(発明の背景)
ワクチンは、近代医療における偉大な公衆衛生上の発明のひとつであり、数百万人の生命を救っている。免疫付与は、感染症を予防し且つ制御するための理想的手段であることが証明されている。毎年ワクチンは、300万人に達する死亡を防ぎ、且つ小児750,000人を身体障害から救っている(Global Alliance for Vaccines and Immunization-Press Releases(2006年3月11日)、www.gavialliance. org/media_centre/press_releases/2006_03_09_en_pr_queenrania_delhi.php)。1999年に、CDCは、免疫付与は、20世紀の第1位の公衆衛生の業績であると宣言した(米国における10大公衆衛生業績(Ten great public health achievements-United States)、1900-1999.mMWR Morb Mortal Wkly Rep, 48:241-3 (1999年4月2日))。破傷風又はジフテリアを生じる細菌のような一部の細菌は、疾患の大きな原因となる毒素を産生する。この毒素は、ワクチンとして解毒した形状で使用することができる。しかし、ほとんどの細菌に関して、ワクチンを開発するために使用することができる単独の毒素は存在しない。
中でも最も成功しているワクチンは、キャリアタンパク質にコンジュゲートされたインフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、及び肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)などの細菌性病原体の表面多糖である。これらの細菌は、莢膜により囲まれており、これは微生物の毒力及び食作用性死滅(phagocytic killing)に対する抵抗を促進し、更にはそれらが乾燥するのを防ぐ。
細菌性多糖は、それらがT細胞エピトープを含むタンパク質キャリアに結合された場合に、ヒトにおいて長期持続性の免疫反応を誘発することができる。この概念は80年前に作り上げられ(Avery, O. T.及びW. F. Goebelの論文、1929、「コンジュゲートされた炭水化物−タンパク質に関する化学免疫学的研究:II.合成糖−タンパク質の免疫学的特異性(Chemo-immunological studies on conjugated carbohydrate-proteins. II Immunological specificity of synthetic sugar-proteins)」、J. Exp. Med., 50:521-533)、後にタンパク質キャリアであるジフテリア毒素に結合されたインフルエンザ桿菌タイプB(HIB)の多糖について証明された(Anderson, P.の論文、1983、「無毒タンパク質とb型莢膜のオリゴ糖のコンジュゲートCRM197により誘導されたインフルエンザ桿菌タイプb及びジフテリア毒素に対する抗体反応(Antibody responses to Haemophilus influenzae type b and diphtheria toxin induced by conjugates of oligosaccharides of the type b capsule with the nontoxic protein CRM197)」、Infect Immun, 39:233-8;Schneerson, R.、O. Barrera、A. Sutton、及びJ. B. Robbinsの論文、1980、「インフルエンザ桿菌タイプb多糖-タンパク質コンジュゲートの調製、特徴付け、及び免疫原性(Preparation, characterization, and Immunogenicity of Haemophilus influenzae type b polysaccharide-protein conjugates)」、J Exp Med, 152:361-76)。またこのグライココンジュゲートは、1987年に米国において認可された最初のコンジュゲートワクチンであり、その後短期間のうちに米国の乳児の予防接種スケジュールに導入された。コンジュゲートワクチンは、HIBに加え、莢膜に囲まれたヒト病原体である髄膜炎菌及び肺炎連鎖球菌に対してもうまく使用することができた。これらのワクチンの日常的使用は、感染症に加え、鼻咽頭のコロニー形成の減少をもたらしている。現在、世界中のワクチン市場のおよそ〜25%が、コンジュゲートワクチンで構成されている。
グラム陽性菌は、莢膜多糖により取り囲まれた細胞膜を有する。ブドウ球菌(Staphylococcus)は、そのようなグラム陽性菌のひとつである。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、感染症を引き起こす。黄色ブドウ球菌は、ヒト疾患の多様なスペクトルの原因となる日和見細菌性病原体である。黄色ブドウ球菌は健常なヒトの粘膜表面にコロニー形成することがあるが、これは創傷感染症の主原因でもあり、且つ転移性合併症を伴う骨髄炎、心内膜炎及び菌血症を含む重度の感染症を誘発する侵襲的可能性を有する(Lowy, F. D.の論文、1998、「黄色ブドウ球菌感染症(Staphylococcus aureus infections)」、New Engl J Med, 339:520-32)。黄色ブドウ球菌は、人工呼吸器関連肺炎に関与した最も一般的な物質のひとつであり、これは、素因となるリスク因子を持たないそれまで健常な成人と小児を襲う市中感染性肺炎の重要であり且つ明らかになりつつある原因である(Kollef, M. H.、A. Shorr、Y. P. Tabak、V. Gupta、L. Z. Liu、及びR. S. Johannesの論文、2005、「ヘルスケア関連肺炎の疫学及び転帰:培養陽性肺炎の大規模米国データベースの結果(Epidemiology and outcomes of health-care-associated pneumonia: results from a large US database of culture-positive pneumonia)」、Chest, 128:3854-62;Shorr, A. F.の論文、2007、「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の疫学及び経済的影響:総説及び文献解析(Epidemiology and economic impact of meticillin-resistant Staphylococcus aureus: review and analysis of the literature)」、Pharmacoeconomics, 25:751-68)。
黄色ブドウ球菌は、院内菌血症の2番目の最も一般的な原因であり、且つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株は、米国における集中治療室内での全ての感染症の50%以上の原因である。病院内及び地域社会内で黄色ブドウ球菌感染症は増加している。MRSA株は、1974年にはブドウ球菌感染症の2%から分離され、2004年にはブドウ球菌感染症の63%から分離された。多くの院内MRSA株は、多剤耐性であり、例えメチシリン-感受性株であっても致命的であり得る。集団ベースの活性症例知見を使用した最近の報告は、米国において2005年には94,360件の侵襲性MRSA感染症が発生したこと、及びこれらの大半(58%)は病院の外で発生したことを明らかにした(Klevens, R. M.、M. A. Morrison、J. Nadle、S. Petit、K. Gershman、S. Ray、L. H. Harrison、R. Lynfield、G. Dumyati、J. M. Townes、A. S. Craig、E. R. Zell、G. E. Fosheim、L. K. McDougal、R. B. Carey、及びS. K. Fridkinの論文、2007、「米国における侵襲性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(Invasive methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections in the United States)」、JAMA, 298:1763-71)。この分析において、2005年には、AIDSよりもより多くのアメリカ人がMRSAにより死亡している(18,000例以上の死亡)。
黄色ブドウ球菌USA100は、New York/Japanクローンとしても知られているが、これは優勢な米国の院内感染MRSA株を表すMRSA株である(McDougal, L. K.、C. D. Steward、G. E. Killgore、J. M. Chaitram、S. K. McAllister、及びF. C. Tenoverの論文、2003、「米国でのオキサシリン耐性黄色ブドウ球菌分離株のパルスフィールドゲル電気泳動タイピング:国家的データベースの確立(Pulsed-field gel electrophoresis typing of oxacillin-resistant Staphylococcus aureus isolates from the United States: establishing a national database)」、J Clin Microbiol, 41:5113-20)。
疫学解析は、黄色ブドウ球菌は、毎年米国内のみでも約200万人の臨床感染症を引き起こしていることを指摘している(Fridkin, S. K.、J. C. Hageman、M. Morrison、L. T. Sanza、K. Como-Sabetti、J. A. Jernigan、K. Harriman、L. H. Harrison、R. Lynfield、及びM. M. Farleyの論文、2005、「3つの地域共同体内のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌疾患(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus disease in three communities)」、N Engl J Med, 352:1436-44;King, M. D.、B. J. Humphrey、Y. F. Wang、E. V. Kourbatova、S. M. Ray、及びH. M. Blumbergの論文、2006、「皮膚及び軟組織感染症の支配的原因としての市中感染メチシリン耐性黄色ブドウ球菌USA300クローンの出現(Emergence of community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus USA 300 clone as the predominant cause of skin and soft-tissue infections)」、Ann Intern Med, 144:309-17;Klevens, R. M.、M. A. Morrison、J. Nadle、S. Petit、K. Gershman、S. Ray、L. H. Harrison、R. Lynfield、G. Dumyati、J. M. Townes、A. S. Craig、E. R. Zell、G. E. Fosheim、L. K. McDougal、R. B. Carey、S. K. Fridkin、及びM. I. for the Active Bacterial Core surveillanceの文献、2007、「米国における侵襲性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(Invasive methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections in the United States)」、JAMA, 298:1763-1771)。黄色ブドウ球菌感染症の数が増加しているのみではなく、抗生物質に対する黄色ブドウ球菌の耐性も増強している。MRSAは、米国における院内黄色ブドウ球菌感染症の40%〜60%を占め、これらの菌株の多くは多剤耐性である。院内感染症の主原因として悪名高い黄色ブドウ球菌は、最近、素因となるリスク因子を持たない入院していないヒトの市中感染症の数の激増を引き起こすという新たな役割を呈している。猛毒の市中感染型MRSA(CA-MRSA)株は、米国及び欧州を越えてより蔓延し始めており、それらの広がりは地球規模であることが認められている(Baggett, H. C、T. W. Hennessy、K. Rudolph、D. Bruden、A. Reasonover、A. Parkinson、R. Sparks、R. M. Donlan、P. Martinez、K. Mongkolrattanothai、及びJ. C. Butlerの論文、2004、「アラスカ地方におけるせつ腫症大流行時の抗生物質の使用及び細胞毒素パントン・バレンタイン型ロイコシジンに関連した市中発生メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Community-onset methicillin-resistant Staphylococcus aureus associated with antibiotic use and the cytotoxin Panton-Valentine leukocidin during a furunculosis outbreak in rural Alaska)」、J Infect Dis, 189:1565-73;Gilbert, M.、J. MacDonald、D. Gregson、J. Siushansian、K. Zhang、S. Elsayed、K. Laupland、T. Louie、K. Hope、M. Mulvey、J. Gillespie、D. Nielsen、V. Wheeler、M. Louie、A. Honish、G. Keays、及びJ. Conlyの論文、2006、「薬物使用歴者、ホームレス及び受刑者における市中感染(USA300)メチシリン耐性黄色ブドウ球菌のアルバータ州における大流行(Outbreak in Alberta of community-acquired (USA300) methicillin-resistant Staphylococcus aureus in people with a history of drug use, homelessness or incarceration)」、Canad Med Assoc J, 175:149-54;Kazakova, S. V.、J. C. Hageman、M. Matava、A. Srinivasan、L. Phelan、B. Garfinkel、T. Boo、S. McAllister、J. Anderson、B. Jensen、D. Dodson、D. Lonsway、L. K. McDougal、M. Arduino、V. J. Fraser、G. Killgore、F. C. Tenover、S. Cody、及びD. B. Jerniganの論文、2005、「プロフットボール選手間のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌のクローン(A clone of methicillin-resistant Staphylococcus aureus among professional football players)」、N Engl J Med, 352:468-75)。
メチシリンに対し耐性のある黄色ブドウ球菌がより一般的になり始めるのみではなく、バンコマイシンに対する感受性が低下した多くの分離株が報告されている。vanAを保持し且つバンコマイシンに対し完全に耐性がある黄色ブドウ球菌の7種の臨床分離株が、米国において分離されている。これらの分離株は、メチシリン耐性でもある(Chang, S.、D. M. Sievert、J. C. Hageman、M. L. Boulton、F. C. Tenover、F. P. Downes、S. Shah、J. T. Rudrik、G. R. Pupp、W. J. Brown、D. Cardo、及びS. K. Fridkinの論文、2003、「vanA耐性遺伝子を持つバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌による感染(Infection with vancomycine -resistant Staphylococcus aureus containing the vanA resistance gene)」、New Engl J Med, 348:1342-7)。黄色ブドウ球菌は抗生物質により常には制御されず、且つMRSA分離株は市中において流行が増加し始めているので、ワクチンなどの追加の制御戦略が非常に必要とされている。
黄色ブドウ球菌莢膜多糖が感染症に関連している。表面に関連した付着、分泌されたエキソプロテイン及び毒素、並びに免疫回避因子を含む多くの病原因子が、ブドウ球菌感染症の病理の原因である(Foster, T. J.の論文、2005、「ブドウ球菌による免疫回避(Immune evasion by staphylococci)」、Nature Reviews Microbiology, 3:948-58)。多くの侵襲性細菌性病原体のように、黄色ブドウ球菌は莢膜多糖(CP)を生成し(図4)、CPは宿主自然免疫防御によるクリアランスに対するその抵抗性を増強する。ほとんどの黄色ブドウ球菌の臨床分離株は、莢膜に包まれ、血清型5型及び8型株が優勢である(Arbeit, R. D.、W. W. Karakawa、W. F. Vann、及びJ. B. Robbinsの論文、1984、「黄色ブドウ球菌臨床分離株間の2つの新たに説明された莢膜多糖型の優位性(Predominance of two newly described capsular polysaccharide types among clinical isolates of Staphylococcus aureus)」、Diagn Microbiol Infect Dis, 2:85-91)。5型(CP5)及び8型(CP8)莢膜多糖は、N-アセチルマンノサミンウロン酸(ManNAcA)、N-アセチルL-フコサミン(L-FucNAc)、及びN-アセチルD-フコサミン(D-FucNAc)で構成された類似した三糖反復単位を有する(Jones, C.の論文、2005、「新規グライココンジュゲートワクチンの成分である黄色ブドウ球菌由来の莢膜多糖5型及び8型の改変構造(Revised structures for the capsular polysaccharides from Staphylococcus aureus types 5 and 8, components of novel glycoconjugate vaccines)」、Carbohydr Res, 340:1097-106)。CP5及びCP8は、血清学的に異なり、且つこれは、糖質間の系統及びO-アセチル化部位における差異に起因し得る(図4)。
先の研究は、インビトロにおける食作用性取り込み及び死滅に対する抵抗性を持つ黄色ブドウ球菌の莢膜生成に関連している(Fattom, A.、R. Schneerson、S. C. Szu、W. F. Vann、J. Shiloach、W. W. Karakawa、及びJ. B. Robbinsの論文、1990、「緑膿菌外毒素Aにコンジュゲートされた黄色ブドウ球菌5型及び8型莢膜多糖で構成されたワクチンの合成及びマウスにおける免疫学的特性(Synthesis and immunologic properties in mice of vaccines composed of Staphylococcus aureus type 5 and type 8 capsular polysaccharides conjugateted to Pseudomonas aeruginosa exotoxin A)」、Infect Immun, 58:2367-74;Thakker, M.、J.-S. Park、V. Carey、及びJ. C. Leeの論文、1998、「黄色ブドウ球菌血清型5型莢膜多糖は、食作用阻止性であり、且つマウス菌血症モデルにおいて細菌毒力を増強する(Staphylococcus aureus serotype 5 capsular polysaccharide is antiphagocytic and enhances bacterial virulence in a murine bacteremia model)」、Infect Immun, 66:5183-5189;Watts, A.、D. Ke、Q. Wang、A. Pillay、A. Nicholson-Weller、及びJ. C. Leeの論文、2005、「毒力が異なる血清型5型又は血清型8型の莢膜多糖を発現する黄色ブドウ球菌株(Staphylococcus aureus strains that express serotype 5 or serotype 8 capsular polysaccharides differ in virulence)、Infect Immun, 73:3502-11)。ヒト好中球は補体活性のある非免疫血清の存在下で莢膜-陰性変異体を食作用するのに対し、莢膜に包まれた分離株は、最適なオプソニン食作用性死滅のために、莢膜-特異的抗体及び補体の両方を必要とする(Bhasin, N.、A. Albus、F. Michon、P. J. Livolsi、J.-S. Park、及びJ. C. Leeの論文、1998、「黄色ブドウ球菌5型莢膜多糖のO-アセチル化に必須の遺伝子の同定(Identification of a gene essential for O-acetylation of the Staphylococcus aureus type 5 capsular polysaccharide)」、Mol Microbiol, 27:9-21;Thakker, M.、J.-S. Park、V. Carey、及びJ. C. Leeの論文、1998、「黄色ブドウ球菌血清型5莢膜多糖は、食作用阻止性であり、且つマウス菌血症モデルにおいて細菌毒力を増強する(Staphylococcus aureus serotype 5 capsular polysaccharide is antiphagocytic and enhances bacterial virulence in a murine bacteremia model)」、Infect Immun, 66:5183-5189;Watts, A.、D. Ke、Q. Wang、A. Pillay、A. Nicholson-Weller、及びJ. C. Leeの論文、2005、「毒力が異なる血清型5型又は血清型8型莢膜多糖を発現する黄色ブドウ球菌株(Staphylococcus aureus strains that express serotype 5 or serotype 8 capsular polysaccharides differ in virulence)」、Infect Immun, 73:3502-11)。Nilssonらは、マウス由来の腹膜マクロファージは、親Reynolds株と比べ著しく多い数のCP5-陰性変異体を貪食したことを報告した(Nilsson, I.-M.、J. C. Lee、T. Bremell、C. Ryden、及びA. Tarkowskiの論文、1997、「敗血症及び敗血症性関節炎におけるブドウ球菌多糖のマイクロ莢膜発現の役割(The role of staphylococcal polysaccharide microcapsule expression in septicemia and septic arthritis)」、Infect Immun, 65:4216-4221)。一旦貪食されると、CP5-陽性株が、この変異株よりもより大きい程度細胞内で生存した。Cunnionらは、同質遺伝子型の黄色ブドウ球菌株のオプソニン作用を比較し、CP5-陽性株は、無莢膜変異株よりも血清補体(C')への結合が42%少ないことを明らかにした(Cunnion, K. M.、J. C. Lee、及びM. M. Frankの論文、2001、「莢膜生成及び増殖相の黄色ブドウ球菌への補体結合への影響(Capsule production and growth phase influence binding of complement to Staphylococcus aureus)」、Infect Immun, 69:6796-6803)。
黄色ブドウ球菌ワクチン開発には従来、標的として莢膜が関与してきた。ブドウ球菌疾患に対する防御のためのワクチンのデザインは、ヒトにおける黄色ブドウ球菌感染症の不定形の症状発現及び臨床上の複雑さにより複雑化されている。多くの黄色ブドウ球菌ワクチンの候補が、感染症の動物モデルにおいて調べられているが、臨床試験第III相を完了したことが報告された免疫付与投薬計画は、わずかに2種である(Schaffer, A. C及びJ. C. Leeの論文、2008、「黄色ブドウ球菌に対するワクチン接種及び受動免疫(Vaccination and passive immunisation against Staphylococcus aureus)」、Int J Antimicrob Agents, 32 Suppl 1:S71-8)。第一のワクチンは、黄色ブドウ球菌の臨床株の中で最も蔓延している2種の莢膜多糖(CP)を基にしている(図4)。Fattomらは、無毒の組換え緑膿菌エキソプロテインA(rEPA)に血清型5型多糖(CP5)及び血清型8型多糖(CP8)をコンジュゲートした(Fattom, A.R. Schneerson、S. C. Szu、W. F.Vann、J. Shiloach、W. W. Karakawa、及びJ. B. Robbinsの論文、1990、「緑膿菌外毒素にコンジュゲートされた黄色ブドウ球菌5型及び8型莢膜多糖で構成されたワクチンの合成及びマウスにおける免疫学的特性(Synthesis and immunologic properties in mice of vaccines composed of Staphylococcus aureus type 5 and type 8 capsular polysaccharides conjugateted to Pseudomonas aeruginosa exotoxin)、Infect Immun, 58:2367-74)。このコンジュゲートワクチンは、マウス及びヒトにおいて免疫原性であり、且つこれらは、致命的である及び致命的でないブドウ球菌感染症から齧歯類を防御する点で有効性を示したオプソニン抗体を誘導した(Fattom, A.R. Schneerson、S. C. Szu、W. F.Vann、J. Shiloach、W. W. Karakawa、及びJ. B. Robbinsの論文、1990、緑膿菌外毒素にコンジュゲートされた黄色ブドウ球菌5型及び8型莢膜多糖で構成されたワクチンの合成及びマウスにおける免疫学的特性(Synthesis and immunologic properties in mice of vaccines composed of Staphylococcus aureus type 5 and type 8 capsular polysaccharides conjugated to Pseudomonas aeruginosa exotoxin)、Infect Immun, 58:2367-74;Fattom, A.、R. Schneerson、D. C. Watson、W. W. Karakawa、D. Fitzgerald、I. Pastan、X. Li、J. Shiloach、D. A. Bryla、及びJ. B. Robbinsの論文、1993、「緑膿菌組換えエキソプロテインAに結合された黄色ブドウ球菌5型及び8型莢膜多糖で構成されたコンジュゲートワクチンの非臨床及び臨床での評価(Laboratory and clinical evaluation of conjugate vaccines composed of S. aureus type 5 and type 8 capsular polysaccharides bound to Pseudomonas aeruginosa recombinant exoprotein A)、Infect Immun, 61:1023-32;Fattom, A. I.、J. Sarwar、A. Ortiz、及びR. Nasoの論文、1996、「細菌チャレンジに対しマウスを防御する黄色ブドウ球菌莢膜多糖(CP)ワクチン及びCP-特異的抗体(A Staphylococcus aureus capsular polysaccharide (CP) vaccine and CP-specific antibodies protect mice against bacterial challenge)」、Infect Immun, 64:1659-65;Lee, J. C、J. S. Park、S. E. Shepherd、V. Carey、及びA. Fattomの論文、1997、「ラットの心内膜炎改変モデルにおける黄色ブドウ球菌5型莢膜多糖に対する抗体の防御的有効性(Protective efficacy of antibodies to the Staphylococcus aureus type 5 capsular polysaccharide in a modified model of endocarditis in rats)」、Infect Immun, 65:4146-51)。受動免疫の研究は、CP5-特異的抗体及びCP8-特異的抗体は両方共、黄色ブドウ球菌乳腺炎のマウスモデルにおいて感染を有意に低下したことを指摘した(Tuchscherr, L. P.、F. R. Buzzola、L. P. Alvarez、J. C. Lee、及びD. O. Sordelliの論文、2008、「莢膜多糖及びクランピング因子Aに対する抗体は、マウスにおける乳腺炎並びに黄色ブドウ球菌の無莢膜及び小型コロニー変種の出現を防御する(Antibodies to capsular polysaccharide and clumping factor A prevent mastitis and the emergence of unencapsulated and small-colony variants of Staphylococcus aureus in mice)」、Infect Immun, 76:5738-44)。組合せたCP5-及びCP8-コンジュゲートワクチンは、ヒトにおいて安全であり、且つオプソニン食作用活性を示した抗体を誘発したことが示された。
黄色ブドウ球菌ワクチン開発は、標的としての表面タンパク質も関与している。第二の黄色ブドウ球菌ワクチンの臨床試験は、ブドウ球菌感染症の防御におけるブドウ球菌付着に対する抗体の防御的有効性を基にしている。黄色ブドウ球菌クランピング因子Aは、表面に発現された細胞壁-アンカータンパク質であり、フィブリノゲンへのブドウ球菌付着を媒介し(Foster, T. J.及びM. Hookの論文、1998、「黄色ブドウ球菌の表面タンパク質アドヘシン(Surface protein adhesins of Staphylococcus aureus)」、Trends Microbiol, 6:484-8)、且つ黄色ブドウ球菌の生体物質表面への結合を促進し(Vaudaux, P. E.、P. Francois、R. A. Proctor、D. McDevitt、T. J. Foster、R. M. Albrecht、D. P. Lew、H. Wabers、及びS. L. Cooperの論文、1995、「イヌの動脈シャントへの細菌付着を促進する特異的血漿タンパク質の役割を規定するための黄色ブドウ球菌の付着欠損変異体の使用(Use of adhesion-defective mutants of Staphylococcus aureus to define the role of specific plasma proteins in promoting bacterial adhesion to canine arteriovenous shunts)」、Infection & Immunity, 63:585-90)、血液を凝固し、及び内皮表面を損傷する(Moreillon, P.、J. M. Entenza、P. Francioli、D. McDevitt、T. J. Foster、P. Francois、及びP. Vaudauxの論文、1995、「実験的心内膜炎の病理における黄色ブドウ球菌のコアグラーゼ及びクランピング因子の役割(Role of Staphylococcus aureus coagulase and clumping factor in pathogenesis of experimental endocarditis)」、Infection & Immunity, 63:4738-43)。ClfAのフィブリノゲン-結合ドメインは、完全長タンパク質の領域A内に位置している(McDevitt, D.、P. Francois、P. Vaudaux、及びT. J. Fosterの論文、1995、「黄色ブドウ球菌の表面に位置したフィブリノゲン受容体(クランピング因子)のリガンド結合ドメインの同定(Identification of the ligand-binding domain of the surface-located fibrinogen receptor (clumping factor) of Staphylococcus aureus)、Molecular Microbiology, 16:895-907)。ClfAは、カテーテルで誘導したブドウ球菌心内膜炎の動物モデルにおいて重大な相互作用である、血小板への黄色ブドウ球菌結合において、重要な役割を果たす(Sullam, P. M.、A. S. Bayer、W. M. Foss、及びA. L. Cheungの論文、1996、「黄色ブドウ球菌によるインビトロにおける減弱された血小板結合は、感染性心内膜炎のウサギモデルにおける毒力の低下に関連している(Diminished platelet binding in vitro by Staphylococcus aureus is associated with reduced virulence in a rabbit model of infective endocarditis)」、Infection & Immunity, 64:4915-21)。
Nanraらは、ClfAに対する抗体は、黄色ブドウ球菌のインビトロにおけるオプソニン食作用性死滅を誘導したことを報告した(Nanra, J. S.、Y. Timofeyeva、S. M. Buitrago、B. R. Sellman、D. A. Dilts、P. Fink、L. Nunez、M. Hagen、Y. V. Matsuka、T. Mininni、D. Zhu、V. Pavliak、B. A. Green、K. U. Jansen、及びA. S. Andersonの論文、2009、「黄色ブドウ球菌によるクランピング因子A及び莢膜多糖の不均一インビボ発現:ワクチンデザインとの関わり(Heterogeneous in vivo expression of clumping factor A and capsular polysaccharide by Staphylococcus aureus: Implications for vaccine design)」、Vaccine, 27:3276-80)。更にClfAの結合領域Aの組換え型により免疫付与したマウスは、黄色ブドウ球菌により誘導された関節炎及び致死性の低下を示した(Josefsson, E.、O. Hartford、L. O'Brien、J. M. Patti、及びT. Fosterの論文、2001、「新規毒力決定因子であるクランピング因子Aのワクチン接種による実験的黄色ブドウ球菌関節炎に対する防御(Protection against experimental Staphylococcus aureus arthiritis by vaccination with clumping factor A, a novel virulence determinant)」、Journal of Infectious Diseases, 184:1572-80)。受動免疫実験は、高レベルのClfA特異的抗体を含有するヒトポリクローナル免疫グロブリン調製品を投与されたウサギにおいて実施された(Vernachio, J.、A. S. Bayer、T. Le、Y. L. Chai、B. Prater、A. Schneider、B. Ames、P. Syribeys、J. Robbins、J. M. Patti、J. Vernachio、A. S. Bayer、T. Le、Y.-L. Chai、B. Prater、A. Schneider、B. Ames、P. Syribeys、J. Robbins、及びJ. M. Pattiの論文、2003、「感染性心内膜炎の実験モデルにおいて、抗クランピング因子A免疫グロブリンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌菌血症の期間を短縮する(Anti-clumping factor A immunoglobulin reduces the duration of methicillin -resistant Staphylococcus aureus bacteremia in an experimental model of infective endocarditis)」、Antimicrobial Agents & Chemotherapy, 47:3400-6)。その併用療法は、バンコマイシン単独治療よりも、カテーテル-誘導した黄色ブドウ球菌心内膜炎のウサギの血液からより良い細菌クリアランスを生じた。加えて、ClfA-特異的抗体の受動移入は、黄色ブドウ球菌乳腺炎のマウスモデルにおける感染症を著しく低下した(Tuchscherr, L. P.、F. R. Buzzola、L. P. Alvarez、J. C. Lee、及びD. O.Sordelliの論文、2008、「莢膜多糖及びクランピング因子Aに対する抗体は、マウスにおける乳腺炎並びに黄色ブドウ球菌の無莢膜及び小型コロニー変種の出現を防御する(Antibodies to capsular polysaccharide and clumping factor A prevent mastitis and the emergence of unencapsulated and small-colony variants of Staphylococcus aureus in mice)」、Infect Immun, 76:5738-44)。
報告によると、第III相臨床試験が、出生時低体重の未熟児2000例における晩発型敗血症を防御するようデザインされた。これらの新生児は、ClfA及びSdrGに対する抗体力価が上昇したドナーからプールされたヒト免疫グロブリン調製品であるVeronateの最大4回の投与を受けた。同様の第II相臨床試験の結果が有望であったにもかかわらず、この予防的療法は、新生児におけるブドウ球菌感染症の頻度の低下をもたらさなかった(DeJonge, M.、D. Burchfield、B. Bloom、M. Duenas、W. Walker、M. Polak、E. Jung、D. Millard、R. Schelonka、F. Eyal、A. Morris、B. Kapik、D. Roberson、K. Kesler、J. Patti、及びS. Hetheringtonの論文、2007、「未熟児の院内ブドウ球菌血流感染症の予防に対するINH-A21の安全性及び有効性の臨床試験(Clinical trial of safety and efficacy of INH-A21 for the prevention of nosocomial staphylococcal bloodstream infection in premature infants)」、J Pediatr, 151:260-5)。
原核生物において、タンパク質グリコシル化が生じるが、それが天然に起こることは稀であることが示されている。他方で、N-結合型タンパク質グリコシル化は、真核生物の小胞体において生じる必須且つ保存されたプロセスである。これは、分泌タンパク質及び膜タンパク質のタンパク質フォールディング、オリゴマー化、安定性、品質制御、選別及び輸送に重要である(Helenius, A.及びAebi, M.の論文、(2004)、「小胞体におけるN-結合型グリカンの役割(Roles of N-linked glycans in the endoplasmic reticulum)」、Annu. Rev. Biochem., 73:1019-1049)。タンパク質グリコシル化は、タンパク質の抗原性、安定性及び半減期に対し大いに好ましい影響を有する。加えてグリコシル化は、例えばタンパク質のグリコシル化された部分と相互作用する固相に結合したレクチンリガンドを持つアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーによる、タンパク質の精製を補助することができる。従ってこれは、生物学的に及び医薬として有用なグリコシル化パターンを提供するために、真核細胞において多くのグリコシル化されたタンパク質を組換えにより生成するための確立された実践である。
コンジュゲートワクチンは、細菌感染症に対し防御するためにうまく使用されている。多糖はT細胞と無関係の抗原であるので、抗原性多糖のタンパク質キャリアへのコンジュゲートが、防御的記憶反応には必要である。多糖に加えタンパク質キャリア内の反応基の活性化を使用する様々な化学的方法により、多糖は、タンパク質キャリアにコンジュゲートされている(Qian, F.、Y. Wu、O. Muratova、H. Zhou、G. Dobrescu、P. Duggan、L. Lynn、G. Song、Y. Zhang、K. Reiter、N. MacDonald、D. L. Narum、C. A. Long、L. H. Miller、A. Saul、及びG. E. Mullenの論文、2007、「組換えタンパク質の緑膿菌エキソプロテインAへのコンジュゲート:マラリアワクチン候補の免疫原性増強の戦略(Conjugating recombinant proteins to Pseudomonas aeruginosa ExoProtein A: a strategy for enhancing immunogenicity of malaria vaccine candidates)」、Vaccine, 25:3923-3933;Pawlowski, A.、G. Kallenius、及びS. B. Svensonの論文、2000、「新たな断片化及びコンジュゲート技術を利用する肺炎球菌莢膜多糖-タンパク質コンジュゲートワクチンの調製(Preparation of pneumococcal capsular polysaccharide-protein conjugate vaccines utilizing new fragmentation and conjugation technologies)」、Vaccine, 18:1873-1885;Robbins, J. B.、J. Kubler-Kielb、E. Vinogradov、C. Mocca、V. Pozsgay、J. Shiloach、及びR. Schneersonの論文、2009、「ソンネ赤痢菌O-特異的オリゴ糖-コア-タンパク質コンジュゲートの合成、特徴付け、及びマウスにおける免疫原性(Synthesis, characterization, and immunogenicity in mice of Shigella sonnei O-specific oligosaccharide -core-protein conjugates)、Proc Natl Acad Sci USA, 106:7974-7978)。
コンジュゲートワクチンは、細菌感染症に対し小児を防御するために小児に投与することができ、且つ成人に長期間持続する免疫反応を提供することができる。本発明の構築物は、動物においてIgG反応を生じることがわかっている。多糖(すなわち、糖残基)は、糖-特異的である短期間の免疫反応を引き起こすと考えられる。実際、ヒトの免疫系は、O抗原及び莢膜多糖などの、細菌の特異的多糖表面構造に対し強力な反応を生じる。しかし多糖に対する免疫反応はIgM依存性であるので、この免疫系は記憶を発生しない。しかし多糖を保持するタンパク質キャリアは、IgG反応を引き起こし、この反応はT細胞依存性であり、且つこの免疫系は記憶を発生するので、長期間持続する防御を提供する。この理由で、ワクチンの開発において、タンパク質キャリア-多糖コンジュゲートとしてワクチンを開発することは有利である。
原核生物は、グリコシル化されたタンパク質を生成することは稀である。しかし、細菌である食物媒介性病原体カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)は、そのタンパク質をグリコシル化することができることが明らかにされている(Szymanskiらの論文、(1999)、「カンピロバクター・ジェジュニにおける一般的タンパク質グリコシル化システムの証拠(Evidence for a system of general protein glycosylation in Campylobacter jejuni)」、Mol. Microbiol., 32:1022-1030)。グリコシル化に必要な機構は、pgl遺伝子座にクラスター化されている12の遺伝子によりコードされている。グリコシル化の破壊は、C.ジェジュニの侵襲及び病原性に影響を及ぼすが、ほとんどの真核生物においてのように致死性ではない(Burda P.及びM. Aebiの論文、(1999)、「N-結合型グリコシル化のドリコール経路(The dolichol pathway of N-linked glycosylation)」、Biochim Biophys Acta, 1426(2):239-57)。pgl遺伝子座は、カンピロバクターにおけるN-結合型タンパク質グリコシル化に責任のあること、並びに大腸菌におけるpgl遺伝子座及びアクセプター糖タンパク質の同時の組換え発現により、C.ジェジュニタンパク質のN-グリコシル化を再構成することは可能であることが示されている(Wacker, M.、D. Linton、P. G. Hitchen、M. Nita-Lazar、S. M. Haslam、S. J. North、M. Panico、H. R. Morris、A. Dell、B. W. Wren、及びM. Aebiの論文、2002、「C.ジェジュニにおけるN-結合型グリコシル化及び大腸菌へのその機能転移(N-linked glycosylation in C. jejuni and its functional transfer into E. coli)」、Science, 298:1790-3)。
カンピロバクターのN-結合型タンパク質グリコシル化生合成経路は、細菌における多糖生合成経路に極めて類似している(Bugg, T. D.及びP. E. Brandishの論文、1994、「ペプチドグリカンから糖タンパク質へ:脂質-結合型オリゴ糖の生合成の一般的特徴(From peptidoglycan to glycoproteins: common features of lipid-linked oligosaccharide biosynthesis)」、FEMS Microbiol Lett, 119:255-62)。細菌の抗原性多糖及びカンピロバクターのオリゴ糖は両方共キャリア脂質であるウンデカプレニルピロリン酸(UndPP)上で合成されるという知識を基に、これら2つの経路が大腸菌において組合せられた(Feldman, M. F.、M. Wacker、M. Hernandez、P. G. Hitchen、C. L. Marolda、M. Kowarik、H. R. Morris、A. Dell、M. A. Valvano、及びM. Aebiの論文、2005、「大腸菌における多様なO抗原リポ多糖構造によるN-結合型タンパク質グリコシル化の操作(Engineering N-linked protein glycosylation with diverse O antigen lipopolysaccharide structures in Escherichia coli)」、Proc Natl Acad Sci USA, 102:3016-21)。PglBは、脂質-結合された糖基質に対し厳密な特異性を有さないことが明らかにされた。UndPP上で集成された抗原性多糖は、ペリプラズムにおいてPglBにより捕獲され、タンパク質キャリアへ転移される(Feldman, M. F.、M. Wacker、M. Hernandez、P. G. Hitchen、C. L. Marolda、M. Kowarik、H. R. Morris、A. Dell、M. A. Valvano、及びM. Aebiの論文、2005、「大腸菌における多様なO抗原リポ多糖構造によるN-結合型タンパク質グリコシル化の操作(Engineering N-linked protein glycosylation with diverse O antigen lipopolysaccharide structures in Escherichia coli)」、Proc Natl Acad Sci USA, 102:3016-21;Wacker, M.、M. F. Feldman、N. Callewaert、M. Kowarik、B. R. Clarke、N. L. Pohl、M. Hernandez、E. D. Vines、M. A. Valvano、C. Whitfield、及びM. Aebiの論文、2006、「細菌オリゴ糖転移酵素(OTase)の基質特異性は、細菌システム及び真核システムの共通の転移機構を示唆している(Substrate specificity of bacterial oligosaccharyltransferase (OTase) suggests a common transfer mechanism for the bacterial and eukaryotic systems)」、Proc Natl Acad Sci USA, 103:7088-93)。カンピロバクターPglBがN-アセチル化ヘキソサミンを還元末端に有する場合、これらは、UndPP結合したオリゴ糖の多様なアレイを転移し(Wackerらの論文(2006))、抗原性多糖を、N-グリコシド結合を介して選択されたタンパク質へコンジュゲートすることを可能にすることが示された。これはインビボにおけるコンジュゲートワクチンの製造に関する理論的基礎を提供することができるが、この理論的可能性を認めるために多くの難問を克服することが必要とされる。
この先行するC.ジェジュニは一般的N-結合型タンパク質グリコシル化システムを有するという発見を基に、大腸菌が、C.ジェジュニのN-結合型タンパク質グリコシル化機構を含むように改変された。この方式で、大腸菌宿主においてC.ジェジュニに固有のタンパク質のグリコシル化型が生成された。更にこのプロセスを使用し、ワクチン製品として使用するために、改変された大腸菌宿主において様々な起源からグリコシル化されたタンパク質を生成することができることが示されている。そのような改変された大腸菌宿主の大規模培養を作製することが可能であり、有用なワクチンを大量に製造することができるので、大腸菌による製造は有利である。
黄色ブドウ球菌用のワクチン製品として使用するために改変された大腸菌宿主においてグリコシル化タンパク質を生成するためのこのプロセスの使用は、克服できないと考えられている問題点に遭遇する。第一に、大腸菌はグラム陰性菌であり、重合工程後の、その糖類生合成経路は、黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性菌のそれとは大きく異なる。加えて先行する技術と一致して、黄色ブドウ球菌の莢膜多糖を直接生成するための大腸菌の遺伝子操作は実行不可能である。例えば、黄色ブドウ球菌はグラム陽性生体であり、且つその莢膜合成は、細胞エンベロープ構造及び細胞外被(cellular hull)の構築に関連している。莢膜生成する生合成機構は、細胞及びその細胞壁の外側上に莢膜多糖(PS)を配置するように具体的にデザインされている。大腸菌の細胞エンベロープは根本的に異なる様式で構築されるので、この莢膜を改変された大腸菌生体において生成することは、少なくとも高度に資源集約的であるという理由のため極めて困難であろう。PS前駆体からの莢膜集成に関する生合成機構は、異なる環境のために機能しないであろう。黄色ブドウ球菌莢膜は、単独の膜を通過しなければならないのに対し、大腸菌においては、真正の莢膜の最終位置に到達するために横断される必要がある追加の膜が存在する。更に黄色ブドウ球菌莢膜は非常に大きいので、大腸菌の2つの膜の間に黄色ブドウ球菌莢膜のような大きい莢膜を作製することは実行不可能と考えられた。
異なる生体由来の酵素は一緒に作用することができるという原則が、先に示されている(例えば、Rubires, X.、F. Saigi、N. Pique、N. Climent、S. Merino、S. Alberti、J. M. Tomas及びM. Regueの論文、1997、「大腸菌K-12誘導体のrfb-50変異を代償するセラチア・マルセセンスN28b(04)由来の遺伝子(wbbL)(A gene (wbbL) from Serratia marcescens N28b (04) complements the rfb-50 mutation of Escherichia coli K-12 derivatives)」、J. Bacteriol, 179(23):7581-6)。しかし、グラム陽性生体由来の改変されたLPS多糖で、これまでグラム陰性生体において生成されたものはないと考えられる。
(発明の詳細な説明)
本発明の実施態様に従い、今回グラム陽性生体由来のLPS多糖は、グラム陰性生体において生成されることが示された。本発明者らは、これは先行技術からの重要で且つ著しい逸脱を表す新規の結果であると考えている。
本発明の範囲内の核酸は、「配列表」に含まれた本発明の核酸により例示されている。宿主細胞における発現が可能である免疫原性成分又はそれらの一部をコードしている核酸はいずれも、本発明において使用することができる。以下の配列の説明は、本出願を通じて使用されるいくつかの用語の理解を促進するために提供されており、且つ本発明の実施態様を限定するものとして構成されるものではない。
配列番号:1は、EcoRI部位内に緑膿菌PAO103由来のO11 O抗原配列を含む、pLAFR1(Gene Bank寄託番号AY532632.1)、相補鎖(Gen Bank寄託番号AF236052に一部由来)を示す。
配列番号:2は、相同組換えによりwbjA-wzyと交換するcap5HIJ遺伝子を伴うpLAFR1-O11に対応するCP5キメラクラスターを含むpLAFR1を示す。挿入された配列は、相同組換えされたクローンの選択のためのcatカセットも含む。
配列番号:3は、相同組換えによりwbjA-wzyと交換するcap5HIJ遺伝子、及びcap5Jとcatカセット間にクローニングされたcap5Kを伴うpLAFR1-O11に対応する、cap5Kフリッパーゼ遺伝子を伴うCP5キメラクラスターを含むpLAFR1を示す。
配列番号:4は、wbjA-wzyと交換するcap8KHIJ遺伝子を伴うpLAFR1-O11に対応する、フリッパーゼ遺伝子を含むCP8キメラクラスターを含むpLAFR1を示す。挿入された配列は、相同組換えされたクローンの選択のためのcatカセットも含む。
配列番号:5は、Hla H35L生成のための発現プラスミドを示している。Hla H35LをコードしているORFは、pEC415のNdeI/SacIにクローニングされている。
配列番号:6は、Hla-H35L部位202生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸202位の周りの糖化部位(glycosite)、及びC-末端His-タグをコードしている。この構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされる。
配列番号:7は、Hla-H35L部位238生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸238位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされる。
配列番号:8は、Hla-H35L部位272生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸272位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされる。
配列番号:9は、ClfA生成のための発現プラスミドを示している。この遺伝子は、化学的に合成され、且つpEC415発現ベクター内のNdeI/SacIへクローニングされている。
配列番号:10は、ClfA部位290生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸290位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされている。
配列番号:11は、ClfA部位327生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸327位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされている。
配列番号:12は、ClfA部位532生成のための発現プラスミドを示している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸532位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、pEC415上でNheI/SalIにクローニングされている。
配列番号:13は、シグナル配列並びに260位及び402位に2つのグリコシル化部位を有する、遺伝子的に解毒されたEPA組換え体のアミノ酸配列を示している。
配列番号:14は、シグナル配列を有さず、並びに241位及び383位に2つのグリコシル化部位を有する、遺伝子的に解毒されたEPA組換え体のアミノ酸配列を示している。
配列番号:15は、NheI/SalIを介しpEC415へクローニングされたAcrAをコードしているORFを示している。
配列番号:16は、Hla-H35L部位130生成のための発現プラスミドを表している。このORFは、大腸菌由来のN-末端DsbAシグナルペプチド、アミノ酸130位の周りの糖化部位、及びC-末端His-タグをコードしている。前述の構築体は、NheI/SalIでpEC415へクローニングされている。
配列番号:17は、cap5Kフリッパーゼ、それに続く大腸菌血清型O121のgalFとwbqAの間のインタージーン(intergene)DNA配列並びにpglB ORFからなるpglB発現カセットを伴う、CP5産生遺伝子クラスターを示している。この挿入断片は、pLAFR1のEcoRI部位にクローニングされる。
配列番号:18は、cap8Kフリッパーゼ、それに続く大腸菌血清型O121のgalFとwbqAの間のインタージーンDNA配列並びにpglB ORFからなるpglB発現カセットを伴う、CP8産生遺伝子クラスターを示している。この挿入断片は、pLAFR1のEcoRI部位にクローニングされる。
配列番号:19は、cap8Kフリッパーゼ、それに続く大腸菌血清型O121のgalFとwbqAの間のインタージーンDNA配列並びにpglB ORFからなるpglB発現カセットを伴う、CP8産生遺伝子クラスターを示し、加えてこの配列は、SfaAI/BspTIへと、すなわち緑膿菌O11のwzxとcap8Hの間にクローニングされた大腸菌血清亜型(serovar)O7のwzzの遺伝子を有する。この挿入断片は、pLAFR1のEcoRI部位にクローニングされる。
配列番号:20は、EPA及びwzzのための発現プラスミドを示している。この骨格は、耐性カセットが交換されている(クロラムフェニコールとカナマイシンを)pACT3である。
配列番号:21は、pext21 Eco/Salにクローニングされた大腸菌血清型O7のwzzを示している。
配列番号:22は、実施例に示したペプチド配列を示している。
配列番号:23は、実施例に示したペプチド配列を示している。
配列番号:24は、X及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよい、タンパク質コンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tを示している。
配列番号:25は、グリコシル化部位を示している。
配列番号:26は、グリコシル化部位を示している。
配列番号:27は、EcoRI/BamHI部位にクローニングされたpglB ORFを含む発現プラスミドを示している。
用語及び略語の説明は、本明細書において使用されるように以下に記載し、かつ当業者に公知の用途と一致している。これらの説明は、そのような用語及び略語の理解を促進するために提供され、かつ本発明の実施態様を限定するものとして構成されるものではない。
AcrAとは、C.ジェジュニ由来の糖タンパク質をいう。
能動免疫とは、抗原への曝露後の免疫(抗体)の誘導をいう。
APCとは、抗原提示細胞をいう。
Ampとは、アンピシリンをいう。
菌血症とは、循環血中の生存可能な細菌の存在をいう。
C'とは、補体をいう。
CapAは、黄色ブドウ球菌CP5における鎖長の決定因子であると提唱されている酵素である。
CapBは、黄色ブドウ球菌CP5における多糖鎖の長さの調節因子であると提唱されている酵素である。
CapCは、黄色ブドウ球菌CP5における輸送タンパク質をコードしていると提唱されている酵素である。
CapDは、4,6デヒドラターゼ活性を有する酵素であり、且つ黄色ブドウ球菌CP5において、前駆体UDPGlcNAcを、UDP-2-アセトアミド-2,6-ジデオキシ-D-キシロ-4-ヘキスロースへ転換する。
CapEは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-D-GlcNAcのUDP-2-アセトアミド-2,6-ジデオキシ-D-リキソ-4-ヘキスロースへのエピマー化を触媒する、4,6-デヒドラターゼ3,5-エピメラーゼである。
CapFは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-2-アセトアミド-2,6-ジデオキシ-D-リキソ-4-ヘキスロースからUDP-L-6dTalNAcへの還元を触媒する、レダクターゼである。
CapGは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-L-6dTalNAcからUDP-LFucNAcへのエピマー化を触媒する、2-エピメラーゼである。
黄色ブドウ球菌CP5中のCapHは、O-アセチル転移酵素である。
CP8中のCapHは、黄色ブドウ球菌CP5由来のCapIに類似した転移酵素である。
黄色ブドウ球菌CP5中のCapIは、UDP-ManNAcAのキャリア脂質-D-FucNAc-L-FucNAcへの転移を触媒し、キャリア脂質-D-FucNAc-L-FucNAc-ManNAcAを生成するグリコシル転移酵素である。
CP8中のCapIは、黄色ブドウ球菌CP5中のCapJに類似したポリメラーゼである。
黄色ブドウ球菌CP5中のCapJは、ポリメラーゼである。
CP8中のCapJは、黄色ブドウ球菌CP5中のCapHに類似したO-アセチル転移酵素である。
黄色ブドウ球菌CP5中のCapKは、フリッパーゼである。
黄色ブドウ球菌CP8中のCapKは、CP5中のCapKに類似したフリッパーゼである。
CapLは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-L-FucNAcのD-FucNAc-キャリア脂質上への転移を触媒し、キャリア脂質-D-FucNAc-L-FucNAcを生成する転移酵素である。
CapMは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-D-FucNAcのキャリア脂質上への転移を触媒し、キャリア脂質-D-FucNAcを生成する転移酵素である。
CapNは、黄色ブドウ球菌CP5におけるUDP-2-アセトアミド-2,6-ジデオキシ-D-キシロ-4-ヘキスロースのUDP-D-FucNAcへの還元を触媒する4-レダクターゼである。
CapOは、黄色ブドウ球菌CP5における、UDP-D-ManNAcのUDP-ManNAcAへの転換を触媒するデヒドロゲナーゼである。
CapPは、黄色ブドウ球菌CP5における、UDP-D-GlcNAcのUDP-D-ManNAcへのエピマー化を触媒する2-エピメラーゼである。
CFUとは、コロニー形成単位を指す。
ClfAとは、細胞壁にアンカーされたタンパク質である、黄色ブドウ球菌クランピング因子Aを指す。
コンジュゲートワクチンとは、多糖抗原のキャリアタンパク質への共有的結合により作製されたワクチンをいう。コンジュゲートワクチンは、抗菌性免疫反応及び免疫記憶を誘起する。乳児及び高齢者において、多糖抗原に対する防御免疫反応は、これらの抗原が、T細胞依存性反応を誘導するタンパク質とコンジュゲートされた場合に、誘導され得る。
コンセンサス配列とは、その配列内に、N-結合型糖タンパク質への炭水化物結合部位が認められる、アミノ酸の配列-D/E-X-N-Z-S/T-をいい、ここでX及びZはプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよい。
莢膜多糖は、その天然の形状において、多糖の厚い粘膜様の層をいい、水溶性であり且つ通常酸性である。天然の莢膜多糖は、1個から数個の単糖/モノマーの規則的反復単位からなる。
CP5とは、黄色ブドウ球菌5型莢膜多糖又は血清型5型莢膜多糖を指す。
CP8とは、黄色ブドウ球菌8型莢膜多糖又は血清型8型莢膜多糖を指す。
D-FucNAcとは、N-アセチル D-フコサミンを指す。
ECAとは、腸内細菌共通抗原を指す。
ELISAとは、試料中の抗体又は抗原の存在を検出するために、主に免疫学において使用される生化学技術である、酵素結合免疫吸着アッセイをいう。
EPA又はEPArとは、無毒の組換え緑膿菌エキソプロテインAをいう。
グライココンジュゲートワクチンとは、抗原性又は免疫原性オリゴ糖に結合されたタンパク質キャリアを含むワクチンをいう。
グリコシル転移酵素とは、単糖単位の、活性化されたヌクレオチド糖からグリコシルアクセプター分子への転移に関して触媒として作用する酵素をいう。
グラム陽性菌株とは、グラム染色(有益な診断ツール)により紫色に染まる細菌株をいう。グラム陽性菌は、ペプチドグリカン(細胞壁のおよそ50〜90%)で生成された厚いメッシュ様の細胞壁を有する。
グラム陰性菌株とは、ピンク色に染まる薄い層(細胞壁のおよそ10%)を有する細菌株をいう。グラム陰性菌は、脂質を含み、且つ細胞膜周辺腔により細胞壁から隔てられている、追加の外膜も有する。
Hla(α毒素)とは、黄色ブドウ球菌の分泌型膜孔形成毒素及び必須病原因子抗原であるα溶血素をいう。
Hla H35Lとは、黄色ブドウ球菌由来のHla無毒のα-毒素変異体である変異型をいう。
ヒスチジンタグ、又はポリヒスチジン-タグは、多くはタンパク質のN-又はC-末端にある、少なくとも5個のヒスチジン(His)残基からなるタンパク質内のアミノ酸の一部分であり、ニッケルアフィニティカラムへの特異的結合により簡便且つ迅速な様式で精製するために使用される。
IVとは、静脈内を指す。
kDaとは、キロダルトンを指し、これは原子質量単位である。
L-FucNAcとは、N-アセチルL-フコサミンを指す。
LPSとは、リポ多糖を指す。リポ多糖(LPS)は、リポグリカンとしても知られ、共有結合により結合された脂質と多糖からなる大型分子であり;これらは、グラム陰性菌の外膜中に認められ、内毒素として作用し、且つ動物において強力な免疫反応を誘発する。
ManNAcAとは、N-アセチルマンノサミンウロン酸を指す。
メチシリン-耐性黄色ブドウ球菌株(MRSA)とは、より長期の入院、及びより多くの抗生物質投与につながる集中治療室でのより多くの感染症に関連している、メチシリン-耐性黄色ブドウ球菌株をいう。
N-グリカン又はN-結合型オリゴ糖とは、N-グリコシド結合を介してタンパク質のアスパラギン残基のε-アミド窒素に結合されている、変動し得る組成の単糖、オリゴ糖又は多糖をいう。
N-結合型タンパク質グリコシル化とは、「グリカン」(単糖、オリゴ糖又は多糖)を、標的タンパク質のアスパラギン(N)側鎖の窒素へ共有結合するプロセス又は経路をいう。
O抗原又はO多糖とは、LPS内に含まれる反復グリカン重合体をいう。O抗原は、コアオリゴ糖に結合され、且つLPS分子の最も外側ドメインを構成している。
オリゴ糖又は多糖とは、共有結合された炭水化物(単糖)により形成されたホモ重合体又はヘテロ重合体をいい、且つグリコシド結合により一緒に結合された反復単位(単糖、二糖、三糖など)を含むが、これらに限定されるものではない。
オプソニン食作用活性とは、補体及び特異的抗体の存在下での病原体の食作用をいう。血清抗体のインビトロオプソニン食作用活性(OPA)は、インビボにおける抗体の機能活性を表し、従って防御免疫と相関していると考えられる。
OTase又はOSTとは、新生タンパク質又は折り畳みタンパク質のコンセンサス配列において、オリゴ糖又は多糖のアスパラギン(N)残基への機構的に独自かつ選択的な転移(グリコシル化)を触媒する、オリゴ糖転移酵素をいう。
受動免疫とは、一個体から別の個体への、既に産生された抗体の形での活性のある体液性免疫の移入である。
細胞膜周辺腔とは、グラム陰性菌の内側細胞膜と外側外膜の間の空間をいう。
PMNとは、ヒト及び多くの(全てではない)哺乳動物の末梢血内で最も豊富な白血球細胞である多形核好中球をいう。
タンパク質キャリアとは、それにオリゴ糖又は多糖が結合されるコンセンサス配列を含むタンパク質をいう。
RUとは、個々の単糖のオリゴ糖又は多糖への集成により合成された特異的多糖を構成する反復単位を指す。
シグナル配列とは、タンパク質を異なる位置へと方向付けるタンパク質のN-末端の、短い(例えば約3〜60個のアミノ酸長)のペプチドをいう。
UDP-D-ManNAcは、UDP-N-アセチル-D-マンノサミンである。
UDP-D-ManNAcAは、UDP-N-アセチル-D-マンノサミンウロン酸である。
UDP-D-QuiNAcは、UDP-N-アセチル-D-キノボサミンである。
UDP-L-FucNAcは、UDP-N-アセチル-L-フコサミンである。
UDP-L-6dTalNAcは、UDPN-アセチル-L-プノイモサミンである。
Undとは、11個のプレノール単位で構成されたウンデカプレニル又はウンデカプレノール脂質である。
UndPとは、細菌細胞エンベロープへと輸送される炭水化物重合体のための、グリカン生合成の中間体の普遍的脂質キャリア(Und由来)である、ウンデカプレニルリン酸をいう。
UndPPとは、UndPのリン酸化型である、ウンデカプレニルピロリン酸をいう。
wbjAは、緑膿菌O11のグルコシル転移酵素である。
wbjBは、黄色ブドウ球菌CP5及びCP8の莢膜生合成に必要な酵素に類似した推定エピメラーゼである。
wbjCは、緑膿菌O11の推定エピメラーゼである。
wbjDは、緑膿菌O11の推定エピメラーゼである。
wbjEは、緑膿菌O11の推定エピメラーゼである。
wbjFは、緑膿菌O11のグリコシル転移酵素である。
wbpLは、緑膿菌O11におけるLPS生合成に参加するグリコシル転移酵素である。
wbpMは、緑膿菌O11におけるLPS生合成に参加するグリコシル転移酵素である。
本発明の実施態様は、C.ジェジュニは原核生物では一般的でない特徴である全般的N-結合型タンパク質グリコシル化システムを持っているという発見を、少なくとも一部基にしている。C.ジェジュニの様々なタンパク質は、七糖により改変されることが示されている。この七糖は、特異的グリコシル転移酵素により触媒されるヌクレオチド活性化された単糖の段階的付加により、内膜の細胞質側において、キャリア脂質であるUndPP上に集成される。次に脂質-結合されたオリゴ糖は、例えばPglKなどのフリッパーゼにより細胞膜周辺腔へとフリッピングされる(すなわち横断的に拡散する)。N-結合型タンパク質グリコシル化の最終段階において、OTase(例えば、PglB)は、オリゴ糖の、キャリア脂質からコンセンサス配列Asp/Glu-Xaa-Asn-Zaa-Ser/Thr(すなわちD/E-X-N-Z-S/T)内のAsn残基への転移を触媒し、ここでXaa及びZaaは、Pro以外の任意のアミノ酸であることができる。本発明者らは、七糖のためのグリコシル化クラスターを大腸菌へと巧く転移させることができ、且つカンピロバクターのN-結合型糖タンパク質を生成することができた。
大腸菌などのグラム陰性宿主細菌を改変するための新規且つ独創的方法は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に対するワクチン製品として使用されるグリコシル化タンパク質を生成するために開発された。この方法の開発は、重大で多くの点で予想外の問題点を克服し、並びに従来の英知及び先行技術から実質的に離れることが必要であった。
この新規且つ独創的方法において、例えば黄色ブドウ球菌などの標的生体の関心対象の多糖に類似した構造を有する多糖を生成する別のグラム陰性菌が同定された。本発明の目的に関して、構造類似性は、それ自身、同定された他のグラム陰性菌の多糖における反復単位と部分的に同一である標的(例えば黄色ブドウ球菌)の多糖における反復単位として現れる。前者の細菌は、宿主、例えば大腸菌生体のようにグラム陰性であるので、本発明者らは、改変された大腸菌生体におけるその生合成経路の使用は、構築されたRU抗原の生合成、及び改変された大腸菌生体の細胞質からペリプラズムへのそのフリッピングを可能にするであろうということを最初に仮定した(そして後に以下に考察したように実験により実証した)。更に本発明者らは、この生合成経路を介して生成された多糖のサイズは、グラム陽性黄色ブドウ球菌の生合成経路により生成された多糖よりも、はるかに小さいであろうということを仮定した(そして後に以下に考察したように実験により実証した)。
結果として、そして以下に考察したように、本発明者らが開発した新規且つ独創的な方法は、前述の困難な問題点を解決した。
更に驚くべきことに、以下に詳述するように、グラム陰性生体におけるLPS経路の態様を使用し、例えば黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に固有の莢膜多糖と同じ反復単位をいくつか含む多糖を生成することができることがわかった。
従って、黄色ブドウ球菌のためのグリコシル化タンパク質ワクチンの多糖セクションの製造において、ひとつの驚くべき解決法は、少なくとも部分的に大腸菌のようなグラム陰性菌に固有の多糖を基にした多糖セクションの構築である。本発明者らは更に、それを実行する過程で、黄色ブドウ球菌により生成される関心対象の多糖に可能な限り類似している多糖を生成する細菌を見つけることは、明らかに重要であることを発見した。そのような細菌は、緑膿菌である。
図1は、本明細書に照らして当業者に明らかであるように、グラム陰性宿主細胞のO抗原クラスターに提供された酵素によるか、又はハウスキーピング酵素によるかのいずれかの、細胞質におけるヌクレオチド-活性化された単糖の調製の具体例の段階的描写を提供している。本プロセスの段階は、図1の描写において左から右へと進む。図1に図示された具体例において、グリコシルリン酸転移酵素(WbpL)は、D-FucNAcリン酸をUndPに付加し、UndPP-FucNAcを形成する。次に特異的グリコシル転移酵素は、更に反復単位(RU)オリゴ糖を形成する単糖の付加(WbjE、WbjA)により、UndPP-D-FucNAc分子を伸長する。次にRUは、Wzxタンパク質により細胞膜周辺腔へとフリッピングされる。Wzy酵素は、ペリプラズムRUを重合し、O抗原多糖を形成する。重合体長は、Wzzタンパク質により制御される。多くの細菌性オリゴ糖及び多糖は、UndPP上で集成され、次に他の分子へ転移される。別の表現をすると、UndPPは、細菌における糖に関する全般的結合のプラットフォームである。大腸菌、及び考えられる限りはほとんどの他のグラム陰性菌において、O抗原は、大腸菌酵素WaaLにより、UndPPからリピドAコアへと転移され、リポ多糖(LPS)を形成する。
図2は、本明細書に照らして当業者に明らかであるように、緑膿菌O11のO抗原クラスターにおいて提供された酵素による、グラム陰性宿主細胞のハウスキーピング酵素による、並びにUDP-ManNAcA生合成に必要であることがわかっている黄色ブドウ球菌及び/又は大腸菌酵素(Cap5OP及び/又はWecBC)による、細胞質におけるヌクレオチド-活性化された単糖調製の具体例を図示している。本プロセスの段階は、図2の描写において左から右へと進む。O11生合成のように、WbpL及びWbjEは、コア二糖を合成する。次に黄色ブドウ球菌グリコシル転移酵素Cap5Iは、D-ManNAcAを付加する。Cap5Hは、アセチル基を2番目のFucNAc残基へ付加する。アセチル化は、図2に示されるように、RU合成の最終段階であることができる。フリッピングは、緑膿菌の組換え発現されたWzx又はCap5Kであるか、又は例えば大腸菌染色体においてコードされたECAクラスターなどの内因性に発現されたWzx-様酵素である、本システムにおけるWzxタンパク質の1つ又は全てにより可能である。重合は、Cap5Jポリメラーゼに独占的な活性であり、UndPP上にCP5多糖を形成する。他のUndPP結合された多糖のように、CP5糖質は、大腸菌酵素WaaLにより、リピドAコアに転移され、組換えLPS(LPS莢膜)を形成する。
図3は、本明細書に照らして当業者に明らかであるように、緑膿菌O11のO抗原クラスターにおいて提供された酵素による、グラム陰性宿主細胞のハウスキーピング酵素による、並びにUDP-ManNAcA生合成に必要であることがわかっている黄色ブドウ球菌及び/又は大腸菌酵素(Cap8OP及び/又はWecBC)による、細胞質におけるヌクレオチド-活性化された単糖の調製を図示している。本プロセスの段階は、図3の描写において左から右へと進む。O11生合成のように、WbpL及びWbjEは、コア二糖を合成する。次に黄色ブドウ球菌グリコシル転移酵素Cap8Hは、D-ManNAcAを付加する。Cap8Jは、アセチル基を2番目のFucNAc残基へ付加する。アセチル化が、活性化された糖又はRUへ結合した脂質において生じるかどうかは不明である。フリッピングは、緑膿菌の組換え発現されたWzx又はCap8Kであるか、又は例えば大腸菌染色体においてコードされたECAクラスターなどの内因性に発現されたWzx-様酵素である、本システムにおいてWzxタンパク質の1つ又は全てにより可能である。重合は、Cap8Iポリメラーゼに独占的な活性であり、UndPP上にCP8多糖を形成する。次にCP8糖質は、大腸菌において酵素WaaLにより、リピドAコアに転移される。
図4は、O11、CP5及びCP8多糖の異なる構造を図示している。図4において、これらのRUは、UndPP及び二糖α-D-FucNAc-(1,3)-L-FucNAcからなる同一の基幹構造を共有していることが示されている。黄色ブドウ球菌RUは、中央のL-FucNAc残基又はManNAcA残基上のいずれかで、1個のO-アセチル基により部分的に修飾され、これは黄色ブドウ球菌RUに特徴的である。黄色ブドウ球菌RUにおける2番目及び3番目の糖の結合性は、それらの間で異なり、更には重合されたRU間の結合性も異なる。右側は、異なる表現の糖構造を示している。後ろ向き矢印の数字(CP5及びCP8)は、O-アセチル基により修飾された炭素の位置を示している。RU構造の別の表現を左下側に示している。図4に示したように、緑膿菌に固有の多糖の一部であるO11抗原のRUと、ブドウ球菌の各菌株のCP5及びCP8莢膜のRUとの間には、大きい重複が存在する。特に図4に示すように、RUのL-FucNAc-->D-FucNAc部分は、両方において同一である。
別の態様において、本発明は、全体又は一部において、標的多糖によるタンパク質のグリコシル化において使用するための該標的多糖を同定する方法を特徴としている。該標的多糖を含むグリコシル化タンパク質は、例えばワクチン組成物において使用することができる。標的多糖を同定する方法は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌を標的として同定する工程;少なくとも3つのモノマーを含む該グラム陽性菌により生成された多糖の第一の反復単位を同定する工程;該第一の反復モノマー単位と同じモノマーを少なくとも2つ含む第二の反復単位を含むグラム陰性種の細菌により生成された多糖を同定する工程:を含む。
従って本発明の一実施態様において、第一のグラム陰性種の細菌を改変する方法は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌を標的として同定する工程;少なくとも3つのモノマーを含む該グラム陽性菌により生成された多糖の第一の反復単位を同定する工程;該第一の反復単位と同じモノマーを少なくとも2つ含む第二の反復単位を含む第二のグラム陰性種の細菌により生成された多糖を同定する工程;a)該第二の反復単位;及び、b)該第二の反復単位には存在しない該第一の反復単位のモノマー:を含む、三糖を集成するグリコシル転移酵素をコードしている1種以上のヌクレオチド配列を、該第一のグラム陰性種の細菌に挿入する工程;少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tを含むタンパク質であり、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいものなどのタンパク質をコードしているヌクレオチド配列を挿入する工程;並びに、OTaseをコードしているヌクレオチド配列を挿入する工程:を含む。
本発明の実施態様において、本方法は、宿主グラム陰性菌へ、第二の反復単位に存在しない第一の反復単位のモノマーを含む三糖を集成し且つ第二の反復単位を集成するグリコシル転移酵素をコードしている1種以上のヌクレオチド配列を挿入する工程を更に含む。追加の本発明の実施態様は、第一の反復単位由来の少なくとも1つのモノマー単位を集成するグラム陰性菌由来の1種以上のグリコシル転移酵素、及び第二の反復単位由来の少なくとも2つのモノマーを集成する黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌由来の1種以上のグリコシル転移酵素を挿入する工程に関わる。本方法は加えて、グラム陰性宿主細菌へ、タンパク質をコードしているヌクレオチド配列、及びOTaseをコードしているヌクレオチド配列を挿入する工程を含む。
少なくとも一つの本発明の実施態様において、構築された反復単位を発達させ(build up)、フリッピングし、且つ重合する、黄色ブドウ球菌のCP5株及びCP8株由来の必要な酵素をコードしている対応する核酸を保持しする宿主大腸菌菌株が作製される。実施態様において、必要とされる特異的グリコシル転移酵素は、緑膿菌に固有であるL-FucNAc-->D-FucNAc RUを形成するものに対応し、並びに黄色ブドウ球菌のCP5株及びCP8株の各々に固有であるRUを完成するためにD-ManNAcA単糖を付加するものに対応しているグリコシル転移酵素に対応していた。そのような実施態様は、核酸を宿主細胞に注入するためのプラスミドの使用を更に含むことができる。追加の実施態様は、1つのプラスミドにおいて、L-FucNAc-->D-FucNAcに対応するグリコシル転移酵素をコードしている核酸を使用し、並びに異なるプラスミドにおいて、D-ManNAcAに対応するグリコシル転移酵素をコードしている核酸を使用することに関与している。そのような実施態様の恩恵の1つは、先行技術を考慮すると驚くべきことだが、現在黄色ブドウ球菌莢膜の構築されたRU重合体の生成に責任のある緑膿菌の改変されたLPS生合成経路は、黄色ブドウ球菌の莢膜よりもはるかに小さい構造を生じることである。
本発明は加えて、少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tであって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;及び、該コンセンサス配列に結合されたグラム陽性菌由来の少なくとも1つのオリゴ糖又は多糖:を含む、組換えN-グリコシル化タンパク質を指向している。別の実施態様において、この組換えN-グリコシル化タンパク質は、該挿入されたコンセンサス配列を2種以上含む。更に追加の実施態様において、組換えN-グリコシル化タンパク質は、該黄色ブドウ球菌のオリゴ糖又は多糖を2つ以上含む。また更なる実施態様において、組換えN-グリコシル化タンパク質は、2種以上の該挿入されたコンセンサス配列、並びに例えば黄色ブドウ球菌莢膜多糖5型株及び莢膜多糖8型株など異なる黄色ブドウ球菌株由来のオリゴ糖又は多糖を含む。
本発明は更に、N-グリコシド結合による、黄色ブドウ球菌の改変された莢膜多糖の、同じ生体由来のタンパク質抗原との組合せを指向している。
本発明の実施態様は、天然にグリコシル化されたタンパク質を含む。そのような天然にグリコシル化されたタンパク質(例えばC.ジェジュニタンパク質)は、天然のコンセンサス配列を含むが、任意の追加の(すなわち導入された)最適化されたコンセンサス配列は含まない。天然のグリコシル化されたタンパク質は、原核生物及び真核生物のタンパク質を含む。本発明の実施態様は、更に以下のN-グリコシル化された部分アミノ酸配列を1種以上含む組換えN-グリコシル化タンパク質を含む:D/E-X-N-Z-S/T(最適化されたコンセンサス配列)、ここでX及びZはPro以外の任意の天然のアミノ酸であってよく、且つここで該N-グリコシル化された部分アミノ酸配列の少なくとも1種が導入されている。特異的部分アミノ酸配列(最適化されたコンセンサス配列)のタンパク質への導入は、導入部位での、例えばカンピロバクター種由来のOTaseなど、例としてC.ジェジュニ由来のOTaseなどのOTaseにより効率的にN-グリコシル化されるタンパク質につながる。
同じく本明細書の文脈で使用される用語「部分アミノ酸配列」は、「最適化されたコンセンサス配列」又は「コンセンサス配列」も指すであろう。最適化されたコンセンサス配列は、例えばカンピロバクター種由来のOTaseなど、例としてC.ジェジュニ由来のOTaseなどのOTaseによりN-グリコシル化される。
アミノ酸の国際的に承認された1文字コードに従い、略語D、E、N、S及びTは、各々、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、及びトレオニンを意味する。
最適化されたコンセンサス配列の導入は、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換により実現することができる。最適化されたコンセンサス配列の導入を目的とした1つ以上のアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換は、固相支援化学ペプチド合成などの当業者に周知の化学合成戦略により実現することができる。あるいは、そして大型ポリペプチドにとって好ましくは、本発明のタンパク質は、1種以上の最適化されたコンセンサス配列をコードしている核酸の、天然にグリコシル化されているタンパク質であるか、又は天然にグリコシル化されていないタンパク質であることができる出発タンパク質の核酸配列への付加による標準の組換え技術により調製することができる。
好ましい実施態様において、本発明のタンパク質は、1種以上の、好ましくは少なくとも2種又は少なくとも3種の、及びより好ましくは少なくとも5種の該導入されたN-グリコシル化され最適化されたアミノ酸配列を含むことができる。
本発明のタンパク質内の1種以上のN-グリコシル化され最適化されたアミノ酸配列の存在は、それらの抗原性を増大し、それらの安定性を増大し、それらの生物活性に影響を及ぼし、それらの生物学的半減期を延長し、及び/又はそれらの精製を簡便化するという利点をもたらし得る。
前述の最適化されたコンセンサス配列は、X位及びZ位にプロリン以外の任意のアミノ酸を含むことができる。用語「任意のアミノ酸」とは、一般的な及び稀な天然のアミノ酸に加え、最適化されたコンセンサス配列をOTaseによりN-グリコシル化させることが依然可能である合成アミノ酸誘導体及び類似体を包含することを意味する。天然の一般的な及び稀なアミノ酸が、X及びZについて好ましい。X及びZは、同じであっても異なってもよい。
X及びZは、本発明のタンパク質における各々最適化されたコンセンサス配列について異なることができることに留意されたい。
前述の最適化されたコンセンサス配列に結合されるN-グリカンは、特異的グリコシル転移酵素、及びOTaseによる転移のために脂質キャリア上にオリゴ糖が集成する際のそれらの相互作用により決定されるであろう。当業者は、所望の宿主細胞に存在する特異的グリコシル転移酵素の種類及び量を変動することにより、N-グリカンをデザインすることができる。(Raetz及びWhitfieldの文献、「リポ多糖内毒素(Lipopolysaccharide Endotoxins)」、NIH-PA Author Manuscript 1-57, 19-25(Annual Rev. Biochem., 71:635-700 (2002)に最終版掲載);Reevesらの論文、「細菌多糖の合成及び遺伝子命名(Bacterial Polysaccharide Synthesis and Gene Nomenclature)」、Trends in Microbio. 4(3):495-503, 497-98(1996年12月);並びに、Whitfield, C.及びI. S. Robertsの論文、1999、「大腸菌における莢膜の構造、集成及び発現調節(Structure, assembly and regulation of expression of capsules in Escherichia coli)」、Mol Microbiol 31(5): 1307-19)。
本明細書において使用される「多糖」は、少なくとも2つの単糖を含む糖類を含む。多糖は、オリゴ糖、三糖、1種以上の単糖(又はモノマー)を含む反復単位、及び当業者により多糖として認められる他の糖類を含む。N-グリカンは、本明細書において、N-グリコシド結合を介してタンパク質内のアスパラギン残基のε-アミド窒素に結合されている様々な組成の単糖、オリゴ糖、又は多糖として定義される。
本発明の実施態様の多糖は、CP5及びCP8などの黄色ブドウ球菌多糖を含むが、これらに限定されるものではない。本発明の実施態様は更に、黄色ブドウ球菌のメチシリン-耐性株を標的とする多糖などの、細菌を標的とする黄色ブドウ球菌多糖を含む。本明細書において、多糖が細菌株を標的とすることが言及される場合、そのような多糖は、それに対する免疫反応又は抗原反応が望まれる細菌に由来する多糖を含み、且つ更にそれに対する免疫反応又は抗原反応が望ましい細菌と同じ、それを基にした、それに由来する、それに固有の或いは操作されている多糖を含む。
本発明の組換えタンパク質の起源に制限はない。一実施態様において、該タンパク質は、哺乳動物、細菌、ウイルス、真菌、又は植物のタンパク質に由来する。更なる実施態様において、本タンパク質は、哺乳動物に由来し、最も好ましくはヒトタンパク質に由来する。本発明の抗原性組換えタンパク質の調製に関して、好ましくはワクチン中の活性成分として使用するための組換えタンパク質は、細菌、ウイルス、又は真菌のタンパク質に由来することが好ましい。様々な起源のタンパク質のグリコシル化が、当業者に公知である。Kowarikらの論文、「細菌のN-グリコシル化部位コンセンサス配列の定義(Definition of the bacterial N-glycosylation site consensus sequence)」、EMBO J., 1-10(2006)。
実施態様の例において、遺伝子的に解毒された緑膿菌外毒素(EPA)は、好適なタンパク質キャリアである。グリコシル化され得るEPA型の作製のためには、EPAをコードしている核酸が先に考察されたようにグリコシル化部位の挿入により改変されることを必要とする。
本発明の実施態様における使用が意図されたタンパク質キャリアは、好ましくはある免疫学的及び薬学的特徴を有さなければならない。免疫学的観点からは、好ましくはタンパク質キャリアは:(1)T細胞エピトープを有し;(2)免疫系において抗原を抗原提示細胞(APC)へ送達することが可能であり;(3)強力且つ耐久性があり;並びに、(4)抗原-特異的な全身性のIgG反応を生じることが可能でなければならない。薬学的観点からは、タンパク質キャリアは好ましくは:(1)無毒であり;並びに、(2)抗原を無傷の上皮障壁を越えて効果的に送達することが可能でなければならない。より好ましくは、これらの免疫学的及び薬学的特徴に加え、細菌性バイオコンジュゲートの製造に使用されると考えられるタンパク質キャリアは:(1)細胞膜周辺腔へ容易に分泌され;並びに、(2)ループ又は線状配列としてそれへ容易に導入される抗原エピトープを有することが可能でなければならない。本開示及び当業者の知識により情報が与えられるように、当該技術分野の実践者は、特に本発明の実施態様において使用することができる好適なタンパク質キャリアを慣習的に考察し且つ確定することができる。
本発明の実施態様において、カンピロバクタータンパク質AcrAは、タンパク質キャリアである。
更なる本発明の実施態様において、遺伝子的に解毒された緑膿菌外毒素(EPA)は、ワクチンが望まれる標的生体が黄色ブドウ球菌である場合のタンパク質キャリアである。天然のグリコシル化部位を含むAcrAとは異なり、EPAは、そのような天然のグリコシル化部位を含まず、グリコシル化部位の挿入により改変されることが必要である(例えば、先に考察したような最適化されたコンセンサス配列をコードしている核酸のEPAをコードしている核酸配列への挿入)。追加の実施態様において、EPAは、黄色ブドウ球菌抗原によるグリコシル化が可能である2つのグリコシル化部位を導入するように改変される。また更なる実施態様においては、2つのコンセンサス配列が、WO 2009/104074の実施例10において考察されたように導入される。
EPAのアミノ酸配列は、本発明の実施態様において2つのグリコシル化部位を含む様に改変された場合、配列番号:13(シグナル配列あり)及び配列番号:14(シグナル配列なし)として提供される。配列番号:13のグリコシル化部位は、
での
である。配列番号:14のグリコシル化部位は、
での
である。
EPAなどのキャリアタンパク質は、N-グリコシル化部位が細菌性バイオコンジュゲートの製造において追加され得るタンパク質である。N-グリコシル化部位は、先に考察したコンセンサス配列の導入、すなわちD/E-X-N-Z-S/T配列の挿入を必要とし、ここでX及びZはプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよい。本発明者らは、そのようなコンセンサス配列は、突然変異、及び追加的に挿入されたフランキング残基の使用による、及びN-グリコシル化部位の機能を最適化するためのフランキング残基の突然変異によるよりは、挿入により表面ループへ導入されることが好ましいことを発見した。
一部の良く特徴付けられた黄色ブドウ球菌のタンパク質サブユニット抗原は、α溶血素(α毒素、Hla)、クランピング因子α(ClfA)、IsdB、及びパントン・バレンタイン型ロイコシジン(PVL)である。
Hlaは、黄色ブドウ球菌肺炎のマウスモデルにおけるMRSAの分泌型膜孔形成毒素及び必須の病原因子である。独立した黄色ブドウ球菌株によるHla発現のレベルは、それらの毒力と直接相関する。膜孔を形成することができないHlaの突然変異型(Hla H35L、配列番号:5)による能動免疫(Menzies, B. E.、及びD. S. Kernodleの論文、1996、「マウスモデルにおける黄色ブドウ球菌由来の無毒のα毒素変異体に対する抗血清による受動免疫は防御的である(Passive immunization with antiserum to a nontoxic alpha-toxin mutant from Staphylococcus aureus is protective in a murine model)」、Infect Immun, 64:1839-41;Jursch, R.、A. Hildebrand、G. Hobom、J. Tranum-Jensen、R. Ward、M. Kehoe及びS. Bhakdiの論文、1994、「重合及び膜孔形成に重要であるレポーター領域としてのブドウ球菌α毒素のN-末端近傍のヒスチジン残基(Histidine residues near the N terminus of staphylococcal alpha-toxin as reporters of regions that are critical for oligomerization and pore formation)」、Infect Immun, 62(6):2249-56)は、抗原-特異的免疫グロブリンG反応を生じ、且つブドウ球菌肺炎に対する防御をもたらすことが示された。Hla-特異的抗体の移入は、黄色ブドウ球菌チャレンジに対しナイーブな動物を保護し、且つ感染症時のヒト肺上皮細胞の損傷を防ぐ(Bubeck Wardenburg, J.、A. M. Palazzolo-Ballance、M. Otto、O. Schneewind、及びF. R. DeLeoの論文、2008、「市中感染メチシリン耐性黄色ブドウ球菌疾患のマウスモデルにおいて毒力決定因子ではないパントン・バレンタイン型ロイコシジン(Panton-Valentine Leukocidin is not a virulence determinant in murine models of community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus disease)」、J Infect Dis, 198:1166-70)。ワクチンとして使用するためには、HlaのH35L変異は、そのタンパク質の毒性を除去する必要がある(Menzies, B. E.及びD. S. Kernodleの論文、1994、「黄色ブドウ球菌α毒素遺伝子の部位特異的変異誘発:インビトロ及びマウスモデルにおける毒素活性におけるヒスチジンの役割(Site-directed mutagenesis of the alpha-toxin gene of Staphylococcus aureus: role of histidines in toxin activity in vitro and in a murine model)」、Infect Immun, 62:1843-7)。ClfAは、免疫付与に使用されるプロテアーゼ耐性ドメインを含む。マウスの抗-ClfA抗体及び抗CP5抗体による受動免疫は、乳腺感染症モデルにおいて乳腺を効果的に無菌化した(Tuchscherr, L. P.、F. R. Buzzola、L. P. Alvarez、J. C. Lee、及びD. O.Sordelliの論文、2008、「マウスにおける乳腺炎及び黄色ブドウ球菌の莢膜で囲まれない小型コロニー変種の出現を防止する莢膜多糖及びクランピング因子Aに対する抗体(Antibodies to capsular polysaccharide and clamping factor A prevent mastitis and the emergence of unencapsulated and small-colony variants of Staphylococcus aureus in mice)」、Infect Immun, 76:5738-44)。
更なる本発明の実施態様は、黄色ブドウ球菌に固有のタンパク質、例えばHla及びClfAのグリコシル化を含む。本発明の実施態様の追加の実施例において、使用されるタンパク質キャリアは、Hlaタンパク質、例えばHla H35L(例えば、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8又は配列番号:16)であるよう選択されることができる。別の本発明の実施態様の追加の実施例において、タンパク質キャリアは、ClfAタンパク質(例えば、 配列番号:10、配列番号:11又は配列番号:12)である。
本発明は更に、グラム陽性種などの第一の原核生物種の1種以上のグリコシル転移酵素;グラム陰性種などの異なる原核生物種の1種以上のグリコシル転移酵素:をコードしているヌクレオチド配列;タンパク質をコードしているヌクレオチド配列;並びに、OTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含む、組換え宿主原核生物を指向している。加えて本発明は、グラム陽性原核生物にのみ固有であるグリコシル転移酵素をコードしている導入されたヌクレオチド配列;タンパク質をコードしているヌクレオチド配列;及び、OTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含む、組換え宿主原核生物を指向している。本発明はまた、例えば宿主原核生物とは異なる第一の原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;該第一の原核生物種とは異なり、且つ例えば該宿主とは異なる、第二の原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列:を含む、組換え又は操作された宿主原核生物も指向している。この操作された原核生物はまた、例えば、グラム陽性種である第一の原核生物種も含むことができる。この操作された原核生物はまた、例えば、グラム陰性種である第二の原核生物種も含むことができる。本発明は更に、例えば該宿主原核生物とは異なるグラム陰性原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;黄色ブドウ球菌に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;タンパク質をコードしているヌクレオチド配列;及び、OTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含む、組換え又は操作されたグラム陰性宿主原核生物を含む。本発明は更に、緑膿菌に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;黄色ブドウ球菌CP5株及び/又は黄色ブドウ球菌CP8株に固有の1種以上のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;緑膿菌EPA、黄色ブドウ球菌α溶血素、又は黄色ブドウ球菌クランピング因子Aのタンパク質キャリアをコードしているヌクレオチド配列;並びに、OTase、例えばC.ジェジュニに固有のOTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含む、組換え又は操作された大腸菌宿主を含む。
改変された宿主大腸菌生体における他のグラム陰性生体の生合成経路の使用に加え、更なる実施態様において、同じく宿主大腸菌生体に含まれるのは、(i)他のグラム陰性生体の多糖の反復単位構造(標的グラム陽性黄色ブドウ球菌生体の関心対象の多糖の反復単位と同一である)の構築のためのグリコシル転移酵素、並びに、(ii)他のグラム陰性生体の関連する多糖において認められない、標的グラム陽性黄色ブドウ球菌生体の関心対象の多糖の単位の構築のためのグリコシル転移酵素、並びに、(iii)黄色ブドウ球菌莢膜様多糖を形成するために、標的グラム陽性黄色ブドウ球菌生体の関心対象の構築されたRUのフリッピング及び重合のための酵素:をコードしている核酸である。特に、本実施態様において、(ii)及び(iii)をコードしている核酸は、標的グラム陽性黄色ブドウ球菌生体を起源とするのに対し、(i)をコードしている核酸は、他のグラム陰性菌を起源とした。
本発明の別の態様は、i)グラム陽性原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;ii)タンパク質をコードしているヌクレオチド配列;及び、iii)OTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含み、ここで該グラム陽性原核生物種のトランスポーター遺伝子をコードしている配列は欠失されている、操作された宿主原核生物を指向している。そのような実施態様は、グラム陽性グリコシル転移酵素のみをコードしている導入された核酸構築体に関与している。
1つ以上の他の実施態様において宿主に挿入される他の核酸に関して、AcrA、Hla、ClfA又はEPAなどのタンパク質をコードしている核酸(配列番号:15、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:16;配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12;配列番号:13、配列番号:14)、及びその生体のグリコシル化機構の一部であるC.ジェジュニのオリゴ糖転移酵素をコードしている核酸(配列番号:27)が、緑膿菌及び黄色ブドウ球菌の各々に由来したグリコシル転移酵素をコードしている核酸に加え、宿主に注入される。結果として、この改変された大腸菌生体は、黄色ブドウ球菌及び他のグラム陰性菌由来のグリコシル転移酵素の作用により、AcrAタンパク質を、その生体中で生成された多糖によりグリコシル化することができる。
本発明の一実施態様は、i)宿主原核生物とは異なる第一の原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;ii)宿主原核生物とは異なる、第二の原核生物種、例えばグラム陽性原核生物種に固有のグリコシル転移酵素をコードしているヌクレオチド配列;iii)タンパク質をコードしているヌクレオチド配列;及び、iv)OTaseをコードしているヌクレオチド配列:を含む、操作された宿主原核生物に関与している。本発明の実施態様において、第一の原核生物種は、グラム陰性種、例えば緑膿菌である。
本発明の状況において、宿主細胞とは、任意の宿主細胞、例えば真核生物又は原核生物の宿主細胞をいう。他の実施態様において、宿主細胞は、原核生物宿主細胞、例えばエシェリキア種、カンピロバクター種、サルモネラ種、シゲラ種、ヘリコバクター種、シュードモナス種、又はバチルス種である。より更なる実施態様において、宿主細胞は、大腸菌、カンピロバクター・ジェジュニ、サルモネラ・ティフィムリウムなどである。
本発明は更に、黄色ブドウ球菌の1種以上のグリコシル転移酵素;第二の原核生物種の1種以上のグリコシル転移酵素、タンパク質;及びOTase:をコードしている核酸を、宿主原核生物へ導入することを含む、バイオコンジュゲートワクチンの製造方法を指向している。加えて本発明は、グラム陰性菌においてウンデカプレノール(Und)上で改変された莢膜多糖を生成すること、及び選択されたタンパク質キャリアへこれらの多糖抗原を結合することによる、バイオコンジュゲートワクチンの製造を指向している。
本発明は更に、第一の原核生物に固有のグリコシル転移酵素をコードし、且つ同じく第一の原核生物とは異なる第二の原核生物に固有のグリコシル転移酵素もコードしているヌクレオチド配列を含む宿主原核生物における、グリコシル化タンパク質の製造方法を指向している。本発明は加えて、異なる生体由来の異なるグリコシル転移酵素の組合せにより合成される、グラム陽性菌の莢膜多糖によりN-グリコシル化されたタンパク質の生成を指向している。本発明は更に、グラム陽性原核生物にのみ固有のグリコシル転移酵素をコードしている導入されたヌクレオチド配列を含む宿主原核生物におけるグリコシル化タンパク質の生成を指向している。
当該技術分野において公知であるように、異なる多糖の生合成は、細菌細胞において保存されている。多糖は、規定された特異性を持つ異なるグリコシル転移酵素により、細胞膜で、共通の前駆体(活性化された糖ヌクレオチド)からキャリア脂質上に集成される(Whitfield, C.及びI. S. Robertsの論文、1999、「大腸菌における莢膜の構造、集成及び発現の調節(Structure, assembly and regulation of expression of capsules in Escherichia coli)」、Mol Microbiol, 31:1307-19)。グラム陰性におけるO抗原多糖生成及びグラム陽性におけるI型莢膜多糖に関する生合成経路は、保存されている。これらのプロセスは、多糖集成のために、同じ脂質キャリア、すなわちUndPを使用する。これは、膜の細胞質側での、単糖-1-リン酸のキャリア脂質UndPへの付加で始まる。この抗原は、異なるグリコシル転移酵素による、活性化された糖ヌクレオチドからの単糖の逐次付加により発達される。次に脂質-結合されたオリゴ糖又はRUは、フリッパーゼにより、膜を通じてフリッピングされる。RUは、細胞膜周辺腔において酵素Wzyにより重合され、グラム陰性菌においていわゆるO抗原を、又はグラム陽性菌において莢膜多糖を形成する。グラム陰性菌は、Wzz酵素を使用し、重合体の長さを調節し、これは次にリピドAコアへ転移され、LPSを形成する。LPSは更に、外側にO抗原を露出している外膜に転位される(例えば図1に図示したように)。対照的にグラム陽性菌は、異なる特定された酵素機構を使用する更なる輸送により、この脂質-結合された前駆体から莢膜を形成する。これらの多糖の生合成経路は、タンパク質キャリア上にペリプラズム内の多糖を捕獲することにより、インビボにおいてバイオコンジュゲートを製造することが可能である。
この多糖構築のプロセスは、莢膜多糖について、莢膜多糖は重合後にキャリア脂質から放出され、表面へ輸送される点が異なる。ペリプラズムコンパートメントを持たない黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性菌において、抗原の重合は、膜の外側で生じる。加えて黄色ブドウ球菌における長さの調節は、莢膜集成に責任のある3種の酵素の機構に含まれる。この集成体において、多糖は、キャリア脂質から放出され、且つ酵素的プロセスにより表面へと輸送される。
黄色ブドウ球菌における機能的莢膜発現に必要とされる遺伝子クラスターに認められる遺伝的要素は、wzy依存型O抗原合成クラスターにおいて認められる遺伝子機構に類似している(Dean, C. R.、C. V. Franklund、J. D. Retief、M. J. Coyne, Jr.、K. Hatano、D. J. Evans、G. B. Pier、及びJ. B. Goldbergの論文、1999、「緑膿菌PA103における血清型O11 O抗原遺伝子座の特徴付け(Characterization of the serogroup O11 O-antigen locus of Pseudomonas aeruginosa PA103)」、J Bacteriol, 181:4275-4284)。
驚くべきことにグラム陽性菌の多糖構築とグラム陰性菌の多糖構築の間のこれらの差異にもかかわらず、グラム陰性生体におけるLPS経路の局面を使用し、例えば黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に固有の莢膜多糖と同じ反復単位の一部を含む多糖を生成することができることが発見され且つ検証された。そのような多糖は、グラム陰性宿主においてLPS経路機構により生成されるので、そのような多糖の構造は、LPS多糖前駆体においてと同じである。従って本発明のグラム陰性システムにおいて生成されたそのような多糖は、本出願の目的に関して「改変された莢膜多糖」又は「LPS莢膜」として特徴付けることができる。更にこの新たに合成された発現システム及び生合成経路は、LPSと莢膜の生合成経路を組合せているが、これは本出願の目的に関して「改変されたLPS生合成経路」であるとして特徴付けられる。
本発明の一実施態様において、改変されたLPS生合成経路により生成された改変された多糖は、下記を含む:
更なる本発明の実施態様において、改変されたLPS生合成経路により生成された改変された多糖は、下記を含む:
本発明の技術を使用し、免疫原性である細菌のバイオコンジュゲートを製造することができる。遺伝子修飾は、望ましいタンパク質において且つ望ましい位置で細菌性多糖がインビボでコンジュゲートできるようにすることができる。
本発明の別の態様は、前述のように改変されたLPS生合成経路を使用し、タンパク質キャリアにコンジュゲートされたLPS-莢膜又は改変されたLPSの生成に関する。
更なる本発明の実施態様は、Cap5及びCap8の完全多糖生合成クラスターをコードしているヌクレオチド配列の構築を含み、ここで欠失されたトランスポーター遺伝子は、黄色ブドウ球菌のcapA、capB及びcapCである(図6参照)。
追加の本発明の実施態様は、CP5/O11キメラクラスター(配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:17)又はCP8/O11キメラクラスター(配列番号:4、配列番号:18若しくは配列番号:19)を、宿主細胞のゲノムへ組込むことを含む。更なる本発明の実施態様は、(a)CP5/O11キメラクラスター(配列番号:2、配列番号:3若しくは配列番号:17)又はCP8/O11キメラクラスター(配列番号:4、配列番号:18若しくは配列番号:19);(b)OTaseをコードしている核酸;及び、(c)導入されたコンセンサス配列を含む又は含まないタンパク質をコードしている核酸:を、宿主細胞のゲノムへ組込むことに関与している。
本発明の別の実施態様は、例えば、配列番号:2;配列番号:3;配列番号:4;配列番号:17;配列番号:18及び配列番号:19の1つ以上を含むプラスミドなどの、プラスミドに関する。本発明はまた、配列番号:13;配列番号:14及び配列番号:15の1つ以上を含むプラスミドを含む。本発明はまた、配列番号:16;配列番号:6;配列番号:7及び配列番号:8の1つ以上を含むプラスミドに関する。本発明はまた、配列番号:10;配列番号:11及び配列番号:12の1つ以上を含むプラスミドに関する。更に本発明は、配列番号:20;配列番号:21及び配列番号:27の1つ以上を含むプラスミドに関する。
本発明の実施態様は更に、例えば、配列番号:2;配列番号:3;配列番号:4;配列番号:17;配列番号:18;配列番号:19;配列番号:20;配列番号:21及び配列番号:27の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞などを含む、形質転換された細菌細胞に関する。更に本発明に含まれるのは、配列番号:19及び配列番号:20の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞である。加えて含まれるのは、配列番号:13、配列番号:19及び配列番号:21の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞である。本発明は更に、配列番号:16、配列番号:6;配列番号:7;配列番号:8;配列番号:10;配列番号:11及び配列番号:12の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞に関する。本発明は加えて、例えば配列番号:3;配列番号:4;配列番号:17;配列番号:18;及び配列番号:19の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞であって、並びにここで該細菌細胞は、緑膿菌に固有のグリコシル転移酵素並びに黄色ブドウ球菌CP5及び/又はCP8に固有のグリコシル転移酵素を発現する前記細菌細胞を含むものなどの、形質転換された細菌細胞に関する。更に本発明に含まれるのは、配列番号:17;配列番号:18及び配列番号:19の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞であって、ここで該細菌細胞が、緑膿菌に固有のグリコシル転移酵素、黄色ブドウ球菌CP5及び/又はCP8に固有のグリコシル転移酵素、並びにPglBを発現するものである。なお更に本発明に含まれるのは、(a)配列番号:19を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞であり、ここで該細菌細胞が、緑膿菌に固有のグリコシル転移酵素、黄色ブドウ球菌CP8に固有のグリコシル転移酵素、大腸菌血清亜型O7のWzz及びPglBを発現するもの;(b)配列番号:19及び配列番号:20の1つ以上を含むプラスミドにより形質転換された細菌細胞であり、ここで該細菌細胞が、緑膿菌に固有のグリコシル転移酵素、黄色ブドウ球菌CP8に固有のグリコシル転移酵素、Wzz(長さ調節因子)、EPA及びPglBを発現するもの;並びに、(c)配列番号:16;配列番号:6;配列番号:7;配列番号:8;配列番号:13;配列番号:14;配列番号:15;配列番号:10;配列番号:11及び配列番号:12の1つ以上を含む細菌細胞である。
本発明の実施態様は加えて、例えばヒトなどの哺乳動物においてグラム陽性菌及び他の細菌により引き起こされた感染症に対し免疫反応を誘導する方法を指向している。一実施態様において、本方法は、該哺乳動物へ、少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tを含むタンパク質であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;並びに、該コンセンサス配列に結合されたグラム陽性菌由来の1種以上のオリゴ糖又は多糖であって、この1種以上のオリゴ糖又は多糖が、該1種以上のオリゴ糖又は多糖のうちの他のものと同じか又は異なる、前記1種以上のオリゴ糖又は多糖:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む。更なる本発明の実施態様は、哺乳動物へ、挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tであって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;CP5多糖などの少なくとも1種の黄色ブドウ球菌オリゴ糖又は多糖;並びに、医薬として許容し得るアジュバント:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、該哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導する方法を含む。別の本発明の実施態様は、哺乳動物へ、挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/Tを含むタンパク質であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;少なくとも1種の黄色ブドウ球菌CP8多糖;並びに、医薬として許容し得るアジュバント:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、該哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。より更なる実施態様は、2種以上のコンセンサス配列を伴うタンパク質、並びに異なるグラム陽性菌株由来のオリゴ糖又は多糖を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。なお更なる実施態様は、2種以上のコンセンサス配列を伴うタンパク質、並びに黄色ブドウ球菌CP5及び黄色ブドウ球菌CP8を含む多糖を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。
特異的ヌクレオチド配列又はアミノ酸配列が注目されるような本明細書の事例において、本発明は、注目された配列と同じ機能性をなお具体化している相同配列を包含することは理解されるであろう。本発明の実施態様において、そのような配列は、少なくとも85%相同である。別の実施態様において、そのような配列は、少なくとも90%相同である。また更なる実施態様において、そのような配列は、少なくとも95%相同である。2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間の同一性の割合の決定は、当業者に公知である。
本明細書に添付された配列表に記載されたものなどの、本明細書に記載された核酸配列は、単なる例証であり、且つこれらの配列は、様々な方法で組み合わせることができることは当業者には明らかであろう。本発明の追加の実施態様は、核酸の変種を含む。核酸の変種(例えば、コドン-最適化された核酸)は、
と実質的に同一であり、すなわち、これらと少なくとも70%同一、例えば75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は99.5%同一であることができる。核酸変種は、
を含む配列のものである。
を含む配列、又はそれらの一部から1個以上のヌクレオチド(例えば、2、3、4、5、6、8、10、12、15、20、25、30、35、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、500又はそれ以上のヌクレオチド)の置換、変動、改変、変換、欠失及び/又は付加を伴う核酸を含む。
そのような変種は、原核生物のグリコシル転移酵素をコードしている核酸、並びにi)大腸菌などの宿主細胞において発現され、且つii)配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:17、配列番号:18及び/又は配列番号:19、並びに/又はそれらの一部と実質的に同一である核酸を含む。
本明細書に記載の核酸は、組換えDNA及び合成(例えば化学的に合成された)DNAを含む。核酸は、二本鎖又は一本鎖であることができる。一本鎖核酸の場合核酸は、センス鎖又はアンチセンス鎖であることができる。核酸は、本明細書に照らして当業者に公知のように、オリゴヌクレオチド類似体又は誘導体を使用し合成することができる。
本明細書に記載の核酸を含むプラスミドは、発現のために宿主細胞に形質転換されることができる。形質転換の技術は、本明細書に照らして当業者に公知である。
追加の本発明の実施態様は、LPS-莢膜又はタンパク質キャリアにコンジュゲートされた改変されたLPSを含む、グラム陽性バイオコンジュゲートワクチンの製造に関与している。
更なる本発明の実施態様は、新規バイオコンジュゲートワクチンに関与している。更なる本発明の実施態様は、免疫原性又は抗原性バイオコンジュゲートを直接生成する組換え細菌細胞を使用する、そのようなバイオコンジュゲートワクチンを製造するための新規アプローチに関与している。一実施態様において、バイオコンジュゲートワクチンは、下痢、院内感染症及び髄膜炎などの細菌性疾患を治療又は予防するために使用することができる。更なる実施態様において、バイオコンジュゲートワクチンは、癌又は他の疾患に対する治療的及び/又は予防的潜在力を有し得る。
別の本発明の実施態様において、多糖(すなわち糖残基)及びタンパク質(すなわちタンパク質キャリア)の合成された複合体は、黄色ブドウ球菌感染症などの感染症に対し防御するための、コンジュゲートワクチンとして使用することができる。一実施態様において、グラム陽性ワクチンなどのバイオコンジュゲートワクチンは、挿入された核酸コンセンサス配列を含むタンパク質キャリア;コンセンサス配列に結合されたグラム陽性菌由来の少なくとも1種のオリゴ糖又は多糖、及び任意にアジュバント:を含む。本発明は更に別の実施態様において、挿入された核酸コンセンサス配列を含むタンパク質キャリア;コンセンサス配列に結合された、莢膜多糖又はLPS莢膜などのグラム陽性菌由来の少なくとも1種のオリゴ糖又は多糖、並びに任意にアジュバントを含む、黄色ブドウ球菌ワクチンなどの、グラム陽性バイオコンジュゲートワクチンを指向している。別の本発明の実施態様において、黄色ブドウ球菌バイオコンジュゲートワクチンは、これらの挿入されたコンセンサス配列を2種以上含む。更なる実施態様において、黄色ブドウ球菌バイオコンジュゲートワクチンは、黄色ブドウ球菌のオリゴ糖又は多糖を2種以上含む。より更なる実施態様は、2種以上の該挿入されたコンセンサス配列、並びに異なる黄色ブドウ球菌株、例えば黄色ブドウ球菌莢膜多糖5型株(CP5)及び莢膜多糖8型株(CP8)由来のオリゴ糖又は多糖を含む。
追加の本発明の実施態様は、改変された莢膜多糖又はLPS莢膜の生成を含む、改変されたLPS経路を使用するグリコシル化システムにより製造された黄色ブドウ球菌ワクチンに関する。更なる追加の実施態様は、グラム陰性原核生物種のグリコシル転移酵素をコードしていない導入された核酸からの改変された莢膜多糖の生成を含む、改変されたLPS経路を使用するグリコシル化システムにより製造された黄色ブドウ球菌ワクチンに関する。
更なる実施態様は、i)緑膿菌に固有のO11抗原のRUのL-FucNAc-->D-FucNAcの生成に責任のある1種以上のグリコシル転移酵素;ii)黄色ブドウ球菌のCP5株又はCP8株のいずれかに固有のRUを含むD-ManNAcAの生成に責任のある1種以上のグリコシル転移酵素;iii)CP5又はCP8の構築されたRUのフリッピング及び重合に責任のある1種以上の酵素、iv)導入されたコンセンサス配列を含む組換えタンパク質;並びに、v)C.ジェジュニ由来のオリゴ糖転移酵素:をコードしている核酸を含むグリコシル化システムにより製造された黄色ブドウ球菌ワクチンに関する。この実施態様において、宿主生物は、グラム陰性菌、例えば大腸菌であってよい。
追加の本発明の実施態様は、i)緑膿菌に固有のO11抗原のRUのL-FucNAc-->D-FucNAcの生成に責任のあるグリコシル転移酵素;ii)黄色ブドウ球菌のCP5株又はCP8株のいずれかに固有のRUを含むD-ManNAcAの生成に責任のあるグリコシル転移酵素;iii)C.ジェジュニのAcrAタンパク質;並びに、iv)C.ジェジュニ由来のオリゴ糖転移酵素:をコードしている核酸を含むグリコシル化システムにより製造された黄色ブドウ球菌ワクチンに関与している。この実施態様において、宿主生物は、グラム陰性菌、例えば大腸菌であってよい。
本発明のワクチンは、治療的及び予防的有用性を有する。本発明のワクチンは、臨床医薬品及び獣医用医薬品の分野において有用であることは理解されるであろう。従って免疫付与される対象は、ヒト、又は例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ及び家禽(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、アヒル、及びガチョウ)を含む家畜、並びにイヌ及びネコなどの伴侶動物などの他の動物であってよい。
別の態様において、本発明は、グラム陽性菌などの細菌に対する哺乳動物の免疫付与のためのワクチンの製造方法を指向している。この方法は、グラム陽性の多糖、例えば黄色ブドウ球菌多糖、及び医薬として許容し得る担体を含有するバイオコンジュゲートのようなバイオコンジュゲートにより、対象に免疫付与することを含む。
この本発明はまた、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌による感染症に対する防御のための、又は黄色ブドウ球菌感染症などのグラム陽性感染症の治療のためのワクチン組成物を特徴としている。一実施態様において、本ワクチン組成物は、黄色ブドウ球菌由来の多糖又はそれらの断片若しくは部分などの、1種以上の免疫原性成分を含有する。更なる実施態様において、本ワクチン組成物は、グラム陰性菌又はグラム陽性菌由来のタンパク質又はそれらの断片若しくは部分などの1種以上の免疫原性成分を含有する。
本発明の一態様は、黄色ブドウ球菌多糖の少なくとも1つの免疫原性成分又は断片並びに医薬として許容し得る担体を含有する、黄色ブドウ球菌による感染症を防御するためのワクチン組成物を提供する。そのような免疫原性成分又は断片は、例えば、長さが少なくとも約2つのモノマー又は長さが少なくとも約3つのモノマーの黄色ブドウ球菌多糖を含むことができる。本発明の更なる態様において、黄色ブドウ球菌RUは、該モノマーを含む。そのような反復単位は、例えば、長さが少なくとも1つの黄色ブドウ球菌RUを含むことができる。
本発明の免疫原性成分又は断片は、例えば、組換え的に又は化学合成により生成された多糖若しくはポリペプチドのスクリーニングによるか、又は例えば、多糖及びタンパク質を含有するバイオコンジュゲートのスクリーニングにより得ることができる。本発明の免疫原性成分又は断片のスクリーニングは、1種以上のいくつかの異なるアッセイを使用し実行することができる。例えば、スクリーニングアッセイは、ELISA及び当業者に公知の他のアッセイを含む。
一実施態様において、免疫原性成分又は断片は、例えば、グライココンジュゲートワクチン候補CP5-EPAに対する特異的抗CP5抗体(ELISAにより定量)の測定、並びに当業者に公知の他の手段で、マウス(図15A)及びウサギ(図15B)において得られた免疫反応により決定されるような、黄色ブドウ球菌CP5又はCP8多糖などのグラム陽性菌多糖に対するIgG抗体を刺激する多糖及び/又はタンパク質の能力により同定される。
一実施態様において、免疫原性成分又は断片は、例えば、ウサギ抗CP5-EPA抗体(下記実施例7で得られる、図15B参照)による黄色ブドウ球菌死滅(「インビトロ」活性)によるか、並びに他の当業者に公知の手段により、決定されるような、オプソニン食作用死滅などのオプソニン活性を刺激する多糖及び/又はタンパク質の能力により同定される。
また更なる実施態様において、免疫原性成分又は断片は、例えば、CP5-EPAによるマウス(図18)における能動免疫を使用する細菌感染(「チャレンジ」)に対する防御によるか、並びに他の当業者に公知の手段により、決定されるような、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌に対する体液性及び/又は細胞性免疫を刺激する多糖及び/又はタンパク質の能力により同定される。
本発明の実施態様において、本発明のワクチン組成物は、本発明の黄色ブドウ球菌多糖の免疫原性成分又は断片を含有し、且つ任意に医薬として許容し得る担体又はアジュバントを更に含有する糖タンパク質を基にすることができる。更なる本発明の実施態様において、ワクチン組成物は、本発明の黄色ブドウ球菌タンパク質の免疫原性成分又は断片を含有し、且つ任意に医薬として許容し得る担体又はアジュバントを更に含有する糖タンパク質を基にすることができる。また更なる本発明の態様において、ワクチン組成物は、本発明の緑膿菌タンパク質の免疫原性成分又は断片を含有し、且つ任意に医薬として許容し得る担体及び/又はアジュバントを更に含有する糖タンパク質を基にすることができる。
当業者は、例えばマウスなどの1つの哺乳動物型へ投与するためのワクチンを、例えばヒトなどの別の哺乳動物型へ投与するために、どのように改変するかは良く知っている。例えば当業者は、マウスにおけるワクチン組成物中で使用される糖タンパク質のタンパク質キャリアからのヒスチジンタグの欠失は、この糖タンパク質をヒトにおけるワクチン組成物での投与に適したものとすることを容易に理解するであろう。例えば、例としてEPA(配列番号:13)、ClfA(配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12)、及びHla(配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:16)などのタンパク質キャリア内のヒスチジンタグ(His-タグ)の欠失は、ヒトへの投与のために糖タンパク質中でそれを使用することに関して認められるであろう。
グラム陽性、例えば黄色ブドウ球菌、又は他の細菌の感染症又は疾患の症状の何らかの改善は、例えば黄色ブドウ球菌が引き起こした感染症又は疾患、又は他の細菌が引き起こした感染症又は疾患などの、グラム陽性が引き起こした感染症又は疾患のために使用される薬物療法の用量の減量、或いは患者の血清又は粘膜中の抗体産生の増加を含む、望ましい臨床の目的であることは理解されなければならない。当業者には、本発明のワクチン組成物の一部は、グラム陽性感染症、例えば黄色ブドウ球菌感染症、又は他の細菌感染症の予防に有用であり、一部はグラム陽性感染症、例えば黄色ブドウ球菌感染症、又は他の細菌感染症の治療に有用であり、且つ一部はそのような感染症の予防及び治療の両方に有用であることは明らかであろう。
ワクチン及び他の医薬品などの本発明の実施態様は任意に、当該技術分野において周知であり且つ本明細書に照らして自明であるように、好適で且つ医薬として許容し得る担体、賦形剤、希釈剤及び/又はアジュバントを使用し調製されてよい。賦形剤、希釈剤又はアジュバントは、活性成分のビヒクル又は媒体として利用することができる固形、半固形又は液体の材料であってよい。本明細書に照らして組成物調製分野の業者は、選択された製品の特定の特徴、治療される疾患又は状態、疾患又は状態の段階、並びに他の関連状況に応じ、適切な投与の形態及び様式を容易に選択することができる(「レミントン薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」、Mack Publishing Co.、(1990))。医薬として許容し得る希釈剤、賦形剤又はアジュバントの割合及び性質は、選択された医薬活性化合物の溶解度及び化学特性、選択された投与経路及び標準の医薬の実践により決定される。
従って本発明の実施態様において、ワクチン組成物は、免疫原性成分又は断片、例えば黄色ブドウ球菌の多糖又はそれらの断片、及び/又は黄色ブドウ球菌若しくは緑膿菌のタンパク質若しくはそれらの断片を含有し、並びに任意に医薬として許容し得る担体を含む。用語「医薬として許容し得る担体」とは、無毒である担体をいう。好適な医薬として許容し得る担体としては、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどの1種以上に加え、それらの組合せが挙げられる。医薬として許容し得る担体は更に、抗体の貯蔵寿命又は有効性を増強する、湿潤剤又は乳化剤、保存剤又は緩衝剤などの少量の補助物質を含んでよい。そのような医薬として許容し得る担体は、例えば、医薬ビヒクル、賦形剤、又は媒体として利用する液体、半固体、又は固体の希釈剤を含む。当該技術分野において公知の任意の希釈剤を使用することができる。希釈剤の例は、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシ安息香酸メチル及びプロピル、タルク、アルギン酸、デンプン、乳糖、ショ糖、デキストロース、ソルビトール、マンニトール、アカシアゴム、リン酸カルシウム、鉱油、カカオバター、及びカカオ脂を含むが、これらに限定されるものではない。
更に本発明の追加の実施態様において、本ワクチン組成物は任意に、アルミニウム塩(水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、ヒドロキシリン酸硫酸アルミニウムなど);水中油型などの、エマルション(MF59、AS03);AS04などの脂質と塩の組合せ;油中水型(Montanide);ISCOMS、リポソーム/ウイロソーム;ナノ粒子及びマイクロ粒子など;ペプチドなど粒子でないもの;サポニン(QS21);MPL A;サイトカイン;DNA誘導体;細菌毒素;などの特定のアジュバントを含むが、これらに限定されるものではない、アジュバント又はアジュバントの組合せを含むことができる。更なる実施態様は、フロイント完全アジュバント及びフロイント不完全アジュバント、ミコレート-ベースのアジュバント(例えばトレハロースジミコレート)、細菌リポ多糖(LPS)、ペプチドグリカン(すなわち、ムレイン、ムコペプチド、又はN-Opacaなどの糖タンパク質、ムラミルジペプチド[MDP]、又はMDP類似体)、プロテオグリカン、ブドウ球菌調製品(例えばOK432)、DEAE-デキストラン、中性油(ミグリオールなど)、植物油(落花生油など)、プルロニック、Ribiアジュバントシステム又はインターロイキン、特に細胞媒介性免疫を刺激するものなど、動物において使用されるアジュバントを含む。使用されるアジュバントは、一部、グライココンジュゲートワクチンの組成及び種類によって決まるであろう。投与されるアジュバントの量は、哺乳動物の種類及びサイズによって決まるであろう。至適用量は、慣習的方法により容易に決定することができる。
本発明の更なる態様は、本発明の糖タンパク質を少なくとも1種含有する医薬組成物に関する。糖タンパク質を含有する医薬品の調製は、当該技術分野において周知である。最終の医薬組成物の調製スキーム並びにその投与の様式及び詳細は、使用されるタンパク質、宿主細胞、核酸及び/又はベクターにより決まるであろう。
当業者には、本発明の多糖又は糖タンパク質の治療的有効量は、とりわけ、投与スケジュール、投与される抗体の単位投与量、多糖又は糖タンパク質が他の治療薬と組合せて投与されるかどうか、患者の免疫状態及び健康状態、並びに特定の多糖又は糖タンパク質の治療活性によって決まることは明らかであろう。
本発明のワクチン組成物及び/又は医薬調製品は、経口、非経口又は局所使用に適合されてよく、且つ錠剤、カプセル剤、坐剤、液剤、懸濁剤の形、又は任意の他の好適な手段若しくは剤形で患者へ投与されてよい。本発明の更なる態様において、ワクチン組成物及び/又は医薬調製品は、例えば、静脈内、皮内、筋肉内、乳房内、腹腔内、若しくは皮下の注射によるか;又は、経口、舌下、経鼻、経肛門、又は経膣の送達によるなどを含む任意の公知の方法により、免疫付与されるべき対象に導入されてよい。本発明の医薬活性化合物は、それら自身有効であるが、安定性、結晶化の簡便性、溶解度の増加などを目的として、酸付加塩又は塩基付加塩などの、それらの医薬として許容し得る塩の形状で製剤し投与することができる。本発明の実施態様におけるワクチン組成物は、例えば、皮下又は筋肉内のいずれかの注射により、非経口的に投与される。筋肉内免疫付与の方法は、Wolffらの論文(Science, 247:1465-1468 (1990))及びSedegahらの論文(Immunology, 91:9866-9870 (1994))に説明されている。他の投与様式は、経口及び経真皮を含む。
本発明のワクチンは、例えば成人又は小児において一次予防薬として、感染した宿主における黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌の根絶が成功した後の二次防御として、又は黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌による感染症を予防するため宿主において免疫反応を誘導する目的で治療薬として投与することができる。本発明のワクチンは、当業者により容易に決定される量で投与する。治療は、単回投与量又はある期間にわたる反復投与量からなる。例えばいくつかの実施態様において、本発明のワクチンのヒトに関する典型的用量は、タンパク質キャリア(その質量は含まない)に結合されたオリゴ糖抗原約1〜25μgであり、更なる実施態様において多糖抗原約1μg〜約10μg、並びにまた更なる実施態様において多糖抗原約2μgであると予想される。追加の実施態様において、グライココンジュゲート又はワクチン内の糖/タンパク質の比は、約1:5〜約1:10である。任意に、本発明のバイオコンジュゲートワクチンなどのワクチンは、アジュバントを含んでよい。当業者は、至適用量は、患者の体重、疾患、投与経路、及び他の要因に応じ、増減され得ることを認めるであろう。当業者は、適量レベルは、公知のワクチンによる結果を基に得ることができることも認めるであろう。投与回数は、疾患、製剤、及び臨床試験の有効性データにより決まるであろう。
本ワクチン組成物は、送達に都合の良い形状で、包装することができる。免疫原性成分又は断片のレシピエント哺乳動物への進入に適合性がある送達の形状が好ましい。
本発明の一実施態様は概して、改変されたLPS生合成経路を使用することによる、グラム陰性生体におけるグラム陽性生体のためのワクチンの組換え製造を指向している。これは、オリゴ糖転移酵素及びタンパク質をコードしている核酸並びに少なくとも2つの異なる生体に起源があるグリコシル転移酵素をコードしている核酸を含む宿主への挿入により達成される。この実施態様は、(i)タンパク質;(ii)オリゴ糖転移酵素、及び(iii)少なくとも2種の異なる生体由来のグリコシル転移酵素:をコードしている核酸が挿入される天然の生体を基にした生体の遺伝子操作を指向している。
そのような実施態様の一例において、グリコシル化されたタンパク質生成物は、黄色ブドウ球菌のためのワクチンとして使用するために生成される。本発明のワクチン製品は、遺伝子改変された大腸菌宿主において生成される。黄色ブドウ球菌は、グラム陽性菌であり、且つ多糖莢膜を有する。この生体に関するワクチン製品は、その糖セクションがこの莢膜多糖に類似した構造を有するグリコシル化されたタンパク質を基にすることができる。
別の態様において、本発明は、古典的化学コンジュゲート法に勝る利点を提供する免疫原性コンジュゲートワクチンを製造する新規バイオエンジニアリング的アプローチを指向している。ある実施態様において、本アプローチは、細菌細胞、例えば大腸菌などのグラム陰性細胞における糖タンパク質のインビボ生成に関与している。
当業者に公知のように、グライココンジュゲートの生成及び精製は、ワクチン候補及び使用されるプラスミドの組合せに応じて変動することができる。例えば、選択されるその精製手順は、タンパク質キャリア、グライココンジュゲートの糖成分、及び例えば動物又はヒトにおけるなどの精製されたワクチン候補の意図された用途を基にしていることは知られている。例えばヒトにおける使用に関して、他の場合には精製を促進するものであるHis-タグは除去されることが知られている。
本明細書において言及した全ての刊行物は、それらの全体が引用により本明細書中に組み込まれている。本明細書において使用される用語「又は」は、適切ならば組合せることができる代替を意味し;すなわち、用語「又は」は、個別に各々列記された代替に加え、それらの組合せを含むことは理解されるべきである。本明細書において使用されるように、状況を別所で明確に指摘しない限りは、単数形(a, an, the)などの単数はその複数を含み、複数の言及はその単数を含む。
本発明は更に、本発明の組成物及び方法に加え、その利用性を更に説明する下記実施例を参照し規定される。本発明の範囲内である組成物及び方法の両方に対する改変を実施することができることは当業者には明らかであろう。
(実施例)
(実施例1:大腸菌細胞におけるCP5及びCP8多糖の合成)
本発明の実施態様の目的は、大腸菌におけるCP5及びCP8抗原性多糖の生成である。前述のように、本発明者らは、先行技術の観点から驚くべき、CP及びO抗原の生成経路は機能的に重複しているという事実、RUの構造において表されている事実(図1−4参照)を、新規方法において活用した。CP5及びCP8の莢膜グリカンは、2-アセトアミド-2-デオキシ-D-マンヌロン酸(D-ManNAcA)並びにD-及びL-立体配置を持つ2つの2-アセトアミド-2,6-ジデオキシガラクトース残基(D-及びL-FucNAc)の類似した三糖RUからなる重合体である。ManNAcA残基は、2つの血清型において異なるように結合され;加えて、重合されたグリカン内のRU間の結合は異なる。加えて、これら2つの抗原内の異なる位置に免疫優性O-アセチル改変が存在する(Jones, C.の論文、2005、「新規グライココンジュゲートワクチン成分の黄色ブドウ球菌5型及び8型由来の莢膜多糖の改変構造(Revised structures for the capsular polysaccharides from Staphyrococcus aureus types 5 and 8, components of novel glycoconjugate vaccines)」、Carbohydr Res, 340:1097-106)。緑膿菌LPSのO11抗原は、[-3)-α-L-FucNAc-(1,3)-β-D-FucNAc-(1,2)-β-D-G1c-(1-]を含むので(図4)、緑膿菌LPSのO11抗原は、その構造がCP5及びCP8に類似している(Knirel, Y. A.、V. V. Dashunin、A. S. Shashkov、N. K. Kochetkov、B. A. Dmitriev及びI.L. Hofmanの論文、1988、「赤痢菌の菌体抗原:志賀赤痢菌7型リポ多糖のO-特異的多糖鎖の構造(Somatic antigens of Shigella: structure of the O-specific polysaccharide chain of the Shigella dysenteriae type 7 lipopolysaccharide)」、Carbohydr Res, 179:51-60)。この三糖-RUは、黄色ブドウ球菌のD-ManNAcAがグルコース単位により交換される点、緑膿菌O11 LPSにはO-アセチル改変が存在しない点のみが異なり、RUにおける2番目と3番目の単糖間の結合型に違いは存在しない(図4)。
本発明者らは、UndPP上でCP5及びCP8グリカンを合成することができる遺伝子システムを作製するために、Deanらの方法(Dean, C. R.、C. V. Franklund、J. D. Retief、M. J. Coyne, Jr.、K. Hatano、D. J. Evans、G. B. Pier、及びJ. B. Goldbergの論文、1999、「緑膿菌PA103の血清型O11 O抗原遺伝子座の特徴付け(Characterization of the serogroup O11 O-antigen locus of Pseudomonas aeruginosa PA103)」、J Bacteriol, 181:4275-4284)を使用し、PA103株から緑膿菌O11 O抗原遺伝子クラスターを改変した。UndPP-D-FucNAc-L-FuncNAcからなる基幹構造を合成するための生合成機構をコードしている遺伝子は、黄色ブドウ球菌グリカンの完成のために必要な黄色ブドウ球菌酵素により代償され(図1−4)、これは本プロセスの新たな用途でもあった。従ってDeanらの方法を使用し、UndPP-FucNAc-FucNAc生合成に必要とされる緑膿菌PA103由来の全ての遺伝要素を発現した。3番目の糖を付加するグリコシル転移酵素をコードしている遺伝子を欠失させ、且つわずかな改変を伴う黄色ブドウ球菌Mu50(CP5)及びMW2(CP8)由来のcap5又は8クラスターの対応する遺伝子と交換した。
黄色ブドウ球菌莢膜多糖のための特異的残基を合成する酵素をコードしている遺伝子は、Sauらにより予想されたこれらの遺伝子の機能に従い、O11のバックグラウンドへ段階的に組み込んだ(Sau, S.、N. Bhasin、E. R. Wann、J. C. Lee、T. J. Foster、及びC. Y. Leeの論文、1997、「血清型5及び8莢膜発現のための黄色ブドウ球菌対立遺伝子座は共通遺伝子により隣接された型特異的遺伝子を含む(The Staphyrococcus aureus allelic genetic loci for serotype 5 and 8 capsule expression contain the type-specific genes flanked by common genes)」、Microbiology, 143:2395-405;O'Riordan, K.及びJ. C. Leeの論文、2004、「黄色ブドウ球菌莢膜多糖(Staphyrococcus aureus capsular polysaccharide)」、Clin Microbiol Rev, 17(1):218-34)。そのような段階を以下に説明する。
cap5I/cap8H遺伝子産物は、ManNAcAを、RUのUndPP-D-FucNAc-L-FuncNAcへ付加し、各血清型に特異的な結合を形成するグリコシル転移酵素であると予測した(Sau, S.、N. Bhasin、E. R. Wann、J. C. Lee、T. J. Foster、及びC. Y. Leeの論文、1997、「共通遺伝子により隣接された型特異的遺伝子を含む血清型5型及び8型莢膜発現のための黄色ブドウ球菌対立遺伝子座(The Staphyrococcus aureus allelic genetic loci for serotype 5 and 8 capsule expression contain the type-specific genes flanked by common genes)」、Microbiology, 143:2395-405)。このことを証明するために、Cap5I及びCap8Hの活性を、緑膿菌O11 O抗原の生成をもたらすプラスミドの存在下で、大腸菌において分析した。O11クラスターを発現している細胞は、最初にUndPP上にO11 O抗原を合成し、そこからこれはO抗原リガーゼである大腸菌酵素WaaLによりリピドAコアへ転移され、O11特異的リポ多糖(LPS)を形成する(Goldberg, J. B.、K. Hatano、G. S. Meluleni及びG. B. Pierの論文、1992、「大腸菌における緑膿菌O抗原のクローニング及び表面発現(Cloning and surface expression of Pseudomonas aeruginosa O antigen in Escherichia coli)」、Proc Natl Acad Sci USA. 89(22):10716-20)。このリポ多糖を合成するために、緑膿菌PA103由来のO11 O抗原クラスターを、pLAFR1(配列番号:1)へクローニングした。次に3番目の糖をO11 RUへ付加する酵素であるグルコシル転移酵素をコードしているwbjA遺伝子を、トランスポゾン変異誘発により欠失した。変異されたクラスター(O11 wbjA::Tn50<dhfr-1>)を、相同組換えにより更に改変し、wzy遺伝子のポリメラーゼ活性を除去し、O11 wbjA::Tn50<dhfr-1>wzy::catを形成し、これを変異された配列番号:1と記し、ここではO11遺伝子クラスターのグリコシル転移酵素wbjA及びwzyポリメラーゼの遺伝子は失活された。この改変されたクラスターを、W3110ΔwecA細胞において発現させ、抽出物をプロテイナーゼKで処理し、且つTasiらの論文に明らかにされた方法に従い、SDS PAGE及び銀染色により分析した(Tsai, C. M.及びC. E. Fraschの論文、1982、「ポリアクリルアミドゲル中のリポ多糖を検出する高感度銀染色(A sensitive silver stain for detecting lipopolysaccharides in polyacrylamide gels)」、Anal Biochem, 119:115-9)。結果を図5Aに示し、これは本明細書に記載のpLAFR1由来の変異されたO11クラスターを発現しているW3110ΔwecA抽出物の銀染色を示している。第二のレーンは、誘導性プラスミドpEXT22から発現された遺伝子を示している。アスタリスクは、合成され且つコドン最適化された遺伝子を示す。異なる関連グリコフォームは矢印で示している。
分析は、ゲルの2本の大きいバンドを生じた(図5A、レーン1)。シグナルは、未改変のリピドAコア(図5A、下側バンド)、並びに切断型O11 RUにおいて予想されるようなリピドAコアと2つのFucNAc残基からなるLPSに対応している。個別のIPTG誘導性プラスミド由来のwbjA野生型コピーの発現時に、上側バンドは、より遅い電気泳動移動度にシフトし、このことは切断型O11 LPSへのグルコース残基の付加を示している(図5A、レーン2)。予想された黄色ブドウ球菌グリコシル転移酵素Cap5I(レーン4)及びCap8H(図5A、レーン3)は、WbjAの代わりにトランスで発現された場合、グリコシル化されたリピドAコアシグナルの同様のシフトが認められ、これは単糖の、恐らくグルコースより更に大きい、最も可能性のあるのはManNAcAの付加を示している。このデータは、黄色ブドウ球菌グリコシル転移酵素は、緑膿菌酵素の活性により合成されるUndPP-D-FucNAc-L-FuncNAc糖脂質を伸長することができることを証明している。
この方法で、UDP-ManNAcAの生合成機構は、黄色ブドウ球菌CP5/8クラスターには存在するが、緑膿菌のO11 O抗原クラスターには存在しないので、大腸菌における黄色ブドウ球菌RU集成の必須条件は、UDP-ManNAcAの供給であることも確認した。全ての他の必要とされるヌクレオチド活性化された糖は、大腸菌のハウスキーピング機能及び緑膿菌のO11 O抗原クラスターのいずれかにより提供される。大腸菌は、wecB及びwecCの発現により、ManNAcAグリコシル転移酵素の基質であるUDP-ManNAcAを生成することがわかっている。これらの遺伝子は、腸内細菌共通抗原(ECA)生合成に責任のあるクラスターにおいて構成的に発現される(Meier-Dieter, U.、R. Starman、K. Barr、H. Mayer、及びP. D. Rickの論文、1990、「大腸菌における腸内細菌共通抗原の生合成(Biosynthesis of enterobacterial common antigen in Escherichia coli)」、J Biol Chem, 265:13490-13497)。黄色ブドウ球菌のCPクラスターにおいて認められるUDP-ManMAcA生合成の機能的ホモログは、先に報告されたようにwecBCの活性を代償することがわかった(Kiser, K. B.、N. Bhasin、L. Deng及びJ. C. Leeの論文、1999、「黄色ブドウ球菌cap5Pは機能縮重によりUDP-N-アセチルグルコサミン2-エピメラーゼをコードしている(Staphylococcus aureus cap5P encodes a UDP-N-acetylglucosamine 2-epimerase with functional redundancy)」、J. Bacteriol, 181(16):4818-24)。これは、大腸菌におけるCP抗原の生成は、宿主株におけるwecBC遺伝子の機能的発現に頼っていることを示している。従って、組換えシステムにおいてCap5I及びCap8Hの基質としてUDP-ManNAcAを提供するためには、WecB及びWecCが発現されるべきであることが確認された。そのようなシステムにおいて、例えばwecA欠失を伴う又は伴わず且つ追加のwzzE欠失を伴う又は伴わないW3110ベースの細胞型などの、大腸菌野生型株のように腸内細菌共通抗原を発現する任意の原核生物株を使用することができる。
黄色ブドウ球菌莢膜多糖の更なる伸長は、グリカンの最大の免疫活性に必要であると考えられる。cap5J/cap8I遺伝子は、反復単位を重合する wzyホモログをコードし、且つcap5K/cap8Kは、UndPP-結合型三糖を膜の細胞質側からペリプラズム側へと移行するフリッパーゼをコードしている。cap5H/cap8Jは、L-FucNAcをRUの3'位で、又はManNAcAを4'位で修飾するO-アセチル転移酵素をコードしている(Bhasin, N.、A. Albusらの論文、(1998)、「黄色ブドウ球菌5型莢膜多糖のO-アセチル化に必須の遺伝子の同定(Identification of a gene essential for O-acetylation of the Staphylococcus aureus type 5 capsular polysaccharide)」、Mol Microbiol, 27(1):9-21)。このアセチル化は、多糖の免疫反応性を識別する重要な決定因子である(Fattom, A. I.、J. Sarwar、L. Basham、S. Ennifar、及びR. Nasoの論文、1998、「黄色ブドウ球菌5型及び8型莢膜多糖ワクチンの抗原決定基(Antigenic determinants of Staphylococcus aureus type 5 and type 8 capsular porysaccharide vaccines」、Infect Immun, 66:4588-92)。これらのRUは伸長及びアセチル化されることができることを示すために、重合及びO-アセチル化に責任のある黄色ブドウ球菌酵素を、変異されたO11クラスターの存在下で、個別のプラスミドから発現した。O11 wbjA::Tn50<dhfr-1> wzy::catクラスター及びCP5クラスターの異なる遺伝子を発現しているW3110ΔwecA細胞からの抽出物を、プロテイナーゼKで処理し、SDS PAGE、電気転写させ、引き続き抗CP5糖(J. C. Leeから入手(Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School、ボストン、MA、米国))を用い免疫ブロッティングすることにより分析した。図5Bは、抗CP5抗血清を使用する、SDS PAGE及び電気転写により分離した、プロテイナーゼK処理した大腸菌抽出物の免疫検出の結果を示している。分析した全ての抽出物は、本明細書に記載のpLAFRプラスミドから発現されたwbjA遺伝子及び部分的に(アスタリスクにより示した)wzy遺伝子の欠失を伴う緑膿菌O11クラスター、並びにこれらの細胞におけるCP5重合及びOアセチル化を可能にする異なるCap5タンパク質(記載している)を発現する更に2つのプラスミド(pEXT22、pACT3)を含んだ。誘導因子濃度及び発現培養インキュベーション温度などの実験の詳細を記している。
図5Bにおいて、結果は、はしご状シグナルが比較的高い分子量範囲においてO抗原重合体の典型であることを示している。異なるバンドは、両方共プロテイナーゼK消化に対し安定しているLPS又はUndPP上の異なる数の鎖状重合されたRUを表している。O-アセチル転移酵素の存在下又は非存在下で、はしご状構造の異なる強度が認められた。cap5Hの存在下で強力なシグナルが検出された(図5B、レーン1−4)のに対し、これらはcap5Hの存在しないレーンにおいては事実上存在しなかった(図5B、レーン5、6)。このことは、O-アセチル化がいずれか特異的抗血清による認識を増大すること、又はこれが、フリッピングの促進若しくはより効率的な重合形成によるか、又はより多くのRU生成を誘導することのいずれかにより、重合活性を増強することを意味する。cap5H遺伝子は、異なる骨格のプラスミドから発現された場合に機能する(図5B、レーン1、2及び3、4)が、シグナル強度は、cap5Hが個別のプラスミドから単独で発現された場合の方がより強力である(図5Bレーン1とレーン3、図5Bレーン2とレーン4を比較)。黄色ブドウ球菌遺伝子の誘導により少ないIPTGを使用すると、より強力なシグナルとなる(図5Bレーン1とレーン2、及び図5Bレーン3とレーン4を比較)ことは、驚くべきであり注目に値する。
(実施例2:大腸菌細胞内の脂質上のCP5及びCP8重合体の合成)
cap5特異的遺伝子の高い発現はより少ない重合体形成に繋がるので、この問題に対処するために、組換えグリカンの代替発現システムを構築した。詳細には、先行技術を考慮し予想外の新規アプローチにおいて、緑膿菌グルコシル転移酵素(wbjA)及びO11のポリメラーゼ(wzy)を、黄色ブドウ球菌Mu50/MW2の莢膜遺伝子クラスター由来のCP5/8-特異的要素をコードしている遺伝子(cap5/8HIJK及びそれらの一部)と交換し、緑膿菌O11及び黄色ブドウ球菌CP5又はCP8遺伝子で構成された単独のキメラ遺伝子クラスターを作製した(図6)。この構築体は、黄色ブドウ球菌の特異的遺伝子を含んだ。Datsenkoらの方法(Datsenko, K. A.及びB. L. Wannerの論文、2000、「PCR産物を使用する大腸菌K-12における染色体遺伝子の一工程不活化(One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products)」、Proc Natl Acad Sci USA, 97:6640-5)に従い、各々に、発現検出のためにタグを付け、且つ各々は、導入されたリボソーム結合部位を含み、引き続き組換えクローンの選択のためのクロラムフェニコール耐性カセット(cat)を含み、配列番号:2、配列番号:3、及び配列番号:4を生じた。
図6は、本発明のキメラO11/CP5及びO11/CP8遺伝子クラスターを構築するための本発明の戦略の実施態様を示す。黄色ブドウ球菌CP5及びCP8 CPクラスター(上側)及び緑膿菌PA103 rfbクラスター(O11、中央)は、文献として示されている(Dean, C. R.、C. V. Franklund、J. D. Retief、M. J. Coyne, Jr.、K. Hatano、D. J. Evans、G. B. Pier、及びJ. B. Goldbergの論文、1999、「緑膿菌PA103の血清型O11 O抗原の特徴付け(Characterization of the serogroup O11 O-antigen locus of Pseudomonas aeruginosa PA103)」、J Bacteriol, 181:4275-84;Sau, S.、N. Bhasin、E. R. Wann、J. C. Lee、T. J. Foster及びC. Y Leeの論文、1997、「共通遺伝子に隣接された型特異的遺伝子を含む血清型5型及び8型莢膜発現のための黄色ブドウ球菌対立遺伝子座(The S. aureus allelic genetic loci for serotype 5 and 8 capsule expression contain the type-specific genes flanked by common genes)」、Microbiology, 143(Pt7):2395-405)。これらの遺伝子の相同な機能は、以下に説明されている。右上がり実斜線は、2種の生体においてUndPP上のD-FucNAc-L-FucNAc二糖の合成に責任のある遺伝子を示し;点付きは、3番目の単糖をRUに付加するグリコシル転移酵素の遺伝子を示す。Wzx-様フリッパーゼ遺伝子は、右上がり破斜線により示され、wzy-様RUポリメラーゼ遺伝子は、右下がり破斜線により示される。CP5クラスターは、Wzz長さ調節因子(白矢印)を含まないが、3つの遺伝子セットは、黄色ブドウ球菌における長さ調節因子機能を含む莢膜多糖に関するエクスポート機構を構成する(白矢印)。右上がり実斜線により示されたOアセチル転移酵素遺伝子は、CPクラスターに特有である。黄色ブドウ球菌におけるUDP-ManNAcA生合成に必要な遺伝子は、黒色で示した。これらは、緑膿菌O抗原の生成には不要である。O11、CP5及びCP8多糖の構造上の差異の原因となる遺伝子は、各々の遺伝子クラスターの始まり(O11:wbjA及びwzy)又は中央(CP5/8:cap5/8HIJK)において一緒にクラスター化されている。CP8クラスターは、長さ及びDNA配列を考慮すると、構造特異性を付与する中央部分(cap5/8HIJK)以外は、CP5クラスターとほとんど同一である。キメラクラスターは、相同組換え及び古典的クローニングによる、CP5(又はCP8)クラスターの特異性部分(cap5/8HIJK)及び白矢印で標示されたcat(cat、選択のため)により表されたクロラムフェニコールアセチル転移酵素のカセットと、プラスミド媒介性O11クラスターのwbjA及びwzy遺伝子の交換により構築され、配列番号:2、配列番号:3、及び配列番号:4を生じた。破線矢印のアスタリスクは、相同組換えに使用した不完全な遺伝子配列を示している。得られた2つのキメラクラスターは、下側パネルに示し、配列番号:3及び配列番号:4のDNAを表している。
本発明のキメラCP5及びCP8は驚くべきことにUndPP上に正確なRUを集成し、且つこれらの反復単位が重合されることを確実にすることを証明するために、この完全長キメラクラスターを含む大腸菌細胞(W3310ΔwecA)のプロテイナーゼK消化物を、SDS-PAGEにより分離した。具体的には、pLAFRプラスミド上にキメラCP5遺伝子クラスター(図7A)又はキメラCP8遺伝子クラスター(図7B)を含むか又は欠くかのいずれかであるプラスミドを持つ細胞を、プロテイナーゼKにより処理し、SDS-PAGEにより分離し、脂質を銀染色(図7A及び7Bの左側パネル)によるか、又はニトロセルロースメンブレンへの電気転写後の抗CP5若しくはCP8抗血清による免疫検出(図7A及びBの右側パネル)により可視化した。フリッパーゼ遺伝子cap5Kを欠く構築体(配列番号:2)及び含む構築体(配列番号:3)を試験した。前者は、CP5 LPS生成において活性が低いことがわかった。
電気転写及び抗CP5特異的血清による免疫検出後、キメラCP5クラスター全体を発現している抽出物は、それらの自家血清によりプロービングされた大腸菌由来の内在性O抗原構造に類似したはしご状のシグナルを示している(図7A、右側の最後の2本のレーン)。これは、CP5反復単位は重合されること、好ましい重合体長が存在すること、及びCP5抗原はこれらの細胞内でリピドAコアに転移されたことを強力に示唆している。同じ抽出物を、SDS-PAGE後、銀染色により可視化し(図7A、左側図)、キメラCP5(w/o cap5K)及びキメラCP5と標示した右側の2本のレーンは、実際CP5 O抗原-様構造で装飾された大腸菌のリピドAコアからなるLPSが形成されたことを示している。cap5Kフリッパーゼ遺伝子を持つ又は持たないCP5キメラクラスターを発現した細胞を起源とする抽出物から、強度の差が得られた。これら2つの抽出物の比較は、Cap5K発現はこの重合体生成をかなり増大することを示している(図7Aの両方のパネルの中央レーンと右側レーンを比較)。
図7Bに示されるように、同じ結果が、CP8キメラクラスターで認められた。pLAFRプラスミド上にキメラCP8遺伝子クラスターを含むか又は欠くかのいずれかであるプラスミドを含む細胞を、プロテイナーゼKにより処理し、SDS-PAGEにより分離し、脂質を銀染色(左側パネル)によるか、又はニトロセルロースメンブレンへの電気転写後の抗CP8抗血清による免疫検出(右側パネル)のいずれかにより検出した。フリッパーゼ遺伝子cap8Kを含むCP8キメラ構築体は、配列番号:4に相当している。
本発明の更に新規且つ驚くべき伸展が、大腸菌におけるキメラクラスターの維持及び発現のために使用されるプラスミド骨格を変更することにより明らかにされた。キメラCP5クラスターを含むpLAFR1における耐性カセットを、TetからKanへ変更した。加えてcap5Kを含むCP5キメラクラスター全体を、Leeらの方法(Lee, D. J.、L. E. Bingle、K. Heurlier、M. J. Pallen、C. W. Penn、S. J. Busby及びJ. L. Hobmanの論文、2009、「遺伝子変造:実験室及び病原性大腸菌株の組換え法(Gene doctoring: a method for recombineering in laboratory and pathogenic Escherichia coli strains)」、BMC Microbiol, 9:252)に従い、プラスミドpDOC-Cへ及びpACYC177(GeneBank寄託番号#X06402)へサブクローニングした。
図8A及び8Bに示されるように、これらのプラスミドは全て、SDS PAGE、電気転写、及び抗CP5特異的抗血清による免疫検出により分析されたように、CP5重合体生成をもたらした。図8Aにおいて、異なるキメラクラスターを含む細胞からの総細胞抽出物を、プロテイナーゼKにより処理し、且つSDS PAGE及び銀染色により分析した。これらのプラスミドは、異なる黄色ブドウ球菌特異性遺伝子及び抗生物質選択に使用される異なる耐性遺伝子を含み、以下のように示されている:テトラサイクリン(Tet)及びHIJ、配列番号:2;Tet、HIJK、配列番号:3;Tet及び遺伝子なし、空のプラスミド対照。数値は分子量マーカーに対応している。カナマイシン(Kan)と標示したレーンは、テトラサイクリン耐性カセットがカナマイシン耐性遺伝子により交換された配列番号:3の変形を含む。
図8Bにおいて、宿主菌株は、図8Aのように、大腸菌W3110ΔwecAである。図8Bの左側レーンは、図8Aのように分子量マーカーに相当している。図8Bにおいて、異なるキメラクラスターを含む細胞からの総細胞抽出物を、プロテイナーゼKにより処理し、且つSDS PAGE及び銀染色(左側パネル)及び電気転写後の抗CP5免疫ブロッティング(右側パネル)により分析した。使用したプラスミドは、テトラサイクリンの代わりにカナマイシンカセットを含む改変されたpLAFR1プラスミド骨格内(図8A参照)、又はクロラムフェニコール耐性カセットを含むpACYC内のいずれかに存在する、配列番号:3で示されたキメラCP5クラスターを含む。
加えて異なるプロモーターを、キメラO11-CP5 LPSを発現するために試験した。これらの試験において、宿主菌株は、キメラCP5クラスターを保持する大腸菌W3110ΔwecAであった。この菌株において、キメラクラスターは、wecAwzzE遺伝子を交換した。pLAFR1から発現された異なるキメラクラスターを含む細胞からの総細胞抽出物を、プロテイナーゼKにより処理し、且つSDS PAGE及び電気転写後の抗CP5免疫ブロッティングにより分析した。これらのプラスミドは、図9のレーン下側図に示されたように異なる黄色ブドウ球菌特異性遺伝子(catカセットを持つ)によりwbjAとwzyが交換されたO11クラスターを含んだ。加えて、cap5特異性遺伝子の前のDNAを変更し、且つ脂質グリコシル化に対する作用を分析した。これらの異なるプロモーター領域の作用を、図9に示したように分析した。wzz/wzxは、最初の相同組換え後のcap遺伝子の前の当初の遺伝子(図6参照)を示す(図9では最初の2本のレーンに相当)。これら2つの遺伝子を除去し(図9では中央の3本のレーンに相当)、且つ強力なプロモーター配列をコードしている大腸菌O121 O抗原クラスターの前の0.6kb領域(PO121)と交換した(図9では最後の3本のレーンに相当)。図9においてwzz/wzx及びHIJで示されたレーンは、配列番号:2を発現する細胞に由来し、wzz/wzx及びHIJKで示されたレーンは、配列番号:3に由来する。図9において、分子量マーカーは、ゲルフレームの左側に示している。
図9に示したように、これらの結果は、関連するプロモーター活性は、wzx遺伝子に備わっていること(図9の最初の2本のレーン−wzz/wzx)、及びこれはLPS生成を失うことなく、大腸菌由来の構成的プロモーター、例えば血清亜型O121 wbプロモーター(PO121、図9の最後の3本のレーン)により機能的に交換され得ることを示している。これらの結果はまとめると、本明細書に記載のように、O11 O抗原及びCP5莢膜重合体生成のためのO11及び黄色ブドウ球菌の要素は、多くの異なる大腸菌発現システムにおいて組合せることができ、結果的に組換え黄色ブドウ球菌多糖を生成することを意味する。
これらの結果は、グラム陽性生体に起源を持つ莢膜多糖構造の大腸菌における生成を最初に示した。これは、先行技術及び従来の予測とは対照的に、キメラ多糖を発達するためのO11クラスターの酵素と、黄色ブドウ球菌capクラスターの酵素の組合せは可能であること、すなわちこの酵素はインビボにおいて同じ構造上で一緒に作用することを意味する。
(実施例3:組換えグリカンの分子構造の確認)
分子レベルでの大腸菌におけるキメラCP5/O11クラスターの活性を確認するために、2-アミノベンズアミド(2-AB)による還元末端の糖の蛍光標識を使用することによりUndPP結合された糖の分析を可能にする新規方法を開発した。この分析解像度を増強するために、重合されないRUの量が増加した欠失を含むキメラクラスターを使用した。pLAFR1プラスミドに含まれ且つcap5Kフリッパーゼを欠いているキメラクラスター(配列番号:2)を発現している異なる大腸菌細胞に由来する糖脂質を、下記のように分析した。
UndPP-結合されたグリカンを抽出するために、大腸菌細胞を、0.9%NaClで洗浄し、且つ凍結乾燥した。乾燥した細胞を、有機溶媒(85〜95%メタノール=M)30mlにより一回抽出した。この凍結乾燥した細胞ペレットを更に、クロロホルム:メタノール:水(C:M:W=10:10:3;v/v/v)5mlで2回抽出した。(M)抽出物を、クロロホルム及び水に変え、最終比3:48:47(C:M:W)とした。10:10:3(C:M:W)抽出物を、水の添加により、2相Bligh/Dyerシステムに変え(Bligh, E. G.及びW. J. Dyerの論文、1959、「総脂質抽出及び精製の迅速法(A rapid method of total lipid extraction and purification)」、Can J Biochem Physiol, 37(8):911-7)、最終比10:10:9(C:M:W)を生じた。遠心分離により相を分離し、上側の水相を更なる処理のために保持した。
抽出された糖脂質を精製するために、水相をtC18 Sep-PAKカートリッジにかけた。このカートリッジは、メタノール10mlで前処理し、その後3:48:47(C:M:W)の10mlで平衡とした。試料を装荷した後、カートリッジを、3:48:47(C:M:W)の10mlで洗浄し、メタノール5ml及び10:10:3(C:M:W)の5mlで溶離した。一緒にした溶離液を、N2下で乾燥した。この乾燥試料をn-プロパノール:2Mトリフルオロ酢酸(1:1)の2mlに溶解し、50℃で15分間加熱し、その後N2下で蒸発乾固させることにより、糖脂質試料を加水分解した(Glover, K. J.、E. Weerapana及びB. Imperialiの論文、2005、「原核生物のN-結合型グリコシル化のためのUndPP-結合された七糖のインビトロ集成(In vitro assembly of the UndPP-linked heptasaccharide for prokaryotic N-linked glycosylation)」、Proc Natl Acad Sci USA, 102(40):14255-9)。これらの乾燥試料を、2-ABにより標識し、既報のようにペーパーディスク法を用いグリカンクリーンアップを行った(Bigge, J. C、T. P. Patel、J. A. Bruce、P. N. Goulding、S. M. Charles、R. B. Parekhの論文、1995、「2-アミノベンズアミド及びアントラニル酸を使用するグリカンの非選択的かつ効果的蛍光標識(Nonselective and efficient fluorescent labeling of glycans using 2-aminobenzamide and anthranilic acid)」、Anal Biochem, 230(2):229-38;Merry, A. H.、D. C. Neville、L. Royle、B. Matthews、D. J. Harvey、R. A. Dwek及びP. M. Ruddの論文、2002、「ヒドラジン分解による糖タンパク質から放出された無傷の2-アミノベンズアミド標識されたO-グリカンの回収(Recovery of intact 2-aminobenzamide -labeled O-glycans released from glycoproteins by hydrazinolysis)」、Anal Biochem, 304(1):91-9)。2-AB標識されたグリカンは、Royleらの論文に従いGlycoSep-N順相カラムを使用するが、3溶媒システムに改変したHPLCにより分離した(Royle, L.、T. S. Mattu、E. Hart、J. I. Langridge、A. H. Merry、N. Murphy、D. J. Harvey、R. A. Dwek、P. M. Ruddの論文、2002、「マイクログラム量の糖タンパク質からのO-グリカンの配列決定のための戦略を提供する分析的及び構造的データベース(An analytical and structural database provides a strategy for sequencing O-glycans from microgram quantities of glycoproteins)」、Anal Biochem, 304(1):70-90)。溶媒Aは、80%アセトニトリル中10mMギ酸アンモニウムのpH4.4であった。溶媒Bは、40%アセトニトリル中30mMギ酸アンモニウムのpH4.4であった。溶媒Cは、0.5%ギ酸であった。カラム温度は30℃であり、且つ2-AB標識されたグリカンは、蛍光により検出した(励起λex=330nm、放出λem=420nm)。勾配条件は、流量0.4ml/分で160分間かけて100%Aから100%Bまで、引き続き流量を1ml/分に増加し100%Bから100%Cまで2分間の直線勾配であった。カラムは、100%Cにより5分間洗浄し、2分間かけて100%Aに戻し、かつ100%Aを流量1ml/分で15分間流し、その後5分間流量を0.4ml/分に戻した。水中の試料を注入した。
乾燥した画分を、10%アセトニトリル(ACN)、0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)5ul中に再懸濁し、且つ標的プレート上でマトリックス溶液(50%ACN、0.1%TFA中40mg/ml DHB)と1:1で混合した。MS及びMS/MSデータを、Ultraflex-II MALDI-ToF/ToF質量分析計(Bruker Daltonik社、ブレーメン、独国)上で陽イオンモードで手動で得た。MS/MSは、LIFT法を用いて得た。標準ペプチド混合物(Bruker Daltonik社)を外部較正に使用した。スペクトルは、Flex Analysisソフトウェア(Bruker Daltonik社)を用いて外挿し、手作業で分析した。
キメラクラスターを伴う(太線)又は伴わない(細破線)プラスミドを含む大腸菌W3110ΔwecA(CP5)からのメタノール抽出物を、tC18カートリッジ上で精製し、順相HPLCにより分析した。37分、40分及び45分の溶離に認められる図10Aに示されたピークに対応する画分を、MALDI-MS/MSにより分析した。37分及び40分に溶離する試料は、各々、結合したO-アセチル基を伴う及び伴わない組換えCP5 RUとして同定された。45分に溶離する試料は、1個のデオキシ-N-アセチルヘキソサミンにより伸長されたアセチル化されない黄色ブドウ球菌RU構造として同定された(図11Eに示されている)。CP5キメラクラスターにおいて、cap5HIJは、pLAFR上のO11クラスターのwbjA及びwzy遺伝子と交換した。この交換は、cap5HIJ遺伝子に加え、catカセット(配列番号:2)を含んだ。
キメラクラスターを伴う(太線)又は伴わない(細破線)プラスミドを含む大腸菌W3110ΔwecAwzzEからのメタノール抽出物を、tC18カートリッジ上で精製し、順相HPLCにより分析した。図10Bは、キメラクラスター(ポリメラーゼを伴わない配列番号:4)を用いて生成されたCP8の組換えRUのHPLC分析の結果を示している。この組換え糖を発現している細胞に特異的なピークは、23分、32分、38分及び45分の溶離により同定され、収集し、MALDI-MS及びMALDI-MS/MSにより分析した。CP8キメラクラスターにおいて、cap8HJKは、O11クラスターのwbjA及びwzy遺伝子と、すなわちポリメラーゼを伴わない構築体を交換し、分析のための単独のRUを蓄積した。この交換は、cap遺伝子に加え、catカセットを含んだ。
図11Aは、37分で溶離する大腸菌における本発明のキメラCP5クラスターの実施態様の発現により発生した特異的ピークのMALDI-MS/MS分析の結果を示している。主質量(major mass)m/z=772([M+H]+)を選択し、且つMS/MSにより分析し、これは本明細書に開示された本発明を考慮し予想されたアセチル化されたCP5 RU構造と一致する断片化パターンを示す。O-アセチル化された種は、RUの中央位置での単糖FucNAc(dHexNAc(OAc))の質量+42の特異的喪失により特徴付けられる。断片イオンは、糖鎖機能研究コンソーシアム(CFG)の命名法(www.functionalglycomics.org/static/consortium/Nomenclature.shtml)に従い示されている。2-ABは、2-アミノベンズアミドである。断片イオンの凡例は、図11Aの差込図に示されている。
図11Bは、40分で溶離する大腸菌における本発明のキメラCP5クラスターの実施態様の発現により発生した特異的ピークのMALDI-MS/MS分析の結果を示している。主要質量m/z=730([M+H]+)を選択し、且つMS/MSにより分析し、これは本明細書に開示された本発明を考慮し予想された非アセチル化CP5 RU構造と一致する一連の断片イオンを示す。2-ABは、2-アミノベンズアミドである。断片イオンの凡例は、図11Bの差込図に示されている。
図11Cは、32分で溶離する大腸菌における本発明のキメラCP8クラスターの実施態様の発現により発生した特異的ピークのMALDI-MS/MS分析の結果を示している。主要質量m/z=794([M+Na]+)を選択し、且つMS/MSにより分析し、これは本明細書に開示された本発明を考慮し予想されたアセチル化されたCP8 RU構造と一致する一連の断片イオンを示す。O-アセチル化された種は、RUの最も外側の位置での単糖ManNAcA(HexNAcA(OAc))の質量+42の特異的喪失により特徴付けられる。断片イオンは、CFGの命名法に従い示されている。2-ABは、2-アミノベンズアミドである。断片イオンの凡例は、図11Cの差込図に示されている。
図11Dは、38分で溶離する大腸菌における本発明のキメラCP8クラスターの実施態様の発現により発生した特異的ピークのMALDI-MS/MS分析の結果を示している。質量m/z=730([M+H]+)を選択し、且つMS/MSにより分析し、これは本明細書に開示された本発明を考慮し予想された非アセチル化CP8 RU構造と一致する一連の断片イオンを示す。追加の分析は、より遅く溶離するピークは(図10Aにおいて40分で、及び図10Bにおいて38分で示される)、CP5及び8のRUの非O-アセチル化三糖を含むことを示した。断片イオンは、CFGの命名法に従い示された。2-ABは、2-アミノベンズアミドである。断片イオンの凡例は、図11Dの差込図に示されている。
MSの結果は、質量及び一連の断片イオンは、中央FucNAc残基でOアセチル化されたCP5 RUオリゴ糖(すなわち、図10A及び図11Aの37分のピーク)又は中央FucNAc残基でO-アセチル化されなかったCP5 RUオリゴ糖(すなわち、図10A及び11Bの40分のピーク)の分子構造と一致することを示した。図10Aにおける45分時点のシグナルは、四糖と同定され、これを更に以下に分析した。同じ分析を、ポリメラーゼ遺伝子を欠いているキメラCP8クラスターで繰り返した。そのような抽出物において、本明細書に開示された本発明を考慮し予想されたO-アセチル化されたRU構造と一致するシグナルは、図10B及び11Cに示されたように、23分及び32分の溶離で認められた。MALDI-MS/MSにより同定された同じグリカン配列に関する2つの異なる溶離時間の存在は、試料調製時に生じるO-アセチル移動事象を指摘している。非アセチル化RUは、図11B及びDにおいて示されたように、40分及び38分で、各々CP5及びCP8抽出物について同定された。CP5及びCP8 RU構造は、例えば、W3110、W3310ΔwecA、W3110ΔwecAwzzE、及びW3110ΔwecAwzzEΔwaaLを含む、様々な大腸菌株に存在する。
(実施例4:反復単位構造の改善及びその分析)
キメラCP8クラスター(配列番号:4)を発現するが、wzyポリメラーゼ遺伝子cap8Iを欠いている大腸菌細胞に由来した、図10Bに示された45分で溶離するHPLCピークも、MALDI-MS/MSにより分析した。フルスキャンMSにおいて最も強いイオンは、m/z=939([M+H]+)であり、且つ配列解析は、MS/MSにより行った。このMS/MS分析の結果は、図11Eに示し、且つ本明細書に開示された本発明を考慮し予想されるように、非還元末端でデオキシ-N-アセチルヘキソサミンの質量だけ延長された非アセチル化黄色ブドウ球菌莢膜RUと一致する一連の断片イオンが存在した。仮定される構造に対応する断片イオンは、これらのピークの上にCFGの命名法に従い示されている。2-ABは、2-アミノベンズアミドである。断片イオンの凡例は、図11Eの差込図に示されている。
図11Eに示された結果は、大腸菌グリコシル転移酵素は、CP8 RUのManNAcA残基を改変することができることを示唆した。そのような変更されたRUは、恐らくcap8Iにより重合されることはないであろう。大腸菌宿主W3110におけるグリコシル転移酵素特異性の分析は、ECAクラスター由来の酵素は、この組換え糖と、具体的には推定4-N-アセチルフコサミン転移酵素であるwecF遺伝子産物と相互作用し得ることを指摘した。wecFは天然に、4-N-アセチルフコサミンを、ECAを構成するManNAcA上に付加し、恐らくはこの酵素は同じくCP8及びCP5 RUを伸長するであろう。
この問題点を解決するために、別の新規アプローチを開発した。具体的には、wecFを含むwecC遺伝子の下流に位置したECAクラスターの遺伝子を欠失した。これは、Datsenkoらにより説明された方法を用いて実行した(Datsenko, K. A.及びB. L. Wannerの論文、(2000)、「PCR産物を使用する大腸菌K-12における染色体遺伝子の一工程不活化(One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products)」、Proc Natl Acad Sci USA、97(12):6640-6645)。様々な大腸菌発現宿主を、waaL及びrmlB-wecG遺伝子領域で欠失させ、一部の菌株では更にwecA-wzzECAでも欠失させた。ポリメラーゼ変異体CP8キメラクラスターを発現しているこれらの変異細胞からのSep-PAK精製された抽出物(メタノール及び10:10:3抽出物)を、前述のように順相HPLCにより分析した。
図11Fは、配列番号:4のポリメラーゼ変異体を発現している大腸菌W3110ΔwaaL細胞からのメタノール抽出物のHPLC分析(細破線)を、ECAクラスター遺伝子rmlB-wecGの追加の欠失を伴う細胞(W3110ΔwaaLΔrmlB-wecG::cat)からのそれ(太線)と比較した結果を表している。抽出物は、tC18カートリッジ上で精製し、順相HPLCにより分析した。図11Fに示したように、図10Bにおいて45分で出現した主要ピークは存在せず、アセチル化及び非アセチル化CP8 RUに特異的ピークを生じ(図11F)、これはECAグリコシル転移酵素のひとつ−最も可能性があるのはwecF−が、異常な伸長表現型に責任のあることを指摘している。同様の結果が、このCP5キメラクラスターを異なる菌株で試験した場合に得られた。このことは、大腸菌媒介性グリコシル転移酵素及びヌクレオチド活性化された糖生合成に必要な酵素の欠失は、大腸菌において組換え的に生成された多糖の品質及び量を適正化するための可能性のある戦略であることを暗示している。標的酵素は恐らく、O抗原クラスター、ECAクラスター、及びコラン酸又は莢膜クラスターにコードされているであろう。
UndPPに結合された組換え多糖の品質に関する更なる証拠は、前述のように染色体的に最適化された発現宿主からSep-PAK精製され蛍光標識された糖脂質抽出物の最適化された順相HPLC分析から得られた。帯電したCP5及びCP8オリゴ糖及び多糖-結合された脂質の精製のためのSep-PAKカラムの最適性能に関して、tert-ブチルアンモニウムリン酸(TBAP)を、抽出物へ添加し、その後Sep-PAKカートリッジに装加した。Trentらの論文に報告されたように、この塩の陽イオンは、疎水性ブチル鎖により負電荷を遮蔽することにより、帯電した化合物のカラム結合を改善する(Trent, M. S.、A. A. Ribeiroらの論文、(2001)、「ポリミキシン耐性サルモネラ・ティフィムリウム及び大腸菌におけるポリイソプレン-連結されたアミノ糖の蓄積:構造決定とペリプラズム内のリピドAへの転移(Accumulation of a polyisoprene-linked amino sugar in polymyxin-resistant Salmonella typhimurium and Escherichia coli : structural characterization and transfer to lipid A in the periplasm)」、J Biol Chem、276(46):43132-43144)。この最適化された方法は、ポリメラーゼを含むCP5又はCP8キメラクラスターを発現している細胞からのメタノール抽出により得られたCP5及びCP8試料に適用された。
図11Gは、大腸菌細胞のUndPP上に存在する完全CP5グリカンレパトアを示すHPLC分析の結果を提供している。キメラCP5クラスター配列番号:3(実線)又は空のプラスミド対照(破線)のいずれかを発現している大腸菌W3110ΔwaaLΔwecA wzzECAΔrmlB-wecG::catからのメタノール抽出物を、Sep-PAKカートリッジ上で固相抽出し、且つ弱酸で処理し、UndPPから糖を加水分解した。得られた物質を、還元的アミノ化により、2ABと反応させ、グリカンの還元末端を標識し、順相HPLCにより分析した。実線には存在するが破線には存在しないシグナルは、CP5特異的物質を表している。大文字は、収集された画分のMALDI-MS/MSにより同定されたアセチル化及び/又は非アセチル化CP5 RUの重合体を含むピークを示している。図11G中の凡例は、MS/MS分析から推定される提唱された分子構造を示している。MS/MSで示されたアセチル化及び非アセチル化RU重合体は、太棒により示されたクロマトグラムにおいて一緒にされた同じ重合度の群の構造を確認したことは注意されなければならない。大文字は、以下の凡例を示している:A及びB:1つのRU;C、D及びE:2つのRU;F及びG:3つのRU;並びに、H:4つのRU。図11Gにおける95分と125分の間の幅広ピークは、恐らく、5つ以上の重合されたRUを表しているであろうが、このカラムによっては分離されない。
図11Hは、アセチル化CP5グリカン及びRU均一性を示す、更なるHPLC結果を表している。このHPLC分析を調製するために、キメラCP5クラスター配列番号:3を発現している大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzECAΔrmlB-wecG::catの2AB標識したグリカン試料(図11Gを参照し前述の手順に従い調製)を、水溶液中のNaOHで処理し、再標識した。図11Hに示すように、アルカリ処理前の試料(破線)及び後の試料(実線)を、HPLCにより分析した。図11H中の数字は、対応するピーク内のRUの推定数を示している。図11Hにおいて、図11Gに示されたアセチル化されたピークは、非アセチル化重合体からのシグナルと一体化されること、及び脱アセチル化は95分以降の溶離時間にRU単位を分離したことは認められなければならない。
図11Iは、大腸菌細胞のUndPP上に存在するCP8グリカンレパトアを示すHPLC分析の結果を提供している。キメラCP8クラスター配列番号:4(実線)又は空のプラスミド対照(破線)のいずれかを発現している大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzECA ΔrmlB-wecG::catからのメタノール抽出物を、Sep-PAKカートリッジ上で固相抽出し、且つ弱酸で処理し、UndPPから糖を加水分解した。得られた物質を、還元的アミノ化により、2ABと反応させ、グリカンの還元末端を標識し、順相HPLCにより分析した。実線には存在するが破線には存在しないシグナルは、CP8特異的物質を表している。収集された画分のMALDI-MS/MSにより同定されたアセチル化及び/又は非アセチル化CP8 RUの推定構造を示している。図11Gに示されたCP5のHPLC結果のように、図11Hのクロマトグラムにおいて一緒にされた同じ重合度の群のアセチル化及び非アセチル化CP8 RU重合体は、太棒により示されていることに注意。110分以降に検出された物質は、より長いCP8重合体を表している。
図11Jは、CP8グリカンの脱アセチル化及びRU均一性のHPLC結果を更に表わす。キメラCP8クラスター配列番号:4を発現している大腸菌W3110ΔwaaLΔwecA wzzECAΔrmlB-wecG::cat由来の2AB標識したグリカン試料を、水溶液中のNaOHで処理し、再標識した。アルカリ処理前の試料(破線)及び後の試料(実線)を、HPLCにより分析した。数字は、対応するピーク内のRUの推定数を示している。アセチル化されたピークは大きく消滅すること、及び非アセチル化重合体のシグナルは増大すること、及び脱アセチル化は110分以降の溶離時間にRU単位を分離したことは注意されなければならない。
図11H及び11Jは、オリゴ糖及び多糖からアセチル化修飾を除去するためにこれらのCP5及びCP8試料に対しアルカリ処理が実施された場合に、O抗原の特徴的はしご状バンド形成パターンを指摘するHPLC結果を示している。これらの結果は、溶離時間の増分が一定に減少するにつれ、離散した鋭利なピークを示している。このことは、そのような分析された炭水化物鎖は、同じRUで構成される鎖状重合体であることを暗示している。このデータは、大腸菌により生成された組換えCP5及びCP8糖は、規則的に重合され且つ部分的にアセチル化されることを示している。非アセチル化CP5及びCP8重合体は、それらの構造の類似性から予想されるように、HPLCカラムから同じように溶離する;しかし、順相クロマトグラフィーは、差異も明らかにしている:例えば、CP5は、CP8よりも、より少ない程度重合し、アセチル化はCP5においてより頻度が高く;4以上のRU長においては、CP5は7 RUの重合体生成に明確な優先性を有するのに対し、CP8はより広範な程度で重合し;並びに、HPLC及びMS/MSの結果により示されるように、CP5はCP8よりもグリカン生成に関してより効率的である。
wzy依存性重合経路において、特異的酵素(鎖長決定因子に関するwzz又はcld)が、実行されるRU重合段階の平均数の決定に責任があることが、Maroldaらにより報告されている(Marolda, C. L.、L. D. Tatarらの論文、(2006)、「リポ多糖O抗原の移行及びペリプラズム集成におけるWzxトランスロカーゼ及び対応するポリメラーゼ及び鎖長調節タンパク質の相互作用(Interplay of the Wzx translocase and the corresponding polymerase and chain length regulator proteins in the translocation and periplasmic assembly of lipopolysccharide o antigen)」、J Bacteriol、188(14):5124-5135)。Wzz酵素は、特異的反復数の平均の、例えば短い、長い及び非常に長い糖重合体を生じ、且つそれらの長さ特異性を外因性多糖経路に転移することがわかっている。CP8糖脂質の長さ及び量は、より長く且つより少ない量のこの糖を生じる生成株において分析された。タンパク質グリコシル化に関して分子の量を増加し、それにより糖転移効率を増加するために、特異的Wzz酵素を使用し、CP8糖の長さのダウンレギュレーションが実行された。
Wzzタンパク質の脂質上のCP8糖のサイズ及び量に対する作用を試験するために、大腸菌wzz O7由来のWzzの同時発現を、個別のプラスミド(配列番号:19)から行った。図11Kは、この試験の結果を表している。キメラCP8クラスター配列番号:4及びプラスミド媒介性wzzO7のIPTG誘導性コピー(配列番号:21、実線)、又は空のプラスミド対照(破線)のいずれかを発現している大腸菌W3110ΔwaaL ΔwecAwzzECAΔrmlB-wecG::catからのメタノール抽出物を、Sep-PAKカートリッジ上で固相抽出し、且つ弱酸で処理し、UndPPから糖を加水分解した。2AB標識したグリカンを、順相HPLCにより分析した。CP8試料のアルカリ処理は、95分と115分の間の領域の85%以上が、CP8の7又は8のRU重合体を表すことを示し、これは多種多様なアセチル化を示している。これらの結果は、キメラCP8クラスターは、a)7から8までの最も豊富なグリカンの反復数の増加、及びb)クロマトグラム下面積から判断されるより高い全体の蛍光シグナル強度:を誘導したことも示している。
アルカリ処理は、図11I及び11Jのように短縮されたグリカンのアセチル化を確認し、これは組換え多糖の長さは、外来性Wzz酵素により調節することができることを示している。同じく、O抗原由来のWzz酵素により莢膜の糖重合体の長さを調節することも可能である。更にキメラクラスターの前の異なるプロモーターは、プラスミド上に存在する場合、異なる発現レベル及び異なる重合度を生じる。
(実施例5:CP5及びCP8グリカンによるタンパク質グリコシル化並びに生成物の特徴付け)
キメラクラスターの様々な変種を、バイオコンジュゲート生成について試験した。キメラO11/CP5遺伝子クラスター(配列番号:2及び3)は、O11 O抗原クラスター内にwbjA及びwzyの代わりに黄色ブドウ球菌特異性領域の異なる変種を含むが、これらを、宿主株大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzE::catにおいて、PglB(配列番号:27?)及びEPA(配列番号:13)の存在下で発現した。W3110ΔwaaLΔwecA wzzE::cat宿主細胞は、wbjA及びwzy遺伝子が異なるcap5遺伝子セットと交換されている(及びcatカセット、配列番号:2及び配列番号:3)O11 O抗原クラスターを持つpLAFR1プラスミドに加え、個別のプラスミドから、2つのグリコシル化部位を伴うEPA(配列番号:13由来)及びPglB(配列番号:27)を発現した。
以下を含む、EPAタンパク質が発現される:a)ペリプラズムへ輸送するためのN-末端シグナルペプチド配列、b)その全体が引用により本明細書中に組み込まれているWO 2009/104074の実施例10に示された、タンパク質配列へ操作される2つの細菌N-グリコシル化コンセンサス配列(配列番号:13)、及びc)精製のためのヘキサヒスチジンタグ。細胞は、5Lのエレンマイヤーフラスコ内でLB培地において増殖した。一晩培養物を、OD600nm=0.05まで希釈した。OD600nmがおよそ0.5で、PglB発現を、1mM IPTGの添加により誘導し、且つEPA発現を、アラビノース(最終濃度0.2%)の添加により誘導した。細胞を4時間増殖し、誘導を繰り返し、且つ細胞を更におよそ16時間増殖した。細胞を遠心分離によりペレットとし;これらの細胞を洗浄し、且つ0.2容量のショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、且つペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。黄色ブドウ球菌フリッパーゼ遺伝子cap5Kを含まない又は含むEPA-CP5バイオコンジュゲート(配列番号:2及び3)を、0.5Mイミダゾールにより溶離し、溶離されたピークをプールし、SDS PAGEにより分析し、且つクマシー及び銀により染色した(図12)。
図12は、SDS PAGEの結果を表している。左側パネルはクマシー染色を示し、右側パネルは銀染色を示す。中央の数値は、分子量マーカーのサイズを示す。レーンの下側の文字は、バイオコンジュゲート生成に使用された菌株において発現されたキメラクラスターに存在する遺伝子を示している。宿主菌株は、大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzE::catであった。これらの結果は、恐らくグリコシル化されないEPAに対応する70kDa(電気泳動移動度)にタンパク質シグナル、及びその上にはしご状バンド(100〜170kDa)を示した。このはしごは、恐らくCP5組換え黄色ブドウ球菌グリカンによりグリコシル化されたEPAタンパク質に対応している。加えて、これらの結果は、システム中にフリッパーゼ遺伝子を含むことは、糖タンパク質収量を増やす(中央レーン及び右側レーン)ことを示している。
別の分析において、CP5-EPAバイオコンジュゲートは、キメラCP5遺伝子クラスター(配列番号:3)、プラスミドpEXT21由来のPglB(配列番号:27)、及び別のプラスミド由来のEPA(2つのグリコシル化部位を含む、配列番号:13)の同時発現により、大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzE::catにおいて生成された。バイオコンジュゲート生成のためにより制御されたプロセスを得るために、これらの細胞を、2Lのバイオリアクター内で37℃で、OD600nm=30まで増殖し、PglB及びEPAの発現を、1mM IPTG及び0.2%アラビノースの添加により誘導した。これらの細胞を、酸素-制限条件下、37℃で18時間増殖した。これらの細胞を、遠心分離によりペレットとし、洗浄し、25%ショ糖緩衝液中に再懸濁しOD600nm=200とし、30分間4℃でインキュベーションした後、この懸濁液をペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、上清に存在するペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化及び非グリコシル化EPAを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離し、SourceQ陰イオン交換カラムに装加した。NaCl濃度を増加する勾配を適用することにより、グリコシル化EPAは、非グリコシル化EPAから分離された。
図13Aに示されるように、精製されたグリコシル化EPA(CP5-EPA)は、SDS PAGEにより分離し、且つクマシーにより染色するか(左側レーン)、又はニトロセルロースメンブレンに転写し、抗CP5抗体(中央レーン)又は抗EPA抗体(右側レーン)のいずれかと一緒にインキュベーションした。精製されたバイオコンジュゲートは、EPA-特異的抗体(右側レーン)、更にはCP5-特異的ポリクローナル抗血清(中央レーン)により認識された。矢印は、そこから切り出され、トリプシン処理され、且つMALDI-MS/MSにより糖ペプチド分析を施した切片の、ゲルでの位置を示している。図13Bは、O-アセチル化されたRU質量(m/z=2088([M+H]
+))にN-グリコシド結合されたトリプシン処理されたペプチド
中のグリコシル化部位に関して認められたM/Z質量のMALDI-MS/MSを表している。m/z=2088のMS/MS分析は、指摘したような糖部分の部分的断片化を示している。差込図は、図13Aからの精製されたCP5-EPAのトリプシン処理から誘導されたペプチドに結合されたRU構造を図示している。ManNAcA(HexNAcA、217Da)及びアセチル化されたFucNAc(dHexNAc(OAc)、229Da)の逐次喪失は、予想されたグリカン構造を裏付けている。図13Cは、O-アセチル化されたRU質量(m/z=1165([M+H]
+))にN-グリコシド結合されたトリプシン処理されたペプチド
中のグリコシル化部位に関して認められたM/Z質量のMALDI-MS/MSを表している。m/z=1165のMS/MS分析は、CP5 RU構造と一致する完全Y-イオンの一連の断片イオンを示している。差込図は、図13Aからの精製されたCP5-EPAのトリプシン処理から誘導されたペプチドに結合されたRU構造を図示している。ManNAcA(HexNAcA、217Da)、アセチル化FucNAc (dHexNAc(OAc)、229Da)、及びFucNAc(dHexNAc、187Da)の逐次喪失は、ペプチド
(m/z=532Da([M+H
+]))上の予想されたグリカン構造を裏付けている。
図13Dにおいて、大腸菌におけるCP8バイオコンジュゲートを、CP5バイオコンジュゲートの生成と同じ戦略を用いて生成した。CP8-EPAバイオコンジュゲートは、キメラCP8遺伝子クラスター(配列番号:4)、PglB(pEXT21プラスミド内(配列番号:27))、及び2つのグリコシル化部位を含むEPA(配列番号:13)の同時発現により、大腸菌において生成される。細胞は、バイオリアクター内で、グリセロール、ペプトン及びC源として酵母エキスを含有する半限定培地において、出発容積7Lにおいて増殖した。細胞を、バッチ又はパルスバッチモードで、37℃で、OD600nm=30まで増殖し、PglB及びEPAの発現を、1mM IPTG及び10%アラビノースの添加により誘導した。誘導後細胞を、流加バッチモードで、酸素-制限条件下、更に15時間培養した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化及び非グリコシル化EPAを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離し、SourceQ陰イオン交換カラムに装加した。NaCl濃度を増加する勾配を適用することにより、グリコシル化EPAは、非グリコシル化EPAから分離された。
図13Dに図示したように、精製されたタンパク質は、SDS PAGEにより分離し、クマシーにより染色するか(左側レーン)、又はニトロセルロースメンブレンに転写し、抗CP8抗体(右側レーン)又は抗EPA抗体(中央レーン)のいずれかと一緒にインキュベーションした。
グリコシル化システムの更なる改善のために異なる戦略を試験した。ひとつの戦略において、追加の抗生物質の負担を減らすために生成システムにおけるプラスミド数を減らし、加えて余分なプラスミドを維持するために、pglBの発現カセットを、CP5キメラクラスター(配列番号:17)及びCP8キメラクラスター(配列番号:18)を含むプラスミドへクローニングした。この発現カセットは、大腸菌O121ゲノムのga1FとwbqAの間に存在するインタージーン領域(プロモーター配列のため)、及びその下流のpglB配列で構成された。この発現カセットを、CP5及びCP8キメラクラスターのすぐ下流でクローニングした。本発明者らは、個別のプラスミド上又は同じプラスミド(配列番号:17)上のいずれかにキメラCP5クラスター(配列番号:3)及びpglB(配列番号:27)を含む大腸菌W3110ΔwaaLΔwecA wzzECA::catを試験した。加えて、EPA(配列番号:13)を、アラビノース誘導性プロモーターの制御下でプラスミドから発現した。これらの細胞を、5Lのエレンマイヤーフラスコ内でLB培地において、37℃で増殖した。一晩培養物を、OD600nm=0.05まで希釈した。OD600nmがおよそ0.5で、PglB発現を、1mM IPTGの添加により誘導し、且つEPA発現を、アラビノース(最終濃度0.2%)の添加により誘導した。細胞を4時間増殖し、誘導を繰り返し、且つ細胞を更におよそ16時間増殖した。この培養物を遠心分離によりペレットとし;これらの細胞を洗浄し、且つ0.2容量のショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、且つペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。EPA-CP5を、0.5Mイミダゾールにより溶離し、溶離されたピークをプールし、SDS PAGE及びクマシーにより分析した。図13Eは、SDS PAGEの結果を示している。グライココンジュゲート生成のために3つ(左側)又は2つのプラスミド(右側レーン)のいずれかを含む細胞を示している。これらの結果は、糖脂質及びCP5-EPAのコンジュゲート生成は維持されたことを示している。
このシステムの更なる最適化は、タンパク質グリコシル化に使用したプラスミド中のwzz(重合体長調節因子)タンパク質配列の組み込みであった。CP8-EPAを生成するシステムにより例示されたよう、wzzは、プラスミド媒介性キメラCP8クラスター(配列番号:19)へ及びキャリアタンパク質の発現プラスミド内のepa遺伝子(配列番号:20)の下流に組み込まれた。CP8-EPAバイオコンジュゲートは、2つのプラスミドを含む大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzECAΔrmlB-wecG::catにおいて生成され:1つのプラスミドは、キメラCP8遺伝子クラスターに加え、wzz O7遺伝子のコピー及びpglB遺伝子の構成的発現のためのDNAカセットを含み(配列番号:19);第二のプラスミドは、最初に2つのグリコシル化部位を含む解毒されたEPAタンパク質の発現及び分泌のための遺伝子、及び第二に同じプロモーターの制御下のwzzO7コピーを含む(配列番号:20)。前述のプラスミドを含む得られる菌株である大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzECAΔrmlB-wecG::catは、バイオリアクター内で、グリセロール、ペプトン及びC源として酵母エキスを含有する半限定培地において、出発容積7Lにおいて増殖した。細胞を、バッチ又はパルスバッチモードで、OD600nm=30まで増殖し、PglB及びEPAの発現を誘導した。誘導後、細胞を更に、流加バッチモードで、酸素-制限条件下、15時間培養し、遠心分離により収集した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化及び非グリコシル化EPAを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離した。グライココンジュゲートCP8-EPAの形成は、クマシー並びに抗his及び抗CP8抗血清を使用するウェスタンブロットにより、図13Fに示された。図13Fは、精製されたタンパク質のSDS PAGE分離の結果、並びにクマシー染色(左側レーン)又はニトロセルロースメンブレンへの転写及び抗hisタグ抗体(中央レーン)若しくは抗CP8抗体(右側レーン)のいずれかによるプロービングの分析を示している。
CP5-EPAグライココンジュゲートの特徴を、様々な分析的方法により更に精緻にした。CovalX社(シュリーレン、スイス)は、W3110ΔwaaLΔwecAwzzECA::catにおいて、図13Aに図示された分析において使用した3プラスミドシステムを使用し生成した精製されたCP5-EPA試料の高質量MALDI分析を行った。図14Aは、高質量MALDI結果を示している。A+及びB+は、それぞれ、非グリコシル化EPA及びグリコシル化EPAに対応する質量タンパク質種([M+H]+)を指している。オリゴマー形態は、比較的高い分子量で存在することができ、且つ低MW領域のシグナルは、夾雑物又は分解産物である。図14Aに示された結果は、前記タンパク質調製品は、5.2反復単位の中間の糖の長さの指標である、EPAタンパク質のみよりも4kDa大きい、大きいモノマー性タンパク質の集団を含むことを示している。これは、SDS-PAGE、クマシーブリリアントブルー染色、及び主要なコンジュゲート型中の反復単位の計測により分析されたように、この調製品中の主要なグライココンジュゲート型の5〜7の糖長と一致する(図7、8及び13A参照)。
CP5-EPAは、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-HPLC)により更に特徴付けした。本発明者らは、図13Aに図示した分析において使用したW3110ΔwaaLΔwecAwzz ECA::catにおいて3プラスミドシステムを使用した。この試料は、非グリコシル化EPAを除去するために、陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製した。分析は、Supelco TSK G2000SWXLカラムにおいて行った。図14Bは、精製されたCP5-EPA試料のSEC-HPLC分析の結果を示している。280nmで測定したUVトレースを示している。太実線は、3.25μgの精製されたCP5-EPAの分析に由来し、細線は、5μgの精製した非グリコシル化EPAから得た。11.5分で溶離した大きい均質なピークが示されたのに対し、非グリコシル化EPAは、12.9分で溶離した(図14B)。これら2種の分子の流体力学半径を計算し、非グリコシル化EPAの42kDa及びグリコシル化EPAの166kDaのサイズを得た。これは、グリコシル化EPAは、グリカンの線状構造から予想されたように、溶液中に伸長されたモノマータンパク質として出現することを指摘している。
従って本発明者らの分析は、CP5-EPAバイオコンジュゲートは、EPAタンパク質及び正確にO-アセチル化されたグリカン構造からなることを確認した。これらの結果を基に、CP8-EPAバイオコンジュゲートは、EPAタンパク質及び正確にO-アセチル化されたグリカン構造からなることが推定された。
(実施例6:黄色ブドウ球菌タンパク質グリコシル化及び生成物の特徴付け)
グライココンジュゲートワクチン候補を製造するための「インビボ」グリコシル化の多用途性を証明するために、いくつかのキャリアタンパク質をCP5によりグリコシル化される基質として使用した。バイオコンジュゲートワクチンの黄色ブドウ球菌に対する免疫反応を更に増強するために、キャリアタンパク質EPAを、C.ジェジュニ由来のAcrAと、黄色ブドウ球菌由来の2つのタンパク質Hla及びClfAと交換した。キャリアタンパク質として使用されるように、Hla及びClfAを、細菌N-グリコシル化部位の挿入により改変した。このプロセスは、WO 2006/119987に開示されたように実行し、Hla H35Lに関して4型:配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:16を、及びClfAに関して3型:配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12を作製した。
Hla H35L部位130のグリコシル化に関して、以下の2つの発現プラスミドを含む、大腸菌細胞(W3110ΔwaaLΔwecAwzzEΔrmlB-wecG)を使用した:1つは、ペリプラズム分泌のためのN-末端シグナルペプチド、1つのN-グリコシル化部位及び精製のためのヘキサHis-タグを含むHla H35Lの発現がParaBADプロモーターの制御下にあるHla H35L生成のためのもの(配列番号:16)、及び2つ目は、CP5キメラクラスター及びpglBの発現のためのもの(配列番号:17)。このシステムは、交換されたタンパク質キャリア発現プラスミドを持つ、CP5-EPAの既に最適化された2プラスミド発現システムに対応している。細胞は、12Lのバイオリアクター内で富栄養培地において、OD600nm=30となるまで増殖し、Hlaの発現は、0.2%アラビノースの添加により誘導した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、上清中のペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化Hla(CP5-Hla)及び非グリコシル化Hlaを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離し、陰イオン交換クロマトグラフィーに装加した。CP5-HlaをHlaから分離するために、タンパク質を0Mから0.7MのNaClの直線勾配により溶離した。得られたタンパク質を、SDS PAGEにより分離し、クマシー染色するか、又はニトロセルロースメンブレンに転写し、指示されたように抗His抗血清、抗Hla抗血清、又は抗CP5抗血清のいずれかによりプロービングした(図14C)。図14Cの結果は、クマシー(左側レーン)、並びに抗His抗血清(中央左側レーン)及び抗Hla抗血清(中央右側)及び抗CP5抗血清(右側)を使用するウェスタンブロットにより、グライココンジュゲート(CP5-Hla)の形成を示している。
操作されたグリコシル化部位130を持つHla H35Lの同一性は、ゲル内トリプシン処理及びMALDI-MS/MSにより確認した。
キャリアタンパク質がCP5及びCP8によるグリコシル化のために交換可能であることを更に示すために、C.ジェジュニAcrAタンパク質を、グリコシル化のアクセプターとして使用した(図14D参照)。3プラスミドシステム(配列番号:3、配列番号:15、及び配列番号:27)を使用する、このコンジュゲートの産生株は、個別のプラスミド上にCP5キメラクラスター(配列番号:3)、IPTGにより誘導されたPglBタンパク質(配列番号:27)及びアラビノース誘導下のAcrA(配列番号:15)を収容するW3110ΔwaaLであった。細胞は、バイオリアクター内で、グリセロール、ペプトン及びC源として酵母エキスを含有する半限定培地において、出発容積7Lにおいて増殖した。細胞を、バッチ又はパルスバッチモードで、OD600nm=30まで増殖し、PglB及びAcrAの発現を、1mM IPTG及び10%アラビノースの添加により誘導した。誘導後、細胞を更に、流加バッチモードで、酸素-制限条件下、15時間培養し、遠心分離により収集した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。CP5-AcrA糖タンパク質を、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離した。この精製されたタンパク質を、SDS PAGEにより分離し、且つ図14Dに示されるように、クマシー染色するか、又はニトロセルロースメンブレンに転写し、抗AcrA抗血清又は抗CP5抗血清のいずれかによりプロービングした。
ClfA中の細菌N-グリコシル化部位の挿入は、WO 2006/119987に開示されたように実行し、配列番号:10;配列番号:11;配列番号:12を作製した。これらのキャリアタンパク質は、アラビノース誘導性プロモーターから大腸菌細胞において発現された。これらの遺伝子は、ペリプラズム分泌のためのN-末端シグナルペプチド、いくつかのN-グリコシル化部位及び精製のためのヘキサHis-タグを生成するようにデザインした。精製は、大腸菌細胞のペリプラズム抽出物から開始した。
ClfA 327のグリコシル化のために、CP5-EPAの既に最適化された発現システムを使用した。2プラスミドシステム(配列番号:17及び配列番号:11)を使用し、CP5キメラクラスター及びpglB(構成的発現カセット)、更にはClfA 327の発現プラスミド(ParaBADプロモーターの制御下)を含む大腸菌細胞(W3110ΔwecAwzzE ΔrmlB-wecGΔwaaL)を、1Lのエレンマイヤーフラスコ内でLB培地において増殖した。一晩培養物を、OD600nm=0.05まで希釈した。OD600nmがおよそ0.5で、ClfA発現を、アラビノース(最終濃度0.2%)の添加により誘導した。細胞を20時間増殖した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。ClfA-CP5を、0.5Mイミダゾールにより溶離し、SDS PAGEにより分離し、クマシー染色するか、又はニトロセルロースメンブレンに転写し、抗His抗血清又は抗CP5抗血清のいずれかによりプロービングした。図14Eは、タンパク質のアミノ酸327位に挿入されたグリコシル化部位を持つClfA変種(配列番号:11)を用いて得られた結果を示している。これらは、クマシー染色及び抗HisウェスタンブロットによりClfAの形成を、並びに抗CP5抗血清を使用するウェスタンブロットによりグライココンジュゲート(CP5-ClfA)の形成を示している。
(実施例7:CP5-EPAのグライココンジュゲートワクチンとしての活性)
内側にcap5Kを持つCP5キメラクラスター(配列番号:3)、PglBタンパク質(配列番号:27)及びpEC415上の2グリコシル化部位のシグナルを持つEPA(配列番号:13)を含むW3110ΔwaaLΔwecAwzzECA::cat細胞を、1Lのエレンマイヤーフラスコ内でLB培地において増殖した。一晩培養物を、OD600nm=0.05まで希釈した。OD600nmがおよそ0.5で、EPA及びPglBの発現を、各々、アラビノース(最終濃度0.2%)及び1mM IPTGの添加により誘導した。細胞を20時間増殖した。細胞を、遠心分離によりペレットとし;細胞を洗浄し、0.2容量ショ糖緩衝液中に懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化及び非グリコシル化EPAを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離し、SourceQ陰イオン交換カラムに装加した。NaCl濃度を増加する勾配を適用することにより、グリコシル化EPAは、非グリコシル化EPAから分離された。溶離されたタンパク質量を、BCAアッセイにより、及びクマシーにより染色されたSDS PAGEで得られたバンドのサイズを基にし決定し、この糖の理論的質量を計算した。このタンパク質の決定と一緒に、多糖抗原の量を、調製物中で概算した。これは、高質量MALDI MS法により確認した(図14A参照)。
生存動物におけるCP5-EPAの免疫原性を測定するために、精製したグライココンジュゲート1μgを、アジュバントとしての水酸化アルミニウムの存在下で、マウスへIP(腹腔内)経路で、1日目(初回注射)、21日目(第2回注射)、及び56日目(第3回注射)に注射した。第2回及び第3回注射の2週間後である各々35日目及び61日目に、IgG反応を、コーティングのためにポリ-L-リシン改変されたCP5を使用するELISAにより測定した(Gray, B.M.の論文、1979、「多糖抗原のELISA法:プラスチックチューブへの吸着のための多糖のタンパク質カップリング(ELISA methodology for polysaccharide antigens: protein coupling of polysacccharides for adsorption to plastic tubes)」、J. Immunol., 28:187-192)。CP5-バイオコンジュゲートを免疫付与したマウスからの血液を、CP5莢膜多糖に対する特異的IgG抗体について分析した。図15Aは、マウスにおいてCP5-EPAにより生じたIgG力価を示している。ELISAプレートは、ポリ-L-リシン改変したCP5によりコーティングし、CP5-EPAにより2回免疫付与したマウス(各希釈の2本目のバー(白))又は3回免疫付与したマウス(各希釈の1本目のバー(右上がり斜線))におけるIgG反応を、3つ組みで測定した。対照としての免疫前血清で得られたシグナルは、各希釈で3本目のバー(右下がり斜線)により示した。マウスのIgG反応は、アルカリホスファターゼ-コンジュゲートされたプロテインGにより測定した。図15Aに示したように、CP5-EPAバイオコンジュゲートは、血清抗体力価6.4×103を誘発した。図15Aに示された結果は、CP5-EPAは、マウスにおいてCP5特異的抗体を生じることを示している。本実験は、大腸菌において生成されたバイオコンジュゲートは、マウスにおいて免疫原性であることを示している。
同様の実験を、宿主生物としてのウサギにおいて行った。CP5-EPA(15μgのCP5)を、ウサギへ、1日目にフロイント完全アジュバントの存在下で皮内注射し、20、30及び40日目にフロイント不完全アジュバントの存在下で皮下注射した。61日後に、IgG反応を、コーティングのためのポリ-L-リシン改変されたCP5を使用するELISAにより測定した(Gray, B.M.の論文、1979、「多糖抗原のELISA法:プラスチックチューブへの吸着のための多糖のタンパク質結合(ELISA methodology for polysaccharide antigens: protein coupling of polysacccharides for adsorption to plastic tubes)」、J. Immunol., 28:187-192)。図15Bは、ウサギにおいてCP5-EPAにより生じたIgG力価を示している。図15Bに示された結果は、CP5-EPAは、ウサギにおいてCP5特異的抗体を生じることを示している。CP5-EPAバイオコンジュゲートの免疫反応は、各希釈において2本目のバー(右上がり斜線)である。対照血清は、死滅黄色ブドウ球菌に対し生じたCP5-特異的吸着された血清(WC抽出物、各希釈の1本目のバー(点付き))及び免疫前血清(各希釈の3本目のバー(白色))を含む。様々な抗原で免疫付与したウサギ由来の血清を精製したCP5に対する特異的抗体について分析した。プレートは、ポリ-L-リシン改変したCP5によりコーティングした。対照としての免疫前血清で得られたシグナルは、各希釈で3本目のバー(右下がり斜線)により示した。ウサギのIgG反応は、アルカリホスファターゼ-コンジュゲートされたプロテインGにより3つ組みで測定した。CP5-EPAバイオコンジュゲートは、力価1×106を誘発し、これは対照血清(完全に死滅させた黄色ブドウ球菌による免疫付与、その後のWood 46による吸着、及びトリプシン処理した同質遺伝子系統無莢膜変異体により調製し、その結果この抗血清はCP5-特異性となった)よりも4倍高かった。この実験は、このバイオコンジュゲートは、高い力価のCP5-特異的IgG反応を誘発することができたことを示している。
(実施例8:CP5抗体の機能活性)
(インビトロ活性)
実施例7に説明されたように生じたウサギポリクローナル抗血清を、IgG特異的抗体を濃厚化するために、プロテインAアフィニティカラムにより精製した。黄色ブドウ球菌バイオコンジュゲートCP5-EPAにより免疫付与したウサギ由来のIgGを、古典的インビトロオプソニン食作用性死滅アッセイにおいて機能活性について試験した(Thakker, M.、J.-S. Park、V. Carey、及びJ. C. Leeの論文、1998、「食作用阻止性であり且つマウス菌血症モデルにおいて細菌病原性を増強する黄色ブドウ球菌5型血清型莢膜多糖(Staphylococcus aureus serotype 5 capsular polysaccharide is antiphagocytic and enhances bacterial virulence in a murine bacteremia model)」、Infect Immun, 66:5183-5189)。黄色ブドウ球菌を、Columbia寒天+2%NaCl上で24時間培養した。細菌を、最小必須培地+1%BSA(MEM-BSA)中に懸濁した。PMN(多形核好中球)を、新鮮なヒト血液から分離し、洗浄し、計数し、MEM-BSA中に懸濁した。黄色ブドウ球菌CP5-EPA又は対照としてのWO 2009/104074に開示されたように精製した赤痢菌O1-EPAで免疫付与したウサギ由来の精製IgG調製品のいずれかにより免疫付与したウサギ由来の精製IgG調製品を、MEM-BSA中に10-倍連続希釈することで調製したアッセイ液に添加した。モルモット血清(Pel-Freez)を、C'給源として使用した。各アッセイ(総容積0.5ml)は、〜5×106個PMN、1×106個CFU黄色ブドウ球菌、0.5%〜1%モルモット血清、及び140μg/mlから1μg/mlまで変動する濃度のIgGを含んだ。対照試料は、1)C'及びPMNを含み、抗体を含まずインキュベーションした黄色ブドウ球菌;2)IgG及びC'を含むが、PMNを含まずにインキュベーションした黄色ブドウ球菌;並びに、3)黄色ブドウ球菌単独:を含んだ。試料は、37℃で2時間、転倒回転した(12rpm)。試料希釈物を、滅菌水中で激しく攪拌し、細菌死滅を、希釈した試料のTSA上に2つ組みで播種することにより推定した。死滅率は、2時間後の0時点と比べた、CFU/mlの減少と定義された。
第一の実験セットにおいて、メチシリン-感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)株Reynolds株、プロトタイプCP5単離株のオプソニン食作用性死滅を試験し、結果を図16Aに示した。ウサギにおいて生じたCP5-EPAに対する抗体のオプソニン活性を、黄色ブドウ球菌5型血清型Reynolds株に対して試験した。CP5-EPA抗体は、濃度1.4μg/mlまでオプソニンを低下したのに対し、O1-EPA抗体は、140μg/mlでオプソニン活性をほとんど示さなかった。黄色ブドウ球菌全細胞抽出物(J. C. Leeから入手(Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School、ボストン、MA、米国))に対して生じた陽性対照血清は、抗CP5-EPA血清(WC抗血清1%)と同様の活性を示した。
図16Aに示されたように、CP5-EPAに対する抗体及び補体活性を持つ1%モルモット血清と一緒にインキュベーションした場合に、黄色ブドウ球菌Reynoldsの65〜75%は、PMNにより死滅した。抗血清は、アッセイ中最終的に1%で使用し、黄色ブドウ球菌接種材料の89%は、これらの条件下で死滅した。黄色ブドウ球菌をC'単独(1%モルモット血清)又は抗体とC'でPMNを含まずにオプソニン化した場合に、死滅はほとんど認められなかった。示されたデータは、2〜5回の実験の平均を示している。グラフに記した全ての試料は、モルモット血清C'を含有し、C'が存在しない場合には死滅は認められなかった。抗体単独も、補体単独も、オプソニン性ではなく、この性質は、莢膜に囲まれた細菌性病原体の特徴である。対照的に、対照ワクチン(EPAに結合した赤痢菌O1抗原)により誘発された抗体は、C'が存在する場合であっても、オプソニン活性を示さなかった。このアッセイにおける陽性対照として、本発明者らは、CP5-特異的ウサギ抗血清(J. C. Leeから入手(Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical School、ボストン、MA、米国))も試験した。これらのデータは、CP5-EPAバイオコンジュゲートに対して生じた抗体は、文献によるとオプソニン活性を持つCP5抗体(Thakker, M.、J.-S. Park、V. Carey、及びJ. C. Leeの論文、1998、「食作用阻止性であり且つマウス菌血症モデルにおいて細菌病原性を増強する黄色ブドウ球菌5型血清型莢膜多糖(Staphylococcus aureus serotype 5 capsular polysaccharide is antiphagocytic and enhances bacterial virulence in a murine bacteremia model)」、Infect Immun、66:5183-5189)に匹敵する、莢膜に囲まれた黄色ブドウ球菌に対するオプソニン活性を示したことを示している。
CP5-EPAに対する抗体のオプソニン活性を、CP5-EPAのMRSA株USA100に対して試験した。図16Bは、CP5+分離株であり、NRS382と称される、黄色ブドウ球菌USA100株に対して試験したIgG及びC'のオプソニン活性の結果を表している。示したデータは、2〜5回の実験の平均である。グラフに記した全ての試料は、モルモット血清C'を含有し、C'が存在しない場合には死滅は認められなかった。図16Bに示されたように、USA100接種材料の〜60%は、0.5%モルモット補体及び100〜1μg/mlの範囲の濃度のCP5-EPA IgGと一緒にインキュベーションしたPMNにより死滅した。最小死滅は、PMNが存在しない場合又はIgGがアッセイから省かれた場合に認められた。O1-EPAコンジュゲートワクチンに対して生じたIgGがPMN+C'に添加された場合には、死滅は達成されなかった(この試料中で細菌は増殖した)。黄色ブドウ球菌がC'単独又はPMNを含まない抗体とC'によりオプソニン化された場合には、ほとんど死滅は認められなかった。従って、CP5-EPA抗体は、濃度範囲100〜1μg/mlでオプソニン性であるのに対し、O1-EPA抗体は、100μg/mlでほとんどオプソニン活性を示さなかった。この実験は、CP5-EPA抗体は、MSSA株及びMRSA株の両方に対しオプソニン活性を発揮することを示す。
(インビボ活性)
バイオコンジュゲートCP5-EPAワクチンに対して生じたIgGのオプソニン活性が、ブドウ球菌感染症のマウスモデルにおいて防御すると予想できるかどうかを決定するために、受動免疫実験を行った。最初の研究において、Swiss-Webster雄のマウス(〜6週齢)に、CP5-EPA又は赤痢菌O1-EPAで免疫付与したウサギ由来のIgGの1.4〜2mgをIV注射した(尾静脈)。24時間後、マウスを、黄色ブドウ球菌Reynolds株〜3.6×107 CFUにより腹腔内(IP)経路でチャレンジした。菌血症レベルは、チャレンジ後2時間で測定し、菌血症の抗体が媒介したクリアランスを評価した。培養物の検出下限は、5 CFU/ml血液であった。図17Aは、結果の菌血症レベルを示している。各点は、細菌接種の2時間後に、個々のマウスにおいて尾静脈穿刺により実行された定量的血液培養物を表す。水平線は、CFU/ml中央値を表す。白丸は、抗CP5-EPA抗体を得たマウス由来の血液試料であり、黒丸は、異なるグリカン(志賀赤痢菌(S. dysenteriae)O1)にコンジュゲートされたEPAに対して生じた対照抗体調製品を得た動物からの試料である。図17Aの結果は、CP5抗体を与えたマウスは、O1-特異的抗体が与えられたマウスと比べ、菌血症レベルの有意な(マン・ホイットニー検定P=0.0006)減少を示したことを表している。実際、CFU/ml血液の低下は、O1-EPA IgG投与マウスに対し、CP5-EPA により受動免疫されたマウスにおいて98%であった。
引き続きの受動免疫実験において、マウスを、黄色ブドウ球菌Reynolds株のより少ない接種材料(〜5.5×106 CFU/マウス)でIPチャレンジした。CP5-EPA抗体による受動免疫を、5〜6×106 CFU黄色ブドウ球菌Reynolds株でIPチャレンジしたマウスにおいて試験した。マウスには、細菌チャレンジの24時間前に、2mg CP5-EPA IgG又はO1-EPA IgGを静脈内注射した(IV)。図17Bは、結果の菌血症レベルを示している。各点は、細菌接種の2時間後に、個々のマウスにおいて尾静脈穿刺により実行された定量的血液培養物を表す。水平線は、CFU/ml中央値を表す。白丸は、抗CP5-EPA抗体を得たマウス由来の血液試料であり、黒丸は、異なるグリカン(志賀赤痢菌O1)にコンジュゲートされたEPAに対して生じた対照抗体調製品を得た動物からの試料である。図17Bに示したように、2mg CP5-EPA IgGを受け取ったマウスは、2mgのO1-EPA IgGを受け取った動物と比べ、有意に(マン・ホイットニー検定P<0.0001)低い菌血症レベルを有した。実際、CP5-EPA抗体で受動免疫したマウス7匹のうち6匹は、無菌の血液培養物を有した(検出下限6〜30 CFU/ml血液、各マウスから採取され且つ播種された血液の容積によって左右される)。CP5抗体が原因である菌血症レベルの低下は、O1-EPA IgG投与対照マウスと比べ、98%であった。
菌血症に対する防御が、低レベルのIgGで付与されるかどうかを決定するために、引き続きの実験を行い、ここではマウスを、300μgのCP5-EPA又はO1-EPA IgGにより、IV経路で受動免疫した。24時間後、マウスに、6×106 CFU黄色ブドウ球菌Reynolds株をIP接種した。培養による検出下限は、13〜67 CFU/ml血液であった。図17Bは、結果の菌血症レベルを示している。各点は、細菌接種の2時間後に、個々のマウスにおいて尾静脈穿刺により実行された定量的血液培養物を表す。水平線は、CFU/ml中央値を表す。白丸は、抗CP5-EPA抗体を得たマウス由来の血液試料であり、黒丸は、異なるグリカン(志賀赤痢菌O1)にコンジュゲートされたEPAに対して生じた対照抗体調製品を得た動物からの試料である。図17Bに示したように、図17Cの結果は、菌血症に対するCP5抗体が媒介した防御は、この低い抗体投与量で達成されたことを示している。菌血症レベルの98%の低下が、CP5バイオコンジュゲートワクチンにより誘発された抗体により達成され、9匹のマウス中8匹は、無菌の血液培養物を有し、これは赤痢菌O1-EPA抗体投与マウスでは8匹中0匹であった。
(実施例9:マウスにおける能動免疫)
バイオコンジュゲートCP5-EPAによるマウスのワクチン接種は、受動免疫アッセイのように細菌チャレンジに対する防御を媒介することを示すために、能動免疫試験を行った。
CP5-EPAバイオコンジュゲートは、キメラCP5遺伝子クラスター(配列番号:3)、プラスミドpEXT21由来のPglB(配列番号:27)及び別のプラスミド由来のEPA(2つのグリコシル化部位を含む、配列番号:13)の同時発現により、大腸菌W3110ΔwaaLΔwecAwzzE::catにおいて生成した。細胞は、バイオリアクター内で、グリセロール、ペプトン及びC源として酵母エキスを含有する半限定培地において、出発容積7Lで増殖した。細胞を、バッチ又はパルスバッチモードで、OD600nm=30まで増殖し、PglB及びEPAの発現を、1mM IPTG及び10%アラビノースの添加により誘導した。誘導後、細胞を更に、流加バッチモードで、酸素-制限条件下、15時間培養し、遠心分離により収集した。細胞を洗浄し、25%ショ糖緩衝液中にOD600nm=200に再懸濁し、ペレットとし、浸透圧ショックにより溶解した。スフェロプラストを遠心分離によりペレットとし、ペリプラズムのタンパク質を、Ni2+アフィニティクロマトグラフィーに装加した。グリコシル化及び非グリコシル化EPAを、0.5Mイミダゾールによりアフィニティカラムから溶離し、SourceQ陰イオン交換カラムに装加した。NaCl濃度を増加する勾配を適用することにより、グリコシル化EPAは、非グリコシル化EPAから分離された。
CP5-EPAは、CP5黄色ブドウ球菌株に対する防御のためのコンジュゲートワクチンとして使用されることが意図されている。そのような能動免疫が機能するかどうかを試験するために、本発明者らは、CP5-EPAの3つの異なる投与量により、雌のSwiss Websterマウスの異なる群を免疫付与し、この免疫付与を菌血症モデルを用い分析した。3つの投与量は、0、14及び28日目に皮下注射した。図18に示したように、マウスは、42日目に黄色ブドウ球菌株JL278により腹腔内チャレンジした。5群のマウスを、X軸の下側に記したように、3つの異なる投与量のCP5-EPAにより免疫付与した(点付き丸;白丸;及び丸に右下がり線)。2つの対照群は、アジュバント(丸に右上がり線)又はPBS(黒丸)単独のいずれかを受け取った。各点は、1匹のマウスからの血液試料を表している。最も低いワクチン投与量(0.2μg)は、その群の全てのマウスにおいて防御を誘発した。チャレンジの2時間後、血液試料を、cfu形成について、及びコーティングのためにポリ-L-リシン改変されたCP5を使用するELISAにより抗CP5抗体について分析した(Grayらの論文、(1979))。CP5-EPAで免疫付与した全ての群において、血液中のcfuの平均減少が認められた。しかし、ワクチンの最低投与量を受け取った群においてのみ、5匹のマウス全てにおいて菌血症の全体的防御が存在した。抗CP5抗体に関する血液の分析は、異なるマウス群において、防御と平均ELISA力価の正の相関を生じた。図18に示した結果は、この抗体は、免疫付与したマウスにおいて菌血症の防御を誘発したことを指摘している。
これらの研究は、CP5-EPAバイオコンジュゲートワクチンは、黄色ブドウ球菌をヒトPMNによる食作用死滅に関してオプソニン化し、且つポジティブな能動免疫試験において菌血症に対しマウスを防御する抗体を誘発したことを指摘している。これらのデータは、示されたバイオコンジュゲートは、複数の黄色ブドウ球菌株により引き起こされた疾患に対し防御するであろうことの強力な証拠を提示している。
本発明は、それらの実施態様を参照し特に示され且つ説明されているが、請求項により包含される本発明の精神から逸脱しないそれらの形態及び詳細における様々な変更を行うことができることは当業者には明らかであろう。
本発明は更に、哺乳動物においてグラム陽性菌及び他の細菌により引き起こされた感染症に対し免疫反応を誘導する方法を指向している。一実施態様において、本方法は、該哺乳動物へ、少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)を含むタンパク質であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;並びに、該コンセンサス配列に結合されたグラム陽性菌由来の1種以上のオリゴ糖又は多糖であって、この1種以上のオリゴ糖又は多糖が、該1種以上のオリゴ糖又は多糖のうちの他のものと同じか又は異なる、前記1種以上のオリゴ糖又は多糖:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む。
本発明の実施態様は、C.ジェジュニは原核生物では一般的でない特徴である全般的N-結合型タンパク質グリコシル化システムを持っているという発見を、少なくとも一部基にしている。C.ジェジュニの様々なタンパク質は、七糖により改変されることが示されている。この七糖は、特異的グリコシル転移酵素により触媒されるヌクレオチド活性化された単糖の段階的付加により、内膜の細胞質側において、キャリア脂質であるUndPP上に集成される。次に脂質-結合されたオリゴ糖は、例えばPglKなどのフリッパーゼにより細胞膜周辺腔へとフリッピングされる(すなわち横断的に拡散する)。N-結合型タンパク質グリコシル化の最終段階において、OTase(例えば、PglB)は、オリゴ糖の、キャリア脂質からコンセンサス配列Asp/Glu-Xaa-Asn-Zaa-Ser/Thr(配列番号:24) (すなわちD/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24))内のAsn残基への転移を触媒し、ここでXaa及びZaaは、Pro以外の任意のアミノ酸であることができる。本発明者らは、七糖のためのグリコシル化クラスターを大腸菌へと巧く転移させることができ、且つカンピロバクターのN-結合型糖タンパク質を生成することができた。
従って本発明の一実施態様において、第一のグラム陰性種の細菌を改変する方法は、黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌を標的として同定する工程;少なくとも3つのモノマーを含む該グラム陽性菌により生成された多糖の第一の反復単位を同定する工程;該第一の反復単位と同じモノマーを少なくとも2つ含む第二の反復単位を含む第二のグラム陰性種の細菌により生成された多糖を同定する工程;a)該第二の反復単位;及び、b)該第二の反復単位には存在しない該第一の反復単位のモノマー:を含む、三糖を集成するグリコシル転移酵素をコードしている1種以上のヌクレオチド配列を、該第一のグラム陰性種の細菌に挿入する工程;少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)を含むタンパク質であり、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいものなどのタンパク質をコードしているヌクレオチド配列を挿入する工程;並びに、OTaseをコードしているヌクレオチド配列を挿入する工程:を含む。
本発明の実施態様は、天然にグリコシル化されたタンパク質を含む。そのような天然にグリコシル化されたタンパク質(例えばC.ジェジュニタンパク質)は、天然のコンセンサス配列を含むが、任意の追加の(すなわち導入された)最適化されたコンセンサス配列は含まない。天然のグリコシル化されたタンパク質は、原核生物及び真核生物のタンパク質を含む。本発明の実施態様は、更に以下のN-グリコシル化された部分アミノ酸配列を1種以上含む組換えN-グリコシル化タンパク質を含む:D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)(最適化されたコンセンサス配列)、ここでX及びZはPro以外の任意の天然のアミノ酸であってよく、且つここで該N-グリコシル化された部分アミノ酸配列の少なくとも1種が導入されている。特異的部分アミノ酸配列(最適化されたコンセンサス配列)のタンパク質への導入は、導入部位での、例えばカンピロバクター種由来のOTaseなど、例としてC.ジェジュニ由来のOTaseなどのOTaseにより効率的にN-グリコシル化されるタンパク質につながる。
EPAなどのキャリアタンパク質は、N-グリコシル化部位が細菌性バイオコンジュゲートの製造において追加され得るタンパク質である。N-グリコシル化部位は、先に考察したコンセンサス配列の導入、すなわちD/E-X-N-Z-S/T配列(配列番号:24)の挿入を必要とし、ここでX及びZはプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよい。本発明者らは、そのようなコンセンサス配列は、突然変異、及び追加的に挿入されたフランキング残基の使用による、及びN-グリコシル化部位の機能を最適化するためのフランキング残基の突然変異によるよりは、挿入により表面ループへ導入されることが好ましいことを発見した。
本発明の実施態様は加えて、例えばヒトなどの哺乳動物においてグラム陽性菌及び他の細菌により引き起こされた感染症に対し免疫反応を誘導する方法を指向している。一実施態様において、本方法は、該哺乳動物へ、少なくとも1種の挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)を含むタンパク質であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;並びに、該コンセンサス配列に結合されたグラム陽性菌由来の1種以上のオリゴ糖又は多糖であって、この1種以上のオリゴ糖又は多糖が、該1種以上のオリゴ糖又は多糖のうちの他のものと同じか又は異なる、前記1種以上のオリゴ糖又は多糖:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む。更なる本発明の実施態様は、哺乳動物へ、挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;CP5多糖などの少なくとも1種の黄色ブドウ球菌オリゴ糖又は多糖;並びに、医薬として許容し得るアジュバント:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、該哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導する方法を含む。別の本発明の実施態様は、哺乳動物へ、挿入されたコンセンサス配列D/E-X-N-Z-S/T(配列番号:24)を含むタンパク質であって、ここでX及びZがプロリン以外の任意の天然のアミノ酸であってよいもの;少なくとも1種の黄色ブドウ球菌CP8多糖;並びに、医薬として許容し得るアジュバント:を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、該哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。より更なる実施態様は、2種以上のコンセンサス配列を伴うタンパク質、並びに異なるグラム陽性菌株由来のオリゴ糖又は多糖を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。なお更なる実施態様は、2種以上のコンセンサス配列を伴うタンパク質、並びに黄色ブドウ球菌CP5及び黄色ブドウ球菌CP8を含む多糖を含有する医薬組成物の有効量を投与することを含む、哺乳動物において黄色ブドウ球菌により引き起こされた感染症に対する免疫反応を誘導することを指向している。