JP2013201936A - 乳酸発酵におけるアミン生成制御方法 - Google Patents

乳酸発酵におけるアミン生成制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】発酵食品中の有害アミン類(ヒスタミン、チラミン)を低減化し、好ましくは同時に有益アミン類(GABA)の含有量を向上させること、具体的には、乳酸発酵において、発酵産物中のヒスタミンやチラミン含有量を低減させる方法等を提供する。
【解決手段】乳酸発酵において、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして原料に接種して発酵させることにより、得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させる乳酸発酵におけるアミン生成制御方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、乳酸発酵中に生成されるアミノ酸の脱炭酸物質(アミン類)の生成を制御する方法、該アミン類の生成を行う乳酸菌及び該物質の生成を抑制する乳酸菌、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出方法、並びに乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対に関する。
発酵食品中では、しばしばアミノ酸の脱炭酸物質群が検出される。該物質群は、発酵食品中で微生物あるいは原料自身のもつアミノ酸脱炭酸酵素によって生成されることが知られている。主たるものとして、図1に示したヒスタミン、チラミン、γ―アミノ酪酸(GABA)が挙げられる。これ以降、本明細書中では、これらアミノ酸脱炭酸物質群を総じて、アミン類と呼ぶ。正確にはGABAはγ―アミノ酸であるが、本発明においてはアミン類に含めることとする。
これらアミン類には人体に好ましくない影響をもたらすもの、好ましい影響をもたらすものが存在する。好ましくない影響を与えるアミン類の代表例としてヒスタミンとチラミンがある。好ましい影響を与える代表例としてGABAが挙げられる。
ヒスタミンはヒスチジンが脱炭酸されて生成し、アレルギー反応や炎症の発現の介在物質として働く。ヒスタミンが体内で過剰に分泌されると、ヒスタミン1型受容体と結合し、アレルギー症状を引き起こす。チラミンはチロシンが脱炭酸されて生成し、頭痛や血圧上昇、動悸を引き起こす。GABAはグルタミン酸が脱炭酸されて生成し、精神安定作用などをもたらし、抑制性の神経伝達物質として働く。これらのアミン類は乳酸発酵食品の製造において、乳酸菌によって多量に生成する場合があり、これまで多くの報告がある。
乳酸発酵とは乳酸菌が糖を代謝(発酵)してその大部分を乳酸に変える反応である。発酵の形式には二通りあり、一つはホモ発酵と呼ばれ、1モルのブドウ糖(グルコース)から2モルの乳酸が生成される。この発酵を行うことが知られている主な乳酸菌はLactobacillus delbrueckii、Lactobacillus casei、Lactobacillus bulgaricus、Lactococcus lactisなどである。もう一つはヘテロ発酵と呼ばれ、1モルのブドウ糖から1モルの乳酸の他にエチルアルコール、酢酸、グリセリン、炭酸ガスなどが生成される。この発酵を行うことが知られている主な乳酸菌はLactobacillus brevis、Lactobacillus buchneri、Leuconostoc mesenteroides、Lactobacillus pentoaceticusなどである。また、条件的ヘテロ発酵というものも存在し、ある条件下でヘテロ発酵を行う乳酸菌もある。これには、Lactobacillus plantarum等が含まれる。
乳酸発酵の主体たる乳酸菌の中には、ヒスタミンを生成するものとして、テトラゲノコッカス・ムリアティカス(Tetragenococcus muriaticus)、テトラゲノコッカス・ハロフィルス(Tetragenococcus halophilus)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)等が知られている。また、チラミンを生成するものとして、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・カーバタス(Lactobacillus curvatus)、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・ヒラエ(Enterococcus hirae)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)等が知られている(特許文献1、2)。また、GABA を生成するものとして、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)等が知られている(特許文献3〜5)。
ヒスタミンは経口摂取により、70 mg以上を体内に取り込むとアレルギー様症状が現れる場合があり、チラミンは経口摂取により、500 mg 以上を体内に取り込むと血圧上昇等の症状が現れる場合がある。また、チラミンについては、抗鬱剤としてモノアミン酸化酵素阻害剤系の薬剤を使用している患者においては閾値が 6 mg まで低下する。ヒスタミンについては、魚介類を用いた水産発酵食品で 70 mg /100g を超える場合が多数あり、チラミンについても、一部のチーズ等で 6 mg/100g を超える場合が多数見られるため、潜在的な危険度は高い。そのため、食品中のヒスタミンやチラミンを低減させることができる技術が求められており、発酵食品中に存在するアミン類の除去と測定法開発等に関して報告がある(特許文献6、7)。
乳酸菌の発酵食品中での生育動向を把握しながら有害アミン濃度を低減したり、有益アミン類の濃度を向上させたりする技術に関してはこれまで報告がない。また、食品危害要因としてヒスタミンはこれまでにも特に注目を集めてきたが、ヒスタミン生成に関わる酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素の遺伝子検出技術についても、腐敗細菌として分類されるグラム陰性細菌群の該酵素遺伝子検出技術についての報告はある(特許文献8)が、乳酸菌についての特許文献はない。非特許文献では一つのプライマーが一致している例(配列表の配列番号4)があるが、増幅用のプライマー対では一致していない(非特許文献1)。
特開2003―125784号公報 特開平8−89182号公報 特開2011−4723号公報 特許4605299号公報 特開2004−357535号公報 特開2011―229455号公報 特開2001−157579号公報 特開2004−344004号公報
Lucas et al. (2008) Appl. Environ. Microbiol. 74:811-817.
本発明は、発酵食品中の有害アミン類(ヒスタミン、チラミン)を低減化し、好ましくは同時に有益アミン類(GABA)の含有量を向上させることを目的としている。具体的には、乳酸発酵において、発酵産物中のヒスタミンやチラミン含有量を低減させる方法を提供することを課題とする。また、本発明は、乳酸菌の中からヒスタミン、チラミン、GABAの生成の引き金となる脱炭酸酵素遺伝子を持つ株及び持たない株を正確に見分ける簡便な技術を提供することを課題とする。前記遺伝子の有無により該乳酸菌によるアミン生成を事前に予測し、発酵食品の製造において目的に適う株をスターターとして接種することにより、発酵産物中のアミン濃度をコントロールする手法、及び該手法を用いる発酵食品の製造方法等を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明者らは様々な発酵食品中から分離・収集した乳酸菌群、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、及びラクトバチルス・カーバタス(Lactobacillus curvatus)のアミン類の生成能を調査した。その結果、該乳酸菌群において、種は同じながらも株によって、アミン類生成の引き金となる酵素遺伝子の存在、そして生成活性にばらつきがあることが明らかとなった。さらに、それらの菌株の中から該遺伝子が存在しないものを選び取ることによって、有害アミンであるヒスタミンやチラミンを生成せず、有益なアミンのみを含む発酵物を製造する、又は有害アミンを低減化した発酵物を製造できることを見出した。
このようなヒスタミンやチラミンを生成しない乳酸菌や、該乳酸菌を利用した発酵物は、安全で品質の安定した発酵食品等の製造に非常に有用なものである。例えばこのような乳酸菌をスターターとして使用することにより、ヒスタミンやチラミンといった有害アミンの含有量を低く抑えた発酵食品や乳酸菌製剤、GABAを多量に含有する組成物等を製造することができる。例えば、ヨーグルト、チーズ、漬物等の乳酸発酵食品の製造を該乳酸菌株を用いて行うことにより、おいしさとともにアミン含有量が制御された乳酸発酵食品を再現性良く提供することができる。
本発明者らはまた、ヒスタミン、チラミン、及びGABA生成に関わる乳酸菌の酵素遺伝子(ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子)を鋭意研究した結果、乳酸菌のヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を高感度に検出するプライマー対、チロシン脱炭酸酵素遺伝子を高感度に検出するプライマー対、及びグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を高感度に検出するプライマー対を見出した。さらに本発明者らは、前記プライマー対を用いる、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子(ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子及びグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子)の簡便な遺伝子検出法を開発した。すなわち、乳酸菌から抽出したDNAを含む試料中に前記プライマー対の標的配列を有するDNAが含まれていない場合、DNAの増幅が起こらないので遺伝子断片は増加しないが、該DNAが含まれる場合、増幅したDNAを検出することによりヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子及びグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出できる。また、これらの遺伝子を検出することにより、ヒスタミン産生乳酸菌、チラミン産生乳酸菌、及びGABA産生乳酸菌を正確に、かつ簡便に検出することができることを見出した。
このように乳酸菌について、そのアミン生成能をあらかじめ予測することができると、発酵食品中のヒスタミンやチラミンの生成を制御することができる。例えばある種の乳酸菌について、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子が検出され、該乳酸菌がヒスタミンを産生することが分った場合、該乳酸菌と共に、ヒスタミン及びチラミンを産生しない乳酸菌(ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌)をスターターとして接種することにより、ヒスタミンの生成を抑制でき、その結果得られる発酵産物中のヒスタミン量を低減することができる。また、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を有する乳酸菌は、通常GABAを産生するため、このような乳酸菌をスターターとして用いると、GABAを含む発酵食品を製造することができる。
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕〜〔14〕を提供する。
〔1〕乳酸発酵において、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして原料に接種して発酵させることにより、得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させることを特徴とする乳酸発酵におけるアミン生成制御方法。
〔2〕乳酸菌が、あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けからなる群より選択される少なくとも1種の発酵食品より分離された乳酸菌である前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌である前記〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕さらに、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌又はその培養物を添加して発酵させることにより、発酵産物中のGABA含量を増加させる前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の方法。
〔5〕乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) AN3-2(受託番号:NITE P-1255)及び/又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)である前記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の方法。
〔6〕あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けからなる群より選択される少なくとも1種の発酵食品より分離され、かつヒスタミン及びチラミンを生成しないことを特徴とする乳酸菌。
〔7〕乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌である前記〔6〕に記載の乳酸菌。
〔8〕乳酸菌が、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有するものである前記〔6〕又は〔7〕に記載の乳酸菌。
〔9〕乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) AN3-2(受託番号:NITE P-1255)及び/又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)である前記〔6〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の乳酸菌。
〔10〕前記〔6〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の乳酸菌を有効成分とする、乳酸発酵におけるヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤。
〔11〕前記〔6〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の乳酸菌の、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減された発酵食品製造のための使用。
〔12〕前記〔8〕に記載の乳酸菌の、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減され、かつGABA含有量が増加した発酵食品製造のための使用。
〔13〕(I)乳酸菌から抽出したデオキシリボ核酸(DNA)を含む試料中のDNAを鋳型として、(i)配列番号3及び4に示されるプライマー対を用いて、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片をポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法により増幅する、(ii)配列番号5及び6に示されるプライマー対を用いてチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、又は、(iii)配列番号7及び8、又は配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いて、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、の(i)〜(iii)のいずれかを行う工程、及び(II)該増幅された遺伝子断片を検出する工程を含むことを特徴とする乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出方法。
〔14〕配列番号3及び4に示されるプライマー対、配列番号5及び6に示されるプライマー対、配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対より選択される、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対。
本発明の乳酸菌を用いると、有害アミンであるヒスタミンやチラミンの濃度が低減された発酵食品及びその中間原料を提供できる。製造工程面では、本発明の乳酸菌をスターターとして使用し発酵食品を製造することで、有害アミンの生成が再現性良く抑えられて製造プロセスが安定化し、発酵過程の管理が容易になり、最終製品の安定性が増大する。本発明によれば、さらに、使用する株の選択によっては、個々の乳酸菌株に由来する整腸作用や免疫賦活活性といった機能性や、高いγ−アミノ酪酸(GABA)含量などを同時に付与することもできる。
また、本発明の乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対や乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出方法を用いると、正確かつ簡便にヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子及びグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を検出することができる。あらかじめ乳酸菌のアミン生産能を知ることにより、食品中の有害アミンであるヒスタミンやチラミン量をコントロールすることができる。また、GABA産生乳酸菌を使用することにより、GABA含有量が高い飲食品等を製造することができる。
図1は、ヒスタミン、チラミン及びGABAの生成様式を示した図である。 図2は、乳酸菌 Lactobacillus buchneri 5株を用いた発酵乳中におけるヒスタミン及びチラミンの生成量(図2の(A1)及び(A2))、各株におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図2の(B))及びチロシン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図2の(C))を示す図である。 図3は、乳酸菌 Lactobacillus brevis 6株を用いた発酵乳中におけるヒスタミン及びチラミンの生成量(図3の(A1)及び(A2))、各株におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図3の(B))及びチロシン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図3の(C))を示す図である。 図4は、乳酸菌 Lactobacillus curvatus 2株を用いた発酵乳中におけるヒスタミン及びチラミンの生成量(図4の(A1)及び(A2))、各株におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図4の(B))及びチロシン脱炭酸酵素遺伝子の有無(図4の(C))を示す図である。 図5は、乳酸菌 Lactobacillus buchneri 5株、Lactobacillus brevis 6株及びLactobacillus plantarum 9株を用いた発酵乳中におけるGABAの生成量(図5の(A1)〜(A3))、及び各株におけるグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の有無(図5の(B1)〜(B3))を示した図である。 図6は、ヒスタミン生成株 Lactobacillus parabuchneri ANP2-1を単独接種した発酵乳中のヒスタミン濃度(◆)、及び乳酸菌Lactobacillus plantarum AN3-2をヒスタミン生成株 Lactobacillus parabuchneri ANP2-1 と共接種した発酵乳中のヒスタミン濃度(×)を示す図である。 図7は、乳酸菌 Lactobacillus plantarumの3株を単独、又は前記3株をそれぞれヒスタミン生成株 Lactobacillus parabuchneri ANP2-1 と共接種して作製した発酵乳中における各株の生育コロニー数を示す図である。 図8は、ヒスタミン生成株 Lactobacillus parabuchneri ANP2-1を単独接種した発酵乳中のヒスタミン濃度、及び乳酸菌 Lactobacillus plantarumの3株をそれぞれ前記ヒスタミン生成株 Lactobacillus parabuchneri ANP2-1 と共接種して作製した発酵乳中におけるヒスタミン濃度を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の乳酸発酵におけるアミン生成制御方法は、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして接種して発酵させることにより、発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させる方法である。
本発明においては、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌をスターターとして接種して発酵させることにより、得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させることができる。好ましくは、ヒスタミン及びチラミン含有量を低減させる。
本発明の方法で使用されるヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌は、通常乳酸発酵中にヒスタミン及びチラミンを生成しない乳酸菌である。この有害アミン類であるヒスタミン及びチラミンを生成しない乳酸菌をスターターとして接種して発酵させると、例えば前記乳酸菌と共にヒスタミンやチラミンを生成する乳酸菌を使用しても、乳酸発酵中のヒスタミン及び/又はチラミンの生成が抑制される。このため、発酵産物におけるヒスタミン・チラミン含有量が低く抑えられる。
ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌は、有害アミン類であるヒスタミン及びチラミンの生成を抑制する作用を有するものである。
本発明により提供される有害アミン類の生成を抑制する乳酸菌は、発酵食品やその他の環境中より分離された乳酸菌でもよく、既に単離済みの乳酸菌でもよい。
本発明におけるヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌として、あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けからなる群より選択される少なくとも1種の発酵食品より分離され、かつヒスタミン及びチラミンを生成しない乳酸菌が好ましい。このような乳酸菌も、本発明に包含される。前記乳酸菌の分離源であるあじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けは、いずれも石川県の伝統的な発酵食品であり、市販されている。また、既知の方法により製造することもできる。乳酸菌の分離及び同定は、自体公知の方法により行うことができる。
乳酸菌がヒスタミンを生成しないことは、例えば、該乳酸菌がヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を有するか否かを調べることにより確認することができる。乳酸菌がヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を有するか否かは、乳酸菌から公知の方法によりDNAを抽出し、該DNAを鋳型として後述するプライマー対(例えば、配列番号3及び4)等を用いてヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅させ、該増幅させたヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片を検出することにより確認することができる。ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子が検出された乳酸菌は、通常、ヒスタミンを生成する。ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子が検出されない乳酸菌は、通常ヒスタミンを生成しない菌である。
乳酸菌がヒスタミンを生成しないことの確認は、例えば、ヒスチジンを含む培地等に該乳酸菌を接種して、通常乳酸発酵に用いられる条件で培養し、得られる発酵産物中のヒスタミンを検出することによっても行うことができる。通常、発酵前の培地と比較して発酵後の培地にヒスタミンが多く含まれる場合には、その乳酸菌はヒスタミンを生成すると判定される。
乳酸菌がチラミンを生成しないことは、例えば、該乳酸菌がチロシン脱炭酸酵素遺伝子を有するか否かを調べることにより確認することができる。乳酸菌がチロシン脱炭酸酵素遺伝子を有するか否かは、乳酸菌から公知の方法によりDNAを抽出し、該DNAを鋳型として後述するプライマー対(例えば、配列番号5及び6)等を用いてチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅させ、該増幅させたチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片を検出することにより確認することができる。チロシン脱炭酸酵素遺伝子が検出された乳酸菌は、通常、チラミンを生成する。チロシン脱炭酸酵素遺伝子が検出されない乳酸菌は、通常チラミンを生成しない菌である。
乳酸菌がチラミンを生成しないことの確認は、例えば、チロシンを含む培地等に該乳酸菌を接種して、通常乳酸発酵に用いられる条件で培養し、得られる発酵産物中のチラミンを検出することによっても行うことができる。通常、発酵前の培地と比較して発酵後の培地にチラミンが多く含まれる場合には、その乳酸菌はチラミンを生成すると判定される。
ヒスタミンやチラミンは、公知の手法、例えばHPLCや薄層クロマトグラフィー等により検出することができる。
本発明における乳酸菌は、通常、前記乳酸菌を培地で培養した培養菌体、又はその処理物であり、その他にも、発酵原料に接種可能な形態の全てのものを含む。乳酸菌は、通常生菌である。乳酸菌は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。培養菌体の処理物として、乳酸菌を培地で培養した培養液等の培養物又は該培養液の希釈液又は濃縮液、該培養物を乾燥させて得られる乾燥物、該培養物の粗精製物、もしくは精製物、又はその乾燥物等が挙げられる。粗精製又は精製の方法は、本発明の効果を奏することになる限り特に限定されず、公知の手法により行うことができる。
乳酸菌の培養物は、公知の手法により得られる。例えば、乳酸菌を培地中で通常の条件で培養する方法が挙げられる。培地は、乳酸菌の培養に通常使用される炭素源、窒素源、ミネラル等を含むものであればよく、天然培地又は合成培地等を用いることができる。好ましくは、液体培地を用いる。培養物を得るための培養は、例えば、培養温度は約5〜45℃とすることが好ましく、約25〜37℃とすることがより好ましい。培地のpHは、例えば約4〜8とすることが好ましく、約6〜7とすることがより好ましい。同時にpHを制御してもよく、酸又はアルカリを用いてpHの調整を行うことができる。培養時間は、通常約24時間以上が好ましく、より好ましくは約48〜96時間である。培養は、好気条件下で行ってもよく、嫌気条件下で行ってもよい。好ましくは嫌気条件下で行う。
このように培養した培養菌体もしくはその処理物を、培養物として使用することができる。
炭素源としては、例えばグルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、スクロース、セロビオース、廃糖蜜、グリセロール等が挙げられ、好ましくはグルコース、スクロース等である。窒素源としては、無機態窒素源では、例えばアンモニア、アンモニウム塩等、有機態窒素源では、例えば尿素、アミノ酸、タンパク質等をそれぞれ単独もしくは2種以上を混合して用いることができ、好ましくはアンモニウム塩、アミノ酸等である。またミネラル源として、おもにK、P、Mg、Sなどを含む、例えばリン酸一水素カリウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸やビオチン、チアミン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に添加することもできる。培地中の炭素源、窒素源等の濃度は、乳酸菌が生育できる通常の濃度であればよく、特に限定されない。通常、培養開始時の炭素源濃度は0.1〜15%(wt)程度が好ましく、より好ましくは1〜10%(wt)程度である。培養開始時の窒素源の濃度は、通常0.1〜15%(wt)程度、好ましくは1〜15%(wt)程度、より好ましくは1〜10%(wt)程度とすればよい。
培養物を得るための培地は、例えば、窒素源としてタンパク質を含んでもよいし、含まなくとも良い。他の窒素源としては、栄養要求性に応じてアミノ酸等を添加した最少培地でもよく、その他のタンパク質の加水分解物等を適宜添加してもよい。タンパク質の場合は、特に限定されないが、例えば、植物性タンパク質、動物性タンパク質等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。植物性タンパク質として、例えば、コメ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ等の穀類由来のタンパク質や大豆、空豆、インゲン豆等の豆類由来のタンパク質が好適であり、中でも、大豆由来のタンパク質を好適に用いることができる。大豆由来のタンパク質として、脱脂大豆粉等を好適に使用できる。動物性タンパク質としては、肉エキス、哺乳類の乳由来のタンパク質等が挙げられ、哺乳類の乳由来のタンパク質が好ましい。哺乳類の乳としては、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ヒト等の乳が挙げられ、ウシの乳が好ましい。乳由来のタンパク質として、例えば、スキムミルク等が好適に使用できる。
ヒスタミン、チラミンの濃度上昇を抑えながら、同時にL−グルタミン酸からGABAへの変換能を有する培養物を得る場合には、L−グルタミン酸、又はL−グルタミン酸ナトリウム等のL−グルタミン酸塩を含む培地を用いることが好ましい。L−グルタミン酸又はその塩の濃度は特に限定されず、適宜設定することができる。
本発明におけるヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌として、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌、後記の表1に示されるラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri) SB21等が好ましい。ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌は、より好ましくは、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌であり、さらに好ましくは表1に示されるラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する乳酸菌である。
表1に示される乳酸菌のうち、例えばLactobacillus plantarum AN3-2、Lactobacillus plantarum ANP7-1およびLactobacillus parabuchneri ANP2-1は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託された。
Lactobacillus plantarum AN3-2(受託番号:NITE P-1255)(受託日:2012年2月24日)
Lactobacillus plantarum ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)(受託日:2012年2月3日)
Lactobacillus parabuchneri ANP2-1(受託番号:NITE P-1257)(受託日:2012年2月24日)
表1に示す乳酸菌の中でも、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌としては、Lactobacillus plantarum AN2-3、AN3-2、AN4-1、AN5-1、AN5-3、SN1-3、ANP7-1、UN-1、LBK-2等の菌株がより好ましい。しかし、これ以外の乳酸菌でも、同等の機能をもつ表1中の他の乳酸菌、もしくは同等の機能をもつ表1に記載する以外の乳酸菌も好適に使用される。さらには、GABAの高い生成能を有する L. plantarum もしくはその他の乳酸菌種であることがより好ましい。
本発明におけるヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌は、さらに好ましくは、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) AN3-2(受託番号:NITE P-1255)及び/又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)である。
本発明においては、通常、発酵開始時又は発酵初期に前記ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして原料に接種して発酵を行う。発酵初期とは、発酵開始から通常約0〜1日内である。前記乳酸菌の接種量は、原料、飲食品の種類、スターターとして使用する乳酸菌の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、原料1gに対して、生菌数で105〜1010cfu/g程度とすることが好ましく、106〜108cfu/g程度とすることがより好ましい。
原料は特に限定されず、通常、発酵食品の原料となるものを使用できる。本発明の方法によれば、発酵により得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させることができる。得られる発酵産物は、発酵食品又はその中間原料(例えば、種米麹、種糠等)として好適に用いられる。このため本発明の方法は、ヒスタミン及び/又はチラミン含有量が低減された発酵食品やその中間原料の製造に好適に用いられる。乳酸発酵において、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして原料に接種して発酵させる工程を含む発酵食品の製造方法も、本発明に包含される。発酵食品の中間原料とは、通常、該中間原料にさらに何らかの処理を施すことによって最終製品である発酵食品となるものをいう。
発酵の条件は特に限定されず、原料や発酵食品の種類等により適宜選択すればよく、特に限定されない。好ましくは、発酵温度は約5〜45℃とする。発酵時間も特に限定されず、原料や発酵食品の種類等に応じて適宜設定すればよい。GABAを含む、又はGABA含有量が増加した発酵食品を製造する際には、発酵の際に、L−グルタミン酸又はその塩を含む原料に後述するL−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌やその培養物を添加して発酵させることが好ましい。
本発明の方法においては、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌と共に、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌以外の菌を使用することができる。例えば、抗酸化作用、腸管免疫作用等の所望の機能性を有する乳酸菌をスターターとして使用すると、有害アミンであるヒスタミンやチラミン含量を抑えつつ、得られる発酵産物に所望の機能性を付与することもできる。
本発明の方法においては、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌と共に、ヒスタミン及び/又はチラミンを生成する菌をスターターとして使用することもできる。ヒスタミンやチラミンを生成する菌をスターターとして用いても、前記ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌を使用することにより、得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミンの生成量を抑制することができる。ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌以外の菌を使用する場合、その使用量は適宜設定すればよいが、例えば、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌の生菌数1に対して、その他の菌の生菌数を約1〜1/100程度とすることが好ましく、1/2〜1/10程度とすることがより好ましい。
本発明の方法は、ヒスタミン又はチラミン生成菌が発酵開始時や発酵中に原料に接種される場合、及びされない場合の両方において適用可能である。すなわち、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌を使用することにより、あらかじめ発酵スターターとして接種された有害アミン類生成菌による有害アミン生成を抑制することができる。また、スターター非接種型の発酵食品においても再現性良く有害アミン生成を抑制することができる。
本発明においては、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌又はその培養物を添加して発酵させることにより、発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミンの生成を抑制しつつ、GABA含量を増加させることができる。L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌又はその培養物として、公知の菌やその培養物を使用することができる。また、公知の菌以外にも、例えば、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri) AN1-1、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri) SB21等を使用することができる。
前記ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri) AN1-1、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri) SB21は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託されている。
Lactobacillus buchneri AN1-1(受託番号:NITE P-1123)(受託日:2011年8月12日)
Lactobacillus buchneri SB21(受託番号:NITE P-1139)(受託日:2011年8月30日)
本発明により製造される発酵食品は、乳酸発酵を利用して製造されるものが好ましく、例えば、動物性タンパク質等を原料とするヨーグルトやチーズ等の発酵乳等、もしくは植物性タンパク質等を原料とする豆乳発酵物等、または動物性と植物性原料由来の混合物であるなれずし、いずし、かぶらずし、大根ずし等が挙げられるが、原料および最終生産物の種類に特に限定されない。
前記ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌やその発酵産物を利用すると、ヒスタミン及び/又はチラミン含量が低減された発酵食品等を製造することができる。前記発酵食品を製造する方法は特に限定されず、例えば、飲食品の製造において前記乳酸菌を添加する方法等が挙げられる。好ましくは、飲食品の製造において、乳酸発酵の際にスターターとして前記ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌を添加して発酵を行う。前記乳酸菌の、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減された発酵食品製造のための使用も、本発明に包含される。
前記発酵食品の製造において、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌を添加すると、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減され、かつGABA含有量が増加した発酵食品やその中間原料を製造することができる。
ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌を有効成分とする、乳酸発酵におけるヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤も、本発明に包含される。ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌やその好ましい態様は、前記と同じである。乳酸菌は1種でもよく、2種以上であってもよい。ヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤は、本発明の効果を奏することになる限り、乳酸菌以外の成分、例えば、培地、賦形剤等を含んでいてもよい。ヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤を例えば発酵食品等の製造において添加すると、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減された発酵食品等を製造することができる。ヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤の添加量は特に限定されず、食品の種類等に応じて適宜設定すればよい。好ましくは、乳酸発酵の際にヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤を添加して乳酸発酵を行う。
本発明は、ヒスタミンおよびチラミン等の有害アミン類、GABAのような好ましいアミン類の生成に関わるアミノ酸脱炭酸酵素の遺伝子検出法も提供する。これは、様々な乳酸菌のアミノ酸脱炭酸酵素の遺伝子配列を参考にして、その共通性の高い部分から作製したオリゴヌクレオチド(プライマー)を用いて該遺伝子群を検出する一連の技術であり、これにより発酵食品製造への使用に先立ち、各アミン類の生成能が検査でき、未然に有害アミン生成の危害を予測し防ぐことができる。
前述の検出技術は、ヒスタミンの生成に関わるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チラミンの生成に関わるチロシン脱炭酸酵素遺伝子、及びGABAの生成に関わるグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を乳酸菌から検出するための特異的プライマー群を使用したPCRを含む一連の操作からなる。
本発明は、(I)乳酸菌から抽出したデオキシリボ核酸(DNA)を含む試料中のDNAを鋳型として、(i)配列番号3及び4に示されるプライマー対を用いて、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片をポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法により増幅する、(ii)配列番号5及び6に示されるプライマー対を用いてチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、又は、(iii)配列番号7及び8、又は配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いて、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、の(i)〜(iii)のいずれかを行う工程、及び(II)該増幅された遺伝子断片を検出する工程を含む、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出方法も包含する。
乳酸菌からのDNAの抽出及び該DNAを含む試料の調製は、自体公知の方法により行うことができる。例えば、Wizard(登録商標)Genomic DNA Purification Kit (Promega社製)等を使用して、あるいはフェノール/クロロホルム抽出、塩化セシウム密度勾配遠心法等を適宜組み合わせて行うことができる。
本発明において、PCRは、常法により、市販のPCR装置を用いて実施することができる。PCR法の増幅反応は、DNAの熱変性、プライマーのアニーリング、及びポリメラーゼ伸長反応のそれぞれの温度条件で反応液をインキュベートすることによって進行し、この3つのステップからなる温度サイクルを繰り返すことで所望のPCR産物が得られる。PCRの条件は、適宜設定すればよい。
配列番号3及び4に示されるプライマー対、配列番号5及び6に示されるプライマー対、配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対は、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対として好適に使用される。配列番号3及び4に示されるプライマー対、配列番号5及び6に示されるプライマー対、配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対より選択される、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対も、本発明に包含される。このようなプライマー対は、自体公知の方法により製造することができる。
例えば、配列番号3及び4に示されるプライマー対は、PCR法により乳酸菌由来のヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片を特異的に増幅させることができるものである。このようなプライマー対は、乳酸菌におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子検出用プライマー対として好適に使用される。
配列番号5及び6に示されるプライマー対は、PCR法により乳酸菌由来のチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片を特異的に増幅させることができるものである。このようなプライマー対は、乳酸菌におけるチロシン脱炭酸酵素遺伝子検出用プライマー対として好適に使用される。
配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対は、PCR法により乳酸菌由来のグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の断片を特異的に増幅させることができるものである。このようなプライマー対は、乳酸菌におけるグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子検出用プライマー対として好適に使用される。グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の検出には、配列番号7及び8に示されるプライマー対、又は配列番号9及び10に示されるプライマー対のいずれかのプライマー対を用いればよいが、例えば、乳酸菌から抽出したDNAを含む試料について、配列番号7及び8に示されるプライマー対を用いて得られるPCR産物中にグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出されない場合には、次いで、前記試料について配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いてPCRを行い、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の有無を確認することが好ましい。同様に、乳酸菌から抽出したDNAを含む試料について、配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いて得られるPCR産物中にグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出されない場合には、次いで、前記試料について配列番号7及び8に示されるプライマー対を用いてPCRを行い、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の有無を確認することが好ましい。配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対の少なくとも1つのプライマー対を用いて得られるPCR産物中にグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出されれば、該乳酸菌はグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を有するものである。配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対のいずれを用いても、得られるPCR産物中にグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出されない場合、該乳酸菌は通常グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を有さないものである。
本発明の工程(I)においては、前記(i)〜(iii)のいずれかを行うが、用いたプライマー対に応じて、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子及びグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子のいずれかのアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子が増幅される。得られたPCR産物を、通常アガロースゲルによる電気泳動を行って目的のアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子を検出する。
例えば、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子が検出されると、その乳酸菌はヒスタミンを産生すると判定される。チロシン脱炭酸酵素遺伝子が検出されると、その乳酸菌はチラミンを産生すると判定される。このように有害アミン生成菌であることが分ると、例えば該有害アミン生成菌を使用して乳酸発酵を行う場合に、前記ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌をスターターとして添加して発酵させることにより、有害アミンの生成を抑制することができる。また、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が検出されると、通常その乳酸菌はL−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有し、GABAを産生するものである。
(i)配列番号3及び4に示されるプライマー対、(ii)配列番号5及び6に示されるプライマー対、(iii)配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び(iv)配列番号9及び10に示されるプライマー対のいずれかのプライマー対を含む乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のキットも、本発明に包含される。本発明のキットは、前記乳酸菌におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子又はグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の検出に好適に用いられる。例えば、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子を検出する場合には、配列番号3及び4に示されるプライマー対を用いる。チロシン脱炭酸酵素遺伝子を検出する場合には、配列番号5及び6に示されるプライマー対を用いる。グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子を検出する場合には、配列番号7及び8に示されるプライマー対、又は配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いる。
本発明のキットは、前記プライマー対以外に、緩衝液、PCRに使用する酵素等を含んでいてもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
参考例1
1−1 乳酸菌の分離及び培養のための培地
発酵食品(あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、うり糠漬け)からの乳酸菌の分離には、MRS培地(市販品、Difco社製)55gを最終液量が1Lとなるような濃度に純水で溶解し、これに終濃度2%になるように寒天を添加して作製したプレートを使用した。
分離した乳酸菌の液体培養培地にはMRS培地(市販品、Difco社製)を使用した。
1−2 培養方法及び条件
乳酸菌を純粋培養する最初の基本培養は次の方法で行った。4 ml容バイアルとMRS液体培地を別々に121℃、20分オートクレーブし、冷却後、MRS液体培地4 mlをバイアルに分注した。滅菌したつまようじを用いて、乳酸菌コロニー又は冷凍保存液を一掻きMRS液体培地の入ったバイアルにシードし、30℃で2〜3日間培養した。
1−3 発酵食品からの乳酸菌の分離方法
石川県の伝統発酵食品であるあじなれずし(柳田食産社製及び市販品)、ぶりなれずし(市販品)、さばなれずし(市販品)、うぐいなれずし(市販品)、かぶらずし(四十萬谷本舗社製)、大根ずし(四十萬谷本舗社製)、うり糠漬け(市販品)より種々の乳酸菌を分離した。その一方法として、これらの素材、例えばあじなれずし等であれば、米麹又は蒸し米部分の約1 gを計量し、生理食塩水10 mlで懸濁し、滅菌した0.85%生理食塩水(10 ml/試験管)で適宜、希釈後、その0.1 mlをMRS寒天培地に塗布し、30℃で2〜3日間培養し、コロニーを形成させた。その際、特別に嫌気条件にはしなかった。
それぞれの素材サンプルから得たコロニーのいくつか(8〜24コロニー程度)を4 ml MRS液体培地(4 ml容バイアル中)にて、30℃、2〜3日間培養し、その培養液1 mlを滅菌した30%グリセリン1 mlの入ったバイアルに注入後、−80℃のフリーザーに保存するとともに、残りの培養液を16S rRNA遺伝子の解析を行うためにゲノムDNAの調製に使用した。
1−4 16SrRNA遺伝子の解析による乳酸菌の同定
<乳酸菌よりゲノムDNAの調製>
Wizard(登録商標)Genomic DNA Purification Kit (Promega社製)を使用して、乳酸菌よりゲノム DNAを調製した。
<PCRによる16SrDNA断片の増幅>
前記で抽出したゲノムDNAから、PCRにより16SrDNA断片を増幅した。PCRはEx Taq(登録商標)DNA Polymerase (タカラバイオ社)を用いて行い、16SrDNA用プライマーとして以下の配列のプライマーを用いた。
[7-F (プライマー名)]
5’-AGAGTTTGATYMTGGCTCAG-3’ (配列番号1)
[1510-R (プライマー名)]
5’-ACGGYTACCTTGTTACGACTT-3’ (配列番号2)
配列番号1及び2中、Yは、C(シトシン)又はT(チミン)、Mは、A(アデニン)又はC(シトシン)である。
PCRのサイクルは、以下の通りである。
96℃、2分→(96℃、15秒→50℃、15秒→72℃、1分30秒)を25サイクル→4℃で保温。
増幅断片の精製は、QIAquick(登録商標)PCR purification kit (QIAGEN社) を使用して行った。キットで精製した DNA 溶液、並びに、前記の配列番号1のプライマー及び配列番号2のプライマーを用いて、以下のサイクルで、PCR 機を用いて増幅反応した。
96℃、1分→(96℃、10秒→50℃、5秒→60℃、4分)を30サイクル。
反応後、X terminator(登録商標)Solution (BigDye X Terminator 精製キット、Applied Biosystems社製) を使用して反応液を精製し、得られた上清 40〜50μl をシークエンサー用専用ラックに移し、Genetic Analyzer(製品名、3130xl Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス解析した。
実施例1
各乳酸菌のアミノ酸脱炭酸物(アミン類)生成能の評価
1−1 使用菌株
参考例1で発酵食品より単離され、分離・ストックされた乳酸菌群のうち、表1に示した株を用いた。以下の実施例中、乳酸菌の菌種名を省略し、菌株名のみで表す場合もある。例えば、AN1-1は、Lactobacillus brevis AN1-1 を示す。なお、菌種名にparaと付したものはそれぞれの菌種の亜種を示しており、例えばBN1-2 は Lactobacillus parabuchneriであることを示す。以下の実施例では、Lactobacillus parabuchneriは全てLactobacillus buchneriに含める。
表1に示す乳酸菌のうち、Lactobacillus buchneri AN1-1、Lactobacillus parabuchneri BN1-2、Lactobacillus parabuchneri ANP2-1、Lactobacillus buchneri SB21、Lactobacillus brevis AN1-5、Lactobacillus brevis AN3-5、Lactobacillus brevis SB109、Lactobacillus plantarum AN3-2、Lactobacillus plantarum ANP7-1、Lactobacillus parabuchneri ANP2-1については、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託申請し、以下の受託番号で受託された。
Lactobacillus buchneri AN1-1(受託番号:NITE P-1123)(受託日:2011年8月12日)
Lactobacillus buchneri SB21(受託番号:NITE P-1139)(受託日:2011年8月30日)
Lactobacillus brevis AN1-5(受託番号:NITE P-1124)(受託日:2011年8月12日)
Lactobacillus brevis AN3-5(受託番号:NITE P-1256)(受託日:2012年2月24日)
Lactobacillus brevis SB109(受託番号:NITE P-1260)(受託日:2012年2月24日)
Lactobacillus plantarum AN3-2(受託番号:NITE P-1255)(受託日:2012年2月24日)
Lactobacillus plantarum ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)(受託日:2012年2月3日)
1−2 乳酸菌体の調製のための培地
乳酸菌体の調製には、MRS培地(市販品、Difco社製)55gを最終液量が1Lとなるような濃度に純水で溶解し、固体培地使用の際はこれに終濃度2%になるように寒天を添加して作製したプレートを使用し、液体培地使用の際は寒天を添加しないものを使用した。
1−3 乳酸菌体の調製のための培養方法
乳酸菌を純粋培養する最初の基本培養は次の方法で行った。4 ml容バイアルとMRS液体培地を別々に121℃、20分オートクレーブし、冷却後、MRS液体培地4 mlをバイアルに分注した。滅菌したつまようじを用いて、固体 MRS 培地上にあらかじめ生育させた乳酸菌コロニー、又は冷凍保存液を一掻き取ったものをMRS液体培地の入ったバイアルに植菌し、30℃で2〜3日間培養した。この培養液を、40 ml の MRS 液体培地の入った50 ml 容滅菌プラスチックチューブに0.1 ml 植菌し、30℃で2〜3日間、さらに培養を行った。このようにして調製した乳酸菌の培養液をそれぞれの目的に応じて使用した。
1−4 各乳酸菌体を用いた発酵乳の調製
前述の培地及び培養条件に則って調製した表1記載の各乳酸菌体について、3,000 rpm にて10分間の遠心を行い、50 ml 容プラスチックチューブの底部に菌体のみを収集し、0.85 (w/v) % 塩化ナトリウム溶液(生理食塩水)40 ml を用いて菌体洗浄を行った。この操作を3回繰り返し、培地成分を十分に洗い流した後、あらかじめ熱湯殺菌しておいたプラスチック容器に100 mlの市販牛乳(成分無調整、乳脂肪分 3.6 % 以上のものであれば種類を問わない)を入れておいたものに洗浄後の全菌体を接種した(各サンプルには、表1に記載の乳酸菌いずれか1種を接種した)。なお、牛乳についてはあらかじめ沸騰直前(約90℃)まで温め、殺菌を行った後、40℃付近まで冷ましたものを使用した。また同時に、アミン類の生成をはっきりと確認するために、ヒスタミン、チラミン、GABA生成の基質であるヒスチジン、チロシン、グルタミン酸をそれぞれ 1 mMにて添加したアミノ酸添加牛乳も発酵試験に用いた。菌体接種を終えた牛乳は、容器に蓋をした後、 37 ℃にて発酵を行い、固化するまで静置した。
1−5 高速液体クロマトグラフィー (HPLC) 用サンプルの調製
固化した発酵乳を一度混ぜて均一化して、 1.5 ml 容マイクロチューブに移し取り、15,000 rpm にて 5 分間の遠心を行った。上清部分を回収し、そのうち10 μl について、AccQ-Fluor (登録商標)Reagent Kit (Waters 社製) を用いたアミノ酸・アミン類へのアミノ基蛍光標識反応を行った。
1−6 HPLC 分析条件
発酵乳中のアミノ酸・アミン類の定量には、AccQ-tag(登録商標) amino acid analysis column (Waters 社製) をカラムとして装着したHPLC装置を使用した。アミノ酸・アミン類の蛍光検出に際しては、250 nm における励起波長、395 nm における蛍光波長の検出条件を設定した。移動相には、Waters 社製のAccQ-tag(登録商標)Eluent A を超純水で 11 倍希釈したものを移動相A、及び60 (v/v) % アセトニトリルを移動相 B として、表2に示したグラジエントプログラムで溶出を行った。
1−7 乳酸菌からのゲノムDNAの調製
各乳酸菌体からのゲノムDNAの抽出には、市販のDNA抽出キットWizard (登録商標)Genomic DNA Purification Kit (Promega社製) を用いた。
1−8 PCRによる各脱炭酸酵素遺伝子部分配列の増幅
各乳酸菌において調製したゲノムDNAを鋳型に、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子、チロシン脱炭酸酵素遺伝子、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の部分配列を増幅するために以下に示す条件で反応液を調製した。PCRは、タカラバイオ社製のExTaq (登録商標) を用いて行った。
PCRに用いたサイクルは、以下の通りである。
96℃2分→(96℃ 15秒→50℃ 15秒→72℃ * 秒) を 25 サイクル→4℃。
ただし、*で示した72℃の保温においては、使用したプライマーにより異なる反応時間を設定した。その際は、伸長させるDNAのサイズに従って、ポリヌクレオチド鎖1キロベースあたり1分に設定した。
プライマーは、以下の組み合わせをそれぞれ使用した。
<ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子増幅用 (約480 bp増幅)>
5’-TGTGCTAACAAAGGTGTCACTGC -3’ (配列番号3)
5’-AATTGAGCCACCTGGAATTG-3’ (配列番号4)
<チロシン脱炭酸酵素遺伝子増幅用 (約800 bp増幅)>
5’-CAAATGGAAGMAGAAGTHGG-3’ (配列番号5)
5’-TANCCCATYTTATGDGGRTC-3’ (配列番号6)
<グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子増幅用>
グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の増幅には菌種によって以下の2種類のプライマーを使用した。
パターン1 (約900 bp増幅)
5’-TACCAAGTTGTTTGGGAAAA-3’ (配列番号7)
5’-GGGTAAGCTGGGACTTGCCA-3’ (配列番号8)
パターン2 (約1350 bp増幅)
5’-TGTCAGACYTAYATGGAACC-3’ (配列番号9)
5’-TCMATRAARTCGTGGGCCAT-3’ (配列番号10)
配列番号3〜10中、Yは、C(シトシン)又はT(チミン)、M は、A(アデニン)又はC(シトシン)、R は、A(アデニン)又はG(グアニン)、D は、A(アデニン)又はT(チミン)又はG(グアニン)、H は、A(アデニン)又はT(チミン)又はC(シトシン)、N は、A(アデニン)又はG(グアニン)又はT(チミン)又はC(シトシン)である。
増幅DNAサイズの確認においては、0.8%アガロースゲル電気泳動を使用した。電気泳動後のゲルはエチジウムブロミドにより染色し、UVトランスイルミネーター上においてDNAを蛍光検出した。
1−9 増幅DNA配列の確認
前述の通りに各アミノ酸脱炭酸酵素遺伝子を増幅したのちに、増幅断片をタカラバイオ社製のDNA鎖連結用試薬 (製品名、DNA Ligation solution Mighty Mix)を用いて、Promega社製の TA クローニングベクター(製品名、pGEM-T)と連結させた。その後、連結して作製したプラスミドで大腸菌 DH5α株を形質転換し、クローン化して、それぞれのクローンからプラスミドを抽出した。本プラスミド群を鋳型として、クローニングした遺伝子断片部位のDNA配列を解読するためのユニバーサルプライマーを用いて、以下のサイクルでPCR 機を用いて、シークエンス解読のための増幅反応を行った。反応液の調製には、Big Dye(登録商標)Terminator v3.1(Applied Biosystems社製)を使用した。
PCR増幅反応条件:96℃、1分→(96℃、10秒→50℃、5秒→60℃、4分)を30サイクル
反応後、X terminator(登録商標)Solution (BigDye XTerminator 精製キット、Applied Biosystems社製) を使用して反応液を精製し、得られた上清 40〜50μl をシークエンサー用専用ラックに移し、Genetic Analyzer(製品名、3130 Genetic Analyzer、Applied Biosystems社製)を用いてシークエンス解析した。配列解読の後、国際遺伝子データベースGenBank/EMBL/DDBJ に対して塩基配列相同性の高いデータを検索し、目的の脱炭酸酵素が増幅されたか否かの確認を行った。
1−10 各乳酸菌を用いて調製した発酵乳中のアミン類の濃度
図2の(A1)及び(A2)、図3の(A1)及び(A2)、及び図4の(A1)及び(A2)に示したグラフは、アミノ酸(ヒスチジン、チロシン、及びグルタミン酸)を添加しない牛乳を発酵させて製造した発酵乳(図2〜図4の(A1))と、該アミノ酸を添加して発酵させた発酵乳(図2〜図4の(A2))について、該発酵乳中のアミン濃度をHPLCで測定したものである。図2〜図4の(A1)及び(A2)中、白のバーはチラミン濃度を、黒のバーはヒスタミン濃度を示す。図5の(A1)〜(A3)は、前記アミノ酸を添加して発酵させて製造した発酵乳におけるGABA濃度である。その結果、菌株の違いにより生産するアミンの種類や生成量に違いが見られた。菌種別に見ると、Lactobacillus buchneriはAN1-1とSB21でGABAのみを生成し、BN1-2、SN1-8、ANP2-1でヒスタミンのみを生成していた(図2の(A1)及び(A2)及び図5の(A1))。
Lactobacillus brevisは主にチラミンとGABAを生成する菌株が多く、GABAは全株で生成され(図5の(A2))、チラミンはANP1-4以外で生成が見られた(図3の(A1)及び(A2))。
Lactobacillus curvatusは、DP8-7でチラミンの生成が見られたが、KP3-4においては、ほとんど見られなかった(図4の(A1)及び(A2))。
Lactoabacillus plantarumは、多くの株でGABAの生成が見られたが、その生成量は様々であった。(図5の(A3))。
これらの結果から、同じ菌種でもアミン生成量には株によって大きなばらつきがあることが分かった。それぞれの菌株は、菌種の進化的近接性を示す16S リボソーム DNA (rDNA) の配列がそれぞれ互いに99〜100%一致しており、相同性の極めて高い株同士でもアミン生産パターンには多くのバラエティがあることが明らかになった。
1−11 各乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の存在パターン
上記の結果を受け、乳酸菌のアミン生成能とアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の存在の相関性について確認することにした。各乳酸菌からゲノムDNAを抽出し、前述の配列番号3〜10のプライマー群を用いて、各アミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出を試みた。結果を、図2〜4の(B)〜(D)、図5の(B1)〜(B3)及び図5の(C1)〜(C3)に示す。図2〜4の(B)は、乳酸菌におけるヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の検出結果であり、図2〜4の(C)は、乳酸菌におけるチロシン脱炭酸酵素遺伝子の検出結果である。図5の(B1)〜(B3)は、各乳酸菌におけるグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の検出結果である。図2〜4の(D)及び図5の(C1)〜(C3)は、16SrDNAの検出結果である。図2〜4の(D)及び図5の(C1)〜(C3)に示す16SrDNAは、いずれの細菌も持っている遺伝子であり、本欄にバンドが増幅されたことによって、正確にDNAが抽出されたことの確認ができる。
Lactobacillus buchneriにおいて、発酵乳中でヒスタミン生成が確認された株(BN1-2、SN1-8、ANP2-1)では、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の増幅が見られ、相関性が認められた(図2の(A1)、(A2)、及び(B))。また、ヒスタミン生成が見られなかった株(AN1-1、SB21)でも、GABA生成とグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の増幅の一致が見られた(図5の(A1)及び(B1))。Lactobacillus buchneriでは各アミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の存在と発酵乳中のアミン生成が完全に一致することが分かった(図2)。
Lactobacillus brevisにおいて、発酵乳中でチラミン生産が確認された株(AN1-5、AN2-2、AN4-5、ANP7-6、及びSB109)にはチロシン脱炭酸酵素遺伝子の存在が全て確認された(図3)。チラミンの生成が見られなかったANP1-4ではチロシン脱炭酸酵素遺伝子の検出は見られず、発酵乳中のチラミン生成とチロシン脱炭酸酵素遺伝子の存在が対応していることが分かった(図3)。
Lactobacillus curvatusについてはDP8-7でチロシン脱炭酸酵素遺伝子が確認され、発酵乳中からもチラミンが検出された。一方、KP3-4ではチロシン脱炭酸酵素遺伝子が確認されず、発酵乳中からもチラミンが検出されなかった。遺伝子の存在とチラミン生成には相関性が見られる(図4)が、同一菌種で遺伝子構成に差異が見られた。
Lactobacillus plantarumについては、全ての株においてグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の増幅が確認された。しかし、GABA生成量は同一菌種間で大きな差が認められた(図5)。また、Lactobacillus plantarumにおいて、チロシン脱炭酸酵素遺伝子及びヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子は検出されず、該当するアミンも生成しなかった(後掲の表4)。
以上の結果から、同じ乳酸菌種の中でも各アミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の存在パターンにはバラエティがあり、また遺伝子の存在する株同士でも、アミン生成量に差異がある場合があった。つまり、有害アミンの低減化を実現する乳酸菌株を選定するため、例えばヒスタミン及び/又はチラミンを生成する株を同定するためには、株レベルで脱炭酸酵素遺伝子の有無とその発現状態を確認すればよく、前述のプライマー群を用いた遺伝子検出試験が有力なツールとして機能することが確認できた。
1−12 増幅断片の精製と塩基配列の解読
シークエンサーでベクターに組み込んだ各種脱炭酸酵素遺伝子断片の塩基配列を解読し、遺伝子データベースに対してBLAST検索エンジンを用いて相同性の高い遺伝子を検索した。その結果を表3に示す。
表3の結果より、対象とした全ての乳酸菌株の増幅断片において、目的の遺伝子が増幅されていることが確認された(相同性95%以上)。
実施例2
各乳酸菌体を用いたアミン生成能の検討
実施例1において得られた発酵乳中におけるアミン含有量の測定結果と脱炭酸酵素遺伝子の増幅結果をさらに補完するため、乳酸菌用MRS培地にて各菌株を純粋培養し、菌体ベースで各アミノ酸に対する脱炭酸活性を評価することにした。
2−1 使用菌株
表1に示した乳酸菌群を用いた。
2−2 乳酸菌体調製のための培養方法
乳酸菌を純粋培養するために、4 ml容バイアルとMRS液体培地を別々に121℃、20分オートクレーブし、冷却後、MRS液体培地4 mlをバイアルに分注した。滅菌したつまようじを用いて、固体 MRS 培地上にあらかじめ生育させた乳酸菌コロニー、又は冷凍保存液を一掻き取ったものをMRS液体培地の入ったバイアルに植菌し、30℃で2〜3日間培養した。この培養液のうち1.4 ml をマイクロチューブに移し取り、15,000 rpm にて 1 分間遠心し、上清を除去した。チューブ底部に集まった菌体を生理食塩水で再懸濁し、菌体を洗浄し、再び遠心し、上清液に残存する培地成分を除去し、以下の菌体懸濁液を調製した。
2−3 薄層クロマトグラフィーによるアミン生成活性の確認
洗浄した菌体を、次の反応用溶液に懸濁した。
50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、4 mM 2-メルカプトエタノール、 0.2 mM PLP(ピリドキサール 5’ -リン酸)、1 mMの基質となるアミノ酸(ヒスチジン、チロシン、又はグルタミン酸)。
30℃にて一晩反応させた後、遠心して上清を回収し、Merck 社製シリカゲル 60 プレートを用いた薄層クロマトグラフィーに供した。
上清1μlをシリカゲル60プレート上にスポットし、以下の展開溶媒を用いて展開を行った。
ヒスタミン→アセトン:10%アンモニア溶液=5:2
チラミン・GABA→ブタノール:酢酸:水=4:1:1
薄層プレートの長さの5分の4ほど展開したところでプレートを取り出して、熱風で乾燥させ、ニンヒドリン溶液(0.1g のニンヒドリンを 50 ml のエタノールに溶解したもの)に2〜3秒展開面を浸して、再び熱風で完全に乾燥させた。スポットを目視して、展開位置から対応するアミン類の生成を評価した。
2−4 活性の評価
各乳酸菌体の反応液の薄層クロマトグラフィーでの生成アミンの解析結果を表4に示す。ヒスタミン生成についてはBN1-2、SN1-8、ANP2-1の3株で活性が見られた他、GABA生成活性はAN1-1、SB21、AN1-5、AN2-2、AN3-5、AN4-5、ANP7-6、SB109の8株で見られた(表4)。チラミンの生成活性は、AN1-5、AN2-2、AN3-5、AN4-5、ANP7-6、SB109、DP8-7の7株で確認された。
表4に示すように、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子が存在するにもかかわらず、静止菌体反応でGABA生成活性が確認されないLactobacillus plantarum群9株及びL.brevis ANP1-4は、遺伝子発現量が極めて低いことが予想され、そのため細胞内の酵素量が少ない、さらにまた、静止菌体内で酵素の分解が起こり、活性が失われている可能性が考えられた。いずれにしても、本実施例はMRS培地において培養した菌体の洗浄後の静止菌体を用いてのGABA生成という限られた条件のもとで行ったものであり、発酵乳においては該菌株群を接種し、発酵したところ、GABAが生じていることから、菌体の生育条件によってGABA生成量が増減することが示唆された。
実施例3
乳酸菌スターターの接種による発酵乳中におけるヒスタミン・チラミン濃度の低減化
3−1 使用菌株
使用菌株は、表1に示した菌株から選抜した、以下の表5に示したものである。
3−2 乳酸菌共接種による発酵乳の作製
発酵乳の調製方法は、使用した乳酸菌を表5に示すものにした以外は、実施例1と同様の方法で行った。ただし、表5に示すそれぞれの菌株を単独接種して発酵させた発酵乳と、ヒスタミン生成菌(ANP2-1)及び非生成菌(AN3-2、ANP7-1又はLBK-2)を共接種して発酵させた発酵乳を調製し、共接種の際には各培養液の 600 nm における吸光度を測定して菌体濁度(濃度)を合わせ、同じ菌体濁度相当量がスターターとして投入されるように条件設定を行った。
3−3 発酵乳中のヒスタミン・チラミン生成量の測定
実施例1において記述したHPLC法に従った。
3−4 ヒスタミン生成量の低減化
実施例2より、乳酸菌にはヒスタミンやチラミンを多く生成するもの、GABAのみを生成するものなど、株によりアミン類の生成能に違いが見られることが分かった。そこで、有害アミンであるヒスタミンを生成しない株(ヒスタミン非生成株)をスターターとして接種することでヒスタミン生成を抑制することが出来ないかと考え、ヒスタミン生成菌と、ヒスタミン非生成株で、かつGABAのみを生成するLactobacillus plantarumとを同時に接種して発酵乳を作製し、ヒスタミン生成量に変化が見られるか否かを評価した。
ヒスタミン生成菌であるANP2-1と、ヒスタミン非生成菌のAN3-2を共接種して発酵乳を作製し、HPLCを用いてヒスタミン生成量を測定したものを図6に示す。図6中、四角(◆)は、ANP2-1を単独接種して調製した発酵乳中のヒスタミン濃度の経時変化であり、バツ(×)は、ANP2-1及びAN3-2を共接種して調製した発酵乳中のヒスタミン濃度の経時変化である。単独接種、共接種のいずれも、時間の経過と共にヒスタミン生成量が高くなることが分かった。しかし、共培養したものは100時間を経過した頃からヒスタミン生成量の増加が緩やかになっており、ANP2-1の単独培養より、AN3-2と共培養した発酵乳の方がヒスタミン生成量が抑制されている傾向が確認された。
ヒスタミン生成量が抑制された原因として、(1)Lactobacillus plantarumがヒスタミン生成菌の生育を抑制する、(2)Lactobacillus plantarumがヒスタミン分解能を持つ、(3)Lactobacillus plantarumがヒスタミン生成菌のヒスタミン生成能を阻害する、(4)基質であるヒスチジンを栄養素として奪い合うことによって結果としてヒスタミン生成量が減少する、以上の4つの可能性が考えられた。しかし、(2)及び(3)の可能性は考えにくく、(1)あるいは(4)の可能性が高い。
3−5 共接種によるヒスタミン生成菌の生菌数への影響
共接種によりヒスタミン生成量が減少したことが、(1)のヒスタミン生成菌の生育が抑制されたことに起因するか否かを確かめるために、以下の操作を行った。表5に記載した乳酸菌群を共接種して作製した発酵乳を106倍、107倍、108倍に希釈し、MRS寒天培地に1mlずつ撒き、30℃にて培養を行い、コロニーを形成させた。30℃にて2日間嫌気的に培養を行い、生育した各コロニーについて、コロニー形状から各菌種別に数をカウントした(Lactobacillus buchneri ANP2-1および Lactobacillus plantarumの各株は、コロニーの透明度、色、および大きさから、容易に判別できる)。
コロニーの目視で、L.buchneriであるか、L.plantarumであるかの判別は比較的容易ではあるが、念のため各菌株のプレート上に生育したコロニーの中から両者を判別する中で、無作為にいくつかのコロニーを選抜し、培養後、参考例1の方法でゲノムDNAを抽出した。このDNAを鋳型として、 16S rDNA特異的プライマー(配列番号1及び2)を用いて該遺伝子全長をPCRにより増幅し、0.8%アガロースゲルを用いた電気泳動により、DNA増幅を確認した後、QIAquick(登録商標)PCR purification kit (QIAGEN社) を使用して精製した。精製した DNA を鋳型として、参考施例1に記載した方法でシークエンス解析を行い、菌種を同定したところ、目視での判別通り、それぞれLactobacillus plantarum及び Lactobacillus buchneriに相違ないことが確認された。
固化直後に採取した発酵乳1g中のそれぞれの菌株の生菌数を測定したものを図7に示す。図7中、黒のバーはANP2-1の生菌数であり、白のバーは、Lactobacillus plantarumの生菌数を示す。ヒスタミン生成菌ANP2-1の単独培養の生菌数とヒスタミン非生成菌のLactobacillus plantarumのそれぞれの株(AN3-2、ANP7-1及びLBK-2)を共接種して作製した発酵乳((i) ANP2-1 + ANP7-1、(ii) ANP2-1 + AN3-2、及び(iii) ANP2-1 + LBK-2)では、ヒスタミン生成菌及びヒスタミン非生成菌の生菌数に大きな増減は見られなかった。
3−6 Lactobacillus plantarumによるヒスタミン生成抑制の確定的評価
同じ発酵乳中のヒスタミン濃度を測定したものを図8に示す。ANP2-1の単独接種の場合ではヒスタミン濃度が0.45 mMまで上昇したのに対し、共接種したものは0.1〜0.2 mMといずれも半分以下のヒスタミン濃度に抑えられていることが確認された。
上記の結果から、Lactobacillus plantarumのいずれの3株もヒスタミン生成菌のANP2-1の生育に影響を与えないが、同株のヒスタミン生成を抑制する効果を持つことが明らかになった。すなわち、(4)基質であるヒスチジンを栄養素として奪い合うことによって、結果としてヒスタミン生成量が減少する可能性が高いと考えられた。
また、実際的には発酵開始時にヒスタミン生成細菌が本実施例で行ったほど多量に含まれることはなく、様々な発酵原料にこれらLactobacillus plantarum群の菌株をスターターとして接種すれば、ヒスタミン・チラミンといった有害アミンの生成を抑えることが可能であることが分った。
本発明の発酵食品中の有害アミン(ヒスタミン及びチラミン)の生成を抑制する方法は有害アミンを含有する発酵食品等の改良に非常に有用なものである。すなわち、このような有害アミンを産生する乳酸菌と拮抗する有害アミン非産生乳酸菌やその培養物を使用することにより、有害アミン(ヒスタミン及びチラミン)を含有しない又は有害アミンの含有量が少ない発酵食品や医薬品、培養組成物等を製造することができる。また、これら石川県の伝統発酵食品より分離した有害アミン非産生乳酸菌をスターターとして接種して、かぶらずし、あじなれずし、ヨーグルト等の乳酸発酵食品の製造を行うことにより、おいしさとともに有害性が除去又は低減された乳酸発酵食品を提供することができる。さらには、該乳酸菌をスターターとして使用し、発酵食品を製造することで、発酵過程の管理が容易になるとともに、最終製品の安定性が増大し、有害性が低減される。

Claims (14)

  1. 乳酸発酵において、ヒスタミン及びチラミン非産生乳酸菌1種又は2種以上をスターターとして原料に接種して発酵させることにより、得られる発酵産物中のヒスタミン及び/又はチラミン含有量を低減させることを特徴とする乳酸発酵におけるアミン生成制御方法。
  2. 乳酸菌が、あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けからなる群より選択される少なくとも1種の発酵食品より分離された乳酸菌である請求項1に記載の方法。
  3. 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌である請求項1又は2に記載の方法。
  4. さらに、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有する乳酸菌又はその培養物を添加して発酵させることにより、発酵産物中のGABA含量を増加させる請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) AN3-2(受託番号:NITE P-1255)及び/又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)である請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. あじなれずし、ぶりなれずし、さばなれずし、うぐいなれずし、かぶらずし、大根ずし、及びうり糠漬けからなる群より選択される少なくとも1種の発酵食品より分離され、かつヒスタミン及びチラミンを生成しないことを特徴とする乳酸菌。
  7. 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する菌である請求項6に記載の乳酸菌。
  8. 乳酸菌が、L−グルタミン酸からγ−アミノ酪酸への変換能を有するものである請求項6又は7に記載の乳酸菌。
  9. 乳酸菌が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) AN3-2(受託番号:NITE P-1255)及び/又はラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) ANP7-1(受託番号:NITE P-1224)である請求項6〜8のいずれか1項に記載の乳酸菌。
  10. 請求項6〜9のいずれか一項に記載の乳酸菌を有効成分とする、乳酸発酵におけるヒスタミン及び/又はチラミン生成抑制剤。
  11. 請求項6〜9のいずれか一項に記載の乳酸菌の、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減された発酵食品製造のための使用。
  12. 請求項8に記載の乳酸菌の、ヒスタミン及び/又はチラミンが低減され、かつGABA含有量が増加した発酵食品製造のための使用。
  13. (I)乳酸菌から抽出したデオキシリボ核酸(DNA)を含む試料中のDNAを鋳型として、(i)配列番号3及び4に示されるプライマー対を用いて、ヒスチジン脱炭酸酵素遺伝子の断片をポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)法により増幅する、(ii)配列番号5及び6に示されるプライマー対を用いてチロシン脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、又は、(iii)配列番号7及び8、又は配列番号9及び10に示されるプライマー対を用いて、グルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の断片をPCR法により増幅する、の(i)〜(iii)のいずれかを行う工程、及び(II)該増幅された遺伝子断片を検出する工程を含むことを特徴とする乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子の検出方法。
  14. 配列番号3及び4に示されるプライマー対、配列番号5及び6に示されるプライマー対、配列番号7及び8に示されるプライマー対、及び配列番号9及び10に示されるプライマー対より選択される、乳酸菌におけるアミノ酸脱炭酸酵素遺伝子検出用のプライマー対。
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