JP2013188203A - 幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤 - Google Patents

幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤 Download PDF

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Abstract

【課題】幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導活性を有する物質を見出し、これまで治療が困難であった眼疾患や神経疾患を根本的に予防、改善または治療するための医薬品や飲食品などの組成物を提供すること。
【解決手段】リグニンを有効成分として含有する、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤。
【選択図】なし

Description

本発明は、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤、該分化誘導剤を含む医薬品、医薬部外品、および飲食品、ならびに外胚葉系細胞の製造方法に関する。
幹細胞は、様々な細胞に分化できる多分化能と、細胞分裂を経ても多分化能(未分化状態)を維持できる自己増殖能とを併せ持つ細胞である。なかでも、体性幹細胞は、生体内の各組織に存在しており、障害若しくは疾患または老化等に伴って組織の細胞が失われた場合に、新たな細胞を供給することにより組織の恒常性を維持している。また、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)などの多能性幹細胞は、人工的につくり出された幹細胞であり、生体を構成する全ての細胞種に分化できる能力(多能性)と無限増殖性を有している。
近年、再生医療をはじめとする先端医療の分野において、これらの幹細胞の性質を臓器や組織の再生に応用する活発な研究が進められている(非特許文献1)。例えば、哺乳類の眼、特に網膜はいったん障害を受けると自然には再生しない。このため、網膜色素変性症などの網膜変性症には治療法がなく、失明に至ることから、幹細胞を利用した再生医療が期待されている。このような背景の中、近年の幹細胞技術の進歩により、マウスやヒトのES細胞やiPS細胞から網膜(網膜色素上皮、神経網膜)や水晶体等の眼組織・細胞を誘導することが可能となっており、将来的にはこれらの誘導された眼組織・細胞の移植により従来有効な治療法がなかった眼疾患の治療が可能となることが期待されている(非特許文献2、3)。
また、日本には約10万人の脊髄損傷患者が存在し、毎年新たに約5000人の受傷者が生じていると言われている。重症の場合には手足がほとんど動かず、寝たきりや車椅子の生活を余儀なくされている。現在のところ、脊髄損傷によって失われた機能を回復するために有効な治療法は確立されていない。その理由としては、中枢神経系では損傷後の神経再生が非常に起こりにくいことが挙げられる。このため、脊髄損傷にもやはり幹細胞による再生医療が期待されており、すでに幹細胞から中枢神経系への様々な分化誘導技術が確立されている(非特許文献4)。一方で、上記幹細胞を利用した再生医療を現実なものとするためには、幹細胞から効率的に目的細胞への分化を制御する物質や技術の開発が必須である。
脊椎動物の初期胚の発生過程では胚葉形成と呼ばれる細胞の系統分化が起き、外胚葉、中胚葉、内胚葉の三種類の細胞集団が形成される。このうち、外胚葉は神経系細胞、感覚系細胞、表皮を生み出す。よって、幹細胞から外胚葉、さらには、外胚葉を由来とする細胞や組織を分化誘導することができれば、上記の眼疾患や脊髄損傷の治療への可能性が広がる。
一方、リグニンは、セルロースやヘミセルロースとともに植物を形成する主要成分であり、その含有量は木材では20〜30%に達する。その構造は、フェニルプロパン系の構成単位が化学結合した複雑な高分子であり、地球上の存在する有機物としてはセルロースに次いで二番目に多く存在している。これまでに、このリグニンの誘導体に様々な生理活性機能が見出されている。例えば、特許文献1には、リグニン誘導体が活性酸素などの酸化ストレスによって引き起こされる非生理的細胞死の抑制、細胞保護作用を有することが記載されている。また、特許文献2には、リグニン誘導体が、培養細胞における小胞体ストレス誘導性細胞死を抑制する効果を示すことや、網膜障害モデルマウスにおいて神経節細胞の減少等を抑制する効果を示すことが記載されている。しかしながら、これまでに、リグニンが未分化な幹細胞に及ぼす影響については殆ど検討されていない。
特開2004−244367 特開2008−13448
西川伸一ら、実験医学増刊、2008年、26巻、第5号、pp.74−80 Eiraku M, Takata N, Ishibashi H, Kawada M, Sakakura E, Okuda S, Sekiguchi K, Adachi T, Sasai Y. (2011) Nature 7; 472 (7341):51-6 Osakada F, Jin ZB, Hirami Y, Ikeda H, Danjyo T, Watanabe K, Sasai Y, Takahashi M. (2009) J Cell Sci. 122 (Pt 17):3169-79 Ueno M, Matsumura M, Watanabe K, Nakamura T, Osakada F, Takahashi M, Kawasaki H, Kinoshita S, Sasai Y. (2006) Proc Natl Acad Sci USA. 20:9554-9.
本発明の目的は、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導活性を有する物質を見出し、これまで治療が困難であった眼疾患や神経疾患を根本的に予防、改善または治療するための医薬品や飲食品などの組成物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、リグニンを幹細胞の培養系に添加することにより、幹細胞において外胚葉系細胞特異的マーカー遺伝子の発現が亢進することを見出すとともに、神経細胞又は眼様構造体への分化が促進されることを確認し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1) リグニンを有効成分として含有する、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤。
(2) 外胚葉系細胞が感覚器系細胞または神経系細胞である、(1)に記載の分化誘導剤。
(3) 感覚器系細胞が眼の構成細胞である、(2)に記載の分化誘導剤。
(4) 眼の構成細胞が、網膜、水晶体、角膜上皮、または虹彩の細胞である、(3)に記載の分化誘導剤。
(5) (1)〜(4)のいずれかに記載の分化誘導剤を含む、医薬品または飲食品。
(6) 眼疾患または神経疾患の治療または予防のための(5)に記載の医薬品または飲食品。
(7) リグニンの存在下で幹細胞を培養して外胚葉系細胞へ分化誘導することを特徴とする、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導方法。
(8) リグニンの存在下で幹細胞を培養して外胚葉系細胞へ分化誘導する工程を含む、外胚葉系細胞の製造方法。
(9) (8)に記載の方法により製造された外胚葉系細胞。
本発明によれば、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤が提供される。本発明の分化誘導剤は、幹細胞から外胚葉系細胞、例えば水晶体や網膜などの眼の構成細胞、神経細胞への分化を誘導することができるので、白内障、緑内障、網膜剥離及びその他の眼疾患や脊髄損傷等の神経障害を根本的に予防、改善または治療するための医薬品や飲食品として利用できる。また、本発明の分化誘導剤を用いて幹細胞から分化誘導することにより作製された外胚葉系細胞は、眼や神経の損傷部位に移植してその機能を回復させる再生医療への応用が可能となる。さらに、本発明の分化誘導剤は、水晶体及び網膜などの眼の構成細胞や神経細胞の分化の基礎研究用試薬としても利用できる。
図1Aは、リグニンによるES細胞から神経細胞への分化誘導試験結果を示す(上段のパネル:リグニン未添加群の培養8、12日後の光学顕微鏡像(位相差)、下段のパネル:リグニン添加群の培養8、12日後の光学顕微鏡像(位相差)、矢印:神経突起)。図1Bは、リグニンによりES細胞から分化誘導した神経細胞様構造体の免疫染色像を示す。 図2は、リグニンによるES細胞から眼様構造体への分化誘導試験結果を示す(最上段のパネル:リグニン未添加群の培養6、12日後の培養シャーレの実体顕微鏡像、上から2段目のパネル:リグニン未添加群の培養6、12日後の培養シャーレの光学顕微鏡像(6日後は位相差、12日後は位相差(左のパネル)と明視野(右のパネル))、上から3段目のパネル:リグニン添加群の培養6、12日後の培養シャーレの実体顕微鏡像、最下段のパネル:リグニン添加群の培養6、12日後の培養シャーレの光学顕微鏡像(6日後は位相差、12日後は位相差(左のパネル)と明視野(右のパネル))。また、分化誘導された網膜色素細胞様細胞に関しては拡大写真を掲載する。
以下に、本発明について詳細に述べる。
本発明の幹細胞から外胚葉系細胞への分化を誘導する分化誘導剤(以下、「外胚葉系細胞分化誘導剤」と称する場合がある)は、リグニンを有効成分とする。
本発明における「幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導」とは、生体レベルでまたは培養レベルで幹細胞から外胚葉系細胞の分化を誘導及び促進し、外胚葉系細胞を増加させることをいう。
本発明において「幹細胞」とは、外胚葉系細胞に分化しうる各種の幹細胞をいい、胚性幹細胞(ES細胞)、骨髄、皮膚、皮下脂肪、脳、網膜、鼻臭球等、その他の組織に存在する未分化な状態の細胞(総称して、体性幹細胞という)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などを含む。ES細胞としては、例えば、着床以前の初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、体細胞の核を核移植することによって作製された初期胚を培養することによって樹立されたES細胞、及びそれらのES細胞の染色体上の遺伝子を遺伝子工学の手法を用いて改変したES細胞が挙げられる。このようなES細胞は、例えば、自体公知の方法によって作製することができるが、所定の機関より入手でき、さらには市販品を購入することもできる。また、これら幹細胞は、初代培養細胞、継代培養細胞、凍結細胞のいずれであってもよい。
また、本発明の外胚葉系細胞への分化誘導剤は、幹細胞の分化の方向性、および、分化の過程等について同等の特性を持っていれば、全ての哺乳動物に応用が可能である。例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等の哺乳動物の幹細胞に対して効果を発揮することができる。
外胚葉は、主に表層外胚葉と神経外胚葉に分けられるが、本発明において、「外胚葉系細胞」とは、表層外胚葉性細胞と神経外胚葉性細胞の両者をいい、初期胚の細胞やES細胞などの多能性細胞から分化の初期段階で形成される外胚葉細胞(神経や皮膚の共通前駆細胞)、さらには外胚葉から分化・発生する神経や感覚器を構成する細胞、皮膚の細胞等の両方を含む概念である。外胚葉由来の細胞としては、感覚器系細胞(網膜や内耳の細胞)、神経系細胞(神経幹細胞、神経細胞(例えば、前脳神経細胞、中脳神経細胞、小脳神経細胞、後脳神経細胞、脊髄神経細胞等)、神経管細胞、神経堤細胞)、表皮系細胞(表皮細胞、水晶体上皮細胞)などが挙げられる。
本発明により分化誘導された細胞が、上記の外胚葉系細胞であるか否かは、例えば、各種の神経系細胞マーカーや感覚器系細胞マーカーの発現により確認できる。本発明において用いることのできる神経系細胞マーカーや感覚器系細胞マーカーとしては、例えば、Otx2(外胚葉・神経細胞・眼の分化マーカー: W02005/123902、Nature. 1992 Aug 20;358(6388):687-90. Nested expression domains of four homeobox genes in developing rostral brain. Simeone A, Acampora D, Gulisano M, Stornaiuolo A, Boncinelli E. SourceInternational Institute of Genetics and Biophysics, CNR, Naples, Italy.)、Sox1(神経細胞・眼の分化マーカー: W02005/123902)、Six3(前脳領域・眼の分化マーカー:Cereb Cortex. 2008 Mar;18(3):553-62. Epub 2007 Jun 18. Six3 controls the neural progenitor status in the murine CNS. Appolloni I, Calzolari F, Corte G, Perris R, Malatesta P.)、Pax6(神経前駆細胞、眼の分化マーカー: W02005/123902)、Tuj-1(神経細胞マーカー: Mod Pathol. 2007 Jul;20(7):742-8. Epub 2007 Apr 27. Expression of Sox2 in mature and immature teratomas of central nervous system. Phi JH, Park SH, Paek SH, Kim SK, Lee YJ, Park CK, Cho BK, Lee DH, Wang KC.)、Map2(成熟神経細胞マーカー: W02005/123902、J Neurosci Res. 2002 Nov 1; 70(3):327-34. Expression patterns of immature neuronal markers PSA-NCAM, CRMP-4 and NeuroD in the hippocampus of young adult and aged rodents. Seki T.)、Crystalin(水晶体マーカー)などが挙げられる。
リグニンは植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子物質であって、フェニルプロパン系の構成単位が複雑に縮合したものである。リグニンの構造は、グアイアシル型、シリンギル型、p−ヒドロキシフェニルプロパン型に大別され、植物の種類(針葉樹、広葉樹、草本類)により異なる。本発明に用いられる「リグニン」としては、植物体から種々の方法で分離したリグニン、その分離段階で生成するリグニン変性体、または、アセチル化体、メチル化体、クロル化体、ニトロ化体、スルホン化体、チオ化体等のリグニン誘導体のいずれであってもよい。植物体から分離したリグニンには、アルカリ剤、亜硫酸、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、塩化ナトリウム、硫化水素等の無機試薬による処理や、ジオキサン、アルコール、フェノール、酢酸等の有機試薬による処理によりリグニンを植物体から溶解・脱離することにより得られた可溶性リグニン、植物体からリグニン以外の成分(ヘミセルロースやセルロース)を塩酸や硫酸等の酸処理、酸化銅アンモニア溶液処理、過ヨウ素酸ナトリウム処理等によって溶解除去し、不溶解残渣として得られた不溶性リグニンが包含され、いずれも本発明のリグニンとして使用できる。本発明に使用できるリグニンとしてより具体的には、アルカリリグニン、リグノスルホン酸、ブラウンズリグニン、ミルドウッドリグニン、ジオキサンリグニン、クラフトリグニン、酸リグニン(硫酸リグニン、塩酸リグニン等)、酸化銅アンモニアリグニン、過ヨウ素酸リグニンが挙げられるがこれらの限定はされない。また、これらのリグニンは市販品を用いてもよい。
本発明において用いるリグニンは、植物体から分離した上記のリグニンであってもリグニン含有物質であってもよい。リグニン含有物質としては、きのこ類や植物の抽出物が好ましい。ここで、リグニンを含むきのこ類としては、例えばキコブタケ科フスコポリア属に属するカバノアナタケ(Fuscoporia obliqua)が挙げられ、リグニンを含む植物としては、例えば、イネ、トウモロコシ、オオムギ、コムギ、ライムギ、カラスムギ、ハトムギ、オートムギ、ヒエ、アワ、キビ、ソバなどの穀類;ポプラ、ユーカリ、マツ(エゾマツ、カラマツ、クロマツ、トドマツなど)、シラカバ、ブナ、アカシア、サクラ、オーク、ヒノキ、スギ、サクラ、タケ、ササ、リンゴ、パパイヤ、オリーブ、ミカン、クルミ、アボガドなどの樹木;ダイズ、アズキ、エンドウ、ソラマメもしくはインゲンマメなどの豆類などが挙げられる。
リグニンは、幹細胞から外胚葉系細胞への分化を培養レベルまたは生体レベルで誘導する作用を有する。従って、本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤は、その有効量を添加した幹細胞分化誘導培地にて幹細胞を培養することによって、または、ヒトを含む哺乳動物に投与することによって、幹細胞から外胚葉系細胞への分化を誘導することができる。
幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導を幹細胞の培養により行う場合、培地に上記外胚葉系細胞分化誘導剤を添加する以外は、培養方法の条件及び操作は、当該技術分野で常套的な条件及び操作に従って行うことができる。外胚葉系細胞分化誘導剤の培地への添加量は、リグニン濃度として1〜1000μg/mL、好ましくは10〜100μg/mLである。
幹細胞の培養には、幹細胞の維持または分化誘導の目的に適する組成の培地を使用する。幹細胞分化誘導培地としては、具体的には、細胞の生存増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン)を含む基本培地(例えば、Dulbecco's modified Eagle's medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium (MEM)、RPMI1640、Basal Medium Eagle (BME)、Dulbecco's modified Eagle's medium:Nutrient Mixture F-12 (D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Meidum (Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank's balanced salt solution)、MCDB153培地)に、basic Fibroblast Growth Factor(bFGF)、Epidermal Growth Factor(EGF)などの増殖因子を少なくとも1種添加した培地が用いられる。また、当該培地には、細胞の増殖速度を増大させるために、必要に応じて、Tumor Necrosis Factor(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、ウシ血清アルブミン(BSA)、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメントなどを添加してもよく、また抗生物質を添加してもよい。培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。
また、上記以外には、1〜20%の含有率で血清が含まれることが好ましい。しかし、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
幹細胞の培養は、未分化状態を保つために、Mitomycin C(MMC)処理したMouse Embryonic Fibroblast(MEF)細胞などをフィーダー細胞として用い、幹細胞維持用培地(基本培地にLeukemia Inhibitory Factor(LIF)、L-グルタミン酸等を添加した培地)にて行い、また、幹細胞の外胚葉系細胞への分化誘導は、未分化状態を維持し培養した幹細胞を、改めて別のフィーダー細胞上に播種し、分化を促すような種々の因子を加えて培養することにより行う。フィーダー細胞としては、特に限定されないがマウスストローマ細胞であるST2細胞やPA6細胞が好ましい。分化を促すような種々の因子としては、
Dexamethasone(DEX)、bFGF、Cholera Toxin(CT)、Endothelin-3(EDN3)が挙げられるが特に限定されるものではない。
幹細胞の培養または幹細胞に分化を促す場合の容器としては、使い捨てのシャーレを使用することが好ましい。なお、培地の交換は2〜3日に1回行うことが好ましいが、より好ましくは毎日行うことが好ましい。また、幹細胞から角膜や水晶体(レンズ)及び網膜を含む眼組織への分化誘導は12日以上行うのが好ましい。
一方、本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤を生体内に投与する場合は、そのまま投与することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに医薬品、医薬部外品、飲食品などの組成物に配合することができる。
本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤を医薬品として提供する場合は、リグニンに、医薬上許容され、かつ剤型に応じて適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調整剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、点眼剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
上記製剤中のリグニンの含有量は特に限定されないが、製剤全重量に対して、リグニン固形分換算で、0.001〜30重量%の範囲が好ましく、0.01〜10重量%がより好ましい。
0.001重量%以下では効果が低く、また30重量%を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
上記形態の中でも点眼剤の形態とすることが好ましい。リグニンの含有量は適応疾患等に応じて適宜変更することができるが、点眼剤全体に対して通常0.00001〜5w/v%、好ましくは0.0001〜1w/v%である。点眼剤には、通常点眼剤に配合されうる各種の添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、例えば、緩衝剤(ホウ酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酒石酸塩緩衝剤等)、等張化剤(ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム等の塩類等)、保存剤(塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、パラオキシ安息香酸メチル等)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、安定化剤、抗酸化剤、pH調整剤、キレート剤等が挙げられる。
また、点眼剤は、公知の水溶液剤の製法に従い調製できる。例えば、医薬上許容される溶媒(例:滅菌精製水、滅菌緩衝液等の水性溶媒)に、上記の各種添加剤を添加した後、リグニンを溶解して均質な水溶液剤とする。点眼剤の調製は、無菌操作法により行うか、あるいは適当な段階で滅菌処理を施すことにより行われる。
本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤は、有効成分であるリグニンが幹細胞から外胚葉系細胞への分化を促進する作用を有するので、眼疾患または神経疾患を改善及び予防するための医薬として有効である。
眼疾患としては、水晶体、角膜、網膜、視神経の変性や損傷による疾患であれば特に限定はされないが、例えば、網膜疾患(網膜剥離、網脈絡膜炎、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、糖尿病性網膜症、高血圧網膜症、加齢黄斑変性症、網膜色素変性症、中心性漿液性網脈絡膜症等)、視神経疾患(緑内障、乳頭浮腫、視神経炎、視神経萎縮等)、角膜疾患(細菌性角膜潰瘍、角膜真菌症、角膜ヘルペス等)、白内障(老人性、糖尿病性、併発性、外傷性の白内障等)などが挙げられる。
神経疾患としては、神経系細胞の障害による疾患であれば特に限定はされないが、例えば、脊髄損傷、アルツハイマー病、脊髄小脳変性症、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、多発性硬化症、脳血管障害(脳梗塞、脳卒中、脳動脈瘤)、脳血管障害による痴呆症や運動障害、てんかん、脳外傷などが挙げられる。
本発明の医薬品は上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
本発明の医薬品を前述の疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的にまたは非経口的に投与することができる。
本発明の医薬品の投与量は、疾患の種類、投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、一日の投与量は、リグニンとして1〜1000mg、好ましくは5〜200mgである。
また、本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、または特定保健用食品を含む意味で用いられる。さらに、本発明の飲食品をヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、ペットフード、飼料を含む意味で用いることができる。特に、アルツハイマー病などの予防や神経損傷の治療など長期にわたって服用が必要となる場合に、日常的に摂取できる上で有利である。
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
飲食品の種類としては、具体的には、食パン、菓子パン等のパン類;そば、うどん、パスタ、中華麺、即席麺等の麺類;キャンディー、チューインガム、チョコレート、ビスケット・クッキー等の焼き菓子、ゼリー等の菓子類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;加工乳、発酵乳、ヨーグルト、バター、チーズ等の乳製品;かまぼこ、ちくわ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;しょうゆ、ソース、酢、みりん等の調味料;清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料などの飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む)等が挙げられるが、これらに限定はされない。
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
本発明の飲食品におけるリグニンの配合量は、幹細胞から外胚葉系細胞への分化促進作用が発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)リグニンによる幹細胞(マウスES細胞)の外胚葉系細胞への分化誘導
(1) ES細胞の調製
ゼラチンコート処理した35mmシャーレにMMC処理済みのMEFをコンフルエントの状態で培養し、その上にマウスES細胞を10〜20×104個播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで前培養した。培地はDMEMにchemicon社製のES細胞用添加因子(L-グルタミン液、2メルカプトエタノール液、ヌクレオシド液、非必須アミノ酸液)を推奨濃度で添加した後、LIFを1000units/mL、Fetal Bovine Serum(FBS)を15%添加したES細胞未分化維持用培地(以下、「ES細胞用培地」という)を用いた。
上記の方法で培養したES細胞及びMEFをトリプシン処理によりシャーレから剥がし、それらを再びゼラチンコート処理した35mmシャーレに播種した。播種後30分間静置し、その後培地を別のチューブに回収した。このとき接着性の強いMEFはシャーレに残り、ES細胞のみが回収される。このようにして回収した未分化なES細胞を用いて以下の実験を行った。
(2) フィーダー細胞を用いた培養系におけるリグニンによる幹細胞の外胚葉系細胞への分化誘導
MEFから分離したES細胞を、24wellプレートで培養したMMC処理済のMEF上に再び播種し(5×104cells/well)、ES細胞用培地からLIFを除いた培地を用いて培養した。その際、市販のリグニン(東京化成工業株式会社製、リグニン(アルカリ))を12.5、25.0、50.0μg/mLの濃度で添加した。
培養4日後にES細胞のみを回収し、細胞をPBS(-)にて2回洗浄し、Trizol Reagent(Invitrogen)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems)を用いて、RNAをcDNAに逆転写後、ABI7300(Applied Biosystems)により、下記の各プライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、Nanog(未分化マーカー: Cell Res. 2007 Jan; 17(1):42-9. Review. Nanog and transcriptional networks in embryonic stem cell pluripotency. Pan G, Thomson JA.)、Otx2(外胚葉・神経細胞マーカー)、Sox1(神経細胞マーカー)、Six3(前脳領域、眼の分化マーカー)の各マーカー遺伝子の発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
Nanog (未分化マーカー)用プライマーセット:
ATGCCTGCAGTTTTTCATCC(配列番号1)
GAGGCAGGTCTTCAGAGGAA(配列番号2)
Otx2(外胚葉、神経細胞マーカー)用プライマーセット:
GAAAATCAACTTGCCAGAATCCA(配列番号3)
GCGGCACTTAGCTCTTCGAT(配列番号4)
Sox1(神経細胞マーカー)用プライマーセット:
GCCGAGTGGAAGGTCATGT(配列番号5)
TGTAATCCGGGTGTTCCTTCAT(配列番号6)
Six3(前脳領域)用プライマーセット:
CCCTAGATCTCTATTCCTCCCACTTC(配列番号7)
GAAGTAGGGAGCAGTGGTGAGAA(配列番号8)
Gapdh(内部標準)用プライマーセット:
CCGTGTTCCTACCCCCAAT(配列番号9)
TGCCTGCTTCACCACCTTCT(配列番号10)
各細胞のマーカー遺伝子の発現については、リグニンを添加せずに培養した細胞における各遺伝子mRNAの発現量を内部標準であるGapdh mRNAの発現量に対する割合として算出した相対発現量(各遺伝子の発現量/Gapdh発現量)の値を1.0とし、これに対し、リグニンを添加して分化誘導した各細胞における各遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。その結果を表1に示す。
Figure 2013188203
表1に示されるように、未分化マーカーであるNanogはリグニンの濃度依存的に発現が抑制された。一方で、外胚葉や神経細胞マーカーであるOtx2やSox1に関してはその発現が促進されることが明らかとなった。また、外胚葉の中でも初期胚の発生過程で、前脳領域で発現が促進される遺伝子であるSix3の発現も促進された。
(3) フィーダー細胞を用いない培養系におけるリグニンによる幹細胞の外胚葉系細胞への分化誘導
MEFから分離した未分化なES細胞をゼラチンコート処理した24wellプレートに直接(MEFなしの状態で)播種し(5×104 cells/well)、上記方法と同様にES細胞用培地からLIFを除いた培地を用いて培養し、各濃度のリグニンを添加した。培養4日後にRNAを回収し、各マーカー遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより解析した。その結果を表2に示す。
Figure 2013188203
表2に示されるように、(2)の場合と同様、Nanogの発現抑制、Otx2、Sox1、Six3の発現促進が確認された。
(4) EBを形成する培養系におけるリグニンによる幹細胞の外胚葉系細胞への分化誘導
MEFから分離した未分化なマウスES細胞を、LIFを除いたES細胞用培地に懸濁し、2000cells/20μLの細胞濃度でhanging dropを形成し、EB(embryoid body)を作製した。その際、各濃度のリグニンを添加し、培養4日後にRNAを回収し、Nanog(未分化マーカー)、Otx2(外胚葉・神経細胞マーカー)、Sox1(神経細胞マーカー)、Six3(前脳領域マーカー)の各マーカー遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより解析した。その結果を表3に示す。
Figure 2013188203
表3に示されるように、(2)の場合と同様、Nanogの発現抑制、Otx2、Sox1、Six3の発現促進が確認された。
上記表1〜3の結果から、いずれの培養系(フィーダー細胞を用いた培養系、フィーダー細胞を用いない培養系、EBを形成する培養系)においてもリグニンはマウスES細胞の未分化維持を抑制し、一方で外胚葉系細胞への分化を促進することが明らかとなった。
(実施例2)リグニンによる幹細胞(マウスES細胞)の神経細胞への分化誘導
無血清培養下、ES細胞を各種のストローマ細胞と共培養することにより、成熟した神経系細胞を分化誘導する技術が確立されている(特許4294482号; Kawasaki H, Mizuseki K, Nishikawa S, Kaneko S, Kuwana Y, Nakanishi S, Nishikawa SI, Sasai Y., Neuron. 2000 Oct;28(1):31-40. Induction of midbrain dopaminergic neurons from ES cells by stromal cell-derived inducing activity)。そこで、本神経分化誘導系にリグニンを添加し、成熟した神経細胞への誘導が促進されるか検討した。
MEFから分離したマウス未分化ES細胞を、24wellプレートでコンフルエントまで培養したST2細胞(マウス骨髄由来ストローマ細胞)上に500cells/wellの濃度で播種し、G-MEMに10% KnockOut. Serum Replacement(KSR)、2mM L-グルタミン、1mM pyruvate、0.1mM 2メルカプトエタノール液、0.1mM 非必須アミノ酸液を添加した神経細胞分化誘導培地で培養した。その際、50.0μg/mLのリグニンを添加した。
図1に上記分化誘導試験結果を示す。分化誘導8日目には、リグニン添加群で神経特有な突起がコロニーに確認された(図1A)。また、分化誘導8日目のリグニン添加群の上記神経突起様構造体の免疫染色したところ、神経分化マーカーであるニューロフィラメント陽性であった(図1B)。誘導12日目には未添加群でも神経突起が確認されたが、その数はリグニン添加群の方が多い傾向があった(図1A)。
また、分化誘導12日後にST2細胞及びES細胞を回収し、神経細胞分化マーカー遺伝子であるPax6(神経前駆細胞マーカー)、Tuj-1(神経細胞マーカー)、Map2(成熟神経細胞マーカー)の発現を下記の各プライマーセットを用いてリアルタイムPCRにより解析した。
Pax6(神経前駆細胞マーカー):
GCACCAAAGGGTCATCGC(配列番号11)
TGGGGGGTGGATGGAAG(配列番号12)
Tuj-1(神経細胞マーカー):
CTCAAAATGTCATCCACCTT(配列番号13)
GTGAACTCCATCTCATCCAT(配列番号14)
Map2(成熟神経細胞マーカー):
ACTCAGCAACGTCTCATCTT(配列番号15)
GTATTCACAAGCCCTGCTTA(配列番号16)
リアルタイムPCRによる各マーカー遺伝子の発現の解析結果を表4に示す。
Figure 2013188203
表4に示されるように、リグニン添加により、各神経細胞分化マーカーの発現が顕著に促進されることが確認された。以上の結果からリグニンはES細胞から神経細胞への分化を顕著に促進することが明らかとなった。
(実施例3)リグニンによる幹細胞(マウスES細胞)の眼様構造体への分化誘導
ES細胞をストローマ細胞であるST2細胞と共培養することにより、メラノサイトを分化誘導する系が確立されている(Yamane T, Hayashi S, Mizoguchi M, Yamazaki H, Kunisada T., Dev Dyn. 1999 Dec;216 (4-5):450-8. Derivation of melanocytes from embryonic stem cells in culture.)。本分化誘導系では、メラノサイト以外にも、心筋細胞、血球系細胞等様々な細胞が分化してくることが知られている。このような様々な細胞が分化してくる系に、リグニンを添加することにより、いずれの細胞への誘導が促進されるか検討した。
MEFから分離したマウス未分化ES細胞を、24wellプレートでコンフルエントまで培養したST2細胞上に500cells/wellの濃度で播種し、α-MEMに10%FBS、100nM DEX、20pMbFGF、10pM CT、100ng/mL EDN3を含む分化誘導培地で分化を促した。その際、50.0μg/mLのリグニンを添加した。
図2に上記分化誘導試験結果を示す。リグニン未添加群では、誘導6日目にまでにES細胞のコロニーができ、誘導12日目には様々な形態をした細胞が現れ始めた。一方、リグニン添加群では、誘導6日目の時点で、コロニーの形態が未添加群とは顕著に異なった。また、誘導12日目の時点でコロニーの周りに色素を有した構造体が多数出現し始めた。
ES細胞から網膜色素上皮細胞や水晶体(レンズ)を含む眼様構造体を誘導する系が確立されている(Hirano M, Yamamoto A, Yoshimura N, Tokunaga T, Motohashi T, Ishizaki K, Yoshida H, Okazaki K, Yamazaki H, Hayashi S, Kunisada T., Dev Dyn. 2003 Dec;228(4):664-71. Generation of structures formed by lens and retinal cells differentiating from embryonic stem cells.)。上記コロニーの形態を顕微鏡観察すると、リグニン添加により形成された構造体は、上記文献で報告される眼様構造体に酷似していた。また、色素を有した細胞を拡大観察すると、その細胞は網膜色素上皮様の形態を示した(図2)。
また、分化誘導12日目において、細胞を回収し、眼の分化マーカー遺伝子であるOtx2(前脳領域、眼の分化マーカー)、Six3(前脳領域、眼の分化マーカー)、Pax6(眼の分化マーカー)、Crystalin(水晶体マーカー)の発現を下記の各プライマーセットを用いてリアルタイムPCRにより解析した。
Otx2(前脳領域、眼の分化マーカー):
GAAAATCAACTTGCCAGAATCCA(配列番号3)
GCGGCACTTAGCTCTTCGAT(配列番号4)
Six3(前脳領域、眼の分化マーカー):
CCCTAGATCTCTATTCCTCCCACTTC(配列番号7)
GAAGTAGGGAGCAGTGGTGAGAA(配列番号8)
Pax6 (眼の分化マーカー):
GCACCAAAGGGTCATCGC(配列番号11)
TGGGGGGTGGATGGAAG(配列番号12)
Crystalin(水晶体マーカー):
TGGCTGCTGGATGCTCTATG(配列番号17)
CCGCGACGCAGGAAGTA(配列番号18)
リアルタイムPCRによる各マーカー遺伝子の発現の解析結果を表5に示す。
Figure 2013188203
表5に示すように、リグニン添加により、眼の発生マーカー(Otx2,Six3,Pax6,Crystalin)の発現が促進されることが確認された。
以上の結果から、リグニンはES細胞から網膜色素上皮や水晶体等を含む眼様構造体への誘導を促進することが明らかとなった。
(実施例4)リグニンによる幹細胞(ヒトiPS細胞)の外胚葉系細胞への分化誘導
(1) ヒトiPS細胞の調製
ゼラチンコート処理した60mmシャーレにMMC処理済みのMEFをコンフルエントの状態で培養し、その上に解凍したヒトiPS細胞の細胞塊を播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで前培養した。培地はカルディオ社製のiPSellonに5ng/mLの濃度でbFGFを添加したiPS細胞未分化維持用培地(以下、「iPS細胞用培地」という)を用いた。
上記の方法で培養したiPS細胞をinvitrogen社製のEZPassageを用いてコロニーを切断し、回収した後、24wellプレートで培養したMMC処理済のMEF上に再び播種し、iPS細胞用培地からbFGFを除いた培地を用いて培養した。その際、リグニンを50.0μg/mLの濃度で添加した。
培養4日後にRNAを回収し、Nanog(未分化マーカー)、Otx2(外胚葉・神経細胞マーカー)、Sox1(神経細胞マーカー)の各マーカー遺伝子の発現を下記の各プライマーセットを用いてリアルタイムPCRにより解析した。その結果を表6に示す。
Nanog (未分化マーカー)用プライマーセット:
CCTTCCTCCATGGATCTGCTT(配列番号19)
AAGTGGGTTGTTTGCCTTTGG(配列番号20)
Otx2(外胚葉、神経細胞マーカー)用プライマーセット:
TTCACTCGGGCGCAGCTAG(配列番号21)
CCATACCTGCACCCTCGACTC(配列番号22)
Sox1(神経細胞マーカー)用プライマーセット:
GGTCAAACGGCCCATGAAC(配列番号23)
TGATCTCCGAGTTGTGCATCTT(配列番号24)
Six3(前脳領域)用プライマーセット:
GTATTCCGCTCCCCCCTAGA(配列番号25)
TGGTGAGAATCGGCGAAGTT(配列番号26)
Gapdh(内部標準)用プライマーセット:
TGCACCACCAACTGCTTAGC(配列番号27)
TCTTCTGGGTGGCAGTGATG(配列番号28)
Figure 2013188203
表6に示されるように、マウスES細胞を用いた場合と同様、Nanogの発現抑制、Otx2、Sox1、Six3の発現促進が確認された。
以上より、リグニンはヒトiPS細胞に対しても外胚葉分化誘導促進効果を示すことが明らかとなった。
(実施例5)
ヒトやマウスの体性幹細胞から神経細胞を分化誘導する系が確立されている(Stem Cells Dev. 2008 Oct;17(5):909-16.Neuronal differentiation potential of human adipose-derived mesenchymal stem cells. Anghileri E, Marconi S, Pignatelli A, Cifelli P, Galie M, Sbarbati A, Krampera M, Belluzzi O, Bonetti B.SourceDepartment of Neurological Sciences and Vision, University of Verona, Verona, Italy.)。この分化誘導系にリグニンを添加したところ、実施例2と同様に、神経細胞への分化が有意に促進されることが確認された。よって、リグニンはES細胞やiPS細胞を用いた場合と同様に、体性幹細胞に対しても外胚葉への分化を顕著に促進することが明らかとなった。
また、リグニンの代わりにリグニンを含有することが知られる植物の抽出物を用いて実施例1〜5に記載の実験を行ったところ、同様に幹細胞から外胚葉系細胞、眼の構成細胞、神経細胞への分化促進効果を示した。
本発明の外胚葉系細胞分化誘導剤は、幹細胞から眼の構成細胞や神経細胞などの外胚葉系細胞を効率的に分化誘導できる。分化誘導された眼様組織や神経細胞は、損傷部位への移植、人工神経・人工網膜としての利用など、再生医療分野において利用できる。また、白内障、緑内障、網膜剥離などの眼疾患や神経疾患の根本的治療を目的とした医薬品、医薬部外品、機能性食品やサプリメントなどの飲食品の製造分野において利用できる。

Claims (9)

  1. リグニンを有効成分として含有する、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導剤。
  2. 外胚葉系細胞が感覚器系細胞または神経系細胞である、請求項1に記載の分化誘導剤。
  3. 感覚器系細胞が眼の構成細胞である、請求項2に記載の分化誘導剤。
  4. 眼の構成細胞が、網膜、水晶体、角膜上皮、または虹彩の細胞である、請求項3に記載の分化誘導剤。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の分化誘導剤を含む、医薬品または飲食品。
  6. 眼疾患または神経疾患の治療または予防のための請求項5に記載の医薬品または飲食品。
  7. リグニンの存在下で幹細胞を培養して外胚葉系細胞へ分化誘導することを特徴とする、幹細胞から外胚葉系細胞への分化誘導方法。
  8. リグニンの存在下で幹細胞を培養して外胚葉系細胞へ分化誘導する工程を含む、外胚葉系細胞の製造方法。
  9. 請求項8に記載の方法により製造された外胚葉系細胞。
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