JP2013249530A - グラフェンの製造方法及びグラフェン - Google Patents

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Abstract

【課題】不純物の少ない高品質なグラフェン膜を成膜する手法を提供する。
【解決手段】基材温度を200℃〜700℃、圧力を50Pa以下に設定し、含炭素ガス又は含炭素ガスと酸化抑制剤からなる混合ガスに、ヘリウム(He)ガスを加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマCVD法により、前記基材表面上にグラフェン膜を堆積させる。また基材が銅など、表面に酸化物が存在する場合には、水素ガスをヘリウムガスで希釈した混合ガスによるプラズマ処理を、グラフェン成膜CVD処理の前に行うことにより、不純物の導入を抑え、かつ酸化物の還元を行う。
【選択図】図8

Description

本発明は、グラフェンの製造方法及びグラフェンに関し、特にヘリウムガスを用いて、高品質なグラフェン薄膜を製造する方法及び高品質なグラフェンに関するものである。
グラフェンとは、sp2結合した炭素原子からなる2次元シート1層または数層からなる結晶で、このグラフェン結晶からなる薄膜をグラフェン膜という。グラフェン膜については、非特許文献1に詳述されている。
グラフェン膜は、数原子層程度と非常に薄いため可視光透過率が高く、かつ電気伝導度も高いため、透明導電膜や透明電極としての利用が期待されている。一般に電気伝導度の高い物質は光に対して不透明であり、透明かつ高電気伝導度である物質は限られる。また、現在実用化されている主要な透明導電膜、透明電極材料は酸化インジウムスズ(ITO)であるが、これは高価で供給が不安定であるレアメタル(インジウム)を含んでおり、その将来にわたる供給に不安がある。グラフェン膜は炭素原子のみで構成されており、ITOのような問題は存在しない。この点においてもグラフェン膜が非常に期待される所以となっている。
グラフェン膜の製造については、天然黒鉛からの剥離法、炭化ケイ素の高温熱処理によるケイ素離脱法、様々な金属表面への形成法等が現在までに検討、開発されている。グラフェン膜は、その工業的利用が多岐にわたって検討されているため、さらに高いスループットの成膜法の開発が望まれている。この様な状況の中、最近、銅箔表面への化学気相合成(CVD)法によるグラフェン膜の形成法が開発された(非特許文献2、3)。この方法は熱CVD法と呼ばれるもので、原料ガスのメタンを約1000℃で熱的に分解し、銅箔表面に1層から数層のグラフェン膜を形成する方法である。
上記の銅箔基材を用いたグラフェン膜の熱CVD法は、グラフェン膜による透明導電膜の工業的形成法として有望な方法であると考えられている。しかし、この手法では、銅の融点(1080℃)に近いプロセス温度が必要であるため、グラフェン合成プロセス中の銅の蒸発や再結晶化による銅箔表面の形状変化等の問題があることが判明している。また、高いスループットで大面積に成膜する主な手法のひとつとして、ロールに巻いた銅箔基材を成膜領域に連続的に送り込みながら成膜し、これをロールで巻き取る、という手法が多く使用されるが、熱CVD法では基材が高温になるために、該手法の適用は困難である。工業的な高スループット生産のためには、熱CVD法と比較して低温かつ反応時間の短い成膜手法の開発が望まれる。
上記の状況を解決する手法として、300〜400℃という低温で大面積にグラフェン膜を合成できる、表面波プラズマを用いたマイクロ波プラズマCVD法が開発され、既に公知となっている(非特許文献4)。通常のマイクロ波プラズマCVD法では、圧力103〜104PaのもとでCVD処理が行われる。この様な圧力では、プラズマが拡散しにくく、狭い領域に集中するため、プラズマ内の中性ガスの温度が1000℃以上になる。そのため、プラズマ内の基材の温度も800℃以上に上昇する。したがって、非特許文献4では、大面積に均一なプラズマを得るために、上記のような低圧力をもちい、102Pa以下においても安定してプラズマを発生・維持できるマイクロ波表面波プラズマを用いることにより、上記低温・大面積グラフェン膜合成を実現している。なお、マイクロ波表面波プラズマについては、例えば文献「菅井秀郎、プラズマエレクトロニクス、オーム社、2000年、p.124-125」に詳述されている。
山田久美、化学と工業、61 (2008)pp.1123-1127. Xuesong Li,Weiwei Cai,Jinho An,Seyoung Kim,Junghyo Nah,Dongxing Yang,Richard Piner,Aruna Velamakanni,Inhwa Jung,Emanuel Tutuc,Sanjay K.Banerjee,Luigi Colombo,Rodney S.Ruoff,Science,Vol.324,2009,pp.1312-1314. Xuesong Li,Yanwu Zhu,Weiwei Cai,Mark Borysiak,Boyang Han,David Chen,Richard D.Piner,Luigi Colombo,Rodney S.Ruoff,Nano Letters,Vol.9,2009,pp.4359-4363. Jaeho Kim,Masatou Ishihara,Yoshinori Koga,Kazuo Tsugawa,Masataka Hasegawa,Sumio Iijima,Appl.Phys.Lett.,98(2011)091502. L.G.Cancado,M.A.Pimenta,B.R.A.Neves,M.S.S.Dantas,A.Jorio,Phys.Rev.Lett.93(2004)247401. L.M.Malard,M.A.Pimenta,G.Dresselhaus,M.S.Dresselhaus,Phy.Rep.473(2009)pp.51-87
上記非特許文献4に開示の手法を用いることにより、銅箔基板の融点より十分低い温度で、グラフェン膜の合成を行うことができる。このとき、キャリアガスとしてアルゴンを用い、これに水素および炭素源としてメタンガスを混合した混合反応ガスを用いる。上記非特許文献4に開示の手法以外にも、一般にグラフェン膜のプラズマCVD合成においては、アルゴンガスをキャリアガスとして用いる。しかしアルゴン混合ガスを反応ガスとして用いた場合、成膜されたグラフェン膜中に不純物が導入されてしまうという問題があった。これは、アルゴン分子(原子)の分子(原子)量が約40と比較的大きいためで、これが、例えばマイクロ波導入のための石英窓や、反応炉内壁をスパッタし、シリコン、酸素、アルミニウムなどの不純物導入の原因となる。
マイクロ波プラズマCVD法をはじめ、プラズマCVD法においては、グラフェンを成膜する反応炉内に、石英製の部材を使用している場合が多く、特にここからシリコン不純物がグラフェン膜中に導入され易い。このシリコン不純物が、高抵抗化等、グラフェン膜の品質劣化を引き起こすため、シリコン不純物導入の抑制が重大な問題であった。
また、CVD法を用いたグラフェン成膜には、多くの場合銅、特に銅箔基材が用いられる。しかし、銅は大気中で酸化されやすく、また多くの場合、銅箔は強度を高めるために予め酸化されている。この様に酸素を含む銅基材を用いると、銅基材上に形成された酸化銅によって、グラフェン成膜時の銅の触媒作用が妨げられる他、グラフェン膜の酸化が起こり、その抵抗が増加するなどの悪影響が問題であった。そのため、グラフェンのCVD成膜処理を行う前に、酸処理等によって酸化銅を除去する必要があった。しかしこの方法では、酸処理後、CVD反応炉に基材を導入して反応炉を排気するまでの間に、大気中に基材を曝してしまうと、直ちに再酸化が始まってしまい、CVD処理前に完全に酸化物を除去することが困難である。
この様にウェットプロセスによる酸化物除去の他に、水素の還元作用を利用したドライプロセスによる酸化物除去法が存在する。プラズマCVD法の場合には、成膜プロセスの前に、同じ反応炉中で水素プラズマ処理を行うことにより、酸化銅除去を行うことができる。この場合、酸化銅除去プロセスに引き続いて、基材を大気に曝すことなく成膜プロセスを行うことができ、酸化銅をほぼ完全に除去することができる。また、酸化銅除去プロセスと成膜プロセスを同じ反応炉中で連続して行うことができるため、効率が良い。しかし、この場合、水素プラズマの反応性の高さにより、アルゴンによるスパッタと同様に、反応炉内部をエッチングし、不純物をグラフェン膜中に導入してしまうという問題があった。
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、従来のプラズマCVD法によるグラフェン膜成膜の課題である、アルゴンや水素プラズマによる不純物導入の問題を解決し、より不純物の少ない高品質なグラフェン膜を成膜する手法を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するために、本発明のグラフェン膜製造方法においては、グラフェン膜のプラズマCVDによる製造過程において、分子(原子)量の小さなヘリウムガスを添加することによって実現させた。また、上記銅基材表面の酸化物除去の問題は、製造過程前にヘリウムおよび水素の混合ガスによるプラズマ処理を行うことによって解決した。
一般に、プラズマCVDなどプラズマを用いたプロセスでは、プラズマを安定に点灯・維持するために不活性ガスを添加することが多い。不活性ガスは単原子分子であり、プラズマが励起されると原子がそのままイオン化する。一方、2原子分子以上の分子からなる気体では、一度分子が解離してからイオン化する。この解離反応は吸熱反応であるため、単原子分子に比較してプラズマが維持しにくかったり、空間的に広がりにくかったりする。プラズマCVD法においては、一般に安価なアルゴンガスがこの目的で使用され、グラフェン膜のCVD合成でも通常使用されている。
また、一般に、プラズマを用いたプロセスでは、プラズマ中のイオンにより、プラズマが接触する反応炉内構造物がスパッタされ、これによる不純物がプラズマ内に混入する可能性がある。特に、プラズマCVDプロセスなどでは、マイクロ波や高周波など、プラズマを励起する電磁波を反応炉内に導入するため、石英窓や石英管等を用いている場合が多く、これがスパッタされてシリコンや酸素が混入してしまう場合が多い。特にアルゴン等の分子(原子)量が較的大きい不活性ガスを使用した場合、その大きな質量のためにスパッタリング効率が高く、プラズマ中に不純物を導入してしまい、これが堆積したグラフェン膜中に混入する。また、生成されたグラフェン膜自身も、質量の大きなアルゴンイオンの衝突によってダメージを受ける。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アルゴンガスに代えてヘリウムガスを用いることで上記課題が解決できることを見出した。ヘリウムは、アルゴンの約10分の1の分子(原子)量という、不活性ガス中もっとも小さな分子量を持ち、このためスパッタリング効率が低く、不純物の導入がほぼ完全に抑制される。さらに、ヘリウムプラズマ中では、電子およびイオン、中性原子の平均自由行程が他のガスに比較して大きく、プラズマが拡散しやすい。これにより、ヘリウムプラズマは大面積に均一に広がりやすく、大面積に均質なグラフェン膜を堆積できることが判明した。
さらに銅基材を用いる場合、その表面の酸化物を除去するために、グラフェンCVD合成プロセス前に該基材を水素プラズマにて処理することにより、酸化物を除去することができる。しかしこの場合、水素プラズマの高い還元性により、反応炉中の、例えば前記石英窓等が還元されてしまう。そのため、アルゴンの場合と同じように、シリコンや酸素をプラズマ中に取り込み、これを基材の上に堆積させてしまう。これにより、その後のグラフェン堆積プロセスに悪影響を与え、前記問題が発生する。
本発明者らは、上記の場合においても、水素をヘリウムで希釈することによって水素の還元力を弱め、上記問題を解決できるものと考え、鋭意検討を重ねた結果、ヘリウム希釈水素を用いて、不純物の堆積なしに銅酸化物を除去できる、新しいプラズマ処理法を見出すに至った。
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1] 基材温度を200℃〜700℃、圧力を50Pa以下に設定し、含炭素ガス又は含炭素ガスと酸化抑制剤からなる混合ガスに、ヘリウム(He)ガスを加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマCVD法により、前記基材表面上にグラフェン膜を堆積させることを特徴とするグラフェン膜の製造方法。
[2] 前記酸化抑制剤は水素であり、全混合ガス中のヘリウム原子数は、全混合ガス中の水素原子数とヘリウム原子数の和に対して10〜80原子%であり、ここに水素原子数は含炭素ガス分子中の水素原子数も含み、かつ前記混合ガス中の含炭素ガス濃度は0.5〜75モル%であり、前記ヘリウムガスの濃度は、ヘリウムガス添加後の全混合ガス中の30〜90モル%であることを特徴とする上記[1]のグラフェン膜の製造方法。
[3] 前記基材は、銅の薄膜であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のグラフェン膜の製造方法。
[4] 前記銅基材を用いてグラフェン膜の成膜を行う前に、基材温度を100℃〜500℃、圧力を5〜100Paに設定し、還元剤及びヘリウムガスの混合ガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマを照射することにより、該銅基材上の銅酸化物を除去するプロセスを加えたことを特徴とする[3]に記載のグラフェン膜の製造方法。
[5] 前記還元剤は水素であり、かつ前記混合ガス中のヘリウムガスの濃度が80〜95モル%であることを特徴とする[4]に記載のグラフェン膜の製造方法。
[6] 反応炉内に石英製の部材を用いたプラズマCVD法により作製されたグラフェン膜であって、膜内部におけるシリコンの含有率が0.1原子%以下、かつ酸素の含有率が1原子%以下であることを特徴とするグラフェン膜。
本発明の方法によれば、従来のプラズマCVD法によるグラフェン膜成膜の課題である、不純物の混入を抑制することができる。また、銅基材表面の酸化物をほぼ完全に取り除くことができ、この酸化物由来の問題も解決でき、かつ均質で高品質なグラフェン膜を製造することが可能となる。本発明の方法によれば、プラズマCVDにおける典型的な不純物であるシリコンのグラフェン膜中の濃度を0.1原子数%以下、酸素のグラフェン膜中の濃度を1%以下に抑えることが可能となる。
本発明に用いたマイクロ波表面波プラズマCVD装置を模式的に示す図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜のラマン散乱分光スペクトル図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜のサーベイスキャンXPSスペクトル図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜のXPS Si 2pスペクトル(高分解能ナロースキャン)を示す図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜断面の、EELSスペクトル取得場所を表示した明視野STEM像を示す図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜断面の、Si L殻およびC K殻のエネルギーを含む損失エネルギー範囲で取得したEELSスペクトルを示す図 本発明の方法により銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜断面の、O K殻のエネルギーを含む損失エネルギー範囲で取得したEELSスペクトルを示す図 本発明による一連のプラズマ処理(銅基材の酸化物除去処理およびグラフェン成膜CVD処理)を模式的に示した図 本発明の銅基材の酸化物除去処理の前後における、タフピッチ圧延銅箔基材のサーベイスキャンXPSスペクトルの比較を表す図 タフピッチ圧延銅箔基材表面に酸化銅の存在を示すXPS Cu 2pスペクトル図 本発明の酸化物除去プラズマ処理を施した後に、タフピッチ圧延銅箔基材表面に酸化銅が存在しないことを示すXPS Cu2pスペクトル図 本発明の酸化物除去処理の有無による、グラフェン膜の成長速度変化を示す断面TEM写真を示す図 Ar/H2/CH4混合ガスを用いた従来法により、銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜のサーベイスキャンXPSスペクトル図 Ar/H2/CH4混合ガスを用いた従来法により、銅箔基材上に成膜されたグラフェン膜のSiの存在を示すXPS Si 2pスペクトル(高分解能ナロースキャン)を示す図
本発明のグラフェンの製造方法は、基材温度を200℃〜700℃、圧力を50Pa以下に設定し、含炭素ガス又は含炭素ガスと酸化抑制剤からなる混合ガスに、ヘリウム(He)ガスを加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマCVD法により、前記基材表面上にグラフェン膜を堆積させることを特徴とする。
また、基材が銅など、表面に酸化物が存在する場合には、水素ガスをヘリウムガスで希釈した混合ガスによるプラズマ処理を、グラフェン成膜CVD処理の前に行うことにより、不純物の導入を抑え、かつ酸化物の還元を行うことを特徴とする。
本発明の方法により、均質で高品質なグラフェン膜を得るには、主として特定の製造条件を採用することが必要である。そのグラフェン膜を作製するには、大面積に均質なプラズマを発生させることができる、マイクロ波表面波プラズマCVD法を用いること、その操作条件として、原料ガスの濃度やモル比、反応時間などを選定すること、および基材の温度を適当な範囲内で操作することなどが望まれる。
グラフェン成膜の基材として銅箔等の銅基材を用いる場合、その表面からの蒸発を防ぐために、CVD処理を施す際の温度は銅の融点(1080℃)より十分低くなければならない。通常のマイクロ波プラズマCVD法では、圧力103〜104PaでCVD処理が行われる。しかし、この圧力ではプラズマが拡散しにくく狭い領域に集中するため、プラズマ内のガス温度が1000℃以上になる。このため、銅基材の温度が800℃以上に加熱され、表面からの銅の蒸発が大きくなる。また、集中したプラズマでは均質なグラフェン膜を堆積させることが困難である。したがって、成膜中の銅基材の温度を低く保ち、かつ均質なグラフェン膜を形成するには、より低圧でのプラズマ処理が必要である。
本発明では、102Pa以下でも安定にプラズマを発生・維持することが可能な、マイクロ波表面波プラズマを発生させ、CVD処理に利用した。これにより、銅箔基板の融点より十分に低い温度にする事ができた。プラズマをラングミュアプローブ法(シングルプローブ法)により診断した結果、電子密度が1011〜1012/cm3であり、周波数2.45GHzのマイクロ波に対するカットオフ電子密度7.4×1010/cm3を超えており、表面波により発生・維持する表面波プラズマであることを確認した。このラングミュアプローブ法については、例えば、菅井秀郎著、「プラズマエレクトロニクス」オーム社 2000年,p.58に詳述されている。
本発明において、マイクロ波プラズマCVD処理に用いる原料ガス(反応ガス)は、含炭素ガスとヘリウムとからなる混合ガス、又は含炭素ガスと酸化抑制剤とヘリウムとからなる混合ガスである。含炭素ガスとしては、メタン、エチレン、アセチレン、エタノール、アセトン、メタノール、ベンゼン等が包含される。また酸化抑制剤としては、水素を用いることが好ましい。水素は、CVD処理中の銅基材表面の酸化抑制材として作用し、電気伝導性の高いグラフェン膜の形成を促す作用を示す。
酸化抑制剤として水素を用いる場合は、含炭素ガスの、含炭素ガスおよび水素との混合ガスに対する濃度は、0.5〜75モル%、好ましくは0.5〜20モル%、さらに好ましくは0.5〜10モル%である。含炭素ガスが前記範囲より少なく、又は多くなると、グラフェン膜の電気伝導率の低下等の問題が起こるので好ましくない。
また、ヘリウムガスを添加した全混合ガス中のヘリウムの濃度は、20〜90モル%であり、好ましくは30〜90モル%である。
さらに、全混合ガス中に含まれるヘリウム原子数は、全混合ガス中の水素原子数とヘリウム原子数の和に対して、10〜80原子%である。ただし、ここでの水素原子数とは、含炭素ガス分子中に含まれる水素原子の数も含むものとする。
本発明で用いるCVD処理の条件としては、基板温度は、200〜700℃であり、好ましくは200℃〜450℃である。また、圧力は、50Pa以下であり、好ましくは2〜50Pa、さらに好ましくは5〜20Paである。
CVD処理時間は特に限定されないが、1〜600秒程度、好ましくは1〜60秒程度である。この程度の処理時間によれば、高い光透過率と電気伝導性を有するグラフェン膜が得られる。
本発明において銅基材を用いる場合、その表面の酸化物除去のために、グラフェン成膜CVD処理の前に、水素とヘリウムの混合ガスを用いた基材のプラズマ処理を行うのが好ましい。この時用いる混合ガスにおける、ヘリウムの濃度は80〜95モル%であり、好ましくは90〜95モル%である。かつ、圧力は5〜100Pa、好ましくは10〜50Pa、さらに好ましくは20〜50Paである。ヘリウム濃度や圧力の範囲がこの範囲から外れると、酸化物除去の効果が弱まるだけでなく、不純物の混入が抑えられず好ましくない。かつ、処理温度は300℃以下で、好ましくは200℃以下であり、処理時間は10分以下、好ましくは5分以下、さらに好ましくは1分以下である。処理時間がこの範囲より長くなると、不純物が混入する危険があり、好ましくない。
図1に、本発明の方法により、グラフェン膜を成膜に用いる装置の一例を示す。図中、101はマイクロ波プラズマCVD反応炉(以下、単に「プラズマ発生室」という。)、102はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するためのスロット付き角型導波管、103はマイクロ波をプラズマ発生室101に導入するための石英部材、104は石英部材を支持する金属製支持部材、105は被成膜基材、106は被成膜基材を設置するための試料台であり、上下動機構と被成膜基材の冷却機構を備えており、107はその冷却水の給排水である。また108は排気であり、109はプラズマ発生用ガス導入手段である。110はプラズマCVD処理を行う反応炉である。
該装置を用いたプラズマ発生は以下のようにして行う。排気装置(図示せず)によりプラズマ発生室101を真空排気する。つづいてプラズマ発生室用ガス導入手段109を介して所定の流量でプラズマ発生室101にプラズマ発生用ガスを導入する。次に排気装置に設けられた圧力調節バルブ(図示せず)を調整し、プラズマ発生室101内を所定の圧力に保持する。2.45GHzのマイクロ波発生装置(図示せず)より所望の電力のマイクロ波を、スロット付き角型導波管102および石英部材103を介してプラズマ発生室101内に供給することにより、プラズマ発生室101内にプラズマが発生する。これにより、成膜の源となるプラズマ中のラジカル粒子を、試料台に設置した基材の表面上にほぼ均一に到達するように、該プラズマの発生起源となるマイクロ波導入用石英部材103の下面(CVD処理反応炉側)から該基板に向けて移動させ、ダウンフローにて供給することができる。
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(Heを用いたグラフェン成膜)
基材には、厚さ33μmのタフピッチ圧延銅箔を用いた。この銅箔を80mm×80mmの大きさに切り出し、これを図1に示すプラズマCVD装置を用いて、グラフェン膜の成膜を行った。タフピッチ銅は、その強度を増強させるため、酸化銅(I)(Cu2O)の状態で酸素を0.02〜0.05重量%含む銅が99.9重量%以上の金属で、基材に用いたタフピッチ圧延銅箔はこれを圧延して銅箔にしたものである。
上記銅箔基材表面に直接グラフェン成膜のためのCVD処理を行った。上記銅箔基材を図1に示すプラズマCVD装置反応炉内に設置し、以下のプラズマCVD処理を行った。CVD処理に用いた成膜用原料ガスは、ヘリウム、水素、およびメタンの混合ガスを用い、その混合比をモル比でそれぞれ2:1:3とした。混合ガスの全ガス流量は15sccmであった。この場合、メタン分子1個あたり水素原子4個を含むので、全混合ガス中のヘリウム原子数の、ヘリウム原子と水素原子の合計数に対する割合は12.5原子%となる。ガス圧を5Paにてプラズマを発生させ、石英窓103より約100mmの位置に基材を配置し、20分間プラズマCVD処理を行った。この際、20mm×20mm、厚さ0.5mmのシリコンウェハを用意し、該ウェハのプラズマが照射される上面にK型(アルメル・クロメル)熱電対を接触固定し、これを成膜用銅箔基材の近傍に配置することによって、該熱電対による測定温度を基材温度とした。プラズマ点灯前の基材温度は室温であり、プラズマ点灯後、20分間のプラズマCVD処理により、基材温度は410℃に達した。プラズマCVD処理後の銅箔基材は、約20mm×20mmの大きさに16分割し、この分割後の試料について評価を行った。
上記の方法で処理した銅箔基材のプラズCVD処理後のラマン散乱分光スペクトルの測定を行った。測定には(株)堀場製作所製ラマン散乱分光法測定機XploRA型機を使用し、励起用レーザー光の波長は638nm、レーザービームのスポット径1μm、分光器のグレーティングは600本、レーザー源の出力は18.6mWで、減光器は使用しなかった。アパーチャーは100μm、スリットは100μm、および対物レンズは100倍とした。露光時間は5秒で10回の測定を積算してスペクトルを得た。測定および解析には、本測定装置標準の(株)堀場製コンピュータソフトウェアLabSpec 5を用いた。
グラフェン膜のラマン散乱分光法による評価において重要なバンドは、G、D、2D、およびD’バンドである。Gバンドは正常六員環によるもので、Dバンドは正常六員環の欠陥に起因することが知られている。2DバンドはDバンドの倍音である。また、D’バンドも欠陥から誘起されるピークであり、数層から数十層程度のグラフェン膜の積層体の端の部分に起因するものと考えられている(上記非特許文献5)。ラマン散乱分光スペクトル中に、Gおよび2Dバンドの両ピークが観測される場合、その物質はグラフェンであると同定される(上記非特許文献3)。上記各バンドのピーク位置は、例えば、単層グラフェンの場合、励起光として波長514.5nmのレーザーを用いると、ラマンシフトでG:1582cm-1、D:1350cm-1、2D:2700cm-1、D’:1620cm-1付近である。各ピーク位置は、励起光の波長に依存することが上記非特許文献6で示されている。また一般的に、グラフェンの層数が増加すると共に、2Dバンドは高波数側にシフトすること、およびその半値幅が増加することが知られている。さらに、励起光の波長が短くなると、2Dバンドは高波数側にシフトする。
測定したグラフェン膜のラマン散乱分光スペクトルを図2に示す。図2では、ラマンシフト1565cm-1および2646cm-1付近にそれぞれGおよび2Dバンドの両ピークが観測されており、本発明の方法により生成された物質は、グラフェンであることがわかる。また、図2のスペクトル中には、DおよびD’バンドも観測されている。
(XPS測定)
続いて、本実施例で得られたグラフェン膜についてX線光電子分光(XPS)法によって、その表面の元素分析を行った。以下測定の詳細を示す。使用したXPS装置は、アルバック・ファイ株式会社製XPS分析装置Phi ESCA model 5800を用いた。分析にはアルミニウムの特性X線AlKα線(1486.6eV)を用い、試料に対して入射角度45°の角度で照射した。半球型エネルギー分析器のオムニ・フォーカス・レンズ・エリアは±7°、アナライザ・アパーチャはφ800μmであった。測定は、まずエネルギー分解能1.6eVにて電子エネルギー0〜1400eVの範囲でXPSスペクトルを取得し、おおよその含有元素の確認をした(サーベイスキャン)。そして、注目すべき元素について、0.1eVの高分解能にて該元素のスペクトルを取得した(ナロースキャン)。測定後のスペクトルの分析には、XPSスペクトル分析用ソフトウェア、アルバック・ファイ株式会社製Multipack V6.1 Aを用いた。
測定したXPSスペクトルの例を図3および図4に示す。サーベイスキャンを行った結果を図3に、シリコン2p軌道のエネルギー付近を詳細にみた高分解能ナロースキャンの結果を図4に示す。サーベイスキャン・スペクトル中には炭素、銅、および酸素由来のピークが明確に確認できる。銅のピークは、基材の銅箔由来であると考えられるが、酸素の由来については明確でない。他の不純物については、サーベイスキャン・スペクトルからは判断が難しいため、酸素以外で最も導入されやすいと考えられるシリコンについて、その2p軌道の高分解能測定(ナロースキャン)を行った。図4に、ナロースキャンの結果取得されたSi 2pスペクトルを示す。もし、該グラフェン膜中に、XPSの測定限界(〜0.1原子%)以上シリコンが含まれていれば、図4のスペクトルのエネルギー範囲(95〜115eV)内にピークが現れる筈である。ところが、図4のスペクトルには全くピークが観測されず、ヘリウムを用いた成膜では、シリコン不純物はXPSの検出限界以下に抑えられていることがわかった。
(STEM−EELS測定)
さらに詳細に不純物について調査するために、得られたグラフェン膜の電子エネルギー損失分光法(EELS)による分析を行った。まず、銅箔上のグラフェン試料を、集束イオンビーム(FIB)により100nm以下に薄片化し、断面試料を作製した。この薄片化した断面試料について走査型透過型電子顕微鏡(STEM)を用いてEELSスペクトルの測定を行った。STEM観察およびEELSスペクトル測定は、加速電圧200keVで行った。
図5に、観察された明視野STEM像を示す。図5には、EELSスペクトルを取得した場所が示されている。EELSスペクトルは、グラフェン膜、銅箔基材界面付近、および銅箔基材深部の3点について取得した。図5のSTEM像では銅箔基材のグラフェン膜との界面付近では、銅箔基材深部との間でコントラストがついていることが分かる。これは、銅箔基材表面部と深部では、組成が異なっていることを示している。
図5に示した、(a)グラフェン膜、(b)銅箔基材界面付近、および(c)銅箔基材深部の3箇所について、EELS測定を行った結果を図6および図7に示す。
図6は、電子損失エネルギーが約80〜480eVの範囲でスペクトルを取得した結果を示し、この損失エネルギー範囲には、シリコンのL殻および炭素のK殻のエネルギーが含まれる。すなわち、測定部分にシリコンまたは炭素が含まれていれば、シリコンであれば損失エネルギー100eV付近に、炭素であれば285eV付近にピークが現れる。図6では、図6(a)のグラフェン膜部分に炭素のK殻によるピークが観測されている。図6(a)には炭素のピークの拡大図も示した。しかし、図6(b)および(c)の銅基板部分では炭素のピークは観測されていない。また、シリコンについては、(a)〜(c)どの部分についても、Siのピークはノイズレベル以下で検出できない。
図7は、電子損失エネルギーが約480〜4860eVの範囲でスペクトルを取得した結果を示し、この損失エネルギー範囲には、酸素のK殻エネルギーが含まれる。すなわち、測定部分に酸素が含まれていれば、530eV付近にピークが現れる。図7のスペクトルを見ると、図7(a)のグラフェン膜部および(b)の銅基板表面付近においては、明確に酸素の存在を示すピークが現れている。しかし、(c)の銅基板深部においては、酸素のピークはノイズレベル以下で、酸素は検出できないといえる。
以上の結果をまとめると、銅箔基材表面付近では酸素が検出されている一方、銅箔基材深部では、酸素の存在を示すピークは検出されない。また、グラフェン膜部分においても、炭素以外に酸素が検出されている。不純物として、混入が考えられるシリコンについては、何れの部分においても検出されていない。これは、前記XPSによる結果と一致している。
上記結果より、ヘリウムを用いてグラフェン膜を合成した場合、シリコン不純物混入は十分抑制されていると考えられるが、酸素については十分抑制されているとは言えない。これは、銅箔基材表面が元々酸化されており、銅箔基材表面付近の酸化銅よりグラフェン膜中に酸素が導入されたと考えられる。
一般に、大気中で銅は酸化されやすく、その表面には銅酸化物の被膜が出来ている。また、広く導電用材料として用いられ、銅箔としてもよく用いられているタフピッチ銅は、酸化をさせることによって実用的な強度を得ている。しかし、銅基板上にグラフェン膜を形成するためには、この酸化物被膜が、銅の触媒作用を低減させたり、グラフェンの酸化の原因となったりするため、グラフェン膜の品質劣化の原因となる。したがって、グラフェン合成用CVD処理の前に、酸化銅除去処理が必要である。この酸化銅除去処理は、グラフェン成膜と同じ図1に示すプラズマCVD装置を用いて行うことができる。したがって、酸化銅除去処理に引き続いてグラフェン成膜CVD処理を行い、基材をいったん大気に曝すことなく、一連のプロセスとして行うことが出来る。本発明によるこの一連の処理を簡単に図に示すと図8の様になる。
該酸化銅除去処理は、ヘリウム−水素の混合ガスを用いたプラズマ処理により行う。該プラズマ処理の時間としては、10秒〜10分である。また、プラズマ処理中の基材の温度は100〜300℃である。プラズマ処理の時間は、基材の酸化状態等によってことなるが、プラズマ処理の時間をあまり長くすれば、その分だけ不純物が基材に堆積してしまう可能性もある。そのため、酸化物が除去され、かつ不純物が堆積しない最適(最短)な時間を選択する必要がある。
(基材酸化物除去処理)
上記銅箔基材を図1に示すプラズマCVD装置反応炉内に設置し、以下の様なプラズマ処理によって酸化物除去処理を行った。プラズマ処理に用いたガスは、水素10モル%およびヘリウム90モル%の混合ガスであった。ガス圧を20Paにてプラズマを発生させ、石英窓103より50mmの位置に基材を配置し、1分間プラズマ処理を行った。この際、20mm×20mm、厚さ0.5mmのシリコンウェハを用意し、該ウェハのプラズマが照射される上面にK型(アルメル・クロメル)熱電対を接触固定し、これを成膜用銅箔基材の近傍に配置することによって、該熱電対による測定温度を基材温度とした。プラズマ点灯前の基材温度は室温であり、プラズマ点灯後1分間の処理により、基材温度は206℃に達した。
(酸化物除去処理後のXPS測定)
上記の方法で処理した銅箔基材のプラズマ処理前後のX線光電子分光(XPS)法によって、前記と同様の測定条件で、その表面の元素分析を行った。
まず、上記プラズマ処理の効果を確認するために、プラズマ処理を行った前後のタフピッチ銅箔基材のXPS測定を行った。図9にサーベイスキャンにより取得されたプラズマ処理前後のXPSスペクトルを示す。図9(a)はプラズマ処理前のタフピッチ圧延銅箔基材のXPSサーベイスキャン・スペクトルであり、図中に示した銅に由来するピーク以外にも、Binding energy 530eV付近に酸素の1s軌道からの光電子放出を示すピークが観測されている。ところが、図9(b)のプラズマ処理後のXPSスペクトルでは、この酸素1sのピークが、ほとんど観測できない大きさになっている。すなわち、該プラズマ処理によって、銅箔基材表面近傍の酸素は、ほとんど除去されてしまったと考えられる
さらに詳細な調査を行うために、銅の2p軌道のエネルギー付近の範囲において、高分解能ナロースキャンの測定を行った。その結果を図10および図11に示す。図10は上記酸化物除去プラズマ処理を行う前のタフピッチ圧延銅箔基材のXPS 銅(Cu)2pスペクトルである。図10のスペクトル中には、スピン-軌道相互により2つに分裂した銅2p軌道のピーク(2p1/2(953eVおよび2p3/2(933eV))の他に、2価の酸化銅(Cu2O)の存在を示すサテライトピークが明瞭に認められる。また同図に示してある様に、CuOやCu(OH)2など+1価の銅由来と考えられる、2p3/2ピークの肩が該ピークの高エネルギー側に存在しているのが観察される。
次に、上記プラズマ処理を施した銅箔基材のXPS測定を行った。図11に、その結果のCu 2pスペクトルを示す。図11中のスペクトルには、図10に示したプラズマ処理前の銅箔基材では観察された、酸化銅由来のサテライトピークは観測されず、銅の2p1/2および2p3/2のピークのみが観測された。またそれらのケミカルシフトも観測されず、純銅のパターンとなった。以上より、上記プラズマ処理により酸化銅が還元・除去されたことがわかった。
(比較例:酸化物除去処理による成長速度増加)
上記酸化物除去処理によって、グラフェン膜の成長にどのような影響が出るのか調査するため、該酸化物除去処理を施した銅箔基材および施さない銅箔基材の上にグラフェン膜を成長させ、それぞれその断面を高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。基材はどちらも前記タフピッチ銅箔基材を用いた。試料Aには上記酸化物除去処理を行い、試料Bには行わなかった。図1に示すプラズマCVD装置反応炉内に試料Aの銅箔基材を設置し、以下の要領によるプラズマ処理によって酸化物除去処理を行った。プラズマ処理に用いたガスは、水素10モル%およびヘリウム90モル%の混合ガスであった。ガス圧を20Paにてプラズマを発生させ、石英窓103より50mmの位置に基材を配置し、1分間プラズマ処理を行った。
上記酸化物除去処理に引き続き、上記試料A銅箔基材にグラフェン成膜のためのCVD処理を行った。CVD処理に用いた成膜用原料ガスは、ヘリウム、水素、およびメタンの混合ガスを用い、その混合比をモル比でそれぞれ5:9:1とした。混合ガスの全ガス流量は15sccmであった。この場合、メタン分子1個あたり水素原子4個を含むので、全混合ガス中のヘリウム原子数の、ヘリウム原子と水素原子の合計数に対する割合は約18.5原子%となる。ガス圧を5Paにてプラズマを発生させ、石英窓103より約100mmの位置に基材を配置し、10分間プラズマCVD処理を行った。10分間のCVD処理により、基材温度はおよそ420℃に達した。
次に、試料Bについて、上記酸化物除去処理を行わなかった銅箔基材について上記と同じガス条件でCVD処理を行った。すなわち、成膜用原料ガスは、ヘリウム、水素、およびメタンの混合ガスを用い、その混合比をモル比でそれぞれ5:9:1とした。混合ガスの全ガス流量は15sccmであった。ガス圧を5Paにてプラズマを発生させ、石英窓103より約100mmの位置に基材を配置し、30分間プラズマCVD処理を行った。30分間のCVD処理により、基材温度はおよそ470℃に達した。
上記試料AおよびBについて、その断面の高分解能TEM観察を行った。各試料は、FIBにより100nm以下に薄片化し、断面試料を作製した。この薄片化した断面試料についTEM観察を行った。TEM観察は、加速電圧300keVにて行った。得られた断面の高分解能TEM像を図12に示す。図12(a)は酸化物除去処理を行った基材に10分間のCVD処理を行った試料Aの断面であり、図12(b)は酸化物除去処理を行っていない基材に30分間のCVD処理をおこなった試料Bの断面である。同図より、試料Aの層数は平均約30層であり、試料Bは約18層である。単純に、同条件で層数はCVD処理時間に比例すると考えれば、試料Aの層数の成長速度は、試料Bの約5倍であると考えられる。したがって、上記酸化物除去処理を施すことにより、銅箔基材表面の酸化物が除去され、銅の触媒作用が阻害されることが無くなったため、試料Aでは成長速度が約5倍に高められたと考えられる。
(比較例:アルゴンを使用したグラフェン成膜)
本発明によるヘリウムを用いたグラフェン成膜と比較するため、従来法であるアルゴンを用いたグラフェン成膜を行い、その不純物元素分析を行った。基材は前記ヘリウムを用いたプラズマCVDと同様、厚さ33μmのタフピッチ圧延銅箔を使用した。CVD処理に用いた成膜用原料ガスは、ヘリウム、水素、およびメタンの混合ガスを用い、その混合比をモル比でそれぞれ2:1:3とした。混合ガスの全ガス流量は15sccmであった。ガス圧を5Paにてプラズマを発生させ、図1のCVD装置内で石英窓103より約100mmの位置に基材を配置し、20分間プラズマCVD処理を行った。プラズマ点灯前の基材温度は室温であり、プラズマ点灯後、20分間のプラズマCVD処理により、基材温度は247℃に達した。
上記の方法で処理した銅箔基材のプラズマ処理前後のX線光電子分光(XPS)法によって、その表面の元素分析を行った。測定条件は前記と同様であった。上記アルゴンを用いて従来法により成膜を行った試料について、サーベイスキャンを行った結果、図13に示すスペクトルが得られた。図13のスペクトルと、図3に示した本発明の方法によるグラフェン膜のサーベイスキャンXPSスペクトルを比較すると、アルゴンを用いた従来法の場合(図13)、C 1sのピークとO 1sのピークの強度は同程度であり、本発明の方法の場合(図3)は、O 1sはC 1sに比べて非常に強度が弱いことがわかる。これより、ヘリウムを用いた場合には、グラフェン膜中の酸素の含有量が少なくなっていると考えられる。
他の不純物については、サーベイスキャン・スペクトルからは判断が難しいため、酸素以外で最も導入されやすいと考えられるシリコンについて、その2p軌道の高分解能測定(ナロースキャン)を行った。図14に該ナロースキャンの結果、取得されたSi 2pスペクトルを示す。図14から明らかな様に、従来法によるグラフェン膜のスペクトルには、Binding energy 103eV付近にSi 2pのピークが明瞭に観察され、シリコンの存在が確認される。一方、本発明の方法を用いて成膜されたグラフェン膜に関しては、図4に示した通り、全くピークが観測されない。すなわち、本発明のヘリウムを用いた成膜では、シリコン不純物は、XPSの検出限界以下に抑えられていることがわかる。
本発明の方法およびグラフェン膜は前記した特性を有し、かつ大面積グラフェン膜の製造に適用しやすいため、グラフェン膜のもつ透明性、電気伝導性、熱伝導性、ガスバリア性等を利用して、タッチパネルや太陽電池用透明導電膜、電池の電極材料、放熱フィルム、ガスバリアフィルム等の製造に適用可能である。
101 プラズマ発生室
102 スロット付き角型導波管
103 マイクロ波導入するための石英部材
104 石英部材を支持する金属製支持部材
105 被成膜基材
106 被成膜基材を設置するための試料台
107 冷却水の給排水
108 排気
109 プラズマ発生用ガス導入手段
110 反応炉

Claims (6)

  1. 基材温度を200℃〜700℃、圧力を50Pa以下に設定し、含炭素ガス又は含炭素ガスと酸化抑制剤からなる混合ガスに、ヘリウム(He)ガスを加えたガス雰囲気中で、マイクロ波表面波プラズマCVD法により、基材表面上にグラフェン膜を堆積させることを特徴とするグラフェン膜の製造方法。
  2. 前記酸化抑制剤は水素であり、全混合ガス中のヘリウム原子数は、全混合ガス中の水素原子数とヘリウム原子数の和に対して10〜80原子%であり、ここに水素原子数は含炭素ガス分子中の水素原子数も含み、かつ前記混合ガス中の含炭素ガス濃度は0.5〜75モル%であり、前記ヘリウムガスの濃度は、ヘリウムガス添加後の全混合ガス中の20〜90モル%であることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン膜の製造方法。
  3. 前記基材は、銅の薄膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載のグラフェン膜の製造方法。
  4. 前記銅基材を用いてグラフェン膜の成膜を行う前に、基材温度を100〜500℃、圧力を5〜100Paに設定し、還元剤とヘリウムガスの混合ガス雰囲気中でマイクロ波表面波プラズマを照射することにより、該銅基材上の銅酸化物を除去するプロセスを加えたことを特徴とする請求項3に記載のグラフェン膜の製造方法。
  5. 前記還元剤は水素であり、かつ前記混合ガス中のヘリウムガスの濃度が80〜95モル%であることを特徴とする請求項4に記載のグラフェン膜の製造方法。
  6. 反応炉内に石英製の部材を用いたプラズマCVD法により作製されたグラフェン膜であって、膜内部におけるシリコンの含有率が0.1原子%以下、かつ酸素の含有率が1原子%以下であることを特徴とするグラフェン膜。
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