JP2013537569A - イオンビームを用いた有機材料の深層グラフト処理方法 - Google Patents

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Abstract

イオンビーム(X)を用いてモノマー(M)を有機材料の深層(1)にグラフトする深層グラフト処理方法であって、
・単位面積あたりのイオン量は、1012ions/cm2から1018ions/cm2の範囲におさまるように選択され、それによって、0nmから3000nmの範囲の大きな厚みに遊離基溜まり(1)が形成され、
・親水性、疎水性、抗菌性の特性の少なくとも1つを有するモノマー(M)が遊離基溜まり(1)がグラフトされる。
これによる効果として、長期の試用期間にわたって効果が持続する、親水性、疎水性、抗菌性の特性の少なくとも1つを有する有機材料が得られる。
【選択図】図1

Description

本発明は、イオンビームを用いて有機材料の深層にモノマーをグラフトする方法を提案する。
本発明は、特に、厚い疎水性バリアを生成し、エラストマへの水性ニス(water-based varnish)の定着性を大幅に向上させ、長期間にわたる効果の持続を特徴とする抗菌性バリアを構成すること、を目指すものである。本発明の用途は医薬包装の分野に見出される。当該分野では、例えば、環境中の湿気がビンを通して拡散するのを防止することが望まれる。ビン内に格納された有効成分の劣化を避けるためである。本発明の用途は他にもあり、例えば、エラストマに塗布する水性ニスを使用する産業分野は全て対象となる。当該分野では、第1に、硬度を高めることで(ニスとエラストマとの間の)物理的適合性を向上させること、第2に、親水性を高めることでエラストマ(例えばワイパーブレード)へのニスの定着を促進すること、が求められる。もう1つの用途は、石油工業で使用される電線用のPEEKシースを処理することであり、こうした処理は、温度及び湿気が極端な環境において酸化への耐性を高める目的で行われる。
「有機」との用語は、ある材料が、共有結合によって、炭素原子同士又は炭素原子と他の原子とが結合することによって構成されていることを意味する。例として、このカテゴリには、ポリマー、エラストマ、又は樹脂のグループに属する材料が含まれる。一般論として、こうした有機材料については、固有の特徴として、電気絶縁体であること、電離放射線を受けて遊離基を生じさせること、が挙げられる。電離放射線には、紫外線(UV)、X線、ガンマ(γ)線放射、電子ビーム、イオンビームがある。
一例として、電離放射線を受けた場合、C=C型の共有結合からは2つの遊離基が生じる(“.”で示す)。その各々が1つの炭素原子の上に位置する(.C−C.)。そして、その各々が他の分子(例えばO2)と結合することができるが、その結合は基反応において生じ、当該基反応は3つのステップ(1:開始、2:成長、3:阻害)によって特徴づけられる。
「モノマー」との用語は、ポリマーの合成に使用される単純分子を意味する。これらのモノマーの有機材料へのグラフトを可能にするためには、これらモノマーが、電離放射線によって有機材料内に生じた遊離基との反応が可能な不飽和結合(例えば、二重結合)を有している必要がある。
ポリマー材料を電子衝撃型又はガンマ放射線型の電離放射線にさらすことで、遊離基が生成される(イオン化反応)。当該遊離基は、架橋反応として知られる反応で結合することで、有機材料の原子間に新たな共有結合を生じさせることができる。また、当該遊離基を利用すれば、外部から、有機材料の原子を用いて、モノマーをグラフトすることもできる。遊離基は、ビニル型又はアクリル型の不飽和結合を有するモノマーと反応する。電子衝撃又はガンマ放射線による電離放射線を、照射装置と組み合わせて使用すれば、非常に異なった形式の支持体をグラフトすることができる。それら支持体とは、例えば、薄膜、テキスタイル面、コンパウンド充填顆粒(compound-filled granules)、医療機器である。グラフトが可能なビニル型、アリル型、アクリル型の不飽和結合を有するモノマーは、電離放射線を作用させれば、炭素鎖に結合することも可能であろう。モノマーが有する他の化学官能基(又はリガンド)によっては、支持体材料には、特定の特性(防腐特性、イオン交換特性、付着促進特性など)が永続的に与えられる。
しかしながら、電子衝撃やガンマ放射線を用いたグラフト方法には、電離粒子発生手段やその範囲に関連した問題があり、そのために、用法が大きく制限されている。
ガンマ線を発生させるユニットは、技術的見地からも安全の見地からも、管理が極端に難しい。こうしたユニットは、ロッドの形をした放射性コバルト60線源から成り、当該ロッドは、厚み2m[メートル]の壁を備えたコンクリート製の遮蔽区画に密封されている。当該区画の中には、線源のストックを貯蔵するプールも収容されている。これは、「休止」状態にある線源からの生体保護を目的としている。「稼働」状態では、容器(別名トレイ)を運ぶ搬送機が、処理対象の物品を線源の周辺で移動させると共に、当該物品を搬送して区画に出し入れする。こうした複雑な構成のおかげで、放射線を確実に封じ込めながら、物品を停止させることなしに通過させることができる。線源のパワーは数百万キュリーに達する場合もある。
電子ビームを発生させるユニットは同様に、全て使用が難しい。材料中の電子の減速によって生じる強いX線を遮断するために、厚い遮蔽システムを設ける必要がある。更に、電子ビームは、絶縁有機材料の中心における静電荷の蓄積を原因とした機能停止を引き起こす場合がある。
また、上とは別の、物理的な問題もある。これは、ガンマ放射線及び電子の過度の透過力に関連している(ガンマ放射線で数メートル、電子で数mm [ミリメートル])。ここまで大きな透過力は、有機材料のバルク特性を変化させることなく表面を処理する、という内容の作業には適していない。実際、エラストマの場合では、バルク弾性特性が失われたり剛性が増したりして、剛性のレベルが上がり、形状加工された表面(例えば、フロントガラス)に形を合わせることができなくなってしまう場合もあるが、こうした事態は望ましくない。
更に別のグラフト方法も存在する。これは、冷プラズマを用いて最表面に作用するものである。冷プラズマは、気体を(通常は低真空下で)放電の作用によって励起することで得られる電離媒質である。高周波プラズマ(kHz[キロヘルツ]からMHz [メガヘルツ])、マイクロ波プラズマ(2.45GHz [ギガヘルツ])が最も広く使われている。それによって、中性分子(大半を占める)、イオン(負イオン及び正イオン)、電子、ラジカル種(化学的に非常に活発)、励起種の混合が得られる。こうしたプラズマが「冷」と呼ばれるのは、熱力学平衡状態にない媒質だからである。熱力学平衡状態では、基本的にエネルギは電子に捕らえられているが、気体の「マクロ的」温度は環境温度に近い値に留まる。電極から発せられた電子は、気体分子と衝突して活性化させる。その後、電離又は解離が生じ、これは遊離基の生成を伴う。これらの励起種は、反応装置のチャンバに拡散し、とりわけ基材の表面に到達する。そこで、多くの種類の表面反応が発生する(非常に低いエネルギでの注入(2、3nm [ナノメートル])、エネルギ移動、結合の生成又は破壊)。表面で生じる反応の種類に応じて、表面の活性化、層の成長、浸食などが起こりうる。冷プラズマを用いた化学的グラフトの本質は、酸素、窒素、空気、アンモニア、テトラフルオロカーボンなどの気体を、活性種と共に操作することにあり、当該活性種はポリマーの高分子連鎖と化学反応して、処理気体に特有な共有結合(C−O、CN、C−Fなど)が形成されることになる。こうした種類の処理は、プラズマにさらされる表面の、一番上の数ナノメートルにしか作用しない。こうした方法で活性化されたポリマー表面については、その後、特定の生体適合性を有する分子(ヘパリン、リン脂質など)と接触させることで、化学結合による結合を生じさせる場合もある。一般に、化学的グラフトは、放電が行われる領域の外に処理対象の材料を配置して実行される(放電後)。グラフトの厚みが非常に小さいため、処理の効果が継続する期間は短い。また、化学的グラフトは使用状況(摩耗、摩擦、すり減り)の影響を受けやすく、これら条件によっては非常に短期間で効果が消滅する。
このため、有機材料の深層グラフト処理方法が必要となるが、そこでは、直ちに実用化が可能な方法を用いることが望ましい。こうした有機材料を大量に、そして妥当な価格で提供できるようにするためである。
米国特許出願公開第2008/279911号明細書 英国特許第2 071 673号明細書
本発明は、安価であると共に、多くの用途の必要を満たす形で表面処理を行うことの可能な、有機材料用の深層グラフト処理方法を提供することを目的とする。
そこで、本発明は、以下のような、ステップ(a)、(b)から成る、有機材料用の深層グラフト処理方法を提案する。すなわち、
(a)イオン衝撃処理
・イオンビームのイオンは、ヘリウム(He)、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のイオンを構成要素として構成されるリストから選択され、
・イオン加速電圧は10kV[キロボルト]以上又は1000kV以下であり、
・有機材料の処理温度は当該有機材料の融解温度以下であり、
・単位面積あたりのイオン量は、1012ions/cm2から1018ions/cm2の範囲におさまるように選択され、イオン衝撃によって、次のステップでモノマーのグラフトに用いられる遊離基溜り(reservoir)を成す層が形成される。当該遊離基溜りは、数マイクロメートル程度の厚みの表面層を特徴とする。また、この遊離基溜りについては、必須ではないが、最表面層によって周囲の環境から隔絶してもよい。当該最表面層は、イオン衝撃によって完全に架橋されたものであって、基本的にアモルファス炭素によって構成される。最表面の当該アモルファス炭素層は、本質的に反応性が低く、遊離基溜りを周囲環境から守って安定させる作用を有し、また、有機材料の表面の硬度を高めるのに役立つ。
(b)グラフト処理
遊離基溜りに存在する分子にモノマーをグラフトさせる目的で慎重に選択された拡散温度において、表面から遊離基溜りに向けてモノマーを拡散させる処理。拡散温度は、以下の結果が得られるように選択しなければならない。
・処理厚み(安定化層+遊離基溜り)の中に存在する遊離基が活性化される。
・表面から安定化層を通して遊離基溜りに向かうモノマーの拡散プロセスが促進される。
・遊離基のメカニズムが促進され、その結果、溜りに存在する分子にモノマーがグラフトされる。
・環境温度に戻る過程で有機材料の特性が損なわれないことが保証される。
1つの実施の形では、ガラス転移温度Tgが最適と思われる。別の実施の形では、ガラス転移温度Tgと融解温度との間で拡散温度を探る、というオプションも可能であるが、この場合は、冷却条件に留意して、有機材料が元々有していた特性が回復されるようにする。最後に、3つ目の実施の形では、環境温度からガラス転移温度Tgの範囲内で拡散温度を探る、というオプションも可能であるが、これは、遊離基の密度及び反応性とモノマーの拡散速度とが、グラフトに要する時間を大幅に短縮できる程度であることが前提となる。拡散温度の選択は、有機材料及びグラフト可能なモノマーの性質に大きく依存する。
効果的な点として、本発明に従ってイオンを選択し、これらイオンを用いたイオン衝撃の条件を定めれば、モノマーを1マイクロメートル程度の厚みで高密度に深層グラフトするのに最適な遊離基溜り密度を特定することができる。こうしたモノマーは、疎水性、親水性、抗菌性、更には導電性を有したものとすることができる。つまり、本発明によれば、疎水性、親水性、抗菌性、又は導電性まで有する、厚くて非常に有効なバリアを形成することができる。モノマーの例として、ここでは以下を挙げる。
・親水性モノマー:acrylic acid
・疎水性モノマー:2- (perfluoro-3-methylbutyl) ethylmethacrylate、3- (perfluoro-3-methylbutyl)-2-hydroxypropyl methacrylate
・抗菌剤モノマー:dimethyloctyl ammonium ethylmethacrylate、bromide又はchloride、ethylene glycol methacrylate phosphate - silver ion complex
加速電圧及び単位面積あたりイオン量について、本発明に従って選択した範囲を用いれば、イオン衝撃による深層グラフトが可能となると共に、1マイクロメートル程度の厚みの処理が可能となる最適化実験条件を選択することができる、ということを発明者は確認した。
更に、発明者は、本発明の方法が「低温」(具体的には、環境温度)で使用できること、そして、本発明の実施中も有機材料の温度は融解温度以下に保たれること、を確認できた。従って、有機材料の物理化学的な変化や遊離基の自己結合が避けられる、という効果が実現される。
本発明の方法には、バルク特性(bulk property)を変えることなく1マイクロメートル程度の厚みにわたって、有機材料の表面特性を変化させることができる、という効果がある。
本発明による範囲での単位面積あたりのイオン量の選択は、事前の調整ステップにおいて行われる。当該調整ステップでは、考慮対象の有機材料で構成されたサンプルに、He、B、C、N、O、Ne、Ar、Kr、Xeから選択した1つのイオンを用いて、イオン衝撃を加える。この有機材料へのイオン衝撃は、有機材料の複数の異なる領域において行われ、本発明の範囲でイオン量を変化させながら行われる。そして、処理した領域の表面抵抗値の経時変化を、環境条件において計測する。これは抵抗値ジャンプ(resistive jump)を特定するためである。抵抗値ジャンプは、表面よりも下にある遊離基溜りの非常に急速な酸化を特徴とする。この現象は、ある程度の期間の経過後に発生するが、その期間は、有機材料中の酸素の拡散に関連して決まる。
発明者は、抵抗値ジャンプの大きさから溜りに存在する遊離基の密度が推測されること、そして、所定の有機材料に用いるイオン量の選択は、抵抗値ジャンプが最大となる量を求める形でおこなうべきであること、を確認した。
処理した領域の表面抵抗値(単位はΩ/□[オーム/平方])の計測はIEC規格60093に従って行う。
いかなる特定の科学的理論にも拘束されるものではないが、抵抗値ジャンプに関するこうした現象は、空気中から遊離基溜りへの酸素の拡散と、その後の、当該領域に存在する分子の非常に急速な結合(遊離基のメカニズムによる)とから説明できるように思われる。この酸化プロセスの影響により、遊離基の密度(言い換えれば、表面導電率)が突然低下する。有機材料の表面抵抗の経時的変化を分析すると、この現象は、ステップの形で表れる抵抗値ジャンプによって示される。これよりも量を大きくすると、これら遊離基は姿を消し、長期にわたって非常に安定した電気的特性を備えたアモルファス炭素が残される。その後、有機材料の表面抵抗の変化は、長期にわたって一定を保つ。本発明の方法によれば、当該深層の遊離基溜りの存在を示す抵抗値ジャンプを確認することができる。抵抗値ステップの大きさから、この溜りの中に存在する遊離基の密度が推測される。よって、これができるだけ大きくなるように選択すべきである。
モノマーの深層グラフトに密接に関連した疎水性、親水性、抗菌性といった特性を強化することに加えて、本発明の方法を用いれば、アモルファス炭素の最表面層を形成することで、1マイクロメートル以下の厚みで有機材料の表面を硬化させることができる。こうしたアモルファス炭素層を得るには、注入するイオンの量を調節して、最表面では有機材料を完全に架橋させる一方、深い位置では部分的に架橋させるようにする。発明者は、この効果が、電子サイクロトロン共鳴(ECR)源で得られる多重エネルギ、多重荷電のイオンの場合に特に強化されることを確認した。そして、電荷が低く、その分不活発なイオンは、最表面の有機材料(アモルファス炭素層)の全体的な架橋に関与し、その一方、電荷が高く、その分活発なイオンは深層の遊離基溜りの形成に関与する、と考えられる。つまり、アモルファス炭素の形で完全に架橋される最表面層と、これに続いてモノマーでグラフトされる深層とを、連続した2層として形成することができる。
効果的な点として、こうした共重合化によれば、複数の特性の向上を明確な組み合わせの形で実現できる(堅さ/疎水性;硬さ/粘着力;硬さ/抗菌性、その他)。
本発明の方法には、有機材料のバルク特性を変化させることなしに、厚く、それゆえに過酷な使用条件でも長期間効果を発揮できる、という疎水性又は抗菌性のバリアを生成する効果がある。実際的な利用法として、環境中の湿気を通さないようにプラスチック製のビンに処理を施せば、こうしたプラスチック製のビンは、ガラス製のビンの代わりに使用することができるであろう。また、別の例では、本発明の方法は、表面の硬さと優れた湿潤性(親水性)とを併せ持ち、水ベースのラッカーの使用に非常に適したエラストマを提供することができる、という効果を有する。
様々な実施の形があり、これらは組み合わせが可能である。
・単位面積あたりのイオン量を1013ions/cm2から5×1017ions/cm2の範囲とすること。
・ポリマー材料はポリマー、エラストマ、または樹脂のファミリーに属すること。
・イオン加速電圧を20kVから200kVの範囲とすること。
・ECR源によってイオンを生成すること。ECR源には、小型でエネルギを節約できるという効果、そして、複合層(アモルファス炭素層/グラフト可能層)の形成に適した多重電荷、多重エネルギのイオンを生成できるという効果がある。
本発明に関する上記以外の特徴及び効果については、添付図面を参照しながら、非限定的な実施形に関する以下の詳細な説明を読むことで明らかになるであろう。
アモルファス炭素の最表面層と、より深い位置にある遊離基溜まりの層とで構成される層の形成の様子を示す図である。 本発明による処理が行われていない場合と、処理が行われた場合とについて、有機材料の表面抵抗の特徴的な経時変化を示す図である。 異なる量のHe+、He2+イオンでポリカーボネートを処理した実験における表面抵抗の変化を示す図である。本発明で推奨する方法を用いれば、特に深い層へのグラフトに有効な遊離基溜まりを特定することができる。当該特定の作業は、特に顕著な抵抗値ジャンプを見つけ出すことである。 本発明の方法によって得られる抗菌性表面の第1の実施の形態を示す図である。 本発明の方法によって得られる抗菌性表面の第2の実施の形態を示す図である。 本発明の方法によって処理される抗菌性表面に置かれた流体への殺菌性イオンの放出の様子を示す図である。
本発明の実施例では、ポリカーボネート製サンプルをECR源から発せられるヘリウムイオンで処理する場合について検討した。
イオンビームはHe+、He2+イオンから成り、電流は5mA[ミリアンペア]であった。He+、He2+イオンの比率は、(He+/He2+)=10であった。引出・加速電圧は35kVとし、He+エネルギは35keV [キロ電子ボルト]、He2+エネルギは90keVであった。
処理対象サンプルをビームに対して移動させ、移動速度は40mm/s[ミリメートル/秒]であり、戻りの際に1mmずつ横方向にずらした。必要な処理量を達成するために、複数回移動させる形で処理を実行した。
ポリカーボネートの表面抵抗の経時変化を、IEC規格60093に従って実行した。すなわち、2つの電極を、一方は径を有するディスクの形で、他方は内径Dを有して前記ディスクと中心が一致したリングの形で構成し、1分後にこれら電極の間の電気抵抗を計測した。電極をポリカーボネートの表面に置き、100V [ボルト]の電圧をかけた。Dは15mmとし、は6mmとした。表面抵抗の計測は1015Ω/□未満の値についてのみ可能であった。
本発明の第1の実施例では、PP(ポリプロピレン)のサンプルを使用し、アクリル酸を用いたグラフト処理を検討した。処理には、ECR源から発せられたヘリウムイオンを用いた。
イオンビームは、電流が300μA[マイクロアンペア]、He+及びHe2+イオンから成り(比率:He+/He2+=10)、引出・加速電圧は35kVであった。He+エネルギは35keVであり、He2+のそれは90keVであった。処理対象サンプルをビームに対して移動させ、移動速度は80mm/秒であり、戻りの際に3mmずつ横方向にずらした。必要な処理量を達成するために、複数回移動させる形で処理を実行した。
ポリプロピレンPPのサンプルに、量を変えながらイオン衝撃を与えた。量は、2×1014ions/cm2 [平方センチメートル当たりのイオン数]、5×1014ions/cm2、1015ions/cm2であった。
グラフト処理条件は同一であった。すなわち、10重量%のアクリル酸溶液(CH2=CH−COOH)に24時間浸漬し、温度は40℃に保った。
液滴の接触角を計測したところ、グラフト処理後の表面の湿潤性の変化が確認された。疎水性挙動から親水性挙動への変化という特徴が見られた。
この結果を下の表1にまとめた。
Figure 2013537569
PPの挙動は変化した。処理前のサンプルがいくぶん疎水性挙動(接触角は76度)を示していたのに対し、処理後のサンプルの挙動はいくらか親水性に傾いている(接触角は64度に下がった)。親水性挙動は、5×1014ions/cm2から1015ions/cm2の範囲の量を用いた場合について相当に向上したことが分かる。Heで処理したPPのFTIR [フーリエ変換赤外線]分析からは、Heで処理したポリカーボネートPCの表面導電率の計測で見られたのと同じ程度の量であることが分かった。
本発明の第2の実施例では、ポリプロピレンのサンプルを使用し、アクリル酸を用いたグラフト処理を検討した。処理にはECR源から発せられる窒素イオンを用いた。
イオンビームは、電流が300μAであって、N+、N2+及びN3+イオンから成り(比率は、順番に60%、40%、10%)、引出・加速電圧は35kVであった。N+のエネルギは35keV、N2+のそれは90keV、N3+のそれは105keVであった。
PPのサンプルに、量を変えながらイオン衝撃を与えた。量は、2×1014ions/cm2、5×1014ions/cm2、1015ions/cm2、5×1015ions/cm2であった。
処理対象サンプルをビームに対して移動速度は80mm/秒で移動させた。戻りの際に3mmずつ横方向にずらした。必要な処理量を達成するために、複数回移動させる形で処理を実行した。
以下の2種類のグラフト処理条件を用いた。その結果を表2にまとめた。
・10容量%のアクリル酸溶液(CH2=CH−COOH)、温度は40℃に維持;
・10容量%のアクリル酸溶液(CH2=CH−COOH)、温度は60℃に維持。
Figure 2013537569
留意すべき点は、処理され、40℃又は60℃のアクリル酸溶液に浸漬されたサンプルの全てについて、実際にグラフトが生じたことである。処理を行わずに溶液に浸漬されたサンプルでは、湿潤性に関して全く変化が見られず、これは、明らかに、本発明の方法で推奨する条件でのイオン衝撃がグラフト実現の源であることを示している。1015ions/cm2未満の量では、接触角は2度の増減で、大差はないように見える。1015ions/cm2、5×1015ions/cm2の量では結果が逆転しているのが分かる。量を1015ions/cm2として60℃で浸漬した場合、水の液滴の接触角は、40℃で浸漬した場合よりも小さかった(70度<75度)。量を5×1015ions/cm2として60℃で浸漬した場合、水の液滴の接触角は、40℃で浸漬した場合よりも大きかった(65度<75度)。特定の科学的理論に拘束されるものではないが、量が少ない方が(2×1014ions/cm2、5×1014ions/cm2)安定化層は薄くなると考えてよいであろう。アクリル酸分子は、40℃でも60℃でも、この安定化層を比較的短時間で通過し、通過時点では未だ、イオン衝撃によって作られる溜まり(reservoir)の中心においてさえ、遊離基の自己結合は始まっていない。溜まりからの遊離基によるアクリル酸のグラフトは、その後全体に及ぶ。接触角は、遊離基の溜まりを表面から隔絶する安定化層の厚みと共に大きくなる傾向がある。量が増やされると(すなわち、安定化層の厚みが特定の閾値に達すると)、温度は遊離基の自己結合を多少促進する形で作用するが、これはグラフトには不都合である。つまり、アクリル酸が、遊離基の溜まりに到達してその内部でグラフトを実現する時間がなくなってしまう。実際、60℃における液滴の接触角は、40℃の場合よりも高い。発明者は、60℃でグラフトを行うよりも、40℃で、さらには環境温度でグラフトを行う方が好ましい、と結論することができる。
また、アクリル酸のグラフトについては、より洗練された形での調査方法(FTIR分析)でも確認を行った。異なる量を用いた複数のサンプルについて調査したIR [赤外線] スペクトルでは、1710cm-1 [毎センチメートル]の周辺で吸収ピークを示した(カルボニル基の吸収ピーク:C=O)。そして、およそ3200cm-1で吸収ピークが出現した(水酸基(OH)の吸収ピーク)。これら2種類の官能基(カルボニル基、水酸基)は、PPには存在しないため、アクリル酸由来としか考えられない。
下の表3、4は、それぞれ40℃、60℃の浸漬温度で得られる結果を示す。
Figure 2013537569
吸収ピーク(透過率の低下)が最も大きくなる最適量は、およそ5×1014ions/cm2であることが分かる。
Figure 2013537569
60℃での浸漬の場合、吸収ピーク(透過率の低下)が最も大きくなる最適量は、およそ1015ions/cm2であったことが分かる。これは、COグループ(1710cm-1)にもOHグループ(3200cm-1)にもあてはまる。吸収ピークは60℃の場合の方が40℃の場合よりも低かった。これにより、一部の遊離基が温度の影響で部分的に自己結合したことが確認された。
発明者は、事前のテスト及び推論に基づいて、以下を示すことができる。すなわち、所定のエネルギを有するあらゆる種類のイオンについて、異なるエネルギを有する別種のイオンについて同一条件下で得られる結果を利用することで、最大の抵抗値ジャンプステップを示す量を求めることが可能である。その関係は以下の式で示される。
N1×Eion(E1)=N2×Eion(E2)
この式において、
・N1は、イオン(1)の最大抵抗値ジャンプステップに関わるイオン量(単位面積あたりのイオンの数)である;
・E1はイオン(1)のエネルギである;
・Eion(E1)は、イオン(1)のポリマー中の軌跡の開始における電離エネルギである。このエネルギは、電離の形でイオン(1)がポリマーの電子に解放するエネルギに相当する;
・N2は、イオン(2)の最大抵抗値ジャンプステップに関わるイオン量(単位面積あたりのイオンの数)である;
・E2はイオン(2)のエネルギである;
・Eion(E2)は、イオン(2)のポリマー中の軌跡の開始における電離エネルギである。
この電離エネルギは、イオンの性質及びエネルギ、そしてポリマーの性質によって決まる。これらの計算を実行するための方法及びデータは、文献“The Stopping and Range of Ions in Matter"(J.F. Ziegler著)(volumes 2-6、Pergamon Press社、1977〜1985)、文献“The Stopping and Range of Ions in Solids"(J.F. Ziegler、J.P. Biersack、U. Littmark著)(Pergamon Press社、 New York, 1985(新版、2009))(J.P. Biersack、L. Haggmark著、 Nucl. Instr. and Meth.、vol. 174、257、1980)に具体的に開示されている。
更に、そのような計算の容易化や実行のためのソフトウェアも開発され、販売されている。例えば、「SRIM」(“The Stopping and Range of Ions in Matter”)や「TRIM」(“The Transport of Ions in Matter”)という商品名で、これらは、特にJames F. Zieglerによって開発されたものである。例えば、PP(ポリプロピレン)については、以下の対応表(表5)が得られる。
Figure 2013537569
表の第1列は、公知の実験データの再掲であり、使用するイオンの種類がHe、イオンのエネルギが35keVである。PPで中での軌跡の開始におけるヘリウムの電離エネルギは10eV/Å[電子ボルト/オングストローム]である(TRIM&SRIMの提供)。1015ions/cm2との量は、PCの抵抗値ジャンプステップについて実験で特定された量である。PCの電離エネルギは9.5eV/Åで、PPのそれとほとんど同じであることが分かっている。
第2列では、イオン(N)の性質が分かる。エネルギは50keVであり、電離エネルギは20eV/Åである(TRIM&SRIMの提供)。抵抗値ジャンプステップが最大となる量は、関係式:N=(10×1015)/20=5×1014ions/cm2の適用によって導き出される。この量は、PPについてFTIRで導き出される値に比較的近い(表3を参照)。
第3列は、検証が必要な、アルゴンを用いたグラフトの別の例である。この列では、抵抗値ジャンプステップが最大となる量は、約5×1014ions/cm2と導き出された。言い換えると、窒素ビームで得られる量に比較的近い。
本発明の方法は以下の効果によって特徴づけられる。
・溶液のモノマーのアクセスにとって最適量の遊離基溜まりの生成。プラズマ、電子ビーム、ガンマ放射線を用いる他のグラフト技術には、遊離基が深い位置で生成されるためにモノマーがアクセスできず、材料のバルク特性も劣化する、という不都合がある。
・上記の遊離基溜りが、環境温度において蓄積でき、更に、グラフト前の環境条件下でも長期間にわたって蓄積されること。処理されたポリマーは、イオン衝撃の数日後にグラフトを行うことができる。これは、電子ビームやガンマ放射線を用いる他のプラズマグラフト技術では不可能である。これら技術では安定化層が生成されない。処理されたポリマーはグラフトまでの間、−20℃よりも低い低温で、暗所に保管しなければならない。
・グラフト層がモノマーで飽和させられること。
殺菌作用を有することが知られているイオン(例えば、銀イオン(Ag+)、銅イオン(Cu2+)、亜鉛イオン(Zn2+)など)を蓄積し、放出するグラフト層を生成するための実施形は、2つ存在する。どちらの実施形を選択するかは、基本的にコストによって決まる。ここで選択基準の例を挙げるとすれば、グラフトされるモノマーのコスト、そして、抗菌作用を得るために実行する必要のある手順の数である(浸漬する溶液は1種類か2種類か)。
第1の実施形は、ポリマーにイオン衝撃を与えた後、金属塩の溶液に浸漬する、という手順から成る。当該溶液の例としては、金属アクリル酸塩溶液(CH2=CH−COO-+(M+))又は(2 CH2=CH−COO-+(M2+))が挙げられる。使用が考えられる例としては、銅アクリル酸塩、銀アクリル酸塩、亜鉛アクリル酸塩がある。銅アクリル酸塩には殺菌特性があることが知られており、特に艇体用の汚れ止めペイントに用いられる。これは、海生生物の付着を防ぐことが目的である。海事法では、環境への影響を理由として、銅の浸出は、海水と接触する最初の14日間で、1日あたり20マイクログラム/cm2を超えてはならない、と定めている。抗菌グラフトの原理は次の通りである。すなわち、アクリル酸塩が遊離基と反応して基材に結合する。それとともに、殺菌性金属イオンがCO2-の末端に弱く結びつく。その後、金属イオンは外部に放出され、殺菌作用を発揮する。
第2の実施形は以下の2つのステップから成る。
・第1ステップでは、ポリマーにイオン衝撃が与えられ、そして当該ポリマーは、金属イオンとの間で弱結合(キレート化タイプ)を確立する能力のあるモノマーでグラフトされる。ここで挙げられる例はアクリル酸である。アクリル酸の水酸基の非結合電子対は、キレート化によって金属イオンを捕えることができる。
・第2ステップでは、グラフト層に殺菌性金属イオンを付着させる。その手段は、当該イオンを含んだ溶液への浸漬である。一旦グラフト層に蓄積された殺菌性金属イオンは、グラフト層に塗布された流体と接触すると直ちに解放される。殺菌性金属イオンの濃度が、当該イオンの性質に固有の殺菌濃度閾値を上回ると直ちに、殺菌性金属イオンは流体に拡散し、殺菌作用を発揮する。銀イオン(Ag+)の場合、20ppm [parts per million、100万分の1](言い換えると、1kg[キログラム]あたり20mg)の濃度閾値で、以下の細菌に対する殺菌性が高くなることが知られている。すなわち、Staphylococcus aureus (メチシリンに耐性のあるStaphylococcus aureusあるいはMRSA)、Enterococcus faecium (バンコマイシンに耐性のあるEnterococcusあるいはVRE)、Enterococcus fecalis Burkholderia cepacia Alcaligenes sp.、Pseudomonas eruginosa、Klebsiella pneumoniae Pseudomonas sp.、 Acinetobacter sp.、itrobacter koseri。アクリル酸でグラフトされ、Ag+イオンを付着された層1cm2に1cm3の流体が置かれる場合、有効な殺菌作用を発揮するためには、20μg/cm2に相当するAg+イオンが放出されなければならない。銅の場合、殺菌濃度閾値はおよそ10ppm、言い換えれば10μg/cm3[マイクログラム/立方センチメートル]である。グラフト層に殺菌性イオンを付着させるための溶液は数多くある。硫酸銅(CuSO4)、硝酸銀(AgNO3)、塩化銀の溶液が例として挙げられる。
いずれの実施形でも、抗菌性グラフト層は、殺菌性イオン交換器として働いて以下の効果を実現するように、その特徴を調整するのが効果的である。
・長期間にわたって以下のような効果的な抗菌作用を保証すること。
−殺菌濃度閾値を上回っており、
−想定される用途にとって有意な期間にわたって効果を維持する。
・処理の環境又は健康に関する悪影響を抑制すること。
・例えば、Ag+イオンを得るための貴金属の量を減らすことで、実施のコストを下げること。
発明者は、イオン衝撃のパラメータに基づいて金属イオン蓄積量に関する予測を立てるのに有用な公式を確立することを目的とした、金属イオンのグラフト及び蓄積のモデルを開発した。
このモデルが基づいているのは、第1に、実験によって観察されるグラフト層の特定の性質であり(遊離基溜まりは表面の高さにあって、アモルファス炭素の安定化層によって保護される)、第2に、立体障害の考慮である(その作用は、存在する遊離基の数に関わりなくグラフトを制限することである)。
このモデルには、以下の点がまとめられている。
・最大の抵抗値ジャンプステップが生じる量。
−ポリマーを構成するモノマーは、それが持ちうる遊離基の数について均等なチャンスを有する。遊離基の数は最表面からイオンの軌跡の終わりまでの間で減少していく。
−これらの遊離基が安定化層に蓄積され、その数はグラフトの瞬間まで一定である。
・グラフト用のモノマーのグラフト処理は、ポリマーを構成するモノマーの大きさによって制限される。グラフトされるモノマーの大きさがポリマーを構成するモノマーの大きさに匹敵する場合、ポリマーを構成するモノマーに複数のモノマーをグラフトすることはできない。グラフトには以下の規則がある。すなわち、ポリマーを構成するモノマーにグラフトできるモノマーの数Ngは、Lp>Lgとした場合、(Lp/Lg)から(Lp/Lg)−1の範囲となる。ここで、Lgはグラフトされるモノマーの長さであり、Lpはポリマーを構成するモノマーの長さである。Lp<Lgとした場合、NgはLp/(Lg+1)に等しくなる。
・グラフトされたモノマーは殺菌性金属イオンと弱結合する。グラフトされたモノマーと結合する殺菌性イオンの数は、その化学組成を考慮することで求められる。例えば、グラフトされたモノマーがアクリル酸などであれば、キレート化によって収容できるのはAg+又はCu2+イオン1つだけである。その1つは、水酸基(OH)の2つの非結合性ダブレットのうちの1つと結合する。これらの仮定から、発明者は以下の公式を確立することができた:
ion=(1/2).6.02×1023.Ep.(ρ/Mmol).K.A
・Nionは、蓄積及び放出することの可能な単位面積あたりの殺菌性イオンの数を示す。
・1/2:最表面からイオンの軌跡の終わりまでに遊離基が直線的に減少することを考慮した補正要因を示す。
・Ep:イオン衝撃及びグラフトの厚みを示す。この厚みは、イオンのエネルギ及び性質と、ポリマーの性質とによって決まり、TRIM&SRIMソフトウェアを用いて計算することができる。
・ρ:ポリマーのバルク密度を示す;
・Mmol:ポリマーを構成するモノマーのモル重量を示す;
・K:ポリマーを構成するモノマー1つにつきグラフトされるモノマーの平均数を示す;
−Lp>Lgの場合、KはLp/LgからLp/Lg−1の範囲にあり、平均値は、K=(2×(Lp/Lg)−1)/2”で得られる。
−Lp<Lgの場合、K=Lp/(Lg+1)である。
−この数値Kは、実験によって精度を上げたり修正したりしてもよいし、更には実験から直接導き出してもよい。これを実現するには、RBS(Rutherford Back Scattering)として知られる技術を用いる。当該技術を用いれば、層ごとにスプレーを行うことで、質量分析によってスプレーされた元素の構成を導き出すことができる。例えば、グラフトされたアクリル酸の存在に起因する単位面積あたりの酸素原子の数を評価し、単位面積あたりのアクリル酸モノマーの数を導き出すことができる。先ず、アクリル酸モノマー1つにつき2つの酸素原子が必要であることが分かっており、次いで、これらの原子がポリマーから生じることはありえないことが分かっているからである。実験的な補正要因の適用によって、数値Kは修正することができる。
・数値Aは、グラフトされたモノマー1つにつき結合される(蓄積、放出可能な)金属イオンの数である。数値Aはグラフトされたモノマーの化学組成から導き出される。例えば、銀アクリル酸塩モノマーの場合、グラフトされたアクリル酸塩モノマー1つには、銀イオン(Ag+)が1つだけ存在する:A=1。別の例として、アクリル酸モノマーの場合、1つの水酸基(OH)に銀イオン(Ag+)は1つだけ、キレート化によって結合される:A=1。このモデルでは、蓄積可能な金属イオンは全てが完全に放出可能であると推定される。この数値Aは、1μg[マイクログラム]程度の非常に微妙な測定値から、修正又は導き出され、当該測定値は微量天秤を用いて得られる。これを行うには、グラフトされたポリマーの殺菌性金属イオン溶液への浸漬の前後の重量差(μg/cm2で表す)、あるいは、グラフト処理され、殺菌性金属イオンが付着されたポリマーの脱イオン水への浸漬の前後の重量差を評価する必要がある。そうすれば、実験的な補正要因の適用によって、数値Aは修正することができる。
単位面積あたりの電荷Csは、単位面積につき蓄積され放出される殺菌性金属イオンの質量として定義されるが、以下の式で導き出すことができる。
Cs=(Nion/Nat)×ρ
・Nionは単位面積あたりの蓄積、放出可能な殺菌性金属イオンの数を示す。
・ρは、殺菌性金属イオンの発生源である金属のバルク密度を示す。
・Natは、殺菌性金属イオンの発生源である金属の単位量あたりの原子の数を示す。
この式を用いれば、ポリマーのグラフト層に蓄積され放出されるイオンの数の推定値を得ることができ、所定量の流体に関する殺菌効果を推計、予測することができる。
例えば以下の場合について考える。すなわち、安定化層と最適な遊離基溜まり(最大の抵抗値ジャンプステップ)が得られるように算出された異なる量の3種類のイオン、He、N、Arを用い、同じエネルギでイオン衝撃をPP(ポリプロピレン)に与え、イオン衝撃の後には、アクリル酸でグラフトが行われ、最終的に銀又は銅の溶液に浸漬される、という場合である。式のパラメータは以下の値で初期設定される。
・ポリマーPPのバルク密度:ρ=0.9g/cm3 [グラム/立方センチメートル]。
・ポリマーのモノマーのモル重量:Mmol=42g [グラム](モノマー:CH2=CH−CH3)。
・ポリマーを構成するモノマー1つにつきグラフトされるモノマー数の推計値:K=0.5。グラフトされるモノマー(CH2=CH−COOH)のサイズは、ポリマー(CH2=CH−CH3)のモノマーのそれにほぼ匹敵する。
・グラフトされたモノマー1つに対して結合する金属イオンAg+又はCu2+の数の推計値:A=1。
蓄積され放出される、殺菌性金属イオンの表面付着量を計算し、これを殺菌濃度閾値に関する知識と組み合わせて考えた場合、効果的な殺菌作用を備えることのできる流体量の予測が可能となる。
一例として、イオン衝撃及びグラフト処理のパラメータが固定の場合、Ag+イオンの溶液への浸漬の後に、表6に示す表面付着量の推計値が得られる。
Figure 2013537569
Heでイオン衝撃を与え、アクリル酸でグラフトし、その後Ag+イオンの溶液で浸漬した層によって蓄積され解放されるAg+イオンの表面付着(surface loading)は、およそ1.9cm3の流体量を処理する場合には高い殺菌特性を有することが分かる(Ag+の殺菌濃度は20ppm、言い換えれば、20μg/cm3である)。Nによるイオン衝撃の場合、蓄積され放出されるAg+イオンの表面付着はより少ないものとなるが、それでも、0.65cm3の流体量の処理には有効である。Arによるイオン衝撃の場合、蓄積され放出されるAg+イオンの表面付着を利用すれば、厚み2mmの流体膜を処理することができる。従って、本発明の方法により処理される表面の殺菌特性は、想定される用途が流体の液滴を対象とするのか流体膜を対象にするか、などに応じて調整することができる。
固定のパラメータでイオン衝撃を与えグラフト処理した後にCu2+イオンの溶液への浸漬を行う場合については、表7に示す表面付着量の推計値が得られる。
Figure 2013537569
Ag+イオンの場合と同じ方法では、Heでイオン衝撃を与え、アクリル酸でグラフトし、その後Cu2+イオンの溶液に浸漬して得られた層に対し蓄積され解放されたCu2+イオンが付着すると、2.1cm3程度の流体量で処理した場合には、高い殺菌特性を有することが分かる(Cu2+の場合の殺菌濃度閾値は10ppm、言い換えると10μg/cm3に等しい)。
所定の1種類のイオンに対して用いる別の手法があり、それは、イオンのエネルギを調節するというものである。言い換えると、処理厚みEpの深さを調整して、殺菌濃度閾値(殺菌性金属イオンに固有な値)を上回るのに充分な殺菌性金属イオンの付着が蓄積され、所定の量及び接触面積を有する流体に放出されるようにする。流体に放出することのできる金属イオンの付着量は、殺菌性表面と流体との接触面積に比例する。
一例として、35keV、50keV、70keVの3通りのエネルギにより、窒素イオン1種類のみでイオン衝撃を与え、アクリル酸でグラフトした後に、Cu2+銅の溶液に浸漬したPPの場合を挙げる。ここでは、接触面積が1cm2で量が1cm3の流体量において(10μg/cm3)に等しい殺菌濃度閾値を上回ることのできるエネルギを特定する目的で、各々のエネルギに対して蓄積されて放出可能となったCu2+イオンの表面付着量を推計する。表面付着量推計値を表8に示す。
Figure 2013537569
この表から分かるのは、およそ60keVのエネルギがあれば、1cm2の面積上に広がる1cm3を処理するのに充分な10μg/cm2の殺菌性電荷を生じさせることができる、ということである。
本発明の方法を用いれば、最適な特性(親水性、疎水性、抗菌性、金属イオン交換体)を有するグラフト層の形成が可能となるイオン衝撃パラメータを決定することができ、多くの実施条件を開放しておくことができる(グラフトすされるモノマーの溶液の性質、温度、濃度、そして、グラフトされた層に付着される金属イオン)。これら実施条件が影響を与えるのは化学反応速度の点(結果を得る速度)だけである。これらの条件は結果自体にはほとんど影響しない。これらの実施条件は業者の権限の範囲内であり、業者は、生産率、経済的コストその他とのすりあわせを行う事前のテストの間に、これら条件を調節しなければならない。一般論として、発明者の推奨するところでは、事前のテストには40℃を超えない温度の溶液を用いてグラフト前の遊離基の再結合を避け、同溶液の濃度は10容量%未満として、殺菌性イオンを用いたグラフト処理中又は付着処理中の溶液の均質性を高いものとするのがよい。
細菌類や真菌類へのAg+、Cu2+イオンの作用の範囲は部分的に重複する。細菌や真菌の処理においては、前者の方がより効果的であり、更に言えば、後者とは全く比較にならない。殺菌性表面のいくつかの具体例では、これらイオンの作用の範囲を広げることができる。そのための手法の一例を挙げれば、イオン衝撃を与えアクリル酸でグラフトしたPPを殺菌性のCu2+及び/又はAg+の金属イオン溶液の中に同時又は順番に一方向又は別方向に浸漬する。そうすると、最終的には、特定の殺菌性金属イオンの蓄積比率が得られる(例えば、70%が銀イオン(Ag+)、30%が銅イオン(Cu2+)という比率で殺菌性金属イオンが蓄積される)。
図1は、本発明の方法によるイオン衝撃で作られる有機材料の厚み構造を示す。イオン(X)が厚みepenにわたって有機材料に入り込む際、その過程で遊離基を発生させる。その先の層(3)では、有機材料は本来の特性を維持している。好ましい点として、最表面遊離基は、領域(2)において迅速に結合し、架橋によって安定した層を形成する。当該安定した層は基本的に、厚みestabのアモルファス炭素によって構成される。これより深い位置にある遊離基は、厚みeradを有する、より反応性の高い層(1)を構成し、これはグラフト(1)に適している。この層(1)を遊離基溜まり(r)と呼ぶ。ここにある遊離基は、この後のモノマー(M)のグラフトに利用できる。ただし、ここで留意すべき点として、最表面で入射イオンから放出されるエネルギの量が不充分で、最表面において完全な架橋が実現されない場合には、領域(2)が存在しないこともありうる。こうして安定した層(2)が存在しない場合、有機材料の層は入射イオン(X)にアクセス可能な厚みにわたって、遊離基(1)の溜まりと結びつく。言い換えると、epenはeradと等しくなる。遊離基溜まり(1)は、その場合、直に外部に接することになる。第2のステップにおいて実行されるグラフトとは、上記のとおり存在しない場合もありうるアモルファス炭素(2)の安定化層を通して、モノマー(M)を有機材料の表面から遊離基溜まり(1)に向けて拡散させることである。遊離基溜まり(1)への拡散の後、モノマー(M)が(r)と反応することで、グラフト化学合成物(g)が生成されるが、これは、元のモノマーの親水性、疎水性、又は抗菌性の特性を備える。厚みeradは20nmから3000nmの範囲にあり、これら数値は、入射イオンのエネルギを考慮することで得られる、これらイオンの軌跡の最小値、最大値に対応する。厚みestabは、処理される厚みに応じて、さらには、完全に架橋する場合、わずかに架橋する場合、あるいは架橋しない場合に応じて変化し、0nmから3000nmの範囲でアモルファス炭素が形成される。この場合の規則は、epen=erad+estabで表される。
図2は、周囲環境における表面抵抗の経時変化を示す。
(1)処理されていない有機材料(曲線1)。本質的に強い絶縁性を有する。
(2)本発明の方法を用いて処理した同じ有機材料(曲線2)。最適な遊離基の最適化された溜まりを有する。このことは、期間(d)の後に見られる抵抗値ジャンプステップ(h)によって容易に確認される。この遅延は、環境中の酸素がアモルファス炭素層(1)を通って拡散するのに要する時間に対応している。この層(1)が厚いほど、遅延も長くなる。
(3)イオン量を増やして処理した同じ有機材料(曲線3)。架橋によって厚いアモルファス炭素層が生じ、これは、抵抗が小さく、時間が経っても非常に安定している。
横座標(T)は時間を表し、縦座標(R)は表面抵抗(単位はΩ/□)を表す。
図3は、実験で得られたポリカーボネートの表面抵抗の経時変化を、4種類の異なるヘリウム量について示している。ヘリウム量は、1015ions/cm2(曲線1)、2.5×1015ions/cm2(曲線2)、5×1015ions/cm2(曲線3)、2.5×1016ions/cm2(曲線4)である。抵抗の測定はIEC規格60093に従って行った。本方法で用いた抵抗測定法では、1015Ω/□以上の抵抗を計測することはできなかった。計測できなかった部分はグラフでは、1015Ω/□を超えた位置の範囲Nで示されている。横座標はサンプルが処理されてから表面抵抗が計測されるまでの時間を示し、単位は日数である。縦座標は表面抵抗の計測値を示し、単位はΩ/□である。ヘリウム量が1015ions/cm2の場合に対応する曲線1からは、本発明の方法を用いた処理の後、抵抗値は1ヵ月をかけて1.5×1016Ω/□から5×1012Ω/□へと約3桁下がり、その後突然、元の値である約1.5×1016Ω/□を回復したことが分かる。3桁の抵抗値ステップは、30日目あたりの段差の形で明らかに見て取ることができる。この抵抗値ステップは、空気中の酸素と迅速に結合する深層遊離基溜まりの存在を明らかにしている。いかなる特定の科学的理論にも拘束されるものではないが、この30日という期間は、環境中の酸素が拡散して、周囲環境と遊離基溜まりとの間に介在する最表面の比較的アモルファスな炭素の層を通過するのに要する時間を示しているはずである。それぞれ、2.5×1015ions/cm2、5×1015ions/cm2、2.5×1016ions/cm2のヘリウム量に対応する曲線2、3、4からは、120日超の期間、表面抵抗がほぼ1011Ω/□、5×109Ω/□、1.5×108Ω/□の値で安定していることが分かる。いかなる特定の科学的理論にも拘束されるものではないが、2.5×1015ions/cm2を上回る量を用いて得られる層は、非常に安定している。これは、極めてわずかな遊離基しか含まれていないためだと考えられる。これらの層は完全な架橋の賜物であり、これによって、アモルファス炭素原子の層が形成されることになる。表面抵抗の測定は、モノマーの最適な深層グラフトを可能にするイオン量(この例では1015ions/cm2)を特定する方法として効果的なものである。本発明の方法では、一般論として、抵抗値ジャンプステップが最大となる量を特定することを推奨する。この特定処理に要する時間を短縮するためには、サンプルの温度を高くすることで、環境中の酸素の拡散速度を上げるのがよいであろう。
図4は抗菌層を形成するための実施形を示す。ここでは、イオン(X)を用いたイオン衝撃をポリマーに加えることで遊離基溜まり(1)を作り出す。複数種のモノマー(M)を含んだ単一の溶液への浸漬によって、当該遊離基溜まりでモノマー(M)のグラフトが実現される。モノマー(M)は、グラフト可能部分(Gx-)と当該(Gx-)に弱結合する殺菌性金属イオン(mx+)とから成る。グラフトの実行が終わると、蓄積されていた殺菌性金属イオン(mx+)は、ステップ(a)において、安定化層(2)を通って放出され、その殺菌効果を発揮する。使用できる殺菌性金属イオンの例としては、銀アクリル酸塩(CH2=CH−COO-+Ag+)がある。
図5は、抗菌層を形成するための第2の実施形を示す。ここでは、第1のステップとして、イオン(X)を用いたイオン衝撃をポリマーに加えることで遊離基溜まり(1)を作り出し、モノマーを含んだ溶液への浸漬によって、当該遊離基溜まりでモノマー(M)のグラフトが実現される。それに続いて、第2のステップとして、グラフトされたモノマーを殺菌性金属イオン(mx+)の溶液に浸漬する。当該殺菌性金属イオン(mx+)は、サブステップ(a)において拡散して安定化層(2)を通過し、蓄積されて層(1)のモノマー(M)に弱結合(キレート化)する。その結果、サブステップ(b)では、再び拡散して安定化層(2)を通過し、殺菌作用を発揮することができる。ここで挙げる例では、アクリル酸の溶液中でグラフトを行い、硫酸銅溶液への浸漬でCu2+イオンの蓄積を得る。
図6は、グラフト層(1)に蓄積されていた殺菌性金属イオン(mx+)が、液滴(4)の形で層(2)の表面に置かれた流体の中に拡散する様子を示す。抗菌作用が発揮されるのは、流体に拡散する金属イオンの量が閾値殺菌濃度(Ag+イオンで20ppm、すなわち20μg/cm3、銅イオン(Cu2+)で10ppm、すなわち10μg/cm3と推計される)を上回った時である。同一体積(V)の流体では、拡散速度は接触面積(S)に応じて変化する。表面の親水性が大きいほど、接触面積も広がる。そして、殺菌性金属イオンの流体への拡散も高速化する。ある量の流体に拡散する殺菌性金属イオンの最大濃度は(Cs×S/V)に等しい。ここで、Csは抗菌性表面の殺菌性金属イオンの表面付着量である。加速電圧1000kVで得られるグラフトの深さからして、1000μg/cm3を上回る蓄積は不可能である。
本発明の方法の各種の実施の形は、組み合わせることも可能である。
・有機材料はイオンビームに対して0.1mm/sから1000mm/sの範囲の速度VDで移動させればよい。これにより、サンプルを移動させて、ビームよりも大きい寸法の領域を処理することが可能となる。移動速度は一定でもよいし可変でもよい。1つの実施形では有機材料を移動させて、イオンビームは動かさない。また、別の実施形では、イオンビームを有機材料上に走らせる。イオンビームを移動させながら、有機材料を移動させることも可能である。1つの実施形では、有機材料の同じ領域を速度VDで複数回(N)イオンビームの下を移動させる。こうすれば、N回の完了時には、当該領域が受けたイオン量の合計に相当するイオン量で有機材料の同一領域を処理することができる。また、留意すべき点として、有機材料の寸法が許す場合には、静止状態で1回又は複数回イオンの「フラッシュ」を発する、という形で処理ステップを実現できるかもしれない。
・イオンビームによる処理の後、深層グラフトさせようとするモノマーを含んだ液体又は気体環境に浸漬する前に、有機材料に空気を通す。イオンビーム処理から浸漬までの経過時間は、可能な限り短くし、環境中の酸素と水分との結合を避けなければならない。浸漬温度の設定に当たっては、モノマーの拡散速度がイオンビーム下を通す際の移動速度に匹敵するものとなるようにして、環境温度に戻る過程で有機材料の特性の変化が誘起されないようにするべきである。

Claims (13)

  1. モノマーを有機材料の深層にグラフトする深層グラフト処理方法であって、当該深層グラフト処理方法は、連続して実行される2つの処理を含み、当該2つの処理とは、
    (a)イオンビームを用いたイオン衝撃処理と、
    (b)モノマーのグラフト処理と、であって、
    (a)のイオン衝撃処理において、
    ・20nmから3000nmの範囲の厚みeradを有する層(1)の中に遊離基溜まりが形成され、
    ・0nmから3000nmの範囲の厚みestabを有する遊離基溜まり(1)と表面との間に介在する安定化層(2)が形成され、
    イオンビームのイオンは、ヘリウム(He)、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)のイオンを構成要素とするリストから選択され、
    イオン加速電圧は10kV以上かつ1000kV以下であり、
    有機材料の処理温度は当該有機材料の融解温度以下であり、
    単位面積あたりのイオン量は、1012ions/cm2から1018ions/cm2の範囲におさまるように選択され、当該選択にあたっては、有機材料の表面抵抗率の経時変化の計測値を用いて最大の抵抗値ジャンプステップを生じさせるイオン量が特定されること、そして、
    (b)のグラフト処理は、拡散温度Tdにおいて、モノマー(M)を表面から安定化層(2)を経て遊離基溜まり(1)まで拡散させる処理から成ること、
    を特徴とする深層グラフト処理方法。
  2. いずれかのイオンについて、遊離基溜まり(1)及び安定化層(2)の形成にあたっての単位面積あたりのイオン量を選択する処理は、実験データに基づいて実行され、当該実験データは、事前に得られたものであり、所定のエネルギにおける別種類のイオンについて、最大の抵抗値ジャンプステップを生じさせる単位面積あたりのイオン量を示すものであること、
    を特徴とする請求項1に記載の深層グラフト処理方法。
  3. 単位面積あたりのイオン量が1013ions/cm2から5×1017ions/cm2の範囲にあること、
    を特徴とする請求項1又は2に記載の深層グラフト処理方法。
  4. イオン加速電圧が20kVから200kVの範囲にあること、
    を特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法。
  5. 拡散温度Tdは環境温度から有機材料の融解温度Tfまでの範囲にあること、
    を特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法。
  6. 選択されるモノマー(M)は、親水性、疎水性、抗菌性の特性の少なくとも1つを有すること、
    を特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法。
  7. 所定のイオンについて、遊離基溜まり(1)に対応するグラフト層に溜まる殺菌性金属イオンの表面付着の生成に当たり、量(V)及び接触面域(S)を有する流体(4)における濃度が前記殺菌性金属イオンに特有な閾値殺菌濃度を上回ることが可能となるようエネルギを選択する処理が、立証済みのデータに基づいて実行され、
    当該立証済みのデータは、処理の厚みと、ポリマーのバルク密度と、ポリマーを構成するモノマーのモル質量と、ポリマーを構成するモノマー1つにつきグラフトされるモノマーの数と、グラフトされたモノマーによって結合される殺菌性金属イオンの数とに基づいて、単位面積あたりの殺菌性金属イオンの数の変化を表すのに用いることが可能なものであること、
    を特徴とする請求項6に記載の深層グラフト処理方法。
  8. 有機材料は、0.1mm/秒から1000mm/秒の範囲の速度VDで、イオンビームに対して移動可能であること、
    を特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法。
  9. 有機材料の同一領域が、速度VDで複数のN本の経路を通る形でイオンビームの下を移動させられること、
    を特徴とする請求項8に記載の深層グラフト処理方法。
  10. 有機材料は、ポリマー、エラストマ、又は樹脂のファミリーに属する材料のリストから選択されること、
    を特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法。
  11. 請求項1乃至10のいずれか一項に記載のグラフト処理によって得られる、1000μg/cm2未満の表面付着量にて殺菌性金属イオンをしみ込ませた1又は複数の抗菌性表面を有する部品。
  12. 請求項1乃至11のいずれか一項に記載のグラフト処理の後に、前記殺菌性金属イオンを含んだ溶液に浸漬させる浸漬処理を行うことで得られる、1000μg/cm2未満の表面付着量にて殺菌性金属イオンをしみ込ませた1又は複数の抗菌性表面を有する部品。
  13. 医薬包装、石油探査用電線、ワイパーブレードから構成される一覧から選択されるソリッドな有機材料部品の処理を目的とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の深層グラフト処理方法の使用法。
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