以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して、車両に搭載される第1実施の形態における変速機1について説明する。図1は第1実施の形態における変速機1を模式的に示すスケルトン図である。変速機1は、エンジン(図示せず)の動力が入力される駆動軸2の回転速度の比率を変えて出力軸5に出力するための装置である。
変速機1は駆動軸2に第3クラッチ3を介して接続された入力軸4と、その入力軸4と平行に配設された出力軸5と、その出力軸5及び入力軸4に配置され互いに噛み合って異なる変速比となるように設定された複数の歯車対7,8,9,10,11とを備えて構成されている。ジェネレータモータ12は入力軸4に連結されており、ステータ12aと、そのステータ12aとの相互作用により入力軸4の回りを回転するロータ12bとを有し、ロータ12bの回転動力が入力軸4に入力される。入力軸4から出力軸5に伝達された動力はデファレンシャル装置15に伝達され、車輪16を駆動させる。
歯車対7,8,9,10は、入力軸4に配設され入力軸4の回転に伴い回転駆動される駆動歯車7a,8a,9a,10aと、出力軸5に配設され駆動歯車7a,8a,9a,10aにより従動駆動される被動歯車7b,8b,9b,10bとを備えている。ここで歯車対7,8,9,10は変速比(被動歯車の歯数÷駆動歯車の歯数)の大きなものから、駆動軸2から遠い順に第1速〜第4速とされ、歯車対7が第1速、歯車対10が第4速である。
歯車対11は、出力軸5に配設され出力軸5の回転に伴い回転駆動される駆動歯車11aと、入力軸4に配設され駆動歯車11aにより従動駆動される被動歯車11bとを備えている。本実施の形態では、歯車対11の変速比は歯車対8の変速比と同じに設定されている。なお、後進用歯車対6は、入力軸4に配設される駆動歯車6aと、アイドラ歯車を介して駆動歯車6aの回転動力を出力軸5に伝達する被動歯車6bとを備えて構成されている。
被動歯車6b,7b,8b,9b,10bは、それぞれ出力軸5と一体に形成されている。一方、駆動歯車6a,7a,8a,9a,10aは、後述する第1クラッチ20を介して入力軸4にそれぞれ配置されている。また、駆動歯車11aは出力軸5と一体に形成される一方、被動歯車11bは、後述する第2クラッチ50を介して入力軸4に固定されている。
第1クラッチ20は、入力軸4から出力軸5へ動力を遮断可能に伝達する一方、出力軸5から入力軸4への動力の伝達を遮断する装置である。第2クラッチ50は、出力軸5から入力軸4へ動力を遮断可能に伝達する一方、入力軸4から出力軸5への動力の伝達を遮断する装置である。第1クラッチ20及び第2クラッチ50は、入力軸4の軸方向に貫設されるカムシャフト60と、入力軸4から出力軸5への動力の伝達を遮断するためにカムシャフト60に回転力を加えることでカムシャフト60を軸方向に直線移動させる駆動装置70とを備えている。
ここで図2から図4を参照して第1クラッチ20の詳細構成について説明する。図2は第1クラッチ20の軸方向断面図である。なお、図2では、駆動歯車7a,8aに連結される第1クラッチ20を図示し、他の駆動歯車6a,9a,10aに連結される第1クラッチ20の図示を省略している。また、理解を容易にするため、軸方向力を受けるスラストベアリング等の図示および駆動歯車7a,7bに形成された歯の図示を省略している。
図2に示すように第1クラッチ20は、入力軸4から駆動歯車7aへ動力を伝達するための入力系回転部材としての第1内輪24と、その第1内輪24の外周側に配置されると共に駆動歯車7aと一体に形成される出力系回転部材としての第1外輪29と、第1内輪24及び第1外輪29の間に介設される複数の第1コロ27とを備えて構成されている。また、第1クラッチ20は、入力軸4から駆動歯車8aへ動力を伝達するための入力系回転部材としての第2内輪34と、その第2内輪34の外周側に配置されると共に駆動歯車8aと一体に形成される出力系回転部材としての第2外輪39と、第2内輪34及び第2外輪39の間に介設される複数の第2コロ37とを備えて構成されている。第1クラッチ20に第1内輪24及び第2内輪34、第1外輪29及び第2外輪39が並設されているので、第1クラッチ20の軸方向長を小さくすることができ、ひいては変速機1の軸方向長を小さくすることができる。
第1内輪24は、入力軸4の回転動力を駆動歯車7aに伝達するための機能を担う部材であり、中心軸O回りの単葉回転双曲面をなす入力軌道面25が外周面に形成されている。第1内輪24は、スプライン24aによって入力軸4に対して回転が規制される一方、入力軸4に対する軸方向の移動が許容されている。ストッパ21,22は、所定量を超える第1内輪24の軸方向の移動を規制するための部材であり、第1内輪24の軸方向端面と所定の間隔をあけて入力軸4の外周であって第1内輪24の軸方向端面の軸方向外側に突設されている。第1内輪24は、ストッパ21と第1内輪24との間に配設された皿ばね26によって、軸方向端面がストッパ22に当接するように軸方向の一方側(図2右側)に付勢されており、入力軌道面25はストッパ21側に向かうにつれて縮径している。
第1外輪29は、第1内輪24と共に入力軸4の動力を駆動歯車7aに伝達するための機能を担う部材であり、中心軸O回りの単葉回転双曲面をなす出力軌道面30が内周面に形成されている。第1外輪29は、第1内輪24と相対回転可能かつ軸方向に相対移動可能に構成されている。第1外輪29は、ストッパ21の外周面に形成されたインロー部21aに内周面31が嵌合し、ストッパ21の径方向外側に形成された鍔部21b(移動規制部)及びストッパ22によって、所定量を超える軸方向の移動が規制される。ストッパ21,22は、入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27が係合して捻じ込まれたときに、一定位置で第1内輪24及び第1外輪29の軸方向移動を停止させ、一定以上のトルクがかからないようにするトルクリミッタの機能と、第1コロ27の抜け出しを防止する機能とを有する。
第1外輪29は、第2外輪39との間に配設されたコイルスプリング33によって、軸方向端面32が鍔部21bに当接するように軸方向の他方側(図2左側)に付勢されている。コイルスプリング33は、入力軌道面25及び出力軌道面30の間隔を広げるように第1外輪29を軸方向に付勢するための部材である。
第2内輪34は、入力軸4の回転動力を駆動歯車8aに伝達するための機能を担う部材であり、中心軸O回りの単葉回転双曲面をなす入力軌道面35が外周面に形成されている。第2内輪34は、スプライン34aによって入力軸4に対して回転が規制される一方、入力軸4に対する軸方向の移動が許容されている。ストッパ22,23は、所定量を超える第2内輪34の軸方向の移動を規制するための部材であり、第2内輪34の軸方向端面と所定の間隔をあけて入力軸4の外周であって第2内輪34の軸方向端面の軸方向外側に突設されている。第2内輪34は、ストッパ23と第2内輪34との間に配設された皿ばね36によって、軸方向端面がストッパ22に当接するように軸方向の他方側(図2左側)に付勢されており、入力軌道面35はストッパ23側に向かうにつれて縮径する。
第2外輪39は、第2内輪34と共に入力軸4の動力を駆動歯車8aに伝達するための機能を担う部材であり、中心軸O回りの単葉回転双曲面をなす出力軌道面40が内周面に形成されている。第2外輪39は、第2内輪34と相対回転可能かつ軸方向に相対移動可能に構成されている。第2外輪39は、ストッパ23の外周面に形成されたインロー部23aに内周面41が嵌合し、ストッパ23の径方向外側に形成された鍔部23b(移動規制部)及びストッパ22によって、所定量を超える軸方向の移動が規制される。ストッパ22,23は、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が係合して捻じ込まれたときに、一定位置で第2内輪34及び第2外輪39の軸方向移動を停止させ、一定以上のトルクがかからないようにするトルクリミッタの機能と、第2コロ37の抜け出しを防止する機能とを有する。
第2外輪39は、第1外輪29との間に配設されたコイルスプリング33によって、軸方向端面42が鍔部23bに当接するように軸方向の一方側(図2右側)に付勢されている。コイルスプリング33は、入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔を広げるように第2外輪39を軸方向に付勢するための部材である。
入力軸4は軸方向にカムシャフト60が貫設されている。カムシャフト60は、駆動装置70(図1参照)によって軸方向に移動されることにより、外周に形成されたカム部61によってピン71,72を入力軸4の外周に出没させるための部材である。ピン71,72は入力軸4の径方向に貫設される部材であり、カム部61によって押し上げられて入力軸4の外周に先端が突出すると、第1内輪24及び第2内輪34の内周面に形成された傾斜面24b,34bに先端が押し付けられる。第1内輪24及び第2内輪34の傾斜面24b,34bにピン71,72が押し付けられることによる第1内輪24,第2内輪34の軸方向力は、皿ばね26,36の付勢力(軸方向力)より大きく設定されているので、皿ばね26,36の付勢力に抗して第1内輪24がストッパ21側(図2左側)に移動し、第2内輪34がストッパ23側(図2右側)に移動する。
図3を参照してカムシャフト60についてさらに説明する。図3(a)はカムシャフト60及びピン71〜74の位置関係を示す模式側面図であり、図3(b)はカムシャフト60の模式正面図である。なお、図3(a)ではカムシャフト60の長手方向の一部の図示を省略している。
図3(a)及び図3(b)に示すように、カム部61は、中心軸Oを対称軸として線対称状にカムシャフト60の外周に形成されている。カム部62,63,64は、他のカム部61〜64に対してそれぞれ軸方向および周方向にずれて配置されると共に、カム部61と同様に、図3(b)に示すように中心軸Oを対称軸として線対称状にカムシャフト60の外周に形成されている。カム部61はピン71,72を出没させるための部位であり、カム部62はピン73,74を出没させるための部位である。ピン71,72の出没により、駆動歯車7a,8a(図1参照)に対応して配置された第1クラッチ20が操作され(係合可能または係合不能にされ)、ピン73,74の出没により、駆動歯車9a,10aに対応して配置された第1クラッチ20が操作される。
なお、カム部63は駆動歯車6a(後進段)に対応して配置された第1クラッチ20を操作するための部位である。以上のようにカム部61,62,63は、他のカム部61〜63に対してそれぞれ軸方向および周方向にずれて配置されているので、カムシャフト60の軸方向移動により、各駆動歯車6a〜10aに対応して配置されたピンが、カム部61,62,63に押し上げられて一組ずつ入力軸4から突出する。
次に図4を参照して第1クラッチ20の第1コロ27及び第2コロ37、第2クラッチ50の第3コロ57について説明する。図4(a)は第1コロ27の配置を示す入力系回転部材(第1内輪24)及び第1保持器28の斜視図であり、図4(b)は第2コロ37の配置を示す入力系回転部材(第2内輪34)及び第2保持器38の斜視図であり、図4(c)は第2クラッチ50の第3コロ57の配置を示す入力系回転部材(第3内輪54)及び第3保持器58の斜視図である。
図4(a)に示すように、第1クラッチ20の第1コロ27は円筒状に形成される部材であり、第1保持器28によって入力軌道面25(図2参照)と出力軌道面30との間に保持される。第1保持器28は、第1コロ27が相互に干渉することなく円滑に回転するように、互いに間隔をあけて第1コロ27を保持するための部材である。第1コロ27は、中心軸Oを含む面から一定角度α(例えば15°)傾斜して(中心軸Oに対して一定のスキュー角に設定され)、入力軌道面25及び出力軌道面30の円周方向に複数配設され、入力軌道面25及び出力軌道面30に外周面が線状に接触(線接触)可能に配置される。
図4(b)に示すように、第2コロ37は円筒状に形成される部材であり、第2保持器38によって入力軌道面35(図2参照)と出力軌道面40との間に保持される。第2保持器38は、第2コロ37が相互に干渉することなく円滑に回転するように、互いに間隔をあけて第2コロ37を保持するための部材である。第2コロ37は、中心軸Oを含む面から一定角度α(例えば15°)傾斜して(スキュー角α)、入力軌道面35及び出力軌道面40の円周方向に複数配設され、入力軌道面35及び出力軌道面40に外周面が線状に接触可能に配置される。
図4(c)に示すように、第2クラッチ50の第3コロ57は円筒状に形成される部材であり、第3内輪54の外側に配設される第3保持器58により保持される。第2クラッチ50は、第3コロ37が、中心軸Oを含む面から第1コロ27及び第2コロ37とは異なる向きに一定角度α(例えば15°)傾斜して配設されている。
図2に戻って説明する。駆動歯車7a,8aは、第1外輪29、第2外輪39に伝達された動力を、係合する被動歯車7b,8b(図1参照)にそれぞれ伝達するための部材であり、第1外輪29、第2外輪39と一体に形成または結合されると共に、外周面に複数の歯を有し、その歯すじが中心軸Oに対して非平行となるように形成されている。被動歯車7b,8bも同様に外周面に複数の歯を有し、その歯すじが中心軸Oに対して非平行となるように形成されている。本実施の形態では、駆動歯車7a,8a及び被動歯車7b,8bは、互いに係合する一対のヘリカルギヤとして形成されている。
ストッパ21,22及び鍔部21bの間隔は、皿ばね26及びコイルスプリング33の付勢力によって第1内輪24の軸方向端面がストッパ22に当接されると共に第1外輪29の軸方向端面が鍔部21bに当接される場合に、入力軌道面25又は出力軌道面30の少なくとも一方に第1コロ27の外周面が接触しないように設定されている。この場合は入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27は係合不能となる。これに対し、カムシャフト60を軸方向の一方側(図2右側)に移動させて皿ばね26の付勢力に抗して第1内輪24をストッパ21側に移動させた場合には、入力軌道面25及び出力軌道面30の間隔が狭くなり、入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27が線状に接触するように設定されている。
また、ストッパ22,23及び鍔部23bの間隔は、皿ばね36及びコイルスプリング33の付勢力によって第2内輪34の軸方向端面がストッパ22に当接されると共に第2外輪39の軸方向端面が鍔部23bに当接される場合に、入力軌道面35又は出力軌道面40の少なくとも一方に第2コロ37の外周面が接触しないように設定されている。この場合は入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37は係合不能となる。これに対し、カムシャフト60を軸方向の一方側(図2右側)に移動させて皿ばね36の付勢力に抗して第2内輪をストッパ23側に移動させた場合には、入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔が狭くなり、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が線状に接触するように設定されている。
以上のように構成される変速機1について、図5から図7を参照してその動作を説明する。図5(a)はカムシャフト60を軸方向に移動させた第1クラッチ20の片側断面図であり、図5(b)は第1コロ27が係合状態にある第1クラッチ20の片側断面図であり、図6(a)は入力軌道面25及び出力軌道面30の展開図であり、図6(b)は第1コロ27が係合状態にある入力軌道面25及び出力軌道面30の模式図である。図7(a)はカムシャフト60を軸方向に移動させた第1クラッチ20の片側断面図であり、図7(b)は第2コロ37が係合状態にある第1クラッチ20の片側断面図である。なお、図6(a)及び図6(b)では、第1内輪24のトルクによって回転した第1コロ27及び第1外輪29を、第1コロ27´及び第1外輪29´(二点鎖線)によって図示している。
図5(a)に示すように、第1速走行時は、第3クラッチ3(図1参照)を接続した状態でカムシャフト60を軸方向の一方側(図5(a)右側)に移動させ、カム部61によりピン71を押し上げ、ピン71により傾斜面24bを押し第1内輪24をストッパ21側に移動させる。これにより入力軌道面25及び出力軌道面30の間隔が狭くなり、入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27が線状に接触する。入力軸4の回転駆動によって第1内輪24が一方向(図4(a)及び図6(a)矢印Ri方向)に回転すると、図6(b)に示すように第1コロ27が自転しながら(図4(b)時計回り)入力軌道面25を公転する。第1コロ27の回転によって第1コロ27及び出力軌道面30が径方向(図6(b)上下方向)に変位(l及びL)し、出力軌道面30は、それらの変位によって径方向に弾性変形しながら矢印K方向(図6(a)参照)へ移動する。
その結果、第1外輪29は、図6(a)に示す矢印Ro方向へ回転すると共に、軸方向における矢印C方向(入力軌道面25と出力軌道面30との間隔(以下「軌道間隔」と称す)を狭める方向)へ相対移動する。軸方向における第1内輪24の移動はストッパ21及びピン71によって規制されているので、図5(b)に示すように、第1外輪29が、コイルスプリング33の付勢力に抗して軌道間隔を狭める方向(図5(b)右側)に移動する。これにより、入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27が係合し第1内輪24から第1外輪29に動力が伝達される。
その結果、入力軸4の回転動力が駆動歯車7aに伝達され、駆動歯車7aと噛み合う被動歯車7b(図1参照)が回転する。他の駆動歯車8a〜10aは、各第1クラッチ20の入力軌道面25及び出力軌道面30に第1コロ27又は第2コロ37が係合できないので、入力軸4を空転する。また、第2クラッチ50は入力軸4の回転動力を被動歯車11bに伝達できないので、被動歯車11bは入力軸4を空転する。その結果、出力軸5の回転速度α1は、歯車対7の変速比に応じた速度となる。
なお、軸方向における第1外輪29の相対移動が所定の位置(ストッパ21の位置)で規制されると、それ以上は軸方向の軌道間隔は縮まらなく、第1外輪29の径方向の弾性変形が生じるので、その軌道間隔で伝達可能なトルク(所定値)より大きなトルクを伝達できなくなる。その結果、第1内輪24及び第1外輪29は所定値より大きなトルクで相対回転が可能となる。即ち、第1クラッチ20はトルクリミッタとしての機能を発揮する。
次に、図7(a)に示すように第1速走行の状態から第2速へシフトアップするときには、第3クラッチ3(図1参照)を接続した状態でカムシャフト60を軸方向の一方側(図7(a)右側)に移動させ、カム部61によりピン71に代えてピン72を押し上げ、ピン72により傾斜面34bを押し第2内輪34をストッパ23側に移動させる。これにより入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔が狭くなり、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が線状に接触する。入力軸4の回転駆動によって第2内輪34が一方向(図4(b)矢印Ri方向)に回転すると、第2コロ37が自転しながら入力軌道面35を公転する。第2コロ37の回転によって第2コロ37及び出力軌道面40が径方向(図7(a)上下方向)に変位し、出力軌道面40は、それらの変位によって径方向に弾性変形しながらストッパ22側の軸方向へ移動する。
その結果、第2外輪39は第2内輪34の回りを回転すると共に、入力軌道面35と出力軌道面40との間隔(軌道間隔)を狭める方向へ相対移動する。軸方向における第2内輪34の移動はストッパ23及びピン72によって規制されているので、図7(b)に示すように、第2外輪39が、コイルスプリング33の付勢力に抗して軌道間隔を狭める方向(図7(b)左側)に移動する。これにより、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が係合し第2内輪34から第2外輪39に動力が伝達される。その結果、入力軸4の回転動力が駆動歯車8aに伝達され、駆動歯車8aと噛み合う被動歯車8b(図1参照)が回転する。第2速の被動歯車8bの回転速度α2は、第1速の被動歯車7bの回転速度α1より速いため、出力軸5は歯車対8の変速比に応じた回転速度α2(>α1)で回転する。
一方、第1速の歯車対7では、第1クラッチ20の第1外輪29に対して第1内輪24が反対方向(図4(a)反矢印Ri方向)に相対回転することになり、第1コロ27の回転による引き離し力(軌道間隔を広げる方向へ動かす力)により、第1内輪24及び第1外輪29は軸方向において互いに離れる方向に相対移動する。皿ばね26及びコイルスプリング33の付勢力は、第1外輪29及び第1内輪24の軸方向の相対移動を補助する。これにより、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合が解除され、第1内輪24及び第1外輪29は相対回転(自由回転)が可能となるので、駆動歯車7aは入力軸4を空転する。他の歯車対9〜10(3速〜4速)においても第1クラッチ20の切換により同様に変速できる。
以上説明したように第1クラッチ20は、シフトアップのときに入力軌道面35及び出力軌道面40と第2コロ37との係合が解除された状態から係合する状態に切り換えられると、第2内輪34及び第2外輪39は径方向に弾性変形しながら、入力軌道面35と出力軌道面40との間隔が小さくなる方向へ軸方向に相対移動する。その結果、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が係合する。第2内輪34及び第2外輪39が径方向に弾性変形することにより、変速比の変化に伴う入力回転数の変化を緩和させることができるので、入力回転数の変化に伴うイナーシャトルクによる変速のショックを抑制できる。
また、第1速から第2速にシフトアップされて歯車対8から動力が伝達されると、シフトアップ前と比較して出力軸5の回転数が増加する。その結果、シフトアップ前に動力が伝達されていた歯車対7における第1クラッチ20では第1内輪24に対して第1外輪29が相対回転する(第1外輪29が第1内輪24に対して駆動側となる)。これにより歯車対7における第1クラッチ20では、ワンウェイクラッチの作用により、動力の伝達が遮断される。歯車対7,8が二重に噛み合うことが防止され、歯車対8から動力が出力軸5に伝達される。このようにカムシャフト60を軸方向に移動させるだけで、第1クラッチ20の動力伝達の切換を行うことができるので、変速機1の切換手段(切換機構)を簡素化できる。さらに入力軸4にカムシャフト60が内設されるので変速機1をコンパクトにできる。
また、第3クラッチ3(図1参照)を接続したままカムシャフト60を軸方向に移動させるだけで変速(シフトアップ)を行うことができるので、トルク伝達が遮断される時間をなくすことができ、変速時の駆動力抜け(所謂トルク切れ)を運転者に感じさせることがなく減速感を抑制できる。
なお、入力軌道面25及び出力軌道面29と第1コロ27との係合が解除された状態では(図7(b)参照)、カムシャフト60は軸方向に移動されてピン71による傾斜面24bの押し付けが解除されているので、皿ばね26及びコイルスプリング33の付勢力によって、第1内輪24がストッパ22側に第1外輪29がストッパ21側にそれぞれ移動される。入力軌道面25又は出力軌道面30の少なくとも一方に第1コロ27が接触しなくなるので、第1コロ27は入力軌道面25及び出力軌道面30に係合不能となる。その結果、第1内輪24から第1外輪29への動力の伝達を遮断することができる。
また、第1クラッチ20は、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合が解除された状態において第1外輪29の内周面31と嵌合するインロー部21aを備えている。インロー部21aは、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27とが係合するときに生じる第1コロ27の転動を許容する径方向隙間を、第1外輪29の内周面31との間に有している。この径方向隙間により、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合がインロー部21aによって妨げられることを抑制できる。さらに、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合が解除された状態において、インロー部21aにより第1外輪29の径方向の移動が規制されるので、入力軸4に対して駆動歯車7aが空転する状態にあるときに、車両の振動やフリクション等によって生じる異音(ガタつき)を防止できる。また、インロー部23aにより第2外輪39における異音(ガタつき)も同様に防止できる。
また、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合が解除された状態で、鍔部21bにより第1外輪29の軸方向の一方側への移動が規制され、コイルスプリング33により鍔部21bに向かう軸方向の付勢力が第1外輪29に付与される。これにより、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合が解除された状態で、第1外輪29の軸方向端面と鍔部21bとが当接することにより第1外輪29の軸方向の移動が規制されるので、入力軸4に対して駆動歯車7aが空転する状態にあるときに、第1クラッチ20(第1コロ27)を非係合状態に保つことができる。
その結果、カムシャフト60等のシフト系部材や駆動装置70等の制御系が故障した場合もフェールセーフ機能を有し、歯車対7〜10の内の複数が同時に係合する二重噛み合いを防止できる。また、制御系に電気信号を入力しなくても、コイルスプリング33によって、トルクが伝達される歯車対以外の第1クラッチ20(第1コロ27)を非係合状態に保つことができるので、電力消費量を抑えられると共に装置構成を簡素化でき、さらにフリクションを小さくできる。
次に図8を参照して、歯車対7,8の回転方向と第1クラッチ20に作用する軸方向力(スラスト)について説明する。図8(a)は歯車対7の噛み合いにおける回転方向およびスラスト方向を示す模式図であり、図8(b)は歯車対8の噛み合いにおける回転方向およびスラスト方向を示す模式図である。なお、図8(a)及び図8(b)では第1外輪29及び第2外輪39の外周面に形成された駆動歯車7a,8aと、それに係合する被動歯車7b,8bとを図示し、第1内輪24及び第2内輪34、第1コロ27及び第2コロ37等の図示を省略すると共に、駆動歯車7a,8a及び被動歯車7b,8bにそれぞれ形成された歯7a1,8a1,7b1,8b1の一部の図示を省略している。
第1速から第2速へシフトアップをするときには、入力軌道面35(図7(a)参照)及び出力軌道面40に第2コロ37を線状に接触させた状態で、図8(b)に示すように、入力軸4を一方向(図8(b)矢印Ri方向)に相対回転させると、前述のように入力軌道面30及び出力軌道面40に第2コロ37が係合し第2内輪34から第2外輪39に動力が伝達される(矢印Roは第2外輪39の回転方向)。第2外輪39に伝達された動力によって駆動歯車8aが駆動されると(回転方向は矢印Ro方向)、被動歯車8b及び出力軸5に回転が伝達されると共に(回転方向は矢印Rt方向)、駆動歯車8a及び被動歯車8bに、それぞれ一定方向(図8(b)矢印A方向及び矢印P方向)の軸方向力が発生する。駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯すじの方向は、駆動歯車8aに作用する軸方向力の向き(図8(b)矢印A方向)が、入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔を狭めるときの軸方向における第2外輪39の移動方向(図8(b)矢印A方向)と同一になるように設定されている。
ここで、入力軌道面35及び出力軌道面40と第2コロ37とに生じる摩擦力の軸方向分力は、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が係合するときの第2内輪34及び第2外輪39の軸方向の引き寄せ力を抑制し、第2内輪34から第2外輪39へ所定のトルクを伝達できない原因となる。これに対し第1クラッチ20によれば、第2コロ37の回転による入力軌道面35及び出力軌道面40の引き寄せ力に加え、被動歯車8bの反力による軸方向力によって、第2外輪39は、入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔を狭めるように軸方向への移動が促進される。その結果、第2内輪34及び第2外輪39の軸方向の引き寄せ力を増加させることができるので、第1クラッチ20は所定のトルクを確実に伝達できる。
一方、入力軌道面35及び出力軌道面40に第2コロ37が係合した第2速の走行状態においては、第1速の歯車対7では、被動歯車7bが駆動側、駆動歯車7aが被動側となる。この場合には、図8(a)に示すように、駆動歯車7a及び被動歯車7bにそれぞれ反対方向(図8(a)矢印A方向および矢印P方向)の軸方向力が発生する。この軸方向力は、被動歯車7bが駆動側、駆動歯車7aが被動側となると同時に働くので、第1コロ27の回転による第1内輪24及び第1外輪29の引き離し力より第1外輪29に早く作用する。その結果、入力軌道面25と出力軌道面30との軌道間隔を早く広げることができるので、入力軌道面25及び出力軌道面30と第1コロ27との係合解除を素早く行うことができる。
また、第1内輪24及び第1外輪29が相対回転(自由回転)をするときには、第1コロ27の回転による入力軌道面25及び出力軌道面30の引き離し力に加え、駆動歯車7a及び被動歯車7bによる反対方向(図8(a)矢印A方向)の軸方向力が第1外輪29に働く。その結果、第1コロ27の回転による引き離し力によって第1内輪24及び第1外輪29が離れる以上に、駆動歯車7aに働く軸方向力によって入力軌道面25及び出力軌道面30の間隔を広げることができる。これにより第1内輪24及び第1外輪29が相対回転(自由回転)をするときのトルクを減少できる。
なお、第2クラッチ50が支持する被動歯車11b及びその被動歯車11bに噛み合う駆動歯車11aの歯すじの向きも、駆動歯車7a,8a及び被動歯車7b,8bの関係と同様に構成されている。これにより第2クラッチ50においても第3コロ57の係合および係合解除を素早く行うことができる。
次に図8(b)を参照して、駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯面同士の摩擦について検討する。駆動歯車8aを一方向(図8(b)矢印Ro方向)に回転した場合には、被動歯車8bの反力によって駆動歯車8aの歯面に、軸直角平面における円周力Nが作用する。一方、被動歯車8bの歯面にも、軸直角平面における円周力Nが作用する。円周力Nは、中心軸Oと垂直方向の接線力F及び中心軸Oと平行方向の軸方向力Sに分解される。駆動歯車8aのねじれ角をβとすれば、軸方向力Sは式(1)で表される。
S=N・sinβ …式(1)
また、駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯面同士の摩擦係数をμとすれば、駆動歯車8bの歯面による摩擦力の軸方向分力S´は式(2)で表される。
S´=μN・cosβ …式(2)
ここで、入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔を狭めるように第2外輪39を軸方向(図8(b)矢印A方向)へ移動させるには、被動歯車8bに対して駆動歯車8aを軸方向(図8(b)矢印A方向)に移動させることが必要である。そのためには摩擦力の軸方向分力S´の絶対値より軸方向力Sの絶対値が大きいこと、即ち式(3)が成立することが必要である。なお、S>0,S´>0なので、式(3)では絶対値記号を省略する。
S−S´>0 …式(3)
式(3)に式(1)及び式(2)を代入して解くと、式(4)が導かれる。
μ<tanβ …式(4)
式(4)に示すように駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯面同士の摩擦係数μと駆動歯車8aのねじれ角βとを設定すれば、被動歯車8bに対して駆動歯車8aを軸方向(図8(b)矢印A方向)に移動させることができる。それに伴い入力軌道面35及び出力軌道面40の間隔を狭めるように第2外輪39を軸方向(図8(b)矢印A方向)へ移動させることができるので、駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯面同士の摩擦によって、第2内輪34及び第2外輪39の軸方向の引き寄せ力が抑制されることを防止できる。これにより第1クラッチ20は所定のトルクを確実に伝達できる。
また、駆動歯車8a及び被動歯車8bはヘリカルギヤによって構成されているので、同じ大きさの平歯車に比べて強度を大きくできると共に、静かに回転動力を伝達できる。また、高速回転を伝達可能であると共に、駆動歯車8a及び被動歯車8bの歯数の組み合わせに制限がなく自在性に優れる。
次に図9を参照して第2クラッチ50について説明する。図9(a)は第2クラッチ50の片側断面図であり、図9(b)は第3コロ57が係合状態にある第2クラッチ50の片側断面図である。図9(a)に示すように第2クラッチ50は、第3内輪54(出力系回転部材)の外周側にシフトフォーク75が配設されている。シフトフォーク75は第3内輪54を入力軸4に沿って軸方向に移動させるための部材であり、基部がシャフト部76に固定されている。シャフト部76は、入力軸4と平行に配設される軸状部材であり、駆動装置77により軸方向に移動されることによりシフトフォーク75が入力軸4に沿って移動する。なお、駆動装置77とシャフト部76との間には、シャフト部76の移動方向にシフトフォーク75を付勢する弾性部材(図示せず)が介設されている。
第2クラッチ50は、第3コロ37が、中心軸Oを含む面から第1コロ27及び第2コロ37とは異なる向きに一定角度αだけ傾斜して配設されており(図4(c)参照)、シフトフォーク75によって第3内輪54が軸方向に移動される以外は、第1クラッチ20と同様に構成されているので、詳細な説明は省略する。
図9(a)に示すように第2クラッチ50では、動力の伝達を遮断するときにはシフトフォーク75は中立位置にある。これにより第3内輪54は、皿ばね56により付勢され軸方向端面がストッパ51に当接する。これにより軌道間隔が確保され第3コロ57は係合不能となるので、動力の伝達が遮断される。
図9(b)に示すように動力を伝達させるときには、シフトフォーク75を軸方向の一方側(図9右側)に移動させる。これにより第3内輪54は皿ばね56による付勢力に抗してストッパ52側に移動する。その結果、第3内輪54及び第3外輪59(入力系回転部材)の軌道間隔が狭くなり、第3コロ57は係合可能な状態となる。
第3コロ57が回転することにより、第3内輪54及び第3外輪59の軌道間隔がさらに狭くなる。また、第3内輪54は弾性部材(図示せず)によりシャフト部76の移動方向(図9右側)に付勢されているので、軌道間隔が漸次小さくなり、ついに第3コロ57が第3内輪54及び第3外輪59に係合する。その結果、出力軸5の回転動力が歯車対11(図1参照)の噛み合いにより第3外輪59及び被動歯車11bに伝達され、第3コロ57を介して第3内輪54及び入力軸4が回転する。以上のように第2クラッチ50は、シフトフォーク75を軸方向に移動させることにより、動力の伝達または伝達解除を切り換えることができる。
次に図10から図13を参照して車両に搭載された変速機1を制御する制御装置100について説明する。図10は変速機1の電気的構成を示すブロック図である。制御装置100は、CPU81、ROM82及びRAM83を備え、それらがバスライン84を介して入出力ポート85に接続されている。入出力ポート85には、第3クラッチ3やジェネレータモータ12等の装置が接続されている。
CPU81は、バスライン84により接続された各部を制御する演算装置であり、ROM82は、CPU81により実行される制御プログラム(例えば、図11に図示されるフローチャートのプログラム)や固定値データ等を記憶する書き換え不能な不揮発性のメモリである。RAM83は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するためのメモリである。
第3クラッチ3は、駆動軸2と入力軸4とを接続または切り離すための装置であり、多板クラッチ等によって構成されている。アクセルペダルセンサ装置13は、アクセルペダル(図示せず)の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU81に出力するための装置であり、アクセルペダルの踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU81に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。ブレーキペダルセンサ装置14は、ブレーキペダル(図示せず)の操作量を検出すると共に、その検出結果をCPU81に出力するための装置であり、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU81に出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
駆動装置70は、カムシャフト60に回転力を加えることでカムシャフト60を軸方向に移動させて第1クラッチ20を切り換えるための装置であり、駆動装置77は、シャフト部76を軸方向に移動させて第2クラッチ50を切り換えるための装置である。他の入出力装置90としては、例えば、出力軸5の動力を車輪16(駆動輪)に伝達する駆動輪車軸(所謂ドライブシャフト)の軸トルクを検出すると共にその検出結果をCPU81に出力するための軸トルク検出装置などが例示される。駆動輪車軸の軸トルクの検出結果に基づいて、制御装置100は車両の走行状態を判断することができる。
次に図11を参照して、車両の各動作モードにおけるエンジン、ジェネレータモータ及び各クラッチ(第1クラッチ20、第2クラッチ50及び第3クラッチ3)の動作状態について説明する。図11はエンジン2a、ジェネレータモータ12及び各クラッチ20,50,3の動作状態を示す図である。
なお、図11のエンジンの欄において、エンジンを駆動することを○、停止することを×と表記する。また、ジェネレータモータの駆動の欄において、ジェネレータモータを駆動することを○、停止することを×と表記する。ジェネレータモータの回生の欄において、ジェネレータを用いてエネルギー回生を行うことは○、エネルギー回生を行わないことを×と表記する。クラッチの欄において、第1クラッチ20及び第2クラッチ50を係合可能な状態にすること、並びに第3クラッチ3を接続することを○と表記し、第1クラッチ20及び第2クラッチ50を係合不能な状態にすること、並びに第3クラッチ3を切り離すことを×と表記する。
図11(エンジン始動)に示すように、車両が停止した状態でエンジン2aを始動するときには、第1クラッチ20及び第2クラッチ50を係合不能な状態にすると共に第3クラッチ3を接続した後、ジェネレータモータ12を回転駆動する。ジェネレータモータ12により入力軸4が回転駆動され、第3クラッチ3及び駆動軸2を介してエンジン2aが回転され始動される。このときに第1クラッチ20及び第2クラッチ50は係合不能な状態にあるので、入力軸4の回転が、停止した出力軸5及び被動歯車7b〜10b並びに駆動歯車11aで阻止されることを防止できる。これによりジェネレータモータ12の回転駆動によりエンジン2aをスムーズに始動できる。なお、第2クラッチ50が係合可能な状態であってもエンジン2aの始動には影響を与えないので、第2クラッチ50を係合可能な状態にしてエンジン2aを始動することは可能である。
エンジン2aを始動させた後、エンジン2aの駆動力を用いて車両を発進させるときには(発進1)、第3クラッチ3を一旦切り離すと共に、歯車対7(第1速)に配設された第1クラッチ20を係合可能な状態にした後、第3クラッチ3を接続する。これによりエンジン2aの回転動力が駆動軸2及び第3クラッチ3を介して入力軸4に伝達され、歯車対7を介して出力軸5に伝達されるので、車両のスムーズな発進が可能である。
なお、第1クラッチ20及び第3クラッチ3の接続順序を入れ替えて、第2クラッチ50を係合不能な状態にすると共に第3クラッチ3を接続したまま、歯車対7(第1速)に配設された第1クラッチ20を係合可能な状態にすることは可能である。車両の発進のときは第2クラッチ50が係合可能な状態であっても入力軸4の回転駆動には影響を与えないので、第2クラッチ50を係合可能な状態にして車両を発進させることは可能である。
また、ジェネレータモータ12の駆動力を用いて車両を発進させるときには(発進2)、第2クラッチ50を係合不能な状態にすると共に第3クラッチ3を切り離す一方、歯車対7(第1速)に配設された第1クラッチ20を係合可能な状態にする。これによりエンジン2aのイナーシャとは無関係にジェネレータモータ12の回転動力が入力軸4に伝達され、歯車対7を介して出力軸5に伝達される。なお、第2クラッチ50が係合可能な状態であっても入力軸4の回転駆動には影響を与えないので、第2クラッチ50を係合可能な状態にして車両を発進させることは可能である。
また、ジェネレータモータ12の回転動力に加えエンジン2aの駆動力も用いて車両を発進させる場合には、第3クラッチ3を接続する。これにより駆動軸2及び第3クラッチ3を介してエンジン2aの駆動力が入力軸4に伝達され、歯車対7を介して出力軸5に伝達される。
エンジン2aの駆動力を用いて車両を加速するときには(加速)、第2クラッチ50を係合不能な状態にすると共に第3クラッチ3を接続したまま、第1クラッチ20を切り換えてシフトアップ変速を行う。これによりトルク伝達が遮断される時間を短くすることができ、変速時の駆動力抜け(所謂トルク切れ)を運転者に感じさせることがなく、減速感を抑制したシームレス変速を行うことができる。
次に、車両を前進させる場合の処理(前進走行処理)を、図12を参照して説明する。図12は前進走行処理を示すフローチャートである。この処理は、制御装置100の電源が投入されている間、CPU81によって繰り返し(例えば、0.2秒間隔で)実行される処理であり、車両を前進させて、惰性走行をするときのトラクションを確保すると共に、回生のエネルギー損失を抑制するための処理である。
CPU81は前進走行処理に関し、まず、アクセルペダル及びブレーキペダル(いずれも図示せず)の操作量(踏み込み量)を取得し(S1)、取得したアクセルペダルの操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S2)。なお、S2の処理では、S1の処理で取得したアクセルペダルの操作量と、その操作量に対応してROM82に予め記憶されている閾値とを比較して、現在のアクセルペダルの操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する。
その結果、アクセルペダルの操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S2:No)、各第1クラッチ20を係合可能な状態にして第1クラッチ20を接続し(S3)、第2クラッチ50を係合不能な状態にして第2クラッチ50を切り離し(S4)、第3クラッチ3を接続して(S5)、この前進走行処理を終了する。即ち、アクセルペダルの操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S2:No)、入力軸4から出力軸5に動力が伝達される状態なので、第1クラッチ20及び第3クラッチ3を接続することにより車両の推進力を確保できる。
一方、S2の処理の結果、アクセルペダルの操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S2:Yes)、ブレーキペダルの操作量が所定の操作量以下であるか否かを判断する(S6)。その結果、ブレーキペダルの操作量が所定の操作量より大きいと判断される場合には(S6:No)、車両は減速走行状態であるので、第2クラッチ50を係合可能な状態にして第2クラッチ50を接続し(S7)、第3クラッチ3を切り離す(S8)。次いで、ジェネレータモータ12を回生モードにしてブレーキペダルによるブレーキ力をアシストし(S9)、この前進走行処理を終了する。なお、ジェネレータモータ12の回生モード(回生制御)では、ジェネレータモータ12によるブレーキ力を、ブレーキペダルの操作量(踏み込み量)に応じて大きくなるように設定する。
これにより、第2クラッチ50により出力軸5から入力軸4へ動力が入力されると共に、第3クラッチ3によりエンジン2aと入力軸4との間の動力の伝達が遮断される。よって、エンジン2aが入力軸4に連れ回りをすることを防止できる。その結果、ジェネレータモータ12とエンジン2aとを切り離すことができるので、回生時のエネルギー損失を抑制できると共に、エンジン2aのイナーシャが抵抗となることもなく違和感を防止できる。
また、S7の処理において第2クラッチ50を係合可能な状態にすると、第2クラッチ50(図9参照)は第3内輪54及び第3外輪59が径方向に弾性変形しながら軌道間隔が小さくなる方向へ軸方向に相対移動し、第3コロ57が係合することにより出力軸5から入力軸4へ動力が入力される。第3内輪54及び第3外輪59が径方向に弾性変形することにより入力回転数の変化を緩和させることができるので、入力回転数の変化に伴うイナーシャトルクに起因するトルクピークによるショックを抑制できる。
なお、第2クラッチ50が配設された歯車対8(駆動歯車8a)の歯数は、歯車対7,8,9,10の内の最小歯数(本実施の形態においては駆動歯車7aの歯数)より大きな値に設定されている。これにより、歯車対7(駆動歯車7a)に第2クラッチ50を配設して、その第2クラッチ50を介して動力を伝達して回生するときに車両に生じる加速度と比較して加速度を小さくできるので、回生時(減速時)の違和感を抑制できる。
一方、S6の処理の結果、ブレーキペダルの操作量が所定の操作量以下であると判断される場合には(S6:Yes)、車両は惰性走行状態であると判断されるので、第2クラッチ50を係合不能な状態にして第2クラッチ50を切り離し(S10)、この前進走行処理を終了する。第2クラッチ50を係合不能な状態にすることにより、惰性走行時に出力軸5から入力軸4に伝達された動力がジェネレータモータ12に入力されることを防止できる。これにより出力軸5が制動されることを防止できる。その結果、車両の運動エネルギーの損失を小さくすることができ、惰性で走行できる距離が減少することを防止できる。
また、このときに第3クラッチ3を切り離すことで、エンジン2aと入力軸4とを切り離すことに加え、エンジン2aを停止させることが可能となる。その結果、エンジン2aを作動させるための不要な燃料消費を抑制できるので、燃費を向上させることができる。なお、停止させたエンジン2aを惰性走行中に始動させる場合には、第2クラッチ3により出力軸5から入力軸4へ動力を伝達すると共に、第3クラッチ3を接続すれば良い。
なお、図12に示すフローチャートにおいて、請求項7記載の走行状態取得手段としてはS1の処理が、走行状態判断手段としてはS6の処理が、伝達遮断手段としてはブレーキペダルの操作量が所定の操作量以下であると判断される場合に(S6:Yes)、第3クラッチ3を切り離す処理が該当する。
次に図13を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、第1クラッチ20により支持される歯車(駆動歯車7a,8a,9a,10a)が噛み合う歯車対7,8,9,10とは別に歯車対11を設け、その歯車対11に第2クラッチ50を配設する場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、第1クラッチ20により支持される歯車(駆動歯車8a)に第2クラッチ50を設ける場合について説明する。なお、第1実施の形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図13は第2実施の形態における変速機101を模式的に示すスケルトン図である。
図13に示すように、変速機101に配置される第2クラッチ50は、第1クラッチ20と共に駆動歯車8aを入力軸4に対して相対回転可能に支持する。第1クラッチ20及び第2クラッチ50は各々の外輪が軸方向に並設され、それらが一体に形成され、その一体に形成された外輪に駆動歯車8aが連結されている。
駆動歯車8aを支持する第1クラッチ20及び第2クラッチ50は、入力軸4に貫設されるカムシャフト160を軸方向に移動させることにより、カムシャフト160に形成されたカム部によってピンを出没させることで、係合または係合解除を切り換えることができる。以上のように構成される変速機101によれば、第2クラッチ50の配置スペースを別途準備する場合と比較して、第1クラッチ20及び第2クラッチ50を配置する軸方向長を小さくできるので、変速機101を小型化できる。
なお、本実施の形態では駆動歯車8aに第2クラッチ50を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の駆動歯車7a,9a,10aに第2クラッチ50を設けることは当然可能である。また、第2クラッチ50を駆動歯車7a,8a,9a,10aに設けるのに代えて、被動歯車7b,8b,9b,10bに第2クラッチ50を設けることは当然可能である。なお、被動歯車7b,8b,9b,10bに第2クラッチ50を設ける場合には、出力軸5の内部または外部に、第2クラッチ50の係合または係合解除を切り換えるための切換手段(例えばカムシャフト50,160又はシフトフォーク75)を設ける。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値(例えば、各構成の数量や寸法等)は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
上記実施の形態では、入力軸4を第1軸とし、出力軸5を第2軸とする変速機1,10について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、入力軸および出力軸が同軸に配置されると共に、これら入力軸および出力軸と平行にカウンタ軸が配置される変速機(所謂アウトプットリダクション)に適用することは当然可能である。この変速機(アウトプットリダクション)では、入力軸を第1軸、カウンタ軸を第2軸とすることができ、歯車対により入力軸からカウンタ軸を介して出力軸にトルクを伝達できる。
第1実施の形態では、駆動歯車7a〜10aが第1クラッチ20で支持され、被動歯車11bが第2クラッチ50で支持される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、被動歯車7b〜10bが第1クラッチ20で支持され、駆動歯車11aが第2クラッチ50で支持されるようにすることは当然可能である。この場合には、第1クラッチ20の第1外輪29及び第2外輪39が入力系回転部材として機能し、第1内輪24及び第2内輪34が出力系回転部材として機能する。そして、第1外輪29及び第2外輪39の出力軌道面30,40が入力軌道面として機能し、第1内輪24及び第2内輪34の入力軌道面25,35が出力軌道面として機能する。また、第2クラッチ50の第3外輪59が出力系回転部材として機能し、第3内輪54が入力系回転部材として機能する。
上記各実施の形態では、第1クラッチ20の第1外輪29及び第2外輪39の外周に駆動歯車7a,8aや被動歯車7b,8bを設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第1内輪24や第2内輪34の軸方向端面を軸方向に延設して、第1外輪29や第2外輪39の軸方向端面より軸方向外側に延びる延設部(図示せず)を設け、その延設部に駆動歯車7a,8aや被動歯車7b,8bを設けることは可能である。それら駆動歯車7a,8aや被動歯車7b,8bにより歯車対を形成すると共に、第1外輪29及び第2外輪39を軸方向に移動させてカムの係合または係合解除を切り換える構成とすることにより、軸方向長は大きくなるが、本実施の形態と同様の作用効果を実現できる。
上記各実施の形態では、入力軌道面25,35及び出力軌道面30,40を単葉回転双曲面で形成し、円筒状の第1コロ27及び第2コロ37を採用する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の形態における入力軌道面25,35、出力軌道面30,40、第1コロ27及び第2コロ37を採用することは当然可能である。他の形態としては、例えば入力軌道面25,35及び出力軌道面30,40を単葉回転双曲面で形成し第1コロ27及び第2コロ37を円錐状とするもの、入力軌道面25,35及び出力軌道面30,40を円錐状面とするもの、入力軌道面25,35又は出力軌道面30,40を円筒状としたり、第1コロ27や第2コロ37を鼓状、太鼓状や円筒状としたりするもの等が挙げられる。
なお、入力軌道面25,35及び出力軌道面30,40を、第1コロ27、第2コロ37の外周面と線接触する単葉回転双曲面または円錐状面として形成することが望ましい。軌道面の形状を単純な円錐状面とすることにより、入力軌道面25,35及び出力軌道面30,40の加工を容易にできるからである。また、軌道面を単葉回転双曲面とすることにより、軌道面を円錐状面とする場合と比較して耐久性を向上できる。即ち、スキュー角を有するコロ(第1コロ27や第2コロ37)を軌道面(単葉回転双曲面)に係合させるときには、コロの軸方向の撓み量が小さくてもコロと軌道面とを線接触させることができるので、コロ径を大きくすることができると同時に接触面積を大きくできる(線接触長さを大きくできる)からである。
上記各実施の形態では、歯車対6〜11を一対のヘリカルギヤ(斜歯ギヤ)で構成する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、平歯車によって歯車対6〜11を構成することは当然可能である。
第1実施の形態では、カムシャフト60は歯車対7〜10(1速〜4速)に対応させて各カム部61〜63を設ける場合、即ち、カム部61は歯車対7,8に対応するが他の歯車対9,10には対応しない場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、特定のカム部の軸方向位置が複数の歯車対に対応するようにカム部を設けること、例えば、カム部61が歯車対7,8に対応するだけでなく他の歯車対9,10のいずれかに対応するようにすることは当然可能である。カム部およびピンの周方向および軸方向の位置を適宜設定すれば良いからである。
上記第1実施の形態では、第2クラッチ50の係合または係合解除を切り換えるシャフト部76に弾性部材(図示せず)が配設されており、その弾性部材の圧縮変形によりシフトフォーク75をシャフト部76の移動方向に付勢する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、シフトフォーク75のアームを弾性部材で形成し、その弾性部材の曲げ変形によりシフトフォーク75をシャフト部76の移動方向に付勢することは当然可能である。この場合も第3内輪54を軸方向に付勢することが可能であり、第1実施の形態と同様の作用効果を実現できる。
上記第1実施の形態では、第1実施の形態では、カムシャフト60によりピン71,72の突出量を小さくすることによって第1クラッチ20を係合不能にする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、カムシャフトに形成されるカム部の軸方向位置やピンの位置等を適宜設定することにより、入力軸4からピンが突出したときに第1内輪24及び第2内輪34を係合不能な位置に移動させることは当然可能である。
上記第1実施の形態では、カムシャフト50の移動によって第1クラッチ20の係合可能または係合不能を切り換え、シフトフォーク75の移動によって第2クラッチ50の係合可能または係合不能を切り換える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、切換手段(カムシャフト50、シフトフォーク75)を入れ替えることは当然可能である。
上記各実施の形態では、入力軸4にジェネレータモータ12のロータ12bが直接に接続される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、遊星歯車装置等の減速装置を介してロータ12bを入力軸4に接続することは当然可能である。
上記各実施の形態では、第2クラッチ50の係合可能な状態または係合不能な状態を切り換える切換手段(シフトフォーク75、カムシャフト160)を備える場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、第2クラッチ50の切換手段を省略することは当然可能である。第2クラッチ50が切換手段(シフトフォーク75、カムシャフト160)を備えなくても、入力軸4に動力が入力されないで車両が惰性走行をする場合には、第2クラッチ50により出力軸5から入力軸4へ動力が入力される。このときに第3クラッチ3によりエンジン2aを切り離すことによって、回生時のエネルギー損失を抑制できるからである。
上記第2実施の形態では、歯車対8に第2クラッチ50を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、歯車対8に加え他の歯車対7,9,10のいずれか1以上に第2クラッチ50を設けることは当然可能である。歯車対7〜10の複数箇所に第2クラッチ50を設けることで、入力軸4に動力が入力されないで車両が惰性走行をする場合に、伝動可能な第2クラッチ50を選択可能にできる。伝動可能な第2クラッチ50を選択することにより、伝動可能な歯車対の変速比を選択できるので、減速される車両の加速度を適宜設定することができる。車両の速度等に応じて減速される加速度を設定することで、さらに違和感を与え難くすることができる。