JP2014005521A - 熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.10%以上0.24%以下、Si:0.001%以上2.0%以下、Mn:1.2%以上2.3%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上1.0%以下、Ti:0.060%以上0.20%以下、およびN:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼材を、Ac3点以上(Ac3点+100℃)以下の温度域に保持した後に、600℃以上750℃以下の温度域における平均冷却速度が3℃/秒以上200℃/秒以下、フェライトの析出開始温度が600℃以上750℃以下、および、150℃以上600℃以下の温度域における平均冷却速度が10℃/秒以上500℃/秒以下で冷却し、引張強度(TS)が980MPa以上である熱間プレス鋼板部材を製造する。
【選択図】図1
Description
1.化学組成
はじめに、本発明に係る熱間プレス鋼板部材(以下、単に「鋼板部材」ともいう。)および熱間プレス用鋼板の化学組成を上述のように規定した理由を説明する。以下の説明において、各合金元素の含有量を表す「%」は、特に断りがない限り質量%を意味する。
Cは、鋼の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を主に決定する、非常に重要な元素である。C含有量が0.10%未満では焼入れ後の強度で980MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.10%以上とする。一方、C含有量が0.24%超では、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相となり、延性の劣化が顕著となる。したがって、C含有量は0.24%以下とする。溶接性の観点からはC含有量を0.21%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは0.18%以下である。
Siは、鋼の延性をさほど劣化させることなく、あるいは、延性を向上させて、焼入れ後の強度を高める作用を有する元素である。Si含有量が0.001%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.001%以上とする。なお、Si含有量を0.05%以上にすると、延性がさらに向上する。したがって、Si含有量は0.05%以上とすることが好ましい。また、溶接性を向上させる観点からはSi含有量を0.2%以上とすることが好ましい。一方、Si含有量が2.0%超では、上記作用による効果は飽和して経済的に不利となる上、めっき濡れ性の低下が著しくなり、不めっきが多発する。したがって、Si含有量は2.0%以下とする。また、熱間プレスの製造工程における加熱温度を下げ、製造コストを抑える観点からはSi含有量を0.6%以下にすることが好ましい。
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。しかし、Mn含有量が1.2%未満では、その効果が十分でないだけでなく、焼入れ後の強度で980MPa以上の引張強度を確保することが非常に困難となる。したがって、Mn含有量は1.2%以上とする。なお、Mn含有量を1.4%以上にすると、熱間プレスの製造工程における加熱温度を860℃以下とすることが可能となり、これにより、加熱炉の損傷を抑制するとともに生産性を向上させることが可能となる。このため、Mn含有量は1.4%以上とすることが好ましい。一方、Mn含有量が2.3%超では、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相となり、延性の劣化が顕著となる。したがって、Mn含有量は2.3%以下とする。なお、曲げ性の観点からは、焼入れ後の組織がMn偏析による顕著なバンド状にならないようことが重要であるので、Mn含有量を2.2%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは2.1%以下である。
Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるが、固溶強化により鋼の強度を高める作用を有するので積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.05%超では溶接性の劣化が著しくなる。したがって、P含有量は0.05%以下とする。P含有量は好ましくは0.018%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、P含有量を0.003%以上とすることが好ましい。
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、溶接性の観点からは低いほど好ましい。S含有量が0.01%超では溶接性の低下が著しくなる。また、後述するようなTi含有量で組織が複相の場合、Ti系の硫化物が析出することによって、靭性の劣化が顕著となる。したがって、S含有量は0.01%以下とする。S含有量は好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
Alは、鋼を脱酸して鋼材を健全化する作用を有する元素であり、また、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させる作用を有する元素でもある。sol.Al含有量が0.001%未満では上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.015%以上である。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、溶接性の低下が著しくなるとともに、酸化物系介在物が増加して表面性状の劣化が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.080%以下である。
Tiは、本発明において重要な元素であり、鋼中に炭化物、窒化物、または炭窒化物である微細な析出物を形成し、組織を微細化するとともに、適切な量のTiを含有させることによって、フェライト変態を著しく加速することが可能となり、鋼の延性を著しく向上させる。そして、C含有量およびMn含有量を厳格に規定し、さらに、後述するような熱間プレス条件を組み合わせることによって、980MPa以上の引張強度を有しながら優れた延性を有する熱間プレス鋼板部材を得ることが可能となる。Ti含有量が0.060%未満では、フェライト変態の促進が十分でなく、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相になりやすくなり、延性を向上させることが困難である。したがって、Ti含有量は0.060%以上とする。好ましくは0.075%以上である。一方、Ti含有量が0.20%超では、鋳造時および熱間圧延時に粗大な炭窒化物が形成されてしまい、靭性の劣化が顕著となる。したがって、Ti含有量は0.20%以下とする。好ましくは0.18%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、溶接性の観点からは低いほど好ましい。N含有量が0.01%超では溶接性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
これらの元素は、いずれも鋼の焼入れ性を高め、かつ焼入れ後強度を安定して確保するために効果のある元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、NbおよびVについては、それぞれ0.20%を超えて含有させると、熱間圧延および冷間圧延が困難になるだけでなく、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相になりやすくなり、延性の劣化が顕著となる。また、Crについては、1.0%を超えると、逆に安定した強度確保が困難になる。Moについては、0.15%を超えて含有させると、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相になりやすくなり、延性の劣化が顕著となる。そして、CuとNiはそれぞれ1.0%を超えて含有させても、上記効果は飽和して経済的に不利となるうえに、熱間圧延や冷間圧延が困難となる。なお、上記効果をより確実に得るには、Nb:0.003%以上、V:0.003%以上、Cr:0.005%以上、Mo:0.005%以上、Cu:0.005%以上およびNi:0.005%以上の少なくとも一つを満足させることが好ましい。
これらの元素は、いずれも鋼中の介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、靭性を高める作用を有する元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、いずれも0.01%を超えて含有させると、表面性状の劣化が顕在化する場合がある。したがって、各元素の含有量はそれぞれ上記のとおりとする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、これらの元素の少なくとも一つの含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
Bは、鋼の靭性を高める作用を有する元素である。したがって、Bを含有させてもよい。しかし、0.005%を超える量でBを含有させると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になるだけでなく、焼入れ後の組織がマルテンサイト単相になり、延性の劣化が顕著となる。したがって、B含有量は0.005%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
Biは、組織を均一にし、延性を一層高める作用を有する元素である。したがって、Biを含有させてもよい。しかし、0.01%を超える量でBiを含有させると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になる。したがって、Bi含有量は0.01%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
次に、本発明に係る熱間プレス鋼板部材の鋼組織について説明する。
上記化学組成を有する鋼に後述するような条件で熱処理を施すことによって、微細なフェライトがネットワーク状に分布し、延性の向上に効果的な組織が得られる。フェライトの面積率が10%未満では、フェライトの殆どが孤立し、鋼の延性を向上させることができない。したがって、フェライトの面積率は10%以上とする。一方、フェライトの面積率が70%超では、強化相であるマルテンサイトの面積率を確保できなくなり、焼入れ後の強度で980MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、フェライトの面積率は70%以下とする。
マルテンサイトを鋼中に形成させることにより、焼入れ後の強度を高めることができる。マルテンサイトの面積率が30%未満では、焼入れ後の強度で980MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。したがって、マルテンサイトの面積率は30%以上とする。一方、マルテンサイトの面積率が90%超では、フェライトの面積率が10%未満となり、上述したように、鋼の延性を向上させることができない。したがって、マルテンサイトの面積率は90%以下とする。
本発明に係る熱間プレス鋼板部材は、フェライトおよびマルテンサイトからなる組織を有すること基本とするが、製造条件によっては、フェライトおよびマルテンサイト以外の相または組織として、ベイナイト、残留オーステナイト、セメンタイトおよびパーライトの1種または2種以上が混入する場合がある。この場合、フェライトおよびマルテンサイト以外の相または組織が10%を超えると、これらの相または組織の影響により、目的とする特性が得られない場合がある。したがって、フェライトおよびマルテンサイト以外の相または組織の混入は10%以下とする。すなわち、フェライトおよびマルテンサイトの合計面積率は90%以上とする。
本発明に係る熱間プレス鋼板部材は、自動車の軽量化に寄与する十分な強度として、980MPa以上の引張強度(TS)を有する。
次に、上記の特徴を有する本発明に係る熱間プレス鋼板部材の好ましい製造方法について説明する。
熱間プレスに供する鋼材の加熱は、下記実験式(i)により規定されるオーステナイト単相になるAc3点(℃)以上(Ac3点+100℃)以下の温度域に1分間以上10分間以下保持することにより行う。
Ac3=910-203×(C0.5)-15.2×Ni+44.7×Si+104×V+31.5×Mo-30×Mn-11×Cr-20×Cu+700×P+400×Al+50×Ti ・・・・(i)
ここで、上記式中における元素記号は、前記鋼板の化学組成における各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
600℃以上750℃以下の温度域における冷却は、フェライト変態とベイナイト変態とを制御して、目的とする鋼組織を確保するために重要である。
フェライトの析出開始温度は、フェライトの性質を制御し、目的とする延性を確保するために重要である。
150℃以上600℃以下の温度域における冷却は拡散型変態が起きないように冷却する。
(2)水冷金型の場合、600℃到達直後に金型中の流水量を変化させて、冷却速度を変える;
(3)600℃到達直後に、金型と部材の間に水を流し、その水量を変化させることで、冷却速度を変える。
表1に示した化学組成を有する鋼板(板厚t:1.2mm)を素地鋼板とした。これらの鋼板は、実験室にて溶製したスラブを、熱間圧延、冷間圧延により製造した鋼板である。
各鋼板から、圧延方向に対して直角方向を引張方向とするJIS5号引張試験片を採取し、TS(引張強度)およびEl(全伸び)を測定した。
各鋼板の圧延方向および圧延方向に対して直角方向から試験片を採取し、圧延方向断面、圧延方向に対して直角方向断面の組織を電子顕微鏡で観察し、8mm2の領域を写真撮影し、画像解析によりフェライトとマルテンサイトの面積率を調査した。
これらの結果を表3に示す。
なお、表1〜3において下線を付された数値は、その数値により示される含有量、条件、または機械特性が本発明の範囲外であることを示している。
供試材No.5、13、16、18、20、22、24および27は、化学組成が発明で規定する範囲を外れ、所望の組織が得られないため、目標とする引張強度が得られなかった。
さらに、供試材No.9、10および12は、製造条件が発明で規定する範囲を外れ、所望の組織が得られないため、延性が悪かった。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.10%以上0.24%以下、Si:0.001%以上2.0%以下、Mn:1.2%以上2.3%以下、P:0.05%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.001%以上1.0%以下、Ti:0.060%以上0.20%以下、およびN:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、面積%で、フェライト:10%以上70%以下、マルテンサイト:30%以上90%以下、フェライトおよびマルテンサイトの合計面積率:90%以上である鋼組織を有し、引張強度(TS)が980MPa以上である機械特性を有することを特徴とする、熱間プレス鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Cr:1.0%以下、Mo:0.15%以下、Cu:1.0%以下およびNi:1.0%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上をさらに含有する、請求項1に記載の熱間プレス鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上をさらに含有する、請求項1または請求項2に記載の熱間プレス鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、B:0.005%以下を含有する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材。
- 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Bi:0.01%以下を含有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材。
- 請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼板であって、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材の素材として用途に供されることを特徴とする、熱間プレス用鋼板。
- 請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼材を、Ac3点以上(Ac3点+100℃)以下の温度域に1分間以上10分間以下保持した後に、600℃以上750℃以下の温度域における平均冷却速度が3℃/秒以上200℃/秒以下、フェライトの析出開始温度が600℃以上750℃以下、および、150℃以上600℃以下の温度域における平均冷却速度が10℃/秒以上500℃/秒以下である冷却条件で冷却することを特徴とする、熱間プレス鋼板部材の製造方法。
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