JP2004099471A - 心筋梗塞および心不全の治療薬 - Google Patents
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Abstract
【課題】心筋梗塞後の心機能を改善すること、サイトカインによって幹細胞を損傷した心筋へと動員すること、および細胞から心筋細胞への分化を促進する機構を提供することである。
【解決手段】gp130リガンド(例えば、LIF)を含む、組成物。好ましくは、gp130リガンドは、配列番号2または4に示す配列、または1もしくは複数の置換付加もしくは欠失を含む。gp130リガンドは、核酸形態またはポリペプチド形態で提供され得る。
【選択図】 なし
【解決手段】gp130リガンド(例えば、LIF)を含む、組成物。好ましくは、gp130リガンドは、配列番号2または4に示す配列、または1もしくは複数の置換付加もしくは欠失を含む。gp130リガンドは、核酸形態またはポリペプチド形態で提供され得る。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、心不全(たとえば、心筋梗塞後の)を軽減または除去するための組成物、方法およびキットに関する。別の局面では、本発明は、心筋細胞の増殖、調製および血管新生を促進するための組成物、方法およびキットに関する。本発明は、白血病阻害因子(LIF)の新規機能に関し、梗塞の程度を減弱し、かつ心筋再生、血管新生の促進し、心機能の低下を軽減する。
【0002】
【従来の技術】
心筋梗塞の後の心筋細胞の急性損失は、心機能を低下させ、そして通常は、心不全をもたらす。心不全は依然として、心疾患の罹患率および死亡率に関する主要な危険因子である(例えば、非特許文献1)。従って、心不全は、損傷した心臓についての治療ストラテジーを確立するという課題が残っており、解決すべき医学的テーマの中でも重要なものの一つである。
【0003】
心筋梗塞が生じた場合、心筋細胞は、アポトーシスおよび壊死により迅速に減少し(例えば、非特許文献2〜4)、間質の脈管成分および非脈管成分が、虚血性損傷によりほぼ破壊され、梗塞領域中の心筋細胞が、線維性非筋細胞によって徐々に取って代わられ、瘢痕組織になる。従って、心筋梗塞後の心筋細胞の損失量は、心機能不全の重傷度を決定する因子である。
【0004】
心筋細胞は、生後、最終分化し、分裂する能力を失うと考えられていたが、この概念は、再考されなければならない。なぜなら、心筋細胞がある病態下または生理的条件下で分裂することを、動物モデルを用いた研究結果が示唆するからである(例えば、非特許文献5)。最近、心筋梗塞直後に常在する心筋細胞、血中を循環する幹細胞、またはこれらの両方の細胞由来の心筋細胞の分裂または再生を示す研究が、ヒトの心臓において報告された(例えば、非特許文献6)。しかし、心筋細胞の分裂は、非梗塞心筋領域の小数の細胞にのみ限定されており、心機能の回復には十分ではないことから、心筋梗塞後の処置なくして梗塞心筋領域を修復することは不可能なようである。従って、心筋梗塞後のリモデリング、または心不全を軽減するための治療戦略を考える上で、梗塞心筋領域を回復することは、依然として、重要な課題である。
【0005】
現在、早期の再灌流および化学薬剤の投与による、心筋細胞死を減少、梗塞領域の縮小、ならびにリモデリングの予防は、心筋梗塞を処置する上で当該分野において、依然として、主要な課題である。これらの治療は、多分、不可逆的な心不全への進行を遅らせるが、これらは、損傷した心筋細胞を再生できず、心臓の損傷した機能を復帰させることもできないので、治療効果は限定される。骨格筋芽細胞または心筋細胞(胎児または骨髄由来の骨格筋芽細胞または心筋細胞を含む)を移植することによって梗塞領域中の瘢痕組織を置換する試みが出現したが、これらの実行は、心機能を十分に回復させるための心筋細胞および冠状動脈の再構築を認めなかった(例えば、非特許文献7〜11)。
【0006】
最近、幹細胞の領域において、新たな戦略を提供する研究がなされている。動物モデルを用いたいくつかの研究が、梗塞後の梗塞心筋に移植された成体の骨髄動脈細胞(BMC)または胚性幹細胞(ES)が心筋細胞および冠動脈へと分化し、梗塞心筋領域における心筋細胞の部分的再生および梗塞領域の縮小を生じ、その後心機能が回復することを示唆した(例えば、非特許文献12〜16)。これらのアプローチは、心筋梗塞後の細胞治療のための新規なツールを約束するようである。しかし、臨床レベルでは、細胞治療の適用における重要な課題が、依然として解決されていない。
【0007】
第1に、骨髄細胞は、異なる型の細胞へと分化する能力を有するが、梗塞領域に移植された骨髄細胞が他の細胞へと分化するのを回避する方法は不明である。新規なデータが、心臓幹細胞(CSC)が存在すること、および心筋細胞を再生する際に骨髄細胞より心臓幹細胞の方が有効なことを示唆する(例えば、非特許文献17)。従来、心臓幹細胞を認識するために使用されたマーカーは、必ずしも特異的に認識するものではなかった。
【0008】
第2に、梗塞領域へのこの心臓幹細胞の移植は、外科的介入を必要とするため、特に心筋梗塞後の早期段階では高いリスクを伴うはずである。細胞移植が遅くに実施された場合、心筋梗塞後迅速に(数時間以内に)脈管構造が破壊され、血液供給が大きく減少するので、移植細胞の増殖、分化および生存が大きく影響を受けるはずである。従って、心筋梗塞後可能な限り早く使用され得、その後梗塞心筋領域が再生し得る、非侵襲性方法を見出すことが望まれる。
【0009】
最近、Orlic D.らが、幹細胞因子(SCF)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の事前注入が、内因性骨髄細胞の梗塞領域層への移動およびホーミングを認識し、心臓細胞へと分化し心筋領域塊を再構成するのを促進し、これにより心臓の機能および生存の改善がもたらされることを報告した(例えば、非特許文献18)。このことは、心筋梗塞についてのサイトカインによる非侵襲性かつ有効な治療ストラテジーを示唆した。しかし、SCFおよびG−CSFは、虚血性心疾患の悪化、幹細胞の偏った方向付け、および骨髄の消費を誘導し得る、造血性サイトカインに属する(例えば、非特許文献19)。心筋梗塞後に使用されるSCFおよびG−CSFの効果は不明である。従って、心筋梗塞後に適用可能な他のサイトカインを選択することが必要である。
【0010】
再生医学(再生医療)による疾患治療が最近注目を浴びている。しかし、これを臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。現在まで、そのような患者の治療として、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用がごく限られた患者に適応されているにすぎない。しかし、これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題であり、骨髄移植の場合、骨髄国内外で骨髄ないし臍帯血バンクが次第に充実してきたといっても、限られたサンプルを多くの患者に提供することが困難である。従って、これらの問題を克服するために幹細胞治療とその応用を中心とした再生医学に対する期待がますます高まっている。
【0011】
従来も幹細胞移植治療は行われていたが、種々の副作用があった。例えば、大量抗癌剤または放射線照射を用いた移植前処置による副作用(RRT)が存在していた。また、前処置による骨髄抑制中の細菌・真菌感染症、出血;他人からの移植の場合、ドナーの白血球が生着して増えてきた時に患者臓器を異物(他人)とみなして攻撃する反応(移植片対宿主病=GVHD);サイトメガロウィルス(CMV)肺炎を中心とする様々な肺合併症;血管内皮細胞(血管の内側を覆っている細胞)の障害による種々の内臓障害;生着後にも遷延する免疫抑制状態(少なくとも1〜2年)の間に罹患する様々な感染症;遷延し様々な症状を呈する慢性GVHD;二次性発癌、性腺機能障害、不妊などの晩期障害などの副作用があった。
【0012】
このように、合併症のために、移植を行ったがために、かえって一時的に全身状態が悪くなるということはしばしば起こる。また、合併症のために死亡する患者も、自家移植でも10〜20%、他人からの移植では20〜40%程度いる。また、これらの合併症をのりこえても、もとの病気が再発する可能性があり、現在の移植治療の限界があった。
【0013】
幹細胞の分化を調節する機構として種々のタンパク質が重要な役割を果たす。例えば、幹細胞因子(stem cell factorまたはsteel factor;SCFともいう)は、造血幹細胞では注目されている因子である。
【0014】
SCFは、骨髄ストローマ細胞により生成され、多能性幹細胞、CFU−GMのCFU−M、CFU−Megなどの骨髄系細胞、リンパ系幹細胞に作用し、これらの分化を支持する。すなわち造血幹細胞から分化細胞へのほぼすべての系統の分化段階の細胞に作用して、他のサイトカインによる最終分化段階への分化誘導する作用を助けるとされる(非特許文献20)。
【0015】
しかし、SCF単独の作用は弱く、他の因子と協働でなければ充分に機能しないようである。例えば、SCFは、インターロイキン(IL)−3、IL−6、IL−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などの他のサイトカインの存在下で、造血幹細胞の分化・増殖を強く誘導する。また、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球マクロファージ系前駆細胞、巨核球系前駆細胞などの分化・増殖も誘導する。
【0016】
従って、SCFは分化そのものを制御するというよりは、多くの種類の造血系細胞の生存を支持しながら、種々のサイトカインに対する反応性を高めると位置づけることができる。
【0017】
トロンボポイエチン(TPO)もまた注目されている。この因子は、巨核球系の分化と血小板産生を支持するが、幹細胞にも作用しその分化を誘導する。また、幹細胞の自己複製にも関与することが分かっている。
【0018】
このように、従来の因子では、幹細胞のある種の細胞への分化を促進することは報告されていたが、心筋細胞への分化を促進する因子はいまだに報告されていない。また、心肥大を促進する現象およびそれを担う因子の存在は報告されているもの、心筋細胞の数を増加させる機構は報告されておらず、根本治療には程遠いのが現状である。
【0019】
近年、gp130刺激サイトカイン(本明細書においてgp130リガンドとも称する)の一種である、白血病阻害因子(LIF)が、神経系、骨格筋および心血管系を含む多くの組織において、胚および成体の両方で増殖および分化を調節するという証拠が蓄積している(例えば、非特許文献21〜23)。さらに、LIFは、細胞の増殖および分化を増強するだけでなく、一部の細胞の生存状態も改善するようである。LIFが、脱神経誘導性筋萎縮を改善し、筋肉および神経の再生を改善することが報告されている(例えば、非特許文献24)。さらに、LIFは、筋芽細胞移植後の骨格筋の再生を増強する(例えば、非特許文献25)。局所投与されたゼラチンキャリア中のLIF cDNAプラスミドは、骨密度および骨形成を増加する(例えば、非特許文献26)。LIFはまた、心筋細胞から分泌される(例えば、非特許文献27)。LIFは心肥大の発症に関連し(例えば、非特許文献28〜30)、gp130シグナル伝達は、心筋細胞の生存を改善する(例えば、非特許文献30〜31)。
【0020】
しかし、LIFのようなgp130リガンドが心筋梗塞などに起因する心不全に有効であるかどうかは不明であり、むしろ、LIFのみでは心筋梗塞の治療には十分ではないと考えられていた。
【0021】
【非特許文献1】
Eriksson,H.、J.Int.Med.237,135−141 (1995)
【非特許文献2】
Anversa,P.,Cheng,W.,Liu,Y.,Leri,A.,Redaelli,G.&Kajstura,J.、Basi.Res.Cardiol.3,8−12(1998)
【非特許文献3】
James,T.N.、 Am.J.Med.107,606−620(1999)
【非特許文献4】
Sabbah,H.N.、Cardiovas.Res.45,704−712(2000)
【非特許文献5】
Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998)
【非特許文献6】
Beltrami,A.P.,Urbanek,K.,Kajstura,J.,Yan,S.M.,Finato,N.,Bussani,R.,Nadal,G.B.,Silvestri,F.,Leri,A.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、N.Eng.J.Med.344,1750−1757(2001)
【非特許文献7】
Murry,C.E.,Wiseman,R.W.,Schwartz,S.M.&Hauschka,S.D.、J.Clin.Invest.98,2512−2523(1996)
【非特許文献8】
Leor,J.,Patterson,M.,Quinones,M.J.,Kedes,L.H.&Kloner,R.A.、Circulation 94,Suppl.,II332−II336(1996)
【非特許文献9】
Taylor,D.A.,Atkins,B.Z.,Hungspreugs,P.,Jones,T.R.,Reedy,M.C.,Hutcheson,K.A.,Glower,D.D.&Kraus,W.E.、Nat.Med.4,929−933(1998)
【非特許文献10】
Tomita,S.,Li,R.K.,Weisel,R.D.,Mickle,D.A.,Kim,E.J.,Sakai,T.&Jia,Z.Q.、Circulation 100、II247−II256(1999)
【非特許文献11】
Menasche,P.,Hagege,A.A.,Scorsin,M.,Pouzet,B.,Desnos,M.,Duboc,D.,Schwartz,K.,Vilquin,J.T.&Marolleau,J.P.、Lancet 357,279−280(2001)
【非特許文献12】
Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Jakoniuk,I.,Anderson,S.M.,Li,B.,Pickel,J.,McKay,R.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Nature 410,701−705(2001)
【非特許文献13】
Kocher,A.A.,Schuster,M.D.,Szabolcs,M.J.,Takuma,S.,Burkhoff,D.,Wang,J.,Homma,S.,Edwards,N.M.&Itescu,S.、Nat.Med.7,430−436(2001)
【非特許文献14】
Kamihata,H.,Matsubara,H.,Nishiue,T.,Fujiyama,S.,Tsutsumi,Y.,Ozono,R.,Masaki,H.,Mori,Y.,Iba,O.,Tateishi,E.,Kosaki,A.,Shintani,S.,Murohara,T.,Imaizumi,T.&Iwasaka,T.、Circulation 104,1046−1052(2001)
【非特許文献15】
Jackson,K.A.,Majka,S.M.,Wang,H.,Pocius,J.,Hartley,C.J.,Majesky,M.W.,Entman,M.L.,Michael,L.H.,Hirschi,K.K.&Goodell,M.A.、J.Clin.Invest.107,1395−1402(2001)
【非特許文献16】
Min,J.Y.,Yang,Y.,Converso,K.L.,Liu,L.,Huang,Q.,Morgan,J.P.&Xiao,Y.F.、J.Appl.Physiol.92,288−296(2002)
【非特許文献17】
Anversa,P.&Nadal,Ginard,B.、Nature 415,240−243(2002)
【非特許文献18】
Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Limana,F.,Jakoniuk,I.,Quaini,F.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,10344−10349(2001)
【非特許文献19】
Schriber,J.R.&Negrin,R.S.、Drug Saf. 8,457−468(1993)
【非特許文献20】
サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174〜187(2000)
【非特許文献21】
Husmann,I.,Soulet,L.,Gautron,J.,Martelly,I.&Barritault,D.、Cytokine& Growth Factor Rev.7,249−258(1996)
【非特許文献22】
Yamauchi−Takihara,K.,Hirota,H.,Kunisada,K.,Matsui,H.,Fujio,Y.,Taga,T.&Kishimoto,T.、J.Card. Fail.2.S63−S68(1996)
【非特許文献23】
Taupin,J.L.,Pitard,V.,Dechanet,J.,Miossec,V.,Gualde,N.&Moreau,J.F.、Int.Rev.Immunol 16,397−426(1998)
【非特許文献24】
Finkelstein,D.I.,Bartlett,P.F.,Horne,M.K.&Cheema,S.S.、J.Neurosci.Res.46,122−128(1996)
【非特許文献25】
White,J.D.,Bower,J.J.,Kurek,J.B.Austin,L.、Muscle & Nerve 24,695−697(2001)
【非特許文献26】
Dazai,S.,Akita,S.,Hirano,A.,Rashid,M.A.,Naito,S.,Akino,K.&Fujii,T.、J.Craniofac.Surg.11,513−520(2000)
【非特許文献27】
Yamauchi−Takihara,K.,Hirota,H.,Kunisada,K.,Matsui,H.,Fujio,Y.,Taga,T.&Kishimoto,T.、J.Card. Fail.(1996)
【非特許文献28】
Hirota,H.,Yoshida,K.,Kishimoto,T.&Taga,T.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,4862−4866(1995)
【非特許文献29】
Hirota,H.,Chen,J.,Betz,U.A.,Rajewsky,K.,Gu,Y.,Ross,J.J.,Muller,W.&Chien,K.R.、Cell 97,189−198(1999)
【非特許文献30】
Wang,F.,Seta,Y.,Baumgarten,G.,Engel,D.J.,Sivasubramanian,N.&Mann,D.L.、Circulation 103,1296−1302(2001)
【非特許文献31】
Osugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Biol.Chem.277,6676−6681(2002)
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
心筋梗塞(MI)などの種々の心疾患は、心不全へと進展し、心疾患の罹患率および死亡率を増加させる原因となっている。従って、このような心筋梗塞後などに発生する心不全を軽減または除去する方法は、依然として主要な難題である。
【0023】
従って、本発明は、心筋梗塞後の心機能を改善することを課題とする。別の局面において、本発明は、幹細胞もしくは遺伝子の心臓注射により梗塞心臓を修復することを課題とする。本発明はさらに、サイトカインによって幹細胞を損傷した心筋へと動員することを誘導することにより梗塞心臓を修復することも目的とする。本発明はさらに、従来不可能とされた非心筋細胞から心筋細胞への分化を促進する機構を提供することも目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、一部、本発明者らが、gp130リガンド(例えば、白血病阻害因子(LIF))が予想外に、心筋細胞の細胞死に対して有効であるのみならず、心筋細胞を含む種々の細胞の増殖ならびに/または心筋細胞以外の細胞(たとえば、骨髄細胞)の疾患部位への動員およびそのような細胞から心筋細胞への分化に対しても有効であることを発見したことによって、解決された。
【0025】
好ましい実施形態として、本発明者らは、核酸形態のgp130リガンド(例えば、LIF)を使用することによって、上記事項を発見した。本発明者らが鋭意一連の的確な実験により検討した結果、横紋筋(骨格筋および心筋を含む)が、DNAの局所注入後にそのDNAを取り込みそして組換えタンパク質を発現することができるという独特な特性を有する組織であることが判明した。このような直接注入技術は、ホルモン誘導性プロモーター、組織特異的プロモーターまたは強力なウイルスプロモーターにより完全に支配されるため、骨格筋および心筋領域への外因性遺伝子の送達が可能である。適用における非侵襲性および安全性に関して、本発明者らは、本研究においてマウスの骨格筋へのLIFの裸のプラスミドcDNAの直接注入を使用した。
【0026】
好ましい実施形態として、マウスにおけるLIFの有効な投与を得るために、本発明者らは、遺伝子導入法を使用した。遺伝子治療は、心血管疾患の処置において10年間でかなり開発された。この発達は、新脈管形成増殖因子が虚血性組織の再血管新生を促進し得るという概念に従った(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。分子生物学における最近の進歩は、新脈管形成増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF))をコードする裸のDNAプラスミドを組織中に導入することを可能にした(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。
【0027】
従って、本発明は、以下を提供する。
【0028】
(1) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0029】
(2) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有する、項目1に記載の組成物。
【0030】
(3) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目1に記載の組成物。
【0031】
(4) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目1に記載の組成物。
【0032】
(5) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目1に記載の組成物。
【0033】
(6) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0034】
(7) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目6に記載の組成物。
【0035】
(8) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0036】
(9) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、項目8に記載の組成物。
【0037】
(10) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目8に記載の組成物。
【0038】
(11) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目8に記載の組成物。
【0039】
(12) 心筋細胞を調製ための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0040】
(13) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、項目12に記載の組成物。
【0041】
(14) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目12に記載の組成物。
【0042】
(15) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目12に記載の組成物。
【0043】
(16) 心筋細胞を調製ための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0044】
(17) 心筋細胞を調製するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0045】
(18) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、項目17に記載の組成物。
【0046】
(19) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目17に記載の組成物。
【0047】
(20) 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0048】
(21) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、項目20に記載の組成物。
【0049】
(22) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目20に記載の組成物。
【0050】
(23) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目20に記載の組成物。
【0051】
(24) 血管新生を促進するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0052】
(25) 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0053】
(26) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する、項目25に記載の組成物。
【0054】
(27) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目25に記載の組成物。
【0055】
(28) 心不全を軽減または除去するためのキットであって、
1)項目1〜13のいずれか1項に記載の組成物;および
2)心不全発生後に該組成物を注入することを指示する、指示書、
を備えるキット。
【0056】
(29) 前記指示書は、
前記心不全発生後24時間以内に前記組成物を注入することを指示する、
項目28に記載のキット。
【0057】
(30) 前記指示書は、
前記組成物を下肢大腿部の骨格筋に投与することを指示する、
項目28に記載のキット。
【0058】
(31) 前記心不全は、心筋梗塞発症後に発生したものである、項目28に記載のキット。
【0059】
(32) 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、項目34に記載のキット。
【0060】
(33) 心筋細胞を調製ための方法であって、
1)原料細胞を提供する工程;および
2)該原料細胞に項目12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。
【0061】
(34) 前記原料細胞は、胚性幹細胞、骨髄細胞および組織幹細胞からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
【0062】
(35) さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、項目33に記載の方法。
【0063】
(36) 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィン(CT−1)からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
【0064】
(37) 血管新生を促進する方法であって、
1)所望の部位に項目12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。
【0065】
(38) 前記所望の部位は、血管新生を必要とする部位である、項目37に記載の方法。
【0066】
(39) さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、項目37に記載の方法。
【0067】
(40) 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィンからなる群より選択される、項目37に記載の方法。
【0068】
(41) 心不全を軽減または除去する方法であって、
1)心不全発症後に項目1〜11のいずれか1項に記載の組成物を投与する工程
を包含する方法。
【0069】
(42) 前記投与する工程は、前記心不全発生後24時間以内に行われる、項目41に記載の方法。
【0070】
(43) 前記組成物は、下肢大腿部の骨格筋に投与される、項目41に記載の方法。
【0071】
(44) 前記心不全は、心筋梗塞後に発生したものである、項目41に記載の方法。
【0072】
(45) 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、項目44に記載の方法。
【0073】
(46) 項目33に記載の方法によって得られた細胞。
【0074】
(47) 項目37に記載の方法によって得られた血管。
【0075】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0076】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0077】
本明細書において「白血病阻害因子(LIF)」とは、配列番号1または3(核酸配列)および2または4(アミノ酸配列)に示されるような配列を有する因子および他の種の動物において対応する因子(オルソログ)をいう。LIFは、単球細胞株M1の成熟マクロファージへの分化を誘導する因子として精製および単離された(Gearing D.P.,Gough N.M.,King J.A.、EMBO J.6:3995−4002(1987);およびGough N.M.,Gearing D.P.,King J.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2623−2627(1988))。M1細胞増殖およびクローン原性から白血病阻害因子と命名された。しかし、LIFは、上記報告以外においても、種々のグループから種々の観点で発見され、分化誘導因子(D因子またはDIF)(Tomida et al,J Biol Chem;259(17):10978−82(1984);Yamamoto et al,Cancer Res;40:4804−9(1980));マクロファージ/顆粒球誘導因子2型(MGI−2);分化阻害活性(DIA);分化遅延因子(DRF);DA−1a細胞に対するヒトインターロイキン(HILDA);TS−1細胞に対する増殖刺激活性(GATS);肝細胞刺激因子I型およびIII型(HSF−IIおよびHSF−III);コリン作動性神経分化因子(CDF);メラニン細胞由来リポタンパク質リパーゼインヒビター(MLPLI);破骨細胞活性化因子(OAF)(Lass A,Weiser W,Munafo A,Loumaye E.;Fertil Steril;76:1091−6(2001);Knight D.Pulm Pharmacol Ther;14:169−76(2001)などを参照) とも呼ばれる。
【0078】
LIFは、ヒトおよびマウスで発見され、ヒトおよびマウスの型の場合、ジスルフィド結合を有するモノマーの180残基の糖タンパク質であり、分子量は約20kDaである。LIFは天然では、グリコシル化されて存在しており、精製されたLIFは、およそ38−67kDaの見かけ上の分子量を有し(Gascan H.,Godard A.,Ferenz C.(1989)J.Biol.Chem.264:21509−21515;Hilton D.J.,Nicola N.A.,Gough N.M.and Metcalf D.(1988)Anal.Biochem.173:359−367)、グリコシル残基の有無はLIFの活性には関係ない(Hilton D.J.et al.,前出;Gough N.M.,Hilton D.J.,Gearing D.P.(1988)Blood Cells 14:431−442)。LIFは、らせん構造をしており、長鎖タイプのサイトカインに分類される。このサイトカインは、長いらせん、長い頭部A−BおよびC−Dループ、およびさらなる5番目のらせんAループがある(Purvis D.H.and Mabbutt B.C.(1997)Biochemistry 36(33):10146−10154)。
【0079】
本発明において、白血病阻害因子(LIF)は、細胞死に対する防御に関してのみならず、心筋細胞を含む細胞の分裂増殖の誘導に関しても有効であることが明らかになった。従って、本発明者は、LIFをコードするcDNAプラスミドを、心筋梗塞直後のマウスの下肢骨格筋内に筋肉注射法によってトランスフェクトした。筋肉注射法は、非侵襲性であるが、遺伝子治療において有効である。本発明者らは、このLIF遺伝子の移入が、マウスにおいて全身的および局所的なLIFの増加を生じたことを観察した。心筋梗塞の2週間後、梗塞領域の程度(梗塞の大きさ、左心室(LV)壁の菲薄化および心筋線維症、LV内腔の拡大、ならびに心機能不全を含む)が、非トランスフェクトマウスと比較して、このLIFトランスフェクトマウスにおいて有意に軽減された。心筋梗塞後のLIFのトランスフェクションは、心筋細胞のアポトーシスを抑制したのみならず、心筋梗塞領域における新生血管形成を誘導した。さらに、LIF注入は、心筋領域の明らかな再生を誘導し、この再生は、心筋細胞の分裂増殖の増加のみならず、梗塞領域への骨髄細胞(BMC)の移動の加速および心筋細胞への分化を介した。従って、本発明者らは、筋肉注射法を介するLIF遺伝子治療が、心筋梗塞後などの心不全の処置において有用であり得ることを示唆する。
【0080】
本明細書において「gp130」とは、IL−6(interleukin−6)レセプターファミリーの共通成分として知られる因子である。gp130は、当初IL−6のレセプターの成分として、同定およびcDNAクローニングされたものであるが、その後の研究から、IL−6のみならずLIF、OSM(oncostatin M)、CNTF(ciliary neurotrophic factor)、IL−11、CT−1(cardiotrophin−1)といったIL−6ファミリーサイトカインのレセプターの共通成分であることが明らかとなった。その一次構造は、他のサイトカインレセプター(G−CSFレセプター、IL−3/IL−5/GM−CSFレセプター、エリスロポエチンレセプター、種々のインターロイキンレセプター等)・ホルモンレセプター(成長ホルモンレセプター、プロラクチンレセプター、レプチンレセプター等)と細胞外領域に保存された領域(WSXWSモチーフおよびcystein残基の位置)を持ち、I型サイトカインレセプタースーパーファミリーと呼ばれている。IL−6ファミリーサイトカインは、gp130を介して、T細胞・B細胞等の免疫細胞、造血細胞、肝細胞、神経細胞に対して、増殖・分化・細胞死の抑制など多種多様なシグナルを細胞内へ伝えることが知られている。
【0081】
本明細書において、「gp130リガンド」とは、gp130サブユニットと相互作用する任意の因子をいう。gp130リガンドは、gp130を活性化し、その後のシグナル伝達を惹起するものであれば、その相互作用は、直接の結合であっても、間接的な作用であってもよい。本明細書において、ある分子がgp130リガンドであるかどうかは、gp130リガンドアッセイによって判定することができる。gp130リガンドアッセイは、たとえば、下流のシグナル(JAK−STAT伝達系)のいずれか一つの分子の活性化(例えば、リン酸化)を測定する機構を利用することができ、その例示としては、gp130またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用したアッセイが挙げられる(Guschin D.et al. EMBO J.14:1421−1429(1995);Kunisada K.et al.,Circulation 94:2626−2632(1996)を参照)。本明細書では、好ましくは、「gp130リガンド」は、配列番号2または4に示される配列のなかでヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)が保存されているもの(好ましくは、同一のもの)、ならびにそれらに類似する配列をも含む。ここで類似する配列とは、たとえば、上記領域中に保存的置換体を有するものいう。保存的置換は本明細書において他の場所に定義されるとおりである。
【0082】
本明細書において、「LIFレセプター」とは、当該分野において使用されるのと同じ意味で使用され、LIFに特異的に結合するレセプターをいう。LIFレセプターは、Kd値が20−100pMの高親和性のレセプターと、Kd値が1−2nMの高親和性のレセプターがある(Allan E.H.,Hilton D.J.,Brown M.A.J.Cell Physiol.145:110−119(1990);Godard A.,Heymann D.,Raher S.J.Biol.Chem.267:3214−3222(1992);Hendry L.A.Murphy M.,Hilton D.J.,Nicola N.A.and Bartlett P.FJ.Neurosci.12:3427−3434(1992);Hilton D.J.,Nicola N.A.and Metcalf D. Ciba Found.Symp.167:227−239(1992);Rodan S.B.,Wesolowski G.,Hilton D.J.,Nicola N.A andRodan G.A.Endocrinology 127:1602−1608(1990);Williams R.L.,Hilton D.J.,Pease S.Nature 336:684−687(1988);およびYamamoto−Yamaguchi Y.,Tomida M.and Hozumi M.Exp.Cell.Res.164:97−102(1986))。LIFレセプターは、造血因子レセプターに分類される。LIFレセプターは、gp130と共同でレセプター複合体を形成し、LIFに対して高親和性を示す。マウスでは可溶性LIFレセプターが発見されており、その役割が注目されている。可溶性LIFレセプターとLIFとのレセプター複合体を形成させると、その複合体は、gp130と反応し得、シグナル伝達を刺激することが明らかになっている(Heymann D.,Goddard A.,Raher S.(1996)Cytokine 8(3):197−205)。従って、このようなレセプターコンバージョンモデルを用いたシグナル伝達機構を利用することによっても、本発明の効果を奏することができる。LIFレセプターとgp130とは、他のサイトカインのレセプターの成分としても知られる、そのようなサイトカインとしては、IL−6スーパーファミリーのメンバーが挙げられ、例えば、IL−6、IL−11、CNTF、OSMなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0083】
本発明において使用されるポリペプチドには、LIFレセプターに結合する能力を有する「LIF様因子」も包含される。「LIF様因子」とは、LIFレセプターと相互作用する能力を有する因子をいう。LIF様因子は、gp130を活性化し、その後のシグナル伝達を惹起するものであれば、その相互作用は、直接の結合であっても、間接的な作用であってもよい。LIFレセプターと相互作用する能力は、LIFアッセイで測定することができる。そのようなLIFアッセイとして、たとえば、下流のシグナル(JAK−STAT伝達系)のいずれか一つの分子の活性化(例えば、リン酸化)を測定する機構を利用することができ、gp130およびLIFレセプターの複合体またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用するアッセイが挙げられる。
【0084】
好ましくは、LIFがLIFレセプターに結合し、gp130を介して細胞内シグナル伝達を惹起することから、本発明のgp130リガンドまたはLIF様因子もまた、同様の機構により効果を奏することができる。
【0085】
本明細書において、「リガンド」とは、あるタンパク質に特異的に結合する物質をいう。例えば,細胞膜上に存在する種々のレセプタータンパク質分子と特異的に結合するレクチン、抗原、抗体、ホルモン、神経伝達物質などがリガンドとして挙げられる。
【0086】
また、糖鎖が付加され得る部分としては、N−アセチル−D−グルコサミンなどが結合するN−グルコシド結合可能な部分、およびN−アセチル−D−ガラクトサミンのO−グリコシド結合をする部分(セリンまたはスレオニン残基が頻出する部分)が挙げられる。本明細書においては、糖鎖の有無は特に活性に影響を与えるというわけではないが、これらの糖鎖が付加されたタンパク質は、通常生体内での分解に対して安定であり、強い生理活性を有し得る。従って、これら糖鎖が付加されたポリペプチドもまた、本発明の範囲内にある。
【0087】
本明細書において使用される用語「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされ得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)などが挙げられる。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。特に言及する場合、本発明の「ポリペプチド」は、LIF様因子またはgp130リガンドを言及することもある。
【0088】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。用語「核酸」はまた、本明細書において、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0089】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0090】
本明細書では塩基配列の同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0091】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、gp130、LIFレセプター、gp130リガンドなど)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0092】
「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。核酸配列の相同性は、たとえばAltschulら(J.Mol.Biol.215,403−410(1990))が開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、scoreで類似度が示される。
【0093】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0094】
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0095】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0096】
本明細書中において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。
【0097】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0099】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、そのリガンドが対応するレセプターに結合する活性を包含する。本発明の1実施形態であるgp130リガンドの場合は、その生物学的活性は、少なくともgp130リガンドに特異的なレセプターに結合する活性を包含する。別の実施形態では、生物学的活性としては、LIFレセプターへ結合する能力が挙げられる。
【0100】
本明細書において生物学的活性をアッセイする方法としては、gp130またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用したアッセイが挙げられるがそれらに限定されない。
【0101】
本発明において使用されるポリペプチドを製造する方法としては、例えば、そのポリペプチドを産生する初代培養細胞または株化細胞を培養し、培養上清などから単離または精製することによりそのポリペプチドを得る方法が挙げられる。あるいは、遺伝子操作手法を利用して、そのポリペプチドをコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、これを用いて発現宿主を形質転換し、この形質転換細胞の培養上清から組換えポリペプチドを得ることができる。上記宿主細胞は、生理活性を保持するポリペプチドを発現するものであれば、特に限定されず、従来から遺伝子操作において利用される各種の宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、動物細胞など)を用いることが可能である。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0102】
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0103】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0104】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0105】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のgp130リガンド(例えば、LIF)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0107】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
【0108】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0109】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0110】
本明細書において使用される遺伝子の核酸形態は、その遺伝子のタンパク質形態を発現し得る核酸分子をいう。この核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性(gp130レセプターに結合する活性などを含む)を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0111】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0112】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、癌マーカー、神経疾患マーカーなど)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0113】
本発明において使用されるポリペプチドは、任意の生物由来であり得る。好ましくは、その生物は、脊椎動物(例えば、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、齧歯類(マウス、ラットなど)、霊長類(ヒトなど)など)であり得る。本発明において使用されるポリペプチドは、所望の効果を発揮するかぎり、合成されたものでもよい。そのようなポリペプチドは、当該分野において周知の合成方法によって合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides: A User’sGuide,W.H.Freeman; Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag; Bodanszky,M.et al.(1994).The Practice of Peptide Synthesis,Springer−Verlag; Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press; Pennington,M.W.et al.(1994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press; Fields,G.B.(1997).Solid−Phase Peptide Synthesis,Academic Pressにおいて記載されている。
【0114】
本発明において使用されるポリペプチドは、抗体のヒンジ領域部分のみとの融合タンパク質を発現させて、ジスルフィド結合にて2量体を形成させる方法、もしくは活性に影響を与えないほかの方法でジスルフィド結合を生じさせる形態で、C末端、N末端または他の場所において発現するように作製された融合タンパク質を含む二量体以上高い比活性を有する多量体型ポリペプチドもまた利用され得る。また、配列番号2または4のような本発明の配列を直列で並べて多量体構造を持たせる方法も本発明において利用可能である。従って遺伝子工学技術により作製される任意の二量体またはそれを超える形態は、本発明の範囲内にある。
【0115】
「抗体」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、本明細書においては、抗体の全部およびそのフラグメント、誘導体、結合体なども包含する。好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドまたはレセプター(例えば、gp130レセプター、LIFレセプターなど)を認識する抗体であり、より好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドまたはレセプターを特異的に認識する抗体である。そのような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。本発明の1実施形態において、そのような抗体もまた、本発明の範囲内に包含される。
【0116】
高分子構造(例えば、ポリペプチド構造)は種々のレベルの構成に関して記述され得る。この構成の一般的な議論については、例えば、Albertsら、Molecular Biology of the Cell(第3版、1994)、ならびに、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules(1980)を参照。「一次構造」とは、特定のペプチドのアミノ酸配列をいう。「二次構造」とは、ポリペプチド内の局所的に配置された三次元構造をいう。これらの構造はドメインとして一般に公知である。ドメインは、ポリペプチドの緻密単位を形成し、そして代表的には50〜350アミノ酸長であるそのポリペプチドの部分である。代表的なドメインは、βシート(βストランドなど)およびα−ヘリックスのストレッチ(stretch)のような、部分から作られる。「三次構造」とは、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造をいう。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的会合により形成される三次元構造をいう。異方性に関する用語は、エネルギー分野において知られる用語と同様に使用される。したがって、本発明において使用されるポリペプチドは、gp130レセプターおよび/またはLIFレセプターに結合する能力を有するような高次構造を有する限り、どのようなアミノ酸配列のポリペプチドをも包含し得る。
【0117】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、生体内の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0118】
本発明において利用され得る一般的な分子生物学的手法としては、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols inMolecular Biology、 Wiley、 New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;および同3rd Ed.(2001)などを参酌して当業者であれば容易に実施をすることができる。
【0119】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0120】
「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
【0121】
「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0122】
動物細胞に対する「組換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−22979、Cytotechnology,3,133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、pCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))などが例示される。
【0123】
「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、哺乳動物由来のターミネーターのほかに、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0124】
本明細書において用いられる「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0125】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、動物)の部位(例えば、動物の場合、心臓、心筋細胞など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、動物)の特定の段階(例えば、発作時など)に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
【0126】
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上の同一または対応する部位のいずれにおいても実質的に発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(例えば、心臓発作時、心筋梗塞時など)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス誘導性のプロモーターを本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された動物または動物の一部(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件(例えば、心筋梗塞時)下での本発明において使用されるポリペプチドの発現を行うことができる。
【0127】
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前初期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate−early enhancer)の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0128】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0129】
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、NewYork、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0130】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0131】
動物細胞としては、骨格筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、肺性幹細胞などが例示される。
【0132】
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0133】
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、キット、システム、組成物および方法は、哺乳動物だけでなく他の動物を含む動物全体において機能することが企図される。なぜなら、LIFのようなgp130リガンドに対応するリガンドは、哺乳動物以外の生物においても存在することが知られているからである。
【0134】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。
【0135】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、臓器(器官)の一部であり得る。臓器(器官)内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0136】
本明細書において、「器官(臓器)」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。動物では、胃、肝臓、腸、膵臓、肺、気管、鼻、心臓、動脈、静脈、リンパ節(リンパ管系)、胸腺、卵層、眼、耳、舌、皮膚等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0137】
本明細書において、「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、動物(マウスなど)または植物を含む)をいう。
【0138】
本発明においてトランスジェニック生物が利用される場合、そのようなトランスジェニック生物は、マイクロインジェクション法(微量注入法)、ウィルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)、精子ベクター法、染色体断片を導入する方法(トランスゾミック法)、エピゾーム法などを利用したトランスジェニック動物の作製技術を使用して作製することができる。そのようなトランスジェニック動物の作成技術は当該分野において周知である。
【0139】
「抗体」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、本明細書においては、抗体の全部およびそのフラグメント、誘導体、結合体なども包含する。好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを認識する抗体であり、より好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを特異的に認識する抗体である。そのような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。本明細書において「抗原」とは、抗体と結合したり、Bリンパ球、Tリンパ球などの特異的レセプターに結合して、抗体産生および/または細胞障害などの免疫反応をひきおこす物質(例えば、タンパク質、脂質、糖などが挙げられるがそれらに限定されない)をいう。抗体またはリンパ球レセプターとの結合性を、「抗原性」(antigecity)という。抗体産生などの免疫応答を誘導する特性を「免疫原性」(immunogenicity)という。抗原として使用される物質は、例えば、その目的とする物質(例えば、タンパク質)を少なくとも1つ含む。含まれる物質は、全長が好ましいが、免疫を惹起し得るエピトープを少なくとも一つ含んでいれば、部分配列でもよい。本明細書において、「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。エピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。
【0140】
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、心筋細胞)または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
【0141】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
【0142】
1つの実施形態において、本発明の因子は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0143】
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0144】
核酸形態で活性成分を含む本発明の組成物を投与する場合、その活性成分(例えば、gp130リガンド)は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
【0145】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
【0146】
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
【0147】
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、核酸形態のgp130リガンドまたはLIF様因子を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0148】
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,TakeshitaS,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
【0149】
従って、本発明の組成物およびキットにおいて含まれる活性成分としてのポリペプチド(例えば、gp130リガンド、LIF様因子(たとえば、LIF)など)の量は、例えば、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約1000mg、好ましくは約5μg〜約100mgであり得る。このポリペプチドの量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約1mgの間の任意の数値であり得る。このポリペプチドの量の範囲の上限は、例えば、約1000mg、約900mg、約800mg、約700mg、約600mg、約500mg、約400mg、約300mg、約200mg、約100mg、約75mg、約50mg、約25mg、約10mg、約5mgなど、約1000mg〜約1mgの任意の数値であり得る。本発明の活性成分が核酸形態(例えば、gp130リガンドおよびLIF様因子をコードする核酸など)の場合、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約10mg、好ましくは約1μg〜約1000μg、より好ましくは約5μg〜約400μgであり得る。この核酸の量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約20μgの間の任意の数値であり得る。この核酸の量の範囲の上限は、例えば、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約750μg、約500μg、約250μg、約100μgなど、約10mg〜約10μgの任意の数値であり得る。2種類以上の細胞生理活性物質が含まれる場合も、上記の量が個々に適用される。ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。投与頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。
【0150】
本発明において増殖または再生された細胞を含む組成物において含まれる細胞(例えば、心筋細胞)の量は、例えば、約1×103細胞〜約1×1011細胞、好ましくは約1×104細胞〜約1×1010細胞、より好ましくは約1×105細胞〜約1×109細胞などであり得る。これらの細胞は、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.5ml、1mlの生理食塩水のような溶液として存在し得る。細胞の量の範囲の上限としては、例えば、約1×1011細胞、約5×1010細胞、約2×1010細胞、約1×1010細胞、約5×109細胞、約2×109細胞、約1×109細胞、約5×108細胞、約2×108細胞、約1×108細胞、約5×107細胞、約2×107細胞、約1×107細胞などが挙げられる。細胞の量の下限としては、例えば、約1×103細胞、約2×103細胞、約5×103細胞、約1×104細胞、約2×104細胞、約5×104細胞、約1×105細胞、約2×105細胞、約5×105細胞、約1×106細胞などが挙げられる。
【0151】
本明細書においてポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。
【0152】
「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0153】
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを心筋梗塞発作直後(例えば、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、好ましくは6時間以内など)に投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、骨格筋に投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0154】
本発明が対象とする「疾患」は、組織に傷害がある任意の心疾患であり得る。そのような心疾患としては、心不全、心筋梗塞、拡張型心筋症などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明は、心臓以外の臓器の傷害を再生するためにも適用され得る。
【0155】
「心不全」とは、心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量の血液を循環し得なくなった状態をいう。心不全は、心筋梗塞、心筋症などの心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重症であるものをいい、末期心不全ともいう。本発明は、どのような原因によって心不全の状態になった場合でも有効であり得る。
【0156】
「心筋梗塞」とは、冠動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重症度判定には、種々の分類がある。そのような分類としては、例えば、時間的経過による分類、形態学的分類(梗塞領域の範囲、部位など)、心筋の壊死形態、梗塞後の心室再構築、血行動態的分類(治療、予後などに関連する)、臨床的重症度による分類などが挙げられる。ここで重症度が高いものを特に重症心筋梗塞という。
【0157】
「心筋症」とは、心筋の器質的および機能的な異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血などの基礎疾患に続発する二次性心筋症、および見かけ上の基礎疾患なしに発症する特発性心筋症に分類される。病理的変化としては、心筋肥大、線維症、心筋細胞の変性消失などが認められる。
【0158】
(細胞分化)
本発明では、通常幹細胞が使用され得るが本発明の因子による処理によって心筋細胞になることができる細胞であれば、どのような細胞でも使用することができる。「幹細胞」とは、自己複製能と多分化能を有した細胞と定義され、実際には組織が傷害を受けたときに少なからずその組織を再生することができる細胞をいう。本発明において使用される幹細胞は、胚性幹細胞(ES)または組織幹細胞(組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。従って、本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞として胚性幹細胞(Embryonic stem cellsとEmbryonic germ cells)が使用され得る。別の好ましい実施形態では、組織幹細胞(例えば、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞))が使用され得る。
【0159】
組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が比較的限定されている細胞であり、組織中に存在し、未分化な細胞内構造をしている。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。従って、本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞として血液細胞へと方向付けられた組織幹細胞が使用され得る。
【0160】
組織幹細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉、内胚葉由来の幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の組織幹細胞には、脳に存在する神経幹細胞、皮膚存在にする表皮幹細胞、毛包幹細胞および色素幹細胞が含まれる。中胚葉由来の組織幹細胞には、骨髄中および血液中に認められるに血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞が含まれる。内胚葉由来の組織幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞、腸管上皮幹細胞が含まれる。そのほかに精層および卵層には生殖系幹細胞(germ line stem cells)が存在する。本発明の好ましい実施形態では、中胚葉由来の幹細胞が使用され得る。本発明のより好ましい実施形態では、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞)が使用され得る。
【0161】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。本発明の1つの実施形態では、予想外に骨髄細胞が好適であることが判明した。
【0162】
好ましい実施形態において、本発明では、骨髄細胞をそのまま供給源として使用することもできるし、濃縮または純化したある特定の細胞集団(例えば、組織幹細胞)を細胞供給源として用いることができる。
【0163】
本明細書において「再生」とは、損傷した組織ないし臓器が元通りに回復することをいい、病理的再生ともいう。生物の体は一生の間に外傷や病気によって臓器の一部を失ったり、大きな傷害を受けたりする。その場合、損傷した臓器が再生できるか否かは、臓器によって(または動物種によって)異なる。自然には再生できない臓器(または組織)を再生させ、機能を回復させようというのが再生医学である。組織が再生したかどうかは、その機能が改善したかにどうかによって判定することができる。哺乳動物は、組織・器官(臓器)を再生する力をある程度備えている(例えば、皮膚、肝臓および血液の再生)。しかし、心臓、肺、脳などの臓器は再生能力に乏しく、一旦損傷すると、その機能を再生させることができないと考えられてきた。従って、従来であれば、例えば、心臓が損傷した場合、心臓移植による処置しかほとんど有効な措置がなかった。
【0164】
再生能力の高い臓器には幹細胞が存在することが古くから想定されていた。この概念が正しいことは動物モデルを用いた実験的骨髄移植によって証明された。そして、その後の研究によって骨髄中の幹細胞がすべての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。しかし、骨髄細胞が心筋細胞の源であるかどうかは判っていなかった。幹細胞は骨髄、皮膚等の再生能力の高い臓器に存在することも明らかにされた。さらに、再生されないと長年、思われてきた脳にも幹細胞が存在することが明らかとなってきた。すなわち、体内のあらゆる臓器には幹細胞が存在し、多かれ少なかれ、各臓器の再生を司っていることがわかってきた。また、各組織に存在する幹細胞には予想以上に可塑性があり、ある臓器中の幹細胞は他の臓器の再生にも利用できる可能性が指摘されている。
【0165】
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的・機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別の型の細胞に分化することは例外的にしか起こらない。従って、「未分化」とは、形態的・機能的に質的な差を未だ持たない細胞の状態をいう。
【0166】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、骨格筋細胞、神経細胞、心筋細胞、血液細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、胆管細胞、血液細胞(例えば、赤血球、血小板、T細胞、B細胞など)、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。従って、本発明の1つの実施形態において、ある原料細胞を本発明の因子(たとえば、ポリペプチドまたは核酸)で処理することによって、心筋細胞のような分化細胞に分化させることができる場合、そのような分化細胞もまた本発明の範囲内にある。
【0167】
本発明の供給源として使用される細胞は、本発明において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、キットおよび/または医薬での処理により、心筋細胞へと分化することができる。
【0168】
本明細書において、「多能性」とは、細胞の性質をいい、種々の組織または器官(臓器)に属する細胞に分化し得る能力をいう。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され,成体では一つの組織または器官を構成する分化細胞が別の組織または器官の細胞に変化することは少ない。したがって多能性は通常失われている。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。従って、本発明の原料細胞としては、多能性を有する細胞であることが好ましくあり得るが、これは必ずしも必要ではない。
【0169】
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞が用いられる。
【0170】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0171】
本明細書において「インビトロ」とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0172】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0173】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0174】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片または移植体を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片または移植体を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0175】
本発明の方法または組織グラフトで必要に応じて使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の分化細胞組成物または医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0176】
本明細書において「麻酔剤」とは、一時的に知覚を鈍麻および/または消失させるために用いる薬剤をいう。中枢神経系の機能を抑制し,呼吸・循環などにいちじるしい影響を与えることなく、意識、感覚および運動を消失させ、筋弛緩を引きおこし、外科的手術の可能な状態にする全身麻酔剤と、適用した部位の知覚および運動を麻痺させる局所麻酔剤とがある。麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカイン、リドカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、麻酔剤は、リドカインである。
【0177】
本明細書において用いられる「血管新生(作用/活性)」とは、ある因子が標的に作用したとき、その標的において血管を新たに形成する能力をいう。血管新生作用を測定する方法としては、代表的には、コントラスト剤を用いた超音波測定、血管に特異的な遺伝子産物に対する抗体を用いた血管数計数などが挙げられる。本明細書において、ある因子が血管新生作用を有するか否かは、第VIII因子関連抗原等で免疫組織化学染色した後に血管数を計数することによって判定される。この計数方法では、検体を10%の緩衝化ホルマリンで固定し、OCTCompound中包埋し、各々の検体から数個の連続切片を調製し、凍結する。次いで、凍結切片をPBS中の2%パラホルムアルデヒド溶液で5分間、室温にて固定し、3%過酸化水素を含むメタノール中に15分間浸漬し、次いでPBSで洗浄する。このサンプルをウシ血清アルブミン溶液で約10分間覆って、非特異的反応をブロックする。検体を、HRPと結合する、第VIII因子関連抗原に対するEPOS結合体化抗体と共に一晩インキュベートする。サンプルをPBSで洗浄した後、これらを、ジアミノベンジジン溶液(例えば、PBS中、0.3mg/mlジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得る。染色された血管内皮細胞を、例えば、200倍の倍率の光学顕微鏡下で計数し、例えば、計数結果を、1平方ミリメートルあたりの血管の数としてあらわす。特定の処置後、血管数が統計学的に有意に増加しているか否かを判定することにより、血管新生活性を判定することができる。
【0178】
本明細書において「電気ショック」とは、低電圧矩形波をかけて細胞にDNAを導入する方法をいう。電気ショックを与える方法としては、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0179】
本明細書において用いられる「細胞生理活性物質」(cellular physiologically active substance)とは、細胞に作用する物質を言う。細胞生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。細胞生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、細胞生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、細胞生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0180】
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制御作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0181】
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0182】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、LIFのほかに、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、カルジオトロフィンのような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0183】
サイトカインおよび増殖因子などの細胞生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される細胞生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。
【0184】
本発明では、どのような細胞生理活性物質も使用され得る。本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞生理活性物質として、造血活性、コロニー刺激活性または細胞増殖活性を有するサイトカインまたは増殖因子が使用される。造血活性またはコロニー刺激活性を有するサイトカインとしては、白血病阻害因子(LIF)も含まれるが、それ以外としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、multi−CSF(IL−3)、エリスロポエチン(EPO)、c−kitリガンド(SCF)などが挙げられる。細胞増殖活性を有する増殖因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)インシュリン様増殖因子(IGF)などが挙げられる。本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞増殖活性を有する細胞生理活性物質(例えば、サイトカインまたは増殖因子)が使用され得る。
【0185】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、そのレセプター(例えば、サイトカインレセプター)によって分類することもできる。サイトカインレセプターは、非キナーゼ型およびキナーゼ型に分類される。非キナーゼ型としては、Gタンパク質結合型レセプター、NGF/TNFレセプターファミリー、IFNレセプターファミリー、サイトカインレセプタースーパーファミリーなどが挙げられる。キナーゼ型としては、増殖因子型レセプター(チロシンキナーゼ型、例えば、HGFの場合はc−met)、TGFβレセプターファミリー(セリン・スレオニンキナーゼ型)などが挙げられる。細胞生理活性物質は、場合により、レセプターサブユニットを共有することから、上記好ましいサイトカインまたは増殖因子とレセプターサブユニットを共有するサイトカインまたは増殖因子もまた、好ましいサイトカイン及び増殖因子であり得る。
【0186】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、タンパク質または核酸の形態で提供される場合、相同性比較により分類され得る。従って、本発明の好ましい実施形態として、本発明の好ましい細胞生理活性物質と相同性のある細胞生理活性物質が使用される。そのような相同性を有する細胞生理活性物質としては、例えば、BLASTのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照の細胞生理活性物質に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の相同性を有する細胞生理活性物質が挙げられる。
【0187】
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0188】
本発明は、他の実施形態において、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸)と同等に有効な因子をスクリーニングするための道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物もまた、本発明に包含される。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0189】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物を設計することができる。
【0190】
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、医薬ならびにそのようなポリペプチドまたは核酸によって調製された分化細胞または分化細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。本発明の組成物および医薬は、全身投与されるとき、発熱物質を含ない、経口的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能なタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などに相当な注意を払うことを条件として、当業者の技術範囲内である。
【0191】
本発明において医薬の処方のために使用される溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
【0192】
本発明は、医薬または医薬組成物として処方される場合、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990)と、所望の程度の純度を有する選択された組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で、保存のために調製され得る。
【0193】
そのような適切な薬学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。代表的には、本発明の医薬は、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。そのような受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0194】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
【0195】
本発明の製剤の処方手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、投与すべきポリペプチド量および細胞量を決定することができる。
【0196】
1つの実施形態において、本発明の組成物および医薬は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態で投与される場合、活性成分(例えば、核酸またはポリペプチド)は、徐々に放出されるので、長期にわたり薬効が期待される場合に有効である。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0197】
別の実施形態では、本発明では、さらに他の薬剤もまた投与することも企図される。そのような薬剤は、当該分野において公知の任意の医薬であり得、例えば、そのような薬剤は、薬学において公知の任意の薬剤(例えば、抗生物質など)であり得る。当然、そのような薬剤は、2種類以上の他の薬剤であり得る。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方最新版、米国薬局方最新版、他の国の薬局方の最新版において掲載されているものなどが挙げられ、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:
中枢神経系用薬(例えば、全身麻酔剤、催眠鎮静剤、抗不安剤、抗てんかん剤、解熱鎮痛消炎剤、興奮剤、覚せい剤、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、総合感冒剤、その他の中枢神経系用薬など);
末梢神経用剤(例えば、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、鎮けい剤など);
感覚器官用薬(例えば、眼科用剤、耳鼻科用剤、鎮暈剤など);
循環器官用薬(例えば、、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、高脂血症用剤、その他の循環器官用薬など);
呼吸器官用薬(例えば、呼吸促進剤、鎮咳剤、去痰剤、鎮咳去痰剤、気管支拡張剤、含嗽剤など);
消化器官用薬(例えば、止瀉剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、浣腸剤、利胆剤、その他の消化器官用薬など);
ホルモン剤(例えば、脳下垂体ホルモン剤、唾液腺ホルモン剤、甲状腺、副甲状腺ホルモン剤、蛋白同化ステロイド剤、副腎ホルモン剤、男性ホルモン剤、卵胞、.黄体ホルモン剤、混合ホルモン剤、その他のホルモン剤など);
泌尿生殖器官および肛門用薬(例えば、泌尿器官用剤、生殖器官用剤、子宮収縮剤、痔疾用剤、他の泌尿生殖器管、肛門用薬など);
外皮用薬(例えば、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛.鎮痒.収斂.消炎剤、寄生性皮膚疾患用剤、皮膚軟化剤、毛髪用剤、その他の外皮用剤など);
歯科口腔用剤;
その他の個々の器官系用薬;
ビタミン剤(例えば、ビタミンA剤、ビタミンD剤、ビタミンB剤、ビタミンC剤、ビタミンE剤、ビタミンK剤、混合ビタミン剤、その他のビタミン剤など);
滋養強壮薬(例えば、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、蛋白アミノ酸製剤、臓器製剤、乳幼児用剤、その他の滋養強壮剤など);
血液および体液用薬(例えば、血液代用剤、止血剤、血液凝固阻止剤、その他の血液.体液用剤など);
人工透析用薬(例えば、人工腎臓透析用剤、腹膜透析用剤など);
その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);
細胞賦活用剤(例えば、クロロフィル製剤、色素製剤、その他の細胞賦活用剤など);
腫瘍用薬(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質製剤、抗腫瘍性植物成分製剤、その他の腫瘍用剤など);
放射性医薬品;
アレルギー用薬(例えば、抗ヒスタミン剤、刺激療法剤、非特異性免疫原製剤、その他のアレルギー用薬、生薬および漢方処方に基づく医薬品、生薬、漢方製剤、その他の生薬漢方処方に基づく製剤など);
抗生物質製剤(例えば、グラム陽性菌に作用する、グラム陰性菌に作用する、グラム陽、.陰性菌に作用、グラム陽性菌マイコプラズマ作用、グラム陽性陰性.リケッチアに作用、抗酸菌に作用するもの、カビに作用するもの、その他の抗生物質製剤など);
化学療法剤(例えば、サルファ剤、抗結核剤、合成抗菌剤、抗ウィルス剤、その他の化学療法剤など);
生物学的製剤(例えば、ワクチン類、毒素.トキソイド類、抗毒素.抗レプトスピラ血清、血液製剤類、生物学的試験用製剤類、その他の生物学的製剤、抗原虫剤、駆虫剤など);
調剤用薬(例えば、賦形剤、軟膏基剤、溶解剤、矯味.矯臭.着色剤、その他の調剤用剤など);
診断用薬(例えば、X腺造影剤、機能検査用試薬、その他の診断用薬);
公衆衛生用薬(例えば、防腐剤);
体外診断用医薬品(例えば、細菌学的検査用薬など);
分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに
麻薬(例えば、あへんアルカロイド系麻薬、コカアルカロイド系製剤、合成麻薬など)。
【0198】
そのような薬剤は、好ましくは、心臓疾患に対して効果を有するものであり得る。
【0199】
他の実施形態において、本発明の方法によって調製された細胞は2種類以上の細胞を含み得る。2種類以上の細胞を使用する場合、類似の性質または由来の細胞を使用してもよく、異なる性質または由来の細胞を使用してもよい。
【0200】
本発明の方法において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、医薬および細胞の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、ポリペプチド、核酸、組成物、医薬もしくは細胞の形態または種類、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
【0201】
本発明の組成物および医薬を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0202】
(好ましい実施形態の説明)
本発明は、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物および方法を提供する。心筋梗塞後のような心不全患者を即座にかつ顕著な副作用なしに処置することができる方法はこれまで知られておらず、当該分野において驚くべき効果を提供する。
【0203】
1つの局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。好ましくは、gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有する。このgp130リガンドは、細胞表面上のgp130レセプターおよび/またはIL−6レセプターサブファミリー(例えば、LIFレセプター)に結合し、活性化した後、IL−6レセプターサブファミリー(例えば、LIFレセプター)は、gp130と会合する。gp130の細胞内領域には、 I型サイトカイン受容体スーパーファミリー間で保存された、領域Box1,Box2構造が存在し、この部分にチロシンキナーゼJAK(Janus kinase)ファミリーに属するJAK1,JAK2,TYK2などが構成的に会合する。刺激により、gp130が二量体を形成するとともに、gp130に会合するJAKも相互接近し、JAK同士をチロシンリン酸化することにより活性化する。さらに、活性化されたJAKは、JAKをリン酸化するだけでなく、gp130細胞内領域存在するチロシン残基および、種々のシグナル伝達分子をリン酸化し、活性化することが知られている。これらシグナル伝達分子の内、転写因子STAT3(signal tranducer and activator of transcription 3)は、分子内に、特異的リン酸化チロシン構造を認識するSH2(src homology 2)ドメインを有し、gp130細胞内領域リン酸化チロシンを特異的に認識し、gp130上に運ばれてくると考えられ、JAKによりチロシンリン酸化される。チロシンリン酸化されたSTAT3は、自身のSH2ドメインを介してSTAT3二量体(homodimer)あるいはSTAT1との二量体(heterodimer)を形成し、核内へ移行し、特異的DNA配列を認識して結合し、多くの遺伝子の転写を制御していることが知られている。このように、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、gp130リガンド)によるシグナル伝達は、チロシンリン酸化機構を介して行われることから、gp130を介したシグナル伝達により、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。従って、gp130を介するシグナルは大きく、(i)JAKからのgp130のリン酸化を介しない直接のシグナル、(ii)gp130細胞内チロシン759のリン酸化依存性に活性化されるSHP−2を介するシグナル、(iii)gp130C末端YXXQモチーフのチロシンリン酸化依存性に活性化されるSTAT3を介するシグナル、の3つに分けることができる。従って、gp130を介するシグナルは、上述のシグナルを検出するアッセイによっても検出することができる。
【0204】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130リガンドとLIFレセプターとが作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。したがって、本発明は、骨髄細胞の動員、心筋細胞の再生・増殖を必要とする疾患であれば、どのような疾患でも処置の対象とすることができる。
【0205】
好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1など)であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0206】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、さらに麻酔剤を含み得る。本発明において使用され得る麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインおよびリドカインからなる群より選択され得る。
【0207】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋梗塞後の心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。LIF様因子は、LIFレセプターに結合する能力を有する因子であり、gp130リガンドとLIF様因子とは、一部重複する。
【0208】
好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTFなど)であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0209】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、さらに麻酔剤を含み得る。本発明において使用され得る麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインおよびリドカインからなる群より選択され得る。
【0210】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。したがって、本発明の組成物は、骨髄細胞の動員、心筋細胞の再生・増殖を必要とする疾患であれば、どのような疾患でも処置の対象とすることができる。
【0211】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0212】
他の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。
【0213】
本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1など)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0214】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋細胞を増殖(たとえば、その再生を促進)するための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0215】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞のような原料細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。
【0216】
本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバーであり得る。本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0217】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0218】
本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTF)であり得る。本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0219】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にgp130リガンドをコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、原料細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0220】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞のような原料細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。
【0221】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0222】
別の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にLIF様因子をコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、原料細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0223】
本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0224】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、骨髄細胞の心臓損傷部位への動員を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、gp130リガンドは、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員を促進することができる。
【0225】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、骨髄細胞の心臓損傷部位への動員を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、LIF様因子は、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。
【0226】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋細胞の分裂増殖を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、gp130リガンドは、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、心筋細胞の分裂増殖を促進することができる。
【0227】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋細胞の分裂増殖を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、LIF様因子は、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。
【0228】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管に作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0229】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、血管新生などを亢進することができる。
【0230】
本発明の血管新生を促進する組成物において、好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバーであり得る。本発明の血管新生を促進する組成物において、最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0231】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管に作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0232】
本発明の血管新生を促進する組成物において、好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTFなど)であり得る。本発明の血管新生を促進する組成物において、最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0233】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管などに作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが血管新生する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、標的細胞(例えば、既存の血管など)にgp130リガンドをコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、標的細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0234】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、既存の血管などに作用して血管新生を促進することができる。
【0235】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0236】
別の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管などに作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にLIF様因子をコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、標的細胞(例えば、既存の血管)に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0237】
本発明の血管新生を促進する組成物において、本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0238】
別の局面において、本発明は、心筋梗塞を処置するためのキットを提供する。このキットは、本発明の組成物;および心筋梗塞発作後に該組成物を注入することを指示する、指示書、を備える。好ましくは、このキットは、3)麻酔剤、をさらに備える。麻酔剤は当該分野において周知であり、どのようなものが使用され得る。好ましくは、麻酔剤は、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインまたはリドカインである。
【0239】
好ましい実施形態において、本発明のキットに備えられる指示書は、心筋梗塞などの心不全を引き起こす状態の後、24時間以内に、好ましくは12時間以内に、より好ましくは6時間以内に本発明の組成物を注入することが記載されている。別の好ましい実施形態において、上記指示書には、本発明の組成物を下肢大腿部の骨格筋または心筋梗塞部位に投与することが記載されている。より好ましくは、投与部位は、下肢大腿部の骨格筋である。
【0240】
好ましい実施形態において、上記指示書は、電気ショックを与えることをさらに指示する。電気ショックを与えることにより、処置されるべき細胞および/または組織への本発明の組成物の導入が促進され、効果がより早く出ることから、より有効な治療が提供されることになる。そのような電気ショックの与える方法は、当該分野において周知であり、例えば、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0241】
別の局面において、本発明は、心筋細胞を増殖させるための方法を提供する。この方法は、1)原料細胞を提供する工程;および2)この原料細胞に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。
【0242】
好ましい実施形態において、上記原料細胞は、胚性幹細胞、骨髄細胞および組織幹細胞からなる群より選択される。より好ましくは、原料細胞は、骨髄細胞であり得る。
【0243】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。このさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0244】
別の局面において、本発明は、上記心筋細胞を調製するための方法によって調製された心筋細胞を提供する。この方法は、インビボまたはインビトロで使用することができる。本発明の方法によって調製された心筋細胞は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0245】
別の局面において、本発明は、血管新生を促進する方法を提供する。本発明の血管新生を促進する方法は、インビトロであっても、インビボであっても、エキソビボであってもよい。本発明の血管新生を促進する方法は、1)所望の部位に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。好ましくは、この所望の部位は、血管新生を必要とする部位である。そのような血管新生を必要とする部位は、心筋および/−または血管壊死を起こした部位であり得る。従って、本発明は、心筋および/−または血管壊死を伴う疾患の処置または予防に使用することができる。そのような心筋および/−または血管壊死を伴う疾患としては、心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0246】
好ましくは、本発明の血管新生を促進する方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。そのようなさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0247】
別の局面において、本発明は、上記血管新生を促進する方法によって調製された血管を提供する。本発明の方法によって調製された血管は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0248】
別の局面において、本発明は、心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法を提供する。本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、インビトロであっても、インビボであっても、エキソビボであってもよい。本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、1)所望の部位に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。好ましくは、この所望の部位は、心筋細胞の分裂・増殖の促進を必要とする部位である。そのような心筋細胞の分裂・増殖の促進を必要とする部位は、心筋細胞壊死を起こした部位であり得る。従って、本発明は、心筋細胞壊死を伴う疾患の処置または予防に使用することができる。そのような心筋細胞壊死を伴う疾患としては、心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0249】
好ましくは、本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。そのようなさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0250】
別の局面において、本発明は、上記心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法によって調製された心筋細胞を提供する。本発明の方法によって調製された心筋細胞は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0251】
別の局面において、本発明は、心筋梗塞後に起こるような心不全を軽減または除去する方法を提供する。本発明の心不全を軽減または除去する方法は、1)心筋梗塞発作後に本発明の組成物を投与する工程を包含する。本発明の心不全を軽減または除去する方法は好ましくは、2)麻酔剤を投与する工程、をさらに包含し得る。
【0252】
好ましい実施形態において、本発明の組成物を投与する工程は、心筋梗塞発作後12時間以内に行われ得るが、それに限定されず、投与のタイミングは、心筋梗塞発作後、例えば、24時間以内。36時間以内、48時間以内などでもあり得、蘇生の可能性がある限り、発作後どれだけ時間が経っていたとしても投与し、本発明の効果(例えば、心筋梗塞の治癒)を奏することができる。好ましくは、上記投与工程は、心筋梗塞発作後、例えば、6時間以内、3時間以内、1時間以内、30分以内に行われるなど、可能な限り短い期間内に行うことが好ましい。
【0253】
好ましい実施形態において、本発明の心筋梗塞後に生じるような心不全を軽減または除去する方法において、本発明の組成物は、下肢大腿部の骨格筋に投与されるが、それに限定されない。別の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、心筋梗塞の場合、心筋梗塞部位にに投与される。骨格筋に投与しても心筋梗塞に有効であるということは現在までに報告されておらず、本発明はこの面においても予想外の有利な効果を提供するものといえる。このように、本発明の組成物は、心筋梗塞に効果がある限り、身体のどの部位でも投与することができる。好ましくは、本発明の組成物は、発作部位に容易に到達する部位または容易に投与することができる部位(例えば、骨格筋)に投与される。
【0254】
好ましい実施形態において、本発明の心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去する方法は、3)電気ショックを与える工程、をさらに包含する。電気ショックを与える方法は当該分野において周知であり、例えば、低電圧矩形波をかけて細胞にDNAを導入する方法などが挙げられる。電気ショックを与える方法としては、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0255】
このように、本発明により生物の器官の移植および医療機器での補助システムを全くまたはほとんど使用することなく、心筋梗塞などによる心不全を軽減または除去することおよび心筋細胞、血管などを再生することが可能になった。これは、生物の器官の移植以外には実質的に根本的な治癒が期待できなかった重症心不全、重症心筋梗塞、心筋症などの患者に対して、新規な救済処置を提供することになった。従って、このような効果は、従来技術にはない格別な効果であるといえ、その有用性は筆舌に尽くしがたい。
【0256】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0257】
【実施例】
(実施例1:LIF cDNAプラスミド、およびマウスへの筋肉内注射)
(方法)
(LIF cDNAプラスミド、およびマウスへの筋肉内注射)
本発明者らは、発現プラスミドDNAの筋肉内注射法を使用した。なぜなら、この方法は、サイトカインの長期的全身送達の有効な手段であると報告されているからである(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);Isner,J.M.Myocardial gene therapy.Nature 415,234−239(2002))。LIF cDNAは、ヒトとマウスとのキメラ形態を使用した。このキメラ形態のLIFは、Owczarek CM, et al.EMBO J.12, 3487−3495, 1993.;Maurer T, et al.Growth Factors.11, 271−276, 1994.;Meredith J, et al.J Biol Chem.269, 29891−29896, 1994.;およびHinds MG, et al.JBiomol NMR.9, 113−126, 1997などに記載されるものを使用した。このキメラLIF cDNAをpCAGGSプラスミド中に挿入した。このpCAGGSプラスミドは、骨格筋における発現の効果を改善するために、ニワトリβ−アクチンプロモーターにより駆動された。このcDNAは、Concert High Purity Plasmid Purification Systems(GibcoBRL)を用いて調製した。PBS中に溶解したcDNAを、心筋梗塞直後の12週齢の雄性マウス(C57BL6)の四肢の骨格筋中に、100μgプラスミド/100μl/20g体重にて注射した。プラスミドを含まない同体積のPBSを、ビヒクル処置として同腹仔マウス中に注射した。すべてのプロトコルは、動物実験の倫理規定について規定された千葉大学の指針により承認されたものを使用した。
【0258】
(血液中のLIF濃度のアッセイ)
血液を、注射前、および注射後1日目、2日目、1週目、2週目、および4週目に収集した。その血清を分離し、そして使用前まで−80℃にて保存した。LIF濃度を、製造業者の指示に従って、LIF ELISAキット(BIOSOURCE EUROPE S.A.)により測定した。
【0259】
(LIF cDNAの注入後のLIFレベルの全身的上昇)
LIFのプラスミドDNAを、上述のように筋肉内法により注射した後、本発明者らはまず、心筋梗塞後の血液におけるLIFレベルのプロフィールを調査した。それは、いくつかのサイトカインが、心筋梗塞後に、より増加されることが観察されているからである(Guillen,I.,Blanes,M.,Gomez,L.M.&Castell,J.V.、Am.J.Physiol.(1995).;Pudil,R.,Pidrman,V.,Krejsek,J.,Gregor,J.,Tichy,M.,Andrys,C.&Drahosova,M.、Clinica Chimica Acta 280,127−134(1999);およびTalwar,S.,Squire,I.B.,O’brien,R.J.,Downie,P.F.,Davies,J.E.&Ng,L.L.、Clin.Sci.102,9−14(2002))。血清中のLIFレベルを、ELISAキット(BIOSOURCE)により測定した。LIFは実際には、心筋梗塞後早くに上昇した(図1)。このことは、LIFが梗塞後心臓に対して特定の効果を発揮し得ることを示唆した。次に、本発明者らは、骨格筋中へのこのLIF遺伝子の局所トランスフェクションが、血液中のLIFレベルの上昇をさらに誘導するか否かを確認した。LIF遺伝子注射は、注射後48時間で全身の血中LIFレベルを有意に増加させ、そして高レベルのLIFが2週間続いた(図1)。この後、このLIFレベルは減少し、そして注射後4週目に基礎レベルに戻った。予期されるように、心筋梗塞後のこの遺伝子移入による血中LIFレベルの上昇は、心筋梗塞のみによる上昇よりかなり大きかった。この結果は、LIFのプラスミドDNAの筋肉内注射が、血液中のLIFレベルの大幅な上昇を誘導することを示した。
【0260】
(実施例2:心筋梗塞後のLIFによる心機能の改善)
(マウス心筋梗塞モデル)
心筋梗塞モデルを、以前に記載された(Harada,K.,Sugaya,T.,Murakami,K.,Yazaki,Y.&Komuro,I.、 Circulation 100,2093−2099(1999))ように、左冠状動脈(LCA)の永久結紮により作製した。簡単に述べると、12週齢のマウスをペントバルビタール(50mg/kg)により麻酔し、そして動物レスピレーター(SN−480−7)を使用して人工換気した。左胸部を開胸した後、LCAを10−0ナイロン外科縫合糸を用いて結紮した。LCAの結紮の成功を、虚血領域の色の変化によって、そして手術の間基礎体表面心電図(ECG)記録にてモニターしたSTセグメントによって、視認した。心筋梗塞後2週目に、心エコー検査を行い、その後その心臓を切除し、そして以下の実施例において使用した。
【0261】
(心エコー検査)
経胸壁超音波心臓図検査の分析を、11−MHzのプローブとともにAgilent sonos 4500(Agilent Technologies Co.,Japan)を用いて実施した。マウスを、ペントバルビタールナトリウム(25μg/g)の腹腔内注射により麻酔した。マウスが麻酔から部分的に回復した場合、左心室のM−モード画像を記録した。
【0262】
(統計)
すべての値を、各場合において6回の実験の平均±標準平均誤差として表した。3つの群の間での比較を、一方向ANOVAとそれに続くダネット改変t検定により行った。p<0.05の値を、統計学的に有意であると見なした。
【0263】
(心筋梗塞後のLIFによる心機能の改善)
心エコー検査を使用して、心機能を測定した。心筋梗塞後2週目に、マウスをこの検査に供した。生理食塩水処置したマウスにおいて、2週間の心筋梗塞は、拡張期心室中隔(IVSTd)の壁厚は減少し、拡張期におけるLVの後壁(LVPWTd)の壁厚は増加した。また、左室拡張末期径(LVIDd)および左室収縮末期径(LVIDs)は、拡大、左室短縮率(%FS)および左室駆出率(EF)は、有意に減少した(表1を参照)。このことは、心筋梗塞後の心臓の左室、壁厚の非薄化、拡張した左室腔および減少した心機能を示唆した。しかし、マウスを心筋梗塞直後に、実施例1に記載のようにLIF遺伝子によりトランスフェクトした場合、IVSTd、LVPWTd、LVIDd、LVIDs、FSおよびEFにおける変化は、生理食塩水を注射したマウスにおいて観察されるより小さかった。このことは、心筋梗塞後のLIFによる心機能の有意な改善を示唆した
【0264】
【表1】Mモードの心エコー検査分析
データは、平均±標準平均誤差として表す。*シャム手術したマウスに対してp<0.05。†心筋梗塞マウスにおける生理食塩水注射に対してp<0.05。
【0265】
(実施例3:LIFによる梗塞の程度の減弱)
(梗塞の大きさおよび線維症の程度の測定)
心筋梗塞の2週間後、心臓を切除し、灌流固定によって10%ホルマリンで固定した。固定したこの心臓をパラフィン中に包埋し、4μm厚で切片化した。梗塞領域の大きさ、壁厚および間質の線維症化の程度を、ヘマトキシリン−エオシン(H−E)およびAzanにより染色した心臓の中央横断切片にて評価した。心筋梗塞領域の大きさは、通常は左室自由壁(LVFW)と同じ程度の大きさであり、梗塞領域の大きさを、シャム手術した心臓(n=3)および心筋梗塞手術した心臓(n=3)由来のAzan染色切片のLVFW中の心筋細胞の総面積を測定することにより定量した。失われた心筋細胞の面積を、(シャム心臓のLVFW中の心筋細胞の総面積−心筋梗塞心臓のLVFW中の残存筋細胞の面積)として算出し、梗塞の大きさと見なした。線維化の程度を、総LVFW面積で除算したAzan染色線維症面積の比を算出することによって、梗塞区域全体において測定した。
【0266】
(LIFによる梗塞の程度の減弱)
LIFの効果をさらに評価するために、本発明者らはまた、心筋梗塞2週間後のLVFWにおける梗塞領域の大きさおよび線維化の程度により定量した、心筋梗塞の2週間後、生理食塩水注射マウスにおいて、その梗塞は非常に広範であり、その面積はLVFW全体とほぼ同じ程度広かった(図2Aおよび2B)。さらに、この梗塞壁は非常に薄くなりかつ線維組織を形成したので、少数の心筋細胞しかその梗塞壁内にて観察され得なかった(図2Aおよび2C)。しかし、LIFを投与した場合、梗塞領域は小さくなり、その梗塞壁は、生理食塩水注射マウスよりも厚く、そして線維化は生理食塩水注射マウスよりも少なかった(図2A〜2C)。非常に少数の心筋細胞の脱膜消失しか、この梗塞区域にて見出されなかった(図2A)。これらの結果は、LIF処置後の心筋梗塞の程度の有意な減弱を示唆した。
【0267】
(実施例4:心筋梗塞後のLIFによる、アポトーシス細胞死からの防御)
(TUNEL分析)
心筋細胞アポトーシスを、パラフィン包埋心臓組織切片の末端デオキシリボヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)によって、インサイチュで検出した。TUNELは、Cardio TACS(Trevigen,Inc.),という、心臓組織切片におけるアポトーシスのインサイチュ検出用試薬キットを使用して実施した。
【0268】
(ウェスタンブロット分析)
全細胞タンパク質をLV組織から抽出した。タンパク質濃度を、BCAタンパク質濃度アッセイ(Pierce)を使用して決定した。ウェスタンブロット分析を、LIFに対する抗体、Aktに対する抗体、リン酸化Aktに対する抗体、およびVEGFに対する抗体(Santa Crutz)を用いて実施した。ハイブリダイズしたバンドを、ECL検出キット(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して可視化した。
【0269】
(心筋梗塞後のLIFによる、アポトーシス細胞死からの防御)
筋細胞アポトーシスは、心筋梗塞後の細胞死の主要な形態である(James,T.N.、Am.J.Med.107,606−620(1999);Sabbah,H.N.、Cardiovasc.Res.45,704−712(2000);およびAnversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998))。アポトーシスを介する心筋細胞の損失は、梗塞後の心室再構築において主要な役割を果し、そして心不全の進行に対する重要な寄与因子である(Anversa,P.,Cheng,W.,Liu,Y.,Leri,A.,Redaelli,G.&Kajstura,J.、Basi.Res.Cardiol.3,8−12(1998);James,T.N.、 Am.J.Med.107,606−620(1999);およびSabbah,H.N.、Cardiovasc.Res.45,704−712(2000).)。LIFは、心筋細胞を含む細胞の生存を改善することが報告されている(Hirota,H.,Chen,J.,Betz,U.A.,Rajewsky,K.,Gu,Y.,Ross,J.J.,Muller,W.&Chien,K.R.、 Cell 97,189−198(1999))。これをもとに、本発明者らは、LIFが心筋梗塞後の心臓において抗アポトーシス作用を発揮するか否かを分析した。TUNEL分析により、心筋細胞のアポトーシスが、心筋梗塞後2週間目でさえ、心臓において見出され得ることが示された(図3A).心筋梗塞後のTUNEL陽性心筋細胞の数は、生理食塩水注射マウスと比較して、LIF処置マウスにて有意に減少した(図3B)。このことは、LIFが、心筋梗塞後の心筋細胞の生存を改善することを示した。LIFがどのように防御的役割を発揮したかを問うために、本発明者らはまた、心臓における、プロテインキナーゼB/Akt(生存促進分子)の活性化を調べた。LIF遺伝子トランスフェクトマウスにおけるAktの活性化は、心筋梗塞の2週間後の生理食塩水注射マウスと類似していた(図3C)。このことは、LIFが、Aktの活性化とは独立して心筋細胞死に対して防御することを示す。
【0270】
(実施例5:LIF遺伝子処置後の梗塞領域における新生血管形成)
(免疫化学分析)
免疫化学染色を、抗PECAM−1(CS31)、抗マウスKi−67、抗GFP、抗心臓トロポニンTおよびMF20などの一次抗体を60分間使用し、その後、ビオチンか、FITCか、またはローダミンと結合した、それぞれの二次抗体を室温で30分間用いて、パラフィン包埋切片を使って実施した。
【0271】
(LIF遺伝子処置後の梗塞領域における新生血管形成)
冠状動脈系の閉塞が、心筋梗塞後の「損傷した心臓」の直接の原因である。新脈管形成因子(サイトカインを含む)により誘導される新生血管形成は、梗塞の大きさの制限および心機能の改善において役割を果たし得る(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。LIFは、骨格筋においてのみならず、心筋領域においても、虚血性心疾患における新生血管形成を促進することが見出されている(Osugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Boil.Chem.277,6676−6681(2002))。これらに鑑み、本発明者らは、心筋梗塞後の新規な冠状血管の形成を調べた。免疫化学によって、境界区域または梗塞区域のいずれかにおける血管密度が、生理食塩水処置したものよりもLIFを使用した場合のほうが高いことが示された(図4Aおよび4B)。血管内皮増殖因子(VEGF)は、強力な新脈管形成タンパク質の1つとして知られる(Thompson,J.A.,Anderson,K.D.,DiPietro,J.M.,Zwiebel,J.A.,Zametta,M.,Anderson,W.F.&Maciag,T.、Science 241,1349−1352(1988))。心筋領域へのVEGF遺伝子の直接注射による新脈管形成は、梗塞心臓における心筋血流に寄与しないと報告されていたが(Schwarz,E.R.,Speakman,M.T.,Patterson,M.,Hale,S.S.,Isner,J.M.,Kedes,L.H.&Kloner,R.A.、J.Am.Coll.Cardiol.35,1323−1330(2000))、冠動脈の側副動脈血流が、VEGFの冠動脈内注入後に、虚血性心筋領域において増加した(Banai,S.,Jaklitsch,M.T.,Shou,M.,Lazarous,D.F.,Scheinowitz,M.,Biro,S.,Epstein,S.E.&Unger,E.F.、Circulation 89,2183−2189(1994))。増強された側副動脈血流は、梗塞の大きさの減少および心機能の改善に関連した。従って、本発明者らは、心筋領域におけるVEGFタンパク質の誘導を評価した。LIF注射は、生理食塩水注射と比較して、梗塞領域におけるVEGFレベルの有意な上昇を誘導した(図4C)。本発明者らの結果は、このLIF遺伝子移入が、心筋梗塞後の心臓の新生血管形成を改善し得ることを示唆する。
【0272】
(心筋梗塞後のLIFによる心筋細胞の分裂)
哺乳動物心臓における心筋細胞の増殖は多数の証拠によって示唆されている(Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998);Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002);およびKajstura,J.,Leri,A.,Finato,N.,Di,L.C.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,8801−8805(1998))。分裂中の心筋細胞の数は、心筋細胞複製が生じる不全心臓および梗塞心臓において増加し得る(Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998);Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002);およびKajstura,J.,Leri,A.,Finato,N.,Di,L.C.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,8801−8805(1998))。心筋細胞増殖は、軽度であり、そして血液供給がほぼ維持される境界区域および非梗塞組織においてもっぱら出現するのみであることから、冠動脈が閉塞した梗塞領域において、処置せずに細胞増殖のみを介して新規な心筋領域を形成することは、不可能であると考えられていた(Beltrami,A.P.,Urbanek,K.,Kajstura,J.,Yan,S.M.,Finato,N.,Bussani,R.,Nadal,G.B.,Silvestri,F.,Leri,A.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、N.Eng.J.Med.344,1750−1757(2001))。しかし、心筋細胞のみの増殖は梗塞領域を再生し得ず、心筋梗塞後の心筋再構築および心不全の発症を予防し得ないにもかからわず、心筋細胞分裂の存在は、特定の因子による筋細胞複製の促進について、依然として実用性を提供する。LIF処置マウスは、梗塞心臓において有意な新生血管形成を示した。従って、本発明者らは、LIFが、増殖中の細胞の核においてのみ発現されるKi−67タンパク質の検出(Scholzen,T.&Gerdes,J.、J.Cell.Physiol.182,311−322(2000))により心筋梗塞後の心筋細胞の増殖を改善するか否かを調べた。本発明者らの結果は、低い程度の心筋細胞増殖が生理食塩水処置マウスにおける梗塞領域の周辺および離れたところで出現するが(図5)、その数は少なすぎて損傷した心筋領域を再構築できないという事実と一致した。しかし、LIFトランスフェクトマウスにおいて、心臓において(梗塞領域においてさえ)検出された非常に多数のKi−67陽性心筋細胞核が存在した(図5)。このことにより、LIFが、心筋梗塞後の心筋筋細胞増殖の増加を誘導することが確認された。LIFによる心筋細胞複製の改善は、直接的であり得、そして/または増加する局所血流を介してであり得る。なぜなら、LIFは、増殖因子または新脈管形成因子のいずれかとして作用し得るからである。
【0273】
(実施例6:骨髄細胞の単離および移植)
骨髄細胞(BMC)を、グリーン蛍光タンパク質(GFP)を全身に過剰発現する8週齢の雄性トランスジェニックマウスの大腿および脛骨から、パーコール勾配を使用して単離した。300μlのRPMI培地中に懸濁した5×107 BMC/マウスを、6時間前に照射しておいた(9Gy)8週齢雌性C57BL6中の静脈内に注射した。骨髄細胞移植の6週間後、このマウスを、心筋梗塞に供し、そしてLIF注射または生理食塩水注射に供し、同様に非移植マウスにおいても実施した。
【0274】
(骨髄細胞からの心筋細胞の再生)
最近、骨髄細胞またはES細胞が、心筋梗塞後の心筋領域を修復するための細胞移植に使用されている(Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Jakoniuk,I.,Anderson,S.M.,Li,B.,Pickel,J.,McKay,R.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Nature410,701−705(2001);Kocher,A.A.,Schuster,M.D.,Szabolcs,M.J.,Takuma,S.,Burkhoff,D.,Wang,J.,Homma,S.,Edwards,N.M.&Itescu,S.、Nat.Med.7,430−436(2001);Kamihata,H.,Matsubara,H.,Nishiue,T.,Fujiyama,S.,Tsutsumi,Y.,Ozono,R.,Masaki,H.,Mori,Y.,Iba,O.,Tateishi,E.,Kosaki,A.,Shintani,S.,Murohara,T.,Imaizumi,T.&Iwasaka,T.、Circulation 104,1046−1052(2001);Jackson,K.A.,Majka,S.M.,Wang,H.,Pocius,J.,Hartley,C.J.,Majesky,M.W.,Entman,M.L.,Michael,L.H.,Hirschi,K.K.&Goodell,M.A.、J.Clin.Invest.107,1395−1402(2001);およびMin,J.Y.,Yang,Y.,Converso,K.L.,Liu,L.,Huang,Q.,Morgan,J.P.&Xiao,Y.F.、J.Appl.Physiol.92,288−296(2002))。心筋領域の再生に対する骨髄細胞の驚くべき効果にも関わらず、骨髄細胞の適用は、臨床では、侵襲的方法の安全性が原因で限定されている。また、骨髄細胞は、心臓系列へと分化するように細胞自身を再プログラミングしなければならないことから、心臓幹細胞が、心筋領域の再生において骨髄細胞よりも有効であるようである。このことは、心臓幹細胞が、中間段階を回避し、そしてより早く成熟心筋細胞に到達することに起因する(Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002))。心臓幹細胞によるアプローチは、表面マーカーの同定か、あるいは心臓幹細胞の移動、増殖および分化を媒介する増殖因子の認識を必要とする。心筋領域へのサイトカイン(SCFおよびG−CSF)(Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Limana,F.,Jakoniuk,I.,Quaini,F.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,10344−10349(2001))による事前処置により動員された骨髄細胞が、心筋細胞へと分化し得、心筋構造を再生し得、そして心筋梗塞後の損傷した心臓を修復し得ることを示すことが最近報告された。
【0275】
この知見にもとづき、この実施例において、本発明者らは、LIFが、骨髄細胞動員を媒介することを介してその効果を発揮するのか否かを調べた。本発明者らは、GFPトランスジェニックマウスから単離した骨髄細胞を照射マウス中に移植し、そして6週間後にそのマウスにおいて心筋梗塞を作製した。心臓におけるGFP発現細胞を検出するために、本発明者らは抗GFP抗体を使用した。本発明者らは、梗塞領域の境界区域において、LIF注射マウスでは生理食塩水処置マウスよりもかなり多くのGFP陽性細胞が存在することを観察した(図6A)。このことは、LIFが、心筋梗塞後の骨髄細胞の動員を改善することを示唆した。さらに、GFP陽性細胞の間で、生理食塩水処置よりも多くの細胞が心筋細胞へと分化していることが、LIF注射マウスにおいて見出された(図6Bおよび6C)。このことは、LIFが、骨髄細胞の動員のみならず、骨髄細胞から心筋細胞への分化も加速したことを示唆した。
【0276】
心筋梗塞直後のマウスにおいてLIF遺伝子治療を使用する本発明者らのこの研究は、心臓障害を克服することに対する明らかに有益な効果を示した。LIFが心筋梗塞後の心臓細胞の生存を維持し、状態を改善することは示唆されていた(Wang,F.,Seta,Y.,Baumgarten,G.,Engel,D.J.,Sivasubramanian,N.&Mann,D.L.、Circulation 103,1296−1302(2001);およびOsugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Biol.Chem.277,6676−6681(2002))が、実際にLIFが血管新生を誘導するということが実証されたのはこれが初めてである。無論、LIFが、心筋細胞の増殖、心筋領域への骨髄細胞の動員および骨髄細胞から心筋細胞への分化を誘導し、その後、梗塞心筋領域の再生をもたらすというデータは、新規な知見である。LIFによる、期間全体(特に、心筋梗塞の初期段階)での死からの細胞の防御、ならびに心筋領域における新生血管形成による脈管構造損傷の減弱は、心筋細胞再生のための血液供給を保証する。LIFが、心筋梗塞後の心筋領域の再生についての促進因子としてどのように作用するかの理解は、心臓幹細胞の移動、増殖および分化についての機構の発見をもたらし得る。LIF遺伝子注射により誘導されるLIFの上昇は1ヶ月以内に消失するので、心臓に対する1ヶ月間のLIFの効果が生じるはずである。LIF遺伝子移入が損傷心臓においてのみLIF含量を増加させるが正常な心臓では増加させない機構が、不明であるが、興味深い。この実施例では、このLIF遺伝子は骨格筋に直接注射された。従って、非侵襲性かつ安全なストラテジーとしての本発明者らの実験は、多数の罹患者にとって適用可能な治療法を提供する。このような方法は、心筋梗塞後に発生するような心不全を確実に軽減するまたは除去するものとしては、従来なく、本発明の一つの優れた効果といえる。
【0277】
(実施例7:他のLIFによる効果)
上述のキメラLIFの代わりに、ヒトLIFおよびマウスLIFを使用して、上述の実施例と同じ実験を行った。すると、その結果、同じように、LIFが心不全を軽減し、骨髄細胞を動因し、血液細胞の再生を促進する結果を示すことがわかった。したがって、LIFのようなgp130リガンドは、レセプターとの結合活性が保たれる限り、本発明がもたらす効果を奏することが判明した。
【0278】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0279】
【発明の効果】
本発明のgp130リガンド(例えば、LIF)は、心筋梗塞などの後に発生する心不全を成功裏に治療することが明らかになった。このことは従来達成されなかった格別の効果である。また、本発明のgp130リガンドは、血管新生を予想外に促進し、心筋細胞の維持および増殖(分化)にも予想外に効果があった。また、本発明のgp130リガンドは、予想外に、骨髄細胞の動員を促進し、また予想外に骨髄細胞の心筋細胞への分化を促進した。従って、本発明のgp130リガンドを含む組成物は、それ自体が心筋梗塞などの後の心不全を軽減および/または除去するための治療薬として有用であるだけでなく、心筋細胞および/または新生血管の調製のための薬剤としても有用であり得る。
【0280】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、LIFの血中濃度を示す。12週齢の雄性マウスを心筋梗塞手術に供し、その直後に100μgのpCAGGS−LIF cDNAを含むPBS 100μlを、骨格筋に注射した。このマウスの血液を、この手術後の示される時刻に収集した。血清中のLIFの濃度を、LIF/HILDA EASIAキットにより測定した。その値を、2匹のマウスの平均として示した。
【図2】図2は、梗塞の大きさおよび線維症の程度を示す。心臓を、生理食塩水もしくはLIF遺伝子のいずれかを注射した、シャムに供したマウスおよび心筋梗塞に供したマウスから、切除した。A.組織学的顕微鏡写真。固定した心臓をパラフィン中に包埋し、横断切片化し、そしてH−EおよびAzanにより染色した。心筋梗塞後2週目のマウス由来の心臓の例示的染色を示す。LIF注射したマウスにおけるLV腔の拡張および梗塞壁の非薄化は、生理食塩水注射マウスより軽減していた。B.梗塞の大きさ。LVFWにおける総心筋細胞の面積を、生理食塩水もしくはLIF遺伝子を注射した、シャム手術したマウスおよび心筋梗塞手術したマウスのいずれか由来の、Azan染色した中央横断切片において測定した。梗塞の大きさを、方法において記載したように算出し、そしてシャム手術したマウスのLVFWにおける総心筋細胞の面積のパーセンテージとして表す。値を、3匹のマウスの平均±標準誤差として示す。C.線維化の程度。線維症の面積を、心臓の中央横断切片から、方法に記載したように測定した。データを、3つの心臓の平均±標準平均誤差として示す。
【図3】図3は、心筋梗塞の2週間後の心臓におけるTUNEL分析およびAktの活性化を示す。マウスを、方法に記載したように、心筋梗塞およびLIF遺伝子移入手順に供した。A.生理食塩水を注射したマウスおよびLIF遺伝子注射マウスの心筋梗塞領域の境界区域における例示的TUNEL染色(本来の倍率×400)。B.TUNEL陽性心筋細胞。TUNEL陽性心筋細胞を、梗塞領域全体において計数し、そして数/mm2として表した。データを、3匹のマウスの平均±標準平均誤差として示す。
【図4】図4は、心筋梗塞後の心臓における新規な冠状血管形成およびVEGFの発現を示す。マウスを、心筋梗塞と、LIF遺伝子注射または生理食塩水注射とに供し、そしてその心臓を、すぐに(0D)か、または2日目(2D)、1週間(1W)後および2週間(2W)後に切除した。A.心筋梗塞の2週間後の心臓由来の梗塞領域の境界における、PECAM抗体により免疫染色した例示的写真。B.LVFWにおけるPECAM陽性脈管構造を計数し、そして数/mm2として表した。データを、3匹のマウスの平均±標準誤差として示す。C.VEGFタンパク質の発現。LV組織から抽出した総タンパク質を12% SDSゲル中で分離し、そしてブロットした膜を、VEGF抗体とともに、それぞれインキュベートした。その免疫反応性のバンドをECL系を使用して検出した。3つの独立した実験からの例示的オートラジオグラムを示す。
【図5】図5は、1週間心筋梗塞に供した心臓における分裂中の筋細胞のKi−67標識を示す。マウスを、心筋梗塞と、生理食塩水注射またはLIF遺伝子移入手順とに供し、心臓の免疫化学を、方法に記載したように実施した。同じ切片における二重染色のための系(VECTOR laboratories)を使用して、Ki−67および心臓トロポニンTを標識した。A.例示的写真。茶色の染色は、Ki−67陽性細胞核を示し;赤色標識は、心臓トロポニンT抗体による心筋細胞細胞質の染色を示す。Ki−67抗体により染色した核は、正常な核(ヘマトキシリンで対比染色した)よりも大きいようである。下の図は、新たに形成された心筋細胞における、酷似する分裂核を示す。B.境界区域における105個の筋細胞当たりのKi−67陽性心筋細胞の数。データを、3匹のマウスの平均±標準誤差として表した。
【図6】図6は、心筋梗塞の2週間後の、動員された骨髄細胞による心筋細胞の再生を示す。GFPトランスジェニックマウス由来の骨髄細胞を、照射したレシピエントに移植し、そしてそのマウスに、方法に記載したように、心筋梗塞と、生理食塩水注射またはLIF遺伝子注射とをした。その心臓の免疫蛍光染色を、動員された骨髄細胞および心筋細胞を標識するために、それぞれ抗GFP抗体およびMF20を使用して、実施した。A.境界区域におけるGFP陽性細胞の例示的染色。B.GFP陽性心筋細胞の例示的染色。赤色蛍光は、心筋ミオシンを示し;グリーン蛍光は、GFP陽性細胞を示す。C.切片全体における105個の心筋細胞当たりのGFP陽性心筋細胞の数。データを、2匹のマウスの平均として表した。
【発明の属する技術分野】
本発明は、心不全(たとえば、心筋梗塞後の)を軽減または除去するための組成物、方法およびキットに関する。別の局面では、本発明は、心筋細胞の増殖、調製および血管新生を促進するための組成物、方法およびキットに関する。本発明は、白血病阻害因子(LIF)の新規機能に関し、梗塞の程度を減弱し、かつ心筋再生、血管新生の促進し、心機能の低下を軽減する。
【0002】
【従来の技術】
心筋梗塞の後の心筋細胞の急性損失は、心機能を低下させ、そして通常は、心不全をもたらす。心不全は依然として、心疾患の罹患率および死亡率に関する主要な危険因子である(例えば、非特許文献1)。従って、心不全は、損傷した心臓についての治療ストラテジーを確立するという課題が残っており、解決すべき医学的テーマの中でも重要なものの一つである。
【0003】
心筋梗塞が生じた場合、心筋細胞は、アポトーシスおよび壊死により迅速に減少し(例えば、非特許文献2〜4)、間質の脈管成分および非脈管成分が、虚血性損傷によりほぼ破壊され、梗塞領域中の心筋細胞が、線維性非筋細胞によって徐々に取って代わられ、瘢痕組織になる。従って、心筋梗塞後の心筋細胞の損失量は、心機能不全の重傷度を決定する因子である。
【0004】
心筋細胞は、生後、最終分化し、分裂する能力を失うと考えられていたが、この概念は、再考されなければならない。なぜなら、心筋細胞がある病態下または生理的条件下で分裂することを、動物モデルを用いた研究結果が示唆するからである(例えば、非特許文献5)。最近、心筋梗塞直後に常在する心筋細胞、血中を循環する幹細胞、またはこれらの両方の細胞由来の心筋細胞の分裂または再生を示す研究が、ヒトの心臓において報告された(例えば、非特許文献6)。しかし、心筋細胞の分裂は、非梗塞心筋領域の小数の細胞にのみ限定されており、心機能の回復には十分ではないことから、心筋梗塞後の処置なくして梗塞心筋領域を修復することは不可能なようである。従って、心筋梗塞後のリモデリング、または心不全を軽減するための治療戦略を考える上で、梗塞心筋領域を回復することは、依然として、重要な課題である。
【0005】
現在、早期の再灌流および化学薬剤の投与による、心筋細胞死を減少、梗塞領域の縮小、ならびにリモデリングの予防は、心筋梗塞を処置する上で当該分野において、依然として、主要な課題である。これらの治療は、多分、不可逆的な心不全への進行を遅らせるが、これらは、損傷した心筋細胞を再生できず、心臓の損傷した機能を復帰させることもできないので、治療効果は限定される。骨格筋芽細胞または心筋細胞(胎児または骨髄由来の骨格筋芽細胞または心筋細胞を含む)を移植することによって梗塞領域中の瘢痕組織を置換する試みが出現したが、これらの実行は、心機能を十分に回復させるための心筋細胞および冠状動脈の再構築を認めなかった(例えば、非特許文献7〜11)。
【0006】
最近、幹細胞の領域において、新たな戦略を提供する研究がなされている。動物モデルを用いたいくつかの研究が、梗塞後の梗塞心筋に移植された成体の骨髄動脈細胞(BMC)または胚性幹細胞(ES)が心筋細胞および冠動脈へと分化し、梗塞心筋領域における心筋細胞の部分的再生および梗塞領域の縮小を生じ、その後心機能が回復することを示唆した(例えば、非特許文献12〜16)。これらのアプローチは、心筋梗塞後の細胞治療のための新規なツールを約束するようである。しかし、臨床レベルでは、細胞治療の適用における重要な課題が、依然として解決されていない。
【0007】
第1に、骨髄細胞は、異なる型の細胞へと分化する能力を有するが、梗塞領域に移植された骨髄細胞が他の細胞へと分化するのを回避する方法は不明である。新規なデータが、心臓幹細胞(CSC)が存在すること、および心筋細胞を再生する際に骨髄細胞より心臓幹細胞の方が有効なことを示唆する(例えば、非特許文献17)。従来、心臓幹細胞を認識するために使用されたマーカーは、必ずしも特異的に認識するものではなかった。
【0008】
第2に、梗塞領域へのこの心臓幹細胞の移植は、外科的介入を必要とするため、特に心筋梗塞後の早期段階では高いリスクを伴うはずである。細胞移植が遅くに実施された場合、心筋梗塞後迅速に(数時間以内に)脈管構造が破壊され、血液供給が大きく減少するので、移植細胞の増殖、分化および生存が大きく影響を受けるはずである。従って、心筋梗塞後可能な限り早く使用され得、その後梗塞心筋領域が再生し得る、非侵襲性方法を見出すことが望まれる。
【0009】
最近、Orlic D.らが、幹細胞因子(SCF)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)の事前注入が、内因性骨髄細胞の梗塞領域層への移動およびホーミングを認識し、心臓細胞へと分化し心筋領域塊を再構成するのを促進し、これにより心臓の機能および生存の改善がもたらされることを報告した(例えば、非特許文献18)。このことは、心筋梗塞についてのサイトカインによる非侵襲性かつ有効な治療ストラテジーを示唆した。しかし、SCFおよびG−CSFは、虚血性心疾患の悪化、幹細胞の偏った方向付け、および骨髄の消費を誘導し得る、造血性サイトカインに属する(例えば、非特許文献19)。心筋梗塞後に使用されるSCFおよびG−CSFの効果は不明である。従って、心筋梗塞後に適用可能な他のサイトカインを選択することが必要である。
【0010】
再生医学(再生医療)による疾患治療が最近注目を浴びている。しかし、これを臓器ないし組織機能不全を呈する多くの患者に対して日常的に適応するまでには至っていない。現在まで、そのような患者の治療として、臓器移植のほか、医療機器での補助システムの利用がごく限られた患者に適応されているにすぎない。しかし、これらの治療法には、ドナー不足、拒絶、感染、耐用年数などの問題がある。特に、ドナー不足は深刻な問題であり、骨髄移植の場合、骨髄国内外で骨髄ないし臍帯血バンクが次第に充実してきたといっても、限られたサンプルを多くの患者に提供することが困難である。従って、これらの問題を克服するために幹細胞治療とその応用を中心とした再生医学に対する期待がますます高まっている。
【0011】
従来も幹細胞移植治療は行われていたが、種々の副作用があった。例えば、大量抗癌剤または放射線照射を用いた移植前処置による副作用(RRT)が存在していた。また、前処置による骨髄抑制中の細菌・真菌感染症、出血;他人からの移植の場合、ドナーの白血球が生着して増えてきた時に患者臓器を異物(他人)とみなして攻撃する反応(移植片対宿主病=GVHD);サイトメガロウィルス(CMV)肺炎を中心とする様々な肺合併症;血管内皮細胞(血管の内側を覆っている細胞)の障害による種々の内臓障害;生着後にも遷延する免疫抑制状態(少なくとも1〜2年)の間に罹患する様々な感染症;遷延し様々な症状を呈する慢性GVHD;二次性発癌、性腺機能障害、不妊などの晩期障害などの副作用があった。
【0012】
このように、合併症のために、移植を行ったがために、かえって一時的に全身状態が悪くなるということはしばしば起こる。また、合併症のために死亡する患者も、自家移植でも10〜20%、他人からの移植では20〜40%程度いる。また、これらの合併症をのりこえても、もとの病気が再発する可能性があり、現在の移植治療の限界があった。
【0013】
幹細胞の分化を調節する機構として種々のタンパク質が重要な役割を果たす。例えば、幹細胞因子(stem cell factorまたはsteel factor;SCFともいう)は、造血幹細胞では注目されている因子である。
【0014】
SCFは、骨髄ストローマ細胞により生成され、多能性幹細胞、CFU−GMのCFU−M、CFU−Megなどの骨髄系細胞、リンパ系幹細胞に作用し、これらの分化を支持する。すなわち造血幹細胞から分化細胞へのほぼすべての系統の分化段階の細胞に作用して、他のサイトカインによる最終分化段階への分化誘導する作用を助けるとされる(非特許文献20)。
【0015】
しかし、SCF単独の作用は弱く、他の因子と協働でなければ充分に機能しないようである。例えば、SCFは、インターロイキン(IL)−3、IL−6、IL−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)などの他のサイトカインの存在下で、造血幹細胞の分化・増殖を強く誘導する。また、肥満細胞、赤芽球系前駆細胞、顆粒球マクロファージ系前駆細胞、巨核球系前駆細胞などの分化・増殖も誘導する。
【0016】
従って、SCFは分化そのものを制御するというよりは、多くの種類の造血系細胞の生存を支持しながら、種々のサイトカインに対する反応性を高めると位置づけることができる。
【0017】
トロンボポイエチン(TPO)もまた注目されている。この因子は、巨核球系の分化と血小板産生を支持するが、幹細胞にも作用しその分化を誘導する。また、幹細胞の自己複製にも関与することが分かっている。
【0018】
このように、従来の因子では、幹細胞のある種の細胞への分化を促進することは報告されていたが、心筋細胞への分化を促進する因子はいまだに報告されていない。また、心肥大を促進する現象およびそれを担う因子の存在は報告されているもの、心筋細胞の数を増加させる機構は報告されておらず、根本治療には程遠いのが現状である。
【0019】
近年、gp130刺激サイトカイン(本明細書においてgp130リガンドとも称する)の一種である、白血病阻害因子(LIF)が、神経系、骨格筋および心血管系を含む多くの組織において、胚および成体の両方で増殖および分化を調節するという証拠が蓄積している(例えば、非特許文献21〜23)。さらに、LIFは、細胞の増殖および分化を増強するだけでなく、一部の細胞の生存状態も改善するようである。LIFが、脱神経誘導性筋萎縮を改善し、筋肉および神経の再生を改善することが報告されている(例えば、非特許文献24)。さらに、LIFは、筋芽細胞移植後の骨格筋の再生を増強する(例えば、非特許文献25)。局所投与されたゼラチンキャリア中のLIF cDNAプラスミドは、骨密度および骨形成を増加する(例えば、非特許文献26)。LIFはまた、心筋細胞から分泌される(例えば、非特許文献27)。LIFは心肥大の発症に関連し(例えば、非特許文献28〜30)、gp130シグナル伝達は、心筋細胞の生存を改善する(例えば、非特許文献30〜31)。
【0020】
しかし、LIFのようなgp130リガンドが心筋梗塞などに起因する心不全に有効であるかどうかは不明であり、むしろ、LIFのみでは心筋梗塞の治療には十分ではないと考えられていた。
【0021】
【非特許文献1】
Eriksson,H.、J.Int.Med.237,135−141 (1995)
【非特許文献2】
Anversa,P.,Cheng,W.,Liu,Y.,Leri,A.,Redaelli,G.&Kajstura,J.、Basi.Res.Cardiol.3,8−12(1998)
【非特許文献3】
James,T.N.、 Am.J.Med.107,606−620(1999)
【非特許文献4】
Sabbah,H.N.、Cardiovas.Res.45,704−712(2000)
【非特許文献5】
Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998)
【非特許文献6】
Beltrami,A.P.,Urbanek,K.,Kajstura,J.,Yan,S.M.,Finato,N.,Bussani,R.,Nadal,G.B.,Silvestri,F.,Leri,A.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、N.Eng.J.Med.344,1750−1757(2001)
【非特許文献7】
Murry,C.E.,Wiseman,R.W.,Schwartz,S.M.&Hauschka,S.D.、J.Clin.Invest.98,2512−2523(1996)
【非特許文献8】
Leor,J.,Patterson,M.,Quinones,M.J.,Kedes,L.H.&Kloner,R.A.、Circulation 94,Suppl.,II332−II336(1996)
【非特許文献9】
Taylor,D.A.,Atkins,B.Z.,Hungspreugs,P.,Jones,T.R.,Reedy,M.C.,Hutcheson,K.A.,Glower,D.D.&Kraus,W.E.、Nat.Med.4,929−933(1998)
【非特許文献10】
Tomita,S.,Li,R.K.,Weisel,R.D.,Mickle,D.A.,Kim,E.J.,Sakai,T.&Jia,Z.Q.、Circulation 100、II247−II256(1999)
【非特許文献11】
Menasche,P.,Hagege,A.A.,Scorsin,M.,Pouzet,B.,Desnos,M.,Duboc,D.,Schwartz,K.,Vilquin,J.T.&Marolleau,J.P.、Lancet 357,279−280(2001)
【非特許文献12】
Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Jakoniuk,I.,Anderson,S.M.,Li,B.,Pickel,J.,McKay,R.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Nature 410,701−705(2001)
【非特許文献13】
Kocher,A.A.,Schuster,M.D.,Szabolcs,M.J.,Takuma,S.,Burkhoff,D.,Wang,J.,Homma,S.,Edwards,N.M.&Itescu,S.、Nat.Med.7,430−436(2001)
【非特許文献14】
Kamihata,H.,Matsubara,H.,Nishiue,T.,Fujiyama,S.,Tsutsumi,Y.,Ozono,R.,Masaki,H.,Mori,Y.,Iba,O.,Tateishi,E.,Kosaki,A.,Shintani,S.,Murohara,T.,Imaizumi,T.&Iwasaka,T.、Circulation 104,1046−1052(2001)
【非特許文献15】
Jackson,K.A.,Majka,S.M.,Wang,H.,Pocius,J.,Hartley,C.J.,Majesky,M.W.,Entman,M.L.,Michael,L.H.,Hirschi,K.K.&Goodell,M.A.、J.Clin.Invest.107,1395−1402(2001)
【非特許文献16】
Min,J.Y.,Yang,Y.,Converso,K.L.,Liu,L.,Huang,Q.,Morgan,J.P.&Xiao,Y.F.、J.Appl.Physiol.92,288−296(2002)
【非特許文献17】
Anversa,P.&Nadal,Ginard,B.、Nature 415,240−243(2002)
【非特許文献18】
Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Limana,F.,Jakoniuk,I.,Quaini,F.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,10344−10349(2001)
【非特許文献19】
Schriber,J.R.&Negrin,R.S.、Drug Saf. 8,457−468(1993)
【非特許文献20】
サイトカインの最前線、羊土社、平野俊夫(T.Hirano)編、174〜187(2000)
【非特許文献21】
Husmann,I.,Soulet,L.,Gautron,J.,Martelly,I.&Barritault,D.、Cytokine& Growth Factor Rev.7,249−258(1996)
【非特許文献22】
Yamauchi−Takihara,K.,Hirota,H.,Kunisada,K.,Matsui,H.,Fujio,Y.,Taga,T.&Kishimoto,T.、J.Card. Fail.2.S63−S68(1996)
【非特許文献23】
Taupin,J.L.,Pitard,V.,Dechanet,J.,Miossec,V.,Gualde,N.&Moreau,J.F.、Int.Rev.Immunol 16,397−426(1998)
【非特許文献24】
Finkelstein,D.I.,Bartlett,P.F.,Horne,M.K.&Cheema,S.S.、J.Neurosci.Res.46,122−128(1996)
【非特許文献25】
White,J.D.,Bower,J.J.,Kurek,J.B.Austin,L.、Muscle & Nerve 24,695−697(2001)
【非特許文献26】
Dazai,S.,Akita,S.,Hirano,A.,Rashid,M.A.,Naito,S.,Akino,K.&Fujii,T.、J.Craniofac.Surg.11,513−520(2000)
【非特許文献27】
Yamauchi−Takihara,K.,Hirota,H.,Kunisada,K.,Matsui,H.,Fujio,Y.,Taga,T.&Kishimoto,T.、J.Card. Fail.(1996)
【非特許文献28】
Hirota,H.,Yoshida,K.,Kishimoto,T.&Taga,T.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92,4862−4866(1995)
【非特許文献29】
Hirota,H.,Chen,J.,Betz,U.A.,Rajewsky,K.,Gu,Y.,Ross,J.J.,Muller,W.&Chien,K.R.、Cell 97,189−198(1999)
【非特許文献30】
Wang,F.,Seta,Y.,Baumgarten,G.,Engel,D.J.,Sivasubramanian,N.&Mann,D.L.、Circulation 103,1296−1302(2001)
【非特許文献31】
Osugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Biol.Chem.277,6676−6681(2002)
【0022】
【発明が解決しようとする課題】
心筋梗塞(MI)などの種々の心疾患は、心不全へと進展し、心疾患の罹患率および死亡率を増加させる原因となっている。従って、このような心筋梗塞後などに発生する心不全を軽減または除去する方法は、依然として主要な難題である。
【0023】
従って、本発明は、心筋梗塞後の心機能を改善することを課題とする。別の局面において、本発明は、幹細胞もしくは遺伝子の心臓注射により梗塞心臓を修復することを課題とする。本発明はさらに、サイトカインによって幹細胞を損傷した心筋へと動員することを誘導することにより梗塞心臓を修復することも目的とする。本発明はさらに、従来不可能とされた非心筋細胞から心筋細胞への分化を促進する機構を提供することも目的とする。
【0024】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、一部、本発明者らが、gp130リガンド(例えば、白血病阻害因子(LIF))が予想外に、心筋細胞の細胞死に対して有効であるのみならず、心筋細胞を含む種々の細胞の増殖ならびに/または心筋細胞以外の細胞(たとえば、骨髄細胞)の疾患部位への動員およびそのような細胞から心筋細胞への分化に対しても有効であることを発見したことによって、解決された。
【0025】
好ましい実施形態として、本発明者らは、核酸形態のgp130リガンド(例えば、LIF)を使用することによって、上記事項を発見した。本発明者らが鋭意一連の的確な実験により検討した結果、横紋筋(骨格筋および心筋を含む)が、DNAの局所注入後にそのDNAを取り込みそして組換えタンパク質を発現することができるという独特な特性を有する組織であることが判明した。このような直接注入技術は、ホルモン誘導性プロモーター、組織特異的プロモーターまたは強力なウイルスプロモーターにより完全に支配されるため、骨格筋および心筋領域への外因性遺伝子の送達が可能である。適用における非侵襲性および安全性に関して、本発明者らは、本研究においてマウスの骨格筋へのLIFの裸のプラスミドcDNAの直接注入を使用した。
【0026】
好ましい実施形態として、マウスにおけるLIFの有効な投与を得るために、本発明者らは、遺伝子導入法を使用した。遺伝子治療は、心血管疾患の処置において10年間でかなり開発された。この発達は、新脈管形成増殖因子が虚血性組織の再血管新生を促進し得るという概念に従った(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。分子生物学における最近の進歩は、新脈管形成増殖因子(例えば、血管内皮増殖因子(VEGF))をコードする裸のDNAプラスミドを組織中に導入することを可能にした(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。
【0027】
従って、本発明は、以下を提供する。
【0028】
(1) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0029】
(2) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有する、項目1に記載の組成物。
【0030】
(3) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目1に記載の組成物。
【0031】
(4) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目1に記載の組成物。
【0032】
(5) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目1に記載の組成物。
【0033】
(6) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0034】
(7) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目6に記載の組成物。
【0035】
(8) 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0036】
(9) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、項目8に記載の組成物。
【0037】
(10) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目8に記載の組成物。
【0038】
(11) 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、項目8に記載の組成物。
【0039】
(12) 心筋細胞を調製ための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0040】
(13) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、項目12に記載の組成物。
【0041】
(14) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目12に記載の組成物。
【0042】
(15) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目12に記載の組成物。
【0043】
(16) 心筋細胞を調製ための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0044】
(17) 心筋細胞を調製するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0045】
(18) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、項目17に記載の組成物。
【0046】
(19) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目17に記載の組成物。
【0047】
(20) 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
【0048】
(21) 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、項目20に記載の組成物。
【0049】
(22) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、項目20に記載の組成物。
【0050】
(23) 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、項目20に記載の組成物。
【0051】
(24) 血管新生を促進するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
【0052】
(25) 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
【0053】
(26) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する、項目25に記載の組成物。
【0054】
(27) 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、項目25に記載の組成物。
【0055】
(28) 心不全を軽減または除去するためのキットであって、
1)項目1〜13のいずれか1項に記載の組成物;および
2)心不全発生後に該組成物を注入することを指示する、指示書、
を備えるキット。
【0056】
(29) 前記指示書は、
前記心不全発生後24時間以内に前記組成物を注入することを指示する、
項目28に記載のキット。
【0057】
(30) 前記指示書は、
前記組成物を下肢大腿部の骨格筋に投与することを指示する、
項目28に記載のキット。
【0058】
(31) 前記心不全は、心筋梗塞発症後に発生したものである、項目28に記載のキット。
【0059】
(32) 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、項目34に記載のキット。
【0060】
(33) 心筋細胞を調製ための方法であって、
1)原料細胞を提供する工程;および
2)該原料細胞に項目12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。
【0061】
(34) 前記原料細胞は、胚性幹細胞、骨髄細胞および組織幹細胞からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
【0062】
(35) さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、項目33に記載の方法。
【0063】
(36) 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィン(CT−1)からなる群より選択される、項目33に記載の方法。
【0064】
(37) 血管新生を促進する方法であって、
1)所望の部位に項目12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。
【0065】
(38) 前記所望の部位は、血管新生を必要とする部位である、項目37に記載の方法。
【0066】
(39) さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、項目37に記載の方法。
【0067】
(40) 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィンからなる群より選択される、項目37に記載の方法。
【0068】
(41) 心不全を軽減または除去する方法であって、
1)心不全発症後に項目1〜11のいずれか1項に記載の組成物を投与する工程
を包含する方法。
【0069】
(42) 前記投与する工程は、前記心不全発生後24時間以内に行われる、項目41に記載の方法。
【0070】
(43) 前記組成物は、下肢大腿部の骨格筋に投与される、項目41に記載の方法。
【0071】
(44) 前記心不全は、心筋梗塞後に発生したものである、項目41に記載の方法。
【0072】
(45) 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、項目44に記載の方法。
【0073】
(46) 項目33に記載の方法によって得られた細胞。
【0074】
(47) 項目37に記載の方法によって得られた血管。
【0075】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0076】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0077】
本明細書において「白血病阻害因子(LIF)」とは、配列番号1または3(核酸配列)および2または4(アミノ酸配列)に示されるような配列を有する因子および他の種の動物において対応する因子(オルソログ)をいう。LIFは、単球細胞株M1の成熟マクロファージへの分化を誘導する因子として精製および単離された(Gearing D.P.,Gough N.M.,King J.A.、EMBO J.6:3995−4002(1987);およびGough N.M.,Gearing D.P.,King J.A.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2623−2627(1988))。M1細胞増殖およびクローン原性から白血病阻害因子と命名された。しかし、LIFは、上記報告以外においても、種々のグループから種々の観点で発見され、分化誘導因子(D因子またはDIF)(Tomida et al,J Biol Chem;259(17):10978−82(1984);Yamamoto et al,Cancer Res;40:4804−9(1980));マクロファージ/顆粒球誘導因子2型(MGI−2);分化阻害活性(DIA);分化遅延因子(DRF);DA−1a細胞に対するヒトインターロイキン(HILDA);TS−1細胞に対する増殖刺激活性(GATS);肝細胞刺激因子I型およびIII型(HSF−IIおよびHSF−III);コリン作動性神経分化因子(CDF);メラニン細胞由来リポタンパク質リパーゼインヒビター(MLPLI);破骨細胞活性化因子(OAF)(Lass A,Weiser W,Munafo A,Loumaye E.;Fertil Steril;76:1091−6(2001);Knight D.Pulm Pharmacol Ther;14:169−76(2001)などを参照) とも呼ばれる。
【0078】
LIFは、ヒトおよびマウスで発見され、ヒトおよびマウスの型の場合、ジスルフィド結合を有するモノマーの180残基の糖タンパク質であり、分子量は約20kDaである。LIFは天然では、グリコシル化されて存在しており、精製されたLIFは、およそ38−67kDaの見かけ上の分子量を有し(Gascan H.,Godard A.,Ferenz C.(1989)J.Biol.Chem.264:21509−21515;Hilton D.J.,Nicola N.A.,Gough N.M.and Metcalf D.(1988)Anal.Biochem.173:359−367)、グリコシル残基の有無はLIFの活性には関係ない(Hilton D.J.et al.,前出;Gough N.M.,Hilton D.J.,Gearing D.P.(1988)Blood Cells 14:431−442)。LIFは、らせん構造をしており、長鎖タイプのサイトカインに分類される。このサイトカインは、長いらせん、長い頭部A−BおよびC−Dループ、およびさらなる5番目のらせんAループがある(Purvis D.H.and Mabbutt B.C.(1997)Biochemistry 36(33):10146−10154)。
【0079】
本発明において、白血病阻害因子(LIF)は、細胞死に対する防御に関してのみならず、心筋細胞を含む細胞の分裂増殖の誘導に関しても有効であることが明らかになった。従って、本発明者は、LIFをコードするcDNAプラスミドを、心筋梗塞直後のマウスの下肢骨格筋内に筋肉注射法によってトランスフェクトした。筋肉注射法は、非侵襲性であるが、遺伝子治療において有効である。本発明者らは、このLIF遺伝子の移入が、マウスにおいて全身的および局所的なLIFの増加を生じたことを観察した。心筋梗塞の2週間後、梗塞領域の程度(梗塞の大きさ、左心室(LV)壁の菲薄化および心筋線維症、LV内腔の拡大、ならびに心機能不全を含む)が、非トランスフェクトマウスと比較して、このLIFトランスフェクトマウスにおいて有意に軽減された。心筋梗塞後のLIFのトランスフェクションは、心筋細胞のアポトーシスを抑制したのみならず、心筋梗塞領域における新生血管形成を誘導した。さらに、LIF注入は、心筋領域の明らかな再生を誘導し、この再生は、心筋細胞の分裂増殖の増加のみならず、梗塞領域への骨髄細胞(BMC)の移動の加速および心筋細胞への分化を介した。従って、本発明者らは、筋肉注射法を介するLIF遺伝子治療が、心筋梗塞後などの心不全の処置において有用であり得ることを示唆する。
【0080】
本明細書において「gp130」とは、IL−6(interleukin−6)レセプターファミリーの共通成分として知られる因子である。gp130は、当初IL−6のレセプターの成分として、同定およびcDNAクローニングされたものであるが、その後の研究から、IL−6のみならずLIF、OSM(oncostatin M)、CNTF(ciliary neurotrophic factor)、IL−11、CT−1(cardiotrophin−1)といったIL−6ファミリーサイトカインのレセプターの共通成分であることが明らかとなった。その一次構造は、他のサイトカインレセプター(G−CSFレセプター、IL−3/IL−5/GM−CSFレセプター、エリスロポエチンレセプター、種々のインターロイキンレセプター等)・ホルモンレセプター(成長ホルモンレセプター、プロラクチンレセプター、レプチンレセプター等)と細胞外領域に保存された領域(WSXWSモチーフおよびcystein残基の位置)を持ち、I型サイトカインレセプタースーパーファミリーと呼ばれている。IL−6ファミリーサイトカインは、gp130を介して、T細胞・B細胞等の免疫細胞、造血細胞、肝細胞、神経細胞に対して、増殖・分化・細胞死の抑制など多種多様なシグナルを細胞内へ伝えることが知られている。
【0081】
本明細書において、「gp130リガンド」とは、gp130サブユニットと相互作用する任意の因子をいう。gp130リガンドは、gp130を活性化し、その後のシグナル伝達を惹起するものであれば、その相互作用は、直接の結合であっても、間接的な作用であってもよい。本明細書において、ある分子がgp130リガンドであるかどうかは、gp130リガンドアッセイによって判定することができる。gp130リガンドアッセイは、たとえば、下流のシグナル(JAK−STAT伝達系)のいずれか一つの分子の活性化(例えば、リン酸化)を測定する機構を利用することができ、その例示としては、gp130またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用したアッセイが挙げられる(Guschin D.et al. EMBO J.14:1421−1429(1995);Kunisada K.et al.,Circulation 94:2626−2632(1996)を参照)。本明細書では、好ましくは、「gp130リガンド」は、配列番号2または4に示される配列のなかでヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)が保存されているもの(好ましくは、同一のもの)、ならびにそれらに類似する配列をも含む。ここで類似する配列とは、たとえば、上記領域中に保存的置換体を有するものいう。保存的置換は本明細書において他の場所に定義されるとおりである。
【0082】
本明細書において、「LIFレセプター」とは、当該分野において使用されるのと同じ意味で使用され、LIFに特異的に結合するレセプターをいう。LIFレセプターは、Kd値が20−100pMの高親和性のレセプターと、Kd値が1−2nMの高親和性のレセプターがある(Allan E.H.,Hilton D.J.,Brown M.A.J.Cell Physiol.145:110−119(1990);Godard A.,Heymann D.,Raher S.J.Biol.Chem.267:3214−3222(1992);Hendry L.A.Murphy M.,Hilton D.J.,Nicola N.A.and Bartlett P.FJ.Neurosci.12:3427−3434(1992);Hilton D.J.,Nicola N.A.and Metcalf D. Ciba Found.Symp.167:227−239(1992);Rodan S.B.,Wesolowski G.,Hilton D.J.,Nicola N.A andRodan G.A.Endocrinology 127:1602−1608(1990);Williams R.L.,Hilton D.J.,Pease S.Nature 336:684−687(1988);およびYamamoto−Yamaguchi Y.,Tomida M.and Hozumi M.Exp.Cell.Res.164:97−102(1986))。LIFレセプターは、造血因子レセプターに分類される。LIFレセプターは、gp130と共同でレセプター複合体を形成し、LIFに対して高親和性を示す。マウスでは可溶性LIFレセプターが発見されており、その役割が注目されている。可溶性LIFレセプターとLIFとのレセプター複合体を形成させると、その複合体は、gp130と反応し得、シグナル伝達を刺激することが明らかになっている(Heymann D.,Goddard A.,Raher S.(1996)Cytokine 8(3):197−205)。従って、このようなレセプターコンバージョンモデルを用いたシグナル伝達機構を利用することによっても、本発明の効果を奏することができる。LIFレセプターとgp130とは、他のサイトカインのレセプターの成分としても知られる、そのようなサイトカインとしては、IL−6スーパーファミリーのメンバーが挙げられ、例えば、IL−6、IL−11、CNTF、OSMなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0083】
本発明において使用されるポリペプチドには、LIFレセプターに結合する能力を有する「LIF様因子」も包含される。「LIF様因子」とは、LIFレセプターと相互作用する能力を有する因子をいう。LIF様因子は、gp130を活性化し、その後のシグナル伝達を惹起するものであれば、その相互作用は、直接の結合であっても、間接的な作用であってもよい。LIFレセプターと相互作用する能力は、LIFアッセイで測定することができる。そのようなLIFアッセイとして、たとえば、下流のシグナル(JAK−STAT伝達系)のいずれか一つの分子の活性化(例えば、リン酸化)を測定する機構を利用することができ、gp130およびLIFレセプターの複合体またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用するアッセイが挙げられる。
【0084】
好ましくは、LIFがLIFレセプターに結合し、gp130を介して細胞内シグナル伝達を惹起することから、本発明のgp130リガンドまたはLIF様因子もまた、同様の機構により効果を奏することができる。
【0085】
本明細書において、「リガンド」とは、あるタンパク質に特異的に結合する物質をいう。例えば,細胞膜上に存在する種々のレセプタータンパク質分子と特異的に結合するレクチン、抗原、抗体、ホルモン、神経伝達物質などがリガンドとして挙げられる。
【0086】
また、糖鎖が付加され得る部分としては、N−アセチル−D−グルコサミンなどが結合するN−グルコシド結合可能な部分、およびN−アセチル−D−ガラクトサミンのO−グリコシド結合をする部分(セリンまたはスレオニン残基が頻出する部分)が挙げられる。本明細書においては、糖鎖の有無は特に活性に影響を与えるというわけではないが、これらの糖鎖が付加されたタンパク質は、通常生体内での分解に対して安定であり、強い生理活性を有し得る。従って、これら糖鎖が付加されたポリペプチドもまた、本発明の範囲内にある。
【0087】
本明細書において使用される用語「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされ得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)などが挙げられる。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。特に言及する場合、本発明の「ポリペプチド」は、LIF様因子またはgp130リガンドを言及することもある。
【0088】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。用語「核酸」はまた、本明細書において、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0089】
本明細書において「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に一定の順序に配列している。タンパク質の一次構造を規定する遺伝子を構造遺伝子といい、その発現を左右する遺伝子を調節遺伝子という。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/あるいは「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」をさすことがある。本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0090】
本明細書では塩基配列の同一性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0091】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)などの実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。従って、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、gp130、LIFレセプター、gp130リガンドなど)には、本発明で特に記載されたポリペプチドをコードする核酸分子に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によってコードされるポリペプチドも包含される。
【0092】
「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。核酸配列の相同性は、たとえばAltschulら(J.Mol.Biol.215,403−410(1990))が開発したアルゴリズムを使用した検索プログラムBLASTを用いることにより、scoreで類似度が示される。
【0093】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一態様であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0094】
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0095】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0096】
本明細書中において、「対応する」アミノ酸とは、あるタンパク質分子またはポリペプチド分子において、比較の基準となるタンパク質またはポリペプチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、または有することが予測されるアミノ酸をいい、特に酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。
【0097】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0098】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0099】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がリガンドである場合、その生物学的活性は、そのリガンドが対応するレセプターに結合する活性を包含する。本発明の1実施形態であるgp130リガンドの場合は、その生物学的活性は、少なくともgp130リガンドに特異的なレセプターに結合する活性を包含する。別の実施形態では、生物学的活性としては、LIFレセプターへ結合する能力が挙げられる。
【0100】
本明細書において生物学的活性をアッセイする方法としては、gp130またはSTAT−3のチロシンリン酸化を利用したアッセイが挙げられるがそれらに限定されない。
【0101】
本発明において使用されるポリペプチドを製造する方法としては、例えば、そのポリペプチドを産生する初代培養細胞または株化細胞を培養し、培養上清などから単離または精製することによりそのポリペプチドを得る方法が挙げられる。あるいは、遺伝子操作手法を利用して、そのポリペプチドをコードする遺伝子を適切な発現ベクターに組み込み、これを用いて発現宿主を形質転換し、この形質転換細胞の培養上清から組換えポリペプチドを得ることができる。上記宿主細胞は、生理活性を保持するポリペプチドを発現するものであれば、特に限定されず、従来から遺伝子操作において利用される各種の宿主細胞(例えば、大腸菌、酵母、動物細胞など)を用いることが可能である。このようにして得られた細胞に由来するポリペプチドは、天然型のポリペプチドと実質的に同一の作用を有する限り、アミノ酸配列中の1以上のアミノ酸が置換、付加および/または欠失していてもよく、糖鎖が置換、付加および/または欠失していてもよい。
【0102】
あるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応するDNAにおいて行われ得る。
【0103】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0104】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4、554、101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0105】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0106】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトとマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子とβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用であることから、本発明のgp130リガンド(例えば、LIF)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0107】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。
【0108】
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0109】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0110】
本明細書において使用される遺伝子の核酸形態は、その遺伝子のタンパク質形態を発現し得る核酸分子をいう。この核酸分子は、発現されるポリペプチドが天然型のポリペプチドと実質的に同一の活性(gp130レセプターに結合する活性などを含む)を有する限り、上述のようにその核酸の配列の一部が欠失または他の塩基により置換されていてもよく、あるいは他の核酸配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、ポリペプチドをコードする遺伝子をストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、そのポリペプチドと実質的に同一の機能を有するポリペプチドをコードする核酸分子でもよい。このような遺伝子は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0111】
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0112】
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わることまたは取り除かれることをいう。このような置換、付加または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、癌マーカー、神経疾患マーカーなど)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
【0113】
本発明において使用されるポリペプチドは、任意の生物由来であり得る。好ましくは、その生物は、脊椎動物(例えば、哺乳動物、爬虫類、両生類、魚類、鳥類など)であり、より好ましくは、哺乳動物(例えば、齧歯類(マウス、ラットなど)、霊長類(ヒトなど)など)であり得る。本発明において使用されるポリペプチドは、所望の効果を発揮するかぎり、合成されたものでもよい。そのようなポリペプチドは、当該分野において周知の合成方法によって合成され得る。例えば、自動固相ペプチド合成機を用いた合成方法は、Stewart,J.M.et al.(1984).Solid Phase Peptide Synthesis,Pierce Chemical Co.;Grant,G.A.(1992).Synthetic Peptides: A User’sGuide,W.H.Freeman; Bodanszky,M.(1993).Principles of Peptide Synthesis,Springer−Verlag; Bodanszky,M.et al.(1994).The Practice of Peptide Synthesis,Springer−Verlag; Fields,G.B.(1997).Phase Peptide Synthesis,Academic Press; Pennington,M.W.et al.(1994).Peptide Synthesis Protocols,Humana Press; Fields,G.B.(1997).Solid−Phase Peptide Synthesis,Academic Pressにおいて記載されている。
【0114】
本発明において使用されるポリペプチドは、抗体のヒンジ領域部分のみとの融合タンパク質を発現させて、ジスルフィド結合にて2量体を形成させる方法、もしくは活性に影響を与えないほかの方法でジスルフィド結合を生じさせる形態で、C末端、N末端または他の場所において発現するように作製された融合タンパク質を含む二量体以上高い比活性を有する多量体型ポリペプチドもまた利用され得る。また、配列番号2または4のような本発明の配列を直列で並べて多量体構造を持たせる方法も本発明において利用可能である。従って遺伝子工学技術により作製される任意の二量体またはそれを超える形態は、本発明の範囲内にある。
【0115】
「抗体」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、本明細書においては、抗体の全部およびそのフラグメント、誘導体、結合体なども包含する。好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドまたはレセプター(例えば、gp130レセプター、LIFレセプターなど)を認識する抗体であり、より好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドまたはレセプターを特異的に認識する抗体である。そのような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。本発明の1実施形態において、そのような抗体もまた、本発明の範囲内に包含される。
【0116】
高分子構造(例えば、ポリペプチド構造)は種々のレベルの構成に関して記述され得る。この構成の一般的な議論については、例えば、Albertsら、Molecular Biology of the Cell(第3版、1994)、ならびに、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry Part I:The Conformation of Biological Macromolecules(1980)を参照。「一次構造」とは、特定のペプチドのアミノ酸配列をいう。「二次構造」とは、ポリペプチド内の局所的に配置された三次元構造をいう。これらの構造はドメインとして一般に公知である。ドメインは、ポリペプチドの緻密単位を形成し、そして代表的には50〜350アミノ酸長であるそのポリペプチドの部分である。代表的なドメインは、βシート(βストランドなど)およびα−ヘリックスのストレッチ(stretch)のような、部分から作られる。「三次構造」とは、ポリペプチドモノマーの完全な三次元構造をいう。「四次構造」とは、独立した三次単位の非共有的会合により形成される三次元構造をいう。異方性に関する用語は、エネルギー分野において知られる用語と同様に使用される。したがって、本発明において使用されるポリペプチドは、gp130レセプターおよび/またはLIFレセプターに結合する能力を有するような高次構造を有する限り、どのようなアミノ酸配列のポリペプチドをも包含し得る。
【0117】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、生体内の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0118】
本発明において利用され得る一般的な分子生物学的手法としては、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols inMolecular Biology、 Wiley、 New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY;および同3rd Ed.(2001)などを参酌して当業者であれば容易に実施をすることができる。
【0119】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるものをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能であるか、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。本明細書において、ベクターはプラスミドであり得る。
【0120】
「発現ベクター」は、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。ヒトの場合、本発明に用いる発現ベクターはさらにpCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))を含み得る。
【0121】
「組換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、動物個体などの宿主細胞において自律複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0122】
動物細胞に対する「組換えベクター」としては、pcDNAI/Amp、pcDNAI、pCDM8(いずれもフナコシより市販)、pAGE107(特開平3−22979、Cytotechnology,3,133(1990))、pREP4(Invitrogen)、pAGE103(J.Biochem.,101,1307(1987))、pAMo、pAMoA(J.Biol.Chem.,268,22782−22787(1993))、pCAGGS(Niwa H et al,Gene;108:193−9(1991))などが例示される。
【0123】
「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターとしては、哺乳動物由来のターミネーターのほかに、CaMV35Sターミネーター、ノパリン合成酵素遺伝子のターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーターが挙げられるが、これに限定されない。
【0124】
本明細書において用いられる「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモータ領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0125】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、動物)の部位(例えば、動物の場合、心臓、心筋細胞など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(たとえば、動物)の特定の段階(例えば、発作時など)に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
【0126】
本明細書において、本発明のプロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上の同一または対応する部位のいずれにおいても実質的に発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。本発明のプロモーターの発現が「ストレス応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(例えば、心臓発作時、心筋梗塞時など)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス減少性」という。「ストレス減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたタンパク質をウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス誘導性のプロモーターを本発明において使用されるポリペプチドをコードする核酸とともに組み込んだベクターで形質転換された動物または動物の一部(特定の細胞、組織など)は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件(例えば、心筋梗塞時)下での本発明において使用されるポリペプチドの発現を行うことができる。
【0127】
「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウイルス前初期エンハンサー(human cytomegalovirus immediate−early enhancer)の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0128】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0129】
本発明は、任意の動物において利用され得る。そのような動物における利用のための技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、NewYork、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0130】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、動物細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0131】
動物細胞としては、骨格筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、肺性幹細胞などが例示される。
【0132】
本明細書において「動物」は、当該分野において最も広義で用いられ、脊椎動物および無脊椎動物を含む。動物としては、哺乳綱、鳥綱、爬虫綱、両生綱、魚綱、昆虫綱、蠕虫綱などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0133】
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、キット、システム、組成物および方法は、哺乳動物だけでなく他の動物を含む動物全体において機能することが企図される。なぜなら、LIFのようなgp130リガンドに対応するリガンドは、哺乳動物以外の生物においても存在することが知られているからである。
【0134】
本明細書において使用される「細胞」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、多細胞生物の組織の構成単位であって、外界を隔離する膜構造に包まれ、内部に自己再生能を備え、遺伝情報およびその発現機構を有する生命体をいう。
【0135】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、臓器(器官)の一部であり得る。臓器(器官)内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。
【0136】
本明細書において、「器官(臓器)」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。動物では、胃、肝臓、腸、膵臓、肺、気管、鼻、心臓、動脈、静脈、リンパ節(リンパ管系)、胸腺、卵層、眼、耳、舌、皮膚等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0137】
本明細書において、「トランスジェニック」とは、特定の遺伝子がある生物に組み込むことまたは組み込まれた生物(例えば、動物(マウスなど)または植物を含む)をいう。
【0138】
本発明においてトランスジェニック生物が利用される場合、そのようなトランスジェニック生物は、マイクロインジェクション法(微量注入法)、ウィルスベクター法、ES細胞法(胚性幹細胞法)、精子ベクター法、染色体断片を導入する方法(トランスゾミック法)、エピゾーム法などを利用したトランスジェニック動物の作製技術を使用して作製することができる。そのようなトランスジェニック動物の作成技術は当該分野において周知である。
【0139】
「抗体」とは、当該分野で通常使用される意味で用いられ、本明細書においては、抗体の全部およびそのフラグメント、誘導体、結合体なども包含する。好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを認識する抗体であり、より好ましくは、本発明において使用されるポリペプチドを特異的に認識する抗体である。そのような抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれでもよい。本明細書において「抗原」とは、抗体と結合したり、Bリンパ球、Tリンパ球などの特異的レセプターに結合して、抗体産生および/または細胞障害などの免疫反応をひきおこす物質(例えば、タンパク質、脂質、糖などが挙げられるがそれらに限定されない)をいう。抗体またはリンパ球レセプターとの結合性を、「抗原性」(antigecity)という。抗体産生などの免疫応答を誘導する特性を「免疫原性」(immunogenicity)という。抗原として使用される物質は、例えば、その目的とする物質(例えば、タンパク質)を少なくとも1つ含む。含まれる物質は、全長が好ましいが、免疫を惹起し得るエピトープを少なくとも一つ含んでいれば、部分配列でもよい。本明細書において、「エピトープ」または「抗原決定基」とは、抗体またはリンパ球レセプターが結合する抗原分子中の部位をいう。エピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。エピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。
【0140】
本発明の因子によって調製された細胞(例えば、心筋細胞)または細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与経路としては経口投与、非経口投与、患部への直接投与などが挙げられる。
【0141】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。
【0142】
1つの実施形態において、本発明の因子は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0143】
本発明の組成物またはキットはまた、さらに生体親和性材料を含み得る。この生体親和性材料は、例えば、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン、グリコール酸・乳酸の共重合体、エチレンビニル酢酸共重合体、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つを含み得る。成型が容易であることからシリコーンが好ましい。生分解性高分子の例としては、コラーゲン、ゼラチン、α−ヒロドキシカルボン酸類(例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸など)、ヒドロキシジカルボン酸類(例えば、リンゴ酸など)およびヒドロキシトリカルボン酸(例えば、クエン酸など)からなる群より選択される1種以上から無触媒脱水重縮合により合成された重合体、共重合体またはこれらの混合物、ポリ−α−シアノアクリル酸エステル、ポリアミノ酸(例えば、ポリ−γ−ベンジル−L−グルタミン酸など)、無水マレイン酸系共重合体(例えば、スチレン−マレイン酸共重合体など)のポリ酸無水物などが挙げられる。重合の形式は、ランダム、ブロック、グラフトのいずれでもよく、α−ヒドロキシカルボン酸類、ヒドロキシジカルボン酸類、ヒドロキシトリカルボン酸類が分子内に光学活性中心を有する場合、D−体、L−体、DL−体のいずれでも用いることが可能である。好ましくは、グリコール酸・乳酸の共重合体が使用され得る。
【0144】
核酸形態で活性成分を含む本発明の組成物を投与する場合、その活性成分(例えば、gp130リガンド)は、非ウイルスベクター形態またはウイルスベクター形態による投与、またはnaked DNAでの直接投与の形態などで投与され得る。このような投与形態は、当該分野において周知であり、例えば、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに詳説されている。
【0145】
非ウイルスベクター形態の場合、リポソームを用いて核酸分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法など)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)でキャリア(金属粒子)とともに核酸分子を細胞に移入する方法などが利用され得る。発現ベクターとしては、例えば、pCAGGS(Gene108:193−9、Niwa H,Yamamura K,Miyazaki J(1991))、pBJ−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(Invitrogen、Stratageneなどから入手可能である)などが挙げられる。
【0146】
HVJ−リポソーム法は、脂質二重膜で作製されたリポソーム中に核酸分子を封入し、このリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan、HVJ)とを融合させることを包含する。このHVJ−リポソーム法は、従来のリポソーム法よりも、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とする。HVJ−リポソーム調製法は、別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社、1996;別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997に詳述されている。HVJとしては、任意の株が利用可能であり(例えば、ATCC VR−907、ATCC VR−105など)、Z株が好ましい。
【0147】
本発明の組成物は、ウイルスベクターの核酸形態で提供される場合、組換えアデノウイルス、レトロウイルスなどのウイルスベクターが利用される。無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、SV40、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのDNAウイルスまたはRNAウイルスに、核酸形態のgp130リガンドまたはLIF様因子を導入し、細胞または組織にこの組換えウイルスを感染させることにより、細胞または組織内に遺伝子を導入することができる。これらウイルスベクターでは、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターによる効率よりも遙かに高いことから、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0148】
Naked DNA法の場合、上述の非ウイルスベクターである発現プラスミドを生理食塩水などに溶解し、そのまま投与する。例えば、Tsurumi Y,Kearney M,Chen D,Silver M,TakeshitaS,Yang J,Symes JF,Isner JM.、Circulation 98(Suppl.II)、382−388(1997)に記載される方法により、生物の器官の組織などに直接注入することができる。
【0149】
従って、本発明の組成物およびキットにおいて含まれる活性成分としてのポリペプチド(例えば、gp130リガンド、LIF様因子(たとえば、LIF)など)の量は、例えば、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約1000mg、好ましくは約5μg〜約100mgであり得る。このポリペプチドの量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約1mgの間の任意の数値であり得る。このポリペプチドの量の範囲の上限は、例えば、約1000mg、約900mg、約800mg、約700mg、約600mg、約500mg、約400mg、約300mg、約200mg、約100mg、約75mg、約50mg、約25mg、約10mg、約5mgなど、約1000mg〜約1mgの任意の数値であり得る。本発明の活性成分が核酸形態(例えば、gp130リガンドおよびLIF様因子をコードする核酸など)の場合、成人(体重約60kg)の場合、約1μg〜約10mg、好ましくは約1μg〜約1000μg、より好ましくは約5μg〜約400μgであり得る。この核酸の量の範囲の下限は、例えば、約1μg、約2μg、約3μg、約4μg、約5μg、約6μg、約7μg、約8μg、約9μg、約10μg、約15μg、約20μgなど、約1μg〜約20μgの間の任意の数値であり得る。この核酸の量の範囲の上限は、例えば、約10mg、約9mg、約8mg、約7mg、約6mg、約5mg、約4mg、約3mg、約2mg、約1mg、約750μg、約500μg、約250μg、約100μgなど、約10mg〜約10μgの任意の数値であり得る。2種類以上の細胞生理活性物質が含まれる場合も、上記の量が個々に適用される。ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターとして投与される場合は、通常、0.0001〜100mg、好ましくは0.001〜10mg、より好ましくは0.01〜1mgである。投与頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。
【0150】
本発明において増殖または再生された細胞を含む組成物において含まれる細胞(例えば、心筋細胞)の量は、例えば、約1×103細胞〜約1×1011細胞、好ましくは約1×104細胞〜約1×1010細胞、より好ましくは約1×105細胞〜約1×109細胞などであり得る。これらの細胞は、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.5ml、1mlの生理食塩水のような溶液として存在し得る。細胞の量の範囲の上限としては、例えば、約1×1011細胞、約5×1010細胞、約2×1010細胞、約1×1010細胞、約5×109細胞、約2×109細胞、約1×109細胞、約5×108細胞、約2×108細胞、約1×108細胞、約5×107細胞、約2×107細胞、約1×107細胞などが挙げられる。細胞の量の下限としては、例えば、約1×103細胞、約2×103細胞、約5×103細胞、約1×104細胞、約2×104細胞、約5×104細胞、約1×105細胞、約2×105細胞、約5×105細胞、約1×106細胞などが挙げられる。
【0151】
本明細書においてポリペプチド発現の「検出」または「定量」は、例えば、mRNAの測定および免疫学的測定方法を含む適切な方法を用いて達成され得る。分子生物学的測定方法としては、例えば、ノーザンブロット法、ドットブロット法またはPCR法などが例示される。免疫学的測定方法としては、例えば、方法としては、マイクロタイタープレートを用いるELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などが例示される。また、定量方法としては、ELISA法またはRIA法などが例示される。
【0152】
「発現量」とは、目的の細胞などにおいて、ポリペプチドまたはmRNAが発現される量をいう。そのような発現量としては、本発明の抗体を用いてELISA法、RIA法、蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法などの免疫学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明ポリペプチドのタンパク質レベルでの発現量、またはノーザンブロット法、ドットブロット法、PCR法などの分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのmRNAレベルでの発現量が挙げられる。「発現量の変化」とは、上記免疫学的測定方法または分子生物学的測定方法を含む任意の適切な方法により評価される本発明において使用されるポリペプチドのタンパク質レベルまたはmRNAレベルでの発現量が増加あるいは減少することを意味する。
【0153】
本明細書において「指示書」は、本発明の医薬などを投与する方法を医師、患者など投与を行う人に対して記載したものである。この指示書は、本発明の医薬などを心筋梗塞発作直後(例えば、48時間以内、36時間以内、24時間以内、12時間以内、好ましくは6時間以内など)に投与することを指示する文言が記載されている。また、指示書には、投与部位として、骨格筋に投与(例えば、注射などによる)することを指示する文言が記載されていてもよい。この指示書は、本発明が実施される国の監督官庁(例えば、日本であれば厚生労働省、米国であれば食品医薬品局(FDA)など)が規定した様式に従って作成され、その監督官庁により承認を受けた旨が明記される。指示書は、いわゆる添付文書(package insert)であり、通常は紙媒体で提供されるが、それに限定されず、例えば、電子媒体(例えば、インターネットで提供されるホームページ、電子メール)のような形態でも提供され得る。
【0154】
本発明が対象とする「疾患」は、組織に傷害がある任意の心疾患であり得る。そのような心疾患としては、心不全、心筋梗塞、拡張型心筋症などが挙げられるがそれらに限定されない。本発明は、心臓以外の臓器の傷害を再生するためにも適用され得る。
【0155】
「心不全」とは、心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量の血液を循環し得なくなった状態をいう。心不全は、心筋梗塞、心筋症などの心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重症であるものをいい、末期心不全ともいう。本発明は、どのような原因によって心不全の状態になった場合でも有効であり得る。
【0156】
「心筋梗塞」とは、冠動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重症度判定には、種々の分類がある。そのような分類としては、例えば、時間的経過による分類、形態学的分類(梗塞領域の範囲、部位など)、心筋の壊死形態、梗塞後の心室再構築、血行動態的分類(治療、予後などに関連する)、臨床的重症度による分類などが挙げられる。ここで重症度が高いものを特に重症心筋梗塞という。
【0157】
「心筋症」とは、心筋の器質的および機能的な異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血などの基礎疾患に続発する二次性心筋症、および見かけ上の基礎疾患なしに発症する特発性心筋症に分類される。病理的変化としては、心筋肥大、線維症、心筋細胞の変性消失などが認められる。
【0158】
(細胞分化)
本発明では、通常幹細胞が使用され得るが本発明の因子による処理によって心筋細胞になることができる細胞であれば、どのような細胞でも使用することができる。「幹細胞」とは、自己複製能と多分化能を有した細胞と定義され、実際には組織が傷害を受けたときに少なからずその組織を再生することができる細胞をいう。本発明において使用される幹細胞は、胚性幹細胞(ES)または組織幹細胞(組織特異的幹細胞または体性幹細胞ともいう)であり得る。胚性幹細胞とは初期胚に由来する多能性幹細胞をいう。胚性幹細胞は、1981年に初めて樹立され、1989年以降ノックアウトマウス作製にも応用されている。1998年にはヒト胚性幹細胞が樹立されており、再生医学にも利用されつつある。従って、本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞として胚性幹細胞(Embryonic stem cellsとEmbryonic germ cells)が使用され得る。別の好ましい実施形態では、組織幹細胞(例えば、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞))が使用され得る。
【0159】
組織幹細胞は、胚性幹細胞とは異なり、分化の方向が比較的限定されている細胞であり、組織中に存在し、未分化な細胞内構造をしている。組織幹細胞は、核/細胞質比が高く、細胞内小器官が乏しい。組織幹細胞は、概して、多分化能を有し、細胞周期が遅く、個体の一生以上に増殖能を維持する。従って、本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞として血液細胞へと方向付けられた組織幹細胞が使用され得る。
【0160】
組織幹細胞は、由来により、外胚葉、中胚葉、内胚葉由来の幹細胞に分類され得る。外胚葉由来の組織幹細胞には、脳に存在する神経幹細胞、皮膚存在にする表皮幹細胞、毛包幹細胞および色素幹細胞が含まれる。中胚葉由来の組織幹細胞には、骨髄中および血液中に認められるに血管幹細胞、造血幹細胞および間葉系幹細胞が含まれる。内胚葉由来の組織幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵幹細胞、腸管上皮幹細胞が含まれる。そのほかに精層および卵層には生殖系幹細胞(germ line stem cells)が存在する。本発明の好ましい実施形態では、中胚葉由来の幹細胞が使用され得る。本発明のより好ましい実施形態では、骨髄細胞(例えば、造血幹細胞)が使用され得る。
【0161】
由来する部位により分類すると、組織幹細胞は、例えば、皮膚系、消化器系、骨髄系、神経系などに分けられる。皮膚系の組織幹細胞としては、表皮幹細胞、毛嚢幹細胞などが挙げられる。消化器系の組織幹細胞としては、膵(共通)幹細胞、肝幹細胞などが挙げられる。骨髄系の組織幹細胞としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞などが挙げられる。神経系の組織幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞などが挙げられる。本発明の1つの実施形態では、予想外に骨髄細胞が好適であることが判明した。
【0162】
好ましい実施形態において、本発明では、骨髄細胞をそのまま供給源として使用することもできるし、濃縮または純化したある特定の細胞集団(例えば、組織幹細胞)を細胞供給源として用いることができる。
【0163】
本明細書において「再生」とは、損傷した組織ないし臓器が元通りに回復することをいい、病理的再生ともいう。生物の体は一生の間に外傷や病気によって臓器の一部を失ったり、大きな傷害を受けたりする。その場合、損傷した臓器が再生できるか否かは、臓器によって(または動物種によって)異なる。自然には再生できない臓器(または組織)を再生させ、機能を回復させようというのが再生医学である。組織が再生したかどうかは、その機能が改善したかにどうかによって判定することができる。哺乳動物は、組織・器官(臓器)を再生する力をある程度備えている(例えば、皮膚、肝臓および血液の再生)。しかし、心臓、肺、脳などの臓器は再生能力に乏しく、一旦損傷すると、その機能を再生させることができないと考えられてきた。従って、従来であれば、例えば、心臓が損傷した場合、心臓移植による処置しかほとんど有効な措置がなかった。
【0164】
再生能力の高い臓器には幹細胞が存在することが古くから想定されていた。この概念が正しいことは動物モデルを用いた実験的骨髄移植によって証明された。そして、その後の研究によって骨髄中の幹細胞がすべての血液細胞再生の源であることが明らかにされた。しかし、骨髄細胞が心筋細胞の源であるかどうかは判っていなかった。幹細胞は骨髄、皮膚等の再生能力の高い臓器に存在することも明らかにされた。さらに、再生されないと長年、思われてきた脳にも幹細胞が存在することが明らかとなってきた。すなわち、体内のあらゆる臓器には幹細胞が存在し、多かれ少なかれ、各臓器の再生を司っていることがわかってきた。また、各組織に存在する幹細胞には予想以上に可塑性があり、ある臓器中の幹細胞は他の臓器の再生にも利用できる可能性が指摘されている。
【0165】
本明細書において、「分化」または「細胞分化」とは、1個の細胞の分裂によって由来した娘細胞集団の中で形態的・機能的に質的な差をもった二つ以上のタイプの細胞が生じてくる現象をいう。従って、元来特別な特徴を検出できない細胞に由来する細胞集団(細胞系譜)が、特定のタンパク質の産生などはっきりした特徴を示すに至る過程も分化に包含される。現在では細胞分化を,ゲノム中の特定の遺伝子群が発現した状態と考えることが一般的であり、このような遺伝子発現状態をもたらす細胞内あるいは細胞外の因子または条件を探索することにより細胞分化を同定することができる。細胞分化の結果は原則として安定であって、特に動物細胞では,別の型の細胞に分化することは例外的にしか起こらない。従って、「未分化」とは、形態的・機能的に質的な差を未だ持たない細胞の状態をいう。
【0166】
本明細書において「分化(した)細胞」とは、機能および形態が特殊化した細胞(例えば、骨格筋細胞、神経細胞、心筋細胞、血液細胞など)をいい、幹細胞とは異なり、多能性はないか、またはほとんどない。分化した細胞としては、例えば、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、胆管細胞、血液細胞(例えば、赤血球、血小板、T細胞、B細胞など)、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などが挙げられる。従って、本発明の1つの実施形態において、ある原料細胞を本発明の因子(たとえば、ポリペプチドまたは核酸)で処理することによって、心筋細胞のような分化細胞に分化させることができる場合、そのような分化細胞もまた本発明の範囲内にある。
【0167】
本発明の供給源として使用される細胞は、本発明において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、キットおよび/または医薬での処理により、心筋細胞へと分化することができる。
【0168】
本明細書において、「多能性」とは、細胞の性質をいい、種々の組織または器官(臓器)に属する細胞に分化し得る能力をいう。通常、細胞の多能性は発生が進むにつれて制限され,成体では一つの組織または器官を構成する分化細胞が別の組織または器官の細胞に変化することは少ない。したがって多能性は通常失われている。これが起きる場合通常病的な状態であり、化生(metaplasia)と呼ばれる。しかし間葉系細胞では比較的単純な刺激で他の間葉性細胞にかわり化生を起こしやすいので多能性の程度は高い。従って、本発明の原料細胞としては、多能性を有する細胞であることが好ましくあり得るが、これは必ずしも必要ではない。
【0169】
本発明で用いられる細胞は、どの生物由来の細胞(例えば、脊椎動物、無脊椎動物)でもよい。好ましくは、脊椎動物由来の細胞が用いられ、より好ましくは、哺乳動物(例えば、霊長類、齧歯類など)由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、霊長類由来の細胞が用いられる。最も好ましくはヒト由来の細胞が用いられる。
【0170】
本明細書において「生体内」または「インビボ」(in vivo)とは、生体の内部をいう。特定の文脈において、「生体内」は、目的とする組織または器官が配置されるべき位置をいう。
【0171】
本明細書において「インビトロ」とは、種々の研究目的のために生体の一部分が「生体外に」(例えば、試験管内に)摘出または遊離されている状態をいう。インビボと対照をなす用語である。
【0172】
本明細書において「エキソビボ」とは、遺伝子導入を行うための標的細胞を被験体より抽出し、インビトロで治療遺伝子を導入した後に、再び同一被験体に戻す場合、一連の動作をエキソビボという。
【0173】
本明細書において「被験体」とは、本発明の処置が適用される生物をいい、「患者」ともいわれる。患者または被験体は好ましくは、ヒトであり得る。
【0174】
本明細書において「レシピエント」(受容者)とは、移植片または移植体を受け取る個体といい、「宿主」とも呼ばれる。これに対し、移植片または移植体を提供する個体は、「ドナー」(供与者)という。
【0175】
本発明の方法または組織グラフトで必要に応じて使用される細胞は、同系由来(自己(自家)由来)でも、同種異系由来(他個体(他家)由来)でも、異種由来でもよい。拒絶反応が考えられることから、自己由来の細胞が好ましいが、拒絶反応が問題でない場合同種異系由来であってもよい。また、拒絶反応を起こすものも必要に応じて拒絶反応を解消する処置を行うことにより利用することができる。拒絶反応を回避する手順は当該分野において公知であり、例えば、新外科学体系、心臓移植・肺移植 技術的,倫理的整備から実施に向けて(改訂第3版)に記載されている。そのような方法としては、例えば、免疫抑制剤、ステロイド剤の使用などの方法が挙げられる。拒絶反応を予防する免疫抑制剤は、現在、「シクロスポリン」(サンディミュン/ネオーラル)、「タクロリムス」(プログラフ)、「アザチオプリン」(イムラン)、「ステロイドホルモン」(プレドニン、メチルプレドニン)、「T細胞抗体」(OKT3、ATGなど)があり、予防的免疫抑制療法として世界の多くの施設で行われている方法は、「シクロスポリン、アザチオプリン、ステロイドホルモン」の3剤併用である。免疫抑制剤は、本発明の分化細胞組成物または医薬と同時期に投与されることが望ましいが、必ずしも必要ではない。従って、免疫抑制効果が達成される限り免疫抑制剤は本発明の再生・治療方法の前または後にも投与され得る。
【0176】
本明細書において「麻酔剤」とは、一時的に知覚を鈍麻および/または消失させるために用いる薬剤をいう。中枢神経系の機能を抑制し,呼吸・循環などにいちじるしい影響を与えることなく、意識、感覚および運動を消失させ、筋弛緩を引きおこし、外科的手術の可能な状態にする全身麻酔剤と、適用した部位の知覚および運動を麻痺させる局所麻酔剤とがある。麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカイン、リドカインなどが挙げられるがそれらに限定されない。好ましくは、麻酔剤は、リドカインである。
【0177】
本明細書において用いられる「血管新生(作用/活性)」とは、ある因子が標的に作用したとき、その標的において血管を新たに形成する能力をいう。血管新生作用を測定する方法としては、代表的には、コントラスト剤を用いた超音波測定、血管に特異的な遺伝子産物に対する抗体を用いた血管数計数などが挙げられる。本明細書において、ある因子が血管新生作用を有するか否かは、第VIII因子関連抗原等で免疫組織化学染色した後に血管数を計数することによって判定される。この計数方法では、検体を10%の緩衝化ホルマリンで固定し、OCTCompound中包埋し、各々の検体から数個の連続切片を調製し、凍結する。次いで、凍結切片をPBS中の2%パラホルムアルデヒド溶液で5分間、室温にて固定し、3%過酸化水素を含むメタノール中に15分間浸漬し、次いでPBSで洗浄する。このサンプルをウシ血清アルブミン溶液で約10分間覆って、非特異的反応をブロックする。検体を、HRPと結合する、第VIII因子関連抗原に対するEPOS結合体化抗体と共に一晩インキュベートする。サンプルをPBSで洗浄した後、これらを、ジアミノベンジジン溶液(例えば、PBS中、0.3mg/mlジアミノベンジジン)中に浸漬して、陽性染色を得る。染色された血管内皮細胞を、例えば、200倍の倍率の光学顕微鏡下で計数し、例えば、計数結果を、1平方ミリメートルあたりの血管の数としてあらわす。特定の処置後、血管数が統計学的に有意に増加しているか否かを判定することにより、血管新生活性を判定することができる。
【0178】
本明細書において「電気ショック」とは、低電圧矩形波をかけて細胞にDNAを導入する方法をいう。電気ショックを与える方法としては、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0179】
本明細書において用いられる「細胞生理活性物質」(cellular physiologically active substance)とは、細胞に作用する物質を言う。細胞生理活性物質には、サイトカインおよび増殖因子が含まれる。細胞生理活性物質は、天然に存在するものであっても、合成されたものでもよい。好ましくは、細胞生理活性物質は、細胞が産生するものまたはそれと同様の作用を有するものである。本明細書では、細胞生理活性物質はタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0180】
本明細書において使用される「サイトカイン」は、当該分野において用いられる最も広義の意味と同様に定義され、細胞から産生され同じまたは異なる細胞に作用する生理活性物質をいう。サイトカインは、一般にタンパク質またはポリペプチドであり、免疫応答の制御作用、内分泌系の調節、神経系の調節、抗腫瘍作用、抗ウイルス作用、細胞増殖の調節作用、細胞分化の調節作用などを有する。本明細書では、サイトカインはタンパク質形態または核酸形態あるいは他の形態であり得るが、実際に作用する時点においては、サイトカインは通常はタンパク質形態を意味する。
【0181】
本明細書において用いられる「増殖因子」または「細胞増殖因子」とは、本明細書では互換的に用いられ、細胞の増殖を促進または制御する物質をいう。増殖因子は、成長因子または発育因子ともいわれる。増殖因子は、細胞培養または組織培養において、培地に添加されて血清高分子物質の作用を代替し得る。多くの増殖因子は、細胞の増殖以外に、分化状態の制御因子としても機能することが判明している。
【0182】
サイトカインには、代表的には、インターロイキン類、ケモカイン類、コロニー刺激因子のような造血因子、腫瘍壊死因子、インターフェロン類が含まれる。増殖因子としては、LIFのほかに、代表的には、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、カルジオトロフィンのような増殖活性を有するものが挙げられる。
【0183】
サイトカインおよび増殖因子などの細胞生理活性物質は一般に、機能重複現象(redundancy)があることから、他の名称および機能で知られるサイトカインまたは増殖因子であっても、本発明に使用される細胞生理活性物質の活性を有する限り、本発明において使用され得る。また、サイトカインまたは増殖因子は、本明細書における好ましい活性を有してさえいれば、本発明の好ましい実施形態において使用することができる。
【0184】
本発明では、どのような細胞生理活性物質も使用され得る。本発明の1つの好ましい実施形態において、細胞生理活性物質として、造血活性、コロニー刺激活性または細胞増殖活性を有するサイトカインまたは増殖因子が使用される。造血活性またはコロニー刺激活性を有するサイトカインとしては、白血病阻害因子(LIF)も含まれるが、それ以外としては、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、multi−CSF(IL−3)、エリスロポエチン(EPO)、c−kitリガンド(SCF)などが挙げられる。細胞増殖活性を有する増殖因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)インシュリン様増殖因子(IGF)などが挙げられる。本発明の1つの好ましい実施形態では、細胞増殖活性を有する細胞生理活性物質(例えば、サイトカインまたは増殖因子)が使用され得る。
【0185】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、そのレセプター(例えば、サイトカインレセプター)によって分類することもできる。サイトカインレセプターは、非キナーゼ型およびキナーゼ型に分類される。非キナーゼ型としては、Gタンパク質結合型レセプター、NGF/TNFレセプターファミリー、IFNレセプターファミリー、サイトカインレセプタースーパーファミリーなどが挙げられる。キナーゼ型としては、増殖因子型レセプター(チロシンキナーゼ型、例えば、HGFの場合はc−met)、TGFβレセプターファミリー(セリン・スレオニンキナーゼ型)などが挙げられる。細胞生理活性物質は、場合により、レセプターサブユニットを共有することから、上記好ましいサイトカインまたは増殖因子とレセプターサブユニットを共有するサイトカインまたは増殖因子もまた、好ましいサイトカイン及び増殖因子であり得る。
【0186】
サイトカインおよび増殖因子のような細胞生理活性物質はまた、タンパク質または核酸の形態で提供される場合、相同性比較により分類され得る。従って、本発明の好ましい実施形態として、本発明の好ましい細胞生理活性物質と相同性のある細胞生理活性物質が使用される。そのような相同性を有する細胞生理活性物質としては、例えば、BLASTのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照の細胞生理活性物質に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の相同性を有する細胞生理活性物質が挙げられる。
【0187】
本発明では、本発明の開示をもとに、コンピュータモデリングによる薬物が提供されることも企図される。
【0188】
本発明は、他の実施形態において、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸)と同等に有効な因子をスクリーニングするための道具として、コンピュータによる定量的構造活性相関(quantitative structure activity relationship=QSAR)モデル化技術を使用して得られる化合物もまた、本発明に包含される。ここで、コンピューター技術は、いくつかのコンピュータによって作成した基質鋳型、ファーマコフォア、ならびに本発明の活性部位の相同モデルの作製などを包含する。一般に、インビトロで得られたデータから、ある物質に対する相互作用物質の通常の特性基をモデル化することに対する方法は、最近CATALYSTTM ファーマコフォア法(Ekins et al.、Pharmacogenetics,9:477〜489,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,288:21〜29,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,290:429〜438,1999;Ekins et al.、J.Pharmacol.& Exp.Ther.,291:424〜433,1999)および比較分子電界分析(comparative molecular field analysis;CoMFA)(Jones et al.、Drug Metabolism & Disposition,24:1〜6,1996)などを使用して示されている。本発明において、コンピュータモデリングは、分子モデル化ソフトウェア(例えば、CATALYSTTMバージョン4(Molecular Simulations,Inc.,San Diego,CA)など)を使用して行われ得る。
【0189】
活性部位に対する化合物のフィッティングは、当該分野で公知の種々のコンピュータモデリング技術のいずれかを使用してで行うことができる。視覚による検査および活性部位に対する化合物のマニュアルによる操作は、QUANTA(Molecular Simulations,Burlington,MA,1992)、SYBYL(Molecular Modeling Software,Tripos Associates,Inc.,St.Louis,MO,1992)、AMBER(Weiner et al.、J.Am.Chem.Soc.,106:765−784,1984)、CHARMM(Brooks et al.、J.Comp.Chem.,4:187〜217,1983)などのようなプログラムを使用して行うことができる。これに加え、CHARMM、AMBERなどのような標準的な力の場を使用してエネルギーの最小化を行うこともできる。他のさらに特殊化されたコンピュータモデリングは、GRID(Goodford et al.、J.Med.Chem.,28:849〜857,1985)、MCSS(Miranker and Karplus,Function and Genetics,11:29〜34,1991)、AUTODOCK(Goodsell and Olsen,Proteins:S tructure,Function and Genetics,8:195〜202,1990)、DOCK(Kuntz et al.、J.Mol.Biol.,161:269〜288,(1982))などを含む。さらなる構造の化合物は、空白の活性部位、既知の低分子化合物における活性部位などに、LUDI(Bohm,J.Comp.Aid.Molec.Design,6:61〜78,1992)、LEGEND(Nishibata and Itai,Tetrahedron,47:8985,1991)、LeapFrog(Tripos Associates,St.Louis,MO)などのようなコンピュータープログラムを使用して新規に構築することもできる。このようなモデリングは、当該分野において周知慣用されており、当業者は、本明細書の開示に従って、適宜本発明の範囲に入る化合物を設計することができる。
【0190】
本発明において使用されるポリペプチド、核酸、医薬ならびにそのようなポリペプチドまたは核酸によって調製された分化細胞または分化細胞組成物は、生物への移入に適した形態であれば、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。投与方法は、経口投与、非経口投与(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与、直腸内投与、膣内投与、患部への局所投与、皮膚投与など)、患部への直接投与などが挙げられる。そのような投与のための処方物は、任意の製剤形態で提供され得る。そのような製剤形態としては、例えば、液剤、注射剤、徐放剤が挙げられる。本発明の組成物および医薬は、全身投与されるとき、発熱物質を含ない、経口的に受容可能な水溶液の形態であり得る。そのような薬学的に受容可能なタンパク質溶液の調製は、pH、等張性、安定性などに相当な注意を払うことを条件として、当業者の技術範囲内である。
【0191】
本発明において医薬の処方のために使用される溶媒は、水性または非水性のいずれかの性質を有し得る。さらに、そのビヒクルは、処方物の、pH、容量オスモル濃度、粘性、明澄性、色、滅菌性、安定性、等張性、崩壊速度、または臭いを改変または維持するための他の処方物材料を含み得る。同様に、本発明の組成物は、有効成分の放出速度を改変または維持するため、または有効成分の吸収もしくは透過を促進するための他の処方物材料を含み得る。
【0192】
本発明は、医薬または医薬組成物として処方される場合、必要に応じて生理学的に受容可能なキャリア、賦型剤または安定化剤(Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Edition,A.R.Gennaro,ed.,Mack Publishing Company,1990)と、所望の程度の純度を有する選択された組成物とを混合することによって、凍結乾燥されたケーキまたは水溶液の形態で、保存のために調製され得る。
【0193】
そのような適切な薬学的に受容可能な因子としては、以下が挙げられるがそれらに限定されない:抗酸化剤、保存剤、着色料、風味料、および希釈剤、乳化剤、懸濁化剤、溶媒、フィラー、増量剤、緩衝剤、送達ビヒクル、希釈剤、賦形剤および/または農学的もしくは薬学的アジュバント。代表的には、本発明の医薬は、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)を、1つ以上の生理的に受容可能なキャリア、賦形剤または希釈剤とともに組成物の形態で投与され得る。例えば、適切なビヒクルは、注射用水、生理的溶液、または人工脳脊髄液であり得、これらには、非経口送達のための組成物に一般的な他の物質を補充することが可能である。そのような受容可能なキャリア、賦形剤または安定化剤は、レシピエントに対して非毒性であり、そして好ましくは、使用される投薬量および濃度において不活性であり、そして以下が挙げられる:リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);モノサッカリド、ジサッカリドおよび他の炭水化物(グルコース、マンノース、またはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、Tween、プルロニック(pluronic)またはポリエチレングリコール(PEG))。
【0194】
注射剤は当該分野において周知の方法により調製することができる。例えば、適切な溶剤(生理食塩水、PBSのような緩衝液、滅菌水など)に溶解した後、フィルターなどで濾過滅菌し、次いで無菌容器(例えば、アンプルなど)に充填することにより注射剤を調製することができる。この注射剤には、必要に応じて、慣用の薬学的キャリアを含めてもよい。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法も使用され得る。例示の適切なキャリアとしては、中性緩衝化生理食塩水、または血清アルブミンと混合された生理食塩水が挙げられる。好ましくは、本発明の医薬は、適切な賦形剤(例えば、スクロース)を用いて凍結乾燥剤として処方される。他の標準的なキャリア、希釈剤および賦形剤は所望に応じて含まれ得る。他の例示的な組成物は、pH7.0−8.5のTris緩衝剤またはpH4.0−5.5の酢酸緩衝剤を含み、これらは、さらに、ソルビトールまたはその適切な代替物を含み得る。その溶液のpHはまた、種々のpHにおいて、本発明の活性成分(例えば、ポリペプチドまたは核酸など)の相対的溶解度に基づいて選択されるべきである。
【0195】
本発明の製剤の処方手順は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方、他の国の薬局方などに記載されている。従って、当業者は、本明細書の記載があれば、過度な実験を行うことなく、投与すべきポリペプチド量および細胞量を決定することができる。
【0196】
1つの実施形態において、本発明の組成物および医薬は、徐放性形態で提供され得る。徐放性形態で投与される場合、活性成分(例えば、核酸またはポリペプチド)は、徐々に放出されるので、長期にわたり薬効が期待される場合に有効である。徐放性形態の剤型は、本発明において使用され得る限り、当該分野で公知の任意の形態であり得る。そのような形態としては、例えば、ロッド状(ペレット状、シリンダー状、針状など)、錠剤形態、ディスク状、球状、シート状のような製剤であり得る。徐放性形態を調製する方法は、当該分野において公知であり、例えば、日本薬局方、米国薬局方および他の国の薬局方などに記載されている。徐放剤(持続性投与剤)を製造する方法としては、例えば、複合体から薬物の解離を利用する方法、水性懸濁注射液とする方法、油性注射液または油性懸濁注射液とする方法、乳濁製注射液(o/w型、w/o型の乳濁製注射液など)とする方法などが挙げられる。
【0197】
別の実施形態では、本発明では、さらに他の薬剤もまた投与することも企図される。そのような薬剤は、当該分野において公知の任意の医薬であり得、例えば、そのような薬剤は、薬学において公知の任意の薬剤(例えば、抗生物質など)であり得る。当然、そのような薬剤は、2種類以上の他の薬剤であり得る。そのような薬剤としては、例えば、日本薬局方最新版、米国薬局方最新版、他の国の薬局方の最新版において掲載されているものなどが挙げられ、例えば、以下が挙げられるがそれらに限定されない:
中枢神経系用薬(例えば、全身麻酔剤、催眠鎮静剤、抗不安剤、抗てんかん剤、解熱鎮痛消炎剤、興奮剤、覚せい剤、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、総合感冒剤、その他の中枢神経系用薬など);
末梢神経用剤(例えば、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、鎮けい剤など);
感覚器官用薬(例えば、眼科用剤、耳鼻科用剤、鎮暈剤など);
循環器官用薬(例えば、、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、高脂血症用剤、その他の循環器官用薬など);
呼吸器官用薬(例えば、呼吸促進剤、鎮咳剤、去痰剤、鎮咳去痰剤、気管支拡張剤、含嗽剤など);
消化器官用薬(例えば、止瀉剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、浣腸剤、利胆剤、その他の消化器官用薬など);
ホルモン剤(例えば、脳下垂体ホルモン剤、唾液腺ホルモン剤、甲状腺、副甲状腺ホルモン剤、蛋白同化ステロイド剤、副腎ホルモン剤、男性ホルモン剤、卵胞、.黄体ホルモン剤、混合ホルモン剤、その他のホルモン剤など);
泌尿生殖器官および肛門用薬(例えば、泌尿器官用剤、生殖器官用剤、子宮収縮剤、痔疾用剤、他の泌尿生殖器管、肛門用薬など);
外皮用薬(例えば、外皮用殺菌消毒剤、創傷保護剤、化膿性疾患用剤、鎮痛.鎮痒.収斂.消炎剤、寄生性皮膚疾患用剤、皮膚軟化剤、毛髪用剤、その他の外皮用剤など);
歯科口腔用剤;
その他の個々の器官系用薬;
ビタミン剤(例えば、ビタミンA剤、ビタミンD剤、ビタミンB剤、ビタミンC剤、ビタミンE剤、ビタミンK剤、混合ビタミン剤、その他のビタミン剤など);
滋養強壮薬(例えば、カルシウム剤、無機質製剤、糖類剤、蛋白アミノ酸製剤、臓器製剤、乳幼児用剤、その他の滋養強壮剤など);
血液および体液用薬(例えば、血液代用剤、止血剤、血液凝固阻止剤、その他の血液.体液用剤など);
人工透析用薬(例えば、人工腎臓透析用剤、腹膜透析用剤など);
その他の代謝性医薬品(例えば、臓疾患用剤、解毒剤、習慣性中毒用剤、痛風治療剤、酵素製剤、糖尿病用剤、他に分類されない代謝性薬など);
細胞賦活用剤(例えば、クロロフィル製剤、色素製剤、その他の細胞賦活用剤など);
腫瘍用薬(例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗腫瘍性抗生物質製剤、抗腫瘍性植物成分製剤、その他の腫瘍用剤など);
放射性医薬品;
アレルギー用薬(例えば、抗ヒスタミン剤、刺激療法剤、非特異性免疫原製剤、その他のアレルギー用薬、生薬および漢方処方に基づく医薬品、生薬、漢方製剤、その他の生薬漢方処方に基づく製剤など);
抗生物質製剤(例えば、グラム陽性菌に作用する、グラム陰性菌に作用する、グラム陽、.陰性菌に作用、グラム陽性菌マイコプラズマ作用、グラム陽性陰性.リケッチアに作用、抗酸菌に作用するもの、カビに作用するもの、その他の抗生物質製剤など);
化学療法剤(例えば、サルファ剤、抗結核剤、合成抗菌剤、抗ウィルス剤、その他の化学療法剤など);
生物学的製剤(例えば、ワクチン類、毒素.トキソイド類、抗毒素.抗レプトスピラ血清、血液製剤類、生物学的試験用製剤類、その他の生物学的製剤、抗原虫剤、駆虫剤など);
調剤用薬(例えば、賦形剤、軟膏基剤、溶解剤、矯味.矯臭.着色剤、その他の調剤用剤など);
診断用薬(例えば、X腺造影剤、機能検査用試薬、その他の診断用薬);
公衆衛生用薬(例えば、防腐剤);
体外診断用医薬品(例えば、細菌学的検査用薬など);
分類されない治療を主目的としない薬剤;ならびに
麻薬(例えば、あへんアルカロイド系麻薬、コカアルカロイド系製剤、合成麻薬など)。
【0198】
そのような薬剤は、好ましくは、心臓疾患に対して効果を有するものであり得る。
【0199】
他の実施形態において、本発明の方法によって調製された細胞は2種類以上の細胞を含み得る。2種類以上の細胞を使用する場合、類似の性質または由来の細胞を使用してもよく、異なる性質または由来の細胞を使用してもよい。
【0200】
本発明の方法において使用されるポリペプチド、核酸、組成物、医薬および細胞の量は、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、ポリペプチド、核酸、組成物、医薬もしくは細胞の形態または種類、細胞の形態または種類などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。
【0201】
本発明の組成物および医薬を被験体(または患者)に対して施す頻度もまた、使用目的、対象疾患(種類、重篤度など)、患者の年齢、体重、性別、既往歴、および治療経過などを考慮して、当業者が容易に決定することができる。頻度としては、例えば、毎日−数ヶ月に1回(例えば、1週間に1回−1ヶ月に1回)の投与が挙げられる。1週間−1ヶ月に1回の投与を、経過を見ながら施すことが好ましい。
【0202】
(好ましい実施形態の説明)
本発明は、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物および方法を提供する。心筋梗塞後のような心不全患者を即座にかつ顕著な副作用なしに処置することができる方法はこれまで知られておらず、当該分野において驚くべき効果を提供する。
【0203】
1つの局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。好ましくは、gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有する。このgp130リガンドは、細胞表面上のgp130レセプターおよび/またはIL−6レセプターサブファミリー(例えば、LIFレセプター)に結合し、活性化した後、IL−6レセプターサブファミリー(例えば、LIFレセプター)は、gp130と会合する。gp130の細胞内領域には、 I型サイトカイン受容体スーパーファミリー間で保存された、領域Box1,Box2構造が存在し、この部分にチロシンキナーゼJAK(Janus kinase)ファミリーに属するJAK1,JAK2,TYK2などが構成的に会合する。刺激により、gp130が二量体を形成するとともに、gp130に会合するJAKも相互接近し、JAK同士をチロシンリン酸化することにより活性化する。さらに、活性化されたJAKは、JAKをリン酸化するだけでなく、gp130細胞内領域存在するチロシン残基および、種々のシグナル伝達分子をリン酸化し、活性化することが知られている。これらシグナル伝達分子の内、転写因子STAT3(signal tranducer and activator of transcription 3)は、分子内に、特異的リン酸化チロシン構造を認識するSH2(src homology 2)ドメインを有し、gp130細胞内領域リン酸化チロシンを特異的に認識し、gp130上に運ばれてくると考えられ、JAKによりチロシンリン酸化される。チロシンリン酸化されたSTAT3は、自身のSH2ドメインを介してSTAT3二量体(homodimer)あるいはSTAT1との二量体(heterodimer)を形成し、核内へ移行し、特異的DNA配列を認識して結合し、多くの遺伝子の転写を制御していることが知られている。このように、本発明において使用されるポリペプチド(例えば、gp130リガンド)によるシグナル伝達は、チロシンリン酸化機構を介して行われることから、gp130を介したシグナル伝達により、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。従って、gp130を介するシグナルは大きく、(i)JAKからのgp130のリン酸化を介しない直接のシグナル、(ii)gp130細胞内チロシン759のリン酸化依存性に活性化されるSHP−2を介するシグナル、(iii)gp130C末端YXXQモチーフのチロシンリン酸化依存性に活性化されるSTAT3を介するシグナル、の3つに分けることができる。従って、gp130を介するシグナルは、上述のシグナルを検出するアッセイによっても検出することができる。
【0204】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130リガンドとLIFレセプターとが作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。したがって、本発明は、骨髄細胞の動員、心筋細胞の再生・増殖を必要とする疾患であれば、どのような疾患でも処置の対象とすることができる。
【0205】
好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1など)であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0206】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、さらに麻酔剤を含み得る。本発明において使用され得る麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインおよびリドカインからなる群より選択され得る。
【0207】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋梗塞後の心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。LIF様因子は、LIFレセプターに結合する能力を有する因子であり、gp130リガンドとLIF様因子とは、一部重複する。
【0208】
好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTFなど)であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0209】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、さらに麻酔剤を含み得る。本発明において使用され得る麻酔剤としては、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインおよびリドカインからなる群より選択され得る。
【0210】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。したがって、本発明の組成物は、骨髄細胞の動員、心筋細胞の再生・増殖を必要とする疾患であれば、どのような疾患でも処置の対象とすることができる。
【0211】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0212】
他の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去するための組成物を提供する。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員、心筋細胞再生、血管新生などを亢進することによって、心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去することができる。
【0213】
本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1など)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0214】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋細胞を増殖(たとえば、その再生を促進)するための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0215】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞のような原料細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。
【0216】
本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバーであり得る。本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0217】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0218】
本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTF)であり得る。本発明の心筋細胞へ分化させる組成物において、最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0219】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にgp130リガンドをコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、原料細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0220】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞のような原料細胞の心筋細胞への分化を促進することができる。
【0221】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバー)をコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0222】
別の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、心筋細胞を増殖させる(たとえば、その再生を促進する)ための組成物を提供する。この組成物は、骨髄細胞のような原料細胞に作用してその細胞を心筋細胞へと分化させる作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が心筋細胞へと分化させる作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の心筋細胞へ分化させる組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にLIF様因子をコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、原料細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0223】
本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0224】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、骨髄細胞の心臓損傷部位への動員を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、gp130リガンドは、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、骨髄細胞の心筋梗塞部位への動員を促進することができる。
【0225】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、骨髄細胞の心臓損傷部位への動員を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、LIF様因子は、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。
【0226】
他の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、心筋細胞の分裂増殖を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、gp130リガンドは、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、心筋細胞の分裂増殖を促進することができる。
【0227】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、心筋細胞の分裂増殖を促進する組成物を提供する。この組成物において、必要に応じて、LIF様因子は、上述の好ましい形態を採り得る。また、この組成物は、上述の好ましい形態を採り得る。
【0228】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドを含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管に作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0229】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、血管新生などを亢進することができる。
【0230】
本発明の血管新生を促進する組成物において、好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドは、IL−6サブファミリーのメンバーであり得る。本発明の血管新生を促進する組成物において、最も好ましくは、本発明のgp130リガンドは、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0231】
別の局面において、本発明は、LIF様因子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管に作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。
【0232】
本発明の血管新生を促進する組成物において、好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)を規定する配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子は、IL−6サブファミリーのメンバー(CT−1、OSM、CNTFなど)であり得る。本発明の血管新生を促進する組成物において、最も好ましくは、本発明のLIF様因子は、配列番号2または配列番号4に示す配列を有する。
【0233】
別の局面において、本発明は、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管などに作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むgp130リガンドが血管新生する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、標的細胞(例えば、既存の血管など)にgp130リガンドをコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、標的細胞に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0234】
好ましい実施形態において、上記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有し得る。この実施形態において、gp130リガンドは、gp130とLIFレセプターと相互作用することにより、LIFを介したシグナル伝達機構を活性化し、既存の血管などに作用して血管新生を促進することができる。
【0235】
本発明で使用されるgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のgp130リガンドをコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0236】
別の局面において、本発明は、LIF様因子をコードする核酸分子を含む、血管新生を促進するための組成物を提供する。この組成物は、既存の血管などに作用して血管新生を促進する作用を有する。LIFは、心肥大を促す作用を有することは知られていたが、LIFを含むLIF様因子が血管新生を促進する作用は、特に、成体においては報告されておらず、従って、本発明の血管新生を促進する組成物は、従来技術にはなかった優れた効果を奏するといえる。核酸分子の形態の場合、本発明の組成物は、裸(Naked DNA)の形態でも、プラスミドなどのベクターに含まれる形態であってもよく、さらにリポソームなどの他のキャリアを含んでいてもよい。好ましくは、本発明の組成物は、原料細胞にLIF様因子をコードする核酸配列が効率よく導入される形態である。そのような形態としては、標的細胞(例えば、既存の血管)に感染能のあるウイルス由来のベクターなどが挙げられる。
【0237】
本発明の血管新生を促進する組成物において、本発明で使用されるLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する。より好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有し得る。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列のヘリックス(好ましくは4つのへリックス)および/またはそれぞれの間のループ(好ましくは3つのループ)(これらは、gp130および/またはLIFレセプターとの結合に関与する)をコードする配列と、少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約85%、さらに好ましくは少なくとも約90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、なお好ましくは約99%相同性を有する配列を含む。別の実施形態では、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、IL−6サブファミリーのメンバーをコードする核酸分子であり得る。最も好ましくは、本発明のLIF様因子をコードする核酸分子は、配列番号1または配列番号3に示す配列を有する。
【0238】
別の局面において、本発明は、心筋梗塞を処置するためのキットを提供する。このキットは、本発明の組成物;および心筋梗塞発作後に該組成物を注入することを指示する、指示書、を備える。好ましくは、このキットは、3)麻酔剤、をさらに備える。麻酔剤は当該分野において周知であり、どのようなものが使用され得る。好ましくは、麻酔剤は、笑気(亜酸化窒素)、エチレン、シクロプロパン、チオペンタールナトリウム、ハロセン、ブピバカインまたはリドカインである。
【0239】
好ましい実施形態において、本発明のキットに備えられる指示書は、心筋梗塞などの心不全を引き起こす状態の後、24時間以内に、好ましくは12時間以内に、より好ましくは6時間以内に本発明の組成物を注入することが記載されている。別の好ましい実施形態において、上記指示書には、本発明の組成物を下肢大腿部の骨格筋または心筋梗塞部位に投与することが記載されている。より好ましくは、投与部位は、下肢大腿部の骨格筋である。
【0240】
好ましい実施形態において、上記指示書は、電気ショックを与えることをさらに指示する。電気ショックを与えることにより、処置されるべき細胞および/または組織への本発明の組成物の導入が促進され、効果がより早く出ることから、より有効な治療が提供されることになる。そのような電気ショックの与える方法は、当該分野において周知であり、例えば、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0241】
別の局面において、本発明は、心筋細胞を増殖させるための方法を提供する。この方法は、1)原料細胞を提供する工程;および2)この原料細胞に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。
【0242】
好ましい実施形態において、上記原料細胞は、胚性幹細胞、骨髄細胞および組織幹細胞からなる群より選択される。より好ましくは、原料細胞は、骨髄細胞であり得る。
【0243】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。このさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0244】
別の局面において、本発明は、上記心筋細胞を調製するための方法によって調製された心筋細胞を提供する。この方法は、インビボまたはインビトロで使用することができる。本発明の方法によって調製された心筋細胞は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0245】
別の局面において、本発明は、血管新生を促進する方法を提供する。本発明の血管新生を促進する方法は、インビトロであっても、インビボであっても、エキソビボであってもよい。本発明の血管新生を促進する方法は、1)所望の部位に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。好ましくは、この所望の部位は、血管新生を必要とする部位である。そのような血管新生を必要とする部位は、心筋および/−または血管壊死を起こした部位であり得る。従って、本発明は、心筋および/−または血管壊死を伴う疾患の処置または予防に使用することができる。そのような心筋および/−または血管壊死を伴う疾患としては、心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0246】
好ましくは、本発明の血管新生を促進する方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。そのようなさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0247】
別の局面において、本発明は、上記血管新生を促進する方法によって調製された血管を提供する。本発明の方法によって調製された血管は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0248】
別の局面において、本発明は、心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法を提供する。本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、インビトロであっても、インビボであっても、エキソビボであってもよい。本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、1)所望の部位に本発明の組成物を提供する工程、を包含する。好ましくは、この所望の部位は、心筋細胞の分裂・増殖の促進を必要とする部位である。そのような心筋細胞の分裂・増殖の促進を必要とする部位は、心筋細胞壊死を起こした部位であり得る。従って、本発明は、心筋細胞壊死を伴う疾患の処置または予防に使用することができる。そのような心筋細胞壊死を伴う疾患としては、心筋梗塞、拡張型心筋症、心筋炎などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0249】
好ましくは、本発明の心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法は、さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する。そのようなさらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトロフィンからなる群より選択される。
【0250】
別の局面において、本発明は、上記心筋細胞の分裂・増殖を促進する方法によって調製された心筋細胞を提供する。本発明の方法によって調製された心筋細胞は、一定の品質を確保することができ、大量に調製することも可能であるように、従来にない特徴を有することから、好ましい治療効果を有し得る。
【0251】
別の局面において、本発明は、心筋梗塞後に起こるような心不全を軽減または除去する方法を提供する。本発明の心不全を軽減または除去する方法は、1)心筋梗塞発作後に本発明の組成物を投与する工程を包含する。本発明の心不全を軽減または除去する方法は好ましくは、2)麻酔剤を投与する工程、をさらに包含し得る。
【0252】
好ましい実施形態において、本発明の組成物を投与する工程は、心筋梗塞発作後12時間以内に行われ得るが、それに限定されず、投与のタイミングは、心筋梗塞発作後、例えば、24時間以内。36時間以内、48時間以内などでもあり得、蘇生の可能性がある限り、発作後どれだけ時間が経っていたとしても投与し、本発明の効果(例えば、心筋梗塞の治癒)を奏することができる。好ましくは、上記投与工程は、心筋梗塞発作後、例えば、6時間以内、3時間以内、1時間以内、30分以内に行われるなど、可能な限り短い期間内に行うことが好ましい。
【0253】
好ましい実施形態において、本発明の心筋梗塞後に生じるような心不全を軽減または除去する方法において、本発明の組成物は、下肢大腿部の骨格筋に投与されるが、それに限定されない。別の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、心筋梗塞の場合、心筋梗塞部位にに投与される。骨格筋に投与しても心筋梗塞に有効であるということは現在までに報告されておらず、本発明はこの面においても予想外の有利な効果を提供するものといえる。このように、本発明の組成物は、心筋梗塞に効果がある限り、身体のどの部位でも投与することができる。好ましくは、本発明の組成物は、発作部位に容易に到達する部位または容易に投与することができる部位(例えば、骨格筋)に投与される。
【0254】
好ましい実施形態において、本発明の心筋梗塞後に発生するような心不全を軽減または除去する方法は、3)電気ショックを与える工程、をさらに包含する。電気ショックを与える方法は当該分野において周知であり、例えば、低電圧矩形波をかけて細胞にDNAを導入する方法などが挙げられる。電気ショックを与える方法としては、エレクトロポレーション法(DNAが入ることができる穴を細胞膜に作るような短い電気刺激を与える)がある。好ましくは、電気ショックは、骨格筋内に電極を穿刺したエレクトロポレーション法を利用する。
【0255】
このように、本発明により生物の器官の移植および医療機器での補助システムを全くまたはほとんど使用することなく、心筋梗塞などによる心不全を軽減または除去することおよび心筋細胞、血管などを再生することが可能になった。これは、生物の器官の移植以外には実質的に根本的な治癒が期待できなかった重症心不全、重症心筋梗塞、心筋症などの患者に対して、新規な救済処置を提供することになった。従って、このような効果は、従来技術にはない格別な効果であるといえ、その有用性は筆舌に尽くしがたい。
【0256】
以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0257】
【実施例】
(実施例1:LIF cDNAプラスミド、およびマウスへの筋肉内注射)
(方法)
(LIF cDNAプラスミド、およびマウスへの筋肉内注射)
本発明者らは、発現プラスミドDNAの筋肉内注射法を使用した。なぜなら、この方法は、サイトカインの長期的全身送達の有効な手段であると報告されているからである(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);Isner,J.M.Myocardial gene therapy.Nature 415,234−239(2002))。LIF cDNAは、ヒトとマウスとのキメラ形態を使用した。このキメラ形態のLIFは、Owczarek CM, et al.EMBO J.12, 3487−3495, 1993.;Maurer T, et al.Growth Factors.11, 271−276, 1994.;Meredith J, et al.J Biol Chem.269, 29891−29896, 1994.;およびHinds MG, et al.JBiomol NMR.9, 113−126, 1997などに記載されるものを使用した。このキメラLIF cDNAをpCAGGSプラスミド中に挿入した。このpCAGGSプラスミドは、骨格筋における発現の効果を改善するために、ニワトリβ−アクチンプロモーターにより駆動された。このcDNAは、Concert High Purity Plasmid Purification Systems(GibcoBRL)を用いて調製した。PBS中に溶解したcDNAを、心筋梗塞直後の12週齢の雄性マウス(C57BL6)の四肢の骨格筋中に、100μgプラスミド/100μl/20g体重にて注射した。プラスミドを含まない同体積のPBSを、ビヒクル処置として同腹仔マウス中に注射した。すべてのプロトコルは、動物実験の倫理規定について規定された千葉大学の指針により承認されたものを使用した。
【0258】
(血液中のLIF濃度のアッセイ)
血液を、注射前、および注射後1日目、2日目、1週目、2週目、および4週目に収集した。その血清を分離し、そして使用前まで−80℃にて保存した。LIF濃度を、製造業者の指示に従って、LIF ELISAキット(BIOSOURCE EUROPE S.A.)により測定した。
【0259】
(LIF cDNAの注入後のLIFレベルの全身的上昇)
LIFのプラスミドDNAを、上述のように筋肉内法により注射した後、本発明者らはまず、心筋梗塞後の血液におけるLIFレベルのプロフィールを調査した。それは、いくつかのサイトカインが、心筋梗塞後に、より増加されることが観察されているからである(Guillen,I.,Blanes,M.,Gomez,L.M.&Castell,J.V.、Am.J.Physiol.(1995).;Pudil,R.,Pidrman,V.,Krejsek,J.,Gregor,J.,Tichy,M.,Andrys,C.&Drahosova,M.、Clinica Chimica Acta 280,127−134(1999);およびTalwar,S.,Squire,I.B.,O’brien,R.J.,Downie,P.F.,Davies,J.E.&Ng,L.L.、Clin.Sci.102,9−14(2002))。血清中のLIFレベルを、ELISAキット(BIOSOURCE)により測定した。LIFは実際には、心筋梗塞後早くに上昇した(図1)。このことは、LIFが梗塞後心臓に対して特定の効果を発揮し得ることを示唆した。次に、本発明者らは、骨格筋中へのこのLIF遺伝子の局所トランスフェクションが、血液中のLIFレベルの上昇をさらに誘導するか否かを確認した。LIF遺伝子注射は、注射後48時間で全身の血中LIFレベルを有意に増加させ、そして高レベルのLIFが2週間続いた(図1)。この後、このLIFレベルは減少し、そして注射後4週目に基礎レベルに戻った。予期されるように、心筋梗塞後のこの遺伝子移入による血中LIFレベルの上昇は、心筋梗塞のみによる上昇よりかなり大きかった。この結果は、LIFのプラスミドDNAの筋肉内注射が、血液中のLIFレベルの大幅な上昇を誘導することを示した。
【0260】
(実施例2:心筋梗塞後のLIFによる心機能の改善)
(マウス心筋梗塞モデル)
心筋梗塞モデルを、以前に記載された(Harada,K.,Sugaya,T.,Murakami,K.,Yazaki,Y.&Komuro,I.、 Circulation 100,2093−2099(1999))ように、左冠状動脈(LCA)の永久結紮により作製した。簡単に述べると、12週齢のマウスをペントバルビタール(50mg/kg)により麻酔し、そして動物レスピレーター(SN−480−7)を使用して人工換気した。左胸部を開胸した後、LCAを10−0ナイロン外科縫合糸を用いて結紮した。LCAの結紮の成功を、虚血領域の色の変化によって、そして手術の間基礎体表面心電図(ECG)記録にてモニターしたSTセグメントによって、視認した。心筋梗塞後2週目に、心エコー検査を行い、その後その心臓を切除し、そして以下の実施例において使用した。
【0261】
(心エコー検査)
経胸壁超音波心臓図検査の分析を、11−MHzのプローブとともにAgilent sonos 4500(Agilent Technologies Co.,Japan)を用いて実施した。マウスを、ペントバルビタールナトリウム(25μg/g)の腹腔内注射により麻酔した。マウスが麻酔から部分的に回復した場合、左心室のM−モード画像を記録した。
【0262】
(統計)
すべての値を、各場合において6回の実験の平均±標準平均誤差として表した。3つの群の間での比較を、一方向ANOVAとそれに続くダネット改変t検定により行った。p<0.05の値を、統計学的に有意であると見なした。
【0263】
(心筋梗塞後のLIFによる心機能の改善)
心エコー検査を使用して、心機能を測定した。心筋梗塞後2週目に、マウスをこの検査に供した。生理食塩水処置したマウスにおいて、2週間の心筋梗塞は、拡張期心室中隔(IVSTd)の壁厚は減少し、拡張期におけるLVの後壁(LVPWTd)の壁厚は増加した。また、左室拡張末期径(LVIDd)および左室収縮末期径(LVIDs)は、拡大、左室短縮率(%FS)および左室駆出率(EF)は、有意に減少した(表1を参照)。このことは、心筋梗塞後の心臓の左室、壁厚の非薄化、拡張した左室腔および減少した心機能を示唆した。しかし、マウスを心筋梗塞直後に、実施例1に記載のようにLIF遺伝子によりトランスフェクトした場合、IVSTd、LVPWTd、LVIDd、LVIDs、FSおよびEFにおける変化は、生理食塩水を注射したマウスにおいて観察されるより小さかった。このことは、心筋梗塞後のLIFによる心機能の有意な改善を示唆した
【0264】
【表1】Mモードの心エコー検査分析
データは、平均±標準平均誤差として表す。*シャム手術したマウスに対してp<0.05。†心筋梗塞マウスにおける生理食塩水注射に対してp<0.05。
【0265】
(実施例3:LIFによる梗塞の程度の減弱)
(梗塞の大きさおよび線維症の程度の測定)
心筋梗塞の2週間後、心臓を切除し、灌流固定によって10%ホルマリンで固定した。固定したこの心臓をパラフィン中に包埋し、4μm厚で切片化した。梗塞領域の大きさ、壁厚および間質の線維症化の程度を、ヘマトキシリン−エオシン(H−E)およびAzanにより染色した心臓の中央横断切片にて評価した。心筋梗塞領域の大きさは、通常は左室自由壁(LVFW)と同じ程度の大きさであり、梗塞領域の大きさを、シャム手術した心臓(n=3)および心筋梗塞手術した心臓(n=3)由来のAzan染色切片のLVFW中の心筋細胞の総面積を測定することにより定量した。失われた心筋細胞の面積を、(シャム心臓のLVFW中の心筋細胞の総面積−心筋梗塞心臓のLVFW中の残存筋細胞の面積)として算出し、梗塞の大きさと見なした。線維化の程度を、総LVFW面積で除算したAzan染色線維症面積の比を算出することによって、梗塞区域全体において測定した。
【0266】
(LIFによる梗塞の程度の減弱)
LIFの効果をさらに評価するために、本発明者らはまた、心筋梗塞2週間後のLVFWにおける梗塞領域の大きさおよび線維化の程度により定量した、心筋梗塞の2週間後、生理食塩水注射マウスにおいて、その梗塞は非常に広範であり、その面積はLVFW全体とほぼ同じ程度広かった(図2Aおよび2B)。さらに、この梗塞壁は非常に薄くなりかつ線維組織を形成したので、少数の心筋細胞しかその梗塞壁内にて観察され得なかった(図2Aおよび2C)。しかし、LIFを投与した場合、梗塞領域は小さくなり、その梗塞壁は、生理食塩水注射マウスよりも厚く、そして線維化は生理食塩水注射マウスよりも少なかった(図2A〜2C)。非常に少数の心筋細胞の脱膜消失しか、この梗塞区域にて見出されなかった(図2A)。これらの結果は、LIF処置後の心筋梗塞の程度の有意な減弱を示唆した。
【0267】
(実施例4:心筋梗塞後のLIFによる、アポトーシス細胞死からの防御)
(TUNEL分析)
心筋細胞アポトーシスを、パラフィン包埋心臓組織切片の末端デオキシリボヌクレオチドトランスフェラーゼ(TdT)媒介dUTPニック末端標識(TUNEL)によって、インサイチュで検出した。TUNELは、Cardio TACS(Trevigen,Inc.),という、心臓組織切片におけるアポトーシスのインサイチュ検出用試薬キットを使用して実施した。
【0268】
(ウェスタンブロット分析)
全細胞タンパク質をLV組織から抽出した。タンパク質濃度を、BCAタンパク質濃度アッセイ(Pierce)を使用して決定した。ウェスタンブロット分析を、LIFに対する抗体、Aktに対する抗体、リン酸化Aktに対する抗体、およびVEGFに対する抗体(Santa Crutz)を用いて実施した。ハイブリダイズしたバンドを、ECL検出キット(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して可視化した。
【0269】
(心筋梗塞後のLIFによる、アポトーシス細胞死からの防御)
筋細胞アポトーシスは、心筋梗塞後の細胞死の主要な形態である(James,T.N.、Am.J.Med.107,606−620(1999);Sabbah,H.N.、Cardiovasc.Res.45,704−712(2000);およびAnversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998))。アポトーシスを介する心筋細胞の損失は、梗塞後の心室再構築において主要な役割を果し、そして心不全の進行に対する重要な寄与因子である(Anversa,P.,Cheng,W.,Liu,Y.,Leri,A.,Redaelli,G.&Kajstura,J.、Basi.Res.Cardiol.3,8−12(1998);James,T.N.、 Am.J.Med.107,606−620(1999);およびSabbah,H.N.、Cardiovasc.Res.45,704−712(2000).)。LIFは、心筋細胞を含む細胞の生存を改善することが報告されている(Hirota,H.,Chen,J.,Betz,U.A.,Rajewsky,K.,Gu,Y.,Ross,J.J.,Muller,W.&Chien,K.R.、 Cell 97,189−198(1999))。これをもとに、本発明者らは、LIFが心筋梗塞後の心臓において抗アポトーシス作用を発揮するか否かを分析した。TUNEL分析により、心筋細胞のアポトーシスが、心筋梗塞後2週間目でさえ、心臓において見出され得ることが示された(図3A).心筋梗塞後のTUNEL陽性心筋細胞の数は、生理食塩水注射マウスと比較して、LIF処置マウスにて有意に減少した(図3B)。このことは、LIFが、心筋梗塞後の心筋細胞の生存を改善することを示した。LIFがどのように防御的役割を発揮したかを問うために、本発明者らはまた、心臓における、プロテインキナーゼB/Akt(生存促進分子)の活性化を調べた。LIF遺伝子トランスフェクトマウスにおけるAktの活性化は、心筋梗塞の2週間後の生理食塩水注射マウスと類似していた(図3C)。このことは、LIFが、Aktの活性化とは独立して心筋細胞死に対して防御することを示す。
【0270】
(実施例5:LIF遺伝子処置後の梗塞領域における新生血管形成)
(免疫化学分析)
免疫化学染色を、抗PECAM−1(CS31)、抗マウスKi−67、抗GFP、抗心臓トロポニンTおよびMF20などの一次抗体を60分間使用し、その後、ビオチンか、FITCか、またはローダミンと結合した、それぞれの二次抗体を室温で30分間用いて、パラフィン包埋切片を使って実施した。
【0271】
(LIF遺伝子処置後の梗塞領域における新生血管形成)
冠状動脈系の閉塞が、心筋梗塞後の「損傷した心臓」の直接の原因である。新脈管形成因子(サイトカインを含む)により誘導される新生血管形成は、梗塞の大きさの制限および心機能の改善において役割を果たし得る(Leor,J.,Prentice,H.,Sartorelli,V.,Quinones,M.J.,Patterson,M.,Kedes,L.K.&Kloner,R.A.、Cardiovasc.Res.35,431−441(1997);およびIsner,J.M.、Nature 415,234−239(2002))。LIFは、骨格筋においてのみならず、心筋領域においても、虚血性心疾患における新生血管形成を促進することが見出されている(Osugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Boil.Chem.277,6676−6681(2002))。これらに鑑み、本発明者らは、心筋梗塞後の新規な冠状血管の形成を調べた。免疫化学によって、境界区域または梗塞区域のいずれかにおける血管密度が、生理食塩水処置したものよりもLIFを使用した場合のほうが高いことが示された(図4Aおよび4B)。血管内皮増殖因子(VEGF)は、強力な新脈管形成タンパク質の1つとして知られる(Thompson,J.A.,Anderson,K.D.,DiPietro,J.M.,Zwiebel,J.A.,Zametta,M.,Anderson,W.F.&Maciag,T.、Science 241,1349−1352(1988))。心筋領域へのVEGF遺伝子の直接注射による新脈管形成は、梗塞心臓における心筋血流に寄与しないと報告されていたが(Schwarz,E.R.,Speakman,M.T.,Patterson,M.,Hale,S.S.,Isner,J.M.,Kedes,L.H.&Kloner,R.A.、J.Am.Coll.Cardiol.35,1323−1330(2000))、冠動脈の側副動脈血流が、VEGFの冠動脈内注入後に、虚血性心筋領域において増加した(Banai,S.,Jaklitsch,M.T.,Shou,M.,Lazarous,D.F.,Scheinowitz,M.,Biro,S.,Epstein,S.E.&Unger,E.F.、Circulation 89,2183−2189(1994))。増強された側副動脈血流は、梗塞の大きさの減少および心機能の改善に関連した。従って、本発明者らは、心筋領域におけるVEGFタンパク質の誘導を評価した。LIF注射は、生理食塩水注射と比較して、梗塞領域におけるVEGFレベルの有意な上昇を誘導した(図4C)。本発明者らの結果は、このLIF遺伝子移入が、心筋梗塞後の心臓の新生血管形成を改善し得ることを示唆する。
【0272】
(心筋梗塞後のLIFによる心筋細胞の分裂)
哺乳動物心臓における心筋細胞の増殖は多数の証拠によって示唆されている(Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998);Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002);およびKajstura,J.,Leri,A.,Finato,N.,Di,L.C.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,8801−8805(1998))。分裂中の心筋細胞の数は、心筋細胞複製が生じる不全心臓および梗塞心臓において増加し得る(Anversa,P.&Kajstura,J.、Circ.Res.83,1−14(1998);Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002);およびKajstura,J.,Leri,A.,Finato,N.,Di,L.C.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,8801−8805(1998))。心筋細胞増殖は、軽度であり、そして血液供給がほぼ維持される境界区域および非梗塞組織においてもっぱら出現するのみであることから、冠動脈が閉塞した梗塞領域において、処置せずに細胞増殖のみを介して新規な心筋領域を形成することは、不可能であると考えられていた(Beltrami,A.P.,Urbanek,K.,Kajstura,J.,Yan,S.M.,Finato,N.,Bussani,R.,Nadal,G.B.,Silvestri,F.,Leri,A.,Beltrami,C.A.&Anversa,P.、N.Eng.J.Med.344,1750−1757(2001))。しかし、心筋細胞のみの増殖は梗塞領域を再生し得ず、心筋梗塞後の心筋再構築および心不全の発症を予防し得ないにもかからわず、心筋細胞分裂の存在は、特定の因子による筋細胞複製の促進について、依然として実用性を提供する。LIF処置マウスは、梗塞心臓において有意な新生血管形成を示した。従って、本発明者らは、LIFが、増殖中の細胞の核においてのみ発現されるKi−67タンパク質の検出(Scholzen,T.&Gerdes,J.、J.Cell.Physiol.182,311−322(2000))により心筋梗塞後の心筋細胞の増殖を改善するか否かを調べた。本発明者らの結果は、低い程度の心筋細胞増殖が生理食塩水処置マウスにおける梗塞領域の周辺および離れたところで出現するが(図5)、その数は少なすぎて損傷した心筋領域を再構築できないという事実と一致した。しかし、LIFトランスフェクトマウスにおいて、心臓において(梗塞領域においてさえ)検出された非常に多数のKi−67陽性心筋細胞核が存在した(図5)。このことにより、LIFが、心筋梗塞後の心筋筋細胞増殖の増加を誘導することが確認された。LIFによる心筋細胞複製の改善は、直接的であり得、そして/または増加する局所血流を介してであり得る。なぜなら、LIFは、増殖因子または新脈管形成因子のいずれかとして作用し得るからである。
【0273】
(実施例6:骨髄細胞の単離および移植)
骨髄細胞(BMC)を、グリーン蛍光タンパク質(GFP)を全身に過剰発現する8週齢の雄性トランスジェニックマウスの大腿および脛骨から、パーコール勾配を使用して単離した。300μlのRPMI培地中に懸濁した5×107 BMC/マウスを、6時間前に照射しておいた(9Gy)8週齢雌性C57BL6中の静脈内に注射した。骨髄細胞移植の6週間後、このマウスを、心筋梗塞に供し、そしてLIF注射または生理食塩水注射に供し、同様に非移植マウスにおいても実施した。
【0274】
(骨髄細胞からの心筋細胞の再生)
最近、骨髄細胞またはES細胞が、心筋梗塞後の心筋領域を修復するための細胞移植に使用されている(Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Jakoniuk,I.,Anderson,S.M.,Li,B.,Pickel,J.,McKay,R.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Nature410,701−705(2001);Kocher,A.A.,Schuster,M.D.,Szabolcs,M.J.,Takuma,S.,Burkhoff,D.,Wang,J.,Homma,S.,Edwards,N.M.&Itescu,S.、Nat.Med.7,430−436(2001);Kamihata,H.,Matsubara,H.,Nishiue,T.,Fujiyama,S.,Tsutsumi,Y.,Ozono,R.,Masaki,H.,Mori,Y.,Iba,O.,Tateishi,E.,Kosaki,A.,Shintani,S.,Murohara,T.,Imaizumi,T.&Iwasaka,T.、Circulation 104,1046−1052(2001);Jackson,K.A.,Majka,S.M.,Wang,H.,Pocius,J.,Hartley,C.J.,Majesky,M.W.,Entman,M.L.,Michael,L.H.,Hirschi,K.K.&Goodell,M.A.、J.Clin.Invest.107,1395−1402(2001);およびMin,J.Y.,Yang,Y.,Converso,K.L.,Liu,L.,Huang,Q.,Morgan,J.P.&Xiao,Y.F.、J.Appl.Physiol.92,288−296(2002))。心筋領域の再生に対する骨髄細胞の驚くべき効果にも関わらず、骨髄細胞の適用は、臨床では、侵襲的方法の安全性が原因で限定されている。また、骨髄細胞は、心臓系列へと分化するように細胞自身を再プログラミングしなければならないことから、心臓幹細胞が、心筋領域の再生において骨髄細胞よりも有効であるようである。このことは、心臓幹細胞が、中間段階を回避し、そしてより早く成熟心筋細胞に到達することに起因する(Anversa,P.&Nadal,G.B.、Nature 415,240−243(2002))。心臓幹細胞によるアプローチは、表面マーカーの同定か、あるいは心臓幹細胞の移動、増殖および分化を媒介する増殖因子の認識を必要とする。心筋領域へのサイトカイン(SCFおよびG−CSF)(Orlic,D.,Kajstura,J.,Chimenti,S.,Limana,F.,Jakoniuk,I.,Quaini,F.,Nadal,G.B.,Bodine,D.M.,Leri,A.&Anversa,P.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98,10344−10349(2001))による事前処置により動員された骨髄細胞が、心筋細胞へと分化し得、心筋構造を再生し得、そして心筋梗塞後の損傷した心臓を修復し得ることを示すことが最近報告された。
【0275】
この知見にもとづき、この実施例において、本発明者らは、LIFが、骨髄細胞動員を媒介することを介してその効果を発揮するのか否かを調べた。本発明者らは、GFPトランスジェニックマウスから単離した骨髄細胞を照射マウス中に移植し、そして6週間後にそのマウスにおいて心筋梗塞を作製した。心臓におけるGFP発現細胞を検出するために、本発明者らは抗GFP抗体を使用した。本発明者らは、梗塞領域の境界区域において、LIF注射マウスでは生理食塩水処置マウスよりもかなり多くのGFP陽性細胞が存在することを観察した(図6A)。このことは、LIFが、心筋梗塞後の骨髄細胞の動員を改善することを示唆した。さらに、GFP陽性細胞の間で、生理食塩水処置よりも多くの細胞が心筋細胞へと分化していることが、LIF注射マウスにおいて見出された(図6Bおよび6C)。このことは、LIFが、骨髄細胞の動員のみならず、骨髄細胞から心筋細胞への分化も加速したことを示唆した。
【0276】
心筋梗塞直後のマウスにおいてLIF遺伝子治療を使用する本発明者らのこの研究は、心臓障害を克服することに対する明らかに有益な効果を示した。LIFが心筋梗塞後の心臓細胞の生存を維持し、状態を改善することは示唆されていた(Wang,F.,Seta,Y.,Baumgarten,G.,Engel,D.J.,Sivasubramanian,N.&Mann,D.L.、Circulation 103,1296−1302(2001);およびOsugi,T.,Oshima,Y.,Fujio,Y.,Funamoto,M.,Yamashita,A.,Negoro,S.,Kunisada,K.,Izumi,M.,Nakaoka,Y.,Hirota,H.,Okabe,M.,Yamauchi−Takihara,K.,Kawase,I.&Kishimoto,T.、J.Biol.Chem.277,6676−6681(2002))が、実際にLIFが血管新生を誘導するということが実証されたのはこれが初めてである。無論、LIFが、心筋細胞の増殖、心筋領域への骨髄細胞の動員および骨髄細胞から心筋細胞への分化を誘導し、その後、梗塞心筋領域の再生をもたらすというデータは、新規な知見である。LIFによる、期間全体(特に、心筋梗塞の初期段階)での死からの細胞の防御、ならびに心筋領域における新生血管形成による脈管構造損傷の減弱は、心筋細胞再生のための血液供給を保証する。LIFが、心筋梗塞後の心筋領域の再生についての促進因子としてどのように作用するかの理解は、心臓幹細胞の移動、増殖および分化についての機構の発見をもたらし得る。LIF遺伝子注射により誘導されるLIFの上昇は1ヶ月以内に消失するので、心臓に対する1ヶ月間のLIFの効果が生じるはずである。LIF遺伝子移入が損傷心臓においてのみLIF含量を増加させるが正常な心臓では増加させない機構が、不明であるが、興味深い。この実施例では、このLIF遺伝子は骨格筋に直接注射された。従って、非侵襲性かつ安全なストラテジーとしての本発明者らの実験は、多数の罹患者にとって適用可能な治療法を提供する。このような方法は、心筋梗塞後に発生するような心不全を確実に軽減するまたは除去するものとしては、従来なく、本発明の一つの優れた効果といえる。
【0277】
(実施例7:他のLIFによる効果)
上述のキメラLIFの代わりに、ヒトLIFおよびマウスLIFを使用して、上述の実施例と同じ実験を行った。すると、その結果、同じように、LIFが心不全を軽減し、骨髄細胞を動因し、血液細胞の再生を促進する結果を示すことがわかった。したがって、LIFのようなgp130リガンドは、レセプターとの結合活性が保たれる限り、本発明がもたらす効果を奏することが判明した。
【0278】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0279】
【発明の効果】
本発明のgp130リガンド(例えば、LIF)は、心筋梗塞などの後に発生する心不全を成功裏に治療することが明らかになった。このことは従来達成されなかった格別の効果である。また、本発明のgp130リガンドは、血管新生を予想外に促進し、心筋細胞の維持および増殖(分化)にも予想外に効果があった。また、本発明のgp130リガンドは、予想外に、骨髄細胞の動員を促進し、また予想外に骨髄細胞の心筋細胞への分化を促進した。従って、本発明のgp130リガンドを含む組成物は、それ自体が心筋梗塞などの後の心不全を軽減および/または除去するための治療薬として有用であるだけでなく、心筋細胞および/または新生血管の調製のための薬剤としても有用であり得る。
【0280】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、LIFの血中濃度を示す。12週齢の雄性マウスを心筋梗塞手術に供し、その直後に100μgのpCAGGS−LIF cDNAを含むPBS 100μlを、骨格筋に注射した。このマウスの血液を、この手術後の示される時刻に収集した。血清中のLIFの濃度を、LIF/HILDA EASIAキットにより測定した。その値を、2匹のマウスの平均として示した。
【図2】図2は、梗塞の大きさおよび線維症の程度を示す。心臓を、生理食塩水もしくはLIF遺伝子のいずれかを注射した、シャムに供したマウスおよび心筋梗塞に供したマウスから、切除した。A.組織学的顕微鏡写真。固定した心臓をパラフィン中に包埋し、横断切片化し、そしてH−EおよびAzanにより染色した。心筋梗塞後2週目のマウス由来の心臓の例示的染色を示す。LIF注射したマウスにおけるLV腔の拡張および梗塞壁の非薄化は、生理食塩水注射マウスより軽減していた。B.梗塞の大きさ。LVFWにおける総心筋細胞の面積を、生理食塩水もしくはLIF遺伝子を注射した、シャム手術したマウスおよび心筋梗塞手術したマウスのいずれか由来の、Azan染色した中央横断切片において測定した。梗塞の大きさを、方法において記載したように算出し、そしてシャム手術したマウスのLVFWにおける総心筋細胞の面積のパーセンテージとして表す。値を、3匹のマウスの平均±標準誤差として示す。C.線維化の程度。線維症の面積を、心臓の中央横断切片から、方法に記載したように測定した。データを、3つの心臓の平均±標準平均誤差として示す。
【図3】図3は、心筋梗塞の2週間後の心臓におけるTUNEL分析およびAktの活性化を示す。マウスを、方法に記載したように、心筋梗塞およびLIF遺伝子移入手順に供した。A.生理食塩水を注射したマウスおよびLIF遺伝子注射マウスの心筋梗塞領域の境界区域における例示的TUNEL染色(本来の倍率×400)。B.TUNEL陽性心筋細胞。TUNEL陽性心筋細胞を、梗塞領域全体において計数し、そして数/mm2として表した。データを、3匹のマウスの平均±標準平均誤差として示す。
【図4】図4は、心筋梗塞後の心臓における新規な冠状血管形成およびVEGFの発現を示す。マウスを、心筋梗塞と、LIF遺伝子注射または生理食塩水注射とに供し、そしてその心臓を、すぐに(0D)か、または2日目(2D)、1週間(1W)後および2週間(2W)後に切除した。A.心筋梗塞の2週間後の心臓由来の梗塞領域の境界における、PECAM抗体により免疫染色した例示的写真。B.LVFWにおけるPECAM陽性脈管構造を計数し、そして数/mm2として表した。データを、3匹のマウスの平均±標準誤差として示す。C.VEGFタンパク質の発現。LV組織から抽出した総タンパク質を12% SDSゲル中で分離し、そしてブロットした膜を、VEGF抗体とともに、それぞれインキュベートした。その免疫反応性のバンドをECL系を使用して検出した。3つの独立した実験からの例示的オートラジオグラムを示す。
【図5】図5は、1週間心筋梗塞に供した心臓における分裂中の筋細胞のKi−67標識を示す。マウスを、心筋梗塞と、生理食塩水注射またはLIF遺伝子移入手順とに供し、心臓の免疫化学を、方法に記載したように実施した。同じ切片における二重染色のための系(VECTOR laboratories)を使用して、Ki−67および心臓トロポニンTを標識した。A.例示的写真。茶色の染色は、Ki−67陽性細胞核を示し;赤色標識は、心臓トロポニンT抗体による心筋細胞細胞質の染色を示す。Ki−67抗体により染色した核は、正常な核(ヘマトキシリンで対比染色した)よりも大きいようである。下の図は、新たに形成された心筋細胞における、酷似する分裂核を示す。B.境界区域における105個の筋細胞当たりのKi−67陽性心筋細胞の数。データを、3匹のマウスの平均±標準誤差として表した。
【図6】図6は、心筋梗塞の2週間後の、動員された骨髄細胞による心筋細胞の再生を示す。GFPトランスジェニックマウス由来の骨髄細胞を、照射したレシピエントに移植し、そしてそのマウスに、方法に記載したように、心筋梗塞と、生理食塩水注射またはLIF遺伝子注射とをした。その心臓の免疫蛍光染色を、動員された骨髄細胞および心筋細胞を標識するために、それぞれ抗GFP抗体およびMF20を使用して、実施した。A.境界区域におけるGFP陽性細胞の例示的染色。B.GFP陽性心筋細胞の例示的染色。赤色蛍光は、心筋ミオシンを示し;グリーン蛍光は、GFP陽性細胞を示す。C.切片全体における105個の心筋細胞当たりのGFP陽性心筋細胞の数。データを、2匹のマウスの平均として表した。
Claims (47)
- 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
- 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する能力を有する、請求項1に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、請求項1に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、請求項1に記載の組成物。
- 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、請求項1に記載の組成物。
- 心不全を軽減または除去するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
- 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、請求項6に記載の組成物。
- 心不全を軽減または除去するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、請求項8に記載の組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、請求項8に記載の組成物。
- 前記心不全は、心筋梗塞後に生じたものである、請求項8に記載の組成物。
- 心筋細胞を調製ための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
- 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、請求項12に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、請求項12に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、請求項12に記載の組成物。
- 心筋細胞を調製ための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
- 心筋細胞を調製するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列または該配列番号2に示す配列に対して1または複数の置換、付加もしくは欠失を有する配列をコードする、請求項17に記載の組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、請求項17に記載の組成物。
- 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドを含む、組成物。
- 前記gp130リガンドは、LIFレセプターに結合する、請求項20に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列と少なくとも70%の相同性を有するか、または配列番号2に示す配列に対して1または複数のアミノ酸の置換、付加もしくは欠失を有する、請求項20に記載の組成物。
- 前記gp130リガンドは、配列番号2に示す配列を有する、請求項20に記載の組成物。
- 血管新生を促進するための組成物であって、LIF様因子を含む、組成物。
- 血管新生を促進するための組成物であって、gp130リガンドをコードする核酸分子を含む、組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列と少なくとも70%の相同性を有する、請求項25に記載の組成物。
- 前記核酸分子は、配列番号1に示す配列を有する、請求項25に記載の組成物。
- 心不全を軽減または除去するためのキットであって、
1)請求項1〜13のいずれか1項に記載の組成物;および
2)心不全発生後に該組成物を注入することを指示する、指示書、
を備えるキット。 - 前記指示書は、
前記心不全発生後24時間以内に前記組成物を注入することを指示する、
請求項28に記載のキット。 - 前記指示書は、
前記組成物を下肢大腿部の骨格筋に投与することを指示する、
請求項28に記載のキット。 - 前記心不全は、心筋梗塞発症後に発生したものである、請求項28に記載のキット。
- 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、請求項34に記載のキット。
- 心筋細胞を調製ための方法であって、
1)原料細胞を提供する工程;および
2)該原料細胞に請求項12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。 - 前記原料細胞は、胚性幹細胞、骨髄細胞および組織幹細胞からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
- さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、請求項33に記載の方法。
- 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィン(CT−1)からなる群より選択される、請求項33に記載の方法。
- 血管新生を促進する方法であって、
1)所望の部位に請求項12〜19のいずれか1項に記載の組成物を提供する工程、
を包含する、方法。 - 前記所望の部位は、血管新生を必要とする部位である、請求項37に記載の方法。
- さらなる細胞生理活性物質を投与する工程をさらに包含する、請求項37に記載の方法。
- 前記さらなる細胞生理活性物質は、HGF、VEGFおよびカルジオトフロフィンからなる群より選択される、請求項37に記載の方法。
- 心不全を軽減または除去する方法であって、
1)心不全発症後に請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物を投与する工程
を包含する方法。 - 前記投与する工程は、前記心不全発生後24時間以内に行われる、請求項41に記載の方法。
- 前記組成物は、下肢大腿部の骨格筋に投与される、請求項41に記載の方法。
- 前記心不全は、心筋梗塞後に発生したものである、請求項41に記載の方法。
- 前記組成物は、心筋梗塞部位に投与される、請求項44に記載の方法。
- 請求項33に記載の方法によって得られた細胞。
- 請求項37に記載の方法によって得られた血管。
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