JP2013195152A - 二次イオン質量分析装置及び二次イオン質量分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】バックサイドからの二次イオン測定のために行う基板の研磨による薄片化作業において、研磨面が試料面に対して傾くことに起因する深さ分解能の低下を改善する二次イオン質量分析技術を提供する。
【解決手段】本発明は、基板と該基板上の試料との界面に対し、背面が機械的に薄片化された基板の研磨面の傾きを測定し、基板の研磨面をイオンビームによってエッチングし、前記研磨面の傾きが前記界面に対して平行となるように補正し、補正後に、基板側からの二次イオンを測定することによって試料の深さ方向の元素分布を得ることを特徴とする。
【選択図】図18
【解決手段】本発明は、基板と該基板上の試料との界面に対し、背面が機械的に薄片化された基板の研磨面の傾きを測定し、基板の研磨面をイオンビームによってエッチングし、前記研磨面の傾きが前記界面に対して平行となるように補正し、補正後に、基板側からの二次イオンを測定することによって試料の深さ方向の元素分布を得ることを特徴とする。
【選択図】図18
Description
本発明は、二次イオン質量分析装置及び二次イオン質量分析方法に関する。
SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)は、加速した一次イオンを固体の試料表面に照射し、試料表面からスパッタリング現象によって放出される二次イオンを質量分析器で検出し、試料表面を構成している元素の情報を得ることを目的とする表面分析法である。SIMSは、その検出感度の高さから、半導体産業をはじめとして、様々な分野において広く活用されている。
一次イオンビームが試料表面に照射されると、試料表面では、入射した一次イオンと試料を構成している原子の間で、エネルギーと運動量の複雑なやり取りが発生し、その結果、試料の最表面から原子が空間に放出されるスパッタリング現象が発生する。スパッタリング現象によって空間に放出された原子のうちの一部は、イオン化して二次イオンとなる。二次イオンには様々な質量数のイオンが混ざっているので、質量分析器でこれらを質量数ごとに分離し、質量数ごとに単位時間あたりの二次イオンの検出個数、すなわち二次イオン信号強度を測定することとなる。
一次イオンビームを試料表面に照射し続けると、最表面部分を構成する原子はスパッタリング現象によって空間内へと放出され、試料表面は一次イオンビームによってエッチングされていく。そして、各元素の二次イオン信号強度は、試料の最表面部分における濃度に比例した強度を示すので、一次イオンビームによって試料をエッチングして掘り進みながら、深さとその深さにおける特定の元素の二次イオン信号強度の関係を測定していけば、試料を構成する元素の深さ方向の濃度の分布を知ることができる。
通常、基板(例えば、Si)上に薄膜層を有する試料では、薄膜側の試料表面から一次イオンビームを照射し、薄膜の最表面をエッチングしながら測定を行っている。
しかし、注目する元素の濃度が、深さとともに低くなって行くような場合、一次イオン照射によって、注目する原子が本来の位置よりも試料のより深い方へと打ち込まれるノッキングという現象が発生する。ノッキングが発生すると、その元素の分布は、真実の分布よりも測定時に試料のより深い方に移動して測定され、真実とは異なってしまう。このような現象は、母材中の不純物の拡散深さを求める場合に大きな影響をもたらす。
これに対し、分析対象の薄膜層を基板側からエッチングを進めながら測定する、いわゆるバックサイドSIMSの方法が一般に適用されている。このような基板側からエッチングを行うと、注目する原子は濃度の低い側からより高い側に向かってノッキングされることになり、測定される濃度分布への影響は非常に小さくなる。
しかしながら、バックサイドSIMSにおいては、基板と分析対象の薄膜の厚さの違いが問題となる。例えば、基板がSiウエハであって、その上に分析対象である薄膜が形成されている場合、一般的なSiウエハの厚さは、数百μmから1mm程度であるのに対し、分析対象の薄膜層の厚さは、通常、数十nm程度から数百nm程度であることが多い。このように、基板と薄膜の厚さの差が極めて大きいため、両者を同一の速度で連続してエッチングして掘り進みながら、薄膜部分の内部の組成分布を測定することは、極めて困難な作業となる。
バックサイドSIMSを行うにあたっては、事前に、機械的研磨によって薄くする作業が行われている。基板の研磨作業は、通常、研磨後の基板の残りの厚さが、1μm程度に薄くなるまで行われる。こうしたバックサイドSIMSのための試料加工を目的とした基板の研磨による薄片化については、従来、様々な検討がなされている。
しかしながら、基板の研磨作業にあたっては、研磨面が試料面に対して傾いてしまい、測定の深さ分解能が低下するという問題を抱える。従い、研磨面をどれだけ試料面に対して平行に形成できるかが、その後のバックサイドSIMSの深さ分解能を左右することとなる。
そこで、本発明では、バックサイドSIMS測定のために行う基板の研磨による薄片化作業において、研磨面が試料面に対して傾くことに起因する深さ分解能の低下を改善する二次イオン質量分析装置及び二次イオン質量分析方法を提供する。
発明の一つの態様は、基板と該基板上の試料との界面に対し、背面が機械的に薄片化された基板の研磨面の傾きを測定する傾き測定手段と、前記基板の研磨面をイオンビームによってエッチングし、前記研磨面の傾きが前記界面に対して平行となるように補正する補正手段と、前記補正手段による補正後に、前記基板側からの二次イオンを測定することによって前記試料の深さ方向の元素分布を得る元素分布測定手段と、を有することを特徴とする二次イオン質量分析装置に関する。
本発明によれば、基板を一次イオンビームによるエッチングで、基板を試料面に対して平行な向きを持った面に補正することによって、試料面に対して研磨面が傾いていたような場合においても、高分解能の深さ方向元素分布測定が可能となる。
以下、本発明の実施形態につき、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に適用される二次イオン測定法の概略図である。
まず、固体の試料1を、試料台2に載置して固定する。そして、一次イオンガン3から、試料1の表面に向けて一次イオンビーム4を照射する。この時、一次イオンガン3では、ガンの内部のイオン源で発生させた一次イオンを、数百eVから数千eVのエネルギーにまで電気的に加速する。一次イオンには、O2 +イオン(酸素イオン)やCs+イオン(セシウムイオン)などが用いられる。加速された一次イオンの流れは、何段階かの静電レンズを通過させることによって、空間的に収束されて細いビーム状となり、試料1の表面に照射される。試料1の表面に当たった一次イオンビーム4の直径は0.1μm乃至数μm程度にまで絞られている。
一次イオンビーム4が試料1の表面に照射されると、試料1の表面では、入射した一次イオンと試料1を構成している原子の間で、エネルギーと運動量の複雑なやり取りが発生し、その結果、試料1の最表面から、試料1を構成している原子が空間に放出されるスパッタリング現象が発生する。スパッタリング現象によって空間に放出された原子のうちの一部は、イオン化して二次イオン5となっている。二次イオン5は、空間内のあらゆる方向に向かって飛散するが、図1では、簡単のため、質量分析器6へと向かう二次イオン5の流れだけを矢印で示している。この二次イオン5を質量分析器6に取り込む。二次イオン5には、様々な質量数のイオンが混ざっているので、質量分析器6でこれらを質量数ごとに分離し、質量数ごとに単位時間あたりの二次イオンの検出個数、すなわち二次イオン信号強度を測定する。
一方、一次イオンビーム4を試料1の表面に照射し続けると、試料1の最表面部分を構成する原子は、スパッタリング現象によって空間内へと放出され失われるので、試料1の表面は一次イオンビーム4によってエッチングされていく。各元素の二次イオン信号強度は試料1の最表面部分における濃度に比例した強度を示すので、一次イオンビーム4によって試料1をエッチングして掘り進みながら、深さとその深さにおける特定の元素の二次イオン信号強度の関係を測定していけば、試料1を構成する元素の深さ方向の濃度の分布を知ることができる。
なお、図1では省略しているが、図1において示した機器と試料は、全て真空チャンバーの内部に収容されており、以上に説明したSIMSの測定は、真空ポンプによって高度に真空排気された環境において行われる。
また、図1に示した一次イオンガン3の内部には、一次イオンビーム4を挟むように配置され、一次イオンビーム4のイオンの流れに垂直な方向に電場を発生させることが可能な偏向電極が設置されている。発生させる電場の向きが互いに直交するような偏向電極が2組設けられ、これらの偏向電極によって生じる電場を制御することによって、一次イオンビーム4を自在に走査させることが可能となる。
SIMS測定では、高い深さ分解能を得ることを目的に、このような一次イオンガン3の内部の偏向電極を制御することにより、試料の表面に一次イオンビーム4を照射させる時に、一次イオンビーム4にラスタースキャンを行わせている。
図2に、一次イオンビーム4の標準的なラスタースキャンの動きを示す。図2は、一次イオンガン3から放出された一次イオンビーム4に垂直な面内における、一次イオンビーム4のラスタースキャンによる動きを示している。一次イオンビーム4は、縦・横の長さが等しい正方形のスキャン範囲7の内部において、始点8から出発して、スキャン範囲7の内側を一筆書きで漏れなく塗りつぶすように、軌跡9に沿って移動し、終点10に到達する。一次イオンビーム4は、終点10から始点8に戻り、その後は同じ運動を繰り返す。ラスタースキャンの間、軌跡9上での一次イオンビーム4の移動速度は、常に一定である。このため、スキャン範囲7の内側では、どの位置においても単位面積および単位時間当たりに通過する一次イオンの数は等しくなる。
SIMS測定では、通常、一次イオンビーム4を試料1の表面に対して斜めに入射させる。その理由の一つは、一次イオンを斜めに入射させた方が、入射させた一次イオンの数に対してより多くの試料原子がスパッタリングにより放出され、二次イオン5の信号強度が強くなり、感度の高い測定ができるためである。また、もう一つの理由は、一次イオンを斜めに入射させることにより、試料表面に侵入した一次イオンによって掻き乱される範囲の厚さが浅くなり、その結果、測定の深さ分解能が向上するためである。
図3は、一次イオンビーム4による試料1のエッチングが進行していく様子を、試料1の断面方向から示した図である。図2で説明したように、一次イオンビーム4は、スキャン範囲7の内部においてラスタースキャンされる。そのスキャン範囲7は、一次イオンビーム4に垂直な面内では正方形であるが、一次イオンビーム4を試料1の表面に斜めに入射させるため、試料1の表面で一次イオンビーム4が照射される範囲である一次イオン照射範囲11の形は長方形となる。
ラスタースキャンの間の一次イオンビーム4の移動速度は常に一定であるので、一次イオン照射範囲11の内部における一次イオンビーム4が試料1の表面に当たる点の移動速度も、常に一定である。このため、一次イオン照射範囲11の内部では、単位面積および単位時間当たりに試料1の表面に照射される一次イオンの数は一定となる。従い、一次イオン照射範囲11の内部では、試料1の表面を構成している原子がスパッタリングによって失われる数も単位面積および単位時間当たり均一となり、一次イオン照射範囲11の内部は、均一な速度でエッチングされる。
一次イオンビーム4による試料1のエッチングが開始されると、一次イオン照射範囲11の内部では均一な速度でエッチングが行われる。エッチングにより形成されるクレーター12の底の平坦なクレーター底部13は、元々の試料1の表面であった点線a0に対して常に平行な向きを維持したまま、a1、a2、a3、a4と、その深さを増して行く。
SIMS測定では、エッチングの進行とともにその深さを増して行くクレーター底部13から放出される二次イオン5を検出することによって、試料1の材料組成の深さ方向分布を測定する。図3に示したように、進行するエッチングのどの段階においても、クレーター底部13は試料1の表面に対して平行であり、クレーター底部13の内部の各点は試料1の表面からの深さが等しいため、深さ分解能の良い測定を行うことが可能となる。
ところで、SIMSによる測定の対象となる試料は、図4の(a)に示すような断面構造をしていることが多い。すなわち、試料1は、Siウエハなどの基板14の上に、様々な種類の薄膜15を積層させたものであり、薄膜15の内部がSIMSによる分析の対象となる。また、試料1は、(a)のような構造ではなく、基板14の片面の最表面部分に対して、イオン注入などの手法によって直接加工を施した物であることも多い。いずれの場合においても、試料1には、基板14の片側の面の最表面部分に、SIMSの分析対象となる層が存在している。
図4の(a)に示したような断面構造の試料1における薄膜15をSIMSで分析する場合には、通常は、図4(b)に示すように、試料の薄膜15が存在する側から一次イオンビームを照射し、薄膜15の最表面から矢印b1の向きにエッチングを進めながら、測定を行う。
しかし、矢印b1の向きにエッチングを行うと、特定の元素の深さ方向の濃度分布が正確に測定できない場合がある。例えば、注目する元素の濃度が、深さとともに低くなっていくような場合である。試料表面に一次イオンを照射すると、一次イオンによって、注目する原子が、本来の位置よりも試料のより深いほうへと打ち込まれるノッキングという現象が発生する。ノッキングが発生すると、その元素の分布は、真実の分布よりも、測定時にエッチングで掘り進んだ向きに、つまり、試料のより深いほうに移動したように測定され、真実とは異なった分布が得られてしまう。このような現象は、例えば、母材の中の不純物の拡散の深さを調査するような場合には、深刻な影響をもたらすことがある。
そこで、よく利用されるのが、図4の(c)に示すように、(b)とは逆の向きにエッチングを進めながら測定を行う方法である。すなわち、基板14をエッチングで掘り進め、分析対象の薄膜15を矢印b2の向きにエッチングを進めながら、測定する方法である。このような向きでエッチングを行えば、注目する原子は濃度の低い側からより高い側に向かってノッキングされるため、測定される濃度分布への影響は非常に小さくなり、より真実に近い濃度分布が得られるようになる。
このように、通常の向きとは逆に、基板側からエッチングを行いながらSIMSの測定を行う方法は、一般には、バックサイドSIMSと呼ばれることが多く、本明細書においても、以後、バックサイドSIMSという呼び方で統一することにする。
バックサイドSIMSを行うにあたっては、基板14と分析対象の薄膜15の間の厚さの違いが問題となる。
図5の(a)に、試料の断面を示す。例えば、基板14がSiウエハであって、その上に分析対象である薄膜15が形成されているものとする。一般的なSiウエハの厚さc1は、数百μmから1mm程度である。これに対して、SIMSの分析対象となる薄膜15の厚さc2は、通常、数十nm程度から数百nm程度であることが多い。このように、基板14と薄膜15の厚さの差が極めて大きいため、両者を同一の速度で連続してエッチングして掘り進みながら、薄膜15の部分の内部の組成分布を測定することは、極めて困難な作業となる。例えば、薄膜15の内部の組成分布を詳しく測定しようとしてエッチング速度を遅く設定すると、基板14のエッチングのために、非現実的な非常に長い時間を要することになってしまう。逆に、基板14を現実的な時間の中で掘り終えられるようなエッチング速度を設定すると、今度は薄膜15の部分のエッチングが一瞬で終わってしまい、薄膜15の部分での良好な深さ分解能は得られなくなる。
そこで、バックサイドSIMSを行うにあたっては、事前に、図5の(b)に示すように、基板14を矢印dの方向に研磨して薄くする作業が行われる。基板14の研磨作業は、通常、研磨後の基板14の残りの厚さc3が、1μm程度に薄くなるまで行われる。
このように、基板14の研磨作業では、研磨面17をどれだけ試料面16に対して平行に形成できるかが、その後のバックサイドSIMSの深さ分解能を左右することとなる。
図6は、研磨面17が試料面16に対して傾いて形成された場合における、バックサイドSIMSによるエッチングの進み方を、試料の断面方向から見た様子を示している。
なお、図6では、断面方向から試料を見た場合に、図5までとは上下を逆にし、基板14が薄膜15の上に描かれるようにしている。
図3を用いて説明したように、通常のSIMSの測定では、一次イオン照射範囲11すなわちクレーター底部13には一次イオンが均一に照射されるので、面内のエッチング速度はどの点においても等しい。クレーター底部13の深さの変化を示す直線a1、a2、a3、a4は、エッチングが始まる前の試料1の表面である直線a0に対して、全て平行な向きを維持している。
図3と同様に、図6の矢印fが示す向きに基板14のエッチングが進行し、エッチングによって形成されるクレーター底部13の深さが、エッチングの進行に伴って直線e1、e2、e3と変化する。これらのクレーター底部13の深さを示す直線は、いずれも、エッチングが始まる前の試料表面を示す直線e0、すなわち研磨面17に対して平行な向きを維持している。
従って、図6に示すように、研磨面17が試料面16に対して傾いている場合には、クレーター底部13の面は常に研磨面17に対して平行な向きを維持する。そして、エッチングが試料面16を超えて薄膜15の内部へと侵入すると、クレーター底部13が試料面16に対して傾いたまま、薄膜15の内部のエッチングが進行することになる。
試料面16に対してクレーター底部13の面が傾いているということは、同一のクレーター底部13の面内に、試料面16からの距離、すなわち試料面16からの深さが異なる点が共存していることを意味しており、クレーター底部13が試料面16に対して傾いていない場合に比べると、測定の深さ分解能が低下することになる。
以上述べてきたように、研磨という手法を用いる限り、その平行度の程度には限界があり、研磨面17の試料面16に対する傾きの発生は、バックサイドSIMS測定における測定の深さ分解能の低下をもたらす要因となっている。
そこで、本発明では、バックサイドSIMS測定で必須となる基板の薄片化作業において生じる研磨面の試料面に対する傾きを補正し、試料面に対して平行な向きの加工面を新たに形成するための手法を提供する。以下に、本発明の実施例を詳述する。
(実施例)
本実施例では、基板14の片側面にSIMSによる分析の対象となる薄膜15が形成されている構造の試料に対して、バックサイドSIMS測定を行うことを想定する。そして、図6に示したように、バックサイドSIMS測定のために行う基板14の研磨による薄片化作業において、研磨によって新たに形成された基板14の表面である研磨面17が、基板14と薄膜15の界面である試料面16に対して傾いて形成された場合において、深さ分解能の高いバックサイドSIMS測定を実施するための方法について、説明する。
本実施例におけるバックサイドSIMS測定は、連続して行う3つの作業工程に分かれている。すなわち、
(A)研磨面17に対して試料面16がどの方向に傾いているかを正確に測定し、その向きを研磨面17の面内のベクトルで表現する作業。
(B)前作業工程で測定された研磨面17に対して試料面16が傾いている方向を踏まえて、研磨面17に対してイオンビームを照射して基板14をエッチングし、試料面16に対して平行な向きを持った平面を新たに形成する作業。
(C)前作業工程で形成された試料面16に対して平行な向きを持った平面からエッチングを出発させて、従来と同じ方法によるSIMS測定を行って、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行う作業。
の3段階の作業工程である。
本実施例では、基板14の片側面にSIMSによる分析の対象となる薄膜15が形成されている構造の試料に対して、バックサイドSIMS測定を行うことを想定する。そして、図6に示したように、バックサイドSIMS測定のために行う基板14の研磨による薄片化作業において、研磨によって新たに形成された基板14の表面である研磨面17が、基板14と薄膜15の界面である試料面16に対して傾いて形成された場合において、深さ分解能の高いバックサイドSIMS測定を実施するための方法について、説明する。
本実施例におけるバックサイドSIMS測定は、連続して行う3つの作業工程に分かれている。すなわち、
(A)研磨面17に対して試料面16がどの方向に傾いているかを正確に測定し、その向きを研磨面17の面内のベクトルで表現する作業。
(B)前作業工程で測定された研磨面17に対して試料面16が傾いている方向を踏まえて、研磨面17に対してイオンビームを照射して基板14をエッチングし、試料面16に対して平行な向きを持った平面を新たに形成する作業。
(C)前作業工程で形成された試料面16に対して平行な向きを持った平面からエッチングを出発させて、従来と同じ方法によるSIMS測定を行って、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行う作業。
の3段階の作業工程である。
これらの各作業工程の詳細について、以下に説明する。
(A)研磨面17と試料面16の傾きの方向を測定する作業
図7は、本発明の実施の形態になる二次イオン測定エリアとエリア近傍外側における基板厚さ測定位置を示している。
(A)研磨面17と試料面16の傾きの方向を測定する作業
図7は、本発明の実施の形態になる二次イオン測定エリアとエリア近傍外側における基板厚さ測定位置を示している。
まず、研磨面17上において、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行うおおよその位置を決定する。図7は、研磨による薄片化作業が終了したあとの研磨面17を見た図である。本実施例では、図7に点線で示した正方形の測定エリア18の内側で、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行うこととした。
測定エリア18が決まったら、次に、測定エリア18の外側の、少なくとも3ヶ所の位置において、その位置における基板14の厚さを把握するための測定を行う。この測定を行う点である基板厚さ測定点19は、本実施例では、図7に示した第1点から第3点までの3点とした。これらの点を、順にP1、P2、P3とする。
以下に、それぞれの基板厚さ測定点19において行う作業について説明する。
図8は、本発明の実施の形態になる基板厚さ測定点における垂直孔の形成を示す。基板厚さ測定点19の位置において行う一次イオンビーム4によるエッチングを、断面方向から見た様子を示している。
研磨面17上で基板厚さ測定点19の位置を決めたら、その位置に向けて、一次イオンビーム4を、ラスタースキャンさせることなく、研磨面17に対して垂直な向きに照射し続ける。収束された一次イオンビーム4が研磨面17上の1点に照射されるので、その位置には、図8に示すような、研磨面17に対して垂直な細長い穴、垂直孔20が形成される。この作業において研磨面17に照射する一次イオンビーム4は、薄膜15の内部の深さ方向組成分析を行う時に照射する一次イオンビーム4と同一の条件で照射しても構わない。なお、垂直孔20の直径は、通常、数μmから十数μm程度となる。
図9は、本発明の実施の形態になる垂直孔形成時における試料の傾斜角度の設定を示す。通常のSIMS装置では、図1に示した試料1を載置した試料台2は、試料1の表面への一次イオンビーム4の入射角度が変えられるよう、その傾斜角度を自在に変えられるようになっている。図8に示した垂直孔20を形成する場合には、図9に示すように、一次イオンビーム4が試料1の表面、すなわち研磨面17に対して垂直に入射するように試料台2の傾斜角度を設定した上で、一次イオンビーム4を照射すればよい。
垂直孔20は、一次イオンビーム4の照射を始めると、時間の経過とともに次第にその深さを増して行き、やがてその先端は試料面16を突破し、薄膜15へと到達する。一次イオンビーム4が基板14の内部を薄膜15に向かって掘り進む速度、すなわち、垂直孔20の先端の移動速度は、一次イオンビーム4を一定の条件で照射し続ける限り、一定である。
垂直孔20のエッチングの間には、主として垂直孔20の先端部分において、入射した一次イオンによる試料原子のスパッタリングが生じており、スパッタリングにより放出された二次イオン5は、研磨面17に開口している垂直孔20の開口部から周囲の空間へと飛散する。ここで、垂直孔20のエッチングを進めながら、並行して、質量分析器6を使用して、基板14を構成する元素のうちの最も主要な元素であり、かつ、薄膜15には含まれていない元素の二次イオン強度を測定する。ここでは仮にそのイオン種をXとする。ここで言う二次イオン強度とは、質量分析器6によって単位時間当たりに検出されるイオン種Xの個数である。
図10は、垂直孔20のエッチングを行っている間の、一次イオンビーム4の照射開始からの経過時間と、イオン種Xの二次イオン強度の関係を示したグラフである。エッチングが基板14の内部を掘り進んで、垂直孔20の先端が基板14の内部にある間は、Xの二次イオン強度は、ほぼ一定の強度を維持したまま推移する。しかし、エッチングが試料面16を突破して薄膜15の内部に到達すると、その瞬間に、Xの二次イオン強度は大きく減衰する。一次イオンビーム4の照射開始から、エッチングが薄膜15に到達するまでの所要時間をtとする。
一次イオンビーム4による垂直孔20のエッチングは一定の速度で進行するので、垂直孔20のエッチングが薄膜15に到達するまでの所要時間tは、基板厚さ測定点19の位置における、基板14の厚さdに比例する値を示す。時刻tにおいて、Xの二次イオン強度は非常に大きな減衰を示し、多くの場合は3桁ないし4桁以上の幅の落ち方をするので、Xの二次イオン強度を監視することによってtの値は容易に計測することが可能である。
以上のように、一つの基板厚さ測定点19において、一次イオンビーム4により垂直孔20のエッチングを行い、並行して基板14だけに含まれる基板14の主要な構成元素のイオン種Xの二次イオン強度を測定することにより、その位置における基板14の厚さdに比例したエッチング所要時間tの値が得られる。
このような、基板厚さ測定点19において時間tを測定する作業を、図7に示した第1点、第2点、第3点の3つの基板厚さ測定点19、すなわちP1、P2、P3において、それぞれ行う。3つの内のどの点においても垂直孔20のエッチングが等しい速度で掘り進められるように、3つの基板厚さ測定点19での垂直孔20のエッチングは、一次イオンビーム4の照射条件を同一にして行う。その結果、3つの各点の位置における、基板14の厚さd1、d2、d3に比例したエッチング所要時間tがそれぞれ得られる。これらの値をそれぞれ、t1、t2、t3とする。ここで、垂直孔20のエッチングに適用した一次イオンビーム4の照射条件における、基板14のエッチング速度をkとすると、kは常に一定であり、かつ、P1、P2、P3の各点におけるエッチングに共通の値であるから、d1=k・t1、d2=k・t2、d3=k・t3の関係が成り立つ。
次に、3つの基板厚さ測定点19、すなわちP1、P2、P3における測定で得られた基板14のエッチング所要時間t1、t2、t3から、研磨面17に対する試料面16の傾きの方向を求める作業を行う。
図11は、本発明の実施の形態になる研磨面上の点と試料面上の点の位置関係を表す。図11は、研磨面17及び試料面16の空間的な位置関係を斜め上の方向から透視した図である。
P1、P2、P3は、基板厚さ測定点19であり、これらはすべて研磨面17上にある点である。また、図7と同様に点線で示された測定エリア18もまた、研磨面17上に設定された領域である。本実施例では、P1、P2、P3の各点から、図8で示したように、一次イオンビーム4を基板14に対して垂直に入射させ、垂直孔20を形成するエッチングを行う。基板14のエッチングが進行して、垂直孔20の先端は、やがて試料面16を突破して薄膜15へと到達する。ここで、P1、P2、P3の各点から掘り進んだ垂直孔20が試料面16と交わる点を、それぞれ、Q1、Q2、Q3とする。
研磨面17に対して垂直な直線に沿った位置関係にある2点間の距離、すなわち、P1とQ1の間の距離、P2とQ2の間の距離、P3とQ3の間の距離は、いずれもその位置における基板14の厚さであり、それぞれ、d1、d2、d3である。
ここで、研磨面17の面内にx座標軸とy座標軸を持つ直行座標系21を導入し、3つの座標の成分(x、y、z)により、Q1、Q2、Q3の3点の座標を記述することを考える。
まず、研磨面17上にある3点、P1、P2、P3の座標は、それぞれ、
P1(x1、y1、0)
P2(x2、y2、0)
P3(x3、y3、0)
と表現することができる。3点のx座標およびy座標の値は、研磨面17上のどの位置に基板厚さ測定点19を設けるかによって、作業者が自ら設定することが可能な値である。
P1(x1、y1、0)
P2(x2、y2、0)
P3(x3、y3、0)
と表現することができる。3点のx座標およびy座標の値は、研磨面17上のどの位置に基板厚さ測定点19を設けるかによって、作業者が自ら設定することが可能な値である。
一方、試料面16上にあるこれらの3点に対応する3点、Q1、Q2、Q3の座標は、
Q1(x1、y1、−d1)
Q2(x2、y2、−d2)
Q3(x3、y3、−d3)
となる。
Q1(x1、y1、−d1)
Q2(x2、y2、−d2)
Q3(x3、y3、−d3)
となる。
さらに、先ほどの関係から、垂直孔20のエッチング速度kを用いて、
Q1(x1、y1、−kt1)
Q2(x2、y2、−kt2)
Q3(x3、y3、−kt3)
と表現される。
Q1(x1、y1、−kt1)
Q2(x2、y2、−kt2)
Q3(x3、y3、−kt3)
と表現される。
試料面16上の3点、Q1、Q2、Q3の座標が明らかになれば、試料面16は完全に決定され、試料面16の法線ベクトルの各成分の値を、直行座標系21において記述することができる。
図12は、本発明の実施の形態になる研磨面に対する試料面の傾き方向の測定方法を示す。図12は、試料面16が研磨面17に対して傾いている場合の、直行座標系21と、試料面の法線ベクトル22の空間的な位置関係を示している。
先に定義したように、研磨面17と、直行座標系21のxy面は、同一の平面である。また、直行座標系21のz軸は、研磨面17の法線ベクトルと平行である。試料面16が研磨面17に対して傾いていると、両者の法線ベクトルは互いに平行ではないので、図12に示したように、試料面の法線ベクトル22は、直行座標系21のz軸の向きとは異なる向きを指すことになる。
ところで、本作業工程における目的は、研磨面17に対して試料面16がどの方向に傾いているかを正確に測定し、その向きを研磨面17の面内のベクトルで表現することである。これは、試料面16の法線ベクトル22を、直行座標系21のxy面に、すなわち、研磨面17上に射影し、図12に矢印Dで示した傾斜方向ベクトル23を得ることと同じである。そのためには、試料面の法線ベクトル22を直行座標系21で表現した時の、x座標とy座標の値が得られればよいことがわかる。
ここで、試料面16上の3点、Q1、Q2、Q3の座標の成分、
Q1(x1、y1、−kt1)
Q2(x2、y2、−kt2)
Q3(x3、y3、−kt3)
から、試料面16の法線ベクトル22の成分を求めると、そのx座標およびy座標の表式には、垂直孔20のエッチング速度kが含まれないことがわかる。一方、z座標の表式にはkが含まれるが、傾斜方向ベクトル23の決定にはz座標の値は不要であり、敢えて垂直孔20のエッチング速度kを知る必要はない。
Q1(x1、y1、−kt1)
Q2(x2、y2、−kt2)
Q3(x3、y3、−kt3)
から、試料面16の法線ベクトル22の成分を求めると、そのx座標およびy座標の表式には、垂直孔20のエッチング速度kが含まれないことがわかる。一方、z座標の表式にはkが含まれるが、傾斜方向ベクトル23の決定にはz座標の値は不要であり、敢えて垂直孔20のエッチング速度kを知る必要はない。
以上述べたように、
まず、研磨面17上において測定エリア18を設定する。
まず、研磨面17上において測定エリア18を設定する。
次に、その測定エリア18の周囲を囲むように、少なくとも3つの基板厚さ測定点19の位置を決め、P1(x1、y1)、P2(x2、y2)、P3(x3、y3)のようにその座標を設定する。
そして、これらのP1、P2、P3の各点において、一次イオンビーム4により基板14に垂直孔20を形成するエッチングを行い、各点において、基板14をエッチングし終えるまでの所要時間t1、t2、t3を測定する。その結果、これらの値、x1、y1、x2、y2、x3、y3、t1、t2、t3を用いて、簡単な演算により、研磨面17に対して試料面16がどの方向に傾いているかを示す研磨面17面内のベクトルである傾斜方向ベクトル23を決定することができる。
(B)試料面16に対して平行な向きを持つ平面を形成する作業
図7に示した測定エリア18の内側において、基板14のエッチングを行い、試料面16に対して平行な向きを持つ新たな平面を加工する作業を行う。その方法について、以下に説明する。
(B)試料面16に対して平行な向きを持つ平面を形成する作業
図7に示した測定エリア18の内側において、基板14のエッチングを行い、試料面16に対して平行な向きを持つ新たな平面を加工する作業を行う。その方法について、以下に説明する。
SIMS測定において通常行われる試料のエッチングでは、図2及び図3に説明したように、スキャン範囲7の内側におけるラスタースキャンの間、一次イオンビーム4の移動速度は常に一定に保たれる。その結果、一次イオン照射範囲11の内部では、単位面積及び単位時間当たりに照射される一次イオンの数は一定となり、一次イオン照射範囲の内部は均一な速度でエッチングされる。そして、エッチングの進行のどの段階においても、クレーター底部13の平面は、エッチング開始前の試料1の表面に対して平行な向きを保ち続ける。
本実施例では、ラスタースキャンの間の一次イオンビーム4の移動速度を、スキャン範囲7の内側の場所に応じて、意図的に変化させる。その結果、これに伴って、一次イオンビーム4が試料1の表面に当たる点の移動速度も変化することになる。
本実施例における一次イオンビーム4のラスタースキャンの様子を、図13を用いて説明する。
図13(a)は、一次イオン照射範囲11を研磨面側から見た図である。一次イオンビーム4にラスタースキャンさせることにより、一次イオン照射範囲である正方形PQRSの内部において、一次イオンビーム4が試料1の表面に当たる点である照射点24が、軌跡25に沿って運動する。説明のために、この平面内に、辺SRに平行な向きにx軸を、また、辺SPに平行な向きにy軸を設けている。
ここで、一次イオンビーム4の照射点24が試料1の表面で移動する速度と、試料1のスパッタリングによるエッチング速度の関係について考える。例えば、照射点24の移動速度を大きくすると、照射点24が試料1の表面の特定の点に滞在する時間が短くなるので、その点において単位面積および単位時間当たりに照射される一次イオンの数は減少する。このため、試料1の表面を構成している原子がスパッタリングによって失われる数も、単位面積および単位時間当たりでは減少する。その結果、試料1の表面の一次イオンビーム4によるエッチングの速度が小さくなる。このように、一次イオンビーム4の照射点24が試料1の表面で移動する速度を変化させることにより、試料1のエッチング速度を制御することが可能となる。
本実施例では、照射点24のx軸方向の移動速度を、y軸方向の位置の変化とともに、直線的に変化させる。すなわち、図13の(b)に示すように、照射点24がx軸方向に移動する速度を、y軸上での位置がy1からy2まで変化する間に直線的に増加させる。これに伴って、試料1の表面のエッチング速度は、y軸上での位置がy1からy2まで変化する間に、直線的に減少することになる。
このように、同一の一次イオン照射範囲11の内部で、試料1の表面のエッチング速度が特定の方向に沿って直線的に変化している場合について、エッチングが進行する過程を断面方向から観察した様子を次の図14に示す。
図14は、本発明の実施の形態になるエッチング速度が面内で直線的に変化する場合のエッチングの進行の様子を示す。図14は、図13(a)においてx軸に垂直な面で形成した断面図である。ここでは、図13(b)に示したように、基板14のエッチング速度は、y軸上での位置がy1からy2まで変化する間に直線的に小さくなっている。
エッチング速度がこのような分布を持った状態で基板14のエッチングが開始されると、矢印hが示す向きに基板14のエッチングが進行し、エッチングによって形成されるクレーター底部13の深さがエッチングの進行に伴って直線g1、g2、g3と変化する。
これらのクレーター底部13の深さを示す直線は、エッチングが始まる前の試料表面を示す直線g0、すなわち研磨面17に対して平行ではなく、エッチングの進行とともに、y軸上の位置がy1により近い位置ほどより深くなるように、クレーター底部13の傾きが増して行く。つまり、エッチングの進行とともに、クレーター底部13が次第に研磨面17に対して傾いて行くようなエッチングが進行する。このような、エッチングの進行に伴ってクレーター底部13の傾斜が増して行くようなエッチングを、ここでは傾斜エッチングと呼ぶことにする。
傾斜エッチングを利用すれば、図14に示すように、始めは試料面16に対して傾いていた研磨面17からエッチングを出発させて、エッチングの進行とともに次第にクレーター底部13の傾きが増すように基板14を掘り進み、クレーター底部13が丁度試料面16に対して平行な向きとなった時に傾斜エッチングを終了させれば、直線g3で示されるような、試料面16と平行な向きを持つ新たな加工面を基板14に形成することが可能となる。
(C)薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行う作業
図14における直線g3のような、試料面16に対して平行な向きを持つ加工面を、基板14に一度形成できれば、あとはこの加工面を出発点として、図2及び図3を用いて説明した従来と同じ方法になるSIMS測定を行うことによって、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布を、より高い深さ分解能で測定することが可能となる。
(C)薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定を行う作業
図14における直線g3のような、試料面16に対して平行な向きを持つ加工面を、基板14に一度形成できれば、あとはこの加工面を出発点として、図2及び図3を用いて説明した従来と同じ方法になるSIMS測定を行うことによって、薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布を、より高い深さ分解能で測定することが可能となる。
次に、本実施例によりバックサイドSIMS測定を行う場合の測定の全体の流れについて、他の構成要素を具体的に補足しながら説明する。
図15は、本発明の実施の形態になる測定エリアと傾斜エッチングの範囲を説明する図である。図15は、測定エリア18と、その内側で行われる傾斜エッチングの範囲27の位置関係を示したものであり、研磨面17の側から試料を見た図である。
本実施例では、まず、研磨面17上において、図15に点線で示した測定エリア18を設定する。本実施例では、測定エリア18は、1辺の長さが1.5mmの正方形の領域とした。なお、測定エリア18の大きさや形状には特に制限はない。但し、測定エリア18の内側では傾斜エッチングが行われ、さらにその内側で薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定のためのエッチングが行われるので、測定エリア18には、これらの作業に支障のない程度の大きさや形状を予め設定しておくことが必要である。
測定エリア18を設定したら、その外側に、3つの基板厚さ測定点19、すなわち、P1、P2、P3を設定する。どの位置に基板厚さ測定点19の3つの点を設定するかについては、特に制限はない。しかし、研磨面17が局所的には平面であっても、巨視的には研磨によって大きく湾曲していることがある。
このため、測定エリア18の内部での研磨面17に対する試料面16の傾きの向きをできるだけ正確に把握し、次の作業工程において、できるだけ試料面16に対して平行な加工面を形成するためにも、測定エリア18の外側であり、かつ、できるだけ測定エリア18に近い位置で、基板厚さ測定点19を設定することが望ましい。また、どの方向にも正確な傾斜の把握ができるよう、測定エリア18の周囲を囲むように、3つの点を互いにできるだけ離すように設定するとよい。本実施例では、図15に示した位置に、3つの基板厚さ測定点19を配置しており、いずれも測定エリア18の範囲を示す点線から、100μmだけ離れた位置としている。
一方、基板厚さ測定点19の数については、少なくとも3点あれば、平面を決定するための要件を満足でき、本作業工程での目的は達することができる。また、基板厚さ測定点19の点数を多くしても、試料面16の傾きの測定精度が高くなるわけではなく、かえって作業工数を増やし、処理の煩雑さを招いてしまう。従って、基板厚さ測定点19は、適切な位置を選んで3ヶ所設定すればよい。
3つの基板厚さ測定点19、すなわち、P1、P2、P3のそれぞれにおいて、先に説明したように、一次イオンビーム4による垂直孔20を形成するエッチングを行い、基板14を垂直孔20が貫通するまでの所要時間t1、t2、t3を測定する作業が行われる。そして、これらの値はP1、P2、P3の座標の成分の値とともに演算に用いられ、その結果、研磨面17に対して試料面16がどの方向に傾いているかを指し示す研磨面17上のベクトル、傾斜方向ベクトル23が得られる。
図15に矢印Dで示した傾斜方向ベクトル23は、図12における傾斜方向ベクトル23(矢印D)に相当するものである。図12から、矢印Dは、基板14が厚くなっていく向きを研磨面17上で指し示していることがわかる。
研磨面17に対して試料面16が傾いている向きが明らかになったので、次に、基板14に対して先に説明した傾斜エッチングを行い、試料面16と平行な向きを持つ新たな加工面を形成する作業にかかる。
まず、測定エリア18の内部において、傾斜エッチングの範囲27を設定する。図15に示した傾斜エッチングの範囲27は、図13(a)に示した一次イオン照射範囲11に相当し、同じ記号を使って正方形PQRSで表記されている。この時、傾斜エッチングの範囲27において、エッチング速度が直線的に大きくなっていく向きを、傾斜方向ベクトル23の向きに厳密に一致させる。つまり、図15では、矢印Dが、エッチング速度が最も小さい辺SRからエッチング速度が最も大きい辺PQに向かう向きを指し示すように、正方形PQRSの向きを合わせ、また、辺PSおよび辺QRが矢印Dの向きと完全に平行になるようにする。本実施例では、傾斜エッチングの範囲27は、1辺の長さが1mmの正方形の領域とした。
研磨面17上で傾斜エッチングの範囲27が図15のように決定されたら、この領域において、図13に説明したようなラスタースキャンをさせながら一次イオンビーム4を照射し、研磨面17の傾斜エッチングを開始する。なお、傾斜エッチングは、材料組成の深さ方向分布の測定が目的ではなく、あくまでも基板14を加工することが目的である。このため、一次イオンビーム4を研磨面17に斜めに入射させてエッチングを行う必要はなく、本実施例では、試料1を載置した試料台2の傾斜を図9のように設定して、一次イオンビーム4を研磨面17に対して垂直に入射させている。
傾斜エッチングの進行とともに、傾斜エッチングによるクレーター底部28は、研磨面17の向きに対して徐々にその傾きを増して行くが、その一方で、試料面16の向きに対しては、徐々にその傾きは小さくなっていく。本実施例では、傾斜エッチングの進行の途上で、傾斜エッチングによるクレーター底部28の試料面16に対する傾きの変化を繰り返し測定する。そして、両者が平行になったところで傾斜エッチングを打ち切ることにより、試料面16に対して平行な向きを持つ傾斜エッチングによるクレーター底部28を形成している。以下、さらに、具体的な加工方法について述べる。
まず、傾斜エッチングを一定時間行い、傾斜エッチングによるクレーター底部28の傾きが一定量変化したところで、傾斜エッチングを一度中断する。ここで傾斜エッチングを継続した時間をTdとする。そして、傾斜エッチングによるクレーター底部28内の2つの傾斜判定点26、すなわちi1とj1において、図8から図10で説明したものとまったく同じ方法により、垂直孔20のエッチングを行って、エッチングが基板14を貫通するのに要する時間をそれぞれ測定する。そして、基板14のエッチングの所要時間をi1とj1とで比較する。
i1は、傾斜エッチングによるクレーター底部28の中でもできるだけ辺PQに近い位置に設定し、一方j1は、辺SRに近い位置に設定する。そして、i1とj1を結ぶ点線k1は、傾斜方向ベクトル23と完全に平行になるようにする。傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16は、点線k1の方向にのみ傾いているので、点線k1上の2点で、垂直孔20のエッチングが基板14を貫通するのに要する時間の大小関係、すなわち基板14の厚さの大小関係を判定することにより、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16とが互いに傾いているかどうかを判定できる。
最初の傾斜判定点26の組、i1とj1において、垂直孔20のエッチングが基板14を貫くのに要した時間を比較した結果、まだi1での基板14の厚さがj1よりも厚いことがわかった。そこで、傾斜エッチングを再開させた。
再び時間Tdにわたって傾斜エッチングを行ったのち、傾斜エッチングを中断させ、今度は、先ほどのi1・j1とは場所をわずか移動させたところに、新たな傾斜判定点26の組、i2・j2を設定し、同様に、垂直孔20のエッチングが基板14を貫くのに要した時間を比較した。i2とj2とを結ぶ点線k2もまた、傾斜方向ベクトル23と平行である。その結果、まだi2での基板14の厚さがj2よりも厚いことがわかった。そこで、傾斜エッチングを再開させた。
再び時間Tdにわたって傾斜エッチングを行ったのち、新たな傾斜判定点26の組、i3・j3において同様の判定を行った。今度は、i3での基板14の厚さがj3よりも薄くなり、基板14の厚さの大小関係がそれまでとは逆転したことがわかった。傾斜エッチングを適切なところで停止させて、傾斜エッチングによるクレーター底部28が試料面16に対して平行になるようにしたかったが、傾斜エッチングが進み過ぎて、傾斜エッチングによるクレーター底部28が、試料面16に対してそれまでとは反対の向きに傾いてしまったものと考えられる。
そこで、ここからは、一次イオン照射範囲11の内部における傾斜エッチングで傾きが増して行く向きを、それまでとは逆にすることとした。すなわち、図13(b)に示したy軸上での位置とエッチング速度の関係をy軸上で反転させた。
このようなエッチング速度の設定にしてから、傾斜エッチングを再開させたが、今度は傾斜エッチングを継続させる時間をそれまでよりも短縮し、時間0.1×Tdで傾斜エッチングを打ち切った。新たな傾斜判定点26の組、i4・j4で基板14の厚さを比較したところ、今度は、2点での基板14の厚さが一致した。傾斜エッチングによるクレーター底部28が、試料面16に対して平行になり、この部分では、基板14の残りの厚さが均一になったものと考えられる。
以上のように、試料面16に対して平行な向きを持つ、傾斜エッチングによるクレーター底部28が形成できたので、ここで傾斜エッチングによる基板14の加工作業は完了とした。
このように、傾斜エッチングにおいてエッチング速度が変化する向きを変えたり、継続して行う1回の傾斜エッチングで傾斜エッチングによるクレーター底部28の傾きが変化する程度を変えたりしながら、できるだけ効率良く傾斜エッチングによるクレーター底部28の向きを、試料面16に対して平行な向きに近付けられるよう、適切な手順を踏むことが必要であり、これらの作業の流れが一連のプログラムにまとめられ、自動的に処理されることが望ましい。
なお、継続して行う1回の傾斜エッチングで傾斜エッチングによるクレーター底部28の傾きが変化する程度を変えるには、ここに示した例のように、継続して傾斜エッチングを行う時間Tdを変えてもよいし、その他、例えば、図13(b)に示したy座標上の位置とエッチング速度の関係を表すグラフで、直線的に変化するエッチング速度の勾配を変化させてもよい。
また、傾斜エッチングによるクレーター底部28の内部における、傾斜判定点26の位置については、この後に行われる薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分布の測定のためのエッチングの支障にならないよう、傾斜エッチングの範囲27の正方形PQRSの内側において、できるだけ辺PQおよび辺SRに近い位置に等間隔で並べて配置するのがよい。本実施例では、傾斜判定点26は、辺PQあるいは辺SRから50μmだけ離れた線上で、互いに50μmずつ間隔を置いて配置するようにした。
こうして、試料面16に対して平行な向きを持った傾斜エッチングによるクレーター底部28を形成することができた。基板14に新たに加工されたこの平面を、測定開始面29とする。測定開始面29は試料面16に対して平行な向きを持っているので、この測定開始面29を開始点として、図3に説明したような、一次イオン照射範囲11の内部で均一な速度で進行するエッチングを行いながら薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分析を行えば、研磨面17が試料面16に対して傾いていても、高い深さ分解能で測定を行うことが可能となる。
図16は、本発明の実施の形態になる二次イオンの測定開始面と組成分析範囲を説明する図である。図16は、傾斜エッチングにより形成された測定開始面29と、その内部における組成分析範囲30の位置関係を示している。
図16の例では、測定開始面29の法線に対して60度の角度を成すように一次イオンビーム4を斜めに入射させて、1辺の長さ200μmの正方形のラスタースキャンを行わせたことにより、200μm×400μmの長方形のクレーターが形成された様子が示されている。この組成分析範囲30の位置のクレーター内部において、測定開始面29に対して平行な向きを持つクレーター底部13を形成しながら、エッチングが進められ、薄膜15の内部の組成分析が行われる。
図17には、測定開始面29を出発点として行う薄膜15の内部の材料組成の深さ方向分析の様子を、断面方向から見た様子を示す。
なお、測定開始面29の面内はどの位置でも試料面16とは平行な向きになっているので、傾斜判定点26の位置に形成された垂直孔20を避けさえすれば、測定開始面29内の自由な位置および向きでも材料組成の深さ方向分析を行うことができる。
次に、本実施例の装置の構成について説明する。
図18は、本実施例によるバックサイドSIMS測定を実現するための測定装置内部の機構の概略を示している。
測定者は、操作盤(表示画面)31を操作することにより、測定装置に対して様々な測定動作の指示を与える。また、操作盤(表示画面)31は、測定装置の運転状況についての様々な情報や測定結果を画面に表示し、測定者に伝える。
操作盤(表示画面)31を介して測定装置に与えられた指示は、まず、主制御部32に伝えられる。主制御部32は、測定装置全体の動作を制御する中心的な部分であり、制御用プログラムを動作させるためのCPUとデータを格納するための補助記憶装置を備えている。主制御部32は、測定装置内部の各部分に対して動作の指示を与えるとともに、各部分から戻された情報を処理する。
通常の材料組成の深さ方向分析では、まず、主制御部32が、与えられた条件に従って一次イオンガン3に一次イオンビーム4を照射させるとともに、偏向電極制御部33に指示を出し、一次イオンガン3の内部に設置された偏向電極を動作させて、一次イオンビーム4に指定した広さでのラスタースキャンを行わせる。
主制御部32は、引き出し電極制御部34に指示し、質量分析器6に付属する引き出し電極を動作させ、試料1からスパッタリングによって放出された二次イオン5を質量分析器6の内部に取り込む。
質量分析器6の内部は、大きく質量分離器35とイオン検出器36とに分けられる。質量分析器6に取り込まれた二次イオン5は、まず、質量分離器35によって処理される。質量分析器6に取り込まれた二次イオン5は、様々な質量数の二次イオンが一緒になった状態であるが、これらは質量分離器35の動作によってフルイにかけられ、注目する特定の質量数の二次イオンのみが、イオン検出器36に送り込まれる。
イオン検出器36は、二次イオンを捕獲するごとにパルス状の電気信号を発生させる。この信号は、イオン強度計測部37へと送られ、単位時間当たりの信号数、すなわち、単位時間当たりに検出された二次イオンの数が計測される。このようにして得られた単位時間当たりの検出二次イオン数が、二次イオン信号強度として扱われる。
各々の時刻における二次イオン信号強度の値は、記録処理部38において、測定開始からの経過時間、すなわち、エッチング開始からの経過時間との組にされ、主制御部32に送られて記録される。二次イオン信号強度は、その質量数の元素の濃度に比例しているので、エッチング開始からの経過時間と二次イオン信号強度の関係をプロットすれば、測定中のその質量数の元素の深さ方向の濃度分布が得られる。
また、質量分析器6では、同時に一つの質量数の二次イオン信号強度しか計測できないが、質量分離器35を通過させる二次イオンの質量数の設定を、短い時間で区切って変化させて、複数の異なる質量数について二次イオン信号強度を交互に計測すること繰り返すことによって、並行して複数の元素の深さ方向の濃度分布を測定することができる。
一次イオンビーム4のラスタースキャン中の動作は、すべて偏向電極制御部33によって制御される。この時の一次イオンビーム4の動作のさせ方によって、一次イオン照射範囲11の内部で均一な速度で進行する通常のSIMS測定におけるエッチングを行わせるか、あるいは、特定の向きに沿って直線的にエッチング速度が変化するような傾斜エッチングを行わせるかを、切り替えることができる。
一方、垂直孔20を形成するエッチングを行い、基板14を貫通するのに要する時間を計測することにより、傾斜方向ベクトル23Dを決定したり、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の傾きを判定したりするためには、基板14を構成する元素のうちの最も主要な元素により構成される特定のイオン種Xの二次イオン強度の挙動を監視する必要がある。
まず、偏向電極制御部33に指示を出し、一次イオンビーム4にラスタースキャンを行わせず、試料1の表面の1点にのみ、一次イオンビーム4を照射し続けるようにする。また、質量分析器6およびイオン強度計測部37では、イオン種Xのみについて二次イオン強度を計測し続け、時間計測部39へとその値を送る。時間計測部39では、一次イオンビーム4の照射開始からイオン種Xの二次イオン強度が大きく減衰するまでの所要時間、すなわち基板14を垂直孔20のエッチングで貫通するのに要した時間を計測し、その値を傾斜演算部40へと送る。傾斜演算部40では、この所要時間の値を元に、場合に応じた処理が行われる。傾斜方向ベクトル23を決定する段階では、エッチング所要時間と、対応する3つの基板厚さ測定点19の座標情報とを合わせて演算を行い、傾斜方向ベクトル23の向きを決定する。一方、傾斜エッチングの途上では、2つの傾斜判定点26の間での基板14の残りの厚さの大小関係の判定が行われる。
図19は、本発明の実施の形態になるバックサイドSIMSにおける深さ方向組成分析の測定フローを示す。
測定を開始するにあたり、まず、測定者によって、測定エリア18の設定が行われる(ステップS11)。なお、このステップS11において、測定者の手によって、3点の基板厚さ測定点19の位置を設定してもよいが、測定者が測定エリア18を設定したことにより、一定の手続きによって、自動的に基板厚さ測定点19の位置が設定されるようにしてもよい。図19のフローでは、基板厚さ測定点19の位置は、システムによって自動的に設定されるものとする。
次に、3つの基板厚さ測定点19のそれぞれにおいて、同一条件で垂直孔20のエッチングが行われ、垂直孔20が基板14を貫通するまでの所要時間が計測される(ステップS12)。
そして、3つの基板厚さ測定点19での基板14のエッチング所要時間をもとに、システム内部での演算により傾斜方向ベクトル23が自動的に決定される(ステップS13)。
傾斜方向ベクトル23が決まったら、その向きに合わせて、傾斜エッチングの範囲27の設定を行う。なお、ここでも、算出された傾斜方向ベクトル23の向きと、測定エリア18の設定を踏まえて、傾斜エッチングの範囲27もシステムによって自動的に設定されるようにしてもよい(ステップS14)。
ここから先の処理は、傾斜エッチングを実行する段階へと移る。
まず、設定された傾斜エッチングの範囲27において、一定の条件のもとで、単位プロセスに相当する傾斜エッチングが行われる。傾斜エッチングは、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の傾きの関係を判定しつつ、両者が平行になるまで中断をはさみながら進めて行く。そのような中断と中断の間で一定の条件のもとで連続して行うエッチングのことを、ここでは単位プロセスと呼ぶ。単位プロセスの間は、傾斜エッチングの、傾斜が変化していく向きとその速さは一定に保たれる(ステップS15)。
次に、傾斜エッチングの単位プロセスが終わると、その時点での、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の傾きの関係を判定する作業が行われる。すなわち、2つの傾斜判定点26において、垂直孔20のエッチングが行われ、垂直孔20が基板14を貫通するまでの所要時間が計測される(ステップS16)。
なお、2つの傾斜判定点26の位置は、傾斜エッチングの範囲27が設定されたことにより、一定の手続きによって、自動的に設定されるようにしてもよい。図19のフローでは、傾斜判定点26の位置は、システムによって自動的に設定されるものとする。
ここで、2つの傾斜判定点26における基板14のエッチング所要時間を比較した結果により、フローの処理が分かれる(ステップS17)。
傾斜エッチングによるクレーター底部28が、試料面16に対して平行になったと判定された場合に、試料面16に対して平行な向きを持つ測定開始面29の加工は完了となり、これ以上の傾斜エッチングの必要はないので処理を先に進め、組成分析を実行することになる。
傾斜エッチングによるクレーター底部28が、試料面16に対して平行ではないと判定された場合には、さらにここでフローの処理が分かれる(ステップS18)。
直前に実行された傾斜エッチングの単位プロセスによっても、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の間の傾きの向きに変化がなく、引き続き同じ方向への傾斜エッチングの追加が必要と判断された場合には、次に行うことになる傾斜エッチングの単位プロセスにおいても、傾斜変化の向きと速さの変更を行う必要はない。そこで、そのまま処理をステップS15の前に戻し、再び同じ条件で傾斜エッチングの新たな単位プロセスを行うことになる。
一方、直前に実行された傾斜エッチングの単位プロセスの結果、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の間の傾きが、それまでとは逆の向きになった場合には、最後の傾斜エッチングの単位プロセスによって過剰な傾斜エッチングが行われたことになる。したがって、次の傾斜エッチングの単位プロセスでは、傾斜の向きを逆に戻すような方向の傾斜エッチングを行わなければならない。このため、次の単位プロセスの実行の前に、傾斜エッチングの条件の変更が必要となる。
そこで、傾斜エッチングの次の単位プロセスでの、傾斜変化の向きと速さを変更する処理を行う(ステップS19)。
そして、処理をステップS15の前に戻し、変更した新たな条件のもとで、傾斜エッチングの新たな単位プロセスを行うことになる。
このようにして、傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の間の傾きがなくなり、両者が平行な向きになるまで、傾斜エッチングを単位プロセスごとに繰り返す。
傾斜エッチングによるクレーター底部28と試料面16の間の傾きがなくなり、試料面16に対して平行な向きを持つ測定開始面29の加工が完了したら、測定開始面29のどの位置で薄膜15の組成分析を行うか、その範囲を設定するとともに、組成分析の測定条件の設定を行う(ステップS20)。
そして、設定した条件のもとで、測定開始面29からエッチングを出発させ、通常のSIMS測定による薄膜15の内部の深さ方向組成分析を実行する(ステップS21)。
以上で、本実施例による一連の薄膜15の内部の深さ方向組成分析が完了する。
上述した本発明により、エッチングの進行とともにクレーター底部の平面の傾きが変化するようなエッチングを行うことにより、そのクレーター底部の平面を、試料面と平行にすることができる。したがって、試料面に対して研磨面が傾いていたような場合においても、基板をエッチングすることにより、試料面に対して平行な向きを持った面を加工することが可能となる。このような試料面に対して平行な向きを持った加工面から通常のSIMS測定を開始することによって、分析対象の薄膜の内部に試料面に対して平行な向きを持ったクレーター底部を形成しながらエッチングを進めることができ、深さ分解能の高い材料組成の深さ方向分布の測定が可能となる。
次に、本実施例の効果を確認するための実験を行った。
図20は、本発明の効果を確認するための測定に使用した試料の断面構造を示す。
本試料は、厚さ約700μmのSi基板上に分子線エピタキシ法により形成されたもので、厚さ10nmのSi層をはさんで、ボロンをデルタドープ(極薄層内に高濃度ドープ)した層が何層にも重ねられている構造を成している。なお、デルタドープ層におけるボロン原子の面密度は、5×1013atoms/cm2である。
次に、この試料のSi基板を、研磨によって厚さ約1μmまで薄くする作業を行った。
本試料のボロンのデルタドープ層が繰り返し現れる部分について、ボロンの深さ方向の濃度分布を、Si基板側から、つまり、バックサイドSIMS測定によって測定した。
まず、本実施例を適用することなく、研磨終了後のSi基板表面を出発点として、測定を行った。一次イオンには酸素イオン(O2 +イオン)を用い、加速エネルギーは1keVとした。また、一次イオンビームの試料表面への入射角度は0度、すなわち、試料表面に対して垂直に入射させて測定を行った。測定時の一次イオンビームのラスタースキャンは、200×200μmの正方形の領域で行った。クレーターの側壁部分から放出される二次イオンが計測され、深さ分解能が低下することを防止するため、クレーター底部のうちの中央の9%の面積から放出された二次イオンだけを有効データとして計測した。ボロンの二次イオン強度の測定は、11B+イオンの強度を測定することにより行った。その結果を図21(a)に示す。
次に、図21(a)の二次イオン強度分布が得られた試料と同一の試料に対し、本実施例を適用した上で、同様の測定を行った。図21(a)の分布を測定した位置からわずかに離れた位置において、1×1mmの正方形の領域で傾斜エッチングを行い、測定開始面を形成した。形成された測定開始面から出発して、図21(a)を測定した時と全く同一の条件でボロンの深さ方向の濃度分布を測定した。その結果を図21(b)に示す。
図21は、実施例の適用が深さ方向プロファイルに及ぼす効果を示す。
図21において(a)と(b)を比較すると、どちらも、10nmの間隔で、周期的にボロンの二次イオン強度の高い点が現れているが、本実施例を適用して測定した(b)の方が、ボロンの二次イオン強度の山と谷の強度比が大きく測定されていることが分かる。これは、本実施例を適用したことにより測定の深さ分解能が向上したことを示している。
以上、本発明によれば、試料の材料組成の深さ方向分布を、バックサイドSIMS測定により基板側からエッチングを進行させて測定するにあたって、基板の研磨による薄片化作業の過程で、研磨面が試料面に対して傾いてしまうことに起因する問題が解消され、より分解能の高い深さ方向分布を測定することが可能となる。
本発明は、二次イオン質量分析技術の分野に関する。
1 試料
2 試料台
3 一次イオンガン
4 一次イオンビーム
5 二次イオン
6 質量分析器
7 スキャン範囲
8 始点
9 軌跡
10 終点
11 一次イオン照射範囲
12 クレーター
13 クレーター底部
14 基板
15 薄膜
16 試料面
17 研磨面
18 測定エリア
19 基板厚さ測定点
20 垂直孔
21 直交座標系
22 試料面の法線ベクトル
23 傾斜方向ベクトルD
24 照射点
25 軌跡
26 傾斜判定点
27 傾斜エッチングの範囲
28 傾斜エッチングによるクレーター底部
29 測定開始面
30 組成分析範囲
31 操作盤
32 主制御部
33 偏向電極制御部
34 引出し電極制御部
35 質量分離器
36 イオン検出器
37 イオン強度計測部
38 記録処理部
39 時間計測部
40 傾斜演算部
2 試料台
3 一次イオンガン
4 一次イオンビーム
5 二次イオン
6 質量分析器
7 スキャン範囲
8 始点
9 軌跡
10 終点
11 一次イオン照射範囲
12 クレーター
13 クレーター底部
14 基板
15 薄膜
16 試料面
17 研磨面
18 測定エリア
19 基板厚さ測定点
20 垂直孔
21 直交座標系
22 試料面の法線ベクトル
23 傾斜方向ベクトルD
24 照射点
25 軌跡
26 傾斜判定点
27 傾斜エッチングの範囲
28 傾斜エッチングによるクレーター底部
29 測定開始面
30 組成分析範囲
31 操作盤
32 主制御部
33 偏向電極制御部
34 引出し電極制御部
35 質量分離器
36 イオン検出器
37 イオン強度計測部
38 記録処理部
39 時間計測部
40 傾斜演算部
Claims (4)
- 基板と該基板上の試料との界面に対し、背面が機械的に薄片化された基板の研磨面の傾きを測定する傾き測定手段と、
前記基板の研磨面をイオンビームによってエッチングし、前記研磨面の傾きが前記界面に対して平行となるように補正する補正手段と、
前記補正手段による補正後に、前記基板側からの二次イオンを測定することによって前記試料の深さ方向の元素分布を得る元素分布測定手段と、
を有することを特徴とする二次イオン質量分析装置。 - 前記傾き測定手段は、前記試料の少なくとも3つの異なる位置において、前記基板の研磨面に対して垂直な向きに照射した前記イオンビームによるエッチングが前記基板を貫通するのに要する時間を計測し、前記基板の最表面と、基板と試料の界面の間の傾きの向きを算出すること特徴とする請求項1に記載の二次イオン質量分析装置。
- 前記補正手段は、前記イオンビームのラスタースキャンにおいて、前記イオンビームの移動速度を特定の方向に沿って直線的に変化させることを特徴とする請求項1または2に記載の二次イオン質量分析装置。
- 基板と該基板上の試料との界面に対し、背面が機械的に薄片化された基板の研磨面の傾きを測定する傾き測定工程と、
前記基板の研磨面をイオンビームによってエッチングしながら前記試料と該基板と試料の界面の間の傾きが平行となるように補正する補正工程と、
前記基板側からの二次イオンを測定することによって前記試料の深さ方向の元素分布を得る元素分布測定工程と、
を有することを特徴とする二次イオン質量分析方法。
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JP2012060790A JP2013195152A (ja) | 2012-03-16 | 2012-03-16 | 二次イオン質量分析装置及び二次イオン質量分析方法 |
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-
2012
- 2012-03-16 JP JP2012060790A patent/JP2013195152A/ja active Pending
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