JP2013191607A - 希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法 - Google Patents

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Tomohiro Omure
智弘 大牟礼
Takashi Ozaki
孝志 尾崎
Keisuke Taihaku
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Abstract

【課題】焼結後の磁石内にNdカーバイドが生成されることを防止し、その結果、磁石特性の低下を防止することが可能となった希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、合金インゴットを粉砕することによって磁石粉末を作製し、作製された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド12を生成する。そして、生成したコンパウンド12をシート状に成形したグリーンシート14を作製する。その後、成形したグリーンシート14の磁場配向を行い、更に、グリーンシート14を非酸化性雰囲気下において200℃〜900℃で数時間保持することにより仮焼処理を行う。続いて、グリーンシート14を焼成温度で焼結することにより永久磁石1を製造する。
【選択図】図3

Description

本発明は、希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法に関する。
近年、ハイブリッドカーやハードディスクドライブ等に使用される永久磁石モータでは、小型軽量化、高出力化、高効率化が要求されている。そこで、上記永久磁石モータの小型軽量化、高出力化、高効率化を実現するに当たって、モータに埋設される永久磁石について、薄膜化と更なる磁気特性の向上が求められている。
ここで、永久磁石モータに用いられる永久磁石の製造方法としては、従来より粉末焼結法が一般的に用いられる。ここで、粉末焼結法は、先ず原材料をジェットミル(乾式粉砕)等により粉砕した磁石粉末を製造する。その後、その磁石粉末を型に入れて、外部から磁場を印加しながら所望の形状にプレス成形する。そして、所望形状に成形された固形状の磁石粉末を所定温度(例えばNd−Fe−B系磁石では1100℃)で焼結することにより製造する。
しかしながら、上記した粉末焼結法により永久磁石を製造することとすると、以下の問題点があった。即ち、粉末焼結法では磁場配向させる為にプレス成形した磁石粉末に一定の空隙率を確保する必要がある。そして、一定の空隙率を有する磁石粉末を焼結すると、焼結の際に生じる収縮を均一に行わせることが難しく、焼結後に反りや凹みなどの変形が生じる。また、磁石粉末のプレス時に圧力むらが生じることから、焼結後の磁石の疎密ができて磁石表面に歪みが発生する。従って、従来では予め磁石表面に歪みができることを想定し、所望する形状より大きめのサイズで磁石粉末を圧縮成形する必要があった。そして、焼結後にダイヤモンド切削研磨作業を行い、所望の形状へと修正する加工を行っていた。その結果、製造工程が増加するとともに、製造される永久磁石の品質が低下する虞もあった。
また、特に薄膜磁石を上述したように大きめのサイズのバルク体から切り出すことにより製造することとすると、著しい材料歩留まりの低下が生じていた。また、加工工数が大きく増加する問題も生じていた。
そこで、上記問題を解決する手段として、例えば、特開2009−224670号公報には、磁石粉末とバインダーとを混練することによってグリーンシートを作製し、作製されたグリーンシートを焼結することにより永久磁石を製造する技術が提案されている。
特開2009−224670号公報(第5頁、第6頁)
しかしながら、上記特許文献1のように磁石粉末をグリーンシート化して焼結することとすると、焼結時の磁石内にバインダーに含まれる炭素原子を含む炭素含有物が残留することとなる。脱炭工程として焼結前に永久磁石の仮焼処理等を行うことも考えられるが、仮焼処理を行ったとしても、それらの炭素含有物を完全に除去することは難しい。
ここで、特にNd−Fe−B系希土類磁石ではNdと炭素との反応性が非常に高い(即ち、炭化物を生成する際の生成自由エネルギーが低い)ため、焼結工程において高温まで炭素含有物が残ると、Ndカーバイドを形成する。その結果、形成されたカーバイドによって焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙が生じ、磁石全体を緻密に焼結できずに磁気性能が著しく低下する問題があった。また、空隙が生じなかった場合でも、Ndカーバイドが形成されることによって化学量論組成に対して希土類元素が不足する状態となり、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出し、磁石特性を大きく低下させる問題があった。
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、グリーンシートを形成する為に混合されるバインダー等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止し、その結果、磁石特性の低下を防止することが可能となった希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る希土類永久磁石は、Nd系の希土類永久磁石であって、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を作製する工程と、前記磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、前記混合物をシート状に成形し、グリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートを焼結する工程と、により製造されることを特徴とする。
また、請求項2に係る希土類永久磁石は、請求項1に記載の希土類永久磁石であって、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属として、Nb、Ti又はZrを用いることを特徴とする。
また、請求項3に係る希土類永久磁石は、請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石であって、前記磁石粉末を作製する工程では、前記磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする。
また、請求項4に係る希土類永久磁石は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の希土類永久磁石であって、前記グリーンシートを焼結する前に、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することを特徴とする。
また、請求項5に係る希土類永久磁石は、請求項4に記載の希土類永久磁石であって、前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することにより前記バインダーを飛散させて除去することを特徴とする。
また、請求項6に係る希土類永久磁石は、請求項4又は請求項5に記載の希土類永久磁石であって、前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することにより仮焼することを特徴とする。
また、請求項7に係る希土類永久磁石は、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の希土類永久磁石であって、前記磁石粉末を作製する工程では、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、前記合金インゴットを粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする。
また、請求項8に係る希土類永久磁石は、請求項7に記載の希土類永久磁石であって、前記合金インゴットは、ストリップキャスト法により製造することを特徴とする。
また、請求項9に係る希土類永久磁石の製造方法は、Nd系の希土類永久磁石であって、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を作製する工程と、前記磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、前記混合物をシート状に成形し、グリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートを焼結する工程と、を有することを特徴とする。
また、請求項10に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法であって、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属として、Nb、Ti又はZrを用いることを特徴とする。
また、請求項11に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項9又は請求項10に記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記磁石粉末を作製する工程では、前記磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする。
また、請求項12に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記グリーンシートを焼結する前に、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することを特徴とする。
また、請求項13に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項12に記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することにより前記バインダーを飛散させて除去することを特徴とする。
また、請求項14に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項12又は請求項13に記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することにより仮焼することを特徴とする。
また、請求項15に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項9乃至請求項14のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記磁石粉末を作製する工程では、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、前記合金インゴットを粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする。
更に、請求項16に係る希土類永久磁石の製造方法は、請求項15に記載の希土類永久磁石の製造方法であって、前記合金インゴットは、ストリップキャスト法により製造することを特徴とする。
前記構成を有する請求項1に記載の希土類永久磁石によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、グリーンシートを形成する為に混合されるバインダー等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。その結果、希土類元素が不足してαFeが析出されることを防止し、磁石特性の低下についても防止することが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとを混合し、成形したグリーンシートを焼結した磁石により永久磁石を構成するので、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
また、請求項2に記載の希土類永久磁石によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低いNb、Ti又はZrを磁石原料に含ませることによって、焼結する際に磁石中に炭素が含まれていた場合であっても、含まれる炭素をNdよりもNb、Ti又はZrと優先的に結合させることが可能となる。その結果、焼結後の磁石内にNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
また、請求項3に記載の希土類永久磁石によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、湿式粉砕に用いられる有機溶媒等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
また、請求項4に記載の希土類永久磁石によれば、グリーンシートを焼結する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。
また、仮焼処理によって磁石内に含有する炭素が完全に除去できない場合であっても、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含むので、仮焼処理との組合せによってNdカーバイドが生成されることをより確実に防止することが可能となる。
また、請求項5に記載の希土類永久磁石によれば、グリーンシートを焼結する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持する仮焼処理を行うことにより、バインダーを飛散させて除去するので、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。
また、仮焼処理によってバインダーが完全に除去できない場合であっても、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含むので、仮焼処理との組合せによってNdカーバイドが生成されることをより確実に防止することが可能となる。
また、請求項6に記載の希土類永久磁石によれば、グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素をメタンとして排出することが可能となり、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
また、請求項7に記載の希土類永久磁石によれば、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、製造された合金インゴットを粉砕することによって磁石粉末を作製するので、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を容易に作製することが可能となる。
また、請求項8に記載の希土類永久磁石によれば、合金インゴットをストリップキャスト法により製造するので、初晶のFeの析出を防げるだけでなく、合金組成を化学量論組成に近づけて主相の体積分率を高めることができ、更に、合金インゴット内のNdリッチ相を均一に分散できる。
また、請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、グリーンシートを形成する為に混合されるバインダー等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。その結果、希土類元素が不足してαFeが析出されることを防止し、磁石特性の低下についても防止することが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとを混合し、成形したグリーンシートを焼結することによって永久磁石を製造するので、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石を成形可能となる。また、永久磁石を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
また、請求項10に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低いNb、Ti又はZrを磁石原料に含ませることによって、焼結する際に磁石中に炭素が含まれていた場合であっても、含まれる炭素をNdよりもNb、Ti又はZrと優先的に結合させることが可能となる。その結果、焼結後の磁石内にNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
また、請求項11に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、湿式粉砕に用いた有機溶媒等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
また、請求項12に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、グリーンシートを焼結する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。
また、仮焼処理によって磁石内に含有する炭素が完全に除去できない場合であっても、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含むので、仮焼処理との組合せによってNdカーバイドが生成されることをより確実に防止することが可能となる。
また、請求項13に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、グリーンシートを焼結する前に、グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持する仮焼処理を行うことにより、バインダーを飛散させて除去するので、磁石内に含有する炭素量を予め低減させることができる。
また、仮焼処理によってバインダーが完全に除去できない場合であっても、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含むので、仮焼処理との組合せによってNdカーバイドが生成されることをより確実に防止することが可能となる。
また、請求項14に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素をメタンとして排出することが可能となり、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
また、請求項15に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、製造された合金インゴットを粉砕することによって磁石粉末を作製するので、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を容易に作製することが可能となる。
更に、請求項16に記載の希土類永久磁石の製造方法によれば、合金インゴットをストリップキャスト法により製造するので、初晶のFeの析出を防げるだけでなく、合金組成を化学量論組成に近づけて主相の体積分率を高めることができ、更に、合金インゴット内のNdリッチ相を均一に分散できる。
本発明に係る永久磁石を示した全体図である。 本発明に係る永久磁石の粒界付近を拡大して示した模式図である。 本発明に係る永久磁石の製造工程を示した説明図である。 本発明に係る永久磁石の製造工程の内、特にグリーンシートの成形工程を示した説明図である。 本発明に係る永久磁石の製造工程の内、特にグリーンシートの加熱工程及び磁場配向工程を示した説明図である。 グリーンシートの面内垂直方向に磁場を配向する例について示した図である。 熱媒体(シリコーンオイル)を用いた加熱装置について説明した図である。 本発明に係る永久磁石の製造工程の内、特にグリーンシートの加圧焼結工程を示した説明図である。
以下、本発明に係る希土類永久磁石及び希土類永久磁石の製造方法について具体化した一実施形態について以下に図面を参照しつつ詳細に説明する。
[永久磁石の構成]
先ず、本発明に係る永久磁石1の構成について説明する。図1は本発明に係る永久磁石1を示した全体図である。尚、図1に示す永久磁石1は扇型形状を備えるが、永久磁石1の形状は打ち抜き形状によって変化する。
本発明に係る永久磁石1はNd−Fe−B系の異方性磁石である。尚、各成分の含有量はNd:27〜40wt%、B:0.8〜2wt%、Fe(電解鉄):60〜70wt%とする。また、磁気特性向上の為、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Si、Ga、Nb、Ti、Zr、V、Pr、Mo、Zr、Ta、Ti、W、Ag、Bi、Zn、Mg等の他元素を少量含んでも良い。図1は本実施形態に係る永久磁石1を示した全体図である。
また、図2に示すように、永久磁石1は磁化作用に寄与する磁性相である主相2と、主相2の粒界に存在し、非磁性で希土類元素の濃縮した低融点のNdリッチ相3とが共存する合金である。図2は永久磁石1を構成するNd磁石結晶粒子を拡大して示した図である。
ここで、主相2は化学量論組成であるNdFe14B金属間化合物相(Ndは部分的にDyやTbで置換しても良い。Feは部分的にCoで置換しても良い)が高い体積割合を占めた状態となる。一方、Ndリッチ相3は同じく化学量論組成であるNdFe14BよりNdの組成比率が多い金属間化合物相(例えば、Nd2.0〜3.0Fe14B金属間化合物相)からなる。
また、Nd−Fe−B系磁石の製造において生じる問題として、希土類元素であるNdが炭素と反応してNdカーバイドを生成することが挙げられる。ここで、Nd−Fe−B系希土類磁石ではNdと炭素との反応性が非常に高い(即ち、炭化物を生成する際の生成自由エネルギーが低い)ため、焼結工程において高温まで炭素含有物が残ると、Ndカーバイドを形成する。その結果、形成されたカーバイドによって焼結後の磁石の主相と粒界相との間に空隙が生じ、磁石全体を緻密に焼結できずに磁気性能が著しく低下する問題があった。また、空隙が生じなかった場合でも、Ndカーバイドが形成されることによって化学量論組成に対して希土類元素が不足する状態となり、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出し、磁石特性を大きく低下させる問題があった。
ここで、αFeは、変形能を有し、粉砕されずに粉砕機中に残存するため、合金を粉砕する際の粉砕効率を低下させるだけでなく、粉砕前後での組成変動、粒度分布にも影響を及ぼす。さらに、αFeが、焼結後も磁石中に残存すれば、磁石の磁気特性の低下をもたらす。
また、特に磁石原料を微小粒径の磁石粉末へと粉砕する為に、有機溶媒に投入された磁石原料を有機溶媒中で粉砕する所謂湿式粉砕を行うこととすれば、後に真空乾燥等を行うことによって有機溶媒を揮発させたとしても有機溶媒等の有機化合物が磁石内に残留することとなる。その結果、上記Ndカーバイドが生成される問題がより大きくなる。
更に、磁石粉末とバインダーとが混合された混合物(スラリーやコンパウンド)からシート状に成形された成形体(グリーンシート)を焼結することによって永久磁石を製造する場合には、後述の仮焼処理を行った場合でもバインダーを完全に除去することができず、有機化合物が磁石内に残留することとなる。その結果、湿式粉砕を行う場合と同様に上記Ndカーバイドが生成される問題がより大きくなる。
そこで、本発明ではNdよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属(以下、炭化容易金属という)を磁石原料に含ませることによって、有機溶媒やカーバイド等の有機化合物が永久磁石内に残留していた場合であっても、焼結後の磁石内にNdカーバイドが生成されることを防止する。尚、炭化容易金属としては、例えばNb、Ti、Zr等が有る。また、炭化容易金属としてはNdに加えてFeやBよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属であることが望ましい。それによって、FeやBの炭化物が生成されることも防止することが可能である。
そして、本発明では、磁石原料に炭化容易金属を微量(例えば0.5〜3wt%)に添加することによって、焼結工程まで有機化合物が残っていたとしても、炭素はNdよりも炭化容易金属と優先的に結合するので、Ndカーバイドが生成されることを抑制することが可能となる。その結果、化学量論組成に対して希土類元素が不足することなく、焼結後の永久磁石1中にαFeが生成されることを抑制することが可能となる。
尚、焼結工程において炭素と結合した炭化容易金属は、図2に示すように主相2とNdリッチ相3の間に炭化物(例えばNbC、TiC、ZrC)4として点在することとなる。尚、炭化物4が点在しても、Ndカーバイドが生成される場合と比較すると永久磁石1の磁気性能に大きな影響は与えない。
また、主相2の結晶粒径は0.1μm〜5.0μmとすることが望ましい。また、Ndリッチ相3の厚さは1nm〜500nm、好ましくは2nm〜200nmとする。その結果、結晶粒全体としては(すなわち、焼結磁石全体としては)、コアのNdFe14B金属間化合物相が高い体積割合を占めた状態となる。それにより、その磁石の残留磁束密度(外部磁場の強さを0にしたときの磁束密度)の低下を抑制することができる。尚、主相2とNdリッチ相3の構成は、例えばSEM、FIB/SEMシステム、TEM、3次元アトムプローブ法により確認することができる。
また、Ndリッチ相3とともに粒界に磁気異方性の高いDy又はTbを含めれば、DyやTbが粒界の逆磁区の生成を抑制することで、保磁力の向上が可能となる。
また、Ndリッチ相3とともに粒界に高融点金属であるV、Mo、Zr、Ta、Ti、W又はNbを含めれば、永久磁石1の焼結時においてNd結晶粒子の平均粒径が増加する所謂粒成長を抑制することが可能となる。
また、Ndリッチ相3とともに粒界にCu又はAlを含めれば、Ndリッチ相3を均一に分散することが可能となる。
また、Ndリッチ相3とともに粒界にAg、Ga、Co、Bi、Zn又はMgを含めれば、粒界制御又は粒成長抑制による保磁力向上等の永久磁石の磁気性能を向上させる効果が期待できる。
ここで、永久磁石1は例えば0.05mm〜10mm(例えば1mm)の厚さを備えた薄膜状の永久磁石である。そして、後述のように圧粉成形により成形された成形体や磁石粉末とバインダーとが混合された混合物(スラリーやコンパウンド)からシート状に成形された成形体(グリーンシート)を焼結することによって作製される。
また、本発明では特にグリーンシート成形により永久磁石1を製造する場合において、磁石粉末に混合されるバインダーは、樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。
更に、バインダーに樹脂を用いる場合には、構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーを用いるのが好ましい。また、後述のようにホットメルト成形によりグリーンシートを成形する場合には、成形されたグリーンシートを加熱して軟化した状態で磁場配向を行う為に、熱可塑性樹脂が用いられる。具体的には以下の一般式(1)に示されるモノマーから選ばれる1種又は2種以上の重合体又は共重合体からなるポリマーが該当する。
Figure 2013191607
(但し、R1及びR2は、水素原子、低級アルキル基、フェニル基又はビニル基を表す)
上記条件に該当するポリマーとしては、例えばイソブチレンの重合体であるポリイソブチレン(PIB)、イソプレンの重合体であるポリイソプレン(イソプレンゴム、IR)、1,3−ブタジエンの重合体であるポリブタジエン(ブタジエンゴム、BR)、スチレンの重合体であるポリスチレン、スチレンとイソプレンの共重合体であるスチレン−イソプレンブロック共重合体(SIS)、イソブチレンとイソプレンの共重合体であるブチルゴム(IIR)、スチレンとブタジエンの共重合体であるスチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBS)、2−メチル−1−ペンテンの重合体である2−メチル−1−ペンテン重合樹脂、2−メチル−1−ブテンの重合体である2−メチル−1−ブテン重合樹脂、α−メチルスチレンの重合体であるα−メチルスチレン重合樹脂等がある。尚、α−メチルスチレン重合樹脂は柔軟性を与えるために低分子量のポリイソブチレンを添加することが望ましい。また、バインダーに用いる樹脂としては、酸素原子を含むモノマーの重合体又は共重合体(例えば、ポリブチルメタクリレートやポリメチルメタクリレート等)を少量含む構成としても良い。更に、上記一般式(1)に該当しないモノマーが一部共重合していても良い。その場合であっても、本願発明の目的を達成することが可能である。
尚、バインダーに用いる樹脂としては、磁場配向を適切に行う為に250℃以下で軟化する熱可塑性樹脂、より具体的にはガラス転移点又は融点が250℃以下の熱可塑性樹脂を用いることが望ましい。
一方、バインダーに長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。具体的には炭素数が18以上である長鎖飽和炭化水素を用いるのが好ましい。そして、後述のようにホットメルト成形により成形されたグリーンシートを磁場配向する際には、グリーンシートを長鎖炭化水素の融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
また、バインダーに脂肪酸メチルエステルを用いる場合においても同様に、室温で固体、室温以上で液体であるステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。そして、後述のようにホットメルト成形により成形されたグリーンシートを磁場配向する際には、グリーンシートを脂肪酸メチルエステルの融点以上で加熱して軟化した状態で磁場配向を行う。
グリーンシートを作製する際に磁石粉末に混合されるバインダーとして上記条件を満たすバインダーを用いることによって、磁石内に含有する炭素量及び酸素量を低減させることが可能となる。具体的には、焼結後に磁石に残存する炭素量を2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする。また、焼結後に磁石に残存する酸素量を5000ppm以下、より好ましくは2000ppm以下とする。
また、バインダーの添加量は、スラリーや加熱溶融したコンパウンドをシート状に成形する際にシートの厚み精度を向上させる為に、磁石粒子間の空隙を適切に充填する量とする。例えば、磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%とする。
[永久磁石の製造方法]
次に、本発明に係る永久磁石1の製造方法について図3を用いて説明する。図3は本実施形態に係る永久磁石1の製造工程を示した説明図である。
先ず、所定分率のNd−Fe−B(例えばNd:32.7wt%、Fe(電解鉄):65.96wt%、B:1.34wt%)と微量添加したNb、Ti又はZr(例えば0.5〜3wt%)からなる、合金インゴットを製造する。その後、合金インゴットを水素解砕法やスタンプミルやクラッシャー等によって200μm程度の大きさに粗粉砕する。それによって、粗粉砕磁石粉末10を得る。尚、合金インゴットは、金型鋳造によるインゴット法や、冷却ロールを用いて合金溶湯を急冷するストリップキャスト法を用いて作製する。特にストリップキャスト法を用いれば、初晶のFeの析出を防げるだけでなく、合金組成を化学量論組成に近づけて主相2の体積分率を高めることができ、合金インゴット内のNdリッチ相3を均一に分散できる効果もある。
また、Nb、Ti又はZrは上記したように合金インゴットに予め含める構成としても良いし、粉砕後であって磁石粉末を成形体に成形する前に添加する構成としても良い。例えば、粉砕後に添加する場合には溶媒中に分散された磁石粉末に対してNb、Ti又はZrを添加し、混合する方法がある。また、粉砕後に添加する場合には、Nb、Ti又はZrは単体金属として添加しても良いし、有機金属化合物として添加しても良い。ここで、Nb、Ti又はZrを含む有機金属化合物としては、低温分解で残炭を抑制する目的から、例えば低分子量の金属アルコキシドや金属アルキル錯体等を用いることが望ましい。
次いで、粗粉砕磁石粉末10をビーズミル11による湿式法又はジェットミルを用いた乾式法等によって微粉砕する。例えば、ビーズミル11による湿式法を用いた微粉砕では有機溶媒中で粗粉砕磁石粉末10を所定範囲の粒径(例えば0.1μm〜5.0μm)に微粉砕するとともに有機溶媒中に磁石粉末を分散させる。その後、湿式粉砕後の有機溶媒に含まれる磁石粉末を真空乾燥などで乾燥させ、乾燥した磁石粉末を取り出す。また、粉砕に用いる溶媒は有機溶媒であるが、溶媒の種類に特に制限はなく、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノールなどのアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、ペンタン、ヘキサンなどの低級炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族類、ケトン類、それらの混合物等が使用できる。尚、好ましくは、溶媒中に酸素原子を含まない炭化水素系溶媒が用いられる。
一方、ジェットミルによる乾式法を用いた微粉砕では、粗粉砕した磁石粉末を、(a)酸素含有量が実質的に0%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中、又は(b)酸素含有量が0.0001〜0.5%の窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気中で、ジェットミルにより微粉砕し、所定範囲の粒径(例えば1.0μm〜5.0μm)の平均粒径を有する微粉末とする。尚、酸素濃度が実質的に0%とは、酸素濃度が完全に0%である場合に限定されず、微粉の表面にごく僅かに酸化被膜を形成する程度の量の酸素を含有しても良いことを意味する。
次に、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末を所望形状に成型する。尚、磁石粉末の成形には、例えば金型を用いて所望の形状へと成形する圧粉成形や、磁石粉末を一旦シート状に成形した後に所望の形状へと打ち抜くグリーンシート成形がある。更に、圧粉成形には、乾燥した微粉末をキャビティに充填する乾式法と、磁石粉末を含むスラリーを乾燥させずにキャビティに充填する湿式法がある。一方、グリーンシート成形は、例えば磁石粉末とバインダーとが混合したコンパウンドをシート状に成形するホットメルト塗工や、磁石粉末とバインダーと有機溶媒とを含むスラリーを基材上に塗工することによりシート状に成形するスラリー塗工等による成形が有る。
以下では、特にホットメルト塗工を用いたグリーンシート成形について説明する。
先ず、ビーズミル11等で微粉砕された磁石粉末にバインダーを混合することにより、磁石粉末とバインダーからなる粉末状の混合物(コンパウンド)12を作製する。ここで、バインダーとしては、上述したように樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルやそれらの混合物等が用いられる。例えば、樹脂を用いる場合には構造中に酸素原子を含まず、且つ解重合性のあるポリマーからなる熱可塑性樹脂を用い、一方、長鎖炭化水素を用いる場合には、室温で固体、室温以上で液体である長鎖飽和炭化水素(長鎖アルカン)を用いるのが好ましい。また、脂肪酸メチルエステルを用いる場合には、ステアリン酸メチルやドコサン酸メチル等を用いるのが好ましい。また、バインダーの添加量は、上述したように添加後のコンパウンド12における磁石粉末とバインダーの合計量に対するバインダーの比率が、1wt%〜40wt%、より好ましくは2wt%〜30wt%、更に好ましくは3wt%〜20wt%となる量とする。尚、バインダーの添加は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行う。尚、磁石粉末とバインダーとの混合は、例えば有機溶媒に磁石粉末とバインダーとをそれぞれ投入し、攪拌機で攪拌することにより行う。そして、攪拌後に磁石粉末とバインダーとを含む有機溶媒を加熱して有機溶媒を気化させることにより、コンパウンド12を抽出する。また、磁石粉末とバインダーとの混合は、窒素ガス、Arガス、Heガスなど不活性ガスからなる雰囲気で行うことが望ましい。また、特に磁石粉末を湿式法で粉砕した場合においては、粉砕に用いた有機溶媒から磁石粉末を取り出すことなくバインダーを有機溶媒中に添加して混練し、その後に有機溶媒を揮発させて後述のコンパウンド12を得る構成としても良い。
続いて、コンパウンド12をシート状に成形することによりグリーンシートを作成する。特に、ホットメルト塗工では、コンパウンド12を加熱することによりコンパウンド12を溶融し、流体状にしてからセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、放熱して凝固させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。尚、コンパウンド12を加熱溶融する際の温度は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが50〜300℃とする。但し、用いるバインダーの融点よりも高い温度とする必要がある。尚、スラリー塗工を用いる場合には、トルエン等の有機溶媒中に磁石粉末とバインダーとを分散させ、スラリーをセパレータ等の支持基材13上に塗工する。その後、乾燥して有機溶媒を揮発させることにより、支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14を形成する。
ここで、溶融したコンパウンド12の塗工方式は、スロットダイ方式やカレンダーロール方式等の層厚制御性に優れる方式を用いることが好ましい。例えば、スロットダイ方式では、加熱して流体状にしたコンパウンド12をギアポンプにより押し出してダイに挿入することにより塗工を行う。また、カレンダーロール方式では、加熱した2本ロールのギャップにコンパウンド12を一定量仕込み、ロールを回転させつつ支持基材13上にロールの熱で溶融したコンパウンド12を塗工する。また、支持基材13としては、例えばシリコーン処理ポリエステルフィルムを用いる。更に、消泡剤を用いたり、加熱真空脱泡を行うこと等によって展開層中に気泡が残らないよう充分に脱泡処理することが好ましい。また、支持基材13上に塗工するのではなく、押出成型によって溶融したコンパウンド12をシート状に成型するとともに支持基材13上に押し出すことによって、支持基材13上にグリーンシート14を成形する構成としても良い。
以下に、図4を用いて特にスロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程についてより詳細に説明する。図4はスロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程を示した模式図である。
図4に示すようにスロットダイ方式に用いられるダイ15は、ブロック16、17を互いに重ね合わせることにより形成されており、ブロック16、17との間の間隙によってスリット18やキャビティ(液溜まり)19を形成する。キャビティ19はブロック17に設けられた供給口20に連通される。そして、供給口20はギアポンプ(図示せず)等によって構成される塗布液の供給系へと接続されており、キャビティ19には供給口20を介して、計量された流体状のコンパウンド12が定量ポンプ等により供給される。更に、キャビティ19に供給された流体状のコンパウンド12はスリット18へ送液されて単位時間一定量で幅方向に均一な圧力でスリット18の吐出口21から予め設定された塗布幅により吐出される。一方で、支持基材13はコーティングロール22の回転に伴って予め設定された速度で連続搬送される。その結果、吐出した流体状のコンパウンド12が支持基材13に対して所定厚さで塗布され、その後、放熱して凝固することにより支持基材13上に長尺シート状のグリーンシート14が成形される。
また、スロットダイ方式によるグリーンシート14の形成工程では、塗工後のグリーンシート14のシート厚みを実測し、実測値に基づいてダイ15と支持基材13間のギャップDをフィードバック制御することが望ましい。また、ダイ15に供給する流体状のコンパウンド12の量の変動は極力低下させ(例えば±0.1%以下の変動に抑える)、更に塗工速度の変動についても極力低下させる(例えば±0.1%以下の変動に抑える)ことが望ましい。それによって、グリーンシート14の厚み精度を更に向上させることが可能である。尚、形成されるグリーンシート14の厚み精度は、設計値(例えば1mm)に対して±10%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±1%以内とする。尚、他方のカレンダーロール方式では、カレンダー条件を同様に実測値に基づいて制御することで、支持基材13へのコンパウンド12の転写膜厚を制御することが可能である。
尚、グリーンシート14の設定厚みは、0.05mm〜20mmの範囲で設定することが望ましい。厚みを0.05mmより薄くすると、多層積層しなければならないので生産性が低下することとなる。
次に、上述したホットメルト塗工によって支持基材13上に形成されたグリーンシート14の磁場配向を行う。具体的には、先ず支持基材13とともに連続搬送されるグリーンシート14を加熱することによりグリーンシート14を軟化させる。尚、グリーンシート14を加熱する際の温度及び時間は、用いるバインダーの種類や量によって異なるが、例えば100〜250℃で0.1〜60分とする。但し、グリーンシート14を軟化させる為に、用いるバインダーのガラス転移点又は融点以上の温度とする必要がある。また、グリーンシート14を加熱する加熱方式としては、例えばホットプレートによる加熱方式や熱媒体(シリコーンオイル)を熱源に用いた加熱方式が有る。次に、加熱により軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向に対して磁場を印加することにより磁場配向を行う。印加する磁場の強さは5000[Oe]〜150000[Oe]、好ましくは、10000[Oe]〜120000[Oe]とする。その結果、グリーンシート14に含まれる磁石結晶のC軸(磁化容易軸)が一方向に配向される。尚、磁場を印加する方向としてはグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して磁場を印加することとしても良い。また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を配向させる構成としても良い。
更に、グリーンシート14に磁場を印加する際には、加熱工程と同時に磁場を印加する工程を行う構成としても良いし、加熱工程を行った後であってグリーンシートが凝固する前に磁場を印加する工程を行うこととしても良い。また、ホットメルト塗工により塗工されたグリーンシート14が凝固する前に磁場配向する構成としても良い。その場合には、加熱工程は不要となる。
次に、図5を用いてグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程についてより詳細に説明する。図5はグリーンシート14の加熱工程及び磁場配向工程を示した模式図である。尚、図5に示す例では、加熱工程と同時に磁場配向工程を行う例について説明する。
図5に示すように、上述したスロットダイ方式により塗工されたグリーンシート14に対する加熱及び磁場配向は、ロールによって連続搬送された状態の長尺シート状のグリーンシート14に対して行う。即ち、加熱及び磁場配向を行う為の装置を塗工装置(ダイ等)の下流側に配置し、上述した塗工工程と連続した工程により行う。
具体的には、ダイ15やコーティングロール22の下流側において、搬送される支持基材13及びグリーンシート14がソレノイド25内を通過するようにソレノイド25を配置する。更に、ホットプレート26をソレノイド25内においてグリーンシート14に対して上下一対に配置する。そして、上下一対に配置されたホットプレート26によりグリーンシート14を加熱するとともに、ソレノイド25に電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向(即ち、グリーンシート14のシート面に平行な方向)で且つ長さ方向に磁場を生じさせる。それによって、連続搬送されるグリーンシート14を加熱により軟化させるとともに、軟化したグリーンシート14の面内方向且つ長さ方向(図5の矢印27方向)に対して磁場を印加し、グリーンシート14に対して適切に均一な磁場を配向させることが可能となる。特に、磁場を印加する方向を面内方向とすることによって、グリーンシート14の表面が逆立つことを防止できる。
また、磁場配向した後に行うグリーンシート14の放熱及び凝固は、搬送状態で行うことが好ましい。それによって、製造工程をより効率化することが可能となる。
尚、磁場配向をグリーンシート14の面内方向且つ幅方向に対して行う場合には、ソレノイド25の代わりに搬送されるグリーンシート14の左右に一対の磁場コイルを配置するように構成する。そして、各磁場コイルに電流を流すことによって、長尺シート状のグリーンシート14の面内方向で且つ幅方向に磁場を生じさせることが可能となる。
また、磁場配向をグリーンシート14の面内垂直方向とすることも可能である。磁場配向をグリーンシート14の面内垂直方向に対して行う場合には、例えばポールピース等を用いた磁場印加装置により行う。具体的には、図6に示すようにポールピース等を用いた磁場印加装置30は、中心軸が同一になるように平行配置された2つのリング状のコイル部31、32と、コイル部31、32のリング孔にそれぞれ配置された2つの略円柱状のポールピース33、34とを有し、搬送されるグリーンシート14に対して所定間隔離間されて配置される。そして、コイル部31、32に電流を流すことにより、グリーンシート14の面内垂直方向に磁場を生成し、グリーンシート14の磁場配向を行う。尚、磁場配向方向をグリーンシート14の面内垂直方向とする場合には、図6に示すようにグリーンシート14に対して支持基材13が積層された反対側の面にもフィルム35を積層することが好ましい。それによって、グリーンシート14の表面の逆立ちを防止することが可能となる。
また、上述したホットプレート26による加熱方式の代わりに熱媒体(シリコーンオイル)を熱源とした加熱方式を用いても良い。ここで、図7は熱媒体を用いた加熱装置37の一例を示した図である。
図7に示すように、加熱装置37は発熱体となる平板部材38の内部に略U字型の空洞39を形成し、空洞39内に所定温度(例えば100〜300℃)に加熱された熱媒体であるシリコーンオイルを循環させる構成とする。そして、図5に示すホットプレート26の代わりに、加熱装置37をソレノイド25内においてグリーンシート14に対して上下一対に配置する。それによって、連続搬送されるグリーンシート14を、熱媒体により発熱された平板部材38を介して加熱し、軟化させる。尚、平板部材38はグリーンシート14に対して当接させても良いし、所定間隔離間させて配置しても良い。そして、軟化したグリーンシート14の周囲に配置されたソレノイド25によって、グリーンシート14の面内方向且つ長さ方向(図5の矢印27方向)に対して磁場が印加され、グリーンシート14に対して適切に均一な磁場を配向させることが可能となる。尚、図7に示すような熱媒体を用いた加熱装置37では、一般的なホットプレート26のように内部に電熱線を有さないので、磁場中に配置した場合であってもローレンツ力によって電熱線が振動したり切断される虞が無く、適切にグリーンシート14の加熱を行うことが可能となる。また、電流による制御を行う場合には、電源のON又はOFFで電熱線が振動することにより疲労破壊の原因となる問題が有るが、熱媒体を熱源とした加熱装置37を用いることによって、そのような問題を解消することが可能となる。
ここで、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等によりスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、磁場の勾配が生じているところにグリーンシート14が搬入されると、磁場が強い方にグリーンシート14に含まれる磁石粉末が引き寄せられることとなり、グリーンシート14を形成するスラリーの液寄り、即ち、グリーンシート14の厚みの偏りが生じる虞がある。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、室温付近での粘度は数万Pa・sに達し、磁場勾配通過時の磁性粉末の寄りが生じることが無い。更に、均一磁場中に搬送され、加熱されることでバインダーの粘度低下が生じ、均一磁場中の回転トルクのみで、一様なC軸配向が可能となる。
また、ホットメルト成形を用いずに一般的なスロットダイ方式やドクターブレード方式等により有機溶媒を含むスラリー等の流動性の高い液状物によってグリーンシート14を成形した場合には、厚さ1mmを越えるシートを作成しようとすると乾燥時においてスラリー等に含まれる有機溶媒が気化することによる発泡が課題となる。更に、発泡を抑制する為に乾燥時間を長時間化すれば、磁石粉末の沈降が生じ、それに伴って重力方向に対する磁石粉末の密度分布の偏りが生じ、焼成後の反りの原因となる。従って、スラリーからの成形では、厚みの上限値が実質上規制される為、1mm以下の厚みでグリーンシートを成形し、その後に積層する必要がある。しかし、その場合にはバインダー同士の絡まり合いが乏しくなり、その後の脱バインダー工程(仮焼処理)で層間剥離を生じ、それがC軸(磁化容易軸)配向性の低下、即ち残留磁束密度(Br)の低下原因となる。それに対して、本発明のようにコンパウンド12をホットメルト成形によりグリーンシート14に成形する場合には、有機溶媒を含まないので、厚さ1mmを越えるシートを作成した場合でも上述したような発泡の懸念が解消する。そして、バインダーが十分に絡まり合った状態にあるので、脱バインダー工程での層間剥離が生じる虞が無い。
また、複数枚のグリーンシート14に対して同時に磁場を印加させる場合には、例えばグリーンシート14を複数枚(例えば6枚)積層した状態で連続搬送し、積層したグリーンシート14がソレノイド25内を通過するように構成する。それによって生産性を向上させることが可能となる。
その後、磁場配向を行ったグリーンシート14を所望の製品形状(例えば、図1に示す扇形形状)に打ち抜きし、成形体40を成形する。
続いて、成形された成形体40を大気圧、又は大気圧より高い圧力や低い圧力(例えば、1.0Paや1.0MPa)に加圧した非酸化性雰囲気(特に本発明では水素雰囲気又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気)においてバインダー分解温度で数時間(例えば5時間)保持することにより仮焼処理を行う。水素雰囲気下で行う場合には、例えば仮焼中の水素の供給量は5L/minとする。仮焼処理を行うことによって、バインダーを解重合反応等によりモノマーに分解し飛散させて除去することが可能となる。即ち、成形体40中の炭素量を低減させる所謂脱カーボンが行われることとなる。また、仮焼処理は、成形体40中の炭素量が2000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下とする条件で行うこととする。それによって、その後の焼結処理で永久磁石1全体を緻密に焼結させることが可能となり、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、上述した仮焼処理を行う際の加圧条件を大気圧より高い圧力で行う場合には、15MPa以下とすることが望ましい。
尚、バインダー分解温度は、バインダー分解生成物および分解残渣の分析結果に基づき決定する。具体的にはバインダーの分解生成物を補集し、モノマー以外の分解生成物が生成せず、かつ残渣の分析においても残留するバインダー成分の副反応による生成物が検出されない温度範囲が選ばれる。バインダーの種類により異なるが200℃〜900℃、より好ましくは400℃〜600℃(例えば600℃)とする。
また、特に磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕により粉砕した場合には、有機溶媒を構成する有機化合物の熱分解温度且つバインダー分解温度で仮焼処理を行う。それによって、残留した有機溶媒についても除去することが可能となる。有機化合物の熱分解温度については、用いる有機溶媒の種類によって決定されるが、上記バインダー分解温度であれば基本的に有機化合物の熱分解についても行うことが可能となる。
また、仮焼処理によって仮焼された成形体40を続いて真空雰囲気で保持することにより脱水素処理を行っても良い。脱水素処理では、仮焼処理によって生成された成形体40中のNdH3(活性度大)を、NdH3(活性度大)→NdH2(活性度小)へと段階的に変化させることによって、仮焼処理により活性化された成形体40の活性度を低下させる。それによって、仮焼処理によって仮焼された成形体40をその後に大気中へと移動させた場合であっても、Ndが酸素と結び付くことを防止し、残留磁束密度や保磁力を低下させることが無い。また、磁石結晶の構造をNdH2等からNdFe14B構造へと戻す効果も期待できる。
続いて、仮焼処理によって仮焼された成形体40を焼結する焼結処理を行う。尚、成形体40の焼結方法としては、一般的な真空焼結以外に成形体40を加圧した状態で焼結する加圧焼結等も用いることが可能である。例えば、真空焼結で焼結を行う場合には、所定の昇温速度で800℃〜1080℃程度の焼成温度まで昇温し、0.1〜2時間程度保持する。この間は真空焼成となるが真空度としては5Pa以下、好ましくは10−2Pa以下とすることが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
一方、加圧焼結としては、例えば、ホットプレス焼結、熱間静水圧加圧(HIP)焼結、超高圧合成焼結、ガス加圧焼結、放電プラズマ(SPS)焼結等がある。但し、焼結時の磁石粒子の粒成長を抑制するとともに焼結後の磁石に生じる反りを抑える為に、一軸方向に加圧する一軸加圧焼結であって且つ通電焼結により焼結するSPS焼結を用いることが好ましい。尚、SPS焼結で焼結を行う場合には、加圧値を例えば0.01MPa〜100MPaとし、数Pa以下の真空雰囲気で940℃まで10℃/分で上昇させ、その後5分保持することが好ましい。その後冷却し、再び300℃〜1000℃で2時間熱処理を行う。そして、焼結の結果、永久磁石1が製造される。
以下に、図8を用いてSPS焼結による成形体40の加圧焼結工程についてより詳細に説明する。図8はSPS焼結による成形体40の加圧焼結工程を示した模式図である。
図8に示すようにSPS焼結を行う場合には、先ず、グラファイト製の焼結型41に成形体40を設置する。尚、上述した仮焼処理についても成形体40を焼結型41に設置した状態で行っても良い。そして、焼結型41に設置された成形体40を真空チャンパー42内に保持し、同じくグラファイト製の上部パンチ43と下部パンチ44をセットする。そして、上部パンチ43に接続された上部パンチ電極45と下部パンチ44に接続された下部パンチ電極46とを用いて、低電圧且つ高電流の直流パルス電圧・電流を印加する。それと同時に、上部パンチ43及び下部パンチ44に対して加圧機構(図示せず)を用いて夫々上下方向から荷重を付加する。その結果、焼結型41内に設置された成形体40は、加圧されつつ焼結が行われる。また、生産性を向上させる為に、複数(例えば10個)の成形体に対して同時にSPS焼結を行うことが好ましい。尚、複数の成形体40に対して同時にSPS焼結を行う場合には、一の空間に複数の成形体40を配置しても良いし、成形体40毎に異なる空間に配置するようにしても良い。尚、成形体40毎に異なる空間に配置する場合には、空間毎に成形体40を加圧する上部パンチ43や下部パンチ44は各空間の間で一体とする(即ち同時に加圧ができる)ように構成する。
尚、具体的な焼結条件を以下に示す。
加圧値:1MPa
焼結温度:940℃まで10℃/分で上昇させ、5分保持
雰囲気:数Pa以下の真空雰囲気
以下に、本発明の実施例について比較例と比較しつつ説明する。
(実施例)
実施例はNd−Fe−B系磁石であり、合金組成はwt%でNd/Fe/B=32.7/65.96/1.34とし、更にTiを1wt%追加してストリップキャスト法により合金インゴットを製造した。更に、合金インゴットを粗粉砕した後に、トルエンを有機溶媒に用いた湿式粉砕により磁石粉末に粉砕した。また、バインダーとしてはポリイソブチレン(PIB)を用い、加熱溶融したコンパウンドをスロットダイ方式により基材に塗工してグリーンシートを成形した。その後、仮焼処理を行い、SPS焼結(加圧値:1MPa、焼結温度:940℃まで10℃/分で上昇させ、5分保持)により焼結した。尚、他の工程は上述した[永久磁石の製造方法]と同様の工程とする。
(比較例)
Tiを追加せずに合金インゴットを製造した。他の条件は実施例と同様である。
(実施例と比較例の比較検討)
上記実施例及び比較例の各永久磁石について、EPMAによる元素マッピング分析を行った。また、実施例の永久磁石と比較例の永久磁石についてそれぞれ保磁力を測定した。
元素マッピング分析の結果、実施例の永久磁石ではNdCがほとんど確認できず、TiCが確認できた。一方で比較例の永久磁石ではNdCが確認できた。また、比較例の永久磁石ではαFeについても確認できた。ここで、αFeは上述したように焼結時において希土類元素が不足することによって生じるものである。即ち、比較例の永久磁石では、NdCが形成されることによって化学量論組成に対して希土類元素が不足する状態となり、焼結後の磁石の主相内にαFeが析出していることが分かる。そして、αFeの析出によって磁石特性を大きく低下させることとなる。一方、実施例の永久磁石では、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低いTiが含まれているので、炭素はTiと優先的に結合してTiCを生成し、NdCはほとんど形成されない。その結果、αFeの析出についても防止することができる。そして、実施例の永久磁石と比較例の永久磁石についてそれぞれ測定された保磁力を比較すると、実施例の永久磁石の方が高い保磁力を示す結果が得られた。
以上説明したように、本実施形態に係る永久磁石1及び永久磁石1の製造方法では、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、合金インゴットを粉砕することによって磁石粉末を作製し、作製された磁石粉末とバインダーとを混合することによりコンパウンド12を生成する。そして、生成したコンパウンド12をシート状に成形したグリーンシート14を作製する。その後、成形したグリーンシート14の磁場配向を行い、更に、グリーンシート14を非酸化性雰囲気下において200℃〜900℃で数時間保持することにより仮焼処理を行う。続いて、グリーンシート14を焼成温度で焼結することにより永久磁石1を製造する。その結果、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、グリーンシート14を形成する為に混合されるバインダー等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。その結果、希土類元素が不足してαFeが析出されることを防止し、磁石特性の低下についても防止することが可能となる。
また、磁石粉末とバインダーとを混合し、成形したグリーンシート14を焼結した磁石により永久磁石1を構成するので、焼結による収縮が均一となることにより焼結後の反りや凹みなどの変形が生じず、また、プレス時の圧力むらが無くなることから、従来行っていた焼結後の修正加工をする必要がなく、製造工程を簡略化することができる。それにより、高い寸法精度で永久磁石1を成形可能となる。また、永久磁石1を薄膜化した場合であっても、材料歩留まりを低下させることなく、加工工数が増加することも防止できる。
また、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属として、特にNb、Ti又はZrを磁石原料に含ませることによって、焼結する際に磁石中に炭素が含まれていた場合であっても、含まれる炭素をNdよりもNb、Ti又はZrと優先的に結合させることが可能となる。その結果、焼結後の磁石内にNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
また、特に磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕することによって磁石粉末を作製する場合において、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含ませることによって、湿式粉砕に用いられる有機溶媒等の炭素含有物が磁石内に残留した場合であっても、Ndが炭素と結合してNdカーバイドが生成されることを防止することが可能となる。
更に、グリーンシート14を焼結する前に、グリーンシート14を非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することによりバインダーを飛散させて除去するので、磁石粒子の含有する炭素量を予め低減させることができる。
また、仮焼処理によってバインダーが完全に除去できない場合であっても、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含むので、仮焼処理との組合せによってNdカーバイドが生成されることをより確実に防止することが可能となる。
また、グリーンシート14を水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下で仮焼することにより、磁石内に含有する炭素をメタンとして排出することが可能となり、磁石内に含有する炭素量をより確実に低減させることができる。
また、Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、製造された合金インゴットを粉砕することによって磁石粉末を作製するので、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を磁石原料に含む磁石粉末を容易に作製することが可能となる。
また、合金インゴットをストリップキャスト法により製造するので、初晶のFeの析出を防げるだけでなく、合金組成を化学量論組成に近づけて主相の体積分率を高めることができ、更に、合金インゴット内のNdリッチ相を均一に分散できる。
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、磁石粉末の粉砕条件、混練条件、仮焼条件、焼結条件などは上記実施例に記載した条件に限られるものではない。例えば、上記実施例では、スロットダイ方式によりグリーンシートを形成しているが、他の方式(例えばカレンダーロール方式、コンマ塗工方式、押出成型、射出成型、金型成型、ドクターブレード方式等)を用いてグリーンシートを形成しても良い。また、有機溶媒に磁石粉末やバインダーを混合したスラリーを生成し、その後に生成したスラリーをシート状に成形することによってグリーンシートを作成することとしても良い。その場合にはバインダーとして熱可塑性樹脂以外を用いることも可能である。また、仮焼を行う際の雰囲気は非酸化性雰囲気であれば水素雰囲気以外(例えば窒素雰囲気、He雰囲気等、Ar雰囲気等)で行っても良い。
また、永久磁石はグリーンシート成形以外の成形(例えば圧粉成形)により成形した成形体を仮焼及び焼結することにより製造しても良い。その場合であっても、バインダー以外の成形体中に残存するC含有物(添加した有機金属化合物や、湿式粉砕を行うことにより残存した有機化合物等)に対して、仮焼処理や炭化容易金属の添加による脱炭効果が期待できる。更に、グリーンシート成形以外の成形(例えば圧粉成形)により成形した成形体を仮焼及び焼結することにより製造する場合には、成形前の磁石粉末に対して仮焼処理を行い、仮焼体である磁石粉末を成形体に成形し、その後に焼結を行うことによって永久磁石を製造することとしても良い。このような構成とすれば、粉末状の磁石粒子に対して仮焼を行うので、成形後の磁石粒子に対して仮焼を行う場合と比較して、仮焼対象となる磁石の表面積を大きくすることができる。即ち、仮焼体中の炭素量をより確実に低減させることが可能となる。
また、仮焼処理は省略しても良い。その場合であっても焼結中にバインダー等の有機化合物が熱分解し、一定の脱炭効果を期待することができる。
また、上記実施例では、バインダーとして樹脂や長鎖炭化水素や脂肪酸メチルエステルを用いることとしているが、他の材料を用いても良い。
また、上記実施例では、磁石粉末を湿式粉砕する手段として湿式ビーズミルを用いているが、他の湿式粉砕方式を用いても良い。例えば、ナノマイザー等を用いても良い。
また、上記実施例では、グリーンシート14の加熱工程と磁場配向工程とを同時に行うこととしているが、加熱工程を行った後であってグリーンシート14が凝固する前に磁場配向工程を行っても良い。また、塗工されたグリーンシート14が凝固する前(即ち、加熱工程を行わなくてもグリーンシート14が既に軟化された状態)に磁場配向を行う場合には、加熱工程を省略しても良い。
また、上記実施例では、スロットダイ方式による塗工工程と加熱工程と磁場配向工程とを連続した一連の工程により行っているが、連続した工程により行わないように構成しても良い。また、塗工工程までの第1工程と、加熱工程以降の第2工程とに分けて、夫々連続した工程により行うこととしても良い。その場合には、塗工されたグリーンシート14を所定長さに切断し、静止した状態のグリーンシート14に対して加熱及び磁場印加を行うことにより磁場配向を行うように構成することが可能である。
また、本発明ではNd−Fe−B系磁石を例に挙げて説明したが、他の磁石を用いても良い。また、磁石の合金組成は本発明ではNd成分を量論組成より多くしているが、量論組成としても良い。また、異方性磁石だけでなく等方性磁石に対しても本発明を適用することが可能である。その場合には、グリーンシート14に対する磁場配向工程を省略可能である。
また、本発明ではNdよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属としてNb、Ti又はZrを用いるが、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属であれば他の金属を用いても良い。
1 永久磁石
2 主相
3 Ndリッチ相
4 炭化物
11 ビーズミル
12 コンパウンド
13 支持基材
14 グリーンシート
15 ダイ
25 ソレノイド
26 ホットプレート
37 加熱装置
40 成形体

Claims (16)

  1. Nd系の希土類永久磁石であって、
    Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を作製する工程と、
    前記磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、
    前記混合物をシート状に成形し、グリーンシートを作製する工程と、
    前記グリーンシートを焼結する工程と、により製造されることを特徴とする希土類永久磁石。
  2. Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属として、Nb、Ti又はZrを用いることを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石。
  3. 前記磁石粉末を作製する工程では、前記磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の希土類永久磁石。
  4. 前記グリーンシートを焼結する前に、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の希土類永久磁石。
  5. 前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することにより前記バインダーを飛散させて除去することを特徴とする請求項4に記載の希土類永久磁石。
  6. 前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することにより仮焼することを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の希土類永久磁石。
  7. 前記磁石粉末を作製する工程では、
    Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、
    前記合金インゴットを粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の希土類永久磁石。
  8. 前記合金インゴットは、ストリップキャスト法により製造することを特徴とする請求項7に記載の希土類永久磁石。
  9. Nd系の希土類永久磁石であって、
    Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を含む磁石原料の磁石粉末を作製する工程と、
    前記磁石粉末とバインダーとが混合された混合物を生成する工程と、
    前記混合物をシート状に成形し、グリーンシートを作製する工程と、
    前記グリーンシートを焼結する工程と、を有することを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。
  10. Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属として、Nb、Ti又はZrを用いることを特徴とする請求項9に記載の希土類永久磁石の製造方法。
  11. 前記磁石粉末を作製する工程では、前記磁石原料を有機溶媒中で湿式粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の希土類永久磁石の製造方法。
  12. 前記グリーンシートを焼結する前に、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下で仮焼することを特徴とする請求項9乃至請求項11のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法。
  13. 前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを非酸化性雰囲気下でバインダー分解温度に一定時間保持することにより前記バインダーを飛散させて除去することを特徴とする請求項12に記載の希土類永久磁石の製造方法。
  14. 前記グリーンシートを仮焼する工程では、前記グリーンシートを水素雰囲気下又は水素と不活性ガスの混合ガス雰囲気下において200℃〜900℃で一定時間保持することにより仮焼することを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の希土類永久磁石の製造方法。
  15. 前記磁石粉末を作製する工程では、
    Nd、Fe、Bに対して、Ndよりも炭化物を生成する際の生成自由エネルギーの低い金属を添加した合金インゴットを製造し、
    前記合金インゴットを粉砕することによって前記磁石粉末を作製することを特徴とする請求項9乃至請求項14のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法。
  16. 前記合金インゴットは、ストリップキャスト法により製造することを特徴とする請求項15に記載の希土類永久磁石の製造方法。
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