JP2013253265A - 時効硬化型ベイナイト非調質鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】時効硬化型ベイナイト非調質鋼の組成を質量%でC:0.06〜0.18%,Si:0.01〜0.60%,Mn:0.10〜3.00%,S:0.001〜0.030%,Cu:0.001〜0.40%,Ni:0.001〜0.40%,Cr:0.10〜2.00%,Mo:0.01〜1.00%,V:0.20〜0.45%,残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が1.4以下,式(2)の値が16.5以下,式(3)の値が20.0〜35.0を満たす組成を有するものとする。
式(1)=15×[C]−[Mo]−2×[V],式(2)=4×[C]+[Si]+4×[Mn]+[Cu]+[Ni]+5×[Cr]+4×[Mo]+5×[V],式(3)=3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]
【選択図】 なし
Description
ところがこの場合、鋼組織がフェライトに比べ脆いパーライト主体の組織となるため靭性が著しく低下してしまう。従って靭性を確保しながら強度を一定以上に高くすることは難しい。
また耐力を向上させるために単純に硬さを高めれば被削性が劣化し、切削加工の際の負荷を増大させ加工性を悪化させてしまう。
1つの解決手段として、時効硬化型のベイナイト非調質鋼が研究されている。
例えば下記特許文献1,特許文献2に、この種の時効硬化型ベイナイト非調質鋼が開示されている。
ところが従来の時効硬化型ベイナイト非調質鋼においては、研究の主眼が主として高硬度,高強度化に向けられており、靭性を十分に高めたものは未だ提供されていない。
例えば特許文献1,特許文献2に記載のものにあっても、高強度化を指向して、時効硬化処理時に析出物を多くだすためCを多く含有させている。また特に靭性を向上させることを指向していないため、実施例中靭性値も示されていない。
このような中にあって、現在提供され或いは提案されている時効硬化型ベイナイト非調質鋼は耐衝撃特性を特に必要とする部品への適用が困難であった。
15×[C]−[Mo]−2×[V]・・式(1)
4×[C]+[Si]+4×[Mn]+[Cu]+[Ni]+5×[Cr]+4×[Mo]+5×[V]・・式(2)
3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(3)
(但し式(1)〜式(3)中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す)
時効硬化処理前の硬さが36HRC以下であることによって、時効硬化処理に先立って加工を行う際の被削性等の加工性が良好となる。
尚、時効硬化処理前の硬さは33HRC以下であることがより望ましい。
一方で、時効硬化処理前の硬さは25HRC以上であることが望ましく、より好ましくは27HRC以上であることが望ましい。
時効硬化処理前の硬さが低ければ、それだけ被削性等の加工性は良くなるものの、その後時効硬化処理(析出硬化)により硬さを高めたとしても十分にその硬さを硬くすることが難しくなる。
即ち圧延,鍛造等の熱間加工後又は固溶化熱処理後に温度800℃〜300℃の間を0.05〜10℃/秒の平均冷却速度で、通常は空冷により冷却することで製造することができる。
C:0.06〜0.18%
Cは強度を確保するために必要な元素であるとともに、時効硬化処理によりMo,Vの炭化物を析出させて鋼を高硬度化する。その働きのために0.06%以上が必要であり、0.06%未満では所要の硬さ,強度が確保できない。
一方、0.18%を超えて多量に含有させるとセメンタイト量が増加し、同時にアスペクト比が大で細長い形の大きなセメンタイトが増加して、それらがクラックの発生起点及び伝播経路となり、疲労強度特性を劣化させるため、Cの含有量を0.18%以下とする。Cの望ましい含有量の範囲は0.08〜0.14%未満である。
Siは鋼の溶製時の脱酸剤として加えられる。また鋼の疲労強度を高める働きがある。その働きのために0.01%以上含有させる必要がある。
一方、0.60%を超えて多量に含有させると熱間鍛造等の熱間加工性を損ね、製造性を低下させる。また熱間加工後の切削加工等の加工時の素材の硬さが過剰となり、加工性を劣化させるため上限を0.60%とする。望ましい範囲は0.05〜0.55%の範囲内である。
Mnは本発明において重要な役割を果たす元素であり、熱間加工後の組織をベイナイト組織とするために不可欠な元素である。またMnは被削性向上に寄与するMn系硫化物を形成するためにも必須の元素である。その働きのため本発明では0.10%以上含有させる。
一方、3.00%を超えて多量に含有させるとマルテンサイト組織を現出させやすく、熱間加工後の硬さを高め、被削性の低下を招くだけでなく熱間加工性も損ねるため、上限を3.00%とする。好ましくは0.50〜2.20%の範囲内とする。
SはMnとともに被削性向上に寄与するMn系硫化物の必須生成元素である。その含有量が0.001%未満では硫化物の生成量が不足し被削性が不十分となるため、本発明では0.001%以上含有させる。
一方、0.030%を超えて過剰に含有させると、鋼の靭性と延性が損なわれ、またその介在物が疲労破壊の起点となり、疲労強度特性を劣化させるため上限を0.030%とする。望ましい範囲は0.015〜0.030%の範囲内である。
Ni:0.001〜0.40%
Cu,Niはフェライト・パーライト変態開始曲線を長時間側に移動させ、相対的にベイナイトを生成させ易くする働きを有し、また固溶強化によりベイナイト素地の硬さの向上に寄与する元素で、本発明ではその働きのためCu,Niそれぞれを0.001%以上含有させる。
但し0.40%を超えて過剰に添加すると硬くなり過ぎるため、含有量を0.40%以下とする。
望ましい範囲は0.10〜0.30%の範囲内である。
Crはベイナイト組織を生成させるために不可欠な元素であり、ベイナイト組織を安定に生成させるために0.10%以上含有させる。
一方、2.00%を超えて多量に含有させると、熱間加工後の硬さが高くなって被削性の低下を招き、また熱間加工性も損ねるため上限を2.00%とする。
望ましい範囲は0.20〜1.80%の範囲内である。
Moは本発明において重要な役割を果たす元素であり、時効硬化処理によって鋼の硬さを増加させる。またMoはベイナイト組織を生成させるためにも不可欠な元素である。更にMoはMo炭窒化物を時効硬化処理により析出させると耐力比を向上させ、且つ耐久比を高めるため、高強度化において重要な元素である。それらの働きのために本発明では0.01%以上含有させる。
一方、1.00%を超えて多量に含有させると、熱間加工後の硬さを高め、鋼の加工性を損ね、かつコストアップに繋がるため、上限を1.00%とする。
望ましい範囲は0.15〜0.30%の範囲内である。
Vは本発明において重要な役割を果たす元素であり、時効硬化処理によって硬さを増加させる。
Vはまた、Moとともにベイナイト組織を生成させるために不可欠な元素であり、更にVは炭窒化物を時効硬化処理により析出させると耐力比を向上させ、かつ耐久比を高めるため高強度化において重要な元素である。その働きのため本発明では0.20%以上含有させる。
一方、0.45%を超えて過剰に含有させると、熱間加工後の硬さを高め、被削性等の加工性を低下させるだけでなく、熱間鍛造等の熱間加工性も損ね、かつコストアップに繋がるため上限を0.45%とする。望ましい範囲は0.15〜0.35%であり、より望ましくは0.15〜0.30%の範囲内である。
P:製鋼工程上の不可避不純物として混入しうる元素であるが、Pは鋼の靭性を低下させるので、その含有率は0.04質量%以下とするのがよい。
式(1)はセメンタイト生成量を表す指数となるもので、式(1)の値が大きい程セメンタイトが生成し易く、逆に小さいほどセメンタイト生成が抑制される。詳しくはMo,Vの量が多くなればそれらがCと結合して炭化物形成し、Feと結合してセメンタイト生成するC量を少なくする。
従ってセメンタイトの生成を少なくするためには、Cを低量とするとともに、式(1)の値を小さくすることが必要であり、そしてセメンタイトの生成を少なくすることにより、粗大なまたアスペクト比が大で細長い形の大きなセメンタイトの生成を抑制でき、それらセメンタイトがクラックの発生起点及び伝播経路となることになる靭性の低下を効果的に抑制することができる。
即ち、100μmを一辺とする正方形の領域を観察領域とし、その観察領域10視野における短手方向寸法5μm以上の大きなサイズのセメンタイトが平均で5個以下であり、且つサイズに拘らず合計のセメンタイトの割合が面積率で平均10%以下となるように規制し易い。
この式(2)の値は熱間鍛造等の熱間加工後(以下単に熱間鍛造後とする)、より詳しくは時効硬化処理前の硬さを表わす指数となるものであり、その値が大きい程熱間鍛造後硬さは硬く、また小さい程熱間鍛造後硬さは低くなる。
尚、時効硬化処理前の硬さは低ければ低い方が加工性は良好となるが、一方でその後に時効硬化処理を行って硬さを高くしたときに、十分にその硬さを硬くすることが難しくなる。従ってこの意味において時効硬化処理前の熱間鍛造後硬さは一定以上に高くしておくことが望ましい。具体的にはその硬さを25HRC以上、好ましくは27HRC以上としておくことが望ましい。またこれを達成する上で、式(2)の値を11以上としておくことが望ましい。
式(3)はベイナイトを安定して形成するための指数となるもので、本発明では、時効硬化処理前の鋼組織を実質的にベイナイト単相組織とする上で、詳しくはベイナイト組織の面積率を85%以上とする上で、この式(3)の値を20.0〜35.0の範囲内とすることが必要である。
本発明では、時効硬化処理によってMo,Vの炭化物を析出させ、その析出強化によって鋼を高硬度化,高強度化するものであるが、このようにMo,V等の炭化物を2次析出させる技術自体は、焼入れ焼戻し処理では一般に用いられている技術である。しかしながら焼入れ焼戻し処理のように素材状態をマルテンサイト組織とした場合には、炭化物の析出によって焼入れ硬さよりも高い硬さを得るといったことはできない。
その後、625℃で2時間の条件で時効硬化処理を行い、引張試験,シャルピー衝撃試験,硬さ試験,ミクロ組織観察に供した。
またそれ以外に鍛造後空冷ままで、時効硬化処理しない状態でもドリル試験,硬さ試験を実施した。
ここで引張試験,シャルピー衝撃試験,硬さ試験,ミクロ組織観察はそれぞれ以下のようにして行った。
引張試験については、JIS Z 2201の14A号試験片を作製して引張速度1mm/secの条件で行い、0.2%耐力比(0.2%耐力/引張強度)を求めた。目標値0.80以上を○、未満を×として表2に評価を示した。表2には、これら○,×の評価と併せて耐力比の数値も示した。
シャルピー衝撃試験はJIS Z 2202 3号2mmUノッチ試験片を作製して、試験を室温で実施し、衝撃値を測定した。衝撃値が目標値の20J/cm2を満たしている場合を○,満たしていない場合を×として評価を行った。
尚、表2では○,×の評価と併せて括弧書きで実際の衝撃値の測定値も示した。
硬さ試験はJIS Z 2245に準拠し、ロックウェル硬度計にて荷重150kgfダイヤモンド円錐圧子で実施した。
硬さは試験片の半径の1/2の個所で測定を行った。
ミクロ組織観察については、ナイタール腐食後、光学顕微鏡(倍率400倍)にて観察し、ベイナイト率を測定した。またセメンタイトの生成量(比率)及び粗大なセメンタイトの生成個数を走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率5000倍)にて観察し測定した。
ここでセメンタイトについては、100μmを一辺とする正方形の領域を観察領域とし、観察領域10視野における短手方向寸法5μm以上の大きなサイズのセメンタイトの平均生成個数と、サイズに拘らず合計のセメンタイトの割合(面積率)を測定した。
またベイナイト率については、ベイナイト組織の面積率が85%以上であった場合を○,ベイナイト組織とフェライト組織の混合(フェライト組織の面積率15%以上)であった場合を×Fとし、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の混合組織(マルテンサイト組織の面積率15%以上)であった場合を×Mとして評価を行った。
尚、表2中ではこれら○,×の評価と併せて、括弧書きで実際に測定されたベイナイトの面積率も併せて示してある。
ドリル試験は、φ5mmのストレートシャンク,ドリル材質がJIS SKH51のドリルを用い、送り0.10mm/rev,潤滑油なしの条件で加工を実施し、加工距離5000mmに致達する速度にて評価を行った。
目標加工速度20m/minを満たす場合は○、下回る場合は×として表2に示した。表2にはこれら○,×の評価と併せて括弧書きで加工速度の具体的な数値(m/min)も示した。
結果として鋼組織がマルテンサイトとの混合組織となっており、被削性が悪い。また衝撃値も低い。
これに対して本発明の条件を満たす1〜11の発明鋼は、何れの特性も良好となっている。
写真中白く表れている部分が生成したセメンタイトで、これらの比較から明らかなように、発明鋼6ではセメンタイトの生成が効果的に抑制されており、従ってまたそこに存在するセメンタイトの大きさも丸くて小さい。
Claims (4)
- 質量%で
C:0.06〜0.18%
Si:0.01〜0.60%
Mn:0.10〜3.00%
S:0.001〜0.030%
Cu:0.001〜0.40%
Ni:0.001〜0.40%
Cr:0.10〜2.00%
Mo:0.01〜1.00%
V:0.20〜0.45%
残部Fe及び不可避的不純物から成り、且つ下記式(1)の値が1.4以下,式(2)の値が16.5以下,式(3)の値が20.0〜35.0を満たす組成を有することを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。
15×[C]−[Mo]−2×[V]・・式(1)
4×[C]+[Si]+4×[Mn]+[Cu]+[Ni]+5×[Cr]+4×[Mo]+5×[V]・・式(2)
3×[C]+10×[Mn]+2×[Cu]+2×[Ni]+12×[Cr]+9×[Mo]+2×[V]・・式(3)
(但し式(1)〜式(3)中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す) - 請求項1において、時効処理前におけるベイナイト組織の面積率が85%以上で且つ硬さが36HRC以下であることを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。
- 請求項1,2の何れかにおいて、500〜700℃の温度での時効硬化処理により硬さが時効硬化処理前の硬さよりも4HRC以上高くなることを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、100μmを一辺とする正方形の領域を観察領域とし、該観察領域10視野における短手方向寸法5μm以上の大きなサイズのセメンタイトが平均で5個以下であり、且つサイズに拘らず合計のセメンタイトの割合が面積率で平均10%以下であることを特徴とする時効硬化型ベイナイト非調質鋼。
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