以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されるものではない。尚、本発明において、「〜」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
<1.ポリカーボネート樹脂組成物>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂と染料とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
該ポリカーボネート樹脂組成物を成形した板状成形品における、波長400〜650nmの平均透過率が40%以下であり、かつ、波長800〜1000nmの平均透過率が65%以上であるポリカーボネート樹脂組成物である。
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。)
すなわち、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも有するポリカーボネート樹脂(以下、単に、「ポリカーボネート樹脂」ということがある。)と染料とを含むポリカーボネート樹脂組成物に係るものである。
ここで、本発明において、上記板状成形品の厚みは、特に制限されず、前記の波長400〜650nm及び波長800〜1000nmにおいてそれぞれの所定の平均透過率を満たしていればいかなる厚みであってもよい。ただし、成形品は実際の製品において、通常は0.1〜10mmであり、この範囲におけるいずれか任意の厚みで上記透過率を満たしていることが好ましく、標準的な評価には3mmの試料成形体を用いることがより好ましい。
透過率の評価方法は、後述する実施例に記載するように、板状成形品をその厚み方向について、例えば、250〜1000nmの波長領域の透過率を紫外可視分光光度計で測定し、波長400〜650nm及び800〜1000nmの波長領域におけるそれぞれの透過率の平均値を求めたものであり、より具体的な測定方法については実施例において詳述する。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、板状成形品における、可視光領域である波長400〜650nmの平均透過率が40%以下であることを必須とし、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
また、近赤外線領域である波長800〜1000nmの平均透過率が65%以上であることを必須とし、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上である。
詳しくは後述するが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記光透過特性を有し、可視光が透過しにくく、近赤外線が透過しやすいため、可視光を遮断し近赤外線を選択的に透過する機能を要する用途(例えば、監視カメラ用窓)に好適に使用できる。
以下、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂および染料等について説明する。
[1.1.ポリカーボネート樹脂]
[1.1.1ポリカーボネート樹脂の原料]
(A)ジヒドロキシ化合物
A−1.ジヒドロキシ化合物(α)
上述のように、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(a)」ということがある。)を少なくとも有するポリカーボネート樹脂である。即ち、ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(α)」と称することがある。)に由来する構造単位を少なくとも含む。
(但し、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hを構成する部位である場合を除く。)
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(α))としては、具体的には、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等のオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記式(3)で表されるスピログリコール、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物、等の環状エーテル構造を有する化合物が挙げられる。
これらの中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点からは、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のオキシアルキレングリコール類、又は分子内に環状構造を有する化合物が好ましい。分子内に環状構造を有するジヒドロキシ化合物の中でも分子内にエーテル結合が複数あるものが好ましい。また、分子内に環状構造を有するジヒドロキシ化合物の中でも、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が、より好ましい。分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物においては、環状構造が単環であっても多環であってもよいが、環状エーテル構造を複数有するものが好ましく、更には環状エーテル構造を2つ有するものが好ましく、特にはそれら2つの環状エーテル構造が同一構造のものであることが好ましい。また、耐熱性の観点からは、分子内に環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物の中でも、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコールが好ましい。これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのジヒドロキシ化合物(α)のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
ポリカーボネート樹脂中における全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位全体(100mol%)に対する、構造単位(a)の割合は、10mol%以上であることが好ましく、20mol%以上であることがより好ましく、30mol%以上であることが更に好ましい。一方、構造単位(a)の上限は100mol%であるが、後述する脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(b)やその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位との関係で、種々の物性改善も可能であるため、構造単位(a)は、好ましくは90mol%以下であり、より好ましくは75mol%以下であり、更に好ましくは65mol%以下である。ジヒドロキシ化合物(α)に由来する構造単位(a)を上記所定量とすることにより、ポリカーボネート樹脂の色調、耐光性等が優れたものとなる。
A−2.ジヒドロキシ化合物(β)
また、本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(α))に由来する構造単位(a)に加えて、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(β)」と称することがある。)に由来する構造単位(以下、「構造単位(b)」ということがある。)を含むことが好ましい。ポリカーボネート樹脂において、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を導入するためには、原料として、ジヒドロキシ化合物(α)と共に、ジヒドロキシ化合物(β)を用いて共重合すればよい。
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))としては、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物等が挙げられ、これらの中でも脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましい。尚、以下に挙げるジヒドロキシ化合物(β)は1種のみで使用することも、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。直鎖分岐脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物は、環状構造の炭化水素骨格と2つのヒドロキシ基を有する化合物であり、ヒドロキシ基は、環状構造に直接結合していてもよいし、アルキレン基のような置換基を介して環状構造に結合していてもよい。また、環状構造は単環であっても多環であってもよい。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物の好適なものとしては、以下に挙げる5員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、6員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物等が挙げられる。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物として、5員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物または6員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用い、これらに由来する構造単位を有することにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることができる。脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位において、当該構造単位中に含まれる炭素原子数は通常70以下であり、好ましくは50以下、更に好ましくは30以下である。構造単位中の炭素原子数が大きいほど、耐熱性が高くなる傾向にあるが、ポリカーボネート樹脂の合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高くなることがある。一方、構造単位中の炭素原子数が小さいほど、精製しやすく、原料調達が容易である。
5員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としてはトリシクロデカンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジオール類、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等のデカリンジオール類、トリシクロテトラデカンジオール類、トリシクロデカンジメタノール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類等が挙げられる。
6員環構造を有する脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオール等のシクロへキセンジオール類、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等のノルボルナンジオール類、1,3−アダマンタンジオール、2,2−アダマンタンジオール等のアダマンタンジオール類、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロへキサンジメタノール類、4−シクロヘキセン−1,2−ジオール等のシクロヘキセンジメタノール類、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等のノルボルナンジメタノール類、1,3−アダマンタンジメタノール、2,2−アダマンタンジメタノール等のアダマンタンジメタノール類等が挙げられる。
以上に挙げた脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物の中でも、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
なお、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(α))に由来する構造単位(a)と、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)との両方を含むジヒドロキシ化合物を用いることにより、ポリカーボネート樹脂の耐衝撃性が向上する傾向にある。
ポリカーボネート樹脂中における、前記構造単位(a)と前記構造単位(b)との合計に対する、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)の割合は、10mol%以上が好ましく、25mol%以上がより好ましく、35mol%以上が更に好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂中における脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物(ジヒドロキシ化合物(β))に由来する構造単位(b)は、好ましくは90mol%以下、より好ましくは80mol%以下、更に好ましくは70mol%以下である。
構造単位(b)の割合を前記下限値以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が高くなり、ポリカーボネート樹脂の耐熱性が向上する傾向にある。一方、前記下限値以下とすることにより、ポリカーボネート樹脂の着色が低減される傾向にある。
A−3.その他のジヒドロキシ化合物
本発明に用いるポリカーボネート樹脂には、ジヒドロキシ化合物(α)及びジヒドロキシ化合物(β)以外のジヒドロキシ化合物(以下、「その他のジヒドロキシ化合物」と称することがある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。その他のジヒドロキシ化合物としてより具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。
その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対する量は、ジヒドロキシ化合物に由来する全構造単位に対して、好ましくは40mol%以下、より好ましくは30mol%以下、更に好ましくは20mol%以下、特に好ましくは10mol%以下である。ただし、その他のジヒドロキシ化合物として、耐光性の観点からはポリカーボネート樹脂の分子構造内に芳香環構造を有さないものが好ましい。
A−4.添加剤
本発明で用いるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよく、特に酸性下では本発明で用いるジヒドロキシ化合物が変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族または2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウムまたはカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
これら塩基性安定剤の本発明で用いるジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、少なすぎると本発明で用いるジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎると本発明で用いるジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明で用いるジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
また、これら塩基性安定剤を含有した本発明で用いるジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
本発明で用いるジヒドロキシ化合物がイソソルビド等、環状エーテル構造を有する場合には、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いて、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸等の酸化分解物が発生する場合がある。
上記酸化分解物を含まない本発明で用いるジヒドロキシ化合物を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
このような蒸留精製で、本発明で用いるジヒドロキシ化合物中の蟻酸含有量を20重量ppm以下、好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、前記本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
B.炭酸ジエステル
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
上記式(5)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数18の脂肪族炭化水素基、または、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基である。A1及びA2は、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であることが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留等により精製したものを使用することが好ましい。
C.エステル交換反応触媒
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述のようにジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させてポリカーボネート樹脂を製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」、「重合触媒」と言うことがある。)は、特に透明性や色相に影響を与え得る。
用いられる触媒としては、長周期型周期表における1族または2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物等が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
アミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
上記の中でも、リチウム化合物及び長周期型周期表第2族の金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性等の種々の物性を優れたものとするために好ましい。
また、本発明のポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であるのが好ましい。
上記重合触媒の使用量は、好ましくは、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、更に好ましくは0.5μmol〜100μmolであり、中でもリチウム及び長周期型周期表における2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、好ましくは、0.1μmol以上、更に好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、好ましくは20μmol、更に好ましくは10μmol、特に好ましくは3μmol、最も好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
更に、前記式(5)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明で用いるポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基等を有していてもよい。
また、1族金属、中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、特にはリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムは、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計量は、少ない方が好ましく、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下である。
ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化等の方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
<1.1.2.ポリカーボネート樹脂の製造方法>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、前記ジヒドロキシ化合物(α)やジヒドロキシ化合物(β)等のジヒドロキシ化合物と前記式(5)の炭酸ジエステルとをエステル交換反応により重縮合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも95℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招く。混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の原料であるジヒドロキシ化合物と、前記式(5)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10vol%以下、更には0.0001vol%〜10vol%、中でも0.0001vol%〜5vol%、特には0.0001vol%〜1vol%の雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
本発明で用いる共重合ポリカーボネートポリカーボネート樹脂を得るためには、前記式(5)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いるジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。
このモル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
また、このモル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性を悪化させる可能性がある。
更には、本発明で用いるジヒドロキシ化合物に対して、前記式(5)で表される炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂の耐光性を悪化させる場合があり、好ましくない。本発明で用いるポリカーボネート樹脂に残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200重量ppm以下、更に好ましくは100重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下、中でも30重量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmである。
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本願発明の目的を達成することができない可能性がある。
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であり、好ましくは、80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率等の観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていく等してもよい。
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。
重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、140〜270℃、好ましくは180〜240℃、更に好ましくは200〜230℃、圧力は絶対圧力として、110kPa〜10kPa、好ましくは70kPa〜5kPa、更に好ましくは30kPa〜1kPa、反応時間は0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を200Pa以下にして、内温の最高温度210℃〜270℃、好ましくは220℃〜250℃で、通常0.1時間〜10時間、好ましくは、1時間〜6時間、特に好ましくは0.5時間〜3時間行う。
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化を抑制し、色相や耐光性の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が250℃未満、特に225℃〜245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
所定の分子量のポリカーボネート樹脂を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、透明性や色相が悪くなる傾向にある。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招く。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには10μm以下が好ましい。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJISB 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが望ましい。
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却しチップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが望ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
<1.1.3ポリカーボネート樹脂の物性>
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下が好ましく、0.80dL/g以下がより好ましい。
ポリカーボネート樹脂の還元粘度が低すぎると成形品の機械的強度が小さい可能性があり、大きすぎると、成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向がある。尚、還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
また、本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度(Tg)は通常、150℃以下であるが、145℃未満であることが好ましく、より好ましくは140℃以下、更に好ましくは135℃以下、特に好ましくは130℃以下である。一方、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は75℃以上、好ましくは85℃以上である。
なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、その分子量(還元粘度)と関係があり、ガラス転移温度が高すぎると、高分子量化しにくくなる傾向にある。高分子量化できないと耐衝撃性がポリカーボネート樹脂そのものの耐衝撃性が向上しにくくなり、ひいては得られるポリカーボネート樹脂の耐衝撃性も得にくくなる傾向にある。このため、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性を高める観点から、ガラス転移温度は前記上限となることが好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性を確保する観点からはガラス転移温度が高いことが好ましく、ガラス転移温度が前記下限値以上であることが好ましい。なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、構造単位(a)に加え、前記構造単位(b)やその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有させることにより低下させることができ、所望のガラス転移温度となるように制御することができる。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、下記式(6)で表される末端基を含む場合があるが、該ポリカーボネート樹脂中の下記式(6)で表される末端基の濃度の下限量は、通常20μeq/g、好ましくは40μeq/g、特に好ましくは50μeq/gであり、上限は通常160μeq/g、好ましくは140μeq/g、特に好ましくは100μeq/gである。
式(6)で表される末端基の濃度が、高すぎると重合直後や成形時の色相が良好であっても、紫外線曝露後の色相の悪化を招く可能性があり、逆に低すぎると熱安定性が低下する恐れがある。
式(6)で表される末端基の濃度を制御するには、原料である本発明で用いるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と式(5)で表される炭酸ジエステルのモル比率を制御する他、エステル交換反応時の触媒の種類や量、重合圧力や重合温度を制御する方法等が挙げられる。
また、本発明で用いるポリカーボネート樹脂中の芳香環に結合した水素のモル数を(X)、芳香環以外に結合した水素のモル数を(Y)とした場合、芳香環に結合した水素のモル数の全水素のモル数に対する比率は、X/(X+Y)で表されるが、耐光性には上述のように、紫外線吸収能を有する芳香族環が影響を及ぼす可能性があるため、X/(X+Y)は0.1以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下、好適には0.01以下である。X/(X+Y)は、1H−NMRで定量することができる。
[1.2.染料]
次に、本発明に使用される染料について説明する。
上記ポリカーボネート樹脂は、近赤外線のみならず、可視光に対する透明性が高いが、特定の染料を所定量含有することにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は板状成形品における上述の透過率を満たすことができる。
なお、ポリカーボネート樹脂への染料の添加方法については、ポリカーボネート樹脂組成物として後述する。
本発明に使用される染料としては、ポリカーボネート樹脂組成物を成形した、板状成形品における、前述の平均透過率を満たすように配合されるものであれば制限はないが、波長400〜650nm及び波長800〜1000nmのそれぞれの平均透過率を所定の範囲に制御するため、次に説明するように染料を選択することが好ましい。
染料の選択においては、波長400〜650nmの光を透過しにくく、波長800〜1000nmの光を透過しやすいものを適宜選択し、配合すればよい。このとき、染料は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。染料を選択する指標として、染料の平均透過率を予め測定し、その平均透過率に基づいて配合する染料の種類と配合量を適宜決定すればよい。なお、本発明における「染料」とは、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中に均一に分散されて特定の波長の光を吸収するものであればいかなるものも採用可能であり、また、一般的に顔料と呼ばれるものも含む意味で用いることとする。
染料の選択方法の一例を以下に示す。まず、染料5mg秤量し、これにクロロホルム50mlを加え溶解する。これらの染料溶液を更にクロロホルムで10倍に希釈し、0.01mg/mlの染料のクロロホルム溶解液を得る。これらのクロロホルム溶解液を、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V−630Vを用い、10mmの石英セルに入れて190〜1100nmの波長領域について0.5nm毎に透過率を測定する。これらの測定結果より、400〜480nm、480〜580nm、580〜650nmの各波長領域について平均透過率を求める。このような試料濃度における平均透過率を指標とする場合、400〜480nm、480〜580nm、580〜650nmの各波長領域の平均透過率がそれぞれ80%以下であり、800〜1000nmの波長領域の平均透過率が90%以上であるものを選択すると良い。
また、染料を2種類で用いる場合、上記の平均透過率はそれぞれの染料について平均透過率を測定し、それぞれの各波長領域における平均透過率に対し、重量平均をとった値を指標とすればよい。例えば、染料a(平均透過率:Aa)と染料b(平均透過率:Ab)の2種の染料を重量比Ma:Mbで用いる場合、平均透過率の重量平均は、次のようにして与えられる。
Aa×[Ma/(Ma+Mb)]+Ab×[Mb/(Ma+Mb)]
染料を3種類以上で用いる場合についても上記と同様にして3種類以上の染料について平均透過率の重量平均を求め、染料配合の指標とすることができる。
染料の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.001重量部以上であり、更に好ましくは0.05重量部以上であり、一方、好ましくは1.0重量部以下であり、より好ましくは0.8重量部以下であり、更に好ましくは0.5重量部以下である。なお、上記の配合量は黒色顔料を含む値である。
また、黒色顔料を含有させることにより、波長400〜650nmの平均透過率を低くするための調整を行いやすくなるために好ましい。黒色顔料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に黒色顔料を配合する場合、その配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.0002重量部以上であり、一方、好ましくは0.03重量部以下であり、より好ましくは0.02重量部以下である。黒色顔料の配合量が上記上限値以上であると、波長400〜650nmの平均透過率を効果的に低下させることができ、一方、上記下限値以下であると、波長800〜1000nmの平均透過率が低下しにくいために好ましい。
黒色顔料は市販品として入手可能である。例えばカーボンブラックであれば、三菱化学社等から入手することができる。なお、後述の実施例において使用したSumiplast(登録商標) Black HLG(住化ケムテックス社製)は市販品として入手可能なカーボン(黒色顔料)を含む染料であり、前述の平均透過率を満たす染料の一例である。
また、平均透過率の制御において、以下に例示するような染料A、染料B及び染料Cの極大吸収波長も参考として配合することができる。なお、本発明において、「C.I.」とはColor Index Number(カラーインデックスナンバー)を意味する。
染料Aは、波長400〜480nmに極大吸収波長を有する染料である。染料Aの具体例としては、紀和化学工業社製KP Plast Yellow G(C.I.Disperse Yellow 201、極大吸収波長;440nm)、紀和化学工業社製KP Plast Yellow HK(C.I.Solvent Yellow 163、極大吸収波長;450nm)、紀和化学工業社製KP Plast Yellow HK(C.I.Solvent Yellow 17、極大吸収波長;450nm)、三菱化学社製Diaresin(登録商標) Yellow H2G(C.I.Disperse Yellow 160、極大吸収波長;460nm)等が挙げられる。
染料Bは、波長480〜580nmに極大吸収波長を有する染料(ただし、極大吸収波長が480nmであるものを除く。)である。染料Bの具体例としては、三菱化学社製Diaresin(登録商標) Red HS(C.I.Solvent Red 135、極大吸収波長;500nm)、三菱化学社製Diaresin(登録商標) Red H5B(C.I.Solvent Red 52、極大吸収波長;540nm)、ランクセス社製Macrolex(登録商標) Violet 3R(Solvent Violet 36、極大吸収波長;560nm)、有本化学社製Plast(登録商標) Red 8320(極大吸収波長;510nm)、有本化学社製Plast(登録商標) Red 8340(極大吸収波長;530nm)、有本化学社製Plast(登録商標) Red 8350(極大吸収波長;510nm)、有本化学社製Plast(登録商標) Red 8375−N(極大吸収波長;520nm)等が挙げられる。
染料Cは、波長580〜650nmに極大吸収波長を有する染料(ただし、極大吸収波長が580nmであるものを除く。)である。染料Cの具体例としては、ランクセス社製Macrolex(登録商標) Blue RR(C.I.Solvent Blue 97、極大吸収波長;630nm)、オリヱント化学工業社製Oplas(登録商標) Green #533(C.I.Solvent Green 3、極大吸収波長;640nm)、三菱化学社製Diaresin(登録商標) Blue G(C.I.Solvent Violet 13、極大吸収波長;590nm)、有本化学社製KP Plast(登録商標) Blue G(C.I.Disperse Blue 14、極大吸収波長;600nm)、有本化学社製KP Plast(登録商標) Blue GR(C.I.Solvent Blue 87、極大吸収波長;630nm)、等が挙げられる。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、染料A、染料B、染料Cを配合する場合、その含有量は、それぞれ、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.001重量部以上であり、更に好ましくは0.05重量部以上であり、一方、好ましくは1.0重量部以下であり、より好ましくは0.8重量部以下であり、更に好ましくは0.5重量部以下である。
染料Aが前記下限値以上であると、波長400〜650nmにおける短波長領域の平均透過率を低下させやすい点で好ましく、一方、前記上限値以下であると、ポリカーボネート樹脂そのものが有する物性低下を防ぎ、また成形時等における金型汚染を防ぐことできるために好ましい。また、染料Bが前記下限値以上であると波長400〜650nmにおける中間波長領域から長波長領域における平均透過率を低下させやすい点で好ましく、一方、前記上限値以下であると染料Aの場合と同様にポリカーボネート樹脂そのものが有する物性低下を防ぎ、また成形時等における金型汚染を防ぐことでき、また、波長800〜1000nmの平均透過率の低下を防ぐことができる点で好ましい。更に染料Cが前記下限値以上であると波長400〜650nmの平均透過率の制御を行いやすくなる点で好ましく、一方、前記上限値以下であると波長800〜1000nmの平均透過率の低下を防ぐことができる点で好ましい。
[1.3.酸化防止剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は更に酸化防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂に対し、好ましくは0.0001重量部以上であり、より好ましくは0.001重量部以上であり、更に好ましくは0.01重量部以上であり、また、好ましくは1重量部以下であり、より好ましくは0.5重量部以下であり、更に好ましくは0.1重量部以下である。酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂に対し、上記下限値以上であると成形時の着色抑制効果が良好となる傾向がある。また、酸化防止剤の含有量がポリカーボネート樹脂に対し、上記上限値以下であると射出成形を行う場合における金型への付着物を低減することができ、また、押出成形によりフィルムを成形する場合にロールへの付着物を低減することができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/またはホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えばペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどの化合物が挙げられる。
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなどが好ましく、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}が更に好ましい。
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、が挙げられる。
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などが挙げられる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
[1.4.離型剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、離型剤を含むことが好ましい。離型剤としては、特に限定されないが、高級脂肪酸、ステアリン酸エステルなどが挙げられ、離型性と透明性の観点から離型剤としてより好ましいのはステアリン酸エステルである。
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルとしては、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレートなどがより好ましい。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましい。
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましく、このような高級脂肪酸としてミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。また、炭素数16〜18の飽和脂肪酸が更に好ましく、このような飽和脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が特に好ましい。
これらの離型剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。離型剤を用いる場合には、その配合量はポリカーボネート樹脂に対し、好ましくは0.001重量部以上であり、より好ましくは0.01重量部以上であり、更に好ましくは0.1重量部以上であり、また、好ましくは2重量部以下であり、より好ましくは1重量部以下であり、更に好ましくは0.5重量部以下である。離型剤の含有量が上記上限値以下であると成形時に金型の付着物を低減することができるために好ましい。離型剤の含有量が上記下限値以上であると成形時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
本実施の形態において、離型剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂と他の配合剤との混練途中などのポリカーボネート樹脂が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末などの固体状態のポリカーボネート樹脂とブレンド・混練する際などが挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に離型剤を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂または他の樹脂等と離型剤を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
[1.5.紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で、紫外線吸収剤を配合することができる。
紫外線吸収剤の配合量は、紫外線吸収剤の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、本発明においてはポリカーボネート樹脂100重量部に対して、紫外線吸収剤が、0.01重量部〜5重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.05重量部〜1重量部である。
ここで、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物が挙げられる。なかでも有機化合物はポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいので好ましい。
紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また。通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。分子量が過度に小さいと、長期間の使用において耐紫外線性能の低下を引き起こす可能性がある。分子量が過度に大きいと、長期間使用での樹脂組成物の透明性低下を引き起こす可能性がある。
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物などが挙げられる。なかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独又は2種以上を併用してもよい。
ベンゾトリアゾール系化合物のより具体的な例としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどが挙げられる。
ヒドロキシベンゾフェノン系化合物としては、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’、4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。
マロン酸エステル系化合物としては、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル−2,2’−(1,4−フェニレン−ジメチリデン)−ビスマロネートなどが挙げられる。
トリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin1577FF)などが挙げられる。
シアノアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
シュウ酸アニリド系化合物としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(Clariant社製、SanduvorVSU)などが挙げられる。
[1.6.ポリカーボネート樹脂組成物のその他の成分]
(1.6.1 その他の樹脂)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、成形加工性や諸物性のさらなる向上・調整を目的として、ポリカーボネート樹脂以外の樹脂(以下、単に「その他の樹脂」と称することがある。)を使用することも出来る。その他の樹脂の具体例としては、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリメチルメタクリレートなどの樹脂やコア−シェル型、グラフト型又は線状のランダム及びブロック共重合体のようなゴム状改質剤などが挙げられる。
その他の樹脂の配合量としては、本発明で用いるポリカーボネート樹脂に対して、1重量部以上、30重量部以下の割合で配合することが好ましく、3重量部以上、20重量部以下の割合で配合することがより好ましく、5重量部以上、10重量部以下の割合で配合することがさらに好ましい。
(1.6.2 充填剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記のポリカーボネート樹脂と染料以外にも目的や用途に応じて、更に、充填剤を含有してもよい。これらは2種以上を併用してもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中への充填剤の含有量は、その種類、目的や用途に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には本発明の目的を損なわない範囲で充填剤を配合することができる。本発明のポリカーボネート樹脂組成物に配合することのできる充填剤としては無機充填剤及び有機充填剤が挙げられる。
充填剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、100重量部以下である。充填剤の配合量は、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは35重量部以下である。充填剤を配合することによりポリカーボネート樹脂組成物の補強効果が得られるが、また、100重量部より多く配合すると外観が悪くなる傾向がある。
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム粉体、石膏、石膏ウィスカー、硫酸バリウム、タルク、マイカ、ワラストナイトなどの珪酸カルシウム;グラファイト、鉄粉、銅粉、二硫化モリブデン、炭化ケイ素、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素、窒化ケイ素繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、チタン酸カリウム繊維、ウィスカーなどが挙げられる。これらの中でも、ガラスの繊維状充填剤、ガラスの粉状充填剤、ガラスのフレーク状充填剤;各種ウィスカー、マイカ、タルクが好ましい。より好ましくは、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスミルドファイバー、ワラストナイト、マイカ、タルクが挙げられる。特に好ましくはガラス繊維及びタルクから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。以上に挙げた無機充填剤は1種のみで用いることもできるが、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
また、無機充填剤の中でも、ガラス繊維、ガラスミルドファイバーとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。特に、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラス繊維の直径は、好ましくは6μm〜20μmであり、より好ましくは9μm〜14μmである。ガラス繊維の直径が過度に小さいと補強効果が不充分となる傾向がある。また、過度に大きいと、製品外観に悪影響を与えやすい。
また、ガラス繊維としては、好ましくは長さ1mm〜6mmにカットされたチョップドストランド;好ましくは長さ0.01mm〜0.5mmに粉砕されて市販されているガラスミルドファイバーが挙げられる。これらは単独または両者を混合して用いてもよい。
本発明で使用するガラス繊維は、ポリカーボネート樹脂との密着性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤等による表面処理、あるいは取扱い性を向上させるために、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等による集束処理を施して使用してもよい。
ガラスビーズとしては、熱可塑性樹脂に使用されているものであればいずれも使用できる。中でも、無アルカリガラス(Eガラス)が好ましい。ガラスビーズの形状は、粒径10μm〜50μmの球状が好ましい。
ガラスフレークとしては、鱗片状のガラスフレークが挙げられる。ポリカーボネート樹脂を配合後のガラスフレークの最大径は、一般的には1000μm以下、好ましくは1μm〜500μmであり、且つアスペクト比(最大径と厚み途の比)が5以上、好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上である。
有機充填剤としては、例えば、木粉、竹粉、ヤシ澱粉、クルク粉、パルプ粉などの粉末状有機充填剤;架橋ポリエステル、ポリスチレン、スチレン・アクリル共重合体、尿素樹脂などのバルン状・球状有機充填剤;炭素繊維、合成繊維、天然繊維などの繊維状有機充填剤が挙げられる。
炭素繊維としては、特に限定されず、例えば、アクリル繊維、石油又は炭素系特殊ピッチ、セルロース繊維、リグニン等を原料として焼成によって製造されたものであって、耐炎質、炭素質、黒鉛質などの種々のものが挙げられる。炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維径)の平均は、好ましくは10以上であり、より好ましくは50以上である。アスペクト比の平均が過度に小さいと、ポリカーボネート樹脂組成物の導電性、強度、剛性が低下する傾向がある。炭素繊維の径は3μm〜15μmであり、上記のアスペクト比に調整するために、チョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどのいずれの形状も使用できる。炭素繊維は、1種または2種以上混合して用いることができる。
炭素繊維は、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の特性を損なわない限りにおいて、ポリカーボネート樹脂との親和性を増すために、例えばエポキシ処理、ウレタン処理、酸化処理などの表面処理が施されてもよい。
(1.6.3 添加剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記のポリカーボネート樹脂と染料以外にも目的や用途に応じて、更に、耐光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、可塑剤、酸性化合物等を含有してもよい。これらは2種以上を併用してもよい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物中への添加剤の含有量は、その添加剤の種類、目的や用途に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決すればよい。以下、添加剤について主要なものを説明する。
(耐光安定剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、耐光安定剤を含有することができる。耐光安定剤をポリカーボネート樹脂組成物に含有させることにより、前記サンシャインカーボンアークを用いた照射処理前後のヘイズの差を小さくすることができ、白濁すること無く、透明性に優れたポリカーボネート樹脂成形品を得ることができる。かかる耐光安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.0001重量部〜1重量部、より好ましくは0.001重量部〜0.8重量部、更に好ましくは0.005重量部〜0.5重量部、特に好ましくは0.01重量部〜0.3重量部、最も好ましくは0.05重量部〜0.15重量部である。耐光安定剤の含有量が多過ぎると、ポリカーボネート樹脂組成物が着色する傾向があり、一方、少な過ぎると耐候試験に対する十分な改良効果が得られない傾向がある。耐光安定剤とは、主に紫外線等の光による樹脂の劣化を防止し、光に対する安定性を向上させる作用を有するものである。耐光安定剤としては、紫外線などの光を吸収し、そのエネルギーを熱エネルギーなどのポリマーの分解に寄与しないエネルギーとして変換して放出するものがあげられる。より具体的には、紫外線そのものを吸収する紫外線吸収剤や、ラジカル捕捉作用のある光安定剤等を挙げることができる。
これらの中でも本発明で用いる光安定剤としては、2級アミン化合物が好ましい。通常、ポリカーボネート樹脂は、アルカリなどの塩基成分に対して常温でも不安定であることが知られており、アミン化合物によっても加水分解を受けることが知られているが、本発明で使用する特定のポリカーボネート樹脂においては、2級アミンを混合することにより、紫外線などの光に対する安定性が飛躍的に向上し、しかも加水分解などの劣化が非常に小さくなる。なかでも、窒素が環式構造の一部となっている構造を有するものが好ましく、ピペリジン構造を有するものであることがより好ましい。ここで規定するピペリジン構造には、ピペリジンの有する窒素原子が2級アミン構造となっていれば如何なる構造であっても構わず、ピペリジン構造の一部が置換基により置換されているものも含む。ピペリジン構造が有していてもよい置換基としては、アルキル基があげられ、特にはメチル基が好ましい。2級アミン化合物としては、更には、ピペリジン構造を複数有する化合物が好ましく、複数のピペリジン構造を有する場合、それらのピペリジン構造がエステル構造により連結されている化合物が好ましい。特には下記式(7)で表される化合物が好ましい。
(帯電防止剤)
さらに、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で帯電防止剤を含有することができる。
(酸性化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には更に酸性化合物を含有していてもよい。酸性化合物を使用する場合には、酸性化合物の配合量は、ポリカーボネート樹脂に対し、少なくとも1種の酸性化合物0.00001重量部以上0.1重量部以下、好ましくは、0.0001重量部以上0.01重量部以下、さらに好ましくは0.0002重量部以上0.001重量部以下である。酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂に対して0.00001重量部以上であると、射出成形する際に、ポリカーボネート樹脂組成物の射出成形機内の滞留時間が長くなった場合における着色抑制の点で好ましいが、酸性化合物の配合量がポリカーボネート樹脂に対して0.1重量%より多いと、ポリカーボネート樹脂組成物の耐加水分解性が低下する場合がある。
酸性化合物としては、例えば、塩酸、硝酸、ホウ酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、アゼライン酸、アデノシンリン酸、安息香酸、ギ酸、吉草酸、クエン酸、グリコール酸、グルタミン酸、グルタル酸、ケイ皮酸、コハク酸、酢酸、酒石酸、シュウ酸、p−トルエンスルフィン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ニコチン酸、ピクリン酸、ピコリン酸、フタル酸、テレフタル酸、プロピオン酸、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルホン酸、マロン酸、マレイン酸などのブレンステッド酸及びそのエステル類が挙げられる。これらの酸性化合物又はその誘導体の中でも、スルホン酸類又はそのエステル類が好ましく、中でも、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチルが特に好ましい。
これらの酸性化合物は、上述したポリカーボネート樹脂の重縮合反応において使用される塩基性エステル交換触媒を中和する化合物として、ポリカーボネート樹脂組成物の製造工程において添加することができる。
[1.7.ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、基材となる上記ポリカーボネート樹脂に、染料を配合し、更に所望により種々の添加剤を配合したものを溶融混練することにより製造することができる。
例えば、上記の各成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で混練すればよい。
混練温度と混練時間は、樹脂組成物や混練機の種類等の条件により、任意に選ぶことができるが、通常、混練温度は200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。また混練時間は10分以下が好ましい。混練温度が300℃を超えたり、混練時間が10分を超えたりすると、ポリカーボネート樹脂や染料が熱劣化して、樹脂組成物から製造される成形品に変色、その他の物性低下を生じるおそれがある。
ポリカーボネート樹脂組成物に配合する染料や、添加剤の添加時期、添加方法は特に限定されない。添加時期としては、例えば、エステル交換法でポリカーボネート樹脂を製造した場合は重合反応終了時;さらに、重合法に関わらず、ポリカーボネート樹脂、他の配合剤との混練途中などのポリカーボネート樹脂またはポリカーボネート樹脂組成物が溶融した状態;押出機等を用い、ペレットまたは粉末などの固体状態のポリカーボネート樹脂組成物とブレンド・混練する際などが挙げられる。添加方法としては、ポリカーボネート樹脂に各種成分を直接混合または混練する方法;少量のポリカーボネート樹脂組成物または他の樹脂等と各種成分を用いて作成した高濃度のマスターバッチとして添加することもできる。
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物は、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
<2.ポリカーボネート樹脂成形品>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等の通常知られている方法で成形品にすることができる。
より具体的には、例えば、ポリカーボネート樹脂、染料及び必要に応じて紫外線吸収剤、黒色顔料、その他の樹脂や添加剤等の原料を直接混合し、押出機或いは射出成形機に投入して成形するか、または、前記原料を、二軸押出機を用いて溶融混合し、ストランド形状に押出してペレットを作製した後、このペレットを押出機或いは射出成形機に投入して成形する方法を挙げることができる。ポリカーボネート樹脂成形品の成形方法は特に限定されないが、成形品形状の自由度の観点から射出成形法が好ましい。
以下に射出成形法と押出成形法の具体的な条件を挙げる。なお、実際の製品において、本発明における波長400〜650nm及び波長800〜1000nmのそれぞれの平均透過率にかかる条件を満たしているかどうか確認する場合についても、下記のような方法によって製品を再成形して板状成形品を製造し、透過率を測定すればよい。
射出成形法では、成形温度(シリンダー温度)は、好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、一方、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、特に好ましくは250℃以下である。上記上限値以下であると、ポリカーボネート樹脂組成物が分解しにくくなり、製品への転写性が良好となるため、漆黒性がより得やすくなる。また、上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が低くなり、金型面の製品への転写性が良好となる。また、金型温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、一方、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。金型温度が上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が抑えられ、金型面の製品への転写性が良好となり、また、金型温度が上記下限値以下であると、成形サイクルが長くなり過ぎずに製造コストを抑えることができる。
また、押出成形法では、成形温度(シリンダー温度)は好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、一方、好ましくは280℃以下、より好ましくは260℃以下、特に好ましくは250℃以下である。上記上限値以下であると、ポリカーボネート樹脂組成物が分解しにくくなるため、ダイに分解物が付着するのを抑えることができるために好ましく、上記下限値以上であると、金型内でのポリカーボネート樹脂組成物の粘度が低くなり、ロール面の製品への転写性が良好となる。また、ロール温度は好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上であり、一方、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。ロール温度が上記下限値以上であると、ロール面の製品への転写製が良好となるため好ましく、ロール温度が上記下限値以下であると、ロールに製品が巻きつくことが抑えられ、所望の製品を得やすくなるために好ましい。
<3.用途>
上述のように本発明の樹脂組成物を成形した板状成形品の平均透過率が、波長400〜650nmで40%以下であり、かつ波長800〜1000nmで65%以上であり、可視光領域の光を吸収し、近赤外領域の波長を透過する。
よって得られたポリカーボネート樹脂成形品は、かかる光学特性を有するため、監視カメラ用窓、赤外線通信機器の窓等の赤外透過フィルターとして好適に用いられ、特に、監視カメラ用窓に好適に用いられる。監視カメラ用窓は、その目的に応じて形状が異なるが、ドーム形状のものが好適に使用される。ドーム形状の窓を有する監視カメラは相手に監視カメラが設置してあるということを意識させず、不快感を与えにくい。また、内部のカメラのレンズ部分が外から見難いため、監視角度がわかりにくく、死角スペースにも防犯効果を与えることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例の記載の中で用いた化合物は次の通りである。
[1.ポリカーボネート樹脂]
A−1:原料の仕込み組成モル比をISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム=0.70/0.30/1.00/1.3×10-6として得られたポリカーボネート(イソソルビドとシクロヘキサンジメタノールの組成モル比7:3、還元粘度:0.41dL/g、ガラス転移温度122℃)
なお、上記の略号の意味は以下の通りである。
・ISB:イソソルビド(ロケットフルーレ製 POLYSPRB)
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール(新日本理化社製 SKY CHDM)
・DPC:ジフェニルカーボネート(三菱化学社製)
A−2(比較例用):ノバレックス(登録商標)7022A(三菱エンジニアリングプラスチックス社製 ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂)
[2.染料]
B−1:Sumiplast(登録商標) Black HLG(住化ケムテックス社製)
B−2:Sumiplast(登録商標) Red H4GR(住化ケムテックス社製 C.I.Solvent Red 179)
染料B−1及びB−2をそれぞれ、5mg秤量し、これにピペットでクロロホルム50mlを加え溶解した。これらの染料溶液を更にクロロホルムで10倍に希釈し、0.01mg/mlの染料のクロロホルム溶解液を得た。これらのクロロホルム溶解液を、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V−630Vを用い、10mmの石英セルに入れて190〜1100nmの波長領域について0.5nm毎に透過率を測定した。これらの測定結果より、400〜480nm、480〜580nm、800〜1000nmの各波長領域について平均透過率求めた。更に後掲の実施例3に使用する配合に対応する平均透過率として、[B−3の平均透過率]=[B−1の平均透過率]×(3/4)+[B−2の平均透過率]×(1/4)を求めた。
[3.酸化防止剤]
C−1:トリス(2,4−ジ−tertブチルフェニル)ホスファイト(ADEKA社製アデカスタブ(登録商標)2112)
C−2:ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASF・ジャパン社製 Irganox(登録商標)1010)
[4.離型剤]
D−1:エチレングリコールジステアレート(日油社製 ユニスター(登録商標)E−275)
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価]
実施例1
表2に示すようにポリカーボネート樹脂、染料(表1)、酸化防止剤、離型剤を配合してポリカーボネート樹脂組成物を得た。
得られたポリカーボネート樹脂組成物について、110℃で4時間以上乾燥した後、名機製作所製のM150AII−SJ型射出成形機を用いて、シリンダー温度260℃、金型温度80℃、成形サイクル55秒の条件で、平板状成形品(50mm×90mm×3mm厚)を製造した。
<平均透過率>
実施例1〜3の平板状成形品の厚み方向について、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計V−570より波長250〜1000nmの透過率を測定した(図1〜3)。実施例1〜3における波長400〜650nm及び800〜1000nmにおけるそれぞれの波長領域における透過率の平均値(平均透過率)を表−2にまとめて示す。なお、平均透過率は各波長領域を2nm毎に透過率を測定し、得られた結果について、各波長領域における平均値を取ったものである。
<鉛筆硬度>
測定装置として、東洋精機(株)製:鉛筆引掻塗膜硬さ試験機を用い、JIS−K5600(1999年)に準拠して下記条件で測定した。
・荷重:750g
・測定スピード:30mm/min.
・測定距離:7mm
・鉛筆として三菱鉛筆製:UNI(硬度:4H、3H、2H、H、F、HB、B、2B、3B、4B)を用いた。5回測定し、2回以上、傷がついた鉛筆硬度の一つ柔らかい硬度を測定物質の鉛筆硬度とした。
<耐候性>
ATLAS社製キセノンウェザーメーターC14000を用いて、ブラックスタンダード温度70℃、相対湿度50%の条件下、光源としてプリエイジ無しのキセノンランプを、インターフィルターとして石英を、またアウターフィルターとしてタイプSのフィルターを取り付け、波長300nm〜400nmの放射照度60W/m2になるように設定し、上記で得られた20ショット目の平板(幅50mm×長さ90mm×厚さ3mm)の厚み方向に対して垂直方向に、降雨スプレー時間18分/120分の降雨条件で、500時間照射処理を行った。処理後の平板の表面状態を目視で観察した。平板の表面状態について、特に変化が見られなかったものを合格とし、一方、白濁したものを不合格とした。
実施例2、3
ポリカーボネート樹脂組成物を表−2に示した配合に変更した以外は実施例1と同様に実施し、波長400〜650nm及び800〜1000nmにおけるそれぞれの平均透過率、表面硬度(鉛筆硬度)及び耐候試験を評価した。これらの結果を表−2に示す。また、実施例2、3の透過率の測定結果をそれぞれ図2、3に示す。
比較例1
表−2に示す配合にてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。また、実施例1〜3と同様にして表面硬度(鉛筆硬度)及び耐候性の評価を行った。
[結果の評価]
実施例1〜3のポリカーボネート樹脂組成物においては、耐候性400〜650nmの平均透過率が40%以下であり、かつ、波長800〜1000nmの平均透過率が65%以上であり、また、表面硬度及び耐候性のいずれにも良好な結果を示した。
このように本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、監視カメラ用窓、赤外通信機器の窓等の赤外線透過フィルターに好適に使用することができる。
一方、比較例1は、表面硬度(鉛筆硬度)、耐候性が不十分であった。特に比較例1はビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂(芳香族ポリカーボネート樹脂)をマトリックス樹脂とするため、耐候性の評価において、表面が白濁し、監視カメラ用窓、赤外通信機器の窓等の赤外線透過フィルターに適用するために課題があることがわかる。