枕は、一般に頭部の位置をやや高くすることで頸椎を適度な前屈状態として、延いては快適な睡眠が得られる姿勢に保たせるために用いられる。そのため、従来から、種々の充填材が用いられており、また、一層快適な頭部の支持状態を得ることを目的として、種々の提案が為されている。
上記充填材の構成材料としては、羽毛、羊毛、木綿、蕎麦殻等の天然素材、ポリエステル綿、アクリル綿、ビーズ、パイプ等の人工素材が広く用いられてきた。これらのうち人工素材、特にポリエステル繊維からなる充填材は、適度に安価で好ましい特性を備えた充填材として、商業的に大量に製造され、用いられてきている。また、近年の枕ブームにおいて、低反発ポリウレタンフォーム枕、テンピュール枕等がその遅延弾性に基づくソフト感やフィット感により注目され、広く使用されている。
また、枕の構造の改善提案としては、例えば、袋状に形成した側地の内部に変形率の高い中綿が充填された枕本体の上面に、内部に変形率の低い中綿が充填された凸部を突設した枕が提案されている(例えば特許文献1を参照。)。この枕によれば、変形率の低い凸部に頸椎部を載せることで、頸椎部を上方に緩い凸をなすアーチ状に支持し、頭部を変形率の高い枕本体により、柔らかく、頸椎よりもやや下方の位置で支持することができるので、自然で質の高い眠りが得られるものとされている。
また、枕を充填材に粒状体を使用した塑性変形部分と、充填材に弾性体を使用した弾性変形部分とで構成し、その弾性変形部分を首の位置に対応させ得るように枕の側面の部分に配置した枕が提案されている(例えば特許文献2を参照。)。この枕によれば、頭が移動したとき、弾性変形部分は荷重がなくなることによって元の形状に復元し、一方、塑性変形部分の充填材は移動前の位置に形成された空間部分を埋めて元の形状に復元させるので、常に正しい睡眠姿勢を維持できるようになるものとされている。
また、低反撥弾性発泡体からなる中央枕片と、コ字形状の袋部材に化学繊維綿等を充填してクッション性を付与し中央枕片よりも高く設けられた一対の枠枕片と、これらを包む袋体とからなり、中央枕片の周りに枠枕片を宛てがうと共にそれらの側部同士を密着して対向するように袋体内に収容した枕が知られている(例えば特許文献3を参照。)。この枕によれば、中央枕片により頭部を安定した状態で支承することができ、枠枕片により頭部から頸部に至る姿勢状態が自然体に保持されるので心地よい使用感が得られるものとされている。
また、低反撥弾性発泡体からなる中央枕片と、プラスチック製粒状物等を袋部材に充填してクッション性が付与された一対の側枕片と、これらを収容する長方形の袋体とを設け、袋体内に中央枕片とその両端部に側枕片を収容してなり、横臥姿勢で頭部の重量が付加された場合に、側枕片の沈み込み量を中央枕片の沈み込み量よりも少なくすると共に、沈んだ時の高さを中央枕片の沈んだ時よりも高くされた枕が知られている(例えば特許文献4を参照。)。この枕によれば、中央枕片により仰臥姿勢時の頭部を安定した状態で支承し、側枕片により顔を横に向けた横臥姿勢の頭部を高い位置で支承するので、心地よい使用感が得られるものとされている。
また、頚部支持部と後頭部支持部を形成し、頚部支持部には、頚部支持高さを可変とした高さ調節部を設け、頚部支持部と後頭部支持部の袋内には通気性と吸水発散性に良好で復元力の高いヘチマ繊維片と弾力性ある合成樹脂製小パイプを混合して、これを充填材として収容した枕が知られている(例えば特許文献5を参照。)。この枕によれば、復元力が高く、しかも、頚部を支持する高さを変更できるので、自然な寝姿勢で頭にフィットするものとされている。
また、首側の分割嚢に収納される充填材と、これ以外の分割嚢に収納される充填材とは異なるものとして、頭部を支える部分は粒状の固体充填材で硬く、頸部を支える部分は柔らかくした枕が知られている(例えば特許文献6を参照。)。この枕は、首部に当たる枕の当接状態と後頭部に当たる枕の当接状態とを異なるものとして快適性を持たせようとしたものである。
また、後頭部を支える枕本体と、枕本体から背中部側に向かって延びるシート状弾性部材を備え、首部が載せ置かれるシート状弾性部材の下方に、そのシート状弾性部材の弾性変形を可能ならしめる空隙を設けた枕が知られている(例えば特許文献7を参照。)。この枕によれば、使用者の体形や首形状にかかわらず、就寝時において、首筋や肩の筋緊張を引き起こしにくく且つ、頸椎付近の血流の低下及び神経の圧迫を引き起こしにくいものとされている。
また、枕本体の側縁の中央部分から突き出し、表面が突出方向に向けて低くなる傾斜部と、内部に埋設された枕本体よりも硬いサポート部材とを備えた枕が知られている(例えば特許文献8を参照。)。この枕によれば、傾斜部は、3分割した枕本体の側縁の中央部分だけから突出しているため、横向きに寝返りをうった場合に、傾斜部が肩を圧迫することがない利点がある。
ところで、上記特許文献1,2,5〜7に記載された各枕は、何れも頸部を適切なアーチ状に支持することによって快適な睡眠を確保しようとするものであるが、各枕における形状や特性は仰臥位のみを想定して定められている。しかしながら、就寝時の姿勢は必ずしも仰臥位ではなく、側臥位の場合もある。また、就寝中に寝返りを打って仰臥位から側臥位に変位する場合もある。側臥位では肩幅の分だけ頭部の高さ位置が高くなるため、仰臥位だけを想定した上記の各枕では、側臥位の際には頭部の適切な支持高さが得られない。
これに対して、上記特許文献3,4に記載された各枕では、仰臥位で適切な支持状態が得られるばかりではなく、左右両側部のクッション性(弾力性)が高くされていることから、側臥位ではその部分に頭部を載せることで快適な支持状態が得られる。しかしながら、これらの枕では、仰臥位から側臥位に変位するまでの寝返り途中の支持は考慮されていない。そのため、寝返りを打つ際に、中央部と両側部との境界における急激な支持状態の変化により、使用者に不快感を与える問題がある。
また、上記特許文献8に記載された枕でも、仰臥位および側臥位のそれぞれにおける支持状態のみが考慮されている。寝返りを打つ過程において、背中或いは肩が傾斜部上から外れる際には、急激な支持状態の変化により、使用者に不快感を与えうる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、寝返りを打つ過程においても快適な支持状態が得られる枕を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、就寝時に用いられる矩形の枕であって、(a)矩形の袋体と、(b)その袋体の中央部に左右方向の両端部に向かうに従って上下方向の長さ寸法および厚さ寸法の少なくとも一方が次第に小さくなる範囲に詰められた第1中綿と、(c)その第1中綿よりも弾力性が高い特性を有してその周囲に詰められた第2中綿とを、備えたことにある。
このようにすれば、周縁部に詰められた第2中綿に比較して弾力性が低い第1中綿が袋体の中央部に詰められ、しかも、その第1中綿は、中央部から左右方向の両端部に向かうに従って上下方向の長さ寸法または厚さ寸法が次第に小さくなることから、枕の左右方向の中央部においては、弾力性が低い領域(すなわち第1中綿が多い領域)が相対的に広範囲を占め、左右方向の両端部においては、弾力性が高い領域(すなわち第1中綿が少ない領域)が相対的に広範囲を占める。
そのため、頭部が枕の中央部に位置する仰臥位においては、低い弾力性によって頭部が広い面積で柔らかく支えられる。一方、頭部が枕の両端部に位置する側臥位においては、高い弾力性によって頭部が中央部よりも高い位置で確実に支えられる。しかも、第1中綿が詰められている領域は、両端部に向かうに従って次第に上下方向の寸法が小さくなるので、枕の弾力性は、中央部から両端部に向かうに従って次第に高くなる。この結果、仰臥位から寝返りを打って側臥位に変位する際には、その寝返りを打つ過程においても、肩が下に入り込んで頭部の高さが次第に高くなるのに伴い、その頭部の左右方向への移動量に応じて枕から受ける弾性力が次第に高くなって、支持高さが次第に高くなる。
上記により、仰臥位および側臥位の何れにおいても、頭部が適切な高さ位置で支えられる結果として、仰臥位では首、肩、背中の筋肉の緊張度が、側臥位では腰の筋肉の緊張度が、それぞれ低減され、血行が良くなって硬結(コリ)も軽減されて熟睡し易くなる。また、寝返りを打つ過程においても、適度な支持高さに保たれるので、上記の筋肉の緊張度の低減効果が継続して得られ、寝返りの途中で支持状態が急変することによる不快感が生じ難い。すなわち、本発明の枕によれば、就寝中は寝返りを打っても継続して最適な触感特性(すなわち反発性および沈み具合)が与えられる。なお、中央部に充填される第1中綿は、弾力性が低いが十分な復元力を有するもの、例えば、低反発性を有するものも望ましい。
また、前記第1中綿において、「中央部に左右方向の両側部に向かうに従って上下方向の長さ寸法および厚さ寸法の少なくとも一方が次第に小さくなる」は、左右方向の全体で上下方向の長さ寸法或いは厚さ寸法が変化するような態様に限られず、中央部近傍の所定の範囲で上下方向の長さ寸法或いは厚さ寸法が一定の値に保たれている態様が含まれる。また、「次第に小さく」は、連続的に変化するものに限られず、使用者が急激な変化を感じない程度に段階的に変化するものも含まれる。また、例えば、本発明の枕を製造するに際しては、袋体の周縁部に第2中綿を詰めた後、第1中綿をその内側に詰めることとなるが、その際、第2中綿の詰まり方次第で、左右方向における第1中綿の上下方向の寸法および厚さ寸法の変化は緩やかな凹凸を有する曲線を描くことになる。このような態様も、本願発明に含まれる。
例えば、中央部近傍で厚さ寸法が一定に保たれる場合には、その一定に保たれる範囲が左右方向において35(cm)以下に留められることが好ましい。枕の幅寸法や使用状態次第であるが、一般的な枕では、この長さが35(cm)以上になると、弾性力の変化が急になるため寝返り時に滑らかな頭部の移動が困難になる。また、上記長さ寸法は、一層好適には5〜30(cm)であり、更に好ましくは10〜25(cm)である。5(cm)未満では、仰臥位において頭部の位置が中央部から僅かにずれた場合に支持状態が変化して違和感を生じさせ易くなる。
また、前記第1中綿は、左右方向の両端部においてその上下方向寸法が滑らかに零に近づくように変化することが好ましいが、両端部が所定の上下方向寸法を有するように詰められていても差し支えない。例えば、第1中綿の左右方向両端部における上下方向寸法は、可及的に小さくされていることが好ましいが、例えば、少なくとも中央部における上下方向寸法の80(%)以下が好ましい。また、上記左右方向の両端部は、凸曲面になっていることが好ましいが、凹凸面になっていても差し支えない。
ここで、好適には、前記第1中綿は、左右方向の各位置において、上下方向における中央部に位置するものである。このようにすれば、上下方向の両端部に弾性力の高い領域が備えられるので、頭部の重心が枕の上方にある場合には、弾性力の高い上端部に大きな荷重がかかってその沈み込み量が比較的大きくなるため、頭部と枕とが広い面積で接触する。また、頭部の重心が枕の中央にある場合には、弾性力の低い中央部に頭部が位置しその沈み込み量が比較的大きくなるため、頭部と枕とが広い面積が接触する。また、頭部の重心が枕の下方にある場合には、弾性力の高い下端部に大きな荷重がかかってその沈み込み量が比較的大きくなるため、頭部と枕とが広い面積で接触する。すなわち、頭部が枕の上下方向の何れの位置にある場合にも、頭部と枕との接触面積が十分に広くなり、適度な反発力で頭部が支持される。
また、好適には、前記第1中綿は、枕の左右方向、上下方向、厚み方向のそれぞれにおいて、中央位置から両方向に均等な長さ範囲となるように充填される。
また、好適には、前記第1中綿は、前記袋体の全体に対して、左右方向において20〜100(%)の範囲内、上下方向において30〜100(%)の範囲内、厚み方向において20〜80(%)の範囲内の領域を占めるものである。このようにすれば、適度な弾性力を有し頭頸部への圧迫感が小さく緩衝性も十分な枕が得られる。左右方向における充填範囲を20(%)以上、上下方向における充填範囲を30(%)以上、厚み方向における充填範囲を20(%)以上にすれば、弾性力を十分に小さくできるので、頭頸部への圧迫感が過大になることが抑制され、延いては頸部周辺の筋肉の緊張が緩和される。また、厚み方向における充填範囲を80(%)以下にすれば、適度な弾性力を有し頭頸部への緩衝性も十分に得られるため、頸部周辺の筋肉の緊張が緩和される。なお、上記第1中綿の占める範囲は、左右、上下、厚みの各方向において均等であることが好ましいが、必須では無く、それぞれ何れかの方向に偏っていても差し支えない。
また、側臥位では、前述したように枕の左右両端部が用いられることによって適切な頭部の支持高さが得られる。そのため、側臥位の使用時に安定感を得るためにには、第2中綿の割合が多い部分を左右両端部から比較的広い範囲にとることが望ましい。すなわち、就寝時に側臥位をとる習慣がある場合など、仰臥位をとる可能性が低い利用者の場合には、第1中綿の詰められる領域の左右方向の幅寸法を比較的小さくすることが好ましいと考えられる。これにより、側臥位のまま姿勢を若干変更しようとする場合にも、枕の使用箇所を変更する十分な余地が生まれる。
また、好適には、前記第1中綿は天然繊維から成るものであり、前記第2中綿は化学繊維から成るものである。前記のような特性を有する第1中綿および第2中綿の組み合わせとしては、このように天然繊維綿および化学繊維綿とすることが好ましい。
前記第1中綿を構成する天然繊維としては、綿、カポック、キワタ等の種子毛繊維、羊毛、山羊毛、カシミア、モヘア、ラマ毛(特にアルパカ・ピキューナ)、アンゴラ兎毛、馬毛、牛毛綿等の獣毛繊維、ダウン、フェザー等の羽毛繊維が挙げられる。また、化学繊維のうちアクリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエステル等も用いうる。この中でも、カポックは天然繊維綿の中では弾力性が高く、また、弾力の持続性が非常に高い、吸水性が低い、撥水性が高い、保温性が高い、天日干しによって弾力が回復する、軽い等の特徴があるため好ましい。カポック繊維に他の天然繊維や化学繊維を本発明の基本的効果を損なわない範囲で混合することもできる。第1中綿の構成材料は、カポック繊維が含まれることが好ましく、その割合が30(wt%)以上が一層好ましく、50(wt%)以上が更に好ましく、100(wt%)が特に好ましい。
因みに、パンヤ種子毛繊維は、パンヤ科に属する樹木から採れる種子毛繊維であって、例えば、パンヤ科のカポック木から採れる種子毛繊維のカポック繊維や、キワタ木から採れるキワタ繊維等がある。これらに代表されるパンヤ種子毛繊維は、綿繊維に似るがよじれがなく、横断面は円形であるが細胞壁は薄く、中空断面形態の中空構造を有し(中空率は70〜80(%))、繊維長が10〜30(mm)、太さが20〜45(μm)程度で、綿繊維と同様にセルロースを主成分にした植物繊維である。中でもカポック繊維は、その中空性、親油性、撥水性に優れた特徴を有するため、従来より主として詰め綿、充填材として救命胴衣や寝具類等にも使用されてきた。また、カポック繊維に代表されるパンヤ種子毛繊維は、上記のような中空構造を有することから軽量であり、また、保温性に優れ、弾力性に富み、弾力の持続性に優れ、天日干しをすることで弾力性が回復する特徴を有する。特に、カポック繊維は、原料が安定して調達し易く、また、農薬や化学肥料を使われずに育つ、地球に優しいエコロジー天然素材である点で一層好ましい。
なお、前記第1中綿に用い得る化学繊維のうち、アクリルとしては、トレロン、キューター(それぞれ東レ株式会社の商品名)、ボンネル、ファイネル(それぞれ三菱レイヨン株式会社の商品名)、ベスロン(東邦テナックス株式会社の商品名)、エクスラン(日本エクスラン工業株式会社の商品名)、カシミロン、セリスタ(それぞれ旭化成株式会社の商品名)、カネカロン(株式会社カネカの商品名)、ドラロン(独国Bayer社の商品名)、アクリラン(米国Chemstrand社の商品名)、クレスラン(米国American Cyanamid社の商品名)、ゼフラン(米国Dow Chem社の商品名)、ダイネル(米国Carbide & Carbon社の商品名)、ヴェレルル(米国イーストマン社の商品名)、ダーラン(米国BF Goodrich社の商品名)、オーロン(米国デュポン社の商品名)、クリロール(仏国Rhodiaceta社の商品名)、バン(独国Cassella Farbwerke Mainkur A.G.社の商品名)、レドン(独国Phrix社の商品名)が挙げられる。また、ポリ塩化ビニルとしては、単独重合物のテビロン(帝人株式会社の商品名)、ビクロン(株式会社クレハの商品名)、バルレン、ニップ、ニシカロン、共重合物のビニヨン、後塩素化合物のペーツェー等が挙げられる。また、ポリプロピレンとしては、旭化成ポリプロ(旭化成株式会社の商品名)、日東紡ポリプロ(日東紡績株式会社の商品名)、ダイワボウポリプロ(大和紡績株式会社の商品名)、トーア紡ポリプロ(東亜紡織株式会社の商品名)、チッソポリプロ(チッソ株式会社の商品名)が挙げられる。また、ポリエステルとしては、テイジンテトロン(帝人株式会社の商品名;「テトロン」は帝人株式会社および東レ株式会社の登録商標)、東レテトロン(東レ株式会社の商品名)、クラレエステル(株式会社クラレの商品名)、東洋紡エステル(東洋紡績株式会社の登録商標)、ユニチカエステル、テイテルーナ(それぞれユニチカ株式会社の商品名)、スカイパック(大和紡績株式会社の商品名)、ダクロン(米国デュポン社の商品名)、テリレン(英国ICI社の商品名)、コーデル(米国イーストマン社の商品名)、バイクロン、グレリン(スイス国エムス社の商品名)等が挙げられる。
また、前記第2中綿を構成する化学繊維綿としては、ポリエステル繊維綿が挙げられる。ポリエステル繊維綿は弾力性と弾力の持続性が非常に高い、天然繊維綿よりも吸水性が高い、速乾性が高い、変位性が低い、軽い等の特徴がある。ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート・エチレンテレフタレート等が挙げられる。また、このような繊維を基本として、制電性、難燃性等を改善した改質繊維、複合繊維等も好適に用いられ、酸化チタンや抗菌剤、抗カビ剤等を練り込んだ繊維や後加工によって防ダニ性や抗菌性等の各種特性を付与した繊維も使用し得る。使用可能な製品名としては、前記のテイジンテトロン、東レテトロン、クラレエステル、東洋紡エステル、ユニチカエステル、テイテルーナ、スカイパック、ダクロン、テリレン、コーデル、バイクロン、グレリン等が挙げられる。ポリエステル繊維綿は、例えば、短繊維から成るベール状の綿をカード機により開繊してシート状のウェブにすることで製造することができる。上記開繊工程は、捲縮した繊維が揃っている状態をほぐして弾力性を高める作用があるものと考えられる。
なお、前記第2中綿としては、上記のような化学繊維の他に、獣毛繊維、羽毛繊維、反合成繊維等も用い得る。前記化学繊維にこれらの天然繊維等を混合したものを用いることも可能である。
また、好適には、前記第2中綿は、ポリエステル繊維綿等の化学繊維にシリコーンコーティングを施した繊維から成るものである。このようにすれば、コーティングを施していない繊維が用いられている場合に比較して一層高い弾力性を有する中綿が得られる。
また、好適には、前記第2中綿を構成する化学繊維は、断面形状が3〜8角などの多角形、3〜8葉などの多葉、楕円や表面に凹凸のある楕円、扁平などの異形断面、これらの中空断面、丸形断面等、何れでもよいが、中空部の形状が真円に近いほど中空率の高い綿が得られ易く、中空形状の回復特性も良好なため、好ましい。
また、上記第2中綿は、適度な嵩高性と柔らかい風合いを出すため、短繊維繊度が1.6〜33(dtex)、繊維長が10〜110(mm)のものが好ましい。繊度を1.6(dtex)以上にすれば、嵩が出易くなり、33(dtex)以下に留めれば十分な風合いの柔らかさが得られる。また、繊維長が10(mm)以上であれば、繊維間の十分な交絡が得られて構造を保ち易くなり、十分な嵩高性が得られる。また、110(mm)以下に留めれば、十分な開繊性や製綿性が維持され、過度の絡み合いも生じ難く、ドレープ性や嵩の耐久性が損なわれにくい。
また、上記第2中綿は、嵩高性、風合い、圧縮に対する反発性、或いは製綿性をよくするために、捲縮させた繊維から成るものとすることが好ましい。捲縮は、機械捲縮、紡糸する際に粘度差を有するポリマーのサイドバイサイド複合、ポリマー差のサイドバイサイド複合、或いは口金直下で非対称冷却して得られる三次元構造差捲縮等の方法で行うことができる。捲縮数は、5〜35(個/インチ)の範囲が好ましく、捲縮度は5〜40(%)の範囲が好ましい。捲縮数を5(個/インチ)以上、捲縮度を5(%)以上にすれば、開繊加工時に均一な開繊が行われて開繊ウェブに斑が生ずることを抑制できる。また、捲縮数を35(個/インチ)以下、捲縮度を40(%)以下に留めれば、開繊後も良好な風合いを維持し易い。
また、上記第2中綿は、嵩高性、嵩の耐久性、ドレープ性、柔軟性および保温性を有する風合いを得るためには、ポリエステル短繊維の繊維表面にシリコーン系高分子による被覆加工が施されていることが好ましい。シリコーン系高分子は、ポリエステル短繊維の表面において、短繊維を低摩擦化し、ソフトでヌメリ感のある柔軟な風合いに加えて、繊維相互の絡み合いによる嵩の耐久性を損ない難く、圧縮に対する反発性を向上させる効果がある。そのため、耐久性、弾力性に優れ、且つ、柔軟な風合いの中綿を得ることができる。このような第2中綿を枕の充填材とするときの有効充填密度は、例えば、0.005〜0.08(g/cm3)程度である。
また、前記のようなパンヤ綿或いはカポック綿で第1中綿が構成され、シリコーンコーティングされたポリエステル綿で第2中綿が構成される場合には、最適な触感特性の持続性が高く、また、これが天日干しで回復する利点がある。また、湿気が内部に溜まりにくい利点もある。
また、前記第1中綿の充填密度は、0.01〜0.1(g/cm3)が好ましく、0.02〜0.09(g/cm3)が一層好ましい。0.01(g/cm3)未満では枕としての緩衝性が不足する傾向があり、底付き感を感じ易い。0.1(g/cm3)を越えると硬くなりすぎ、頭頸部への接触面積が小さくなって使用感が悪くなる傾向にある。
また、前記第2中綿の充填密度は、0.005〜0.08(g/cm3)が好ましく、0.01〜0.07(g/cm3)が一層好ましい。0.05(g/cm3)未満では枕としての緩衝性が不足する傾向があり、底付き感を感じ易い。0.08(g/cm3)を越えると硬くなりすぎ、頭頸部への接触面積が小さくなって使用感が悪くなる傾向にある。
また、第1中綿および第2中綿は、それぞれ充填密度が均一になるように充填されることが好ましい。
また、第1中綿は厚み方向の中央部に詰められていることが好ましい。このようにすれば、枕の両面を同様な支持状態を得る目的で使用し得る。但し、使用面が決まっている場合には、非使用面側に偏って詰められていても差し支えない。
また、本発明の枕は、例えば一人用に用いられるものであるが、二人用の枕にも応用できる。二人用の場合には、例えば、左右方向に二分したそれぞれの中央部に第1中綿が詰められた構造とすることができるが、第1中綿が詰められた一つの領域を中央部に広い範囲で設けてこれを二人で利用する構造としてもよい。但し、第1中綿の詰められた領域では、寝返りを打って側臥位になったときに頭部を支持するための十分な反発力が得られにくいため、この構造では、寝返りを打って快適な支持が得られるのは左右両端部のうちそれぞれ近い方に向かう場合(すなわち二人が離れる方向)に限られる。そのため、上述したように二分する場合に比較して使用上の制限が大きくなる。
また、本発明の枕は、綿ズレ防止のためのキルティング加工を施すことができるが、必須ではない。
また、前記第1中綿および第2中綿は、そのまま前記袋体に詰めてもよいが、個々に内袋に袋詰めした後、袋体に詰めるようにしてもよい。個々に袋詰めして袋体に入れる場合には、内袋の構成材料は中綿の弾力性や低反発性等の特性を損なわないように留意して選択することが好ましい。例えば、木綿などは比較的硬いことから内袋には好ましくない。
また、本発明の枕は、上述したような第1中綿および第2中綿を公知の方法によって袋体(袋状の布帛)に充填することで得られる。中綿の充填は、例えば、必要に応じて開繊した短繊維をブロアで袋体内に吹き込んで行うことができる。また、短繊維を梳綿機(カード機)を通して繊維が開繊した状態のカードウェブとし、これを充填してもよい。
また、袋体の構成材料は、特に限定されず、天然繊維および化学繊維等、各種の繊維から成る布帛を用いることができ、組織(織り方、編み方等)も適宜選択することができる。但し、高密度な組織が得られることから、平織物が最も好ましい。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1(a)〜(c)は、本発明の一実施例の枕10において、中綿12の充填状態を説明するための模式図である。図1において、枕10は、矩形の袋体(枕皮)14の内部に中綿12が詰められたもので、その中綿12は、中央部に詰められた第1中綿16と、その周囲に詰められた第2中綿18とから成る。これら第1中綿16および第2中綿18は、袋体12の中に直に詰められており、それら2種の中綿16,18の間には何ら仕切りとなるものは設けられていない。
上記の袋体14は、例えば、木綿やポリエステル繊維等が平織に織られたもので、例えば、短辺(上下方向)が290(mm)〜500(mm)程度、長辺(左右方向)が400(mm)〜1200(mm)程度、例えば、350×550(mm)程度の大きさを備えている。
また、上記の第1中綿16は、例えば、天然繊維綿であるカポック綿から成るものである。このカポック綿は、例えば、繊度が0.78(dtex)程度(太さ20〜45(μm)程度)、繊維長が10〜30(mm)程度、断面形状が円形で中空、中空率が70〜80(%)程度、天日干しで弾力が回復する特性を備え、枕にするときの有効充填密度が0.01〜0.1(g/cm3)程度のものである。なお、捲縮処理は施されていない。
また、上記の第2中綿18は、例えば、シリコーンコーティングが施されたポリエステル繊維綿(例えば、帝人ファイバー株式会社製 クリスターECO)から成るものである。このポリエステル繊維綿“クリスターECO”は、繊度が7.7(dtex)程度、繊維長が32(mm)程度、捲縮処理が施され、断面形状が異形、中空、天日干しまたは陰干しで弾力が回復する特性を備え、枕にするときの有効充填密度が0.005〜0.08(g/cm3)程度とされるもので、繊度は上記カポック綿の繊度の大凡10倍になっている。
そのため、このような繊維の物性の相違に基づき、第1中綿16と第2中綿18とを比較すると、以下の特徴がある。すなわち、
第1中綿16の方が、繊度が小さく、繊維長が短く、捲縮が施されていないことから、ソフト感が大きい。
第2中綿18の方が、繊度が大きく、捲縮が施されており、シリコーンコーティングが施されていることから、弾力性が大きい。
といった特徴がある。また、何れも弾力の持続性が大きく、第1中綿16も弾力性は低いものの十分な復元力を有している。
また、上記の第1中綿16は、袋体14内において、例えば、図1(a)に示されるように横長の楕円形状の領域を占めている。第1中綿16が占める範囲は、例えば、左右方向においては図1(b)に示すようにその中央部の50〜60(%)の範囲、上下方向においては図1(c)に示すようにその中央部の60〜70(%)の範囲、厚み方向においては図1(b)(c)に示すようにその中央部の50〜60(%)の範囲である。
このため、第1中綿16は、上下方向の長さ寸法hすなわち上下方向で占める範囲が、左右方向の中央部から両端部に向かうに従って次第に小さくなり、枕10の両端部のやや内側位置において0になるように充填されている。また、図1(b)、(c)に示すように、第1中綿16は略一様な厚さ寸法で充填されており、左右方向および上下方向それぞれの両端部近傍において、なだらかに厚さ寸法が0まで減じられている。すなわち、左右方向両端部に向かうに従って厚さ寸法が次第に小さくなるように設けられている。
この結果、枕10は、第1中綿16の占める割合が相対的に大きい中央部では、反発力が小さく且つソフト感が大きく、第1中綿16の占める割合が相対的に小さい左右方向および上下方向の端部では、反発力が大きく且つソフト感が小さくなっている。また、第1中綿16が前述したように横長の楕円形状に詰められている結果として、上記の反発力およびソフト感は、枕10の左右方向および上下方向の中央部から外れるに従って、次第に反発力が高くなり且つソフト感が減じられるものとなる。すなわち、枕の触感特性が概ね連続的に変化することから、枕10上で頭部20が移動する場合(後述する図2、図3を参照。)にも、触感特性の急激な変化がないので、快適な触感特性が継続的に得られる利点がある。そして、このような特性を付与した結果、枕10は、“底付き感を感じず、且つ反発力が大きすぎない”という優れた特徴を有する。
なお、図1においては、第1中綿16と第2中綿18との境界を滑らかな直線および曲線で示しているが、前述したようにこれら中綿16,18は内袋などが用いられることなく直に袋体14に詰められているため、それらの境界は材料および詰め方に起因する多数の凹凸を備えている。枕10を製造するに際しては、例えば、前記袋体14内に第1中綿16を芯綿として詰め、その外周に第2中綿18を詰めて、袋体14の開口を縫い綴じた。綿16,18の充填は、例えば、何れも手作業である。
また、本実施例の枕10では、前述したような特性の異なる2種類の中綿16,18が充填され、ソフト感の大きい第1中綿16が中央部に、弾力性の大きい第2中綿18が周縁部に詰められていることから、使用者の頭頸部が広い接触面積で包み込まれるような触感が得られる。また、接触面積が大きく、包み込まれるような触感なので、いびつな頭部の人や偏った頭部の人であっても、血行障害を起こすことなく快眠できる利点がある。
図2(a)〜(c)は、枕10の使用状態の一例を示す側面図である。図2において、使用者は仰臥位にあって、小さい黒丸が枕の中央位置を示しており、下向きの矢印が頭部20の重心位置を示している。図2(a)は、枕10の中央よりも上方に頭部20の重心が位置する使用態様で、相対的に弾力性の大きい第2中綿18が詰められることにより、高い反発性を有する上端部に大きな荷重が加えられることから、その上端部位置では頭部20の形状に倣って枕10が十分に沈み込む。そのため、ソフト感が大きい中央部と共に、広い接触面積で枕10が頭部20を包み込むこととなる。
また、図2(b)は、枕10の中央に頭部20の重心が位置する使用態様で、枕10の上端側および下端側に備えられた反発力が大きい部分に加えられる荷重は上記図2(a)の使用態様よりも小さく、中央部のソフト感が大きい部分に加えられる荷重は反対に大きくなっている。そのため、枕10の中央部は、図2(a)の場合よりも大きく沈み込み、上下端の沈み込み量は小さいので、この場合も、広い接触面積で枕10が頭部20を包み込むことになる。
また、図2(c)は、枕10の中央よりも下方に頭部20の重心が位置する使用態様で、反発力が大きい下端部に大きな荷重が加えられることから、その下端部位置では頭部20の形状に倣って枕10が十分に沈み込む。そのため、図2(a)の場合と同様に、ソフト感が大きい中央部と共に、広い接触面積で枕10が頭部20を包み込むこととなる。
このように、本実施例の枕10によれば、中央部にソフト感の大きい第1中綿16が詰められると共に、その回りに反発力の大きい第2中綿18が詰められていることから、枕10の上下方向のどのような位置に頭部20が載せられても、大きな接触面積と適度な反発力を以てその頭部20が支えられる。そのため、就寝の際に取られることの多い仰臥位では、頭部20が枕10の上下方向の中心に位置しなくとも、快適な支持状態が得られるので、就寝の際に枕10の位置を適切な位置に調節する必要性が少なくなり、一層の快適性が得られる。
図3(a)〜(c)は、仰臥位で就寝した後に寝返りを打った場合の枕10の効果を説明するための図である。図3(a)は仰臥位の就寝状態を示しており、枕10は、前述したように中央部で第1中綿16の占める割合が大きく、反発力が小さいので、頭部20は大きく沈み込み、頭部高さs1は比較的低くなる。図3(b)は、上記の状態から右方に寝返りを打つ過程を示している。寝返りを打つ際には、頭部20は、枕10上で中央部から右端部に向かって回転しつつ移動する。前述したように、枕10は、中央部から左右方向の両端部に向かうに従って次第に反発力が大きくなるので、頭部高さs2は仰臥位における値s1に比較して大きくなる。次いで、寝返りを打ち終えて側臥位となった図3(c)では、更に端部側に移動していることから反発力が一層高くなるので、頭部高さs3は更に大きくなる。
すなわち、本実施例の枕10によれば、寝返りを打つ過程において、頭部20の支持位置が次第に高くなる。頭部20の高さ位置は、寝返りを打つ際に肩が体の下に入り込むことで肩幅に応じて高くなるが、このように頭部20が回転して枕10の端部に向かう際に支持高さが徐々に高くなると、頭部20が継続的に適切な高さで支持されるので、寝返りの際の快適性が格段に高められる。
このように、本実施例の枕10によれば、仰臥位、側臥位、および寝返り中の何れの状態においても、適切な支持状態が得られるため、睡眠の快適性が高められる利点がある。
図4は、第1中綿16の充填態様の異なる他の枕22を説明する断面図であり、前記図1(b)に対応するものである。この枕22では、第1中綿16の充填範囲が比較的小さくなっており、枕22全体に対して、左右方向および厚み方向の何れにおいても20(%)程度である。そのため、この枕22では、前記の枕10に比較して、仰臥位においても頭部20への反発力が大きく、また、頭部20の比較的小さな移動により反発力が一層高くなる。
また、上記第1中綿16は、中央位置から左右方向両端に向かうに従って厚さ寸法が小さくなるような菱形形状で設けられている。本実施例のように第1中綿16の設けられている範囲が狭い場合には、前記枕10のような厚さ寸法が一定の領域が設けられず、このように全体で厚さ寸法が変化させられていてもよい。
睡眠時に快適と感じる反発力の大きさや反発力が変化する範囲の広さは、体型や体の状態、睡眠時の体勢の影響が大きく、また、個々の好みの影響もあるので、第1中綿16を充填する適切な範囲を一義的に定めることはできない。したがって、このような反発力の大きい領域が比較的広くなる態様も本発明の範囲に含まれる。なお、本発明においては、前記目的を達成するために、枕10の中央部を利用する仰臥位と、両端部を利用する側臥位とにおいて、反発力が十分に相違することが必要であり、そのため、少なくとも、上述したように左右方向および厚み方向において20(%)以上の範囲に第1中綿16が充填されることが好ましい。
図5(a)、(b)は、第1中綿16の充填態様の更に異なる他の枕24を示す図で、前記図1の(a)、(b)に対応する図である。この枕24は、第1中綿16が充填される範囲が左右方向の全体に亘っているもので、図5(b)に示すように、枕24の中心を通る断面では、左右方向の両端部に第2中綿18が詰められた部分が存在しない。
このような枕24においても、前記枕10と同様に、第1中綿16の詰められている範囲(上下方向寸法h)が中央部から左右両端部に向かって次第に小さくなるため、反発力が中央から左右両端部に向かって次第に高くなる特性を備えている。
すなわち、本発明においては、中央部から左右方向の両端部に向かって反発力が次第に高くなるように構成されていれば足りるので、第1中綿16の充填態様は種々考えられる。
図6(a)〜(c)は、第1中綿16の充填態様の更に異なる他の枕26を示す図で、前記図1の(a)〜(c)に対応する図である。この枕26では左右方向(長辺方向)の中央部近傍に第1中綿16の上下方向(短辺方向)寸法hおよび厚さ寸法dが一定に保たれる領域fが設けられている。この範囲fは、例えば、長辺方向の全長の10〜55(%)程度、例えば、50〜300(mm)程度である。平面視におけるこの形状を「丸矩形様の楕円型」と称する。
また、第1中綿16の断面形状は、左右(長辺)方向においては、両端部が先細になったどら焼き型、上下(短辺)方向においては、楕円型であるが、この形状は使用者の状態や好みに応じて適宜定められるので、これらに限られない。なお、このような“どら焼き型”では、前記枕10に比較して、左右方向両端部に向かうに従って厚さ寸法が小さくなる範囲が大きくとられている。そのため、上下方向寸法が次第に小さくなることと相俟って、弾力性の変化が一層なだらかである。
本実施例の枕26によれば、上記範囲f内では、頭部20が移動しても触感は何ら変化しないので、前述したように寝返りを打つ状況を想定すると、頭部20の回転に応じた反発力の変化が得られない不利益がある。しかしながら、その反面で、就寝中に仰臥位のまま頭部20が横にずれる場合など、反発力の変化が好ましくない場合には、このような態様が却って好適である。頭部20の形状や、睡眠時のくせによっては好ましいといえる。例えば、就寝中に枕26の頭部20が載っている部分の高さが低くなったり、温度が上がる等の状況が生じることにより、無意識のうちに頭部20の位置をずらそうとする場合に対応できる。
下記の表1は、本実施例の枕の7名の被験者による使用感を評価した結果をまとめたものである。評価に際しては、被験者の体型、筋骨の状態、睡眠時の体勢等に応じて中綿の充填密度や第1中綿16の充填範囲等を適宜定め、被験者の各々に合わせた枕を使用した。
上記の表1において、「睡眠時体勢の割合」は、就寝中において仰臥位および側臥位をとる時間の割合である。また、「睡眠時の頭部位置」は、左右方向の位置および上下方向の位置をそれぞれ示した。また、「綿1」「綿2」は、それぞれ前記第1中綿16、第2中綿18である。「綿1充填範囲分布断面形状」は、長辺、短辺、平面のそれぞれにおける第1中綿16の形状を示したもので、記載した形状は、前記図6等で示した通りの形状を意味する。「比較枕と使用感」は、被験者が評価前に使用していた枕とその使用感である。比較枕、本枕とも、「使用感」は、非常に良好を◎、良好を○、普通を△、不良を×とした。また、「筋肉状態」は、頸肩部の筋肉の弾力性で評価したもので、使用前は、柔らかいを○、普通を△、硬いを×とし、1ヶ月後は、弾力性の増加を○、変化無しを△、弾力性の減少を×とした。また、「睡眠状態」は、使用前においては、良好を○、普通を△、不良を×とし、1ヶ月後においては、良好を◎、まあ良好を○、変化無しを△、不良を×とした。
上記の被験者による評価結果によれば、実施例の枕の使用感は1名が○(良好)、他が◎(非常に良好)であり、筋肉状態は頸・肩共に×、△であったものが、全て○、すなわち弾力性の増加が認められる結果となった。また、睡眠状態も、使用前は×、△であったが、使用中は1名が○、他が全て◎と良好な結果であった。
上記の評価結果によれば、本実施例の枕は、仰臥位、側臥位で反発力が快適で、圧迫感も皆無であるから、睡眠中の頭頸部、腰背部の筋肉緊張が緩和されるので、良質の睡眠が可能であることが明らかである。これにより、起床時には快適に覚醒でき、更には、むくみやコリの解消も期待できる。
要するに、本実施例によれば、弾力性が低い第1中綿16が袋体14の中央部に詰められ、しかも、その第1中綿16は、中央部から左右方向の両端部に向かうに従って上下方向の長さ寸法または厚さ寸法が次第に小さくなることから、左右方向の中央部では、弾力性が低い領域が広範囲を占め、左右方向の両端部では、弾力性が高い領域が広範囲を占める。そのため、仰臥位においては頭部20が広い面積で柔らかく支えられ、側臥位においては頭部20が中央部よりも高い位置で確実に支えられる。しかも、枕の弾力性は、中央部から両端部に向かうに従って次第に高くなるので、寝返りを打つ過程においても、肩が下に入り込んで頭部20の高さが次第に高くなるのに伴い、枕から受ける弾性力が次第に高くなって、支持高さが次第に高くなる。
したがって、仰臥位および側臥位の何れにおいても、頭部が適切な高さ位置で支えられる結果として、仰臥位では首、肩、背中の筋肉の緊張度が、側臥位では腰の筋肉の緊張度が、それぞれ低減され、血行が良くなって硬結(コリ)も軽減されて熟睡し易くなる。また、寝返りを打つ過程においても、適度な支持高さに保たれるので、上記の筋肉の緊張度の低減効果が継続して得られ、寝返りの途中で支持状態が急変することによる不快感が生じ難い利点がある。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。