、類似体、および、誘導体をコードする天然SDF−1タンパク質の変異体である。このような変異体としては、例えば、天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体、天然SDF−1遺伝子のホモログ、または、天然SDF−1遺伝子の非天然変異体が挙げられる。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然SDF−1遺伝子とは異なる塩基配列を有する。例えば、このような変異体の塩基配列は、天然SDF−1タンパク質の1個以上のヌクレオチドの欠失、付加、または、置換を特徴とし得る。核酸挿入は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましい。
他の用途において、構造が実質的に変化している変異SDF−1タンパク質は、コード化したポリペプチドにおいて保存的とは言えない変化を引き起こすヌクレオチド置換を作製することによって生成され得る。このようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷もしくは疎水性、または、(c)アミノ酸側鎖の大部分、を変化させる置換が挙げられる。タンパク質の特性を最も大きく変化させると一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的な変化を引き起こす置換である。タンパク質の構造を大きく変化させる可能性があるコドンの変化の例としては、次のような置換を引き起こす変化が挙げられる。(a)例えば、セリン、もしくは、トレオニン等の親水性の残基が、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくは、アラニン等の疎水性の残基に(または、疎水性の残基で)置換される。(b)システインもしくはプロリンが、他の任意の残基に(または、他の任意の残基で)置換される。(c)例えば、リジン、アルギニン、もしくは、ヒスチジン等の塩基性側鎖を有する残基が、例えば、グルタミン、もしくは、アスパルチン等の電気陰性の側鎖に(または、電気陰性の側鎖で)置換される。あるいは(d)例えば、フェルアラニン等の、かさ高い側鎖を有する残基が、例えば、グリシン等の側鎖を有しない残基に(または、側鎖を有しない残基で)置換される。
本発明の範囲の天然SDF−1遺伝子の天然対立遺伝子変異体は、哺乳動物の組織から単離された、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然SDF−1タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸である。本発明の範囲の天然SDF−1遺伝子の同族体は、他の種から単離された、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し天然SDF−1タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸である。天然SDF−1遺伝子と高い(例えば70%以上の)配列同一性をもつ他の核酸分子を同定するため、公的なおよび/または私的な核酸データベースを探索することができる。
非天然SDF−1遺伝子変異体とは、自然界には存在せず(例えば、人工的に作製される)、天然SDF−1遺伝子と少なくとも70%の配列同一性を有し、天然SDF−1タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸をいう。非天然SDF−1遺伝子変異体の例としては、天然SDF−1タンパク質断片をコードする変異体、ストリンジェントな条件下で、天然SDF−1遺伝子または天然SDF−1遺伝子の相補体にハイブリダイズする変異体、天然SDF−1遺伝子または天然SDF−1遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を有する変異体、が挙げられる。
本発明の範囲内の天然SDF−1タンパク質断片をコードする核酸は、天然SDF−1タンパク質のアミノ酸残基をコードする核酸である。天然SDF−1タンパク質断片をコードする核酸をコードするか、または、これとハイブリダイズする短いオリゴヌクレオチドは、プローブ、プライマー、または、アンチセンス分子として使用することができる。天然SDF−1タンパク質断片をコードする核酸をコードするか、または、これとハイブリダイズする長いポリヌクレオチドも、本発明の様々な態様において使用することができる。天然SDF−1断片をコードする核酸は、酵素消化によって(例えば、制限酵素を使用して)、または全長天然SDF−1遺伝子もしくはその変異体の化学分解によって作製され得る。
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸もまた、本発明において使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸であってもよい。
SDF−1融合タンパク質をコードする核酸分子もまた、本発明において使用されてもよい。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入されるとSDF−1融合タンパク質を発現する構築物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。例えば、このような構築物は、その発現が好適な発現系で融合タンパク質を産生するように、インフレームで融合したSDF−1タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドと、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとを結合することにより作製することができる。
SDF−1をコードする核酸は、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格が改変されてもよい。本発明の範囲内の核酸は、さらに、ペプチド(例えばin vivoで標的細胞受容体を標的とするための)、または細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤等の他の追加の基などを含んでもよい。この目的のために、核酸は、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤等の別の分子に結合させてもよい。
細胞または組織のアポトーシスを抑制するために、アポトーシス細胞または虚血組織に、またはアポトーシス細胞もしくは虚血組織の末梢周囲に、SDF−1を直接投与することができる。本発明の1つの態様では、SDF−1は、そのままでまたは医薬組成物に含有させて、アポトーシス細胞または近隣の虚血組織に局所的に送達することができる。本発明の別の態様では、SDF−1は、そのままでまたは医薬組成物に含有させて虚血組織またはその周辺に投与することによって、虚血組織へ、またはその末梢周囲に送達することができる。そのような医薬組成物を用いれば、治療中の虚血組織または細胞にSDF−1を局所的に放出させることができる。本発明に係る医薬組成物には通常、用途に応じて、ある最終濃度の範囲となるように、SDF−1または無菌水溶液などの許容可能な製薬希釈剤または賦形剤を混合したSDF−1の変異体を一定量含有させる。調製方法は、レミントンの薬科学(Remington’s Pharmaceutical Science)」、第16版、Mack Publishing Company, 1980年、に例証されるように、当技術分野で既知である。この文献を本出願に援用する。さらに、ヒトへの投与の場合、製剤は、FDAの生物学的製剤基準部門(FDA Office of Biological Standards)の要件である無菌性、発熱性、一般的安全性および純度の基準に適合する必要がある。
本医薬組成物は、注射可能な単位用量形態(例えば、溶液、懸濁液、および/または乳濁液)に調製することができる。注射に適した医薬製剤としては、例えば、無菌水溶液または無菌分散液、および、無菌注射用溶液または無菌注射用分散液中へ再構成するための、無菌粉末剤が挙げられる。キャリアは、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含有する、溶媒または分散媒であってもよい。
例えば、レシチンのようなコーティングを施すことや、分散液の場合は、必要とされる粒径を維持することや、界面活性剤を用いることで、適切な流動性を保つことができる。綿実油、胡麻油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、またはピーナッツ油、およびエステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)などの非水性賦形剤を、化合物組成物のための溶媒系として用いてもよい。
さらに、抗菌性防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、および緩衝剤などの、組成物の安定性、無菌性、および等張性を高める様々な添加剤を加えることもできる。例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの、種々の抗菌剤および抗真菌剤によって、微生物の作用を防止することができる。多くの場合において、等張剤(例えば、糖、塩化ナトリウムなど)を含有していることが好ましい。モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンのような、吸収を遅らせる薬剤を使用することによって、注射用組成物を長期間にわたって吸収させてもよい。しかし本発明に従い、どんな賦形剤、希釈剤、添加剤を使用する場合でも、それらは本化合物と適合する必要がある。
無菌の注射用溶液は、必要に応じて、本発明を実施する際に使用される化合物を、他の成分とともに、必要量含有させることによって調製することができる。
「徐放性」カプセル剤や、「持続放出」組成物または製剤を用いてもよい。一般にこの剤形が使用可能である。徐放製剤とは、通例、長期間にわたり薬物濃度を一定に保つことを目的としたものであり、SDF−1を送達するためにこの剤形を用いてもよい。この徐放製剤を、典型的には、虚血組織部位の近傍、例えば、虚血組織中または虚血組織周辺の、CXCR4および/またはCXCR7を発現する細胞の部位に注入する。
徐放製剤の例としては、SDF−1を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリクスが挙げられる。このマトリクスは、成形物、例えばフィルムやまたはマイクロカプセルの形態をなしている。徐放性マトリクスの例としては、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレートまたはポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(例えば米国特許第3,773,919号)、L−グルタミン酸とγエチル−L−グルタミン酸との共重合体、非分解性エチレン‐酢酸ビニール;LUPRON DEPOT(乳酸‐グリコール酸共重合体および酢酸ロイプロリドからなる注入可能なマイクロスフェア)などの分解性乳酸グリコール酸共重合体;およびポリD(−)−3−ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
エチレン‐酢酸ビニールおよび乳酸‐グリコール酸などのポリマーは、100日を超える期間にわたり分子の放出を可能にするが、あるヒドロゲルはより短い期間でタンパク質を放出する。被包されたSDF−1が生体に長期間残存すると、37℃で水分に曝されるため、変性または凝集する可能性があり、その結果として生物学的活性および/または免疫原性の変化が起こる。関与しているメカニズムにより、安定化のため合理的な方法が利用可能である。例えば、凝集メカニズムにチオ・ジスルフィド交換を介した分子間S−S結合形成が関与していれば、スルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液からの凍結乾燥し、含水量のコントロール、適切な添加剤の使用し、特異的ポリマーマトリクス組成物の開発などにより、安定化が達成される。
ある実施態様では、SDF−1とともにリポソームおよび/またはナノ粒子も使用してもよい。リポソームの形成および使用以については、下記に概説する通り、当技術分野の当業者に既知である。
リポソームは、水性媒体中に分散するリン脂質から形成され、自発的に、多重層の同心性二分子膜小胞(多重層リポソーム(MLV)ともいう)を形成する。MLVは概ね、直径25nmから4μmである。MLVを超音波処理すると、核に水溶液を含む、直径200〜500Å範囲の小さい単層小胞(SUV)が形成される。
リン脂質は、水中で分散すると、脂質の水に対するモル比により、リポソーム以外の様々な構造を成し得るが、低い比率では、リポソームが好ましい構造である。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度および2価カチオンの存在により決まる。リポソームは、イオン性物質および極性物質に対しては低透過性を示し得るが、高温では相転移が起り、その浸透性が著明に変化する。この相転移で、ゲル状態として知られている、密に詰まった規則的な構造から、流動状態として知られる粗く詰まった、あまり規則的でない構造への変化が起こる。これは特徴的な相転移温度で生じ、その結果イオン、糖および薬剤の浸透性が高まる。
リポソームは4つの異なるメカニズムにより細胞と相互作用している:マクロファージや好中球などの細網内皮系の食細胞によるエンドサイトーシス;非特異的な弱い疎水的もしくは静電的な力、または細胞表面の成分との特異的相互作用のいずれかによる細胞表面への吸着;リポソームの脂質二分子膜が形質膜中へ挿入されることによる、形質細胞との融合(同時にリポソームの内容物が細胞質中へ放出される);リポソームの内容物の会合が全く起こることなく、リポソームの脂質が、細胞膜もしくは細胞内膜に(または、細胞膜もしくは細胞内膜がリボソームの脂質に)移動すること。これらのうちどのメカニズムを働かせるかは、リポソームの調合を変えることにより変えることが可能であり、同時に2つ以上のメカニズムを働かせてもよい。
ナノカプセルは、一般に安定で再現可能な方法で化合物を封入することができる。細胞内でポリマーが過負荷になることにより起こる副作用を回避するために、そのような超微粒子(0.1μm程度のサイズ)はin vivoで分解可能なポリマーを使用して設計する必要がある。これらの必要条件を満たす生物分解性のポリアルキル−シアノアクリレート・ナノ粒子が、本発明での使用を考慮され、そのような粒子状物質の作製は容易であると考えられる。
別の態様では、SDF−1は、虚血組織またはその末梢周囲におけるSDF−1の発現を誘導し、増加させ、さらに/あるいはアップレギュレートさせる薬剤を標的細胞に導入することにより、その虚血組織に直接またはその周辺に投与することができる。虚血組織またはその末梢周囲で発現されるSDF−1タンパク質は、遺伝子改変細胞の発現産物であってもよい。標的細胞としては、虚血組織内部もしくはその周辺の細胞、または、治療中の虚血組織と生体適合性のある生体外細胞が挙げられる。生体適合性細胞としては、さらに、治療中の被験体から採取される自己細胞、および/または、自家幹細胞、同種異系幹細胞、または同系幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)など生体適合性を有する同種異系または同系の細胞、前駆細胞(例えば、多能性成体前駆細胞)、および/またはさらに分化させ、治療中の虚血組織と生体適合性をもたせた、その他の細胞が挙げられる。
本薬剤は、細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する組換え核酸構築物(典型的には、DNA構築物)に組み込まれた、本発明に係る上述の天然核酸または合成核酸を含んでよい。このような構築物は、特定の標的細胞においてポリペプチドをコードする配列の転写能および翻訳能を有する複製系、ならびに配列を含むことが好ましい。
幹細胞からのSDF−1の発現を促進するため、さらに他の細胞を細胞に導入することができる。そのような薬剤は例えば、ヒトSonic Hedghog (Shh)タンパク質,ヒトDesert Hedgehog (Dhh)タンパク質、およびヒトIndian Hedgehog (Ihh)タンパク質を含むことができる。これらのタンパク質については、米国特許出願公開第20060105950号および同第20070173471号に記載されている。これらの文献を本明細書中に援用する。他の例として、例えば、SDF−1をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤、SDF−1をコードするmRNAの翻訳を増加させる薬剤、および/または、SDF−1をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、SDF−1タンパク質レベルを増加させるために用いてもよい。細胞内の遺伝子からの転写率は、SDF−1をコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサー因子を使用してもよい。
標的細胞へ薬剤を導入する好ましい方法として、遺伝子治療の利用がある。遺伝子治療とは、in vivoまたはin vitroにおいて細胞から治療産物を発現させるための遺伝子導入をいう。本発明に従う遺伝子治療は、in vivoまたはin vitroにおいて標的細胞からSDF−1タンパク質を発現させるために用いることができる。
本発明の1つの態様では、遺伝子治療には、SDF−1タンパク質をコードする裸のDNAまたは塩基配列を含むベクターを使用してもよい。「ベクター」(遺伝子送達ビヒクルまたは遺伝子導入ビヒクルと呼ぶこともある)は、in vitroまたはin vivoのいずれかにおいて、標的細胞へ送達させるポリヌクレオチドを含む分子の高分子または複合体をいう。送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療において目的とするコード配列を含んでもよい。ベクターの例としては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(‘Ad’)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルスなど)、リポソーム、他の脂質を含む複合体、および標的細胞へポリヌクレオチドの送達を仲介することができる他の高分子複合体が挙げられる。
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、そうでなければ標的細胞に有益な特性を与える他の成分または機能を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、細胞との結合または細胞への標的化に影響を及ぼす成分(細胞型もしくは組織特異的結合を仲介する成分を含む)、細胞によるベクター核酸の取り込みに影響を及ぼす成分、取り込み後の細胞内において当該ポリヌクレオチドの局在化に影響を及ぼす成分(例えば、核局在化を仲介する薬剤等)、および当該ポリヌクレオチドの発現に影響を及ぼす成分等が挙げられる。このような成分としてはまた、当該ベクターにより送達される核酸を取り込み、かつそれを発現している細胞を検出または選択するために用いることができる、検出可能なマーカー、および/または選択可能なマーカー等のマーカーを挙げることもできるだろう。このような成分は、当該ベクターの本来の特徴(例えば、結合と取り込みを仲介する成分または機能を有する特定のウイルスベクターの使用等)として提供することもできるし、あるいは、ベクターを、このような機能をもつよう改変することができる。
選択可能マーカーはポジディブ、ネガティブ、または二機能性であってもよい。ポジティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞を選択するものであり、ネガティブ選択可能マーカーは、このマーカーを含む細胞が選択的に除去されるようにするものである。二機能性(すなわちポジティブ/ネガティブ)のマーカーを含め、種々のこのようなマーカー遺伝子についての記載がある(例えば、1992年5月29日公開のLupton,S.国際公開第92/08796号パンフレット、および1994年12月8日公開のLupton,S.国際公開第94/28143号パンフレットを参照されたい)。このようなマーカー遺伝子は、遺伝子治療の様々な状況において有利となる可能性がある追加のコントロール手段を提供できる。多種多様なこのようなベクターは、当技術分野で公知であり、一般に利用可能である。
本発明において使用されるベクターとしては、ウイルスベクター、脂質に基づいたベクター、および本発明に従うヌクレオチドを標的細胞へ送達し得る他のベクターが挙げられる。このベクターは、標的ベクター、特に虚血組織に優先的に結合する標的ベクターであってもよい。本発明で使用されるウイルスベクターは、標的細胞に低毒性を示し、かつ組織特異的な方法で治療上有用な大量のSDF−1タンパク質の産出を誘導するベクターであってもよい。
ウイルスベクターの例としては、アデノウイルス(Ad)またはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のものが挙げられる。ヒトウイルスのベクターもヒト以外のウイルスのベクターも使用することができるが、組換えウイルスベクターはヒトにおいて複製能をもたないことが好ましい。ベクターがアデノウイルスである場合、SDF−1タンパク質をコードする遺伝子に動作可能に連結されたプロモーターを有するポリヌクレオチドを含みかつヒトにおいて複製能をもたないベクターであってもよい。
本発明に従って使用し得る他のウイルスベクターとしては、単純ヘルペスウィルス(HSV)を用いたベクターが挙げられる。1つ以上の前初期遺伝子(IE)を欠損したHSVベクターは、概して非細胞毒性であり、標的細胞中で潜伏のような状態を持続し、かつ効率的な標的細胞への形質導入を可能にするため、有利である。組換えHSVベクターは、約30kbの異種核酸を組み込むことができる。HSVベクターの一例は、(1)HSV 1型を改変したものであって、(2)そのIE遺伝子を欠損しており、(3)SDF−1核酸に作動可能に連結された組織(例えば、心筋層)特異的プロモーターを含むものである。HSVアンプリコンベクターもまた、本発明の様々な方法において有益となり得る。典型的に、HSVアンプリコンベクターは、長さ約15kbで、ウイルスの複製開始点およびパッケージング配列を有する。
例えば、C型レトロウイルスやレンチウイルスなどのレトロウイルスもまた、本発明において使用され得る。例えば、マウス白血病ウイルス(MLV)由来のレトロウイルスベクターでもよい。例えば、Hu and Pathak, Pharmacol. Rev. 52:493−511, 2000 and Fong et al., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst. 17:1−60, 2000を参照されたい。MLV由来のベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに8kb以内の異種DNA(治療用DNA)を含んでいてもよい。この異種DNAは、組織特異的なプロモーターおよびSDF−1核酸を含んでいてもよい。梗塞した心筋層へ送達するための方法においては、心筋特異的な受容体に対するリガンドをコードさせてもよい。
その他の使用可能と思われるレトロウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来ベクターを含む、複製欠損型レンチウイルス由来のベクターである。例えば、Vigna and Naldini, J. Gene Med. 5:308−316, 2000 and Miyoshi et al., J. Virol. 72:8150−8157, 1998を参照されたい。レンチウイルスベクターは、活動的な分裂細胞と非分裂細胞のいずれにも感染させることができるという点で有利である。レンチウイルスベクターはまた、ヒト上皮細胞への形質導入においても効率が高い。
本発明において使用されるレンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルス由来であっても非ヒト(SIVを含む)レンチウイルス由来であってよい。例示のレンチウイルスベクターは、ベクター増殖に必要な核酸配列のほか、SDF−1遺伝子に作動可能に連結される組織特異的なプロモーター(例えば心筋層)を含む。前者の例としては、当該ウイルスのLTR、プライマー結合部位、ポリプリントラクト、att部位、およびキャプシッド形成部位が考えられる。
レンチウイルスベクターは、任意の好適なレンチウイルスのキャプシドへパッケーングされてもよい。1つの粒子タンパク質が異なるウイルス由来の別のタンパク質で置換されたものを、「シュードタイプ」という。ベクターのキャプシドは、マウス白血病ウイルス(MLV)または水疱性口内炎ウイルス(VSV)を含む他のウイルス由来のウイルスエンベロープタンパク質を含んでもよい。VSV Gタンパク質を用いると、高いベクターの力価が得られ、ベクターウイルス粒子の安定性を高めることができる。
アルファウイルスを用いたベクター(例えば、セムリキ森林ウイルス(SFV)およびシンドビスウィルス(SIN)から作製したもの)もまた、本発明において使用できる。アルファウイルスの使用については、Lundstrom, K., Intervirology 43:247−257, 2000 and Perri et al., Journal of Virology 74:9802−9807, 2000に記載されている。アルファウイルスベクターは、典型的には、レプリコンとして知られているフォーマットで構築されている。レプリコンは、(1)RNA複製に必要なアルファウイルスの遺伝因子、および(2)例えば、SDF−1をコードする核酸などの異種核酸を含んでもよい。アルファウイルスのレプリコン内では、異種核酸は、組織(例えば、心筋層)特異的プロモーターまたはエンハンサーに作動可能に連結されてもよい。
組換え複製欠損型アルファウイルスベクターは、ハイレベルの異種(治療用)遺伝子発現能を有し、標的細胞に広範囲に感染させることができるため、有利である。アルファウイルスのレプリコンは、そのウイルス粒子表面に、同族の結合パートナーを発現している標的細胞への選択的に結合し得ると考えられる機能的な異種リガンドドメインまたは結合ドメインをディスプレイすることにより、特定の細胞型を標的としてもよい。アルファウイルスのレプリコンに潜伏状態を確立させ、その結果、標的細胞に異種核酸を長期発現させるように確立させてもよい。このレプリコンはまた、標的細胞において異種核酸を一過性に発現させてもよい。
本発明の方法に適合するウイルスベクターの多くにおいて、1種以上の異種遺伝子が当該ベクターによって発現することを可能にするため、1つ以上のプロモーターをこのベクターに組み込むことができる。さらに、このベクターは、標的細胞からのSDF−1遺伝子産物の分泌を容易にするシグナルペプチド等の部分をコードする配列を含むことができる。
2つのウイルスベクター系の有利な特性を組み合わせるため、標的組織(例えば、心筋層)にSDF−1核酸を送達させるのに、ハイブリッドウイルスベクターを用いもよい。ハイブリッドベクターを構築する標準的な方法は、当業者に周知である。このような技術は、例えば、Sambrook, et al., Molecular Cloning: A laboratory manual. Cold Spring Harbor, N.Y.や、その他の多くの組換えDNA技術について論じている実験マニュアルにおいて見出すことができる。細胞に形質導入するため、AAVのITRとアデノウイルスのITRとの組み合わせを含むアデノウイルスのキャプシド中の二本鎖AAVゲノムを用いてもよい。別のバリエーションでは、AAVベクターを「ガットレス」アデノウイルスベクター、「ヘルパー依存型」アデノウイルスベクター、または「高性能」アデノウイルスベクターに導入してもよい。アデノウイルス/AAVハイブリッドベクターについては、Lieber et a1., J. Virol. 73:9314−9324, 1999で、レトロウイルス/アデノウイルスハイブリッドベクターについては、Zheng et al., Nature Biotechnol. 18:176−186, 2000で論じられている。アデノウイルスに含まれるレトロウイルスのゲノムを、標的細胞ゲノム内に組み込み、安定したSDF−1遺伝子発現をもたらしてもよい。
SDF−1遺伝子の発現およびベクターのクローニングを容易にする他の塩基配列要素については、さらに考慮される。例えば、プロモーター上流のエンハンサーの存在や、コード領域下流のターミネーターの存在は、発現を容易にすることができる。
本発明の別の態様によれば、組織特異的なプロモーターを、SDF−1遺伝子と融合させることができる。アデノウイルスの構築内にこのような組織特異的なプロモーターを融合することにより、導入遺伝子の発現は心室の心筋細胞に限定される。組織特異的プロモーターによりもたらされる遺伝子発現の効果および特異性の程度は、本発明の組換えアデノウイルス系を用いて判定することができる。
一例を挙げると、in vivoでSDF−1遺伝子を送達する場合、心筋細胞のみを標的とする(すなわち、心臓内において内皮細胞、平滑筋細胞、および線維芽細胞で同時に発現は起こらない)組織特異的なプロモーター(例えば、左室ミオシン軽鎖−2(MLC2v)またはミオシン重鎖(MHC)の組織特異的な転写制御配列)を使用することにより、治療のためのSDF−1タンパク質の適切な発現が提供される。心筋細胞に発現を限定することは、CHF治療に対して遺伝子導入を行うのに有用である。さらに、心筋細胞は、迅速にターンオーバしないため、恐らく最長の導入遺伝子発現を提供すると思われる。したがって、心筋細胞の発現は、内皮細胞のように細胞分裂および細胞死により減少することはないと考えられる。この目的のために、内皮特異的なプロモーターが既に入手可能である(Lee, et a1., J. Biol. Chem., 265:10446−10450, 1990)。
ウイルスベクターを用いる方法に加え、非ウイルスによる方法もまた、標的細胞にSDF−1遺伝子を導入するために使用してもよい。非ウイルスを用いる遺伝子送達方法については、 Nishikawa and Huang, Human Gene Ther. 12:861−870, 2001で概説されている。本発明に従う好ましい非ウイルス遺伝子の送達方法は、SDF−1核酸を細胞に導入するために、プラスミドDNAを使用する。プラスミドを用いる遺伝子送達方法は、一般に当技術分野で公知である。
プラスミドDNAで多分子集合体を形成するため、合成遺伝子を導入するための分子を設計することができる。このような集合体は、標的細胞(例えば、心筋細胞)に結合するよう設計され得る。標的細胞(例えば、心筋細胞)への受容体依存性SDF−1の核酸導入を行うために、リポポリアミンおよびカチオン性脂質を含むカチオン性両親媒性物質を用いてもよい。さらに、細胞にトランスフェクトする複合体を形成するために、予め形成したカチオン性リポソームまたはカチオン性脂質をプラスミドDNAと混合してもよい。カチオン性脂質製剤が関わる方法については、Felgner et al., Ann. N.Y. Acad. Sci. 772:126−139, 1995 and Lasic and Templeton, Adv. Drug Delivery Rev. 20:221−266, 1996に概説されている。遺伝子送達のために、DNAを両親媒性のカチオン性ペプチド(Fominaya et al., J. Gene Med. 2:455−464, 2000)とも結合させてよい。
ウイルスに基づく成分と非ウイルスに基づく成分の両方を含む方法を、本発明に従って使用してもよい。例えば、治療用遺伝子送達のための、エプスタインバーウイルス(EBV)を用いたプラスミドについて、Cui et al., Gene Therapy 8:1508−1513, 2001.に記載されている。さらに、アデノウイルスに結合したDNA/リガンド/ポリカチオン性付加物に関する方法は、Curiel, D. T., Nat. Immun. 13:141−164, 1994.に記載されている。
そのうえ、SDF−1核酸は、エレクトロポレーション技術を使用して、標的細胞をトランスフェクトすることにより標的細胞へ導入してもよい。エレクトロポレーション技術は周知であり、プラスミドDNAを使用して細胞のトランスフェクションを容易にするために使用することができる。
SDF−1の発現をコードするベクターは、必要に応じ、例えば、生理食塩水などの薬学的に受容可能なキャリアを含む注射剤の形態で標的細胞へ送達することができる。他の製薬キャリア、製剤および投与量もまた、本発明に従って適用することができる。
標的細胞が、アポトーシス細胞、虚血組織またはその末梢周囲の細胞である場合、このベクターは、効果的な治療を可能にする程度のSDF−1タンパク質を発現させるのに十分な量を、蛍光透視による誘導下で、ツベルクリン注射器を用いて直接投与することによって送達することができる。アポトーシス細胞もしくは虚血組織に、その内部に、もしくはその周辺に、ベクターを直接注入することによって、SDF−1遺伝子をかなり効率よく標的化し、組換えベクターの損失を最小限に抑えることができる。
このような注入法によって、特に虚血組織内またはその周辺において所望の数の細胞に局所的にトランスフェクトすることができ、その結果、遺伝子導入による治療効果が最大になり、ウイルスタンパク質に対して炎症反応が起こる可能性は最小になる。場合により、このベクターに、組織特異的細胞に対し標的指向性を有する成分を組み込み、この組織特異的な標的ベクターを被験体に全身投与(例えば、静脈注射により)することにより、虚血組織に投与することができる。ベクターが被験体の体内に導入されると、組織特異的に標的化された発現がその標的組織に局在し、SDF−1が、この標的組織から局在的に発現しやすくなる。
標的細胞が、後から虚血組織に移植する培養細胞である場合、ベクターは、培地の中へ直接注入することにより送達することができる。細胞にトランスフェクトしたSDF−1核酸は、任意の好適な調節配列に作動可能に結合してもよい。
トランスフェクトした標的細胞は、次いで、直接注射など周知の移植技術によって、被験体または虚血組織に移植することができる。最初にin vitroで標的細胞にトランスフェクトし、次いで、このトランスフェクトした標的細胞を虚血組織に移植することによって、虚血組織における炎症反応の可能性は、虚血組織にベクターを直接投与する場合と比較して最小になる。場合により、このトランスフェクトした細胞に、組織特異的細胞に対する標的指向性を有する成分を組み込み、このトランスフェクトした細胞を被験体に全身投与(例えば、静脈注射により)することにより、虚血組織に投与することができる。このような細胞が被験体の体内に導入されると、組織特異的に標的化された発現がその標的組織に局在し、SDF−1が、この標的組織から局在的に発現しやすくなる。
SDF−1は、一過性の発現および安定した長期発現を含め、任意の好適な期間にわたって標的細胞内で発現させてよい。本発明の1つの態様では、SDF−1核酸を、アポトーシス細胞のアポトーシスを抑制するのに有効な一定の期間にわたって、治療量で発現させてよい。
治療量とは、治療された動物またはヒトにおいて医学的に望ましい結果を生むことができる量である。医学の分野では周知のように、任意の1匹の動物または1人のヒトに対する投与量は、被験体の身長体重、体表面積、年齢、投与する特定の組成、性別、投与期間および投与経路、全身的な健康状態、ならびに併用薬等の多くの因子によって決まる。タンパク質、核酸、または低分子の特定の投与量は、以下に記載する実験方法により、当業者が容易に決定することができる。
長期的にSDF−1を発現させると、幹細胞の濃度を虚血組織中で高めることができるため、有利である。SDF−1タンパク質の発現が慢性的にアップレギュレートされれば、幹細胞を動員する必要なく、末梢血から虚血組織中への幹細胞の長期的なホーミング(homing)を引き起こす。
本発明の別の態様は、当該組織の細胞のアポトーシスを阻害するため、虚血組織に幹細胞および/または前駆細胞を動員するのに有効な量で、単球走化性タンパク質−3(MCP−3)を虚血組織へ投与することと、上述の虚血組織へSDF−1を投与することとを組み合わせて、被験体の虚血障害を治療する方法に関する。
本発明に係るMCP−3は、治療的用途および/または細胞療法のために、被験体の幹細胞および/または前駆細胞の組織への動員を誘導するため、哺乳動物被験体の虚血組織またはその周辺に投与することができる。誘導された幹細胞および/または前駆細胞は、再増殖でき(すなわち、生着できる)血管再建でき、治療している組織の正常な機能を部分的または全面的に回復させることができる、特殊化した細胞および/または部分的に特殊化した細胞へと分化できる。
本発明に係る幹細胞としては、無制限に自己再生でき、また特定の機能をもつより成熟した細胞へと分化することができる、未分化の自家、同系、または同種異系の細胞が挙げられる。ヒトにおいては、幹細胞は、初期胚の内部細胞塊、胎児のいくつかの組織(臍帯および胎盤)、およびいくつかの成体器官の中で同定されている。いくつかの成体器官では、幹細胞はその器官内で、複数の特定の細胞タイプに分化することができる。幹細胞は、通常存在する組織の細胞タイプを超えて分化する能力をもち、可塑性を示す。幹細胞が、異なる器官の複数のタイプの組織に分化する場合、それは多能性(multipotent)または多能性(pluripotent)をもつといわれる。
本発明に係るケモカインによって誘導することができる特定のタイプの幹細胞の1つの例は、間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、様々なin vivoまたはin vitro環境の影響に応じて、特定のタイプの結合組織(すなわち、分化した要素を支持する生体の組織であって、特に脂肪性、骨性、軟骨、弾性、筋肉内、および線維性の結合組織を含むもの)に分化する、形成能を有する多能性の芽細胞または胚細胞である。このような細胞は、骨髄、血液、真皮、および骨膜中に存在し、様々な周知の方法を用いて単離し精製することができる。その例としては、CaplanとHaynesworthに付与された米国特許第5,197,985号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献が挙げられる。
本発明に係るMCP−3によって誘導できる幹細胞の別の例は、成体多能性前駆細胞(MAPC)である。本発明に係るMAPCには、それが通常存在する組織の細胞タイプを超えて分化する能力をもつ(すなわち、可塑性を示す)、成体前駆細胞または成体幹細胞が含まれる。MAPCとしては、例えば、成体MSCおよび造血前駆細胞が挙げられる。MAPCの供給源としては、骨髄、血液、眼組織、真皮、肝臓、および骨格筋を挙げることができる。一例を挙げると、造血前駆細胞を含むMAPCは、米国特許第5,061,620号に開示されている方法(その開示内容を本明細書に援用する)や、その他の多数の参考文献に記載されている方法を用いて、単離し精製することができる。
MSC、MAPC、および/またはその他の幹細胞などの幹細胞は、CXCR5、CCR−1、Cmkbr1L2、CCR2、CCR3、CCR5、CCR7、CCR8、CCR9、CMKOR1、およびCX3CR1などの、様々なCXCケモカイン受容体ならびにCCケモカイン受容体を天然で発現させることができる。MCP−3は、哺乳動物被験体において、MSCおよび/またはMAPCのための化学誘引物質としての働きをすることが可能であることが明らかにされた。
本発明に係るMCP−3は天然の哺乳動物MCP−3に実質的に類似するアミノ配列を有していてもよい。例えば、MCP−3は配列番号6に実質的に類似するアミノ配列を有していてもよい。配列番号6は、GenBankアクセッション番号CAA50407の核酸配列に実質的に類似である。
本発明のMCP−3はまた、例えば、MCP−3の断片、類似体、および誘導体等、前述のMCP−3のうちの1つの変異体であってもよい。そのような変異体としては、例えば、天然MCP−3遺伝子(すなわち、天然哺乳動物MCP−3をコードする天然核酸)の天然対立遺伝子変異体によってコードされたポリペプチド、天然MCP−3遺伝子の選択的スプライシング型によりコードされるポリペプチド、天然MCP−3遺伝子の同族体によってコードされるポリペプチド、および、MCP−3遺伝子の非天然変異体によりコードされるポリペプチドが挙げられる。
MCP−3変異体は、1個以上のアミノ酸において天然MCP−3とは異なるペプチド配列を有してもよい。そのような変異体のペプチド(またはアミノ酸)配列は、天然MCP−3の1個以上のアミノ酸の欠失、付加、または置換を特徴としてもよい。アミノ酸挿入は、約1〜4個の連続するアミノ酸であることが好ましい。また、欠失は約1〜10個の連続するアミノ酸であることが好ましい。MCP−3変異体は、天然MCP−3の機能活性を実質的に維持している。MCP−3タンパク質変異体の例は、サイレント(silent)なまたは保存的な変化を特徴としてもつ核酸分子を本発明の範囲で発現させることにより作製されてもよい。
1つ以上の特定のモチーフおよび/またはドメイン、または任意のサイズに対応するMCP−3断片は、本発明の範囲内である。MCP−3の単離されたペプチジル部位は、このようなペプチドをコードする核酸に対応する断片から、組換え技術によって産生したそのペプチドをスクリーニングすることにより得ることができる。さらに、断片は、従来のメリフィールド固相f−Moc化学またはメリフィールド固相t−Boc化学などの当技術分野で公知の技術を使用して化学合成することができる。例えば、本発明のSDF−1タンパク質は、所望の長さの断片に任意に分割してもよく、その際、断片をオーバーラップさせなくてもよいが、所望の長さのオーバーラップする断片に分割することが好ましい。この断片は、組換え技術によって作製され、天然SDF−1タンパク質のアゴニストとして機能し得るペプチジル断片を同定するために試験してもよい。
MCP−3タンパク質変異体はまた、組換え型のMCP−3タンパク質を含んでもよい。MCP−3タンパク質に加え、本発明における好ましい組換えポリペプチドは、哺乳動物のMCP−3タンパク質をコードする遺伝子の核酸配列と少なくとも85%の配列同一性を持つことができる核酸によってコードされる。
MCP−3タンパク質変異体は、天然MCP−3タンパク質の機能活性を恒常的に発現するタンパク質のアゴニスト型を含んでもよい。その他のタンパク質変異体としては、例えば、プロテアーゼの標的配列を変化させる突然変異に起因する、タンパク質分解性開裂に対する耐性をもつ変異体が挙げられる。ペプチドのアミノ酸配列が変化した結果、天然MCP−3タンパク質の1つまたは複数の機能活性をもつ変異体が生じるかということは、天然MCP−3タンパク質の機能活性について変異体を試験することにより容易に明らかにすることができる。
MCP−3をコードする核酸分子は、天然核酸でも非天然核酸でもよく、このような核酸分子は、RNAの形態またはDNAの形態(例えばcDNA、ゲノムDNA、および、合成DNA)であってもよい。DNAは、二本鎖であっても一本鎖であってもよく、一本鎖の場合、コード鎖(センス鎖)であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
例えば、MCP−3をコードする核酸分子は、配列番号7に実質的に類似する配列を有することができる。配列番号7は、GenBankアクセッション番号NM006273の核酸配列に実質的に類似である。
本発明の範囲内でMCP−3をコードする他の核酸分子は、例えば、天然MCP−3タンパク質の断片、類似体、および、誘導体をコードする天然MCP−3タンパク質の変異体であってもよい。このような変異体としては、例えば、天然MCP−3遺伝子の天然対立遺伝子変異体、天然MCP−3遺伝子のホモログ、または、天然MCP−3遺伝子の非天然変異体が挙げられる。これらの変異体は、1個以上の塩基において天然MCP−3遺伝子とは異なる塩基配列を有する。例えば、このような変異体の塩基配列は、天然MCP−3タンパク質の1個以上のヌクレオチドの欠失、付加、または、置換を特徴としてもよい。核酸挿入は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましく、欠失は、約1〜10個の連続するヌクレオチドであることが好ましい。
他の用途において、構造が実質的に変化している変異MCP−3タンパク質は、コード化したポリペプチドにおいて保存的とは言えない変化を引き起こすヌクレオチド置換を作製することによって生成され得る。このようなヌクレオチド置換の例としては、(a)ポリペプチド骨格の構造、(b)ポリペプチドの電荷もしくは疎水性、または、(c)アミノ酸側鎖の大部分、を変化させる置換が挙げられる。タンパク質の特性を最も大きく変化させると一般に予想されるヌクレオチド置換は、コドンにおいて非保存的な変化を引き起こす置換である。タンパク質の構造を大きく変化させる可能性があるコドンの変化の例としては、次のような置換を引き起こす変化が挙げられる。(a)例えば、セリン、もしくは、トレオニン等の親水性の残基が、例えば、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリン、もしくは、アラニン等の疎水性の残基に(または、疎水性の残基で)置換される。(b)システインもしくはプロリンが、他の任意の残基に(または、他の任意の残基で)置換される。(c)例えば、リジン、アルギニン、もしくは、ヒスチジン等の塩基性側鎖を有する残基が、例えば、グルタミン、もしくは、アスパルチン等の電気陰性の側鎖に(または、電気陰性の側鎖で)置換される。あるいは(d)例えば、フェルアラニン等の、かさ高い側鎖を有する残基が、例えば、グリシン等の側鎖を有しない残基に(または、側鎖を有しない残基で)置換される。
本発明の範囲の天然MCP−3遺伝子の天然対立遺伝子変異は、哺乳動物の組織から単離された、天然MCP−3遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し、天然MCP−3タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸である。本発明の範囲の天然MCP−3遺伝子の同族体は、他の種から単離された、天然MCP−3遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し天然MCP−3タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸である。天然MCP−3遺伝子と高い(例えば70%以上の)配列同一性をもつ他の核酸分子を同定するため、公的なおよび/または私的な核酸データベースを探索することができる。
非天然MCP−3遺伝子変異体とは、自然界には存在せず(例えば、人工的に作製される)、天然MCP−3遺伝子と少なくとも75%の配列同一性を有し、天然MCP−3タンパク質と類似した構造を有するポリペプチドをコードする核酸をいう。非天然MCP−3遺伝子変異体の例としては、天然MCP−3タンパク質断片をコードする変異体、ストリンジェントな条件下で、天然MCP−3遺伝子または天然MCP−3遺伝子の相補体にハイブリダイズする変異体、天然MCP−3遺伝子または天然MCP−3遺伝子の相補体と少なくとも65%の配列同一性を有する変異体、およびMCP−3融合タンパク質をコードする変異体が挙げられる。
本発明の範囲内の天然MCP−3タンパク質断片をコードする核酸は、天然MCP−3タンパク質のアミノ酸残基をコードする核酸である。天然MCP−3タンパク質断片をコードする核酸をコードするか、または、これとハイブリダイズする短いオリゴヌクレオチドは、プローブ、プライマー、または、アンチセンス分子として使用することができる。天然MCP−3タンパク質断片をコードする核酸をコードするか、または、これとハイブリダイズする長いポリヌクレオチドも、本発明の様々な態様において使用することができる。天然MCP−3断片をコードする核酸は、酵素消化によって(例えば、制限酵素を使用して)、または全長天然MCP−3遺伝子もしくはその変異体の化学分解によって作製されてもよい。
前述の核酸のうちの1つにストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸もまた、本発明において使用することができる。例えば、このような核酸は、本発明の範囲内で、低ストリンジェンシー条件、中ストリンジェンシー条件、または高ストリンジェンシー条件下で、前述の核酸のうちの1つにハイブリダイズする核酸であってもよい。
MCP−3融合タンパク質をコードする核酸分子もまた、本発明において使用されてもよい。このような核酸は、適切な標的細胞へ導入されるとMCP−3融合タンパク質を発現する構築物(例えば、発現ベクター)を調製することにより、作製することができる。例えば、このような構築物は、その発現が好適な発現系で融合タンパク質を産生するように、インフレームで融合したMCP−3タンパク質をコードする第1のポリヌクレオチドと、別のタンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドとを結合することにより作製することができる。
本発明のオリゴヌクレオチドは、DNAまたはRNA、またはそれらのキメラ混合体、または、それらの誘導体もしくはそれらの改変体であってもよく、一本鎖でも二本鎖でもよい。このようなオリゴヌクレオチドは、分子の安定性、ハイブリダイゼーションなど向上させるために、例えば、塩基部分、糖部分、またはリン酸骨格が改変されてもよい。本発明の範囲内のオリゴヌクレオチドの例としては、さらに、ペプチド(例えばin vivoで標的細胞受容体を標的とするための)、または細胞膜を横断する輸送やハイブリダイゼーション誘発開裂を促進する薬剤等の他の追加の群が挙げられる。この目的のために、オリゴヌクレオチドは、例えば、ペプチド、ハイブリダイゼーション誘発架橋剤、輸送剤、ハイブリダイゼーション誘発開裂剤等の別の分子に結合させてもよい。
MCP−3は、そのままでまたは医薬組成物の形態にして投与することによって。治療対象の哺乳動物被験体の虚血組織内部またはその周辺に提供することができる。MCP−3を含有させることができる医薬組成物は、治療対象の組織に応じて、様々な方法によって送達することができる。1つの態様では、この医薬組成物は注入により送達させることができる。
MCP−3を非経口投与する場合、一般に、注射可能な単位用量形態(例えば、溶液、懸濁液、および/または乳濁液)で処方される。注射に適した医薬製剤としては、例えば、無菌水溶液または無菌分散液、および、無菌注射用溶液または無菌注射用分散液中へ再構成するための無菌粉末剤が挙げられる。キャリアは、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコケモカインリガンドを非経口投与する場合、一般に、注射可能な単位用量形態(例えールなど)、それらの好適な混合物、および植物油を含有する溶媒または分散媒であってもよい。
例えば、レシチンのようなコーティングを施すことや、分散液の場合は、必要とされる粒径を維持することや、界面活性剤を用いることで、適切な流動性を保つことができる。綿実油、胡麻油、オリーブ油、大豆油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、またはピーナッツ油、およびエステル類(例えば、ミリスチン酸イソプロピル)などの非水性賦形剤を、化合物組成物のための溶媒系として用いてもよい。
さらに、抗菌性防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、および緩衝剤などの、組成物の安定性、無菌性、および等張性を高める様々な添加剤を加えてもよい。例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの、種々の抗菌剤および抗真菌剤によって、微生物の作用を防止することができる。多くの場合において、等張剤(例えば、糖、塩化ナトリウムなど)を含有していることが好ましい。モノステアリン酸アルミニウムやゼラチンのような、吸収を遅らせる薬剤を使用することによって、注射用組成物を長期間にわたって吸収させてもよい。しかし本発明に従い、どんな賦形剤、希釈剤、添加剤を使用する場合でも、それらは本化合物と適合する必要がある。
無菌の注射用溶液は、必要に応じて、本発明を実施する際に使用される化合物を、他の成分とともに、必要量含有させることによって調製することができる。
MCP−3は、上述の通り、「徐放性」カプセル剤や、「持続放出」組成物または製剤の形態で提供することもできる。この徐放製剤を、典型的には、虚血組織部位の近傍、例えば、虚血組織中または虚血組織周辺に注入する。
あるいは、MCP−3は、虚血組織内またはその末梢周囲におけるおMCP−3の発現を誘導し、増加させ、さらに/あるいはアップレギュレートさせる薬剤を標的細胞に導入することにより、その虚血組織に直接またはその周辺に投与することができる。標的細胞としては、虚血組織内部もしくはその周辺の細胞、または、治療中の虚血組織と生体適合性のある生体外細胞が挙げられる。生体適合性細胞にはさらに次のような細胞も含まれる。治療中の被験体から採取される自己細胞、および/または、自家幹細胞、同種異系幹細胞、または同系幹細胞(例えば、間葉系幹細胞)など生体適合性を有する同種異系または同系の細胞、前駆細胞(例えば、多能性成体前駆細胞)、および/または、さらに分化させ、治療中の虚血組織と生体適合性をもたせた、その他の細胞。標的細胞が治療対象の組織へ移植される細胞である場合、その標的細胞は、治療している組織の細胞と同じ細胞タイプであってもよいし、異なる細胞タイプであってもよい。場合により、標的細胞は、SDF−1を発現するよう遺伝子改変された細胞と同一の細胞を含んでもよい。
一例を挙げると、治療対象の組織が梗塞した心筋である場合、治療対象の組織へ移植される細胞としては、培養された心細胞、骨格筋芽細胞、線維芽細胞(例えば、心線維芽細胞)、平滑筋細胞、および骨髄由来細胞が挙げられる。これらの細胞は、治療対象の被験体から採取し(すなわち、自己細胞)、移植の前に培養していてもよい。自己細胞を用いると、移植時の細胞の生体適合性が高まり、拒絶の可能性を最小限に抑えることができる。
培養した細胞は、例えば、ツベルクリン注射器を使用して虚血組織にその培養細胞の懸濁液を注入することにより、虚血組織に移植してもよい。
標的細胞へ導入する薬剤は、その細胞に導入することができ、かつ細胞内で複製能を有する、組換え核酸構築物(例えば、MCP−3核酸)を含有していてもよい。このような構築物は、特定の標的細胞においてポリペプチドをコードする配列を転写し、かつ翻訳する能力を有する、複製系および配列を含むことが好ましい。
標的細胞からケモカインリガンドを発現させるため、他の薬剤を標的細胞へ導入してもよい。例えば、MCP−3をコードする遺伝子の転写を増加させる薬剤、MCP−3をコードするmRNAの翻訳を増加させる薬剤、および/または、MCP−3をコードするmRNAの分解を減少させる薬剤を、MCP−3レベルを増加させるために使用してもよい。細胞内の遺伝子からの転写率は、MCPをコードする遺伝子の上流に外因性プロモーターを導入することにより、高めることができる。異種遺伝子の発現を促進するエンハンサー因子を使用してもよい。
標的細胞へ薬剤を導入する一つの方法は、遺伝子治療の利用と関わっている。本発明に係る遺伝子治療は、in vivoまたはin vitroで、標的細胞からMCP−3を発現させるために使用することができる。
遺伝子治療の1つの方法として、MCP−3をコードするヌクレオチドを含むベクターの使用がある。ベクターとしては、例えば、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス(‘Ad’)、アデノ随伴ウイルス(AAV)およびレトロウイルスなど)、リポソームやその他の脂質を含む複合体、および標的細胞へポリヌクレオチドの送達を仲介することができるその他の高分子複合体などが挙げられる。
ベクターはまた、遺伝子送達および/または遺伝子発現をさらに調節するか、そうでなければ標的細胞に有益な特性を与える、上述したような、SDF−1に関する他の成分または機能を含んでいてもよい。
MCP−3の発現をコードするベクターは、必要に応じ、例えば、生理食塩水などの薬学的に受容可能なキャリアを含む注射剤の形態で標的細胞へ送達することができる。他の製薬キャリア、製剤および投与量もまた、本発明に従って適用することができる。
標的細胞が治療対象の組織の細胞である場合、このベクターは、効果的な治療を可能にさせる程度のMCP−3を発現させるのに十分な量を、蛍光透視による誘導下において、ツベルクリン注射器を用いて直接投与することによって送達することができる。治療対象の組織内部にベクターを直接注入することによって、遺伝子をかなり効率よく標的化し、組換えベクターの損失を最小限に抑えることができる。
このような注入法によって、患部組織において所望の数の細胞に局所的にトランスフェクトすることができ、その結果、遺伝子導入による治療効果が最大になり、ウイルスタンパク質に対して炎症反応が起こる可能性は最小になる。
標的細胞が、後から虚血組織に移植する培養細胞である場合、ベクターは、培地の中へ直接注入することにより送達することができる。細胞にトランスフェクトしたMCP−3核酸は、組織特異的プロモーターおよびエンハンサーを含む任意の好適な調節配列に作動可能に結合してもよい。
トランスフェクトした標的細胞は、次いで、直接注射など周知の移植技術によって虚血組織に移植することができる。最初にin vitroで標的細胞にトランスフェクトし、次いで、このトランスフェクトした標的細胞を虚血組織に移植することによって、虚血組織における炎症反応の可能性は、虚血組織にベクターを直接投与する場合と比較して最小になる。
MCP−3は、一過性の発現および安定した長期発現を含め、任意の好適な期間にわたって標的細胞内で発現させてよい。長期間にわたってMCP−3を発現させることは、以下の理由で有益である。すなわち、長期間にわたってMCP−3を発現させると、トランスフェクトした標的細胞を移植する手術または処置から、一定の時間が経過した後でも、幹細胞の濃度を高めることができる。加えて、MCP−3が長期的または慢性的にアップレギュレートされれば、末梢血中の幹細胞濃度を増加させるための複数の方法を試みることができるだろう。さらに、MCP−3の発現が慢性的にアップレギュレートされれば、幹細胞の動員剤を用いる必要なく、末梢血から治療対象の組織中への幹細胞の長期的なホーミングが起こる。
本発明の1つの態様では、MCP−3は、SDF−1の投与前、投与後、または投与とほぼ同時に、虚血組織またはその末梢周囲に投与することができる。本発明の1つの態様中で、SDF−1およびMCP−3が、ほぼ同時に虚血組織に投与される場合、SDF−1およびMCP−3は、医薬組成物の形態で提供することができ、この組成物を虚血組織またはその末梢周囲に投与すればよい。別の態様中で、SDF−1およびMCP−3を、ほぼ同時に虚血組織中の標的細胞から発現させる場合、この標的細胞に、SDF−1およびMCP−3を発現させるバイシストロニックな発現構築物をトランスフェクトすることができる。バイシストロニックな発現構築物は当技術分野で既知であり、本発明の治療方法において容易に使用することができる。
さらに別の態様では、本発明の方法は、さらに、末梢血中の、MSC、MAPCなどの幹細胞および/もしくは前駆細胞、ならびに/または、他の幹細胞および/もしくは前駆細胞の濃度(または数)を、第1の濃度から、この第1の濃度より実質的に高い第2の濃度に高める工程を含んでもよい。幹細胞および/または前駆細胞の第1の濃度は、虚血障害または組織損傷の発症から一定の時間が経過した後に、末梢血で典型的にみられる幹細胞の濃度であってもよい。虚血組織の末梢中または末梢周囲におけるSDF−1タンパク質の濃度を高めながら、末梢血中の幹細胞および/または前駆細胞の濃度を高めることができる。末梢血中の幹細胞および/または前駆細胞の濃度は、SDF−1および/またはMCP−3タンパク質の虚血組織への投与前または投与後に増加させることができる。
幹細胞および/または前駆細胞は、組織または治療中の組織の近隣の組織へ、例えば、ツベルクリン注射器を使用し、幹細胞および/または前駆細胞を直接注入することによって治療中の組織の末梢血中に供給することができる。幹細胞および/または前駆細胞はまた、治療中の哺乳動物被験体の中への幹細胞を静脈注入または動脈注入することにより、末梢血中に供給することもできる。次いで、この注入した幹細胞はおよび/または前駆細胞を、組織中またはその周辺に供給したSDF−1および/またはMCP−3により誘導し、治療中の組織に遊走させることができる。
幹細胞および/または前駆細胞は、治療している組織にSDF−1および/またはMCP−3にを供給した後に、哺乳動物被験体に注入(inject)してもよいし、注入(infuse)してもよい。一方、これらの幹細胞および/または前駆細胞は、治療している組織にSDF−1および/またはMCP−3を供給する前に投与してもよい。
別の方法として、幹細胞および/または前駆細胞は、MSCおよび/またはMAPCなどの幹細胞および/または前駆細胞の動員を誘導する薬剤を、被験体の末梢血に投与することにより、治療対象の組織に供給することができる。多数の薬剤を用いて、被験体の末梢血に幹細胞を動員し、被験体の末梢血中の幹細および/または前駆細胞胞濃度を高めてもよい。例えば、哺乳動物の被験体の末梢血中の幹細胞数を増加させるため、多能性幹細胞を骨髄から動員させる薬剤を被験体に投与してもよい。このような薬剤の多くは公知であり、例えば、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−GSF)、インターロイキン(IL)−7、IL−3、IL−12、幹細胞因子(SCF)およびflt−3リガンドなどのサイトカイン、IL−8、Mip−1αおよびGroβなどのケモカイン、およびシクロフォスファマイド(Cy)およびパクリタキセルといった化学療法剤などが含まれる。これらの薬剤は、幹細胞の動員を達成するための期間、動員される幹細胞のタイプ、および効率の点で異なる。
被験体中へ動員剤を直接注入することによって、動員剤を投与することができる。動員剤は、SDF−1および/またはMCP−3を治療対象の組織に供給した後に投与することが好ましい。一方、動員剤は、SDF−1および/またはMCP−3を治療対象の組織に供給する前に投与してもよい。
以下、一連の実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は説明を目的としたものであり、決して本発明の範囲や内容を制限するものではない。
〔実施例1〕
==間葉系幹細胞によりSDF−1を発現させることにより、心筋梗塞後に、心筋細胞が栄養作用により支持される==
前臨床試験および臨床試験において、心筋梗塞の時に、複数のタイプの幹細胞を移植すると、左室の血流および/または機能が改善することが明らかにされている。この方法は、うっ血性心不全(米国人500万人以上が罹患している症状)を予防し治療できる大きな可能性があるとはいえ、この改善の背後に潜むメカニズムは解明されていない。一つの可能性としては、移植された幹細胞が、心筋細胞、内皮細胞、および平滑筋細胞に分化することにより、心筋組織を再生するということである。さらに、検討不足ではあるが、もうひとつの可能性としては、急性心筋梗塞(AMI)時に、幹細胞が心筋に導入されると、未だに不明確な栄養作用によって損傷した組織を支持し、その結果、心筋細胞が保存され、心臓機能が改善される、ということが考えられる。幹細胞の栄養作用が、改善されつつある心臓組織において重要であることが証明されれば、本発明者らは、細胞に基く遺伝子治療戦略によりその作用を激化させる能力を有する。本発明者らは近年、MI直後に、心臓によってストローマ細胞由来因子−1(SDF−1またはCXCL12)が発現され、しかも、MIから一定の期間が経過した後に、SDF−1の発現が再確立され、それにより、損傷した心臓組織への幹細胞のホーミングが再確立され得ることを証明した。CXCR4は、SDF−1の細胞表面受容体であり、初期の造血幹細胞(HSC)および内皮前駆細胞上に発現する。残念ながら、最新のデータでは、これらの細胞タイプが心筋細胞に分化しないことが示されている。SDF−1の発現は、HSCおよび内皮前駆細胞の損傷した心筋へのホーミングを引き起こすが、その一方で、SDF−1は、幹細胞の生存率の増加を含む付加的な非幹細胞動員効果を有し得ることが示唆される。近年、SDF−1は、CXCR4を発現しているMSCにおいて、成長を促し生存期間を延長させる効果をもつことが示された。MSCは通常SDF−1を発現する。したがって、本発明者らは、SDF−1を介する間葉系幹細胞の注入の栄養作用について解明すべく、SDF−1を過剰発現させたMSCを生成した。次いで、生理食塩水、MSC、およびSDF−1を過剰発現するMSCが、MSCの生存、心筋細胞の生存と再生、および心機能に与える効果を比較した。その結果、SDF−1の非幹細胞ホーミング栄養作用が損傷した心筋に与える重要な役割が示された。
==材料と方法==
LAD結紮:
すべての動物プロトコールが動物研究委員会により承認され、動物はすべてクリーブランドクリニック財団の国際実験動物管理公認協会実験動物施設で飼育した。既に説明した通り、ルイスラットの左冠動脈前下行枝の結紮を行なった。簡潔に述べると、動物に対して、ケタミンとキシラジンの腹腔内投与により麻酔をして、挿管し、圧力サイクル式げっ歯動物用ベンチレーター(ケント・サイエンティフィック社RSP1002、トリントン、コネチカット州)を用いて、室内空気にて75回/分で人工呼吸した。外科用手術顕微鏡(M500、Leica(登録商標)、マイクロシステムズ社、バノックバーン、イリノイ州)を補助的に用いて、左冠動脈前下行枝(LAD)を直接結紮し、前壁心筋梗塞を誘導した。
細胞の調製と送達:
ラットの骨髄は、0.6mlのDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)で大腿骨を洗い流すことにより単離した。20Gの針を用いて、骨髄の塊を穏やかに細分化した。Percoll密度勾配によって細胞を分離した。細胞を260gで10分間遠心分離し、100U/mlペニシリンおよび100g/mlストレプトマイシン(インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有するPBSで、3回交換しながら洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、10%FBSならびに1%抗生物質および抗真菌剤(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有する低グルコースDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)に再懸濁しプレーティングした。これらの細胞を37℃でインキュベートした。3日後に培地を交換することにより、接着していない細胞を除去した。培養物は3〜4日ごとに再培養した。培養物が70%コンフルエンスに達すると、接着していた細胞を、5分間0.05%トリプシンおよび2mM EDTA(INVITROGEN、カールスバード、カリフォルニア州)にてインキュベートした後、剥がし、続いて、継代した。先行の実験では、MSC培養物から、細胞10個あたりPE結合マウス抗ラットCD45一次抗体(販売元:BDバイオサイエンス、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびCD34抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)を10μlずつ用いて、ネガティブセレクションにより、CD45+細胞およびCD34+細胞を除去した。単球およびマクロファージの非特異的セレクションを予防するため、メーカー(ステムセル・テクノロジーズ社)の使用説明書に従い、EasySep PEセレクションキットを用いて、PE陽性細胞をネガティブセレクションした。コンフルエントに達した細胞を継代し、第11代まで2倍〜3倍希釈でプレーティングした。記載の通り、細胞が、脂肪生成系譜、軟骨形成系譜、および骨形成系譜へ誘導される能力をアッセイした。細胞を、2〜3週間分化培地で維持した。分化は、オイルレッド(脂肪生成系譜)、アルシアンブルー(軟骨形成系譜)またはアルカリフォスファターゼ(骨形成系譜)で細胞を染色することにより確認した。200mlのPBSで回収した200万個の標識した細胞(心繊維芽細胞、MSC、またはSDF−1発現MSC)または200mlのPBSのみを、心筋梗塞24時間後に尾静脈から注入した。
BrdU標識:
細胞移植「より前の」in vitroでのMSC:
MSC(第6継代)に、ラットSDF−1発現ベクターまたはpcDNA3.1(コントロールベクター)を、安定に導入した。注入3日前に、細胞を、1:3の割合で新たにプレーティングし、細胞移植のための回収「より前の」48時間中に、S期の細胞周期にあるこれらの細胞を標識するために、10μM BrdU(5−ブロモ−2−デオキシウリジン)を含有する完全培地中でインキュベートした。
細胞移植「後の」in vivoでの細胞:
増殖細胞をin vivoで標識した研究では、細胞移植の2日後から14日間に12時間ごとにBrdU(50mg/kg)を腹腔内注入した。
細胞のGFP標識:
本発明者らは、EGFPまたはSDF−1を発現するVSVG シュードタイプレンチウイルスを使用した。このレンチウイルスは、クリーブランドクリニックファウンデーションのウイルスコア施設によって4つのプラスミドベクター系を使用して作製された。MSCに、感染多重度(MOI)30で、8μg/mlのポリプレンの存在下で精製したレンチウイルスを8時間にわたり2度形質導入した。培地はトランスフェクション72時間後に交換し、ゼオシン(EGFP)またはゼオシンとブラストサイジン(hSDFlとEGFP)とを含む標準培地と交換した。したがって、ゼオシンおよび/またはブラストサイジン耐性遺伝子を含むウィルスゲノムを組込んだ細胞だけが生存した。
リアルタイムPCR:
600万個の細胞からRNAを単離した後、Rneasy Mini Kit(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用し、メーカーの使用説明書に従ってRT−PCRを行った。ABI Prism 7700 sequence detector (アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を使用し、定量的リアルタイムPCRを行った。反応液にはSYBR Green PCR master mix(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)、300nMの各プライマー、および10μlのcDNAが含まれていた。95℃で10分間AmpliTaq Gold(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を活性化した後、95℃で15秒間、60℃で1分間を1サイクルとして、45サイクルを行った。各増幅の解離曲線を解析し、非特異的なPCR産物がなかったことを確認した。CXCR4プライマー配列:フォーワード:ATCATCTCCAAGCTGTCACACTCC(配列番号8);リバース:GTGATGGAGATCCACTTGTGCAC(配列番号9)。
免疫染色:
動物を、心筋梗塞96時間後または5週間後に屠殺した。確立しているプロトコールに従い、組織をホルマリンで固定し、パラフィンブロックで包埋した。10mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)を用いて、95℃で5分間加熱して、抗原回復を行った。バッファーは新鮮なバッファーと交換してさらに5分間再加熱し、次いで、約20分間冷却した。次いで、スライドを2分間脱イオン水で3回洗浄した。次いで、非特異的なIgGの結合を抑制するため、標本を1% ブロッキング用正常血清を含むPBSで60分間インキュベートした。次いで、スライドを、マウス抗BrdU一次抗体(BDバイオサイエンシーズ社、サンホセ、カリフォルニア州)とともに60分間インキュベートした。最適な抗体濃度は滴定によって決定した。次いで、スライドをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、ブロッキング用正常血清を含むPBSで1.5μg/mlに希釈し暗室でインキュベートした、FITC結合二次抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)とともに、45分間インキュベートした。PBSでよく洗浄した後に、水溶性封入剤(Vectashield Mounting Medium with DAPI,H−1200;ベクターラボラトリーズ、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を用いてカバーガラスで封入した。
共焦点免疫蛍光顕微鏡法:
青色のアルゴンレーザー(DAPI用)、緑色のアルゴンレーザー(Alexa Fluor 488用)、および赤色のクリプトンレーザー(Alexa Fluor 594)を備えた正立型共焦点レーザー走査顕微鏡(モデルTCS−SP;ライカマイクロシステムズ、ハイデルベルク、ドイツ)を用いて、組織を解析した。データは、「ブリードスルー」を最小限に留めるため、連続励起により収集した。画像処理、解析、および共局在化の程度を、Leica Confocal Softwareを使用して評価した。光学切片は、4フレーム間の平均値を取り、画像サイズは1024×1024ピクセルに設定した。画像のデジタル調節はしなかった。
フローサイトメトリー解析:
トリプシン/EDTA消化により、MSC培養物を調製した。氷冷(1X)D−PBSで細胞を2回洗浄。次いで、細胞を1X10個/mlの濃度で、1X binding buffer (10mM HEPES、140mM NaCl、2.5mM CaC12、pH 7.4)に再懸濁する。細胞100μL(1X10)を5ml試験管へトランスファーする。次いで、単一細胞懸濁液を、1μLのアネキシンV−PE−Cy5(アビーム社、ケンブリッジ、マサチューセッツ州)または5μLのヨウ化プロピジウム(PI)(BDバイオサイエンシーズ、サンディエゴ、カリフォルニア州)またはアイソタイプ一致コントロール抗体のいずれかと共にインキュベートする。細胞を軽くボルテックスし、15分間室温で暗所でインキュベートする。400mLの1X binding bufferを各試験管に加え、サンプルデータをGuava EasyCyte フローサイトメーター(グアバテクノロジーズ、ヘイワード、カリフォルニア州)を用いて得た。1時間以内にFlowJo(トリースター社、アシュランド、オレゴン州)フローサイトメトリー解析プログラムにより解析した。
アポトーシス細胞死を評価するためのTUNEL法:
アポトーシスの核を検出するためのTUNEL法を、メーカーのプロトコール(ロッシュ、インディアナポリス、インディアナ州)に従い、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)を媒介としてイン・シトゥでフルオレセインコンジュゲートdUTPをニックエンドラベルして実施した。特異的にアポトーシス心筋細胞を認識するため、切片を再度、心臓の心室ミオシン重鎖α/βを認識するマウスモノクローナル抗体(ケミコンインターナショナル社)とともにインキュベートした。蛍光染色を共焦点レーザー顕微鏡で観察した。アポトーシス細胞数をカウントし、全心筋細胞集団に対する割合として表した。
ウエスタンブロッティングのプロトコール:
細胞抽出液を、4×reducing Laemmli Buffer(200mM Tris HCl (pH 6.8)、8%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、40%グリセロール)で調製した。確立されたプロトコールに従い、硫酸ドデシルナトリウム(SDS)ゲルを調製した。タンパク質を10%SDSポリアクリルアミドゲル中で分離した。ブロッティング膜を5%スキムミルク含有1×TBST(トリス塩基−2.42g、NaCl−8g、1M HCl−3.8mL(pHを7.5に調整)、水−1L、Tween 20−2mL)に1時間浸し、次いで、リン酸化Akt(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)に対する一次抗体(1×TBSTで1:5000に希釈)でプローブし、その後、ペルオキシダーゼ結合抗マウス二次抗体(5%スキムミルク含有1×TBSTで1:5000に希釈)とともにインキュベートした。可視化には、化学発光(アマシャム・バイオサイエンス社UK、バッキンガムシャー、英国)を用いた。
以上の研究で使用した抗体:一次抗体:
マウス抗心室ミオシン重鎖アルファ/ベータモノクローナル抗体(ケミコンインターナショナル社)、マウスモノクローナル抗アルファ筋節アクチンIgM(シグマ)、マウス抗トロポニンIモノクローナルIgG2b抗体(ケミコンインターナショナル社)、ウサギ抗GATA 4ポリクローナルIgG抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)、ヤギ・ポリクローナル抗−Nkx−2.5 IgG抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)、ウサギ・ポリクローナル抗−MEF−2 IgG抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)、マウスモノクローナル抗−α−平滑筋アクチン−Cy3結合抗体(シグマ)、ウサギポリクローナル抗ヒトvon willebrand因子、ウサギ抗コネクシン−43ポリクローナルIgG抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)、ウサギ抗コネクシン45ポリクローナルIgG抗体(サンタクルーズバイオテクノロジー社)、ヤギポリクローナル抗コネクシン−40 IgG抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社)、マウスIgGlモノクローナル抗Akt1抗体(セルシグナリングテクノロジー社)、マウス・モノクローナル抗−Phospho−Akt(ser473) IgG2b抗体(セルシグナリングテクノロジー社)、ウサギポリクローナル抗CXCR4 IgG(Abcam)、ラットモノクローナル抗−BrdU−FITC結合抗体(Abcam)。
二次抗体:
ヤギ抗マウスIgGAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ヤギ抗マウスIgGAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ロバ抗ウサギIgGAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ロバ抗ウサギIgGAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ヤギポリクローナルIgG抗フルオレセイン抗体(モレキュラープローブズ社)、ロバ抗ヤギIgGAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ロバ抗ヤギIgG抗体Alexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)、ヤギ抗マウスIgMAlexa Fluor 488(モレキュラープローブズ社)
心エコー検査:
すでに記載した通り、Sequoia C256およびGE Vision 7と接続した15MHzのリニアアレイトランスデューサを用いて、LAD結紮およびMSC移植後の2週目および5週目に、2次元断層心エコー法を行った。左室径および左室壁厚を定量化するため、本発明者らは、乳頭筋直下左室中心部からの2次元クリップ画像およびMモード画像を短軸断面でデジタル記録し、異なるラットの同じ解剖学的位置からの計測値が一致するようにした。超音波検査技師は、どちらが治療群かについて盲検化されていた。計測は独立した2名の盲検化された観察者がProSolve心エコー検査用ソフトウェアを用いてオフラインにて行った。治療群について盲検化された観察者が、記録された5枚のMモードクリップ画像のうち無作為に3枚を選び、動物各個体において、測定をそれぞれ6回ずつ行った。短縮率をMモード記録から算出した。短縮率(%)=(LVEDD−LVESD)/LVEDD×100(ここで、LVEDDは左室拡張末期径を、LVESDは左室収縮末期径を表す)。
統計解析:
データは平均値±標準偏差として示す。群間の比較は、独立スチューデントt検定(血管密度)またはボンフェローニ補正(心エコー検査のデータおよび細胞移植のデータ)を伴う分散分析により適宜行った。
==結果==
改変したMSCの特性評価:
本発明者らは、CMVプロモーターにより機能するSDF−1発現ベクターを安定に導入したMSCを作製した。我々の研究において使用したMSCは、RTPCR、ウェスタンブロッティング法(図1a)および免疫組織化学(図1b)によって、CXCR4を発現した。我々の研究で使用した、安定的にトランスフェクトしたMSC集団は、コントロール構築物をトランスフェクトしたMSCの5.29±1.25倍のSDF−1 mRNAを発現した。SDF−1発現ベクターをトランスフェクトしても、CXCR4の発現に変化(0.81±0.24、SDF−1およびコントロールMSCのCXCR4 mRNA発現と比較して)はなかった。24時間の培養中、SDF−1を過剰発現しているMSCは、SDF−1を、コントロールベクター(図1c)をトランスフェクトしたMSCより多量に培地中に分泌した。平行して行った心繊維芽細胞の培養では、SDF−1の有意な放出は観察されなかった。前駆細胞において観察されたように、SDF−1を過剰発現したMSCでは、リン酸化Aktがコントロール細胞(図1d)より増大しており、これは、SDF−1が生存促進シグナル伝達のアップレギュレーションを誘導することと整合性がある。
低酸素中におけるMSCの生存に対するSDF−1の効果:
Aktのリン酸化の増加がMSC生存を改善するかを判断するため、本発明者らは、低酸素性条件(1%酸素)下で、コントロールとSDF−1:MSCとを培養し、FACSを用いて細胞障害の痕跡を定量化した。図2aの中のデータは、低酸素性条件下で増殖させたMSCの25%超がアネキシンVを発現することを、SDF−1を過剰発現するMSCでは10%未満であることと比較して示すものである。細胞死のマーカーであるヨウ化プロピジウム陽性細胞の割合を定量化した際も、同様の結果が認められた(データは示さず)。本発明者らは、心筋梗塞後に、同様の結果がin vivoで観察されるかどうかを調べた。直接のLAD結紮により急性前壁心筋梗塞を誘導し、24時間後に、空のプラスミドを安定に導入した200万個の同系心繊維芽細胞、または空のプラスミドもしくはSDF−1をコードするプラスミドを安定に導入した200万個の同系MSCを、尾静脈注射により注入した。細胞のDNAを標識するため、回収より前に、BrdUを2日間細胞の培地に加えた。コントロールラットには、生理食塩水を静脈注射により投与した。心繊維芽細胞(CF)、コントロールのもしくはSDF−1を発現するMSC、または生食水の注入による処置から72時間後および5週間後、動物を屠殺し、心臓を採取した。心臓内に注入されたCFおよびMSCの存在を、面積あたりのBrdU陽性細胞数として定量化した。いずれの時点でも、心臓中のMSC数がSDF−1の過剰発現(図2b)により有意に増加したことが明らかにされた。ただし、処置72時間後(図2c)と比較して、5週間後の方が、増加は優位に小さかった。注入した心繊維芽細胞の有意なホーミングまたは生着の証拠は観察されなかった(4日目:3.6±2.7個/mm、および5週目:2.9±2.1個/mm)。
虚血心筋に対するSDF−1過剰発現の効果:
図3a(24h)は、AMIの24時間後という早期に、梗塞域のCXCR4の発現が増加することを示すものである。これらの細胞は心筋細胞ではない。どちらかと言えば、これらのCXCR4陽性細胞は白血球および内皮細胞である。図3a(24−48h)は、梗塞境界域の心筋細胞がAMIの48時間後という早期にCXCR4を発現し始め、梗塞境界域の心筋細胞のCXCR4発現量が、AMIの96時間後まで増加し続けることを示している。SDF−1を発現するMSCの注入により、梗塞域内でSDF−1を過剰発現させた結果、梗塞境界において心筋細胞のAktリン酸化レベルが亢進した(データは示さず)。このAktリン酸化の亢進に伴い、TUNEL陽性心筋細胞核数が有意に減少した(図3b、c、およびd)。SDF−1発現MSCを投与した動物における心筋細胞アポトーシスの減少に伴い、生理食塩水コントロール(図3eおよびf)と比較して、梗塞域内に生存する束状の心筋細胞の面積に有意な増加がみられた。この時点の梗塞域内の心筋細胞は、BrdU陽性ではなかったため、生着したMSCから再生したものではなかった。どちらかと言えば、それらは、虚血の発作後も生存した天然の心筋細胞であると考えられた。
心リモデリングおよび心機能に対する、SDF−1過剰発現の効果:
本発明者らは、LAD結紮1日後に生理食塩水、心繊維芽細胞、または、コントロールのもしくはSDF−1を過剰発現させたMSCを注入した動物における、LAD結紮14日および35日後の左室機能および左室径を定量化した。生理食塩水コントロールと比較して、MSC注入による、統計的に有意な左室拡張の減衰および短縮率の改善が明らかにされた(それぞれ、図4aおよびb)。MSCコントロールおよびSDF−1発現MSCで処置した動物では、短縮率は、生理食塩水コントロールと比較して、それぞれ、71%および238%有意に増加した。生理食塩水注入と心繊維芽細胞注入との間には、有意差は認められなかった。
それぞれの処置後の梗塞域内の血管密度を同定し定量化するため、フォン−ウィルブランド因子に対する抗体を用いて免疫蛍光法を使用した。本発明者らは、SDF−1を過剰発現しているMSCを注入した動物において、毛細血管と細動脈との数の有意な増加を認めた(18.2±4.0対7.6±2.3本/mm、p<0.01)。この所見は、局所的なSDF−1の発現が内皮前駆細胞のホーミングを引き起こすことを示した先行研究に一致する(11;14)。
心筋細胞の再生・対・保存:
図3のデータは、MSC、および(より顕著に)SDF−1発現MSCが、梗塞域内の心筋細胞の面積および数を増加させることを示している。図1〜3のデータは、この増加が心臓による保存に起因するという考え方を支持するが、本発明者らは、注入したMSCまたは内因性の心臓幹細胞のいずれかが、どの程度心筋細胞の再生に寄与しているかを明らかにしたいと考えた。生着したMSCの運命を調べるため、本発明者らは、心筋細胞マーカー(心筋ミオシン、トロポニンI、GAT A4、およびコネキシン43)、平滑筋細胞マーカー(SMCα−アクチンおよびコネキシン45)、ならびに内皮細胞マーカー(フォン−ウィルブランド因子およびコネキシン40)について、心筋組織の切片を染色した。心筋に生着したBrdUまたはGFP標識細胞がα−アクチン陽性であることが確認された(図5a)。BrdUまたはGFP陽性であって、vWF陽性である細胞は全く存在せず、心筋ミオシン陽性である細胞も殆ど存在しなかった(<2%)。このことから、SDF−1をトランスフェクトしてもしなくても、MSCは、分化しないか(培養物中では、MSCはSMCα−アクチンである。データは示さず)、あるいは平滑筋細胞に分化するかのどちらかであろうということが示唆された。
本発明者らはまた、BrdU陽性でもGFP陽性でもないSDF−1発現MSCを投与した動物において、梗塞域内のα−アクチン細胞の有意な増加を認めた(図5b)。これらの細胞が、電気的に結合し得るか、そして、その結果、SDF−1発現MSCを投与した動物において認められた心機能の改善に寄与し得るかどうかを判断するため、われわれは、コネキシン40、43、および45について、これらの切片を染色した。α−アクチン細胞は、コネキシン45は陽性(図5c)で、コネキクシン40および43は陰性であった。注目すべきは、培養物中のMSCは、培養でSMCα−アクチンおよびコネクシン45が陽性であったことである。したがって、われわれが研究しているMSCが果たして分化したのかは、不明である。これらのα−アクチンおよびコネキシン45陽性細胞は、SDF−1を発現させたMSCを投与した動物中の梗塞域の中間に沿ってバンドを形成したが、MSC単独では、この現象は生じなかった。
心臓の幹細胞が心筋細胞の再生に結びついたかどうかを判断するため、本発明者らは、GFP標識したMSCおよびGFP標識したSDF−1を過剰発現させたMSCを使用して、再度研究を行った。ただし、この研究では、細胞移植の2日後から、1日2回BrdUを動物に投与した。われわれは、心臓の幹細胞は、LAD結紮およびMSC注入の後に心筋細胞に分化するなら、遊走および/または分化より前に増殖するだろうとの仮説を立てた。したがって、もしBrdU陽性の心筋細胞がないなら、心筋細胞再生における心臓の幹細胞の役割という可能性は除外できた。
図6のデータは、生理食塩水、MSCおよび SDF−1:MSCで処置した動物の代表的なBrdU/心筋ミオシン二重染色画像を示す。MSCおよび生理食塩水で処置した動物と比較して、SDF−1:MSCで処置した動物の方が、BrdU陽性細胞数が多い。興味深いことには、SDF−1:MSCで処置した動物中に生じたこれらのBrdU陽性細胞の多くは、心筋ミオシン陽性であり、このことは、それらの細胞が心臓の幹細胞由来である可能性を示唆している。とはいえ、これらのBrdUおよび心筋ミオシン陽性細胞は、成熟心筋細胞ではない。これらのデータは、心臓の幹細胞が、MSC単独でも動員されるが、SDF−1を過剰発現させたMSCではさらに大規模に動員され、少なくともLAD結紮5週間後までは、成熟心筋細胞を形成しない、という仮説と一致する。
生着したMSCが心筋組織内に増殖したかどうか判断するため、本発明者らは、生理食塩水、MSC、およびSDF−1過剰発現MSCで処置した動物から得た組織切片を、BrdU/GFP二重染色した。コントロールおよびSDF−1過剰発現MSCについては、有意なMSC増殖が認められた。しかし、組織切片内のBrdU陽性細胞の大多数が、注入したMSC由来のものではなかった(データは示さず)。
==考察==
AMI後の、幹細胞に基く治療の目標は、(i)心筋細胞の細胞死を最小限にし、(ii)LVリモデリングを最適化し、(iii)血管と心筋細胞を含む心筋の構造を再生することである。近年の研究では、梗塞後間もない心筋中に幹細胞を生着させると、心機能の改善につながる可能性があることが示唆されている。このことが、障害された心筋と置換される内在的に蓄えられた心臓幹細胞により誘導されるのか、障害された心筋へホーミングする骨髄由来の幹細胞により誘導されるのか、あるいはMI後静脈内注入された外因性の細胞より誘導されるのか、明確にはわかっていない。さらに、造血幹細胞の心筋細胞への分化転換能について、議論が続いている。だだ、最近の研究結果を考慮すると、その可能性はきわめて低いと思われる。このような不確実性があるとはいえ、様々な源から様々なタイプの幹細胞タイプを導入することにより、心機能の改善につながることがあり得るのは明らかである。これらの所見は結局のところ、臨床的には非能率的ではあるが、自然に発生する心臓修復系が、探求が可能なある基本的なレベルで存在しているのではないか、ということを示唆している。
心筋梗塞後の心筋組織におけるSDF−1の効果:
本発明者らの研究の目標は、SDF−1が修復過程において担う、潜在的な役割を明らかにし、かつ、梗塞期間の直近において過剰発現するSDF−1が、左室機能の改善をもたらすかを調べることであった。
MSCは、培養して増殖させ易く、心筋細胞に分化したり、新たに梗塞した心筋にホーミングしたりすることができる可能性があるという理由で、本発明者らは、MSCを用いて、梗塞域にSDF−1を送達することを選択した。SDF−1の送達を目的とし、SDF−1の徐放性を誘導するため、細胞治療に基づくアプローチを用いることにした。これは、心筋中への幹細胞の移植により達成されるかもしれない方法に近いものである。近年のいくつかの研究において、CXCR4を確かに発現するMSC集団があることが示唆されているが、CXCR4を発現するMSCが、in vivoでどの程度SDF−1にホーミングするかについては、未だ明らかにされていない。SDF−1とCXCR4との結合を阻害すると、これらのMSCの骨髄への動員を部分的にブロックするということが、示されているにすぎない。さらに、MSCはSDF−1を形成する(図1a)。受容体とリガンドの両方を発現し、そのリガンドにホーミングするような細胞は、先例がほとんどない。最後に述べておくと、これらの研究で用いるMSC送達戦略は、損傷間もない心臓に遺伝子を送達する非侵襲性の方法である。CXCR4を発現しているMSCは、SDF−1に応答する。SDF−1が、CXCR4を発現するMSCの生存率と成長率を上昇させることが近年明らかにされたが、このことは、われわれのデータと一致する。
SDF−1を発現しているMSCの生着は、様々なプラスの効果をもたらした。心筋細胞および筋前駆細胞がCXCR4を発現することが既に明らかにされている。第一に、本発明者らは、心筋細胞がAMI後24時間から48時間のあいだにCXCR4を自然に発現し始めること発見した(図3a)。この所見は、損傷した心筋細胞の細胞表面にSDF−1を送達することにより、虚血条件下で培養したMSCに送達した場合と同じように、心筋細胞のアポトーシスを阻害することが可能である、ということを示唆している(図2a)。われわれは、SDF−1を過剰発現させたMSCを投与した動物の梗塞境界域において、心筋細胞アポトーシスに約80%の減少を認めた。このことが、SDF−1を発現するMSCを投与した動物の梗塞域内における心筋細胞束の生存率を、有意に高めたのである。
第二に、梗塞域でSDF−1を過剰発現させることにより、血管新生が起こった。本発明者らが既に虚血性心筋症のモデルで示したように、これは、内皮前駆細胞の動員が増加したことに起因すると考えられる。5週間以上にわたるSDF−1の持続的な発現から、血管腫を形成したことを示す総体的な病理学的証拠はなかった。
第三に、梗塞域でSDF−1を過剰発現させることにより、意外にも、平滑筋細胞αアクチンおよびコネキシン45を発現する細胞数が著明に増加した。これらの細胞が、梗塞域の中間にバンドを形成している様子であった。これらの細胞のなかには、MIから1日後に注入したMSCからのものもあるが、大多数はそうではない。更に、MSCの領域ではフォン−ウィルブランド因子もコネキシンも発現しなかったことから示されるように、これらの平滑筋細胞の殆どが血管とは関連がなかった。これらの細胞が一斉に収縮するかどうかは明らかではないが、興味深いことに、これらのSMCはコネキシン45を発現しており、心周期中の力学的な伸長に反応して収縮し得るということを述べておきたい。
第4に、心筋中のSDF−1は、心臓の幹細胞と一致する心筋ミオシン陽性細胞集団の動員および増殖を引き起こした。これらの細胞は、本発明者らの研究の時間枠内では、成熟心筋細胞に分化する様子はなかったが、このような細胞が存在することは、長期にわたり効能をもたらす可能性があると考えられる。
送達経路:
本発明者らの研究における細胞送達経路は、尾静脈からの注入であった。他の研究においては、骨髄からの動員、カテーテルを用いる冠状動脈内注入、および心筋内注入などの理想的な細胞送達経路を明確化しようと努力が払われてきた。カテーテルを使用する冠状動脈内注入により、イヌの左回旋枝中にMSCを送達した結果、微小梗塞が起こったが、これは、心予備力がきわめて小さい患者にとってはかなり耐え難いと思われる。われわれの研究結果は、単純な静脈注入が、きわめて有効であり、同時に、損傷間もない心筋に対する機械的リスクを最小限に留め得るという事実に焦点を当てている。
MSCの分化:
文献の報告では、梗塞期間の間近に送達されるMSCが心筋ミオシンを発現する細胞に分化し得ることが示唆されている。心筋梗塞後の心筋において、MSCの生存率を有意に増加させることが可能であるにもかかわらず、MSCは、BrdU標識してもGFP標識しても、心筋細胞フェノタイプを有する細胞の有意な再生を示さなかった。したがって、生着したMSCのひとつの小集団が心筋細胞表現型に分化した可能性はありえるが、われわれのデータは、MSCによる治療の総合的なメリットが、再生というより、どちらかといえば心臓組織の保存から生じるものであり、この効果を仲介する少なくとも1つの因子がSDF−1である、という仮説と一致する。
==結論==
本発明者らのデータは、天然の再生修復プロセスが存在し、それは梗塞した心筋に生じ、心筋梗塞後の心筋においてSDF−1を過剰発現させることにより促進することができる、という考えに一致する。興味深いことには、本発明者らは、静脈内送達される幹細胞自体の効果とは明らかに無関係の、心筋に対する複数の有益な効果を確認した。この確認された有益な効果とは、むしろ、局所的なパラクリン効果に起因するものかもしれない。また、未分画の骨髄標本の導入により確認される梗塞期間直近の心機能の改善もこれで説明がつくと考えられる。これらの研究は、幹細胞移植が、心筋細胞の再生とは無関係に、心機能対して有意な効果をもたらし得ること、さらに、そのような効果を引き出すために設計される諸方法が、心機能の有意な保存をもたらす可能性があることを示している。いくつかの研究において既に、臨床集団での同種異系および自家MSCの注入の有用性と安全性が示されている。したがって、心筋組織を保存することを目的とするSDF−1に基づく治療を、急性心筋梗塞患者を対象としてデザインすることは可能なはずである。
〔実施例2〕
==MCP−3は心筋間葉系幹細胞ホーミング因子である==
本発明者らは、心筋梗塞(MI)後に、造血幹細胞(HSC)の心臓への一過性のホーミングが起こることを既に実証した。HSCのホーミングが一過性であることは、少なくとも部分的には、SDF−1の一過性の発現に起因する。HSCは心臓組織へ分化転換するとは考えられないが、MSCは心筋細胞のいくつかの特性をin vitroで獲得することができる。MSCはまた、MI後に心臓にホーミングすることも示されていたので、本発明者らは、同様に心筋が一過性に分泌する、MSCを誘引し得るケモカインがあるという仮説をたてた。本研究の目的は、潜在的なMSCホーミング因子を同定し、それがボーダーゾーン内に安定的に発現した場合の、心機能に対するその効果を調べることにあった。
==材料と方法==
LAD結紮:
動物研究委員会がすべての動物プロトコールを承認し、動物はすべてクリーブランドクリニック財団の国際実験動物管理公認協会実験動物施設で飼育した。既に説明した通りルイスラットの左冠動脈前下行枝の結紮を行なった。簡潔に述べると、動物に対して、ケタミンとキシラジンの腹腔内投与により麻酔をして、挿管し、圧力サイクル式げっ歯動物用ベンチレーター(ケント・サイエンティフィック社RSP1002、トリントン、コネチカット州)を用いて、室内空気にて80回/分で人工呼吸した。外科用手術顕微鏡(M500、Leica、マイクロシステムズ社、バノックバーン、イリノイ州)を補助的に用いて、前壁心筋梗塞を誘導した。
細胞の調製と送達:
ラットの骨髄は、0.6mlのDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)で大腿骨を洗い流すことにより単離した。20Gの針を用いて、骨髄の塊を穏やかに細分化した。Percoll密度勾配によって細胞を分離した。細胞を260gで10分間遠心分離し、100U/mlペニシリンおよび100g/mlストレプトマイシン(インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有するPBSで、3回交換しながら洗浄した。次いで、洗浄した細胞を、10%FBSならびに1%抗生物質および抗真菌剤(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)を含有する低グルコースDMEM(GIBCO、インビトロゲン社、カールスバード、カリフォルニア州)に再懸濁しプレーティングした。これらの細胞を37℃でインキュベートした。3日後に培地を交換することにより、接着していない細胞を除去した。14日後に(第4継代)、0.05%トリプシンおよび2mM EDTA(インビトロゲン、カールスバード、カリフォルニア州)と細胞を5分間インキュベートして、細胞を回収した。MSC培養物から、細胞106個あたりPE結合マウス抗ラットCD45一次抗体(販売元:BDバイオサイエンス;カタログ番号:554878)を10μlずつ用いて、ネガティブセレクションにより、CD45+細胞を除去した。メーカー(ステムセル・テクノロジーズ社)の使用説明書に従い、EasySep PEセレクションキットを用いて、PE陽性細胞をネガティブセレクションした。得られたMSC(第6〜12継代)を本発明者らの研究に使用した。注入3日前に、細胞を、1:3の割合で新たにプレーティングし、S期の細胞周期にあるこれらの細胞を標識するために、10μM BrdU(5−ブロモ−2−デオキシウリジン)を含有する完全培地中でインキュベートした。100μlのPBSあたり10個のBrdUで標識されたMSCを回収した。
本発明者らのMSC表現型の状態は、特異的な分化条件下での培養後、オイルレッド(脂肪細胞系列)、アルシアンブルー(軟骨細胞系列)またはアルカリフォスファターゼ(骨細胞系列)で細胞を染色することにより確認した。BrdU標識はMSCの増殖にも分化能にも、効果を有しなかった。
既に記載した通り、ラットMCP−3発現ベクターまたはpcDNA3.1(コントロール・ベクター)を安定に導入したドナーのルイスラット心臓から、同系のラット心繊維芽細胞を得た。MCP−3の発現はリアルタイムPCRによって確認した。コンフルエントに達した細胞を1:2〜1:3希釈にて第11継代までプレーティングした。
遺伝子アレイ解析:
本発明者らは、67個のターゲットを含むケモカイン・ケモカイン受容体アレイナイロン膜アレイシステム(スーパーアレイバイオサイエンス社)を用いた。1μgの全RNAを用い、ランダムプライマーを使用して逆転写によりcDNAを生成した。cRNAを生成し、メーカーのプロトコールを用いてハイブリダイゼーションを行った。化学発光シグナルを、露光時間20秒で、冷却CCDカメラにより測定した。各フィルターは一度ずつ使用した。LAD結紮から1、3、4、および10日後の各時点について、動物を3個体ずつ用いた。コントロール群としては、外科手術は行わなかったものと、1時間および1週間後に、縫合はするが、LADを縛らない疑似LAD結紮を行ったものがある。
AMI後の、時間の関数としての心筋ケモカインの発現:
心筋組織中の特異的ケモカインに関する肯定的な結果として、1匹の実験動物における発現がすべてのコントロール動物(疑似結紮したものと、手術はしなかったもの)と比較して3倍に増加した。この発現量は、それ以外のすべての実験動物においても、その時点での各コントロール動物と比較して少なくとも2倍の増加であった。また、それ以外のすべての時点においても、コントロールから増加しているか変化していなかった。
心繊維芽細胞と比較した、MSC上の差分受容体(Differential Receptor)の同定:
培養物中の細胞からのほうが、組織の場合と比較して、発現プロフィルの変動が小さいため、本発明者らは培養中の細胞に対して行ったアレイ解析の陽性結果のストリンジェンシーを増加させた。この場合、受容体発現量の有意差は、心繊維芽細胞と比較して、MSCにおける発現が10倍の増加として定義された。各細胞タイプに対し、別々の3つの培養物を調べた。陽性の結果はすべてPCRまたはリアルタイムPCRにより確認した。
リアルタイムPCR:
600万個の細胞からRNAを単離した後、Rneasy Mini Kit(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用し、メーカーの使用説明書に従ってRT−PCRを行った。ABI Prism 7700 sequence detector (アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を使用し、定量的リアルタイムPCRを行った。反応液にはSYBR Green PCR master mix(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)、300nMの各プライマー、および10μlのcDNAが含まれていた。95℃で10分間AmpliTaq Gold(アプライド・バイオシステムズ社、フォスター市、カリフォルニア州)を活性化した後、95℃で15秒間、60℃で1分間を1サイクルとして、45サイクルを行った。各増幅の解離曲線を解析し、非特異的なPCR産物がなかったことを確認した。
免疫染色:
動物を、心筋梗塞72時間後または4週間後に屠殺した。確立しているプロトコールに従い、組織をホルマリンで固定し、パラフィンブロックで包埋した。10mMクエン酸ナトリウムバッファー(pH 6.0)を用いて、95℃で5分間加熱して、抗原回復を行った。バッファーは新鮮なバッファーと交換してさらに5分間再加熱し、次いで、約20分間冷却した。次いで、スライドを2分間脱イオン水で3回洗浄した。次いで、非特異的なIgGの結合を抑制するため、標本を1% ブロッキング用正常血清を含むPBSで60分間インキュベートした。次いで、スライドを、マウス抗BrdU一次抗体(BDバイオサイエンシーズ社、サンホセ、カリフォルニア州)とともに60分間インキュベートした。最適な抗体濃度は滴定によって決定した。次いで、スライドをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄した後、ブロッキング用正常血清を含むPBSで1.5μg/mlに希釈し暗室でインキュベートした、FITC結合二次抗体(サンタクルーズ・バイオテクノロジー社、サンタクルーズ、カリフォルニア州)とともに、45分間インキュベートした。PBSでよく洗浄した後に、水溶性封入剤(Vectashield Mounting Medium with DAPI,H−1200;ベクターラボラトリーズ、バーリンゲーム、カリフォルニア州)を用いてカバーガラスで封入した。
共焦点免疫蛍光顕微鏡法:
青色のアルゴンレーザー(DAPI用)、緑色のアルゴンレーザー(Alexa Fluor 488用)、および赤色のクリプトンレーザー(Alexa Fluor 594)を備えた正立型共焦点レーザー走査顕微鏡(モデルTCS−SP;ライカマイクロシステムズ、ハイデルベルク、ドイツ)を用いて、組織を解析した。データは、「ブリードスルー」を最小限に留めるため、連続励起により収集した。画像処理、解析、および共局在化の程度を、Leica Confocal Softwareを使用して評価した。光学切片は、4フレーム間の平均値を取り、画像サイズは1024×1024ピクセルに設定した。画像のデジタル調節はしなかった。
MSC生着および血管密度の定量化:
生着したMSCを、高倍率視野あたりのBrdU陽性細胞数として定量化した。血管数は、高倍率視野あたりのvWF陽性血管数として定量化した。梗塞域に沿う少なくとも8高倍率視野を、当該動物の治療について盲検化されていた観察者2名がランダムにカウントした。高倍率視野あたりの細胞数または血管数は、平均して、高倍率視野あたりの測定面積で標準化した。
心エコー検査:
Sequoia C256およびGE Vision 7と接続した15MHzのリニアアレイトランスデューサを用いて、LAD結紮およびMSC移植後の2週目および5週目に2次元断層心エコー法を行った。左室径および左室壁厚を定量化するため、本発明者らは、乳頭筋直下左室中心部からの2次元クリップ画像およびMモード画像を短軸断面でデジタル記録し、異なるラットの同じ解剖学的位置からの計測値が一致するようにした。超音波検査技師は、どちらが治療群かについて盲検化されていた。計測は独立した2名の盲検化された観察者がProSolve心エコー検査用ソフトウェアを用いてオフラインにて行った。治療群について盲検化された観察者が、記録された5枚のMモードクリップ画像のうち無作為に3枚を選び、動物各個体において、測定をそれぞれ6回ずつ行った。短縮率をMモード記録から算出した。短縮率(%)=(LVEDD−LVESD)/LVEDD×100(ここで、LVEDDは左室拡張末期径を、LVESDは左室収縮末期径を表す)。
コラーゲン含有量の測定:
心臓組織のパラフィン切片(5μm)を調製した。切片をコラーゲン特異的マッソントリクローム染色法および光顕微鏡法により観察した。繊維性コラーゲンの蓄積(青染色)を評価するため、画像解析ソフトウェアである、Image−Pro Plus バージョン5.1を用いて、コラーゲン含有量の量的評価を行なった。繊維化の大きさは、コラーゲン組織(青)を含むLV面積の百分率により定量化した。実験に用いた心臓はMI8週間後のもので、前壁が著しくひ薄化していたので、リモデリング後の梗塞の大きさの尺度として、コラーゲン組織を有する左室内腔周径の百分率による定量化も行った。
in vitroの遊走アッセイ:
MSCはトリプシン−EDTAで分離し、カウントして、完全培地に再懸濁した。その後、細胞(400μLの中の1x10個)を、24ウェルプレート中に挿入したMillicell培養プレートインサート(孔径8μm; ミリポア社、ベッドフォード、マサチューセッツ州)上にプレーティングし、37℃で一晩付着させた。遊走を開始させるため、走化性因子MCP−3(R&Dシステムズ社、ミネアポリス、ミネソタ州)を加えて、あるいは加えずに、1%FBS含有DMEM(600μL)を、下部プレートのウエルに添加した(三つずつ)。細胞は、37℃で4時間、インサートメンブレンを通過して遊走させた。次いで、インサートをPBSで洗浄し、インサートの上部表面に残存する非遊走細胞を、綿球で除去した。遊走細胞を、4%PFAで固定し、0.25%クリスタルバイオレットで染色し、顕微鏡(10X)を用いカウントした。ランダムに選択した4視野における細胞数の中間値(±SEM)を、各処置について計算した。
統計解析:
データは平均値±標準偏差として示す。群間の比較は、独立スチューデントt検定(細胞生着、コラーゲン含量)または ボンフェローニ補正(心エコー検査のデータおよび細胞移植のデータ)を伴う分散分析により適宜行った。
==結果==
損傷した心筋におけるMSCの一過性のホーミング:
200万個のBrdUで標識されたMSCを、LAD結紮1日後または14日後にラットの尾静脈へ注入した。MSC注入3日後、ラットを屠殺し心臓を採取した。MSCはmmあたりのBrdU陽性細胞の数として定量化した。本発明者らのMSC調製物は、急性心筋梗塞後の心筋に一過性にホーミングする、ということを図7のデータに示す。LAD結紮1日後、単位面積当たり有意な数のMSCが確認されたが、LAD結紮14日後には、MSCの注入に起因する梗塞域内の有意なMSCの生着はみられなかった。
MSCホーミング候補因子の同定:
図8aは、MSCホーミング候補因子を同定するため、本発明者らが行った戦略およびその結果について描写したものである。本発明者らは、ケモカインとケモカイン受容体のアレイを用いて、2つの異なる集団を同定した。第1の集団は、LAD結紮1時間後という早い時期に発現したケモカインの集団である。その発現は、ピーク時には、疑似手術を施した動物の少なくとも3倍に達したが、LAD結紮10日後までには消滅した(図8a 左側、明るいグレーのグループ)。第2の集団は、心繊維芽細胞と比較して少なくとも10倍の発現量で発現したケモカイン受容体を表す(右側、濃いグレーのグループ)。MSCホーミング候補因子は、左側の円(薄いグレー)に含まれるケモカイン(LAD結紮後に心筋組織により一過性に発現)のうち、右側の円(濃いグレー)に含まれる受容体に結合した(心繊維芽細胞ではなくMSCにより発現)ケモカイン、すなわちこれら2つの集団の共通部分であった(白抜き部分)。図8aの白抜き部分に示されるように、受容体CCR−1およびCCR−2を介する単球走化性タンパク質(1と3)ならびに受容体CCR−5を介するMIP−1αおよびMIP−1βという、2つのケモカインファミリーのみが同定された。
このアレイ研究からの結果を検証しさらに精密なものとするため、本発明者らは、CCR1、CCR2、およびCCR5の存在をさらに評価するためのPCRを行なった。図8bは第6および第20継代のMSC、CF、およびラットの脾臓(ポジティブコントロール)由来のPCR産物を示す。これらの結果は、若い継代のMSCにおけるCCR1およびCCR5の発現が、CFより有意に強いということと、MSCによるCCR5の発現が継代を繰り返すと消滅するということを示している。
MCP−3の発現が、MSCのホーミングに与える影響:
(i)CCR1の発現はMSC中で維持される、また、(ii)時間が経過してもMSCのホーミング能は失われない、という知見に基づき、本発明者らは、MCP−3に着目することにした。MSCホーミング因子を同定するためにあらかじめ定義される、さらにもう1つの基準は、MSCが、目的とするケモカインを発現しないということである。本発明者らは、MSCとCFにおけるMCP−3発現についてリアルタイムPCR解析を行なった。これらのデータは、MSCが有意なレベルのMCP−3を発現しないことを示した(データは示さず)。
MCP−3がMSCホーミングを誘導することができるかどうかを調べるため、本発明者らは、MCP−3の濃度の変化に反応する、MSCの遊走能を調べるin vitroの細胞遊走研究を行なった。図9のデータは、MSCの遊走が、濃度依存的に増加したことを示す。
MCP−3が、損傷後時間の経過した心筋へMSCを動員する能力があるかどうかを調べるため、LAD結紮1カ月後、本発明者らは、コントロールまたはMCP−3を発現しているCFを梗塞境界域へ移植した。3日後に、200万個のBrdUで標識されたMSCを尾静脈から注入し、それから3日後(CF移植から6日後)に、MSCの生着を定量化した。図10のデータ(単回注入)は、心筋組織においてMCP−3の発現が再確立すると、心筋組織は、循環するMSCをホーミングさせて生着させる能力を回復する、ということを示している。これらのデータはMSCのホーミングにおけるMCP−3の役割と一貫性があるものの、MSCの生着のレベルは、同じモデル中の慢性的なSDF−1の発現に反応するHSCの生着に比べて低いものであった。
本発明者らは、MCP−3に反応するMSCの比較的低い生着の原因の1つが、HSCと異なり、MSCは、骨髄により恒常的に放出されているものではないため、その半減期が静脈注入後の血流中で短い(<1時間)という事実にあるのではないかと考えた。したがって、本発明者らは、MCP−3を発現しているCFを移植した動物にMSCを連続して注入すると、MSCの生着率が高くなるのではないかと仮定した。図4(複数回注入)のデータは、12日間にわたり、1回あたり100万個のMSCを6回静脈注射後、コントロールのCFと比較して、MCP−3を発現しているCFを投与した動物の心筋に、有意に大きいMSCの生着があったことを示す(図10aおよび b)。
MSCのホーミングを再確立することによる心機能への効果:
本発明者らはLAD結紮1カ月後に、コントロールおよびMCP−3を発現しているCFを移植した。CFの移植に続いて、動物に、CF移植の3日後より、1日おきに12日間、1回あたり100万個のMSC、または生理食塩水を6回注入した。CF移植前のMI1カ月後(基準値)、およびCF移植の1カ月後(MI2カ月後)に、心機能および心臓径を心エコー検査によって定量化した。図11aのデータは、短縮率により測定される心機能が、MCP−3を発現しているCFの投与およびMSCの注入を受けた動物において、有意に増強したことを示す。MCP−3を発現しているCFを投与しMSCを注入しなかった動物の場合は、有意な改善がみられなかった。MCP−3発現CFを投与しかつMSCを注入した動物にさらにMSCを注入1か月後に、明らかにLVEDDが減少し、逆リモデリングが起こっていた。左心内腔のさらなる拡張が、MSCを連続注入したがコントロールCFも投与した動物、またはMSCを連続注入せずMCP−3発現CFを投与した動物に認められた(図11bおよびd)。
生着したMSCは心筋細胞に分化しなかった。BrdUと心筋ミオシン、トロポニンI、またはコネキシン43との共染色の結果、生着したMSCのなかに、in vivoで、心臓マーカーを発現した細胞は全くなかったことが明らかになった。本発明者らは、MSCの生着によって、心機能の改善をもたらす梗塞域のリモデリングが起こると仮定した。マッソントリクローム染色により、MSCの連続注入より前に、コントロールまたはMCP−3を発現する心繊維芽細胞で処置した各動物の間で、梗塞域/梗塞境界域におけるコラーゲン含量に有意差があることが明らかとなった(それぞれ、図12aおよびb)。MSCを注入せずMCP−3発現心繊維芽細胞を注入した場合、変化は全く認められなかった(データは示さず)。CFの注入は、MCP−3を発現させてもさせなくとも、そして、MSCを注入してもしなくとも、血管密度に何ら影響を与えなかった(データは示さず)。MCP−3を発現する心繊維芽細胞の投与およびMSCの連続注入を受けた動物においては、コラーゲン陽性に染色されたLVの割合は、25.4%(p<0.02、図12c)有意に減少した。これらの動物において、コラーゲン陽性に染色されたLVの周径に、35.3%の減少(p<0.01、図12d)を認めた。これらのデータは、MCP−3を発現する心繊維芽細胞の投与およびMSCの連続注入を受けた動物において、LVEDDが有意に減少したというわれわれの所見(図11)と一致している。筋繊維芽細胞は、心リモデリングおよび心機能の改善と関係があるため、梗塞域において、有利なコラーゲンリモデリングがより多くの筋線維芽細胞と関わっていたかどうかを調べたいとわれわれは考えた。ビメンチンおよびα−平滑筋細胞アクチンに対する抗体を用いた染色の結果、MCP−3の投与およびMSCの連続注入を受けた動物の梗塞境界域には、コントロールCFおよびMSCの連続注入を受けた動物よりも、より多数の筋繊維芽細胞が示された(図12eおよびf)。ビメンチン陽性細胞のなかに、BrdU陽性のものは殆どなかったが、MCP−3の発現だけでは筋繊維芽細胞の増加が起こらなかったのであるから、このことは、ビメンチン陽性細胞の大多数がMSCの生着に反応して梗塞境界域に動員されたことを示唆している。
==考察==
MSCは、組織修復のための幹細胞の源として盛んに研究されている。MSCは、複数の臓器の損傷した組織にホーミングすることが知られている。しかし、MSCのホーミングを司る生物学的シグナルについては、これまでに記載されたことがない。本研究でわれわれは、MSCのホーミング因子としてMCP−3を同定した。
MSCはSDF−1に反応してホーミングすることを示唆する研究がある。さらに、MSC自身がSDF−1を発現することから、SDF−1が、おそらくオートクリンメカニズムのため、MSCの成長と生存に重要であると考えられる。しかし、このようなSDF−1の作用は、SDF−1がMSCのホーミングを司るということとは異なるものである。MIから一定の時間が経過した時点でSDF−1を過剰発現させても、MSCの有意なホーミングを誘導しない、という考え方に一致して、本発明者らは、SDF−1を心筋の幹細胞のホーミング因子として定義した以前の研究におけるHSCの動員および生着に辿りついたにすぎなかった。
MCP−3は、単球、白血球、および樹状細胞を含むいくつかの細胞タイプに対する強力な走化活性を有するCCケモカインファミリーに属する。これらのケモカインは、ケモカイン受容体CCR1、CCR2、CCR3、およびCCR5との相互作用によってその効果を発揮する。MCP−3は、創傷治癒におけるその役割は完全には解明されていないにせよ、複数の炎症部位で発現されることが示されている。本研究で、われわれは、MCP−3が、急性心筋梗塞後の心筋組織によって一過性に発現されることを示している。MSCが心筋梗塞に反応して動員されることは未知であるため、MI時の心臓の内因性修復のためのMSCホーミング因子としてのMCP−3発現の有用性は不明瞭である。それでもなお、MSCを利用する本研究によって示されるように、MCP−3のホーミング作用には治療的可能性があるかもしれない。
本発明者らのデータは、心筋梗塞後、複合のケモカインの一過性のアップレギュレーションおよび放出があり、これらの現象が損傷部位への幹細胞輸送に影響を与え得るということを示している。これらの幹細胞のホーミング因子を同定し、心筋梗塞から数週間〜数カ月月後に再発現させることにより、梗塞域への幹細胞の遊走能および生着能が再確立されると考えられる。更に、心筋組織に幹細胞のホーミングを再確立する細胞を心臓に注入することは、心臓の高負荷時における幹細胞含有量を増加させる戦略となる可能性がある。この戦略が、時間をかけての侵襲性の複数回注射もしくは幹細胞を単回注入することで達成可能なものかのいずれかと比較して(または両者を併せた方法と比較して)同等に、あるいはそれ以上に効果的であるかどうかを見極めるためには、今後の研究が必要である。
心筋梗塞1カ月後に、MSCを心臓に動員しても、心筋細胞は再生しなかった。というより、梗塞時期の直近における、MSCの注入で示したように、MSCの生着は梗塞域中に有益なリモデリングを引き起こした。新しい心筋細胞が形成されなかったのは、MSCの心筋細胞への分化能の欠如、あるいは、心臓の分化に必要な細胞シグナル伝達の決定的なメディエーター(梗塞期間の直近を過ぎた期間に心筋組織に存在する)の欠如のためであろう。MSCは、VEGF、SDF−1、FGF、およびIGF−1を含む複数の因子を放出することが知られている。MCP−3がMSCホーミング因子であることを実証するわれわれの現在の研究の範囲外のことではあるが、興味深いことには、脈管形成または血管形成の不在下で、本発明者らは心機能の改善を確認した。したがって、HSCホーミング因子の過剰発現またはHSCそのものの注入後に認められた効果は、MCP−3の過剰発現によってMSCを動員する効果とは別のものであると考えられる。この所見から次のことが示唆される。心筋梗塞から一定の時間が経過した後にMSCのホーミングを再確立し、かつMSCを生着させた後の、急性心筋梗塞から一定の時間の経過後にMSCを移植することに対するメリットのメカニズムは、組織灌流の改善ではなく、心リモデリングの改善と、おそらく心筋の生存に対する栄養作用とに関係がある。
本発明の以上の説明から、当業者であれば、改良、変更、および修正について理解するだろう。当該技術内におけるそのような改良、変更、および修正は、添付の請求の範囲によって包含されるように意図されている。さらに、すべての参考文献、出版物、および特許出願、ならびに本出願において言及されている特許はすべて、その全体を参照することにより本明細書に援用する。

Claims (55)

  1. 被験体の虚血障害を治療する方法であって、ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を、アポトーシス細胞のアポトーシスを阻害するのに有効な量で、前記被験体の虚血組織のSDF−1受容体を発現する前記アポトーシス細胞に投与することを含む、方法。
  2. 前記SDF−1を、前記虚血障害の結果としてアップレギュレートされるSDF−1受容体を含む細胞に、投与することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  3. 前記SDF−1受容体が、CXCR4を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
  4. 前記SDF−1を、前記アポトーシス細胞のAktリン酸化を増加させるのに有効な量で投与することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  5. 前記SDF−1を、前記治療中の組織においてSDF−1を発現させるかまたはその発現を促進することにより、投与することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  6. 前記SDF−1を、治療中の虚血組織と生体適合性を有する細胞から発現させることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  7. 前記SDF−1を、前記虚血組織の細胞または前記虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  8. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子の少なくとも1つによって、SDF−1を発現するよう遺伝的に改変されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  9. MCP−3を、幹細胞および/または前駆細胞を前記虚血組織へ動員するのに有効な量で、前記虚血組織に投与することをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  10. 前記幹細胞が、自家および/または同系の間葉系幹細胞を含むとことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
  11. 前記MCP−3を、前記治療中の組織においてMCP−3を発現させることにより投与することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
  12. 前記MCP−3を、治療中の虚血組織と生体適合性を有する細胞から発現させることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
  13. 前記MCP−3を、前記虚血組織の細胞または前記虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  14. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、MCP−3を発現するよう遺伝的に改変されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  15. 前記細胞が、MCP−3を発現し、SDF−1を発現していることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
  16. 前記細胞に、SDF−1およびMCP−3を発現するバイシストロニックな発現構築物をトランスフェクトすることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
  17. 前記虚血障害が、末梢血管障害、肺塞栓、静脈血栓症、心筋梗塞、一過性脳乏血発作、不安定狭心症、大脳血管虚血、可逆性虚血性神経症候、虚血腎疾病または脳卒中障害のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
  18. 組織損傷後の、組織の細胞のアポトーシスを抑制する方法であって、SDF−1受容体を発現している組織のアポトーシス細胞に、前記アポトーシス細胞のアポトーシスを阻害するのに有効な量のSDF−1を投与することを含む、方法。
  19. 前記細胞が、前記虚血障害の結果としてアップレギュレートされるSDF−1受容体を含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  20. 前記SDF−1受容体が、CXCR4を含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
  21. 前記SDF−1を、前記細胞のAktリン酸化を増加させるのに有効な量で投与することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  22. 前記SDF−1を、前記組織において、SDF−1を発現させるかまたはSDF−1の発現を促進することにより、投与することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  23. 前記SDF−1を、前記組織と生体適合性を有する細胞から発現させることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
  24. 前記SDF−1を、前記虚血組織の細胞または前記組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  25. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、SDF−1を発現するよう遺伝的に改変されることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
  26. MCP−3を、幹細胞および/または前駆細胞を前記組織の細胞へ動員するのに有効な量で、前記細胞に投与することをさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
  27. 前記幹細胞が、自家および/または同系の間葉系幹細胞を含むことを特徴とする、請求項26に記載の方法。
  28. 前記MCP−3を、前記組織中でMCP−3を発現させることにより投与することを特徴とする、請求項27に記載の方法。
  29. 前記MCP−3を、前記組織と生体適合性を有する細胞から発現させることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
  30. 前記MCP−3を、前記組織の細胞または前記組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項28に記載の方法。
  31. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、MCP−3を発現するよう遺伝的に改変されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
  32. 前記細胞に、SDF−1およびMCP−3を発現するバイシストロニックな発現構築物をトランスフェクトすることを特徴とする、請求項31に記載の方法。
  33. 被験体の虚血障害を治療する方法であって、
    ストローマ細胞由来因子−1(SDF−1)を、前記被験体の虚血組織に、前記組織のSDF−1受容体を発現する細胞のアポトーシスを阻害するのに有効な量で、投与することと、
    MCP−3を、前記虚血組織に、幹細胞および/または前駆細胞を前記虚血組織へ動員するのに有効な量で、投与することと、
    を含むことを特徴とする方法。
  34. 前記SDF−1を、前記虚血障害の結果としてアップレギュレートされるSDF−1受容体を含む細胞へ投与することを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  35. 前記SDF−1受容体が、CXCR4を含むことを特徴とする、請求項34に記載の方法。
  36. 前記SDF−1を、前記細胞のAktリン酸化を増加させるのに有効な量で投与することを特徴とする、請求項35に記載の方法。
  37. 前記SDF−1を、前記治療中の組織においてSDF−1を発現させることにより投与することを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  38. 前記SDF−1を、前記虚血組織の細胞または前記虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  39. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、SDF−1を発現させるために、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって遺伝的に改変されていることを特徴とする、請求項38に記載の方法。
  40. 前記幹細胞が、自家および/または同系の間葉系幹細胞を含むことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  41. 前記MCP−3を、前記治療中の組織中にMCP−3を発現させることにより投与することを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  42. 前記MCP−3を、前記治療中の虚血組織と生体適合性を有する細胞から発現させることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
  43. 前記MCP−3を、前記虚血組織の細胞または前記虚血組織の末梢周囲の細胞から発現させることを特徴とする、請求項41に記載の方法。
  44. 前記SDF−1を発現する前記細胞が、ベクター、プラスミドDNA、エレクトロポレーション、およびナノ粒子のうち少なくとも1つによって、MCP−3を発現するよう遺伝的に改変されることを特徴とする、請求項43に記載の方法。
  45. 前記細胞が、MCP−3を発現し、SDF−1を発現していることを特徴とする、請求項44に記載の方法。
  46. 前記細胞に、SDF−1およびMCP−3を発現するバイシストロニックな発現構築物をトランスフェクトすることを特徴とする、請求項45に記載の方法。
  47. 前記虚血障害が、末梢血管障害、肺塞栓、静脈血栓症、心筋梗塞、一過性脳乏血発作、不安定狭心症、大脳血管虚血、可逆性虚血性神経症候、虚血腎疾病または脳卒中障害のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項33に記載の方法。
  48. 治療上有効な量のSDF−1およびMCP−3を含有する、虚血障害を治療するための医薬組成物。
  49. SDF−1を発現させるためのDNAおよびMCP−3を発現させるためのDNAを含む、バイシストロニックベクター。
  50. 治療中の被験体に移植される細胞または組織のアポトーシスを抑制する方法であって、
    前記治療中の被験体に移植される細胞または組織に、SDF−1を投与することを含み、
    前記細胞または組織がSDF−1受容体を発現していることを特徴とする、方法。
  51. 前記SDF−1を、移植に先立ち、前記治療中の被験体の前記細胞または組織に投与することを特徴とする、請求項50に記載の方法。
  52. 前記SDF−1を、前記治療中の細胞または組織の移植中および/または移植後に、前記細胞または組織に投与することを特徴とする、請求項50に記載の方法。
  53. 前記SDF−1受容体が、CXCR4を含むことを特徴とする、請求項50に記載の方法。
  54. 前記SDF−1を、前記アポトーシス細胞のAktリン酸化を増加させるのに有効な量で投与することを特徴とする、請求項50に記載の方法。
  55. 前記細胞が、SDF−1受容体を発現する幹細胞および/または前駆細胞を含むことを特徴とする、請求項50に記載の方法。
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