[0135] 上述のように、本発明は、刺激付与によって神経筋肉の疾患を治療するためのシステム及び方法に関し、これらについて添付図面を参照して詳細に説明する。また、図面は必ずしも一定の縮尺通りに描かれているわけではないことに留意すべきである。
[0136] 本明細書において用いる場合、「神経伝達」は、1つの神経又は神経セットにおけるいずれかの伝達を含み、障害が存在するか又は存在しない伝達を含むことができる。
[0137] 本明細書において用いる場合、「神経伝達障害」又は「障害」は、生物学的/遺伝的原因及び/又は外部/機構的原因による、1つの神経又は神経セットにおける神経伝達の弱さ、部分的もしくは全体的な途絶、劣化、又は不全(failure)を含み、最初からの神経伝達障害、遺伝的な出生後の神経伝達障害、外傷誘発神経伝達障害、及びそれらに関連した様々な機能障害(複数の機能障害)を含む。
[0138] 本明細書において用いる場合、「神経伝達の最初からの不全」は、遺伝的欠陥によって出生前に引き起こされた神経伝達障害を指す。
[0139] 本明細書において用いる場合、「遺伝的な出生後の神経伝達障害」は、遺伝的欠陥によって出生後に引き起こされた神経伝達障害を指す。
[0140] 本明細書において用いる場合、「外傷誘発神経伝達障害」は、いずれかの神経また神経セットの衰弱、分断、劣化、又は部分的もしくは全体的な不全を引き起こす、出生の前又は後の外傷により生じた神経伝達障害を指す。
[0141] 本明細書において用いる場合、「脊椎生物(vertebrate being)」は、脊柱を有するいずれかの生物学上の動物を指し、人間及び脊椎動物門に分類される全ての動物を含む。
[0142] 本明細書において用いる場合、「肢」は、脊椎生物の腕、翼、ひれ足、ひれ、又はそのいずれかの解剖学的な均等物である。
[0143] 本明細書において用いる場合、「中枢神経系」は、脊椎生物の脳及び脊柱セットである。
[0144] 本明細書において用いる場合、「神経成分」は、神経伝達が可能であるいずれかの細胞構造であり、ニューロンの軸索、ニューロンの樹状突起、又は神経伝達物質を発生もしくは受信することができる他のいずれかの自然もしくは人工的な生物学的成分を含む。
[0145] 本明細書において用いる場合、第1の要素を第2の要素に「近接して」配置するとは、第1の要素に付与した刺激が非ゼロ電気信号、第2の要素の神経成分を含む場合を示す。
[0146] 本明細書において用いる場合、「点(point)」又は「部位(site)」は、動物又は人間の組織の部位又は組織位置の全体的な領域を指す。
[0147] 本明細書において用いる場合、「神経伝達障害点」又は「障害点」は、神経伝達障害の条件が、衰弱した物理的条件、部分的もしくは全体的な分断構造、物理的な劣化、又は神経伝達障害の条件を表明し具現化する他の物理的構造の有無、又は神経伝達障害の代理(proxy)として機能する組織の部位として、生理学的に具現化又は表明される動物又は人間の組織のある地点を指す。
[0148] 本明細書において用いる場合、「神経経路」又は「経路」は、神経成分と別の神経成分又はその部分との間の無損傷又は損傷した伝達結合のいずれかの接続を含み、各神経成分に接続された1つ又は複数のニューロンを含むことができる。
[0149] 本明細書において用いる場合、「神経ハンドシェイク信号」又は「ハンドシェイク信号」は、神経経路における共通の点に向けて伝播しその点で同時期に収束する1対の誘発神経信号の1つである。
[0150] 本明細書において用いる場合、「神経伝達トリガ部位」は、神経経路に関連付けられた位置であり、対象の神経成分との神経伝達に関連付けられている。神経伝達トリガ部位は、対象の神経経路にチャージ信号が存在する場合に神経ハンドシェイク信号が相互作用することができる位置であり、神経伝達障害点である場合もある。
[0151] 本明細書において用いる場合、同一の神経伝達障害点に達する第1の誘発神経信号及び第2の誘発神経信号は、第1の誘発神経信号における波形が第2の誘発神経信号における波形のいずれかの部分と時間が重複した場合に「同時期である」という。
[0152] 本明細書において用いる場合、「ハンドシェイク」は、神経経路のある点において1対の神経信号が同時期に収束することを指す。
[0153] 本明細書において用いる場合、「神経伝達リハビリテーション」又は「リハビリテーション」は、誘発神経信号を神経伝達障害点に到達させる刺激付与を用いる1つの神経又は神経セットにおいて、神経伝達のいずれかの衰弱、部分的もしくは全体的な分断、劣化、又は不全の部分的もしくは全体的な除去のプロセスを指す。
[0154] 本明細書において用いる場合、「神経伝達リハビリテーション点」又は「リハビリテーション点」は、ある時点である点における神経伝達障害点であったが、神経伝達リハビリテーションのプロセスが発生して、神経伝達のいずれかの衰弱、部分的もしくは全体的な分断、劣化、又は不全が部分的又は完全に除去されている組織部位を指す。
[0155] 本明細書において用いる場合、要素がある行為を実行するように「構成されている」とは、この要素が、その行為の実行を可能とするような形状を有し、そのために全ての必要な固有のフィーチャを含み、その形状及びフィーチャを有することの自然な結果としてその行為を実行可能である場合を指す。
[0156] 本明細書において用いる場合、「アクティブ電極」は、少なくとも1つの正の電圧パルス又は少なくとも1つの負の電圧パルスのいずれかとして電気パルスが印加される電極である。従って、アクティブ電極は、印加される電気パルスの極性に応じて、正の電極又は負の電極とすることができる。
[0157] 本明細書において用いる場合、「基準電極」は、アクティブ電極が電気パルスを印加している間に脊椎生物に基準電圧を与える電極である。基準電極は一定の静電位に保持することができる。交流(AC)信号を印加する場合、基準電極は電気的接地として機能し、対応するアクティブ電極は時間に依存する電気信号を印加する。
[0158] 本明細書において用いる場合、「対応電極」は、直流(DC)印加の場合、すなわち対応するアクティブ電極が対応電極に対して一定の電圧を印加する場合に、基準電圧を与える電極である。
[0159] 本明細書において用いる場合、「分極電流」は、第1の電極と第2の電極との間でニューロンを介して流れ、そのニューロンにおいて電荷の分極を起こす直流電流を指す。
[0160] 本明細書において用いる場合、「下位運動ニューロン(lower motoneuron)」又は「下位運動ニューロン(lower motor neuron)」は、脊柱を筋線維(複数の筋線維)に接続し、その筋線維(複数の筋線維)で終端する軸索を含む運動ニューロンである。
[0161] 本明細書において用いる場合、第1の信号及び第2の信号は、第1及び第2の信号の立ち上がり端が時間的に一致する場合及び/又は第1及び第2の信号の立ち下がり端が時間的に一致する場合に、「同期している」又は「同期をとっている」という。第1及び第2の信号の各々は、電気電圧信号、音波刺激信号、超音波刺激信号、定常状態又は動的磁界が印加される磁気刺激信号、光刺激信号、熱刺激信号、低温刺激信号、振動刺激信号、圧力刺激信号、真空吸引刺激信号、又は脊椎生物が検知することができる他のいずれかの感覚信号とすることができる。
[0162] 本明細書において用いる場合、装置が「植え込まれている(implanted)」とは、装置が脊椎生物の内部又は脊椎生物の上に配置され、自己動力式すなわちバッテリ等の電源により給電されることを指す。
[0163] 本明細書において用いる場合、装置が脊椎生物の内部又は脊椎生物の上に植え込み可能であるように構成されている場合、装置が「植え込み可能である(implantable)という。
[0164] 本明細書において用いる場合、装置が「携帯型である」とは、装置が脊椎生物の身体又は衣服又は付属品に取り付けることができ、自己動力式であることを指す。
[0165] 本発明の実施形態は、1つの神経又は神経セットにおける神経伝達障害を治療するための方法及びシステムを開示する。また、明らかな神経障害を持たない健康な個体も、運動の目的等のために本発明の実施から利益が得られるであろう。
[0166] 神経障害を有する者が本発明から利益を得ることは確かである。神経伝達障害は、最初からの神経伝達障害、遺伝的な出生後神経伝達障害、外傷誘発神経伝達障害、又はそれらの組み合わせである場合がある。本開示の目的のために、以下に例示する本発明の実施形態は神経障害の改善及び回復を対象とするが、かかる原理及び手順は、神経改善のために健康な固体にも等しい有効性で適用可能であることは認められよう。
[0167] 大まかに言えば、改善する神経経路を識別する。神経障害の例では、これを神経経路又は機能障害神経経路等と呼ぶことができる。刺激される神経経路における2つの神経成分を識別する。チャージ信号の存在下で、外部刺激を付与して、2つの神経成分において2つの神経ハンドシェイク信号を同時に発生させ、これらが経路に沿って伝達して神経経路における神経伝達障害点に達する。神経伝達障害においてチャージ環境で2つの神経ハンドシェイク信号がハンドシェイクすることによって、自然の生物学的リハビリテーションプロセスが開始し促進される。
[0168] 本発明は、神経伝達障害の条件が生理学的に具現化される神経伝達障害点において刺激付与を与える。神経伝達障害点は、衰弱、分断、劣化、もしくは不全の神経構造を含む領域、又は正常に機能する神経系もしくは神経筋肉系では存在するはずの神経接続が存在しない領域である場合がある。
[0169] 外部刺激を付与する前に、神経伝達障害点には、第1の神経成分に機能的に接続された第1の神経要素及び第1の神経成分に機能的に接続された第1の神経要素が存在し、それらの間に完全に機能する神経接続は存在しない。第1の神経成分は脳の一部におけるニューロンとすることができ、第2の神経成分は筋肉内のニューロン又は脳の異なる部分におけるニューロンとすることができる。劣化した神経接続であろうと神経接続が存在しないことであろうと、完全に機能する神経接続が存在しないことが、神経伝達障害点の特徴である。換言すると、第1の神経要素及び第2の神経要素は、それらの間の神経伝達の目的のために弱く結合されているか又は結合されていない。第1の神経成分は軸索の一端とすることができ、第2の神経成分は別の軸索の端部とすることができる。あるいは、第1の神経成分は軸索の第1の部分とすることができ、第2の神経成分は同じ軸索の第2の部分とすることができ、この場合、第1の部分と第2の部分との間の神経伝達はいずれかの理由で損なわれている。
[0170] 第1の神経成分は第1の身体部分に位置し、第2の神経成分は第1の身体部分とは異なる第2の身体部分に位置する。正常に機能する脊椎生物においては、第1の身体部分と第2の身体部分との間に機能的伝達経路が存在する。神経信号は、第1の神経成分によって発生され、機能的伝達経路を介して送信され、充分な信号強度で第2の神経成分に到着するので、第2の神経成分は、この第2の神経成分に機能的に関連した他のニューロン又は筋肉において追加のアクティビティを引き起こすことができる。神経伝達経路に神経伝達障害が存在する場合、神経伝達は可能であるが減衰するので、第1の神経成分から第2の神経成分まで充分な強度で神経信号を送信することができず、従って、第2の神経成分は脊椎生物において追加のアクティビティを引き起こさない。
[0171] 第1の実施形態において、第1の神経成分は皮質に位置するニューロンであり、第2の神経成分は、この皮質のニューロンに機能的に関連した下位運動ニューロンである。すなわち、この下位運動ニューロンは、正常に機能する脊椎生物の皮質のニューロンによって制御される筋肉を作動させるように作られている。正常に機能する脊椎生物の第1の神経成分と第2の神経成分との間には、神経信号を送信するための皮質−神経筋肉経路が存在する。多くの場合、皮質−神経筋肉経路は脊髄を通過し得る。この場合、皮質−神経筋肉経路において神経伝達障害が発生する。このため、神経伝達障害は、脊髄又は脊椎生物の肢の1つに位置する皮質−神経筋肉経路の部分内に存在し得る。
[0172] 第2の実施形態において、第1の神経成分は皮質の第1の部分に位置する第1のニューロンであり、第2の神経成分は、同一の皮質の第2の部分又は異なる皮質の部分に位置する第2のニューロンである。例えば、自閉症スペクトラム障害(ASD)の個体では、正常な個体に比べて、前頭葉(前脳部)と頭頂葉(後脳部)との間の神経相互接続のレベルが低いことが最近になってわかっている。この場合の前頭葉(前脳部)と頭頂葉(後脳部)との間の低レベルの神経相互接続は、神経伝達障害である。多くのタイプの自閉症スペクトラム障害には、最初からの神経伝達障害が伴い、レット症候群の場合には、障害は遺伝的な出生後神経伝達障害である場合がある。この場合、神経伝達障害点は、追加の神経接続が存在するはずの前頭葉と頭頂葉との間の界面であり得る。別の例では、脳の右半球と脳の左半球との間の神経伝達の分断が、外傷又は遺伝的な原因によって発生することがある。脳の右半球と脳の左半球との間の神経伝達の分断は、神経伝達障害となる。この場合、神経伝達障害点は、追加の接続が存在するはずの脳の右半球と脳の左半球との間の界面であり得る。
[0173] 第3の実施形態において、第1の神経成分は脊椎生物の感覚成分に位置する感覚ニューロンであり、第2の神経成分は脊椎生物の皮質に位置するレセプタニューロンである。感覚ニューロンは、視覚、聴覚、温度、圧力、味覚、嗅覚、身体筋肉の動きもしくは作動、又は正常な脊椎生物が能力を有する他のいずれかの感覚機能を検出するように作られたニューロンとすることができる。神経伝達障害は、例えば網膜と視覚野との間に位置する視神経で生じる皮質盲である場合がある。この場合、第1の神経成分は網膜における光検知細胞の1つであり、第2の神経成分はこの光検知細胞と機能的に関連した視覚野におけるニューロンであり、神経伝達経路は、光検知細胞と視覚野における機能的に関連したニューロンとの間の神経接続である。神経伝達障害点は、視神経接続が衰弱又は分断している位置である。別の例では、神経伝達障害は耳鳴である場合があり、これは上丘(内耳に隣接して位置する)と聴覚野との間に位置する聴神経において発生する。この場合、第1の神経成分は上丘の神経に位置するニューロンの1つであり、第2の神経成分は上丘のニューロンと機能的に関連した聴覚野におけるニューロンであり、神経伝達経路は、上丘のニューロンと機能的に関連した聴覚野のニューロンとの間の神経伝達である。
[0174] 第1の神経成分及び第2の神経成分に、外部刺激を付与する。第1の神経成分及び第2の神経成分から発する神経信号を最小の時間差で神経伝達障害点に到達させるために、第1の神経成分及び第2の神経成分に対する外部刺激の付与は同時に行う。第1及び第2の神経成分に同時に外部刺激を与えるために、多数の出力電極と関連付けて同期信号発生装置を用いることができる。本明細書において第1の電極と称する、多数の出力電極のうち少なくとも1つの出力電極は、第1の点に接続される。この第1の点は、第1の神経成分の付近に位置付けて、第1の電極に印加した電気電圧が第1の神経成分において神経応答を誘発するようにする。本明細書において第2の電極と称する、多数の出力電極のうち少なくとも1つの別の出力電極は、第2の点に接続される。この第2の点は、第2の神経成分の付近に位置付けて、第2の電極に印加した電気電圧が第2の神経成分において神経応答を誘発するようにする。
[0175] あるいは、刺激付与は、いずれかの音波刺激、超音波刺激、磁気刺激(定常状態又は動的磁界が印加される)、光刺激、熱刺激(熱が与えられる)、低温刺激(1つ以上の神経要素を冷たい表面又は冷たい物体に露呈させる)、振動刺激、圧力刺激、真空刺激、又は電気的刺激の付与の代わりに又は電気的刺激の付与と組み合わせて印加することができる他のいずれかの感覚信号を含むことができる。これらの外部刺激を用いる場合は、他の電気的又は非電気的刺激の付与と同時に付与する。
[0176] 第1の神経成分及び第2の神経成分を含むこのような対になった神経成分の外部刺激によって、神経経路における各神経ハンドシェイク信号の発生及び送信が誘発される。刺激信号は、チャージ信号の印加と同時に第1及び第2の神経成分に印加され、第1の神経要素から発する第1の神経ハンドシェイク信号及び第2の神経要素から発する第2の神経ハンドシェイク信号の発生を誘発する。2つの神経ハンドシェイク信号が、神経伝達障害点において同時にすなわち時間的及び空間的に重複して収束すると共に合流すると、対になった神経成分は伝達を再確立することができる。外部で印加した信号が除去された後でも、脊椎生物にとって実質的に正常な形態で、すなわち神経経路において機能障害が存在しなかったら行われたはずの形態で、対になった神経成分間で神経伝達が生じる。このため、リハビリテーションプロセスは、神経伝達障害点における又はその周囲での経時的なニューロン成長の刺激を含み、かかるニューロン結合された成分間の自然な伝達プロセスが促進される。好ましくは、印加信号の付与及び神経経路のチャージ誘発は、第1及び第2の神経成分の双方において同時に行う。印加信号は、電磁又は音波信号とすることができるが、好ましくは電気信号である。
[0177] 好適なiCENSにおいては、本質的にハンドシェイク信号を発生させるプロセスの一部としてチャージを発生する。iCENSシステムでは、第1の神経成分から対象の神経経路を介して第2の神経成分まで延在する単一の回路が形成されている。必要なチャージ信号を生成するのはこの回路である。好適な実施形態においては、治療下にある神経経路には追加の電気的刺激も非電気的刺激も付与しないが、第1の神経成分に第1の外部刺激を付与し、第2の神経成分に第2の外部刺激を付与する。
[0178] aCENSにおいては、信号源から神経経路の部分に直接チャージング信号を印加し、ニューロンハンドシェイク信号を刺激する関連信号源とは無関係である。aCENSシステムでは、信号は相互に分離されており、各信号源の各電極セットによって、対象部位に適用される別個の分離回路を形成する。チャージ信号はそれ自身の分離回路において印加される。
[0179] 更に、CENSの実施形態では、対象の神経伝達障害点に近い経路においてハンドシェイク神経信号を増幅することによって、ある意味でチャージング信号を用いることでハンドシェイク成功の可能性が高くなる。
[0180] かかるチャージング信号は、ある意味で神経経路内の少なくとも1つのハンドシェイク神経信号の効果を増幅するものであり、ハンドシェイクの成功の可能性を高める。このため、同期をとったチャージング信号の印加によって、2つの誘発ハンドシェイク神経信号の結合を強化し、刺激された第1及び第2の神経成分間の伝達を促進する。チャージング信号は、神経経路を電気的にチャージする機能を有する信号である。チャージング信号は、直流信号、矩形波信号、1つ以上のパルス、又は可変波形とすることができる。同期をとった印加電気刺激信号を第1及び第2の神経成分に印加するのと同時に、チャージング信号を神経伝達障害点に近接して印加することができる。好ましくは、刺激及びチャージングは同時に行う。
[0181] 図20を参照すると、2つのグラフが、iCENSにおいて用いられる例示的な外部刺激波形を示している。外部刺激波形は、第1の神経成分に近接して位置する第1の点及び第2の神経成分に近接して位置する第2の点に印加される電気電圧信号として印加することができる。この場合、「信号1」と表す波形を有する第1の電気電圧信号は、第1の導電電極を介して第1の点に印加することができ、「信号2」と表す波形を有する第2の電気電圧信号は、第2の導電電極を介して第2の点に印加することができる。
[0182] 第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号は、同時にオンとなる一連の電気電圧パルスとすることができる。各パルスは、ゼロ電圧電位から非ゼロ電圧電位への電圧の遷移を表す立ち上がり端を有することができる。更に、各パルスは、非ゼロ電圧電位からゼロ電圧電位までの電圧の遷移を表す立ち下がり端を有することができる。ここで、第1の電気電圧信号の立ち上がり端Elを第1の立ち上がり端と称し、第1の電気電圧信号の立ち下がり端Etを第1の立ち下がり端と称する。同様に、第2の電気電圧信号の立ち上がり端Elを第2の立ち上がり端と称し、第2の電気電圧信号の立ち下がり端Etを第2の立ち下がり端と称する。
[0183] 好適な実施形態においては、各第1の立ち上がり端は、第2の立ち上がり端と時間的に一致し、すなわち同時に発生し、逆もまた同様である。同様に、各第1の立ち下がり端は第2の立ち下がり端と時間的に一致し、逆もまた同様である。第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号は双方とも、連続した各対の電気パルス間に充分な時間をとって、刺激された神経経路が定常状態に戻ることができるすなわち神経刺激なしの時間期間が充分に長くとれるならば、周期信号とすることができるが、これは必須ではない。刺激された神経経路の充分な弛緩を可能とするために必要な時間は、刺激された神経経路の性質によって異なるが、少なくとも0.01秒(100Hzに相当する)であり、典型的には少なくとも0.1秒(10Hzに相当する)であり、好ましくは少なくとも0.5秒(2Hzに相当する)である。
[0184] 周期信号を用いる場合、すなわちパルスが各連続立ち上がり端El間に同一の時間期間を有する場合、周期信号の期間Tは0.01秒から1200秒とすることができ、典型的には0.1秒から120秒であり、好ましくは0.5秒から10秒である。デューティサイクルすなわち周期Tに対する各パルスの持続時間の比は、0.001%から10%とすることができ、典型的には0.005%から2%であり、好ましくは0.01%から1%であるが、周期電気信号が第1の神経成分及び第2の神経成分において神経信号を誘発するために充分である場合は、これよりも短いデューティサイクル及び長いデューティサイクルも使用可能である。図20において、デューティサイクルはt1の(t1+t2)に対する比、すなわちt1/(t1+t2)=t1/Tである。各電気パルスの持続時間は40マイクロ秒から10ミリ秒とすることができ、典型的には200マイクロ秒から2ミリ秒とすることができ、好ましくは400マイクロ秒から1ミリ秒とすることができるが、これよりも短いパルス持続時間及び長いパルス持続時間も使用可能である。
[0185] 1回の治療セッションにおいて脊椎生物に送出される電気パルスの合計反復数は20パルスから100,000パルスとすることができ、典型的には200パルスから10,000パルスとすることができ、好ましくは1,000パルスから4,000パルスとすることができるが、単一の治療セッションにおいてこれよりも少ない電気パルス数及び多い電気パルス数も使用可能である。多数回のセッションを行い、その各々を細胞回復周期だけ分離させて、神経伝達障害点における自然の回復及びセルの成長を可能とすることができる。連続したセッション間の最適な時間間隔は神経経路の性質及び細胞成長速度に応じて異なり、典型的に3日から3週間であるが、これよりも短い時間間隔及び長い時間間隔も使用可能である。
[0186] 一実施形態においては、第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号の極性を逆にすることができる。例えば、第1の電気電圧信号は一連の正の信号から成り、第2の電気電圧信号は第1の電気電圧信号と同期の一連の負の信号から成るものとすることができ、逆もまた同様である。図20には一定の大きさの電気パルスを示すが、第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号の電気パルスは一般に、2つの電気電圧信号が同期しているならば、いかなる関数波形を有することも可能である。逆の極性を有する1対の電気信号は、この方法の実施における臨床試験で優れた結果を示しており好適であるが、本発明の他の実施も可能である。
[0187] 更に、第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号の各々において、信号の各パルスが他の信号の別のパルスの印加と同時に印加される場合、これらの信号の各々は正のパルス及び負のパルスの混合物を含むことができる。更に、各パルスは単極性とすることができる、すなわち図20に示すように単一周期の正の電圧又は単一周期の負の電圧から成ることができ、又は双極性とすることができ(正のパルスの直後に負のパルスが続き、逆もまた同様である)、又は多極性とすることができる(異なる極性の3つ以上のパルスを含む)。iCENSの目的のために臨床試験を行って実証済みの波形のうち、これまでのところでは単極性パルスが最良の結果を生む傾向がある。更に、電気電圧信号における各パルスは任意の波形を有することができるが、これは、他方の電気電圧信号に対応するパルスが存在する場合である。このため、第1の電気電圧信号及び第2の電気電圧信号は、時間tの関数として共通波形f(t)のスカラー倍として表すことができる。すなわち、第1の電気電圧信号はα1・f(t)と表すことができ、第2の電気電圧信号はα2・f(t)と表すことができる。ここで、α1及びα2は非ゼロの実数である。上述のように、好適な実施形態においてα1・α2は負であることが好ましい(すなわち異なる極性の信号セット)が、α1・α2が正である(すなわち同一の極性の信号セット)ように本発明のこの実施形態を実施することも可能である。上述のように、各連続電気パルスの間に、各電気電圧信号の電圧がゼロボルトである時間間隔が存在する。
[0188] 神経経路の性質並びにその神経伝達障害の性質及び程度に応じて、各電気パルスの振幅V0を調節することができる。本明細書における振幅V0は、波形におけるゼロボルトからの最大電圧偏差の絶対値を指す。波形は、矩形パルスから構成することができ、又は他のタイプのパルス(三角パルス等)を含む場合もある。治療中に使用される電気パルスと同一の関数波形を有することができるが振幅がもっと小さい一連の試験パルスを印加することによって、各電気パルスの振幅V0の最適値を決定することができる。治療中の脊椎生物において神経応答が観察されるまで、試験パルスの振幅を繰り返し大きくすることができる。例えば、治療が対麻痺の疾患である場合、適切な神経応答は治療対象の筋肉の痙攣であり、機能障害の肢においてかかる筋肉の痙攣が観察されるまで試験パルスの振幅を大きくすることができる。一般に、あらゆるタイプの付与される刺激信号の最適な信号強度は、治療の目的のために印加される刺激信号が最適な信号強度で印加されるように決定可能である。最適な信号強度は、例えば第1及び第2の点に印加される試験信号の強度を徐々に大きくすることによって決定可能である。最適な信号強度は、第1又は第2の神経要素に関連した筋肉が試験信号に反応し始める信号強度に設定する。
[0189] 説明のための例として、人間において麻痺の疾患を治療するために必要である典型的な電流密度は15A/m2から60A/m2であり、好ましくは25A/m2から38A/m2であるが、障害の性質、各パルスの持続時間、及び治療中の個体の大きさに応じて、これより小さい電流密度及び大きい電流密度も使用可能である。かかる電流密度レベルは典型的に印加電気信号のパルス強度における約20Vに変換される。
[0190] iCENSモードでは、第1及び第2の神経成分の一方に近接してアクティブ電極を配置し、第1及び第2の神経成分の他方に近接して基準電極を配置する。治療中の神経経路は第1及び第2の神経成分間に存在するので、この神経経路はアクティブ電極と基準電極との間に位置しており、iCENSモードでは第1の神経成分及び第2の神経成分間に外部電気信号を印加する。
[0191] iCENSモードでは、促進される神経経路において、2つの神経成分の対すなわち第1の神経成分及び第2の神経成分間に単一の回路が確立されている。第1の刺激信号が第1の神経成分に印加され、神経経路に沿って伝播する第1の神経ハンドシェイク信号を発生し、第2の刺激信号が第2の神経成分に印加され、神経経路に沿って伝播する第2の神経ハンドシェイク信号を発生する。一般に、第1の刺激信号及び第2の刺激信号は、これらの第1及び第2の刺激信号が同期をとっているならば、いかなるタイプの信号とすることも可能である。例えば、第1の刺激信号及び第2の刺激信号は逆極性の電気パルスとすることができる。第1及び第2の成分間の神経経路に電流が流れて、神経経路にバイアス電荷を与える。第1の神経要素が皮質におけるニューロンであり、第2の神経要素が末端部すなわち脊椎生物の肢に位置する実施形態では、チャージ信号は皮質から神経経路を通って関連する対象の末端部に向かう正の電流を有する。
[0192] iCENSモードでは、チャージ信号は、2つの神経成分間に印加された刺激信号の相互作用の部分である。1つの例示的な実施形態では、運動皮質に関連した神経成分と末端部に関連した神経成分との間に刺激を付与し、運動皮質は、末端部における比較的負のレベルに対して正のレベルに保持される。ハンドシェイク信号は関連付けられているが反転している。チャージ信号は、少なくとも該当部分において比較的一定であり、ハンドシェイク信号と同時に神経経路を流れる。チャージによってイネーブルされた神経ハンドシェイク信号は神経経路上で合流し、その脊椎生物の自然の回復プロセスを促進し、この結果、2つの神経成分間の伝達を適切に改善して、神経発生の自然プロセスを再開させると共に、例えば治療した脊椎生物の麻痺を除去する(reverse)。
[0193] 図21Aを参照すると、第1の実施形態におけるiCENSの第1の例示的な電極構成が示されている。この場合、第1の神経成分は運動皮質におけるニューロンであり、第2の神経成分は筋肉の運動を制御する下位運動ニューロンである。運動皮質と筋肉との間の神経経路が刺激されるので、この構成は双極性皮質−筋肉刺激(dCMS)と呼ばれる。
[0194] この構成においては、第1の刺激信号は第1の電気電圧信号の形態で運動皮質に与えられ、第2の刺激信号は第2の電気電圧信号の形態で少なくとも1つの筋肉領域に与えられる。肢に単一の障害を有する患者の場合、第1の電極及び第2の電極のセットを用いて、脊椎生物内に単一の神経経路を含む単一の刺激回路を形成することができる。場合によっては、第1の電極及び多数の第2の電極のセットを用いて、単一の神経経路を含む単一の刺激回路又は多数の神経経路を含む多数の重複するかもしくは重複しない刺激回路を形成することができる。患者が右側の肢に位置する第1の障害と左側の肢に位置する第2の障害を含む場合、第1の電極及び第2の電極の2つのセットを用いて、右側運動皮質から開始する少なくとも1つの神経経路を含む少なくとも1つの刺激回路及び少なくとも1つの神経経路を含む少なくとも1つの別の刺激回路を形成することができる。多数の障害を有する患者の場合、図21Aに示すように単一の構成において多数の刺激回路が存在する場合がある。例えば、右腕、左腕、右足、及び左足の動きに障害がある四肢麻痺の患者の場合、対応する運動皮質における刺激と関連付けて多数の筋肉領域を同時に又は順番に刺激することができる。対応する運動皮質とは、身体の右側の動きに障害がある場合は左側運動皮質であり、身体の左側の動きに障害がある場合は右側運動皮質とすることができる。
[0195] 各シミュレーション回路は、電気信号発生ユニット又はそのサブユニットを含む。これは、正の出力電極及び負の出力電極、正及び負の出力電極の一方から第1の電極までの第1のリードワイヤ、正及び負の出力電極の他方から第2の電極までの第2のリードワイヤを有し、第1の電極は第1の神経成分に近接した第1の点に接触し、第2の電極は第2の神経成分に近接した第2の点に接触する。第1の点と第1の神経成分との間の領域があり、第2の点と第2の神経成分との間の領域があり、第1の神経成分及び第2の神経成分間に神経経路がある。図21Aが示す構成においては、単一の発生ユニット(SR又はSL)の正の出力電極(「+」と標示する)が第1の電極に接続され、負の出力電極(「−」と標示する)が第2の電極に接続されるが、逆の構成も可能である。
[0196] iCENS構成において神経経路を含むいずれかの所与の刺激回路では、第1の電極及び少なくとも1つの第2の電極のセットの一方がアクティブ電極であり、第1の電極及び少なくとも1つの第2の電極のセットの他方が基準電極である。このため、第1の電極及び少なくとも1つの第2の電極のセットを介して外部電気信号が印加される。第1の電極が右側運動皮質に配置されていると、対応する少なくとも1つの第2の電極のセットにおける第2の電極(複数の電極)の各々は、図21Aの構成において身体の左側に配置されている。同様に、第1の電極が左側運動皮質に配置されていると、対応する少なくとも1つの第2の電極のセットにおける第2の電極(複数の電極)の各々は、図21Aの構成において身体の右側に配置されている。
[0197] 四肢麻痺の患者の電極配置構成を表す図21Aに図示した例では、2個の第1の電極及び8個の第2の電極を用いることができる。第1の電極の1つは患者の右側運動皮質上に配置されている。好ましくは、この電極はブレグマ領域と冠状縫合との間の右側接合部に配置する。以降、この電極を右運動皮質(RMC)電極と称する。RMC電極は、電気電圧信号が右側運動皮質のニューロンに印加されてそこからの第1の神経ハンドシェイク信号を含むように配置する。第1の電極の別のものは、患者の左側運動皮質上に配置されている。好ましくは、この電極はブレグマ領域と冠状縫合との間の左側接合部に配置する。以降、この電極を左運動皮質(LMC)電極と称する。LMC電極は、電気電圧信号が左側運動皮質のニューロンに印加されてそこからの第1の神経ハンドシェイクを含むように配置する。
[0198] 8個の第2の電極は、それぞれ、右側の手首内側、左側の手首内側、右側のヒ骨神経端部、左側のヒ骨神経端部、右側のふくらはぎの筋肉の隆起部、左側のふくらはぎの筋肉の隆起部、側方足裏、及び左足裏に配置することができる。本明細書において、8個の電極を、それぞれ右手首(RW)電極、左手首(RW)電極、右ヒ骨神経(RFN)電極、左ヒ骨神経(LFN)電極、右ふくらはぎ筋肉(RCM)電極、左ふくらはぎ筋肉(LCM)電極、右足裏(RS)電極、及び左足裏(LS)電極と称する。8個の電極の各々は、電気電圧信号が下にある領域のニューロンに印加されてそこからの第2の神経ハンドシェイク信号を含むように配置する。
[0199] この構成には6個の神経経路が存在する。第1の神経経路は、右側運動皮質から、RMC電極とLW電極との間の左側手首まで延在する。RMC電極に印加される第1の電気電圧信号及びLW電極に印加される第2の電気電圧信号は、電気パルスが同時に印加されるように同期をとっており、2つの神経ハンドシェイク信号を誘発する。これらの信号は、右側運動皮質と左側手首との間の神経経路に沿って伝播し、障害のある神経経路内に位置する神経伝達障害点において収束する。神経伝達障害点におけるハンドシェイクは、神経伝達障害点における細胞に生物学的な刺激を与える。一般に、神経伝達障害点の位置は、外傷又は遺伝的欠陥の性質に応じて異なる。
[0200] 第2の神経経路は、左側運動皮質から、LMC電極とRW電極との間の右側手首まで延在する。別の第1の電気電圧信号をLMC電極に印加し、別の第2の電気電圧信号をRW電極に印加することができ、これは同時に行うか、あるいはRMC電極及びLW電極に印加する第1及び第2の電気電圧信号は交互に行うことができる。第2の神経経路は、LMC電極及びRW電極に電気信号を印加することによって、第1の神経経路の刺激と同時に、交互に、又は別個に、刺激することができる。
[0201] 一実施形態において、第1の共通信号をRMC電極及びLMC電極に印加し、第2の共通信号をLW電極及びRW電極に印加することができる。この場合、第1の共通信号及び第2の共通信号は図20に示したように逆の極性を有することができる。臨床試験から発生した実験データは、LW電極及びRW電極に負の電気パルスを印加しながらRMC電極及びLMC電極に正の電気パルスを印加すると、LW電極及びRW電極に正の電気パルスを印加しながらRMC電極及びLMC電極に負の電気パルスを印加するよりも優れた結果が得られることを示している。
[0202] 第3の神経経路は、右側運動皮質から、RMC電極とLFN電極との間の左側ヒ骨神経まで延在する。左側ヒ骨神経は、左側ふくらはぎ筋肉を動かす下位運動ニューロンを含む。RMC電極に印加される第1の電気電圧信号及びLCM電極に印加される第2の電気電圧信号は、電気パルスが同時に印加されるように同期をとっており、2つの神経ハンドシェイク信号を誘発する。これらの信号は、右側運動皮質と左側ヒ骨神経との間の神経経路に沿って伝播し、障害のある神経経路内に位置する神経伝達障害点において収束する。神経伝達障害点におけるハンドシェイクは、神経伝達障害点における細胞に生物学的な刺激を与える。一般に、神経伝達障害点の位置は、外傷又は遺伝的欠陥の性質に応じて異なる。第3の神経経路は、RMC電極及びLFN電極に電気信号を印加することによって、第1の神経経路及び/又は第2の神経経路の刺激と同時に、交互に、又は別個に、刺激することができる。
[0203] 右側運動皮質と左側ヒ骨神経との間の神経伝達障害点において2つの神経ハンドシェイク信号が収束している間に、左側ふくらはぎ筋肉の隆起部に配置したLCM電極は、左側ふくらはぎ筋肉の動きを与えることによって神経伝達障害点のリハビリテーションを強化することができる。LCM電極に印加した別の第2の電気電圧信号によって、左ふくらはぎ筋肉における感覚神経で誘発信号が発生し、これは感覚−皮質経路である異なる神経経路を介して右側運動皮質に送信することができる。LCM電極に印加する電気信号は、LFN電極に印加する電気信号と同一とすることができる。
[0204] 第4の神経経路は、左側運動皮質から、LMC電極とRFN電極との間の右側ヒ骨神経まで延在する。右側ヒ骨神経は、右側ふくらはぎ筋肉を動かす下位運動ニューロンを含む。第1の電気電圧をLMC電極に印加し、第2の電気電圧信号をRFN電極に印加することができ、これは同時に行うか、あるいはLMC電極及びRFN電極に印加する第1及び第2の電気電圧信号は交互に行うことができる。第4の神経経路は、LMC電極及びRFN電極に電気信号を印加することによって、第1の神経経路及び/又は第2の神経経路及び/又は第3の神経経路の刺激と同時に、交互に、又は別個に、刺激することができる。
[0205] 左側運動皮質と右側ヒ骨神経との間の神経伝達障害点において2つの神経ハンドシェイク信号が収束している間に、右側ふくらはぎ筋肉の隆起部に配置したRCM電極は、右側ふくらはぎ筋肉の動きを与えることによって神経伝達障害点のリハビリテーションを強化することができる。RCM電極に印加した別の第2の電気電圧信号によって、右ふくらはぎ筋肉における感覚神経で誘発信号が発生し、これは感覚−皮質経路である異なる神経経路を介して左側運動皮質に送信することができる。RCM電極に印加する電気信号は、RFN電極に印加する電気信号と同一とすることができる。
[0206] 第5の神経経路は、右側運動皮質から、RMC電極とLS電極との間の左足裏まで延在する。RMC電極に印加される第1の電気電圧信号及びLS電極に印加される第2の電気電圧信号は、電気パルスが同時に印加されるように同期をとっており、2つの神経ハンドシェイク信号を誘発する。これらの信号は、右側運動皮質と左足裏に位置するニューロンとの間の神経経路に沿って伝播し、障害のある神経経路内に位置する神経伝達障害点において収束する。神経伝達障害点におけるハンドシェイクは、神経伝達障害点における細胞に生物学的な刺激を与える。一般に、神経伝達障害点の位置は、外傷又は遺伝的欠陥の性質に応じて異なる。第5の神経経路は、RMC電極及びLS電極に電気信号を印加することによって、第1の神経経路及び/又は第2の神経経路及び/又は第3の神経経路及び/又は第4の神経経路の刺激と同時に、交互に、又は別個に、刺激することができる。
[0207] 第6の神経経路は、左側運動皮質から、LMC電極とRS電極との間の右足裏まで延在する。右側ヒ骨神経は、右側ふくらはぎ筋肉を動かす下位運動ニューロンを含む。第5の神経経路は、LMC電極及びRS電極に電気信号を印加することによって、第1の神経経路及び/又は第2の神経経路及び/又は第3の神経経路及び/又は第4の神経経路及び/又は第5の神経経路の刺激と同時に、交互に、又は別個に、刺激することができる。
[0208] 一実施形態では、RMS電極と、LW電極、LFN電極、LCM電極、及びLS電極の少なくとも1つのとの間に、第1の電気刺激信号セットを印加することができる。これと同時に、交互に、又は別個に、LMS電極と、RW電極、RFN電極、RCM電極、及びRS電極の少なくとも1つのとの間に、第2の電気刺激信号セットを印加することができる。上述のように、これらの電極に印加する電気信号の振幅は閾値振幅より大きくなるように選択する。閾値振幅は、これを超えると印加電圧に応答して例えば痙攣によって肢が動く値である。このため、印加電気信号間の相互関係に応じて、左側の肢及び右側の肢は、印加電気信号に応答して同時に、交互に、又は別個に動く場合がある。
[0209] いかなるiCENS構成においても、信号監視手段を用いることができる。信号監視手段は、神経経路のある点で第1の周期神経信号及び第2の周期神経信号のハンドシェイクを検出するように構成されている。例えば、オシロスコープ又は他のいずれかの信号捕捉電子装置を配線によって接続して、神経経路トリガ部位とすることができる神経経路のある点で電圧信号又は電流信号の検出を可能とする。
[0210] しかしながら、本発明の実施の成功のために、このように神経ハンドシェイクを積極的に示すことは必須でないことは認められよう。別の観察状況として、刺激を与えた神経経路に関連した筋肉が「痙攣する」まで信号を増大させ、その痙攣の時点で信号強度が適切であると見なすことによって、刺激の正しい信号強度を観察することができる。
[0211] 一般に、iCENSモードでは、第1の神経ハンドシェイク信号を誘発するための第1の手段及び第2の神経ハンドシェイク信号を誘発するための第2の手段を設ける。第1の手段は、対象の神経経路の第1の神経成分に第1の印加刺激信号を供給するように構成されている。第1の印加刺激信号が含む第1の信号パルスセットは、第1の神経成分に神経経路上で第1の神経ハンドシェイク信号を発信させる強度を有する。第2の手段は、対象の神経経路の第2の神経成分に第2の印加刺激信号を供給するように構成されている。第2の印加刺激信号が含む第2の信号パルスセットは、第1の神経ハンドシェイク信号と同時期に第2の神経成分に神経経路上で第2の神経ハンドシェイク信号を発信させる強度を有する。神経経路は、第1及び第2の印加刺激信号の印加前に基本電荷電位を有し、この電荷は刺激の一部として印加される。
[0212] 一実施形態では、第1の手段及び第2の手段の少なくとも一方は、脊椎生物に一時的もしくは永久的に植え込まれた植え込み装置、又は脊椎生物によって所持される携帯型装置である。図21Bは、皮質−運動刺激の目的におけるiCENSの第2の例示的な電極構成を示す。この場合、第1の手段及び第2の手段は単一の植え込み型又は携帯型装置として一体化され、これは例えば脊椎生物の後部の皮膚に植え込まれるか、又は脊椎生物が人間である場合は衣服に保持される。このため、いったん患者に植え込み型又は携帯型装置を一時的又は半永久的にすなわち取り外すまで永久的に取り付けたら、患者は自分の選んだ好都合な時間に治療を受けることができる。
[0213] 図22Aを参照すると、第2の実施形態におけるiCENSの第3の例示的な電極構成が示されている。この場合、第1の神経成分は第1の皮質におけるニューロンであり、第2の神経成分は第2の皮質におけるニューロンである。
[0214] この構成においては、第1の刺激信号は第1の電気電圧信号の形態で第1の皮質に与えられ、第2の刺激信号は第2の電気電圧信号の形態で第2の皮質に与えられる。例えば、ASDを有する個体を治療して、前頭葉(前脳部)と頭頂葉(後脳部)との間の神経接続を強化することができる。患者の脳の前頭葉に、本明細書において前頭葉(FL)電極と称する第1の電極を配置し、患者の脳の頭頂葉に、本明細書において頭頂葉(PL)電極と称する第2の電極を配置する。神経伝達障害点は、追加の神経接続が存在するはずである前頭葉と頭頂葉との間の界面であり得る。FL電極及びPL電極間に電気パルス信号を印加することによって、神経経路の一端における前頭葉のニューロンから第1の神経ハンドシェイク信号が発生し、神経経路の他端における頭頂葉のニューロンから第2の神経ハンドシェイク信号が発生する。2つの誘発された神経信号は、2つのニューロン間の神経経路に沿った神経伝達障害点において収束し、ハンドシェイクを発生し、これによって神経伝達障害点のリハビリテーションを行う、すなわち神経経路を強化する。
[0215] 別の例示的な構成においては、脳の右半球と脳の左半球との間に神経伝達の分断がある個体を治療して、2つの半球間の神経伝達を向上させることができる。脳の右半球と脳の左半球との神経伝達の中断は、神経伝達障害となる。この場合、神経伝達障害点は、追加の神経接続が存在するはずの右半球と左半球との間の界面であり得る。本明細書では右半球電極と称する第1の電極を患者の脳の右半球上に配置し、本明細書では左半球電極と称する第2の電極を患者の脳の左半球上に配置する。右半球電極及び左半球電極間に電気パルス信号を印加することによって、神経経路の一端において右半球のニューロンから第1の神経ハンドシェイク信号を発生させ、神経経路の他端において左半球のニューロンから第2の神経ハンドシェイク信号を発生させる。2つの誘発された神経信号は、2つのニューロン間の神経経路に沿った神経伝達障害点において収束し、ハンドシェイクを発生し、これによって神経伝達障害点のリハビリテーションを行う、すなわち神経経路を強化する。
[0216] 第3の実施形態において、第1の神経成分は脊椎生物の感覚成分に位置する感覚ニューロンであり、第2の神経成分は脊椎生物の感覚皮質に位置するレセプタニューロンである。感覚ニューロンは、視覚、聴覚、温度、圧力、味覚、嗅覚、身体筋肉の動きもしくは作動、又は正常な脊椎生物が能力を有する他のいずれかの感覚機能を検出するように作られたニューロンとすることができる。治療対象の神経経路は、感覚ニューロンが検出した感覚を感覚皮質のレセプタニューロンに送信する感覚−皮質神経経路である。第1の神経成分に対する外部刺激は、電気信号として、又は感覚ニューロンにおいて神経応答を発生可能である他のいずれかのタイプの信号として付与することができる。例えば、外部刺激として付与可能である非電気信号は、視神経の場合はパルス光照射とすることができ、聴神経の場合には聴覚パルスとすることができる。
[0217] この実施形態においても、第1の手段及び第2の手段の少なくとも一方は、脊椎生物に一時的もしくは永久的に植え込まれた植え込み装置、又は脊椎生物によって所持される携帯型装置とすることができる。図22Bを参照すると、第2の実施形態における、皮質間刺激の目的でのiCENSの第4の例示的な電極構成が示されている。第1の手段及び第2の手段は単一の植え込み又は携帯型装置として一体化され、これは例えば頭部の皮膚に植え込まれるか、又は脊椎生物が人間である場合は帽子もしくは専用に設計された保持装置に保持される。このため、いったん患者に植え込み型又は携帯型装置を一時的又は半永久的にすなわち取り外すまで永久的に取り付けたら、患者は自分の選んだ好都合な時間に治療を受けることができる。
[0218] 図23Aを参照すると、感覚−皮質刺激のための第3の実施形態におけるiCENSの第5の例示的な電極構成が示されている。この場合、第1の神経成分は網膜における光検知細胞であり、第2の神経成分は視覚野におけるニューロンである。この説明のための例では、神経伝達障害は、網膜と視覚野との間に位置する視神経で生じる皮質盲である場合がある。光検知細胞と機能的に関連した視覚野におけるニューロンは、すなわち、光検知細胞による光検出を示す神経信号を受信するように意図され、神経伝達経路は、光検知細胞と視覚野における機能的に関連したニューロンとの間の神経接続である。神経伝達障害点は、視神経接続が衰弱又は分断している位置である。
[0219] ある例では、視神経に近接したいずれかの領域に第1の電極を配置することができ、視覚野に第2の電極を配置することができる。視神経と視覚野のニューロンとの間で多数の神経経路を刺激することができる。第1の電極及び第2の電極間に刺激信号を印加することによって、視神経から第1の神経ハンドシェイク信号が発生し、視覚野のニューロンから第2の神経ハンドシェイク信号が発生する。第1のハンドシェイク信号及び第2のハンドシェイク信号を含む1対の神経信号は、各神経経路における各神経伝達障害点で収束し、ハンドシェイクを発生し、これによって神経伝達障害点のリハビリテーションを行う、すなわち神経経路を強化する。あるいは、視神経の電気的刺激の代わりにパルス光照明を行い、その各パルスの光照明と同じ持続時間を有する電気信号の印加を同期させることも可能である。この光照明を用いて第1の神経ハンドシェイク信号を誘発することができる。
[0220] この実施形態においても、第1の手段及び第2の手段の少なくとも一方は、脊椎生物に一時的もしくは永久的に植え込まれた植え込み装置、又は脊椎生物によって所持される携帯型装置とすることができる。図23Bを参照すると、第3の実施形態における、感覚−皮質刺激の目的でのiCENSの第6の例示的な電極構成が示されている。第1の手段及び第2の手段は単一の植え込み又は携帯型装置として一体化され、これは例えば頭部の皮膚に植え込まれるか、又は脊椎生物が人間である場合は帽子もしくは専用に設計された保持装置に保持される。このため、いったん患者に植え込み型又は携帯型装置を一時的又は半永久的にすなわち取り外すまで永久的に取り付けたら、患者は自分の選んだ好都合な時間に治療を受けることができる。
[0221] 図23Cを参照すると、感覚−皮質刺激のための第3の実施形態におけるiCENSの第7の例示的な電極構成が示されている。この場合、第1の神経成分は聴神経であり、第2の神経成分は聴覚野である。この説明のための例では、神経伝達障害は耳鳴である場合があり、これは上丘(内耳に隣接して位置する)と聴覚野との間に位置する聴神経において発生する。聴神経と機能的に関連した聴覚野のニューロンは、すなわち、聴神経による音の検出を示す神経信号を受信するように意図され、神経伝達経路は、聴神経と聴覚野における機能的に関連したニューロンとの間の神経接続である。神経伝達障害点は、聴覚接続が衰弱又は分断している位置である。
[0222] ある例では、聴神経に近接したいずれかの領域に第1の電極を配置することができ、聴覚野に第2の電極を配置することができる。聴神経と聴覚野のニューロンとの間で多数の神経経路を刺激することができる。第1の電極及び第2の電極間に刺激信号を印加することによって、聴神経から第1の神経ハンドシェイク信号が発生し、聴覚野のニューロンから第2の神経ハンドシェイク信号が発生する。第1のハンドシェイク信号及び第2のハンドシェイク信号を含む1対の神経信号は、各神経経路における各神経伝達障害点で収束し、ハンドシェイクを発生し、これによって神経伝達障害点のリハビリテーションを行う、すなわち神経経路を強化する。あるいは、聴神経の電気的刺激の代わりにパルス音波刺激を行い、その各パルスの音波刺激と同じ持続時間を有する電気信号の印加を同期させることも可能である。この音波刺激を用いて第1の神経ハンドシェイク信号を誘発することができる。
[0223] この実施形態においても、第1の手段及び第2の手段の少なくとも一方は、脊椎生物に一時的もしくは永久的に植え込まれた植え込み装置、又は脊椎生物によって所持される携帯型装置とすることができる。図23Dを参照すると、第3の実施形態における、感覚−皮質刺激の目的でのiCENSの第8の例示的な電極構成が示されている。第1の手段及び第2の手段は単一の植え込み又は携帯型装置として一体化され、これは例えば頭部の皮膚に植え込まれるか、又は脊椎生物が人間である場合は帽子もしくは頭部と耳垂との間に置くように構成された装置等の専用に設計された保持装置に保持される。このため、いったん患者に植え込み型又は携帯型装置を一時的又は半永久的にすなわち取り外すまで永久的に取り付けたら、患者は自分の選んだ好都合な時間に治療を受けることができる。
[0224] 一般に、電気刺激信号の印加又は神経信号を誘発することができる他のいずれかの感覚信号を用いて第1のハンドシェイク信号を発生させることができる。ただしこの場合、第1の神経ハンドシェイク信号を発生する信号の印加と同期して、感覚皮質に接続された第2の電極に電気刺激信号を印加する。代替的な印加刺激信号は、音波刺激信号、超音波刺激信号、磁気刺激信号(定常状態又は動的磁界が印加される)、光刺激信号、熱刺激信号(熱が与えられる)、低温刺激信号(1つ以上の神経要素を冷たい表面又は冷たい物体に露呈させる)、振動刺激信号、圧力刺激信号、真空吸引刺激信号、他のいずれかの感覚信号、又はそれらの組み合わせを含む。
[0225] 図24を参照すると、aCENSにおいて使用可能である例示的な外部刺激波形が示されている。外部刺激波形は、少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の多数のセット間に電気電圧信号として印加することができる。生物に配した少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の各セットでは、少なくとも1つのアクティブ電極を神経要素又は筋肉に近接して配置し、対応する少なくとも1つの基準電極を神経要素又は筋肉から離して配置する。チャージ信号を別個に印加する。
[0226] 第1の神経要素に近接して位置する第1の点に第1のアクティブ電極を配置し、第2の神経成分に近接して位置する第2の点に第2のアクティブ電極を配置する。この場合、「信号1」と表す波形を有する第1の電気電圧信号は、第1の導電電極を介して第1の点に印加することができ、「信号2」と表す波形を有する第2の電気電圧信号は、第2の導電電極を介して第2の点に印加することができる。更に、「信号3」と表す第3の電気電圧信号は、第1の神経要素と第2の神経要素との間の神経経路の中間に位置する第3の点に印加することができる。説明のための例として、第1の神経要素は右側運動皮質とすることができ、第2の神経要素は左大腿神経端部とすることができ、第3の点は、右側運動皮質と左大腿神経端部との間の神経経路の中間である脊柱に位置する脊椎骨とすることができる。
[0227] 第3の点は神経経路トリガ部位であり、神経経路上に位置し、神経経路の機能性の制御に関連付けられている。かかる神経経路トリガ部位は、神経経路の機能性の制御が集中化している地点であり、神経経路に関連付けられた脊柱上の特定の脊椎骨又は神経分岐点の部位とすることができる。第3の点は、神経伝達障害点が既知である場合、これと一致する場合がある。あるいは、神経伝達障害点が既知でない場合、第3の点は治療中の神経伝達障害のタイプに関連付けられることがわかっている位置として選択可能である。また、第3の電気電圧信号を「チャージング信号」と称するが、これは第3の電気電圧を印加することの効果として第3の点を別の誘発電気信号によって電気的にチャージするからである。
[0228] 一般に、チャージング信号はチャージング機能を有する信号である。このため、チャージング信号は直流(DC)信号とすることができ、好ましくは治療セッション全体を通して一定である一定の負電圧の信号である。好ましくは、チャージング信号は、同期印加電気刺激信号を第1及び第2の神経成分に印加するのと同時に、対象の神経伝達障害点に近接して印加する。換言すると、第1及び第2の神経要素の刺激及び第3の点のチャージングは同時に行うことができる。
[0229] 第1及び第2の電気電圧信号は、同時にオンとなる一連の電気電圧パルスとすることができる。各パルスは、ゼロ電圧電位から非ゼロ電圧電位への電圧の遷移を表す立ち上がり端を有することができる。更に、各パルスは、非ゼロ電圧電位からゼロ電圧電位までの電圧の遷移を表す立ち下がり端を有することができる。ここで、第1の電気電圧信号の立ち上がり端Elを第1の立ち上がり端と称し、第1の電気電圧信号の立ち下がり端Etを第1の立ち下がり端と称する。同様に、第2の電気電圧信号の立ち上がり端Elを第2の立ち上がり端と称し、第2の電気電圧信号の立ち下がり端Etを第2の立ち下がり端と称する。
[0230] 好適な実施形態においては、各第1の立ち上がり端は第2の立ち上がり端と時間的に一致し、各第1の立ち下がり端は第2の立ち下がり端と時間的に一致する。第1及び第2の電気電圧信号は双方とも、連続した各対の電気パルス間に充分な時間をとって、刺激された神経経路が定常状態に戻ることができるすなわち神経刺激なしの時間期間が充分に長くとれるならば、周期信号とすることができるが、これは必須ではない。刺激された神経経路の充分な弛緩を可能とするために必要な時間は、刺激された神経経路の性質によって異なるが、少なくとも0.01秒であり、典型的には少なくとも0.1秒であり、好ましくは少なくとも0.5秒である。
[0231] 周期信号を用いる場合、すなわちパルスが各連続立ち上がり端El間に同一の時間期間を有する場合、周期信号の期間Tは0.01秒から1200秒とすることができ、典型的には0.1秒から120秒であり、好ましくは0.5秒から10秒である。デューティサイクルすなわち周期Tに対する各パルスの持続時間の比は、0.001%から10%とすることができ、典型的には0.005%から2%であり、好ましくは0.01%から1%であるが、周期電気信号が第1の神経成分及び第2の神経成分において神経信号を誘発するために充分である場合は、これよりも短いデューティサイクル及び長いデューティサイクルも使用可能である。図24において、デューティサイクルはt1の(t1+t2)に対する比、すなわちt1/(t1+t2)=t1/Tである。各電気パルスの持続時間は40マイクロ秒から10ミリ秒とすることができ、典型的には200マイクロ秒から2ミリ秒とすることができ、好ましくは400マイクロ秒から1ミリ秒とすることができるが、これよりも短いパルス持続時間及び長いパルス持続時間も使用可能である。
[0232] 1回の治療セッションにおいて脊椎生物に送出される電気パルスの合計反復数は20パルスから100,000パルスとすることができ、典型的には200パルスから10,000パルスとすることができ、好ましくは1,000パルスから4,000パルスとすることができるが、単一の治療セッションにおいてこれよりも少ない電気パルス数及び多い電気パルス数も使用可能である。多数回のセッションを行い、その各々を細胞回復周期だけ分離させて、神経伝達障害点における自然の回復及びセルの成長を可能とすることができる。連続したセッション間の最適な時間間隔は神経経路の性質及び細胞成長速度に応じて異なり、典型的に3日から3週間であるが、これよりも短い時間間隔及び長い時間間隔も使用可能である。
[0233] 一実施形態においては、第1及び第2の電気電圧信号は同一の極性を有することができる。例えば、第1及び第2の電気電圧信号は、信号が非ゼロである場合はいつでも、同一の極性を有する一連の信号から成るものとすることができる。図20には双極性の電気パルスを示すが、第1及び第2の電気電圧信号の電気パルスは一般に、2つの電気電圧信号が同期しているならば、いかなる関数波形を有することも可能である。場合によっては、第1及び第2の電気電圧信号は同一である、すなわち同一の位相、振幅、及び極性を有することができる。第1及び第2の電気電圧信号に同一の電圧波形を用いることは、この実施形態の臨床試験において良好な結果を示しており、好適な方法であるが、第1及び第2の電気電圧信号の一方の振幅を他方からの一定の正のスカラー数によって変調するように本発明のこの実施形態を実施することも可能である。
[0234] 更に、第1及び第2の電気電圧信号の各々において、信号の各パルスが他の信号の別のパルスの印加と同時に印加される場合、これらの信号の各々は正のパルス及び負のパルスの別のタイプの混合物を含むことができる。更に、各パルスは単極性とすることができる、すなわち図24に示すように単一周期の正の電圧又は単一周期の負の電圧から成ることができ、又は双極性とすることができ、又は多極性とすることができる。aCENSの目的のために臨床試験を行って実証済みの波形のうち、これまでのところでは双極性パルスが最良の結果を生む傾向がある。更に、電気電圧信号における各パルスは任意の波形を有することができるが、これは、他方の電気電圧信号に対応するパルスが存在する場合である。このため、第1及び第2の電気電圧信号は、時間tの関数として共通波形f(t)のスカラー倍として表すことができる。すなわち、第1の電気電圧信号はβ1・f(t)と表すことができ、第2の電気電圧信号はβ2・f(t)と表すことができる。この場合、β1及びβ2は双方とも正又は双方とも負である。上述のように、各連続電気パルスの間に、各電気電圧信号の電圧がゼロボルトである時間間隔が存在する。
[0235] 神経経路の性質並びにその神経伝達障害の性質及び程度に応じて、各電気パルスの振幅V0を調節することができる。本明細書における振幅V0は、波形におけるゼロボルトからの最大電圧偏差の絶対値を指す。波形は、矩形パルスから構成することができ、又は他のタイプのパルス(三角パルス等)を含む場合もある。治療中に使用される電気パルスと同一の関数波形を有することができるが振幅がもっと小さい一連の試験パルスを印加することによって、各電気パルスの振幅V0の最適値を決定することができる。治療中の脊椎生物において神経応答が観察されるまで、試験パルスの振幅を繰り返し大きくすることができる。例えば、治療が対麻痺の疾患を対象とする場合、適切な神経応答は治療対象の筋肉の痙攣であり、機能障害の肢においてかかる筋肉の痙攣が観察されるまで試験パルスの振幅を大きくすることができる。
[0236] 図25Aを参照すると、aCENSの例示的な電極構成が示されている。少なくとも1つの神経経路が存在する場合、図25Aの構成は、図21Aの構成から得ることができ、又はそこから得られるいずれかの構成とすることができる。このため、図25Aの構成に存在する少なくとも1つの神経経路は、右運動皮質から左手首、左ヒ骨神経、及び左足裏のいずれかまでの少なくとも1つの神経経路、及び/又は左運動皮質から右手首、右ヒ骨神経、及び右足裏のいずれかまでの少なくとも1つの神経経路を含むことができる。治療する神経経路が脊柱の左側から脊柱の右側まで延出する場合、aCENSのモードを経脊柱直流(tsDC:trans-spinal direct current)方法と称する。
[0237] この構成においては、第1の刺激信号は、第1の点に位置する第1のアクティブ電極及び第1の点に近接して位置する第1の基準電極間において第1の電気電圧信号の形態で運動皮質に与えられる。第1の点は、運動皮質等の第1の神経要素に近接して位置する。第2の刺激信号は、第2の点に位置する第2のアクティブ電極及び第2の点に近接して位置する第2の基準電極間において第2の電気電圧信号の形態で第2の点に与えられる。第2の点は、筋肉と機能的に関連付けられた運動ニューロン等の第2の神経要素に近接して位置する。第1の神経成分と第2の神経成分との間の神経経路に位置する神経経路トリガ部位に、チャージング信号を供給する。チャージング信号は、定電圧信号であり、好ましくは負電圧信号である。このため、治療する神経経路は、第1の電気電圧信号が印加される第1のアクティブ電極と、第2の電気電圧信号が印加される第2のアクティブ電極との間に位置する。第1及び第2の電気電圧信号は、同一の波形及び極性を有することができ、相互に同一とすることができる。
[0238] 肢に単一の障害を有する患者の場合、少なくとも3つの電極セットを用いる。3つの電極セットは以下を含む。
a.少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を含む第1の電極セットであって、少なくとも1つの第1のアクティブ電極が運動皮質上に配置されているもの、
b.少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極を含む第2の電極セットであって、少なくとも1つの第2のアクティブ電極が脊柱に対して運動皮質の反対側の神経端部に配置されているもの、
c.第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極を含む第3の電極セット。この場合、第1の電気電圧信号(例えば図24の信号1)は少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの第1の基準電極間に印加され、第2の電気電圧信号(例えば図24の信号2)は少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極間に印加され、チャージング信号(図24の信号3)は、定電圧バイアスであって好ましくは一定の負電圧バイアスであり、第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極間に印加される。
[0239] 肢に単一の障害を有する患者の場合、4個以上の電極セットを用いることができる。4つ以上の電極セットは以下を含む。
a.少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を含む第1の電極セットであって、少なくとも1つの第1のアクティブ電極が運動皮質上に配置されているもの、
b.2つ以上の第2の電極セットであって、各々が少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極を含み、少なくとも1つの第2のアクティブ電極の各々が脊柱に対して運動皮質の反対側の神経端部又は筋肉に配置されているもの、
c.第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極を含む第3の電極セット。
[0240] この場合、第1の電気電圧信号(例えば図24の信号1)は少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの第1の基準電極間に印加され、第2の電気電圧信号(例えば図24の信号2)は、2つ以上の第2の電極セットの各々における少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極の各対間に印加され、チャージング信号(図24の信号3)は、定電圧バイアスであって好ましくは一定の負電圧バイアスであり、第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極間に印加される。
[0241] 患者が右側の肢に位置する第1の障害及び左側の肢に位置する第2の障害を含む場合、少なくとも5個の電極セットを用いて同一の治療セッションにおいて2つの障害を治療することができる。5個の電極は以下を含む。
a.少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を含む右側の第1の電極セットであって、右側の第1の電極セットにおける少なくとも1つの第1のアクティブ電極が右側運動皮質上に配置されているもの、
b.少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を含む左側の第1の電極セットであって、左側の第1の電極セットにおける少なくとも1つの第1のアクティブ電極が左側運動皮質上に配置されているもの、
c.少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極を含む右側の第2の電極セットであって、右側の第2の電極セットにおける少なくとも1つの第2のアクティブ電極が脊柱の右側の神経端部に配置されているもの、
d.少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極を含む左側の第2の電極セットであって、左側の第2の電極セットにおける少なくとも1つの第2のアクティブ電極が脊柱の左側の神経端部に配置されているもの、
e.第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極を含む第3の電極セット。
[0242] この場合、第1の電気電圧信号(例えば図24の信号1)は、各第1の電極セット内の少なくとも1つの第1のアクティブ電極及び少なくとも1つの第1の基準電極間に印加され、第2の電気電圧信号(例えば図24の信号2)は、各第2の電極セット内の少なくとも1つの第2のアクティブ電極及び少なくとも1つの第2の基準電極の各対間に印加され、チャージング信号(図24の信号3)は、定電圧バイアスであって好ましくは一定の負電圧バイアスであり、第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極間に印加される。
[0243] 各刺激回路は、電気信号発生ユニット又はそのサブユニットを含む。これは、正の出力電極及び負の出力電極、正及び負の出力電極の一方から第1の電極までの第1のリードワイヤ、正及び負の出力電極の他方から第2の電極までの第2のリードワイヤ、アクティブ電極、このアクティブ電極に近接して位置する基準電極を有し、アクティブ電極と基準電極との間に脊椎生物の領域がある。
[0244] 各アクティブ電極は第1の点又は第2の点に接触する。第1の点は、運動皮質のニューロン等の第1の神経成分に近接して位置する。第2の点は、第2の神経成分又は第2の神経成分と機能的に関連した筋肉に近接して位置する。
[0245] 各基準電極は、対応するアクティブ電極に近接して位置するが、典型的に、基準電極と対応する電極との間の距離は、対応するアクティブ電極と対応する神経成分又は筋肉すなわち第1の神経成分、第2の神経成分、又は筋肉との間の距離よりも大きく、場合によってはそれよりも少なくとも3倍大きい。
[0246] 図25Aが示す構成においては、各電気信号発生ユニット又は信号発生器のサブユニット(S1R、S2R1、S2R3、S2R4、S1L、A2L1、S2L2、S2L3、S2L4)の正の出力電極(「+」と標示する)はアクティブ電極に接続され、各電気信号発生ユニット又は信号発生器のサブユニット(S1R、S2R1、S2R3、S2R4、S1L、A2L1、S2L2、S2L3、S2L4)の負の出力電極(「−」と標示する)は第2の電極に接続されているが、これと反対の構成も可能である。
[0247] 例えば、第1のアクティブ電極は、右側運動皮質におけるニューロンに近接して、又は左側運動皮質におけるニューロンと近接して配置することができる。対応する第1の基準電極(複数の電極)は、身体の同じ側すなわち右側又は左側の第1のアクティブ電極の周囲に配置することができる。第1の電極を皮質又は頭部の他のいずれかの部分に配置する場合、第1の電極は、対応する第1の基準電極と構造的に一体化して形成して、円筒形を有する同心複合電極を形成することができる。同心複合電極は、端部の中心から延在する電極と、その端部の周辺領域から延在する基準電極と、を含む。図25Aでは、運動皮質、ふくらはぎの筋肉、及び足裏に接触する電極を同心複合電極として示すが、第1の電極及び第1の基準電極の対を別個の非一体化構造として用いることも可能である。
[0248] いくつかの実施形態では、アクティブ電極又は基準電極を分割して、脊椎生物の異なる表面に接触する多数の部分とすることができる。四肢麻痺の患者の電極配置構成を表す図25Aに示す例では、2個の第1の電極セット及び8個の第2の電極セットを用いる。2個の第1の電極セットに対する外部電気信号は、S1R及びS2Rと標示する電気信号発生ユニット(又は信号発生器のサブユニット)によって供給される。具体的には、S1Rが、RMC(右側運動皮質を表す)と標示する右側の第1の電極セットに外部電気信号を供給し、S1Lが、LMC(左側運動皮質を表す)と標示する左側の第1の電極セットに外部電気信号を供給する。8個の電極セットに対する外部電気信号の各々は、それぞれS2R1、S2R3、S2R4、S2L2、S2L3、及びS2L4と標示される電気信号発生ユニット(又は信号発生器のサブユニット)によって供給される。
[0249] 第1のアクティブ電極の1つは患者の右側運動皮質上に配置されている。好ましくは、このアクティブ電極は、ブレグマ領域と冠状縫合との間の右側接合部に配置する。以降、このアクティブ電極を右運動皮質(RMC)アクティブ電極と称する。RMCアクティブ電極は、電気電圧信号が右側運動皮質のニューロンに印加されてそこからの第1の神経ハンドシェイク信号を含むように配置する。第1の電極の別のものは、患者の左側運動皮質上に配置されている。好ましくは、このアクティブ電極は、ブレグマ領域と冠状縫合との間の左側接合部に配置する。以降、この電極を左運動皮質(LMC)アクティブ電極と称する。LMCアクティブ電極は、電気電圧信号が左側運動皮質のニューロンに印加されてそこからの第1の神経ハンドシェイクを含むように配置する。
[0250] 8個の第2の電極は、それぞれ、右側の手首内側、左側の手首内側、右側のヒ骨神経端部、左側のヒ骨神経端部、右側のふくらはぎの筋肉の隆起部、左側のふくらはぎの筋肉の隆起部、側方足裏、及び左足裏に配置することができる。本明細書において、8個の電極を、それぞれ右手首(RW)電極、左手首(RW)電極、右ヒ骨神経(RFN)電極、左ヒ骨神経(LFN)電極、右ふくらはぎ筋肉(RCM)電極、左ふくらはぎ筋肉(LCM)電極、右足裏(RS)電極、及び左足裏(LS)電極と称する。8個の電極の各々は、電気電圧信号が下にある領域のニューロンに印加されてそこからの第2の神経ハンドシェイク信号を含むように配置する。
[0251] 各第2の電極に近接して第2の基準電極が配置されている。第2の基準電極は、第2の電極及び対応する第2の基準電極の対の間に電気信号が印加されるように配置されている。各第2の基準電極は、対応する第2のアクティブ電極が与える電流のための電流戻り経路として機能する。すなわち、第2の電極から流れる印加電流又は第2の電極へと流れる印加電流は、対応する第2の基準電極を介して回路を完成する。いくつかの実施形態では、第2の電極は、第2の基準電極と構造的に一体化して形成して、円筒形を有する同心複合電極を形成することができる。例えば図25Aの構成における右側ふくらはぎの筋肉、左側ふくらはぎの筋肉、右足裏、及び左足裏では、各第2の電極を第2の基準電極と構造的に一体化して複合電極を形成している。
[0252] この構成には6個の神経経路が存在する。第1の神経経路は、右側運動皮質から、RMC電極とLW電極セットとの間の左側手首まで延在する。アクティブ電極に印加される各電気電圧信号は神経ハンドシェイク信号を含む。例えば、RMCアクティブ電極に印加される第1の電気電圧信号は第1の神経ハンドシェイク信号を含み、LWアクティブ電極、LFNアクティブ電極、及びLSアクティブ電極のいずれかに印加される第2の電気電圧信号は、第1の神経ハンドシェイク信号を含む。同様に、LMCアクティブ電極に印加される第1の電気電圧信号は第1の神経ハンドシェイク信号を含み、RWアクティブ電極、RFNアクティブ電極、及びRSアクティブ電極のいずれかに印加される第2の電気電圧信号は、第1の神経ハンドシェイク信号を含む。第1の電気電圧及び第2の電気電圧は、電気パルスが同時に印加されるように同期をとっており、2つの神経ハンドシェイク信号を誘発する。これらの信号は、右側運動皮質と左側手首との間の神経経路に沿って伝播し、障害のある神経経路内に位置する神経伝達障害点において収束する。神経伝達障害点におけるハンドシェイクは、神経伝達障害点における細胞に生物学的な刺激を与える。一般に、神経伝達障害点の位置は、外傷又は遺伝的欠陥の性質に応じて異なる。
[0253] 治療される神経経路の中間における第3の点に、第3の電気電圧信号が印加される。第3の電気電圧信号は「チャージング信号」とも称される。これは、第3の電気電圧を印加することの効果として、第3の点が別の誘発電気信号で電気的にチャージされるからである。かかるチャージング信号は、ある意味で神経経路内の少なくとも1つの神経経路ハンドシェイク信号の効果を増幅するものであり、ハンドシェイクの成功の可能性を高める。このため、同期をとったチャージング信号の印加によって、2つの誘発神経ハンドシェイク信号の結合を強化し、刺激された第1及び第2の神経成分間の伝達を促進する。
[0254] チャージング信号は、神経経路を電気的にチャージする機能を有する信号である。好ましくは、チャージング信号は、各電極セットにおける少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極間に印加される第1及び第2の外部電気信号の印加の間ずっと一定のままである直流信号である。同期をとった印加電気刺激信号を第1及び第2の神経成分に印加するのと同時に、チャージング信号を神経伝達障害点に近接して印加することができる。好ましくは、刺激及びチャージングは同時に行う。
[0255] 上述のように、第3の点は、神経伝達障害点が既知である場合これと一致する場合がある。例えば、第3の点は、既知の脊椎傷害が存在する脊椎骨、すなわち、脊柱に特定の外傷がある場合のように、特定の脊椎骨における機能障害(すなわち障害)の部位であり得る。あるいは、あるいは、神経伝達障害点が既知でない場合、第3の点は治療中の神経伝達障害のタイプに関連付けられることがわかっている位置として選択可能である。この場合、第3の点は、その伝達経路の他の箇所に機能障害(障害)がある場合における神経分岐部位であり得る。更に、この方法で健康な個体を処置することができる。この場合、機能障害とは、比較的健康な生物において神経伝達を向上又は強化する必要性であると理解される。
[0256] 神経経路が脊椎生物の脊椎を通る場合、神経伝達障害点は、脊椎に特定の外傷がある場合のように、特定の脊椎骨におけるかもしくは特定の脊椎骨に隣接した機能障害(すなわち障害)の部位であるか、又はその伝達経路のどこかもしくは他の箇所に機能障害(障害)がある場合における神経分岐部位であり得る。例えば人間の場合、かかる分岐部位は、対象の四肢の位置に応じて、脊髄ニューロンが分岐して腕を刺激する場所(C5及びT1脊椎骨間に位置する)であるか、又は分岐して脚を刺激する場所(T9及びT12脊椎骨間に位置する)である。
[0257] チャージング信号は、第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極間に印加される。第3の電極は第3の点に配置されている。少なくとも1つの第3の対応電極は、第3の電極に近接してすなわち第3の点の周囲に配置されているが、充分に離間して配置することで、第3のアクティブ電極に印加した電圧に第3の点が電気的にバイアスされるようにする。少なくとも2つの第3の対応電極の各々は、印加電流が第3のアクティブ電極から又は第3のアクティブ電極へと流れる戻り経路として機能する。例えば第3の電極が脊椎の脊椎骨に配置されている場合、骨盤の右前側及び骨盤の左側に(上前腸骨棘の左側及び右側に)2つの第3の対応電極を配置することができる。第3の点を流れる一定DC電流の電流密度は、25A/m2から38A/m2の範囲内であることが好ましい。かかる電流密度を与えることができる第3のアクティブ電極を介した典型的な電流は5mAから30mAであり、典型的には10mAから20mAであるが、電流は、人間の身体のサイズ、脂肪、及び電極サイズに応じて異なる。
[0258] 上述の実施形態の各々においては、対象の神経経路の一端における第1の神経成分に近接した第1の点、及び、対象の神経経路の他端における第2の神経成分に近接した第2の点に、同期をとった印加電気刺激信号セットを印加する。2つの誘発神経信号が発生して神経経路における神経伝達障害点に到達し、これによって、第1及び第2の神経成分間の神経接続を改善させる神経リハビリテーションプロセスを引き起こす。このため、本発明は、神経伝達障害の条件が生理学的に具現化されている神経伝達障害点において電気刺激を用いることができる。第1の神経要素は、神経伝達障害点の一方側における神経経路の第1の機能部分の端部である。第2の神経要素は、神経伝達障害点の他方側における神経経路の第2の機能部分の端部である。第1の神経要素は第1の神経成分に機能的に接続され、第2の神経要素は第2の神経成分に機能的に接続されている。神経伝達障害点は、第1の要素と第2の要素との間に位置し、治療の前に神経伝達が無効である領域を表す。
[0259] iCENSモード及びaCENSモードの双方において、第1の神経成分は、第1の神経ハンドシェイク信号と称する第1の神経信号を発生させることによって印加電気刺激に応答する。第1の神経ハンドシェイク信号は、第1の神経成分から神経信号経路に沿って神経伝達障害点に向かう。同様に、第2の神経成分は、第2の神経ハンドシェイク信号と称する第2の神経信号を発生させることによって印加電気刺激に応答する。第2の神経ハンドシェイク信号は、第2の神経成分から別の神経信号経路に沿って神経伝達障害点に向かう。第1及び第2の神経成分の各々から神経伝達障害点まで伝播する神経信号を発生させることが可能であるならば、第1及び第2の神経成分の各々が機能することは必要でない。
[0260] 再び図25Aを参照すると、いかなるaCENS構成においても信号監視手段を用いることができる。信号監視手段は、神経経路のある点で第1の周期神経信号及び第2の周期神経信号のハンドシェイクを検出するように構成されている。例えば、オシロスコープ又は他のいずれかの信号捕捉電子装置を配線によって接続して、神経経路トリガ部位とすることができる神経経路のある点で電圧信号又は電流信号の検出を可能とする。
[0261] 一般に、aCENSモードでは、第1の神経ハンドシェイク信号を誘発するための第1の手段及び第2の神経ハンドシェイク信号を誘発するための第2の手段を設ける。第1の手段は、対象の神経経路の第1の神経成分に第1の印加刺激信号を供給するように構成されている。第1の印加刺激信号が含む第1の信号パルスセットは、第1の神経成分に神経経路上で第1の神経ハンドシェイク信号を発信させる強度を有する。第2の手段は、対象の神経経路の第2の神経成分に第2の印加刺激信号を供給するように構成されている。第2の印加刺激信号が含む第2の信号パルスセットは、第1の神経ハンドシェイク信号と同時期に第2の神経成分に神経経路上で第2の神経ハンドシェイク信号を発信させる強度を有する。神経経路は、第1及び第2の印加刺激信号の印加前に基本電荷電位を有する。
[0262] 更に、チャージング信号源が提供される。チャージング信号源は、神経経路に第1及び第2の神経ハンドシェイク信号が存在する間に、チャージング信号を神経経路トリガ部位に印加するように構成されている。第1及び第2の神経ハンドシェイク信号は相互作用し、神経経路の神経応答を強化する。神経経路の機能レベルに依存する結果の達成に関して、神経応答の強化は、脊椎生物の能力レベルの改善として測定可能である。
[0263] 一実施形態では、第1の手段及び第2の手段の少なくとも一方は、脊椎生物に一時的もしくは永久的に植え込まれた植え込み装置、又は脊椎生物によって所持される携帯型装置である。図25Bは、皮質−運動刺激の目的におけるaCENSの第2の例示的な電極構成を示す。この場合、第1の手段及び第2の手段は単一の植え込み型又は携帯型装置として一体化され、これは例えば脊椎生物の後部の皮膚に植え込まれるか、又は脊椎生物が人間である場合は衣服に保持される。単一の植え込み型又は携帯型装置は、周期パルス発生器(「PPG」:periodic pulse generator)とすることができ、これは、脊椎生物の身体に植え込まれたアクティブ電極及び基準電極対間に印加される同期をとった電気パルスを発生する。同期をとった電気パルスは、図24において「信号1」及び「信号2」と示すようなタイプの波形を有することができる。更に、チャージング信号源は、一定の正の出力電圧及び一定の負の出力電圧を印加する一連のバッテリを含む植え込み型又は携帯型装置として具現化することができる。周期パルス発生器及びチャージング信号源は一体化して単一の携帯型装置とすることができ、例えば人間の背部に搭載することができる。このため、いったん患者に植え込み型又は携帯型装置を一時的又は半永久的にすなわち取り外すまで永久的に取り付けたら、患者は自分の選んだ好都合な時間に治療を受けることができる。
[0264] 第1の神経信号は、第1の点に印加された印加電気刺激に応答して第1の神経成分によって発生するものであり、印加電気刺激に対する身体の抵抗性の電気機械的応答ではない。このため、第1の神経信号は、印加電気刺激に対する第1の神経成分の誘発神経応答すなわち誘発神経信号であり、このため時間的に遅延し、印加電気刺激とは異なる波形を有する。同様に、第2の神経信号は、第2の点に印加された印加電気刺激に応答して第2の神経成分によって発生するものであり、印加電気刺激に対する身体の抵抗性の電気機械的応答ではない。このため、第2の神経信号は、印加電気刺激に対する第2の神経成分の誘発神経応答すなわち誘発神経信号であり、このため時間的に遅延し、印加電気刺激とは異なる波形を有する。
[0265] 印加電気刺激と第1又は第2の神経信号との間の時間的遅延は、典型的に10ミリ秒から50ミリ秒であり、第1の神経成分又は第2の神経成分を構成する細胞又は複数の細胞のタイプに応じて異なる。典型的に、人間の皮質のニューロンでは、印加電気刺激と誘発神経信号との間に10ミリ秒及び30ミリ秒間の遅延が観察されており、人間の下位運動ニューロンでは、印加電気刺激と誘発神経信号との間に20ミリ秒及び50ミリ秒間の遅延が観察されている。本明細書においては、印加電気刺激と誘発刺激信号との間の遅延時間を「誘発信号発生遅延時間」と称する。
[0266] 第1の点及び第2の点に印加電気刺激を同時に印加した後、数十ミリ秒以内に、第1の信号及び第2の信号は神経伝達障害点に到達する。誘発信号発生遅延時間は第1又は第2の神経成分を構成する細胞又は複数の細胞のタイプに依存するので、2個の誘発神経信号は神経伝達障害点に同時には到達しない場合があるが、誘発信号は時間的に重複してすなわち同時期に到達する。例えば、第1及び第2の神経成分の一方が皮質ニューロンであり、第1及び第2の神経成分の他方が下位運動ニューロンである場合、皮質ニューロンからの誘発神経信号の立ち上がり端は、下位運動ニューロンからの他方の誘発神経信号の立ち上がり端よりも早く神経伝達障害点に到達する。第1及び第2の神経成分が双方とも皮質ニューロンである場合は、関与する皮質ニューロンのタイプに応じて、一方の皮質ニューロンからの誘発神経信号の立ち上がり端は、他方の皮質ニューロンからの他方の誘発神経信号の立ち上がり端と同時に、又はある時間差で、神経伝達障害点に到着する場合がある。第1及び第2の神経成分の一方が皮質ニューロンであり、第1及び第2の神経成分の他方が感覚ニューロンである場合は、皮質ニューロン及び感覚ニューロンからの誘発神経信号の2つの立ち上がり端の到着時間に差がある場合がある。
[0267] 全ての場合において、早く到着した信号は、後で到着する信号の立ち上がり端と重複するのに充分な長さで持続する。すなわち、神経伝達障害点に到着する第1の神経成分からの第1の誘発神経信号及び第2の神経成分からの第2の誘発神経信号が時間的に重複するのは、各誘発神経信号の持続時間が典型的に少なくとも15ミリ秒続くからである。このため、神経伝達障害点に到着する2個の誘発神経信号は同時期である。すなわち、2つの神経信号間には非ゼロの重複時間期間がある。神経伝達障害点における2個の神経ハンドシェイク信号の収束、並びに空間的及び時間的な重複の現象が「ハンドシェイク」を与え、これは神経伝達障害点のリハビリテーションの効果を有する。
[0268] 図26を参照すると、神経伝達障害点における電気的応答を示すグラフにハンドシェイクの現象が図示されている。横軸は時間を表し、縦軸は脊椎傷害を有するマウスの神経伝達障害点における電圧を表す。用いた構成は、図1Aに示されており、第1の実験(iCENSを使用)と題する以下の節において説明する。この場合の神経伝達障害点は、脊髄の傷害が存在する脊椎骨である。筋肉に負電圧出力(−1.8からー2.6Vの範囲)に送出し(2ワイヤ電極、500μm)、一次運動野(M1)に正出力(+2.4から+3.2Vの範囲)を送出した(電極チップ、100μm)。このセットアップでは、第1の神経成分はマウスの一次運動野におけるニューロンであり、第2の神経成分はマウスの筋肉における下位運動ニューロンである。捕捉−トリガ信号としてパルスを用いて傷害のある脊髄における電圧を捕捉するように構成されたオシロスコープを用いて、1Hzの周波数で400ミリ秒持続時間の6個のパルスに対する応答を捕捉した。
[0269] パルスの立ち上がり端はt0に位置合わせされており、本明細書ではこれをパルス開始時間と称する。第1の神経ハンドシェイク信号は一次運動野におけるニューロンから発生され、第2の神経ハンドシェイク信号は筋肉における下位運動ニューロンから発生される。この場合、電気パルスの同時印加(すなわち電気パルスの同期立ち上がり端)と第1の神経ハンドシェイク信号の発生との間の遅延は、電気パルスの印加と第2の神経ハンドシェイク信号の発生との間の遅延よりも短い。このため、6個の捕捉電圧プロファイルの各々において、第1の神経ハンドシェイク信号は、第2の神経ハンドシェイク信号よりも時間的に早く傷害のある脊髄に到達した。
[0270] パルスの立ち下がり端はt1に位置合わせされており、これは各パルスについてt0の400ミリ秒後である。電気パルスのオン及びオフの切り替えによって、例えば電流が身体の様々な部分を流れ、これによって傷害のある脊髄における電圧を正確に表さない過渡スプリアス信号が生じることで、傷害のある脊髄における電圧が乱れる。t1に相当する時点でパルスがオフになった後、過渡スプリアス信号が消散すると、測定データは傷害のある脊髄における電圧を正確に表す。このため、傷害のある脊髄における第1の神経ハンドシェイク信号の立ち上がり端到着の正確なタイミングは難しいが、第1の神経ハンドシェイク信号の立ち上がり端はt2よりも早い時点で発生する。t2は、第1の神経ハンドシェイク信号がピーク強度を有する時点を表す。第1の神経ハンドシェイク信号のピークは、t0の約12.5ミリ秒後に発生する。
[0271] 第1の神経ハンドシェイク信号が有する波形は、時間の関数として電圧が減衰する振動を含む。この場合、第1の神経ハンドシェイク信号が第1の正の振動(ピークはt2で発生する)の後に完全な負の振動を生成する前に、t3において、下位運動ニューロンからの第2の神経ハンドシェイク信号の立ち上がり端が傷害のある脊髄に到着する。脊髄における測定電圧は、第1の神経ハンドシェイク信号及び第2の神経ハンドシェイク信号を表す2個の電圧の重なりであるので、図26に示すように、第2の神経ハンドシェイク信号の立ち上がり端が到着するt3において、この電圧の勾配は急激に変化する。第2の神経ハンドシェイク信号のピークはt4において又はt4の近傍で発生する。
[0272] その後、第1の神経ハンドシェイク信号の減衰振動の全てが消える前に、第2の神経ハンドシェイク信号は神経伝達障害点すなわち障害のある脊髄に到着する。このため、第1の神経ハンドシェイク信号及び第2の神経ハンドシェイク信号は、神経伝達障害点へと伝播し、そこで収束して合流する。第1の神経ハンドシェイク信号及び第2の神経ハンドシェイク信号は、対向する二方から神経伝達障害点に到着し、神経伝達障害点において時間的及び空間的に重複し、これによって2個の誘発神経信号のハンドシェイクを実行する。この現象を「信号一致性」又は「一致」とも称する。2個の信号の時間的に重複する側面、すなわち第1の神経ハンドシェイク信号の持続時間及び第1の神経ハンドシェイク信号の持続時間の有限時間期間が存在するという事実は、同時期と特徴付けられる。
[0273] 誘発神経信号は永久に持続するわけではないので、印加信号の同時印加は、ハンドシェイクを与えるための大きな要因である。一般に、神経障害伝達点にハンドシェイクを与えることが重要である。図26に示すように、誘発神経信号の典型的な持続時間は数十ミリ秒のオーダーである。実際には、誘発神経信号は発生後の最初の30ミリ秒程度が最も有効である。第1及び第2の神経成分に印加した外部刺激の印加と誘発神経信号の発生との間の約20ミリ秒の時間遅延を考慮した後でも、典型的なハンドシェイクは約20ミリ秒から40ミリ秒の範囲で開始し、信号強度がノイズレベル内に低下する前に100ミリ秒未満、典型的には50ミリ秒未満の持続時間だけ持続する。
[0274] このため、第1の神経成分に印加する第1の印加刺激と第2の神経成分に印加する第2の印加刺激との間に小さい時間のオフセットをハンドシェイクに対して与えることは原理上は可能であるが、現時点では実験データによって、第1及び第2の印加刺激の同時印加が良好なハンドシェイク及び最も有効な結果を与えることが示されている。aCENSの実施形態におけるように、チャージング信号すなわち第3の印加刺激信号を用いる場合、チャージング信号は第1及び第2の印加刺激信号と同時に印加することが好ましい。第1、第2、及び任意に第3の印加刺激信号の同時印加は、これらの信号を同期させることによって、例えばこれらの信号を共通の電力供給源から与えることによって又は多数の電力供給源を電子的に同期させることによって実現可能である。
[0275] ハンドシェイクは、神経伝達障害点における生物学的回復プロセスを含む。生物学的回復プロセスの間、細胞の構造が変更されて、第1の神経要素と第2の神経要素との間に機能的神経接続を確立する。細胞の変更は、以前から存在する細胞における構造的変化の形態で進行する場合があり、又は新しい細胞の発生及び/又は成長を伴う場合がある。このため、生物学的回復プロセスは、第1の神経成分と第2の神経成分との間に充分な機能的神経接続が生じるように、神経伝達障害点の構造における永久的な変化を誘発する。神経伝達障害点の構造におけるこの永久的な変化及びこれに付随する機能的神経接続の向上が充分であるので、神経伝達障害の条件を実質的に又は完全に排除することができる。
[0276] 概して、本発明の実施形態の方法を用いて生物学的回復プロセスを誘発することができる。このプロセスは、外部電気信号の同時印加によって神経伝達障害の条件を部分的又は完全に除去することで、神経伝達障害点を神経伝達リハビリテーション点へと変換する。外部電気信号は誘発神経信号を発生し、これは神経経路に沿って伝播して神経伝達障害点において合流し、神経伝達障害点の周囲の細胞構造を刺激してリハビリテーションプロセスを開始する。
[0277] 一実施形態においては、神経伝達障害は、外傷誘発神経伝達障害又は遺伝的な出生後神経伝達障害とすることができ、リハビリテーションプロセスは、神経伝達障害点の物理的特性及び構成を、例えば外部の物理的外傷又は神経の疾患による神経伝達障害が発生する前に存在した機能状態へと回復させる回復プロセスとすることができる。外部の物理的外傷の一例は脊椎の傷害である。神経疾患の例はライム病及びハンセン病を含む。あるいは、リハビリテーションプロセスを、非機能であるか又は最小限に機能する神経経路の増強/補強プロセスとすることができる場合である。この場合、神経伝達障害点の物理的特性又は構成を変更して、損傷した神経接続を通るか又はその周囲にある弱いか又は非機能の神経信号経路を増強又は補強する。
[0278] 別の実施形態では、神経伝達障害は、最初からの神経伝達障害、外傷誘発神経伝達障害、及び遺伝的な出生後神経伝達障害のいずれかとすることができ、リハビリテーションプロセスは、代替的な神経経路の発生プロセスとすることができる。この場合、神経伝達障害点の物理的特性及び構成を変更して、損傷した神経接続を通るか又はその周囲に、以前は存在しなかった代替的な神経信号経路を形成する。
[0279] 概して、印加電気刺激により、同時期の2個の神経信号を用いて刺激を与えると、神経伝達障害点において既存の細胞の変更及び/又は新しい細胞の形成が行われることで、第1の神経成分と第2の神経成分との間の神経伝達が、充分な強度、持続時間、及び機能性で形成される。このため、弱く結合されたか又は結合されていない2個の神経要素は、神経接続され、神経信号が流れることができる新しい機能的神経伝達経路部分を形成する。既存の機能的神経伝達経路及び新しい機能的神経伝達経路部分の組み合わせによって、第1の神経成分と第2の機能的成分との間に機能的神経信号経路が提供され、これによって神経伝達障害による身体障害の原因が除去されるか又は軽減され、神経伝達障害は神経伝達リハビリテーション点に変換される。
[0280] 神経伝達障害点を神経伝達リハビリテーション点に変換すると、第1の神経成分からの神経信号は、神経伝達リハビリテーション点を介して第2の神経成分へと神経信号を効果的に送出することができる。神経伝達障害点における弱い信号経路部分は、変換中に再活性化又は最促進されて、神経伝達リハビリテーション点において第1の神経要素と第2の神経要素との間の機能的神経接続を提供する。あるいは、神経伝達リハビリテーション点において、神経伝達障害点に存在しなかった信号経路部分を形成して、第1の神経要素と第2の神経要素との間の機能的神経接続を提供することができる。
[0281] 神経伝達障害点を神経伝達リハビリテーション点に変換したことの結果として、第1の神経成分から第2の神経成分への神経信号の送信の有効性が永久的に向上する。このため、第2の神経成分は、第1の神経成分よりも、神経信号に対する感度が高くなる。換言すると、神経伝達リハビリテーション点における細胞構造の変換によって、第2の神経成分に対する第1の神経成分からの神経信号の有効性は永久的に増幅される。
[0282] 別の観点では、神経伝達障害点の変換中に、第1の神経成分及び第2の神経成分を外部から刺激して活動電位を同時に発生させる。すなわち、第1の神経成分及び第2の神経成分への軸索が神経信号を「発火する」ように、人工的に外部から誘発する。第1の神経成分からの第1の神経信号及び第2の神経成分からの第2の神経信号は、神経伝達経路の機能的部分を通り、神経伝達障害点において同時期に合流する。この神経伝達障害点は、機能障害の脊髄又は、胴もしくは四肢又は皮質の一部における神経経路の機能障害部分であり得る。誘発神経信号の同時期の到着によって、リハビリテーションプロセスが促進される。
[0283] 実施形態に応じて、様々なタイプのリハビリテーションを実行することができる。第1の実施形態では、本開示のリハビリテーション方法によって、脊椎生物は、皮質−神経筋肉経路の中断部分を回復又は補強することで、四肢の使用又は最小限に動作する四肢の使用の強化が可能となる。このため、筋肉を動かすように設計された下位運動ニューロンは、その下位運動ニューロンを制御するように設計された皮質ニューロンの制御のもとで、この下位運動ニューロンが実行するように設計された元来の機能を実行することができる。
[0284] 多くの場合、脊椎生物においては筋肉を動かすために2つの神経経路が存在することに留意すべきである。第1の神経経路は皮質−神経筋肉経路であり、運動皮質から下位運動ニューロンへと神経信号を送る。第2の神経経路は感覚−皮質経路であり、感覚ニューロンから感覚皮質へと神経信号を送る。第1の実施形態では、神経伝達障害点は第1の神経経路には存在するが第2の経路には存在しない。このため、第2の神経経路の動作によって、第1の神経経路内に位置する神経伝達障害点の刺激と関連付けられた正のフィードバックループの確立が間接的に助長されるが、皮質−神経筋肉経路である第1の神経経路における送信及び誘発神経信号の。
[0285] 正常に機能する皮質−神経筋肉経路においては、神経信号は一方向にのみ、すなわち運動皮質から下位運動ニューロンまで伝わる。治療の間、第2の神経成分から発する神経信号は、機能している皮質−神経筋肉経路における正常な信号送信とは反対方向に伝わる。第2の神経成分に対する印加電気刺激は、神経伝達障害点までのこの逆方向の神経信号の流れを促進する。
[0286] 第2の実施形態において、本開示のリハビリテーション方法は、脳内神経接続のリハビリテーションを行うことができる。すなわち、皮質の第1の部分に位置する第1のニューロンと同一の皮質の第2の部分又は異なる皮質の部分に位置する第2のニューロンである第2の神経成分との間の神経伝達を可能とする。第2の実施形態において、2つの皮質ニューロン間の神経伝達を強化して、2つの皮質ニューロン間又は、少なくとも2つの異なる皮質領域間もしくは多数の皮質間に分散した機能的に関連するニューロンセット間の神経伝達障害を軽減又は除去することができる。例えば、自閉症の治療の場合、前頭葉及び頭頂葉に信号を印加することで、関連する神経経路の発生又はリハビリテーションを行うことができる。
[0287] 第3の実施形態においては、感覚−皮質神経接続を回復させて、視覚、聴覚の検知、又は熱検知、又は圧力、味、臭い、もしくは身体筋肉の作動に関連する他のタイプの検知を可能とすることができる。例えば、皮質盲の症状のリハビリテーションを行って視覚を回復することができ、又は、耳鳴の症状を回復して聴覚を回復することができる。本明細書に開示した方法を用いて神経伝達障害点を神経伝達リハビリテーション点に変換することにより、他の感覚障害のリハビリテーションを行って、関連する傷害を除去することも可能である。
[0288] 神経信号が神経伝達障害点に同時期に到着することによって、神経伝達障害点における細胞構造の生理学的変化を開始及び/又は刺激する機構は、現時点では明確に理解されていない。しかしながら、2つの機能的に関連する神経成分から同時期に到着する神経信号によって細胞構造を繰り返し刺激することで、神経構造の再生又は再成長が開始、刺激、及び/又は促進されることが推測される。この神経構造が後に発達して、既存の神経信号経路に機能的に結合された機能する神経信号セグメントとなる。神経構造の再生又は再成長は、第1の神経要素及び第2の神経要素の一方のみから、又は第1の神経要素及び第2の神経要素の双方から、又は第1もしくは第2の神経要素の一部でない細胞構造から進行し得ると考えられる。更に、神経信号が神経伝達障害点に同時期に繰り返し到着することは、神経接続の確実性を増し、皮質におけるニューロンが、新たに獲得された別の下位運動ニューロン、異なる皮質における別のニューロン、又は感覚ニューロンとの神経接続を学習し有効化することを可能とすることによって、神経構造の再生又は再成長を容易にする効果を有すると推測される。また、神経信号が同時期に到着することで、神経伝達障害点における神経伝達物質の解放及び/又は不活発な化学レセプタに対する刺激又はその他の方法での活性化を促進すると推測される。このため、神経伝達物質の解放及び/又は神経伝達物質の受信におけるニューロンの機能性を強化することによって、弱められた、不活発な、又は存在しない神経接続を、機能レベルまで修復及び/又は強化することができる。
[0289] 典型的に、神経系を繰り返して又は習慣的に用いることは、神経系における各成分が機能を維持することに役立つ。例えば、運動皮質におけるニューロンとそのニューロンによって制御される機能的に関連した運動ニューロンとの間の通常の神経伝達では、感覚ニューロンが発生する正のフィードバック信号が、機能的に関連する運動ニューロンにより作動する筋肉の動きを運動皮質の別のニューロンに報告することによって、この神経経路の有効性を強化する。同様に、皮質の第1の部分における第1のニューロンと同一又は異なる皮質の第2の部分における第2のニューロンとの間の通常の神経伝達では、第2のニューロン又はこの第2のニューロンに機能的に関連するかもしくはこれによって活性化される他のいずれかのニューロンが正のフィードバック信号を発生し、これを第1のニューロン又は第1の皮質における別のニューロンが受信することによって、この神経経路の有効性を強化する。同様に、例えば視覚入力又は聴覚入力又は感覚入力である場合がある感覚ニューロンと皮質におけるニューロンとの間の通常の神経伝達は、例えば画像、音、又は他の感覚認識を解釈する脳のアクティビティによって同一のニューロン又は同一の皮質内の他のいずれかのニューロンが発生した正のフィードバック信号により、この神経経路の有効性を強化する。
[0290] 外傷は、例えば脊椎損傷、損傷もしくは遺伝的原因による異なる皮質間の伝達の障害もしくは減衰、又は感覚ニューロンから皮質内のニューロンへ神経信号を伝達するために用いられるいずれかの細胞又は構造の損傷もしくは劣化の形態で、神経伝達経路に損傷を生じる場合がある。このため、かかる外傷は、神経伝達障害点を発生させ、神経伝達に用いられる成分の全て又は大部分を不活動の状態とする。第1の神経成分及び第2の神経成分及びそれらの間で神経信号を伝達するためにかつて用いられた他のいずれかの神経成分を含む神経伝達経路の成分において不活動が長期にわたると、神経伝達系の成分が弱くなる。時間が経過するにつれて、神経伝達系の成分を用いないことにより、神経伝達経路における神経接続が更に劣化する。この使用しないことと成分劣化の悪循環のために、神経伝達経路における別の成分が機能障害のままとなり、これによって神経伝達系における機能障害の程度が高くなる恐れがある。
[0291] 本発明の実施形態における方法は、神経伝達経路における使用及び正のフィードバックの正の建設的なサイクルを開始することで、このサイクルを逆にする。この正のサイクルを開始するため、印加電気刺激を用いて神経信号を誘発する。この信号は神経経路の機能部分に沿って伝わり、神経伝達障害点に同時期に到着する。脳が、第1及び第2の神経成分並びにそれらの間の電気経路において発生している神経信号アクティビティ、及び、筋肉の動き又は例えば視覚信号、聴覚信号の形態で同時に発生し得る他のいずれかの感覚アクティビティ、又は神経アクティビティ及び運動アクティビティ、認識アクティビティ、又は感覚アクティビティ間の関連付けを強化するように誘発され得る身体の他のいずれかのアクティビティ等の他の同時期の感覚認識を認識し、正に相関付けると、第1の神経要素及び第2の神経要素におけるアクティビティは正に相関付けられる。
[0292] このため、神経経路の成分は、不活動の状態から印加電気刺激によって発生される誘発神経信号により「再活性化」、「励振」、「励起」、又は「復活」させる。かかる神経経路の未使用成分の再活性化、励振、励起、又は復活は、神経経路の機能障害部分の「再訓練」を開始する効果を有する。いったん神経伝達障害点が神経伝達リハビリテーション点に変換されると、第1の神経成分から第2の神経成分への全神経経路が修復される。多くの場合、第1及び第2の神経成分におけるアクティビティに基づいて脳にフィードバックを提供する機能的に関連した神経経路も、完全に動作する状態に回復される。
[0293] 上述のように、典型的な治療セッションにおいて、多数の神経経路を同時に又は交互に刺激することができる。例えば、四肢麻痺の患者では、右側運動皮質と身体の左側の筋肉におけるニューロンとの間の第1の神経経路において刺激を与えることができ、これと同時に及び/又は交互に、左側運動皮質と身体の右側の筋肉におけるニューロンとの間の第2の神経経路において刺激を与えることができる。
[0294] 更に、かかる多数の神経経路の刺激と同時に又は交互に、追加の神経経路を加えて刺激を与えることができる。例えば、四肢麻痺の患者では、右側運動皮質と左腕の筋肉におけるニューロンとの間の第1の神経経路において、右側運動皮質と左脚の筋肉におけるニューロンとの間の第2の神経経路において、左側運動皮質と右腕の筋肉におけるニューロンとの間の第3の神経経路において、右側運動皮質と右脚の筋肉におけるニューロンとの間の第4の神経経路において、同時に又は順番に、刺激を与えることができる。
[0295] aCENSを用いる場合、第1及び第2の印加刺激信号と同一周波数で、脊椎生物の身体の1つ以上の部分でチャージング信号を印加することができる。四肢麻痺の患者の治療の例では、チャージング信号は、肢の動きと関連する脊椎骨又は多数の脊椎骨に印加することができる。
[0296] 感覚障害のために感覚−皮質神経経路を治療する場合、多数の刺激信号を同時に又は交互に印加することができる。先に論じたように、かかる印加刺激信号は、電気信号、音波刺激信号、超音波刺激信号、磁気刺激信号(定常状態又は動的磁界が印加される)、光刺激信号、熱刺激信号(熱が与えられる)、低温刺激信号(1つ以上の神経要素を冷たい表面又は冷たい物体に露呈させる)、振動刺激信号、圧力刺激信号、真空吸引刺激信号、他のいずれかの感覚信号、又はそれらの組み合わせとすることができる。
[0297] 図27を参照すると、神経経路を治療するための例示的なシステムが示されている。例示的なシステムは、コンピュータ271及び/又は信号特性選択器272を用いる。図27では信号特性選択器272を別個のユニットとして示すが、信号特性選択器272が、様々なパルス信号発生装置に接続するように特に適合された信号インタフェースカードとしてコンピュータ271内に組み込まれた実施形態も、本明細書においては想定される。あるいは、例示的なシステムは、信号特性選択器272を用いずにコンピュータ271のみを用いるか、又はコンピュータ271を用いずに信号特性選択器272のみを用いて実施することも可能である。コンピュータが存在する場合、コンピュータ271は、患者の情報を追跡し、適切な信号発生装置(複数の装置)を自動的に選択し、及び/又はいずれかの用いる信号発生装置上に採用するパラメータを表示するように構成することができる。コンピュータ271は、治療パラメータすなわち各治療セッション中に用いるパラメータを選択するように構成されたプログラムを含むことができる。例えば、かかる治療パラメータは、患者の身長、体重、年齢、性別、疾患、障害レベル、全体的な健康状態、運動能力、過去の診療履歴、及び/又は、積極的レベルの高リスク治療又は控えめな低リスクの治療等、所望の治療レベルに基づいて決定することができる。更に、コンピュータ271は、治療パラメータのユーザ選択による設定を可能とするプログラムを含むことができる。同様に、信号特性選択器272は、ディスプレイスクリーン273等のアナログ又はデジタルインタフェース装置を有することができる。
[0298] 信号特性選択器271及び/又はコンピュータ271に、多数の刺激信号発生器が設けられて接続されている。多数の刺激信号発生器は、例えば、第1の電気パルス発生器PS1、第2の電気パルス発生器PS2、チャージング信号発生器SC、光パルス発生器LS、音響パルス発生器AS、及び/又は他のいずれかのタイプのパルス信号発生器を含むことができる。第1の電気パルス発生器PS1は、例えば図21A及び図22Aにおける第1の電極及び第2の電極間、又は図25Aにおける第1のアクティブ電極及び第1の基準電極間に電気電圧信号を供給することができる。第2の電気パルス発生器PS2は、例えば図21A、22A、及び図23Aにおける別の第1の電極及び別の第2の電極間、又は図25Aにおける第2のアクティブ電極及び第2の基準電極間に電気電圧信号を供給することができる。チャージング信号発生器SCは、例えば図25Aにおける第3のアクティブ電極及び少なくとも1つの対応電極間にチャージング信号を供給することができる。更に、光パルス発生器LCは、視神経に与えた電気刺激に加えて又はその代わりに、例えば図23Aの構成において視神経に到達するように設計されたパルス照明を供給することができる。音響パルス発生器は、聴神経に与えた電気刺激に加えて又はその代わりに、例えば図23Cの構成において聴神経に到達するように設計されたパルス音響波信号を供給することができる。このため、脊椎生物279に印加されるパルス信号の特性は、実行する治療のタイプに応じて選択することができる。
[0299] 信号特性選択器272を用いて、上述の様々な実施形態における第1及び第2の印加刺激信号及び/又はチャージング信号の特性を選択することができる。信号タイプ選択器は、対象の神経経路のタイプ及び結果のタイプの少なくとも一方を識別するための入力装置を含む。例えば、神経経路のタイプは、皮質−神経筋肉経路、皮質間(脳内)経路、又は感覚−皮質経路を含むことができる。神経経路の3つのタイプは、神経経路のサブタイプに更に分類することができる。各サブタイプには、用いる信号タイプが関連付けられている。結果のタイプは、治療している障害のタイプ、セッションの長さ、及び、例えば積極的な治療又は控えめな治療のような治療の程度に基づいて選択することができる。更に、入力装置は、信号特性の所定メニューから選択された入力装置に対する入力に従って、第1及び第2の印加刺激信号及び/又はチャージング信号を調節するように構成することができる。入力装置は、回転選択ノブ、所定メニューを示すタッチスクリーン、キーボード、及び/又はマウスとすれば良い。
[0300] コンピュータ271は、第1及び第2の刺激信号の印加を同期させるように構成することができる。コンピュータは、第1及び第2の点に印加する少なくとも1つのテスト信号の強度を徐々に大きくすることによって最適な信号強度を決定するためのプログラムを含むことができる。最適な信号強度は、第1又は第2の神経要素に関連する筋肉が、例えば痙攣によって少なくとも1つのテスト信号に反応し始める信号強度に設定される。
[0301] 一実施形態において、コンピュータは、治療セッションの進展を追跡するように構成することができる。このため、第1及び第2の印加刺激信号は、例えば少なくとも20回、最大で100,000回反復する信号パルスとして供給することができる。
[0302] 第1及び第2の刺激信号は、取り付けた刺激信号発生器から利用可能ないずれかの信号から選択することができる。この刺激信号発生器は、電気電圧信号、音波刺激信号、超音波刺激信号、定常状態又は動的磁界が印加される磁気刺激信号、光刺激信号、熱刺激信号、低温刺激信号、振動刺激信号、圧力刺激信号、真空吸引刺激信号、及び脊椎生物により検知可能な他のいずれかの感覚信号を発生することができる。第1及び第2の刺激信号の一方が電気電圧信号である場合、第1及び第2の刺激信号の他方が、音波刺激信号、超音波刺激信号、定常状態又は動的磁界が印加される磁気刺激信号、光刺激信号、熱刺激信号、低温刺激信号、振動刺激信号、圧力刺激信号、真空吸引刺激信号、及び脊椎生物により検知可能な他のいずれかの感覚信号から選択することができる。
[0303] パルス信号の各パルスの持続時間及び周波数は、患者の情報及び治療のタイプに基づいて選択することができる。典型的に、第1及び第2の刺激信号は100Hz以下の周波数を有し、周期パルスは40マイクロ秒から10ミリ秒の持続時間を有する。
[0304] iCENSモードの実施例
[0305] 本発明の一実施形態においては、iCENSモードを用いて、第1の神経成分と第2の神経成分との間の神経経路のリハビリテーションを行うことができる。先に論じたように、第1の神経成分及び第2の神経成分は、以下の3つの組み合わせのいずれかであり得る。
a.第1の神経成分については皮質ニューロンであり、第2の神経成分については下位運動ニューロン。
b.第1の神経成分については第1の皮質ニューロンであり、第2の神経成分については第2の皮質ニューロン。
c.第1の神経成分については感覚ニューロンであり、第2の神経成分については皮質ニューロン。
[0306] 皮質と下位運動ニューロンとの間の神経伝達経路に適用されるような双極性神経刺激の方法を、dCMSと称する。
[0307] dCMSを適用した結果として、運動経路の興奮性が著しく向上する。この向上は、動物及び人間の双方で観察された。対照動物及び、痙攣症候群の症状に関連した重篤な運動障害があったSCI動物において、同側経路及び反対側経路の双方において結果を観察した。同側皮質の最大閾値は低下した。自発アクティビティの増大及び脊椎運動ニューロンにより引き起こされる応答の強化によって、筋肉強度の改善が達成された。反対側の非治療M1(運動皮質)の刺激により引き起こされた脊椎運動ニューロン応答及び筋肉痙攣も著しく増大した。dCMSによって誘発された効果は、刺激フェーズを超えて持続し、実験の全期間にわたって継続した。これについては以下で更に詳細に説明する。
[0308] 電極は、表面上、又は皮膚の下に局所的に取り付けるか、又は手術により植え込むことができる。一実施形態では、アクティブ電極を運動皮質(第1の点)上に配置し、基準電極を所望の筋肉(第2の点)上に配置して、電流が脊髄を流れることを可能とする。別の実施形態では、アクティブ電極を所望の筋肉(第1の点)上に配置し、基準電極を運動皮質(第2の点)上に配置して、電流が脊髄を流れることを可能とする。更に別の実施形態では、アクティブ電極も基準電極も運動皮質上に配置しない。代わりに、アクティブ電極及び基準電極の双方を、身体の対向側である所望の第1及び第2の点の筋肉上に配置して、電流が骨髄を流れることを可能とする。
[0309] 本開示の一実施形態においては、本開示の目的のために、双極性皮質−筋肉刺激装置を用いて電気パルスを供給することができる。図10は、双極性皮質−筋肉刺激装置を用いた例示的な接続スキームを示す。双極性皮質−筋肉刺激装置は、LCDディスプレイを有するか又はソフトウェア制御システムにコンピュータ接続を有する刺激装置ボックスを含むことができる。限定でない説明のための例では、以下の構成を有する双極性皮質−筋肉刺激装置を用いることができる。
[0310] パルスタイプ:低電流
[0311] 波形:矩形
[0312] パルス持続時間 0.5から5ms
[0313] パルス振幅 1から50mA(電圧 1から35V)
[0314] 周波数範囲 0.05から100Hz
[0315] 固有安定性/過刺激を防ぐための停止機能(features)
[0316] 刺激強度が正の出力及び負の出力における電圧間での差となるように、出力を接続する。双方の出力を同期させて、これらの2つの出力間の差の絶対値が常に同一であるようにする。このため、正の出力が上昇すると、負の出力は同一量だけ低下しなければならない。例えば、正の出力が+4Vから+5Vに上昇すると、負の出力は−1Vから0Vに低下する。
[0317] デジタル−アナログ変換器(DAC)を用いて、刺激装置ボックスのアナログ出力を介してアナログ出力すなわち刺激を与えることができる。DACは、ソフトウェア制御のもとで一定のDC電圧レベル又は波形を供給することができる。DACの出力は、プログラマブル減衰ネットワークを介して異なる出力範囲を生成するように供給することができる。次いで、信号は、バッファ増幅器を介して正及び負の出力に分割することができる。
[0318] 任意に、電極ワイヤの各々を分割して多数の位置に接続することができる。例えば、アクティブ電極を、各々がそれ自身の電極を有する多数のワイヤに分割することができる。これは、人間での適用において多くの領域に刺激を与える必要がある場合に重要である。例えば、皮質では、オペレータは、病巣の刺激には1つのみのアクティブ電極を用いるか、又は、もっと広範であるが痛みの軽い刺激には2つ以上のアクティブ電極を用いることができる。また、筋肉では、オペレータは肢のもっと多くの部分を同一セッションに含むことができる。個々の電極サイズは約5cm2としなければならない。
[0319] このシステムを用いて、脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することができる。少なくとも1つのアクティブ電極は、第1の点において又は第1の点に近接して配置する。少なくとも1つの基準電極は、第2の点において又は第2の点に近接して配置する。先に論じたように、第1の点の各々は脊椎生物の脊柱の一方側に位置し、第2の点の各々は脊柱の対向側に位置する。第1の点及び第2の点の各々の位置は、脊椎生物の運動皮質及び筋肉から個別に選択することができる。各筋肉は少なくとも1つの神経を含む。少なくとも1つのアクティブ電極と第2の電極との間に電流を流す。電流の少なくとも1つの経路は、脊柱を横切り、第1の点と第2の点との間を通る。
[0320] 一実施形態では、少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の一方は、運動皮質において又は運動皮質に近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。かかる電極は、肢を有する哺乳動物の運動皮質又は人間の運動皮質において又はこれに近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を脊椎生物に配置する際には、電流の少なくとも1つの経路が運動皮質と筋肉との間の運動経路を含むようにすることができる。第1の点は運動皮質における点とすることができ、第2の点の一方は筋肉における点とすることができる。あるいは、第2の点は運動皮質における点とすることができ、第1の点は筋肉における点とすることができる。
[0321] 別の実施形態においては、少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の全ては、脊椎生物の筋肉において又は筋肉に近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。このため、少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の全ては、肢を有する哺乳動物の肢又は人間の肢における筋肉において又はこれに近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を脊椎生物に配置する際には、第1の点が第1の筋肉における点であり、第2の点が第2の筋肉における点であるようにすることができる。電流の少なくとも1つの経路は、第1の点に接続された少なくとも1つの第1の下位運動ニューロン及び第2の点に接続された少なくとも1つの第2の下位運動ニューロンを含むことができる。
[0322] 図1Aに示すように、少なくとも1つのアクティブ電極は単一のアクティブ電極とすることができ、少なくとも1つの基準電極は単一の基準電極とすることができる。あるいは、図10及び図11に示すように、少なくとも1つのアクティブ電極は複数のアクティブ電極とすることができ、及び/又は少なくとも1つの基準電極は複数の基準電極とすることができる。
[0323] 少なくとも1つのアクティブ電極又は少なくとも1つの基準電極のいずれかに多数の電極を用いる場合、多数の電極は同一の筋肉において又はそれに近接して配置することができる。例えば、複数の第1の電極は運動皮質において又は運動皮質に近接して配置することができ、複数の第2の電極は筋肉において又は筋肉に近接して配置することができる。更に、複数の第1の電極は第1の筋肉において又は第1の筋肉に近接して配置することができ、複数の第2の電極は、第1の筋肉とは異なる第2の筋肉において又はそれに近接して配置することができる。上述の例の各々において、少なくとも1つのアクティブ電極は複数の第1の電極とすることができ、少なくとも1つの基準電極は複数の第2の電極とすることができ、又はその逆とすることができる。
[0324] 少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極の各々は、いずれかの方法によって、具体的には局所的に、皮膚の下に、及び/又は手術による植え込みによって、脊椎生物の運動皮質又は筋肉に取り付けるように構成することができる。この場合、本開示の方法は、少なくとも1つのアクティブ電極及び少なくとも1つの基準電極を局所的に、皮膚の下に、及び/又は手術による植え込みによって脊椎生物の運動皮質又は筋肉に取り付けることを含むことができる。
[0325] 更に別の実施形態においては、システムは、電圧を印加することによって脊柱に位置する脊椎生物の筋肉の動きに影響を及ぼす下位運動ニューロンを識別するための少なくとも1つのプローブを含むことができる。かかる少なくとも1つのプローブの一例は、図1Aに示し「Rec」と標示する1対の純粋なイリジウムの微小電極である。設けられる場合、少なくとも1つのプローブを用いて、脊柱における脊椎生物の筋肉の動きに影響を与える下位運動ニューロンを識別することができる。その後、この筋肉をアクティブ電極又は基準電極に取り付ける。少なくとも1つのプローブを用いて、下位運動ニューロンに対する電気刺激の強度が増大しても筋肉の筋肉収縮がそれ以上は増大しない下位運動ニューロンのための最大刺激強度を求めることができる。次いで、求めた最大刺激強度に比例して、電流を流している間の少なくとも1つのアクティブ電極と少なくとも1つの電極との間の電圧差を設定することができる。例えば、電圧差は、最大刺激強度と同じ電圧に設定することができ、又は最大刺激強度の所定の割合(例えば25%から200%)とすることができる。
[0326] 一実施形態では、刺激装置すなわち信号発生器をEMG(筋電計、筋肉アクティビティモニタ)モニタに結合して、治療セッションを行う筋肉収縮のレベル(例えば50%)を調節することができる。バイタルサイン(心拍数、血圧、呼吸数)のために同様のモニタを追加することができる。電極ゲルを用いて、電気分解による熱傷を防ぐことができる。
[0327] aCENSの実施例
[0328] 本発明の別の実施形態においては、aCENSを用いて、第1の神経成分と第2の神経成分との間の神経経路のリハビリテーションを行うことができる。先に論じたように、第1の神経成分及び第2の神経成分は以下の3つの組み合わせのいずれかとすることができる。
a.第1の神経成分については皮質ニューロンであり、第2の神経成分については下位運動ニューロン。
b.第1の神経成分については第1の皮質ニューロンであり、第2の神経成分については第2の皮質ニューロン。
c.第1の神経成分については感覚ニューロンであり、第2の神経成分については皮質ニューロン。
[0329] 一般に、直流(DC)刺激は、中枢神経系の興奮性を調整するために用いられる非侵襲性の技法である。DC刺激が経頭蓋で送出されると、正又は負にチャージされた刺激電極(それぞれ陽極又は陰極)は刺激される皮質領域に位置付けられるが、基準電極は通常ある距離を置いて配置される。経頭蓋DC刺激(tcDC)を用いて、運動皮質の興奮性を調整し、痛みの認知を改善し、認識機能を調整し、及び/又はうつ状態を治療する。DC刺激の効果は、印加電界に対するニューロンの位置関係、機能ニューロン回路間の相互作用、及び電極の極性に依存する。例えば、陰極刺激はニューロンアクティビティを抑圧するが、陽極刺激はニューロンを活性化する。
[0330] 脊髄は、皮質及び皮質下の入力を伝達する興奮性及び抑制性の介在ニューロンの様々な集団を含む。これらの介在ニューロンに作用することによって、更に下位運動ニューロン並びに上昇及び下降プロセスによって、脊椎レベルにおけるDC刺激は、脊髄に対する皮質及び皮質下の入力に調整的な影響を及ぼし得る。DC刺激は脊髄損傷後の機能回復を改善することがわかっているが、脊椎ニューロンの興奮性に対するtsDC(trans-spinal direct current)の影響を調べた研究はごく少数しか行われておらず、皮質運動ニューロン伝達に対するその影響の調査は行われたことがない。
[0331] 本開示に至る研究によって、tsDC極性が自発アクティビティに与える差異的な調整的影響が示される。これについて以下に記載する。皮質で誘発された下腿三頭筋(TS)の痙攣は、c−tsDC(cathodal trans-spinal direct current)の間に増大し、次いで終了後に抑圧され、a−tsDC(anodal trans-spinal direct current)の間に軽減し、次いで終了後に増大した。a−tsDC及びrCESはa−tsDCのみと同様の効果を生じたが、c−tsDC及びrCESは皮質で誘発されたTS痙攣において最大の改善を示した。
[0332] 一実施形態では、DC刺激を用いて皮質刺激に対する脊椎応答を改善することができる。多くの神経学的な障害では、皮質と脊髄との間の接続性が損なわれる(例えば脊髄損傷又は卒中)。刺激プロトコルを用いて脊髄応答を強化することができる。以下に記載する研究で示すように、c−tsDCの後効果を表す際にニューロンアクティビティが重要である。具体的には、c−tsDCは、刺激の間の皮質−脊椎アクティビティを最適化し、他の時にはこれを抑圧することができる。c−tsDCが皮質アクティビティと相互作用して異なる結果を生じる能力は、c−tsDCの多くの臨床的な使用をサポートする興味深い現象である。これをリハビリテーション戦略に変換して、人工的な皮質刺激(自発的な筋肉活性化が不可能である場合)又はc−tsDCの印加中の自発的な訓練のいずれかを用いて信号応答を強化することができる。更に、c−tsDCの抑圧効果を用いて、多くの神経学的な障害の結果生じる痙攣を管理することができる。
[0333] C−tsDCによって、運動ニューロンはシナプス活性化に対する応答性が高くなるが、自発性アクティビティを発生する傾向が低くなる場合がある。これにより、c−tsDCの間に皮質で誘発されたTS痙攣がなぜ強くなるかを説明することができる。更に、シナプス前過分極は興奮性シナプス後電位(EPSP)を上昇させることが示されている。Eccles J.、Kostyuk, P. G.、Schmidt, R.F.の「The effect of electric polarization of the spinal cord on central afferent fibres and on their excitatory syaptic action」、J. Physiol.、162:138〜150(1962年)、Hubbard J. I.及びWillis W. D.の「Hyperpolarization of mammalian motor nerve terminals」、J. Physiol.、163:115〜137(1962年)、Hubbard J. I.及びWillis W. D.の「Mobilization of transmitter by hyperpolarization」、Nature193:174〜175(1962年)を参照のこと。かかる過分極は、皮質−脊椎路末端及び皮質−脊椎路と脊椎運動ニューロンとの間の脊椎介在ニューロンにおいて発生すると考えられている。このため、c−tsDCにより誘発された神経末端過分極及び樹状突起脱分極は、皮質で誘発されたTS痙攣を増大させる。
[0334] 以下に提示する本開示に至る研究において、皮質で誘発されたTS痙攣は、c−tsDCの後に抑圧され、a−tsDCの後に強化された。脳のDC刺激は同様の結果を有する。陽極刺激は人間及びマウスにおける運動皮質の興奮性を増大させるが、陰極刺激はこれを軽減させる。陽極が誘発した興奮性は膜の脱分極に依存するように見えるが、陰極が誘発した抑圧は膜の過分極に依存する。更に、陽極刺激及び陰極刺激の双方の後効果は、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)グルタメートレセプタを伴う。
[0335] rCESとc−tsDCとを対にすると、c−tsDC終了後に皮質で誘発されたTS痙攣の抑圧を防ぐだけでなく、痙攣を著しく改善することができる。図19に示すように、C−tsDCは、皮質運動ニューロン経路内のシナプス前過分極及びシナプス後脱分極を含む分極パターンを誘発するように見える。
[0336] 理論上は、負電極に近接したニューロンコンパートメントは脱分極するはずであり、離れたコンパートメントは過分極するはずである。従って、樹状突起が背側に向き軸索が腹側に向いたニューロンの興奮性は上昇するはずであり、対向方向(腹側又は背側)に向いたニューロンの興奮性は低下するはずである。分極電流の方向を逆にすると、結果として膜電位が逆に変化する。負(−)及び正(+)の符号は膜電位の状態を示す。CTは皮質脊椎路であり、INは介在ニューロンであり、MNは運動ニューロンである。
[0337] このパターンは、rCESと組み合わせると、長期強化を引き起こす。具体的には、シナプス前過分極はEPSPのサイズを大きくすることが示されており、これは後に神経伝達物質の解放を増大させ、これによって皮質入力を増大させる。以下に記載する研究では運動皮質に低周波刺激を与えたが、皮質入力の実際の周波数はおそらくこれよりも著しく高かった。更に、後シナプス脱分極はNMDAレセプタを活性化する。神経伝達物質のシナプス前の増大と安定したシナプス後の脱分極との関連付けによって、長期強化の誘発を引き起こす。これは、皮質で誘発されたTS痙攣のc−tsDC誘発による強化の主な機構として機能することができる。更に、脊椎回路に対する抑制性入力の低減によって、rCES及びc−tsDCの対の後効果を与えることができる。
[0338] 図11に、tsDC刺激装置を用いる方法を示す。刺激システムは、単一のシステムに一体化された多数の独立した刺激ユニットを含み、これらは1つのボックス内にあるか、又は複数のボックス内にあって相互に電気的に接続されている。「分極」と標示された第1の刺激ユニットは、脊柱における点と中枢神経系の外側に位置する点との間に分極電流を送出する。任意に、「脳」と標示された第2の刺激ユニットは、分極電流と同期して又は分極電流と非同期に運動皮質に電流を送出して、第1の刺激ユニットが提供する刺激を強化することができる。任意に、「筋肉1」と標示された第3の刺激ユニットは、分極電流と同期して又は分極電流と非同期に筋肉領域に電流を送出して、第1の刺激ユニットが提供する刺激を強化することができる。第3の刺激ユニットは、第2の刺激ユニットと共に又は第2の刺激ユニットなしで用いることができる。「筋肉2」と標示された第4の刺激ユニットによって表す追加の刺激ユニットを、第3の刺激ユニットと共に用いて、別の筋肉領域に単極性の負の電流を送出することができる。
[0339] 図12に、脊椎生物に分極電流を印加する点を概略的に示す。図2にはマウスを概略的に示すが、この構成は人間を含むいかなる脊椎生物にも使用可能である。具体的には、「tsDC」と標示されたアクティブ電極を脊柱に位置する第1の点上に配置する。これは、第1の脊髄レベルと最後の脊髄レベルとの間でこれらを含む脊柱内のいずれかのレベルとすることができる。「Ref」と標示された基準電極は、中枢神経系の領域以外すなわち脳及び脊柱の外側のいずれかの領域に位置する第2の点上に配置する。アクティブ電極が接触する脊柱の領域の刺激は、基準電極が接触する領域の刺激よりも優先されるので、基準電極は脊柱から一定の距離だけ離して配置することが好ましい。図12には基準電極を単一の電極として示すが、図11に示すように基準電極を複数の基準電極によって置換することができる。単一の基準電極の代わりに複数の基準電極を用いることで、アクティブ刺激が与える電気的刺激の効果が増大する。複数の基準電極における電流密度を低く維持し、アクティブ電極における電流密度を高く維持することができるからである。
[0340] 典型的に、基準電極(複数の基準電極)における電圧は一定に保持され、アクティブ電極における電圧は電気パルスの形態を有し、そのパルス持続時間は0.5から5msであり、周波数は0.5Hzから5Hzであるが、これよりも短い及び長いパルス持続時間並びに低い及び高い周波数も使用可能である。アクティブ電極に印加される電気パルスの極性は、用途に応じて正又は負のいずれかとすることができる。
[0341] 脊椎生物が人間である場合、骨盤前方に配置した1対の基準電極によって脊柱の領域に有効な刺激を与えることができる。1対の基準電極の配置について最も有効な構成の1つは、右側の上前腸骨棘における点及び左側の上前腸骨棘における点を用いる。この場合、単一の基準電極を用いる実施形態において基準電極を配置するための第2の点を、2つの基準電極を配置する第2の点及び追加の点によって置換する。換言すると、脊椎分極電流のための基準電極は、分割されて右及び左の上前腸骨棘に配置された1対の基準電極として実施することができる。
[0342] 第1の点すなわちアクティブ電極を配置した点の位置は、治療を行う神経筋肉の症状の性質によって決まる。第1の点の位置は、治療の効果を最大限とするように選択することができる。例えば、治療が、脊柱のある位置での損傷について脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することを意図している場合、第1の点は、脊椎損傷部位の直上すなわちその部位よりも脳に近接した脊髄レベルに位置することができる。換言すると、脊髄損傷の治療では、分極電流のアクティブ電極は、一次電流が損傷部位を通過するように配置することができる。アクティブ電極は損傷部位の直上の脊髄レベルに配置し、基準電極は上述したように配置することができる。一実施形態では、脳における反復刺激(アクティブ電極及び基準電極(複数の電極)を介して一次電流と同期して又は非同期に印加するパルスDC電流)を、分極脊椎電流と組み合わせることができる。
[0343] 治療が、脳における外傷又は機能障害によって引き起こされた症状について脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することを意図している場合、第1の点は脊髄レベル1すなわち脳に最も近い脊柱の部分に位置することができる。脳における外傷又は機能障害によって引き起こされた症状は、脳性小児麻痺、筋萎縮性側策硬化症(ALS、ルーゲーリッグ病としても知られる)、外傷性脳障害、卒中等のような身体障害を含む。換言すると、障害が脳に位置する場合の症状の治療では、分極電極はターゲットの肢を刺激する脊椎領域上に位置することができる。脚に影響する症状の治療では、アクティブ分極電極は、腰膨大よりも上の脊椎レベルT10からL1に配置しなければならない。腕に影響する症状の治療では、アクティブ分極電極はT2及びもっと下のレベルに配置することができる。一実施形態では、脳における反復刺激(アクティブ電極及び基準電極(複数の電極)を介して一次電流と同期して又は非同期に印加するパルスDC電流)を、分極脊椎電流と組み合わせることができる。
[0344] ALS等の症状を治療するため、症状によって影響を受けるターゲット筋肉に(局所化パルスDC電流の形態の)刺激介入(stimulation intervention)を付与することができ、これは、ターゲット筋肉を刺激する脊髄領域に対する分極電流の印加及び運動皮質に対する(局所化パルスDC電流の形態の)局所刺激の印加と同時に行うことができる。症状に応じて、これらの治療は異なる領域において反復しなければならない。
[0345] 治療が、末梢神経における損傷又は末梢神経における機能不全が引き起こした身体障害について脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することを意図している場合、第1の点は、対応する脚の回路が位置する脊髄レベルに位置することができ、これは好ましくは損傷又は身体障害の位置に最も近接した脊髄レベルである。神経に位置する損傷又は身体障害が引き起こす症状には、例えば、末梢の麻痺、分娩麻痺、及び/又は神経圧迫、張り、又は捻転(例えば座骨神経痛)による他の末梢神経の損傷が含まれる。分娩麻痺等の症状を治療するため、症状によって影響を受けるターゲット筋肉に(局所化パルスDC電流の形態の)刺激介入を付与することができ、これは、ターゲット筋肉を刺激する脊髄領域に対する分極電流の印加及び運動皮質に対する(局所化パルスDC電流の形態の)局所刺激の印加と同時に行うことができる。症状に応じて、これらの治療は異なる領域において反復しなければならない。
[0346] 脊柱に対する電気刺激は、単独で、又は脳及び/又は少なくとも1つの筋肉に対する追加の電気刺激と組み合わせて与えることができる。脳及び/又は少なくとも1つの筋肉に対して追加の電気刺激を同期して又は非同期で付与することの有効性は、損傷又は身体障害の性質によって異なる。
[0347] 図12において、脊椎生物の運動皮質に配置した2つの電極によって、脳に対する電気刺激を概略的に示す。脳に与える電気刺激は局所刺激であり、電気の運動皮質の領域は、第1の刺激ユニットによる脊柱の電気刺激と同期して又は非同期に刺激される。運動皮質に対する局所電気刺激は、図12に示すような同心電極対を用いて付与することができ、又は、例えば運動皮質において2つの異なる点に配置した第3の電極及び第4の電極のような電極セットによって用いることができる。第3の電極及び第4の電極は、図11において、「脳」と標示された第2の電極ユニットに接続された2つの電極として示す。
[0348] 第1の刺激ユニットによる脊柱の電気刺激と同期して又は非同期に、少なくとも1つの筋肉すなわち単一の筋肉又は複数の筋肉に対して追加の電気刺激を与えることができる。脳に対する局所電気刺激を用いる場合、少なくとも1つの筋肉に対する追加の電気刺激は、第2の刺激ユニットによる脳への局所電気刺激と同期して又は非同期に付与することができる。追加の電気刺激は、図11において「筋肉1」及び「筋肉2」と標示する刺激ユニット等、第3の刺激ユニット及び/又は追加の刺激ユニット(複数のユニット)によって与えることができる。筋肉を刺激する刺激ユニットに、単一の対の電極又は多数の対の電極を接続することができる。図12は、追加の電極のための例示的な配置スキームを概略的に示し、追加の電極はマウスの前肢に配置されている。概して、少なくとも1対の追加電極は、中枢神経系を除いた身体のいずれかの部分、特にいずれかの肢における1対又は多数対の点に配置することができる。
[0349] 図11の刺激ユニットの各々に接続された電極は、単一の対の電極又は多数の対の電極とすることができる。電極の各対は、アクティブ電極及び基準電極を含む。更に、各基準電極を複数の基準電極によって置換して、単一の基準電極に電流が集中することを防ぐと共に、対応するアクティブ電極が存在する点において電流密度を高くすることができる。
[0350] 第2の刺激ユニットは、分極電流と同期して又は分極電流とは非同期に運動皮質に対して単極性の正の電流を送出して、第1の刺激ユニットが与える刺激を強化することができる。更に、「筋肉1」と標示された第3の刺激ユニットは、分極電流と同期して又は分極電流とは非同期に筋肉領域に対して単極性の負の電流を送出して、第1の刺激ユニットが与える刺激を強化することができる。運動皮質に印加される電圧が概して正であり少なくとも1つの筋肉に印加される電圧が概して負であるように電気刺激の極性を選択することによって、特に電気刺激が同期して印加される場合の治療の有効性を高めることができる。
[0351] 上述のように、図11の第1及び第2の端極性刺激ユニットを同期させて、同時にパルスを送出することができる。各ユニットは独立した制御パネルを有することができる。第3の分極刺激ユニットは、第1及び第2の刺激装置と同期をとるか、又は独立してすなわち第1及び第2の刺激装置とは非同期に機能することができるという選択肢を有することができる。更に、接続当たりの電極数(例えば4個のような2つ以上の電極に分割される)は、先に説明したような前述の設計と同様にすることができる。用途によっては、人間の介入には、この構成における双極性皮質−刺激装置がいっそう好ましい。刺激装置は刺激パターンの設計において柔軟性が高く、更に、安全性を高めると共に痛みを少なくすることができるからである。
[0352] 一般的には、本明細書に記載する本発明は、脊椎生物の神経筋肉の症状を改善するためのシステムを用いて実施することができる。このシステムは、少なくとも1つのアクティブ電極、少なくとも1つの基準電極、刺激装置、少なくとも1つの第1のリードワイヤ及び少なくとも1つの第2のリードワイヤを含み、これらを用いて脊椎生物を含む電気回路を形成する。
[0353] 少なくとも1つのアクティブ電極の各々は、第1の点において又は第1の点に近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。第1の点は、運動皮質及び筋肉から選択され、脊椎生物の脊柱の一方側に位置する。少なくとも1つのアクティブ電極は、図1Aに示すような単一のアクティブ電極とすることができ(図1Aの構成要素の説明のため実験データのセクションを参照のこと)、又は図10に示すような複数のアクティブ電極とすることができ、又は図11に示すような刺激ユニット(「脳」と標示されている)に取り付けたアクティブ電極及び別の刺激ユニット(「分極」と標示されている)に取り付けた少なくとも1つの別のアクティブ電極を含む。
[0354] 少なくとも1つの基準電極の各々は、第2の点において又は第2の点に近接して配置されるようなサイズ及び構成とすることができる。第2の点は、運動皮質及び筋肉から選択され、脊椎生物の脊柱の対向側に位置する。少なくとも1つの基準電極は、図1Aに示すような単一の基準電極とすることができ、又は図10に示すような複数の基準電極とすることができ、又は図11に示すような刺激ユニット(「筋肉」と標示されている)に取り付けた基準電極及び別の刺激ユニット(「分極」と標示されている)に取り付けた少なくとも1つの別の基準電極を含む。
[0355] 刺激装置は、電気刺激波形を発生するように構成することができる。少なくとも1つの第1のリードワイヤの各々は、刺激装置を、少なくとも1つのアクティブ電極の中の1つのアクティブ電極に結合する。少なくとも1つの第2のリードワイヤの各々は、刺激装置を、少なくとも1つの基準電極の1つに結合する。一実施形態において、システムは、第1の点と第2の点との間で脊柱を通る運動経路を介した電流経路を形成するように構成することができる。別の実施形態では、システムは、脊柱における第1の点と中枢神経系の外部の第2の点との間で電流経路を形成するように構成することができる。
[0356] 刺激装置は、0.5msから5msの持続時間を有する複数のパルスとして電流を流すように構成することができるが、これよりも短い持続時間及び長い持続時間も使用可能である。更に、刺激装置は、0.5Hzから5Hzの周波数を有する複数のパルスとして電流を流すように構成することができる。
[0357] このシステムは更に、電流が流れている間又はその直前に脊椎生物に肢を動かすプロンプトを供給するためのプロンプト手段を含むことができる。プロンプトは、上述の実施形態のいずれにおいても供給することができる。プロンプトは、聴覚プロンプト、視覚プロンプト、又は触覚プロンプトとすることができる。プロンプト手段は、電流の流れと同期してプロンプトを発生するように構成された自動化制御ユニットとすることができる。プロンプト手段は、プロンプトを理解することができるか又は(例えば条件反射によって)プロンプトを認識するように訓練されたいずれかの脊椎生物について使用可能である。この場合、電流が流れている間又はその直前に肢を動かすプロンプトを脊椎生物に供給することができる。プロンプトは、電流の流れと同期してプロンプトを発生するように自動化制御ユニットによって供給することができる。
[0358] あるいは又はこれに加えて、脊椎生物は人間である場合があり、プロンプトは、この人間に対して、又はプロンプトを理解することができるか又はプロンプトを認識するように訓練された人間でない脊椎生物に対して、別の人間から供給することができる。別の人間はセラピストである場合がある。更に、プロンプト手段は、場合によっては最初にセラピスト又は訓練者に直接プロンプトを供給し、次いでセラピスト又は訓練者が脊椎生物にプロンプトを提供することを可能とすることによって、間接的にプロンプトを脊椎生物に供給することができる。
[0359] 脊椎生物は哺乳動物である場合があり、筋肉は哺乳動物の肢における筋肉である場合がある。脊椎生物は人間である場合があり、筋肉は人間の肢における筋肉である場合がある。
[0360] 刺激装置は、少なくとも1つのアクティブ電極に対する第1の電圧及び少なくとも1つの基準電極に対する第2の電圧を同時に印加するように構成することができる。更に、刺激装置は、図10及び図11に示すように複数の経路に電流を流すように構成することができる。複数の経路は、運動皮質と複数の筋肉の1つとの間の第1の経路(例えば図11において第1の刺激ユニット及び第2の刺激ユニットが与えるような)及び複数の筋肉の2つの間の第2の経路(例えば第3の刺激ユニットが与えるような)を含むことができる。複数の経路の各々は脊柱を通ることができる。この場合、複数の経路の少なくとも1つが脊柱を通る。
[0361] 本開示のシステムにおいては、刺激装置は、少なくとも1つのアクティブ電極に対する第1の電圧及び少なくとも1つの基準電極に対する第2の電圧を同時に印加するように構成することができる。更に、刺激装置は、少なくとも1つのアクティブ電極に第1の電圧を印加すると共に少なくとも1つの基準電極に第2の電圧を印加することによって電流を供給するように構成された少なくとも1つの刺激ユニットを含むことができる。この場合、少なくとも1つのアクティブ電極に第1の電圧を印加すると共に少なくとも1つの基準電極に第2の電圧を印加して脊椎生物の神経筋肉の症状を改善する少なくとも1つの刺激ユニットを含む刺激装置によって電流を供給することができる。
[0362] 少なくとも1つの刺激ユニットは、第1の電圧及び第2の電圧を同時に印加するように構成することができる。この場合、少なくとも1つの刺激ユニットは、第1の電圧及び第2の電圧を同時に印加して脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することができる。
[0363] 少なくとも1つの刺激ユニットは複数の刺激ユニットを含むことができる。第1の刺激ユニットは第1の電圧を印加するように構成することができ、第2の刺激ユニットは、第1の刺激ユニットによる第1の電圧の印加と同時に第2の電圧を印加するように構成することができる。このため、第1の電圧は第1の刺激ユニットによって印加することができ、第2の電圧は第2の刺激ユニットによって同時に印加することができる。
[0364] 複数の刺激ユニットは更に、脊椎生物の脳と脊椎生物の筋肉との間に分極電流を送出するように構成された第3の刺激ユニットを含むことができる。第3の刺激ユニットを用いて、脊椎生物の脳と脊椎生物の筋肉との間に分極電流を送出して、脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することができる。第3の刺激ユニットを第1及び第2の刺激ユニットと同期させることで、第1の電圧及び第2の電圧と同時に分極電流を送出することができる。あるいは、第3の刺激ユニットを第1及び第2の刺激ユニットとは独立して動作するように構成することで、第1の電圧及び第2の電圧とは非同期に分極電流を送出することができる。この場合、第3の刺激ユニットを第1及び第2の刺激ユニットとは独立して動作させることで、第1の電圧及び第2の電圧とは非同期に分極電流を送出することができる。
[0365] 少なくとも1つの刺激ユニットは、第1の電圧及び第2の電圧を同時に印加するように構成された刺激ユニットを含む複数の刺激ユニットとすることができる。第1の電圧及び第2の電圧は刺激ユニットによって同時に印加することができる。第3の刺激ユニット等の別の刺激ユニットは、脊椎生物の脳と脊椎生物の筋肉との間に分極電流を送出するように構成することができる。この場合、別の刺激ユニットを用いて、脊椎生物の脳と脊椎生物の筋肉との間に分極電流を送出することができる。例えば第3の刺激ユニットのような別の刺激ユニットを、第1の電圧及び/又は第2の電圧を送出する刺激ユニットと同期させることで、第1の電圧及び第2の電圧と同時に分極電流を送出することができる。あるいは、別の刺激ユニットを刺激ユニットとは独立して動作するように構成することで、第1の電圧及び第2の電圧とは非同期に分極電流を送出することができる。この場合、別の刺激ユニットを刺激ユニットとは独立して動作させることで、第1の電圧及び第2の電圧とは非同期に分極電流を送出して脊椎生物の神経筋肉の症状を改善することができる。
[0366] 第1の実験(iCENSを使用)
[0367] 第1の実験において、iCENSの亜種であるdCMSをマウスに適用した。本明細書において、電気刺激の新しい構成を提供し、これを麻酔をかけた対照マウス及び脊髄損傷(SCI)のマウスにおいて試験した。2つの電極を介して定電圧出力を送出した。筋肉に負電圧出力(−1.8から−2.6Vの範囲)を送出し(2ワイヤ電極、500μm)、一次運動野(M1)に正電圧出力(+2.4から+3.2Vの範囲)を送出した(電極チップ、100μm)。この構成は、dCMSと名付けられ、100のパルスから成るものであった(1msのパルス持続時間、1Hzの周波数)。
[0368] 実験的な試験において、2つの電極を介して定電圧出力を送出した。筋肉に負電圧出力(−1.8から−2.6Vの範囲)を送出し、一次運動野(M1)に正電圧出力(+2.4から+3.2Vの範囲)を送出した。この構成は100のパルスから成るものであった(1msのパルス持続時間、1Hzの周波数)。SCIの動物では、dCMSの後、筋肉収縮は反対側(456%)及び同側(457%)のヒ腹筋で著しく改善した。この改善は、実験期間にわたって持続した(60分)。脊髄の反対側(313%)及び同側(292%)で、M1最大閾値の低減及び脊椎運動ニューロンにより引き起こされる応答の強化によって、筋力の向上が達成された。更に、単一の脊椎運動ニューロンから記録される自発性アクティビティは、反対側(121%)及び同側(54%)において実質的に増大した。興味深いことに、非治療M1の刺激(dCMSの受信なし)により引き起こされた脊椎運動ニューロン応答及び筋肉痙攣も著しく増大した。対照動物からも同様の結果が得られたが、変化は比較的小さかった。これらの所見により、dCMSは運動経路の機能性を改善することができ、脊髄損傷の影響を劇的に減衰させることが実証された。
[0369] SCIの動物では、dCMSの後、筋肉収縮は反対側(456%)及び同側(457%)のヒ腹筋で著しく改善した。この改善は、実験期間にわたって持続した(60分)。脊髄の反対側(313%)及び同側(292%)で、M1最大閾値の低減及び脊椎運動ニューロンにより引き起こされる応答の強化によって、筋力の向上が達成された。更に、単一の脊椎運動ニューロンから記録される自発性アクティビティは、反対側(121%)及び同側(54%)において実質的に増大した。興味深いことに、非治療M1の試験刺激(dCMSの受信なし)により引き起こされた脊椎運動ニューロン応答及び筋肉痙攣も著しく増大した。対照動物からも同様の結果が得られたが、変化は比較的小さかった。これらの所見により、dCMSは運動経路の機能性を改善することができ、従って治療の可能性を有し得ることが実証された。
[0370] 方法
[0371] 動物
[0372] 具体的には、CD−1、オス及びメスの成長したマウスで、国立衛生研究所(「NIH」)のガイドラインに従って実験を行った。全てのプロトコルはスタテン島大学のIACUCによって承認された。動物を12時間の明暗サイクルに置き、食料及び水を自由に摂取させた。
[0373] 脊髄打撲傷
[0374] ケタミン/キシラジン(90/10mg/kg i.p.)でマウスに充分に麻酔をかけた。MASCIS/NYUインパクタを用いて、脊椎セグメントT13において脊椎打撲傷を生成した(n=15マウス)。T10椎弓切除により露出させたT13脊髄レベル上に6.25mmの距離から1mm直径のインパクトヘッドロッド(5.6g)を落とした。損傷の後、その上にある筋肉及び皮膚を縫合し、30℃のヒーティングランプの下で動物を回復させた。傷を縫合した後に感染を防ぐため、軟膏を含有する硫酸ゲンタマイシンの層を塗布した。手術後、動物を手術前の条件下に120日間維持し、その後で試験を行った。回復時間は、動物が安定した慢性の脊髄損傷を発症したことが確実であるように選択した。
[0375] 行動試験
[0376] 損傷の120日後に行動試験を行って(n=SCIを有する15体の動物)、動物が後肢において、運動異常、痙攣症候群、及び知覚運動の不整合の行動上の徴候を示すことを確認した。高度な(双方の後肢で近接して対称な)行動異常を示した動物のみを用いた。試験環境に順応した後、3つの異なる試験手順を用いてこれらの行動問題を定量化した。
[0377] BMS(basso mouse scale):BMSの運動評定によって、後肢の運動能力を査定した。以下の評定尺度を用いた。0は足首の動きなし、1〜2はわずかな又は広範囲の足首の動きあり、3は足底が接地する(planter placing)又は足背でステップを含む(dorsal stepping)、4はしばしば足底でステップを踏む(planter stepping)、5は頻繁に又は常に足底でステップを踏む。5を超えるスコアの動物はなかった。各マウスを広い場所で4分間観察した後、スコアを決めた。
[0378] APS(abnormal pattern scale):SCIの後、動物は通常、筋肉の緊張状態の異常を生じ、これらは移動中に悪化し、(尾によって)地面から動物の体が持ち上がった。APSを提供して、SCI後に動物が示した筋肉の緊張状態の異常の数を2つの状況すなわち地面上及び空中に定量化した。以下の評定尺度を用いた。0は異常なし、1は以下の異常の各々、すなわち脚の正中線横断、外転、股関節の伸張又は屈曲、脚の反り又は広がり(fanning)、ひざの屈曲又は伸張、足首の背側湾曲又は足底の屈曲である。合計スコアは双方の後肢の異常の和であった。APSの最大スコアは12であった。異常パターンは通常、後肢の痙攣性の動きによって生じた。
[0379] HLS(horizontal ladder scale):後肢の正確な配置のため、動物は感覚系と運動系との間に正常な協調を有しなければならなかった。知覚運動の協調を試験するため、等間隔(2.5cm)の格子を用いた。格子状に動物を置き、連続して20歩だけ歩かせた。足の滑りはエラーとしてカウントした。
[0380] 電気生理学的手順
[0381] 無傷の動物(n=10)及びSCIの動物(n=21)に一定期間の電気生理学的実験を行った。ケタミン/キシラジン(90/10mg/kg i.p.)を用いて動物に麻酔をかけた。これは、皮質脊椎で引き起こされた電位を維持することがわかっている。電気生理学的手順は、最初の麻酔注入後45分までに開始して、Zandieh及びその同僚が薦めるように、麻酔の中レベルから高レベルで実験を行った。Zandieh S.、Hopf R.、Redl H.、Schlag M. G.の「The effect of ketamine/xylazine anesthesia on sensory and motor evoked potentials in the rat. Spinal Cord」41:16〜22(2003年)を参照のこと。これは前肢又は後肢の引き込み反射の存在によって決定された。必要に応じて、追加の投薬(最初の投与量の5%まで)を用いて麻酔をこのレベルに維持した。
[0382] 各動物の全背面を剃毛した。2本の後肢、腰椎、及び頭骨を覆う皮膚を除去した。2つのヒ腹筋(右及び左)を、血液供給及び神経を維持する周囲の組織から慎重に分離した。各マウスの腱をフック形の0〜3外科用シルクで縫い、力変換器に接続した。次に、第2、第3、及び第4腰椎骨において椎弓切除を行った(SCIの動物では損傷よりも下)。第13肋骨を骨の標識として用いて脊柱のレベルを識別した。脊髄レベルは、脊椎レベルに対して上方に3レベルまで変位しているので、記録は脊髄レベルで実行することを想定した。すなわち第5及び第6腰椎及び第1仙骨である。頭骨切開を行って、ブレグマから0〜1mmと正中線から0〜1mmとの間に位置する後肢筋肉の一時運動野(M1)(通常は右M1)を露出させた。硬膜は左側で無傷であった。露出した運動皮質領域を刺激電極によって調べて、最も弱い刺激を用いて反対側ヒ腹筋の最も強い収縮が得られた運動点の位置を特定した。刺激を与えていない運動経路でのdCMSの効果を試験することを目的とする実験において、M1の右及び左の後肢領域において2箇所の頭骨切開を行った。
[0383] 後肢及び前肢並びに尾の近位端を基部に堅固に固定した。また、双方のひざも基部に固定して、刺激を与えた筋肉から身体への及びその逆の動きの伝達を防いだ。筋肉を力変位変換器に取り付け、筋肉長を調節して最も強い痙攣力(最適な長さ)を得た。注文製作のクランプシステムに頭部を固定した。機器全体を防振テーブル上に配置した。実験中、放射熱によって動物を温い温度に保持した。
[0384] 露出した運動皮質に、ステンレス鋼の刺激電極(500μmの軸直径、100μmの先端)をセットした。ヒ腹筋肉の腹部に対となるステンレス鋼刺激電極(〜15mmの間隔、550μmの直径)を配置した。実験手順に従って、左及び右の筋肉に同一の電極を交互に配置した。次いで電極を刺激装置出力に接続した。純粋なイリジウムの微小電極(0.180の軸直径、1〜2μmの先端、5.0MΩ)によって細胞外記録を行った。脊髄の各半分(右及び左)において脊髄硬膜に慎重に形成した2つの小さい開口を介して、2つの微小電極を挿入した。この挿入は、脊髄のほぼ同じセグメントレベルで行った。記録部位に対してわずかに嘴側の(rostral to)組織に基準電極を配置した。腹部に近い皮膚の平らな部分に接地電極を接続した。電動式マイクロマニピュレータを用いて微小電極を前角へと進ませた。細胞外アクティビティは、標準的な最初の段階を経て、増幅し、ろ過し(バンドパス100Hzから5KHz)、4KHzでデジタル化し、更に処理するためにコンピュータに記憶した。データの捕捉及び解析のために、ADInstruments, Inc, Co(米国)のパワーラボデータ捕捉システム及びLabChart7ソフトウェアを用いた。
[0385] いったん脊髄の左側及び右側において単一の運動ニューロンを分離したら、同側のヒ腹筋に逆方向のパルス(−9から−10Vの範囲)はほとんど印加されない。Porterが述べたように、短い待ち時間(3.45ms)で逆方向に引き起こされた応答が存在することは、刺激を与えた筋肉を刺激するニューロンの近傍に記録電極が配置されていることを示した。Porter R.「Early facilitation at corticomotoneuronal neuronal synapses」、J. Physiol.207:733〜745(19700)を参照のこと。また、これらの記録を用いて筋肉刺激に対する同側及び反対側の脊椎応答の待ち時間を計算した。一時運動野(M1)に対して、最大刺激強度(通常は+8から+10V)の10パルスの皮質試験前刺激(陽極単極)を印加した。最大刺激強度は、筋肉収縮の更なる増大が観察されない場合の刺激強度として定義した。また、これを用いてM1刺激の最大閾値を計算した。
[0386] 次に、図1Aに示すように2つの電極を介してdCMSを適用した。一時運動野(M1)及び反対側のヒ腹筋に配置した電極にそれぞれ正及び負の電圧出力を接続した。2つのヒ腹筋の各々を力変換器(図示せず)に取り付けた。障害よりも下の脊髄の各側において、単一の運動ニューロンからの記録(Rec)を同時に行った。図1Aにおいて、IGMは同側のヒ腹筋を表し、CGMは反対側のヒ腹筋を表す。
[0387] 具体的には、負の出力をヒ腹筋に位置する電極に接続し、正の出力をM1に置いた。電圧の強度及び極性はコンピュータ制御とした。dCMS刺激の強度を調節して、同側の筋肉(M1に対する)収縮が、尾の収縮(視覚的に観察される)の出現の直前に到達する最大強度となるようにした。この応答レベルは、筋肉に対する負の出力(−2.8から−1.8Vの範囲)及びM1に対する正の出力(+2.2から+3.2Vの範囲)を同時に印加することによって達成された。この最大強度では、dCMSを付与し(100のパルス、1msのパルス持続時間、1Hzの周波数)、刺激パラダイムが終了した15〜20秒後に、M1に試験後(試験前と同一のパラメータで)刺激を付与した。
[0388] 図1Bは、実験設計について、パルス、範囲、持続時間、パルス数、及び周波数を示す。実験手順は、標本(preparation)を刺激しdCMSに対する反応を評価するように設計された3つのフェーズを含んだ。10の単極パルスの印加によって、試験前及び試験後フェーズにおいて、dCMSの印加の前及び後に、筋肉収縮力及び皮質で誘発された脊椎応答を評価した。これらの2つのフェーズにおいて、刺激電極及び記録電極の刺激タイプ及び位置は同じとした。dCMSフェーズの間、運動皮質(M1)及び反対側ヒ腹筋(CGM)にそれぞれ正のパルス及び負のパルスを印加することによって、標本に刺激を与えた。試験前及び試験後のフェーズ中に送出したパルス数は同一であった(10)が、dCMS中に送出したパルス数は100であった。実験の3つのフェーズの全てにおいて、持続時間(1ms)及び刺激の周波数(1Hz)は同じとした。各フェーズにおける刺激電流の形状を図示する。実験全体の間、同側及び反対側の筋肉痙攣並びに誘発された及び自発的な脊椎アクティビティを連続的に記録した。
[0389] 自発的なアクティビティを5分間追跡し、その後、実験を終了して動物に麻酔の致死量の過剰投与を行った。動物のサブグループでは、M1の最大閾値を再試験した。更に、このサブグループでは、dCMSの長期持続効果を明らかにするため、dCMS後の60分の間、20分ごとに、皮質で誘発された筋肉痙攣の大きさ及び脊椎応答を再試験した。
[0390] 白質染色
[0391] 各実験の終了時、動物に致死量のケタミンを注入した。脊柱の2つの部分(脊椎骨及び脊髄を含む)を解剖した。その1つの部分(1.5cm)は損傷の中心を含み、別の部分(〜0.5cm)は記録領域を含んだ(電極位置を確認するため)。組織を0.1mPBSの4%のパラホルムアルデヒドに一晩保持し(4℃)、4℃でPBSの20%スクロースにおいて24時間凍結防止した。脊柱を凍結搭載し、30μmのセクションに切断し、ポリ−L−リシン被覆ガラススライド上に配置した。損傷の中心を含む脊柱部分を嘴から順次切断した。スライドに付番して、損傷の中心に対する位置を識別した。
[0392] 損傷の中心を含む各SCI動物(n=6)からの4つのスライド、及び、傷害の上及び下からの損傷を受けた脊髄組織の徴候を含まない2つのスライドを、ルクソースファストブルー(Sigma社)染色のため取り出した。損傷の中心は、最少量のルクソールファストブルーを含むセクションとして識別された。脊髄T13レベルにおける対照動物(n=3)からのセクションを、ルクソースファストブルーによって染色した。記録領域からのセクションはクレシルバイオレットによって染色した。
[0393] Adobe Systems(米国カリフォルニア州サンホゼ)のAdope Photoshop CS4を用いて、残った白質の量を測定した。脊髄損傷の程度を査定するため、損傷の中心における残った白質を、対照動物における脊髄レベルT13における白質と比較した。
[0394] データ解析
[0395] 待ち時間を評価するため、刺激アーチファクトの開始から脊椎応答の第1の偏りの開始までの時間を記録した。測定は、LabChartソフトウェアでカーソル及び時間メータにより行った。脊椎応答の振幅は、ピークツーピークとして測定した。筋肉収縮の解析は、ADInstruments, Inc, Co(米国)のピーク解析ソフトウェアにより、ベースラインに対して測定した痙攣地からの高さとして行った。スパイクヒストグラムソフトウェアを用いて、細胞外運動ニューロンアクティビティを区別して解析した。全てのデータを、群平均±標準偏差(SD)として報告した。前−後比較のために対応スチューデントt検定(paired students t-test)を行うか、又は2群を比較するために2つのサンプルのスチューデントt検定を行った。統計的有意は95%信頼レベルであった(<0.05)。対照動物及びSCIのある動物から記録された脊髄の両側からの応答を比較するため、一元配置分散分析(one-way ANOVA)を行い、次いでSolm-Sidak事後解析を行った。統計解析は、SigmaPlot(SPSS、イリノイ州シカゴ)、Excel(Microsoft、カリフォルニア州レッドウッド)、及びLabChartソフトウェア(米国コロラド州ADInstruments)を用いて行った。
[0396] 結果
[0397] 1.行動査定
[0398] 脊髄の打撲傷は、双方の肢の交差及び脚の広がり(2A及び2Cの比較)等の痙攣症候群の徴候を発現した。これらの姿勢の変化をAPSを用いて定量化した。APSは、地面上(APSon9.8±0.70)及び空中(APSoff9.8±0.70)の条件の双方について実質的な増大を示した。また、これらの姿勢の異常に伴って、BMSスコアは、対照マウスにおいて9から1.2±0.47へ、SCIマウス(n=15)において右後肢及び左後肢について1.0±0.63へそれぞれ低下した。更に、水平はしご試験でのエラー数は、左後肢(19.5±0.50)及び右後脚(18.83±1.16)について最大(20)に近かった。要約すると、これらの結果は、現在の研究で用いられる脊髄損傷手順は、損傷の行動徴候を誘発する際に信頼性が高かったことを示している。これによって、我々のデータの解釈が強化される。
[0399] 2.解剖学的査定
[0400] 図2Aは、後肢の正常な姿勢を示す対照動物の写真である。図2B及び図2Dは、正常な動物及びSCIの動物からそれぞれ取得した胸部脊髄領域及び損傷の中心からの断面スライスの写真を示す。損傷の中心は、組織学的に試験した全ての損傷のある動物(n=6)においてほぼ等しかった。脊髄の外側及び前側で白質の縁部を残した。損傷の中心における残した白質の面積(0.06±0.03mm2)は、対照動物(n=3)(p=0.94、t検定)における同じ脊椎レベルの白質の面積(0.15±0.06mm2)と比べると、SCIの16週後に著しく縮小した(図2E)。平均して、損傷の中心の全断面面積(白質及び灰白質)は、対照動物における同じ脊椎レベルの全断面面積の75±14%であった。
[0401] 3.脊椎運動ニューロンの識別
[0402] ヒ腹筋を刺激する脊椎運動ニューロン(又は運動ニューロン)は、最初にそれらの大きい自発的スパイクによって識別された。また、運動ニューロンスパイクには、拡声器によって記録された独特のはっきりした音が伴う。脊椎運動ニューロンを識別するために用いる第2の判断基準は、ヒ腹筋の刺激に対する応答である。ヒ腹筋を刺激すると、短い待ち時間の逆方向で発生した応答が生じ、これは同側脊髄における運動ニューロンから記録される。同時に、脊髄の反対側の微小電極は、同側からピックアップされたものよりも比較的長い待ち時間を有する応答を記録した。図3Aにおいて、運動ニューロンの識別中に3つの代表的な状況が見られた。左及び中央の2つのパネルは、刺激されたヒ腹筋に対する同時の運動ニューロン応答を示す。左パネルは同側の運動ニューロンの応答を示す。中央パネルは反対側の運動ニューロンの応答を示す。右パネルは、運動ニューロンが同側のヒ腹筋の逆方向刺激に応答していなかった状況を示す。これによって、ユニットが刺激を付与したヒ腹筋を刺激していなかったことが確認された。第3に、図3Bに示すように、筋肉痙攣(下パネル)は運動ニューロン(上パネル)と相関付けられた。自発スパイクと筋肉痙攣との間のこの関連付けを用いて接続を確認した。図3Bは、運動ニューロンにより発生した典型的なスパイクを示す。最後に、記録電極は脊髄の前角に局所化されていたことが組織学的に確認された。
[0403] 4.待ち時間
[0404] ヒ腹筋を刺激した結果、脊髄の同側及び反対側の前角に配置した微小電極によって、それぞれ短い待ち時間及び長い待ち時間の脊椎応答が記録された。図4Aは、6個の逆方向に誘発された応答の重複したトレースを示し、線は脊椎応答を表す。逆方向に誘発された応答の平均待ち時間は3.45±1.54msであったが、逆側の応答(図示せず)の平均待ち時間はもっと長く(5.94±1.24ms)経シナプス経路を示した。同側と反対側の脊椎応答間の差は統計的に有意であった(n=15、p<0.001、t検定)。M1を刺激した結果、同側及び反対側の脊椎運動ニューロン応答が得られた。
[0405] 図4Bは、M1刺激の後の6個の重複した反対側の応答を示す。同側の応答は図4Aにも図4Bにも示していない。同側及び反対側の応答の平均待ち時間は、それぞれ16.09±1.02ms及び22.98±1.96msである。同側及び反対側の応答間の待ち時間の差(6.9ms)は統計的に有意であった(n=15、p<0.001、t検定)。dCMSを適用した結果、反対側(M1に対して)の電極から連続的な脊椎運動ニューロン応答がピックアップされた。
[0406] 図4Cは、6個の重複した記録されたトレースを示す。図4Cにおいて、3つの別個の応答が認められる。その1つは待ち時間が短く(3.45±1.54ms)、第2のものは待ち時間がもっと長く(6.02±1.72ms)、第3のものは待ち時間がはるかに長い(19.21±2.28ms)(n=15)。同側(M1に対して)の脊椎運動ニューロン応答(図示せず)の待ち時間は6.02±2.8msであった。
[0407] 図4Dは、筋肉、M1、及びdCMSパラダイム中に収集した平均待ち時間をまとめている。M1刺激に対する同側脊椎応答(Ip)は、反対側応答(Co)よりも速かった(p<0.05)。筋肉刺激は、反対側におけるものよりも同側運動ニューロンにおいて短い応答を発生した(p<0.05)。
[0408] 5.双極性皮質−筋肉刺激(dCMS)中の筋肉収縮の変化及び脊椎応答
[0409] dCMSを適用すると、ヒ腹筋から記録される痙攣ピーク力及び脊髄から記録されるニューロンアクティビティが徐々に増大した。これらの増大の程度は対照動物及び損傷のある動物において同様であったので、SCI動物(n=9)から得られたデータのみを提示する。図5A及び図5Bに、反対側筋肉収縮の力の増大を示す。
[0410] 図5Aは、初期及び終期の筋肉痙攣によって、刺激したM1に対して反対側の筋肉において、dCMSの開始時(初期)よりも終了時(終期)において大きい痙攣ピーク力が実証されたことを示す。図5Aは代表的な記録値を示すが、図5Bには、全てのSCI動物の9個体から得られた平均結果を示す。4.8±1.12gという初期の痙攣ピーク力から6.1±0.71gという終期の痙攣ピーク力への増大は、統計的に有意であった(比率変化=25.0±3.8%、p=0.001、対応t検定)。同側筋肉の痙攣ピーク力も増大した。
[0411] 図5C及び図5Dに、代表的な記録値及び平均結果を示す。図5Cは、dCMS中の同側筋肉(刺激したM1に対して)の初期及び終期の筋肉痙攣を示しているが、これはdCMSに応答して痙攣力が増大したことを実証した。図5Dは、同側筋肉の初期及び終期の痙攣ピーク力の平均(n=9)を示す棒グラフである。終期痙攣力は、1.8±0.74gという初期値から著しく増大した(比率変化=37.7±1.14%、p=0.001、対応t検定)。
[0412] dCMSプロトコルの100パルスの第1及び最後の脊椎運動ニューロン応答を比較することによって、同様の結果を得た。平均して、反対側(刺激したM1に対して)の脊椎運動ニューロン応答は、著しい増大を示し(比率変化=49.75±16.9%、p=0.013、1サンプルt検定)、これは同側(刺激したM1に対して)の脊椎運動ニューロン応答と同様であった(比率変化=48.10±19.8%、p=0.04、1サンプルt検定)。これらの所見によって、皮質運動ニューロン経路の強い接続を提供する生理学的プロセスがdCMS適用中に開始したことが示唆される。
[0413] 6.SCI動物の筋肉痙攣及びニューロンアクティビティに対するdCMS適用の影響
[0414] SCI動物において、dCMSの前及び後に、皮質で誘発された筋肉痙攣(ピーク痙攣力として測定した)を調べた。これらの実験で用いた全ての動物において、dCMSの後に痙攣力は著しく増大した。図6A及び図6Cに、dCMSの前(上パネル)及び後(下パネル)における反対側(刺激したM1に対して)(図6A)及び同側(刺激したM1に対して)(図6C)のヒ腹筋の痙攣の一例を示す。また、皮質で誘発した脊椎応答(ピークツーピークとして測定した)も調べたところ、これも著しく増大していた。反対側(図6B)及び同側(図6D)の脊椎応答の例を示す。
[0415] 図6Eにおいて、dCMSの後、反対側筋肉の痙攣ピーク力は著しく増大し(n=9、p<0.001)(前の平均=0.50±0.28g対後の平均=2.01±0.80g)、これは同側(刺激したM1に対して)筋肉の痙攣ピーク力と同様であった(前の平均=0.21±0.12対後の平均=1.36±0.77、p<0.001、対応t検定)。図6Fにおいて、dCMSの後、反対側(刺激したM1に対して)の脊椎運動ニューロン応答(n=9)は、著しく増大した(前の平均=347.67±294.68μV対後の平均=748.90±360.59μV、p=0.027、対応t検定)(313±197%の増大)。これは、同側(刺激したM1に対して)の脊椎運動ニューロン応答と同様であった(前の平均=307.13±267.27μV対後の平均=630.52±369.57μV、p=0.001、対応t検定)(292±150%の増大)。データは平均±SDとして示す。これらの結果は、dCMSによって損傷のある動物において運動経路が大幅に強化されたことを示している。
[0416] 最も強い筋肉痙攣ピーク力を引き出す最低電気刺激として定義される最大皮質閾値は、dCMS適用の後、9.4±0.89Vから=5.7±0.95Vに低下した(n=4、p<0.001、t検定)。5体のSCI動物においてdCMSの60分後に評価した筋肉痙攣力及び脊椎運動ニューロン応答の大きさは、双方の側でなお著しく上昇していた(反復測定ANOVAの後の事後解析、p<0.001)。
[0417] 7.SCIの動物における刺激を与えない皮質−筋肉経路に対するdCMSの効果
[0418] dCMSを適用したM1に対して反対側の、他方のM1の試験刺激によって、反対側及び同側のヒ腹筋から収縮力の増大が記録された。反対側(比率変化=182.8±87.18%)、及び同側の筋肉(比率変化=174.8±136.91%)の増大は、統計的に有意であった(n=6、p<0.05、t検定)。
[0419] 反対側の脊椎運動ニューロン応答は著しく増大し(p=0.006、t検定)、(平均比率変化=373.8±304.99%)、これは同側(平均比率変化=289.2±289.62%、p=0.025、t検定)も同様であった。これらの結果は、dCMSが片側のみに適用された場合であっても皮質−筋肉経路に両側に影響したことを示している。
[0420] 8.対照動物における筋肉痙攣及びニューロンアクティビティに対するdCMS適用の影響
[0421] 対照動物(n=6)において皮質−筋肉経路を介してdCMSを適用した結果、双方のヒ腹筋により生成される収縮力が増大した。図7A及び図7Bは、正常なマウスにおける双極性皮質−筋肉刺激(dCMS)の後の痙攣力及び皮質で誘発された脊椎応答を示す。図7Aは、6体の対照動物からの結果の定量化であり、dCMSの後に反対側(CO)及び同側(Ips)(刺激したM1に対して)の筋肉の痙攣力が著しく増大したことを示している。図7Bは、反対側(刺激したM1に対して)の皮質で誘発された脊椎応答を示しており、これはdCMSの後に著しく増大し、同側応答も同様であった。反対側筋肉の痙攣ピーク力はdCMS適用前の1.62±1.0gから適用後の5.12±1.67に増大した(比率変化=250.75±129.35%、p=0.001、対応t検定、図7A)。同側の筋肉の痙攣ピーク力も上昇したが、この上昇はあまり顕著でなかった(dCMSの前及び後でそれぞれ0.16±0.05gから0.39±0.08g)(比率変化=166.36±96.56%、p=0.001、対応t検定、図7A)。
[0422] また、dCMSの適用によって、脊椎運動ニューロンから記録された誘発応答の振幅が大きくなった。図7Bに示すように、反対側で記録されたこれらのスパイクの平均振幅は、127.83±46.58μVから391.17±168.59μVに増大した(比率変化=168.83±152.00%、p=0.009、対応t検定)。同側における増大は、もっと大きかった(比率変化=369.00±474.00%、dCMS前の77.50±24.73μVからdCMS後の267.00±86.12μV、p=0.007、対応t検定)。
[0423] 9.対照動物とSCI動物との比較
[0424] 対照動物から記録された、反対側筋肉の皮質で誘発された痙攣は、SCI動物で観察された痙攣よりも強かった。これは、dCMS手順の前(p=0.009、t検定)又は後(p=0.001、t検定)の記録で同様であった。しかしながら、同側筋肉の応答はもっと複雑であった。dCMSの後、SCI動物は対照動物よりも同側痙攣ピーク力が大きかったが、その差は統計的に有意でなかった(p=0.39、t検定)。この差は、dCMS介入の後に著しく大きくなった(p=0.001、t検定)。
[0425] 同様に、dCMSの前、脊椎運動ニューロンから記録された皮質で誘発された応答は、同側及び反対側でSCI動物の方が大きかったが、その差は統計的に有意には至らなかった(p=0.13、t検定)。しかしながらdCMSの後、この差は大きくなり、統計的に有意になった(p=0.009、t検定)。
[0426] 次に、相対測定値を取得し、これを「忠実度指数(fidelity index)」として特徴付けた。忠実度指数(FI)は、対応する筋肉痙攣ピーク力に対する正規化した皮質で誘発された脊椎運動ニューロン応答である(脊椎応答/筋肉痙攣比)。忠実度指数値が低いと、脊椎応答とそれらの対応する筋肉痙攣との間の関連付けが優れていることを示す。換言すると、これは、筋肉収縮を誘発する脊椎応答の能力が優れていることを意味する。従って、この指数の変化は、脊椎と抹消との興奮性の関連が変化していることを示す場合がある。
[0427] dCMSの後、SCI動物はFIの全体的な著しい群低下を示した(F=3.3、p<0.033、ANOVA)(図8)。図8において、Solm-Sidak事後解析は、反対側でFIの低下を示した(dCMS前の平均=368.35±342.51対後の平均=246.15±112.24)が、その差は統計的に有意ではなかった(p=0.46)。同側のFIは、dCMSの後に著しく低下した(dCMS前の平均=704.59±625.7対後の平均=247.95±156.27)(p=0.011)。対照動物ではdCMS治療の効果は逆であり、この手順の後、FIの全体的な群増加を示した(F=31.51、p<0.001、ANOVA)。Fiは、同側でdCMSの後に著しく上昇した(Solm−Sidak事後解析、p<0.001)(dCMSの前の平均=328.53±104.83対後の平均526.83±169.36)。また、反対側で上昇を反映する傾向があった(dCMS前の平均=48.59±17.71対後の平均=56.15±24.19)が、統計的に有意ではなかった(Solm−Sidak事後解析、p=0.89)。
[0428] 対照動物からのFIをSCI動物からのFIと比べると、dCMSの前及び後の双方で、対照動物の反対側で著しく低い指数が示された(p<0.001、ANOVA、Solm-Sidak事後解析)。これらの結果は、末梢神経及び神経のレベルで不活性の問題が存在することを示している。
[0429] 10.dCMSによる脊椎運動ニューロンの自発性アクティビティの増大
[0430] dCMS介入の前及び後の自発性アクティビティの発火率を比較すると、対照動物及びSCI動物の双方において著しい上昇が示された。図9A及び図9Bに、SCI動物からの代表的な自発性アクティビティ記録を示す。SCI動物では、脊髄の反対側で自発性アクティビティが著しく増大し(dCMSの前の平均=17.31±13.10スパイク/s対後の平均=32.13±14.73スパイク/s、p=0.001)(121.71±147.35%)、これは同側でも同様であった(dCMSの前の平均=18.85±13.64スパイク/s対後の平均=26.93±17.25スパイク/s、p=0.008)(変化率=54.10±32.29%)。対照動物では、自発性アクティビティは脊髄の反対側(刺激したM1に対して)で著しく増大し(dCMSの前の平均=11.40±8.65スパイク/s対後の平均=20.53±11.82スパイク/s、p=0.006)(変化率=90.10±42.53%)、これは同側でも同様であった(dCMSの前の平均=11.63±5.34スパイク/s対後の平均=22.18±10.35スパイク/s、p=0.01)(変化率=99.10±1.10%)。一元配置分散分析によって、対照動物とSCI動物との間で発火率に著しい差はないことが示されたが、SCI動物の方が発火率が高かった。
[0431] 11.筋肉又は皮質の1点(単極性)刺激の効果
[0432] 効果がdCMSに対して一意であることを判定するため、脊椎運動ニューロン応答及び筋肉痙攣ピーク力に対する筋肉又は運動皮質の単極性刺激(100パルス、1Hz周波数に対する最大刺激)の影響を調べた。
[0433] 予想されるように、筋肉刺激の結果、筋肉痙攣力が著しく低減した(−20.28±7.02%、p<0.001、t検定)(n=5.3SCI及び2対照)。また、この結果、反対側の(刺激した筋肉に対して)M1試験刺激により誘発された脊椎運動ニューロン応答が著しく低下した(dCMSの前の平均=747.50±142.72μV対後の平均=503.14±74.78μV)(F=17.11、一元配置分散分析、Solm−Sodak事後解析、p<0.001)が、脊髄の同側(刺激した筋肉に対して)で記録された応答に著しい変化は見られなかった(dCMSの前の平均=363.33±140.67μV対後の平均=371.43±35.61μV、p=0.84)。
[0434] 別個の動物の群(n=5.3SCI及び2体の対照)では、反対側筋肉の痙攣ピーク力及び脊椎運動ニューロン応答に対する運動異質においてのみ印加した単極性刺激パラダイムの効果を試験した。試験痙攣及び運動ニューロン応答は双方とも、それぞれ50%超(−53.69±4.3%、p=0.001、t検定)及びほぼ15%(−14.59±9.10%、p=0.003、t検定)著しく低減した。これらの結果は、最大強度における1点の筋肉又は皮質刺激の結果、筋肉痙攣力の疲労及び脊椎応答の低減があったことを示している。
[0435] 一般に、これらの結果は、dCMSの片側印加によって誘発される運動経路の興奮性の顕著な向上を示す。この向上は、痙攣症候群の徴候に関連した重篤な運動障害を有する対照動物及びSCI動物において観察された。同側及び反対側の経路の双方において効果が観察された。同側皮質の最大閾値は低下していた。筋肉強度の改善は、自発性アクティビティの増大及び脊椎運動ニューロンの誘発応答の強化によって達成された。反対側の非治療M1の刺激によって引き起こされる脊椎運動ニューロン応答及び筋肉痙攣も著しく強化された。dCMSにより誘発された効果は、刺激フェーズを超えて持続し、実験の全期間(60分間)に及んだ。
[0436] 皮質刺激に対する双方向の応答は通常観察されている。それらは、半球接続、同側の皮質−脊椎接続(反対側の投影の5〜6%)、又は横連合脊椎ニューロンによって提供することができる。図17F及び図18Bに示すように、運動皮質の片側刺激に対する同側応答は、対照動物に比べてSCIの動物において大きな応答を引き起こした。これらの結果は、同側皮質脊椎投影がSCI後に筋肉収縮を引き起こすのにいっそう効率的であるという考えを更にサポートする。
[0437] dCMSによって誘発される運動経路効率の上昇の機構は明らかでなく、どのようなプロセスが調整されているのかを推測することしかできない。dCMSの間の筋力の強化は、神経筋肉刺激の後に見られる強化とは異なることは明らかである。Luke R、Harris W、Bobet J、Sanelli L、Bennett DJの「Tail Muscles Become Slow but Fatigable in Chronic Sacral Rats With Spasticity」、J. Neurophysiol、95:1124〜1133(2006年)を参照のこと。神経筋肉刺激によって筋力が短時間強化され、その後に力は急激に低下するが、dCMSによって皮質で誘発された筋肉収縮の振幅は徐々に大きくなる。向上は反対側及び同側で発生するので、強化の位置は脊椎又は脊椎上部である可能性が最も高い。皮質で誘発された筋肉収縮の向上は、皮質刺激に対する最大閾値の低下、脊椎運動ニューロン応答の増大、及び皮質で誘発された脊椎運動ニューロン応答の増大によって達成された。従って、これらの改善は、皮質運動ニューロン経路のいくつかの機能レベルで同時に起こったと想定することができる。
[0438] 刺激パラダイムにおいて用いられる電流は常に一端において正であり他端において負であったという事実に鑑み、刺激は部分的に分極性であると考えることができる。過去において、分極電流のパラダイムは神経系の異なる部分の興奮性を研究するために用いられた。Landau W. M.、Bishop G. H.、Clare M. H.の「Analysis of the form and distribution of cortical potentials under the influence of polarizing currents」、J. Neurophysiol.27:788〜813(1964年)、Gorman A. L. F.の「Differential patterns of activation of the pyramidal system elicited by surface anodal and cathodal cortical stimulation」、J. NeuroPhysiol.29:547〜64(1965年)、Terzoulo C. A.、Bullock T. H.の「Measurement of imposed voltage gradient adequate to modulate neuronal firing」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、42:687〜694(1956年)、Bindman L. J.、Lippold O. C. J.、Redfearn J. W. T.の「Long-lasting changes in the level of the electrical activity of the motor cortex produced by polarizing currents」、Nature 196:584〜585(1962年)を参照のこと。これらの研究において、分極電流は電位膜変化を生じ、正電極の近くの細胞部分に過分極が発生すると共に負電極の近くで脱分極が発生する。この法則と一致して、例えば、脊髄上に2つの分極電極を配置すると(一方は腹側、他方は背側)、筋肉からの一次繊維の膜及びスパイク電位の変化が生じる。Landau等の上記を参照のこと。
[0439] 上述の研究の結果は、パルス持続時間の短く安定した瞬間に分極性であることを示唆している。電極が配置され、正電極が筋肉に置かれ負電極が皮質に置かれると、皮質脊椎ニューロンの細胞体は過分極すると予想され、それらの神経末端は脱分極する。更に、脊椎運動ニューロンは細胞体及び樹状突起において過分極し、神経筋肉接合部において脱分極する。
[0440] 印加電界に対する細胞の形態に従って、介在する介在ニューロンにおいても膜電位の変化が予想される。dCMSの各パルス中に短時間で発生するこれらの膜変化は、強化のための主な皮質運動ニューロン経路であるように見える。更に、刺激パルスは2つ以上の周期を有する。すなわち、立ち上がり(0.250ms)及び立ち下がり(0.250ms)である。これらの変化する周期によって、電流は皮質運動ニューロン経路の一端において励起され他端に入る。この考えは、脊髄の電極によってピックアップされた刺激アーチファクトの観察によりサポートされる。電流は、アクティブな興奮性を混乱させる要素とは独立して全経路を流れた(導入部を参照)。これによって、いずれかの可能な興奮可能な部位(複数の部位)で皮質運動ニューロン経路を活性化することができる。これは、dCMSの効果を与える機構の1つであり得るスパイク−タイミング依存の可塑性を引き出すことを確実とする。スパイク−タイミング依存の可塑性については、Dan Y、Poo Mの「Spiking Timing-dependent plasticity: From synapse to perception」、Physiol. Rev.、86:1033〜1048(2006年)を参照のこと。
[0441] 更に、dCMSの間に誘発される高周波の多数の脊椎応答は、原理上、長期強化を引き起こすことができる。dCMSは、非ニューロンアクティビティと同様に、多種多様なニューロン機構に関わる可能性があるので、その効果は皮質運動ニューロン系経路に沿った多くの変化の組み合わせであり得る。
[0442] dCMSが誘発した筋力の強化は、対照動物及び損傷のある動物の双方で観察された。これらの2つの動物の群におけるこの増幅を担う機構は重複する場合があるが、必ずしも同一ではない。上述のように、dCMSの増強効果はシナプス応答の強化によって与えることができるが、これらの変化の性質及び源は対照動物及び損傷のある動物の運動経路において実質的に異なる場合がある。損傷した脊髄におけるシナプス接続の主な源は、おそらく軸索出芽(sprouting)である。Murray等及び上述のもの、Bareyre等及び上述のもの、並びにBrus-Ramer等及び上述のものを参照のこと。しかしながら、軸索発芽は機能的接続の形成を与えるものではない。従って、dCMSの増強強化を与え得る可能な機構の1つは、発芽の結果として得られる弱いシナプス接続の改良及び強化である。更に、感覚運動系の全体に存在する不活発な接続がdCMSの後に活性化され機能的となり得る。Brus-Ramer M.、Carmel J. B.、Martin J. H.の「Motor cortex bilateral motor representation depends on subcortical and interhemispheric interactions」、J. Neurosci.、29:6196〜206(2009年)を参照のこと。また、dCMSの後、残っている政情な接続の増強が起こる場合がある。対照動物では、正常な接続の増強及び不活発な接続の促進は、dCMSの効果を伝えるプロセスに過ぎないことがある。これらの結果は、dCMS刺激は、対照動物に比べて損傷のある動物においてほぼ2倍の効果があったことを示す。これは、損傷のある脊髄はdCMS刺激を受けやすく、dCMS効果を与える追加の機構を有することを示している。
[0443] SCI動物においては、dCMSの適用前であっても、脊椎運動ニューロンは皮質刺激に対して対照動物よりも積極的に応答していた。それにも関わらず、観察された筋肉収縮は極めて弱いか又は皆無であった(図6)。これは、2つの機構の1つのためである可能性がある。1つは、傷害の後部に近い脊髄に位置し、及び/又は他方は、不活性の抹消神経及び/又は筋肉の非反応である。傷害の後部の近傍で、脊椎運動ニューロンプールのアクティビティはおそらく再組織の結果として非同期化されている。この考えをサポートするのは、Brus-Ramer及び同僚による所見である。Brus-Ramer等及び上述のものを参照のこと。Brus-Ramer等は、皮質脊椎管の長期間にわたる刺激の結果、前角に向かって優先的な軸索の成長が生じたことを報告した。これは、運動ニューロン間接続が動的なプロセスであり、分散化によって変わり得ることを示した。SCIの患者において、不活性の抹消軸索が見出された。Lin C.S.、Macefield V. G.、Elam M.、Wallin B. G.、Engal S.、Kiernan M. C.の「Axon changes in spinal cord injured patients distal to the site of injury」、Brain、130:985〜994(2007年)を参照のこと。SCI動物における軸索が同様の状況にあると想定すると、それらは活動電位が衰弱し、結果として筋肉収縮が低減する場合がある。SCIの動物及び人間においては、筋肉の退化は常に見られる。例えば、Ahmed Z.、Wieraszko A.の「Combined effects of acrobatic exercise and magnetic stimulation on the functional recovery after spinal cord lesions」、J. Neurotrauma、25:1257〜1269(2008年)、Liu M.、Bose P.、Walter G. A.、Thompson F. J.、Vandenborne K.の「A longitudinal study of skeletal muscle following spinal cord injury and locomotor training」、Spinal Cord、46:488〜93(2008年)、Shah P. K.、Stevens J. E.、Gregory C. M.、Pathare N. C.、Jayaraman A.、Bickel S. C.、Bowden M.、Behrman A. L.、Walter G. A.、Dudley G. A.、Vandenborne K.の「Lowerextremity muscle cross-sectional area after incomplete spinal cord injury」、Arch. Phys. Med. Rehabil.87:772〜778(2006年)、Gordon T.、Mao J.の「Muscle atrophy and procedures for training after spinal cord injury」、Phys. Ther.74:50〜60(1994年)を参照のこと。また、これは、なぜ脊椎運動ニューロン応答が適切に筋肉収縮に変換されなかったかの理由の1つであり得る。
[0444] 運動ニューロン応答の妥当性は、マウス痙攣力に対する脊椎応答の比である忠実度指数を計算することによって定量化した。dCMSが誘発した忠実度指数の変化は、対照動物及び損傷のある動物で逆であった。この指数は損傷のある動物では低下し、運動経路の有効性の改善を示したが、対照動物では上昇して、おそらくは疲労干渉による経路有効性の低下を示した。従って、脊髄の損傷は機能の再生に有利なプロセスを開始すると示すことができる。dCMS手順は、これらのプロセスを同期し容易にして、回復を促進する可能性がある。
[0445] dCMSを適用する前、SCIの動物における運動ニューロンの自発性アクティビティは対照動物のものよりも高かった。SCIの動物におけるこれ及び過大な誘発脊椎応答は、痙攣症候群と同様の特性を示す行動測定と一致する。また、脊椎運動ニューロンの過大な自発性発火率は、SCIの後の人間及び動物における運動単位発火からのデータと一致し、更に、SCIの動物において持続する過大な発火率を示す仙尾運動ニューロンからの細胞内記録の結果と一致する。例えば、Gorassini M.、Bennet D. J.、Kiehn O.、Eken T.、Hultborn H.の「Activation patterns of hindlimb motor units in the awake rate and their relation to motoneuron intrinsic properties」、J. NeuroPhysiol.82:709〜717(1999年)、Thomas C. K.、Ross B. H.の「Distinct patterns of motor unit behavior during muscle spasms in spinal cord injured subjects」、J. NeyroPhysiol.77:2847〜2850(1997年)、Harvey J. P.、Gorassini M.、Bennet D. J.の「The spastic rat with sacral spinal cord injury in Animal model of movement disorders」、Mark LeDoux編集、El Sevier Academic Press、691〜697(2005年)を参照のこと。dCMSの数分後、運動ニューロン自発性アクティビティはなお実質的に増大した。図3Bに示すように、これらのアクティビティの一部は連係していたが、自発性アクティビティのほとんどは、図9Aに示すように、発火の未調整パターンであった。正常な行動においてシナプス入力を強化する電圧依存の持続性内向き電流(PIC:persistent inward current)は、脳幹解放セロトニン(5−HT)又はノルアドレナリンの下降に応じて異なる。ここで、dCMSの後に一部の動物における自発性発火率の上昇及び調整アクティビティの出現は、脳幹中心との良好な接続を示す場合がある。
[0446] 第2の実験(iCENSを使用)
[0447] 第2の実験では、2009年の夏に、痙性四肢麻痺性脳性麻痺の14歳の女性に対し、iCENSの亜種であるdCMSを用いて治療を行った。彼女は階段の昇降ができなかった。彼女は全ての屋内及び屋外の移動に車椅子を用いた。彼女は数秒間立つだけでも最大限の補助を必要とした。彼女は脚及び腕の遠位の筋肉が極めて硬く、痙攣性で、弱かった。彼女には不快なクローヌスがあった(筋肉群の屈曲及び伸張が急速に連続するものであり、通常は脳又は脊髄の障害を示す)。
[0448] 3週間にわたって合計6回のセッションを彼女に行った。各セッションは30分間続いた。彼女の左運動皮質及び右運動皮質に2つの第1の電極を接続した。彼女の右手首内側、左手首内側、右ヒ骨神経端部、左ヒ骨神経端部、右ふくらはぎ筋肉の隆起部、左ふくらはぎ筋肉の隆起部、右足裏、及び左足裏に、多数の第2の電極を接続した。数回のセッションにおいて、多数の第2の電極の一部は接続しなかった。彼女の運動皮質に接続された2つの第1の電極に共通して、単極性の正の電気パルスを含む第1の電気刺激信号を、400マイクロ秒の持続時間及び1Hzの周波数で印加した。これと逆の極性を有する、すなわち単極性の負の電気パルスを含む同期した第2の電気刺激信号を、第2の電極の各々に共通に印加した。図20に示すように、第2の電気刺激信号は第1の電気刺激信号のミラーイメージ信号であった。第1及び第2の電気刺激信号の振幅は、彼女の肢の痙攣が開始した信号強度に選択した。
[0449] 2週間に及ぶ6セッションの双極性刺激(30分/セッション)の後、患者は17段の階段を一人で上ることができた。2011年1月の時点で、彼女は約20段を一人で昇降することができ、全ての移動動作に松葉杖を用いる。彼女の動きはだんだん速くなり、いっそう援助を必要としなくなっている。彼女は安定した姿勢で無期限に立った姿勢を維持することができる。彼女の事前対応及び事後対応の平衡反射行動は改善した。治療前の状態に比べ、彼女の遠位の筋肉ははるかに強くなり、痙攣性は著しく軽減し、ほぼ正常な柔軟性を有する。ブラインド評価において、神経科医は彼女の痙攣及びクローヌスが著しく軽減したことを報告した。
[0450] 上述の結果は、dCMSが動物及び人間の双方において皮質−筋肉接続の興奮性を高める効果的な方法であることを明らかに示している。このため、本開示の方法は、脊髄の損傷、卒中、多数の硬化症、及び他のものを患う人間において用いることができる。例えば、臨床試験で実証されたように、本開示の方法を用いて、神経系におけるいずれかの弱いか又は不活発な経路を強化又は覚醒させることができる。
[0451] 第3の実験(iCENSを使用)
[0452] 第3の実験においては、2009年の夏に、分娩麻痺(右上肢)の病歴を有する14歳の男性にdCMSを適用した。患者は肩の外旋筋が極めて弱かった。これは、右腕を外側に回せないこと、右肩をすくめられないこと、及び右腕を100度を超えて上げられないことによって顕在化した。患者はこれらの筋肉を自発的に制御することができず、肩を外側に回すことができなかった。更に、肩の外旋筋には明らかに中程度の萎縮が見られ、これは臨床観察によって判定された。また、彼は右手をつかむ動作が弱かった。
[0453] 4週間にわたって合計4回のセッションで彼を治療した。各セッションは30分間続いた。彼の左運動皮質に第1の電極を接続した。彼の右手首内側に第2の電極を接続した。彼の運動皮質に接続された第1の電極に共通して、単極性の正の電気パルスを含む第1の電気刺激信号を、400マイクロ秒の持続時間及び1Hzの周波数で印加した。これと逆の極性を有する同期した第2の電気刺激信号を第2の電極の各々に共通に印加した。図20に示すように、第2の電気刺激信号は第1の電気刺激信号のミラーイメージ信号であった。第1及び第2の電気刺激信号及びパルスがオンである間に彼の身体を通る電流の振幅は、上述の第2の実験における条件と同等であった。
[0454] わずか15のパルスの後、患者は容易に右肩を外側に回すことができ、患者は動きの間に腕に感覚があった。この後、彼はパイロットの身体検査に合格した。2011年1月の時点で、全ての彼の障害は完全に治癒し、彼は身体障害者とは見なされていない。
[0455] 第4の実験(iCENSを使用)
[0456] 第3の実験においては、2009年の夏に、分娩麻痺(右上肢)の病歴を有する5歳の男児にdCMSを適用した。患者は、第3の実験における14歳の男性よりも、右上脚に重篤な障害があった。
[0457] 4週間にわたって合計4回のセッションで彼を治療した。各セッションは30分間続いた。第3の実験と同じ電極構成を用いた。
[0458] 治療の後、この男児は腕を上げることができた。彼は右手首を動かすことができ、両手で這って進むことができ、両手でボールをつかむことができた。彼の障害は実質的に軽減した。
[0459] 第5の実験(iCENSを使用)
[0460] 第5の実験においては、2010年の秋に、染色体異常によって引き起こされた四肢麻痺の9か月の女児に、第2の実験において説明したものと同じdCMS方法によって治療を行った。この女児は、頭部、頸部、胴体、腕及び脚が動かない完全な麻痺であった。
[0461] 最初に、第2の実験において説明したようなdCMS方法によって彼女を治療した。彼女の腕はパルス電気刺激信号のもとで痙攣したが、彼女の脚はパルス電気刺激信号に応答しなかった。3週間の経過にわたり、各々が約15分間続くdCMS治療セッションを4回行って女児を治療した。dCMS刺激信号に対する脚の応答がなかったため、腕のみをdCMS方法で治療した。4回のセッションの後、女児は腕を全ての方向に動かすことができた。また、彼女は全ての方向に指を動かし、おもちゃを保持することができた。彼女は頭部を持ち上げて回すことができた。
[0462] 第6の実験(iCENSを使用)
[0463] 第6の実験においては、2010年の夏に、脳性麻痺の4歳の男児にdCMSを適用した。脳性麻痺は、傾いたつま先での歩行、頻繁な転倒、速い歩行ができないこと、やや低い姿勢での歩行の形態、すなわち歩行の間の彼のひざ及び腰の屈曲として顕在化する。
[0464] 4週間にわたって合計4回のセッションで彼を治療した。各セッションは30分間続いた。第3の実験におけるものと同じ電極構成を用いた。
[0465] 治療の後、この患者の全ての問題は完全に解決し、男児は完全に正常に機能することができた。
[0466] 第7の実験(aCENSを使用)
[0467] 第7の実験では、同相神経刺激の亜種であるtsDC刺激をマウスに適用した。T10からL1の脊柱上で皮下に位置する1つのディスク電極及び脊柱外位置(横腹側)における別のものを用いて、自発性アクティビティ及び皮質で誘発された下腿三頭筋(TS)痙攣の振幅について陽極tsDC(a−tsDC)及び陰極tsDC(c−tsDC)の効果を試験した。異なる実験セットでは、rCESと組み合わせたa−tsDC又はc−tsDCの効果を試験した。以下のデータは、tsDCによる皮質運動ニューロン経路アクティビティの変調の独特なパターンを実証する。
[0468] この研究が意図することは、1)tsDCが極性に依存して脊椎運動ニューロンの自発性アクティビティを変調することができるか、2)tsDCが皮質運動ニューロン伝達を変調することができるか、及び3)反復皮質刺激(rCES)がtsDCに対する脊髄応答に影響を与えることができるかを試験することである。T10からL1の脊柱上で皮下に位置する1つのディスク電極及び脊柱外位置(横腹側)における別のものを用いて、自発性アクティビティ及び皮質で誘発された下腿三頭筋(TS)痙攣の振幅について陽極tsDC(a−tsDC)及び陰極tsDC(c−tsDC)の効果を試験した。
[0469] 方法
[0470] 動物
[0471] 実験動物の世話及び使用のためのNIHガイドラインに従って実験を行った。プロトコルはスタテン島大学のIACUCによって承認された。この研究には成長したCD−1マウス(n=31)を用いた。動物を12時間の明暗サイクルに置き、食料及び水を自由に摂取させた。
[0472] 手術手順
[0473] ケタミン/キシラジン(90/10mg/kg i.p.)で動物に麻酔をかけた。これは皮質脊椎で誘発された電位を維持することが報告されている。必要に応じて補足的な投与量(最初の用量の〜5%)を用いて麻痺をこのレベルに保持し、ランプによって手順全体にわたって動物を温かい温度に保持した。
[0474] 2本の後肢、胸部及び腰部の脊椎、並びに頭骨を覆う皮膚を除去した。一方側で、TS筋を周囲の組織から慎重に分離し、血液供給及び神経を維持するように配慮した。各TS筋の腱をフック形の0〜3外科用シルクで縫い、力変換器に接続した。座骨神経の遠位部を囲む組織を除去した。座骨神経及びTS筋の双方を温かい鉱油に浸した。
[0475] 頭骨切開を行って、ブレグマから0〜1mmと正中線から0〜1mmとの間に位置する後肢筋肉の一時運動野(M1;通常は右側)を露出させた。硬膜は左側で無傷であった。露出した運動皮質領域を刺激電極によって調べて、最も弱い刺激を用いて反対側TS筋の最も強い収縮が得られた運動点の位置を特定した。
[0476] 電極
[0477] アクティブtsDC電極(0.8mm2)をT10〜T13上に配置し、基準電極(Ref)を腹筋の横側で皮下に配置した。座骨神経及びTS筋から周囲の組織を除去し、TS筋を力変換器に接続した。脛骨神経に記録微小電極(R)を挿入した。反対側運動皮質上に同心の刺激電極(S)を配置した。クランプシステム(図示せず)を用いて脊柱及び頭骨を堅固に支持した。
[0478] T10〜L1の脊柱に位置する金表面電極(0.8cm2、Grass Technologies、米国ロードアイランド州ウォーリック)を介してDCを誘導した。図12に示すように、腹筋の横側に同様の基準電極(0.8cm2)を配置した。電極と組織との間に無塩電極ゲル(Parkder Laboratories, Inc.、USAニュージャージー州フェアフィールド)の層を塗布した。TS筋の運動皮質表象フィールド上に配置した同心の電極(軸直径500μm、先端125μm、FHC Inc.米国メーン州ボウドイナム)によって皮質刺激を誘発した。純粋なイリジウムの微小電極(軸直径180μm、先端1〜2μm、抵抗5.0MΩ、WPI、米国フロリダ州サラソータ)を用いて、座骨神経のTS分岐から細胞外記録を行った。脛骨神経電位は、全ての動物において同じ位置(TS筋から約3mm)から記録した。適切な位置は、筋肉痙攣と相関付けた貫通誘発運動神経スパイクによって確認した。
[0479] 筋力の記録
[0480] 装置の基部に後肢及び尾の近位端を堅固に固定した。また、ひざも基部に固定して、刺激を与えた筋肉と身体との間に動きが伝達することを防いだ。TS筋の腱を力変位変換器(FT10、Grass Technologies)に取り付け、筋肉長を調節して最も強い痙攣力(最適な長さ)を得た。注文製作のクランプシステムに頭部を固定した。実験中、放射熱によって動物を温い温度に保持した。
[0481] データ捕捉
[0482] 細胞外アクティビティは、標準的な最初の段階を経て、増幅し(Neuro Amp EX、ADInstruments, Inc.米国コロラド州コロラドスプリングズ)、ろ過し(バンドパス100Hzから5KHz)、4KHzでデジタル化し、更に処理するためにコンピュータに記憶した。パワーラボデータ捕捉システム及びLabChart7ソフトウェア(ADInstruments, Inc.)を用いてデータの捕捉及び解析を行った。
[0483] 分極及び刺激プロトコル
[0484] バッテリ駆動の定電流刺激装置(North Coast Medical, Inc.米国カリフォルニア州モーガンヒル)によってDCを送出した。1Hzで送出される10パルスから成る皮質刺激の前試験(強度5.5mA、パルス持続時間1ms)を用いてTS筋の痙攣を誘発した。合計持続時間3分間で、陽極tsDCの強度を30秒ずつ上昇させた(0.5、1、1.5、2、2.5、及び3mA)。このため、最大電流密度は3.75A/m2であった(0.003A/0.008m2)。刺激中断の影響を避けるため、電流強度は10秒間上昇させた。各tsDCステップの間、試験(前試験と同一)を行った。この試験は、tsDCの終了直後(約10秒後)、次いで5分後及び20分後に繰り返した。電流印加の結果として生じる興奮性の変化による複雑化を回避するため、各a−tsDC及びc−tsDCプロトコルは異なる動物群(n=5/群)で試験した。
[0485] 更に、異なる2つの動物群(n=5/群)で、a−tsDC(+2mA)又はc−tsDC(−2mA)のいずれかと組み合わせたrCES(5.5mA、1ms、1Hz、180パルス)から成る対の刺激を送出した。また、皮質刺激(5.5mA、1ms、1Hz、10パルス)の前試験及び後試験(0.5及び20分後)も行った。
[0486] 対照実験
[0487] tsDCの間に試験手順の実行による考えられ得る影響を制御するため、前試験及び後試験のみを行うがtsDC刺激の間に試験を実行しない実験(n=3/群)を行った。手順は前述の手順と同一として実行し、tsDCは30秒ずつ増大させた。更に、対刺激プロトコルにおいて用いたrCESによる考えられ得るtsDCから独立した影響を制御するため、rCES(180パルス、1Hz)のみを実行する実験(n=2)も行った。
[0488] 組織学的解析
[0489] a−tsDC(n=2)又はc−tsDC(n=2)にマウスを露呈した後、刺激電極の直下に位置する脊髄のセグメント(〜1cm)をヘキスト染色のため切断して、tsDCが脊髄組織に損傷を与えたか否かを評価した。また、未刺激の対照動物(n=1)からの同様の脊髄セグメントも解析した。組織を0.1MPBSの4%のパラホルムアルデヒドに一晩保持し(4℃)、4℃でPBSの20%スクロースにおいて24時間凍結防止した。脊椎セグメントを凍結搭載し、30μmのセクションに切断し、ポリ−L−リシン被覆ガラススライド上に配置した。セクションをヘキスト染色によって30分間処理し(5μg/ml、Sigma社)、次いでPBSで4回洗浄した。搭載媒体を用いて、セクションを搭載し、ガラスカバーに滑らせた。405nm及び488nmのレーザによってLeica TCS SP2共焦点顕微鏡を用いて免疫蛍光法で視覚化した。
[0490] グリシン及びGABAブロッカーの注入
[0491] 麻酔をかけた動物(n=2)において、椎弓切除により脊髄セグメント(T13〜L3)を露出させた。脊柱を締め付け、双方の後肢のヒ腹筋及び座骨神経を露出させた。筋肉を力変換器に取り付け、図12に示すように記録微小電極及び刺激電極を配置した。微量注入ポンプ(WPI、米国フロリダ州サラソータ)を用いて、L3〜L4のレベルにおいて脊髄に抑制性の神経伝達物質ブロッカーのピクロトキシン及びストリキニーネ(200nl/2分で5μM)を注入した。
[0492] 計算及び統計データ
[0493] 皮質で誘発されたTS筋の痙攣を、ベースラインに対する痙攣力の高さとして計算した。前試験、tsDC中の試験、及び後試験の結果を、1Hzで誘発した10の応答の平均として計算した。スパイクヒストグラムソフトウェア(ADInstruments、米国コロラド州コロラドスプリングズ)を用いて、細胞外自発性運動ニューロンアクティビティを区別し解析した。刺激の前、刺激中の異なる時点、及び刺激の後に、自発性アクティビティの振幅及び周波数を、20秒の記録期間中の平均アクティビティとして測定した。一元配置分散分析、反復測定ANOVA、及びKruskal-Wallis一元配置分散分析を用いて、様々な治療条件間の差を試験した。次いで事後検定(post hoc test)(Holm-Sidak方法又はDunn’s Method)を実行して、ベースラインでの又は対の刺激中の皮質で誘発されたTS痙攣とそれらの刺激後との比較を行った。更に、対応t検定及びウィルコクソンの符号順位検定を用いて2つの治療条件を比較した。全てのデータは群平均±標準誤差(S.E.M.)として報告されている。SigmaPlot(SPSS、米国イリノイ州シカゴ)及びLabChartソフトウェア(ADInstruments, Inc.)を用いて、有意レベルをp<0.05に設定して統計的解析を行った。
[0494] 結果
[0495] 図13に示すように、a−tsDC又はc−tsDCの後に脊髄の組織化学的解析において形態学的変化は観察されなかった。
[0496] 1.tsDC刺激は脛骨神経の自発性アクティビティを調整する。
[0497] 脊椎ニューロンの自発性アクティビティに対するtsDCの効果を特徴付けるため、図14A(a−tsDC)及び図14B(c−tsDC)に示すように、tsDCの前、間、及び後で発火頻度を調べた。図14Cに示すように、a−tsDCでは、発火頻度は、+1、+2、及び+3mAにおいて、それぞれベースラインの3.3±0.3スパイク/秒から8.5±0.5、66.5±4.9スパイク/秒、及び134.2±6.7スパイク/秒に増大し、条件の著しい効果を生じた(反復測定ANOVA)。a−tsDCの終了直後、自発性の発火頻度はベースラインレベルに戻った。図14Dに示すように、c−tsDCでは、発火頻度は、−1、−2、及び−3mAにおいて、それぞれベースラインの2.2±0.6スパイク/秒から6.5±3.0、20.1±3.1スパイク/秒、及び93.1.±3.8スパイク/秒に増大し、条件の著しい効果を生じた(反復測定ANOVA)。c−tsDCの終了著k後、自発性の発火頻度はベースラインレベルに戻り、ベースラインから統計的に有意な差はなかった(p>0.05)。
[0498] 自発性発火頻度に対するa−tsDCの影響は、c−tsDCのものよりも有意に大きかった(Kruskal-Wallis ANOVA)。事後検定によって、これらの3つの全てのa−tsDC強度の段階では、c−tsDCの対応する強度により誘発された変化に比べ、自発性アクティビティの周波数の有意に高い変化が誘発されたことが明らかとなった。
[0499] tsDCの異なる強度及び極性の間に記録されたスパイク振幅の変化を、複数の条件にわたって記録した(ベースラインで、各強度段階で、及びtsDCを終了した後に)。図14Eに示すように、反復測定ANOVAによって、ベースライン中(16.8±0.3mV)に記録されたアクティビティ振幅に対する条件の全体的に有意な影響が示されており、これはa−tsDC段階の間に増大し(+1の段階=16.7±0.5mV、ステップ+2=63.2mV、ステップ+3=484.2±3.5mV)、次いで終了後に低下した(11.9±0.7mV)。以降の事後検定では、強度段階+2mA及び+3mA中に記録されたアクティビティのスパイク振幅は、ベースラインアクティビティよりも有意に高いことが示された(p<0.05)。また、図14Fに示すように、反復測定ANOVAによって、アクティビティ振幅に対する全体的な条件の有意な影響が示されており、ベースライン(7.0±0.3mV)、c−tsDCの間(−1の段階=17.3±1.5mV、ステップ−2=80.4±2.2mV、ステップ−3=123.7±4.3mV)、及び終了後(5.6±0.29mV)が記録された。以降の事後検定では、強度段階−2mA及び−3mA中に記録されたアクティビティの振幅は、ベースラインよりも有意に高いことが示された(p<0.05)。
[0500] これらの所見によって、tsDCの強度が高くなると多くの脊椎ニューロン又は脊椎ニューロンの潜在的に多くのクラスの強化が可能であることが示唆される。更に、+2mAのa−tsDC及び−2mAのc−tsDC中に記録されたアクティビティ振幅と+3mAのa−tsDC及び−3mAのc−tsDCとの間の差は、統計的に有意であった(t検定、p<0.001)。概して、これらの所見は、a−tsDC及びc−tsDCが異なる機構を介して脊椎ニューロンの興奮性に影響を与えることを示している。
[0501] 自発性アクティビティに対するa−tsDC及びc−tsDCの異なる影響を更に調べるため、これらの2つの条件並びにグリシン及びGABAレセプタブロッカーの注入によって誘発されるアクティビティについて自己相関図を生成した。図15Aに示すように、その結果として緊張性アクティビティが生じ、a−tsDCの間にバースト又は振動はなかった。逆に、c−tsDCは、図15Bに示すように、バースト及び振動性アクティビティを誘発した。c−tsDCと同様に、グリシン及びGABAレセプタブロッカーは、図15Cに示すように、バースト及び振動性アクティビティを誘発した。これは同様に、c−tsDC及びグリシン及びGABAレセプタブロッカーが、脊髄における律動発生回路を伴う影響の機構を共有している可能性があることを示している。
[0502] 2.tsDCは皮質で誘発されるTS痙攣を調整した。
[0503] tsDCが強度及び極性に依存して皮質で誘発されたTS痙攣を調整可能であったか否かについて取り組むために、刺激の前、tsDCの間に5つの強度段階で、及び刺激の(0、5、及び20分)後に、運動皮質を刺激することによってTS痙攣を誘発した。反復測定ANOVAを事後検定と組み合わせたところ、a−tsDCは運動皮質がTS痙攣を誘発する能力に影響を及ぼすことが示された(p<0.001)。図16Aに例を示す。図16Cに示すように、TS痙攣ピーク力のベースライン平均は0.52±0.04gであった。これは、+1mA、+1.5mA、+2mA、及び+2.5mAの強度で、それぞれ0.35±0.02g、0.32±0.01g、0.34±0.02g、及び0.28±0.01gに低下した。これに対して、a−tsDCの直後、皮質で誘発されたTS痙攣は有意に改善し(1.51±0.12g)、この改善はa−tsDCの5分後(1.20±0.15g)、及び20分後(1.9±0.38g)持続した。
[0504] a−tsDC群において、主要な効果の群があり(F−19.60、p<0.001、反復測定ANOVA)、事後検定によって、TS痙攣は、ベースラインに比べ、強度1から2.5mAの間に有意に弱く、a−tsDCの後の全ての3つの時点において有意に強かったことが示された。c−tsDC群でも、主要な効果の群があり(F−489.60、p<0.001、反復測定ANOVA)、事後検定によって、TS痙攣は、ベースラインに比べ、強度−1から−3mAの間に有意に強く、その後は有意に弱かったことが示された。エラーバーは、ベースラインに対してS.E.M.*p<0.005を表す。
[0505] a−tsDCに比べると、c−tsDCの適用は、皮質で誘発された痙攣に対して逆の効果を有した。反復想定ANOVAを事後検定と組み合わせることで、c−tsDCの間の皮質で誘発されたTS痙攣の有意な増強及びc−tsDC後の低下が示された。図16Bに例を示す。図16Dに示すように、平均ベースラインTS痙攣ピーク力は0.53±0.04であり、これは、−1mA、−1.5mA、−2mA、−2.5mA、及び−3.0mAで、それぞれ1.23±0.08g、1.98±0.13g、2.88±0.13g、4.35±0.14g、及び5.28±0.17gに上昇した。低下の効果はc−tsDCの終了後に見られ、ピーク力は、0、5、及び20分でそれぞれ0.23±0.10g、0.12±0.12g、及び0.12±0.012gであった。a−tsDCの結果と合わせると、これらのデータは、直流の経脊髄印加によって、運動皮質が腰椎レベルにおいてアクティビティを誘発する能力を調整可能であることを示している。この調整は、刺激の極性及び強度、並びに刺激に対する試験のタイミングに左右される。
[0506] 3.試験手順はtsDC後効果を変化させなかった。
[0507] a−tsDC又はc−tsDCの間に試験手順を実行することの考えられる効果を調べるため、tsDC刺激中の試験は行わずに前試験又は後試験のみを行って、これらの実験(n=3/群)を反復した。a−tsDCでは、a−tsDC刺激中の試験を含んだか又は含まない条件間に有意な差はなかった(H−5.3、p=0.06、Kruskal-Wallis ANOVA)。刺激の間に試験を行う条件及び行わない条件において、a−tsDCではTS痙攣の即時的な改善が誘発され(301.14±49.33%対366.9±46.9%)、これは5分後(229.59±66.03%対325.9±170.14%)、及び20分後(387.87±117.13%対299.6±137.57%)継続した。同様に、c−tsDCの低下の後効果に対する試験手順の影響はなかった(H=5.3、p>0.05、Kruskal-Wallis ANOVA)。刺激の間に試験を行う条件及び行わない条件において、c−tsDCでは皮質で誘発されたTS痙攣が即座に低下し(33.48±6.40%対17.65±6.40%)、5分後(21.24±3.8%対25.45±2.98%)、及び20分後(23.95±3.44%対25.35±3.0%)も低下した。これらの結果は、この研究で用いた試験手順がa−tsDC又はc−tsDCにより誘発された後効果に影響を与えなかったことを確認するものである。
[0508] 4.皮質で誘発された脛骨神経電位の待ち時間に対するa−tsDC及びc−tsDCの影響
[0509] 皮質で誘発された脛骨神経電位の待ち時間を、a−tsDC及びc−tsDCの前、間、及び後に測定した。+2mAのa−tsDC及び−2mAのc−tsDCにおいて測定した待ち時間のみを提示するが、これは、これらの強度における待ち時間と、TS痙攣を有意に増大させた他の強度におけるものとの間に、差が見られなかったからである。しかしながら、tsDC後の全ての時点における測定値に基づいて、平均待ち時間を計算した。図17Aに示すように、a−tsDCでは、Kruskal-Wallis ANOVAによって著しい時間の効果が示された(ベースライン、刺激中、及び刺激後)。事後検定によって、皮質で誘発された脛骨神経電位の待ち時間は、ベースライン(19.82±0.17ms)に対して、+2mA刺激の間に有意に長く(21.5±0.34ms)、終了後は短い(17.92±0.21ms)ことが明らかとなった。同様に、c−tsDCの適用では、Kruskal-Wallis ANOVAによって著しい時間の効果が示された。事後検定によって、皮質で誘発された脛骨神経電位の待ち時間は、ベースライン(20.33±0.22ms)に対して、−2mA刺激の間に有意に短く(17.42±0.22ms)、終了後は長い(23.90±1.19ms)ことが明らかとなった。
[0510] 合わせて考えると、これらのデータによって、tsDCが、運動皮質に応答する能力を変化させるように脊椎ニューロンの興奮性に影響を与えることが示される。このため、待ち時間の変化は、シナプスの数に応じて脊椎内経路がもっと速いか又は遅いルートに方向変換することによるか、又は単に脊椎ニューロンの強化パターンの変化による場合がある。
[0511] 5.rCES及びtsDC刺激の組み合わせ
[0512] 図18A及び図18Bに示すように、a−tsDC(+2mA)又はc−tsDC(−2mA)のいずれか間に3分間、運動皮質を刺激した(180パルス、1Hz、最大強度〜5.5mA)。図18Cに示すように、rCES及びa−tsDCの組み合わせは、ベースライン(0.39±0.05g)に比べ、刺激の終了後に(0.80±0.10g)皮質で誘発されたTS刺激の著しい改善と関連付けられた(p<0.001)。注意すべきことは、図18Dに示すように、rCES及びc−tsDCの組み合わせは、ベースライン(0.21±0.51g)に比べ、刺激の終了後に(3.67±0.51g)同様の改善を示した(p<0.001)。これらの2つの異なる刺激パラダイムの後の改善は、すぐに顕著な変化を生じることなく、終了の5分後及び20分後にも継続した。このため、終了後に示された結果は、これらの3つの時点の平均を表す。別個の動物群(n=2)においてrCESのみの影響を試験したところ、ベースラインに比べて終了後に変化は見出されなかった(t検定、p>0.05)(データは図示せず)。
[0513] 本実験で用いた合計4つの刺激パラダイムは、皮質で誘発されたTS収縮に影響を与えた。すなわち、a−tsDC、c−tsDC、rCESと組み合わせたa−tsDC、及びrCESと組み合わせたc−tsDCである。Kruskal-Wallis ANOVAによって、著しい条件の効果が示された(H=66.97、p<0.001)。多数の比較により、c−tsDC及びrCESの組み合わせは、特にc−tsDC(33.66±9.82%)の後に見られる低下効果を反転させるために、他の全てのパラダイム(2287.07±342.49%)よりも効果的であることが示された(p<0.05)。a−tsDC及びrCESの組み合わせは、a−tsDCのみ(329.18±38.79%)に比べ、有意な差は示さなかった(252.88±30.79%)(p>0.05)。これらの所見により、皮質アクティビティはc−tsDC後効果に強い影響を有するが、a−tsDC後効果に対しては影響を持たないことが示される。
[0514] 考察
[0515] 組織学的解析によって、本研究で用いるtsDCパラメータの有害な形態学的影響は実証されなかった。用いた最大電流密度は3分間の持続時間で3.75A/m2であり、これは当技術分野で公知のラット及びマウスにおいて典型的に用いられる範囲よりもはるかに低い。この研究では、脊髄刺激は3つの点で頭骨刺激と異なった。すなわち、(1)電極表面から脊髄の前側までの距離は〜7mmであり、これに対して頭蓋までの距離は〜0.3mmであった。(2)電極と脊髄との間に骨、筋肉、及び脂肪組織が存在したが、頭蓋には骨のみが存在した。(3)ターゲット組織を囲む導体の体積は脳においてよりも脊髄においてはるかに大きく、潜在的に電流を変形させてその密度を低下させた。
[0516] a−tsDC及びc−tsDCは双方とも、強度に依存して、自発性の脛骨神経アクティビティの周波数及び振幅を著しく増大させた。興味深いことに、a−tsDCは、発火頻度を高めて大きい振幅でユニットを強化する際に、c−tsDCよりも有効であった。これらの結果は、大脳皮質、海馬回スライス、及び小脳のa−tsDC刺激からのデータと一致する。ニューロン放電に対するc−tsDCの影響は、3つの点でいっそう複雑である。第1に、c−tsDCのみで、高い強度(−2及び−3mA)において著しい変化を生じた。第2に、c−tsDCは大きいスパイクのニューロン発火を生じなかったが、いくつかの実験では大きいスパイク(1mV)の発火を抑制することが観察された一方で、小さいスパイクの発火は増大した。第3に、図14Bに示すように、c−tsDCは律動的発火を誘発した。c−tsDCにより誘発された発火率の上昇は、負電流が時として発火率を上昇させた以前の観察を支持するものである。Bindman L. J.、Lippold O. C.、及びRedfearn J. W.「The action of brief polarizing currents on the cerebral cortex of the rat (1) during current flow and (2) in the production of long-lasting after-effects」、J. Physiol、172:369〜382(1964年)を参照のこと。
[0517] 刺激の間、a−tsDCは皮質で誘発されたTS痙攣を減少させたが、c−tsDCは痙攣を著しく強化した。tsDCの直後から少なくとも20分後までは、皮質で誘発されたTS痙攣は、a−tsDCの後に著しく強化され、c−tsDCの後に減少した。更に、a−tsDCでは皮質で誘発された脛骨神経電位の待ち時間が長くなったが、c−tsDCではこの待ち時間が短くなった。a−tsDC又はc−tsDC刺激が終了した後、待ち時間に対する影響は反転した。
[0518] 皮質刺激の強度が安定しているにも関わらず待ち時間の変化が観察されており、このことは、これらの変化の背後にある要因には皮質部位からもっと深い位置への活性化の切り替えが含まれないようであることを示唆している(Rothwell等、1994年)。これらの要因に含まれる可能性があるのは、(1)c−tsDCによる軸索過分極(Moore and Westerfield、1983年)、又は(2)皮質運動ニューロンの伝送を行う優先的な脊椎回路の活性化である。げっ歯類では、皮質運動ニューロン経路は2つの間接ルートを有する。すなわち、網様体脊髄ニューロンを介して与えられる速い方のルート、及び、セグメント介在ニューロンを介して与えられる遅い方のルートである。この所見によって、c−tsDCが脊髄における興奮性のパターンを速い方の網様体脊髄ルートへとシフトする場合があることが示唆される。興味深いことに、rCESと組み合わせたa−tsDC(1Hz)は皮質で誘発されたTS痙攣を強化するが、a−tsDCのみと変わりない。これとは逆に、rCESと組み合わせたc−tsDCは皮質で誘発されたTS痙攣を強化し、いずれの刺激条件でも最大の効果を有した。
[0519] ニューロンアクティビティに対するa−tsDC及びc−tsDCの影響の差は、2つの条件が異なる機構を介して別個のニューロンタイプに影響を及ぼすことを示唆している。電流の方向に対する脊椎ニューロンの形態は、効果(すなわち興奮性の上昇又は低下)の電流の位置及び種類を決定する。図19に示すように、背面陰極電流は、電極に近いニューロン区画を脱分極し、電極から遠い区画を過分極しなければならない。このため、樹状突起及び細胞体が脊髄の前側にあり、軸索が背側にある介在ニューロンは、過分極の樹状突起ツリー及び細胞体を有し、脱分極の軸索及び神経末端を有する。かかるニューロンはシナプス活性化に対する応答性は低いが、軸索で発生した活動電位を自発的に発火させる閾値は低い。反対側に向いた脊椎ニューロンは陰極刺激に対して反対の応答を示す。この議論は、背部側部及び中央の神経線維束刺激に対する運動ニューロン応答が樹状突起及び細胞体における脱分極電流によって促進されたが過分極電流による影響は受けなかったという所見によって支持される。これは海馬においても発生することが示されている(Bikson、2004年)。Delgado-Lezama R.、Perrier J. F.、及びHounsgaard J.「Local facilitation of plateau potentials in dendrites of turtle motoneurones by synaptic activation of metabotropic receptors」、J. Physiol、515(Pt1):203〜207(1999年)、及びBikson M.「Effects of uniform extracellular DC electric fields on exciability in rat hippocampal slices in vitro」、J. Physiol、557:175〜190(2004年)を参照のこと。
[0520] シナプス前脱分極は、シナプス前神経活動電位及びEPSPを低下させることが示されている。Hubbard J. I.及びWillis W. D.「The effects of depolarization of motor nerve terminals upon the release of transmitter by nerve impulses」、J. Physiol、194:381〜405(1968年)、Hubbard J. I.及びWillis W. D.、「Reduction of transmitter output by depolarization」、Nature193:1294〜1295(1962年)を参照のこと。シナプス前神経活動電位及びEPSPの低下は、a−tsDCの間の皮質で誘発されたTS痙攣を軽減させる際に役割を果たす場合がある。更に、細胞体及び樹状突起の過分極は、a−tsDCの間の皮質刺激に対する運動ニューロン応答を低下させる可能性がある。代替的な説明は以下を含むことがある。すなわち、(1)自発性発火の増加による無反応運動ニューロン数の増加、又は(2)脊椎又は脊椎上の抑制性経路の優先的な活性化である。
[0521] 律動的アクティビティは、c−tsDCの間は観察されたがa−tsDCの間は観察されず、このことは、c−tsDCが脊椎の抑制性介在ニューロンに対して低下効果を有し得ることを示している。かかる介在ニューロンは、印加電界に対する形態のために抑制される場合がある。c−tsDCは興奮性及び抑制性の双方の脊椎介在ニューロンを過分極させることがある。抑制性及び興奮性の脊椎介在ニューロンが異なる膜チャネルを含むと想定される場合(例えば抑制性介在ニューロンにおけるわずかな低電圧活性化T型カルシウムチャネル及び過分極活性化カチオンチャネル)、過分極は抑制性介在ニューロンを沈静させ、従って興奮性介在ニューロンの抑制を除去する。これに対して、脊椎律動発生(rhythmogenic)ニューロンでは、過分極tsDCは過分極活性化した非選択性カチオン電流(Ih)を活性化し得る。T型Caチャネルと組み合わせると、Ihは細胞膜を徐々に脱分極して活動電位の閾値に到達するはずであり、これは皮質で誘発されたTS痙攣のc−tsDC誘発強化を与える別の機構である場合がある。
[0522] 更に、陰極刺激は、電流の方向に垂直に整列した軸索の興奮性を高めることが示されている。Ardolino G.、Bossi B.、Barbieri S.、及びPriori A.、「Non-synaptic mechanisms underlie the after-effects of cathodal transcutaneous direct current stimulation of the human brain」、J. Physiol、568:653〜663(2005年)を参照のこと。従って、本研究では、陰極電極の下を通る皮質脊椎管は、軸索の興奮性を高め、従って脊椎出力を上昇させると考えられる。これとは逆に、a−tsDC刺激に応答して、運動ニューロンの樹状突起及び細胞体は過分極され、軸索は脱分極される。電圧感知膜コンダクタンスに影響を与える位置における軸索脱分極は、a−tsDCの間の自発性アクティビティの発火率及び振幅を増大させることがある。
[0523] 脊髄において、運動ニューロン樹状突起に存在するLタイプのCa+2チャネルは、脱分極電流の促進作用を与える。しかしながら、DC刺激後効果を与える正確な細胞機構は明らかでない。注意すべきことに、陰極DC刺激の低下後効果を与える機構は完全に未知である。我々は、c−tsDC誘発分極のパターン(例えばシナプス前過分極及びシナプス後脱分極)が、抑制性シナプス前末端を選択的に低下させるエンドカンナビノイドによる逆行性シグナリング等、低下を与える機構を活性化させ得ることを示している。
[0524] 第8の実験(aCENSを使用)
[0525] 第7の実験においては、2010年秋の第5の実験において説明したのと同じ四肢麻痺の9か月の女児にtsDC刺激を適用した。この女児は、頭部、頸部、胴体、腕及び脚が動かない完全な麻痺であった。彼女の腕はdCMS治療に応答したが、彼女の脚はパルス電気刺激信号に応答しなかった。
[0526] 3週間にわたって、各々が約15分間続くtsMC治療セッションを4回行い、女児を治療した。彼女の左運動皮質及び右運動皮質に2つの第1の電極を接続した。彼女の右ヒ骨神経端部、左ヒ骨神経端部、右側のふくらはぎの筋肉の隆起部、左側のふくらはぎの筋肉の隆起部、右足裏、及び左足裏に、多数の第2の電極を接続した。T9及びT12の脊椎骨間で脊椎上に第3の電極を配置した。図24に示したものと同じ、持続時間が400マイクロ秒の双極性電気パルスを含む電気刺激信号を、2個の第1の電極、6個の第2の電極、及び第3の電極に、1Hzの周波数で共通して印加した。同じ電気刺激信号の振幅は、彼女の脚に痙攣を開始させる信号強度に選択した。
[0527] 治療の後、彼女の下部遠位筋肉の筋肉緊張が増大し、彼女は手の支持を用いて座ることができた。彼女はつま先及び脚を動かすことができた。
[0528] 本発明について具体的な実施形態を用いて記載したが、前述の記載に鑑み、当業者には多くの代替、変更、及び変形が明らかであることは明白である。従って、本発明は、本発明の範囲及び精神並びに以下の特許請求の範囲内に該当するかかる代替、変更、及び変形を包含することを意図している。